2018-03-22 03:37:54 更新

概要

8章です。※2/19の更新は後書きに次章のサブタイトルを追加しただけです。


前書き

注意事項
【勢い】
・ぷらずまさんと称しているだけのクソガキな電ちゃんの形をしたなにか。

・わるさめちゃんと称しているだけの春雨駆逐棲姫の形をしたノリとテンションの女の子。

・明石さんの弟子をしているアッシーという短気で無礼気味な明石君。明石表記が明石君でお馴染みのほうが明石さん表記です。

※海の傷痕は設定として
【2次元3次元、特に艦隊これくしょんを愛する皆様の想いを傷つける最悪な言動】
をすると思います。相変わらずの作者の勢いやりたい放題力量不足を許せる海のように深く広い心をお持ちの方に限り、お進みください。

もう矛盾あっても直せない恐れあり。チート、にわか知識、オリ設定、独自解釈、日本語崩壊、キャラ崩壊、戦闘描写お粗末、魔改造、スマホ書きスマホ投稿etc.

ダメな方はすぐにブラウザバックお願いします。


【1ワ●:結局『●ワ●ナノデス♪』 】

 

1

 

提督「ようやく、落ち着けましたか」

 

 

電「……司令官さん、良かったのですか?」


 

提督「なにがですか」

 

 

電「あの場では司令官さんが最も適切な質疑応答ではなかったと思いますし、個人的な感情が混じっていたと思うのです」

 

 

電「海の傷痕は恐らくやろうと思えば想の供給を止めて妖精すら消せる。妖精がいなくなり、深海棲艦の核である艤装すら弄れるとなると、中枢棲姫勢力と手を組んでも足元にすら届かないのです。それに加えて」

 


電「想自体があやふや。海の傷痕の想の能力は予測しづらい上に応用が利きすぎて、本当に底が知れない上に、私が数秒で大破撃沈の無様を晒す程の戦力差です」

 

 

電「兵士の数ではなく、質がモノをいいます」



電「聞き出すべきことが山ほどあったなか、殲滅:メンテナンスはハズレです。私を直す方法など予想であればいい。戦争終結において後回しにすべきことなのです」

 

 

提督「それでもクリア可能に調整されているんです。その上、海の傷痕はキスカで軽巡と睦月型の計4名にやられている」

 

 

提督「仮につけ込む隙はなくても、こじ開けます。勝てない理由はないです。心配ご無用」

 

 

電「言い訳みたいです。らしくない」

 

 

提督「このゲームがクリア可能にしてあるのは、此方のほうが原因だと思ってる。当局は負けたくない。此方も負けたくないが、勝ちよりも優先するなにかがあると見ました」

 

 

提督「此方のほうは面白いですね。まるで人間になろうとしている人間の出来損ないだ。それは詰まるところ人間のようなものですね」

 


提督「……、……」

 

 

提督「………、………」

 

 

提督「…………、…………」

 

 

電「それに、やってしまいましたね」

 

 

提督「……」


 

電「あの場では海の傷痕を倒す。それが私の幸せといいましたが、それをするにおいて」 

 

 

電「失礼するのです」

 

 

提督「膝の上に座るのはいいですけど、こっちを向いてまたがらないでください。見られたら変に誤解されるので……」

 

 

電「……」スリスリ

 

 

提督「なんなんですかこのぷらずまさんは……違和感がすごすぎる……」

 

 

電「私はあなた以外の指示には従えない。信用するどころか聞く気にすらならない。嫌なのはもちろん」

 

 

電「もう、無理です」

 


電「……今度は兵士としての欠陥を抱えてしまったのです」

 

 

提督「なにを今更。ぷらずまさんはもともと兵士としての欠陥ありまくりだし」



電「……そうですね。今更、あの頃の電に戻るのは不可能ですし、そもそもあの鎮守府(闇)の統制を取るには」

 

 

電「……」

 

 

●ワ●

 

 

ぷらずま「これでいいですね?」

 

 

提督「でもあなたはきっと変わらないだろうから、無理にそちらの仮面を被る必要ももうないですよ」

 


ぷらずま「なら今までと同じでいいのです」

 

 

提督「あー……ぷらずまさん、すごく身勝手なお願いなのですが、なんとか瑞鶴さんの改二甲の設計図、集められません?」

 

 

ぷらずま「まあ、そのくらいなんとかなりますよ。ちょうど色々な人が集まっていますし、貸し借りもある輩がいるので、用意自体は可能です」

 

 

ぷらずま「けどあの瑞鶴は正直、平凡以下です。正規空母ながら龍驤さんと瑞鳳さんにすら劣ります」

 

 

ぷらずま「それにあいつ、意外とキレたら怖いタイプですしね。ホロレアの瑞鶴艤装の適性者の提督爆撃などあいつに限った話でもなく」



ぷらずま「あいつの場合は帰投後に司令官を素手で半殺しにしているので、さすがにアウト判定されましたね」

 

 

提督「加賀さんが止めてくれたみたいですけど、止めてくれなかったらどうなっていたか分かりませんね……」

 

 

ぷらずま「おまけにお調子者です」

 

 

提督「……あの瑞鶴さんはかなり長い目で見るつもりで早期に引き込んだんです」

 

 

提督「改造しなかったのは、あの子は解体される前のデータからして、どうも力頼りで技術が拙いからです。大きい力を大きく振るうようにしか扱わない。龍驤さんや瑞鳳さんのような技術や基本が薄い。空母としてどうかと」

 

 

ぷらずま「確かに……艦載機が切れたら殴ればいい、の奴なのです。それであの性能のまま、しばらく置いていたのですか……」

 

 

提督「そろそろいいでしょう。龍驤さんや瑞鳳さん、鹿島さんからの報告でも基礎の部分はかなり上達しています。あの子は改二甲になり素質に合わせて、そうですね、今だと明石君に頼んで艤装を少しあの子の素質に馴染ませてもらえば」

 

 

提督「現行1航戦にも勝てます」

 

 

ぷらずま「ま、司令官さんがそういうのなら、あの瑞鶴さんを改二甲にできる練度まであげておくのです」

 

 

提督「それと今の自分は、きっと司令官として形が出来上がりました。それは今までの戦争終結のためだけでなく、皆の心も踏まえて自分の執る明確な指揮が定まったということです」

 

 

ぷらずま「それはなによりなのです。貴方は皆のことを考えて、あっちに行ったりこっちに行ったりしていましたからね」

 

 

提督「その全てを伝えた上で、自分の指揮下に入るかどうかを改めて問いたいです。うちの兵士の何名かは自分よりも生かせる指揮を執れる司令官がいますので」

 


提督「特に龍驤さん阿武隈さんの『全員生還』については自分の意見を申し上げておき、話し合う必要があります」

 

 

提督「後で書面にまとめます」

 

 

ぷらずま「了解です。それでは設計図を入手しに行ってきます」

 


提督「……あの、ぷらずまさん」

 

 

提督「あなたも仲間を頼ることを覚えてくださいね。きっと、あなたはそれがもう出来るはずですから」

 

 

提督「なまくらになれ、といっているわけではありません。成長してください。もう迷いはないのでしょう?」

 

 

ぷらずま「心配は御無用なのです。でも海の傷痕のいった通り、過去はどんな希望でも打ち消せませんから、良くも悪くも素直になることができる程度だと思って欲しいのです」

 

 

ぷらずま「その素直が電だと思ってもらっては困りますが……」ニタニタ



提督「それではそろそろ手を離しますね。頼んだこと、よろしくお願いします」



電「あっ、い、嫌っ!」



――――ぎゅっ。



提督「」



電「あ、ごめんなさい……」



提督「さすがにこのままでは……」



電「な、なのです……頬を叩いて気合いを入れ直すのです」



パシン!



電「なのです!」



提督「あなたは本当に今まで見たことない顔をしています。きっと歴代最高の電です」

 

 

電「……照れるので止めて欲しいのです」

 

 

電・提督「……」

 

 

電「な、なんか違うのです!」

 

 

提督「ですね……正面切ってのぷらずまさんの素直なデレは違和感が強烈過ぎます」

 

 

電「それはそれでなんか腹が立ちますけど!」

 

 

ぷらずま「司令官さんから褒めてもらうより、私が司令官さんを褒めてやる関係のほうが似合っているのです」

 

 

提督「お恥ずかしい話、その通りで……」

 

 

ぷらずま「●ワ●」ナノデス♪

 

 

ぷらずま「それでは一旦、失礼するのです」



【2ワ●:シリアスの嵐は過ぎて】

 

 

大淀「お久し振りです」

 

 

提督「……大淀さん」

 

 

大淀「顔を合わせるのはお久し振りですね。明石君と秋月さんの1件、わるさめさんを受け入れてくれたこと、改めて衷心よりお礼申し上げます」

 

 

提督「親御さんをゆする時は腹くくりましたね……」

 

 

大淀「ゆすったんですか……」

 

 

大淀「まあ、とりあえず、今回のあなたの処罰です。龍驤さんにも頼まれまして私なりに色々な人への貸し借りを使ってゆすってみたのですが……」


 

提督「ゆすったんですか……」

 

 

提督「でも自分も今の鎮守府(闇)に着任するために力を貸してもらいましたし、自分のほうが大淀さんに頼りすぎていますね。情けなく」

 

 

大淀「いえいえ、電さんやわるさめさんはもちろん私的には龍驤さんの手綱を握れているのもすごいと思います。あの人、自分よりなにか優れていないと判断したら電さん並に扱いづらくなりますから。将校と肩を並べて育ってきたので兵士としても司令官としても高水準、それなりに我も強いです」

 

 

大淀「丙少将のように生還の指揮を好いて、乙中将のように砕けたところもあって、甲大将のようにプライドもあり、元帥さんのように人を見ますから」

 

 

提督「言われてみれば……」

 

 

提督「まあ、龍驤さんにはお世話になりっぱなしですね……」

 

 

大淀「この場だからいいますが、海の傷痕に救われましたね。貴方は当初の予定では提督や司令官の立場から外され、電さんのみの指揮を執れる補佐官に戻される予定でした」

 

 

提督「……」

 

 

大淀「海の傷痕の発言からして貴方を外せば、どう出るか分からないので。将校には感謝してください。今回は甲大将ですね。あの人が頭を下げるのは、効果がありまくりです。あなたは陰ながら支えてもらっている人達がいることをお忘れなきよう」

 

 

提督「……肝に命じておきます」

 

 

大淀「甲大将はそういう人なんですけどね。単純にかっこいいんです。マジで怒らせてはダメですけどね」

 

 

提督「……そうですね。人間としても、高いところにいます。女性としてもあの男らしさは、正しく良い女が持ち得るモノだと思います。いや、まあ、自分は経歴からして女性のことは語れませんけども」

 

 

大淀「……それで青山中佐、先程の海の傷痕の会話ですが、2つほど気になった点がありまして」

 

 

大淀「キスカと1/5作戦です」

 

 

大淀「1/5作戦では足跡を消すため、徹底的に丁准将の鎮守府を破壊したといいましたが」

 

 

大淀「キスカでは阿武隈さんと卯月さんを見逃したうえ、事後の操作結果で明らかに違和感を残すような戦いをしてますよね?」

 

 

提督「キスカでは足跡を消すよりも、中枢棲姫勢力のような知能覚醒のバグを消すことを優先しただけかと」

 

 

大淀「……なるほど」

 

 

提督「ただ1/5作戦は気になります。足跡を消すために鎮守府を徹底的に破壊する必要があった。仕事時間における海の傷痕からしてその手を取ったのは効率的機械的な手段なのでしょう」

 

 

提督「そして丁准将が瑞穂を使ってしていた実験については具体的なことを喋らなかった。恐らく丁准将がしていた実験は、海の傷痕にとって」

 

 

提督「かなり都合の悪い実験だと思われます」

 

 

大淀「どうせ予想はついているんですよね?」

 

 

提督「いえ、全く。しかしご迷惑をおかけたした身です。自分でよければ考えましょう」

 

 

大淀「……では」

 

 

提督「大淀さん、この情報はあなたが艤装を身に付ければ海の傷痕に漏れる危険があることをお忘れなきよう。こちらの兵士はバグを除いてスパイのようなものです」

 

 

大淀「……ええ」

 

 

提督「自分はあの鎮守府で補佐官をしていましたから、あの鎮守府のことはよく知っています。時期的に自分がいた時に瑞穂:バグはいたのです。ですが、自分は全く記憶にありません。あの鎮守府にいた武蔵さんやその他の人もそうですよね」

 

 

提督「聞きますが、うちの鎮守府のように秘密の部屋等々の形跡はありました?」

 

 

大淀「……いえ、形跡はありませんでしたね。そもそも本当に徹底的に壊されていたので、断定はできません」

 

 

提督「あれこれ後ろめたいことを隠れて何年もやるのはふとした拍子にバレたり誰かに勘づかれたりするもんです。そこら辺、自分は特に敏感です」

 

 

大淀「中佐は刑事のほうも向いていそうですよね」

 

 

提督「そういえば、全く同じことを丁准将からもいわれた気がしますね……」

 

 

提督「フレデリカ大佐の隠蔽はキスカまではお見事としかいいようがないですけどね。鎮守府は多くの人がいますし、丁准将のところには憲兵もいた。そして秘書官は大和です。丙少将の優しさそのままで、少しおっちゃこちょいな人柄の彼女が、そのような実験の隠蔽に協力するとは思えません」

 

 

提督「たまたまバレなかっただけ、という線を消して考えるのなら」

 

 

提督「可能性が高いのは絶対に誰にも見つからない場所でやっていた」

 

 

提督「例えば、ロスト空間、とか」

 

 

大淀「バグを利用してロスト空間に?」

 

 

提督「さあ。ですが、人体はロスト空間には行けるのはお分かりだと思います。無論、ロスト空間というのは、どうなんでしょうね。どんなものかも分かりません」


 

大淀「まあ、トランス現象を人間がどうのこうの出来るなら海の傷痕に勝てるでしょうしね。あれはもうアンタッチャブルな災害でしょう」

 

 

提督「ですね。あるとすればロスト空間にヒントがあるかな、と。しかし人間地雷探知機みたいな真似が必要です。だからこそバグであり人として死んでいる瑞穂で人体実験をしていたのなら、とは。そして海の傷痕は深海妖精をいまだに消さない時点で、知られては困るけど致命打にはならないか、もしくはそこを我々に対してのギミックとして設定しているとか。ああ、頭が痛くなってきました」

 

 

提督「ここらで勘弁してください」

 

 

大淀「……青山中佐は本当に奇妙な頭をしてますね。知的好奇心ゆえ、あなたとお話していると楽しいです」

 

 

提督「聞いておきたいのですが、深海妖精を使っての兵士の量産には踏み切りそうですか。海の傷痕はそれをしても倒しておかなければならない存在だと自分は思いますが」

 

 

大淀「確かに。わるさめさんが解体出来たのなら、安全性は格段にあがりますね。でも、精神影響の面でこれまたそう簡単には行きませんよ。わるさめさんだって、春雨さんの適性が70%から2%に下がるほど人格に影響しますから」

 

 

大淀「まあ、実験と称して人格変わりかねない真似してる研究とか普通にあるんですけどね。対深海棲艦海軍はそこらにおいて軍規が厳しいので」

 

 

大淀「……海の傷痕は『Rank:Worst-Ever』です」

 

 

大淀「タイプトランスになると、怪我や病気に対して、現在の最新鋭科学治療を越える効果があるとは知っていますか?」

 

 

提督「いいえ。でも通常の建造でもありますよね。適性者の中で医療目的の建造もある話だったかと」

 

 

大淀「タイプトランスは癌の進行止まります」

 

 

提督「まさかとは思いますが、電さんやわるさんに意図的に癌細胞を?」

 

 

大淀「違いますよ。通常の兵士も手足もげても生きていられます。まあ、頭や心臓を吹き飛ばされたら死にますけど」

 

 

大淀「電さんやわるさめさんの場合は再生能力ゆえに、手術の幅が広がるため通常では除去できない部分の癌を取り除けたり、そもそもの深海棲艦の生命力の恩恵で、回復力自体も人間離れしますので」

 


大淀「海の傷痕のデンジャー度合いならトランスタイプの戦力は喉から手が出るほどですが、言い訳を駆使しても公の行動として兵士を強化するのは時間が足りませんし、恐らくバグを大量発生させてしまう違法行為は海の傷痕が新たなシステムを組むために消失してしまう恐れがあります」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「……そう、ですね。せっかく海の傷痕自ら決着をつけようと行ってくれているわけですし」

 

 

大淀「その為、深海妖精に関する協定も各国には1週間後には決まります」

 

 

大淀「その中で、海の傷痕はこの国の現在保有戦力のみと正々堂々戦うとのこと。我々は指定され、戦うことになりましたので、この対深海棲艦日本海軍に置いては一部融通を利かせるべき、と話が進んでおりまして」

 

 

大淀「損得考えれば、海の傷痕に負けるよりも勝って海を取り戻したほうがプラスなので。そこらの建前を考えるのは政治家の仕事ですが」

 

 

提督「それでどういう風に融通を利かせていただけると」

 

 

大淀「とりあえず、初霜さんに頼んでわるさめさんの解体は試して頂いて、その後にもしも本人の希望があれば、あなたの立ち会いのもと」

 

 

大淀「……という形は即決で」

 

 

提督「相当、混乱してますね」



大淀「それはそうですよ……。海の傷痕の力は海にこそ限定されていますが、やろうと思えば、津波、隕石、感染、落雷、地震、その手の災害どころか、我々の頭の想像を全て実現してしまう、マジもんの神様です」

  

 

大淀「中枢棲姫勢力に対しては今後のためにも情報を収集するという手を使えましたが、海の傷痕は例えその生命情報が文明に貢献するとしても『抹殺第一』とすぐに決まりましたから」

 

 

大淀「見なかったことにしたい悪夢だ、という人もちらほら」

 

 

大淀「どこかの国が海の傷痕に接触を試みる可能性は大いにありますけどね。それだけの価値はあります。あの力さえ解明して手に入れたのなら海など要りませんし、世界征服も夢じゃないです。なのでそれが本当に怖いです」

 

 

提督「……海の傷痕はなんと?」

 

 

大淀「時間になるまで自由に闊歩するが見張りをつけてくれていい、と。そちらから語りかければ殺すので、そこらも考慮しろ、とのこと」

 

 

提督「それならば海の傷痕がヘマさえしなければ大丈夫、かな。此方は本当に人間らしいですね」

 

 

大淀「複雑過ぎます。私には理解できません。あのように情報をペラペラと、与えすぎでは、と」

 

 

大淀「こちらとしてはありがたいのですが、そもそも本当かどうか分からないところもありますし」

 

 

提督「自分は本人が説明した通り、だと思います。当局はあくまで製作者の管理運営を担当する生物で、個性は此方のほう。人間と同じです」

 


提督「『当局はゲーム会社の社員としての仕事の顔』であり、『此方はその会社員の個人的な顔』です」

 


提督「そして『当局はこの戦争ゲームを運営管理する役割(本能)』があり、『此方がその役割に意思疏通をし、この戦争をこの形に仕上げた』のだと」

 

 

提督「それが『艦隊これくしょん』の製作秘話です」

 

 

提督「なので、この戦争は『此方の目的に沿って作られたモノ』ですね」

 

 

提督「此方は女で、友を愛したといった。女でもないのに、女であることを求めようとした。それが艤装適性者に女性を選ぶという機械的かつ効率的な部分にかなりの融通を利かした個性」

 

 

提督「電さんを見て、『いい女になった。殺すのが惜しい』といったのほぼ完全に此方の感情に沿ったものかと」

 

 

提督「……ここから先は恐らく此方の想いが深く関係してくるので」



提督「女性にしか分からないのかもしれませんね」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「大淀さん、どんな気持ちなんですか。女として誰かを愛するというのは」

 

 

大淀「まさかあなたの口からそんな言葉が出るだなんて私は驚いて眼鏡が割れてしまいそうです」


 

大淀「まあ、私には分かりませんね。恋人も出来たことないですし。艦娘の皆さんは全員男性経験ないんじゃないかとすら、はい。思います」

 

 

提督「すみません、この話は止めましょうか……」

 

 

大淀「……ですね、ここから先は私の愚痴の洪水が止まらなく」

 

 

大淀「これはあなただからこそいっておくことです。こちらとしてもできる限りのフォローはしますが、なにかをするつもりなら今度は全てが終わった後に断頭台に立つ覚悟のご用意を」


 

大淀「フレデリカ大佐と同じく人間の都合により死の運命に囚われる、と」

 

 

提督「皆は現場で命を賭けて戦うんです。そこに要らない汚れは自分が引き受けて、指揮を執ります。こちらの都合で迷わせはしません」



大淀「……」

 

 

大淀「かっこよくなりましたね」

 


大淀「事件は会議室で起きているわけじゃない。現場で、みたいな」

 

 

提督「あれ、青島ですよね。青山は卒業した学校名のほうですよね……」


 

大淀「あれ? そうでしたっけ」

 

 

大淀「しかし、ええ、とても提督らしいお顔をなされてます。そのほうがきっと皆さんもあなたを信じて助けてくれると思います」


 

大淀「そういえば、明石君のことも謎ですよね」

 

 

提督「……そうですね。中枢棲姫勢力やぷらずまさん達とは明らかにケースが違います。あの子の場合はシンプルに、なぜ男が、ですからね」

 

 

提督「ここは本当に分かりません。あの場でまだチャンスがあったのなら、明石君について、でしたね」

 

 

大淀「それはとりあえず置いておきまして」

 

 

大淀「元帥と甲大将と丙少将の意気投合により、3週間後に演習が組まれました。海の傷痕と同じく対艤装タイプ:トランスに対しての経験、そして現重要戦力の把握も踏まえまして」

 

 

大淀「丙甲連合艦隊vs鎮守府(闇)」

 

 

提督「……12名ですか?」

 

 

大淀「そうなりますね。これは前々から予定されていたことではあったんですよ。甲大将が強く希望していまして」

 


大淀「こちらがその演習の期日、目的やルールです」


 

提督「このルールは海の傷痕を意識していますね……」

 

 

提督「参考的な意味合いで勝敗は差して関係ないが、敗北し、司令官の指揮が適切ではないと判断したら作戦のために艦隊を異動させる可能性が大きく出てくる、ですか」

 

 

提督「そして、このルールは」

 

 

提督「……、……」

 

 

大淀「丙少将のところも分かりますよね。わるさめさん、丙少将に危害を加えてますから。日向さんと伊勢さん、かなり怒っています」



提督「……」



大淀「丙少将から伝言です。『この戦いで俺とお前の因縁にケリをつけておこう。こてんぱんにしてやるから全力で来いよな』だそうです」



提督「……こなす必要のある演習ですね」



提督「大淀さん、今から少し自分の鎮守府のメンバーと連絡を取りたいのですけども」

 

 

提督「内密にしてもらっても大丈夫ですか」

 

 

大淀「すでに鎮守府(闇)には通達されていますよ」

 

 

提督「極秘でお仕事をお願いしたく、それを隠しておきたいんです」

 

 

大淀「分かりました。そのくらいなら私でも。正し、またここに連行されるような真似ではないと誓えますか」

 

 

提督「誓います」

 

 

大淀「しばらくこちらの都合で拘束させてもらいます。色々と顔を出して欲しいところがあります」

 

 

大淀「ああ、世間ではありません。深海妖精論について、研究部の人や著名人があなたと言葉を交わしたい、と。あなたは今や時の人です」

 


大淀「それとあなたは深海妖精が見えるので軍の研究に協力していただきます」


 

大淀「最後にあの場で録音された映像と音声ですね。あなたの口からまさかの愛の囁きが出たことですけどね……」

 

 

提督「忘れてください」

 

 

大淀「『今からいうのは自分人生初の愛の言葉です。恋愛とも家族愛でも友愛でもなく、単なる深愛に該当するかと思います(ドヤッ』」

 

 

提督「止めてくださいよ。あの子は見た目小学6年生ですよ。これが世にバレたら自分は絶対にからかわれます。苦情が来そうで」

 

 

大淀「あなたはまだ誤解されているところもありまして、内情処理を円滑に進めるため、まこと勝手ながら、武蔵さん達にお配りしました」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

お前がナンバーワンの鬼畜艦だよ。



【3ワ●:でも、これは不思議な女の子の、不思議なお話】

 

 

乙中将「失礼しまーす。あ、大淀さんもいたんだ」

 

 

大淀「ええ、外しましょうか?」

 

 

乙中将「構わないよ。大淀さんは知っていることだからね。青ちゃん、ちょっといい?」

 


提督「……」

 

 

乙中将「いやいや、海の傷痕の話じゃないんだ。少し気になって聞きたいことがあってね」

 

 

乙中将「初霜さんはどう? 元気?」

 

 

提督「変わりませんけど」

 

 

乙中将「そっか。そっちには支援施設の設備もあるし、羽を伸ばしていてくれているかな?」

 

 

提督「……?」

 

 

提督「どういう、ことです?」

 

 

提督「海の傷痕がそういえば初霜さんを特別優秀賞に名を挙げましたね。あれは分からないことの一つです」

 

 

乙中将「だよねえ。僕も驚いた。海の傷痕から見て、『Rank:Worst-Ever』だもんね……」

 

 

乙中将「最もぶっ殺したいって子が初霜さんだもんね。やっぱりそこ気になるだろうと思ってさ、初霜さんのことの話に来たんだ」

 

 

提督「……」

 

 

乙中将「最も特殊な事情があるにはあるけど、それでもどうして初霜さんがってなると思う」

 

 

提督「……初霜さんもなにか抱えているのですか。自分は全く気付きませんでしたし、彼女は確かごくごく普通の家庭で産まれていたはずです、よね」

 

 

乙中将「気づかないよねえ。あの子は別段目立った欠陥あるわけじゃないし、真面目でがんばり屋さんにしか見えないからね。それに別にどこかネジが飛んでいるわけでもないよ。青ちゃんのイメージ通りの女の子だよ」

 

 

提督「普通だから異常とかいう話でもありませんよね……」

 

 

乙中将「そだね」



提督「駆逐は特に事情が複雑な子供達が多いですよね。その手の話ですか」


 

乙中将「うーん、客観的に見れば不幸なお話ではあるんだけど、本人はむしろ幸せな時間だったっていっているんだよねー……」

 

 

大淀「不思議に不思議が重なって単純に理解に苦しむお話ですね……」

 

 

乙中将「そうだなー。青ちゃんの戦争終結の執念はさ、理解されやすいものだと思うんだ。戦争ってやっぱりいいイメージじゃないし」

 

 

乙中将「その執念をただの純粋無垢にして、方向性を変えた感じ。おどろおどろしい、ね」



乙中将「でも、これは不思議な女の子の」

 

 

乙中将「不思議なお話」


 

【4ワ●:初霜さんの怖いほどの不思議な欠陥】


 

乙中将「とある成長障害で歩行器を使っている5歳の女の子がいました」

 

 

乙中将「その女の子は見知らぬ老夫婦に誘拐されました」

 

 

乙中将「そしてとある人里から離れた小屋に飾られるかのように放り込まれました」

 

 

乙中将「その部屋には鍵もかかっておらず、手足を拘束されてもおらず、望めばその老夫婦が何でも持ってきてくれたそうな」

 

 

乙中将「お姫様のように手厚くもてなされました」

 

 

乙中将「女の子は誘拐されたことを知っていましたが、逃げ出さず、助けを求めることもせず、そこの離れから出ることもしませんでした」

 

 

乙中将「そこの部屋の窓から見える海を、ただただ見つめていました」

 

 

乙中将「海を見つめる日々がただただ流れて」

 

 

乙中将「4年が経過しました」

 

 

乙中将「そしてある日、老夫婦が女の子に手紙を渡しました。ここの峠から見える朝の海は綺麗だという内容でした」

 

 

乙中将「そこでようやく女の子は外に出ました」

 

 

乙中将「歩行器を使って歩きます。峠へと続く霜道を裸足で歩きます」

 

 

乙中将「峠で女の子はまたぼうっと海を見つめて、いつの間にか日が沈みかけました。その時に、太陽が緑色になりました」

 

 

乙中将「女の子はただただじーっと海を見つめていました」

 

 

乙中将「通りがかりのトラッカーさんが、薄着で裸足の女の子を見て不思議に思って、声をかけました」

 


乙中将「声をかけたけど、女の子は『あ』とか『う』とかそんな言葉しか喋りません」

 

 

乙中将「トラッカーさんは警察に通報しました。女の子は保護されました」

 

 

乙中将「以上が初霜さんの、不思議なお話」

 

 

2

 

 

提督「理解ができない……」



乙中将「だよね。表に出している経歴は変えているんだよ。あの子、5歳の頃に誘拐されて9歳まで行方不明者だった」

 

 

提督「事件として詳しく教えて頂いても?」

 

 

乙中将「詳細を知ると余計に謎が」

 

 

乙中将「まずその老夫婦と初霜さんの家は全く接点がなく、初霜さん自体も初霜さんの親御さんも全く知らない人だったみたい」

 

 

乙中将「その老夫婦も子供に恵まれなかったわけでもなく、妙な宗教にはまっていたわけでもなく、犯罪組織にいたわけでもない。絵に描いたような仲睦まじい老夫婦だよ。調べても調べても、おかしな点が全くなかった」

 

 

提督「突発的な犯行にしてもおかしいですね。何のために誘拐したのか分かりません。後になって警察に自首するわけもなく、その場からいつでも逃げ出せるようにしていたわけでしょう?」

 

 

乙中将「だね。加えていえば初霜さんの家庭も初霜さんを虐待してたーとか一切ない。ここまで犯行動機や初霜さんがそこに留まり続けた理由に霧がかかるのは初めてだって、担当した刑事の人がいってた。初霜さんはそういう変な子で、夫婦はボケてた。そこと偶然が噛み合ってこんな珍妙な事件が成立したんじゃね、とか」

 

 

乙中将「警察は最初、目撃証言からやり口からして組織的な犯行の線で考えていたみたい。最近の子供の誘拐組織って、男女一組で行動するらしい。知らない大人だと、女性のほうが子供は安心するんだってさ。特にお婆ちゃん」

 

 

乙中将「世の中には理解の及ばない連中がいるよ。僕だって、家のこといまだにそうだし。自然と対話とかあほかよって思うし」

 

 

乙中将「わざわざ余所様の子供さらって、ただただ4年も置いておくことに何の意味があるというのか」

 


乙中将「いつでも逃げ出させるようにもしていた。だけど、初霜さんは、逃げようとしたり助けを求めようとはしなかった」

 

 

乙中将「初霜さんも相当だけどね。生理現象は処理していたみたいだけど、誘拐されて4年もぼうっと海を見つめていたとか」

 

 

乙中将「さらった老夫婦も、そこにいた初霜さんも不思議の塊過ぎて。海の傷痕も多分、初霜さんのこういうところが理解できないっていうことだと思うけど」

 

 

提督「まあ、突発的な拳銃自殺の太陽が眩しいからって理由のような」



提督「ただただ不思議、ですね」

 

 

提督「ご両親はご健在で?」

 

 

乙中将「うん。ただもう初霜さんのことがきっかけで離婚していてさ、それぞれ新たに家庭を持って子供もいる。事情があって受け入れられないみたい。初霜さんもご両親のことあまり覚えていなくて、金銭面だけ補助してもらって孤児院になる予定だったんだけど」

 

 

乙中将「本人が兵士になりたいって」

 

 

提督「……」

 

 

