ぷらずまさんのいる鎮守府(闇):14
【●ワ●:最終決戦『転』】
ここまで読んでくれてる人にもはや注意書など。
オリキャラ、勢い、やりたい放題。海のように深く広いお心でお読みください。
【1ワ●:Fanfare.わるさめ】
海の傷痕:此方「潜水して引きあげた」
海の傷痕:此方「即死だね。艦娘は頭を潰されたら、終わりです。入渠のシステムでどうにかなる範囲ではありません」
海の傷痕:此方「わるさめ」
海の傷痕:此方「少しだけもらって、後は返すね」
片腕で投げ飛ばされた、残骸を反射的にキャッチする。抱き締めた電の身体から鼓動が聞こえない。当たり前だ。首から上がない。この損傷は、艦娘ならば当然、タイプトランスでも即死する。
海の傷痕:当局【この戦いから死者が出た。あなたのそのおちゃらけた性格も、しょせん『平和ボケ』に過ぎず】
堪えろ堪えろ堪えろ――――!
なにが出来る。右腕には意識のない壊れかけの響、左腕の中には、殉職した電の亡骸。どちらも手離せない。この状態で戦闘どころでは。
拠点軍艦までの一時撤退するしかない。
海の傷痕:当局【脱帽モノの遅い判断、しょせん小娘か。その愚鈍が傷口を広げてゆくぞ?】
妖精工作施設が、稼働を始めた。あの黒腕は海色の想に蓄えられている資材を鷲掴みにして、あの音を奏で始める。人類の希望、私達が深海棲艦と戦う力を宿すための建造の音。
でも、死んだあの肉体と、壊れた艤装を資材にするのならば、通常とは反転した建造で――――
「あ、あ――――!」
旋回して、逃げる。見た。見てしまった。この『壊:バグ』の苦しみを分かち合えた戦友が、ギリギリ踏み留まり人間として生きてきたのに、ただの深海棲艦という『ブチ殺すだけの対象』となるその瞬間を、この目で見てしまった。
仲間を抱えて無様に、逃げる。敗北を受け入れた者が命惜しく逃げ惑う敗けた者の不様な姿を、恥じる感情すらも沸き上がらず。
一時の暖かい時間をくれた中枢棲姫勢力も、この身体の苦しみを分かち合えた友も、家族といえた存在をまた全て失った。
泣き叫びながら、撤退する。
「司令官司令官――――!」
最後にすがる相手に呼びかけても応答はない。
「お願いだから、言葉をくれよおおお!」
強くなったはずの心は、もう折れてた。
【2ワ●:想題:鹿島】
あれ、おかしいですね?
死体が、運ばれてきました。
また殉職者が増えました。
慰霊碑に新たな名前が刻まれる。
私の、
いる、
鎮守府から。
2
私は鹿島であって、鹿島とはかけ離れている。
軍学校で配られたあのデータ上の適性率100%の鹿島を知った時は、なんとなく私と似てるなあって思ってはいた。
鹿島艦隊の悲劇。
その日を境に鹿島艤装の適性率が67%から20%まで一気に落ちた。
あの雨の日、練習巡洋艦として、春雨さんと練度の低い駆逐艦の子達を連れて遠征に出た時に、
哨戒して間もない安全航路で、
ネ級。
レ級。
水母棲姫。
加えて4体の深海棲艦。
人語を流暢に喋る姫や鬼の次元を越えた高知能を有する未知の深海棲艦に急襲を受けるという、あり得ない理不尽に遭遇。
私の練度数値80、春雨さんが練度数値62、練度1から5の駆逐艦を引き連れた遠征だった。戦うだなんて選択肢はなかった。一人でも多く逃がす選択をすぐさま取った。
それすらも、出来なかった。
甲標的(特殊潜航挺)、無数の飛び魚艦爆、深海高速魚雷。歴戦の戦艦が一撃で戦闘不能に追い込まれる攻撃の数々に、全ては無意味だった。
その場で行われたのは戦闘ではなく、ただの一方的な虐殺だ。あまりの戦力差に怯えた子達はすぐさま隊列を崩してしまった。せめて手の届く範囲に誰か一人でもいたのなら、この身を盾にした。守る、とか、せめて一人だけでも、だなんて選択肢もあの海にはなかった。
みんな恵まれた環境で産まれ育ったわけでもなかったけど、この海で戦おうとした理由は優しかった。駆逐艦の年齢を考えれば戦う理由はあどけなさと優しさに彩られていた。
瞬時に死んだ。
最後の言葉一つさえも届かない爆撃音だけがあった。たまたま急襲の1waveを生き残ったのが、私と春雨さんだけだった。練度数値の高い二人が生き残ることが出来たのは偶然か必然かは分からない。
レ級とネ級が春雨さんの側にいった。春雨さんが、なにかをいいかけたのを覚えている。今だと分かる。あれは、トランス、といおうとした。
しかし、あの場では春雨さんは、深海棲艦艤装を展開しなかった。「鹿島っち、生かしてくれるなら」と答えていた。レ級とネ級に抱えあげられていた。
水母棲姫が、死体を引き揚げていた。大発動挺のような装備にバラバラに吹き飛んだ身体をコレクションして、積んでいる。唖然とした。この深海棲艦はなんなんだ。訳が分からなさすぎる。
私は、ずっと懇願していた。
「返して。みんなを、返してください」
みんなを殺した憎い相手にお願いをしていた。奪ったのはこの深海棲艦達なのに、私はお願いすることしか出来ない。散々、人に練巡として理不尽を押し付けてきたのに、情けなくもこの理不尽に成されるがままだった。弱いやつは人間として生きることも許されない虫けらでしかない。
「返して。死体でも、あるとないのじゃ、」
「春雨さんも返して。その子も――――」
生きなきゃならない。お母さんの分も、生きなきゃならない子だ。この戦争の海に縛り付けられながらも、お母さんの分も生きなきゃならない子だ。
水母棲姫「春雨は生かしておいてあげる」
水母棲姫「私達のこと、黙っておいてくれたら、生かしておいてあげる。そこの深海棲艦、かなり強いやつらだから、そいつらに殺されたことにして、あんたが上手くいえば通るでしょ」
水母棲姫「私達のことを喋ればすぐに分かるわ。軍が動きを取らない訳がないもの。今のこの襲撃も計画していたのは分かるはずよね。こっちはそのレベルだからさ、賢明にね?」
その言葉は聞こえてた。けど、答えは返さなかった。ぶつぶつと「返して」と私は繰り返してた。
脳裏に過るのは戦力外通告の言葉。
ハッキリいうとだね――――
――――君が艦隊にいてもいなくても
――――まるで変わらないんだ。
鹿島の適性者は稀少ではあるから長い目で見てきたが、次の派遣先の育成艦隊が同じ結果なら――――
違う。いてもいなくても変わらない、じゃない。いないほうがいい。死神のその呼び名の通りだ。人をやる気にさせておいて、海へと駆り出させ、死なせるような私は、絶対にいないほうがいい。
支援艦隊がやってきた。その偵察機を撃ち墜として、大発動挺の上に墜落させていた。その後、すぐさま旋回をした。
春雨さんがさらわれていく。私はまだ「返して」と嘆いている。降ってきた雨のように、最後の水母棲姫の冷徹な言葉は今でも覚えてる。
――――ごめんね。
ふざける、な。
3
鹿島艦隊の悲劇、と呼ばれるようになり、私は歴代鹿島として永遠の汚名を歴史に残すこととなった。それだけならまだよかった。
そこから、対深海棲艦海軍の全ては地に墜ちた。鹿島艦隊の悲劇の場所は、対深海棲艦海軍が確約した安全航路だ。たった一時間前に艦隊が哨戒をし、企業の輸送船も通過している。一歩間違えば、民間にも多大な被害が出ていた、と対深海棲艦海軍の業務体制が疑問視された。公務員の風当たりが厳しい風潮もあり、最初期から国の発展を守り続けた対深海棲艦海軍は世間から酷いパッシングを受けた。
フレデリカ大佐も様子がおかしくなった。考えなきゃ、とブツブツいってたのを覚えている。
受け入れる他なかった。毎日のように、この鎮守府に送りつけられる『役立たず』とか『人殺し』とかの言葉。
殉職した兵士と同じ院の子供が5人でやってきた。お友達みたいだ。私を見て、泣きながらいった。「返して」
あの時と同じだ。私は抵抗できず、受け入れるがまま罵詈雑言の暴力にうちひしがれる。あの時と同じく、泣くことしかできない。
終わってる。こんな私に誰かを教える資格なんかありはしない。
全てを打ち明けて少しでもいいから楽になった。あの明らかに異常な知能の深海棲艦の存在を打ち明けて、軍に行動を取らせることが出来たのならよかった。そうすることが絶対に正しい。
でも、それをしたら春雨さんが殺されてしまうかもしれない。
すでに生きているとは思えないけれど、それでも、生きているとしたら、私があの日の真実を胸に秘め続けたのなら、いつか帰投してくれるのかもしれない。
真実を知らせないことで、新たな悲劇が産まれるかもしれないのにね。私は連巡とか兵士とか、それ以前に人間として終わってる。
死人に口なし。死のうかな。
あの日のことを絶対に忘れない。あのデータ上の鹿島なら、きっとこんなこと思わない。私自身も衝撃的だった。自然と声が漏れでた。
あの深海棲艦どもを、
地獄へ、
叩き落としてやる。
解体申請希望の書類を提出しながら、そんなことをいってた。完全に壊れてた。
4
幸いなのは鹿島艦隊の悲劇はあくまで事故として扱われていたこと。私が街に戻っても想像していたような日々はやってこなかった。
大和が殉職することとなった1/5作戦、そして私が最後に籍を置いた鎮守府の壊滅、そして、フレデリカ大佐の人体実験を受けていたという駆逐艦電。 悪夢のような事件が、立て続けに起きていた。
私はもうすっかりただの街の歯車になって来ていた。香取姉からたまに連絡が来るけれど、返信はしなかった。教え子を死なせたことのない優れたあの人にはきっと頭でしか分からない。
男子に艤装の適性が出た、とかいう報道もテレビで流れていた。目を背けるようにチャンネルを変えたら、なんだか学校のリンチ事件をやっていた。子供を死なせたことで、教師が責められている。あの頃の自分と被って見えた。
ダメだ。どこにいても逃げられなんかしない。
それでも一人暮らしなうえ、マンションの管理に、併設した売店に、色々とやることは尽きない。大変な毎日は、頭からあの日のことを数刻、忘れさせてくれてはいた。
そして、帰宅すると、どうしてもあの日のことが頭に過る。なぜか棄てられない昔の教え子達からもらったお手紙を大事にしまっていた。鹿島さんのお陰で、とお礼が綴られたお手紙だ。
分かってる。
この身を削り続け、渾身で献身を続けた日々に嘘偽りはなかった。このお手紙も本心なのだろう。
――――ありがとう、ございますっ。
――――鹿島さんの指導のお陰で
――――私、砲雷撃戦で活躍できるように、なりました!
――――それはよかったです。
――――みんなが生きて帰って来ることが、すごく、私は嬉しいんです。
私は悲劇の忘却を願うと同時に、それらを忘れられる術も割り切れるモノも持ち得ない。人生のどこを探してもない。あの日の身体の傷はすぐに治ったのに、心の痛みはずうっと治らない。
そんな私を置き去りに、新しい海の歴史は刻まれていく。
深海棲艦の建造に関与している可能性のある深海妖精を発見。我が目を疑った。誰もが『戦争が終わる』と想像するほどの偉業に、対深海棲艦海軍の地に堕ちた権威は再び輝きを取り戻し始めていた。
過去へと前進したい。波に逆らいたい。前を向きながら未来へと進んでいるつもりが、その実、後ろへと流されているかのよう。この波を越えて、あの海の水平線まで行きたいなって、思った。
そんな時にスカウトが来たから、戸惑った。
5
送られてきた書類をもとにその鎮守府のことを調べた。あの壊滅した鎮守府を再建して、また活動を再会した。そうか、この鎮守府が例の合同演習で、むちゃくちゃやった鎮守府なんだ。
“ポンコツだらけのこの鎮守府には練巡が必要なのです。休憩は十分したでしょう。司令官さんがお話に向かうそうなので、さっさと戻ってくるのです。住所は知っているので、断ればそのマンションを的に近距離射撃の練習するのです。by 電ワ●"
電ちゃん? 酷い人体実験をされていたと聞いていたが、思ったより元気そうだ。この手紙からはあの頃からの人格の豹変を感じるけど。
私が必要? なぜだろう。少しだけオーケーの返事をしたかった。深海妖精の発見はこの戦争が終わる前触れだ。街にいながらも、いつだって心は海を映していた。なにかしらピリオドを打てるかもしれない。
鎮守府(闇)の人達は真摯だった。この人達は本気で戦争終結しようと動いているのが伝わる。ならば、私は行かないほうがいいのかもしれない。聞けば聞くほど私が力になれる気がしなかった。足手まといになるのは、嫌だ。
春雨さんが生きている――――
そう聞いてから、条件を出した。乙中将に負けたら、再び艤装を身に付けるという条件だった。結果は勝利。行く気はなかった。
春雨さんと直にお話してそれも変わった。
わるさめ「……まあ、深海棲艦化のことは隠していましたし、この身体はあん時の提督が私に行った実験のせいです」
わるさめ「私が連れ去られたのも、他の子が全滅したのも鹿島っちのせいじゃないです」
わるさめ「ま、向こうの狙いは私だったんだろーし」
わるさめ「春雨ちゃんのせいかな」
わるさめ「今の司令官は私のこの身体をどうにかしてくれるっていってくれたから、この鎮守府(闇)に協力していますね」
「……そう、ですか」
そうだったのか。
「また後日、連絡します、ね」
わるさめ「早くしてよねー。わるさめちゃんも死にたくねっス」
「……はい」
わるさめ「司令官、なんかわるさめちゃん褒めてー」
提督「よくやってくれましたね。それと、そろそろ整列の時間です」
わるさめ「こーいうやつだゾ☆」
「……うふふっ」
思わず笑ってしまった。
あの時の通信は、独り言かもしれないけど、かすかに、聞こえてたよ。
―――― チューキちゃんやリコリスママ、スイキちゃんレッちゃんネッちゃんセンキ婆。
私にはすぐにその深海棲艦を思い浮かべることが出来た。でも、なにその呼び方?
仲が良さそうだね?
笑ってしまうほど、
春雨さんは、
狂ってる。
だってそうでしょう。私はあなたのために、あの日の真実を胸に秘めていたのに、あなたは、あなたは――――あの深海棲艦をニックネームで呼んだ。
あの日、みんなを殺した深海棲艦ですよね?
この鎮守府のスカウトを受け入れた。
春雨さんのこの変化、気になって仕方がない。あちらで洗脳とか、ここの提督も悪い噂が流れてる。なにか、されているのかもしれない。
そして、鹿島艦隊の悲劇、あの深海棲艦達の情報も得られそうだ。あれほどの強敵、そして、戦争終結を志すこの鎮守府ならば、必ずやつらと巡り会うだろう。
打ち明けると、最初はこんなこと思ってた。
6
練巡として仕事するためにトランスタイプの資料も読ませてもらったから、春雨さん改めわるさめさんがああなるのも無理はない、と私は理解した。
家族――――ああ、家族か。
わるさめさんの過去を知っていたから、理解は出来る。化物だなんていうその身体が、人間臭い化物という中枢棲姫勢力に親近感を抱かせた要因なのかもしれない。
この鎮守府は次から次へと新たな海へと進んでいく。仇である中枢棲姫勢力との決戦、私は対深海棲艦海軍の勝利を願っていた。
けれど、その決戦の最中に、私達と深海棲艦を掌でもてあそぶ神の存在を知った。
深海棲艦じゃなくて
そいつに、弄ばれて傷つけられていた。
深海棲艦は、戦争のためだけに造られた命。深海棲艦は、私達以上の被害者としか思えなかった。私達は容赦なく彼等の尊き命を奪っていたと、認識した瞬間だった。あの子達が『中枢棲姫勢力に殺された』という認識は変化した。人間も深海棲艦も、掌で戦争をさせられていた。
帰投した皆から中枢棲姫勢力の叫びも聞いた。本当に人間のようだった。
私の心境は整理がつかなくて複雑だ。
あの日に連れて行かれたみんなは肉体改修によって、中枢棲姫勢力の身体の一部と化しているのかもしれない。
密会したネ級はいった。こっちだってたくさん殺されてる。最後には、一瞬くらい心がくっつく、と。
それでも許しなんか出来ない。お互い様だ。和解なんて出来ない。戦争と戦争をした国のように、お互いを許せなくとも、手を取り合って未来へと進むことになったけれど。
見えた終わりが現実味を更に帯始めていた。わるさめさんや電ちゃんが未来のことをしゃべったり。少しだけ舞い上がってしまって、提督に怒られた時もあったけれど。
私にとって中枢棲姫勢力は、敵であり、仲間であり、上手く言葉に出来ないほどに複雑だ。それでもただ1つ、戦争終結だけが――――
この鎮守府の本当の仲間になれた気がした。
誰も死なないように、ガンバってきたつもりだ。役に立っているかは怪しいけれど、私なりに全力で。
全員生還。
そんなことはわざわざ口にすることでもなく、いつだって戦場へと出る誰もがそう思ってる。それを強調するのは兵士の気を引き締めるため、裏を返せば誰かが死ぬ危険性が高いことを意味している。
【3ワ●:E-7】
1
海の傷痕:此方「『全員生還失敗』」
海の傷痕:此方「退けないのは分かるはずだ。この戦いが全員生還のルートは用意してあげていた。深海棲艦300体程度なら、なんとかするって信じてたよ。中枢棲姫勢力がその身と引き換えに造り出したさっきのチャンスでしくじらなければ」
海の傷痕:此方「理想の形で全員生還、出来たね。まあ、これはこっちが勝つと思ってたけど」
海の傷痕:此方「まあ、『全滅:特攻』のフィナーレの……」
海の傷痕:此方「『E-7』」
海の傷痕:当局【さあ、平和な時代に産まれ育った今を生きる兵士よ。後に引けないということが、どういうことか実感させてやろう!】
海の傷痕:当局【借りを返さねばならん相手がいるからな!】
海の傷痕:当局【待望の『E-8』の準備である!】
海の傷痕:当局【確かな傷痕を思い出させて差し上げよう。すでに記録でしか知ることもなく誰もが未体験の最初期の戦争の歴史を、だ】
【4ワ●:想題仕官妖精:『始まりの提督の記憶』】
ほらね――――本官さん達は、敗けた。
ずっと声が聞こえる。空襲により、死んだはずのあの少女の声が、頭の中に頭痛の波のように押し寄せる。
本官は過去など語りたくもない。今の時代を渡り歩いて、平和を見て回り、彼等に昔のことを説くことが不粋にすら思えた程だ。胸にしまっておこう、とそう想った。記録は残っているのだ。
「最初期の記憶を、本官の記憶を――――」
「艤装を通して流し込んでいるのでありますか」
2
戦争が終わった日の記憶はごく一部、軍艦が大きく傾き転覆を始めて、この身は海へと投げ出された。死にゆく仲間を見捨てながら、この四肢を母国の大地に向かう。爆発による無作法な波が、この身体を流した。それでもただ泳いだのを覚えている。
そして、死んだ。力尽きて海の底に着底した。
目覚めたら、雪風に救助されていたという。
馬鹿な、あり得ない。あの戦場で、海の底にいた本官を救助できる余裕があったのか?
