イレギュラーが存在する鎮守府
1つだけ、たった1つだけ特殊な能力、もしくは願ったものを持って艦これに入ったら……というアレです
ふと思い付いた艦これのSSです。
SS書くの初めてなので誤字や誤った表現等ばんばん指摘してくださると助かります。
キャラ崩壊等あるかもしれませんがそれでも良いという方はご覧下さい
「それじゃ、カンパーイ!!」
???「やっと合法的に酒が飲めるなぁヒバナ!」
ヒバナ「俺は正直この独特な苦味が嫌いだわ。こういった席でしか酒は飲まんな。」
俺は今日成人を迎え、その成人祝いという事で小学校の頃からの親友であるミハルがこうして祝ってくれている。
名前こそ女だが、見た目はイケメンで誰にでも優しい好青年だ。
ミハル「子供だねぇヒバナは。いや、スマホのゲームもしなければコンシューマにも手をつけず、果てはゲーセンにすらいかないのは寧ろ大人なのか……?」
ヒバナ「お前の中での大人はゲームするかしないかで決まるのかよ」
ミハル「でもほんとヒバナはゲームしないよな、休みとか何してんの?1日ゴロゴロしたり動画見てたり?」
ヒバナ「あのな、確かに間違っちゃいないが俺だってゲームはするぞ?最近始めたのでは艦隊これくしょんってのをやってる」
ミハル「へぇ~あのヒバナが!さぞかし面白いんでしょうな~!」
ヒバナ「暇潰し程度だよ。可愛いキャラ多くてちょくちょくやってるくらい」
こんな会話をしながらも時間は過ぎていき
ミハル「じゃな!また飲みに行こうぜ!今度は他のみんなも誘ってさ!」
ヒバナ「おう。ありがとな!楽しかったよ」
こうして家に帰宅し、まず洗濯、翌日の弁当作り等の済ましておくべき家事を済ませ、一段落してからPCをつける
ヒバナ「遅くなったけど最近出たキャラの育成とかやっとくか」
最近始めたゲームを起動する。最初はよくありがちなブラウザゲームだと思ってやっていたが、いつの間にか日課になりつつあった
ヒバナ「あれ、なんだこの任務。真っ黒だけど受けたことになってる。バグか?」
画面には1つだけ、真っ黒に塗り潰された欄がある。自分は今日PCを開いておらず、当然この任務を受けた記憶はない。更にその任務は完了していて報酬が受け取れるようだった
ヒバナ「まあたまにこういうのはあるよな。一応スクショ取っとこ。バグで見えないけど多分補給任務だろ。」
そういって報酬を受け取ると本来もらえるはずの報酬じゃないものが手に入った
ヒバナ「なんだ?時計?何に使うんだよこれ。ちょっと調べてみるか」
今までで見たことのないアイテムを受け取ったため、用途が全く分からず、最近始めたばかりだから何か自分が知らないアイテムなのだろうとインターネットで検索をしてみる。全く便利な世の中になったもんである
ヒバナ「検索しても出て来ないな……これから実装されるアイテムが間違って入ったのかな」
そう思い手に入った時計の詳細を見てみる
ヒバナ「おい文字化けして何書いてるか全然分からんぞ。う~ん……取り合えずもう遅いし寝るか」
明日は休みではあるものの、酒が入ってることもあり眠かったので後回しにした。
???「───て」
???「───しい────あり───か?」
声が聞こえる。優しい女性の声が。これはいい夢が見れそうだ
???「あ────な───す」
なんて言ってるんだろう。よく耳を澄まして聞いてみる
???「あな─の、─けが──なんです」
おいおいこれアニメとかで見たことあるぞ!女神様が俺に助けを求めてるんじゃないかこれ!?
???「あなた─好きな力──けます。あ──が最後の──なんです」
よく聞き取れないけど俺に好きな力をくれるってことか?だったら迷いなく時間を止めたいね。自分に対してデメリットなしで
そう頭の中で思うと、声が鮮明に聞こえてくる
???「いいでしょう。ただし、止められるのは1日に合計で1分まで。それ以上は止められません」
まじか、いやまじか!1分は短いかもしれんけどこれは今までで一番いい夢だ!
……あれ?時間止めてるってのにそこに1分とかの概念ってあるのか?
???「これを差し上げます。これが0を示した時、時間停止の効果が切れます」
ほう、なるほどなるほど。これが何なのかさっぱりだが止めれるならなんだっていい!さあ今すぐ俺のエデンへ──────
ピピピピッ!ピピピピッ!ピピピピッ!
ヒバナ「まあ、そうだよな。そんなどこぞのエロアニメみたいな展開あるはずがない」
ヒバナ「はぁ……やることやるか」
こうしていつもの休日の朝が始まった
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ヒバナ「さて、昨日の時計のこともあるけどまずは育成しなきゃな。」
そうしてゲームを始めた。俺はこのゲームでお気に入りの娘がいる。それが最近建造した翔鶴という空母だ
ヒバナ「いいよなやっぱり翔鶴は。疲れきった身体を癒してもらいたい」
そんなことを言いつつ育成を始めると、いつもとは違うMAPがあった。そしてそのMAPは黒く塗り潰されたような奇妙なMAPだった
ヒバナ「またバグか……運営も土日休みなのかね」
そんな愚痴をこぼしながらそのMAPを見てふと思った。もしかしたら昨日の時計を使うようなイベントが何らかのバグでこちらに配信されてるのではないかと。
ヒバナ「怖いしダメコン積んでくか」
始めたばかりと言っても1つの事に熱が出るとかなりのめり込んでしまう性格なので翔鶴以外の部隊はそこそこの練度であり、ダメコンを積んでるということもあってちょっと見てみるか程度の気持ちでそのMAPに入った
ヒバナ「やっぱり敵も全部真っ黒だ。何が起こるか分からないし1戦終わったら撤退しよう」
その1戦が、俺のこの先の人生を全く別のものに変えた
ヒバナ「なんだこれ……戦艦が全体攻撃なんてしてくるもんなのかよ……」
画面には旗艦である翔鶴を除き、他全ての艦が轟沈していた
ヒバナ「ダメコンも発動しないし体力全開から一撃で轟沈なんてするもんなのか?意味がわからない…なんなんだこれ……」
戦闘は撤退し運営に報告しようとした時、画面が徐々に黒く染まっていった
それはまるでクレヨンで塗ることを覚えたばかりの子供が色んな色を混ぜてから最後に黒く塗りつぶすように、画面はどんどんどす黒くなっていく
ヒバナ「気持ち悪いな…電源落とそう」
落ち着いて電源を落とす。だが画面は何も変わらず、次第にそれは恐怖に変わる
ヒバナ「なんだよこれ!目が全く離れない!」
瞬間、意識を失った
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???「───!起──!」
なんだろう、なぜか聞き覚えがある声がする。そう、確かこの声は──
ヒバナ「ぅう……ぁ…あぁ……」
???「……!提督!起きて…!今水を!」
やはり聞き覚えがある。だけど直接会ったことはない、だってそれは─
ヒバナ「……は?……翔鶴?」
画面越しでしか聞いたことがないからだ
翔鶴「ああ、提督!やっと目覚めたんですね!」
ヒバナ「えっ……いや……なんで…」
正直意味がわからない。周りを見渡すと自分の家では無いことはすぐに分かった。ただその理由が全く出てこず、その現状が理解出来ないため録に喋ることも出来ない
翔鶴「良かったです提督……目が覚めなかったら私は……」
いや、落ち着こう。訳が分からない状況であれもこれも考えたら頭がパンクする。まずは今自分が持っているものの確認、そして状況整理だ
ヒバナ「ふぅー……えっと…翔鶴…で間違いないよな?」
翔鶴「…はい!翔鶴です!ああ…提督……良かった……」
翔鶴「何処か痛みませんか?あの後意識を失ってから急にこちらへいらしたので……」
…………ん?いま「こちら」って言ったか?
まさかここは……いや、今は何個も質問をあれやこれや投げ掛けるよりもいくつかに絞ろう
ヒバナ「……翔鶴、聞きたいことは山ほどあるがまず聞くぞ……今何年だ?」
翔鶴「はい、今は20××年の春…です」
ああ……もうそれを聞くだけでなんとなく分かった。まだ完全に理解できてはいないが恐らく俺がこのゲームの世界に何らかの形で現実世界から入ったのだ
ヒバナ「……………………」
翔鶴「…………提督?」
ヒバナ「……!持ち物は……!」
自分のポケットに手を突っ込む。当然ながらケータイなんて都合のいいものは出てこなかったが、代わりにあるものが入っていた
翔鶴「時計……ですか?随分珍しい時計ですね?針が1本しかありません」
翔鶴が取り出した時計を見るために寄ってくる。今気付いた…服がボロボロだ。そうか…あの時翔鶴は確か──
ヒバナ「…翔鶴。見るのはいいが……その、今の翔鶴は目に悪いと言うか……その」
翔鶴「……///」
ヒバナ「ここが俺がプレイしていたデータ通りなら高速修復材はいくつか余ってるはずだしまずはその服をどうにかしよう。いろいろとやばい」
翔鶴「…はい///その……失礼しました///」
そうして向かった先は恐らく入渠ドックだろう。女性に対して全く面識がない訳ではないがさすがに理性がやばかった。さて、まずはこの時計だ
もう大体の予測はついていた。俺もそんな鈍感を演じる人間じゃない
ヒバナ「恐らくこの時計は時間停止出来る1分間を測る物だろう。ただほんとに時間を止められるのか?」
そこでヒバナに電撃走るッ!もしかして今止めれば1分の間にとてもえってぃなものが見れるのでは……ッ!しかしそれは……ッ!屑……ッ!圧倒的……ッ!屑……ッ!
ヒバナ「10秒だけ止めてみよう」
ここで落ち着くことが出来るのが俺の強みだ
でもこれどうすれば止まるんだ?何かトリガーがあるはずだ。
ヒバナ「……止まれ!……時間よ止まれ!」
しかし止まらない。時計はそのまま動かない
ヒバナ「スタートアップ!クロックアップ!」
翔鶴「あの……提督……」
ヒバナ「あ……止まって!止まれ!…………ゴホン」
翔鶴「初めて口でゴホンって言う人見ました……それは何の時計なんでしょうか?」
高速使ったからやたら早いことを忘れてた。これで時間を止めて覗きだなんて早速ここで人生終わるところだった
ヒバナ「これは…まだ確証は持てないんだが、恐らく…恐らくだぞ?時間を止められる目安の時間を示す時計だ」
翔鶴「時間を……?まさか提督はそれを願ったのですか?」
……やはり翔鶴は今回の件のことを知っているらしい。それは最初に年号を聞いてから薄々感づいていた。これは、あのどす黒いなにかはどうやら起こるべくして起こったことらしい
ヒバナ「…………そろそろ聞くぞ…今、何が起きてる?」
いろいろな不安はある。だが何よりも、今一番聞かなければいけないことを問いかける
翔鶴「……提督は、『不正プレイヤー』をご存じですか?」
ヒバナ「不正プレイヤー?うーん……サポートされてない環境でこのゲームを動かすとかか?」
翔鶴「はい、それもありますが問題なのはデータの改竄を行うプレイヤーのことです」
いわゆるチートってやつか。あり得ないステータスを持ったキャラを所持していたり手に入らないアイテムを持っていたり。
…………それだと俺もこの時計を持ってるし不正プレイヤーなんじゃ?
翔鶴「そのデータの改竄を行ったプレイヤーが最初は自分の艦隊の数値を弄っていただけだったのですが、徐々にそれが他のプレイヤー、果ては運営にまで干渉を行うようになってしまいました」
だけ、というが運営側も商売でやってるわけだしそんなことをされたらひとたまりもない。なぜ早めに対処しなかったんだろうか
翔鶴「それがあの黒い何かです。そのプレイヤーが運営側を乗っ取り、多くのプレイヤーに被害が及びました」
ヒバナ「じゃああれは翔鶴達艦娘の本来の敵である深海なんとかなのか?一応戦艦やら艦種を区別出来るようなマークはあったんだが」
翔鶴「提督、最初に申し上げた通り今は20××年です。私達の戦いはもう終わってるんです」
……どうやらただゲームの中に入ったってわけでも無いらしい。
ヒバナ「なんで違うって分かるんだ?終わったと言ってもまた出てこないとも限らないだろ」
翔鶴「提督は相手部隊の編成を覚えてらっしゃいますか?」
ヒバナ「ほとんど真っ黒だったから全部は見れなかったが、旗艦が空母、そして4隻目が戦艦だってことくらいしか分からない」
その戦艦に翔鶴以外の第1艦隊が全てやられたのだ。有無を言わさず、ルールなど関係無しに
翔鶴「……その旗艦である空母が私の妹である瑞鶴だったんです」
そうか、俺は画面越しでしか見てないからただ真っ黒だったとしか分からなかったが翔鶴は実際に戦っている。それが妹ならば間違えたりはしないだろう
ヒバナ「戦艦は誰だったかまでは分からないか?」
なるべく妹の話から話題を反らしていこう。翔鶴ももたないだろうし、そうなれば先に進まない
翔鶴「分かりません……気付いたときには皆……」
ヒバナ「そうか…悪い」
駄目だ。うまく反らそうにも現状が悲惨すぎてどうやっても悪い方向にしか進まない
ヒバナ「まず纏めよう。第1艦隊は翔鶴以外がやられ、他の艦娘もいなくなってるところを見ると俺のデータに居た艦娘が翔鶴以外やられたってことでいいんだな?」
だが聞かなければ先に進めない。一旦起きたことを整理しなければ
翔鶴「はい。遠征に出した艦隊も一昨日から帰って来ません……提督……その…」
ヒバナ「もうちょっとだけ待ってくれ。そのプレイヤーは他のプレイヤーの鎮守府内にも干渉出来るってことで間違いないな?」
翔鶴「はい。間違いありません。私がこの目でそれを見ましたから」
ヒバナ「そうか。……分かった。」
まだ聞くことはかなりある。現実世界では今どうなってるのかとか、帰る方法は無いのかとか、だがやることは決まった。その不正プレイヤーを完膚なきまでに叩き潰す。勿論ゲーム内、現実その両方で。
でもまず、なによりも先にやらなきゃいけないことがあった
ヒバナ「翔鶴……大丈夫か?」
翔鶴「……!」
思えば目を覚まして会ったときから翔鶴は目が真っ赤だった。話している時は今にも泣きそうな、触れれば壊れてしまいそうなくらいに弱っていた
翔鶴「……提督っ!……うぅ…うぁあああぁ……」
会ったばかりの人間に対してこんなことはしない。だが何かを失うことの辛さは分かっていた。小さい頃に母親は出ていき、父親は小学校の頃に病気で他界。強がって感情を押し殺していたが叔母に抱き締められ一気に涙が溢れ出した
その時の自分を少し思い出し、気付いたときには翔鶴を抱き締めていた
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翔鶴「お恥ずかしい所をお見せしました……」
ヒバナ「いや、いいんだ。俺も悪い気はしなかったし今までで一番いい経験をした」
軽く本音が出てしまったがまあいいだろう。
ヒバナ「帰る方法とかは後回しだ。まずはここでの目的を果たそう!」
自分に言い聞かせるように、そう呟く
翔鶴「提督は随分落ち着いてるんですね?」
ヒバナ「ふふ…悪いがな翔鶴。俺は正直楽しみでしかたがない。考えても見ろ、普段ならあり得ない体験だ。誰もが一度は夢見るであろう画面の中にいるんだぞ俺は!」
正に夢のようだ。一番のお気に入りである翔鶴が今目の前に居て、この世界には倒すべきボスがいる。おまけにまだ使い方が分からないがどんな状況も覆し得る時を止める力まで持って!
ヒバナ「この状況を楽しまない手はないだろうが!いつまでかは分からないがよろしくな、翔鶴」
翔鶴「ふふ……はい!お供します!」
チュートリアルは終わりだ。ここから好き放題やらせてもらうぞ!
それから翔鶴に色々なことを聞いた。そしていくつか分かったことがある。
それは
・黒い敵に遭遇し、敗北しても旗艦だけは沈まないこと
・鎮守府内に干渉はされるものの、干渉出来るのは秘書艦以外の艦娘だけであり、資源や施設には手を出せないこと
・それにより妖精には干渉されないため、建造、開発等は出来ること
・今まで開発した装備は無くなっているものの、翔鶴に積んでいた装備が残っていることから、艦娘に装備させたものは無くならないこと(秘書艦に干渉出来ないため。翔鶴以外に艦娘を仲間にし、その艦娘に装備させた場合はどうなるか分からない)
ヒバナ「ふむ。分かったことは多いが割と詰んでるなこれ」
翔鶴「……はい。装備は強力な物を頂いていますが私だけでは…」
ヒバナ「それもそうだが、相手が秘書艦以外に干渉が出来るなら建造してもすぐやられてしまう。仮に秘書艦を6人に出来たとしても出撃すれば旗艦以外がほぼ間違いなく沈む。それもダメコンなんて関係無しに、だ」
そうなのだ。実質1人vsチート6人だ。沈まないとはいえひたすらタコ殴りにされるだけでは出撃する意味もない。干渉されてしまうから建造して数を増やすことも出来ない
ヒバナ「……なあ、そういえば何で翔鶴は俺が見た夢の事を知ってるんだ?それを願ったのですか?とか言ってたけど」
翔鶴「私も夢を見たんです。提督の夢とは違いますが、特殊な力を持った提督がもうじき来る。その人の願いが自分が最後に叶えられる願いで、その人と此処をなんとか前の世界に戻してくれ。と言われました」
ヒバナ「随分人任せな気もするが、多分運営なんだろうなそいつは」
ヒバナ「……『自分が叶えられる最後の願い』か。それだと他の人間の願いも叶えてきたみたいな言い方だな」
だとしたらまだ希望はある。その願いを叶えられた人間と協力すればいい。俺と同じ目的を持っているかは知らんが
ヒバナ「よし、翔鶴。ここから一番近い鎮守府に行って協力出来るか話を持ちかけよう。うまくいけば下手すりゃ2、3人の協力で勝てるかもしれん」
翔鶴「たったそれだけの人数で…ですか?そうは思えませんが…」
ヒバナ「俺は時を止める力を願った。まだ使い方が分からないがこれはとんでもない力だ。普通ならあり得ない。そんな力を持った奴が他にも居るわけだ。簡単にいくとは思わないが気が楽にはなるだろ?」
翔鶴「……はあ…」
翔鶴は依然不安げだ。尤もそれは実際に敵と対峙していてその力量が分かるからだろう。自分の体験と口だけの他人なら間違いなく前者を信じる
ヒバナ「俺を信じろとも信じてくれとも言わない。だが見ていて欲しい。俺が翔鶴にとって信じるに値する人物なのかを」
翔鶴「……提督、正直に申しますとすごい不安です。それは提督を信じて大丈夫なのか、ではなく、また私の周りから誰かが居なくなってしまうのではないかと……」
ヒバナ「翔鶴。それは今心配してもしょうがないことだ。確かにその不安は分かる。だがな、未来を心配してもそうなると確信は持てないものだよ。それがいい未来であれ悪い未来であれな。」
翔鶴「……でも!…分からないからこそ不安なんです!……提督、約束してください。居なくならないと。私を…1人にしないと」
そんな約束出来るはずがない。したところでその場凌ぎにしかならない。それは翔鶴も分かっているはずだ。自分が安心したいがための我儘だと。でも───
ヒバナ「約束はしない。だが誓うさ。俺は翔鶴を置いていかない」
その我儘を突き放すことなんて出来なかった
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ヒバナ「え~っと、身分証明書に時計に……」
それから他のプレイヤーに協力を募るための準備をしていた
ヒバナ「…こんなところか。証明書がちゃんとあって助かった」
執務室の机の引き出しにはしっかりと自分の身分を証明出来るものがあった。これでも一応中将らしい。まあこの世界に入り込んだプレイヤーで身分によって偉そうにしてくるなら殴って聞かせよう。
ヒバナ「そんじゃ出るか……とその前に」
翔鶴「……?」
ヒバナ「何か食べようか。思えば来てから何も食べてない」
いつ言おうか迷っていたがここで言った。いろいろありすぎて考えなかっただけでかなり腹は減っていた
翔鶴「……ふふふ…そうですね。お昼にしましょうか」
ヒバナ「…なんか他所の家の冷蔵庫漁ってるみたいで変な気分だ」
思いの外食材がある。艦娘達は普通にこういったものを食べるのだろうか
ヒバナ「なあ、もしかして翔鶴達艦娘も普通にこういうのを調理して食べるのか?」
翔鶴「…失礼です提督。まさか燃料やボーキサイトをそのまま口に入れると思ってたのですか?」
正直そう思ってた、とはこの状況では言うべきではない。まあでもほっとしたところはある。食事をしようかと言って突然ボーキをボリボリ貪って燃料をがぶ飲みするのは見たくないし夢が壊れる
ヒバナ「……いやまあ、うん。悪かった」
翔鶴「……むぅ…」
分かりやすく怒っている様を見せる翔鶴。ここは俺が料理して機嫌をとろう
ヒバナ「悪かったって。まあそこに座っててくれ。今何か作るから」
翔鶴「それなら私も手伝います。提督だけにやらせるわけには…」
ヒバナ「詫びとして受け取ってくれ。はいはい座った座った」
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翔鶴「…………美味しい」
ヒバナ「だろうな」
料理には自信があった。一人暮らしを始めて1年ほどだが、まず始めに料理を覚え、自分が満足するまで研究した。そうするうちに趣味のようなものにもなっていた
ヒバナ「にしてもかなりの食材の量だな。余り物と表現するには程遠いぞ」
翔鶴「此処にはかなりの艦娘がいましたから……あれでも1週間ももちませんよ?」
そうか、4人家族とかの次元じゃなかったなそういや。
ヒバナ「まあでもボーキをボリボリ食べるようじゃなくて良かったよ」
翔鶴「もう!また……」
そんなことを話していると
チャッ───────
ヒバナ「!?」
力なく執務室のドアを開ける音が響く
翔鶴「──提督、下がってください」
どうなってるんだここは。ちゃんとSEC◯Mしてるのか。
そう思ったが、ここはなんでもありな場所であるためその疑問は何処かへぶん投げた
???「……ぅぅ……まって…………敵じゃ……」
ヒバナ「翔鶴、一旦武器を降ろそう」
そういって警戒しながらも武器を降ろさせる。何処かから逃げてきたのか。あるいは───
翔鶴「───動かないで。まず名を名乗りなさい。」
???「…………うぅ……す……だよ…」
翔鶴「……なんですか?よく聞こえません」
???「……す…や……すずや……」
見たところ服はボロボロって訳でもない。すずやってのは名前だろう。俺の艦隊には居なかったがそういう名前の艦娘がいるのは聞いたことがある
翔鶴「───そうですか。では鈴谷さんはここへ何をしに?」
鈴谷「……助けて…………助……提督もいる……」
提督もいる?何してるんだそいつは。動けないのか?
