提督の抱擁
あまりの怪力ゆえに人の温もりを知らない提督。
そんな彼が着任したのは後方支援を主とする大湊警備府。
そこに所属する艦娘たちには他の艦娘には無い『感情』があった。
衝動とプログラムの狭間で、提督は何を見るのか。
初めまして。がっくらと申します。
SS初執筆となります。
様々な素晴らしい作品を見ているうちに、自分も書いてみたいと思い、投稿した次第です。
更新は不定期になりますが、頑張って書いていきたいと思います!
※2016/10/2 完結しました。
夢を、みていた。
それは、かつての恋人を抱きしめる夢。
本来ならば、温かいはずの夢。
でも、僕が抱きしめている彼女は冷たかった。
壊れてしまった。
また、壊してしまった。
もう二度と直らないものを。
彼女は、背骨を反らせ、腕をあらぬ方向へ曲げながら、微笑んでいた。
また、確かめられなかった。
眩暈がする。膝も震える。意識も遠のく。
僕も彼女も、壊れた人形だった。
彼「起きろよー」
体が揺さぶられる。意識が徐々に現実に引き戻されていく。
彼「大丈夫か?ずいぶんとうなされてたみたいだけど」
確かに夢見はよくなかった。シャツも汗でひどくべとつく。シャワーを浴びないといけなさそうだ。
しかし、何か忘れているような……?
彼「そういえばお前、大本営にお呼ばれされてなk」
「今何時だ?」
彼「ヒトマルマルマルだ」
不味い、ひじょーに不味い。
僕は今日、大本営への出頭命令が出ていたことをすっかり忘れていた。
確か集合時刻はヒトヒトマルマル。ここから大本営まで徒歩で約一時間三十分。そして僕は車を運転できない。バスもない。
……。
彼「送っていくか?」
「頼む」
あなたが神か。もちろん即答だった。
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彼「そういえば」
「ん?」
彼「なんでお前、大本営なんかに呼ばれたわけ?」
そんな事、こっちが聞きたいくらいだ。出頭の理由は当の本人にも知らされていない。
第一、呼ばれる心当たりがない。
素行不良でもなければ、目立った戦果も上げてない。ただの一士官だ。むしろ使えない部類に入る。
僕は小さい時から力が強かった。ただの力持ち程度ならよかったが、僕の力は文字通りの「怪力」だった。
それこそ、触れたものをすべて木端微塵にするくらいに。
そんな僕に近づく者などおらず、両親でさえ子である僕を触ることはできなかった。
遊び相手は父が買ってくれる人形だけだったが、その人形も二日たてばガラクタと雑巾になっていた。でも僕は、人形自体は大好きだった。
成長するにしたがってだんだんと力を制御できるようになってきたが、それでもスプーンは一瞬で曲がるし、まして人と触れ合うことなぞできやしなかった。周りからも白い目で見続けられ、いっそ死のうかとも思っていた。
そんなある日、ちょうど二十歳になった頃だ。
僕に彼女ができた。
相手からの告白だった。
最初は夢かと思った。今まで誰も僕のことを好意的に見てくれる人などいなかったのだから、そう思うのも仕方がなかった。
でも僕はOKした。好意を無碍にはできなかったし、その容姿もタイプだったから。
かくして付き合い始めた僕と彼女だったが、順調に……とはいかなかった。
第一、僕は人とのかかわり方を知らなかった。
誰も僕にかかわろうとする人なんていなかったから、当然といえば当然だ。
でも彼女は、そんな僕に一からコミュニケーションのなんたるかを叩き込んでくれた。
おかげで今は日常生活に支障のないレベルまで話せるようになった。本当に感謝している。
ついでに基本的な感情も身につけられたことは行幸だろう。
この怪力のせいで、恋人らしいことは何一つしてやれていなかったが、気にしていない様子だったし、僕も気にしていなかった。
初めての彼女の誕生日のことだ。
彼女「抱きしめてほしい」
彼女はいきなりそんなことを言い出したのだ。
最初は断った。当たり前だ。まだ人に触れるまで力をセーブできていない。
それでも彼女は食い下がった。少しだけでも、と。
彼女がこんなに求めてくるのは初めてだったし、キ……キスまでされてしまったとあれば無碍にするわけにもいかなかった。
そして僕は彼女を抱きしめた。抱きしめてしまった。
結局、僕は最愛の人を自らの手で殺してしまった。
ああ、やっぱり僕は人を愛してはいけないんだ。
ただ、そう思った。
積もっていた足元の雪は、季節外れのイチゴシャーベットみたく染まっていった。
この時のことは、五年たった今でも夢に見る。
でも、最後のほうはあやふやで、彼女が何か言った時に必ず目が覚める。何を言っているかは聞き取れない。
村には彼女が殺されたということだけが広まり、僕は、一人に戻った今がチャンスと言わんばかりに、追い出されるようにして遠くの海軍学校へと入れられた。
なぜ海軍かと言われれば、それは父が海軍に所属しているからだろう。かくして僕は、海軍へ入ることとなった。
海軍学校でも僕を取り巻く環境はあまり変わらず、常に孤独だった。
いじめはなかった。手を出せば痛い目を見るのは自分のほうだというのを分かっていたからだろう。皆、無関心だった。
そんな僕に声をかけてきたのが、卒業した後も唯一の友人と呼べる彼だった。
気さくだが芯が強く、白飯にイチゴを混ぜて食べるような変わり者。彼はそんな人間だった。
彼には精神的にとても助けられた。話し相手にもなってくれたし、遊び相手にもなってくれた。もっとも、戦略SLGばっかりだったが。
彼がつらい時期の支えになってくれたことで、僕は海軍学校を五番で卒業することができた。ちなみに彼は二番だった。変わり者だが、頭はいいのだ。
「あと少しで首席だったのにイイイィィィィ!!」
とイチゴ飯を掃除機のようにやけ食いしてたことはたぶん忘れないだろう。
卒業してすぐ、彼は呉鎮守府の第二支部というところに配属が決定したらしい。詳しくは知らないのだが、彼に言わせればエリート街道まっしぐららしく、女の子と働けるとか何とか言っていたが、海軍に女性などいるのだろうか。甚だ疑問である。
そんな一方で五番の僕はというと、配属先は決まっていなかった。
成績は良かったが、この怪力が災いしたのだろう。お偉方やデスクワークには向かず、(力とコミュ力的な意味で)かといって砲兵科で燻らせるにはもったいない、ということらしい。
そうやって暇に過ごしていた時に、突然の大本営への出頭命令である。
とうとう配属先が決まったのかとも思ったが、期待はしていなかった。
彼「着いたぜ」
とうとう大本営に着いたらしい。
時刻はヒトマルゴーマル。ギリギリだ。
「ありがとな」
彼「いいってことよ。またあとで連絡くれよ、迎えに来てやるから!」
そう言うと彼は何処かへと走り去ってしまった。きっと好物のイチゴ飯でも食いに行くんだろう。
さて、ぼやぼやしてる暇はない。僕は足早に元帥殿の部屋へと向かった。
元帥「司令官になってみないか」
挨拶を交わし、椅子に座った直後の元帥の第一声がそれだった。
今、この男は何と言った?
司令官になってみないか?
司令官っていうと、アレか?一少尉の僕が将官にでもなるってことか?まさかの六階級昇進?
あり得ない。僕はまだ士官学校を卒業したばかりのひよっこだ。ましてこの力のせいで今までどこにも配属されなかったのに。
まず、どこに配属になるのだ?まさか聯合艦隊長官にでもするつもりか?だとしたら狂ってる。
いきなりの言葉に僕の頭の中は大量の「?」で埋め尽くされてた。
「どういう風の吹き回しですか?」
辛うじて僕の口から出てきたのは、そんな無礼とも取れる言葉。
しかし、元帥は特に気にせずこう言い放った。
元帥「私の目についた。ただそれだけのことだ。不満か?」
不満なわけがない。ずっとのけ者にされてきた僕にとっての千載一遇の大チャンスだ。
何十年軍にいてもなれるかどうかの地位だし、まして異例ともいえる元帥直々の指名なのだ。
しかし、まだ情報が少なすぎる。まず詳細を聞かなくては。
「どこに配属になるのでs」
元帥「大湊警備府だ」
即答だった。
元帥「司令官というと語弊があったかもしれんが、正しくは大湊警備府司令長官だ」
元帥「まあ実質司令官と変わらんがな、はっはっはっ!」
意外とお茶目なんだな。元帥って。
ん?
「そういえb」
元帥「なんだ?」
相変わらず反応はやいな。いや、そうじゃなくて。
「大湊警備府って何ですか?」
純粋な疑問だった。
そんな所、一切聞いたことがないのだ。
組織表にも書いていなかったはず。
元帥「新設された後方支援部隊の根拠地だ」
やっぱり。最近できた所なら知らないのも無理はない。
でも、僕がそこの長官になるというのもやっぱり現実味のない話だ。
僕はこの力のせいでデスクワークには向かないし、こういうのは普通将官とかが務めるものだ。他にもっと適任な人がいたはず。
元帥「他の将官では駄目なのだよ」
僕の心を見透かすように元帥が言った。
元帥「彼らは攻めや守りの仕方しか知らん。後方支援の重要性を全くわかってない」
元帥「そんな時に偶然、君をみつけた」
元帥「聞けば君、二対二の兵棋演習では負けなしというじゃないか。」
「はい」
これは事実だ。「彼」と戦略SLGばっかりやっていたのが功を奏したのだ。
元帥「だが一対一では勝ちは一つもない。いつも攻めあぐねている」
「はい……」
これも事実だ。どうも僕は攻めは苦手だ。だから二対二の時はペアに攻めを任せている。
元帥「最初は不思議だった。なぜこうも勝率が極端なのか、とね」
「それは私のペアがたまたま強k」
元帥「それは違う」
また即答だ。
元帥「君は確かに攻めは苦手だ。だがね、その代り君は異常に後方支援がうまいのだよ」
元帥「だからペアは伸び伸びと攻めに出られる」
確かに「お前と組むと動きやすくて助かる」と言われたことはあるが……。
元帥「この警備府に適任なのはこの海軍の中では君しかいない。私はそう思う」
元帥「どうかね?理由としては十分だと思うが?」
こんなに褒められると、さすがに照れてしまう。ここまで褒められることは無かったから。
ただ、最後に確認したいことがあった。
「具体的には、どのような仕事をすr」
元帥「よくぞ聞いてくれた!」
最後まで言わせてくださいよ、元帥殿……。
元帥「具体的な仕事としては、輸送任務、船団護衛、艦娘への補給・整備、装備の開発・改良、大規模作戦時の前衛支援をやってもらう」
仕事多っ!まあ、仕事を聞く限り兵站管理が主な仕事みたいd……
あれ?
「かんむす」って、何だ?
「かんむすって、なんですか?艦艇とは違うのですか?」
元帥「ああそうか、君が艦娘を知らないのも無理はないな」
元帥曰く、人型戦闘兵器である艦娘は、海軍工廠で謎の生物「妖精」によって「建造」される女性型アンドロイド。そして十年前に突如海に現れた「深海棲艦」に対応し得る唯一の存在。彼女らは第二次世界大戦時の艦船をモチーフにした「艤装」を背負って戦闘し、自我はあるが、一部を除き基本的に従順。そして、それらをまとめ、運営、指揮をするのが提督の役目。らしい。
正直言って、何を言っているのかよくわからなかった。
深海棲艦なるものが世界のシーレーンを脅かしているのは知っている。
でも、それに対抗しているのは既存の艦かと思っていた。
元帥「そう思うのも仕方がない、政府はこのことを隠ぺいしているからな。」
元帥が僕の心の声を聴きとるようにつぶやく。あなたニュータイプかなにかですか?
「その艦娘とやらが損傷した場合、どうするんですか?」
ふと気になって質問してみた。妖精さん?が創り出すロボットだ、そう簡単には直るまい。
元帥「入渠すれば治る」
簡単に直るらしい。モノによっては一日近くかかるらしいが、それでも兵器とすれば十分早い。
その後何個か質問をしてわかったことは、
・艦娘は燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイトを建造妖精さんに渡すことでランダムで建造できる。(割合によって建造される艦種が違うらしい)
・艦娘は水上に浮かんで戦闘する。(原理は不明)
・見た目は十代~二十代であり、すべて女性である。
・装備は艦娘専用を使い、最大四種類まで積むことができる。
・艤装がないと艦娘としての力は発揮できない。
といった感じだ。
聞いた印象としては、まるで人形みたいだな、と思った。
自分でもなぜそう思ったのかは分からない。
でもどこか惹かれるような、そんな気がした。
元帥「では、改めて聞こう」
元帥が再び訪ねた。
元帥「司令官になってみないか?」
もちろん答えは決まっていた。
「なります」
元帥「よろしい」
そう言うと元帥は先ほどまでの雰囲気を一切消した。その眼はまさに元帥の眼だった。
元帥「君は四階級昇進して中佐だ」
元帥「中佐。君を大湊警備府司令長官に任命する!」
「はっ!謹んで拝命いたします!」
こうして、僕は異例ともいえる少尉からの四階級昇進を経て、司令官としての道を歩むこととなった。
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彼「中佐あああぁああああぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!????」
ことの顛末を彼に話すと、当然のことのようにびっくりされた。
まあ当たり前か。四階級昇進なのだ、驚きもする。なにより自分自身もびっくりしてる。
彼「てぇことは、何かい?同期なのにお前が司令官で俺はちょっと頭いいだけの一士官だってかぁ?こんなのってないぜ……」
彼は落ち込んでいた。まあ、自分が呉所属になって浮かれていた所に僕の昇進&司令長官に大抜擢だからね、仕方ないね。
彼には悪いが僕はさっきからにやけが止まらない。
彼「司令官ってことは、自分の艦隊を指揮して戦うんだろ?うらやましいぜ……」
まあ、戦闘はほとんどしないんだけれど……いい気味なので黙っておこう。
宿舎に着いたが、彼はやけ食いしてくると言ってまたどっかへ行ってしまった。やっぱりイチゴ飯なのだろうか。
正直あれのどこが美味いのか分からないし、分かりたくもない。
まあ、着任はもう少し先だし、昇進も着任と同時に行われるからしばらくは少尉のままなんだけどね。
でも中佐になったら仕事忙しいだろうし、トップに立つということは命を預かるってことだから、責任重大だ。
あ、でも艦娘は人じゃないのか……。
まあいい、まずは寝よう。いろいろ聞かされたせいで、眠い。
この日ばかりは夢も空気を読んだようで、悪夢を見ることは無かった。
マルゴーマルマル。今日はいつもより早めに起きて出発に備える。
荷造りは昨日のうちに済ませておいた。問題ない。
ここ、呉から青森まで飛行機で約一時間半。そこから大湊警備府まで約二時間。大本営には着任はヒトマルマルマルと伝えてあるから、十分間に合うはずだ。たぶん。
今日の朝食は、昇進祝いということで自分にご褒美。いつもより少しだけ豪華だ。
新米には酒盗をたっぷりかけ、みそ汁の具はいつもの乾燥したものでない、新鮮な新わかめを入れる。このとき、最初から煮るのではなく、食べる直前ににパッと火を通してから入れると、渋みと旨みが出てただのわかめとの格の違いを感じることができる。
おかずはほっけのみりん焼き。個人的にはこれが焼き魚の中で一番だと思う。まあ、単に好きなだけだ。うん。
さて、のんびりはしてられない。少し惜しいが食べてしまうか。
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<大湊警備府前>
「とうとうついたか……」
時刻はヒトマルゴーマル。この時刻にデジャブを感じるが……まあいい。
いよいよ僕はこの着任をもって中佐に昇格する。
正直、怖い。
覚悟は決めてきたはずなのに、膝が笑っている。
でも後戻りするつもりはない。
元帥直々に任命されたのだ。
それに艦娘にも興味がある。
というかそれが一番の理由だったりする。
つまり何が言いたいかというと……何を言いたいんだろう。
とにかく!
着任しなければ話は始まらない。
僕はその笑う足を一歩一歩、僕のこれからへと踏み出した。
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??「あの~」
移動中、突然声をかけられた。
「は、はい」
とりあえず足を止めて返事をする。
??「提督……でいらっしゃいますか?」
声のするほうに振り返ると、綺麗な黒髪の少女がこちらをまじまじと見つめていた。
服装はパッと見セーラー服だ。
頭にはカチューシャみたく鉢巻を巻いている。中学校の頃体育祭でやってる女子がいたなー、と昔を思い出す。
そしてスカートの腰の部分には謎のスリットが入っている。
でも後布が腰の後ろ側に伸びているということは袴の一種……なのか?
上着が短いせいで肌見えてますよ!
スタイルはいい。まさにスレンダーという言葉がぴったりのモデル体型だ。
顔つきも整っている。華やかさはないが、眼からにじみ出てくる真面目っぽさにメガネが拍車をかけている。
まるで動く人形のようだった。
??「あの……そんなに見つめられると、恥ずかしいです……」
おっと、すっかり見とれてしまっていた。とりあえず、謝らなければ。
「す、すみません。見とれて、ました」
??「えっ?あ、はい……どうも……」
少女は頬を赤く染めて俯いてしまった。
どうも見知らぬ人との会話は苦手だ。
とりあえず名乗って執務室の場所を聞かなければ。
「あの、今日着任するち、中佐というもの、ですけ、れども」
??「やはり提督でしたか!私、軽巡洋艦の大淀と申します。提督の初期艦を務めさせていただきます」
「あの、執務し、つはどちらに……?」
大淀「こちらです、提督」
そういうと大淀さん?は長い黒髪を翻して歩き出した。
彼女の後姿は、白い鉢巻がやけに印象的だった。
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大淀「こちらが執務室となります」
案内された部屋は意外と大きかった。
いかにも「執務室」って感じの雰囲気と、新築の家の独特のにおいが漂っていた。
大淀「この書類にサインをしていただきますと、その時点で中佐に昇進、大湊警備府司令長官になります」
そう言うと大淀は、椅子に座った僕にペンを持たせた。
優しそうな手だった。
だが、渡されたペンは無慈悲にも持ち手が粉々に砕けてしまった。
どうやら普通のペンだったらしい。
僕は胸ポケットから特注のペンを取り出し、書類にサインをした。
大淀「ありがとうございます。これであなたは晴れて大湊警備府司令長官に就任いたしました!」
大淀「改めて自己紹介させていただきます。軽巡洋艦の大淀と申します。提督の秘書艦を務めさせていただきます」
「と、いうことは、大淀さんは、艦娘、なので、すか?」
大淀「はい、そうですが……?」
驚いた。艦娘とはこうも美しいものなのか。
てっきりもっとメカメカしいと思っていたが、まったくそんなことは無い。
ヒトと言われても信じてしまうくらい、精巧な作りだった。
でも僕には、やはり人形にしか見えなかった。
とりあえず、他の艦娘たちにも挨拶しないとね。
「大淀、さん」
大淀「大淀、でいいですよ」
ではそう呼ばせてもらおう。
「大淀」
大淀「なんでしょう?」
「他、の艦、娘たちを、呼んでくだ、さい」
大淀「わかりました!」
そう言うと大淀は、放送室へと足早に向かうのだった。
……。
とりあえず、発声練習でもしてるか。
~~~~~~
大淀「提督、全員集合いたしました」
「うん」
どうやら揃ったらしい。
では、始めるとしよう。
「で、では、左から順、に艦種と名前、を」
「軽巡、大淀です」
「兵装実験軽巡、夕張です!」
「工作艦、明石です。応急修理はお任せください!」
「給糧艦、間宮です」
「高速戦艦、霧島です」
「商船改装空母、隼鷹でーすっ!」
「駆逐艦、霞よ」
「白露型駆逐艦、夕立よ!」
「ぼ、僕は中佐、だ。大湊警、備府司令長k」
霞「自分のことぐらいはっきり言いなさいな!情けないったら!」
夕張「ちょっと、霞!」
大淀「霞ちゃん、提督に向かってなんてことを!」
霞「いいのよ、まともにしゃべれないようなクズ司令官なんて、こっちから願い下げよ」
夕立「霞ちゃん、クズは言いすぎっぽい!」
ははっ、初対面で怒られてしまった。手厳しいなぁ……。
仕方ない。あまり乗り気じゃないけど、「セレクター」を「リア」にするか。
カチン、カチン
頭の中で「フロント」から「リア」へと思考回路がシフトされていくのが分かる。
さあ、さっきまでのコミュ症な僕とはしばらくの間さよならだ。
腰抜かすなよ?
軽く舌なめずりをする。
頭が冴えわたってくる。
この感じ、久しぶりだ。
霞「ちょっと!何か言いなs」
「私は今日大湊警備府司令長官として着任した、中佐だ!」
「!!」
「つまり!」
「貴様らは今日から私の部下だ!」
ここで僕は艦娘たちを一人一人睨みつける。
霞の肩がビクッと跳ねる。
「我々の部隊は前線には出ない」
「貴様らの中には戦いたくてうずうずしている者もいるだろう」
「しかし!」
「我々の仕事は、敵を殲滅することでは無い」
「それはわかるな?」
再び睨みつける。
艦娘たちは皆首を縦に振っていた。
「よろしい」
「私は、戦争とは補給線の絶ち合いだと思っている」
「どんなに強力な戦艦も空母も、補給がなければただのゴミ、鉄クズだ」
「占領した島だって維持できなくなり、皆死ぬ」
「補給線を確保できなければ、勝てる戦も負ける」
「わが軍が今劣勢なのも、補給線をおろそかにしているからだ」
「無論、装備の差もある」
「敵が新型艦載機を繰り出してきている中、我々はいまだにゼロや九九艦爆、九七艦攻に縋っている」
「砲や電探だって一昔前のモノだ」
「こんな状況で勝てると思うか?」
「無理だ!」
「私は、この大湊警備府なら、この状況を打破し、勝利に貢献できるものと信じている」
「諸君」
「私の部下として、仲間として、戦友として」
「世界を救ってみないか?」
……。
あれ?