このような奇術を扱える存在に心当たりはあったが、存在を語れる場面ではなかった。
時すでに敗戦。その日からなぜか『本官は責められなくなり』、『雪風により救出された』ことになっていたのは奇々怪々な話だ。
戦争が終わった日は本官にとって、薄い記憶となり、あまり思い出せないのはそこからの記憶が強すぎるからだ。
敗戦の意味を体感した景色は覚えている。故郷のために捧げたこの身は、この景色を守るべきためだけに。
ただ国民一丸などと、とてもいえはしない。支配者に従うのみの選択肢しかなかった。後に引けない状況を用意して、『特攻:死ね』と命令されるのも珍しくない。腹の音を割れば敗けてしまえばいい、という意見も多くあった。戦闘機も人手どころか食料、戦うためのなにもかもが足りない中、刑務官から戦場へと駆り出された戦友が「囚人どもは壁のなかで飯を食べて寝ている間に、清廉に生きた俺は奴等を守って死ぬ。逆だろう。そのほうが救いだ。もう敗けてしまえ」とぼやいていたのも覚えている。
地獄だ、と。
蹂躙されまいと、戦った最後は敗けだ。全てを奪われた。守ろうとした故郷の愛しき女房や娘達が、同胞を殺した白人と仲良くしていた景色を目撃して“終わった”とそう想わせた。
全ての管理権限を奪われた。
戦後処理が進められていく。ろくに食べ物すらなしに戦っていた我々は「蛮人」だと「人権を無視している」と、いわれる。違う。
多くの人間が裁かれて葬られて、この国は他国の利のために融通を利かす道具化していく。
救いはあった。形はどうあれ、終わったのだ。この国が見せた立ち直りの片鱗に戦後復興期すら予感していた者もいる。だが――――
ずっと聴こえてた。
――――私の居場所を創る、ね。
あの日に出会った子供の声が、聴こえていた。
駆逐艦響がロシアへと渡ったその日に、
“最初期の地獄の1年が始まる”
目の前に鉄の塊が地面と垂直に落下していく。クエスチョンが浮かび上がる前に、肉体ごと意識が消し飛ぶ。
とても戦闘機とも呼べない小さなナニカが、滑空し、機銃や爆弾を降らしていく。砲弾が、復興を予感していた町を人々を凪ぎ払う。
全世界の海に現れた未知の生命体。
当然、応戦をしたが、なにもかもが通用しない。どんな壁を挟んでも突破してくる。もう笑うしかない。ただ1つだけいえたのは、人類が生き残ることが出来たのは、確認されていた数が100に満たないことだ。敵視しても、まさか手も足も出ない、とは誰もが思ってはいなかっただろう。
「止めて止めて――――」
あの日、江島で出会った少女から声が返ってくる。ポツリといた子供に魚を分け与えた。おかしな少女だった。現れたり、消えたりすれば、本官以外の前に姿を現さないせいで、本官が気狂いだと思われた。でも、あの少女はまだ生きている。
あの子供の声がずっと聴こえるから。
その声のままに放浪し、海岸にポツリとあった謎の金属体を、一人の少女が弄っていた。なにをやっている。敵がそこまで来ているのだぞ。近くに寄って、気付いた。妙に小さい人型のナニカがいた。少女は、その鉄の塊ではなく、その人型のナニカと喋っていたのだ。
頭の中に声が響いていた。
――――その少女を基に――――
支配されている感覚。突破口を求めて、従うだけだった本官の軍人の性が、その声に呼応した。
言葉が滑り出た。少女の意思とは無関係による徴兵も同然の悪を行った。その瞬間、人類初の妖精との意思疏通による兵士の建造が開始された。
攻めてきた敵はなぜか的のように動かなかった。少女はまるで身に付けたその鉄の塊の機能を知っているかのように、砲口を敵に向けた。
乱発された鉄の塊によって、奴等は砕け散る。その光景を目撃していたの本官だけでなかった。歓声があがる。勝てる、とそう仕組まれた希望をちらつかせ、戦争へと背中を押されてゆく。
我々が戦う術を与えられてしまった瞬間だった。
2
艤装、と名付けられたその兵装は調べ尽くされ、駆逐艦吹雪の構造と似ていることが判明した。そして各方面から、それぞれ五月雨、電、漣、叢雲と似たような艤装が発見されて、政府へと送り付けられた。名もない悪魔に刃向かえる武器は現状、世界で5つのみ。
本官がしばらくの尋問の後に配属されたのは、新規に立ち上げられた海軍の小さな組織だった。尋問時に殺されなかったのは、あの小人、そして兵士をその艤装に身に付ける工程を本官以外に出来る人間が確保できなかった、ということらしい。
手当たり次第に軍の人間に試したが、誰もが艤装を扱えない。多くの人間が軍部へと召喚され、その工程を試したところ、いくつか艤装が馴染む人間が見つかった。しかし、馴染んだのは誰もがまだ垢抜けない頃の少女であった。
悪魔はどんな障害物をも打ち砕いてくる。そしてどんな人類の叡知も通用しない。攻められたのならば逃げるしかない未知の生命体相手だ。現状、国を存続させるため、戦える者が戦うしかなかった。
その少女達は研究体として徹底的に調べあげられ、いくつかの共通点を発見、適性率の見込みのある人間を徴兵するに至る。
そして、その目に見えぬ妖精により艤装を修復できることも、その兵士が人間とは比較にならないほどの自然治癒力を有していることが発見される。
そして他国の兵士が、あの悪魔が海の底から現れたのを目撃したという情報が伝わり、海の底に棲んでいる悪魔とされた。その兵装から、やがて深海棲艦と命名されることになった。
現場を、みたことがある。
戦い方を教えるものなどいない。扱える存在、駆逐艦吹雪も、よく分からない、という始末だった。今ならば分かる。手足がどうして動くのか、この子達が具体的な説明できる訳もなく、大人達も教えられるものではなかった。
そんなものを頼りに戦う現場を。
『特攻:死ね』と命じられたとしても、気構えもない少女が戦えるはずもない。不格好に悪魔の群れに突撃して、一子報いて、または一子も報いることなく、死んでいく。その戦闘様子を確かめ、深海棲艦や兵士を考察し、知識を集めて知恵を振り絞り、次の命で試していく。
その中でも、駆逐艦電は最悪だった。誰の目から見ても最も戦いに向いていない子が適性者となるからだ。徴兵された彼女はずっと嫌だ、と叫び続け、母親の足にしがみついていたのを、無理やりブン殴って連行されたらしい。 ずっと嫌だ、と叫び続けた彼女を、どうせ治るから、という理由で連行してきた役人が暴力を浴びせていたことが発覚した。
電をブン殴ったやつを、ブン殴った。なにかに鬱憤を晴らさないと壊れてしまいそうだ。
分かってはいる。本官はこいつとなにが違う。今から泣こうが喚こうが、建造を始め、死ね、と命じる本官と、こいつのなにが違う。
“勝てない。勝てないよ。だって私は”
“誰も殺したくない――――”
“お願い――――”
“お家に、帰らせて――――”
例外なぞなかった。許されなかった。与えた最後の晩餐をも、喉を通さず、駆逐艦電は遠くの戦地へと本官とともに赴いた。
そこには、化物が棲んでいた。
見たことのない深海棲艦。馬鹿でかい艤装をまとい、人間と酷似した容姿をしている。駆逐艦電と初陣は、始まりの深海棲艦、軍が中枢棲姫と名を与えた規格外の化物だった。
本官は拠点軍艦へと乗り込み、駆逐艦電と中枢棲姫の戦闘風景を目撃する。覚えてる。忘れもしない。最も強い記憶だ。
涙と鼻水、涎を漏らしながら、血飛沫を撒き散らしていた。『う゛え』と嗚咽を軋ませながら、不格好に戦うその少女の身体は容赦なく削られて行く。逃げることは赦されていない。勝つことすらも、許されていないのだろう。
本官は、なにをしてる?
何のために、兵士として生きてきた。その光景に血が滲もうとも構わず、その光景に喉をかきむしる。こういう子供を守るために、国に命を預けたのではなかったか。何のために身心を鍛えあげてきたのだ。あんな子に戦わせて本官はただ見守ることしか出来ないこの身は――――
“私の敗けでいいから――――”
“もう殺して”
その叫びは確かに聞こえた。心に響いた。深海棲艦に救いを懇願するその駆逐艦電の最後の言葉で、なにもかもを投げ棄てた。その通りだ、と思った。愚かな。本官はなんと愚かな。後のことなんて知らない。全てを投げ捨てても、あの子をここで死なせたくなかった。
母のもとへ帰投させてあげたい。
艦爆が、拠点軍艦に落ちた。この身が燃え盛る。ごうごうとした炎に焼かれながらも、海のほうへと進む。海へと身を放り投げたところで、叫ぶ。
――――此方、
――――貴女を、
――――殺しておけばよかった!
焼きただれていくこの喉から灼熱の悔恨を叫び、人生は途切れた。
【3ワ●:死にゆく貴方達へのハルノート】
1
大淀「元帥!」
元帥「どうした?」
大淀「最初期の始まりの記憶が流れ込んできました」
青葉「私にも。元帥、もしかして知ってました?」
元帥「なにを、だ」
青葉「歴史を改竄して国定の教科書に載せていたということです。青葉の腸が、ジャーナリズム魂が煮え繰り返っています」
元帥「わしもよく分からんが、どこだ」
青葉「まとめますが、国定の教科書には『終戦の翌年、最初期の1946年、突如として出現した深海棲艦により、成す術あらず』」
青葉「『世界から15万の戦死者が出たものの、深海棲艦の鹵獲に成功した時、日本海軍が始まりの艤装の出現を確認、妖精および提督と適性者と艤装による建造の工程が発見され』」
青葉「『鹵獲に成功した深海棲艦に対して艤装適性者の協力を経て、深海棲艦への有効な攻撃性能を発見』」
青葉「まずここです」
青葉「あの景色は違った。艤装を強制的に身に付けさせた幼き子供を特攻させて、深海棲艦の戦い方、習性、作戦を考案しようと試みていた。始まりの艤装の電は強制連行され、脅しをかけられ、ただ的のようになぶり殺されていました」
青葉「どこにも協力なんてない。あるのは後に引けなくした残虐と、戦時中のような特攻の強制だけでした」
青葉「そんな真実、教科書には書いてません」
青葉「始まりの艤装の適性者は、英雄のように教科書には記してあった。その実、中枢棲姫相手に『私の敗けでいいから、殺して』と懇願してました」
青葉「実験動物として扱われた口伝を聞いたことありますが、その時は終戦して一年あまりで、アメリカさんが『そのような人権無視を容認した事実はない』と公式発言もしています。なので、そのような扱いを受けていた、という説は一部の人の主張に過ぎず公式記録ではありませんね」
青葉「世間一般の常識として認識されているのとはズレていますよ」
青葉「実験動物のほうが的を射ています」
青葉「……意図的にそのようにしたのでしょうけども」
元帥「残念ながら、わしも初耳だ。恐らく、その事実を真実として認識出来ているのは、対深海棲艦海軍にはおらん。いや、いたとしても」
大淀「甲大将ですか、ね。あの人の家、最初期の絶望からの国の復興に多大な貢献をした家の出自ですし」
青葉「死人に口なしの時代は終わったってのはマジみたいですねえ。ボロボロとこんな風に歴史を暴かれていったら、大変どころではありません。青葉個人としては、素晴らしいこととも思いますけど」
元帥「今は最初期の歴史なんてどうでもいい」
元帥「倒すべき敵を倒すために、」
大淀「通信、海の傷痕からです」
元帥「……繋いでくれ」
海の傷痕:当局《おはようございます》
海の傷痕:当局《そちらの健闘の批評だ》
海の傷痕:当局《鎮守府(闇)の提督が考えた策、教科書に沿ってはいたが、この錯乱する戦場の中、実に柔軟性に飛んでいた。起こりうる事態を広く想定し、歴戦の艦隊そして指揮官はその匙を投げたくなるほどの高難易度を連携で乗り越えた》
海の傷痕:当局《見事である。失礼だが、ここは奇跡といっても過言ではない》
海の傷痕:当局《『初霜を信頼し、海の傷痕:此方を倒して、ロスト空間の管理権限の奪取、そして海の傷痕:此方の消滅を阻止するため、海の傷痕:当局が即座に反転建造に移るであろう』という読みも大筋当たり、実際にそうしていたのだから、賭博にも勝ってみせたのであろうよ》
海の傷痕:当局《そして》
海の傷痕:当局《海の傷痕:此方を建造中と見るや否や、切り札の中枢棲姫勢力を投入し、建造が完了するまでに、海の傷痕の肉体と艤装を破壊することで、まとめて殲滅を試みるという、1手》
海の傷痕:当局《それに加えて、想定外の特攻艦の春雨に、予想以上の響改二をも、上手く使ってはいた。策略家としては文句なしに洗練されている》
海の傷痕:当局《だからこそ》
海の傷痕:当局《想定が容易い》
元帥「っ!」
海の傷痕:当局《致命的なミスを犯した。電ではない。電は指揮に応えて、一撃を与えた。これは読み誤った提督側の責任である》
海の傷痕:当局《あの時の声、この海の傷痕が間違えようもない。人間の絶望のうめきであった》
海の傷痕:当局《それでも、それでも》
海の傷痕:当局《あなた達はまだアイツを信じているのであろう。なぜ准将が通信を拒絶したか分かるであろう?》
海の傷痕:当局《すぐさま『ロスト空間に飛んだ』からだ》
海の傷痕:当局《もはや『艦隊これくしょん』のシステムを掌握するしか、手はない。恐らく海の傷痕の装備全てに対抗できる手段を》
海の傷痕:当局《創作を短縮するロスト空間の理を踏まえて『廃課金である提督』が飛んだのだ》
海の傷痕:当局《その掌握は出来るぞ。艦隊これくしょんのシステムは掌握出来るようにしてある。が、勝敗に繋がる全ての『想:データ』は、ロスト空間にはない》
海の傷痕:当局《例えば、この海の傷痕の装備の全てのデータだ》
海の傷痕:当局《そして女神も含めた艦隊これくしょんに必要な妖精の全てのデータは海の傷痕:此方が現海界のタイミングで此方がともに持ってきて、こちらの艤装に移してある》
海の傷痕:当局《ロスト空間のどこを探してもない》
海の傷痕:当局《恐らくあの提督だ。こう考えたはずだろうよ。『ないなら、海の傷痕に対抗できる手段を1から作り出せばいい』とな》
元帥「……、……」
海の傷痕:当局《まずこの海の傷痕:此方は、バグであり、艦娘、ゆえに、通常兵器で殺すことは可能だ。鬼ごっこで山城が飛び降りて怪我をしただろう。人間よりかは丈夫に作ってある程度だ》
海の傷痕:当局《しかし、『Srot4:海の傷痕装甲服』で、性質を深海棲艦に変えられる。分かるな。お前らの兵器が通用しない。この『艦隊これくしょん』のシステムにある装備だけだ》
海の傷痕:当局《このシステムに割り込み、1から創造した突破口をアップデートこそがここからひっくり返す唯一の手段だが、所要時間は一時間や二時間ではこの海の傷痕でも不可能だ》
元帥《なぜ不可能と断言できる》
海の傷痕:当局《ロスト空間の管理権限は奪取したが、実際に管理は出来ていないからだ。このトランスタイプは艤装を介してロスト空間と繋がるバグでもある故に分かる》
海の傷痕:当局《そしてロストし、ロスト空間に出向いた海の傷痕:当局を倒しにかかるのも無理だ。なぜならば、此方と当局が別々ではなく、電や春雨と同じバグであるからである》
海の傷痕:当局《管理が行き届いていない状態でそちらに繋がる海の傷痕:当局の想を特定するのは、海の中の一滴を見分けるに等しい》
海の傷痕:当局《管理しても難しいのだ。この海の傷痕でも、電や中枢棲姫のバグに直接、こちらに出向く決断をした程のステルス具合だぞ?》
海の傷痕:当局《管理権限を奪取されている状態で今向こうに突撃しても、海の傷痕は返り討ちに遭うであろうよ。初霜との戦闘で確信したが》
海の傷痕:当局《あいつは、深海海月姫の特攻艦である酒匂の艤装を即造り上げて戦闘手段として持ち込んだ。酒匂のモチーフがあるとはいえ、信じられん。海の傷痕ですらそんな即興が出来ないから『Srot4:海の傷痕装甲服』をシステムとして作り上げてわざわざ実装したというのに》
海の傷痕:当局《認めよう。初霜は、ロスト空間において海の傷痕を凌ぐ。いっそバグと呼びたいほどの正常だ》
海の傷痕:当局《なので管理権限の持ち主である仕官妖精のフォローのある初霜に、勝ちの目がほぼないと判断している。仕官妖精がこちらの世界に戻らない限り、海の傷痕はロスト空間を取り返す決断をしない》
海の傷痕:当局《ロスト空間は、完全に奪われたといってもいい。たが、どうにもならんよ》
海の傷痕:当局《少し戻るが、ロスト空間の管理権限は奪取したが、実際に管理は出来ていないといったが、その根拠だ》
海の傷痕:当局《空を仰ぎたまえ》
海の傷痕:当局《出来ているのならば》
海の傷痕:当局《あの『想:データ』を消すはずだ》
2
海の傷痕:当局《選別の時、来たり》
海の傷痕:当局《あの空の裂け目から覗くミサイルはこの戦争のようにロスト空間で造り上げた理である》
海の傷痕:当局《あの兵器は『人間の悪性を焼き払う浄化作用』をもたらすであろう》
海の傷痕:当局《永遠に悪性の想を焼き払う炎を、機能として与えよう。素晴らしい優しい世界だ》
海の傷痕:当局《『嘘つきこそが、火刑に処される悪の根源である』》
海の傷痕:当局《全ての人間は、心のままに言葉を口にする。かい潜らせぬ、取り繕わせぬ、本当の自由の先にある海の傷痕の世界だ》
海の傷痕:当局《誰もが真実と腹の音しか語らぬ世界だ。裁きは簡略化をもたらし、真実と人格に沿って執り行われる》
海の傷痕:当局《生きるべく命は、なに、今までもあったであろう》
海の傷痕:当局《深海棲艦という正直な想の塊だ》
海の傷痕:当局《最も――――》
海の傷痕:当局《『そして、誰もいなくなった』というオチがつくかもな。嘲嘲:ケラケラ!》
海の傷痕:当局《報いを受けよ――――》
海の傷痕:当局《海の傷痕を産んでおきながらも、繰り返すだけの愚かで無力な人間どもめ》
海の傷痕:当局《たまたまこの星で最も頭が良かったからと、よくも好き放題やってくれたな》
海の傷痕:当局《人間は後悔を知る生き物であると知れ》
海の傷痕:当局《思い知れ。力によりひっくり返る自業自得の自然法のルールの一辺に則り――――》
海の傷痕:当局《裁きを受けよ――――!》
海の傷痕:当局《戦争を自然の営みとする深海棲艦となりたまえ!》
海の傷痕:当局《しかし、安心したまえ!》
海の傷痕:当局《神は慈悲深いのだ!》
海の傷痕:当局《希望を与えよう!》
海の傷痕:当局《『海の傷痕は今、経過程想砲により想の探知と質量化は可能でありながら、艤装の想を読み取れない。そちらの作戦は分からない』》
海の傷痕:当局《だから、勝てるかもしれない。貴方達は勝てるかもしれない――――!》
海の傷痕:当局《いや、准将は貴方達が戦っている間に必ず何か逆転の策を考えてくれる――――!》
海の傷痕:当局《だから貴方達は勝てるぞ!》
海の傷痕:当局《己を信じろ! 希望で進め! 愛絆友情で、最後は必ず勝つのだ! ほらほら貴方達は仲間を心から愛しているのだろう!》
海の傷痕:当局《撤退を潰す希望――――》
海の傷痕:当局《これは海の傷痕:当局からのハルノートである!》
海の傷痕:当局《嘲嘲:ケラケラ!!》
鎮守府(闇)の皆さん――――!