乙中将「初霜さんは別に心に傷を負っているわけでもないよ。あの日々は安らかだったし、苦ではなかったって、いってる」

 

 

提督「なぜそこに4年もいたか聞きました?」

 

 

乙中将「初めて見た海が綺麗でしばらく見とれていたら4年経ってたとか、老夫婦からの手紙で、もっと海が綺麗に見える場所を教えてもらったから、そこに行ってみました、だとさ」

 

 

提督「誘拐だと気付いておきながら、4年もただ景色を眺め続ける。親がいなくなるだけで泣くような5歳の子供が、信じられません……」

 

 

乙中将「あの子、真面目でしょ。なにか為になる話だとメモ取ったりしない?」

 

 

提督「……」

 

 

提督「確か自分が間宮亭で皆にユーモアや女心をご教授してもらっている時、メモ取っていたかな?」

 

 

乙中将「5歳から9歳の頃に空白なのは、大きいよ。本で読み書きは覚えたけど、言葉は拙かったみたい」

 

 

乙中将「でも3年で今の普通になったんだよ。真面目でがんばり屋さんの女の子だ」


 

乙中将「そこがあの子のすごいところなんだけどね。青ちゃんも、ある意味で一途だからさ、初霜さんとは気が合うと思うね。初霜さんは青ちゃんみたいになにかにひたむきな人が好きだと思う。理由は初霜さんに聞いてみてもいいかもね」

 

 

乙中将「でも、あの子は4年もぼけっとしていた時間で、周りから置いていかれたことに気付いて焦ってたみたいでさ」

 

 

乙中将「身体も知識も取り戻すために、普通になるためにがんばる。ま、不思議属性つきの純粋無垢で真面目な女の子なんだ」

 

 

提督「……覚えておきますね。それが海の傷痕が名を挙げた理由、なんですかね。あの子の想は確かに面白そうではありますが……」

 

 

乙中将「海の傷痕はその不思議が数値として出ているっていってたよね。初霜さんの兵士としての素質はね、特異なんだ」

 


乙中将「これ、ちょっとすぐに用意してもらった初霜さんの適性のデータ」ピラ

 

 

乙中将「僕がいずれ第1艦隊の旗艦にしようとしていた理由の1つと、青ちゃんの鎮守府に置いておこうと思った理由」


 

提督「……、……」

 

 

提督「?」

 

 

提督「何の冗談です、これ……?」

 

 

乙中将「分かるよー。普通と違って面白い。そのまま乙の旗の意味になるしね」

 


提督「複数の適性率が出るというのは聞いたことがあります」

 


提督「しかし、それでも複数適性者は空母や戦艦、駆逐、その同カテゴリの中で複数です……」

 

 

提督「現存する全ての艤装に適性が70%以上あるって」

 

 

乙中将「そうだねえ。何者にもなれるのならば、どの艤装の適性率も出る。理論的にはあり得るけど、赤ん坊でも個性が出るから、人間に当てはめると、てんでダメ」



提督「海色の適性……」



提督「適性の出る理由は精神面、大雑把にいえば性格に大きく左右されるはずです。軍学校でもらう適性100%の参考データがありますし、どことなくそれに似ているはずでしょう?」

 

 

提督「いうなればあの子は艤装の数だけ性格があるってことですよ。あり得るのですか……?」

 


提督「不思議な素質、です……」

 


乙中将「ま、あの子は初霜艤装が似合ってるよ。器用貧乏とかいわれる艤装だけど、どこにでも手が延びるあの子に似合っていて」

 

 

提督「ここには最初は初霜艤装じゃなかったとありますが、乙中将が解体して後で変えたんですよね?」

 

 

提督「初霜改二にはオプションで鉢巻き作られますし……」

 

 

乙中将「……(メソラシ」

 

 

大淀「一応の理屈は当時の初霜さんは『何者にもなれる精神的素質がある』とのことです。まるで真っ白、いや、空っぽ、ですかね……」

 

 

大淀「海のこと以外は」



提督「影響を受けやすい、ということですか?」



乙中将「というより、環境への適応力が高い」



大淀「あの子は海の傷痕にとっても理解できない異常、バグみたいなものなのかもしれません」



乙中将「ちな、その資料は軍に入る前の適性検査のやつね。今はもう初霜さんは、性格の基盤が出来上がってその適性率も大分制限されちゃってる。まだまだ他の艤装の適性も持ってるけど」

 

 

提督「これはかなり面白いことができそうですね」

 

 

乙中将「あの子はもう大丈夫だと思っているから話してなかっただけ。実際、いい子でしょ。海の傷痕から初霜さんの名前が出たからさ。もしもなにかあったら教えてねって話」

 

 

提督「了解しました」

 

 

乙中将「面倒になるから手は出しちゃダメだよ。痴情でどれだけ対深海棲艦海軍の評判が地に堕ちたことか。電ちゃんどんな指示でも聞きそうな感じだったし、初霜さんは初霜さんでちょろいから。駆逐は特にアウト。僕としては人の心は尊重したいからご自由に、だけどさ、お幸せになったのなら街へどうぞ、だからね?」

 

 

提督「分かっています。その真似がどれほど不利益をもたらすかは把握しています。お任せを」キリッ

 

 

乙中将「ここにおいての青ちゃんは信用しかできない」

 

 

大淀「ですね……」

 

 

提督「その事件の資料って、確保できますかね?」



乙中将「大淀さん、なんとかなるかな?」



大淀「了解しました。今の事情なら大丈夫だと思います」



提督「ありがとうございます」



提督「それと自分はしばらく鎮守府を留守にするので龍驤さんに伝えても構いませんか?」

 

 

乙中将「そうだね。お願い。龍驤さんに広めないようにいっといてね」

 

 

乙中将「それだけ。演習がんばってねー。丙さんも甲さんもマジだから、青ちゃんとことやるのは、嫌な予感しかしないけど」

 

 

乙中将「それじゃーね」

 

 

……………

 

……………

 

……………

 

 

提督「大淀さん知ってたんですよね?」

 

 

大淀「ええ、初霜さんのケースは初めてではありますが、明るい経緯でここにいる子は少数派ですよ」

 

 

大淀「卯月さんのような『家の宣伝任せたぜ愛娘、了解びしっ』みたいなユーモラスなご家庭もありますけど、やっぱり事情がある子も多いですからね」

 

 

大淀「というか中佐がスカウトしている人は大体そこらの問題がクリアできる人達ですよね……」

 

 

提督「……まあ。面倒事はなるべく省きたいので」

 

 

大淀「それに初霜さんだけではありません。重課金で間宮さんだって名前が挙げられていましたよね」

 

 

大淀「彼女も初霜さんと同じく気付きにくいタイプだと思います」

 

 

提督「あの人はどこか間の抜けた一面があるのは知っていますが、よくよく考えると」

 

 

提督「例の女提督の時からずっとあそこにいるますしね……」

 


提督「そういえばゴーヤさんが入った辺りに、電さんのことで後悔しているみたいな話を自分にしたような気がしますね……そこの辺りかな?」


 

大淀「……使う予定のない艤装で、初霜さんに適性のあるものを送りましょうか。明石さんも、そちらのお弟子さんのために近々向かうかと」

 

 

提督「……お願いできるのなら。明石さんのことは伺っております」

 

 

大淀「その代わり、本当に皆のことよろしくお願いしますよ。お若い方に妙な思想を植え付けないでください」

 

 

提督「心外です……」

 

 

提督「でも今の初霜さんはなんともないようですし、なにかあれば自分でもお力になれることはあるでしょう。あの子とは良好な関係が築けていますしね」

 

 

大淀「この戦争が終結した暁には兵士達の社会復帰は軍が、いえ、国が全力で支援しますからご心配なく」

 

 

提督「あ、そうです。ケッコンカッコカリのやつってあれ天引きでしたっけ。うちの人数分、用意してもらえたりとかは」



大淀「……加工しますよね?」



提督「お願いします」



大淀「ネックレスとブレスレット、まあ、お安いブレスレットのほうにしておきます。すぐに出来ると思うので中佐に届けますね」



提督「ありがとうございます」



大淀「では、そういうことで」ビシッ

 

 

大淀「あ、そうです。こちらの都合であなたは明後日から丁准将です。でなければ甲大将に面倒事を押し付ける羽目になると思います」

 

 

提督「その席に座った先代も先々代も、ろくな死に方していないんですけど……」


 

 

ガチャ

 

 

 

 

 

秋月「おにいさ――――ん!!」

 


提督「!?」



【5ワ●:こいつ本当に鎮守府(闇)の司令?】

 

 

提督「ちょっとタイムです。明石君成分補給途切れて何時間経過しました」

 

 

秋月「10時間くらいだと思います!」

 

 

提督「なら2時間くらいの猶予しかないじゃないですか……」

 

 

陽炎・不知火「失礼します」

 

 

提督「お二人まで。一体なにをしに来たのです?」

 

 

秋月「電さんには遅れましたが、お兄さんの身の危険と知って大慌てで来たんです。まだ間に合いますよね。ともに逃げましょう!」

 

 

陽炎「丙さんとこては色々と連絡取り合っているからね。加賀さん……いや、天城さんが口を滑らせたというべきかしら。提督の現状を」

 

 

秋月「お二人とは同じ部屋ですから、私も知ることが出来ました!」

 

 

不知火「ここの部屋のことは、丙さんに会えたので教えてもらえました。全く、心配しましたよ」

 

 

提督「心配、ですか」

 

 

提督「……ありがとう」

 

 

提督「そしてすみません。後、もうその件は解決しました。しばらく拘束はされますが近い内に帰りますので」

 


陽炎・不知火「……」

 

 

不知火「大淀さん、この人は本当に鎮守府(闇)の司令ですか……?」

 

 

大淀「そうですけど……」

 

 

提督「自分になにか……」

 

 

陽炎「いや、司令なら最初に謝るか、外出許可証やらの規則のことをいうと思っていたんだけど、まずお礼を言ったことになんか違和感……」

 


秋月「なにかありました?」

 

 

大淀「そんなところから……皆さん青山中佐のことをよく観察していますね」

 

 

提督「……、……」

 

 

不知火「少し雰囲気も」

 

 

陽炎「そうねえ。前みたいに生気は薄いままだけど、なんかその少ない生気が活発的というか……」

 

 

秋月「確かに……記憶の中のお兄さんとは微妙に違うような気も。バージョンアップしましたか?」


 

提督「といわれましても……」

 

 

大淀「……」ポチ

 

 

 

《え、手を握って……》



《なん、なのです。らしく、ない……》


 

大淀「少し飛ばしまして」

 

 

《きっと貴女と利用し利用されるだけの形でしかなく、まだ始まってもいなかった。自分は貴女が求めていたことを知らなかったんだから》


 

大淀「更に少し飛ばしまして」



《……照れるものですね》



《今からいうのは自分人生初の愛の言葉です。恋愛とも家族愛でも友愛でもなく、単なる深愛に該当するかと思います》

 


陽炎・不知火・秋月「!!?」

 

 

陽炎「この司令が電のやつに告ったの!? 信じられないわよ!?」

 

 

不知火「こ、これはまさか、その、まさか、電さんの手を握り締め、愛を囁いて、その後二人は……」

 


秋月「強引に手をつかんで『貴女が求めていたことを知らなかった』からの愛の囁き、これは、これは……」

 


秋月「そんなあ……」

 

  

提督「大淀さんマジでいい加減にして。誤解させるためにわざと一部を飛ばしましたよね」

 


大淀「はい♪」


 

不知火「……冷静になって考えれば録音されている時点でなにかおかしいですね」

 

 

陽炎「いや、でも本当になにこれ。いくつか司令にインストされてるとは思えない言葉があるんだけど」

 


秋月「というよりはお兄さんが部下相手に口にするとは思えない言葉ですね。でも、なにか真に迫る感じがあります」

 

 

提督「秋月さん。あなたはまず今から残りの時間で明石君とどうにか連絡を取ってきてください」

 

 

提督「そしてその辺りの内容は気軽に話せる部分ではないのでいいません」

 

 

陽炎「……ま、いいか」

 

 

秋月「お酒を飲ませればペラペラお話してくれると瑞鶴さんから聞いたことがあります!」

 

 

提督「しばらくお酒は自重します」

 

 

不知火「電さんも変わりました?」

 

 

大淀「ええ、かなり。この時の電さんはうつむきながら頬を赤らめて、中佐の手をぎゅっと握り返して、それはもう見た目相応の女の子で」

 

 

大淀「とっても可愛くらしくて目の保養になりました♪」

 

 

陽炎「ほんとなにがあった」

 

 

提督「……とりあえず龍驤さんに伝えることが多すぎるので連絡を取らなければ。秋月さんも早く」



【6ワ●:提督のいない鎮守府(闇)】

 

 

1:鎮守府(闇)にて


 

初霜「それで提督不在の今、スケジュール通りでよろしいのでしょうか……」

 

 

龍驤「あー、その辺りはすごく細かく教えてもらっとるよ。各個人に今月のスケジュール表を渡すために、早起きしてお仕事してる」カキカキ

 


ガチャ

 

 

わるさめ「はっつーん!」ガシッ

 

 

初霜「は、はい、はっつんです」

 

 

わるさめ「深海妖精見えるんだよね!」

 

 

初霜「ええ、まあ」

 

 

わるさめ「オープンザドア君が探してもいねーから今からわるさめちゃんの解体を頼んで!」

 

 

初霜「え、えっと……」

 

 

龍驤「ええでー。わるさめは解体許可降りとるから」

 

 

初霜「戻れるの、ですかね」

 

 

わるさめ「あの提督が戻れるっていってたし、きっと大丈夫!」

 

 

わるさめ「水槽にとうっ!」ドボン

 

 

初霜「で、では、深海棲妖精さん」

 

 

初霜「ガンバって意思疏通、します」

 

 

2

 

 

初霜「――――、――――」

 

 

カーンカーンカーンカーンカーンカーン!

 

ザパッ

 

 

??「く、苦しいです。ぷはっ」

 

 

龍驤「……わるさめを解体したら、水槽のなかで」

 

 

初霜「沈んでるのは大量の深海棲艦の装備と、春雨艤装、ですかね」

 

 

龍驤「無事に解体できたんかな?」

 

 

初霜「……意外と簡単に出来るものなんですね」

 

 

春雨「え、えっと!」

 

 

春雨「ありがとうございます!」

 

 

春雨「やった、やったあ!」

 

 

春雨「私、普通の女の子に戻れて……」

 

 

龍驤「これは春雨ちゃん」

 

 

初霜「春雨さん、ですね」

 

 

春雨「ふ、ふええええん……」グスグス

 

 

春雨「人間に、戻れました。これでやっと、お母さんのお墓に」

 

 

春雨「行ってあげられます……」

 

 

春雨「龍驤さん、私はお母さんに会ってきますっ」

 

 

龍驤「服を来ていかんと。それと手持ちなしで行ける距離なん?」

 

 

春雨「あ、電車賃、いる……ここからだとけっこう、かかります」

 

 

龍驤「そのくらい用意したるから」クルッ

 

 

初霜「私は服を取ってきますね」クルッ

 

 

わるさめ「寒みーから早くしろ☆」

 

 

龍驤「あれ、今わるさめちゃんおらんかった?」クルッ

 

 

初霜「…………」クルッ

 

 

春雨「え、え、なんです、か?」

 

 

龍驤「気のせいか」クルッ

 

 

初霜「………」クルッ

 

 

わるさめ「早く行けって」

 

 

龍驤「えっ? やっぱりわるさめちゃんいるよね?」クルッ

 

 

春雨「?」キョトン

 

 

春雨「確かに変な声が」

 

 

春雨「その水槽、から?」

 

 

龍驤「なるほどな。この艤装のほうがわるさめの本体……」

 

 

龍驤「そんなわけないやろ! お前、春雨のふりしたわるさめやろ!?」

 

 

龍驤「この機会にキャラ変えてこ、みたいなノリで春雨ちゃんぶってたやろ!」

 

 

わるさめ「イタタタタ! 頬を引っ張ってんじゃねーゾ!」

 

 

わるさめ「龍驤もなんかノッてきてたじゃん!」

 

 

龍驤「お前のフリでうちのお笑い魂がくすぐられただけや」

 

 

わるさめ「でも、わるさめ時代の性格が残っているだけで、もうただの女の子なのはマジだっつの!」

 

 

わるさめ「トランスできないし!」

 

 

わるさめ「なんかいざ解体されちゃうと、呆気ないもんだね! あの司令官さんに出会えたこと神に感謝する!!」

 

 

明石「お前らこんな朝っぱらからうるせえぞコラ!」

 

 

初霜「……あ」

 

 

明石「……」

 

 

龍驤「わるさめ全裸やでー」

 

 

わるさめ「うおおおおい明石クーン! わるさめちゃんの裸は信仰対象の域だぞ資本を現金っつう形で供えな!」

 

 

明石「朝からイラつかせんな……」

 

 

明石「そもそもこんなとこで裸になってるほうが悪いし、見たくもねえもん見せられてなんで対価を出さなきゃなんねえんだ。そんなスタイルいいわけでもないしよ」

 

 

明石「鹿島さんみたいな美女ならともかく」

 

 

わるさめ「……」

 

 

明石「初霜なんかは秘書官やっててもしょせんは見た目通りのガキだな。秘書官の座をアッキーにゆずっちまえ」

 

 

初霜「……」

 

 

明石「分かったらぎゃあぎゃあ騒ぐなよ。この駆逐艦どもが」

 

 

龍驤「……」


 

※5分後から明石君はこの三人に対してさん付けをするようになりました。

 

 

2

 

 

龍驤「新入り、茶」

 

 

明石「了解っす。軽空母龍驤さん」

 

 

初霜「私はコーヒーを。ブラックで」

 

 

明石「大人っすね、初霜さんは」

 


わるさめ「うーん、美女って?」

 

 

明石「わるさめさんの代名詞かと」


 

わるさめ「よろしい。それじゃわるさめちゃん里帰りに行ってくるね!」

 

 

初霜「あ、私もついていきます。中枢棲姫勢力決戦前にわるさめさんが解体した後、故郷に帰る事があれば同行して欲しいと頼まれてますから」

 

 

わるさめ「うん? まー、旅のともは道連れ的にOKだけど」

 

 

龍驤「そんなこと頼まれとったんか。なら、まあ、いいか。行ってらっしゃい」

 

 

初霜「はい、夜には帰ってくる、と思います。連絡は入れますので」

 

 

3

 

 

ガチャ。

 

 

鹿島「おはようございます」

 

 

明石「あ、鹿島、さん。お、お……おはようございます」

 

 

龍驤「分っかりやすいなあ……」


 

鹿島「?」

 

 

明石「つーか、聞き損ねていたけど、兄さんどこだよ。なんで軽空母龍驤さんがその服を着てデスクワークしてんだ?」

 

 

龍驤「みんな昨日は大変やったと思うし、丙ちゃんところが哨戒してくれて休みだからって、起きるの遅いなー」

 

 

龍驤「もう昼やで」

 

 

龍驤「ま、ある意味都合はええけどな」

 

  

龍驤「あー、悪いけど今から館内放送を入れて皆に集まってもらうかな。今なら全員いるし、まとめて報告したほうが効率的やからな」


 

龍驤「……ん、通信?」

 

 

龍驤「これ、極秘回線か……?」

 

 

4

 

 

秋月「生きてますかアッシ――――!!」

 


明石「アッキー!? お前どこにいるんだよ!」

 

 

秋月「大本営です! お兄さんの危機を察して陽炎さんと不知火さんも!アッシーは生きてますか!」

 

 

明石「こっちの台詞だ馬鹿! 迷惑になるような真似してんじゃねえよ!」

 

 

秋月「お兄さんの一大事だったので気が付けば抜錨していました!」

 

 

明石「そんで兄さんは無事か? 用が済んだのなら引っ込んでくれ」

 


提督「明石君ですか。少し極秘任務があるので今から少し……そうですね、鹿島さんとお二人で遂行してもらいたい任務がありまして」

 

 

明石「ちょうど鹿島さんもいるけど」

 

 

提督「なら良かった。お二人以外はこの通信を聞かせたくないので、席を外してもらえるようお願いできますか。こちらも秋月さん達には席を外してもらいます」

 

 

明石「……おっけ。おーい、そういう訳だから出てってくれ」

 

 

 

明石「皆が出てった。一応、鹿島さんが扉の前で見張ってくれてる。それでその極秘任務とは?」

 

 

提督「今からいう時間に指定する場所へと、お二人で行ってもらいたいんです。そこのどこかに」

 

 

提督「中枢棲姫勢力幹部がいます」

 

 

明石「待て待て待て……いつそんなコンタクトを取ったんだよ。これ、新たな火種だろ。兄さん大丈夫なのか?」

 

 

提督「ご心配ありません。中枢棲姫勢力も馬鹿ではありません。それに、まず間違いなく彼等は今後において必要な存在です。しかし」

 

 

明石「わかってる。極秘回線な時点である程度は察している。任せろ。俺はそういうところ融通きくぜ。軍規だのと、どうこういわねえ」


 

明石「今がその時ってことだろ」

 

 

提督「助かります。万が一ですが、街なのでこちら側に艤装はありません。なのでなにかあれば鹿島さんをお守りして頂きたい。そこのところも含めて男の明石君にお願いしたいと」

 

 

明石「だな。男の俺が適任だ。あの人と他の子を出掛けさせると、妙なやつに声かけられかねないし」

 

 

提督「後、この任務に限ってのことではありませんが、明石君もお気をつけてください。中枢棲姫勢力とぷらずまさん達の身体についての謎はほぼ解けましたが」

 

 

提督「あなたに適性が出た謎はいまだ謎のままです。あなたはなにか重要な役割がある、と見ますが、見当皆目もつかずです」

 

 

明石「了解」

 

 

提督「では鹿島さんに代わってください」

 

 

明石「あいよ。ちょっと待ってくれ」

 

 

鹿島「……はい、鹿島です」

 

 

提督「明石君とともに極秘任務を遂行してもらいたい。中枢棲姫勢力幹部との接触です」

 

 

鹿島「へ?」

 

 

提督「そういうことです。自分は極秘回線使ってこんな冗談はいいません」

 

 

提督「頭脳の中枢棲姫は万が一を考えて出てきません。分かりますよね」

 

 

鹿島「レ級、ネ級、水母棲姫……」

 

 

提督「ええ。鹿島艦隊の悲劇。あの時の深海棲艦との接触となります」

 

 

鹿島「……わるさめさんではダメなのですか?」

 

 

提督「隠密の任務なので、あの子には向いていませんし、正直あの子は中枢棲姫勢力と会わせればどんな方向にこじれるか分からないので」

 

 

提督「鹿島さん、あなたに任せたのは理由があります。あの時、あなたは『深海棲艦は、私達以上の被害者なのに私達は容赦なく彼等の尊き命を奪っていたと、いうことでしょうか』といった」



提督「あなたの悲劇の物語はまだ先の結末があるはずです。幸か不幸か自分がお力になれることかと思いまして。しかし、中枢棲姫勢力は我々が暁の水平線の到達と同時に」

 

 

提督「全滅します」

 

 

提督「恐らくこの場が最後のチャンスであり、それも今回は戦場でなく話し合いの場です。ぜひあなたに、と。明石君にも同行してもらいますけど」



提督「どうしますか?」


 

鹿島「……、……」

 

 

鹿島「引き受けます」

 

 

提督「ありがとうございます」

 

 

提督「なにかあれば任務を放り出して逃げてください」

 


鹿島「いいの、ですか?」

 

 

提督「この場であなたを死なせるわけには行かない。なに、ご心配なく」

 

 

提督「自分が必ずや、その穴埋めをしますから。しかし、あなたの代わりはなにをしても用意できません」

 

 

鹿島「……!」

 

 

鹿島「い、いえ、お任せください!」

 

 

提督「よろしくお願いします。それでは任務である交渉内容を伝えます。メモは取ってもいいですが、絶対に漏洩させないようにお願いします」


 

鹿島「大丈夫です」

 

 

提督「――――、――――」

 

 

鹿島「……了解しました」

 

 

提督「なにもいわないのですね」

 

 

鹿島「ええ」

 

 

鹿島「提督からの任ですから。ここからは私も決死の覚悟を決めて動きます」

 


提督「あはは、自分が死ぬ時は鹿島さんを道連れにするかもしれませんね」

 

 

鹿島「そ、そうならないように、提督も頑張ってくださいね……?」

 

 

提督「もちろん。最後にいいますが、極秘任務でありながらも、恐らくうちの子達、特に金剛さん卯月さん瑞鶴さん龍驤さん辺りがあなたと明石君の仲を邪推してちょっかいかけてくると思います」

 

 

提督「内容は漏らさないように。特にわるさめさんには。あの子は中枢棲姫勢力と絡ませれば本当に事態がどう転がるか分かりません。中枢棲姫さんのほうもそれを怖れていると思いますが、向こうの面子は限定されています。こちらから気を配るべき点です」

 

 

鹿島「……了解しました」

 

 

提督「はい。それでは龍驤さんに。これもまた二人にして頂きたいです」

 

 

鹿島「はい。少しお待ちくださいね」

 

 

……………

 

……………

 

……………

 

 

提督「こちらのことは以上です」

 

 

龍驤「龍驤さん、開いた口が塞がらんよ。まさか海の傷痕が大本営に来て電をボコした挙げ句、ペラペラ情報喋って。そっちは大混乱してそうやなあ」

 

 

提督「しばらく自分も混乱してますので、丙少将甲大将との演習についてのことよろしくお願いします。特に瑞鶴さんはマジで改二甲までなんとか」

 

 

龍驤「了解やで」

 

 

提督「それと、これは後で電さんがそちらに戻った時に書面で渡しますが、『全員生還の指揮』について」

 

 

提督「交えて結論を出しておきたい。生きて帰る、この意味、自分の中で定義が出来ましたので」

 

 

龍驤「……了解。他にはない?」

 


提督「後日の演習の艦隊編成は決めあぐねてまして。策は大体あるんですがそちらに帰ってから伝えます。でも」

 


提督「今回、実質的に2体1で、丙少将と甲大将は別々に動きます。申し訳ないのですが、その対応の際に、自分が第1第2の指揮を取るのは難しくなるので」

 

 

提督「龍驤さん、今回は司令官でお願いできます?」

 

 

龍驤「ええで。公式でここの司令官やってみたかったから。ここの鎮守府の皆の指揮を執ってみるのも面白そうやし」

 

 

龍驤「合同演習時の汚名をそそぐで」

 

 

提督「よろしくお願いします。第2艦隊の指揮は航空戦は自分が、その後は龍驤さん、お願いします」 



龍驤「了解」

 

 

提督「それと初霜さんのことですが」

 

 

龍驤「はっつん?」


 

提督「まだあの子は甘いところが抜けきれてないだけ……違いますね。理解が及ばないだけです。まだ実年齢は15歳とお若いですし、それに」

 

 

提督「彼女の過去のデータを調べて見れば分かります。才能の片鱗はあります」

 

 

提督「秘書官として側において観察してましたが、すでに仕事においては自分より手際が良い始末です」

 

 

龍驤「マジか。はっつんのポテンシャルは見誤ってたわ」

 

 

提督「子供の吸収力故ですかね。スポンジみたいなところがあります」

 

 

提督「そして伝えておきたいことです。先程、乙中将からこっそり教えてもらったのですが」

 

 

提督「あの子も欠陥あるみたいです。欠陥というか、ただの不思議属性というか迷いますが」

 

 

提督「とにかく理解が及びません」

 

  

龍驤「キミがそこまでいうとは。はっつんも過去になにかあったの。そんな風には見えないけど」

 

 

提督「自分も全く気付きませんでした。そういうの割と気付くこと自体は得意なんですけどね……」

 

 

提督「一応のために伝えておきますね。あの子の兵士の志望動機は艦娘の入渠システムを利用して『身体を作るため』みたいです」

 

 

龍驤「医療目的の建造はたまに聞く話やな」

 

 

提督「成長障害があって、足が悪かったみたいです」

 

 

龍驤「あー、妖精さんのミラクルパワーでそういうの治す……というか、機能させるようにするからなあ」

 

 

提督「そして、あの子は5歳から9歳まで行方不明者として捜索届が出されていた模様です」

 

 

龍驤「待ち。それかなりヤバイ話やないの?」

 

 

提督「色々な意味で。そこのところは置いておきますね。あの子が真面目でがんばり屋なのは」

 

 

提督「皆に追い付くため、普通になるためです」

 

 

龍驤「……なるほどな、気付かん訳やわ。うちらにとっての『普通』やね」

 

 

龍驤「ええわ。察したし、分かった。はっつんに何か妙な変化あったらキミに報告する。いつも通りに接するし、この件は誰にも喋らへん」

 

 

提督「……はい。それと海色の適性って知っていますか。初霜さんの素質なのですが」



龍驤「確か名前に白のイメージがつく艤装の適性者にたまにある複数適性。真白の適性。その究極系やろ。確か清霜のやつが戦艦になれる手段! とか鼻息荒くしていたような……」



龍驤「知ってはいるけど……マジ?」



提督「みたいです。今はもう大分適性も削れていますが、まだまだ。初霜さんのポテンシャルを生かすためには魔改造不可避ですね。二日後に明石さんが着任しますので、彼女に任せます」



提督「明石さんは解体したわけではないので、明石君とシフト組んでもらえますかね。しばらく明石艤装は24時間フル可動で」



龍驤「そっか。明石艤装には適性者二人いれば、その手があるなあ」

 

 

提督「あ、演習メンバーはまた後で考えます。ごたごたしていて作戦の詳細もまだ……」



提督「ですが、入れたいと思っているメンバーは3名ほどいます。甲丙連合艦隊との演習で、一皮むけてもらいたい人達です。これは伝えなくて結構です。まだ完全に入れるとしたわけではないので」



龍驤「誰なん?」



提督「暁さん、秋津洲さん」



提督「それと間宮さんです」

 

 

龍驤「」

 

 

提督「間宮さんには、必ず出すとよろしくお伝えください。嫌がるでしょうが、間宮さんなので。夜戦装備つけてもいいか聞いといてください」

 

 

龍驤「間宮さん抵抗すると思うよ……人数足りないわけでもないのにって」



提督「そこをなんとか。それと自分は内情により昇級しまして、『丁の将校』になりました」

 

 

龍驤「! キミが丁准将の位を授かったの!?」

 

 

提督「海の傷痕のせいで色々と事情が当初と変わったみたいです。自分が中佐階級に留まり続けるままだと、色々と火種になるみたいで。戦時昇進の理屈を適用させるみたいです」

 

 

龍驤「大きな功績はあるし、理由は用意出来るからなあ。しっかし、うちらが将校艦隊かあ……」

 

 

提督「ぶっちゃけると対深海棲艦海軍の丁丙乙の将の位なんて、陸軍と比べて扱いが下の下で、特に旨味もありませんし……」

 

 

龍驤「でも、断らんかったんやろ?」

 

 

提督「大淀さんいわく、甲大将から『私にまた面倒押し付けんのか、ん?』との伝言があるらしく、座る以外の選択肢がなかったんです」

 


龍驤「それはもう強制やね……」


 

提督「丁准将の席って絶対に呪われていますよ。皆さんろくな死に方をしてませんし。死神でもついていそうな闇の席です」

 


龍驤「せやね……でも、そこも踏まえてキミは相応しいと思うよ」

 

 

提督「まあ、きっと自分はろくな死に方をしないとは思いますね……」

 


龍驤「あはは、あの席はキミみたいな純思考型の席やしな。前任の丁准将もキミみたいなタイプやったはずやで」

 