もしかして
引かれた?
セレクターが、「センター」へ切り替わる。
脳が、スッと冷める。
やってしまったか?
さすがに痛すぎたか?
後悔が襲ってくる。
だから「リア」にはしたくなかったのだ。
「か……」
ん?
「「「「「「「「かっこいいいいいい!!!!」」」」」」」(っぽい!)」
えええええええええええええええええええ!?
大淀「提督、すごいかっこよかったです!」
明石「この戦い、絶対に勝ちましょうね!提督!」
霧島「素晴らしい演説でした、司令!」
夕張「どんどん私たちを使ってね?」
夕立「提督さんのためなら、夕立どんどん強くなれるっぽい!」
霞「ま、まぁ、少しは見直したわ。少しだけね」
間宮「私も給糧艦として、おいしい食事を振舞いますね!」
隼鷹「つらい時は一緒に呑んでやるよ~。いい酒、あるぜ~?」
「みんな……」
正直、やってしまったかと思っていた。
でも、そんなことは無かった。
ちゃんと、伝わっていたのだ。
あれ、なんだか視界がぼやけてきた……。
あぁ、泣いてるのか、僕は。
こんなこと、初めてだ。
みんなが駆け寄ってくる。
心配を、してくれているのかい?
だいじょうぶだよ、どこも痛くない。
これはね。
嬉しくて
泣いているんだ。
この子達となら、本当に世界を救えるかも。
そんな気がしてきた。
僕は今日、初めて泣いた。
しばらくは作戦行動が無いらしいので暇かというとそうではなく、ここ大湊警備府の工廠は彼女らにとっての「戦場」だった。
隼鷹「ああっ!また失敗したぁ!」
「ええぃ怯むな!次は20/60/10/110で百回回せ!」
隼鷹「うわ~ん!もう艦載機レシピはいやだぁ~!」
「泣き言言うな!もし烈風出せたら酒買ってやるから!」
隼鷹「まじ!?約束だよ?」
「わかったからさっさと回す!」
明石「提督!36センチ砲の回収、終わりましたーっ!」
「よくやった明石!ネジは何本使った?」
明石「25本です!」
「次は20本に減らせ!」
明石「了解しましたぁあ!」
霧島「司令!32号、出ました!」
「でかした霧島ァ!レシピは?」
霧島「10/11/251/250です!」
「よし、それ電探レシピ候補に追加あぁ!」
霧島「はい!」
と、こんな感じで平時からここは大忙しだ。
大湊警備府が発足してからというものの、各地から開発・改修依頼が来ててんてこ舞いだった。
皆、油と煤にまみれながら必死に装備開発を続けている。
僕もまだ確定していない開発レシピを探り出すべく様々なレシピを試させているが、まだこれといったものは見つかっていない。
艦載機レシピは20/60/10/110が一番怪しいんだが……。
隼鷹「提督~!烈風、できたよぉ~!」
おっと、どうやら予想はいい線いってる様だ。
「そのまま残りも回してしまえ!隼鷹!」
隼鷹「そうだねぇ~烈風や流星。これでいきたいねえ。かっははー!」
これで艦攻や艦爆が出てくれば艦載機レシピは確定だな。
ふと時計に目をやると、もうマルマルマルマル。
ということは、二日も寝てないことになる。
にもかかわらず、艦娘たちは疲れた様子を全く見せない。
やはりアンドロイドだからか……。少し、羨ましい。
艦娘にも悩みとか、あるのかな。
何となく、そんなことを考えてみる。
自分自身の存在について、考えたりしないのだろうか。
たぶん、そうは出来ていないのだろう。
痛みは感じるのだろうか。
感じるのだろう。さっきも明石が自分の指をハンマーで叩いて痛がってたから。
意味のない自分の考えに自問自答を繰り返す。
おっと、いけないいけない。いつの間にかセレクターが「フロント」に切り替わっていた。
即座にリアに切り替える。
カチン、カチン
思考が冴えていく。
やっぱり、現場に立つときはこうでないと。
とはいえさすがに限界が近かったので、今日は寝ることにしよう。
艦娘たちに作業終了の指示を飛ばした後、私は寝室へよたよたと向かうのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~
シャワーを浴び、ベッドに入った後、僕はこの「能力」について考えてみた。
僕には三種類の人格、というか思考回路を切り替える能力があった。
切り替えるときには、エレキギターのピックアップセレクターをイメージする。
これは本来、エレキギターについているピックアップというマイクを切り替えるものだ。
思考回路をピックアップに見立て、それをセレクターで切り替える。
それが一連の流れだった。
まず一つ目は「フロント」。
これはよく、物事をじっくり考える時に使う回路だ。
その代り、思っていることを口に出しづらくなる。
初日に霞に指摘されたのは、このためだ。
二つ目は、「リア」。
これは、いわゆる考えがすぐ口に出る回路だ。
だから出てくる言葉は常にダイレクト。
現場で直接指示を飛ばすときには重宝する。
演説した時もこの回路だったな。
最後は「センター」だ。
これはリアとフロントの中間だ。
日常生活ではいつもこれにしている。
普通に話せ、普通に考えられる。
後、精神的にも一番楽だ。
まあ、早い話が三重人格だ。
だが、これの最大の利点は自分でコントロールできることだと思う。
これが暴走したら、手に負えなくなるだろう。
まあ、大丈夫だとは思うが。
そんなことを考えているうちに、僕の思考は眠りの奥へと誘われていった。
~~~~~~~
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~~~~~
~~~~
~~~
~~
~
気が付くと、僕は艦娘たちに囲まれていた。
皆、無表情だ。
顔を直視できない。
視線を、下へ落とす。
誰かが、口を開く。
「あなたはクズだ」
何を言っているんだ。
「口先だけの役立たず」
やめてくれ。
「その腕で、何体壊した?」
ヤめロ。
なんでそんなことを聞く?
「あの時の言葉は、嘘だったのか?」
たまらず、訪ねる。
「当たり前でしょ。何言ってるの?」
……。
「私たちはアンドロイドですよ?」
それ以上言うな。
「すべてプログラムを実行してるだけ」
嘘だ……。
「艦娘は司令官に従うようにプログラミングされているわ」
皆が離れていく。
待ってくれ、頼む。僕を一人にしないでくれ。
一人の手をつかむ。
その腕はいともたやすく引きちぎれた。
中身は、からっぽだった。
顔が、こちらに向けられる。
「私たちは、提督に従うだけの」
「人形よ」
「中身なんて、あるわけないじゃない」
恐る恐る顔を上げ、顔を見る。
その顔は
あまりにも綺麗で
あまりにも虚無だった
~
~~
~~~
~~~~
~~~~~
~~~~~~
~~~~~~~
目覚まし時計が鳴る。
時刻はマルロクマルマル。
ずいぶんと嫌な夢を見た気がする。
ベッドは、雨にでも降られたんじゃないだろうかと思うぐらい濡れていた。
なぜか手に違和感を感じる。
突如、胃から突き上げるようにして吐き気がこみ上げる。
僕は急いでトイレに向かい、吐いた。
最悪な目覚めだ。
吐いても手の違和感は消えず、十分ぐらいだろうか、ずっと手を洗い続けた。
手のひらは自分の血がにじんで、熟れたイチゴの様にグズグズだった。
こん こん
執務室の扉がノックされる。
大淀「大淀です。朝食をお持ちしました」
「入っていいよ」
大淀「失礼します」
扉が開き、大淀が入ってくる。
お盆には、パッと見でもおいしそうな朝食が並んでいた。
しかし、あまり食欲はn
ぐううぅぅぅう
……。
さっき戻したばかりだというのに、体は正直だった。
「ちょうど腹の中が空っぽになっていたところだ。ありがたく頂くよ」
そういうと大淀はそっと微笑んでくれた。
すこしドキッとしてしまったのは内緒だ。
「この朝食は大淀が作ったのかい?」
大淀「はい!……間宮さんのほうが、よかったですか……?」
「いや、そんなことは無い。とてもうれしいよ」
大淀「ありがとうございます……」
そういうと大淀は頬を真っ赤にして俯いてしまった。
うーん、あざとい。かわいい。
「大淀は、もう食べたのかい?」
大淀「いえ、まだですけど……?」
「なら一緒に食べよう」
大淀「……よろしいのですか?」
「良いも何も、僕が食べたいんだ。大淀は、嫌か?」
大淀「嫌だなんてそんな、むしろ嬉し……はっ!?」
ベタな展開、だが、それがいい。
大淀「と、とにかく!私の分も持ってきますので、提督は冷めないうちにどうぞおさきに!」
そういうと大淀は、茹蛸のように顔をさらに赤くして、行ってしまった。
少し、からかいすぎたかな。らしくもない。
でも今日ぐらいは、許してほしい。
僕だって、怖くてたまらなくなる時ぐらいあるのだ。
いつかこの日常が失われてしまうのではないか。
せっかく見つけた、僕の居場所。
また失うなんて、死んでもごめんだった。
大淀と食べる朝食は、おいしかった。
作ってくれたこと自体が嬉しかった。
でも、なんでだろう。
完食したはずなのに
おいしかったはずなのに
元から何も盛られて無かったような
何も食べてなかったような
そんな不思議な気分だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
僕は今、先日開発できた新艦載機の試験をしている。
協力してもらっているのは、我が警備府唯一の空母、隼鷹だ。
隼鷹に艦載機を飛ばしてもらい、運用の際の注意点などを探る。
今は烈風の試験が終わり、「流星改」に入るところだ。
隼鷹「提督~!はじめるよ~?」
準備が終わったらしい。
「よし、では流星改の運用試験を始める。発艦始め!」
隼鷹「よーし!攻撃隊!発艦しちゃってー!」
彼女の発艦方法はかなり特殊だ。
切り紙人形を飛行甲板を模した巻物に通し、式神として召喚。艦載機として飛ばしている。
ずいぶんとオカルトチックな発艦方法だが、かさばらないのでぶっちゃけ楽だ。
上空にはすでに一機の流星改が待機している。
最初は機動性の試験だ。
「まずは思いっきり飛ばして、限界を探ってみてくれ」
隼鷹「了解!」
命令を受けた流星改は即座に上昇に転じる。
魚雷は抱いていないが、攻撃機とは思えないほどの上昇性をソイツは見せていた。
本物の流星改には諸説あるが、エンジンを誉一二型から二三型に換装し、性能を向上させたのが、この「流星改」である。
日本軍機にしては珍しく2000馬力級のエンジンを積んでいるからこその、あの上昇力だ。
強力なエンジンと洗練された空力性能、可動フラップの採用により、攻撃機にあるまじき機動力を備えている。
「凄い……!」
思わずつぶやいてしまうほどに、圧倒的だった。
機体性能もだが、隼鷹も凄い。
ループ、バレルロール、シャンデル、インメルマンターンなどの空戦機動を、いとも簡単にやってのける。
流星改はかなり重い機体の筈だが、全くそれを感じさせない、優雅で美しい機動だった。
「よし!次は雷撃、爆撃試験だ!」
隼鷹「了解~!」
試験は順調に進み、試験結果は「合格」だった。
量産型としては「流星」が配備されるだろうが、エース部隊には流星改が配備されることだろう。
この機体にはそれだけの価値があった。
隼鷹「提督、おつかれさんっ!」
「お疲れ、隼鷹」
どうやら機体の収容が終わったらしい。
「どうだ。この後、一杯やるか?」
隼鷹「おっ、いいねぇ~!提督太っ腹~♪」
「僕が出すとは言ってないけど?」
隼鷹「えぇっ!そんなこと言わないでよ~!」
「冗談だ、そんな顔するな。綺麗な顔が台無しだろ」
隼鷹「なっ……!?」
肩がビクッと跳ねる。顔が赤いのは夕日のせいか、はたまたそれとも。
「ほら、さっさとしないと酒が飲めなくなるぞ」
隼鷹「あぁっ!それだけはヤダあぁぁあ!」
まったく、弄りがいのある奴だ。
まあ、嘘は言ってないし、いいか。
本人もまんざらでもないようだしな。
さあ、今日は久しぶりに空けるか。
今朝感じたあの不思議な感じは、もう無かった。
「……督、提督!」
体が揺らされる。
ゆっくりと瞼を開ける。
目に光が突き刺さる。
何度体験しても、この目が覚める瞬間というのは慣れない。
「……大淀、おはよう」
大淀「おはようございます、提督。マルナナマルマルです」
もうそんな時間か。
今日は食堂で食べよう。
~~~~~~~~~~~~
食堂に入ってすぐ横にある食券機で食券を買う。
むう、どれにしようか、迷う。
和風定食は鉄板だが、今日はシンプルにホテルロールでもいいかもしれない。
もちろん、すべて間宮さんの手作りだ。
本人曰く、ジャムやバターまで手作りらしいが……。
え、バター?
……何を考えているんだ、自分。
邪な考えを即座に頭からつまみ出す。
大淀はホテルロールにするようなので、結局僕もそうすることにした。
食堂には僕らのほかに霞と夕立がいた。
せっかくなので、隣に座って呼ばれるのを待つ。
「夕立、霞、隣、いいかな」
夕立「夕立は大歓迎っぽい!」
霞「まあ、いいんじゃない。勝手に座れば?」
大淀「私も失礼しますね」
僕は夕立の前に、大淀は霞の前に座る。
テーブルを見ると、どちらも和風定食を食べていた。
意外だ。
霞はともかく、夕立はてっきりパン食かと思っていたが、そうでもないらしい。
夕立「意外っぽい?」
夕立が聞いてきた。
「正直ね」
隠す必要もなさそうなので、正直に答える。
夕立「実は夕立、パンは苦手っぽい」
「へぇ、本当に意外だな。なんで苦手なんだ?」
夕立「口の中がカラカラになる感じがダメっぽい……」
どうやら艦娘にも好き嫌いがあるようだ。
それもプログラムによるものなのだろうか。
しかし、そんなもの艦娘に必要なのだろうか。
そもそも、艦娘というのはどうしてこんなに人間臭いのだろう。
戦うためだけなら、感情ほど邪魔なものはない。
ただ、艦娘のソレは感情と呼べるものなのか。
僕にはわからなかった。わかるはずないのだ。
確かめたい。
間宮「提督~!大淀さん~!できましたよ~!」
僕を呼ぶ声によって、思考が中断される。
どうやらホテルロールが焼きあがったようだ。
朝食を取って戻ってくる。
霞「司令官はパン派なのね」
「いや、どちらかといえば和食派さ。今日はたまたま」
霞「そう。私も同じよ」
そういうと霞はこちらに身を乗り出してきた。
近い近い!
もう少しで鼻の先がつきそうだ。
思わず距離を取る。
そこで彼女は、衝撃的な一言を口にした。
霞「司令官、明日も一緒に食べない?」
いきなりどうした。
霞の性格からして絶対に言わないような言葉を口に出してきた。
「僕は一向に構わないが……どうしてだ?」
霞「あら、一緒に食事を取るのに理由が必要?」
顔に小悪魔的な微笑を浮かべてこちらを見つめる。
ホントどうした。
らしくないぞ。
霞「私と司令官、似てる気がするのよ」
「どこが」
思わず聞き返す。
霞「さあね、知らない」
なんだそりゃ。
霞「ごちそうさま、行くわよ、夕立」
夕立「ああっ!まだ少し残ってるっぽい!」
霞「ちゃっちゃと食べなさいったら!この後隼鷹さんと対空演習でしょ!」
夕立「わ、忘れてたっぽい!?」
そういうと夕立は残っていたご飯を掻き込み、霞と共にあっという間に行ってしまった。
残された僕と大淀は、しばし呆然としていたが、思い出したように食事を再開する。
大淀が、口を開いた。
大淀「霞ちゃん、やけに積極的でしたね」
「まったくだ、ホント、どうしたんだろうな」
大淀「まあ、いいことなんじゃないですか?提督」
「クズ司令官と呼ばれるよりはね」
大淀「そんなこと言って、ホントはまんざらでもないくせに」
「うるさい」
さっきの霞は、ずいぶんと大人の雰囲気を出していたように思う。
なんというか、すごく妖艶だった。
あれが本当の霞、なのだろうか。
分からない。
僕には分からないことだらけだ。
タシカメタイ。
~~~~~~~~~
午前中は開発と執務に追われていたため対空演習を見ることはできなかったが、どうやら隼鷹の勝ちらしかった。
二対一で勝ったのか。
先日の運用試験の時のあの優雅な機動を思い出す。
あんな機動をされれば、対空砲なぞあてられる気がしない。
まあ、当てられるようになってもらわないと困るが。
当分は対空演習で決まりだな。
そんな事を考えてると、時刻はヒトヨンマルマル。
午後はヒトゴーマルマルから装備の試験演習がある。
さっさと執務を終わらせないとな。
~~~~~~~~~~~~~~~
さあぁて、今日の装備は~?
「20.3cm(3号)連装砲」~!
え、重巡が居ないじゃないかって?
HAHAHA!
そこに夕張がおるじゃろ?
これを明石に渡すと……
こうじゃ!
……悪ふざけはこの程度にしておこう。
嘘は言ってないけど。
スタッフ「これより20.3cm(3号)連装砲の試験演習を始める!」
スタッフ「始め!」
どうやら始まったようだ。
チームは夕張、夕立、霧島のAチームと、大淀、霞、隼鷹のBチームに分かれる。
慣れない装備だろうけれど、実戦だと思って頑張ってもらおう。
~~~~~~~~~~~~~~
あいにく、急な開発依頼が舞い込んだので演習は見られなかったが、演習終わりに工廠へ夕張が来た。
「3号砲はどうだった、夕張?」
夕張「もうサイコーよ!ずっと積んでいたいくらいだわ!」
随分とご満悦の様子だ。
「そりゃよかった。で、結果は?」
気になったので、演習の結果を聞いてみる。
夕張「残念、負けちゃったわ。隼鷹さんが強すぎるのよ!」
本人曰く、第一波は防ぎ切ったのだが、第二波とともに大淀たちが突撃、夕立が大破。霧島が中破。
こちらは霞を大破させたが、引き上げたと思ったら第三波が来襲。防ぎきれず、負けたらしい。
夕張「だってこっちの対空射撃、全部かわして爆撃してくるのよ、信じられない!」
やっぱり、隼鷹は一流のようだ。いや、一流ってレベルじゃない。
まあ、おかげでいいデータがバンバンとれるのはありがたいことだ。
さて、結果は報告してもらったし、あとはデータと照らし合わせてまとめるだけだ。
今日は徹夜にならずに済みそうだ。
~~~~~~~~
~~~~~~~
~~~~~~
~~~~~
~~~~
~~~
~~
~
……此処は、何処だ?
何も、見えない。
何も、聞こえない。
寒い。
「誰か、いるのか?」
返事は、無い。
怖い。
寒さが増しているにもかかわらず、僕の身体からは汗がとめどなく溢れてくる。
額の汗を、拭おうとする。
だが、腕は一向に動こうとはしない。
目を腕の方向に向けようとする。
しかし、それすらも動かすことは叶わなかった。
試しに歩いてみる。
うまく歩けた。
兎に角、前へ前へ進む。
汗が、目に入る。
目の奥の方に、半田ごてを押し付けられたような痛みが走る。
あまりの激痛に足がもつれる。
そのまま右肩の方から転倒してしまった。
そして僕は、一つの事実に気が付いてしまった。
腕が、無い。
本来ならば体の下敷きになっている筈の腕が、無いのだ。
何も見えてはいないが、身体も、脳も、そう訴えていた。
気を抜けば溢れ出そうになる絶叫を、必死に噛み殺す。
と、その時。
「司令官」
誰かの声が聞こえた。
「こっちよ、司令官」
声の主は、徐々に、近づいてくる。
首を声の聞こえる方に回しても、何も見えない。
何処だ、何処にいる?
