Ready for duty .
夏前くらいに書いた物になりますが、アメリカ空母実装と聞いたのでその前に投稿させていただきます。
よろしくお願いします。
カリフォルニア サンディエゴ
駐車場には砂埃だらけの車が駐まり、昼間っから灯りっぱなしネオンの看板が輝く古臭い店内にこれまた古いロックンロールが響いている。
くたびれたビジネスマンに何十年ここに通い続けているかわからないような爺さん達しかいないダイナーのカウンターで、まるでここには似つかわしくないブロンドのロングヘアーの若い女が一人でサンドイッチにかぶりついていた。
「マスター、相変わらずここのサンドイッチは最高ね!」
「そうかい、ありがとよ。お嬢さんよくこんなところに通うな。これはサービスだ。」
ヒスパニックであろう初老のマスターと呼ばれた男が、彼女の前にコーラを置いた。
「前々から思っていたが、あんたその制服、海軍さんかい?」
「えぇそうよ。いつもは違うバトルドレスなんだけど、外出のときはこの制服を着ろって上官がうるさくて。」
「まぁ海軍にも美人さんがいたもんだ。」
彼女が食事を終え、コーラを飲み干そうとしているころ、駐車場にものすごい勢いでセダンが飛び込んできた。中から何マイル離れていても怒っているのがわかるような形相の海軍士官服に身を包んだ男が降りてきた。
「おい、アイオワ!やっぱりここか!!」
店内に入ると同時に叫ぶ海軍士官
「げぇ・・・」
「げぇじゃない。お前、15時には出港だろう!?こんなところにいる暇があるのか!?」
「荷物は纏めた。書類も終わらせた。それに少佐が14時までは自由にしてていいって言ったんじゃない!?まだ一時間半もあるわ!?」
少佐と呼ばれた男は頭を抱え出す。
「確かに言ったが、それは『基地内で』との意味だ。わざわざこんなとこまで来なくても基地内でいくらでも飯は食えるだろう!?」
「基地内で食事って言ったって、食べられる糞を出してくる食堂かいつもニヤケ顔の野朗が運んでくるピザ、それかお決まりのファストフードしかないじゃない?せめて旅立つ前にはお気に入りのダイナーでサンディエゴで食べられる最高のサンドイッチにかぶりついてたって文句を言われる筋合いはないわよ!」
「しかしなぁ・・・あぁもう。いいから行くぞ車に乗れ。マスター、いくらだ?」
「少佐さん、お嬢さんアイオワといいましたか?」
「あぁそうだが、それがどうかしたか?」
「アイオワですか、そうですか。あなたが艦娘の・・・アイオワさん、御代は結構だ。行きなさい、この国を、この国の海を頼んだよ。」
「マスター!」
アイオワは、マスターに投げキッスをすると少佐に引きづられ車に押し込まれていった。
少佐は、車のエンジンをかけると勢いよく国道へ飛び出た。程なくして国道はフリーウェイに合流する。
「まったく、お前には困ったもんだ。少しはおとなしく待っていることができんのか?」
少佐の問いに、ベーっと舌を出すアイオワ
「あそこのサンドイッチはそんなに美味いのか?」
「えぇ。この辺りで食べられる中じゃ最高にね。」
「俺も一度行ってみるかな。」
「オススメするわ。少佐も私を厄介払いできて少しは時間にゆとりができるでしょうし。」
「あのなぁ・・・時間ができるできないは別にして、厄介払いって言い方はないんじゃないか?これも任務だ。」
「だからっていきなり一人でハワイに行けってのは、どうなのよ?最前線も最前線じゃない!そこに一人って。」
「護衛の艦隊も着く。しばらくしたら日本の艦娘達とも合流できる。合衆国にはお前一人しかいないから仕方ないだろう。やっとの思いでできた艦娘だ、我々だってもっと丁重に扱いたいがもう猶予が無いんだ。」
少佐は、車の窓を開るとタバコに火をつけ話を続ける。
「それに政治家の連中が日本はともかく、ドイツイタリアまでにも先を越されて、艦種はなんでもいいからなんとかイングランドとロシアよりは先にと焦っていたところに戦艦アイオワときたもんだ。お前に掛かる期待は並大抵のもんじゃない。」
「それこそ勝手な都合じゃない。私だってこれから素敵な大学生活だって時にいきなり家に海軍のお偉いさん達が来たと思ったら、あなたには艦娘になれる素質がある。是非合衆国のために。って気づいたらアナポリスに監禁されて一年後にはこうよ、こう?」
「そこは俺にはなんとも言えん。いつだってあの連中が説明不足なのはわかるが・・・。実際、他にも艦娘になれる素質があった子達はいたようだが年齢的に戦艦の艦種を任せられるのがお前しかいなかったようだ。上の連中も期待の娘がこんなオテンバじゃあそれこそ同情したくなるが。」
「なによそれ!?」
「ともかくもう着く。今度こそ基地内で時間を潰しててくれ。時間になったら俺の部屋に来てくれ。頼むぞ。」
14:30 同基地内 少佐のオフィス
「アイオワ、入ります。」
「なんだ?まだ時間には早いぞ?これから大変なんだ自室でゆっくりしておけ。」
「暇で暇で。荷物も纏めてすることもないし、ここの看守様は監獄でのパーティーは許してくれないようですし?」
当たり前だ。とアイオワの嫌味かジョークなのかわからない一言に鼻で笑う少佐。
「しかし本当にどうした?」
「一応ね…お別れの前にキチンと挨拶をしに。」
「らしくないな。うむ…よし最後にコーヒーでも入れてやろう。 しかしもうお前も出撃か。最初に会ってどれくらい経った?」
「ちょうど10ヶ月くらいかしら。」
「そうか。10ヶ月か…最初に出会ったときのことが今でも昨日のことのように感じる。軽口なのとお調子者なのは変わらないがあの頃に比べるとだいぶ成長したな。」
「それはお互い様じゃない。」
「それは言うな。あの頃はまだ艦娘をどう教育していくか何もわからない状態だったんだ。それも日本からの助言のおかげでだいぶ捗ったがな。いいか、近い将来お前が指揮下に入るであろう日本の部隊の提督殿にあまり迷惑はかけるなよ?」
「何よ?嫉妬かしら?」
「あぁそうだ。」
少佐からの意外な言葉に口に含んでいたコーヒーを噴出しそうになるアイオワ。
「ゲホッゲホッ…ちょっと本気なの?」
「あぁ。できれば俺もお前と前線まで行き指揮を執ってやりたいができないんだ。ここまで二人で来た、なら初陣も一緒に飾ってやりたいが俺はお前を教育した実績とかいって合衆国海軍の艦娘研究班に栄転だそうだ。」
「よかったじゃない?」
「何もすべていいわけじゃない。確かにこの国の未来のために必要な研究に携われるのは名誉だがお前を一人放っておくのも気が気じゃないんだ。」
「今更そんなこと言われたら私だって行きにくくなるじゃない…できれば私も少佐と一緒がいい。でもそれはできないのはわかっている。なら私頑張るから。少佐が育てた合衆国の艦娘は伊達じゃないって。」
「あぁ頼んだぞ。期待している。 さて、そろそろ時間だ。港へ行くぞ。船が待っている。」
港
二人が港へ着くと若い水兵が駆け寄ってきた。
「アイオワさん、お待ちしておりました。荷物は先に積んでおきました。予定の海域に到達後、アイオワさんには艤装を装備し先行してもらう作戦に変更は無い模様です。それまでゆっくりとくつろいでいてほしいと艦長が仰っていました。」
「ありがとう。了解したわ。あとで挨拶に行くと艦長さんに伝えておいてくれるかしら?」
「了解しました。」
水兵は敬礼をすると勢いよく艦内へ駆け込んで行った。
「さて、少佐。ここで本当にお別れね?私行ってくるわ。」
「あぁ。俺から言うことはもう何もない。・・・っておい」
アイオワが少佐を抱きしめる。
「おいアイオワ!離せ!他の者に見られたらどうする!?」
「いいじゃない!最後くらい!」
少佐の頬に口づけをすると、アイオワはタラップを駆け上りくるりとその場で少佐のほうへ回ると叫んだ。
「Battle ship Iowa, weigh anchor! 」
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