夜とお酒と提督と妙高型
・提督×妙高型四姉妹
・艦これのSS
・一応一人称視点
・文章下手
・ゆっくり更新していく予定
それでも良ければ読んで楽しんでいただければ幸いです。
現在時刻ニイサンサンマル。昼間は騒がしい鎮守府もこの時間ともなると静かになる。
そして今俺は自室のベットの横で椅子に座り、ゆっくりとお酒の入ったグラスを口に運ぶ。
「……ふぅ」
カランと氷の入ったグラスが音をたてる。なんともいえない充足感が体を満たしていく。
寝る前にニ、三杯の酒を飲む。それが最近の俺の習慣となっていた。
一人窓から覗く月を見ながら、二杯目のグラスを傾ける。
いつもならすぐに三杯目を飲むのだが、今日はそうはいかなかった。
三杯目をグラスに入れたところで、自室の部屋のドアからノックの音が聞こえたからだ。
「……おやすみのところ申し訳ありません。提督。妙高です。入ってもよろしいでしょうか?」
声の主は俺の秘書艦であり、妙高型重巡洋艦四姉妹の長女、妙高であった。
こんな時間になんだろうか。もしかしたら急を要することかもしれない。
「ああ、いいぞ。入ってくれ」
「失礼します」
ドアが開き、少し俯きながら妙高は部屋に入ってきた。その手には書類を持っているのが見える。
「こんな時間にどうした?」
俺が問いかけると、妙高は申し訳なさそうに答えた。
「……実は足柄がこの間の戦闘報告書を提出するのを忘れていまして、慌てて先ほど作成させたので確認をいただきたいと……」
そういえばそんなこともあったかもしれない。まあ別に明日でもよかった気はするが。
「あー……なるほど。しかし、妙高。どうして今持ってきたんだ?」
「……妹の不始末は長女である私の責任ですから、それに提督の昼間のお仕事の邪魔はしたくありませんでしたので」
実に真面目な彼女らしいと言えばらしい理由だ。少々固いと言ってしまえばそれまでだが……まあそういうところが信用を置けるところでもあるわけで。
「わかった。確認しよう。すまないが、少し座って待っててくれ」
「はい。ありがとうございます。提督」
妙高は深々と頭を下げ、感謝の言葉を述べる。しかし、酒の入った頭で俺はしっかりと確認することが出来るだろうか。
「提督……?お酒を飲んでいらしたのですか?」
「……ん?ああ、そうだが?」
妙高は机に置いてある酒を見ると珍しいものを見つけた目をしていた。そういえば飲んでいるところを誰かに見られたのは初めてかもしれない。
「私、提督は飲まない人だと思っていました」
「まあ……確かに誰かと一緒に飲んだことはないかもな」
「どうしてです?この鎮守府にもお酒を飲む子はいますのに……」
「俺はそこまで強くないし、それに酔いつぶれて情けないところを見られるわけにいかないしな」
これは本心である。仮にも鎮守府のトップで艦娘を指揮する立場の人間が艦娘の前で醜態をさらすわけもいくまい。
「……そう……ですか」
妙高はそういうと黙ってしまった。とりあえず俺は回転の遅くなった頭で書類を確認する。
ふむ、今見る限り問題はないようだ。というかこの書類の筆跡は足柄が書いたものじゃないな。おそらく妙高が書いたのだろう。
なんだかんだ言って彼女は姉妹に少し甘いところがあるようだ。
「よし、特に問題ないぞ。…………妙高?」
「……え……あ……ありがとうございます!提督」
考え事でもしていたのだろうか。普段の彼女からは聞けない上ずった声が発せられた。思わず、俺の口元から笑いがこぼれる。
「……っと、すまん」
「あ……いえ……私の方こそすみません」
妙高の耳が赤く染まっている。表情からすると恥ずかしさ半分申し訳なさ半分といった感じだろうか。
少し気まずい雰囲気が流れた。
「……提督はこれからまた飲まれるのですか?」
「あ、ああ……あと一杯程飲んだら寝ようとは思うが」
「でしたら、私も一杯だけ御一緒してよろしいですか?」
「ん?まあ構わないが……」
そう。この時俺はなんとも思っていなかったが、これが間違いだった。だがそれに気づいたのはかなり後の話である。
コポコポと氷の入ったグラスに酒を注ぐ。その俺の様子を妙高はじっと見つめていた。別に珍しいものでもないと思うのだが。
「はい。まあ口に合うかわからないがな」
そう言って酒の入ったグラスを妙高に差し出す。彼女は礼を言ってグラスを受け取る。
「私たち結構姉妹でも飲んだりしてますから、口に合わないということは無いと思いますよ」
フフッと微笑む妙高。それを見て一瞬ドキッとする俺。いかんな。酒で理性が弱っているようだ。
「……それに提督が私のためにいれてくれた物が美味しくないわけないと思いますから」
今度は少し恥ずかしそうに笑う妙高。ヤバい。可愛い。って何考えてる俺。彼女は秘書艦で大事な仲間であって。
……ん?なんで俺はこんなことを考えてるんだ。
「……提督?」
「す、すまない。少しボーっとしていた」
そんな俺の反応をみて、また妙高は笑った。今度は俺の顔が赤くなっているのだろう。顔が熱くなっているのが自分でもわかる。
「と、とにかく飲もうか」
「はい」
恥ずかしさを振り払うかのようにグラスを持ち、そしてお互いのグラスがお互いの間でカンと軽やかに音を立てた。
「「乾杯」」
グイッとグラスを傾け、酒が喉を流れていく。グラスの半分ほどを飲んだところで俺はグラスを机に置いた。
「……美味しい」
「そうか。それはよかった」
どうやらこの酒は妙高の口に合ったようだ。俺は内心ホッとしていた。もし口に合わなかったらどうしようかと少し思っていたからだ。
ふと窓の外の月を見上げる。今日は満月だったらしい。綺麗に真円を描き、輝きをはなっていた。
「……月が綺麗だな」
「え……!?」
妙高が驚いたような声をあげた。俺は何か変なことでも言ったのだろうか。いやでも月が綺麗に見えたのは間違いではないと思う。
「て……提督……?それって……」
「……ん?どうかしたのか?」
妙高の顔を見ると彼女の顔は紅く染まっていた。それになんだか様子もおかしい。やはり何か変なことを言ってしまったのだろうか。
そんなことを考えていると突然、妙高が立ち上がり、俺の方へゆっくりと近づいてきた。
「……提督は先ほどの言葉の意味をご存じですか?」
い、意味?意味ってなんなんだ。月が綺麗って何かの暗号なのか?俺が答えを出せずにいると妙高の顔は俺の目の前にまで来ていた。
「……月が綺麗ですねというのは……『あなたが好きです』という意味があるんですよ」
「え……?」
「その様子だと、知らなかったみたいですね。でも、私はこう思ってますよ」
「今日は……本当に月が綺麗ですね。提督」
そう言った妙高の顔は月の光に照らされてとても美しく綺麗に輝いていた。俺はその顔から目が離せずにいた。
ゆっくりと俺たちの顔は近づいていき、お互いの唇はゆっくりと重なり合い、そしてその夜、俺と妙高は一線を越えた。
「……ん」
窓から差す朝日と鳥のさえずりで俺は目を覚ました。体が少し重い。
昨日のあれは夢だったのだろうか。そう思いゆっくりと俺は上体を起こした。
「提督、おはようございます」
突然横から声がしたので、思わず体がビクッと反応する。俺が声のする方へ顔を向けるとそこにはいつもの制服を着た妙高が立っていた。
「お……おはよう。妙高」
「昨晩はよくおやすみになれましたか?」
「あ、ああ……」
「それはよかった。私も昨日は提督の色んなところが見れてよかったですよ」
口元を抑えつつ、妙高はフフッと笑った。やっぱり昨日の出来事は夢ではなかったらしい。
そう考えるとゆっくりと、そしてハッキリと頭の中で映像が浮かんできた。そうだ。昨日俺は妙高と一線を越えたのだ。
一応同意の下で行ったとはいえ、まずい事をしてしまったのではないだろうか。そんなことを俺の頭は考える。
「提督?」
「……あ、す、すまない。何だ?」
「今から妹達を起こしに行ってまいりますので、提督はゆっくりと支度をされてから執務室においでくださいね」
「ああ、わかった」
横目で時計を確認する。食堂の朝食にはまだ時間に余裕があるようだ。ふと視界が暗くなる。少し目線をあげると妙高が目の前に立っていた。
「……ん?どうした?」
「……少し、忘れ物を……」
「ん……一体、何を……んんっ!?」
それは一瞬だった。柔らかな感触が唇に伝わる。
「……では、行ってまいりますね」