「此処よ、司令官」
声の主は、耳元で、そう囁く。
直後、身体中を百足が這いずり回ったような、そんな感覚に襲われる。
「こんな姿になっちゃって……可哀想な司令官」
この声は、危ない。
直感的に、そう思った。
「ねぇ、司令官」
その声の主は、甘く、柔らかく、しかし芯の通った声で、僕を蹂躙する。
「怖い?寒い?痛い?貴方は今、どんな気持ちなのかしら?」
唇を血が滲むほど噛み締める。
そうでもしないと、今すぐにでも意識が飛びそうだった。
「私はね、司令官」
奥歯が鳴る。
唇から、前歯が離れる。
「貴方のこと、もっと知りたいの」
震える顎を地面にたたきつける。
「『確かめたい』の」
理性のタガが外れそうになるのを、、必死に抑え込む。
「貴方は、どう?」
「確かめたく、ない?」
声の主は僕の正面に来たようだが、やはり何も見えない。
「やっぱり、私と司令官って、似てると思うのよ」
「……どこが」
辛うじて、聞き返す。
声の主は、僕の顎をつかみ、前を向かせた。
「本当の温もりを、知らないところ」
唇が、塞がれる。
抵抗しようにも、腕はなく、力は既に入らなくなっていた。
舌を、犯される。
必死に繋ぎとめていた理性も、この行為の前には無力だった。
隙間から漏れ出る吐息がやけに扇情的で、いつの間にか僕からも求めてしまっている。
長いようで短いような、はたまたそんなことはしていなかったような、そんな不思議な時間だった。
「ねぇ」
先ほどまで求め合っていた唇から、蕩けるような声が聞こえる。
「抱きしめて」
僕の意識は
その言葉に耐えかねたかのように
落ちた
~~~~~~~~~~~
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~~
~
ふと気が付くと、僕はベッドの上で寝ていた。
腕は、ある。
目も、見える。
あれは、夢だったのか。
やけにリアルな夢だった。
時刻を確認すると、マルロクサンマル。
そろそろ起床の時間だ。
僕はベッドから起き上がり、洗面所へと向う。
唇は寝起きにもかかわらず、しっとりと、濡れていた。
今日の任務はいよいよ補給任務だ。
それも、空母機動部隊の連れ添いとして。
いよいよもって大湊警備府が後方支援部隊なのだということを実感させられる。
だが、僕はこの大湊警備府に誇りを持っている。
この任務は我々にしかできないのだ。
そう思うと、やはり内から湧き上がる高揚感、優越感を抑えきれない。
そろそろ、艦隊出撃の時間だ。
作戦内容は前もって伝えているから、見送りだけでいい。
よし、埠頭に行くとするか……。
~~~~~~~~~~
大淀「では、大湊補給艦隊、抜錨致します」
「ああ、くれぐれも潜水艦には気を付けてよ」
隼鷹「まあ、あたしがいるから大丈夫だろ、な?」
霧島「貴女が言うと、妙に説得力があって困るわ……」
「ははっ、本当に頼りになるよ、隼鷹」
隼鷹「へへん、いい酒、買っておけよ?」
「もちろん」
夕張「そろそろ時間ね。いきましょう」
霞「じゃあ、行ってくるわね」
夕立「さあ、ステキなパーティしましょ!」
「ちゃんと成功させて来いよ~!」
……行ったか。
これまで輸送任務や小規模な補給任務はこなしてきたが、ここまで大規模な作戦への参加は初めてだ。
しかし、不安はほとんどなかった。
彼女らなら必ず成功させてくる。
そんな確信が胸の中にあった。
それに、直接戦闘に参加するわけではないのだ。
行きは補給艦兼護衛艦として機動部隊に随伴し、戦闘中は機動部隊の後方で待機、終了後、帰り分の燃料補給をしてそのまま帰投という流れになっている。
比較的軽微な損傷の艦は明石が直し、中破以上の艦はドッグにて修復というアフターケア付だ。
ここまでされれば機動部隊の面々も文句は言うまい。
なにか連絡があるまでは明石と開発、改修をするつもりだ。
いや、たまには建造もしてみるか?
そんな事を考えながら、僕は工廠へと向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~
作戦終了の報が届いたのは、三十時間後のマルロクヒトマルであった。
ひとまず、作戦は終わった。
後は帰路だけだ。
報告を聞く限り喪失艦はいないようだが、空母「赤城」「翔鶴」、戦艦「霧島」、駆逐艦「秋月」「霞」が中破、「飛龍」「蒼龍」など小破艦多数。といったところらしい。
これは修羅場の予感だ。ドッグと高速修復剤、明石をフル活用しなければいけないな。
艦載機の整備も必要だ。
頭の中で次々とスケジュールが組みあがってくる。
さあ、今度はこちらが戦う番だ……!
この時点では、まだ僕は歪んでいなかった。
だが、もう兆候はとっくに表れていた。
既にあんな夢を見ている時点で、もう僕の心は歪んでいたのだ。
それが、形は違えど表に出ただけ。
ただ、それだけのことだった。
艦隊が帰投したのは連絡を受けてから約八時間後、ヒトヨンサンマルだった。
激戦を潜り抜けてきた彼女らの姿は、凄惨というほかなかった。
それぞれが体のどこかしらを損傷、欠損しており、無傷な艦など一つもなかった。
大湊所属の艦娘の中では、霧島と霞が一番の損傷だった。
霧島は第一、第二主砲塔とともに右肩から下が吹き飛んでおり、魚雷を受けたのか、左足がぐちゃぐちゃになっている。
霞は頭部の損傷が酷く、顔の四分の一程が抉れて内部が露わになっており、片方残った眼球からは、生気や光といったものはまるで感じられなかった。
その眼は、もはや彼女は壊れてしまっていて、ガラクタになってしまったのではないかと不安にさせる。
しかし僕は、ひびの入った水晶のようなその濁った眼に、不思議と魅入っていた。
どこか懐かしいこの眼は、そう、かつて父が買ってきてくれた人形の眼にそっくりだった。
眼だけではない。今の彼女のありとあらゆる部位が僕の深層心理を引きずり出すような気がしてやまない。
記憶が、蘇る。
触れたものをすべて壊してきた、あの頃。
皆に蔑まれ、忌み嫌われた、あのコロ。
愛した人を殺した
アノトキ
思い出すたび、夢を見るたび、たまらなく不安になる。
確かめたい。
僕は温もりを、知らない。
たしかめたい。
艦娘たちの本当の気持ちを、知らない。
タシカメタイ
その不確定な愛は、また壊れてしまうのか?
確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい確かめたい
霞「司令官」
霞の、声がする。
「私、寒いわ」
僕に、近づいてくる。
今にも凍え死んでしまいそうな、そんな顔で。
霞が、僕の腰にその小さな腕を回した。
霞のからだは、つめたかった。
腕がただ一つの衝動にのみにしたがって、霞の背に伸びる。
確かめたい。
とうとう、抱きしめてしまった。
霞から聞こえる、歪んだ音
背骨が、徐々に反っていく
腕があらぬ方向へ曲がっていく
温もりは、感じられない
あゝ
マタ、コワシテシマッタ
霞が、ひしゃげた顔をこちらに向ける。
艦娘が痛みを感じるとすれば、かなりの激痛な筈だが、霞は。
まるで母に抱かれた赤子のように、安らかな顔だった。
体が壊れていく異音とともに、彼女の口から声が漏れる。
それは、あまりにも甘い声色で。
今の僕を壊すのには十分過ぎた。
霞「ふふっ、司令かン、アたたかイ」
いままで心の奥底に封印してきたこの醜く、危険で、忌々しく、甘い、この衝動に僕は身を委ねた。
思考回路のセレクターが、すべて焼き切れる。
つぎ起きた時には
僕は僕のようなナニカに
変わり果ててることだろう
消えゆく意
識
の
中で
そんナコ
とを
omもっt
意 識 が
~~呑~~~ま~~~~~~
~~~~~~~~~~~~
~~~~れ~~~~~~
~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~
~~r~~~~~~
~~~~~~~
~~~~~
~~~~~
~~~~
~~~
~~
~
「んっ……」
大淀「提督、おはようございます」
どうやらいつの間にか寝込んでいたらしい。
寝込んでいた……?
「っ!?」
いったい何を呑気に寝ているんだ、僕は。
たしか艦隊が帰投して、それで……。
あれ?
それで、なんだっけ?
いくら思い出そうとしても、磨りガラスのように頭の中は不透明だ。
記憶が混濁しているらしい。
「大淀……。僕はいったい、何をしていた?」
大淀「何を、って……それは、艦隊の修理と補給です、けど……」
「本当に、僕は、現場で、指示を、出したか?」
多少、詰問気味に問う。
やや間があって、大淀が口を開く。
大淀「えぇ、素晴らしい指示でしたよ」
沈黙が、場を支配する。
大淀は、嘘をついている。
だが、僕が思い出せないのであれば、この嘘が真実になる。
嘘が嘘になるのは、真実があるときだけだ。
真実がなければ、嘘は真実となり得る。
だが、僕に嘘をつくメリットが果たしてあるのだろうか。
わからない。
大淀「朝食の時間です。食堂に行きましょ?」
余計な詮索はするなと言わんばかりに大淀がせかす。
しかし、お腹も空いたし、頭もいまいち回らない。
これは従うほかなさそうだ。
僕はさえない頭を振りつつ、食堂へと向かった。
~~~~~~~~~~~~~
朝食後は依頼されていた艦娘の建造を行うため、僕は工廠へ足を運んだ。
最近は開発依頼も少なくなっていたが、それでも開発レシピを安定させるべく、日夜開発にいそしんでいる。
そんな油と金属音が入り混じるような空間に、ピンク色の髪の艦娘がひとり。
明石だ。
明石「提督、もう建造は完了してますよ!」
「了解!『アレ』に接続しておいてくれ!」
明石「はーい!」
明石は慣れた手つきで、建造された「モノ」を隣の部屋へ運ぶ。
その部屋は、建造された「モノ」を「艦娘」に仕上げるための部屋だ。
通常、建造されたばかりの艦娘には意識というものが無く、ただの人形に過ぎない。
そこに「意識」をインストールして、「艦娘」に仕立て上げる。
この部屋は、その「意識」をインストールするための部屋だ。
部屋の壁はコンピュータ類でびっしりと埋め尽くされており、しかしどこかスチームパンク的な雰囲気も漂わせる。
中心には椅子が一つ置いてあり、その上からはジャングルのツタのようにケーブルが垂れ下がっている。
それと本体をつないで、インストールするのだ。
明石「では提督、始めます」
「うむ」
インストールするプログラムには、テンプレートがある。
艦種によってそれらを使い分けるのだ。
一個でも欠けると、艦娘として機能しなくなってしまう。
僕は一度だけ、そうなった艦娘を見たことがある。
その時はおそらく、身体を動かすためのプログラムが完全にインストールされなかったのだろう。
意識はあるが、身体を動かせないという金縛り状態のまま目覚めた。
声は出せるが、動きや表情は一切なかった。
最初はパニックになっていたが、現状を把握したのか急におとなしくなり、彼女は自嘲気味に呟いた。
「あぁ……。私は、失敗か。ははっ」
彼女の開きっぱなしの目からは、潮がとめどなく溢れていた。
あの時の無表情な、しかしどこかやりきれないような彼女の表情が忘れられない。
それ以来、インストールのミスは無い。
もっとも、あとから追加プラグインをインストールすることはできる。
しかし彼女の場合は、不完全にインストールされたためそれができなかった。
アンインストールも試したが、無駄だった。
彼女は解体室に回され、無慈悲にも生まれてから四時間と経たずにその一生を終えた。
明石「提督、プラグインはどうします?」
思考が引き戻される。
「依頼主からは、夜伽プラグインを入れてくれとの要望だ」
明石「えぇ……。アレですか?あんまり気は進みませんが……仕方がありませんね」
夜伽プラグインとは……まぁ、そういう知識を詰め込んであるプラグインのことだ。
提督個人の欲を満たすための場合もあれば、艤装を解除して民間に払い下げられることもある。(もっとも、艦娘であるということは伏せられるのだが)
基本的に艦娘は、何でもできるのだ。見た目も根本的な構造も人にそっくりなため、人にできることはあらかたできる。
しかし、人間ではないため、人間にできないこともやらされる。
彼女たちは、生まれながらにして人形であることを強いられているのだ。
インストールを終えた艦娘が、目を見開く。
「……ここは?」
明石「ここは大湊警備府ですよ、榛名さん」
榛名「そうですか……。貴方は?」
「僕はここの司令長官だ。気分はどうだい?」
榛名「はい、榛名は大丈夫です!」
「そりゃよかった。では、もう少しだけお休み……」
そういって僕は榛名の電源を切る。
潤っていた榛名の瞳から、見る見るうちにハイライトが失われていく。
そして、事切れたように四肢を投げ出した。
明石「正常に起動……っと」
「では早速○○鎮守府に輸送だな。近場だし、陸路でいいだろ」
明石「そうですね」
そういうと明石は、人形に戻った榛名を抱えて別の部屋へと消えていった。
人に魂が宿るなら、モノにも魂は宿るのかな
魂の重さは21グラムであると何かで読んだ気がする
果たしてそれは、何処にあるのか
それが生者だけにあるものなら、艦娘のあの人間臭い感情は何処から生まれてくるものなのか
分からない
たった21グラムの魂に、いったいどれだけの価値が秘められているのだろうか
いっそその21グラムが人に備わっていなければ、争いなど起きなかったのではないか
わからない
僕には、わからないことだらけだ。
ダメだ。
工廠で考えていたことが頭にこびりついて離れない。
他愛のないただの考え事だったはずなのに、どうも引っかかる。
結局午後の仕事は手につかず、大淀と霧島に任せてきてしまった。
こういう時は酒を飲むに限る。
だが、一人で飲むのでは気が紛らわせないし、味気ない。
そして、こういう時に適任な艦娘が一人、いる。
隼鷹だ。
彼女は兎に角酒好きだ。
そして、酔うと普段の立ち振る舞いからは考えもしないような性格に変貌する。
隼鷹「提督~、どうした?辛気臭い顔して~」
なんともタイミングのいい。
「ちょうどよかった。隼鷹、一杯付き合ってくれないか?」
隼鷹「おっ!提督からのお誘いとは珍しいねぇ。もちろんオーケーさぁ!」
「じゃあ、フタフタマルマルに執務室で」
隼鷹「りょーかいっ!」
さて、酒を買ってこないとな。
たまには少し高いのもいいだろう……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
時刻はフタフタマルマル。
そろそろ隼鷹が来るころだろうが……。
こんこん
扉がノックされる。
顔をのぞかせたのはもちろん、隼鷹だ。
隼鷹「やっほー提督!ゴチになります!」
「今日は少し奮発したんだ。しっかり楽しんでくれないと困るな」
隼鷹「マジで!?じゃあパーっといこうぜ~!」
こやつ、もう酔っているのでは?と思ってしまうくらいハイテンションだ。
まぁ、このテンションも長くは続きまい。
じきに大人しくなる。
~~~~~
~~~~
~~~
~~
~
隼鷹「で、今日はどうされたんですか?わざわざ提督からお誘いになるなんて」
隼鷹「ふふっ……今日は相談、乗ってあげますよ?」
たった一杯飲んだだけでこの変わりようだ。
てか、誰?
何回か一緒に飲んでいるから多少は慣れているが、普段とのギャップが激しすぎていまだに同一人物とは思えない。
隼鷹は、なぜか酒を飲むと物腰の柔らかい淑女へと変貌する。
これは豪華客船の頃の人格なのだろうか。
ある意味二重人格なのかもしれないな。もちろんいい意味で。
僕もさっそく悩みを打ち明ける。
「実は、魂について少し考えていたら、頭から離れなくなってしまって……」
隼鷹「魂?」
隼鷹は意表を突かれたような顔で僕を見る。
僕は続ける。
「魂は、何処にあるのかなって……」
「もし魂が人にしか宿らないとしたら……」
「君たちのその人間臭さはどこから来ているんだろう、って……」
話しているうちに、なんだか不思議な気分になってくる。
「確かに、君たちを建造するときには思考プログラムはインストールする」
酒が回ってきたのかもしれない。
「でも、それはあくまで人と係った時に違和感が無いようにって程度のモノなんだ」
舌が勝手に回り始める。
「なのに、君たちの振る舞い、言動、思考すべてが読めない」
徐々に視界が霞んでいく。
「僕はね、不安でたまらないんだ」
声の張りが、無くなっていく。
「君たちのその不確定な愛が」
意識が朦朧としてくる。
「偽物なんじゃないかって」
隼鷹「提督!!」
「!?」
隼鷹の声で朦朧としていた意識が連れ戻される。
自分でも何を言おうとしていたのか、はっきりしない。
たぶん、悪い方向へ思考が回ってしまっていたのだろう。
危険だ。
隼鷹「偽物なんかじゃ、ありませんよ」
隼鷹が普段とは違う、慈しみをもった微笑みで僕を見つめる。
隼鷹「提督は、艦娘の思考について、魂について、不思議がっていましたよね?」
その通りだ。
隼鷹「確かに私たちの思考はプログラムで成り立っています」
隼鷹「でもそれだけでは私たちは成り立たないんです」
隼鷹「先ほど提督は、『魂が人にのみ宿るのだったら』とおっしゃいましたよね?」
「違うのか?」
思わず疑問で返してしまった。
隼鷹「えぇ。確証はないのですが……」
隼鷹は少し間を置いた後、意を決したように僕の目を見据えた。
隼鷹「私たちも時々理屈では言い表せない、不思議な感情を持つことがあるんですよ」
隼鷹「それに時々、夢を見るんです」
夢?
「今、夢といったか?」
隼鷹は、頷いた。
艦娘は、非常時に対応できるように、夜はスリープモードでおいてある。
その時には思考回路などは全て切れているはずだ。
なのに、夢?
仮にもAIが夢などというものを見るのか?
思考プログラムには、夢を見るなんて機能は無いはず。
軽く混乱する。
隼鷹「夢の内容は、当時の艦船の時の出来事です」
隼鷹「客船時代の日常。非戦闘時の乗組員たちの会話。実戦」
隼鷹「その艦以外絶対に知らないような、そんな光景」
隼鷹「不思議だと思いませんか?アンドロイドが夢を、しかも本来なら知らないような夢を見るんですよ」
まったくだ。
隼鷹「だから私、思うんです」
隼鷹「私たちにも、艦としての魂が宿ってるんじゃないかって」
ふむ、艦としての。
ということは、轟沈した艦娘は21グラム軽くなるのか?
いや、そうとは限らないだろう。
そもそも魂というものがあるのかすらも定かではないのだ。
「魂……か」
だれともなくそう独り言ちる。
「他のところの艦娘には宿っているのか?」
隼鷹「どうでしょう……提督ご自身が会ってみれば分かるのでは?」
「それもそうだな」
僕は、おそらくだが他の所の艦娘には魂は宿っていないと思う。
根拠は、無い。
だが、なぜか僕は確信に似たものを持っていた。
ちょうど明日は改装済みの兵装を受け取りに、わざわざ提督と秘書艦自らがここに来る。
その時に少し話を聞いてみるか。
「隼鷹、今日はありがとう。少し、楽になった気がするよ」
隼鷹「こちらこそ。お酒、おいしかったです」
ではまたと言い残して、隼鷹は執務室を出て行った。
時刻はマルヒトマルマル。
これ以上起きていると仕事に支障が出てしまう。
大人しく寝よう。
僕は歯を磨いて、いそいそとベッドへ潜った。
擬似的な魂は、作れるのだろうか
眠りに落ちる瞬間に、ふとそんな考えが頭をよぎったが、押し寄せる眠気の前にあっけなく攫われていった。
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大淀「提督、○○鎮守府の提督がお見えになりました」
「おっ、早速来たか」
今日は他の鎮守府から提督がわざわざ装備を引き取りに来る。
なぜかと聞けば単純に興味があるからだそうだ。
変わり者だと思う。もっとも、人のことは言えないが。
提督は、秘書艦とともに執務室へ入ってきた。
他提督「どうも、○○鎮守府の提督です」
「どうも。今日はわざわざありがとうございます」
他提督「はっはっはっ!むしろこっちが押しかけてきたようなものだ。気にする必要はない」
さて、まずは装備を渡してしまうとするか。
「こちらが、装備となっております」
他提督「ほう、これが……」
そういうと他提督は息をのんだ様だった。
今回依頼を受けた装備は、46cm三連装砲。
史実では大和型のみが積むことを許された、最強の砲。
こいつは、あらゆる意味で規格外だった。
故に、金と時間と手間がかかった、とても高級な装備だ。
おいそれと作ることもできないし、積むこともできない。
それだけの価値が、こいつにはある。
他提督「さすが大湊警備府だ。あらゆる依頼をきっちりとこなす」
「いえ、それが我々の仕事ですから」
他提督「謙遜しなくてもいいんだよ。それだけ信用されているということだ」
他提督「……さて、報酬だが……」
そういうと他提督はバッグから書類を取り出し、テーブルの上にそっと置いた。
他提督「元帥から第二艦隊の解放権を取り付けてきた」
第二艦隊の解放権だと?
よくもまあ取り付けてきたものだ。
だが、わが艦隊には第二艦隊を運用するほどの戦力はない。
そんな現状を見越してか、他提督はさらに言葉を重ねる。
他提督「それと同時に、こちらも艦娘を用意させてもらった」
他提督「入ってきたまえ」
そう言って指を鳴らすと、艦娘が一体、入ってきた。
髪はショートカットで、どこか快活そうな雰囲気を醸し出しており、服は霧島と似た様な格好である事から、おそらく金剛型であると推測できる。
僕の前に立った彼女は、敬礼をしながら
「金剛お姉さまの妹分、比叡です」
とハキハキした口調で語った。
敬礼は、絵に描いたように完璧だった。
他提督「高速戦艦。いや、練習戦艦の比叡だ。経験は改ニ相当に積ませてあるから、何時でも改装して構わない」
比叡「はい!金剛お姉さまに近づけるよう、頑張りました!」
改ニ相当というと、数値で言えば75辺りだろうか。
かなりの手練れだ。
だが、そんな主力級の、しかも戦艦を手放しても良いのだろうか?
「よろしいのですか?ここまで経験を積ませたとなると、相当な手間と時間がかかったでしょう」
当然の疑問を呈すが、他提督はあっけからんとした表情で答えた。
他提督「確かにそうだが……ウチに他の金剛型はいないし、何より君の所には霧島が居るだろう」
他提督「姉妹艦を揃えると、足並みも揃って作戦行動が楽になる」
成る程。今まで姉妹艦というものとは無縁だったから考えもしなかったが、確かにその通りだ。
それに、と他提督は付け足した。
他提督「彼女は夜戦の経験も豊富だ。君のどんな要望にも応えてくれるだろう」
夜戦?
確かに比叡は第三次ソロモン海戦に参加し、探照灯照射などをしてはいるが……。
まぁ、頼もしい限りだ。今度霧島と夜戦演習でもさせてみるか。
他提督「じゃあ比叡、新しい司令の下でも頑張るんだよ」
比叡「はい、司令!お世話になりました!」
他提督「では司令長官殿、私はこr」
「一つ聞いても宜しいですか?」
まだだ。まだ重要なことを聞いていない。
他提督「何でしょうか?」
「艦娘の、感情、魂について、どう思いますか?」
他提督は、少し考えた後、頬を軽く引き攣らせながら、
他提督「そんなモノが彼女らにあるのなら、とっくに身を固めてますよ」
そう言うと他提督は、装備を秘書艦にもたせ、執務室を後にした。
大淀は他提督の見送りに出た為、執務室には、僕と比叡が残った。
しばし沈黙。
静寂を破ったのは、僕だった。
「比叡、君に聞きたい事がある」
比叡「はい、何でしょうか?」
「君は……夢を見た事があるか?」
比叡「……いえ、ありませんが?」
そう言う比叡の顔は、少し訝しげだ。
「じゃあ、こう……理屈では無い感情というか、不思議な気持ちになったことは?」
比叡「司令、申し訳ありませんが、質問の意味が理解できません」
やはり、か。
他所の艦娘に、魂は無い。
少なくとも、人間の様な柔軟な感情は無い。
だが、此処に何か原因があるとしたら、此処で過ごす事で彼女にも変化が訪れるのだろうか?
