幌筵鎮守府より
初めて書きます。北海道よりもさらに北、幌筵鎮守府での日常です。
私が所持していない艦娘は登場できません...
もうすぐクリスマス、そしてお正月ですね!
サク、サク、サク....
森の中、降り積もった雪に深い足跡をつけながら歩くこと1時間。
後ろを振りかえってみると「自分が今しがた歩いてきた」という、規則正しい2列のくっきりした証拠が目に見えた。
すでに足元のコンクリートは雪で埋まって視認することはできない。
自分が歩いているココが本当に正しい道なのか。
それについて考えることは、既に放棄している。
100mごとに設置されているボロボロになった木製の矢印を信じるしかなかった。
天気は今にも雪が降りだしそうな、どんより曇り空。
ただでさえ薄暗い天気、森の中はさらに黒々と見えた。
しかし、そんななかでも不安や恐怖心というものをあまり感じなかった。
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「つ、着いた...。ここが鎮守府ね....」
いいかげん自分のなかで大きくなりつつあった疲労感を認め始めたとき、ついに雪のなかにどっしりとたたずむ赤レンガの建物が見えた。
玄関、と思われる入り口の両隣には丸々と大きい雪ダルマが建っている。
なかなかここまで大きい雪だるまをお目にしたことはなかったので、しばらくボーっと眺めていた。
降り積もった柔らかい雪は全ての音を吸収する。そのせいかこちらにやってくる足音に気づかなった。
「あ、あのう...。どちらさまでしょうか...?」
ふと顔を左にやると、不安げな顔をした女の子が1人、こちらをのぞいていた。いったいいつのまに....
「あなたは?」
今思うと、質問を質問で返すという失礼なことをしてしまったと思う。
不意の質問に驚いたのか、一瞬「ビクッ」と反応して、おそるおそるといった口調で...
「な、長良型3番艦の名取です...」と小さな声で答えた。
私の中で「ピコーン!」と探照灯が光った。ここを案内してもらおう。
そう思ってこちらから声をかけると、ふたたび「ビクッ」と身体が反応していたけれども、名取はおどおどと鎮守府の案内を始めてくれた。
なぜこの子はこんなにびくびくしているのかしら....?
朝食の時間はすでに終わっており、出撃や演習、遠征に行く予定の艦娘が出発し始めるころ。
さっきまで準備をする艦娘の喧噪で慌ただしかった鎮守府内も、降り積もる雪のように少しづつ静寂になりつつあった。
陽炎「とは言っても、出撃と言ったって近海の哨戒任務だけだから、いつもよりは静かな方かしら?」
何故か障害物のないところでこけている、哨戒に向かう吹雪を窓から眺めながら陽炎がつぶやいた。
不知火「そうでもなくても、今日はいつもより静かですが仕方ないでしょう」
それもそうね、と陽炎は理由を聞くこともなく納得した。ところで...
陽炎「しらぬーいちゃん、私暇なんだけどーー??」
不知火「そうですか」
陽炎「かまってほしーなー??」
不知火「そうですか」
陽炎 ㇺーㇺー
そっけない不知火の返事に、陽炎はプクーっと頬を膨らませた。そして不知火が書類を処理している机に両肘をのせて身を乗り出して...
陽炎「ねーねぇー、不知火ー?ぬいぬいったらぁー」と顔を不知火の顔に近づけながら、甘い声音を出して抗議。
不知火 イラッ...
自分の姉であることなんてお構いなし。むんず、と陽炎の首根っこをつかみ....
ぽいっ!と姉を執務室から放り出し....
バタンッ! ガチャッ! ....すぐさまドアを閉め鍵まで閉めてしまった。
ポツンと1人廊下に残された陽炎は....
陽炎「不知火のけちんぼーっ! 鬼―っ!! ぺったんこーっ!!!」と、執務室に向かって叫んだ。
誰がぺったんこやーーっ!!と遠くのほうで誰かが抗議の声をあげた気がしたが、陽炎は不知火にかまってもらうことを諦め、自室に戻ることにした。
一方で…
不知火「はぁ....」 眉間を指で押さえながら深いため息をつく。
不知火(基本的には頼りになる姉なんだけれども...)
