【1ワ●：例の北方棲姫】

　

　

1

阿武隈「提督、用事というのは？」

　

　

阿武隈「少し眠いです、はい……」

　

　

阿武隈「もうすぐ阿武隈艤装を改造しないとダメな時間ですね……」

　

提督「今作戦がどういうものかは？」

　

　

阿武隈「はい。もちろん理解しています」

　

　

阿武隈「今回は中枢棲姫勢力を滅ぼすのではなく、あの深海棲艦達から情報を得るための作戦だと」

　

　

阿武隈「この鎮守府(闇)と将校全員で取りかかる、今後の戦況を揺るがす大きな戦いです」

　

　

提督「そうですね。では」

　

　

提督「伏せていたことを必要な分だけお話したいと思います」

　

　

提督「わるさめさんからの情報も踏まえて色々と中枢棲姫勢力について調べたのですが」

　

　

提督「中枢棲姫勢力にいる」

　

　

提督「北方棲姫」

　

　

提督「間違いなく、あなたがあのキスカの事件で遭遇した北方棲姫です」

　

　

阿武隈「……」

　

　

阿武隈「それは本当ですか」

　

　

提督「顔が怖いです。まずは落ち着いて深呼吸でもしてください」

　

　

阿武隈「……仇ですよ」

　

　

阿武隈「落ち着いています」

　

　

阿武隈「続きを、早く」

　

　

提督「話すべきではなかったんでしょうけどね、気付かれて暴走される危険性を潰しておきたかったからです」

　

　

提督「あの北方棲姫の全資料です。もともと探ることが出来た情報から、その傾向をストーカー真っ青のレベルで書き記してあります」

　

　

阿武隈「これを渡すということは、そういうことですね？」

　

　

提督「いえ、今回の陣形、自分達とは離れた場所、北方棲姫と交戦するのは甲大将になる、と思います」

　

　

提督「ただあの北方棲姫は激しく動く。これも万が一の時のためにあなた達が北方棲姫を相手することになった場合について」

　

　

提督「旗艦のあなたに教えておくべき情報だと判断しました。すみません、本当に悩んでこのように遅くなってしまいました」

　

　

阿武隈「そうです、か。わざわざありがとうございます。この内容は３時間頂ければ丸暗記しますし」

　

　

阿武隈「絶対に忘れません」

　

　

提督「阿武隈さん」

　

　

提督「今回は卯月さんを出しません。あの艤装は故意的に明石君にメンテを頼んで自分にも知らないところに保管してもらっています」

　

　

提督「そしてこの情報は卯月さんには絶対に教えないでください」

　

　

提督「あなたと卯月さんに暴走されるのは作戦の成功率に影響します。それがかなり恐ろしいので」

　

　

提督「今回は卯月さんを出撃させないことにしました」

　

　

提督「卯月さんはあなたより感情的な部分がありますので。しかし、阿武隈さん、あなたなら聞き分けていただけると」

　

阿武隈「……大丈夫です」

　

　

阿武隈「私を旗艦にした理由は、釘打ち、責任を負わせるためですね？」

　

　

提督「あなたの個人的な私情で第２艦隊全員を危険にさらします。それがどういう意味かは分かりますよね？」

　

提督「自分は卯月さんの後にあなたもスカウトするつもりでした。卯月さんを引き込んで協力してもらおうと」

　

　

提督「あなたをスカウトした理由ですが」

　

　

提督「いずれこの鎮守府(闇)の第１艦隊旗艦を任せたいと思ったからです」

　

阿武隈「龍驤さんのほうが優秀だと思います。全員生還の指揮も出来ますが……」

提督「そうですね。だから龍驤さんを旗艦にして自分も勉強させていただいております」

提督「ですが、彼女とあなたには違いがあります」

提督「海から逃げたか否か。ずっと海から背を向けなかったか否か」

阿武隈「どう考えても強いのは龍驤さんです」

提督「いえ、自分はそうは思いません。どちらかが優れている、とかそういう話ではないので」

提督「どちらが旗艦として上に行けるか。そこです。その点だけは今の阿武隈さんが龍驤さんに勝っているところです」

提督「一言でいうと、期待です」

提督「なので、お願いします」

　

　

提督「作戦や艦隊メンバーを」

　

　

提督「あなたの私情に巻き込まないようにこの場で誓っていただきたい」

　

　

阿武隈「あたしの勝手に巻き込まないよう、この場で誓います」

　

　

提督「……、……」

　

　

提督「そんな顔をしていませんけど」

　

　

提督「信用させていただきます」

　

　

提督「自分からは以上ですね。卯月さんには決して悟られないように」

　

　

提督「なにかあれば阿武隈艤装をぶち壊してまでも、無力化し、あなた一人の命を捨てます。自分はそれができる人間ですので」

　

　

阿武隈「了解しました。この資料はもらっていきますね」

　

　

阿武隈「それでは、失礼します」

　

　

――――ﾊﾟﾀﾝ

　

　

提督(作戦、考えないと……)

　

　

提督(あの感じ、やっぱり年頃の子供の面もありますね。暴走、なきにしもあらず……)

　

　

提督(わるさめさんのこともやらなきゃいけないし……ぷらずまさんに頼んで作ってもらった……)

　

　

提督(……暗号も駆使しなければ)

　

　

提督「中枢棲姫勢力……あの時の借りは返します」

　

　

提督「きっちりと土産は用意してあげないと……」

　

　

提督「時間が足りない……」

【2ワ●：中枢棲姫勢力、前夜の祭】

　

1

レ級・ネ級「……」

　

　

リコリス棲姫「今のが私からあなた達に教えておくべきことね」

　

　

レ級「……そうかよ」

　

　

ネ級「悲しい。聞きたくなかった」

　

　

リコリス棲姫「あなた達は薄々察してはいたけど、確信を持ちたくなかったのでしょう」

　

　

リコリス棲姫「子供のように振る舞って、毎日を楽しそうにしていたのだもの」

　

　

レ級「そうだね。気づいていなきゃおかしい」

　

レ級「深海棲艦なんだから」

　

　

リコリス棲姫「真実を知ったって、そのままでいい。無理に変わる必要なんてないわ」

　

　

リコリス棲姫「深海棲艦であることは関係ないのだから」

　

　

リコリス棲姫「困難は多いわ。だけど、あなた達はあなた達の思うように生きることが出来る」

　

　

リコリス棲姫「願わくはあなた達が」

　

　

リコリス棲姫「それぞれ理想の散り様に殉じられることを、今宵はあの丸いお月様とこのお花に祈りを捧げようかしらね……」

　

　

レ級「……僕らからも」

　

　

ネ級「皆のために祈る……！」

　

中枢棲姫「レ級、ネ級、作戦お疲れ様でした。将校の兵士と話をしたのなら、こちらの確かな価値を把握してもらえたかと思います」

　

　

リコリス棲姫「あなたもあだ名で呼んであげてよね。最後の夜になるかもしれないんだから」

　

水母棲姫「……いい話の最中に失礼するわね」

　

　

水母棲姫「なんとか引き上げて来たわ。頭のいい潜水棲姫いればいいのだけど、低級のザコだとなかなかスムーズに行けないわ」

　

　

中枢棲姫「深海棲艦を使わずともあなたの特殊艤装で」

水母棲姫「そっちのが疲れるから嫌よ」

リコリス棲姫「その、残骸」

　

　

レ級・ネ級「センキ婆！」

　

　

リコリス棲姫「スイキちゃん、ありがとう。私のワガママを聞いてくれて」

　

　

水母棲姫「死んでるけどね。核の艤装からセンキを形成していたものが失われてると思う。深海妖精で作って直しても、センキではないんじゃないかしら。本当にただの残骸よ」

　

　

水母棲姫「ま、リコリスのセンキのお墓くらいは作ってあげたいってのも分かるから、一応ね。一応よ？ 私はどーでもいいけど」

　

　

水母棲姫「よく分からないけど。変よね。バグってるのを実感する」

　

　

水母棲姫「おまけに最近になって」

　

　

水母棲姫「水上機母艦水穂の頃の記憶もまたまた思い出したのよねー……」

　

　

水母棲姫「私を弄びやがった丁准将ぶち殺してやった時の……」

　

　

水母棲姫「あー、腹立つ……」

　

中枢棲姫「……リコリス、レッちゃんにネッちゃん、スイキも」

　

　

中枢棲姫「あの子が軍に寝返り、与えた情報のアジトを襲撃してきたのは、恐らく深海妖精を陸地に誘えていないからです」

　

　

中枢棲姫「……」

　

　

中枢棲姫「ですが、それだけに向こうは私達に接触し、情報を求めに来ます」

　

　

中枢棲姫「鹵獲もあり得ますが、こちらが協力を求めたがっているというのも、どなたかは気付いてはいると思います」

　

　

中枢棲姫「その動きが軍として出ています。前に情報のやり取りが出来た司令官は保身のため、こちらの要求を濁し続け、我々は見切りをつけました」

　

　

中枢棲姫「秘匿、となるでしょうが、今度は軍そのものと協力できる可能性もあります」

　

　

中枢棲姫「温存していた深海妖精の情報をすべて渡してでも、こちらの欲しい情報を向こうから探り、入手します」

　

　

中枢棲姫「その場合、向こうの組織としての存在意義を考えますと」

　

　

中枢棲姫「我々はこの決戦で」

　

　

中枢棲姫「今まで犯してきた敵対行動の償いを避けては通れません」

　

　

中枢棲姫「彼等が降りあげた刃を、どこかに降り下ろさせてあげなければなりません」

　

　

中枢棲姫「この組織の頭である」

　

　

中枢棲姫「私かリコリスですね」

　

　

中枢棲姫「その首を土産にします」

　

中枢棲姫「両方を差し上げはしませんが、どちらかの首は落ちるでしょう」

　

　

水母棲姫「そうねー……」

　

　

ネ級「絶対ダメ……！」

　

　

レ級「ネッちゃんのいう通りだよ！ そんなのずるいだろ！」

　

　

レ級「人間はたくさんいるからいいさ！ でも僕らはこのメンバーしか仲間がいない！ あいつらと違うんだ！」

　

　

レ級「この世界でこの５人しか、家族がいないんだぞ！？」

　

　

中枢棲姫「レッちゃんネッちゃん」

　

中枢棲姫「最低、一人の首です」

　

　

中枢棲姫「闇丙乙甲連合艦隊。最悪、全滅すらあり得ます」

　

中枢棲姫「全滅しないよう、最小限の被害で済むよう頭を回したつもりです」

　

中枢棲姫「期待に応えられず申し訳ありませんが、お約束します」

　

　

中枢棲姫「誰一人として」

　

　

中枢棲姫「無駄死にはさせません」

　

レ級「チューキさんはほんとにズレてんな！ そーいうことじゃねえだろ！」

　

ネ級「大馬鹿……！」

　

リコリス棲姫「聞き分けなさい？」

　

　

レ級・ネ級「……！」

　

　

リコリス棲姫「仲間として家族として生きる日々は終わったのよ。私達の使命がある。それを理解できるはず」

　

　

リコリス棲姫「子供のまま、遊び続ける日々は終わりを迎えたの」

　

　

リコリス棲姫「目的を持った組織としてやらなければいけないの」

　

　

リコリス棲姫「あなた達がワガママいっても止まらないわ」

　

　

リコリス棲姫「成長、しなさい」

　

　

リコリス棲姫「チューキや私に未練を持たせないでよね」

　

　

リコリス棲姫「また化けてこの世に出させる気なんて、不孝過ぎるわ」

　

　

リコリス棲姫「それはあなた達だって嫌なことでしょう」

　

　

リコリス棲姫「泣きそうよ、私」

　

　

レ級「………ママ」

　

　

ネ級「なら、今日は甘えようと思います……！」

　

　

リコリス棲姫「仕方ないわねー……」

　

　

リコリス棲姫「あ、そうだ。なんか懐かしくて持っていたんだけど、おにぎり食べる？」

リコリス棲姫「腐ってるけど、嫌がらせのつもりではないからね？」

レ級「もらうよ。分かる」

ネ級「心。銀紙で包んでくれてるし、レッちゃん＆ネッちゃんって名前もマジックで……！」

リコリス棲姫「もー」

リコリス棲姫「本当に可愛いんだからー……」

リコリス棲姫「それ食べて元気出したらセンキのお墓を作りましょうね」

2

　

　

中枢棲姫「寝ましたか」

　

　

リコリス棲姫「寝かしつけてきたのよ」

　

　

水母棲姫「あの二人はガキよねー。わるさめとよくはしゃいでいたけど、あの３人ではわるさめが一番大人だったと思う」

　

リコリス棲姫「あの子も元気だといいのだけど……こちらを探ろうとしていたからあまり優しくしてあげられなかったわ」

　

　

リコリス棲姫「悲しいわね。あの子だって被害者なのに」

　

　

水母棲姫「……あいつは向こうで元気だと思う。コミュ力あるし」

　

　

中枢棲姫「正直あの子はもう少し頭が回ると思っていました。気分でムラがあるのは承知でしたが……」

　

　

水母棲姫「センキを撃沈、よりも寝返りの手土産として鹵獲しろってことで切り離したのにね」

　

水母棲姫「やっぱりあいつに口で伝えずそこまで要求したチューキの落ち度ね」

　

　

中枢棲姫「返す言葉もありません」

　

　

水母棲姫「時々すごい大人な１面見せてたけどさ、あいつはやっぱりどちらかといえばネッちゃんとレッちゃん寄りよ」

　

　

リコリス棲姫「あの子いじめられていないかしら。心配だわ」

　

　

水母棲姫「大丈夫だって……」

　

　

水母棲姫「はあ。割と話が合うセンキが死んでから私も暇だし。まあ、こんなこといえるのもなんだか変な感じ」

　

　

リコリス棲姫「奇跡よね」

　

　

水母棲姫「そうねー。こんな風に物を冷静に考えて、緻密な作戦を立てて」

　

　

リコリス棲姫「私達が出会えたことよ。もとはバラバラだったでしょう。先に軍に捕まらず、私達はこうして出会えた」

　

水母棲姫「そりゃ深海棲艦同士だし、みんな右往左往しながらも、この異常事態は把握していたし、少なくともここまで物を考えられたら向こうサイドには行かないし、知能は隠すでしょーよ」

　

　

中枢棲姫「出会えたことは天文的確率だと思います。ここまでこうして生きてこられたことも含めて」

　

　

水母棲姫「この面子のなかでは私が一番の新参だし、深海棲艦の過去なんて聞きたくないわね」

　

　

水母棲姫「ハッピーエンドなんてないし」

　

中枢棲姫「そうですね。私達は必ずやこの星から消え去るでしょう。人としては生きられません」

　

　

リコリス棲姫「結末が最悪でも、その過程に生きていてよかった、とそう思えるなにかと出会えればいいのだけど」

　

　

水母棲姫「……私の口からいうわね」

　

　

水母棲姫「レッちゃんとネッちゃんのことは任してくれていいわ。あなた達のどちらかが先に逝っても、あの子達は私が出来る限り面倒見てあげる」

　

　

リコリス棲姫「よろしくね」

　

　

中枢棲姫「感謝します。私は皆さんと出会えてよかったです」

　

　

中枢棲姫「それとスイキ、念のための建造のほうは終わっていますよね？」

水母棲姫「終わってるわよ。またあれ埋め込むの嫌だったけど、肉に撃沈艦救出用の装備は埋め込んで本体と繋げてある」

水母棲姫「でも死んだやつは捨てるわよ。鹿島の時みたいに死体を運ぶのは嫌だからね。味方でも嫌。私は霊柩母艦じゃないんだからね」

中枢棲姫「懐かしいですね。わるさめさんを拉致した時の作戦ですか」

水母棲姫「あんたは鹿島の顔を見てないからそんな風にいえるのよ。お願いだから止めて、持って行かないでって泣き叫ばれた時、深海棲艦なのに心が壊れそうになったわよ……」

中枢棲姫「申し訳ありません。あれは私の策が甘かったです」

水母棲姫「そこら辺もなんとか出来ればあんたは最高の軍師なんだけどね。ま、深海棲艦だし、最高でなくても、最強であればいいのよ」

中枢棲姫「リコリス達は？」

リコリス棲姫「私はネッちゃんと同じく耳ね。レッちゃんは目のほうを」

水母棲姫「深海妖精ほんとに便利よね。でも、向こうサイドは艤装を弄れるんだっけ」

リコリス棲姫「そうね。私達の場合は艤装があくまで基だから変に弄ると、どんな後遺症出るか分からないし、リスク的にやるべきではないわ」

リコリス棲姫「まあ、向こうサイドと反して外付けの肉体を気軽には弄れるのはいいけれど」

リコリス棲姫「あくまでこの決戦に備えて、よ」

中枢棲姫「上手く事が運べば」

　

　

中枢棲姫「夢の終わりの始まりです」

　

　

中枢棲姫「しかし、明日に夢を見るのは止めておいてください」

　

　

中枢棲姫「明日に希望を抱き、今日を捨てるなど愚者の思考です」

　

　

水母棲姫「ま、私は割と気楽だけどね。人間の時よりしがらみがなくて楽よ。人間じゃないし人間賛美をする気はないわねー……」

　

　

リコリス棲姫「分かる。ずいぶんとくだらないことで悩んでいたと思うもの。後悔と、懺悔だけどね」

　

水母棲姫「リコリス棲姫っぽくはないわよね。リコリス棲姫って他の個体的にママより女王様みたいなイメージがあるわ」

水母棲姫「『フ……トンデキタリ……ウッテキタリ……イソガシイモンダナ……』」

リコリス棲姫「ちょっと止めてよ……」

水母棲姫「……そういえばこの間、お酒持ってきてあげたでしょ」

　

　

水母棲姫「今日は酌してあげるわよ。このスイキちゃんが」

　

　

中枢棲姫「あなたがですか。珍しい」

　

　

水母棲姫「うるさいわね……」

　

　

リコリス棲姫「ふふ、そういえば、ネッちゃんとレッちゃんも基地から拾ってきたって」

水母棲姫「なにその小さくて丸いもの。銀紙にマジックで」

水母棲姫「『リコリスママ、チューキさん、スイキさん』ってあるけど、もしかして私達へのプレゼントかなんかなわけ？」

リコリス棲姫「中身は……米粒、おにぎり？」

中枢棲姫「その銀紙、裏の方に『レッちゃん＆ネッちゃん』とありますので、先程リコリスがあげたものでは……」

リコリス棲姫「もー……私達のために残してくれたのね。可愛い過ぎるー……」

水母棲姫「私はいらないわ。臭いもきついし、もはやそれ汚物じゃない……」

リコリス棲姫「ダメ。あの子達の気持ちを無下にするのは私が許さないからねー？」

水母棲姫「……分かったわよ」ﾊﾟｸｯ

水母棲姫「……お、美味しいわ(震声」

リコリス棲姫「私も食べるー。うわ、まっず」

水母棲姫「おいコラ」

リコリス棲姫「でも心が温かくなったわ」

リコリス棲姫「ほら、チューキも」

中枢棲姫「……いただきます」

リコリス・水母棲姫「……」

中枢棲姫「問題はありません」

水母棲姫「あんたはそーいうやつよね……」

中枢棲姫「い、いえ、心は伝わりますよ」

中枢棲姫「この残りは」

リコリス棲姫「センキのお墓ね」

水母棲姫「潔癖気味だったセンキに汚物供えるとか死んだ時、ねちねちいわれるわよー……」

【3ワ●：決戦開始】

　

　

1

　

　

丙少将「そんなことはどうでもいい、と思ってる」

　

江風「はあ？ レ級と接触して深海妖精を抑える手段が欲しいっていってたって教えてやったのに？」

　

　

江風「お前ら身内まで送りつけてあの提督のやることなすこと注視してるじゃん」

　

丙少将「聞くが、あの男が地位や名声欲しさに動いているように見えたか」

　

江風「そーいう欲はなさそうに見えたぞ」

　

　

丙少将「なら、何のために動いている」

　

　

丙少将「この戦いを終わらせるため以外にあるか？」

　

　

江風「むー……」

　

　

丙少将「その一点は信用してもいい。まあ、逆に言えば信用できないともいえるんだが」

　

　

江風「？」

　

　

丙少将「終わらせるためなら裏切りも視野に入れそうだしな。断じて軍に魂を捧げてはいないだろ」

　

　

丙少将「軍は目的のための手段だよ」

　

　

丙少将「だから、あいつは大人しくさせておくべきだと思うんだが、乙さんも甲さんも好意的みたいだ。だから、嫌いの目で見るのは俺の役割かな」

丙少将「軍や人類のためになった、はただの結果的なことに過ぎんのだから、いつ害が出るか分かったもんじゃないだろ」

　

　

江風「まあ……一理あるが、厳しいねえ……」

　

　

丙少将「深海妖精の１件は甲さんを支持するがな。あいつは評価されるべきだ」

　

　

丙少将「人体実験だからどうのこうのだっけ？ 確かに俺個人としても許せねえけど、軍がいう分には笑っちまう」

　

　

丙少将「上も電を利用するために、あいつを着任させたし、兵士に死ね、という命令だってする。上はあいつを良い駒だと思ってるよ」

　

　

丙少将「電と春雨の手綱が握れる。あいつほどやりたいが、やれないことを仕事してくれるやつはいないだろ」

　

　

丙少将「それこそ艦娘を実際に殺しかけて沈めた例の実験とかな」

　

　

江風「……あー、なるほどー」

　

　

丙少将「俺には元帥に踊らされているようにしか見えん」

　

　

丙少将「知ったことか、といわんばかりに淡々と進む精神は嫌いではないが……」

　

　

丙少将「馬が合わねえやつっているだろ？」

　

　

江風「だね。丙ちゃんって後輩のこと思ったよりちゃンと見てんだね」

　

　

丙少将「闇とはけっこう近いんだぞ。後ろから刺してきそうな相手を見ないほど、俺は楽観的じゃないだけだ……」

　

　

丙少将「今回、向こうの幹部、海屑艦隊のメンバーは分かりやすい優先事項であり、功績だ。俺も機会があれば接触に行くが」

　

　

丙少将「やはり情報を得るための今作戦の遂行において電とわるさめのいるあそこを支援するのが手っ取り早い」

　

　

丙少将「リコリスか中枢棲姫、この二人に接触するための作戦といっても過言じゃねえ」

　

　

丙少将「ある程度はあいつんとこの道を舗装してやるさ。全体的な被害を最小限にしてな」

　

　

丙少将「甲さんだからぐちぐちと細かいことはいわれてねえけど、それが俺の任務だ」

　

丙少将「どこが接触しても中枢棲姫とリコリスとの会話は元帥、将校、そして大淀さん、軍の上部にも伝わる通信システムにしてある」

　

　

丙少将「見ろよ、これ」ﾊﾟﾗ

　

　

江風「規約書類かこれ」

　

　

丙少将「そうだな。敵は会話が出来たとしても怨敵である深海棲艦だ。意思疏通したとしても、今回参加する兵士も司令官にも『情報のライン』が設定されている。これを破りゃ」

　

丙少将「対深海棲艦海軍の軍法会議」

　

　

江風「江風は賢いほうじゃないけどさ、深海棲艦にあのレベルの頭がいるとなると下手な情報を与えるわけにはいかねーってのは分かるよ」

　

　