もしそうなったとして、一体此処には何があるんだ?
ただ、ただ、不思議だった。
暫くの間、僕は比叡がいるのも忘れて、メビウスの輪の様に終わりの無い思考に囚われていた。
早速というか、比叡を改ニにして近代化改修を施し、演習で実力を見ることにした。
取り敢えず霧島と一対一で昼、夜二戦をさせる事になり、僕はこうして演習場に来ている。
比叡「私、負けませんから!」
霧島「データ上では私の方が火力が高い……経験を考慮しても……この戦い、勝てます!」
双方共に士気は高いようだ。姉妹だからといって手は抜かないらしい。
さて、お手並み拝見といこう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
結果を言おう。
昼戦は霧島が、夜戦は比叡が勝利した。
だが、内容的には比叡の方が圧倒的と言えた。
夜戦が、凄かった。
確かに得意とは聞いていたが、これ程までとは思わなかった。
鬼神のごとき戦い方でありながらもその表情は恍惚としており、どこか狂気さえ感じられた。
夜戦開始で即探照灯照射して初弾命中を叩き出した時は、何かの間違いかと思った。
果たしてこの異常な夜戦慣れはどうしてだろう。
「なぁ比叡」
比叡「はい司令、何でしょうか?」
「どうしてそんなに夜戦が得意なんだ?」
単刀直入に聞く。
すると比叡は、意外な答えを返してきた。
比叡「前の司令に特訓して貰ったんです!」
これは驚いた。
あの他提督は艦娘に直接指導しているのか。
素晴らしいことだが、大規模な艦隊を持っているとなるとそう簡単に出来ることではない。
比叡「司令との夜戦はとっても興奮するんです!」
楽しく身につけられる訓練とはまさに理想じゃないか……!
比叡「いつもは一対一なんですけど、時々他の娘と一緒にしたりして」
基本はマンツーマンなのか。
我が艦隊の演習にも採用しようかと思ったが、自分にはそのノウハウが無いことに軽く絶望する。
比叡「司令が忙しい時は一人でしたりもしますね」
一人で自主練か。向上心があって良いことだ。
比叡「司令!」
「何だ?」
比叡「お近づきの印に、私と夜戦、しませんか?」
これは、チャンスでは無いか?
おそらく、比叡程夜戦が得意な艦娘も中々いないだろう。
彼女からノウハウを学ぶことができれば、艦隊の強化に繋がる。
「分かった。では何時頃がいい?」
比叡「では22時頃でお願いします!」
「分かった。では待ってるぞ」
比叡「はい!司令との夜戦、楽しみだなぁ〜」
そう言って比叡は執務室から退室していった。
男ならちょっと考えれば気付くような事だったのだが、何というか、僕はこういう事に疎かった。
比叡の言う「夜戦」が隠語だと気付くのは、明日の夜になってからだった……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今日の執務が終わり、時刻はフタフタマルマル。そろそろ比叡が来る頃だが……?
比叡「司令、比叡です」
早速来たようだ。
「よし、入っていいぞ」
比叡「失礼します!」
比叡が執務室に入ってくる。
艤装は付けていないようだ。
比叡「失礼ですが、司令は夜戦、初めてですか?」
「まあ、そうだが」
比叡「分かりました!この比叡にお任せ下さい!」
「宜しく頼む」
いよいよ夜戦演習だ。
いったい他提督はどんな指導をしていたのか、ワクワクが止まらない。
比叡「先ずはベッドに移動しましょう」
「分かった」
僕と比叡は執務室に隣接する寝室へと向かう。
しかし、何故寝室なのだろう。
やはり他人に邪魔されたく無いからだろうか。
比叡「じゃあ、電気消しますね〜」
比叡の声とともに寝室が一瞬にして闇に包まれるが、完全な暗闇では無い。
窓から月明かりが射し込み、お互いの姿を朧げに浮かび上がらせる。
「何故電気を消すんだ?」
比叡「司令、こういう事はムードが大事なんですよ?」
なるほど。より夜戦の状況に近づけるためか。
まさかここまで徹底しているとは。
比叡「じゃあ、服、脱ぎますね……」
え?
「ちょ、ちょっと待って」
比叡「どうかしましたか?」
比叡は首をかしげて、さも不思議そうな表情をする。
しかし、だ。
「何故、服を脱ぐ?」
比叡「え、夜戦はお互い裸でするものですよ?」
「そ……そうなの、か?」
比叡「はい、普通そうですよ……?」
そう言うと比叡は、その身に纏っている服を一枚一枚脱ぎ始めた。
徐々にその柔肌をさらけ出していく比叡の肢体は、月の光を帯び、より美しさを増していく。
僕は、比叡の身体から目を離せず、体は金縛りにあった様に動かせなかった。
重力に引かれて、最後のサラシが落ちる。
一糸纏わぬそのしなやかな身体は、まるで人形のように真っ白だ。
比叡「……どうですか?私のカラダ」
声に少しだけ恥じらいを交えながら、比叡が尋ねる。
「……綺麗だ」
比叡「ありがとうございます、司令」
本当に、綺麗。いや、いっそ神々しかった。
月明かりと暗闇とのコントラストが、比叡をより際立たせる。
比叡「司令」
「なん……ん⁉︎」
唇が、重ねられる。
あまりに突然の事で思考がついて行かない。
真っ暗な頭の中に、火花が散る。
比叡「んっ……はぁ」
「……ッ!はぁ、ハァッ」
唇が離れ、僕は喘ぐ様に呼吸をする。
乱れた呼吸と思考が混じる中、ふと思った。
あれ?
他提督の指導ってもしかして……?
昨日の比叡の言葉がフラッシュバックする。
『司令との夜戦はとっても興奮するんです!』
『いつもは一対一なんですけど、時々他の娘と一緒にしたりして』
『司令が忙しい時は一人でしたりもしますね』
……。
僕は馬鹿か。
こんなの、ちょっと考えればわかる事じゃないか。
比叡が服を、いや、寝室に向かった時点で気付くべきだったのだ。
比叡の言う「夜戦」とは、戦闘的な意味では無く、性的な意味だという事に。
比叡「しれぇ……どうしたんれすかぁ?」
比叡は既に出来上がっている。
だが、僕はまだ服を着ている。
つまり……
今ならまだ間に合う!
鈍感とでも腰抜けとでも何とでも呼ぶがいいさ。
僕はこの「力」を抑えられる様になるまでは、絶対にこういう事はしない。
否、してはいけないのだ。
たとえ相手が「艦娘」だとしても。
もう、あの時の二の舞にはなりたくないから。
「比叡」
比叡「はい……なんでしょう?」
少しトロンとした目の比叡が返事をする。
「今日はありがとう。またいつか、続きをお願い出来るかな」
比叡「えぇ……仕方ありませんね、後は一人でします」
「すまんな、比叡」
比叡「いいですよ、司令。また、気が向いたら呼んでください。待ってますから!」
果たしてその日は来るのだろうか
誰かを普通に愛する事ができる日が
誰かを好きになる権利を得られる日が
僕が僕自身を赦せる日が
来るのだろうか
月明かりが目に沁みて、涙が溢れる。
今日は、寝れそうになかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
結局、寝ることができなかった僕は、大淀と午前中の仕事を始めようとしていた。
大淀「提督、やけに眠そうですね。それに目も赤い」
大淀が、僕の腫れた目を目ざとく見つけて心配してくる。
「そうかな?」
大淀「そうですよ!……何か、あったんですか?」
取り敢えず、答えを濁す。
「……特に無いよ」
大淀「ああっ、怪しいです!」
逆に怪しまれてしまったようだ。失敗失敗。
ここから騙してもしょうがないので、正直に答える。
「なあに、比叡とちょっと夜戦演習しただけだ」
そう言うと大淀は少し考え込んだ後、顔を徐々に赤くして、此方にぎこちなく顔を向けた。
大淀「や、夜戦っ……⁉︎提督と、比叡しゃんが……?はうぅ〜……」
大淀はそう言うとますます赤くなった顔を手で覆ってしまった。
……こんなの可愛いに決まってんだろ!
そう叫びたいのを我慢しつつ、軽くからかうのも忘れない。
「いや、来週の艦隊夜戦演習の作戦を考えていただけだが?」
大淀「……えっ、えっ?」
大淀「やだ……恥ずかしい……です」
大淀はすっかり茹で上がってしまったようだ。
そうやって徹夜テンションで楽しんでいるところに、一通の電報が入ってきた。
送り主は……ッ⁉︎
大淀「どうしましたか?」
「大本営から、召集命令だ」
僕は今、大本営の会議室にいる。
どうやら僕は、召集の意味を少し履き違えていたらしい。
別に僕のみが呼ばれていたわけではなく、単に定期会議があるかららしい。
しかし、何というか……。
周りの人からのプレッシャーが半端じゃない。
おそらく僕はこの中で最年少であり、さらに階級も唯一佐官だ。
正直、早く帰りたい。
が、周りの目線がそうはさせてくれなさそうだ。
元帥「ではこれより、定期会議を開始する」
あぁ、始まってしまった。
色々問い詰められるんだろうな……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
と思っていたのだが、特に聞かれることもなく、会議は終了してしまった。
正直、肩透かしを食らった気分だ。
叩こうと思えばいくらでも叩けた筈だ。
にもかかわらず、全くの追求が無かったのは。
元帥「ああ、そうだ」
元帥「大湊警備府司令長官は、この後執務室まで来るように」
「ブフッ」
嘘だろ⁉︎
思わず水を噴き出すところだったじゃないか。
いったい何があるっていうんだ……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
元帥「さて、こうして二人で話すのも二回目か」
「要件は何でしょうか」
早く帰りたいので、つい元帥を急かす。
元帥「まったく、つれないな」
元帥「では、本題に入ろう」
元帥の切れ長の目がスッと細められ、眼光がこちらを射抜く。
元帥「君は艦娘と人を同一視しているようだね」
何?
元帥「アレは兵器だ、人間では無い。言うなれば人形だ」
「何を言いたいのですか」
僕は少し語気を強める。
元帥「私は忠告をしているのだよ」
「それはどういう––」
元帥「艦娘に余計な感情を抱くな、と言っているのだ」
いったい何を言っているのだ、元帥は。
元帥「君は〇〇鎮守府の提督に、感情、魂について聞いたようだね」
「それが何か?」
元帥「今の艦娘に本物の感情など無いよ」
元帥「抱いている幻想は捨てるべきだ」
元帥の、全てを知ったような口ぶりに頭が徐々に熱くなっていくのがわかる。
「しかし、大湊の艦娘には魂が有ります」
元帥「魂?馬鹿を言うな。そんなものを信じられるはず無かろう」
「彼女達は、夢を見るんです」
元帥「夢?」
元帥はククッと喉で笑った。
元帥「艦娘の頭脳はAIだよ。夢など見ない」
「だからこそ、魂が在るのではと言っているのです」
僕も負けじと言い返す。
ここで引いては彼女達を侮辱されたまま帰ることになる。
「彼女達は他の艦娘には無い感情の柔軟さが有ります」
元帥「それは君が自分の艦娘をヒトとして見ているからでは無いのかね?」
「……」
クソッ。
言い返せない。
そうでは無いと自分では思っているが、もしかしたら無意識のうちにそのように見ているのかもしれない。
元帥「君は慣れない提督業で疲れているのだろう」
元帥「艦娘は確かに見麗しいし、自分を慕ってもくれる。が、だ」
よく見ると、元帥の視線が先程までとは違うことに僕は気づいた。
元帥「もう一度言っておく。艦娘は兵器だ。人間では無い」
声も、段々と熱を帯びている。
元帥「艦娘を人間と同一視して堕落していった奴らを私は嫌という程見てきた」
元帥「私がやっと見つけ出した逸材の君に、奴等と同じ道を辿ってほしくは無い」
元帥「分かって、くれ」
元帥「彼女らは人じゃない、人じゃないんだよ……」
元帥は、泣いていた。
元帥「例えば、だ」
元帥「艦娘に依存しきってしまい、役立たずとしてクビを切られた提督がいたとしよう」
まるで、自分に言い聞かせるように、元帥は言った。
元帥「残された艦娘達はどうなると思う?」
元帥「新たな司令官を配属しても、彼女らにとっての司令官は前の司令官だ。絶対にいう事は聞かない」
元帥「強制的にプログラムを弄ろうにも、電源を切ろうにも、前の司令官の認証が無いとブロックされてしまう」
元帥の独白は、続く。
元帥「そこで前の司令官を呼び出す訳だが」
元帥「その時点で廃人になっている奴が多い」
元帥「どういう訳かそうなってしまうと艦娘への命令が届かなくなってしまうんだな、これが」
元帥「だから、全員スクラップにされるんだ。どんなに練度が高くてもな」
「スクラップ……だって?」
あまりの衝撃に、思わず口に出してしまう。
元帥は、まるで僕が此処にいないかのように話を続ける。
元帥「しかし彼女らに我々の攻撃は効かん」
元帥「では、どのようにスクラップにすると思う?」
「……」
答えられなかった。
答えられる筈、なかった。
少し待って、元帥が再び話し出す。
元帥「 別の艦娘に殺させるんだ」
元帥「彼女らは裏切り者だ、殺せ。とね」
元帥「艦娘は艤装が無いと力は出せない」
元帥「嬲り殺しにされるんだよ」
そんな、酷いことが現実で起きているなんて……。
言葉にはとてもできなかった。
一旦話を区切るように元帥は鼻をかむと、こちらを再度見据えて話を再開した。
元帥「艦娘に備わっている感情は、あくまでも最低限のコミュニケーションに支障が無いようにと導入されているものだ」
元帥「本来なら司令官への愛着や信頼、友情や悲壮感など、深い、複雑な感情など無いはずなのに」
元帥「なのにどうしてだろうな、彼女らは泣き叫ぶんだよ。司令官の名前を呼びながらね」
元帥の頬に、一筋の線が走る。
元帥「確かに艦娘は痛みを感じる」
元帥「だがね、その眼を見ると、痛みなどでは無い、別の何かが伝わってくるのだよ」
元帥「それは、かつての……」
少し言い淀んだ後、元帥は目線を下げた。
そこには、最初に見せたような力強い眼光は無い。
元帥「いや、なんでも無い」
元帥「済まないな。今のは独り言だと思って忘れてくれ」
その言葉で元帥の、かつての英雄の独白は終わりを告げた。
今の元帥は、誰の目から見てもただの老兵にしか見えなかった。
大本営から飛行機で我が大湊に戻ると、妖精さんが出迎えてくれた。
妖精「提督さん、おかえりです」
「ああ、ただいま」
妖精さんは、本当に謎の存在だ。
深海棲艦の出現と同時に現れた、艦娘の全てを司る謎の生命体。という風に聞いている。
体長は10cmぐらいで、二頭身。
人によく懐く。
そして可愛らしい。
可愛い。
大事なことなので二回言いました。
妖精「提督さん、どうしたです?」
「ああ、何でもないよ」
そう言って頭を撫でてやろうと思ったが、僕の手では撫でてやれないことを思い出す。
妖精「提督さん、提督さん」
「ん、何だい?」
執務室に戻ろうとする僕を、妖精さんが呼び止める。
妖精「ここでの生活、楽しいです?」
「……あぁ。楽しいよ」
妖精「それはよかったです」
妖精「もひとつ、いいです?」
「何だい?」
珍しいな、妖精さんがこんなに喋るなんて。
普段は一言二言話して終わりなのに。
妖精「元帥さん、元気です?」
基本的に妖精さんは会ったことのある人しか覚えていない。
なのにどうして元帥の名前が出てくるんだ?この妖精さんは此処の妖精さんだから、会ったことはない筈なのに。
「君は元帥に会ったことがあるのかい?」
問いかけてみると、妖精さんは衝撃の事実を答えとして返してきた。
妖精「昔は元帥の鎮守府にいたです」
「……マジっすか」
妖精「まじです」
正直、驚き過ぎて声も出ない。
今でこそ艦隊を率いていないが、九年前、本土侵攻の一歩手前まで追い詰められた日本を救ったのが、元帥率いる横須賀鎮守府の連合艦隊だ。
その当時はまだ軍備がろくに備わっていなかった為、日本を含め世界各国が追い詰められていた。
その中でいち早く艦娘を配備し、対抗したのが日本であり、横須賀鎮守府であり、元帥だった。
彼は艦隊運用の基礎を築き、日本滅亡の危機を救った英雄として国民にも広く知られている。(ただし、艦娘の存在は伏せられている)
そんな百戦錬磨の艦隊にこの妖精さんは所属していたというのだ。驚かない方がおかしいだろう。
「なぁ、元帥の艦隊ってどんな感じだったんだ?」
これはとても興味があった。
これだけ活躍したのだ。とても厳しかったに違いない。
ところが妖精さんは。
妖精「とても陽気で、毎日が楽しい艦隊だったです」
僕の予想とは裏腹に、そんなことを言うのだった。
妖精さんは続ける。
妖精「辛い時もたくさんあったです」
妖精「でもみんな、いつでも笑顔だったです」
妖精「みんな、心から笑っていたです」
妖精「今の艦娘達よりも、ずっと、ずっと」
妖精さんはそこで話を一旦切ったが、その一瞬の間に妖精さんの表情に影が差したのを僕は見逃さなかった。
妖精「提督さんは、『ケッコンカッコカリ』を知ってるです?」
「ああ、練度の限界を突破するやつだよな?」
妖精「そうです。でも昔は少し違ったです」
違う、とは?
妖精「昔はその名の通り、カッコカリのケッコンという意味合いの方が強かったです」
艦娘とケッコンか。
此処以外の普通の艦娘は、中身のない薄っぺらな人形だが、そんなのが良い提督もいたのだろうか。
妖精「元帥は『加賀』という艦娘とケッコンしてたです」
元帥もケッコンしていたのか。
今日、あんなに余計な感情を抱くなと忠告していたのに、だ。
しかし、なんであの時泣いていたんだろう。
妖精さんの昔話は、まだ続く。
妖精「加賀は普段は物静かなのですが、元帥の前だともうデレデレだったです」
妖精「それを別の艦娘が冷やかしたりして」
妖精「その頃は艦娘も人間でしたから、皆表情が豊かで本当に楽しかったです」
今、とんでもないことを聞いた気がする。
艦娘が、人間だった。
この妖精さんは、確かにそう言った。
つまり、どういう事なんだ?
