2015-04-11 22:21:04 更新

概要

提督の秘書艦である浜風のとある一日の風景


前書き

初投稿です

提督と浜風のSSを書いてみました。
拙い文章ですが読んでいただけると幸いです


秘書艦浜風のとある一日


 「はぁ……」


青年は机に積み上げられた書類の山を見てうなだれた。


「これを一日で処理しなければならないというのだから面倒だよなぁ……」


「提督」


そう声をかけてきたのは、秘書艦の浜風だ。陽炎型一三番艦で浦風・磯風・谷風と共に第一七駆逐隊を構成する艦娘の一人である。


「確かに大変な量だとは思いますが、ぼやいていても仕事は消えたりはしません。ここは口よりも手を動かすことが現状を改善する最も手っ


取り早い方法かと」


「それは理解しているつもりなんだがな」


そう言って書類を手に取り、作業に取り掛かった。……が数分もしないうちに根を上げる。


「駄目だ。この分厚い書類の山を見ただけでやる気が削がれる。浜風、君も半分手伝ってくれ」


自分の目の前にいる男がこうなることを予想していたのか、浜風は苦笑を浮かべる。


「了解です。……さあ、そろそろ本腰を入れて仕事に取り掛かりましょう」


秘書艦の仕事は非常に大変だ。しかし、浜風にとって自分を信頼してくれる提督がこうして頼ってくるのは満更でもなかった。しばらくし


て、作業を進めていると提督が口を開く。


「ところで、今日の昼は間宮さんの所で食べようと思っているんだが、浜風も一緒にどうだ?」


「それはいいですね。私も今日は間宮さんのアイスを食べたいと思っていたところです」


真面目でやや堅い印象を受ける彼女だが、こうして甘いものに目を輝かせる姿は年頃の女の子といったところだ。


「そうと決まれば、こんな仕事に時間を取られている暇はありません。すぐに片づけてしまいましょう」


ヒトマルマルマル、正午まであと二時間。浜風の協力もあって積み上げられた書類は順調に片づいている。あと一息だと自分を奮い立たせて


再び目の前の作業に取り組んだ。



 そして、時刻はヒトフタマルマル。


「ようやく終わった……」


「なんとかお昼丁度に終わらせることが出来ましたね」


午前の仕事を終えた二人は、くたくたになりながらも間宮へと到着する。


「何時間も座っていて体が岩のように固まった気分だ」


「そうですね、私はずっと書類に目を通していたものですから肩が凝ってしまいました」


浜風は、肩を回しながら答えた。


「肩が凝るのは目を酷使しているからだけではないと思うがな……」


「……?どういう意味ですか?」


「いや、こっちの話だ、気にしないでくれ」


他愛のない会話をしながら昼食が運ばれてくるのを待っていると、不意に横から声をかけられた。


「おや、提督さんに浜風ちゃん、こんな所で会うとは奇遇じゃねえ」


この広島弁で話しかけてきた少女は浦風だ。第十七駆逐隊では一番の長女であり、そのためか年上のお姉さんのような包容力を持っている。


「いよっ、二人とも、相変わらず仲がよろしいようで」


「まさか二人もここに来ていたとはな、確かに珍しいことだ」


浦風の後ろから、快活な性格の谷風と武人のような雰囲気を纏った磯風が続けて話しかけてきた。


「おお、三人も今日は間宮さんの所へ食べに来たのか、普段は自分たちで作っているのにそちらこそ珍しいじゃないか」


「毎日作るのも大変じゃけえ、今日はここで食べることにしたんじゃ。それに浜風ちゃんが秘書艦になってからはたまにしか四人で作ること


がなくなってしまったけえね」


「そうだったな、浜風がいないから一人当たりの作業量が多くなっているんだな」


秘書艦の中には、提督に食事を作ってくれる者もおり、浜風もその一人であった。そのため、浦風達の方には手が回らないのである。


「食事は一人でも出来るから浜風は浦風の方を手伝いに行ってもいいんだぞ?」


「いえ、提督の身の回りの世話も秘書艦の職務のうちですから、どうかお構いなく」


気持ちは嬉しかったが。何とも浜風らしい答えだなと提督は思った。


「なんてこったい! 浜風は谷風さんたちよりも提督のそばにいたいんだってさ。かあ~、昼間から見せつけてくれるねぇ!」


「……っ⁉ 訳の分からないことを言わないでください!」


彼女にしては珍しく、感情的な反応を見せた。そのせいなのか、顔が熱を持ったかのように赤みを帯びている。


「こら、谷風ちゃん。浜風ちゃんは提督さんのためにちゃんとお仕事頑張っとるけえ、そげな風にからかっちゃいかんよ」


意味深な笑みを浮かべて浦風が谷風をたしなめる。


「そうだぞ谷風、それに浦風もだ。食事を作るのが忙しいと思っているのならなぜこの磯風に手伝わせようとしないのだ?自分ひとりで抱え


込まずに私にもっと作業を回せば済む話だろう?」


磯風の発言に周囲の空気が凍り付いたのを、磯風以外の全員が感じ取った。提督に至っては見るからに顔面が引きつっている。


「……申し訳ありませんが、やはり浦風達を手伝うことにします」


「ああ、その方がいい、是非そうしてくれ」


あわやといったところで惨劇を回避して、しばらくすると全員分の食事が運ばれてきた。誤認で談笑を交えながら食事を終えると、


提督と浜風は再び執務室へと戻っていった。


 