丙少将「ここにおいてあいつは遵守するとは思えねえのが怖いんだよな」

　

　

江風「そン時ゃそン時だ」

　

　

丙少将「それにいうべきことじゃねえが、俺はぶっちゃけ中枢棲姫勢力ともう戦いたくねえ」

　

　

江風「はあ？」

　

　

江風「丙ちゃんが優しいのは知ってるけど、深海棲艦相手になにをいってンのさ？」

　

　

丙少将「人間並の知能、それを踏まえてもう１度データを調べると、俺には深海棲艦には思えないからだよ……」

　

　

丙少将「どうしてもこいつらが」

　

　

丙少将「人間に見えちまう」

　

　

丙少将「この戦いは人類同士ではなく、化物退治であって欲しかった。俺が軍に入る前はインデペンデンス・デイとかエイリアンとかの映画みたいに侵略から人類を守るイメージ持ってた」

　

　

丙少将「今もあんまり変わらねえ。だからやれてきた面もあんだよ。多分そこが今の俺の」

　

丙少将「限界なんだと思う」

　

　

丙少将「ゲームで無限沸きするゾンビぶち殺す感覚に等しかった。だからそんなやつらをどうこうよりも」

　

　

丙少将「第１に人間の命を尊べた」

　

丙少将「これから先の海に行くためにここはきっちり乗り越えてかねえと」

　

　

江風「きひひ」

　

　

江風「大将には及ばねえけど、やっぱり丙ちゃんいいな。そういう人間臭さは江風達も理解してあげられるよ」

　

江風「そこンとこ、あの提督は人間味があんまりねえからなー……」

　

　

丙少将「江風もあそこには好かんやつが一人はいるし、レ級に借りがあるんだろ。お前はあいつらに尽くせるか？」

　

　

江風「……正直、電やわるさめよりも、面を見たくねえのはいる」

　

　

江風「いるんだろ」

　

　

江風「秋月」

　

　

丙少将「あー、着任しただろ。今回は支援艦隊として組み込まれてたはず」

　

　

丙少将「そっか。あの秋月の後釜のやつだもんな。甲さんが声かけなかったのはそのせいか」

　

　

江風「うちの秋月は一人でいーンだよ。今年は山風が来たし充分だ。明石には声かけたかったみたいだけど、例の欠陥でセットだからな」

　

　

丙少将「……」

　

　

丙少将「お前もガキなとこあるよなあ……」

　

　

江風「認めたくないけど、自覚はしているよ。だけど欠陥っていうほどじゃねえし」

　

　

丙少将「……今回最もやる気があんのは闇連中だ。わるさめは微妙だが、電は必ずやる気満々で出てくる」

　

　

丙少将「江風、下手に手を出して邪魔をしたら、恐らく」

　

　

丙少将「お前だろうと沈むぞ」

　

　

江風「そーいうの嫌い。相手が強い。それが負けるっつー絶対的な理由にはなンねえだろ」

　

　

江風「江風は強い。弱くても、そう吠える」

　

　

丙少将「姫と鬼のパレードだぞ？」

　

　

江風「大丈夫、暴走した時は任せろー。球磨型以外には負ける気はしないよ」

　

　

丙少将「気合いはあるよなあ。なら、お前にはそうだな、こういおう」

　

丙少将「好きにやっていいぞ」

　

江風「了解」

江風「……つかさー、あいつら味方だよなー。なンでこの大一番に味方倒す話しなきゃなンないの……」

　

　

丙少将「俺や乙さんのところ出身はともかく、あいつらはあの提督の指揮に従ううえ、個々の欠陥的な部分が重なって全体的にピーキー、扱いずらいんだよ」

　

　

丙少将「まあ、江風のいう通りだよ」

　

　

丙少将「俺も味方に殺されるとか、その時はなんとか止めるとか、そんなん作戦開始前に話したの初めてで戸惑ってるわ……」

　

　

2

　

　

阿武隈「第２艦隊旗艦阿武隈、編成艦隊の抜錨準備完了しました！」

　

　

阿武隈「いつでも行けます！」

　

　

提督「……了解です」

　

　

榛名「第一艦隊旗艦榛名です。こっちの編成艦隊の抜錨準備も終わりました！」

　

　

金剛「ヘイ榛名！ 古参組を差し置いての栄光ある第１艦隊の旗艦デース！」

金剛「私は異常事態時の戦艦戦力として鎮守府に残りますが、金剛型のラヴ＆パワーを中枢棲姫勢力と将校に見せつけてきてくだサーイ！」

榛名「もちろんです！ 金剛お姉様！」

榛名「榛名！ 全力で参ります！」

わるさめ「納得いかねっス……」

　

　

わるさめ「なんで第１艦隊の旗艦がハルハルなのお。わるさめちゃんもこの鎮守府の旗艦やりたーい。司令官さんの愛が欲しーい」

わるさめ「幹部接触の大役もどーしてわるさめちゃんじゃなくて、ぷらずまのやつなのお？」

　

　

わるさめ「海屑艦隊のことはわるさめちゃんのが詳しいのにー……」

　

　

ぷらずま「●ワ●」ﾊ？

　

　

ぷらずま「お前、乙中将と遊んだ時にお前の気分で司令官さんを悩ませたこと忘れたのです？」

　

　

ぷらずま「司令官さん、どうやらこのダボは更年期傷害のようなので出すのは止めたほうがいいと思うのです」

　

　

わるさめ「●ω●」ｱ？

　

　

ﾄﾞｺﾞｯ

　

　

初霜「クロスカウンターが……」

　

　

秋津洲「あたしの晴れ舞台でケンカは止めて欲しいかも！」

　

　

ぷらずま「まあ」

　

　

ぷらずま「この鎮守府(闇)に」

　

　

ぷらずま「いまだ敗北はありません」

　

　

提督「まあ、今回はわるさめさんにそう大した責を与えてないので。わるさめさんはぶっちゃけ扱いづらいです」

　

　

わるさめ「今晩、確かめて？」ﾂﾂｰ

　

　

わるさめ「わるさ……春雨は、ベッドの上では従順なんですよ……？」

提督「そういうところが、です」ﾁｮｯﾌﾟ

　

　

提督「すでに伝えてありますが、今一度」

　

　

提督「第３艦隊はぷらずまさんとわるさめさん。ここは特殊な任務、そしてメインです」

　

　

提督「第４艦隊は初霜さん、金剛さん、卯月さん、ゴーヤさん、鹿島さんも」

　

　

提督「ほぼないとは思いますが、鎮守府(闇)の防衛と、緊急事態に備えて必要と判断したら抜錨させます」

　

　

龍驤「うちもそのほうがええと思うー」

　

　

提督「わるさめさんの件もありましたからね。異常事態の場合は第４艦隊をメインに、それでも足りなければ支援艦隊を無理に動かします」

　

提督「そして旗艦ですが、第１艦隊の榛名さんが撤退含めトラブルが起きた場合、龍驤さんに引き継ぎ、第２艦隊は阿武隈さんから瑞鳳さんに引き継ぎます」

龍驤「了解やで」

瑞鳳「分かりました。しかし、事前に申し上げた通り、私の旗艦経験は少ないので、出来る限りの」

　

提督「フォローはします。しかし瑞鳳さんの素質自体は旗艦適性は強いです。それとうちのような新設の鎮守府、連携も十分とはいえない艦隊です。瑞鳳さんの経歴的にも、うちの旗艦はこなせるかと」

瑞鳳「まあ、雷さんほどではないとしても色々異動して様々な鎮守府で活動してましたからね……」

瑞鳳「連携の不安面は私につきまといましたし、そこに関する皆の動きはある程度は把握してフォロー出来るとは思います」

提督「お願いします」

提督「そして暁さん、響さん、雷さん」

提督「今回は護衛、対潜、対空、駆逐艦としての機能をフル回転させて、場合によっては撤退艦の帰投護衛、単艦戦力で動く場面も予想されます」

提督「そして今回自分は中枢棲姫勢力幹部との質疑応答、そのための作戦ですから、代理の司令官として初霜さんにも残ってもらいますが、あなた達の活動が艦隊の継戦能力に直結すると」

暁「大丈夫っ！」

響「そうだね。私と暁、陽炎さんと不知火さんは駆逐艦としての基礎を徹底されてる」

不知火「丙さんらしいです」

陽炎「あの人、艦隊のお守り代わりに雪風とかプリンツを入れてたわねー。ここ来てから目まぐるしくてもう懐かしい記憶ですらあるわ」

提督「雷さんも、頼りにしていますよ」

　

　

雷「！」

　

　

雷「ま、まっかせなさい！」ﾌﾝｽｯ

　

　

秋月「お兄さん！ 秋月にもな、なにか！」

秋津洲「あたしにもー！」

明石「今回の俺の仕事はガキのお守りかなー」

提督「秋月さんは防空に関してはさすがの一言に尽きます。明石君の回避性能のお粗末さは自分よりもご存じかと思うので、よろしくお願いしますね」

提督「秋津洲さん、あなたの二式大艇は支援艦隊の重要な索的です。あなたの艤装、装備は魔改造せずとも個性が強く、訓練とともに大きな武器となり得ますので、死に物狂いで経験を積んでください」

提督「秋月さん秋津洲さん、明石君は海上で兵士を直せる技術を有しており、これは死ぬはずの味方を救うどころか、継戦すらさせられます。存在自体が味方の士気上昇に貢献します」

提督「その代わり、沈めば反動も凄まじいです。ここら辺は給糧艦の間宮さんが沈む、といえば分かって頂けると思います」

提督「秋月さん、秋津洲さん、支援艦隊ですが、あなた達はかなりの責を担っていることを忘れずに、明石君のフォローお願いしますね」

提督「将校艦隊ですら出来ない仕事を担っていると自覚して気を抜かないように」

秋月「アッシーについては日常的にフォローしてましたので、お任せください！」

秋津洲「大役。感動で泣きそうかも～……」

提督「明石君もお二人に頼るだけではダメですよ。その改造アンカー弾、用途は様々で回避にも応用できるのですから」

明石「大丈夫だよ。アッキーみたいな欠陥あるわけじゃねえし……」

秋月「あります。明石のお姉さんと山風ちゃんからもいわれてましたよね？」

明石「うるせえ。それは俺より明石の姉さんのほうが酷いだろ。愛の鞭かなんかは知らんけど」

提督「明石君の場合は役割を考えると、あなたの短気は大きな欠陥です。海のように深く穏やかな心をお持ちください」

明石「……うす」

提督「それでは第１、第２、第３、支援艦隊は」

　

　

提督「海に」

　

　

一同「ﾋﾞｼｯ」

　

……………

……………

……………

卯月「……へっ」

提督「やさぐれてますね……」

卯月「ゴーヤにも頼んで探すの手伝ってもらってるんだけどー……」

提督「……」

卯月「うーちゃんの艤装どこぴょん？」

提督「あー……」

卯月「しれいかぁ～ん！」

卯月「今日は一段とうっざぁ～い～！うっそぴょんのうっそぴょ～ん、あははは～♪」ω･)凸

提督「今回は待機組として残ってください」

卯月「夜に司令官に呼び出されてからのアブーの様子が変だぴょん。その件について憲兵呼びたいんだけど、なんか酷いことした？」

提督「いいえ」

卯月「……理由はまだよく分からないけど」

卯月「いざとなったら奥義懐中電灯３つ装備で海へ戦に出るぴょん」

卯月「司令官も」

提督「意味が分からない……」

卯月「……北方棲姫？」

卯月「まさか、あの北方棲姫とか？」

提督「……いいえ」

卯月「なるほど、うーちゃんもなめられたものだぴょん」

卯月「うーちゃんはゴーヤと精神統一してるからなにかあれば館内放送使って呼ぶぴょん。なにかあれば、は分かるよね？」

卯月「アブーが暴走して北方棲姫と戦った時だぴょん。うーちゃんの声はきっとアブーの助けになるし」

提督「あなたは大人びてますね……うっそぴょんが怖いので出しはしませんが、まあ」

提督「了解です」

3

　

　

日向「敵水雷戦隊、沈めたが……」

　

　

伊勢「数が多い、ね。倒しても倒しても沸いてくる……拉致が明かない」

　

日向「レ級とネ級はこちら側にいるものの、明らかに鎮守府(闇)のほうを意識してるな」

　

　

伊勢「まあ、膠着しているのは今だけで丙さんの読みでは」

　

　

伊勢「あそこが右の戦線をこじ開けに来るみたいですから、それまではきっちりと敵数を減らしておきましょう」

　

　

日向「待て。通信だ」

　

　

日向「……了解。中央のほう」

　

　

日向「戦線をすごく押し上げてるとさ」

　

　

伊勢「乙中将かな」

　

　

伊勢「ま、誰でもいいよ。レ級やネ級は向こうに任せて狙うは同じく優先度の高いあの陸地にいる中枢棲姫、リコリスに繋がる道を」

　

　

伊勢「なるべく舗装してあげないと」

　

　

伊勢「甲さんと乙さんの艦隊も楽にしてあげなきゃだから」

日向「敵を倒しまくればいい」

4

　

　

レ級「うわ、中央の重巡棲姫が押されてる。つうかあの艦隊なにさ。得意な長距離砲撃せずにひたすらガンガン突進してるんだけど、怖っ」

　

　

ネ級「ネッちゃん達も押されてる……！」

　

　

ネ級「例の鎮守府の連中に」

　

　

レ級「とりあえずまだ持つでしょ。あの孤立上等の中央艦隊からお望み通り相手してあげようよ」

　

　

レ級「余計なやつらが本陣に行かないよう僕らも別れたほうがいいかも」

　

　

ネ級「へへ」

　

　

ネ級「ネッちゃん達、人気者！」

　

　

5

　

　

江風「ん、この反応、レ級か」

　

　

江風「まあ、見つけたならしゃーなし、あん時のリベンジしに江風が怒濤の勢いで」

　

　

江風「魚雷発射……ああ！？」

　

　

ﾄﾞｵﾝ！

　

　

わるさめ「●ω●」ｵｯｽ

　

　

わるさめ「あれは渡さないゾ？」

　

　

江風「味方に砲撃とか正気かテメエ！」

　

　

わるさめ「負けてもあいつだけは渡さないというのがこちらの優先なのだよ！」

　

　

江風「バーカ、今回の作戦の趣旨は知ってンだろ」

　

　

わるさめ「アーホ、お前がレッちゃん＆ネッちゃんの相手だなんて役不足だっつの」

　

　

わるさめ「これはマジでわるさめちゃんからの優しさ。球磨型の艦隊引き連れてこねーと死ぬぜー」

　

　

　

わるさめ「それと、司令官から伝言」

　

　

わるさめ「なんでもするといったあの約束は今ここで」

　

　

わるさめ「内容は海屑艦隊幹部に関わるな、だってさ」

　

　

わるさめ「約束、守ってくれる？」

　

　

江風「…………」

　

　

江風「……ふざけてンの？」

　

　

わるさめ「あの司令官にそんなユーモアあればいいっスね……」

　

　

わるさめ「約束破るならどうぞ、ともいってたなー。まあ、お前はその程度の気軽な気持ちでなんでもする、とかいっちゃう」

　

　

わるさめ「約束の１つも守れねえダサ女☆」

　

　

江風「……恥は忍ぶし、詫びる」

　

　

江風「丙ちゃんからも、お前らに協力っていわれてンだ。その範囲で好きに動いていいとも」

　

　

江風「だけど、気楽に散歩して黙って見てろ……？」

　

　

江風「捕獲でも会話でも首でもお前らに従うよ。これでいいだろ。あのレ級には借りがある」

　

　

わるさめ「これだから甲のヤンキー姉ちゃんのところは……」

　

　

わるさめ「なんも分かってねえ。邪魔だから手を出すなって」ｼﾞｬｷﾝ

　

　

わるさめ「見ている場所が違う。お前らの見ている景色に繋がる道を作るの。お前らは我慢してそのために私達の道を作るの」

　

　

わるさめ「話を聞く限りー、丙のやつは分かっているみたいだけど？」

　

　

わるさめ「ここから先は進ませないよー。このわるさめちゃんの屍を乗り越えて行けって感じかな」

　

ぷらずま「江風さん、邪魔なので大人しくザコに従事しているか、わるさめさんとやり合っていればいーのです」

　

　

ぷらずま「５分は止めておいてもらえるとこちらも助かりますが」ｽｲｲｰ

　

　

わるさめ「春雨ならまだしもこのわるさめちゃんが江風程度に負けるわけないじゃん」

　

　

江風「テメーらだけに任せンのは怖えンだよ」

　

　

わるさめ「まろーんっていわせてやるぞー」

　

　

江風「……しゃーなし」

　

　

江風「恨みっこなしで」

わるさめ「おーう！ 後腐れなしの割り切った付き合いで夜露死苦！」

　

【4ワ●：勇気はあるかい？】

　

1

　

レ級「大破撤退する艦隊多いなー」

　

　

ネ級「押されてる。作戦で、数が」

　

レ級「全てチューキさんの予定通りの順風満帆だけどねー……」

　

　

レ級「まあ、ぷらずまかわるさめが会いに来るまでは退かないけどね」

　

　

　

白露「いっちばーん！」

　

　

時雨「扶桑さんが強引に道を開いてくれたお陰で」

　

　

夕立「レ級を捉えたっぽい！」

　

　

レ級「あれ、乙中将のとこか。なんか私が狙われてる……ならそうだなー」

　

　

時雨「本当に饒舌にしゃべるんだね……」

　

飛龍「白露一同！ 君達はそーいうはしゃぐところを直せっていわれたでしょーが！」

　

　

飛龍「レ級を前にして、その態度はある意味大物だけど、油断したら沈むから！」

　

　

飛龍「それに前に出すぎたからすぐ下がるよ！ レ級は電が相手する！」

　

　

　

レ級「こっちから向かおう」

　

　

レ級「先制魚雷あーんど」

　

レ級「砲雷撃戦じゅーんび」

　

2

　

　

ぷらずま(さて、深海棲艦verで懐に潜り込みましたが……)

　

　

ぷらずま(飛龍さんと夕立さん……乙さんのところですか)

　

　

ぷらずま(……)

　

　

ぷらずま(真正面からオールラウンダーのレ級とやるだなんて賢くないのです)

　

　

ぷらずま「司令官さんレ級を捉えました。白露、夕立、時雨、飛龍の４隻がレ級と交戦、しそうですね」

　

　

提督「まずはその４名を退けてレ級との接触に邪魔が入らないようにしてください」

　

　

提督「乙中将には申し訳ないのですが、１分１秒が惜しいので」

　

　

提督「ぷらずまさん」

　

提督「やり方は任せます。迅速な方法を取捨選択してください」

　

　

ぷらずま「●ワ●」

　

　

ぷらずま「了解なのです」

　

ぷらずま「では、味方を」

　

　

ぷらずま「攻撃します」

　

　

3

　

　

白露「や、やばい！ 空母と雷巡と戦艦攻撃してきた！」

　

　

ｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞ

　

　

時雨「手を動かそう」

　

　

夕立「む、向こうからまた艦載機が飛んできてるっぽい！」

　

　

時雨「あの艦載機、あの方角にそんな敵って索的で見当たらなかったけど……」

　

　

ｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞ!

　

　

白露「……へ？」

　

　

白露「あの深海棲艦艦載機、私達を攻撃してるよー！？」

　

　

ﾄﾞｵﾝ!

　

　

夕立「魚雷もきたっぽい！」

　

　

白露「時雨、ど、どういうことなのかなあ？」

　

　

時雨「このケース、乙さんが出撃前にいってたよ。恐らく鎮守府(闇)のわるさめさんかぷらずまさん……」

　

　

時雨「じゃないかなあ……」

　

　

飛龍「はい白露型の皆さん！」

　

　

飛龍「一旦退くよ！」

　

　

飛龍「電のやつ、こっちを！」

　

　

時雨・白露・夕立「了解！」ｯﾎﾟｲ

　

ｻﾞﾊﾟﾝ

ぷらずま「●ワ●」

　

　

ｼﾞｬｷﾝ

　

　

飛龍「潜水棲姫ver……」

　

　

ぷらずま「子犬ども」

　

　

ﾄﾞﾝﾄﾞﾝﾄﾞｵﾝ!

