2016-04-10 02:07:00 更新

概要

西暦2015年。人類はHAWと総呼称される自立兵器群との戦争に躍起になっていた。

膠着する戦局に人類はクロスゲートを開発。それに先駆け多くの転生者がこの世界に転生してきたのだ。



宇宙歴800年。ヤン・ウェンリーの時は一度止まり、西暦2013年、ヤンは再び軍人の道を歩まなくてはならない。


前書き

注意!
・本作品は「艦隊これくしょん?とある鎮守府の毎日」の外伝です。本編は小説サイト暁にて投稿しております。(要望があるなら本編もSS化させます。)
・本作品は多くの作品の二次創作です。(これだけでも艦これ、銀英伝、紺碧の艦隊、機動戦士ガンダム)
・本作品はクロスオーバーを飛び越え、カオスにカオスを塗りたくったよくわからないものです。
・作者は本作品を初のSS投稿となります。それゆえ多少文章が崩壊している場合があります。
・本作品にはフロム脳やそれに類する妄想脳を必要とします。

以上のことが大丈夫な方はどうかよろしくお願いいたします。


魔術師、帰らず……そして




ヤン・ウェンリー(以下ヤン)(やれやれ……ミラクルヤンが、血まみれヤンになってしまった。)


巡洋艦レダⅡ。この中では今まさに銀河の歴史を握る英雄の最後が起きていた。


地球教徒の策略にはまってしまい、多くの部下が身を挺して守ったが、それは全て無駄になったのだ。


足の動脈を銃で貫通され、大量の血液を流し続けるヤン・ウェンリー。スカーフで銃創を塞ぐが効果はほとんどない。徐々に意識が朦朧となっていく。


ヤン「ごめん……フレデリカ……ごめん……ユリアン……」


ごめん……みんな…………




宇宙歴800年6月2日2時55分


ヤン・ウェンリーの時は33歳で停止した……













ヤンの意識は闇へと消えていった。それは生物が全て死を迎えるときの現象だ。意識はわからなくなり、気づけばそこはよく分からない世界へと進む。


ヤンも多くの有象無象と同じように流れていく。死とはこれほど面白いものとは、思ってもみなかった。とでも言うように周りを見渡していると、やがて一本の光の道に立つ。先ほどまで動かせなかった足を軽々と動かし一歩一歩と歩いていく。


そして、あるの地点まで歩くと視界が光に遮られまた意識が消えていったのだ。





何時ほど時間を過ごしたのか。ヤンは朦朧とする意識の中まず、本能的に立ち上がろうとする。両手を使いながら、まるで赤ん坊のように起き上がろうとするが誰かに制止される。


???「大丈夫。まずは寝てください。」


ヤン「君……は……」


???「大丈夫……ほら……」


ヤン「……」


その優しい声と、安らかなベッドの感触には、疲れたその体はそのまま眠りついた……










転生



また幾たびの時間が過ぎ去った頃。もう一度ヤンは目覚めた。先ほどの不安定な目覚めではなく、スッキリとした印象だ。体の疲れがなく、自由に動く。


ヤン「……ふぁぁぁ……」


しばらく動かしていなかった体を伸ばし、あたりを見回す。脳が正常に認識をしているなら、ここは病院の一室に思える。


ヤン「ここは……」


周りを見渡し終えると次に自分の服装を確認する。どこからどう見ても患者の格好だ。


ヤン「ふむ……どうも分からない。一度整理しよう。」



ヤン「私はヤン・ウェンリー。宇宙歴787年生まれの自由惑星同盟の人間だ。私は民主主義を守るというたいそうな義務を持ったイゼルローン革命軍の指導者なんてものをやっていた。イゼルローン回廊での戦闘が終わって、カイザーラインハルトとの講和ができると聞いて、私はそれのために巡洋艦レダⅡで待ち合わせのポイントに向かった。そこで……私は……殺された。死んだはずなんだ。なのに生きてる。」


ヤンは撃たれたはずの足を調べる。


ヤン「銃創がない……どういうことなんだ?まさかここが天国?いや、地獄か?」


???「失礼します。」


部屋が開く音と共に扉の向こう側から一人の少女がやってくる。昔の学校の学生服みたいな格好をしている。言うべきほどの特徴はないが、しっかりとした態度でヤンの前に立つ。そして、その両手には和風な料理が面々と置かれてある盆を持っている。


