医者と女提督と艦娘と。
初投稿です。誤字・脱字が殆どです。たまにロシア語が出てきますが、日常会話的な物が殆どなので、翻訳とかしなくても良いです。作者もロシア語はさっぱりなので、もしかしたら使い方が間違っているかもしれません。
その様な点があればコメント等でご報告頂けると幸いです
現在登場キャラクター説明
6月30日、違和感のあった場所を修正しました。
命を救う医師と、命を奪う艦娘と、それを指揮する提督。
この物語は、そんな者達の、出会いの物語である。
―――はずだ。
お待たせ(待って無い)しました。
この小説はpixivの方でも投稿していますのでそちらもよろしくお願いします。
医者とは何か。
人の命を救う物であれば奪う物でもある。
過去を悔やみ続ける者に、人を救う事が出来るか。
―――いや、出来ない。
―――何者かの手記
~空港~
季節は春。耳をすませば遠くから鳥のさえずりが聞こえて来る。
「...ここが、ニッポン、か」
重たそうなアタッシュケースを持ち、男は呟く。
「...さて、集合場所はここだったかな?」
そう言うと男は上着のポケットからメモを取り出し、そこに書かれている電話番号を取り出した携帯に打ち込む。
「もしもし?...ああ、僕だ、ルチアーノだ。迎えを寄越してくれないか?...ハハ、ニッポンには詳しく無くてね。場所は...うん、そこで良いよ。.....ああ、よろしく頼むよ、じゃあ。『プツッ』......ふう、やっぱり日本語と言うのは難儀な物だね...ハァ....」
そう言って男―――ルチアーノはゆっくりと歩き出す。
~大本営:応接室~
コンコン
「...入れ」
低くドスのかかった老齢の男性の声が部屋に響く。
ガチャリ
「失礼します、閣下、ルチアーノ氏がご到着致しました」
「通せ」
「はい。...ルチアーノ先生、どうぞこちらへ」
憲兵に招かれ、部屋に入って来たルチアーノはソファに座り、対面になる形で閣下と呼ばれた老齢の男性――元帥、楠木 鼎に言葉を投げる。
「お久しぶりです、閣下。御体のほうは如何ですか?」
「君のお陰でとても健康だ。また今度あれを頼むよ」
それから二人は15分程会話をした。先程まで固かった元帥の表情も、彼の国の話や、仕事の話を聞いて柔らかくなっていた。
「...さて、では本題に入ろう、ルチアーノ君」
「はい」
先程の柔らかい表情とは一変、ルチアーノと楠木の顔は真剣な表情になる。
「ルチアーノ君、君にはとある鎮守府に着任して欲しいんだ」
「...はあ、それはまた何故?」
「うむ、実はその鎮守府は過去に事件を起こした者や上官殺し、性的暴行等をされた者―――まあ簡単に言えば何かしら問題があった
艦娘を詰め込んだ様な場所なのだよ」
「まさか提督になれと?」
何かを察しかけているルチアーノは嫌そうに楠木を見る。
「そうしたいのは山々だが...もう提督は居るんだ、だから君に軍医師を頼みたい。あそこの子達は悪い子達ではないのだが皆心に傷を負っていてね...そこで君にカウンセリング等を頼みたい」
「ですが、僕は外科医ですよ?」
「だが内科の資格もあるのだろう?」
「...無いわけではありませんが...」
ルチアーノは首筋掻きながら困った様に言う。
すると楠木はニヤリと笑い言葉を続ける。
「他にもカウンセラー等の免許やら資格やら色々持ってなかったかい?ルチアーノ君?」
「......はぁ...。やりますよ、分かりましたよ」
そしてはルチアーノ観念したかのように両手を上げる。
「そうかそうか、引き受けてくれるか」
楠木はニカッと口角を上げそう言った
ルチアーノは不服そうな顔をしてめんどくさいなぁ...と呟く。
「...で、だ。君が今から行くのはX県にある九羅威鎮守府だ。今から送るから、準備してくれ」
「今からですか?うへぇ...もうすぐお昼...」
「車内で食べれば良いだろう。隣の県だしな」
「医者使いの荒い方ですねぇ...分かりました、では準備してきます。」
そう言うとルチアーノはソファから立ち、扉へ向かう。
「ああ宜しく。ヒトヒt...いや、11:45分程には出発するぞ」