頭を中を「艦娘」「人間」という二つの言葉が跳ね回る。
気がつけば思わず妖精さんに尋ねていた。
「艦娘は、アンドロイドでは無いのか?」
妖精「今はアンドロイドです」
妖精「でもそれはオリジナルがいたからつくれたです」
妖精「元帥はその『オリジナル』にあたる艦娘達の指揮を執っていたです」
「つまり……最初期の頃は人間が艦娘として戦っていて、今の艦娘はそのコピーという事か?」
妖精「まったくそのとおりです」
なんて事だ。
そんな重大なことを元帥は、いや、大本営は隠していたのか。
一気に好奇心が湧き上がる。
「で、その艦娘達は今どこにいるんだ?是非会いたいんだが」
そう訊くと、妖精さんは目線を僕から外した。
その仕草は、今日の元帥にそっくりだ。
妖精さんが、その重い口を開く。
妖精「みんな、沈んだです」
頭を錨で殴られたようだった。
妖精「加賀は、ある作戦の時に元帥を庇って沈んだです」
妖精「元帥は、その時心に深い傷を負って、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になったです」
妖精「しばらくの間、元帥は日常生活もままならなかったです」
妖精「大本営はその事をとても重く見たです」
妖精「『艦娘は兵器である』という考えを徹底するために、艦娘のアンドロイド化計画が立ったです」
妖精「その時の艦娘達は『オリジナル』と呼ばれて、アンドロイド化の実験台にされたです」
妖精「だから、もう、いないです」
僕は、元帥が泣いた理由が分かった気がした。
目の前で愛する人が死んだ気持ちは、僕もよく知っている。
だが元帥は、自分の他の艦娘までも奪われてしまった。
その心境は、計り知れない。
元帥は、他の提督に自分と同じ気持ちを味あわせたくなかったのだろう。
だから、僕にもあの様な言い方をしたのだ。
あれは元帥なりの、優しさだったのだ。
妖精「提督さんを見てると、昔を思い出すです」
妖精「昔の元帥と、そっくりです」
妖精「少し懐かしく思って、その時のデータを掘り起こしたです」
妖精「そして、ここの艦娘達にプラグインとして入れたです」
暫し沈黙。
妖精「確かに、あくまでもプラグインです」
妖精「でも、かつての艦娘達の心は、そこにデータとして眠っているです」
妖精「『魂』は、確かに、今の彼女達に宿っているです」
「そうか」
僕がひねり出す事のできた言葉は、それだけだった。
この気持ちは、言葉に直す事は出来ない。
言葉にすると、何処か遠くへ消えてしまいそうだから。
「提督!」
誰かの呼ぶ声が聞こえる。
振り返ると、艦娘達が並んで待っている。
「「「「「「「「「お帰りなさい!!!!!!!!!」」」」」」」」」
最近、泣いてばかりだな。
そう思いながら、僕は涙を流した。
なんで泣いているかは、自分でもわからない。
でも、冷たくなる頰とは裏腹に、心は温まっていく様な気がした。
「ただいま」
「ふああぁぁ……」
僕は、マルロクマルマルに目を覚ます。
それと同時に、いつも通り左手で今にも鳴り出しそうな目覚まし時計を止めようとした。
しかしそれは叶わず、目覚まし時計は鳴りだしてしまう。
左腕が動かなかったのだ。
左腕は、何かにまとわりつかれているような違和感を感じる。
動かせる右手を使って布団をはぎ取ると、そこには灰色の髪の少女が僕の腕に抱きついていた。
うん、霞だこれ。
霞「んんっ……おはよう、クズ司令官」
クズはやめて欲しいのだが……もう慣れたからいいや。
しかし、「クズ」が付くときとつかない時の差はなんなんだろうか。
いまだにわからん。
とりあえず、返事はする。
「おはよう、霞」
「寝起き早々悪いんだが、一つ質問していいか?」
霞「何よ」
つれない返事を返す霞の表情は、僕からは見えない。
僕はその灰色に覆われた頭に質問を投げかける。
「なんで僕の腕に抱きついているんだ?」
「そもそもどうして僕の布団の中にいた?」
すると霞は、なんとも厭味ったらしい声で、
霞「あら、質問は一つじゃなかったのかしら?」
その言葉に僕は少し顔をしかめる。
そして、なんともささやかながら反撃をする。
「揚げ足を取るような子は僕は嫌いだな」
すると、僕の言葉に反応してか、腕に加えられる力が強くなる。
弾かれたように上げられた霞の顔には怯えが走り、蒼白な唇はわなわなとふるえていた。
霞「あっ、ご、ごめんなさい、嫌いにならないで、お願い、ちゃんと答えるから」
その姿は、見ていて痛ましい位に必死だった。
僕としては軽い反撃のつもりだったのだが、なぜか思った以上に効いてしまったようだ。
「大丈夫、霞のことは嫌いじゃないよ」
霞「本当に?」
「ああ、本当だとも」
「だから、ちゃんと答えてくれるかい?」
霞「わかったわ、司令官」
そう答える霞の表情には、先ほどの怯えは見当たらなかった。
腕には抱きついたままだが。
霞は先ほどと変わらぬ格好で話し始める。
霞「ただ寒かった、それだけよ」
「……なんでまた僕のところなんかに」
霞「司令官が一番温かそうだったから」
そういうと霞はこちらに這い上がってきて、僕の顔を自分の方へ向かせた。
霞「司令官は私の心まで温めてくれたわ」
「それはどういう――」
僕の言葉は最後まで紡がれなかった。
なぜなら、彼女の唇が僕の言葉の出口に蓋をしてしまったから。
その蓋には、人の温もりがあった。
そして、この温もりを僕は知っている。
霞「――っ……ふふっ」
蓋が開けられ、再び言葉が紡ぎだされる。
「なんのつもりだ」
霞「ただのモーニングコールよ。だって司令官、眠そうだったもの」
モーニングコールって……。
「だとしても……キスなんてするか?普通」
霞「あら、もっと別のことをシてもらいたかったの?クズ司令官」
そう言う霞の眼は、蔑みと愁いと親しみをごちゃ混ぜにしたような色に戻っていた。
大淀「提督ー!起床のお時間です!」
そんなやり取りをしていると、大淀のよく通る声がドアを隔てて寝室に響く。
「霞、こういうのをモーニングコールっていうんだ」
霞「あら、そうなの?知らなかったわ」
「嘘つけ」
大淀「あれ?なぜ霞ちゃんの声が?」
「あー大淀、それは――」
こうして僕の何気ない一日が始まる。
唇に心地よい温もりを、心に少しの哀愁を携えて。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
まだ9月だというのに、最近はどうも体が冷えてならない。僕はポケットにカイロを忍ばせて食堂へと向かう。
霞「最近は冷えるわね」
「全くその通りだ」
大淀「そうでしょうか?寒さは感じませんが」
嘘だ!そんな格好で寒くないわけ……あぁ、艦娘だから寒さは感じないのか。
あれ?じゃあ霞はどうして……?
霞「こういう日は味噌汁を飲んで温まるに限るわ」
そう言って霞は和風定食の食券を買う。
見た感じ本当に寒そうだ。
とりあえず僕も食券を買ってテーブルに座る。
「時に霞よ」
やっぱり気になったので、ちょっと聞いてみる。
霞「何よ」
「本当に、寒いのか?」
僕の一見間抜けな質問に霞は眉間にシワを寄せてこちらを怪訝そうな目で見つめた。
霞「本当に、って……逆になんで嘘つく必要があるのよ」
そう言うと霞は、僕の手の甲に自分の手のひらをそっと置いた。
なんとも繊細な手だ。しかし、とても冷たかった。
霞「ほら、冷たいでしょ」
「あぁ、確かに」
普通艦娘は、冷たい。それは何故か。
『命』『心』といった『熱』を持たないからだ。
艦娘はあくまでも兵器であって、兵士ではない。その違いが、『体温』として現れている。(もっとも、やっている仕事は兵士に近いのだが)
この事は、兵器としての艦娘に有利に働く。
単純に、エネルギーの損失が少ないのだ。
同じ量のエネルギーでより動ける方がいいに決まっている。それに元より艦娘に人間としての機能は求められていない。
心も然り。命も然り。アンドロイドならば人権保護団体も口は出せないし、文字通りその身朽ち果てるまで戦わせても直ぐに戦線に復帰させられる。それにPTSDを患う事もない。
にもかかわらず、艦娘が人間に近い構造をしているのは何故か?
今の艦娘には、元となる人間が居たと妖精さんは言う。
可能性として考えられるのは、コピーの艦娘を作る事以外に頭が回らなかったか、はたまた妖精さんが敢えて残したか、またはもっと別の事か。それはわからないし、大して重要な事ではない。
だが、本来の目的である戦闘に不必要な『心』『命』を排除できた事で、文字通りの『艦』として扱える様にした大本営の判断は正しかったのだろうか。
兵器としてなら、間違いなく正しかったのだろう。しかし、兵士としては?
本来あった『心』が無くなったことで、艦娘は提督の『モノ』になった。上官である提督に反抗もしなければ慕いもせず、疲れ切った提督に労いの言葉一つも掛けられない。
そう、艦娘が兵器となった事で、提督には『仲間』がいなくなった。自身に降り積もる全ての重圧を、一人で背負わねばならなくなったのだ。最前線で得体の知れない相手と打ち合っている提督の精神にどれほどの負荷がかかるかは想像に難くない。
やはりというか、有能な者ほど精神に異常をきたして解任される人数が多いのが現状だ。無能な者ほど生き残りやすいというのも皮肉なものだと思う。
そういった点で僕は恵まれていた。ここの艦娘達はたとえプラグインとはいえ僕を慕ってくれるし、一緒に呑んだりもしてくれる。そのおかげで僕にかかる負担はかなり軽減されているどころか、居心地の良さすら感じている。
霞「ちょっと、どうしたのよ」
霞の手のひらも、冷たい。
だが、ほんのりと、どこかほんのりと、温かかった。
キスの時も、そうだった。
比叡よりもどこか拙く、人間的で、そしてやはり、温かかった。
その差は微々たるもので、普通ならば分からない程度のものだったが、僕にはそう思えてならなかった。
霞「ねえ、ねえってば!」
体が揺さぶられて、深い思考の渦から引き出される。
「ん?あ、あぁ、どうかしたか?」
霞「それはこっちのセリフよ!」
大淀「……どうかされたのですか?」
皆が心配してくれる。
「いや、ただの考え事さ、心配無い」
霞「もう。司令官が私の事、き、嫌いになっちゃったんじゃないかって思っちゃったじゃない」
「はははっ、それは無いよ、安心しな」
大淀「霞ちゃんは心配症ですね」
霞「なっ!そ、そんな事ないし!」
そのことすら心地よかった。
僕には『仲間』がいる。
そのことが僕の誇りであり、憂いだった。
朝食を終えて執務室に戻った僕を出迎えたのは、一本の電話だった。
「はい、こちら大湊警備府」
『おっす、久しぶり』
「その声……おお、久しぶりだな!」
受話器から聞こえてくるのは、彼の声。
かれこれ半年近く聞いていなかった、声。
「それで、どうしたんだいきなり。何かあったのか?」
『おっ!それを聞いちゃいますか?』
「何も無いなら切るぞ」
『わーっ!切らないでくれ、ちゃんと話すから』
最初からそう言えばいいものを。
手から離そうとしていた受話器を再び耳に付ける。
『実はな、お前に報告しようと思って』
「何を」
『俺、憲兵になっちゃった』
「……は?」
憲兵って、陸軍じゃなかったっけ?
彼は海軍所属の筈。いまいち理解し難い。
『それも普通の憲兵とは違う、特殊部隊的な奴の隊長!どうだ、凄いだろ?』
彼は嬉々とした声で自慢をしてくる。しかし一方的にまくし立てられても困る。
ひとまずは抱いて当然の疑問を投げかける。
「なんで海軍のお前が憲兵なんだよ」
『俺もよくわからん!』
えぇ……。
『なんか海軍内でヤバい事件が起きてるらしくってな?それを追ってる』
「ヤバい事件って何だよ」
『それは言えん』
『だけど一つ忠告しておく』
彼の声のトーンが、一段低くなる。
『【死神】に気をつけろ』
そう言い残して彼は電話を切った。
後に残るのは、微かな余韻と『死神』という言葉だけ。
彼が憲兵になった経緯も気になるが、やはり何よりも最後の言葉の意味だ。
彼は他人には言えない、とても重要な事件を追っていると言っていた。それを僕に忠告したということは、僕に身の危険が迫っているということ……なのか?
死神というと駆逐艦の『雪風』がかつてそう呼ばれていたらしいが、まだ建造出来ていないはず。という事はもっと別の何か、という事になりそうだが……。
何にせよ、用心に越したことは無い。
後で門番にも注意しておこう。
「死神、ねぇ……」
僕がそう呟いたのと、大淀の声が執務室に響いたのはほぼ同時だった。
大淀「提督、司令部より緊急入電です!!」
大淀がノックをせずに勢いよく入ってくる。その険しい表情と余裕の無い声色から、尋常では無いことが起きたのだと判断する。
「読み上げろ」
大淀は静かに、しかし動揺の隠しきれていない声で読み上げる。
大淀「佐伯湾泊地、壊滅セリ。原因ハ不明。各鎮守府ハ厳重警戒セヨ」
藍玉のように澄み切った空と対照的に、私の目の前に広がるのは血玉髄の欠片をぶちまけたようなおどろおどろしい海原。
そこからいつもの夕日に焼かれた潮の香りはせず、油と金属の焼けたむせ返るような臭いが辺り一面に漂っている。
そんな空気を吹き飛ばすようにレシプロエンジンの唸り声がこちらに近づいてくる。天山に彗星、そして烈風。全て私の艦載機だ。
私は左腕に取り付けられた飛行甲板を水平に掲げ、着艦に備える。見た限りだと損失は天山が三機のみ。おそらく全て対空砲火で撃ち落とされたものだろう。
損傷が大きい機体もあったが、着艦を失敗すること無く、全ての機体を収容することが出来た。
搭乗員に戦果を聞いてみると、第一次攻撃隊と第二次攻撃隊合わせて空母と巡洋艦と駆逐艦それぞれ一隻ずつを撃沈、戦艦一隻と駆逐艦二隻を大破、空母一隻を中破させるという大戦果を挙げてきたようだ。
「あはっ……♪」
私は安堵と快感で絶頂しそうになり、そんな音が喉から出てくる。
おっと、いけない。
慢心はダメ、ゼッタイ。
そう自分に言い聞かせる。
こうなるのは昔からの悪い癖だ。
「まずは、一つ」
誰ともなく、そう呟く。
さあ帰ろう、私の家に。
今日は気持ちよく寝られそうだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
家に帰るともうフタマルマルマル、夕食の支度をする。今日は大戦果を挙げられたから、自分への御褒美としてステーキを焼こう。そう思ったのだが……。
「あっ、お肉買ってないや……」
また今日もお魚か。非常に残念だ。
ステーキ、食べたかった……。
そんなしょうもない未練を断ち切って、私は夕食の準備をはじめるのだった。
〜〜〜〜
私は副菜のサラダを頬張りながら次の目標の事を考えていた。
「どこにしようかな~」
独り言を言っていると、一つの名前がふと目に入った。
大湊警備府。
最近新設された後方支援専門の部隊。
他とは何処かが違う部隊。
なんでもそこの艦娘には心があるのだとか。
馬鹿馬鹿しい。今の艦娘に『心』が?どうせプラグインのまがい物で艦娘を奴隷のように扱っているのだ。
忌々しい。
そんな事をするために私達は犠牲になったんじゃない。
その思いが私の原動力であり、全てだった。
いや、違う。
私は快感を求めている。
私は温もりを求めている。
『あの人』は、何を求めている?
復讐を求めている。
私は食べ切ったお皿を洗って、お風呂場へと向かう。
私はお風呂が好きだ。
冷え切った心身を温めてくれる気がするから。
シャワーでさっと体を流し、湯船につかる。
「あぁ〜気持ちいい……」
一分、十分、一時間。一向に温まらない体をよそに、私はそんな事を嘯くのだった。
「ふあ……あぁ」
今朝の私は自らの欠伸によって目が覚めた。
なんとも気の抜ける一日の始まりだが、私にとってはいたって普通の事だ。
私はいつも通りに朝食を食べ、いつも通りに着替え、少し離れた倉庫へと向かう。
何重にも鍵を掛けられ、厳重に閉ざされた扉を開けるとそこにはがらんどうな空間が広がっており、ともすれば飲み込まれそうになるほどの虚無がそこにはあった。
その虚無の中心で唯一、その存在を主張しているものが一つ。
私の改二の艤装だ。
それを付けるのは今回で二度目だが、以前着けた際にはその圧倒的な力を制御できなかった。
しかし、数値で八十相当の練度を持つ今の私ならきっと使いこなせるはずだ。私はそう信じて下駄を履き、矢筒を背負い、飛行甲板を肩に取り付け、日の丸の描かれた鉢巻を締める。
最後に弓を手に取り、私は倉庫を後にした。
復讐のため、快感のため。魔女の鍋のように様々な感情が渦巻く心は絶妙な均衡を保って私に宿っていた。
〜〜〜〜〜〜〜
倉庫を出てから何時間だろうか、全く景色の変わらぬ海原を航行していると時間感覚すら危うくなってくる。
しかしそろそろ作戦開始時間であるため、気を引き締めていかなければいけない。私は少し緩んだ鉢巻を締め直す。
なんとなく頭がスッキリした気がした。
「よしっ!」
私は自分に喝を入れ、弓を構える。
弓がギリギリと唸り、力を抜けば直ぐにでも暴れ出しそうだ。
私は渾身の力を込めて、その弓を引く。
そして、私は掛け声とともに――
「第一次攻撃隊、発艦っ!」
その矢を放った。
〜〜〜〜〜〜〜〜
先に飛ばしていた彩雲が敵艦隊を見つけたようなので、送られてきた座標へ攻撃隊を指し向ける。どうやら空母機動部隊の様だ。まあ何にしろ私が今出来ることはほとんど無い。艦載機の皆に任せて、私はただ、待つ。
私の上空には直掩の烈風に対空警戒をさせているため、まずミッドウェーのような奇襲はされない筈だ。勿論、慢心はダメ、絶対だが、今の私には絶対の自信があった。
攻撃隊発艦からしばらくすると、隊長の友永機より『敵艦隊発見セリ』の報告が届き、それと同時に、ト連送――全軍突撃の意――が全攻撃隊に打たれる。
いよいよ始まった。
「くくっ……ふっ、くふっ」
あぁ、これだ。
この腹の底からマグマの如くせり上がってくる高揚感!