　

　

白露「……、……あぶな！」

　

　

時雨「味方にどうして……」

　

　

ぷらずま「邪魔なのです」

　

　

夕立「い、電ちゃん……？」

　

　

ぷらずま「夕立さん、この間に遊んだ時から思っていましたが、作戦ですか？」

　

　

ぷらずま「なにが面白くて命を奪う場所で」

　

　

ぷらずま「楽しそうに」

　

　

ぷらずま「はしゃいでいられるのです……？」

　

　

ぷらずま「犬だからですか？ まさか人のつもりではないですよね？」

　

　

ぷらずま「● ●」

　

　

飛龍「はい皆！ 下がるよ！」

　

　

時雨「う、うん、白露、大丈夫かい？」

　

白露「なんとかー……」

　

　

夕立「電ちゃん」

　

　

夕立「夕立は悲しい」

　

　

夕立「っぽい」

　

　

ぷらずま「犬語は分からないのです。退くか私と戦うか、どちらか選べ」

　

　

夕立「……退くよ」

　

　

夕立「ばーか」ｯﾎﾟｲ

　

　

　

ぷらずま「語彙が貧弱すぎてなにがいいたいのかよく分からないのです……」

　

　

飛龍「電」

　

　

飛龍「当てなくてよかったね」

　

　

飛龍「当ててたら絶対に許さなかったよ」

　

　

ぷらずま「外したこと、後悔したのです」

　

　

飛龍「……」

飛龍「ま、ちゃんと役割果たしてね。それじゃ私達は中央に戻るから」

　

　

　

　

　

　

ぷらずま「本当に……嫌になる」

　

　

　

　

ぷらずま「さて……」ｸﾙｯ、ｽｲｲｰ

　

　

ぷらずま「お待たせしたのです」

　

　

ぷらずま「なにを陽気にくるくると踊るみたいにこっちに来て？」

　

　

　

レ級「…………まあ」

　

レ級「気にするなよ。こっちも余計な邪魔が入らないほうがいいんだ」

　

　

レ級「散歩するかい？」

　

レ級「化物同士で」ｽｲｲｰ

　

　

ぷらずま「……、……？」

　

　

レ級「相手はあの第６駆の電ちゃんだからね。僕がエスコートしましょう」

　

レ級「マドモワゼール♪」

　

　

レ級「深海棲艦と」

　

　

レ級「手を繋いでみないかい？」

　

　

レ級「その勇気は」

　

　

　

　

レ級「あるかい？」

　

　

4

　

ぷらずま「エスコート下手なのですか。私に合わせろなのです。引っ張られて手が……痛いです」

　

　

ぷらずま「お前」

　

　

ぷらずま「き"ら"い"な"の"で"す"」

　

　

レ級「ごめんごめん」

　

　

レ級「こっち側から眺める景色はどう？」

レ級「周りの低級深海棲艦。お前を同類認識して攻撃しないやつらをこっちに寄せてる」

　

　

レ級「君のためのロードだぞ？」

　

　

ぷらずま「最悪な景色なので帰りたいのです。私はテメーらのいない海を所望しているので」

　

　

レ級「聞いた通りの子だなー」

　

　

レ級「わるさめのやつは元気かー。リコリスママが気にしてたんだよ」

　

　

ぷらずま「ゆっくりお話は構いませんが、まずはエスコートされる私のほうからというのはどうなのです？」

　

　

ぷらずま「深海妖精の情報を喋れば、生かしてママのところに帰してあげてもいいのです」

　

　

ぷらずま「私を信じる」

　

　

ぷらずま「勇気は」

　

　

ぷらずま「ありますか？」

　

　

レ級「…………」

　

　

レ級「それ、こっちの言葉を信じるの？」

　

　

ぷらずま「それはこちらが判断することなのです。教えなければテメーは用済みなのです」

　

　

ぷらずま「知能はどの程度なのです。まさか、たかがレ級ごときで、私に勝てるとでも」

　

　

レ級「まあ、チューキさんからお前に教えてやれーって情報を渡されてはいるね」

　

　

ぷらずま「信憑性はこちらで判断するので、どうぞ」

　

　

レ級「……あー、いいよ」

　

　

ぷらずま「司令官さん、今からレ級と質疑応答を始めるのです」

　

　

提督「了解です」

　

　

レ級「……まあ」

　

　

レ級「深海棲艦の知能はしゃべれはするけど、バグってるからね。強く覚えているのは、ごくごく一部の思い出だから」

　

　

ぷらずま「艦娘だった頃の、ですか？」

　

　

レ級「……お前らどこまで知ってる？」

　

　

ぷらずま「司令官さん」

　

　

提督「自分の論説は教えてあげても構いません」

　

　

ぷらずま「私達とは違って、ベースを艤装として、肉体をまとった生物。艤装を核として動く」

　

　

レ級「バーカ」

　

レ級「ではないかな。かなりいい線いってるけど、肝心なところー」

　

　

レ級「深海妖精は確かに艤装と人間から、深海棲艦を建造するよ」

　

　

レ級「けどさ、それはなんていうんだろ。媒体に近い」

　

　

ぷらずま「……媒体？」

　

　

レ級「見ての通り僕らは生きてる」

　

レ級「艤装にどうやってここまで命を吹き込むか、考えたことある？」

　

ぷらずま「妖精の技術……？」

　

　

ぷらずま「深海妖精ならもしくは」

　

　

レ級「まあ、そうなんだけどさ」

　

　

レ級「人が人であるために必要なのは、なんだ。人間の身体を作ってもそこに魂がないと動かないだろ？」

　

　

ぷらずま「魂……なにをいうかと思えば、オカルトですか」

　

ぷらずま「まあ、妖精自体オカルトですが……」

　

　

レ級「君ら、軍艦の夢を見るだろ」

　

　

レ級「それは艤装のせい」

　

　

レ級「重要なのは艤装や人間の身体そのものではなく」

　

　

レ級「想いを宿した媒体」

　

　

レ級「君らが艤装の想いを宿すように、艤装は君らの想いを宿す」

　

　

レ級「なんで、だろうね」

　

　

レ級「なんで想いのこもったものはたくさんあるのに」

　

　

レ級「艤装のみ、なんだろうね」

　

　

ぷらずま「なら、あの司令官のいう通り」

　

　

ぷらずま「艤装をベースに人間の体をまとうことで」

　

　

ぷらずま「私達は反転する、と」

　

　

レ級「そうさ。君達の建造手順が反転したのが僕ら深海棲艦」

　

　

レ級「艤装がベースだぞ？」

　

　

レ級「艦娘が軍艦の性能を宿した人間と例えるのなら、僕らは」

　

　

レ級「人間の機能を宿した軍艦だ」

　

　

レ級「ま、ほとんどは君らが蟻を踏み潰すように葬りまくってるザコ敵になるんだけどねー……」

　

　

ぷらずま「他には？」

　

　

レ級「沈んだ時の艦娘ってさあ、なにを想い、艤装がどんな感情を強く刻むか、僕らを見て分かるだろ？」

　

　

レ級「分からないはずがないよね」

　

　

レ級「僕らは理解し合えるのに愛し合えない隣人だ」

　

　

レ級「綺麗な想いも汚い想いも強ければ、その全ては」

　

　

レ級「怨念」

　

　

レ級「お前らの戦いの想いに縛られた過去の亡霊だ」

　

　

ぷらずま「……へえ、やけに民間人を襲わずに艦娘や提督ばかりを狙うとは思っていましたが」

　

　

レ級「思い入れがある、からね。生物として矛盾した本能だよ」

　

　

レ級「君達しか見えなくなる」

　

　

ぷらずま「しかしよくもまあペラペラと簡単に真実っぽいことゲロってくれましたね」

　

レ級「あー、深海妖精発見されたし、どうせ近い未来に行き着く」

　

　

レ級「とチューキさんが」

　

　

レ級「それに僕は勝とうが負けようがやることは変わんないからね。知能ある分だけ理性で本能を抑え込めるだけで」

　

　

レ級「君らの怨念で動く軍艦だぞ？」

　

　

レ級「沈むまで艦娘も提督も殺しまくるだけ」

　

レ級「一応、聞いとくけど約束守って帰らせてくれんの？」

　

ぷらずま「もちろん」

　

　

ぷらずま「ところでどこに帰るんですか？」

　

　

レ級「想い出の基地は江風のやつに潰されちゃったしなー……」

　

　

ぷらずま「ダボが。帰る場所は基地ではないのです」

　

　

ぷらずま「ちゃんと深海に還らせてあげるのです。お前らはそこで産まれたのですから」ｼﾞｬｷﾝ

　

　

レ級「僕らは君達なんだけど」

　

　

ぷらずま「● ●」

　

　

ぷらずま「違います。甦った人間はゾンビといって、別の生き物ですから」

　

　

ぷらずま「お前らに限り、思考があるくせに、恨む。戦う。倒す。進む。なぜそんな行動原理をほざくのです」

　

　

ぷらずま「人を忘れた盲目だから」

　

　

ぷらずま「浅い海で」

　

　

ぷらずま「溺れる羽目になるのです」

　

　

レ級「……」

　

　

ぷらずま「っち。ただの死体処理に私達はどれだけ手こずっているのか」

　

　

ぷらずま「それを改めて思い知らせてくれたテメーには引導を渡してやるのです」

　

　

レ級「お前が人間だって？」

　

レ級「いいこと教えてあげよう」

　

　

レ級「お前は元には戻れないだろーね。無事に帰投出来たらパズルして考えてみればー？」

　

　

レ級「いや、辿り着けば？」

　

　

レ級「ママが、お前に会いたがってる」

　

　

ぷらずま「元に戻るとか戻れないとかくだらない。そんなこと目的ですらないのです」

　

　

レ級「さて、お話はここまで」

　

　

ぷらずま「なのです。最強クラスの深海棲艦のお手並みを拝見したいと」

　

　

レ級「憐れだよねえ。そろそろ……」

　

　

レ級「どっちつかずの！」

　

　

レ級「化物(フランケンシュタイン)だって気付けよなア！」

　

　

ぷらずま「なにをいうかと思えば。くだらないことを。もういいのです」

　

　

ぷらずま「ぷらずま」

　

　

ぷらずま「の」

　

　

　

ぷらずま「本気を見るのです」

　

　

　

レ級「ガ！」

　

　

レ級「オー！！」

5

　

　

ぷらずま(レ級は確か、16inc三連装砲と12.5inc連装副砲と高速深海魚雷と)

　

　

ぷらずま(この艦載機発艦数……)

　

　

ぷらずま(100くらい、いや、まだ艦載機発艦をし続けているので、もっと増える……)

　

　

ぷらずま「空を跳ね、海を跳ねて」

　

　

ぷらずま「まるで、生きてるみたい」

　

　

ぷらずま「綺麗、なのです」

　

　

ぷらずま「これが最強と名高い爆撃艦載機」

ぷらずま「飛び魚型ですか」

　

　

ぷらずま「……トランス」

　

　

ぷらずま「● ●」

　

　

6

レ級(確かセンキ婆と、リコリスママと、と北方棲姫と潜水棲姫と、駆逐古鬼と、空母棲姫と、深海海月姫)

　

　

レ級(今はリコリスママと北方棲姫マジモードと、空母棲姫)

　

　

レ級(深海海月姫の艦載機と)

　

　

レ級(例のギミック装甲、か)

　

　

レ級「くっそ、航空戦はかなり自信あったんだけどなー……」

　

　

レ級「発艦数がヤバすぎる……よくもまあ周りの深海棲艦を塵芥みたいに葬ってくれて……」

　

　

レ級「でも、例のクールタイムか。動きがトロいし、攻撃もしてこない」

　

　

レ級「16inc三連装砲と12.5inc連装副砲で」

　

　

ﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞ!

　

　

ぷらずま「……クールタイムの私を」

　

　

ぷらずま「攻撃してこず、艦載機を」

　

　

レ級「そのギミックさー、海月の艦載機を壊せばその装甲は死ぬんだろ！ まずはどう考えてもそっちだろーが！」

　

　

レ級「さすがは鬼畜艦！ 木を隠すなら森の中とは性格が悪いよね！」

　

　

レ級「でもさ！ 深海棲艦型艦載機である限り、僕の砲撃範囲外に隠すこともないよね！」

　

レ級「味方に撃ち堕とされるかもしれないから！」

　

　

レ級「さー、飛び魚も艦載機を堕としまくれ！」

　

　

レ級「そんでレッちゃんの深海妖精による魔改造視力なめんなよ！ 空に舞ってる海月型艦載機全部、見えてるからなア！」

　

　

ﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞ!

　

　

ぷらずま「……、……」

　

　

レ級「ぷらずまー！ そこはわざと開けてるスペースだぞー！」

　

　

レ級「高速深海魚雷のために！」

　

　

ﾄﾞｵｵﾝ!

　

　

ぷらずま「……っ！」

　

　

レ級「ギャハハ、飛び魚と深海魚雷に耐え続けるなんてさすがだね。戦艦クラスでさえも真っ青になるのにさ！」

　

　

レ級「見て見て！ 雨みたいに艦載機が堕ちてるよ！ もうすぐ空のお掃除が終わるから覚悟しとけよテメエ！」

　

　

レ級「……？」

　

　

レ級(ぷらずまのやつが消えた……？)

　

　

レ級(いや、クールタイムから回復して潜ったのか……？)

　

　

レ級「聴音器も電探も僕には、ないけど」

　

　

レ級「……ギャハハ」

　

　

レ級「『最強深海棲艦：海屑艦隊』のレッちゃんだ」

　

　

レ級「雄々しく凛々しくたくましく」

　

　

レ級「百獣の王のごとし！」

　

　

レ級「ガオー！！」

　

　

7

　

ぷらずま(潜ったまではいいのですが、あのレ級の移動、かなり低速なのが気になる……)

　

　

レ級艤装「……」

　

　

ぷらずま(……ま、見つけやすいですけどね。あの長い尻尾みたいな魚雷発射管のおかげで)

　

　

ぷらずま(……、……)

レ級艤装「水中で見っけー」ｷﾞｮﾛ

　

　

ぷらずま(……っ！)

　

　

レ級艤装「お前らと反転してんだよ」

　

　

レ級艤装「人間の馬鹿なところー。僕達の生命力が異常だと誤解してる」

　

　

レ級艤装「あくまで本体は艤装のこっちなだけなんだよね」

　

　

レ級艤装「全部撃ち堕としたからな。ギミックもないその柔い装甲耐久で」

　

　

レ級艤装「泣く子も黙る高速深海魚雷を受けてみろ！」

　

　

8

　

　

レ級「やっべ、直撃した。遊ぶつもりが本能に従い過ぎちゃった」

　

　

レ級「殺しちゃってはいないよな……？」

　

　

ｻﾞｯﾊﾟｰﾝ

　

　

ぷらずま「心配ご無用なのです。くたばれ」

　

ﾄﾞｵｵﾝ！

ﾄﾞｵｵｵﾝ!

レ級「！？」

　

レ級「っぐ……！」ｸﾙｯ、ｽｲｲｰ

　

　

レ級「この一撃は……」

　

　

レ級「センキ婆の、威力……！」

レ級「海月の艦載機ギミックは、解いて高速深海魚雷をっ、喰らわせ、たのに」

　

　

レ級「小破……止ま、り……？」

　

　

ぷらずま「中枢棲姫かリコリスに聞けばバレると思うので、そのくらい教えてあげるのです」

　

　

ぷらずま「なかば深海棲艦化に犯されているこの体、皮膚自体が装甲に切り替わります」

　

　

ぷらずま「応用、なのです」

　

　

ぷらずま「最後の海月型艦載機は」

　

　

ぷらずま「私の」

　

ぷらずま「身体の内側」

　

　

ぷらずま「ギミック解除とか、無理なのです。その鍵は私の装甲の内側にある限り」

　

　

ぷらずま「ギミック自体を破る方法はないです」

　

　

ぷらずま「史実効果艦は例外ですけどね」

　

　

ぷらずま「● ●」

　

レ級「ずる、過ぎるだろ……」

　

　

ぷらずま「さて、大破ですね？」

　

　

レ級「まだ……」

　

　

レ級「死ぬわけには、行かない」

　

　

ぷらずま「あーあ……」

　

　

ぷらずま「そっちには第１艦隊がいるのです。まあ、あの大破状態ならお友達でもどうとでもできますか」

　

　

ぷらずま「まだ中枢棲姫とリコリス棲姫がいますし、少し」

　

　

ぷらずま「司令官さんに報告がてら、休憩しますかね」

　

　

ぷらずま「司令官さん」

　

　

提督「はい」

　

　

ぷらずま「情報を渡します。その後５分程度を再生時間に消費し、次に進みます」

　

　

提督「了解です」

　

　

提督「しかし、自分が許可を出すまでは次の作戦は待っていてください」

　

　

提督「この通信の後、しばらく初霜さんに司令官を任せます」

　

　

ぷらずま「なぜなのです？」

　

　

提督「初霜さんに地下にいてもらったのです。鹿島さんも興味本意でついていきましたっけ」

　

　

ぷらずま「……混乱してます？」

　

　

提督「少し興奮してますね」

　

　

提督「深海妖精を確保出来たので、そちらを確かめる必要があります」

　

　

ぷらずま「！」

　

　

ぷらずま「了解なのです」

　

　

ぷらずま「では、レ級から得た情報を教えますね」

【5ワ●：見えた暁の水平線：長ったらしい人間(ファンタジー)の話】

　

1

　

　

提督「…………１６８時間で」

　

　

提督「ようやく誘えましたか」

　

　

　

　

　

提督「そして、想」

　

　

提督「確信の一言、ですね」

　

鹿島「……」

　

　

提督「鹿島さんのいう通り、彼等には心がありますね。あの手の深海棲艦はひどく人間的で情にも響く。動揺するのも致し方ありませんね」

　

　

鹿島「提督さん……それ、は？」

　

提督「１週間、１６８時間」

　

鹿島「その水槽の中にある腕と、艤装の破片と、艦載機の、残骸………？」

　

　

提督「……よっと」

　

　

提督「艤装と手を取り出しますね」

　

　

提督「……なるほど、消えるのか」

　

　

提督「もう１度、ぽいっと」

　

　

提督「……現れます、か」

　

　

鹿島「提督さん、１体なにを……」

　

　

提督「見えませんよね。妖精もいます」

　

　

提督「深海妖精です」

　

　

鹿島「ほ、本当ですか！？」

　

　

　

提督「はい。自分は」

　

　

提督「ずっと」

　

　

提督「君と再会したかったです」

　

　

　

深海妖精「？」

　

　

2

　

　

提督「大がかりなモノが要らないとは、睨んでいましたけどね……」

　

　

提督「この鎮守府の過去にやらかしてくれた例の提督の人体実験は……」

　

　

提督「提督の立場、いや、この戦争に関わるものなら、入手自体は可能。実に低燃費です。筋も通る」

　

　

鹿島「筋ですか？」

　

　

提督「ローリスクの手段でなくては、多くの人間が行き交う鎮守府で隠し通すのは難しい」

　

　

提督「恐らくぷらずまさんやわるさめさんに投与したあまりにも多くの深海棲艦の数、それに大佐の権限では難しい隠蔽の数々」

　

　

提督「将校の支援を受けていたのかと。丁准将、でしょう」

　

　

提督「……この戦いの」

　

　

提督「輪廻の仕組みは」

　

　

提督「艦娘が深海棲艦にリサイクルされるそのシステムが幅広く応用されています」

　

　

提督「いくつものファンタジーによりヴェールがかかっていました」

　

　

提督「妖精にも関係していたんです」

　

　

提督「明石さんが教えてくれた妖精の２面性、建造妖精は解体妖精に変わっているかもしれない。開発妖精は廃棄妖精に変わっているかもしれない」

　

　

提督「妖精可視の才もあり、その意思疏通レベルも高い。妖精とともにその人生を歩んだ彼女ですら、気付くのに３０年以上もかかり、ようやく」

　

　

提督「なんとなく、のレベル」

　

　

提督「ならば、現存妖精のなかで意志疎通による融通を除いて、大きな二面性が現れていないのは」

　

　

提督「装備妖精」

提督「これらは多種多様ですね。女神妖精もそして操縦妖精も、たくさんの種がいます」

提督「その中で、最も臭いのは」

提督「操縦妖精」

　

鹿島「……？」

提督「理由はこいつが最も海に多く沈むからです」

提督「鹿島さん、あなたのあの過去は自分の思考を持って判断すれば、ある意味でぷらずまさんやわるさめさん以上の」

提督「悲劇、だと思います」

提督「あなたにも、自分が知り得たこの戦いの全てを自分の口から伝えておきたいです」

鹿島「す、べて……？」

提督「はい。順を追いますね」

提督「艦載機に搭乗していた妖精が海に沈むと消失するというのが一般の知識ですが」

　

　

提督「様々な条件をクリアしなければ発見が出来ない」

　

　

提督「こちらサイドの話ですが、条件１、深海妖精が観測できるのはごくごく１部、情報を加工し、拡散し、世界中の人に見てもらってなお」

　

　

提督「指の数で足りること」

　

　

提督「妖精可視に新たな分野、ですね」

　

　

提督「条件２、深海妖精へと輪廻するために約１６８時間を要する」

　

　

提督「条件３は今、試しました。艤装と、肉体を認識していること」

　　

　

提督「それがなければロストを解きません」

　

　

提督「自分からも見えなくなります」

　

　

提督「そしてこれは後に調べるべきことですが、この深海妖精がロストの能力を持っていて、艤装と肉体をともにロストさせてその建造行程を隠すと思われます」

　

　

提督「まあ、深海妖精の詳細は後で軍にお任せしたほうが捗ります、かね……」

　

　

提督「これだけの条件に加えてそもそもの妖精という未知の隠れ蓑。なるほど、今まで上手く隠れていたのも頷ける」

　

　

鹿島「……でも、そこの艤装と肉体はロストしていませんよ？」

　

鹿島「おかしくないですか？」

　

　

鹿島「確か提督さんの予想では人間の体の一部と、艤装の断片のベース、資材……もあれば深海棲艦は建造可能、でしたよね？」

　

　

鹿島「違っていたということでしょうか……？」

　

　

提督「悔しい、ですね。自分の深海妖精論はけっこう間違っていました。まずこいつらロスト空間で深海棲艦を建造、するのでしょうね」

提督「ええと、確かこの冷凍庫に。こちらは通常艦娘の肉です。自分がこれをつかんだまま、水につけてみますね」

　

　

ﾊﾟﾁｬﾝ

　

　

深海妖精「……！」

　

鹿島「あ、なにかに引きずられるように、艤装が動いています！」

　

　

ｸﾞｲｯ

　

　

提督「おっと、失礼」

　

　

提督「これを渡してしまうと、深海棲艦の建造が始まるので取り上げます」

　

　

提督「艤装が動いたのは深海妖精が触れて動かしたからですね。自分が持った艦娘の肉を取ろうとしてもいました。恐らく渡していればそれらを持って、ロスト空間に移動します」

　

鹿島「先程の手のほうでは反応をしても、建造はしなかったのですよね？」

　

　

提督「まあ、こちらの肉のほうがわるさめさんのものであるからです」

　

　

提督「彼女という特異な体に触れることで、その肉の情報を観測。深海棲艦のものと見なされている」

　

提督「深海棲艦から深海棲艦は造れない」

　

　

提督「ゆえにわるさめさんの肉では深海棲艦の資源として利用できない」

　

　

提督「しかし、中枢棲姫勢力の情報を踏まえますと、意思疏通できるものがいれば」

　

　

提督「すでに建造されている深海棲艦において彼等が失った肉はわるさめさんの肉でも構わない。艤装を直すように、修理できますね」

　

　

提督「そしてわるさめさんの肉は、ぷらずまさんの時とは反応が違います。破壊、いえ、失敗(ペンギン)現象ですが、それを起こそうとしない」

　

　

提督「深海妖精の認識において、わるさめさんはぷらずまさんとは違うということ、ですかね」

鹿島「……これは聞いた話ではあるのですが、確か電さんを深海に沈めた時、深海妖精は電さんに対してペンギン現象ですが、解体のような作業を行ったとか」

鹿島「深海妖精は反応したんですよね。でも、わるさめさんのその一部には反応しなかったのなら、むしろ電さんが解体可能で、わるさめさんが不可能、なのでは？」

提督「そこはまだ謎です。ですが、あの時はぷらずまさんを丸ごと、で、今回はわるさめさんの一部です。帰投したぷらずまさんとわるさめさんをこの水槽に入れたら判明すると思います」

鹿島「……」

　

　

鹿島「深海妖精は電さんやわるさめさんのような艦娘を改造できるんですよね？」

　

　

提督「まだ確かめてないので推測の域を出ませんし、長くなるので割愛しますが」

　

　

提督「恐らく深海棲艦の艤装と艦娘、それをそのままここに投げ入れ、意思疏通を駆使すれば」

　

　

提督「ぷらずまさんや、わるさめさんみたいな兵器が建造可能かと」

　

　

提督「まあ、その具体的な手法に辿り着くには狂人の域に踏み込まなければなりませんね」

　

　

提督「しかし、あくまですること自体は出来る、ですね」

　

　

提督「深海棲艦艤装を適応させられても、それはあくまで彼等の持つ深海棲艦建造技術の応用の範囲内です」

　

　

提督「解体のほうも建造の技術の逆行程なので可能ではあるでしょう。建造妖精が解体も、拙くとも少しは出来る仕組みと同じく」

　

　

提督「しかし、ぷらずまさんは解体できないとされている」

提督「それはなぜか」

　

　

提督「解体のほうはあくまで意思疏通により、妖精さんが行うことが可能となる技術なだけで」

　

　

提督「もともと彼等は『深海棲艦建造』の役割しか持たないからでしょう」

　

　

提督「技術的には可能だが、役割ではない。これは明石さんがいったのですが、建造妖精も解体もある程度できるが、意思疏通を駆使して少しだけ」

提督「深海妖精は深海棲艦建造妖精ですから、意思疏通で解体をさせても、少し程度になるのだと思います」

　

　

提督「だから『解体』のほうは可能ではありながらも、不備が出てくる」

　

　

提督「恐らく深海棲艦艤装の投与数、ですね」

　

　

提督「５か６の数までは解体可能なのかもしれません。しかし、ぷらずまさんの７の数は出来ない」

　

　

提督「７以上の数を投与すると」

　

　

提督「深海妖精はその被験者を艦娘ではなく、建造されている深海棲艦と認識する」

　