海の傷痕【「!」】
阿武隈《最後までご静聴、願います》
阿武隈《電さんが、即死の損傷を受けて殉職しました。死亡を確認。遺体はわるさめさんが引き揚げて拠点軍艦まで輸送しました》
阿武隈《そして提督が通信に応答しません。海の傷痕の言葉は聞こえましたよね。これ、もうあたしの頭では奇跡でも起こさない限り無理です》
阿武隈《いえ、奇跡でも届かないかもしれません》
阿武隈《けど、けど》
阿武隈《皆さんは、あたしの指示に従ってください》
阿武隈《これより鎮守府(闇) の戦力で海の傷痕を撃滅に動きます》
阿武隈《だって、提督は『あたし達に撤退の指示』を出していません》
阿武隈《手渡された作戦に書いてあったはずです》
阿武隈《『途中で』》
阿武隈《『誰かが欠けても』》
阿武隈《『最後には必ず』》
阿武隈《『全員生還』》
阿武隈《提督の応答がない以上、 この言葉を信じた上で、 鎮守府(闇)の皆さんの指揮は第1艦隊旗艦であるあたしが執ります!》
阿武隈《皆なら、納得してくれるはずです! ずっとあの提督が、あの人が、あたし達を助けてくれていたこと!》
阿武隈《どんなに困難な海でも、いつだって、導いて進路を示してくれました!》
阿武隈《その先にはいつだって》
阿武隈《みんなが生きてた!》
阿武隈《光があった!》
阿武隈《提督は今、絶対に絶望にうちひしがれているわけじゃない!》
阿武隈《『応答しないことも作戦の内』と判断!》
阿武隈《『この状況であたし達からの通信を拒絶してまでも、漏洩を防ぎにかかる情報または目的がある』と判断!!》
阿武隈《『信頼されている』と判断!!!》
阿武隈《ならば、あたし達がやるべきことは、それまで戦い、生き抜くこと。ブリーフィングで提督がいった通りの持久戦を作戦に据えて!》
阿武隈《選択は『進撃』 です!》
阿武隈《海の傷痕は食い止めます! 勝ち方も見えない戦いを、ただ提督を信じて『進撃』です!》
そこまでいった時、遠くに、白いモヤがかかる。あれは霧だろうか。あれも海の傷痕の仕業なのだろうか。あのなにも見えなくなりそうなほど濃度の高い霧は、海の傷痕の煽りだ。
海の傷痕:当局《最後の『E-7』である!》
海の傷痕:当局《卯月阿武隈、貴女達もキスカから燻っているであろうよ。当局も、だ。あのキスカ時の旗艦である貴女の撃沈を持って溜飲を下げよう》
海の傷痕:当局《プライドはあるのでな。たかが4隻に不覚を取ったこと》
海の傷痕:当局《ずっと、憎たらしかった》
海の傷痕:当局《あの時の屈辱、晴らしたかったぞ!》
海の傷痕:当局《中枢棲姫勢力を産むことになったあの時のお前の全員生還の指揮に!》
海の傷痕:当局《唄なぞ歌いながら当局に一撃を加えやがった。なめられたモノである。最後に》
海の傷痕:当局《あまり強くない敵だと、吠えおったわ!》
阿武隈《なにも間違いはありません》
阿武隈《あなたは致命的なまでに敗けたのだから》
海の傷痕:当局《いってくれる……!》
阿武隈《第1艦隊旗艦阿武隈!》
阿武隈《もう1度、霧の中で奇跡を起こします!》
阿武隈《あの日を――――!》
阿武隈《あの日の自分に勝って!》
阿武隈《乗り越えて、生きて帰る――――!》
海の傷痕:当局《勿論、受けて立つ》
かかって――――
こい――――
――――卯月阿武隈ア!
【4ワ●:Fanfare.鹿島】
わるさめ「――――無、理」
わるさめ「ごめん、なさい」
わるさめ「私、もう――――」
女の子座りをしながら、顔を両手で覆い隠している。首が完全に千切れたその傷は入渠で治る範囲を越えた欠損だ。仲間の死亡で心を折られた。
覚悟を決めても、いざ現実になってみれば、こんな風になる子だって、何人も見てきた。わるさめさんだけではなかった。
第6駆も、そうだ。響さんはわるさめさんを恨めしそうに見ている。状況は聞いていた。なぜ、私を捨てて電を、などと声には出さないが、顔に出ている。
「ここで止まると、後悔しかありません。この戦いは『全員生還』と『全滅』が想定されていたそうです。戦わなければ、みんな海の傷痕に蹂躙されます」
「聞いてください」
言葉を伝えようとしたけど、言おうとしたことは阿武隈さんに持って行かれてしまった。
通信から、阿武隈さんの叫び。
阿武隈「鎮守府(闇)の皆さん」
阿武隈「最後までご静聴、願います」
阿武隈「電さんが、即死の損傷を受けて、殉職しました。死亡を確認。遺体はわるさめさんが引き揚げて拠点軍艦まで輸送しました」
阿武隈「そして提督が通信に応答しません。提督の作戦内容を知る元帥は今作戦を失敗と判断し、撤退命令を出しました」
阿武隈「けど、けど」
阿武隈「皆さんは、私の指示に従ってください」
阿武隈「これより鎮守府(闇) の戦力で海の傷痕の撃滅に動きます」
阿武隈「だって、提督は『あたし達に撤退の指示』を出していません」
阿武隈「手渡された作戦に書いてあったはずです」
阿武隈「『途中で』」
阿武隈「『誰かが欠けても』」
阿武隈「『最後には必ず』」
阿武隈「『全員生還』」
阿武隈「提督の応答がない以上、 この言葉を信じた上で、 鎮守府(闇)の皆さんの指揮は第1艦隊旗艦であるあたしが執ります!」
阿武隈「皆なら、納得してくれるはずです! ずっとあの提督が、あの人が、あたし達を助けてくれていたこと!」
阿武隈「どんなに困難な海でも、いつだって、導いて進路を示してくれました!」
阿武隈「その先にはいつだって」
阿武隈「みんなが生きてた!」
阿武隈「光があった!」
阿武隈「提督は今、絶対に絶望にうちひしがれているわけじゃない!」
阿武隈「『応答しないことも作戦の内』と判断!」
阿武隈「『この状況であたし達からの通信を拒絶してまでも、漏洩を防ぎにかかる情報または目的がある』と判断!!」
阿武隈「提督は『戦っている』と判断!!」
阿武隈「『私達は信頼されている』と判断!!!」
阿武隈「ならば、まだ敗けていません!」
阿武隈「あたし達がやるべきことは、それまで戦い、生き抜くこと。ブリーフィングで提督がいった通りの持久戦を作戦に据えて!」
阿武隈「選択は『進撃』 です!」
阿武隈「海の傷痕は食い止めます! 勝ち方も見えない戦いを、ただ提督を信じて『進撃』です!」
力強い声だった。阿武隈さんも乗り越えてきたのだろう。彼女の素質の高さは私もよく知っている。でも、その最高峰の才能に、ついていけない子もいる。第6駆は決して素質は高いとはいえない。わるさめさんもトランスタイプであることを除けば決して強くない。彼女の迷いは知っているから。それにここにいる人達だけじゃない。間宮さんも、こんな風に折れてしまっているような気がした。
雷「進撃って、そんなの、死にに行けって……」
避けなければならない。送り出せば、私だけでなく、この子達も死ぬかも知れないけど、若いこの子達をこれ以上、戦わせたくないけど、海の傷痕は、
この『艦隊これくしょん』のプレイヤーにしか倒せない。
あの中枢棲姫と、フレデリカ大佐と、提督のお話を聞いていた。この戦いこそが、勝てる戦いなのだ。それでも敗けたのならば『当局の手段』に入れ替わる。海の傷痕:当局の戦い方を見ていれば、分かる。中枢棲姫勢力にわるさめさん、に響改二を単艦で撃破するあの戦闘力に私達は成す術もなく弄ばれて殺されるだろう。
あの悲劇の時と同じく、なにも出来ないだろう。
負ければ、負けちゃえば、世界の人々が私と同じ悲劇を追うことになる。
避けなければならない。あの痛みは、あの痛みこそが、この海の戦争の痛みだ。あんな痛み、2度と味合わせてはならない。私達はそのための兵士なんだ。
私が、私が、彼女達に贈る言葉は――――
「口止めされいることですけれど」
「提督さんは『電さんがこうなる可能性も考えて作戦を練ってある』と。『なんとかする』と」
大嘘だ。そんなこといわれていない。でも、これは魔法の言葉だと私は知っている。暁さんがポカンとした顔をする。雷さんは涙を拭う仕草をし、響さんは唇を尖らせた。よく分からない。わるさめさんは苦笑いをした。
空気が張り詰めて、表情が引き締まった。
提督さんの言葉は、私達にとって特別だ。欠陥や死に損ないを寄せ集めた鎮守府には信じられない奇蹟を描いてきた日々が、凝縮されている。
阿武隈さんの言葉の通りだ。
死地といえる激戦の闇の中でもがいた先には光があった。そうして乗り越えてきた先にとうとう終わりの海にいる。きっと、これが対深海棲艦海軍の鎮守府の理想の形だ。
「これを見てください」
提督さんから、私に渡された作戦書を見せる。その一部分にはこう書いてある。なぜか、変な文章でこう書いてある。
“万が一ぷらずまさんが『海の藻屑:殉職』となった時、鎮守府から龍驤さんが拠点軍艦をここまで移動させます、その拠点軍艦に乗り込み、阿武隈さん達の拠点とするため、移動してください”
といって対深海棲艦軍艦の操縦マニュアルがついている。最初期辺りの拠点軍艦の役割は単純だ。軍艦といっても、対深海棲艦用に改装されたもので、意味のない攻撃装備はなく、ひたすら移動する航行性能と、装甲に重点を置かれた艦の兵士の傷を癒すだけの乗り物だ。
雷「……私も」
響「私は海の傷痕のところに行く」
わるさめ「私も――――」
小鹿のように立ちあがる。みんな、強くなっている。提督さん、あなたから伝えられた言葉をいう必要はなさそうだ。みんな、折れていない。
この鎮守府は、脆いけど、強い。
暁「誰が拠点軍艦を守るのよっ」
響「鹿島さんは龍驤さんの船の護衛任務がいいつけられてるから、わるさめさんか雷か」
雷「ずるいこというけれど、海の傷痕を懲らしめてあげないと、私は」
雷「……いいえ、私が拠点軍艦を安全海域まで下げてから向かう。わるさめさんのほうが私より戦えるから 」
わるさめ「うん、わるさめちゃんに任せなさい。くっそ、心が折られかけた。助かったよ鹿島っち!」
私も、信じる。
この嘘は方便だ。きっと、電の死は想定外の事態なのだろう。前々から予想していたのなら、あまりにも不自然な点がある。対処が行き届いていないからだ。私は嘘をついて、この作戦書を見せろ、だなんて指示はされていない。旗艦である阿武隈さんの指示にこの子達を従わせようとした私の独断だった。
来る、来てしまう――――
先程、流し込まれた強烈な最初期の想のように、私達に撤退を許されない、一言が、必ず来る。
恐い恐い。この行動が、吉と出るか――――凶となるか。また悲劇は繰り返されるのではないか。
だけど、だけど、私も、信じる。
「私は、電さんを安置所へと置いてきます」
そういって、仲間の亡骸を抱えて歩く。
この鎮守府の提督さんは、
例え、今みたいにいなくても。
あの人なら、って、
そう思わせる人だから、
私達は戦える。
――――特攻命をここに下す。
凛とした元帥の声は、全てを圧し殺していた。
――――あー、うちからは、
――――もう木曾が行ってる。
――――任せてくれ。経過程想砲は潰す。
甲の気高き誇りが、聴こえる。誰よりも早く動いている。絶体絶命、未知の海へと、勇敢に突撃をしていた。私達も続かなければ、仲良く死ぬだけの未来しかない。
横たわった電さんに布を被せて私は踵を返して、抜錨準備に入る。退室する時にふと、背後に気配を感じて、振り返る。
「提督、さん?」
瞬きすると、消えてしまった。夢か幻か。
そのどちらでもない、みたいだ。
そこにあったはずのものがなくなっているから。
なにを慌てているのか知らないけれど、一声くらいかけてくれればいいのに。
いや、必要ないかな。提督さんを信じて進むと命令があった。信頼されているのだ、と思う。その旗艦の判断は、きっと正しい。
全ての教えは、
この地獄の先にあるはずだ。
【5ワ●:Fanfare.木曾&江風】
――――頼む。
ああ、任せとけ。グラーフと江風にいっといてくれ。お前は大将を守れって。
――――私の口から言えるかよ。
――――私達が、こじ開けて次へと繋ぐ。木曾、私なりの策は与えた。任せたぞ。
――――気にするなよ。俺達の仲だしさ。
ま、最期かもしれない別れの言葉も呆気ないのは俺達らしいのかもな。
装備してきた6連装酸素魚雷を全て撃ち放つ。こんなもんは海の傷痕に使っても損傷を与えられないのは分かってる。最高峰といってもいい攻撃を避けもしない。命中しても、予想通りに無効化ギミック。
損傷、すでに大破。
ンだよ、有効射程範囲に入った兵士の艤装を必中で破壊するあの経過程想砲が邪魔すぎる。あの装備だけは潰しておかないと勝負にならない。
どの装備を取ってもチートではある。そして海の傷痕自体の素質もかなりのもんなんだろう。いくつもの海を越えてきた経験は敵の『感じ』で、すぐにある程度の『度合い』を推し量ることはできる。こういったのは論理を置き去りにするその道の達人水準の感覚だと思う。口では説明はしにくい。
鎮守府(闇)のやつら、こんなのと綱引きしてたのか。おまけに俺がボロボロにされた中枢棲姫だけでなくあの勢力幹部に加えて、響改二とわるさめのやつがいる戦場で勝って見せたという。紛れもない最強だな、うん。
時間を出来るだけ稼ぐ。
大将が俺にそう指示した。ならばあの経過程想砲を潰せ、と。史実砲はロスト空間を奪い取った今、意味のない装備だ。妖精工作施設で復活を阻止するよりも、海色の想の無限燃料弾薬ボーキ鋼材よりも、一撃で艤装という俺達のもがく手段を奪い取る経過程想砲だ。
最低でもあれだけはなんとかしとかねえと。
そうすれば阿武隈達が更なる時間を稼ぐはずだ。
もちろん、時間を稼いでどうなるかなんて知らされてねえし、大将自体も知っているか怪しい。俺は指示に忠実に、無機物の軍艦のように舵を執られてこの霧の中を進むだけだ。今回はハナからそういう作戦だし、シンプルなのは嫌いじゃない。
大破だろうがなんだろうが、動けるのなら、動く。生死の境界線に立つと、痛覚はいつもあるかないか分からないほどに精神が研ぎ澄まされる。
こんなもん全部、道具だ。
艤装も装備も思い出も全部が道具だ。今、海の傷痕が見える。楽しそうな顔とは裏腹に、懐かしむように微笑んでいる。腹立つぜ、地元の連れみたいだ。
海の傷痕:此方「変わらないよね、君は」
俺なら航行できる範囲で、艤装を破壊しやがって。この木曾の艤装にあったお目当てのモンは回収できたか。大したモンなんてないだろうが。
「その瞳だ。あの頃の連れは俺を懐かしい思い出みたいに見やがる。ずっと今も俺だけは胸に勲章としてつけてるってのに」
海の傷痕:当局【ティーンエイジの想い出なんかをよく勲章に出来るものである。普通、そこまで誇りに出来んよ。人は後悔する生き物であるからな。若き日々に悟りを感じるまでに生きたか?】
海の傷痕:当局【それでこそ貴女なのだろうが】
あの日に見たもんを覚えてっから、ここまで切り抜けて来られたってのはあるよ。
「ここの海の先にさえ到達すりゃ、全てが報われる気がするぜ」
「自分だけじゃなく、他の誰かも報われる気がする。これが世界を救うって感覚かよ。なんだよ、自分のためが世界の人々のためになるってか。その燃料考えたら、愛は地球救っちまう。ずいぶんとちんけなオチを用意しやがって」
外套に隠しておいた武器を抜き放つ。艤装が壊されるのなんざ、想定内だ。むしろ壊されちまえばいい。これで俺の腹の中、なにを想っているか分からなくなるんだろ。
海の傷痕:此方「さっさと終わらせないと。相手をしてあげる。その軍刀2つで特攻なんて、もはや艦隊でもなんでもないよね」
海の傷痕:当局【ほら此方、同じモノを用意してやったぞ。あれは経過程想砲では潰せんし、あの軍刀持った木曾に砲撃なぞ時間を食うだけである】
そりゃいいや。カタパルトも砲撃も魚雷も使えねえとか、俺はもうなんなんだって。最後は結局この身一つだろ。この軍刀だって、直に折れちまうだろ。
至近距離。
鉄と鉄が弾き合う。剣術なぞかじったこともない。ただ海という練兵場を踏み鳴らし、命を寄越せ、と獣の牙のごとき武器を振るいながら、戦争強制のハルノートを押し付ける。
その研ぎ澄まされた獣性は、コンマの世界に潜む死の未来の予感を妨げようとする生の力として反発し、肉体は思考を置き去りに先走る。
左手の軍刀1つで此方の双刀を捌いて、右手の軍刀1つで当局が操作しているであろうSrot3:妖精工作施設の黒腕の艤装を牽制していた。Srot4:海の傷痕装甲服で爆弾にでもなろうものなら、その刹那、この研ぎ澄まされた感覚は頭脳を置き去りにした反射の速度で此方の首を刎ねる。
1合、10合、25合――――
右手の軍刀の刃が、史実砲の砲弾を受け流せずに破片と貸した。その根本の刃を此方の右目に手首の捻りで投げる。損傷を防ごうと刃をつかみにかかる妖精工作施設の黒腕により、お互いの視界が覆い隠される。
左手はすでに出来上がった此方の死角から刃を捩じ込ませている。しかし、読まれている。その腕は逆袈裟に切り上げられて、左肘から先が空を舞った。右手が瞬時に空を待った左手から軍刀だけを奪い取り、そのまま降り下ろした――――その時だ。
海の傷痕が、砲撃に気付いた。
その隙をこの感覚が見逃す訳もなく、海の傷痕:此方の鼻っ面に、肘から先のない右腕を叩き込んだ。綺麗に切断され、カットされた右腕の骨が、海の傷痕の肉に突き刺さる感触と、神経を直に痛める気付けは更なる刺激となる。
そのパンチで、
海の傷痕の位置が少しズレた。
海の傷痕:此方「っ」
経過程想砲に被弾。
長からこの霧の中に砲撃、しかもこの精度ならば、答えは1つ。対深海棲艦海軍1位の素質、大戦艦大和以外に考えられない。
至近距離でやりあっていること、そして俺が獣みたいに叫び散らしていること、辺りをうろつく潜水艦、この濃霧、そして、迫る阿武隈達、モヤがかかる要素は多くある。どれだけ強かろうが、
ロスト空間とか想とかよくわかんねえけど。
提督と仲間さえ後ろにいりゃ、どうとでもなんだよ。これはそういう戦争なんだろ。
左手が肩口から切り離された。
反す刃で腹部を切りつけられて、身体がよろめいた。
海の傷痕:此方「まだ経過程想砲は、壊れ」
海の傷痕:当局【当局の艤装だぞ。特殊艤装といえど、始めの頃とは違って、経過程想砲の艤装部分をロストさせておけば20分程度で再生する】
20分か――――
「足り、ねえな」
海の傷痕:此方「被弾……」
江風「まだ壊す!」
木曾「その声江風か。お前、なにしに来た」
江風「仇討ち、ついでに親孝行!」
江風「お前は電を――――」
江風「前世代秋月と同じように頭を吹き飛ばして殺したンだろ!?」
海の傷痕:此方「あ、こいつも軍刀か。史実砲も使用不能にされちゃったー」
海の傷痕:此方が、眉を潜めた。当局がすぐさま、Srot4を稼働させた。俺もこればっかりは驚いた。濃霧の中から突っ込んで来たのは、
炎上している拠点軍艦だった。
丁准将「通行の邪魔である」
海の傷痕:当局【大和の舵を執ったのは貴方か。瞬殺される経過程想砲が壊れたと当てをつけての特攻か。悪いが――――】
空間が傷痕のようにパックリと裂け目を見せた。ゆっくりと頭身を現した巨大な砲口。すげえ。実物初めて見たぜ。試製41センチ三連装砲。
海の傷痕:当局【ルール外の兵器ならば、こちらも相応のモノで沈めてやろう。生き損ないめが】
丁准将「最高だ。この時代でこの大和の国を守る戦いで死ねるとは! あなた達先人が後世に退屈な平和を望んだ挙げ句、我輩のような身勝手な自殺志願者から取り上げた死に方の幸福である!」
丁准将「最期に年寄りの冷や水でも浴びてゆけ!」
丁准将「フハハ――――」
突っ込んでくる。
伊19「甲大将のところはここまでなのね!」
江風「お前、伊19か!? 離せ、まだ江風は戦えるからさア!」
伊19「甲大将のところは艤装なくても倒しに行くから、この手は離せないのね……あの人が時間を稼いでいるうちに、離脱」
伊58「木曾もナイスガッツ。こういう絶望下の甲大将の艦隊の働きはさすがでちね。ゴーヤが後方の拠点軍艦まで引っ張るから力を抜くでちー」
くそ。こいつ、サプライズで俺の力が抜ける瞬間を見計らったな。まだ俺は戦えるのに。噛みつけるし、頭突きも出来るし、蹴りだって。
電とかいう大馬鹿が命令違反してくたばりやがった今、全員生還の呪いは解けたのに。
死ぬまで戦ってまでも勝たなきゃ、
こっちが殺されるんだろーによ。
【6ワ●:雪風、阿武隈さん達とともに奇跡を起こして参ります!】
1
伊勢「丙さん、担当海域は大方終わったかな」
丙少将「声で分かる。記憶の報告は聞いてる。大丈夫か」