そう言って妙高は部屋から出て行った。俺はというと唇に伝わった確かな感触に現実を受け入れられずにいた。
結局俺が我に返ったのはそれから二十分後の事だった。
俺と妙高が一線を越えて一か月程がたった。あの日以来、二、三日おきに妙高は俺の部屋にやってくるようになった。
その度に少し話ながら酒を飲み、俺たちは身体を重ねていた。もちろん他の艦娘には内緒でだが。
最近、妙高の戦果が目立つようになってきた。決まってその調子の良い日というのは俺と身体を重ねた次の日である。
この間なんて、一回の戦闘で戦艦ニ隻、重巡一隻を一人で沈めてしかも無傷で帰ってきた。
運も実力の内とは言うが、そういう問題ではない気がする。
そしてそんな日々を送っていればこんな事態も起きることは容易に想像できたわけで。
「提督、襟が曲がってますよ」
「ん。そうか」
現在時刻マルゴーサンマル。まあいわゆる昨夜はお楽しみでしたね状態。平たく言うと妙高と飲んで身体を重ねた次の日の朝。
他の艦娘達が起きる前に俺たちは身支度を整える。
「……これでよしと。提督、もういいですよ」
「ああ、ありがとう」
フフッと笑う妙高。なにか可笑しいところがあったのだろうか。
「どうした?」
「いえ、ついこの間まではこんなこと想像できなかったのに不思議だなと思いまして」
確かに。この間まではいわゆる司令官と艦娘という関係だけだったわけで。まあ、今のこの状態が好ましいのかどうかはわからないが。
「……それにこうやって提督の隣にいれるのが嬉しくて」
おおう。朝から中々破壊力のある可愛い顔を見せてくれるな。ヤバいヤバい。落ち着け俺。
「では私は妹達を起こしてきますね」
「ああ」
「提督、また後で。でもその前に……」
スッと妙高の手が俺の首すじをなでる。そしてそのあとに俺の唇に柔らかい感触が伝わる。
軽く口と口が触れるだけのキス。妙高は身体を重ねた次の日の朝、部屋を出る前に必ずこれをする。
「では行ってきますね」
そう言って妙高は出て行った。俺はというと毎回の事になってはいたが、未だにこの行為に慣れずにいた。
赤くなっているであろう顔の熱が冷めてから、食堂に朝食を食べに行く。これももう習慣になりつつあった。
「……隣、いいか?」
俺が食堂で朝食を食べていると妙高型四姉妹の次女、那智が声を掛けてきた。
「ああ。いいぞ」
珍しいこともあるものだ。普段なら姉妹だけで食べているのに。ふと見渡すと、他の三人の姿は見えない。
「……足柄と羽黒が支度に手間取っていてな。私だけ先に来たのだ」
ふぅとため息を漏らしつつ、那智は朝食を口に運ぶ。俺は隣で苦笑いを浮かべるしかなかった。
「まあ……丁度よかった。唐突ですまないが貴様に頼みがある」
珍しいことが続けて起きるものだ。俺に那智が頼みごとなんて。
「今日の夜、私に少し時間をくれないか?その……相談があってな」
相談?那智が俺にか。
「別に構わないが……妙高ではダメなのか?」
「いや……その……姉さんには少ししにくい相談なので……な。頼む」
妙高の名を出すと少し顔をしかめる那智。まあわざわざ俺に言いにくるっていうことは余程なのだろう。
これも提督の仕事だと思って、引き受けるか。
「いいぞ。今日の夜だな。時間は……ちょっと遅くなるが、フタフタマルマル位でどうだ?」
「すまない。では部屋で待っていてくれ。私が訪ねよう。相談する立場なのだからな」
那智がそういうと丁度妙高達が食堂に入ってきた。その日の朝食はいつもより賑やかなものとなった。
現在時刻フタフタマルマル。もうそろそろ那智が来る頃だろう。なにか軽食ぐらいは用意した方がよかっただろうか。
そんなことを考えていると部屋のドアからノックの音が聞こえた。
「私だ。那智だ。……入ってもいいか?」
「ああ、いいぞ」
ドアがゆっくりと開き、那智が入ってきた。しかし、那智はその手に何故か一升瓶を持っていた。
「那智……それは何だ?」
「こ、これはその……酒があった方がその……話がしやすいかと思ってな。い、一緒にどうだ?」
俺に一升瓶の事を問われると、おどおどと那智は答えた。お前、まさか今日それ全部飲む気じゃないだろうな。
思わず俺の口からため息が漏れる。だが俺は那智の相談の内容が気になったため、とりあえず酒を飲むのを了承した。
「……わかった。まあ座っててくれ。グラスを取ってくるから」
「すまない」
一升瓶を机に置き、椅子に腰を下ろす那智。俺は戸棚に入っているグラスを二つ取り出し、氷をそれぞれのグラスに一つずつ投入する。
そしてその片方を那智に手渡す。
「ありがたい。やはり酒はこのように飲むのが一番いいな」
グラスを渡すと笑みを浮かべる那智。……本当に相談にきたのか?そう考える俺をよそに那智はグラスに酒を注ぐ。
続けて俺のグラスにも酒が注がれる。そうなるともう先ずは飲むしかなかった。
「「乾杯」」
カンとグラスから軽快な音がなった。俺はゆっくりと酒を喉に流していく。三分の一程度を飲んだところで俺は机にグラスを置いた。
この酒はいつも俺が飲んでいるものよりもアルコールが強いようだ。那智の方を見るとすでに彼女はグラスを空にしていた。
「……ふぅ」
「そんなに一気に飲んで大丈夫か?」
「ん……平気だ」
そう言って那智は一升瓶に手をかけ、酒をグラスに注ぎはじめた。これは俺から相談の内容を聞いたほうがいいようだ。
「ところで……那智。朝言ってた相談というのはなんだ?」
ピタッと一瞬那智の動きが止まる。その後一升瓶からゆっくりと那智の手が離れた。
そして普段の那智からは想像出来ないか細い声で相談は始まった。
「その……相談というのは姉さんの事なんだが……」
「妙高の……?」
妙高の事で俺に相談?足柄や羽黒じゃなく……?一体どうしたのいうのだろうか?
「最近、姉さんの戦果が上がっていると思わないか?」
「……ああ」
そのことか……俺は相談を受けたことを若干後悔していた。もう遅いのだが。
「私もやっと改ニになれた。艤装の能力ではほとんど変わりがないといっていいと思う」
「……そうだな」
「そうなると、差が出るとすれば艤装を操る私との差ということになる」
「……」
「そこでだ。姉さんは貴様の秘書艦だからな。何か心当たりはないかと思ってな」
……さてこれはどう答えたものか。心当たりがあると言えばある……が正直に話せる訳がないわけで。
確かにこれは妙高に相談出来るものではないな。那智の考え方は間違っていないだろう。
しかし、どう答えれば那智を納得させる事が出来るだろうか。だが俺の頭はそんな都合よく、うまい嘘をつくることは出来そうになかった。
ここは那智にはすまないが、知らないということにしておいた方が一番無難だ。俺の頭はそういう解答を出した。
「……すまない。俺は思い当たるところはないな」
「そうか……こんな時間に酒まで持ってきて、すまなかったな」
那智の残念そうな顔に俺の心は罪悪感に満たされていった。本当のことは言えないが、せめて今俺に出来ることはないだろうか。
ふと机の一升瓶が目に入る。そうだ。今日は少し深酒に付き合ってあげよう。そう思った。
「那智」
「……なんだ」
「その……相談に答えられなかったお詫びじゃないが、もし良かったらもう少し飲んでいかないか?」
「……いいのか?」
「今日だけだがな」
少し那智の顔が明るくなる。その顔を見たら、ほんの少しだけ罪悪感が消えた気がした。
それから一時間程、二人で飲んでいただろうか。もう一升瓶の中身は空になっていた。
時計は間もなく日付を超えるところまでその針を進めていた。
「もうこんな時間か……そろそろ部屋に帰った方がいい」
「……ああ」
那智がゆっくりと立ち上がるがフラフラとして足取りがおぼつかない。結局一升瓶の七割程は那智が飲んでしまった。
ドアに向かい足を進めようとするが、バランスを崩し、俺の方へ倒れてきた。
「……っと」
「す、すまない」
間一髪那智を支えることに成功した俺だが、この体勢はマズイ。まるで那智を抱きしめているような体勢になってしまった。
こんなに近くで那智を見たのはおそらく初めてだろう。酒のせいではなく、胸が高鳴るのがわかった。
……いかんな。いつもより飲んだせいか。早く那智を部屋に返さなければ。俺の理性が危ない。
「那智。立てるか?」
「ああ。何とか……ん?」
那智が俺の顔を見つめている。いや違う。正確には首の辺りを見ている。何かついているのか?
