2018-07-26 22:53:23 更新

概要

【●ワ●:最終決戦『起』】


前書き

最終章まで一気に投下しました。


ここまで読んでくれてる人にもはや注意書など。




オリキャラ、勢い、やりたい放題。海のように深く広いお心でお読みください。


【1ワ●:E-1】

 

1

 

乙中将「計24隻、6隻編成の4艦隊」

 


乙中将「青ちゃんの艦隊にたどり着かせる前にその周りの深海棲艦、全て沈めるからね」

 

 

飛龍「はい、駆逐水鬼と軽巡棲姫の艦隊、海の傷痕は索的範囲にいません。甲大将のほうです。計36隻、6隻編成6艦隊ですが、取り巻きは偵察機をスルーしてますね」

 

 

乙中将「中途半端に思考機能付与能力使っているんだと思うとにかく、海の傷痕にアクション起こさせればいいから。伝えた通り、壊れた装備の再生速度、海色の想と妖精工作施設の深海棲艦建造速度、今の段階はえぐればえぐるほど」

 

 

乙中将「ボロが出てくる」


 

飛龍・蒼龍「艦載機、発艦!」


 

ガガガガガガガガガガ!

 

ドオオオン!


 

扶桑「さて海の傷痕残しで、手足は私達」

 

 

山城「潰します」


 

扶桑・山城「砲撃開始!」

 

 

ドオンドオン!


 

蒼龍「さすがだね。姫や鬼なら同等以上にやりあえてる」

 

 

飛龍「48隻全て、だ」


 

飛龍「電の解体のために、海の傷痕は後回しなのが残念だけど」

 

 

飛龍「海色の想は壊しておきたい」

 

 

飛龍「艦載機、発艦!」

 

 

蒼龍「飛龍さすが! 軽巡棲姫に直撃した!」

 

 

飛龍「……いや、ちょっとあれ」

 

 

軽巡棲姫「応答供給完了」

 

 

軽巡棲姫「Re;boot」

 


蒼龍「ちょっと待ちなさいよ……」

 


飛龍「再生にしても通常の深海棲艦どころかトランスタイプよりも速い……?」


 

飛龍「女神、の修復と似てる……」


 

軽巡棲姫「L2警告」

 

 

軽巡棲姫「ステルス解除、予備殲滅戦力投入します」


 

軽巡棲姫「トラ、ンス」

 

 

飛龍「……え」


 

2


 

飛龍「乙さん。倒した軽巡棲姫が復活。そして敵艦隊新たに出現です」

 

 

飛龍「軽巡棲姫に通常を越える知能能力を確認しました。中枢棲姫勢力と同じ、つまり私達と同じ動きをしてきます。被弾が……」

 

 

乙中将「全軍一事撤退。最初の僕らの役割はここまで」

 


飛龍「了解、目的地点へ移動始めます」



乙中将「……、……」

 

 

元帥「乙中将」


 

乙中将「はい」


 

乙中将「元帥の予測通りー。取り巻きの深海棲艦勢力は妖精の力を宿しているとこちらの艦隊との交戦で確認」


 

乙中将「情報からして女神といわれる死の淵からの完全回復現象と同じ」


 

乙中将「加えて夕立、神通からの報告です。捉えた戦艦棲姫を撃沈、軽巡棲姫の女神現象と同じく、2度の完全再生をした模様です」


 

元帥「やっぱり、だよなあ……」

 

 

元帥「女神の力、想経由で流し込めるよな」


 

元帥「まあ、了解した。それで深海棲艦の勢力は」


 

乙中将「沈めた23隻、その中に本体、戦艦棲姫、駆逐水鬼、装甲空母鬼、軽巡棲姫は」

 

 

乙中将「いません……」


 

乙中将「こちらの撃沈者も0です」

 


元帥「御苦労。作戦は予定通りに。混乱を招くものはともかく、なにか分かれば通信してくれ」


 

乙中将「はい、了解」


 

3


 

乙中将「深海棲艦の姫と鬼に永続女神……」

 

 

乙中将「けど、考えなきゃ……」

 

 

乙中将「この今の戦いまでで得た全ての情報で」


 

乙中将「なにかギミック、がある」

 

 

乙中将(キスカでの由良さん達、たったの4隻であいつらを撤退までさせたんだから、なにかギミックがある)

 

 

乙中将(ならば、(壊)でもない軽巡1隻、睦月型3隻で、突破も可能なギミックが、なにか)


 

乙中将(その絶望的な戦力差に勝つために……由良さん達を僕なら……)


 

乙中将「どう、指揮を執る……」


 

乙中将「……、……」

 

 

乙中将「……………、……………」

 

 

乙中将「この、敵の配置陣形」


 

乙中将「なんか……臭うな」


 

乙中将「……」


 

乙中将「さっきの今で申し訳ないのですが」

 

 

大淀「大淀です。今、元帥は潜水艦隊の指揮をお執りになっていますので、代わまして私が」

 

 

乙中将「大淀さん」


 

乙中将「この相手の配置陣形。一糸の乱れもなく、一定距離を保ちながら、中央の本体に繋がる大きな輪形陣」


 

乙中将「ですが、こちらが交戦した時、敵の陣形に乱れが生じて、軽巡棲姫はこちらと交戦することにより、大きく海の傷痕から離れたわけで」

 

 

乙中将「そして軽巡棲姫を中破させた時から、ぽつりと不自然に穴が開いた箇所がある」


 

乙中将「そして、現場の報告をまとめてみたところ、その穴を作った1隻は仕留めていません。軽巡棲姫艦隊の12隻ですが、第1艦隊の敵撃沈報告は10隻です」

 

 

乙中将「加えて女神現象は撃沈後から、1分ほど」


 

乙中将「そして夕立から、軽巡棲姫の女神現場の少し前、電探が深海棲艦反応をキャッチしたと」


 

乙中将「補給完了、の言葉」


 

乙中将「元帥直々に調査なされたという先日の史実の想を使うの深海棲艦勢力、」


 

乙中将「女神といった想の力を本体から届けているとか。例えば、例のステルスタイプの補給艦、とパイプ役のナニカが……」

 

 

乙中将「なら、海の傷痕から一定距離を離れると、そのナニカを介さないと、想の力を流せない。電波外になったから、直接ケーブルを繋ぐ、ような」


 

乙中将「攻撃手段のダウンロード、修復作業は、こちら側でいう、速水さんの洋上補給と、明石君の海上修理技能」


 

乙中将「海の傷痕の想の力には有効範囲があると、考えてもいいよね」

 


大淀「あ、元帥もお聞きになってます」


 

元帥「……、……」

 

 

乙中将「准将の説が、正しい気がする。『なぜ艦娘は電ちゃんやわるさめさんの艦娘反応と深海棲艦反応を電探でキャッチ出来て、海の傷痕は至近距離でないと探知できないのか』」



乙中将「装備を介さないとダメ、なんだ。ロスト空間からのこちらの壊:バグの探知は、こちら側から装備で探知するよりも不安定」



乙中将「または『壊:バグは探知が出来ても正確な場所までは分からないのか、繋ぐことが出来ないのか』」



乙中将「今いった仮説だと、海の傷痕がわざわざ深海棲艦の艦隊を引き連れて、あの鎮守府に進軍しているのも、一応の説明はできる」


 

元帥「……いい勘だ」


 

元帥「撤退しながら器用に確かめてみてくれ。作戦に変更はないが、確信が持てたのなら効率が段違いだ」

 

 

乙中将「了解。それでは」


 

乙中将「飛龍、蒼龍、神通、聞いて」


 

乙中将「撤退しながらでもいいから、試して見て欲しいことがある」

 

 

4

 

 

海の傷痕:当局(む、乙の旗に向かわせた駆逐水鬼と戦艦棲姫、軽巡棲姫が押されているか……)

 

 

海の傷痕:当局【やれやれ、雑魚を用意したつもりではないのだが……】

 

 

海の傷痕:当局【……】

 


海の傷痕:当局(現海界した当局の想の届ける範囲のほどに気付かれたか……?)

 

 

海の傷痕:当局【嬉しいではないか】

 

 

海の傷痕:当局【全員に見せ場なぞ用意してやる気はなかったが……】


 

海の傷痕:当局【火遊びしてやるか。その熱量で火傷したのなら、脂も興も乗るというもの】

 

 

海の傷痕:当局【●∀●】

 

 

5

 

 

乙中将「……ビンゴ、か?」

 


乙中将「海の傷痕が、釣れた」


 

乙中将「……あ、青ちゃんから」

 

 

提督「乙中将、ほぼ誤差はなく。ロスト空間にいる海の傷痕:此方に予定通り応戦していただきたい」

 

 

乙中将「了解、海の傷痕の進路がずれて僕達のほうに来てる。交戦は避けられないね。青ちゃん、ちょっと待っていて」

 

 

乙中将「欠陥だらけの史実砲、突破してきてやら」

 

 

提督「了解です」

 

 

乙中将「扶桑、山城、それに時雨」

 

 

乙中将「狙いはそっちだ。恐らく使ってくるのは」

 

 

乙中将「レイテの史実砲かなー」

 

 

扶桑「……お任せを」

 

 

山城「必ず帰還しますんで」

 

 

時雨「任せて。時雨である僕には思うところがある。必ず」


 

時雨「全員で生きて戻ってくるよ」

 

 

 

 

 

 

海の傷痕:当局【よう】

 

 

海の傷痕:当局【欠陥戦艦と、負け犬に告げようか】

 


海の傷痕:当局【誰も殺さないといったな。あれは本当だ】

 

 

海の傷痕:当局【最も生きている、の定義は新基準ではある】

 

 

海の傷痕:当局【さあ、還るといい】

 

 

山城「ンなことだろうと思ったわよ。普通にルール違反してくるやつが、約束守るだなんて信じてないし」

 

 

時雨「そもそも最大限精一杯生きているとかの座右の銘の通りに行動してるとは思えないね」



扶桑「遊んでいるようにしか」



海の傷痕:当局【性格の問題よな。遊びに全力である。最大限に精一杯、遊びのなかに仕事を包容しているのである。子供の心は忘れたか?】



海の傷痕:当局【欠陥戦艦と、負け犬め】

 

 

海の傷痕:当局【嘲嘲:ケラケラ……止まない雨と明けない夜の存在を知ってこい】

 


海の傷痕:当局【Trance!】

 

 

【2ワ●:E-1:ロスト空間】

 

1

 

海の傷痕【ようこそっ!】

 

 

海の傷痕【海の傷痕:此方ちゃんで――――す!】

 

 

イエーイバンザーイヒャッハー

 

 

山城「想像してたやつと違うわね……日本式の上質な女性とかいうから、大和撫子を想像してたわ」

 

 

海の傷痕:此方【大和撫子は絶滅危惧種だよー。だから間宮さんは貴重だねー……扶桑さんも近いけど、妹のほうは】

 

 

海の傷痕:此方【うん、ヤンキーだね】

 

 

扶桑「なんて趣味の悪い力……」

 

 

ドオオオン!

 

 

海の傷痕:此方【ヘイヘイヘイ!】

 

 

扶桑「艤装そのものを弄ってきてるのね……砲撃する度に、損傷。この……砲塔配置……」

 

 

扶桑「再現、されています……!」

 

 

山城「おまけに通信が妨害されているのかしら。飛龍さんから聞いたのとまるで同じ状態……」

 

 

「6隻、4隻、4隻、21隻、39隻」

 


山城「何度も、見たわね」


 

山城「ああ、扶桑お姉様」

 

 

山城「艤装が恐怖しているのが伝わります……」

 

 

山城「魂に刻み付けられている」

 

 

山城「夢の終わり」

 

 

山城「勝てない、という結末」

 

 

扶桑「だから、何ですか、と」ジャキン

 

ドオオオン!

 

ドンドンドンドン!


 

ドオオオン!

 

 

扶桑「こんな風にコテンパン、にされて……」

 

 

扶桑「死ぬとしても」

 

 

扶桑「構えなさい山城」

 

ドオオオン!

 

 

扶桑「っ……!」

 

 

山城「あ、扶桑お姉様……!」

 

 

山城「っ!」ジャキン


 

扶桑「あの時と結果は変わります」ジャキン

 

 

扶桑「乗り越える、といったでしょう」

 

 

扶桑「そもそも恐れるに足りず、です」

 


時雨「その通りだよ。これ艦娘verのせいで再現は適当だ。これ、乙さんがいっていた通り、欠陥砲だね」

 

 

時雨「僕はここで沈まないし、その僕に撤退命令は下されていない」

 

 

時雨「未来は変わるに値する不確定要素だよね?」

 

 

海の傷痕:此方【そうだねー。再現できるのは1つの景色だけだから、これ、非効率で非機械的。それに西村艦隊の艤装適性者、色々足りないしー……】

 

 

海の傷痕:此方【でも、まあ】

 

 

海の傷痕:此方【時雨が増えたとしても、敗走するのがオチかもね】

 

 

海の傷痕:此方【収束するし、必ず勝敗の結果は出るよ。敵の数が数だし、無意味になるかもね】

 

 

海の傷痕:此方【6隻、4隻、4隻、21隻、39隻】

 

 

海の傷痕:此方【さあ、見せてごらん】

 

 

海の傷痕:此方【あなた達の艤装と今を生きる人間の力で、過去を足蹴にする可能性をね】

 

 

海の傷痕:此方【最も、それをさせないために此方がいるんだけども】

 

 

海の傷痕:此方【単純に力で潰されるだなんて退屈なオチは止めてよね。さあ】

 

 

海の傷痕:此方【試練の時間です】

 

 

海の傷痕:此方【Trance!】

 

 

2

 

 

海の傷痕:当局(……飛龍蒼龍、と護衛に白露と神通をつけて撤退か?)

 

 

海の傷痕:当局【……、……】


 

海の傷痕:当局(む……なるほど、想が読めないと思いきや、『撤退』としか指示を出していないのだな)


 

海の傷痕:当局【嘲嘲、まあ、そうだな。それは効果的だ】

 

 

海の傷痕:当局【装備と想の『全員生還』と大雑把な策を探知し、その底を読み誤った挙げ句が当局の……】

 

 

海の傷痕:当局【キスカでの失態なので】

 

 

海の傷痕:当局(……長の射程に夕立が独り)

 

 

海の傷痕:当局【重課金者か】

 

 

海の傷痕:当局【……、……】

 

 

海の傷痕:当局【なるほど】

 

 

海の傷痕:当局【全滅覚悟か】

 

 

3

 

 

海の傷痕:此方(すごいな)

 

 

海の傷痕:此方(……75隻相手に3隻で、15分以上も持つんだ)

 

 

海の傷痕:此方(死を恐れずに果敢に応戦する姿、かっこういいね)

 


海の傷痕:此方【なるべく殺したくはないけど、それも失礼と判断】

 

 

海の傷痕:此方【此方も使えるんだ】

 

 

海の傷痕:此方【経過程想砲】

 

 

ドンドンドン

 


4



山城「っ! 見えない砲撃、ね。被弾、中破判定だけど、まだ戦える……」ジャキン

 

ドオン!

 

山城(残り30隻くらいまで減ったかしら……時雨の存在一人いるだけでこうも違うもんなのね)

 

ドオオン!


山城「え、なに!?」

 

 

山城「炎上、あれは、引火……?」

 

 

山城「あの方向は」


 

山城「扶桑お姉様……!」

 

 

山城「私より、時雨のほうが、救援に駆けつけるの、速いわね……」

 

 

海の傷痕:此方【ごめんね。でも、これ戦争だから、容赦はしないよ】

 

 

山城「……!」

 

 

海の傷痕:此方【経過程想砲っ!】

 

 

ドオオン!


 

山城(……大破)

 

 

山城(次で、艤装、壊れる)

 

 

山城「構わないわよ……別に」

 

 

山城「帰るのよ、この腐った海から、扶桑お姉様と一緒に……」

 

 

山城「そこをどいて……!」

 

 

山城「どきなさいよ、お前!」

 



【3ワ●:想題:山城】

 


前代未聞の欠陥志望。



建造効果で身体能力が超人になるから。もちろん馬鹿正直にいってはならない。そこらにあるようなお決まりの定例句を書類に書いた。

 

 

見抜かれたけどね。興味を持って面接試験を担当したのが、当時20歳、才能に満ち溢れた最年少の期待の星、乙中将だった。

 

 

――――正直に答えたら、通してあげる。嘘じゃない、と答えてもいいよ。

 

 

この時に間を空けたのが、嘘、と答えているようなもので、正直にいうしかなかった。

 

 

――――建造効果で身体能力を強化したいからです。ビルの10階から落ちても怪我で済む強靭な身体で、

 

 


 

 

 

 

 

 

 

――――殺したい暴走族がいる。

 

 

 

すぐに通ったのは、山城とその姉にあたる扶桑の艤装適性者は比較的、発見されるものの、なかなか軍に引き込めずにいたらしい。

 


山城と扶桑艤装、ともに過去に対深海棲艦海軍に在籍したのは歴代で19人。その全てが、戦死を遂げている。

 

 

曰く付きの死神艤装。

加えて艤装効果による夢見も最悪をいうならと、候補に名を挙げられるものだとか。適性者を勧誘しても、その艤装を身に付けるのを断られてばっかりらしい。それはそうでしょーよ。



――――おっけ合格。詳しく話して。

 

 

――――山城艤装の適性者は僕が唾をつけときたいんだよね。飛龍蒼龍、夕立時雨、神通、山城に共通しているものが、ほら、あるだろー?

 

 

知らないわよ。飛龍蒼龍。夕立時雨神通。なにそれ、美味しいの、というレベルで門を叩いたんだし。


 

事情は話した。

街で絡まれて、しつこかったから強く突き放したら、逆恨みされた。私も手が早いのよね。ケンカした。その時に隣にいた扶桑お姉様が怪我した。

 

 

それだけで済めば良かったのだけど、性質が悪いやつらだったみたいで、粘着してくんのよ。ガッコに待ち伏せとかされて、大人の男連れてきて、脅してきて、本当に情けない連中。


 

ああ、不幸だわ。

これは艤装を身に付ける前からの私の口癖と化していた。

 


――――警察にいわないの?


 

馬鹿じゃないの。事後に動く連中になにが期待できるのよ。世の中、自分の身は自分で守るべし。戦場にいるあんたらと同じよ。私も戦場にいるの。

 

 

――――おっけ。

 

 

ということで20人目の山城誕生。

さっそく行動に出たわ。

人気のない山の山頂近くにある自然公園で待ち合わせした。話をつけに行った。お互いに金輪際関わらない。痛み分けで終わらせましょう。


まあ、物分かりがいいなら、ここまでこじれてないわよね。

 

 

 

夜戦、だ。

 

 

戦艦の建造効果だ。腕に覚えがなくても、殴る蹴る、のテクニックの欠片もない打撃で積み上げられる人間の山。

卑怯だぞ、と誰かがいった。男複数で一人の女を囲んでくるやつらがなにを。せめてその手に持ったバットやナイフ捨ててからいいなさいよ。

 

 

死ね、とその場の奴らを叩きのめす。

いつの間にか、人が増えている。公園周りにたくさんのバイクが留まっている。仲間を読んだらしい。それでも構わずに殴り続けた。50人までは数えていたけど、途中で数えるのは止めた。灯りにたかる羽虫のように寄ってくる。

 

 

大人が来た。いかにも、その道の人、という感じの首筋に少し刺青が見えた。空気が凍りついた空気と、周りの有象無象がやけにヘコヘコしている。

親玉だと分かった。

この時の私は凶器で殴打され続けて、損傷は大破に等しかった。

 


敗ける気がしなかったけれど、追加で虫が沸くように30人が増援で来た時は死を意識した。ぐっちゃぐちゃに凌辱されてその辺の山に死体を捨てられるくらいの未来は予想した。

 

 

――――下品ね。



と、乱闘のなかに涼む透き通る撫子の声とともに、5人の男がごろごろと地面を転がった。

 

 

お姉様。

 


――――乙さん、聞こえる? 私達も加勢するから、事後処理はよろしく。

 

 

鉢巻きに刺繍されているのは、飛龍と蒼龍の文字。

 

 

――――山城さんだよね。初めまして、僕は時雨です。大丈夫、かい?

 

 

と、声をかけてきたのは、可愛い男の子だ。後でこいつ女だと知った時は驚いたわね。この時、雰囲気もあって、こいつに惚れかけたからね。

 

 

――――乙中将、いいですよね。私、ああいう連中、吐き気がするほど嫌いなんです。

 

 

――――夕立も戦うっぽい!

 

 


こいつらが、ヤバさ1位と2位だ。

 

夕立とかいうやつは、加減を知らないのか、強い力をただありのままに振るう。相手が泣こうが喚こうが、問答無用だ。

 

 

そして、神通。

ネジが外れている。こいつ、人が苦しむところを狙って、しかもわざと加減して余力をなくしてなぶるような攻撃だ。一撃ではないが、その趣味の悪い暴力の嗜好性に躊躇なかった。「分かります、そこ痛いですよね」とニコニコ笑う顔はもう悪魔よ。

 

 

とまあ、あらかた片付いた頃には空が白んでいた。


 

扶桑お姉様はいった。あなたが建造したって乙中将から連絡来てすぐに目的を悟ったわ。私も、扶桑として建造したからね、と苦笑い。たげど、包容力のある笑みだった。

 

 

その場で自己紹介して、その後はまとめて警察のお世話になるというね。私達はすぐに釈放されたのは、乙中将と元帥のお陰らしい。死傷者こそいなかったものの、重傷者が大量だ。

 

 

私だけは留置所に長く勾留された。軍学校が始まるまでに頭を冷やしておきなさい、とかなんとかいわれたっけ。

 


なんかあの大ゲンカは街を越えて全国区に轟く伝説になってたし。山城は武装した男100人を一人で薙ぎ倒したとかなんとか。



檻から出た時に、ケンカの原因である男3人、とあのヤクザっぽいやつと、50人くらいの暴走族メンバーが、私を迎えた。

 

 

――――すみませんでした!

 

 

綺麗なお辞儀で、全員が頭を下げてそう叫びやがるの。しつこいやつらだったけど、1度終わればスッキリはできる連中らしい。まあ、ガキのいいところなのかもねって今は思うわね。

 

 

信じられないことに、今では電話一本で足にでもなんでもなってくれるのよ。ケンカの後に芽生えたまさかの生涯の友情。ま、今ではみんな中年だけど落ち着いて静かな話も出来るわ。

 

 

檻の中では思ってたのよ。

乙中将の野郎、私をダシにして、悲惨はあの場を越えるであろう戦争にお姉様を巻き込みやがった、と。


 

違うわよね。

 

 

建造して叩きのめすって選択をした、

私が巻き込んだのよ。

 

 

あれが起点なんだから、乙中将には借りがある。


 

鬼ごっこでは勝ったけど、結局海の傷痕は捕まえられなかった。


勝たせてあげますよ、とか大見得切っておいて恥ずかしいったらありゃしない。


だけど、今まだチャンスがある。

 

最後だろう。

山城の戦いは終わる。

 

全員生還だっけ。

あなたの策に従って、

成し遂げてやるわよ。

 

 

――――邪魔。

 


ぽかんとした顔でこっちを見ている海の傷痕の腕を取って投げ飛ばした。

 

 

ズタボロの満身創痍ね。

扶桑お姉様は、まだ戦ってるわね。

最後の言葉は時雨にも伝えないわよ。

必要ないもの、みんなで帰るから。

 

 

だから、

 

不幸だわ、とか。

ちっとも思わない。

 

 

笑っちゃうわね。

蒼龍みたいなこと思うわ。



 

 

 

は?

 

 

 

 

 

 

レイテとかなにそれ美味しいの?

 

 

ふふっ。


 

【4ワ●:E-1:ロスト空間 2】

 

 

難しいことはよく分かんないよ。

今やれることを全力でやるだけ。立ち向かうだけ。周りの景色を見失わないように、それだけに全神経を。

  


そうして生き残ってきたから。

 

 

みんな好き。失いたくない。

だから、負けない。

 

 

それだけ。

特に語る過去なんかもない。

 

 

あ、時雨が雷撃を喰らってる。

 

 

捉えたよ、潜水艦。乙中将の鼻は本当によく利く。西村艦隊を想定された史実砲は、最後の終わりを再現しようとする。その史実砲は撤退しない時雨をも歯車に入れようとしている。時雨は、潜水艦の攻撃で死んだんだよね。

 

 

――――いいね、史実砲は軍艦ではなく、艤装の最後を、深海棲艦と艦娘で再現しようとするから、不安定の欠陥攻撃だ。

 

 

――――作戦は伝えてある。恐らく誰が混じっても終戦ラインまでに沈んだ軍艦を基にされている艤装適性者は終わりに引っ張られる。

 

 

――――かの海戦を再現しているかのように苛烈みたい。周りの艤装にも影響を促す効果があると僕は判断。

 

 

――――ビビッと来たよ。

 

 

本当だ。私は真正面にいるのに、なぜか敵が気付いてない。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、夢で見た。

 

 

――――その艤装のモチーフである軍艦の最後は語るまでもないね。

 

 

――――最後を再現するのなら、

 

 

――――君は、苛烈だ。

 

 

――――悪夢。

 


――――全力で、

 

 

――――食い散らかしてきなさい。

 

 

 

 


 

夕立。

 


2

 

 

ドンドンドンドン!

 

 

夕立「5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15隻!」


 

夕立「あはっ」


 

夕立「面白いほどに、敵が倒せるっぽい!」

 

ドンドンドンドン!

 

 

夕立「扶桑さんに時雨! 助けに来たよ! 本官さんとね!」

 

 

扶桑「助かりました……まだ私は撃てます」

 

 

時雨「僕も中破だけど、大分片付いたね……夕立、すごいよ。軍艦夕立を越えた戦果じゃないかな」

 

 

夕立「山城さんが海の傷痕:此方を押さえてくれているっぽい! そろそろザコは片付いたし、次はあいつを沈めればいい?」

 

 

時雨「そうだね……よっと」ガチャン

 

 

扶桑「そういえばその艤装、2つに分けて持てたわね」

 

 

扶桑「勇敢な山城を助けましょうか」

 

 

時雨「気付かれた。経過程想砲で潰しにくるよ。早くしないと」

 

 

扶桑「さあ、砲撃」

 

 

扶桑・時雨・夕立「開始!」ッポイ

 

 

3

 

 

海の傷痕:此方【エラー、です、やめてやめて。ちょっと、実は私の練度はまだ飛龍と戦っただけでまだ2なの……】

 

 

海の傷痕:此方【エラー、です】

 

 

山城「あんたの存在そのものが、ね!!」

 

 

ドオオオン!

 

 

山城「へっ!」

 

 

扶桑「山城、中指を突き立てるのやめなさい。下品、です」


 

海の傷痕:此方【く、う……修復に入らなきゃ……当局にも影響が出ちゃう】


 

ドオオオン!


 

扶桑「そして山城、詰めが甘いです」

 

 

山城「ああ、ごめんなさい。でもさすがは扶桑お姉様、トドメの一撃お見事でした」

 

 

海の傷痕:此方【まだ、まだ……!】

 

 

海の傷痕:此方【とおおおお↑う↓】

 

 

ドンドンドンドン!

 

 

扶桑・山城「あ、艤装が……」

 

 

時雨「壊れた……!」

 


夕立「……これじゃ戦えないっぽい」

 

 

仕官妖精「本官にお任せを。ロスト空間なら艤装を直す資材はほぼ無限であります!」

 

 

山城「夕立の服の中から……」

 


仕官妖精「その目、誤解であります! 振り落とされないように、中にいただけであります! それに本官にはロスト空間内で仕事があるのであります!」


 

海の傷痕:此方(……仕事? 本官さんへの探知システム作動……)

 

 

海の傷痕:此方(……此方のサーバー破壊と、その隙に乗じての……管理者権限の乗っ取り)

 

 

海の傷痕:此方(……やば、この段階でそれはれたらさすがに当局に怒られちゃう!)

 

 

海の傷痕:此方【帰れっ!】

 

 

仕官妖精「あ、管理者権限の、強制退去……」

 

 

【5ワ●:E-1-2】

 

1


海の傷痕:此方(当局、聞こえますかあ……扶桑山城時雨夕立に一杯喰わされちゃった……)



海の傷痕:当局(此方が楽しめているなら何よりといいたいが、此方の経過程想砲は当局よりも遥かに高性能だというのにやられるとは情けない……)

 

 

海の傷痕:此方(ごめん……)

 

 

海の傷痕:当局(どうも風向きが悪いのである。修復はまだかかるのか?)

 

 

海の傷痕:此方(此方がやられたせいで、色々と現海界した当局のこと、ばれているよね……)

 


海の傷痕:当局(……まあ、此方をすでに艤装に宿していて、妖精工作施設でロスト空間と、こちらに顔を出せることは直にバレるであろうよ)

 

 

海の傷痕:当局(それと、史実砲も全艦に必殺の意味合いを持たないことも看破されて、なにより……)


 

海の傷痕:当局(ロスト空間で与えた此方の艤装のダメージが、こちらの当局にそのまま反映されることも、一目で分からんほど馬鹿ではないよ)

 

 

海の傷痕:此方(ごめーん……)

 

 

海の傷痕:此方(想の力で本官さんの想を読んだけど、此方をボコしてロスト空間の支配件を乗っ取りたいみたい)

 

 

海の傷痕:当局(設定したメンテナンス工程を変える気はないのか。優先している壊:バグの設定よりあの仕官妖精のパスポートのほうが脅威である)

 

 

海の傷痕:此方(設定は変えるといっても、現海界した当局の設定は、1度ロスト空間に戻って来ないと、かなーり不具合が出ちゃうし……つまり、当局が死なないと無理。その建造時間は此方一人で戦い切れないかなー)

 

 

海の傷痕:此方(当局、無理そうかな?)

