2017-01-06 00:46:09 更新

概要

これは、かの大戦を様々な世界で必死に生き抜いた艦娘達の物語。

表題『司令官は艦娘の夢を見るか?』他、思いつくままに短編を書き連ねていく予定です。


前書き

どうも、がっくらでございます。
第三話は『YELLOW SUBMARINE』です。


※このssは短編集です。各話の間には一切の繋がりはありませんのでご了承を。


司令官は艦娘の夢を見るか?





提督「……」カリカリ



不知火「……」



不知火「司令、1200です」



提督「もうそんな時間か。昼食にしよう」


提督「不知火、頼めるか?」



不知火「了解です」



タッタッタッ……




提督「……おっと、そろそろ遠征から帰ってくる頃か」


『艦隊が戻ってきたっぽい!』



提督「おお、お帰り。で、どうだった?」



『また失敗しちゃったっぽい……』



提督「んん……となると、編成を変えるしかないか」



『ごめんなさいっぽい……』



提督「まあいいさ。最近は出撃もないから資源も余り気味だし」



提督「さっ、部屋に戻って休むんだ」


『了解っぽい!』




提督「……」フッ



不知火「司令、昼食の用意が完了しました!」


提督「分かった、今向かう!」



タッタッタッ……





不知火「司令、今日は塩ラーメンです」



提督「おお!なかなかに美味そうじゃないか」


提督「ではさっそく……」



「「いただきます!!」」




提督「どれどれ……」ズゾゾッ


不知火「……」ズズッ



……



提督「なんか……甘くないか?このラーメン」









不知火「……あっ」




不知火「……不知火に落ち度でも?」キリッ


提督「ありまくりだよ……」ガックリ



提督(もしかして、いや、もしかしなくても、塩と砂糖を間違えたのか?)



不知火「お口に合わないのでしたら、すぐにでも作り直しますが」



提督「いや、いいよ。せっかく不知火が真心こめて作ってくれたんだし」


提督「それに、意外とドジッ子でかわいい不知火も見られて、僕は満足だよ」



不知火「かわっ……!?///」カッ




不知火「……そうですか、ではご自由に///」プイッ



提督「ああ、そうさせてもらうよ」ズゾゾッ






不知火「……」ズズッ





不知火「甘い」ボソッ






~~~~~~~~~~




提督「不知火よ」



不知火「何でしょうか、司令」



提督「ここ一ヶ月くらい、遠征が全く成功しないんだが……原因とか何か知らないか?」



不知火「……いえ」フルフル



提督「うーむ、不知火も分からんか」




提督「となると、やっぱり編成なのかなぁ……」



提督「どうすればいいと思う?」クルッ



不知火「そうですね……軽巡を旗艦のみにして、ドラム缶を五つほど積めば成功するのでは?」



提督「なるほど。やっぱり不知火は頼りになるなぁ」





不知火「……」




提督「おーい、大淀!」



『提督、お呼びでしょうか』



提督「第二艦隊の編成を変える」



『了解しました』



提督「まず旗艦は――」



『――』




提督「だ、そうだ。不知火」チラッ



不知火「……」




提督「……不知火?」



不知火「……ですか」


提督「ん?」







不知火「いったい誰を編成しろと言うのですか!?」バン!



提督「!」





不知火「不知火には司令の言ってることが理解できません!!」



不知火「だって、もう――!?」グイッ




提督「んっ……」



不知火「――」









提督「……不知火」スッ




不知火「ふぁ……」ポケーッ




提督「僕の艦隊は轟沈数ゼロが自慢の鎮守府だ」



提督「だから、そんな縁起でもないことは誰の口からも出させない」



提督「少なくとも、僕が提督の間はね」







不知火「……そう、ですね」ジワッ






提督「……なんで泣いている?」




不知火「……申し訳、ございません」ゴシゴシ



不知火「少し、席を外します」スッ



スタスタ






ピタッ



不知火「司令」クルッ




提督「……?」







不知火「不知火は、いつまでも司令のお側に居ますから」ニコッ





提督「そ、そうか」





不知火「……夕飯までには戻りますので」バタン






提督「どうしたんだろ、不知火」アゼン



提督「いきなり怒ったかと思えば泣き出すし」



提督「らしくないと思わないか?大淀」チラッ





シーン





提督「……あれ、いない」






