◯◯したけど艦これには関わりたくない。
桜散る。
おおよその学生ならそのフレーズを聞きたくないはずだ。
今まさに狂喜乱舞する者、阿鼻叫喚とかした人間たちが騒ぎ立てるなか、合格の数字が羅列された中で、自分の番号だけがないことに動揺していた。
「嘘だろ」
嘘じゃない、 現実です‥‥‥! これが現実‥!
反芻(はんすう)するように小さくつぶやいた言葉は、その場の騒ぎでは一瞬でかき消される。
どれだけ努力しただろう?結果が全てなのは分かる。だがこれはないだろう。最後の受験にすら失敗するなんて。
「うっそだろお前」
けらけらと笑いながら、友と呼んでいたことを恨む日が来るとは思わなかった。
奴を呆然と見ながら、記憶にない喫茶店で、アイスコーヒーを口に流し込む。なぜか味はしない。普段ならガムシロップを二個入れるところだがそんな余裕は無かった。
手に持ったアイスコーヒーのコップを置こうとしたらカタカタと音を鳴らす。
その時、あまりの動揺に手が震えていたことに初めて気づいた。
「あーなんだ。来年があるだろ?」
流石にまずいと思ったのか、奴は申し訳無さそうに言った。いまさら遅い。もう友人ではないのだから。
なんのために頑張ったのだろう?人生なんてそんなもんと誰かが言った。その通りだと思うが今は納得できない。
・・
全受験で小人に邪魔されなければうまくいったはずなんだ。
何なんだあれ、いまさら腹が立ってきた。
テスト中に人の答案用紙の上でなにしてんだ。
優雅にワイングラス片手にこっちを見つめる小人やら、人の答案用紙に落書きする小人、勝手に答えを書いてく小人。
エ、エ、イ、ア、ア?もらい泣きしたいのはこっちだよ。なんでこの世界でもそのネタが存在するんだ。しかも古い。
しかも答えは全然違うし。ドヤ顔で見つめる小人を見ないふりして、全力で受験に望んだつもりだったんだ。
気づいたら全身に小人共が群がり始めて、最終的にモ◯ゾーになるのかと恐怖でしか無かった。
「まぁ、そうなるな・・・」
どっかの彼女の台詞を盗みながら天井を見上げた。キラキラとしていたのはきっと光り輝いていたからだろう、雨のせいかもしれない。
泣いてない、今は泣いていないんだ。雨は、いつか止むさ。
「草、どんまいだぜ」
本気で殴ろうと思った。しょっ引かれてもいい。
親指立ててサムズアップあいつを右ストレートでぶっとばす。右ストレートでぶっとばす。
「ご注文の紅茶デース!」
頭の中が全て『それ』になりそうで沸騰しそうなところにウェイトレスが来た。どっかで見たことあるな。
てか紅茶なんて注文してねぇよ。お前か?
「え?あ、ど、ども」
目線の先の奴も動揺するのかよ。つまりだ、この紅茶は誰も注文してない。
しかも、ウェイトレスは奴を見ずに、こっちばかりチラチラ見ている。こっちチラチラ見てたよね?とかそんなレベルではなくガン見と言ってもいいくらいだ。正直怖い。
「Hey、お兄さん!私とデートしませんカー?」
「しません」
「しますします!」
即答で答えると目の前の奴はここぞとばかりに声をあげた。が、やはり無視される。
何なのだこれは、しかもウェイトレスの制服だってこの店の制服と違うし、なんか巫女っぽい服だし。見たことある女性だし。
「うー振られちゃったデース」
がっくりと肩を落とす巫女風女性を見つつ、無視された元友人を見ると、無視されたのにも関わらずとても嬉しそうだった。
正直キモいと思った。それでも喜ぶ顔を見ると世の中にはいろんな奴がいるなと思う。
そう、いろいろな人がいる。とは言え、男子の数が極端に少ない世界でこれからの事を考えると憂鬱でしかなかった。
何が鬱か、受験に失敗し、浪人するしかないのか?もしくは働かなければならないのかと思うと目の前が真っ暗になりそうだった。
『この世界』は今までの常識が通用しない。
働こうにもアルバイトや就職先の殆どは女性しか居ない。男である自分がアルバイトに行こうものなら奇異の目で見られることは確実だ。
望もうと望まないと選ぶレールが少ないこの世界に少なからず嫌気が差していた。
「ぜったい!諦めないんだからネ!」
ところどころ片言のウェイトレスはそう言い残すと手を振りながら笑顔で去っていった。