 

 

海の傷痕:当局(まさか。当局の提督は此方であるからな、望む通りに動くよ。なに、此方が使えないほど弱いのは知っている)


 

海の傷痕:此方(修復に専念するよ。乙中将は絶対に妖精工作施設を破壊してこないと思う。電のメンテナンスは全員生還に必要不可欠な行程だからね)



海の傷痕:此方(壊:バグの探知は本当にめんどいね。バグがあるってのは分かるんだけど、正確な位置が全く)

 

 

海の傷痕:当局(加えて、だ。向こうは気づいているであろうよ)



海の傷痕:当局(当局が仕官妖精を完全に探知できないということ)



海の傷痕:此方(だって当局が探知できるようにすると、経過程想砲で倒しちゃうもの)



海の傷痕:此方(仕官妖精は今を生きる人間と同じ。まあ、ロスト空間にいる此方からは本官さんを探知できちゃうけど……)



海の傷痕:此方(この戦いは本官さんと此方の戦いでもあるから。そして当局と本官さんが選別した人達との戦いでもある)



海の傷痕:此方(……だから始末する時はこの戦いに海の傷痕が勝利した後だよ)



海の傷痕:当局(……ま、当局は余裕である。準備はこちらのほうがしているのだから。情報量はこちらのほうが、遥かに多い)

 

 

海の傷痕:当局(予定通りに壊:バグの方向に進路を取っている。恐らく乙中将の情報収集の後、向こうから来るはずだ)

 

 

海の傷痕:当局(……艤装破壊が主だが、間接的に殺すことになっても構わないかな。なに、直接手にはかけんよ)

 

 

海の傷痕:此方(許可します。なめぷはダメだね。みんな、とっても強い!)

 

 

海の傷痕:当局【修復を早くしてくれ】


 

海の傷痕:此方(了解! がんばってね! 武運長久を祈ってるよ!)

 

 

海の傷痕:当局【やれやれ、全く……手がかかるほど可愛いというのも本当であるな】

 

 

海の傷痕:当局【おっと、撤退しないのか?】

 

 

神通「後ろには艤装のない、扶桑さんと山城さん、そして夕立時雨がいます。あなたの不殺は信じてはおりません」

 

 

海の傷痕:当局【後ろには艤装のない、扶桑山城夕立時雨がいるしな。まあ、正解だ。不殺の誓いなぞ、徹底は出来ん】

 

 

海の傷痕:当局【本気と書いてメンテナンス。文字通り最終決戦なのでな。気持ちよく退職したいものである】

 

 

神通「史実砲も経過程想砲も使ってこない。その艤装、海の傷痕:此方のダメージもトレースするんですね」

 

 

神通「乙中将の指揮通り」

 


海の傷痕:当局【狙いはSrot4か?】

 

 

神通「……鉢巻き、締めよう」

 

 

神通「痛いのも、苦しいのも、慣れてます。3000発は、耐えて」

 

 

神通「その倍は、当てます」ギュッ

 

 

海の傷痕:当局【悲しいかな……それは読み違いであるな】

 

 

海の傷痕:当局【警告である。乙中将の艦隊は進路妨害だ】

 


海の傷痕:当局【妖精工作施設+海色の想。30体の深海棲艦登場まで10分である。艦隊を護衛し、全員生還してみせるがよい】

 

 

海の傷痕:当局【嘲嘲:ケラケラ!】

 

 

海の傷痕:当局【可能性を支払いたまえ!】

 

 

【6ワ●:想題:神通】

 

1

 

街のどこかから、歌が聞こえる。

あなたがいたから、機械から発される無機質なラヴソングが歌う愛や平和が街を飛び交う。


 

黙れ。

 

 

希望電波による選択の背中押し、洗脳染みている。無責任に不特定多数に向けて発されるその宗教のシナジー効果に洗脳されないように、耳を塞いだ。


 

被害妄想がすごい。まるで目に映る全てが敵のようにさえ見える。

 


虐げられ続けた日々は、いつしか努力を放棄した。神様に甘えるようになった。いつか悪いことをしたやつには罰が下る。

 

 

そう神様に願い、他力本願を常にして耐えてきた。

 

 

自分でなんとか出来ないことが、この世界には多すぎるよ。

 

 

いつか必ず。

 

光を信じるために、毎日を諦め、弱さを受け入れ、生きてきた。

 

 

私は、

 

雨にも負け続けて、

 

風にも負け続けて、


雪にも夏の暑さにも負けていたら、


丈夫な身体は自然と出来上がり、

 

慾もなくなり、決して怒らず、

 

いつも静かに笑っている、

 


出来損なった人間だ。

 


いつだって死ぬ準備は出来ている。毎日を運が良かったから、命として息をしていると思っている。

 

 

歩いているとふと奇声を発したり、壁があれば意味もなく背中を預けて力を抜いたりした。

 

 

ある日、そんな頭のおかしい人間は、人混みを眺めて唐突に全速力で駆け抜けた。どこか見たこともない場所へ行きたい。だけど、この世界はどこもかしこも線が引かれている。新しい土地なんてないのが悔しい。そんなこと考えてたら、自然と走ってた。今思えばあれが神通へのスタートなのだ。

 

 

真っ直ぐに駆け抜けた。交差点の車道を抜けて、正面の自動扉を潜って、受付にゴール。軍の適性検査施設だ。

 

 

そこの受付の人とお話ししてそのままの勢いで神通に。別に覚悟もなにもよかった。行き当たりばったりのままに、だった。大した理由はない。

 

 

母親はいつもどこかに行っている。家に帰って出迎えてくれるのはテーブルの上にある福沢諭吉だ。親に連絡を入れて、即OKをもらった。そういう家庭だった。


 

適性率10%の挑戦。その適性率で配属まで漕ぎ着けた兵士はいないらしい。構わなかった。やってみたかったのではなく、逃げ出したかったのだ。

 

 

家も学校も街も嫌いだから。

 

 

海とか、街より人が少なそうだし、いつ死んでもいいし、どうせなら国のために死んだほうが生産性がある。

 


建造して艤装適性率10%の不具合を体感した。艤装は身体の一部のように感じるが、手足が思うように動かない。まるで立つことのできない赤ん坊のように上手く行かない。

 

 

でも



手足は痛めていた日のほうが多かった私にとってその不具合は、自分の手足と同じ感覚だった。最初は上手くいかなかったけど、段々とコツは掴めてきた。教官は驚嘆していた。

才能だ、と。

 

 

街では感情を叫ぶだけで迷惑だけど、この戦争の舞台ではどれだけ叫ぼうが、なにをしようが、要は深海棲艦を沈めればいいだけの話だ。



だから、いつ死んでも構わない命で、いつ殺しても構わない深海棲艦を沈めるのは楽しくて仕方がなかった。我が身の傷をいとわず、傷ついた分は倍返しだ。意識がある限り、戦い続ける。


全員生還というのは苦手だ。


今も、それは変わらない。

海の傷痕が相手でも、変わらない。強い深海棲艦という認識しか持ってない。そんな風に戦っていたら、

 


――――もちろん。僕の嗅覚がびびっときた。



――――君は、もっと強くなる。



乙中将に声をかけられた。

この人レベルなら、作戦も緻密で被害も並以上に気にするだろう。エリートは効率かつ完璧を求めてくる。嫌だな、と思った。私の特攻気質的に合わない。死にもの狂いで戦果をもぎ取りにゆくような、そんな提督のもとへ行こうと考えていた。


 

――――でも、私は、



――――クラスのイジメから逃げ出すために艤装をまとって海に抜錨したような、



――――臆病者で、


 

と、断ろうとした。

 

 

――――この戦争で出撃したことあるよね。大したもんだ。学校のイジメに合うより、殺し合いのほうが気楽だなんて。



――――それに臆病者が弱いだなんて誰が決めたんだよ。溜め込むタイプみたいだけど、そういうやつは



――――それを吐き出した時、狂っているくらいに強いし。



――――深海棲艦に対してそんな戦い方をしてる。そしてその集中力と、素質の馬鹿げた根性値は目を見張る。



――――あの大和とだってやりあえる素質だと僕は思うんだよね。


 

なんとなく、だ。この人は私をよく見ている。それが分かった上ならば、問題はないように思えた。ならば、苛烈な戦闘が予期される中将の御旗も悪くないかもしれない、と。

 

 

――――本当に、いいのですね?


 

――――うん。まあ、誰かとは思ったよ。だって姿が全然違うもん。



――――だから、面白い。



――――現行艦娘の中で最低値の



――――艤装適性率10%の適性者。



――――その数値だとかなり不具合が出るから普通は1週間程度で諦めて解体申請するものなんだけどね。


 

――――君みたいなやつは見たことない。君はきっとその艤装を見にまとい、歴史にはない兵士としての機能を発現するだろう。


 

――――そうですか。私は、本当に心で溜め込むので、もしかしたら、


 

――――気が触れてあなたを殺してしまうかもしれません。


 

――――あっはっは、君のそういうところも割と好きだなー。



この人を選んだのは間違いではなかった。今立っているこの戦場が証明している。海の傷痕と10を越える深海棲艦。

 

 

神通「……」ジャキン

 


海の傷痕:当局【もらったのである】



ドン!

 


被弾した。なるほど。史実砲、経過程想砲は使用できずとも、通常の艦娘と同じく砲弾を装填し、撃てる。

 

 

この仕組みは通常の艦娘にも備わっている。装備がないスロット空の状態でも弾さえあれば撃てるのだ。

 

 

海の傷痕の砲撃精度、砲弾タイミング、次弾装填から発射まで、海の傷痕と交戦すればするほど情報が刈り取れる。そのための決死が任務でもある。この取り巻きだけは潰し、海の傷痕の生態を暴く。

 

 

艦載機は後方の2航戦からの援護だ。

 

 

海の傷痕:当局【……む】

 

 

海の傷痕:当局【さすがにしぶといな。そのG君のごとき生命力、見習いたいモノではある……が】

 

 

海の傷痕:当局【タイムアップである】

 

 

艤装が弾け飛ぶ。どうやら経過程想砲が復活したようだ。弾けた鉄屑が身体に突き刺さる。

 

 

「……」



艤装が壊れて、平衡感覚が崩れ始める。重心がブレ始めるこの状態は、砲雷撃の精度を下げる中破判定だ。



なんだか、この状態のほうが攻撃は当てられる気がしてたまらない。


 

「……探知」



私が軍艦神通と適応する10%の部分は、ここだろうか。沈みかけてからも苛烈に。


 

「捉えまし、た……!」

 

 

海の傷痕:当局【狙いは、当局では……】

 

 

海の傷痕:当局【ない……?】

 

 

海の傷痕の取り巻きの姫と鬼の女神現象。その女神現象は撃沈後から、30秒ほど後だ。そして夕立から、軽巡棲姫の女神現場の少し前、電探が深海棲艦反応をキャッチしたと。


 

補給完了、の言葉。


 

女神といった想の力を本体から直に届けていない可能性はある。現海界した当局は、想の探知は決して広くない。この海域にいる戦力図からして深海棲艦は必然的にバラけてゆく。

 

 

例えば、例のステルスタイプの補給艦、とパイプ役のナニカ。

 

 

なら、海の傷痕から一定距離を離れると、そのナニカを介さないと、想の力を流せない。電波外になったから、直接ケーブルを繋ぐ、ような。


 

神通「ステルス、ですね。確かに反応、しました」

 

 

神通「そこ、です」

 

ドオン!


補給艦「…………」

 


海の傷痕:当局【あー……2航戦の、艦載機の狙いは……】

 

 

海の傷痕:当局【後方の軽巡棲姫か】

 

 

ドオオオン

 


軽巡棲姫「……、……」

 

バチャン

 

神通「女神現象、なし、です」

 


飛龍・蒼龍「よっしゃあ!」

 

 

その修復作業の秒数的に、女神現象ですらなかったのかもしれない。こちら側でいう、速水さんの洋上補給と、明石君の海上修理技能の重ね技の可能性も出てきた。

 

 

いずれにしろ、あのステルスタイプの艦を介さないと、あの中距離の軽巡棲姫に直接的に想の力を流し込めない。

 

 

海の傷痕:当局【……E-1突破されたか。よくがんばったな。乙に留まらず、甲の素質もある艦隊である】

 

 

あやすような声音の意味はすぐに理解した。周囲に深海棲艦反応をキャッチした。30体。妖精工作施設と海色の想の組み合わせ技の反転建造が完了したようだ。

 

 

海の傷痕:当局【相手は姫と鬼、eliteの群れである。ただの深海棲艦なので】

 


海の傷痕:当局【もっとガンバらないと全滅するぞ】


 

「……」

 


――――これあげるから鉢巻き絞めなよ。うちの流儀だ。


 

――――これから終わりの海まで。



――――いつかみんなで暁の水平線をともに眺めようね。


 

――――よろしく、



――――神通。



終わりの海が、今ここだ。

 

 

海の傷痕:当局【ま、2航戦も貴女もその艤装は破壊しておこうか】

 

 

海の傷痕:当局【がんばりたまえ】

 

 

神通の、

 

 

 

終わりの海は、


 

 

今、

 

 

 

 

ここだ。

 

 

神通「……」ギュッ



ドンドンドン!



海の傷痕:当局【フハッ、頑なに当局を無視して、そこらの姫を沈めにかかるか】




渡された任務は、


苦手な全員生還を成し遂げること。

 

 

報いましょう。

 

命に代えても。

 

 

 

今日はあの終わりの夢と違って、

 

太陽が、眩しい。

 


2

 


蒼龍「く、経過程想艤装も破壊されて」


 

扶桑「く、艤装もなくて、海にぷかぷか浮いている状態で、あの深海棲艦の群れは」

 

 

山城「さすがにヤバいわね……」

 

 

飛龍「蒼龍、扶桑さん達をお願い、救助艦が来るから早く待避して……!」

 

 

時雨「飛龍さん、艦載機飛ばせないのに、突っ込むのかい……?」


 

夕立「なにか策があるっぽい!」

 

 

乙中将「おいって! ボサッとしてるんじゃない!」

 


乙中将「蒼龍、まだ海上を進めるのなら、飛龍に続いて!」

 

 

乙中将「見えるだろ! 神通、艤装もないのに、深海棲艦の身体をつかんで、不格好に戦ってる!」

 

 

乙中将「決死で、時間を稼いでくれてるんだよ!」

 

 

乙中将「扶桑山城夕立時雨は予定通りの地点に1秒でも早く辿り着くために泳いで! 僕も船でそっちに向かってる! 乗員総出で救援するから!」

 

 

時雨「了解!」

 

 

扶桑「ねえ、山城」



山城「神通のあの戦い方は、私達にも出来ますねけど、その必要はなさそうです」

 

 

夕立「あ、救援来たっぽい!」

 

 

白露「間に合った! 良かった!」


 

山城「遅いわよ」

 

 

白露「前進全速だよ! 海の傷痕と交戦して艤装を破壊されるのは不味いからタイミングが遅れたの! 名前を挙げられていない私は見逃してくれるみたいだね。戻ってくる気配はないって判断してからの出撃だし!」

 

 

白露「それじゃ前の3人を助けてくるからそのまま泳いで艦のほうに!」

 

 

時雨「……白露、お願い」

 

 

夕立「飛龍さんと蒼龍さんと神通さんを生還させて欲しいっぽい」

 

 

夕立「いや、欲しい!」

 

 

白露「あいあいさ! 白露型のネームシップの名に誓うよ!」


 

白露「必ず生還させるから!」

 

 

3

 

 

飛龍「神通が軽くて、助かった……」

 

 

神通「色々欠損してますからね」

 

 

飛龍「なのに普通にしゃべってる上、欠損した顔面で笑わないでよ! めちゃホラーだからさ!」

 

 

白露「蒼龍さん、飛龍さんの手を離さないでねー!そのまま早く撤退して!」

 

 

蒼龍「白露、姫と鬼混じりの深海棲艦30体、しかも昼戦だよ。無茶はしないでね?」

 

 

ドオオン!

 

 

白露「あれ、深海棲艦が勝手に沈んだ?」

 

 

飛龍「違う、ね。瑞雲が、飛んでる」

 

 

日向「聞こえるかー。元気一番娘。瑞雲は見えただろ? すまん、駆けつけるのちと遅くなった。お前と同じ理由でタイミングを待ってたからな」

 

 

日向「偵察機飛ばして長射程から撃ち込んだんだ。全く、偵察に攻撃、やることが色々ある時の瑞雲の頼もしさと来たら……」

 

 

白露「それは分かったから!」


 

日向「状況は把握している。お前はその3人の護衛に回ってくれ」

 

 

日向「深海棲艦30体だろ。私と1航戦で片付ける」

 

 

白露「日向さんっ! 了解したよ!」

 

 

4

 


赤城「はいはーい。救助艦まで艦載機で護衛させるので、そのまま泳いあの艦までがんばってくださいね」

 

 

時雨「助かります……白露のほうには加賀さんと日向さんも駆けつけてくれたし、希望は繋がりました」ホッ


 

赤城「油断は出来ません。姫と鬼含め30の数はいまだ絶望よりなので安堵感は乙中将と再会するまでしまっておいてくださいね」

 

 

扶桑「その通りですね、山城、少し遅いわ。あなた泳ぐの下手なままなのね」

 

 

山城「すみません……」

 

 

夕立「でも赤城さんがいると、安心してしまうっぽい」

 

 

時雨「そのいつもの笑顔で安心するよね」

 

 

赤城「あらあら……頼りにされているみたいですね。ならば期待に応えないと」

 

 

赤城「1航戦の誇り、ですー」

 

 

赤城「艦載機、発艦」

 

 

【7ワ●:殲滅:メンテナンス】

 


乙中将「元帥、僕らからは以上です。情報の更新で作戦変更があるのなら今の内ですね。丙さんところは支援してもらっていますし、甲さんを切ればいよいよ、戦力が限られてきますよね」


 

元帥「いや、甲はまだ切らん。どうも、嫌な予感がする。1/5作戦の例もある。ロスト空間に深海棲艦建造して待機させていた等々で出来るだけ」

 

 

元帥「潰しにかかるか。妖精工作施設とロスト空間で、闇の戦力で海の傷痕当局此方と交戦だ」

 

 

元帥「わしは武蔵達と潜水艦の第1艦隊で現存取り巻きを殲滅に入るわ。通商破壊作戦だなこれ」

 

 

元帥「准将、予定よりちと早いが、戦場が分かれるな。海の傷痕との決戦地は鎮守府(闇)正面海域か。ここから対海の傷痕指揮を移す。任せるなー」

 

 

提督「了解しました」

 

 

元帥「おう。それじゃわしはさっさと取り巻きは沈めるわ」

 

 

乙中将「……青ちゃん、どう?」

 

 

提督「偵察機の映像も見せてもらいましたし、乙中将の艦隊からの証言もまとめまして、少し自分の艦隊と交戦させます」

 

 

提督「危惧していた経過程想砲の攻撃範囲は想像以上に短距離です。現海界した当局の制限、でしょうね」

 

 

提督「お任せを。乙中将の活躍で少し早い段階でのメンテナンスとなりますが」

 

 

乙中将「もぎ取った情報からしてロスト空間の此方から潰したほうがいいというのが結論だけど」

 

 

提督「ロスト空間への立ち入りがシャットアウトされているみたいで。こちらに来る当局と交戦せざるを得ませんね。艤装を破壊したら此方のほうも、ですかね。すみません、まだ此方を潰しにかかるのは当たって砕けろ、の策放棄の特攻となるレベルです」



乙中将「Srot4も謎だしね」



提督「経過程想砲は乙中将の情報から『有効範囲内でも距離が遠ければ遠いほど、届くまでの時間が長い』そして『神通さんの証言からして至近距離でも想の着弾までに2秒はかかる』と」

 

 

提督「当局と交戦します」

 

 

提督「1つ、ここをもう少し探って想定にズレがなければ、交戦予定の当局の妖精工作施設は必ず1度は潰します」

 


提督「その2、当局の艤装も此方のほうとリンクしている可能性があります。それを当局の言動から確かめるため」

 

 

提督「それと大きな不安要素である未知のSrot4も引きずり出せれば、と」

 

 

乙中将「うん、了解。それじゃ僕は現場の指揮に戻るから」

 

 

提督「ええ、それでは」

 

 

提督「はっつんさん、聞こえますか? 第2艦隊は待機です。本官さんが戻ってくるまでもう少しお待ちを」

 

 

初霜「了解です!」

 

 

提督「瑞鳳さん、空母護衛は不知火さん」

 

 

提督「榛名さん、その護衛は陽炎さん」

 

 

提督「わるさめさんとぷらずまさんは二人で隊列を」

 

 

提督「以上の6名で海の傷痕:当局との交戦に入ります。予定交戦海域は鎮守府(闇)の通常哨戒範囲よりも先です。進路も指定し、海の傷痕:当局の進路も制限、予定通りの配置で囲みます」

 

 

提督「作戦は」

 

 

提督「――――、――――」

 


提督「です」

 

 

瑞鳳・陽炎「了解!」

 

 

榛名・不知火「了解しました!」

 

 

ぷらずま「……了解なのです」

 

 

わるさめ「ぷらずまー、私のためにしっかりとやるんだゾ☆」

 

 

ぷらずま「お前こそしっかりやるのです。しくじった挙げ句にこの戦い終わってまだ生きてたら私が制裁するのです」

 

 

わるさめ「あいあい」

 

 

提督「わるさめさん、聞こえますね?」

 

 

わるさめ「うん? これわるさめちゃんだけの通信?」

 

 

提督「はい。――――、――――」

 

 

わるさめ「ほうほうほーう」

 

 

わるさめ「任せろ。おねんねしている響の穴は私が埋めてやんよー!」

 

 

わるさめ「わるさめちゃんは水筒に入れてきた綾鷹飲みながらゆっくり進軍していまーす!」

 

 

提督「了解です。狙いは当局の妖精工作施設を潰すことです。その結果の情報が揃えば、ロスト空間にも出撃します」

 

 

提督「偵察機からこちらでも確認はしますが、異常事態、指定海域、指定配置場所到着の際は一報をくださいね」

 

 

瑞鳳・榛名・ぷらずま「了解!」ナノデス

 


………………


………………


………………


 

提督「ふう。もう夕方ですか。明石さん、響さんの容態はどうです?」

 

 

明石さん「まだ起きませんね。改造によるものだかららこの子に後遺症残したくないなら無理に起こすな、とお医者様から。隣の部屋で、鹿島ちゃん暁ちゃん雷ちゃんがまだ看病しています」

 

 

提督「そうですか。まあ、その大きな穴は埋められそうです」

 

 

明石「おろ? 聞いてもいいですか?」

 

 

提督「ええ。その鹿島さんが作成してくれた個々の技術資料です。わるさめさんの項目、『Trance』の上から45行目の辺りに目を通していただければ」

 


明石さん「……、……」

 

 

明石さん「ええと……うん?」

 


提督「あ、先程の火蓋を切ってくれた乙中将からなのですが、『有効範囲内でも距離が遠ければ遠いほど、届くまでの時間が長い』そして『神通さんの証言からして至近距離でも想の着弾までに2秒程度はかかる』みたいで」

 

 

提督「海の傷痕は大本営にてぷらずまさんと交戦し、『壊:バグ』 の探知は至近距離かつ艤装をアライズさせた瞬間ならば、可能だと」

 

 

提督「ほら、甲丙連合軍との演習の時に鹿島さんが、わるさめさんのトランス速度について、才能がある、と」

 

 

明石さん「あー、確かにそんなことをいっていましたね。背びれとか形成できるのもセンスゆえで、電ちゃんには出来ない芸当と」

 

 

提督「そこらの詳細です。わるさめさんの『トランスはアライズ&ロストともに1秒もかからない』のです」

 

 

提督「砲撃精度は並ですが、これトランスタイプのマイナスも踏まえると、わるさめさんの素質はかなりのもんですね。砲撃行動の速度の面では阿武隈さんよりも速く、狙いを定めて撃つまでは卯月さんと同じく1秒程度」

 

 

明石さん「あの子はノリとテンションで生きているから躊躇いとか迷いがないんですかね……」

 

 

提督「春雨さん時代のデータと比較した感じ、関係してそうですね……」

 

 

提督「ともかく『有効範囲内でも距離が遠ければ遠いほど、届くまでの時間が長い』そして『神通さんの証言からして至近距離でも想の着弾までに2秒程度はかかる』の経過程想砲は当たりません。春雨艤装を出さなければ史実砲も無効化」

 

 

提督「海の傷痕に対して響さんは艤装による特攻艦説が濃厚ですが、わるさめさんは素質的に特攻艦となり得るってことです」

 

 

明石さん「……そうですか」

 

 

提督「みんなのこと心配ですか?」

 

 

明石さん「まさか。信じてます。それと提督さんのお手伝いくらいしか出来ることはありませんから、そこに決死です。明石さん、前日に睡眠は取りまして体調も万全です」

 

 

提督「明石さんって、なんか思うところがある時って困ったように笑いますよね。卯月艤装のメンテナンスに来た時もそんな顔して、明石君と秋月さんのこといっていましたし」

 

 

明石さん「む、そうなのですか。まさか女遊びしてなにか成長を」

 

 

提督「そんなんで成長したら苦労しませんよ……女性というか、いまだに人間の嗜好性は謎が多いです」

 

 

提督「ですけど」

 

 

提督「この鎮守府のみんなのことなら、少しくらいは分かったつもりです」

 

 

明石さん「あはは、なるほどです」

 

 

提督「あ、それと明石さん、機を見計らって抜錨させますので、待機しといてください」

 

 

明石さん「へ? 艤装は弟子が……」

 

 

提督「ご安心を。協力していただいている研究部のほうから艤装の仕組みを解明してくれて情報を頂戴しています。妖精さんが新しい艤装を作るシステムも、です」

 

 

提督「艤装を還せばいいんですよ。海の傷痕:此方に想が還ればまた建造可能。要はロストさせとけばいいみたいです。宿る想自体はデータ的なもので、本体と繋がる妖精さんのコピー&ペーストみたいなもんです」

 

 

提督「……決戦が始まってからは無理になってるみたいですが」

 

 

提督「まあ、本官さんの性能でも1日かかりましたね。気付いてからの大量生産は不可能でした」

 

 

提督「まあ、新品の明石艤装はなんとかこさえてあります」

 

 

明石さん「!」

 

 

提督「艦艇修理施設、いえ、明石君の海上修理施設装備があります。妖精可視の才、意思疏通のレベルも高く明石さんにも出来るはずです」

 

 

明石さん「出来ることは出来ますが、弟子みたいに速くないですからね!」

 


提督「そこをなんとかがんばってください。よろしくお願いいたします」


 

明石さん「こちらこそよろしくお願いします!」ビシッ

 


2

 


瑞鳳「提督には連絡を入れましたっと。それじゃっ」

 

 

瑞鳳「第1攻撃隊、発艦!」

 

 

陽炎「それにしても、上手く飛ばすわね。妖精可視の才なくても、あんな上手に飛ばせるのかあ」

 

 

瑞鳳「確かに妖精可視の才は飛躍的に技の幅が増えるかな。でも、ないものねだりしても仕方ないから」

 

 

瑞鳳「やれることを、やるために、ずっと訓練してきたんだよ」

 

 

陽炎「そういえば瑞鳳さんって、瑞鶴さんの訓練とか私達もそうだけど、演習場でよく見かけたわね」

 

 

瑞鳳「まあ、龍驤さんも瑞鶴さんも、才能あふれてるから。陰に隠れるのはいいけど、提督の期待には応えなきゃね。訓練は割と……」

 

 

陽炎「そういえば瑞鳳さんが卵焼き、作ってるところあまり見かけない」

 

 

瑞鳳「普通に作れるけど……なんか私の代名詞みたいな感じでそれよくいわれるよ……」

 

 

陽炎「!」

 

 

陽炎「とうっ」

 

 

ドン!