~~~~~~~~~~




提督「あ゛あ゛あ゛つ゛か゛れ゛た゛ぁ゛ぁ゛……」グデー



不知火「あともう少しですから頑張ってください、司令」カキカキ



提督「あと少しっつったって……まだ三分の一残ってるじゃないか……」



不知火「半分は不知火が終わらしたので、司令は大した量はこなしていないはずですが」ジトー



提督「うっ……そ、それはだなぁ……」シドロモドロ


不知火「先程も『駆逐艦の様子を見てくる』とかほざいて一時間ぐらいサボりましたよね」ギロッ



提督「ヒェッ」



不知火「そんな見え見えの嘘が通じる程不知火は馬鹿ではありません」


提督「違うんだ!様子を見てすぐ帰ろうと思ったら時雨達に無理やり部屋に連れ込まれて……」アセッ


不知火「そんな事有り得ません」キッパリ



提督「ど、どうしてそう言い切れる」



不知火「だって……」








不知火「ココにはもう、誰も居ないんですから」









提督「……何を言って」


不知火「覚えていませんか?一ヶ月前のコト」



提督「……何か、あったか?」クビカシゲ



不知火「大規模作戦時に、切込み部隊として海域に突入したんですよ。司令の艦隊が」



提督「確かそれは我が軍の勝利で終わったはずじゃ……」



不知火「えぇ、確かにそうです……司令は自分の艦隊がどうなったかは覚えていますか?」



提督「エ……そんなの、皆無事に帰ってきたに決まってるじゃないか」




不知火「……」




提督「オイオイ……なんだよその目は」


提督「皆そこで沈んだとでも言うつもりか?」




不知火「……」




提督「……何とか言えよ、不知火」





提督「不知火!」ガタッ


不知火「司令はッ!!」バン!