　

提督「対象に対しての役割を全うしたと認識するゆえ」

　

　

提督「深海妖精は役割を越えた意思疏通だと判断。それゆえ、解体を拒む。女神妖精がロストのこと聞いてもダンマリなのと同じです」

　

　

鹿島「……、……」

　

　

提督「ぷらずまさんやわるさめさんの建造についてはここらで置いておきますね」

提督「彼女達の『トランス現象』のシステムが、まだいまいち分かりません。こちらは中枢棲姫勢力に聞くほうが早いですかね……」

　

　

提督「……、……鹿島さん」

提督「その1、深海棲艦が沈んでも深海棲艦にはならない」

　

　

提督「その2、艦娘が沈めば深海棲艦が建造される」

　

提督「鹿島さん、これは前に龍驤さんとぷらずまさんの前でいったのですが……」

提督「クエスチョンです」

　

　

提督「ぷらずまさんが沈めば？」

　

　

鹿島「えっと、深海棲艦と艦娘の反応の両方が出ているので……あっ」

　

　

鹿島「その水槽の腕、わるさめさんのもの、なんですよね？」

　

　

鹿島「さきほど、深海妖精で建造出来なかったみたいなので……」

　

　

鹿島「ぷらずまさんやわるさめさんが沈んでも深海棲艦には、ならない？」

　

　

提督「自分と同じ見解です」

　

　

提督「そしてこの戦いを終わらせるためには今のところ考え付くのが２つ」

　

　

提督「深海妖精を産み出さない」

　

　

提督「が、これはこちらに艦載機、厳密には操縦妖精ですが、これを使用しないことと、なります」

　

　

鹿島「それは、む、無理です」

　

　

鹿島「航空戦力が勝敗の結果を決める、といわれているほどに、空母は重要視されているんですよ……？」

　

　

提督「ええ、なので現実的ではないですね」

　

　

提督「加えていえば」

　

　

提督「我々はこの戦いにおいて数えきれないほどの艦載機を墜とし」

　

　

提督「もしも、ですが、その全てが深海妖精と化しているのなら」

　

提督「深海妖精をどうこうするのは困難です」

　

　

鹿島「……ええ、現実的ではないですね」

　

　

提督「そしてもう１つが比較的、現実的です」

　

　

提督「深海妖精に深海棲艦を建造させない」

　

　

提督「この方法は」

　

　

提督「ぷらずまさんやわるさめさんを大量生産し、彼女達だけで深海棲艦と戦う」

　

提督「彼女らは深海棲艦に転生しない。倒せば倒すだけ敵が減る」

　

　

提督「と自分は考えていましたが……」

提督「見落としです。彼女達の肉は深海棲艦の資材とされないどころか、『艤装そのものが普段は消失しており、彼女達の想により現界するトランス現象』により、艤装すら資材として深海棲艦に与えない」

提督「自分が考えていた『深海棲艦を建造させない方法』により」

　

提督「『深海妖精を封じて深海棲艦を滅ぼす』」

提督「のではなく」

　

提督「『兵士の輪廻を封じる』」

　

　

提督「ことにより」

提督「『神に反逆する兵士』となる」

提督「自分より、広く深く高い視点です。ようやく確信に変わりました」

　

　

鹿島「……、……」

　

　

提督「正直、その信念だけは尊敬しますよ。彼は狂人ですが、科学者ではなかった」

　

　

提督「間違っても素晴らしいとはいいません。ですが、この戦いに終止符を打つために魂を燃やし、非道に魂を染め上げた」

　

　

提督「提督ではあるのかも、です」

　

　

鹿島「疑問ですね。なぜそれだけの功績を生んでおきながら、記録に残さなかったのでしょう」

　

　

鹿島「電さんやわるさめさんといった置き土産があるにしても、記録にして伝えてくれていたのなら……と」

　

提督「まあ、足がつかないように証拠を少なくしていたのが仇になったのかと」

　

　

提督「ここを滅ぼした深海棲艦が唯一の記録を抹消したのですかね。知能があるやつもいることですし……」

　

　

提督「まあ……」

　

提督「深海妖精そのものより」

提督「レ級のいった『想い』こそが」

提督「艤装、人間、妖精。その全てに共通しているんです」

提督「想がこの戦いの根源である妖精に繋がる情報であるということ」

　

　

提督「艤装に疑似生命とする、いえ、想を与えるのは妖精の技術であるということ」

　

提督「そして妖精が役割に忠実なのは、その一途さは、きっと」

　

　

提督「そういう想の塊であるからだと思われます」

　

　

提督「我々は彼らを『妖精』と認識していますが、彼等は『精霊』に近いですね」

　

　

提督「魂という名の想の塊」

　

　

提督「想だからこそ、そうであるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。全てが曖昧であやふやで」

　

提督「ファンタジー染みています」

　

提督「想なら、船が女と例えられる認識から、艤装適性の男の小数点以下の適性率、女性に対しては異常な高い数値が出るのも説明はできますし」

　

　

提督「逆に、その船を操舵する提督は圧倒的に男性が多いのも」

　

提督「なぜ妖精は過去の軍艦ばかり真似るのか、なぜ最新式兵装の艤装は造ってくれないのか……」

　

　

鹿島「作れないから、ですか……？」

　

　

提督「そんなの彼等が……」

　

　

提督「過去の大戦に携わった、過去に生きた」

　

　

提督「その想だからじゃないですか？」

　

　

提督「だって、そんな昔の兵器ばかり作るのは……そんな想いを一途に持っているのは」

　

　

提督「精霊、いえ、妖精が過去の大戦に生きた人の想で出来ているからでは……？」

　

　

鹿島「っ！ なる、ほど」

　

　

鹿島「艤装も建造も出来るし、解体だって、装備の開発だって、そのバラシだって、操縦だって出来、ますね」

　

　

提督「想だからこそ」

　

　

提督「予想できても断定が困難です。しかし、だからこそ彼等に対しての意思疏通のように付け入る隙もありますね……」

　

提督「まずは結果としてそうなっている、という事実から考えるべきでしょうけど……」

　

提督「ここらは置いておいて、今、見るべき点は……」

　

鹿島「彼等が故人の想で作られているのなら、疑問となるおかしい存在が、いますよね？」

　

　

鹿島「ぱっと思い浮かんだ深海棲艦を造る深海妖精に違和感が、あります」

　

提督「はい、同じくです。深海妖精は特殊過ぎる。深海棲艦を作るなんて、おかしいです」

　

　

鹿島「もしかして、この戦いで沈んだ艦娘の想、から出来て……」

　

　

提督「いえ、最初期の兵士は深海棲艦と戦ったのです。なので、艦娘が沈む前から深海棲艦はいた、と」

　

　

鹿島「では深海妖精の想は故人の恨みや憎しみから出来ているのでは……？」

　

　

提督「恨みや憎しみで、沈んだ艦娘をリサイクルして深海棲艦にする想、ですか……」

　

　

鹿島「そういわれると……」

　

　

提督「ですよね。その想の視点で考えるとモヤがかかります」

提督「最初、装備妖精のなかでなぜ操縦妖精に当てをつけたか、です」

鹿島「全ての妖精のなかでダントツで海に沈む妖精だから、でしたよね？」

提督「はい。深海妖精の想ではなく、その役割に焦点を当ててみますと……」

　

　

提督「大きな影が見えます」

　

提督「操縦妖精が墜とされ、海へと還り深海妖精となり、海に沈んだ艤装と人間を資材に深海棲艦を作る」

提督「まるで人間が思考したかのような」

　

　

提督「効率」

　

鹿島「……、……っ！」

　

　

提督「見えて、きました」

　

　

提督「すべての根元である妖精を生み出す想を、統べる存在」

　

　

提督「そしてそいつはその影を歴史に見せています」

　

　

提督「最初に殉職したのは始まりの艤装の電です。そして電の死体は確保された」

　

　

提督「しかし、初期には深海棲艦という下地は爆発的に増加した。そんなに大量の深海棲艦を作るために必要な人間を、艤装を、どこから？ となりますね」

　

　

提督「その影の主がこの戦いの全てを作成する想を統べているのならば、深海妖精も含め、全ての妖精の能力を使用可能と見るべきです」

　

　

提督「つまり、輪廻を散りばめずとも、そいつの意思により、深海棲艦も艤装も量産可能であると思われます」

　

　

提督「それこそが、神が手を加えざるを得なかったこの戦いの下地です」

　

　

鹿島「で、でも、提督さんの疑問、に行き着きます。人間が必要なら深海棲艦が爆発的に増加した最初期には、かなりの数の人間が必要となるはずで」

　

　

鹿島「どこかで調達したのならそんな大量の殺人や行方不明者は記録に残りますし、人間自体を造り出せはしないです……よね？」

　

　

提督「『媒体』というレ級の言葉」

提督「深海棲艦を建造するにおいて、艤装がベースである彼等の肉は艦娘の肉体である必要はない、のかと」

提督「深海棲艦のいなかった海」

　

　

提督「先祖は、どこまでも行けました」

　

　

提督「多くの海で戦った」

　

　

提督「１９世紀に、いえ、今まででどれだけの人間が海へと沈んだのでしょうね……」

　

　

鹿島「……あ、」

　

　

提督「資材は調達出来る。人間も集められ、艤装も作ることができる」

　

　

提督「この世界の海さえあれば、深海棲艦を大量にこしらえるのは可能です」

　

　

提督「そして多くの艤装もまるで、深海棲艦への対抗策を与えるかのように、妖精が製造を始めていますよね？」

　

　

提督「……、……」

　

　

提督「『河水が海へと流れ、雲を風が運び、大地に雨を降らし、木々が河に水を流す。この戦争はそれと同じく神が仕組んだ摂理だ』」

　

　

鹿島「それは先代元帥のお言葉、でしたか」

　

　

提督「ええ、自分の論説の源です。そもそも神とか、自然とかの前に」

　

　

提督「この戦いを、１つの世界として見るべきでした」

　

　

提督「でも、ファンタジーであるゆえに解明がなかなか進まなかった。手探りで進む対深海棲艦海軍の歴史のなかで」

　

　

提督「特異とされた人の命を救う女神や、応急修理要員も、その役割を創る想は人の心で比較的、想像が容易く説明もできます」

提督「しかし」

提督「深海妖精。人間と艤装の想から、深海棲艦を創る役割とか……」

提督「こいつの役割だけは明らかに何者かの影を踏めるほどに」

　

　

提督「意図的かつ」

　

　

提督「作為的すぎる」

　　

　

提督「深海妖精、彼等だけは」

　

　

提督「『想の魔改造』をしたかのようです。この輪廻のため、足りない歯車として用意された存在だとしか思えません」

提督「妖精が自然、その自然は人の想で構成されている」

提督「ならそれを」

　

　

提督「仕組んだ」

　

　

提督「その影の主は、」

提督「神」

提督「『妖精は何者なのか』」

　

提督「その問いは『妖精の想はどこから来ているのか』と、より確信へ」

　

　

提督「その想を管理しているやつが」

　

　

提督「必ず、います」

　

　

提督「そいつが初期に、水を、大地を、雲を、木々をこしらえ、この戦いという世界の下地を作り上げ、効率的な輪廻をそこに植え付けた」

　

　

提督「妖精の想を管理する役割を持って、この輪廻戦を絶妙なバランスで仕上げた存在」

　

　

提督「死人の魂をも利用して、今を生きる人間を過去に縛り付けている」

　

　

提督「我々に過去の戦争の傷跡を突き付けて、多くの命を奪い続けている無垢な殺戮者が」

　

　

提督「妖精を従え、我々に」

　

　

提督「終わらない夢を見せている」

　

　

提督「純粋な神様がいる」

　

　

提督「深海棲艦じゃなかった」

　

提督「その神こそ我々がこの戦争を終わらせるために」

　

　

提督「倒すべき敵です」

　

　

　

　

　

　

鹿島「そ、んな……」

　

鹿島「では私達は……」ﾎﾟﾛ

　

鹿島「何百人も……いえ、この戦いに携わっている全ての人間が、」

　

　

鹿島「深海棲艦じゃなくてっ」

　

　

鹿島「そいつに、弄ばれて傷つけられていた、ということでしょうか……！」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

　

　

鹿島「深海棲艦は、私達以上の被害者なのに」

　

　

鹿島「私達はっ、」

　

　

鹿島「容赦なく彼等の尊き命を奪っていたと、いうことでしょうか……！」

　

　

提督「……、……」

　

　

提督「この説が当たればそうなります。鹿島さん今の話を別室のシステムから甲大将にお伝えください」

　

　

鹿島「っ……」

　

　

提督「お願いします」

　

　

鹿島「……了解、しました」

　

　

2

提督「中枢棲姫勢力が欲しがっている情報は恐らく……」

　

　

提督「なぜ全ての役割をこなせるその神がわざわざ輪廻を植え付けたのか」

　

　

提督「そこの疑問から生じる答えを、求めているんですね……」

　

　

提督(心当たりが、ある)

　

　

提督(中枢棲姫勢力、あなた達が人を傷つけたがらないのも、戦艦棲姫を犠牲にしてまでもわるさめさんを寄越して)

　

　

提督(いいたいこと、分かりました)

　

　

提督「『我々は仲間割れをしている場合ではない』」

　

提督「ファンタジー……」

提督「人の想(ファンタジー)なら、そんなの、我々は今まで――――」

提督「人間が人間を観て『理解できない未知だ』と頭を悩ましていたってことで――――」

提督「これ、何度目のオチだよ……？」

提督「我々が過去からなにも学べていないから歴史は繰り返すのか……？」

提督「？？」

提督「分から、ない」

提督「中枢棲姫さん。あなたの、人間は人間に対しての理解が足りない。その言葉に、反論でき、ない」

提督「人類は、深海棲艦より愚かじゃないか……」

深海妖精「……」ｼﾞｰｯ

提督「…………聞こえ、ますか」

提督「先祖の魂…………」

　

提督「深海妖精さん」

　

　

提督「いえ、想、ですね」

　

　

提督「ごめんなさい」

　

　

提督「あなた達の過去のこと。もうあなた達の傷跡を、過ちを、命を燃やして生きようとしたその頃の痛みを、自分は知ったかぶりでしか語れません」

　

　

提督「あなた達の心を、苦しかったんだろうな、痛かったんだろうな、とか、そういう風にしか分からない」

　

　

提督「自分はまだ炎に焼かれることも砲弾で砕け散ることも、艦とともに沈むことも体験してなくて」

　

　

提督「分からないんだ」

　

　

提督「でも、今の人間だって」

　

　

提督「大切な人を失う悲しみは分かる人がたくさんいるから」

深海妖精「……」

　

　

提督「１８世紀には」

　

　

提督「神が、死んだね」

　

　

提督「１９世紀には」

　

　

提督「人間も、死んだよね」

　

提督「そんなんだから」

　

　

提督「今世紀では」

　

　

提督「神と人が化けて出たのかな？」

　

　

　

提督「自分は、昔に君を見た」

　

　

提督「でも艤装もなかったし、条件がおかしい。合っているはずの理論が崩れる」

　

　

提督「それが、心の力……？」

提督「理論を置き去りにする可能性なの？」

提督「なぜあの時、自分の前に」

　

　

提督「姿を、現したの……？」

　

　

提督「想いによる奇跡、だとでもいうのかな」

提督「妖精さん、もしかして、あの時さ」

提督「自分が、君を見つけた」

　

　

提督「そうじゃなくて」

　

　

――――君が、自分を見つけてくれたのかな？

　

　

提督「自分を見透かして、心とか想をさ、理屈で語る自分を嘲笑いに来たの？」

　

　

提督「それとも、助けてって、伝えたかったの？」

　

提督「それとも、なんとかしろって、ことだったのかな……？」

　

　

提督「分かんない。想って苦手でさ」

　

　

　

提督「……対面する」

　

　

提督「武器を手に入れましたから。自分否定のために、戦争終結を心したあの時を越える」

　

　

提督「怒りだ」

　

　

提督「深海棲艦と手を結んでまでも。この戦いの傷跡をこの胸に抱いて」

　

　

提督「この鎮守府は闇と向き合います」

　

　

提督「人間が死んだ。そう評された時代と向き合い」

　

　

提督「なおも厚かましく」

　

　

提督「嵐のなかを押し進み」

　

　

提督「命の炎で闇を照らし」

　

　

提督「大きく帆を張ります」

　

　

提督「どこにいる………」

　

　

提督「過去の人間の心を玩具のように愚弄しただけに留まらず」

　

　

提督「この時代に産まれた子供達さえも」

　

　

提督「過去の軍艦のように扱い、闇に縛り付け、成長と未来への歩みを妨害した……」

　

　

提督「あの子達は今を生きる人間だ……」

提督「馬鹿に、しやがって……」

　

　

提督「お前だけは絶対に」

　

　

提督「赦さない」

　

　

提督「必ず引きずり、出す」

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

――――――――海の傷痕。

【6ワ●：例の北方棲姫 2】

　

1

　

　

瑞鳳「敵機発見……」

　

　

阿武隈「……、……！」

　

　

瑞鳳「阿武隈さん、姫級、ですね」

　

　

阿武隈「あたしは……この深海棲艦を忘れた日はありません」

　

　

阿武隈「ずっと、会いたかった」

　

　

阿武隈「北方棲姫！」

　

　

　

　

　

北方棲姫「……？」

　

　

2

　

　

提督「阿武隈さん、倒す必要はありません。甲大将と乙中将が対象の敵艦隊を殲滅していますので」

　

　

提督「北方棲姫の行動のパターンは知っているはずです。探知した大きな動きのほうを叩きにかかる、ので」

　

　

提督「その現在位置からまずは乙中将艦隊のほうに旋回して向かいます」

　

　

提督「背を追えば敵地の中心部を通過せざるを得ないので、退いてもらえると」

　

　

阿武隈「なら敵陣に斬り込まず、迂回して追えばいいんですよね？」

　

　

提督「いえ、阿武隈さんが北方棲姫を倒す必要はありません。乙中将と甲大将に任せればいいです」

　

　

阿武隈「必要は、ありますっ！」

　

　

提督「阿武隈さん、自分がわざわざあの場で誓わせたこと、お忘れですか」

　

　

阿武隈「いえ、いいえ、覚えてます。けど、けど……いざ目の前にしたら、ダメ、でした」

　

　

阿武隈「由良さん、いえ」

　

阿武隈「皆の、仇です」

　

　

提督「いえ、仇は深海棲艦です」

　

　

提督「仇を取ることは彼女達の志を引き継ぎ、この戦いに勝つことであり、北方棲姫に固執することでは決してありません」

　

　

阿武隈「ズレています」

　

　

阿武隈「提督さんは大切な人を誰かに殺されたら、その犯人ではなく、人間そのものを恨み、滅ぼすのですか」

　

　

提督「それは揚げ足取りですし、ズレているのは阿武隈さんの焦点のほうです」

　

　

提督「阿武隈さん、もう１度、質問です」

　

　

提督「これは個人の戦いではないと分かった上ですか？」

　

　

提督「第２艦隊をわざわざしなくても済む戦いに巻き込んでまで、仇討ちをしたいのですね？」

　

　

阿武隈「……それ、は」

　

　

提督「お答えを。それによって自分からのお願いが変わります」

　

　

阿武隈「なら！ あたし一人で行きます！」

　

　

提督「……了解」

　

　

3

　

　

提督「瑞鳳さん」

　

　

瑞鳳「はい」

　

　

提督「第２艦隊の旗艦、お願いします。阿武隈さんはとりあえず今は放置で構いません」

　

　

提督「甲大将に自分からお願いしておきますので」

　

瑞鳳「構わないんです、けど」

　

　

瑞鳳「本当に阿武隈さん一人で行かせる気ですか？」

　

　

提督「まあ、後々阿武隈さんを追ってくださると」

　

　

瑞鳳「北方棲姫と戦闘するということですか？」

　

　

提督「……ええ。正し味方の後方を通る安全航路です。交戦までのルートはこちらから指示します」

　

　

提督「そして今からこの戦い終了までの遭遇する敵艦隊を教えますので、それを頭に入れてください。そのうえで第２艦隊に今から帰投までの指示を出しますので」

　

提督「この展開に備えて支援艦隊をそちら方面に近い場所で待機させています」

　

　

提督「敵艦隊がその自分の予想以外の行動を取った場合のみ、連絡を。初霜さんが応答するかもですが彼女には伝えておきますので、その指示に従ってください」

　

　

提督「その時以外は旗艦の瑞鳳さんに第２艦隊の指揮をお任せします」

　

　

瑞鳳「私は旗艦経験は薄いですけど、それほどの指示をくれていますし、問題はありません。提督は第一艦隊の指揮に専念なされるのですか？」

　

　

提督「いえ、すでに第１艦隊のほうには指示を出していますし、後のことは現場の指揮はすでに龍驤さんにお任せしております」

　

　

提督「自分は中枢棲姫勢力幹部とのやり取りという優先事項があります」

　

　

瑞鳳「そう、ですね。了解です」

【7ワ●：スイキの心】

1

水母棲姫「……やばー、小破だわ」

大井「はい？ 木曾、こいつ今なんていったのか分かります？」ｽｨｨｰ

木曾「小破だと」ｽｨｨｰ

水母棲姫「あんたらなんなのよ！ なんでどんどん接近してくるの！？」

北上「お話したいからさ」ｽｨｨｰ

水母棲姫「お話したらどっかに消えてくれるのかしら？」

大井「深海棲艦さん、耳が腐るので喋りかけるの止めてもらえます？」

水母棲姫「ムチャクチャね！？」

水母棲姫「話すことなんてないわよ！ 戦闘民族球磨型御一行にストーカーされるとかほんっと最悪！」

水母棲姫「くじ引きで甲大将のところ相手することになるなんて、生きている頃も死んだ後も、私の素の運のなさを呪うわ！」

大井「……」

北上「名前はスイキちゃんだっけ。どうぞ続けてー。今回はあんたらを地獄に落とす作戦じゃないし」

木曾「姉さんあのさ、こいつの相手は俺がしていいか？」

大井「まあ、突っ込み過ぎて味方から孤立して深海棲艦に囲まれています。周りに大したやつは見当たらないとはいえ、油断大敵ですね」

北上「じゃー大井っち、周りのやつは私らがなんとかしよっか」

木曾「さんきゅ」

水母棲姫「馬鹿めー！ 一人なら少しだけ遊んであげるわ！ 5inch連装両用莢砲アーンド5inch連装両用莢砲！」

水母棲姫「ドドドドド！」

水母棲姫「ドン！」

木曾「おらよっと」

水母棲姫「アアアアア！？」

水母棲姫「その抜刀術なによ！ その剣で弾を全部、弾いちゃうの！？」

水母棲姫「動体視力とか反射神経とか色々と素質が、狂ってない！？」

木曾「あのさ、お前は」

木曾「『最強の深海棲艦』だろ」

木曾「そう名乗るのは遊び半分なのか、それとも誇りがあるのか？」

木曾「俺はお前はどちらかといえば人間に近いと思う。だからさ他の海屑艦隊のメンバーのやつをさ」

木曾「仲間として想えるよな」

木曾「愛情を誰かに向けられるんだろ」

木曾「全部、出してみてくれよ」

木曾「お前は最強を名乗るやつだが、俺は甲の大将の第１艦隊旗艦だ」

木曾「退屈はさせねえから」

水母棲姫「これだから甲の極道艦隊は嫌いなのよねー……」

水母棲姫「あんた、今」

水母棲姫「この私に愛情を誰かに向けられるっていったわね？」

水母棲姫「それね、ダメよ」

水母棲姫「私はね！ 愛した提督に裏切られて殺されたのだから！」

ﾄﾞｵｵﾝ！

木曾「……危、ねっ！」

水母棲姫「これも、回避するの……？」

水母棲姫「あのね、よく聞いてちょうだい。今の攻撃はね、 5inch連装両用莢砲、5inch連装両用莢砲で攻撃しながら水上爆撃機使って、本命の特殊潜航艇まで潜らせた私の全力なの」

水母棲姫「どうして、避けられたの？」

木曾「勘」

水母棲姫「イラッ★」

水母棲姫「あのね、私は艦娘を殺すのはまあ、別にいいのよ。でもね、大破させるのは嫌いなの」

木曾「……あ？」

水母棲姫「大破した艦娘って、踏み潰した虫けらがまだ動いて生きているあのキモい感じに似てない？」

水母棲姫「ほんっと最悪」

水母棲姫「まるであの時の私みたい」

水母棲姫「5inch連装両用莢砲、5inch連装両用莢砲！ 特殊潜航艇！ 水上爆撃機！」

木曾「……！」

水母棲姫「改造」

水母棲姫「アンカー弾」

ﾄﾞｽｯ

木曾「痛っ、これ錨か？」

水母棲姫「スイキちゃんの一本！」

水母棲姫「釣り！」

水母棲姫「空中で身動きは取れないでしょ！ 蜂の巣にしてやるわ！ 5inch連装両用莢砲アーンド！ 5inch連装両用莢砲！」

水母棲姫「ガ！」

水母棲姫「オー！！」

ﾋｭﾝ

水母棲姫「剣を投げて……！」

水母棲姫「いったあい！ 目に……！」

木曾「おい、釣り上げた獲物が来たぞ」

ドガッ！

水母棲姫「……っ！」

水母棲姫「嫌よ、ケンカだなんてダサいし」

水母棲姫「雷巡とは思えないほどの馬鹿力ね。それに、スイキちゃんの顔を殴るだなんて、酷いやつ……」

水母棲姫「この、中二処女野郎が」

木曾「お前あんまり強くねえ……というか、あんまり本気じゃねえな」

水母棲姫「スイキちゃん、かなり本気なんですけど！？」

水母棲姫「ま、強さを求めているのなら私はハズレではあるわね！」

木曾「雷撃」

木曾「０距離」

ﾄﾞｵｵｵﾝ!