 

提督「ぶっちゃけると対深海棲艦海軍の将の位……いや、提督自体が陸軍と比べて扱いが下の下で旨味より責任があるだけですし、大佐辺りが理想だったのですが」

 

 

提督「致し方ありませんね」

 

 

提督「まあ、丁の旗は意識しなくていいです。うちにはうちの特色がありますから」

 


龍驤「そうやなあ……」

 

 

提督「演習に敗け、自分の指揮能力が疑われた場合、鎮守府(闇)の皆さんが異動になるかもしれない点だけはよろしくお伝えください」

 

 

龍驤「あいあいさ」

 

 

提督「それではそろそろ切りますね。帰る日にちはまた後程に連絡しますので、鎮守府のことよろしくお願いします」

 

 

龍驤「分かった。任せときー」



5

 


伊58「そんなあ!」


 

阿武隈「提督が、軍法会議にかけられ……?」

 

 

卯月「あー、笑い話にもならないつまらない展開が来たぴょん」

 

 

瑞鶴「とうとう目をつけられてしまったか……」

 

 

間宮「合同演習時から日の当たる場所でも無茶苦茶やってましたものね……」

 

 

秋津洲「え? え? 提督いい人なのに罰を受けるの?」

 

 

榛名「今回ばかりは榛名も大丈夫ではありません!」

 

 

金剛「龍驤、結果を教えてくだサーイ!!」

 

 

龍驤「とりあえず連絡来てな、色々と発表するから静かにしとってな」

 

 

龍驤「ちなみに秋月と陽炎不知火は察知して提督んとこに向かったみたいやね。電も向こうにおる」

 

 

一同「……」

 

 

龍驤「暁、響、陽炎、不知火は丙少将の鎮守府に異動」

 

 

暁「……え」

 

 

響「なんてことだ」

 

 

龍驤「どした?」

 

 

暁「電と雷とまた離れ離れに……なっちゃう……それにぃ」

 

 

響「苺みるくさんのお世話ができなくなってしまう」

 

 

響「私達が無理いってここに置いてもらったのは、世話を見ること。それが司令官との約束なんだ」

 

 

龍驤「残るみんなで面倒見るからええよ。異動は仕方のないことやから、暁も響も自分の使命を忘れんようにな。また暇が出来れば可愛がりに来てもええんやでー」

 

 

暁「……」

 

 

響「暁、こればかりは仕方ないよ。電と雷にお願いしてこよう」

 

 

響「司令にも帰ってきたら、謝らなくてはならないね。こういうこと考えずに生き物を飼いたいだなんて浅慮だった」

 

 

暁「苺みるくさんにもごめんなさい、いわなきゃ……」

 

 

響「そうだね。暁型5番艦苺みるくだからね。もう立派な第6駆の仲間だ」

 

 

龍驤「戦争に交わっても黄ばまないこの白さをわるさめのやつにも見せてやりたいわ」

 

 

龍驤「それで初霜、金剛、榛名、瑞鳳は乙中将のとこに逆戻り」

 

 

金剛「……了解、デース」

 

 

瑞鳳(第6駆が受け入れた以上、大人組はごねられないよね……)

 

 

龍驤「瑞鳳どした?」

 

 

瑞鳳「第6駆に首を縦に振らせてから大人組に話を振るその龍驤さんやり方が、ここの提督っぽいなあ、と」

 

 

龍驤「たまたまやて……でも、すまんなあ。瑞鳳にはあっちこっち行ってるもんな。腰据えたいわな……」

 

 

瑞鳳「いえ、それは構わないんですけど、どうせなら最後までこの鎮守府が良かったなって」

 

 

榛名「そう、ですね。榛名も瑞鳳さんと同じ意見です」

 

 

秋津洲「私は?」

 

 

龍驤「秋津洲と雷はこのまま」

 

 

秋津洲「引き続きがんばるかも!」

 


暁「雷、電と苺みるくさんのことお願いしていい?」

 

 

響「秋津洲さんにもお願いしたいな。苺みるくさんは秋津洲さんになついているみたいだ」

 

 

雷「まっかせなさい!」

 


秋津洲「もちろん!」

 

 

金剛「戦艦がいなくなりマスね……」

 

 

龍驤「異動予定組の異動が正式に決まるのは、2週間後に甲大将と丙少将の連合艦隊と演習やった後な」

 

 

龍驤「タイプトランスとの戦闘経験みたく、こっちの参加メンバーはもう提督から連絡が来てる」

 

 

間宮「丙少将と甲大将の連合艦隊ですか。手強いというレベルではありませんね……」

 

 

間宮「皆さんガンバってくださいね」

 

 

龍驤「間宮さん、他人事みたいやなー」

 

 

間宮「えっ」

 

 

龍驤「選抜されとるで」

 

 

龍驤「少将大将連合艦隊との演習メンバーに」

 

 

間宮「え、私が? ぱーどぅん?」

 

 

龍驤「間宮さん」

 

 

間宮「か、からの~?」


 

龍驤「間宮さん」

 

 

間宮「」

 


間宮「」

 

 

 

 

 

間宮「」

 

 

龍驤「とてもお見せできない顔しとる……」

 


金剛「30cm刃渡連装砲の出番デース!」

 

 

間宮「丙少将と甲大将ですよ! あんな一発芸はもう通用しないですって!」

 

 

龍驤「夜戦装備つける?」



間宮「アンラックとダンスはしません。合同演習時前にもいわれましたっけ……そのネタ懐かしいですね。ほんと勘弁してください」



龍驤「そんなこといわれとったんか……」



龍驤「ちなみに勝てば異動は白紙になるかも、とか」

 

 

一同「!」

 

 

間宮「……まあ、私でお力になれるのなら。鎮守府(仮)の頃でもないのに、私を選ぶのは納得が行きませんけど」

 

 

間宮「12名の演習なら経過時間によっては確かに疲労面で私の給糧艦としての役割は意味も出て来ますが、あの提督さんがそんな単純な役割で出すかといわれると、疑問ですし」



間宮「なにかキテレツな作戦を企んで……」

 

 

龍驤「かもね……」

 

 

瑞鶴「遠征とか止めて、ここの面子で来る日まで演習しよう」


 

伊58「そうだねー」

 

 

阿武隈「賛成です!」


 

卯月「龍驤、それだけ?」

 

 

龍驤「吉報あるよ。うちらの提督な」

 

 

龍驤「『丁准将』になったで!」

 

 

一同「!!!」

 

 

阿武隈「す、すごいです、はい」

 

 

卯月「うーちゃん達は将の艦隊になったかー」

 

 

伊58「秋津洲、前の鎮守府では厄介者だったゴーヤ達が、し、将艦隊でち」

 

 

秋津洲「信じられないかも。て、提督、そんなにすごい人だったんだ。でも、確かにこの鎮守府(闇)は快進撃、を続けているかも」

 

 

瑞鳳「ここの鎮守府の功績を改めて考えてみたら、あり得ないことでも、ない、かな?」

 

 

瑞鶴「そうね。乙中将にも勝ったんだしね。でも『丁の旗』って柄ではないわよね」

 

 

龍驤「ま、丁の旗を掲げる必要はないやろ。将校艦隊だろうと、今更もうここのあり方は変えられんと思うし」

 


卯月「そういえば、はっつんとわるさめのやつはどこぴょん?」

 

 

龍驤「わるさめははっつんと一緒。ここらのことはあんまり喋れんけど、別に心配するようなことではないから安心してな」

 


龍驤「鹿島と明石君は提督から指示された極秘任務中」

 

 

龍驤「二人で出かけよったよ?」

 

 

金剛「ラヴの気配がするデース!」

 

 

暁「仲良くていいじゃない」

 

 

榛名「全くです」

 

 

響「……」

 

 

雷「え、惚れた腫れたなの?」

 

 

阿武隈「見ない組合わせなだけに少し気になりますね、はい」

 

 

瑞鶴「明石のやつ、見た目通りにチャラいのか。手を出すの早いわね」

 

 

伊58「うーん、そんな風には見えなかったけど……」


 

瑞鳳「気にはなるよねー。提督と艦娘、上司と部下の色恋沙汰はたまに聞くけど、同僚とは明石君がいるここならではだし……」

 

 

間宮「うーん、だとしてもお二人は知り合ってからまだあまり時間が経過してませんし、一緒にいるところも私は見たことありません、けど……」 

 

 

雷「あれを見て」


 

『同性異性間問わず職場恋愛禁止 by●ワ●』


 

金剛「恋は始まれば最後。規則で抑圧できるものではないのデース」

 

 

龍驤「大丈夫やて。でも、ちょっと気になるから鹿島のやつに連絡かけたろ」

 

 

阿武隈「規則ですからね。仕方ないです、はい!」


 

金剛「今かけるデース!」

 

 

龍驤「了解やで」

 

 

卯月「皆に聞こえるようにするぴょん」


 

瑞鶴「ゆえに皆のもの、静かになされよ」

 

 

秋津洲「野次馬根性……」



6

 

 

鹿島「鹿島ですが、龍驤さん? どうかなされましたか?」

 

 

龍驤「明石君とおるん?」


 

鹿島「明石君ですか。一緒にいますよ」


 

一同「!」


 

龍驤「すまんのやけど、2週間後に他鎮守府との演習あるから、明日から鹿島にもそのために訓練出てもらうことになってなあ。早い内に伝えておこうと」

 

 

鹿島「了解です。わざわざありがとうございます」

 


龍驤「あの明石君といるんやろ?」


 

鹿島「ええ、明石君とお出掛けしていますよ」


 

一同「!!」

 

 

龍驤「明石君と仲良いの?」

 

 

鹿島「…………?」

 

 

鹿島「あ、違いますっ! そういうんじゃありません!」

 

 

鹿島「今朝に提督さんから頼みごとをされまして、それに明石君に同行してもらっているんです」

 

 

鹿島「任務上一人では危ないですし、街なので、男の子の明石君が適任と考えたらしくて。これ以上はすみません」


 

龍驤「あの提督のことやし、知らされてない以上は聞かんでおくわー」

 

 

鹿島「申し訳ありません。提督さんから内密に、と頼まれていますし……」

 


龍驤「ごめん、明石君に変わってもらえん?」


 

鹿島「はい、分かりました」

 

 

明石「もしもーし、軽空母龍驤さん?」

 

 

龍驤「デート?」

 

 

明石「野次馬かよ。そーいうの俺にはマジで理解できねえよ。遊びじゃねえんだぞー」

 

 

明石「まあ、余裕持って出すぎたせいでどこかで時間潰す予定ではあるけども」

 

 

龍驤「ごめんなあ。映画でも観に行くの?」

 

 

明石「……兄さんとこは職場恋愛禁止ですし、破るつもりはねえんで。それに、そんなことしていられるほど平和な状況じゃねえ」

 

 

明石「ボディガードに近い」

 

 

明石「鹿島さん少し俺から離れると、スカウトとかナンパもんに声かけられてる……」

 

 

龍驤「マジか。うちが歩いてもそんなんならんのやけど、男の明石からしてどういうことやと思う?」

 

 

明石「オーラでしょ。鹿島さんが女神だとすれば、龍驤さんは関西の面白いねえちゃんってところ。人によっては中学生に見えるでしょうし」

 

 

龍驤「邪魔したね。がんばってなー」

 

 

龍驤「覚えとれやーぼけー……」

 

 

明石「正直者が馬鹿をみる世の中、どーにかならねーかなー……」

 

 

ツーツーツー……

 

 

伊58「ま、忠誠心だけは買うでち」

 

 

阿武隈「まあ、予想通りですかね」

 

 

瑞鶴「明石のやつもがっつくタイプじゃないのかー」

 


卯月「正直、身内でそんなのは扱いが面倒臭いから、なくていいし。恋は成就する前にからかうのが最も美味しい食べ方だぴょん」

 

 

榛名「卯月さんは順調に悪童の道を歩いていますね……」

 

 

卯月「素直に生きてるだけぴょん」

 

 

阿武隈「卯月ちゃんは根は悪い子じゃないです、はい……」

 

 

龍驤「うちは執務がたまっとるから仕事するけど、皆はそれぞれ渡したスケジュールをこなしてな」

 

 

龍驤「あの提督にいて欲しい、自分等がここにいたいのなら少しでも練度はあげとくべき」

 

 

龍驤「異動予定組も参加メンバーしごいたってーなー」

 

 

龍驤「そんで瑞鶴には話があるから残って」

 

 

瑞鶴「?」

 

 

7

 

 

瑞鶴「なによ?」

 

 

龍驤「改装設計図と、カタパルト用意するから、練度数値を90まであげてくれ、やとさ」

 

 

瑞鶴「改二甲にするってこと……?」

 

 

龍驤「うん」

 

 

瑞鶴「まだ改ですらないんだけど!?」

 

 

龍驤「練度数値は50やろ。改造してないだけでできるレベルにはなってるやん」

 

 

龍驤「うちもさ、もう少しあげて改二にならなきゃあかんし……」

 

 

龍驤「最近ずっと訓練してるって鹿島から聞いたんやけど、艦載機の扱いと砲撃は上手くなったん?」

 

 

瑞鶴「もっちろん。瑞鳳さんに付き合ってもらってるんだけど、艦載機の撃ち合いでは互角程度まで」

 

 

瑞鶴「砲撃のほうはかなり。アブーと比べても負けない気がする」

 

 

龍驤「すごい右肩上がりやん」


 

瑞鶴「まだまだもっと上に行けるって鹿島さんはいってくれてるわね」

 

 

瑞鶴「ま、そろそろ私もいいとこ見せてあの提督に報いてあげなきゃね」

 

 

龍驤「空母3人、しかも正規空母は瑞鶴だけやしな。電のやつはとりあえず置いておいてもさ」

 

 

龍驤「甲大将のところはグラーフとサラトガおるし、丙少将のところには天城と加賀、大鳳もおるからな」

 

 

龍驤「うちと瑞鶴で相手するつもりでいかんと。制空権完全に奪われるのは負けに直結する要素やから、気合い入れんと。まあ、電が航空戦に加わればこっちのが強いとは思うけど」

 

 

瑞鶴「向こうの面子って決まってるのかな?」

 

 

龍驤「当日にならんと分からんけど、第1艦隊で来るなら丙少将のところは」

 

 

龍驤「日向、伊勢、雪風、天城、加賀、大鳳」

 

 

龍驤「甲大将のところは」

 

 

龍驤「木曾、江風、北上、大井、グラーフ、サラトガやね」

 

 

瑞鶴「甲大将のところ戦艦はいないんだ」

 

 

龍驤「夜戦力は乙中将のところを優に越えてるし、木曾と江風は卯月みたいに素質的な能力が高いから単艦で戦艦ボコボコに出来るみたい」

 

 

龍驤「演習とはいえ、この鎮守府バラされるかどうかがかかってるから、今までの演習で一番勝たなきゃならん勝負やな」

 

 

瑞鶴「……そうね」

 

 

龍驤「瑞鶴、ちなみに加賀やんとはどんな感じだったん?」

 

 

瑞鶴「うーん、最近まで加賀さんが丙少将のところに異動したの知らなかったしなー。別にそこまで仲が良いわけじゃないかな。ケンカはたまにしてたけど、仲が悪いってほどでもない」

 

 

瑞鶴「普通よ普通」

 

 

瑞鶴「でも確か赤城さん並みに強かった気がする。負けたくない、かな」

 

 

龍驤「加賀やんとグラーフも相当やけど、サラトガ……天城がなあ……」

 

 

龍驤「妖精可視の才持ち正規空母。あの二人が出てきてからはうちもランク下がったし、今もキツいな」

 

 

瑞鶴「まあ、なんとかするしかないでしょ。やれることをやればいいのよ」

 

 

龍驤「頼もしいこというなあ」

 

 

瑞鶴「後、気になってたけどわるさめって解体したの? わるさめのやつはメンバーに名前出さなかったのも気になってたし」

 

 

龍驤「うん。わるさめは本人の希望通りに解体したよ。はっつんはわるさめの里帰りに同行」

 

 

瑞鶴「あー、そうなんだ。確かに普通の身体に戻りたいっていってたし、叶ってなによりね」

 

 

龍驤「これから、あいつどうするんかな……」

 

 

瑞鶴「あいつならどこ行ってもそれなりに元気でやるしょ。中枢棲姫勢力に2年くらいもいたようなやつだしさ」

 

 

龍驤「まーな。けどわるさめのやつ帰るとこあるのかなーって思って」

 

 

瑞鶴「……提督はなんて?」

 

 

龍驤「そこらのこと、決戦前に提督が色々とやってくれてたみたい。秘書官のはっつんが頼まれてるらしいから同行してもらったよ」

 

 

龍驤「夜には帰ってくるって(メソラシ」

 

 

瑞鶴「……あっ(察し」

 


【●ω●:わるさめちゃんお里ぶらり旅 with初霜さん&電さん】

 

 

1

 

 

わるさめ「うええええん!」


 

わるさめ「おかあさああああん!」

 

 

初霜「………」ヨシヨシ

 

 

わるさめ「死に目に会えない親不孝娘でごめんなさああああい!!!」

 

 

初霜「これ、水を置いておきますね。わるさめさんがお墓に抱きつくから、鼻水と涙、お掃除して差し上げないと……」

 

 

わるさめ「はっつん」

 

 

わるさめ「お母さん、リンパ腺にガンがあって入退院を繰り返してたんだあ……早期に発見できたけど、手術で除去できないから、科学治療を受けてて」

 

 

初霜「……はい」

 

 

わるさめ「免疫力がないから、バイ菌もらわないように、私が掃除とかお料理とかやるっていってるのに、やろうとする人で、我慢する人で」

 

 

わるさめ「母子家庭で親族とかも全滅してて、治療費なんとかするために、春雨になって稼いでたんだあ……」

 

 

初霜「初耳です。そんな事情があったのですか……」


 

わるさめ「だって親子二人だもん。保険とか色々使ってもお母さんの治療費お金たくさんかかるもんよお……」


 

わるさめ「それに、私が活躍すればヒーローになってお母さんの自慢の娘になれるんじゃないかって……」

 

 

わるさめ「当時の私は中学生で、そんな私に負担をかけるから、だろうね。家のことをやろうとしたのは……」


 

わるさめ「だけど、私は猛烈に後悔、してる……だって」

 

 

わるさめ「私がいない間、ずっとあの狭くてボロボロのアパートのちゃぶ台で」

 

 

わるさめ「一人でご飯食べてたんだもん……」

 

 

わるさめ「うわあああああん!」


 

2


 

わるさめ「……ぐすっ」

 

 

初霜「落ち着きましたか」

 

 

わるさめ「……少し」

 

 

初霜「先の出撃前に提督からわるさめさんのことで重要な話を聞いておりますし、わるさめさんが無事に普通に戻れた場合に話すよう指示されているんです。聞いていただけますか?」

 

 

わるさめ「……なに」

 

 

初霜「わるさめさんのお母様の遺品を保管している人がいるみたいで」

 

 

初霜「遺書も、あるそうです」

 

 

初霜「事情が複雑でわるさめさんの存在が秘匿されていたこともあり、提督ではそこまで気を利かすことができなかったらしく、わるさめさん本人でないと受け取ることはできないみたいで」

 

 

初霜「わるさめさんの存在証明はすでに提督が軍に頼んで完了していまして」

 

 

初霜「なのでわるさめさんが直接出向けば確認の後、すぐにでも引き取ることができます」

 


わるさめ「なら行く! お母さんの遺品も遺書も全部もらいに行く!」

 

 

2

 

 

わるさめ「アパートも、なくなっちまって、代わりにでかいビルが建ってら……」


 

わるさめ「正面にあった幽霊屋敷も駄菓子屋さんもなくなって、面影がないし……」


 

わるさめ「でも、この緑地公園だけは変わってなくて泣ける。変わらない景色の優しさが身に染みる……」

 

ギーコギーコ

 

わるさめ「ブランコ……あんまり楽しくなくなっちゃったな……」


ギーコギーコギーコギーコ

 

 

初霜「見てください! 昔は怖くて出来ませんでしたが、今はどれだけ振り幅を大きくしても怖くありません!」

 

 

わるさめ「これが若さか……遺書を読むから静かにしてね」


 

初霜「すみません。静かにしています」

 

 

わるさめ「……………」

 

 

わるさめ「……………」ポロ

 

 

わるさめ「……………」ポロポロ

 

 

初霜「……」

 

 

わるさめ「はっつーん!!」ガバッ

 

 

初霜「きゃっ、急に抱きついて……びっくりするじゃないですか」

 

 

わるさめ「……お母さん」

 

 

わるさめ「心配ばかりしてたみたい……」

 

 

わるさめ「あなたは私に似ておっちょこちょいだから、いじめられてないか心配とか」

 

 

わるさめ「ちゃんと食べてて、元気かな、とか」

 

 

わるさめ「そんで、立派にお国のために、がんばれているかって」

 

 

わるさめ「幸せになって欲しいって」

 

 

わるさめ「あなたはあなたが思うように、生きて欲しいって……」


 

わるさめ「応援してくれてた」

 

 

初霜「すごくいいお母さんだってことは、分かります」

 

 

わるさめ「…………」

 

 

わるさめ「戻らなきゃ」

 

 

初霜「それでいいのですか?」

 

 

わるさめ「まだ、終わってない」

 

 

わるさめ「お母さんに誓って輸送を約束した平和はまだ達成されてない」

 

 

わるさめ「お母さんに軍に入ることを認めてもらうためについた嘘だったけど」

 

 

わるさめ「お母さん、信じてたから」

 

 

わるさめ「私は、成し遂げたい」

 

 

初霜「……ええ、それなら」

 

 

初霜「これからもよろしくお願いしますね!」

 

 

わるさめ「ところで気になったんだけど、はっつんも家庭環境悪いの?」

 

 

初霜「私の家庭環境ですか? 悪くはないですけど」

 

 

初霜「知りたいですか?」

 

 

わるさめ「……少し」

 

 

初霜「私はごくごく普通の家庭で産まれたみたいでしたね」

 

 

わるさめ(……みたい、でしたね?)

 

 

初霜「5歳のクリスマスの日に……」

 

 

わるさめ「……」

 

 

わるさめ「やっぱり、いいや。はっつん顔も声もいつもと同じだけど、なんとなく辛そう。止めとく」

 

 

初霜「ですね。ごくごく普通の家庭なのに、11の歳で兵士に志願するだなんて、幸せな理由ではないですから……」


 


 

 

 

電「初霜さん、と、わるさめさん?」



3

 

 

初霜「!?」

 

 

わるさめ「なんでお前がいるし!」

 

 

電「驚いたのは私のほうなのです」

 

 

電「せっかく外に出られたので、この機会に乗じて育った里を見て回っていました。お忍びですけどね……」

 

 

電「もしかしてわるさめさんのお里もこの辺りなのです?」

 

 

わるさめ「そうだけど……」

 

 

電「私はもう少し先に歩いたところですが、まさかの同郷でしたか。それにこの奇跡的なタイミング。あなたとは色々な縁があるみたいなのです」

 

 

電「それに外に出ているということは、解体、出来たのですね」

 

 

電「海から解放されたこと、おめでとうございます。本当に良かった。私も自分のことのように嬉しいのです」

 

 

わるさめ「お前、待て。なんだその優しい顔と声は……まるで電みたいだ」

 

 

わるさめ「なにかあったの?」

 

 

電「この身体が解体可能であることを司令官さんが証明してくれました」

 

 

初霜・わるさめ「!!」

 

 

わるさめ「――――っ」ポロポロ

 

 

電「しかし、私は解体可能である、という事実だけで構いません。私は決死の覚悟でこれからの戦いを生き抜きます」

 

 

電「この身体の力は必要なのです。戦争で芽生えた美しさは全て胸に秘めておきます。私の哲学は変わらない」

 

 

わるさめ「……お前らしい、ね」

 

 

わるさめ「でも、1つの選択なのかもね。解体して戻っても私達が化物だった頃の精神影響は白紙に戻らないみたいだから。爪痕としてずっと残るんだろうね」


 

電「……なのです。きっと時でも癒せない傷なのでしょうね」

 

 

電「『海の傷痕』については」

 

 

わるさめ「……知らない」

 


電「この戦いを始めた海の想いの神様です。大本営に現れ、自分を見つけた司令官さんと今の将校と会話をしに現れたと思われます」

 

 

電「フレデリカの姿をしていました」

 

 

わるさめ「……そいつ、趣味悪いんだね」


 

電「その海の傷痕を倒せば全ての想は消え去り、妖精も、深海棲艦も全滅して残るのは今を生きる人間のみ」

 

 

わるさめ「すごすぎて言葉が出ねえ……」

 

 

初霜「……」

 

 

電「私は海の傷痕にオールトランスにて交戦し、数秒で大破撃沈の無様をさらしました」

 

 

初霜・わるさめ「!?」

 

 

わるさめ「信じ、たくないなー」

 

 

電「その正体が人の想いだなんて、滑稽で残酷なオチ、ですね」

 

 

電「海の傷痕は」

 

 

電「『Rank:Worst-Ever』」

 

 

電「歴史最悪の神様」

 

 

電「一部の人間しか海の傷痕の情報は知らされず、会話で得た情報から海の傷痕を葬る方法をすぐに各国と協定を結び、戦闘海域になるであろうこの国へと拠点を設置し、対策します」

 

 

電「……わるさめさん、これはあまり気が進まない発言なのですが」

 

 

わるさめ「皆までいうな。任せろ。わるさめちゃん鎮守府に帰るぜ」

 

 

わるさめ「とりあえず強引に春雨に建造してからかな。春雨の適性ないに等しいから、春雨ちゃんのままだと恐らく砲撃もままならない、か」

 

 

わるさめ「はっつん今度は深海妖精に建造を頼もうか」

 

 

初霜「え、ええ!? でも、それって人体実験で私が勝手にやっていいことではない違法行為ですよね!?」

 

 

わるさめ「はっつん」

 

 

わるさめ「海の傷痕の力は聞いたよね。勝たなきゃならなくて、その為に手段を選んでいられないわけよ」

 

 

初霜「し、しかし」

 

 

わるさめ「深海妖精のことはすぐに分かる。その海の傷痕は聞いている限り、倒すために最初期みたいな無茶をしなくちゃならないと思う」

 

 

わるさめ「私は被害者でこの通り、精神影響ももう戻らないけどさー、だからこそわるさめちゃんが適任じゃないかな。それに解体できたし」

 

 

初霜「……、……」

 

 

電「バレなきゃ戦犯じゃねーのですよ」

 

 

わるさめ「うちがどういう鎮守府かは知ってるよね。あの司令官の秘書官だもんね。司令官のやり方は分かるよね」

 

 

初霜「お、脅しです……」

 

  

初霜「目眩が……」グルグル

 

 

わるさめ「大丈夫。万が一の場合は司令官が責任取ってくれるって」

 

 

初霜「電さん、提督はなんと……?」

 

 

電「負ければ丙と乙かから送りつけられたメンバーは異動になり、最悪、私だけしか残らないかもしれません」

 

 

初霜「……そんな」

 

 

初霜「提督のため鎮守府のためお国のためわるさめさんのため世界のため私がやらなければ人民の多くの命が失われて」グルグル

 

 

電「まあ」

 


電「わるさめさんについては許可が降りているのです。司令官さんと大淀さんからその詳細も聞いてきていますし、建造は司令官さんの立ち会いのもとなのです」

 

 

初霜「それを早くいってくださいよっ!」


 

4

 

 

わるさめ「それでこれからどうするの。わるさめちゃんはこれからもう少しこの町を散歩してご飯食べて買い物しようかなって思ってるけど」

 

 

わるさめ「ぷらずまも来る?」

 

 

電「そう、ですね。そのくらいならご一緒します。それに少し服が欲しいので」

 

 

わるさめ「なんで?」

 

 

電「私服に着替えようとした時に気が付いたのですが、あまり服がなくて、それに折角なので女の子らしい格好もしてみてもいいかな、と」

 

 

電「司令官さん、どんな服だと褒めてくれるのかな……」

 

 

電「とか考える余裕は持てたのです。あの人に頼れば、少しくらい、は」

 


初霜「大本営で一体なにが……」

 

 

わるさめ「わるさめちゃんも初めてみる。この状態なら仲良くやれそうたけど、信じられねっス……大本営でほんとマジどんなことあったし」

 

 

電「素直になってみようと思っただけなのです。どうせ私の素顔は電寄りだと見抜かれていますし」

 

 

電「鎮守府に戻ればお友達の皆さんの兜の尾を締めるために、またぷらずまの仮面を被らなければなりませんし、恐らく海の傷痕を倒すまでは忙しいのです」

 

 

電「街に出られるのは今日ぐらい、かな」

 


電「街に出ても、湿っぽい気分になるだけですね。この街での私の想い出は、あまり優しくないのです」

 

 

わるさめ「……そう、だね。私達は時代から取り残されているみたい」

 

 

わるさめ「私達がセンチメンタルにならずに面白おかしく馬鹿やれるのは海や鎮守府だけなのかもね……」

 

 

電「なのです。ここはあの司令官さんと初めて出会えた場所なので良い想い出でもあるのですが、それでも胸にぽっかり穴が開いた気分になるのです」

 

 

わるさめ「そうだね。始発で来たけどさ、なんだか電車に乗り遅れた人と自分が重なった……」

 

 

初霜「あ、そういえば。提督が、この辺りのことを……」ガサゴソ

 

 

初霜「これです。わるさめさんがこの街にいた頃から変わらずにあるお店を調べてくださっています」

 

 

初霜「どこか想い出の場所はありますか?」

 

 

わるさめ「あの人は良いやつだなあ……」

 

 

電「お前、あの司令官さんを殺そうとしたこと忘れるな、なのです」

 

 

わるさめ「あ、このお店に行ってみたい」

 

 

電「やっぱりお前嫌いなのです……」

 

 

4

 


電(あぶら臭い……)

 

 

わるさめ「……変わってない」

 

 

わるさめ「相変わらずガラガラで閑古鳥鳴いてるー!」

 

 

店主(なんか失礼な客が来た)

 

 

電「……うん? あの写真……」

 

 

店主「らっしゃい……ん?」

 

 

店主「……、……」

 

 

店主「こ、小春ちゃん……?」

 

 

わるさめ「おう、私の真名じゃないか! 歳を取ったなおっちゃん!」

 

 

店主「いや、人違いか。小春ちゃん、人見知りで俺にもおどおどしてて、春さん以外になついていなかった。そんな馴れ馴れしい性格じゃなかったし」

 

 

初霜「確かわるさめさんの名前は小春でしたし、正真正銘の小春さんかと(メソラシ」

 

 

わるさめ「『お、お母さん、そろそろ閉店時間だし、起きて帰らないと』」

 

 

わるさめ「『寝かしとけ。別にいられても困らねえし』」

 

 

わるさめ「『ひうっ、そ、そうですか。お母さんがごめんなさい』」

 

 

店主「うおお、小春ちゃんだ! 生きてたのか! そうかそうか! まあ俺は生きていると思っていたけどさあ!」

 

 

電「飾ってあるのは、わる……春雨さんの艤装を着けた時の写真、なのです?」

 

 

店主「そりゃそうだ。この町内の誇りよ。海を守る兵士になってお国のために命を賭けてくれてんだからよお」

 

 

わるさめ「おっちゃーん! あっりがとおおお!」

 

 

店主「……春さんには会ってきたか?」

 

 

わるさめ「当たり前だろ。そのために来たんだよ。お母さん抱きしめまくってから来たんだよ」

 