提督「……!」




不知火「司令はいつまでココにいるつもりなのですか!?」



不知火「いつまで何も無い空間に話しかけるつもりですか?」



不知火「いつまで不知火はそれを見なければならないのですか……?」ジワッ





不知火「司令は……っ、いつまで艦娘の夢、を……見るおつもりなのですか……?」グスッ






不知火「いつまで……亡霊に、とりつかれて……」






提督「……そんな事いきなり言われたってよぉ」



提督「信じられるわけ、ねぇよ……」ストン



提督「今だって……そこに大淀がいるじゃないか……」



提督「なのに、もう居ないんです、なんて言われたって」



提督「……」ガックリ







不知火「不知火だって、認めたくないですよ」




不知火「でも、辛いことから一々目を背けてたら」



不知火「自分が何人いたって足りませんよ」





『……』









不知火「司令、もう良いのではないのですか?」




不知火「不知火はこれ以上、司令のこんな姿を見たくはありません」






不知火「……言い方は悪いですが」



不知火「我々の代わりはいくらでもいます」



不知火「それに……その、カッコカリとはいえ、ケッコンもしているわけですし///」



不知火「ですから司令、一緒に……!」バッ





シーン…








不知火「……司令?」






不知火「……司令……どこにいったのですか?」ストン



不知火「司令?……あれ、なんで、ドウシテ?」



不知火「さっきまで……そこに……司令?」



不知火「司令、どこへいったのですか?返事をしてください」



不知火「不知火を……一人にしないでください……」



不知火「司令がいないと、不知火は……あァ……不知火ハ……」



不知火「司令、司令、司令……不知火は……」








~fin~










Familiar Family




私には家族がいる。



寡黙な父と、静かな母。厳格な兄と――




「艦隊のただいまです、ご主人様☆」


「司令官!遠征、無事大成功しました!」


「疲れた……寝る」


「報告は後で出しておくクマ」






饒舌な姉たち。









姉たちは私をよくかわいがってくれた。


何もしていないのに、よく頭を撫でてくれた。




「やっぱ癒されるクマ~」


「はーん―たーろ……って、球磨さん!私のはんたろー勝手に触らないでください!」


「吹雪、はんたろーはみんなのものクマ。これはもう決まったことクマ」


「そんなぁ……せっかく私が――たのに」


「独り占めはいけないクマ」


「球磨さんの方が独り占めしてます!」




姉たちは私のことを「はんたろー」と呼ぶ。それがきっと私の名前なのだろう。


……実のところ、私は自分の名前を知らない。家族の名前も、だ。


もっとも、それはこの場所で毎日を過ごす私にとって大した問題ではない。



知ったところで私はしゃべることができないからだ。



それに、動くこともできないから隣にいるであろう私の父母の顔も見たことが無い。



どのみち顔を合わせた所でどうなるわけではないから別にいいのだが。





ただ、兄と姉たちは違った。


兄は、普段は姉たちに厳しい人だ。いつだって眉間にしわを寄せている。

姉たちも兄のことはあまり好いていないようだ。


そんな兄も私の前では、姉たちには見せないような顔を見せるのだ。


普段の態度は何処へやら、嬉嬉として姉たちの自慢話ばかり話すのだ。


やれ「今日は演習でS勝利した」だの「開発が上手くいった」だの、それを本人達に話せばイイのにと思う内容ばかりだった。


そして話が終わると、兄は必ず私を撫でた。何処か儚げな微笑みを浮かべて。




姉たちは、本当に個性豊かだ。おかげで名前はすぐ覚えられる。呼ぶことは出来ないのだが。



姉たちは、どうやら「艦娘」という職業に就いているようだ。みんなまだまだ子供だというのに、本当に偉いと思う。

「艦娘」についてはよく知らなかったが、唯一わかるのは、「私のいるこの家を守っている」ということと、中々に危険な仕事だということ。



ボロボロになった姿で私に会いに来る姉たちは、見ていて本当に痛々しかった。私が代わりになれればとどれだけ思ったことだろうか。


こんな時ばかりは、身動きの取れない自分が恨めしかった。



〜〜~~~~~~~~~



ある日、私に妹が出来た。


名前は、知らない。


球磨姉さんが私に紹介してくれた。


「とても真面目で優しい子だから」と。


球磨姉さんも他の姉さんも、その子を見て泣いていた。兄さんは、歯を食いしばって見つめていた。



僕にはその理由がわからなかった。そんなに妹ができるのが嫌だっのだろうか、悲しかったのだろうか?



私は嬉しかった。また家族が増えたのだ。嬉しいに決まってる。



ただ、それ以来、吹雪姉さんは私の前に姿を見せなくなってしまった。あんなに私を愛してくれた吹雪姉さんに……何かあったのだろうか。私に確かめる術は無かった。







しばらくして、また一人、妹が増えた。


やっぱり、皆泣いている。兄の姿は無い。仕事中なのだろうか。


誰かが私をそっと抱きしめた。涙が私の頭をそっと濡らした。



泣き顔というのは、いつ見ても辛い。


家族が増えたというのに、何故だろうか……私は嬉しくなかった。



その日を境に、姉たちは皆ボロボロになって帰ってくることが多くなった。兄も次第に顔を見せることが無くなっていった。どうやら苦しい戦いらしい。やつれた顔で兄は「球磨、この作戦が終わったら――」と呪文のように呟き続けていた。




妹が増えると、必ずと言っていいほど姉も増えた。そしていつか、私の知っている姉は球磨姉さん一人になった。私を可愛がってくれていた他の姉さんは全く見かけなくなった。今この部屋に顔を出すのは、新しい姉さんたちと球磨姉さんだけだ。


「みんな……みんないってしまったクマ」


ある日、球磨姉さんがそう私に言った。

私にはその言葉の意味がわからなかった。

「いった」とは言うが、一体どこへいってしまったのだろうか?聞こうにも聞けなかった。

姉さんは続けた。


「球磨が昔から知っているのは、もうはんたろーだけだクマ。他の艦娘は名前を覚えるより先に――もう耐えられないクマ……自分だけ生き残ることがこんなに辛いなんて、思わなかったクマ。はんたろーは……はんたろーは、いつまでも球磨の傍にいてくれるクマ?」