「……貴様。首の付け根辺りに赤いものがついてるぞ」
ん?虫にでも刺されたか。あとで薬でも塗っておこう。今は那智を部屋に帰す方が先だしな。
「私が見てやろう。まったく……」
そういうと那智は手で俺の服の襟を持ち、首に顔を近づけてそれを凝視した。おいおい。そんなことしてる時ではないんだが。
「……おい、貴様。これはどうゆうことだ」
突然、那智が怒気を含んだ声を発した。
「何がだ?」
「……この貴様の首についているものは私にはキスマークに見えるんだが」
「え?」
そんな馬鹿な。キスマークなんて付けられた覚えはない。いや待て。考えなくてもわかるじゃないか。
こんなことが今、出来るやつは一人しかいない。おそらく……妙高だな。俺が寝てる間に付けたのだろう。
ヤバい。一番見られてはいけない奴に見られてしまった。これは言い訳できそうにない。どうしたものか。
「貴様!!いつの間に女など作っていたのだ!」
「いっ!?」
突然、那智が声を張り上げた。その声の大きさと勢いに俺は身体のバランスを崩し、俺たちは密着したままベットに倒れこんだ。
「……っと。那智、大丈夫か?」
那智は俺の身体の上で顔を下に向けたまま、返事はしなかった。ただ、俺の服の襟を掴んでいる彼女の手は小刻みに震えているように見えた。
「……な……だ」
「……ん?」
「何故だ!何故貴様は女がいることを黙っていたのだ!」
顔を下に向けたまま、那智は声を上げた。そして俺の胸元に冷たい感触が伝わる。まさか、泣いている……のか?
「貴様に女の影が無いと思って、私は……私は我慢していたのに……それなのに!」
襟を持っている那智の手に一層、力がこもる。那智はキスマークを付けたのが妙高だとは気づいていないようだ。
ふいに那智が顔を上げる。彼女の顔はアルコールと涙で赤く染まっていた。
「私は……私は貴様が好きなんだ!」
那智からの突然の告白に俺の頭は真っ白になった。嘘だろ。今までそんな素振りは感じられなかったのに。
彼女の目からはポタポタと涙が俺の胸元に落ちていた。嘘で言っているようには全く見えない。
那智のこんな顔は初めてみた。それだけ本気なのだろう。俺は返す言葉が見つからなかった。
「……すまない。もうこの気持ちが伝わらないのはわかっている。だが、だがせめて……」
「……今夜一度だけでいい。私を抱いてくれないか……?」
紅く染まった顔。涙で潤んだ瞳での上目使い。密着している身体。さらに愛の告白と懇願されている状況。
もはや俺の理性にそれらをすべて跳ね除ける力は残っていなかった。俺は那智の願いを受け入れ、過ちを犯すこととなった。
いつもの朝日。いつもの鳥の声。いつもの自分の部屋。唯一違うのは隣に那智が寝ていることだろう。
俺は昨日の夜、那智を抱いたのだ。
「……んん」
隣で寝ている那智の頭を撫でる。彼女はまだ夢の中なのだろう。いつもの那智とは違う可愛い寝顔を俺に見せていた。
しかしどうしたものだろうか。妙高に続いて那智まで抱いてしまったこの状況に俺はため息をつくしかなかった。
「ん……」
「……おはよう。那智」
そんなことをしていると那智が目を覚ましたようだ。彼女の瞼はすこし腫れている。あれだけ泣いたのだから当然なのかもしれない。
「……昨日はすまなかった」
「いや俺の方こそ……すまん」
気まずい雰囲気が部屋を包む。その空気に耐えかねたのか、那智はベットを降りた。後ろを向き、服を着始める。
「……約束通り、今日で私は貴様を諦める」
後ろを向いて窓の外を見つめる那智。その背中からは寂しさが感じられた。こんな状態のまま、那智を行かせる訳にはいかない。
そして俺の身体は頭で考えるよりも早く、反射的に行動を起こしてしまった。
「……な、何を……!?」
後ろから俺は那智を抱きしめた。困惑するも那智は無理に離れようとはしなかった。
「貴様……何をする。そんなことをされたら、私は……諦めようと……思っていたのに……でも……でも」
那智の目からポロポロと涙が零れる。また俺は那智を泣かせてしまったようだ。
「やはり私は……嫌だ……貴様を他の女に取られるのは嫌だ……嫌なんだ」
俺の事を那智はここまで想っていてくれたのか。しかしどうする俺。思わず抱きしめたのはいいが、状況は悪化しているとしかいえない。
……本当に那智の事を考えるのなら、ここで優しく諭して諦めさせればよかったのだろう。だが俺はここで最も悪手であろう選択肢を選んだのである。
「……那智」
「何だ……?」
「実はなその……キスマークの事なんだが、俺は誰に付けられたかわからないんだ」
「な……!?」
那智は驚いた声を発した。
「じゃあ、貴様はキスマークを付けられた覚えはないというのか?」
「……ああ」
我ながら、何て苦しい嘘をついたのだろう。嘘をつくにしても、もう少し上手いつき方があっただろうに。
「……では貴様は外に女は作っていなかったと……?」
「あ、ああ」
あれ。何だか上手く勘違いを那智は起こしてくれているらしい。それはそれでちょっと心配になりそうだが。
「何故、それを早く言わん!」
俺の頭に那智の声が響く。
「なら……私は貴様を諦めなくていいということだな?」
泣いていた表情は一変し、キラキラとした笑顔で俺を見る那智。今更、彼女に否定の言葉をぶつけることは不可能だった。
俺は自分の行いに後悔しながらも、今は那智の笑顔に合わせてただ笑顔を作るしかなかった。
那智はあれ以来妙高ほど頻度は高くないものの、俺の部屋にくるようになった。そして俺は妙高とも関係を続けていた。
しかし俺がいうのもおかしいとは思うが二人とも本当に気づいていないのだろうか。俺がお互いと関係を持っているということを。
だが俺からそんなことを二人に言うことが出来るはずもなく、時間だけが過ぎていった。
そしてさらに俺が望まないにも関わらず、この状況を悪化させる出来事が起きるわけで。
「……ん。私の顔に何か付いているか?」
現在時刻マルゴーサンマル。昨日は那智が部屋にやってきた。そして俺はまた彼女を抱いたわけで。
「いや……那智は普段と二人きりの時では雰囲気が大分と違うなと思ってな」
「な……!?」
那智の顔が真っ赤になる。普段の那智は強さを前面に押し出しているような印象を受けるし、実際その強さは頼りになる。
しかし彼女はその……意外と可愛らしいというか二人きりになると結構甘えてくる。正直予想外だった。色々な意味で。
「……貴様はその……普段の私の方がいいのか?」
モジモジと下を向きながら俺に問いかけてくる那智。こういうとこだな。本当に可愛らしい。
「そんなことはない。こういう那智もいいと思うぞ」
那智の頭を撫でる。彼女の顔はさらに赤みを増していた。
「……ありがとう」
ボソッと呟くように礼を述べる那智。それに俺は笑顔を作って答えた。