古参の陽炎は、戦闘はもちろん、普段の生活においても、人数が特別多い陽炎型をまとめ上げる「しっかりした」長女として周知されている。その分降りかかってくる苦労やストレスを不知火は知っている。
知っているだけに、普段 陽炎から甘えられると極力かまうようにしていたが、最近は執務中にまでくるようになったので、
不知火「少し甘やかしすぎたでしょうか....落ち度ですね、これは」
今後の接し方について思案にふけりながら、ふと窓の外に目を向けると
暁「キャー――――っっ‼??」
寝坊して遅刻し、急いで遠征に向かおうとしていた暁が、なぜか何もないところで転び、そのまま凍ったコンクリ―トの上を海に向かって滑っていた。
バッシャー――ンッ!!
最初、不知火は見なかったことにしようか、と考えた。しかし、流石にそれは...と思いとどまり、
泣きながら執務室に来るであろう暁のために暖かいココアをつくることにした。
仕方ないが遠征班には少し待ってもらおう...
「はぁ....」
不知火にとって本日2度目となる深いため息が執務室に消える。
早く帰ってきてほしいけれどー・・。
コンコンー ドアを誰かがノックする
不知火「どうぞ」
「失礼します...」かぼそい返事が返ってきた。そしてガチャガチャとドアノブを捻る音。
名取「あのー....不知火ちゃん....?」
そういえば陽炎姉を追い出したときから鍵を閉めっぱなしにしていたことを忘れていた不知火。
こればっかりは正真正銘の自分の落ち度だ。本日の3度目のため息をなんとか飲み込み、
不知火「すみません、名取さん・・・お入りください」
鍵を開け、ドアを開けた。
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名取「えっと、ここが食堂になります...」
大食堂、と書かれた木板の下のドアを開けて中に入ってみると、とても広い部屋の中に多くのテーブルと椅子が置かれている。
部屋の奥の方にまで椅子やテーブルが並んでいるのをみて、この鎮守府がそれなりの規模であることが分かった。
それよりも―
「なんだかいい匂いがするわ...」
部屋の左奥の方にはキッチンがあり、空腹を誘ういい匂いの発生源もそこだ。
名取「間宮さんはいますかー?...」
名取にとっては大声だったつもりらしい。実際はたいして変わらなかったけれど。
すこし顔を赤くしながら、なんとかもう一段階声量を上げて名取が呼ぶと、キッチンの奥からペーパーで手をふきながら1人の女性が出てて来た。
間宮「どうしたの、名取ちゃん...? と、そちらの方は?」
本日より着任しました、と自己紹介をしてペコリと頭を下げる。
間宮「新しく着任された方ですね。これからよろしくお願いしますね」といって間宮もペコリ。
大人びていて白い割烹着が良く似合う女性だと思った。そして、
伊良子「間宮さん、できましたよー...ってあれ?」今度は対照的に幼げな雰囲気を残した可愛らしい女の子が顔をだした。
間宮「こちらは私と同じく、給仕係の『伊良子ちゃん』です。伊良子ちゃん、こちらの方は...」
間宮さんにした時と同様のあいさつをもう一度。そしてペコリ。
伊良子「こ、こちらこそ!よろしくお願いします」と伊良子も慌ててペコリ。
少し性格が名取と似ているかも....と思って名取の方をチラッと見ると彼女の視線は伊良子の通り過ぎて、その後ろを見ているようだった。
名取「えっと、伊良子ちゃん?何ができたの?」
伊良子「あ、そうです!今朝から間宮さんに教わってチーズケーキを作っていて、ついさっき焼きあがったんです!よろしければ味見をしてもらえませんか?」
と背の低さも相まって、上目がちにお願いする伊良子。この目は男女関係なく頷かせる強制力があるわ....
もとよりお腹が減っている身。お願いされなくても、こちらからお願いするー
『ぐぅー...』 名取、間宮さん、伊良子ちゃんの3人が音の発生源に視線を向け、
間宮「うふふ、お茶にしましょうか」
恥ずかしい//...