???「司令官。お目覚めですか?意識ははっきりとしているならいいのですが……」


ヤン「あ、ああ。はっきりしている。」


少女は料理を一度机に置くとヤンの右手をつかむ。彼女の体温がヤンの今まで冷えていた右手を温める。


ヤン「ああ……えっと、その……」


???「うん……血流にも異常は見られません……よかったです。」


そんな片手を握られただけじゃ……と思いつつも、まあ異常ないならいいやとも思うヤン。状況から見て自分はこの少女に助けられたのだと考える。


ヤン「その……なんだろうか……助けてくれてありがとう……危険ではなかったのかい?」


???「危険?いえ、それに助けたのは私じゃないですし。」


それもそうかと思いつつ、ヤンはでは誰があの状況から命を助けてくれたのかと思う。あの時周りは地球教徒に囲まれて、助けは来たのだろうが、間に合わなかった。自分自身、わかるほどの致命傷を負い、それを助けてくれたのは相当な能力を持つものだと思われるが、薔薇の騎士団(ローゼンリッター)の救援が予想よりも早く来てくれたのか……それほどの戦闘能力がこの少女にあるとは思えない。


ヤン「そうか……でも私が眠っている間、看病をしてくれたのではないのかね?」


???「ええ、まあ……まさか嫌でしたか?」


ヤン「とんでもない。女性にここまでしてもらったのは久しぶりだ。むしろ私は感謝を言いたい。」


???「感謝だなんて……私たち艦娘は司令官をお守りするのが第一ですから……」


ヤン「ははは………ん?」


聡明なヤンは瞬時に違和感を感じた。そう。彼女がまるで自分は人間ではないというような言いぐさだからだ。


ヤン「ちょっと待ってくれ。君は一体何者なんだ?」


???「私ですか?そんな司令官、戯れですか?」


ヤン「いやそうじゃない。君はまるで自分が人間ではないと言った口ぶりだったぞ。」


???「?何をおっしゃていますか?私は人間じゃないなんて……司令官もご存知のはずですが……」


噛み合わない会話に、ヤンは違和感を加速させる。


ヤン(今自分と話しているこの少女は、自分が人間ではないと言っている。だが、私が知る限り、これほどまで高度なロボットの類が作られたなんて聞いたことがない。まるで夢の世界のようだ……)


???「まさか……記憶喪失……」


ヤン「いや、記憶喪失ではない……元から知らない記憶……」


?????「どうやらかなり困惑しているそうだな。」



扉がもう一度開かれ、高齢な軍人と思わしき男性が一人入ってくる。ヤンのうろたえようを傍観してタイミングよく現れたようだ。


???「た、高野五十六長官!!」


少女もこのことを知らされていなかったようで突然の長官の登場に、慌てふためいているようだ。


高野五十六(以下高野)「吹雪くん。君は少し下がってくれ。彼とは一対一で話したい。」


吹雪「は、はい。」


そう命令された吹雪はそのまま部屋を出る。


高野「さて、気分はどうかね?転生した気分は。」


ヤン「転生?意味が分かりかねませんが……」


高野「ふむ……それは普通の反応だ。信じられないことだろうが事実なのだから。」





高野「ここは西暦2013年の地球。日本だ。」





ヤン「西暦2013年……地球……日本……」


高野「そうだ。把握できないだろうし。理由もわからないであろう。だが君は受け入れなくてはならない。」


ヤン「……まるで夢物語を聞かされている気分だ。それで私に何をやれというのですか?物語と同じように地球を守る英雄とやらになれとおっしゃるのですか?」


高野「その通りだ。先ほどの少女。すでに感づいているだろうが、彼女はいや、彼女たちは人間ではない。」


ヤン「ロボットという、わけでもないようですね。」


高野「人型海上滑走自立兵器。通称艦娘。ヤン・ウェンリー。君にはその指揮官として指揮をとってほしい。」


ヤン「私が、ですか?……それよりもなぜ私の名前を?」


高野「まだ知っているぞ。自由惑星同盟軍第13宇宙艦隊提督、イゼルローン革命軍の指導者、エルファシルの英雄、魔術師ヤン、ミラクルヤン。君の家族構成すら知っている。」


ヤン「……」


高野「おっと、睨まないでくれ。何、私も君と同じでね。」


ヤン「転生者、ということですか。」


高野「私はこの世界に転生した者を感知し、その知識を持つことができる。そして、優秀な諸君を集めてこの日本を守ってきた。」


ヤン「……そうですか……しかし私の自由意志は?もし私が軍人になりたくないと言ったらどうするんですか?」


高野「その時は好きにするがいい。私も必要以上に君を追わない。」


ヤンは少し考えるとすぐに顔を上げた。


ヤン「その話、お引き受けしましょう。」


高野「そうか。ありがとう。」


ヤン「しかし、複数条件があります。それを飲んでいただければ……」


高野「可能な限りしよう。で、その条件は?」


ヤン「はい。一つは……」




…………




高野「なるほど。まあこの程度のことならなんとかしよう。今の戦線でも十分守りきれるしな。」


ヤン「ありがとうございます。」


高野「そうそう。言い忘れてたんだが、君のこの世界においての身分についてだがこれになる。」


高野がヤンに差し出したものは軍事証明書のようなものである。様々な情報を書かれているが、特には変なところは何もない。逆に言うならなさすぎるというところだ。


ヤン「なるほど。私は第八呉鎮守府の運用試験のために連れてこられた士官だったわけですね。そしてこの体が私のものになる際、交通事故により、私は病院にいたということですか。」


高野「あとは君の自由だ。必要とあらば補給を送る。ではまたいずれ正式な場所で。」


ヤン「はい。ご足労をかけます。」


高野「気にするな。では。」


高野が敬礼するとヤンも敬礼し返す。それを終えると高野は病室から出て行く。


ヤン「やれやれ……事実は小説よりも奇なりというがどうも……」




西暦2013年7月24日。日本の運命を変える出来事の一つが起きたのである。

















時は経ち、西暦2015年5月30日

【第八呉鎮守府執務室】


ヤン「ふあぁぁぁ……吹雪。ブランデーを一杯。」


吹雪「ダメです!司令官、すでに5杯目ですよ。」


ヤン「全く。なんで私の秘書艦はとても厳しいのだろうね。」


吹雪「厳しくしておりません!これを見てください!」


吹雪がヤンに突き出したものは帝国新聞である。大本営からの正確な情報がこの新聞で国民に伝えられていた。新聞には『第五横須賀鎮守府艦隊大活躍!!』という見出しで、他の鎮守府の戦果が載せられていた。


吹雪「司令官はこの鎮守府に着任したものの、なぜ艦娘を増やそうとしないのかが不思議でありません!そりゃ……二人きりもいいですけど……このままじゃ無能艦隊の名前を返上できないじゃないですか!」


ヤン「ははは。いいじゃないか、無能艦隊で。第一、無能艦隊の方が楽でいい。」


吹雪「もう!!それじゃダメなんです!ここ最近の作戦行動といえば輸送艦隊の護衛……しかも敵の出現報告が少ない海域ばっかり!」


ヤン「それだけ乗員も戦闘員も死なせていない。」


吹雪「ぐぬぬぬ……司令官……こんな調子じゃあの時高野長官からのご期待を背いてしまうんじゃないでしょうか……」


ヤン「ふむ……それはダメだなぁ。なんとか汚名挽回の機会がくればいいが。」


吹雪「ですから!」


ヤン「しかし、それには私が十分納得いけるほどに楽な戦場じゃなくてはならない。辛いのはもうこりごりなのさ。」


そう吹雪に言い聞かせようとするヤンの自堕落的生活は2年にわたって続けられた。それまでにこの第八呉鎮守府の戦死者は0名。消費した資材は、訓練以外ではほとんど存在せず、余りに余っていた。


