2017-02-15 23:49:17 更新

概要

いじめられていた少女といじめの嫌いな転校生、二人の出会いと狂わされた人生。

全てが終わっても前を向いて歩き続ける、甘くて酸っぱい百合物語。


前書き

[注意] ・百合主体 ・微グロ描写 ・安定のgdgd&書きたいこと書いてるだけ


おはよう。


いや、こんにちは。


こんばんはかな?


あれから数年、今日は優さんの命日ですね。


唐突ですが、当時を振り返りながら手紙を書いてみようと思います。



僕たちの出会いは小学校の頃、10年以上も昔のことになります。


そう考えると、少し驚きですね。




また下駄箱に上履きがない。


代わりにあるのは大量の蟲。


いつも通り、燃えるゴミに投げ込まれていた上履きを拾い上げて教室へ。


纏わり付くような嘲笑を振り切り、勢い良く椅子を引く。


座面いっぱいの画鋲がじゃらじゃらと床に降った。


机の上には案の定、夥しい数の落書き。


死んじゃえ 帰れ バカ のろま


陳腐な雑言につい乾いた笑みが零れた。



何も知らない大人が入ってくると、僕を包む暗い視線は霧消する。


こうしてやっと僕の朝は始まるのだった。



無能な彼らが目を逸らすと、すぐに様々な形の苦痛が襲ってくる。


トイレに入れば冷たい水を浴びせられ。


体育に参加すると私服が行方を眩まし。


うっかり階段で気を抜くと数段を落とされる。


小学生とは思えない所業の数々。


もう慣れたことだ。


あと数年、たったそれだけ。


それだけの辛抱だ。




ただ毎日を耐えるだけだった僕。


そんな僕に生きる意味を与えてくれたのは、強くて『優』しい優さんでしたね。




「転校生の吠地 優 (ほえじ ゆう) です。よろしくお願いします!」


登校中に見かけたあの子だ。


ぼっとしていると、無能が何か言うのが聞こえた。


「これからよろしくね。えっと...名前を聞いてもいいかな?」


無能め、席を僕の後ろにしたな。


人当たりの良さそうな笑みで見つめてくる彼女。


視線が痛い。


「......いぬえ しぐれ」


視線を軽く流し、ぶっきらぼうに答える。


絶世の美少女と呼ぶにふさわしい、整った顔立ちがふっと和らぐ。


「珍しいね、どう書くの?」


羨望の視線を感じる、彼女の容姿なら納得が出来そうだ。


「不可能の『不』に居候の『居』、取得の『得』に『時』の『雨』」


コクコクと頷いた彼女が言わんとしていること、それは...