口角が勝手に吊り上がり、そこから声とも言えぬ声がとめどなく溢れ出てくる。
私の目は極限まで見開かれ、頭の中は零れ落ちそうなくらいの脳内麻薬でいっぱいだ。
私は快感に体の全てを支配されそうになるのを必死に耐え、第二次攻撃隊発艦の準備を始める。
今は復讐の事など忘れて、ただ楽しもう。
そう、思っていた時だった。突然、恐ろしいほどの殺気が悪寒となって背筋を走ったのは。
直掩の烈風が増槽を落としたのと、友永機からの『攻撃終了。再攻撃ノ要有リト認ム。敵戦闘機ノ迎撃熾烈』の報告が入ったのはほぼ同時だった。
〜〜〜〜〜
「あちゃー、まさか見つかっていたとはねぇ」
いったいいつ見つかったのか、全く見当がつかない。こちらの攻撃のタイミングとほぼ同じという事は、こちらが補足した時に、相手も補足していたという事だ。だが何にしろ、今すべきは迫り来る敵機の迎撃だ。
上空に少数の烈風を残して、残りは全て迎撃に回す。
あとは被弾しないように、ひたすら動き回るしか道はない。
敵機の群れが視界に入る。ざっと見て三十機以上はいる大編隊だ。さあ、どれだけ烈風隊が叩き落としてくれるか――そう思っていたのだが……。
迎撃戦が始まってすぐ、私は違和感を抱いた。
幾ら烈風が攻撃をかけても、敵編隊は一切の乱れなくこちらに突進してくるのだ。
「……どういう事?」
思わずそう呟く間にも敵機はぐんぐんと迫ってくる。
私も弾幕を張って対抗するが、雷撃機は海面スレスレの超低高度で突っ込んでくるため、中々当たってくれない。
「烈風隊!何してんの!?」
私はそう叫ばずにはいられなかった。
なんとも情けないことに、まだ一機たりとも落とせていない。魚雷や爆弾を抱いていてカモ同然の敵機を、だ。
私の歴戦の烈風隊がへっぽこだとは思いたくないが、本来ならばこんな事はあってはならないことだ。
全ての対空砲火を避け切った敵雷撃機がとうとう魚雷を投下した。それと同時に、上空からダイブブレーキの甲高い声が急速に落ちてくる。
私はすぐさま身をよじってそれらから逃れようとするが、敵の魚雷と爆弾は吸い込まれるように私に向かってきた。
獲物に一切の逃げ場を与えぬ、なんとも正確で美しい攻撃だった。
「はっ、あはははははッ!」
それは果たして何に対しての笑いだったのか、自分でも分からなかった。
視界が爆ぜる。
痛みは一切感じなかった。
爆炎が晴れ、私の視界に入ってきたのは、ただひたすらに赤、あか、アカ。
これで月でも出ていれば良かったのに。
友永さんは、まだ無事だろうか……。
ああ、もう。思考がまとまらなくなってきた。
私は観念して、重い瞼をゆっくりと閉じた。
私もここまでか。
ごめんね、多聞丸――
周辺警戒に出ていた隼鷹たちから何物からかの襲撃を受けたという報告を受けてから三十分ほどだろうか。
『敵艦二魚雷三本、爆弾二発ノ命中ヲ確認セリ。大破確実。サレド搭乗員ヨリ敵艦ハ深海棲艦二非ズトノ報告多数』
との電文が執務室に届いた。
敵を一撃で見事に仕留めた隼鷹の腕前は大したものだが、気になるのは最後の文だ。
『敵艦ハ深海棲艦二非ズトノ報告多数』
実は、以前起きた佐伯湾泊地空襲の目撃者も同じようなことを言っていた。
敵機は明らかに深海棲艦のモノではなかった、と。
こちら側としてはあまり信じたくないのだが、一連の犯人は艦娘、という可能性も無視できなくなってきた。
これらのことも含めると、今回の強襲と前回の泊地空襲は同一犯ではないかと僕は思う。
もっとも、なぜこんなことをするのかは全く予想できないわけだが……。
そこで僕は考えた。
理由を知るのに一番手っ取り早いのは、やはりその本人から聞くことだ、と。
思い立ったが吉日、僕は発信機に指をかけ、電文を送った。
『直チニ敵艦ノ元ヘ急行シ、可能デアレバ鹵獲セヨ』
~~~~~~~~~~~~
艦隊が母港に帰投したのは、それから三時間後だった。
たとえアンドロイドとはいえ、彼女たちの顔には疲労の跡が色濃くにじみ出ていた。
隼鷹「ほらよ、提督。こいつがあたしたちを攻撃した敵さんさ」
そういうと隼鷹はごみを捨てるような手つきで僕の足元へ寝かせた。
無造作に置かれたソレからは、生気といったたぐいのモノは一切感じられなかった。
そのあまりの惨状に一度は顔をそむけそうになったが、覚悟を決めてしゃがみこみ、ソレをじっと見つめた。
左足は、足首から下が元からなかったのではと錯覚させるほど綺麗になくなっているが、右足はそれとは対照的にひざ上までが醜く焼け落ちて、膝の関節がすっかり見えてしまっていた。
根元から吹き飛んでいる右肩からは、かつて腕だったものと、色とりどりのケーブルがぶら下がっており、先端からは時折火花が散っている。
左肩に備え付けられた飛行甲板らしきものは直撃弾により大穴があいているが、それが楯の役割を果たしたようで、腕の方は全くの無傷だった。
身にまとっている服はところどころが焼け落ちているが、そこから覗く柔肌に一切の傷跡は認められなかった。胴体に直撃弾は無かったようだ。
これらの傷跡を見て、僕は確信した。
間違いなくソレは艦娘だ。
これ以外の答えは僕には見つけられなかった。
そして、僕は意を決して顔へと視線を向けた。
「……っ」
僕は思わず息をのみ、情けなくしりもちをついてしまった。
端的に言えば腰が抜けたのだ。
「あ……うぁ……」
そんな声が喉から勝手に出てくる。
脚ががくがくと震えだした。
それと同時に、体を支えていた腕からも力が抜ける。
「嘘……だ……っ、そんな……!」
力なく後ずさりながら、僕はそう叫ばずにはいられなかった。
左目を失ってなお、ソレの顔は五年前の『彼女』にあまりにも似過ぎていた。
五年前の記憶が、噴水のように噴き出してくる。
こんなのただの偶然だ、他人の空似だ。そう思っても全く止まらない。
僕の思考はある一つの言葉で埋め尽くされ、それに従って両腕が勝手にソレへと伸びていく。
「確かめたい」
あともう少しで、届く。
隼鷹「させないよ、提督」
隼鷹の声とともに、僕の伸ばした腕が掴まれる。
「何をする、隼鷹」
あともう少しで確かめられるのに。
隼鷹「今ここで提督が触れたら、ソイツは壊れちまう。そしたら、本来の目的が達成できなくなる」
僕は呼び掛けに構わず腕を伸ばそうとするが、そこだけ金縛りにあったように動かない。
隼鷹「目ぇ覚ませ、提督!いまのアンタはまともじゃない!」
そう叫ぶと隼鷹は右手で僕の左肩を掴み、前後に揺さぶった。脳髄の奥が揺れ動くような感触で、トテモ不快だ。
そんな中、何故隼鷹はこうまでして僕を邪魔するのだろうか、という疑問が脳裏に浮かんでくる。今の僕には隼鷹の行動が理解出来なかった。
どうすればその左腕を離してくれるのだろうか…。少し考えて、直ぐ結論が出た。
単純なことだ。
一本ずつ、剥がしていけばいいのだ。
僕は空いた左手を、僕の右腕を掴んでいる隼鷹の左手に重ねた。そして、その人差し指をつまんで、チョットだけ力を入れた。
パキッ、という何かが砕けた音とともに、隼鷹の人差し指が空を指す。
隼鷹「――ッ!?」
その瞬間、隼鷹の呼吸が一瞬止まり、そして見る見るうちに苦悶の表情に変わっていった。
しかし、なおもその手は離れない。
ならばもう一本と中指に手をかけたその時、僕の首に強烈な衝撃が走った。
僕は堪らず左腕を投げ出し前のめりに倒れ込んだ。
大淀「申し訳ありません、提督」
大淀の謝罪と同時に、視界から急速に色彩が失われていく。
僕は最後の力を振り絞って、残った意識を投げだされた左手に向けた。
左手はソレの左胸の上に乗っており、その柔らかな山からは霞と同じ微かな温もりを感じられた。
「……アッ……温かい……」
という間もなく、僕の意識はどこか深淵へと引きずり込まれた。
僕が目を覚ました時、僕の身体は執務室の椅子に乗っていた。
あちこちの筋肉という筋肉がこわばっており、腕を動かそうとするだけで、バキバキとほぐれていく感じがした。
はて、僕はいったい何をしていたんだったかな、という疑問が、筋肉がほぐれていくにつれて僕の頭に明確に浮かび上がってきた。だが、その問いに対する答えは僕の海馬は持ち合わせていなかったようで、結局僕は何をしていたのか自分でもわからなかった。
しばらくの間ずっと考えてると、僕はさっきまでの記憶のみならず、ここ一か月ほどの記憶と、自分が提督になった日以前の一切の記憶すら思い出せないことに気が付いた。
これは、どういうことだ……自分でも分からない。
自問自答を繰り返し、そろそろ頭が痛くなってきた頃だった。急に視界が黒く染まったかと思うと、瞼と頬の上側に何か温かいものが覆いかぶさってきた。
直感的に、これは手だ、と思った瞬間、今度は後頭部に雲のように柔らかな、しかし程よい弾力を持った物体が押し付けられた。
あまりに突然のことだったため、僕は何も抵抗することはできなかった。
「だーれだっ」
耳元で吐息交じりの甘い、しかし明るいトーンの声が聞こえた。
それは僕の脳の髄までを痺れさせるような、危険な声だった。
ぞして実際、その声の主の名前がずるずると記憶の奥から引きずり出されてきた。
「……ひ……りゅう?」
飛龍「あったり♪」
そう言うと、声の主――飛龍――は僕の頭から手と胸を離し、正面へと回った。
だが、正直言って飛龍のことは名前以外全く知らなかった……いや、たぶん思い出せないだけなんだろう。今の僕は記憶が混濁している。
「なあ飛龍、僕は今記憶がいまいちはっきりしないんだ……君が何者かもわからないし、僕がさっきまで何をしていたかさえも思い出せない」
飛龍「そうね……私は航空母艦の飛龍。第二改装済みで、練度は百十程度。そして提督はさっきまで普通に執務をしていたわ」
飛龍はそこでいったん息をついた後、再び僕の説明をし始めた。
飛龍「提督はね、暴走した艦娘に攻撃されて、頭に傷を負ったの。外傷は大したことなかったんだけど……その、当たり所が悪かったみたいで、復帰してここ一週間ずっと今みたいなことの繰り返し。しばらくぽけーっとしたかと思うと、僕は今何をしていた?って、訊くの」
「そうか……僕は、そんなことに……」
僕は一週間も、痴呆患者のようにただただここにいたのか……。
飛龍に、艦隊のみんなに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
飛龍はなおも続ける。
飛龍「今までならさっきみたいなことをしても何も反応してくれなかったんだけど……さっきは名前を呼んでくれたし、今も意識がはっきりしてる。間違いなくよくなってきてるよ!」
飛龍はさもうれしそうに顔をほころばせた。それにつられて僕も少しだけ唇を緩ませる。
ただ、一つだけ気になることがあった。
「練度が百を超えてるってことは、僕と飛龍は……け、ケッコンしている……ってことだよな?」
飛龍「……やっぱり、思い出せないんだね。そうよ、私と提督はケッコンしているの。もちろん、相思相愛」
飛龍は一瞬だけ物悲しげな顔をした後、すぐに微笑を頬にたたえて、左手の甲を顔の横に掲げた。薬指には確かに銀色の輪がぴったりと嵌っていた。
そして、窓からの焼けたような光がそれに反射して、彼女の頬を赤く染めた。
飛龍「ホントはずっと前に言ったんだけど、覚えてなさそうだからもう一回言うね……提督しか知らない、私の秘密」
飛龍は視線を少しずらしたあと、どこか恥ずかしそうな声色で、僕にとってあまりに衝撃的なことを口にした。
飛龍「私、元々は人間だったの」
「……人、間?どういうことだ、飛龍?」
飛龍「どうもこうもそのままの意味。私はいわゆる『オリジナル』なの」
オリジナル、というあまり聞き慣れない単語を頭の中から探し出す。
……ああ、いつだかの妖精さんの話にそんな単語が出ていたっけ。
となるとつまり……。
「飛龍は、あの九年前の生き残り、というわけか」
飛龍「ま、そーなりますねっ」
飛龍は肯定の意を示した。だが僕は一か所だけ引っかかるものがあった。
「だが、オリジナルはアンドロイド化の実験台にされて、すべて失われたと聞いたが……?」
飛龍「周りにはそう伝わっているだけ。どこかしら欠陥を抱えながらも一応成功して生き残った艦娘は意外といるわ。もっとも、公式記録にはその記録すら残ってないんだけど」
「そうなのか……?」
飛龍「む、まだ信じきれてない顔」
飛龍は少しムッとした顔をすると、僕の手をおもむろに掴み、そして……。
「へ?」
自身の胸の下へと潜り込ませた。
飛龍「んっ……」
ちょっと!変な声出さないでくれますかねぇ!?
僕はすっかりうろたえてしまい、振り払うことが出来なくなってしまった。
飛龍はいったい何を血迷ってこんなことをいきなりしたのだろうか。そのことで頭の中はいっぱいだった。
飛龍「提督……どう?」
「ど、どうって、何が」
飛龍「温かい……でしょ?私」
「あっ……確かに」
言われるまで気付かなかったが、確かに飛龍は温かった。
それは、温もりともいうべきものだった。
通常の艦娘は無機質の塊であるから、温かさといったものは無い。にもかかわらず、飛龍が温かいということは……。
飛龍「どう?今度こそ信じてくれた?」
飛龍は少しだけ意地悪な笑みをこちらに向けた。
「ああ、よくわかったよ。だから……」
飛龍「だから?」
飛龍はますます口角を釣り上げる。
「その……手を、放してくれないか?」
飛龍「どうして?」
さも不思議そうに小首をかしげる飛龍に、一瞬だけドキッとしてしまった。
が、ここで引き下がるわけにはいかない。
今の僕は謎の意地を張っていた。
「執務の続きを……」
飛龍「もう終わってるよ」
「トイレに」
飛龍「さっき行ってた」
「ぐぬぬ……」
ダメだ。口下手な僕では勝てそうにない。
飛龍「ねぇ、どうしてそんなに嫌がるの?私って、そんなに魅力、ない……?」
そういうと飛龍は左手で自らの胸元を少しだけはだけさせた。
ほんの少しだけ、だ。
「ぐううっ、そういうわけでは……」
にもかかわらず、僕はドギマギしてしまう。
『飛龍は人間だった』という事実が、僕の羞恥心をより煽った。
クソっ、何故だ。比叡の裸は見たことあるし、キスだってしたことあるのに、どうしてこれだけでここまで取り乱すんだ僕は!?
飛龍「私たち、ケッコン、してるんだよ……?」
ケッコンしているなら僕の『力』のことも知っているはずだ。にもかかわらず、飛龍はなおも僕を誘う。もっとも、ただからかっているだけなのかもしれないが。
どっちにしろ、僕は絶対に手を出さない。これは僕がこれまでずっと貫き通してきたことだ。
もし僕が言ってなかったのなら、今言わなければならない。
「飛龍、あのな――」
大淀「提督、新しい任……きゃっ!?な、何してるんですか!」
ノックとともになんとも絶妙なタイミングで大淀が入ってきた。よりにもよってこの状況で、だ。
飛龍「ちぇーっ。もうちょっとだったのに」
ふくれっ面をしながらも、飛龍はしぶしぶ手を放してくれた。大淀は顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいる。
僕はどちらかといえば被害者なんだけどなぁ……。
大淀「執務室でそういったことをしないでください!」
飛龍「まったく、大淀は初心なんだからぁ。スキンシップよ、スキンシップ」
そういうと飛龍は視線をチラリとこちらにやった。
まて、何の合図だそれは。
飛龍「じゃ最後に」
「えっ」
飛龍は瞬く間に僕の首に抱きつき、キスをした。
時間としては数秒の軽いものだったが、どこか懐かしいような……そんな気がした。
飛龍「じゃあね、提督。任務頑張って!」
彼女はそういうと颯爽と執務室を出て行った。
残された僕と大淀はといえば、あまりに突然のことに反応できず、その場に立ち尽くしていた。
「執務、しよっか」
大淀「そうですね」
どうも今日の僕はおかしいな。自分でそう思った。自分の思考、言動にどうも違和感がぬぐえないのだ。
だが、具体的に、といわれると、どこがとは言えなかった。
まぁ、違和感なんてそんなものだろう、と自分に言い聞かせて、僕は執務を始めた。
~~~~~~~~~~~~~~
僕はいつものように大淀と執務をこなした。いつものように。だが、今日の大淀は何かが違った。
いつもの大淀ならすぐ終わらせる量の仕事に、いつもの一・五倍の時間がかかったのだ。
表情もどこかぎこちなかった。
いつものきりっと引き締まった真顔と、そこから時折見せる豊富な表情はどこへやら、まるで人形のように表情が抜け落ちてしまった。
受け答えの返事も、いつもの物腰の柔らかい声ではなく、金属のような無機質で硬い声だった。
「なあ大淀……今日はもう休め」
大淀「どうしてですか、提督。まだ仕事は残っていますよ?」
「……ホントにどうしたんだ?いつもの君じゃない」
少しの間のあと、大淀は軽く首をかしげたまま、こちらを向いた。
ブラックオパールのような瞳にはいつもの輝きは無く、ただただ虚無がこちらを見据えていた。
大淀「テイ……トク」
大淀の顔はのっぺらぼうなんじゃないかと錯覚させるほどに無表情だった。
「大淀……?」
その空っぽの瞳を見ると、そのまま吸い込まれてしまいそうだった。
僕は、初めて艦娘から『恐怖』を感じた。
だが、大淀から出てきた言葉は、意外なものだった。
大淀「スミ……マ……セ、ン……」
「……え?」
大淀「ワタシ……カンタイ……ノ、ミン、ナヲ……テイトク、ヲ……」
大淀の白すぎるほど白い頬に赤みが差したと思うと、その赤を洗い流すかのように涙が二筋、流れ落ちた。
「大淀、なんで泣いて……」
僕にはどうして大淀が泣いているのか、わからなかった。
けれども、僕が感じていたこの違和感は本物だ、ということは確信できた。
大淀「スミマセン……スミマセン、スミ、マセン……」
大淀はうわごとのように『スミマセン』を呟きながら、涙を流し続けた。
書類はいつの間にか真っ黒に染まっていた。
「大淀、ここで待ってろ。すぐ戻るから」
僕は大淀の頭を撫でようとして……やめた。
こんな時ほど自分の力が憎らしかった。
僕が忘れているこの一か月間に、何かがあった。
それは大淀の状態を見れば明らかだった。
違和感の正体が何かはわからないし、当てもないが、このままいつも通りに過ごすことは僕にはできなかった。
まずは他の艦娘から話を聞こう。そしてあわよくばこの違和感の正体を突き止めたい。
そして、この歪んだ日常を元に戻さなければならない。
大湊の司令官として、僕個人として、それをする義務があった。
執務室のドアを開け外に出ると、廊下に出る。白塗りの壁に、フローリングの床に敷かれた真っ赤なカーペット。埃一つ舞ってなさそうなこの廊下は記憶の中のと寸分たがわぬものだったが、今はそれが逆に不気味に思えた。
元から大して持っていない勇気を振り絞って、僕は歩き出した。まず目指すは食堂だ。さっき時計を見た時はヒトヒトマルマル、朝ご飯としては遅い時間だが、ただ廊下をうろつくよりは誰かしらに会う確率は高いだろう。それに、厨房にはほぼ確定で間宮さんがいるはずだ。できればこの鎮守府に何も起こってないことを祈って、僕はただ歩き続けた。
早朝でもないのに、廊下はいやなほどに静かだった。聞こえるのは自分の足音だけだが、それさえもあちこちに反射して自分がどこにいるのか見失ってしまいそうだった。ふと目に入った窓を見やると、外は白い霧がかかっていた。立ち止まって窓を開けると、大量の霧の塊が僕の視界を一気に奪った。僕は慌てて腕で霧を払おうとしたが、ただ湿気が腕にまとわりつくだけだった。半ばがむしゃらに窓を閉めると、霧はしばらく漂った後、何かに吸い込まれるように消えていった。だが、軍服や顔に張り付いた水滴は文字通り霧散してはくれず、むしろ離れまいとしているように感じられた。生憎ハンカチは持ち合わせていなかったので、濡れた犬のように首を振って水滴を払い落として、再び歩き始めた。軍服が湿気を吸って、一歩一歩が重く感じられた。
しばらく歩くと、目的地である食堂に着いた。予想通り閑散としていたが、厨房の方からは物音が聞こえる。おそらく間宮さんが昼食の下ごしらえでもしているのだろう。僕はカウンターに近づいて厨房を覗いた。魔女が使いそうな大きな鍋の前に間宮さんはいた。
「間宮さーん!ちょっとお時間いただけますかー?」
一拍おいて、返事が返ってきた。
間宮「提督ですかー?少々お待ちくださーい!」
僕は一番近いテーブルに着いて、待った。二分ぐらいたったところで間宮さんが厨房から出てきた。
間宮「お待たせしました、提督。お水をどうぞ」
「おお、ありがたい。ちょうど喉が渇いてたんですよ」
そう言って僕はグラスの半分ぐらいまで一気に飲み干した。唯一水気が足りなかった喉に爽快感が染み渡って、いつにもましてただの水のおいしさが理解できたような気がした。
「いやーすみません。準備中にいきなり呼び出してしまって」
間宮「いえいえ。ちょうどいいタイミングでしたよ、提督」
「そう言っていただけるとありがたいです。それでは本題に入りますが――」
僕は間宮さんにすべてを話した。飛龍のこと、大淀のこと、自分のこと。そして、それらから感じる違和感について……。だが間宮さんはこう言うのだ。「鎮守府はいつもと変わらない」と。
結局何もわからぬまま、話は終わってしまった。違和感はなくなるどころかさらに増していた。そのまま納得できるはずもなく、僕はあちこちの部屋に行って艦娘たちから話を聞いた。だが、やはり皆口をそろえてこう言った。『鎮守府はいつもと変わらない』と。
話をしているうちに、自分の方がおかしくなっているのでは、という気持ちになってきた。いや、むしろそう考える方が自然なのだ。僕は一か月もの間目を覚まさず、意識が戻った後もしばらくまともではなかった。今だって自分がまともだと言い切れる自信がない。夏休み明けの同級生の雰囲気が変わって見えるように、一か月もたてば鎮守府の雰囲気も多少は変わるだろう。そのごく自然な変化に自分は取り残されているだけなのだ……。
そんな風に自分に言い聞かせながら、僕は飛龍と大淀を除いた最後の艦娘――霞――を探していた。鎮守府をすでに一周したのだが、どこにも見当たらない。艦娘たちに居場所を尋ねても『わからない』の一点張りで、手掛かりが全くなかった。さすがに疲れて、今は工廠で一息ついているところだった。
作業を一段落させたらしい明石が、僕の隣に座った。
明石「提督、お疲れ様です」
「明石も、お疲れ様」
明石「霞ちゃん、見つかりました?」
「いや、それがどこにもいなくてな……正直、手詰まりだ」
僕がそう言うと明石は少し神妙な顔をした。
明石「そうですか……実をいうと、ここ最近見てないんですよね、霞ちゃんのこと」
「最近ってどれくらいだ?」
明石「そうですね……はっきりとは覚えてませんけど、ちょうど提督が寝込んでたころからじゃないでしょうか?」
「だとすると……一か月くらい、か?」
飛龍から聞いた話が本当なら、そうなるはずだ。しかし、いくらなんでも同じ屋根の下で一か月も見かけないなんてことがあるのだろうか?すこし、考えにくい。