伊勢「それは大丈夫です」
丙少将「全員生還を成し遂げられなかった俺に失望したか?」
伊勢「……」
丙少将「『とりあえず最後まで付き合ってくれ』」
丙少将「『まだなにも終わってねえ』」
伊勢「闇の提督はここから海の傷痕を倒す策を用意しているのですか?」
丙少将「……そう信じて俺は指揮を執ってる」
丙少将「今は時間を稼ぐこと。隙あらば奇跡なんぞに頼らなくとも、海の傷痕を倒すのがベストだが、現実的に難しいから」
丙少将「1秒でも多く時間を稼ぐのが最高の支援だ。きっと、きっと――――」
丙少将(あの場で中枢棲姫とリコリスがなにか仕込んだはずだ。違和感はあんだよ。大和が死んだと思っていたあの作戦は、ただ1つだけいえる。無駄死にではない。あいつはそういう指揮を執るやつだ)
丙少将(この戦い、状況的に死んだ全員が――――)
“無駄死に、だ”
丙少将(……いや、勝たねえと全員結果的に無駄死に、だな。今はただ時間を稼ぐ。この先に海の傷痕が綻ぶナニカがある)
丙少将(……阿武隈と卯月)
丙少将(待てよ。大和が生きていたのなら、海の傷痕を倒したあのキスカの艦隊も、幽閉されていれば、支援としてくる。あいつら、海の傷痕を四人で撤退に追い込んだ素質持ちだろ)
丙少将(今はただ時間を稼ぐ以外にあるかよ。この先に海の傷痕が綻ぶナニカがある、はずだって)
丙少将(闇の中をただ『進撃』するしかねえ)
丙少将(……怖えな)
丙少将(……人間浄化して1から世界創世しようってか。この時代に神話の世界でも産み落とす気かよ)
丙少将(人間はほぼ死ぬな。洒落に、ならねえ)
丙少将「っ」
丙少将(畜生が、とことん追い込みかけてきやがる)
丙少将「雪風、聞こえるか?」
雪風「はい! なんでしょうか!」
丙少将「あのキスカでの記憶はあるよな。お前、あの日の奇跡、阿武隈と一緒ならまた起こせるか?」
雪風「いいえ!」
雪風「奇跡なんかじゃありません! 運命です! だってあの救出作戦はみんなすごくガンバってました!」
雪風「幸運は、才能ではありませんから!」
雪風「努力が与える1つの力だと雪風はそう信じています! 奇跡は、与えられるものではなく、つかみとるものです! みんなすごくガンバっている今日の私達こそが奇跡そのものだと雪風は思います!」
雪風「雪風は特攻は苦手ではありません!」
雪風「そして皆と帰ってきます! 雪風はそんな指揮を執ってくれる丙少将が大好きです!」
雪風「絶対に雪風達は、沈みません!」
3
元帥「そんなもん創るとか、笑うしかねえわ……」
青葉「青葉、絶対に殺される側なんですけど(震声」
青葉「確かにみんな深海棲艦になったら世の中もっとシンプルになりそうですが、純粋って。古鷹とか雪風さんとかブッキーとかのほのぼの癒し系アニメに出そうなキャラのみの世界なんて――――」
青葉「退屈すぎてアクビが出ますよ!!」
青葉「元帥、青葉に決死の命令を!」
大淀「……最後ですよ。本音は」
青葉「勝って生き残らなきゃ真実はなにも残らないでしょう?」
大淀「……空の裂け目、世界中に出現したそうです」
元帥「わし深海棲艦になったら絶対に今の内陸の要人達にぶっ放す自信あるわ。洒落にならんなあ。ロスト空間から人間の管理権限を手に入れようってか」
元帥「青葉、艤装の補充が終わったとよ。抜錨したら、そうだな、大淀旗艦だ。んでわしの艦隊全員に伝えてくれ」
元帥「『艦載機を墜とす、海の傷痕以外の深海棲艦を優先的に相手にしろ。全員生還のやり方だ』」
大淀「……」
元帥「なあ、大淀。きっとお前はわしより知ってるはずだ。この戦い、海の傷痕に対してのことは最後まで准将に託した。お前は」
元帥「もう終わり、だと思うか」
大淀「いいえ、あの人は」
大淀「どんな命令でも絶対に完遂してくれる人ですから。この大淀、そこだけは誰よりも信じております」
元帥「まあ、最後まであがいてみようじゃないか。仲良く帰投か心中か。どうせなら前者を信じて進んだほうが夢はあるよな」
大淀「了解しました」
青葉「青葉も了解でっす!」
4
瑞鶴「翔鶴姉、聞こえる? 特攻だって! 死ねだってさ!」
瑞鶴「翔鶴姉、大好きだよ――――!」
瑞鶴「今いっておけることはね!」
翔鶴「でも、言葉にしてもらえると、嬉しいです。ふふ、私も好きですよ。でも瑞鶴」
瑞鶴「分かってる! 海の傷痕を倒したい気持ちに嘘偽りはないってことも実感できるわ!」
卯月「いちゃいちゃしてんじゃねーぴょん! ぶっ殺すぞー!」
瑞鶴「おちび2号、今くらい素直に気持ちいえる場面ないじゃん?」
瑞鶴(……おちびのこと、どれくらい影響受けてるか心配だったけど、うちの鎮守府は大丈夫そうね。6駆のところには鹿島さんもいるし、なんとか戦意は繋ぎ止めてくれるでしょ)
瑞鶴(……正直、勝てると思えるモノがなにもないのよね。気持ちだけで誤魔化してどこまで現実と戦えるのか……奇跡でも起きりゃ楽なんだけども)
4
明石「これ勝ったらさ、モテるかな」
ドガッ
秋月「アッシーの馬鹿! そんなこといってる場合ですか!」
秋雲「その通りだねえ。でも秋雲でいいなら、付き合うよー」
秋月「!?」
明石「え、俺、先輩からの好感度高かった?」
秋雲「今ので嬉しそうだとなんかこっちも嬉しくなるねえ。そんで今の明石君いい顔してるからスケッチしたい」
明石「本音でからかいに来る。先輩はいつも通りっすね……」
山風(……軽口のはずなのに)
山風(みんなつらそう、だ)
明石「……ん」
山風「……バーナーでなに、燃やしたの?」
明石「作戦の紙だよ。すげえ無茶ぶりが書いてあったわ。俺、これから役割が出来たから海の傷痕のところに行くな」
【7ワ●:Fanfare.卯月】
流し込まれたのは、きっと仕官妖精の記憶の一部、最初期の中枢棲姫もいた。提督が言葉にした中枢棲姫からの『最初期の歴史は歪められている』と。それが真実だと対深海棲艦海軍の、この場にいる兵士は想ったはずだ。
国定教科書は嘘をついていた。
最初期の深海棲艦は拠点軍艦が前線に乗り出して、大戦を生き抜いた軍人がその習性をもとに深海棲艦と戦い、やっとのこと鹵獲した深海棲艦を利用して、始まりの艤装の適性者とともに研究が進められた、とあったはずだ。
あの景色は違った。艤装を身に付けた幼き子供を特攻させて、深海棲艦の戦い方、習性、作戦を考案しようと試みていた。始まりの艤装の電は強制連行され、脅しをかけられ、ただ的のようになぶり殺されていた。そんなこと、教科書には、書いてない。
始まりの艤装の適性者は、勇敢に戦い、散っていき、次世代へと大きな希望を繋げた英雄のように教科書には記してあった。その実、親ごとブン殴って、戦い方も知らないガキを死ぬだけと分かっていて、戦火に放り投げられて――――。
あれのどこが勇敢だ。ただ無様に散っていったようにしか見えない。あれこそ、人権無視の極地、動物扱い。ただ死ね、と国から強制されただけ。
改変する大人の都合は察せる歳だ。万に1つもない負け戦で的となった兵士を、そういう風に捉えたやつはどこの愚かな賢者なのだろう。
建前、物はいいよう、歴史の歪曲、死人に口なし。
頭では分かっている――――
あのミサイルの雨で、この世界が深海棲艦だらけになったほうが、良さそうな気すらしてきた。嘘つきは万死に値する、その海の傷痕の言葉、うーちゃんにはその親切、痛み入るとすらいえる。
大義名分までにも霧をかけていく。惑わされるな、と心で叫ぶ。アブーが判断した。進撃だと。元帥が命を下した。特攻せよ、と。
例え、こっちが悪で海の傷痕が正義だとしても、あいつの仕出かしてきた歴史は、決して許されるものではなく、刺し違えてでも止めなければならない。
最初期。
国が滅ぶかどうかの時に手段なんて、問うてはいられないのだろう。いくつもの血を浴びてきたこの艤装。非業の死の再来が正しく今この時だ。
しょせん、兵士だ――――
沈没していく拠点軍艦が、確かに見える。死の気配が立ち込める。霧の中から確かに震動する砲雷撃と雄叫びの躍動。生死のやり取りの中に再び。
胸からぶら下げた特注の電探が、艦載機を探知する。中枢棲姫勢力を沈めた圧倒的な発艦数による空襲力、勝ち負けではなく、やらなければならない。
理不尽、不条理。あの最初期の兵士のように。
こんなもんだ、とうーちゃんは知ってる。この海がとうに教えた。世界は欺瞞に満ちている。
それでも、この日を待っていた。
きっと、誰よりも待っていた。
霧の中を航行する。アブーのくだした進撃の判断はなにも間違っていない。例の北方棲姫はアブーに譲ってやった。あの時、うーちゃんもすぐに抜錨して沈めに向かいたかったけどさせてもらえなかった。
最後のこの戦いで、海の傷痕に。
右手左手の装備した砲の弾薬を無駄にせず、艦載機を撃ち墜とし、迫り来る魚雷は、この魔改造によるブーストで前に跳ねて飛び越える。
大和と木曾が、悪魔の装備、経過程想砲を潰した。
ここだ。ここしかない。
またいつ再生するか分かったものではない。経過程想砲が復活すれば、この場にいる全員が艤装を破壊される。戦う力を失っては、潰走を免れない。
次に優先して潰すべきは、妖精工作施設。
2
榛名「あ、卯月さん!」
瑞鳳「ここから先に――――」
卯月「当てられる距離まで近づいて撃つし。お前ら戦艦空母はうーちゃんと違って射程が長いんだから、後ろからバカスカ撃ってりゃいいぴょん!」
瑞鳳「ちょうど通信を入れようとしたところなんだよね。偵察機が帰ってきてくれて、この先にいた――――」
金剛「瑞鳳、連れて帰ってきたヨー!」
榛名「金剛お姉様、中破して――――」
金剛「当然ネ。こっちの空母、フルですケド、制空権の確保は出来ないみたいネー。装甲の薄い駆逐艦の子達を回収して護衛して、と忙しいデース」
金剛「ほら、私は前に出るからさっさと離れて欲しいデース!」
瑞鳳「よかった。海の傷痕の奇妙な罠かとも考えたけど、キスカの艦隊も大和さんと同じく無事だったんだね」
菊月「助けてくれた妖精さんが『構わないでさっさと向こうに行け』と、私達を追い出した……」
長月「菊月が『礼はいわぬ……』とかっていうからだろ」
弥生「私もむすっとした顔してたかも……」
卯月「――――」
卯月「お、お前ら――――」
菊月「……お前、誰だ?」
弥生「もしかして、卯月?」
長月「え"」
卯月「卯月だぴょん! お前ら5年近くも、帰投せずロスト空間で油売ってたこと、絶対に許さないし!」
長月「ご、5年? そんなに、経ってるのか……?」
菊月「卯月お前……1時期、解体したのか?」
卯月「うーちゃん、とアブーは……その間」
卯月「お前ら帰ったら、5年分甘えてやるから覚悟しろぴょん!」
菊月「ずいぶんとデカくなったな……」
卯月「お前らと違ってもう子供産めるぴょん。お前らがいない間に、うーちゃん一児の親だし」
菊月・長月・弥生「!?」
卯月「なーんて!」
卯月「うっそ! ぴょ――――ん!」
菊月・長月「おい」
弥生「成長したのは身体だけ……?」
卯月「そんな目をする弥生を抱き締める!」
弥生「ぐ、やめ、苦し……」
榛名「皆さん、まだ一人いたはずですよね?」
長月「由良さんは、どこか行ったぞ。探知した阿武隈のところかな。それより、状況がさっぱりなんだ。戦っているのは分かるが」
瑞鳳「決死の特攻という笑えない状況だよー。海の傷痕という敵のことは?」
弥生「……知ってる。此方のほうと、しゃべったことある」
菊月「あいつを倒せばいいのか?」
金剛「卯月、教えてあげて欲しいデース。情報を整理してから隊列を組んで戦闘に参加しなきゃ、戦いにすらならなそうネ」
金剛「榛名、瑞鳳は私と一緒に海の傷痕を――――」
3
卯月「ということだぴょん」
菊月・長月・弥生「ポカ~(o'д'o)~ン」
卯月「まあ、いきなりラストバトルとか神様とかあの鎮守府潰れたとか特攻とかいわれてそんな顔になる気持ちは分かるけど、兵士の心はまだあるかー」
菊月・長月・弥生「もちろん」
卯月「行くぞー! 歴代最強、今では奇跡の艦隊ともっぱらの睦月型の本当のチカラを!」
菊月「しかし、キスカのあの戦いがそこまでこの海の歴史に影響したとはな……」
長月「奇跡の艦隊というか、あれは……」
弥生「海の傷痕で、いい、んだよね。あれを相手にした由良さんが、すごかった」
卯月「とにかく由良さんとアブーを助けに行く! お守りしてやるから、うーちゃんについてくるといいぴょん!」
卯月「あの日の――――!」
卯月「借りを必ず返してやるし!」
乙中将「ごめん、乙中将だけどさ、卯月ちゃん!」
卯月「んー? なんか用かぴょん」
乙中将「すぐに対潜装備に切り換えてもらいたいんだよ。この状況、どう考えても再生待ちのために、海の傷痕は『デコイ戦法』を取る可能性が高いからさ、対潜用の駆逐艦が必要だと思う」
卯月「……確かに。褒めてやるぴょん。安心するといい。うーちゃん、出来ることはなにやらせても一流だぴょん」
長月「お前、乙中将になんて口の利き方しているんだ(震声」
卯月「気にするなし」
弥生(今、卯月のいる鎮守府ってどうなってるんだろう……)
白露「イッチバーン!」
明石さん「ちょっと白露ちゃん、護衛艦が私を置いていくとか止めてください……」
明石さん「おろ、睦月型の皆さん、長期休暇とか羨ましい限りですね。若い子はこれからもがんばって働いてくださいね♪」
菊月「……目が笑ってないぞ」
白露「対潜装備、持ってきたから明石さんに装備を変えてもらってね!」
卯月「了解びしっ!」
【8ワ●:想題&Fanfare.阿武隈】
あたしの指揮で4人の尊き命を奪ってしまったあの日から、兵士として完全に折れてしまった。この海の戦争は通常の戦争とは違うことは、敵を見たのなら一目瞭然だ。
あたしは平和な国の子供だから、平和な街では皆から慈しみを受けた。 中には仕方ないよ、と慰めてくれた人もいた。
目の前にある自由な雲が小さくなったり大きくなったりしている。あのキスカから帰投した時以来、遠近感が狂い始めている。医者からは精神の病気らしく、その病名は童話のなんかだっけな。
食べ物も喉を通らず日に日に痩せ細る日々に、一人の記者がやってきた。キスカの件を記事にしたいというジャーナリストの人だ。「このようなことはあってはならない。今の軍の体勢を改変を促すためにあなたの体験は世に広く知られるべきです」と。
キスカの事件は悲劇として扱われ、問題提起として流れたのは少年兵の実態、後程そのジャーナリストの会社が、とある政治家と繋がっているという噂を耳にした。確かに、その年に当選した政治家の掲げる政治思想の援護射撃となっていることに気付いた。キスカの事件が利用されたことを知った。
ああ、辛い。
目に映る人々全てが、人間に擬態した深海棲艦にすら見えてきた。
キスカのことが記事とされた時から、あたしのネットのアカウントが特定されると、匿名の人々が群がってきた。
“その命はその人達にもらったものだよ。大事にするべきだ”
そんな文章があった。それは、あなたも同じだよ。その命、誰にもらったの。あたしのせいで死んだ命も、誰かにもらった大事にするべき命でしょう。そう思ったけど、誰にも言葉は返さなかった。黙りを決め込んだ。
卯月ちゃんのほうにも飛び火した。あの子は気が強いから、強い言葉で蹴散らして、アカウントは大炎上してた。その火の粉からあたしのほうにも飛び火して、文字列は更新されていく。
“こうなった責任はあなたにもある”
勝手に言葉が増えていく。
なんなのこれ。スマホを投げ捨てた。
あたしすら分からないことを、なぜかあたしより知った風に語り出す奇妙な連中が絶えなかった。
現実を見つめる。
経済新聞、社会情勢、子供の頃からよく分からなかった世界に一足を踏み込み、籠の外の世界を見下ろすと、あたしには頭で理解できても心で受け入れられない現実が腐るほど転がっていた。
ああ、辛い。
純粋なままでありたい。大人になんかなりたくない。そんな想により、アリスシンドロームに加えてピーターパンシンドローム気味だ。
ここを乗り切れるか、扉を閉めてしまうか。ここに由良さんがいたら、なんていうだろうか。籍を置いていたのが長良型では二人だけということもあって、仲が良かったな。
全員生還の指揮、間違えたかな。
ずっと正しいと思ってた。あの北方棲姫から逃れて安心した自分が反論する。
『あれは間違っている』
全員生還を願った自分が反論する。
『あれ以外に策なんてなかった』
こちらの声は力がなく、許して、といわんばかりに弱々しかった。
あの時、あたしがもっと強ければ――――
“今”なら、分かるよ。
電さんの気持ち。
あたしもあの時に声をかけれていたら、その甘言にひっかかっていたかもしれない。
生きていると、辛いことのほうが多いという。幸せなことは少ないという。みんな被虐主義者かなにかか。人類、病気じゃないのか。「じゃあ、死ねば」と自問したら、なぜか「無理そう」との自答が返ってきた。人の強さを感じる。
よく分からないけど、みんなそんなよく分からない感じで生きてるのかな。
支援施設から高校にも入ったけれど、すでに不登校気味だ。
卯月ちゃんは、こんなあたしをよく外に連れ出してくれる。街の海に抜錨して、2人で遊び呆けた。あたしは廃人、そして不良だった。
金銭だけは持ってた。現役の頃は素質が高く、数値的には大戦艦大和の次点、2番の名に恥じることのない戦果をあげてきた。出撃、遠征、演習、どこでも活躍して結果を出せていた。
遊び呆ける不良な日々を続けていれば、自然と悪い友達も出来るものだった。とある大学生のグループとゲームを通じてよく言葉を交わすようになった。最初はナンパされただけだけど。
いつの日か卯月ちゃんが暴走して、その店に出禁喰らって警察のお世話にまでなったっけ。
卯月ちゃんの親は特異すぎる。真昼間から遊び歩く娘を、責めもしない。あれだ。飼い犬の首輪を離して、街で好き勝手して戻ってきたら、犯してきた責任だけを取るみたいな感じだな、とあの頃は思ってた。
1度だけ、会ったことがある。あのキスカの時の言葉はなかった。素行を責める様子もなく、ただの世間話をしているからこっちも元気が出る。親子、仲が良かった。
その日のご飯は日だまりにいたあの頃、間宮さんのお料理のように優しい味がした。
卯月ちゃんのお母さんを素敵だな、と思った。まあ、甲大将の性格に似ているところもある。 この親にしてこの子あり、だ。でもさすがに日常茶飯事の嘘は怒ったほうがいいですよ、と。
「放任主義だからー。悪い嘘いって思い知るといいのよ。嘘は大事だからねえ。勝手に自爆して、傷ついて、へこんで、立ち直れなさそうならそこで始めて親として仕事するわ」
「つか娘よ、そろそろ気付けー。他に友達いないの嘘が原因だと思うぞー?」
「……ぷっぷくぷ」
なんだか自由だ。普通の家庭だったら、今の素行不良を怒るはずなのにね。その変な自由が、あたしの価値観を変えていった。正しいことは自分で決めればいい。そう思うと、少しだけ肩の荷が降りた気がする。
学校にも行った。周りとは違うから、色々と苦労はしたし、友達もあまり出来なかったけれど、高校3年生にして免許取ったり。
溜め込んでいたお金を浪費するのもよかった。阿武隈から解放されていく気がする。でも色々と抱え込んでいた心が蒸留されるような日々は、やがてその真を露にした。目を背けたモノが。
ああ、みんなも生きていれば、
もっと楽しい日々があったはずなのに。
あの記憶はまるで影のようにひっついて回る。光に当たるほどに、影は強調され、あたしの後ろ髪を引いて回る。
「ねー、アブー、うーちゃんに対深海棲艦海軍からスカウトが来たぴょん」
2
あたしまでも誘われた。調べてみたところ色々と難のある提督だったし、全員生還の指揮が苦手なのであなたが旗艦としてフォローしてくれ、と頼まれた。止めてくれ、と嫌気が差した。
その言葉は呪いだった。
でも、なぜか、なぜだか、その薄ぺらい生気と病弱そうな見た目とは逆に、あの人の言葉には強さを感じられた。
あの時、思ったんだ。
――――今のあなたに必要なのは、雨の中を駆け抜けていくがむしゃらな意思だと思います。
確かに、そうなのかもね。衝撃的ではあった。それが正解だと予感させるナニカがこの人の言葉にはあった。そして、この人はその言葉を自分にいい聞かせているような感じもした。
――――自分も考えますよ。
――――分かりました。
――――その雨雲、海から出来ているのでは?
