2018-06-19 11:52:42 更新

概要

『深海に落ちた提督』のアフターストーリーです。時系列としてはエピローグの少し後ということになります。


前書き

提督が鎮守府に戻った後の艦娘達との関わりを描きました。少し甘めです。
基本的に艦娘視点で進行いたします。


Episode 木曾

月明かりが煌々と照らす夜、ふと窓の外を見ると提督が防波堤に座っているのを見つけた。

まだ肌寒い時期にも関わらず、提督はそこに座ったまま何をするでもなくじっとしている。

少し気になった俺は外套を肩に引っかけ、外へ向かった。


近くまで行くと提督はすぐ俺に気がついた。


「あっ、木曾。こんばんは」


「ああ…お前、こんなとこで何やってるんだ?」


俺がそう訊くと提督は視線を戻し、空を指さした。


「月を見てたの。今日は満月だし、よく肥えてるから…」


空を見上げると、確かに月が綺麗に顔を覗かせている。なるほど、これに見惚れていたということか…提督らしいな。

そうしているうちに、俺もなんとなく月を眺めていたくなった。


「…隣、いいか?」


そう言うと、提督は嬉しそうな顔をして右手で防波堤を叩き、俺を招いた。

それに習って俺は提督の右隣に腰掛けた。

それからは互いに何も言葉を交わすことなくただじっと月を眺めていた。

…はずだったのだが、気がつくと俺は月ではなく提督の横顔をじっと見つめていた。

提督もそれに気がついたようで、こっちに顔を向けて少し微笑んだ。


「ん? どうしたの、木曾?」


「…いや、なんでもない」


俺は視線を戻し、帽子を深く被った。

…まさか、『お前の横顔に見惚れていた』なんて言えるはずもない。

提督が響に指輪を渡した時に踏ん切りをつけたつもりだったが…やはり、この思いは誤魔化せないようだ。


「…なぁ、提督」


「なに?」


「月が…綺麗だな」


「…そうだね、みんなにも見せてあげたかったなぁ…」


…心の中でため息をつく。やっぱりこの朴念仁には伝わらないか…まぁ、それをわかっているのに直球に言うことができない俺も俺だが。



「…さて、と。私はそろそろ戻るよ。木曾も一緒に戻る?」


しばらくして、提督はそう言いながら立ち上がった。

俺は少し考えてからゆっくりと首を横に振る。


「俺はもう少し見ていく」


「そっか…風邪ひかないようにね」


そう言い残すと提督は防波堤を降り、鎮守府に向かって歩いて行った。俺はそれを見送るように提督の後ろ姿を見つめた。


すると、半分ほど行ったところで急に提督の足が止まった。

そして、こちらに振り返りながら…


「…私も木曾のこと大好きだよ」


「っ!?」


あまりに突然の出来事に、頭の中がが真っ白になってしまった俺を構うことなく、提督は足早に鎮守府へと消えていった。


それからしばらくして、ようやく落ち着きを取り戻した俺は乱暴に髪を掻いた。


「…んだよ、それ…反則だろ…」


前言撤回。あいつは朴念仁なんかじゃない…少なくとも、俺よりかは上手だ。

はぁ…せっかく諦めがついたと思ったのに…あんなこと言われちゃ…


「…諦めきれなくなるだろ…」



【Episode木曾 END】






Episode 神通

「準備はいいですか? 提督」


木刀を正眼に構えつつ、神通は対極にいる提督を真剣な面持ちでじっと見据える。華の二水戦旗艦の名に恥じぬ鋭い視線を受けながらも、相対する提督はどこか楽しそうな笑みを浮かべた。


「いつでもいいよ、神通」


そう言って、提督も神通と同じように木刀を構える。

そして、一瞬の静寂の後…


「…参ります!」


先に動いたのは神通だった。

素早く提督との距離を詰め、袈裟に切り込む。一方、提督はその鋭い一薙を軽くいなし、間合いを取るため一歩後退しようとするが…


「…逃がしませんよ!」


神通はすぐに体勢を立て直し、再び間合いを詰めて今度は鋭い突きを放つ。提督はそれを身を翻して躱すが、神通の攻撃はそれだけでは終わらない。

突きが躱された瞬間、木刀を横に薙ぎ払って追撃をかける、それが防がれると体を反転させて袈裟に切り込む…と隙のない連続した攻撃を仕掛けた。

しかし、提督は平静を崩さない。

一撃一撃を見切って躱し、躱せない攻撃があれば木刀でいなすか、刀身で受け止める。

カッ、カッという乾いた音を上げながら、その後しばらく拮抗した打ち合いが続く。



そして、その均衡は突如として破られる。


「———ハァッ!!」


一瞬の隙を見逃さず、神通の木刀が提督の肩を捉える。

しかし、神通は喜ぶどころか沈痛そうな面持ちで視線を落とした。そこには、提督の木刀が神通の脇腹を的確に捉えていた。


「…引き分け、かな?」


「いえ、私の方が少し遅かったです。やはり、まだ提督には及びませんか…」


「やれやれ。相変わらず、神通は自分に厳しいね」


少し呆れ気味になりながらも、提督はそう言って神通に笑いかける。それにつられて、神通も表情を綻ばせた。




稽古を終えて休憩をしている最中、ふと視線を感じて神通が顔を上げると、提督がじっと神通を見据えていた。


「提督? あの…どうかしましたか?」


「あっ、ごめんごめん。…神通、変わったなぁって思って。昔はいつも自信がなさそうだったのに、今はそんな雰囲気を微塵も感じないから…」


「…そう…でしょうか?」


—そう言われても、自分ではあまり実感がわかない。でも、もし私が本当に変われているのだとしたら…それはきっと、貴女のおかげ。

未熟でどうしようもなかった私を見捨てず、親身になって支えてくれた貴女がいたから…私は少しだけ自信をもつことができた。


「…提督」


少しの間を置いて、神通が提督に声をかける。その目には、確かな決意が宿っていた。


「私、もっと強くなります。二水戦の名に恥じぬよう…そして何より、提督、貴女の力になれるように」


「もう充分強いと思うけどね、神通は。…でも、ありがとう。これからも頼りにしてるよ」



【Episode 神通 END】


後書き

大分…いや、かなり遅くなりましたが、神通編終了です。
次は時雨&夕立か鈴谷&熊野のお話を考えています。


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