元気なのはいいと思う。だが、目の前には注文していない品物が増えていた。唐揚げ、パフェ、スパゲッティ。
この量を食えと?見るだけで胃もたれを起こしそうなラインナップを見て全部は食べられそうにないと思う。
仕方がないので目の前の奴に渡すと嬉しそうに食べ始めた。
時刻はまだ昼前、朝飯を抜いて受験の結果発表を見に来ていたから、早めの昼飯か遅めの朝飯かと言った具合。その後は暇と言えば暇だし今後を考えて予備校を探すべきだろうか。といっても、予備校ですぐに目につくのは提督と言う文字。
新米少佐に今からチャレンジ!というキャッチコピーがあり、入学条件に見えないものが見える方と胡散臭い事が書かれている以外は真面目そうだった。
それ以外を探すが医療は自分の学力では到底狙えず、どうするかと悩み始める。
自分の支払いだけ済ませて、店をあとにする。もちろん奴には一言言ってから出てきた。
流石に黙って出ていくのは道理に反するからだ。
ふと見上げた空に向かって、空はあんなに青いのにとつぶやいた。
ポケットの中から失敗したクシャクシャになった受験票を広げる。0101番、おいおい泣かせてくれるじゃねーか、お前に八つ当たりしても意味がないのにクシャクシャにしちゃってゴメンな、個人的には満足したがお前も結果まで見れて満足だろう。結果は失敗だ。
時期はまだ寒い真っ只中、吐く息は白く、目の前の手の上にある受験票は息で小さく揺れた。
「残念だったね。」
ふと、誰かに言われた気がした。
目線を前に向けると、歩道の真ん中で一人の少女がこちらを見ていた。今日は女の子によく話しかけられる日だなと思いつつ、一応自分以外に人が居ないか後ろを確認しておく。自分に話しかけてなくて答えたら恥ずかしいからだ。
「自分に言ったの?」
「うん」
目の前の少女はコクリと頭をわずかに動かし答えた。
「失敗したような顔だったかな?」
微かに笑いながら答えてみる。的を得た事を言われると出てくるのは苦笑いでしかない。
「これからどうするの?」
答える義理はないが、なんとなく目の前の子には嘘を言っても仕方がないような気がした。
「浪人かな、就職は今は考えてない」
「てい――ううん、」
少女は何かを言いよどみ、否定するように頭を静かに振ると。ゆっくりと歩いて目の前まで来ると微笑みながら見つめてくる。
左肩のおさげが少し揺れるのを目線で追いながらも目の前に来た少女を見つめた。
「選択肢は一杯あるから良いのを選んでくれると、僕は嬉しいな…」
「…」
「またね」
その言葉に答えられなかった。
少女は一歩だけ自分から右に避けるとそのまま歩いていく、目線で少女を追ったときに背中になにかくっついてるのを見て声が出た。
「なっ!?」
「どうしたの、かな?」
少女が振り返る瞬間、ふっ飛ばされないように必死に両手でぶら下がりながら遠心力で浮いた両足。あのちっこいのは忘れもしないあの小人だった。自分の驚いたような顔に少女は不思議そうに首を傾げた。
「え、い、いや…背中になんか居た気がして」
「虫かな?」
「ちょ!まって!」
少女がいきなり服を脱ごうとしたので慌てて止めた。彼女の格好はセーラー服で脱ぐときには頭を通して上に脱ぐタイプだ。そんなことしたら小人は耐えられずに落ちていくと思ったので止めたのだ。その他にもいろいろな理由もあったがそこは黙っておく。
「取ってくれるのかな?」
「う、うん。」
「それじゃあ…お願いするね」
少女が後ろを向いたときについ項を見てしまい少しドキッとした。いや、そうじゃないと首を振って背中を見る。
やっぱりいやがる…ちっこいナニカ。いや、小人ではあるのだが両手の限界なのか小刻みに震えていた。
仕方なく水を手で掬(すく)うように右手で小人を持ち上げた。本当に限界だったみたいでぱっと両手を離して後ろに一回転すると小人と目が合う。何処と無く目の前の少女と似てる気がした。おさげの髪やら両側にぴんとはねた犬耳のような髪の毛。それとアホ毛。