「さあ、そろそろ準備しないとな」
時計の針はそろそろ朝食の時間に近づいていた。俺たちは手早く身支度を整える。今日も一日が始まろうとしていた。
「提督、私は大淀さんの見送りに行ってきますので少し外しますね」
「ああ、頼む」
現在時刻イチヨンマルマル。今俺は仕事の真っ最中なわけで。今日は書類仕事がいつもより多い。
そのためいつもは二人で行く大淀の見送りを妙高に任せることにした。
軽巡洋艦、大淀。俺たちの鎮守府と本営のパイプ役であり連絡役でもある。彼女は定期的に鎮守府にやってきていた。
俺に一礼をして妙高と大淀は執務室から出て行った。
「今日は書類が多いな……ったくいやになる」
俺は一人ブツブツと文句を言いながら書類一つ一つに目を通し、サインやハンコを押していく。……本当に今日は多い。
俺が書類と格闘を繰り広げていると廊下の方からバタバタと足音が執務室に近づいてきた。
「提督!今帰ったわよ!」
ドアがバンと勢いよく開く。その後ろから妙高型四姉妹の三女、足柄が現れた。
しかし俺は書類を見ていたため、彼女が今どんな格好をしているのか全く知らなかった。
「ああ……お疲れさま……って足柄、お前!?」
「え……?」
俺が顔を上げるとそこには中破状態の足柄が立っていた。上半身の服は破れ、所々肌が見えていた。まあその……胸のあたりも少し見えていたわけで。
慌てて、俺は視線を足柄から逸らした。
「あはは。ごめんなさい。つい勝利の報告を早くしたくて」
そういって足柄は笑った。まったく……なんてものを見せてくれるんだ。しかし足柄の胸は大きいな。多分姉妹の中では一番ではないだろうか。って何考えてる俺。
「わかった。わかったからとりあえず早く入渠してこい。報告は後でゆっくり聞くから」
「むぅ……」
俺が入渠を急かすと足柄は嫌そうな声を上げた。とにかく早く行ってくれないと俺が目のやり場に非常に困る。
とりあえず俺は続きの書類に目を移した。
「提督!」
突然、足柄が俺の顔を持ち自分の方へ無理やりに向けた。
「な、何をする!?」
「だって、提督が私のこと見てくれないんだから仕方ないじゃない」
足柄は少し頬を膨らませながら答えた。近い近い。というか胸見えてるから。早く離してほしいんだが。
「だから入渠して終わったらゆっくり聞いてやるから」
「何でよ。今でいいじゃない」
こいつ……自分の恰好をわかって言っているのか?だから色々見えてるんだって。なんでわかってくれないかな。
「それとも今じゃダメな理由でもあるの?」
「……お前な。自分の恰好をよく見てみろ」
「え?……あ」
思わず口に出してしまった。とりあえず足柄の手が顔から離れたため、椅子を反転させ俺は彼女に対して背を向けた。
「……早く入渠してこい。報告はその後でいい」
これでやっと書類に集中できる。そう思ったのは束の間だった。
「……ふ~ん。提督ったら、どこが気になってたのかな~?」
椅子の後ろ側から足柄が抱きついてきた。俺の後頭部に柔らかい感触が伝わる。
「こ、こら!離せ足柄!」
「いやん。暴れたらダメじゃない」
足柄の腕の締め付ける力が強くなる。クスクスと足柄は笑っていた。なんとかしてやめさせなければ。
「……足柄、あなた何をしているの?」
「っ!?」
空気が凍りつくとはこのことをいうのだろう。声のする方を見ると妙高が大淀の見送りを終えて、丁度帰ってきた。
「ね、姉さん……あはは」
「ねえ……足柄……あなた何をしていたのかしら?」
怖い。妙高の表情は笑顔そのものだが、纏っている空気が明らかに怒りを表している。俺もその空気に言葉を発することが出来なかった。
「足柄、あなた確か中破したと聞いていたのだけれど……どうして入渠もせずにこんなところにいるのかしら?」
「ご、ごめんなさい!」
足柄はそういうと脱兎のごとく速さで執務室を出て行った。あいつあんなに速く動けたんだな。
「まったく……あの子ときたら」
「……そうだな」
「それに提督も提督です!もう少ししっかりしてくれないと困ります」
今度は俺に矛先が向いたようだ。しかし俺にどうすることが出来たというのだろうか。
「……それに胸が見たいなら、いつでも私ので良ければお見せしますのに……今晩は覚悟しておいてくださいね」
妙高はボソッと俺の耳元で囁いた。これはあれか。いわゆる嫉妬というやつらしいな。
その言葉通りその夜の妙高はかなり激しかった。だが俺たちは知らなかった。俺たちが行為に夢中になっている時に扉の向こうで聞き耳を立てている者がいることを。
現在時刻フタサンマルマル。今日も無事に執務が終了し、俺はゆっくりとした時間を過ごしていた。
今日は妙高も那智も来ないらしい。正直助かった。昨日の妙高との行為が激しすぎたため、若干体が痛い。
それにしても最近、二人とも段々と行為の激しさが増しているような気がする。……気のせいだと思いたいが。
とりあえず今日は軽く一、二杯程飲んで寝てしまおうか。そんな俺の予定は脆くも崩れることとなる。
突然、部屋のドアからノックの音が聞こえた。誰だろうか。今日は二人とも来ないと思っていたのだが。
「提督。私よ。足柄。入っていいかしら」
足柄?どうしてこんな時間に俺の部屋に?何か急用だろうか。
「提督。入るわよ」
俺が返事をする前に足柄は部屋に入ってきた。おい。何のためにお前はノックをしたんだ。
「足柄……お前な」
「もう……。いいじゃない。細かいことは気にしないの」
そう言って椅子に座っている俺に寄ってくる足柄。こいつ……既に酔っていやがる。足柄の顔は若干赤く、酒の匂いがした。
「……で、何か用事なのか?」
「え?別に用があるなんて言ってないわよ?」
ケロッとした顔で答える足柄。じゃあ、なんで来たんだ。しかもこんな時間に。
「実は姉さん達と飲んでいたんだけど……先に姉さん達が寝ちゃったから、提督のとこに来たの」
なるほど。今日妙高と那智が来ないのは姉妹で飲んでいたからか。しかし那智が先に潰れるほどとは足柄はそんなに強いのだろうか。
「それに……提督には聞きたい事があったし」
「……ん?」
俺に聞きたい事?なんだ?また新装備でも欲しいとか言うんじゃないだろうな。
「ねぇ……提督と妙高姉さんってデキてるの?」
「なっ!?」
「最近、妙高姉さんが夜遅くに出かけてるみたいだから、ちょっと気になってたのよね。そして昨日後をつけたら提督の部屋に入ってくじゃない」
「……」
「それで静かに扉に耳をつけたら、ベットが軋む音と姉さんの声が聞こえてきたし、これはデキてるのかなって。それに姉さんのあんな声初めて聞いたわよ」
ああ……完全に聞かれてるじゃないか。確かに昨日の妙高はいつもより激しかったし、俺の身体はまだ痛いけど。って今はそんなことはどうでもいい。