吹雪「司令官の……司令官の……バカァ!!!」


吹雪は手にしていた資材報告書をそのままヤンに投げつけて怒りながら執務室を出て行く。


ヤン「……やれやれ。難しいなぁ。」


投げつけられた使用資材量0という書類を机に置いて、たたきつけられた新聞を再度目を通す。


ヤン「第五横須賀鎮守府……西村次郎か。なかなかいい人材だが……部下を大事にしすぎか……」



世界の状況は2年経っても余り変化はなかった。クロスゲートとなるものが開発され、その代償としてイギリスの近くに大陸が転移したり、敵の種類が増えたり、艦娘の次世代装備計画が作られたりと、変化はほとんどなかった。無論、ヤンが望んでいる変化というのは戦局の話だ。



ヤン「そして装備計画は戦局に関係しない鎮守府に配備される。」


ヤンの元にも次世代装備の試作段階のものが配備さていた。


ヤン(燃料を媒体とした荷電粒子砲、通称ビームライフルに、それと同じような兵装で、ビームサーベル。あとは対実弾装備としてシールド……)


ヤン「う〜ん……私が思い描いていたものとは違うことが起きてそうだ……」


背伸びをしながら残りすくないブランデー入り紅茶を飲み干すと電話が鳴り響く。


ヤン「はい。こちら第八呉鎮守府……ははあ……私どもにですか。……それはまあその通りということで。……ええ。事実を反論する気はありません。……はい。すぐに支度します。」


1分にも満たない会話を終えるとそのまま受話器を置き、工廠の方に連絡を入れる。


ヤン「出撃だ。護衛艦隊が必要らしい。すぐに艦の準備を頼む。」






【第八呉鎮守府工廠】


準備はそれほどかからなかった。暇の上に暇を乗せられる以上、いつでも出撃できるように駆逐艦が用意されている。


ヤン「やあ。準備は早いねぇ。」


作業長「そりゃ暇ですからねぇ。整備なんてものもないし。砲だって一発も実弾を撃ったことがない。それじゃあ何のための駆逐艦かわからなくなりまっせ。」


ヤン「ははは。では出撃と行こうか。」


吹雪「今日こそ活躍できるように頑張りましょう司令!」


ヤン「今日も敵が出ないように願っとこう。」




艦娘である吹雪はわずか単艦で、残りは指揮するために共に出撃するヤン搭乗の駆逐艦『阿津波』である。




戦場




ヤンに来た任務は輸送艦の護衛だった。

敵の追撃の峠を越えた輸送艦隊を、自分たちが護衛を引き継ぐということだ。


場所は第四佐世保鎮守府近海であった。


【第四佐世保鎮守府近海、駆逐艦阿津波艦橋】


ヤン「第四佐世保鎮守府提督、アンドリュー・フォーク。彼は転生前の世界にもいたが……転生したのか。」


副官「第四佐世保といえば無能の一声で呼ばれている鎮守府です。フォーク大将がいるのか未だわかりません。三年前のMA(ミッドアリューシャン)海戦の圧倒的損耗の原因は彼にもあったはずですが……」



※MA(ミッドアリューシャン)海戦

ミッド海域の下に広がる島がほとんどない大海。そこをMAと呼称して、人類の反攻作戦をとった。当時、艦隊の総指揮はアンドリュー・フォークに任されたのだが、彼は大艦隊を囮として使い、自分の艦隊だけで敵の本隊を撃退するという、人類史でまれに見ない、大胆すぎる囮作戦を敢行した。責任は勝ったことで許されたが、それ以来内外からの支持が低下して、戦力も低下している。



ヤン「おそらく上層部の誰かのコネを使っているのだろう。私の世界で行った通りに。」


副官「今回の作戦も何のために必要とするのか……」


ヤン「まあ文句の言いようは色々とあるが、我々にはあまり関係はない。願うことなら早く終わらせて鎮守府内に帰還することだ。」


船員「電探に反応!甲板見張り員、方位12時!」


見張り員『艦船視認!周りにも艦娘が数隻!……ひでぇ……艦娘の方はボロボロだ……』



見張り員が見た艦隊は、輸送艦はともかく、問題は護衛に当たっている艦娘たちだった。服はボロボロで、包帯をつけたままだったり、片腕を損失したまま作戦に当たっている艦娘もいた。疲労の顔が出て、フラフラしながらも訓練の時に言われた陣形を健気に維持している。