でも1つ言わせてほしい。名取だってきっと期待していたはずだ。そう、私がかわりにお腹を鳴らしてあげたの。
その証拠に、今の名取は甘いモノを目の前にしたときの少女特有の可愛らしい笑顔をしているもの。
雷「鳳翔さん!大根切り終わったわ!次は何をすればいいかしら!」
しかし良く見るとところどころ繋がっている。
電「はわわ...雷ちゃん、大根さんがまだ切り終わっていないのです」
あら、いけないわ!と言って包丁を握りなおす雷。その隣で「はわわ...」と心配そうに見つめる電。
そしてその反対隣りで優しく微笑む、母性溢れる女性が鳳翔。
彼女たちが調理(?)しているところは【居酒屋「鳳翔」】主に軽巡以上の大人組や一部の駆逐艦たちもやってくる食事処。
鎮守府の規模が大きくなるにつれ、手の余る艦娘たちが出ててくる。そういった子たちはかわりばんこにココ【鳳翔】のお手伝いをしているのだ。
【鳳翔】は基本的に夜限定なので、昼間は具材の仕込みの時間。手伝いをしにきた艦娘は、もちろん仕込みを手伝うとともに鳳翔から調理の仕方を学んでいる。
天下一品間違いなしの新作メニューを、一番初めに味見できることも艦娘たちは楽しみにしてきている。
ところで雷たちが作っているのは?
雷「豚汁よ!」
電「誰に向かって言ったのです...!?」
火にかけられた大きな鍋からは味噌のいい匂いが湯気と共に立ち上っている。
鳳翔は料理に一切手を抜かない。豚汁のだしもいりこや鰹節、昆布はもちろん、シイタケや雌株からも出汁をとっている。
しかも今は寒い冬。暖かい豚汁が美味しくないわけがなかった。
雷「あら?」
電「どうしたのです?雷ちゃん」
雷「湯上げしたサトイモが減ってるわ!?」
電「サトイモちゃんが!?どこに行っちゃったのです?!
もちろん鳳翔は見逃さなかった。すべての空母の母である鳳翔は鷹の目だ。コソーっとその場から立ち去ろうとする人影をとらえていた。
鳳翔「....赤城さん」
静かな怒気を含んだ鳳翔の声に、サトイモで口をいっぱいにした犯人はビクッッ!と背筋が凍った。
全身から冷や汗が流れる。恐る恐る...後ろを振り返ると、ニッコリ笑った鳳翔がそこに立っていた。
逆光のせいで鳳翔の顔が暗く、さらに恐怖心を煽る。なにより顔は笑ってるけど『心は間違いなく笑っていない』と分かる空気。
口をサトイモでいっぱいにした一航戦「赤城」
オワッタ.....
目の前が真っ暗になった。
天龍「・・・・」
日向「・・・・」
竹刀をもち相対して構える2人。2人の周りには何人かギャラリーがいるが、静まっていて緊張感が空気を伝わって肌で感じることが出来る。
ー誰かが息を吐くのを聞こえた。瞬間、天龍が日向の竹刀の剣先を払い、飛び込もうとした。
『払おうとした』
しかし日向は、天龍の竹刀が当たる前に、自分の剣先を天龍の竹刀の根元付近に当て払いのけた。そのままー
バシー―ンッ!.. . . . . . .