しかしなんて答えたらいいんだ。俺の頭は突然のことに言葉が出てこなかった。
「そういえば那智姉さんもたまに夜遅くにいなくなることがあるけど……まさか那智姉さんとも?」
「っ!?」
「へぇ~……そうなんだ。やるわね提督。美人姉妹に二股かけるなんて」
何も俺は言い返す言葉がなかった。というか足柄よ。普段はそんなに鋭い方じゃないのに何でこういう時は勘が冴えてるんだよ。
「……で何か?お前は俺を脅しにきたのか?」
「いやね。そんなことしないわよ」
足柄は笑って答えた。ひとまず俺は安心した。
「あ……でももしかしたら、今帰ったら勢いで誰かに言っちゃうかもしれないわね」
「……!?」
「お酒でも飲んだら、忘れちゃうかもね~」
ニコニコと俺に笑いかける足柄。なんだ。それはあれか。酒を飲ませろと要求してるのか。
仕方ない。このまま帰して、万が一言いふらされたら…………考えるのはよそう。酒を飲ませて済むのなら、それでいい。
「……わかった。飲ませてやるよ」
「流石提督。話が早いわね」
それは褒められているのだろうか。あんまり嬉しくない。渋々俺は立ち上がり、足柄のグラスを準備する。ふと足柄の方を見ると上機嫌に椅子に座っていた。
……俺が思うのも変だが、足柄は俺が二人と関係を持っていることに何も思わないのだろうか。
「提督~。まだ~?」
「わかった。わかったから、ちょっと待て」
足柄の催促を受けて、俺は考えるのを中断した。まあ考えても仕方のないことかもしれない。
俺はグラスに酒をゆっくりと注いでいく。その様子を足柄は笑顔で見つめていた。
「じゃあ、乾杯しましょ」
「……別にいいだろ」
「あ、そういうこと言うのね。じゃあやっぱり姉さん達に……」
「……わかったよ。すればいいんだろ」
何だか上手く足柄に操られているような気がする。耐えろ俺。俺たちはグラスを持ち、お互いの間で軽くグラスを鳴らした。
「「乾杯」」
勢いよく足柄はグラスの中の酒を飲み干していく。俺はゆっくりと飲みながらその様子を見ていた。
「そういえば、姉さん達ってどうなの?やっぱりいつも昨日位激しかったりするの?」
なんてことをいきなり聞くんだ足柄。思わず、俺はむせてしまう。
「……ゴホッ!?お、お前なぁ!」
「だって気になるじゃない」
確かに最近は激しい気がするが……ってそんなこと言えるわけないだろうが。
「で、どうなの?」
「……それは言えないし、言うつもりもない」
俺はグラスを机に置き、立ち上がり足柄に背を向けた。正直恥ずかしかったからだ。
「……ふ~ん。じゃあ身体に直接聞こうかしら」
「何?」
足柄の方を振り向く間もなく、俺の手の自由は奪われた。どこに持っていたのかは知らないが、手首に手錠のようなものをかけられたらしい。
そしてそのまま俺の身体はベットに押し倒された。
「あ、足柄!何を!?」
「言ったでしょ。身体に直接聞くって」
そう言って足柄は俺をベットの上に仰向けにし、覆いかぶさってきた。彼女の大きな胸が俺の顔に押し付けられる。
ものすごく柔らかいが、その感触を楽しむ余裕は俺には無かった。
「やめろ。足柄。今ならまだ……」
「いやよ」
足柄はやめるどころか余計に腕に力を込め、胸を俺の顔に押し付けてくる。男の性とは悲しいかな。俺はそれに反応を示してしまう。
「ほら提督だって、まんざらでもないんじゃない」
「くっ……何で……こんなことをする」
「……だって悔しかったからよ」
悔しい?何に対してなんだそれは。
「……好きな人を取られたら悔しいに決まってるじゃない」
「え……」
「私だって、提督の事好きなのに」
……あれ。こういうの俺は前にも見たような。足柄は酒が入ってるせいか結構あっさりと言い放った。
「だから……提督」
「……今日は私だけを見てもらうわよ。もちろん、拒否なんてさせないけど」
もはや押さえつけられて身動きがとれない俺に抵抗することは叶わず、俺は諦めることにした。
その夜は足柄が満足するまで相手をするしか、俺には選択肢は残されていなかった。
その日の朝、俺は身体に伝わる暑さで目を覚ました。目を開けると足柄の顔が俺のすぐ横にあった。
どうやら足柄は俺の左半身に乗るような形で眠っているようだ。いつの間にか手錠は外されていた。
とりあえず足柄を起こさないとな。身体を動かすことも出来ない。
俺は足柄の身体を揺らし、彼女を起こすことを試みた。
「……んん。あ……おはよう。提督」
「おはよう。とりあえず、俺の上からどいてくれないか?重いんだが」
「ちょっと……女性に重いなんてひどいじゃない?」
そう言いつつ、足柄は俺の上から降りた。やっとこれで動くことが出来る。そう思い、身体を起こそうとした瞬間だった。
「ぐぅ!?」
身体に激しい痛みが走る。主に腰からだが。俺の起こしかけた身体はベットへと逆戻りした。
「て、提督!?大丈夫?」
足柄が心配そうに俺を見る。いや、大丈夫ではない。身体に電流でも流されたような痛みだった。
「あ、あまり良くは……ない」
「ごめん。昨日は調子に乗りすぎちゃった」
舌を少し出しながら謝る足柄。そうだった。昨日の夜、俺は足柄に半ば強制的に行為の相手をされられたのだ。
正直、何回していたのか俺は覚えていない。
「それにしても昨日は良かったわよ。提督」
俺の身体が動けないことをいいことに足柄は抱きついていた。朝から柔らかい感触が俺の身体に伝わる。
「やっぱり、姉妹だからかしら?提督との身体の相性はバッチリみたいじゃない」
フフッと足柄は笑った。姉妹であることが関係があるのかどうかはこの際、気にしないでおこう。
そんなことより先ずは身体を起こさないと。仕方ない。足柄に手伝ってもらうように頼むしかない。今の俺にはそれしか出来なかった。
「足柄……すまん。身体を起こすのを手伝ってくれないか?」
「むぅ……私の話聞いてないでしょ」
足柄は顔をしかめた。だがそんなことは気にしていられなかった。早く支度をしないと妙高達が起きてきてしまう。
もし足柄が部屋から出るところでも見られたら、大惨事は避けられない。
「……頼む」
「もう……仕方ないわね」
渋々、足柄は俺から離れた。そして俺は彼女の手を借り、何とかベットから降りることが出来た。
「提督。本当に大丈夫?」
「立ち上がれれば何とかな」
身体は痛いが、ひとまず俺は支度を整える。立ち上がってさえしまえば何とかなる。
「そう?ならいいけど。あ、そうだ。提督」
「なんだ?」
「身体が治ってからでいいけど、また昨日みたいによろしくね」
「はっ!?」
笑顔で足柄は言った。何を言ってるんだこいつは。
「あら……別に私はいいのよ。姉さん達に言っても。それに、昨日の事も一緒に話してあげてもいいけど」
「なっ……!」
ニコニコと足柄は続けた。あれ。これは詰んでいるってやつじゃないか?