少しだけ提督が目をそらしたのを、覚えている。
笑ってしまった。そりゃそうでしょ。あたしの過去を知っているのなら、そう思うのが普通だろう。取っておきの口説き文句をいうように、かっこつけながら、いざ台詞をいう時に目をそらした。失礼かもしれないけど、ちょっとだけ可愛さを感じた。
卯月ちゃんは、嬉しそうにしてた。あたしの元気が出たーとかいって。あの提督に関しては少し思うところがあるような風だったけれど、その思うところは間違ってはなかった。あの人、無茶苦茶だもん。
けれど、この人についていって、段々とあたしが修理されていくのも事実だ。この鎮守府の人は一部、主に電さんがおっかないけれど、みんな面白いし、楽しくて、それでもみんなあたしのように影を引きずっていて、理解し合える仲間になり得た。
何回も死線を用意されたけど、あの提督はいつだって、こちらが期待していた以上のモノを与えてくれる。
中枢棲姫勢力との決戦の時は、暴走してしまったなあ。でも最後まで付き合ってくれて、キスカでのことも、フォローしてくれた。
その命は勲章です、と。
あのネットの言葉と一緒だな。
“その命はその人達にもらったものだよ。大事にするべきだ”
この時、この命を大事にする方法を思い付いた。こんな悲しい戦いを終わらせる、そして、生き残ること。あたしの欠陥が直って、あの日の続きのスタートラインに立つことができた。
思い出す――――
――――あなたをスカウトした理由ですが
――――いずれこの鎮守府(闇)の第1艦隊旗艦を任せたいと思ったからです。
――――龍驤さんのほうが優秀だと思います。全員生還の指揮も出来ますが。
――――そうですね。だから龍驤さんを旗艦にして自分も勉強させていただいております。
――――ですが、彼女とあなたには違いがあります。
――――海から逃げたか否か。ずっと海から背を向けなかったか否か。
――――どう考えても強いのは龍驤さんです。
――――いえ、自分はそうは思いません。どちらかが優れている、とかそういう話ではないので。
――――どちらが旗艦として上に行けるか。そこです。その点だけは今の阿武隈さんが龍驤さんに勝っているところです。
――――1言でいうと、期待です。
あの日の期待に応えた指揮を執れただろうか。あの時、電さんの死に、あたしの心が折れかけた。でも、あたしは提督の言葉を自然と探していた。あの人の言葉は強いから、あたしの中では、もう燃料とか弾薬の類に変質すらしそうなほどだ。
応答はなかったけど、『すでに言葉をもらっている』ことに気が付いた。
――――異常事態発生です。瑞鳳さんの偵察機が、新たな深海棲艦の艦隊を発見しました。その数
――――更に40体です。
――――了解。他の艦隊からも。また100体ですね。
――――最初期の深海棲艦なので、そちらの設備のある鎮守府(闇)を容赦なく攻め落としてきます。
――――最終防衛ラインさえ突破されなければ、包囲網はある程度は崩して構いません。最終防衛ラインには6駆がいるので、ご安心を。阿武隈さん、
“あなたが越えるべき波は残り2つ程度”
“その1つがここです”
なら、後1つはどこ?
どこにある?
仲間の殉職時に直感した。
ここ、だ――――!
仲間の殉職のダメージはあたしもよく知っている。それはどれだけ鍛えても、当然のように慣れる兵士はこの海ではいない。立ち直りが早いか遅いか、それだけだ。
あそこまで殉職者はいなかった。それどころか、大和という存在すら復活した。だからこその反動もあるだろう。士気に影響するのはさすがに読める。
強く叫んだ。
旗艦として、折れる訳には行かない。
そしてあたしの執るべきは、提督から期待されている全員生還。それで、いいんだ。いいはずなんだ。今までの日々が確信めいた答えをくれる。
全員生還を叫び散らしながら勝ち目があるかも分からない戦いに、特攻。
矛盾した行動には違いない。けれど、これもキスカの時と同じだ。海の傷痕を、敵をどうにかしなければ、全員生きて帰投など出来ない状況だ。だから、役割を果たさなければ。死ぬかもしれない。でも、それでも、死ぬとか生きるとか、じゃなくて、この鎮守府では役割を果たすことを全員生還とした。あの言葉にもきっと意味がある。
各々が役割を果たせば必ず――――
暁の水平線に勝利を刻める。
あの人が示した羅針盤の先は、置いてきた宝物を取り戻していくかのような航路だ。
まだ、ある。
大和が、生きていた。その事実、そして大本営での海の傷痕とのやり取りは知らされている。そしてフレデリカ大佐と中枢棲姫、提督の『キスカでの最低限の応戦』、その情報から分析すれば、この海には宝箱がまだ用意されている。最高の宝物が。
――――右舷♪
――――左舷♪
――――両舷♪
ちゃっかりCDとか出してた姉妹艦。相変わらずその綺麗な歌声はよく透き通っている。
――――待たせてごめん。
ホントだよ。
――――あの日の阿武隈の全員生還、
――――まだ続いているよね?
――――まだ間に合うよね?
――――ねっ?
「もちろん! まだ続いています!」
この邂逅は必然だ。
この邂逅が、これから奇跡を起こすんだ。
【9ワ●:Fanfare.アッシー&アッキー】
兄さんだって人間だ。どうしようもねえ時もあるさ。あの人には俺なりの感謝と尊敬を払ってきたつもりだ。だからこそ、行き着いた思いがある。
支えたいとか助けたいとかじゃなくて、
“同じ男として認められてえ”
尊敬する人だからこそ、
本気でそう思う。
最もあの人なら、こういうだろう。すでに認めている、と。でも、違う。そういうことじゃねえんだ。俺は親父とは仲が悪かったし、男としてはあんまり尊敬してねえ。
あの時、差し伸べられた手をつかんで引き上げてもらって、軍に入ったけれど。
鎮守府(闇)の噂は、いつも海を越えて届いていた。その背中は日に日にでかくなるだけだった。俺自体、あの人に救われていた身だから、これがみんながいう越えられない父親の背中みたいなもんなのかな、と空想した。さすがに親父とは呼ばねえが。
思い出した。堪えた日々の中での妄想だ。
もしも、世界が滅亡に瀕して。
俺が世界を救えるただ一人の勇者として選ばれたのなら、絶対に気合い入れて、死だって恐れずに、がんばれる。
そんな憧れの場所にいるから、今がんばれなきゃ俺は死んでるも同然だ。
身体は動いていた。電の死の一報の後に、阿武隈の号令がかかるよりも速く、この身体は海の傷痕のほうへと進んでいた。テレパシーのように、感じた。
ここが最高の支援の場面ですよ。
この海には不思議なことがある。兵士のくせに『人が一人死んだだけで異様にダメージを受ける』ことだ。戦争の渦中にいるのに。街ではばったばった人は死んでるけど、殺人事件のニュースでも、明日には忘れてた俺のような人間だっている。
ここの皆が一人死ぬだけでダメになっちまうのは戦争しているからこそ、なのか。それとも、やはり皆が若いから、だろうか。また男と女の違いなのか。もともとばったばったと人が死ぬような戦争じゃないからか。それとも姉妹艦効果とかそういう要素の作用が強いのだろうか。
海の傷痕:此方「……明石君」
明石「お、あの時みたいに気持ち悪く叫ばねえのか。冷静だな」
海の傷痕:此方「まあ、決戦が始まればね?」
まあ、確かにあいつ俺に似てたな。ご先祖様というのはどうやら本当らしい。でも、なんだよ。俺の家系、すげえ愚かじゃねえか。吐き気がするほど、実に不甲斐ない最期だった。
「俺はRank:SSSだっけか」
海の傷痕:当局【あくまで当局の殺したいランキングである。本当に殺すかどうかは別の話だ。まあ、E-7が終われば、まず丙少将のいる軍艦でも沈めてやろうとは思っているぞ?】
どうやら、想を探知できねえのは本当っぽいな。読み取る機能は、ロスト空間を掌握してねえと出来ない芸当らしい。
だって、読み取れているのならばあんな余裕な顔をしていられるはずがないから。俺と明石の姉さんに渡された作戦書は、 これまでの動きのことは書いてあった。電話帳のようなサイズで身内の誰よりも分厚かった。
そのほとんどは『タイプトランス』の資料だった。おまけにフレデリカとかいうやつが現れてから土壇場で更に厚くなる。死にそうだった。
“タイプトランスの『建造』を研究せよ”
そして――――
“海の傷痕:此方が現海界した以降、『最高の支援』だと思うタイミングで続きを読んでください”
透明な箱は二重底になっていた。
すげえ気になっていたけど、先は読めなかった。今回の作戦は皆がそうだ。各々の役割を喋らない。海の傷痕へと漏洩することは、致命打になるからだ。みんな、絶対に兄さんの指示を守っている。
俺や鹿島さんがヘマをしたあの密会の時、中枢棲姫勢力との握手が甲大将丙少将のどちらかの陣営に漏れていれば、あの演習ではなにかしらの対策が取られていたはずだ。隠せ、ということは隠したほうがいい。もう、学んだ。
提督は俺達を信用している。
あの人は俺達のことをちゃんと見ている。
“あなたの『得意』をもってして『海の傷痕タイプトランス』を『解体撃滅』せよ”
俺の得意なこと。
明石の姉さんから唯一、私より腕が遥かに上だと褒められた分野――――素早い海上修理機能を現実的に可能にした『艤装の解体速度』だ。
“タイプトランスの建造を研究せよ”
演習場で電やわるさめを観察し、資料を読み漁り、建造方法を。可視の才を与えられた深海妖精とも意思疏通して、前に初霜用に送りつけられていたあまりの艤装を使って(闇)のアトリエで創作していた。
1つだけ分かったのは、電やわるさめについている『拳銃砲』といった改造武器を艤装に装備させる過程だ。本来、あり得ないはずの装備。タイプトランスの深海棲艦艤装の装備も本来、あり得ないこと。
飛行機は空だって飛べる。船は浮かぶ。なにも知らなければ、あり得ないと思うんだ。
この無知の発想を基点に煮詰めたら、全てが『あり得ないことではないこと』に気付いた。
そしてさっき読んだ――――
“あなたの『得意』をもってして『海の傷痕タイプトランス』を『解体撃滅』せよ”
意味が分かった。頭の出来の悪い俺だし、兄さんを盲信している節もある。本当にそれだけを愚直に研究していたが――――妖精の2面性。
建造妖精の意思疏通による解体作業。その逆も然り。この海を追い詰めたその2面性。
『建造:組み立てる』ことが出来たのならば、『解体:バラす』技術にも繋がる。
やる。やってやる。
タイプトランスという『異常』を、この男の艦の兵士という『異常』がバラして、この海を呪いから解放する。
兄さんはここまで予想はしていたが、保険のようなものなのだろう。さすがにこのむちゃくちゃな海の全てを予想していたとは思えない。
だから、支援が輝く。
どうすればいいか分からなくなった時、前が見えなくなった時、あの人の『見当』が次まで橋をかけている。あの人の、提督としての指揮を――――
信じて進むだけだ。
世界滅亡の危機を救う勇者。
今が、その時。
ここで男見せなきゃ嘘だろうが!
2
海の傷痕:当局【なるほど、始まりの提督のあの妖精といい、貴方達の一族は当局の神経を逆撫でするのが実に上手いな。生理的に無理、というべきか】
海の傷痕:当局【馬鹿なのか貴方は】
海の傷痕:当局【5種、深海妖精の『深海棲艦建造』と『5種までの解体』を可能にしても、仕官妖精一人でどうとでもなるそのような手を通じるようにしてあるとでも?】
改造アンカー弾の航行術で器用に近付くも、史実砲からの通常砲撃の精度を取っても、アッキーや卯月さん並みとは恐れ入る。
海の傷痕:当局【戦争神の解体などとよくも】
海の傷痕:当局【読めないとでも、思っているのか。貴方の特性、距離を縮めているその意味、たかが工作艦風情が――――!】
「壊:バグの解体工程は2度も見た。破壊された艤装はロストで治ってく。でも、解体された艤装は、トランス現象とは分離したただの通常の艤装に成り下がる。つまり、完全に失うんだ」
海の傷痕:当局【やってみるがいい……】
「完遂して明石の姉さんから」
「免許皆伝をもらうぜ」
煽りを受けても、思考を見抜かれても、精神はクールだ。あの煽り焦燥感のように見える。そうだ、解体できる。海の傷痕は現にやってみせた。
“殲滅:メンテナンス”
あの工程、まずは強制オールトランスをさせていた。全てのパーツをトランスさせる。現物がねえと、バラしようがないからな。
未知の魔法の至るところに『工作の理』がある。
現場には援護射撃もある。海の傷痕はしょせん四面楚歌だ。
支援砲撃、いくつもの砲撃が、海の傷痕めがけて撃たれている。この鉄の雨の中、隣には――――
「大丈夫、被弾なんかさせません!」
頼りになる相棒がいるから心配要らねえや。
肉体と一体化していようが、現代にも『肉体に機械を埋め込む建造と、それを取り除く解体』の技術は確立している。出来ないはずがなく、この患者の命に気づかう必要はなく、殺してもいい分、選択に余裕は出来る。
5種――――深海妖精の『深海棲艦建造』と『5種までの解体』を可能にする。要は深海妖精との意思疏通を可能にすれば。
加えて、海の傷痕はこちらの狙いを看破しながらも、艤装をロストさせない。当たり前だ。どれか1つでもロストさせてみろ。たかがトランスタイプ、それらを相手にしてきた連中によって一気に大破まで持ち込まれる恐れのある悪手ではある。
追い風が、吹いている。
海の傷痕:此方「……」
海の傷痕:此方(Trance:Srot4)
パチャン
あ、潜りやがった。
【10ワ●:想題&Fanfare.伊58】
海中で寝転がる。とうの昔に大地の上でやってた寝転がり方はもう海中のほうがしっくり来る。
大した娯楽も金もなく、野を駆け、海を泳いだ軍に嫁ぐ前の退屈な日々。10名未満の生徒数の学校、歳はバラバラ、男ばかりだったこともあって、それなりにたくましい遊びをして育ち、よく女の子らしくしなさい、といわれたっけ。遊びに乏しく、春夏秋冬も幾つか繰り返すと、退屈になった。
そんなある日に、
伊58――――潜水艦。
遠足の自由時間を利用して、最寄りの軍施設に行った時に出た適性だ。これは刺激でしかなかった。施設の男の勧誘文句、潜水艦語りはもう刺激でしかなかった。素潜り時間は5分が限界だったが、そんなものは目ではなく、遥かに長い時間、潜っていられる。魚になれるようなそのお話は魅力的だった。
中学の半ば。
横須賀にて建造を施され、軍学校へと。
支給されたのはスク水。これもう軍が分かんない。戦争と聞いたが、このスク水は水泳以外の機能美に優れているのだろうか。
他の潜水艦達も最初は抵抗あるらしく、服をそこらのセーラーに変えたりするらしいが、ゴーヤは夏はこれで過ごしていたほうが多いからむしろ自然体。陸地では上からセーラー着るように言われたけど。
そして同年代の女の子の羞恥もよく分かんない。男所帯で育ったゴーヤは、都会育ちの子らを見ていると「女の子らしくしなさい」といわれてきたその女の子らしくの意味が分かったけど、あほらし。
問題は女の子らしさとかそういうことではなく、メソメソしたやつらより、ゴーヤのほうが圧倒的に弱かったという現実だ。魚雷の命中率は1割を切る。
おかしい。
周りよりも根性はある。潜水は上手い。やる気もあった。潜るのも好きだった。半日を潜っていた日も珍しくなかった。
それでも結局、軍学校で最下位成績のまま鎮守府へと着任した。そんな時あるよね。そんな奴いるよね。
最初は期待されていたけれど、応えることができなかった。 努力しても報われなければ相応の扱いを受ける。それは海の世界でも同じだ。あそこの提督を責めるつもりはない。遊びじゃないから。
比較的安全と言われていた戦闘海域でのクルージングも最初は楽しかった。深海棲艦からスルーされることも多いし、攻撃してきてもへたっぴで、ゴーヤでも避けられる。
刺激的なクルージングの毎日も、万を越えた辺りから、飽きが来た。しかし、対深海棲艦海軍から同志の殉職の知らせ、色々とこの海には引けない理由が積み重なり、兵士として国を守ろうという気持ちも芽生えていたからガンバっていた。
潜水艦仲間の通商破壊作戦、ろ号作戦、深海棲艦主力艦隊へのデコイ戦法等々で戦果を獲得していく姿を、羨ましく思った。
しかし、似たようなやつはいるもので。
秋津洲、あいつは終わってた。ただそこにいるだけの自分を受け入れていたやつだ。ああいう風になれたのなら、それはそれで楽にはなるのかもしれないが、あまり仲良くはしたくなかった。
いつの日かゴーヤが活躍して、そんなところを見せてあげたいな。あいつも立ち上がろうと思うような働きは見せたい、とは思っていた。
ゴーヤは命令されたクルージングをただ繰り返す。これでいい。塵も積もれば山となる。この運ぶ資材もみんなの役に立っている。これでいい。自分に言い聞かす。
雷巡チ級によるオリョクルの大破事故、なぜか提督からの進軍指示。応答を求めるが、応答なし。少し麻痺してた。命令違反をしてまでも戻るべきだったけど、すぐそこにあった資材に欲が出たのが命取り。
損傷が祟り、潜水航行不可。海面に顔を出せばル級の打撃艦隊が。あ――――終わった。得意の根性でなんとかなる場面ではなかった。
――――なのdeath♪
引き揚げられて抱き寄せられた。この子は、電か雷か迷った。どちらかといえば電ではあったものの、雰囲気がどことなく違った。打撃艦隊に怯えることなく、スイスイと海上を進んでいく。
そういえば電については悲しい噂を聞いたな。その情報の詳細はかなり秘匿されていたから、まさか深海棲艦艤装を展開できるとは思わなかったけど。
そして、ゴーヤは。
要らないって、切り捨てられた。さすがに涙があふれた。もう解体しようかな、とも頭に過った。しかし、捨てる神あれば拾う神あり。
――――自分達と1からやり直す気はないですか?