 

店主「そっか。それならいいんだ。春さんは死ぬまでさ、いつものこのカウンターの席に座って小春ちゃんの心配ばっかしてたよ」

 

 

わるさめ「――――っ」ポロポロ

 

 

店主「あ、悪い。泣かせるつもりじゃなくてさ、春さんが報われて良かったって思ったんだ。俺が逝った時に伝えておくぜ。長生きするもんだ」

 

 

わるさめ「おっちゃああん……」

 

 

店主「まあ、なんか食ってけ。そっちの子は……ええと初春型の初霜ちゃんと暁型の電ちゃん、か?」

 


初霜「そうです。詳しいのですね」

 


店主「小春ちゃんが戦争に行くことになってからどうしてもなあ……」

 

 

店主「電ちゃんは、あのよ、妙な実験されてたって聞いたけど、大丈夫なのか……?」

 

 

電「ご心配なく。今はこの通り回復して元気なのです♪」

 

 

店主「そっか。良かった」

 

 

店主「最近だと騒ぎになったのは深海妖精と、中枢棲姫勢力とかいうむちゃくちゃ手強い敵が出てきたんだっけ」

 

 

店主「この春雨はどうだ? おどおどしてて引っ込み思案なとこがあったが、役に立ってたか?」

 

 

わるさめ「……」ジーッ

 

 

初霜(……い、いえない。電さん)チラッ

 

 

電(途中からそのRank:SSSの深海棲艦勢力に属してお国に反逆していたなんていえる空気じゃねーのです……)

 

 

電「はい、春雨さんにはいつも助けてもらっていたのです」


 

わるさめ「そうそう。同じ不幸を抱えてんのに、いっつもめそめそと一人で抱え込むんだよ。電のやつは本当に私がいないとダメな泣き虫でさー」

 

 

電(……ビンタしたい)

 

 

初霜「わる、春雨さん、念のために言っておきますが、話していいことと悪いことがありますからね」

 

 

わるさめ「大丈夫。おっちゃんなんか適当に作って。電にはっつん、あんまり美味しくないけど勘弁してあげてね」

 

 

店主「うるせーよ……」

 

 

……………

 

……………

 

……………

 

 

モグモグ

 

 

初霜「ちょっと待ってください。この中華料理、は」

 

 

電「間宮さん、いや、マーミヤン越えに美味しいのです!?」

 

 

わるさめ「嘘だろ……正直、この店のらーめんはラオウのカップ麺のが美味かったレベルのはずなのに」ズズズ

 

 

店主「美味しさ剛掌波だろ」

 

 

わるさめ「これ食ったら人生に一片の悔いなしだよ!」


 

わるさめ「でかくなったなジジイ!」

 

 

店主「マジで小春ちゃん、性格変わったよな……」

 

 

店主「まあ、春さんに娘が戻ってきた時にこの味で出したらこの店を幽霊物件にするって脅されたわ」

 

 

店主「俺はどうせ女房に逃げられて天涯孤独だし、趣味もなかったから改めて、と」

 

 

店主「一念発起っつうのかな。頑張ってみたんだよ。ま、美味いのなら春さんも勘弁してくれるだろ」

 

 

電「いや、でもこの味でどうしてここまで寂れているのか謎なのです」

 

 

店主「今日はたまたまだ。ここは地域型だからよ、そこらに住んでいる連中の溜まり場みたいなもんよ」

 

 

店主「おっさんとおばちゃんしか来ねえな。若いのはこんなところに来ねえよ。賑やかな都のほうに行く」

 

 

初霜「確かに中華料理店にしては、居酒屋メニューが豊富ですね……」

 

 

店主「つー訳でがんばれよ。海を取り戻して、新鮮な天然の魚を仕入れられるようにしてくれ。市場じゃやっぱり値が張るんだよな」

 

 

わるさめ「任せろ任せろ任せろ任せろこの小春ちゃんが必ず輸送してやるよ!」

 

 

初霜「必ずやお届けします!」

 

 

電「……なのです」

 

 

店主「おう。最後にさ、せっかくだから頼みたいことがある。後生だ」

 

 

店主「電ちゃん」

 

 

電「?」


 

店主「みたいな娘が欲しかったから、なんかリップサービスしてくれ」

 

 

電「」

 


わるさめ「電たん、サービスしてやって?」

 

 

電「……、……く」

 

 

電「『お父さん、ごちそうさまなのです♪』」ニコッ

 

 

電「……」ゴバッ

 

 

店主「パパでお願いしてもいいかな」キリッ

 

 

電「トラン、」

 

 

初霜「はいストップです! 電さん一旦休憩入ります!」


 

わるさめ「はっはっは、おっちゃん次に来るときは全てが終わった時だ」

 

 

店主「小春ちゃん、負けたり嫌になったり逃げ出したくなったり。そんな時は、ここに来ればいいぞ」

 

 

店主「春さんも俺もずっと」

 

 

店主「この町にいるから」

 

 

わるさめ「――――」

 


わるさめ「……」


 

わるさめ「……うん」

 

 

わるさめ「ありがとう、ございます」

 

 

店主「……急にあの頃みたいになりやがって」

 

 

店主「泣かすんじゃねえよ。ったく」

 

 

【●ω●:わるさめちゃんお里ぶらり旅の道連れ、お二人追加だーい!】

 

 

1

 

 

わるさめ「少し乗る電車間違えたね」

 

 

初霜「そうですね……東京のほうに」

 

 

電「帰りは遠いですね。もう電車、飽きました。3つ先の駅でまた乗り換えなのです」

 

 

初霜「帰り道がてら、どこに行きますか?」

 

 

わるさめ「そういえば電が買い物したいとか。わるさめちゃんもしたいな。ずいずいとか司令官とデートしてたし、羨ましかった。外歩けるのこの機会くらいだしさー」

 

 

電「なのです」

 

 

わるさめ「龍驤が太っ腹でさ、たんまり小遣いくれたし」

 

 

わるさめ「あ、ぷらずま、お前のお里ってもう少し先だったろ。行かなくて良かったの」

 

 

電「なんかもういいのです。どうせ帰れば司令官さんもお友だちもいますし」

 

 

わるさめ「……そっか、って待て」

 

 

わるさめ「今、車窓から見えたけど北上と大井のポスター看板があった。なにあれ?」

 

 

初霜「ああ……そう言えば私達のコラボ企画がありましたね。ちょうど寄り道として、可能な範囲にあったはずです」

 


初霜「三越デパート」

 

 

初霜「ちょっと待ってくださいね……確か地図に……」ガサゴソ

 

 

初霜「あ、次の駅で乗り換えて、もう少し行った先にあります」

 

 

わるさめ「じゃ、そこにしようか」

 


初霜「あ、ここで降ります!」

 

 

2

 

 

電「自らの足で歩くのは疲れますね。筋肉痛にはなりませんが、人も多いのはうざいのです。海をすいすい行くほうが楽です」

 

 

初霜「私も色々と新鮮です。田舎の出で、東京って何気に初めてでして、ここまで人が多いなんて」

 

 

わるさめ「そうだねえ。切なくなるぜ。ある意味で艦娘は落伍者みたいなもんだからなあ……」

 

 

わるさめ「つうか春雨ちゃんのポスターはねーのかな。うわ、あの海風すっごく可愛い!」

 

 

電「……え? あれは」

 

 

 

 

 

――――このポスター。明石の姉さんのこんな顔を見たことないんすけど。

 

 

――――そうなんですか? 明石さんってこんな顔をしている印象ですよ?

 

 

――――外面ですね、間違いない。

 

 

 

電「この私がお友達を見間違えるはずがないのです……」

 

 

初霜「え、あのお二人は……」

 

 

電「追います」

 

 

電「二人ともあのようなお洒落な服で、のんきにデートとは鎮守府(闇)のお友達として捨て置けず」

 

 

電「鉄の掟、職場恋愛禁止」

 

 

電「を、破るとは」

 

 

電「鹿島さん&明石君!?」

 

 

電「はわわ、ケジメ案件なのです!」

 

タタタ

 

わるさめ「うん? どったの?」

 

 

初霜「わるさめさんも早くついてきてください! 追いますよ! 電さん、トランスは絶対にダメですからねっ!」

 

 

……………

 

……………

 

……………

 

 

明石「……ん?」クルッ

 

 

明石「おいおいおいおいいい!」

 

 

明石「あの3人のガキはマジかよどんな偶然だ俺の不幸体質のせいかよ夢なら覚めてくれ」

 


明石「鹿島さんお手を借ります、すみません!」

 

 

鹿島「え、どうしたんですか? あ、手の力が強くて少し痛いですっ」

 

 

明石「ほんとすみません! ですが、どちらかでも捕まれば一巻の終わりなんでこの手を離すわけには行きません!」

 

 

電「はわ、はわわ!」

 

 

電「鹿島さんの手を握る!? 現場を押さえましたよ!?」

 

 

電「鹿島さんも握り返しましたね!?」



電「電は男の子とそこまでするのに27年以上もかかりましたよ!?」

 

 

電「知り合ってそんなに経ってないですよね!? 簡単に身体を許し過ぎでは!?」



電「はわわ、あなたという練巡は隣の明石君に一体なにを教えるつもりなのです!?」

 

 

電「加えて逃走するなんて、電は確信したのです!?」

 

 

電「テメーらもう鎮守府(闇)の敷居をまたぐつもりはないということですね!?」

 

 

電「電の司令官さんを裏切りましたね!?」

 

 

鹿島「電さん……? あれ、どうしてトランスタイプのあの子がこんなところに……」

 

 

明石「私服で髪型も違うんで確信はないですけど、後ろの二人は多分アダルティーな初霜さんと美女代名詞のわるさめさんです! つーか初霜さん、私服でも鉢巻きを腕に巻いて……」



鹿島「わ、わるさめさんは不味いですっ。なんとか逃げなきゃ……」

 

 

明石「あ、ちょうど次に乗るはずの電車が来てる! 不幸中の幸いだこれ!」

 


明石「少し歩きます。駆け込み乗車になるんで。大丈夫、まだ距離は」

 

 

明石「駅員さんすみません、乗ります!」

 

 

電「逃がさないのです! 電も乗るのです!」タタタ



鹿島「お願い、早く閉まって……!」

 

プシュー、パタン

 

電「なのです!? なのです!? 開けろ開けろ開けろ開けろよオ!」ドンドン

 


明石「怖すぎる!」

 

 

電「開けゴマ! オープンザドアなのです!」

 

 

駅員「君、危ないから下がって!」

 


電「っ! はい。すみ、ません」

 

 

わるさめ「おーい裏切り者のアッシーくーん! アッキーに報告してやるからなー! 公然の面前で鹿島っちとキスしてたって、お前の兄貴は女を取って妹を捨てて逃げたって報告してやるからなー!」

 

 

明石「勘弁してください!」

 

 

………………

 

………………

 

………………

 

 

ペタリ

 

 

電「あまりの光景に、膝の力が抜けました」

 

 

電「許し、ません」



電「悲しい。お友達に裏切られるなんて。司令官さんにあのダボどものことをなんて報告すればいいのです……」

 

 

初霜「とりあえず危ないので電さんはもう少し下がってください」グイグイ

 

 

わるさめ「えー、悲しみはー、裏切りと別れの悲しみはー、黄色線の内側にお下がりください」

 

 

初霜「変なこといってないでわるさめさんも手伝ってくださいよ!」

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ネッちゃん! このポスター見てよギャハハ!

 

 

 

――――センキ婆がとってもお洒落です……!

 

 

 

 

 

わるさめ「ん……センキ婆?」

 

 

ネ級「……あ!」

 

 

レ級「へ?」

 

 

レ級「お前、わるさめか……?」

 

 

わるさめ「レッちゃん&ネッちゃん!?」

 

 

初霜「は、い……?」

 

 

初霜「わるさめさん、そのお二人はどちら様ですか……?」

 

 

わるさめ「中枢棲姫勢力幹部のレ級とネ級だよ。知ってるよね?」

 

 

初霜「」

 

 

レ級・ネ級「ガオー!」

 

 

初霜「!?」ビクッ

 


3

 

 

わるさめ「あ、ここのお店の餡蜜美味しい」

 

 

わるさめ「かつてのお友達よー!」

 

 

わるさめ「オゴリだ。この餡蜜ソフトクリームを持っていけー!」


 

レ級「よく僕達の前に面を出せたな、この裏切り者……!」ギリ

 

 

ネ級「センキ婆の仇!」ギリ

 

 

レ級・ネ級「アイスくれたから許す!」イエーイ

 

 

わるさめ「さすがレっちゃん&ネっちゃん」

 

 

わるさめ「きっとセンキ婆も地獄で私達を温かく見守ってくれているゾ☆」


 

レ級「そだねー。姑みたいにねちねちしてたけど」


 

ネ級「いいやつだった……!」


 

レ級「あ、ちなみにわるさめだから、許すんだからな。お前らがセンキ婆を馬鹿にしたら怒るからな?」

 

 

初霜「な、なぜあなた達が都にいるんです……例の肉体改修、ですか?」

 

 

レ級「あー、そんな感じ。建造と肉体改修だね。ちなみに僕らをどうこうしてみろ。ここら一帯の人間道連れ」

 

 

ネ級「保身は用意してきた」

 

 

初霜「武装してきた、と!?」バン!

 

 

わるさめ「はっつん、落ち着きなよ。私らだって電引き連れている時点でお忍びみたいなもんだし、騒ぎ起こしたら責任取らされるの司令官だぞー」

 

 

わるさめ「それに意味不明にファビョり出すのスイキちゃんくらいだから。レッちゃん&ネッちゃんは、こっちが敵意出さなきゃ絡みやすいやつだし」

 

 

ネ級「スイキは重い女だから……」

 

 

レ級「つーかさっきからぷらずまの様子がおかしくないか。僕と戦った時の覇気が全くないんだけど、どったの」

 

 

電「今はナイーヴなので黙るのです。どうせテメーらが敵なのは表的な事情で、本音を言えば倒す敵は同じ。敵の敵は味方まであります」

 


電「……それでテメーらなぜ都に」

 

 

レ級「その前に質問だ。お前らどうしてここにいる?」

 

 

わるさめ「わるさめちゃんの里、」

 

 

初霜「私が答えます。わるさめさんも電さんもお静かにしていてください」

 

 

初霜「……、……」

 

 

初霜「提督のご命令です」

 

 

電「……」

 

 

レ級「でもなんで電やわるさめを表に出しているんだ。そいつらは外に出ちゃダメな艤装一体化型だろ」

 

 

初霜「あなた達がどう出てくるか分からないからですよ。あなた達はRank:SSSの深海棲艦ですから。電さんとわるさめさんはここでもお強いです」

 

 

レ級「なるほど、そっちの提督さんは密会にお前らを寄越したってわけか」

 

 

電・初霜「……」

 

 

レ級「じゃあ、まず海の傷痕がどこにいるか教えて。そっちが聞きたいことはそれから教えてやる」

 

 

初霜「というか、なぜここに。待ち合わせ場所とは違うのでは?」

 

 

ネ級「会っちゃったし、仕方ない。ネッちゃん達は三越デパートでついでに買い物するつもりでした……」

 

 

電(……読めたのです。あの電車は三越デパートのほう。鹿島さんと明石君は司令官さんから任務を渡されてここに来た線が濃い、ですね。私達は偶然にも密会相手に出くわしたという状況、かな)

 

 

初霜(……提督が中枢棲姫勢力に何を聞きたいのか、は知りませんね。かまをかけたのが裏目に出ましたか……)

 

 

わるさめ(すげー偶然だわコレ……つーか、なんであの司令官さん密会に鹿島っち駆り出したし。いや、鹿島っちだからこそ、この二人と機会を?)

 


わるさめ「まあ、ぶっちゃけわるさめちゃん達はお忍びで遊んでるだけで密会とかそんなの初耳だよ」

 

 

わるさめ「うちの司令官さんいつチューキちゃん達と密会の約束を交わしたんだよ……」

 

 

レ級「はあ? なんだそれ。お前らじゃねえのかよ。てっきり僕達と仲の良いわるさめを差し向けてきたのかと」

 


電「お茶会しに来たわけでもあるまいし。わるさめさんの性格的にお忍び任務がこなせるとでも思っているのです?」

 

 

レ級・ネ級「……」

 

 

レ級・ネ級・わるさめ「That's right」

 

 

電「つーか、お前らよく私とわるさめさんとお話できますね。わるさめさんは戦艦棲姫の、私はリコリスの仇ですよ?」

 

 

レ級「……そういうしがらみは後回しなんだよ。僕らはお前達とは違って、もう4人しかいない。無駄なところでケンカして死ぬ訳には行かない。センキ婆とリコリスママの分も託されてんだぞ。ここのことはテメーらにも分かるだろ」

 

 

ネ級「それが生き延びたネッちゃん達のお仕事です」

 

 

電「……怨んでいないのですか」

 

 

レ級「決戦で吐き出した。まあ、どちらかといえばそれについてキレたいのは電よりもわるさめのほうなんだけど」

 

 

わるさめ「え」

 

 

レ級「あのセンキ婆は寝返りのために鹵獲しろって切り離したんだよ。センキ婆は深海妖精は知ってたけど、深いところの情報は持たされてなかったし、そもそもそっちとしても捕まえて情報聞き出したかったろ」

 

 

電「全くなのです。あの時はさすがにわるさめさん半殺しにしてやりました」

 

 

レ級「わるさめを送ったのは深海妖精の情報をどこまで知っているかを探るためな。こちらが温存していたそっちに対しての強力な交渉材料だから、すぐにでも調べざるを得なかったんだとさ」

 

 

レ級「生かしておいてさえもらえば後々チューキさんの計画では助け出せるはずの予定だったんだよ。センキ婆の身柄は僕らとの取引材料になるからね。なのに、わるさめは……」

 

 

わるさめ「なるる、さすがチューキちゃん。わるさめちゃんあの時はそこまで頭回らんかった……」

 

 

レ級「ま、気にするな。チューキさんは自分がわるさめの頭の出来を見誤ったせいだって、庇ってたよ」

 

 

初霜「庇ったのではなく、単純にそのままの言葉の意味なのでは……」

 

 

わるさめ「ごめん。自分のことしか考えていなかった」

 

 

ネ級「だから、わるさめはこっち側にいれた。わるさめの心は向こう側だってママがいってたし、誰かのこと考えたら、向こう側の誰か」

 

 

ネ級「きっとネッちゃん達のことじゃないから一緒にはいられなくなってた。あの時が別れの時だったって、そう思う……」

 

 

ネ級「そしてわるさめ、雰囲気変わった」

 

 

レ級「うん? 変わったか?」

 

 

ネ級「なんか優しく、弱くなった?」

 

 

わるさめ「あー、分かるか。わるさめちゃんは解体されて今はもう普通の女の子だからな!」

 

 

レ級・ネ級「!」

 

 

ネ級「なによりです。もう海に戻ってくるんじゃないですよ……!」

 

 

わるさめ「そういう訳にも行かなくなっちゃってね」

 

 

レ級「……」

 

 

ネ級「話せるお話?」

 

 

わるさめ「あー、お世話になって飯を食わせてもらってた身だ。わるさめちゃんの身の上話を聞いていけー」

 

……………

 

……………

 

……………

 

 

レ級「ウワアアアアン!」ドバッ

 

 

ネ級「ビエエエエエン!」ドバッ

 

 

レ級・ネ級「泣かすんじゃないよ!」

 

 

電「こいつら本当にあの決戦で戦ったやつなのです……?」

 

 

初霜「最悪最強の深海棲艦のはずなんですけどね。 なんかオンオフのスイッチやばくないですか……」

 

 

わるさめ「『Rank:Worst-Ever』も大したことなかったりして」

 

 

電「おい、不用意にこちらの情報流すな、なのです。だからテメーは司令官さんから信用されねーのですよ」

 

 

レ級「また建造するのなら、そうだなー。まだ少し時間あるし、面白いこと教えてやるよ。わるさめは今でもまあ、敵って思えないしね」

 

 

わるさめ「レッちゃん……!」

 

 

レ級「これは最近、僕とネッちゃんで考えたことなんだけどさ」

 

 

ネ級「6種類は危険。7種類は解体不可。8種類から先は絶望」

 

 

レ級「わるさめのステルスは『トランス現象を完全にコントロールできる副産物』で、しかも『解体可能』だから、深海妖精での違法改造は5種類が『完成形』と見てる」

 

 

電「……まあ、確かに」

 


ネ級「どの深海棲艦艤装を5種類混ぜるのか……この選択が大事」

 

 

レ級「お前らの前の提督は恐らくそこまでの実験段階でなかったってリコリスママがいってた。姫や鬼の別種類を混ぜて、どういった深海棲艦艤装が被験者に馴染むか、の段階。あいつが生きてまだ実験続けられていたのなら、4人目の犠牲者が出ていたか、わるさめが更に改造されたかって」

 

 

レ級「試していないんだよ。恐らくあの女提督の深海妖精による艦娘の違法改造はまだ先の段階があった」

 

 

ネ級「深海棲艦艤装付与の恩恵である深海棲艦の性能や装備を考慮して」

 

 

ネ級「どの組み合わせが最強か」

 

 

電・わるさめ・初霜「!」

 

 

レ級「僕の意見だと、ぷらずまのような空でも海中でも戦える器用型は便利だけど……面倒臭いってイメージ」

 

 

レ級「敵として相手にしたくないのは、そうだな。やっぱり……」

 

 

レ級「一点特化型のトランスタイプかなー」

 

 

ネ級「空、海面、海中、この3つのうちから1つに集中特化したら、そのステージでは最強になれると思う」


 

電「なるほど、空ならば北方棲姫、空母棲姫、リコリス棲姫、それらを組み合わせれば、最強の空母、ですね」

 

 

わるさめ「潜水がいい! だって春雨ちゃん時代もわるさめちゃん時代も潜水性能なかったもん!」

 

 

初霜「しかし、潜水タイプは姫の種類が少ないですし……」

 

 

レ級「例えば、こういうのも面白いと思うんだ」

 

 

レ級「潜水棲姫×5、とかね」

 

 

電「……、……!」

 

 

ネ級「加えてぷらずまみたいな深海棲艦特有のギミック付与効果も考えれば、本当に強くなれると思う」

 

 

わるさめ「駆逐ロ級×4と駆逐棲姫×1か」

 

 

レ級「それ弱いとはいわないけど、絶対にチョイスミスだと思うぞ……」

 

 

ネ級「わるさめはロ級と駆逐棲姫、好きだよね」

 

 

わるさめ「駆逐ロ級ってヤバいくらい可愛くない?」

 

 

わるさめ「駆逐棲姫はさ、しっくり来るんだよね。あいつの艤装はまるで春雨ちゃんみたいに扱える」

 

 

レ級「お前は駆逐棲姫になると、器用になるしな。つかあいつって春雨艤装が深海棲艦化した線が濃い気がしないでもない」



わるさめ「まあ、ロ級の可愛さには敵わないけどね……」

 

 

初霜「その感性は理解不能です……駆逐棲姫は可愛い、のかな?」

 

 

わるさめ「つまりわるさめちゃん可愛いと。まあ実際に可愛い訳だけど」

 

 

わるさめ「駆逐棲姫はしっくりくる。潜水は興味と憧れ。ロ級はさいかわ」

 

 

電「いや、私も持っていない種類でヤバいのが一匹います。わるさめさんの希望も踏まえて私のオススメは」

 

 

電「『ロ級×1』」

 


電「『駆逐棲姫×1』」

 

 

電「『潜水棲姫×2』」

 

 

電「そして『防空棲姫』です」

 


レ級「防空棲姫は確かにヤバいな。あんな艦いたら他になにも要らねえよってレベルだしな……」

 

 

わるさめ「レッちゃんがいうなって話なんですがそれは……」

 

 

ネ級「防空棲姫にネッちゃん達並の知能があれば絶対に強い……!」



初霜「あ、でも」

 

 

初霜「防空棲姫のギミックは確かお側付きの輸送ワ級の生体反応、深海棲艦は艤装ベースなので艤装、ですか。それが密に関係していたはずですので、ギミックを取り入れるのならば……」

 

 

初霜「ロ級×1、駆逐棲姫×1、潜水棲姫×1、ワ級×1、防空棲姫×1が完成形では」

 

 

電「加えていえば、あいつの装甲ギミックは私の海月と違って史実効果艦の弱点もありませんね……」

 

 

レ級「そのラインナップ、趣味のやつらが邪魔だけどな……」

 

 

わるさめ「おいぷらずま、ロ級と駆逐棲姫は解体した時に出てきたやつがあるからいいけど、防空棲姫とワ級と潜水棲姫を鹵獲してきて」

 

 

電「無茶をいいますね。ですが、ちょうど来るべき演習に備えてお友達の強化もしようと思っていたところです」

 

 

電「防空棲姫を探してお友達と慈悲を与えに行くのです」

 

 

初霜「そんな感じでRank:AA+の防空棲姫にちょっかいかけるだなんてお二人の感覚は普通ではないと思います」

 

 

電「その通り。普通ではないのです」

 

 

初霜「普通が一番なんですよ」

 

 

電「そういうやつに限って普通ではないのです」

 

 

初霜「そ、そうなんですか?」

 

 

初霜「為になりますね」カキカキ

 

 

レ級「初霜だっけ。なんかお前も変なやつだなー」

 

 

初霜「そんなことはありません」

 

 

わるさめ「……さて御一行、そろそろ三越デパート行きますかー」

 

 

ネ級「目的地同じ。一緒に行こう!」

 

 

わるさめ「そうだね! わるさめちゃんぶらり旅、お二人様追加だーい!」



4

 

 

レ級「ネっちゃん、今の僕らどうよ」

 

 

ネ級「圧倒的ペアルック……!」

 

 

ネ級「黒のニットとダメージジーンズはもちろん……!」キラ 


 

ネ級「海屑艦隊の文字入りTシャツが、かっこいい!」キラキラ

 

 

ネ級「中枢棲姫と水母棲姫の分も確保した。これでもうネっちゃん達、艦娘の視線四人占め間違いなし!」

 

 

レ級「しかし、ばれねーもんだね」

 

 

ネ級「ね」


 

わるさめ「わるさめちゃん達も頼もうよ! 入れる文字はそうだなー、あの司令官さんに感謝と敬意と忠誠を誓って」

 


わるさめ「『My god is open the door』とかどうよ。裏には個々の名前で! 卯月んとこのママに頼んでおく!」

 

 

電「満点の発想なのです。確かにあのまま司令官さんは神も同然。届いた服を見本に私が妖精さんに頼んで装甲化させておくのです」

 

 

初霜「問題ないと思います」

 


わるさめ「いや、司令官傷つきそうだし、鎮守府(闇)にしとくか……」



レ級「なんだよオープンザドアって」

 

 

ネ級「日本人じゃないの? あだな?」

 

 

わるさめ「日本人だよ。本名だよ。開く扉と書いてオープンザドアと読む」

 

 

レ級・ネ級「可哀想……」

 

 

レ級「でも名前があるってのはいいことだ」



ネ級「ネっちゃんは自分のことまだ全く思い出せない」

 

 

レ級「過去は振り返る必要ないし。僕らはもう違うからね。開き直ればいいのさ」

 

 

ネ級「うん! 今はレっちゃんも、中枢棲姫も水母棲姫も、いる!」

 

 

ネ級「話変わるけど、ドーナツ食べたい」

 

 

レ級「とりあえず密会相手探してからね。そろそろ時間だしさ」

 

 

レ級「僕達は任務があるからここらでおいとまするぜ」

 

 

わるさめ「おう! 色々とありがとね! 元気でやれよー!」

 

 

ネ級「わるさめも。風邪なんか引くんじゃないですよ……!」

 

 

【7ワ●:鹿島さんと明石君の極秘?任務】

 

 

1

 

 

鹿島「予定時刻を二時間も経過しましたが、まだ姿を現してはもらえませんね」

 

 

明石「……あー、兄さんも来ない可能性あるっつってたんすよね」


 

鹿島「明石君も周りをよく観察してくださいね。深海棲艦でも私服を着ていれば見た目では分かりづらいかもしれません」

 


明石「しっかし、兄さんの頭のなか1回覗いてみたいもんですね……」

 

 

明石「明石艤装でカ級をバラしてその情報流したら、じゃあ陸にあがれますねって。はあ? ですよ、こっちは」

 

 

鹿島「まあ、なんか色々とすごい提督ですから……」


 

明石「……あれじゃないすか?」

 

 

お兄さん「肩当たったぞ。痛ってえな」

 


レ級「深海棲艦だぞ、ガオー」

 

 

ネ級「ネっちゃん達のボスは泣く子も黙る中枢棲姫だぞガオー!」


 

レ級・ネ級「ガオー!」

 

 

お兄さん「……アッ、スミマセン」

 

 

明石「な?」

 

 

鹿島「うふふ」


 

鹿島「さすがに違いますよ」


 

鹿島「彼らもお忍びのはずですから、あのような発言をするわけないですし、ペアルックだなんて目立つ格好なのもおかしいですから」


 

鹿島「ショッピングを楽しんでいる一般人の方ですよ」

 

 

明石「背中にレ級、ネ級って書いてあるんすけど……」

 

 

鹿島「明石君、街では深海棲艦のファン、なんて人もいるように、平和です」

 


鹿島「私達で、守っていけたらいいですね」

 

 

明石「っす。それはさておき目が合いました。こっち来てますよ」

 

 

レ級「ちっす。見覚えあるな。鹿島か。悲劇ぶりだな。隣のやつはええと、男だし、例の明石君か?」

 

 

レ級「お前らんとこの提督、軍法会議にかけられたんだって?」

 

 

ネ級「オープンザドア君、ざまーぷぎゃー」

 

 

明石「兄さんの本名どこからバレたんだよ……」

 

 

鹿島「」

 

 

レ級・ネ級「ガオー!」

 

 

鹿島「!?」ビクッ

 

 

2

 

 

レ級「……ふーん、大本営でそんなにペラペラ喋ったのか。分かった。チューキさんにも伝えとく。そっちもスイキのことと、思考機能付与能力のこと、これからのこと伝えろよ?」

 

 

明石「いわれなくとも。それでこっちの要求は」

 

 

レ級「ネっちゃん、そのカフェラテ美味しい?」


  

ネ級「なかなか」

 

 

鹿島「………」

 

 

レ級「まあ、あんたらのお陰で僕ら逃げ切れたわけだし、別に僕達は戦争終わった後の未来とか考えてないからさー、貸し借りなくせば気持ちよく逝ける」

 

 

レ級「だけど、チューキさんの許可が出たらの話な。僕らはお前らの仲間にはなれない。今更、仲良くなれるか。そっちの要求なんざ前代未聞だろ」

 

 

明石「……だな」

 

 

レ級「用事は済んだし、さっさとお開きにしよう」

 

 

鹿島「…………」

 

 

レ級「割り切れよな。まだ鹿島んとこのルーキー艦隊を轟沈させたの根に持ってんの」

 

 

ネ級「謝らない。から、恨め。やらなきゃやられる。そーいう関係」

 

 

ネ級「こっちも、お前らにたくさんやられてる」

 

 

レ級「なのに仲良くおしゃべりしてるんだから、お前もそうしろって」

 

 

鹿島「……」キッ

 

 

明石「…………」

 

 

明石「まあ、よく分からねえけど」

 

 

明石「戦いは終わる目処が立ったんだ。海の傷痕が全て悪い。分かりやすいじゃねえか」

 

 