伊勢「一本ッ!」
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天龍「っだぁ~~・・強すぎますよ、日向さん・・」
日向「ふっ・・。腕を上げたな、天龍」
天龍「いったいどの辺がっすか...」
日向「あのあたりだな」
天龍「具体的に」
日向「いや、あっちの方かな」
あーー、と天龍は大の字になって倒れた。ついでに日向から聞き出すのもあきらめた。
強いていうなら、と日向。
日向「天龍の動きだすのが分かったのは、身体が動く前に天龍の眼が動いたからだ・・。いつも言うように剣先にだけ集中してはいかん」
日向『先生』の講義が始まったので、上体を起こして聞く天龍。
日向「お前たち水雷戦隊は艦隊の中で最も敵艦隊と肉薄しなければならん。砲塔の状態を見て、どこに砲撃してくるかを予測するのは確かに大事だ。でも、敵の全体を見て、相手の意識が分かるようになれば被弾率は確実に下がる」
確かにその通りなんだけれども、次元が高すぎる・・天龍は目が回りそうだった。
伊勢「まぁ、これからも精進しなさいってことね!」
天龍「うっす! ありがとうございましたっ!」
礼が終わると、横で見ていた木曾が天龍に声をかけてきた。
木曾「お疲れさん、どーだった?」
天龍「・・・懐に飛び込んでくる日向さんの眼がflagshipより恐くて、ちびりそーだった」
普通ならなんだそれ(笑)と笑うところだが、木曾も同じ経験があるだけに笑えなかった。
航空戦艦伊勢型の2人。ともに鎮守府の古参にあたる艦であり、提督の『懐刀』だ。
釣りはイイものだ。魚が餌にかかるまでのんびりと釣り糸をたらす。
その間、普段の生活を思い返してみたり、その日の晩御飯を思い浮かべて早くもお腹を鳴らしてみたり。
漣「今夜のごはんは何かなぁーー?」⇐1匹
朧「温かいシチューが食べたい・・」⇐1匹
潮「えっと、この釣った魚はどうする?逃がす?」⇐1匹
曙「雷たちが豚汁つくってるらしいわ。つみれにでも使ってもらいましょ」⇐7匹
鎮守府の目の前の波止場では第7駆逐隊が仲良くならんで釣りの真っ最中。目の前は極寒の北の海、4人とも完全防寒フル装備で挑んでいた。
漣「豚汁に魚のつみれを入れる・・だと」
ウサギの耳がついたフードを被る漣。
潮「あはは・・・でも、おいしそうじゃない?」
4人の中でもっともモコモコな装備の潮。
朧「カニ鍋食べたい・・・」ボソッ
可愛いカニの耳当てをつけた朧。
曙(えっっ??)
朧の発言に衝撃が走る曙。その頭の上のカニさんは一体・・?
そんな曙はなぜか地味ーなぶかぶかのコートを羽織っている。
潮「午後からどうする?街に出かける?」
漣「街って行ってもなー。この島の『街』だからなー・・」
ただでさえ人口が少なかった幌筵島。深海棲艦が出現した時はさらに激減した。鎮守府がこの島に発足してからは、
最北の砦として島が機能し、人口も少し回復。鎮守府から少し離れているが軍や外務省関係の官庁があり(とても小さい)、
復活した港を中心に取り囲むようにして街ができつつあった。
朧「とりあえずお昼ご飯食べに食堂に行こうよ、お腹空いたし」
曙「じゃ、あと1匹ね」
漣「ボノたん、もう釣らなくても充分釣ったじゃん」
曙「ぼのたん言うな!」
潮「ばいばーい、おさかなさん」ジャー
漣「いや、逃がすんかい」
潮と朧は竿の片づけを始める。朧が釣った魚はカニさんの餌にするらしい。
漣「ほいじゃ、ボノちん。最後の一匹が大きかった方が勝ち。小さかった方は間宮さんとこでパフェ奢りで」
曙はボノちんにイラっとするも、
曙「のったわ」
漣「ふふん。数勝負ならまだしも大きさ勝負で、漣の運にかてるかなぁ~?」
曙「いや運も大して変わらないじゃない......っと」竿グイーーーッ
曙「かかった!」
漣「え?!もう⁉」
潮「頑張って!曙ちゃん!」
曙が勢いよくリールを巻きあげる。竿を挙げたり下げたりして格闘すること10分...
朧「! 魚影確認!あれは...」
曙「ブリね!朧、最後の網頼むわ!」
そして・・・・
曙「ふふん、大勝利よ!」
曙の両腕に、立派なブリが抱えられる。
潮「凄いよ!曙ちゃん!」朧「いやー、流石ね...」
2人とも興奮気味に曙のブリを見つめた。
曙「あら、もう勝負は着いたんじゃないかしら?漣」
漣「うっっくぅ~、なんもいえねぇ~....」竿グイグイグイーーーッッ!
曙、潮、朧「!」
漣「キタコレ(゚∀゚)!」
今までのとは比べ物にならないほど、竿がしなっている。糸が勢いよく引っ張られるのを、なんとか漣は止めたが....
