秘書艦榛名のケッコン前夜
秘書艦の榛名が提督にケッコンのプロポーズを受ける夜までを描いた話
艦これでは2作目の投稿です
拙いですが読んでいただけると幸いです
秘書官榛名のケッコン前夜
ここは鎮守府。この世界を脅かす人類の敵、深海棲艦に対抗するための拠点である。
今の時刻はマルロクマルマル。執務室に一人の艦娘が入ってきた。
彼女の名は榛名。金剛型戦艦の三番艦で、長く艶やかな黒髪に端麗な容姿をしている。
明朗快活な上二人の姉と比べると控えめな性格でおしとやかな印象を受ける。
「提督、おはようございます」
しかし、榛名のあいさつに答える声はない。
ふと執務室を見渡すと、布団の中に一人の青年が入っているのを発見した。
「提督、もう朝ですよ」
榛名は、提督の体を優しく揺さぶりながら起こそうとする。
「ん……あともう少し」
「早く起きないと、朝ご飯に遅れてしまいますよ」
そう言って榛名は布団を剥ぎ取り、提督の両腕を掴んで無理やり起こそうとする。
「寝坊は、榛名が、許しません!」
「うおっ!?」
流石の提督も、これには驚いて目を覚ます。
「あー……、おはよう」
「おはようございます。それでは朝食に行きましょう」
こうして二人は間宮の元に向かっていった。
食事が運ばれるのを待ちながら、二人は会話を始めた。
「しかし、あの起こされ方には驚いたぞ」
「す、すみません。寝ぼけている提督を見ていたらつい」
えへへ、と恥ずかしそうに笑って、榛名は答えた。
「榛名は時々、大胆な行動をするからな。なんだかんだで金剛や比叡の妹なんだと感じるよ」
「提督はおしとやかな女性が好きなのですか?」
「まあ、手のかからない子はいいな。だが活発な女性も元気づけられたり、魅力的だとは思う」
すると、榛名は少し困ったような顔をした。
「私は提督にどう接していけばいいのでしょうか?」
「ん?なんだ藪から棒に」
いつになく悩んでるようだなと提督は感じた。
「提督は活発な私とおとなしい私ではどちらの方がいいですか?」
「んー……」
榛名の質問の意図は分からないが、提督はこう答える。
「別にどちらがいいということはないんじゃないか? 寝ている俺を優しく起こす榛名も引っ張り起こす榛名も
どっちも俺にとっては同じ榛名だし、時としてそういう別の一面を見せる所もまた、榛名の魅力だと思うけどな」
「提督……」
榛名は嬉しそうに頬を赤らめた。
「そうですね。そんな事で悩む必要なんてなかったんだと思います。おかげで気持ちが楽になりました」
「ああ、悩みが解決したようでなによりだ、なんだかいつもの榛名らしくなかったから心配したよ」
「心配をおかけしてすみません。榛名はもう大丈夫です」
やがて、二人は朝食を食べ終えた。
「ご馳走様、それじゃあ今日の仕事を始めるとするか」
「はい! 今日も一日よろしくお願いします」
こうして、二人は執務室へと戻っていき、仕事に取り組んだ。
提督の仕事が終わるのは早かったり遅かったりと不安定だ。月初めと週の初めは深海棲艦の動きが活発化するため忙しくなる。
また、四半期に一度は大規模な深海棲艦の掃討作戦が実施されるため、その時期は仮眠をとるのがやっとである。
しかし、今は敵の動きは穏やかで、大規模作戦の実施もないため、比較的仕事量が少なくて済んでいる。
そのため、榛名と協力して午前のうちに今日の仕事の七割を片づけてしまった。
「今日は予定よりも前倒しでお仕事が進んでいますね」
「ああ、榛名が秘書艦で本当に助かるよ」
提督がふと壁に立てかけられた時計を見ると、正午までにはまだ時間があった。
「これから昼食の時間になるまでしばらく一緒に外を見て回らないか?」
「はい、榛名でよければご一緒しましょう」
二人は、気分転換も兼ねて外へ出ることになった。
「まずはどこに行きましょうか」
「そうだな、まずは演習場を見てみよう。まだ訓練をしている艦娘たちがいるはずだ」
こうして、二人は演習場に向かっていった。
目的地へたどり着くと、そこには四人の艦娘が砲撃戦や艦隊運動の訓練をしている姿があった。
「彼女たちはたしか……」
「第十七駆逐隊の子達だ。つい最近磯風が加わったことでこうして四人で訓練をすることが出来るようになったんだよ」
第十七駆逐隊は、浦風・磯風・浜風・谷風の新進気鋭の陽炎型四人で編成される駆逐隊である。
鎮守府に着任したのは遅い方だが、ほかの駆逐隊にも負けないくらいの練度を誇っている。