球磨姉さんは、泣いていた。震えていた。まるで懺悔でもしているかのように、神に赦しを乞うように、私にすがりついた。


私は何ができるでもなく、ただただ抱かれていた。



私を抱きしめる時球磨姉さんの腕が当たったのか、そばにいた妹たちが辺りに散らばった。



虚空を見据えていた妹たちの顔は皆、嫌という程、姉たちに似ていた。



〜~~~~~~~




ある日、家にけたたましいサイレンが鳴り響いた。

そしてすぐに慌ただしくなった。姉たちは廊下を急ぎ、兄は放送で何か指示を出している。

そして暫くすると、体が浮き上がるような振動とともに爆音が何回も聞こえた。どうやら爆弾が家に当たったらしい。内一発が近くの部屋に着弾したようで、瓦礫の崩れる音と木の燃える音、鉄が歪む音の不協和音が辺りを支配した。



その後も、家は立て続けに爆撃されたようで、収まった頃にはもう廃墟と化していた。だが、唯一この部屋にだけは被害が及ばなかった。まさに不幸中の幸いといったところだろうか……。


「……やあ」


兄が、部屋へ入ってくる。白い軍服は煤と血ですっかり赤黒く染まり、目も落ち窪んでいた。


「……みんな、みんないってしまったよ」


今ならわかる。

その言葉の意味が。



「もう少しだった、あと一歩だったんだよ……球磨と、ケッコンを――それが、こんな事になっちまって。誰もかれもが、ガレキになってやがる……。なあ、教えてくれ、アイツは何て言ってたんだ?お前になんて言ってたんだっ!?教えてくれよ、教えて……くれ……教え……て、ください……お願い、しま、す……」



そう言って兄は膝から崩れ落ちた。息はもう、していなかった。


先の振動で下に落とされた妹たちは、もう動かない兄をじっと見つめていた。その暗い目で、いつまでも。



やがて、海の向こうから、「黒い人たち」がやって来た。彼女たちは瞬く間に家を建て直し、家にまた日常がやってきた。


そのうちの一人が、妹を拾った。全く無表情なその人の頬には、黒い涙がつたっていた。

その人は私達家族を、元の位置に戻してくれた。














私には家族がいる。

寡黙な父と、無口な母。無口な妹達。無表情な黒い人たち。






饒舌な姉たちは、もういない。







~fin~



YELLOW SUBMARINE

※アルペジオ方式です。






僕がまだ『戦争』という言葉を知らなかったころ



僕の生まれた町に、海を旅するドイツ人の男が住んでいた。




彼はこのしがない港町に帰ってくるたびに、それまでの出来事を面白おかしく語った。






僕たちはそんな彼の話が好きだった。





潜水艦での生活の話が。





彼の話す海はとてもきれいで、まるで理想郷のようで――



そんな海を見るのが僕らの夢だった。




だから僕らは軍に入って、『艦娘』と『提督』を目指した。






でもダメだった。



彼女は艦娘になることができたらしいが、僕は提督になれるほど成績は良くなかったのだ。



『らしい』というのは、艦娘とその他では受ける訓練も違えば場所も違うため、適性検査に彼女が合格して以降音信不通になってしまったっからだ。





でも僕は夢をあきらめたくなかった。



彼女と一緒に、あの男の話していたような海を見たかった。




やがて潜水艦の乗組員となった僕は広島の呉鎮守府に配属となった。何でも技術交換のために潜水艦でドイツまで行くとか。


ドイツ語を話せる乗組員ということで、僕に白羽の矢が立ったらしい。


もっとも、僕自身ドイツ語に堪能というわけではなく、小さいころ話していたドイツ人の船乗りを真似して覚えた程度のモノなのだが。



どうやら配属先の潜水艦の名は『伊8』というらしい。もう間もなく集合場所なのだが……あの集まりがそうだろうか。


艦娘システムの発明により、艦に必要な人員はかなり削減された。それでも艤装の整備は整備員が必要だし、空母では艦載機の搭乗員が必要だ。残念ながら艦娘以外の完全な無人化には至っていないのが現状だ。