そして明石は「そんなに長期間でしたっけ……?」と言って頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
やはり何かあったに違いない。それを確信できただけでも十分な収穫だ。
明石「私は仕事に戻ります。うるさいところですけど、また何かあったら寄ってくださいね!」
「ありがとう、明石」
明石はそう言って仕事場に戻っていった。僕ももう少し探そうかと思い、腰を上げると、軍服の裾を引っ張られた。腰のあたりを見てみると、妖精さんがこちらをじっと見つめていた。
「おや、妖精さんか。悪いが今から探し物なんだ。またあとでな」
そう言って立ち上がろうとしたが、妖精さんは手を放そうとせず、むしろぐいぐいと何度も引っ張るようになった。さすがに妖精さんを無碍に扱うことはできない。仕方ないのでいったん座って放してくれるのを待とうとしたが、そのうちに引っ張り方に規則性が見えてきた。そして僕は妖精さんが何を伝えようとしているのかやっと理解した。
「なるほど、モールス信号か……」
妖精さんの中にも、話せるものと話せないものがいる。この妖精さんは話せないタイプのようだ。そして、彼女(彼?)は、こう言っていた。
『案内シマス』
もしかしたら、霞の居場所を知っているのかもしれない。少しの期待をもって、モールスで『宜シク頼ム』と返した。妖精さんは、任せておけといわんばかりに胸を張ると、ベンチから飛び降りて駆け出した。僕も軽い駆け足でその後を追った。
濃霧の中をしばらく走って、僕の息も切れてきた時だった。妖精さんは急に立ち止まるとこちらを見て、にっこり笑った。どうやら着いたらしい。そして目の前には巨大な扉。
「ここは……三番倉庫、か?」
この三番倉庫は五つある倉庫のうちの一つで、おもに失敗作や廃棄物を溜めておく、いわゆる『ゴミ置き場』だった。しかし、ここに出入りをする者と言えばせいぜい明石か夕張ぐらいで、少なくとも霞が来るような場所ではなかった。
「本当にこの中に霞が?」
僕の問いに妖精さんははっきり頷いた。
「だとしても鍵が無い」
僕がそう言うと、妖精さんは後ろに回していた手を見せつけるように前へ突き出した。その手には三番倉庫の鍵が握られていた。
果たしていつの間に明石の懐から持ってきたのか。思わずため息が漏れた。
まあいい。とりあえず今は霞を探すことが優先だ。鍵は後でこっそり返しておこう。僕は鍵を受け取って、第三倉庫を開けた。中に入って電気をつけると、そこはまさに装備の墓場だった。あちらこちらに装備が転がっていてなかなかに危険だったが、妖精さんはそれらをひょいひょいとよけて進んでいく。必死についていくと、不自然に片づけられた場所に着いた。色が同化していてわかりづらいが、そこには床下収納のような引き出し式の取っ手が付いた天板が乗っていた。妖精さんに促されてそこを開けると、軽く大人二人は入れそうな、大きな深淵がこちらを見上げていた。一応梯子はついているようだが、何とも言えない強烈な恐怖が脚を竦ませた。
「本当に、この下に霞が……?」
軽く震える声でそう尋ねると、妖精さんは大きくうなずき、そして僕に見事なまでの敬礼をした。いっそ清々しかった。仕方ない。僕は返礼し、覚悟を決めてその一段目に手をかけた。
ここはまるでブラックホールのようだった。上から射す光をあっという間に吸収して、闇に還した。次の段があるかもわからず、かといって下を覗くわけにもいかなかった。僕はただ機械的に手足を動かし、下へ降りた。梯子は非常に硬い素材でできているようで、多少力を入れても大丈夫そうだった。
二十段ほど降りたところで、手元が見えにくくなってきた。こんなことになるんだったらペンライトの一つでも持ってくれば良かったと後悔したが、いまさら悔いてどうなることでもなかった。
三十段降りたあたりで、手元が見えなくなった。少し怖いが、まだ大丈夫だ。
四十段降りて、上下の間隔が失われてきた。自分は今どこにいるのか、果たして梯子を降りているのか、分からなくなってきた。上をそっと見上げると、まだ入り口は見えた。
五十段降りて、とうとう入口の光が届かなくなった。深淵に呑まれたのだ。だんだんと額に脂汗が滲み始めた。手にもマメができて痛かったが、逆にそれがまだ自分は梯子を握っているという手ごたえにになっていた。
六十段降りた。まだ底には着かない。底知れぬ恐怖と疲労で手が震えてきた。だが、感覚はまだあった。
七十段降りてきた。試しにポケットに入っていたコインを取り出して、下に落としてみた。しかし、音は返ってこなかった。思わず叫びそうになったが、すんでのところで我慢した。
八十段。手の感覚が無くなった。少しでも気を抜けば、落ちてしまうだろう。神経が擦り切れそうだった。見えない眼を見開いて、正気を保った。
九十段降りた。軍服が汗を吸って重い。時々手が滑って落ちそうになる。いろいろなものが頭の中でごちゃ混ぜになって、息が荒くなってきた。もちろん疲労からもだろう。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
百段降りて、遂に叫んだ。頭のごちゃごちゃをすべて吐き出すように。終点はまだ見えない。
この後も梯子は続き、二百段目でやっと足が地に触れた。どうやら薄いマットのようなものが敷かれているらしい。これでは落としたコインも鳴るわけがない。
相変わらず辺りは闇が充満していたが、もう落ちる心配をしなくていいんだと思うと自然と涙が溢れた。だが、本来の目的を忘れてはいけない。目的はここを降りることではなく、霞を探すことなのだ。脚に力が戻るのを待って、僕は壁伝いに歩き出した。
少し歩くと、奥に光のようなものが見えた。かと思うと、またすぐ消えてしまった。幻覚だったのだろうか。それともシラヌイというやつなのだろうか。まあ、今そんなことは関係ない。ただ、光と霞を見つけるだけだ。
もう少し先に進み、角を曲がると、突然光が弾けた。センサーだろうか。一気に天井の電燈が付き、暗闇に慣れきった僕の目を焼いた。だが実際は大した光ではなく、目も少し経てば治った。
ざっと見回すと、岩盤に直接掘られたような横穴に、ところどころから染み出す水。まるで坑道のようなつくりだ。そしてその奥には、電燈とはまた違う色の光が見える。僕は、ひとまずそこを目標にして歩き続けた。
その『光』は思いのほか遠かった。いつの間にか電燈の数も減っていて、光に近づくにつれて光が減っていくという、奇妙な状況だった。時々躓いて転んだりもしたが、ただただその光に向かって進み続けた。そして軍服の膝が赤黒く染まったころ、ようやくその『光』にたどり着いた。
そこは一つの部屋だった。左側の壁をくりぬくように掘られており、扉の代わりに見るからに頑丈そうな鉄格子が嵌っていた。恐る恐る中を覗くと、中央には華奢な椅子にくくりつけられた少女がいた。俯いていたので顔は見えなかったが、銀色の髪はボサボサに乱れ、服はところどころが破れていた。そして、それは僕の探していた少女だった。
「霞っ!!」
思わずその名を叫んで鉄格子に掴みかかったが、びくともしない。よほど頑丈な鉄格子らしい。僕はなおも呼びかける。
「霞、大丈夫か、返事をしろ、霞!」
霞は意識を取り戻したかのように体を痙攣させた後、顔をこちらに向けた。左頬は肌が破けて内部構造が露わになっており、顔には疲労感が強くにじみ出ていた。
霞「司令官……?」
霞が弱弱しく答えた。
「そうだ、僕だ!大湊の司令官だ!」
霞「しれい……かん?本当に司令官なの?」
そういうと霞は唇をわなわなと震わせた後、顔をぐしゃぐしゃにして泣き始めた。
霞「司令官、来てくれたんだあ……あ゛あぁっ!怖かった……グスッ」
「ああ、来てやったぞ。だが、どうしてこんなことになっているのか、教えてくれないか?」
霞「わかったわ……ひぐっ。ちょっと待ってて」
僕は言われたとおり、霞が泣き止むまで待った。さすがに強い子だ。泣き止むまでに二分と掛からなかった。
霞「じゃあまずは、司令官の倒れた一か月前に遡るわ」
「ちょとまて、そんなに前から閉じ込められているのか!?」
霞「あのね……しょっぱなから話の腰を折らないでくれるかしら?クズ司令官」
「ス、スミマセン……」
失敗した。霞を怒らせてしまったかもしれない。大人しく話を聞くことにしよう。
霞は軽く咳払いをして、話を再開した。
霞「クズ司令官が倒れた時のことよ。隼鷹が……!」
「どうした、霞」
霞「隠れて、司令官」
霞が急に小声になって話しかけてきた。
「どうして隠れ」
霞「いいから早くそこの岩に隠れなさいったら!」
小声ながらもものすごい剣幕だったので、指示通り近くにあった岩に隠れた。すると遠くから足音とともに光が近づいてきた。霞はそれの接近を察知して忠告をしたのだ。僕は全く気付けなかった。やはり艦娘、そこら辺の感覚は鋭くできているのだろう。
光はこちらを探すように左右に動いた後、足音とともにどこかへ去っていった。僕の背中には変な汗がびっしりと浮き出ていた。
霞「もういいわ、司令官」
霞の許可が下りたので、僕は這い出るように岩から身体を突き出した。
「今のはいったい……?」
霞「私をさらった張本人ってところね。説明したいけど時間が無いわ、急いでここから出て!」
「霞を置いていけない!」
霞「司令官、よく聞いて。ここには鍵がかかってるの。そしてその鍵を持ってるのは、飛龍よ」
霞は、驚きの名を口にした。それは僕のケッコン艦、飛龍。あまりのショックに、足が動かない。霞はそんな僕を見かねたように、「早くしなさいったら!」と叫んだ。すると、僕の身体は魔法が解けたように自由になった。
「必ず、戻ってくる」
一言だけ告げると、霞はどこか誇らしげな表情でこちらに微笑んだ。そして唇だけが動いた。
『まってる』
僕は霞のいる部屋に背を向け、走った。入り組んでない道だったため、簡単に梯子までたどり着くことができた。そして霞の覚悟を背負って、二百段のうちの一段目に手をかけた。
「必ず、戻ってくる」
一回降りたからといって、この梯子に慣れることは無かった。しかし、少なくとも終点があるのはわかっているし、なにより背負っているモノが違った。相変わらず暗く、長い道のりだったが、一度も弱音を吐くことなく登り切った。蓋は開いており、そこにはここに導いてくれた妖精さんが座っていた。妖精さんは僕を見るなり目を潤ませ、送り出した時と同じく敬礼をした。もちろん僕も返礼をし、服をはらった。
改めてみてみると、ひどい格好だ。膝は擦り切れてぼろぼろになっており、血と混じって赤黒く変色していた。背中や袖などにもあちこちに汚れがついており、これは新品に交換だな、と思った。
僕は倉庫の電気を消し、扉を開けた。霧はすっかり晴れ、太陽は真上にあった。まるで僕の地上への帰還を祝っているようだった。僕は肩に乗せた妖精さんと一緒に、工廠へと向かった。第三倉庫の鍵を返すために。そして、次の第三倉庫の使用許可を得るために……。
明石「ちょっと、どうしたんですかその恰好!ひとまずこっち来てください、傷の手当しますから!」
と思っていたのだが、この格好を見た明石にむりくり工廠脇の小部屋に連れ込まれてしまった。てか明石さん、そう言う割に随分と無理やりじゃないですかね……?
部屋の中は案の定、散らかっていた。それこそ床は足の踏み場もなかったし、机の上には大量の書類やら設計図やらがバベルの塔のように積み重なっていた。明石はその机の下から椅子を引っこぬいて僕に座るよう勧めた。大冒険で疲れていた僕に断るという選択肢はなかった。
明石「今救急箱持ってくるので、少し休んでいてください。……コーヒー、飲みます?」
「ぜひとも頼むよ。喉がからっからなんだ」
明石は「了解です」と返事をすると奥の方へと消えた。残された僕はといえば、背もたれに全体重をかけて脱力していた。精神的にも肉体的にもすっかり消耗していて、今すぐにでも眠れそうだった。だが、さすがにここで眠るわけにはいかないし、ましてやるべきことはまだまだあるのだ。
さっきまでの出来事を悶々と考えていると、明石が両手にコーヒーを持って戻ってきた。片方は普通の白いマグカップで、もう片方はカップ自体の大きさに見合わないほど太い取っ手を備えたマグカップだった。後者はおそらく僕専用に明石が作ってくれていたものなのだろう。……それはありがたいことなのだが、肝心の救急箱は見当たらない。
「あれ、救急箱は持ってきていないのか?」
明石は軽く微笑むと、「ここにありますよ」と言って目線を自分の足元に向けた。なるほど、そこには救急箱を頭の上に乗せた妖精さんがいた。少し重そうにしているが、意外と力持ちなんだな。
明石は慣れた手つきで消毒液と包帯を取り出すと、傷の手当を始めた。消毒液はひどく傷にしみたが、おかげで目が覚めた。そして、先ほどまでの出来事が夢ではなかったんだと確信することができた。
明石「何があったんですか、提督」
と明石は神妙な顔つきで言った。
「……ただ転んだだけだよ」
明石「嘘です。転んだだけじゃそこまで土埃だらけにはならないはずですよ」
やや、間。僕は考えた。ここで明石に話してもいいのか、と。
「実はな、第三倉庫に行ってたんだ」
結論は、『話さない』だった。正直、明石に話してどうにかなる問題ではない。それに、話がどこから漏れるかもわからない。いっそすべて話してしまえば気も楽になるのだろうが、ばれた時のリスクを考えるとそうもいかなかった。
明石「え、第三倉庫ですか?鍵は私が持ってて……あ、あれ?無い?」
明石はそういうと自分の身体のあちこちをまさぐり始めた。ははは、そんなに探してもありませんよ、明石さん。だって僕が持って……あれ、無い。持ってたはずの鍵が無い!
僕も必死になってポッケをまさぐり始めたので、何とも言えぬ奇妙な光景になってしまった。一分ぐらいたっても見つからなかったので、もしやと思って妖精さんの方を見ると、案の定、持っていた。誇らしげに胸を張り、鍵を頭上に高々と掲げていた。明石もそれに気づいたようで、少し眉を寄せた後、猫のような俊敏さで鍵を取り返した。
明石「勝手に私の鍵を取るなって、何回言えば分かるの?もしなくしちゃったら洒落にならないんだから!もーっ!」
怒り方を見るに、どうやら妖精さんは常習犯らしい。盗る方も盗る方だが、毎回気づかない方も気づかない方だと思う。しかし、妖精さんもそんなに鍵を盗んで何をしているのだろうか。それとも単に遊んでいるだけか。
説教を終えたらしい明石がこちらを睨む。頬をむくれさせていて、少し不満げだ。
明石「提督も、私に許可をもらってから借りてください!一言断ってくれれば私すぐ貸しますから」
「すまんな明石。じゃあさっそくそうさせてもらうよ。鍵を貸してくれないか?」
明石「へっ?」
よほど僕の答えに意表を突かれたのか、聞いたことが無いような素っ頓狂な声が明石から返ってきた。もちろん、僕は大まじめなのだが。
「もちろん今すぐ行くとは言わない。だが、しばらくの間僕に貸してほしいんだ」
明石「何かお探し物ですか?」
「まあ、そんなところかな」
明石「よければ手伝いますけど」
「いや、大丈夫だ。明石はここの仕事をいつも通りこなしてくれ」
明石「ちょっと気になりますけど……まあ、いいです。わかりました、頑張ってください!」
「明石もな……あと、手当て。ありがとう」
明石「いえいえ、直すのが工作艦の本業ですから!遠慮しないでまた来てくださいねー!」
鍵を受け取り、明石の温かい言葉に送られながら僕は小部屋を後にした。工廠は相変わらず油臭かったが、それでもあの地下のにおいよりはマシだと思った。
ひとまず僕は執務室へと戻ってきた。ほっぽり出した仕事もしなければいけないし、何より大淀の様子が心配だった。しかし、部屋の中に大淀はいない。あるのは書きかけの書類だけだ。果たして大淀はどこへ行ったのか……やはりあのとき明石に見せるべきだったか。そう後悔していた時だった。
飛龍「大淀なら入渠させてるよ」
「飛龍……!」
飛龍「いやー、愛されてるねー提督も。大淀ったらうわごとみたいに『提督、提督』って言っちゃって」
飛龍は僕のことをからかって、そんな軽口を言った。だがこちらとしては大淀が心配で仕方がないのだ。
「大淀は!?どうなんだ?」
掴み掛らんばかりの僕を、飛龍はまるで子犬をあやすかのような手つきで制止する。
飛龍「大丈夫だよ、ただどっかの回路がショートしちゃっただけだから、すぐ直るよ」
「……そっかぁ」
僕はすっかり脱力してしまい、膝からずるずると崩れ落ちた。
飛龍「全く心配性なんだから……さ、お仕事しましょ?」
飛龍が差しのべてくれた手をつかんで立ち上がり、僕はいつもの椅子へと座った。
飛龍「そういえばさ」
執務を再開して数分だろうか、飛龍が何気なく訊ねてきた。
「んー?」
飛龍「さっきまでどこ行っていたの?」
「……え」
思わず手が止まる。
まさかばれているのではないだろうか。一抹の不安がよぎる。
いや、カマをかけている可能性もある。どっちにしたって動揺を見せたら負けだ。
しかし、一体なんと返せばよいのか。正直に話すか?それとも適当に嘘をつくか?
いや、ここは本当のことを言うべきだろう。どっちにしろ霞を解放したらばれることなのだ。それに、ここで下手に嘘をつくと感づかれたと警戒されるかもしれない。
僕は努めて冷静に「霞を探していたよ」
嘘をつかない範囲でさも当然のことのように答えた。
飛龍「……そっか。で、見つかったの?」
「……見つからなかったよ」
言葉に詰まりそうだったが、何とか返すことができた。
飛龍「ふーん……じゃあこれは?」
飛龍が懐から取り出したのは、鍵。
おそらく霞の牢屋の鍵であろうもの。
そして僕はこの特大の餌に
「あ!それは……あっ」
まんまと釣られてしまった。
「あはは……は、ははっ……」
引きつり笑いしかできない。
今の僕はまさに蛇に睨まれた蛙だ。
血の気が引くとはこういう感覚か。
飛龍の視線が痛い。
万事休す。
もはや言い逃れはできない。
どうする、どうする。
どうする?
飛龍「……まぁ、いいけどねぇ。そろそろ教えなきゃって、思ってたし」
「へ?」
飛龍は軽く鼻を鳴らし、こちらに体を向けた。
飛龍「第三倉庫の地下のことでしょ?」
「え……はい」
飛龍「なんか、一種の防空壕みたいなやつらしいけど、よくはわかんない。それよりもまず霞のこと、気になるよね?」
そうだ、霞だ!こうなってしまったものの、僕の目的は飛龍から牢の鍵を奪取し、霞を救出することだ。
しかし飛龍にばれてしまった以上、こっそり盗るというのは難しそうだ。ならば正面突破か……?
飛龍「なんか誤解してるみたいだから言っておくけど、霞はちゃんとワケありであそこに入れてるんだからね?今から話すけど」
飛龍はどこか呆れ気味でそう言う。
「理由だって……?」
飛龍「そ。彼女にね、バグが見つかったの」
「バグ……?」
こちらに言い聞かせるように飛龍は話し始める。
飛龍「そもそも、提督の記憶障害の原因は彼女よ」
「は……?」
何を言って。
飛龍「霞が提督に暴力を振るったの。後で調べたらバグが見つかってね、そのせいだってことで罰せられることは無かったんだけど……なにぶん危ないし、あることないこと言い出すから、更新プログラムができるまであそこに監禁していたの。あとは提督も知ってのとおりよ」
「……そんなこと、信じられると思うか?話がうますぎるとは思わないのか?そんな、まるで『ばれちゃったからとりあえず適当な理由つけました』みたいな話……」
脳裏にあの時の霞の表情が浮かぶ。顔をぐしゃぐしゃにして泣いた、あの顔。どこか誇らしげな、あの顔。
飛龍「じゃあ逆に聞くけどさ、どうして霞の言うことは信じて、私の言うことは信じてくれないの?」
僕の態度に少しすねたような表情をする飛龍。ごもっともではあるがしかし……
飛龍「これでも提督のお嫁さん……なんだよ?」
だめだ。僕はこういった攻めに弱い。この潤んだ瞳、きゅっと袖を掴む手、ふと漂う甘い香り。
しかし、それとこれとは別だ。別なのだ。そう必死に言い聞かせる。
「直るまで、あとどれくらいだ」
少しぶっきらぼうに聞いた。
すると飛龍は袖をつかんでいた手を僕の指に絡ませ――
飛龍「そうねぇ……あと一週間ぐらい、かな」
「……そうか」
――僕もまた、このマメの潰れた忌々しい指を陶器のような彼女の指に絡ませるのだった。
目が覚めると、僕等はベッドの上にいた。
窓から差し込む月明かりだけが唯一の照明だった。
隣には飛龍。ここには僕。ただそれだけのことなのに、どうしてだろう。
その温もりがたまらなく恋しくなるのだ。
我慢できずに彼女の餅のような頬を指先でそっと撫でる。
飛龍は猫のように軽く身もだえした後、目を細めてこちらを見た。
飛龍「提、督……?」
飛龍「どうして、泣いてるの?」
「……泣いてなんか」
ない。そう言い切る前に、僕は抱きしめられた。
そして、飛龍はまるで我が子をあやすように僕の頭を撫で始めた。
飛龍「提督は……あなたはわるくないんだよ?」
こちらを見つめるその眼差しは、ただただ慈しみを湛えていた。
そのとき、ふと何かを思い出した。そう、いつだったか……前にもこんな光景があった気がする。
「そう、これは月明かりが目に沁みたんだ。ただそれだけなんだよ……」
それはもうはるか昔のことのように靄がかかっていて。
飛龍「ねぇ提督」
「……なんだい」
今見える世界は黒く霞んでいて。
飛龍「明日、話したいことがあるの」
そう、すなわちそれは
飛龍「だから、さ。もう少しだけ、こうさせて……」
ずっと忘れていた、歪んだ衝動の現れに他ならないのだ――
マルロクマルマル、雨が窓をたたく音で目が覚める。
果たして今が朝なのか夜なのか。時計が無ければ分からないほどに空は曇り切っていて、まるで神様が墨汁をこぼしたような、それほどに真っ黒な空だった。
町は車のライトで埋め尽くされ、家々からはうっすらと光が漏れている。
普段は無音のこの執務室も、今日ばかりは雨音が満ち満ちていた。
そんな湿っぽい朝をぼんやりと過ごしていると、ノックが二つ。
大淀「提督、朝食をお持ちしました」
「大淀じゃないか!もう大丈夫なのか?」
大淀「ええ、すっかり良くなりました。これより艦隊に復帰いたします」
「そりゃよかった……いきなりおかしくなるもんだから、びっくりしたよ全く」
大淀「ご心配をおかけして、すいません……」
「ま、無事で何よりってやつだ。どれ、朝食は……お、和食だな」
大淀「今日は寒そうだったので、みそ汁でもと思いまして」
「気が利くな。さすがだ」
大淀「さすがに慣れました」
何でもない日常のやり取り。
思えばだれかと食事をしたのは何か月ぶりだろうか。
たぶん、霞、夕立、大淀と僕の四人で食事をした時以来だろう。
……そもそも、記憶のないこの一か月間、僕は何をしていたのだろう?