漣「やばこれっ。引きずり込まれる!」
曙「ちょ、2人とも、漣を手伝うわよ!」
分かった!漣ちゃん、頑張って!と朧と潮が漣の腰にしがみついて海に引きずり込まれるのをなんとか止める。
曙「竿を下げたときにリールを巻きあげなさいっ!!」
曙がテクニックを教えながら竿を持つ。かなりでかいわね・・
漣「逃げられないよっ!マグロさん!漣はしつこいんだからっ!」
うおりゃぁぁーーーッ!と叫びながら竿を上にあげ、思いっきりリールを巻く。
曙「まって、糸が切れるわよ!......マグロなの??!」
曙の色々な心配をよそに漣はさらに巻き上げる。そして、ついにーーー。
ザッパ―――ンッッ!
魚が海面から飛び出てきた。その姿を確認した第7駆逐隊はポカ――ンとなってしまった。
びちびち、びちびちと空中で動いてるのは魚ではなかった。
今まで出撃した時に何度も見た深海棲艦『ヲ級』が、餌の魚を絶対に離さまい!と必死に加えていた。
朧「え、頭の物体の口は使わないの・・?」
漣「いや、口じゃなくて手を使えよ」
潮「へぇ~、ヲ級さんっておさかなさん食べるんだ」
曙(えっっ、みんなツッコミそこなの⁉)
7駆のツッコミと目の前の状況に混乱する曙をよそに、朧の頭の上にいたカニさんが空気を読み――
カニさん 『チョッキ―ンッ!』
7駆「「「「あ」」」」
バッシャー―――ンッ!
糸が切れてしまい、ヲ級は餌をくわえたまま海へ戻ってしまった。
ポツンと取り残された第7駆逐隊。
話し合いの結果、何も見なかったことにした。
曙は漣にパフェを奢った。
大淀「うーーん...今年もギリギリのようですね」ペラッ
明石「なにそれ?大淀」
大淀「予算確認書です。もうすぐクリスマスパーティーと忘年会、そして新年早々に宴会がありますので...」
毎年この時期になるとイベントごとが立て続けにやってくる。まさに師走だ。
大淀「金剛さんの紅茶代・・・・何ですかこの額は。
リシュリューさんのフランスワインは、もう少し本数を減らしてもらわないと・・
日向さんの『特別な瑞雲』って何でしょう・・??」
とりあえずコレは却下ね、っと線を引く大淀。
明石は12月の工廠で使用した経費報告書を作成している。
明石「こうして見ると12月はあまり出撃しなかったのね。演習はしてたけど」
大淀「敵の活動も何故か穏やかになりますからね」
明石「深海棲艦って実は寒いのが苦手なのかしら??」
大淀「さぁ・・・?どうなんでしょう?」
2人は大淀の部屋で作業していた。当然明石も自分の部屋はあるが機械や小さな作業道具が散らばっていて、とても今みたいな書類作業するには全く適していない。
海域に出撃できるようになったのは最近だが、2人とも鎮守府発足時から一緒に働いているため仲が良かった。
コンコン。誰かがノックした。
大淀「どうぞ」
失礼する、と短い返事が返ってきてドアが開いた。
明石「お疲れ様です、長門さん」
長門「お疲れさま、明石、大淀」
どうぞ、と言って大淀がお茶と座布団を出す。
長門「すまない、大淀。それと、これが鳳翔から預かってきた年末の食費の見積書だ」
大淀「ありがとうございます、長門さん」見積書を受け取り、目をとおしていく。
長門「今年はどんな様子だ?」
明石「いつもと同じ、ギリギリらしいですよ」
そうか....、と言ってお茶をすする長門。
忘年会とクリスマスは一緒にしてはどうか?という意見もあるが、提督を筆頭に『騒ぎたい』組が猛反対したため没。
実際、長門や反対しなかった艦娘たちもクリスマスから忘年会、そして新年の大宴会へと続く、嫌でも浮かれてしまう空気は嫌いではないし、むしろ楽しみにしている。
なので。クリスマスと忘年会を一緒にするという意見を押し通すことはしなかった。