「了解しましたよー」
ルチアーノは楠木に背を向けながらてをヒラヒラと振る。
「.....ああ、そうだ、これを言い忘れていた」
ルチアーノが扉のノブに手を掛けた時、ふと楠木は思い出した様にルチアーノに告げた。
「何です?」
「君が今から行く九羅威鎮守府の子達なんだがなあ...男性に暴行やらを受けたからか男性恐怖症の子がいるんだ...のは良いんだが、何人か初対面の相手に殺意剥き出しに殺しに来る子達がいるから...あーまあ殺されないようにね」
アハハと笑って告げる楠木。それを聞いてルチアーノは
アハハじゃねえよそう言う事は最初に言ってくんないかなあと思いながらクラウチングスタートの体制で準備し、楠木の「ちょっ」の合図でダッシュで逃げた。
....結局このあと憲兵隊に捕まるまでに一悶着あるのだが...それはまた別のお話である。
~九羅威鎮守府~
「...ここが、九羅威鎮守府..かな?思ってたより全然綺麗だ...まあ、提督がいるから当然かもしれないけど」
現在時刻は14:21。途中渋滞に巻き込まれたりもしたが、何とか着いた。
「中に入ろう、着任の報告が先決だ」
と、ルチアーノが鎮守府の入口の扉のノブに触れた瞬間、一人の少女に声をかけられる。
「えっと、あの、お兄さんだれ...ですか?」
「...あーっと、僕は今日からここでお世話になる人だ。申し無い訳けど提督に会わせて貰っても?」
ルチアーノがそう問いかけると、少女は酷く焦った顔で叫ぶ。
「ま、まさかまた提督交代ですか!?も、もう止めて下さい!私達は今の提督が良いんです!ですから帰って下さい!」
「ちょっと待ってくれ、僕は提督じゃない。大本営サマからこの鎮守府に行けと言われてだね...」
「大本営!?やっぱり!だ、誰か!誰かー!」
「あっ、ちょっと」
少女が大声で助けを呼ぶ。その声に反応し、鎮守府の中から大勢の少女達が出てくる。
「...ああ、なんかめんどくさい事に.....っ?」
タラリと背中に冷や汗が滴る。何者かが自分の背後に居る。
「―――何者だ、貴様」
「―――っ」
思わずすっとんきょうな声を上げる。
「少し話をしようか。一時的に貴様を拘束させてもらう。陸奥、ソイツを連れて来てくれ」
「はぁい」
際どい服装をした――陸奥と呼ばれた女性は、黒髪の女性に向けてそう言い放ち、ルチアーノの方へ
顔を向ける。
「...何処に連れて行く気だい?まさか尋問?最近の軍は荒い奴等ばっかか」
「......」
「...来て早々BAD ENDなんて僕もツいてないなあ...まったく....」
「付いてこい」
「ハイハイ、面倒臭い...」
そう言いながら渋々とルチアーノは付いていく。
「あら、意外と素直なのね?」
「生憎とこんな所で死にたくないんでね」
「早くしろ」
「はいはーい」
~営倉~
「―――やれやれ、早々に牢獄にぶちこまれるなんてどんな状況だい」
陰鬱そうにそう呟く。
「...先ずは貴様の名前を教えろ。...陸奥、書き留めておいてくれ」
「ええ、わかったわ」
「ルチアーノ、だ」
「フルネームで答えろ」
「...ルチアーノ・ブラッドレイ」
「ここへ来た目的は?」
「偉大な大本営サマにここに行けと言われたからだよ?」
「...嘘は吐かない方が身のためだぞ?」
「嘘じゃない。だったら上に直接聞けば済む話だろうに」
質問に対し、ルチアーノはただ淡々と返す。
「もう一度聞こう、ここへ来た目的は?」
「この鎮守府の医療要員として着任しろと言われたから来ただけだ」
「...信じられん」
「まあそりゃそうだろうね、いきなり何の通達無しに来た男の話なんか、信じる方がバカだ」
「...なあ、コイツ殺していいか?」
牢の外に、いつの間に来たのか、陸奥らの後ろに控えていた少女がルチアーノの軽口に反応し、牢の中の男を睨む。
「よせ、天龍」
「ケッ...」
天龍と呼ばれた少女は、黒髪の女に睨まれ、舌打ちをして目を逸らす。
「出身は」
「...イタリア産まれのロシア育ちだ」
「ほう、ならばその黒髪は何だ?いくらなんでもそれほどの黒はロシアにもイタリアにもいないと思うが?」