水母棲姫「……、……」

水母棲姫「よくもまあ、自傷行為して笑ってられるわね。あんた、頭が可笑しいんじゃない？」

木曾「いや、俺な、木曾なんだけど」

木曾「素質のほうで色々問題がね。でも別に他にもいるよな。乙さんのところの神通とかさ、あーいう」

木曾「顔が欠損しても笑えるタイプ」

木曾「俺の場合はただの気質だけど」

木曾「笑うなよ。笑っちまうだろ」

水母棲姫「いいわよ……こっち来なさいよ……」

水母棲姫「と思ったけど、約束がある」

水母棲姫「家族を守る約束があるの」

水母棲姫「そろそろレッちゃん達を見に行かないと。それじゃ」

水母棲姫「くたばれ――――異常者」

ドガッ！

木曾「っ！」

木曾「……逃がしちまった、か」

木曾「なんだよ」

木曾「本気出してくれたの最後だけか……」

【8ワ●：ネッちゃんの心】

1

日向「……」

ネ級「ネッちゃんとお喋りする？」

日向「なあ」

伊勢「うん？」

日向「ネッちゃん可愛くないか？」

伊勢「会話できるなら会話しろ、との命はあるけど、油断は大敵ね？」

日向「天城と加賀がガンバってくれてるし、乙中将のとこが相変わらず敵を沈めてくれてるだろ。少しくらい喋る余裕はある」

ｽｨｨｰ

雪風「雪風、到着です！」

ネ級「ネッちゃんです……！」

雪風「はい！ 雪風です！」

伊勢「なにこの和みの空気……」

雪風「ネッちゃんさんはお一人なんですか？」

ネ級「ネッちゃんにも仲間、いる」

ネ級「大事な家族」

日向・伊勢「……」

ネ級「家族、お前らに殺されるけど、ネッちゃんはやり返さない」

ネ級「残りの家族が悲しむから」

ネ級「いつか許しあって、お友達になれたらいいと思います……！」

雪風「では雪風とお友達になりましょう！」

ネ級「大変、ネッちゃんにお友達が増えてしまいました……！」 ｷﾗｷﾗ

ネ級「……あ、レッちゃんの声！」

ネ級「ごめん、レッちゃんのピンチ！ ネッちゃん助けに行く……！」

ネ級「また会う日まで！」

ｸﾙｯ、ｽｲｲｰ

雪風「はい！ また会う日まで！」

日向「伊勢、どうだった？」

伊勢「無害にしか思えないよ……」

日向「……丙さんが」

日向「乗り気じゃないのも頷けた」

伊勢「そう、だね。だってあの人達ならきっと、戦わずに済む方法があるような気がするし」

雪風「お二人とも！ 中央の乙中将の支援に向かいましょう！ 駆逐古鬼、北方棲姫、重巡棲姫、潜水棲姫もいます！」

日向「……そうだな」

伊勢「…………うん」

【9ワ●：『私達』】

　

1

　

リコリス棲姫「大丈夫かしら」

　

　

中枢棲姫「大丈夫ですよ」

　

　

リコリス棲姫「レッちゃん＆ネッちゃんはもちろん、スイキも怒ると突っ走るところがあるからねえ……」

　

　

中枢棲姫「いずれは電かわるさめさんがここまで来るはずです。向こうは丙、乙、甲の将校全てが参加している作戦です」

　

　

リコリス棲姫「正直、少しでもズレが生じたら私は引きたいわね……」

　

　

中枢棲姫「きっと来ますよ」

　

　

中枢棲姫「ここまで戦力を集めてやり合う時間をあげました。もしも来ないのなら」

　

リコリス棲姫「しばらくは今まで通り平和、かしら」

　

　

中枢棲姫「ええ、味方とも敵とも認識するほどでもないですから、またその時が来るまで、この時にしおりを挟みましょう」

　

　

中枢棲姫「我々も独自に動きながら、また家族としての時間を、深海棲艦の命を尊ぶ、いつもの毎日を続けましょう」

　

　

リコリス棲姫「……艦載機、飛ばしたほうがいいかしら？」

　

　

中枢棲姫「いえ、その必要も心配もないようです」

　

　

中枢棲姫「想定通りです」

　

　

ｽｲｲｰ

　

　

ぷらずま「● ●」

　

　

ぷらずま「お茶会でも始めそうなそこのお二方」

　

　

ぷらずま「首を」

　

　

　

ぷらずま「ちょんぎってやるのです」

　

　

2

　

　

リコリス棲姫「いらっしゃい。では、ご用件をお伺いしようかしら」

　

ぷらずま「もちろん葬りに来たのですが、ある程度は察しがついているようですね」

　

　

ぷらずま「私の司令官さんから質疑応答を頼まれて、単艦で来ました」

　

　

ぷらずま「わざわざ道をこしらえてくれたこと、虫酸が走ります」

　

　

中枢棲姫「交渉、でしょうか。いずれにしろそちらの司令官との通信手段をこちらへ」

　

　

ぷらずま「必要ありません」

　

　

ぷらずま「たった10文字ですから」

　

　

リコリス棲姫「あなた達が好きです」

　

　

リコリス棲姫「って感じだったら、ロマンチックよね」

　

　

ぷらずま「その足元に携えてる雷花の花言葉のごとく、頭の中は乙女なのですね」

　

　

ぷらずま「可哀想に。お前みたいな化物を好きになる人間なんていねーのです」

　

　

リコリス棲姫「あなたに命令をくれる司令官さんも？」

　

　

ぷらずま「…………」

　

　

中枢棲姫「本題に」

　

　

ぷらずま「『本体はどこですか』」

　

　

ぷらずま「● ●」

　

　

リコリス棲姫「…………あら？」

　

　

リコリス棲姫「中枢棲姫、これは」

　

　

中枢棲姫「少し困惑しました」

　

中枢棲姫「こちらも電【懐】か春雨【懐】が来るとは読んでいまして」

　

　

中枢棲姫「なかなか頭の回ると噂のそちらの提督殿にお聞きしたいことがあったのです」

　

　

ぷらずま「？」

　

　

中枢棲姫「こちらも同じですね」

　

　

中枢棲姫「『本体はどこですか』」

　　

リコリス棲姫「なんだか運命的で、ロマンチックではないかしら」

　

　

ぷらずま「……、……」

　

　

ぷらずま「つまり、あなた達も知らない。そして探している。こちらの司令官さんはもうその本体とやらの居場所も突き止めていると考え、それを聞き出そうと待っていたのです？」

　

　

中枢棲姫「はい」

　

　

リコリス棲姫「深海妖精に気付いていたみたいだから」

　

　

リコリス棲姫「利用しようとしたのだけど、時間が足りなかったかしら？」

　

　

中枢棲姫「……そのようですね。彼に期待し過ぎていたようです」

　

　

ぷらずま「『史実効果』」

　

　

リコリス棲姫「……？」

　

　

ぷらずま「『この戦いにおいての適性率６０％越えの男性兵士の登場』」

　

　

中枢棲姫「……」

　

　

ぷらずま「『あなた達のような人間と変わらない知能を有した深海棲艦の出現』」

　

　

中枢棲姫「お見それしました。逆でしたか」

　

　

ぷらずま「『本体の出現場所。その本体の足跡の手がかり』」

　

　

中枢棲姫「……期待以上」

　

　

ぷらずま「似たような質問を返されたらこのワードを伝えて欲しい、と司令官さんから」

　

　

中枢棲姫「……その先の」

　

　

ぷらずま「この先の情報は、リコリス棲姫、中枢棲姫、テメーらどちらか片方の首と交換なのです」

　

ぷらずま「私は、拷問されても吐きませんよ。なにをされようが」

　

　

ぷらずま「あなた方には、屈しません」

　

　

ぷらずま「この場を設けるためにこの規模の戦いを誘導したというのなら、その落とし前をつけるのは当然なのは分かりますね？」

　

ぷらずま「さて、どうしましょう」

　

　

ぷらずま「●ワ●」ﾆﾀﾆﾀ

　

　

リコリス棲姫・中枢棲姫「了解」

　

　

ぷらずま「……、……」

　

　

リコリス棲姫「あら？ あなたのほうが頭良いのだし、生き残るのはあなたのほうがいいのではないかしら」

　

　

中枢棲姫「ここから先は私でなくとも問題ありません。それに、私のほうがリコリスより６年も長く生きていますが……」

　

　

リコリス棲姫「ふふ、この戦いにおいては総指揮は私よね。だったら、この場の生贄は私、でしょう？」

　

　

中枢棲姫「まるで死にたいみたいですね？」

　

　

リコリス棲姫「ふふ、あなたこそ」

　

　

ぷらずま「……」

　

　

ぷらずま(司令官さんは交渉決裂になるかも、と予想されてましたが、この反応に対する対処は教えてもらっていません)

　

　

ぷらずま(完全に予想外、なのです)

　

　

ぷらずま「なにを考えているのか分かりませんが、なにか企んでいますね？」

　

　

リコリス棲姫「私達がこう穏やかに話をできるようになったのは、そう昔のことではないの」

　

　

リコリス棲姫「前はこんな風にあなた達と喋ることはできなかったから」

　

　

ぷらずま「前にあなた達と出会った時、何事かと思いましたよ。姫も鬼も多少は口がきけても基本的に問答無用だったので」

　

　

中枢棲姫「ええ、私達もこうなる前はこのように長い間、衝動を抑えつつ、会話するのは不可能でした」

　

　

リコリス棲姫 「『あなた達のような人間と変わらない知能を有した深海棲艦の出現』」

　

　

リコリス棲姫「そちらの司令官さんはそういったのだから、気付いているはずよ」

　

　

リコリス棲姫「ただ終わることのない輪廻戦をしていた今までとはなにかが変化しているって」

　

　

ぷらずま「私の頭では察せませんが、深海棲艦を殲滅できればそれでいいのです」

　

　

中枢棲姫「あなたは戦争が、正義と悪に別れているかのようにいう」

　

　

ぷらずま「は？ この戦いが人類同士の戦争とでも思っているのです？」

ぷらずま「テメーらみたいな脅威が海にたむろすることが人にとって害悪でなくてなんだというのです」

　

　

中枢棲姫「ええ、全く持って同感ですが、戦争における兵士は大きな力の渦に巻き込まれたに過ぎないのです」

　

　

中枢棲姫「戦争は常にそうです」

　

　

中枢棲姫「戦争において兵士が銃だとすれば、その銃口を向ける先、引き金を引く者が必ずいる」

　

　

中枢棲姫「私達もあなた達も駒に過ぎず、需要があるだけの存在なのです」

　

　

中枢棲姫「大いなる力、に」

　

　

ぷらずま「……、……」

　

　

リコリス棲姫「あなたは私達を滅ぼすために艦娘になったのかしら？」

　

　

ぷらずま「それも目的ですが、この世から戦争なんかなくなればいいと思うのです」

　　

　

ぷらずま「平和、とはいいません。もう少しくらい」

　

　

ぷらずま「優しい人が馬鹿を見ない世界に」

　

　

リコリス棲姫「憐れな子ね。そういう優しい子は戦争に参加しては心が壊れてしまうじゃない。私、悲しくて涙が出そうよ」

　

　

中枢棲姫「争いは現象です」

　

　

ぷらずま「馬鹿にしないで欲しいのです」

　

　

ぷらずま「この戦いを終わらせたところで悲劇は芽吹くのです。それを理解していてもなお、この戦いを終わらせることに大きな意味はあります」

　

　

ぷらずま「じゃなければ戦いませんよ。そんなくだらねー問答は無用」

　

　

中枢棲姫「リコリス、これは成長なのでしょうか、それとも開き直りなのでしょうか」

　

　

リコリス棲姫「いずれにしても偉大な過程を越えてきた意志よ。尊いわ」

　

　

中枢棲姫「駆逐艦電、繰り返しますが、こうして話せるのは」

　

　

中枢棲姫「異常、なのです」

　

　

ぷらずま「……ここから先はどうも私では見落とす可能性がありますし、そろそろですね」ﾎﾟｲｯ

　

　

ぷらずま「あなた達のためにわざわざ用意しました。司令官さんと話してください」

　

　

リコリス棲姫「そうね。中枢棲姫お願い」

　

　

中枢棲姫「はい」

　

　

中枢棲姫「こちら深海棲艦名、中枢棲姫、名前はチューキと申します」

　

　

中枢棲姫「ようやく辿り着いてくれましたね」

　

　

中枢棲姫「偉大なる欠陥提督殿」

　　

　

3

　

　

提督「あなた達は自分達の状況を正確に理解しておられますか？」

　

　

中枢棲姫「いいえ、こうして本能を長らく理性で押さえ込めるのも異常なことです。我々のなかでもごく一部、しかも個体差が大きい」

　

　

中枢棲姫「すでにお気づきなのでしょうが、この戦いを形造る想いのことをご存じで」

　

　

提督「それがこの戦いを維持する燃料かと」

　

　

中枢棲姫「同見解です」

　

　

提督「異常、というより、バグ、のほうが的確です」

　

　

提督「艤装の適性が出る条件は軍が明確にしていますし、間違いなさそうですね。自分も適性については施設で調べましたから」

　

　

提督「深海妖精は意図的すぎる。明らかにこの戦いのためだけに生まれた用途です」

　

　

中枢棲姫「同意見です」

　

　

中枢棲姫「一応いっておきますが、この戦いにおいて最初に現れた存在にお気づきですか？」

　

　

提督「どう考えても妖精です」

　

　

中枢棲姫「ええ、我々は最初に出現した妖精を探しています」

　

　

提督「それが海の傷痕、いえ、本体、との認識で間違いないですね？」

　

中枢棲姫「……はい。ですが、その妖精がどこにいるのか、そしてその妖精の具体的な能力がなんなのかは把握できておりません」

　

　

提督「まあ、ここ数年の時間、人間の力を頼れないあなた達には困難なことです。そこまで辿り着けたのも」

　

　

中枢棲姫「ええ、駆逐艦電【懐】を作った提督と少し交流が持てまして」

　

　

提督「証拠の資料は渡せませんが、まずは聞いてくださいね」

　

　

提督「いっていて笑ってしまうのですが」

　

　

提督「まずその妖精の正体ですが、過去の大戦に従事した関係者の」

　

　

提督「想いとやらが形になった存在ですね。余計な部分を削除し、与えられた作業にのみ没頭するツール」

　

　

中枢棲姫「ツール……？」

　

　

中枢棲姫「申し訳ありませんが、あまり近代の言葉を使われても理解できないので、なるべく古めかしい表現を」

　

　

中枢棲姫「心の例えでお願いしたい」

　

　

提督「なるほど、了解しました」

　

　

中枢棲姫「そして本体ではなく、海の傷痕にしましょう。そのほうがムカつきますので」

提督「……了解」

提督「その妖精を産み出し、活動させる燃料となる想を付与しているのが自分達のいう海の傷痕です」

　

提督「こちらの情報を分析すると、何かしらの原因で過去の大戦の想いが一つにまとまった存在だと思われます」

　

　

中枢棲姫「なるほど、色々と合点が行きますね。過去の軍艦の艤装しかないのはその想いとやらが故人のものであり、今を記録していないから」

　

　

中枢棲姫「我々とあなた方に戦いをさせるのも、確かに強い想いが関係していると捉えるのが自然、ですね」

　

　

中枢棲姫「しかし、なぜ艤装、なのでしょう。当時の状況からして軍艦が戦っていたのですよね。それなら艤装ではなく、軍艦そのものを製造するのが、違和感がないと思いますが」

　

　

提督「想い、ですからね」

　

　

提督「その集合体は、あくまで軍艦は武器で人間が戦っていたという認識だったとか、その手のことは考えたらキリがないです」

　

　

提督「単純な軍艦ではなく、なぜ艤装という武装が製造されたのは」

　

　

提督「こちらで有名な話なのですが、船は女性と例えられますから」

　　

提督「軍艦になる適性が女性にしか出なかったのかと……」

　

　

提督「逆に提督の素質において男が圧倒的なのも、まあ、そういった理由、かもですね」

　

　

中枢棲姫「そんな理由、ですか」

　

　

提督「なにぶん想いですからね。予想を考えたらキリがないですし、なんだよそれ、みたいなこともある、かと。自分の物差しで測りかねるものですから、結果としてそういうことになっている。それが答えで、理由は後回しでも構わない些事です」

　

　

中枢棲姫「……そう、ですね。すみません。興が乗ってしまいました。私もさして重要なことだとは思えません」

　

　

提督「ええ。その妖精に役割を与えている海の傷痕をブチ殺し、なおかつ再出現を阻止すれば終わりです」

　

　

中枢棲姫「色々と情報をくれたのはありがく思うのですが、その海の傷跡の居場所は分かってはいないのですか？」

　

　

提督「目星はついてはいるのですが、その情報は渡せません」

　

　

中枢棲姫「では足跡なら？」

　

　

提督「４年前まではキスカ島周辺にいたはずです」

　

　

中枢棲姫「４年前にキスカに、いた」

提督「４年前の、その日付からして」

　

　

提督「自分の鎮守府に所属している阿武隈さんがキスカ島に姫を殲滅しに出撃した日です」

　

　

提督「阿武隈さんと卯月さんは気付いていない風ですが」

　

　

提督「艦隊メンバー４名が死亡したあの戦いには疑問がいくつかありましたから。北方棲姫はともかく、訳の分からない姫や鬼がたむろした形跡がありますからね」

　

　

提督「その資料からして鬼や姫で構成された艦隊と見るべきでした」

　

　

提督「そちらに覚えはありますか？」

　

　

中枢棲姫「我々の勢力とはまた別ですね。今、その艦隊にいたと思われる北方棲姫はこちらにいますが、引き入れた……いいえ、単艦にいたところをレ級が保護しましたね」

　

　

中枢棲姫「ステルス機能と異様な収納部があるだけで、知能は高くありません」

　

　

中枢棲姫「ですが、確かに私が異常を自覚したのがその日付です。いえ、海屑艦隊メンバー全員が、ですね。間違いはありません」

　

　

提督「なぜかはまだ分かりませんが、その時にキスカにいたんですよ」

　

　

提督「事後の捜査報告書、撃沈した４隻の戦闘形式からして、向こうはなにがなんでもその４隻を消す必要があったとしか思えません」

　

　

中枢棲姫「海の傷痕がいたのですね」

　

　

提督「そして、一矢報いています」

　

　

中枢棲姫「……ほう」

　

　

提督「あの場にいたのは海の傷痕とそれに与する深海棲艦、そして艦娘」

　

　

提督「そして海の傷痕に危害を加えたのは艦娘と考えるのが妥当ですから」

　

　

中枢棲姫「海の傷痕に与えた損傷が我々の艤装の想の管理に異常を与えた原因だと？」

　

　

提督「現情報では、これが最も濃い説です」

　

　

中枢棲姫「少なくとも４年経過した今でもその異常の修復は出来ていないと」

　

　

提督「その以後、新しく産まれた深海棲艦にあなたのような異常な知能を持った深海棲艦の報告はなく、可能性も見受けられません」

　

　

提督「直せてはいますが、すでに起きた異常は修復が困難、または不可能なのではないかと」

　

　

提督「……、……」

　

　

中枢棲姫「そして『その海の傷痕は艤装の攻撃で損傷したと思われる。深海棲艦、艦娘の種は問わず、艤装による破壊は可能』なのですね？」

　

　

提督「ええ、そう、ですね」

中枢棲姫「ではこちらになにか聞きたいことはありますか？」

提督「『トランス』についてです」

中枢棲姫「……そうですね。こちらの見解も教えます。この問いにおいてはぷらずまさんのほうで進めますね」

中枢棲姫「深海妖精は彼女を深海棲艦と認識する。そう思われてはおりませんか？」

提督「はい」

中枢棲姫「それはあくまで妖精の認識です」

中枢棲姫「彼女達の艤装は意思により姿を現します。これはそもそも艤装が艦娘、深海棲艦を問わず、想という基で出来ていることが強く関係します」

中枢棲姫「そちらでいうロスト現象でしたか。深海棲艦でも艦娘でも出来ない消失現象をなぜお二人は、という疑問においては」

中枢棲姫「我々の視点ではこう見てはいかがでしょうか」

中枢棲姫「彼女は深海棲艦、艦娘、そして」

中枢棲姫「妖精でもある」

提督「……、……！」

中枢棲姫「その認識で説明はできます。最もこれはあくまで異常に過ぎないのです。ぷらずまさんの場合はロスト自体が不安定なのでしょう」

中枢棲姫「そこが『艦娘反応と深海棲艦反応が出る』の原因と思われます」

中枢棲姫「わるさめさんのステルスはぷらずまさんと違って『艤装において完全なロスト現象が起こせるトランスが出来る』ことにより『春雨艤装を出すことで艦娘反応を、深海棲艦艤装を出すことで深海棲艦反応を出し、それがステルスとして応用可能』なだけです」