 現在、時刻はヒトキュウマルマル。外を見ると日は沈み、暗くなりつつあった。


提督は帰投した遠征部隊や出撃していた艦隊の報告を纏めている。


「ふむ……燃料が少し心もとなくなってきたな。またゴーヤ達に頼んでオリョールから取ってきてもらわねばな」


それから、明日の出撃の計画を練ろうとした時、執務室の扉が開いた。


「失礼します」


入ってきたのは、浜風である。夕食を食べるために浦風達の元へ行っていたところから帰ってきたのだ。


「おかえり、食事は済ませてきたようだな」


「はい、提督はもう食べ終えたのですか?」


「いや、今から明日の出撃計画を練ろうとしていたところだ」


「それですと食事が大分遅くなってしまうのではないですか?よろしければ、今晩のお味噌汁の残りをお持ちしますので一旦休憩なさった方


がよろしいかと」


「お、それじゃお言葉に甘えさせてもらおうかな」


「それでは、すぐにお持ちしますね」


そういって浜風は再び執務室を後にした。


「お待たせしました」


数分後、戻ってきた浜風の持っているお膳には、味噌汁だけでなく握り飯が乗せてあった。


「ん? 握り飯も作ってきたのか。わざわざすまないな」


「いえ、これは私ではなく谷風が作ったものです。味噌汁を持っていくならついでにこれもと渡してくれました」


「そうなのか。谷風はあれでなにかと気の利く子だからな」


「はい、彼女にはいつも助けてもらっていてどれだけ感謝しても足りないくらいです。もっとも、本人の前でこういうことを言うと調子に乗


るので絶対に言いませんが」


「はは、確かにそうかもな」


そう言って、提督は仕事を中断して差し出された軽食を食べ始める。仕事に集中しているときは気づいていなかったが


実際は空腹だったようで、あっという間に平らげてしまった。


「ご馳走さん。おかげで元気が出たよ」


「お粗末さまでした」


すぐに浜風が食器を片づける。その後、提督にこう尋ねた。


「余り物でよろしければこれからもお持ちしますがいかがでしょうか?」


「お、それはつまり浜風が毎日俺に味噌汁を作ってくれるということか、そいつは嬉しいな」


提督はからかうような口調でそう答えた。


「な⁉ そ……その……そういう意味ではなく! 秘書艦の職務の一環として提督を全力でサポートするということです! 谷風みたいなことを


言わないでください!」


「はは、スマン冗談だ。浜風の味噌汁を飲めるならどんな理由でも嬉しいよ、これからもよろしく頼むよ」


「お断りします。人の心を弄ぶ提督に作るものなんてありません。代わりに煮え湯でも飲んでいればいいんじゃないですか」


そう言って浜風はツンとそっぽを向いた。


「ぐっ……、本当にすまなかった。俺が悪かった。誠心誠意謝るからどうか考え直してくれ!」


提督は額が擦り切れんばかりに机に突っ伏して謝罪した。それを見た浜風は、普段は指揮官として弱みを見せまいと振る舞う提督が、自分の


前で違った一面を見せているということが、気恥ずかしくもあり嬉しくもあった。


「冗談です。今のは先ほどの仕返しです。怒ってなんかいませんからどうか頭を上げてください」


浜風に言われて、ようやく提督は頭を上げた。


「そ……そうか。じゃあ、改めてこれからよろしく頼むよ」


「ふふ、了解しました。それでは、食器を持ち帰るので失礼します」


そう言って浜風は執務室を出ていった。これから提督が自分の味噌汁を作ってくれる。そう考えるだけで浜風は笑みがこぼれるのを抑えられ


なかった。しかし、流石に誰かに見られたら不審に思われると思い、すぐに秘書艦としての思考に切り替えて自室へと戻った。


 