「.....」
「...だんまりか、まあいい、次に―――」
「...あー、ちょっと良いかい?」
「どうした」
「僕としてもまずはここの提督に会わないと先に進まないんだ。会わせてくれるかい?そちらの提督には今日僕が来ることを伝達されてるはずだよ?」
「ダメだ」
「だと思った」
最初から分かっていた様にルチアーノは吐き捨てると、ニヤリと笑い、黒髪の女に言う。
「だから条件付きだ」
「君達には常人とは比べ物にならない程の力があるのだろう?僕が不審な行動をとればその場で殺す。これでどうだい?」
「...まあ、そう言うことなら良いだろう。ただし、少しでも不審な真似をすれば貴様を殺す。良いな?」
「ああ、それで良い」
「.....付いてこい」
「ちょ、ちょっと長門さん!良いんですか!?こいつは何をするか分からない、もし前任の様な奴だったら...」
天龍は黒髪の女―――長門に対し、驚愕した表情で抗議する。
「確かに私もこの男は信用できん。しかし上の命令であれば無視も出来ない」
「だからって...」
長門の返答に対し、納得出来ない顔を見せる天龍。
「お前の気持ちも分かるが、今はこの男をどうするかが先だ。なに、変に動けば殺すだけだ。さあ行くぞ」
「...はい」
そうして一同は営倉から執務室へと移動を開始した。
~鎮守府・廊下~
「それにしても至る所がボロボロだ、腐臭も酷いし、掃除とかはしないのかい?」
「あの方が来てからマシにはなったさ」
「...にしてはまだボロボロだけど」
「あの人が来てまだ数週間なのよ。その間にも、執務やら出撃やらで大変だったの」
「まあ確かに、復興に集中していたら鎮守府の防衛が出来ずに全滅しましたなんて、笑い話にもならない」
ルチアーノの問いかけに対し、長門と陸奥は興味が無さそうに答える。
「...よし、着いたぞ、ここだ」
「ん、ありがとう」
「...なあ、お前、分かってると思うが...」
さっきまで口を閉じていた天龍がルチアーノを睨みつけ、目で提督に危害を加えるなと忠告する。
「ああ、君たちの提督には一切危害を加えない。信じてくれ」
「...入るぞ」
コンコン
『うぇっ!?...ど、どうぞ...』
中から気弱な声が聞こえて来る。そして、長門がゆっくり扉を開けた。
ガチャ
「失礼。本日付けでここに着任する事になった、ルチアーノ・ブラッドレイで―――おや?」
部屋に入り、頭を下げて一礼し、着任報告をする。そして彼は頭を上げ――――驚いた顔で固まった。
「――ああ、君は――」
「――Давно не виделись、先生」
蒼い瞳に雪の様な髪持つ少女はそう言った。
「――ああ、久し振り、Верный(ヴェールヌイ)」
ルチアーノは提督――の隣に立っている少女、Верныйに懐かしそうな顔をして答える。
「響を知っているのか?」
長門が少し驚いた様にルチアーノに問う。
「ああ、古い付き合いでね。君がいるということはあの二人も?」
「勿論」
「はは、また五月蝿くなりそうだ」
「...えっと、あ、あのっ!」
二人の話の間に割って入ったのは、黒縁の眼鏡を掛けた、黒髪の、白い軍服を着た、どう見ても提督な女性その人だった。
「?」
「ああ、紹介が遅れたね同志。こちらがこの鎮守府の提督の花村提督さ」
「は、花村 澪です、よ、よろしくお願いします!」
「ああ、僕は医師のルチアーノ、ルチアーノ・ブラッドレイだ、よろしく」
「あの、え、えとっ、ルチアーノさんがこの鎮守府の救護要員ということで...?」
「ああ、それでいい。というか、ここに置いて貰えば良いんだけどね」
「は、はあ?」
「だってまあ、仕事したくてここに来たわけじゃないし」
「えー、そんなあ」
*~ここからはルチアーノ視点で書いていきます~
~医務室~
「まずはここの艦娘のリストアップからだ。すまないねヴェル、手伝わせてしまって」
「いいや、他でもない貴方からの頼みだ。断る理由は無いさ」
「そう言ってくれると有難い」
そう言いながら僕はここの艦娘をまとめた書類に目を通す。