中枢棲姫「深海棲艦艤装の投与数と個々の想も含めた素質部分が影響すると思われます」

中枢棲姫「そしてこれは私達、深海棲艦にはつかない機能ですから、深海妖精が付与できる機能ではなく、【壊】という異常を強引に造ったゆえに更に発生した異常だと思われます。例の提督にとっては意図していない副産物ですね」

中枢棲姫「リコリスと私の論だと、この程度となります」

提督「お話している限り、あなた達は本当に驚異的存在です……」

　

　

中枢棲姫「それはお互い様です」

　

　

中枢棲姫「私達は私達でその海の傷痕を潰そうと思っていたのですが、教えてはいただけないのですね？」

　

　

提督「……この通信、色々な方が聞いています。ラインが指示されているのですよ。あなた方はあくまで」

　

　

中枢棲姫「申し訳ありません。喜びのあまり、失念していました」

　

　

中枢棲姫「そちらは軍組織、そしてこちらはその標的です。今更、言葉にして協力などといえるわけがありません」

　

　

中枢棲姫「組織というのは枷ですね」

　

　

提督「……いえ、お教え致します」

　

　

提督「――、――です」

　

中枢棲姫「……、……『お任せを』」

　

　

中枢棲姫「『理解しました』」

　

　

提督「……はい。すみません。今のはラインを越えましたので自分はこれ以上の応答はできません。この場においてこの先は」

　

　

提督「丙の将校に引き継ぎます」

　

　

中枢棲姫「ありがとう」

　

　

中枢棲姫「あなたともっと早く出会いたかった。そう思わずにはいられない」

　

　

中枢棲姫「助けてくれて、ありがとう」

　

　

4

　

　

ぷらずま「● ●」

　

　

ぷらずま「リコリス棲姫さん、せっかくですので遺言は聞きますよ？」

　

　

リコリス棲姫「あら、手を煩わせなくても自分で逝けるわ」

　

　

ぷらずま「……」

　

　

リコリス棲姫「賢くなるまで、あなた達とこうやって向かい合えば、沈めることしか考えられなかったのよ」

　

　

リコリス棲姫「もしもあなた達がこの戦いの終わりが見えていないのなら、今の仲間のために、いつも通り戦うわ。私はあの子達を率いているもの」

　

　

リコリス棲姫「この世界はあなた達が全て線を引いて私達が笑って過ごしていい場所なんてないから、戦うしかないじゃない」

　

　

リコリス棲姫「うっすらなのに、そちらの気持ちは痛いほど分かるだなんておかしい話よね」

　

　

ぷらずま「いえ、それほどまでにこちら側にいた時の想いが強かったのです。私はそう、判断します」

　

　

リコリス棲姫「でも幸せなのよ？」

　

　

リコリス棲姫「争うだけの生き物から解放されたこの時間は幸せよ」

　

　

リコリス棲姫「同時にいる場所が地獄であることも強く自覚したわ」

　

　

リコリス棲姫「自殺できることがこんなにも嬉しく感じるから」

　

　

リコリス棲姫「嬉しい分だけ、悲しい、そんな変な気持ち」ｼﾞｬｷﾝ

　

　

ぷらずま「……っ！」

　

　

ﾄﾞｵﾝ

　

　

ぷらずま「はあっ……はあっ……」

　

　

リコリス棲姫「至近距離で外すほど、動揺しているのね」

　

　

リコリス棲姫「ああ、可哀想に」

　

　

リコリス棲姫「でも、ありがとう」

　

　

ぷらずま「礼をいわれる筋合いはねーのです。私がやったほうが手柄もらえるのです」

　

　

リコリス棲姫「あなたは本当に優しい子なのね」

　

　

ぷらずま「……まさか」ｼﾞｬｷﾝ

　

　

リコリス棲姫「いいえ、なかばこちらに足を踏み込んだせいで忘れかけているだけよ」

　

　

リコリス棲姫「戦争には勝ちたいけど、敵の命は助けたいっていう子だもの」

　

　

リコリス棲姫「軍艦電が人になれば、きっとあなたのような優しい子なのでしょうね」

　

　

リコリス棲姫「――――あ、」

　

　

リコリス棲姫「２度目、よね」

　

　

リコリス棲姫「泣かせてしまったの」

　

　

リコリス棲姫「ごめんなさい」

　

　

リコリス棲姫「本当にごめんね」

　

　

リコリス棲姫「あなたに助けてもらうことができなくて」

　

　

リコリス棲姫「そうね、でもあなたは変わらないから。その美徳にご褒美をあげようかしらね」

　

　

リコリス棲姫「教えずにおこうと思っていたけど、やっぱり教えておこう、かな」

　

　

リコリス棲姫「これはあなたの在り方次第で」

　

　

リコリス棲姫「希望にも」

　

　

リコリス棲姫「絶望にもなる」

　

　

リコリス棲姫「そんな深海棲艦(反転)の優しさ」

リコリス棲姫「綺麗な花を咲かせるための種をあなたに植えましょう」

リコリス棲姫「あなたとわるさめは異常と認識されているけど、純粋な異常は私達で、あなた達はもっといえば違法行為、でしょうね」

　

　

リコリス棲姫「本体を倒しても、深海妖精が解体出来なかった以上は、本体がわざわざあなたを解体できる役割を持たせる妖精を造り出すと思う？」

　

　

リコリス棲姫「それができるのなら、すでにやっていないとおかしいと思うでしょ？」

　

　

リコリス棲姫「私は耳を良くしているからチューキの話は聞こえたわ」

リコリス棲姫「４年前にキスカにいた」

リコリス棲姫「それキスカにいたのではなくて」

リコリス棲姫「わるさめ……いえ、あなたのいる鎮守府に向かっていたのではないかしら。その頃、私達、普通の深海棲艦だったし」

リコリス棲姫「何のために、って、それはこの戦いにおいて異常であるあなたを排除するためよね。どう考えても」

リコリス棲姫「本体があなたに対して物理的な排除行動を取った。残念ながら確定ね。わざわざ出向いてあなたの命を奪うことでしか、(壊)を排除出来ないということじゃ？」

ぷらずま「……」

リコリス棲姫「絶望したの？ それとも希望が見えたかしら？」

ぷらずま「……」

ぷらずま「……、……」

　

　

ぷらずま「その口を閉じろ」

ぷらずま「そんなの、知っています」

　

　

ぷらずま「１度目に泣かされた日から、知っています！」

　

　

ぷらずま「私が元に戻れないだなんて！」

　

　

ぷらずま「狂った化物として生を進み、歩んでいく未来なんて！」

　

　

ぷらずま「だってあの日に貴女が私に教えてくれたじゃないですか！？」

　

　

ぷらずま「あの日子供のように咽び泣いて！」

　

　

ぷらずま「一人になっても深海棲艦艤装を展開し！ 保護されるまで海の上で泣き続けて！」

　

　

ぷらずま「駆逐艦電を捨てたのです！」

　

　

ぷらずま「この命はこの戦いを終わらせるために！ 貴女達を消し去るためだけに摩耗すると決めたのです！」

　

ぷらずま「その悲願が達成された時！」

　

ぷらずま「死にます！」

　

　

ぷらずま「私は悪逆の限りを尽くしましょう！ 味方さえも装備として、この身体さえも弾薬として、心さえも燃料として使い果たして……！」

　

　

ぷらずま「司令官さんに感情があるのは着任初日から知っています！ この鎮守府(闇)に人が増えるのも予想できていました！」

　

　

ぷらずま「あの司令官さんは普通に戻っていけばいいのです！」

　

　

ぷらずま「あの人は『人間』なんですから！」

　

　

ぷらずま「私が周りからどんな風に思われているかも知っているのです！ あなたよりも遥かに！」

　

　

ぷらずま「誰もが私を嫌えばいいのですよ！ 憎んで恨んで、心から死んで欲しいと願うようになるまで！」

　

　

ぷらずま「鬼畜艦を！」

　

　

ぷらずま「演じ抜いてやります！！」

　

　

ぷらずま「孤独に絶望を添えて、一人抱え込み、この戦いの全ての傷痕をこの身に抱いて……！」

　

　

ぷらずま「自分を殺してみせます！」

　

ぷらずま「それが人の心を隠し秘めた私のハッピーエンドでお似合いの最後なのです！」

　

　

ぷらずま「自分で自分を殺すのは最悪に悲しい殺人でしょう！？」

ぷらずま「ふざけないでください！」

　

　

ぷらずま「あなたはなんで……？」

　

　

ぷらずま「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで！？」

　

ぷらずま「私ですら出来ない！ 自殺なんていう悲しい最期を笑って実行しようとするのです！？」

　

　

ぷらずま「させてあげません……！」

　

　

ぷらずま「そんな悲しい死に方、私の前では絶対に赦さないのです！」

　

　

ぷらずま「あなたは化物である私に！」

　

　

ぷらずま「不当に！」

　

　

ぷらずま「残虐、悲劇的に！」

　

　

ぷらずま「殺される」

　

　

ぷらずま「『被害者』として」

　

　

ぷらずま「同情の愛を向けられる死に方をしてください！」

ぷらずま「命は助けられない無力な化物からのせめてもの慈悲を受け取ってください！！」

　

　

リコリス棲姫「……なんて不器用な優しさなのかしら」

　

リコリス棲姫「先程教えたことで絶望したみたいだけど、私には分かるのよね。私はあなたのような子供のことはよく分かるの」

リコリス棲姫「だから聞くわね。私がさっきの話をした時に」

リコリス棲姫「あなたは誰の顔を思い浮かべたの？」

リコリス棲姫「それが、希望だからね？」

ぷらずま「――――もう、やめて」ﾎﾟﾛ

ぷらずま「――――私のメッキを剥がそうと、しないでください」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

リコリス棲姫「ごめんなさい。３度目、ね」

リコリス棲姫「もしもまた」

　

　

リコリス棲姫「来世で会うことがあれば、あなたともお友達になりたいわ」

　

　

リコリス棲姫「そんな想いをこの花に」

　

　

リコリス棲姫「託して逝くとするわね」

　

　

ぷらずま「…………！」

　

　

――――ﾄﾞｵﾝﾄﾞｵﾝﾄﾞｵﾝﾄﾞｵﾝ

　

　

ぷらずま「慈悲、完了」

ぷらずま「なの、です……」

　

　

中枢棲姫「――――あ、」

　

　

中枢棲姫「……っ」

　

　

　

中枢棲姫「リコ、リス」

　

　

中枢棲姫「すぐに最高の土産話を持っていくので」

　

　

中枢棲姫「昨日に飲んだ……安いお酒でも、用意していてくださいね」

　

　

5

　

　

中枢棲姫「ええ、深海妖精の陸地の誘う方法はそれで間違いありません」

　

　

丙少将「ああ、それと」

　

　

丙少将「海屑艦隊のメンバーがそれぞれ特異な身体能力を持っているんじゃないか？」

　

　

丙少将「こちらのやつらからの情報を整理すると、レ級は視力かね。ネ級は聴力か？ 水母棲姫は腕になんか工作艦染みた装備を仕込んでるだろ」

　

　

丙少将「それも深海妖精か？」

　

　

中枢棲姫「そうです。深海妖精との意思疏通で可能な技術となります」

　

　

中枢棲姫「深海棲艦である私達は反転存在であり、艤装が基となっているのであなた方が外付けの艤装を弄るように、外付けの肉体を工作できます」

　

　

中枢棲姫「そちらの魔改造でしたか。そういわれる技術を深海棲艦で行ったものとお考え頂ければ間違いはありません」

　

　

中枢棲姫「深海妖精は私達の知能自体をあげることはできませんが、視力や聴力、五感機能をある程度、引き上げる」

　

　

中枢棲姫「肉体改修ができます。水母棲姫は特殊で肉のなかに特殊な装備を埋め込んでいます」

　

　

中枢棲姫「そして本体である艤装は損傷具合に寄りますが、資材で直せます」

　

　

中枢棲姫「肉体のほうは」

　

　

中枢棲姫「『人間』という資材で肉を補います。人の肉でしか出来ません」

　

　

中枢棲姫「深海棲艦の肉でも可能ですが、兵士が少しでも惜しい時は人間を拐います」

　

　

中枢棲姫「我々は過去に何人か人間を拐い、素材としています」

　

　

丙少将「っ！」

　

　

丙少将「やっぱりお前ら深海棲艦は」

　

　

丙少将「俺らの敵だわ」

　

　

中枢棲姫「……、……」

　

　

中枢棲姫「丙少将」

　

　

中枢棲姫「耳を澄まして」

　

　

中枢棲姫「よく聞いてください」

　

　

丙少将「…………？」

　

　

中枢棲姫「あなた方は私達が人間並みの知能があることを知っているはずです」

　

　

中枢棲姫「この知能がバレないようにしていたのは、私達の家族を守るため。私達はあくまで深海棲艦であるからです。今の私達の情報を踏まえて見れば、そういったこちらの思惑が我々の足跡から見受けられるはずです」

中枢棲姫「心は、あります」

　

　

中枢棲姫「それでもなお、あなたは」

　

　

中枢棲姫「こちらを深海棲艦と見て」

　

　

中枢棲姫「『私達』を見てはもらえないのでしょうか？」

　

　

丙少将「……なんだと？」

　

　

丙少将「人間と同じレベルで物を考えられるからなんだ。俺は人間で、人間のために生きてる。例え虚しい争いであったとしても、お前らを赦すことができるわけねえ」

　

　

丙少将「人間を資材にする時点で、お前らに人の心はありはしな――」

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

――――黙れよ。

　

　

　

　

――――それ以上、続けてみろ。

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

――――このチューキさんが、

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

――――今すぐお前の首を、

　

　

――――リコリスとセンキの墓前に添えてやるぞ。

　

　

　

丙少将「――っ！！」

　

　

中枢棲姫「……それでは」

　

　

6

　

ぷらずま「……」

　

　

中枢棲姫「電さん、我々は撤退に入ります」

　

　

ぷらずま「ひとつ」

　

　

ぷらずま「約束、するのです」

　

　

中枢棲姫「？」

　

　

ぷらずま「あなた達の、いえ、この戦争に関わった者達の想を弄び続けたやつを」

　

　

ぷらずま「必ず仕留めます」

　

　

中枢棲姫「……はい。それでは」

　

　

ぷらずま「これはリコリスのお花です。リコリスの遺品をどうぞ」

　

　

ぷらずま「チューキさんは、このお花達の花言葉を知っていますか」

　

　

中枢棲姫「いえ、花の名前は知識としてありますが……」

　

　

ぷらずま「悲しい思い出」

　

　

ぷらずま「諦め」

　

　

ぷらずま「また会う日を楽しみに」

　

　

ぷらずま「再会、です」

　

　

　

中枢棲姫「……」

　

　

中枢棲姫「そう、なのですね」

　

　

ぷらずま「白のダリアのお花が混ざってました」

ぷらずま「『感謝』です」

中枢棲姫「……この日この時のことは、お互いに胸に秘めませんか？」

　

　

中枢棲姫「私は涙など流せませんが」

　

　

中枢棲姫「今の顔は、見られたくありません」

　

電「はい、私も」ﾎﾟﾛ

　

　

電「見られたくないのです」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

　

　

電「ごめん、なさい」

電「白のお花、血で、赤く、しちゃっ、た」

電「うえ……えぐっ、」

　

　

電「嫌なのです」

　

電「嫌、だよぅ」

　

電「死にたく、ないのです」

　

　

電「怖い、よ……終わりが来る、の」

　

電「いっぱい殺したのに、そこを目指してたの、に、なに、いって……」

　

　

電「もう、わからなく」

　

　

電「誰か、電を、助け、て……」

電「たくさん、死んで、帰ってきた時の約束して、戻ってこないことが、たくさん、で」

電「慣れないよ、こんなの……」

電「……痛い、」

電「苦しくて……うぇ」

電「誰か、助、けて」

電「司、令官、さ、ん……！」

中枢棲姫「……電さん」

　

　

中枢棲姫「聞いて、ください」

　

　

中枢棲姫「想の供給源を消せば、想は消える」

　

　

中枢棲姫「想で出来ている妖精も、艤装も、消える」

　

　

中枢棲姫「私も含め、こちらの家族は想で構成された艤装がベースです」

　

　

中枢棲姫「原動力である想が消えれば、艤装は生命として死んでしまうでしょう」

　

　

中枢棲姫「残るのは今を生きる人間のみです」

中枢棲姫「私達は死を約束されています。私は家族の大黒柱なのに、誰一人として」

　

　

中枢棲姫「未来に進ませてあげられない無力な生物です」

　

中枢棲姫「しかし、私達は自分を」

　

　

中枢棲姫「心から化物だなんて思ってはおりません」

　

　

中枢棲姫「私達は深海棲艦ですが、化物ではない。そう主張するために」

　

　

中枢棲姫「人間に対して償いをしなければならない」

　

　

中枢棲姫「深海棲艦を、この海から消すこと」

　

　

中枢棲姫「戦争の終結こそが、化物ではないという否定、人のために生きたその証明となるのです」

　

　

中枢棲姫「被験者No１瑞穂は」

　

　

中枢棲姫「深海棲艦艤装８の投与で、被験者の体が適応できず、失敗(ペンギン)現象が起きて人間として最期を遂げました」

　

　

中枢棲姫「わるさめさんは５の投与で生存。そしてあなたは７つで解体不可能」

　

　

中枢棲姫「あの記述にはわるさめさんは解体可能と思われる、とだけありましたが、瑞穂で試していたゆえの記述です」

　

――――よか、った。春雨さんは、

――――電みたいに、ならなくて。

――――本当に、よかった。

　

――――救い、だ。

中枢棲姫「っ」

中枢棲姫「やはりあなたは……化物なんかじゃなく、優しい女の子、です」

中枢棲姫「…………恐らく７の数。それ以上は深海妖精には解体が出来ず、つまりあなたは元には戻れない」

　

　

中枢棲姫「解体が出来ないというのはあなたはもう人間というより深海棲艦です」

　

　

中枢棲姫「あなたの一部と化しているその深海艤装。深海棲艦に犯された身体は想の消失とともに、生命活動を保ってはいられない」

　

　

中枢棲姫「あなたは、死にます」

　

　

中枢棲姫「それでもなお」

　

　

中枢棲姫「希望は、あるのです」

　

　

中枢棲姫「私達は過去の亡霊です。消え去って当然ですが、あなたは違う」

　

　

中枢棲姫「今を生きる人間なのです」

　

　

中枢棲姫「深海棲艦艤装、駆逐艦電の艤装の力を扱うのは、あなたという今を生きている人間です」

　

　

中枢棲姫「化物でもなく、ぷらずまでも電でもなく、あなたの名前があるでしょう」

　

中枢棲姫「気持ち悪い、と。恐ろしい、と。理解できない、と。馬鹿だ、と。愚かだ、と。化物だ、と。醜悪だ、と。そうあなたを仲間外れにする人がいたとしても」

中枢棲姫「助けて、って」

　

　

中枢棲姫「叫びなさい」

　

　

中枢棲姫「必ず、出会えます」

　

　

中枢棲姫「絶望が怖いからと、希望を抱くのをやめないでください」

　

中枢棲姫「今を生きる人間は、可能性という希望の塊なのですから」

　

電「なんで、あなたは、こんな時にも、優しくでき……」

　

　

電「どっちが化物なのか、分からないの、です……」

　

　

中枢棲姫「その声は届きますから」

　

　

中枢棲姫「必ず届きます」

　

　

中枢棲姫「深海よりも高い場所で生を受けたあなたが最初にその眼に写したのは」

中枢棲姫「闇ではなく光」

中枢棲姫「若き翼、勇気を抱いて偉大なる踏み込みを。暗い深海ではなく、どうかどこまでも高く透けた空に向かって」

　

　

　

中枢棲姫「化物でもぷらずまでも電の役割でもなく」

中枢棲姫「あなたという個人の想の願い」

中枢棲姫「その使命を、果たしてくださいね」

　

　

中枢棲姫「どうか」

中枢棲姫「明日の君も」

中枢棲姫「優しくあられますように」

　

……………

……………

　

……………

　

　

　

　

　

　

提督「ぷらずまさん、聞こえますか」

　

　

電「……はい」

　

　

電「少し待って欲しいのです」

　

　

提督「……なにかありましたか？」

　

　

電「リコリスさんの」

　

　

電「お墓を作ってから帰投します」

　

提督「あの……」

　

提督「電さん」

　

　

電「……、……」

　

　

提督「自分は心というのは苦手分野です」

　

　

提督「理屈で予想はできるんです。でも、いえ、だから、いつかあなたが素直になれる日が来たのなら」

　

　

提督「あの日の続きを。あなたが海に出た時から途切れてしまいましたから。あなたという人間と本音で語り合いたいです」

　

　

電「司令官さんは、本当に……」

　

　

提督「ただ帰投する時には電さん引っ込めて、いつも通りに仮面かぶってきてくださいね」

　

　

提督「情けない話なのですが、今、電さんに戻られてしまってはあなたとどう接したらよいのか、分からなくなります……」

　

　

電「司令官さんは本当に」

電「おバカさんの無能なのです……」

　

提督「すみません……」

　

　

提督「……ではどうぞ、ごゆっくり」

提督「後はこちらでなんとかしてみせます」

【10ワ●：レッちゃんの心】

　

　

1

　

　

レ級(………あ、ア)

　

　

ﾄﾞｵﾝ!

