平和な昼下がり
提督と艦娘の短編集(1話1000文字前後)
・艦これのSS
・一応一人称視点
・文章下手
・話ごとに出てくる提督は別人設定
・思いついたら更新していく予定
「提督。飲み物でもいかかですか?」
執務も一息ついた昼下がり、千歳は微笑みながら聞いてきた。
丁度喉も少し渇いていたし、断る理由もない。俺はその申し出を承諾することにした。
「ああ。丁度書類もひと段落ついたし、お茶でも貰えるかな?」
「はい。喜んで」
ニコッと千歳は笑ってお茶の準備を始めた。
慣れた手つきでお茶の葉を急須に入れ、ゆっくりと湯を注ぐ。お茶の香りが部屋にじんわりと広がっていく。
しばし俺は目を閉じながら、その香りに浸っていた。
「はい。どうぞ」
「ありがとう」
湯呑に入れられたお茶が千歳の手から俺に渡される。じんわりと湯呑から熱が手に伝わった。
「熱いですから、気をつけてくださいね」
「ああ」
湯呑からは湯気が上がっていた。湯気に混じってお茶の香りが鼻をくすぐった。
……ん?これはいつも飲んでいるのとは少し違うようだ。
「千歳」
「はい。なんですか?提督」
「これ、いつものと違うのか?」
「ええ。この間、間宮さんに頂いたんです。提督がよく熱いお茶を飲まれると話をしていたら、丁度いい茶葉が手に入ったそうで」
なるほど。間宮か。これはまたお礼の一つでも、考えなければいけないな。
「お気に召しませんでしたか?」
「いや、すごくいいよ。香りがとてもいい」
「よかった。ちょっと心配しました」
さて……では、頂くとしようか。俺はフーッと、二回ほど湯呑の中に息を吹きかけた。そして少しずつ、お茶を口の中に入れていった。
熱が俺の喉を通過していく。口の中にはほど良い苦みといい香りが広がった。
「……美味い」
「それはよかった」
俺の感想を聞くと、千歳は笑った。
「千歳も飲まないか?」
「はい。では頂きますね」
千歳は急須に残っていたお茶を自分用の湯呑に注いだ。またいい匂いが湯気と共に部屋に広がった。
湯呑に息を吹きかけて少し冷ました後、千歳はゆっくりとお茶を口に含んでいった。
「美味しい……」
「ああ……本当にな」
こうやって美味しいお茶を飲んでいると、それに合うお菓子が欲しくなる。
あ……。確か戸棚の中に最中があったはずだ。
「……提督?どうしました?」
「ん。ちょっとな」
俺は立ち上がり、壁際に置いてある戸棚へと向かった。
戸棚の二段目を開けると思っていた通り、最中が二つ入っていた。
「千歳。最中食べるか?」
「いいんですか?提督。まだお仕事中ですよ?」
「別にいいだろ。ひと段落はついてる。千代田にさえ、見つからなきゃ大丈夫だ」
「もう……提督ったら」
困ったように千歳は笑った。でも断ることはしなかった。そして俺達はしばしの間、お茶と最中を楽しんだ。
しかし、ちょっと休憩している時間が長かったため、仕事が予定通りに終わらなかった。
そのため、心配して見に来た千代田に千歳共々怒られたのはもうしばらく後の話である。
「司令官?何飲んでるの?」
「……コーヒーだが?」
現在俺は執務中。そして隣の秘書艦の席に座っているのは暁。暁は俺の飲んでいる物が気になるらしい。
しかし俺が飲んでいるのはブラックコーヒー。駆逐艦というか、暁にはブラックコーヒーは飲めないと思うが。
「……ふ~ん。ねえねえ、それ暁にも飲ませて」
「ダメだ」
「なんでよ」
「お前にはまだ早い」
「暁は一人前のレディなんだから、コーヒーぐらい飲めるし」
はぁ……。まったく。言い出したら聞かないなこいつは。仕方ない。飲ませないと、後までうるさいし飲ませてやるか。
俺は暁に自分の飲みかけのカップを渡した。
「ふん。これくらいなんてこと……うぇ」