「うふふ。そんなに怖い顔しないの。提督がちゃんとしてくれれば、私だって姉さん達に黙っててあげる」
もはや何を言っても俺に拒否権はないのだろう。もう俺には足柄の提案を受け入れる事しか出来ないようだった。
足柄の強制的な行動からまたしばらくの時間がたった。その間、俺の身に何も起きていない事からすると足柄は本当に妙高達には言っていないようだ。
だが、足柄も妙高に匹敵する頻度で来るようになったため、俺は二日に一度は三人の内、誰かを相手にしている。ある意味、壮絶な状況になっていた。
俺はいつ爆発するともしれない爆弾を抱えているような、そんな生活を送っていた。
そんな毎日の中で、俺にはそれを解決できるような妙策は思いつくことはなかった。
「し……い……ん?……司令官さん!」
「……ん?」
「大丈夫ですか?何だか調子がよくなさそうですけど……?」
現在時刻イチヨンマルマル。俺は執務中に考えすぎて、意識が飛んでいたようだ。
いつもは妙高が座っている秘書艦の机。しかし今日そこには妙高型四姉妹の四女、羽黒が座っていた。
今日は妙高は休暇を申請していた。そのため代わりの秘書艦として俺は羽黒を指名した。
「すまん。ちょっと考え事をしていただけだ。心配ない」
俺は羽黒に余計な心配はかけないように返答する。
「本当ですか……?あの……何かあれば遠慮なく言っていださいね」
羽黒は少し照れたような微笑みで俺に語りかけた。本当に優しい子だ。
しかしその優しさに俺は甘える事が出来なかった。
秘書艦の机で慣れない書類仕事を頑張っている羽黒を俺は見つめていた。
……羽黒は俺と妙高達の今の関係を知ったら、なんて言うのだろう。やはり怒ったりするのだろうか。
「司令官さん。えっと……書類の確認をお願いします」
そんな俺の考え事など知るはずもない羽黒は出来た書類を俺に手渡す。俺はそれに目を移した。
元々の資質なのか、妙高に鍛えられたのかは知らないが、羽黒はこういう仕事に向いているようだった。丁寧な書類がそれを感じさせた。
「司令官さん……その……大丈夫でしたか……?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとう。羽黒」
想像以上に羽黒の仕事に対しての能力が高かったのと、今日の仕事が思ったより少なかったため、今日の仕事は既に終わってしまった。
さて、どうしたものか。ふと窓の外を見る。今日は天気がとても良さそうだ。空は青く、外に行くには絶好の天気だった。
「羽黒」
「はい。何ですか?司令官さん」
「今日の分の仕事は終わったし、今日は天気もいい。良かったら外に行ってみないか?」
「え……?」
羽黒は驚いた顔をしていた。そういえば俺からこのように誘ったのは初めてかもしれない。
「は、はい!私でよ、良ければ」
羽黒はおどおどしつつも、はっきりと答えた。その顔は少し赤くなっているようにも見えた。
しかし普段から羽黒は緊張して顔が赤くなりやすいところがあったので、俺はあまり気には留めなかった。
「この辺りでいいか」
俺たちは鎮守府の建物の近くにある大きな木の下に来ていた。座ってゆっくりとするには丁度いい。
俺はその木の根元の辺りで腰を下ろした。
「ほら、羽黒もおいで」
手で俺は自分の隣をポンポンと叩いて、羽黒を促した。
「し、失礼します」
ゆっくりと羽黒は俺の隣に腰を下ろした。
「本当に今日はいい天気だな」
「はい……」
空は晴れ渡り、風は心地よく流れていた。もし休暇であれば俺は寝てしまっていたかもしれない。
どれくらいの時間がたっただろうか。俺たちは特に話すこともなく、ゆっくりとした時間を過ごしていた。
ふいに俺の左肩に重さが感じられた。
「……羽黒?」
隣にいる羽黒の方を見る。すると彼女は俺の肩に頭を預け、すやすやと寝息を立てていた。
その顔があまりにも気持ちよさそうなので、俺はしばらくそのままでいることにした。
「……司令官さん。あ、あの……今日の夜、一緒にいてくれませんか……?」
それは執務の時間が終わる間際、羽黒からの唐突なお願いだった。話を聞くと、妙高達三人は今日の夜は用事でいないらしい。
羽黒なら特に問題は起きることはないだろう。そう思って俺は羽黒のお願いを了承することにした。
「ふぅ……ご馳走様」
現在時刻フタマルマルマル。俺は自室で羽黒の作った料理を食べていた。
ちなみにメニューは肉じゃがだ。羽黒曰く、今日のお礼だそうだ。
「し、司令官さん。その……どうでしたか?」
「ああ、美味しかったよ。ありがとう羽黒」
「はぁ……よかったぁ……」
羽黒は顔を紅くし、笑顔で喜んだ。これだけ見ているとまだまだ子供のように見えるな。
「料理は普段からしているのか?」
「い、いえ……その……最近ちょっとずつ妙高お姉ちゃんや間宮さんに教わってるところで……」
羽黒ははにかみながら答えた。給糧艦、間宮。鎮守府の食堂や甘味処は彼女の管轄である。
そういえば最近は料理教室もたまにしているらしい。羽黒もそこで教わっているのだろうか。
「じゃあ、私は食器を洗ってきますので、司令官さんはゆっくりしててくださいね」
そう言って羽黒は俺の部屋を出て行った。
しかしどうしたものかな。風呂も食事の前に入った。となると俺が思いつくことは一つしかなかった。
「ただいま戻りました」
「おかえり。羽黒」
「あ……司令官さん。それって……お酒ですか?」
意外と反応が早いな。一時間程して帰ってきた羽黒は部屋に入ってくると机の上に置いてある酒に気付いた。
「ああ。羽黒も飲むか?」
「いいんですか……?」
「もちろんだ。今日は手料理も食べさせてもらったしな」
「あ、ありがとうございます。じゃあ……いただきます」
羽黒は俺の対面の椅子に腰を下ろす。俺は二つのグラスに酒を注ぎ、片方を羽黒に手渡した。
そして二つのグラスは俺たちの間でカンと軽やかに音を立てた。
「「乾杯」」
グラスに口をつけ、ゆっくりと俺は酒を喉に流していった。疲れた身体に酒がしみわたっていく。
「……美味しい」
「それはよかった」
それから時間にして二時間位だろうか。俺と羽黒はゆっくりと飲みながら、談笑をしながらこの時間を楽しんだ。
そして時計はあと半時間程で今日が終わるところまで、時間を進めていた。
丁度飲んでいた酒も無くなったので、俺は羽黒を部屋に送ろうかと思ったのだが……その時には彼女は既に出来上がっていた。
「羽黒。時間も遅いし、そろそろ帰った方が……」
「嫌です~。今日はずっと司令官さんと一緒にいます~」
この姿……普段の羽黒からは想像できないな。羽黒は俺の袖を掴んで離さない。まるで子どもが駄々をこねているようだ。
しかし一緒に寝るわけにはいかないし、ちょっと強引に連れて行くしかないか。
「羽黒。ごめんな」
「えっ……?し、司令官さん!?」
俺は強引に羽黒を抱きかかえた。所謂お姫様抱っこという体勢である。
そしてそのまま俺はドアに向かおうとしたのだが……。
「いや、嫌です!」
「は、羽黒!?」
俺の腕の中で羽黒が暴れだした。俺も酒を飲んでいたため、それほど平衡感覚がいい状態とは言えなかった。
そのため俺は羽黒を抱えたまま、ベットに倒れこむ事となった。
「いたた……羽黒、大丈夫……ん?」
俺の左手に柔らかい感触が伝わる。……あれ。これってまさか……。俺は確認するように左手を動かした。
「ひっ!……し、司令官さん……あ、あの……手が……」
「す、すまん!」
俺の手は見事に羽黒の胸を掴んでいた。慌てて俺は手を引っ込める。
しかし……意外とあるんだな。って何してる俺。とりあえずここは謝るのが先だ。
「すまん!羽黒。わざとではないんだ。許してくれ」
「だ、大丈夫です!わかってますから」
今ので羽黒は酔いが一気に醒めたようだ。俺達は身体を起こし、ベットに座った。重い空気が俺と羽黒を包んだ。
とにかく羽黒を部屋に帰さないと。俺は立ち上がり、羽黒を促した。
「は、羽黒。そろそろ部屋に……」
「……司令官さんは私のこと嫌いですか……?」
羽黒は震えるよう声で俺に問いかけた。
「……え」
「だって……さっきから私を部屋に帰そうとしてばっかりで……私のこと嫌いだからですか……?」
前言撤回。羽黒はまだ酔いが醒めていないようだ。何故そうなる。
「……私、今日秘書艦に指名されて嬉しかったんです。お姉ちゃんの代わりでも、司令官さんの隣にいられるから」
「……」
「で、でも司令官さんは私なんて……嫌いなんですね……だから、部屋から早く出したいんですよね」
「そ、そんなことはない!俺は羽黒を嫌ってなどいない」
俺は羽黒の両肩を持ち、視線を合わせる。羽黒の目には涙がいまにも溢れそうなほど溜まっていた。
「じ、じゃあ、今日は……ずっと一緒にいてください」
羽黒は涙目で必死に訴えてくる。これは……俺の理性がヤバい。いやだめだ。なんとかして説得できないものか。
「私……司令官さんの事、好きです。それでもダメ……ですか?」
ついに羽黒の目から涙が零れはじめる。その姿に俺は思わず羽黒を抱きしめてしまった。
「司令官さん……私……」
「……司令官さんになら、何をされても大丈夫ですから……だから……今日は一緒にいてください」
震えながら俺の耳元で羽黒は言葉を発した。その時、俺の中で何かが切れる音がした。
俺は羽黒をゆっくりと押し倒した。そして俺は本能の赴くままにその夜、羽黒と身体を重ね合わせた。
「……。……う」
「……し……な」
誰かが話す声がする。俺はその声で目を覚ました。そこで俺が見たのは想像外の状態だった。
「あ……提督。おはようございます」
「……おはよう。妙高」
俺が目を覚ますと妙高が目の前にいた。いや、妙高だけではない。その横には那智と足柄も立っていた。
「流石ね。提督。羽黒、凄く幸せそうに寝てるじゃない」
フフッと足柄は笑った。
「……まったく。貴様がここまでとはな」
那智は呆れた様な表情で俺を見ている。
俺はこの状況が読み込めなかった。それもそうだろう。俺の隣では羽黒が寝息を立てている。
そしてその羽黒の姉三人は目の前に立っている。もうこれはどう見ても、修羅場と化しておかしくない状況である。
しかし妙高達の表情は俺が読み取れないだけかもしれないが、怒っているようには見えなかった。
「……提督。今はとりあえず時間がありませんので、今夜ゆっくりとお話ししましょう」
俺がこの状況を問いかける前に妙高はゆっくりと、言葉を発した。
「そういうことだ。まあ、覚悟は決めておくことだな」
那智の言葉は俺の不安を煽った。ちょっと待て。俺は死ぬのか……?