レ級「ばーか。そんな簡単に割りきれねーから、鹿島げきおこなんだろ」

 

 

ネ級「チャラ男、ばーか、ちゃーらちゃら」

 

 

明石「俺はチャラくねえから。むしろ硬派を自負してるから」

 

 

レ級「鹿島、手紙な。チューキさんがそっちに渡すようにって。ちなみに中身は鹿島艦隊の悲劇のことだけど、期待するなよ。お前が思うような言葉はない。分かるだろ。誠心誠意謝りたいだなんて思ってないから謝る意味もない」

 

 

ネ級「あくまで深海棲艦」

 

 

レ級「たださ、鹿島」

 

 

レ級「僕らは死ぬんだよ。お前らみたいに未来に進めない。それがきっと罪であり罰だ。死んだ人間は生き返らずとも、お前らはまだ時間が残されていて、その死に想いを馳せる人が残る」

 

 

ネ級「ネッちゃん達は、未来のために戦えるそっちが羨ましいです。ネッちゃん達は海から逃れられない」

 

 

レ級「僕らだって、生きたい」

 

 

レ級「その気持ちを押し殺して死に突き進んでいるんだよ。だから、僕らの口から厚かましくもいえるのは」

 

 

レ級「海の傷痕は必ずブチ殺す」

 

 

ネ級「全員生還だなんて、考えてない。ネッちゃん達が家族になった日から、みんな覚悟した」

 

 

ネ級「でも海の傷痕は共通の敵だから、倒した時なら」

 

 

ネ級「一瞬くらい心がぎゅってくっついてお友達になれると思う。ネッちゃん、楽しみです」

 

 

鹿島「っ!」

 

 

鹿島「……仲直りする気はありませんし、謝罪も結構、です。お互い、に」

 

 

鹿島「……過去に仲間はたくさん犠牲になってます。あの子達に固執するよりも、その犠牲をなくすために」

 

 

鹿島「今は提督さんから与えられた任務を遂行するのが優先事項、です」

 

 

レ級「それじゃ話は終わったね」

 

 

ネ級「行けたら行く」

 

 

明石「来ないパターンじゃねえか。お前らだって、俺らと目的は同じなわけだし」

 

 

レ級「そだね。こっちはそっちと違ってフットワーク軽いし、仲間の仇ーとか今のところないしね」

 

 

鹿島「ではよろしくお願いします」

 

 

レ級「おう。支払いは任せた」

 

 

ネ級「ごちでした……!」

 

 

鹿島「……」

 

 

明石「……のんきな奴らっすね」

 

 

明石「こっちはクビまでかけて話しに来たってのに」

 

 

鹿島「帰りましょうか。なにか、寄っていきたいところとかありますか?」

 

 

明石「あるんですけど、帰りましょう。アッキーが心配なんで……」

 

 

鹿島「……うふふ」

 

 

鹿島「仲睦まじいのですね」

 

 

明石「大切な妹なんで」

 

 

レ級「あ、そういえば伝言頼まれてたんだった」

 

 

明石「あ? 伝言?」


 

ネ級「わるさめ達と駅で会って、さっきまで一緒に遊んでました」

 

 

明石「そんな馬鹿な……」 

 

 

鹿島「なんて偶然ですか……そもそもどうしてあの子達が街中をぶらついていたのでしょう」

 

 

レ級「本人に聞けよ。4階にいるって行ってたかな。鹿島っちと明石君は任務が終わったらこっち来てー、ってわるさめから伝言。確かに伝えたぞ」

 

 

ネ級「次に会う時は海」

 

 

鹿島「変にこちらの情報流していないか心配です……」

 

 

明石「まあ、電と初霜さんいるなら大丈夫じゃないですかね。あの人ら兄さんへの忠誠度は高いですし」

 

 

3

 

 

明石「おい帰るぞ。お前らほんとこんなところでなに遊んでいやが……」

 

 

明石「……」クルッ

 

 

わるさめ「アッシーこっちこっち。別に入っても捕まらないから大丈夫」

 

 

明石「嫌だよ! ここランジェリーショップじゃん!」

 

 

電「全くです。初霜さんが倒れてしまいました」

 

  

初霜「……」

 


鹿島「なぜ……」

 

 

わるさめ「あー……はっつん真面目すぎるからここぞとばかりに少し性的な知識を語りながらセクハラのごとくあることないこと説明してました」

 

 

わるさめ「つーか電とはっつんは体型が子供過ぎてまだこれ系は要らないかなって」

 

 

電「っ! うっざ!」

 

 

明石「……おいおい、なにこれ」

 


明石「女のってこんな高いの……? 俺のパンツとかワンコインなんですけど」

 

 

わるさめ「男女関係なく安いに越したことはないです、はい。お前も司令官さんもまあ、ファッションに気を使うタイプじゃないな。私服、スーツでいいんじゃねとか思う」

 


わるさめ「あ、でも女に下着をプレゼントするとかアリじゃね。うちの鎮守府の皆に贈ってあげたら。わるさめちゃん洗濯とかしてて大体の子のは把握しているよ」

 

 

電「キモくないですかそれ? いくら司令官さんからのプレゼントでも引くのです」

 

 

わるさめ「お前に贈ったら絵面的にヤバいだろ……」


 

明石「贈り物? 鹿島さん、こいつのいってることって俺は基本的に信じないようにしているんですけど、本当なんすか……?」

 

 

鹿島「ど、どうでしょう。私もあの、男性とお付き合いをしたことはなく、その手の話はあまりしたことも……」

 

 

電「……」

 

 

わるさめ「お前と仲がいいのはアッキーか。アッキーに買って行ってあげたら」

 

 

明石「正気ですか!? 妹なんですけど!?」

 

 

わるさめ「あー、妹だったな。それはないわ」

 

 

明石「ふと気になったんだけど、うちの鎮守府ってさ。みんな可愛いほうだと思うんだけど、異性と交際経験ある人っているのか? 女同士だし、寮でそういう話はしたこともある?」

 

 

明石「暁さんが、レディーだの恋だのいってるけど、あれはなんというか女の子の妄想的なもんに見えるし」

 

 

わるさめ「第6駆は艤装身に付けたの小学生の頃だぞ。軍はそういう規制が厳しいしさー。それで経験豊富だったらどんだけ魔性だよ……」

 

 

明石「そこら辺どうなんだ?」

 

 

鹿島「私の知る限りはええと……」

 

 

わるさめ「聞いたことないや……」

 

 

明石「……あっ(察し」

 

 

電「いや、確か、間宮さんが何回か男の人から交際の申し出を受けていたはずなのです。全てお断りしていたかと」

 

 

明石「確かに間宮さんは色々レベル高えな」

 

 

電「その他には街で男の子から告白されたという人がいたはずなのです。それも3人くらい。付き合っていたかどうかまでは知りませんが……」

 

 

わるさめ「マジかー! 3人も!」

 


鹿島「初耳ですね」

 

 

電「初霜さん達が来る前に寮で司令官さんの話から流れてそんなお話に。それとなく話したなのでええっと」

 

 

電「瑞鶴さんと阿武隈さんと卯月さん」

 

 

わるさめ「ずいずいとアブー、卯月もか。あいつらそんな面白い話を隠していたとは……」

 

 

鹿島「お二人とも街で学生をしていらっしゃったとか。青春、ですよね。あっても不思議ではありませんね」

 

 

電「秋月さんはまだあまり話したことはないですけど、あってもおかしくないと思うのです。中学校と高校は共学だったのでは?」

 

 

わるさめ「それをいったら明石君もだろー」

 

 

明石「俺ら高校は1年で辞めてる。中学校の時も浮いた話はないな。特に俺は浮いてて友達とかあんまりいなかったし、モテなかったよ」

 

 

明石「アッキーは……」

 

 

明石「あいつ、サッカー部のマネージャーやってたか…………」

 

 

明石「待てよ。そういえばあいつ中学校3年生の夏休みに……」

 

 

明石「浴衣着て夏祭り行って、その時にクラスの噂で男と一緒に歩いていたとか聞いたことあるな。あいつは女友達と行くっていってたけど……」

 

 

わるさめ「お前に知られると面倒だから嘘ついたか。これは……」

 

 

わるさめ「貫通、してますね……」

 

 

明石「兄貴の俺の前でそういうこというなよ!?」

 

 

電「秋月さんもあの欠陥でそうですが、明石君は明石君で妹離れをしていないですね。気持ち悪いって思われても不思議ではないのです」

 

 

鹿島「というか、艤装をつける前で考えたのなら、皆さん交際経験あっても不思議ではないです」

 

 

鹿島「特に金剛さんは恋多き人ですし、あれは金剛艤装というよりは金剛の適性の出る人に多い傾向ですから」

 

 

明石「というか俺としては鹿島さんにないのが驚きなんですけど。鹿島さんどこから見てもモテる気しか」

 

 

鹿島「明石君、それはとても嬉しいのですが……」

 

 

鹿島「実は私はかなりだらしがないので」

 


わるさめ「そういえば鹿島っちは昔からよく寝坊したり、物がちらかったり、靴下リバースしてた気がする……」

 

 

鹿島「ええ、純度100%鹿島さんとか夢のまた夢です……」

 

 

電「鹿島さんはオンになればシャキッとしているのです。わるさめさんと瑞鶴さんが、悪い意味でヤバいのです」

 

 

電「着ているモノもそこらに脱ぎ散らかし、布団の上で漫画を読みながらお菓子食べては、スカートめくれてても直そうとはしない。やんちゃなチビのごとくだらしないのです……」


 

わるさめ「自室でくらい好きにさせてくれ勢とでもいいますか。大丈夫、雷ママに頼んで掃除はたまに手伝ってもらってるから」



電「……私の目から見て総合優勝は」

 

 

電「間宮さんと榛名さんと初霜さん不知火さん雷お姉ちゃん、ですね。この5人は私生活からキッチリしてます」


 

わるさめ「あ、そういえばハルハルも軍に来る前に浮いた話あるって聞いてたな。ハルハルは良いとこのご息女で、見合いって話だったけど」

 

 

わるさめ「貫通勢、意外と多いんじゃね」

 

 

明石「その言い方下品だから止めろって……というか女同士でこの話をやれ! 俺と兄さんはコメントしづらいから鎮守府でも巻き込むなよ!」

 

 

わるさめ「うちの司令官はこの手の話は無理に巻き込んでも、オート機能使って受け答えしながら、頭では戦争のこと考えてるだろー」

 

 

電「……」

 

 

鹿島「真面目な人ですからね。そこがあの人の魅力でもあると思います」

 

 

わるさめ「ま、だからこそわるさめちゃんはあの司令官さんのこと好きなんだけどね。あれはいいぞー」

 

 

わるさめ「性格が悪いわけじゃない」

 

 

わるさめ「頭の中は戦争のことで一杯。その他のことシャットダウンしてずっと生きてきてるわけだ。まあ、この戦争が終わるまで続くだろうけど」

 

 

わるさめ「でもさ、それって裏を返せば半端なく誠実で一途ってわけで」

 

 

わるさめ「彼女になってみ。あいつの愛は重いし、つまんないかもしんないけど、わるさめちゃん的にはそこはどうでもいいや。でも」

 

 

わるさめ「きっと生涯、大事にしてもらえると思うんだー」

 

 

電・鹿島「!」

 

 

明石「まー、確かに兄さんは浮気とかはしないだろうな。あの人は癖が強いから万人向けじゃねえのも確かだ」

 

 

鹿島「むむ、わるさめさんの観察眼はなかなかですね。なんか納得できました」

 


電「まあ、誠実でしょうね。あの人の性格はもう多分ずっと変わらないのです」



電「ただあの人は自分のやりたいことをやりたい人なのです。それが女性とは限りませんので、女の人に尽くすタイプではないのです。そこを自覚して不誠実と取る故にあの人は恋愛する気がないのだと思うのです」

 

 

わるさめ「それもなんか納得……」

 


わるさめ「でもでもわるさめちゃんからして、うちの鎮守府であいつにマジで惚れそうなタイプは」

 

 

電・鹿島「……」

 

 

わるさめ「間宮さん、かな。間宮さんは間宮さんでぽんこつなところあるからあれだけど、間宮さんはあの司令官さんみたいなタイプ、すごく合うと思う。なんかハッキリとはいえないけど」

 

 

鹿島「むむ」

 

 

電「……」

  

 

わるさめ「その前にあいつに異性間の愛情がインストされてない恐れもあるけどね。絶対独身主義者だろ」

 

 

明石「なー、そろそろ帰らないか。俺は鎮守府に帰ってあのブラック艤装でやること大量にあるし」

 

 

鹿島「そうですね」

 

 

鹿島(こういう会話、電さんやわるさめさんから聞くとなんだか、本当に)

 

 

鹿島(……戦争がもうすぐ終わるって、そんな気がしてきますね)

 

 

初霜「あのー……」

 

 

わるさめ「お、はっつんが復活した」

 

 

初霜「私はファッションには疎いのですが、ああいうのを身に付けて提督に見せれば、提督の為になるのでしょうか?」

 

 

わるさめ「はっつん、お前、真面目だなー。なんか言葉にしづらいけど、やっぱりどこか普通じゃねっス……」

 

 

初霜「ええー……」


 

鹿島「初霜さん、はしたないので止めたほうがいいと思います。風紀とかそういうの私に一任されているので許可はできませんよー……」

 

 

鹿島「特にうちの鎮守府ではかなり罰則も厳しいです。痴情のもつれで鎮守府がバラされるケース、表に出てないだけで意外と多いですからね?」

 

 

電「初霜さん、そんな馬鹿げた真似したのなら秘書官は私に交代してもらうのです」

 

 

初霜「す、すみません。秘書官の座は渡したくないです!」

 

 

電「なら風紀を守れ、なのです」

 

 

明石「そもそも兄さんならその手のことよりさ、ただ単に真面目に仕事するほうが喜ぶと思うんだけど」

 

 

初霜「……、……」

 

 

初霜「それもそうですね!」

 

 

【●ω●:わるさめちゃんお里ぶらり旅、帰り道にて柴又へ】

 

 

1

 

 

電「わるさめさん、なぜここで降りたのか理由を簡潔に述べるのです」


 

明石「ここは……柴又だよな?」

 

 

初霜「像がありますね」

 

 

わるさめ「お腹減ったから晩御飯食べてこーよ、と思ってさ。間宮さんのご飯も美味しいけど、せっかくなんだから外で食べていこうよ、みたいな」

 

 

鹿島「柴又、ですか。ここは確か」

 

 

鹿島「甲大将のところの江風さんのお里でしたね。ちょうど江風さんの実家が食堂を経営なされているとか」

 

 

わるさめ「江風かー。面白そうな土産話が出来そう。そこに行こう」

 

 

明石「ここ確か……」

 

 

わるさめ「どした?」

 

 

明石「俺の同級生に山風さんいたじゃん。あの子もここ出身だった気がする。そんなことを思い出しただけ」

 

 

わるさめ「山風たんもかー」

 

 

電「どーでもいいのです。ご飯食べるのならさっさと食べて帰るのです」

 

 

初霜「特定しました。甲大将と山風さんのブログで紹介されていますね。歩いて15分くらいの場所にあります」

 

 

わるさめ「今日は色々と写真取ったし、わるさめちゃんもブログろっかなあ」

 

 

鹿島「わるさめさん、今日のことは極秘任務ですのでお願いしますよ。提督にも、わるさめさんには知られないように、と」

 

 

わるさめ「さすがにそこは分かってる。要はレッちゃん達に会ったことがバレなきゃいいんでしょー?」

 


電「……」

 

 

わるさめ「睨みなさるな。意外とばれないもんだから。今まで私達が艦娘って気付かれてもないじゃん。大丈夫だよ」

 

 

わるさめ「れっつら☆ごー」

 

 

2

 

 

わるさめ「お店の前に江風改二の像があるんですがw」

 

 

電「お前の里のお店も似たようなもんだったじゃねーですか……」


 

明石「さっさと中に入ろうぜ。帰ってアッキーに会ってやらないと」

 

 

店主「らっしゃい!」

 

 

鹿島「江風さんの写真がまるでアルバムのごとく……あ、甲大将と木曾さんと山風さんの写真もありますね」

 

 

初霜「甲大将の第1艦隊は生きた英雄ですからね」

 


電「すぐに出ましょう。そこの写真、乙中将です。うちの秘書官が危け、」

 

 

店主「……初霜ちゃんか!」

 

 

初霜「え、え?」

 


店主「その鉢巻きで分かった。乙中将が前に来た時に君の話をしていってさ写メを見せてくれたから覚えてる」

 

 

店主「そっちは鹿島ちゃんと電ちゃんと春雨ちゃん?」

 

 

店主「おーい! ミッちゃん! こっちに明石君がいるぞ! 山風ちゃんの言ってた例の坊主だ!」

 

 

電「即座に顔バレじゃねーですか! つーか初霜さんの鉢巻きのせいなのです!」

 


初霜「これは寝る時やお風呂の時以外は外せないんです。魂の象徴ですから」キリッ

 

 

店主「まあまあ、とりあえず座ってくれ。味は保証するぞ」


 

わるさめ「ばれたものは仕方ないから、居座ろう」

 

 

電「嫌な予感が……」

 

 

初霜「明石君があの男の人にさらわれてしまったのですが……私は釜揚げうどんをお願いします」

 


店主「はいよ。これお茶ねー」

 

 

店主「あー、あの人は山風ちゃんの親父さんな。山風ちゃんが秋月ちゃんと明石君の話ばっかしているみたいで。親の勘で明石君とはただならぬ仲だと思ってるみたいだ。あれだよ。男同士の話をするんだろ」

 

 

わるさめ「面白そう。あることないことアッシーのフォローしてくる!」

 

 

電「思うような関係ではないと思うのです……私は天丼でお願いします」

 

 

鹿島「初の男性適性者ですし、私達でも明石君には興味を持ちますからね。あ、私は海鮮丼お願いします」

 

 

わるさめ「でも親父さんのあの顔は娘の彼氏を見定めるような顔だぞ。山風たんは一体どんな話をしたのか。あ、私は親子丼を頼む」

 

 

店主「あいよ。ちょっと待っててな」

 

 

電「フランクな人ですね……」

 

 

初霜「見習いたいものです」

 

 

電「そういえば、大本営で海の傷痕が興味深いことをいっていましたね」

 

 

電「こちらのランクに当て嵌めて、対深海棲艦海軍の『ブチ殺したいランク』を発表していました」

 

 

鹿島「……どういうことです?」

 

 

初霜「想に関連することでしょうか?」

 

 

電「『Rank:AA:丙少将』、『Rank:AAA:春雨』、『Rank:S:チューキ』】、『Rank:SS:電』、『Rank:SSS:明石君』みたいです」

 

 

電「丙少将は単純に殺せば影響力が高いですからね。丙の鎮守府は絆、全員生還教連中なので教祖が死ねば発狂不可避です。海の傷痕からしたら、丙の命はいい撒き餌でしょう」

 

 

電「明石君には間違いなく、なにかありますね。私はそれが彼に適性が出た理由と繋がると見てます」

 

 

鹿島「チューキというのは中枢棲姫のことですよね。確かにあのような深海棲艦勢力の彼女の艤装には興味深い想がありそうですね」



鹿島「春雨さんはわるさめさんのことですよね。電さんはSS、明石君はSSSならば、うちの鎮守府は完全に標的とされています、ね……」

 

 

初霜「しかし、海の傷痕が興味を持っている標的、それは作戦として応用可能なのでは?」

 

 

電「……ところで初霜さん、過去になにかありました? 駆逐によくある家庭環境やらなにやら、とか」

 

 

電「そういうの話すの嫌なのは分かりますから、無理に聞くわけではないですけど」

 

 

初霜「これといった不幸はありませんけど……私が兵士になった最初の理由は建造すると歩けるようになるからですね。少し足が悪くて歩行器に頼っていまして」

 

 

電「……海の傷痕は」

 

 

電「『Rank:Worst-Ever:初霜』と」

 

 

初霜・鹿島「!?」

 

 

電「あいつが知り得るなかで初霜さんを最も特別視しているということなので、気になったのです」

 

 

鹿島「……、……」

 

 

初霜「客観的に不思議だといわれたことはありますね。理解できないって乙中将からもそういわれたことは……」

 

 

電「私の目から見て初霜さんは兵士の中でも標準的で特別視する点はないのですが、不思議だとも思ったことは」

 

 

初霜「あ、私は5歳の頃に誘拐されまして。4年間、9歳になるまでその部屋で海を眺めてましたね。そこのこと、かな?」

 

 

鹿島「誘拐っ、だ、大事件じゃないですか!?」

 

 

電「……」

 

 

初霜「誘拐されていたことは知っていましたが、その犯人のおばあちゃんおじいちゃんは私になにかするわけでもなく、私を客人のようにもてなしてくれましたよ。逃げようと思えばいつでも出来ましたし」

 

 

鹿島「では、なぜ逃げなかったのです? 親御さんが心配……」

 

 

初霜「海が綺麗でして。その部屋に時計がなかったせいですね。気が付いたら4年も経っていました」

 

 

初霜「他のこと考えず、ただぼうっと雲海の景色を眺めていたんです。ご飯食べてお手洗い行ってもぼうっと海のことばかり考えていました」

 

 

電「頭おかしいのです……というか意味不明すぎて怖いのです」

 

 

鹿島「1つの景色だけを夢中で4年間も眺め続けられるのはすごいですね。それも誘拐されている身なのに……」

 

 

鹿島「初霜さん、不思議っ子だったんですね……」

 

 

電「苦でなければ司令官さんとお話してみるのをオススメするのです。あの人、気になっていると思うので」

 

 

初霜「人からすれば退屈な話だと思いますが……でも、電さんにも分かりませんか。あの提督をずっと眺める日々に幸せを感じたりは?」

 

 

電「……」



初霜「少し悩みましたね」



電「……うるさいのです」ムスッ



電「私もお花を眺めるのは好きですけど、それだけに4年はねーのです」

 

 

初霜「今思えば……」

 

 

初霜「恋、なのかもしれません」

 

 

鹿島「海に、ですか?」

 

 

初霜「人に恋をした試しはないのですが、知識としてはあります。本当に海のことばかり考えていたので……」

 

 

電「……お前、なにか隠してねーですか?」

 

 

電「例えば司令官さんのケース。一笑に付されるから深海で妖精を見たのを胸に秘めていたように、初霜さんも海でなにかを見たとかは」

 

 

初霜「特にないと思います。深海棲艦すらいない海でしたよ?」


 

電「思います、ですか。帰ったら司令官さんに全てお話するように。海の傷痕が初霜さんの名を挙げた以上、そこから司令官さんはなにか重要な情報を見出だすかもしれません」

 

 

初霜「了解です」

 

 

初霜「あ、私は幽霊とか信じませんけど、割と霊媒体質です。そのせいかわかりませんけど、妖精可視の才能もありましたよ」キリッ

 

 

鹿島「自ら霊媒体質だというのに幽霊を信じないのですね……」

 

 

電「私も申し訳程度に妖精可視の才能ありますが、妖精は妖精というだけあってメルヘンチックで幽霊みたいなイメージはないのです」

 

 

初霜「ですね」

 

 

電「せっかくなので江風さんのことも聞いてみるのです。どうも深海妖精が見える連中は選出されている、と海の傷痕がいっていましたし」


 

鹿島「それは気になりますね……」

 

 

……………

 

……………

 

……………

 

 

店主「ま、こんなもんか」

 

 

鹿島「江風さん、そんなに素行に問題がおありだったんですか……」

 

 

店主「基本、目を離せばどこかに消えてる。15そこらの一人娘が何日も行方知らずになる親の身にもなって欲しいもんだ……」

 

 

鹿島「親の心子知らず、というやつでしょうかね……」

 

 

店主「うちの娘は頭が残念でよー。どんな危険な目に遭ってもなんとか出来るって思ってるみたいだ。どんだけ怒っても直らねえんだよな……」

 

 

店主「ふらりと帰ってきた時に江風艤装の適性がなにやらって話を持ちかけてきたんだわ。どこにいたかもわかんねえけど、今の甲大将と木曾さんか。連れてきてくれて」

 

 

店主「ガッコも行かねえで周りに迷惑かける風来坊やらせるくらいなら、兵士になっちまったほうがこいつの腐った性格も直るんじゃねえかって。思い立ったが吉日みたいなもんで許可出した」

 

 

鹿島「それで戦争に一人娘を?」


 

店主「要は深海棲艦と戦っている場所にいるってことだろ?」

 

 

電「いや、まあ、そうなのですが……突っ込むの止めておくのです……」

 


初霜「でも今は甲大将の第1艦隊所属ですからね。対深海棲艦海軍の兵隊といわれ、パッと思い浮かぶ人達ですし、立派な娘さんなのでは……」

 


店主「いや、甲大将はひとかどの人物だとは思ってるが、あいつはどうなのかね……破天荒なところがあったが、弱虫なのは変わった気がしねえかな」

 

 

店主「ま、あいつの人生だ。好きにやるといい。俺もそうしてきたしな。親として応援はするよ?」

 

 

店主「贅沢言えば孫の顔も見てえけど、職場的にはそういうのあんまりねえみたいだし、うちの娘は男捕まえてくるような性格でもねえからなあ……」

 

 

わるさめ「おっちゃん!」



店主「ん?」

 

 

わるさめ「あっちにいる明石君なんか婿にどうよ。あいつさー、戦場でさ、同じ鎮守府の私よりも先に江風の治療をしやがったからさ。なんか気がある可能性」

 

 

店主「え、マジ? なら明石君とお話してこよっかなー。というかあの子、歴史初の男性兵士だろ。触ったら御利益ねえかな」

 

 

わるさめ「あ、おっちゃん、店内って写真撮ってもいい?」

 

 

店内「構わねーけど、いい感じで頼むぞー」

 

 

わるさめ「まっかせろ。飯はすげえ美味かったし、艦娘効果でもっと有名にしてやるよー!」

 

 

電「お前やりたい放題ですね……」



わるさめ「聞いてよ。向こうにいるおっちゃん山風たんのパパみたいでさ、明石君の苦労話を聞いて、なんだか気に入ったみたい。山風たんとの外堀が埋まってる。あ、江風のパパとも仲が良さそう。明石君人気だねー」

 

 

わるさめ「キャハハ(*≧∀≦*)」

 

 

電(明石君、山風さんと江風さんの父親に品定めされて小さくなってますが……)

 

 

初霜(あ、明石君お酒を飲まされてます……断れなさそうなあの空気が……)

 

 

鹿島(明石君はトラブル体質ですね……)

 

 

わるさめ「ネタはたくさん出来たし、わるさめちゃんblog書こっと!」

 

 

わるさめ「閲覧数を荒稼ぐために知り合いにURLを送りまくるぞー!」


 

【8ワ●:お疲れ様でした。もう海に帰って来ないように。どうかお元気で】

 


1

 

 

秋雲「ども、元帥拉致って協力してもらってたんだけど、忙しくてあまり滞在できなかったんだよねえ。提督さんのお陰で捗るよー」


 

提督「いえいえ、なかなか興味深い実験です。しかし、操縦妖精から深海妖精の輪廻時間ってばらつきがあるんですね」

 

 

秋雲「そうだねー。ざっぱにいって表層、中深層、漸深層、深海層、超深海層で時間が変わってくるのかも? 提督さんが試したのは中深層だと思う。まだデータは取れてないんだけど」

 

 

提督「深海棲艦の建造時間というのは実に興味深く……このデータ実に面白いです」


 

秋雲「そそ。艤装がかなり深く関係しているみたいだね。艦娘歴の長い、まあ、艤装を長時間身に付けている艦娘の艤装が、姫や鬼の建造の核にされていると思われ、深海妖精というのは想事態がミックスされているのか」

 

 

秋雲「海外艦の想を深海棲艦に入れている可能性もあるみたい。まだまだ深海妖精発見されて日は経ってないけど、海の傷痕と丙少将との会話もかなりの情報だねえ。近い内に全貌が暴けそーだよ」

 

 

秋雲「各所から研究者が集まってきてるみたいだねー。日本は深海妖精の取扱いが一部許可されることもあって、ホットスポットだから」



提督「皆さん熱心ですね」

 

 

秋雲「ま、人間なんて雪野原に足跡をつけたがる生き物で、研究者なんて人種はそれが人一倍強いもんだよ」

 

 

秋雲「秋雲から見たら青山准将が発見した雪野原に足跡残そうとしている感じ。それが楽しいんだろうね」

 

 

提督「……海の傷痕を倒した後で海の取り合いになって新たな戦争が起こらなければいいのですが。この研究も、人類の役に立つとは思うのですが」

 

 

秋雲「必ず役に立つよー。なんたって現代科学を越えた超技術の解明だもん」

 

 

提督「発明や発見は必ずといってもいいほど兵器技術に転用されますからね……」

 

 

秋雲「ま、仕方ないことよね。かくいう秋雲も発明も含めて創作好きだし」

 

 

提督「人の生活を便利にする発明、多くの命を救う発明も踏まえて、誰の命も奪わず貢献する発明こそ、究極の発明だと自分は」

 

 

提督「ところで最初に司法を考えたのって誰でしょうね。人類の最高発明です」

 

 

秋雲「なかなかお花畑なこというねえお兄さんは。ま、だから電ちゃんとは相性がいいのかもねえ……」

 

 

秋雲「ところでアッシーとアッキーは元気? 秋雲は1つ上の先輩でよろしくやっていたんだけど、あの二人は色々と癖があってさ、心配で」

 

 

提督「普通に元気ですね。驚いたのですが、秋月さんも明石君もぷらずまさんと仲良くやれているみたいで」

 

 

提督「秋月さんはここに来る前まで一緒でしたね。先に帰らせましたけど」

 

 

秋雲「そっか。初陣が中枢棲姫勢力とかなんかトラウマとか負ってないか心配になってさ……」

 

 

秋雲「ま、大丈夫か。タフな子達だし」

 

 

提督「ですね。秋雲さんはなぜここに? 近くに甲大将の鎮守府ありますし、そこに?」

 

 

秋雲「いんや、秋雲は正式には所属してないよ。簡易な予備兵力として各地に飛ばされてた。便利屋みたいなもんだね」

 


秋雲「ここからもう少し先にある研究所で深海棲艦建造の研究するっていうから、そのためかなぁ。内陸では出来ないし、その研究所とは近くに甲大将の鎮守府もあるし。割かし安全だけど、秋雲は向こうになにかあればここから抜錨して海域を保守しろっていわれててさぁ」

 

 

秋雲「向こうには甲大将のところの兵力も常駐してるから大丈夫。深海棲艦が活動始める瞬間にほふる」

 

 

提督「甲大将のところの護衛もあるなら心配はなにもなさそうですね」

 

 

秋雲「ま、皆さん海の傷痕との決戦前に必ずこの戦いの全貌を暴くって意気込んでるし、後はお任せして准将さんはそろそろ大人しくしていたほうがいいかもね。すごく拘束されたでしょ?」

 

 

提督「……ええ」

 

 

秋雲「お昼過ぎに来て、それから皆から拍手で迎えられて、ハグされまくってたもんねえ。あちこちで意思疏通で連れ回されて、もう夜になっちゃったし。明日もまだ滞在と」

 

 

秋雲「もう見えてるんだよね。暁の水平線に達した瞬間、元帥のおじいちゃん泣くねえ」

 

 

秋雲「必ずスケッチするよー」

 

 

提督「趣味が悪い……」

 

 

秋雲「うん? 准将、後ろからすんごい怖い顔したお二人が……」

 


提督「はい?」クルッ

 

 

 

江風・山風「見つけた……!」


 

2

 

 

江風「おいおいおい! お前さ、鎮守府(闇)のやつらに一体全体なにさせていやがる! なにが狙いで江風の実家に突撃してンの!?」


 

江風「おまけに変な話してるし! 江風の婿とかなにがどうなってンの!? このヤロー、演習に向けての精神攻撃か!?」キッ

 

 

山風「お前、アッシーの提督だろ……。アッシーが私のお父さんとすごく仲良くなってるのはなぜだ……!」キッ

 

 

提督「知りませんけど。明石君が、ですか?」

 

 

秋雲「山風ちゃんのそのスマホの画面なにー?」

 

 

山風「わるさめさんが、ブログ始めたとかいって江風に送ってきた……」

 

 

江風「『わるさめちゃんお里ぶらり旅、その帰り道柴又へ』だ!」

 


江風「次は山城のヤンキー伝説跡地に向かうとか予告してンだけど! 突撃艦娘のプライベート暴露行軍みたいな真似を止めさせろ!」

 


提督「……失礼。見せてください」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「そんな馬鹿な!」

 

 

提督(鹿島さん、初霜さん、それに写真からはみ出して顔は写ってないけど、この髪と、服装と、背丈のサイズは……電さんか)

 

 

提督(電さん、寄り道して? どんな神がかりな偶然で他の面子と鉢合わせたんだ。それは置いておいても……)



提督(鹿島さんと明石君、極秘任務と、あれほど。特にわるさめさんには知られないように、とも)

 

 

提督(電さんなら、鹿島さんと明石君を見て職場恋愛のことで問い詰めるはず。二人の物言いから、何かしらの任務で内陸に来たとは勘づいているかも。あの子なら強引に聞き出したまで、あり得る)

 

 

提督(わるさめさんはわるさめさんで鋭いところがあるし……)

 

 

提督(初霜さんは真面目なだけじゃないのかな。あの子のこと、分からなくなってきた)

 

 

提督「……、……」

 

 

提督(極秘任務のことを知られて、いや、わるさめさんが中枢棲姫勢力幹部に会ったまである。開き直って一緒に行動しているのか?)