【駆逐艦阿津波甲板上】

ヤンはとりあえず数名の副官とともに甲板上に移動すると艦娘たちに向けて敬礼を行う。旗艦と思わしき艦娘が一人ヤンの元に行き、こちらも敬礼を行う。その姿は最もひどく、包帯が少ないためか、片目が潰れているのに関わらずに、そのままにしている。そのため傷口には蛆虫が湧いている。左腕は、肩から先がなくなっており、残っている腕も骨折したらしく、首から下げている状態であった。彼女は痛みに耐えながらも形式に合わせるように敬礼を行ったのだ。


艦娘「現刻14:28……第二佐世保鎮守府護衛艦隊……第八呉鎮守府艦隊に護衛を引き渡します。」


ヤン「同刻、第八呉鎮守艦隊、提督ヤン・ウェンリー。確かに引き継ぎます。」


輸送艦隊の方は特に傷などついてなく、第四佐世保鎮守府と書かれた旗が風にたなびいている。


ヤン(なるほど。身を挺して守らせる代わりに、コネを分けてやるということか……)


艦娘「それでは……あ。」


疲労から、足を縺れさせてその場に転んでしまう少女。吹雪はそれを見るとすぐに駆け寄り、手を伸ばす。


吹雪「大丈夫?……すごいボロボロ……司令官!彼女たちも引き取りましょう!このままじゃ帰還中に死んじゃう!」


ヤン「それはできない。命令系統が違う以上、私は彼女たちに指示をすることはできない。それに、まだ任務があるのだろう?」


艦娘「はい……次の輸送任務があるので……それでは……それと吹雪……さん?」


吹雪「は、はい。」


艦娘「手を貸してくれありがとう……嬉しかった。初めて手を出してくれたのはあなたが初めてだよ。」


吹雪「!?」


艦娘「それじゃあ。生きてたらまた会おうね。」


それだけ言うと彼女はそのまま仲間たちの元に戻り、すぐに次の海域に移動し始める。


吹雪(手を握った時の感触……まるで皮と骨だけしかないと思ってしまった……あんなになるまで働かせるなんて……)


ヤン「それでは護衛を開始しよう。と言っても、ここまでくればほとんど護衛なんていらないんだけどね。」


ヤンの方は特に気にしている様子を見せない。それは彼が仕事を行うという態度からなのだが。吹雪の方も二年間ヤンと一緒なので特にヤンの行動に興味を持つことなく自身も仕事を行う。


何もない平和な海域を進みながら、ヤンは考えていた。先ほどの艦娘はおそらく生きては帰れないだろう。わずかな、けれども大切な、最終点は無能の私服財の資材。それを守る為、命ある6人の駆逐艦の艦娘は何よりも大切な資材と引き換えにされたのだ。

果たしてこの資材と艦娘たった6人の命。どちらが重いのだろうか。


電探上には何も反応がなくただただ退屈そうに進んで行く駆逐艦。その後ろには輸送かん6隻。最後尾は艦娘の吹雪が一人うなだれながら無表情に航行している。



そして、あまりにも盛り上がらない航行を割り込むかのようにその報告は突然やってきた。


【駆逐艦阿津波艦橋】


船員「電探に感あり!見張り員、4時方向に何が見える!?」


見張り員『4時方向に艦影多数……これは……深海棲艦だ!!駆逐6!軽巡2!戦艦1!』


副官「せ、戦艦だと!?バカな!輸送邀撃に戦艦がいるだと!?」


ヤン「ふむ……全艦に対艦戦闘体制を発令。進路変更右に30度。輸送艦隊にはこのまま直進するようにと伝えてくれ。吹雪には敵の横から攻撃するように指示。命令があるまで岩陰に退避するように。」