「もう……那智姉さんたら……。提督を脅したら、かわいそうよ」
俺の表情から察したのか、足柄はクスクスと笑いながら那智をたしなめた。
「では、提督。今夜フタフタマルマル頃に改めて全員で来ますので、よろしくお願いしますね」
そう言うと、妙高達は足早に俺の部屋から出て行った。そして部屋には俺と寝ている羽黒だけが残された。
……俺は明日の朝日を見ることが出来るだろうか。……まあ、今そんなことを考えても仕方ない……か。
とりあえす、俺は隣に寝ている羽黒を起こすことにした。羽黒の身体をゆっくりと揺さぶる。
「……んん。お姉ちゃん……。あと五分……」
「羽黒。残念だが、俺は妙高ではない」
「ふえっ!?」
羽黒は飛び起きた。そして辺りの状況を見渡す。
「あ……。し、司令官さん。お、おはようございます!」
「……おはよう」
羽黒は状況を把握出来たらしい。ひとまず、俺達は朝の挨拶を交わした。
「あ、あの……き、昨日はごめんなさい」
「ん……?い、いや俺の方こそ、すまなかった」
いきなりお互いに謝罪の言葉が口から出る。俺達は顔を見合わせた。
そして同時に笑い声が俺達の口からこぼれた。
「……そういえばさっき、妙高達が来ていたんだが……」
「えっ!?」
「羽黒……何か知っているのか?」
「え……それは、その……」
妙高達が来ていた事について聞くと、羽黒は言葉を詰まらせた。やはり何か知ってるようだ。
「まあ……また今夜、話に来るとは言っていたから……無理に言わなくてもいい」
「は、はい。ごめんなさい……」
「いや、羽黒は悪くないから、気にするな」
妙高達が何を考えているかはわからない。だが、ここまできて俺に逃げるという選択肢はないだろう。
それにどんな答えを彼女達が出そうと、俺がそれをとやかく言える状況ではない。
一抹の不安を抱えつつ、俺は支度を整えて今日の執務に臨むのであった。
現在時刻フタフタマルマル。今日の執務も滞りなく終了した。妙高は執務時間は何も言ってくることはなかった。
そして今、俺は自室の床に正座を組まされていた。目の前には妙高型の四人も座っている。
四人とも別々の表情をしながら座っていた。
妙高はいつもとあまり変わらない落ち着いた感じで佇んでいた。
那智は目を閉じ、腕組みをしながら座っている。
足柄は俺の視線に気づくと、笑顔で俺の方を見た。
羽黒は落ち着きなく、目線を走らせていた。
「……提督。では始めましょうか」
妙高はゆっくりと話し始めた。
「……提督。あなたは私達四人と関係を持ちました。間違いないですね?」
「……ああ」
淡々と妙高は続けた。
「で……だ。貴様は誰を選ぶんだ?」
「……え!?」
那智が妙高の言葉を遮るように問いかけた。ま、待て。いきなりそんなことを言われても困る。
「それは……もちろん私よね。提督」
「……待て足柄。私は提督に聞いているんだが?」
「な、那智姉さんも足柄姉さんも落ち着いて……」
足柄はフフッと笑った。那智は足柄を睨みつける。羽黒がその様子を見て、二人の間に入った。
「……二人とも落ち着きなさい」
「……う」
「は~い……」
妙高が二人を静かに一言で止めた。今、改めて妙高の長女としての強さを感じた気がする。
とは言ってもそんなことすぐに決められるはずがない。
「……提督。提督のことですから、すぐにはお決めにはなれないと私は思っています」
「う……」
妙高には俺の心理が完全に読まれているようだ。俺は言い返す言葉がなかった。
「……そんなことだとは思っていたがな」
「まあ、提督のことだしね」
「ふ、二人とも……。司令官さん、ごめんなさい」
那智はため息をついた。足柄も那智に同意する。羽黒。相変わらず、いい子だ。
「という訳で、提督にはこれを私達としてもらいます」
妙高はスッと一枚の紙を取り出した。俺はそれを見て、驚いた。
「なっ!?み、妙高!?これは……」
「はい。この間、本営から届いていましたよね……ケッコンカッコカリの書類です」
ケッコンカッコカリ。練度が最大に達した艦娘とこれを結ぶことでさらに艦娘の性能を上げることが出来る……らしい。
艦娘の間では本物の結婚のように考えている子もいると聞いている。指輪もそれに拍車をかけていると思う。
……俺はまだ誰ともしてはしないが。あれ……?でもこれって一組しかきてなかったような気がするが。
「妙高。これは確か本営からはこれは一組しかきていないはずだが……」
「それに関しては大丈夫です。大淀さんと明石さんに確認したところ、重婚も可能のことですので」
ん……?話がよく見えない。っていうか重婚いいのか。
「……そのかわり、二組め以降は提督の自費負担とのことですが……」
「……!?」
え。それはつまり俺は自費でこのケッコンカッコカリの一式を買わないといけないってことか?