飛龍曰く、老人のようにさまよっていたらしいが、本当にそうなのだろうか。
果たしてそんな危険な状態の僕を放し飼いにしておくものだろうか。
普通なら霞のように独房にでも入れるか後方送りにでもするはずだ。
『嘘が嘘であるのは、真実がある時だけだ』
いつかの言葉が脳裏をかすめる。
一体どこまでが嘘で、どこまでが真実なのか。
当事者の僕がわかるはずないのだ。
「わからなくても、いいんだ……」
僕はいつの間にか食事を終えていた。
大淀の姿も見当たらない。
椅子を窓の方へ向け、外をただただ眺める。
約束の時間に近づくほどに、雨は鋭さを増していった。
しかし、空の色は相変わらず真っ黒だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
こん、こん
聞きなれたノックの音が静寂に割り込む。
「入れ」
おそらく飛龍だろう。いつものように返事はしたが、正直ドキドキしている。
日中の暇な時間にふらっと呼び止めればいいものを、飛龍はあえてこの時間を指定してきた。おそらく真剣な内容ではあるだろうが、いったい何を話そうというのだろうか。霞……の話はもう解決したはずだが。
飛龍「ごめんね提督、こんな時間に」
「ああ、いいんだ別に。で、話っていうのは……?」
つい、焦ってせかしてしまう。落ち着け……
ひとまず応接用のソファに腰を落ち着かせる。
飛龍「あのね、提督。今日は私のすべてを話そうと思うの。どんな内容でも、最後まで聞いてくれるって、約束してくれる……?」
「ああ、もちろんだとも」
紛れもない本心だ。正直なところ、飛龍にはまだ謎が多い。もしかしたら記憶障害のせいなのかもしれないが、いつ着任したのか、いつケッコンしたのか、ここ一か月の間、本当に何もなかったのか。
これらを飛龍は話そうというのだ。聞かない手はない。
時々、嫌な予想が頭に浮かぶのだ。『実は飛龍とはケッコンしてないんじゃないか』とか、『そもそもここは元の鎮守府じゃないのではないか』とか……。
こんなことを考えている自分が嫌で、早く払拭してしまいたかった。
飛龍「そっか……隣、いいかな?」
「ん、いいぞ」
飛龍「じゃ、失礼します!」
肩がくっつきそうな距離だ。
飛龍は三度深呼吸をした後こちらに体を向けると、意を決したように口を開いた。
飛龍「私はあなたのケッコン艦ではありません」
「私はあなたのケッコン艦ではありません」
私は三度深呼吸して体を提督に向け、そう、言った。
「大湊所属の艦娘でもなければ、ましてあなたたちの味方でもありません」
本当のことを伝えるために。
提督「……そうか」
提督はああ言った手前、動揺を必死に隠そうとしているみたいだけど、声は震えているし、眼だって見開かれている。
このリアクションを見る限り、どうやら今まで気づいてなかったみたい。
刷り込みは成功した……ってことなのかな。
「私の本来の目的は、ここを乗っ取って大本営への復讐をすること。その拠点としてここを選んだの」
提督「どうしてここを?」やや間をおいて、提督が聞いてきた。
「その一、近かったから。その二、後方支援部隊だから。その三、あなたの発言が気に食わなかったから」
私は包み隠さずその時の心境を答えた。
今は私のすべてをさらけ出すと決めていたから。
「私は二か月前にここに来たの……もっとも、着任したわけではなくて、あなたの艦隊に返り討ちにあって鹵獲されたんだけどね。提督は覚えてないと思うけど……」
提督「ちょ、ちょっと待ってくれ。今、二か月前と言ったか?」
「え?う、うん、二か月前……」
提督「……いや、すまない。話を続けてくれ」
提督は一瞬取り乱したけど、自分の中で結論が出たみたいで、すぐに落ち着いた。
私は再び話し出す。
「ここの艦娘たちはその後、私を縄で縛って入渠させたの。『話を聞く前に壊れてしまったら意味がない』って。逆に潜入する手間が省けたからラッキーだった。見張りもいまいち雑だったし、縄抜けなんて楽勝だったから。入渠が終わって、まずは隙をついて見張りの艦娘の電源を落としたの。次に隣の工廠にいた艦娘を。そしてその二体の艦娘をインストーラーにかけて、私の言うことを聞くようにした。その後はもうとんとん拍子ね。その二人に他の艦娘を一人ずつ呼ばせて、かたっぱしから私のことを同じ所属と認識するように書きこんだの」
提督はあっけにとられて、口が塞がらないみたいだ。
当たり前だよね。こんな映画みたいな話、実際に自分の身の回りに起きることなんてそうそうない。でもこれは事実。ちゃんと知ってほしいの。私がしたこと。
「だけど、提督――人間――はそうはいかない。そう簡単に『私』という外部の存在を『前からいた仲間』と認識させることは難しい。だから、提督には刷り込みをしたの。周りの仲間が『飛龍は仲間だ』といい続けさせて、だんだんとその気にさせるの。ちょっとした嘘も交えて、ね。一週間で完了したわ」
正直ここまでうまくいくとは思わなかったけど、提督が目を覚ました時、何か様子が変だったのも関係あるのかな。
提督「じゃあ僕は……飛龍をケッコン艦と思っている今の僕はいったい……」
「その後気づいたの。ガッツリ洗脳して私の駒にするよりも、私をケッコン艦として信頼させて好き勝手出来るようにした方がいいんじゃないか、って。そう……ちょっと荒療治だったかもね。人格を変えずに、って意味では成功したけど、提督の自我がはっきりしなかった。なんかこう、どこかふわふわしているような……」
提督「それで僕は記憶障害を起こした、と」
「まあ、そうなりますね」
提督「そうか……」
そう呟くと提督は肩を落とした。さっきまで自分が信じていた世界がすべて否定されたんだもんね……。ただ、それでもすべてを伝えたい。たとえ、提督に追い出されたとしても。殺されたとしても。
ここからは、私の気持ちを聞いてほしい。紛れもない、私の本心を。
「ただ……ですね」
さっきまでとは違う私。それに気付いたのか、提督は首をこちらに向けた。
「その、最初はこんなにも危険な動機だったとはいえ、その後の一か月……提督と過ごしたこの一か月間、とても楽しかったの。記憶はないみたいだけど、提督は本当に優しくしてくれた。大切にしてくれた。必要としてくれた!それこそ、夫婦みたいに……洗脳した結果といえども、ね」
どの口が言うのだろうか。鎮守府を乗っ取って、頭までいじって……楽しかっただなんて。
もう頭で考えて話してはいなかった。口が心と直結してしまって、歯止めがきかない。
「そんな偽りの一か月だったけど、そう、つまり……その、私はあなたに、惚れてしまったの……」
提督「……え」
ああ、私は最低だ。
提督「え……」
提督の喉から声が漏れる。
飛龍「これで許してもらおうだなんて思ってないし、許されることでもない。でも、その……あなたには本当のこと、伝えなきゃって……こうしないと気が済まなかったの」
飛龍は視線を膝に落とし、手弄りをする。
提督は、どうしていいかわからなかった。
果たして飛龍をどうすればいいのか……やっと頭を整理出来たというのに、またこんがらがりそうだ。
だが、飛龍が本気だということは理解できた。
大きく息を吐き出した後、飛龍は勢いよく立ちあがった。
提督もそれにつられて立ち上がる。
飛龍と目が合う。その目は、今まで見たこともないほどに柔和だった。
目尻からは今にも涙がこぼれそうだ。
飛龍「提督」
『愛して――』
飛龍の口から、心から、それ以上言葉が紡がれることは無かった。
一発の銃弾が、飛龍のこめかみを貫いたからだ。
飛龍の目は焦点を失い、身体は糸の切れた人形のようにソファへ倒れこんだ。
提督は咄嗟に銃声の鳴った方向――執務室の入口――に振り向いた。
そこにいたのは、全身黒づくめの戦闘服に身を包んだ
提督「お前は……!」
彼「久しぶりだな」
『彼』だった。
提督「どうして……どうして飛龍を殺した!!」
提督はこぶしを震わせ激昂した。
全てを自分に話してくれ、あまつさえ好意まで抱いてくれた飛龍を目の前で殺されたのだ。頭が真っ白になった。
それに対して彼は冷静だった。冷え切った眼差しで提督を見据える。
彼「そいつがテロリストだからだ。だから殺した。それまでだ」
提督「確かに前はそうだったかもしれない。でも今は違う!違ったんだ。やっとホントの飛龍に戻ってたんだよ……これから戻っていくはずだったんだ……それをお前はぁ!!」
彼「だからなんだ!?そんなこと、俺には知ったこっちゃねぇ!何を吹き込まれたかは知らんがな、そんな極悪人を信じろって方がどだい無理な話だ」
提督「飛龍が……何をしたっていうんだ」
彼「教えてやる。前からマークはされていたようだが、神出鬼没でな。にもかかわらず見つけた獲物は必ず仕留める。だからそいつは『死神』と呼ばれていたんだ。そうだな……最近起こした事件といえば、佐伯湾泊地空襲か」
提督「嘘……だろ」
彼「嘘を言ってどうする」
提督「でも……それでも飛龍は、たとえ嘘でも、僕のケッコン艦だったんだ……」
彼「……最後に顔でも見てやりな」
彼に促され、提督はよろよろと飛龍だったものへと近づいた。
そして思い出す。五年前のあの日を。彼女の顔を。
涙が勝手にあふれ出し、提督は膝から崩れ落ちた。
彼はその後ろから、飛龍の目をそっとつむらせた。
今だけは、彼は特殊部隊員ではなく、『提督の友人』だった。
彼「死体は回収させてもらう」
しばらくして彼が口を開く。
提督「……頼む」
提督はすっかり落ち込んだ声で応えた。
彼「こいつの言っていたことはでたらめだ。すべて忘れろ」
彼は慣れた手つきで死体を処理して袋に詰め、それを肩に担いで外へと向かう。
彼「……またな」
提督は無言だった。
「帰ってくれ」と背中で言っていた。
執務室には、提督が一人。
そこには他に誰もいなかったと思えるほど、飛龍の痕跡はなくなっていた。
血の一滴さえない。
提督「……かす、み」
提督は曇り切った瞳で、そう呟いた。
そして何かに弾かれたように立ち上がると、応接用テーブルの引き出しを開けた。そして地下牢の鍵を手に取ると、まるでペンギンのようによたよたと歩き始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
気が付くと、提督は地下牢の前に立っていた。その中には、霞。
霞「司令官……来てくれたのね」
提督「……今出してやる」
提督はそう言って鍵を刺した。扉はあっけなく開いた。
そしてもう一つの鍵で手錠を外すと、霞は提督の胸に思いっきり飛び込んだ。
霞「ありがとう司令官……助けてくれて」
提督「言ったろ?必ず戻ってくるって」
霞「あのまま飛龍に誑かされてるんじゃないかって、怖かった」
提督「……飛龍は、殺されたよ」
霞「……そう」
その時、提督の腹の奥底から強烈な衝動が湧いてきた。
確かめたい。
ただその一点に集約されたソレは、提督のすべての思考を埋め尽くす。
そして、僕は霞をそっと抱きしめた。
僕の腕の中からはもう、金属の軋む音は聞こえなかった。
『ふふ、司令官、あたたかい』
私はそう呟いて、提督を抱きしめた。
そして私は、唇の端をそっと吊り上げるのだった――
――元帥殿 宛
○○○○年○月○日
差出人 海軍対テロ第五特殊部隊 「彼」
―今作戦ニオケル結果報告―
我、大湊警備府ニテ今作戦ノ標的デアル第二級テロリスト『飛龍』ノ殺害に成功セリ。サレド第一級テロリスト『HAZE』ノ発見ナラズ。引キ続キ捜索中モ手掛カリ無シ。諜報員ノ増量ヲ求。
以上、報告終ワリ
――完――
『提督の抱擁』ここに完結いたしました。約半年間、応援、コメント等ありがとうございました。
「絶対に完結させる」といった手前、意地でも完結させてやる!と思い、一か月の空白を経て一気に書き上げました。
物語を作り上げることの難しさを思い知りましたが、同時に楽しさも感じることが出来ました。
御読了、ありがとうございました!
――感想を一言でも書いてもらえると、作者は喜びます――
おうおう待ってますぜ。
1様>コメありがとうございます。
土日に一気に更新できるかもです、はい!
期待
3様>ありがとうございます。
やっぱりコメもらえると励みになります!
大湊警備府(鯖)から視察に来ました
続きが楽しみで仕方ないです
5様>ありがとうございます!
うれしくて眠気吹っ飛びましたw
あら、頑張ってね(・ω・)ノ
by 1コメ
良いですね。このss迅く続きをおなしゃっすo(^▽^)o
7様>はい!当分は完結を目標にがんばります!
8様>ありがとうございます。アイデアの赴くままにどんどん書いていきたいと思います!
ひさびさにビビっとくるssを読んだ
お疲れの出ませんように。応援しています。
10様>ありがとうございます。元々息抜きのつもりで書き始めたSSなので、無理しない程度にがんばります!
おんぼろ鎮守府から来ました!提督です!
後方支援よろしくお願いします!
すっごく面白いですよ!これからに期待です
ポテ神様>ありがとうございます!
いつも見ています!
後方支援、お任せください!
面白い!
更新ガンバ!
更新、楽しみです!
応援してますヽ(*゚∀゚*)ノ!!
戦艦れきゅー様>ありがとうございます。これからもがんばります!
15様>これからも大なり小なり毎日更新していくつもりなので、よろしくお願いします!
丁度、屍者の帝国を試聴した後でのSS でしので感慨深いです。魂は何処にあるのか、続き楽しみにしております。
とても面白いです!
いつも楽しく見させてもらってます^_^
一つだけ意見させて頂きたいのですが、
セリフを誰が発言したのをかわかりやすしてもらえたら嬉しいです!
これからも更新楽しみにしてます!!
無理せずに頑張って下さいm(_ _)m
17様>ありがとうございます。
屍者の帝国ですか、参考にしようかしらん……w
そこの様>ご意見、ありがとうございます!
やっぱりそうしたほうがいいですかね……。
夢の中以外はつけてみます!
ファイトです~(*´∇`*)
怪力か でも過去にはつらいことがあったんだな
でもだいじょうぶだ 後、なぜ艦娘先に鎮守府にいるのでしょうか?
20様>はい、頑張ります(*´∇`*)
matu様>ご指摘ありがとうございます!
提督が着任する前から電源を切った状態で運び込まれていたから、という設定です。大淀は初期艦なのであらかじめ起動していました。
(後付け設定だなんて言えない……)
この提督かっけぇえ!とか思いながら読んでいました♪ぜひぜひうちの鎮守府も支援してほしいです! 人それぞれ艦娘に対する考えが違うんですね・・・いい勉強になりました!ちなみに自分は人からなると思っています!
万屋頼様>支援要請、承りました!
人によって世界観がガラッと変わるのが艦これの面白いところですよね!
艦娘機械説の人って少数派なんですかね……?
引き込まれる話ですね
続き楽しみに待ってますヽ(*´∀`)ノ
かぼす様>ありがとうございます!
今後ともご贔屓に!
17でコメントした者です、機械化説は少ないですが、有りだと思われますね。いろんなことに説明ができます(解体、改修など) 続き楽しみにしております。
27様>コメントありがとうございます!
やっぱり少数派ですか……だからこそこの設定で書きたいとは思っていますがね。
あと屍者の帝国(小説)を今読んでいるのですが、なかなか面白いですね!次は機械の花嫁でも読みたいです。
今晩は、準鷹のところ編集したのですね、私の読み間違いならすいません。
29です前書きに書いてありましたすいません。
27にコメントしました。こういう内容は支持が少ないかもしれないですが、ぶんがとして有りだと思われます。別の人で赤城さんが夢に出る位 悪い人だった作品がありましたが良作でした、上手伝えれませんが頑張ってください。
29様>大丈夫ですよ、お気になさらず〜
31様>いつもコメントありがとうございます!
そうですね、そう言っていただけるとありがたい限りです。
万人受けする内容ではないと思いますが、バッドエンドにするつもりは無いので、ご安心(?)を。
間違って自分で評価してしまった…orz
もともとよかった作品が屍者の帝国の設定を混ぜたことでさらにシリアスになりましたね。
シリアス大好きです。頑張ってください。
34様>コメントありがとうございます!
とても興味深い設定だったので、使わせていただきました。
まだ半分までしか読んでないのですが、かなり勉強になりますね。
屍者の帝国の存在を知るきっかけとなった17様に感謝を。
比叡・・・お願いします🙇⤵
36様>比叡了解です。
霧島がいるから何とかなるかな……?
17です、私もたまたまTSUTAYAにDVD あったので拝聴覚ました、少しでも役に立てて幸いです。今度は、本も読んで見ます機械の花嫁も確認しますSS と関係ないコメント失礼します。やり取りできると嬉しいですね。
38様>いつもありがとうございます!
少し相談なのですが、せっかくコメントしてくださるので、ログインしていただければ分かりやすくていいと思うのですが、どうでしょう?
もちろん無理強いなどは決してしませんが、その方が便利かと思いましたので。
17でコメントしまさた、やっとログインできました、今後ともよろしくお願いいたします。
みやこわすれ様>いつもご愛読、ありがとうございます!暫く小更新になると思いますが、よろしくお願いします。
更新楽しみにしております、SS でないと出来ない表現ってありますね艦これ作品少なくなりましたのでよろしくお願いいたします。
みやこわすれ様>いつもありがとうございます。
台本と小説の間のこの形式だと、大部分を心理描写に出来るので少し楽ですし、行間による独特の間が表現できるのでいいですね。
しばらくは少更新になりますが、いつか完結はさせますので、それまでよろしくお願いします。
準夜戦シーン良かっです、静かな情景描写に想像力をかき立てらました。引き続き頑張って下さい。
みやこわすれ様>何時もありがとうございます。
そう言って頂けると幸いです。自分は直接的な描写はしたくない派なので、どう受け取られるか不安だったのですが、ホッとしました…。
絶対屍者の帝国混ざってるよね…
46様>コメントありがとうございます。
率直に言うと、混じっております。
このssを書き始めた頃、コメントにて屍者の帝国を知り、読んでみるととても魅力的な設定があった為、一部使わせていただきました。話は勿論、オリジナルで書いておりますので、多少の設定拝借をお許し下さいm(_ _)m
久々にこのssを見たら凄かった(文字数が・・・
作者さんがんばって
matu様>コメントありがとうございます!
文字数ですか〜。気がついたらいつの間にか結構な量になってましたね(笑)
基本的に、思いついたアイデアをメモに書き殴ってそれに地の文を乗っけているだけなので、文字数なんて気にしていませんでした。最初に立てたプロットも、今は全く役に立ってませんし(笑)
今まで見てきたSSの中で始めて深いことを言い、読者が同情する元帥を見ました。
50様>コメントありがとうございます!
そう言って頂けると、書いている側としては本当に嬉しい限りです!
魅力的な元帥、主人公、艦娘達を書けるよう頑張りますので、よろしくお願いします!
提督のキャラクターがおもしろく、今後どんな鎮守府を作っていくのか興味深々です。投稿ありがとうございます。霞のその後がはっきり明示された訳でないので、彼女どうなったのか、それを踏まえて提督と艦娘の関係がどうなっていくのか更新楽しみです!
52様>コメントありがとうございます‼︎
ふおお……!なんというか、嬉しすぎて感無量です!
そうですね、次あたりにそこらへんに触れて書いていこうと思います。これからもよろしくお願いします!
さらに作品に引き込まれます。オリジナルとコピーの関係これから楽しみです、余談ですが、今週私が鎮守府に着任しました。
みやこわすれ様>コメントありがとうございます。
着任、おめでとうございます!ぜひ、良い艦これライフを!
なんて言えばいいかな…こう…その…うん、とにかく面白い(凄すぎて何にも言えないなんて口が裂けても言えない)
戦艦れきゅー様>コメントありがとうございます!
そこまで面白いと思ってくれているなんて……自分、感激です!
面白いと言われるようなssを書いていけるように、これからも頑張ります!
霞ちゃんが布団にもぐりこんでいるじゃないか!起訴します。
しらこ様>コメントありがとうございます。
急ぎ確認してまいりました。
……あぁああやってしまったぁあぁああ!!!!!
すいません!決して真似した訳ではないんです!許してくださいなんでもしますか(
いやー本当に面白いです!私は地の文のあるssは苦手なんですけど、がっくらさんの文章は全く抵抗なく読めました。国語力半端ないですね
60様>コメントありがとうございます!
文章を褒めて頂けることは、私にとっては最高の褒め言葉です。国語力と想像力、よりつけていきたいと思います。これからがっくらをよろしくお願いします!
新展開ですね、続き楽しみにしてます。頭に映像が浮かぶ表現が凄く好きです。
みやこわすれ様>コメントありがとうございます!
地の文の描写を読みにくくない程度にパワーアップしようと思って書いた時だったのですが、そう言っていただけてありがたいです!話も徐々にですが展開していくつもりです。
あっ、もう終わりかと読んでたら
あっというまに時間が・・・・。
引き込まれますねー。
気長にお待ちいたしておりますので
よい作品をお願いいたします。
T蔵様>コメントありがとうございます!
今春から新生活なんで少し更新速度は遅くなるかもしれませんが、未完には絶対したくないと思っているので、完結までゆったりと見ていただければとてもありがたいです!
これからも
大変、
楽しみにしております
らんぱく様>コメント、オススメありがとうございます!!
らんぱくさん、あなたは私の憧れです。らんぱくさんの書くssを見て、自分もこんな作品を書きたい!と思ってこのssを書いてきました。
コメントのみならず、オススメまでして下さり、本当に嬉しいです!!
これからも、頑張ります!!
スラムキングかな?
面白い作品ありがとう
ところで野暮な質問なんだけど……主人公はなぜ軍に入れたのかな?
犯罪歴があったら厳しいような……
なんかここらへんが伏線とかなのかな~と思ってみたり
ああ……読み落としてた
ごめんなさい……
質問を取り下げます……
Schnitzel様>コメント、ご質問、ありがとうございます。
気になることがありましたら、気にせずどんどん書いてください!答えられる範囲で答えますので……。
とても素敵で面白い作品でした。
次回作お待ちしております♪
缶@提督様>コメント、オススメありがとうございます!
最近下がり気味だったモチベーションが一気に上がりました!時間を見つけ次第書きますので、これからも応援よろしくお願いします!
完結お疲れ様でした。
展開が私には予想出来なかったですw
細かいことを言えるような文才も語彙力も無いので、一言。
このような素晴らしい作品を書き上げてくださり、ありがとうございました。
次回作…というより他のssの更新も、お待ちしております。
とても良かった。話がとっ散らからないからとても読みやすかった
良いものを読ませていただけて本当に感謝します
ありがとうございました
缶@提督様>コメントありがとうございます!
正直結末はどうしようかと悩んでいましたが、結果的にはこれで良かったのかな…と思っています。
他の作品も完結まで末永くよろしくお願いします。
ぐれーぷふるーつぱい様>コメント、お気に入り登録ありがとうございます!
実際のところ使いこなせてない設定が多々ありました。しかし、なるべく矛盾の無いようには書いたつもりです。ちょくちょく文体が変わりましたが、読みやすいと思っていただけて嬉しいです。
ありがとうございました!
どんどん書いてください。私は、みやこわすれです。あなたの作品がもっと読みたい。
みやこわすれ様>コメントありがとうございます。既に、というか、新作のアイデアは浮かんでいます。まとめ次第書いていこうと思います!
待ってます
最後の「HAZE」ってなんだろ…?って調べたら納得した
よくできてるなぁ~