 

 

江風・山風「……」キッ

 

 

提督「大変申し訳ありません。今からすぐにこの大馬鹿どもに連絡して」

 

 

提督「鬼と化します。電話越しから最大限ダメージを与えるために、ねちねち嫌味いっときます」

 

 

秋雲「准将さん、顔が怖いよ……」

 

 

3

 

 

わるさめ「帰ろー帰ろー、お家へー、帰ろー♪ 甘酒うまーい♪」

 

 

明石「ちょっと待て。にっ、に、兄さんっ、から連、絡、来た」

 

 

鹿島「明石君、声が震えてますよ」

 

 

明石「鹿島さん、こそ、顔が真っ青、です、けど……」

 

 

わるさめ「……あれ」

 

 

初霜「嫌な、予感しか」

 

 

電「しないのです……」

 

 

明石「……もしもし、兄さんすか」

 

 

提督「知られてはいけない極秘任務のはずです。内容から分かりますよね?」



提督「わるさめさんのブログは見ました。ずいぶんと楽しそうですね?」

 

 

明石「……」ダラダラ

 

 

提督「聞けばアカデミー時代から山風さんとは仲良くしていたみたいですねえ。実に羨ましい。自分はそのような青春とは無縁の学生時代でしたので」

 

 

明石「い、いやいや、とんでも、ない……です」

 

 

提督「鎮守府(闇)では鹿島さんとも仲良くなったようで、これまたずいぶんと距離が縮みましたね」

 

 

提督「そしてこのお店では江風さんとの外堀を埋めたみたいで、明石君は硬派だと思っていたのですが」

 

 

提督「どこかに行けば現地妻を作っているご様子。嫁探しかな。己は……」

 

 

 





 

 

 

 




 

俺の空か。


 

 

提督「明石さんと秋月さんにも報告してキツく絞ってもらいますから覚悟しといてくださいね」

 

 

明石「……」パタリ

 

 

鹿島「明石君が倒れて……」

 

 

鹿島「電話を……」

 

 

鹿島「あの、提督さんですか。鹿島、です。あの、その、これには事情がありましてですね……」

 

 

提督「いやいや、鹿島さん。あなたが塞ぎ込まないか心配でした。お元気そうでなによりです」

 

 

提督「中枢棲姫勢力は人といってもいいほどの心があります。鹿島さんの過去の事件は、言うなればこの戦争における、人と人との殺し合いです。だからあなたのこと心配していたんです。何かしらプラスになれば、とお頼みしたのですけど」

 

 

鹿島「は、はい……」

 

 

提督「わるさめさんのブログに写るあなたはずいぶんと楽しそうですから」

 

 

提督「ところで鹿島さん」

 

 

鹿島「……はい」

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





あなたにとって鹿島艦隊の悲劇ってなんなんですかねえ……。

 

 

 

 

 

 

鹿島「……」パタリ

 

 

初霜「鹿島さんが倒れて……」

 

 

初霜「あの、提督ですか。初霜です」

 

 

提督「初霜さんですね。鹿島さんと明石君に極秘任務を頼んだこと、気づいておられますか?」

 

 

初霜「それは、はい」

 

 

提督「ではわるさめさんと接触させると、どんな方向に転がるかは分かってますよね。二人に任せた任務は本当に人に知られると不味い内容なんですよ。わるさめさんと絡ませると、最悪、人死にが出てもおかしくありません」

 

 

提督「向こうは武装してきたのでは?」

 

 

初霜「……は、い」

 

 

提督「なのに、ですか。すごい状況判断ですね。理解が及びません。乙中将の顔にも泥を塗りかねない行為です。あなたの評価は見直します」

 

 

初霜「あ……あ、あ」

 

 

提督「そういえば、海の傷痕はあなたのことを最も殺したいと仰っていましたよ」

 


初霜「『Rank:Worst-Ever』です、よね。電さんから、聞きました」

 


提督「へえ。それを知ってなお、それほどの余裕の態度は、そういうことですか。今から大本営へ行ってください。要人達がいますので」

 

 

初霜「な、なぜです?」

 

 

 

 

 

 

 

 







 

海の傷痕を倒す方法を知っているからそんなに余裕なんでしょう?


 

 

提督「ま、秘書官はおろしますね」

 

 

初霜「……」パタリ

 

 

 

わるさめ「おい、次は電の番だゾ☆」

 

 

電「私はここにはいなかった。いいですね?」

 

 

わるさめ「あの司令官さんに、そんなの通用すると思う?」

 

 

電「……こ、怖いのです」

 

 

電「……司令官さん、これには事情がありまして。鹿島さんと明石君の任務は知っていますけど、その内容のお話までは聞いていませんので安心……」

 

 

提督「いえいえ、電さんに限っては怒っておりませんよ。出会った頃と比べてかなり元気になった様子ですから。あなたが元気になることで幸せになる人はたくさんいます」

 


提督「それにわるさめさんとは仲が悪かったはずです。お二人の距離が縮んだのならば、今後の任務でも一緒に組ませやすくなりますしね」

 

 

提督「仲が良くなったんですよね?」

 

 

電「は、はい、なのです! それはもう親友といっても構わないのです! 私にも意外と気分屋さんなところが……」

 

 

提督「それは吉報ですが、予想外ですね。まさか電さんが、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



そっち側の住人だったなんて。

 

 

 

提督「今後に作戦を組む時はわるさめさんと同列視させてもらいますね。気分で任務やられては困りますので」

 

 

電「……」パタリ

 

 

わるさめ「死屍累々じゃん。こ、怖いなー……」

 

 

わるさめ「司令官さん、わるさめちゃんだよ。大丈夫だからねー。司令官さんが心配するような事態はなにも……」

 

 

提督「はい。なら安心しました。ところでお母様には会ってきましたか?」

 

 

わるさめ「その件だけど、本当にありがとう。色々してくれたんだよね」

 

 

提督「お気になさらず。あなたの目的が達成されてなによりですよ。あなたが自分に力を貸してくれていたのは、普通の女の子に戻るため、でしたから」

 

 

提督「自分もあなたとの約束が守れて良かったです」

 

 

わるさめ「あ、あのね、そのことなんだけど、わるさめちゃんまた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 

 

お疲れ様でした。もう海へ帰って来ないように。どうかお元気で。


 

提督「それではさようなら」

 

 

わるさめ「……」パタリ

 

 

 

明石「……、……く」ムクリ

 

 

明石「全滅じゃねーか……」

 

 

明石「鎮守府にすぐに帰って名誉挽回の仕事をしねえと……」

 

 

明石「また、電話……これは」

 

 

明石「もし、もし……」

 

 

山風「アッシー、聞こえるか……?」

 

 

明石「聞こえます……」

 

 

山風「どうして私のお父さんと肩を組んで仲良くしているの……?」

 

 

山風「しかも、あることないこと書いてるし。私のお父さんだけに留まらず、江風のお父さんとも、婿がどうのこうの……」

 


山風「いい加減にしろ……」



山風「出会った時からお前に好意を抱いたことは1度足りとも、ありはしない……」

 

 

明石「い、いや、マジのお話じゃないから。お父さん達のおちゃめみたいなもので……」

 

 

山風「好きでもない人からこういうことされるの、嫌でしょ……?」

 

 

明石「……」ゴバッ

 

 

山風「なんでお前がアッキーみたいないい子の兄なのか分からない……」

 

 

明石「」パタリ

 

 

………………

 

………………

 

………………

 

 

提督「龍驤さんですか?」

 

 

龍驤「どしたー?」

 

 

提督「今からいう地点に電さんとわるさめさんと初霜さんと鹿島さんと明石君がいますので、瑞鳳さんと榛名さんを迎えに行かせてください。あの馬鹿どもをこれ以上、動かせるとなにするか分かりませんので」

 

 

龍驤「キレてるね……まあ、うちもわるさめさんから送られてきたURL踏んだからブログは見たよ。なにしとん。電もおるやろ、これ」



提督「帰ってきたら龍驤さんからもキツく叱ってください。自分を出汁にしても構いませんので」

 

 

龍驤「あれはさすがに自由にやりすぎやね。お灸据えてやらんと」

 

 

提督「すみません。よろしくお願いしますね」

 


【9ワ●:工作艦艤装もう一つあれば。あ、かもーがネギ背負ってきた】

 

 

1

 

 

明石さん「どもども、明石さんでっす。皆さんご無沙汰しておりまっす♪」

 

 

ぷらずま「アアア――――!!」ゲシゲシ

 

 

ぷらずま「私としたことがなんという体たらく! あのわるさめの空気に飲まれてダボと化してっ! フレデリカに唆された時以来の失態を……!」

 

 

雷「明石さん、今は見ての通り電の発狂が止まらないのよ……」

 

 

明石さん「あー、提督さんかなり怒ってたみたいですねー……私にも弟子を絞ってくれって頼まれましたし」

 

 

瑞鳳「迎えに行った時はもっと酷かったですよ……」

 

 

瑞鳳「電ちゃんはとりつかれたかのように花占いしてて。明石君は血ヘドを吐き続けていたし、鹿島さんとか膝のお山に顔を埋めて石のように動かず、はっつんはトイレでずっと泣いてて、わるさめちゃんは路地裏で壊れたラジオみたいにブツブツなんかいってたよ……」

 

 

雷「電以外の3人はまだ回復せずに部屋にこもってるし……」

 

 

苺みるく「くぅーん」

 

 

ぷらずま「苺みるくさんからも、同情の眼差しで見られるこの始末……しかし、この失態を挽回するほどの……」

 

 

明石さん「というか犬なんて前来た時にはいなかったような。かなり自由な王国だとは聞いていましたが……」

 

 

龍驤「おはようさーん、明石さんもう来とったんか」

 

 

明石さん「龍驤さん、前に来た時はすれ違い、というか、相変わらずその提督制服似合わないですね……」

 


龍驤「やかまし。でも、ほんまに久し振りやなあ。元帥ちゃんとこにおった時以来やね」

 

 

龍驤「色々とこっちの提督から頼まれてるみたいで。ま、電はとりあえず放置でええよ。下手に触って爆発ても敵わんしさあ……」

 

 

雷「そうね。この電は落ち着くまで待つしか……」

 

 

瑞鳳「明石さん、なんとかなりませんか。はっつんもわるさめさんも鹿島さんも明石君も落ち込みようが凄まじく」

 

 

明石さん「弟子に関してはお任せください。死んでさえいなければ尻を叩けばスイッチは入るはずですから」

 

 

明石さん「大淀ちゃんから流してもらった映像的に電ちゃんも割となんとかなる程度には丸くなったと思うので」

 

 

明石さん「電ちゃん、司令官さんが帰ってくるのは4日後になります。甲大将と丙少将との演習はご存じですよね」

 

 

ぷらずま「●ワ●」ハ?

 

 

龍驤「爆発するで……」

 


明石さん「勝てると思いますか?」

 

 

明石さん「いやー、今のままだと明石さんは無理だと思いますね」

 

 

ぷらずま「あり得ません。あの司令官さんは思考そのものが甲や丙よりも高性能なのです」

 

 

明石さん「その思考が機能するために必要なものが足りていませんよね。乙中将の演習も見せてもらいましたけど」

 

 

明石さん「あなた達の尖った性格を考慮して選択肢の窮屈な作戦を立てていましたよね。本来、兵士が司令官の指揮の組み立てを妨害させてはいかんとです。特にあなた達は自分達の意思でこの鎮守府に、あの提督さんのもとにいるわけですからね」

 

 

明石さん「あの人の司令官としての才覚を殺しているのは兵士のほうです。電ちゃんもわるさめちゃんも特殊性能なければ明石さん並のザコですからね」

 

 

明石さん「特に甲大将の第1艦隊には電ちゃんと単艦でやりあえると専らの木曾さんいますし……絶対に対策してきますからね?」

 

 

ぷらずま「……」

 

 

明石さん「甘ったれている部分があるのでは。司令官さんが帰ってくるまでにあの人のお仕事を減らしておくのが、せめてもの挽回だと思います♪」

 

 

明石さん「信じて頼るだけなら、あなたはまだまだ子供ですよっと」

 

 

ぷらずま「あのダボメガネ、要らんこと吹き込みやがりましたね……」ジャキン

 

 

ぷらずま「わるさめさん、起きるのです!」

 

 

ドオオン!

 

 

龍驤「わるさめの部屋に砲弾が……」

 

 

瑞鳳「ちょ、確かわるさめちゃんは解体して普通の女の子なんじゃ」

 

 

わるさめ「ぷらずま、どったの。わるさめちゃん達はもうお払い箱なんで、荷物を片付けてチューキちゃんのところに遊びにでも……」


 

ぷらずま「お前また裏切る気ですか! 気をしっかり持つのです!」

 

 

ぷらずま「今から防空棲姫と潜水棲姫を捕まえて来るので、お前はきっちりここの留守を預かっておくのです!」

 

 

龍驤「は? 防空棲姫?」

 

 

ぷらずま「かなりの仕事になるので、龍驤さんと瑞鳳さんと瑞鶴さんの空母組は出動なのです。雷お姉ちゃんも、阿武隈さんと金剛さんも」

 

 

瑞鳳「防空棲姫とかホント無理です」

 

 

雷「気軽に捕まえるとかいえるイージーなやつではないわね」

 

 

ぷらずま「海の傷痕と戦いを控えた今、無理とかいってるんじゃねーのです!」

 

 

龍驤「ぷらずまいるなら倒せなくはないかもやけど、何のために?」

 

 

ぷらずま「わるさめさんの建造のための素材集めなのです。わるさめさんの建造は許可されています。准将になり、深海妖精と意思疏通が出来る司令官の立ち会いのもとですが」

 

 

ぷらずま「あいつのギミックをわるさめさんに取り入れます。そのギミックに必要なワ級と、わるさめさんの希望による潜水棲姫も」

 


龍驤「マジかー……」

 

 

雷「でも、かなりの戦力になりそうよね」

 

 

瑞鳳「そういうことなら私もいいですけど。確かに海の傷痕を倒せば海から深海棲艦が消える。今は過去最大にがんばらなきゃダメなところだし」

 

 

瑞鳳「今一度気合いを引き直す必要はありますね。あまり怠けてもいられないです」

 

 

龍驤「それで防空棲姫と……瑞鳳もここに来て大分無茶するように……」

 

 

瑞鳳「やれることをやろうとするだけでも、精進が必要なんです。特に度胸面は鍛えておかないとここの鎮守府には適応できないし……」

 

 

龍驤「一理あるな。でもうちは執務あるからパス……やけど、敵が敵だけに行こかな。その代わり旗艦はうちかアブーな。電だけはあかん」

 

 

ぷらずま「私に旗艦適性がねーのは知っています。くだらねー指示を出さなければ誰でもいいのです」

 

 

瑞鳳「でも防空棲姫ってどこにいるんですかね。そんなにいる深海棲艦ではないですし、目撃情報も最近は聞きませんけど……」

 

 

龍驤「潜水棲姫とワ級はまあ、探せばいそうやけど、確かに防空棲姫となると、厳しいかも」

 

 

明石さん「なければ作ればいいというのが明石さん的な発想です」

 

 

ぷらずま「そ・れ・な・の・で・す」

 

 

龍驤「まさか……」

 

 

雷「確かに深海棲艦を建造するための素材もあって、深海妖精もいて、深海妖精と意思疏通が出来る初霜さんも」

 

 

瑞鳳「確かに防空棲姫を単体で作れば艦隊組んでいるであろう野良よりも危険は格段に減る、かな?」

 

 

瑞鳳「問題は防空棲姫を建造するに当たっての資材に見当が……」

 

 

ぷらずま「ところがどっこい海の傷痕からのお墨付き、見当をつける天才こそ私の司令官さんなのです」

 

 

ぷらずま「明石さんか龍驤さん、司令官さんと連絡を取って聞き出して欲しいのです。今の私は司令官さんと……と、と……!?」

 

 

雷「落ち着きなさい」チョップ

 

 

龍驤「潜水棲姫はとりあえず陽炎、不知火、秋月、響、暁が遠征に出てるから、帰ってきたら任務頼むかな」

 

 

ぷらずま「その面子なら念のために、鹵獲のためのゴーヤちゃんと覚醒した阿武隈さんを旗艦につけておくのです」

 

 

龍驤「でも提督が良いっていったらの話やからな。そんなこと、許可取れずにできんわ」



明石さん「あ、私はちょうど提督さんに聞きたいこと出来たんで私が連絡しておいても大丈夫ですか?」

 

 

龍驤「構わんでー」

 

 

卯月「おーい龍驤! ちょっと手伝えぴょん! うーちゃんとアブーだけじゃ手に負えないし!」

 

 

龍驤「ん、あそこは鹿島の部屋か?」

 

 

卯月「こいつずっとやけ酒しながらなんかブツブツいってるぴょん!」

 

 

龍驤「しゃーないなあ……」

 

 

瑞鳳「私はわるさめちゃんのところに行ってきますね。さっき見た感じ、あんな凹んでるところ初めて見ましたし……」

 

 

雷「電は大丈夫そうだし、私は明石君のところに行こうかしら」

 

 

明石さん「あー、私は初霜さんとお話したいことがあるので、彼女のところへ。雷ちゃん、弟子は私を出汁に使えば多分大丈夫です」


 

ぷらずま「それでは一旦解散なのです」

 

 

2

 

 

明石さん「失礼しまーす! 本日付で着任しました明石さんです!」

 

 

金剛「明石さん?」

 

 

榛名「お馴染みのほうですね!」

 

 

明石さん「はい、そうです。乙女の明石さんのほうです。これからよろしくお願いしますね。ところで……」

 

 

初霜「……」ポロポロ

 

 

金剛「はっつんがずっと泣き止まないデース……」

 

 

榛名「なにを喋りかけても反応してくれなくて。パジャマには着替えさせて、水分補給だけは……」

 

 

金剛「たまに提督って言葉を呟きはするけど、心ここにあらずネ……」

 

 

明石さん「胸が痛む光景ですね……」

 

 

明石さん「これは修理できるの提督さんだけかもしれませんね……」

 

 

榛名「提督にもかけましたが……」

 

 

金剛「忙しいのか出てはもらえないネ」

 

 

明石さん「初霜ちゃん、実は提督からあなたへのメッセージを預かっていまして……」

 

 

初霜「……」ポロポロ

 

 

明石さん「重症です。さすがに提督さんに報告してフォローしてもらいますか……」

 

 

明石さん「最悪、向こうにいる人達に片っ端から繋いで提督さんとコンタクト取るので、しばしお待ちを……」

 

 

金剛「よろしくお願いしマース!」

 

 

榛名「……さすがに見るに堪えませんから」

 

 

………………

 

………………

 

………………

 

 

明石さん「という訳でして。初霜ちゃん、あれからずっと泣き続けているみたいです。目は虚ろで、人形みたいに動きませんし、なにも食べていないみたいですし……」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「正直4名はかなりのことをやらかしてくれたのでキツくいったのですが、もう少し言葉を選ぶべきでしたかね……」

 

 

明石さん「まあ、野郎である弟子は直に復活するでしょう。あいつ凹みはしますが、立ち直りも早いですし」

 

 

明石さん「初霜ちゃんはまだ肉体年齢13歳の、実年齢15歳ですし、相当に心に来ている様子で……」

 

 

提督「子供のあやしかたには自信ないのですが、すみません、代わってもらえますか。下手すればその子は年単位でお人形になりかねません……」

 

 

明石さん「では耳にあてる感じで。はい、準備オーケーです」

 

 

提督「初霜さん、応答できますか?」

 

 

初霜「……」

 

 

初霜「提督、ですか……?」

 

 

金剛・榛名「!」

 

 

提督「はい。青山オープンザドアです。それで昨日のことですが……」

 

 

初霜「……っ、ごめん、なさい」ポロポロ

 

 

初霜「あの、私は確かに、鹿島さん達の任務が極秘であることも、わるさめさん達の好き勝手を、止めるどころか」

 

 

初霜「一緒になって……」

 

 

提督「実をいうとですね、二人に託した任務は誰かにバレたら、自分と鹿島さんと明石君の首が物理で飛ぶような内容です」


 

初霜「……」ポロポロ

 

 

提督「鹿島さんと明石君が自らわるさめさん達に接触したとは考えられず。でもわるさめさん達からなら鹿島さん達にちょっかいかけますし、初霜さんでは電さんとわるさめさんにブレーキかけるのは難しかったかもしれません」

 

 

初霜「ごめん、なさい」

 

 

提督「あの場では叱っただけです。過ぎたことは仕方ありません。前向きに物事を考えて動くべきです」

 


提督「もう怒ってはいません」

 

 

初霜「……」

 

 

提督「なので、いつまでも凹んでおらずにやるべきことをやってください」

 

 

提督「この戦いにおいて、あなたにはたくさんやるべきことがあります。丙甲連合艦隊に向けて。深海妖精が見えること。そして海の傷痕に眼をつけられていること。あなたはこの戦いにおいて、やらなければならないことがある」

 

 

提督「あなたは身体を治すために建造を受けましたが、それからもこの海に留まっているわけです」

 


提督「初霜さん、あなたは海を見た時、そして自分の足だけで歩けるようになった時、艤装を身につけ、海へと出撃した時、どんな気持ちでしたか?」

 

 

初霜「海は綺麗で、歩けたのは、夢のようで、出撃した時は、夢中でした……」

 

 

提督「そうそう。それに自分は関係ないです。あなた自身はあなた自身の理由によってここにいるのです。なぜならば、あなたは生きるためにそうしているのではなく」

 

 

提督「あなたが生きることをしているから、海にいるんです」

 

 

提督「成すべきことを成し遂げる覚悟を今一度、自己に問いかけてください」

 

 

提督「あ、もちろん自分は味方ですよ。先日の叱咤は、もう気になさらずに。叩き折れたのなら、自分としてはそれは意味のあることだとも」

 

 

提督「それからあなたはどうするのか。それはあなたの素質次第です」

 

 

提督「あなたをそんな風にしてしまうのは本意ではないのです。だから謝ります。ごめんなさい」

 

 

初霜「……提督」

 

 

初霜「は、慰めるの下手ですね」

 

 

提督「ですよねー……ほんとに自分はそういうの苦手みたいです。むしろ初霜さんに立ち直って欲しいので」

 

 

提督「なにをしたら、元気だしてもらえるのか教えて頂きたいくらいです」

 

 

提督「心からあなたのためになにかをすることが出来ると思います」

 

 

初霜「……て、では」

 

 

初霜「提督の秘書官……なんて」


 

提督「了解。よろしくお願いしますね。秘書官のあれは、口から出任せです。ちょっと今の時期に新しく仕事教えるのも面と、いえ、忙しくて」

 

 

提督「自分としてもやっぱり初霜さんがしっくり来ますし」

 

 

初霜「!」

 

 

初霜「そ、そうなのですか……?」

 

 

提督「はい」

 

 

初霜「えへへ……」

 

 

榛名(にやけ出しました……)

 

 

金剛「すごく嬉しそうデース……」

 

 

明石さん(なついてますねー……駆逐艦は本当に可愛いなあ……)

 

 

初霜「では提督、今から私はやるべきことをやりますので!」



初霜「留守の間はお任せを!」

 

 

提督「よろしくお願いします。あ、じゃあ鹿島さん達のこともなんとかしておいてくださいね」

 

 

初霜「あ、1つお願いがあるのですけど……」

 

 

提督「なんでしょう」

 

 

初霜「初霜じゃなくて、はっつんのほうでお願いします!」

 

 

提督「う、うーん……分かりました。でもさんはつけますね。はっつんさんで。ではよろしくお願いします」

 

 

初霜「任されました! 鉢巻き絞めて頑張ります!」

 

 

明石さん「それじゃ少し代わってくださいね。私も少しお話がありまして」

 

 

初霜「あ、お電話ありがとうございます。金剛さんも榛名さんも心配をお掛けしまして申し訳ありませんでした」

 

 

初霜「私はこの通り復活したので!」フンスッ

 

 

金剛「よかったデース!」ホッ

 

 

榛名「はい! 本当にどうなることかと」

 

 

 

……………

 

……………

 

……………

 

 

明石さん「防空棲姫は絞っても15パターンですかー……」

 

 

提督「基本的に強いとされていて数の少ない姫や鬼は、より艤装に情報を詰め込まれていなければ。ベースになる艤装が欠片ではなく、なるべく多くのパターンかと」

 

 

提督「明石艤装が最適かな、とは。こちらとしては明石艤装をまたすぐになんとかしてもらえるのなら、まあ、許可は出します。防空棲姫一点狙いはそれでも難しいと思いますけど……」

 

 

明石さん「望みは薄ですね。確かに明石艤装は30年以上の想が蓄積されてますけど、素材として使って新しく作るとなると月単位になりますから」

 

 

提督「防空棲姫ですよね。今、深海棲艦の研究部にいるので准将権力と得意な言い訳駆使してなんとか用意しておきます。なのでぷらずまさんに鎮守府全壊しかねない早まった真似は自重していただくようにお伝えください」

 

 

明石さん「さっすがお兄さん♪」

 

 

提督「止めてくださいよ……明石さんのほうが倍近く歳う、」

 

 

明石さん「はい?」


 

提督「明石さんみたいなお綺麗な女性から褒めれたらその気になってしまうじゃないですかやだー」

 

 

明石さん「もーう、お上手ですねー」

 

 

提督「あははは……そろそろ失礼しても?」

 

 

明石さん「はい、わるさめちゃんと鹿島ちゃんにも提督さんからの言葉としてあることないこといって修理しておくので、そういうことで!」

 

 

提督「お手柔らかに……」

 

 

提督「ですが、わるさめさんにはなにもいわなくていいです。帰ってきたら自分が直にお話します。なのでそれまで早まった真似だけはさせないようになんとか」

 

 

明石さん「はいはーい、了解です」



3

 

 

明石さん「うわ、私があんだけ仕事したのに、新たな改修希望装備が山のように各所から……皆さん装備は壊れたらまた作ればいいみたいな! その考え方が私の睡眠を削るんです!」

 

 

明石さん「ところでお前は重いですね。師匠が工廠まで運んであげましたから、ほら。さっさとお仕事を始めますよ」

 

 

明石「俺は、モテた試しなんかありませんよ……桃色人生なんて……夢の」

 

 

明石さん「はあ……山風ちゃんは弟子のこと嫌いなわけではありませんって。私から見れば十分ラブコメしてましたよ。刺されて死んでしまえ」

 

 

明石さん「バーナーを顔面に喰らえ♪」

 

 

明石「あっぢぃっ! なにしやがる! あんた本当にムチャクチャするな! 人の命をなんだと思ってんだクソババア!」

 

 

明石さん「もう一噴射喰らえ♪」

 

 

明石「ギャアアアア!」

 

 

明石さん「入渠してきて顔も洗って来なさい。明石艤装は私と弟子で24時間フル稼働させますので」

 

 

明石「ちょっと入渠してくる! 覚えてろよ! ボコボコにしてやる!」

 


明石さん「お前が私にケンカで勝てた試しはなっしんぐ。海では弟子のほうが強くても陸では明石さんのほうが強いんです。まあ、そんなケンカする元気があるのなら、妖精と意思疏通でもして私の仕事を少しでもスムーズにするよう、手伝いなさい」

 

 

明石さん「仕事サボってたら提督さんにまたキツく怒られますし、明石であるあなたはすぐに異動させられますからね。凹んでる暇あるなら仕事してくださいね♪」

 

 

明石「……ったよ、行き遅れのババアが……」

 

 

明石さん「おおっと手が滑って背負い投げ!」

 


明石「下はコンクリィィ!!」

 

 

明石さん「明石さん的にはお前みたいな男の子の教育は、少しくらいぶん殴ってやればいいってそう思います♪」

 

 

明石「少しってなんだっけ……辞書引いてこよ……」

 

 

明石さん「15分で。男のお風呂はそれくらいあれば余裕ですよね?」

 

 

明石「ったく。肩身が狭えなあ……」

 

 

4

 

 

明石さん(仕事の書類はここか……うっわ、汚い。もっときちっと整理しておくべきですね……)

 

 

明石さん(む、最優先のものだけは整然としてますね。この鎮守府の仕事関連か。龍驤さんからも頼まれてましたね。どれどれ……)

 

 

明石さん「この素体名は艦種ではなく本名ですね。ふむふむ、初霜ちゃんのデータ……」

 

 

明石さん「兵士志願の際の艤装適性データは、全ての艤装に適性が70%……ん、全ての艤装?」

 

 

明石さん「……、……?」

 

 

明石さん「海色の、適性?」

 

 

明石さん「これ机上の空想論では……今年に測ったデータでまだ適性があるのはひーふーみー……」

 

 

明石さん「12種類も!?」

 

 

明石さん「ここに運び込まれているのは……」ガサゴソ

 

 

明石さん「適性のある空き艤装ですか。ふむふむ、これは……!」

 

 

明石さん「菊月、大鯨、清霜、矢矧、瑞穂、春雨、葛城、ウォースパイト……大和まで!?」

 

 

明石さん「なぜ空母や戦艦ではなく、初霜艤装……あ、鉢巻きか……」

 

 

明石さん「これはもうあの子、艤装と結婚するために産まれてきたようなもの……!」

 

 

明石さん「出来ますよー! 艤装ならば適性さえあれば駆逐と評して艦載機発艦したり41cm砲までならなんとか形には!」キラ

 

 

明石さん「清霜ちゃん艤装を使って彼女の夢を今ここに!」キラキラ

 