 


陽炎「あれは野良のホ級とはぐれかな。あの程度は私が片付けてくるから、瑞鳳さんはなにも気にせずに集中してくれて構わないわ」

 

 

瑞鳳「うん、ありがとう」

 

 

瑞鳳「第2、攻撃隊発艦!」

 

 

………………

 

………………

 

………………

 

 

提督「目的は達成しました。遂行中の作戦に変更はありません」

 

 

提督「瑞鳳さん陽炎さん、次は周囲に気を付け、引き続き長の射程を保ちながら、つかず離れず海の傷痕に攻撃を」

 

 

提督「陽炎さんはそのまま火の粉払いをお願いします。万が一、海の傷痕に狙いをつけられたら全力で撤退です」

 

 

瑞鳳・陽炎「了解!」





 

 


 

 


榛名「榛名は主に背中の辺りから、力を感じます!」

 

 

不知火「榛名さん、不知火もです」

 

 

榛名「背中に入れてもらったおそろいの鎮守府(闇)の刺繍のお陰で! この広大な海でも皆さんと繋がっている気がして、力を感じます!」

 

 

不知火「ええ、これで」

 

 

不知火「最後にしましょう」

 

 

榛名「あっ、水上偵察機が海の傷痕を発見しました! 電さんが視界に入る位置でトランス現象を使っているお陰ですね! 提督の読み通りにそちらを最優先している模様です!」

 

 

榛名「主砲、砲撃開始です!」

 

 

3

 

 

海の傷痕:当局【長射程からの砲撃、やれやれ経過程想砲のギミックは看破されたか。霧をかけようとしたものの】


 

ぷらずま「●ワ●」

 

 

海の傷痕:当局【あなたのせいで行動が制限されてしまう。全く……メンテナンスverはこれだから】

 

 

ぷらずま「『殲滅:メンテナンス』を最優先ですか。キスカからもう5年にもなりますが、無能なままなのです?」

 

 

海の傷痕:当局【そうなのだろうよ。自分で有能というほど自信家ではない。この戦争ゲームの運営はよくやれているとは思っていたが……やれやれ】

 

 

海の傷痕:当局【嘲嘲:ケラケラ】

 

 

海の傷痕:当局【この戦争ゲームの廃課金がいっても、ツンデレとしか思えないのである】

 

 

ぷらずま「元の身体よりも、お前を沈めるほうを優先しているので……」

 

 

ぷらずま「やりたければ、やってみろなのです。バグからウィルスまで消化してシステム破壊してやります」

 

 

海の傷痕:当局【腹が立つ物言いである】

 

 

ぷらずま「お互い様なのです……」

 


海の傷痕:当局【貴女のせいでどれだけの面倒があったことか。功績も計り知れないがな。フレデリカとまるで同じだ。廃課金のなかではフレデリカの次に嫌いである】

 

 

ぷらずま「よくも、ぬけぬけと」

 

 

ぷらずま「お前のせいで、この海は」

 

 

ぷらずま「どれだけの血と涙が混ざったと思っているのですか」

 

 

ぷらずま「お前のその血肉を海に捧げて、散ったお友達の魂を清め鎮めます」

 

 

海の傷痕:当局【戯けが、今更論議する価値もないわ】 

 

 

海の傷痕:当局【申し訳ないが、貴女では当局に逆立ちしても勝てんよ】

 


海の傷痕:当局【『殲滅:メンテナンス』の後、貴女の廃課金になった思い遣りの想を根こそぎ回収させてもらう】

 

 

海の傷痕:当局【そして思い知れ】

 

 

海の傷痕:当局【その殺戮の輪廻の痛みこそが、当局と貴女を繋ぐ想……】

 

 

海の傷痕:当局【すなわち】

 

 

海の傷痕:当局【海の傷痕である!】

 

 

ぷらずま・海の傷痕「トランス:Trance!」



4

 

ドオン!

 

 

海の傷痕:当局【嘲嘲、馬鹿の1つ覚えみたいに突撃であるな】


 

ぷらずま「トランス……!」

 

 

海の傷痕:当局【経過程想砲】

 

 

ドオン!

 

 

ぷらずま「トランス、解除……」

 

 

海の傷痕:当局【啖呵を切っておきながら情けない。艤装をロストさせて再生のために、逃げ回るのか?】

 

 

ぷらずま「く、う……」

 

 

海の傷痕:当局【おっと、戦艦の砲撃か】

 

 

ドオン!

 


ぷらずま「司令官さん」

 

 

ぷらずま「空砲対処、どいつもこいつも砲撃に砲撃当てるだなんて神業を普通にしやがるのです……おまけに」

 

 

ぷらずま「右手の砲撃、空砲ですけ。艦載機も撃ち落とし、左手の経過程想砲も使って、しかもあれは砲口を向けてはいますが、狙いを定める必要がないみたいです」

 

 

提督「了解。多少の溜飲は下がりましたか?」

 

 

ぷらずま「一撃も当てられません。ですが、それでも私は……」

 

 

提督「ぷらずまさん、任務はお分かりですね? 力にすがらないでください。あなたは一人ではないです。どうにかなる策を組みました」

 

 

ぷらずま(……なにがあっても)

 

 

ぷらずま(信じて進め)

 

 

海の傷痕:当局【骨がないな。捕まえた】

 

 

ぷらずま「了解、なのです」

 


海の傷痕:当局【のである】

 

 

海の傷痕:当局【Trance:Srot3:妖精工作施設!】

 

 

海の傷痕:当局【壊:バグのためにプログラムした『殲滅:メンテナンス』、実行である!】

 

 

ぷらずま(艤装から、工具を持った大きな黒い手……?)

 


ぷらずま「っ痛――――!」

 

 

ぷらずま(……あの手に触れた途端、強制オール、トラ、ンス……)



海の傷痕:当局【なに、すぐに済む。通常の解体は『カーンカーンカーンカーン』だが、この解体は『カーンカーンカーンカーンカーンカーンカーン』程度である。優秀であろう?】

 

 

ぷらずま「……、……」

 

 

カーンカーンカーンカーン……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ナイス、ぷらずま。

 

 


――――ザッ!

 

海の傷痕:当局【想探知……この反応、】

 

 

 

 

 

 

 

わるさめ「パ――――ン!」

 

 

 

【8ワ●:わるさめちゃん、参る!】

 

 

ガ!!

 

ブ!

 

リ!!

 

と噛み付いた。

 

 

一跳ね、一噛みで、海の傷痕の右腕の肘から前を、噛み千切った。

 


それでもなお、海の傷痕は『殲滅:メンテナンス』を重視して、そちらを優先している。そこらは融通が利かないのか、それとも思考故なのかは知らない。司令官の読み通りだ。

 

 

妖精工作施設によって、解体される危険性、というリスクはある。どのように解体されるのか、伝達のやり取りをしている暇はなく、その時は現場の判断に任せる、だ。

 

 

なんとなく、行ける気がした。

あの中二臭い黒腕が2本あれば止めておいたけど、私の読み通り1度に解体出来るのは一人までのようだ。

 

 

カーン、カーン、カーン。

 

音が途切れた。



電「……う、」

 

 

「ボサっとしてんじゃねっス……」

 

 

「電に戻ったのなら、とりあえずぶち殺されるだけの対象だから逃げなよ」

 

 

電「……!」クルッ

 

 

海の傷痕【Tra、】

 

ドオン!

 

「史実砲はさせない。厄介な経過程想砲は潰したから、今は弱体化のジャックポットタイムだろー?」

 

 

海の傷痕【……】

 

 

海の傷痕【●ε●】


 

底が知れないのは承知の上だ。乙中将艦隊にもしてやられ、受け身ばかりで情報も解析され続けてなお、

 

 

 

こいつは、

 


表情から、余裕の笑みを消さない。


 

「●ω●」

 

 

「ねえ、お前も死んだらあの世に行くのかな?」

 

 

海の傷痕【海の傷痕の存在で死の定義は塗り変わったが、どうなのであろうな。死んでからも楽しみがあるとは、本当に世界は面白いのである】


 

――――死んだらさ、

 

 

 

 

 

 

 

 

――――お母さんに伝えて。

 

 

 

 

――――あなたの娘は、平和な海を世界に届けたよって。

 

 

海の傷痕【春雨艤装から、貴女の母親のことは間接的に知っている。貴女は素晴らしい母親の愛を受けたな】

 

 

海の傷痕【だが、優しいのか馬鹿なのか】

 

 

海の傷痕【嘲嘲!】

 


 

海の傷痕【当局が天国に行けると?】

 

 

 

そういえばそうだな。馬鹿のほうだ。

 

 

 

終わりは近い。明日じゃない。今日この時だ。こいつを倒して深海棲艦のいない海が手に入る。

 

 

終わらないと謳われた戦争が、

 

もはや世界の一部として、自然だと、

受け入れられつつあった海の戦いが、

ようやく終わる。

 

 

終わる。

 

 

お母さんと一緒に見たかったな。

 

スイキちゃんの気持ちも分かるよ。

 

これが罰なんだろうな。


 

「遥か永久の時を生きてきた気がするほど、色々あったけど、ここまで」

 

 

「来た」


 

 

 

――――Answerである。


 

――――世界に平和な海を届けたよって、

 

 

――――間に合わなくてごめんなさい、と、

 

 

――――貴女が死んだ時に、

 

 

――――自分で伝えろ。

 

 

 

ああ、なるほどね。

 

 

生きろ、と言われているのと同じだ。


 

海の傷痕:当局【そして、平手をもらった後に大泣きして抱き締めてもらえ】


 

海の傷痕:当局【この親不孝者が!】

 

 

海の傷痕:当局【嘲嘲!】

 

 

思ったよりかは人間っぽいな。


 

 

でも、

 

 

 

 

 

 

牙は鈍らないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

トランス。

 

 

2

 


海の傷痕:当局【近付けん……】

 


海の傷痕:当局(……それに思わぬ性能だな。トランス現象のコントロールが、上手い。バグの才能など、よくもまあ)

 

 

海の傷痕:当局(さきほどの艦載機はなるほど、経過程想砲のギミック確認……として)

 

 

海の傷痕:当局(……あの動き)

 

 

海の傷痕:当局(完全に解析されたか)

 

 

海の傷痕:当局(史実砲、経過程想砲ともに、春雨には通用しない。まさか別府以外の特攻艦を用意するとは)

 

 

海の傷痕:当局【オープンザドア君め、楽しませてくれるな、嘲嘲!】


 

海の傷痕:当局【砲雷撃戦だ。正々堂々とこの試練、乗り越えてみせよう】

 


ドンドン!

 

 

わるさめ「痛っつ、その空砲でも威力はネッちゃん並の精度は卯月か……」

 

 

ガガガガ、

 

 

ドオオン!

 

 

わるさめ「うし、ハルハルにづほ、ナイス援護!」ジャキン

 


わるさめ「くたばれ」

 

ドン!

 

海の傷痕:当局【痛いのである】

 

 

海の傷痕:当局【●ε●】

 

 

わるさめ(痛いって顔はしてねっス……痩せ我慢にも見えねー……)

 

 

わるさめ(耐久値と装甲はいくつだ?)

 

 

わるさめ(確かガチのチューキちゃんが……設定的にはMax999はあるか……?)


 

わるさめ(神通とかにも多少はやられてんだから、削れてはいるはずだけど)

 

 

わるさめ(全ての基本性能を最大値と見て、トランスタイプの再生含め倒しても、妖精工作施設の女神効果発動は洒落にならないよね)

 

 

わるさめ(潰した装備もいつ復活するか分かったもんじゃねっス……)

 

 

わるさめ(砲雷撃戦じゃ再生時間を与えてるようなもんか。泣き所、妖精工作施設と肉体の急所を噛み千切る)

 

 

わるさめ(これが安牌かな)

 

 

わるさめ(潜ろ。トランス)

 

 

3

 

 

海の傷痕:当局【……、……】

 


海の傷痕:当局【……?】

 

 

海の傷痕:当局(待て待て。潜り続けるために深海棲艦艤装を展開していれば、この距離ならざっぱな探知は可能であるはずなのだが……)

 

 

海の傷痕:当局(探知できない一部分のトランスか……?)

 

 

海の傷痕:当局(……、……探知)

 

 

海の傷痕:当局【そこか】

 

ドン!

 

海の傷痕:当局(外れ。そして背びれか)

 

 

海の傷痕:当局【なるほど……】

 

 

海の傷痕:当局【艤装が肉体に侵食する壊-現象ギミックの……】

 

 

海の傷痕:当局【コントロールが上手いのか。肉体と艤装の形をある程度、操作できると。全く……本来ならば、コントロールできるものではないのだぞ】

 

 

海の傷痕:当局(しかし、少し驚いたな。トランス速度も踏まえると、史実砲と経過程想砲、両方が効果的とはいえん)

 

 

海の傷痕:当局(……相性が悪い)

 

 

わるさめ「ザッ! パアアアアン!」

 

 

海の傷痕:当局【後ろか!】クルッ

 

 

ドオオン!

 

 

わるさめ「効かねっス……!」

 

 

海の傷痕:当局【……】



海の傷痕:当局【先程の倍は体躯があるな】

 

 

わるさめ「頭から艤装まで丸ごと食い千切ってやら!」

 

 

わるさめ「ガブリ!」

 

 

海の傷痕:当局【●∀●】

 

 

海の傷痕:当局【Trance】

 

 

わるさめ「その妖精工作施設の黒腕……!」

 

 

海の傷痕:当局【本来7種メンテナンス用だが、当局の3本目の腕としても。大和型のパワーなので捕まれば終わり】

 

 

わるさめ「ロスト、できない……」

 

 

海の傷痕:当局【当たり前だ。電を見ていただろう。解体工程としてまずは艤装をロスト空間から持ち出してもらう。つまり、強制Tranceの効果がある】

 

 

海の傷痕:当局【5種の春雨は深海妖精で十分であるが……】

 


海の傷痕:当局【貴女さえ解体すれば当局の縛りはほぼ解ける。お互いのためにじっとしているといい】

 

 

わるさめ「なら、これでどうだ!」

 

 

わるさめ「全、接、射!」

 


海の傷痕:当局【っ!】

 

 

海の傷痕:当局【……】

 

 

わるさめ「なるほど、その黒腕の装甲耐久は、これで破壊できるんだねー」

 

 

わるさめ「死、ね」

 


わるさめ「ガブ、リ」

 


海の傷痕:当局【……はあ】

 

 

海の傷痕:当局【しっかし……】

 

 

わるさめ「よっしゃ、妖精工作施設、破壊した!」ヒャッハー

 

 

海の傷痕:当局【……最初期に比べると、ずいぶんと兵士の想の質が落ちたな】

 

 

わるさめ「……あ?」

 

 

海の傷痕:当局【尻尾を巻くのである】クルッ

 

 

3

 

 

わるさめ「以上、追わなくていいの?」

 

 

提督「瑞鳳さん不知火さんと榛名さん陽炎さんが偵察機で追ってますし、深追いはしなくていいです」

 

 

提督「恐らく罠かと。元帥艦隊ががんばってくれます。そちらからの報告で自分達は攻勢に出ます。潰しにかかるのでここからが本番です」

 

 

電「……すみません、気になったのですが、『最初期に比べると、ずいぶんと兵士の想の質が落ちたな』という発言にはどんな意味があるのでしょう?」

 

 

提督「気にする必要はないですが、今は対深海棲艦海軍もまともになったということでしょう。電さんの身体の件は世間で騒がれていましたが、最初期はそれを遥かに越える闇の歴史ですから……」

 

 

電「……」

 

 

わるさめ「わるさめちゃん、よく知らないんだけど、どんな感じだったの?」

 

 

提督「始まりの艤装は五種類です。そこから艤装の数はすぐに増えまして、海外国にも、です。ですが深海棲艦の数もそれ以上に増加しました。そして深海棲艦は人間に攻撃的、しかも情報が今より遥かに少なく、戦時後間もない」

 

 

提督「適性者は駆逐艦、小学生の女の子ですね。今とは違う適性の調査で適性者は集められまして」

 

 

提督「強制です。形振り構っていられない状況なので、子供を本人やご家族の意思とは関係なく、集められたようです」

 

 

電「……教科書では確か成功した深海棲艦の鹵獲に成功して、適性者の協力を経て、艤装の調査が進められたんですよね?」



提督「そう、ですね。でも真に受けちゃダメです。我々は我々のために真実すらも歪められていくものです。練度1の状態、しかもろくな訓練も積んでいなく。中には砲の撃ち方を口頭で伝えられて即海に、というケースもあったみたいです」



提督「……まあ、過去と比較して、の海の傷痕の生温いでしょう」

 

 

電「……なのに、海の傷痕はこれを戦争ゲーム、というのですね」

 

 

提督「そこに関しては自分も恥じ入ります。子供とはいえ、自分もこの戦争を初めて知った時、良くできたゲームみたいっていう感想でしたからね……」

 

 

わるさめ「そこは置いといても、そんな終わらない戦争は、終わりがすぐそこ。司令官はもっと自分に自信を持っていいよ。司令官の功績は確かにあるしさ」

 

 

提督「英雄がいるのならば、本官さんでしょう。彼が海の傷痕:此方を産んだのですから、戦争は終わらずとも、死の運命の輪を狭めたのです。最初期から抜け出したのは彼の功績によるところが大きいです」

 

 

提督「最近まで、彼の功績に誰も気づけなかったわけですが」

 

 

提督「……海の傷痕はその頃の戦時の人間を母として産まれたのですから、本官さんのいう通り、あの頃の戦争は終わってないのでしょうね」

 

 

わるさめ「これで終わるだろー。司令官、待機でいいの?」

 

 

提督「そう、ですね」


 

翔鶴「提督、報告です。白露さんが本官さんを届けてくれました」

 

 

提督「了解です。では電さん、電艤装で本官さんに建造して電艤装を身にまとってください」

 

 

電「……了解なのです」

 

 

電「響お姉ちゃんは?」

 

 

提督「まだ目覚めません」

 

 

電「起きないと、後悔すごそうなのです……」

 

 

提督「妖精工作施設、史実砲、経過程想砲は潰しました。再生はまだですね。なので、直の攻勢で海の傷痕はなにか切ってくるでしょう」

 

 

提督「恐らく……血みどろなので」

 

 

提督「終わりよければ全てよし、です。目覚めた時にそう思わせてあげる気概を持って臨んでください」

 

 

電「……はい、なのです」

 


【9ワ●:偉大なる寄り道】

 

 

1


 

提督「明石君、秋月さん」

 

 

明石「おう」

 

 

秋月「……はい」

 

 

提督「秋月さん、元気ないですね」

 

 

明石「さっきの話を聞いて少しへこんでるみたいだけど、命令くれりゃすぐにいつもみたいに立ち直るよ」

 

 

秋月「大丈夫です。ただその頃と自分の不幸を比べてしまって。私の不幸は大したことないのに、いちいち悩んでしまっていたんだな、って」


 

提督「……そんなことありませんよ」

 

 

提督「あなたが受ける心の痛みは彼らよりマシだとか、はかれることではないですし、誰かと比べるもんでもないです」

 

 

秋月「……はい」

 

 

提督「ただ過去には感謝はしないとですね。今ある全て、自由も権利も、過去に生きた皆さんが当たり前にしてくれたものです」

 

 

提督「もちろんこの海での戦いもそうです。自分もまあ、幸福とは言えない人生を歩んできたと思っていますが、今はこう思います」

 

 

提督「ラッキーな時代に産まれてきた、と。それはあなた達もきっと」

 

 

提督「自分達が海の傷痕を倒せるんですよ。美味しいところ取っちゃって申し訳ないな、って思います」

 

 

秋月「あはは……」

 

 

秋月「はい、そうですね!」

 

 

提督「あなた達と出会った時、正直、妙なガキになつかれたな、程度にしか思っていませんでしたけど」

 

 

明石・秋月「……」

 

 

提督「今度はお二人が助けてあげてください」



提督「海で命が散らないよう」


 

提督「自分は戦場に兵士として立てませんから。負けず挫けず、それぞれの使命をやり遂げてください」



提督「これは本心ではありました」

 

 

提督「あなた達は最初、思い立ったが吉日の無理やりな理屈で来たも同然ですから」

 


提督「それと」


 

提督「あなた達のあのお父さん、今は陸軍にいるって知ってました?」

 

 

明石「……マジ?」

 


秋月「え……な、なぜ」

 


提督「1度アカデミーに来たらしく、元帥にほぼ無理やり放り込まれたみたいです。そして先日、自分宛に手紙が」

 

 

提督「『どうかしてた。もう1度、やり直せねえかって、嵐士と秋と会う場を設けてくれねえか』と」

 

 

提督「この海でも艦に乗り込んでサポートしてくれているそうです。かなり、変わったみたいですよ」

 

 

明石・秋月「!」

 

 

提督「また家族でちゃぶ台囲めます。だから、絶対に負けず挫けず、それぞれの使命をやり遂げてください」

 

 

提督「ここはきっとあなた達にとって」

 

 

提督「偉大な寄り道だったのです」

 


提督「置いてきたもの全て、暁の水平線にあります」

 

 

提督「生き抜いてください」

 

 

明石・秋月「了解!」

 

 

【10ワ●:響とВерный:три】

 

1


提督「暁さん雷さん、そろそろ頃合いなので抜錨準備に入ってください」

 

 

暁「ずっと呼びかけていたけど、響、起きなかった……」

 

 

雷「仕方ないわ。行きましょう」

 

 

鹿島「私はまだ抜錨命令出ていないので、お二人の代わりに側についています。大丈夫です」

 

 

暁「うん。よろしくお願いします」


 

雷「司令官、響、このまま目を覚まさないってことはないわよね……?」

 

 

提督「必ず目覚め、そしてこの戦いに参戦します」

 

 

提督「お約束します」

 

 

暁「……、……」

 

 

暁「いったわね。嘘だったら許さないから!」

 

 

雷「司令官、フレデリカさんもなにか分からないの? 壊:バグを調べていたくらいだから、建造の精神影響はそこらの専門家よりも詳しいんじゃないかしら……」

 

 

提督「ロスト空間から帰還しません。海の傷痕:此方に還ったようです」

 

 

暁・響・鹿島「!?」

 

 

鹿島「生身の人間がロスト空間、しかも、海の傷痕に接触したのですか……?」

 

 

提督「はい。海の傷痕の情報獲得のために自分が強制したも同然です」

 

 

暁「……言い訳する気はないのはいいけど、それだと誤解しちゃうじゃない。フレデリカさんは、嫌々行ったの?」

 

 

提督「……いえ」

 

 

提督「本官さんから遺言を預かってます」

 

 

「『私は、役に立ったんだ、と出来れば向こうで広めて欲しい。少しでも、私が許容されるように、壮大に語って欲しい』」

 

 

「『厚かましいお願いです』」

 

 

「『せめて、ですか。私も命を吹き返し、未来をこの目に見て思いました。せめて、と』」

 

 

「『ああ、私のあやまちは取り返しがつかなくとも、いつの日か、許し合うことが出来る未来だって、可能性は皆無ではないと』」

 

 

「『生きてこそ、願わくば』」

 

 

「『ああ、もっと早く気付いてさえいれば』」

 

 

「『死にたく、ない』」

 

 

提督「だそうです」

 

 

雷「っ!」

 

 

雷「今さらなによ、それ……」

 

 

雷「気付ける人なんじゃない……」

 

 

雷「私はその未来を拒んでしまったのね。私が、あの人にいつも通り接していたら、皆の傷も少しは塞げたのかもしれない」

 

 

雷「そんな風に思ったじゃない……」

 

 

雷「……私は、私の感情でその未来を閉ざしてしまったのね」

 

 

雷「悔しいわ、司令官……」

 

 

暁「雷……」

 

 

提督「フレデリカさんは海の傷痕:此方と対話をし、有力な情報を引き出してくれました。善や悪、罪や罰はこの際、置いておいて」

 

 

提督「自分達はその情報に助けられている事実があります。雷さんは後悔しているようですが……」

 

 

提督「ここでも引きこもると、後悔だけじゃ済まなくなると思います」

 

 

提督「亡くした宝物を飾って眺めるにはあなた達はまだまだ若いです。取り戻しに行くことで、その後悔がまた新しい宝物を与えてくれるでしょう」



提督「暁さんにも合同演習時にいいましたが」

 

 

提督「涙は人の資材です」

 

 

提督「空っぽの人間は、涙すら流さない。雷さん、海に出てください。その涙も後悔も、そこに全ての報いがあります。全てがあります」

 

 

雷「……うん」

 

 

雷「響のことは任せたからね!」

 

 

提督「お任せを。約束は守ります」

 

 

雷「それじゃ暁、抜錨するわよ!」

 

 

雷「戦場のことはまっかせなさい!」

 

 

提督「よろしく。暁さんも、です」

 

 

提督「ぷらずまさんは解体を受けて駆逐艦電として再建造中です。あの強さはもうありません」

 

 

提督「予定通り、第6駆に電さんも合流させるつもりですから、その際の旗艦はあなたです。よろしく」

 

 

暁「……!」

 

 

暁「司令官、本当にありがとう」

 

 

暁「必ず、みんなを守ってくるから!」

 

 

………………


………………

 

………………

 


提督「ところで鹿島さん」



提督「この海で生きているとか、死んでいるとか、なんなんでしょうね。自分にはよく分かりません」



鹿島「?」



提督「なにがあろうとも折れないでください。軍の意向がありましたから、この戦い、生きて帰投する意味の全員生還としましたが、ほぼ必ず」



提督「誰か死にます。最悪、全員です。海の傷痕はそれほどの敵です。皆が思い知るのはこれからでしょう。どれだけ危険だと言葉で伝えても、心で理解しきれていなさそうな人達が見受けられました」



鹿島「……そうですね。あなたは『勝利という結果を出しすぎてきて、鎮守府としての敗北がいまだない』ですから」



鹿島「あなたなら、この鎮守府の皆なら必ずなんとかしてくれるだろう、という甘えは心のどこかであってもおかしくないです、ね」



提督「ええ、ですから自分が失敗して敗北した時、崩れ落ちるのも早いです。一応、皆の作戦書にこのこと書きましたけど、不安ではあります」



提督「勝ちに行く策なので、あなた達が折れたらそこから一気に瓦解します」



提督「その時、周りの兵士の支えになってあげてください。この鎮守府だけでは今、あなただけなんです。本当の意味での悲劇の体験者は」



提督「誰かが死んだことで、泣いて喚く絶望的状況、例え死ぬと分かっていても敵と交戦しなければならない時は恐らく到来します。周りに折れた方がいたら、背中を押してあげてください。自分の言葉として、吹いても構いません」



提督「最後には必ず自分が応えますから」



提督「出来ればこの話は内密にお願いします」



鹿島「……、……いわれなくともそのつもりでしたけど、はい」



鹿島「分かり、ました」



明石「提督、戻ってきてください! 始まりますよー!」

 

 

提督「戻りますので、響さんのことよろしくお願いします」

 


鹿島「はい」

 

 

提督「……」

 

 

響「……」

 

 

提督「早く、戻ってきてくださいね」



【11ワ●:E-2】

 

 

陸奥「わるさめちゃんの手柄を奪うようで申し訳ないけど、容赦はなし」

 

 

長門「……」

 

 

陸奥「姉さん、なにをムスッとしているのよ。なにか気に食わないの?」

 


長門「当局だったか?」

 

 

海の傷痕:当局【役不足だ、引っ込みたまえ】

 

 

海の傷痕:当局【●∀●】

 

 

長門「貴様からは勝つという意思も、護ろうとする気概も感じない」

 

 

長門「倒す意味は多大にあっても、個人としては勝つ意味は薄いな」

 

 

海の傷痕:当局【ならば下がりたまえよ。当局はこの通り、ほとんどの装備を潰されて、修復を待っている】

 

 

海の傷痕:当局【史実砲は直に】

 

 

長門「構え」

 

 

ドオン!

 

 

海の傷痕:当局【……む、あちらのほう】

 

 

海の傷痕:当局【長の射程に武蔵でもいるのかな、嘲嘲!】

 

 

長門「出せよ」

 

 

長門「こういう窮地の時のために、ギミックあるんだろ。それを真正面から潰しに来たんだ」

 

 

海の傷痕:当局【●∀●】

 

 

海の傷痕:当局【この位置は臭うか。まあ、鎮守府(闇)の連中は追ってこないしな。罠だとは承知の上のようである】

 

 

海の傷痕:当局【ま、これを乗り越えたら、少しは中盤に差し掛かるといったところであるな。では遠慮なく」

 

 

海の傷痕:当局【血生臭くいこうか】

 

 

海の傷痕:当局【此方、用意していたモノを出すぞ】

 

 

海の傷痕:此方(そこだね、分かったー!)

 

 

海の傷痕:当局【E-2のギミック展開である!】

 

イエーイバンザーイヒャッハー

 

 

2

 

 

武蔵「元帥、聞こえるか?」

 

 

元帥「おう。ようやく分離した取り巻きの補給艦は片付け終わったところ」

 

 

武蔵「海の傷痕と交戦に入った直後」

 

 

武蔵「唐突に深海棲艦が現れた」

 

 

武蔵「ざっと100体くらいだ」

 

 

元帥「甲を切る。おい甲ちゃ、」

 

 

甲大将「もう向かわせてる。 第1艦隊は3分くらいで到着するから、比叡と霧島とクマネコは残存した取り巻きの相手を終わらせたら、向かわせるつもりだ」

 

 

元帥「さっすが。そちらの指揮はわしが取る。潜水艦も分けて向かわせるから思う存分やってくれ」

 


甲大将「了解。任せとけ」

 

 

提督「こちらからも向かわせました」

 

 

元帥「了解。しっかし、これは……恐らく100体だろ。唐突に出現。これは明らかに狙ってやってるに違いないわ。腹が立つな」

 

 

提督「ええ、1/5作戦の再現ですね」

 

 

丁准将「……ふむ、あの時は大和を犠牲にして逃げたようだが、実に合理的でお見事な策であるな。惚れ惚れしたよ、青山君」

 

 

丁准将「今回その役は大和の妹でどうかね。重課金の武蔵が適役である」

 

 

提督「……自分はストレートにそんなこというあなたが好きで、それ以上に冗談でそんなことをいうあなたを軽蔑してましたね」

 

 

丁准将「お互い様だ。理屈で生きていた君は理屈で翻るから信用出来ん。そこさえどうにかすれば信頼も出来たのだがな、いやはや我輩の躾不足か」

 

 

元帥「お前らストップな……」

 

 

丁准将「いつものコミュニケーションである」



提督「懐かしいですねえ」



元帥「!?」



3

 


提督「ここでの深海棲艦増援のパターンは頭に入ってますよね。では」

 

 

提督「第1艦隊旗艦阿武隈さん、卯月さんわるさめさん榛名さん金剛さん瑞鳳さん」



提督「第2艦隊は龍驤さん、翔鶴さん瑞鶴さん陽炎さん不知火さん」

 

 

提督「支援艦隊は明石君、秋月さん」

 

 

提督「電さんの建造が直に終わります。第3艦隊はそれまで電さんの護衛を。建造終了したら、旗艦暁さん、雷さん電さんです」

 

 

阿武隈「旗艦阿武隈! 了解です!」

 


龍驤「第2艦隊旗艦龍驤、了解やで!」

 

 

明石「うっす。支援艦隊旗艦明石、りょーかい」

 

 

暁「第3艦隊旗艦暁、了解っ!」

 

 

暁「それと明石君! もうちょっと気合い入れた返事しなさいよっ!」

 

 

明石「入ってるよ。戦果は多大にあげる。暁さんがヘマしても助けてやるから大船乗ったつもりでいい」

 


暁「ヘマなんかしないわよっ、失礼ね!」プンスカ

 


4

 


ドオンドンドン!