ヒバナ「そいつは動けないのか?」
鈴谷「………………」コクン
小さく頷く。やはり見たところ怪我はない。何故そんなに苦しいのだろうか
ヒバナ「助けてと言われてもどうすればいい?怪我は無さそうだしそっちの提督が動けないのもあんたと同じ原因なのか?」
鈴谷「………………」コクン
あまり長く質問を投げ掛けると倒れそうだ。だがどうして欲しいのか聞けてない
その時だった
──────グウゥゥウゥウ
ヒバナ「翔鶴、下がっていいよ」
その音と共に鈴谷とやらは倒れた
───────────
─────────
鈴谷「うぅ……ん…………」
ヒバナ「起きたか?全く余計な心配をしてしまった。弾薬でもかじるか?」
翔鶴「かじりません!」
???「鈴谷!……起きたんだ……良かったよ……」
まさか昼に2回も料理するはめになるとは思わなかった。食材は足りるが正直見ず知らずの人間にわざわざ料理してやるのは疲れる
???「いや~助かったよ!まさか生き残ってる人間がいるなんて思ってなかったし!私の大事な鈴谷もこうして助かった訳だし君には感謝してるよ!」
なんでやたら偉そうなんだこの人は。誰が料理出来ないせいで自分の艦娘を餓死寸前にまで追い込んだと思ってるんだ
???「ほら鈴谷!何日ぶりか分からないけどご飯だよ!胃がびっくりしないように料理したんだよ」
あんたは作ってないだろ
鈴谷「うぅん……」パク
鈴谷「…………美味しい…!」
あっという間に食べてしまった。そんなに急いだら胃がびっくりして大変だろうとは思ったが大丈夫みたいだ
ヒバナ「……それで?あんた達は何処の誰なんだ」
???「私は呉鎮守府の提督をしてるカナデだよ。ほんとありがとね!此処に君が居なかったら餓死しちゃってたよ」
カナデ「それでこの娘が秘書の鈴谷だよ」
鈴谷「あ……え~と、この度は…大変」
カナデ「まあまあそんな畏まらなくていいよ。いつも通りでいいって」
ほんと何様なんだこいつ。見た感じ18歳くらいにしか見えない
鈴谷「…じゃあ、ありがと。ここの提督!他にも色んな所回ったんだけど何処ももぬけの殻でさ~!最後の力振り絞って来た介があったよ!」
なるほど。こいつら似た者同士なわけか
ヒバナ「……まあいろいろ言いたいことはあるが、まずは助かって良かった。それと、俺たち以外にも人がいて安心したよ」
翔鶴「………………」
翔鶴が何か言いたげだがまあ抑えてもらおう。此処で悪い雰囲気になってしまえばチャンスを棒に振ることになってしまう
ヒバナ「色々回ったって言ったがどれくらいの数鎮守府を訪ねたんだ?これから俺たちも行こうと思ってたんだが」
カナデ「回ってないのは佐世保と舞鶴くらいだよ。それ以外は全部回ったんだけど何処も全滅」
結構な数回ってるな……そして後はその2つだけ、となると多くて4人か…………
ヒバナ「……なあ、もしかしてカナデはここの世界の人間じゃない…とかか?」
カナデ「……!うん!そうだよ!よく分かったね、シェフ!」
ヒバナ「じゃあ言うまでもないな、協力してくれないか」
翔鶴「!提督……!」
まあ言いたいことはなんとなく分かる。だが今はどんなやつでも人手が欲しい
カナデ「うーん…じゃあさ、私の目的にも付き合ってよ」
ヒバナ「目的?」
カナデ「取り返したいんだよねぇ………私達のゲーム」
鈴谷「提督!それ言っちゃっていいの?」
カナデ「うん。だって悪そうな人じゃないし最終的な目的は多分同じだし」
ヒバナ「……え?あんたもしかして運営なの?」
カナデ「その内の1人だよ。仲間が今どうなのかは分からないけど」
これはとんでもないやつと協力関係になったぞ。……あれ?でも運営なら願いとかはあるのか?
ヒバナ「運営さんよ。特殊な力みたいなのは持ってるのか?」
カナデ「その呼び方はなーーし!名前でいいよ。多分年下だし呼び捨てにして」
変なところこだわるな
カナデ「それと私は特にその特殊な力とやらは持ってないよ。その代わりこれは持ってこれた」
そういって取り出したのは真新しい万年筆のようだった。なんなのだろうか
カナデ「これはね~、50字以内で書いたものなら実際にそうなっちゃうんだよ!どう?凄いでしょ?」
それを特殊な力と言うのでは……
カナデ「いやいや、ほんとは無制限なんだよ。それに万年筆なんかじゃなくてキーボード」
なるほど。つまり運営の特権を持ってきたわけだ
翔鶴「50字……ですか」
カナデ「事細かに書かないと実現しないんだけど50字だと録な事書けないんだよね~」
鈴谷「そんなことまで話しちゃっていいの?奪われたりでもしたら大変じゃん!」
カナデ「この人に限ってそんなことはしないと思うよ?」
ヒバナ「どこからその自信は出てくるんだ…」
カナデ「まあまあ、それで?キミのはどんなのなのかな?」
ヒバナ「俺のは時間を止められる力…らしい」
らしいというかそうなのだが、実際に止めたためしがなくやり方も分からないので言い切れなかった
カナデ「随分とんでもないの持ってるね~。いやらしいことしないでよ?」
確かに美人だがこの人には絶対にしたくない。
カナデの近くにいた鈴谷までもが警戒し始めた
ヒバナ「まあ1分までなんだがな。それも1日で合計1分」
カナデ「へぇ~……」
カナデ「まあ、その辺はまた追々ということにしといて、これからどうするの?もう夕方だけど」
ヒバナ「今から生きてる奴を探し回っても帰りが遅くなりそうだ。ひとまず今日は休もう。正直いろいろありすぎて疲れた」
カナデ「そうだね、それがいい。それじゃあ部屋割りを決めよう!」
ああやっぱり居座るのか
鈴谷「え、ちょっと!聞いてないんだけど!帰らないの!?」
カナデ「大丈夫大丈夫!鈴谷は私と一緒の部屋にするからさ!」
翔鶴「提督…………?」
ヒバナ「ああ、わかってる。なあカナデ」
カナデ「ん?」
ヒバナ「ここも不正プレイヤーの干渉を受ける。そこにお前達が来て大丈夫なのか?」
カナデ「うんとね、ほらこれ見てよ」
見せてきたのは升目のあるメモ帳。そこには─
──『私が今いるこの鎮守府、及び中に居る4人は、いかなる不正な干渉を受け付けない』──
そう書かれていた。これは……
カナデ「特別ルールだ~!これであの趣味の悪い何かから干渉はされないよ!」
50字って割と長いんだな。だがこれは有難い。これなら建造してその万年筆で書けば負けないんじゃ……
カナデ「ただこのメモは1つしか実行出来ない。今ひーくんが考えてる俺つえー作戦は出来ないよ」
ヒバナ「そうか……まあだが助かる。これでひとまず安心できる」
呼び方については一切触れなかった
翔鶴「提督……私はまだ納得出来てません」
鈴谷「私だって納得してないし!確かに救ってもらったのは感謝してるけどまだ会ったばっかだよ?信じられないよ!」
翔鶴「私も同意見です。それに…………」
翔鶴「………………邪魔されたくないです」ボソッ
ヒバナ「まあ聞け二人とも。いいかい?今は我儘言ってられないんだ。俺もお前達のプライベートとかは極力考慮するし手を出そうなんて思っちゃいない。それに、鈴谷に手を出そうもんならカナデが黙っちゃいないだろうからな」
ヒバナ「今は俺達が敵対する意味もない。目的が同じなら手を貸すべきなんだ。不満な所があるなら言ってくれ、俺も善処する」
鈴谷「うーん……まあヒバナさんが悪い人じゃないってのは分かんなくもないよ?でもなあ……」
カナデ「もっと大人になろうよ鈴谷~!」
鈴谷「提督に言われたくないし!…………ああ~もう!分かったよ。協力する。でもお互い変なことするのは無しね!」
ヒバナ「分かってるよ。約束する」
ヒバナ「それで?翔鶴は?」
翔鶴「…………まだ煮え切らないですが、提督が言うなら……」
ばつが悪そうな顔をする翔鶴。女同士だからこそのなにかがあるのだろうか
カナデ「それじゃあ決まりだね!これからよろしくね、鶴ちゃんにひーくん!」
ヒバナ「……ああ、よろしくな。運営さん」
カナデ「その名前はなーーーーーし!!」
こうして仲間が増え、本格的に俺達の物語は始まった
──────────
───────
ヒバナ「──────!」ガバッ
ハッとして目が覚めた。出社の時間だ。何故か目覚ましが鳴らなかったが普段からこの時間に起きているため自然と目が覚める。
ヒバナ「さて準備準備──あぁ」
そう、鳴るはずがない。ここはもう自分の家ではないのだ。
ヒバナ「………………」
昨日の事を思い出す。
昨日はあの後、簡単な自己紹介をし、何があったのかを報告しあい、それがいつのまにか脱線して夜まで話していた。
その後はカナデが着替えがないだの風呂の順番がどうだの喚いていたが翔鶴が収めてくれた。結局部屋割りは俺が1人、他3人が1つの部屋に固まる形になった
ヒバナ「まだ起きてこないだろ……さて……」
朝御飯の準備をしようと思ったがまず自分の中の不安を取り除こうとした
ヒバナ「早めに方法を探らなきゃな」
時間を止める方法はまだ分からない。あれから色々と試してみているのだが、止まったためしはない
ヒバナ「…やっぱり止まらんな。少し外の空気を吸って気持ちを入れ換えるか」
そうして窓を開け、大きく深呼吸する。
─────チチチチ……────
鳥が鳴いている。こうしてみれば平和そのものだ。
ヒバナ「スゥ──────」
──────────カチ────────
ヒバナ「ハァーーーーーーーーー」
…………その微かな音を聞き逃すことはなかった。
確かに今時計の音がした。と同時に鳥達が鳴くのを止め、その場で静止した
ヒバナ「…………スゥ──────」
─────────カチ────────
すかさず持っている時計を見る
ヒバナ「(動いてる……!まさか……)」
ヒバナ「ハァーーーーーー」
ヒバナ「やはり止まった……じゃあこれは……」
カナデ「おはよ~!」
ヒバナ「!」
おもわずびくついてしまった。
ヒバナ「……おはようカナデ。正直めちゃくちゃびっくりしたぞ」
カナデ「いや~なんか真剣な顔しちゃってるからさ~!なんかあったの?」
ちょうどいい。少し遊んでみよう
ヒバナ「スゥ────」
息をおもいっきり吸い込み、限界まで来たら止める
───────カチ────────
ヒバナ「(やはりそうか…どうやら俺が息を止めている間時間も一緒に止まるらしい)」
ピクリとも動かないカナデを執務室の扉の前まで運び、扉を閉める
ヒバナ「───プハァ──ハァ、ハァ…」
流石につらいものがある。肺活量を鍛える必要がありそうだ
カナデ「────あれ?」
さっきの体勢に戻り、出来るだけにやけないように空を眺める
カナデ「うーん……なんだろうこの……デジャヴ?」
カナデ「まあいいか!ひーくんおは」
────────カチ────────
ヒバナ「(今度は俺がこの部屋から出るだけでいいか。流石に疲れる)」
カナデ「──よ~!……おや?」
───ガチャ────
ヒバナ「…………なんだ、早いんだな」
カナデ「あれぇ~~~~??」
なんだこいつ面白すぎる
───────────
─────────
カナデ「それは感心しないな~!」
ヒバナ「試してみたかったんだよ。実際どんなもんか」
カナデ「変なことはされなかったけどさ、今度からやる時は言ってよね!」
ヒバナ「分かったよ。悪かった」
絶対言わない
時計を見てみると、35秒ほど経った状態で止まっていた
残り25秒か……流石に遊びで使うのは控えよう。この先何があるか分からないし
翔鶴「……おはようございます」
鈴谷「ちぃ~っす……」
ヒバナ「随分元気無いな。朝は弱いのか」
カナデ「ぅおほほほ~鶴ちゃ~ん!聞いておくれよ~!」
翔鶴「……わわっ!えっと……」
カナデ「弄ばれたよ……お嫁にいけないよ……」
翔鶴「あ……あの……」
寝起きでいきなり抱きつかれたらそりゃ困惑するだろう
カナデ「おおう……鶴ちゃんは中々いいものを持っておる……」
翔鶴「あ//…………や……//」
鈴谷「はいはい提督。その辺でやめときなよ」
鈴谷が止める。割と出来る娘らしい
鈴谷「…それで?ヒバナさんは何したの?」
ヒバナ「あぁ……それは」
なにやら怒ってるような感じがする。これは長そうだ
そのあと鈴谷と翔鶴に怒られいつの間にか朝が終わってしまった
カナデ「それじゃあ行こうか!」
朝食を済ませ、準備をしてから皆で話し合い、まずは佐世保へと向かうことにした
話し合う、といっても多数決だったんだが。
これには理由がある。それは相手も俺達と一緒でプレイヤーだから、詳しく言うとそいつも鎮守府にいる可能性があるからだ。残っている鎮守府は2つということからそのどちらかが敵の本拠地ということもありうる。
本来ならよく考えて選ぶのだが判断材料が皆無であり、ならばということで多数決にして佐世保に決まった
ヒバナ「どうしても賭けになるわけだし仕方ないな」
俺は佐世保に手をあげた。完全になんとなく、ではなくカナデが佐世保に手をあげたからだ。
これにはちゃんと根拠があり、いつ敵の本拠地を訪ねてしまうか分からないような状況で食べ物を求めてあれだけ回ってなおハズレを引かなかったのだ。
そもそも敵が鎮守府にいるという確証は持てないが、艦隊を所有していることからその可能性は捨てきれない。そんな中敵に鉢合わせなかったカナデの運を信じた
鈴谷「また歩くの~?だる……」
翔鶴「ほんとに大丈夫なんでしょうか……」
この二人は舞鶴に手をあげている。真っ二つに分かれたわけだが鈴谷のあげた理由がただ近いから、というだけだったのでカナデが勝手に3対1にした
カナデ「そう不安がらないでさ、もっとどっしり構えていこうよ!」
カナデ「呉のカナデ、佐世保の時雨ってね!」
どうしよう、とんでもなく不安になってきたぞ
カナデ「と、その前に……」
なにやらメモ帳に大きく×印を書いている。そのメモには昨日の特別ルールが書いてあった
カナデ「これで何かあってもまた書き直せるよ!」
ヒバナ「……よし、行くか」
───────────
─────────
ヒバナ「鎮守府の外ってあまりイメージが沸かなかったんだが……割と普通なんだな」
外の光景は現実世界とは確かに違うものの、限りなく現代に近いものだった
鈴谷「……ねえ、ヒバナさんや提督はさ、この問題が解決したら帰っちゃうんだよね?」
翔鶴「………………」
カナデ「帰れたらいいけどね~。実際、解決して帰れる保証なんてないし」
それもそうだ。もしかしたらこの一件が解決した後、帰る方法を探さなくちゃならなくなるかもしれない
翔鶴「……提督は帰りたいですか?」
ヒバナ「そうだな~…今なら帰れるって言われたら帰らないかな。まずはここの問題を解決するって決めたわけだし」
流石にここまでやってきておいて都合よく帰るわけにもいかない。それにもっとこの世界を楽しんでみたい
ヒバナ「カナデは帰りたいとか思うのか?」
カナデ「う~ん…私も同じかな。やることは残ってるし、それになにより…」
鈴谷「…ぅわっ!……ちょちょっ!……提督!」
カナデ「せっかく会えた鈴谷と離れたくないよ~~!」ギュゥゥゥゥ
鈴谷「へ、へぇ~……そうなんだ……//」
それが素なのか、はたまた鈴谷の気持ちを察して安心させようとしたのかは分からないが
ヒバナ「いいものをみた」(いいものをみた)
翔鶴「え……………………」
いいものをみた
──────────
────────
鈴谷「とうちゃーく!」
ヒバナ「急に元気になったな」
翔鶴「大丈夫ですか?もう着きましたよ?」
カナデ「疲れた…………疲れたよ」
最初一番元気だったカナデは、猫を見つける度に追いかけ回したりしたせいでかなり疲労していた。途中翔鶴におぶってほしいと何度か頼んでいたが、一度もおぶろうとせず笑顔でさりげなく断っていた翔鶴には感心した
ヒバナ「外から見ると荒らされたって感じはしないが」
鈴谷「入ってみなきゃ分かんないよ!ほらいくよ!」
ヒバナ「すごい変わりようだなほんと」
カナデ「うう…………」
翔鶴「あの…カナデさん……」
まだやってたのか
ヒバナ「仕方ないな、ほら」
カナデ「…………おんぶなら普通後ろ向きじゃない?」
ヒバナ「よっ……と」
少し意地悪をしたくなった
カナデ「抱っこするなーーーーーーーー!」
ヒバナ「さて、中を調べてみるか」
翔鶴「警戒はしてくださいね?何があるか分かりませんから……」
こうして佐世保鎮守府に着き、誰かいないか探ることになった
鈴谷「ちょっと提督!なにしてんの!」
カナデ「いや~以外といい場所だよここは」
最初は降ろせとうるさかったカナデだったが続けていたら気に入られてしまった
正直前があまりよく見えないしいい匂いするから大変よろしくない
ヒバナ「……なあ、そろそろ降りないか」
カナデ「う~ん誰も見当たらないねえ」
聞いてねえ
翔鶴「ですが誰もいない…というわけでも無さそうですね」
ヒバナ「みたいだな、洗ったばかりの食器があったり風呂にお湯が張ってあった。警戒して隠れてるのかもしれん」
生活感丸出しな分結構期待してたのだが、もしかして出ていってしまったのだろうか
カナデ「それは無いんじゃないかな。ここを離れる方が危険だし」
鈴谷「?」
なんでこいつ他人の思考読んでくるんだ
ヒバナ「……まあいいか、とりあえずここが最後の部屋だな」
──執務室。最初に見ておこうかと思ったが、鈴谷が楽しみは最後に取っときたいなんて言い出し後回しにした
鈴谷「それじゃ……開けるよ……」
緊張が走る。どうか居ても敵じゃありませんように──
???「動かないでくれるかい」
鈴谷「!!」
執務室を空けた瞬間、武器を構える音と共に声が聞こえた
???「時雨ちゃん、この人達は悪い人じゃなさそうだよ?」
時雨「今はそんなことを言ってられないんだ。相手がどうであれ、提督と約束したじゃないか、此処は守らなきゃいけない」
???「でも……夕立達の提督はもういないっぽい……」
時雨「…っ…それでも!此処を奪われるわけにはいかない!」
ヒバナ「まあ待ってくれ。俺達はあんたらの敵でもないし、此処をどうこうしようって気はない」
鈴谷「……ねえヒバナさん、何処の誰に向かって喋ってるの」
ヒバナ「恐らく前にいるであろうおよそ2人に」
表現が曖昧なのは当然だ。なんせ声はするが姿が見えないのだ。背後を取られたかとも思ったが、どうも前から声がしてるとしか思えない