必要としてくれるのなら、この人に尽くそう。
なにより、
この命を、助けられた恩義がある。
一生、途切れない忠義という刺激を得た。
それから身を粉にして鎮守府に尽くしてきたつもりだ。この鎮守府は王様の電、提督、艦娘というよりただの給仕メイドのような間宮の3人。
憲兵すらいない、電のための自由な王国。
合同演習、深海ウォッチング作戦、対中枢棲姫勢力戦艦棲姫、対乙中将、決戦中枢棲姫勢力、対甲丙連合艦隊、鬼ごっこ、そしてこの終わりの海。
寮で秋津洲から聞いたけど、ゴーヤの元提督は、この鎮守府を避けてるらしい。なんか、関わりたくないとかって。思えば変な鎮守府だ。死ね、と命令されても「あ、そう」としか思わない。確かにこんな連中と仲良くして共同作戦でももちかけられようものなら、ガクブルだ。軟弱な味方を余裕で砲撃するスパルタ式の電ちゃんいるし。
その電ちゃんが死んだという。
あの海域には指定された艦以外が近寄ることを禁止されていた。遠くから眺めていて分かった。発艦数の1000に届きそうな艦載機だ。仮に潜水艦が助けに入れば、あの無数の艦載機によって沈められていたのは間違いない。
あの中枢棲姫勢力が全滅するような、地獄だ。
そして、その地獄は今もだ。だけど、みんなが空に舞う艦載機の相手を決死で、墜としてくれている。やるしかない。今度はもうやるしかない。
特攻。
電ちゃんも、そうして沈んだ。
実感があまりない。死体を輸送したわるさめ、運ばれた先にいた姉妹艦や鹿島がどんな想いをしたか、想像は容易い。
けど、みんな泣きながらも役割を果たそうと動き始めるのも同じく想像に容易い。
ゴーヤにはあまり実感が湧かないよ。
海面を見上げながら、少し深度を落とした。こんな風に、沈んだのかな。
この鎮守府にいたから、彼女の想いはしかと胸にある。この海の上に顔を出せば、あの時みたいに助けてに現れてくれるような、そんな気もするんだ。
今までのゴーヤの全てが報われなくたっていいよ。電ちゃんが報われるのなら、それでいいよって、思う。シンプルな想いだけが胸にあった。
この場所にいれば――――
海の傷痕:此方「……」
伊58「海の中でのこんにちはー」
伊58「潜ると思って待ってたでち」
お前も、受けるべきだ。
この鎮守府(闇)を敵に回した――――
報いを受けるといい。
2
潜ると思っていた。群れを相手にした時のデコイ戦法の有用性はよく知っている。クルージングに置いての命綱ともいっていい。
魚雷、砲撃、それらを回避できて、加えて経過程想砲が壊されて再生待ちの身だ。上にいたのは明石君、なにか策があるのか、奇妙な動きをしていた。恐らく、海の傷痕はビビった。念のために、と海の傷痕装甲服の性能を駆使して時間を稼ぐのが、賢いだろうとゴーヤもそう思う。
「ゴーヤだよー。みんな、今からゴーヤが海の傷痕をボコって海面まで引っ張り出してやるから、銛でも構えて待ってるでち」
すでにこの場合の作戦は乙中将から伝えられている。最も早くこの鎮守府の動きを察して、噂通りの鼻を持ってして、今の状況に対する策をくれた。
確認のために魚雷を撃つが、当たらない。
当たっても無効化されるのだろう。そしてそれはこちらも同じだ。海中で動き回る潜水艦に魚雷を当てるのは本当に難しいのだ。強引にいくのならば、距離を詰めて至近距離のすれ違いの時を狙う。
もうすぐ、仲間が来る。
海の傷痕の首根っこをつかんだと同時に全速だ。それと同時に魚雷を当てられる。すぐに大破だが、この腕だけは絶対に離さない。
「……引っ張り、あそこまで」
今、根性の使いどころだ。海の傷痕を引っ張り寄せらその場から無理やり移動させる。海の傷痕は気づいたようだが、もう遅い。至近距離で魚雷なんか撃つから。
こちらの攻撃のタイミングを、見逃した。
沈んでくる。駆逐艦の総攻撃、爆雷が辺り一体にばらまかれる。容赦なくこの水中に隙間なく、爆発が巻き起こる。
潜水艦タイプで、対潜装備を無効化する深海棲艦など、いない。バランスの問題、というやつなのかは知らないが、その海の傷痕装甲服は、既存の深海棲艦にしか化けない。見たこともない新種に化けられるのなら、今していなくてはおかしい。だから、きっと――――
海の傷痕:当局【艦爆、魚雷、爆雷も効かん。爆雷は、試してはいなかった故、希望でも見たか?】
「……ほんと、チート、過ぎ、でち……」
海の傷痕:当局【少し考えれば分かるだろうに。実に特攻らしい無骨な攻めではあるな】
海の傷痕:此方「当局!」
海の傷痕:当局【っ!】
でも、本当の狙い違う――――
錨が海の傷痕に突き刺さる。ここまでが作戦だ。改造アンカー弾で、海面に引き上げる。ゴーヤも爆雷も囮に過ぎない。乙中将が読み勝った――――!
即座にアンカーの鎖で海の傷痕の身体をがんじがらめに。深海ウォッチングで電ちゃんを縛った時のように、繋ぐ。艤装なんかなくても、腕1本あれば。
爆雷で渦が起きる。
――――ここの辺りでドンピシャのはずです!
海の傷痕:此方「――――雪風」
よくやった。その爆雷が巻き起こした渦が、アンカー弾をより深く海の傷痕に巻き付かせた。これなら、確実に引き揚げられる。
海の傷痕:当局【クソ、加えてこのタイミングで現れるか――――!」
わるさめ「バク――――リッ!」
ばくりと大口の中に飲み込まれる。
わるさめ「でち公、大丈夫? 生きてる? わるさめちゃん、間に合った?」
「この形態、口の中にわるさめいるんでちね。ゴーヤはこの通り意識はあるし、大丈夫でち。助かった。ありがとう。だけど、だけど」
「ゴーヤ、最後なのに何の役にも立てなかった」
わるさめ「ロスト空間で龍驤助けただろうに。それに、でち公、海の傷痕を離さなかったお陰で」
わるさめ「艤装ごと噛み千切れた」
あ。そこで気付いた。右手はずっと出っ張りの艤装をつかんでいたから、海の傷痕の艤装がこの手の中にある。これは、潰した装備は、
わるさめ「Srot1:史実砲。序盤に戦った時に見たから分かる。今この局面で装備を潰したのは大戦果だね。よくやったでち様!」
「ぐす……よかった。この手で少しだけでも電ちゃんの仇を取ることができて……」
わるさめ「加えて海面にあがってく。そんなに、わるさめちゃん、怖いんかね。まあ、海中で特攻艦だからね。とりあえずゴーヤ、近くの駆逐に引き渡すから入渠してね」
「ゴーヤのことはいいから、海の傷痕を」
わるさめ「寝言は寝ていえー」
【11ワ●:工作艦の極地を以てしてType:Tranceを解体撃滅せよ!】
海の傷痕:此方「……」
海の傷痕:此方(後、5分で経過程想砲は……)
命中させた改造アンカー弾の鎖を巻いて引き揚げる。ゴーヤが上手くやってくれた。おまけに艤装の一部が確かに欠けているという支援つきだ。
「――――、――――」
考えるより先に意思疏通を始める。鎮守府(闇)の妖精だけは、消さなかったから、この手は使える。ロスト空間で仕官妖精がなにをしているのか知らないが、妖精は意思疏通で役割を果たそうと動いてくれる。
水中戦が起きたお陰で時間が出来て、頭の中も整理出来た。魔改造装備の工作艦の海上工廠化。意思疏通により、鎖に沿って、妖精が海の傷痕に向かって、役割を果たしに愚直に仕事場へと進む。
海の傷痕:当局【なめるな!】
妖精工作施設から黒腕が伸び、妖精を振り払おうと、その手を大きく振った直後に、
卯月「死ね死ね死ね! お前だけは死ね!」
阿武隈「当てます――――」
由良「ずいぶんと怨みを買ってますねー。私からもどう、ぞっ!」
支援の砲撃が海の傷痕に突き刺さる。次々と待っていました、といわんばかりに海の傷痕に砲弾が浴びせられていく。確かに見える海の傷痕の身体から飛び散る血の飛沫。
海の傷痕装甲服が変化を始める。あのバケツの形は――――、同時に妖精工作施設の黒い掌から、鋼材が泉のように湧き溢れてくる。
秋月「高速修復材っ、させませんッ!」
神がかり的な砲撃がバケツを弾いた。同時に俺も全速で動いた。錨を巻いて引き寄せながら、最短で近付いた。
激しく動き回る中――――手が届いた艤装の解体を始める。装甲服は、恐らく無理。海色の想か、妖精工作施設。艤装を壊してもいい。素体を殺してもいい。艤装と一体化していようと、それなら実に簡単な工程だ。
思考が目まぐるしく回転する。まるで、この俺の周りだけ時がゆっくりと流れているような、走馬灯を想起させる感覚だ。
艤装の接合部分を肉に埋め込む形で繋いでいる。レンチで肉を削り取ると、装甲服が硬化を始めた。
どの深海棲艦に化けるか知らないが、肉の間に、艤装部分が見える。
鉄構造、木構造、装薬、俯仰装置、旋回装置、装填装置に旋回部分、それらから一瞬で構造を把握する。無限ともいえる資材が内部に消えては現れていた。これは砲塔のもん、それぞれの装備を稼動させる要、
海色の想だ。
当たりを引いた。トランスタイプは燃料弾薬無限といっても、それらを使いきればその装填にはしばらくの時間を要する。クールタイム。それらが見当たらなかったのも、こいつが未知ゆえ答えは兄さんに任せていたが、ここにも理がある。
合点が行った。こいつは海色の想でクールタイムを無くして常時オールトランス状態で戦えている。これさえ解体(バラ)せば電やわるさめと同じく、かなりの制限がつきまとうはずだ。
「――――、――――」
露呈した未知を理として認識し、鍛えた工作の感覚と解体のセンスを以てして、進歩と化かす。
同時にこの海の傷痕は『タイプトランスとして完成されている』から、有力な説明も――――
5種、6種、7種、深海棲艦艤装の数に沿って妖精化していくため解体不可能と化していく原理、トランス現象に飲み込まれていくメカニズム。
艤装は生きている。海の傷痕の海色の想に限らず、トランスタイプは『想:意思』により、呼応する。
こいつらには、意思がある。そうだ、俺達は艤装の夢を見る。兄さんの深海妖精論の一部にあった艤装は妖精という知識――――こいつらは素体と同化することにより、適性者を一部と見なしているとしか思えない。
思えば深海棲艦だろうがただの艤装であろうが、その根本では『想:妖精』により稼動しているのだ。だから、深海棲艦ではなく、妖精化していくのだろう。
そして5種までが、ギリギリ『人間としての艤装適性者』でいられるライン、それから先は、
恐らく、艤装の想に肉体が完全に犯される。
その同化具合により、解体が不可能な異常となってゆく。肉体そのものが艤装の一部になっちまうから、それを解体するということは人間から手足や頭を心臓を、鳥から翼をもぎ取るように、命を奪うことに等しくなっていく。正しく艤装との一体化だ。
仕組みさえわかっちまえば、摩訶不思議創作の力に満ち溢れたロスト空間の力があれば、恐らく妖精工作施設のように7種を解体できるシステムも造ることは不可能ではねえ。
秋月「アッシー!」
視界が唐突に揺れた。動かしていた右手がなかった。なにが起きたのかも分からないが、とにかく右手がない。ならば左手、もう少し、だ。もう少し食い付けば――――
海の傷痕:当局【愚か者が、海色の想がなくなっても妖精工作施設さえあればどうとでもなるわ!】
秋月「!」ドンドンドン
アッキーの砲弾が海の傷痕の黒腕を跳ねあげる。あの黒腕は損傷を与えた先から再生を始めている。常時女神の力が発動しているような瞬間再生だ。
山風「艦載機も、危ない、よ」
秋風「明石君、そろそろー!」
海の傷痕:此方「ごめんね」
左手首を万力のような力で握られる。ぐるり、と手首が回転した。骨折、その痛みを声に出す前に、引きちぎられた。両手がなければ、あのレンチを
くわえて顔を振り子のように降った。レンチが半回転ほどした。強く叫ぼうとした前に――――
秋月「大丈夫。ちゃんと分かってますよ」
さすがだ。間髪入れずに、バラしかけた艤装の繋ぎに、砲弾がぶち込まれる。艤装が根本から完全に分離した。ポロポロと、パーツがバラけて落ちてゆく。これならロストさせられねえはすだ――――
海色の想は完全に潰した。
海の傷痕:当局【――――此方ッ!】
海の傷痕:此方「分かってる」
黒の掌から、鋼材が溢れ出る。その手が向かっているのは、海の傷痕:此方のえぐれた肉の接合部。ああ、妖精工作施設はその手も使えるのか。
《誰か妖精工作施設を壊せ!》
《すべての装備を稼動させる肝は潰したから、動きに制限が出てるはずだ。弾薬も燃料も、限りがあるから、今のように馬鹿げた数の艦載機も、砲雷撃も、無限じゃねえ》
《誰か、誰か妖精工作施設を破壊しろ!》
《どれだけの時間がかかるか分からねえけど、あれは解体された艤装をまた造れちまうから!》
まだ、アンカー弾は海の傷痕に絡みついている。海色の想を潰したことで出る影響は、この目で見て取れる。航行の速度も落ちている。艦載機も、砲雷撃も、控え目だ。攻撃的な姿勢から一転、生き延びるための回避へと、切り替えている。
阿武隈「妖精工作施設に向かって!」
由良「すでに――――!」
卯月「撃ちまくってる!!」
砲弾の雨が、降り注いだ。鉄の塊の連撃が、突き刺さり、身体がぐにゃりと曲がる。海の傷痕:此方が、口元をへの時に曲げたのを確かに見た。
反応も途切れ途切れのトランスタイプ、しかも霧がかったこの戦場で、妖精工作施設へと当てる神がかりの砲撃精度、この連携は、
効いてる。
この常軌を逸した怪物に、効いている――――!
伊勢「私からも――――!」
伊勢「どうぞ!」
海の傷痕:此方の口元から、血が溢れ出る。
負けるか。解明された未知の力、それはもう人類の技術となった。ここまで19世紀からここまで繋いだ兵士の希望は、ここで報いを与える。
お前の、お前の――――血肉を捧げて。
「沈、め!」
海の傷痕装甲服の分厚い深海棲艦の装甲、ギミックも発動させているのだろうが、撃ち抜く砲の絶え間ない雨は容赦なく装甲を削り取っていく。史実砲も経過程想砲も潰れ、海色の想は分離し、妖精工作施設が手を動かせる余裕などありはしない。
海の傷痕:此方「ああ――――死が」
海の傷痕:此方「怖、い」
海の傷痕:此方「此方は」
直後に爆発が起こる。
海の傷痕:此方「人間になれたのかな――――」
狂喜の叫びが、響いた。
なにが起きた――――海の傷痕装甲服が深海棲艦っぽい艤装に変化した瞬間は確かに確認した。
最後に、海の傷痕が沈むのを見た。
誘爆の煙に紛れた海の傷痕に追撃の雨が執拗に降り注ぐ。それすらも器用に全弾が命中する。
まるで奇跡のような連携が、史上最悪の想の軍艦を確かに沈めた。
反応、消失――――!
【12ワ●:暁の水平線、到達】
元帥「……!」
大淀「海の傷痕、反応消失です――――!」
元帥「たった今、報告が入った」
元帥「世界各国からの報告だ。深海棲艦が、活動を全停止し、海底に沈みゆくのを確認した、と。ロスト空間がなくなったのか、仕官妖精が成し遂げたのかは分からんが、理屈的には想の活動が全停止したその時に起こるはずの現象だ」
大淀「ええ、私も深海棲艦が、機能停止していくのをこの目でしかと――――!」
大淀「元帥、海が――――」
大淀「海が、とっても、綺麗です」
武蔵「おい、こっちの連中に支援を回してくれ。四時間の死線を味わって全員大破してる……」
元帥「すぐに向かう」
龍驤「割り込みごめんなあ。みんな聞こえるー?」
龍驤「ちと、うちは准将とロスト空間に行ってたんやけど、とりあえず仕官妖精さんが管理権限を奪取した後、『艦隊これくしょん』の一部のシステムを掌握できたって。深海棲艦の想の供給を止めることに成功したとの報告に戻ってきたよ」
龍驤「空の裂け目にあるあのミサイルも、もうすぐどうにかできるからって」
龍驤「准将ももうすぐ戻ってくるはずやで」
元帥「せめて一報入れんか馬鹿者。こちらは勝ち目もあるかねえかの作戦もろくに立てず残存戦力に特攻命を出した地獄のパワハラタイムだったぞ……」
龍驤「ごめん。准将いわく一刻を争ったから、みんなを信頼して即飛んだとのこと。今はなんか落ち着いてる感じするんやけど、戦況はどうなってる?」
元帥「……、……?」
2
明石さん「愛のジャーマンスープレックス!」
明石「もっと優しく入渠させてくれませんか!?」
秋雲「今回ばかりは明石君を褒めてあげて欲しいな。かなーり男を見せてたよ~」
山風「……すごかった。あれは」
秋月「海の傷痕を解体したんです! 5個の中の1つですけど! 本当に珍しくアッシーがかっこよかったです!」
明石さん「!?」
明石さん「トランスタイプの解体に成功とか、すごいじゃないですか。その技術を生かして、また魔改造の進歩を――――」
明石「とかって考える必要もなくなったのに、姉さん嬉しそうじゃねえよな。まさかこの戦争が終わったことで艤装いじる必要なくなったからじゃないよな?」
明石さん「まさか。よくやったとは思っても言葉には出来ないです。みんなの活躍は敬意と感謝ですけど」
明石さん「しかし、喜べはしません。心からこの勝利を喜ぶことなんて、出来やしません」
明石さん「電ちゃん、死んでますから」
明石「……、……」
明石「姉さん、俺の通信機能、壊れてるから代わりに伝えてくれ。少し気になることがあるんだけど、俺の頭では答えを出せなかったから」
3
阿武隈「勝ったの……?」
赤城「とりあえず入渠を」
加賀「赤城さんのいう通りです。いつその機能も失われるか分かりませんし、勝利の余韻に浸る前に」
卯月「……浸るわけないし。なにも嬉しくない。喜ぶのは外の連中だけだ」
響「……」ポロポロ
阿武隈「響ちゃん……」
響「ごめん。勝った。勝ったんだ。戦争が終わったこと、嬉しいけれど、それ以上に悲しい」
響「大切な妹がいない」
響「一緒に帰るって、誓ったのに」
響「死なせて、しまった」
由良「……赤城さん加賀さんのいう通り、とりあえず入渠が優先ですね」
4
金剛「……帰りマース」
瑞鶴「祝勝会なんて気分じゃないわ」
瑞鳳「……そうだね。全員生還出来なかった以上、祝えるような気分じゃないです」
榛名「そう、ですね。ごめんなさい。この日を待ち望んだのに、ただ空しくて、榛名はとても悲しいんです。私達はこのような勝利のために血と汗を流したわけでは」
翔鶴「……、……」
翔鶴(……綺麗な、深海棲艦のいない海)
翔鶴(なのに、どうして……?)
翔鶴(なにか不気味な悪寒が、します)
5
甲大将「終わったと思うか?」
乙中将・丙少将「思わない」
丙少将「まさかとは思いますが、映画のお決まりの展開とか勘弁ですよ。ラスボス倒したのにミサイルの発射が止められない、みたいなオチとか」
甲大将「なにか胸騒ぎがするんだよな。海の傷痕は倒したとしても、なにかもう一波乱ありそうな、感じがする。やるべきことを急がせたほうがよさそうだ」
丙少将「乙さんはなにか?」
乙中将「ロスト空間のこと仕官妖精に任せて、こちらに戻ってくるべきだよね。こちらがどうなっていたか分からない人じゃないでしょ。龍驤さんだけ戻して、青ちゃん戻ってきてないのなんでだと思う?」
甲・乙・丙「……、……」
丙少将「あいつ、まさか――――」
6
雷・暁「……」
龍驤「鹿島、ごめん。その二人のこと頼んでいいかな。うち、まだやることあって」
鹿島「……はい。分かりました」
龍驤(……しっかし、海の傷痕の経過程想砲を木曾が潰して、ゴーヤとわるさめが史実砲を壊して、明石君が海色の想を解体して、アブー達が数による砲弾の雨を浴びせて圧倒して沈めた、か)
龍驤(呆気ない気もするけど、現実はこんなもんか?)