カップを傾けて暁は中のコーヒーを口に含んだ。その顔は明らかに苦悶に変わっていた。思っていた通り、苦さに暁は顔を歪めていた。
しかし、それでもカップを離さないその意地だけは認めてやってもいいが。まあ、これ以上は見てても仕方ないし、何か甘い物でも食わせてやるか。
俺は引き出しから、中に入っていた飴を一つ取り出した。何かあった時のために入れておいてある。大体は駆逐艦の奴に渡すものだが。
「暁」
「な、何よ?」
「口開けろ」
「え……?あ~」
「ほれ」
「あむ?」
暁の開いた口に飴を俺は放り込んだ。暁の顔が一瞬で緩んだ。
「甘い」
「そうだろうな。飴だし」
「あっ!ちょっと」
「これは返してもらうぞ」
そう言って俺は暁の手からカップを取り上げた。暁は頬を膨らませた。
「むぅ~」
「お前には飴をやっただろ?それで我慢しておけ」
「……まだ飲めるもん」
「……一人前のレディは我慢も出来ないと……な」
「!!」
暁はこう言うと言い返せない。まあ知ってて俺も言ってるんだが。
「ふ、ふん。仕方ないから我慢してあげるし」
そう言いながら、暁は口の中で飴をコロコロと舐めていた。その顔は完全に緩みきっているが、見てて面白いしそのままにしておくか。
俺はしばらくその暁の様子をコーヒーを飲みながら、楽しむことにした。
「提督~早く早く~」
「わかった。わかったから、引っ張るなって」
俺は鎮守府の廊下を19に引っ張られて歩いていた。それというのも昨日19とある約束をしたためである。
「提督。今日の出撃で19が一番だったら、お願いがあるのね」
「なんだ?」
「この間、間宮の甘味処で新しいスイーツが出たの。それが食べてみたいのね」
なんでも19の話によると、それは少し値が張るらしい。19の手持ちではちょっと厳しいから俺に頼んだんだそうだ。
まあ、それで戦意が上がるならと俺は了承した。まさか出来るとは思っていなかったしな。
だが結果その日19は一番戦果を上げて帰ってきた。で、今に至るわけである。
「間宮~スペシャルパフェ、くださいなのね」
「あら、19ちゃん。……と提督。……なるほど、わかりました」
甘味処に入るとさっそく19はお目当ての物を注文したようだ。そして19に袖を掴まれている俺を見て間宮は察したようだ。
口元を抑えて間宮は笑っていた。
「大変ですね。提督」
「うん?まあ……な。まあ約束しちまったもんは仕方ないしな」
「相変わらず、優しいんですね」
「別に……そういう訳じゃないさ。これくらいで喜んでくれるなら安いもんよ」
「間宮~早く~」
「は~い」
「提督はこっちなのね」
19に急かされて間宮は厨房へと入っていった。俺は19に引っ張れるがまま、席についた。
「んふふ。楽しみなのね~」
席についても、ニコニコと19は笑っていた。余程食べてみたかったらしい。
だが、ちょっと体勢に問題があると思うのだが。
「しかしな。19よ。この体勢はどうなんだ?」
「だめなの?」
俺の膝の上に19は座っていた。周りには他の娘も何人かいるが、ちょっと視線を感じる。それも冷ややかな目線を。
「いいでしょ?こうやって今日は食べたいのね。ダメ?」
19は上目づかいで訴えてくる。そう言われると断れないだよな俺。
「……わかったよ。今日だけだからな」
「わ~い。提督のそういうところ、19は好きなのね」
……はぁ。聞きようによっては危ない発言を聞いたような気がしたが、気にしないでおこう。
そうこうしていると、間宮が19の注文の品を持ってきたようだ。
「はい。19ちゃん。間宮特製スペシャルパフェです。お待たせしました」
「うわ~凄いのね!ね!提督」
「ああ。確かにこれは凄いな……」
っていうか、これは19一人で食べられるのか?間宮が持ってきたのは座っている俺の目線よりも高いパフェだった。