「この艦隊の戦力もかなり充実してきましたね。それに昔よりも人が増えて賑やかになりました」
「そうだな。榛名が着任したころはまだ今の半分くらいしか艦娘がいなかったからな。本当に
頼もしい仲間が増えたものだ」
やがて、四人は訓練を終えた。提督は労いの言葉をかけていこうかと思ったが、皆疲れている様子だったので、
気を使わせる必要もないと考え、気づかれないようそっとその場を後にした。
「そろそろ昼食にするか」
「はい、そうしましょう」
二人は、本日二度目の間宮へと向かっていった。
その途中、後ろからぶつかるように抱きしめられ、声をかけられた。
「Hey、テイトクー! これからランチですかー?」
声の主は金剛だった。金剛型一番艦で榛名の姉であり、英語を交えた特徴的なしゃべり方が特徴だ。
後ろには、ほかの姉妹の比叡と霧島もいる。
「お疲れ様です司令。今日はこれから金剛お姉さまと間宮さんの所へ行こうと思っていたんですよ」
「折角ですから、ご一緒にどうですか?」
比叡に続いて霧島が話しかける。
「ああ、俺と榛名も丁度間宮さんへ行こうとしていたんだ」
提督が二つ返事で賛同する。
「榛名もお疲れ様デース。みんなでランチをエンジョイしましょうネー!」
「はい、お姉さまたちと一緒に食事ができて榛名も嬉しいです」
間宮に到着すると、五人は空いている席を探して座った。
提督が座ると、すかさず金剛が隣に座り、金剛の隣は間髪入れずに比叡が占領した。
向かいの席には、霧島と少しすねた様子の榛名が座ることになった。
「私たちが全員そろって食事をするのも久しぶりですネー」
「司令が榛名を秘書艦にしたまま手放そうとしないからですよ」
比叡が茶化すように提督に言う。
「スマンな、秘書艦も含めて艦娘が自由に動ける時間はなるべく確保するよう努めてはいるのだが」
「提督、秘書艦のお仕事は大切なものですから、榛名は大丈夫です」
「榛名が秘書艦になってからもう大分経ちますし、そろそろ他の子に交代する時では?」
霧島が提督に進言した。
「そうだな、榛名には随分世話になったし、秘書艦の経験を積ませるためにも他の子に交代するべきだな」
「本当はまだ提督と一緒にいたいですけれど、任期であるというならば仕方がないですよね……」
榛名が悲しそうな顔をしながら言った。
「この艦隊で一番秘書艦歴が長いのは榛名だから、また何かあったらよろしく頼むよ」
「はい、いつでもお任せください」
提督と仲良く話している榛名の様子を見た金剛が妬いた様子で口を開く。
「Hey、テイトクー! 二人だけの世界に入るのもいいけどサー、私たちともお話しようヨー!」
「おお、悪い悪い」
その後は、比叡の新作料理の話や、霧島が敵戦艦二隻と死闘を繰り広げた話で盛り上がった。
そうして昼食を食べ終えた二人は、金剛たちに別れを告げると、執務室へと戻っていった。
現在時刻はヒトナナマルマル。残った仕事もあらかた片づけてしまった提督は、ホッと一息ついて椅子にもたれかかった。
「よし、あとは出撃した艦隊の帰投報告を待つのみだな」
「提督、こちらも頼まれた書類の整理が完了しました」
そう言って、榛名が書類を提督の机に置こうとする。その時、もともと積み上げられていた書類の山に腕があたってしまい、
崩れながら地面へと落ちていった。
「す、すみません! 急いで拾います」
榛名が慌てて散らばった書類を集めようとする。
「おっと、大丈夫か? 俺も手伝おう」
二人で書類を集めている途中、榛名の目にはある一枚の紙が映った。
それを手に取ろうとした瞬間、提督もその紙の存在に気付いたのか、榛名よりも先に奪うような勢いで取っていった。
「ま、待ってくれ。これはその、極秘の資料なんだ。だから秘書艦といえど、見られるわけにはいかなくてな」
「そ、そうでしたか。これは失礼しました」
榛名はなんとなく怪しいと感じた。提督が艦娘に見られたら困るような重要な資料を、艦娘の目につく場所に
置くわけがない。もっと厳重に保管するはずだ。それに、提督の目の焦点が合わない。見つめようとするとすぐに目をそらす。
「よし、全部拾い終えたな。榛名もお疲れさん」
しかし、気になったとしてもどうにかなるものではない。万が一本当に極秘の資料ならばそれこそ問題になる。
「はい、本当にすみません、提督」
榛名は一度忘れることにした。
夕飯を終えた二人は、後は出撃していた艦隊の帰投を待つだけとなった。