助けた小人をそのまま胸の上まで手を上げて目の前まで持っていく。後ろ向きに転がって仰向けの状態で止まった小人は手のひらにちょこんと座り直して不思議そうにこちらを見ている。ふと、小人の柔らかそうなほっぺを左手の人差し指でつついてみる。まじか、ものすごく柔らかいこれは癖になりそう。
小人は嫌がるかと思ったが両手で人差し指を掴むと積極的に頬ずりしてくる。ふはは、かわいい奴め…いや、違う違う受験を邪魔した小人たちのメンバーに居なかった小人とはいえ、同じなのだ。危うく色々なにかに目覚めそうになった。
「…」
「…」
う、しまった。目線に気づいて恐る恐る前を見る。少女が不思議そうにこちらを見ていた。違うんです不審者じゃないんです。
・・・・・・・・・・・
小人が他の人に見えないのは知ってるんですが、思わず触っちゃったんです。エア小人をしてるんじゃないんですヨー!と言い訳を言ったところで少女には伝わらないんだろうと思った。だからこそ焦る。
「い、いやおかしいなぁー虫が居たんだけどどっかいっちゃったなー!」
「…!」
虫と言われたのが頭にきたのか、小人が人差し指を両手で叩いて抗議してくる。ほっぺたを膨らませて怒ってる事をアピールしてるようだった。叩かれても痛くないが、どちらかと言えばこそばゆい感じ。かといって、いま反応したらただの変態認定されるのは間違いないだろう。
どうするべきかと考えていると少女の目線は自分の手のひらを見つめた。
何もないのにパントマイムしだした自分をどう思ってるのだろう?不審者か変態か、通報だけは本当にやめてほしい。
「可愛かったの?」
唐突に言われた。虫が?と返すべきか、いやそれはないなと思いつつも――
「あーそ、そうかな?」
・
「そっか、冬の虫さんによろしくね、それと助けてくれて、ありがと」
微かに微笑み少女は再び振り返ることもなくそのまま歩いていった。そして、やっぱり嘘は吐けないなと心から思った。
悲しみの不合格の帰り。
本屋に寄ってみる。資格の本とかバイト関係やらと情報収集してみようと思ったからだ。
店員さんのいらっしゃいませと元気な声が自動ドアが開くとともに聞こえてきた。
さっきの小人は地面に近づけてもいやいやと首を振り、ペチペチと右手の手のひらを小さな両手で叩き続けるので仕方なく連れてきた。今は何故か頭の上に乗っている。どうすればいいかと悩んでいたら右手から右腕をよじ登り、肩の上を歩いて後頭部から頭の天辺まで行くと髪の毛を掴んでそのまま止まった。
髪の毛を常に掴んでいるせいで何かに引っ張られるような違和感がずっと続いている。
抜けたらどうしてくれるんだ。失った毛根は戻ってこないんだぞ。
「何してるっぽい?」
先ずは資格関係からと歩を進めようと資格コーナーの場所を探してるときに後ろから声を掛けられた。
振り向くとどっかで見かけた頭の癖毛※1にリボンと一見可愛らしく思えるが赤い目に、にこやかな笑顔の歯には犬歯がちらりと見えた。なんというか少女に対して思うのは狂犬の様なイメージだった。
「探しものっぽい?なら付いてきて!」
「え?ちょっ!?」
強引に掴んだ右手を引っ張って連れて行かれる。何もいっていないのに連れて行かれた場所は資格のコーナーではあるのだが――
「クソ提督講座?」
「読むとなれるっぽい?」
なれねーよ!と突っ込みたくなる。表紙には女の子が二人が笑顔で写っていた。左下には小人がキミには素質があるとプラカードを持って小さく写っている。それを見て直感で理解した。
これは罠だと。
「なにか見えるっぽい?」
気づかぬうちに息が聞こえそうなほど近づいて隣に立っていた少女に一瞬ビックリするものの、少女が自分の目線を確認しようとしてることがすぐに分かった。今左下を見ようものなら何かが確定してしまうと脳内で警告を発している。
命を狙っていたなら既に死んでいただろう。だがこんなところで人生の終焉を迎えるわけには行かない。
あくまで冷静を装いながら否定するために首を小さく横に振る。
「ここっぽい」
少女が右手の人差し指で表紙の左下を指した。完全に小人を狙っていた。
若干の恐怖と言うべきか圧を感じながらももう一度首を横に振った。少女は前に回り込むと真っ直ぐな目でこちらを見つめてくる。燃えるような赤い目に自分の中の嘘を見つけられてしまいそうで正直、目をそらしたかった。