 

明石さん「試作卯月艤装を越えるロマンが今ここに!」

 

 

明石さん「初霜ちゃんを捕まえてO☆HA☆NA☆SHIしないと!」

 

 

………………

 

………………

 

………………

 


明石「あれ、姉さんいないな……つか、散らかし過ぎだろ……」

 

 

明石「ん? ありゃ艤装か? なんであんなのがあるんだ……?」

 

 

明石「この書類は、今朝のか? なんだこれ……アダルティー初霜さんの」

 

 

明石「ハアアア! あの子、12種類の艤装適性あるのかよ!?」

 

 

明石「待て。こっちにも艤装付随の開発不可能装備も……」

 

 

明石「これは面白い。初霜さん、魔改造被験者の申し子じゃねえか。戦艦、空母の装備はつけられても演習までには使いこなせねえかもだし……」

 

 

明石「艤装を素質に応じていじって、スロット数を増強する辺りが無難かね。これはこれは……初霜艤装はあの子という素体によって最強になるな」

 

 

明石「俺の工作艦魂が燃えてきたアアアア!」

 

 

明石「電やわるさめを越えるデストロイヤーにしてやるよ!」キラ

 

 

明石「初霜さんに話つけてこねえと!」キラキラ

 

 

4

 

 

初霜「む、龍驤さん、これは提督の人選ミスです。ここのメンバーを卯月さんから暁さんに代えておきます」


 

龍驤「え、そうなん。確かにちょっち疑問に思ってたけど、うちの提督はなに考えとるか分からんし、そのままにしとくべきかと思ってたんやけど……」

 

 

初霜「あの人は仕事しながら頭では別のことを考えているから、よく凡ミスをするんです」

 

 

初霜「卯月さんは気分で跳ねたりして余計に燃料消費するので、素質が節約してナンボの遠征向けではないんです」

 

 

龍驤「なるる」

 

 

初霜「前にも疑問に思って聞いた時にそう仰られましたし、遠征面においては基本に忠実です。自分はゆとり世代らしく効率主義です、と」

 

 

龍驤「確かに頭は悪くないのにガッコの成績は下の上辺り。頭で別のこと考える癖のせいでガッコのテストに集中できんかったとかいうてたなあ……」

 

 

明石さん「効率主義者ですかー。その類の人って、それ一緒にやる必要あるのかよ? みたいにいってきません? 二人でやりたいのっていう気持ちに首かしげみたいな」

 

 

龍驤「正しくうちらの提督タイプやわ」

 

 

明石「ですよねー。ところで初霜ちゃん、俺がガンダムだってなりたくないですか?」

 

 

初霜「……?」

 


明石「大和になりたくないですか。宇宙戦艦のほうです。今すぐ一緒に七泊八日で工廠という名のビジホ、イスカンダルへ行きたくないですか?」

 

 

初霜「よく分かりませんが、嫌な予感しかしないのでお断りします」キリッ

 


明石さん「ええー、それはあかんとです。海色の適性をもて余すなんてとんでもない国家予算規模の損害ですよ。初霜艤装と清霜艤装をベースに艦載機とか戦艦砲とか積みまっしょい♪」

 

 

初霜「あのー、演習まで2週間を切っているんですけど……変に艤装弄られたら私、演習で戦えなくなるかもしれませんし、その後には最終決戦も」

 

 

明石さん「その通りだ。姉さんの発想は毒にも薬にもなる。あの卯月艤装の完成度が物語ってんだろ」

 

 

明石さん「改良。艤装を馴染ませるための魔解像に収めてスロット数増加と、初霜さん用の装備を作る。近代化改修と単純なパフォーマンス上昇でいいだろ。初霜さんは卯月さんと違って素質自体は並みなんだから、奇をてらってもなあ……」

 


初霜「よく分かりませんが重ねてお断りします」キリッ

 

 

龍驤「そういえば提督からも、初霜さんは魔改造するべきっていってたで。その方向性は練巡の鹿島にデータ取ってもらってから、鹿島と初霜と工作艦の二人で話し合って決めれば、と」

 

 

初霜「提督の希望となれば話は完全に別です。私は魔の世界へとオープンザドアします」キリッ

 

 

龍驤「そか……」


 

明石さん「うーん、弟子のいうことにも一理ありますので、要話し合いですね。ところで鹿島さんは?」

 


龍驤「正気に戻るまで卯月とこしょぐり続けたら、ごめんなさい、復活します、っていって少し元気に」

 

 

明石「鹿島さんも相当キてたみたいだしな……」

 

 

龍驤「電を見習えや。あの子が一番立ち直り早かったでー」

 

 

龍驤「あ、そうそう。魔改造というか、艤装を素質に適応させるをメインに瑞鶴も見てあげてくれって」

 

 

明石さん「ふむふむ、あの瑞鶴さんですか。確かに少し興味がありましたねえ。乙中将との演習を見た感じ、瑞鶴艤装はあの子の素質に応えられていない部分がありましたし。主に弓、ですね」

 

 

龍驤「でもこっちは改二甲になってからね。ずっと演習場で誰か捕まえては特訓しとるよ。こっちは鹿島がすでにデータ取ってまとめてくれとる」

 

 

明石「通常業務も合わせると俺と姉さんで24hフル稼働させても時間が足りねえよな。いや、でも姉さんの仕事の速さならなんとかなるか……?」

 

 

明石さん「厳しいですね……特に瑞鶴さんは改二甲になってからの魔改造ですから。演習までにモノに出来るかは微妙なところですね……」

 

 

龍驤「工作艦でなくてもいいのなら、遠征組か、限界バシクルの挑戦から帰ってきたゴーヤなら、なんとか。金剛榛名瑞鳳鹿島電はずっと演習組に入ってもらうから、しばらく手は空かん。潜水棲姫とワ級の鹵獲スケジュールも入ってるしなあ……」

 

 

明石「わるさめさん今は普通の女の子で空いてるだろ。あの人に手伝ってもらおうぜ」

 

 

龍驤「ええやん。わるさめそっちに回すわ。ただこの子もまた建造してからは演習のほうに入ると思うからそれまでやね」

 

 

初霜「明石艤装1つは本当に悩みの種ですよね。各鎮守府に一人は明石さん欲しいくらいですから」

 

 

ガチャ


 

秋津洲「龍驤さん……ず、瑞鶴さんとの六時間演習、ただいま終わったかも。あたしの二式大艇ちゃんが墜ち続けた悪夢の時間……」

 

 

明石「あれ、かもがネギ背負って」

 

 

明石さん「エクセレント。この鎮守府には秋津洲ちゃんもいたんですね。これは救世主です。第3の工作艦ゲットです♪」

 

 

秋津洲「ち、違う! 水上機母艦っ!」

 

 

龍驤「秋津洲、か。確かにその艤装、工作艦の真似も出来たなあ。でも肝心の素体のほうに技術からっきしやよ?」

 

 

初霜「ああ、明石さんの目が完全に秋津洲さんをロックオンしてます……」

 

 

明石さん「秋津洲に工作艦経歴あることは知っています」

 

 

秋津洲「それ軍艦のほうかも!? い、いや、確かに艤装も少しは工作艦パーツ、あるけど、けどお……」

 

 

明石さん「秋津洲ちゃん、知っていますか」

 

 

秋津洲「目がこ、怖い。近づかないで欲しい、かも……」アトズサリ

 

 

明石さん「改二の秋津洲は工作艦に完全転職するというもっぱらの噂を」

 

 

秋津洲「聞いたことないかも!?」

 

 

明石さん「ゲットー!」ガバッ

 

 

秋津洲「いーやーああああ!」


 

龍驤「秋津洲、ちょっと今の時期だけ手伝ってやって。本当に工廠での仕事切羽詰まっててなあ……」

 

 

秋津洲「うう……お仕事なら仕方ないかも……」

 

 

明石「それじゃそういうことで。初霜さんは鹿島さんととっととデータ取ってきてくれなー」

 

 

初霜「すぐに!」



【10ワ●:鎮守府(闇)Tシャツ】

 

 

龍驤「はあ、忙しい……わるさめのやつは執務手伝ってもらおうと、あ、雷のやつがおったな。館内放送で」

 

 

阿武隈「あの、すみません。今お時間取れます……?」

 

 

龍驤「大丈夫やで。ところで、アブー、秘書官やれる? 今ほんと忙しくてさあ。はっつんははっつんでやることあるし、人手が足りんくて執務が終わらないんや……」

 

 

阿武隈「私も遠征やら演習やらありますし。まあ、ここの鎮守府は支援施設機能維持させるために、色々ありますしね。提督兼館長みたいな」

 

 

阿武隈「げっそりしているところ、申し訳ないのですが、先程、港のほうから輸送船が来まして、荷物の中に」

 

 

阿武隈「これ、プレゼントって。見ての通り、前面には鎮守府(闇)の刺繍、裏にはメンバーの個々の名前が。これはあたしのなんですけど、『阿武隈』って」

 

 

龍驤「どゆこと!?」

 

 

龍驤「そのTシャツの、裏面のはしっこ……そのアルファベットは確か」

 

 

龍驤「BRRって、確か卯月の実家のブリティッシュラフラビッツやん!」

 

 

阿武隈「はい。発注時刻的にわるさめさんが里帰り中に頼んだみたいで。この鎮守府の支払いにして……」

 

 

龍驤「わるさめええええ!!」

 

 

阿武隈「でもこれらはデザインの指定は特になくて生地に文字入れてって、内容らしいですね。プレゼントとのことで代金は要らないそうです」

 

 

龍驤「親御さんからのご厚意か。そういうのはあるみたいやなあ」

 

 

阿武隈「でも、皆とお揃いっていいですよね。なんか連帯感あって」

 

  

龍驤「分からんくもないけど。まあ、アブーも若いもんなあ」

 

 

阿武隈「そして卯月ちゃんのお母様からの手紙、というか、ファイルが届いてます。なにやら提督と、軍に報告しておきたいことがあるらしくて」

 

 

阿武隈「『いいか。やるからにはぶっ潰してこいよ。私がお腹痛めて産んだお前の命は安くねえ』」

 

 

阿武隈「『屍だけはタダで晒すな』という卯月ちゃんへの激励のお手紙」

 


龍驤「それ別に読み上げなくても。というか卯月ママは絶対に甲ちゃんと気が合うタイプや……」

 

  

阿武隈「どうします。この服装、妖精さんに頼んで出撃時にも着られるようにしますか? 電さんとかわるさめさんは乗り気みたいですけど……」


 

龍驤「そのくらいなら、ええんやないの。秋になるとお祭り気分で浴衣とか着てるやついるし、問題にはならへんやろ」

 

 

龍驤「娘さんをこの戦いに貸し出してくれとるしなあ。龍驤さん的にはうちらがその服着て、なんかビジネスにプラスになってもええと思うでー」

 

 

阿武隈「了解です! 電さんがいたので頼んで意思疏通してもらいます」ビシッ

 

 

【11ワ●:わるさめちゃんのホントの素顔】

 


1

 

 

提督「やっと、戻ってこられた……」


 

龍驤「おかえり……連絡も突然やったなあ、慌てて迎えに出てきたで」ゲッソリ

 

 

提督「お疲れ様です。連絡するのも忘れてて。ずいぶんとやつれましたね……」

 

 

龍驤「それはそうやで。やること山積みやったもん……」

 

 

提督「マジ助かりました。深海妖精が見えるせいで研究職の方達にひきずり回されて、帰ってくるのが4日も遅れて……」ゲッソリ

 

 

ぷらずま「●ワ●」

 

 

ぷらずま「司令官さん、雨降っているのでその手に持っている傘くらい差したらどうですか」



提督「ぷらずまさん」

 

 

ぷらずま「なのです。とりあえず私と明石君と初霜さんと鹿島さんは大丈夫ですが、わるさめさんになんか言ってあげて欲しいのです。かなり落ち込んでいて面倒なのです」

 

 

提督「そうですか……むしろ、あの子なら凹んでもすぐに立ち直るものと思っていたのですが……」

 


ぷらずま「まだまだ、ですね。司令官さんもわるさめさんも」

 


提督「わるさめさん、執務室に連れてきてもらえますか?」

 

 

ぷらずま「了解なのです。それでは」

 

 

タタタ

 

 

龍驤「書類のほうも色々と届いとるよ。それにわるさめの建造用の素材も集めて運び込んであるし、瑞鶴も改二甲に改装完了、今は明石君が艤装を馴染ませてる。それも明日の朝には仕上がる。はっつんのほうは終わってる」

 


龍驤「いやー、演習はおもろくなりそうやで。皆の地力もかなり上がってきたし、覚醒アブーは電といい勝負できとったで」

 

 

龍驤「はっつんは面白いことできるわ。瑞鶴ももう立派な正規空母やね。うちより強いで」



提督「準備は整いつつありますね。龍驤さん、これ人数分を向こうで刷って来たので皆さんにお配りください」

 

 

提督「これを持って23:00に間宮亭の2階に集合です。全員、です。今回の演習について、いや、これからの全てにおいての話し合いをしたいです」

 

 

龍驤「了解。もうすぐ瑞鳳と第6駆も夜間哨戒から戻ってくるし」

 

 

提督「お願いしますね」

 

 

2

 

 

提督「鹿島さん達に頼んだのは、この資料、ですね……」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「………、………」

 

 

ガチャ

 

 

ぷらずま「連れてきたのです。それでは私は一旦、失礼するのです」

 

 

提督「お元気でしたか、とかいうのは置いといて、ハッキリいいますね」

 


提督「あえてキツめな感じでいいます。そう気負わずにはいてください」



提督「あなたに関しては本当に帰って来なくても良かった。あなたとはぷらずまさん以上のビジネスライクでしたから。分かりますよね?」

 

 

わるさめ「……」

 

 

提督「あなたを受け入れたのは、ここの皆さんがあなたを必要だといったからです。自分としてはあなたに殺されかけた身です。いや、それよりも」

 


提督「あなたはこちら側を裏切っています。中枢棲姫と話している感じ、あなたが流したと思われるこちらの情報もあると見ています。中枢棲姫勢力がどういう存在か分かっているはずですし、あなたは捕虜として捕まりましたが、どう考えても逃げ出せるチャンスがあったはずです。そうするべきでした。それならきっともっと早く、この展開になっていた。中枢棲姫はそこら辺りの判断が自分よりも情に流されるみたいですね」

 

 

提督「自分の分析ではあなたは、家族となる人を求めてた。それが深海棲艦だろうが、こちら側であろうが、どっちでもよかったのだ、と」

 

 

提督「しかし、あなたは深海棲艦の家族を殺して裏切ってまでも、自分の身体に戻りたい、という。ここの理由はその身体ではお母様に会いに行けないから、そこの理由に嘘はないとは思います」

 

 

提督「海の傷痕があなたのことを芯がブレていると評していた。行動が定まっていない気分屋です。というよりもあなたは進路に迷う学生みたいに見えるんです」

 

 

提督「時に家族といった戦艦棲姫さえ殺すほど、針がぶれて、迷う」

 

 

提督「扱い辛いこと、この上ない。またいつこちらを裏切って向こうにつくかと、頭を悩ませました。あのビデオレターも、ただふざけていただけに見えましたから信用は出来なかった。加えていえば鹿島さんがどんな気持ちでいたのか。大切な人を失う痛みを分からないあなたではあるまい」

 

 

提督「結局のところ、あなたは自分のためなら何でも切り捨てることができる」

 

 

提督「ぷらずまさんはずっと、この鎮守府にいて、軍を騙しても裏切ってなどはいない」

 

 

提督「あなたはぷらずまさんよりも危険。軍がなぜあなたをこちらに置いたのか、まるで理解出来ませんでしたよ」


 

提督「負けて、挫けて、やり遂げてもいない。あなたは母親の言葉さえも殺して裏切ってなにがしたいのか、と」

 

 

提督「ガキだから、という言い訳は通しません。そんな御託を言い訳にするやつはゴミ以下の問題外。ここは学校でも家庭でもなく、あなたは自らの意思でここに来た。どういう場所かは知らないとはいわせません」

 

 

提督「どの面下げてこちら側に戻ってこられたのか」

 

 

提督「どの面下げて母親に会ったのか」

 

 

提督「正しく皮の面千枚張り」


 

わるさめ「……う」

 

 

提督「帰って来なくていい、といったのに帰って来ましたね」


 

提督「その理由をお聞かせください。少なくとも甘ったれた理由と判断したのなら、ここの鎮守府からは出ていってもらいます。自分はあなたを引き出す指揮を執れません。残りの時間は少なく、やるべきことが山ほど」

 

 

提督「あなたは危険です。なので、あなたの力を当てにするよりも、リスクを減らすことを選択します」


 

提督「……まあ」

 


提督「厳しくいいました」



提督「自分としてはあなたは本当に街に行くべき人だと思っています。必要ないから、ではなく、本当にあなたはこれ以上海にいる理由はないかと。電話の時の答えが全てです」



提督「でも、決めるのはあなたです」



提督「どれ程、無駄な時間を過ごしてきたとしても、その迷いには意味があるのですから」



わるさめ「……私は争いが」



わるさめ「嫌いです、はい」



わるさめ「思えば電とは気があうはずなんだよね。電と春雨ってさ、けっこう似通ってるイメージで」



提督「いわれてみれば、お互い好戦的な性格ではないですね。どちらも大人しい感じのイメージだし、気は合いそうなのかな……?」



わるさめ「もともとの私は引っ込み思案で、面倒を避ける子供でした。誰かがやらなければいけない余計な役割を、誰かが挙手するのを待つだけの女の子で」



わるさめ「でも、戦いは嫌いじゃなかったです」



わるさめ「いつの日か観た映画が楽しかったから。海の可愛い化物の、ほら、スピルバーグの大出世作のパニック映画、です」



提督「ジョーズは1が好きです。しかし、可愛いは理解できない……」



わるさめ「あの化物はきっと自然の怒りだと思った。社会の授業で人間の環境汚染とかやってたから、そういうのが産んで、今だと海の傷痕のような、ね。そんな生物だから、人間はその罰を受けてるのかなって」



わるさめ「フィクションと現実の区別を取っ払ってる子供みたいな妄想力は、お母さんが病気にかかった瞬間に木っ端微塵になりました。だって人が死ぬのは嫌、です」



わるさめ「母が壊れかけて初めて、」



わるさめ「母が愛しいって気付いた」



わるさめ「後悔を振り払うかのように、がむしゃらに生きた」



わるさめ「私は母の治療費を稼ぐのが目的で、派手な戦果を挙げる必要はなく、生きることのほうが重要でした。適性的に向いているのは輸送や護衛です、はい」



わるさめ「少し、欲が出ました。姫とか倒したら、地元で私は『よくやっている』と思われるんじゃないかって。お母さん、喜ぶんじゃないかって」



わるさめ「私の鎮守府には最弱の称号を素質でひっくり返した天才がいたから。そいつはすっごい活躍して、お母さんに孝行してるんです」



わるさめ「分かりますよね」



わるさめ「私は卯月を、尊敬してました」



わるさめ「それは才能ってやつです。そんな簡単には届かない。努力しても報われない。いつも選ばれるやつがいて、だから選ばれない私はまた努力するわけです。強くなりたかったわけです」



わるさめ「そこに、つけこまれました」



わるさめ「最悪なことに、あの身体になっても、強くなったことは嬉しかったです。日陰者の私は、嫉妬や羞恥も憎悪や非業も全て理解して受け入れられました。そこが電との違いです」



わるさめ「……1度、卯月に尊敬の念は消え去りました。キスカの時、です」



わるさめ「気付いた。アブーや卯月よりも、私のほうが強いって。だって、私は辞めないもん。あんな目に遇っても、守らなきゃならない人がいるから、解体なんかしません」



わるさめ「精神的には私のほうが粘り強いんだって、思いました」



わるさめ「だけど、お母さんが死んだって知った時に違うって分かりました。私はただ選択肢がなかっただけです。卯月やアブーみたいに折れましたから。私も春雨だったら、解体申請してたと思いましたから。私はただこの身体だったせいで、変にこじれただけです、はい」



わるさめ「向こうから情報を引き出そうとするのは、本気じゃなかったです。向こう側にいたホントの理由は気づいてもなかったです」

 

 

わるさめ「……最初は怖かったです」

 


わるさめ「分かんなくなってたんだと思います」

 


わるさめ「お母さん死んじゃった時くらいから」



わるさめ「私は解き放たれて、自由だった」



わるさめ「自由過ぎて」



わるさめ「どうでもよかった」



わるさめ「だから、なんでも出来た」



わるさめ「私を信じてあの町にいた人と会って、ようやく思い出した」



わるさめ「普通の身体になって、とか、きっと、私の心を守るための、強引な理屈付けで」



わるさめ「本当の私は、投げやりになってただけです。チューキちゃんのところにいた時、海にいた時、街が見えた時、浦島太郎の気分になりました」



わるさめ「もう街に生きる理由は見当たらなかった。ぽつん、と取り残された私は誰も手入れしてくれないお墓のようで、街がただの霊園に、全ての人間が卒塔婆みたいに映りました。ひゃうぅ、って、本当にみっともない声をあげて、その場で轟沈したかのように座り込みました」



わるさめ「もう嫌だって、愚図って死にたいって、嘆いた私を」



わるさめ「供養するかのように涙を洗い落とす雨が降っていました」



わるさめ「ポツポツと雨の滴がアスファルトを叩く音は、無機質に伸びた私の影法師が嘲り笑っていた声のようにも聞こえました」



わるさめ「私よりも心の底では電のやつを、生きるべき人間だと思ってた。あいつは前を向いてましたから。折れてなかった」



わるさめ「だから、電がやる前に私があの女をやった。引き金は羽のように、軽かったかな」



わるさめ「私を信じてあの町にいた人と会って、勝手にあの頃の自分が顔を出して、それが頬をひっぱたかれたかのような気付けでした」



わるさめ「向こうにいたのは」



わるさめ「深海棲艦って化物が、人として生きようとあがいているその姿が」

 

 

わるさめ「自分と重なったから、仲良くなった。家族、みたいだった」

 

 

わるさめ「仲間も、友達も、恋人もいらない。私はただずっと死んじゃったお母さんの代わりになる、」

 

 

わるさめ「家族が、欲しかった」



わるさめ「今になって気づいて、もう、疲れました」



わるさめ「いつだって、そう。雪や雨や風や大時化の日も海を走り続けて。軍に入る日も、強さを手に入れた日も、鹿島っちの時も、鎮守府(闇)に着任したのも、いつも雨で」



提督「そういえば、今日も雨、ですよね」



わるさめ「ですはい。もう、この足がすり減ってなくなる夢を見るくらい。私が深海棲艦になったら、きっと足がなくなると思う」



わるさめ「この身体になったことは問題でしかなくて、だったらやっぱり答えがあったこと」



わるさめ「電のやつも見つけたんじゃないかな。だって、あいつはすごく優しい顔と声をしていたから」



提督「そう、ですね。あの身体は深海棲艦も理解するために与えられた試練でそれを乗り越えた今、どちらの存在も分かることができる強さと優しさを得た、とそのように発言しました」



わるさめ「電、らしいですね。でも、そうですね。忘れていました。あいつはもともと……」



わるさめ「優しいやつだった」



わるさめ「私も、分かったよ。でも、電とは違う。この身体は支え合いの象徴。深海棲艦が人間だってこと、電よりも、知ってる」



わるさめ「チューキちゃん達とは、支え合うべきだ。人という字は支えているほうが割を喰ってるのかもしれないけど、腹を食い破れば違う記号になっちゃいます」



提督「……?」



提督「……」カキカキ



提督「あ、×ですか」



提督「支えているほうが腹を食い破れば人という字は×という記号にになる。なかなか面白いこといいますね……」



わるさめ「うん。でも、それを私のほうから見たらまた変わります。+の記号になっています。そんな風に皆の価値観って、ズレが生じるんだと思います」



わるさめ「でも、私は……」

 

 

わるさめ「思い出して」

 

 

わるさめ「あの町に帰って、私を変わらずあの場所で待っててくれた人から言葉をもらった時に、景色はまた色付いて」



わるさめ「生命の緑が息吹くように、景色はまた色付いて。あの寂れてしまった思い出のお店が神聖な神殿のように見えて、私のいた思い出のアパートに上塗りされた高いビルはあの、空へと伸びる高く尖ったビルは、」



わるさめ「誇り高い勇者だけが抜ける剣のようにも、見えました」



わるさめ「まだ、終わってないです」

 

 

わるさめ「お母さんに約束した平和はまだ届けて、ない」

 

 

わるさめ「方便、だったけど」

 

 

わるさめ「お母さん、信じてたから」

 

 

わるさめ「また、です。海に出た理由、お母さんが死ぬって分かってから、ようやく人の大事さを思い知った時と同じです……」



わるさめ「走って走って走り続けていたのに、いつも本当に誰かに輸送したいモノは間に合わなくなるんです……」



わるさめ「今度は間に合わなくなる前に」



わるさめ「私は、成し遂げて」

 

 

わるさめ「もう1度、町に」

 

 

わるさめ「帰投したい、です」

 

 

わるさめ「それが屍でも、構いません」



提督「……信じても」



提督「いいですか?」



わるさめ「うん。そんだけしかない」



提督「……うん。伝わりました」

 

 

提督「なので」

 

 

提督「信頼に値する理由です」

 

 

提督「どうしますか?」

 

 

わるさめ「この鎮守府に……」

 

 

提督「はい、引き続きよろしくお願いします」

 

 

提督「あなたの強さはその迷いにこそ本質がある。当初の目的のためならば、自分でさえも手にかける」

 

 

提督「わるさめ。その名前はいい得て妙ですね。そのくらいの凶悪な素質を秘めています」

 

 

提督「ふと思ったんですけど、あなたがロ級好きなのって、ジョーズみたいな感じだからですか……?」


 

わるさめ「いわれてみればそうかも。ロ級って、鮫に似てるよね……」



わるさめ「わるさめちゃんって、漢字で書くと悪い雨じゃなくて、悪い鮫のがしっくり……」



提督「あなたの雨の日は凶兆っぽいので、どちらもしっくり来ますけどね……」



提督「ところで、持ってきたその紙袋は……」

 


わるさめ「あ、これ、司令官さんへの」

 

 

わるさめ「プレゼント、です」

 

 

わるさめ「受け取ってくれますか……?」

 

 

提督「ありがとう。中身は……」


 

提督「これ、Tシャツですか。しかもこれ、卯月さんのところの……」

 

 

わるさめ「……」

 

 

提督「む、少しお待ちを」

 

 

提督「よいしょっと鎮守府(闇)のほうが表か……というか、なんでわざわざ片仮名でオープンザドア……まあ、いいですけど」

 

 

提督「似合いますかね……?」

 

 

わるさめ「かっこいいです、はい」

 

 

提督「なら良かったです。しばらくこれ着てますか、うん」

 

 

提督「それとお返しといってはなんですけど、自分からわるさめさんにも贈り物がありまして。少し、お待ちを」

 


提督「これ、です」

 

 

わるさめ「その箱の形状は、まさか、え、司令官さんが……?」

 

 

わるさめ「それ、ケッコンカッコカリの……!」

 

 

提督「違いますよ。ケッコンカッコカリのシステムは理解できませんし。もしも指輪を贈る時があれば、それはガチのプロポーズの時だけに……」

 

 

わるさめ「なら、それは……」

 

 

提督「カッコカリだとなんというか自分的に不誠実なので」

 

 

わるさめ「――――!」

 

 

わるさめ「は、はめて頂いても……」

 

 

提督「もちろん」

 

 

提督「では左手を。なぜ目を閉じるのですか……」

 

 

わるさめ「いえ、少し恥ずかしくて。どうぞ。早く。いつでも準備は出来てます、はい」

 

 

提督「では失礼しまして……。あ、良かった。サイズは合いますね」


 

提督「はい、終わりました」

 

 

わるさめ「――――」ポロポロ

 

 

提督「そんなに喜んでもらえるとは、どうやら女性への贈り物としては正解のようですね。大枚はたいて用意した甲斐があったというものです」

 

 

わるさめ「司令官さーん、はしたないけど、もうそういうの遠慮しません、はい。今日はわるさめちゃんの全部をもらってくださ――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


全員分。

 

 

 

 

わるさめ「え? 待って待って。わるさめちゃんシンキングターイム!」

 

 

提督「ん?」

 

 

わるさめ「指輪にしては大きいですね。というか薬指通り越して手首の辺りに……」

 

 

提督「ブレスレッドですから。指輪システムの限界突破の恩恵は欲しいですけど、躊躇うのは先に述べた理由ですね。なので、ブレスレッド形式にして用意しました。あなたに効果があるかは分かりませんけど、このTシャツみたいなものだと思っていただければ」

 

 

提督「特別加工なので料金割り増しで1つにつき1000円です」




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



ホントこいつぶっ殺してえ。


 

提督「……、……あっ」

 

 

提督「誤解させてすみません違います」

 

 

提督「本当にごめんなさい……あなたに恥をかかせてしまって……」

 

 

わるさめ「土下座案件な」

 

 

提督「はい。魂の土下座です」



わるさめ「今のはホントない」ゲシゲシ

 


提督「でも正直うちの人達のなかではわるさめさんが最も自立に時間がかかりそうとは思っておりまして、この戦争が終わった後」



提督「自分は力になりますよ。もしもあなたが成し遂げた時、この海から自由になった日の後はこの戦いの傷を癒さなければなりませんから」



わるさめ「……、……」



わるさめ「それは私、いや私達と一緒にってこと?」



提督「そうですね。恐らく軍というか国というか世界があなた達をこれでもかってみたいに支援するので、軍人である自分も、その支援に駆り出されるかもしれない、とのことで」



提督「あなたが自立するまでは望めば。もしもわるさめさんが自分の支援を望むのならば、ですが、お力になれることもあると思います」



わるさめ「……」



提督「あなた達は外に出て、色々知らなきゃなりません。色々な出会いがあり、様々な人を知るでしょう。なので、新しい人生を見つけてください。色々と嫌になることばかりでしょうが、もしもなにかあれば連絡でもかけてきてくださいな」



提督「自分は死ぬまで独身を貫いているんで」



わるさめ「お前、結婚願望ないの?」



提督「ありませんね……そんなことしてる暇あるなら本でも読みたいですし、仕事でも家でも縛られるような生活は真っ平ごめんで自由に一人でいさせてくれ、といいますか」



わるさめ「でも一人って寂しいよ。きっと歳を取る度に、分かることなんじゃないかな?」



提督「とんでもない。何気に明石さんみたいになりたいです。あの人もう半世紀以上も独身で生きてるのに幸せそうじゃないですか」



提督「幸せの形なんて人それぞれで、自分はそっち側の人間なんですよ」



わるさめ「じゃあ司令官、この戦争が終わったら私を養子にもらって」



提督「わるさめさんの実年齢は25歳で自分の2個下という事実な。というかそもそも養子とか無理なんで。あなた少し冷静になってみては」



提督「自分が父親ですよ? 大丈夫ですか?」



わるさめ「……、……」



わるさめ「ないな。ない。司令官がお父さんはない。ごめん。強いていうなら兄貴ですはい」



わるさめ「……でも」



わるさめ「旦那さんなら?」



提督「あなたが妻とか、今度はこっちが嫌なんですけど……」



わるさめ「お前の馬鹿正直なところホントうっざい……歯に衣着せろよ……」



提督「でもまあ、そんなことは置いとけばいいんです。今はやるべきことがあるでしょう?」



わるさめ「……、……」



わるさめ「そう、だね。間宮亭で話があるんだっけ。皆もそっちに集まるんだよね」



わるさめ「行こっか。そこの扉、間宮さんのところのほうに繋がってるよね?」



提督「そうですね。行きましょう。あ、外は雨が降っているので傘をどうぞ」



わるさめ「1つしかないじゃん。まあ、いいや。近いし、わるさめちゃん濡れてい……」



わるさめ「いや、傘に入れて。疲れちゃった。濡れるの」



提督「……マジか」



わるさめ「珍しく驚いてるけど、どったの?」



提督「わるさめさんのほうが微妙に背が高い。前は一緒くらいだった気がするのに。解体してそんなにすぐ身長って伸びるもの……?」



わるさめ「司令官は165くらいか。わるさめちゃん、170は絶対ないと思います、はい」



提督「では傘をどうぞ」



わるさめ「なんで私に持たせるの!? そこは普通、男が持つものじゃないかな!?」



提督「自分は荷物がありますし、傘は背が高いほうが持つものでは……」



わるさめ「いいからつべこべいわずに持ちなさい。荷物のほうを私が持ってあげるから」



提督「分かりました……」



わるさめ「よろしい。それじゃあ行……」



提督「どうしました……?」



わるさめ(……この曇天色の傘に、部屋の明かりが日差しみたいに射し込んで)



わるさめ(夜で雨降ってるのに)



わるさめ(ここだけ、晴れたみたいだ)



わるさめ「ううん、なんでもないや」



提督「……、……」



わるさめ「ホントになんでもないから。その思考癖、いい加減不愉快だから止めろ!」




【12ワ●:ぷらずまさんのいる鎮守府(闇):始】

 

1

 

提督「皆さん、自分から各自に当てた書類は目を通してくれましたね」

 

 

一同「……」

 

 

提督「残り2ヶ月もなく、海の傷痕という障害を葬り去り、まだ我々が間接的にしか見たことのない海を取り戻します。そのために自分の指揮系統を固めました。このやり方は」

 

 

提督「勝つために、そして、無駄死にをさせないために、です」

 

 

提督「変わったのは」

 

 

提督「自分の限界が見えたということ。このやり方に適応できる皆の力を借りなければ届かないということ」

 

 

提督「海の傷痕は強い」

 

 

提督「身体でも武器でも精神でも、こちら側は負けています」

 

 

提督「海の傷痕が獲得した行動原理は『今を最大限、精一杯に生きる』です。死人の塊がこの言葉を吐く以上」

 

 

提督「人間の殺戮時代の19世紀の人間の塊が光を得ようと、今の時代に生まれた我々の前に決死で降臨した」

 

 

提督「艦種や素質や装備ではなく、対抗するために、まず必要なのは闇と向き合う覚悟です。それがなければ戦う以前の問題で、お話になりません」

 

 

提督「なぜならば、海の傷痕は想の神様だからです。建造によって艤装とリンクしたあなた達へも、想の供給が可能です。流される想によっては」

 


提督「何回も死を味わうでしょう」

 

 

提督「人間として最期を遂げるほどの精神的陵辱を喰らうハメになります」


 

提督「1度は海に背を向けた人もいると思います。必要な精神はそれを何度味わおうと、心を保てる強度です」

 

 

提督「闇を乗り越えるために、そこにある死を恐れないでください」

 

 

提督「今を最大限、精一杯に死してくる気概で。それでようやく生きてくる」

 

 

提督「先祖のごとく、後世に語り継ぐ姿を未来へと繋いでください。そうすることで、あなた達は生きてきます」

 

 

提督「熱に焼かれ、海に溺れ、鉄に砕かれ、友を喪い、その全ての痛みを抱いてあなた達はここまで来ました」

 

 

提督「あなた達という個々の今を生きる人間ならば出来ます。軍艦のように戦い、波を乗り越え、2ヶ月も経たない内に、嵐は過ぎ去り」

 

 

提督「元帥の口から伝達されます。この対深海棲艦海軍の歴史を全て」

 

 

提督「『国民の皆様、どうか海をご覧になってください』と」

 

 

提督「これ以上の痛みは要りません。海の傷痕が演出したこの戦争ゲーム」

 

 

提督「ぷらずまさんがいった通りです」



提督「こんな趣味の悪い物語を盛り上げるために人の命が失われてゆくこの二流脚本は終幕です」

 

 

提督「死を恐れて、生の照らしを曇らせず、例え過去のように誰かが欠けても、その熱量のバトンは必ず、今を生きる人間が引き継ぎます」

 

 

提督「これから先の海は全員が成し遂げる覚悟で戦い、帰投してください。そこに全力であれ。生きて帰る。死んだら終わり、という考えでは、海の傷痕には届きません。なので」

 

 

提督「ここにいるメンバー全員が、この海で戦う意味を果たすこと」

 

 

提督「鎮守府(闇)では」

 

 

提督「それを全員生還と定義したい」

 

 

提督「これは自分の意見なので論のある方はどうぞ。時間はあります。夜通し話し合いましょう」

 

 

提督「理解し合うために」


 

2

 

 

暁「問題ないです!」

 


提督「暁さんがその第一声を発するとはちょっと意外です」

 

 

暁「はいそれぷんすか!」

 

 

雷「いや、響もそうだけど問題ないわね。理解してくれた上でその指揮ならば問題はないわ!」

 

 

響「そうだね。従うじゃなく、それが出来るし、したい。あなたには」

 

 

響「私達では出来ないことをやれる人だから」

 

 

提督「うん?」

 

 

雷「これね、再生っと」

 

 

《それでは自分の質問、いえ『お願い』を》


 

雷「この辺りから」

 


《ダボが。依存に見えるのならお前の目は節穴です。これは依存の証ではなく、信頼の握手なのですから》



《どちらかがくたばろうとも、どちらかがその先の海へ往く。その覚悟と決意の握手です》



《邪魔だ、お前は》



ぷらずま・提督「!?」

 

 

電「はわ、はわわ……」

 

 

響「素が出てる」

 

 

雷「この辺りまで見れば分かるわ。特に司令官が海の傷痕と言葉で戦っていた時の電の顔はもう純度100%の」

 

 

響「電だったからね」

 

 

暁「ここまで電にしてあげられる司令官なら、もうなにも文句はないってことだからね。司令官や電と同じこと」

 

 

暁「やる」

 

 

電「あのダボメガネ、調子に乗りすぎですね」

 

 

電「まあ、確かにお姉ちゃんズは前代とよく似た別物です。今でもそう」

 

 

暁・響・雷「……」

 

 

電「なので」

 

 

電「新しいお友達なのです!」

 

 

暁「い、いなずまぁ!」ダキッ

 

 

響「うん、スパシーバ」

 


電「暁お姉ちゃん、そういう百合百合しいコミュは暑苦しくてうざいので今後とも止めて欲しいのです♪」ジャキン

 

 

暁「」

 

 

雷「性格が変わったわけではないのね……」

 

 

3

 

 

ぷらずま「で、そこの連中は」

 

 

陽炎「んー? 私達は特に意見ないってことでまとまったわよ?」

 

 

不知火「はい、今まで以上に指揮官として信頼できると思います」

 


金剛「イエース! 私達に愛を持った指揮ならばなんでもいいデース!」

 

 

榛名「金剛お姉様と同じくです! この演習での作戦も、納得しました!」


 

瑞鳳「うん。合同演習時とは違いますね。今の提督なら、はい。全面的に信頼できますから、命を執ってもらって構いませんよ」

 

 

提督「感謝です。どうか合同演習時のことは水に流してください(メソラシ」


 

瑞鳳「それはここに正式に着任する前に水に流しますっていったよ……」

 


提督「なんか引きずってまして。金剛さんや榛名さんにも悪い印象与えてしまったと思いますし」

 

 

金剛「いい女とは過去に生きないものなのデース」

 

 

榛名「その通りです。とにかく、これからもよろしくお願いしますね!」

 

 

不知火「そうですね。海の傷痕は倒します。もともとそれが不知火達の使命ですから」

 

 

陽炎「ま、改めてこれからもよろしくー」

 

 

4

 


秋月「お兄さんかっこいいです! 支援組のアッシーと秋津洲さんと私も異論はありません!」

 

 

明石「だな。アッキーと俺は改めて聞かれんでもって感じだわ」

 

 

秋津洲「提督、あたしは正直、そんなに立派な心で戦えない、かも」

 

 

提督「ですよねー……むしろそれが普通といいますか」

 

 

秋津洲「けど、演習はあたしも出してくれるんだよね。そこで、皆に追い付くから期待してて欲しいかも!」

 

 

提督「もちろん。秋津洲さん、根性でガンバってください」

 

 

提督「それと最近になり機械弄りに目覚め、工作艦秋津洲として生きていきたいという希望ですが」

 

 

秋津洲「そんな希望は一言もいってないよ!?」

 


明石さん「え、いいましたよね? 提督さんに伝えておきましたよ」

 

 

秋津洲「明石さんの仕業!?」

 

 

明石「いや、でも予想以上に助かってるし、後2ヶ月くらい手伝ってくれても」

 

 

秋津洲「つまり最後までってことかも! その時は暁の水平線に勝利を刻んでるよ!」

 

 

明石さん「あはは。ちなみに明石さんも問題ありませーん。海に出るのは弟子のほうですけど、皆のお力になれるよう魂を燃やします♪」

 

 

5

 

 

龍驤「ま、うちも問題ないね」

 

 

伊58「というか提督さんが引き込んだメンバーはそんなの分かった上でここにい続けているわけでち」

 

 

伊58「ゴーヤからすれば提督さんは最初から割と優しかった気がするよー。電ちゃんにボコボコにされていた時、割り込んで助けてくれたし」

 

 

ぷらずま「あー、拳銃砲で司令官さんの腕を撃った時のことですか」

 

 

鹿島「そんなことあったんですか!?」

 

 

提督「ええ。でもまあ、かすり傷です」

 

 

ぷらずま「あの時は昔のオープンザドア君と同じくなよなよしてたイメージしかなかったので、色々と見定めてたのです」

 

 

提督「なっつかしい話ですねー。ゴーヤさんはうちが最初にスカウトしたメンバーなんですよ」

 

 

卯月「懐かしいといってもまだ1年も経過してないぴょん」

 

 

龍驤「それな。信じられへんほど色々あったからな……」

 

 

伊58「でち。スカウトというより謀略にハメられたというか、まあ、いいでち」

 

 

瑞鶴「ま、司令官の欠陥が直ったようでなによりよ」

 

 

卯月「おめでとう。今日から君は人間だぴょん。赤飯炊くかー?」

 

 

提督「結構です……」

 

 

阿武隈「その、提督、全員生還は全員が生きて帰投することではないんです、よね……?」

 

 

提督「ええ。各々が死を恐れずに使命を全うするために生きてくる、ということです。ま、阿武隈さんがいいたいことは分かります。その上で」

 

 

提督「全員生かして帰投させてくださいね。それが自分があなたに期待して基本第1艦隊の旗艦を任せる理由です」 

 

 

阿武隈「無茶いいますね、はい……」

 

 

提督「お任せしますので、よろしく」ビシッ

 

 

6

 

 

初霜「もちろん私も異論はないですね。ところで提督、お疲れでは?」

 

 

提督「はい。睡眠二時間でこき使われて来たんで……あ、初霜さんには後でまた個別にお話がありますので、よろしく。例の昔話の件です」

 

 

初霜「……」

 

 

提督「?」



提督「あ、はっつんさん」

 

 

初霜「はい、はっつんさんです」キリッ

 

 

初霜「私もお話しておこうと思ってました。本当に面白くはないお話ですけどね」

 

 

初霜「お疲れのようですし、効率的にするのならば銭湯でお背中をお長しするついでにお話はいかがでしょうか」キリッ

 

 

提督「いえ、お気持ちだけで。お風呂の時は一人でゆっくりさせてください、はい」

 


龍驤「なーなー、持ってきたその荷物なんなん?」

 

 

提督「あ、皆さんへ用意した自分からのプレゼントです。今いる全員分があります。明石さんの分も」

 

 

明石さん「明石さん感激です。男の人からこういうことされたの半世紀生きてきて初めてです……!」

 

 

龍驤「半世紀という表現が重いわ……」

 

 

提督「最終作戦に向けてケッコンカッコカリの効果も、と思いまして。皆さんも着ているTシャツの一体感みたいな効果も期待して」


 

一同「!」

 

 

龍驤「うわ、どないしよー! うち男から指輪もらうの初めてなんやけどー!」

 

 

瑞鶴「まさかこの提督がそんなプレゼントを用意するとは……他鎮守府に通達しなきゃ」

 

 

提督「止めてください」

 

 

金剛「イエース! ハッピーウェディングターイム!」

 

 

不知火「丙さんでも躊躇うそのシステムをあっさり全員分用意するとは。英雄、色を好む、ですね」

 

 

秋津洲「(灬ω灬)」

 

 

阿武隈「皆さん待ってください! 必ずオチがありますから!」

 

 

ぷらずま「なのです……」

 

 

提督「ブレスレットタイプです。自分なりに感謝の気持ちを込めて用意したので、受け取って頂けると」

 

 

秋月「あの、ならお兄さんの手で、はめてもらってもいいですか!」

 


秋月「秋月としてはちょっとロマンチックな感じでお願いしたいです!」

 

 

陽炎「似合わないわね……この司令がロマンチックとか」

 


響「気持ちが大事ということで」


 

間宮「あのー、お飲み物と軽食をお持ちしました」

 

 

わるさめ「最近炊事を手伝ってお料理を覚えたわるさめちゃんも手伝ったぞー。ありがたく喰えよー」

 

 

提督「あ、わざわざありがとうございます」

 

 

瑞鳳「あ、わるさめちゃんのその手首にあるやつが提督からのプレゼント?」

 

 

わるさめ「ですです。キスも頂きました☆」

 

 

瑞鶴「はいはい嘘乙」

 

 

瑞鳳「それで秋月さんの希望は叶えて頂けるんです?」

 

 

提督「いや、そのくらいなら構いませんけど。自分がはめてあげればいいんですよね」

 

 

金剛「愛の言葉もお願いしマース!」

 

 

提督「は、はあ、愛の言葉……?」

 

 

提督「これからもよろしくお願いします、でいいですか?」

 


榛名「あ、榛名としてはちゃんと目を見てそういって頂きたいです!」

 

 

伊58「あ、じゃあゴーヤからははっきりとゆっくりした声かつ壊れ物を扱うかのような優しい動作がいいでち」

 

 

提督「……ええ、了解です」

 

 

暁「司令官、あの、はめてもらう方が立って、司令官は片膝をついて、あの騎士のような感じでお願い、しても……」

 

 

初霜「暁さん、それは素晴らしいですね」

 

 

雷「せっかくよね。こんな機会じゃなきゃこんなことに乗ってくれなさそうだし」

 

 

提督「は、はあ……分かりました。けど、そこまでで勘弁してください」

 

 

卯月「ぷっ、ぷく、ぷ……!」

 

 

提督「卯月さん、なにを吹き出して……」

 

 

卯月「では一番は~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明石君どうぞっぴょん。


 

 

 

 

 

 

提督・明石「黙って聞いてりゃこの仕打ちだよ!」



7



提督「さてと、せっかくなので皆さんに自分のことでお話をしておきたいことがあります。まあ、これは……」



提督「間宮さんに聞きたいのですが、あなたの目から見て、自分はありとあらゆる視点から見てどんな人です?」



間宮「……、……」



間宮「黒というか闇めの人で、でも、最近は変わった、のかもしれません。提督としてはすごい優秀な方だとは思います。だって、あなたの功績は紛れもなく、この戦争を終わらせることに誰よりも貢献した、かと」



提督「お褒め頂きありがとうございます」



提督「ですが、ハッキリいっておきますが、自分は提督としての才はあるほうではありません。まず」



提督「あなた達の艤装の元である軍艦のことですが、さっぱり分かりません。駆逐艦電ってなにした軍艦なんだよってレベルで、専門用語出されても、全く理解できません。軍艦の歴史のことなんて、分かりません」



提督「ちょっと大袈裟にいいますが、軍学校時では重巡ってなんなの、戦艦となにが違うの、ってな次元の提督でした」



間宮「えー……」



龍驤「マジか……史実の授業やら、軍にいたら話になって分かることやん」



提督「勉強はしましたが、いつの間にか忘れました。あなた達を指揮するのにそんな細かい知識は要りません。艤装にはなにが積めてどのくらい動けてどこが壊れたらなにが動かなくなるのか。卯月さんや阿武隈さんのよう素質によって、駆逐や軽巡でも戦艦として扱える戦力もいる」



提督「だから、基本的なこと以外は切り捨てました。駆逐艦には、戦艦には、空母には、潜水艦にはなにが出来るのか。その辺りの基本的な知識のみ」



秋津洲「で、でも、ここの提督さんはすごいって、あたしの鎮守府でも噂になってたよ?」



陽炎「……あれ?」



陽炎「司令は、深海妖精の件とか、戦争の終結に対する思考回路が結果出しすぎてて、すごい司令だと思っていたけど」



陽炎「そういえば司令って、確かに指揮のほうではこれといった功績はあげてないような気がするわね」



瑞鳳「合同演習の時は?」



瑞鳳「最後の指示、弾着で離脱意向信号を出させる作戦は感服しましたよ?」



ぷらずま「まあ、あれは確かに……」



ぷらずま「最後以外はほぼ私の指揮でした。それに、私がチート性能使ってただ力でねじ伏せただけです」



ぷらずま「なかば試すために指示を仰いだ面もあり、どちらにしろ最悪、オールトランスしても勝つ気だったのです」



ぷらずま「瑞鳳さんの件は策というよりは実験です、よね?」



提督「はい……」



不知火「あの例の戦艦棲姫の時は、あの艦隊に対して殉職者を出さずに。司令が指示を出したのでは」



卯月「わるさめのほうで手一杯でほとんど龍驤が指示を出してたぴょん」



龍驤「というか、最強クラスの戦艦棲姫と戦うってのに卯月とケンカしてたレベルやしな……」



暁「乙中将に勝ったじゃない」



わるさめ「あれ、私が出てなければ負けたよね。私がというか、トランス型が。要するにチート使って勝ったみたいなもん」



初霜「ちゅ、中枢棲姫勢力では、リコリスを」



ぷらずま「……打ち明けますと、あれは中枢棲姫勢力のほうが道を用意してくれていた上、どちらかの首は無抵抗で差し出すつもりだっただけです」



提督「お分かり頂けたでしょうか。自分は提督としての才はないです」



提督「出張中に思い知りました。恥をかきまくって来ました。どうも自分は外から見て、傑物として扱われていたようで、お偉い様方からあなた達の軍艦の話をされ、全くついていけず」



卯月「でもまー、実際いらねーぴょん。うーちゃんも卯月のこと夢で見る知識くらいしかないし、それでもうーちゃん強いからそれでいいぴょん」



瑞鶴「私もよく知らないや……軍学校でならったけど、解体してから忘れたわ。でも翔鶴姉のことなら詳しいよ」



龍驤「瑞鶴、お前はおかしい。けど、まあ、解体組は分かるわ」



龍驤「明石と秋月、お前らガッコ卒業したばっかやろ。なに目をそらしてんの……」



明石「いや、俺は装備改修やらの知識で忙しくて座学のほうはな……」



秋月「艤装と夢が悪夢の類なので知っても覚えておきたくなかったといいますか……」



明石さん「可愛いから許してあげてください♪ 明石さんはそこらもバッチリです。というか准将さんがそれはヤバい」



提督「金剛とかイギリスで建造されたんですね。だから、口調はエセ英淑女っぽいんだなって」



金剛「テイトク……」



提督「ま、適性施設にいた時に多少の知識は嫌でも覚えました。精神影響のこと。そんな風にあなた達からあなた達の船のこと知って行きました」



提督「例えば金剛さんはミルクティーよりも、レモンティーのほうが好きとか」



金剛「テイトクーウ!」



提督「例えば鹿島さんは、以外と靴下リバースしてる時があるとか」



鹿島「ああ……ホントです……またやってしまった」



提督「例えば阿武隈さんは髪型がセーラームーンみたいだからうさぎ繋がりで卯月さんと仲がいい、とか」



阿武隈「私の髪型は卯月ちゃんとの交遊関係に関係ないです!」



提督「卯月さんと仲良くなるために髪型をそんな風にした、とか」



阿武隈「その逆転の発想、着眼点が奇抜なんですけど!?」



提督「全体的な作戦は立てて、情報や状況を伝達して後は旗艦に丸投げです。なので色々と優秀な阿武隈さんなら第1艦隊の旗艦というか、司令官丸投げできるんじゃないかなって」



阿武隈「けっこう大雑把にあたし達の命が扱われてる感じなんですけど!?」



卯月「アブーのいじり方を覚えたか……司令官、やるようになったぴょん」



提督「今うちにいる人達のことはなにが得意かなにが苦手か、知っています。あなた達のこと嫌でも見つめなければいけない立場ですからね」



雷「史実のこと、教えてあげましょうか?」キラキラ



提督「あ、はい。時間がある時にでも」



伊58「まー、提督さんが執る指揮は最初からそうでち。どちらかというと、個人のほうを軸に作戦を立ててるかな」



伊58「というか大体がそうでち。でも将校なら嗜んでおかなきゃだよ」



提督「……はい。甲丙連合軍との戦いもあなた達に適した作戦を組みました。これは演習の趣旨に沿って自分という提督のありのままの」



提督「指揮です」



提督「皆さん、お分かりかと思いますが、甲丙連合軍との戦いは」



提督「ここまでするのか。こんな手段を使っても勝ちたいのか。そんな風に批難されるような策のパレードです」



ぷらずま「もちろん、甲大将と丙少将の目はそこを見抜けないほど節穴ではありません。囮不意打ち騙し討ち裏切り、用意周到に対策し、そしてこちらの戦力もすでに丸裸」



龍驤「甲ちゃんなら、その上で更にえげつない手で来るで。甲ちゃんは正々堂々に凝り固まってない。確か最初の合同演習では木曾がゴーヤみたいに0距離雷撃してたわ……」



ぷらずま「加えていえば、向こうの兵隊もかなり強いですし、こちらの小手先の技は通用しないと思います」



提督「その通りです。だから、この演習が自分達、鎮守府(闇)の始まりの戦いといっても過言ではありません」



提督「合同演習で受けたマイナスイメージを越える阿鼻叫喚の地獄絵図になるのは間違いありません」



提督「それでも、まあ、いつも通り」




提督「勝つんですけどね」



8

 

 

ぷらずま「私からも簡潔にいっておきますね」

 

 

ぷらずま「海の傷痕は強いです。私でも一矢報いることが出来ずに大破撃沈しました」



瑞鶴「おちびがそこまでいうからには、相当だってのは分かるわね……」



ぷらずま「しかし、海の傷痕に司令官さんは口論ですが、戦いを挑み、海の傷痕は敗けを認めました」



龍驤「そこはさすがとしか……」



ぷらずま「司令官さんは引き留めないでしょうが、今更皆さんは引けないでしょう。最後の戦いが見えた以上」



ぷらずま「海から去れる訳がありません。覚悟の問題ではなく、意地と責任がそうさせるのです」



ぷらずま「私は」



ぷらずま「今までは戦いが終わり、その後に自ら命を絶とうとしていた私ですが、考え方が変わりました」

 

 

ぷらずま「この司令官さんを信頼して、私はこの身の力をみんなが無駄な涙や血を流さないよう、力になります」

 

 

ぷらずま「皆がそれぞれこの海にいる理由を全うするため、身を削ります。もしも私が力及ばず、朽ちても」

 

 

ぷらずま「その時は私の分までよろしくお願いしたいのです。ここにいる人達は後を託せる人達だと思うのです」

 

 

ぷらずま「ここから先に必要なのは」



ぷらずま「隣で誰かが死んでも、その死体を盾に使うくらいの勝ちへの執念です。泣き言をいおうが、装備がなくなろうが、心が折れたやつは死にますし、戦えなくなった人を守るのは難しいです。誰かが助けてくれるという考えは捨てて、自分が誰かを救う役割になるほどの実力を持って然るべき」



ぷらずま「その覚悟がない人は、私が3日で変えて差し上げます。戦争終結のためではなく、その人のためです」



ぷらずま「いますか? 怒ったりしないので、挙手を」



提督「正直に手を挙げてください。ここは自分からもお願いします」



暁「……正直、不安」



秋津洲「かも……」



間宮「私も。深海棲艦と戦ったことすらないです……」



ぷらずま「秋津洲さんと暁お姉ちゃんに間宮さんですね。了解です」



ぷらずま「特訓です。伝えておきますが、これは戦争を終わらせるための特訓ではありません」



ぷらずま「もう、手探りの時は過ぎ去り、終わりは見えました」



ぷらずま「ならば、どうせなら」



ぷらずま「生きてこの海から去るべきなのです」



ぷらずま「そのために、最後の決死を。この鎮守府(闇)は、始まりの時からいつだってそうなのです」



ぷらずま「決死ばかりを強いて、押し寄せる波を越えてきました」



ぷらずま「司令官さんのいう通り、各々の役割を果たすために」



ぷらずま「お友逹の皆さん」

 


ぷらずま「どんな風に解釈して、泣いても笑っても」



ぷらずま「戦争ですから」



ぷらずま「ともに暁の水平線を」

 


ぷらずま「よろしく、お願いします」



ぷらずま「そのために今日はお話をしましょう。お互いのことを知るために、お互いを理解し合うために」



ぷらずま「強さに繋がるはずなのです」



9



提督「……うん」

 

 

提督「頭の中で形が出来上がりましたので、甲丙連合軍との演習12名のメンバーを発表しておきます」

 

 

提督「今回はあくまで演習なのでうちの基本艦隊構成を弄ります。役割がありますので」

 

 

一同「……」

 

 

提督「第1艦隊は指揮は自分が執ります。旗艦阿武隈さん、間宮さん」

 

 

提督「阿武隈さんは今回、間宮さんの護衛をしてもらいます。恐らく長期戦にもつれこみますので、給糧艦の護衛をしてもらいますね」

 

 

提督「第2艦隊の指揮は龍驤さんが執ります。旗艦初霜さん、金剛さん、暁さん、瑞鶴さん」

 

 

提督「基本的な作戦に沿って龍驤さんに指揮を任せます。第2艦隊は明日から統率を取れるよう訓練に」

 

 

提督「第3艦隊は明石君、秋月さん、秋津洲さん、卯月さん」

 

 

提督「ここも自分が指揮を執ります。主に明石君メインの支援艦隊ですが、卯月さんは切り離すこともあるかと思います」

 

 

提督「第4艦隊はわるさめさん、ぷらずまさん」

 

 

提督「ここも自分が主に指揮を執ります。ただ二人は戦況によって個別に動いてもらうと思うので、まあ、遊撃枠で。以上です」

 

 

提督「そして、鎮守府(闇)、最後のメンバーを入れたいと」

 

 

提督「スカウトではなく、これは大淀さん経由で元帥からいわれたことなんですけど……」

 

 

提督「もしも勝てば、正規空母を一人、こちらに異動させてくれるとのことです」

 

 

間宮「正規空母、ですか?」

 

 

提督「はい。ま、鎮守府(仮)の時の合同演習時にも仲間に加わって頂きましたから、初期メンバーみたいなものですね」

 

 

瑞鶴「それって、まさか女神の……!」キラキラ

 

 

提督「翔鶴さんです」

 

 

瑞鶴「がんばり……!」

 

 

瑞鶴「マ━d(>▽<●)━ス!!」

 

 

提督「彼女がこの鎮守府に異動を希望なさっているとのことで」

 

 

間宮「翔鶴さんですか」

 

 

伊58「合同演習の時はお世話になったでち」

 

 

ぷらずま「まあ、確かに妹のほうとは違ってかなり高性能な方でしたね」

 


瑞鶴「おちび、今の私は強いからねー」

 

 

瑞鳳「翔鶴さんは強いですよね。あの人、赤城さんにも引けを取りませんし」

 

 

龍驤「せやなー。あの翔鶴は赤城と互角以上にやれるし……」

 

 

提督「さて、演習出場メンバーに関わらず、その後に丙少将と甲大将の艦隊が、あなた達を鍛えてくださります」

 

 

提督「皆さん、対海の傷痕までには練度を限界まであげてください。最後の戦いは戦力全投入、全員が抜錨です」


 

一同「了解!」

 

 

ぷらずま「わるさめさん、一応いっておきますが、お前本当に足を引っ張ったら怒りますよ。お前、いまいち信用できないのです」

 

 

わるさめ「いっつも思ってたけど、なんで上から目線なの? わるさめちゃん建造して覚醒したらお前より強いよ?」

 

 

ぷらずま「はあ、ため息が出ます。そんなこといってるんじゃねーのです。その頭の出来の問題なのです」

 

 

わるさめ「●ω●」ア?

 

 

ぷらずま「●ワ●」ハ?

 

 

ドガッ

 

 

提督「あなた逹、一緒に外で遊んでるくらいだから仲良くなったかと思ったら……」

 

 

提督「そうでもないんですね……」



間宮「きっとこの二人はケンカするほど仲が良いですよ。親友ってやつです。微笑ましい」



わるさめ「……はあ?」



提督「……なるほど、そういう見方も」



ぷらずま「間宮さん、お前やっぱり嫌いなのです」



間宮「え、どうして!?」






【●ワ●:8章終:●ω●】


後書き

ここまで読んでくれてありがとう。

9章のお話↓

【1ワ●:チューキさん抜錨】

【2ワ●:よーいドン】

【3ワ●:わるさめだけは潰すから】

【4ワ●:vs 始まりと終わりの深海棲艦】

【5ワ●:贈られた選奨の奇跡】

【6ワ●:初霜さんの不思議で理解不能な過去話:解凍編】

【7ワ●:未来の子らに御詫び申しあげたく。】

【8ワ●:甲丙連合軍 vs 覚醒:鎮守府(闇)】

【9ワ●:胸を借ります。胸ぐらつかむような借り方ですけどね】

【10ワ●:開戦】

【11ワ●:想題伊勢→将来の夢は←想題暁】

【12ワ●:月ガ、綺麗だネ】

【13ワ●:卯月&秋津洲 vs 北上さん大井さんグラーフさんサラトガさん】

【14ワ●:想題秋津洲:紙飛行機と二式大艇】

【15ワ●想題卯月:嘘と真の覚書】

【16ワ●:想題江風:あの日の海の傷痕】

【17ワ●:想題秋月:がんばります!】

【18ワ●:タイマン準備中】

【19ワ●:想題木曾:あなたはあの頃のまま。私達の希望だね。】

【20ワ●:想題明石君:『魔改造作品NO4:妖精と魔法使いのアトリエ』】

【21ワ●:不確定要素】

【22ワ●:想題瑞鶴:キャンパスの空に彗星幻影】

【23ワ●:間宮さんの時報】

【24ワ●:戦争の始まり】

【25ワ●:お友達の皆さん! 私に続くのです!】

【26ワ●:ここから先は、そんな自分を指揮する物語】

【27ワ●:削ぎ落としたネジを太陽に向かって蹴っ飛ばした日】

【28ワ●:想題提督:Open the door from closed door】

【29ワ●:友好の握手】

【30ワ●:想題間宮:鎮守府(仮)が始まるまで】

【31ワ●:想題間宮:やっぱり私は、ぽんこつだ。】



2/4~ 以後誤字脱字tag修正


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1: SS好きの名無しさん 2017-02-16 20:06:24 ID: p4MnX0r5

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