榛名「っ！」

　

　

龍驤「榛名、大丈夫！？」

　

　

榛名「ただのかすり傷で戦闘に支障はありません！」

　

　

榛名「それより気を付けてください！ あのレ級、大破してるのにあの機動力、なにか変です！」

　

　

レ級(あんな風に昔は、仲間と……)

　

　

レ級「仲間ッテ何デ誰ダッケ……？」

　

　

榛名「勝手は榛名が許しません！」

　

ﾄﾞｵﾝ

　

レ級「あー……いーいキツケの砲撃もらえた」

　

　

？？(この戦争が終わらせることができれば)

　

　

？？(戦争にハッピーエンドなんてないけど)

　

　

？？(悲しみの連鎖は、少しくらいなら止まるはずだから)

　

　

？？(いつか)

　

　

？？(一緒にさ、海を自由に航海してみたいね)

　

　

？？(この艤装とかいう最悪な物なんか捨てて)

レ級「誰だお前。人か。僕は軍艦だったか？ 艤装か？ 思い出せないけど、あー、そうだ」

　

　

榛名「……？」

　

　

龍驤「榛名！ なにボサッとしとんねん！」

　

　

榛名「なにか喋って……」

　

　

レ級「暗い海底で目覚めて、始めに思い出したのも、その声だっけ……」

　

　

龍驤「聞かんでええよ！ もうそいつは電が情報引き出してる！」

　

　

レ級「沈む？ 僕が……？」

　

　

レ級「僕だって、お前らだったんだ」

　

　

レ級「憧れて」

　

　

レ級「海に出て」

　

　

レ級「理想の未来に想いを馳せて……」

　

　

榛名「……」

　

　

龍驤「榛名！」

　

　

榛名「龍驤さんッ！！」

　

　

榛名「職権乱用ですが、旗艦は私です。少しでいいのです。ほんの少し」

　

　

榛名「待ってあげてください」

　

　

レ級「絶望して」

　

　

レ級「失って」

　

　

レ級「別れさせられてさー」

　

　

レ級「その頃の証、欠片でも残ってるなら失ってたまるか……」ｼﾞｬｷﾝ

　

　

レ級「ちくしょう……」

レ級「今頃、チューキさんかリコリスママは、死んで、もう会えなく、なって……」

レ級「ふざけんなよ……」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

レ級「ずるいよ！ お前らばかり幸せに！」

レ級「お前らだって、深海棲艦の命を殺してるくせに！」

レ級「深海棲艦の心を傷つけてるくせに！」

レ級「自分達が傷つけられたことばかり！」

レ級「傷つけたことを隠すみたいに傷つけられたことばかり嘆いて！」

レ級「僕らだって、生きてるのに……！」

レ級「自分が一番大事とか当たり前にいう生物にこの海を支配させてたまるかよ……！」

レ級「殺してやる、この化物どもめ……！」

榛名・龍驤「っ！」

　

龍驤「なんで……！？」

龍驤「なんでそんなこと」

龍驤「いうの！？」

龍驤「なんやのお前らは！？」

龍驤「ふざけるなって、こっちの台詞やん！」

龍驤「そんなんいわれたら殺せへんやろ！」

龍驤「躊躇うやろーが！？」

龍驤「お前らは人間だって、今更になってそう主張するん！？」

レ級「る、せえ……死ね」

榛名「龍驤さん、ぼさっとしないでください！ すみません！ 少しタックルします！」

ﾄﾞｵﾝ

　

レ級「仲間をかばって、ざま、あ」

　

　

榛名「……小破ですけど」

　

　

榛名「榛名はなんだか、大破した時よりも体と心が痛くて」ｼﾞｬｷﾝ

　

　

榛名「悲しいです」

　

　

レ級「……なめやがって」

　

レ級「こっちはお前ら以上に」

　

　

レ級「その痛くて悲しい海を経験してきてんだよ！」

　

　

榛名「それでも榛名は負けません！」

　

　

榛名「勝利を提督に！」

　

　

榛名「榛名！ 全力で！！」

　

榛名「参ります！！！」

　

　

2

　

　

榛名「レ級の撃沈確認です」

　

　

榛名「すみません……深海棲艦に変に時間を与えてしまって」

　

　

龍驤「うちも、悪いところ出てた……」

　

　

龍驤「切り替えよ」

　

　

榛名「そうです、ね……きゃっ！」

　

レ級「怖ガルナ、ヨ」

　

　

榛名「足を、つかまれて……！」

　

　

龍驤「化け物やな！ 頭、吹き飛ばされても動けるんか！」

　

　

レ級「還ルンダ」

　　

　

龍驤「艤装ベース……そうか、そっちの尻尾艤装が本体か……！」

　

レ級「帰る、んだよ」ｼﾞｬｷﾝ

　

　

龍驤「榛名、悪いんやけどさ、死ぬよりはマシだと思って我慢してくれな！」

　

　

ﾄﾞｵｵｵｵﾝ!

　

　

3

　

レ級(……あー、味方ごと爆撃)

　

　

レ級(深海棲艦ッテ、狂ッテンナ)

　

　

レ級(オ前らニ沈めラレンノ)

　

レ級(……救いに、感じるよ)

　

　

………………

………………

………………

龍驤「この反応……」

　

龍驤「水母棲姫……！？」

龍驤「第６駆の、反応もある、か。榛名を抱えたままじゃ無理や……逃げんと」

　

水母棲姫「その通り！」

　

水母棲姫「海屑艦隊、スイキちゃん推参！」

水母棲姫「その金剛型を抱えてさっさと逃げなさいよ！ 私も戦う気とかないからね！」

水母棲姫「あっぶな、私が様子を見に来て正解だったわね……」

水母棲姫「レッちゃん、沈ませないわよー」

　

　

水母棲姫「このスイキちゃんが生きている限りはね」

　

　

水母棲姫「踏ん張りなさいよ。まだ魚と珊瑚の住みかになる時には早いでしょーが」

　

　

4

　

　

龍驤「幹部の水母棲姫か……」

　

水母棲姫「あー……龍驤ね」

　

　

暁「龍驤さん、少し疲れた……」

　

　

響「ここらの周りの低級はあらかた回って片付けたよ」

　

　

雷「瑞鶴さんは中央にいる飛龍さんと蒼龍さんに拉致されて艦載機を飛ばしてガンバってくれてるわ！」

　

龍驤「拉致したんか……二航戦のやつ……」

　

　

響「あれが例の水母棲姫？」

　

　

龍驤「うん。暁、大破した榛名を連れて帰投して」

　

　

暁「了解！」

　

　

　

　

水母棲姫「ちょっとー、勘弁してよね」

　

　

水母棲姫「こっちは甲大将のところとやって中破して、しかもレッちゃんを抱えてるし」

　

水母棲姫「おまけにあんたセンキと張り合ったとかいう龍驤じゃないの。冗談きついわね」

　

　

水母棲姫「嫌よ。止めてよ、こっち来ないで」

　

　

雷「うーん、想像していたより引け腰で恐ろしくないわね。なんだか気の抜ける相手ね……」

　

　

響「雷、油断はダメだよ」

　

　

龍驤「キミ、聞こえる？」

　

提督「はい、異常事態ですね？」

龍驤「幹部と遭遇してる。意識のないレ級、それを抱えた水母棲姫や」

　

龍驤「榛名は大破したから暁を護衛につけてそっちに帰したよ」

　

提督「了解です。事情が変わりまして」

　

　

提督「恐らくネ級も来ます。そして自然と将校艦隊も。彼等から情報は引き出せましたので、会話は必要ありません」

　

　

提督「攻撃も当てる必要はありません」

　

　

提督「彼等が上手く逃げられるよう上手くやってください。この作戦はもともと彼等を殲滅するのは二の次の作戦ですから逃がしたところで上手くやれば罰には処されません」

　

龍驤「なあ、情報はどのくらいのもんだったの？」

　

　

提督「暁の水平線が見えました」

　

　

龍驤「……そっか。そこまで来たかー」

　

龍驤「ま、了解」

　

　

水母棲姫「ほらー、攻撃しないで待っててあげたわよ。これ貸しよね。貸し以外ないわよね。どう考えても貸しよね。早く１００倍にして返しなさいよ」

　

龍驤「やかまし。はよ逃げろや」

　

　

雷「龍驤さん、魚雷来てる！」

　

龍驤「っ、あぶなっ！」ｸﾙｯ、ｽｲｲｰ

　

　

　

　

ネ級「レッちゃんとスイキから」

　

ネ級「離れろ……！」

　

ネ級「ネッちゃんげきおこ……！」

　

　

龍驤「……」

　

　

龍驤「はよ行けや。攻撃せんから。将校の艦隊が来る前に。うちらにも立場があるから、どうなるか分からんで？」

　

ネ級「お前、心、器、大きい……！」

　

　

ネ級「のに小さい体の反比例、悲しい……」

　

　

龍驤「なにもかも突っ込まへん」

　

　

水母棲姫「ありがとねー！」

　

水母棲姫「虚無でもド変態から需要はあると思うわ！」

　

龍驤「ええ加減にせーよ！ 爆撃ツッコミしたろかお前ら！！」

　

龍驤「……はあ」

　

　

龍驤「戦艦棲姫の時は無我夢中やったから、考えなかったけどさ……」

　

　

龍驤「勘弁してくれへんかな」

　

　

龍驤「あんなん人間やん……」

　

響「……」

　

　

雷「こんなこというと怒られるかもしれないけど、私はあの人達のこと嫌いになれないわね……」

　

　

ネ級「ネッちゃんは来るもの拒みませんから………！」

　

　

龍驤「あいつ耳良すぎやろ……」

　

　

龍驤「――、――」

　

　

龍驤「艦載機発艦」

　

　

龍驤「ま、こちらが向こうの肩を持ったというの隠さなあかんね。交叉弾にしといたるわ」

　

　

龍驤「響、雷も適当に撃ってええで」

　

　

響・雷「了解」

　

　

ﾄﾞﾝﾄﾞﾝ!

　

　

ﾄﾞｵﾝ!

　

　

水母棲姫「痛いわねえ！ 私に当ててんじゃないわよ！」

　

　

水母棲姫・ネ級「ガオー！！」

　

　

響・雷「ごめんなさい」

　

　

龍驤「さて、まだ周りに深海棲艦はおる。姫も数体な。将校のところの支援に行くでー」

　

　

龍驤「気を引き締め直すで！」

　

　

　

【11ワ●：例の北方棲姫 3】

　

江風「……っ」

　

　

わるさめ「●ω●」ﾄﾞﾔ

　

　

わるさめ「つっても中破か……」

　

　

江風「くそが……」

　

わるさめ「どこぞの重巡みたいな台詞吐きやがって」

　

　

わるさめ「駆逐艦の分際でわるさめちゃんを中破させたことはさー、子孫に語り継ぐべき大いなる功績だからネ☆」

　

　

わるさめ「あー、でもお前には子孫とか無理そうかな……っと、通信だ」

　

　

提督「お疲れ様です。レ級の件は成功です。後は命を大事に、で指揮を取りますので」

　

わるさめ「ふむふむ」

　

提督「深海妖精を確保しました」

　

　

提督「ぷらずまさん経由で得た中枢棲姫からの情報によると、わるさめさん、あなたの解体は可能です」

　

　

提督「この作戦から帰投次第、わるさめさんの希望通り解体します」

　

　

わるさめ「…………き、切るね」

　

　

わるさめ「ｳｵｵｵｵｱｱｱｱ●ω●ｱｱｱｱｱｯ!!!!」

　

　

江風「うっせえな！」

　

　

わるさめ「もうお前も決戦も興味ねえやい！ わるさめちゃん鎮守府に帰るー！」ｽｲｲｰ

　

　

ﾄﾞｵﾝ！

　

　

わるさめ「ぎゃんっ！」

　

　

わるさめ「誰だ……？」ｷﾞﾛ

　

　

秋月「アッシー！ く、駆逐棲姫に当てましたよ！」

　

　

秋月「沈めるまで油断はしません！ 姫級倒せばお兄さんが喜ぶはずです！ 慎重かつ確実に仕留めます！」

　

　

明石「いや、あいつわるさめじゃね……？」

　

　

わるさめ「お笑いコンビ来たー……」

　

　

わるさめ「あっはっは！ だめ、お前ら存在がツボすぎて……」

　

　

秋月「その声、わ、わるさめさん！」

　

　

わるさめ「ばれたか。実は私は深海棲艦マジカル☆駆逐棲姫なのだ」

　

　

明石「あ？ あんた、敵？」

　

　

わるさめ「純粋と書いて馬鹿って呼ぶね」

　

　

わるさめ「つーか、艦娘反応も出してるし、腕に私だっていう証の軍の腕章つけてるだろ！ 攻撃してくんな！」

　

　

明石「あー、そういえば兄さんそがんなこといってたような」

　

　

秋月「いってましたね。駆逐棲姫の姿を見て頭が一杯になってました……」

　

　

秋津洲「ま、待って欲しいかも！」

　

　

わるさめ「秋津洲ー？」

　

　

秋津洲「あたしの二式大艇ちゃんが遠くで目的の北方棲姫を確認したかも」

　

　　

明石「阿武隈さんところか。よし、こいつはわるさめだったし、さっさと目的地に行くぞ」

　

　

わるさめ「初陣だからって甘えんなよー。ミスはミスだからねー」

　

　

秋月「今回の作戦はわるさめさんがレ級を狙う丙少将の艦隊を妨害するとか」

　

　

明石「まあ、いいや」

　

　

明石「ところであんた、大丈夫か？」

　

　

江風「あ、ああ。ありがと」

　

　

江風「後、あ、あんま触るなよ」

　

　

明石「悪い悪い。まあ、同級生の山風さんの姉妹艦だしなー。大破のまま放ってはおけん」

　

　

わるさめ「明石お前、直すな」

　

　

わるさめ「コントか！？ つーか、直すならまず身内のわるさめちゃんだろ！？」

　

　

江風「……」

　

秋月「な、なんですか？」

　

　

江風「ごめん。なンでもないよ」

　

　

江風「じゃ、借りは返す！ ２回戦だア！」

　

　

わるさめ「もう終わり！」

　

　

江風「そうかよ！ だが、お前にも借りが出来たんだっての！ くたばりやがれ！」

　

　

わるさめ「くそー、お腹がよじれて力が出ないよー……」

　

　

【12ワ●：例の北方棲姫 4】

　

　

1

　

木曾「おい、そこの」

　

阿武隈「……」ｼﾞｬｷﾝ

　

ﾄﾞﾝﾄﾞﾝﾄﾞﾝ

　

北方棲姫「コウサ、ダン、カクニンッ」

　

　

木曾「当たってねえ上に」

　

　

木曾「お前、中破してんだろ。下がれ、というか邪魔だ。こっちの艦隊で相手してやるから」

　

　

阿武隈「……」ｽｲｲｰ

　

　

木曾「死にたいのかお前」

　

北上「ふむふむ、どこのどなたかと思えば」

　

　

阿武隈「そ、その声は……」

　

北上「阿武隈じゃんよー」

　

　

阿武隈「北上さんっ、ひぃ！」ﾋﾞｸｯ

　

　

木曾「北上姉にはすげえ反応したぞオイ」

　

北上「他の艦隊の人達は？」

　

　

北上「北上さんは心配して聞いてるんだけど、そこら辺どうなのさー」

　

　

大井「北方棲姫を追って単独で来たわけですか」

　

北上「ふむふむ、大井っちどゆこと」

　

大井「北上さん、阿武隈さんの仲間の仇が北方棲姫だったかと」

　

木曾「なるほどな。お前の艦隊がついてきてねえこと見ると一人で暴走したってところか」

　

　

木曾「連合艦隊だぞ。命令違反はお前一人の責に収まらねえ重罪だろ？」

　

大井「北上さん、私が殴って止めても？」

　

阿武隈「許可はいただいております」

　

　

木曾「あり得ねえだろ。お前一人で突撃して北方棲姫を追わせるわけがねえ。そりゃなんだ。回天式魚雷の真似事かなんかか」

　

北上「あり得るんじゃないですかねー」

　

　

木曾「……なら、噂通りの提督だな」

　

木曾「おっと、大将からだ」

　

　

木曾「…………」

　

　

木曾「分かった」

　

　

木曾「行こうぜ。俺達は重巡棲姫をやれだとよ。北方棲姫は阿武隈に譲ってやれ、だ」

　

　

木曾「グラーフ、行くぞ」

　

　

北上「艦載機の相手ありがとね」

　

　

グラーフ「問題はないが……交戦中に喋りに興じすぎだろう……」

　

　

木曾「返す言葉もねえな……」

　

　

木曾「おらよ」

　

　

ﾄﾞｵｵﾝ

　

　

北方棲姫「ッ！」

　

　

木曾「仇を自分で取るのは結構だが、今のお前はただの我が儘だぜ」

　

木曾「まだこっちは誰も沈んでないんだ。お前がこの戦いで死んで泥を塗ったら」

　

木曾「許さねえぞ」

　

　

北上「北方棲姫を阿武隈と同じ中破にしておく優しさ、痺れるねえ」

　

　

大井「ま、大丈夫では」

　

　

大井「あの艦載機、あなたのお仲間ではないかしら？」

　

　

阿武隈「……あの天山は」

　

　

瑞鳳「阿武隈さん、聞こえますよね！ 到着しましたよ！」

　

　

不知火「司令から、この北方棲姫を撃沈させて帰投命令が出ています」

　

　

阿武隈「み、みんな……」

　

ﾊﾞｼﾝ!

　

阿武隈「ぎゃん！ 北上さん、な、なにを」

　

北上「背中叩いてあげただけじゃん。がんばりなよ」ｽｲｲｰ

　

　

北上「あ、そうだ」

ｸﾙｯ、ｽｲｲｰ

阿武隈「？」

　

ﾜｼﾜｼ

　

阿武隈「なんでわざわざ前髪触るために戻ってきたんですかあっ！」

　

　

北上「なんとなく。さいならー」ｽｲｲｰ

　

　

阿武隈「やっぱりあの人苦手です……」

　

2

　

　

陽炎「阿武隈さん、それじゃ行こっか」

　

　

陽炎「司令から旗艦の指示に従うようにっていわれてんのよねー」

　

　

陽炎「第２艦隊の旗艦は阿武隈さんだから」

　

　

陽炎「正直、あんたがそこまで司令に期待されてんのは意味が分からないわね」

阿武隈「あ、あたしは、その」

　

　

陽炎「ま、そういうのは後にしよ」

　

　

陽炎「前に出て対空射撃がんばっている不知火がもたなくなるし、軽空母の瑞鳳さん一人で北方棲姫の艦載機の相手をしてるんだから」

　

　

陽炎「日もだいぶ落ちてきたわねー」

　

阿武隈「では、単形陣、陽炎さん、不知火さんの順でお願いします！」

　

　

陽炎・不知火「了解！」

　

　

3

　

　

ﾄﾞﾝﾄﾞﾝﾄﾞﾝ!

陽炎(相変わらず艦載機のお片付けは上手だけど)

　

不知火(深海棲艦に向けて放った砲は全て外れていますね……)

　

阿武隈「なんで今！ 当たってくれないんですかあ！」

　

　

阿武隈「……砲が！ ダメなら！」

　

　

――――ﾁｬﾌﾟﾝ

　

北方棲姫「コッチニ、クルナ！」ｼﾞｬｷﾝ

　

ﾄﾞﾝﾄﾞﾝ！

阿武隈「そんなもの！」

　

ﾄﾞﾝﾄﾞﾝ！

　

不知火「北方棲姫から飛んでくる砲を気にせず戦えるのは気が楽ですね」

　

　

不知火「そして当てられる距離です」

　

ﾄﾞﾝ！

　

陽炎「もらった！」

　

ﾄﾞﾝ！

　

北方棲姫「……っ！」ｸﾙｯ

　

　

陽炎「いちいち動きが速いわねっ！」

　

　

不知火「おまけに小回りが、効きますね……当てづらい」

　

　

阿武隈「まるで同じですね。右に旋回すると、思っていました！」

　

ﾄﾞｵｵｵﾝ！

　

北方棲姫「グ、ガ……」

　

陽炎「阿武隈さん、今のは……」

　

不知火「なるほど。さきほど仕込んだのは甲標的でしたか」

　

　

陽炎「大破まで追い込んだわね！ もう一息！」

　

北方棲姫「……還！」

　

北方棲姫「レッ！」

　

　

陽炎「え、なんか再生してない……？」

　

　

不知火「確かあれは……北方棲姫本気モードですね」

　

　

北方棲姫「チョウシ……ニ………ノルナッ」

　

　

北方棲姫「カンサイキ、ハッカン！」

　

　

陽炎「…………」ﾎﾟｶｰﾝ

　

　

陽炎「なにあの発艦速度と数……」

　

　

不知火「これは……」

　

　

不知火「100は越えてますね……」

　

　

瑞鳳「さばき、きれません！」

　

　

阿武隈「秋津洲さんが来ます！ 直に明石君と秋月さんも！ 傷は明石君がなんとかできますし、防空が得意の秋月さんも来ます！」

阿武隈「秋津洲さん、隊列に加わり、輪形陣でお願いします！」

　

　

秋津洲「た、対空射撃は苦手かもおおお！」

　

　

陽炎「秋津洲ー、やるしかないわよ？」

　

　

不知火「死にたくなければ、の話ですが」

　

　

秋津洲「が、がんばる！」

　

ｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞ!

　

　

4

　

　

阿武隈「……避けきれません」

　

ｶﾞｶﾞｶﾞ

　

阿武隈「いやいやいやあ！」

　

ﾄﾞｵﾝ!

　

不知火「阿武隈、さん！」

　

ﾄﾞｽｯ！

　

阿武隈「――――あ、」

　

　

秋津洲「飛んできたナニカが阿武隈さんに刺さったかもおおお！」

　

　

陽炎「どゆこと！？ なんか阿武隈さんが一本釣りされたわよ！？」

　

　

不知火「このおかしな仰天技は」

　

　

不知火「例の明石君艤装ですかね……」

　

秋月「すみません！ 途中で味方の木曾さんの損傷を直していたので、私はアッシーの護衛に残り、秋津洲さんを先行させました！」

秋月「第1支援艦隊旗艦、秋月！」

　

　

秋月「推参致しました！！！」

　

　

陽炎「うるさっ！」

　

　

秋月「防空ならお任せを！」

　

秋月「秋月砲の出番です！」

　

ｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞ

　

　 ｶﾞｶﾞｶﾞ

　

ｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞ!