……輪の中心にいるスクール水着の少女が艦娘だろうか?乗組員になったからには挨拶をしなければなるまい。


僕は挨拶をしようと近づいた。彼女はそんな僕の気配を感じ取ったようで、その金髪をきらめかせてこちらに振り向いた。






僕は言葉を失った。





赤い眼鏡越しに写るそのオパールのような瞳を僕は知っている。



その双眸が涙に覆われた。




「……――君?」




「……はっちゃん、なのか?」





一瞬の間の後、彼女は僕の胸元へと飛び込んできた。


それはさながらレスリングのタックルのようで、僕はバランスを崩し、しりもちをついてしまった。彼女が僕の腹に巻きつくかたちで。



周りの動きが一斉に止まる。



「会いたかった」


「……え?」


「もう死んじゃったんじゃないかって、ずっと心配でした。今でも心配です。これは夢なんじゃないかって」



抱きついた格好のまま、泣き顔だけをこちらに向けて伊8――はっちゃん――は微笑した。



「大きくなりましたね……こんなにがっちりしちゃって。昔は木の枝みたいにほっそりしてたのに」


「はっちゃんも大きくなったな」


どこがとは言わないけど。



このままでもよいのだがしかし、この状況は何とかしないといけまい。主に周りからの視線的な意味で。



「とりあえずさ、はっちゃん。いったん離れてくれないか……?」


「いやです」


即答だった。


「ほら、後で好きなお願い聞いてやるから!」



「……ほんと?」



「あ、あぁ、本当だとも!嘘はつかない!」



「……わかった」


はっちゃんはしぶしぶ了承してくれた。僕の身体から名残惜しそうに離れると、「じゃあ、お願い事、聞いてください」


どこか恥ずかしそうに手を後ろに組んでもじもじとしている。頬をうっすらと染めたその顔はどこか扇情的で、彼女ももう立派な女性なのだということを実感させられる。


少しためらった後、はっちゃんは口を開いた。



「はっちゃんと一緒に、その、緑色の海を、探してくれますか……?」



緑色の海。


昔、ドイツ人の船乗りから聞いた話。


はっちゃんとよく話したものだ。


『いつかふたりで見に行こう!』と。


彼女は覚えていてくれたのだ。そんな昔の約束を。


もちろん答えは一択だった。



「Jawohl! 『もちろんです!』」



そして僕達は太陽を目指して出航した。第二次遣独潜水艦作戦参加艦として。




制海権内までは浮上しての航行が基本だった。逆に言えば『緑色の海』を探せるのはそこまでということになる。



しかしそれは唐突に僕らの目の前に現れた。



眼下に広がるエメラルドのような海。



ついに緑色の海を見つけたのだ!





そこはまさに日本の制海権ギリギリのところで、まさに今これから潜水しようという時だった。



はっちゃんもデッキに上がってきて、僕の隣にもたれかかった。



「綺麗ですね……本当に」



「ああ、綺麗だな……はっちゃんの目みたいだ」



「……褒めても何も出ませんよ?」



「シュトーレンでも焼いてくれればいいさ」



「やっぱりご褒美目当てじゃないですか」



「でも嘘は言ってないさ……本当だよ?」



僕がそう言うと、はっちゃんは目線を足元に落とした。




「そういうとこ、昔から変わってないね……なぁーんにも変わってない」




「そりゃ簡単には変わらないさ。あくまでも『われは、われである』ってね」



「何それ、デカルトか何か?」



「『戦闘妖精・雪風』だよ。ジャムっていう正体不明のやつが主人公に『おまえは誰だ』って言われた時のセリフなんだ」



「ふーん……って、そろそろ作戦海域。持ち場について」


「了解」




そうして僕らは波の下で生活し始めたのだった。



このイエロー・サブマリンで。










二ヶ月かけ、僕等はブレスト港に着いた。



そこには僕らのほかにもドイツやフランスの艦が並んでいた。ドイツ艦はもっぱら潜水艦ばかりだ。これがうわさのUボートってやつなんだろうか。



せっかくだし、挨拶の一言でもしたいものだ。僕ははっちゃんを連れて隣の潜水艦へと向かった。


乗組員らしい青年に声をかける。


「すみません、艦長さんはいらっしゃいますか?」


「艦長ですか?少々お待ちください」


そう言うと青年は艦内へと消えたが、艦長を連れて再び姿を現すのに三十秒とかからなかった。


「こちらが艦長です」


現れたのは見るからにベテランの、屈強なドイツ人だった。


「どうも、日本から来ました――です。こちらは艦娘の伊八です」


「アハトアハト!……じゃなくて、伊八です。はち、とお呼びください」



僕等がそう自己紹介すると、艦長さんは驚いたように目を見張った。そして、流暢な日本語で話し始めた。


「――?お前、あの時の少年か!となると、お前さんははっちゃんか?ハハハッ、こりゃ参った。あの時の坊やたちがこんなに大きくなってたとは!おぼえてるかい?昔話していたことを」