 

長門「っち、逃がした……! 探知できない。ステルスかこれ。猪口才な」

 


陸奥「入り乱れてるわね……」

 


ヌ級「……」

 

 

長門「艦載機か、邪魔だ!」

 

ドン!

 

 

陸奥(阿武隈、卯月、わるさめ、榛名、金剛、瑞鳳、龍驤、秋津洲、陽炎、不知火、瑞鶴、翔鶴、明石、秋月、木曾、大井、北上、江風、グラーフ、サラトガ)

 

 

陸奥(姉さんに武蔵さんに私、それと大淀さんと秋雲ちゃんも来る、と、後は第6駆は途中参戦かしら……)

 


陸奥(現実的に太刀打ちできるけど)

 

 

陸奥(ステルスの海の傷痕が怖すぎるわね……恐らく重以上の課金者とやらのほうに行くんだろうけど)

 

 

駆逐水鬼「……」

 

 

ドン!

 

 

長門「陸奥!」

 


長門「っ、さすがに鬼の砲弾は拳で叩き落とすには威力が殺し切れん」

 

 

陸奥「ごめんなさいね、考え事していたわ」ジャキン

 

ドンドンドン!

 

長門「悪い癖だぞ。とりあえずこの深海棲艦の霧、数を減らして晴らすほうがいいか。出来れば夜になる前に」

 

 

駆逐水鬼「……逃げないの?」

 

 

駆逐水鬼「1/5作戦の時みたいに」

 

 

陸奥「思考機能付与能力……ということは、力の程は中枢棲姫勢力クラスかしら」

 

 

長門「この混戦状態だと……」

 

 

乙中将「はいはーい! 長門さんに陸奥さん! 乙中将だよー!」

 


長門「乙中将殿……戦いながら聞くが、出来るだけ声は大きめで頼む。いかんせん砲撃音がうるさくなる」

 

 

乙中将「指揮官のほうで各艦隊の連携は取れているから、安心して。手透きの僕が長門さん達の指揮を執るよ」

 

 

長門「ありがたい。先の火蓋役はお見事だった。あなたの指揮なら命を預けられる」

 

 

陸奥「そうねえ。場が敵味方入り交じって騒がしいからありがたいわね」

 

 

ドンドン!

 

 

乙中将「秋津洲ちゃんの二式大艇と大淀さんの艦隊司令部施設で状況も把握。その駆逐水鬼は潰して、丙さんところと合流する」

 

 

乙中将「やられたら、とか、他の艦隊とか、なにも気にしなくていいから、ただ今は数を削るだけでいいよ」

 

 

乙中将「対空と潜水、駆逐水鬼のギミックの要であるPT小鬼群は直にそちらに合流する白露さんに任せればよし。そこの姫や鬼系統は駆逐水鬼1匹だから、潜水艦の魚雷に気を付けながら、周りの空母から撃破で」

 

 

長門・陸奥「了解」

 


5

 

 

武蔵「……ちっ!」

 

 

武蔵「邪魔だア!」

 

 

ドンドンドン!

 

 

武蔵「人の嫌な過去ほじくり返す真似しやがって」

 

 

武蔵「どこに隠れた、海の傷痕……」

 

 

大淀「武蔵さん! 砲撃来てます!」


 

武蔵「このくらい拳で十分だろ」

 


ガゴッ!

 

 

大淀「武蔵さん、落ち着いてください。私は戦場を把握して報告しないとですので、あまり無茶されても、支援し切れません」

 

 

大淀「駆逐棲姫艦隊と空母棲姫艦隊が来てます!」

 

 

駆逐棲姫「キャハハ」ドンドン!

 

 

武蔵「あ? どこを狙って……」

 

 

武蔵「私達を無視して、向こうの、軍艦……?」

 

 

武蔵「マジかよ、これは」

 

 

大淀「鎮守府施設を備えた艦を優先的に狙うこの行動……は」



大淀「最初期の深海棲艦行動、です……!」

 

 

大淀「武蔵さん、艦載機のある空母棲姫から潰したほうが」

 

 

武蔵「ああ、しかし私の対空は」

 

 

秋雲「はいさー」ドンドン

 

 

武蔵「秋雲か」

 

 

秋雲「うん。途中で丙少将のところの黒潮ちゃんと合流したー」

 

 

黒潮「ほんま疲れるなあ。うち、陽炎不知火暁響抜けたせいで、遠征三昧の毎日、最近は1航戦に可愛がられるわで大変なんやで」

 

 

武蔵「うん、泣き言か?」

 

ガガガガ!

 

黒潮「まさか。見ての通りお陰様で対空めっちゃ得意になったんや」

 

 

武蔵「前言撤回。よろしく頼む」

 

 

武蔵「大淀、元帥は」

 

 

大淀「潜水艦隊の指揮で手を離せません。沈んだあなた達を回収する重要な艦隊なので……」

 

 

秋雲「大淀さんは艦隊司令部施設で忙しそうだし、指揮執れる人いない?」

 

 

黒潮「……おるやん、あの人、復活したんやろ?」

 

 

丁准将「ふむ、司令官をお探しかね?」

 

 

武蔵「お前も1/5作戦の時を思い出す要因だな。そもそも信頼できねえ」

 

 

丁准将「武蔵君は頭に血が昇りやすい性格は直ったのかな」

 

 

大淀「先代丁の准将、この場はお願いします」

 

 

武蔵「大丈夫かよ……瑞穂の一件でこいつの性根は腐ってるのが分かっただろうに」

 

 

大淀「しかし、指揮に関しての才はあなたも大和さんも認めていたはずです。この人は丙乙甲のなかで最も作戦成功率が高い方です。青山さんもそこを認めていたのはご存じでしょう?」


 

丁准将「まさかとは思うが、立ち話はしていまいな。非効率的な真似は慎みたまえよ?」

 

 

武蔵「そこまで馬鹿ではない……」

 


丁准将「ならば空母棲姫ではなく、まず優先して駆逐棲姫を沈めろ。最初期の空母棲姫は基本的に対象に艦載機を放つだけだ。そして艦載機は、直線的な軌道かつ、この場合は軍艦のほうに向かうため、対空で処理しやすい。そちらは秋雲君と黒潮君でがんばりたまえよ」

 

 

丁准将「最初期のデータからも空母棲姫と駆逐棲姫の組み合わせでは駆逐棲姫を抜かせた場合、ほぼ確実に艦は危険に晒されている。厄介なのは抜かれた場合の駆逐棲姫であるよ。こいつの速度と装備は近距離を許した場合、死を強く意識させる。近くで見る姫級の深海棲艦は乗員のメンタルにもよろしくないしな。知識がいるぞ?」

 

 

丁准将「大和型を名乗るのならば、駆逐艦が空をがんばっている間にスピーディーに駆逐棲姫を処理したまえ」

 

 

武蔵「……」

 

 

丁准将「書類では大和を失った戦いで拾ったような命と見たが」

 

 

丁准将「かつての我輩の第2艦隊旗艦の武蔵君」

 

 

丁准将「この場でその命を、海に投げ捨ててみるといい」

 

 

丁准将「さすれば我輩が」

 

 

丁准将「海ごと救って差し上げよう」

 

 

武蔵「了解だ、クソッタレ」

 

 

丁准将「感謝する」

 

 

武蔵「にやついてんじゃねえ」

 

 

丁准将「フハハ、よく分かったな」

 

 

6

 

 

阿武隈「せいっ!」

 

ドンドンドン!

 

卯月「っと!」

 

ドドドドドン!


 

わるさめ「さっすがー。この二人いりゃザコはおそるるに足らずだね」

 

 

阿武隈「金剛さん榛名さん、中距離から先はお任せします!」

 

 

金剛「近距離の相手が溶けるので、とても気持ちよく戦えマース!」

 


榛名「はい、艦載機も気にしなくていいので狙いもつけやすいです!」

 

 

金剛「全砲門、ファイヤー!」

 

 

提督「阿武隈さん、全体の1/4ほど片付けた模様です。ですが、じり貧ですね。明石君達も動かせるので、ある程度の無茶はしてもいいですが、全員生還を軸に動かしてください」

 

 

阿武隈「了解です。しかし、提督の読みならば、ステルスまでは当たっていましたが、艦載機、目視ともにわるさめさんを保有するこの艦隊に接近の気配はありません」

 

 

提督「装備の再生を待っているのか、もしくは水中にお気をつけください。わるさめさんに限らずこちらに出来ることは海の傷痕にも不可能ではないことを念頭において、艦隊の指揮を」

 

 

阿武隈「了解です。しかし、切り抜ける、だと被害は予想されます。出来るだけ抑えますが」

 

 

提督「了解です。突発的に発生した100体以上の深海棲艦相手に無傷で勝てるわけがないので、予定通りに出来るだけ抑える方向で結構です」

 

 

提督「海の傷痕は必ずどこかの艦隊にちょっかいかけに来ますから。深海棲艦はその間に少しでも減らしておきたいです」

 

 

阿武隈「……交戦に入ります。潜水棲姫艦隊、軽巡棲姫の水雷戦隊、ヲ級改機動部隊に目をつけられたみたいです」

 

 

提督「了解です」

 

 

7

 


瑞鶴「敵が減ってる気がしないわね。目の前の敵を倒せ。やり方は任せるって、投げっぱな指示出しやがってー」

 

 

翔鶴「瑞鶴、それは仕方ありません。鎮守府(闇)の役割を考えれば、詳細な情報を海の傷痕に与えるのは致命的になり得ますから。それに提督がいったはずでしょう?」

 

 

翔鶴「途中で誰かが欠けても、最後には誰も欠けずに帰投する。それを信じて、提督の負担を減らす仕事をすればいいんですから」


 

翔鶴「あなたの性には合っているでしょう」

 

 

瑞鶴「そうなんだけどさー……龍驤、あんた『どうするのが正解』だと思う?」

 

 

龍驤「……うちも頭で考えるタイプやけど、やっぱりあの提督が頭の中でなに考えとるか分からん」

 

 

龍驤「不知火はどー思う?」

 

 

不知火「不知火が司令だったらどう考えてもこの場で中枢棲姫勢力切ります、かね。深海棲艦の群れに混じれて背中から撃てます。彼女達がここに来たらこの戦場、早く片付くのは間違いないと思うのですが」

 

 

翔鶴「確かにそうですが……それは無理でしょうね。だから甲大将を切ったのだと思います」

 

 

龍驤「せやな。深海棲艦100体程度が上限やったら不知火の考えでええんやけど、問題は『無限湧きしたら?』やねん」

 

 

陽炎「確かにロスト空間のほうに後何体用意してあるか分かったもんじゃないわね。ただでさえ頭数で負けてるからきっついわ」

 

 

龍驤「こういうとあれやけど、中枢棲姫勢力は確定した死を踏まえて戦う最強のカードやからな、切り札切るの躊躇うのは分かる。無駄死にはさせられへんし、させたくないやろ」

 

 

龍驤「無駄死に繋がる最大の不安要素があるからな」

 

 

龍驤「『Srot4が怖い』」

 

 

瑞鶴・不知火「なるほど」

 

 

翔鶴「では機会があれば、海の傷痕にそれを使わせるよう動くべき、ですかね」

 

 

翔鶴「少なくとも『最低限の応戦』は、こちらの殺しも範囲内ですね。この深海棲艦100体で判明しました。艤装だけを破壊するというのは、あくまで『つもり』だったと」

 

 

龍驤「せやな。出来たら儲けもんやけど、ここまで来てまだ使わないのは、うちでも疑問に思うほどやね」

 

 

龍驤「うちらの提督のことやから絞れてはいると思うし、大体の見当はついたやろ。当局も此方とも交戦して装備を破壊して、確定情報もかなりぶんどった……」

 

 

龍驤「それで、海の傷痕にとって予想外といわれるとそうでもないやろな。当局のほうは顔に出るタイプや」

 

 

龍驤「わるさめと戦った時に分かった。わるさめの戦闘力、バグ方面の才能は予想外やったんちゃうかな」

 

 

陽炎「というかみんな手を動かしてよ! 姫鬼やflagshipがうようよいるってのに!」

 

 

瑞鶴「そうね。危機感は持たないと。この程度の危機には慣れてしまっていたわ……」

 

 

陽炎「……ル級改の反応!」

 

 

不知火「聴音機にもわずかに反応がありました。潜水艦ではありませんね。この途切れた反応、『わるさめさんのシャーク形態と同じ』です」

 


龍驤「海の傷痕はうちらんとこに来たか。重で名を挙げられたうちかな」

 

 

瑞鶴「ル級改は仕留めとくか」


 

瑞鶴「弓式神風とうっ!」

 

ドオオン!

 

不知火「矢を肉に当ててからの0距離艦載機変化からの、0距離爆撃……」



翔鶴「それ、距離を詰めれば私にも出来そうです」

 

 

海の傷痕:当局【全くである】

 

 

海の傷痕:当局【もっとも魔改造は、まあ、技術の範囲として設定はしているので合法であるが】

 

 

翔鶴「装備、復活していますね」

 

 

龍驤「見た感じ、史実砲のほうやな。気ぃつけ。この面子やしな」

 

 

海の傷痕:当局【ま、旗艦から潰すのが定石であるな。残念ながら全員に見せ場を用意してやれるほど】

 

 

海の傷痕:当局【善人ではないのである】

 

 

海の傷痕:当局【Trance】

 


8

 

 

瑞鶴「あの時の龍驤の犠牲に大して顔向けできないのよねえ。龍驤を持ってくのなら私達も送りなさいよ」



海の傷痕:当局【鶴姉妹はどうせあの日のソロモン海に行っても大した戦果は出せないのである】

 

 

海の傷痕:当局【また囮の龍驤だけが犠牲になると思うがな、嘲嘲:ケラケラ!】

 

 

瑞鶴「噂には聞いていたけど、煽り性能高いわね……まあ、あんた倒せば戦果よね。私をロストさせなかったこと、後悔させてやるわ」

 

 

翔鶴「報告は完了です」

 

 

陽炎「さあ、見せ場に恵まれたわね」

 

 

不知火「ええ、いつかこんな日が来ると、信じてここまで来ました」

 

 

翔鶴「私達のところに来たこと、後悔させて差し上げます」

 

 

海の傷痕:当局【ふむ】

 

 

海の傷痕:当局【吠えたな、ガキども】

 

 

9

 


提督「ロスト空間に行けない?」

 

 

仕官妖精「完全にシャットアウトされているのであります。これはお話した通り管理者権限でありますな。向こうにいる此方をどうにかせねば、なので、龍驤が此方に損傷を与えて、エラーを起こせばロスト空間への進軍の隙は出来る……」

 

 

仕官妖精「かも、しれないのでありますが、期待はしないほうがいいのであります。龍驤の実力うんぬんではなく」

 


仕官妖精「初霜のケースを踏まえて、時間軸もズレている可能性は拭えないので、当てには……」


 

提督「……、……」

 

 

甲大将「よう、聞こえるな?」

 

 

提督「ええ」

 

 

甲大将「龍驤は行けると思うか?」

 

 

提督「ええ、彼女ならあるいは……なにかアイデアがおありですか?」

 

 

甲大将「龍驤を信じるのなら、仕官妖精はうちの艦隊のところまでがんばって輸送してくれ」

 

 

甲大将「龍驤なら『深海海月姫』じゃねえの。長門もプリンツも手が離せん」

 

 

甲大将「その時が来たら、サラに支援に向かわせるのはどうだよ。今なら北上大井と漣達である程度、そっちに行けるが、そうだな、そっちからも行けるのなら合流はC-5辺りになるか?」

 

 

提督「了解です」

 

 

提督「雷さん、暁さん、聞こえますね。明石君、秋月さん、秋津洲さんもつけますので」

 

 

提督「今いったポイントまで、本官さんの輸送任務をお願いします」

 

 

暁・雷「了解!」

 

 

提督「明石君、秋月さん、秋津洲さん」

 

 

明石「もう向かってる」

 


秋月「全速です!」


 

秋津洲「提督、ロスト空間に連れて行かれたのは龍驤だよね?」

 

 

秋津洲「あたしも、そっちの支援に行ってもいいかな?」

 


提督「海の傷痕:此方と戦うにおいてなにか策がおありですか?」

 

 

秋津洲「もちろん! あたしの素質的に龍驤の支援は提督が想像している以上に出来るかも!」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「……なんとなく予想は出来ました。了解です。それでは、よろしくお願いします」

 

 

秋津洲「うん! ありがとう!」

 


【12ワ●:想題:龍驤】



上手いね、賢いね。子供の頃からよーいわれてきたわ。勉強も運動も、芸術方面でも成績は常に上位や。


 

一番をもぎ取ってきては、じっちゃんによくなついとった。褒めて褒めてーって、可愛げのある子供やった。

 


なんでもそつなくこなせて報われてきたからやろな。子供の純粋さは、歳を重ねるごとに、白ではなくなっていくのもあって、周りを観察して誰かが負担になると、

 

 

なんで、あの子はあんな簡単なこと出来へんのやろ。

 

 

そんなこと思うようになってきとったわ。うちの本名はちょっちあれやけど、それも武器にして笑いのネタにも出来たしなあ。

 

 

犬も鋏も名前も使いよう。


 

これはおもろないな、うん。

前言撤回、笑いのセンスは微妙やね。

 

 

まあ、成長はしたねん。なにか出来ても思春期になったら『褒めて褒めてー』とか恥ずかしくてよういわれへんようになった。周りは認めてくれる。それだけで十分やって思ってた。

 

 

じゃあ、次はどうしようか。なにに挑戦しようか。がんばっても興味ないことなら、あんまり楽しくもないし。龍驤さんは絶対1つのことに本気出せばすごいで。子供の頃は無駄に才能あったお陰で天狗になっとったわ。


 

なにが一番、すごいんやろな。

テレビで大喝采を浴びている歌手か、それとも神様いわれとるコメディアンか。それとも総理大臣とかかな。

 

 

じーちゃんが観ていた秋場所の終わりの後、ニュースが流れた。



対深海棲艦海軍の元帥が、その地位を退くとのことやった。海の戦いはちょっち学校の授業でやったから、知ってはいた。いまだ終わりの見えない戦争やけど、圧迫して国が崩壊するようなこともない。街は現に発展していっている。現状維持が望ましい戦争だとも学校の教師はいっとった。


 

元帥の最後の言葉を、聞いた。

 

 

『河水が海へと流れ、雲を風が運び、大地に雨を降らし、木々が河に水を流す。この戦争はそれと同じく神が仕組んだ摂理だ』

 

 

意味は分かるわ。やけにかっこつけとるけど、要は『終わらない』ってことやろ。じいちゃんが「この御方でもダメやったか」とぼやいた。

 


あれ、これうちが終わらせたら、すごいんちゃう?

 

 

じいちゃんも残念そうやし。

 

 

もともと負けん気も強かったし、戦争にびびりはせえへんかった。

 

 

どうせ誰かがやらなあかんことなら、うちがやったるわ。そんな性格や。

 

 

思えば、うちの我が強くなっていったのはここの辺りからやろな。

 


連休を利用して軍の適性施設にひとっ飛びした。そこで出た適性は『提督』と『軽空母龍驤』で、どちらもかなり上位の適性があるとのこと。

 

 

運命すら感じたわ。ここまで神様にお膳立てされたら行くしかない。

 

 

軍から懇願に近い態度で勧められたのが龍驤のほうやった。

 

 

提督は比較的多くて、夢の鎮守府に着任するのも厳しい椅子取り状況みたい。補佐官やら、後方支援やらに駆り出されるのがほとんどで一部のエリートしか鎮守府で提督やれん、とか。

 

 

妖精可視の才能と空母の適性を併せ持ったやつは滅多におらんみたいやね。龍驤をオススメする、と待遇面やらなんやらも交えて力説された。

 

 

龍驤はあまり好かれへん。

提督の部下やろ。

 

 

艦娘の個々の力は無論重要なのは分かる。けど個々の力には限界がある。それをどうにかしようとがんばらなあかんのはどちらかといえば提督のほうや。要するに提督が『あほ』やったら最悪やん。こんなんみんな思うやろ。

 

 

みんながうちの下に来たいって思うくらいの提督になったるわ。そう思って施設に来ていたこともあって龍驤は嫌やった。それになんやの、軽空母って。地味やんか。正規空母ならまだしも。

 

 

それなら提督やりたいわ。

 

 

その日は帰宅して、じいちゃんに話した。じいちゃんは難しい顔をして、いった。

 

 

「そこでやっていけるんか?」


 

「みんな命を賭けて戦っとる。半端な気持ちで足手まといにならへんか?」

 

 

「取り返しがつかんくなるんやで」

 

 

分かっとるわ。そのくらい分かる。なめとるわけやない。

 

 

「戦い抜けるんか?」


 

どういう意味?

 

 

「じいちゃん、いつまで生きていられるか分からへん。お前はじいちゃんより長く生きる。生きなきゃならへん」

 

 

「お前になにかあったら、助けたる。だけどな、じいちゃんは生きてるうちしか助けられへんのや」

 

 

「だから、お前には自分がしっかり生きていく居場所を見つけて欲しい」

 

 

「本当に、後悔はせえへんか」

 

 

珍しくドスの利いた声だったんやけど、間髪いれずにもちろん、と答えた。その後、じいちゃんが昔話を始めた。

 

 

うちのご先祖様、龍驤に乗ってたんやって。

 

 

ほんま驚いたわ。世の中、変な運命もあるんやな。

 

 

じいちゃんの話を聞いて、龍驤の印象変わった。ここらは恥じ入った。軽空母だとか正規空母とか関係ないわ。みんな、今を繋げてくれた勇敢な戦士の魂や。

 

 

その日は語り明かした。

日の出の頃には考えは改まってた。


 

歴戦の空母、かっこええやん。じいちゃんがいった。軽空母のなかだと龍驤が一番やと思うわ、と。


 

背中を一押しされた。

 

よっしゃ、龍驤になったろ。


 

2

 

 

建造したその日に悪夢を見たわ。ソロモンの嫌な夢。じいちゃんから聞いた通りや。あのサラトガとかいうやつに殺意すら覚えた。

 

 

それも原動力に変えて、軍学校時は訓練に励んだ。その時におったのは正規空母の加賀、そして1つ先輩の赤城や。サラトガよりはマシやけど、こいつらも好かれへん。こっちはライバル意識かな。

 


教官から赤城とサシで演習してみろ、といわれて味わったのが、完膚なきまでの敗北やった。

 

 

なんやの、これ。打ち出せる艦載機の数はそのまま戦力の差となるやん。

スタート地点で劣ってる。加えて艤装を身に付けて間もなく、龍驤の戦い方も分からへん。龍驤は、赤城より弱いって教官がいった。そんなわけない。理不尽を押し付けられただけや。

 

 

燃える。

 


一泡吹かせたるために建物の中にいる時は座学、それ以外はひたすら外で訓練やった。

 

 

うちやって、1航戦だったんや。赤城や加賀より弱いなんて確定やない。 ありえへん。

 

 

それでも赤城加賀は、才能にも恵まれていた。もともとの性能差がなかなか埋まれへん。理不尽を覆す技術を、ただ貪欲に吸収する日々。

 

 

必ず、倒す。日出る国に龍驤あり、と全員にいわせたる。それだけに精魂を捧げた1年で改二にまでなった。


 

卒業の日に、赤城加賀にケンカを吹っかけた。こいつらより努力している。練度もうちのが高い。必ず勝つ。

 

 

赤城や加賀と異なる仕様の式神式はトリッキーな応用が可能。小さなスロットに入れているのは、よりしろとなる紙、そしてどちらにもない妖精可視の才。

 

 

艦載機の精密な動かし方、発艦のタイミング、変化前の式神を波風で運ばせ、艦爆で起きる水柱の目眩まし、人の性質、二人の性格、使えるものは、使う。海での艦娘のその目に写る全ては武器となり得る。

 


策に策を弄じて零式観戦62型爆戦で、二人を大破撃沈させてやったわ。

 

 

「ざまーみろや!」


 

赤城はいった。「素晴らしいです。指揮官の才能もおありなんですね。戦場であなたほど背中を任せられる人はいません」と。大人の対応で冷めた。

 

 

赤城にそういわれた時に 加賀が睨んできたなあ。

 


個の力には絶大な自信があった。だから着任する鎮守府は、弱小のところって決めてた。

 

 

卒業の日に演習を観ていたらしい元帥から声がかけられたんやけど、嫌やわ。丁丙乙甲元の強いやつが固まるところより、そういうところのほうが殉職者も多い傾向があるしな。

 

 

元帥艦隊とか堅苦しそうやし。断って適当に決めたのがあだやね。


 

着任したのは、


うちの解体の切っ掛けとなる、

 

 

無能提督のブラ鎮やった。 

 

 

3

 

 

今となってはその時の残りは利根と筑摩か。今は元帥ちゃんとこで第2艦隊やっとるなあ。この二人は好きやわ。

 


あの時の筑摩は利根のことばかり。利根は典型的な武人タイプで、まずは自分の力不足を恥じる。

 

 

明らかに提督のほうに落ち度があっても、や。悪いやつらではない。駆逐のやつらも提督と仲良しで、悪い意味で信じとる。盲目的な面もあった。

 

 

だからこそ、うちがいったらな誰もいわんとそう思った。

 

 

潜水棲姫相手に駆逐の装備は爆雷と聴音機、装備させないん。なんで爆雷オンリーやの。聴音機が開発出来なかったからー、には乾いた笑いが出たわ。

 

 

「資材はあるやろ。作戦も急に決まったわけでもあるまいし、要はさぼっていたわけやん。うちらには疲労気にせず出撃させるくせに。せめてその装備やったら、偵察出せる利根筑摩、うちから選んで艦隊に加えたほうがええと思うんやけど」

 

 

「誰も沈んでないじゃん。結果的に節約方向に成功したから」

 

 

「結果的に失敗したら、どうすんの。軍学校でも提督はサイコロの目を減らしてなんぼやって教わったはずやん?」

 


――――なんで、そんな簡単なことが出来へんの?