　

不知火「……素晴らしい」

　

　

陽炎「不知火！ ぼさっとしてないであんたも手伝いなさい！」

　

　

不知火「くっ、落ち度を認めてあげましょう」

　

　

陽炎「あんた何様よ！？」

　

5

　

　

阿武隈「明石、君……」

　

　

明石「腹にアンカー突き刺したのは悪かったよ。けど沈ませるわけにゃいかん。ちょっとじっとしていてくれよ」

　

　

阿武隈「なんかドラム缶風呂に艤装ごとぶちこまれた阿武隈なんですけど！？」

明石「そういうもんだからなー」

明石「でも、風呂って落ち着くだろ。落ち着くよな。そんな感じでリラックスしといてくれ」

阿武隈「…………はい、すみません」

　

　

明石「謝る必要はねえし、俺にも経験あるから分かるぜ」

　

　

明石「ムカつく相手に一発入れてやりたいってがむしゃらになる気持ち」

　

　

阿武隈「……？」

　

明石「まあ、アッキー達に任せて３分待て」

　

明石「もう日が落ちるし、作戦でも練ってろ」

　

阿武隈(夜か……あの時と、本当に、同じ)

　

　

阿武隈(夜の北方棲姫には、アレがある)

　

阿武隈(あの時、提督に通信を切られて)

　

　

阿武隈(由良さん達に、任せて)

　

　

阿武隈(……私は)

　

　

阿武隈(逃げ、て)

　

提督「阿武隈さん」

　

　

提督「聞こえていたら応答願います」

　

6

　

　

阿武隈「……」

　

　

提督「…………え」

　

提督「ヤバイですヤバイです沈んで……卯月さん、その30センチ包丁はどこから……！」

　

阿武隈「沈んでいません！ 阿武隈ですどうぞお！」

　

　

提督「びっくりさせないでくださいよ……」

　

　

阿武隈「提督、あの、ごめんなさい」

　

　

提督「謝る必要はありません」

　

　

提督「自分の指示はお願いですから、断られた場合、それに沿った作戦を展開するのみです」

　

　

阿武隈「……すみません。そんなことをさせてしまって」

　

　

卯月「アブー！」

　

　

卯月「テンション低いぴょん！」

　

　

卯月「うーちゃんは司令官の罠にはまって艤装隠されてるぴょん！ 今回はお留守番だから、アブーが」

　

　

卯月「皆の仇を取って」

　

卯月「ダメならうーちゃんが泳いででもそこに行って北方棲姫とアブーを殴りに行くから！」

　

　　

阿武隈「卯月ちゃん……」

　

卯月「そこの連中も艤装の一部だと思って存分に、こき使え！」

　

卯月「大丈夫。現場の撃沈は司令官のせいにできるぴょん！」

　

　

阿武隈「大丈夫じゃないんですけど！？」

　

　

卯月「おー、いつもの元気が戻ってきてる」

　

卯月「その調子で深海棲艦なんて亡霊はさっさと暗黒に帰らせるぴょん！」

　

阿武隈「…………」

　

　

阿武隈「うん」

　

　

卯月「おい、司令官お前。アブー沈めたらお前の魂も暗黒行きな」

　

　

卯月「うむー、いい返事。くるしゅうない。じゃあどうぞっぴょん」

　

提督「……あの阿武隈さん」

　

　

提督「うっそぴょーん、がなかった今回は本当に卯月さんに暗黒に帰らせかねないので」

　

　

提督「指示を聞いていただけると……」

　

　

阿武隈「もちろんです！ お願いします！」

　

　

7

　

　

阿武隈「ええ、あの時は確かに濃霧もありましたが、電探の探知に捕まらなくて、帰投した時に電探を確認したのですが」

　

　

阿武隈「故障ではありませんでした」

　

　

提督「ステルスはご存じですか？」

　

　

阿武隈「……はい。艤装においては都市伝説みたいなものだと思っていましたが、わるさめさんの例がありますし……」

　

　

提督「まあ、あの北方棲姫はラスボスのお側つきでしたから……」

　

阿武隈「？」

　

　

提督「あ、いえ、すみません」

　

　

提督「覚えています？」

　

阿武隈「すみません。頭が、真っ白になってしまって」　

　

　

提督「過去のキスカでは目視で北方棲姫に気づいたわけではなく、電探が反応して北方棲姫の存在に気がついたわけですよね？」

　

　

阿武隈「ええ、通常の索的範囲の中心近く、大部、迫られてからです」

　

提督「過去に龍驤さんが北方棲姫に艦載機を奪われたことがあるらしいです。というかゼロや烈風を集めているみたいで」

　

　

提督「その大量に集めた艦載機は彼女が保管しています」

　

　

提督「省きますが、恐らく艤装を収容できるギミックがあの北方棲姫にはありまして」

　

　

提督「電探の索的は、深海棲艦の肉ではなく、艤装による反応ですから」

　

　

提督「わるさめさんと同じ」

　

提督「恐らく電探の不作動ではなく、北方棲姫はその位置まで艤装を展開せずに接近してきたせいかと」

　

　

阿武隈「それ、夜戦だと凶悪です……」

　

　

提督「阿武隈さん、この情報はともかく、北方棲姫の現場での動きについてはあなたのほうが自分より遥かに詳しい」

　

　

提督「装備を出すその瞬間は、電探に必ずひっかかります」

　

　

提督「あの北方棲姫の動きは単純でパターン化してます。知能指数は差して高くないので、あなたには読んで動けますね？」

　

　

阿武隈「はい。なんとか、今、あのデータのことを思い出せました」

　

　

提督「明石君は深海棲艦の気を大きく引ける特殊な照明弾を積んでますのでタイミングを見極めて使っていただきたい」

　

　

提督「情けなくも、この程度の指示が、今の自分の限界です」

　

　

阿武隈「いえ、十分です」

　

　

阿武隈「絶対に」

　

　

阿武隈「乗り越えてみせます！」

　

　

提督「ありがとう、ございます」

　

　

提督「阿武隈さん、あなたのその過去を乗り越えて帰ってきてくださいね」

　

　

8

　

　

陽炎「…………消えたわね」

　

　

不知火「ええ、この鎮守府に来てから驚かされてばかりです。実に面白い」

　

　

陽炎「アブーの指示通り、電探が反応したらそこに向かって砲撃、よろしくー」

　

　

陽炎「秋津洲も」

　

　

秋津洲「私が姫を倒せるお手伝いができるだなんてこの鎮守府最高かも！」ｷﾗｷﾗ

　

　

陽炎「秋月は空ね。阿武隈さんのような神業ができるとか」

　

　

秋月「お任せを！ 飛んでいるものなら、全てお任せください！」

　

　

9

　

　

陽炎「さて、ここを左舷」

　

　

陽炎「動いている私達が狙われるから気をつけなさいよ……っと！」

　

　

不知火「反応ありです」

　

陽炎「あそこかー。600メートルってところかしら」

　

　

秋月「艦載機、墜としますね！」

　

ﾄﾞﾝﾄﾞｵﾝ！

　

10

　

　

陽炎「電探に反応あり！ 砲撃！」

　

秋津洲「あそこ！ 了解、かも！」

ﾄﾞﾝﾄﾞﾝ!

　

　

11

　

　

明石「特製照明弾、発射っと」

ﾋｭﾙﾙﾙ

　

12

　

北方棲姫「マブシ……」

　

　

北方棲姫「オソラニ、リコリス？」ｷｮﾄﾝ

　

ﾄﾞﾝﾄﾞﾝ

北方棲姫「……！」ｸﾙｯ

　

13

　

　

陽炎「反応消失したわねー……」

　

　

不知火「はい。後は阿武隈さんに委ねますか」

　

陽炎「夜戦で小回りが利いてステルスで対象も小さい」

　

陽炎「……当てられるのかしら？」

不知火「合わせてもう撃っているはずです」

　

　

不知火「きっと、卯月さん越えの素質が開花しますよ」

不知火「信じて待つのがいい女というもの」

陽炎「……ま、当たると信じて待つか」

14

　

阿武隈(1000メートル)

　

　

阿武隈(北方棲姫の艦載機発艦の最低射出距離。砲撃タイミングは中距離に入られてから。とっさの回避行動は右舷迂回、そしてその反転距離は30メートルほど。なお一度の回避行動を取り回避を確認すれば旋回ポイントから半円を描いたところで止まる。動きの大きな敵に興味を持って、そちらに向き直る性質。そして艦載機、砲弾には即座に反応して、甲標的には被弾したことから視界に映り、かつ、大きい動きをするもの優先処理で、目に見えづらい、または動きが遅かったり小さいものには反応が遅れるか後回し気味)

　

　

阿武隈「情報をまとめて――――」

　

　

阿武隈「うん、間違い、ない」

　

　

阿武隈「そして、反応した、その位置からだと……！」

　

――――ﾄﾞｵｵｵﾝ！

　

　

北方棲姫「あ、アアアアッ！！」

　

　

　

阿武隈「………………よし」

　

阿武隈「ほらやっぱり……！」

　

　

　

　

　

　

阿武隈「そこにいたっ！」ｶﾞｯﾂﾎﾟ

　

　

【13ワ●：決戦からの帰投】

　

1

　

　

初霜「皆さんお疲れ様でした。皆さん無事でなによりですね」

龍驤「はっつんもやるやん。司令官がなんかおらんくて代りに入ってたけど、うちより判断力があったなあ」

初霜「て、照れますね。御力になれたのなら、私はそれで」

龍驤「第１艦隊旗艦榛名に代わって龍驤さんから、報告やで」

　

　

龍驤「第１艦隊帰投」

　

　

龍驤「ぷらずまとわるさめのやつは先に帰投しとるんやろ？」

　

　

提督「ええ」

　

　

阿武隈「同じく第２艦隊旗艦阿武隈より。第２艦隊誰一人欠けることなく、帰投しました」

　

　

提督「お疲れ様です」

　

　

提督「今回の作戦は成功です。とりあえず面倒な報告は後回しで皆さん各自、自由行動でオーケーです」

　

　

榛名「はい！ 金剛お姉様に榛名の活躍を褒めてもらわなければなりません！ 皆さん行きましょう！」

　

　

秋津洲「うん！ あたしはハ級とロ級を仕留めた大戦果をあげたかも！」ｶﾞｯﾂﾎﾟ

　

明石「兄さん、阿武隈さんフォローしといてやってくれよな」

　

明石「北方棲姫を沈める手柄あげて、なにへこんでんのか俺には分からねえや」

　

明石「アッキー、間宮さんとこ行こうぜ」

　

秋月「はい！」

　

阿武隈「……」

　

提督「慰霊碑のほうに行きませんか？」

　

阿武隈「……はい」

　

　

2

　

　

提督「それと阿武隈さん、卯月さんが間宮さんのところで待ってます」

　

　

提督「料理作るのお手伝いしていたみたいですし、後で行ってあげてください」

　

　

阿武隈「ええ」

　

　

阿武隈「えっと、提督さん、ありがとうございます」

　

提督「いえ、深海棲艦に砲撃を当てられるようになったのはあなたの実力です」

　

　

提督「想い、ですよ。自分にはよく分かりませんがきっとそのお陰です。適当でなんかすみません」

　

　

阿武隈「私情を優先して、あるまじき失態を犯した挙げ句、１歩間違えば第２艦隊が全滅していてもおかしくない戦闘に巻き込むことになりました」

　

　

提督「……」

　

提督「『結果はあなたは100体相手にして20名中1名轟沈、あたしが6体の敵に対して、6名中４名が轟沈……結果論ですが、それが、答えです』」

　

　

提督「懐かしいですが、スカウトした時にあなたが自分の1/5作戦と阿武隈さんのキスカ戦を比較していったことです」

　

　

提督「支援組を含めて、15人出撃の15人生還」

　

　

提督「それが答えです」

　

　

阿武隈「結果論ですよね……」

　

　

提督「……」

　

　

提督「すみません……なにか励まそうと思って失敗したこの空気……」

　

　

阿武隈「い、いえ、違うんです。ありがとうございますっていったのは」

　

阿武隈「そんなあたしを、あの提督のように見捨てないで」

　

　

阿武隈「最後まで、力になってくれたこと、です」

　

　

提督「……いえ、指揮を取れなかった自分に嫌悪が。阿武隈さんにしたのは助言に過ぎません」

　

　

阿武隈「その助言が」

　

　

阿武隈「あたし的にはこれ以上ない指揮であり、先に導く針となりました」

　

　

阿武隈「あなたには艦娘ではなくて、一人の人間として助けられました」

　

　

提督「なぜそのように暗い顔を……」

　

　

阿武隈「……仇を取ったのに」

　

　

阿武隈「思っていたのと、違って」　

　

　

阿武隈「なにも喜べなくて」

　

　

阿武隈「提督のいう通り、です」

　

　

阿武隈「きっとキスカで沈んだみんなは、北方棲姫を沈めたところで、帰って来ないですし、そもそも皆がそう願っていたとは思いません」

　

阿武隈「仇を取るということは、きっと、あたしの自己満足に過ぎない、と」

　　

　

提督「……まあ、あなたがそう思うのならそういうことなのでしょう」

　

提督「あのキスカでの戦い、事後の捜査の結果はご存じですか？」

　

　

阿武隈「いえ、その時はすぐに海から逃げ出しましたから……北方棲姫といった深海棲艦はまだしも、そういった軍の情報は得られませんでしたし、知ろうともしませんでした」

　

　

阿武隈「今も、知るのが怖い、です」

　

提督「あえていいますが、あなたの指示を守っていなかったかと。交戦のなか撤退しようとした形跡がどうしても……」

　

　

阿武隈「逃がしてもらえなかったのです、ね……」

　

　

提督「……それもあるかもしれませんね」

　

提督「それに、北方棲姫だけではありません」

　

提督「正体不明の深海棲艦、北方棲姫、戦艦棲姫、軽巡棲姫、駆逐水鬼、装甲空母鬼がいたと思われます」

　

　

阿武隈「っ」

　

提督「軽巡１名と駆逐艦３名で相手できる面子ではありません」

　

　

提督「でも、撤退の形跡がないどころか、発見された弾薬痕からして前に出ていた形跡が見受けられます」

　

　

提督「その相手と戦って勝つために戦闘していたのでしょうね」

　

　

提督「戦うしかなかったとはいえ、戦果は凄まじいの一言につきます」

　

　

提督「あなたが救出される時は、その艦隊は見当たりませんでした。その艦隊は拠点を捨てて撤退したのかと」

　

　

提督「まず間違いなく、その４名が関係しています」

　

　

阿武隈「姫と鬼の艦隊に……？」

　

　

阿武隈「……信じ、られません」

　

提督「全くです。奇跡といっても過言ではありません。色々と運もあったのかもしれません。濃霧とか、夜戦火力が上手く刺さった等々の」

　

　

提督「でも、この戦いで自分も少しだけ、心ってものを思い出した気がします」

　

　

提督「第２艦隊と北方棲姫の戦いでしっくり来る理由を見つけられた気がします」

　

阿武隈「？」

　

提督「この戦いで阿武隈さんが最後の一撃で北方棲姫を沈められたのはなにが理由だと思っていますか？」

　

　

阿武隈「北方棲姫は、皆の仇で、勝たなくちゃダメで、皆に少しでも報いるために、必死、でした」

　

提督「人間の成長って、そういう心が重要要素なんでしょうね」

　

　

提督「彼女達にはきっと負けられない理由があった。生き残るため、はもちろんですが、そもそも４名で先に発見した北方棲姫の相手をしようとした理由は」

　

　

提督「あの時、撃沈寸前の阿武隈さんと卯月さんを守るためでしょう？」

　

阿武隈「…………」

　

　

提督「北方棲姫だろうが誰だろうが変わらなかったんでしょうね」

　

　

提督「どうにかする」

　

　

提督「あなたの撤退戦の指示は」

　

　

提督「全員生還、が目的でしたから」

　

　

阿武隈「あたしと、卯月ちゃんを、守るため、に…………」

　

　

阿武隈「皆は死ぬまで戦ってくれて……？」

　

阿武隈「……う」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

　

　

提督「撤退に追い込んだのは、正しく奇跡に等しいかと」

　

　

提督「でも、あなたと卯月さんが生き延びたのは奇跡ではなく」

　

　

提督「彼女達がもたらしたものです」

　

　

提督「どうか誇ってあげて欲しい」

　

　

提督「奇跡で済ますのではなく、その奇跡を肯定して、必然、いいえ、運命としてあげるために」

　

　

提督「阿武隈さんと卯月さんの生存は、彼女達が命と引き換えにしてまで手に入れた最高の勲章のはずですから」

　

　

提督「あなたが暗く沈んだままでは、その輝きが霞んでしまいます」

　

阿武隈「う、うわああああん！」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

　

　

提督「…………」

　

　

阿武隈「ひっぐ、て、提督！」

　

　

阿武隈「あ、あたしっ、あたしは……！」

　

　

阿武隈「阿武隈はっ！」

　

　

阿武隈「皆の想いに、応えるために！」

　

　

阿武隈「絶対、この戦いに」

　

　

阿武隈「勝って、生き残ります！」

　

阿武隈「仲間の、皆と、一緒に！」

　

　

提督「ならば、そのために自分も死力を尽くす、と誓います」

　

　

提督「生きている人間として、この慰霊碑の皆さんに」

　

　

阿武隈「はいっ！これからもご指導ご鞭撻のほどお願いします！」

　

　

提督「こちらこそ」

　

　

ﾜｼﾜｼ

　

　

阿武隈「て、提督まで」

　

　

阿武隈「あたしの前髪触らないでくださいっ！」

　

提督「あ、すみません。なんとなく、触りたくなりまして」

　

　

阿武隈「ま、まあ、今日は、特別に」

　

　

阿武隈「許しますっ！」

　

　

提督「遠慮なく」ﾜｼﾜｼ

　

　

阿武隈(まあ、どうせなら……)

　

　

阿武隈(……抱き締めるとか)

　

阿武隈(頭、撫でてくれたほうが嬉しかったんだけどなあ……)

　

　

阿武隈「そういうの、この提督さんに期待するだけ酷なことかもね……」

　

　

提督「？」

3

　

　

龍驤「小舟のうえで海を眺めてどうしたん？」

　

　

龍驤「なー、キミ」

　

　

提督「龍驤さん、あなたには今後のことを伝えましたよね」

　

　

龍驤「分かってる。キミは規約を破って軍法会議やろ」

　

　

龍驤「皆はもう疲れて寝てるよ」

　

　

龍驤「お疲れ様ってことで、ここらの哨戒、丙ちゃんのところがやってくれとるとか。直に迎えが来るんやろ？」

　

　

提督「はい。龍驤さん、代理提督としてお願いします。やるべきことは、本当にお願いします」

　

　

提督「それと、自分が軍法会議にかけられることを今の段階で知らせると、面倒になると思うので、気付かれて問い詰められるまで知らせなくていいです」

　

　

龍驤「大丈夫なん？」

　

　

提督「あの時は初霜さんも鹿島さんも追い払っていましたので、ここでは龍驤さん以外まだ誰にもラインを越えたことは知られていない、かな。誰も問い詰めてきませんし」

提督「まあ、大丈夫です。時間はかけずにここにもどって来られると思うので、よろしくお願いします」

　

　

龍驤「わるさめは疲れたーって、解体は明日にするって寝たよ。あの子は本当に気分で生きとるよね」

　

　

龍驤「……それと例の北方棲姫」

　

　

龍驤「ゴーヤとわるさめに頼んで地下に運んだみたいやけど。あの地下、カ級の残骸と、空母棲姫の残骸と、北方棲姫の残骸」

　

　

龍驤「深海妖精もおるとか……」

　

　

龍驤「正直、うちはキミがなにを考えとるか分からへんよ」

　

　

提督「戦争終結のため」

　

　

提督「ですが、今日はもう疲れたので勘弁してください。向こうからもこちらに連絡は出来ると思うので」

　

　

龍驤「電の様子、少し変やって、間宮さんが気付いた。雷は軍の研究施設にいた時に戻ったみたいに辛そうって」

　

　

提督「……そう、ですか」

　

　

提督「龍驤さん」

　

　

提督「自分が信じられませんか？」

　

　

龍驤「信じたいとは思うよ」

　

　

龍驤「もしかしてさ」

　

　

龍驤「この鎮守府はまだ一丸になれてない、んかな……？」

　

　

提督「なってません。主に自分のせいですね。しかし、組織としてはかなりマシになりました」

　

　

龍驤「……へえ、一丸になってない、と」

　

　

龍驤「そういう心を見ないと分からんところを、断言するんやね。いつもなら『と思います』ってつけるところ」

　

　

龍驤「キミ、変わった」

　

　

龍驤「いい方向やと龍驤さんは思うで」

　

　

提督「モテますかね？」

　

　

龍驤「あはは、なにそれ。龍驤さん口説いてんの？」

　

提督「ただのユーモアですけど……」

　

　

龍驤「……あっそ」

　

　

提督「なんか間違えました……？」

　

　

龍驤「知らんし答えたくない」

　

　

提督「……そういえば」

　

　

提督「裁かれるの２度目です」

　

　　

龍驤「1/5作戦の時が１度目やね」

　

　

提督「はい」

　

　

龍驤「キミの顔、最近さ、段々と死んでるやつみたいに生気が失せてきてる。もともととか、そういう話やなくて」

　

龍驤「一人で抱え込むの止めてな。誰もキミのこと傷付けたりはせんから、人を遠ざけて、独りぼっちを好むようにならんといてな？」

　

提督「顔に出てますか。嫌だなって思って気分が悪いんです」

　

　

龍驤「なにが？」

　

　

提督「一般適性検査施設に飛ばされるならいっそ解雇のほうが(震声」

　

　

龍驤「そこか……」

　

　

龍驤「分かっとるとは思うけどさ、この鎮守府は価値がありすぎる」

　

　

龍驤「そして、ここで提督できるのはキミだけ」

　

　

龍驤「他の誰が来ても、今の形は保てない。ここはワガママで自分勝手の欠陥鎮守府やもん」

　

龍驤「うちも、キミがいいな」

　　

　

龍驤「最後の戦いの影が見えたんやろ。だから、この鎮守府は維持されると思う。だからキミは戻ってくると思う」

　

龍驤「けど」

　

　

龍驤「絶対に重い罰を受ける」

　

　

龍驤「合同演習の時の面子になるくらい、みんなを取り上げられるかも」

　

　

龍驤「うちからも元帥ちゃんと大淀にいってはおくけど」

　

　

龍驤「元帥ちゃんああ見えて、キミを利用しとると思うで。必要ないと判断されたら容赦ないと思うわ」

　

龍驤「キミなら分かるやろ。間宮旗艦で出ろ出ろーっていわれた時から、あのゴーイングマイウェイなところ」

　

　

龍驤「優しいところもあるんやけどな。マジの時はマジやし」

提督「間宮さんの時はたたの変態じいさんとしか……」

　

龍驤「歳やからなー。うちは元帥ちゃんのもとで司令官の下積みしてたから分かるんやけどさ、ああいうのは元帥ちゃんの哲学やね」

　

　

龍驤「笑わない年寄りは愚か。そんな考え方から来てる言動。あくまで一番の目的は電の視察やからね？」

　

　

提督「……なるほど」

　

　

龍驤「……少しは誇ればええのに」

　

　

龍驤「１年もかかってない」

　

　

龍驤「キミがこの戦争の終わりを突きつけるまで」

　

　

龍驤「すごい」

　

　

龍驤「大組織やで。どこかからマイナス感情を買ってる。特に妖精学の研究部門の奴ら、発狂してるやろ」

　

　

龍驤「キミに来てた大佐昇級の話を断って中佐階級に留まってるのも不味い。動きにくいから、とかそんな考えやろーけど、面子が潰れとるやつらも多いやろーし」

　

　

龍驤「キミは世渡りが下手やね」

　

　

龍驤「ここぞとばかりに来るかもしれんけど、ま、がんばれ」

　

　

提督「……だるいですね」

　

　

提督「でも、がんばります」

　

　

提督「必ず帰ってきますので」

　

　

　

提督「皆のことよろしくお願いしますね」

　

　

【14ワ●：海の傷痕：本体】

1

　

――――1941.12.16。1945. 4. 7。

　

―――― 1913. 8.16。 1944.11.21。1914. 8. 4。 1942.11.13。1915. 4.19。1945. 7.28。1915. 4.19。 1942.11.15――――

―――――――――――――――

　

　

――――1945.8.15――――

　

　errorcode:unknown000095236s

　

　該当スル想＜＜オモイ＞＞ガ存在シマセン

　

――――error、error、error、error

　

――――対象,

　

――――データベースニ一致スル想＜＜オモイ＞＞ガアリマセン、error。

　

――――検索該当

暁型４番艦駆逐艦電【壊：バグ】

及ビ、

工作艦明石【壊：バグ】

及ビ、

ネ級【壊：バグ】

及ビ、

中枢棲姫【壊：バグ】

及ビ、

レ級【壊：バグ】

及ビ、

水母棲姫【壊：バグ】

及ビ、

白露型５番艦駆逐艦春雨【壊：バグ】

ノ想――――

　

　未実装ノ重大ナ【壊：バグ】ヲ引キ続キ発見、

　

――――歴史及ビ演算機能ニ深刻ナダメージヲ与エル驚異及ビ脅威ヲ察知。

　

　

――――――139144996秒経過。

――――――一定ノ修復時間経過ニヨリ対処作動移行＜＜モードシフトチェンジ＞＞

――――排除作動＜＜クリアモード＞＞;code0833731＜＜オヤスミナサイ＞＞

　

　

　

　

――――殲滅＜＜メンテナンス＞＞準備。

　

　

――――――艦隊収集停止作業＜＜アルマダコレクションストッピング＞＞

――――――現在、、、、

　

　

　

　

　

　

　

　

『サーバーメンテナンス中です。ご迷惑をおかけしますが、しばらくお待ちください』