龍驤(バグとして生まれ落ちたのなら深海棲艦化しない。反応消失なら、完全に艤装が壊れたか、探知できんほど深くまで沈んだはず)
元帥「潜水艦を全員帰投させて報告を聞いた。限界まで潜らせたが、海の傷痕の艤装の1つ、海色の想と思われる残骸しか回収は出来なかったな」
龍驤「……、……」
7
元帥(現存した戦力、回収完了。殉職者1名と引き換えの海の傷痕を倒して暁水平線の到達……理想には届かなかったものの、客観的に評価すれば勝利Sは固い)
元帥(だというのに、なんだ。この得体の知れん震慄は……)
丙少将「申し上げます」
丙少将「本当に妖精工作施設は破壊してから、沈めたのでしょうか。筋が通る説が浮かびまして。もしかして」
丙少将「『妖精工作施設が壊れる前に装甲服の機能で自決することにより、女神を発動させたからロストしたんじゃないですか?』」
元帥・龍驤「――――!」
龍驤「全軍すぐさま拠点軍艦に――――!」
元帥「……!」
元帥「大破撃沈……残存戦力全ての艤装が継戦不可…………」
大淀「元帥、電文が入りました。艤装が、この決戦外の通常安全海域を保守する艦の兵士の艤装全てが完全に破壊されたようです……」
元帥「経過程想砲――――射程は、どこまで」
――――highナノ♪
海の傷痕:此方《無限射程です。木曾と江風のせいでお披露目が遅れてしまったけどね。世界のどこにいようが、探知して壊します。残存戦力は0になったはずです》
海の傷痕:当局《意図してのものでもないが最後の、せめてもの慈悲となったな》
海の傷痕:当局《またもや奇跡を起こされたな》
海の傷痕:当局《泡沫の》
海の傷痕:当局《暁の水平線》
海の傷痕:当局《嘲嘲!》
海の傷痕:此方《無限射程:経過程想砲にて》
海の傷痕:此方《わるさめを除く、重と廃は全回収です》
海の傷痕:此方《人類と海の傷痕の戦争は、終結》
海の傷痕:此方《海の傷痕の勝利が確定したも同然、かな》
海の傷痕:此方《此方は、あなた達が勝ってくれると思ってた》
海の傷痕:此方《なぜいつでもあなた達を始末できたのに、わざわざこの『艦隊これくしょん』のルールの中で戦ったと思う?》
海の傷痕:此方《様々な理由はあるけど、この戦争ゲームは此方が自身に貸した誓約であり、世界への制約でもあったから》
海の傷痕:此方《人間殺戮の本能があったとしても此方はね、人間から産まれたんだ。人間は此方の母親なんだよ》
海の傷痕:此方《海の傷痕が生を許される場所が欲しかった。でも、此方は母親であるあなた達を殺しても、愛してもいるから》
海の傷痕:此方《あなた達に、此方を越える可能性を見せて欲しかった。それが叶えば、此方は人類のために死ねる。生を諦めることができた》
海の傷痕:此方《あなたが生きているのは間違っているよって》
海の傷痕:此方《海の傷痕の存在を越えた人間の可能性でさ》
海の傷痕:此方《お母さん達に叱って欲しかった》
海の傷痕:此方《終わらせてもらいたかった。殺して欲しかった》
海の傷痕:此方《でも、敗けたよね》
海の傷痕:此方《あなた達の可能性に海の傷痕は打ち勝った。ならば、この世界に生きるべきは》
海の傷痕:此方《人類ではなく、海の傷痕だ》
海の傷痕:此方《敗けた暁には此方は貴方達に》
海の傷痕:此方《……》
海の傷痕:此方《ううん、ここは伝えないでおくよ》
海の傷痕:此方《もう此方は慈悲も残酷もない自然存在となる》
海の傷痕:此方《海の傷痕:当局の手段に入れ替わり、みんな仲良く、永遠に逃れられない自然の輪へと。この海の傷痕の想に還る純粋存在へと》
海の傷痕:此方《みんな仲良く人間としての最期を遂げましょう》
海の傷痕:当局《嘲嘲、ようこそ新たなる明けない夜の『E-8』へ!》
海の傷痕:当局《新たなる世界へ――――!》
海の傷痕:当局《死に晒せ》
海の傷痕:当局《おっと、申し訳ない!》
海の傷痕:当局《当局の個性が出てしまったな!》
丙少将《こちら丙の将より、海の傷痕含む皆に言わせてくれ》
海の傷痕:当局《往生際が悪いな。無意味な時間稼ぎか?》
丙少将《ああ、何の意味もない時間稼ぎだ。ただもう限界だ。伝えさせてくれ。それが終われば俺から殺してくれても構わねえから、言わせてくれ》
海の傷痕:当局《ケラケラ、今更貴女と語る言の葉など》
海の傷痕:此方《当局、静かに》
海の傷痕:当局《……む》
海の傷痕:此方《いいよ。なに?》
丙少将《この戦い、俺は准将から全員生還の指揮を与えられ、支援艦隊として動かしていたんだ》
丙少将《中枢棲姫勢力が全滅した『E-5』、そして電が散ったあの『E-6』の時》
丙少将《支援に行けた。あの戦場、最も死者が出ると踏んだ。伊勢や雪風を動かして、助けに行けたんだ。助ける策も、現実的でもあった》
海の傷痕:此方《正解だよ。来ていたら伊勢と雪風もあの場でどうなっていたか分からない。まあ、伊勢の戦闘力と、雪風が電を抱えて逃げたのなら》
海の傷痕:此方《電は戦闘不能になったとしても、電は生きていた、と思う。向かってくる一途な想いに対して私はあくまで慈悲として殺したからね》
丙少将《だが、それはあえてしなかった》
丙少将《電を、死なせた》
丙少将《俺に渡された作戦内容で》
丙少将《『中枢棲姫勢力達の戦場への支援介入は禁じられていた』からだ。だから、行かなかった》
海の傷痕【「――――」】
丙少将《電を海の藻屑とすることは》
丙少将《相変わらずで本当に腹が立つが》
丙少将《あいつの作戦に組み込まれていたとしか思えねえんだよ》
提督《保険ですよ》
提督《死なせるつもりなんてなかった。ただ死ぬとしたら電さんが適任でしたから》
丙少将《やっとかよ……》
提督《お待たせして申し訳ありません》
提督《この戦い、指揮を執りながら更新を続ける新規の情報を分析し、自分もやるべき使命を果たさなければなりませんでしたし……》
提督《頭がどうにかなりそうでした……》
提督《しかし》
提督《ここまで》
提督《修正可能な範囲内です》
提督《あ、本官さんが間に合いましたね。空のミサイルもどきは消えていきます》
海の傷痕【「――――!」】
【13ワ●:Fanfare.間宮】
一体、何度の地獄を味わえばいいんだ。
目の前には、もはや兵士とも呼べない無力な仲間で溢れ帰っている。一瞬にして、艤装が全破壊して、唯一の戦闘手段を喪失している上に、
海の傷痕は、全快して降臨している。
この状況で、希望を見出す頭のおかしい人なんて誰もいない。
きっと私以外には。
見えたんだ。
あっちのほうに確かに愛した美しい光が。
不知火「間宮さん、そっちには海の傷痕が――――!」
陽炎「ちょっと、間宮さん一体どこに!?」
海の傷痕:当局【特攻か。それとも、我先にと志願の航行なのか?】
陽炎・不知火「戻れ!!」
海の傷痕:当局【――――は?】
海の傷痕:当局【この、反応……!】
海の傷痕:当局【待て待て待て――――】
海の傷痕:当局【あの提督】
海の傷痕:当局【なにを考えている……?】
2
鹿島さんの悲劇から目まぐるしいまでの事件が、立て続けに起きた。この鎮守府のことばかりで、1/5作戦のことはあまり気が回らなかったけど、
鬼の姫の連合艦隊があの鎮守府に攻めてきた日のことを。もう、絶望しかなかった。阿武隈さんや卯月さん達がいなくなって、鹿島さんや春雨さん達もいなくなって、この鎮守府の戦力は大幅に墜ちていて、戦力は第1艦隊6名編成さえ、組めずに回していた時だから、逃げるしかなかった。
電ちゃんの姿が見当たらない。それはそうだ。あの深海棲艦は電ちゃんが中枢棲姫勢力と結託して連れてきた報復なのだから。
フレデリカ大佐から即座に退避の命が響いた。「私は船で別に逃げるから優先攻撃対象となる艦の兵士は逃げて」と、そういったあの人は、今思うと運命を悟っていたのかもしれない。
丙少将の鎮守府のほうへと。集まったメンバーに、電ちゃんの姿はなく、探しても、見つからなくて、提督命を無視することもできず、間に合う内に逃げたけれど、やっぱり捨て置けなくて、戻って。
死にかけた。当たり前だ。みんなが殺されるくらいの敵だ。姫や鬼混じりの艦隊の群れに炊事ばかりやってた私も攻撃対象で、飛んできた砲雷撃を回避出来ずに即座に大破の航行不可能。
その手をつかんで引き上げてくれたのは、電ちゃんだ。化物だって、すぐに判断したあの時のこと、私は一生忘れられない。提督さんに、それからの私は皆の力になれていた、と優しく諭してもらえたけれど。
それでもやっぱり――――
言わなかったことにしたいよ。
あの時は知らなかったから仕方なかっただなんて、理屈じゃ納得なんて出来ない。
――――あなたがみんなを殺したんですね。みんなを、返して。それが出来ないなら、死んでください。この化物!
耳から離れない。
――――誰か助けて。
電ちゃんに、よく似た泣き声。ずっと、聴こえてたあの泣き声が、ずっと耳から離れない。一生忘れることもないであろう私の後悔が、私を必死にさせた。
時を経て今、確かに聴こえた。
向こうのほうでなにか水飛沫があがって見えた。周りは誰も気が付いていない。私だけが気づいたようだった。なんだろう、と思って目を凝らした。
――――た、助け。
そんな声が聴こえた気がしたのだ。思う。移動しながら、思う。今の戦う術のない絶体絶命の最悪な状況下の、幻覚や幻聴なのかもしれない。
でも、あの声は。
考えるより先に身体が動いていた。目標に近付いていく。そう遠くはない。もしかしたら、たった今、反転建造が終わり、新しく産まれた深海棲艦なのかも、と怖いけれど、
闇が晴れていき、あの子の形をした光と出会う。
もがいて、空へと伸ばされていた手をつかみあげて引っ張りあげる。あの時、沈みゆく私をそうして助けてくれたのと同じように。
今度は間違えない。化物だなんていわない。
この表情には慣れないけど。
「電ちゃん」
ぷらずま「まあ、そうなのですが、ぷらずまと読んで欲しいのdeath♪」
ぷらずま「あの仕官妖精のやつ、とんでもない位置に落としてくれましたね。足つってしまって溺れ死ぬかと」
「――――生きてたん、ですね」
ぷらずま「今度は、化物とかいわないんですね」
そう皮肉を飛ばして笑ってみせる。
「言うわけないじゃないですか」
ぷらずま「間宮さん絶対にあの時のこと、気にしていると思ってわざわざ助けられるのを待ってあげたのです」
なんて悠長な。だけど、これは私にとっての救いでしかなかった。引き上げると、電ちゃんはその手を離して――――航行を始める。
ぷらずま「はあ……間宮さんの顔で大体分かるのです。お友達では海の傷痕に届かなかった、と」
「でも、死んだって」
ぷらずま「死にましたよ。首が飛ぼうが心臓くりぬかれて生命活動停止しようが、女神装備していれば生き返るのです。死んだのに生き返る。思えば深海棲艦だけじゃなく、私達も十分ゾンビですね」
「女神? でも女神は海の傷痕に消されて使えないはずですし、電ちゃんの死体は輸送されたって……」
ぷらずま「まあ、今はそれより――――」
「……どう、しましょう」
制限が解けて、ルール内の制約が解けたこの最後の戦い。海の傷痕の本気がそこにある。コンパクトになった艤装とは違って、時空の裂け目から数えるのも億劫になる軍艦の砲塔が、顔を出している。
本当に手加減されていたんだ。そこで確信を持てた。 いや、E-7のあの霧が毒ガスだったのなら全員、あそこまで踏ん張れなかっただろう。
勝敗を揺らがせることのできる海の傷痕からの『お情け』でも、勝ちをもぎ取れなかった。
私達、艦娘は人間よりも遥かに丈夫ではあるけれど、化学兵器で殺すことが出来る存在だ。この戦場にミサイル1つでも落とせば、どれだけの人間が息をしていられるのだろう。いや、あの霧に毒ガスだったのなら。直視するのも、躊躇われる現実に成す統べなく蹂躙されるだけ。
あの最初期の始まりの艤装、電のように、ただただ殺されるだけ。それでも命ある限り、敵へと向かうことしか許されない。
死に方も選べない、
戦争のリアル。
戦場はただの処刑場でしかなくなっている。
海の傷痕:当局【まずは間宮を沈めようか】
ぷらずま「もう――――」
間髪入れずに放たれた砲弾、私は反射的に眼を瞑る。
ぷらずま「大丈夫です」
ぷらずま「歴史は繰り返させません」
……………………
……………………
……………………
海の傷痕:当局【無傷――――?】
海の傷痕:当局【このゲーム外の、拠点軍艦と同じくただの砲弾と魚雷だが、艦娘が損傷なしで凌げる一撃ではないはずだぞ……?】
海の傷痕:此方「……深海棲艦、特性?」
海の傷痕:此方「……、……」
【14ワ●:長ったらしい『艦隊これくしょん:ファンタジー』のお話】
1
龍驤「今は司令室には立ち入り禁止!」
卯月「てめー、うーちゃん達の指揮を放り投げてどこでなにしていたぴょん! 引き込もってねえで顔出せしコラー!」
瑞鶴「今の状況、分かってんのか!? 私達は艤装ないのよ! ほったらかして自由時間確保してなにしてたのか説明してよね! また素手で殴りに行けって策なら、まずは提督さんから殴るわよ!」
暁「じれいがあーん、いつの間にが安置所の電が艤装ごと消えでるうう! びええええん!」
わるさめ「ぷらずまが撃沈した時の通信シカトしただろ! この引きこもり草食ヤローなんかいえよオラ――――!」
阿武隈「間宮亭でブレスレットくれた時に『色々と優秀な阿武隈さんなら第1艦隊の旗艦というか、司令官丸投げできるんじゃないかなって』っていってましたね!」
阿武隈「この大一番で本当にやるだなんて信じられないんですけど!?」
初霜「提督! 一部の人達が押さえられそうにありません!」
提督「はい、しっかり聞こえてます……」
提督《通信、この船の放送機にも通して全員に聞こえるようにしますね》
2
海の傷痕:当局【おい、お前、一体】
提督《む、会話に応答してもらえるのですね。なにか?》
海の傷痕:当局【電は殺した。確実に仕留めた。全員生還のためにロスト空間の創作を持ってして助けに向かったとは思っていたが――――】
海の傷痕:当局【間に合った、だと?】
海の傷痕:当局【たかが二時間そこらで、あの完成度はあり得ん。深海棲艦ならまだしも、たかが二時間程度で想の海から一人の人間を作り出すなぞ、この海の傷痕ですら不可能なのだぞ……】
海の傷痕:此方「……仕官妖精、重の龍驤、Rank:Worst-Everの初霜、廃の提督なら、あり得なくはない、かな?」
提督《そこが予想出来なかったというのならご説明します。結果的に上手く行ったとしかいえませんが、仕官妖精さんのフォローもあって、なんとか出来る自信はありましたので》
提督《電さんの過去の闇に絶望していたのはぷらずまさんだったんです。そして、過去の闇を受け入れ、乗り越えたのもぷらずまさんだ。その成長を自分は誰よりも間近で見てきた。指揮を執ってきた》
提督《自分、廃でしょう。その意味をロスト空間でよく知ることが出来ました。自分は、あの子の提督ですよ。想の海からあの子を探し出すことに大した苦労はしなかったです》
提督《ロスト空間は自分の純度に呼応してくれました。というか、なんか呼んだら――――》
提督《ぷらずまさんの想のほうから自分のところまで来たのは驚きました。これ、あの子が廃だからですか? あの子にとって自分ってなんなんでしょうね………?》
ぷらずま《私の魂が呼応したのです》
ぷらずま《私は大本営であなたに救われてから、海の傷痕に廃とされたのです》
ぷらずま《司令官さんが泣けば私も泣くのです。司令官さんが喜べば私も嬉しくなるのです。心と心がくっついてるって、海の傷痕に沈められる前に想いましたよ》
ぷらずま《それがきっと――――》
ぷらずま《私の廃の部分ですから》
ぷらずま《ロスト空間は想いがモノをいう世界なのでしょう?》
ぷらずま《司令官さんが呼べば、駆けつけて当然なのです 》
提督《……まあ、死なせはしません。初霜さんのことがある以上、分かりますね。その想はその次元の純度です。今の自分だから出来ます。きっと削ぎ落としたネジを探す旅を修めた今の自分だから、出来たんだと思います》
海の傷痕:当局【――――】
提督《あなたがこの海で運営した『艦隊これくしょん』はいつだって常軌を逸していました》
提督《例を挙げるのならば》
提督《『建造:普通の人間なら死に至る傷を耐える生命力、深海棲艦に対抗する機能を与える』」》
提督《『入渠:建造された艦の兵士という今を生きる人間の損傷を現代を越えた治療で傷を治す』》
提督《『開発:人間の科学をもってしても、倒せない深海棲艦を倒す装備を創造する』》
提督《なのに、不思議です》
提督《妖精という職人が必要であれど、その全てに必要な資材は、全てあなた無しでも、海さえあれば調達できるようになってた》
提督《暁の水平線に勝利を刻むために、我々は未知にすがり続けた。貯蓄、演習、遠征、出撃を繰り返し、兵士の練度をあげて》
提督《いつだって、分からないことだらけの海で、分からないままの技術にすがり続けて、ここまで来たのです。まるで遥か昔の先祖が手垢のついていない海を航海してこの星の未知を解き明かしたように、この『艦隊これくしょん』が解き明かされることに何の不思議があるというのです》
提督《こちとら人間です。そんな素敵な宝箱、開こうとするに決まってるじゃないですか。実際いつもそうしてきましたし、その人間の性質を分からないあなたではあるまい》
提督《海の傷痕という新たなる自然存在が、我々に夢を見せました。現代の身体を機械仕掛けにして延命を施す医療のテクロノジーを越えるリアルを》
提督《海の傷痕、あなたが故人の想を燃料に創作した『女神妖精』と『応急修理要員』》
提督「彼等のギミック自体は解き明かせました」
提督《初霜さんは別ベクトルではありますが、『あなたでも困難な、『想の海から装備した人間の個体の想を探しあて引っ張り寄せるほどの純粋無垢の最大瞬間風速の廃』と『ロスト空間の創作短縮空間で艦の兵士を完全に再現する』という》
提督《人を救いたいという無垢な願いの塊》
提督《彼等と自分達にロスト空間の力があるかいなかだ。ぷらずまさんは確認しましたね。ロスト空間さえあればそれがただの人間にも可能だと事実として証明しました。ロスト空間を抑えた今、同じ人間にそれが不可能ではないことを知りました》
海の傷痕:当局【……、……】
提督《合同演習時での暁さんとの会話なのですけど》
提督《『人間の自分から見たら艦娘も化け物ですけどね。近代兵器がなぜか通用しない化け物を殺す化け物です』》
提督《そして暁さんはいいました。『私達、解体すれば普通の女の子だ』と》
提督《その言葉に自分は『暁さんと私では、普通の認識に齟齬があるようです』と返した》
提督《人間の形をしておきながら、人間離れしている。知れば知るほどあれが自分と同じ人間だなんて冗談かなにかかと》
提督「あの時の自分から見たら、ただの艦娘も、ぷらずまさんやわるさめさんのような『壊:バグ』と大差ない化物でした》
提督《人間って、なんですかね。この海では生きているとか死んでいるとかにすらも、モヤをかけられる。この海はいつだって、うっとうしいまでに新たなる世界を見せ続けてくる》
提督《思えば、そうだ》
提督《女神妖精の力は艦娘が死亡してから 発動するよう調整されている。艦娘は死んでから復活する。首が飛ぼうが心臓くりぬかれて生命活動停止しようが、女神装備していればロストして生き返り戻ってくるのです。死んだのに生き返る。思えば深海棲艦だけじゃなく、こちら側も十分ゾンビですね》
提督《そして》
提督《人間と艦娘、深海棲艦に妖精を繋ぐ『想』の存在。魂のような人間の核がある》
提督《身体じゃない。よく聞く話です。身体を用意しても、そこにある精神は、って》
提督《あなたが人間の死の定義をひっくり返し、我々に提示をしていた。死んだ人間を復活させる女神妖精の力を再現、その作業を一言でいうのならば》
提督《『身体を丸ごと入れ換える医療』》
海の傷痕:当局《しかし、女神は作れなかったはずだ。1から作って、女神をこの戦場の兵士に供給し続けるようなことは事前に――――》
提督《妖精は想から出来ています。ロスト空間を奪取し、想の海の管理権限を得て、妖精としての全機能を取り戻した仕官妖精さんならばどうです?》
海の傷痕:当局【……】
提督《最初は時間はかかりますが、別の手を考えていました。こんな手が通じるとは思わなかった。だってロスト空間を奪取して女神妖精の力を本官さんが使えるのならば、電さんと同じく誰が死のうが、蘇生可能になってしまいます。潰してあるものだと思って当然》
提督《罠とすらも考えました》
提督《此方さん、あなたはどうして、本官さんをあそこまで自由にしたのですか。あなたなら本官さんを殺すことも出来たのに》
海の傷痕:此方《正解だよ。フレデリカさんが此方に会いに来たときの会話を本官さんから聞いたはず。この戦いには『全員生還』か『全滅しか』ないって》
海の傷痕:此方《そう。今のあなたが取った手が此方が用意したただ1つの全員生還可能なルート》
提督《読んでいた、と》
海の傷痕:此方《まあ。でも、此方の目的に気付いた?》
提督《ええ、もう勝ちは現実的なまでに海の傷痕を追い詰めました。だから、気付きました》
提督《あなたは――――》
提督《もう、人間です》
提督《だって、あなたが選んだ『第2の海の傷痕を産ませない方法』は、これ以外にない》
提督《『若き命を信じて後を託す』》
提督《人間の思考と心がなければ選べない》
海の傷痕:此方《……うん。この戦いで海の傷痕を倒せる可能性を、あなた達がつかみ取れるのなら、きっと海の傷痕を産ませない世界に少しは近づけてくれるって、そう信じられるから》
海の傷痕:此方《本官さんは、そう信じてた。私も、そう信じてる。だから海の傷痕なんか死んだほうがいい》
海の傷痕:此方《海の傷痕が人間となる胎児のような期間に、あなた達は中絶を選ぶとは分かっていた。その善悪は問わないけれど》
海の傷痕:此方《その子供には意志があり、抵抗する手段がある。ただあなた達の都合で殺そうとすればいい。こっちも抗うよ》
海の傷痕:此方《愛したお母さんに死を望まれている》
海の傷痕:此方《でも、海の傷痕だって――――》
海の傷痕:此方《死にたくない》
海の傷痕:此方《生きたいよ》
海の傷痕:此方《だったら形はどうあれ》
海の傷痕:此方《戦争だろ》
海の傷痕:此方《そのせめぎあいに答えを出すシステムこそが、この『艦隊これくしょん』であり、此方が勝てば、海の傷痕が生きるために人間のほうを管理してあげようと思ったんだ》
提督「……」
海の傷痕:此方《でもね、電を復活させてどうするの?》
海の傷痕:此方《此方は、そこまでは読んでいた。与えた手段だからね。でも――――》
海の傷痕:此方《それでどうするの?》
海の傷痕:此方《電一人でなにが出来るの?》
提督《……》
海の傷痕:此方《おい、まさか同情したとはいうまいな。あの仕官妖精が選んだ提督だ。それでも海の傷痕を殺す選択を容赦なく選べるはず》
提督《……いえ、今の言葉で確信しました》
提督《自分は、成し遂げたと》
海の傷痕:此方《この反応》
海の傷痕:此方《E-7の時間を利用して違法建造したことは分かる》
海の傷痕:此方《電をただの電として産み落としたわけではなさそうだね?》
海の傷痕:当局《『壊:バグ』として産み落としたのであろうよ。しかし、あいつはわるさめとは違ってバグの才能はなく特攻艦としての機能はない。当局が二度も完封したのを忘れたわけでもあるまい》
海の傷痕:当局《なぜ、だ》
海の傷痕:当局《経過程想砲で木っ端微塵にされるだけだぞ。ただ殺されるために産み落としたとしか思えん。まさかメンテナンスverが解除されたこちらがまた電を人間にメンテナンスするとでも?》
海の傷痕:当局《してやってもいいが、勝敗に影響しない。お前らが負けたら全滅である。だから分からん。この電にお前はどんな希望を施した?》
提督《まあ、自分が指揮を放り投げていたのをロスト空間に行っていたと読まれるのは当然ですし、間違っていません。そしてあのタイミング、ぷらずまさんのために、と考えるのが自然です》
提督《この展開、きっとあなたは読んでいた》
提督《しかし聞いている限り》
提督《ここまでは、のようですね》
提督《ぷらずまさんが戻ってきたところで、結末は変わらない。そう判断しての勝利宣言でしょうが》
提督《思えば――――》
提督《もともとぷらずまさんは出会った時から、壊:バグだった。妖精人間でした。もともと、ぷらずまさんは、出会った時から妖精人間だったんですよね。なぜならば種類が多いほど深海棲艦化していくのではなく、妖精化していっていたのだから》
提督《海の傷痕:当局》
提督《あなたは、解き明かせましたか》
提督《『E-5』の段階で、我々と中枢棲姫勢力が結託して仕掛けたあなたの命を奪うギミックを》
3
海の傷痕:此方「当局、心当たりは」
海の傷痕:当局【ある。あの時、リコリス棲姫が】
海の傷痕:当局【『ネ級がどうなったか中枢棲姫に通信を入れたのだから、どうなるか分かっているはずなのにも関わらず』】
海の傷痕:当局【『リコリス棲姫は突撃してきて、自ら黒腕に触れた』のだ。そこがひっかかった】
海の傷痕:当局【結果的に確実に全滅させたので、あの場では捨て置いたのである】
海の傷痕:此方「……、……」
提督《なるほど、リコリスさんですか。彼女はあの場ではチューキさんよりも冷静だったようですね。特攻の裏にある自分の策を察したのかと》
提督《チューキさん達への任務は『自分が命じたタイミングでの特攻:命尽きるまで戦え』です》
提督《『中枢棲姫勢力は我々と同レベルに物を考える頭がある。リコリスさんが自らメンテナンスされに行ったのは、思考能力を消すため。破壊衝動に忠実な深海棲艦に素早く戻ることで、こちらの策の漏洩を防いだ』のだと思います》
海の傷痕:当局【っ!】
提督《第1工程:早期のぷらずまさんの『殲滅:メンテナンス』により駆逐艦電に戻すこと。ここは勝ち確といってもいい勝負です》
提督《第2工程:第4特務艦隊のロスト空間奪取。これも初霜さん達がやってくれました。ここは敗けの目も考えておりましたが、勝利です》
提督《第3工程:中枢棲姫勢力の切り札を投入して建造中の海の傷痕を此方ごと撃滅する》
提督《ここが最大の勝負どころでしたが、完敗の敗北Dです》
提督《第4工程:仕官妖精による中枢棲姫勢力の回収。海の傷痕:当局が仕官妖精を探知できず、ロスト空間にいる海の傷痕:此方にしか探知出来ないのはこの決戦で気付きました》
海の傷痕:当局【――――】
提督《加えてぷらずまさんの死亡という最悪》
提督《どうもあの子からは盲目的に信頼されているようなので、自分の策が失敗すれば、彼女ならどういう行動に出るか、予想は出来ますから、策を立てた段階で彼女が死ぬのも予測は可能です》
海の傷痕:当局《しかし、あの時の貴方の声は》
提督《あの子には思い入れがありすぎます。だから、本気で絶望しました。策の内とはいえ、さすがに堪えましたので……》
提督《第5工程:深海妖精の意思疏通を駆使してロスト空間へと飛ぶ。ここはロスト空間にいる仕官妖精から前以て深海妖精をこちらに供給してもらいましたので》
提督《第6工程:ロスト空間からこちらへ移動し、電さんの肉を艤装ごと回収。まあ、あなたは早期メンテナンスした時に電艤装を破壊して想を回収したので、再建造した二つ目の電艤装の破壊は徹底しなかった》
提督「第7工程:自分が想の海からぷらずまさんの想を探して引っ張り寄せる。 これは初霜さんが海の傷痕:此方をそうして引きずり出したみたいですね。それと同じです。ロスト空間に仕官妖精含めて4人の作業員です。重の龍驤さん、Rank:Worst-Everの初霜さんにも協力してもらいました。ここも成功です」
提督「第8工程:女神の基となる想を検索、引っ張り寄せ、仕官妖精が女神の機能を発揮して電さんの身体をもとに蘇生です」
提督「第9工程:電さんを再建造、そして違法建造でぷらずまさんに」
提督「これだけ説明すればもうお分かりですね」
提督「ぷらずまさん、聞こえていましたね。答えを突きつけてあげてください」
――――了解なのです。
――――さあ、お友達の皆さん!
――――E-5での借りを返すのです!
オールトランス、
ver:海屑艦隊。
3
レ級艤装「ギャハハ、最高の気分だよ艦娘ども! 深海棲艦に救われる気分はどうだよ! 僕らが海の傷痕を倒すところを指くわえて眺めてろ!」
ネ級艤装「うん! 海の傷痕、よくも虐めてくれたな! あの時の借りはみんなで返す…………!」
戦艦棲姫艤装「あー、まさか資材にされるだなんてね。死人を甦らせてこき使うとかあの提督、黒というよか闇ね。殺したい。そもそも……」ネチネチ
水母棲姫艤装「センキに同意ね。フレデリカさんファンファーレの時にいったわよね。『私達の墓を掘り起こすな』って!」
水母棲姫艤装「ソッコーで掘り起こしてんじゃないわよこの悪魔提督が……!」
リコリス棲姫艤装「落ち着いてよ。あの提督さんに私達が今の状態にされたことで、どれだけの救いを与えられたか。それが分からないわけではないでしょうに」
リコリス棲姫艤装「チューキの想が伝わるわね。これも電ちゃんを通して一体化したからなのかしら。もうポロポロと泣き出しそうな感じ」
ぷらずま「このトランス、この深海芸人どもがうるさいので嫌いなのです!」
中枢棲姫艤装「……提督殿、ありがとう」
提督《あの場で死んだだけならただの無駄死にです。させませんよ》
提督《中枢棲姫勢力海屑艦隊の皆さん》
提督《自分は、あなた達と握手を交わしました》
提督《ロスト空間はこちらが掌握しています。なので、海の傷痕を倒したら、あなた達に差し上げられる我々の確かな証の盃をぜひ》
提督《ともに暁の水平線を》
中枢棲姫艤装「本当にありがとう」
中枢棲姫艤装「上手く言葉に出来ません」
中枢棲姫艤装「ただただ」
中枢棲姫艤装「恩に着る――――!」
ぷらずま「水を差すようで悪いのですが、その暁の水平線はがんばらなきゃ拝めませんからね!」
ぷらずま「私の手足となったからには、ボロ雑巾のごとく働かせてやるから覚悟しろなのです!」
海の傷痕:当局《信じられん――――!》
海の傷痕:当局《中枢棲姫勢力は、殺した》
海の傷痕:当局《徹底した!》
海の傷痕:当局《リコリスとセンキは思考機能付与能力を与えたが、細工した。ただの深海棲艦へと戻っていく時限の、束の間のバグにした。此方、お前がシステムを組んだから分かるはずであろう!》
海の傷痕:当局《そして事前に細工が出来なかった中枢棲姫、レ級、ネ級は、当局が妖精工作施設でメンテナンスした!》
海の傷痕:当局【想を探知可能にしてから沈めた。消失反応。だから】
提督《ええ、死んでましたよ》
提督《あなたは彼等を全滅させた。徹底していました。電さんもきっちりネ級に慈悲を与えた模様なので、中枢棲姫勢力は全滅です》
海の傷痕:当局《中枢棲姫勢力はメンテナンスしたはず。通常の深海棲艦に戻ってから死んだ。あれは違法建造とは違う! そのバグの状態で復活させられるはずがないであろうよ!》
海の傷痕:此方《……、……》
海の傷痕:此方《可能、だ……》
海の傷痕:此方《まず此方の建造に入った時点で本官さんの探知は無理、そして『死亡した』という事実、当局が気付かなくても無理がないね》
海の傷痕:此方《『反応のない中枢棲姫勢力の艤装を本官さんがロスト空間へと連れていくことは海の傷痕にバレずに遂行』できるね」
海の傷痕:此方《加えて、中枢棲姫勢力は固まっていたから艤装が沈んでいる場所も特定は容易い》
海の傷痕:此方《思考機能付与能力は今を生きる人間にする力だ。そして彼等のバグを当局がメンテナンスしたからこそ探知可能になるから引き寄せられもする》
海の傷痕:此方《そして中枢棲姫勢力は『バグによる今を生きる人間だから想はオリジナルに等しく死ねばロスト空間をさ迷う。その想を集めて、回収した艤装を器にすれば中枢棲姫勢力復活は出来る』ね。電と同じ工程だよ。器が艤装か身体かの違いだけ》
海の傷痕:此方《それらの工程を7人分、4人で間に合わせたことに脱帽だけど、思えば廃は3人もロスト空間にいて、初霜龍驤仕官妖精を加えたら、現実味は出てくる、かな。廃には此方の想も一瞬で引っ張り寄せられたくらいだし》
海の傷痕:此方《よくも、まあ、そんなアイデアをこの戦いの最中で思い付いたものだね……》
海の傷痕:当局《しかしだ、それでも!》
海の傷痕:当局《お前のことだ! フレデリカから聞き出したであろうよ!》
海の傷痕:当局《6種は危険、その真実――――》
海の傷痕:当局《6種からが!》
海の傷痕:当局《『解体不可能』であるのだぞ!?》
提督《そこですか。どうやら当局のほうは相当混乱しているご様子ですね……》
提督《ご心配なく。ロスト空間を掌握していますし、あなたを倒してもロスト空間は即消えません。なのでなんとかする策は用意してあります。あなたが妖精工作施設で解体不可能のぷらずまさんを駆逐艦電にメンテナンスしましたよね?》
提督《しょせんロスト空間の管理権限があるかないかの違い。今の我々に出来ないとでも?》
海の傷痕:当局《らしくないな。出来るであろう、では、ある意味の特攻ではないか……!》
提督《『いくつか』あります》
提督《明石君、任務のほうはどうです?》
提督《あ、通信でどうぞ。海の傷痕にも聞こえるように》
明石《1つだけだが、海色の想を解体した。けど、6種からは死ぬんだろ。その理屈の通り、6種も解体不可能なら無理にやれば、素体が死んじまう》
明石《だから、残念だが、6種なら電は》
提督《工作艦が1つを解体、後を深海妖精、仕官妖精の技術に委ねたのならば?》
明石《あ、妖精さんの不思議技術か。6種を5種にしてからなら可能、かも?》
提督《なるほど、1種は解体しても死なないと。ならばどれか1つを明石君が解体すれば》
提督《ぷらずまさんは5種になり》
提督《深海妖精で解体可能かつ、ロスト空間が消えて身体から深海棲艦艤装が消えても死には絶えない解体の浄化作用が与えられることになるのではありませんか?》
海の傷痕:当局《……打っ魂消た》
海の傷痕:此方「やられたね……せっかくひっくり返したのに、またひっくり返された」
海の傷痕:当局《――――経過程想砲、が》
提督《フレデリカさんや丁准将のようにただの妖精人間なら経過程想砲は有効でありますが、ぷらずまさんはあなたが探知困難なバグ:タイプトランス。そしてそのラインナップに据えた艤装、中枢棲姫勢力のバグには完全に経過程想砲が通じないのは知ってます》
提督《経過程想砲は封殺です》
提督《ロスト空間はこちらが掌握》
提督《史実砲は論外》
提督《思考機能付与能力の深海棲艦艤装:バグ》
提督《6種の違法建造》
提督《適性者、そして艤装のその全てが》
提督《あなたの生命を脅かす可能性に満ち溢れた『重および廃の想』で構成された兵士です》
提督《海の傷痕――――》
提督《あなたを沈めるに足りる》
提督《未知の海、だ》
海の傷痕:当局《~~~っ!》
海の傷痕:当局《こじ開けられた、のか……》
海の傷痕:当局《認め、るぞ》
海の傷痕:当局《読み、負けた》
提督《新たな情報が更新され、策が流動するこの戦い。元帥は自分を信頼して、皆の命の上に立たせてくれたのです》
提督《自分はこの終わりの戦いをどれほど渇望していたことか。そんな自分を信頼して挑み》
提督《みんなも戦って生き延びてくれる、と信じてました》
提督《そして阿武隈さんなら絶望下でも諦めず『進撃』の号令をかけてくれるとも信じていました。時間を稼いでくれるはずだと。いえ、あの状況であなたを倒そうとする。そこまで食らいつくと信じていました》
提督《だってあの子は――――》
提督《鎮守府(闇)第1艦隊の旗艦です》
提督《由良さん達もそう。みんなを信頼して、いくつか奇跡となり得る鍵を散りばめた》
提督《それでも、電さんを沈めたくはなかったです。予想外な反転建造高速建造材の存在。でも》
提督《それでも、みんなの必死により、修正可能な範囲でした》
提督《最も、誰が死のうと同じ手段で『何度でも復活』させてやりますけどね。全員生還のために》
海の傷痕:当局【して、やられた】
海の傷痕:当局【本当にプレイヤーというやつは】
海の傷痕:当局【製作者の予想を越えてくる……】
海の傷痕:此方《……》
あなたがいったのです。
戦場だ。こういう理不尽はある。
未知と戦う以上、こういうこともある。
その未知にいつだって、見出だしてきたから。あると思うに決まってるでしょう。見つけ出すに決まってます。人間だ。探すに決まってる。
未知から、希望を。
新しい出会いを。
それが敵対するあなたの理不尽と化ける。
戦争神のあなたは、その理不尽を越える力があるのでしょう。先人から乗り越える航海術を学び得たのでしょう。
でもそれは、あなたが体得したものではない。知ったかぶりに過ぎない。まるで教科書を読んだ知識だけの新兵です。いつの日かの自分のようです。
どうにかなるだなんて思ってる。自分には分かる。心を閉ざして引き込もっていた時期が長くて、人と心から触れあう困難を思い知ったのは、この鎮守府に着任してからでした。
先行した知識だけだと、致命的な齟齬を生む。
あなたの『欠陥』だ。
ぷらずまさんはあなたを必ず倒す。
あなたを倒して、中枢棲姫勢力の、偉大なる兵士達の消滅という祝福をもってして、人間となる。
確定していた。この鎮守府が定めた全員生還の定義。この鎮守府(闇)が各々の戦う意味を果たしたことにより、あなたを倒す策に昇華したのです。
断じて奇跡ではありません。
運も実力の内。誰にだって幸運:チャンスは必ず巡ってくるのです。それをつかみとるのが実力。つかみ取れたのは対深海棲艦海軍の実力です。然るに現状況は断じて奇跡などではない。
なるべくしてなった運命。
ここから先は個人的な想となりますが。
ホントにこっぱずかしくてわざわざ口に出すのは躊躇われますし、不謹慎でもありますが、プレイヤーからのあなたのこの戦争ゲームへの批評としてお受け取りください。
自分はこの海で様々な景色を見ました。
色々なモノを失い、手に入れてきた。
自分なりに、たくさん集めました。
その全てが、今は愛しく思える宝物です。
さあ、
この海の全ては解き明かされましたよ。
自分にはもう、
海の傷痕、あなたが、
ただの人間にしか見えません。
だから、もう――――
終わりに出来る。
では、あの日からの延長戦、
世紀をまたいだこの戦争に、
決着をつけましょうか。
艦の兵士が『艦隊これくしょん』の呪いから解き放たれ、未来永劫、普通の人間となる新たなる世界へと。
最後に自分から、あなたへ。
プレイヤーらしくクリアを以てして、あなたの製作したこの戦争ゲームへのお礼を申し上げます。
素晴らしい出会いの数々をありがとう。
ここまで読んでくれてありがとう。
↓『ぷらずまさんのいる鎮守府(闇):終結』
【1ワ●:ガオ――――!】
【2ワ●:Fanfare.ぷらずま】
【3ワ●:Fanfare.海の傷痕】
【4ワ●:想題此方:製作秘話】
【5ワ●:Fanfare.此方】
【6ワ●:最後の最後でドジ踏んだのです】
【7ワ●:想題&Fanfare.春雨】
【8ワ●:鎮守府(闇)の皆さんへ】
【9ワ●:Fanfare.当局&仕官妖精】
【最終ワ●:想題ぷらずま:戦争終結】
このSSへのコメント