その間、榛名と話をしたり、読書にふけっているうちに、艦隊が帰投した。
提督がその報告を聞いて、上層部への報告書を作成し終えると、再び二人だけの静かな時間が訪れた。
「これで今日の業務はすべて終了だな」
「お疲れ様でした」
時計を見ると、まだまだ就寝には早い時間だった。
「いい時間だな……。榛名少し散歩に付き合ってくれないか? 大切な話があるんだ」
「分かりました。榛名でよければお付き合い致します」
その日の夜空は、雲一つなく満天の星空だった。星の輝きは、陸地も海も遍く照らし、海は
波の静かな音に月の光が相まって神秘的な雰囲気を漂わせていた。
「綺麗な海だな。まるで世界を脅かす敵などどこにも存在しないのではいなかと思えてくるほど穏やかだ」
「はい、でも戦いはまだ終わらないのですね」
「ああ、俺たちはこれからも戦い続けていくんだ。この偽りの静寂を打ち破り、本当に静かな時間を取り戻すまで」
提督は榛名に向き合った。
「榛名、これを受け取ってくれないか?」
「これは・・・・・・」
提督に手に握られていたのは小さな箱で、その中には結婚指輪のような形をした指輪が入っていた。
「これはただの指輪じゃない。極限まで練度を高め、最高の絆で結ばれた艦娘の左手の薬指にはめることで
秘めたる力を解放することが出来る指輪なんだ」
「そんなにすごいものなんですね、それを私に?」
「榛名はこれまで幾度となく困難な海域の突破に尽力してくれた。わが艦隊では文句なしに一番の練度を誇っているだろう。
あとは、深い絆で結ばれていることだがそれも大丈夫だと信じている。なぜなら俺は・・・・・・」
提督は榛名を真剣なまなざしで見つめてこう告げる。
「榛名を愛しているからだ。君と一緒ならどんな苦難も乗り越えていける。だから、この指輪を渡したいんだ。君の気持ちを聞きたい」
榛名は、自分に向けられるまっすぐな視線と告白の言葉に戸惑った。夜の闇に紛れて見えなかったものの顔は紅潮し、熱を帯びていた。
もし、この場から逃げ出すことが出来たのならばどれだけ気持ちが楽になっただろう。しかし、逃げてはいけない。
自分に対して真摯に向き合ってくれる男のために、自分もまた真摯に向き合うのだ。
意を決した榛名は口を開いた。
「提督・・・・・・嬉しいです。私も貴方のことが好きです。指輪、喜んでいただきますね」
提督は榛名の左手をとり、そっと指輪を薬指にはめた。
「ありがとう榛名、今日は俺の人生の中で一番幸せな日だ」
「私も幸せです。この気持ちを言葉にしようとしても出来ないくらいに・・・・・・ですからこうします」
榛名は提督に抱き付いた。そして、提督もそっと榛名を抱き寄せて頭を撫でた。
このまま、時が止まってしまえばいいのに、と二人は心の中でそう思った。
「 なんでしょう・・・・・・守りたい気持ちが、溢れてしまいます。仲間も・・・・・・そして、提督・・・・・・貴方のことも・・・・・・」
空も、潮風も、波の音も、すべてが祝福するかのように二人を包み込んでいた。
執務室に帰ると、提督が一枚の紙を取り出した。それは、少し前に提督が極秘と言っていたものだった。
「この書類にサインすれば、指輪の効果は決定的なものになる。今ならまだ引き返せるぞ?」
「引き返すなんてとんでもないです。提督からもらったこの指輪は私の一番の宝物になりました。ですからもう絶対に返しません」
「そうか、野暮なことを聞いてしまったな」
そう言って、二人は書類にサインをした。これにより、晴れて二人は今まで以上に強い絆で結ばれた。
「・・・・・・今日は一緒に寝るか」
「はい、金剛お姉さまたちには内緒です」
こうして、二人を繋いだ運命の夜は終わりを告げた。
あの日から数週間が経過した。深海棲艦が不穏な動きを見せている。さらに、その中には一際強力な力を秘めた個体も発見された。
そして、今まさにこれを迎え撃たんとする者たちがいた。
「勝利を、提督に! 榛名、いざ、出撃します!」
花のような優しさに戦士のような強さを持った彼女の左手の薬指には、提督との絆の証が静かに光をたたえていた。
fin
最後まで読んでいただき誠にありがとうございました
次のテーマはまだ決まっていませんが、もう一度浜風ちゃんをメインに据えたお話を書きたいと思っています
どうか応援よろしくお願いします
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