長門「とはいえ現実は見なければならんしな....」
出撃に必要な燃料やボーキサイトといった資材は、大本営からの配給や各鎮守府それぞれの遠征によって賄われる。
軽巡や駆逐艦の子たちに遠征を頑張ってもらっているので資材は充分にある。しかし現金は別だ。
提督や艦娘に配られる毎月の給料とは別に、鎮守府には軍資金が配当される。
規模が大きくなったことはもちろん、最北の重要砦である幌筵は少し多めにもらっている。それでも、
大淀「年末はなぜかギリギリになってしまいますよね・・」
3人で書類とにらめっこする。忙しくなる年末にむけて裏で大人たちが奮闘し始める時期だ。
「ありがとうございました、親父さん」
礼を言って船を降りる。横浜を飛んでから約1日。内地からここまで移動するのにかなり時間がかかる。
まずロシア領まで北海道から軍用機で飛び、そこから民間の船に乗り込む。
民間の船と言っても、ボートのような小型船なので敵レーダーには映りにくい。
やっと帰ってこれたぁ~、と伸びをする。肺に入り込む冷たい空気が心地よく感じる。
さて、と歩き始めようとしたその時。
『ウーーーーーーゥ、ウ――――――ゥ、ウーーーーーゥ・・・・・‼」
訓練の予定は聞いていない。なら警戒警報だ・・・!
「まずいな、急ごう」
年末は太る可能性があるので歩こう、と考えていたが中止。
雪上での走行も安心安全!な明石特性バギーに乗り込み、勢いよくアクセルを踏んだ。
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祥鳳「索敵中の彩雲より急報! 方位2-1-1、距離100km!
敵艦隊、戦艦2、重巡2、駆逐4!」
吹雪「由良さんどうしますか⁉」
由良「祥鳳さん、攻撃隊は出せますか?」
祥鳳「全機、いつでもいけます!」
由良「では戦闘機発艦お願いします。
吹雪ちゃん、深雪ちゃん、叢雲ちゃんは私と共に突撃!砲戦を始めます!
白雪ちゃん、鎮守府に打電!支援要請をお願い!」
ワレ、テキトソウグウス!コレヨリ、セントウヲカイシスル!
ー ー - - - - - - - -
ビーッ!ビーッ!
不知火「!」
受信機が受けた電文を読み、不知火は決断。鎮守府全体に警戒サイレンを出し、
「こちら執務室。哨戒中の白雪より、敵艦隊と遭遇したとの連絡あり!支援艦隊を出します
戦艦 金剛、比叡
重巡 古鷹、加古
軽空母 瑞鳳
駆逐艦 島風!
旗艦は金剛さんお願いします!
以上6名はドックにて準備・完了次第、出撃してください!敵艦隊は戦艦2重巡2駆逐艦4!」
不知火はそこで受話器をおいた。敵艦隊をみるに「はぐれ」だろうか・・?
少し不安になりつつあった。まだだろうか?———
ー ー - - ー - - - - - -
ドー―ンッ!ドーーンッ.....
叢雲「ッ!・・戦艦どもがうるさいわね!」
白雪「! 雷跡確認!7、8・・・10本以上!」
由良「各艦距離をとって回避!海面に向かって撃て!爆発と同時に魚雷発射します!」
ダ―ンッ!ダ―ンッ・・・ダ―ンッ!
吹雪「魚雷、来ます!」
・・バッーーァンッ!
由良「魚雷全門発射!‥‥被害報告をお願い!」
深雪「いっつつつ・・・」小破!
叢雲「っ・・・!」 小破!
白雪「ま、まだ・・・やれます」中破!
由良「祥鳳さん!」
祥鳳「損傷わずか!発着艦に問題ありません!
敵方、駆逐3、重巡1隻を撃沈、残り1隻の重巡が中破!・・・戦艦2隻は依然として健在!」
由良(のこり戦艦2と駆逐1、そして中破の重巡1隻...)
由良は昼戦での全艦撃沈は難しいと考えていた。ならば夜戦ーーー
祥鳳「彩雲より連絡!・・・・重巡2、空母2‼そんな・・・」
由良(敵は2艦隊⁉どうして・・・⁉)
ッドー―ンッ!ダ――ンッ!