 

適性施設では鎮守府を持てる提督は一部のエリートだけっちゅう話やったけど、あれ方便やったんやな。その頃は内陸の影響で『家柄の権力』が、出世に影響していた面もある。ここの提督は七光りみたいやった。ありえへん。この時ばかりは対深海棲艦海軍に吐き気がした。

 

 

「龍驤、お主の言い分は最もじゃが、我が強いな。本心が顔に出とるぞ。上司に見せる顔ではない。まずは自分の器量を見直すがいい」

 

 

「あの選択は最適ではないのは認めるが、世の中にはこういうところもある。我慢じゃよ。今、我輩達がなにかいっても決定的な責めどころがなければ、あの提督は降ろせんぞ」


 

「今はまだ自己の力で道は切り開ける程度の指揮、精進あるのみじゃろ。我輩は史実みたいに沈むお前の仲間を助けたくはないぞ」

 

 

「お前もあほなんやな。その武人気質どうにかせえや。戦場は訓練上でも自己満足の世界でもない。なにかあったら、では遅いんや。分かる?」

 


「すみませんね、姉さんが……」

 

 

ここ仲裁する筑摩も話にならへんわ。

 

 

でも、利根のいうことにも一理はある。自分が仲間を助けられるくらい、強くなれば凌げる面もある。個の強さには自信があったし、向いてはいそうやな。ここ最近の戦果では空母勢の中でトップ5に入ってた。1対1演習では負けなしやし。

 

 

黒めの重労働をこなし続けたある日に、旗艦として西方に出撃することになった。

 

 

これ終わったら異動出すつもりやった。なんかいってもあの提督は、直らへん。命を預ける価値はないわ。見切りをつけた。

 

 

Rank:AAの飛行場姫相手に上手くやれとった。姫を大破させて、旗艦のうちの指揮通りに動いてトドメを差せば、最大の戦果や。姫の首に加えて、全員生きて帰投できる。

 

 

飛んできた見え見えの深海棲艦型艦載機3機の処理を、護衛の駆逐に任せた。

 

 

最悪な結果やった。うちとしたことが、見誤ってた。

 

 

その駆逐が、大破撃沈した。利根がその子の腕を引っ張りあげなければ殉職者が出とった。

 

 

全員生還のため、再生を始めた飛行場姫を見逃して撤退した。

 

 

なんでそんな簡単なことが出来へんの、とは思わんかった。うちが処理できて当然と思っていたのがそもそものミス。利根と同じく自らを恥じた。

 

 

その子はいった。

 

 

「少し、体調が悪くて……」

 

 

「……なんで出撃前にいわへんの?」

 

 

「っ、だって龍驤さんは……」

 

 

 

 

 

――――怒るから。

 

 

 

 

 

 

――――作戦は、前々から決まっていた。

 

 

――――体調管理が出来てないことを、怖い顔で怒るって、思って、

 

 

 

 

 

 

 

怖くて、

 

 

 

言い、

 

 

 

 

 

出せない。

 

 

 

 

 

 


ごめん、なさい。

 

 

 


 

 

その子は泣いてもうた。

 

 


そっか。じゃあ、あの場で利根が助けなかったらこの子はうちが殺してたも同然やん。そう思うと、涙が溢れた。

 

 

うちはうちを見つめ直した。

ダメや、この性格は直らへん。子供の頃からずっとそうやった。思うところが顔に出るし、当たり前のことが出来へんやつを心のなかで責めてしまうと思うわ。そういうところが今回のトラブルを招いたわけやろ。


 

でも、でも、なんやのその理由。

 

確かに駆逐は若年者も多いし、きっつい仕事やと思うよ。同世代は友達と遊んどるもん。

 

 

でも、兵士やろ。歳なんて関係あらへん。なんで泣くんや。ずるいやろ。

やってられへん。

 

 

ああ、やっぱり。

 

 

 

うちは、この海の兵士として欠陥品やね。

 

 

 

その日に解体申請を出した。強い決意があった。向いていない。足手まといになるわけには行かない。まだ、取り返しのつく前に、潔く。

 


その場に利根と筑摩もいたけど、希望を伝えた。提督からは「構わねえよ、お前は我が強くて、欠陥品だ。使えねえ」といわれた。その通りやな。



ドガッ、バキッ。

 


利根と筑摩が一撃ずつ叩き込んだ。

 

 

「今のは聞き流せん。龍驤がどれだけこの鎮守府のために進言していたと。その全ては的確であったと思うぞ」

 

 

「全くです。そもそもあの子が体調を崩したのはあなたが前日の雨の日に訓練を強制したせいなのでは」

 

 

「……今までは提督を信じて黙っておりましたが、私も去らせて頂きます」

 

 

「とのことじゃな。荷物まとめるぞ」

 


バカが3人、クズ一人。

勝手にせえ。どうでもええわ。今更。

 

 

「龍驤、お前は指揮官の才があると思うぞ。提督の立場のお前なら、その才をいかんなく発揮できる。お前の当然を押し付けることも懲りたじゃろ」

 

 

「……」


 

「龍驤さんが提督やりたがってるー、って大淀さんに伝えたら、元帥さんから『まあ、龍驤君のことは買ってる。軍学校に入り直して卒業したら、わしのところ来なさい』ですって」

 

 

なに余計なことしてくれてんねん。

 

 

考えたんやけど、このまま帰っても、じいちゃんが怒るな。なにより投げ出すの嫌いやねん。海に背中は、向けたくないのも本心や。

 

 

提督なら、とうちはそう思った。

 


思えばキミと出会ったのも、その過程のお陰やね。

 

 

鎮守府(仮)のあの合同演習。提督は悪魔、電は鬼畜艦、加えて人数の少なさ、鎮守府最大の黒みたいな印象を周りに与えたっちゅうねん。

 

 

なのに、利根と筑摩に声をかけたらしいやん。あの二人がブラック鎮守府に行くわけないやん。懲りてるやろ。

 

 

ホンマに笑ったわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでうちはまたブラ鎮に着任しとんの。



3

 

 

合同演習の時に思い知ったわ。

 

 

うちの指揮は丙乙甲ともタメを張れた。赤城からも、やはりあなたは才能に溢れてますね、と褒められた。

 

 

実際、結果は出していた。期待は裏切らなかった。それに応えてくれる艦娘達のお陰やね。少し変わってる。提督のほうが向いてる、そう思うほどに。

 


あの子が罪の意識から解体したって聞いたから、心に陰がこびりついてたけど、自信もついてきて、立ち直ってもいた。真っ直ぐに背筋伸ばして、胸を張って、海と向き合えていた。

 

 

その自信は、

 

 

鎮守府(仮)に、叩き折られた。

 

 

電のことは元帥ちゃんから聞いていた。例の悪名高き提督により、妙な身体にされて深海棲艦艤装を展開できる、と。経歴は、痛々しい。聞けば、地獄を容易く想像できた。

 

 

けど、なめてたわけやない。この場にいる以上、気遣ってやるのは失礼や。まあ、うちの艦隊は、それを踏まえてなお電のための演習にしようと立ち回ってたけど、それ自体を責めようとは思わん。演習や。勝ち負けよりも電を立ち直らせたほうが、全体的に利があるからな。あいつは強いやろーし。

 

 

打ち明けると、それでも間宮旗艦の4名に負けるとも思っとらんかったけどな。

 

 

 

ありえへん。

 

 

不意打ち騙し討ち、囮に自爆特攻、人質に、挙げ句の果てには同じ海軍の仲間を物として扱う。黒なんてもんやない。あのブラ鎮提督が可愛く見えるほどやった。いや、ブラ鎮提督でも、この合同演習の場であんな戦術せえへん。お偉いさんがそろうこの場では下手したらクビまである。

 

 

なのに、

目を背けたくなるほどの闇の戦場が展開され続けている。勝つために。なにがなんでも、という気概は、深海棲艦とかぶって見えるほどに、破壊に特化してた。

 

 

元帥という格上の艦隊相手に、形振り構わずに進む。

 

 

 

そんなあいつらを見ながら、

同時に思い出した。

 

 

うちも最初はあんなんやったな。赤城加賀に勝つためにその場にあるもの全て活用しようとした。水柱を利用して騙し討ちや不意打ちもした。

 

 

あの頃の熱が、身体を巡った。

 

 

戦術自体はお見事やった。弾着観測射撃で、大破艦を狙う。離脱意向信号を発信させざるを得ない。やりかねない、と思い込ませられていた。その白旗作戦は、演習で死にはしない、全員生還を主流にした今の時代に対しての痛烈な皮肉でもあった。

 

 

負けた後に思った。

思っちゃったよ。

 

 

 

うちが出てたら、勝っとったわ。

 

 

 

悪い癖は健在や。ああ、あいつらホンマに嫌いや。なに連れ戻してくれとんねん。

 

 

「なあ、あいつらありえへんやろ。元帥ちゃんからも、龍驤に戻ってあいつんとこに行ってくれって、いわれたわ」

 

 

「ふふ、今の龍驤さんは軍学校で私に吹っ掛けてくる時の顔ですね」

 

 

ホンマか。そんな顔しとるんか。

 

 

「軽空母龍驤のほうが性に合ってるのでは?」

 

 

「まあ、うちが出てたら勝っとったのは間違いないわ」

 

 

武蔵と長門が肩をすくめて、溜め息をついた。武蔵がいった。

 

 

「あいつは兵士を道具扱いするやつだぞ。大和は『あの人はこじらせているだけですよー』とかいっていたが、どうなんだろうな」 


 

「それは電ちゃんも同じなのかもしれません、ね。あの二人は似た者同士なのではないかしら?」


 

「翔鶴さん、そちら側から見てどうでしたか?」

 

 

「あの二人に関して断言は出来ませんけど、瑞鶴がなついていますね。けっこう珍しいことです。それにゴーヤさんもなついているように見えました」

 

 

「脅されたから、特攻したのではなく、あくまで勝つために、で、ゴーヤさん自身も納得していましたから」

 

 

「提督は、根っこの部分では悪人ではないのかも、とも私自身は思います」

 

 

「翔鶴は割と誰にでも好意的だろうよ。なおさら私個人としては信用はできない。長門はどうだ」

 

 

「あの二人のことはよく読めんが、龍驤のやりたいようにすればいいさ。どう転んでも龍驤は戦力になる。まあ、艦娘に戻る場合はあの提督がお前を御せれば、の条件がつくがな」


 

「うちらを負かしたんやから提督としての技量は期待出来るよ。ガンガン文句もいったるし、電の運用も出来てる。けど武蔵のいう通りや。フォローするやつは必要や」

 


「それに電の本性は見たやろ。あれ、うちの全盛期の比じゃないやん。あの独裁王の電を扱えるやつなら」


 

「うちの舵も上手に執ってくれるって!」

 

 

今度は、あの時とは違うで。

司令官やって足りへんもん、克服できたんや。前向きに行かんとね。この我が強い性格やけど、ガンガンいったればええねん。

 

 

相手にもその善意が伝わるよう、

確かな愛を込めてな。

 

 

今度は最後まで龍驤やったる。

 

 

この戦いが終わるまで、

終わらない戦争が終わるまで、

 

 

命が、有る限り

 

 

 

 

艦載機、

 

高く、高く、

 

空に舞わせ続けるよ。 

 

 

 

 




 

この想の海のどこかにいるじいちゃんのところまで、届くかな。



【13ワ●:Fanfare.龍驤】

 

1

 

龍驤「全く、この鎮守府に来てからホンマ死線ばっかり用意されとるなあ」

 

 

龍驤「今、思えば『戦争終結までの最短距離を走らされてた』」

 

 

龍驤「最高の指揮やん」

 


龍驤(……ロスト空間、ね。飛龍からの情報からすると、史実砲で飛ばされたロスト空間は入ること自体に損傷はない)

 

 

海の傷痕:此方「ようこそ!」

 

 

龍驤「なんや、うちだけかいな。あの囮作戦の時なら、翔鶴瑞鶴も飛ばされる思ったけど」

 

 

龍驤「ま、あいつら来ても大した戦果は挙げられんかな?」

 

 

海の傷痕:此方「ひっどーいっ!」

 

 

龍驤「はよ、トランスしろや」

 

 

龍驤「味方で見るのはええけど、敵やとホンマに腹立つねん」

 

 

海の傷痕:此方「Trance!」

 

 

龍驤「来たか、深海海月姫」イラッ

 


龍驤「それがSrot4かな」 

 

 

此方:深海海月姫「どうでしょうね。でも、あなた一人にしたのは確実に仕留めるため。支援を期待しても無駄だよ!」

 

 

龍驤「越えるわ」

 

 

龍驤「あの荒れた海の先を」

 

 

龍驤「どうせならサラトガだけやなくてあの時の機動部隊……!」

 

 

 

 

 

 

 

 


がんくび揃えてうちの前に連れてこいやボケ!


 

 

龍驤「ソロモン海のようには行かへんよっと」

 

 

2

 

 

龍驤(支援は期待出来へん。誰が連れて行かれても想定内、来るならもう来とるはずや。来いへんってことは、ロスト空間に来られないんやろ)

 

 

龍驤(そのキラキラした熊猫艦戦は電との演習で腐るほど見たわ)

 


龍驤(タコヤキに大顎と猫耳。新種といってもええ深海海月姫の艦載機)

 

 

龍驤(1発クリティカルでうちは大破撃沈まである火力もそうやけど、空母のうちとしては……)


 

龍驤(あの対空値やな。熟練の烈風でも押されてる。スロット数でも負けてる)

 

 

龍驤(……燃えるわ)

 

 

龍驤「――――、――――」

 

 

深海海月姫:此方「大人しくやられてくれるのなら、手元は狂わないから、生きて向こうに返せるよー」


 

龍驤「――――、――――」

 

 

深海海月姫:此方「そして1つ、教えてあげよう!」

 

 

深海海月姫:此方「当局も此方も、今の戦況ならまだまだ余裕でーす。本来の実力は全く披露していませーん」

 

 

龍驤「――――――、――――――」

 

 

深海海月姫:此方「無視するなー!」

 

 

深海海月姫:此方「せめて艦載機、早く追加しなよ! そのスロット数で大量の未旗艦機どころか、当たれば中破まで持ってく性能設定だし」

 

 

龍驤「色々教えてくれて助かるわ。信じるかどうかは別やけど」

 

 

深海海月姫:此方「海の中から熊猫艦爆、こんにちはー!」

 

 

深海海月姫:此方「もらっ! た!」

 

 

ドオオン!

 

 

龍驤(けほっ、潜水性能つきやて……避けきれんかった。いきなり小破より中破やけど、発艦は出来る)

 

 

深海海月姫:此方「全機、発艦!」

 

 

龍驤「製作者なら分かるやろ。この龍驤の飛行甲板の多様性。奥の手は見せたくないんやけどな。そうもいってられへんわ」

 

 

龍驤「式鬼神」

 

 

龍驤「召喚法陣」

 

 

龍驤「龍驤大符」

 

 

龍驤「艦載機、全機発艦」

 

 

3

 

 

深海海月姫:此方「もちろん知ってるよ!」

 

 

深海海月姫:此方(あの発艦法は、巻物式空母に備えつけられているやつかなあ。妖精可視の才なくとも限定的な意思疏通出来て、空母龍驤の場合は……)

 


深海海月姫:此方(空に向かって縦に構えた飛行甲板から、艦載機の限界高度を越えた高さから、艦載機変化可能)

 

 

深海海月姫:此方「艦載機のみんなー、狙いはそれじゃなくて龍驤本体だからね!」

 

 

龍驤(……熟知しとんなあ。まあ、そんなの分かっとるわ。艦載機の撃ち合いに付き合うよりも、性能差を考慮すれば、うち狙いでごり押しすれば手っ取り早く終わるもんな)

 

 

深海海月姫:此方「その式神が、空を舞う様はかっこいいよね!」

 

 

龍驤「……やけど、史実砲は」

 

 

龍驤「『誰に対しても必殺となり得ない欠陥』や」

 

 

深海海月姫:此方「……」

 

 

龍驤「うちは龍驤やけど、龍驤やない。龍驤の力を貸してもらっている『今を生きる人間』やねん」

 

 

龍驤「本当の龍驤は、もうおらへん。そして、その名残が、魂がこの艤装」

 

 

龍驤「再現で申し訳ないんやけど」

 

 

龍驤「あの日から帰投させたるわ。それから逝かせてやるで。過去のピリオドの向こう側にいるうちが、曳いて」

 


深海海月姫:此方「!」

 

 

深海海月姫:此方(あれ、龍の式神が艦載機に変化せずにいくつかこちらにひらひらと落ちてくる……)

 

 

深海海月姫:此方(防御には回らない。あれ、艦爆で凪ぎ払えば全機撃墜……)



深海海月姫:此方(そんなの龍驤も分かってるよね。対応したら、恐らくペースに巻き込まれるから、正解は)

 

 

深海海月姫:此方「構わず龍驤に全機突撃です!」

 

 

龍驤「……、……」

 


ドオオン!

 

 

深海海月姫:此方(艦爆を落として交叉の水飛沫、後方にもう一機、その後ろについた、艦爆……)


 

深海海月姫:此方「Trance」

 

 

龍驤(へえ……機銃、深海海月姫の装備やないな。あれがSrot4の能力?)

 

 

ドオオン!

 

 

龍驤(……っ、危な、艦載機の護衛なしにどこまで回避できるか、そう長くは持たんけど、お互い短期決戦の艦載機の回し方)


 

深海海月姫:此方(チートで悪いけど、読めるんだよ、あなたの考え全て……ここでしょう)

 

ドンドン!

 

龍驤「……!」

 

 

深海海月姫:此方(発艦する前、式神を、海に落としてた。龍に目が行くタイミングで)

 

 

深海海月姫:此方(この式神、防水加工がしてある。波の方向的にこの辺りまで運ばれてきて)

 

 

深海海月姫:此方(艦爆の水柱で、そのまま空に舞ったタイミングで艦載機に変化。力の差を埋める技だねえ……)


 

深海海月姫:此方(妖精可視の才の繊細さは歴代空母で1位かな……)


 

深海海月姫:此方(ん、龍が真上で)


 

深海海月姫:此方「艦載機変化」

 

 

深海海月姫:此方「たったの、3機……?」

 

 

深海海月姫:此方「龍驤、こっち向いてない、回避にひたすら専念して頭回して……思考が、読めない」

 

 

深海海月姫:此方「機銃、で!」

 

ガガガガ

 

深海海月姫:此方「……妖精さんがコックピットから出てきた!?」

 

 

深海海月姫:此方「ふざけないでくださいよ! 操縦止めさせてコックピットから紙吹雪を振り撒くとか……!」

 

 

深海海月姫:此方「機銃じゃ対応しきれ、ベアキャットの艦爆でまとめて消し炭に……」

 

 

ドオオン!


 

龍驤「舞え舞え舞え――――!」

 

 

深海海月姫:此方(紙吹雪の一部が、艦載機に変化……?)

 


深海海月姫:此方「こんなこと」

 

 

深海海月姫:此方「出来た、の?」

 

 

龍驤「普段なら思い付いても、やらんわこんな大道芸。でも、提督のいっとった通りや」

 

 

龍驤「『製作者の予想を上回る1手は必ず有効となります』」

 

 

龍驤「うちもそろそろ、回避も出きんくなるわ。どっちが先に沈むか、20機の彗星一二甲の艦爆、喰らえや!」

 

 

深海海月姫:此方「……!」

 

 

ドオオン!

 


4

 


深海海月姫:此方「く、大破しちゃったけど……」


 

龍驤「……、……そ、か。大破状態やと、想は読み取れん、のか?」フラ

 

 

深海海月姫:此方「龍驤は立ってるだけで精一杯……とどめ!」

 

 

龍驤「……まだ、まだ!」

 

 

龍驤「あの鎮守府(闇)にいたや自然と根性値は限界突破しとるわ……!」

 

 

深海海月姫:此方「Re;boost」

 


深海海月姫:此方(セットしておいてよかった。小破まで修復できました……)

 

 

龍驤(っ! うちの飛行甲板は、まだ、ある)

 

 

龍驤「艦載機、発艦……!」

 

 

龍驤「舞え舞え舞え舞え舞え舞え!」

 

 

龍驤「波風に揺られて、もっと高く!」

 

 

龍驤「暁の水平線まで……!」

 

 

龍驤「飛んでけ!」

 

 

深海海月姫:此方「艦載機……」

 


深海海月姫:此方「SBDか……」

 

 

深海海月姫:此方「え、 SBD?」

 

 

ドオオン!

 

 

サラトガ「ふふ、私が一番だー、褒めて褒めてー!」

 

 

深海海月姫:此方「サラトガ!?」

 

 

龍驤「……くそ、よりにもよって」

 

 

 

 

 

 

 

 





 

龍驤「なんでお前に助けられなあかんねん、ぼけー!!」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍驤「でも、ありがとーなあ!」

 

 

 

 

 

秋津洲「生きてて良かった! しかも想定していたよりも元気そう!」

 

 

龍驤「秋津洲までおんのかい。助けに来られるならさっさと来いや……」

 

 

龍驤「全員生還使命、うちが破るかと思ったやんかああああ……!」

 

 

秋津洲「提督を信じて進む! 途中で誰かが欠けたとしても必ず最後には全員生還!」

 

 

秋津洲「龍驤さん、意外と怖がりかも!」

 

 

龍驤「うっさいわ!」

 

 

仕官妖精「申し訳ないのであります。パスがシャットアウトされていて、侵入できず。龍驤が此方に損傷を与えたご様子、その損傷のエラーに便乗して、なんとかこじ開けることが。それでもかなりの力業でありますが……」

 

 

龍驤「いや、感謝、するで」

 

 

仕官妖精「……思ったより元気そうでなによりではあります」

 

 

秋津洲「サラトガさんのF4F-4とあたしの機銃で護衛するかも!」

 

 

龍驤「――――、――――」

 

 

龍驤「秋津洲、あれ持ってるやろ」

 

 

龍驤「――――」

 

 

秋津洲「了解かもっ!」

 

 

5

 

 

深海海月姫:此方(……一気に大破に戻って、こうなれば龍驤艤装だけでも回収して)

 

 

深海海月姫:此方「全機、発艦!」

 

 

サラトガ(……あら? 秋津洲さんが龍驤さんの護衛から離れました……)

 

 

龍驤「サラトガ! 構へん! そいつ、大破状態でエラー起こしとると、艤装の想は読み取れへんみたいやから!」

 

 

サラトガ(なにかやるのは明確ですが、此方さんの注意は私に向け続けさせるべきでしょう、か)

 

 

サラトガ「――――、――――」

 

 

ガガガガガガ!

 

 

サラトガ「全機発艦です」

 

 

深海海月姫:此方「……妖精可視の才、あなたも持っていましたね」

 

 

深海海月姫:此方(空母が持つと、本気で小賢しい才能だなあ……)

 

 

6

 

 

仕官妖精(……ん? なにか此方が操作を始めた? これは『集中の意思』で、この波は……)

 

 

仕官妖精(体感時間と、向こうの時間とこの空間の時間のズレが出ているでありますな……)

 

 

仕官妖精(この艤装反応は……?)


 

仕官妖精(このロスト空間の隣りにどなたかいるのであります。探知できたのは、損傷でロスト空間の制御が乱れたから……?)

 

 

仕官妖精「……!」

 

 

仕官妖精(それと……深海棲艦が)

 

 

仕官妖精(……100体ほども!)

 

 

仕官妖精(向こうはただでさえ死闘を繰り広げているのに、加えてこの数を向こうに現海界されたのならば士気に影響するのは間違いないのであります……)

 

 

仕官妖精(本官はここから離れるわけにも行かず、此方の相手をしている3名にいえば、混乱させかねない……)

 

 

仕官妖精(……この3名が此方を撃沈させてもらえたのなら、そのタイミングで)

 

 

仕官妖精(このロスト空間というサーバーを乗っ取ってやるのが最良であります、が……)

 

 

仕官妖精(……、……)

 

 

仕官妖精(初霜の役割を奪う形になり、准将殿の予定がずれる)

 

 

7

 

 

サラトガ「む、解除しましたか」

 

 

海の傷痕:此方「……、……」

 

 

サラトガ「どうも現海界した当局のほうの艤装が壊れた場合、あなたにもそのまま影響するのですね。加えて」

 

 

サラトガ「現海界した当局の艤装の修復は、その逆である此方の艤装を破壊して損傷を与えた場合に比べて」

 

 

サラトガ「分……いえ、時単位で」

 

 

海の傷痕:此方「そうだね」ジャキン

 

 

海の傷痕:此方「最も、今までされてきたことも、渡した情報も海の傷痕を倒すことには絶対に繋がらない、勝利とはかけ離れた知識ではあります」

 

 

海の傷痕:此方「『これまでの驚嘆も全て予定調和』の域を出ず、『海の傷痕の存在と同じく時代を跳躍させるに至らない些事』なのです」

 

 

海の傷痕:此方「『すごい』 ではなく、『怖い』か『あり得ない』 と言わしめてください。それで戦闘力は同等です」

 

 

海の傷痕:此方「でなければ、海の傷痕は撃沈させることは出来ず、暁の水平線に勝利は刻めません」

 

 

ドンドン!

 

 

サラトガ(……性能もアレですが、素質のほうも、凄まじいですね。最大限に回避に専念させているF4F-4でも)

 

 

海の傷痕:此方【Srot4:海の傷痕装甲服】


 

海の傷痕:此方【能力は見て分かりますね】

 

 

サラトガ(……Oh、深海棲艦のギミック、耐久、装甲、それに装備まで。史実砲、経過程想砲、妖精工作施設を潰されても攻防に不備は出ませんね)

 

 

海の傷痕:此方【些事なのですよ。当局が中枢棲姫勢力にいったはずです。『この口から出る情報はどうでもいい類なのだ』と】

 

 

サラトガ(……でも、与えた情報でここまで戦えてます。第2の海の傷痕を産ませない目的、は)

 

 

海の傷痕:此方【どうやったら達成されるのか】

 

 

サラトガ「っ!」

 

 

サラトガ(……読まれてますか)

 

 

海の傷痕:此方【誰も、気がついていないのですね、あなた達が恐れる海の傷痕の無力の程を】ジャキン

 

 

ドンドンドン!

 

 

サラトガ「……っ」

 

 

サラトガ(被弾……16inc、クリティカルの、艦載機発艦不可)

 

 

海の傷痕:此方「倒すなら早く倒したほうがいいです。それで私は消えませんが……すでに向こうでは5時間ほど経過していますから」

 

 

サラトガ「……!」


 

龍驤「艦載機、全機、発艦」

 

 

ガガガガガガ!

 

 

海の傷痕:此方「やっぱり最初のは全機発艦じゃなかった。しぶといですね……、ですが」

 

 

ドオオン!

 


龍驤「……、うあ」

 

 

龍驤(……あか、ん、これは、艤装が木っ端微塵、や)

 

 

秋津洲「……」

 

 

秋津洲「よし、探知はされてないかも!」

 

 

海の傷痕:此方【探知……?】

 

 

海の傷痕:此方(……あ、紙状態の、艦載機を見逃していた……あれは)

 

 

海の傷痕:此方【紙、飛行機……?】

 

 

海の傷痕:此方「式神式の艦載機を秋津洲が発艦出きるわけが、あれはブラフ……サラトガのほうですね」

 

 

サラトガ「?」

 

 

秋津洲「飛べ飛べ飛べ――――!」

 

 

秋津洲「我ながら紙飛行機の製作と飛ばすことの才能は恐ろしいかも!」

 

 

海の傷痕:此方(……あの子、紙飛行機飛ばした辺りから……、ウソ、初霜クラスの純粋想)



海の傷痕:此方(く、ロスト空間が、呼応してる……)



秋津洲「すごい都合よく風に運ばれて飛んでいくかもー! この風は私の想いによる必然なのかな!」



秋津洲「艦載機、変化!」

 

 

海の傷痕:此方「……なる、ほど」

 

 

海の傷痕:此方(事前に意志疎通、飛行甲板滑らせておいて、変化タイミングを指示して、おいた……)

 

 

海の傷痕:此方「一本取られました……当局、またもや不覚ですー」

 

 

ドオオン!

 

 

龍驤「……やっ、た」

 

 

龍驤「うち、やったで」

 

 

 

龍驤「じいちゃん……!」

 

 

パチャン


 

龍驤(……ああ、あかん、意識が曖昧や。海の水、こんなに、冷たかったかな……)

 

 

龍驤(……動か、へん)

 

 

 

――――大丈夫。

 

 

伊58「誰も死なせないよ!」

 

 

ガシッ!

 

 

【14ワ●:経過報告】

 

1

 

丙少将「元帥、現状報告」


 

丙少将「阿武隈、卯月小破、わるさめ、榛名中破、金剛、瑞鳳小破」

 


丙少将「武蔵中破、秋雲、大淀、黒潮大破」



丙少将「長門小破、陸奥小破」

 

 

丙少将「大井小破、北上小破、グラーフ、7駆全員中破」

 

 

丙少将「潜水艦隊は19、8中破、26中破、401小破、13、14、ろーちゃんは損傷なし」

 

 

丙少将「陽炎小破、不知火小破、瑞鶴中破、翔鶴小破」



丙少将「敵の種は省いて、残りは海の傷痕を含めて30~35体」

 


丙少将「わざわざ俺に闇と海の傷痕の戦いに手を出すなって命令するんだから、そっち誰か死んだらぶん殴るぞこの野郎」



提督「問題ありませんって」



丙少将「龍驤と、秋津洲伊58サラトガから連絡ねえのか……何時間経ったと……」

 


元帥「龍驤は心配要らん」

 

 

元帥「明石君と秋月はすでに長門んとこ向かってる。修理してもらったら、明石君は資材積ませに長門達と艦に、だ」

 

 

元帥「100体相手に包囲網、崩していないし、この面子ならこのまま力押し。海の傷痕は准将が付きっきりだ」

 

 

元帥「そこの周辺は19とろーちゃん向かわせてる。伊勢と雪風も向かわせたのなら、残りの支援は他に回せ。ここらの判断は任せる」

 

 

元帥「それと、全艦に通達だ」

 

 

元帥「海の傷痕は深海妖精を海にばらまいている。艤装はもちろん、体も欠けてるだろ。深海棲艦がまだ沸いてくるから戦い方はお上品にな。特に至近距離を好むやつは自重しろよー」

 

 

元帥「中破、大破艦は旗艦の指示を仰いで連携を取れ。最寄りの艦の入渠施設まで即座にゴー」

 

 

元帥「ゆっくり消耗戦じゃ拉致が明かん。100体相手に包囲網、崩していないし、この面子ならこのまま力押しでこの海域の残りの深海棲艦を早期撃破に努めるように。以上」

 

 

元帥「ふう、そんで丁、武蔵の使い方が上手いな。あいつ意外と怒りっぽいんだが、上手く舵を切れているじゃないか」

 

 

丁准将「そんなことより」

 

 

丁准将「『誰も死んでいない』のだ。聞けば鶴姉妹、陽炎、不知火の誰もが大破していない、と。当局のほうはまだまだ遊び気分だろうよ。理想的な流れでようやくジリ貧。上手く行っている、とは我輩には思えんが」

 

 

丁准将「詳細は省くが、またドバッと沸いてくるのはほぼ確定だろうよ」

 

 

丁准将「指揮には限界があり、そこから先はただの神頼みとなる。神殺しの最中にそれはユーモアの類であるな」

 

 

元帥「まあ、そろそろ情報収集だのと、のんきなことはいっていられなくなってきているのは間違いない」

 

 

丁准将「例の中枢棲姫勢力はまだ切らないのか?」

 

 

元帥「准将はそのタイミングをチューキちゃんに任せてる。チューキちゃんに現状は伝わってるから、まだなんだろうよ。あの連中は下手にわしらが指揮するより、チューキちゃんに任せたほうがいいわ」

 


利根「ふむ、元帥よ、聞こえるか」

 

 

元帥「ん、どした?」

 

 

利根「前線の包囲網形勢が一匹たりとも漏らさん精度だ。船の護衛に我輩らを置いておくのはもったいないと思わんか?」

 

 

利根「大淀と大破の黒潮が一旦戻ってくるのなら、そのタイミングで前線に加わらせてみるのはどうじゃ」

 

 

筑摩「気持ちは分かりますが、護衛も大事なお仕事ですよ。利根姉さん、早く持ち場に戻ってください」

 

 

利根「いーやーじゃー。ここ最近この海ばかりに戦力が集中して我輩達は、遠くでばかり哨戒の重労働じゃ。この決戦でくらいはっちゃけたいと思わんか?」

 

 

元帥「直に速水の護衛につけるから、待てって」

 

 

提督「元帥」

 

 

提督「決行は龍驤さん達、本官さんが戻ってきたタイミングに」

 

 

提督「報告を鵜呑みに『即初霜さんを抜錨させて、此方を殺します』ので『此方の損傷具合を知っているであろう当局からの情報はうさんくさいので耳を貸さない』です」

 

 

元帥「了解。しかし……」

 

 

元帥「いや、なんでもない」

 

 

元帥(いつ戻ってくるか、聞いても仕方ねえわな。最悪、仕官妖精さんだけでも戻ってくるって答えが返ってくるだけだ)

 

 

丁准将「元帥、随伴の軍艦1隻の乗組員をこちらに移しておいてはくれまいか。自動操縦のシステムは心得ている。いざという時、その船の入渠施設を我輩が近場まで届けよう」

 

 

丁准将「艤装がなくても、最初期の深海棲艦に対して軍艦も人間も囮にはなるのである」

 

 

元帥「いや、その捨て身はいざという時使えなくもないが、最初期の深海棲艦相手に生身とか正気かお前……」

 

 

丁准将「入渠と補充はすぐに出来よう。示し合わせれば、軍艦が撃沈するまでに十分な人渠と補充の時間は捻り出せる」

 

 

丁准将「忘れてもらいたくはないな。この戦いが終わった後に終わる命は、中枢棲姫勢力だけではない」

 

 

丁准将「必ず勝たなければならん戦ならば、使わない手はなかろうよ。なに、安心しろ。その時は必ず戦果をあげよう」

 

 

丁准将「しかしだ、間違っても対深海棲艦海軍の恥さらしである我輩のそれを功績としてくれるなよ」

 

 

丁准将「これでも我輩は国に心臓を捧げた身であるのだから」

 

 

【15ワ●:Fanfare.5航戦】


ドン!