何か特殊な力でも使ってるのだろうか
翔鶴「話し合えませんか?事情はわかりませんが私達に敵意はありません」
時雨「残念だけどそうはいかないんだ。君達がどんな──────」
カチ────────
ヒバナ「(悪いな、こんなことをするためにここに来た訳じゃないんだ)」
ヒバナ「(ちょっと借りるぞ)」
抱えているカナデのポケットから万年筆とメモ帳を拝借する。
ヒバナ「(片手だと書きづらいがなんとか出来るか)」
──『佐世保ちんじゅふではとくしゅな力を使用できず、他一切の干しょうを受けない』──
ヒバナ「(時間は……後8秒か)──ハァ」
時雨「──人であれね」ガチャ
鈴谷「…!へぇ~、あなた、可愛いんだね」
時雨「…?急に何言って───」
時雨と呼ばれた女の子は咄嗟に後ろの娘の方を向く。もう姿ははっきり見えている
時雨「そんな…どうして!」
ヒバナ「もうここでは力を使えない。さて話し合おうじゃないか」
時雨「君がやったのかい?一体どうやって…」
翔鶴「今はそれを話している時ではありませんよ?」
翔鶴が武器を構える。勝負あったか──
時雨「……分かったよ。降参する。僕たちの負けだ」
なんとかなったみたいだ。それにしてもさっきからカナデがおとなしいのだがどうしたんだろう
カナデ「んぅ……ん……ふう……」
なにやら艶かしい声を出していた
─────────
───────
カナデ「やる時は言ってって言ったじゃん!」
ヒバナ「お前今から時止めますって突然言い出す男をどう思うよ」
鈴谷「イタい」
ヒバナ「だろうな」
カナデ「それでもさ、いきなり身体まさぐられる感覚に襲われる身にもなってみてよ!」
翔鶴「提督………………」
ヒバナ「内ポケットに入れてある物を探ろうとしたらそうなっちゃったんだよ。悪かったな」
時雨「あの……」
カナデ「これじゃ本格的にお嫁に行けないじゃん……汚されたじゃん」
ヒバナ「安心しろ、貰ってやるから」
カナデ「変な同情はいらないよ!」
時雨「えーっと……」
ヒバナ「鈴谷が」
鈴谷「えっ鈴谷が!?まあ…別に、考えなくもないけどさ……//」
夕立「時雨ちゃんが喋ってるっぽい!」
カナデ「あはははごめんごめん。それで?」
時雨「さっきは悪かったよ。いきなり武器を突き付けちゃって。少し聞く耳を持つべきだった」
カナデ「そんなの気にしないでいいよ!怪しく見えて当然だし、守ってたのならなおさらね」
時雨「ありがとう。…でもどうして僕たちの力が急に無くなったんだろう」
ヒバナ「俺の力で時を止めて、こいつの力を使ってルールを作ったんだ」
カナデ「カナデちゃんだよ!凄いでしょ!」
夕立「時間が止められるなんて凄いっぽい!」
カナデ「あれあれ?」
翔鶴「…時雨さん、聞きたいのですが…」
時雨「なんだい?」
翔鶴「確か提督はもういないと言っていませんでしたか?」
時雨「…うん、僕たちの提督はいないよ。飲み込まれたんだ…僕たちの代わりに」
夕立「………………」
カナデ「提督が不正の干渉を受けたってことだね」
時雨「そうだよ。僕たちにこれを置いていなくなっちゃったんだ」
そういって取り出したのは2つの腕輪だった
時雨「これはつけている者が思ったあらゆる対照からはずす力があるんだ」
鈴谷「どういうこと?」
夕立「例えば、ある人から叩かれそうになったら、叩かれたくないって思えば叩かれる対照から外れるっぽい」
ヒバナ「……つまり夕立達は他人から"見える"対照から外れたんだな」
時雨「うん。理解が早くて助かるよ」
ヒバナ「じゃあその提督もこの世界の人間じゃなかったわけか……」
カナデ「やっぱりこっちでも死はあるんだね」
やはりそうなのか…ただ艦娘が2人生き残っているのは大きい
カナデ「ちなみにさ、その人の名前ってなんだったか分かる?」
?そんなことを聞いてどうするんだろうか
夕立「えっと……ユカって言ってたっぽい」
カナデ「え…………………」
ヒバナ「どうかしたのか?」
鈴谷「提督?」
この世界に来て、まだ全然日は経ってないが
翔鶴「どうかしましたか………?」
分かったことがある
カナデ「私の…私の友達だ………その子…」
どの世界にいても、この世は理不尽だ
──────────
───────
ほんとはさ、そんな気がしてたんだ
だってあんなに回ったのに誰もいないし。もしかしたらって思ってたけどやっぱりこの世界でも死はあった
でもよりにもよって私の友達が死んじゃうなんてさ。残酷だよね、現実は
鈴谷「………大丈夫?提督………」
鈴谷が心配してくれる。ヒバナや翔鶴ちゃん、時雨ちゃんや夕立ちゃんも気を遣ってその話題についてはそれ以上触れなかった
ヒバナ「………時間も時間だし今日はおしまいにするか。続きは明日にしよう」
時雨「う、うん。そうだね。皆ここに泊まってくといいよ」
夕立「じゃ、じゃあお風呂の準備してくるっぽい!」
翔鶴「なら私は寝るための準備をしてきます。時雨さん、お布団はどこにしまってありますか?」
時雨「それなら僕も手伝うよ。この人数だと一人じゃ大変だろうし」
みんな私が一人になりたいのを察してくれてるのか各々理由をつけて離れていった
鈴谷とヒバナを除いて
カナデ「………分かんないかな~。皆さ、察してくれてるんだよ。私の気持ち」
鈴谷「一人には出来ないよ…凄い泣きそうじゃん」
だから一人にして欲しいのに
カナデ「じゃあお願い鈴谷、少しだけでいいから一人にしてよ」
鈴谷「………無理しないでよ」
そう言うと夕立ちゃんが行った方に歩いていった
カナデ「…ねえ今の聞いてた?」
ヒバナ「ああ、聞こえたよ」
お節介焼くつもりなのかな。やめてよほんとに
カナデ「先に言っとくけど何も聞かないからね。同情もいらないし。泣き顔が見たいだけのドSなら笑ってあげるよ」
ヒバナ「俺の友人に似たようなやつが居てな」
急に語りだしちゃったよ。いいよそういうの
ヒバナ「そいつは友人じゃなくて両親を亡くした」
ヒバナ「母親は小さい頃に出ていって父親は病気。両親が亡くなってからは叔父と叔母が預かることになったらしい」
カナデ「…………………」
言っても止めないだろうし聞くだけ聞こう
ヒバナ「その父親の病気さ、実は治せたんだ」
………………病院側になにかあったのかな
ヒバナ「そいつもその時はまだ小学生でな、親が起こしてくれないと朝は起きれなかったらしい」
ヒバナ「………父親が倒れた時はまだ寝ていたんだ。そいつが起きたのは倒れてから4時間後、父親がストーブをしきりに蹴っていた音で起きたんだ」
ヒバナ「すぐに救急車を呼んだ。何が起こったのか分からず運ばれていく父親を見てしばらく立ち尽くしたまんまだった」
………もしかして実は治せたって言うのは…
ヒバナ「もう少しさ、早く起きて救急呼べば助かってたかもしれなかった。それを知ったのがそれから8年後、ちょうど高校卒業する頃だった」
カナデ「…………………」
ヒバナ「………そいつは今後悔してると思うかい?」
カナデ「………してるんじゃないの」
ヒバナ「ああ、そうだな。後悔してる。あの時もっと………って出来もしないことを考えたりする」
ヒバナ「思っても仕方がないことなんだが、これから一生背負ってかなきゃいけないんだ」
ヒバナ「………そいつさ、父親が死んだときその最期に間に合わなくてな」
ヒバナ「それこそ病気で倒れて初めてお見舞いに行ったときはだらしなく泣いたんだけどな、最期の別れでは泣かなかった」
ヒバナ「自分の父親が今目の前で死んでるってのにな」
カナデ「………………強がってたの?」
ヒバナ「それもある。だがほんとは理解してなかったんだ。人が死ぬってことを、受け入れてなかった」
ヒバナ「だけどな、その時叔母に抱き締められながら言われたんだ」
ヒバナ「──もうお別れだよ──って」
ヒバナ「正直父親は寝ているだけだと思ってた。皆集まってたのは治ったお祝いで、俺が来たらいつもの父親が目を覚ますと思ってた」
………………やっぱりヒバナ自身のことなんだね
ヒバナ「だがその言葉で悟った。俺を一人で育ててくれた、我が儘だって何だかんだ言って聞いてくれた、何度も叱ってくれたあの父親は」
ヒバナ「もう、居ないんだって──」
ヒバナ「年甲斐もなく、情けなく泣いたよ。ほんとに悲しい時は涙が出ないなんて聞くけどな、やっぱり悲しい時は出るんだ。」
ヒバナ「父親が死んでから9年たったが、後悔こそするもののもう悲しくはない」
ヒバナ「………俺がこの話をしたのはな、多分カナデもそうなんじゃないかと思ってな」
カナデ「……………………」
ヒバナ「俺はお前とユカってやつの関係は知らない。同情なんてしない。だがな、分かってやることは出来る」
ヒバナ「………教えてやることも出来るんだ」
カナデ「………いいよ、止めてよ………」
嫌だ。聞きたくない
ヒバナ「そのユカってやつは………もう居ないんだ」
カナデ「──あ───────」ツー
ヒバナ「そいつの分まで生きろ、なんて無責任なことは言わない。だが忘れるな。お前の中のユカを殺そうとするなよ」
カナデ「………忘れるわけないじゃん………親友だったんだ………せっかく………せっかく同じ仕事に就いたのに……こんな………」ポロポロ
ヒバナ「俺はお前とそいつほどの仲じゃない、だけど信頼はしてる。仲間だと思ってる。だからさ」
ヒバナ「辛いなら頼ってくれ。苦しいなら背負ってやる」
ヒバナ「悲しいなら……そばにいるさ」
カナデ「………………頼んでないよ………」
ヒバナ「それが仲間なんじゃないのか?ほら───」
一人になりたいって思ってたけど、ほんとは誰かに分かって欲しくて───
カナデ「……うぅう………うわああぁああん………あぁあああ………」グス
みんなは私の雰囲気を察してくれてたけど、この人は私の心を分かってくれてて────
ヒバナ「………せっかく感情があるんだ。いくらでも泣けばいいさ」ギュウ
私はこの人を──頼ることにした
カナデ「分かって欲しかった………悲しかったんだ………」ボロボロ
ヒバナ「………もう無理はするなよ」
カナデ「うわああぁああん………」ボロボロ
───────────
────────
ヒバナ「…………落ち着いたか?」
カナデ「……うん。もう大丈夫」
ヒバナ「ならそろそろ夕飯にしよう。翔鶴達も待ってるだろうし」
カナデ「そうだね!お腹減ったよ」
───決めた。私は
ヒバナ「それじゃ呼んでくるかな」
カナデ「…!よっ……と」ガバッ
ヒバナ「うわっ……おい…お嫁に行けなくなるんじゃなかったのか」
カナデ「貰ってくれるんじゃないの?」
ヒバナ「鈴谷がな」
カナデ「私はヒバナに貰われても構わないけどね!」
ヒバナ「そりゃ夢でも嫌だな」
カナデ「なにそれひどっ!」
この人と一緒に───現実世界に戻ろう
ヒバナ「……………」トントントン
ヒバナ「……………」ザクッザクッ
カナデ「……………」
ヒバナ「……………」ジャー
カナデ「………ヒバナってさ、モテるでしょ」
ヒバナ「突然なに言い出すんだお前は」チャカチャカ
カナデ「だってさ、何か落ち着いた感じするし料理出来るし」
ヒバナ「それは基準にはならないだろ。見てるなら手伝ってくれよ」ジュー
カナデ「う~んなんていうのかな。私は嫌いじゃないよ、そういう人」パク
ヒバナ「手伝えよ」
あの一件以来、カナデは俺の事をあだ名で呼ばず、呼び捨てするようになった。いまいち距離感が分からないが、未だに鈴谷以外がちゃん付けされているのを考えると近くなったんだろう
鈴谷「提督ーー!」
カナデ「あ、鈴谷!ごめんよ~突き放しちゃって」ギュゥゥ
鈴谷「ほ、ほんとだよ!凄い心配したじゃん//」
夕立「なんかいい匂いがするっぽい~」
時雨「こらこら夕立、料理の邪魔をしちゃ悪いよ」
鈴谷を皮切りに皆が集まってきた
時雨「ヒバナさん、僕も手伝っていいかな?」
ヒバナ「ああ、助かるよ。時雨は料理出来るんだな」
時雨「うん。提督の代わりにずっと僕と夕立二人で作ってたんだ」
まあなんとなく時雨が料理をする姿は想像できる。キッチンミトンとか似合いそうな娘だ
翔鶴「提督、私も手伝います」
ヒバナ「ああ、お願いする」
そういや翔鶴と出会って料理するとき自分がやるって言ってたっけ。なら任せても大丈夫だろう
ヒバナ「ちょっと隠し味をいれようと思う」
時雨「?うん。何をいれるのかな」
ヒバナ「鋼材」
翔鶴「食べませんよ」
このやりとりもつい最近のことなのに懐かしく思える
ヒバナ「はははっ、冗談だよ」
時雨「……ふふふ」
翔鶴「もう……あ─」
ヒバナ「どうした?まさかほんとに入れたか?」
翔鶴「入れませんよ!…その、提督が笑った顔は…初めて見ました」
そういえばそうだったかもしれない
ヒバナ「やっと落ち着けたのかもな。少し気が揺るんでしまったらしい」
翔鶴「ふふ……少し安心しました」
鈴谷「ちょっとちょっと、なに3人でいい雰囲気になってるのさ」
ヒバナ「手伝ってくれるのか?それは助かる」
鈴谷「分かってて言ってる?」
ヒバナ「勿論」
鈴谷「…………あのさ、ありがとね。提督のこと」
突然そんなことを言い出す。何だかんだ言っていい娘なんだろう
ヒバナ「……大事な人を大切に思うのは良いことだよ。だからさ」
ヒバナ「誰かのために自分が犠牲になろうなんて思うなよ?」
鈴谷「!!」
鈴谷「……やっぱ苦手だな~ヒバナさんは。うん。約束する」
出会ったときから薄々そんな娘だとは思ってた。カナデが倒れるくらい弱っていたのにこの娘はありもしない力を振り絞ってあのドアを開けた
俺達が敵だったら間違いなく死んでいるってのも分かっていたんだろう
ヒバナ「お前はもう一人で守らなくてもいいし、今度は守られる側だ。鈴谷が犠牲になって助けるならその鈴谷を俺が助けるさ」
鈴谷「…お節介だな~。でもありがと。ヒバナさんもここにいる皆のことも信頼してる。皆で終わらせようね」
ヒバナ「………そうだな」
終わらせようね………そう言った鈴谷は、どこか寂しげだった
──────────
────────
カナデ「ごちそうさま~」
夕立「凄いおいしかったっぽい!」
時雨「それは良かった。3人で作ったかいがあったよ」
翔鶴「それじゃあお先にお風呂に行かせてもらいますね」
鈴谷「行ってらっしゃ~い」
カナデ「…それでさ、明日はどうするの?」
ヒバナ「行くしかないよな………残ってる所に」
そうだ。まだ問題は解決してない
鈴谷「でもほんとにそこに居たらさ、ヒバナさんが時間止めてどうにか出来るんじゃないの?」
───出来るな
ヒバナ「うん。出来るな」
だがこの力には弱点がある
夕立「じゃあなんとか出来るっぽい?」
ヒバナ「いや、確かに時を止めてその間に─ってのも考えたんだ。だがこの力には1分間って制限の他にも弱点がある」
カナデ「疲れると録に止められないんでしょ?」
どうやら最初にいたずらしかけた時に気づいていたらしい。こいつが敵じゃなくて良かった
ヒバナ「ああ。走ったり何かを運んだり、体力を消費してしまうと止める時間が極端に短くなる」
時雨「………ああ、空気を吸おうとしちゃうってことだね」
カナデ「そうそう。私の万年筆使ってどうにか出来ないかやってみたんだけどさ、これ個人を特定してどうこうするって事は出来ないみたい」
実際出来たとしても1分間で終わらせないと全滅する恐れもあるし危険だ
鈴谷「もう少し人手が欲しいよね。皆でかかっても6人。相手はそれ以上かもしれないししかも強くなってるんでしょ?」
夕立「夕立達の腕輪でも2人しか対象から外せないっぽい……」
カナデ「う~ん………粗方鎮守府は回っちゃったしこれ以上人を増やすのは難しいかもね」
ヒバナ「………いきなり突っ込むのは危険だな。少し時間を置いて考えようか」
時雨「…そうだね。練度が限界の僕達でもそれ以上の強さを持った相手に無策で挑むのは愚かすぎる」
カナデ「あ、鶴ちゃんおかえり~」
翔鶴「はい。次の方どうぞ」
時雨「じゃあ行こうか、夕立」
夕立「はーい!」
仲良いなあいつら
翔鶴「あ、提督…ちょっとよろしいですか」
ヒバナ「ん? ああ」
翔鶴「二人で話したいので、別の部屋に……」
カナデ「なになに?えっろいことでもするの?」
ヒバナ「しないわバカ。安心しろ」
カナデ「な、なにに安心すればいいのかな~…」
何もないところに目を向けるカナデ。してやった気分だ
ヒバナ「じゃ、行こうか」
─────────
───────
鈴谷「………ねえ、提督」
カナデ「うん?どうしたの?」
鈴谷「鈴谷はさ、ほんとは終わってほしくないんだ」
カナデ「………………」
鈴谷「提督に会えたときはびっくりしたよ。それに凄い嬉しかった」
寂しいんだろうね………別れの時が
鈴谷「でもこれが終わっちゃうって思うとさ、なんていうか…」
頬に涙が伝う。それにつられちゃいそうになりながらそっと撫でてあげる
鈴谷「優しいよね…提督はさ……我が儘な鈴谷を突き放さないんだから…」ポロポロ
そんなこと出来ないよ………大事な私の艦娘なんだから
鈴谷「でも……どうしても終わらせなきゃいけないんだ……」
カナデ「……うん。鈴谷がお願いしても私は終わらせるよ」
鈴谷「うん…グスッ──だからさ、ごめんね」
カナデ「…え?」
鈴谷「私は───────」
────────────
──────────
ヒバナ「それで?翔鶴の方からは何なんだ?」
一通りさっき話し合った事を翔鶴にも話した
翔鶴「はい…はっきりいいます」
真剣な顔になった。なんだろう、どうしていいのか分からない
翔鶴「………………私は、提督をお慕いしています」
ヒバナ「………………」
二人でってのはそういうことなのか
翔鶴「提督は、好きな方とお別れをしたいと…思いますか?」
ヒバナ「………………」
翔鶴「私は離れたくありません。せっかく会えて、一緒に過ごしてきた方と………別れたくありません」
────胸騒ぎがする
翔鶴「終わってほしくないんです。この戦いが。貴方との時間が」
翔鶴「ずっとここには──居てくれませんよね?」
ヒバナ「…ああ、残念だがそれは出来ない」
────違う。二人でってのは告白するためだけのものじゃない──まさか───
翔鶴「わかっています…だから、ごめんなさい」
──止まらない!そうか、メモ帳を書き直してない!