祥鳳「きゃあっ!」中破!
由良「痛っ・・!」小破!
吹雪「由良さん!祥鳳さん!」
祥鳳「私は大丈夫よ…!航行に問題ないわ!」
由良「っ・・・、微速撤退!先頭は深雪ちゃんお願いっ、殿は私がつとめます!」
叢雲「敵艦隊、空母と戦艦どもが合流!不味いわね…」
由良(鎮守府に近い近海であることは分かっている。でも今の私たちは哨戒編成であって打撃艦隊ではない…!)
ー - - - - ー - - ー - -
不知火は長門と加賀を指令室に呼び、相談していた。
加賀「・・・たしかに敵が6隻ではなく8隻というのは疑問に思います」
長門「今まで『確実に6隻で攻撃してきた』ことが不思議、だという見方は?」
不知火「それも考えられます。しかしなぜ今....?」 ビーッ!ビーッ!
不知火、長門、加賀「「「!」」」無線連絡だ。
不知火「執務室です」
古鷹『こちら古鷹です!さきほど負傷した由良哨戒班と交代、戦闘を開始!
敵艦、戦艦2駆逐1重巡1隻が中破。新たに空母2.重巡2隻が合流しています!
航空支援の要請をお願いします!』
金剛『不知火、急ぐネー!こっちも戦艦が相手で援護が厳しいヨ!』
不知火「ッ…!」
「すまない、遅れた!」
艦娘「!指令(提督)!」
バギーを飛ばして帰ってきた提督が勢いよくドアを開けて入ってきた。
提督「不知火、戦況を簡潔に報告しろ!」
金剛『テイト(ブチッ)』
不知火が金剛との無線機回線を切り、手短に戦況経過を報告する。
提督「加賀、いけるな?」
加賀「鎧袖一触です。心配いらないわ」
提督「よし、龍驤と共に出撃。ドックを出たらすぐに艦載機の発艦を始めてくれ!」
加賀「赤城さんは?」
提督「ココに来るとき【鳳翔】の前の廊下で正座させられてるのを見た。『私はつまみ食いをした悪い一航戦です』って書かれたプラカードを首からぶら下げてたよ」アハハ.....
加賀は顔を両手で覆った。長門がポン、と加賀の肩に手をおいた。
不知火「司令、戦闘経過中に申し訳ないのですが....」
提督「うん?」
不知火「新しい艦が着任しました。今は部屋にて待機してもらってます」
赤城「えー、いいですか!今日はですね・・・」
鳳翔の罰から解放された赤城。首からぶら下げたボードには『宴会隊長』と書かれている。
足が未だに震えているように見えるのは気のせいだろう。
ホワイトボードにマーカーでキュッキュッと文字を走らせる。そして書き終わったボードをバンッと叩き、
赤城『怒涛の年末を乗り切るための予行演習 and 新人歓迎会だオラァァァッ!』
赤城「というわけで提督。乾杯の音頭をお願いします」ペコリ
提督「うし。えー、諸君。なにはともあれただいまーーっ!」
おかえりさないーっ!と艦娘たちから元気よく返事が返ってくる。
提督「来週からクリスマス、忘年会、そして年越しと連戦が続く!英気と胃袋と肝臓を養うためにも今日の宴会は張りきって楽しむように!」
提督「それでは・・」
全員『かんぱーーいっ‼』
たくさんのグラスがぶつかり合う音が響くここは大宴会室。200人だって収容可能。夕張特性のカラオケ付き!
部屋のすぐ裏は特別キッチンとなっており、つい先ほどまで間宮や伊良子、鳳翔たちが腕を振るっていた。
電「司令官さん、おかえりなさい!なのです」
提督「ありがとう、電。留守中、変わりなかったかい?」
電「はい!今日の突然の警報にはビックリしたけれど、不知火ちゃんたちが頑張ったのです!」
雷「私たちも頑張ったのよ!しれーかん。じゃーん!」
と言って雷が持ってきたのは具がたくさん入っておいしそうな豚汁だった。器ごしに伝わる温かさが心まで染みる....
雷「電と一緒に、鳳翔さんに教わりながら作ったのよ!」エッヘン!!