――まさか、逢えるとは思っていなかった。


僕等のあこがれの人。

僕等に夢を与えてくれた人。



涙が僕の頬を流れる。



僕等は思わず敬礼をした。






「お久しぶりです、ミハイルさん……!」






ミハイルさんはにっこり笑うと、「歓迎の準備だ!」と彼の部下に叫び、どこからかおもむろににギターを取り出した。


「まさかお前さん達とは思わなかったが、もともと歓迎のしるしとして演奏をするつもりだったんだ」


いつの間にかミハイルさんの後ろには、楽器を持った人々が集まっていた。そのうちの一人、丸眼鏡をかけた人のよさそうなおじさんが口を開いた。



「ようこそはるばるヤーパンからおいでなすった。我々U-511の乗組員は君たちを歓迎するよ……もっとも、ドイツ語の歌は一つも歌わないのだがね」



「じゃあ、何を歌うのですか?」とはっちゃんが問うと、「そうだな……そっちで言う『ヨーガク』ってやつか?」とミハイルさん。



「我々は年寄りだからね、もっぱらビートルズばかりだが、許しておくれ」



そう言って彼らは演奏を始めた。




ロックだけではなく、バラードやポップスも交えての演奏会だった。



ミハイルさんの歌声は力強く、でも、とっても透き通っていた。


どこまでも届きそうな、そんな声。



はっちゃんは僕の肩に頭を預けて、聴き入っていた。僕が気になって横目で見やると、こちらを見て、ふふっと笑うのだった。





五、六曲弾いて、歓迎会はお開きとなった。双方の乗組員たちがおのおのの持ち場へ戻っていく中、ミハイルさんだけはその場から動こうとしなかった。


「さて、この曲は俺から――への贈り物だ。せいぜい役に立てるこった」


ミハイルさんはそういって弾き語りで歌いだした。






 ヘイ・ジュード ひるむなよ

 悲しい歌も楽しく歌えよ

 あの子のことを思い出してさ

 そうすればきっとうまくいくさ


 ヘイ・ジュード 恐れるなよ

 君はあの子と結ばれるんだ

 あの子を抱きしめてごらんよ

 そうすればきっと始まるさ


 つらくなったらいつでも ヘイ・ジュード いいかい

 たった一人でこらえようとするな

 だってそうだろう できもしないことを

 やろうだなんて 馬鹿げてるよ


 ヘイ・ジュード いい加減にしろよ

 あの子と出会ったからには つかまえてみろよ

 あの子を心に抱きしてみろよ

 そうすればきっと うまくいくから


 あれこれと工夫して ヘイ・ジュード がんばれよ

 人の助けを求めてるようだけど

 自分でしなくちゃ ヘイ・ジュード だめだよ

 なんでも自分でしなくちゃだめだ


 ヘイ・ジュード ひるむなよ

 悲しい歌も楽しく歌えよ

 あの子のことを思い出してさ

 そうすればきっとうまくいくさ







歌い終わって、ミハイルさんは満足そうに鼻を鳴らした。そして、「じゃ、いい報告まってるぞ」と言ってU-511の中へと消えていった。



英語はあまり得意ではなかったから、ところどころ聞き取れないところはあったけど、それでもこの歌は彼なりの僕への応援歌だったのだろう。いろんな意味で。

僕自身、まんざらでもないのだ。こうして数年ぶりに彼女と再会し、二ヶ月の航海中にどんどん深くへと潜っていくほど、逆に僕の彼女への好意は膨れていった。




日本に帰ってから、では遅いのだ。そもそも無事に帰れる保証など、どこにもないのだから。



だが。



果たしてこの一か月の間に伝えられるのだろうか。



もし。



断られたら?