そんな俺の考えとは裏腹に19は嬉しそうに食べ始めた。
「いっただきます、なのね」
モグモグと口一杯にパフェを詰め込んでいく19。その顔は幸せそのものであった。
まあこの顔が見れるだけいいか。19は結局一人ですべてを食べきった。
この後、俺は会計の時に内心値段にびっくりしたのは19には内緒である。
「……いい天気だ」
俺は一人呟いた。ここは鎮守府近くにある海岸の砂浜の上。
その上に俺は寝ころび、目を閉じた。
降り注ぐ太陽の光は暖かく、海から吹く風は心地いい。絶好の昼寝日和である。
こんな日に部屋に籠って仕事などしてはいられない。
……なんてことを口にすれば間違いなく、曙や漣には怒られるな。
そんなことを思っていると、急に瞼の裏に影が映った。
「やっぱり、ここにいたんですね」
頭上からの声に俺は目を開けた。そこには駆逐艦の朧が俺を見下ろしていた。
そして俺の目には朧のスカートの中が良く見えた。今日の下着は白らしい。
「……白か」
……思わず、口に出してしまった。
朧の顔を見ると、頬が若干紅く染まっていた。
「もう……提督は変態さんですね」
スカートを手で抑えながら、朧は恥ずかしそうに笑った。
「隣、いいですか?」
「ん……ああ。いいぞ」
俺は身体を起こし、朧は俺のすぐ隣に腰を下ろした。
「いい天気ですよね」
「そうだな」
そう言った後、しばらく俺達は海を見つめていた。特に会話を交わすこともない。
只々、ゆっくりとした時間が流れる。でもそれがとても心地いい。
朧といるときはいつもそうだ。彼女が持つ雰囲気がそうさせているのかもしれない。
「提督」
唐突に俺を朧が呼ぶ。俺は横目で隣を見ながら答えた。
「なんだ?」
「もう少し、近づいていいですか?」
俺は言葉が出なかった。いや、言葉の意味が分からなかった訳ではない。
だが、どうして朧がそんなことを言ったのか、俺は一瞬では理解できなかった。
「……ダメですか?」
少し俯きながら、朧は俺を見た。こんな姿を見たのは初めてだ。
特別に断る理由はない。よくわからないが俺は許可することにした。
「……いいぞ」
俺が言葉を発すると、朧の表情はとても明るくなった……ように見えた。気のせいかもしれないが。
そして朧はゆっくりと俺の方へ寄ってきた。その距離は肩が触れ合うほどになっていた。
別にやましい事をしている訳ではない。だが、俺の心臓の鼓動は少しづつ早くなってきていた。
「……提督」
小さく朧は呟き、俺を見た。俺はその瞳から目を離す事が出来なった。
ゆっくりと朧の瞳に吸い込まれそうになった、その瞬間、俺の後ろから声が聞こえた。
「なにやってるのよ!クソ提督!」
思わず二人して、身体がビクッと反応した。……もの凄くいやな予感がした。
「いつまで経っても戻ってこないから、探しにきたってのに……」
「……随分と、お楽しみだったみたいですね。ご主人様?」
振り返ると曙と漣が立っていた。しかもものすごく怒っている。これはマズいな。
二人の後ろから仁王像でも見えそうな勢いである。
「覚悟しなさいよ。クソ提督」
「ご主人様。お仕置きの時間ですよ」
二人から発せられる圧力はもはや駆逐艦ではなかった。
身の危険を感じた俺は走り出した。思わず、隣にいた朧の手を握って。
「逃げるぞ!朧!」
「えっ!?」
「あっ……こら待て!」
砂浜を俺は朧の手を握って走った。後ろからは曙と漣が追いかけてくる。
でも、その時に見た朧の表情は今まで一番明るいものであった。
勿論この後、曙と漣に俺だけがこってり怒られた。
読んでいただきありがとうございました
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