鈴谷「鈴谷は──」
翔鶴「私は──」
─────提督に、敵対します─────
カナデ「……え?いや、どういうこと?」
ここにきて敵対?しかも離れたくないから?意味わかんないよ
鈴谷「そのまんまだよ。提督がここから居なくなるなら鈴谷は提督を止める」
カナデ「止めるってどうやって止めるつもり?例えここに私が残ったとしても敵に怯えながら暮らすことになるんだよ?」
鈴谷「それは分かってる。でも戦いが終わればすぐ居なくなっちゃうなら鈴谷はもう協力しないよ」
そんな我儘通じないよ
カナデ「──ならヒバナ達とも敵対することになるんだよ?私は嫌だけどね。それなら鈴谷の敵になるよ」
鈴谷「…っ!──どうしても残ってくれないの?」
鈴谷「…やだよ。一人は嫌。提督といたいよ……」
そんな鈴谷をほっとけない性格な自分がたまに嫌になる。それが今だ
カナデ「……もしかしたら、さ。もしかしたらだけど、私たちの世界とこの世界に行き来出来る方法があるかもしれないよ」
あるとは言い切れないけど、現にここに私とヒバナがいる時点でなくはない…と思う
鈴谷「そんな可能性にかけるなんて滅茶苦茶じゃん……」
カナデ「それでもないとは言い切れないよ?ヒバナ達とも協力して探せば見つかるかもしれないし」
鈴谷「……納得しきれないけど、それでも提督と会えるかも知れないなら……頑張ろうかな」
やっぱり信じきれないよね。でも私はあると思ってる。なんかそんな気がする
カナデ「えらいえらい。大人になったね」ナデナデ
鈴谷「ぅ……」
今にも泣きそうな顔をしてる。いい娘だね。大きくなったよ
鈴谷「……でもさ、なんで提督はヒバナさんに肩入れするの?そりゃ救ってもらったけどさ」
カナデ「う~ん、はっきりこうとは言えないけどさ、決めたんだ。この人と一緒に帰るって」
鈴谷「……約束したの?」
カナデ「してないよ。私が勝手に決めただけ」
鈴谷「……もしかして提督ってさ、ヒバナさんのこと好きなの?」
カナデ「分かんないよ。ただヒバナには嫌いになってほしくないかな」
そもそも好きって基準がよく分からない。別に一緒にいてドキドキするわけでもないし、特別離れたくないってこともない。ただ嫌われたくない
鈴谷「ふ~ん……」
カナデ「なにその顔~!揉むぞ~!」ムニュムニュ
鈴谷「あっ//ちょっと提督//」
まだ鈴谷の不安は取り除けてないけど、なんとかしなくちゃね
カナデ「やっぱりでっかいな~ご利益ご利益」モニュモニュ
時雨「お風呂上がったよ……てなにしてるんだい?」
夕立「夕立も混ぜて~!」
──この時間を、人を、失わないためにも──
─────────
───────
ヒバナ「……正気か?」
はっきり言ってここまでの我儘屋だとは思わなかった。ここまで来て戦いを終わらせたくない?ふざけるな
翔鶴「……私は正気です。提督、私とここで暮らしませんか?…確かに、不正の干渉の件で安心はしきれませんが、二人でも幸せに──」
その言葉を言い切る前に、限界が来た
ヒバナ「……ふざけるな」
──見覚えがある。自分の都合で出ていって、その後子育てを丸投げして金だけ取って居なくなったあの母親だ。
翔鶴「…提督?」
ヒバナ「……てめぇふざけるなよ!?何考えてんだ?自分の都合で他人の人生滅茶苦茶にして何が楽しいんだよ!」
その母親の姿を今の翔鶴に重ねてしまい。気付けば掴みかかって迫っていた
翔鶴「て、提督……痛いです……っ」
ヒバナ「!…………悪い。血がのぼった」
ヒバナ「……俺は父親によくなついていた。母親はそれが気に入らないらしく、時にはクリスマスなんかにみんなで遊んだりしたが、すぐに出ていった。金だけ根こそぎ持って」
翔鶴「………………」
ヒバナ「母親が出ていくとき、父親は土下座してまで金をせがむ母親を怒らず、好きなだけ持ってくように言った。その時の父親の顔は俺が見たなかで一番悲しそうだった」
ヒバナ「母親が去るときの最後の言葉が『もう子育てに飽きた。趣味を楽しみながら暮らしたい』だぞ?思い出すだけで腹が立つ」
ヒバナ「それ以来俺は自分の都合が悪くなったら何かに擦り付ける奴や逃げる奴、そして自分の都合で他人の人生を滅茶苦茶にする奴が大嫌いになった」
ヒバナ「……それが今のお前だよ、翔鶴」
翔鶴「……っでも!私はただ…」
分かってる。元からそんな奴じゃない。多分気持ちが空回りしてるだけで焦ってしまったんだろう
ヒバナ「俺は翔鶴の事は嫌いじゃない。寧ろ好ましく思うよ。だが、少し落ち着け」
翔鶴「……はい…………すみませんでした」
二度目だろうか…翔鶴の今にも泣きそうな顔を見たのは
ヒバナ「俺はこの世界から出なきゃいけない。いつまでも居座る気もない。だが───」
誓ったからな。置いていかないと───
ヒバナ「……せめてその時まで、翔鶴を満たして見せるさ」ギュ
翔鶴「──っはい………はい……」ギュゥ
───どうにかしなきゃな。この世界も翔鶴も──
鈴谷「(うひゃ~おアツいね~)」
夕立「(禁断の愛っぽい……!)」
時雨「(禁断でも無い気がするけど……)」
カナデ「(なんだろ…凄い見ていたくない)」
………ついでにこいつらも
鈴谷「それじゃ~お風呂もらうよ」
ヒバナ「ごゆっくり」
時雨「……ねぇ、カナデさん。この世界とカナデさん達の世界が行き来出来るって言うのは……」
あれから何があったのかは一通り皆に話した。まさか鈴谷も同じ事を思い行動したのには驚いた
カナデ「はっきりその方法があるとは言えないけどね。ありそうな気がするんだよ」
確かに俺とカナデ、そしてユカがこの世界になんらかの方法で来ているということは行き来出来ないとは言えないだろう、だが───
翔鶴「……あまり期待出来る程ではない、ですよね……」
その通りだ。現に誰がここに送り込んだのかも分からないしその方法なんて知るよしもない
ヒバナ「出来るとすれば夢で聞いた声の主くらいか……」
夕立「声?」
ヒバナ「ああ、ここに来る前夢で声を聞いたんだ。その声に願ったのが時を止める力だよ」
翔鶴「私も聞きましたが、それが誰のものなのかは分かりませんでした」
カナデ「ふ~ん、私はそんな夢見なかったけどね」
…ん?あの声ってここに来る現実世界の人間皆聞いてるんじゃないのか
時雨「もしかしてヒバナさんと翔鶴だけってことはないよね?」
ヒバナ「カナデが聞いていないならその可能性はあり得るな、でも何故かは分からない」
夕立「その声の人を探すっぽい?」
カナデ「それはちょっと難しいかな。手がかりが声だけじゃあね」
それもそうだ。声については気になることがまだあるが今言っても仕方ないだろう
ヒバナ「……なんにせよ手詰まりか」
時雨「一度様子見で舞鶴にいってみるかい?」
翔鶴「……かなり危険ですが」
カナデ「でもそうしなきゃ進まないよ。明日行ってみようか」
夕立「いざとなったら逃げるっぽい!」
ヒバナ「逃げれれば良いがな……」
鈴谷「ふぅ~お風呂いいよ~!」
カナデ「あ、ヒバナ先入っていいよ」
ヒバナ「?ああ、ならそうするよ」
ゆっくりしたい派なんだろうか
カナデ「鈴谷にも明日のことは言っておくからゆっくりしておいで~」
──────────
────────
ヒバナ「ふぅ……凄いぬるい」
まあこれだけ後に入れば温くもなるか。
……この世界にきてからまだ1週間も経ってない。だが色々ありすぎて1ヶ月はいたような気分だ
ヒバナ「こうしてゆっくり入れるのが幸せだと思う日がくるとはな…」
安心して気兼ねなく風呂にはいれる。他愛もないことだが普段よりありがたみがある
ヒバナ「……眠い……」
そういや昔風呂で寝て溺れかけたこともあったっけ。まあこの年ならそんな心配もないし、余りにも長く寝てたら誰かしら来るだろ
ヒバナ「少しだけ…寝るかな」
──見ている世界を、そっと閉じた──
─────────
───────
カナデ「とまあ、そういうことで明日は舞鶴に様子見に行くことになったよ」
鈴谷「やっぱり行くんだね……」
カナデ「恐い?」
鈴谷「ちょっとだけ。だけど提督もいるし皆もいるから大丈夫だよ」
カナデ「よしよし。じゃあひとまず話はこれでおしまい!私はちょっと出てくるね」
時雨「外に出るのかい?危ないしついていこうか?」
カナデ「外には出ないよ。ちょっとこの鎮守府を見て回りたくてさ」
時雨「……ああそういうことか。ゆっくりしてきなよ」
夕立「どういうこと?」
鈴谷「恋多き乙女は悩みもまた多いってことだね」
翔鶴「…?カナデさんは誰かに恋してるのですか?」
カナデ「それじゃあまた~!」
時雨「……ふふ、着替えもって何処に行くつもりなんだろうね」
鈴谷「そんなの決まってるじゃ~ん!」
時雨「いいの?行っちゃっても」
鈴谷「止めようとは思わないよ。提督には幸せになって欲しいし」
時雨「……大人なんだね」クス
夕立「なんの話してるか分からないっぽい!」
翔鶴「……!まさかカナデさんは……」
鈴谷「まあまあ、譲ってあげなよ」
翔鶴「……そうですね。今回は譲ります」
夕立「なんのことなの~~~!」
──────────
────────
カナデ「ちょっと嘘が下手くそすぎたかな」
時雨ちゃんがなんとなく誤魔化してくれてればいいけど
カナデ「まあいっか。ちょっといたずらしちゃおっと!」
目指すのはお風呂場。これだけ女の子がいて時間まで止められるのに全く手を出してこないならこっちから仕掛けてやろうって作戦
カナデ「……いろいろ救われたし背中くらいは流してあげてもいいかな」
いたずらするという高揚感とは違った、ちょっとした期待のような感じもあった
カナデ「えへへへ♪」
───瞬間
ドスッ
カナデ「!!うっ……あ……」
何か矢のようなものが右腕に突き刺さる
カナデ「いた………痛い……うぅ………」
叫んで助けを呼びたい。だけど呻くことしか出来ない。なんせ今までで経験したことのないような痛みなのだから。
カナデ「(痛い……抱えてた着替えのお陰で刺さってるのは右腕だけか……)」
たかが右腕に刺さっただけ、だがその普段ではあり得ないことを脳が拒絶する
カナデ「(痛い……痛いよ……誰か………)」
もう呻くことすら出来ずうずくまる。弓を引くような音が聞こえる。
カナデ「(ああ、もう駄目かも……メモ帳も出せない……)」
カナデ「(中に入ってきてるなんて思わなかった……せめてメモ帳に書かれてる物を消さなきゃ……)」
なんとか左手だけ動かし震えるてでメモ帳を消そうとする。すると──
ギリギリギリ……
カナデ「うぅうあぁっ!……」
その手を足で踏まれる。だがなんとか消すことはできた。後は───
カナデ「(助けて!)」
声が録に出せない。自分が情けない
カナデ「たす………うぅ」
もう少し……もう少し………!
カナデ「ヒ…バナぁ………」
何故か出てくる名前は彼だった。
そっか、私多分好きなんだ。
カナデ「たす…けて………」
ヒュッ
────矢を放つ音が廊下に響いた
───────────
────────
ヒバナ「………………」
寝ようとは思ったもののここで起きたことを考えていたら眠れずにいた
ヒバナ「(まあ、ゆっくり静かに、一人で考え事が出来るのなんて今ぐらいだしな)」
………ここではいろんな人物に出会った。その一人一人が、本来は絶対に出会うことがないような人物。夢のような事だが、素直に喜べるほど状況は良くない。
ヒバナ「いっそ夢であって欲しいな………」
問題は山積みだ。今乗り込んだとしても相手は1つの艦隊だけとは限らない。大所帯ならまず勝てない。それに………
ヒバナ「(翔鶴………………)」
『慕っています』───それはただ親友だとか、尊敬してるって意味では無いことは分かってる。正直画面の中のキャラに恋するなんてないと思ってた。だが目の前にそのキャラがいて、告白されたとなると違ってくる
ヒバナ「(どうすればいいんだろうな………それに帰る方法だって分からない。行き来する方法はあるかすら知らん)」
あの夢で語りかけてきた声の主。それが分かり、会えればもしかしたら………と思うが、それは希望的推測になってしまう
そもそもあの声に関しては疑問が多すぎる。なぜ俺と翔鶴には語りかけてきてカナデには来なかったのか。それになにより─────
ヒバナ「(なんで俺の願いを聞く前からあの時計がゲーム内で手に入ったんだ………?)」
これが一番引っかかる。ここに来たとき、ポケットに入っていたのはあのバグ任務で手に入れた時計と酷似していた。ならなぜ願いを聞く前日にその時計が手に入った?知っていたのなら聞く必要はない。
ヒバナ「(………おいおいまさか───)」
そうだ!なぜ気づかなかった!恐らくこの時計は"2つ"ある!────
ヒバナ「………こうしちゃいられない。明日にでも戻らなくちゃな…!」
風呂から上がろうとした時だった
???「………誰かいるのか」
ヒバナ「…!!」
息を潜める───聞いたことのない声だ………まさか敵が中まで………
???「おーい、誰かいたのか?」
………いや、ちょっとまて。今の声は聞いたことがある。忘れるわけがない
ヒバナ「(いやそんなはずは………ここはあっちの世界じゃない)」
───落ち着け。声が似てるなんていくらでもあるケースだ。判断を誤って撃ち殺されるなんてたまったもんじゃない
???「………ここに誰かいるみたいだ。提督、どうする?」
???「どれどれ…うん、着替え的に男だな。じゃあ開けるか」
……逃げようとしても逃げられないな。万事休すか………
フッ───チャッ
何かが光ると同時に鍵が開いた
???「入浴中失礼します!なんて………あれ?」
………もう確定だ。気持ちが高ぶって今にも泣きそうな声で名前を呼ぶ
ヒバナ「…嘘だろ。マジかよ………会えるとは思ってなかったよ!ミハル!!」
ミハル「おいおいおいおいいきなり知り合いじゃねえか!ラッキーだな!」
聞きたいことは山ほどある。だけど今はこの喜びを味わいた
???「知り合いか?出来れば服を着てもらいたい」
………かったのだが、どうも連れていた艦娘?が理解の範疇を越えていて全く喜べない。寧ろ不安になった
ヒバナ「いや、いやいや、なんでお前深海棲艦連れてんの?」
ミハル「まあまあ服を着なさいよ。話しはそれからで」
ヒバナ「あ、ああ………」
全く状況が飲み込めないが、取り合えず服を着る
ミハル「歩きながら話そう。どっか大部屋みたいなとこある?」
ヒバナ「…ああ、案内するよ。というか、大丈夫だよな?」
翔鶴達に会わせていいんだろうか。戦いは終わったとは言っていたが、どんな終わりかたをしたかによって違ってくるんじゃないか…?
???「それは心配ないだろう。今の我々と艦娘との間には敵意はない。会うのは稀だが」
それを聞いて信じる奴はいるんだろうか。ミハルじゃなくて別人ならその場で気を失うレベルの奴がいるんだぞ
ミハル「俺も最初は驚いたぞ、お前がハマってるゲームってどんなもんかと思ってやってみたらさ、最初に選べる秘書艦?が全部基本白黒なんだからさ」
なんだそれ、それもバグか?怖すぎるわ
ヒバナ「災難というかなんというか………お前もあの黒い何かに巻き込まれたのか?」
???「それは違う。提督は私達がこの世界に呼んだのだ」
呼んだ?どうやって呼んだんだ?だとしたら帰せるのか………?
???「…今貴様が思っていることを当ててやろう。元の世界に還せないのか、だろう?」
ヒバナ「………ああ、その通りだよ」
???「残念だがそれは出来ない。他を当たるんだな」
なぜ呼べたのかとかは気になるが────
ヒバナ「……!待て、なにかいる………」
見慣れない胴着を着た誰かと………あれはカナデか?
???「………!!」
その人物がこちらに気付き、先程までカナデに向けていた矢をこちらに向ける
ミハル「倒れてるのってヒバナの知り合い?」
ヒバナ「ああ、仲間だ………」
右腕と左手に矢が突き刺さっているのが見える。死んではいないか……?
ヒバナ「おい、てめぇ誰だ?」
???「…………」
───矢を放つか!?確か力は使えないはず………いや、あれは
ヒバナ「………賢明な判断だ!」
──────カチ─────
ヒバナ「(時間がない!取り合えず武器を取ろう!)」
構えている武器を無理矢理奪って投げ捨てる。そして───
ヒバナ「(無駄アアァァァァ!!)」
思いっきり1発、顔面を殴る
???「───ブフッ…ガッ!………はっ………!」
ミハル「お?なんだ?」
???「……………」
ヒバナ「誰かは知らんが敵なら容赦はしない。カナデは大丈夫…ではなさそうだ。くそっ!なんとか出来ないか………!」
ミハル「うわぁ~いたそ~………」
???「………提督」
ミハル「分かってるって。ヒバナ、ちょっと任せてくれるか」
ヒバナ「?…ああ、わかった」
言われるがままミハルにその場を譲る。するとさっき風呂場で見た光がミハルの手元からあふれでていた
ヒバナ「………なんなんだそれ」
ミハル「まあ見とけって」
その光を矢が刺さっている右腕に触れさせる
ミハル「…あ、もしかしたらこの矢抜かなきゃいけないかもしんない」
???「………なら私がやろう」
いや軽く言ってるけど絶対痛いだろ。いきなり引き抜かれたら失神するんじゃないか
カナデ「う゛………う゛ぅぅうああああ!!!」
聞いたことのないような声でカナデが叫ぶ。その声を聞き付けて皆が向かってきた
鈴谷「何!?敵襲!?何があったの!」
翔鶴「カナデさん!いったい何が………」
ミハル「あ~うっさいうっさい。失敗とかしてもしらんからね」
時雨「ヒバナさん………これは」
ヒバナ「後で話す。今は少し待っててくれ」
夕立「矢が………痛そう………」
カナデに気をとられて近くに倒れている艦娘?と深海棲艦には触れなかったのだけ幸いか
ミハル「よし、こっちは大丈夫だ。後は左手だな」
見るとすっかり傷口は塞がっていた。いや、塞がった、というより完全に元に戻ったというのが正しいか
ヒバナ「……左手のも抜くんだよな」
ミハル「こればっかりはしょうがない。すいませんね、大分痛いですけど我慢してください」
カナデ「ふぅ、ふぅ………待って…」
鈴谷「!提督!どうしたの?」
カナデ「ヒバナ……手……握ってて」
そんなラマーズ法みたいな……まあそれで気が紛れてくれるならお安い御用だ
ヒバナ「………これでいいか」
カナデ「うん………………………大好き」ボソ
???「………いくぞ」
カナデ「い゛っ!─────うぅ……」
ミハル「やるなヒバナ。ゴッドハンドだ」
ヒバナ「そっくりそのまま返すよ」
左手の傷も治っていく。これがミハルの力か………何かを治すとかなのだろうか
ミハル「うん、これでよしだ。それで……そいつはどうすんの?」
ヒバナ「さすがにそのまま帰すわけにはいかないな………起きるまで見ておくか」
時雨「……今日は色々あるね」
ヒバナ「だな、先が思いやられる」
鈴谷「提督、大丈夫?もう痛くない?」
カナデ「うぅ………痛くないよ。うん、大丈夫」
夕立「その深海棲艦はだぁれ?ヒバナさんの知り合いっぽい?」
………驚いた。心配ないってのは本当らしい
ヒバナ「あ、ああいや、俺の知り合いの知り合い…かな。まあそれも含めて一度部屋に戻って話そう。俺からも話すことがある」
時雨「そうだね。一度整理しようか」
翔鶴「………提督」
ヒバナ「ああ、俺は大丈夫だよ。どこも怪我はしてない」
翔鶴「そうではなくて………先程のカナデさんの……」
ヒバナ「ん?」
翔鶴「………いえ、聞こえてなかったのならいいです」
ヒバナ「……そうか」
???「こいつは私が担いで行こう。部屋に案内してくれ」
鈴谷「うん。こっちだよ。提督立てる?」
カナデ「うん、ありがと」
ヒバナ「………………………」
──────『大好き』──────
聞こえないように言ったつもりだったんだろうが、俺は耳と目は良い。翔鶴にはなんとなく誤魔化せた気はするが、恐らく聞こえてることがバレてるだろう
ミハル「大変そうだねぇ、ヒバナさんは」
ヒバナ「つくづく夢であって欲しいと思うよ」
夕立「?なに話してるの?」
ヒバナ「夕立は可愛いなってことだよ」ポン
夕立「む~、誤魔化されてるっぽい~!」
───またひとつ、問題が増えたな
時雨「それで、一体何があったの?」
あの後、ひとまずカナデはなんともないという事で一度部屋に集まり、起こったことを整理することにした。
侵入してきた艦娘と思われる人物は取り合えず同じ部屋で見張りながら寝かせている。縛るものなんて無かった。そんな趣味もない
鈴谷「縛ったりとかしないの?いきなりまた襲われたらやばいじゃん!提督に酷いことしたしさ!なにより提督に酷いことしたじゃん!」
鈴谷はかなりご立腹のようだ。どんだけカナデが好きなんだか
ミハル「落ち着け落ち着けJKよ。気持ちは分かるけど今は抑えなさいな」
鈴谷「うぅ………なんかイケメンに言われると言い返せない…………」
カナデ「………私がこの部屋から出ていってからね、いきなり右腕に矢が刺さったんだよ。放ったのはその娘だと思う」
ヒバナ「何か用があって出たのか?力が使えなかったんだ、誰かと一緒にいないと危ないぞ」
翔鶴「提督、それは………」
時雨「そういうのは聞くものじゃないよ」
ヒバナ「ああ、そうなのか…悪い」
ミハル「分かってないねぇヒバナさんは、女の子の扱いが」
ヒバナ「言い返せねえ………」
カナデ「………でさ、その人たちは?」
ミハル「ああ、そういやまだだった。俺はミハル。ヒバナや……え~と……」
カナデ「カナデだよ」
ミハル「そうか、カナデ…さんと同じ、この世界の人間じゃない。それと………」
???「………私は好きに呼んでくれ。名前なんてものは無い」
カナデ「空母棲姫だね。そう設定してるよ」
夕立「この人とは戦いたくないっぽい~…」
空母棲姫「…貴様は何なのだ?」
カナデ「カナデちゃんは貴女達の味方でもあるんだよ」
空母棲姫「………?話が掴めないのだが」
ヒバナ「………運営なんだよ。こいつは」
空母棲姫「運営?………なんだそれは」
ヒバナ「あんた達を産み出した、まあ言ってしまえば親みたいなもんだ」
空母棲姫「そう………なのか」
まあ言われても実感は湧かないだろう。顔を会わせることなんてないんだ
翔鶴「それで、ミハルさん達はどうしてここに?」
ミハル「え~っと、こいつが艦娘の気配を感じることが出来る~なんて言うからな、味方だったらラッキーだなってことでここまで来たわけだ」
ポンポン、と空母棲姫の頭を軽く叩く。何一つ表情を変えず、特に嫌がってる様子を見せないということは気を許している…のだろうか
鈴谷「敵の本拠地だったらどうするつもりだったの?危なくない?」
それを鈴谷がいうのはなんとも説得力に欠けるが、まあ当然の疑問ではある
空母棲姫「私は艦娘の気配、そして憎しみや悪意、そう言った感情を感じ取れる。後は察しろ」
ミハル「まあつまりはそういうこと。何か質問とかある?」
時雨「ミハルさんとヒバナさんは知り合いなのかな?」
ヒバナ「ああ、ミハルとは小学校の………6歳の頃からの友人だ」
艦娘に小学校が通じるのかは分からないし年齢にしておけば間違いないか
夕立「何年間一緒っぽい?」
ミハル「ほぼずっと一緒だったな、14年間か」
カナデ「ん?」
翔鶴「どうかしましたか?」
カナデ「あいや、なんでもないよ。続けて」
鈴谷「ここに来た理由とか…後は持ってる力はなんなの?」
ミハル「え~と、理由…か、ヒバナが珍しくゲームなんてしてるもんだからどんなもんなのか見てみようってことでやってみたらいつの間にか………かな」
まあそんなものだろう。来たいから来ましたなんてのなら大したもんだ
ミハル「んで、持ってる力はこれ」
そういうと掌を広げて見せた。何か模様のようなものが浮かび上がっている
ミハル「これは『触れているものを元の状態に戻す』って力なんだ。ただ戻すのにはちょっと時間がいるし、触れているものしか戻せない」
つまりさっきの風呂場の鍵が開いたのは鍵が閉まっていない状態に戻したってことか。にしても──
カナデ「最初の初期艦が全部深海棲艦なんてびっくりだよ」
全くだ。深海棲艦は結構な支持を得ているってのは知っていたが何も知らないユーザーがいきなりこの中から選べなんて正直その時点で止めたい
空母棲姫「それは私達がそうしたのだ。私達には指示する者がいない。だから誰かにやってもらう必要があった」
夕立「リーダーを作ってその娘が纏めるのじゃ駄目なの?」
空母棲姫「………それは出来ない。他は皆やられた」
………深海棲艦にも干渉が及んでいるのか。いや、いわゆるブースト行為をしてるんだ。標的になってボコボコにされるのは深海棲艦になってしまうのか
時雨「飲み込まれたの?それとも………」
空母棲姫「やられた、と言っただろう。有無を言わさず壊滅だ。残りの数が4人になったとき声が聞こえた」
───────まさか
空母棲姫「提督を決めろ。そうすれば1人は助かる、と」
翔鶴「………提督」
ヒバナ「ああ、多分その声は俺達も聞いている。なあ、その声の主の名前とかは聞かなかったか?」
空母棲姫「いや、聞かなかった。時間が無かったのでな。そんな場合ではなかった」
空母棲姫「それで、選ばれたのがこの提督だ」
そう言ってミハルの方へ目をやる。少し優しそうな目をしていたような気がする
ミハル「………ごめんな、他の奴らのこと、助けれなくて」
空母棲姫「…その事はもういい。助かったとしても1人と言われたのだ。助かっただけ幸いだ」
空母棲姫「……私は復讐を果たす。私達の生活を脅かし、全てを奪っていった奴に。終わったはずの戦いを己の欲を満たしたいがために再び始めた奴に」
その目には憎しみなんてものは無かった。彼女は自分のため、死んでいった仲間のため、そしてこの世界のために戦おうとしている
時雨「それは僕達も同じだ。もう君達とは戦いたくない。終わらせよう、この戦いを」
夕立「夕立もやるっぽい!」
鈴谷「ここにいる皆でやるんだよ!」
翔鶴「そうですね。仲間達のため、私達のために、終わらせましょう」
ミハル「………なんだか良い雰囲気だな」
ヒバナ「違いない。そういや、俺が居なくなってる間そっちはどうなってるんだ?」
ミハル「…それは明日話す。今言うと混乱しそうだし」
ヒバナ「そうか、じゃあこっちでもよろしくな」
ミハル「おうとも」
カナデ「………それじゃいい雰囲気なところ悪いけどお風呂行ってくるね~」
ヒバナ「途中まで着いて行こうか?」
カナデ「………じゃあそうしてもらおうかな。ちょっと話すこともあるし」
ミハル「この寝てる娘のことは任せて貰っていいよ。ゆっくりして来て下さい」
カナデ「うん。ありがとね」
………さっきからなんでミハルはカナデに対して敬語なんだ?会ったばかりだからか?
──────────
───────
カナデ「………………」トコトコ
ヒバナ「………………」トコトコ
なんだか気まずいな。思いの外風呂場まで長いし………
───『大好き』───
あんなこと聞いた後に二人きりで普通に接することなんて難しすぎる
カナデ「………………あのさ」
ヒバナ「うぉっ………ああ」
なんてこと無い言葉なのに驚いてしまった
カナデ「ありがとね、助けてくれて」
ヒバナ「いや、ミハルが来なかったら間違いなく手遅れだった。あいつに言ってくれ」
カナデ「うん。ミハル君にも言うよ。だけどさ
、」
さっきまで下を向いていた顔をこちらに向ける
カナデ「嬉しかったんだ。ヒバナが来てくれて、助けてくれて」ニコ
ヒバナ「………………そうかい」
初めてかもしれない。カナデの本当の笑顔を見たのは
少し頬が赤らんだように見えるのは………まあそういうことだろう
ヒバナ「………その着替え、穴空いてないのか?」
カナデ「ああ、これは鈴谷のを借りたんだよ。さすがに穴が開いたのは着れないしね」
カナデ「………ねえヒバナ」
ヒバナ「ん?」
カナデ「ヒバナってさ、年上と年下ってどっちの子が好き?」
………それは遠回しに翔鶴とカナデの事を聞いているのだろうか。………正直に言おうか。合わせてもしょうがない
ヒバナ「…母親が小さい頃に居なくなってるからな、母性を求めるっていうか、そういう人を好きになるってのはある」
カナデ「じゃあ、年上が好きなの!?」グイッ
急に身を寄せて迫ってきた。………なんだ?なんか嬉しそうだぞこいつ
ヒバナ「あ、ああまあ…そうだな」
カナデ「そっかそっか♪」
ヒバナ「俺が年上好きでなんかお前に良いことでもあるのか」
カナデ「えっ、ああまあ…あるんじゃないの?」
ヒバナ「なんで俺に聞くんだよ」
ヒバナ「………着いたぞ」
カナデ「一緒に入ってく?」
ヒバナ「もう入ったからいいよ。ゆっくりしてくれ」
あの一言以来そういうのが冗談に聞こえないのがよろしくない。ただでさえそういう冗談の多いやつだから尚更質が悪い
カナデ「帰りは一人でいいの?私の事置いてくの?」
………こいつは
ヒバナ「分かった分かったここで待ってるよ」
カナデ「えへへ…ありがと」
ヒバナ「ゆっくりとは言ったが流石に長いこと入られるとこのまま寝そうだから気を付けてくれよ」
カナデ「せっかちなんだから~」
ヒバナ「速く行けよ」
─────────
───────
カナデ「………………」ゴシゴシ
カナデ「(聞こえてたかな………………)」
ついぼそっと言っちゃったけど、半ば聞いてほしかった…みたいな気持ちはある
カナデ「………………」ガタガタガタ
左手が震えてる…怖かった。相手はすぐに殺すんじゃなくてちょっとずつ、拷問するように殺す気だったのかな
カナデ「(右腕は震えてないや………)」
こっちの手を握って貰ったから?分かんないや
カナデ「終わったら………もう会えないのかな………………」
なんとなく鈴谷の気持ちが分かった気がする。良い形で、また会えたらいいな………
カナデ「(ふぅ………………眠くなってきちゃった)」
カナデ「(あんまり待たせちゃ悪いし、あがろうかな)」
もし翔鶴ちゃんじゃなくて私が終わらせたくないって言ったら……叱ってくれるのかな
そんなこと考えても仕方ないか
カナデ「あがったよ~」
ヒバナ「あれ、割と早いんだな」
カナデ「会いたかったからね」
──────あ───────
ヒバナ「…………………」
カナデ「ほ、ほら行こうよ!みんな待たせちゃってるし」
ヒバナ「時々冗談に聞こえないから怖いよ、お前は」
カナデ「それくらい判別してもらわなくちゃね」
ヒバナ「判別出来たらいいがな」
カナデ「あ、そうだ」
ヒバナ「今度はなんだ?」
この場の勢いでしてくれるかな
カナデ「約束してくれる?」
ヒバナ「それが何かによるな」
カナデ「絶対に死なないこと。それと戦いが終わったら二人であっちでも会うこと」
自分でも分かってる。そんな約束─────
ヒバナ「そんなの約束するまでもないだろ、なんなら誓ってやるさ」
カナデ「して欲しいの。約束して」
ヒバナ「?ああ、なら約束する。誰も死なせないし、終わったら会おう」
絶対に─────果たせないから──────
鈴谷「でさ、ミハルさんは彼女とかいるの?」
話しかけてきたのは見るからに高校生っぽい娘。鈴谷って言ったかな?
ミハル「いやぁ俺さ、生まれてこのかた彼女なんて出来たことないのよ」
時雨「………冗談?」
ミハル「いやいやそんな」
鈴谷「え~なんか意外ってか──」
勿体無い。俺をよく知らない奴や会ったばかりの奴は大体そう言う
鈴谷「勿体無いね。イケメンなのに」
やっぱりな。もうこの問答は慣れた。そのリアクションも見飽きた
決して男に恋愛感情を持っているわけでもないし、ちゃんと女が好きだ。
ミハル「そう言う皆はどうなんよ。鈴谷とかめっちゃ軽そうだし」
鈴谷「ちょっとちょっと失礼すぎない!?こう見えても一途なんだよ!」
ほ~これはこれは
ミハル「いいねぇ、俺そういう娘が好きなんだよ」
鈴谷「え、え?急にそんなこと言われても………//」
空母棲姫「提督、遊ぶのも大概にした方がいい」
ミハル「お堅いこといっちゃってまあ。妬いてるのかなこの娘は」
空母棲姫「………もういい」
ミハル「はいはいごめんな」ナデナデ
最初こそ見た目で驚いたけど今になっては正直惹かれる。こういう娘好きな奴の気持ちも分かる。非常によく。
夕立「ヒバナさんたち遅いっぽい!」
翔鶴「また何かあったんでしょうか………」
空母棲姫「いや、その心配はない。そのような気配は感じない」
ゆっくりしてるってことだろ。まあ分かってんだろうなあいつは。カナデさんの気持ちが
ミハル「起きないねぇこいつ」チョンチョン
時雨「ああ、あんまり弄って起こしちゃったら大変だよ。ヒバナさん達が戻ってきてからにしなきゃ」
………ほんとに寝てんのかこいつは?いつ隙が出来るか伺ってるとかだと思うんだけどな
ミハル「それもそうか。うし、夕立。遊ぼうぜ!」
空母棲姫「………私の話を聞いていたのか?」
ミハル「なんてかさ、夕立見ると一緒に遊びたくなるんよな」
夕立「………なんか馬鹿にされてるっぽい!」
ミハル「あっはっは!違いない!」
時雨「否定はしないんだね………」
翔鶴「あ、おかえりなさい、提督」
ヒバナ「ああ、ただいま」
夕立「もう!遅いっぽい!」
ヒバナ「なんで怒ってるんだよ。それにそこまで遅くはないと思うがな」
ミハル「んで、だ。こいつはどうすんだよ。もう結構遅いぞ」
時間はもう明日になりそうだ。けど朝まで何にもなく寝ててくれるとは思えないな
カナデ「ならこうしよう」
するとカナデさんは万年筆とメモ帳を取り出してなにやら書き始めた
『この鎮守府では外出、武力行使が行えずあらゆる干渉を受け付けない』
カナデ「これで大丈夫だね!じゃあそこの人は何処に寝かせようか」
ミハル「えっと?」
ヒバナ「あの万年筆で書いた50字以内の事柄は実際にそうなるらしい。未来を決定することも出来そうだが、事細かに書かないと実現しないし、個人を特定してどうこうってことも出来ない」
ミハル「ほえ~なんかすげえな」
敵にしたらすげえ嫌な能力だなそりゃ
ヒバナ「寝かせる場所なら俺と同じでいいんじゃないか?多分即座になんとか出来ると思うし」
ミハル「なら俺もそっちだな。2人いればなんとかなるだろ」
鈴谷「それじゃ私達は一緒に寝ようか」
時雨「そうだね。あ」
翔鶴「どうかしましたか?」
夕立「お布団二人ぶん追加っぽい!」
ミハル「悪いね。急に邪魔しちゃって」
翔鶴「そんなことありませんよ。ミハルさんが居なかったら大変でしたから」
ミハル「へぇ~………」
翔鶴「…?なんでしょうか?」
この娘がヒバナが可愛いって言ってた娘か
ミハル「母性溢れるなぁヒバナさん」
ヒバナ「俺に振るな」
翔鶴「?」
空母棲姫「………提督、私もそちらで寝ていいだろうか」
ミハル「ほいほい」
カナデ「ええっ!?いいの?」
空母棲姫「何を言っている?自分の提督を守るのは当然だろう」
翔鶴「な、なら私も提督と……」
ヒバナ「う~ん………まあいいか」
時雨「それじゃ、僕達はもう寝るよ。おやすみ」
夕立「おやすみなさーい」
ミハル「おやすみ。……そんじゃ、行くか」
ヒバナ「ああ………鈴谷とカナデもおやすみ」
鈴谷「おやすみ~」
カナデ「変なことしないでよ?」
ヒバナ「はいはい」
やっぱ大変そうだなヒバナは
───────────
────────
ヒバナ「はぁ………やっと眠れる」
信じられない話だがこれだけ充実した内容なのにも関わらず今日時雨達と会ったばかりだ。身体はすぐにでも休みたいと瞼を閉じようとする
翔鶴「お疲れ様です。提督♪」
なんだか嬉しそうだが………
ヒバナ「まあ聞かないでおくよ………」
ミハル「こっちでもモテるんだなヒバナ」
翔鶴「へ?」
ミハル「あれ?知らないのか。まあヒバナが言うわけ無いもんな」
ヒバナ「止めろ止めろ変な話は」
ミハル「いや~こいつモテるんだよ。俺が見ただけでも結構な数言い寄られてたよな?」
ヒバナ「空母棲姫達深海棲艦ってやっぱり艦娘のこと恨んでたり憎んでたりしたのか?」
空母棲姫「?ああ……そうだな。だが昔の話だ」
翔鶴「提督が………じゃあ結婚とかは……………」
ミハル「してないしてない。そんだけモテても付き合ったのは1人。今は別れてるけど……まああっちに帰ったら心配されんだろうな~」
翔鶴「うぅ………提督!」
何やら真剣な顔になってこちらの布団に入ってくる……………やれやれ
ヒバナ「せめてゆっくり休ませてくれよ……おやすみ」
空母棲姫「許すのか……私は貴様のような人間は苦手だ」
ヒバナ「よく言われるよ………」
ミハル「ヒバナは他人の気持ちになるのが上手いってか上手すぎるからなぁ」
翔鶴「///」
ヒバナ「……そうなるなら無理するなよ」
空母棲姫「本当に男なのか?」
ヒバナ「それもよく言われるよ………」
翔鶴「そう言えば提督。提督から言いたいことって何だったのでしょうか?」
ヒバナ「それは明日にする………今度こそおやすみ」ギュウ
翔鶴「ひゃっ………お休みなさい………//」
ミハル「俺も寝るかな……おやすみ」
空母棲姫「……………」チラ
???「……………………」
こうして長い長い1日は終わった
ヒバナ「……………ふっ……あぁ」
朝か……起きてるのは俺だけみたいだ
ヒバナ「よっ………あ」
そういえば翔鶴がいるのか。起こさないようにしなきゃな
翔鶴「ん………………」
………大丈夫だったか。あの艦娘は………寝てるっぽいな。さて
ヒバナ「どうするかな………」
あの時計を取りに戻る……のだが、この艦娘がいる限り誰かに見ていてもらわなきゃいけない
ただ俺一人で行くのも無謀だ。
ヒバナ「翔鶴を連れていくか」
理由はカナデとミハルは力が使えるからいざとなればなんとか出来る。それと昨晩の事もあり出来るだけここに戦力を固めておきたい
ヒバナ「まあ一番の理由は俺が守れるとしたら1人が精一杯だからなんだが」
情けない話だが体力に自信があるわけでもない。時間を止めるのも1度でせいぜい40秒、動くならもっと短い
???「………………」
いい加減起きて欲しいなこいつには。気絶させたといってもそこまで時間が必要なわけでもないはずだ
ヒバナ「まあ、俺が俺自身の力をあんたの前で言わなかったのはそれが理由だよ」
???「………独り言が多いんですね」
ヒバナ「途中からあんたに話しかけてたんだがな」
???「そうですか。それで、あなたは何故提督の邪魔をしようとするんですか?」
いきなりだな
ヒバナ「逆に聞くが、あんたは何故あんたの提督に従うんだ?何をしているのかなんて言うまでもないだろう」
???「当然じゃないですか。私達の提督はこの世界の英雄ですよ?」
英雄?艦娘達をブーストしてひたすらボコるのを楽しむ奴が?艦娘達に人を殺させようとする奴が?
ヒバナ「………英雄?嘘だろ?」
???「そんなことで嘘なんてついたりしませんよ。提督には深海棲艦との戦いを終わらせた、私達の英雄です」
ヒバナ「下らねえ、一方的にタコ殴りにして終わらせたんだろ?それに今は何しようとしてるんだ?他人の鎮守府に干渉して人を殺して!」
???「殺す……?提督が?何を言っているんです?私達はただ───」
その一言でこいつらは俺たちの思ってる艦娘とは違う、別の何かなんだと確信した
???「───栄誉あることをしているだけです。この世界の英雄に任された事を実行する……なんて名誉のあることだとは思わないんですか?」
ミハル「………イカれてんねえお前」
起きていたみたいだ。まあ普通なら出勤する時間だし、こいつはいつも予定時間よりも早く目的場所に着こうとする真面目なやつだからな。早起きするのも当たり前なんだろう
???「お仲間ですか?居るのは艦娘を抜いて2人だけと聞きましたが」
ミハル「そんなことはどうだっていいわけよ。問題なのはお前だ。危ない宗教にでも入ってるみたいだぞ?大丈夫かよ」
確かに危ない宗教に脳まで侵されたような感じがする。こっちの常識なんて通じないだろう
???「私にとっては邪魔するあなた方の方が理解出来ません。今回の事については予想外でしたが、手の内を晒した相手に負けるほど弱くはありません」
そういって臨戦態勢をとる。武器を持っていないが、格闘でもするんだろうか
ミハル「おいおい素手で来られるなんてナメられてるぞヒバナ」
ヒバナ「いや、あいつはブースト行為で力自体はとんでもないはずだ。人の俺達が1発もらうだけで死ぬんじゃないか?」
ミハル「うへぇ~マジか。まあだけど──」
だがこいつは恐らく───
ヒバナ「防御はないはずだ!」
──────カチ────
ヒバナ「(こんなことで時間を使うのは勿体無い。さっさと終わらせよう)」
思いっきりその綺麗な顔を殴り、左足を全力で蹴る
ヒバナ「(いてえ!?なんだこいつの脚!艦娘って身体が本物の船みたいに堅いのか?)」
???「────ゴフッ!ガハっ!………ぅう………なにを………う………」
ヒバナ「はぁっはぁっ………ふぅ」
ミハル「おお!いつの間に」
ヒバナ「おいあんた。名前は?」
???「ふぅー、ふぅー………あぁ……う………」
ミハル「やり過ぎた感じじゃないかヒバナさんよ」
ヒバナ「いや、こいつらがしてきた事を思い返せばやり過ぎなんて事はない」
例えそれが女だろうが、俺は容赦しない。人を殺す事が栄誉あることなんて抜かす奴にはこれでも足りないくらいだ
???「く………一航戦の誇りが………こんな人間に………」
気絶させるのもいいが………やはりこれが一番良いか
ヒバナ「ミハル、カナデたちの部屋に行ってメモ帳の外に出れないってとこを消してもう一度書いてきてくれるか」
ミハル「あい分かった。けど………いいのか?」
ヒバナ「………宣戦布告だ」
ミハル「はっは!なるほど。………面白いじゃんか」
久しぶりにミハルの含みのある笑みを見た。勝手なことして悪いが、もう後には引けない
ヒバナ「帰ってあんたの称える屑に伝えろ。明日お前のおしめを変えてやると」
???「………いいんですか。私は今一人ですが、あそこはそうはいきません。」
ヒバナ「何人だろうが関係ない。俺の敵なら容赦はしない」
???「……決めました。私は赤城。必ずやこの借りは返します。提督の邪魔はさせません」
ヒバナ「………………」
そういって左足を引きずりながら帰っていく。後ろから攻撃したりはしない。それじゃ意味がない
ヒバナ「………………さて」
ヒバナ「そろそろ起きろよお前ら」
そこそこ五月蝿かったはずなんだが………低血圧なんだろうか
翔鶴「うぅ……………おはようございます………」
空母棲姫「………提督は」
ヒバナ「ああ、ミハルはすぐに来るよ」
起きて真っ先に心配するとは
ヒバナ「カナデ達が起きてから少し話がある。それまで時間があるだろうし朝御飯でも作っておくよ。翔鶴達は顔でも洗ってきてくれ」
翔鶴「いえ………手伝います。はふ………」
心配なんだが………まあいいか
ヒバナ「何事もなく目覚められる朝って幸せなんだな………」
空母棲姫「?」
今になってその幸せを実感した
時雨「それで、話っていうのは?」
あれから一先ず朝食を済ませ、今朝あったことを一通り話しておいた
ヒバナ「ああ、まずはミハルからあっちの世界での俺達のことについて話してもらう」
ずっと気になっていた。悪いことになってなきゃいいが………
ミハル「あいよ。結果から言うとだな、あっちでは俺達が居ないのに居ることになってる」
カナデ「ん?どういうこと?」
ミハル「ああ~と、説明が難しいな………確かにそこには居ないのに、思い返すと居た記憶があるんですよ。周りのみんなもそうみたいで」
居ないのに居ることになってる?理解しきれない
ミハル「俺がここにくる事になった理由のひとつでもあるんだが、その時は仕事休みでな、ヒバナと遊びに行こうと思って電話したわけよ」
ミハル「でも出なかった。んで、家に行ってもいないと。仕方なく家に帰って次の日にどこ行ってたのか聞こうと思ってたんだけどな、思い返すとヒバナと遊んだ記憶があるんだ。そんなことはしてないのに」
ミハル「流石に不思議に思ってな、仲間にも聞いてみたんだが、俺と同じみたいだった。明日また家に行って調べてみようとその日はゲームしてたらいつの間にか別世界よ」
ヒバナ「………理解できなくもないんだが、まあ、大事になって騒ぎになるよりかはまし…なのか」
鈴谷「なんだか落ち着いてるね。居なくても関係無いってことでしょ?なんとも思わないの?」
ヒバナ「そりゃ思うさ。だがここで焦って取り乱しても仕方ない。ちゃんと戻れば良い話だしな」
時雨「そういうところは本当に尊敬するよ……」
空母棲姫「貴様をみていると時に気味が悪くも思う。こちらの世界の人間なら、私達の指揮を執っていたのかもな」
ヒバナ「そこまでストレートに物事を言われるのは初めてかもな」
ミハル「俺が知ってるなかでもヒバナくらいだろうな、どんな状況でも冷静になれるってのは」
カナデ「う~ん、ミハル君の言うことは何となくだけど分かったよ。それで、ヒバナの話っていうのはなんなの?」
ヒバナ「俺からの話は……今日の予定についてなんだが」
その一言で皆の表情が変わる。何かを決意したような、これから国のため、家族のために戦いに行く軍人そのものを見ているようだ
ヒバナ「いきなりで悪いが、一度俺は自分の鎮守府に戻る」
夕立「………………え?」
翔鶴「あんなことまで言っておいて………」
時雨「君には失望したよ」
結構素のトーンだったな今の
空母棲姫「あれだけ煽っておいて……」
カナデ「猿みたいに盛って………」
ヒバナ「馬鹿やめろ」ゴツッ
カナデ「痛った!?結構強くない今の!」
鈴谷「まあでも、理由があるんでしょ?」
ヒバナ「鈴谷がいると助かるな。……ああ、理由はあるんだが、正直俺の失態でもある。この時計なんだが……」
空母棲姫「……なんなのだそれは?未だに貴様の力が分からないのだが」
ヒバナ「赤城が居たからな、迂闊に口に出してしまえば相手にばれるし仕方なかったんだ。俺の力は時間停止。と言っても1日に1分が限界だが…この時計はその1分間の目安を示すものだ」
空母棲姫「………なるほど、それでいつの間にか事が済んでいたりしたのか」
ヒバナ「そういうことだ。で、昨日の夜に考えて気づいたんだが、恐らくこの時計は2つあるんだ」
翔鶴「2つ……ですか?確かそれは最初に来たときにポケットに仕舞われていた物ですよね?」
ヒバナ「ああそうだ。だが俺はこの世界に来る前にも時計を受け取っているんだ。恐らくまだ俺の鎮守府にあるはずだ」
その時計がどういった力を持つのかは分からないが持っているに越したことはないし、もし敵に奪われたりでもしたら大変だ
時雨「じゃあそれを取りに戻るんだね?」
夕立「でもみんなで行ってここに何かあったら困るっぽい」
ヒバナ「元より連れていくのは一人のつもりだ。だから…」
翔鶴「私がいきます!」
確認するよりも前に自分から名乗り出てくれた
ヒバナ「ああ、そのつもりだったんだ。ありがとな」
鈴谷「ここは私達に任せておいてよ。ヒバナさん達も無理はしないでね?」
ヒバナ「当然だ。ちゃんと戻ってくるさ」
ミハル「留守は任されたぞ!戻って来たときは何かしらの合図かなんかしてくれよな」
それもそうか、また敵が入ってくるなんてのは御免だ
カナデ「ヒバナだと分かれば開けるからね。気をつけて行ってきて!」
そうして佐世保鎮守府を出た
──────────
────────
ヒバナ「……なんだかこうして外に出るのも久しぶりに思えるな」
翔鶴「そうですね…あまり時間は経っていませんが」
正真正銘二人きりになったのも最初以来だ。何もなく着けば良いんだが
ヒバナ「さっさと済ませて戻らなくちゃな」
翔鶴「はい。行きましょうか」
そうして来た道を戻っていく。特に代わり映えしない風景。穏やかな海。ここで起こっていることが嘘のような平和な場所だ
ヒバナ「………翔鶴、妹と戦う事になるのは分かってるよな」
翔鶴「はい、分かってる…つもりです」
なるべくならそうしたくないというのが伝わってくる。翔鶴の妹…瑞鶴だったか?も赤城のようになってしまっているのだろうか
ヒバナ「確かあの時攻撃してきたのは戦艦だけ…だったよな?」
翔鶴「そうでしたが………それだけで十分、という判断だったのかもしれません」
それもあるか。確かにあれだけの力があるなら6艦で一斉に攻撃するなんて無駄なんだろうな
ヒバナ「出来れば平和的に解決したいんだが…赤城の件もあってそれは絶望的だろうな」
翔鶴「………提督、もし私が迷ったら、提督は導いてくれますか?」
ヒバナ「導けるほどの器じゃないが、せめて助けにはなれるさ」
翔鶴「じゃあ、あっちに着いたら…私の事を………抱いてくれますか?」
立ち止まる──それはどういう意味なんだろうか。普通に抱き締めれば良いのなら構わないが………
ヒバナ「……それはどういう意味だ?」
翔鶴「私は今戦いのことを考えてしまうと不安なんです。妹と、瑞鶴と戦う事が嫌なんです。艦娘同士が争うことも無意味です。そう思ってしまうと…穴が開いたような………苦しいんです」
翔鶴「でも、提督がいると安心します。隙間を埋めてくれるような、私にとっては大事な存在です。そんな人に………抱かれたいと思うのは間違っていますか?」
考えていなかった。ただ好きというだけだと思っていた。だが違う。翔鶴には愛があるんだろう
ヒバナ「………………」
決して蔑ろにしていたわけでもない。だが自然と軽視していたのかもしれない。
ヒバナ「翔鶴、お前のその気持ちは大事にするべきだ。だがな、もう少し外の世界を知った方がいい」
間違いとは言い切れない。これが現実世界で言われていたら…もしかすると行くところまで行っていたかもしれない
ヒバナ「お前は男を知らない。俺やミハルみたいな奴だけって訳じゃないんだ」
翔鶴「………分かっています。でも、私は貴方が…貴方を愛してしまったんです。だから………」
ヒバナ「………正直、俺はこのゲームでお前の事が一番気に入ってたんだ。そう言われるとかなり嬉しいよ。でも、翔鶴の期待には応えられない」
翔鶴「………………………」
ヒバナ「………俺はこの世界のことを録に知らない。お前は俺達の世界のことを知らない。なら、互いに埋めあっていけばいいんじゃないか?」
翔鶴「…………それは………」
ヒバナ「こうなれば俺も本気を出すさ。なんとか行き来出来る方法を見つけ出す。無事に終わったら………翔鶴の気持ちに答えるよ」
翔鶴「本当ですか?約束してくれますか?」
久しぶりにこんな感覚になったかもしれない
ヒバナ「約束するよ。翔鶴を一人にはさせない、隙間があるなら俺が埋めてやる」
最初は一方的な誓い。だが今は違う
翔鶴「───────っ!」
そっと触れるだけの口付けをした
ヒバナ「さっさと行くぞ。待たせると悪いしな」
翔鶴「─────っはい!」
ヒバナ「言っておくが約束しただけだ、俺はお前のことを抱かないし、ましてや付き合ってもないからな」
翔鶴「はい────愛してます、提督」ニコ
ヒバナ「はぁ………………………」
言った手前どうしたらいいんだろうな
──────────
───────
ヒバナ「随分歩いたが………」
翔鶴「もう少しで着くはずですよ」
………本当だろうか?もう随分長いこと移動した気がする。疲れていて体力が無いわけでもないし、こんなに時間がかかるような距離だったか?
ヒバナ「…敵に会わないだけ良かったが………風景が対して変わらないからそう感じるだけなのか」
────するとなにやら見覚えがある物が落ちている。
ヒバナ「………なあ翔鶴。もしかしてあいつ×印書いた後ここに置いておいたのか?」
翔鶴「……そう…なんだと思います。」
拾い上げた物はいつしかのメモ帳の1ページ。この鎮守府に干渉されないようにカナデが書いたもので、ここを出るとき鎮守府の目の前で×印をつけた
ヒバナ「───ということは」
翔鶴「着いた………んですよね」
ヒバナ「やっとか………長かった………」
翔鶴「提督………………」
受け入れたくない。目の前の現実を。不条理を。理不尽を
ヒバナ「翔鶴。聞きたい、嘘をつかずに答えてくれ。………………俺は"何鎮守府"に属していた?」
考え直してもみろ。カナデは呉、ミハルは深海凄艦、時雨と夕立は佐世保。じゃあ俺は?どこに居た?鎮守府名は?最初に来た場所は何だ?
ヒバナ「一番考えたくなかった………だが確信した………………俺を呼んだのはあの声の主だ。だがこの世界に来た理由は!」
自分に言い聞かせるように………真実を言う
ヒバナ「俺をこの世界に飛ばしたのは─────あの暗闇だ─────」
深海凄艦に呼ばれたわけでもない。助けるために召喚されたわけでもない。俺は巻き込まれてここに来た
ヒバナ「答えてくれ翔鶴。此処は何なんだ?何故此処に俺が来れたんだ?本当にもとから俺は此処に居たのか?」
暗闇に飲まれ、目を覚ませばボロボロの翔鶴が近くに居た。てっきり此処が自分の所属する鎮守府だと思っていた
翔鶴「提督………………………………」
ヒバナ「戻ってきて正解だったかもな………気付けたんだ………何もかも、真相に………………」
ヒバナ「最初から気付いて…知っていたんだな……あの時から………………」
そういえばあの時────翔鶴は何か言いたげにしていたな────
繋がった──────全部。何もかも。
ヒバナ「受け入れたくない………だが、これが真相か…………」
顔をあげ、その方向を見る。
そこには─────
──────俺が居た『鎮守府』なんてものは無かった──────
ヒバナ「翔鶴………………教えてくれ」
翔鶴「はい………………全部お答えします。私も確信しました………」
言いたくなかった………だがもうこれしかない。認めたくない。疑いたくない。自分を慕ってくれた、あいつを────────
ヒバナ「あいつは………カナデは───────本当に俺達の味方なのか?─────」
───整理しよう。
俺が居たはずの鎮守府は無かった。いや、俺が去ってから無くなった。
俺は呼ばれていない。この世界の誰からも。暗闇に飲み込まれここに来た
………カナデは此処に来る前、他の鎮守府を回ったが全滅、と言っていた。だがそれは違う。全滅していたんじゃない。"カナデが行った鎮守府を潰して"きたんだ
あの言葉は嘘だった?そんなまさか、あれは本意のはずだ。だとしたら…敵だった、と言うのが正しいのかもな
それと………まだ翔鶴は俺に伝えていないことがあるみたいだ。会ったときに言えなかったこと………………嫌な予感しかしない
翔鶴「まず先に御詫び致します。今まで黙っていたことがあります。申し訳ありません」
ヒバナ「…まあなんとなく分かってはいたよ。混乱すると悪いからなんだろうが」
翔鶴「はい。提督はここに来てから混乱されていました。なのでそこで色々と言ってしまっては悪い方へと向かってしまうと思っていたので………」
その判断は正しい。だがいささか遅いとは思うんだが………
ヒバナ「ああ、その事については別にいいよ。もう話してもいい頃だろ?言ってくれないか」
翔鶴「………はい。ではカナデさんの事からですが、端的に申しますとカナデさんは敵でした」
だった………過去形ということは今は
翔鶴「恐らくですが、カナデさんには誤算があったのだと思います」
ヒバナ「………鈴谷か」
離れたくない。そう言って抵抗したあの夜。あれは想定外だったんだろう。演技なら大したもんだが
元より鈴谷は鎮守府を潰していくことに躊躇いがなかったんだろうか。おかしくなっているようには見えないし、そもそもカナデの目的はこのゲームを取り返すことだ。
他に目的がある?
翔鶴「はい。もしかしたら鈴谷さんはカナデさんを止めたかったのかもしれません」
ヒバナ「だろうな。率先して破壊行動を取るような娘には見えないし」
もう一つ誤算がある。敵に対して情が移ってしまったこと。恐らくそれが一番大きな誤算だろう
ヒバナ「………一先ずはミハル達の心配はしなくて良さそうだな」
敵が攻めて来るかもしれないというのはあるが、少なくとも内部で争いが起きることを危惧する心配は無くなったわけだ
赤城に攻撃されたのは裏切り行為と取られたのかもな。普通ならば空母が持っているのは艦載機で普通の矢なんて持たないだろう。それに俺たちをやりたいなら鎮守府ごと爆撃でもすればいい
翔鶴「提督はどうされますか?カナデさんを………」
ヒバナ「二人きりになったときに話すさ。それまではわざわざ皆に言うことではないだろ」
翔鶴「………そうですね」
優しそうな顔をする。翔鶴も仲間だと認識していたからこそなんだろう
ヒバナ「……と、そういや時計を探しに来たんだったが………これだと無さそうだな」
翔鶴「あ…その時計なんですが、私が持っています」
ヒバナ「………は?あの、なんで渡さなかったんだ?」
翔鶴「え、と………初めて提督に会う前に声が聞こえた、とは言いましたよね?」
ヒバナ「ああ、俺が此処に来るって事だろ?」
翔鶴「その時にこの時計の事も聞いていたんです。どんなものなのかを」
ヒバナ「………渡さなかったってことはあまり良いものじゃないんだな」
翔鶴「はい…その時計は『あらゆる物の時間を操る時計』みたいです」
ヒバナ「……それは人を一気に老化させたり出来るってことか」
翔鶴「使ってはいないので分かりませんが………概ねそれで合っていると思います」
かなり強力な物だ。時間を操るなら人を胎児にまで戻すことも出来るんだろう
ヒバナ「デメリットはなんだ?」
これだけの物なら必ずあるはずだ。進めたり戻りしたりした分寿命が縮むとか
翔鶴「………時間を動かした分、記憶を失います」
ヒバナ「………軽いものではないが、思ったより酷くはないな」
1時間なら1時間分記憶を失う。それがどの記憶なのかは分からないが、元々覚えていないことを忘れるなんて都合の良いことはないだろう
翔鶴「提督、失うのは提督が思っているようなものじゃないんです。失うのは"生きるため"の記憶です」
ヒバナ「………生きるため?」
翔鶴「自分で身につけた歩くための記憶、何かを食べる記憶。そういったものを失って、最後には………」
ヒバナ「死…か」
翔鶴「……なのでこの時計は」
ヒバナ「ああ、使うのは極力控えるよ」
翔鶴「お願いします。念のためですが、使い方、というより条件のようなものをお伝えします」
そうして教えてもらったのが
・使う際には何に対して使うか宣言しなければいけないこと
・どれだけの時間をどうするのかも宣言しなければいけないこと
・既に時が止まっている、時間の概念が無いものに対しては使えないこと
だった。
ヒバナ「………なんとなくだが分かった。使うかは分からないがな」
ヒバナ「そろそろ戻るか、あまり長居しても意味はないし」
翔鶴「………まだ一つあります」
………やっぱりあるのか。今までのはわざわざ此処に来なきゃいけない話でも無かった。翔鶴もその話題を避けているのは薄々気づいていた
翔鶴「この鎮守府についてです」
ヒバナ「…カナデにやられた訳じゃない…んだよな?」
翔鶴「はい………この鎮守府は元からありませんでした」
元から無かった?どういうことだ
翔鶴「恐らく声の主が用意した、擬似的な鎮守府です」
ヒバナ「………擬似的?なんで擬似的に用意する必要があるんだ?」
普通に鎮守府はあるはずだ。俺もプレイヤーなのだから
翔鶴「………あの夜、私がこの戦いを終わらせずに、提督と居ることを望んだのはただ好きだから、と言うだけではありません」
翔鶴「提督。貴方は………もうあちらの世界には帰れません」
ヒバナ「…何を根拠に言ってるんだ?」
………分かってる。いや、受け入れたくないのかもしれない。────俺はもう帰れない
翔鶴「…………貴方は」ポロポロ
そんな顔をするのは止めてくれ。こっちまで泣きそうになる
翔鶴「貴方は………この世界に来てから」
この世界に来た理由を考えてみればそうだ。実際にそうなった奴がいたじゃないか。佐世保に
翔鶴「この世界に来た時から………貴方は死んでいます」ボロボロ
ヒバナ「─────────」
──────その真実は現実世界に、仲間に、唐突な別れを告げた
─────────
───────
─────
ミハル「待ってるだけって言うのも凄いあれだな。暇だな」
時雨「そうだね。こんな状況で暇って言うのも贅沢なのかも知れないけど」
カナデ「…………………」
鈴谷「提督?どうかしたの?」
─────ばれた…かな。
今までしてきたこと。私が敵だってこと。そろそろ皆に話さなきゃいけないかも
カナデ「……………………」
…………出来ない。最初はなんてことないと思ってた。ちょっと仲良くなってもすぐどうとでもなるって。でも…………
カナデ「ヒバナ…………………」
誤算だった。あそこに鎮守府があるとは思ってなかったし、ましてや名前のない鎮守府に人がいるなんてね。
それに、翔鶴ちゃんとは直接ではないけど一度会ってる。感付かれてたらあの鎮守府ですでに会った時バレてたかもしれない
夕立「心配っぽい?」
カナデ「えっ!?………あぁえっと………」
思わず声に出てたみたい
空母凄姫「……………………提督」
ミハル「ん?どうかした?」
空母凄姫「少し…………相談、というか話しておきたいことがある。私の気のせいかもしれないが」
ミハル「あんま皆に聞かれたくないこと?」
空母凄姫「確信したら皆にも話す。だが今は混乱させてしまうかもしれない」
ミハル「ん、なら少し場所を変えようかね」
…………まだ誤算はいくつかある。空母凄姫。深海凄艦が味方についてるなんて考えもしなかった。
鈴谷「………提督凄い顔色悪いよ。少し休んだ方がいいんじゃないの?」
時雨「そうだね。横になってなよ」
自分でも血の気が引いているのが分かる。今彼等に戻られたら間違いなく気付く。そうしたら…………敵同士?嫌われる?殺しあうの?
カナデ「うっ………うぇ………」
夕立「大変!お水お水!」
思わず吐いてしまった
赤城に狙われたってことは間違いなく私もお役後免ってこと。あっちからも敵と見なされた
こっちでも本当の事を話したら………私は一人になる。そんなの嫌。
─────嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
カナデ「ごめん………少し考えさせて」
鈴谷「……………………」
時雨「鈴谷…………ちょっといいかな」
鈴谷「え?いいけど………」
時雨「夕立、カナデさんの事を看てあげてて。すぐに僕も戻るから」
夕立「…………任せられたっぽい!」
────────
──────
ミハル「そんじゃ密会といきますか」
空母凄姫「提督…………今はそんなことを…まあいい」
何の話なのかは見当もつかない。ただ真面目な、深刻な話ってのはなんとなく分かる
空母凄姫「提督の友人のことなのだが」
ミハル「…?ヒバナのことか?」
空母凄姫「ああ。これから言うことは提督を怒らせてしまうかもしれない。だが私がそう感じたから伝えておきたい。どうか落ち着いて聞いてほしい」
ここまで言われるとなんだか相当やばいことなんだろ
ミハル「…内容によるけどあいつは敵だ、とかなら怒るぞ」
空母凄姫「それはない。断言できる」
ミハル「…じゃあなんだよ」
空母凄姫「気のせいかもしれないが…彼からは生気を感じられない。これは性格的なものではなく、生きていると思えな────」
ミハル「それ以上言うと殴るぞ。冗談にしては度が過ぎる」
掴みかかる。気のせいであれ冗談であれ口にするものではない
空母凄姫「っ!分かっている……だが貴方がこうなると承知した上で話しているのだ………う……っ」
ミハル「………根拠は?」
空母凄姫「明確な根拠はない……それでも他の人間とは明らかに違う……っ……そう感じた……」
ミハル「………適当に言ってるわけでもなさそうだな」
手を離す。空母凄姫がそんな冗談を抜かすような奴ではないことは分かってたけど流石に我慢ならなかった
ミハル「ごめんな。ついカッとなった」
空母凄姫「いや、無理もない。元より覚悟の上で話した。確証は得ていないが、心の奥に留めておいてもらいたい」
ミハル「ああ、そうしておく。けどな」
空母凄姫「?」
ミハル「例えそうだとしても俺はあいつと元の世界に帰る。俺の目的は変わらない」
空母凄姫「……だが」
ミハル「決めたことは曲げねえ主義だ。それに」
失うもんか。あいつは俺の親友だ
ミハル「あいつとの時間を、ただの俺の思い出になんてさせない。確かにそんな時間が合ったって互いに語らえる、想い出にするんだ」
空母凄姫「………そうか」クス
ミハル「手を貸してくれるか?」
空母凄姫「勿論。いつまでも私は貴方の味方だ」ニコ
───こうなったら俺はなんとしても成し遂げる。どんな運命であろうとねじ曲げてやる
────────────
─────────
鈴谷「珍しいね。時雨が呼び出すなんて」
時雨「うん。ちょっと気になってね」
鈴谷「何が気になるの?わざわざ外に出て話さなきゃいけないことなんでしょ?」
時雨「…………すぐに分かるよ」チャッ
鈴谷「………どういうつもり?武器なんて構えて」
時雨「少し…………分からないことがあってね。いくつか答えて欲しいんだ」
鈴谷「…………………」
時雨「あの夜のことだけど………どうしてカナデさんだけ狙われたのかな」
鈴谷「…そんなの分かんないよ。偶々見かけたのが提督だったからじゃないの?」
時雨「でもそれならこの鎮守府ごと攻撃しない?わざわざ入ってきて一人だけ狙うなんておかしいと思わないかい?」
鈴谷「人がいると思わなかったかもしれないじゃん」
時雨「明かりは点いてたよ。いるかも知れないのに一人で入ってきて、持ってる武器は空母なのにただの弓。艦娘が居たとしたら弓じゃあ歯が立たない。」
時雨「まるで人だけを襲おうとしにきたみたいじゃないか。どうしてかな」
鈴谷「そんなの………鈴谷に聞かれても分かんないよ」
時雨「本当かな」
鈴谷「…………ねえ、何が言いたいの?」
時雨「言ったよね?すぐに分かるって」
─────ドォン──────
時雨「……………………やっぱり」
鈴谷「…………………」
時雨「ごめんね鈴谷。最初はちょっと不思議に思っただけだった。けど──」
時雨「──確信したよ。君は僕達の敵だ」
鈴谷「……………………」
時雨「君は重巡で僕は駆逐。元の力に差はあるけど傷を負わせることは出来る」
時雨「ねえ、話してよ。どうして無傷なの?この距離で撃たれて防御すらしないで無傷なんてあり得ないよね?」
鈴谷「…………………」
時雨「カナデさんが襲われたのは裏切ったと思われたからじゃないかな?君が無傷なのはブースト?されてるからだよね」
時雨「…………………僕達の提督はいい人だった。だけど君達の勝手な理由で、提督は僕達の前から消えた……君の提督はそれが友人だとしても躊躇わないんだね」
鈴谷「それは!提督もその人が来てるなんて思ってなくて!」
時雨「…………それは敵であったことを肯定したってことでいいんだね」
鈴谷「それは…………」
時雨「例え今はもう敵でなかったとしても僕は許せない」
時雨「復讐なんてしたって意味がないことも分かってるつもりだよ。でもこの気持ちはどうすればいいの?」
鈴谷「…………………」
時雨「返してよ………僕達の提督を」ポロポロ
時雨「戦いが終わっても戻ってこない………戻ってこないんだ」ボロボロ
時雨「君達の此処での発言を思い返すといらいらするよ………」
時雨「償わせたい………殺してやりたい」ボロボロ
時雨「でもそれは提督が望まない…」
鈴谷「時雨…………」
時雨「だから……僕のために死んでよ」チャッ
鈴谷「…!」
時雨「何も生まないのは分かってる。けどそうしないとおかしくなっちゃいそうなんだ」
時雨「提督を殺した人と居ることが、その人達と仲間である事実が」ガチャ
鈴谷に向けていた銃口を、自らに向ける
時雨「………嫌なんだ」ツー
鈴谷「時雨!待っ──────」
──────ドォン──────
──────────
───────
ヒバナ「死んでいる…か」
なんともいえない空虚な感覚が襲う。
死んでいる?じゃあなぜこうして立っているんだ
帰れない?じゃあなぜ方法なんて探してるんだ
ヒバナ「分かってる。そんなこと」
ああ、そんなこと…分かりきってるじゃないか
死んでいる。ユカはなぜ死んだんだ?暗闇に飲み込まれたからだ
帰れない。当然だ。俺はもうあっちの世界にはいない
翔鶴「提督…」
でも───
約束した。あいつは恐らく知っていた
約束した。あっちでもまた会うと
約束した。死なずに帰ると
ヒバナ「果たせないよなぁ…約束」ツー
翔鶴「…っ!」ポロポロ
どんな顔をして戻ればいいんだろうか。俺が戦いを終わらせることに意味があるんだろうか
ヒバナ「翔鶴……ありがとな」
翔鶴「え……?」
ヒバナ「もし会った時に言われてたら立ち直れてなかった。もしかしたらその場で自殺したかもしれない」
翔鶴「そんな……でも、何も出来ませんでした」ボロボロ
ヒバナ「当たり前だろ?死を克服出来る奴なんていない」
翔鶴から貰った2つめの時計。自分に使うことも出来るだろうが、俺自身の時間はもう止まっている。戻せたところで結局そのまま死に至りそうだ
翔鶴「……どうしてそんな落ち着いていられるんですか……?死んでいるんですよ?」
ヒバナ「死んでいるからこそだな。帰れないことを思うと胸が痛くなるが、せめてあいつらだけは帰してやらないとな」
翔鶴「そんなの………提督が報われません」ボロボロ
ヒバナ「……こんなこと言いたくないが、誰かの記憶に残っていれば、俺はそれでいいんだ。しっかり俺がそこに居たと、覚えててくれれば……」
ヒバナ「翔鶴みたいに、泣いてくれる奴がいれば満足だよ」
翔鶴「うぅ………うわぁぁあ」
ヒバナ「最期のその時まで………側にいてくれるか」
翔鶴「はい………ずっと…………ずっと…!」
最期に泣いてくれる奴がいればいい。思い出して笑ってくれる奴がいればいい。
その生き方は………父から受け継いだものでもある
叱ってくれるだろうか………こんなに速く追い付いた愚か者を。
慰めてくれるだろうか………約束を果たせず泣きじゃくる馬鹿者を
──────────
────────
ヒバナ「………戻るぞ」
翔鶴「………はい」
空気がとてつもなく重い。だが不思議と心は軽く、暖かかった。それは
翔鶴「…………絶対に、側にいますから」
そう言ってくれる人がいたからなのかもしれない
ヒバナ「翔鶴。俺は目的を変えるよ」
翔鶴「………………」
ヒバナ「あいつらを元の世界に帰す。それと───」
ヒバナ「──約束を…必ず果たす」
翔鶴「………………」
それは出来ない。だが諦めることはしない。やるだけやって、最期には満足して終わりたい
翔鶴「じゃあ、私にも手伝わせてくださいね」ニコ
無理矢理笑顔を作る。でもそれが嬉しかった
また来た道を戻る。静かで代わり映えのない道。だが来るときとは何もかもが違う
ヒバナ「…………着いたな。──翔鶴」
翔鶴「はい──」
入り口が開いている。近くには血溜まりが見える
入ってきた?いや、そんな簡単にカナデ達が敵を入れるわけがない。本格的に襲撃されたか?
ヒバナ「…………………」
いつでも時間を止められるよう深く呼吸する。何があった───
翔鶴「──中から声がします!」
中からは泣く声、それを静める声、それと………小さな声が聞こえる
それのどれもが聞いたことのある声だ
ヒバナ「………!行くぞ!」
翔鶴「はい!」
急いで中に入り声のする方へ向かう
そこには─────
頭の半分に血まみれのタオルを掛けてある時雨と、それを治療するミハルの姿があった
ヒバナ「!!」
状況を飲み込む。タオルをかけてある部分は、そのまま床に着いてるように見える。つまり………
頭半分が無い
込み上げてくる強烈な吐き気。それをなんとか抑え周りを見る
夕立「時雨ちゃん………時雨ちゃん!うわあああああああ」
泣きじゃくる夕立
ミハル「気持ちは分かるが落ち着いてくれ!可能性はあるんだ!」
それをどうにか治療しながら静めるミハル
鈴谷「私だ………私の…………私のせいだ」
小さな声は鈴谷の声だったらしい
翔鶴「これは…………」
空母凄姫「話しは後だ。提督の力で確実に戻せるとは言えないが、やらないよりは幾分かましだろう」
ヒバナ「死んでは………」
夕立「………!死んでなんかない!死んでない!ちゃんとここにいるじゃない!」
必死で迫ってくる。死んでいて欲しくない。そう懇願しているようにも見える
カナデ「…………………」
カナデは血の気の引いた顔をして黙っている。知ってそうなのは鈴谷くらいだが………この様子じゃ話せなそうだ
ヒバナ「空母凄姫、これが起きたのはどれくらい前だ?」
空母凄姫「私も見ていた訳ではないからな。ただ鈴谷が抱えて来たのは1時間経たない程前だ」
1時間か………何を失うんだろうか。せめて軽いものであってほしい
翔鶴「…………!提督!まさか」
ヒバナ「一人喪うより、1時間失った方がいい。自己犠牲じゃない。必要経費だ」
空母凄姫「…………?何を言っている」
時計を取り出す。やることは一つ
ヒバナ「時雨を、今から1時間30分前の状態に巻き戻せ」
そう言うと時雨の身体に白いもやのようなものがかかり全身を包む。
そのもやは次第に晴れていき
夕立「嘘…………!」
完全に戻った
ミハル「おぉマジかよ…………!」
鈴谷「え………ほんとに………?」
翔鶴「提督!大丈夫ですか?何を失ったんですか?」
翔鶴が声を荒げる。そして───
───パシュッ───
脳内が軽くなった気がする
ヒバナ「何だ今のは………」
────カチ────
ヒバナ「とりあえず立てるし歩けるし食欲は無いが食べる記憶はある。………!」
時間が止まっている。意識して止めた訳じゃない
ヒバナ「クフッカハッ………(なんだ…?苦しい…………)」
ヒバナ「(嘘だろ?失ったのって…)」
思いっきり息を吸う
翔鶴「提督!?」
そして思いっきり吐く
ヒバナ「スゥー、翔鶴聞いてくれ、恐らくだが俺は…………スゥー」
ダメだ。これはまずい
ヒバナ「自然に呼吸する方法を失ってる」
翔鶴「!!」
意識しないと呼吸が出来ない。自然に呼吸する方法なんて教えられる奴はいない。なんせ生まれもって備わっているものだからだ
1時間30分戻したのは1時間だと危ういから予備だったが…………たったそれだけで呼吸する方法を失うとは
もしかすると更にまだ気付いていないだけで失ってるかもしれない
ヒバナ「(呼吸するだけで精一杯だ…………これ、デメリット多いぞ)」
そうだ。意識してないと苦しいだけじゃない。寝れない。寝ると恐らくそのまま
窒息する
翔鶴「提督…………絶対に死なせませんから」
心強いな…………俺の意思が切れたらそこでお仕舞いだが
時雨「うう…………!!」
ミハル「目覚めたか?ヒバナに感謝しろよ」
時雨「なんで…………確かに死んだはず」
嬉しい誤算というか、頭が半分無くなってもまだ生きていたのは助かった。死んでいたらそこでなす統べなく終わりだ
夕立「時雨ちゃ~~ん!!」
時雨「うわっちょっと夕立…………」
空母凄姫「…………何をした?」
ヒバナ「詳しくは翔鶴から聞いてくれ話すこともきつい」
一息で言い切り翔鶴に任せる。何があったのかはまた後で聞こう
鈴谷「…………………」
────────
──────
あれからとりあえず俺の使った時計の効果とデメリットを説明してもらい、俺が何を失ったのかも言ってくれた
時雨「そうか…………ごめんね。僕のために」
それは別に気にすることでもない。命を喪うよりかは何倍もましだ
時雨「そうだ…………これ、使えないかな」
渡してきたのは時雨達が使っていた腕輪。対象から外れるんだったかな
ヒバナ「いいのか俺が使っても」
時雨「構わないよ。僕は君に救って貰った。今度は僕が救う番だよ」
助かる。これで呼吸出来ないことの対象から外れればなんとかなるはずだ
ヒバナ「…………………」
夕立「大丈夫?」
ヒバナ「ああ………普通に呼吸が出来ることに感謝することなんて二度と無さそうだな」
翔鶴「良かった………」
ミハル「にしても凄い力持ってんだな。次は使うなよ?」
ヒバナ「心掛けるよ」
にしても、ここで何があったんだろうか………敵が来たわけでもないのに時雨があんな───
───嫌な予感しかしない。鈴谷が自分のせいと言っていたのも合間って最悪の事しか思い浮かばない
ヒバナ「…………何があった」
いつか来るだろうとは思っていたが、まさかこんなに早いとは…
時雨「………うん。全部話すよ」
鈴谷「──鈴谷が話す。いつか言わなきゃいけなかっただろうし」
鈴谷「早く言っておくべきだったんだ……でも恐くて」
次第に涙混じりになりながら話す
鈴谷「提督……もう、逃げてちゃだめだよ………どうなっても言わなきゃ」
カナデ「………うん。みんな、聞いてくれる?」
どうなるんだろうか、これから………この関係は崩れてしまうんだろうか
カナデ「私達はさ、本当は…ヒバナ達と同じじゃないんだ」
そう言って切り出す。同じじゃないとは……どういうことなんだ?
カナデ「ヒバナは会ったことあるんじゃないかな?あっちでさ、エラー起こしたときとか」
ヒバナ「…?まあ、エラー起こしたときはあるけど……それがなんかあるのか?」
カナデ「私ね、今こんな人の姿してるけど、ほんとは違うんだよ」
時雨「………分かんないな。どういうことなの?」
カナデ「時雨ちゃんとか艦娘の娘とは会ったことないかも。会ったことあるのはプレイヤーかな」
ミハル「ヒバナなんか分かる?」
ヒバナ「…………」
果たしてそうなのか?そうだったとしてもいろいろと辻褄が合わない気がする
夕立「ぽい? 」
夕立が覗き混んでくる
ヒバナ「……ああ、悪い。考え事だ」
翔鶴「心当たりがあるのですか?」
ヒバナ「まあ……でもそれだと色々合わなくてな」
鈴谷「ううん。それで合ってるよ。ヒバナさんのは間違ってないと思う」
空母凄姫「勿体振ってないで言え。埒が明かん」
ヒバナ「…………エラー娘」
翔鶴「エラー娘?」
メンテナンス中に開くと出てくるお詫びの文章とキャラクター。だが……
カナデ「うん。そうだよ。私はそう呼ばれてるね」
ミハル「おいおい、でもそれだとこんがらがるんじゃないか?」
鈴谷「……まだ分かってないもんね。ヒバナさん達が敵に回してる相手もヒバナさん達と同じ能力を持ってここに来てるんだよ」
それはなんとなく予想は出来た。
ステータスの改竄だけなら太刀打ち出来るしすぐに向かわなかったのはそれを恐れていたからだ
カナデ「あっちはね、他人の記憶を弄っちゃうんだよ」
空母凄姫「……?それなら対して……いや、下手すれば何より驚異か」
夕立「どういうこと?」
空母凄姫「自分の思うように記憶を変えてしまえば敵が味方になる。操り人形にも」
カナデ「………………」
ヒバナ「いろいろ混ざってんだな」
鈴谷「ヒバナさん、あんまりそう言うことは」
時雨「……なら、本来はどっち側なのかな」
カナデ「…分かんない。あっち側かも知れないし、もしそう断言されたら否定できない」
どうして本来の姿じゃなくて人間の姿をしてるのかは分からないが……あまりつけ込んでいいような事でもなさそうだ
ミハル「なら、カナデさん達は俺達の味方っつーことか!」
時雨「ふふ……そうだね」
空母凄姫「はぁ…………」
溜息を漏らす空母凄姫も何か諦めた、というより安心したような雰囲気がある
カナデ「なに言って……」
ヒバナ「否定できないんだろ?ならそういうことだ」
鈴谷「ヒバナさん……」
ヒバナ「今さらここで分裂してもな。それに、記憶を弄られる前に会ってたら敵にはならなかっただろうさ」
それは今までの二人を見てくれば分かる。それが記憶を弄られたが故の行為だったとしても
ヒバナ「約束……したからな 」
聞こえないくらいでそう言う
翔鶴「そう……ですね」
ヒバナ「さて、少し遅いが昼にしようかな」
時雨「それなら僕がやるよ」
ヒバナ「一人だと流石に面倒じゃないか?」
時雨「一人じゃないよ。ほら」
そう言って鈴谷の手を引く。なるほど
鈴谷「ええっ!ちょ、ちょっと」
ヒバナ「そうか、なら任せるよ」
空母凄姫「大丈夫なのか?仮にも1度敵対視したのだぞ?」
ヒバナ「大丈夫だろうさ」
ミハル「まあ、変なことは起こんないだろうね。にしても……」
ミハル「なあヒバナ、なんかこう……久し振りな気がしないか?」
ヒバナ「久し振り?どうかな、俺はそうは思わないが」
空母凄姫「提督もそうか……実は私もそうなのだ。何か……長く時が空いたような……」
何を言ってるんだ?まだ1日の半分しか経ってないのに何が……
カナデ「……ヒバナ、ちょっといいかな」
ヒバナ「?ああ、余り時間かけると時雨達に何か言われそうだが」
カナデ「そんなに時間はかけないよ」
ミハル「そんじゃ、俺たちは少し鈴谷達の様子でも見てくるよ」
……結局疑問は解けてないが。まあ、いずれはっきり分かるだろ
カナデ「あ……ありがとね。ミハル君」
ミハル「俺あんま頭良くないんで、味方だと思った人はみんな最後まで味方だって思っちゃうんですよ。そういうことです」
カナデ「………………」
翔鶴「それでは、提督。また後で」
ヒバナ「ああ」
──────────
────────
ヒバナ「まあ、なんとなく言わんとしてることは分かる」
カナデ「分かるんだ……分かって欲しくないよ」
ヒバナ「主人公とかが拗らせる鈍感って奴は持ち合わせてないからな」
カナデ「そっか…………あのね、言った通り、私は本当は人じゃないんだ」
ヒバナ「……鈴谷にはなんて言ってたんだ?」
カナデ「あっちの…ヒバナ達の世界に戻るって言ったよ。でもそれは出来ないから…行き来出来る方法を見つけるって」
言った本人もつらいだろう。記憶がごちゃ混ぜになって、自分が現実世界の人間と錯覚して、いざ気づけばそうじゃないなんて理不尽すぎる
カナデ「ヒバナ、……つらいよ」
カナデ「嫌だよ……こんな気持ち。こんな思いするなら……ヒバナと会いたくなかった」ギュゥ
ヒバナ「……⁉」
突然すぎて驚いた。流石に抱きついてくるまで予想できなかった
どのタイミングで本来の記憶が分かったのかは知らないが、今回の件で状態はよくなったただろう
ヒバナ「無理じゃない、出来なくなんて無いさ」
カナデ「……そんなの」
ヒバナ「綺麗事でも強がりでもない。……いや、ちょっとした強がりか」
ヒバナ「……約束したしな」
カナデ「……………………」
カナデは俺が死んでることを知っていてあの約束をした。その時すでに本来の記憶も分かっていたんだろう。なんにせよ、互いに果たせない約束だ
ヒバナ「果たさなきゃな。約束破る奴のレッテル貼られるのは御免だ」
カナデ「……うん」
カナデ「……えへへ」
泣きながら笑う。つらい思いをするなら会いたくなかった。でも俺はそれ以上に会えて良かったと思う
カナデ「私さ、本当はヒバナなんてすぐ消しちゃえるくらい強いんだよ」
ヒバナ「そんな顔してなにいきなり強がってんだよ。ほんと分かんないなお前は」
カナデ「なんで歯向かわなかったと思う?」
ヒバナ「……さあな」
カナデ「…………っ!好きだからだよ!」
ヒバナ「……そうかい」
カナデ「反応薄っ!告白したんだけど!」
ヒバナ「分かりやすすぎるんだよ。赤城が来たときから知ってたよ」
カナデ「いやいやなに言ってんのさ!そんなこと言った覚えないんだけど」
ヒバナ「顔真っ赤にして言うことじゃないぞ」
カナデ「…………」
ヒバナ「まあそう思ってくれることは素直に嬉しいよ」
ヒバナ「だが俺も答えられるような状態じゃない」
カナデ「……やっぱり、そうなんだ」
ヒバナ「……だから、さ。それも約束果たしてから答えるよ」
カナデ「……うん。じゃあ、絶対果たさなきゃね」
ヒバナ「そろそろ行くか。怒られる前に」
カナデ「あ……ちょっとだけいい?」
ヒバナ「ん?」
カナデ「ちょいちょい」
そういって背伸びしながら頭を少し下げるように促す
カナデ「ん─────」
ヒバナ「─────!」
ヒバナ「…………随分積極的だな」
カナデ「せっかく人の姿してるんだしね。したいことしとかなきゃ」
カナデ「──────好きだよ」
───────────
─────────
時雨「包丁を持つときはこうして…」
鈴谷「う~~…意識してるとうまくいかない……」
時雨「ほうれん草とかキャベツとか、切りやすい物から慣れていかなきゃね」
鈴谷「………ねえ時雨、本当はまだ怒ってるんじゃないの?」
時雨「どうかな、それは前の僕の話でしょ?」
時雨「今は人としての僕も、船としての僕も、君を憎んだりはしないよ」
鈴谷「前のって…でもそんなにあっさり認められることじゃ……」
時雨「罪悪感を感じてくれてるだけでもいいさ。争っても意味が無いし、それに…」
時雨「みんなで終わらせるんでしょ?」
鈴谷「…うん。ごめんね」
時雨「さ、早く作り終わらなきゃ。僕もお腹すいたし」
鈴谷「うん!」
─────────
───────
ミハル「にしても、記憶操作か~…またとんでもねえなぁ」
空母凄姫「……なんだか余裕そうに見えるのだが…」
ミハル「まあ、手段が無くはないよな~ってな」
翔鶴「?何かあるのですか?」
ミハル「最悪戻せるんじゃないかと思ってな。ただ、そうするとこれまでの記憶も戻っちまう」
空母凄姫「提督の力は脳内にも使えるのか…」
ミハル「やってみなきゃ分かんないけどな。もしかしたらってだけ」
翔鶴「ミハルさんの力は何かを治すものではないのですか?」
ミハル「おうよ。俺のは治すってより元に戻すってやつだ。ただ規模が大きいと時間がかかるし完全に失ってるのは戻しようがない」
翔鶴「……提督が失ってるものは戻せませんよね…」
ミハル「それもやってみなくちゃ分からん。確率は0じゃないし、なんだか最初の頃より変わってきてるんだよな。この能力」
空母凄姫「変わる?」
ミハル「ああ、最初はほんとに治すことしか出来なかった。ただ最近戻せるようになってきたんだよ。トカゲの切れた尻尾を尻尾さえあれば元にくっつけられたりな」
空母凄姫「…だとすると他の能力を持った人間も変化してるかもしれないな」
ミハル「ありえるな~。ヒバナとかは息止めなくても時間停止出来たりな」
カナデ「お~い」
空母凄姫「…戻ってきたな」
ミハル「話は済んだか?」
ヒバナ「ああ」
翔鶴「…提督、もしかして自分の意思だけで時間を止められたりしませんか?」
ヒバナ「なんでまた急に…まあやってみるか」
──息を止めず、頭の中で意識する
───カチ
ヒバナ「止まってる…呼吸も出来る」
────
翔鶴「どうですか?」
ヒバナ「あれ、勝手に動いたな」
ヒバナ「……ああ、確かに止まった。だが意識してないのに動き出したぞ」
空母凄姫「意識してないからではないか?」
なるほど、息を止める代わりに今度は意識し続ける集中力がいるわけか。だとする今までみたいに止まってる最中に考えてどうこうってのは難しくなりそうだ
翔鶴「やっぱり…どうやら持ってる能力が変化していってるみたいです」
カナデ「ふ~ん。じゃあ私のも変わってるのかな」
ヒバナ「変わるって言ってもお前のは文字数増えるか複数条件付けられるとかだろうな」
カナデ「なんで当てに行こうとするかな!?割と楽しみだったんだけど!」
空母凄姫「すっかり元気だな。前までのが噓のようだぞ?」
カナデ「まあ…いろいろあったんだよ。ごめんね。迷惑かけちゃって」
ミハル「そういうのは無しにしましょうや。重苦しいのは勘弁なんで」
翔鶴「そうですね」
ヒバナ「…そういや夕立は?」
ミハル「時雨達といるんじゃないか?」
ヒバナ「…いくだけ野暮か」
ミハル「だな」
カナデ「お腹すいたね~」
空母凄姫「どこまでもマイペースだな」
翔鶴「ふふふっ」
────────
──────
───怖くないか?
───憎くないか?
───納得できるのか?
───苦しいんじゃないのか?
────やり返さないか?
─────お前が持ってる"腕輪"でさ
─────復讐…しようじゃないか
夕立「…なに…なんなの!誰!」
周りには何もない。聞こえるのは聞いたことのない声。だが聞いたこともないのに何故か懐かしい
夕立「うう…戻らなくちゃ」
皆の所へ戻って説明すればきっとなんとかなる。速く…はやく
────殺せ
────あいつの大事なものを奪ってしまえ
夕立「だめ…そんなのだめよ…分かってるから」
自分に言い聞かせる。自分でも何処へ向かってるのか分からない。間違いなく皆がいる場所ではない
夕立「…!そう、そうよ……」
夕立「こうすれば……!」
───楽になれる。皆に迷惑をかけない。ならいっそこのまま…
なんとか自分の意思できたのは海以外何もない場所
夕立「…………」
高い所にたった。落ちれば即死はせずとも上がってこれない。武器を抱えて落ちればきっと沈んでいく
夕立「誰だかわからないけど…あなたの好きにはさせないっぽい!」
さようなら。ごめんなさい。でも、絶対に迷惑はかけないから!
─────ごめんね
夕立「…!!」
──飛び降りたその後、落ちていく中で
夕立「…なんで……どうして…て」
────聞き慣れた、大好きだった声がした
ここまで読んでくださりありがとうございます。
仕事の都合でテンポよく更新は出来ませんが書いたからにはしっかり完結させます!
登場キャラは全部決まってるというわけではないのでリクエスト貰えれば出来る範囲で登場させるつもりです
この人と一緒に──ではこれからの進行上キャラを掘り下げなきゃいけなかったので艦娘達をあまり喋らせられませんでした。すいません!
前振りやたら長いのは申し訳ない!
拙い文章ながらもやっていきますので応援よろしくお願いします
これってスキル進化するんですか?
>>1さん
進化、というよりつよくなりすぎない程度に強化はしていくつもりです。
ただ今の段階でもDIO様の5倍以上止められちゃうので時間を延ばしたりとかはしないと思います
いやこの提督いいな(能力が)
できれば佐世保のところでゆうしぐ出してください
お願いします (`・ω・´)ゞ敬礼っ
>>matuさん
時間停止はロマンですから(
夕立時雨了解です。システム上の都合もありますが割となんとかなりそうです
いや この世界理不尽ですね
いきなり吸い込まれ 人に会い 人が死ぬ 理不尽な世界ですね
>>matuさん
もうちょっと意地悪してやりたい気分なんですけどね(
いやここは艦娘が大変なことになっていいかもしれませんね(ゲス顔)
これは良作品だなぁ。
特に世界観の設定に惹かれました。
文も丁寧だし、とても見やすくていいと思います。
時間停止はDIO様思い出すなぁ←
>>京哉提督さん
ありがとうございます!
初めてのSSですがそう言ってくださるとめちゃくちゃ嬉しいです
時間停止で無駄無駄したかったんですが主人公スタミナあまり無いので出来ないです(
これは絶対バッドーエンドなるパターンかな?
>>マツさん
個人的にハッピーエンドよりもむず痒いトゥルーエンドに近いノーマルエンドが好きなので二人は幸せな───なんてことには絶対にしません(
面白いssです。
こういうシリアス系の中では今までで一番期待の作品です。
頑張ってください。
>>12さん
ありがとうございます!
そう言っていただけると励みになります
更新ペースまちまちで不定期ですがどうかこれからもよろしくお願いします