 その後、提督と共に明日の計画について纏めているうちに、時刻はマルマルマルマルとなっていた。


「もうこんな時間か」


外は暗く閉ざされ、静寂が辺りを支配していた。


「提督、本日もお疲れ様でした」


今日の秘書艦の役目を終えた浜風が退出の準備を始めた。


「ああ……なあ浜風」


「はい、なんでしょうか?」


「今日はここで寝ていかないか?」


執務室には提督用の布団のほかにもう一つ艦娘が仮眠のために使用する布団が備え付けられてある。


なぜこのような物が置いてあるのかというと、大規模な作戦が実施された場合など、深夜まで秘書艦の務めが終わらないことがある。


その際には、自室まで戻るのが億劫であること、すでに寝ている秘書艦と同室の艦娘を起こさないことへの配慮といった面から


この布団が利用される。


「なんとなく二人で話をしたい気分なんだ」


「提督……もう、仕方ないですね」


流石に、二人で一つの布団に入るのは色々とまずかったので、二つの布団をくっつけて寝ることになった。


「もし誰かが来たらどうしましょうか」


「その前に起きればいいさ」


提督のその言葉を最後に二人の間には沈黙が続いた。話をしたいと言い出したものの、二人きりの部屋で一緒に寝るという状況が気まずく、


中々口を開けないでいる。しかし、いつまでもこうしてはいられないと、覚悟を決めて口を開けた。


「浜風がここに着任して一年か、時間というのはあっという間に過ぎていくものだな」


そうですね。あの頃の私は右も左も分からなくて……それが今では秘書艦に任命されているのですから不思議なものです」


「浜風は出撃でも遠征でも人一倍頑張ってくれていたからな。そのおかげで今やわが艦隊でトップクラスの練度を誇っている」


「私なんてまだまだです。浦風と谷風は私よりも後に鎮守府に着任しましたが、私に負けないくらいの実力を持っています。磯風に至っては


さらに遅れて着任したにも関わらず、私たちに追いつくどころか追い抜く勢いで練度を上げています。歴戦の武勲艦は伊達ではないですね」


「そうだな。第十七駆逐隊は皆優秀な艦娘だ」


「そう言っていただけて光栄です」


自分と仲間を褒められた嬉しさから、浜風は優しく微笑んだ。


「なあ浜風。極限まで練度を高めた艦娘が受けることのできる更なる改装を知っているか?」


「いえ、そのような改装があるのですか?」


「まぁ、聞いておいて何だが極秘事項だからな。実はすでに一人テストを兼ねてその改装を施した艦娘がいるんだ」


そう言われて浜風は、あの大和や武蔵といった名だたる戦艦と並んでいくつもの困難な海域を突破してきたという


金剛型戦艦の名を思い出した。


「そして今度はこの改装を浜風に施したいと考えているんだ」


「私に……ですか?」


「ああ、今まで誰よりも頑張ってきた浜風ならばこの改装は絶対にうまくいくと信じている」


すなわち、この改装を受けるということは、自分が大いにこの艦隊に貢献してきたという勲章を与えられることでもあった。


「あ、ありがとうございます! とても……とても嬉しいです!」


浜風は布団から飛び出し、感動で目を潤ませながら満面の笑みで答えた。普段は凛々しい彼女が見せたその笑顔はさながら天使のようで、


提督には暗い中でもはっきりと分かるくらいに眩しく見えた。


「これからも、提督のお役に立てるように努力していきますね」


「ああ、期待しているぞ」


すると、提督は眠くなってきたのかあくびをした。


「さて、そろそろ寝るとするか、お休み」


「今日も一日お疲れ様でした。明日に備えてゆっくりお休みください」


そう言って浜風は、感動の余韻に浸りながら静かにゆっくりと目を閉じた。



 ――次に浜風が目を覚ました時、周りにはどこまでも群青色の海が広がっていた。


「……? これは一体……?」