「「いい名前だね」...なんて言わないでね?」


「あぅ......」


わかりやすくシュンとしてしまった。


少しドライすぎただろうか。


「冗談。よろしくね」


わかりやすくパァッと元気になった。


「うん、不居得さん!」


彼女といると、自分の卑屈さを鏡で見ているようで辛い。



その後、件の吠地さんとは何の関わりもなく疎遠になる ......予定だった。


その日もいつも通り朝からいじめられ、吠地さんはそれを見ていた。


終学活が終わって担任が去り、逃げるように教室を出ようとしたところで足をかけられた。


反応することすら億劫だった僕がそのまま立ち去ろうとした時


「待って」


という凛とした声が響いた。


時間軸から切り離されたかのように動きの止まった教室。


声の主は俯き気味の吠地さん、クラス中の視線を受けて佇んでいる。


「今の。ワザとだよね」


無言の気迫に慌てて頷く一人の男子。


「朝から見てたけど私、もう我慢できないよ。誰かをいじめて楽しい?」


僕以外の全員がハッとした表情に、あるいは目を逸らす。


ゆっくりと視線を上げる彼女の目には、鬼神が如き怒りの奔流。


「そういうの大嫌いなんだ。怒っていいよね」


先程の男子が宙を舞った。


黒板に叩きつけられ、床に崩れ落ちる。


ざわつく教室、叫喚の審判が始まった。



「ふぅ...。おせっかいだったかな、ついやりすぎちゃった......」


額から汗を滴らせて苦笑する彼女。


一人一人を裁き切った姿のまま、真っすぐこちらへ歩み寄ってくる。


私は、何も考えられずにただ首を縦に振っていた。あの


「でも私は、これで良かったと思うよ。だって......」


ううん、と首を横に振り返し、子供を見る親のような視線で悲しげに言った。


「あなた自身が、あなたを否定していたから」


自分の醜さを哀れまれたようで腹が立った。


視界が霞み、口が勝手に薄っぺらな言い訳を紡ぐ。


「あなたは、変わり者なんかじゃない。いじめられていい人間なんかいない。それをあなたが理解しなくちゃ」


僕の心は、そんな言葉と軽い抱擁で崩れるほど脆くなっていたらしい。


彼女に抱かれて何時までも泣いた。


小学四年の夏。


半年と少しのいじめの終わりに待っていたのは、運命の出会いだった。




誰かが仕組んだかのような、鮮烈な出会いでした。


この出会いがなければ、僕は今ここに居られなかったかもしれません。


鮮烈と言えば、もう一つ忘れられない思い出があります。


あの時の笑顔です。


あの表情は一生忘れられません。




受験期真っ盛りの中学三年の秋、神妙な顔をした優さんが家に来た。


この時期だからこそ伝えたいことがあるそうだ。


母も快諾してくれた。



幼い頃に事故で父親を喪い、母と二人で暮らしている小さなアパート。


生来虚弱体質の僕は、そこで本に囲まれて生活している。


一方の優さんは、女癖の悪く失踪したのちに刺殺体で帰宅した父親を持ち、母親と二人暮らしだ。


二人とも理由は違えど父親が居らず、優さんが引っ越してきたのが僕の家の近くということもあり、母親同士も仲が良かった。


そんな背景から、優さんが家にやってくるのは珍しいことではなかったが、その日は妙にそわそわしている様子だった。



「ねぇ時雨ちゃん、学校...どこにした?」


僕の母は用事で外出していると知りながらも、なぜか声を潜めて聞かれる。


「えっと、一応  高校にしようと思ってるけど...」


僕が挙げたのは中堅上位の公立校。


運動はからっきしだが、頭は悪くないはずである。


「良かった...私もそこの推薦にしようと思ってるんだ...」


優さんは長い安堵の溜息をつく。


「ねぇ、時雨ちゃん......」


やはり変、快活な筈の彼女にしては、声が小さく俯き気味だ。


僕が小首を傾げると、上目遣いでこちらを見やる。


「私と...付き合って欲しいなって......や、やっぱりおかしいよね!女の子同士だし、こういうのってその...」


言うが早いが、あたふたと腕を振って誤魔化す優さん。


僕は軽く笑い、肩を震わせて今にも逃げ出しそうな彼女をそっと抱きしめる。


「...え......?」


状況が理解できず、抱擁の意味が信じられないままの耳元で囁いた。


「優さんがそう伝えよう、って決めるまでどれくらい苦しんだかよくわかるよ。だって僕も、優さんのこと、好きだから......」


息が詰まるほど抱きしめられた。


腕を頭に回し、再び囁く。


「ずっと一緒に居よう...?」


そっと離れる。


擡げられた表情は、幸せな涙でくしゃくしゃの愛しさに満ち溢れた笑顔だった。


緩く目を閉じると、唇に温かい何かが触れた。



こうして僕たちは正式に交際を始めた。


勉強に力が入ったのは、互いに気懸かりが消えたからだろうか。