微妙な雰囲気のまま半年間同じ艦の中、という状況に耐えられる自信は無かった。




「そろそろ宿に行きましょうか」


「そ、そうだね」




でも。




「……あの、さ」




「何か?」








「一緒の部屋に泊まっても、いいかな」








この気持ちを抱えたまま沈むのは、もっと耐えられない。






「……いい、ですよ。はっちゃんは別に」






※※※※※※※※※






港から歩いてすぐのところに宿舎はあった。空き部屋を一か月貸してくれるんだそうだ。




鍵を受け付けのおばさんからもらい、僕等は部屋に入った。



やはり長らく使われていなかったのだろう。掃除はされていたが何処か埃っぽい。窓も立てつけが悪く、差し込む光もどこかくすんでいた。



僕等は荷物を置き、備え付けのベッドに腰を下ろした。スプリングがギシッ、と歯ぎしりのような音を立てて軋んだ。




「長旅、お疲れ様でした」とはっちゃんは赤いアンダーリムのメガネをはずしながら言った。



「ああ、お疲れ様……と言っても、一か月後にはまた日本に戻るんだけどね」



「でも、一か月って結構ありますよ?小説だったら三冊ぐらい読めます」



「何を読むつもりだい?」



「せっかくドイツに来たので、『わが闘争』でも読もうかと」


ここはフランスだぞ、という野暮なツッコミはひとまず置いておいて、さすがに発禁図書はまずいんじゃないだろうか。



「……さすがに冗談です」


僕がツッコまなかったのがつまらなかったのだろうか、はっちゃんは思いっきりベッドに倒れこんだ。



そのまま何かもごもごと呟いていたが、さすがに疲れていたようで、着替えもせずそのまま眠り込んでしまった。



そろそろ夏も終わりの頃、このまま放っておけば風邪をひくのがオチだろう。僕はベッドに置かれていたタオルケットを、そっと彼女に掛けた。





何とも無防備で、愛らしい寝顔だった。




ぼんやりとしたやわらかな線の頬はほんのりと赤く染まっている。そっと触ってみると、確かな弾力と温もりがそこにはあった。


そのことに僕は少し安堵した。





何故かと言えば、学生のころよく流れた噂にこんなものがあったからだ。



『艦娘は人造人間なのだ』



それこそ学校の七不思議のようなくだらない噂だったのだが、実のところ不安だったのだ。



本当に彼女は僕の知っている『はっちゃん』なのだろうか。



もし彼女が彼女でないとしたら、いったい僕は誰を好きになればいいのだろうか、と。



彼女と航海をしている間、ずっと気になっていたのだ。



しかし、そんな彼女とずっと一緒にいられる保証など、どこにもない。



死ぬということは、僕たちが命という重石を抱えている限り常に起こりうることなのだ。


まして今は戦争中。間接的か直接的かの違いこそあれど、こちらが深海棲艦を殺している限り、殺されたって文句は言えない。



戦争に善悪は無い、なんてことは遥か昔から言われていることだ。











そんな事を考えているといつの間にか僕まで眠っていいたようで、、外はすっかり日が落ち、夜が訪れていた。




隣の部屋からは、男女の営みの音がかすかに聞こえてくる。ドイツの艦娘となのだろうか、そこは定かではなかったし、知りたいとも思わなかった。


他人のこういうものは聴いていて気持ちの良いものではない。僕は気晴らしに持ってきたラジオをかけた。はっちゃんはまだぐっすりと眠っていたので、起こさないように音量は低めに。


適当に合わせたラジオ局からは、こんな曲が流れてきたのだった。






 何かしらあの子の物腰に

 ぼくはとてもひかれるんだ

 何かしらあの子の甘えぶりが

 ぼくをとりこにするんだ

 それは本物の感じさ


 何かしらあの子も感じてる

 ぼくに愛されてるって

 なにかしらあの子のしぐさが

 ぼくをとりこにするんだ

 それはほんものの感じさ


 ぼくの愛は続くのかって

 アイ・ドント・ノウ アイ・ドント・ノウ

 一緒にいればわかるさ

 まだそんなことは わからないよ


 何かしらあの子は感じてる

 ぼくがあの子を思ってるって

 何かしらかあの子のしぐさが

 ぼくをとりこにするんだ

 それはほんものの感じさ





英語で歌われたその曲が一体誰のなんという曲なのか、僕は知らない。



でも、ゆったりと、心を込めて歌われたその甘い歌は、僕のちっぽけな心をきりきりと茨で締め付けるのだった。


後書き

※まだつづきます。

大詰めの時期。何がとは言わないけれども

コメント等なんでも気軽にどうぞ。


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miiさんから
2016-11-23 17:26:11

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2016-07-03 21:47:35

缶@提督さんから
2017-01-03 13:07:28

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2016-05-03 10:51:52

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2016-04-26 11:55:43

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2016-04-22 09:22:40

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2016-04-22 01:36:38

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1: ひまな人 2016-04-22 01:04:54 ID: ciV4e-pB

不知火がで、デレた!