自分は執務室にいたはずと浜風は思った。辺りは嵐が来る前触れなのだろうか、不気味なほどに静かだった。


しばらくすると自分以外の艦娘がいることに気が付いた。


「あれは大和? その近くにいるのは矢矧ね。それに……雪風……まさか⁉」


浜風はこれから起こることを本能的に察知した。それと同時にどこからともなく深海棲艦が姿を現した。


「そんな……どうして⁉」


この光景を自分はなぜか知っている。経験は無いのに記憶はある。それはデジャヴ。そうだ、これは――


「きゃあああああ⁉」


避けきれない。あまりにも無慈悲に降り注ぐ雨のような爆撃、嵐のような砲撃、自分にできることは、


もはや沈んでいくのをただ静かに受け入れることだけだった。


「いや……私は……まだ……提……督」


もう駄目だ。そう思った瞬間、深く暗い海に閉ざされた世界に光が差し込み、世界が一気に白く反転した。


「浜風⁉ おい起きろ、浜風!」


「……っ⁉」


ガバッ、と布団から起き上がって浜風が見たものは、いつもの朝、いつもの風景、そしていつもの提督の顔だった。


浜風はもといた世界に帰ってきたのだ。


「夢か……」


「大丈夫か?ひどくうなされていたから心配したぞ」


浜風の体は、汗でびっしょりと濡れていた。


「提督っ……提督っ!」


浜風はわき目も振らず、提督に抱き付いた。


「うわっ⁉」


提督はいきなり抱き付かれたことに驚いたが、すぐに安心させようと同じように抱きしめた。


その体は震えており、普段の少女の体よりも更に小さく感じた。


「怖い夢を見たんだな。もう大丈夫だ」


「はい……。すみません、出来ればもうしばらくこうさせてください」


「ああ、気の済むまでそばにいてやる。だから安心しろ」


提督の体は普段よりも大きく、そして暖かく感じた。そうしているうちに浜風の体の震えは止まった。怖かった。自分が沈んでいくことが、


大切な仲間を守れなかったことが。だけどもう大丈夫。私はここにいる。私だけじゃない。私を支えてくれる大切な仲間たちも。


そして私の一番大切な人……あなたも。


「提督……今度こそ、守り抜きます」


浜風は心の中でそう呟き、上りゆく朝日を背に受けながら提督と共にゆっくりと立ち上がった。

                             

                             fin




後書き

ここまで読んでいただいてありがとうございました。
マイペースにですがこれからもSSを投稿していきたいと思っているので
よろしくお願いします。

補足 作中に登場する金剛型戦艦とは、榛名のことです。自分の艦これの嫁が榛名だったので
   このような形で反映しました。

文章の構成を修正しました 4/8

pvが1000を突破しました。見てくださった皆様に感謝申し上げます 4/11


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2016-12-04 20:28:08

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2016-12-04 20:28:05

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2015-04-11 22:21:28

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2015-04-11 02:56:49

このSSへのコメント

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-: - 2015-06-11 23:59:57 ID: -

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