電「漣ちゃんたちが釣ってきてくれたおさかなさんのつみれ入り!なのです!」エッヘン!
響「ほら、提督。これも美味しいからぜひ食べてほしい」
振り向いた提督の口に向かって、響がビンの注ぎ口を突っ込む。瞬間、提督が『ブーーッ‼』と吐き出した。
電「響ちゃん⁉そのラベル、ウォッカと書かれてるのです‼??」
響「あれ、おかしいな。まぁ、美味しいから問題ない」
そういって妹たちの様子を見に来た長女・暁の口に突っ込んだ。
暁「キュ~~・・・」バタンキュー
雷「暁ーーっ⁉」
軽空母は飲み兵衛が多い。
隼鷹「飲め呑めーーっ!」ヒャッハーッ!
隼鷹は始まる前からヒャッハーしており、
千代田「千歳おねぇ~、どこぉぉ~?」モゾモゾ
瑞鳳「ァ…ンッ…もう、提督~?瑞鳳の格納庫まさぐっちゃダメらよ~?」ヒック
千代田と瑞鳳はなぜか百合プレイをしていた。
千歳「ほら、提督・・?千歳のお酒ですよ・・?」
千歳は豊満な胸の谷間にお酒を注ぎ、提督に無理やり飲ませようとする。
高雄「もう千歳さん?はしたないですよ!駆逐艦の子たちもいるのに…」
そう言って高雄は龍驤の目を手で隠した。
龍驤「いや、誰が駆逐艦やっ⁉」キィーッ!
球磨「ガルルル…ッ!」
多摩「フシャーーッ!」
北上「ほーれほれほれ」猫じゃらしフリフリ。
球磨と多摩はなぜか野生化し、北上は2人で遊ぶ。
大和「ささっ、今のうちにこちらへ、提督」
なんとか渦中から抜け出してきた提督の腕を大和がガッチリ掴み、戦艦たちの座るテーブルに連れて行く(なかば強引に)
ビスマルク「あら、提督じゃない!さぁビールを飲みなさい!」
大和「何言ってるんですか?日本男児たる提督は日本酒、今の時期ならば熱燗を好むに決まってます!」
2人とも提督に飲ませようとグイグイ盃とビンを押し付けてくる。しかし大和とビスマルクはお互い睨み合って、提督の顔を見ていなかったので、提督の顔はびちょびちょに濡れた。
金剛「テートクのハートを掴むのは、ワタシデースッ!」ギュー
不意に後ろから金剛が勢いよく抱き着いてきた。大和とビスマルクがキッ!と睨むがお構いなしに金剛は提督にキスを迫る。
瑞鶴「全機爆装、準備出来次第発艦!目標、提督とその周り。やっちゃって!」
突如、大和たちの頭上に飛行隊が飛んで来た。そして爆撃の代わりにピーナッツを発射した。
大和「痛いっ!」
ビスマルク「なんなのよ!もう!」
金剛「撃ち落としてやるデース!」
金剛たちが格闘している間に飛龍と蒼龍が提督の腕をつかんで、空母スペースまで引きずっていく。
加賀「5航戦にしては、上出来です」
瑞鶴 エッヘン!
翔鶴(これは喜んでいいのかしら・・??)
赤城「提督⁉私のご飯はあげませんよっ⁉」
飛龍「ほらほら提督~?」
蒼龍「ちゃんと新人さんを歓迎してあげないとね!」
加賀からおしぼりを受け取って顔をふいた。そして、
提督「改めまして。着任おめでとう。これからよろしく」
『雲龍』
雲龍「雲竜型航空母艦、雲龍、推参しました。提督、よろしくお願いしますね」ペコリ
「ところで、提督・・?」
提督「うん?どうかしたかい?」
雲龍はハチャメチャになった宴会場を見て、楽しそうに言った。
雲龍「ここヘンなところね・・」ウフフ
提督「違いない」アッハッハ
この夜、鎮守府からにぎやかな声が途切れることはなかった。
面白いです!
結局、最初に来たのは誰なんでしょうか?
>>2
名取が出会い、案内したのは「雲龍」になります!
伊良湖じゃないですかね?間違えてたらすいません