吹雪『こちら吹雪。了解。』


船員「敵艦速度上げ!推定速力54ノット!」


見張り員『駆逐級が魚雷発射!雷跡から目標は輸送艦と考えます!』


ヤン「対魚雷爆雷投射用意。主砲回頭方位3.5時方向。それと魚雷の準備も。」


砲雷長「了解!主砲回頭3時半!一番魚雷菅投射準備!見張り員!敵魚雷現在位置は見えるか?」


見張り員『敵魚雷……見えた!方位3時!本艦のちょうど腹だ!』


砲雷長「よし!対魚雷爆雷3時方向に投射開始!」


阿津波の甲板上でも兵装がせわしなく動き、その中の爆雷装置が指示された方向へ回頭し、発射される。爆雷は着水し、海の中に沈むと、圧力センサーが反応して爆発。中にある小型チタン弾がばらまかれて魚雷を迎撃する。


見張り員『魚雷に触雷!全弾命中!』


船員「主砲誤差システムを電探と同期!修正開始!」


電探には自艦と敵の駆逐級との情報が表示されており、それを元に主砲の仰角や方位などを自動変更。


砲雷長「主砲一番、二番、撃てェ!!」


砲撃命令とともに13.5cm連装砲から次々と対艦用徹甲弾が発射され、それは駆逐級の方に降り注ぐ。しかしまるでと言っていいほど命中しない。機動力と運動性に長けている深海棲艦、さらにその中でも回避能力が高いのが駆逐級だ。電探の追尾が追いつかないほどのスピードで輸送艦を狙う。


見張り員『至近弾多数。されど命中なし!』


砲雷長「くそ!やはりか!」


ヤン「……なら主砲を彼らが向かう方向に向けられるか?偏差射撃を行う。」


砲雷長「しかしそれだと命中精度が……」


ヤン「時には機械ではなく、自分の勘に頼るのは大切なことさ。」


砲雷長「……了解でさぁ。主砲全門方位11時!距離を先の射撃データから計算しろ!」


ヤン「さて、どうかな。」


砲雷長「閣下。砲撃準備完了です。」


ヤン「うん……撃て!」


ヤンの号令とともに、主砲が3基同時に砲撃を開始する。砲弾は綺麗な弧を描くと、見事駆逐級に命中。全艦撃沈する。


見張り員『全弾命中!やった!』


ヤン「まだだ。他の敵は?」


船員「吹雪が現在軽巡級と交戦中……!戦艦級がこちらに向かっています!」


ヤン「ふう……それは一大事……魚雷の準備は?」


砲雷長「いつでも撃てます。」


ヤン「主砲を電探と連動しながら砲撃。相手の行動位置を固定する。」


ヤンの作戦はすぐに取られた。主砲が電探の情報だより砲撃を開始される。砲弾は命中するが、まるで戦艦級にはダメージがない。しかし、衝撃は抜けきれず、被弾するたびに回避行動を停止している。


ヤン「今だ!魚雷斉射!」


砲雷長「魚雷一番、全門撃てェ!」


八式誘導魚雷が五連装65cm魚雷発射管から発射され、すべて戦艦級に向かう。

魚雷に気づく戦艦級は回避行動を行うとするが砲撃が止まないため動くことができない。さすがに防御しなくては砲撃は耐え切れないらしくシールドを下げない。魚雷はゆっくり戦艦級の元へ行くと、轟音とともに爆発した。


ヤン「……」


砲雷長「……命中したか?」


見張り員『ま、待ってください……』


見張り員は目を丸々と開けて爆発の煙が消えるの待つと、そこには結果が存在した。戦艦級は傷一つ付かずそこにいた。


見張り員『戦艦級、生存!?バカな!!』


砲雷長「なんだと!?」


ヤン「やはりか……」(知性が明らかに向上している。こちらの戦術を見破られた……)