あの時のあの言葉、とても嬉しかったです。


あのお陰でギリギリ合格できたのかもしれません。


受験当日に熱を出して、朦朧としたまま試験を受けたあと、優さんに怒られたのも思い出しました。


でもその分一緒に合格を確認できた時は、病み上がりの体さえ楽になるほど嬉しかったです。



愛する人と寝食を共にし、親にも認められた上で過ごす日々の幸せは筆舌に尽くしがたいものです。


ですがあの時既に、作為すら感じる不幸の楔は僕らの間に打ち込まれていたのかも知れません。




僕らの母親が死んだ。


原因は両目を抉り出されたことによる失血死。


犯人は未だ逃走中。


僕ら2人と2人の親がそれぞれの家に分かれて生活を始めてから、わずか1週間後の出来事だった。


若い(容姿の)女性の両目を抉って持ち去り、それ以外は一突きで惨殺。


手口からして犯人は『眼球抉り』、最近近くの街に現れた猟奇殺人犯らしい。


僕は何故か泣けなかった。


散々世話になったのに何故だろう。


優さんは悔しそうに片腕を握りしめていた。


指の跡が付くほど、怒りを込めていた。



彼女らをきっかけに、『眼球抉り』はこの街で活動を始めたようだ。


数週間後、易い葬儀が終わる頃には犠牲者は2桁、奪われた眼球は16を突破していた。



「出来た......♪」


今日の昼、優さんから『内定を貰えた』という旨のメールが届いた。


祝いの意味を込め、彼女に内緒で夕飯を少し贅沢にしてみたのだ。


とはいえそこは女二人だけの生活、手間を惜しまずコストはカットしてある。



親の死後に2人で話し合った末、優さんが就職、僕がパートタイマーを兼ねて家事を担うという生活を目指すことになった。


優さんは、高卒で就職するために勉強を。


僕は、優さんを支えるため知人から家事を。


各々の努力で何とか今の生活を送っている。


そんな中でのパートナーの内定だ、嬉しくないはずがない。


僕は浮足立っていた。



「ぴんぽーん」


チープでくぐもった電子音が、隣人への来客を告げる。


時刻は既に夜だ。


ガチャ... 「ぎゃっ」


扉の音に続いて聞こえた隣人の奇声に体が強張る。


アパートの外廊下を移動する足音で我に返り、慌てて扉の鍵へ飛び付いた。


やり方が完全に『奴』だ。


僕が鍵を閉めようと扉に触れようとした途端に扉が開く。


「しまっ...ぁ......」


凭れ掛かるように、『奴』の手の刃物へ体が触れた。


「ぁあ...ぐ......」


左の肩へ焼け付く様な痛み。


ダンッ、と床へ頭を叩き付けられた。


月の光を照り返し、赤黒い刃物が煌めく。


朦朧とする意識の中で僕が認識したもの。


迫る刃物。


倒れ伏す隣のおばあちゃん。


そこに迫った靴音。



目が覚めた。


視界が狭い。


「時雨ちゃん!よかった...生きててくれて......」


きつく抱きしめられる。


告白の時以来、一切涙を見せたことがなかった優さんが、僕の腕で号泣していた。


「僕は...どうなったの?」


薄々察しながらも尋ねると、丁寧に答えてくれた。



僕が意識を失った後、左目を抉られた直後に優さんが帰ってきたらしい。


隣人の喉から包丁を抜き、夢中で『眼球抉り』の心臓を後ろから刺し貫いたそうだ。


優さんが直ぐに救急を呼んだお陰で失血死を免れた。


「優さん、ありがとう...」


「ううん、当然だ、よっ......!?」


僕からは初めてする、深いキス。


あらあら、と若い看護師の声が聞こえたが、気にするもんか。


糸を引きながら顔を離すと、自然に顔が綻ぶ。


愛してるよ もちろんだよ、もっと愛してる


何方ともなく囁き合う。


唇が再び、優しく重なった。




互いに生活が充実し、家に帰れば大切な人がいる。


そんな当たり前の幸せを願ったのがいけなかったのでしょうか。


今でも僕は『奴』を許せません。


僕と優さんの間を引き裂く、不幸の楔を深く打ち込んだ『奴』を。




僕が、左目を包帯で隠すようになってから数年、僕らは普通の生活を取り戻した。


まるで夫婦のように暮らしている。


不定期とはいえ一緒に出掛けているので、周囲からの理解も深まっているようだ。



「今日は...そうだね、久しぶりにゆっくり買い物に行こうか」


上機嫌で僕の手を引く優さん。


今日は街に出て1日を過ごす予定だ。


自然と僕の足取りも軽くなった。



洋服をとっかえひっかえされ、着せ替え人形のように遊ばれたり。


食事中に写真を撮られ、「小動物みたい♪」とからかわれたり。


一つのアイスを一緒に食べて、隣の頬が紅くなっているのに気が付き、自分も顔が火照るのがわかったり。


時間はあっという間に過ぎた。



空が藍に染まる頃、僕らは大通りを歩いていた。


「今日はどうだった?」


僕の死角を減らすため、いつも左側を歩いてくれる優さんの顔は窺えない。


「最高だったよ」


彼女の不安を打ち消すように、ぎゅっと手を握る。


「良かった」


短い言葉と共に、手を握り返された。


12月も半ば、赤や緑に色付き賑わう街の中でもその声はしっかり耳へ届く。


「ねぇ、時雨ちゃん...」


この切り出し方は、大切な話の時だ。


これも一緒にいたからこそわかったことである。


「なぁに、優さん......?」


突然、左手の温もりが揺らいだ。


「優さん...?優さん!?」


喀血し、倒れかけた体を抱きかかえる。


見ると、白いシャツの襟元が赤黒く染まっていた。


「ごめんね...」


咳き込む度に血が噴き出すは、僕の顔を紅に染めた。


「待ってね、すぐに病院行くから...」


見た目に反し、背負うと軽い優さんの手は固く冷え切っていた。



心臓を貫かれた『眼球抉り』が、振り向きざまに放った一振りは優さんの喉へ吸い込まれ、僅かに気道を傷付けていた。


僕に言わずに治療していたようだが、限界が来たとのことだった。


確かに、ここ最近不自然な咳が多かった。


あそこで問い詰めていればよかった。


隠したという優しさに気が付けなかった。


後悔だけが残った。


「場所が場所、手術は難しい。次に傷が開くまでの間、大切にして過ごしてほしい」


それだけで充分だった。


優さんが目覚めるまで数日が掛かった。




僕はあの時決めました。


心配を残さないように逝かせてあげようって。


そう決めてからの日々は、一言一句はっきりと覚えています。




「優さん。最期の最後まで、絶対に離れないからね」


聡い彼女は動じない、自分でもわかっているのだろう。


ただ柔らかく微笑み、抱きしめてくれるばかりだった。


「わかったよ。今時雨ちゃんが考えてることも、私への思いも」


僕が涙を流そうとも、そっと撫でてくれるだけだった。



時間が経つのは早かった。


優さんの「ゆっくりしたいね、全部忘れて」という一言で、小さな森の小さな家へ引っ越した。


今までの写真を持ち寄って、二人だけのアルバムを作った。


大切に、大切にリビングに飾った。


どっちの料理が美味しいか、勝負もしてみた。


どっちも判断が甘くて引き分けた。


どうしても、と言われて一日中愛し合った。


めろめろになっても、貪るように愛された。


レコーダーを買ってメモリ一杯に、言いたいことを全部詰め込んでもらった。


何気ない会話の隠し撮りもした。


一日中語り合った。


言い争いもあったけど、最後は納得するところまで行った。



いっぱい笑った。


いっぱい泣いた。


少しだけ喧嘩もした。


その分抱き合った。


満足できなかった。


掛け替えのない時間になった。


ついに、終わりが来た。



「けほ、けほっ」


優さんが咳き込みだした。


一度血で咽ると、咳をする衝撃で傷が開くという悪循環だ。


直ぐに搬送され、応急処置が済む。



「手術をしましょう。成功する確率は高くありませんが、これ以上は誤魔化せません」


大丈夫、覚悟はとうの昔に決めた。


それなのに、涙が止まらない。


「優さん...嫌だよ......」


引き留めてしまった。


そっと手を握られる。


「ごめんね。私、頑張るから...」


呼吸器越しで弱々しくくぐもった声。


「絶対に帰ってきてね」


手術室がすぐそこに迫る。


「うん、すぐ戻るよ♪」


最後まで気丈な振る舞いを見せた彼女。


僕は見てしまった。


呼吸器と距離の壁に隔てられ、耳へ届かなかった言葉を。


それを見ても何も言えなかった。



優さんが帰ってきた。


手術は数十時間にも及んだ。


握りしめた手は、現世のものではない冷たさを持っていた。


「最後まで泣きっぱなしでごめんなさい」



本人の希望で、墓は新たに作られた。


終末期を過ごした家の隣で、ユウガオの花に囲まれて。




今は、優さんに心配をかけないよう、必死に生活しています。


『奴』に狂わされた人生は未だに納得できませんが、大切な思い出を守るためにも前を向いて歩いていきます。


きっと、見守っていてくれますよね。


使えたいことは色々ありますが、キリがないのでまた別の機会に。



ふと読み返してみると、言葉足らずで何が言いたいかまかりませんね...。


今も昔もごめんなさい。


でもこうして過去を懐かしむのも楽しかったです。


今までずっと、これからずっとありがとう...♪



吠地 時雨


後書き

いかがでしたでしょうか

今後の参考にさせていただきたいので、よろしければコメント等よろしくお願いします


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