「...多いな。200人近くはいるんじゃないか?」
「まあね。他所から色んな艦娘をかき集めてるからこんなに多いのさ」
「まだ他にもいるのかい?」
「ああ。まあ、そのほとんどが海外艦だから、今のところは気にしなくても良いと思うよ」
「そうさせて貰おう」
「...それにしても」
「ん?」
「よく執務室まで来れたね。少し驚いた。それに、ここに居ることも一応認められたじゃないか」
ヴェルがこちらを見て、どこか嬉しそうに言う。
ああ、さっきの事か。
「執務室まで来れたのはともかく、あれは君の口添えがあったからさ。助かったよВерный」
「貴方の為なら何だってしよう。それが私に出来る恩返しだ」
「そうかい」
さっきは、まあ、本当に彼女に助けられた。
~20分前の執務室~
「良いのかよ提督!こんなよく分かんねぇ奴置いといて!治療だ何だって言ってガキどもに何かあれば...!」
天龍が提督に向かって怒鳴る。
「だ、大丈夫だよ!そりゃ私も最初は貴女達の事もあるし、迷ったけど、ヴェルがこの人は大丈夫だー、って」
「うん、この人の技術は本物だ。信用していい」
すかさずヴェルが僕の擁護に回ってくれる。
「ほら!ね?」
「長門さん!」
「...私も信用しろと言われてすぐには信用は出来ん。提督の決断の仕方にも心配があるしな。だが、理由ばどうあれこれは提督の決断だ。私が口出しする事ではない」
さっきまで黙っていた長門が口を開き、諦めた顔でそう言い、
「そんなあ...」
その言葉に項垂れる天龍。
悪いけど諦めてくれると助かるなぁ。
「安心したまえよ、僕だってここで問題を起こしてまた逆戻りは勘弁なんだ。変なことはしないよ」
「天龍」
ヴェルが天龍を見つめて言う。
「....あークソッ!おいテメェ!まだ私は認めた訳じゃねえからな!」
そう言うと天龍は慌ただしく執務室の外へ出ていってしまう。
「...え、えーっと、とりあえずヴェル、ルチアーノ先生を医務室に案内してあげて?」
「わかったよ」
「長門と陸奥は....悪いけど仕事手伝ってくれる...かな?」
「...まだ終わっていなかったのかあなたは」
「あ、あはは~.....ごめん!」
「もう、しょうがないわねえ」
そう言うと長門と陸奥、提督は執務へと取り掛かって行く。...結構な量あるな、前任の分もあるのか?
「Доктор」
「はいはい」
そうして僕達は執務室を後にした。
~現在・医務室~
「...と言うか、君、僕が執務室まで無事に来れないと思ってたのかい」
「まあね、腐ってもここは鎮守府だ、何かしらで捕まるんじゃないかと思った」
「ひどいな...よし、大体は把握出来た」
「...いつも思うけど、貴方は仕事が早いな」
「そうかい?」
リストを見終わり、整理している最中にヴェルに言われる。これ言われるの、何回目だったか。
コンコン
不意に、医務室のドアが叩かれる。
「どうぞー」
ガチャリ
僕がどうぞを言い終わると同時に、長門が医務室に入って来る。
「失礼する。ルチアーノ先生、貴方に話があります」
「...何かしたのかい?先生」
「ほざけ。僕だってここに来たばっかりなんだ、しようにも出来ないよ」
「それはこちらも分かっている、心配するな。...ルチアーノ先生、この鎮守府には貴方の人柄を知っている人間はざっと数えて3名だ。
私達は貴方がどんな人間か分からない。知っているのはそこにいるВерныйと他二人だ。その様な状況でここを彷徨くのは危ない」
「...まあ、確かに」
隣でヴェルが長門の意見に納得する。
「そこで、だ。周囲に貴方の存在を認知させる事も含め、貴方の着任式を開こうと思うの「却下」だが......何?」
「馬鹿か君は。早急だってあんなパニックが起きたのにまた起こす気かい?」
少し考えれば分かる事だ。確かに顔を出して全員に自分を認識して貰う。長門の言い分も分かる、だが一番危惧されるのは、僕が登場した事による、士気の低下だ。
もし、自分のせいで思うように戦闘が出来ない者が出たら?もし、それで戻りかけていた精神をまた病んでしまう者がいたら?
余所者に不審感を持つものが少なからずいる状況で、今すぐに顔を見せるのは危険なのだ。
確かに、例外もあるかもしれない、しかし、その確率は限りなく低い。
何より、僕自身が殺される危険性もあるかもしれない。
「しかし...」
「ダメだ、このタイミングで顔を出すのは良くない。来たばかりだから、気になっている者がほとんどのだろうから、落ち着くまで待とう。」
「...わかった。ただ、何もなかったではこちらも困る。艦隊には、『新しい軍医が着任した』とだけ伝達する。いいか?」
「まあ、それなら良いよ。身の上が分からないからね」
一旦、着任式の件は取り止めとなった。
話が終わり、長門が部屋から出ていく。
「ふう、取り敢えずはこれで良いかな」
「良かったのかい?」
「ああ、僕のせいで士気が下がるのは良くないからね」
「そうか...そうだね。私は貴方の決定に従おう」
「そうかい」
書類を無造作に机に置き、コーヒーを淹れようとしたその瞬間。
ヴィー!ヴィー!ヴィー!
けたたましい音と共に、医務室のランプが光った。
爆音のサイレンと共に、そこかしこに設置されている真っ赤なランプが光りだす。
それは僕達のいる医務室も例外ではなかった。
「....なあヴェル、なんなんだいこれは」
「空襲警報」
「にしても静かだ、この様子じゃあ空襲はしょっちゅうだろう」
――空襲という緊急事態にも関わらず、鎮守府は静かだ。不気味な位に。
「うん。ここじゃそう珍しく無い。さて、私も動くかな」
そう言うとヴェルは手に持っていた書類を机に置き、医務室から出ようとする。
「どこへ行くんだ?」
「決まってる。敵機の撃墜だよ」
「そうかい。頑張って」
「貴方は自分の身を守る事を第一にした方がいい。いくら頑丈とは言え、死ぬかもしれないからね」
ガガガ....ピッ
『空襲警報発令!非戦闘員は即時避難!戦闘員は各員配置に付いて待機!繰り返します!...』
「それじゃ、また。....ああ、そうだ。貴方は執務室に行ってくれ、じゃあ――あ、そうだ」
「?どうしたんだい」
「――ねえ先生、その僕とかいう一人称、似合ってないよ」
ニコリと笑って少女は言う。
「……チッ、社交辞令ってヤツだ、いちいち言うんじゃねぇよ」
『空襲警報発令。空襲警報が発令されました。繰り返します空襲警報発令~…』
「時間だ。じゃあまた後で、先生。
どうすれば良いか困ったら執務室へ行くと良い。口で説明するより行って見た方が早いし」
そう言ってヴェルは部屋を出ていった。
「…なんで執務室なんだよ全く…」
ヴェルが出て行った事を確認し、彼は大きく溜息を吐く。
(だがまぁ…)
(俺の予想以上に面倒くせぇ事はわかる)
空襲。ピリピリと張りつめた空気が、鎮守府中を支配して行く。
「はあ…よくわかんねぇが、執務室に向かうか」
自分は[[rb:医療班> メディック]]、負傷した者の救護が仕事だ。その人間が危険にも関わらずここから執務室まで動くのもあれだが...まあ今はヴェルの言う通りに動いて見るか。
~執務室~
コンコン
「僕だ、ルチアーノだ」
そう言ってルチアーノは社交辞令という名の猫を被る。
『…わかった、入ってくれ』
扉の奥から長門の声が聞こえ、次に執務室の扉が開く。
ガチャ
「失礼するよ」
「…あ、ルチアーノさん!どうしたんですか?」
執務室には、花村、長門、陸奥。そしてもう一人の黒髪メガネの女性。
彼は部屋をざっと見、口を開く。
「…いや何、この場合僕はどうすれば良いのかと思っていたらヴェルに執務室へ行けと言われたのでね。迷惑だったかい?」
「いえ、逆に来て頂いて助かりました。」
「そう?何かやる事が?」
「はい、先生には戦闘による負傷者が出た場合の対処をして頂きたいんです」
花村がそう言うと、ルチアーノは困った様に片方の眉を上げ、
「僕に?もちろん良いけど艦娘の身体なんて弄った事無いから、適切な処置が出来ないかもよ?」
「安心しろ、人間も艦娘も体内構造はさほど変わらん」
ルチアーノの言葉に長門が変わらぬ表情で返答する。
「ふうん?…ま、取り敢えず個々で止まっても何だし、行って来るよ」
「む?いや待て、一人行動するのは危険だぞ。それに今は空襲中だ、すぐに此処が落ちる事は無いとはいえ、この状況で外を出歩くのは…」
「だいじょーぶ、そう簡単に死にはしないさ。ま、危なくなれば戻って来る、それじゃ」
「おい!」
長門の忠告も虚しく、ルチアーノは一人執務室を出て、鎮守府外に行ってしまう。
「大丈夫かなあ…ルチアーノさん…」
「はあ…全く手を焼かせる…」
そう言って長門は額に自分の手を当てた。
~鎮守府・外~
(大丈夫とは言ったものの、こりゃかなりやべぇな…こんなヤツがうじゃうじゃ出ると思うとゾッとすんな…)
俺は今、物陰に隠れ、とにかく敵機に居場所がバレない様にしている。
何故か?それは――
「…っ痛ぅ…!フッ…うっ…!…ハァ…!」
俺の隣で蹲ってる少女一人。こいつをどうやってこの状況から逃がすか考えているのだ。
やがて少女の方を向き、じっくりと見始める。
(腕の骨がイカれていて…加えて腹部からの大量出血。恐らく肝臓、または脾臓の損傷によるもの。心拍数、呼吸数の増加、チアノーゼ。汗もかなり出ている…こりゃァ出血性ショックと見て間違いなさそうか…)
そして。次に彼は空を仰ぎ――
(――今ッ!)
見た事も無い形をした敵の戦闘機が通り過ぎたのを見計らい、少女を抱え、近くにあった鎮守府の裏口から中へ侵入する。
(本当は変に動かすとヤバいんだがな...贅沢言ってらんねえ)
適当な部屋に入り扉を閉め、少女をその場にゆっくり下ろし、携帯電話を開き、執務室の電話に掛ける。
「スマホの使い方は良くわからんが……あー、聞こえるか!?」
『…ッ!はい!ルチアーノさんですね!?どうしましたか?』
慌てた様子で声の主、花村は問う。
「負傷者を発見した、黒髪の少女だ、腹部の損傷が酷い。軽いチアノーゼを起こしてる、見たところ出血性ショックの可能性が高い!安全は確保した、至急担架を持ってこい!ここの手術室を使う!」
『わ、分かりました!』
「それと、輸血パックの用意!……あー!こいつの名前はなんだ!?」
『と、特徴とかありませんか?』
「……あー黒の長髪にヘアピン、制服の首元に青いリボン、手袋、後は……何だこれ?『第十五駆逐隊』って書いてあるんだが…」
『親潮ちゃんです!血液型は…えーっと…A!A型です!』
「了解!パック用意しといてくれ!無ければ近くの病院にでも連絡しろ!」
「先生!担架よ!持って来たわ!」
廊下の向こうから陸奥が担架を肩に乗せ、走って来る。肩どうなってんだ。
「でかした!こいつを担架に乗せるぞ。………1、2、3!」
少女を担架に乗せ、手術室へ急ぐ。
「場所はわかるの?」
陸奥が不安気に聞いてくる。
「大丈夫だ、来る前に図見て覚えた」
「本当?」
「本当だ!いいから急ぐぞ!」
~鎮守府・手術室前~
「ここだ!中に――!」
「―――アタシも手伝うよ、先生」
横からそっと細い手が伸び、担架を押す。
「――お前」
自分の目に映るのは、自分より身長の低い少女。
「おっと、感動の再開は後だ。今はこの子を」
「ああ、分かってら――オペの準備だ!急げ!」
その数秒後、手術室のランプが灯った。
出して欲しい艦娘があれば気軽に教えて下さい!ネタがそろそろ尽きそうなのDEATH。
更新ペースはちびちびやって行くと思います。
ルチアーノのパニックのくだりの捕捉。
数人程ルチアーノを確認した艦娘がいたが、揃ってただの不審者という認識。
長門がとっちめたと思っている。
です。パニックのくだりの意味が分かりにくいと感じたので捕捉させて頂きました。
親潮とか
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