【海域】


吹雪「ド、ケェェ!!」


主砲撃ちきり、弾切れと同時に軽巡級2隻目を撃沈する。


吹雪「阿津波は……!!戦艦級!!こちら吹雪!!阿津波をインターセプトします!」


船員『ダメだ!間に合わな』


戦艦級の砲火が放たれ、砲弾は阿津波の主砲、魚雷菅を破壊、艦橋にも直撃した。


吹雪「司令……官……司令官!!」


ヤン『な、………に……心配……い……』


通信機器までやられたらしく通信状態が悪化している。吹雪の目からもわかるぐらい阿津波の戦闘能力は損失していた。戦艦級がトドメを刺すために再度主砲を阿津波に向ける。


吹雪「やらせるか!」


残る魚雷に発射命令を出すがなぜか発射されない。よく見ると魚雷菅の発射口が潰されている。


吹雪「軽巡級との戦闘で……くそ!」


慌てて魚雷菅から魚雷を引っこ抜くが明らかに間に合わない。戦艦級の主砲が再度火を噴き、阿津波の機関部に命中する。


吹雪「司令官!!」


爆発とともに、耳につけてある受信機からは雑音しか流れてこない。絶望にくれる彼女はそこでへこたれてしまう。


吹雪「そんな……こんなのって……楽な海域じゃなかったの?ひどいよ……司令官の……バカ……」


戦闘の意思と気力を失うが、そんなものは深海棲艦にとっては何ら関係はない。戦艦級は最後に残った吹雪を見つけると主砲を向ける。


吹雪「……好きに撃てばいいよ。気づいたんだ。私は今までどんなに幸運だったかを。前線には行かずに、そのくせ無駄に前線に出ようとする……それは戦場をちゃんと経験してないから。ただの興味であんな風に戦いを望んでいた。でもそれは間違ってた……こんなことなら私……」


ヤン『……そうだ。それを気づけばいい。』


吹雪「……え?」


もう二度と聞けないと思っていた声が聞こえて吹雪の目の輝きが元に戻る。


ヤン『待ってなさい。いますぐ武器を渡しに行く。あんまり得意じゃない部類でね。』


燃え盛る阿津波の裏側から脱出用のボートが出てくると全速力で吹雪の元に向かう。


吹雪「そんな……提督無茶です!」


無論戦艦級はそれを見逃すわけがない。ボートの方に照準を変えて砲撃を行う。ボートは爆炎に包まれるが、ボート自体は無傷だった。対実弾シールドの硬さで守り切ったのだ。


吹雪「う、そ……」


ヤン「ううぅ……体力はつけたと思っていたがどうもダメのようだ。手がしびれた。」


ボートが吹雪の前に着くと戦艦級は苦い顔をしながら輸送艦の方を見てそちらの方に移動を開始する。


吹雪「司令官!」


ヤン「私のことより吹雪。君に装備してもらいたいものがある。」


ボートには数名の人間とある装備が一式にがあった。


吹雪「これは!」


ヤン「対殲滅兵装。言うならば実験用の兵器だ。」








輸送艦隊の最後列の輸送艦にようやく追いついた戦艦級が砲撃を開始。砲弾は輸送艦の機関部に命中し、爆炎をあげて燃え上がる。続けてに隻目を狙う戦艦。


その刹那、戦艦級の両腕が切り落とされる。高速でそれを行った敵に戦艦級は電探で確認すると信じられないものを捕捉した。


それは明らかに先ほど敗北を受け入れていた吹雪だった。武器がない、というか弾切れだったはずの彼女が、自身の強固な両腕を切り落とせる武器を持っているとは思っていない戦艦級は疑問に思うが、吹雪の手にある武器と、追走された装置を見て理由を把握する。


吹雪の手にはビームサーベルとビームライフルが握られて、自身の傷口を見ると、刃物ではなく、溶断されたことが把握できた。


吹雪「ごめんね。さっきとは違うよ。これ以上あなたの好きにはさせない!」


ビームライフルの照準を戦艦級に合わせると間抜入れずに引き金を引く。銃身に燃料が艤装より送られてそれを科学反応を起こし高熱化。エネルギー状にすると、それを照射する。