いやそれよりも前に確認するべき事があると思うんだが。
「い、いやちょっと待て。そ……それで、お前達はいいのか?」
「と、言いますと……?」
妙高は小首を傾げた。うん。可愛い……じゃない。
「自分で言うのもなんだか……俺は……結果的とはいえ、四人全員と関係を持った……最低な男だぞ」
「……」
「そんな男が、カッコカリとはいっても、全員とケッコンするなんて……」
「……提督」
ゆっくりと、妙高は立ち上がった。そして俺の目の前にきた。
「そんな都合のいい話なんて……妙高?……ん?んんっ!?」
「……な!?」
「ちょっ……!妙高姉さん!?」
「あ……」
妙高は俺の顔を持つと、思いっきり唇を重ね合わせてきた。三人は呆然としていた。いや……俺自身が一番驚いていたかもしれない。
「提督。これは私達四人全員で決めたんです」
「え……?」
「今はまだ戦いの最中です。そんな中でも、こうしていられるのは凄く幸せなことだと思っています」
「……」
「でも、この戦いが終わっても一緒にいられるとは限りません。だから、証が欲しいんです」
妙高……。俺は妙高の目を覗き込んだ。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「……ケッコンカッコカリをした艦娘は望めば、提督とずっと一緒にいれると聞きました。だから……」
妙高の顔が再び俺に近づいてくる。そしてまたゆっくりと俺たちの唇は……重ならなかった。
「そこまでだ。姉さん」
那智が俺と妙高の間に入ってきた。……そういえば三人もいたことを俺は忘れていた。
「まったく……」
「ズルいわよ。妙高姉さん。一人だけ抜け駆けなんて……」
「あら……。ごめんなさい」
フフッと笑って妙高は二人に謝った。そういえば、羽黒がさっきからずっと静かだな。ふと俺は羽黒を見た。
「羽黒……?」
「……」
羽黒は俯いたまま、耳を紅くして固まっていた。……もしかして妙高がキスしてきたあたりから、この状態だったのか。
とりあえず、元に戻さないと。
「羽黒。大丈夫か?」
俺は羽黒の顔を覗き込んだ。反応がない。仕方ないな。俺は羽黒の両肩を持って身体を揺らした。
「……はっ!? 」
おっ。気がついたらしい。ところが俺は安堵する暇がなかった。
「し、司令官さん!」
「え……!?」
気がついた羽黒は俺に飛びついてきた。俺は耐えきれず、そのまま羽黒に押し倒された。
「は、羽黒!?落ち着け!」
「……わ、私だって……」
近い近い。羽黒の顔は徐々に俺に近づいてきた。
「は~い。そこまで」
「あ……」
今度は足柄が羽黒を止めた。羽黒は足柄に止められて、俺の上から退いた。
「立てるか?」
「ん?ああ……」
那智が手を差し伸べてきた。俺をその手を掴み、身体を起こした。
「ありがとう。那智」
「ん……礼は身体でもらうとしようか」
俺が危険が感じたときにはもう遅かった。那智は俺の顔を持ち、すばやく自分の唇で俺の唇を塞いだ。
「……姉さんだけというのはズルいだろう?」
「あのなぁ……」
俺の身体から力が抜けるような気がした。妙高に続いて那智までしてくるとは……。
……やばい。何か殺気を感じる。主に正面で見ていたであろう。足柄と羽黒から。
特に羽黒から普段の彼女から出るとは思えない雰囲気が出ているんだが。
「提督~。わかってるわよね」
ジリッと足柄が近づいてきた。俺は思わず、後ずさりしようとした。が、それは那智に阻まれた。
「な、那智!?」
「ここまできたら、諦めろ」
お前がキスなんてするからだろうが。と言いたいが、そんなことを言っている場合ではなかった。
「フフッ……覚悟してよね」
足柄はニコッと笑い、俺の頬を両手で持った。そしてゆっくりと自分の唇を俺の唇に重ね合わせてきた。
……長い。そのままの状態で、足柄は俺を時間にして二十秒ほど離さなかった。
「ふぅ……満足したわ」
やっと離れた。若干俺の頭は酸欠みたいな状態になっていた。ちょっと暑い。
しかし、俺には休むことは許されないようだった。
「……」
「は、羽黒……」
おい待て。何か危ない。そんな危険を感じる信号を俺の頭は出していた。
だが、羽黒だけしないという訳にはいかないだろう。もう、俺に拒否することは出来ない状況だった。
「……司令官さん」
「は、はぐ……むぅ!?」
羽黒は俺にキスをすると舌を入れてきた。俺の口の中は羽黒の舌に蹂躙されていった。
口と口が離れた時には、だらしなく涎が二人の口から零れた。
「あらあら……羽黒ったら……」
「……あ、あんなに激しいのは私にはちょっと……」
「意外と凄いのね……侮れないわ」
その様子を見ていた三人はそれぞれに違う反応を示していた。
おい。話が進んでいないんだが。
とりあえず、十分程休憩を取ることにした。このままではまともに話が出来そうになかったからである。
「……そろそろいいか」
休憩して落ち着いた俺達は話を再開することにした。
羽黒も大分落ち着いたようで、先ほどまでの雰囲気はなくなっていた。
「では、提督。先ほどは話が中途半端になってしまいましたが……ケッコンに同意していただけますか?」
妙高は真っ直ぐ俺を見据え、問いかけた。
「……それはいいが、先ほどは妙高の話しか聞けなかったから……那智達の話も聞いてみたいんだが」
最終的に結果は変わらないであろう。しかし、俺は那智達の意見も聞いてみたかったため、少し話を伸ばす事を提案した。
「……ん?私達の話か?」
「ああ」
「まあ、そうね。言ってみるのも悪くないかもね」
「えっ!?で、でも上手く言えるかどうか……」
「大丈夫だ。羽黒。ゆっくりで構わないから」
「は、はい」
俺は羽黒に笑いかけた。羽黒もはにかんだ笑顔で答えた。
「なら私からいこうか」
すっと那智が立ち上がり、俺の隣に座った。何故近くに来る。
「……ん?さっき姉さんもこうして話をしていたじゃないか。まあ流石にキスまではしないが」
フッと那智は笑った。当たり前だ。またきっきみたいな状態になるのは勘弁してくれ。
「まあ、私も基本的には妙高姉さんと同じさ。……いや少し訂正しようか」
那智は視線を少し下へと向けた。
「……本当のこと言えば貴様には私だけをみてほしいさ。だが……こうなった以上、貴様はその優しさ故に誰かを選ぶなど出来まい」
それは褒められているのか?いや、聞き方によっては貶されているような気がするが。今は気にしないでおこう。
「ならば、少しでも貴様と一緒にいるために、少し位妥協するさ……私はこんなところか」
少し儚げに那智は笑った。そして静かに立ち上がり、妙高の隣に戻った。
……いや本当に俺は悪いことをしているな。そんな気がする。
「次は私ね。勿論、隣に行ってもいいわよね。まあ行くんだけど」
俺が自己嫌悪に浸っていると、足柄が隣に座ってきた。
「う~ん。この体勢だと、話にくいわね。提督、ちょっと失礼するわよ」
そう言うと、足柄は俺の後ろに回り込んだ。そして後ろからゆっくりと抱きついてきた。俺の背中に足柄の胸が当たっている。
「あ、足柄!?」
「うん。これがいいわね。提督。ちょっとだけこのままでお願いね」
足柄はおそらく、どう言っても今離れる気はないのだろう。俺は三人の視線に耐えつつ、足柄の話を聞くしかなかった。
「私も姉さん達と同意見よ。でもちょっと残念かな」
残念って、それは何に対してだ。
「だって少しは自信あったのよ。もしかしたら、私を選んでくれるんじゃないかって」
……その残念感は俺に対してってことか。やっぱりちょっと罪悪感がくるな。
「……まあ、それはいいとするわ。だって、これからまた提督に私の魅力を知ってもらって……私のものにするだけだから……ね」
そう言うと足柄は俺から離れた。……うん。三人の視線が非常に痛い。
「……最後は羽黒か。おいで」
「は、はい!」
俺は羽黒を手招きした。羽黒は緊張した表情で立ちあがり、俺の隣に座った。
「……わ、私はどんな時も優しくしてくれる司令官さんが好きです」
いきなりだな。羽黒は顔を紅くしながら、続けた。
「私が失敗した時も優しく慰めてくれて、上手くいった時は優しく褒めてくれる。そんな司令官さんが好きです」
羽黒がこんなに流暢に話すのは珍しいかもしれない。羽黒はこんな風に想っていてくれたのか。
「だから、私はそんな司令官さんと出来るなら……ずっと一緒にいたい……です」
羽黒は自分の思いを言い切れたようだ。その姿を見た俺は思わず、羽黒の頭の撫でた。
「し、司令官さん!?」
「あ、嫌……だったか?」
「い、いえ。もっと撫でて……ください」
羽黒は顔を下に向けたまま、答えた。少しの間俺は羽黒を撫で続けた。
羽黒の話を聞き終わった後、俺は改めて四人と向き合って座った。
「……提督。よろしいですか?」
「ああ」
「もう一度確認しておきますね。提督は練度が最大に達したら、私達とケッコンカッコカリをする」
「……ああ」
俺は四人の顔を順番に見渡す。四人とも、俺を真っ直ぐに捉えていた。
「提督。この妙高、今まで以上にお仕えいたします。共にこの戦いの終わりまで戦い抜きましょうね」
ニコッと妙高は笑う。
「まあ……これでも貴様に惚れた身だ。この那智が全力で愛してやる。覚悟はしておけよ」
那智は不敵な笑みを浮かべている。
「提督、最後には私を選んでもらうんだから。これからもよろしくね」
フフッと足柄は笑顔を見せた。
「……司令官さん。あ、あの私……頑張ります。だから、もっと一緒にいて……ください」
羽黒ははにかんだ顔で微笑んだ。
俺は四人の顔を見て、ふと思った。もしかしてこれはこれから、四人が順番に来るのではないかと。
もしそうなったら、俺の身体はもつのだろうか。……そんなことを今、考えるだけ無駄か。
今はただ、彼女達の幸せそうな顔に見惚れてみるとしよう。
この後俺がどうなったかのかはまた別の話である。
読んでいただきありがとうございました
これで完結とさせていただきます
応援、オススメしてくださった方々、本当にありがとうございました
また次書くことがあればよろしくお願いします
いい雰囲気だ
良作。行為の描写がなかったがそれでも全然良かったです。
何か官能小説を読んでる気分でとても良い話でした。