うん?ラブラブのあまあまだって?
(難聴)

2: がっくら 2016-04-22 07:35:22 ID: w5CpJT3H

ひまな人様>コメントありがとうございます!
うちの不知火はデレぬいでございます。
が、ちゃんとシリアス()も入れますよ〜!

3: ひまな人 2016-05-01 10:10:19 ID: 3Pb6dxZ2

ど、どれが現実?夢?
不思議な話ですね・・・

青葉!青葉!青葉!

短編集を作ってみてはどうでしょうか?

4: がっくら 2016-05-01 10:53:38 ID: -doOpc4J

ひまな人様>コメありがとうございます!
短編集…それだ!
ふと思いついたネタを書き連ねていくスタンスでいくと思います…たぶん。

5: T蔵 2016-05-03 10:51:43 ID: 7YRF6Ql0

あれ、青葉だ。
サイボーグの設定は作者様の他作品の踏襲でございますかの。
ギャグ、コメディが多い中
雰囲気で読ませてくれるのは好きですよー。
ギャグもコメディもシリアスも全て大好き。
これからもゆっくり更新願いますです。

6: がっくら 2016-05-03 12:35:12 ID: 3_iicO_N

T蔵様>コメント、評価、ありがとうございます!
実は設定は微妙に違ってたりします。(『抱擁』は艦娘としてゼロから作られ、こっちは人間を改造している)
まぁ、こういう設定が大好きなだけなんですけどね(笑

7: 京哉提督@暇人 2016-06-14 00:19:34 ID: gS43rkNL

いいですね。こういうシリアス系は好みです。
自分もこういう文才のある文を書きたいなぁ。と書けるはずのないことを言います←何故
これからも頑張ってください。あと雪風書いて頂けたら嬉しいです。

8: がっくら 2016-06-14 18:34:53 ID: ahnnZUWc

京哉提督@暇人様>コメントありがとうございます。コメディを書きたいのにシリアス系しか思いつかない上に時間が取れないという…orz
雪風ですか。実は今新ssの構想を練っていて、もしかしたらそれの登場人物に入れるかも…です。多分入ります。今しばらくお待ちを…

9: 缶@提督 2016-06-22 22:55:32 ID: 0QSSuv_n

久々に巡回したら更新されてて嬉しいです。
不知火の話はなんだかとあるアニメを思いだしましたw
シリアスであり、最後まで展開が読めず、とても楽しく読ませていただきました。
青葉の話は完結してないん…ですよね?(自信がない)更新、楽しみに待機させていただきます。

最後になりましたが、がっくら様の素敵なストーリーとそれを表現する文章力に尊敬の念と素敵な作品を楽しませていただいた感謝を表して敬礼を…
これからも無理はなさらずに頑張って下さい!

10: がっくら 2016-06-23 19:29:07 ID: Tr1MGhDb

缶@提督様>コメントありがとうございます。こちらこそ応援していただき、誠に感謝です!∠(`・ω・´)ビシッ
青葉の話はまだ完結していません。本編も含めボチボチ更新していくつもりです。

11: T蔵 2017-01-02 16:47:19 ID: lBxbPfg0

あけましておめでとうございます。

メンタルモデル形式での艦娘扱いなのですね。

表題でビートルズを思い出した自分・・・。

はい、おっさんです(笑)

ゆっくりと無理をされない更新を!

12: がっくら 2017-01-02 17:45:11 ID: daAUG_Os

T蔵様>コメントありがとうございます!

はい、ご察しの通り、ビートルズのイエローサブマリンです。

歌詞に合わせてこの話は作っていくつもりだったので、メンタルモデル方式にしました。じゃないと潜水艦の中に住めませんからね(笑)


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