吹雪「うわぁぁぁああ!!!」


それを何度も繰り返す吹雪。ビーム何発も照射され、戦艦級の体を貫く。戦艦級は未知の攻撃に動力部を破壊され、火花をあげて爆散した。


吹雪「ハア……ハア……」


その光景を見るに吹雪も、あまりの出来事にあまり理解が追いついていなかった。


吹雪「す、すごい……ってきゃ!」


とりあえず移動しようしたら、艤装が動かず思わずそこに尻餅をついてしまう。


吹雪「な、なんで……燃料が?もうないの?」


データバンクを見ると、どうやら対殲滅兵装の使いすぎで燃料をほとんど持って行かれてしまったらしく、残りはフロートユニットの最低限の活動で使えない。


ヤン「いやぁ……確かに高い火力だ……しかし、今後はコストの方か。」


ボートは吹雪の横について、吹雪を回収するとのこっている輸送艦に向けて進む。



吹雪「その……提督。」


ヤン「ん?なんだい?」


吹雪「……その、ありがとうございました。」


ヤン「……そうか。」






理不尽



【第四佐世保鎮守府】

輸送艦は一隻だけ沈んだが、残りは敵もなく、平和な航海で第四佐世保鎮守府に到着した。


ヤン「いやぁ終わった終わった。あとは報告だが、やはり、フォークか……」


執務室から数人の護衛と一緒に輸送艦の作業と数を数えているアンドリュー・フォーク。しばらくしてヤンのことを気付いたらしく小物らしく笑いながらヤンの元にやってくる。


アンドリュー・フォーク(以下フォーク)「これはこれはヤン提督。いやぁ全く、やってくれましたね。」


ヤン「何をです?」


フォーク「輸送艦ですよ。私は全隻の護衛をお願いしたと思いますが、なぜ一隻だけ沈ませたのですか?聞けばあなたの艦隊は旧式の駆逐艦一隻と、たかが吹雪型一隻。なぜ戦艦がいないのですか?」


フォークの吹雪に対しての印象は機動力しか能がない弱い船程度の考えだったのか、小馬鹿にするように質問する。吹雪は怒るというよりも少し情けなかった。フォークの言葉も事実を称しているからだ。戦艦までとは言わなくても、駆逐級艦娘一隻だけでは戦力不足もバカバカしい。


吹雪「その……フォーク大将それは……」


ヤン「いやぁ……それはすまない。戦艦なんて私程度が実際に使うには不向きだろう。それならば私程度に任される任務に、あなたが動けなかったのか。それが聞きたいですね。」


フォーク「ふん。私は本土防衛の任についていたのだ。護衛任務程度、お前に活躍の場ぐらいくれたやったのだ。それをこうもミスで返してくるとは……図に乗るなよ。今は私の方が階級が上なのだ。」


ヤン「そうですね。では大将閣下。我々はすぐに次の任務がありますので。」


早々に去りたいヤンは敬礼もせずにそのまま背を向けて吹雪とともに車に乗り込み、車は走り去った。


フォーク「……ぐ、グググ……ヤン・ウェンリー……舐めた真似を……」


作業員はフォークに近づかないように作業してそのまま帰ったのは言うまでもなかった。





【湾岸高速国道、軍用車内部】


吹雪「司令官……私、あの人が司令を出せているなんて思うと……」


ヤン「気にするな。ああいう人間はどこの世界にもいる。」


そう、どこの世界にも。そう思うヤンはふと窓を開けて、外の景色を見る。海は夕日に反射してとても美しく見えるがヤンはその綺麗な光景がどうも薄汚いようにも見えた。


ヤン(軍の腐敗化……それは何も変わらない。勝ち続けたもののたどる末路だ。)




西暦2015年5月30日17:42。


ヤン・ウェンリーはこの日久しぶりの実戦と、嫌味を思い出した。





その1終わり、その2に続くかも


後書き

ご質問、ご不満、ご要望、ご感想、いつでも待っています。


このSSへの評価

5件評価されています


SS好きの名無しさんから
2016-11-16 19:34:54

SS好きの名無しさんから
2016-08-21 22:07:58

SS好きの名無しさんから
2016-08-07 03:23:30

SS好きの名無しさんから
2016-08-06 20:26:12

SS好きの名無しさんから
2016-05-12 23:48:16

このSSへの応援

1件応援されています


chikaruさんから
2018-05-13 22:00:24

このSSへのコメント

1件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2016-08-21 22:21:44 ID: kOMv5JuA

未完の話に憶測交じりに感想を書いても見当外れになるに決まっているが、ビームを出してしまう安直さが、全てを台無しにしていると感じる。正直そこからは読み飛ばしてしまった。
黒い艦これマンガをやりたいなら、ヤンの要素は要らない。ヤンは確かに職業軍人だが、年端のいかない少女の欠損した姿を見て、平然としていられる程、割り切りのいいキャラではなかったと思う。


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください