2016-12-19 18:36:30 更新

本田未央と渋谷凛は、諸星がいる部屋から出ると階段の横手にあるエレベーターのボタンを押した。


未央「あれ? おかしーな」


未央「来る時は動いていたのに…」


未央「渋谷さん 階段しかないようだねー」


未央「早いとこ 降りようよ」


本田未央が渋谷凛にビルからの脱出を催促していた頃 ゲームマスターの諸星はというと


高木「いいんですかな? 諸星様」


諸星「何が…ですかな 高木さん」


高木「そろそろ私にあなたの切り札を見せてもらってもよろしいですかな?」


諸星「おや 気づいておりましたか」


高木「えぇ これだけの闘気を放っておいて気づかない筈がありえません」


諸星「楽しみは残しておきたいのだが仕方ない」


諸星はそう云うと胸ぐらからインカムとイヤホンを取り出し、インカムで誰かを呼び着けた。

高木はこの時、人と云うより獣に近い何が

風を切り、自分に殺気をあてがい近づいて来るのを察した。


高木「諸星様 切り札が私に殺気を浴びせて来るのは、どういう了見で?」


諸星「カカカッ すまない 私の切り札って言うのは実は娘でね 私が高木さんに何かやられると思っているのでしょう」


諸星が「入って来なさい」と一言を呼ぶと二人がいる部屋に入って来た人間はあまりにも巨大だった。


諸星「紹介します 儂の愛娘のきらりじゃ」


きらりと呼ばれれる女性は仮面を着け、腕は後ろに回され指に施錠されている。素性は分からないが、長身の高木を越える程の背が大きかった。


高木「ではすぐにその切り札を投入した方がよろしいかと」


諸星「高木さん 毎回こんなペースでね このゲームには順序がある 初めて来られた高木さんには分からないじゃろうがの」


諸星(お膳立てに手間が掛かっているんだ…

あっさり終わってつまらない しかも女二人)


諸星(徐々に…一滴一滴零れるんだ)


諸星(選択を誤るたび零れる 若き乙女の命の雫がな)



その頃 渋谷凛達は


凛「未央行こっか 上に…」


未央「は?」


未央「ちょっとビルから出るんでしょ? だったら下に…それに上は真っ暗だよ」


凛「そう? 私には下の方が暗いよ まあまあ私を信じてよ とりあえず屋上だよ」


凛(それに下は…臭いがし過ぎる 血 死臭が)


凛「ほら 置いていくよ」タッ


未央「ちょっと 待ってよ」



諸星「ふむ… 悲鳴が聞こえんな… 上に行きおったか 最初のワイヤートラップで驚きの叫びを聞くのが前菜だったのだが…… 屋上を目指したか」


諸星(何を期待してるか知らんがその選択… 正解のようで正解ではない自ら窮地にむかいおったわ)



未央「渋谷さん」ハァハァハァ


凛「何? 未央」ハァハァ


未央「何じゃないでしょ!! まさか一階も上がらずに息を切らすなんて体力ないにも程がある!!」


凛「へへ…悪いね… 高校の頃は体力あったんだけどね」


本田未央が渋谷凛と1000万入った鞄を抱き抱えながら根性で屋上まで登り切ると、二人は柵まで駆け寄り息を整え始めた。


凛「いやー 根性あるじゃん 未央」


未央「ま…まったく かんべんして…下さい」


未央「せっかく屋上に来たから隣のビルに飛び移れると思ったけど これは無理だね 10メートルは離れてるかも」


未央「まったく勘弁して欲しいよ」ハァー


未央「ほら あの人賭朗とか言い出してさ 身寄りがいないのは分かるけどこんな手のこんだ芝居までしてさ…」


未央「暇人に付き合うのも疲れるよねー」


凛「まーまー 未央」


凛「大丈夫だよ こんな時にこそ笑顔です」ニコ


未央(目の前にした1000万… じいさんの豹変ぶり 私だってそこまで馬鹿じゃない これが冗談でないって事はわかっている ただ…)


未央(そうだねって同意してくれたら楽になれるかもって思っていた… でも逆にそう言われたら安心しちゃったな)


未央「ねー 渋谷さん 何か作戦あるんでしょ 私何でもするよ」


凛「ん?だったらね そこの柵から飛び降りてみよっか」


未央「…… はあー!?」



渋谷凛の作戦を本田未央に伝えて5分後、彼女達がいる屋上に甲高い靴音が近づいてきた。


靴音の正体は暗視ゴーグルを着け、銃器を手にした兵士だった。


諸星「くう~~~」ハッハッハッ


諸星「痺れる~~」


諸星「弱らすんじゃ 徐々に… 徐々にじゃ!」


諸星「まずは悲鳴を儂に聞かせろ!!」


諸星「回線はこのままにしろ カカカッ!!」


兵士「了解」


諸星「追っ手は一人とは言っとらんからの」


諸星「儂は脱出を阻止するだけじゃ!」


諸星「そうら~ 地獄を見せてやれいっ!!」


高木「……諸星様」


高木「今回の勝負… ルールに関し双方合意したゆえ私も立会人として余計な口は挟みせんでしたが…」


高木「このままではハンデがありすぎます 私の言葉は不公平に聞こえるかも知れませんがこれでは勝負にならないゆえ」


諸星「カカッ もう勝負は始まっておるんじゃ 下らん横槍を入れると許さんぞ!!」


高木「失礼しました しかしこのままでは」


高木「あなたは間違いなく負けますな」


諸星「先程の会員権といい…おたくがあの娘を高く評価しとるのはわかった」


諸星「だがな儂の駒は全てが飛車、角の重装備 無手のあやつらは歩同然!!」


諸星「無手で武器にどう勝つ? あやつらの死は確定しとるわ!!」


高木(愚かな 生物にとって生とは勝利そのもの 生きる事自体が勝利であるならば人生とは勝負の連続…)


高木(すなわち 全てがギャンブル)



兵士「獲物は前方の広場には見当たらない 何処かに隠れているな」


兵士「それはそこだっ」


兵士の銃先は今さっき出てきた建物の後ろに向けて発砲し、屋根にいた渋谷凛は急いで身を屈めた。


兵士「バカめ 身を隠す場所のない前方にいないんだ」


兵士「ならばお前らはその建物に隠れるしかない そしてお前は追っ手の死角にいながら追っ手を確認出来る場所を選んだつもりが」


兵士「もっとも予想されやすい場所に身を隠していたってわけさ…」


兵士「ほらほら 俺が下がる度に姿が見えるぞぉ どうする」


凛「待って ちょっと待ってよ」


凛「取引しようよ ここに1000万円あるんだ」


兵士(コイツ 俺らがジジイに借金してるとでも思っているのか?)


兵士(クク… これは趣味さ 人間を狩ってみたい欲求に歯止めが利かんのさ)


兵士(元傭兵のジジイに誘われて欲に負けたマヌケを狩る 俺は狩りを楽しみ ジジイはそれを指揮する 何人殺ったか知らんがあのジジイ自らの手を下す事に飽き 兵士を操り 殺しを楽しむ変態よ!!)


兵士(ほんの少し遊んでやるか)


兵士「…本当か? 嘘じゃないよな?」


兵士「俺も二人同士に来たら勝つ自信は無かったんだ」


兵士「金を出すならこの場は目をつむってやるよ」


凛「その言葉 嘘じゃないよね?」


兵士「あぁ 撃たないよ 俺が金を確認している間に逃げればいい…」


兵士(奴が前に出た所を俺が柵の所まで下がれば奴が隠れる前に狙い撃ちが出来る)


凛「その言葉 信じるよ」


渋谷凛が立ち上がると視線の先は銃を構えた兵士が銃口を向けていた。


凛「あれ?何で銃構えてそんな所にいるのさ?」


兵士「バカめ まずは足でもいただくぞ!!」


兵士の指先が引き金に力を込める前に兵士にある違和感を感じた。軍靴越しから感じる僅かな感触 それを確認する前に兵士の下半身は柵の方へと持っていかれ、男にとって文字通り意味を成す 弱点 股関を鉄棒に強く打たれてしまった。


兵士(まさか ビルの庇にもう一人隠れているとは 取引で俺をここまで誘導したのか)


渋谷凛は泡を吹いて倒れてる兵士に近づき銃を取り上げて宣告した


凛「あんた 嘘つきだね」



客間

諸星「どうした? 応答せんか」


高木「どうやら 歩が飛車に勝ったようです」


諸星「くっ…」



屋上

凛「さてと 銃以外にナイフとスコープ まきびしって忍者なの? コイツ」


未央「銃でって 殺さ…」


未央「そっかそっかそっかそっか 殺されかけた これはこういうゲームなんだ…」ブツブツ


未央「私は大丈夫大丈夫大丈夫 ねぇそうでしょシブリン 間違えた渋凛さん?」アハアハ


凛(あらら 壊れたか 仕方ないか)


凛(精神の許容量越える現象に当たると人は生を見失うからね)


本田未央の精神が臨界点を達する前に渋谷凛が取った行動はと云うと、消音器を外し虚空を見つめている本田未央の後ろ姿に引き金を引いた。轟音と共に発砲された弾丸は本田未央の腕を掠れる程度 薄皮一枚だけ捲った。


未央「痛っ 何? あれ私今何やってたの? って言うか撃ったの!?」


凛「ちょっとした作戦でね… 後で活きてくるんだよその傷が…」


凛「まあ 楽しみにしててよ」


凛「あんなジジイ あっさり喰ってやる」



客間

高木「諸星様 そちらのきらり様を早く戦線に投入すべきです」


諸星「高木さん 心配は無用 まだ駒は残っておる それにコイツの出番は最後の締め」


諸星「つまりメインディッシュじゃ」


諸星「コイツのメインディッシュは病みつきになる美味さよ」


諸星「その時が来たらあんたにも味わわせてやるさ 高木さん」



その頃 渋谷凛達は…

7Fを無視して6Fのワイヤートラップを解除していた


未央(これって知らずに通ったら輪切りだよ…)


未央「渋谷さん そういえば屋上に行くときは暗かったのに、何で今電気着いてるんだろう?」


凛「それは自分達が暗視スコープを持っているからでしょ」


未央「って事はさ 私達が一人倒したって事はもう知られたって事?」


未央「私達 生きて出られるかな」


凛「出られるさ! 勝算はある! それはあのジジイが快楽殺人者だからさ この快楽って所が大事でね」


凛「あの手のタイプはあっさり人を殺さない 死にゆく様をじっくりたっぷり楽しもうとするはず」


凛「だから 屋上に来たのは一人だったんだよ とんだジジイの性癖だね」


凛「だからこそ喰い甲斐がある 勝負より先に快楽に走っている奴に私達が負ける訳がない」


凛「あんなジジイ 私にとっては餌同然」フフ


未央(なんか 渋谷さん 楽しそうだね)ゾクゾク


二人が談笑を終えるとまた光は消えてしまった

明かりが消えて五分後階段から聞こえるのは複数の靴音が6階全てに響いていた。


兵士1「この階に奴等はいるらしい ジジイの指示通り俺は下で待機する」


兵士2「あぁ任せろ」


兵士3「行くぞ」


兵士達は別れて廊下を歩くと、すぐに渋谷凛が奪ったまきびしの罠に引っ掛っかいていた。


兵士2「痛ってぇ あいつらふざけやがって」



未央「屋上と7階を無視してこっちに来たよ ここにいるの知ってるみたい」アセアセ


未央「でもあんなにわかりやすい所に置いたのに引っ掛かるのって若干マヌケだよね」


凛「落ち着いてって ここからは武器がこの場面での生命線になる 銃を貸して」


未央「うっ うん」


本田未央は自分達の命とも言える銃を渋谷凛に譲ろうとした時誤って地面に落としてしまった。


兵士2「あっちから音がしたぞ」


凛「もういい行くよ!」


未央「いいって生命線でしょ銃は!」


未央(ってあんた走って数メートルで息を切らすって)


兵士2「あいつら犯してやる」


兵士3「待てって ここは冷静になろうじゃないか この先は回廊になっているから 二人で待ち伏せしようや」


兵士2「了解」


兵士3「お前は奥の通路に行け 俺はこの通路を行って遠回りする」


兵士2「あぁ 了解した」


兵士2(さてと 目的地に着いたぞ トラップは解除されているか?)


兵士2「ちっ こっちは解除されている そっちはどうだ?」


兵士3「こっちは解除されていない ここは通ってないぞ」


兵士3「面倒だが慎重に進めるぞ」


兵士2「その必要はねぇ あいつら焦って銃を落としているぞ」


兵士2「狙撃の心配は無し 爺さん すぐに前菜をお届けにいくぜ」


諸星「カッカッ 意外と節穴ではないか賭朗の立会人も」


兵士2「居たぞ! 獲物だ!!」


暗視スコープ越しに見える黒髪の女性は退屈そうに襲い掛かって来る兵士に


凛「私達の生命線を握ったりなんかして あんた油断したね」


兵士2「何を世迷い言を」


兵士3「おい その銃に細工されてるかもしれん ナイフで仕留めろ」


兵士2「あぁ わかったよ もう持ち変えた」


諸星「さぁ 儂に聞かせろ!! 絶命の叫びを!!」


諸星の願い通り

ビル中に響く叫び声が彼の欲望を満たした


続く


このSSへの評価

このSSへの応援

このSSへのコメント


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください