2017-08-18 05:13:33 更新

概要

9章です。3/7の更新は次章のサブタイトルを追加したのみです。


前書き


注意事項
【勢い】
・ぷらずまさんと称しているだけのクソガキな電ちゃんの形をしたなにか。

・わるさめちゃんと称しているだけの春雨駆逐棲姫の形をしたノリとテンションの女の子。

・明石さんの弟子をしているアッシーという短気で無礼気味な明石君。明石表記が明石君でお馴染みのほうが明石さん表記です。

※海の傷痕は設定として
【2次元3次元、特に艦隊これくしょんを愛する皆様の想いを傷つける最悪な言動】
をすると思います。相変わらずの作者の勢いやりたい放題力量不足を許せる海のように深く広い心をお持ちの方に限り、お進みください。

もう矛盾あっても直せない恐れあり。チート、にわか知識、オリ設定、独自解釈、日本語崩壊、キャラ崩壊、戦闘描写お粗末、魔改造、スマホ書きスマホ投稿etc.

※2/21~誤字脱字修正、サブタイトル追加等々行うかもしれません。

ダメな方はすぐにブラウザバックお願いします。


【1ワ●:チューキさん抜錨】

 

1

 

中枢棲姫「以上です。お忘れなきよう」

 

 

水母棲姫「向こうからの情報はどうなの?」

 

 

中枢棲姫「非常に捗りましたが、謎は解けませんね」



中枢棲姫「まず深海妖精可視のシステムです。深海妖精が視えるのは何かしらの共通点があると思ったのですが、どうなんでしょう。私とリコリスのは深海棲艦の知能覚醒ゆえなのか、それとも向こうサイドの深海妖精可視の才の条件と同じく、選定されたモノなのか」

 

 

中枢棲姫「……、……」

 

 

中枢棲姫「海の傷痕公認の想の権限を持たされたこのゲームのサポーターみたいなやつがいます、ね。それと『明石君』の適性の件が絡んでいる可能性が高いと見ます。彼は……」

 

 

中枢棲姫「海の傷痕かそのサポーターが何らかの理由で贔屓したの、かな。明石君は『プレイヤー』ではなく『ゲスト』みたいなものかもしれません」


 

中枢棲姫「兄妹そろって、というのも気になります」

 

 

中枢棲姫「初霜さんの情報も知りたいですね。あの子も重要な存在のような気がします」


 

水母棲姫「で、向こうの脅しはどうするの。かなり必死みたいだけど」

 

 

中枢棲姫「構いません。むしろこちらから望んでいた機会でもあります。スイキ、よろしくお願いします」

 

 

水母棲姫「了解。私は乗り気じゃないけどレッちゃんとネッちゃんはやる気みたいねえ。わるさめのやつと会ってきてテンション高いみたい……」


 

中枢棲姫「なんだかんだで仲が良かったみたいですからね。お二人が建造終わった後にお伝えください」

 

 

水母棲姫「それと本当もう私を霊柩母艦みたいに扱うのやめてよ……溜めていたモノがあったからいいものを、身投げスポット回ったところでそんな簡単に人間なんて落ちてないんだから」

 

 

中枢棲姫「すみません……」

 

 

中枢棲姫「……、……」

 

 

中枢棲姫「しかしこうも情報交換に苦労するのはよろしくないです」

 

 

中枢棲姫「スイキ、あなた陸にあがれるようにして向こうの鎮守府に忍び込みませんか……?」

 

 

水母棲姫「チューキお前いい加減にして?」

 

 

水母棲姫「あの鎮守府が私にとってどういうところか知ってるでしょうが……」

 


水母棲姫「丁准将のところにいた記憶はまだうっすらだけど、フレデリカさんのところにいた時の記憶はほぼ完全に。わるさめが春雨だった頃も、間宮さんのことも、電のことも、阿武隈、卯月も、天城なんかのことも思い出したわ」



水母棲姫「春さ、わるさめのやつは水母棲姫として過ごした時間のせいでマシだけど、あそこの鎮守府連中の顔なんか見たくないのよ」



中枢棲姫「ですよね……」

 

 

中枢棲姫「でも、今後の作戦です。遂行してください。私達だけでは海の傷痕には勝てません」

 


水母棲姫「分かってるわよ、くそ……」


 

中枢棲姫「私は少し出かけて来ますので、よろしくお願いします」

 

 

水母棲姫「そうよ。あんたもふんぞり返ってないで働きなさい。あんたの壊のギミックはチート性能だし、ちょっとやそっとじゃ死なないでしょ」

 

 

水母棲姫「それでどこに行くわけ?」

 

 

中枢棲姫「いちいち暗号を使って密会などしていられません。私とリコリスで通常深海棲艦を使用して2年前から進めていた計画を再起させます」

 

 

水母棲姫「まだやるのアレ。あの計画のせいで丙少将に目をつけられたのよね。あれって目立つうえ、リスキーだから断念したんじゃ?」

 

 

水母棲姫「安全航路を航行してる企業の輸送船なんか襲うから、面倒になるのよ。向こうの通信システムの技術員なんかも襲ってたでしょ?」


 

中枢棲姫「企業のシステム構築と工作艦明石さんが妖精との意思疏通で造り出したあの通信システムは我々にも導入したいところです」



中枢棲姫「工作艦艤装は必要なく、資材と可視者、開発妖精さえいれば構築可能なのです。いくら深海棲艦と意思のやり取りが出来るといっても、我々が人間サイドに負けていた1つの理由が戦場における情報伝達手段の不利ですし」

 

 

水母棲姫「まあ、アレは深海棲艦の知能の程を逆手に取られていた訳よね。並の深海棲艦が聞いても長ったらしいのは理解できないもの。こちらがキャッチしたところで、よね」

 

 

中枢棲姫「ええ、深海棲艦そのものの通信システムは今となれば、想の伝達、それもかなりお粗末に設定されているのはバランス調整の一環でしょうね。向こうの通信は暗号化すらされておらず、主にリコリスがその通信を傍受してあちらの情報を探っていましたが」

 

 

中枢棲姫「わるさめさんが離脱した辺りから暗号化の動きがあり、面倒です。そのため頓挫していた計画を進めて第0基地に保存していた設備を移送させたいと思います」

 

 

中枢棲姫「あの提督、こちらが輸送船を何のために襲ったのかも察しているみたいですね」

 

 

水母棲姫「アナログ系のあんたがそんな技術員みたいな真似、出来るわけ?」

 

 

中枢棲姫「鹿島がくれたこの大量の資料は読みましたので、やれます。そう大して難しくもありません。大変なのは妖精さんです」

 

 

水母棲姫「ええ……私が読んでも意味不明なんだけど……」

 

 

中枢棲姫「我々の艤装に人間サイドの通信システムを組み込みます。その為のアドバイスを向こうの提督から頂きましたからね。そして、向こうの極秘回線手段も。ならば……」

 

 

中枢棲姫「スムーズなやり取りを可能にするために、鎮守府(闇)との通信を確立させます。通信が不安定になる場所も考慮して、保存してある機材を利用し、手土産に向こう側が踏み込めずにいる深海棲艦の領海内に中継地点をいくつか作りますかね。スイキ達にも遠方から声が届くようになります」

 

 

中枢棲姫「全てが効率的になります」

 

 

水母棲姫「私達が戦う際にあんたが提督みたいに指揮を執るってこと?」

 

 

中枢棲姫「それも可能ですね。スイキはレッちゃんネッちゃん達と比較的知能の高い簡単な言葉が通じる姫や鬼を集めて下さい。多少は力ずくでも」

 

 

水母棲姫「まあ、それは比較的、簡単ね。あんたの名前出しただけでビビるやつ多いし……」

 

 

中枢棲姫「彼等にも通信システムを組み込みます。現場の旗艦の姫鬼から、艦隊への意思疏通。ある程度は策に沿って行動を制限させられます」

 

 

水母棲姫「でも、鎮守府の通信システムは艦娘が使っているようなものじゃなくて、アレはアレでまた別じゃ?」

 

 

中枢棲姫「あの通信設備事態はそんな大掛かりではなく、鎮守府が動かないゆえに複雑化していますが、深海棲艦である私達ならば違う手段が取れます」

 

 

中枢棲姫「あなた達が魔改造により、五感を強化しているのと同じく、私の身体にも魔改造を施します」

 

 

中枢棲姫「核となるシステムは生きている私が積みます。深海棲艦は自動再生、弾薬燃料といったモノを生成します。通信システムを組み込めば、このような拠点は必要性が減ります」

 

 

中枢棲姫「艦隊そのものが動く鎮守府ですから」

 

 

水母棲姫「あんたにそんなこと吹き込んで。向こうの提督、殺されるんじゃ……」

 

 

中枢棲姫「なに、私が発案したことですよ。先の決戦で知能の程は知ってもらえたので、こちらにそのくらいの閃きがあり得るとお分かりかと。過去の輸送船を襲った事実からしても前々から企んでいたことに出来ますし、事実ですしね。言い逃れは辻褄さえ合えば可能です」

 

 

中枢棲姫「密会がバレていないのなら、ですが。わるさめさんと出会ったというのは向こうの提督の想定外でしょう」

 

 

中枢棲姫「このやり取り内容を知っていた向こうの鹿島さんと明石君、更に電や初霜さんもいながら仲良く行動していたのなら、とても知能があるとは思えません。私が向こうの提督だったら、ガチで半殺しにしている失態です」

 

 

水母棲姫「あ、だからレッちゃんとネッちゃんに怒ったのね」

 

 

中枢棲姫「極秘任務に海屑艦隊の服を着るだなんて、そんなふざけた真似はリコリスですらも激怒です」

 

 

水母棲姫「リコリスの怒りはほとんど教育だったけどねー」

 

 

中枢棲姫「情報は些細な問題です。お土産に過ぎません。あの提督は我々を深海から引き上げようとしてくれている。その手は」



中枢棲姫「握手の形です」



水母棲姫「逆の手に銛でも持ってるかもよー」



【2ワ●:よーいドン】

 

 

甲大将「ほら、今回の作戦と相手の面子だ。目を通しておいてくれ」

 

 

木曾「……ふぅん」

 

 

甲大将「眉を潜めたその面を見れば分かる。気に食わねえっていうんだろ」

 

 

甲大将「ここまでするのか、ここまでやって勝ちたいのか、とか。グラーフにまでドン引きされたよ」

 

 

甲大将「あくまで味方の連中をここまで残虐に潰すことに何の意味がある、と」

 

 

木曾「違う。こんなん大将らしくねえし、この作戦は俺達に対してこういってるんだ。いいたくもなるさ」

 

 

木曾「『お前らの実力じゃ真正面から戦っても勝てません』」

 


甲大将「あー……その通りだ。お前らじゃ向こうの連中には勝てない。丙んとこの第1艦隊と組んでも、兵士の総合力としては負けてる」

 

 

甲大将「なにお前、勝てそうな相手としか戦いたくねえの?」

 

 

木曾「戦争やってんのに強い相手としか戦いたくねえとか馬鹿じゃねえか。弱いに越したことはないだろ」

 

 

木曾「俺個人として強いやつと戦うのは好きだ、な。スイキだっけ。俺のほうが絶対に強いけど、戦うの面白かった。弱いやつが成長するための壁役のほうがやり甲斐あんだよ」

 

 

木曾「俺も、歳を取ったのかな」

 


甲大将「お前、地元の連れんとこに行くもんな。15年くらいは経ってるか。あの頃の仲間が三十路にもになりゃ物思いにも耽るか」

 


木曾「まーなー……」



北上「こんちゃー。それいったら私や大井っちなんて、もっと歳を取ってるんだけどね」


 

大井「まあ、大将さんももう29を迎えますし。最初よりは大分らしくなりましたけど、この人」

 

 

北上「ま、29なんて若い若い。平均寿命的に折り返し地点もまだじゃん。大将は出世コースで来たけど、箱入り娘だからね。最初はいっつもべそかいて駆逐艦並にうざかった」


 

木曾「それな。いいとこのお嬢ちゃんで血も見たことねえし、負けたらさ、わんわん泣いてうっとおしかった」

 

 

大井「私達もかなり弱かったですね。雷巡が使えなくて余っているとか、本来あり得ないことでしたし」

 

 

甲大将「いいたい放題だな……」

 

 

木曾「最初ん頃は弱かったから無我夢中で、いつの間にか気付けば大将の艦隊になってた。そこからは薄いな」

 

 

北上「向こうは私達とは逆に燃えているんだろーね。阿武隈はかなりやる気あったし。私達はもうしおれちゃいましたよ」

 

 

木曾「ここまで来るまでに全て吐き出しちまったからな。もう言葉も魂も荒波もなく穏やかだ」

 

 

木曾「天井が見えるっていうのかな。若い世代に後は託して、老兵は去るのみっつーのが骨身に染みて分かるぜ」

 

 

木曾「今だと山風とか入ってきたろ。ガンバって生きてけよ、なんかしてやれることねえかなって思う。普段の俺はもうそんな感じだ」



大井「でもまあ……」

 

 

大井「だから向こうのほうが強いんでしょうね。大将さんが練った作戦はこんな風になる訳です」

 

 

大井「電や明石さんを見習うべきですね。こうやって過去を懐かしんでいる時点で私達は綺麗に飾られたアンティークです」

 

 

大井「私は少し泣かせたい相手いますし、やる気はあるんですけどね」



北上「ほう。誰さ?」



大井「卯月です。私達は秋月を失ってから、かなりへこみました。木曾は性格的に違いますけど、この子は阿武隈と違って、3日後にはけろりとしていたそうです」



木曾「聞いたことはあるな。阿武隈は笑えねえレベルで病んでいたって。まあ、姉妹艦なうえ、旗艦だ。提督にも見捨てられたわけだし」



木曾「卯月は姉妹艦の睦月型四人だろ。姉妹艦効果があるから、むしろ阿武隈よりもダメージ受けるはずなんだけどな」



木曾「……、……」



木曾「ネジ飛んでる?」



大井「さあ。ですけど気になるんですよね。余計なお世話でしょうけど、実年齢15歳の子にしては、と。もしかしたら自分に嘘ついているのかも、とか。そんな気です」



甲大将「まあ、私としては前々からあいつらと演習やってみたかったんだよな。お前らおごってるから、気付けになると思って」

 

 

江風「あ、大井さんいた!」

 

 

江風「この3人、江風から引っ付いて離れないンだけど! なんとかしてくれ!」

 

 

大井「なにをしてるんです……」


 

球磨「江風の体温が温かいクーマー」


 

多摩「にゃー……」

 

 

漣「うーす。江風さんの体温とろけるんすよー……良い匂いするしぃ」

 

 

江風「うっとおしいンだよ! 山風のほうにいってろ!」

 

 

漣「あの山風たん、江風さんと違って怒ると怖いんすよ~」

 

 

漣「つーか大将逹なにしてんです。近々キラークイーン提督んとこと演習あるんでしょ。漣は主に警備なわけですがー、演習でもしたらどうですか。あいつらいわずもがな強いですよー」

 

 

甲大将「大井はセーフ。木曾と北上が萎れてんだよ。ここ最近こいつら刺激が足りてねえ年寄りみてえ」

 

 

江風「……」

 

 

江風「やる気ないなら消えろよ」

 

 

木曾・北上・大井「……」

 

 

江風「向こうの鎮守府(闇)のほうが江風達より凄まじいだろ。江風達だってそれなりに結果を出してここにいる」

 

 

江風「けどさ、鎮守府(闇)と比較したらクソみたいな結果だ」

 

 

漣「そういえば、江風さんは向こうの鎮守府にお世話になってたんだっけ」

 

 

江風「うん。あいつらどう考えても強い。この鎮守府にはないモンをたくさん持ってる。そうじゃなくても端から見ていても分かンだろ」

 

 

江風「一年足らずだぜ。あいつら寄せ集めの時から、その間に最強レベルの敵ばっかと戦って勝ち続けてる」

 

 

球磨「まー、深海棲艦の反転建造システムからの、深海妖精の件はすごいクマ。あれでもう海が変わったクマ」

 

 

多摩「トランスタイプも相当にゃ。正直多摩では一矢報いるのが精一杯」

 

 

江風「違えよ。そこよりももっとすごいことがあるんだ。偶然と言えばそれまでだけど……」

 

 

江風「気付いてるかよ」

 

 

江風「電とあの司令官さんが手を組んだ時から対深海棲艦海軍から」

 

 

江風「殉職者、出てねえ。偶然だろうけど、なんかありそう。って思わせる連中だ」

 

 

江風「ったく。江風は本気じゃないわるさめにコテンパンにされたってのに。木曾さんと互角に戦えた神通だってあの馬鹿にやられてンだ」

 

 

江風「大本営での映像は見ただろ。海の傷痕は電でも手も足も出ず、正しくあんなん悪夢の類だ。勝てる気はしない。戦ってもないのに、心が折れたのは初めての経験だ」

 

 

漣「あれはパネっす。ラスボスというか、製作者が管理者権限駆使して参加してくるとか、クソゲーの類ですわ……」

 

 

江風「でも、あの提督は艤装もねえのに海の傷痕に真正面から戦いを挑んで」

 

 

江風「海の傷痕に」

 

 

江風「負けたっていわせたンだぞ」

 

 

江風「電は気に食わねえけど、傷があって手がつけらンねえ性格なのは知ってた。その電を、救い出した」

 

 

江風「かっこいい」

 

 

江風「初めて女であることを自覚した程だ。電は男を見る目があるなって。この江風に戦う前から敬意を払わせるような提督だ」

 

 

木曾「……」

 

 

江風「真珠湾で、秋月が死んだ時から江風はずっと思ってた」

 

 

江風「スポーツじゃねえ。負けても得るものが、とか、そんな次元で汗と血と涙を流して来たわけじゃない」

 

 

江風「この戦争は負けたら失うだけなンだ。取り返しがつかねえ命は不可逆だからな。でも、心のほうは可逆なンだ」

 

 

江風「遅くスタートしている奴らに、対深海棲艦海軍からお払い箱になってたような奴らに、全て負けてる」

 

 

江風「負けてンだぞ」

 

 

江風「あんたらは悔しくねえのか?」

 

 

江風「無理やり江風を拉致っていた頃のほうが熱かった。あんたらは老け込んだンじゃなくて」

 

 

江風「腑抜けたことを自覚しろ、この大将艦隊の恥さらしどもめ」

 

 

江風「弱いンだから、やり方に文句いってンじゃねえよバーカ!」

 

 

江風「大将や丙ちゃんがこんな作戦を組むのも江風達が弱いせいだろ」

 

 

江風「江風は敗けねーからな! 秋月が江風守って亡骸になった時から、最後まで戦うって決めてンの!」

 


江風「足を引っ張る気ならここで留守番しててくれよ。頼むから」



大井「だそうですけど、どうするんですか。私としても江風と同じ意見ですので、やる気が出ないのならここで留守番でもして漣でも出したほうがマシですね」

 

 

江風「大井さんは信じてた。この手の問題は大体ブルーになってる木曾さんか、マイペースな北上さんのどっちかが発信源だ」

 

 

甲大将「まあ、いつもの通り本気でいってる訳じゃねえだろ。戦い始まれば勝手に直んだろ」

 

 

北上「江風はいうようになったもんだなあ。あの海ではずっと泣きじゃくってたのに」

 

 

北上「なンで進むのー、隊列に一人足りないじゃンかよー、とかって」

 

 

北上「深海棲艦達から攻撃されまくってんのに、お前の砲口ずっと真上を向いてて使い物にならないし」

 

 

江風「あの時のことは許さねえから。木曾さんはお前のせいだっていって、秋月の首を江風に突き付けて、大井さんは江風を蹴っ飛ばして伊勢のやつに引っ張らせていかせて、北上さんは駆逐艦ウザいって馬鹿にしたこと!」

 

 

木曾「ンだよ、お前が守られるような真似したから秋月は死ぬ羽目になった。それでもぐじぐじと泣く始末だから秋月の亡骸突き付けてあやしてやったんだろうがよ」

 


大井「むしろ秋月の犠牲をなめてたのは江風のほうでしたからね……あの場であなたが死んだら秋月は無駄死にです」

 

 

北上「味方殺すような真似して愚図るやつとかうざいだろ。雷撃しなかっただけ感謝して欲しいもんですよ」

 

 

江風「だから、もう違うっていってンだよ! あんたらこそ終わりが見えた今、やる気がねえってぼやくなら」

 

 

江風「うぜえうぜえうぜえ!」

 

 

甲大将「お前らホントに仲良しだな。何回似たようなケンカしてんだよ」

 

 

甲大将「せっかくだから向こうの提督と話してなんか賭けてもらおうかな。私としては演習やるんならなんか賭けたほうが楽しいんだよな」

 

 

木曾「江風が向こうの提督気に入ってるみたいだから、江風とくっつけてやれよ。こいつ、戦争終わったら身を固めて孝行させるべきだと思うぜ」

 

 

甲大将「それは間違いねえな」

 

 

江風「余計なお世話だ!」

 

 

大井「向こうの提督さん、鋼の精神力と聞いていますし、江風ががんばったところでなびきませんよ」

 

 

北上「あーいう奴は既成事実で逃げ場なくせばいいんですよ」

 

 

多摩「向こうの提督、玩具にされてて同情するにゃ……」



江風「終わりも間近な時なんだから、ふざけたこというなよな! 誰かこのいつもの空気なんとかしてピリピリさせて!」

 

 

漣「いつも通りですしおすし、なーんも問題ないってことですよやだー」



漣「漣からいえることは恐らく向こうはあなた方を殺してまで勝ちに来ると思いますし、向こうの提督はなにしてくるかマジで分かんないので」

 

 

漣「深海棲艦だと思ってガチの戦争しないと」

 

 

漣「後悔しますよー」

 

 

球磨「その通り。あいつらの顔を見れば分かるし、電とわるさめのやつはもちろん、その他にもくせ者多いクマ」

 

 

多摩「阿武隈、卯月、明石君、初霜」

 


多摩「ここから嫌な匂いするにゃ」

 

 

木曾「向こうの参加するやつは阿武隈、間宮、初霜、金剛、暁、瑞鶴、明石、秋月、秋津洲、わるさめ、ぷらずまか」


 

木曾「……」

 

 

木曾「俺的には全員すげえ強そうに思えるな。特に金剛と明石。当てになるかはわかんねーけど」


 

北上「演習で男と戦うのは初めてだぜ。皆で全脱ぎさせてやろう」

 

 

大井「見たくないですね……」

 

 

漣「姐さん方、おなしゃす。少し見たいです、男の子の生裸」

 

 

北上「任せときな」

 

 

木曾「……、……」

 

 

甲大将「ん、どうした?」

 

 

木曾「大将、演習の場は鎮守府(闇)だろ。集合は現地でもいいか?」

 

 

木曾「今から遠征に行ってくる」

 

 

甲大将「構わねえけど、遠征?」

 

 

木曾「少し気合いを入れてくるだけだ。なんかあの曇り空の方角から焼け焦げた面白そうな臭いが風に運ばれてきた気がする」

 

 

木曾「江風、ついて来るか?」

 

 

江風「木曾さんのその手の予感って大体当たるんだよなあ。うん、ついていく」

 

 

甲大将「行くならグラーフと、そうだな、山風連れてけ。お前と江風だけじゃ心配だから」



甲大将「それとお前らが弱いからこんな作戦を組んだ訳じゃない。普通の演習なら、お前らのが強いって、私はそう思う、うん」

 

 

甲大将「だが、そこで留まるのは奢りだ。徹底的に勝利に固執するっていうのはお前らを信じるだけに留まらん」

 

 

甲大将「もう1度、初心に帰れよ。江風を拉致って強引に参加してやった合同演習の時みたいに」


 

甲大将「最近のお前らに火がつくのはヨーイドンの後だ。気を引き締めろ」


 

甲大将「今回はこの場でヨーイドンだ」



【3ワ●:わるさめだけは潰すから】

 

 

伊勢「あ、暁ちゃんが出てくるの? 響や陽炎や不知火ならともかく、あの子がこの演習に……?」

 

 

日向「榛名や瑞鳳もいるのにな。相変わらずよく分からんやつだなー。あの暁の性格は電適性者より遥かに非好戦的なのは分かっているだろうに」

 

 

丙少将「……、……」

 

 

丙少将「あいつ、変わったな」

 

 

伊勢 「そうなんですか?」

 

 

丙少将「あいつのやり方は駒としか見ていない。やれることとやれないことを把握して、それを軸に徹底してた」

 

 

丙少将「例えば乙さんの時は瑞鶴が、下手くそ、と終始徹底して、それ相応の役割を与えてた。それが悪いとはいいわないが」

 

 

丙少将「深海棲艦との戦いではなく、演習だ」


  

丙少将「戦うやつは生きてるんだ。やる気もある。身の丈以上の役割を与え、劇的に成長するケースだっていくつも見てきてる」

 

 

丙少将「お前らだって俺の無茶な期待に、応えてくれてる。結果の勝ちよりも、得るものが大きくなるような指揮を取ろうとしなかった」

 

 

丙少将「人の心を、ただの不確定要素程度に考えてた」

 

 

丙少将「この演習に暁を出すってことは、あの子に何らかの成長を促すためだろ。あの暁はがんばってはいたが、基本的にビビりだ。駆逐艦の中でもお世辞にも強いとはいえん」


 

伊勢「暁ちゃんが変な風に変わってなければいいですけど……」


 

日向「そこの写真は、陽炎不知火と響暁を街に連れてった時のか。懐かしいな。暁は確か散歩してたダックスに吠えられて泣いてたっけ」

 


日向「夜中にトイレも一人で行けない子だったからなあ。明りがないと夜は外に出られなくていっつも探照灯装備させてた最初よりは大分成長したが」

 

  

伊勢「向こうで強くなってるといいんだけど。第6駆そろっているし、元気で楽しくやれているかな?」

 

 

日向「あの電を第6駆とは認めたくない私がいる」

 

 

丙少将「まあ、暁は仲良くやれてるだろーよ。陽炎と不知火からも問題ないって連絡来てるし、大丈夫だろ」

 


加賀「……」

 

 

丙少将「あー、加賀は加賀で瑞鶴と因縁あったんだっけか」

 

 

加賀「因縁というほどではありません。陰口みたいで気は進まないのですが、あの子は歴代5航戦で最も頭の出来が悪いとしか」

 

 

加賀「あの子、私が止めなければ提督の命を奪っていたと思いますから……」

 

 

加賀「少しは成長しているといいのだけど」

 


天城「あ、間宮さん出るんですね……」

 

 

丙少将「それな。まあ、給糧艦の出番はあるよ。ただの給糧艦として使うかはさておき」

 

 

丙少将「そういえば天城は……」

 

 

丙少将「うちに来る前にフレデリカのとこにいたんだよな」

 

 

天城「……ええ、春雨……わるさめさんや電さん、卯月さんや阿武隈さん、鹿島さんのことも覚えています」

 

 

天城「間宮さんとは仲が良かったですね。よく二人で厨房に立ってました。古きからの良き友人です」

 

 

天城「間宮さん、あの鎮守府が壊滅する時の撤退戦で、電ちゃんと大佐がいないって、独断で戻ってしまって。なんとか救出は出来たのですが、あの時にいた謎の深海棲艦は、電ちゃんだったと私も間宮さんも後から気づいて……」



丙少将「キスカも、鹿島のこともあって、たくさん死んでる傷も癒えてない頃だからな……」



天城「はい。間宮さんも私もあの時の深海棲艦……電ちゃんに、酷いこといってしまいましたから」



天城「姫や鬼の叫びかと思ってました。今思えば、人の声が聞こえてたんです。離脱して遠くに行くまで、ずっと」



天城「仲間の声が、電ちゃんの泣き声が、ずっと聞こえてました」



天城「一生の、後悔です」



丙少将「……」



日向「……間宮と連絡は取ってないのか?」

 

 

天城「たまにお手紙で。間宮さん、完全アナログ人で機械は苦手でしたから」

 

 

天城「暁さんと同じく戦闘に向いている性格とは言いがたい人、ではありますね。向き不向きはあります。大丈夫ですかね……」

 

 

丙少将「つーかお前らさっきから元気かな、とか成長しているかな、とか、不安そうな顔でいいやがって。向こう連中の母親かなんかか」

 

 

丙少将「そういうのは演習前に捨てとけよ。暁も間宮も瑞鶴も敵だ。変な情があればつけこまれる。そういうやり方も平気でできる連中なのは、合同演習の時を見れば分かるだろ」

 

 

丙少将「勝利に徹底するスタンスは変わってねえはずだから、お前ら向こうを味方だと思って情けかけんなよ?」

 

 

日向「分かってるさ。甲さんところと組む以上、向こうの足を引っ張る真似はしない。あのマイペースどもが足引っ張って来る可能性も高い」

 

 

丙少将「……きっと向こうは」

 

 

丙少将「球磨型のマイペースに苛立った江風がケンカ吹っかけてんじゃないかなって俺は思うわ」

 

 

丙少将「まあ、甲さんとこは始まれば火がつく奴等だから心配は要らねえわ。ただ向こうはなにしてくるか読みきれねえ。作戦の役割だけに固執しないで思考は柔軟に頼むぞ」

 

 

日向「……ああ、私個人としても勝ちたい演習だ。必ずあの時の襲撃の借りは倍にして返してやる」

 

 

伊勢「わるさめだけは潰すから」

 

 

丙少将「……今までの演習も本気で指揮してはいたが、やる前から心から勝ちたいって思う演習は初めてだな」

 

 

丙少将「きっと最初で最後の演習だ」

 

 

丙少将「頼むぞ。雪風と大鳳は演習場か。俺が出向いて話しとく」

 

 

丙少将「それじゃ解散だ」

 


【4ワ●:vs 始まりと終わりの深海棲艦】

 

1

 

木曾「やっぱり近場じゃあんまり強い深海棲艦いないなー」

 

 

江風「近場じゃねえし! 木曾さんがそれ呟いたの何回目だよ! かなり遠くまで来てるから!」

 

 


山風「江風のいう通りです……」

 

 

グラーフ「全くだ。労働時間外の仕事に駆り出される身にもなれ」

 

 

木曾「でもなんかやっとかなきゃダメだろ。敗けられねえ戦いだって大将が珍しくあそこまで形振り構わねえ作戦立ててんだ。やる気はあげとかねえと」

 

 

木曾「そういう時は戦ってナンボだろ」

 

 

グラーフ「労働時間が生産性に比例するなどと馬鹿げた論は止めてくれ。私は日本の根性論を好まないんだ」

 


山風「グラーフさんを支持する……お仕事は時間内にやるもの……」

 

 

山風「時間外にやらなきゃいけないのは要領が悪い証拠……」

 

 

木曾「バッカ。要領良くて時間内に終わって帰ったら、翌日はより多くの仕事をやらされるのがオチなんだぜ」



山風「救いは、ないの……?」



江風「山風はがんばろーな。お前、まだまだ弱いから。姉妹艦の情けだ。江風がフォローしてやるよ」

 

 

山風「姉妹艦的には私のほうがお姉さん」

 

 

江風「お前のほうが後輩だから。姉妹でも同じ会社に入る時期が違えば先輩後輩になるだろー?」

 

 

山風「業務時間外に後輩を仕事に連れ出す面倒な先輩兼妹を持った……」

 

 

グラーフ「……待て」

 

 

グラーフ「偵察機が面倒な深海棲艦を発見した。このメンバーでは部が悪いので最寄りの鎮守府まで撤退をオススメする」

 

 

木曾「あ? この面子で危険?」

 

 

グラーフ「Rank:S+の中枢棲姫単独だ。いや、この海屑艦隊の文字の入った服は『Rank:SSSチューキ』だ」

 

 

山風「」

 

 

江風「さすがにヤベえな。江風達の目的からしたらこれは運がいいのか悪いのか判断に困るけどさ」

 

 

木曾「さすがに俺の独断で交戦する訳には行かねえか。面倒になる前に撤退だな。大将にも報告しねえと」

 

 

グラーフ「では木曾と江風、奴の足止めを任せる。理由は知らないが、向こうはどうやらただで帰投させてくれる気はないらしい」

 

 

グラーフ「砲撃体勢に入っている」

 

 

木曾「それなら交戦の言い訳も立つな。任せろ。俺が責任持って中枢棲姫の相手をするよ」

 

 

江風「江風もやる。チューキだろ。最強深海棲艦勢力の親玉だ。こいつは最高の前哨戦ってやつじゃンか」

 

 

木曾「たださ、ここら辺にチューキが出向く程のなんかあったか?」

 

 

グラーフ「孤島ならばある。先代の准将の鎮守府が壊滅してからは今は深海棲艦勢力の領海内だが」

 

 

グラーフ「深海棲艦を引き連れて来ていない時点でお忍びだろう。散歩ではなく、極秘行動の類ではないだろうか」

 

 

木曾「よし、行くか!」

 

 

山風「つ、突っ込むの……?」

 

 

木曾「そりゃそうだ。戦いは敵の懐に飛び込んでやるもんだからな」

 

 

江風「同意ー」

 

 

グラーフ「……」

 

 

山風「ぐ、グラーフさん、二人を行かせていいの……?」

 

 

グラーフ「問題はおおありだ。だが、少し様子を見るために留まる」

 

 

グラーフ「あのチューキは頭が回る。今の時期にこちらの戦力を潰すような真似は愚かだと分かるはずだ。その上、中枢棲姫勢力の頭が単体でこのようなところにいる以上」

 

 

グラーフ「このような事態は想定していると思われる。その上でうろついていると見た。まあ、木曾と江風だとは思ってはいないだろうな。散歩か任務かは知らないが、戦い方を観察すれば判明する」

 

 

山風「で、でも、中枢棲姫だよ。木曾さんと江風が強いといっても……」

 

 

グラーフ「中枢棲姫という深海棲艦自体が軍にデータが少ない。最初期の始まりの艤装が戦ったらしいが、記録は装備のみ、だ」

 

 

山風「し、しかも、あの知能のレベルとなると……お、応援要請しますね」

 

 

グラーフ「……そうだな」

 

 

グラーフ「私達が中枢棲姫に勝てるかは分からないが」

 

 

グラーフ「懲りてくれたのなら、こちらとしても付き合わされた報酬が予想以上に弾んだことになる」

 

 

グラーフ「これは嬉しい誤算とならないか」

 

 

山風「ぷ、プラスの発想……」

 

 

グラーフ「フフ、日本では転んでもただで起きないということわざがあるな。アレはいい」

 

 

2

 

 

中枢棲姫(向こう側の哨戒範囲はまだ先ですし、この海域になぜ甲大将の艦隊がいるのかは知りませんが……)

 

 

中枢棲姫「いつも上手くは事がスムーズに運ばないものですね。どうしてこうも邪魔が入るのか……」

 

 

中枢棲姫(こんなことがあるから理由がなくては散歩も出掛けられない身分)

 

 

中枢棲姫「見られたからには殺しておきますか」

 

 

中枢棲姫「……っと、木曾と江風は海の傷痕に指定された重課金存在でしたね」

 

 

中枢棲姫「不良をあやすのは苦手です。リコリスは不良は実力行使で上下をハッキリさせておくのが早い、と」

 

 

中枢棲姫「出来る限り痛め付けたくはないのですが、まずは引いてもらえるよう交渉、かな」

 

 

中枢棲姫「はあ、かなり近付かなければ……本気で面倒です……」

 

 

3

 

 

江風「撃ってこねえな。すげえ近づいて来るぞ。中枢棲姫は確か16inc持ってるよな。なんで近づいてくンだろ」

 

 

木曾「はあ? そんなのチューキの知能が高いからだろ。お前もちっと賢くなれよ」

 

 

木曾「それで何か用かよ? 俺らは鎮守府(闇)の演習に備えて気付けの最中なんだけど、わざわざ相手してくれるのか?」

 

 

中枢棲姫「……、……」

 

 

中枢棲姫「初めまして。中枢棲姫勢力のチューキと申します。勇敢なお噂はかねがね……ですが、通して欲しい」

 

 

江風「味方な訳じゃねえんだろ。倒す敵は同じなだけで、こちらに与した訳でもなく屈した訳でもない。ここにいるのはそちらの都合だろ?」

 

 

江風「オハナシだろ? まずは話してもらおうか。その内容によっては通してやらんこともないぜ。この辺りが妥協点ってところだな」

 

 

木曾「江風、お前ちょっと黙ってろ。それを言えるのなら、理由を言わずに通してくれ、なんてお願いしねえよ」

 

 

木曾「チューキ、分かるよな。俺らが黙ってお前のお願いを聞けない事情も。なに、やる気はなさそうだが安心してくれ。そちらが隠密なのは察している。だから、こういおう」

 

 

木曾「ここら辺に面白いモンがありそうだな?」

 

 

中枢棲姫「あなた達は甲大将がいなければ、ただの戦闘力の高い兵士に過ぎません。つまり無力です」


 

江風「無力……?」

 

 

中枢棲姫「繰り返しますが、勇敢なお噂はかねがね……ですが、噂というものは尾ひれがつくもの」

 

 

中枢棲姫「私は興味のない人間には無機質な女なので、覚悟の程を」



江風「雰囲気があの提督に似てンなー……」



木曾「無機質という割には、高圧的かつ勝利を確信している風だな。負けるやつの方程式掲げて恥ずかしくねえのか」

 

 

江風「一歩も引かない気概こそが、甲の旗に掲げた御印だからな。私達に出会ったのは運が悪いと諦めなよ」

 

 

木曾「大物釣り上げて大漁の旗を掲げてやら」



中枢棲姫「やれやれ……その最初期の古き旗を掲げるのはまだしも、提督がいない甲の艦隊はこうも錨を見失いますか。死して屍拾うもの無し、です」

 

 

中枢棲姫「少し離れますね。追ってくるのなら、どうぞ。向こうにいるのはグラーフと山風さんですね……」クルリ

 

 

中枢棲姫(……おしゃべりに付き合えばなにかしらの情報を得られますかね。それと応援が来るかもなので、なるべく手っ取り早く、ですね)



中枢棲姫「戦闘は久々、かな」

 

 

4

 

 

中枢棲姫「距離は詰めてきませんか」

 

 

中枢棲姫(16inch三連装砲、16inch三連装砲、偵察機深海棲艦ver、電探深海棲艦ver……まあ、十分ですね)

 

 

ドンドン!

 

 

中枢棲姫(……スイキから聞いてはいましたが、面白い発想しますね)

 

 

中枢棲姫(軍刀で砲弾を受け流すアレは、建造システムでリンクした兵士用に量産した開発装備、ですか)

 

 

中枢棲姫「付け焼き刃をああも頼っているのは、それがなければ被弾するからですね」

 

 

ドオオン!

 

 

中枢棲姫(雷撃の当てる上手さは、今まで見たなかでは一番、ですね。ここまでの精度だと、予測の類ではなく)

 

 

中枢棲姫(……勘が良い、のオカルトの類。乙中将と似たような才能と)

 

 

中枢棲姫(……私に突っかかってくるものだから、なにか策でもあるかと思えば、素質の過信ですか。まあ、その素質も含め、観察している限り)

 

 

中枢棲姫(江風はネッちゃんクラスで、木曾はわるさめさんより少し上程度です、ね)

 

 

中枢棲姫「……お話にならない」

 

 

5

 

 

江風「待て。中枢棲姫ってあんなに強いのか……? 泣く子も黙るレベルじゃンか……」


 

木曾「……、……」

 

 

江風「ただただ前に進んでくる、ぞ。木曾さんの魚雷も当たってるはずなのに、ピンピンする深海棲艦か……」

 

 

江風「効いてないよな、アレ」

 

 

木曾「大体分かった。江風、1度しか説明しないからよく聞けよ。魚雷は当たってるが、効いてねえ。これは『人間の科学兵器が深海棲艦に効かないのと同じ理屈』だと俺は思う」

 

 

木曾「中枢棲姫という深海棲艦自体が対深海棲艦海軍において、伝説の始まりの敵だ。初めてこの世に姿を現したのが真珠湾の中枢棲姫だとか」

 

 

木曾「『深海棲艦の歴史は中枢棲姫に始まり、最後に還す深海棲艦も中枢棲姫になるだろう』って言葉が最初期にはある。それくらい強いってことだ」

 

 

江風「……科学兵器が深海棲艦に通じない防御システムが一部、江風達の艤装装備にも適応しているってことか」

 

 

木曾「おう。江風、雷巡の俺の雷撃が効かねえ相手だ。砲撃はお前のほうが上手いから、突っ込むのは俺が適任だ。お前は砲撃で援護な」

 

 

木曾「始まりと終わりを司る。ある意味で神格化された深海棲艦が中枢棲姫だ。加えて知能レベルも加味すると」

 

 

木曾「フハハ、電より強えぞアレ」

 

 

江風「そりゃいい。散歩も旅もするもんだ」

 

 

6

 

 

グラーフ「どうやら中枢棲姫相手だと木曾と江風では荷が重いらしい。砲撃は適当でいい。木曾がやられたら、助ける必要がある。私も前に出ながら戦う他なさそうだ」


 

山風「ふぇ、ちゅ、中枢棲姫と……」グル

 

 

山風「む、無理だ、よ……」

 

 

グラーフ「そんなお前だから木曾のこの手の散歩に組み込まれる羽目になる。なに、当てなくてもいい。撃てばいい。それだけでお前は成長する」

 

 

グラーフ「Gib mir Deckung、期待はしていない。では、私は前に出るとしよう」

 

 

山風「グラーフさん、木曾さん接近、してるけど、艦載機は……」

 

 

グラーフ「今積んでるのはそれほど練度は高くなく、繊細な攻撃は困難だ。可視の才のあるサラなら上手くやれるんだが……」

 

 

グラーフ「木曾ごと攻撃する。なに、大破程度で死ぬやつではない」

 

 

7

 

 

ドンドン!

 

 

中枢棲姫(江風が援護砲撃、ですか。まずまずの洞察力、グラーフ・ツェッペリンが艦載機発艦、爆撃機1機と艦攻が10機……)

 

 

中枢棲姫「……」



木曾(へえ、砲撃精度も高えな。グラーフの彗星を墜とされた。でも、なんで爆撃機だ……?)

 

 

木曾(魚雷無効化出来るのなら、爆撃も通用しねえと思ったんだが。砲撃効くなら艦攻を優先して墜とすとも……)


 

木曾「おい、俺のほうに自ら近付いて来ていいのかよ。お前なに考えてるか解んないけど、至近距離は俺の領域だぞー」

 

 

中枢棲姫「……」ジャキン

 

 

ドンドンドン!


 

木曾「あぶ、ねっ!」

 

 

中枢棲姫「この距離で回避しますか。個人のプライドなどなかったつもりですが、傷付きましたね……」

 

 

木曾「お前も江風の砲撃を避けてるじゃねえか。俺らの中で一番砲撃成績がいいんだぞ?」

 

 

木曾「まあ、いい」

 

 

木曾「軍刀は効くのかな、っと!」

 

 

ガキン

 

 

木曾「器用だな。砲台の射角を変えて刃を防いだのか……。つうかその馬鹿でけえ艤装が本体だろ?」


 

中枢棲姫「木曾さん、あなた性格があまりよろしくないようですね」



木曾「そうだなー……」

 

 

木曾(……なるほどねえ、艤装の一部が削ぎ落とされるよりも、肉体のほうを落とされるのを嫌うのは)

 

 

木曾(通常の姫や鬼とは違って、艤装が肉体に深く依存してる。基地型ってのは共通してそういうことか……)

 

 

中枢棲姫「新たな爆撃機ですか。その軍刀退かしていただけませんか。砲口があがらないのですが……」

 

 

木曾「爆撃は効くのか?」

 

 

彗星「モラッタ」

 

 

ドオオン!

 

 

中枢棲姫「効きません。しかし、味方を巻き込む爆撃に躊躇いがないのは感服ですね。中々出来ることではなく」

 

 

木曾「ちっとばかし」

 

 

中枢棲姫「……!」ジャキン

 

 

ドンドンドン!

 

 

木曾「涼しくなっただけだ」

 

 

木曾「オラア!」

 

 

中枢棲姫「……、……」

 

 

中枢棲姫(肉体との接合部を切り取られましたか……)

 

 

木曾「やっぱりそうか……」

 

 

木曾(その肉体は巨大な基地型艤装を支える役割あるんだな。身体が陸の役割を果たしているギミック……)

 

 

木曾「切り取られたら本体の艤装は海に沈むわな。砲塔を1つ犠牲に選んで、肉体を、守る、訳だ……」フラッ

 

 

中枢棲姫「すみません。木曾さんに関しては過小評価でしたね。さすが勇と知を備えた甲の旗艦と改めて」

 

 

中枢棲姫「レッちゃん程度」

 

 

木曾(……ダメだ、まだ余裕の面だ。こいつ、本気出して、ねえ……)

 

 

木曾(……あ?)

 

 

木曾(艤装が肉体に、張り付き始めて、侵食化か? 電の身体と同じ……これが壊-現象……?)

 

 

中枢棲姫「基地型はそれで耐久値がゼロになるようなものです。中枢棲姫である私は……」

 

 

江風・グラーフ・山風「もらった!」

 

 

ドオオン!


 

中枢棲姫「ギミックが発動します」ジャキン

 

 

ドンドン!

 

 

木曾「……う、あ」


 

中枢棲姫-壊「木曾さんには盾になってもらうので沈ませません」

 

 

中枢棲姫-壊「さて……これなら1分もかかりませんかね」

 

 

山風「な、なにあれ、艤装が、液体に? 顔にまで、張り付いて……」

 

 

中枢棲姫「知性に獣を帯びるので好ましくありませんが、こちらの姿のほうが手っ取り早いので」

 

 

江風「あー、グラーフさん、これ死んだかな」

 

 

グラーフ「まあ、敗北だろう」

 

 

中枢棲姫-壊「フフ、ハハッ」

 

 

山風「っひ、ぃ……た、助け、」

 

 

山風「て、アッシー……」

 

 

中枢棲姫-壊「見るに耐えない稚魚がいますね……」

 

 

中枢棲姫-壊「……死ぬがよい」

 

 

………………

 

………………

 

………………

 

 

中枢棲姫-壊「はあ、4名も運ばなければならないとは……疲れましたね」

 

 

木曾「……殺さ、ねえの?」

 

 

中枢棲姫-壊「ふむ、意識がありましたか。呆れた人ですね。恐らく支援艦隊が来ると思うので、救助をお待ちを」

 

 

中枢棲姫-壊「今攻撃されると、私の理性が飛んでお仲間ともども殺してしまう危険があります」

 

 

中枢棲姫-壊「旗艦として賢明な判断をしてくださいね。これ以上やるのなら、想定外です」

 

 

中枢棲姫-壊「加減した意味がなくなって不愉快です」

 

 

木曾「敗けたの久々だ」

 

 

中枢棲姫-壊「よくいう。実力に溺れてなまくらと化していますね。私にとって、あなた達は提督がいて初めて敵となり得る存在なのです」

 


中枢棲姫-壊「それではオヤスミナサイ」

 

ドン!


中枢棲姫-壊(さて、運搬は苦手なんですけどね……)

 

 

中枢棲姫-壊(再生するのにもう少しかかりますね。嫌がるスイキを強引に連れて来れば良かったかな……)



【5ワ●:贈られた選定の奇跡】

 

 

1 鎮守府(闇)、地下室にて。

 

 

わるさめ「アッシー、私のためのお仕事おっつかれー☆」

 

 

明石「水槽に入れといた。男手でも深海棲艦艤装は重いんだぞ。といか兄さん、俺より姉さんのほうが力があるということを覚えておいてくれ」

 

 

提督「――――あ、あれ?」

 

 

わるさめ「どったのー。春雨ちゃん建造終わったから早く違法改造に入ろうよ。前の時は一時間くらいだったけど、今回はどうなるか分からないし」



提督「深海妖精が二の数います。留守の間に誰か増やしましたか……?」

 


わるさめ「んなことするやつ、うちの鎮守府にはいないと思うよ……」

 


提督「明石君の肩に乗りました」

 

 

明石「お、マジだ。なんか柄が悪そうな面した妖精がいるな。深海艤装ぶちこんだから出てきたのか?」

 


提督「明石君って視えましたっけ……?」

 

 

明石「……」

 

 

明石「なんで俺にも視えるの!? あ、いやいや、普通に考えてこいつ深海妖精じゃねえってことじゃないのか?」

 

 

提督「わるさめさん、初霜さんとぷらすまさんか龍驤さんを連れて来てください」

 

 

わるさめ「あいよー。龍驤は抜錨してる。館内放送借りるからねー」タタタ


 

提督「意思疏通して、みますか」

 

 

仕官妖精「簡単な自己紹介と利用条件をご説明します」

 

 

仕官妖精「本官は、海の傷痕より最優秀者に贈られました選定の奇跡の深海妖精です。そうですな、呼び方は秘書、いや、仕官妖精でありますな」

 

 

仕官妖精「普通に言葉を喋れば聞くので。それと本官は最優秀のあなた以外には使えないのであります。あなたが他の者に従え、という命も役割を越えた意思疏通と判断するようになっているのであります」

 

 

提督・明石「!?」

 

 

提督「……」

 

 

仕官妖精「本官は現存する装備妖精以外の妖精能力を有した妖精です。建造の違法改造、解体と違法解体、開発と廃棄の役割を有している特別かつ一流の腕前を持った妖精です」


 

仕官妖精「大本営で此方の話は聞いていますよね。元の想は海の傷痕の『友』といったほうが分かりやすいでありますか」

 

 

提督「!」

 

 

仕官妖精「中課金以上という条件はありますが、深海妖精可視の才能も与えられます」

 

 

提督「も、もしかして君が……」

 

 

仕官妖精「はい。あなたが見たのは本官です。あなたを見つけたのも本官です。あなたからは面白そうな気を感じたので選定しましたが、大当たりであります」

 

 

仕官妖精「元帥、江風、初霜の3名は本官が才を与えても本官を視界に収めた訳ではありません。本官の存在には気が付きませんでした」

 


仕官妖精「そこの明石君と秋月には本官の事情により、深海妖精の可視の才を与えます」

 

 

明石君「アッキーにも? なんで?」

 

 

仕官妖精「愛ゆえ。あなた達は本官の」

 

 

深海妖精「子孫であります」

 

 

明石「突然そんなこといわれても! 妖精にお前は子孫だとかいわれたところで、そうなんだってならねえぞ!」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「海の傷痕の友の子孫ですか。なるほど、明石君に適性が出たのは海の傷痕の管理者権限が原因か……」

 

 

提督「しかし、なぜこの代です?」

 

 

仕官妖精「たまたまです。明石君のほうは本官にそっくりであります。海の傷痕は30年に1度だけ、本官の家系を街に伺いに行くのであります。その際に本官そっくりな明石君を気に入って海とご縁を持たせたようであります。ちなみに予測ですが、これ以外に考えられないのであります」

 

 

仕官妖精「以上であります」

 

 

提督「明石君、あなたの19世紀時代の先祖については」

 

 

明石君「知らねえ。アッキーも親父も知らねえと思うよ。産まれた頃からじいちゃんばあちゃんもいなければ、家系図なんてねえしさ」

 

 

初霜「はい、馳せ参じました」

 

 

ぷらずま「なにかあったのです?」

 

 

提督「水槽の中の深海妖精が見えますか?」

 

 

ぷらずま「見えません」

 

 

初霜「あれ、二人います……」

 

 

仕官妖精「おっと、電にはタッチであります。廃課金者には深海妖精可視の才を贈るのであります」

 

 

ぷらずま「み、視えたのです!」

 

 

わるさめ「戻ってきたぞー。違法建造はよー」

 

 

提督「とりあえず始めますか。本官さん、わるさめさんの違法改造は可能ですか。可能ならば、所要時間も教えてもらいたいのですが、お仕事のことなら答えて頂けますか?」

 

 

ぷらずま・初霜・明石「……」

 

 

仕官妖精「イエスであります」

 

 

仕官妖精「違法改造可能であります。通常の深海妖精ならば1時間でありますが、本官の性能なら所要時間は5分であります」

 

 

仕官妖精「春雨の機能をいかがなされますか」

 

 

提督「といいますと?」

 

 

仕官妖精「五種類、それと本官ならば一種類をアライズさせた場合、ステルスがかかる状態に建造可能であります。その場合は精神影響が大きくなり、建造時間も三時間ほど頂くのであります」

 

 

提督「精神影響の程は……」

 

 

仕官妖精「アライズ時に少し凶暴性が増すのでありますが、あなたが彼女の運用に差し支えることはないのであります」 

 

 

提督「わるさめさん、 一種類をアライズさせた場合、ステルスがかかる状態に改造可能のようですが、トランスした時に凶暴性が増すそうです。ちなみに運用には問題ないとのこと。どうします?」

 

 

わるさめ「よく分からないけど、どう考えてもそっちのが良いだろ」

 

 

わるさめ「それでは、どぼーん!」

 

 

仕官妖精「ワ級艤装+駆逐棲姫艤装+ロ級艤装+潜水棲姫艤装+防空棲姫艤装の資材」

 

 

仕官妖精「最終確認であります」

 


仕官妖精「春雨艤装+ワ級艤装+駆逐棲姫艤装+ロ級艤装+潜水棲姫艤装+防空棲姫艤装の資材で春雨適性者の違法建造を開始しますか?」

 

 

提督「よろしくお願いします」

 

 

仕官妖精「承ったのであります」

 

 

……………

 

……………

 

……………

 

 

提督「とのことです」

 

 

ぷらずま「明石君と秋月さんの御先祖様が、海の傷痕の友ですか。なるほど、合点が行きました。明石君の適性者は管理者権限によるもの、と」 

 


初霜「私も、会っていたのですよね。しかし、記憶にはありません、ね……」

 


明石「違法改造の過程、面白いな。これ、深海妖精のトランス現象を利用してわるさめさんの肉体と同化させてんのか。こりゃ、深海棲艦と艦娘を使って妖精化させているような感じだ」

 

 

提督「……ですね。深海棲艦艤装が、溶け込むというか、これは建造のために一部の深海棲艦の壊-現象を艦娘に無理に適応させた結果、ですかね。生命活動維持のためにトランス現象が生体に機能として備わる、線が濃そうです」

 

 

提督「ホントになかば妖精化、ですね……」

 

 

ぷらずま「身体が消えたり現れたり、違法建造中の意識がないわけなのです……忌々しい……」

 

 

初霜「軍に報告するべき、ですよね」

 

 

提督「はい。わるさめさんの改造過程は撮影しているので、後で書面と一緒に大淀さんの元へと送ります」

 

 

仕官妖精「終了であります」

 

 

わるさめ「ふっか――――つ!!」

 

 

提督「お疲れ様でした。気分はどうですか。体調が悪くはありませんか?」

 

 

わるさめ「大丈夫。むしろ元気だよ」

 

 

提督「ならよかった。ちなみに1時間ですが、体感時間はどれ程で?」

 

 

わるさめ「10秒くらいかなー」

 

 

わるさめ「ぷらずまー! 新型わるさめちゃんの特訓に協力して! 今度こそお前を完全に倒す!」

 

 

ぷらずま「まあ、私が適任ですね。司令官さん、どうしましょう?」

 

 

提督「演習場でお願いします。他の人達は全て陸にあがって、抜錨地点にいるようにいってください。ぷらすまさんの手に余ったり、暴走した場合は押さえ付けなければなりませんので。それと空母の方に声をかけて偵察機でわるさめさんの戦いを記録してください」

 

 

ぷらずま「了解なのです」

 

 

提督「それと本官さん、こんなお仕事は協力しては頂けますか」

 

 

提督「――――、――――」

 

 

仕官妖精「意思疏通の範疇、可能であります」

 

 

明石「兄さんの発想は相変わらずイカれてんね。俺はそろそろ工廠に戻るわ。飯喰って姉さんと代わる」

 

 

明石「あ、こいつに手伝ってもらえば捗るんじゃねえかな」

 

 

仕官妖精「子孫が先祖をアゴでこき使う。絶対にお断りなのであります。それに本官は最優秀者の言葉にのみ従うのでありますが、工廠で協力しろ、との命には従わないのであります」

 

 

仕官妖精「調子に乗るなよ、不出来なせがれが、であります」

 

 

提督「とのことなので、ガンバってくださいね」

 

 

明石「なんとなくこいつ俺と血が繋がってる気がしてきたわ……」

 

 

提督「さて、初霜さん」

 

 

提督「娯楽室にでも行きましょうか。届いたあなたの資料を読んでいて、いくつか質問もしたいですし」

 

 

初霜「はい。分かりました。ですが、質問されても答えられないかもしれません。なにせ海を見つめていただけなので……」

 

 

提督「……いえいえ、ただいま自分のなかであの時のあなたになにが起きていたのか、予想はできましたので」

 

 

提督「せっかくなので、本官さんも着いてきてください」

 

 

仕官妖精「承ったのであります」



【6ワ●:初霜さんの不思議で理解不能な過去話:解凍編】

 

1

 

提督「当時の事件の捜査資料です。大本営で大淀さんに頼んで入手したものです」



提督「犯人の老夫婦はすでに死亡しています。初霜さんの証言は拙いですね。それを踏まえてもう1度、自分が何点か質問します」

 

 

初霜「取調室みたいな空気が……」

 

 

提督「乙中将はどうも兵士のプライバシーのため、あまり深く聞いてはいなかったみたいですね。今回、自分は根掘り葉掘りです。気分が悪くなれば一旦止めますので。あ、どうぞ。お茶と菓子です」

 

 

初霜「ありがとうございます」

 

 

提督「5歳のクリスマスの日に、ショッピングモールの屋外駐車場で誘拐されたと。その時はなされるがまま、と」

 

 

初霜「……はい。迷子になりまして。私は出入口付近のベンチにいました。おばあさんに声をかけられて、親御さんが探しているよ、と。呼んできてあげるから、と車に乗りました。今思うと子供過ぎて人を疑うことをしなかったせいですね……」



提督「それで誘拐されて、例の海の見える小屋に押し込められた、と」

 

 

初霜「はい……そこでおかしいとは思ったのですが、その、海が綺麗で」

 

 

提督「老夫婦はすでに世を去っています。最初に取調を受けた翌日に、おじいさんのほうは息を引き取り、後日おばあさんも後を追うように亡くなっています。今はもう話はできませんが、警察は取調室で調書を取っています」

 

 

提督「おかしな宗教染みた思想があるのではないか、と警察も自宅を調べたのですが、これといったモノは見つからず、ですが、妙な発言をしたそうです」

 

 

提督「『あの子には後利益があると思った。その子を閉じ込めるだなんてとんでもない。あの子はあそこを離れなかった。我が家を選んだ座敷わらしです』となかなかイカれた発言を」

 

 

初霜「初耳です。こ、怖くなってきました……」

 

 

提督「初霜さん、時計のなかった部屋といいましたね。それで4年も海を眺めていた、と。そこに関して、資料にないのでお聞きしたいことがあります」

 

 

提督「そうですね、食事を摂った回数と、お手洗いや入浴はどの程度の回数です?」

 

 

初霜「いえ、そのような習慣のあまり覚えておりません。と、私は刑事の方にお話した、気がします」


 

提督「そうですね。本当に誘拐されて身でその場所で4年間も海を眺めていた不思議な子としか思えない内容です。ただ海が好き、では納得行かない面があります。これはテレビ局が取り上げそうな不思議な事件ですよ」

 

 

提督「ですが、覚えている限りでいいです。出された食事の種類でも、お手洗いに行った回数をお答えください」

 

 

初霜「…………、…………」

 

 

初霜「お手洗いは、30回くらい、かな。おかしいですよね。4年ならもっと多いはずです。すみません、やはりここのことの記憶は曖昧です……」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「今だとですね、その不思議は説明できなくてもありません。初霜さんの記憶を信じて説を立てますと」

 

 

提督「『初霜さんは4年間、そこにいましたが、体感時間では一ヶ月程度しかそこにいない』と認識している」

 

 

初霜「確かに、そのくらい、ですね。それは楽しい時間は早く過ぎるということなのでしょうか……」

 

 

提督「それもあるかもしれませんね。5歳の子供自体が大人から見たら不思議の塊みたいなものです。けど」

 

 

提督「その時でしょう?」

 

 

提督「本官さん、あなたが初霜さんにちょっかいをかけたのは。この子の謎に関わってる犯人、あなただとしか思えません」

 

 

士官妖精「……」

 

 

初霜「は、はい? どういうことでしょう……?」

 

 

提督「あなたがその4年の多くの時を過ごしたのはロスト空間である可能性、です」

 

 

提督「ファンタジーの類ですので、現実的な解答を導き出さなければならない刑事からは難しい発想かもしれませんね……」

 

 

提督「現存する人類の中で唯一、ロスト空間の内部を直接的に観測した唯一の存在となります」

 

 

初霜「ろ、ロスト空間!?」

 

 

提督「本官さん、出来ますよね。こちらはもうそれが証明可能となっていく段階です。深海妖精は深海棲艦を建造する時は資材とともにロストする」

 

 

提督「ならば、人間である初霜さんをロスト空間に連れていくことは可能であるはずです。深海妖精が意思を持って陸にいるだなんて考えられないので消していましたが、あなたが出現した。自由に歩いて移動できるみたいですし」

 

 

初霜「どうなんですか」キッ

 

仕官妖精「いやはや……本官を見てそこに辿り着くとは、頭の回転が速いであります。これが海の傷痕が舌を巻いた見当をつける才能でありますか」


 

仕官妖精「まあ、深海妖精可視の才を与えた子は限られているので、見えるのならその子があの子なのでしょう。故にその通りであります」

 

 

仕官妖精「子供の想というのは総じて質が高い傾向。その子は海を一目見た時からすでに『廃課金』であります。それほど深く広く、まるで海のように、海を愛した」

 

 

仕官妖精「想のプロフェッショナルの目から見ても、理解の及ばない神秘の領域であります」


 

仕官妖精「19世紀の人類の誰一人として持たなかった想ゆえ、海の傷痕には理解を越えた最大瞬間風速の想でありますな。それは海の傷痕に対して有効な武器であるという訳ではなく、興味を引くという意味であります」

 

 

仕官妖精「ただの人間でありまして、その想を調査するために、ロスト空間にご案内する必要があったのであります。最も海の傷痕は途中で投げ、結論付けたのであります」

 

 

仕官妖精「これは理解するべきモノではなく、『自然と同じく、ただただそこにあるという真実が美しいモノである』と評し、理解を愚かだと投げた」


 

仕官妖精「海の傷痕が『その精神性を神と同位置に飾った海の母なる器』であります」

 

 

仕官妖精「ま、此方のほうのロマンの話であります」

 

 

初霜「なんとなく分かります、ね。夜空に浮かぶ星をただ眺めている時に、隣でどうして星が輝いているのか、とか説明されるのは不粋、です」

 

 

仕官妖精「そういうことであります。あなたがどうして美しいのか、そこに理由は要りません。事実だけがあればいいのであります」

 

 

仕官妖精「以上でありますな」

 

 

【8ワ●:先祖として、未来の子らに御詫び申しあげたく。】

 


提督「ロスト空間とは一体なんなのですか?」

 

 

仕官妖精「応答不可であります。本官は発言制限がかなり緩いのでありますが、アドバイザー兼武器のようなものです。攻略本ではないので、そのような言い回しは応答不可であります」

 

 

提督「……」

 

 

提督「まあ、初霜さんの証言からどんな場所かは推測可能ですね」

 

 

初霜「……、……」

 

 

初霜「艤装が想を溜め込むモノなので、艤装は電波を発信して情報を海の傷痕というメインサーバーに発信する無線デバイスで、それを介さない普通の人間の想を調べるために海の傷痕と直接繋げるための有線のような、モノでしょうか?」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「そうですね。その例えは多分、的確です。ロスト空間というのは肉体と精神の両方が飛べるという点を踏まえると精神世界ではなく、別世界ですね……」

 

 

初霜「肉体も、ですか」

 

 

提督「老夫婦が座敷童だのなんだと。ボケてないとしたら、初霜さんが消えたり現れたりしていたからかもしれませんね……」

 

 

初霜「なるほど……」

 

 

提督「ロストし、ロスト空間に行ったと思われる兵士は多いです。女神装備が発動するだけですから。ですが、ロスト空間内で意識を保てるとなると、海の傷痕のいう通り、あなたは特異です。海の傷痕が生まれついてのバグということも少し分かった気がします」

 

 

提督「加えていえば、ぷらずまさんやわるさめさんの違法改造中の意識もロスト空間に、という説もあります。先程わるさめさんに聞いたら、本人達いわく、一時間の時間が10秒程度の体感時間であると言いましたから、ロスト空間では現実空間と時間の流れも違うのかも」

 

 

提督「本官さん、意思疏通の範囲内でロスト空間に誰かを連れて行けますか?」


 

仕官妖精「結論から言えば可能であります。が、条件はあります。まず生きて戻って来られるかは保証しません。最悪、人の体から魂が抜け落ちた人形になるのであります。海の傷痕の許可なしにリンクするというのは」


 

士官妖精「19世紀の歴史を叩きつけられる恐れがあるということであります」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「………、………」

 

 

提督「人の脳の処理能力を越えてパンクする恐れがあると?」

 

 

仕官妖精「いいえ、心の器の問題であります。想の矛に対して想の質が盾となります。要するに心が折れると、そのまま肉体が死亡します。精神影響による肉体への影響は現代の知識でも」

 

 

提督「なるほど、ロスト現象は、確かに艦娘が死亡してから行われる。つまり、意識のない状態。違法改造時は建造時の夢見のシステムを利用して、被験者から情報負荷をシャットアウトしている……?」

 

 

仕官妖精「申し訳ないのですが、ロスト空間においては制限がかかっているので、ヒント程度、あなたの説が当たっているかは応答不可であります」

 

 

提督「深海妖精は深海棲艦を建造する役割があり、そこの技術行程にロスト空間という作業場に行くため、連れて行けるのは艤装と人間、つまり艦娘なら連れて行ける。そして、妖精の補助があれば生身の人間でも行ける」

 

 

提督「丁准将は、もしかして……。海の傷痕は瑞穂について全てを答えたわけではなかったんですね?」

 

 

仕官妖精「応答可でありますな」

 

 

仕官妖精「瑞穂の被験者は人として終わった。これはどう解釈するかでありますな」

 

 

提督「人として終わる……」

 

 

提督「もしかして、人、じゃなくなるという意味ですか……?」

 

  

提督「5種は解体可能、7種は解体不可能、8種は……」

 

 

提督「妖精に近い生態になる?」

 

 

仕官妖精「正解であります。妖精というイメージが固定化しているあなた達には盲点であります。見た目がアレなので。それにあなた達は誤解をしているのであります」

 

 

仕官妖精「違法改造は化物になっていくのではなく、種類が多いほど、妖精化していくのであります。その中で兵士として運用するのなら、最もバランスが取れている5種でありますな。精神影響がありますし、自らはロスト空間には行けませんが、艤装に関してはトランス現象をほぼ完璧に使いこなせて、解体可能でありますから」

 

 

仕官妖精「一概に強くなる、という訳でもありません。海の傷痕はあなたが正規ルートで深海妖精を発見したのを知ると、新たなシステムを構築し、ゲームバランス的に違法改造者は現存している電と春雨、まあ、2名までと定めました」

 

 

仕官妖精「ここまでが本官の応答限界であります」

 

 

提督「……十分です。8種は妖精化している。故に8種ならばロスト空間に移動可能。ならば瑞穂:バグとの意思疏通によってロスト空間へ人間は飛べる。なるほど……」

 


提督「先代の丁准将は深海妖精を使わずとも、瑞穂:バグを利用してロスト空間を調べていたのか……」

 

 

提督「これはぷらずまさんや中枢棲姫勢力とはまた違う違法、ですね。ロスト空間に飛べる確実な方法の漏洩を嫌って、海の傷痕はあの鎮守府を破壊したのか……?」

 

 

提督「あの場のメンテナンスの御詫びでは生きている者に限りましたが、フレデリカ、そして先代の丁准将も『廃課金』に該当する人物でしたね?」

 

 

提督「そして、当時の初霜さんは同じく廃課金の想の質。ロスト空間に飛んで意識を保てるのは、廃課金と評される想の持ち主のみ、ですね?」

 

 

仕官妖精「オススメはしないのであります。向こうで過ごす時間はこちらとは違うのは察しているご様子。少しいるつもりがそこの初霜のように4年近くもいた、だなんてオチがつきかけないのであります。廃課金を失っては海の傷痕との決戦に差し支えるのであります」



仕官妖精「それに本官の責任が重すぎるのでやりたくねーのであります」

 

 

初霜「個性が出ました……」

 


仕官妖精「そもそもロスト空間に行ってどうするのか、という話であります。あそこは海の傷痕の産まれた全ての想が還るべきところ。海の傷痕が現海界する前の職場に過ぎません。そこに行ってなにかすればその時点で違法行為、このゲームに勝つためにゲーム会社のサーバーを弄ろうなどと、『BAN:抹消』されるだけであります」

 

 

提督「ロスト空間とは海の傷痕の故郷であり、全ての想が還るべきところ、なのですね」

 

 

初霜「ですね。なるほど、分身存在である妖精は会社員みたいなものだから行き来可能なパスを持っている、と」

 

 

仕官妖精「……あ」

 

 

仕官妖精「本官もうお口チャックでありますが、最後に海の傷痕に関して言わせて欲しいのであります」

 

 

仕官妖精「海の傷痕はこの規模の戦争ゲームの運営を365日24時間一人でやり始める生まれついての社畜生命体、フレデリカのせいで最近は現海界を何度もして、出張の嵐。大変そうなのであります」

 

 

仕官妖精「本官からいわせてもらえば海の傷痕は想の軍艦ではなく社畜の軍艦であります」

 

 

初霜「嫌に貶しますね……」

 

 

仕官妖精「あの子は今も、孤独なのであります。生きる理由ばかり探している。必死で生きていれば、後付けでつくと信じて、寝床を欲さない夢追人なのであります」 

 

 

仕官妖精「本官は元は人間だったので分かるのであります。あの子は人間との共生手段を持ち得ない。想で繋がることで理解は出来ても、殺戮の本能は受け入れられないのですから」

 

 

仕官妖精「人間と海の傷痕は、まるで艦娘と深海棲艦のようであります」

 

 

仕官妖精「憐れな子、我々の想が生んだ孤児は、生きるために自らが入る棺桶を探すようになった始末であります」

 

 

仕官妖精「故にこの戦争ゲームはクリア可能。理由も感情も、海の傷痕:此方は用意した。あなた達の倒す敵は、海の傷痕である、と世界が共通認識するほどまで、今を生きる人間を一丸にさせた存在であります」

 

 

仕官妖精「感謝しろ、とはいわないのであります」

 

 

仕官妖精「本官は、涙など流せませんが」

 

 

仕官妖精「生前の本官は、間違えた」

 

 

仕官妖精「あの子の友となり、あの子の心に住んでしまった。本官は、あの子の本質を見誤り、敵対し武器を取ることを躊躇った」

 

 

仕官妖精「人間になろうとしていたナニカを、人間にしようとした愚かな人生でした」

 

 

仕官妖精「その結果、後世に大きな傷痕を残す羽目になってしまった。情にほだされ、友ならば時に命を奪うことも情けなのだと気付かずに。海の傷痕という壊れかけた軍艦を、雷撃処分するべきだと気付かずに」

 

 

提督・初霜「……」

 

 

仕官妖精「先世代の尻拭いに未来の子らを巻き込むなどと、いつの世も繰り返される醜態でありますが、世を去った本官はそれを声を大にして、謝罪するのであります」

 

 

仕官妖精「あの日の意味を本官が、変えてしまったことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――先祖として、未来の子らに御詫び申しあげたく。

 

 

 

――――本官は、海の傷痕:此方の

 

 

 

 

――――友としての役割を果たせず、

 

 

 

――――死を遂げました過去の亡霊でござんす。

 

 

 

 

 

――――ここに今一度お願いの儀を。

 

 

 

 

 

 

――――本官は、代わりにそれをしてくれる、

 

 

 

――――飛びきり優しい想の持ち主を、選定してきたのであります。

 

 

 

 

 

――――未来の子らよ、今を生きる目映い輝きを以てして、本官が消し去れなかった闇を振り払ってもらいたく。

 

 

 

――――この戦争の終結を以て、第二次世界大戦は終わるのであります。

 

 

 

 

 

 

――――どうかどうか、暁の水平線に到達し、

 

 

――――本官の友を、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――戦争を、休ませてあげて。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

【7ワ●:丙甲連合軍 vs 覚醒:鎮守府(闇)】

 

 

1

 

 

提督「龍驤さん、今日はよろしくお願いします」

 

 

龍驤「バッチリやで。第2艦隊の準備はすでに終わらせてある。そっちの準備ももう終わってはいるんやろ?」

 

 

わるさめ「おーい、司令官さん、頼まれたことは全て終わったゾ☆」

 

 

提督「了解です。ということなので全ての準備は終わりました。お互い念のために今演習のルールの確認をしておきましょう」

 

 

龍驤「各自に離脱意向信号あり、ここの鎮守府のスターティングメンバーは12名、丙ちゃん甲ちゃんのところは各6名ずつ。各鎮守府からそれ以上の参加は認められず、リタイアした兵士の復帰も当然ダメ。装備は応急修理要員と女神はなし。用意した通信設備や離脱意向信号に細工を施すのはアウト。演習が終わるまでは燃料弾薬ボーキの補充、入渠はなし。それ以外は何でもアリ。どちらかのスターティングメンバーが0になるまで続くサドンデスやね」

 

 

提督「ですね。演習会場は以後の仲直りのため、娯楽施設に富んだこの鎮守府(闇)です。演習場の哨戒は甲大将のところの7駆が担当してくれるそうです」

 

 

提督「まあ、例えぷらずまさんが基地型艤装を長時間使用するために、少し演習会場を埋め立てしてもルール違反ではありませんよね」

 

 

龍驤「そうやね……」

 

 

ぷらずま「司令官さん、お友達を全て集めましたよ。お願いするのです」

 

 

ぷらずま「最近の司令官は引きこもりで姿を見たのも久し振りなのです」

 

 

提督「すみません。色々と考えなくてはならないことが多くて集中していました。その間、皆の様子は」

 

 

ぷらずま「生温い空気を換気しておいたのです」

 

 

ぷらずま「その換気のための消費資材は、燃料12400、弾薬15250、鋼材18505、ボーキ9508、そして250の高速修復剤なのです」

 

 

提督「使い込みすぎですね……」

 

 

龍驤「ほんまの地獄やったで……」

 

 

龍驤「みんな、手足欠けても戦わされてたんや……」

 

 

龍驤「海に、海に、皆の体の一部が浮いてたねん……赤い海、で」ブワッ

 

 

提督「回収しましたか? それ深海棲艦の建造資材になるんで」

 

 

龍驤「まずそこかい! キミも相当な鬼やな!」

 

 

提督「すみません」

 

 

ぷらずま「もちろん回収しました」

 

 

ぷらずま「訓練で泣き言をいわなかったのは、瑞鶴さん、明石君、秋月さん、卯月さん、ゴーヤちゃん、阿武隈さん、わるさめさんですね」

 

 

提督「死人がいなくて何よりです」


 

ぷらずま「皆、見違える程です。さあ、司令官、いつものお言葉を」

 

 

提督「言うべきことは先日に間宮亭にて伝えまして、皆さん各々がこの演習、海の傷痕との決戦に向けて訓練に励んでいたことは知っています」

 

 

提督「しかし、今だからこそ1つ伝えることを加えます」

 

 

提督「ここから指揮を執るに当たり、お願いはもう止めます。今のあなた達には失礼に当たると判断し、今回の龍驤さんの指揮も含めて」

 

 

提督「全て、命令、とします」

 

 

提督「では皆さん全員で、丙少将と甲大将のお出迎えをよろしく」

 

 

一同「了解!」

 

 

2

 

 

甲大将「あー、聞こえるか? 直に到着だ。お前の鎮守府に来るのは初めてだなー」

 

 

提督「ええ、よろしくお願いします。丙少将もどうぞお手柔らかに……」

 

 

丙少将「柔い勝負をする気はない。お前とは手合わせしてみたかった。演習の機会を頂いたこと元帥に感謝しているよ」

 

 

丙少将「そしてお前が鎮守府で彼女、いや、彼等にどういった教育をしているのかも気になって訓練の様子も見てみたかった」


 

提督「打ち明けますと、怒られるほどのホワイトです。なにせ自分の言葉は全てお願いでしたからね」

 

 

丙少将「……」


 

丙少将「兵士には幼い子供もいる。訓練の度合いに関しては規定があり、軍学校で覚えたはずだ」

 

 

丙少将「彼等には未来がある。戦いが終わった後のことも考えて、教育的な面でも、気を配らなくてはならない」

 

 

丙少将「大丈夫だろうな?」

 

 

提督「もちろんです。暁さん達が拾ってきた犬を飼うのを許可するほどですよ。施設面を利用してオフの時は快適な生活を提供できており、勉学に励む人もいます」

 

 

甲大将「おー、お前のところは艤装を身につけてのお出迎えか。やる気満々だな」

 

 

丙少将「護衛の引き継ぎでもしてくれるのか。なかなかいい心意気だな」

 

 

提督「そう、かもしれませんね。自分がなにかしてあげられたのかは分かりませんけど、いい方向に成長してくれたみたいで鼻が高いです」

 

 

提督「自慢の兵士達です」

 

 

 

 

 

 

ぷらずま「勝たなきゃ!」

 

 

ぷらずま「ゴミなのです!!!」

 


ぷらずま「なぜ私達がこのような演習をする羽目になってしまったのか!」

 

 

一同「電さんや提督のせいではなく、その他が弱いからです!!」

 


ぷらずま「その通り! 私は最強であり、司令官は最優でありながら、このようなお遊びを組まれたのは誰のせいか!?」

 

 

一同「私達が弱いせいです!!」

 


ぷらずま「声だけは大きいのですこのダボどもが!」

 

 

一同「申し訳ありません!!」

 

 

ぷらずま「誰に与えてもらう勝利なのです!!」

 

 

一同「提督です!!」

 

 

ぷらずま「ならばダボどもに聞く!!」

 

 

ぷらずま「戦争とはなにか!!」

 

 

一同「完全否定の殺し合いです!!」

 

 

ぷらずま「敗北とは!!」

 

 

一同「死です! 同胞への侮辱です!」

 

 

ぷらずま「その通りなのです! この軍の穀潰しども!!」


 

ぷらずま「そして先日、軍は私達の至高神を裁こうという! 究極的なまでの愚を犯したのです!!」

 

 

一同「はい! 絶対に許されません!!」

 

 

ぷらずま「必死せよ!」

 

 

一同「すでに必死かつ必殺の刃に!」

 

 

ぷらずま「我がお友達に今一度聞くのです!」

 

 

ぷらずま「テメーらの必殺とはなんなのです!?」

 

 

一同「必ず殺す、ではなく!」

 

 

一同「必ず殺さなければならない、です!」

 

 

ぷらずま「よくぞ抜かしたのです!!」

 

 

ぷらずま「敵は血祭りにあげるのです! テメーらが通る海の色はいつだって深紅なのです!」

 

 

ぷらずま「殺戮を躊躇わず、卑劣といわれ、品のない戦法も躊躇わずに行使する我が闇の同胞達よ!!」

 

 

ぷらずま「その命の価値の!! 御旗を高く掲げ!」

 

 

ぷらずま「死してくるのです!」

 

 

ぷらずま「それが生きてくるのです!!」

 

 

ぷらずま「私達の戦いはいつだってそうだったのです!」

 

 

一同「イエス、マム!!」

 

 

ぷらずま「私は心より、お友達の皆さんを!」

 

 

ぷらずま「愛しているのです!!」


 

一同「勝利で! 報います!!」ビシッ

  


一同「My god is open-the-door!」

 

ヒャッハー

 

ドオオオン!

 

 

 

 

 

 

 


 

 

提督「このような過激な教育をした記憶は全くなく……」

 

 

丙少将・甲大将「…………」


 

丙少将「ずいぶんアウトな指導をしているみたいじゃねえか。暁と響、陽炎、不知火にまで」


 

丙少将「響があんなに腹から声出して叫んでんの初めて見たぞオイ……」

 

 

甲大将「色々とドン引きだわ。お前は自分を神だと兵士に教えているのか」


 

提督「ですから、全く記憶にございません」

 


……………

 

……………

 

……………

 

 

提督「えー、皆さん」

 

 

提督「やる気があるのは結構ですが、あのようなパフォーマンスは上官への粗相に当たるので今後はお控えください」

 

 

阿武隈・瑞鶴「ですよねー」

 

 

暁「や、やらないわよ。い、電のお願いだから聞いてあげただけよ」

 

 

響「楽しかった」


 

伊58「こっちの士気もあがったよ。ただの試合前のラフプレイでち」

 

 

2

 

 

提督「瑞鶴さん、演習での成長結果は鹿島さんが報告書を書いてくれていたので確認しましたが、これ真実ですか?」ピラッ

 

 

瑞鶴「マジマジ。驚いた?」

 

 

提督「かなり」

 

 

提督「明石君に鋼材使って艤装に細工しましたね」

 

 

瑞鶴「魔改造って程でもないし、装備改修ならぬ艤装改修ね。軍艦扶桑ほどじゃないけど色々つけたというか」

 

 

瑞鶴「龍驤と鹿島さんが私にアドバイスしてくれてて、その結果この形が一番しっくりきたという」

 

 

瑞鶴「ずっと訓練に打ち込んでたからねー。そりゃ強くなってるわよ」

 

 

提督「……大鳳さんですが、彼女の艤装は制空争いにおいて弓や式神式よりも有利な点が多いです」

 

 

瑞鶴「銃は卑怯よねー……」

 

 

提督「大鳳さん、加賀さん、グラーフさん、サラトガさん、空母系において、素質の高い方達です。この4隻相手だとなにもかも総数値で負けますが」

 

 

提督「仮に瑞鶴さんが相手した場合、均衝にできそうですか?」

 

 

瑞鶴「あー……多分」

 

 

提督「了解です」

 

 

瑞鶴「優勢に出来る」


 

提督「……」

 

 

提督「えっと」


 

提督「すごいこといいますね……」


 

瑞鶴「まあ、見てなさいって」


 

瑞鶴「いうは易しだからね。最初は大人しめだけど、戦いで私がどれだけ進化したのか証明してあげるわよ」

 

 

瑞鶴「最初の頃みたいにぽんこつ空母なんていわせないからね」

 

 

提督「本当……皆さん少し見ない間に変わりましたね」

 

 

提督「よろしくお願いします」

 

 

瑞鶴「っす」ビシッ

 

 

3

 

 

加賀「この手によせる袱紗朱の色~」

 

 

加賀「この目ひらいて その顔見れば」


 

加賀「翼束ねて波涛を超えてあげる~」

 


グラーフ「指を絡めて抱き締めたならー」


 

サラトガ「素敵な歌です。ビューティフル!」

 

 

大鳳「せめてそういう自由は打ち合わせが全て終わってからに……というかグラーフさんにこんな1面が……」

 

 

グラーフ「音楽は国境を越えるのだぞ。演歌は実によい音楽だと常々、ビスマルクが教えてくれたんだがな」

 

 

グラーフ「日本の詩人はいいな。これが大和の心か」

 

 

サラトガ「私も好きです。にゃーごと鳴くなー! ニャンと鳴けー!」


 

サラトガ「ふふっ」

 

 

大鳳「サラトガさん古いですそれ……」

 

 

加賀「大丈夫、油断はしないわ。赤城さんを下した鎮守府ですし」

 

 

加賀「向こうには5航戦のあの子がいますから」

 

 

グラーフ「む、加賀のことだから5航戦の子と一緒にしないで、とかいうものだと」

 

 

加賀「まあ、提督を爆撃するようなあの頃のままなら、そういいますが」

 

 

加賀「顔を見れば分かるわ。あの子は強くなってます。少なくとも5航戦の名に恥じぬ程度には」

 

 

大鳳「まあ、油断大敵なのは同意見ですね」

 

 

サラトガ「勝ちに行きますが、欲をいえば演習なので楽しい方がいいです。何事もそう。戦争を除いて、ですが」

 

 

グラーフ「私には戦闘を楽しむ、という感覚は難しい。娯楽ではなく、任務だからな」

 

 

加賀「あ、向こうの提督が」

 

 

サラトガ「なめんなよ! にゃー!」

 

 

提督「!?」ビクッ


 

サラトガ「キュート。ふふっ、びっくりしています」

 

 

グラーフ「アメリカ人は自由だな。自由の国だからか?」

 

 

大鳳「グラーフさんも、急に歌い始めたじゃないですか……」

 

 

グラーフ「日本文化が悪い」

 

 

大鳳「そんな無茶苦茶な……」

 

 

明石「おーい!」


 

サラトガ「はーい?」

 

 

秋月・明石「なめんなよー!!」

 

 

秋月・明石「にゃー!!」

 

 

サラトガ「!」パアア

 

 

サラトガ「面白い子達がいますねっ」

 

 

4


 

伊勢「元気そうだね」

 

 

陽炎「思っていた鎮守府とは大分違ったからね。ま、遠征や哨戒面で割と黒めに働かされてるけど」

 

 

伊勢「大分、違ったんだ」

 

 

不知火「主に司令のイメージが、ですね。最近では電さんも。仕事面では割と想像通りのところです。あ、先ほどのアレはただの景気付けですから」

 

 

陽炎「刺激は絶えないわね……」

 

 

伊勢「刺激はそうだね。この鎮守府の噂は良くも悪くも絶えないから。暁と響は元気にやれてる?」

 

 

伊勢「響は割と適応力は高いけど、暁は性格的に心配だったんだ。聞いてはいるけど、どうも」

 

 

陽炎「……ま、今は問題ないわね」

 

 

不知火「強いていうならば、最近までわるさめさんとお話しているのは見たことないですね」

 

 

陽炎「そこは響もそうね。私達は来てすぐに上手くやるためにわるさめと演習してスッキリさせたけど」

 

 

不知火「あの二人はそういう性格ではないですからね。でもフランクな人も多いですし、別に鎮守府に馴染めていないわけではありませんよ」

 

 

陽炎「そうそう。今はもうこの日に向けて仲良く特訓していたし、丙さんの件はもう大丈夫だと思う。向こうにわるさめのやつと一緒にいるわよ」

 

 

不知火「演習前に座禅を酌んでいます。雪風さんもいたかと」

 

 

伊勢「そっか……少し様子を見てこようかな」

 

 

5

 

 

伊勢「……なにを焚いているの?」

 

 

暁「精神を落ち着けるためのお香でしゅ」

 

 

伊勢「緊張しているんだね……」

 

 

響「わるさめさんいわく、たまーに司令官が部屋でやってたりする。お香を焚いて座禅を組んで瞑想すると頭と心がクリアになるみたく、真似を」

 

 

わるさめ「……」

 

 

雪風「なかなか趣があって面白いです! 伊勢さんもご一緒にいかがですか!」

 

 

伊勢「私はいいや。ところで」


 

わるさめ「なんか用?」

 

 

伊勢「……」

 

 

わるさめ「ま、顔を見れば分かるよ。私が丙のやつ襲撃した件だよね」

 

 

わるさめ「言葉で解決はしまい。だから謝罪は言わない。雪風のやつは割と怒ってもいないみたいだけど」

 

 

雪風「過ぎたことな上、丙さんが許したのなら私が怒ることではありません、はい!」

 

 

わるさめ「とのことだけども、あんたの場合はカゲカゲとヌイヌイのタイプだな。私と戦いでケリつけたい」

 

 

わるさめ「直接戦えるかはさておき、勝ち負けは決まる。要はそういう演習でしょこれ。こっちの司令官も、そっちの丙のやつとは因縁があるみたいだし」

 

 

暁「……」

 

 

響「わるさめさん、ちなみに日向さんも怒ってるよ。あの人はそういう相手に演習前に話には来ないけど」

 

 

伊勢「そうだね。というかうちの鎮守府の全員があの時は怒ってる」

 

 

わるさめ「まあ、そういうのがあんたらの強味だしね。結構結構コケコッコですよ。言葉で済みそうならこの場で土下座してたけど、そんな風じゃない」

 

 

わるさめ「ただ私は」

 

 

わるさめ「もうこっち側で、海の傷痕は倒さなきゃならないからさ。そっちだってそうだから、来たんでしょ」

 

 

伊勢「……うん」

 

 

わるさめ「この戦いで最大級に詫び入れるよ。過程も結果も踏まえてさ」

 

 

わるさめ「背中を預けられる程度の存在にはなったと、評価を改めさせて」

 

 

伊勢「……、……」

 

 

伊勢「あなたも変わったね。雰囲気が前と全然違う。駆逐艦ってそうだよね。子供な子が多いけど」

 

 

伊勢「少し会わない間に、背が伸びてみえる。成長していることがある」

 


わるさめ「老けこんでんね。あんたそういえば艦娘歴は明石さん並に長いんだったっけか」

 

 

伊勢「25年かな。専門学校辞めて兵士になった日からそんなに経ってる」

 

 

わるさめ「ほう。何の学校?」

 


伊勢「保育士のだよ。事情があって兵士になったんだよね。まあ」

 

 

伊勢「今まで見てきた司令官の中で丙少将が、最も私の理想だった。負けないよ」

 

 

伊勢「大和を失ってからもう3年近くも経つね。この演習は、勝つことに意味がある。いい加減、あの人を笑わせてあげたいから」

 

 

伊勢「戦争、だね」

 


5

 

 

阿武隈「よろしくお願いします」

 

 

日向「ああ、よろしく頼む」

 

 

日向「……」

 

 

阿武隈「……」


 

日向「阿武隈は、瑞雲、どのくらい行けるんだ」

 

 

阿武隈「すみません、仰っている意味がわかりません……」

 

 

日向「瑞雲だよ。知らないのか?」

 

 

阿武隈「いえ、知ってはいますが」

 

 

日向「それでどのくらい行けるんだ」

 

 

阿武隈「そもそもあたしは瑞雲積めないですし……」

 

 

日向「それは済まなかった」


 

阿武隈「い、いえ」

 

 

阿武隈(なんなの、これ……)

 

 

日向「好きか? 瑞雲」

 

 

阿武隈「まだ瑞雲引っ張るんですかあ!?」

 

 

日向「自己紹介がてら、瑞雲ー」


 

阿武隈「むしろ瑞雲馬鹿にしてません!?」

 

 

日向「あっはっはっは」

 

 

6

 


明石さん「はい、お待ち!」

 

 

卯月「ギリギリだぴょん」

 

 

明石「俺が作ってやったモンで納得しなかったせいだろ」

 

 

卯月「お前が作ったの懐中時計仕様じゃないし、あれモチーフ完全にドラゴンレーダーだし」

 

 

明石さん「頼む相手を間違えたとしか。弟子に光沢のデザインを求めるのが間違いです」

 

 

秋津洲「そうかも。明石君、実用性しか考えないから、開発妖精の意思疏通は明石君のほうが高いみたいだけど、見た目的な希望は明石さんのほうが器用かも」

 

 

卯月「うーちゃんに妖精可視才能もあればなー……というか、これ司令官に頼んだのうーちゃんがここに来た時だし、工作艦は色々と忙しそうぴょん」

 

 

明石さん「ブラック艤装ですから……っと、あれあれそこにいるのは丙少将ではないですか」

 

 

丙少将「お久し振りです。そういえばあなたもこの鎮守府に着任したそうですね」

 

 

卯月「敵だぴょん」

 

 

秋津洲「演習前から提督自らこっちの情報を探りに来たの?」

 

 

丙少将「なんかお前らあいつみたいな思考回路に染まってんな。そんなちゃちな真似しに来たわけじゃないぞ」

 

 

丙少将「あの、明石さん、弟子のほうと話させてもらってもいいですかね」

 

 

明石さん「もちろん。秋津洲ちゃん、卯月ちゃん男の話があるとのことなので私達は少し散歩がてら挨拶回りに行ってきまっしょい♪」

 

 

秋津洲「了解かも!」

 

 

卯月「明石君、演習の作戦について口を滑らしたら死刑な」

 

 

明石君「やかましい。そこまで馬鹿じゃねえから、安心してどっか行け」

 


7

 

 

明石「それで丙少将、俺になんか用スか。工廠で作業しながらでいいですかね」

 

 

丙少将「いいよ。そんな込み入った話じゃねえし」

 

 

丙少将「お前ら兄妹、なぜここに配属希望をしたんだ。甲さんところも勧誘の話来てたんだろ。元帥から直々に出向いて口説いたって大淀さんから聞いたぞ」

 

 

明石「あんたのところからも来ていたな。明石の姉さんからはあんたのところを推されたよ。まあ確かに報酬は向こうのが弾むし、工作艦は手当てがすげえな」


 

明石「世の中って不公平ですわ」

 

 

明石「特別俺は頑張ったわけでもなく、たまたま適性があっただけ。たった1つの運や才能でこうも変わるとか、ガンバってるやつに悪い。正しく人生はクソゲーです」

 

 

明石「あんたら将校なんてパーティーの土産だけで、昔の俺の給料の倍の土産をもらうとか」

 

 

丙少将「どんなデマだそれ。俺ら対深海棲艦海軍は肩身が狭えよ。深海棲艦といつまでてこずってんだって。安全な海域を増やせば単純に国利に影響するガキでも分かる仕事だ」

 

 

丙少将「将校なんか容赦なくコロコロ交代すんぞ。特に俺なんかは甲さんみたいにコネもあればカリスマあるわけでもなく、乙さんみたいな嗅覚もなければ目立った戦果をあげたことねえ」

 

 

明石「撃沈者、一番少ねえんだろ?」

 

 

丙少将「その誇りを一部で腰抜けって呼ばれる始末だ」

 

 

明石「軍学校の過去の卒業者の情報みたけど、あんたんとこ一番人気あったみたいだし、いい提督なんだろ」

 

 

丙少将「成績上位者は誰も俺のところを希望してないだろ?」

 

 

丙少将「俺のことをよく分かってる。お前らみたいに深海棲艦を本気で殲滅しようとしているやつに、俺は指揮官として応えられねーや」

 

 

丙少将「今まで戦ってきたが、兵士の命を失ってまでも進ませる海じゃねえ。中枢棲姫勢力も、だ」

 


丙少将「まあ、それでも俺は割と自分に自身はあるがね。そういう指揮では一番だと思ってる。いつもお守り代わりに幸運艦入れるんだ。あの雪風は死神要素のない幸運の女神だよ」

 

 

明石「俺と秋月は運があるわけでもねえ。むしろ悪い」


 

丙少将「お前、軍への志望動機で誰も沈ませたくねえって書いたらしいじゃねえか。スタートは俺と同じだ」

 

 

丙少将「家庭環境の不遇も、妹を守るその動機も、まるで俺と同じだ。あいつを守りたいから、必死で勉強した」

 

 

明石「へえ、妹が軍にいたのか」

 

 

丙少将「死なせちまったけどな」

 

 

丙少将「大和だ」

 

 

丙少将「昔にお前んとこの提督の殴ったのは私情だ。悪いと思ってる。なぜならば、あいつの指揮は理想を無視したが、現実的かつ合理的だったからだ」

 

 

丙少将「でも、あいつの本音を大本営で見たよ。底を見せた。あいつがどんな心で指揮を取ったのか分かる」

 

 

丙少将「きっと人の気持ちが分からないやつではねえ。理解してなかったのは俺のほうだとも思う」


 

丙少将「あいつ、恐らくあえて俺にブン殴られるように答えた。察してはいたが、確信したよ」

 

 

明石「その時の兄さんのことを俺はよく知らねえけど、悪い人ではないぞ」

 

 

丙少将「どうかね。昔は腹のなかでお前ら兄妹をどう思っていたのかは微妙なところだ。まあ、俺とは合わねえ」

 


明石「……そういえばさ、俺が適性検査施設に行く前に大和の記事を見たよ」

 

 

明石「俺はその頃は海に無関心だったけど、飛び込んだ今ならその言葉の重みは理解できるよ。俺も世界で一番大事な妹がいるからさ」

 

 

丙少将「明石さんから聞いてる。だから、その心構えも性能も妹の秋乃ちゃんと一緒に来て欲しかったんだ」

 


明石「兄さんも俺と秋はあんたのところに行くべきだっていってたな。あの人はきっとあんたのことも見てるよ。でも、俺と秋はあの人が提督をやっているここが良かったんだ」

 

 

明石「それが受理された。心の在り方って上も大事だと思ってる証拠だと思うよ?」

 

 

丙少将「ここだけの話、元帥、乙さん、俺がお前を欲しがったのには共通の理由がある」

 

 

丙少将「お前が男だからだ」

 

 

明石「男女差別か? こっちは俺より強い女ばっかりで嫌になってんだよ……」

 

 

丙少将「男の提督なら分かる」

 

 

丙少将「指揮を執ることを軽視しているわけでもねえし、むしろそれが最も重要だ。だけど、完璧にはなれない。だから、堪える時は必ず来る」

 

 

丙少将「抜錨した兵士が欠けて帰投した時は堪える。指揮官としての自分に失望し、ほかの奴なら未来は変わってたんじゃねえのかなって思う」

 

 

丙少将「思うんだよ」

 

 

明石「腹割りすぎだ。あんたのところがどんな鎮守府かは知ってる。それ兵士にとってかなりの侮辱だぞ」

 


丙少将「自分に艤装があればって」

 

 

明石「……」

 

 

丙少将「お前は俺らのなかで唯一、直接的に深海棲艦を倒せるやつなんだよ。皆と海で肩を並べられる唯一の男なんだ。この意味は、大きすぎる」


 

丙少将「男として、お前に期待する部分もあるんだ。お前の誰も沈ませねえ、は艤装をつけねえ俺達とはまた違う意味と責任が含まれてくる」

 

 

丙少将「だから、期待してんだ」


 

明石「石碑を見れば分かるよ」

 

 

明石「これから先」

 

 

明石「泣きたくなるような目にも遭うんだろ」


 

明石「俺は深海棲艦と戦っても弱えけど、俺にしか出来ない役割はある」

 

 

明石「そのために装備改修も覚えたし、俺は俺の艤装を生かすために改造して頭を捻ってきたんだ」


 

明石「男の約束ってやつだ」

 

 

丙少将「がんばれよ。女とは支え合うもんだ。ただ守られるような男になるんじゃねえぞ」

 

 

丙少将「……そんだけだ」

 

 

丙少将「邪魔したな」

 

 

8

 

 

甲大将「つーかーまーえーたっ!」

 

 

秋月「!?」

 

 

秋月「きゅ、急になんですか!」

 

 

甲大将「んー? 秋月いたから演習前に精神攻撃しようと思ってさ」

 

 

秋月「残念ながら精神攻撃なんて私には効きません。私はろくな育ちをしていないお陰で、精神的にはタフなんです」

 

 

甲大将「そんな感じはしねえけどな。うちの江風と似た、実は弱虫タイプの女の子と見た」

 

 

秋月「失敬な! それは兄貴のアッシーのほうですよ!」

 

 

甲大将「本当にそう思っている訳でもないだろ。発作がお前の欠陥の象徴みたいなもんだと私は思ったんだが」

 

 

秋月「……」

 

 

甲大将「ところでよ、秋月艤装で建造した際に、先代の秋月の夢って見たか。その艤装、先代の壊れた艤装を修復して保管していたモンなんだ」

 

 

秋月「先代のことは知っています。夢でも何度か風景は観ましたよ。なのでそこからの精神攻撃は効きません!」

 


甲大将「なら死んだことは知ってると思う。先代の秋月は私が提督になってからの5番目の兵士だったんだ」

 

 

甲大将「江風のやつがヘマを秋月が庇ったから、首もと辺りに戦艦棲姫の砲撃が直撃。首が胴体から飛んだ」

 

 

秋月「……」

 

 

甲大将「お前にしか分かんねえから教えてくれ。どんな想を感じた。それがあいつの遺言だと思ってさ」

 

 

秋月「痛い、とか、死にたくない、ですかね。でも、ぼんやりした感じで温かい優しい怒りを感じました」

 

 

甲大将「……、……」

 

 

甲大将「そっか。ありがとな」

 

 

甲大将「やることが、増えたよ」

 

 

9

 

 

間宮「こうして厨房で肩を並べるのも久し振りですね。あの時にこの鎮守府から一緒に逃げた時以来ですね」

 

 

天城「そう、ですね。あの時は提督がいなくて深海棲艦が押し寄せてきて、逃げるだけ、でしたね」

 

 

天城「フレデリカ大佐の死体は見つからずで、この鎮守府は壊滅的な被害を受けましたが……」

 

 

天城「ここのモノの配置はあの頃のままですね。本当に懐かしいです」

 

 

ぷらずま「天城さんの和食の腕はお代わりないようで。まあ、間宮さんのほうがまだ少し上なのです」

 

 

阿武隈「そうですかあ。私は甲乙つけ難いですけど」

 


卯月「うーちゃんの舌では美味しいか不味いかしか分からないぴょん。美味しければなんでもいいし」

 

 

天城「皆さんもお久し振りですね」

 

 

阿武隈「そうですね。私と卯月ちゃんはあの時すでに街に行っていたので現場にはいませんでしたが……」

 

 

卯月「というか知らないのなら教えてもいいぴょん? 天城、あの時の鎮守府は相当の闇だったぴょん」

 

 

天城「色々と聞いています。全く気付かず、でした……春雨さんと電さんのケンカ? のような場面は珍しいな、と思って覚えてはいましたが」

 

 

ぷらずま「ちなみにあの鎮守府を潰したのは私なのです。中枢棲姫勢力と手を組んでこの鎮守府を叩き潰しました」

 

 

天城「知っていますが……確か解体の約束を破って怒ったんですよね」

 

 

ぷらずま「そうなのですが、口の軽いやつは誰なのです……」

 


阿武隈「まあ、色々と驚きました、はい。電さんは私達が戻ってきた時は最近よりずっと塞ぎ混んでいたので」

 

 

卯月「わるさめ着任の時の自殺宣言はさすがのうーちゃんもびびったぴょん」

 

 

間宮「……」

 

 

卯月「まあ、今は丸くなったぴょん。司令官のお陰かなー。あいつ、なんだかんだで電を助けたみたいだし」

 

 

ぷらずま「感謝はしているのです。あの人を司令官さんに選んだことは私の自慢なのです」

 

 

間宮「……」

 

 

天城「間宮さんは、ずっとここにいるんですよね。電さんが研究施設にいた頃もここにいたと聞きましたし」


 

間宮「私は……」

 

 

間宮「ここにいただけ、ですよ」

 

 

卯月「……」

 

 

ぷらずま「……天城さんは逃げ出したのです。丙のところに異動した時から何しているかよく知らないのです」

 

 

卯月「まー、妖精可視の正規空母だし、活躍は風の噂で。うちにも龍驤が来たけど、天城と比べたらうーん」

 

 

天城「龍驤さんはお強いでしょう。私、個人演習の公式記録で勝ったことありません。あの人、1対1だと恐ろしいくらい強いので……」

 

 

阿武隈「龍驤さんは意思疏通のレベルが高いみたいですよね。色々と器用なこと出来ますし、現場では司令官経歴もかなり活きるみたいです、はい」

 

 

ぷらずま「っと、私はそろそろ行くのです。司令官さんに呼ばれているので。ご馳走さまなのです」

 

 

……………

 

……………

 

……………

 

 

卯月「間宮さん、どうしたぴょん、と電がいなくなったので聞いてみる」

 

 

間宮「皆さんお変わりになりました。ここにいる人達は、提督さんも含めて良い方向に成長していると」

 

 

間宮「私は悪いところもあるのに、変わらないなって思いまして……」

 

 

間宮「成長しない私は、生きている意味ってあるのでしょうか」

 

 

天城「それをいうのなら私もですよ……あの頃からなにか変わったとは思いません。不幸だとは思いませんけど」

 

 

阿武隈「そうですよ。間宮さんがここにいるということ安心感があります。お料理の腕も更に磨きがかかっていると思いますし」

 

 

卯月「つーか、こんな料理が出来るだけでマシぴょん。うーちゃんの父上なんか本当になにも出来なくて、母上のお腹にうーちゃんだけ残して死んだどうしようもねーやつぴょん」

 

 

間宮「……」

 

 

卯月「生きる意味のレベル高いぴょん。うーちゃんなんかはまっているゲームのメーカーの新作が出るだけで生きていけるし」

 

 

卯月「ここの奴等、司令官からして基本的に重いぴょん。うーちゃんにはキスカの件もあるけど、割り切るって大事だし。生きる意味を探す前に、生きている理由を見つけるほうが楽」

 

 

卯月「すぐに見つかるぴょん。うーちゃんにとってのアブーみたいな。それが間宮さんにとっての電じゃ?」

 

 

天城「あの頃はイタズラ好きの可愛い駆逐艦でしたが、なかなか大人なこというようになりましたね。時の流れを感じます。身体も大きくなりましたし」

 

 

卯月「アブーはあんまり変わってないぴょん」

 

 

阿武隈「みたいですよ、間宮さん。そんなに深く考える必要もないんじゃないかな。そういうことでナイーブは一旦胸のなかに仕舞いましょう」

 

 

阿武隈「少なくとも演習が終わるまでは、です」



9

 

 

ぷらずま「お話とは」

 

 

提督「作戦自体に変更はないですが、ただ不安要素が悪い方向に流れた時に電さんに負担をかけることをお伝えしておきたくて」

 

 

ぷらずま「不安要素というのは秋津洲さん、暁お姉ちゃん、間宮さん、わるさめさん、瑞鶴さん、辺りですか」

 

 

提督「間宮さん、瑞鶴さん、わるさめさんですね。わるさめさんはいくら心を入れ換えようと汚染された精神影響が尾を引いていますので、それは結果的に直らず終いです」

 

 

ぷらずま「でしょうね。私もそうです。今更、ただの電には戻れません。春雨さんも同じなのです」

 

 

提督「ポカをしてしまう危険性がありますので、早期退場もあり得ます。作戦では瑞鶴さん間宮さんもわるさめさんに合流させるつもりなので」


 

提督「わるさめさんが早期退場してしまった場合、ぷらずまさんがその分の相手をしてもらいますので、制空権争いの後はクールタイムが終わっても後方で待機していてください。これだけです」


 

ぷらずま「了解なのです」

 

 

提督「もう1つ、これは不安要素というよりは気になっているだけですが、間宮さんってなにか悩みとかあるように見えますか?」

 

 

ぷらずま「……さあ、ただ間宮さんはいつもと変わりません。司令官さんが来る前から、例の女が提督をしていた頃から変わらないのです」

 

 

提督「……そういえば、ぷらずまさんにも聞きたかったことがあるんです」

 

 

提督「どうしてこの嫌な想い出が詰まった場所を選んで戻ってきたのです?」

 

 

提督「あなたの目的は司令官も含めて戦争終結のために真摯な戦力を集めることでしたよね。それはこの場所でなくても出来たはずですし」

 

 

ぷらずま「あー……響お姉ちゃんにも似たようなことを聞かれましたね。あの場では答えませんでしたし、いいたくねーことなのですが」

 

 

提督「思考に耽っていると、ふと疑問に思っただけです。すみません、悪い性格ですね。答える必要は」

 

 

ぷらずま「この鎮守府には嫌な想い出だけではなかったのです。腐っても大切なお友達と過ごした場所ですから」

 

 

ぷらずま「いつでも、変わらない景色が1つだけあったのです。ここに帰投して食堂に来ると間宮さんがお帰りなさい、といってくれた場所なのです」

 

 

ぷらずま「それがあの頃の私の唯一の支えでした」

 

 

ぷらずま「間宮さんはこの鎮守府に思い入れがありましたからね。実はここを復興したいと始めにいったのは間宮さんです。私もそれを聞いて賛同しました。私も間宮さんとここに戻って来たいと思った程の、強い想い出でした」

 

 

ぷらずま「研究所の他の鎮守府でもご飯が喉を通りづらいのです。結局、間宮さんのご飯が一番美味しいのです」

 

 

提督「……!」

 

 

ぷらずま「意外そうな顔ですね。この程度で、司令官さんの頭がクリアになったのなら幸いなのです」

 

 

ぷらずま「そろそろ元帥が大淀連れてくる時間なのでは。あんなジジイでも元帥なので迎えに行ったほうがいいのです」

 

 

提督「……そうですね」

 

 

10

 

 

元帥「ここは相変わらず広いな。これぞ税金の無駄遣いって感じだ」

 

 

提督「自分も最初は色々と驚きましたよ。まだ使ったことはありませんが、特に映画館とか、入渠施設の他にある銭湯も、です。本当に至れり尽くせりです」

 

 

元帥「そのほとんどの設備は電が付け加えたんだぞ。あの子、ああ見えて抜け目なくてな、取れるところで取ってくる子だったから……」

 

 

瑞鶴「元帥さん翔鶴姉は……?」

 

 

元帥「あー、翔鶴は連れて来ていない。まだ決定ではないからな。本人は来たがってるが、龍驤と瑞鳳も瑞鶴いるしな。この鎮守府、空母多いだろ。でもまあ海の傷痕戦では誰が上手く指揮を執れるかを重要視するからな、この演習で判断してからかな」

 

 

元帥「乙中将との演習を見た限り、准将のほうが5航戦の指揮に向いていそうだし」

 

 

伊58「というかなぜこの場でゴーヤを呼んだでち……」

 

 

元帥「ああ、そうそう。これもまた決定ではないが、海の傷痕との戦いは潜水艦だけでまとめるために伊58は異動させる可能性があるとだけ」

 

 

伊58「い、異動!? ゴーヤ、嫌だよ! 最後までここの鎮守府がいいでち!」

 

 

瑞鶴「ワガママになるけど、ゴーヤは色々と初期からお世話になってるし、最後まで一緒に戦いたいわね……」

 

 

提督「自分としても同じ気持ちです。ゴーヤさんには本当にお世話になっています。ぷらずまさんと同じ時期からこの鎮守府に尽力してくれましたから」

 

 

提督「今までの重要作戦、合同演習も、阿武隈さんと卯月さんのスカウトも、深海ウォッチングも、戦艦棲姫との戦いも、乙中将との演習も」

 


提督「ゴーヤさんがいなければ数々の作戦は遂行不可能でした」

 

 

提督「しかし、ゴーヤさん、これは仕方のないことです。艦隊が違っても戦う敵は同じで戦場も同じです」

 

 

伊58「で、でも……」

 

 

提督「どこであろうと同じ戦場を駆け抜けた戦友なのは変わりません」

 

 

伊58「提督さん……」

 

 

大淀「まだ決定ではありませんから、頭にだけは入れて心の準備はよろしくお願いします、ということです」

 

 

伊58「了解でち」

 

 

初霜「ただいま到着しました」

 

 

元帥「お、来たか。まず初霜はこの演習が終わってから少し研究所に来てくれ。准将が送った資料について、いくつか君に協力してもらいたいことがあるそうだ。ロスト空間の全貌が暴けるかもしれんとのことなので頼みたい」

 

 

初霜「どのくらいの拘束期間になりますか?」

 

 

大淀「未定ですが、早ければ2日3日、本当にすぐです。最長でも海の傷痕との決戦の3日前には、ですね」

 

 

初霜「了解です」

 

 

元帥「はい、以上。あ、准将だけは残ってくれ。少し話がある」

 

 

11

 


提督「お話とは……」

 

 

元帥「先代の元帥は知ってる?」

 

 

提督「もちろんです。自分の深海妖精論の始まりは先代の元帥殿のお言葉ですから、尊敬している人物のお一人です」

 

 

元帥「サブちゃんももう少し生きてれば良かったのになー。この戦争は終わらないっつって、わしを後釜に推薦してぽっくり逝っちまったからな。60の誕生日の日だったか。今頃あいつは地獄で顔真っ赤だろうな」

 

 

大淀「捕捉しておきますと、サブちゃんこと先代は今の元帥の親友でして」

 

 

提督「噂で聞いたことはあります」

 

 

元帥「海の傷痕との戦いだが、総指揮はまあわしが執ることになる。だがな、なにぶん歳で、持病もある」

 

 

元帥「作戦成功までどれ程の時間がかかるかは正直、読みとけん。ないとは思うが、こういったところも保険を打っておかねばならん」

 

 

元帥「甲大将は総指揮の柄ではないな。あいつは純粋な兵士だから。中枢棲姫の時に准将に出した指揮も適当だ。乙中将はあれは作戦の内側で使う性能だしな。あれは全体とか要らんこと考えさせると鈍る。丙少将も同じくだ。あれは保守的な役割を与えて初めて素質が上手く発揮できるタイプだ」

 

 

元帥「なので、対海の傷痕では准将に総指揮を与える可能性が出てきてるとだけ伝えておくな。まだゴタゴタが抜け切れておらず、海の傷痕の性能がデタラメ過ぎて作戦にも四苦八苦している」

 

 

提督「……、……」


 

提督「お任せを。ですが」

 

 

元帥「大丈夫。大本営で皆、准将を見る目は変わってる。今の君なら甲乙丙も納得するよ。問題は総指揮がどうこうではなく、兵士のほう」

 

 

元帥「乙中将の艦隊はある程度、君のことを認めている様子だ。まあ、どこも兵士はそんなもんだ。自分のところに勝った相手は認める。それでなければ自分達をとぼしめることになる」

 

 

元帥「結果は重視しないといったが、状況が変わった。甲と丙のやつにも勝ちたまえ」

 

 

提督「元よりそのつもりです。それも含めてこの鎮守府の全力をこの演習で振り絞ります」

 

 

元帥「よろしい。話は終わり」

 

 

11

 

 

明石「ええと、北上さんだっか。現明石……いや明石君のがいいかな」

 

 

北上「おー、君が例の男の娘。ツナギなんか着ちゃって。なかなかイケてますねえ」

 

 

明石「よろしく。握手」


 

大井「よろしくお願いします」パシッ

 

 

明石「すごいうざそうに手を払われたんだが……言葉と行動が矛盾してる」

 

 

大井「いえ、北上さんと握手したいのなら、その油臭い手を洗ってからですね。後、そーいうのは先に木曾とどうぞ」 

 


木曾「悪いな。北上姉と大井姉はこんな感じで、大井姉は基本的に男に対してきつい」

 

 

木曾「でも騎手みたいに尻をバシバシ叩ける」

 

 

北上「木曾っち、後は若いもん二人に任せましょう」

 

 

大井「本当に、止めてもらえませんか……」

 

 

木曾「ということでよろしく」ギュー

 

 

明石「力が強いっす」

 

 

木曾「お前の手はゴツゴツしているな。男って感じだ。俺は油臭いのも含めて好きだぜ」

 

 

明石「そういうあんたの手は柔いな。女の手だ」

 

 

大井「一応姉妹艦なのでいいますが、セクハラは止めていただけます?」

 

 

明石「そういう意図はないぞ!さっきからあんた当たりがきついな! 当たり屋か!」

 

 

江風「へへっ、しかし男が身内にいるってのも面白くなりそうだよなー」

 

 

江風「うちは提督も女だしさ」

 

 

秋月「色々と現実問題ありますよ」

 

 

木曾「まあ、異性だしな。俺はあんまり気にしないが。江風もそうだろ」

 

 

江風「まあ」


 

秋月「海で肩を並べるということは、風の悪戯による皆さんのスカートの中をアッシーに目撃されるということです」

 

 

江風「確かに」

 

 

北上「さてはそのために軍に入ったなー?」

 

 

大井「うわ最低、死んでください」

 

 

明石「つうかさ……」

 

 

明石「スカートはいてるほうがおかしいってのが世論だよ?」

 

 

一同「……」

 

 

江風「慣れすぎていて違和感とかなかったよ……」

 

 

木曾「まあ、カッコなんざ飾りだろ。とにかくよろしくな」


 

大井「……よろしくお願いします」

 

 

北上「北上さんを狙っては、大井なる力に呪われてしまうことでしょう」

 

 

大井「……」ギロ

 

 

明石「殺気込めるなよ……」


 

12

 


丙少将「事前通りで問題なしです。全員、出撃できますよ」


 

丙少将「日向、伊勢、雪風、漣、加賀、大鳳、うちのメンバーにはもう伝えるべきことは伝えています」

 

 

甲大将「こちらの木曾、江風、北上、大井、グラーフ、サラトガにも同じく」


 

甲大将「それで連合艦隊といっても、私の艦隊と丙少将の艦隊で、向こうを潰すわけだが、離脱意向信号の使用と、損傷具合、向こうの動き、この3つの連絡を重視してくれ」


 

丙少将「了解です。しかし、この演習場……いくつかポツンと陸地がありますよね」

 

 

丙少将「……通常とは異なるのは、電や春雨がいるせいでしょうか。というか、あれは最近、埋め立てたものとしか」


 

丙少将「でないと、波で崩れてますよね。明石が突貫でやったんですかね」


 

甲大将「陸上型の深海棲艦艤装のため、じゃねーの」

 

 

甲大将「海の中も気を付けないとな。ルールは災害でも中断しないと、むちゃくちゃな上、演習場に細工をしてはいけないというルールもない」

 

 

甲大将「本当になんでもしてくるやつらなのは、もう語るまでもないな」

 

 

丙少将「敵は深海棲艦だと思え、といってあります」

 

 

甲大将「まあ」

 

 

甲大将「こちらが勝ちを狙いに行くなら、向こうを沈める気概がいる。乙のやつにマジでなにしてくるか分からないっていわせるような奴等だし」

 

 

丙少将「俺は本音をいえば深海棲艦ならまだしも、うちの兵士らにそういうことさせたくないんですがね……」

 

 

丙少将「でも、腹くくってきたんで」

 

 

甲大将「お前はお前らしく指揮をすればいい。それが元帥のご意向だしな。勝て、とはいわれていない」

 

 

甲大将「ただ最も全力を出せる形なら、なんでも構わないんだ」

 

 

丙少将「甲さん、珍しく楽しそうですね」

 

 

甲大将「私は深海棲艦と戦うよりも演習のほうが好きだ。昔を思い出すんだ。将校の位についてからは身内との演習自体、あまり組めなくなった」


 

甲大将「あいつは合同演習の成果、スカウト、深海妖精の発見および確保、電の運用、春雨の引き入れ、北方棲姫、リコリス棲姫の撃破、そして我々に」

 

 

甲大将「暁の水平線の存在を叩きつけてくれた」

 

 

甲大将「その期間、そしてあいつの経歴からして考えて、着任する前から、もしかしたら周りが、校庭でボール遊びしているような頃から、考えてた」

 

 

甲大将「そう、信じたいな」

 

 

甲大将「あいつはあまり過去を語らないから、無機質にも感じるが、あの功績は熱量が低いやつに出せてたまるかっつーんだ」

 

 

丙少将「熱、ですか。そういえば向こうの瑞鶴が、スカウトの際の口説き文句に熱を感じたっていってましたね……」

 

 

甲大将「合同演習か、懐かしい」

 

 

丙少将「あれからあいつ関連で色々なことありましたからね……」

 

 

甲大将「もっと前……」

 

 

甲大将「私が新米だった頃、今の元帥の補佐官をしていて、指揮権を与えられたのは木曾と北上と大井の3人だった」

 

 

甲大将「柴又にいた江風艤装適性者を拉致って4人集めて、合同演習に恥を承知で参戦した。あいつらのように形振り構わずな戦いで勝ったんだ」

 

 

甲大将「あの頃に戻れたみたいで私は楽しいよ」

 

 

丙少将「……その頃、自分、観客席で」

 

 

丙少将「0距離で魚雷当ててた木曾さん見て笑ってた気がします」

 

 

甲大将「初耳だな。お前、あの場にいたのか」

 

 

丙少将「はい。お言葉ですが、連れから誘われて忍び込みました」


 

丙少将「可愛い子のあられもない姿が見れると聞いたので……」

 

 

甲大将「あっはっは」

 

 

丙少将「本当に楽しそうですね……」

 

 

丙少将「……珍しい」

 

 

甲大将「まあ、来るべき戦いのため、共に戦うんだ」

 

 

甲大将「敬意もクソもねえ初心をガッコの机から持ってきて、味方相手に戦争してやるよ」

 

 

甲大将「それが礼儀と敬意だろ」

 

 

13

 

 

元帥「さて」

 

 

大淀「勝敗、気になりません?」

 

 

元帥「まあ、それだけに色々とこの演習に手回しする羽目になった。事前に頭を回さないと、なにが起きるか読みきれんからなー」

 

 

元帥「そのためにおあつらえ向きのルールと餌を用意したわけだし」

 

 

元帥「勝ちに来るのなら、手段は限りがある。最もただ皆を信じるのみ、という可愛いげのある手段を取って欲しいものだが、まあ、ないわな」

 

 

大淀「難しいですね。なにかしら驚くようなことはしてくるでしょうし、そもそも向こうは普通に戦っても驚かしてきますしね……」

 

 

元帥「まあ、いずれにしろ」

 

 

元帥「始まれば分かるだろ」

 

 

元帥「今回は楽しみだよ」

 

 

元帥「間宮さんの大破を拝めそうだ」

 

 

大淀「……」ギロ

 

 

元帥「スンマセン、口が滑りました」



【8ワ●:胸を借ります。胸ぐらつかむような借り方ですけどね】

 

1

 

 

伊58「今回は今までの演習で最大規模でち」

 

 

龍驤「ジュース用意したから、観戦は静かに頼むでー」

 

 

瑞鳳「大丈夫ですって。むしろ大丈夫じゃないのは現場です。作戦自体も過去最悪レベルの戦法なので……」

 

 

雷「最悪、私達にも被害が」

 

 

榛名「その場合でも決着がつくまで私達も抜錨禁止ですから。鎮守府に被害が及ばなければいいのですが」

 

 

瑞鳳「私的に本当に怖いのはこの提督さんのことだから漏洩を嫌ってなんかおまけで作戦を組み込んでいそうなことですね」

 

 

龍驤「ちょっと聞いとこ。キミー」

 

 

龍驤「制空権はキミが指示を出すんやろ。作戦に変更はない?」

 

 

提督「ありません。瑞鶴さんの艦載機は墜ちないようぷらずまさんが配慮します。それに序盤の制空権は確実に」

 

 

龍驤「了解」

 

 

龍驤「まー、電を出したこっちと制空権争うなんて向こうの空母5人でも無理や。電の艦載機は自動補充の弾は無限に近いし、向こうは空母を使い潰すに等しい自滅行為やろ」


 

瑞鳳「そう、ですね。序盤は諦めるでしょうね。空を諦めるかどうかは艦隊の動きを観れば分かります」

 

 

雷「電は艦載機を300近く飛ばせるし、クールタイムが終わればまたその数飛ばせるからね……フル性能だとかなり再装填までに時間はかかるけど」

 

 

龍驤「まあ、確実に大鳳やなー。装甲空母は本当にうっとおしい。サラトガ潰したいんやけどな、泳がせておく」

 


龍驤「電の装甲耐久に風穴空けられる深海海月姫の史実効果艦であるサラトガさんはどう動くかで、大体読めてくるとさ。まあ、電を牽制するような立ち回りなんやろうけど」

 

 

雷「珍しく怖い顔してるわね」

 

 

瑞鳳「サラトガさんは龍驤さんと因縁ありましたか。私情は混じりますよね」

 

 

龍驤「まーなあ……」

 

 

2

 

 

明石さん「しっかし提督、丙さんも甲さんもあんまり見ない顔をしていますね。丙さんが演習であんなに燃えてるの始めて見ましたよ。甲さんもなんか刺々しいオーラが漏れてましたし」

 

 

提督「まあ、そうでしょうね。分かっているはずです。今だからいいますが、この鎮守府が向こうに劣っている要素はあっても、優っている部分がありすぎて普通に考えて負けることはありません。この鎮守府の戦力は、強大すぎるんですよ」


 

提督「ぷらずまさん一人の戦力で元帥の第1艦隊と張り合えますから。合同演習時など力で捩じ伏せたのみ」

 

 

明石さん「甲大将と丙少将は強いですよ。明石さんの目から見たら、互角程度だと思いますけど……」

 

 

提督「そうですね。特に甲大将は勝てない戦いに勝ってきた甲の大将です。が、優れていようが、根底にあるのは一昔前の根性論の思考法に過ぎません。だから、甲大将は分かって、焦っているはずです」

 

 

提督「それじゃ海の傷痕に勝てませんから。不可能を可能にするレベルを要求されている」

 

 

提督「この演習はそういう趣旨でしょう。この鎮守府が勝利することは想定されていて、なお、勝利を収める」

 

 

提督「鹿島さん、出来ますか?」

 

 

鹿島「普通の演習ではないですから、可能だと思います。相応の準備はしてきていると思うので、念には念を入れてきているかと」

 

 

提督「そうですね。こじ開けられます。それこそ甲の誇りを返上してまでも、地べたを這うような執念で」


 

響「つまりこの鎮守府は勝って当然だけど、提督の差で追い詰められるといっているように聞こえるけど」

 

 

提督「そういうことです。これは作戦とか、兵士との信頼関係とか、そういう視点の話ではなく」

 

 

提督「例えば権力、例えば友好関係、例えば家柄、ありとあらゆる提督の人間的ステータスが反映されます」

 

 

提督「ま、それでようやく向こうとこちらは対等です。龍驤さんも気付いてはおりましたが」

 

 

明石さん「すみません。少し演習の資料を読ませてもらいますね」

 

 

明石さん「……、……」

 

 

明石さん「な、なるほど。これはむしろこちらが敗北濃厚……」

 

 

提督「ですよね」



響「どういう意味だい?」

 

 

明石さん「各自に離脱意向信号あり、ここの鎮守府のスターティングメンバーは12名、丙さん甲さんのところは各6名ずつ。各鎮守府からそれ以上の参加は認められず、リタイアした兵士の復帰も当然ダメ。装備は応急修理要員と女神はなし。用意した通信設備や離脱意向信号に細工を施すのはアウト。演習が終わるまでは燃料弾薬ボーキの補充、入渠はなし。それ以外は何でもアリ。どちらかのスターティングメンバーが0になるまで続くサドンデス」

 


明石さん「このルールだと、厳密には支援艦隊がルール違反じゃないです……鹿島ちゃん、そうですよね?」

 

 

鹿島「はい。スターティングメンバーの人数指定はあるだけで、それ以上になるとしても途中参戦が可なんですよね……」



鹿島「例えば警備の漣さん達の『鎮守府の所属を一時的に変えて途中参戦させること』とか『他鎮守府からの支援艦隊を要請すること』は違反ではなく……」

 


響「普通はそこまでやらないけど、今回はそうでもない、かな」


 

提督「そうですね。プライドのある甲大将からしたらその手は使いたくないでしょうね。ですが使ってきます」


 

提督「演習場の警備を名乗り出て、7駆を置いたことが分かりやすいです。恐らく演習指定海域外からの支援艦隊と通信のやり取り、そして恐らくタイミングを測るため、どれかに信号弾の類を積ませて、最良のタイミングで切ってきます。そしてその艦種には対ぷらずまさんの史実効果艦もいるはず」



提督「唯一、ぷらずまさんと張り合えるサラトガさんの動き方で支援艦隊の有無とメンバーも予想がついてきます」



提督「甲大将や丙少将の人望さえあるのなら声かければそこらの兵士を引っ張って来られるはずですからね。自分には不可能だ。つまり提督としての差で自分は負けてます」

 

 

提督「海の傷痕戦を想定した勝てば官軍の戦いです」

 

 

明石さん「しかし、準備期間は2週間です。丙少将も甲大将も忙しかったはずですし、どこまで準備してきているのかが胆ですね」

 

 

提督「まあ、12対12にはなり得ません。下手したらその倍以上の数を相手しなければならず」

 

 

提督「こちらの艦隊の動かし方でそれをこちらが見抜いているかも気付かれるでしょうね。下手に思考してもらうのは怖いので皆には伝えていません」

 

 

提督「まあ、いいんですよ。海の傷痕との戦争に向けての演習なんてこのくらいやらなきゃスポーツの域です」

 

 

提督「必ず勝ちます。自分のマイナスは自分でプラスにまで持っていきます。出来る限りの策は用意しました」

 

 

提督「准将となり、ようやく並べた。二人の人柄は好きですが、勝ちに固執しないその指揮は前々から気に食わなかった面もあるんですよね」

 

 

提督「胸を借ります。胸ぐらつかむような借り方ですけどね」



【9ワ●:開戦】

 

 

1

 

 

グラーフ「……これは」

 

 

グラーフ「向こうはかなり前にスタート地点を置いた理由は、これだな。瑞鶴が見えるか」

 

 

サラトガ「Oh……点です。グラーフさんマサイ族かなにかですか」

 

 

グラーフ「向こうが発艦した弓が艦載機となる時間だ。加賀よりも5秒ほど長く艦載機に変化しない」

 

 

グラーフ「およそ450メートル程」

 

 

グラーフ「こちらの艦載機は弓矢の状態の艦載機を攻撃対象としない。つまり、こちらの艦載機と戦闘をさせずに飛ばしている」

 

 

グラーフ「飛距離が尋常ではないな。サラの銃弾型よりも艦載機への変化が遅い。本当に弓矢か甚だ疑問だ」

 

 

グラーフ「工作艦の仕業だろう」

 


グラーフ「鋼材で弓矢をアーチェリー仕様に改造していても不思議ではない速度と飛距離」


 

サラトガ「艦載機を出来るだけ多くこちらまで飛ばす工夫ということですか」

 


グラーフ「だが、それならばこちらの艦載機も多く向こうへ攻撃できているはずだが、向こうよりも遥かに」

 

 

サラトガ「それに期待するのは後手に回るということですね」

 

 

グラーフ「問題はない。そもそも」

 

 

グラーフ「空での戦力そのものが圧倒的に不利だというのが結論」

 

 

サラトガ「甲さーん、どうしますか」

 

 

甲大将「まあ、大方龍驤や鹿島辺りが瑞鶴に妙な技術を吹き込んで、工作艦が艤装や装備に手を加えたんだろーな」


 

甲大将「序盤は制空権争いするだけ無駄だ。向こうも分かってる。予定通りに動けば空は後で取り戻せる」

 

 

甲大将「電は制空権参加したらしばらく動かねえさ。向こうが電の使い方を心得ているのなら、序盤ですり減らす真似はしない」

 

 

甲大将「艦隊の動かし方自体はわっかりやすい提督だよ」

 

 

甲大将「素質自体がギミック染みてる不確定要素の初霜な。絶対になにかおかしなモノを積んでる」

 

 

甲大将「それと秋津洲。こいつの二式大挺は目として使うもんだ。演習では司令官が戦況判断しやすいように映像記録させてるはず」

 

 

甲大将「奥に隠れてんのが証拠だ」

 

 

甲大将「予定通りに」

 

 

2

 

 

ぷらずま「む、ぽんこつ空母のくせにやるではないですか」

 

 

瑞鶴「龍驤から真っ直ぐに飛ばせっていわれてたから、真っ直ぐに飛ばす練習したら、発艦距離が大部伸びたという。加えて艤装馴染ませたしね」

 

 

瑞鶴「おちびあんた、その陸地にいるのはいいけどさっさとゴー。私の艦載機、墜とすんじゃないわよ?」

 

 

ぷらずま「● ●」

 

 

ぷらずま「瑞鶴さん」

 

 

瑞鶴「……ん?」

 


ぷらずま「正規空母のくせに、龍驤さんのような小技ですね。私が圧倒的な航空戦力というものをあのダボどもに見せてやるのです」


 

ぷらずま「トランス:空母棲姫艤装」ジャキン


 

ぷらずま「トランス:北方棲姫艤装」ジャキン

 


ぷらずま「トランス:リコリス棲姫」ジャキン

 

 

瑞鶴「化け物ですか!?」


 

ぷらずま「艦載機、発艦」

 

 

ぷらずま「●ワ●」ナノデス♪


 

ぷらずま「まずは序盤でうっとーしい装甲空母艤装の大鳳を確実に沈める。それが司令官さんの」

 

 

ぷらずま「命令なのです」


 

3

 

 

大鳳「丙少将、サラトガさんではなく私でした……」

 

 

丙少将「ああ、残りの艦載機全て発艦させてくれ」

 

 

大鳳「……ええ、すでに予定通りに、私を除く艦隊、A地点へ向かいました。移動護衛に全艦載機を……」

 

 

丙少将「損な役回りをさせてすまん。正直、大破止まりで行けると」


 

大鳳「私としても予想よりも上に見積もって動いたのですが、ぜひとも見てもらいたいものです。子供の頃に見たトラウマの蝗害風景のようです」

 

 

大鳳「空が見えません。あんなにたくさんの深海棲艦型の艦載機が。まるで」

 

 

大鳳「稲畑を襲うイナゴの大群のよう」



大鳳「後はお願いします……」

 

 

ガガガガガガガガ

 

ガガガガガガガガガガガガ

 

ガガガガガガガガガガガガガガガガ!

 

 

4

 


金剛「全砲門……」

 

 

金剛「ファイヤー!」

 

 

ドオン!

 

 

初霜「素晴らしいです。制空圏確保が効いてますね! 伊勢さんが一気に中破です!」

 

 

瑞鶴「天城さんが発艦姿勢に入ったわよー。制空権確保した今更の発艦だけどー」

 

 

天城「第六○一航空隊、発艦始め!」

 

 

瑞鶴「おっと、金剛さんには一弾も当てさせないわ!艦載機発艦!」

 

 

ガガガガガ


 

初霜「――――、――――」

 

 

初霜「龍驤さん、天城さん艦載機発艦です。24機のうち、艦攻8機の烈風、46機、瑞雲も来てます。艦攻のターニングポイントは敵艦隊と私達の中間距離です」

 

 

龍驤「……、……」

 

 

龍驤「はっつん、狙われとるで。烈風を見方の周りに飛ばしてるのは瑞鶴と電の艦載機から自艦隊を守るためと見て」

 

 

龍驤「伊勢日向の神精度砲撃が来る。艦隊から離れたらあかんで。金剛と瑞鶴も引き撃ちでええわ」

 

 

瑞鶴「あああ! 私の艦載機けっこう墜とされてる! はっつんあれなに!?」

 

 

初霜「雪風さんの機銃と日向さんの砲撃、それと天城さんの烈風です!」

 

 

初霜「提督、龍驤さん、北上さん大井さんの雷巡部隊が第1艦隊との戦闘から離脱して第1艦隊のほうに向かっています!」

 


初霜「私は少し離脱して後方に下がります。金剛さん、負担をかけるのですが、探知を怠らないでください! あのお二方は遠距離から高精度の雷撃を放ってきますので!」

 

 

金剛・「了解!」

 

 

ドオン!

 

 

初霜「来ましたね!」

 

 

5

 


天城「おかしいですね。この距離で向こうの打つ手が早すぎます。情報伝達速度と探知範囲が異常です」

 

 

伊勢「偵察機が混じって飛んでる。瑞鶴と電のじゃない。あの大きなサイズと飛行距離は秋津洲の二式大挺だね」

 

 

日向「丙さん、瑞雲で例の初霜を見てきた。まとめて報告する」


 

日向「まず向こうの情況把握と情報伝達が異様に速い。二式大艇がこっちまで偵察に来てる。あの初霜艤装、強引に空母の飛行甲板だけ付けられてるみたいだ」


 

日向「珍しく初霜に放った伊勢の砲撃が外れた。瑞鶴の弓矢は鋼材で妙に加工されて、天城の艦載機を潜り抜けてきてうっとおしい」

 

 

丙少将「……、……」

 

 

丙少将「乙さんの秘蔵っ子と聞いてた時から嫌な予感はしてたんだよなあ。聞くが、今の状況で初霜は砲撃したか?」

 

 

日向「……全員、見てはいない」

 

 

丙少将「これは全員に聞こえるようにするな。元帥とこと演習やった時に異様な情報伝達速度と状況把握能力に優れた旗艦がいただろ。種は同じ」

 

 

日向「元帥旗艦……大淀の……」

 

 

日向「『艦隊司令部施設』か」

 

 

丙少将「そうだ。想のシステムはもう分かってる。ありゃ妖精の種類問わず、妖精同士の想を繋げて情報のやり取りをする海の傷痕の仕様能力が種みたいだ。つまり、あれがある限り、瑞鶴のも、秋津洲のも、水上偵察機も全部が目になって、その情報を艦隊司令部施設にいる装備妖精がまとめて艤装から、敵性者に情報を流すもんなんだ。初霜は確か乙さんから旗艦としての状況判断はお墨付きのやつだ」

 

 

丙少将「瑞雲の映像は俺のほうでも見てる。伊勢の砲撃から逃れたのは、運じゃねえ。タービン積んでる」

 

 

丙少将「二式大艇は艦隊司令部施設と、初霜の素質、妖精の意思疏通を組み合わせた荒業だな。艦隊司令部施設の装備妖精と意思疏通して、装備妖精が指示を出してる。飛行甲板は二式大艇やら瑞鶴の艦載機のためのもん」

 

 

丙少将「向こうの第2艦隊は装備妖精から、初霜へ。初霜から装備妖精へ。初霜から龍驤へ。龍驤から初霜へ。このパターンで情報を整理してる。それが初霜の役割だ」

 

 

丙少将「天城、伊勢を守ってやってくれ。初霜の回避性能はタービンの誤差だ。お前なら種が分かれば当てられるだろ」

 

 

伊勢「すでに準備に入ってます!」


 

日向「丙さんからの指示だ。私も砲撃に参加する。なに、天城の護衛は伊勢だけでいい。伊勢、まだか?」

 

 

伊勢「準備は完了してますが……すみません、もう少し。タイミングを模索してます」

 

ガガガガ


伊勢「…………」

 

ガガガガ

 

天城「っ、限界です。艦戦で守りきれません!」


 

伊勢「……ここっ!」

 

ドオン!


 

6

 

 

龍驤「暁、初霜の護衛についとるよな。天城の艦載機、伊勢か日向の護衛の動きしとる」


 

龍驤「制空権を取られた上で強引に狙いつけて来とる。こっちの鎮守府みたいなやり方やね。向こうの鎮守府にいたんやし、伊勢の怖さは知っとるね」


 

暁「砲撃精度はこの鎮守府の阿武隈さん以上! 初霜さんの護衛は任せて!」

 

 

龍驤「よし、任せたで!」

 

 

龍驤「それではっつん、艦載機に変化した瑞鶴の艦戦、飛行甲板に降ろしてあるやろ。それを再発艦させて空を守って。その艦載機1つでも盾に出来れば、砲弾の軌道は逸れるから」

 

 

初霜「了解です! 1度いってみたかったんですよね!」

 


初霜「――――、――――」

 

 

初霜「艦載機、発艦って!」

 

 

初霜「……あ、雪風さんの魚雷が!」



暁「とうっ」

 


ドオオン!



暁「この艤装の盾も役に立つわねっ」



初霜「ダメです! 間に合わなかった、いえ、艦載機を抜けて来ました」

 


暁「砲撃も……」


 

初霜「そ、そんな。空に舞ってる無数の艦載機の一機にでも当たれば軌道変わるのに……精密過ぎます……」


 

初霜「天晴れな砲撃です……」


 

暁「仕方ないわね! この状況なら私ががんばるからっ!」

 

 

ドオオン!


 

初霜「ええ、暁さん!?」

 


初霜「龍驤さん、私に被弾はなしですが、暁さんが盾になって、大破してしまいました!」

 

 

龍驤「暁! 聞こえるか!?」

 

 

暁「……う、ん」

 

 

龍驤「声で分かるわ。死にかけ、やな。でもよくやったで。今の一撃を止めたのは大きい。離脱意向信号を……」

 

 

暁「装備はまだ使えるのが、あります。まだ、戦えるから、押しません」

 

 

初霜「いやいや暁さん、血塗れじゃないですか! 艤装の破片が目に刺さってますし、頬肉が抉れてますよ!」

 

 

龍驤「はっつん、向こうの状況はどんな感じ?」

 

 

初霜「日向さんと天城さんは先行した加賀さん雪風さんを追っています。そして雪風さんが妙な装備を積んでます。信号弾の類だと思いますね」

 

 

龍驤「なるほどな、雪風か。予定通り金剛さんと、瑞鶴さんは追ったままにさせておくわ」

 

 

初霜「しかし、伊勢さんがこちらに単艦で。こちらは電さんが控えているほうに退避しているのに……」

 

 

龍驤「ちょっと待ってな」

 

 

龍驤「提督からオーケー出たわ。そのまま電のところまで下がり。暁、離脱意向信号は押さんでええ。大破のまま、初霜の後をついていって。ただ初霜は暁の速度に合わせなくていい」

 


龍驤「後、暁に提督から通信入るで」

 


初霜「……」

 

 

提督「暁さん、実弾演習で大破のまま戦闘続行の意味を理解していますよね。最悪ここがあなたの死に場所です。それを踏まえてあなたに言葉を送ります」

 

 

提督「『1秒でも多く時間を稼ぎ、絶対にただで死ぬな』です」

 

 

暁「了、解、です!」

 


7


 

伊勢「丙少将、大破した暁、射程距離に入ってから砲撃してきますが、どうしましょう。このまま初霜を狙」

 

 

丙少将「初霜は深追いする必要はない。電とやるだけ無駄だからな。艦隊と初霜を切り離せればいいんだよ。金剛と瑞鶴が追ってきてるし、向こうは恐らく雪風のことに気が付いてる」

 


丙少将「倒せるやつは倒しとけ」

 

 

丙少将「攻撃してくるのなら邪魔だ。情けは要らねえ。あの子はもう俺らの知ってる暁じゃねえよ。そういうのは無礼っつーもんだ」

 

 

伊勢「……分かり、ました」

 

 

伊勢(あ……雨が、ぱらついてきた)

 

 

10

 

 

提督「雨が、ぱらついてきましたね」

 

 

響「うん。暁も変わったね。丙さんのところにいた時はあんな風じゃなかった。兵士というより女の子だった」

 

 

明石さん「なにか心境に変化があったんでしょうね。10代の子は男も女も3日会わざれば刮目してみよ、です」

 

 

提督「暁さんを撃つでしょうね。また後で殴られてしまいそうですが、それでもあそこは戦わせますよ」

 

 

提督「暁さんのために」

 

 

響「司令官」

 

 

提督「分かってます。無駄死にだけはさせませんよ。伊勢さんを潰すチャンスです。第3艦隊を動かします」

 

 

11

 

 

暁(……砲撃、当たらないし)

 

 

暁(ふらふらだ。でも、もう少し近付けば)

 

 

暁(当たるかも、しれない)

 

 

暁(伊勢さん、少し怖い顔、してる)

 

 

暁(……近付いてくる)

 

 

暁(なにか、いってる)

 

 

暁(伊勢さん、かあ)

 

 

暁(色々、優しくしてもらったな……)

 

 

【10ワ●:想題伊勢→将来の夢は←想題暁】

 

 

――――将来の夢はありますか?

 

 

鎮守府に着任した15年前に、丙少将から初めて聞かれた質問だったかな。


 

すっとんきょうな質問だ。「兵士にそんなこと聞いてどうするの」って答えたら「お前が海で死ぬ気じゃないのなら大事なことだろ。ないなら見つけろ。それが任務」と丙さんは返した。

 

 

将来の夢は保母になることでした。ですが、少し学費を出稼ぎに来ました。


 

――――なので、夢は参考書ごと実家の押し入れに置いてきました。

 

 

といったら翌日、丙さんに無理やり実家に行ってその参考書を取りに帰された。なんなの、と溜め息が出た。

 


駆逐艦は兵士として足りていない人が多く、2年程度の軍学校で教育を受けただけの子供だ。深海棲艦と戦う時、泣く子も多い。塞ぎこむ子もたくさん。ケンカする子も何度も見てきた。

 

 

そういう子をなだめるのも嫌いじゃない。意外と実家から持ってきた参考書、役に立った。



戦場にいることで、分かってきたこともある。

 

 

――――泣く子は大体、街で抱いた夢を海に持って来ちゃった子だ。

 

 

平和と戦争のギャップを知り、そんな悠長なこといっている場合じゃない、と現実で血の涙を流す。そうして海を越えていく。

 

 

――――将来の夢はありますか?

 

 

――――立派なレディーになりたいですっ!

 

 

――――暁なんて泣く子のケースの代表格みたいなモノだった。

 

 

「すまん伊勢、男の俺にはよく分からねえや。立派な女って何なんだろうか」

 

 

いや、私も分からないし。立派な女ってなんだろ。立派な男とはなにが違うんだろ。良い男と良い女の子ってなんなのか。いざ改めて考えると、よく分からない。なので、聞いてみた。

 

 

「立派なレディーってどういう?」

 

 

――――甲さんみたいに、かっこよくて、凛々しくて、強くて、周りから尊敬される女性のことよ!

 

 

甲大将。うん、確かにあの人は同性の私から見ても尊敬できる人だ。丙さんも納得行ったみたいに頷いていたけど、こうもいった。

 

 

「暁適性者が甲さんみたいになるのは難しいだろ。あれは女の形したマスラオっていうんだ。性別が行方不明になりかけてる」と。

 

 

「立派な女の形は1つじゃないと思う。お前はお前の思うことやり遂げられりゃ立派なレディーになってるよ」と。

 


妙に納得して感心した。それはきっと男にもいえる万能の答えだ。

 


「じゃあ暁は5年後の自分に手紙書いとけ。学校とかでそういうのやるだろ。5年後になってその手紙読んでみ。笑えねえことになるから」

 

 

暁は「むむ」と小さく唸って、執務室にあるコピー用紙の裏に5年後の自分に向かって手紙を書き始めた。

 

 

見ないで、ぷんすか。そういうなら見える位置で書かなきゃいいのに。内容は、『立派なレディーになってますか。なってなきゃあなたは私ではありません』まで読んだ。

 

 

色々と手のかかりそうな子が来たなあ、と思った予感は当たって、今まで見てきた子の中でも最も泣く子だった。

 

 

深海棲艦を見るだけで既に半泣き。姫を見た最初の日はすぐに尻尾を巻いて作戦放り投げて逃げたっけ。

 

 

鎮守府に帰ると、暁は泣いていて、丙さんがあやしていて、帰投した日向から怒られて、また泣いて。

 

 

それが暁だ。でも、街に連れて行くと、こじゃれたお店や街の流行りに詳しかったりする。街じゃ自転車なんがファッションアイテムになったり、そんなことも知っていた。立派なレディーかどうかは値札なんて貼ってないから知らないけど、可愛い女の子であろうとしているのは確かだ。

 

 

――――撃て、と命令されたので、撃つよ。


 

――――大破の彼女に戦艦の一撃で身体を粉砕しましょう。

 

 

撃った。沈んだ。

 

 

もうすぐ至近距離だ。救命装置が作動すれば浮かんでは来るだろうけど、念のために近付いたら、

 

 

なんか足をつかまれちゃった。

なにこれ。足を噛んできた。往生際が悪いというか、この子は誰。



 

最後に、聞いてみた。

 

 

――――立派なレディーになれた?

 

 

暁はもう撃沈寸前の死に体で、顔の半分がえぐれて真っ赤な肉と真紅の血で誰かも判別できないレベルだけど、私は応答を待ってみる。口を動かそうとしていたからだ。


 

「どうでも、よくなった」

 

 

「立派な、れでぃーはもう、いい」

 

 

「それじゃ、電の、力に、なれない」

 

 

「私は、」

 

 

「電の、第6駆の、立派な」

 

 

「おねえちゃんに、なりたい」

 

 

「私は、司令官に、従う」



「私、は、神様に、お願いしたもん」



「電が、元気になります、ように」



「お願いしたのに、神様は、叶えてくれなかったもん」



「叶えて、くれたのは」



「司令官、だもん」



撃ちたくないけど。

 

ここで、夢は捨てていくか。

 

 

ごめ――――

 

 

 

 

 

 

――――時に

 

 

 

 

 

 

――――お前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――油断し過ぎなのです。

 

 

2

 

 

ドオオン!

 

 

伊勢「っ!」クルッ

 


ぷらずま「あー、逃げますか。まあ、私の役目は暁お姉ちゃん拾うことなので追わないのです」


 

暁「――――」

 

 

ぷらずま「司令官さん、聞こえますか。暁お姉ちゃん、そちらに運びますね。救命装置で浮かせといても動けませんし、事切れかけてます」

 

 

ぷらずま「持って数分です」

 

 

提督「ええ、その余裕はありますね。途中で腕章つけた陽炎さんと不知火さんがいるので引き渡してください」

 

 

ぷらずま「了解なのです。伊勢は沈みますね。予想通りの方向に退いて行きましたから。詰みです」

 


暁「い……なずま、あ……」

 

 

ぷらずま「暁お姉ちゃんのお陰で伊勢は終わりです。それに言わずとも、暁お姉ちゃんの血と涙は無駄にしません」

 

 

ぷらずま「後は、任せるのです」


 

3

 


伊勢「あっぶなかった……」



伊勢(覚悟を決めた気でいたのに、捨てきれてなかった。暁にしてやられちゃったな……)



丙少将「暁はリタイアしたぞ。伊勢、損傷はどうだ?」



伊勢「電に攻撃されましたが、回避出来ました。中破のままです。これより、日向達と合流します」



丙少将「了解。そうしてくれ」



伊勢「……」



――――チャプン。



伊勢「っ!」



伊勢「反応はない……気のせい?」



伊勢(でも、一瞬、寒気が……)



――――チャプン



伊勢「……!」



伊勢「反応はないけど、あの海面から出ているのは背びれ……?」



伊勢「サ、メ……?」



伊勢「……、……いや、反応あり。これは、トランスタイプの」



伊勢(私にまとわりつくように、ついてくる。この速度はサメじゃない。ゴーヤちゃんは出てないし)



伊勢「わる、さめ」





――――道中だし、お前の死体は目的地付近まで、輸送してやるよー。



伊勢「っ!」ジャキン



――――もう、お前の足元でーす。



――――さよならー。



4



陽炎「あーもう! 暁、あんた頑張り過ぎよ! 命ある限り戦うのは結構だけど、がむしゃらになって命を捨てるのは褒められることじゃないわよ!」

 

 

不知火「でも、よくやってくれましたと不知火は陽炎の分も褒めましょう。あなたは立派な兵士でした」



不知火「あなたのことは忘れません」

 

 

暁「死んだみたいにいわないでよぷんすか! 高速修復剤でもうこの通りピンピンしているからっ!」

 

 

暁「響、雷、私の活躍見てた?」

 

 

響「もちろん。かっこよかった。あんなかっこいい暁は初めてだ」

 

 

雷「そうね。凄かった。暁があんな風に戦えるだなんて頼もしいわね。なんだか私的には手がかからなくなって残念な面もあるけど。あの執念、電もビビってたと思うわよ」

 

 

暁「ふふん。お姉ちゃんだからね」

 

 

陽炎「司令のところに行って来なさいよ。心配してたから、顔を見せてあげたほうがいいわね」

 

 

不知火「司令はあの場から離れられませんから。私達と同じく皆の応援に回りましょう」

 

 

……………

 

……………

 

……………

 

 

提督「暁さん、大丈夫ですか。なにか体調が悪かったり、気分が優れなかったりは」オロオロ

 

 

暁「珍しくおろおろしてるわね。この通り大丈夫だから!」

 

 

提督「ならよかった。そしてナイスガッツです。あなたの働きのお陰で予定よりも大分早く伊勢さん倒せます」

 

ナデナデ

 

暁「頭は撫でなくてもいいから! 子供扱いしないでって!」

 

 

明石さん「暁ちゃん見違えましたよ。明石さんは暁ちゃんの倍以上生きてますが、あんなことはできません」

 

 

明石さん「尊敬に値する立派な兵士です」

 

 

提督「あ、伊勢さんの離脱意向信号が発信されましたね。陽炎さん、不知火さん入渠施設まで大至急」

 

 

陽炎・不知火「了解」

 

 

暁「私も手伝う!」

 

 

明石さん「伊勢さん、襲われましたか」



提督「あのわるさめさんは初見殺しですからね。秒殺です」



5



丙少将「伊勢と連絡が取れねえと思えば」

 

 

丙少将「……なんだこりゃ」

 

 

丙少将「伊勢おい! 生きてるか!?」

 

 

伊勢「大丈夫です。意識もあります。すみません、わるさめのやつに離脱意向信号を発信されてしまいました……」

 

 

丙少将「良かった……それでこの身体の傷はなんだ。艤装の破片で裂けたにしても」

 

 

伊勢「噛まれ、ました。というより、艤装ごと噛み砕かれました……」

 

 

伊勢「日向達に伝えてください……わるさめのやつがトランスすると」

 

 

伊勢「大きなロ級に、なります。砲弾が通じません。なにか、変なギミックも、ついてる、かも」

 

 

丙少将「了解。お、陽炎と不知火」

 

 

陽炎「丙さん伊勢さん運ぶから退いて!」

 

 

不知火「お久しぶりです。邪魔です」

 

 

丙少将「元気なようでなによりだ。伊勢のこと頼むぞ。それじゃ俺は戻る」

 

 

暁「伊勢さん、大丈夫?」

 

 

伊勢「うん。まだ私に話しかけてくれるんだ」

 

 

暁「今度は負けないからね。たまたま初霜さんの護衛で大破しただけで、万全の状態なら私もかなり強いもん」

 

 

伊勢「あー……そっかー……あの暁にそこまでいわせるか」

 

 

伊勢「心配してたけど」

 

 

伊勢「提督さんは暁と合わないタイプだと思ってたから、心配だったんだ」

 

 

暁「あの人はうん、合わない!」

 

 

伊勢「そうなんだ……」

 

 

暁「でも嫌いってことじゃないから。司令官も含めてここは丙さんのところに負けないくらい良い鎮守府」

 

 

伊勢「……そっか。悔しいな、暁に負けた気がする」

 

 

陽炎「わるさめとはこの演習終わった後に吹っ掛けたら。相手してくれると思うわよ。私と不知火が納得するまで夜通しで相手してくれたし」

 

 

伊勢「……だね。そろそろ目を閉じるね」

 

 

不知火「この調子で死人が出なければいいのですが……」

 

 

陽炎「ホントそこよね……」

 

 

【11ワ●:月ガ、綺麗だネ】

 

1

 

龍驤「金剛、Bパターンな。伊勢の早期撃破で、戦力を温存できる条件が整った。電さんと合流して待機やけど、長射程で甲大将にちょっかいかける」

 

 

金剛「了解、ですが、もう目と鼻の先デース! 暁の勇姿に報いる一撃、」

 

 

龍驤「それは後で必ず来る。そこは金剛に適した戦場ではなくなりつつあんの。日向達の向かっている演習海域ギリギリのアウトラインはわるさめが行く。提督から通信も入っとる」

 

 

龍驤「わるさめと瑞鶴で丙少将の艦隊全てを沈める。そこに留まって金剛の士気を変に乱されるのもあれやし」

 



 

 

わるさめ「BGMオーン!!」

 

 

金剛「……了解デース」

 

 

2


 

天城「……着きました」

 

 

天城「丙さん、天城、それに日向さんも地点Bに到着しました」

 

 

丙少将「ご苦労。よく龍驤、金剛、卯月を排除してくれたな。期待以上の仕事だ。残る大仕事だが」


 

丙少将「雪風に指示したタイミングは15分後だ。誰もそこを通すなよ」


 

天城「……お任せを」

 

 

天城「交戦に入ります」


 

日向「待て。この特異な反応は」


 

天城「接近していますね。艦娘反応と深海棲艦反応……は」


 

日向「…………」


 

??「BGMオーン!」スイイー



ドゥンドゥンドゥドゥドゥドゥ♪

 

ドゥンドゥンドゥドゥドゥドゥ♪

 

 

わるさめ「今日からいちばん」

 

 

わるさめ「た・く・ま・し・いー・のだー♪」

 

 

わるさめ「お・ま・た・せ」


 

わるさめ「し・ま・し・た☆」

 

 

わるさめ「ス・ゴ・イ・や・つー!!」

 

 

わるさめ「今日から一番」

 

 

わるさめ「かあっこいいーのだ!」

 

 

わるさめ「バリバリ! 最強!」

 

 

わるさめ「な・ん・ば・あ・ワン!!」


イェーイバンザーイヒャッハー!


 

天城「…………」

 

 

 

 

 

 


天城「なるほどー」

 

 

天城「第六○一航空隊、はっか」


 

わるさめ「トランス」ジャキン


ドオン!

 

天城「え、は、速す………ぎっ」


 

日向「っち」

 

ドオン!


 

2

 

 

天城「日向さん、さすがです。た、助かりました。撃ち墜としてくれて……」

 

 

日向「気にするな。あいつだけは深海棲艦だと思って戦える相手だ」


 

天城「トランスと同時にあんな正確な砲撃を……」


 

日向「天城、こちらは偵察だけは序盤に全力を出した。敵の正確な位置取りだが、わるさめだけは見つからなかった。例のステルスだが、海面にいたのではなく、海中にいた可能性がある」

 

 

日向「というか、決まりだな」


 

天城「第六○一航空隊、発艦はじ……?」

 

 

天城「え、わるさめさんが、消えました?」

 

 

日向「……反応はないな。なんだこれ。海中に沈むのは見えたが。雪風」


 

雪風「あ、あれ。おかしいですね。聴音機にも反応なしです。なにか移動していれば、分かるはずです」

 

 

日向「艤装の聴音機システムも同じだ。この戦争に関するモノは海の傷痕の能力が根源としている。その聴音機も、海中内のステルスは探知出来ないんだと思うぞ」

 

 

天城「い、いやいや、艤装を展開していれば探知にひっかかりますし、艦載機や魚雷もそうです」

 


雪風「艤装を展開しないと、進めませんよね。移動している以上、ロストさせているのはおかしいです」



日向「ステルスじゃなくてもタービン回りと、装備の接合部は探知できないみたいだぞ?」


 

天城「……それを抜きにしてもわるさめさんは春雨艤装を軸にした違法改造者なので、潜水性能は深海棲艦艤装の恩恵のはずです。トランスして艤装を展開していなければおかしい」

 


天城「ステルスは艤装にロスト現象を起こす仕組みで探知から逃れるはずですし、乙中将との演習でもわるさめさんは蒼龍さんにその方法で近付きましたから。潜った状態で雪風さんの聴音機にひっかからないというのは、なにか変です」



雪風「生身、とかですかね?」



日向「それならこんなに潜っていられるか?」

 

 

雪風「……!」

 

 

雪風「聴音機に反応ありです! あそこの海面を見てください! なにか飛び出てます!」

 

 

天城「……せび、れ?」

 

 

雪風「こんなところにサメさんですか!? 確か軍学校で損傷の際の私達の血を感知してサメに襲われたケースというのはありましたが……」

 

 

日向「いや、わるさめだろ。文字的にもサメではあるが、さすがにサメではないと思うしな」

 

 

チャプン

 

 

雪風「は、反応消失です」

 

 

日向「まあ、良いさ。どっちみちここでわるさめと会えたのは色々と好都合だ。わるさめの性能は暴いておくのは、1つの重要事項だからな」

 

 

雪風「はい。潜水タイプならば魚雷にだけは気を付けないと、です。でも、なにか、異様に静かですね」



雪風「な、なんか怖いです……」

 

 

天城「ですね……」

 

 

雪風「あ、反応あり、です!」

 

 

雪風「日向さん! か、海面下! 肉眼で見えます! そのシルエット、完全に、さ、鮫です鮫さんです!?」

 

 

日向「っ、ロ級かこれ」

 

 

わるさめ「ザッ!」

 

 

わるさめ「パーン!!」

 

 

3

 

 

日向「ぐ、お前これなにがどうなって。わるさめというか、完全にロ級の姿で、人の形が行方不明だろ」

 

 

わるさめ「いやいや、さすがは腐っても戦艦だね。一噛みで艤装ごとばらしてやろうと思ったのに、素手で止めるとは。でもでも」

 

 

わるさめ「深海棲艦仕様の牙を素手で握っても、傷が深くなるだけだゾ☆」

 

 

日向「雪風!」

 

 

ドンドン!

 


雪風「すでにその巨大なロ級に撃ちましたけど、かなり堅いです!?」

 

 

日向「伊勢の身体にあった裂傷は、お前の仕業か……」

 

 

日向「わるさめ、お前、この口の中にいるのか? 顔を拝ませてもらうぞ」

 

 

日向「……、……」

 

 

日向「お前、下半身ないし、身体がロ級となかば一体化してるな。その紅い目、深海棲艦化してないか?」

 

 

わるさめ「おう。艦娘でも深海棲艦でもない敵ってことで☆」



わるさめ「魚雷で沈んだ船から900人が海を漂う羽目になった。偵察機が発見してさ、助かったんだけど、救助された時には600人に減ってたんだって」

 

 

わるさめ「300人には、なにが起きたと思う」

 

 

日向「……」ジャキン

 

 

わるさめ「サメに襲われたんだよー」

 

 

ドオン!

 

 

わるさめ「41cmか。効かねっス」

 

 

日向「至近距離からの直撃で、かすり傷だと……?」

 

 

わるさめ「艤装ごと噛み砕いてやんよー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

悪鮫「ガ!!」

 

 

悪鮫「ブ!」

 

 

悪鮫「リ!!」

 

 

3

 

 

天城「……っひ」

 

 

天城「日向さんが、巨大な鮫に、噛み砕かれ……」

 

 

丙少将「はい天城、雪風連れて逃げろ。そこは大体、日向が受け持つ。もう少し耐えてくれ。最悪、甲さんとこからも支援が来るから」

 

 

天城「し、しかし、不確定要素も多く、こちらの電さんに並ぶ最高戦力が相手なら、雪風さんはともかく私も交戦するべきでは」

 

 

丙少将「逃げろって。どうなるか分からん時は、逃げる。無駄に命を捨てるよりマシだ。そいつは日向が性能を解明するから、役割を果たせ」

 

 

わるさめ「!!」


 

日向「なめ、るな!」

 

 

わるさめ「っち、右腕千切って逃げたか。欠陥戦艦のマイナスを素質で埋めるとか往生際の悪い素体だぜ」

 

 

日向「その異常な耐久装甲は何のギミックか確かめて繋げなきゃな」

 

 

わるさめ「さすがに丙の第1艦隊の旗艦だね。逃げて生き残ることに関しちゃトップクラス」

 

 

わるさめ「とはいわん」

 

 

日向「当たり前だ。聞いたぞ。お前らの全員生還の定義は。遅すぎる。いわなきゃ分からん馬鹿が多すぎる」

 

 

日向「役割を果たしてきた。だから、私達は生き延びてきたんだ。誰かが果たせなかった役割も代わりに誰かが果たすことで、生き延びてきた」

 

 

日向「伊勢は丙さんの人間に惚れ込んでいるが、提督として丙少将に勝る指揮官はこの世にいない」

 

 

わるさめ「よく喋るね。あんたそんなに喋るやつだっけ……」

 

 

日向「伊勢の無念もまとめて晴らす。私はその丙少将の第1艦隊旗艦だ」

 

 

日向「誰よりも役割を果たしてきた」

 

 

わるさめ「……」

 

 

日向「醜悪なお前の相手なぞ瑞雲と砲があれば十分。深海棲艦に与したお調子者が」

 

 

日向「丙の旗に触ってくれるな」

 

 

4

 

 

わるさめ(このシャーク形態だとステルスにならないんだよね。潜水棲姫とロ級の組み合わせまでは探知された時に把握されてると見ても)



わるさめ(瑞雲程度では、というのは奢りか。器用貧乏は努力次第で化けんのは、はっつんが証明してるし)

 

 

わるさめ(……瑞雲は攻撃してこないな。あれ、偵察して帰っていったのか……?)


 

わるさめ(……、……)

 

 

わるさめ(ん、砲を構えたな。だが、もう至近距離だ。こいつ相手に二度も同じ手を使うのは悪手だし、やり方を変えるか)

 

 

わるさめ「砲口、ジャキン!」

 

 

日向「防空棲姫だろ?」ジャキン

 

 

わるさめ「……!」

 

 

ドオン!

 

 

わるさめ(……やば、尻尾の、)

 

 

日向「その耐久装甲ギミックを展開するには、ワ級艤装も出さなきゃな。そこの尻尾を潰せば、攻略できる」

 

 

わるさめ「……」

 

 

日向「こっちは中破だが、安いもんだ。ワ級、防空棲姫、潜水棲姫、ロ級、後の1つは知らんが……」

 

 

日向「お前の提督が防空棲姫を持ち出した理由などすぐに察しがつく。ダミーじゃなく素直に素材として使ったのなら確かめるまでもなかった」


 

日向「甘い。お前んとこの提督は」

 

 

わるさめ「ブーメランかな。海の傷痕に勝った司令官が甘い訳ないじゃん。止めてよね。結果で語るなら、こっちの司令官の右に出るやついないし」

 

 

わるさめ「トランス」

 

 

わるさめ「最後の1つは駆逐棲姫な」


 

日向「……」ジャキン

 

 

わるさめ「……ねえ」

 

 

わるさめ「雨が降りかけてるけど、見えるよね」

 

 

わるさめ「月ガ、綺麗だネ?」

 

 

わるさめ「アッハハハ、落ちろ、落ちろっ」

 

 

日向「……?」

 

 

わるさめ「深海棲艦の気持ちは分かるかな?」


 

わるさめ「さっき、丙の悪口を辞めたのは、司令官を馬鹿にするって意味は鎮守府を馬鹿にするってことを」

 

 

わるさめ「心で理解したからだよ」

 

 

わるさめ「後悔したまえ」



わるさめ「オール☆トランス」



日向「……」ジャキン


 

ドンドンドン!



日向「速い……」



わるさめ「私は海面でも電より強いからな!」


……………

 

……………

 

……………

 

 

わるさめ「司令官、聞こえる?」

 

 

わるさめ「ああ、うん。少し理性飛びかけて日向、バラしちゃったという。生きてるかは分からね。色々とぶちまけてるから。少なくとも艤装は死んでる」

 

 

わるさめ「あ、うん。離脱意向信号はその時に押しといたからここに捨てとくねー」

 

 

わるさめ「ずいずいと協力して天城と雪風と加賀のやつを食い散らかしてくるぜ」

 

 

わるさめ「トラ☆ンス」

 

 

4

 

 

天城「は、速いですね……」

 


わるさめ「潜水艦よりも速いぜ。このシャーク形態から逃げたきゃ空でも飛ばないと無理な話だね」

 

 

わるさめ「さーてー、そこの綺麗な和の美人さんこと天城っち、久し振りだね。相変わらずの料亭美人☆」

 

 

わるさめ「逃げられるくらいなら」

 

 

わるさめ「あなたをー」


 

わるさめ「殺していいですかア!?」

 

 

天城「ひい!」


 

天城「でも、わ、私、に、逃げません!」


 

天城「第、六○一航空、隊、はっ、か」

 

 

わるさめ「ビビる程度のやつが、この鎮守府にケンカ売ってくんじゃねえよ。馬鹿にしやがって!」

 

 

悪鮫「ガ! ブ! リ!」

 

 

5

 

 

明石さん「お、おおう。わるさめちゃん、腐ってもトランスタイプですね。日向さんも天城さんも、倒してしまいました」

 

 

提督「最近の演習結果によると、ぷらずまさんにも勝ち越してますからね」

 

 

響「演習であのサメの形態は見たことあるけど、電も驚いてたね。鹿島さん、あれはわるさめさんの素質かな?」

 

 

鹿島「ですね。あれはわるさめさんの才能、です」

 

 

鹿島「艤装一体化というより、わるさめさんはその深海棲艦艤装のトランス現象のコントロールが上手いみたいで、ほぼ変身に近い真似が出来ます。せびれ、なんて形成できてますし」



鹿島「ロ級形態に潜水棲姫の潜水能力と、防空棲姫とワ級の4トランスまでなら、完璧に使いこなせましたから」

 

 

鹿島「電さんと比較してロスト&アライズ現象が速いです。あの至近距離型だとクールタイム、補充時間も要りません。防空棲姫のギミック破っても4種の装甲が重ねてあるうえ、自前の再生力、これを踏まえて攻略するとなると、北上さんの火力ならあるいは、です」

 

 

鹿島「深海棲艦の潜水時間は艦娘の潜水艦と比べてほぼ無限なので、攻撃を当てるのにも装備が限定されるのは強み、ですね」


 

鹿島「ただわるさめさん、魚雷の命中制度があまり上達しなくて、獲得した潜水性能訓練に励んでました。なのね魚雷の命中精度がおざなりのままです」

 

 

明石さん「あー、そういえば砲撃と噛み付きオンリーでしたね」

 

 

響「海面にあがるのは、弱点になり得るってこと、だね」

 

 

鹿島「敗けない立ち回り、生存能力は電さんよりも遥かに上です。至近距離以外での火力は電さんに大きく劣りますけど」


 

鹿島「それでも戦艦クラスの火力と撤甲弾は欲しいところです。または雷巡の夜戦火力のクリティカル、それでようやく敗けの目が色濃くなるかな、と」

 

 

明石さん「加えていえば、浮上するのは至近距離だから、そこで砲撃やら魚雷は自爆行為ですか。タダで死にませんスタイルですね」


 

鹿島「弱点はやはり、あの精神影響の気分で致命的なミスをしてしまう恐れ……」



提督「わるさめさんは本当にそこ」



響「でも、わるさめさんのお陰でみんなは大分、鍛えられたよ。ステルスのせいで私達は生身でサメにまとわりつかれているようなものだから」

 


鹿島「発狂しますね……」

 

 

響「暁と秋津洲さんと間宮さんは1週間泣き叫んで肝が座った」

 

 

提督「……」

 

 

提督「そろそろ甲大将のほうも削りにかかりますか。逃げ回らせていましたが、どうも向こうは、秋津洲さんと、間宮さんを沈めたいようなので」

 

 

提督「秋津洲さん、応答してください」

 


【12ワ●:卯月&秋津洲 vs 北上さん大井さんグラーフさんサラトガさん】

 

 

1

 

 

秋津洲「かーもおおおー!」スイイー

 

 

卯月「秋津洲、うるさいぴょん」

 

 

秋津洲「グラーフさんとサラトガさんの艦載機に狙われてる! この状況じゃ、二式大艇ちゃんは紙飛行機みたいに撃ち墜とされちゃう!」


 

卯月「まー、初霜が解析されて二式大艇は邪魔くさいって判断されただけだぴょん。だから」

 

 

卯月「うーちゃんが護衛に回されたぴょん。まさか秋月加入した今、防空駆逐染みた護衛をやらされるとは……」

 

 

秋津洲「来てる来てるっ!」

 

 

ドドドド!

 

 

卯月「墜としたぴょん。うーちゃんいる限り艦載機からは大丈夫だから落ち着け」

 

 

卯月「問題は秋津洲、さっきの司令官の通信聞いた? ゆっくり落ち着いていってみろぴょん」

 

 

秋津洲「北上さんと大井さんが、こっちに来てて、木曾さんと江風さんを秋月ちゃんと明石君で潰しにかかるから……北上さん大井さんグラーフさんサラトガさんの四人と」

 

 

秋津洲「この二人で、戦う、かも」

 

 

秋津洲「……うん」

 

 

卯月「覚えてないし……本当に落ち着けぴょん。まず、本気でバトった時はうーちゃん一人じゃさすがに守り抜けないから、秋津洲もあいつら誰か倒してもらわなきゃならん」

 


卯月「大丈夫。隙さえ作ってもらえれば、うーちゃんが当てる」

 


秋津洲「卯月ちゃん、お、落ち着きすぎかも」

 

 

卯月「北上と大井はうーちゃん達のいる地点に来るけど、移動しているタイミングは間宮さんと護衛のアブーが瑞鶴のほうに向かった時だから、狙いは間宮さんのほう。先回りするに当たってここら辺を通る必要があるぴょん」

 

 

卯月「まあ、通りすがりに爆散させてくるかもだけど、足留め出来たら儲けもん。ここまで司令官の作戦はほぼ完璧。ずれは伊勢日向天城の早期撃破という+要素しかないし、安心して自分の生還を考えろー」

 


卯月「妖精可視の才能なくても、二式大艇はかなり役に立つぴょん。訓練通りに」

 

 

秋津洲「敵は強大過ぎるかも……」

 

 

卯月「勝てないぴょん。だからこそ」

 

 

卯月「勝つ意味が大きいし」

 

 

卯月「それが戦争の醍醐味」

 

 

卯月「暁のことは聞いたし。選ばれたのなら、あいつみたいに根性見せろ」

 

 

卯月「さて、沈めに行くかー!」

 

 

2

 

 

北上「ちわっす。サラとグラ」

 

 

グラーフ「グリとグラみたいにいうな」

 

 

大井「サラさん、戦況はどうです?」

 

 

サラトガ「Bad、です。こつこつ皆さんの援護をしつつ、制空権も巻き返しの地点まで来ましたが、気付かれました。卯月さんと秋津洲さんが来ます」

 

 

グラーフ「指示通りに二人は間宮を追うといい。向こうは丙少将の役割に気付いている動きだ。給糧艦到着はうっとおしいことになる」

 


グラーフ「日向と伊勢が離脱し、わるさめも追っている以上、時間稼ぎは確実性に欠け、心もとない」

 

 

北上「木曾っちと江風は向こうで明石君と秋月と戦ってるけど、ぶっちゃけあの二人はムラがあるから、どうなるかは分からないよ?」

 

 

大井「……」

 

 

グラーフ「卯月と秋津洲を軽視してはいないが、予定では卯月と秋津洲は私とサラの仕事ではなかったか」

 

 

サラトガ「初霜ちゃんも、ですね。色々と立て込んでます」

 

 

大井「……指示をもう一度仰ぎましょう。嫌な予感がするので」

 

 

北上「大将、聞こえる? 向こうの掌で踊らされてる感じだけど、大将に従ってやるからなんかいってみなよ」

 

 

甲大将「……北上大井はグラーフとサラと隊列組んで3分胸を貸してやれ。それ以上かかるようなら離脱でいーよ」

 

 

3

 


鹿島「卯月さんと秋津洲さんで、北上さん大井さんグラーフさんとサラトガさんの相手は厳しいですね」

 

 

明石さん「卯月艤装はあの子の素質に合わせてはありますが、これははい、素質うんぬんでは無理ですね♪」

 

 

明石さん「なにかお考えが?」

 

 

提督「ほぼ確実に敗けますね。お二人はここで叩きのめされてもらいます。作戦上、重要な意味はさしてありません」

 

 

提督「まあ、秋津洲さんは嘔吐欠陥が再発したみたいですし、それを乗り越えるため」


 

鹿島「秋津洲さんの酔いのトリガーは、どうやら航行することではなく、恐怖みたいです……」

 

 

鹿島「電さんの特訓で、大分耐性はついたみたいですけど、どうも……」

 

 

提督「まあ、秋津洲さんの経歴は把握しています。初めの作戦で大破撃沈してから何度か敵前逃亡してますね」

 

 

提督「それがおろろろ現象に繋がっているとは思っていませんでしたけど」

 

 

提督「まあ、彼女に必要なのは経験です。あの子には演習だから、という甘えもありますし。本気の甲大将の艦隊は深海棲艦より余程怖いですから」

 

 

提督「泣いても笑っても吐いても、自分の力でどうにかしなければならない場面が出てきます。今度は死にかけて成長してくれるといいですけどね」

 

 

響「卯月さんは?」

 

 

提督「あの子は逆です。少し年相応の心を思い出して欲しいです。あの子異常に大人びてるんですよね」

 

 

提督「多分、今まで本人が本気のつもりでも本気ではないといいますか、そんな感じがします」


 

響「?」


 

提督「卯月さんは着任して2年目でキスカの悲劇に遭った。卯月さんが小学生の時に起きたものです」

 

 

提督「阿武隈さんは本当に酷い有り様で日々に廃人になりつつあって、それとは別にあの子はキスカの悲劇の三日後には立ち直り、いつも通りに振る舞えていたそうです」

 

 

鹿島「すごいことだと思います。私は阿武隈さんよりの症状が出て、解体を選んだので……強い、のでしょうね」

 

 

提督「……そう、ですね。卯月さんをスカウトしようと思った理由の1つでした」

 

 

提督「卯月さんが解体した理由は『阿武隈さんが解体するから』です。あの子はキスカから三日後で、その時点で分かっていた」

 

 

提督「阿武隈さんでも先の決戦でようやく悟って立ち直れたというのに、あの子はすぐに理解してた」

 

 

提督「阿武隈さんと犠牲になった4名によって、生かしてもらったその勲章の命の価値を。だから阿武隈さんの側にいて、彼女の力になっていたんだと思います」

 

 

提督「託されたものを理解したからこそ、立ち直りも早い。あの子の人間としての素質なのでしょうね」

 

 

提督「スカウトした時、阿武隈さんが行くのなら自分も行く、と答えましたからね。まだ10代なのに」

 


提督「あの子は悟り過ぎてる。階段飛ばしに強くなることは、成長を継ぎ接ぎにするものです。ぷらずまさんやわるさめさんが良い例です」

 

 

明石さん「まあ、いくら強くても大切な人を4名も失って3日で本当に立ち直ったとしたら、なんか、ですね」

 

 

提督「素質の才能も考えものですね。きっとあの子は心の面でもべらぼうに才能に溢れてます」

 

 

提督「正しい強さは、正邪を問わずに過程を経てこそ身に付くものですので、それを階段飛ばしにしたのなら」

 

 

提督「そこがあの子の欠陥です」

 

 

提督「あの子は阿武隈さんとはまた違う意味でキスカから縛り付けられている、ことになります」

 

 

提督「あの子は気づいていない風だけど、キスカに置いてきてしまったモノ」

 

 

 

提督「思い出せるかな?」

 

 

4

 

 

大井「……」

 

 

北上「私達のパワーでも戦艦みたいに殴り落とせるのは卯月のあの例の砲の威力がないお陰かなー……いててて」

 

 

大井「……、……」

 

 

大井「グラーフさんとサラトガさんの艦載機の相手をしながら、私達の動きを先読みして砲で、位置を動かせてますね。おまけに90%の砲撃精度です」

 

 

北上「噂は聞いてたけど、向こうの卯月すごいな。あの卯月を大将が欲しがる理由が分かったよ」

 


北上「江風より強いなー」

 

 

大井「あの子はまだ先に行けそうですね。あのなんとかしようという気概が、なんとかする、にまでなりそうです」

 

 

大井「そうですね。あの子のために」

 

 

大井「鞭で打ってあげたい、かな」

 

 

北上「……茨の?」

 

 

大井「愛の、です……」

 

 

【13ワ●:想題秋津洲:紙飛行機と二式大艇】

 

 

1

 

 

秋津洲「小学生の頃」

 

 

秋津洲「町内会のレクリエーション」


 

秋津洲「場所は学校の体育館」

 

 

秋津洲「誰が紙飛行機を一番遠くまで飛ばせるか」

 


卯月「何の呪文!? 訳わかんねーこといってる場合じゃないぴょん!」

 


卯月「艦載機と、北上大井が砲雷撃してきてる。このペースだと、持って2分程度だぴょん!」

 


卯月「うーちゃん、敵を沈めにかかるから、お前の護衛はもうしないから、沈む前に一子報いることくらいはしろ!」

 

 

秋津洲「思い出す、かも……」

 

 

秋津洲「――――、――――」

 

 

秋津洲「残りの二式大艇ちゃん全部!」

 

 

秋津洲「あたし、機銃は装備してるから、前に出るよ!」

 

 

卯月「む……」

 

 

秋津洲「最近の猛特訓で対空射撃は鍛えたから、近距離の二人になら届くかも!」

 

 

秋津洲「北上さんと大井さんは卯月ちゃんに任せて、私はサラトガさんかグラーフさんを倒すかも!」

 

 

卯月「……、……」

 

 

2

 



まだ髪を結んでなかった頃の話。



小学生6年生の頃に町内会のレクリエーションがあった。学校の体育館誰が紙飛行機を一番遠くまで飛ばせるかー、って内容。



ここだけの話、あたしはかなーりなんでも出来た。勉強も運動も努力しなくても、大体が平均以上。あ、鉄棒と自転車と料理は苦手。後、紙飛行機も。この催しモノでビリだったし。



紙飛行機って、遠くまで飛ばすの難しい。



誰もいなくなった時、出入り口から紙飛行機を飛ばした。なんか都合よく風が吹いて、遠くまで鳥のように飛んだ。校舎の4階の窓に当たって落ちたけど、あれ、ギネス記録じゃないかな。



そこから苦手なことや、難しいことに挑戦するのが好きになっていった。授業中にノート破って紙飛行機作ってみる。その紙飛行機に喋りかけたりした。変な子でもある。



鉄棒も自転車も料理も努力して出来るようになって、中学に入ったら吹奏楽部に入った。友達と過ごすそこらに溢れているであろう普通の時を過ごしてた。高校でも、同じだ。あの頃から、ノートと向き合った暇があれば、紙飛行機を何気なく作ってしまう癖も。



そして高校3年生の頃に訪れた転機。

数学の教科書を忘れたので、隣の男の子に見せてもらった。ルーズリーフで紙飛行機作ってると「なんでそんなの作ってるの?」と聞かれたので、「特に意味はないよ」と答えた。



その男の子は教科書の頁を破って、紙飛行機を作り出した。あたしの知らない折り方だ。それを窓に向かって飛ばすと、グラウンドのはじっこまで飛んだ。



すごい!



先生に怒られた。その破ったページは授業で使っていたところだ。私も作り方を教えてもらった。そのコピー用紙で作った紙飛行機を、体育館で飛ばしてみた。壁まで飛んだ。


数学の時間はその男の子とお話することが多くなった。


仲良くなっていくと、淡い好意が生まれていった。でも特別仲がいいというわけではなかった。その男の子は友達たくさんいた。


とある夏の日にその男の子から卒業したら対深海棲艦海軍に行く、と聞いた。



えっと、卒業しても一緒にいたいな。そうだ、あたしも行けばいいんだ!



とんでもない志望動機だ。それをいうとストーカーみたいだから、黙っておくことにした。



運命はあたしに味方した。



一般適性施設で適性が出たのだ。それも2つだ。秋津洲と間宮。でも、間宮の艤装はあまってなくて、秋津洲として行くことになった。


最大の難関といわれている保護者の許可もクリアできた。お父さんが船乗りで対深海棲艦海軍に、命を助けられたことがあるらしい。だから、説得は比較的、簡単だった。それなりの決意を話せば、許してくれた。



その頃かな。あの男の子が転向していったのは。噂ではお父さんの単身赴任についていくことになったらしい。連絡先も聞いてないけど、まあ、すぐに会えるから、いいか。



訓練生、秋津洲。



その時になってから友達に聞いてみた。「あの男の子って、提督になったのか」って。「知らないけど、気になるの?」って、にやけた顔文字がついてた。聞いてくれるとのこと。ついでに、あたしにも連絡先教えていいかも聞いて、と頼んでおいた。




――――入ったってさー。











イギリスの。







なんてことだ。




――――あー、今はこっちにいるけど、元気にやってるみたいだよ。










彼女も出来たって。





かはっ。痛恨の二連撃だ。



その男の子の連絡先は教えてもらえた。その日、久々におしゃべりした。


久し振りー、紙飛行機の子、と。


あれー、名前も覚えてもらえてなかったの。


というのは杞憂で名前も会話も結構事細かに覚えてもらえていたようだ。あたしが秋津洲になったといったら、二式大艇のことを事細かに質問された。二式大艇ちゃんも軍艦秋津洲も夢で見るけど、その男の子の話はマニアック過ぎてついていけない。



それから世間話をして、終わった。


連絡取るの控えようかな。なんか、彼女さんに悪い気もするし。


と、


入学式の日にもうここにいる意味がなくなってしまった。それでも今更になって引けない。あたしの秋津洲人生はそんな始まりだった、かも。



それから戦場がどんなところかリアルに体験した。普通の人間なら死ぬような怪我を負うことも日常茶飯事だ。お、お荷物だけにはならないようにしないとだめだね。



初めて深海棲艦と向き合った時、恐怖した。浮わついた覚悟しかなかったあたしには命のやり取りなんて、無理。



怖い怖い!



恐怖に酔って、その日に吐いてしまった。その年の教官がいうには、割とあることらしい。だけど、あたしはなかなか治らない。


辞めよう、と思ったけど、引き留められた。水上機母艦秋津洲と二式大艇の能力はホロレア級で、適性者が20年近く不在だったから。兵士は一人でも置いておきたいらしい。



なら、そうだな。もう少しがんばりたいかも。でも、あたしの動機は不純で、どこまでやれるのか不安だ。



教官に相談したら、こう答えた。



――――動機は後付けでつくわ。この海にいれば自然とね。だって、命を賭けなきゃならないんですもの。


――――始まりはなんでもいいのよ。


――――というか秋津洲ちゃん、私と似てるから応援したくなるわね。私の動機も男が大いに関係してるわ。


――――私が艤装身に付けた理由とか、肉体成長が止まるからだし。


――――大丈夫。二日酔いで吐きながら艦載機飛ばす軽空母もいるし。


――――なりふり構わずにがんばりなさい。いつか必ず出来る。



――――彼氏だってね。



本人の名誉のためにその教官の名前は伏せさせていただくかも。



基本的なことは並みくらいには成長したけど、結局、嘔吐は直らなくて、そのまま鎮守府に着任した。二式大艇は訓練生時代と同じく、重宝された。



でも、吐く。



おろろろ秋津洲とか呼ばれ始めた。努力しても治らないんだよね。なんか、海に出ると気分が悪くなって、深海棲艦を前にすると、ダメだ。



そのせいで役割を果たせなくて、艦隊を危機に晒してしまったこともあって、あたしは段々と出撃しなくなっていった。



暇人秋津洲は週6休みかも。これでも引き留められた時には乾いた笑いが出たよ。まあいいや。なら、いるよ。



その頃に鎮守府(闇)、あの頃は(仮)だったかな。勧誘が来た。


あたしを必要としてくれているのは、嬉しかった。でも噂は聞いていたから返事は出さなかった。


ゴーヤちゃん、可哀想に。

合同演習では、死ね、といわんばかりの戦い方を強要されていたかも。女神があったとはいえ、実際に撃沈したよね。



乙中将との演習で鎮守府(闇)が勝った。これはびっくりした。乙中将は、演習で甲大将に勝ったこともあり、深海棲艦を最も多く沈め、妖精の意思疏通分野は歴代提督で1位というエリートの中のエリート。


ゴーヤちゃん、がんばっていた。必死な顔をして、勝った時も必死で喜んでいるように見えた。


あたしは、なにやっているんだろう、と思って泣けた。あたし自身になんにも思わなくなったのは心が強くなったのではなく、弱さにも痛みにも慣れていたからだと気づいた。


決めたかも。あーもうこの艤装効果は。


決めたよ。


お返事かなり遅れてしまったけど、鎮守府(闇)に行きたいって、希望を出そう。すぐに受理された。



艤装を身にまとう。誰も見送りに来てくれなかったかも。提督も。


一人で安全航路を進んでいたら、はぐれの深海棲艦と出くわした。この程度なら、と戦ってみた。勝てた。けど、中破した時におろろろろ。



鎮守府(闇)に着任してすぐに、電ちゃんに目をつけられてしまった。



痛い怖い。それ以外に考えられなくなるほど、夜中まで徹底的に痛め付けられた。鹿島さんも、ひどい目に合っていた。生きていたのが不思議なくらいに痛め付けられた。


何度も転んで、滑り落ちての繰り返していた鉄棒の特訓を思い出した。


思考していく。どうやって痛みや怖さから逃れるくらい必死になれるのか。十時間くらい必死になっていると、吐き気が収まった。 何年も出来なかったこと、やり遂げられた。



すごい!



あの頃のあたしみたいな気持ちを再び味わう。



中枢棲姫勢力との決戦にも出してもらえた。あたしはそこでも耐えることが出来た。深海棲艦といえども、あの時の電ちゃんに比べたら屁のかっぱかも。



明石君と明石さんの手伝い、更なる特訓を積んだ。あたしは今、丙少将と甲大将の艦隊相手に戦っている。



まだまだ弱いけど、それでも今この鎮守府(闇)で、選抜されている。あの提督は、このあたしを選んでくれた。


今度はあたしがゴーヤちゃんみたいに、がんばる番だ。


必死になって、最後は勝って、あんな風に手放しで喜びたいかも。



明石君や秋月ちゃんがたまに口に出す言葉を思い出した。



今がその時。



3

 


サラトガ「――――、――――」

 

 

グラーフ「秋津洲が奇妙な動作を始めたな。機銃で二式大艇を護衛している」

 

 

サラトガ「卯月ちゃんが、艦載機を墜とし過ぎですね。これ以上、援護だけに回してもこちらが実質、無力化されますから、私がなんとかします」

 

 

秋津洲「へん! 当たらないかも!」

 


グラーフ「……、……」

 

 

グラーフ「あの奇妙な航行術は、魔改造か?」

 

 

サラトガ「明石君の戦いを映像で見たことありますけど、あの動きは明石君と同じですね。錨に少し手を加えてるんですよ。艤装のアンカーが垂れ下がっているのは私からでも見えます」

 

 

サラトガ「改造したアンカーをここの海底に撃ち込んでいます。錨を沈めてアンクル代わりに強引に方向転換、鎖を調節して加速と減速です」

 

 

グラーフ「……人の形だから出来る荒業か。勉強になるが、あいつは機銃と二式大艇でなにをする気か解せない」

 

 

グラーフ「……、……」

 

 

グラーフ「攻撃隊、発艦」

 

 

秋津洲「もう遅いかも! 空母は妖精の込められた矢も銃弾も射出してから一定距離を進んでからしか」

 

 

秋津洲「艦載機に変化しないから! 懐に潜り込まれてからの発艦じゃ、旋回するまでに最短でも10秒は必要!」

 

 

秋津洲「みんな強すぎてあたしは沈められるだけだし! 二式大艇ちゃんも海でも空でも墜とされるだけの日々だったかも!」

 

 

秋津洲「そのお陰で回避も射撃も根性もついて、どうせダメなら!」

 

 

サラトガ「!」

 

 

秋津洲「翔んで! どの艦載機よりも、長く飛んで! あなたはどの空母の艦載機よりも遥か先の海も飛んできたんだから!」

 

 

サラトガ「あの二式大艇……」

 

 

秋津洲「あの日のあたしの紙飛行機みたいに、壁に当たるまで!」

 

 

グラーフ「……!」

 

 

ドオオン!

 

 

グラーフ「忌々、しい――――!」

 

 

グラーフ「神風、特攻……!」

 

 

グラーフ「まだま、だ……!」



グラーフ「Vorwärts、真正面から」

 

 

ドンドンドン!

 

 

グラーフ「砲撃。どこ、から……」

 

 

秋津洲「まあ、これだけがんばっても私の役割は囮かも……卯月ちゃんが凄すぎるから」



秋津洲「これが勝つ作戦!」

 

 

……………

 

……………

 

……………

 

 

卯月「ナイス秋津洲ー。向こうに隙を作ったのは褒めてやるぴょん。タイミングばっちりでグラーフに当たったはず」


 

秋津洲「あ、ああ、もう攻撃手段がなくなっちゃった」

 

 

卯月「ん……?」

 

 

卯月(……秋津洲から離脱意向信号?)

 

 

卯月(っかしいぴょん。うちの面子は大破でもない限り、戦えなくなったら徒手空拳の根性だし)

 

 

卯月(……サラトガ、グラーフ)

 

 

卯月(あー、妖精可視空母のサラトガの仕業か。離脱意向信号、狙ったな)

 

 

大井「余裕ですね……」

 

 

大井「その残り少ない弾薬燃料と30を越える艦載機と、私と北上さんを前にして、勝つ気なのは結構ですが」

 

 

大井「勝つ手段がある訳でもなく、どうにか出来ると思っているその過信は才能故ですね。欠点だと思います」


 

卯月「あー、お前らいたな。ごめん、少しだけ存在を忘れてたぴょん」

 

 

北上「あ、やべ。もうすぐ3分だけど、これどうしよう。卯月、倒せるから倒しといたほーがいいよね」

 

 

大井「……私がやります。サラトガさんの護衛も引き受けるので、間宮さんは北上さんどうぞ」

 

 

卯月(……まあ、勝てねーぴょん。作戦でどうにか出来る範囲じゃないし)

 

 

卯月(時間を稼ぐ。もともとこっちの艦隊の作戦はそれが最重要項目)

 

 

卯月(……どのくらい時間、稼げるか)


 

卯月(……通信? これ)

 

 

卯月「お前、今に何の用事だぴょん」

 

 

大井「あなた、キスカ島になにか忘れて来てませんか?」

 

 

卯月「……、……?」

 

 

卯月「??」

 


大井「嘘をつくの、止めたほうがいいと思います。秋津洲さんがリタイアし時から眼が死んだ魚みたいです」

 

 

大井「嘘つきは泥棒の始まり、針千本を飲まされ、閻魔に舌を抜かれます」

 


卯月「嘘をついても閻魔に舌はいまだ抜かれず、泥棒したことなく、針千本飲まされたこともないし」

 

 

卯月「その言葉をいうあなた、嘘つきだし」


 

卯月「針千本飲ましてみるといいぴょん。嘘つきになるか人殺しになるか、答えは考える前から決まってるくせに。大人になればそんなこといわなくなるぴょん」

 

 

卯月「道徳倫理はうーちゃんの嘘と同じでクソだぴょん。報いが怖いから、痛みを避ける快楽の1種に過ぎん」

 

 

卯月「世界の9割はきっと虚妄で出来てる」

 

 

大井「どうもあなたは、悟りのほうには才能があっても、判断力のほうに欠陥がありますね」

 

 

大井「難しいですよ。その力は誰も教えることができず、自分で身に付けるしかなく、あなたはそうですね」

 

 

大井「キスカの悲劇から周りが見えなくなったのでは、と」

 

 

卯月「知った風な口を利く上にお節介。その教育が偽善ではないと証明出来たら、覚えておいてやろう」

 

 

卯月「綺麗な言葉で着飾っても、世界は真しやかに見せかけるための嘘ばかりだ」

 

 

卯月「ま、嘘って大事なことなんだけどね。生きていくというのは嘘に適応すること。嘘つけないとやっていけないぴょん」


 

大井「……」ジャキン

 

 

ドンドンドン!

 

 

卯月「うーちゃんにそんな砲撃が当たるか。魚雷も飛べば当たらんっ!」

 

 

大井「もうそろそろ燃料も弾薬も切れるはずです。その時、あなたがどんな行動を取るのか楽しみですね」

 

 

卯月(やべ、残り2発。司令官から指示の変更は来てない。なら、ここで役割を果たせ、とのことかー……)

 

 

【14ワ●想題卯月:嘘と真の覚書】

 

 

 

――――アブーのこと? 好きだよ。










――――うっそぴょん♪

 

 

実は分かんない。ただアブーとは好きとか嫌いとかじゃない。アブーからは離れられない。だって、あの事件の生き残りだもん。街に行っても隊列組んで進むみたいに一緒にいた。



あの日の全員生還の指示は結果として、4名の殉職を生んだ。そこから連鎖して大きな責任と決意と成長がうーちゃんの影にまとわりついた。

 


うーちゃんの嘘を笑ってくれるメンバーが根こそぎ死んだから、唯一の楽しみだった嘘をつく度に、心が痛くなる。

嘘は止められない。

性格の問題ではなく、誰だってそうじゃなかろーか。試験やバイトの面接、社交辞令、言葉を虚飾して、嘘をいわなければならなかったから。

 

 

アブーを励ますのもそうだ。アブーはうーちゃんより重い責任に打ちのめされて陸にあがってもずっと溺れたまま。水死体みたいな状態だ。

 

 

ええ、嘘をつきましたとも。真実と織り混ぜてバレないように励まして、アブーの顔色はよくなった。遊んでいると、笑うようにもなった。



立ち直っていないくせに笑って見せるその笑顔の嘘はうーちゃんが背負わされた理屈と同じで強制したようなもの。これは勝手なうーちゃんの解釈ではあるけれど、その笑顔から。

 


――――お前じゃダメだ。



といわれているみたいで泣けた。


 

いや、アブーのことをよく見てなかったんだな。アブーは海に戻りたくないけど、戦争が終わってないから責任はまだ海にあると思ってる。そこから目を逸らしたくて必死。そう解釈してた。

 

 

ごめん、とアブーはよく謝る。

うーちゃんは嘘で弁解する。アブーのこと好きだしー、とか。



なあなあとした日々を遊び呆けるなか、海に戻らないか、と声をかけられた。

アブーが行くのなら、行く。

 

 

そいつの言葉は確かな理屈に、必死で熱を含ませようとしているかのようで、機械が人間になろうとしているみたいな奇妙な印象を受けた。

 

 

だけど、アブーの本心を見抜いていた。アブーの心の中に降り続ける雨をの根源を見抜き、かつ海に戻るために「支えになる」と言葉をかけた。

 

 

アブーが笑った。嘘の笑顔じゃなかった。嬉しくなってうーちゃんも釣られて笑ったけど、同時に思った。

 

 

こいつ、理屈でしか愛を知らないくせに人の心を見抜いてその気にさせる口上が巧みだ。天性の詐欺師やサイコパスの特徴である。

 

 

んなやつの支えをアブーがもらうとか、保護者としてついていくしかない。

そんな感じのリスタート。

 

 

だけど、最近になって解った。もともとはまともなやつだったらしい。自己分析もしていて、なにが足りてないのか、その穴埋めに努力していた。


 

そしてとうとうあの決戦で仇を討ってアブーは立ち直った。あの日に託されたモノに直視出来た。ようやく乗り越えたのだけども、アブーは鏡みたいなものだから、思う。

 

 

私はなんか成長出来たのか?

 

 

なんてことだ。思い当たることがない。でも、うーちゃんは天才だぴょん。殻に閉じこもったままだと気付くことが出来たのは成長の証。

 

 

殻を破ろうとしている段階に入る。

 

 

キスカは終わりであり、始まりでもある。アブーは立ち直った。ならば、託された役割の1つは果たした。ここから先は彼女の物語なので、次は自分のために、の余裕はある。

 

 

あ、弾がなくなった。燃料も少し。どうするかと聞かれたら、前に進むしかなかろう。

 

 

ああ、勝ちの目がないということはこんなにも怖いことだったのか。

 

 

胸に直撃した砲弾の衝撃が、キスカの時みたいに、全身に波紋のように響きわたる。

 

 

キスカに忘れてきたのは、死んだ仲間への追悼だ。あんまり深く考えることは止めて、切り替えてきたつもりだけど、直視すれば学ぶことが多すぎる。

 

 

――――あの4名は海の傷痕を倒したんだろ。そこから事態はここまで転がったんだ。無駄死にではなかった。アブーの全員生還の指揮は、未来に大きく影響を与えたのは真実だ。

 

 

もう、暁の水平線は見えている。

 

 

アブーと殉職した4名は、終わらないと謳われたかの戦争、そこに関わり朽ちていく定めだった人間の命を、どのくらい生かすことになったのか。

 

 

無気力に嘘をついて生きて行くことを背負わされた最低最悪の記憶を種とし、学びの水をやり、誇り咲く花。

 

 

死んだ4名はどうやって戦ったのかを、解釈する。嘘か真実を求めないことで、すぐに教えを理解する。

 

 

生き損なった失敗作も、出来損なった欠陥品も、完成品にはなれるはず。痛くても苦しくても倒れても折れなければチャンスは巡り回ってくる。見えたのならつかむだけ。手を伸ばして握ることに才能なんて要らねーし。


 

――――そう教えたのか?

 

 

でも、今になって溜め込んでたモノが溢れかえってきた。あれから嘘はあまり楽しくなくなっちゃったな。

 

 

今もなんとかやっていけているけど、死んじゃったみんながいなくても、世界は廻る。うーちゃんもどんどん背が伸びてみんなのフォローがなくても、ついて良い嘘と悪い嘘の境界線を覚えて、周りと上手くやっていけるようにもなりました。

 

 

みんながいないのに。

 

 

切なくて、胸が張り裂けそうだ。

 

 

私が、あそこに置いてきたのは、




死んだみんな、だ。



私が得たモノは、私が、得たモノは。

 

 

――――ひどい泣き顔ですね。


 

放った残り最後の1発は同じ箇所の胸を狙って当てたけど、あんまり聞いてないな。威力を殺して連射性能をあげたこの砲装備は、何回も当てることで威力を発揮する。

 


大井「……まあ、年相応ですね。しがみついて徒手空拳に訴え出るのは、往生際が悪いですけど」

 

 

卯月「ダメなら、死んでやるまで」

 

 

卯月「まー、お前とうーちゃんでは、この演習の意味が違う。お前のばーちゃんみてーな優しさは年寄りの冷水というものだぴょん」

 

 

ドオン!


 

大井「今のは、痛いですね……最後の1発は倍返しで」

 


卯月「砕けた艤装でも、凶器にはなるし……」

 

 

ドオン!


 

卯月「っ、ぐらー……ふ?」

 

 

グラーフ「同じく大破だが……」

 


卯月「死んでください」

 

 

大井「痛っ……ムチャクチャやりますね」ジャキン

 

 

ドンドンドン!

 

 

グラーフ「大丈夫か? かなり深く刺されている様子だが……」

 

 

大井「左目が機能しなくなっただけです。あなたこそ、顔が半分焼けただれてますけど……」

 

 

卯月「――――、――――」

 

 

大井「魚みたいにパクパクと」

 

 

卯月「砲とかの、装備じゃない……」

 

 

卯月「『全員生還の役割』」

 

 

卯月「最後の、武器は……」

 

 

ドオオン!

 

 

大井「っ」


 

阿武隈「卯月ちゃんと秋津洲さんを倒すなんてさすがですねっ!」

 

 

阿武隈「卯月ちゃんや秋津洲さんのがんばりに報いましたよ!」

 


阿武隈「最も、あたしもかなり強いんですけどねっ!」



――――アブーは、いや、この鎮守府のみんなはきっと生涯の仲間だ。

 

 

――――嘘から始まっても真になるんだな。



大井「うわ、最悪……こんなやられ方、甲さんに顔向けできません……」

 


阿武隈「紙装甲の中破雷巡と大破空母など、すぐに!」

 

ドンドンドン!



卯月「全ヒット、さす、がー……」



大井「元気、ですね、あなただけは沈めて、おきます……」



ドオオン!


 

【16ワ●:想題江風:あの日の海の傷痕】

 

 

1

 

 

甲大将「准将。マナー違反だが、話を聞いてもらえないか。すぐに済む」

 

 

提督「はい、なんでしょうか」

 

 

甲大将「うちの木曾と江風の相手はそっちの秋月と明石がする訳だが、こいつらの戦いは邪魔入れるのなしにしてもらえねえだろうか、と」


 

提督「受けて立ちます」

 

 

甲大将「即答か。ありがたい」


 

提督「こちらが見据えているのは、あくまで最後の戦いです。お互いのためになるのならやぶさかではありません。江風さんと秋月さんには勝敗の関係なく、多大なリターンがあります」

 

 

提督「まあ、なによりあの子達が負けるとは思いませんから」

 

 

甲大将「ああ、感謝する」

 

 

提督「初霜さん、聞こえますか。他の皆さんにもお繋ぎしますが、静かに聞いて頂きたい」

 

 

提督「初霜さんは間宮さんのルートを予定通りにナビしてあげてください」

 

 

提督「阿武隈さんはしばらく後方で待機して戦闘はしないでください。万が一、サラトガさんに目をつけられたら逃げ回るだけの力はあなたにあります。今の位置的にぷらずまさんの射程範囲内ですね」

 

 

提督「金剛さん、サラトガさんの温存はもう対ぷらずまさんの特効艦としての役割を担っています」

 

 

提督「もうすぐです。恐らく酒匂さんとプリンツさんを入れた対ぷらずまさん用の艦隊が到着します。恐らくわるさめさんの装甲を貫くために、比叡さんと霧島さんも、ですね。その時はぷらずまさんの護衛をよろしくお願いします」

 

 

提督「そして総員、D地点で木曾さんと江風さんがいますが、秋月さんと明石君に任せますので、間違っても手を出さないようにお願いします」



提督「以上」


 

秋月「おっと、ここは通しません!」

 

 

明石「木曾さんと江風さんか、サラトガさんはやっぱり電さんの特効艦として残している感じかー」

 

 

江風「なあ、個別に戦ってくれないかな。これはお願いだ」

 


木曾「聞くのは俺のほうだろー。いーよ、野郎の明石のほうは俺がなんとかしとくから、江風はやってこいよ」


 

木曾「秋月との因縁に決着つけてこい」

 


江風「ありがと。任せろ、必ず勝つ」

 

 

明石「よーし、アッキー、皆のがんばりに泥を塗る戦いはするなよな!」


 

秋月「私は大丈夫です。この演習と、海の傷痕の後2回しかない」

 

 

秋月「間に合ってよかった。あの人に追い付けてよかったです」

 

 

秋月「私達に生きる力と明るい未来をくれたお兄さんに恩返しのために、今こそ成長を見せつける時間です!」

 

 

秋月「秋月型防空駆逐艦、一番艦、秋月! ここに推参しま――すっ!」

 

 

秋月「私は強いですから、覚悟してくださいね!」

 

 

江風「そうだよな。やっぱり」

 

 

江風「駆逐艦の本懐は戦闘だよな!」

 

 

3

 


注意一秒怪我一生。油断大敵。

 

 

始めて戦った姫は戦艦棲姫で、正しくその教訓が身に染みた一生の不覚だ。隣で隊列組んでた秋月に庇ってもらった。私が少しびびって動けてなかったから、怒鳴られて突き飛ばされた。

 


あ、とそんな1文字の言葉が口から漏れた時には、そいつの首はひしゃげてぶらん、と後ろにかまげた。

 

 

さすがに脳が情報を処理する前に、泣いたぜ。反射のような速度で泣いた。


 

北上さんと大井さんがなんかいってた。言葉はよく覚えてない。後から聞いた話では、さっさと行動しろ、みたいな内容だったらしい。

 


その時の作戦は木曾さんと北上さんの大井さんと江風と秋月の5人で、複数の姫の艦隊の陽動作戦だった。

 

 

戦況は不利で、ここでお前を慰めていたら、また後ろにいるやつが死ぬ、と砲弾と魚雷と艦載機の中で言ってたみたい。

 

 

――――なンで進むの?

 

 

――――後ろに一人置いてきぼりだぞ。

 

 

――――隊列に一人、足りねえじゃンかよ。

 

 

って叫んだら、秋月が戻ってきた。

 


首から上だけだった。

 

 

木曾さんが秋月の髪をわし掴みにして、江風の前に突き出してただけ。珍しく怖い顔で、怒鳴り散らした。

 

 

そこんとこは覚えてる。まるで死んだのに、そいつの言葉を代弁しているような内容だった。


 

――――早く切り替えろ。

 

 

――――俺らのなかで防空で頼りになんのはもう江風だけだ。

 

 

――――いつまで涙を拭うために砲口を真上に向けてる。

 

 

――――お前、次は誰を殺す気だ?

 

 

その時は無理だった。戦おうとしても、前がよく見えねえンだもん。

 

 

とうとう大井さんに首根っこをつかまれて、強引に方向転換させられた。伊勢と日向が遠くに見えた。別の作戦で動いていた二人を呼んだらしい。

 

 

――――お願いだから帰投して。

 

 

怖い顔だった。

 

 

背中を蹴られた。今度は北上さんだ。この人がこんなにキレたのは後にも先にも、この時だけだったかな。

 

 

眉間を寄せて、噛み締めた唇からは血が出ていた。その震えた声音だけで、きっと泣いていた。

 

 

――――駆逐艦、うざい。

 

 

結局、戦いが終わるまで安全な航路で泣いてた。行き違う兵士の皆はなにもいわず、各々の戦場へと向かって。

 

 

結局、戦いが終わるまで砲口は真上の空を向いてた。

 

 

帰投した時、大将に、あの時の大将は中佐だっけか。今とは全く違って、よく泣いて、よく笑う人だった。

 

 

誰にいっても、信じられないって驚かれる。ま、今の大将を見ればそうなるよな。元帥さんは苦笑いするけどさ。

 

 

でも、その時の大将は泣きも笑いもしなかった。ぼけっとしていた。後から聞いた話、この人もショックで、指揮を執ることも出来なかったみたいだ。

 

 

――――私は、かけてやれる言葉が、ないんだ。

 

 

あれはきっと江風に向けられたものではなく、全員に対しての言葉だったと思う。結局、帰ってきた3人に江風みたいにブン殴られていた。ふらふらと、自室に帰った。大将はわんわんと泣き出した。

 

 

その時、また江風の手は海と同じ形で涙を拭いていたあり様だ。きっと思っていたことは同じだった。

 

 

――――私のせいで。

 

 

あの時に人生分の涙を流しきったといわんばかりに、大将は本気で泣くことはなくなった。そして、本気で笑ってるところも見なくなった。

 

 

深く悲しい爪痕だけが、残った作戦だった。

 

 

秋月とは長い時間を過ごせた訳じゃないけど、素質が高くて、先輩の江風が教えてもらう立場だった。あの頃はみんな強くなくて、秋月が最強だ。

 

 

作戦開始前に言ってた。

 

 

――――私達は最強です!

 

 

と、根拠はなんなのか分からない。実績は演習で一回、勝ったくらいだ。作戦ではそう大した戦果を挙げていない弱小艦隊なのに。

 


だけど、不思議なことにどんな言葉よりも力強く感じられた。今までで、一番だ。ぶっちゃけ親の愛の言葉や寅さんの名言よりも、力強くてその気にさせた。

 

 

あれから今までずっと、求めていた。もう終わりだ。終わりがそこまで来ているっていうのに、まだ求めてる。

 

 

あんな強くて優しい言葉。どんな形でもいいからもう1度出会いたくて、心のどっかでお前のこと探してる。気付けばもうすぐエンディングが近いよ。

 

 

まあ、でも、成長したんだ。

 

 

今はもうちゃんと砲口は敵のほうを向いてるし。難しいことなンだぞ。当然だって、笑ってくれンなよな。

 

 

【17ワ●:想題秋月:がんばります!】

 

 

――――中学校3年生の夏の終わりに母が死んでからよく押し入れで暮らすようになった。お父さんが壊れて、よく殴るようになり始めた時です。

 

 

押し入れに隠れて過ごすようになったのは兄の入れ知恵。男と女の身体の丈夫さも、傷の意味も違うから、と、兄が堪えていた。

 

 

泣いたのは4つ理由がある。

温かった家庭の崩壊。

兄の優しさに甘えて隠れていることを受け入れた自分の弱さ。

誰かに相談して、周りから変な眼で見られることによる学校生活の変化。

最近亡くなったお友達のこと。

 

 

私には仲の良い友達がいました。

健康診断を受けに病院に行った時にたまたま喋って仲良くなった男の子です。歳も同じで気が合いました。その子は病気で小さな頃からずっと病院にいるらしい。すごく仲良くなって、こっそり夏祭りに行ったりした。病院の近くでやってたので。楽しかったなあ。



お見舞いに行って喋っていた時、母親と鉢合わせたので、あいさつだけして私はそそくさと帰りました。

 

 

次にお見舞いに行った時には天国に旅立ってて、看護師さんから住所を教えてもらった。葬式に顔を出したかったのだ。看護師さんは私がその子と仲良いことを知っていて、私の学生証を提示したら教えてくれました。母親とも顔を合わせたこともあり、参列のお許しが出ました。葬式が終わってほとんどの人が火葬場に向かっていくなか、家の中で母親の呟きを聞いてしまいました。聞きたくなかった。

 


――――やっと死んでくれた。

 

 

なにがあったのかは察していました。葬式に参列していた人のひそひそ話で、入院費や治療費のために借金までしていたって。

 

 

安堵したかのようなその顔には息子の死を嘆く沈んだ風ではなくて、むしろ晴れ晴れとしていました。今にもガッツポーズしそうなくらいです。



その日の夜に、虐待で死んだ子供のニュースを観ました。

 

 

嫌だ嫌だ嫌だ。私もあの子と同じだ。私が死んだら、喜ぶ人がいるんじゃないだろうか。

 

 

例えばお父さん。面倒を見なくて済むから。例えばお母さん。私達に会えたって。例えば兄。もう守って傷を負う必要がなくなったって。

 

 

違う違う違う。分かってる。お父さんは今、どうにかなってしまっているだけ。お母さんも私達が死んで喜ぶわけない。アッシーは私のために守ってくれてるんだから。

 

 

怖い怖い怖い。なのに、どうしてそんな風に思ってしまうのか。今になれば違います。兄はいつだって、私の側にいてくれました。私はもう兄を支えにして、毎日、兄が死なないか心配で。



兄の声や顔が、見えなくなると、胸が苦しくなって、まるで海に溺れたように息継ぎが出来なくなってしまう。

 

 

今、向かい合っている江風さんは強い。顔を見れば分かります。兄と同じだ。大事な人のために本気になって、ギラギラと強い意思を滴らせた双眸だ。少しだけ、押されかけてる。被弾もしたけど、まだ戦える。

 

 

そう、まだ戦えたんです。


 

逃げ出すことをしなかった私は、また兄に救われて、あの人に出会った。戦争で死ぬはずの命を助ける。なんて、なんて、私の償いにぴったりなのでしょうか。

 

 

この艤装を身に付けた時に見た夢は、軍艦秋月の夢じゃなかった。

 


江風さんを守って死んだしまった人だ。心では喜怒哀楽が複雑に混じっていた。死んだのは一瞬なのに、信じられない想の蓄積速度により、その感情は宇宙を想起させるほど膨大だ。なのに、きっと庇ったのは無意識だ。優しい英雄だ。

 

 

でも、それも怖い。死の気配を味わうと、あの頃の記憶と想が連鎖して私の心を嵐のように、かき乱すから。

 

 

――――秋月ちゃん、ここですよー。

 

 

通信機から、明石のお姉さんの声が聞こえた。いつもと同じく優しく、鋭い声だ。曇天を切り裂くような一陣の風みたいな言葉だ。

 

 

――――秋月さん、聞こえますか。

 

 

はい。聞こえます。

 

 

 

――――がんばれー!

 

 

これは驚きました。お兄さんが、腹から声を出したかのような、大声援を。一陣の鋭利な風が、曇天を吹き飛ばすような、力強い声だった。


 

――――兄さん少しうるさいぞー。

 

 

アッシーが馬鹿げた顔で、空気の読めないことをいってます。まあ、アッシーはいつもそんな感じでしたね。思えば太陽みたいな支えでした。

 

 

解ったことが1つあります。私は不幸ではなかったということ。貧乏でも暴力の絶えない家庭でもない。きっと、どんな形であっても、真心による愛情を注がれた確かな今がありますから。

 

 

 

秋月「秋月、がんばり!」

 

 

秋月「ま――――す!!」

 

 

3

 

 

秋月「もう守られるだけの私ではないんです! 先代の秋月のように誰かを守る背中を、魂で理解しましたから!」


 

江風「江風個人としては海の傷痕並みに敗けられないよ! お前を通して、その艤装に眠るあいつに伝えンだよ!」

 

 

江風「お前に守られた時の弱さから、もう背中を預けられるほどに強くなった今の未来を伝導させなきゃさ!」

 

 

江風「それが私達の心が負った『海の傷痕を消し去る方法』だから!」

 

 

江風「ったく! 砲口を真上に向けたのは当て付けか、忌々しい!」

 

 

秋月「その前に向かってくる決意と勇気、少しも退かない誇りと奢りに、敬意を持った作戦です!」

 

 

江風「……、……」

 

 

江風「ああ?」

 

 

秋月「そうですよね。前に進むのなら、その進路を通りますよね。お陰で狙いをつけ、命中させられます」

 

 

江風「器用な真似するな! その雨みたいに降らす砲撃、どんな理屈だよ!」

 

 

秋月「砲をいじって飛距離を変えてることと、私の訓練による技術です」

 

 

秋月「工作艦と過ごした日々、色々と知識は学ぶんですよ。例えば」

 


江風「なるほど、機銃で……!」ジャキン

 

 

秋月「その発射管から見えている魚雷が、機銃の一撃で爆発することとか、です!」

 

 

江風「でも、江風のほうが速え!」

 

 

江風・秋月「沈め!!」

 

 

【18ワ●:タイマン準備中】

 

 

木曾「あー……聞こえるか。なんともいえねえ顔してんなお前」

 

 

明石「通信でそんなこといってくんなよ。あんた性格悪いな。まあ、江風さんのが強かったってことだ。アッキーは負けたよ。けどさ、弱いってことじゃねえだろ」

 

 

木曾「そうだな。あの秋月は強えだろ。お前ら俺達が何十年と積み重ねてきた場所に早く辿り着きすぎだよ」

 

 

明石「3分待て。準備するの忘れてたわ。ああ、もちろん攻めて来てもいいぞ。あんたの好きにしてくれ」

 

 

木曾「待たせてもらうよ。正し、全力出さないと一生許さねえからな」

 

 

2

 

 

コツコツ

 

 

秋月「……入渠、終えました……」

 

 

秋月「すみま、もがっ」

 

 

明石さん「はいストップです。お口を手で塞いでしまいます」

 

 

明石「まだ終わってませんし、謝ることはなに1つありません。これは全体としてあくまで演習なんですからね」

 

 

響「その通りだ。謝られたら私でも怒るよ。選出された秋月さんが負けたのなら、相応しくなかったというのなら」

 

 

響「私は、泣いてしまうだろう」

 

 

卯月「そうそう。切り替えるぴょん。お前の兄貴が男を見せる場面だぞー」

 

 

提督「そうですね。負けることは恥ではありません。それからあなたがどうするか、それが大事です」

 

 

提督「うじうじ引きずるのなら、舵執りしますけどね。主に鹿島さんが」

 

 

鹿島「そこは提督のお仕事では……」

 

 

提督「年頃の女の子の心はいまだによく分かりませんので……」

 

 

秋月「いえ、ご心配なく! 秋月は大丈夫です!」ビシッ

 

 

明石さん「提督さん、弟子に応援の言葉を贈っても大丈夫ですか?」

 


提督「ええ、もちろん。そちらの通信設備から」

 

 

明石さん「弟子、負けるんじゃないですよ! 工作艦が最も対人戦に強いと証明する時です!」

 

 

明石「分かってる。相手にとって不足なしだが、敗ける気がまるでしない。けど習慣のせいで姉さんの声聞くと、なんかすくんじまうなー」

 

 

響「がんばって。by響」

 

 

卯月「お前、負けたら入学式の事件、各鎮守府に通達な」

 

 

明石「おー、チビども、後でなんか美味しいもん奢ってやるよー」

 

 

卯月「うーちゃんをそういう風に扱うなぴょん!」

 

 

秋月「アッシー! これは心からの応援です! 負けないでください!」

 

 

明石「おう。お前も成長したんだな。泣いてるかと思った。いつも押し入れに隠れてめそめそしていたみたいに」

 

 

明石「兄貴として嬉しいな」

 

 

鹿島「明石君、お願いしますね。改造アンカー弾で、底上げした回避の成果を見せて欲しいです!」

 

 

明石「……っす。今の砲弾、避けられたの、きっと鹿島さんが指導してくれたお陰です!」

 

 

秋月・明石さん「なんかムカつきます」

 

 

龍驤「そっちの声が聞こえたんやけど、うちもこっちから応援していいかなー! こういうの好きなんやけどー!」

 

 

提督「あ、はい。どうぞ」

 


卯月「あいつの声はでかいなー」

 

 

龍驤「がんばれやー! 木曾に勝ったら今晩は龍驤さんがお酌したるよー!」

 


明石「っち! 被弾した!」

 

 

龍驤「あれ!?」

 


【19ワ●:想題木曾:あなたはあの頃のまま。私達の希望だね。】

 


1

 

 

木曾「その動きすごいなお前!」

 

 

明石「いちいち通信飛ばしてくるなよ! それに教えるわけないんだから、お前の頭で考えろよな!」

 

 

木曾(……聞いてた秋津洲の妙な航行術と同じくアンカーを利用したものでも、2つ撃ち込んでんのかね)

 

 

木曾「なんで避けるだけで攻撃してこねえんだあいつ……」

 

 

木曾「……、……」

 

 

木曾(馬鹿でかいあのドラム缶に積んであるのは資材とか高速修復剤とかだったか。アンカー弾の二つ目は装備枠を潰してる。あのドラム缶外付けスロット、かな。砲の装備は積んでる)

 

 

木曾(ダメだ、あの工作艦、色々と常識はずれで装備が読みきれねえけど、近付いてくるのは、アンカー2つで撃ち込み地点と巻き戻しで回収してるから、かな?)

 

 

木曾(まあ、あいつの素質的なステータスは上方修正しておくとして)

 

 

木曾「狙いが定まらねえ……」

 


木曾「けど近付いてきてる。その手間を省かせてやるよ」

 

 

木曾「江風みたいに俺の人生も」

 

 

木曾「ここから覚醒しねえかな」

 

 

2

 

 

中学3年生の夏休み、漁師の親父がいった。最近ずっと不作だ。

 

 

ちょうどよかった、と俺は思った。中学3年生、まだ進路を決めてねえ。この間に学校に一般適性検査施設の設備持った軍の連中が来た。その時に適性を測ったら、木曾とかいう艤装の適性があったから。

 

 

――――魚が獲れねえなら、海を広げりゃいいだろ。そうだな、俺がちょっと安全海域を増やしてくるぜ。

 

 

親父や地元の仲間からも大笑いされた。今思うと、ちょっとそこまで買いに行ってくる、と似たような感覚だ。

 

 

まあ、素質のほうが悪くて成績は最悪だ。頭の出来もいまいちだ。そんなの動機からして分かるだろ。ステゴロってケンカなら男にも敗けたことなかったんだけどな。


 

ただ人が死ぬことを割り切ることに関しては素質は高かった。誰かが死んでも次の日には立ち直ってる。

 

 

卒業式の日に、地元に帰って仲間とばか騒ぎした。若き青春の一頁は今も色褪せない。あの時、酒とか飲んだ。仲間達は酔うと、夢なんか語り出した。

 

 

ある奴は、政治家になりたい、とか。

 

ある奴は、宇宙飛行士だ、とか。

 

ある奴は、良い男と結婚して家庭を、とか。

 

ある奴は、ミュージシャンとか。

 

 

皆、キラキラと輝いてた。

 

 

その頃は大抵のことは自分次第で上手くいくもんだ、と思うようになってた。まだまだ成績悪かったけども、俺もなんとか深海棲艦を倒すことが出来たから。だから、俺より出来のいい皆には出来るだろ、ってそう思った。



――――じゃあ俺はこの辺りの安全海域を増やすまで戻って来ないことにする。

 

 

その間に今の大将にも会ったかな。

 

肝は座ってたけど、喜怒哀楽の激しい女ではあったな。本当にいつもこっちに命すり減らすような作戦ばっかり組む。汚れ仕事も、損な役回りも自ら進んで引き受ける。戦場に立つのはこっちだっていうのに。そのせいで、こっちも強くはなったけど。

 

 

結局、10年近くかかったか。それまで本当に1度も地元に帰らなかった。

 

 

海とは違って、景色は変わってた。

 

 

帰った時、親父は言った。「よくやったな。今年は大量だ。まー、俺のところは不作だがな」とヤニで黄ばんだ歯を見せた。「なんだよそれ」って俺も笑っちまった。手前の腕が悪いせいかよ、と。

 

 

仲間と会ってきた。皆、もう三十路近くて、色々な場所にいた。だから、俺のほうから皆のところに連絡取って、顔を見に旅をした。

 

 

そして色々と海とは違う世界の流れを見たよ。この海で兵士をやるってことは、人間の輪から取り残されるってことみたいだ。

 

 

ある奴は、政治家になってた。

ある奴は、宇宙飛行士になってた。

ある奴は、かっこいい男を捕まえて婚約してた。

ある奴は、テレビで歌を唄ってた。


 

皆で無理矢理に時間を作って、あの日みたいにばか騒ぎをした。本当にあの日の夢の続きのようだった。

 

 

そして5年後にはまた景色は変わってた。

 

 

政治家は、あることないことをゴシップ記者にフレームアップされて辞任していた。宇宙飛行士は、交通事故で身体を悪くして仕事を辞めた。女は、男から逃げられて、病んでた。あるミュージシャンだけは今でも路上で歌を唄ってた。


 

なんかみんな、辛そうだ。その時にまた集まって騒いだけど、あの頃の面影はなく、どこか悟ったように大人しかった。みんな、俺を見ていうんだ。

 

 

――――お前は、変わらないよな。

 

 

と、まるで卒業アルバムを懐かしむかのような目で俺を見る。まあ、確かに俺は姿はあの頃のまんまだ。

 

 

皆、腐ったかのように老いてゆく。

 

15年前、それぞれの未来は確かに輝いてた。

 

10年前、俺達はそれぞれの未来を手にした。

 

5年前、皆は未来を失ってた。

 

人は景色と同じで時間で変わっていくもんだ。だけど、皆、死んだみたいになってて、腹が立った。


 

みんなに聞かれた。海での戦いのこと。深海棲艦のこととか、乗り越えてきた海のことを語った。その帰り道にこう言われた。

 

 

――――あなたはあの頃のまま。私達の希望だね。

 

 

あの頃のまま? 私達の希望?

まるで理解出来ない。なあ、誰か置いてきぼりの俺に教えてくれ。どういう意味なんだよ。なにを求められた。

 

 

その日はなんもなくなった空っぽの心でさよならした。

 


今まで以上にがんばることにした。活躍すればするほど、海は広くなってゆく。あの頃のまま、初志貫徹の根性を入れて、身体が動く限りに、戦い続けた。

 

 

――――腐ってたまるか、と。

 

 

海で戦い続ける理由は、たったそんだけだ。大層な理由なんかなかった。戦い続ける間に、まだ景色は変わる。

 

 

みんな、また変わっていく。みんな、新しい生活を始めていた。それぞれがそれぞれの新しい道を、だ。

 


みんな、夢を手放しちまった。現実と時間の残酷さに諦念が滲んだ。だから、俺はあいつらの希望なんだろうな。

 


みんな、変わっていく。俺だけが、ずっとあの時の桜の下で夢を騒いでるわけだ。笑っちまう。


 

俺の根底はあの頃のままだ。それがあいつらには希望の形なんだろうな。でも、俺も少しは変わったんだぜ。がむしゃらに突き進んでいたら、今じゃ大将の第1艦隊の旗艦だ。

 

 

最後にあいつらに会った時、まあ桜が咲いていた時期だったっけか。同じように卒業証書持ってたガキが騒いでたよ。あの頃の俺達みたいにキラキラしてた。

 

 

あのガキどもに昔の面影重ねる時点であの頃のまま、ではないよな。俺も変わっちまったのかなって想いに耽てる俺は、十分な老兵だよ。燃料ないわ。

 

 

でも、またあの桜の下で、今度は花見とか出来るといいよな。そんなこと考えて、もう1度だけ誓った。

 

 

――――次に故郷に戻る時は世界の海を安全海域にして帰ってこよう。

 

 

いつまで見ていても、穏やかで綺麗な暁の水平線みたいに、キラキラし続けたいもんだ。

 

 

それが当たり前の世界になるために、負ける訳には行かん。スカートにも慣れたんだけど、そんな俺だから、木曾なんだろうな。性別行方不明なのも、あの頃からガキのままだからか?



まあ、色々なことを知って、色んなやつに助けられても来たけど、正面向いて「ありがとう」とか「ごめんなさい」だなんて恥ずかしくていいたくねえな。



そんな時、俺はいつも照れ隠しにこういうんだ。



俺とお前の仲じゃねえか、って。


 

【20ワ●:想題明石君:『魔改造作品NO4:妖精と魔法使いのアトリエ』】


1


地獄の日々は終わりを告げて、春。



対深海棲艦海軍において、初の男性兵士の俺だ。なんて劇的、なんて救世的、なんて幸運だ。なにか特別な力があるのかもな。周りは可愛い女の子ばっかりだし。最近の深夜アニメの主人公にでもなった最高の気分だ。



正直、学校生活で青春もしてみたいな、とかって下心全開で考えてた。さっそく入学式の時にアッキーにも山風さんにも嫌われるという失態を犯した。どうも俺はそういう星のもとに産まれてきたらしいな。



建造は先代明石が忙しく使っているために周りよりも遅れた。建造したのは入学式から1ヶ月経過した後だった。



その間は工作艦の知識を座学で学んでいた。ここにおいての俺は真面目だ。なんたって、俺には目標がある。



特にこれといった青春もない。放課後は研究部に顔を出したり、そこで研究に付き合わされたり、だ。なにもない放課後の時は秋雲さんのところに顔を出して、漫画を読んでた。えろいやつ。



創作だの芸術だのといったことはよく分からんけど、需要ってのは理解できる。秋雲さんの持ってる漫画、読み尽くして思った。



思えばこの戦争って創作物みたいに需要がある。街でも何度か兵士の噂は聞いたことがある。誰々が可愛いとか。武勲をあげたやつなんかは、大層に持ち上げられて、英雄というよりはアイドルに近い持ち上げられ方だ。



思えば、おかしいんだよ。だって、本当に不細工がいないんだもの。まるで本当に空想の世界のようだ。



なら需要はあるんだよ。特に男からはな。軍艦とか第二次世界大戦といったロマン+可愛い女の子だ。



だったら当然ながら、男のファンが多いわけだ、とネットサーフィンしながら、妙に納得した。あれだ。女のアイドルには男のファンが多くて、男のアイドルには女のファンが多い。それと同じじゃねえかな。珍しく俺は芸術的かつ創作的なことを思った。



だったら俺は救世者でも英雄でも、ましてや主人公でもないのだろう。この世界において、男なのに艦娘である俺は『需要のない異物』でしかなかった。



なんだか、淋しいな。

少し気分が沈んだその日に建造をして、艤装を身に付けた。



艤装の夢を見たが、精神影響はなかった。痛くて苦しい想いには慣れてるし、この想はよく理解できない。今思えば、艤装に蓄えられているのは女の想であることと、俺がそういう痛みに慣れすぎたやつだからだと思う。研究部でも少し騒ぎになった。全く変化がないからだ。



思えばアッキーもうなされるっていってたな。お前、少し顔つきが怖くなったし、筋トレとかして男らしくなったなっていったら、怒られた。



地獄の特訓が始まった。艤装が使える日は座学は免除されたから、寝る間も惜しんで工作艦の技能を修得していく。



工作艦の授業はほとんど駆逐艦とは違うから、俺は独りの時間が多かった。アッキーとはいつも通りだし、あいつは山風さんと仲良さげだ。なによりだった。俺も最初よりは山風さんと仲良くなったような気もする。あの子、よく分かんないから、気もするだけだ。



俺はアッキーや山風さん、秋雲さん達や明石の姉さんよりも、学校生活の多くを妖精と一緒に過ごしてた。



初対面のやつに明石と名乗れば、頭上にハテナマークを浮かべる。俺のことを知らないやつはそんな反応をする。まるで秋雲さんが書いてる売れない漫画の二次創作の人間みたいな知名度のなさだ。



まあ、いいや。やることやろう。考えるだけ無駄だと思って、仕事に戻る。



妖精の意思疏通と、物をバラすのは得意だ。前にそんな仕事してたからかな。姉さんに褒められた分野だった。



センスありますね♪



って褒められた時は、大げさにいえば、生きていることを許可されたようで嬉しかったな。そんな俺を見て、姉さんは少し首を傾げていた。



翌日の夕暮れ時に明石の姉さんは酷くふくれあがった面で工廠にやって来た。なにがあったのかは知らない。アッキーもびっくりしていた。



明石の姉さんはなにもいわずに、俺を強く抱き締めてきた。姉さんはぽろぽろと涙を流してた。その後にアッキーも抱き締めた。



あれはなんだったんだろ。今でも謎だが、聞いても教えてくれないことだった。その翌日からスパルタ度合いが増したのも謎だ。



――――秘技を授けましょう。



と、教えてもらったのが魔改造だ。これが俺にとって一番、面白かった。中学の時は自転車とか機械をカスタムするの好きだったし。



そして魔改造でなんか作れ、と課題を出されたから、しばらくの間、妖精と一緒に工廠に引きこもる。



艤装つけて海に抜錨してもアッキーにボコられ、山風さんにまたボコられる。この艤装、弱くねえか。



そんなこと思ってたからあいつらに勝つための男の意地で初めて開発したのが、錨を改造した改造アンカー弾だ。



これは相手に撃ち込めて一本釣りみたいな真似もできれば、海中に撃ち込んで、重心にもなり、航行範囲が制限される代わりに、航行術に色が出る。



それ使って演習してみたらアッキーと山風さんに勝つことが出来た。でも、なんか嬉しくねえ。女をボコってるからなあ。訓練といえども、大切なモノを失いそうで好きになれなかった。



――――なら、そうですね、前々から思っていたんですけど、なんか艦艇修理施設を魔改造チックにすると、面白そうじゃないですか?



明石の姉さんは悪戯を思い付いたガキみたいに笑った。俺もつられて笑った。面白そうだ。案がある。



質問をした。



深海棲艦と戦う時に入渠施設や妖精を備えた船を、鎮守府だけじゃなくて兵士の近くに待機させときゃいいじゃん。軍艦と違ってコンパクトな人間だしさ、そのほうが継戦能力あがるだろ、と。至極、真っ当な意見だ。



そういったら座学の時間です、と歴史と経済の話をされた。その戦い方は以前にされていたらしい。入渠中の兵士の耐性は大きく下がって装甲と耐久が柔くなってる上、その戦術を使い初めて時間が経つと深海棲艦が全力でその拠点に砲撃してくるようになったそうな。それはそれで陽動や囮といった戦術に利用できても、その備え付ける入渠施設やらなにやらの費用の総額を知れば、無理だなって悟った。どこも金のやりくりに苦労してるね。そして紆余曲折して出来あがって落ち着いたのが鎮守府というスタンダートな形だとか。



なら、そうだな、と俺は考える。



資材と妖精がいれば、海上の上で入渠可能だ。 入渠の施設は風呂形式。それならばドラム缶風呂でも理論的には可能だった。艦艇修理施設もあれば艤装の修理もスピーディーにできる。



そうして出来あがったのが、海上修理施設だ。これを使うために相当な訓練を積んだ。センスと妖精可視の才も合わさり、大きな反響を呼んだ。



アッキーが自分のことのように喜んでいた。これは敵を殺すことでなく、人の命を救うことに特化した優しい装備だって、俺にしか出来ないことだって。



ようやくこの世界の異物じゃなくなった気がした。妖精さんと過ごした2年の日々、語りきれないほどの色々な変化があった。改造照明弾は、忙しくて花火大会に行けなかった皆のために遊びに作ったもんだけど、深海棲艦の気を大きく引けた。なんでだろうな。



結局、青春は出来たけど彼女は出来なかったなあ。思えば対深海棲艦海軍にいる人って、結婚してる人いないんじゃね。これもまたファンタジーだ。



あれだ。俺は三十路越えても彼女できねえかもしれねえ。魔法使いってやつ。秋雲先輩が、笑った。リアルの鈍感系はいらっとするなって。



どーゆーことだよ。俺のこと好きなの、って聞いたら、秋雲先輩は元気よく「好きだよー」って答えて、中指立ててた。なんなんだ。だけど、まあ、どうでもいいか。



アッキーと抜錨するといつも思う。こいつも元気になったなって。俺達はいつも一緒に苦難を乗り越えてきた兄妹だからか、物思いに耽る。



いつのまにか恩人も師匠も友達も出来てたよな。



俺達はどこまで行けるのかね。



少なくともこの戦争で終わりはしないよな。得たものが多すぎて、もう失いたくない。この戦争に参加することは、仕事以上の意味を持ってる。



そのために精進あるのみだ。アッキーが負けたからって、あいつの敗けじゃない。俺達が一人でもいる限り。深海棲艦相手に上のやつは降伏宣言なんてしねえからな。



それがこの海の戦争だ。人間同士じゃないけど、どちらかが全滅するまで続く悲惨な戦い。



守るか奪われるか。生きるか死ぬか。



まあ、現状はヤバイな。

もう中破。魚雷の命中精度がでたらめ過ぎる。これ、勘とかその類の超能力だろ。


 

なめてた訳じゃないけど、木曾は聞いていたよりもずっと強えな。数値で正確に測れないステータスが強靭だ。実際に戦わないと、わかんねえなコレ。



巻き上げ機……よし、アンカー射出位置に戻して、ぶっ刺しておく。


 

「その装備、流行ってんの?」


 

おいおい、素手でつかんじゃうのか。まあ、いい。離すなら今のうちだぞ。


 

「明石さんとも戦ったことあるけど、お前の戦艦並の馬力は男補整なのかな」


 

「まあ、いいや。どっちにしろ近距離以上の接近戦は俺も強いからな」


 

「カタパルトだの滑走路なんて要らねえよ。戦いは敵の懐に潜り込んでやるもんだ。遠距離なんて欠伸が出る」


 

俺もそんな台詞いってみてえ。ほんと男より格好いい女が多すぎる海だ。

 


でも当然ながら負けてはやらん。



――――明石君、初霜ですが、ここで鉢巻きを締めるべきです!



なんなんだ。まあ、鉢巻き締めておいた。「かっこいいです!」と褒められた。あの子、よく分からねえわ。



まあ、ここからは男の矜持だ。

主人公チックな力をお見せしよう。俺の技術と思考が生んだ対艦娘においての汎用性に溢れた最後の魔改造形態をご笑覧あれ。


 

明石「――――、――――」



明石「この装備名は下ネタじゃないらしいぞ?」



木曾「あ?」



明石「『妖精と魔法使いの工廠:アトリエ』」



明石「俺が敬愛する秋雲先輩の命名だ! 芸術的かつ創作的にストリップさせてやるよ!」



明石「同人誌みたいにな!」



木曾「最悪だなお前!」



2



甲大将「……、……」



甲大将「あの装備、ただのドラム缶でも入渠用でもなかったのか……?」



甲大将(アンカー弾を伝って、移動しているのは妖精か。建造、解体、開発、廃棄……それと、艦艇修理施設の装備妖精、かな)



甲大将(資材もあれば、というか相手の装備を解体して、資材は確保できるか。その場で開発して装備造れもすれば、工作艦艤装で設置も出来る……)



甲大将「工作艦艤装というか、工廠じゃねーか。ずりいな。海上で丸裸にされんぞアレ……」



甲大将(木曾には教えるの止めたほうがいいか。このくらいなら、あいつは敗けん)



甲大将「うちの最強をなめンなよ」

 


3



カーンカーン



明石「視えねえよな。廃棄妖精と、解体妖精と、開発妖精と、建造妖精」



木曾「……、……」



明石「バラすのに関しては明石の姐さんに唯一褒められたところ」



明石「深海棲艦や電の類は無理だけど、普通の艦娘なら海の上で解体は可だ」



木曾「お前、やりたい放題だな!」



明石「工作艦なめんなよ」



木曾「この至近距離、砲や魚雷なんかいらねえ」



木曾「斬り捨て御免、だ」



明石「タイマンか。俺の得意分野だ」



木曾「侮るなよ。ケンカで大将以外に負けたことはねえ」



明石「侮るかよ。軍学校でどれだけ」



明石「女にボコボコにされたと思ってンだ!」



明石「このオトコオンナ野郎どもめ!」


ドガッ!


木曾「っく、オラア!」



明石「真剣白羽取り!」



木曾「マジかよ!?」



明石「こんなもん、捨てろ捨てろ」ポイッ



木曾「喰らえ!」


バキッ


明石「……」


ドゴッ!


ドガドゴッドゴッバキッゴッ……………



木曾「うざってエ! 倒れやがれ!!」



明石「素手の殴り合いで負けてたまるか」



明石「男の意地があんだよ眼帯。お前こそ装備なくしたんだから少しは意気消沈しろよ!」



木曾「ちっとばかし涼しくなっただけだし!」



木曾「あーもう、このガキのケンカなんなんだよ! めちゃくちゃ楽しいじゃねえかこの野郎!」



木曾「やっぱり俺はあの頃から変わってなかったんだな!」


 

3

 

 

提督「あの人達は一体なにやってるんですかね……」

 

 

卯月「まるで子供のケンカだし……」

 

 

明石さん「よーし弟子よ、そのままぶっ倒せ♪」

 

 

秋月「アッシーは緊張感も解体してしまいましたね……」

 

 

響「上手い」

 


秋月「装備枠2つも潰したあの形態は、本当に止めて欲しいです。素っ裸にされるのは、屈辱です」



卯月「うむ、最低な装備だぴょん……あの妖精、なんか服まで脱がしてくるし……」



響「まあ、演習ではあれ使う度にみんなにボコられてたね……雷と暁があそこまで怒るとは」



提督「第6駆まで剥いたのか……」



響「わるさめさんだけは爆笑してたけど、他の皆はキレてたよ」



明石さん「弟子が辿り着いた工作艦の極意こそ、脱衣。格好よくいうと、破壊です。秋雲ちゃんの趣味が影響して出来た装備みたいですが、最悪ですね♪」


 

鹿島「でも微笑ましいです。なぜお二人があんなに楽しそうなのかは私にはさっぱりですが、男の世界ですかね」

 

 

提督「あれ、木曾さんってあれ?」

 

 

提督「まあ、いいや。木曾さん、自分よりも遥かに男気ありますし……」

 

 

提督「お二人は放置で事を進めますか。わるさめさん、応答してください」

 


【21ワ●:不確定要素】

 

 

1

 

 

提督「やっぱりあなたとぷらずまさんは戦闘面の指示は出さず、やって欲しいことだけを伝えたほうがいいみたいですね」

 

 

提督「把握し切れていないので、勝手が分かりませんし……」

 

 

わるさめ「まあそだね」

 

 

わるさめ「でも天城と日向はいたけど、この先に加賀と雪風いるんだよね? こんな演習指定海域の端っこでなにしてるんだろ」

 

 

提督「ルールの穴をつく策を実行するためです」

 


わるさめ「ルールの穴?」

 

 

提督「甲丙の鎮守府所属でなければ途中参加は反則じゃないです。籍を一時的に変えておけば球磨さんとかプリンツさんとかも」

 

 

提督「演習指定海域の外で待機させている支援艦隊を突っ込ませても反則にはならないんですよね」

 

 

わるさめ「……、……」

 

 

わるさめ「ちょっとそれよどよどに審議しなよ!?」

 

 

提督「必要がないです。ダメなら使った時点でこっちの勝ちですし」

 

 

提督「まあ、恐らく白判断かと」


 

提督「開始地点が端っこなのも、まあ、理由がありますね」

 

 

提督「こんな端っこでずっとうろちょろしているのは、こちらに気付かれないほど遠方で待機している支援艦隊に向けての進軍の合図を出すための位置取り。まあ、待機しているおおよその場所は分かりますが」

 

 

提督「動き的に丙少将の艦隊、現在の消去法で雪風さんか加賀さんのどちらかが役割を担っています」

 

 

わるさめ「……おかしくないかな?」

 

 

わるさめ「今の状況的にいまだに支援艦隊を呼ばずに、まだタイミングを測っているわけ?」


 

提督「色々と考えられるのですが、有力なのはわるさめさんや初霜さん、明石君もか。こちらは色々と変化しているので戦力的な情報が不足し過ぎている状況、ですから」

 

 

わるさめさ「支援艦隊を出すのは、確かな勝ちの手段が見えた時とするのが、効果的ってことか」


 

提督「数で押し潰して来ないということは、無駄に命を散らしかねないことを考慮しているか、支援艦隊の数はそう多く用意出来ていないのか」

 

 

提督「どのくらい準備出来たのか読みきれません。それがこちらの敗北に直結する不確定要素です」



提督「自分でもあなた達を潰すためにまず情報を集めます。普通にやっても勝てないですから。ぷらずまさんとわるさめさん、今までもあなた達の功績は目立ちますしね」

 

 

わるさめ「違うのにね」


 

提督「ええ、もうこちらの艦隊はあなた達がいるお陰で勝てた、なんていわせませんよ……」

 

 

提督「皆さん、本当に自分の想像を遥かに越えて成長してくれていますから」

 

 

提督「っと話がそれました」

 

 

提督「丙少将はその艦隊にリアルタイムで攻略法を流しているかもしれません」

 

 

わるさめ「通信で……?」



提督「……まあ、わざわざ信用できないから、と鎮守府の警戒をやる理由は、その支援艦隊に情報を流す兵士の出撃のカモフラージュにはなります」

 

 

わるさめ「……」

 

 

提督「あの人は慎重、いえ、味方の被害を減らしたがる傾向の指揮なので、入渠を終えた日向さんと天城さんからも情報を得て判断するかな……」

 

 

提督「まあ、支援艦隊が来たら来たでなんとかできる策は用意してありますから、気負わずに」

 

 

わるさめ「さすがとしか!」


 

提督「いえ、これは後手に回されています。あなたとぷらずまさんの情報を与えてしまうことの意味に気付くのが遅れました」

 


提督「事前に思い付いて防ぐことは出来ないこともなかったので……」

 

 

提督「わるさめさん、雪風さんと加賀さんを秒殺で」


 

わるさめ「任せろ、といってあげたいけど、秒殺は非現実的だゾ☆」


 

提督「すぐに瑞鶴さんが到着しますので、潰せる敵は潰せる時に潰します」

 

 

提督「出来るだけ早くお二人で倒して、その後は支援艦隊の存在の有無に関わらず、旋回して第2艦隊に合流してください」

 

 

提督「阿武隈さん、卯月さん、秋津洲さんによりグラーフさんと大井さんを沈めましたが、卯月さんと秋津洲さんがリタイア、他に阿武隈さんも大井さんにより小破判定です」

 

 

提督「サラトガさんはぷらずまさんの辺りをちょろちょろしていますが特攻艦と下手にやりあうと不味いので、ぷらずまさんとにらみ合わせておけばいいです。サラトガさんはちょこまかと空を取り返しているみたいなので、なにかしない限りはまだ本格的に攻めてはこないはずです」

 


わるさめ「ぷらずまのやつ動かしたほうが」



提督「2種では厳しいです。クールタイムの時に支援艦隊が突っ込んできて特攻艦複数に狙われたら最悪の事態までありますので、ぷらずまさんを動かすのはまだ避けたいです」


 

提督「早いところ天城さん、雪風さんと加賀さんを。まあ、やるべきことを伝えて、やり方はあなたに任せます、が最良ですかね」


 

わるさめ「あいあいさー!」


 

提督「北上さんがサラトガさんの護衛を受けながらそちらへ移動しています。狙いはあなた達のもとへと送った間宮さんだと思われます」

 


わるさめ「金剛は出さないの?」 



提督「もう少し後です。支援艦隊の数が不明なので、なるべく残しておける戦力は、と。金剛さんも、ですね。阿武隈さん、ぷらずまさんは予定通り動かしません」


 

提督「それと初霜さんはぷらずまさんが全力出せるようにするため、盤面に置いておきます。一人でも残っていれば勝ちですので」

 

 

提督「間宮さんは迷うかもですので航行進路はこちらで細かく指示していますが、出来れば到着前に丙少将艦隊を殲滅してください」

 

 

【22ワ●:想題瑞鶴:キャンパスの空に彗星幻影】


 

――――クタバレ、このクソ野郎!

 


前の提督を半殺しにして強制解体された私です。いやいや、とりあえず聞いてよ。本当、あり得ない。あれは翔鶴姉でもキレてたと思うわ。

 

 

経験豊富なメンバーいるじゃん。着任したばかりで姫と戦ったこともない駆逐艦に囮させるのなんでよ。経験積ませるとかなんだそれ。ゲームのレベルあげか。それとも甲大将艦隊の真似かなんかか。あんたの秘書官がつくから大丈夫って、あほみたいな根拠。

 

 

従ったよ。アホな作戦でも上官には従わなければならないのだ。別に実績のないやつではなかった。特に私は反抗的な態度を取りすぎてて、1度出る杭として打たれたし。

 


やっぱりその子は危機に晒されたのよね。当然のように私は加賀に仕事を押し付けて、その子の護衛にこっそりと回った。艦載機を全艦発進させた。間に合ったんだけど。


 

二人の反応は消失した。

 

 

作戦は失敗だ。その子達の捜索に入る。一人は見つかった。綺麗な死体だ。顔もある。ただ胸がぐちゃぐちゃだ。秘書官のほうは見つからない。姉妹艦が泣き始めた。

 

 

――――聞こえるか。もう一度いうぞ。捜索を打ち切る。



諦めるの早かった。

 


――――あいつはあんたが着任してからずっと支えてもらった子でしょ?

 

 

――――しょせん適性者のごまんといる駆逐艦だしな。お前ら空母の消費資材も馬鹿にならん。

 

 

信じられない言葉だ。お前、どこぞのフィクション話のご都合主義のために産まれたキャラかなんかか。

 

 

――――死んだもんは仕方ねえだろ。そういう運命だっただけだし。

 

 

あんたのあほな指揮に従って沈んだのよ。こっちは皆、泣きそうな顔してる。泣いて名前を呼んでいる子もいる。

 

 

――――そう、カッカするなよ。切り替えは大事だろ。つーか悲しいのは俺も一緒なわけで。

 

 

――――帰投したら尻撫でさせて。

 

 

後々この時のこいつは相当混乱していたみたいだと知った。でも、この発言はそういう問題じゃなかった。別に身体触られる程度のセクハラはいいのよ。いや良くはないけど大した問題じゃないし、その程度なら笑って許してあげるわ。

 


でもおいって。二人、死んでんだぞ。お前はいっつもどんな時でもヘラヘラしていて、それは長所でもあると思っていたけどさ、今この時までそんな調子だから分かったんだ。

 

 

こいつ、ただのクズだったんだって。



もういい。艦載機発艦。目標、指令室の提督。冗談いう時じゃないのは分かってる。仲間の仇、見つけた。くたばれクソ野郎が。

 

 

現場のことは加賀に任せて、私は激情に任せて帰投した。抜錨ポイントで艤装外したら司令室に走った。

 

 

その時の記憶は不思議となかった。気づいた時は加賀に背負い投げされて、空いていた窓から綺麗に地面へと放り投げられた。返り血で濡れた自分が窓に映った。

 

 

その一件で、色々な人から怒られた。加賀とは口を利かなくなった。歴代瑞鶴とは違って珍しく加賀とは仲悪くなかったんだけどね。

 

 

翔鶴姉には心配されて、元帥さんや大淀さんに頭を下げてなんとかしようとしてくれてた。迷惑をかけちゃったな。でも、軍に迷惑をかけた上に、上官を笑えないレベルで暴力振るった罪には罰が下った。

 

 

強制解体処分だ。

その時、私はこう思ったんだ。あいつを殴ったことに後悔してない。誰かがやらなきゃ、あいつはまた誰かを殺すって思ったから。殺しておけば良かったのかもしれない、あの作戦で反省も後悔もないやつに命なんか預けるべきじゃない。でも、預けなくちゃならないからね。私は生産的なことをした。そうやって、英雄気取りな風に思考した。


 

――――あはは、私もクズじゃん。

 

 

心で涙が滴ったまま、支援施設へと移る。

高校は卒業してから兵士になったから、大学受験に向けて勉強した。働くことから離れたかったし。どーせどこ行ってもあんなやついるだりうし、少し仕事から離れて自由になりたい。

 

 

――――浮かない顔、なのです。

 

 

間宮亭でご飯食べてたら、電から話かけられた。初めてそこでおちびと喋ったな。噂は色々と聞いてた。

 

 

図書館、今は漫画ばっかだけど、あそこでよく勉強してた。そこでおちびは花の図鑑を黙々と読んでた。こいつ、間宮亭と門近くの花壇とこの図書館にしかいねえ。

 

 

いつも船に乗って街へと出る私をなんかじっと見てた。出られないんだっけ。お忍びで一緒に行ってみる? と声をかけるとあいつは無視して視線を花壇に戻した。なんだこいつ。

 

 

本当に第6駆の電たんか。なんかたまーに提督らしきやつの姿も鎮守府の方で見るけど、頻繁に変わってるし。鎮守府のほうに興味なかったけど、間宮さんに気になった電のこと色々と聞いてみた。

 

 

――――仲良くしてあげてください。

 

 

間宮さんからはそういわれた。つっても明日は受験の結果発表なわけで、受かれば3日後には大学寮へと移る。


 

そして夜にあいつが珍しく執務室から出ていったのを見た。なんだか気になって中に入ってみた。棚が妙に歪んでた。不思議に思って見ていたら、入り口は狭いけど扉っぽい壁がある。

 

 

吐きそう。おどろおどろしい器具がたくさんあって、染みた血の臭いがした。電の身体のことは知ってたから察して見なかったことにした。

 

 

もう新しい人生が始まるのだ。海のことなんか知るか。

 

 

大学では見た目は同じくらいだけど生きている時間は周りより私の方が多い。話が合わないな。



流行りの歌とか覚えて、ファッションとかも気を使って、サークルにも入って、キャンパスライフを満喫していた。そうして街の女の子に戻っていってる時に。


 

人生で初めて男の人からデートに誘われた。スッゴいイケメンで、頭も良くて周りからの評価も高くて、高そうなスリムな車に乗って学校に来てる人。

 

 

即行で翔鶴姉に報告した。おめでとう、と電話をかけてきて、喜んでくれた。あの人は地上に降り立った女神。

 

 

デートに行って映画を見た。海の映画だった。

なんか、観たくなかった。内容は覚えてない。



ご飯を食べた後だったかな。

 

 

泊まって行かないか、と。

 

 

お前もあの提督みたいだな、と反射的にチョップした。男ってみんなこんな感じなのか。いや、仕方のないことなのかもしれないけど段階踏んで、と。

 

 

そいつは「あはは」とはにかんで、「そういうところが好き」といった。その帰り道、駅まで送ってもらった。照れていたから、かな。めっちゃ女の子してるなー、と小さく笑った。

 

 

あ、結局あの人とはなんにもなかったよ。あの野郎、彼女持ちだったんだって。信じられないわ。

 

 

その翌日に教授から兵士時代のことを聞かれた。世間話の流れだ。その時の教室は、支援施設と構造が似ていて、海を思い出した。

 

 

大和が死んだとか、そこで初めて知った。結構、前の事件らしい。深海棲艦の群れの急襲を受けて、丁の准将と大和が死亡。


それだけですぐにどんなレベルの戦いなのか分かったのは現場にいたせいだよね。

 

 

窓外に視線を移した。あれ。おかしいな。



クリーンな青空に、飛行機雲。

彗星の幻影が見えた。でも見ない振りをした。

その彗星は私に爆弾を落とした。なにか忘れてるぞって衝撃的なまでのメッセージだ。


 

考えさせられた。気付いちゃった。

 

 

『Question:男の人から初めてデートに誘われた時、どうしてたくさん友達いたのに、翔鶴姉に一番に報告したんだろう。姉妹艦効果なんてもうない』

 

『Answer:それは翔鶴姉のことは友達ではなく家族みたいに好きだから』

 

 

『Question:海の映画を見た時に嫌な気分になったのはどうしてだろう』

 

『Answer:戦っていた時の記憶を思い出すからだ』

 

 

『Question:キャンパスで仰いだ空に彗星の幻影を見て、見ない振りをしたのはどうしてだろう』

 

『Answer:私は受け入れている平和を心から受け入れられていないから。見ない振りをしたのは、心のどこか』


 

その彗星の影が頭から消えないうちに、あいつにスカウトされた。戻らないか、と。いやいや、私は強制解体されていて、戻るとか無理だって。

 

 

と思っていたけど、状況は刻一刻と悪い方向に変わって、問題児に声をかけるほど、戦況は悪くなってたらしい。

 

 

というのは建前だった。

おちびのやつが戻って来られるよう手配したみたい。あいつ、そこまでの権力あるのかよ。


 

会う日の朝に星座占いを観た。

 

 

――――運命の人と出会うかも。

 

 

――――迷った時はイエスで行こう!

 

 

そんな結果だった。運命ね。私が惚れるくらい格好いいやつかも。どうせなら上官は格好いいほうがいいよね。


 

話をした提督は、干からびてた。なんだかゾンビみたいな足取りでペタペタと、日向を避けるように、影のところを歩いていた。 格好よくねえ。大丈夫か。倒れそうだぞ。てか、生きてるか。

 


そいつはスカウトしてきた癖に「使えないのなら要らない」と、そういった。なんだこいつは。最悪。

 

 

戦争について語る言葉からは感情は感じなかったのになぜか熱は感じた。その熱は私の心に伝導して切り落としていた導火線に火をつけられたかのようにバチバチと弾けて、心の奥深くにあったもんが、艦爆みたいに爆発した。


 

そっか、と気付いた。思い残したモノがあるまま、第2の人生を気持ちよく歩んでいけるような性格してないや。海に置いてきたモノが多い。


 

その夜にすぐ翔鶴姉に戻るって連絡入れた。あの頃の知り合いの連絡先に片っ端から海に戻るって伝えた。翔鶴姉は心配してくれたなあ。こっちの生活のこと知ってるもんね。そして驚いたけど加賀さんからすぐに返事来た。

 

 

『来ないでください。街でじゃれてろ』


 

――――私は、帰ってきた!

 

 

今この場で声を大にして叫んでみる。もうあの頃の私とは違うからね。この海で欲しいものがあるし、それを手に入れるための信頼できる仲間もたくさんいる。

 

 

加賀にも鍛えられたっけな。1度も勝てなかったけど、今この演習で恩返しをしてやるわ。

 

 

――――私はこの鎮守府(闇)に入って艤装をまた身に付けた時からずっとぽんこつ空母だったから、今まで誰よりも訓練を積んできた。

 

 

見てなさいよ。もう誰にも欠陥だのぽんこつだのいわせないし。

 


あ、そうそう。



今の提督はすっごくかっこいいと思ってる!

 


2

 

 

加賀「やはり、来ましたか」

 

 

加賀「5航戦の頭が悪いほう」

 

 

雪風「はい! この反応はわるさめさんと瑞鶴さんです!」


 

雪風「ここの地点からは離れられませんが、どうしましょう」


 

加賀「瑞鶴は私が相手をするわ。少し知っている感じと違うから。わるさめのほうも援護します」

 

 

雪風「そういえば瑞鶴さんとは前の鎮守府で肩を並べていたんですよね?」


 

加賀「まあ。あの子が提督を爆撃したせいで大変でしたから。責任をあの子に押し付ける気はありませんが……」

 

 

加賀「提督を責める前に」

 

 

加賀「自分の無力さを認められないところにあの子の欠陥があるのです」


 

加賀「艦載機発艦」


 

雪風「瑞鶴さんから通信が来ましたよ。加賀さん、応答しますか?」


 

加賀「……そうね」

 

 

加賀「……なにか用?」

 

 

加賀「少しは成長……」


 

瑞鶴「焼き鳥ください」

 

 

加賀「…………」

 

 

加賀「してないみたいね」

 

 

加賀「七面鳥でいいかしら」

 

 

瑞鶴「さすが1航戦の頭の悪いほうね。ケンカしたいわけじゃないのよ」

 

 

瑞鶴「他のやつも助けられる力を経てここに立ってる。ここの鎮守府はスタートして、まだ1年も経過してないけど、伝説となったその全ての戦いに参加して勝ってきてんのよ」

 

 

瑞鶴「あんたには良い意味でも悪い意味でも迷惑かけたからね」

 

 

瑞鶴「あなたを倒して恩返ししてやろうってこと。覚悟しなさいよね」

 

 

加賀「……そう」

 

 

ドオン!

 

 

わるさめ「え、そっち、ギャアアアアア!?」


 

加賀「!? なに、雪風!?」

 

 

雪風「いえ、威嚇がてら対潜装備を使ったのですが」

 

 

雪風「なんか全てわるさめさんに直撃しちゃったみたいです!」

 

 

わるさめ「こんのビーバー型ミラクル艦ラッキーウィンドがあ!!」


 

雪風「なんか色々違います!?」

 

 

3

 

 

わるさめ「おいおいずいずい、押されてるぞー」

 


わるさめ「艦載機温存されていた差とはいえ、ひっくり返せない状態でもなっしん!」

 

 

瑞鶴「真っ向から戦っても勝てないわよ。1航戦は才能あるうえ、精進を怠らないから差が埋まらないし」

 

 

瑞鶴「まあ、馬鹿正直にあいつが通過した道を通って追う必要なんてなかったのよ」

 

 

瑞鶴「……」ジャキン

 

 

瑞鶴「艦載機、発艦!」

 

 

瑞鶴「全速前進!」

 

ドンドンドオン!

 

わるさめ「……艦載機発艦と、対空砲撃、しかもアブーや秋月に勝るとも劣らずの精度じゃん。これは素敵」


 

わるさめ「やるじゃん!」


 

瑞鶴「まだ制空権も持続してるしね。負けてる数はそれで補えるし」

 


わるさめ「わるさめちゃんも手伝うぞー! 防空棲姫艤装の防空なめんなー!」



ドドドド!



瑞鶴(でも、艦載機の練度は負けているし、単純な空母の腕で届いていないのよねー……制空権取れたことに感謝)

 

ドオオン!

 

瑞鶴「よーし、艦爆直撃」

 

ガガガ!

 

 

瑞鶴「!」

 

 

瑞鶴「全機、発艦したわね!」

 

 

瑞鶴「こっちもラスト……ん?」

 

 

瑞鶴「1矢、上から降ってきてる?」

 

 

彗星一二甲「ビシッ」

 

 

瑞鶴「垂直落下軌道からの爆撃機!」

 

 

瑞鶴(砲口が、真上には、向かないし)スイイー

 

 

瑞鶴「こなくそ!」

 

 

ドオン!ドオン!

 

 

瑞鶴「1機、仕留め損ねた」

 

 

ドオオン!

 

 

瑞鶴「……けほっ、まだ、まだ!」

 

 

瑞鶴「まだ届かない気はしてた。だから、提督さんは私を」


 

瑞鶴「中破で動ける装甲空母に改装したのよ……イタタ」

 

 

瑞鶴「あの頃とは、もう違う」

 

 

瑞鶴(……弓のしなりがいい感じだ)

 

 

瑞鶴「龍驤のいう通りに飛ばしてみるか!」ギリギリ

 

 

瑞鶴「真っ直ぐに、発艦!」

 


ドオオン!

 


加賀「…………」

 

バチャン

 

わるさめ「ずいずい、聞こえるー? 加賀倒したの確認したー!」

 

 

瑞鶴「――――っ!」


 

瑞鶴「っしゃあ!」

 


【23ワ●:間宮さんの時報】


1

 

 

間宮「初霜ちゃん……すみません」

 

 

間宮「予定よりも到着が遅れました。もう陽が落ちて……」

 


初霜「いえ、お気になさらず。グラーフさんとサラトガさんが予想とずれた進路を取って、少し遠回りさせることになりました」

 


間宮「そういっていただけると助かります……」

 


間宮「……えっと、もうすぐ到着ですが、瑞鶴ちゃんとわるさめちゃんが交戦して、ますね」

 

 

間宮(うう、護衛艦もいないし、陸奥さんと戦った日を思い出します……)

 

 

初霜「でも、北上さんと大井さんにかなり追い付かれてます。そのまま進むと鉢合わせますが」

 

 

初霜「間宮さん、予定通りにお願いしますね」

 

 

ドオオン!ドン!

 

 

間宮(……怖いけど、ここに立っている以上、皆の想いの力にならなくては)

 

 

間宮「はいっ」

 

 

2

 

 

瑞鶴「あれが雷巡界のガンダムDX、北上様大先生……」ガクブル


 

北上「月が見えたので」

 

 

わるさめ「一撃、一撃、一撃、一撃、一撃! だとお!?」

 

 

わるさめ「シャーク形態が一撃で半壊とか、あいつの火力こそ化物だようっ!」

 

 

わるさめ「うわああああん!」


 

北上「うーん」


 

北上「あの面白いナマモノ、後もう1発で沈みますねえ」

 

 

雪風「夜戦で北上さんと戦おうだなんて、向こうは爆散志願者としか……」

 

 

雪風「でも、助かりました!」

 

 

北上「こっちも命令だからね」

 

 

北上「気合い入れろよー。大破でも戦艦を素手で沈めにいく強い女になれ。うちの第1艦隊は全員やるぞ」

 

 

雪風「サラトガさんもですか!?」

 

 

北上「サラの姉御はうちに染まったね。演習を楽しむ人だから笑いながら殴ってくる。超怖いよ、全米が泣くよ」

 

 

雪風「怖すぎます!」

 

 

北上「あー、でもちっと疲れたかな」


  

………………

 

………………

 

………………

 

 

間宮「瑞鶴ちゃーん! わるさめちゃーん!」

 

 

間宮「給糧艦間宮、到着致しましたー!」

 

 

2

 

 

雪風「あ、間宮さんです!」


 

雪風「挟み撃ちにされてます!」


 

北上「背中にいるのは給糧艦、一人」


 

北上「雪風の幸運って噂通りにすごいね」

 

 

雪風「よく分かりませんが、史実効果だって、丙さんはいってました!」

 

 

北上「まあ、向こうの疲労を回復させるわけには行かないよね」


 

北上「ディナーと洒落こみますか」

 

 

北上「見てください頭、上等なオンナもついてますぜ」

 

 

3

 

 

瑞鶴「うわああ! 間宮さーん! なんて位置に出てきているんですか!?」

 

 

わるさめ「昔からなんか間抜けなところあるんだよねー。食堂籠り艦娘ゆえのポンコツなのだろーか?」

 

 

わるさめ「が、やつらは間宮さんのところに行くために背を向けたし、進路は読めるゾ☆」

 

 

わるさめ「T字有利獲得チャンスだい!」

 

 

瑞鶴「よーし、今行くしかないわね!」

 

 

提督「瑞鶴さん」

 

 

瑞鶴「なに?」

 

 

提督「接近はしてください。しかし、攻撃しなくていいです」


 

瑞鶴「?」


 

提督「そして江風さんがそちらに。気を付けてください。特に遠距離からの魚雷でも、江風さんはかなり」


 

瑞鶴「了解!」


 

北上「食事の邪魔はさせん。なので殺します」

 

 

瑞鶴「殺します!?」

 

 

北上「あ、すまんすまん。言葉が下品だったね。地球に還ってもらうよー」

 

 

瑞鶴「意味は変わらないけど!?」

 

 

4

 

 

北上「大破させてきたー」

 

 

雪風「わるさめさんと瑞鶴さんですよね。さらっとすごいことを」

 

 

間宮「ち、近寄らないでくださいっ!」

 

 

雪風「包丁握り締めて震えています!」

 

 

北上「げへへ、よいではないかよいではないかー」

 

 

北上「つか、その冷蔵庫に目的の食糧あるから、あんま派手な攻撃できないんだよね」

 

 

北上「射撃は得意なほう?」

 

 

雪風「もちろんです!」

 

 

北上「じゃ、やってしまいなさい」

 

 

雪風「ごめんなさい! なるべく痛くはしませんので!」

 

ドンドン!

 

間宮「……あ、あ」

 

 

間宮「奪われてしまいましたか……」

 

 

北上「おー、甘味と、噂のマーミヤンの冷やし中華ですねえ」

 

 

北上「では」

 

 

雪風「いただきます!」

 

 

北上「いただきます」

 

 

間宮「あ、瑞鶴さんから連絡が」

 

 

瑞鶴「間宮さーん! 出てくるところが悪いってええ!」

 

 

間宮「食いてえやつには、食わせてやる」

 

 

間宮「コックってのは、それでいいんじゃねえのか」

 

 

間宮「どんっ!」

 

 

瑞鶴「急にどした!? 3時の時報かなんか!?」

 

 

間宮「いえ、決め台詞をなんとなく」

 

 

間宮「ええと、位置は指定された通りです。まさか、こうも上手く行くなんて……」

 

 

間宮「幸運艦対策に全てハズレなんですよね……」

 

 

間宮「皆さん、これに懲りたら盗み食いは止めましょうね?」

 

 

北上・雪風「……………」

 

 

北上「や、やっちまいました……」グギュルルル

 

 

雪風「お、お腹が……!」グギュルルル

 

 

間宮「ようこそー」

 

 

間宮「お仕置き海上レストラン」

 

 

間宮「ハライテエへー」

 

 

5

 

 

わるさめ「も・ら・せ!」

 

 

わるさめ「女としての」

 

 

瑞鶴「ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイ」

 

 

わるさめ「撃沈はよー!」

 

 

瑞鶴「ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイ」

 

 

わるさめ「キャハハ(*≧∀≦*)」

 

 

間宮「あの、提督さん、さすがに」

 

 

提督「なんでもありですから」

 

 

提督「そのまま持たせたカメラで撮影を」

 

 

北上「これが……人間のやることかよ……」

 

 

雪風「戦闘、どころでは……」


 

間宮「……あの『離脱意向信号を押して急げば、まだ間に合う、かも』」

 

 

間宮「『己の今後の人生か、この戦い、まあ、どちらもこちら次第なんですけどね』」

 

 

間宮「『押しなさい。自分は憲兵に捕まるの承知で、決定的映像をネットに流すまでありますから』」


 

間宮「と提督から……(メソラシ」


 

北上「大将、正直すまんかった……」ポチッ

 

 

瑞鶴「提督、聞こえる? これ後で絶対怖いでしょ……」

 

 

提督「まあ」

 

 

瑞鶴「この戦いが終わった後、死ぬ覚悟まで決めていたとは……」


 

提督「別になんとも思わないので」

 

 

瑞鶴「さすがね……」


 

雪風「……し、信号、弾、です」

 

ヒュルルル

 

わるさめ「あ、やべ、例の合図かこれ」

 


わるさめ「まあ、司令官なんとか出来るっていってたし、いいか」

 

 

北上「くそお世話にっ」スイイー

 

 

雪風「なりまし、た!」スイイー

 

 

わるさめ「でも、まさか間宮さんが、雷神とハピネストをまとめて撃沈(仮)させるなんて」

 

 

瑞鶴「間宮さん、やればできるじゃん!」

 

 

間宮「あの、見えづらくて気のせいかも、ですが、向こうに誰か、いませんか…………?」

 

 

瑞鶴「……あ、そう言えば江風が」

 

 

わるさめ「あ、やべ。これ魚ら」

 

 

ドオオオオン‼

 

 

わるさめ「……再生前に、夜戦のクリティカル、は」パチャン

 

 

間宮「……い、一生の」パチャン

 

 

瑞鶴「ふ、不覚っ……」パチャン

 

 

 

 

江風「……」

 

 

江風「全く、警戒してねえ」

 

 

江風「あいつら馬鹿なのか……」

 

 

6

 

 

甲大将「江風がやってはくれたが、北上と雪風か……」


 

甲大将「…………」

 

 

甲大将「兵糧に下剤か……あのやり方は予想できなかったな……准将、演習の後で死ぬ気か」

 

 

丙少将「あんなふざけたやり方で俺の第1艦隊が全滅させられるとか……」

 

 

丙少将「ですが、電と春雨を倒す方法は分かりましたし、合図も出せたんで」

 

 

甲大将「電のほうはクールタイムがあるな。ふざけた数の深海棲艦艤装を出した後から大きな動きはない」

 

 

丙少将「そして春雨の装甲は予定通り夜戦火力で壊せます。これは軍で録ったデータからして電も同じと見ても問題ありませんね」

 

 

甲大将「強いなー……」

 

 

丙少将「やっぱり意地でも勝ちたくなってきますね」

 

 

丙少将「当初の予定通り、支援艦隊の指揮、俺が執らせてもらいます」

 

 

甲大将「ところで、そいつら大丈夫なのか」

 

 

大鳳「皆さんお気を確かに。開幕撃沈で見せ場すらなかった私のことも思い出してあげてください……」

 

 

日向「あんな間抜けに私は」ギリッ


 

伊勢「あはは、あんなやつに、私はやられ、て……」

 

 

天城「……」例のポーズ

 

 

加賀「あんな歴代ぶっちぎりで頭の悪そうな5航戦に私はっ、不覚を……!」

 

 

丙少将「あ、大丈夫そうです」

 

 

7

 

 

卯月「弁明の余地があるとは思ってはいまい。暁と秋津洲とうーちゃんの爪の垢を煎じて飲まされるレベルの醜態だぴょん……」

 

 

提督「間宮さん、瑞鶴さん、わるさめさん…………」

 

 

提督「江風さんの接近は伝えたはずですね?」


 

提督「あのやられ方はちょっとさすがに酷すぎますね……」


 

わるさめ「……はい(正座」シュン

 

 

間宮・瑞鶴「返す言葉もございません(正座」シュン

 

 

提督「まあ、過ぎたことは仕方ありません。切り替えますか」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「……、……」

 

 

明石さん「長考中ですね。予定していた作戦に支障が出ましたか……」

 

 

提督「大丈夫です」

 

 

提督「初霜さん、聞こえますか」

 

 

初霜「はい、私の役割はここまでですね。後方に下がって提督達の護衛に入ります」

 

 

【24ワ●:戦争の始まり】

 

 

1

 

 

霧島「支援艦隊旗艦霧島より報告、これより、霧島、比叡、球磨、多摩、山風、演習指定海域に突入します!」


 

丙少将「装備も問題ないか?」

 

 

霧島「ええ、総員火力特化の夜戦仕様です。私と比叡は陸上型の装甲破壊のため、九一式徹甲弾を」

 

 

丙少将「よし、向こうから来るはずだ」

 

 

霧島「確認しました。これより駆逐艦電と戦闘に突入します!」

 

 

2

 

 

提督「ぷらずまさん、金剛さん、お待たせしました。出番です。阿武隈さんもそちらに向かっています。木曾さん江風さんも」


 

金剛「提督へ愛を披露する見せ場が来デース! 殲滅してやりマース!!」

 

 

提督「霧島さん、比叡さん、球磨さん、多摩さん、山風さんです」

 


金剛「比叡と霧島……長女より優れた妹はいないと思い知らせてやりマース」

 

 

提督「その台詞はフラグというやつでは……」

 

 

ぷらずま「なめた真似を。この私の相手にたった5人。屈辱なのです」

 

 

ぷらずま「金剛さん、連中を叩き潰しますよ」

 

 

金剛「電ちゃん、顔が怖いネ……」

 

 

ぷらずま「●ワ●」


 

3

 

 

瑞鳳「皆が作り上げた盤面なのに」


 

瑞鶴「ひっくり返すかのようなマナー違反の所業。むっかつくわね!」


 

雷「ラフの範囲を越えてない?」


 

榛名「霧島、比叡お姉様! 榛名は怒っています!」

 


榛名「卑怯が過ぎます!」


 

暁「っていうかこれ犯則じゃないの!?」


 

龍驤「……いや、ルール違反やないよ。安心してや。そのために金剛と電を残しておいたんやから。それにまだ切り札も」

 

 

雷「あ、なるほど!」

 

 

暁「電と金剛さんなら勝ってくれるわっ!」

 

 

4

 

 

わるさめ「わるさめちゃん抜錨」


 

提督「だめです。それは反則です」


 

明石さん「やはり来ましたね」

 

 

卯月「体面もプライドも捨てたこの勝利にこだわる戦法は、うちの専売特許の猿真似か」 

 


秋月「お兄さん、大丈夫ですか?」

 

 

提督「読んではいましたが、問題は底が読みきれていないことです。まあ、ここまで来るのに予想した時間よりも早いですが、まだ時間は稼げますね」

 

 

響「……」

 

 

鹿島「響さん、どうかしましたか?」

 

 

響「敗けたく、ない」

 

 

響「そして、私も出たかった」

 

 

提督「響さんは演習の後で訓練ですからね。希望通りВерныйにしますし、海の傷痕戦では重要な役割を持たせることになりますので」

 

 

提督「さあ、そろそろ大詰めです」

 

 

提督「王手まで、後一手」

 

 

提督「向こうも、こちらも」

 

 

初霜「提督、龍驤さん! 異常事態発生です!」

 

 

提督「どうしました」

 

 

初霜「飛ばしていた二式大挺が、新たな艦隊を発見しました!」

 

 

初霜「げ、元帥艦隊です!」

 

 

初霜「長門さん、赤城さん、伊19さん、武蔵さん! それと丙少将の鎮守府からプリンツさんも、です!」

 


5



龍驤「ハアアアアアア!?」

 

 

龍驤「ちょっと元帥ちゃん! 中立が向こうに手を貸したんか!」

 


元帥「ルール違反じゃないから安心して☆」



龍驤「了解! 後でしばくな!」



元帥「老人虐待反対」



6


 

提督「23対12、残りのメンバーは13対5……」

 

 

提督「……中立の元帥が手を貸すとは予想の上を行かれました」

 

 

提督「やってくれる……」

 

 

わるさめ「向こう、勝てば官軍の意気っス……」

 

 

榛名「皆が必死で繋いできたのに」

 

 

榛名「なのに、あんまりです」

 

 

榛名「こんなの、ただの虐め、じゃないですか」

 

 

秋月「実質、相手は23、ですか」


 

秋津洲「こっちはその半分……かも」


 

卯月「しかも実力あるのばかり連れてきてるとか、えげつないぴょん……」


 

龍驤「いくら電といえども……」

 

 

暁「まだよっ」ウルッ

 

 

響「電も金剛さんも阿武隈さんもいる。負けない限りは負けじゃない」

 

 

間宮「……提督、まだ手はありますよね?」

 

 

提督「ありますが、勝てる可能性は、どうでしょう。ぷらずまさんはサラトガさん、長門さんやプリンツさんとはもともと相性が悪く、そこに武蔵さんも混ざると」

 

 

提督「23対12、残りのメンバーはサラトガさん、江風さんと木曾さんもしぶといですね。比叡さん、霧島さん、球磨さん、多摩さん、山風さん。赤城さん、長門さん、武蔵さん、伊19さん、プリンツさんも来る。警備している7駆の漣さん、潮さん、曙さん、朧さんも来てもおかしくない……こちらはぷらずまさんと、阿武隈さん、金剛さん、戦闘能力のない初霜さん」

 

 

提督「17対3……」

 

 

提督「ぷらずまさん、どのくらい行けそうですか」

 


ぷらずま「全員は難しいです。戦艦連中は確実に潰しておきます」

 

 

提督「金剛さん、阿武隈さん、ぷらずまさんととともに逃げは一切考えず作戦通りに突撃です。大破したら離脱意向信号を押してください。そこから用意していた奥の手を使います」

 

 

阿武隈・金剛「了解!」

 


【25ワ●:お友達の皆さん! 私に続くのです!】

 

 

1

 

 

ぷらずま「……なんぼの!」

 

 

ぷらずま「もの、なのです!!1

 

 

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドオオン!

 

ドンドンドオオン!

 

ドオオン!

 

 

ぷらずま「~~~~ッ」


 

ぷらずま「徹、甲弾っ!」

 

 

ぷらずま「このダボども!」


 

ぷらずま「うっとおしいのです!」

 

 

ぷらずま「戦艦棲姫砲撃、重巡棲姫砲雷撃!!!」

 

 

ぷらずま「な」

 

 

「の」

 

 

「です!」

 

 

2

 

 

山風「ば、ばけ…………もの」

 

 

比叡「ひ、ひえっ、姫と鬼の集合体ではないですか!」

 

 

霧島「データ上、倒せます! あのような一気に倒そうと艤装を展開しているのは、こちらの夜戦火力が効いている証拠ですから!」

 

 

球磨「でも、押されてるクマ!」


ドオオン!

 

球磨「ぬわー! 妹達が苦戦しているって聞いた時から向こうはバケモノだと思ってたけど!」

 

 

球磨「想像越えてるクマー!」


 

霧島「こちらももともと短期決戦予定です。比叡お姉様達は右舷してください!」


 

霧島「今の隊列では集中放火のいい的です。敵は現在は1名です! 阿武隈、雷に警戒を怠らず、右舷です!」

 

 

比叡「ええ!」


 

山風「りょ、了解」

 

 

球磨「クマー!」

 

 

多摩「この一触即発の肌を刺す緊張感、嫌いだにゃー……」

 

 

3

 

 

比叡「む、どちらも狙ってきますか。そんなに欲張ると、威力はともかく砲撃の精度が落ちて当然です!」

 

 

比叡「撃ち、ます!」

 

 

比叡「当たっ……」

 

ドオオン!


比叡「っ痛え!?」


 

金剛「怒りのバーニングラーヴ!」

 

 

比叡「金剛お姉様ですか……」

 

 

山風「比叡さん、五時の方角から」


 

多摩「阿武隈さんかにゃ……」

 

 

比叡「焦らないで! 丙さんの指示通りに!」

 

 

比叡「多摩さん、球磨さん、山風さん! 聞こえましたね! 山風さんと一緒に金剛お姉様と阿武隈さんの迎撃お願いします!」

 

 

比叡「電さんは霧島と私で倒します!」


 

ぷらずま「16inch三連装砲W、12.5inch連装副砲!」

 


ドオオン!

 


ぷらずま「ギミック展開……」

 

 

比叡「あ……あ、大破」

 

 

比叡「でも、まだです!!」ジャキン

 

 

阿武隈「もらい! ました!!」

 

 

ドオオン!

 

 

比叡「ええ、球磨さん達と、交戦しながら、こっちを狙えるだけの、余裕が……」

 

 

阿武隈「電さんだけしか見なくなるその気持ちは分かりますが、まだまだ精進が足りませんね!」

 

 

金剛「霧島もデース!全砲門ファイヤー!」

 

 

霧島「私はちゃんと金剛お姉様を見てますから!」

 

 

金剛「ホント? 阿武隈ちゃんが放った甲標的のほうは?」

 


ドオオン!

 

 

霧島「く……球磨さん達3人を相手しながら、器用な人ですね!」

 

 

ぷらずま「見習うのですダボメガネ2号!」ジャキン

 

 

ドオオン!

 

 

ぷらずま「まず二人ですが……」

 

 

ドオン!

 

 

ぷらずま「っ、SBD……この威力は……」

 

 

サラトガ「深海海月姫、でしたか。その姿、止めて頂けません?」

 

 

ぷらずま「史実効果艦……アメ公、テメーの相手は私じゃねーのです」

 

 

サラトガ「Attack、航空隊発艦はじめです!」

 

 

阿武隈「サラトガさんの相手は私がします! 電さんにはまだ役割がありますからねっ!」

 

 

ドドドド!

 

 

阿武隈「12.7cm連装機銃砲改修装備はなかなか使い心地が良いですね!」

 

 

サラトガ「wonderful、夜戦なのに、上手く艦載機を墜としますね。甲さんが声をかける訳です」

 

 

阿武隈「サラトガさんには悪いですけど、見せ場なんかありませんよ!」

 

 

ぷらずま「阿武隈さん、どのくらいかかりそうなのです」

 

 

阿武隈「あのレベルならなんとかなります。ですが、私も無事ではないかも、です」

 

 

ぷらずま「さすがうちの旗艦だけはあるのです」

 

 

ぷらずま「私は潜って、再生に専念しますので、よろしくお願いするのです」

 

 

提督「ぷらずまさん」

 

 

提督「そろそろです」

 

 

4

 

 

金剛「ノンノン、そんな攻撃では私は倒せまセーン! 地獄の訓練に比べればミルクティーより甘いデース!」

 

 

球磨「いやいや、金剛お前、もう中破してるクマ」

 

 

多摩「……こっちもにゃ」


 

山風「3人がかりで互角、です……」

 

 

金剛「私が鉢巻きを受け入れてさえいれば、成績的には扶桑と入れ換えで第1艦隊ネ……!」

 

 

木曾「敵、見つけた……」

 

 

球磨「木曾、お前装備バラされて丸腰だクマ! まさか身体1つで突撃するつもりクマ!?」

 


山風「アッシーに、かなりやられてる……」


 

木曾「あいつめちゃくちゃ強かったぞ……」



木曾「ま、一人でも多く敵を倒してナンボだろ。それ以外に俺はやれることねえし……っと!」

 

 

金剛「……、……」

 

 

木曾「構わねえから俺ごと撃てよ。出来れば金剛を狙ってくれ。そのくらいは余裕だろ。山風もだぞ」

 

 

金剛「邪! 魔! death!」

 

 

ドガッ!

 

 

木曾「ッ!?」

 


木曾「こなくそが!」

 

 

金剛「勘と体捌きは認めますが、しょせんセンス頼りの我流ケンカ殺法。山城と同じく強い素人の域を出ないネ」

 

 

多摩「あ、あの木曾が接近戦で子供扱いされてる。金剛、化物だにゃ……」

 


金剛「徒手空拳の分野では山城、長門や武蔵、大和ですらも捩じ伏せた私に勝てる兵士はいまセーン!」


 

山風「撃ち、ます!」

 

ドン!

 

木曾「う、わっ! 馬鹿力だな! なにしやがる、離せ!」

 

 

球磨「木曾をブン投げて砲弾を防ぐとか英国淑女が聞いて呆れる残虐ファイトだクマ!?」ジャキン

 

 

山風「鎮守府(闇)に染まってる……」

 

 

金剛「Fire!」

 


ドオン!

 

 

金剛「ここの提督のLOVEにやっと適応しマシタ。やっとこの鎮守府(闇)で本当の私になれた気がシマース!」

 

 

金剛「金剛」

 

 

金剛「の」

 

 

金剛「本気を見るのデース!」

 

 

金剛「なんてネー♪」

 

 

5

 

 

サラトガ「――――、――――」

 

 

サラトガ(……信じたくありませんが、艦載機が砲が届く範囲に入れば、ほとんど落とされています、ね)

 

 

サラトガ(……阿武隈さんは、夜だというのに撃てば当たりますし、避ければ避けられる、事実……です)

 

 

サラトガ(Strong、あれが歴代兵士素質No1の素体ですか……)

 

 

サラトガ「――――、――――」

 

 

サラトガ「Attack、航空隊発艦はじめです」

 

 

阿武隈(妖精可視才能持ち大型正規空母との戦いは初めてですけど……)

 

 

阿武隈(……龍驤さんのほうが、艦載機の動かし方が巧みで渋いかな。でも、艦載機の発艦数が違う)

 

 

サラトガ「阿武隈さんが沈めたのは、霧島さん、大井さん、グラーフさん、ですか。少し活躍し過ぎですね……」

 

 

阿武隈(……砲を構えて、距離を詰めてきた?)

 

 

阿武隈「……、……」

 

 

阿武隈(艦載機の並列飛行左からF6F-3×4、SBD×1、TBD×2)

 

 

阿武隈「まあ、素体が艦戦みたいに艦載機守りながらの接近パターン」

 

 

阿武隈「……」ジャキン

 

 

ドンドンドン!

 

 

サラトガ(F6F-3×3、SBD×1を墜として、突っ込んで来た……?)

 

 

サラトガ「その航行進路ではTBDに当たります!」

 


阿武隈「……」

 

 

ドオオン!

 

 

阿武隈(けほっ、被害は大破……だけど、発射は上手く)

 

 

サラトガ「……」

 

 

阿武隈「艦戦で守りながら艦攻で目眩まし、神風特攻狙い」

 

 

サラトガ「……」ジャキン

 

 

阿武隈「と思わせて銃弾を艦載機に変化させないままにするための距離詰めですよね」

 

 

阿武隈「私の離脱意向信号を狙撃するための」

 

 

サラトガ「!」

 

ドンドン!

 

阿武隈「さすがに避けられませんね。離脱意向信号、発信されてしまいましたか。でも!」

 

 

ドオオン!

 

 

サラトガ「っあ……」

 

 

サラトガ(甲標、的ですか。TBDに当たる瞬間に、それと、爆風で、発射の瞬間の隠蔽され、)

 


阿武隈「相討ち、ですね……」

 

 

サラトガ「……」パチャン

 

 

阿武隈「提督、あたしの信号の発信しました。これよりサラトガさんを連れて入渠します、はいっ!」

 

 

提督「了解です」

 


6

 

 

長門「合同演習とは違う。あの時のような無様は晒さん。しかし」

 

 

プリンツ「長門と私の火力なら、あの装甲を貫けますね! 大破のまま、再生が間に合ってません!」

 

 

長門「それでも中破だぞ」

 

 

ぷらずま(相性が悪すぎます、ね。素質の差も含めて、バグ性能を駆使してもこうも追い込まれるものですか……)

 

 

ぷらずま(長門の火力と、プリンツの砲撃精度、FuMO25レーダーがうっとーしいのです……)

 

 

武蔵「到着だ。長門、お前中破しているじゃないか」

 

 

長門「そういってくれるな。向こうが強いんだ。近距離はトランスしていても当ててくるまでに成長している」

 

 

プリンツ「さて、スケサン、カクサンがそろいましたよ! 往生してください!」


 

ぷらずま「まずはプリンツさんが退場なのです」

 

 

ぷらずま「●ワ●」

 

 

ぷらずま「まずはプリンツさんが退場なのです。海面、見えませんか?」

 

 

ドンドン!


 

プリンツ「――――?」

 

 

ル級「……」ジャキン

 

 

プリンツ「深海、棲艦……?」

 

 

長門「……こいつだけじゃない」

 

ドンドンドン!

 

武蔵「電探で確認した。10、いや、20か。演習海域内にわらわらと反応がある」

 

 

長門「建造中はロスト空間にいるから観測不可能、だな。合同演習時から心は変化しても、やり方は同じか」

 

 

武蔵「全く。変わったかと思えば、この類の戦法か。もうこういうのはあいつの性格なんだな」

 

 

 

武蔵「おい、聞こえるよな。1ついっておく」 

 

 

武蔵「大和はお前を、変えたがっていた。あいつ、お前によく声かけていただろ。覚えているか?」

 

 

提督「……」

 

 

武蔵「別にいいんだよ。お前がどんな手を使おうとも。ただ黙るかそこ」

 

 

武蔵「大和は、その程度の存在だったか?」

 

 

ぷらずま「色黒ダボメガネ、懲りるのはいまだに大和に囚われているお前のほうなのです。イライラします」


 

ぷらずま「死者を想う口で人の悪口をほざく」


 

武蔵「そうだな。お互い言葉も理屈も結構だな。大和が死んだ時から、身に染みてる」

 

 

武蔵「最後は理屈じゃねえ」

 

 

武蔵「今度は砲を向けるぞ」

 

 

武蔵「真っ向から相手してお前の自慢の相棒、潰してやるよ」

 

 

武蔵「そンで!」

 

 

武蔵「少しは懲りろよ大馬鹿野郎!」

 

 

ぷらずま「深海棲艦のお友達の皆さん! 私に続くのです!」

 

 

ぷらずま「正々堂々と力で!」

 

 

ぷらずま「真っ向から蹂躙してやるのです!!」



7

 

 

丙少将「おい待て、あの野郎」

 

 

丙少将「……、……!」


 

甲大将「深海棲艦……演習会場にどうして深海棲艦が、現れるんだ……?」

 

 

甲大将(いや、待てよ。あいつ確か深海妖精で深海棲艦建造の研究所でこき使われていたな。そこで得た知識を)

 

 

甲大将(演習海域内に仕込んでたのか?)

 

 

天城「何体かこちらに来ていますよ!? 私、抜錨します!」

 

 

日向「全てを水泡に帰す真似は許さん」

 

 

伊勢「なにが起ころうとも1度、陸にあがった私達があそこには戻れない。戻れば反則負けになるから」

 

 

天城「で、でも! 深海棲艦ですよ! 演習がどうのこうのいっている場合じゃないです! 丙少将や甲大将の身になにかあれば海の傷痕と戦うどころではなくなります!」

 

 

丙少将「それでもダメだ」

 

 

北上「海に入らなければいいなら、陸地から撃つのは?」

 

 

甲大将「リタイアしたお前らが演習海域内に砲撃した時点で反則になる」

 


丙少将「おい応答しろ。お前、自分がなにしてるか分かってんのか……」

 

 

提督「研究所で得た知識を活用し、演習会場内に艤装と肉を落として深海妖精と意思疏通により、この辺りの時刻に建造完了するよう、調整しました」

 

 

提督「ルール違反ではありません」

 

 

甲大将「初霜下げてたのは、この時のためか。上等だこの野郎……」

 

 

甲大将「江風、戻ってこい」

 

 

江風「もう近くまで戻ってる! でも、深海棲艦わらわらと沸いて来てて、球磨さん達も阿鼻叫喚してるぞ! それに江風一人だけじゃそっちを守りきれるかわかんねえ!」

 


甲大将「姫と鬼はいるか?」

 

 

江風「姫や鬼は見当たらねえけど、挙動的にeliteは何体かいると思う。イ級、ホ級……ル級とヲ級もいる!」

 

 

甲大将「仕込んだのは『電を非攻撃対象とする深海棲艦』みてーだな」


 

甲大将「長門達は電で手が離せない」

 

 

加賀「甲大将、赤城さんが来ているのなら問題はありません」

 

 

甲大将「そうだなー。あいつはこの機会に間宮の飯つまみに来ただけで、演習自体に参加する気はねえっつってたけど」

 

 

甲大将「赤城、頼めるか?」

 

 

赤城「はいはい。でも私は長門さんや武蔵さんと違って鎮守府(闇)と戦う気はありません。深海棲艦からは甲さん達を守りますが、演習の決着がついた時点で離脱意向信号発信させた上で深海棲艦の撃破を続行させて頂きます」

 

 

甲大将「了解。こっち丸裸で本当に死ぬかもしれねえから、頼むわ」

 

 

赤城「了解です」

 

 

丙少将「お前らも、抜錨準備しとけ」

 

 

丙少将「電さえ倒せば後は攻撃装備のねえ初霜と、大破の金剛。決着はつく。スターティングメンバーは全滅、演習は終わりだ」

 

 

丙少将「終わった瞬間に制圧する」

 


8



ぷらずま(Rankなど当てになりませんね……私はSSですが)



ぷらずま(こうも、素質面で差が出るものですか。他人の評価など当てになりませんね)



ぷらずま(瑞鶴さんが入った辺りからせめて近距離は、と司令官さんに言われて訓練してきましたが……高性能装備を駆使して近距離がやっと)



ぷらずま(長門とプリンツ、武蔵の砲撃精度は私より遥かに上。ギミックが意味をなさない今、中~長射程距離を維持されると……)



ぷらずま(……厳しい、のです。小技をいくつか使わせてもらうのです)



ぷらずま「司令官さん、どうしたものでしょうこれ」



提督「冷静に。早い話が真っ向から勝負する必要はありません。演習海域内に入った時点で向こうは燃料を補給できず、弾薬も同じです。ぷらずまさんは燃料も弾も切れないし、再生もする。逃げ回ればチャンスはいくらでもあります。ただ向こうの隙は期待できません。自らこじ開けなければなりません」



提督「が、それは向こうも承知した上の参戦です。なにかあなたを沈める策はいくつか用意してきたはずです」



ぷらずま「見当はついていますか」



提督「まずはあなたがクールタイムと再生の時間で、深海棲艦を倒していますね。 そして向こうは潜水性能があるあなたへの攻撃手段を持ち得ません」



ぷらずま「潜りますか」



提督「木曾さんと江風さんにも気を配ってくださいね。特に伊19さんにお気を付けを。きっと潜ったあなたに対して重要な役割を担っているかと」



提督「合同演習時の評価は捨ててください。あまりいいたくないのですが、あの時向こうは勝ちに固執をして演習をしていなかったし、そもそもデータを見る限り」



提督「伊19さんは強いです。合同演習で負けてから、思うところがあったのでしょう。死にもの狂いの成長グラフです」



提督「以上を頭に入れて、海面に浮上する時は攻撃を必ず当てられる時です。深海棲艦の習性は頭に入っていますね。艤装に蓄えられた想いは、単純で大雑把。彼等はバグを除いたより強い存在へと向かいます。近くに同志がいるのなら隊列を組んで、です」



提督「ぷらずまさん、あなたはこの場で今、自分の強みを知っていると思います。ねじ伏せてやってください」



提督「あなたが劣っている要素の一切が、こちらの負けに繋がる要素ではありません」



ぷらずま「了解なのです」



9



ぷらずま(反応キャッチ)



ぷらずま(伊19……)



伊19(……)



ぷらずま(22inch魚雷後期型×2、特殊潜航……)



ぷらずま(当たらない、というか、避けられているのです。よくもまあ、あんな器用に動いて避けて攻撃してきます、ね)



ぷらずま(根性値はゴーヤちゃんよりあるとは思えませんけど、それ以外はイクさんのほうが、強い、か……?)



ドオオン!



ぷらずま(被弾ですが、特攻効果のない攻撃……)



ぷらずま(……海中の戦いでも、分が悪いですが、そんなのは戦う前から解っているのです)



ぷらずま(でも、イクさんからは)



ぷらずま(戦う気は感じられても、敵意も殺意も感じられないのです)



ぷらずま(優しい子、なんでしょうね)



10



長門「……、……」



長門「逃げ回ると思っていたが、近づいてくるな。深海棲艦も6体くらいは倒したが、無策という訳でもないだろう」



元帥「よう、お前ら来たんだな。結局、甲大将の誘いを受けたのか」



長門「陸奥と青葉は置いてきた。仕事を押し付けるようで悪いが、元帥、ちょうどいい。久々に指揮を執ってもらえないか」



元帥「えー……他の途中参戦艦は所属鎮守府の籍を一時的に移すとかいう荒業でルールかいくぐったみたいだが、わしはあくまで中立だぞー」



元帥「そもそも指揮なんて執るの何年ぶりだ。わしはお前ら持っていても、各方面に別々で動いていただろ。ブランクあって連携とか取れるのかって話だよ」



長門「アドバイスでいい」



元帥「そうだな……向こうの電を倒すには艤装より素体のほうを狙うべき。ロストさせて装備回転させてるから、またアライズした時には完全復活している。大破判定から3分くらいだな。だから、攻撃手段制限する程度」



元帥「素体の再生は大破から中破判定まではその2倍の6分はかかる。中破から小破までも6分って流れ。つまり大破判定から全快まで18分は必要とするわけだ」



元帥「電はもともとトランスした際はあの身体の強さを振るう戦い方していたが、准将がついてからは違うな」



元帥「ま、准将も電も切羽詰まってるはずだ。いくら頭が回転しても思考は思考。2週間という期間でリアルに体現するには限界がある。甲と丙が取った物量作戦が最も効果的だ。数は力。シンプルイズベスト。結論は准将も同じだ。まあ、准将はまだ一年足らず。人脈と交遊関係の浅い准将が捻って出した答えが、深海棲艦、だ」



武蔵「事前に用意出来て、電を非攻撃対象とする深海棲艦しか産み出さないのは作戦か?」



元帥「性格だ。姫鬼なんて作ったらどうなるか分からん。不確定要素、あいつでも見当がつかなくなるほど、盤面も読めんくなるから、かね。まあ、こっちからも准将を見ているが」



元帥「拳を握り締めて、必死な顔をしている。恐らく、現状で事前に用意した策は尽きたんじゃないかな」



元帥「気になるのは、深海棲艦建造のタイミングが良すぎることだ。あいつは意思疏通の分野は並みより下だ。それは深海妖精でも同じみたいだぞ。だから、予定よりも長く拘束されていた。この数をこのタイミングで一斉に建造完了させるのは乙のやつに深海妖精が視えても、難しいと思う」



元帥「大淀が『あの人またなにか発見して隠していたんですね。いい加減にしてください。キレそうです』と、肩をぷるぷるさせていて怖い」



武蔵「了解した。次からはもっと簡潔に要点だけを頼む。報告書と同じだ。個性を出さずに機械的にやってくれると助かる」



元帥「無理。もう直せん。それじゃ」



武蔵「長門お前、特攻艦なんだから、チャンスがあれば、私が巻き添えになる位置でも撃てよ。プリンツも、だ」



プリンツ「次に海面に出てきたら、仕留めます。ですが、海面から出てくるとは限りません」



武蔵「潜水棲姫の艤装さえ叩きのめせば出てくるよ。また再生しない限りは海面にあがって艤装を展開しないと、そのまま沈むだけだ。また艤装が復活するまでは海面で戦うはずだ」



武蔵「イクのやつが引きずりだす」



プリンツ「深海棲艦を盾にしたり、最悪イクさんも利用してくるかもしれませんが、私は、皆のために撃ちます」



長門「しゃべるのはいいが、周りの深海棲艦も倒すの手伝ってくれ。ここらに残ってる小破ヲ級がうっとうしい」



プリンツ「イクさんから通信来ました! 電さんが海面に浮上してます!」



プリンツ「ホ級とハ級の敵水雷戦隊に合流するみたいですね!」



プリンツ「それと、この反応、敵艦隊と私達の間に誰かいます。艤装反応は、木曾さんですね! なんか魚雷を素手でつかんでいるみたいです!」



武蔵「その1つの魚雷を電に叩きつけに向かってんだろ」



長門「そういえば、木曾は元帥のところにいた時は、意識があれば殴りかかってくるやつだったな。スタンダップアンドファイトのやつ」



木曾「おいお前ら」



木曾「今から俺が突っ込んで、動きが鈍る場所に魚雷を撃ち込む。その後に沈めろ」



武蔵「了解した。さっさと花火あげてくれ。3分しかない」



11



ぷらずま「さて、突っ込みますよ。漣さん達や赤城さんまで来る可能性がありますし、逃げても射程距離と素質で風穴空きそうなので……」



ドンドン!



ぷらずま「お友達の皆さん、私達の得意な近距離まで来ましたよ。砲撃、お願いします」



ぷらずま「私は突っ込みます!」



木曾「腹を決めたか電! そりゃいいこったな!」



ぷらずま「全く、明石君にボコられて女としてお見せできない顔ですね。電は死に損ないに負けないのです!」



木曾「お前の素質は秀でたところがねえ。そのチート性能のお陰で小山の大将気取りは結構!」



ぷらずま「今までの私とは違うのです!」



木曾「だからどうした。実際、回避できるぞ。そんな心だけで強くなれるほどリアルはご都合主義じゃねえ!」



ぷらずま「50メートル、30メートル」



木曾「お前のためだ。乙さん達が与えられなかった敗北、海の傷痕とやる前によく味わっとけ!」



ぷらずま「必要ありません。この鎮守府は自分に負けた負け犬どもの集まりなのですから!」



ぷらずま「トランス:16inch三連装砲!」



ドンドンドン!



木曾「っ! 1発避け切れなかったが」



ぷらずま「!?」



ぷらずま「大破状態で16inc当たってもまだ声が出ますか……根性補整がイカれてますね」



木曾「お前なら分かるだろ?」



木曾「才能もなかった奴には結局、心の強さしかねえってことをさ! 何度も立ち上がってればいつの間にか人間は強くなってんだよ!」



木曾「お前らの今までの勝利の光を際立たせるために、敗北の影を作って!」



木曾「大物を仕留めるぞ! 大漁の御旗を掲げてやらア!」



木曾「覚悟しろよな、鎮守府(闇)!」




ドオオン!




木曾「ざまあ……!」



ぷらずま「沈、メ!」



ドンドン!



木曾「み、ろ……!」





パチャン



ぷらずま「く、ぅ……長門さん達も合わせてきましたか。また大破、で、向こうは隊列を崩して、距離を」



ぷらずま「まだ、イクさんと木曾さんの二人。まだ、まだ……!」



ぷらずま「近付きます!」



ぷらずま「トランス、解除!」



12



プリンツ「あ、え、トランス解除しました。再度、トランスしたのは」



プリンツ「電艤装のみです!」



長門「速いな。再度、構えろ」



武蔵「うっぜえな! いい加減、倒れろよ!」



ぷらずま「全員、射程距離内、です。私が沈んでも、初霜さんが、残ってますから、相打ち覚悟で、潰します」



ぷらずま「オール、トランス!」



武蔵(……艤装の出現位置が、バラバラだ。砲が分散した私達全員のほうを向いて……近距離、か。これは、被弾するか?)



ぷらずま「相手をしてアげ、イつか楽しい海でっていってるジャンかよイつかワタシはもう二度と、ああ! 火の塊となって沈んでシマエなのです!!」



プリンツ「っ被弾、大、破……」



長門「憐れなやつだ。その汚れた強さ」ジャキン



武蔵「敗北の涙で綺麗に拭えるといいな!」ジャキン



13

 


龍驤「後は電がどこまでやれるか、やね。ここまでよう繋いだもんやわ」

 

 

榛名「作戦でははっつんさんが、深海棲艦の位置を電さんに伝えて立ち回りの補助をするんですよね」

 

 

瑞鳳「でもはっつんが長射程に入れない以上、厳しいですね。距離が長いほど二式大艇からの情報伝達が遅くなりますし。それにすぐに墜とされるでしょうし。読めません……」

 

 

龍驤「分は悪いね。ギミック封じられた電は決して弱くはないんやけど、長門と武蔵がガチで来てるみたいやし」


 

龍驤「実力的には拮抗するんちゃうかな。だけど、勝敗は微妙なところかな。武蔵と長門、強いし……」

 

 

瑞鳳「元帥さんが手を貸すなんて、司令官も予想してなかったしね……」

 

 

龍驤「くそー、合同演習の時と同じ気分や。やっぱり抜錨したい……」





――――司令官さん、聞こえます、か。



無理、みたいなのです。どうにかなる策、なにか、ありませんか。

 

 

負けたく――――ない、のです。

 

 

――――鎮守府の皆のがんばりに、応えたいのです。

 

 

――――お友達の流した血と涙に、

 

 

――――どうか、勝利を。




――――司令官、さん!




提督「……、……」



提督「………、………」



提督「逃げて、ください。可能な限り」



【26ワ●:ここから先は、そんな自分を指揮する物語】



 

――――ずっと、人間を見ていた。

 

 

学校は魔物の巣窟だ。彼等はよく分からない理由でいざこざを起こす。例えば、消ゴムを盗む。ケンカやいじめをする。人の容姿や性格を馬鹿にする。

 

 

そこにある犯罪は風が吹くかのように学校という檻の中でなにもなかった風に吹くだけだ。

 

子供は未熟だ。

 

そこにいる教師もそんな子供とともに成長していく、だなんて恥ずかしげもなくいう世の中だから、学校では未熟な人間の愚かなファンファーレが鳴り止まない。

 

 

自分の父はおちゃらけていて、変なセンスの人だけど、尊敬はしていた。正しいことを正しいといえる人間になりなさい、という軍人の父の教えに従ってみるとした。

 

 

イジメられている子を助けてみたよ。

 

 

暴力はいけないこと。人の持ち物を盗んだり壊したりしては悪いこと。人の心を傷付けることはダメなこと。正義はこちらにあった。

 

 

正しいことを正しいという人間になったものの、おかしなことがある。

その次に虐められたのは自分だったからだ。

とまあ、やられて分かるやられる側の心の痛みだ。けっこうクラスでは上手くやれていると思ったのにな。

でも、誰も助けてはくれなかった。

 

 

――――だからきっと自分には、

 

 

――――お友達なんていなかった。

 

 

正しいことを正しいというのは割を喰う。それもそうか。正しいことを正しいといえる人間はその反動をはね除けるだけの力を持ったやつ。

 

 

もうあんな目に遭うのはごめんだ。祖母を心配させないよう、ご飯の時に創作の話を語るのも心が痛むしな。

 

 

自分が助けた子は可愛い女の子だっだけど、それから陰では自分の悪口をいっていた。あの子から自分にターゲットが移り変わったからだろう。あの子は虐められないために、環境に適応して、自分の悪口に参加する。実に合理的な判断だ。

 

 

現実なんてそんなもん。そこから甘いローマンスになど発展しないのだ。強いやつに逆らってまで助けるほうに利益があれば世の中、ヒーローだらけだ。


 

ソレに関していえば、傍観者でいるのが賢い。そうだろ。だって傍観者でいれば、私は関係ありません、と知らん顔で青春を送る権利を獲得する。でも、安心してくれ。イジメるほうも馬鹿じゃない。イジメられるほうにも自尊心はある。大抵は弄られているだけに留まってる。

 

 

まあ、そこを分かっていなくて見方を誤ると悲劇が起きるみたいだ。突然、人を殺したり自殺したりする。そんな風には見えなかった、驚きました、のパターンだ。

 

 

――――ずっと、人間を観ていた。

 

 

自分は、引きこもることにした。虐められているから行きたくない。納得させるに値する理由だと知っていた。別に逃げたのではない。学ぶ時間が欲しかった。身体で覚えるタイプじゃないからだ。どうすれば人災から逃れられるのか。人間に関する本をたくさん読んだ。

 

 

そんな自分を見て、祖母はいった。

 

 

お前は空っぽだね。本はそんな人間に知識を与えないよ。ほらね、すぐに忘れてしまうだろ。無理に詰め込んだものなんて、なに1つとて覚えやしないもんだ。いい加減、学校いきんしゃい。子供はたくさん遊びんしゃい。



自分は、転校した。自分はイジメられて周りと上手くやれずに心配をかける可哀想なやつです、と主張しているみたいだ。恥ずかしかったけど、それ以上に驚いた。これがこの本に書いてある自尊心か。

 


転校する前に、助けた女の子が家に来た。なんか謝りに来た。泣いてなんか言ってた。「友達になって」とかいわれて差し出された握手の手を握り返しはせずに、うん、と答えておいた。


 

転校した先でも似たようなことが起きてた。

どこでも同じだ。会社でもイジメはある。大人がこういってる程だ。

 

 

ダメだ。被害者になんてなりたくない。被害者になるくらいなら、裁かれない加害者とか傍観者になろう。

 

 

なんか、上靴を絵の具で塗られている子がいたよ。

被害者はなにしてんだ、と困ったように怒っているが、加害者は笑う。

被害者は助けて、といいたそうな顔でこっちを見ている。

 

 

→助けますか?

 

 

→見捨てますか?

 

 

おっと騙されないぞ。どちらも不正解である。

 

 

→仲が良いね、あはは、と笑ってやり過ごす。

 

 

見捨てたことをごまかす選択が賢い。

どーせ虐めてるほうに大層な罪の意識なんかない。だから、責められると謝るどころか逆ギレしてやり返してくるんだ。

 

 

大体今に始まったことじゃない。転校した時からこの子はこんな感じに扱われている。先生も、周りのやつらも助けないでいる。だから、それが普通。

 

 

ギギギ、と変な音が聞こえた。あの時、本当は助けたかった。弱さが勇気を制する音だな。少しネジを強く閉めすぎた。これ以上、閉められないのに強引に強く閉めすぎた。

 

ネジが削げる音だと気付けない。

 


自分を守るために言葉を削ぎ落とした。個性を出すのは危険だ。それは玩具になってしまうから。

 

 

分かりました。了解です。大体とそんな言葉しか発しなくなった。でも、世間話をされたら、するよ。でも必要あることしかしたくない。

 

虐められもしないが、特別、仲の良い友達もいない。つまり、孤独だ。

 

 

なんでたくさん本でお勉強したのに、周りと違って上手くやれないんだろ。なんであれが面白いの。どうしてそれで泣くの。分かんないや。

 


死にたくなってきた。

 

 

人間ってなんなんだろ。

 

道具で遊んでいる動物の皮を剥げば、思考する人間の形の葦なんか出てくるかもね。その葦を剥げばなにが出てくるのかな。笑うクソが出てきたりして。

 

 

笑われるほうになるのが怖いや。

被害者になんてなりたくない。

被害者になるくらいなら、傍観者に。

だって損するとか嫌じゃんか。騙されるより騙されたほうに、不細工より綺麗なほうが得するし。お金ないよりあったほうがいいじゃん。 

 

 

 

 

――――自分は間違っているかな?

 

 

 


 

 

 

――――間違っていないよ。絶対的に正しくもない。人それぞれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――って、自問自答した。

 


なら、そうだな。

 

 


 

ここから先は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分を、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指揮する物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【27ワ●:削ぎ落としたネジを太陽に向かって蹴っ飛ばした日】

 


今日の学活の時間は委員会を決める日だった。周りに聞き耳を立てた。その中で人気のない委員会に見当をつけた。みんなが希望する委員会のところにチョークで名前を書いていく。

 

 

委員会なんて、どこでもいいから友達と一緒に、というのも多い。自分はトイレに行った。2分で戻ってきて 人気のないところ、それも一人限定のところが空いている。そこに名前を書いた。

 

 

飼育委員会。花に水をやって、鶏に餌をやるだけの簡単な仕事だ。掃除は割り当てられているクラスが掃除するし。



委員会の時間は鶏に餌をやる。花にお水やるほうが楽だったけど、あの花壇を手入れしている女の子の気を損ねないように汚れるほうの役割を選んだ。

 


その女の子とは必要最低限の話しかしなかった。容姿がよく、目立たず大人しい。陰で人気が出るタイプ。あれ、この子なら俺でも行けるんじゃね、とか男の子に思わせてしまう感じの子だ。あまり関わるべき子ではない。万が一仲良くなればそいつらからのマイナス感情を集めることになるからだ。


 

自分が観察している限りは冷静で、儚げで、賢い子だった。そして、スポーツにも参加したがらないほど、争いを嫌う様子だった。


 

何気ない会話から知性を感じた。花に関する色々な知識を持ってる。小さなライブラリーみたいだ。

 


小さな好意を抱いたのも束の間、その子はいなくなった。

 


その子が育てていた向日葵は自分が代わりに育てた。珍しく自分が、小さな好意を抱いた人が大事に育てていたものだからだ。その向日葵は季節外れに咲いて、写真と手紙を送ろうと思ったけど、やめた。

 

 

先生に転校先の住所を聞こうとした時に聞いた。あの子は戦争に出たらしい。戦争って、小学生が兵士になるのか。衝撃的な話だった。

 

 

図書館で、海の戦争の本を読んでみた。フィクションではないのに、まるで、異世界のSFを読んでいるかのような気分になった。面白い。


 

海のその戦争は面白かった。規模的に世界大戦といっても良いが、死傷者は格段に少ない。圧倒的に少ない駒を使って、防波堤のように立ち回り、安全海域を保守し、拡大していく。

 

 

数的には酷く劣勢でアンバランスに見えるが、深海棲艦の生態を踏まえた上で思考すると、よく出来た絶妙なバランスのタワーディフェンスゲームだ。

 

 

人生で初めての夢が出来た。

 

 

対深海棲艦海軍に入る、と父に報告した。あまり、良い顔をしなかった。軍人だから、対深海棲艦海軍のこともよく知っているからだろう。でも、自分は安全海域を増やす作戦を思考して、それを話した。お国のために戦う父なら理解してくれるはずだ。

 


父は能天気で、お調子者で、センスがおかしい。付けられた名前でこっちは苦労してるんだ。周りと違うって大変なんだぞ。



世間話が途切れると、本題を切り出した。



まず艤装自体の扱いは大して複雑ではなく。軍艦をモチーフにされているが、それを独りで扱える程度にコンパクトにされている。深海棲艦の習性と、兵士は替えが利くことを考慮して――――

 

 

そこでブン殴られた。


 

なぜだ。どうして怒られたんだろう。安全海域を増やすために独り死ぬ程度、安いもんだろう。社会ってそういうもんじゃないか。学校だって、そうだ。一人が割を喰らうことで不利益から逃れる人もいれば、利益を得る人もいる。年間、何千人って死んでるじゃんか。減らないし。むしろ増えるし。命ってそんなに大事にされていないってことの証明だ。

 

 

ああ、そうか。言い方が悪かったんだ。失敗した。ほら国民のために戦争するぞ、みたいに人の命を尊重した風に見せなきゃね。

 

 

ギギギ、とまたネジが削げる音がした。

 

 

父が海外の救助活動中に死んだ。いや、死んだとされていた。

 

 

実際は行方不明だ。父は拉致られたんだっけか。犯人達はなんか要求して、軍はそれをはね除けて、父は殺されたみたいだ。メディアには報道されたが、色々と情報はねじ曲げられていた。


 

父の上官と、もっと偉い人が一緒に来てその時のことを教えてくれた。本当のことかは知らない。証拠見せてもらえなかったし。

父の遺品をくれた。

申し訳ない、と謝っていた。

 

 

ほら、ね。ほらほらほら!

 

 

一人の命なんてこの程度じゃないか。要は父は全体的のために、見捨てられた命ってことだろ。どうせ周りは仕方ないっていうんだろ。お国のためなんてうさん臭い。

 


辞書から自分の頭に入っていた一部の単語達が恐怖にすくんでいた。今まで偉そうにしていたやつらだ。『同志、仲間、絆、人命』が、涙を流して、自分に土下座している。

 

 

その言葉達を虐め始めたのは『戦争』の文字だ。

 

 

――――綺麗事では、変わらない。



――――戦争は終結させなきゃ。

 

 

父が死んだことで、たくさんお金をもらった。

 

 

10年振りに母親が家に来たよ。

知らない男の人と。

 

 

元気だった、とあの時の顔で、頭を撫でられた。胸が温かくなって、泣きそうになった。迎えに来てくれたのか。


でも、自分はおいてけぼりで。

 






迎えに来てもらえたのはお金だった。

 

 

陰で男の人が自分の悪口いっていた。細くて虚ろで気味が悪いなって。母も、そうだね、といってた。

 

 

なにかが弾け飛ぶ音がした。四畳のその部屋には、飛んだ愛のネジの欠片が、転がっていた。蹴り飛ばすと、壁を通り抜けて太陽に吸い込まれるようにして、消えた。

 

 

ポケットに少ないお小遣いだけ押し込んで電車に飛び乗った。外は少し雨が降ってた。

 


降りたのは海が見えた駅だった。

偶然にも、転校する前の学校の近くの駅だった。

 

 

隣の車両から、女子中学生が降りてきた。制服を着た男と話をしていて、楽しそうだった。あの子だ。あの時に助けた女の子だ。転校する前に謝ってきた女の子だった。目があった。

 

 

それがヨーイドン、の合図。

 

 

海まで、駆け抜けた。道中に足元にいた蟻やカエル、トカゲといった小さな命を踏み潰してやった。呼吸が切れても死力を振り絞り、雨に打たれながら、血のついた靴で必死に走った。

 

 

もう自由だ。友達も家族もいない。死んでも悲しむ人がいない。何だって一人でやれる。どこだっていける。

 

 

果敢に荒れた海に突撃した。


 

砂浜でこけて転んだ。

 

 

立ち上がる際に左手につかんだ砂は、指の隙間からさらさらと、こぼれ落ちていった。その形のなさは愛情のようにも、海のようにも思えた。

 


右手につかんだ砂は水分を吸って固まっている。確かな形のあるものだった。愛情のようにも、海のようにも思えた。

 

 

ただ前に前に泳いで、進んだ。ああ、足を釣ってしまった。高波にさらわれる。溺れて沈んだ。

 

 

死にたかったのに、息が出来なくなった時には死にたくない、とそう心から思った。


 

その時、光を見たんだ。

 

 

海の底に、光の塊が見えた。扉のような形だった。その光は姿を変えて、小さな可愛らしい妖精となった。

 


本で見たことのない妖精だった。

  


いつの間にか、自分は砂浜に打ち上げられていた。海の意思に生かされたかのようで腹が立つ。

 

 

溺れた瞬間に生きたいと思ったけど、陸にあがったら、死にたい、に戻っている。

 


海のほうを見た。あの妖精のことで頭が一杯になる。自分はすごいモノを見たのではないか。妖精は重要存在だと見当をつけていた。もしかしたら戦争の終わりに繋がる要素かもしれない、と考えた。


 

自殺願望に囚われながら、生存願望に囚われた。自分の命を繋ぎ止めるのが海になった。

 

 

おかしな話だ。人は海のなかじゃ生きられないのを思い知ったばかりなのに、陸でしか呼吸できないのに。


 

陸にあがると、苦しい。死にたい。死なせてくれって、嘆いてしまう。

 

 

海のこと考えると、死にたいって気持ちはなくなってしまう。

 


死にたい。でも、生きたい。この海の戦争に関われば死なずにいられる。

 

 

なんなんだよこれ?

 

 

生きたいって思いながら、海に身を投げる。

 

 

もう1度、膝元まで海に浸かった。

海水の湿った優しさを足で感じで、上半身で気温の日差しを浴びた。そこに根付いた植物のように動かない。

 

 

空っぽの自分にはそれが生きる力となった。

 

 

この世から消えろよ。戦争で生きようとする甘えきった自分を否定してやる。自分を生かそうとする戦争なんて、終結させてやる。


 

もう訳分かんないや。



死ね。海、死ね。


 

奇声をあげた。右手と左手を祈りの形にして、神に捧げた。その祈りの形のままの両手を頭上に掲げた。海面に殴り下ろした。ダブルハンマー。

 

 

そんなことしたら雨が止んで雲の隙間から、この顔に向かってナイフのような鋭い光が射し込んできた。

 

 

神様の皮肉に、唾を吐く。この終わらないと謡われた自然の化けの皮を剥がしてやろうかな。

 

 

そのケンカ、買った。

どうせ拾ったような安い命だし、海に投げ捨てても。どうせ、命の最後は海に還る。


 

赤ん坊の産声にも似た命の叫びを解き放った。

右拳を突き上げた。

勢いに任せて、ジャンプした。




【28ワ●:想題提督:Open the door from closed door】

 

 

それからはずっと、自分の世界に閉じ籠もり続けた。

 

 

軍学校に入っても、だ。

 

 

海の底で妖精を見た、といっても鼻で笑われただけだ。だから、誰にもいわなかった。あの時は頭がイカれてたから、幻覚の可能性もある。

 

 

捨ててきた。全てを戦争終結のために打算した。再び本を読み漁る。他人と必要以上に関わる必要はない。更に死にたくなるだけで、エネルギーの無駄だった。

 

 

教官から「お前の思想は歪んでいる」と叱咤された。それがどうした。いつの日か、答えは自ずと出るものだ。

 

 

丁の准将に教えをもらった。「君には向いてないのである。刑事のほうがいいと思うが」と。そうなのか。この人もあまり理解できない変人の類いだ。しかし、受け入れ、尊敬しよう。

相手を理解しようとしない器の小ささは恥じるべきだ。

 

 

丁准将が死亡した。タイミングを測ったように、深海棲艦が100体現れた。ならばそれに従い、自分が指揮を執ろう。即座に大和を殺して、他の全ての命を救った。

 

 

殴られた。一応、丙少将に気を遣って殴られるようにいった。この人の拳は痛い。父に殴られたかのよう。

 

 

一般適性施設に飛ばされた。

そこで妙なガキ二人になつかれた。

大淀に貸しを作るために引き受けただけなのに。ガキはちょろいぜ。あの言葉は本心だ。

 

 

よし、例の鎮守府に着任できた。よく分からないけど、例の駆逐艦に司令官として認めてもらえた。目的は『駆逐艦電を利用して、絞った潜水ポイントに大破状態で撃沈させること』だ。

 

 

そのために駒を増やす必要がある。使えそうな駒を集めた。伊58、瑞鶴、そして鎮守府として認められるために合同演習に出た。

 

 

相手は歴戦の猛者ばかりだが、その指揮は読みやすい。命を尊重した指揮は、若い兵士に甘えを生む。ほら、まだ勝負は決まってないのに砲を向けただけで離脱意向信号を押した。

 

 

元帥に責められた。どうでもいいことを。

 

 

阿武隈、卯月、使えそうな駒をそろえていく。

 

 


――――お前は感情を理屈で知っていても、心では分かっていないって、そう思った。


――――そこを知ったかぶりで生きているとは認めん。人間の命を扱う人間だとは認めない。


――――お前の場合ネジを落としたわけじゃなさそう。


――――欠陥品ゆえ。


――――不要だと自分で削ぎ落とした。


――――サイコパス。



――――今すぐ新しく作ってはめろ。


 


この時は焦ったな。よくこの短時間で見抜いたもんだ。確かに理屈で上部だけ色塗った感情でしゃべっていた。

 

 

でも、大丈夫だよ。無駄死にだけはさせないよ。お前らも自分の意思で海に、この鎮守府にいる。それだけ分かっていれば、致命的なヘマさえしない限り、どうとでも手綱は握れる。

 

 

それに自分のこととか、どうでもよかった。

 

 

深海妖精、いたから。

 


深海棲艦建造システム、そして深海妖精を陸地に誘う方法もいくつか見当をつけている。色々なモノが見えてきた。この時、自分の使命は果たしたも同然だった。


 

ただ深海妖精発見と同時に――――

 

 

 

 

駆逐艦電が、

 

 

あの飼育委員会の子だと、気付いた。

 

 

今思えば、自分が削ぎ落としたネジを取り戻していったのはこの時だと思う。深海妖精ではなく、少年の頃に抱いた女の子に対しての淡い想い出だ。

 

 

そう言えば駆逐艦電、になったんだっけか。性格違いすぎて気付かなかったよ。ぷらずまさんだもの。

 

 

まあ、でも、どうでもいい。


 

問題はこの子が『自殺するために戦う』と自分と同類の想いを秘めていたことだった。

 

 

同じ目的でも、この子は違った。その表情や声が「死にたくない」と声を発していて、「誰か助けて」 としか聞こえないほどに、悲壮に満ちていた。

 

 

――――なんか、助けたい、と思った。


 

父を尊敬していた少年の頃の自分が顔を出したのだ。その少年は開発妖精のように『カーンカーン』と音を立てながら、なにかを作り始めた。

 

 

海の傷痕には分かるまい。自分も気付けてなかった。自分が削ぎ落としたネジの形を思い出したのはこの瞬間なのだ。

 

 

他人とかどうでもよかったのに、驚いた。どうやら新鮮な世界を見たいのなら、パスポートなんて要らないらしい。


 

愛情を思考する。

情報を並べて、戦争終結と駆逐艦電の救済を並列に模索する。おかしな話だ。一人を助けることよりも戦争終結のほうが早く見通しが立ちそう。


 

ただ深海妖精を陸地に誘い、海の傷痕の存在に気付いた時にブチ切れた。


 

お前がこのくだらない戦争を始めたのか、と。馬鹿にしやがって。あの日の海での怒りを思い出した。

 


だけど、怒った理由はあの時と違う。

あの日の自分に、戻る怒りを手に入れる。

ギギギ、とそいつの存在を知覚したことで、またなにかが削がれる音がしたからだ。

 


反抗心で、思考する。いつもと同じく、思考の檻の中で奇跡を探す。あの子を助けることで自分のなにかが変わるはずだ、と思考の外で考えていた。この思考の外こそ、真理だった。自分という人間の感覚という根源だ。

 

 

大本営で海の傷痕がやって来た、と聞いた。驚いた。引きずり出すまで出てこない、と思っていた。



そいつはこの海の真実を語り出した。 一挙一動一言足りとも聞き逃さない。埋まるピースが絵を浮かべていく。確定とは思いがたい。こうであって欲しいという願望が、思考を形成していく。

 


あの子が怒った。でも、君はあの頃に戻りたがっている。そんな気がした。本当は死にたくないんだろう。血で濡れてきても、結局は希望が欲しそうだ。ならば、戦争しよう。平和などいつだって大小問わず争いのリズムの中に訪れる間奏のような、嵐の前の静けさだ。

 


希望的観測で人の心をどうこうしようとするのは怖いな。これが怖いということか。思えばあんまり心から怖がった経験はなかった気もするな。

 

 

だから、震えを抑えるために冗談いったし、その子の手も借りた。

 

 

君はあの頃のままの姿だけど、自分は違う。この子はまだまだ子供のように見えた。この海で歩みを止めて、大人になっていない。だから、この子は知らなければならない。立派な大人の背中を。そんな風に格好つけたかったんだよ。

 


――――違わない。

 

 

――――当局の敗北である。


 

なんか神様を倒して出てきた理屈は、馬鹿みたいなものだった。結局、最後に必ず愛は勝つみたいな帰結だった。

 


でも、この瞬間、泣きそうになった。隣のこの子の顔を見たら、ね。あの頃の顔をしていた。まるで色を塗りたくられたページが、真っ白に生まれ変わるかのようだった。



強く、手を握り返された。

 

 

なるほど、これが『お友達』とか『愛しい』とか『仲間』とか『絆』か。それらの単語がまた甦り、戦争の文字に反逆を始めた。平和、なんて文字まで出てくる始末だ。

 

塞き止めていた分だけ、正義の想いがとめどなく溢れ出してくる。

 

この子の力に、なりたい。みんな幸せになって欲しい。助けたい。誰も、死んでほしくない。愛したい。愛しいよ、鎮守府(闇)。


とうとう『世界平和』とか『愛は地球を救う』なんて言葉達が大手を振って行進を始める。





やっと、


取り戻した、ぜ。




開発時間は相当にかかった。

ネジは貴重なもんなんだな。

 


思えば、手を差し出したつもりでもないのに、握られた経験もあるな。一般敵性施設で出会った秋月さんと明石君だ。あの二人はたくましい。きっと、自分のような過ちは犯さないだろう。ああいう絆はいいもんだ。


 

自分にもチャンスはあったっけ。

 

 

あの日、転校する時のことを思い出した。虐めから助けたあの子が家に来て「お友達になってください」といった。自分はその手を握ろうとはしなかった。

 

 

きっと、あの手を握っていれば、自分はネジを削ぎ落とさなかったと思う。友達が、自分を助けてくれたかもしれない。


 

機械のように目的に忠実な思考の密室に引きこもることもなかっただろう。その子と友達になっていれば、祖母のいったように子供らしく日が暮れるまで遊んで、泥塗れになって家に帰っていたのかもしれない。

 

 

今、声がする。

間宮さんのすがるような声だった。


 

――――あの、提督さん。

 

 

――――負けたく、ないです。

 

 

ぷらずまさんはよくやってくれている。 再生が間に合わずギミックはないも同然だ。 比叡さん、霧島さん、木曾さん、プリンツさんを沈めて、長門さんや武蔵さんも大破寄りの中破だ。

 

 

――――なんとか、なる策は。

 

 

「あり、」


とそこまでいった瞬間に間宮さんの表情は花咲くように。



「ません……」


と答えた。期待されても困る。打てる手は打ち尽くした。現状、打つ手はなかった。こうなるのは予想できても、今はどうにもならない。

 

 

――――そう、ですよね。

 

 

間宮さんが、うなだれた。咲いた花が蕾に戻るよう。

 

 

自分には向こうと違って、こんな時に助けてもらえる友達なんか作って来なかった。精々がこの鎮守府の皆だ。

 


あの時こうすればよかった。自分の作戦は下手くそだった。他の提督なら、勝てたかも。そんな後悔に急襲される。夜空に浮かぶ三日月が神の嘲笑の口元に、見えた。



 

――――司令官さん、聞こえます、か。



無理、みたいなのです。どうにかなる策、なにか、ありませんか。

 

 

負けたく――――ない、のです。

 

 

――――鎮守府の皆のがんばりに、応えたいのです。

 

 

――――お友達の流した血と涙に、

 

 

――――どうか、勝利を。




――――司令官、さん!


 

全く、期待に応えても応えても頼りにされる。大本営に行ってから長らく拘束されつつも、自分の頭を捻って作戦を考えた。忙殺の日々のなかで。

 

 

それでもまだ足りなくて、期待される。なんとかしてくれるって信頼されている。予想外だった。提督って、大変な仕事なんだな。

 

 

通信が飛んでくる。初霜さんからだ。

ぷらずまさんが敗北したとのことだ。

 

 

絶体絶命だった。皆、敗北を確信したのか、表情に影が差している。


その絶望は遠くで撃ち上がった照明弾の光によって、照らされた気がした。




 

――――通信聞こえますかご主人様、さみませんしみませんすみませんせみませんそみませええええん!


 


――――さ、漣? 落ち着け。この回線だと、准将にも繋がってるんだが。


 

――――まあ、いい。あの照明弾はなんだ。向こうの鎮守府にもう戦力はないはずだし、周辺鎮守府にも、釘を差したはずだ。

 



――――漣が警備サボってぼの様のお胸を堪能していたところっ!


 

――――イカしたユニフォームを着たライオンズに、颯爽と絡まれまして装備を奪われ!

 

 

――――私達はホームランのごとく吹っ飛ばされ、やつらにホームベースへのランニングを許可してしまいましたあああ!


 

――――ごめんなさいいいい!


 

また思い出した。

裏切り者の女の子だ。「お友達になってください」といった女の子の顔を想い出した。その手を握ればよかったと。


自分を見下げ果てた自分がいう。歴史に学べ、と。


文字が、文章へと。

文章が、詩へと。

詩が、歌へと。


臆病が、勇気に。

勇気が、希望に。

希望が、勝利に。


自分も、進化する。

今ここに握手を求める。

今度は自分から差し出してみた。あの時の正義を以てして、だ。暗く冷えた場所で産まれ、人間の心を持ちながら人間ではないと人間に虐げられながら生きているあなた達へ。

 






――――ありがとう。

 

 

――――お会いできて光栄至極です。

 


――――偉大なる提督殿。

 


 

――――チューキさん、赤城はやらなくていいんだろ。江風、長門、武蔵の中破艦3隻だけとか秒殺しないと恥ずかしいじゃん。

 

 


――――残飯処理に呼ぶとはこれいかに……!



 

――――やる気あるわねえ、私は楽で嬉しいわ。


 


――――ネっちゃん達は義理堅く借りを返しに来ました……!



 

――――最悪よ。この鎮守府なんて2度と見たくなかったわ。

 

 


――――その手は鎮守府(闇)への勝利を以て握り返します。

 

 

――――海屑艦隊、参戦です。

 

 

 

 

――――ガオー

 

 

 


騒々しいお客人が来てくれた。呼び寄せたのは自分だけど、待ち合わせ時間になっても姿を見せないから来てくれないかと思ってた。嫌われたのかと思ってた。

 

 

孤独の時間が長くて、マイナス思考のドツボにはまった後遺症。人は好きになれないけれど、この鎮守府(闇)にいると、意外と人と話すのも、面白いもんだと思った。コツは深く考えないこと、自分を卑下しないこと。



密室から外に繋がる扉を開けよう。

久し振りに外に出るか。

15年くらいか。引きこもってたの。

 


鍵はかかってなんかないよ。

でもみんな常識人だから、ドアをノックして返事がなかったら中まで入ってこない。

自分から扉を開けて、迎え入れなきゃな。



ドアノブを、つかむ。



つかんだ時に思った。



ふと、思った。



扉を開こうとドアノブをつかむ仕草ってさ、

 

 

 

 

 





 

 

 

 

 

 

 



 

握手と、似てるね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2

 


それでは大淀より――――

演習結果の発表に移ります。

 

途中参入艦は除きまして。

 

 

甲丙連合艦隊。

 

甲大将第1艦隊

 

旗艦 重雷装巡洋艦 木曾 撃沈(仮)

 

駆逐艦 江風 撃沈(仮)


重雷装巡洋艦 北上 撃沈(仮)

 

重雷装巡洋艦 大井 撃沈(仮)

 

正規空母 Graf Zeppelin 撃沈(仮)

 

正規空母 Saratoga 撃沈(仮)


 

丙少将第1艦隊

 

旗艦 航空戦艦 日向 撃沈(仮)

 

航空戦艦 伊勢 撃沈(仮)

 

駆逐艦 雪風 撃沈(仮)

 

装甲空母 大鳳 轟沈(仮)


正規空母 天城 撃沈(仮)

 

正規空母 加賀 撃沈(仮)

 

 

――――続きまして鎮守府(闇)

 

 

第1艦隊

 

旗艦 軽巡洋艦 阿武隈 撃沈(仮)

 

給糧艦 間宮 撃沈(仮)

 

 

第2艦隊

 

旗艦 駆逐艦 初霜 小破

 

戦艦 金剛 撃沈(仮)

 

駆逐艦 暁 撃沈(仮)

 

装甲空母 瑞鶴 撃沈(仮)

 


第3艦隊

 

旗艦 工作艦 明石 撃沈(仮)

 

駆逐艦 秋月 撃沈(仮)

 

水上機母艦 秋津洲 撃沈(仮)

 

駆逐艦 卯月 撃沈(仮)

 

 

第4艦隊

 

旗艦 駆逐艦 春雨 撃沈(仮)


駆逐艦 電 撃沈(仮)

 

 

 

演習結果は――――

 

 

鎮守府(闇)の、

 

 

勝利Sです。

 


 

 

 

 

では皆さん。

 

 

 

仲直りしてください。

 

元帥からのガチ命令です。



【29ワ●:友好の握手】

 

1


龍驤「それでこそキミや――――!!」

 

 

金剛「イエーイ! コングラッチュレーショーン! アンド! バーニングラ――――ヴ!!」

   

榛名「榛名は! 嬉しい、です!」

 

 

榛名「榛名はここの皆さんと出会えたこと、すごく、感謝しています!」

 

 

秋津洲「あたしは……!」

 

 

秋津洲「やっぱりとっても、素敵な鎮守府に配属したかもー!」バンザーイ


 

間宮「……」ポロポロ

 

 

瑞鶴「翔鶴姉ゲットお――――!!」


 

伊58「これ、ゴーヤ達が最強ってことでち!!」

 


わるさめ「明石と鹿島っち、あいつらとの交渉任務、褒めてやるー!」

 

 

明石「鹿島さんについてっただけだし……」


 

鹿島「そんなことありません」

 

 

鹿島「命をくれた提督さんはもちろん、それを遂行したのは明石君と私です!」

 

 

明石「っス! ありがとうございます!」

 

 

明石「アッキー、やったな!」

 

 

秋月「ですね!」ハイタッチ

 

 

阿武隈「ふう、よかったあ」ホッ

 

 

卯月「あははー、ま、皆がんばったぴょん」

 

 

明石さん「整列しないと。少しだけざまあ、とかいってやりたいですが、仲直りしないとです♪」

 

 

瑞鶴「そうねー。あれ、第6駆は?」

 

 

わるさめ「陽炎と不知火と一緒にぷらずまのやつの付き添いにダッシュで」

 


わるさめ「つーかこれ、向こうにバレてたら負けてたかも。あの時の司令官が怒るわけだわ……」



レ級「おいわるさめ!」

 

 

ネ級「ヘルプ………!」

 

 

水母棲姫「さすがの艦隊ね……逃げる暇もなく。さすがにこの数は無理……」

 


3

 

 

提督「……」コツコツ

 

 

丙少将「どういうことだ。どこで密約を交わした?」

 

 

提督「はて。ええと、あなた達は」

 

 

レ級「こいつが鎮守府(闇)の提督だよな。決戦の時に上手く逃がしてくれてさ、その借りを返しに来た。密会した時にこの演習に支援艦隊として来てくれって頼まれた。ご丁寧に通信システムの情報までくれたんだよ」

 

 

丙少将「……はあ」

 

 

提督「全く記憶にありませんねえ。まさかこちらが深海棲艦の言葉を信じるとでも」

 


ネ級「ネっちゃん、泣きそう」

 

 

レ級「お前こそが深海棲艦だよ! 人間の皮を被った悪魔だよ!」


 

水母棲姫「ねえ、本当になんとかしてよね」

 

 

提督「貸し1ですね」

 

 

レ級「だから悪魔かって! 返したばっかなのに!」

 

 

丙少将「……やっぱりコンタクト取ってたのかよ。どうすんだこれ」

 

 

提督「……」

 


元帥「あー、いい。このままわしがこの3名と話をする」

 

 

元帥「離してやれ」

 

 

木曾「あいよ」


 

伊勢・日向「了解」

 

 

提督「……」

 

 

元帥「ちなみにお前がなにかやらかすと思って、大本営に来たときからこの鎮守府の通信と、憲兵と一般企業の知り合いに頼んで、所属者の動向は一部を除いて完全に見張っていたからな」

 

 

提督「……」

 

 

元帥「鹿島と明石と彼等の密会の証拠も押さえてある」ピラ

 

 

提督「密会どころか公開といわんばかりのふざけたシャツ着てますね……」

 

 

レ級「っふ、こうなることを」

 

 

ネ級「読んでいました」

 

 

丙少将「嘘つけよ……」

 

 

水母棲姫「まあ、信じないのは勝手だけど、中枢棲姫の指示よ?」

 

 

提督「……」

 

 

水母棲姫「中枢棲姫の指示なの(震声」

 

 

提督「……」


 

水母棲姫「じゃないと、なんか私まで馬鹿扱いされそうで嫌だもの!!」

 

 

水母棲姫「一緒にしないでもらいたいわ!」

 


レ級・ネ級・水母棲姫「ガオー!」


 

提督「っく、自分より面白い……」


 

丙少将「元帥、この深海芸人どもはいかがなされます」

 

 

元帥「チューキちゃんと連絡取れるんだろ。繋げてくれ」

 

 

水母棲姫「ジジイめ、気軽にちゃん付けするんじゃないわよ」

 

 

水母棲姫「でも、先に進まないから答えてあげるわ。もうこっちに向かってるって。直に来ると思うけど」

 

 

元帥「ふむ、君が例の瑞穂君か」

 

 

水母棲姫「そこはつつかないでもらえるかしら。それとその情報は隠してよね。瑞穂の頃に面識あった連中に絡まれるとうざいし」

 

 

元帥「そっか。何人かは知っているが、それなら隠しておこう」


 

水母棲姫「それでいいのよ。可哀想とか謝られても困るだけ」

 

 

赤城「失礼しますね。チューキさんをここまでご案内致しました」

 

 

中枢棲姫「お初に、ではない方もいますね。木曾さんと江風さんは先日にお会いしたばかりですね」

 

 

木曾「あー、そうだな。でも俺らのことはいいよ。目的あって来たんだろ」

 

 

中枢棲姫「そうですね。元帥殿、この度は鎮守府(闇)の提督から招待状を頂き、馳せ参じました。この演習ならば対深海棲艦海軍の要人にお会いできる故、相応の覚悟を持った上です」

 

 

元帥「堅苦しいなあ。チューキちゃん、肉体のほうはメンバーの中で一番背丈が低いんだな。艤装のほうは逆に一番でかいけど」

 

 

レ級「止めたほうがいいよー。チューキさん、キレると怖いぞー」

 

 

ネ級「最強ですよ……」

 

 

中枢棲姫「そういう話は後回しでいいのです。まずは優先するべき続きを」

 

 

元帥「そうそう。そういう素を出してくれていいんだぞー。君達、海屑艦隊とは敵対する気はない。協力を求めることになったから」


 

中枢棲姫「む、予想よりもフットワークが軽いですね。海の傷痕が人のしがらみに潤滑油でも流し込みましたか」

 

 

元帥「話は省けたか?」

 

 

中枢棲姫「ええ。倒す敵は同じですが、表向きな協力は控えたほうがお互いのためでしょう。こういった異常を持ち、同じ目的を持った深海棲艦がいるという体で、対海の傷痕作戦時は、そちらがその深海棲艦を利用する指示を出すなどして、我々への攻撃を控えさせてもらえるよう、お願いするつもりでした」

 

 

中枢棲姫「ですが、協力とは情報交換はさておき、対海の傷痕も、ですよね。あの海の傷痕になにか有効な手段を見出だし、効果的な策が?」

 

 

元帥「ないよ。海の傷痕は自由に出歩いている始末だ。衛生で監視しているが、公開はされておらず、有効な策は今から得ていく情報を元に組み立てる」

 

 

中枢棲姫「お互いの持ち得るすべての情報を整理し、策を練ると?」

 

 

元帥「それもあるが、こちらでは乙中将に海の傷痕を探るよう任務を渡してある。あの鼻の利く坊主の有効な使い方だ」

 

 

中枢棲姫「了解しました。それで我々はそうですね、この鎮守府(闇)に顔を出すのが適当ですかね……」

 

 

元帥「そうだな。ここならいいだろ。拠点にしてくれても構わんぞ。ただそちらの水母棲姫は嫌がるだろうから、そちらの組織系統次第では、チューキ君が話に混ざってくれるだけでも構わん。そのほうがよさそうか?」

 

 

水母棲姫「私は家に帰るわよ。チューキ、後はあんたがやりなさいよ。海の傷痕との戦いなら従ってあげるから」

 

 

レ級「そうだなー。僕も鎮守府に世話になる気はないぞ。今更、馴れ合うつもりもないし」

 

 

ネ級「同じく。死に行くものとして扱って欲しいです」

 

 

中枢棲姫「とのことなので、私が主にこの鎮守府に滞在しますが、あくまで深海棲艦です。下手に馴れ合いを求められると、いつ理性が飛ぶか分からない爆弾ですが、准将殿いかがします」

 

 

提督「あなたが構わないのならば問題ないと思いますよ。 中枢棲姫さんがここに滞在する時、気は回します」

 

 

提督「あなたは理性が飛んでも殺しはしないほと見ていますから。うちの子達はちょっかいかけると思いますが、別にスパルタしていただいて結構ですね。半殺しにされても今更折れるような人もいないです」

 

 

中枢棲姫「願ってもないことです。あなたとは直に言の葉を交わして見たかったです。しかし、まだ基地に帰ってやることがありますのでまた後日となりますね。二日頂ければ」

 

 

丙少将「周りの深海棲艦の手綱は握れるんだろ。今の時期に、俺らんとこ攻めてこねえようにいってくれねえか?」

 

 

中枢棲姫「ええ、周辺の深海棲艦の手綱を握れるよう先日から勢力を拡大しています。海の傷痕と戦う間ならば継ぎ接ぎでなんとか抑え込めるかと。が、全ての海域の深海棲艦は難しいです。我々は主に力を上下関係とするのですが、深海棲艦にも性格は色々とありまして、言うことを利かない連中も多々います。先の決戦で我々もあなた方に敗北した身なので、今の時期は特に」

 

 

水母棲姫「じゃあ、もう私は帰るわ。なんかこの鎮守府見ていると蕁麻疹出そうだし、それじゃーね」

 

 

レ級「ネッちゃん、僕らも帰るか。周りの深海棲艦も黙らせとかないと」

 

 

ネ級「そうだね。あ、わるさめだ」

 

 

 


 

 

 

 

 

かつてのお友達よー!


 

 

わるさめ「包んでやった間宮さんの料理を持っていけー!」


 

水母棲姫「よく面を出せたわね、この裏切り者!」ギリ


 

レ級「ネッちゃんこのノリ前にやったけど、どーする?」

 

 

ネ級「乗ろう。戦艦棲姫こと……!」

 

 

レ級「センキ婆の仇!」ギリ

 

 

水母棲姫・レ級・ネ級「間宮さんなら許す!」イエーイ

 

 

わるさめ「さすがレっちゃんネっちゃんスイキちゃん。センキ婆の分もわるさめちゃんが海の傷痕にかましてやら!」

 

 

わるさめ「前を向いてこーぜ!」


 

水母棲姫「そうね。まあ、過ぎたことはどうでもいいのよ」

 

 

提督「さすがわるさめさんのお友達なだけはあるというべきか」

 

 

水母棲姫「わるさめは知らないみたいだから、私のこと話さないでよね」

 

 

提督「了解です。電さんにも釘を差しておきます」

 

 

水母棲姫「電ねえ。あいつは面も見たくないわ。私を丁のやつんとこに輸送したのあいつだし」


 

丙少将・元帥・提督「……」

 

 

提督「ぷらずまさん、まだこんな重要な話を隠してたのか……」

 

 

中枢棲姫「時に……わるさめさんあなたはもう少しおしとやかになるべきだと、あれほど」

 

 

コツコツ


わるさめ「おひさー。チューキちゃんは相変わらず古風な考え方してんねー。そんなのやんなら訓練でもするよ」

 

 

中枢棲姫「……む。少しは成長出来たようでなにより。土産話が出来ましたね」

 

 

わるさめ「司令官、レッちゃん達を途中まで送ってくるねー!」

 

 

提督「了解です。行ってらっしゃい」

 

 

大淀「深海棲艦の制圧が完了しました。それと、青山准将、お話が」

 

 

大淀「先程の深海棲艦建造の作戦、深海妖精をどのように駆使したのです」

 

 

元帥「それだわそれ。なんかわしらに隠しているだろ?」

 

 

提督「隠してはいましたが、前日に知り得たものでして、演習が終わり次第報告するつもりでした」

 

 

提督「大本営で、海の傷痕が此方よりプレゼントをくれるといっていたはずです。その『選奨の奇跡』こそ特別な深海妖精である本官さんです」

 

 

提督「海の傷痕:此方の友のようです。あ、陸にあがってきましたね。元帥殿と中枢棲姫さんには見えるはず」

 

 

仕官妖精「お初に。元帥、チューキ。本官は妖精の全ての役割をこなせる、海の傷痕の秘書のような存在であります」

 

 

元帥「……初めまして。深海棲艦建造していたのも、あなたか?」

 

 

仕官妖精「であります。他の妖精とは違って意思疏通は視えたのならば会話でどなたでも。深海棲艦建造のタイミングは准将に指示された時間に合わせたまでであります」

 

 

元帥「深海妖精可視の才はあなたが」

 

 

仕官妖精「はい。そして本官は最優秀賞者に贈られたモノなので、准将の指示しか聞きません。間接的に、は受け付けないのでよろしく頼むのであります」

 

 

中枢棲姫「……」

 

 

提督「深海妖精の可視はこの妖精が選定して与えた才のようです。自分は見ていますし、初霜さんもこの本官さんと出会っていることは確定しました」

 

 

中枢棲姫「例の明石君の謎も?」

 

 

提督「今は妖精ですが、生前の人の記憶はあるようです。明石君と秋月さんの先祖様のようですね。つまり、海の傷痕にとって二人の家系は友の血を引き継ぐ家系。そこが原因のようです」

 

 

提督「ですよね?」

 

 

仕官妖精「であります。最も明石君はかなりの力業でありますな。なにせあの子は生前の本官そっくりでありまして、海の傷痕:此方に大層気に入られた模様であります」

 

 

元帥「彼が『Rank:SSS』の訳か」

 

 

中枢棲姫「……、……」

 

 

中枢棲姫「准将、その妖精が我々を裏切らない保証はありますか?」

 

 

提督「ありません。不確定要素ですので取扱いは慎重に、です。というか本官さん、この場の全員に深海妖精可視の才を与えてはもらえないですか」

 

 

仕官妖精「中課金以上ならば。ですので、この場の全員には可能です」


 

提督「お願いします」

 

 

仕官妖精「了解であります。本官が触れた瞬間に視えるはずであります。丙少将、大淀、本官の姿は視えて、声は聞こえますか」

 

 

丙少将「……ああ」

 

 

大淀「視えますし、聞こえます」

 

 

甲大将「深海棲艦は片付けたぞ。お前ら、なにしてんだって……ん?」

 

 

仕官妖精「甲大将にも深海妖精可視の才を与えたのであります」

 

 

甲大将「……、……」

 

 

甲大将「准将、こいつ使ったのか?」

 

 

提督「ええ。深海棲艦建造の作戦においての要です」

 

 

仕官妖精「さて、本官はさておいて、皆さん、まずは仲直りしてくれ、なのであります」

 


中枢棲姫「そうです、ね。私はまた後日に顔を出します。ですが、そうですね、元帥」



中枢棲姫「我々の手を握る覚悟は」



元帥「もちろん。ほれ、よろしく」



中枢棲姫「確かに。丙少将と、甲大将も」



丙少将「……謝りはしないからな」



中枢棲姫「でしょうね。過去を水に流せ、とはいいません。私にも思うところがあるので。国交のようなものだと割り切って頂きたい」



中枢棲姫「よろしくお願いいたします。心から、です」



中枢棲姫「では、甲大将」



甲大将「あいよ。一杯、喰わされた。いや、2回だったか。うちのやつらを2回も叩きのめすなんて強いなお前は」



中枢棲姫「海の傷痕はもっと強いです。あなたの艦隊はまだ強くなれると思います。しかし、それは提督のあなた次第によるところが大きいです」



甲大将「……あー」



中枢棲姫「しかし、予想よりも大部、強かったのも事実です。心という不確定要素は恐ろしく、そして美しいものなのですね」



中枢棲姫「では准将」



提督「はい。よろしくお願いいたします」



中枢棲姫「感謝しています。私もリコリスもこんな時を夢に見ていました。あなたのような人が私達には必要でした。私とも相性が良さそうだ」



中枢棲姫「私が深海棲艦でなければ、あなたの秘書官などやってみたかったと思う程です」



提督「あなたが秘書官などもったいないです」



提督「『お友達』がいいかな」



中枢棲姫「フフ、はい。よろしくお願いします」



中枢棲姫「それでは、また後日に」



5

 


甲大将「ルールの穴を気付いて手を打ったのは、大本営で私と話したすぐ後か?」

 

 

提督「ええ……せっかくの機会だったので鹿島さんと明石君に交渉をお願いしました」

 

 

提督「連絡のことは大淀さんに貸しがあったので漏れずに。ただ元帥にはバレていたようですが……」

 

 

甲大将「しかし、本当に面白い戦いだった」

 

 

江風「負けた時はむしろあの手使った分だけ、スカッとした。江風達がなにしてもお前らのほうが強いんだって、完敗を喜んで受け入れられたぜ」

 

 

江風「色々な負けがあンだな」

 

 

木曾「俺はあんまり活躍できなかったのが悔しいな……」

 

 

提督「いってくれますね……」

 

 

木曾「お前の艦隊、強かったよ」


 

木曾「根性と素体性能高いのが、多い。たくさんの原石を磨いて宝石にしただけでもすげえよ。尊敬する」

  

 

提督「皆さんで磨きあったというのが的確、ですね」

 

 

甲大将「……そうか。いい仲間だな」

 

 

木曾「なんかあげれば。何気に演習で敗けたの初めてだよな」

 

 

甲大将「それはいいな。私的には江風がお勧めだ。こいつには意外な女子力がある」

 

 

江風「?」

 

 

提督「……どういうこと、です?」

 

 

甲大将「江風、抱けば」


 

江風「!?」

 

 

江風「あほかああああああ!」


 

提督「すみません。大変魅力的なのですが、自分今ほんとお金ないので」


 

江風「話の流れ的に売春ではねえだろ! つーか、そーいうことはダメなンだぞ!」

 

 

江風「江風はヤだかンな! 木曽さんやれよ!」

 

 

木曾「俺はキャラじゃないだろ」

 

 

江風「ンだそれずっこい! 江風はそーいう、え、えっちなキャラだってのかよ!?」

 

 

木曾「お前、こいつのこと悪くねえって大将に報告したじゃねえか」

 

 

江風「したけど、そーいう意味じゃねえ!」

 

 

江風「江風、軽くねえし! 段階踏んで、江風の親に話通して、苗字一緒になってから行く新婚旅行でだし!」

 

 

木曾「いや、お前は女の子なんだが、女の子っぽいからな」

 

 

江風「お前! 江風に軽い気持ちで触れてみろ! ただじゃおかねーぞ!」ガルル


 

提督「……」

  

 

甲大将「まあ、口から出任せだよ。弱味でも握ろうかなと。私でもいいが、仕事柄の関係もあるから」

 

 

江風「ンだよ、ならシメとけばいいンじゃね」

 

 

木曾「正面からのタイマンなら、まあ、俺はやってもいいが」


 

提督「……」

 

 

提督「甲大将のとこ怖すぎる……」

 

 

甲大将「わるさめのブログ見たかよ、こいつは親孝行するべきだと思わねえか。義務教育の時期に不登校で風の又三郎はどうかと思うぞ」

 

 

提督「ですね。自分がいえることではないですが、親に心配かけちゃダメです」

 

 

江風「海を取り戻すのが最高の孝行になるだろ?」

 

 

提督「どうでしょうね……」

 

 

木曾「そんなことじゃねーよ。結局はお前が元気でいることが一番の孝行になるんだからさ」

 

 

提督「木曾さん良いこといいますね」

 

 

江風「分かるような分からねえような……」

 

 

甲大将「ん、准将、手を出してくれ」



提督「? はい」



甲大将「握手だ。最後までよろしく頼むな」



提督「はい。もちろんです」



6

 

 

わるさめ「その節は大変ご迷惑をおかけしまして、この通りわるさめちゃん体の前面と床とをくっつけ」

 

 

わるさめ「謝罪のポーズを」

 

 

雪風「わるさめさん、う、うちの司令はもう気にしてないっていってましたよ?」

 

 

わるさめ「そちらの航空戦艦さん達から殺気を感じるので」

 

 

日向「伊勢、元帥と丙少将からもいわれているんだ。そろそろ水に流してあげたらどうだ」

 

 

伊勢「……そうだね。丙さんも大事はなかったし」

 

 

ぷらずま「●ワ●」

 


ぷらずま「その程度で許せる怒りなのですか?」ゲラゲラ

 

 

伊勢「…………」

 

 

ぷらずま「わるさめさんとか消してくれても構いません。お待たせしました」


ジュワジュワ-


ぷらずま「謝罪の意があるならば、例え焼けた鉄板の上でも土下座できるはずなのです」

 

 

わるさめ「うおおおい!?」

 

 

わるさめ「やってやるよオ!」

 

 

ぷらずま「100秒数えてやります」


 

わるさめ「長くね!? そこも原作に沿えよ!」

 

 

伊勢「本当にこの人達は同じ鎮守府の仲間なのだろうか……」

 

 

わるさめ「熱ィィィよオ!!」

 

ジュージュー

 

わるさめ「熱い……けど!」

 

 

わるさめ「なんか気持ち、よく!!」

 

 

わるさめ「新しい世界オープンザドアしちまった」

 

 

伊勢「この人達テンションとノリとヤバいよ……」

 

 

わるさめ「よーし、トランス&点火!」

 

 

伊勢「!?」

 

 

伊勢「……小さな砲口から」

 

 

伊勢「線香花火……」

 

 

わるさめ「急遽、忘年会のために、明石君に弾薬弄って花火出るように作ってもらったんだゾ☆」

 

 

ぷらずま「おい、明石君の超過密スケジュール知っていて、そんなこと頼んだのですか」

 

 

日向「……ハハ」


 

ぷらずま「制裁」ジャキン

 

 

わるさめ「でも、わるさめちゃんは負けない!」

 

 

ぷらずま「?」


 

わるさめ「鎮守府の皆の血と涙に!」

 

 

わるさめ「勝利で報いたい!」

 

 

わるさめ「司令官、さん!」

 

 

ぷらずま「…………」ブチッ

 

ドンドン!

 

初霜「きゃっ!」

 

 

わるさめ「はっつんが銃撃音に驚いてこけちまった……」

 

 

初霜「……ああ、食事の材料が」

 

 

わるさめ「なにこれ、麺か。鉄板のうえに落ちたし、ちょうどいいじゃん」


ジュージュー


提督「ソースどうぞ」

 

 

わるさめ「司令官お前もう予知能力とか持ってるよね?」

 

 

提督「いえ、思いの外みなさんよく食べるので、少なくなっていた材料の買い出しに。たまたまです」

 

 

雪風「お箸と取り皿もらってきました!」

 

 

わるさめ「でかしたユッキー」


 

日向「美味い。なんか鉄板がでかいだけで美味さが増すような気がする」


 

伊勢「日向……」


 

伊勢「というか提督をパシりみたいに使ってるんだここ……」


 

ぷらずま「この司令官は使えますから」


 

初霜「隙のない提督なんです」


ワイワイギャーギャー

 

 

提督「……」クルッ


 

3

 

 

丙少将「なんか用かよ。武蔵まで呼んで」

 

 

武蔵「電は沈めたが、結局は勝負にも敗けて試合にも敗けちまった。なんだかスッキリしない演習だったよ」

 

 

提督「丙少将と武蔵さん」

 

 

提督「すみません。今更になりますが、1/5作戦についてのお話をこの機会にと思いまして」

 

 

提督「あの時、自分は大和さんへの命令に罪悪感は全く持ちませんでした。が、今は違うんです」

 

 

提督「最後の通信で彼女はこういったんです。『後はよろしくお願いします』って」

 

 

丙少将・武蔵「……」

 

 

提督「大本営で丙少将にいわれた言葉のこと、今なら理解できます。 『兵士が後を託して死ねるのは、俺達提督の能力不足に対する罰』だというのは」

 

 

提督「正しいです」

 

 

提督「自分の、能力不足でした」

 

 

丙少将「あれはあれで取った策自体は現実的なもんだと俺は思ってるが」

 

 

提督「いえ、あの場にはメンテナンスのために海の傷痕がいたんです。もしも誇り高き甲大将ならば、嗅覚のある乙中将ならば、丙少将ならば大和を死なせず奮戦し」

 

 

提督「あの場で海の傷痕の存在を確認出来た可能性が非常に高いです」

 

 

丙少将「……ifの未来を語っても仕方ないだろ」

 

 

提督「信じてもらえなくても結構ですが、申し上げておきたいのです」

 

 

提督「自分の能力不足の穴埋めを彼女に任せたこと」

 

 

提督「感謝すると同時に、申し訳ない、と思います」

 

 

提督「そして、囮になった彼女を、心から尊敬しています」

 

 

提督「だから、海の傷痕に勝つ意味が増えました。以上、です」

 

 

武蔵「はあ。人は変わるもんだな」

 

 

武蔵「もういい。その件に大してはお互い様だ。私も自分の弱さを祟ってた。だけど、過去はどうしようもない」


 

武蔵「あの時、私は弱かったよ。恐怖にすくんでた。だから尾を引いてる」

 

 

武蔵「それじゃ私は帰る。陸奥と青葉に仕事を押し付けてきたからな。まあ、来た甲斐はあったよ」

 

 

武蔵「私もお前らんとこみたいに成長しないとな。海の傷痕を沈めるためにやることはたくさんあるが、時間が足りないからな」

 


武蔵「ここまで来たらもう最後まで、だな」



武蔵「よろしく。頼りにしてるよ」



提督「!」


 

丙少将「……」

 


卯月「おー、武蔵が怖い表情しながら頬を赤くしてたけど、お前ら三角関係かー?」

 

 

丙少将「ねえから」

 

 

阿武隈「ケンカはダメですよ、はい!」

 

 

卯月「じゃあ、付き合うぴょん。アブー、丙少将と組めー」


 

提督「なにをするつもりですか」

 

 

阿武隈「鎮守府の空き部屋を改造してゲームセンターにしました、はい!」

 

 

提督・丙少将「」

 

 

……………

 

……………

 

……………

 

 

提督「ちょっと、マジもんのゲーセンじゃないですか。しかもゲーム機ってこれ家庭用じゃなくてアーケードですよね……?」

 

 

阿武隈「経費には手をつけていないのでご安心を」

 

 

卯月「まあ、普通はアーケードとか置けないんだけど、そこは電とかのコネも利用したぴょん。あいつのコネ、色々なところに根を張ってるぴょん。維持費も一ヶ月なら大丈夫」

 

 

提督「やりたい放題ですね」

 

 

卯月「映画館あるんだから、ゲーセンもあっていいだろー」

 


丙少将「よくねーよ。この案内板なんだよ。映画館とかあるのかよ……」

 

 

阿武隈「さあ提督、再戦しましょう」

 

 

提督「これはあなた達をスカウトした時の……く、スコられた悪夢が甦る」

 

 

丙少将「スカウトって、こいつら引き込んだ時の?」

 

 

阿武隈「そうですね。このゲームに勝てばこの鎮守府に来るって条件でしたが、それとは別に口説き落とされまして」

 

 

阿武隈「さあ丙少将、私と組んで出撃です!」

 

 

卯月「司令官、耳を貸すぴょん」ニヤニヤ

 

 

提督「……」

 

 

卯月「このゲームはアブーよりうーちゃんのほうが強いぴょん。それに司令官もそこそこ出来る。つまり、勝てる勝負だぴょん。丙のやつになにか吹っ掛けるなら、今この時」ニヤニヤ

 

 

提督「丙少将、なにか賭けますか」

 

 

丙少将「いいぜ。敗けたほうが三回回ってわんと吠えるか」

 

 

提督「望むところです」

 

 

卯月「撮影してやるぴょん」ニヤニヤ


 

……………

 

……………

 

……………

 

 

提督「……」クルクルクル

 

 

提督「わん」

 

 

卯月「そんな馬鹿な……!」

 

 

阿武隈「丙少将、やったことないんですよね!? 提督はそこそこ出来たのに、一方的に勝てました!?」

 

 

丙少将「あー、色々変わってるな。でも仕様はすぐに理解出来たし、動画で観たことあるしな」

 

 

卯月「それでその腕前か!?」

 

 

丙少将「まあ、俺は軍に入る前はな」


 

丙少将「ゲーセン通いが常だ。学校サボって、遊び呆けてたやつだ。毎日、出席していたんだよな」

 

 

丙少将「レースでもシューティングでも、それなりにやれると思うぞ」

 

 

提督「ほう。ならば……」

 

 

提督「麻雀とかどうですかね。自分は盤面のゲームは強いです」

 

 

卯月「司令官が形振り構わず、自分の得意そうなゲームに……」

 

 

………………

 

………………

 

………………

 

 

提督「……」クルクルクル

 

 

提督「わん」

 

 

丙少将「俺はこれが一番得意だぞ。親のすねはかじれない身分だったもんで、一時期フリーで稼いでたし」

 

 

提督「……」ゴバッ

 

 

阿武隈「提督は読みは上手いんですけど、素直過ぎますね。運もあまりないです……」


 

卯月「つーかなぜ軍学校に」

 

 

丙少将「興味を持ったのは合同演習を何気なく見た時だなあ。可愛い子が被弾して脱げるだろ。提督って素敵だなって」

 

 

阿武隈「意外と最低なんですけど!」

 


丙少将「あくまできっかけだ。学校入ったスタートの時には違うからセーフってことで」

 

 

丙少将「でも、お前ら男ってそんなもんだぞ」

 


卯月「く、こいつ司令官と違ってきっちりと遊んできたやつか……」

 

 

提督「ならばあのパンチングマシンで」

 

 

卯月「お前、冷静になれし! それどう考えても始まる前から敗けてるぴょん!」

 

 

提督「卯月さんには、勝てます」

 

 

卯月「勝てればなんでもいいのか! というか女子中学生のうーちゃんにパンチ力で勝負して勝ちたいとか、色々男としてださいぴょん!」

 

 

提督「自分は、負けそうになれば」

 

 

提督「相手のコントローラーの線を抜くこともいとわないタイプです」

 

 

卯月「それ空気悪くなるからやるなし! つーかうーちゃんと遊んでる時にそれやったら許さないからな!」

 

 

阿武隈「まあ丙少将、この通り提督は可哀想な人なので色々と多目に見てあげてください」

 

 

丙少将「同情するまであるわ」

 

 

提督「」ゴバッ

 

 

7

 

 

加賀「ほら、焼き鳥あげるわ」

 

 

瑞鶴「あんたが誰かに食べ物あげるなんて、私の艦載機、もしかしてヤバいところ攻撃しちゃったとか……」


 

加賀「……」イラッ

 


加賀「あなたは本当に私をイラつかせるのが得意ね」


 

瑞鶴「いや、そんなつもりはなかったけど……」

 

 

加賀「まあ……あの頃と変わったのは分かるわ。提督を爆撃したあの頃から少しは成長、したのだと……」

 

 

瑞鶴「……(メソラシ」

 

 

加賀「おいまたやったのかお前」


 

瑞鶴「はい、申し訳ありません……」

 

 

加賀「この鎮守府の提督も、好き者ということ? そうは見えないだけに驚きました」

 

 

瑞鶴「ないない」


 

瑞鶴「ただアブーと二人で出撃させられた時があってさー。その時はアブーがトラウマ克服できてなくて、深海棲艦に攻撃できなかったんだ」


 

加賀「……」

 

 

瑞鶴「あの時のことを教えてあげよう」

 

カクガクシカジカ

 

加賀「荒療治ね……」

 

 

瑞鶴「その時、感情に任せたら艦載機発艦できた。まあ、提督には悪いことしたな……あの提督は怒らなかったけど」

 

 

龍驤「加賀やーん」

 

 

加賀「お酒臭い……」

 

 

龍驤「酔ってはいないでー。ただ瑞鶴のやつ加賀やん倒したやろ?」

 

 

龍驤「どやった? どやった?」

 

 

龍驤「うちが瑞鶴育てたんやで!」


 

龍驤「どやっ」

 

 

瑞鶴「まあ、確かにお世話になったけど」

 

 

加賀「……龍驤が。なるほど」

 

 

加賀「龍驤は赤城さんを指揮していたもの。道理で」

 

 

加賀「最後の真っ直ぐな綺麗な艦載機発艦、当たると直感させるくらい、見事ではあって」

 

 

加賀「赤城さんを思い出しました」


 

龍驤「加賀やん、めっちゃ褒めるやん」

 


瑞鶴「そ、そう?」テレテレ


 

加賀「でも、最後のあの沈み方は人生の汚点ね。さすが5航戦の残念なほうとしか」

 


瑞鶴「あれは弁明の余地がないわね……」

 

 

龍驤「赤城かあ。今は元帥ちゃんとこやなー」


 

加賀「そうね。ここの鎮守府と演習すると伝えたら、色々と教えてくれたわ」

 

 

龍驤「提督のことなんかいっとった?」

 

 

加賀「不器用で可愛い人だと」

 

 

龍驤「さすが赤城、その頃から見抜いていたとは」

 

 

瑞鶴「そうねー。最近、不器用なだけって思えてきた」


 

瑞鶴「別にイケメンな訳でも性格も良いっていえるかは微妙だけど」


 

瑞鶴「……」

 

 

加賀「けど?」

 

 

瑞鶴「どんな絶望的な状況でも報いてくれるのよね。それも今日みたいに私が馬鹿なやられ方したのに、考えて考えて考えて、どうにか繋ぐ手段を皆に与える」

 

 

瑞鶴「しかも、勝利だよ。めちゃくちゃかっこいいじゃん」

 

 

瑞鶴「好きだよ?」


 

瑞鶴「こう、腕にぎゅーっと抱きついて甘えたいくらい」

 

 

龍驤・加賀「…………」

 

 

加賀「ツンデレのあなたにそこまで素直にいわせるとはここの提督はなに者……」

 

 

龍驤「え、それはそーいう?」


ジャキン

 

瑞鶴「違う違う。というかが今物騒な音、聞こえなかった?」

 

 

龍驤「ん? 気のせいやろ」

 

 

龍驤「それで違うん?」

 

 

瑞鶴「提督みたいな兄貴ならすごく欲しい。明石みたいな弟いたら可愛くね。明石さんの気持ち分かるわ」

 

 

龍驤「……」

 

 

龍驤「確かに! うちめっちゃ同感したわ!」

 

 

瑞鶴「というかもう私達のなかで提督のこと嫌いな人いないんじゃないの?」


 

瑞鶴「丙少将のとこ出身も、乙中将のとこ出身も、最初は提督のこと嫌ってたやつも多いけど」

 

 

龍驤「加賀やんも丙少将んとこやし、まだ良く思ってへんのやない? それに合同演習内容も好かんと思うし」

 

 

加賀「まあ、一時期は……この子に爆撃されてすぐに死んでしまうのでは、と考えていましたね」

 

 

加賀「でもここに異動した暁、響、陽炎、不知火と連絡のやり取りはしていましたから。心配でしたので」

 

 

加賀「まあ、氷解していきました」

 

 

瑞鶴「それはなにより」

 

 

瑞鶴「あのアンケートまた取ったら嫌いはいないんじゃないかな」

 

 

加賀「アンケート?」

 

 

龍驤「提督への要望とか、意見とか。その時、どっと人数増えて、提督自身がコミュに自信ないってことで、個々に匿名で答えてもらったんよ」

 

 

瑞鶴「あの提督さんなら匿名でも誰が書いたか分かってそう」


 

龍驤「筆跡とかで分からんでもないけど、そこまでするかな」

 

 

瑞鶴「するやつよ。断言するわ」

 

 

龍驤「そういえば、あのアンケート表の残りが、まだ間宮亭においてあるはずやで」

 

 

瑞鶴「あー、確かこの箱じゃん?」


 

加賀「……?」ピラ


 

『どうか自分を許してあげて欲しい』

 

『人としての心を忘れないで欲しい』」

 

『もっと私を頼って相談して欲しい』

 

『自殺は思い止まって欲しい』

 

 

加賀「」

 

 

龍驤「なんでこれまだここに入っとるん。回収するの忘れてたんかなー」

 

 

龍驤「ちとうち執務室に持ってくわ」

 

 

8

 

 

球磨「まさか球磨型総出で負けるとは、信じられないクマ」

 

 

多摩「なにがなんだか分からないくらいの乱戦で命あることを感謝せずにはいられないにゃ……」

 

 

北上「霧島艦隊は奮戦したけど、プリンツ艦隊はやられるの早すぎね?」

 

 

大井「……まあ、支援艦隊なしでも、こちら全員撃沈(仮)で、向こうに負けていたとは思います」

 

 

木曾「いつまでその話してんだ。向こうが強かった。それだけだろ」

 

 

大鳳「私だけ轟沈判定です……」

 

 

大井「大鳳さんは引きずってますね……」



球磨「大鳳は作戦だから仕方ないクマ。でも、悔しいから次やった時に負けないために作戦練るクマー」

 

 

わるさめ「●ω●」

 

 

球磨「ん? なんか用クマ?」


 

わるさめ「球磨型と装甲空母、今から演習場くる?」

 

 

わるさめ「今から日向伊勢とドンパチやんだけど、人数集めてんだよね」

 

 

わるさめ「やりたそうなやつ、参加、活躍できなかったやつらに声かけてんだけど」

 

 

わるさめ「こっちはわるさめちゃんとアッキー、はっつんと、龍驤と、ずいずいとゴーヤ、電も捕まえたから」

 

 

わるさめ「伊勢日向んとこにお前ら入ればー?」

 

 

木曾「いいな。相手できなかった面子が揃ってるじゃねえか」

 

 

球磨「球磨型出動クマ!」

 

 

多摩「あの終わりかたはなんか嫌だからやるにゃ」


 

北上「私はいいや。めんどい」

 

 

大井「北上さんが行かないのなら私も」

 

 

球磨「長女命令。北上大井の雷撃火力は必要クマ」


 

北上「うおー、クマのような力で引っ張られる」

 

 

大井「……仕方ないですね」

 

 

大鳳「えっと、夜間演習の許可は大丈夫なんですか?」

 

 

わるさめ「うちの提督んとこと、丙ちゃん甲のヤンキー姉ちゃんに許可もらってる。負けたチームに罰ゲームつけよう」

 


木曾「いいね」



わるさめ「負けたほうの旗艦が勝ったほうの提督に愛の告白だ☆」



北上「うっす。旗艦に漣を呼んでくるかー」


 

9

 

 

金剛「今から仲直りに一緒にティータイム始めるネー!」

 

 

霧島「金剛お姉様、榛名……」

 

 

比叡「ご一緒させていただきます!」

 

 

金剛「ただ金剛型の反省会も兼ねマース」

 

 

霧島「侮っていたわけではないのですが、電の戦闘能力、予想以上でした」

 

 

比叡「装備も体調も万全を期して、調子は良かったはず。なにが足りなかったのでしょうか……」

 

 

霧島「相手が強い。それが絶対に勝てない理由にはならないかと」


 

榛名「うーん……甲大将と鹿島さんがいます!」

 

 

金剛「カウンターでちびちびやってる甲ちゃんと鹿島っちをこっち呼びマース!」

 

 

甲大将「んー? なんか用か」

 

 

金剛「金剛型の仲直り反省会してるので、参加して欲しいデース」

 

 

甲大将「んで反省点か」

 

 

金剛「なにかあるー?」



甲大将「鹿島ー、なんかある?」



鹿島「わ、私ですか?」



甲大将「練巡だし」



鹿島「えっと、そうですね。フィット砲は外していいと思います。見ていた限り、お二人は精度が十分に高いので火力に振ってもすぐに」



鹿島「それと卯月さんから戦い方を聞いてみるのはどうでしょう。卯月さんは魔改造される前から強いです。素質うんぬんではなく、強い相手に勝つことができる戦い方を研究していたので、聞いておいて損はないかと」


 

鹿島「後はひたすら演習ですかね」



霧島「なるほど。装備のほうも決戦までに調整は十分に出来ますね」



榛名「榛名が卯月さんを探して聞いてきます!」


 

比叡「あ、榛名、私も行きます!」



霧島「甲大将はなにかありません?」

 

 

甲大将「まあ、せっかくの機会だ。結局は実際に演習すんのがいいと思うよ」

 

 

甲大将「トランスタイプの電やわるさめと演習してこいよ。今の面子と戦える機会はもうないとも思うし」



10

 

 

山風「……久し、ぶり」

 

 

明石「おう、久し振り」

 

 

明石「なんでおぶられてんの?」

 

 

江風「段差でこけて足くじいたから」

 

 

江風「山風は軍ガッコの時からこンなドジなのかよ?」

 

 

山風「ドジ……じゃない……」

 

 

明石「どっかおどおどふわふわしてんスよね。スカートめくれたままで抜錨してたり、道に迷っておどおどしてたり」

 

 

江風「あー、うちの鎮守府来たときも迷ってたな」

 

 

山風「……私に……構わなくて、いい」

 

 

明石「そしてすぐにすねる」

 

 

明石「というかわざわざ工廠までなにしに?」

 

 

江風「装備、直せたか気になったンだ。山風はここの工廠の前で行ったり来たりしてたところを拾った」

 

 

明石「明日の朝には直せる。木曾さんのはもう直してるから、艤装に装備させとくよ」

 

 

江風「おー、ありがとな。ところでお前、皆のところに顔出さねーの?」

 

 

明石「出さん。兄さんから頼まれた仕事片付けることが俺的には最優先事項なんで」

 

 

山風「明石はこういう……付き合い悪いやつ……」

 

 

明石「付き合いの悪さは山風さんにいわれたくねえかなあ……」

 

 

江風「なるほどねェ、だから明石に会いにわざわざ工廠まで顔を出しに来たってわけか」

 

 

山風「……違うし」プイッ


 

明石「まあ、この鎮守府無駄に広いし大方迷ってたところ、灯りのついてるここに来たんだろ」

 

 

山風「…………ばーか」

 

 

明石「なんなんだ……」

 

 

山風「アッキーは?」

 

 

明石「わるさめさんが夜間演習やるっつって、拉致ってったよ」

 

 

山風「……そっか。じゃあまず明石のお姉さんのところに行く。どこか分かる?」

 

 

明石「バーにいたぞ。あんまり使ってねえ場所だけど、間宮亭より先にある。ネオン看板だから分かりやすいと思う」

 

 

山風「わかった……ありがと。じゃあ江風、そこまで運んで……」

 


江風「しゃーねえな……」



山風「そうだ、アッシー」



山風「電話で、酷いこといって、ごめん……」



明石「気にしてねえから」



山風「……そう」



11

 

 

プリンツ「明石さん、グラーフさんって、やっぱり中破してからが可愛いですよねー……」

 

 

グラーフ「すまない。見て分かると思うが、プリンツは酔っぱらっている」

 

 

明石さん「ですね。まあ無礼講ですし、いいんじゃないですかね。私もグラーフさんって表情出した時のほうが可愛いと思いますよー」

 

 

グラーフ「あなたもべろんべろんに見えるんだが……」



明石さん「お酒はあまり強くはなれない明石さんのチャームポイントってことで。まあ、意思疏通自体は可能なのでご安心をー」

 

 

グラーフ「ところで魔改造というのは、ああも強くなれるものなのか?」

 

 

明石さん「まさか。適性者にも向き不向きがありますから。素質向けに艤装を弄る程度のものですよ」


 

明石「例えば競技とかでもその人向けに合わせるじゃないですか。特注品ですよ。一概に強くなるように見えているかもしれませんが、結局は扱う子次第です」

 

 

グラーフ「リスクがあるのだろう?」

 

 

明石さん「卯月ちゃんは精神影響が解体後も尾を引いたみたいです。後はその艤装が気持ち悪く感じるかも。グラーフさんも興味あります?」

 

 

明石「グラーフさんは瑞鶴さんタイプですね。なんなら、請け負いますよー。仕事も落ち着いてきましたし」

 

 

明石「可愛くしましょうよー」

 

 

グラーフ「遠慮する。そもそも今の時期にもしもの不具合が出れば洒落にならない。お前のところは少し横着し過ぎだろう。最悪、使い物にならなくなりそうだ」

 

 

明石さん「失敗したら艤装ぶち壊して妖精さんに作ってもらえばいいんですよ。たかが1ヶ月くらい艤装なくなる程度のリスクですしー」

 


グラーフ「酔っぱらっているな……その頃に海の傷痕との戦いは終わっているんだが……」

 

 

明石さん「……あー、残念です」

 

 

江風「おい山風、ついたぞ」

 

 

山風「皆さんこんばんわ……」

 

 

明石さん「江風ちゃん、らっしゃいー。愛しの山風ちゃんもー」

  

 

山風「zz……」

 

 

江風「すまん。寝床に運ぶわ……」

 

 

プリンツ「あー、私が運びます。私もなんだか眠くなってきたのでー……」

 

 

江風「なんかプリンツさんもよろけてるから、江風が二人連れてくな……」

 

 

明石さん「あ、寝床は3号館にたくさんあるのでお好きなところをー」

 

 

プリンツ「ヤヴォルー……」

 

 

明石さん「それでグラーフさん」

 

 

グラーフ「なんだ?」

 

 

明石さん「これは聞いた話ですが、うちの提督さん、軍の相性検査でグラーフさんと最も良相性だったみたいなのですが、グラーフさんからみてどうです?」

 


グラーフ「……、……」

 

 

グラーフ「ああいった純粋な思考タイプは私としても好ましいし、私の実力をもて余すことなく引き出してくれると思う。人間的な部分は差して興味は持たないので、相性は良いと思う」

 

 

グラーフ「だが」

 

 

グラーフ「私はこう見えても甲大将に敬意を払っている。信頼もしているし、あの鎮守府の連中を気に入っているんだ」

 

 

グラーフ「それが答えだ」

 

 

明石さん「ふむふむ。そうでしたか。では人間的にはどうです?」


 

グラーフ「そっちの提督のことはよく知っているとはいえない」

 

 

グラーフ「しかし、感覚でいえば」

 

 

グラーフ「尊敬に値する人だと思う」

 

 

明石さん(グラーフさんみたいな人にそういわせるのなら、この演習は予想以上に大きな意味を持てたって気がしますねー……)

 

 

明石さん「めでたしめでたし♪」

 

 

グラーフ「?」

 

 

12

 

 

間宮「…………」ポロポロ

 


秋津洲「間宮さんが、ずっと泣いてる、かも」

 

 

瑞鳳「玉ねぎ切りながら……」

 

 

瑞鳳「なにかあったんですか。演習の終わり辺りからずっと」

 

 

天城「ふふ」

 

 

瑞鳳「天城さんがなにか嬉しそうに笑っています」

 

 

秋津洲「なにか知ってる、かも?」


 

天城「お気になさらず。間宮さん、きっと嬉しくて泣いていると思うんです」

 

 

秋津洲「そうなの?」

 

 

秋津洲「まあ、甲丙連合艦隊に勝ったんだし、仕方ないかも!」

 

 

瑞鳳「…………うーん」

 

 

間宮「…………」ポロポロ

 

 

天城「あ、間宮さん手が震えて危ないので捌くのは私がやります」

 

 

間宮「ありがとうございます……」


 

間宮「~~~~」

 

 

間宮「天城さああああん!」

 

 

天城「私は間宮さんと違って途中で去りましたが……」

 

 

天城「間宮さんはずっとここにいたんです。すごい、と思います」


 

間宮「私も、何度も逃げ出したくなりましたよお。でも、今日」

 

 

天城「私は、違うんです。あの人の、お陰、です……」ポロポロ

 


天城「あの提督さん、演習場にいますよ。お話してきたらどうです?」


 

間宮「そうさせていただきます、天城さん瑞鳳さん、厨房はお任せします」タタタ


 

天城「はい」


 

秋津洲「全く訳が分からないかも……」

 


天城「きっと電ちゃんのことですよ。春雨さん、私や阿武隈さん、卯月さんがいた頃、電さん、本当に辛そうな雰囲気でしたから」

 

 

天城「間宮さん、電ちゃんを放っておけないって理由で、ここに残り続けた人です」

 

 

瑞鳳「間宮さんにとって電ちゃんのあの最後の通信は、かなり大きいということです?」

 


天城「でしょうね。私も嬉しいです。瑞鳳さんも電ちゃんは変わったと思いませんか?」

 


瑞鳳「確かに合同演習時に比べて」

 

 

瑞鳳「電ちゃん、変わりましたね」



瑞鳳「そして秋津洲ちゃんの知られざる料理スキルの高さに驚きます」



天城「確かに……」



秋津洲「あたし、料理はがんばったからね。今はもうないけど、間宮適性もあったかも」



瑞鳳「それは驚きです。そういえば秋津洲ちゃんはなぜ秋津洲ちゃんに?」



秋津洲「うーん、憧れてた男の子追いかけて海に来たかもー」



天城「これは」



瑞鳳「面白そうな話」



13

 

 

木曾「直撃したが……」


ザッパーン

 

伊58「退かないんでちか。捕まえた!」

 

 

木曾「……」


 

伊58「魚雷は0距離で以下略ドーン!」

 

ドオオオオン!

 

木曾「懐かしいぜ」


 

木曾「俺も初めはそんな風に当てることしかできなかった」


 

木曾「だが、まあ、根性値で俺に勝とうなんざ万年早え!」


 

木曾「おら、捕まえた」ガシッ

 

 

木曾「今度は俺の番だ」


ドオオオオン!


伊58「伊号の、呪い。クルージング……」

 

 

伊58「所要時間は、全速前進で10分」


 

伊58「黒極まる1時期の1日の1440分」


 

木曾「あ?」


 

伊58「根性と、いったでちね……?」


 

伊58「面白半分で命令された、日に155回という矛盾オリョバシクル任務」ギロ

 

 

木曾「……!」


 

伊58「やってみてから吠えろでち!」

 

ドオオオオン!

 

伊58「はあっ、はあっ……」

 

 

木曾「なんぼの、もんだよ。こちとら姫や鬼の群れと戦ってきてんだ」

 

 

伊58「!?」


 

木曾「クルージングより楽だ、とは、思わねえ」


ドオオオオン

 

木曾「負けたら仲間が、死ぬからな!」

 


伊58「イク! ゴーヤ、の、仇を……!」



伊19「無理! 0距離の撃ち合いなんてやりたくないのね!」


 

14

 

 

提督「根比べでゴーヤさんが敗けるだと……」

 

 

間宮「提督さん!」

 

 

提督「あれ間宮さん、厨房はいいんですか」

 

 

間宮「天城さんと瑞鳳ちゃんと秋津洲ちゃんに任せてあります。少しお話がありまして」

 

 

提督「……急を要する話みたいですね」

 

 

間宮「気持ち的に、ですけど」

 

 

提督「?」

 


間宮「私のお話、聞いてください」



【30ワ●:想題間宮:鎮守府(仮)が始まるまで】

 


――――料理さえ上手ければ大抵のことはなんとかなるよー。

 

 

というのが母の口癖だった。

家庭事情はごくごく普通ではあるけども、父と母はよくケンカする。靴下脱いでそこら辺にぽいっと投げるとか、テレビの録画を忘れた、とか子供の私から見てもしょうもないことだ。

だけど、食事が終わった時には丸く収まっている。つまり、円満な家庭だ。

 

 

まあ、父も胃袋つかまれたのが理由で結婚したといっていたなあ。実際母のいう通り、料理出来たのなら大抵のことは上手くやっていけるんじゃないかな。そんな気が、スタート地点だ。

 

 

料理は苦手だったけども。いや、物事全てかな。得意なことはなく、下手なことのほうが多かった。勉強も運動も人付き合いも。味噌にお湯をかければ味噌汁です、といった具合にどうも私の頭には出汁が足りてない模様なのだ。学校の家庭科の成績も2だったし。

 

 

1つのことをやっていると、何のために、という疑問に突き当たる。自分のため、という理由は物足りない。なぜならば私の料理の原典である母が誰かのために料理を作る人だったからだ。


 

誰の為に作ろう。そんなの未来の旦那さんのためでいいんじゃないの。と、いわれても恋したこともないし、実感沸かないや。でも、誰かが笑ってくれる感じのがいいな。

 

 

そんな感じで、高校生3年生になった春の時だ。その時、すでに進路は決まっていた。

 

 

ある日に風邪を引いて学校を休んで、健康診断を受け損ねてしまった。そんな経緯で日曜日に最寄りの場所で健康診断をした。その場所が、軍の一般適性施設だ。ここでは設備があって一般でも健康診断をやってくれる。

 

その時に適性を試してはみませんか、といわれて試してみたら。

 

 

給糧艦、間宮の適性があった。

 

 

それから色々な話をしてもらった。世間話を交えられながら、海のことを聞いた。自分のことも話した。今思うと巧みにスカウトされていた。

 

 

そこにいる子達のことを聞いた。戦争といえば悲惨なイメージしかなかった。笑顔がないような場所のように思えた。だから、やりがいを感じたし、興味が湧いた。

 

 

料理を手段とした目的を思い描けたのは初めてのことだった。誰かのために。技術を覚えた後は愛情こそが料理の極意となろう、と母がいってた。

 

 

当然ながら父に反対された。娘を戦争に出すなんてあり得ない、と。適性検査施設の人が来て、お話した。給糧艦という兵士の役割、私の気持ち、とか。給糧艦というのは工作艦並みに重宝される存在らしい。

 

 

比較的安全な役割だ、とか、間宮はそこで戦う子供達の拠り所になる存在だ、とか。理屈と心を駆使して必死だ。勧誘って大変そうだ。

 

 

その人が帰った後は家族会議だ。「やってみたい」とその理由をいえば、母がため息をついた。「あんたがそんな顔をするなら仕方ないか」と父の説得に当たった。父は賛成しなかった。けど、母の協力で、折れかけた。

 

 

これは驚いたけど、すごい偉い人が来た。今の元帥さんだ。給糧艦の必要性と、情勢を説いていた。その話の内容は父にも思うところがあったのだろう。話が終わった頃には、父と元帥さんは酒を飲み交わしていたほどだ。

 

 

そうして私は間宮としてなんとか軍学校に入学して艤装を装備した。

 

 

19歳の、春だ。

 

 

間宮に求められる役割に淡々と励み、所属希望の鎮守府を決めなければいけない段階で、ほぼ全ての鎮守府からスカウトが来たのは驚いた。間宮ってこんなに求められる存在なんだ。

 

 

様々な鎮守府を見学させてもらった中で、一際印象に残ったのはフレデリカ大佐と駆逐艦電だった。

 

 

フレデリカ大佐は目が合うとビクビクとしている変な人だった。目が虚ろで生気がない。隣にいた瑞穂さんが「この人は対人恐怖症の毛があるから気にしないで」と苦笑いした。フレデリカ大佐は、今の提督の女verといった印象だ。

 

 

そして駆逐艦電が、正面玄関近くの花壇にいた。じーっと、お花を見つめている。誰かに喋りかけられると、そのお花のような優しい笑顔を見せていた。でも、どこか違和感はあった。自然とは違ってそこに植えられた花のように、人工的なナニカを感じさせた。

 

 

フレデリカ大佐が、声をかけてきた。

 

 

「あの子は出撃した珊瑚で姉妹艦の3名を、失っています。だから、間宮さんのような人のお力をお借りしたいと、思った次第でして」

 


と、違和感なくフレデリカ大佐は笑った。ちゃんと笑えるんだ、この人。



フレデリカ大佐は電ちゃんに笑いかけた。電ちゃんは笑って返した。フレデリカ大佐が、踵を返した瞬間だ。

 

 

電ちゃんの空気が変わった。色のない無表情だった。瞳の色彩が変わって見えた。結膜が闇のように黒く、瞳孔が血のように紅く。でも、まばたきすると、普通に戻っている。ま、幻覚だよね。

 


フレデリカ大佐と電ちゃんは仲が良さげだ。大樹の下でお喋りしている。どことなく電ちゃんには元気がないように思えた。



木漏れ日が映す繊細な影を見ながら、それもそうだよね、って思った。姉妹艦を全員失ったら、簡単には立ち直れない。私でも分かる。

 

 

決めた。ここがいいな。

 

 

地獄の、プロローグだった。

 

 

着任。

フレデリカ大佐が用意してくれた『間宮亭』にはいつも人がたむろっていた。みんな、私が出した料理を美味しいといって笑ってくれる。

 

 

電ちゃんも美味しいといって、笑った。この時の笑顔は自然のように思えた。こうして元気になっていってくれるといいな。

 

 

ここに来てよかった。やりがいしかなかった。

 

 

遠征や出撃した人達は、お腹を空かして帰ってくる。そんな日々だ。今まで以上に炊事に励んだ。たまに、料理を教えて欲しいといった人もいたのは嬉しい。私にはこれしかないから。

 

 

食堂の間宮さんでなく、給糧艦間宮として出撃したこともある。だから、この戦争の現場のことも知っている。そのなかで、自分や誰かのために、とする手段として料理を覚えたいというのならば、私としても願ってもないことだ。

 


瑞穂さんが、恥ずかしげにこっそり頼んできた。フレデリカ大佐の誕生日にフランス料理作ってあげたいって。

 

 

春雨さんは家事を覚えたい、といった。帰った時にお母さんの助けになるから、と。でも、火力を間違えてぼやを起こしたり、感性で料理したり、失敗もしていた。少し私と似てドジなところがあって、おろおろしている。

 

 

バレンタインにチョコレート作りたいって集まった駆逐艦のみんなに混ざって珍しくはしゃいでいる電ちゃんも見たなあ。


 

ここは、

 











 

笑顔の絶えない、

 

 

 

 

 

 

 

アットホームな、

 

 

 

 

 

 

 

 

職場です。

 

 

 

気付かない。

ぽんこつの私は、気付かない。

純粋無垢に笑っていた。

戦争の拠点なのに、この場所がずっとあればいいなんて能天気に思ってた。

 

 

瑞穂さんが、いなくなった。異動した、と聞いた。そういえば、丁の准将のところに異動するかも、って前にいっていたのを思い出した。一言いってくれたらいいのに。寂しいな。

 


あの悲劇の事件が起きた。

 

 

キスカで4名も死んだ。


信じられなかった。

 


 

帰投した卯月さんは泣きながらフレデリカ大佐と胸ぐらをつかんだ。フレデリカ大佐が阿武隈さん達を見捨てた、という噂が流れてた。



フレデリカ大佐は、ひたすら謝っていた。



周りの人達が卯月ちゃんを取り押さえた。卯月ちゃんはもういい、とその場から去った。



その件で丁の准将が憲兵と一緒にやってきた。その件についての調査のようだった。その時のことはよく知らない。



私は死にそうな顔をしている卯月ちゃんと阿武隈ちゃんを元気付けるために、必死だった。卯月ちゃんは元気になってくれた。励ました甲斐があったかな?

 


阿武隈ちゃんはどんな言葉や料理を出しても、あの頃みたいに笑ってくれない。そうだよね。私もそうだ。

 

 

阿武隈さんと卯月さんは、解体申請を出して、街へと戻った。仕方のないことだと思った。失った命を埋めるためには、私はあまりにも無力だった。

 

 

それでも当初の目的の『誰かのために』は続いていた。ここの食堂の想い出だけは血の匂いもなくて、みんなと笑っていた綺麗な場所のはずだから。


 

いつの日か、ここはみんなの心を繋ぐ拠点になればいいな、とか思ってた。

 

 

辛い記憶を思い出す時、ここのことも思い出してもらえれば少しでも苦しみが紛れる。そんな場所にしようと、努力した。


 

傷も癒えない内に、追い討ちをかけるように、鹿島艦隊の悲劇が起きた。

 


鹿島さんも、キスカから帰ってきた二人のようだった。今にも死んでしまいそうに、酷く落ち込んでいた。食事は喉を通らないようだった。

 

 

私は泣きながら励ました。


消えてしまって、いない。

訓練に励んでいた皆も、お母さんのためにって、がんばってた春雨さんも、いない。


 

人が、消えたり、壊れたり、していく。

 

 

丁准将の鎮守府もなくなって、大和さんが死んだ。近年の対深海棲艦海軍は闇の中だった。

 

 

ああ、そうか。これが戦争か、と私はようやく理解した。良い想い出とかあるだけ辛いのかも。このお店なんかないほうがいいかな。

 

 

神様が聞いていたらしい。

この鎮守府は崩れ去った。深海棲艦の急襲を受けた。そのタイミングはまるで、そこにあった全ての想い出を奪い去る優しさのようだった。

 


私は撤退していく中で、電ちゃんの姿が見当たらないことに気付いて独断で戻った。天城さんに怒られたけど、戻った。

 

 

死にかけた。戦闘において弱すぎた私は殺されかけた。その手をつかんで引き上げてくれたのは、電ちゃんだ。



だけど、その時は深海棲艦だと思ってた。

 


――――化物にしか、見えなかった。

 

 

怯えた声を出して、その手を振り払って逃げた。その時は見たことのない深海棲艦だと思っていた。だから、溜まった感情をぶちまけた。

 

 



あなたがみんなを、



殺したんですね。

 

 

みんなを、返して。

 

 


それが出来ないなら、

 

 

死んで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ください。

 

 

 

 

 

 

この化物!

 



と、私はみんなを殺した深海棲艦への憎悪をぶつけるように泣き喚いた。お前らなんか死んでしまえ。

 

 

化物は動かない。なにもいわない。

 


姫や鬼には少しの心があると聞いている。だからダメージを受けたのかもしれない。そのまま沈んで、暗い海の底で死ねばいい。


 

天城さんが駆け付けてくれた。私の腕を取った。無理やり、その場から離脱させられた。私は、電ちゃんとフレデリカ大佐のことが心配だったけど、空母の力には敵わなかった。空を舞う艦載機に護衛されながら、離脱した。

 

 

 



 

化物がいた遠くのほうから、

 

 

 

 


 

 

 

誰か助けてって、悲鳴が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電ちゃんに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よく似た泣き声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっと、聴こえてた。

 

 

 

 

 

 

 

そして鎮守府が壊滅した後、軍がフレデリカ大佐のことを調べ始めた。私も重要参考人として拘束された。

 

 

全てを知った。

 


なんなんだ。あの鎮守府で過ごした時間は嘘に包まれていた。なんにも気付かなかった。馬鹿みたい。

 

 

最悪だ。私は、あの時、

 

 

 

電ちゃんに、

 

 

 

 

 

 

死んでくれって、泣いて懇願した。

 

 

最低だ。

あの時の化物の声が電ちゃんだと知って溢れてくるのは自分のためのずるい涙だった。しかも止まらない。

 

 

しばらく、ぼんやりとしていた。ここから去っていったみんなの気持ちをようやく思い知った。解体申請、しよう。もう無理だ。海なんか見たくない。料理なんかしたくない。

 


戦争なんかするものじゃない。関わるべきじゃない。なにいっているんだろう。そんなの当たり前だ。


 

1ヵ月が過ぎた後、最後にと、あの鎮守府に顔を出してみた。


 

大人達が瓦礫を運んでいる。まるで子供達が遊んで散らかしたオモチャを片付けているかのようだ。

 

 

皆のことを思い出したよ。

あの時の私達は確かに笑えていたよね。

各々に辛いことはあっても、その全てが嘘だったわけじゃないって、信じたいよ。

 

 

天城さんも、あの頃は楽しかったです。嘘ではありません、と。まるで信じてください、といわんばかりに。

 

 

この場所は存在しても良かったのかな。私は想い出にすがった。

 

 

足元に、折れた包丁が落ちてる。瓦礫に埋まっている。勇者の剣のように、抜き放ったら、よく分からない勇気と希望が胸に生まれた。

 

 

この場所で、またやり直せないかな。不思議とそんなこと思った。まだ、なんとかならないかな。嫌な想い出で終わらせたくない。

いくつの季節が芽吹いて枯れて行っても、綺麗は清潔なまま。また、みんなで――――。

 

最低最悪の、この鎮守府を、棄てきることが出来ず、


そんな風に想う私が、いた。

 


失うモノはもうなかった。生意気にも直談判してみた。その時は丙少将と甲大将が話を聞いてくれた。


 

丙少将は親身になって聞いてくれた。妹さんの大和を亡くしたばかりなのに。噂に違わず優しかった。

 


甲大将はその場で連絡をかけて、あの場所、支援施設として復興しよう、と行動が早い。


この人達、いい人だ。

 

甲大将がいった。「電のやつもあそこを復興したがってる風だ」と。「理由は分からねーけど、そのくらいであいつが協力的になるなら安いかな」と。

 


この人はこういう言い方をしたけど、気遣ってくれているような気がした。だって「任せとけ」って背中を叩いてきたから。

 

 

電ちゃんが戻ってくることが決まったらしい。

私は微力ながら、その鎮守府の復興を手伝っていた。ホントにやれることは少なかったけど。

 

 

鎮守府の機能もつけることになった。その理由は聞いていた。電ちゃんの身体のことを知って、彼女がここにくる。軍はあの子を利用する気なのだろう、と私は察した。

 

 

そして、電ちゃんが戻ってきた。私は謝った。あの時のことを謝った。電ちゃんは「気にしていないのです」と笑って許してくれた。また間宮亭に、ご飯を食べに来てくれた。

 

 

ぽんこつの私は救われた気になる。

 

 

この子は、守ってあげないと。


 

電ちゃんと私の二人しかいない、


 

鎮守府(仮)が、始まった。


 

【31ワ●:想題間宮:やっぱり私は、ぽんこつだ。】

 

 

色々な人が来たな。

支援施設のほうにも来る子はそんなに多くなかった。年間で0の時もある。多くて2人くらいだった。瑞鶴ちゃんもその頃に来た。あの子と仲良くしてあげてください、と頼んでみた。

 

 

提督さんは電ちゃんがクーリングオフしていてなかなか鎮守府として活動は本格的にならなかった。



そんなある日に、

 


――――彼が、来た。

 

 

第1印象は最悪だった。門前払いをしたかったくらいだ。だって、この人の容姿はフレデリカ大佐と似すぎてる。私達にとっては辛すぎることだ。上もなんでこんな人の着任を許したのだろう。

 

 

大淀さんに頼んで送ってもらったあの人のデータも最悪だった。性格まで似ている気がしたからだ。

 

 

 

だけど、あれ?

 

 

電ちゃんの様子が変だった。


 

――――気に入ってる?

 

 

なら仕方がない。この子のために私も受け入れよう。

 

 

好きになれない。嫌いだ。私が心底自分以外の人を嫌いになったのはフレデリカ大佐とこの人だけだった。

 

 

瑞鶴ちゃんが戻ってきたり

阿武隈ちゃんや卯月ちゃんが帰ってきた。

春雨ちゃんも、生きてた。

鹿島ちゃんも、元気になってた。

 

提督が、連れてきた。


感激だった。


この提督のことは良く分からない。金剛さん達が提督の家に突撃して、判明した電ちゃんの幼馴染みという事実には衝撃を受けた。そしてその手紙の内容で、見方が変化していった。

だけど、よくは分からないままだ。

どこか感情は機械的で事務的だ。本心なのか偽りなのか、霧がかかる。iPhoneとandroidの違いみたいに私には難しい。オーバーヒートしそうだ。



でも、1つだけハッキリ理解していた。



私はこの提督に、嫉妬してた。

なんであなたは私に出来ないことをやってしまえるの。確かに優秀なのかもしれないけど、皆を駒のように扱うのに、どうして。

 

 

どうしてどうしてどうして。

 

 

戦争を終わらせかけるどころか、電ちゃんすらも立ち直っていっている。

 

 

私は、なんなの。

あなたは、なんなんだ?


 

私は、ここにいただけなの?

 

 

 

――――司令官さん、聞こえます、か。



無理、みたいなのです。どうにかなる策、なにか、ありませんか。

 


負けたく――――ない、のです。



――――鎮守府の皆のがんばりに、応えたいのです。


――――お友達の流した血と涙に、


 

――――どうか、勝利を。



――――司令官、さん!




ああ、そういうことか、と思った。

あなたのことを勘違いしていただけなのか。

日々が流れてゆくなかで、あなたの評価はいい方向に変わっていってはいたけれど、どうやら私はまだあの時と同じくぽんこつだ。

 

 

大事なこと、見落としていた。

 

 

電ちゃんは、きっと。

 


私じゃなくて、


 

あなたに会えた時から、

 

 

救われていったんだね。

 


 

この人と本音で話し合いたいって思った。だからその想いが溢れ出した今、飛び出して駆けつけた。


この時の会話を私は一生忘れないだろう。

 

 

「ゴーヤちゃんが着任した辺りで、提督さんが電ちゃんに負傷させられた時、に私と交わした会話は覚えていられますか?」

 

 

「違います、艤装の暴発事故です。ですよね?」

 


じとっとした眼を私は向ける。


 

「そんな風な眼をされましたっけ……覚えていますよ」

 

 

「提督さん、いいました。『あの子、自分みたいなタイプじゃないとやっていけないと思うので』って」


 

「『優しい、んですね』って、私は返したら」

 

 

「『自分がそういう意味で優しいのなら、あの子に司令官とは呼ばれていないと思います』って」


 

「嘘つき」

 

 

「私は『電ちゃんはもともと、優しい子だったんです。責任は、私にあります。あなたよりも、あの子の側にいた大人です』って」

 

 

「私はそんなこと偉そうにいいましたが、何にも出来ていませんでした」

 

 

「だって、私はあの頃あそこにいたのに」

 

 

「電ちゃんが戻ってきても」


 

「踏み込みの怖くて」

 

 

「放っておいて、ただ、そこにいるだけで」


 

「あの子にも合同演習時に、給糧艦とはいえ兵士なのに、私達はこれが普通なのにって」

 

 

「だからお前が嫌いだって」

 

 

「あの時なにもいえなかった。あの子に、なにもしてあげられなかった証拠なんです」

 

 

「私、間宮艤装の適性が出て軍に入りました。来たのは、あんな風に苦しんでいる子達のために、なにかしてあげたかったからなのに」

 

 

「みんな、勇敢に生きてた。でも私はそこにいることしか出来ていなかった。そんな風に考えていた時」


 

「あなたが、着任した」


 

「あのフレデリカ大佐の面影が見えて、私はあなたに酷いことをたくさんいいました」

 


「でもあなたは、次々と人を増やして、その子達は立派に成長していって、今では最強といえるまでの鎮守府にまで育て上げて」

 

 

「戦争の終わりさえ、突きつけた」

 

 

「深くて暗くて冷たい、まるで深海のような時を、皆が命と引き換えに、輝いて燃やして、明かりを灯して進んできた今」

 

 

「ようやく、出口が見えました」

 

 

「この戦いに最後に電ちゃんが、いいましたよね」

 

 

「『この鎮守府の皆のながした涙や血に報いたい』と」

 

 

「きっとあの子はあなたを司令官と認めた日から救われていった」

 

 

「私、今日気付きました」

 

 

「あなたより長く一緒にいたのに、ちゃんと見ることもできていなかった」


 

「私、はっ」

 

 

「なにも、成長してない……!」


 

「恥ずかしい。あの時どの口で、あの子の側にいた大人だから、だなんて、いえたんだろう」

 


「馬鹿だ、私……!」

 

 

そこで、泣いた。


 

提督さんがいう。

 

 

「誤解されている箇所がありますね」

 

 

「自分がそういう意味で優しいのなら、あの子に司令官とは呼ばれていないと思いますといった言葉に、嘘偽りはありません」


 

「少なくとも深海妖精を見つける際において、何隻沈めてでも、誰がどう喚こうが、その場で捨ててまでも、解明する気でしたから」


 

「その後、更に提督の地位にしがみつくために、言い訳まで用意してましたよ。あの時、確かに自分はそういう覚悟で指揮を取っていた」

 

 

「人道とかあの子らの命とか、それと比べたらどうでもよかった」


 

「そういうやつでした」

 

 

「でも、今は違う。心からいえます」

 

 

「戦争している。仲間とか命とから絆とかそんな綺麗事は要らないと思ってた。だけど、戦争している。そういう想いが産まれるのは必然です。それを適当な理由で否定してた屑です」

 

 

「馬鹿は、自分ですね」

 

 

「それと間宮さん」

 

 

「合同演習時ですが、普通に考えてあなたを出すはずがない。あの時は元帥からの強制もありました。しかし、あなたの功績は確かにありました」

 

 

「それに今回だって、そうです」

 

 

「間宮さんを無理に出すこともなかった。自分の無茶苦茶な作戦をよく完遂してくれました」

 

 

「……」


 

「でも、それは間宮さんに限らず皆にも同じことがいえますね。皆の奮戦で勝てましたから」


 

「その、通りです。最後あんなのでしたし、私は、あまり力になれてはいなかったです……」

 

 

「まあ、個人で分析すれば、ぶっちゃけぷらずまさんの力が大きいです。撃沈者の数は凄まじいですからね……」

 

 

「加えていえば、自分の指揮はあの子に頼っています。あの子がいたからこそ、今まで色々な勝利を経てきたわけでして、そう思いません?」

 

 

「……それは、確かにある、と思います。けど、みんなの力です」


 

「そうですね。『みんな』の力です」



「自分も間宮さんと同じミスを犯してた」

 

 

「?」


 

「自分もよく見てなかった。あの子を繋ぎ止めてくれた人がいたんです。気付くのに、大分遅れました」


 

「て、提督さん、ですよね」


 

「ぽんこつか」ビシッ

 

 

「!?」


 

「あの子、どうしてこの鎮守府に留まり続けたか、その理由を探ったことありますか?」

 

 

「それは、前に疑問に思いましたけど、聞いては、いません」

 

 

「間宮さん、ここだけの話ですよ」

 

 

「ぷらずまさんは、向こうのご飯よりも」

 

 

「この場所で食べる間宮さんのご飯の方が美味しかったから、と」

 

 

「……え」

 

 

「あなたの存在はあの子にとって、支えになっていたんです」

 

 

「まあ、あの子の性格的にそれをあなたに伝えないでしょうけど……」


 

「だから、ぷらずまさんから始まったのだとしても、そのバトンを繋いでいたのは間宮さんあなたの力が大きいです」

 

 

「あなたがいたから、あの子はここにいた」

 

 

「あなたがいたから、自分はここに着任する機会に恵まれた」

 

 

「あなたがいたから、皆と出会えた」

 

 

「あなたがいたから、ここは鎮守府としてリスタートした」

 


「あなたがいたから」

 

 

「今の自分達がいるんです」

 

 

膝の力が抜けて、ぺたん、と崩れ落ちた。そっか。そうなのか。あの日に想ったこの場所が綺麗な想い出にならないかな、というすがるような願い。

 


「料理が上手いことで間宮にはなれません」



「そんなあなただから間宮の適性者なんです」



「自分は、そう思います」



私が信じてたことは、無駄じゃなかった。この場所なんてなくなったほうが、良かったのかな、って折れたけど。それでも立ち上がった自分は、無駄じゃなかった。いつの間にか信じてたこと、成してた。

 

 

また、泣いてしまった。

 

 

提督さんが困惑したかのように、おどおどと挙動不審になり始めた。

 

 

「手を貸すので立ってください」

 

 

「あ、ありがとうございま、す。お借り、します」

 

 

――――ぎゅっ。


 

 

「こちらこそ、助けてくれてありがとうございます」

 

 

「ずっと助けてもらっていたこと、心から礼を申し上げます」

 

 

「貴女と出会えて」

 

 

「本当によかった」


 

「ず、ずる、いです」

 

 

「あなたの涙のほうがずるいですから……」

 


この繋いだ手が、全ての憎悪が愛情に塗り替えてゆく。モノクロの景色に綺麗な色がついていくようだ。

 

 

こちらこそ、だ。

 

 

この鎮守府にいてよかった。あなたと、出会えて良かった。私の想いは今、全てが報われた。空だって飛べそうな気分だ。



この人は私に出来ないことをしてくれる。電ちゃんは、きっともう、大丈夫だろう。私もこれからはあの子のことしっかり、見よう。



「ぷらずまさんと本音でお話してきたらどうです。今のあの子ならきっと、答えてくれますよ」



「はい、そう、します」



母のいう誰かのために、の料理の極意を心で学べたかな。今まではもしかしたら、この人と同じで理屈だけだったのかもしれない。皆のことよく見てなかったのと同じく。


 

もう違う。

 

 

だって私は今初めて、母の気持ちを理解できた気がするから。父のために、真心込めていたあの料理のこと。

 

 

私もあんな料理を、

この人にも作ってあげたいな。

 

どうしよう。

この人のこと、好きになっちゃったかも。

 

 

今はまだ声が出なかった。伝えようとしても、言葉にならない。

 

 

私はそれが悲しくて、また泣いてしまう。

提督さんはまたうろたえる。

 

 

ここから先はこの人のために、料理作ってあげたいなって、想った。まだ戦争終わってないのに、なんてことを考えてしまったのか。

 

 

 

ようやく絞り出した言葉が、

 

 

「ごめん、なさい」

 

 

どうしてなんだ。違うよ。

 

ダメだ。私はやっぱり。

 

 

 

 

 

 

 

 

ぽんこつだ。




後書き















【●ワ●:9章終:●ω●】


ここまで読んでくれてありがとう。

10章のお話↓(まだ3ワまでの投下です)

【1ワ●:どんちゃんな騒ぎ】

【2ワ●:フーゾク街にてシャレコウベ】

【3ワ●:海の傷痕:鬼ごっこ】

【4ワ●:海の傷痕:鬼ごっこ 2】

【5ワ●:フーゾク街にてシャレコウベ 2】

【6ワ●:フーゾク街にてシャレコウベ 終】

【7ワ●:海の傷痕:鬼ごっこ 3】

【8ワ●:海の傷痕:鬼ごっこ 終】

【9ワ●:Srot1:史実模倣砲ver艦娘】
 
【10ワ●:イカヅチのカミナリ】

【11ワ●:響とВерный】

【12ワ●:廃課金達による次作戦会議】

【13ワ●:想題Frederica:マリオネット】

【14ワ●:Fanfare.Frederica】

2017.2.21~

次章は分けて投下します。

おやすみなさい……。
_(   _ *`ω、)_スヤア


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1: SS好きの名無しさん 2017-02-28 00:21:18 ID: sPuMvuBp

最高です

2: 西日 2017-03-07 02:49:22 ID: YvxMVrEF

コメありがとう!


このシリーズ書き終わったら、また艦これでなにか新しく書こうかなあって思わせてくれる。艦これ最高です。


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