だがここで目をそらせばバレてしまうと思う。先程の似たような犬耳癖毛が付いた少女よりは嘘を言っても大丈夫な気がするが。
「じー」
ジーッと見つめられる、というか口に出してわざわざ見てくる。バレてるかもしれない。少しだけ汗が出てきた。
「あむ」
「んなっ!?」
一瞬のことで分からなかった。汗が左頬を伝わる感触とは別に柔らかい感触があった。
驚いて左手で頬を触る。左を見ると瞬間移動でもしたと錯覚する距離に少女が笑顔で立っていた。
「嘘を付いてる味っぽ――」
「アウトです!」
店内に紙で何かを叩くような音が目の前から広がった。
痛いっぽいと頭を擦りながら少女が後ろを見るとピンク髪に黒の紐で左側頭部をサイドテールにした少女がハリセンを持って立っていた。
てか二人共、さっきの少女といい、黒のセーラー服から見ると学校の帰りなの?とか言いたくなったがそれを言ったら地雷を踏み抜きそうなので黙っておく。興味を持ったと思われるのすらやばい気がするのだ。
「ゆ…姉さんアウトです!駄目です!直接触るのも駄目なのにそ、その…とにかく駄目なんです、はい!」
「むーはるさ――」
「わー!だから駄目なんです!」
何が駄目なんだと突っ込みたくなるが、目の前でコントをしてほしくなかった。こんだけ騒げば周りの人たちも迷惑だろう。
そう思って周囲を見るが――
「…」
「いらっしゃいませー!」
入ってきた別の客に店員が元気よく声を掛けるだけでこちらを気にもしてない様子だった。客も数人いるのに迷惑そうにしておらず本を探しているようで少し安心する。
「姉さん!みんなが呼んでるので行きますよ!」
「ちょ!待ってほしいっぽい!もうちょとだけっぽい~」
ピンクの髪の子が犬耳少女の右手を掴んで引っ張ろうとする、それに対して犬耳少女の姿は散歩を嫌がる子犬にしか見えないのだが、引っ張られながら抵抗して踏ん張る足元の床から普通では聞こえない擬音が聞こえる。
どれだけの力で引っ張られ、それに抵抗していたらこんな音が聞こえてくるのだろうか?
「…ふぅ」
声に出してため息が出た。
クソ提督講座は中身を確認せずに元の場所に戻して本来の資格の本を物色する。頭の小人はいつの間にか寝ていたので落ちないように右の胸ポケットに入れた。
潰れないように受験票で中枠を作ってポケットを膨らませ、その中に静かに入れてみる。ついでにちょっとだけほっぺたを触らせてもらったが…実際、あのほっぺたには魅了やらなにかしらの魔力がある気がする。ポケットの中身を静かに確認してみた。
受験票を折りたたんで長方形にし、それをUの字の様にしてポケットに入れる。そうすると周りから見たら不格好ではあるがスペースができる。その中に入れた受験票の底の上で小人が小さく息をしているように寝ていた。息苦しくなるかと心配したけど大丈夫そうだった。
先程の勝負?の行方はいっちばーん!と声をかけながら同じ服を着た少女とピンク髪の子二人に連れて行かれた。反応しないと思っていた店員も流石に何事かと見ていた。てかわざとスルーしてたのかと疑いたくなる。
ここはやはり謎が多いな。
資格の種類は前の世界とそれほど変わっていなかった。今の歳で取れる資格といえば危険物やら簿記、調理師免許なども気になるところ、もともと料理が好きなこともあり、料理人なんてのも良いような気がする。
考えられる問題は就職先になるだろうが。
次に向かったのは予備校の雑誌などが置かれた場所、前の世界には無かった。
ネットが普及してる中で予備校などはそれで調べられるだろうし、わざわざ雑誌にしてあるのはやはり提督関係が多い。それでも少なからずも普通の予備校雑誌があるのはありがたかったが。
「…なんだこれ」
普通の予備校雑誌と思って本を開いてみると最初に小人が戦闘機と一緒に写っているページが目に飛び込んできた。ハッとして周囲を見る。良かった思わず反応してしまったが周りには誰も居ない。これすら罠なのかと思ってしまう。
※1 犬耳のような癖毛
最後の切り方が憎い…!
もう少し行動の描写があるとぐっと深くなると思いました。(何様だよ)
頑張ってください!!
ありがと