海の傷痕:当局【ケラケラ! がんばれ、今の砲撃はもう少しで当たったぞ!】

 


陽炎「まだまだ!」ジャキン

 


不知火「陽炎、落ち着いてください。実力差を認めて立ち回るべきです。頭に血がのぼったままでは勝機を失います」

 

 

陽炎「あいつ、もう装備は全再生しているでしょ。なのに史実砲も経過程想砲も妖精工作施設も使ってこない……」

 

 

陽炎「逃げ回って、適当に砲弾飛ばしてくるだけ」

 

 

陽炎「陽炎型が、なめられてんのよ……!」

 

 

海の傷痕:当局【心外である!】

 

 

海の傷痕:当局【当局は鎮守府(闇)のプレイヤーには敬意を払って、製作者である当局が『接待』してやっているのだぞ】

 

 

海の傷痕:当局【早く当局に一泡吹かせてみるがよろしい。今のところはそうだな、あまり失望させないでくれ、か】

 

 

海の傷痕:当局【●ε●】

 

 

不知火「……」ブチ

 

 

不知火「◯します」ジャキン


 

陽炎「ちょ、不知火! あんたが落ち着きなさいよ!」

 

 

2

 

 

翔鶴「上手く艦載機を墜とされていますね。私達の練度も装備の熟練度も限界値、そして理想的な発艦も出来ているのに……」

 

 

翔鶴「遊び気分で、全て撃墜されています……」

 

 

瑞鶴「ジリ貧ね。翔鶴姉、前に行くわね。もう1度、わるさめは装備と腕を潰したけど……」

 

 

提督「瑞鶴さん、らしくない戦い方をしてますね……」

 

 

瑞鶴「ん、なによ。ざっぱな指示から私なりに頭を回して動いているんだけど、空母の役割はどう考えても」

 

 

提督「『前に出てください』」

 

 

提督「瑞鶴は空母ですが、あなたは素質的に至近距離で戦う空母です」

 

 

瑞鶴「至近距離で戦う空母ってなによそれ……あれは艦載機が下手くそな私が仕方なく」

 

 

提督「軍艦瑞鶴と、瑞鶴艤装を身に付けたあなた。空母とカテゴリで分けられても、無機物と有機物の違いにより、戦い方は変化して当然です。ただ翔鶴さんの真似はしても届きませんよ。何のためにあなたを装甲空母にしたと」

 

 

提督「下手くそな扱いの艦載機をちょこまかと発艦させるためじゃないです。加賀さんの時は結果オーライでしたけどね……」

 

 

提督「あの時の加賀さんとの艦載機の撃ち合いですが」

 

 

提督「負けていたら、あなたはどうしましたか?」

 

 

瑞鶴「――――」

 

 

瑞鶴「なるほど、前に出るわ。翔鶴姉、遠くからの発艦は任せるからね」

 

 

翔鶴「……、……」

 

 

翔鶴「瑞鶴は海の傷痕を引き付けられそうね。了解。私も、少し小細工させてもらおうかしら」

 


瑞鶴(……悔しくも何の因果かレイテの時みたいに囮、かあ)

 

 

瑞鶴「一手に引き受けても、今回は翔鶴姉が背中にいるし大丈夫かな!」

 

 

3

 

 

海の傷痕:当局【ん、鶴の妹が前に】

 

 

海の傷痕:当局(ふむ、特攻か。鬼ごっこの時の当局の身体能力を知らんわけでもあるまい。オープンザドア君ならば)

 

 

海の傷痕:当局(本命は別と見るのが、自然だが、裏を読んでもキリがない)

 

 

海の傷痕:当局【少し遊ぶのを止めるか】

 

 

海の傷痕:当局【Trance:経過程想砲】

 

 

瑞鶴「全機、発艦!」


 

海の傷痕:当局(っと、艦載機に変化してもらわなければ墜とせんな。あの弓矢の改造、やれやれ、魔改造であるな)

 

 

海の傷痕:当局【全く、魔改造系列は製作者からしたら二次創作の類であるよ】

 

 

海の傷痕:当局【二次創作作品は当局の暗黙の上で成り立っていることをご理解して欲しいのである!】

 

 

海の傷痕:当局【よく出来ている、と褒めて欲しいのかケラケラ!】

 

 

海の傷痕:当局【経過程想砲!】

 

ドドドドドド!

 

 

4

 


瑞鶴(まあ、妖精が操縦する艦載機は経過程想砲で軒並み撃墜よね。しかも無限弾と、空母は泣くしかないわ)

 

 

瑞鶴(……出来れば、完全に日が沈む前に、なんとか)

 

 

瑞鶴(いずれにしろ、攻勢に出てきた海の傷痕と長くやりあえるとは思えないしね)

 

 

瑞鶴「短期決戦がベスト」



5

 

 

海の傷痕:当局【……、……】

 

 

海の傷痕:当局(あの瑞鶴、妙な才能があるな。あれだけ敵意剥き出しで頭のなかが空っぽに等しく……)

 

 

海の傷痕:当局(なにを考えているか分からん。だからこそ、面白い、か?)

 

 

海の傷痕:当局(全ては予定調和な上に、対深海棲艦海軍は今のところは及第点以下。気を抜けばアクビが出そうな『散歩』である……)

 


海の傷痕:当局(……もっと小鳥が歌うがごとく、気ままに情報を囀ずっても良かったかな)

 

 

陽炎・不知火「無視するな!」

 

ドンドン!

 

海の傷痕:当局【交叉……】

 

 

海の傷痕:当局【からの艦爆は、姉か。しかし、こいつら夜だというのに艦載機の扱いが上手いではないか】

 

 

海の傷痕:当局【……】

 

 

陽炎・不知火「もらった!」

 

ドンドン!

 

海の傷痕:当局【経過程想砲】

 

 

陽炎「あ……艤装が、壊れ」

 

 

不知火「……流星も、木っ端微塵ですね」

 

 

海の傷痕:当局【まあ、当局にようやく当てられたではないか。努力賞である】


 

ドオオン!

 


海の傷痕:当局(む、墜とした艦載機が艦爆だけ落としていって)

 

 

瑞鶴「隙、あり!」

 

ドガッ

 

海の傷痕:当局「惜しいな。殴り合いなら、負けん」

 

 

不知火「もらった!」

 


海の傷痕:当局【む……!】



陽炎「海上ラグビーで鍛えた戦艦を、転覆させたしね!」

 

ガシッ

 

海の傷痕:当局【髪の毛をつかむ出ないわ】

 

グイッ

 

海の傷痕:当局【むが、】

 


瑞鶴「口に砲口がインしたわね。なら、脳髄ぶちまけなさいよ、この12cm30連装噴進砲で!」

 

 

海の傷痕:当局(艦載機用、対空四式ロケット式焼霰弾……)

 

 

海の傷痕:当局(陽炎不知火も無事じゃ済まないが、まあ、やるだろうな)

 

 

ドドドドドド

 

ドオオン!

 

 

6


 

瑞鶴「けほっ、一気に中破だけど、まだ行けるわね」ガシッ

 

 

不知火「不知火も、まだ、なんとか……」

 

 

瑞鶴「中破してるじゃない。正規空母より耐久値は低いんだから引きなさいよ。こいつ頭吹き飛ばしたのに、吹き飛んでない。意識は飛んでるかも、だけど、心臓動いてる……」

 

 

陽炎「まだまだ、やるわよ……」

 

 

陽炎「周りはみんな活躍して、強くなって、私達は、今まで…」

 

 

陽炎「ずっと、裏方ばかりで」

 

 

陽炎「この鎮守府(闇)にいるとねえ、それが、悔しいのよ……」


 

海の傷痕:当局【●∀●】


 

海の傷痕:当局【我を出すのは結構であるが、死ぬ覚悟はあるのか?】

 

 

陽炎「!」

 

 

海の傷痕:当局【よろしい。どこまでその腕で当局を捕まえていられるのか】

 

 

海の傷痕:当局【Trance:海の傷跡装甲服】

 

 

ドオオン!

 


陽炎「け、ほっ……」

 

 

不知火「……ベア、キャット」


 

瑞鶴「おっと!」ガシッ

 


瑞鶴「提督! 陽炎、不知火が大破撃沈状態だからこいつら、入渠施設まで運ぶからね!」

 

 

海の傷痕:当局【他愛なく、憐れであるな】


 

瑞鶴「……あ?」

 

 

海の傷痕:当局【最終決戦だというのに、当局は逃げ回って何度も隙を作って、見せ場を与え、根比べではたかが艦爆の一撃で終わり】

 

 

海の傷痕:当局【陽炎、不知火】

 

 

海の傷痕:当局【貴女達は今までなにをやっていたのだ】

 

 

瑞鶴「……あ?」

 

 

陽炎「まだ、自力で動ける、わ」

 

 

不知火「はい……全員生還ですから。瑞鶴さん、は戦えるので、私達が足手まといに、なるわけ、には」

 

 

瑞鶴「そう……分かった」


 

海の傷痕:当局【うむ、まあ、頑張ったで賞だ。とっとと傷を癒して街に戻りたまえよ】

 

 

瑞鶴「……、……」

 

 

瑞鶴「絶対に許さない」


 

海の傷痕:当局【見逃してやったことか。全員生還なぞ聞こえはいいが、毒だよな。この場で死ぬまで戦わせてやれば武勇にはなったろうに、このままでは恥で終わるでないか】

 

 

瑞鶴「うちのメンバーを小馬鹿にしたわね……」

 

 

海の傷痕:当局【負け犬らしく歯を食い縛って泣いていたな。ほら、振り返ってみろ。あれが負け犬である】

 

 

海の傷痕:当局【●∀●】ニヤニヤ

 

 

瑞鶴「……!」

 

 

瑞鶴「あったま来た!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翔鶴「もらいました!」

 

 

海の傷痕:当局【……っ、弓矢?】


 

翔鶴「艤装に矢が上手くつっかえましたね。装備はもらいましたよ。彗星に変化、しますから!」

 

 

海の傷痕:当局【Trance:of、】

 

 

ドオオン!

 

 

海の傷痕:当局(っ、史実砲と、妖精工作施設、海色の想の弾薬庫から誘爆……)

 

 

瑞鶴「もう一撃、一機だけ残しておいたのよね……」

 

 

瑞鶴「彗星一二甲」


ドオオン!


海の傷痕:当局【……!】

 

 

瑞鶴「……、……」

 

 

パチャン

 

 

 

陽炎「沈めッ!」

 

ドンドン!

 

海の傷痕:当局【!?】

 

 

海の傷痕:当局(艤装は壊したと……)

 

 

不知火「おっと、瑞鶴さん」ガシッ

 


海の傷痕:当局【む、腹になにか、刺さ、】

 

 

明石「1本釣り!」

 

 

海の傷痕:当局(っ! 陽炎、不知火の修理の速さは海上修理技能か……)

 

 

明石「空にあげてやったから、さっさと撃ち込んで墜とせ!」

 

 

秋月「お任せを! 一発足りとも外しません!」



海の傷痕:当局【史実砲、損壊……】

 

 

陽炎「おっと、素直に着地点に来てくれたわね」

 

 

海の傷痕:当局【……貴女達は身体の隙間に口を捩じ込むのが好きであるな……」



陽炎(艦娘として現海界しているのなら、装甲耐久関係なく、弱点があるのは……)

 

 

陽炎(合同演習時に電が、長門にやっていたし)

 

 

陽炎「へその奥は貫通するでしょ。くたばれ!」

 

 

ガガガガ!

 


海の傷痕:当局【――――痛っ!】

 


不知火「痛みに気を取られている暇はないですよ!」

 

 

秋月「ここで仕留めます!!」

 

 

翔鶴「全機、発艦!」

 

 

海の傷痕:当局(……これは、沈むな)

 

 

海の傷痕:当局(ふむ、ようやく)

 

 


 

 

海の傷痕:当局【愉しくなってきた】

 

 

海の傷痕:当局(……此方が龍驤に手こずっている、ようだが……まあ、いい)

 

 

 

 

 

 

 

 

海の傷痕:当局【E-3へ突入である!】

 

 

【16ワ●:E-3】

 

1

 

陽炎「からは、よく覚えてないわね……気がついてたら、艤装がぶち壊されてた。海の傷痕は明石君と秋月を見逃したみたいだけど……」

 

 

不知火「5航戦と、私達は艤装を失い、戦闘続行不能です……」

 

 

提督「了解です。明石君と秋月さんからの情報も踏まえると、妖精工作施設を破壊して、沈めたのは間違いないでしょう。海の傷痕:当局を撃沈させた大戦果です」



陽炎「海の傷跡装甲服、あれ、Srot4の深海棲艦の能力でいいの?」

 

 

提督「そう、ですね。その可能性は極めて高いです。恐らく、あの再生は皆さんの証言の情報をまとめ、照らし合わせると」

 

 

提督「壊-現象による復活だと思われます」

 

 

不知火「つまり、妖精工作施設を破壊して、かつ、海の傷痕を撃沈、そこから更にもう1度沈めなければ息の根を止めることは出来ない、と」

 

 

瑞鶴「っち、それを知ってさえいれば、やり方も変えたのに……」

 

 

翔鶴「……問題は、今まで遊ばれていたことだと思います。最後、その気になれば、私達は秒殺されていたことが分かりましたから」

 

 

提督「装備の123を潰したのは大きいです。お陰でそろそろ来ると思います。第2波が」

 

 

提督「皆さん、なんか食べて来てくださいね。九時間以上も海に出てもらっていましたから」

 

 

陽炎・不知火「了解」

 

 

瑞鶴「ま、後は前線の皆を信じて、後方の支援に回りますか」

 

 

翔鶴「そうです、ね」

 

 

提督「翔鶴さんと不知火さん、第2支援艦隊に混じってもらいます。間宮さんを抜錨させますので、よろしくお願いします」

 

 

翔鶴「……艤装がなくても、ですか?」

 

 

提督「あ、すみません。艤装はあります。詳細は省きますが、事前に本官さんに予備を用意してもらっていますから、再度抜錨です」

 

 

不知火「……了解! 必ず使命を全うしてきます!」

 

 

翔鶴「了解です。では不知火さん、お腹になにか入れてきましょう」

 

 

タタタ

 

 

提督「瑞鶴さん陽炎さんは残ってください」

 

 

提督「もうすぐ金剛さんが戻って来ます。瑞鶴さんと陽炎さんは待機です。本官さんが戻ってきたら」

 

 

提督「第4艦隊、旗艦初霜、金剛、陽炎、瑞鶴の編成で」

 

 

提督「『ロスト空間に移動し、海の傷痕:此方を撃沈に向かいます』」


 

瑞鶴「なるほどねー、はっつん待機させておいたのはそのためか」

 

 

提督「はい。はっつんさんは入渠施設の整備と、艤装を抜錨ポイントに運んでもらっています。はっつんさんに作戦の詳細をお話してありますので、しかと聞いてください」

 

 

提督「この戦いは、必ず勝てます」

 

 

提督「以上です」

 

 

瑞鶴・陽炎「了解!」

 

 

【17ワ●:E-3-2】

 

 

1

 

 

わるさめ「カゲヌイ鶴姉妹が、海の傷痕を追い込んだだとう!」

 

 

わるさめ「やるじゃんっ!」

 

 

瑞鳳「わるさめさん、倒したわけじゃないので、気を抜かないでくださいよ! 榛名さんと卯月さんが補充のため、抜けているんですからっ!」

 

 

阿武隈「しかし、海の傷痕を追い詰めた、とはいえないのでは。後いくつ手を隠し持っているのか分かりませんし、底が見えませんね……」

 

 

瑞鳳「大丈夫ですよ。勝ちの目は必ずあります。あの提督のことですから、そこは心配せずとも私達は向き合う波を越え続ければ、必ず」

 

 

瑞鳳「深海棲艦のいない海にたどり着けます」

 

 

わるさめ「づほのいう通りだねー。あの司令官もまだなにか作戦を隠し持っているよ」

 

 

わるさめ「甲丙との演習だって、私達は敗けを受け入れた時、チューキちゃん達の支援艦隊とか手を打ってくれていたし、そこは心配入らないだろー?」

 

 

金剛「深海棲艦も大分、数が減ったネ。加えて撃沈者もなし、このペースなら、理想的な流れではありマース!」

 

 

阿武隈「ちょっと待ってください。夜偵が新たな深海棲艦の艦隊発見です!」

 

 

阿武隈「40体も……!」

 

 

金剛「……」

 

 

阿武隈「提督」

 

 

阿武隈「異常事態発生です。瑞鳳さんの偵察機が、新たな深海棲艦の艦隊を発見しました。その数、」

 

 

阿武隈「更に40体です」

 

 

提督「了解。他の艦隊からも。また100体ですね」

 

 

阿武隈「最初期の深海棲艦なので、そちらの設備のある鎮守府(闇)を容赦なく攻め落としてきます」

 

 

提督「最終防衛ラインさえ突破されなければ、包囲網はある程度は崩して構いません。最終防衛ラインには6駆がいるので、ご安心を。阿武隈さん、あなたが越えるべき波は残り2つ程度」

 

 

提督「その1つがここです」

 

 

阿武隈「了解です!」

 

 

阿武隈「わるさめさん、護衛するので少し前で対処して敵艦隊の航行ルートを制限します! 金剛さんと瑞鳳さんはそこから主に北方棲姫旗艦の空母機動艦隊を狙撃してください!」

 

 

わるさめ・金剛・瑞鳳「了解!」

 


2

 

 

わるさめ(……しっかし、厳しいな。こいつら、狙いは後ろの拠点軍艦、卯月ハルハルが戻ってきても恐らく何体かは別ルートから抜かれるか)

 

 

わるさめ(さすがにそうなれば拠点軍艦は撤退するだろうけど、アブー達の補充の時間が更にかかるな。アッシー&アッキーは、私達の他で手一杯。伊良湖……の適性者は不在だったっけ。間宮さんと速吸が動いたとしても、参戦艦まんべんに、はムズい)

 

 

わるさめ(……無限燃料弾薬の私の頑張りどころかな。解体されてたらヤバかったわ。どーりで司令官は私をずいずい達のほうに加えて海の傷痕と交戦させねーわけだ)

 

 

わるさめ(となると、司令官はここまではしっかり読めてる)

 

 

わるさめ(……だとしたら気になるのは、あのタイミングでぷらずまを電に戻したことだな。ぷらずまの殲滅力あればこの程度は余裕なのに……)

 

 

わるさめ(早期……いや、解体出切るタイミングでしておく必要があったのかな……)

 

 

わるさめ(ぷらずまを最優先で解体したい。そんな自己満ゆえはあの二人に限って絶対にあり得ねっス……)

 

 

わるさめ(そこらの意図も今後の司令官の指示で分かるかな……?)

 

 

わるさめ(ま、今はがんばりますか。目の前の敵を食い散らかしてやら)

 

 

卯月「戻ってきたぴょん! 前に出るけど、隊列はー?」

 

 

阿武隈「つかず離れずで正面から切り裂きます。右中央左3方向です! 右左はまず突出している北方棲姫の左右を抑えます! 中央は魚雷を!」

 

 

わるさめ「中央に行くよー!」

 

 

卯月「わるさめ外すなよー! うーちゃんは左に行くぴょん!」

 

 

阿武隈「あたしは右に行きます!」

 

 

卯月・わるさめ・阿武隈「わんだーらーん♪」

 

  

瑞鳳「すごい余裕そうですね……」

 


金剛「アハハ、楽しそうデース!」

 

 

3

 

 

ドオオン!

 

 

わるさめ「しゃー! 魚雷当たったー!」

 

ドンドン!

 

わるさめ「そして魚雷命中から間髪入れずにトドメの砲撃、さすがアブーに卯月!」

 

ドドドド!

 

卯月「わるさめお前、防空棲姫の装備あるなら口じゃなくて手を動かして空を手伝えし!」

 

 

阿武隈「こっちの空母勢は夜で性能も落ちてますからね!」

 

 

わるさめ「あいあいさ!」

 

 

提督「わるさめさん、その前線をこじ開けて前に進軍してください。D-2です」

 

 

わるさめ「無茶いうなー。自分の持ち場で精一杯なんだぞー」

 

 

提督「深海棲艦が速水さんの護衛引き継ぎの不味いポイントに沸きまして。七駆がピンチです。そこは阿武隈さん達に任せますので、行けますか?」

 

 

わるさめ「……了解」

 

 

わるさめ「つーことだから、アブー達に後は任せた。シャーク形態で漣達の助太刀に向かうー!」

 

 

阿武隈「了解! ここは任せてください!」

 

 

4

 

 

漣「……タイミングが悪いよ」



潮「運が悪かったね……この展開は読めても、出現ポイントまでは絞れなくても無理はないよ」

 

 

漣「でも夜戦で私達もかなーり、戦えてるし! 回避を不味らなきゃ行ける!」

 

 

朧「弾薬、燃料は使っても構わないからここを凌がないと。私は大破の曙につくから、もう少しだけなんとか」

 

 

甲大将「朧は曙を連れて撤退。漣と潮はもうすぐ、北上大井とわるさめのやつが来るからなんとか耐えてくれ。動き方は二人を庇えばいい」

 

 

漣「あ、この信号は球磨型だ!」

 

ドオオン!

 

 

大井「お待たせしました。朧と曙はさっさと撤退しなさいな」

 

 

朧「はい! 曙ー、行くわよ」

 

 

曙「……うん、ありがとう」

 

 

潮(曙ちゃんが素直だ……キてるなあ、これ)

 

 

漣「ちょっと大将! 駆けつけてくれた北上大先生と大井の姉御が中破してますが!?」

 

 

北上「あたぼうよ。3体の姫鬼から道をこじ開けてきたんだし。中破で済んでるのを褒めて欲しいもんですよ」

 

 

大井「……とりあえずここら一体をまとめて吹き飛ばして、余裕を持ちますか」

 

 

潮「来ました。ヲ級改と……その後方から」

 

 

潮「深海型……、深海双子棲姫です」

 

 

北上「新しいやつか。潜水艦だっけ?」

 

 

大井「水上艦です」


 

わるさめ「ザッパーン! お待たせしました!」

 

 

漣「すごいやつキタコレ!!」

 


わるさめ「ヲっちゃん改の艦隊は5分で沈めて援護に行く。それまでそっちの双子は球磨姉妹でなんとかしろー!」

 

 

北上「あいよ。じゃー大井っち、あの双子を爆散させてこよっか」

 


大井「はい」

 

 

甲大将「駆逐は護衛な。わるさめは強いが、あいつ、ふざけが祟って敵を漏らす可能性もあるから艦載機を頼む。北上大井の装甲は薄いから少しの被弾で、かなーり不利になる」

 

 

漣・潮「了解!」

 

 


深海双子棲姫「のこのこ…キタノネ、かんげい…シマショ……」

 

 

漣「ツッコミ待ちかこのやろー! お前らのほうから来たんダルオオオ!? 」

 

 

深海双子棲姫「ダマレ、無課金」

 

 

漣「衝撃の事実だよ! 私だって現在進行形で命を削ってるのにー!」

 

 

わるさめ「あっはっは! 漣お前笑わせるなよ! 被弾しちまったじゃーん!」

 

 

潮「北上さんと大井さんが前に出てるよ。気分も紛れたし、そろそろお喋りは止めよう……」

 

 

5

 

 

わるさめ「くたばりやがれくださいな!」

 

 

ヲ級改「……っ!」

 

 

わるさめ「その頭を半分噛みちぎってまだ息があるか。ならば」

 

 

わるさめ「もう1ガブリ!」

 

 

わるさめ「ヲ級が悪鮫形態とやりたいなら生まれ直してこいよー!」


 

わるさめ(……っと、中破されちゃったけど、ヲ級改の空母機動は大体、片付けたから……)

 

 

わるさめ(球磨姉妹の援護、こっそり近づいて、噛みつくか)

 

 

北上「超射程がわざわざ中距離まで来てくれるとはありがたいなー……」

 

 

深海双子棲姫「ここの辺りじゃナイト、当てられないカラ……?」

 

 

北上「そうかい。前にやったやつは長射程から来たんだけど、深海棲艦にも個性があるんだねえ」

 

 

深海双子棲姫(16inch三連装砲&16inch三連装砲)ジャキン

 

 

ドンドンドン!

 

 

北上「へたっぴだね、避けられる」

 

 

北上(……魚雷、発射)

 

 

大井「……」

 

 

深海双子棲姫「……」クルッ

 

 

ドオオン!

 

 

北上「まあ、しょせん深海棲艦よ。頭が働いても機械的な回避……」

 

 

大井「北上さん!」

 

 

わるさめ「っ! おい大先生すまぬ!」

 


北上「ぬわっ、ぶん投げられた……」

 

ドオオン!

 

 

わるさめ「……くぅ」

 

 

大井「油断してはダメです! そいつは見て分かる通り、本体の艤装を扱う頭が2つありますから器用です!」

 

 

わるさめ(深海、高速魚雷mod2……!)

 

 

わるさめ(直撃とはいえ、この装甲を、一撃で大破、とかレッちゃんかよ。やば、意識が、朦朧と……)

 

 

深海双子棲姫「ここカラ……」

 

 

わるさめ「壊-ギミックか……!」

 

 

わるさめ「わるさめちゃん、囮になるから魚雷を当てろー!」

 


大井「もう撃ってますから、やるならさっさとしてください!」

 

 

わるさめ(鬼教官ですか……)


 

深海双子棲姫「……」

 

 

漣「あああ、北上大先生に大井の姉御! 艦載機、処理仕切れないー!」

 

 

潮「その場合のマニュアルに忠実で大丈夫」

 

 

深海双子棲姫「……」ジャキン

 

 

わるさめ(……狙いはやっぱ私、か。シャーク形態は、壊れて使えねえ……)

 

 

 

わるさめ「トラ、ンス、駆逐棲姫!」

 

 

わるさめ「当ててみろ……!」


 

深海棲艦「16inch三連装砲」ジャキン

 

 

ドンドンドン

 

 

わるさめ「……くう、傷口に水飛沫が、染みる……でも」

 

 

深海双子棲姫「……」

 

ドンドンドン

 

わるさめ「あ、本命、こっちか……」



わるさめ「ここで! 終わってたまるかああああ!」

 

 

ドオオン!


 

深海双子棲姫「……!」

 

 

大井「魚雷、当てましたが……」

 

 

北上「ダメだ。壊し切れなかった。わるさめ、迎えに行くから逃げなー!」


 

潮「戦艦棲姫艦隊が来ています!」

 

 

大井「……っ」 

 

 

わるさめ(……だ、だめ、動け、)

 

 

深海双子棲姫「……」ジャキン

 

 

わるさめ(あ、死……)

 

 

北上「さっきのお礼ね」

 

 

ドオオン!

 


6

 

 

深海双子棲姫「……グ」フラ 

 

 

わるさめ「誰の、砲撃……?」

 

ガシッ

 

北上「そんなこと今はどうでもいいよ。距離を取って。再生するまで後ろに下がりなさいな」

 

 

深海双子棲姫「……」ジャキン

 

 

大井・漣・潮「させない!」

 

 

ドンドンドンドン!

 


ドオオン!

 

 

わるさめ「……また、だ」

 


わるさめ(……後方の深海棲艦、私と北上狙って、その前にいる双子棲姫に当てたんだと、思った、けど……)

 

 

 

わるさめ(……この精度、威力、そしてなにより、あの戦艦棲姫の雰囲気)

 

 

 

 

――――なによ、わるさめ狙ったのに。

 

 

――――邪魔すんなっての、艦娘の盾になるなんて深海棲艦の恥さらしか。

 

 

――――沈みな、さい。

 

 

ドオオン!

 

 

深海双子棲姫「……ア」

 

 

パチャン

 

 

戦艦棲姫「屍さらしやがれくださいなー」


 

わるさめ「せ、」

 

 

わるさめ「センキ婆――――!」

 

 


 

 

 


 

 

 

 

 

 

その呼び方は止めろっていってンだろ!


 

 

7

 


北上「……おー、復活してたんだね」

 

 

大井「味方、なんですよね?」


 

戦艦棲姫「は?」ジャキン

 

 

漣「敵なの!?」

 

 

潮「……」

 

 

わるさめ「こういう人なだけだから! でも百人力だぞー! 今度はやられるんじゃないよ!」


 

戦艦棲姫「私を殺したやつのいう台詞か!? あんたのそのふざけた性格、何も変わってないのね!?」

 


ドンドンドン!

 

 

戦艦棲姫「後」

 

 

戦艦棲姫「後ろから水雷戦隊来てるから。お前らしゃべんのはいいけど、気を抜くんじゃないわよ。私はあんたらのお守りに来たわけじゃねえっつの」

 

 

北上「仰る通り……」

 

 

大井「……ぐうの音も出ませんね」

 

 

戦艦棲姫「わるさめ、あんたまだやれるでしょ。私とリコリスが鍛えてあげたんだから、それなりにやりなさいよ。私の顔に泥を塗るつもり?」

 

 

わるさめ「わるさめちゃん大破……」

 

 

戦艦棲姫「大丈夫よ。再生しつつそこから動けるように散々ぶちのめしてあげたし。あの頃の感覚、覚えてる?」

 

 

速吸「艦隊随伴型の給油艦速吸、到着で――――す!」

 

 

北上「お、洋上補給部隊来たね」

 

 

漣「補給ウマー」

 

 

大井「元帥さんのところの、利根さんと筑摩さんも」

 

 

利根「うむ、速水の護衛でな」

 

 

筑摩「助かりました。ここらの深海棲艦を片付けてくれたお陰でルートの幅が広がりましたので」


 

陽炎「タイミングばっちり!」


 

不知火「到着です」

 

 

わるさめ「カゲヌイコンビ、と」

 

 

明石さん「工作艦明石さんもいますよー! 海上修理技能もあるんで、順番に入渠してくださいね!」

 

 

わるさめ「明石の姉さ――――ん! なぜ艤装がとかはめんどいから聞かね!」



潮「北上さん大井さん、お先にどうぞ。私達は前に出てますので。漣ちゃん」

 

 

漣「ほいさっさー!」

 

 

戦艦棲姫「ったく。海の傷痕はどこにいるのよ。わるさめ、前に出るわよ」

 

 

わるさめ「おう! あの時の粗相はきっちり返すぜ!」

 

 

陽炎「戦艦棲姫を間近で見るの初めて。こいつに何人、沈められたか……」

 

 

戦艦棲姫「他の個体と一緒にするんじゃないわ。それに私以外の戦艦棲姫に沈められるザコが悪いのよ。大体、私はこいつら助けてやったのにどうしてそんな目で見られなきゃいけないわけ。私が来てなかったから、」

 

 

不知火(聞いていた通りネチネチしてます……)

 

【18ワ●:Fanfare.武蔵】



倒せ倒せ倒せ。

 

今度は、逃げない。


 

正直、私はずるかったと思う。

あの時あいつの指揮は理に敵っていた。

 

一人の犠牲でその他を救えるのならば、躊躇なくその決断を下せる彼は優秀だ。

 

 

絶望的な状況での、全員生還。

 

 

理想を目指さなかった彼を――――

 

 

 

 

 

誰もが、責めた。


 

 

 

一部の責めない連中も、庇いはしなかった。言動に出さないということは多数派に逆らわないということだ。流されるままの、状況に甘んじた。

 

事情は色々とある。

 

失ったのが阿武隈の上を行く、最高戦力の大和であったこと、その大和適性者は丙少将の実妹であったことから、声に出して彼の指揮を指示する者はいなかった。

 

 

しかし彼が正しいと、今は誰もが思い知っていることだろう。あの時の倍、200体ほどの深海棲艦を相手に、こちらは名だたる猛者の全戦力が惜しみ無く投入され、40人は越えている。あの時の倍以上の戦力があり、なお劣勢なのだから。

 

 


何度も自問自答したQuestion。

 


準備は万端とはいえなかった1/5作戦で奇跡にすがり、全員生還を目指していたら大和は助かったのだろうか。

 

 

助かったのかもしれないが、かなり薄い。奇跡にすがる指揮なぞ笑いもんだ。それで失敗したら目もあてられない惨劇になっていたのは想像に易い。

 


 

あいつが大和を見捨てなくとも、

 

 

 

 

 

大和は、

 

 


 

絶対に、

 

 

 

躊躇なく、

 

 

 

自ら囮を名乗り出ただろう。

 

 

 

 

 

 

そういう奴だ。

 

 

だから、大和は周りから慕われてた。

 

 

その大和を失った反動の受け皿が、大和を死なせた彼だっただけだ。それにそうなることが読めないほど、あいつは間抜けではないだろう。

 


あいつのお陰で大和は誰もが称える英雄になれた。

 

 

あいつが全員生還を目指し、

 

  

その挙げ句に大和が命令違反をし、囮になれば大和の死は恥辱にまみれた。今のように一片の曇りなく国のために散った兵士としては扱われないだろう。命令違反の角が立つから。

 

 

そうなる前に、指揮官は大和に指示を出した。その犠牲のため、大和と通信を切って撤退の護衛だけを指揮した。

 

 

 

ここまで、

 

躊躇、

 

 

 

すらない。

 

 

苛立つほどに機械的だ。

どこか人として壊れていると思うほどに、洗練されていた。

 

 

 

 

 

 

大和の死が綺麗になった。

 


大和が無駄死にではなくなった。

 

 

 

 

わかってんだよ。

 

 

なのに、私はあいつを責めずにはいられなかった。なにもいい返さないのも腹が立った。本当に気に食わない。


 

 

 

私が、もっと強ければ、

 

 

みんな、助けられたのかもしれない。

日々そう思わずにはいられない。

 

 

 

――――自分がガキであることを自覚した。

 

 

 

「今度は、」



今度は逃げない。

いや、逃げられはしない。今度はあいつも撤退などと、抜かしはしない。

 

 

あの時からこの身を鍛えた。

戦力が1/5でも今度こそは、大和のように誰も見殺しにしないよう。

 

 

理想を射程圏内に入れるために。

 

 

そろそろ、30は沈めたか。

 

 

 

 

ならば残り、

 

 

70体は沈めて初めて、

 

 

ようやくスタートだろ。

 

 

2

 

 

丁准将「雄々しいな、武蔵」

 


丁准将「深いところにいるお陰で多くの数を引き付けているが、暴走の片鱗が伺える。罪の意識と性格が悪い方向に出ているのである」

 

 

武蔵「大和型が今やらなくてどうすんだよ。大和の代わりに飾りで置いておく気なのか?」

 

 

丁准将「武蔵ならその辺りの片付けは無理ではなかろうよ。だが、無茶であるから、そこに支援を動かさなければならなくなる。そこに向かっている1航戦、そして木曾江風グラーフに殴られてしまえ」

 

 

丁准将「いいか、『大本営は全員生還を国民に公表』している。死んだら、この場にいる全員の顔に泥を塗るのである」

 

 

丁准将「生還。青山君もそういっている。それこそが策である可能性を踏まえたまえ。また君は青山君の顔に泥を塗る気か?」

 

 

武蔵「お前にいわれたくねえ……」


 

丁准将「それを踏まえてなお」

 

 

丁准将「そこで暴れるのなら構わんが、どうする」

 

 

武蔵「倒しながら考える」

 

 

丁准将「後悔はしないな?」

 

 

武蔵「ああ、死なねえよ。こうしてぺちゃくちゃ口を動かせる余裕はある」


 

丁准将「よろしい。ならば、待っていろ。直に入渠、補充設備のある軍艦が向かう」

 

 

武蔵「……はあ?」

 

 

 

ザッパーン

 

 

海の傷痕:当局【海の中からこんにちはー! である!】

 

 

武蔵「――――」

 

 

武蔵「よう、海の傷痕」

 

 

 

武蔵「死ぬほど待ち焦がれた」

 

 

 

武蔵「よくも大和を――――」

 

 

 

 

 

武蔵「殺ってくれたな……」


 

 

武蔵「死んで詫びろよ、手前!」

 

 

 

 

海の傷痕:当局【ふむ、胸の空く憎悪だ】

 

 

海の傷痕:当局【良い船酔いだな、武蔵!】

 


3

 

 

丁准将(む、これは……一刻を争うな)

 

 

丁准将「青山君、武蔵の介護を頼めるか?」

 

 

提督「余裕はありませんが、了解です。なにをする気かは聞きません」

 

 

丁准将「そうだな。聞かんでもよろしい。死ぬ気はないが、可能性はある。それでは『後は任せた』ぞ」

 

 

提督「必ずや。ご武運を」

 

 

4

 


武蔵「ああ、損傷は中破だ」


 

武蔵「海の傷痕は深海棲艦の影から魚雷撃ってきてる。まだ5航戦が潰した装備は再生してねえから、やれてる」

 

 

提督「声のトーンで分かります」

 

 

提督「怒りますよ。損傷は?」


 

武蔵「……中破寄りの大破だ」

 

 

提督「撤退してほしいですが、あなたを信頼しますね。その場に留まりながら時間を稼ぐ方向で。1分で充分」

 

 

武蔵「海の傷痕が接近してきた。私の速度じゃ逃げ切れん」

 

 

提督「『当局自身は撃沈(仮)の兵士救出のために動かしている潜水艦を攻撃する気はない』みたいです。『その近くに伊19さんがいるので死ななければ攻撃を受けて沈んでも構いません』」

 

 

武蔵「了解した。なら1分程度に見積もってくれ」ジャキン

 

 

武蔵「加えてその時間で5体は沈める」

 

 

提督「それは頼もしい」

 

 

加賀「准将ですか? 丙少将の指示のもと武蔵さんの支援のため、天城加賀ともに艦載機発艦しました」

 

 

提督「さすがです。丙少将、いいところに来てくれますね」

 

 

武蔵「じゃあその3倍は沈められそうだな」

 

 

5

 

 

武蔵(……あ?)

 

 

武蔵(反応消失、ステルスかこれ)

 

 

武蔵(……この私の周りを舞っている味方の艦載機、妖精可視才持ちの天城、もいるか。ありがたい、防御は無視して水上機だけに集中できそうだ)

 

 

武蔵「よく似てんな、そのベレー帽」ジャキン

 

ドンドンドン!

 

水母水姫「……!」ジャキン

 

 

武蔵「条件反射か。その尻尾みたいな馬鹿でけえ艤装、海面下に沈めたままにしとけば、死ななかったのにな」

 

ドオオン!

 

武蔵(……夜戦火力の直撃とはいえ、姫級だと、まだ沈まないか。周りに強そうなのは、リ級改と)

 

ピチャン

 

武蔵「海中から、」

 

 

ドオオン!

 

 

武蔵「右被、弾っ……」

 

 

武蔵「飛び魚艦爆かこれ……!」ジャキン

 

 

海の傷痕:当局【痛みくらいコンマで堪えたまえよ。少し遅れたのである】


ドオオン!

 

海の傷痕:当局【輪形陣に加わらず、独断専行、敵機から目標にされ、当然であるな。全く、脳筋というものか】

 

 

海の傷痕:当局【おっと艦載機の攻撃か】クルッ

 

 

武蔵(……うざってえ、さっきの飛び魚艦爆で私を沈められたのに)

 

 

武蔵(艤装の左右に上手く当ててくれやがって。重心が傾かず航行可能だ)

 


海の傷痕:当局【む、それでは当局はそろそろ、一旦さようなら、である】



武蔵(……はあ?)

 

 

武蔵「おい、海の傷痕がここから撤退したが、おかしくねえか」

 

 

提督「本当ならば、ありがたいことではないですか。あなた、気力で立っているようなものでしょうに」

 

 

武蔵「アドレナリン出まくってるせいじゃないのか。それよりだ。海の傷痕は重以上の艤装を破壊して想を回収するんじゃないのか?」

 

 

提督「ですね。なので、この言葉を海の傷痕に伝えて反応を見てください」

 

 

提督「――――、――――」

 

 

武蔵「海の傷痕」

 

 

武蔵「お前、艤装を破壊しなくていいのかよ」

 

 

海の傷痕:当局【……】

 

 

武蔵「『海の傷痕:当局の目的は想の回収であっても、海の傷痕:此方が意思疏通で、やり方を操作している』」

 

 

武蔵「『第2の海の傷痕を産まれる』のは『海の傷痕:此方ではなく、海の傷痕:当局の手段に変わった時点』と同じこと」

 

 

武蔵「海の傷痕:此方は集めた想を当局に与えて、まともな思考機能付与能力を与えるつもりだったりするのか?」

 

 

海の傷痕:当局【詮索は無用。長話でくどくどと説明する場所ではないのである】

 

 

海の傷痕:当局【それではE-4】

 

 

海の傷痕:当局【20秒後に深海棲艦を更に追加である!】

 

 

武蔵「だそうだ。芸のないやつだな」

 

 

提督「撤退です」

 

 

武蔵「航行不能だ」

 

 

提督「あなたという人は……」

 

 

武蔵「絶望的だな。覚悟は決めてるが、一応聞くぞ」

 

 

武蔵「1分経つが、なにが起きる? ああ、戦いながら聞いてるよ。艦載機のお陰でまだ持つが」

 

 

提督「キスカの時も、1/5作戦も、海の傷痕は『最低限の応戦』をしました。その最低限の応戦ですが、バランスを崩さないために『深海棲艦に輪廻させる』よりも、適した方法が」

 

 

武蔵「……結論をいえよ、あ、すまん。これ、避けられ、」

 

ドオオン!

 

提督「『ロスト空間に幽閉しておくこと』です。本官さんからも報告がありまして」

 

 

武蔵「……なあ、私は死んだのか?」

 

 

提督「なら自分は通信中に謎の突然死を遂げたことに……」

 

 

武蔵「夢、としか」

 

 

武蔵「だって、あの、艤装、は」

 

 

 

 

 

――――ふふっ、全主砲、薙ぎ払え。

 

 

 

――――戦艦、大和、

 

 

――――推して参ります!

 

 


武蔵「亡霊、か? 海の傷痕、あいつまさか丁やフレデリカみたいに」

 

 

提督「お化け、怖いですね」

 

 

大和「もぉ~、青山ちゃんは本官さんから聞いたはずです」

 

 

提督「ちゃん付け止めてください……」

 


大和「海の傷痕、でいいんですよね。大破撃沈してしまった時に、あの人が現れて向こうに連れ去られたんです」

 

 

提督「だそうです」

 

 

武蔵「マジでか。大和、生きてたってことで、間違い、ないのか……?」

 

 

大和「判断は任せます。それより今は」

 

 

武蔵「准将」

 

 

提督「ありがとうございます。この言葉をいいたかった」

 

 

提督「『武蔵さん、大和さんとともに敵対勢力を殲滅してください』」

 

 

武蔵「……ああ」

 

 

武蔵「ああ!」

 

 

武蔵「了解だ!」

 

 

大和「珍しく武蔵がマジ泣きです」

 

 

提督「行けますか?」

 

 

大和「もちろん! 武蔵がいれば100体や200体、問題ありません!」

 

 

丙少将「通信は聞いてた」

 

 

 

丙少将「大和」

 

 

丙少将「今すぐ助けに……」


 

丙少将「行きてえけど、先代准将が到着する。お前がいるならうちの支援隊と合流して長門達のところに行ってくれ。おい、それで問題あるか?」

 

 

提督「ありませんが、一つだけ。合流したら乙中将の指揮に従って動いてください」

 

 

大和「了解です。込み入ったお話は平和な海を眺めながらにしましょう」

 

 

大和「私も青山さんにいいたいこと、たくさんありますから。誰も被害を出さなかったことは素直に感謝です」

 

 

大和「ですがー、武蔵が泣いちゃったので」

 

 

大和「平手の一撃は、お覚悟を」

 

 

提督「はい、断れませんね……」



丁准将「おい武蔵、軍艦が見えるか。早く入渠と補充を受けろ。艦載機に攻撃されているのだ。さっさとしたまえ、我輩を道化にする気かね?」

 

 

大和「武蔵、手伝います。いつまでも泣いていないで、しゃきっとしてください♪」

 

ザパン


伊19「拠点軍艦まで、連れていくの手伝うのね!」



大和「あら、先程の魚雷は伊19さんでしたか。では武蔵をよろしくお願いします」



伊19「任せるのね!」



大和「この辺りはお任せを。すぐに戻ってきてくださいね。ほら、いつまでも泣いていないで、しゃきっとしてください♪」

 

 

武蔵「……泣いてない。水飛沫かなんかだろ」

 

 

【19ワ●:経過報告-2】

 


龍驤「報告は以上やね」

 

 

瑞鶴「海の傷痕:此方を撃退させるとかやるじゃん!」

 

 

瑞鶴「サラさんも秋津洲も!」

 

 

陽炎「加えて持ち帰った情報は」

 

 

提督「完璧です。今は金剛さんを呼び戻すと包囲網が崩れかねないので『海の傷痕:此方撃破』の決行は夜明け前です」

 

 

仕官妖精「すみません、大和の救出に手間取り、ロスト空間の乗っ取りが」

 

 

提督「いえ、もともとその予定は次の出撃ですので。大和さんを連れて帰ってきたことで、かなり士気が上がっていますし」

 

 

秋津洲「夜に差し掛かった辺りに飛んだのにこっちは夜明けも近い、ね。時間がかなり飛んでるし、ロスト空間はタイムマシンみたいかも……」

 

 

提督「そうですね。そんなものより海の傷痕を倒す方が優先ですけど」

 

 

瑞鶴「大本営からの海の傷痕:此方鹵獲の命令書、ゴミ箱に捨てとくわね」

 

 

提督「あ、はい。お願いします」

 

 

龍驤「海の傷痕の言動からしてとても追い詰めているとは思えんけど、キミも同じやね。追い詰められているって顔やないし」

 

 

提督「詳しくは話せませんが、むしろ逆です。必ず勝つ、から、必ず勝てるに、変わりつつあります」

 

 

龍驤「……」

 

 

提督「龍驤さん、そちらの席に。今度は提督やってもらいます。第1艦隊、お願いします」

 

 

龍驤「アブーのほうやな。任せとき」

 

 

秋津洲「提督も龍驤さんも疲れているからあたしは、なにか飲み物と食べ物持ってくるね!」

 

 

提督「あ、助かります。もうここに籠って半日は経ちましたからね……」

 

 

提督「ゴーヤさんにはこれから闇の戦線に加わってもらいます。鹿島さんとともに拠点軍艦の撤退の護衛です。その任務が終わり次第、6駆に最終防衛ラインに合流です」



伊58「了解でち!」



提督「瑞鶴さん陽炎さんは抜錨ポイントで待機しておいてください。予定時刻になれば艤装を身に付け、その瞬間にロスト空間に飛ばします」

 

 

瑞鶴・陽炎「了解!」

 

 

提督「本官さん、ここから更に重要な意味を持つ役割になります。勝敗に直結する作戦なのでよろしくお願いします」

 

 

仕官妖精「了解であります」ビシッ

 

 

【20ワ●:E-4:最終防衛ライン死守作戦】

 

 

暁「……お、鬼級が来たわよ。お、おお、落ち着いて行動しなしゃ」

 

 

雷「旗艦なのにみっともない。こういう時は私を頼って、指示を出せば問題ないわ」

 

 

電「お姉ちゃんズ、最終防衛ラインまで深海棲艦が流れて来るということは『阿武隈さん達が厳しくなっている』ということと」

 

 

電「『私達を信頼しているから、後ろに逃がした』ということなのです。新兵でもあるまいし、応えないと恥ずかしくて帰投なんて出来ないのです」

 

 

暁「一応いっておくけど、電はもうただの電なんだからね。無茶は絶対にダメなんだから!」

 

 

電「暁お姉ちゃんも旗艦の責任を変に意識して空回らないように。雷お姉ちゃんは自己主張は程ほどに、なのです」

 

 

暁「無論ねっ!」


 

雷「あっ、あれ、金剛さんじゃない?」

 

 

金剛「イエース……」

 

 

雷「元気がないわね」

 

 

金剛「そんなことないデース。暁、私は作戦のために帰投途中ですが、少しは留まり、砲撃戦に加わる時間はありマース」

 


暁「馬鹿にしないで! 金剛さんは自分に与えられた役割をこなせばいいのよっ! ここは私達だけで余裕だし!」

 

 

金剛「……む、余計なお世話でしたネ」

 

 

金剛「それではこのまま帰投させてもらいマース!」ニコニコ

 

 

暁「よく分からないけど、すごい嬉しそう……」

 

 

雷「とりあえず流れてきたのは旗艦駆逐古鬼の艦隊ね。夜戦だし、沈めるのも夢物語ではないけど……」

 

 

暁「沈めるしかないわね。ここから後ろに流したら、後方で待機している軍艦、それに最悪、司令官達のいる鎮守府(闇)が攻撃されちゃうし」

 

 

提督「あー、提督です。6駆の皆さん、その通りです」

 

 

暁「司令官、倒せばいいのね?」

 

 

提督「はい。今からいうことを念頭に入れてもらって、です」

 


提督「更に深海棲艦が50体ほど現れまして、残存勢力はおよそ80体ほどです。前線も、支援艦隊も継戦能力は疲労により、落ちています」

 

 

提督「恐らくまだ流れて来ます。鹿島さんが応援につきますので、全力でその防衛ラインを死守してください」

 

 

暁「大体でいいわ。いつまで持たせればいいの?」

 

 

提督「ただ今から総力を持って海の傷痕の撃沈作戦を開始します。終わるまで、耐えてください。ただ小破の段階でご連絡を。丙少将の支援艦隊に救援を要請しますので」

 

 

提督「ロスト空間は時間の流れが不安定なオカルトなので、海の傷痕:此方の撃沈時刻の推測が困難です」

 

 

提督「死守といっても気持ちの話で当然ながら死ぬまで戦う必要はありません。こちらの鎮守府に軍艦が待機しているので、そちらに乗って脱出準備もしてあります。そこから指揮を取りますので、死ぬまで戦うのは厳禁です」

 

 

提督「何のために戦争しているのか、お忘れなく」

 

 

暁「了解!」

 

 

提督「雷さんも、です。戦争終結に命を捧げるだなんて、らしくない真似は自重で。生きてこの先に、です」

 

 

雷「まっかせなさい!」

 

 

電「……しかし司令官、恨みますよ」

 

 

電「最後の最後で、この私をただの電に戻すだなんて。ぷらずまの力があればこのような状況どうとでも」

 

 

提督「約束は破りません。ちゃんとこの戦いのためにあなたの命、海の藻屑として使い捨てるがごとくの、労働をしてもらいますから」

 

 

提督「だから、ここで死んでもらっては困ります」

 

 

電「……、……」

 

 

電「なにをいっているのか、なにを企んでいるのか分かりませんが」

 

 

電「生きていれば分かると」

 

 

電「そう、信頼して進むのです」

 

 

提督「大丈夫です。自分はあなたのことを誰よりも最もよく知っているつもりです。あなたよりも」

 

 

電「……キモいのです」

 

 

提督「すみません……」

 

 

雷「まあ、電は嬉しそうだから気に病む必要はないわよ」

 

 

電「ふうん……そんな顔をしているのですか」

 

 

暁「さあ、そろそろ行くわよっ!」

 

 

【21ワ●:海の傷痕:此方撃破作戦-1】

 


金剛「到着デース!」

 

 

初霜「お疲れ様です!」

 

 

瑞鶴「お疲れー」

 

 

陽炎「補充は私達でやっておくから入渠だけとっとと済ませてくださいな」

 

 

金剛「了解デース!」

 

 

…………………

 

…………………

 

…………………

 

 

初霜「では旗艦初霜より、本作戦の概要をご説明します」


 

初霜「特殊任務部隊、旗艦初霜、金剛、陽炎、瑞鶴、仕官妖精の5名編成で『海の傷痕:此方からロスト空間の管理権限を奪取』の決行です」


 

初霜「仕官妖精さんは想定されている海の傷痕:此方との戦闘には加わらず、ロスト空間奪取のための任務を行いますので、戦力として数えません」

 

 

仕官妖精「ええ、ご存じかと思いますが、今一度」

 

 

仕官妖精「本官は海の傷痕から独立しているものの、決戦が始まってからは女神、応急修理の役割はロスト空間を押さえられているため、情けない話、沈んでも本官が助けてくれるなどと思わないでもらいたい」

 

 

仕官妖精「准将殿から与えられた役割以上の期待に応える余裕はないと思って頂きたいのであります」

 

 

初霜「はい。なので実質、4名です。ロスト空間の奪取に成功したら、ロスト空間の性質上、海の傷痕:此方の想は想の箱庭であるロスト空間に還る『死者』となります。管理権限を奪取するために念を入れて、完全なる撃沈が理想です」

 

 

初霜「ロスト空間の管理を奪取すれば、現海界している海の傷痕:当局の装備の海色の想は潰せます。ロスト空間の管理権限を本官さんが所有さえすれば海の傷痕:当局の破壊した装備も、復活はしないと提督が断言しました。なので、当局の撃沈もかなり現実的になります」

 

 

金剛「こちらの戦場のみなの支援にもなりマース! 燃えてきたネ!」

 

 

陽炎「まあ、つまり、海の傷痕:此方を可能な限り迅速に倒せばいい話なのね」


 

瑞鶴「陽炎、あんたあの時みたいに無茶するんじゃないわよ。ネームシップのあんたが一番に全員生還任務を破るほうが陽炎型の沽券に関わるからね」

 

 

陽炎「分かってる。あの時は私としたことが海の傷痕に乗せられて頭に血がのぼってただけね……」

 

 

初霜「はい。最低でも本官さんがロスト空間の管理権限を奪取。それが最優先なので、あくまで私達は本官さんのサポートのために海の傷痕:此方を損傷させる、という認識でお願いします」

 

 

初霜「そして先に海の傷痕:此方とロスト空間にて交戦した乙中将艦隊、龍驤さん達の報告からして」

 

 

初霜「『海の傷痕:此方は交戦する度に強くなっている傾向』があります」

 

 

初霜「言わずともですが、気は抜かないように、です」

 

 

一同「了解!」デアリマス

 

 

瑞鶴「それじゃ提督さん、いつもの演説垂れなさいよ」

 

 

提督「ええー……正直ネタ切れなんですけど……」

 

 

初霜「お願いします!」

 

 

提督「えっと、皆さん、そうですね。この戦いを生還したら、なんでもお願いを1つ聞きましょう。飴ってことで、ええと」

 

 

陽炎「ネタ切れ感が半端ない」

 

 

金剛「ヘイテートク!今、なんでもっていったネ!?」

 

 

提督「え、あ、はい」

 

 

瑞鶴「じゃあ、都心で家買ってー(テケトー」

 

 

提督「あ、はい」

 

 

瑞鶴「……え」



陽炎「司令って准将になってからそんなに儲けてんの?」

 

 

提督「元帥を除く対深海棲艦海軍の准将から上でも、あまり、ね? 海軍のなかでこの組織の将がなぜ左官以上なのに、将校と呼ばれているのかとかー。軍組織としての立場、お察してください。自分は今、1文無しに等しいです」

 

 

瑞鶴「1文無し……提督さん浪費癖があるなんて意外ね」

 

 

提督「ただですね、この戦いが終われば、平和な海が手に入るわけです」

 

 

初霜「まあ、そうですね」

 

 

提督「そしてこの戦いの情報、自分はふんだんに持っています。それらを分析して暁の水平線に到達さえすれば」

 


初霜「すれば?」

 

 

提督「社会の変動は見当がつきますので。自分、ちゃっかり全投資しておきました」

 

 

陽炎「抜け目なさすぎ。お願いしたら本当に家でも買ってくれそうw」

 

 

瑞鶴「じゃあ戦争終結の際は財布提督持ちで打ち上げ頼むねー」

 


提督「オーケーです。飲めや歌えやの時の支払いは任せてください」

 

 

金剛「世の中、そう上手く行くとは限らないネー」

 

 

提督「止めてください死んでしまいます」

 

 

初霜「その時は私が提督のお財布になります!」

 

 

提督「はっつんさん……涙が出るほど嬉しいですが、あなたのような歳の子に世話になるとかそれはそれで自分の精神が死んでしまいます」

 

 

初霜「では私からのお願いは、軍から去っても仲良くしてください、で!」

 

 

金剛「それはいいデース!」

 

 

瑞鶴「そだねえ。提督さんとお仕事だけで終わってそれきりなんてのは嫌かも」

 

 

陽炎「仕事関係が抜けたら、純粋に友達関係になれるのかな。不知火とお世話しに行ってあげよっかー?」

 

 

金剛「陽炎、通い妻宣言デスカ……!」

 

 

陽炎「ち、違うわよ! そういんじゃなくて司令ってだらしないところがあるから! アパートの部屋汚かったし!」

 

 

金剛「じゃあ私は同棲したいデース!」

 

 

龍驤「そういうの止めたれやー。提督の涙腺がうるるん滞在記やで」

 

 

瑞鶴「はいはい嘘乙」

 

 

龍驤「よう分かっとるなあ……」

 

 

提督「はい。気の抜ける話はここまでです。今一度、気を引き締め直して、任務に臨んでくださいね」




提督「初霜さん、この通信は初霜さんのみに届かせています。結果的に混乱を招くだけかもなので、伝えようか迷ったのですけど」



提督「確認ですが、ロスト空間のことは向こうで聞いてますか?」



初霜「……はい、頭に全て入っていますし、提督からの作戦書のほうにもありましたから」



提督「了解。旗艦のあなたに、研究部の方の論の中で自分が当たりをつけた説を今一度お話しておきます」



提督「ロスト空間は『強く思い描く純度で創作過程を短縮するアトリエの世界』です。例えば鉛筆がなくとも、文字を書けるってことです。『人間の空想は全てが実現可能である』てそこまでの経過を短縮するのが、ロスト空間の世界であり、その道具となる要素こそが、海のような想」



提督「強く想えば妖精さんがなんでも願いを叶えてくらますよってことです。海の傷痕の生態的に19世紀をモチーフにその力でこの戦争を創作した。あなたにもその力、きっと扱えます」



提督「そしてそのメンバーは動かせるメンバーのなかで『理屈よりも、感情で強く想える人達を選抜』したつもりです。上手くサポートしてあげてください」



初霜「お任せください。必ず」



初霜「全員生還の役割を果たします」



提督「本官さん」



仕官妖精「なにか」



提督「支援艦隊を送る可能性があるので、この艦隊を向こうに飛ばしたら、お戻りください。そしてその時に最重要の新たな任務を渡しますので、それから支援艦隊とともにロスト空間へ」



提督「お願いします」




仕官妖精「了解であります」



【22ワ●:E-4:最終防衛ライン死守作戦-2】

 

1

 

電(……トランスタイプではなくなって、装備がしっくり来ますね。あのうるさい憎悪の声もなし、で心も穏やか。夜戦であることも含め、電艤装で十分に戦えるのです)

 

ドンドン!

 

電(……ですが、無茶は出来ないのです。お姉ちゃんズは秀でている素質はなく、姫や鬼との経験も浅い……)


 

電(私が立ち回りも工夫したほうがよさそうですね)

 


2

 

 

ドオオン!

 

雷「やった、駆逐古鬼中破! 魚雷当たった……!」


 

雷「電の砲撃が上手いわね」


 

暁「電のトランスの引き出しにあった駆逐古鬼だからある程度は読めるみたいね! 雷は喜んでないで、すぐに次の砲撃体勢に入りなさいっ!」

 

 

雷「……!」

 

 

雷「ちょっと待って! 新たな敵影……この反応は戦艦棲姫艦隊と、軽巡棲姫の水雷戦隊……」

 

 

電「ダボども、前を見るのです!」

 

 

暁「雷っ!」

 

ドンドン!

 

雷「っ……被弾したけど、小破判定だから大丈夫!」ジャキン

 


暁「……、……」

 

 

暁「………、………」

 

 

暁「計16隻、少し支援が欲しいけど、悠長な時間はないわよね……」

 

 

暁「早期に沈めるべき、ね」

 

 

雷「といっても……」

 

 

暁「じゃあ、照射!」

 

 

電「探照灯……暁お姉ちゃん!?」

 

 

暁「前に出て、敵は照らし上げてあげるから雷と電も敵を沈めなさいよねっ!」

 

 

雷「史実のほうは知ってる……?」

 

 

暁「分かってる! 今度は夜明けまで持たせるわよっ! あの時みたいに沈んであげるわけないじゃない!」

 

 

暁「暁の艤装を身に付けただけで、軍艦とは違うんだから!」

 

 

暁「私の物語はここが終わりじゃないしっ!」

 

 

電「……私も前に出るのです」

 


【23ワ●:想題:?】



私が産まれた日の夢を見る。



白い床、天井、ベッド。



窓外を見る。明け方の太陽光でキラリと雪野原は鋭い輝きを放っている。



とある冬の日に産声をあげた私を、眺める夢だ。ママが私を初めて抱いた時に頭を撫でるあの優しい仕草、パパが仕事着のまま手放しで喜んでいる姿。



姉はその場で空気にほだされるように、頬を綻ばせていた。



ママの体温が、暖かいな。


パパの泥だらけの笑顔が、眩しいや。



なのに、どうして私だけ泣いているのだろう。



今思えば、その涙も温かい。凍える空気を温かくしていたのだろう。その祝福は、冬の凍える空気を暖める音色を奏でている。



こういうのを眺めるのは好きだ。だからかもしれない。私は欲がなくて、誰かの幸せを眺めるだけで満足できた。



幸せな家庭に、産まれたよ。



4人家族だ。



2



姉とは仲良しとはいいがたい。私は、子供の頃から、口数が少なくどこか悟った風な変な子供だ。



姉がパズルに夢中になっていた。そのまま疲れて眠ってしまった。私は残り3pieceのパズルを、埋めた。



翌朝、姉が泣いて怒ってしまった。

こんなはずじゃなかった。優しくしたつもりだった。



3



段ボールに入った子犬を連れて帰った。ママに捨ててきなさい、と怒られた。パパが飼おう、といったが、ママは認めなかった。私は、その子犬をすべり台の下に戻してきた。



翌朝、庭にその子犬がいた。

パパが首輪をつけて抱いていた。パパが拾い直してきたようだ。パパはママに頭があがらないけど、優しい。



ママは溜め息をついていた。姉は目をキラキラとさせていた。その子を一番可愛がっていたのはママだった。ママは鬼みたいに怖いけど、一番情が深い。



幸せな日々だ。

ずっと、続けばいい。



ところで、誕生の時からずっと私を見ている君は誰だい?



【24ワ●:?より】



君は幸せになるよ。



でも、覚悟しておくんだ。



これから失う家族が、これからの家族を与えてくれるんだから。



――――どういうこと?



もう少し歩けば、分かる。



君の家族と私は、

未来であり、過去であり、今だよ。



泣きそうになっても、

どうか最後まで。



【25ワ●:想題?&?】



そして、夢は飛躍する。



白い天井、壁。



ベッドでは今度は私が寄り添うように抱き締めている。今度は白が増えている。顔にかけられた白い布が、増えている。パパと姉の腕を抱き締めた。



私が、ママのいるあっちの車に乗りたい、といわなければ、生き永らえていたのは姉のほうだったのかもしれない。



ママは参っていた。人がたくさん死んだ。事故だけど、こちらが悪い。だから大変だった。ゴタゴタが始まった。



3



あの人達はよく家に来る。ママは毎日のように、謝っている。私は流行りの病にかかって寝ていた。乾いた喉を潤すために、水を飲みに起き上がる。



人殺し、と罵る声が聞こえた。



見たくないママの姿があった。



あれから大変だ。ママは朝も昼も夜も、何処かに出かけている。月末になると、必ず朝一番でお手紙と、茶封筒を持って、郵便局に向かう。



私は、察していた。ママにいう。



「病弱で、ごめん。私も出来ることはやる。家事のことは覚えたよ」



そういったらママは涙を溢しながら、「なかなか一緒にいてあげられなくてごめんね」と謝られてしまった。



私はきっと幸せな家庭に産まれた。


そう信じてる。



4



ある日に学校のグラウンドから、硬式のボールが飛んできて、歩いている私の即頭部に直撃して死にかけた。



目覚めたのは三日後。幸い、生き長らえることは出来た。



白い部屋は、嫌いだな。

白い自分も、好きじゃない。



そうぼやくと、看護士さんが暗い顔をして、なにかをいおうとしたが、すぐに取り繕ったかのような、笑顔を浮かべた。すぐにその理由は分かった。



ママが死んでしまった。歩道橋で転げ落ちたのは、きっと疲れていたからだ。頭の打ち所が悪く、搬送中に息を引き取ったとのことだった。



ママは手提げの紙袋を持っていたらしい。それを手離さなかったようだ。中には白いマフラーが入ってた。



そうだ。



その日は、私の誕生日だった。



どこかから赤ん坊の泣き声が聞こえた。あの日の祝福の音色は、怨恨の呪詛を奏で始めていた。



私だけが、生き残った。

冬の日だった。



【26ワ●:?より】



素敵なみんなと、出会うよ。

夢だって、見つかる。



――――君は、私?



君になれなかった私かな。



私だってわがままな理想をいえば――――



【27ワ●:想題:響&?】


1


親族は、病弱で人殺しの娘である私を受け入れなかった。私は親族のコネがある施設に移送されることとなる。



細かいルールがあり、始めは右も左も分からない。偶然にも私が移った時、そこにいたのはハーフの子供、無国籍の子が異様に多かった。本やネットで色々と調べて、なんとなく事情は把握した。職員も少ないのは大人の事情で離職も激しいからみたいだ。



感情を表に出さず、冷えた印象を与える私はコミュニケーションにも手間取った。時には外国の言葉を勉強したり、絵を描いて伝えたりもしてみた。なんか、笑われてしまった。「別に耳が聞こえないわけじゃないし、絵ってなんだよ、変なやつだな」と。



そこで暮らした日々は、温かい。こういう施設は良いイメージを持たれないけれど、この施設は職員も子供達も、仲が良かった。誰かがケンカしたらみんなで仲直りを促して、1つの不幸に力を合わせて乗り越える。まるでドラマのような綺麗な日々を送っていた。



温かい。でも、ママ達のことを思い出して、胸が切なくなる。

 


優しかった職員は、すぐに入れ替わったりする。暮らしていくには、現実、という問題があるからだ。なるほど、分かる。暮らしていくのは大変だ。この国は、こういった子供を囲む環境の最低限が出来ていない。職員の離職率の高さもそこから来ている。



夢が、出来た。



こういう児童を社会に適応させていく環境を整えること。政策的な問題だから、もっと勉強しなければならないね。ランドセルを背負いながら社会を語る私は、大人からよく感心された。



その目的の手段として。


駆逐艦響になった。



悪い手ではない。むしろ、これ以上ない方法とさえいえたんだ。



1つ、ランドセルを背負う子供でも兵士になれる。



2つ、建造により、この病弱な身体が治る。



3つ、お給料がよく、戦場で活躍すればもっと稼げて、施設に送金の余裕が出来る。あそこは暖房が少なくて、冬場は1つの部屋にみんな集まって狭苦しい問題も解決だ。



4つ、泊がつく。子供の頃からお国のためにこの身を捧げる。私の夢も、国のため、だ。合致していて、英雄にまで昇華すれば、政治家への道も切り開けていける可能性が多いに出てくる。



迷いは、なにもなかった。



軍学校へと向かった。



また冬の日で雪が降っていた。



大事にしている白いマフラーを首に巻いて、誰の足跡もついていない白野原を私は歩いた。



2



響の夢見は共感できるモノだった。この艤装の過去は私と似通う部分がある。この子も、4人家族だったんだね。私と位置を入れ替わった家族が死んでしまったことも、独りだけ生き残ったことも、共通していた。



ただ生き残った後のことはさっぱり分からない。終戦後からロシアに引き渡される間の夢見を1度も見なかったのは、



不思議に思ってた。



確かにあるはずの過去がなぜか空白になっている。空白が、この子の想いな訳ではないだろう。だって、この子の苛烈な記憶は思うところがないはずがない。そんなこと、考えた。

 


次に見た夢は、悪夢だった。心をいばらで締め付けられるかのように胸を張り裂く前世代『響』の最後の記憶だ。



なぶられ、身体が吹き飛んでも、的のようにそこから動かない。周りの家族が、死んでいく。口は「逃げろ逃げろ」と、誰かに向かって叫んでる。



憎き敵に一撃も報いることもできずに、蹂躙された最悪な終わりだった。



だからなのだろう。



軍学校で出会った私達3人はお互いを見た瞬間に、自然と涙が溢れた。知り合ったばかりの人間なのに、瞬時にお互いを家族と認め合った程だった。



仲良くなる過程の時間が必要なかった。艤装という歴史の贈り物なのだろう。二人の性格も、把握できた。



暁は怒りっぽいし、雷も正しいことを正しいという性格だ。私は二人の仲を取り持つ位置に自然と落ち着いていた。



そして、末っ子の電のことがよく話題にあがった。



あの珊瑚での惨劇を生き延びた彼女を心配するのは私達には当然だった。軍学校の時に、手紙で新造の鎮守府に異動したという電とやり取りをした。



お手紙が返ってきた。「立ち直ってはいないけど、お友達といるから大丈夫」という内容だった。



連休の日に、電が軍学校に来てくれることになった。電は「初めまして」といった。何故か距離感を感じた。私のこの感覚はおかしい。初めて会ったんだから、その挨拶は間違っていない。



響の艤装が、泣いてた気がした。



暁も雷も、その電のよそよそしい態度は理解出来たみたいだ。それを受け入れて、初めて知り合ったかのような自己紹介をした。でも雷は馴れ馴れしいところがあるから積極的だ。暁もおどおどしながらも、電にくっついてた。



今思うと、電の「初めまして」は遠回りに私達を突き放したんだね。逆の立場になれば分かるから。私も家族を失ったんだ。同じ顔をした誰かが現れても、困ってしまうだろう。



家族はあの日に死んだんだ。



同じような顔をした私達は、別の誰かに過ぎなかったんだから。




私達は、




 


そこまでは



気付いてた。



そこから、気付けなかった。



あの笑顔が私達を突き放すことで、隠そうとしていることに。



電が心から死を願う地獄にいることなんて、全く気が付かなかった。 



その小さな身体が壊れてるなんてこと、気付かなかった。



私達は全員で丙少将の鎮守府に着任希望を出した。



まず提督として優秀、そして小破撤退も珍しくない作戦の組み方は理想的だった。私達は、あの惨劇を繰り返すのだけは避けたかった。



暁は、電の鎮守府に行きたがっていたけど、丙少将の鎮守府から電の鎮守府はけっこう近い。電もこちらに誘おうと考えてる、というと、暁も納得してくれた。



あの鎮守府が壊滅的打撃を受けてから、全ては懺悔に変わった。



電の姉妹艦である私達は、召集された。姉妹艦効果で彼女の精神を落ち着けるきっかけになり得るかもしれない、とのことだ。



深海棲艦化している電を見て、私は怯えた声を出した。様々な深海棲艦の艤装を身体を犯し、皮膚と結合していたその姿は、化物。私はそう思った。



暁も同じだったのかもしれない。だから、暁は泣いてしまったのだろう。あの私達を守るため命尽きるまで戦い抜いた暁が、ただ怖いという理由だけで、電相手に泣くわけがない。



次に電がトランスしたのは空母棲姫だった。



偵察では姿を発見しなかったのに、突然あの珊瑚の戦闘海域に現れた。囮の私達が死ぬ原因を作った深海棲艦だ。



とうとう雷も、泣いてしまった。



私も泣きそうになってた。電は命を諦めるような言葉を延々と紡いでいたからだ。



殺して欲しいと、終わらせて欲しい、といったのは本心なのだろう。



あの前世代の私達が力を合わせて唯一生還させた電が、その生かされた命の重みを知らない訳がないのに。



死にたい、と思いながら、



生きてきたんだろう?



その命の重みを理解していたからだろう?



そんな優しい電が、



殺して欲しい、だなんて。



私達に、それを頼むだなんて。




君は、



 


どれだけ、




苦しんでいたの?




私は泣いてしまう前に、


その場から逃げた。



こんなはずじゃなかった――――



お国のため、とか。



施設に送金して暖炉を、とか。



経歴に泊がつく、とか。



未来のことなんて考えている余裕はない。いつだって目の前のことで精一杯じゃないか。この響の艤装が何度も教えてくれてたのに、心のどこかでしょせんは夢だと割り切っていたのかもしれない。



起きなければならなかったのだ。あの艤装の夢見は私に警告をしていた。



なに夢を見ているんだ、と。



寝ぼけているのはお前のほうだ、と。



日に日にやつれていく母の姿を思い出した。母もきっと、戦っていた。何のためにって、



そんなの、家族の――――



 




私のため、だ。



 



 



う、ああ。



 




 



 



戦場を、



 



 




 



戦争を、



 



 


 



私は、



 




戦乱の時代を生き抜いた響の歴史を誰よりも知りながら、




 



生きるということを――――



 



 




なめていた。



【28ワ●:想題:響&Верный】



暁と私が塞ぎ込んでいることは周りにバレてしまっている。鎮守府の皆に気を遣わせてしまっていた。



ここの人達は見習わなければならないね。この海で優しくあれるのは、強いからだと今の私ならば分かるよ。



暁と私は丙少将と伊勢さんに、お出かけに誘われた。



4人で街に行こう、と。



今の私にとってプラスになるのなら、それもいい。私はその申し出をありがたく受けた。



街はイルミネーションでキラキラしていた。家族連れや恋人達が多い。そういう場所に連れて来られたみたいだった。きらめく街の空気に飲まれて、暁が子供のようにはしゃいでいる。



「危ないから」と伊勢さんが走る暁をいさめた。



「母親みたいだなー」と丙少将が茶化していた。



「なら、丙さんは父親だね」と私は冗談をいった。



「ご家族ですか。お父さんならサンタさんとしてうちのお店のケーキでもプレゼントにどうですか?」店前で外売りをしているサンタさんに誤解された。



「ごめんなさい。私達はこれから食事に行くんです。丙さん、近くまで車を持ってきてくださいよ」伊勢さんが暁の手を引いて戻ってきた。



「店員さん、すみませんね。俺はどうやらトナカイみたいなんで」と丙さんはふてくされ気味だ。



「トナカイさん、ふぁいとですー」とサンタさんは苦笑いして手を振った。



自然と笑いが溢れた。



久し振りだな。祝福されて産まれたあの日の再来だ。昔を思い出して切なく、温かくなる。



頭を丙さんの大きな手が乗って、わしわしと乱暴に撫でられた。



とても、尊敬出来る人だった。



「自転車に乗っていかない?あの女の人、見てよ。自転車も今はレディーのファッションなのよ、雑誌でピックアップされてたし!」



「暁、お前は補助輪いるだろ。一人だけかっこ悪くなるけど大丈夫か?」



「お子様扱いは止めてよっ」



暁も元気になってる。本当にいい鎮守府にきた。



この人は電が保護された少し前、1/5作戦で家族を失っているのに、人に優しく出来る余裕を持てている。



ただ例の司令官の話を出すと、丙さんは眉を潜める。伊勢さんも日向さんも、全員がそうだ。悪口はいわないが好感度の程はその顔ですぐに分かる。



あの指揮は客観的に見れば『間違っていない』だ。最近も話題にあがる人だった。『適性施設で歴史初の男の適性者を引き込んだ』とかって。



私の印象もあまり良くない。悪い噂しか聞かないから。致命的な悪を犯した訳でもないのに、ここまで悪評ばかりが流れる人は珍しい。きっと、世渡りが下手で味方を作らない人なのだろう。色々と問題がありそうな人だ。



だから、




電が、丙さんではなくて、



 


その人を司令官と認めたのは、




衝撃だった。



気に食わなかった。



2



合同演習が始まる前、その司令官と話をした。電は優しい人だといっていたが、電のことがよく分からなくなってきてた。この人は言葉は道徳的だけど、事務的な印象を受けた。



合同演習が終わった後に、最悪な印象に変わった。戦争をシビアに捉えたら私個人としてはアリな司令官ではあった。



じゃあなにが最悪かといえば、電は本当にこの人を気に入っているように見えたというのが、暁と私の総意だったからだ。



電は雷いわく、まだ自殺願望を抱えている。まだ立ち直ってなんかいないとのことだった。ならば、電がこの司令官を受け入れたことには筋が通る。



無能ではない。そして、私達を駒のように使い、時には捨てる指揮を執ることが出来る人なのは経歴が証明している。丙少将は「多分、大丈夫」といっていたが、怪しいところだ。



実際、大丈夫じゃなかった。わるさめさんの事件の時、あの司令官は龍驤さんに『使い捨てる兵士の順番』を指示しようとしたという。



「あの鎮守府色々な意味でヤベえからちょっと乙中将と密約が出来てな。あそこ憲兵置けねえんだよ。お前らあの鎮守府の戦力貸与という名の監視役に任命」丙少将がいう。



「あれからずっと電のこと暁と響は気になってんだろ。間宮さんもいるけどあの人は少し鈍いというか……」



その時には、ほんの少しだけ、その司令官の印象は変わりつつあった。深海妖精発見の偉業は、認めざるを得なかったからだ。



そして、異動した鎮守府(闇)で過ごしていく内に、段々と氷解していった。電は相変わらず、あまりみんなと積極的に関わらず、お花を育てているけれど。



でも、司令官には心を開いているように思えた。雷も、そういってたし。二人が幼馴染みだったのは、驚いた。



ここの鎮守府はこれでいいのかもしれない。電は元気になっている風に見えていたし、わるさめさんとケンカしている時はどこか楽しそうにすら見えたんだ。



むちゃくちゃな鎮守府だったけれど、人は増えていって、死線ばかり押し付けられても、笑顔は絶えなくて。



乙中将にだって、甲大将にも、丙少将をも、打ち倒すどころか、



戦争終結を世界に叩きつけた。



それに留まらず、



あの司令官は、



とうとう闇の中から



電を救い出した。



それが出来たのはあの司令官は、きっと自分のことを蔑ろにしてまでも、この戦争と向き合っていたからだ。



間違っていたよ。あの人は目的に純粋過ぎてこの眼で観察し触れ合わなきゃ、その心の根っこが分かんない人だ。だって、そのために自分ですらも隠そうと、ごまかそうとする人だ。



根っこの深いところでは優しいくせに。あなたは電と似てるんだ。



【29ワ●:Верныйより】



私達はこの時を待っていた。

また独りぼっちになる必要なんかない。Верныйになる必要がなくなる、そんな未来があったって。



ほら、聞こえるだろう。



――――まだまだ!



――――電、大丈夫だから変なフォローに弾薬使うの止めなさいよ!



――――私達がまた電を残して、



――――死ぬわけないし!



――――ンなこと気にしてねーですし、根性論で語ってんじゃねーのです!



――――そのアドレナリン抑えて、さっさと支援に来た天城さんの方向に逃げるのです!



――――海の傷痕が出てきたのですよ!?



――――電! 私が暁につくから!



――――暁さん、聞こえますか。命令違反はあれほど釘を刺したはずです。海の傷痕がいる以上、天城さんの艦載機もいつ撃墜されてもおかしくないので、早く――――!



――――テメーら司令官さんの指示を無視した挙げ句に死んだら絶交ですから!



私の心で、誰かの響が、弾ける。



頬がぬるっとした。



史実の夢から覚めた。



2



白い壁、天井、ベッド。

そしてこの身にまとっている白衣。



私の始まりはいつも白い景色だ。



「わん」ペロ


莓みるくさんが看病してくれていたのか。

頭を撫でる。こんな場所に連れてきてごめんよ。でも、放っておけなかったんだ。

帰ってきたら気が済むまで遊んであげるから、またお留守番を頼むね。ごめん。



私は戦場に行かなきゃ。



サイドボードの上にある服を手に取った。素早く白衣から着替えた。そしてその紙を広げる。走りながら、その艤装の説明内容を読んだ。



駆け抜ける。



司令官への報告は艤装の通信で済ませばいい。



みんなの声は魂に強く刻まれている。



余力のある会話だったけど、暁の声は少し上擦り、雷の声は張り詰めている。余裕がない戦場なのは明白だ。



抜錨地点へと急ぐ。



正面玄関を抜けて、出迎えた景色は、電の花壇だった。



私達の今の絆を繋いでくれたのは電が生きていてくれたから。前世代の想い、今の私達を繋いでくれたのはあの日を生き抜いてくれた電だ。



それが私達の種だ。強く呪いのように深くまで根を張って、今から花を咲かせようとしている。



今、私は、



電からのメッセージを、



見つけたよ。


花が咲き誇ってる。



『真の友情』が『感謝』が『信頼』が



夜明け前に咲き誇っている。



待ってて。



すぐにみんなのもとまで駆けつける。



抜錨ポイントで艤装をまとう。



海を走りながら、Верныйの艤装を右手で優しく撫でる。



君のこと、分かったよ。



君は空白なんかじゃない。空白を差し込んでいるだけだ。


家族を失い、一人だけ生き延びた君は白なんかじゃないくせに、そうであることを望んだんだろう。



響に、願いを託したんだ。



任せてくれ。



実現してあげる。



Верныйは過去の軍艦だ。


Верныйは私の未来だ。


Верныйは今を生きる艤装だ。



今度は、皆で帰投して戦争は終わる。



独りぼっちで強がってた君の、



未来を、書き換えてあげる。



だから、君は空白を差し込むのだろう。私の家族の歴史を夢見で、あんな風に回顧させるのだろう。



任せて。



まだ間に合う。



間に合わせるさ。



私と君の望みは同じだ。



家族と生き抜いた史実を君の空白に刻んであげる。



さあ、行こう。



力を貸して、Верный。



【30ワ●:Fanfare.響改二】



「お……っと……っと」



艤装が上手く動かせない。航行の要であるスクリュー周りが上手く稼働せずに、足がもたつく。



速度にブレーキをかけすぎて、飛び魚のように体が跳ねた。



崩れそうになる重心を、砲撃反動で無理やり調節して持ち直す。軍艦が命ある赤ん坊ならば、きっとこんな風にフラフラと進むのだろう。



進めば、それでいい。



誰かの悲鳴にも聞こえた咆哮が、空を振動し、空気を張り詰める。これは暁だろう。この鎮守府に来てお腹から大きな声を出せるようになったよね。



今、行くよ。



きっと絶妙なタイミングの登場になるか。ヒーローみたいにみんなを助けて、それでそれで――――




私とみんなの胸が張り裂けてしまえ。




探照灯の光を、捉えた。



今、私達は戦争をしている。



海を挟んで、街はいつだってある。



泣きわめく私達の隣に、笑い合う日常の街がある。



帰らぬ若い仲間をおもんばかる敬礼の隣に、生まれでる生命が息吹く。



無力を否定する私達の後悔で、街は今日も穏やかに回っている。



平和な自国のニュースを聞いている私達の頬を、鉄の塊がかすめていく。



雷と電の姿もある。大破は暁だけか。

暁を抱えた天城さんもいる。艦載機に護衛されながら、拠点軍艦のほうかな。撤退を始めている。



それと、無傷で見慣れない人が一人いる。楽しそうに笑い声をあげて、深海棲艦の群れと混じりながら、砲撃を繰り返している。聞いている姿と一致している。


あいつが、倒すべき敵なのだろう。



海の、傷痕。



迷いはなかった。



砲身からの熱量の息吹が轟いた。飛んでいく砲弾は自分の手足を伸ばしたようだ。『目標に手を伸ばして触る』という感覚すらある。



海の傷痕:当局【――――!】



雷「ちょ、海の傷痕が被弾したわ! 電がやったの!?」



電「いいえ。今の、海の傷痕は砲撃に気が付いてすらいなかったのです……」



海の傷痕:当局【……、……】



海の傷痕:当局【Вер!】



「艤装のほうかい?」



海の傷痕:当局【……?】



「私達は響とВерныйだよ」



雷「やっと来た……!」



暁「……っ!」



電「……」



暁・雷「響いいいいい!!」



天城「もう式神が切れかけててどうなることかとひやひやしましたが、これでなんとか……」



間に合って良かった。



海の傷痕:当局【ケラケラ、間に合って良かったなどとよくもまあ当局がいるこの場でほざいてくれる!】



海の傷痕:当局【この人殺しの娘が!】



海の傷痕:当局【その凍傷の傷痕ごと当局の輪の中に組み込んで差し上げよう!】



「後悔ばかりで、ずっと冷たかった。そうか、海の傷痕は私の傷痕を凍傷というのか」



不思議だな。



凍えた傷。その心の凍傷から燃えるような熱が放出されてる。その傷痕に触れると、火傷しそうなほどだ。



熱を落ち着けるように、冷たい明け方の空気を深く吸い込んだ。



電「……遅いのです」



あの日と同じ。私が一番最後にこの世界に産まれてきた。私の前に3人の家族がいるのも同じだ。



今度は誰も失わないよ。



両腕を伸ばして、海を力強く踏み、空へと蹴伸びる。



艤装から伝わる心のままに、

この場合はこの台詞か。



「Ура――――!」



ヘタクソな発音の産声を叫んだ。


今日もまた祝福された誕生の夜明けだ。


後書き






ここまで読んでくれてありがとう。

↓13章のお話です。

【1ワ●:悪魔の装備:経過程想砲】
 
【2ワ●:E-5:それぞれの死地】
 
【3ワ●:海の傷痕:此方撃破作戦-2】
 
【4ワ●:Rank:Worst-Ever-純度】
 
【5ワ●:海の傷痕:此方撃破作戦-3】
 
【6ワ●:想題:初霜】
 
【7ワ●:Fanfare.初霜】
 
【8ワ●:見捨てる命】
 
【9ワ●:想題レッちゃん:中枢棲姫勢力】
 
【10ワ●:特攻】
 
【11ワ●:想題:リコリスママ】

【12ワ●:想題スイキ:お後がよろしいようで】

【13ワ●:最後まで不幸とか】
 
【14ワ●:経過報告-3】
 
【15ワ●:想題:チューキ】

【16ワ●:Fanfare.中枢棲姫】
 
【17ワ●:想題:電】
 
【18ワ●:Fanfare.電】
 
【19ワ●:Fanfare.電 Ⅱ】


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SS好きの名無しさんから
2017-04-27 00:54:08

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2017-04-27 00:54:07

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1: 木鈴 2017-10-10 23:45:14 ID: nwRc4wOS

楽しませてもらっています。毎回鳥肌が止まりません。

2: 西日 2017-10-11 02:14:57 ID: _Rdf3gGp

(/ω\*)おお、ありがとうございます。書いた甲斐がありました。完結しているのでぜひ最後まで!


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