2018-05-09 00:01:55 更新

概要

鹿島さんの頼みとあって提督が会った女の子は彼氏持ちの動画配信者。情事目撃、痴話喧嘩仲裁、恋人いない歴=年齢の提督と鹿島さんが現代若者の恋愛に振り回されるLove&Businessな戦後日常編です。


前書き


※キャラ崩壊&にわか注意です。


・ぷらずまさん
被験者No.3、深海棲艦の壊-ギミックを強引にねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた電ちゃん。なお、この物語ではほとんどぷらずまさんと電ちゃんを足して割った電さん。

・わるさめちゃん
被験者No.2、深海棲艦の壊-ギミックを強引にねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた春雨ちゃん。

・瑞穂ちゃん
被験者No.1、深海棲艦の壊-ギミックをねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた瑞穂さん。


・神風さん
提督が約束をすっぽかしたために剣鬼と化した神風ちゃん。今はなんやかんやで和解して丸くなってる。やってるソシャゲはFGO。

・悪い島風ちゃん
島風ちゃんの姿をした戦後復興の役割を持った妖精さん。

・明石君
明石さんのお弟子。

・陽炎ちゃん
今の陽炎の前に陽炎やっていたお人。前世代の陽炎さん。

・元ヴェールヌイさん(北方提督)
今の響の前々世代に響やっていたお人。
北国の鎮守府の提督さん。

・海の傷痕
本編のほうで艦隊これくしょんの運営管理をしていた戦争妖精此方&当局の仮称。



※やりたい放題なので海のような心をお持ちの方のみお進みくださいまし。


【1ワ●:仲良くなるための訓練 2】



提督「……お帰りなさい。何回目の大破か分かりますか」



神風「ここ3日で64回目の大破撤退です……」



提督「予想以上に連携が上手く取れませんねー……」



グラーフ「アトミラル、艦隊の士気がもはやないも同然だ」



グラーフ「あのお花畑の前で体操座りをしている彼等を見てくれ……死んでいると錯覚するほど生気がないだろう……?」



提督・神風・グラーフ「……」



電「……ぽちっ」ミュージックオン



電「引っこ抜かれてーあなただけについて行くー……♪」ハイライトオフ



電「今日も運ぶー」



サラトガ「戦うー」ハイライトオフ



ビスマルク「被弾するー」ハイライトオフ



ろー「そして大破するー……♪」ハイライトオフ



電「でーも、私達ー……」ジーッ



一同「あなたに従い尽くしますぅー……♪」ハイライトオフ


アア、アア、アノソラニ、コイトカシナガラー




提督「切なすぎる……!」



神風「あのろーちゃんも参っちゃってるかあ……」



神風「みんな! なにかアドバイスがあれば遠慮なくいってください! 次こそは完璧な指示を出してみせます!」



電「……ぽちっ」ミュージックオン&ダンシング



電「いなずまミンは短射程♪」フリフリ



ビスマルク「びすまるミンは長射程♪」フリフリ



ろー「ろーピクミンは溺れない♪」フリフリ



サラトガ「さらとがミンはフライハイ♪」フリフリ



一同「個性がイロイロ生きているよー♪」ハイライトオフ



提督「だそうです……神さん、個性はイロイロ咲かせてあげましょう……」



神風「そうは思うんですけど上手く行かなくてえええ……」



神風「司令補佐……後生の頼みです……!」



提督「旗艦指示に関して教えられることは教えたので後は実戦あるのみと判断したのですが……これはまずこちら側で鍛えるべきですかね……」



提督「仕方ありませんね。とりあえず教えたことを紙にして渡しますので暗記して覚えてください」



神風「それはもう頭に入っています!」



グラーフ「そういう神風の勤勉さも踏まえて普通に艤装が扱えたのならば旗艦適性の1つでもあるのだがな。周りもやはり刀1本なうえ、常軌を逸した直感戦法に適応するには時間がかかる」



神風「……う、青山司令補佐あ」



提督「覚悟を問います」



神風「もちろんこの命に代えても」



提督「かなり厳しくいきますね」



提督「あなた、ただの使えないゴミです。判断力、技量はもちろん、勇気や度量と履き違えているその蛮勇と無謀は目に余る。香取さんの特訓で本来得ているはずの土台が失われています。かなり辛い思いをしたはずなのに、3歩で忘れる鳥頭なのかと」



神風「……」



提督「そんなあなたが命とかいってもその覚悟を感じられません。ただ安っぽく聞こえるだけの戯れ言にしか聞こえません」



提督「あなたには覚悟が必要です」



提督「かつてのぷらずまさんを越えるまでの覚悟が、です。疑似ロスト空間で決闘演習した時に彼女の想は伝わったはずです。神さんは自分自身と比較してどう思いますか?」



神風「……まだ届かない、と」



提督「その通りです。だからあなたは敗けたのです。さて、このスマホの艦隊これくしょんの秘書官は神さんですが」


タッチ!


神風「きゃあ!」



グラーフ「!?」



神風「止めてください!」


ドガッ!


提督「……痛いですね」



神風「いいいい、今、私のの、胸……」



提督「顔赤くして乙女している場合ではないんです。やはりあなたはまだダメダメです。自分が真面目な場面で意味なくこんな真似をする人だと思っているわけでもないはずです」



神風「それはそうですが!」



提督「『50パターン』」



提督「このタッチシステムが戦闘システムの穴でして、自分と旗艦の神さんが戦闘中に直接的にやり取りが唯一可能な情報となります」



提督「これを利用して指示を出します。そのパターンがざっと『50』です。つまり『その50パターンを伝えるために神風さんの身体に触ります』」



神風「……理屈は分かりましたけど」



神風「触る場所は考慮すべきだと思います! 仮にも私とあなたは異性ですし、私はそういったことに対して潔癖だともいったはずですよね……!」キッ



グラーフ「なるほど、確かに命に代えても、という神風の言葉は戯れ言ではある」



神風「それとこれとは……!」



グラーフ「同じだと思う。なぜならこれは『艦隊の命を預かった提督の指揮としての提案』だからだ。生命に直結するぞ」



グラーフ「必要があるんだ。准将の人柄を把握している今ならば、少なくとも私は真面目に考えて答えるが」



提督「先にいっておきますね。女性、いや、神さんが触れられて過敏に反応する部分であるほど伝達の効果は高い。損傷状態の場合は痛みで感覚が麻痺していくので、指先で触れる程度では伝わりません。頭の次に肩に触れる、といった複数の接触のパターンを組み込むとするのならば、見逃す危険も高くなります」



提督「そして、超感覚を持つあなたにも適していますよ。幸い、自分からも映像を通して現場の様子は見ることができます」



提督「協力を、とはいいませんが、理解は求めますよ。もちろん、拒否するのならどうぞ。ですが自分からはこれ以上効率的な策を思い浮かべることは出来なかったですし、躊躇いはありましたので、提示するのは見送って地道に訓練させていたのです」



提督「あなたが応じるのならば自分は性犯罪者の烙印を覚悟し、この訓練を煮詰めています」



提督「さて神さん、改めて質問しますので、本気で考えてお答えください」



提督「あなたはどこまで捨てられますか?」



神風(昔より容赦のなさが増している気がするわ……)



神風「その訓練は手で触れるだけなのか、という点と、その、言葉には出せませんが、例えば」



提督「まあ、この時点でもう大分あれなので遠慮なしでハッキリいっときますね」



提督「必要さえあればもちろん×××から×××まで、更に必要があるのならそこから更に×××や××まで」



神風・グラーフ「」



神風「お嫁に行けないじゃないですかあっ!」



提督「かったるいですね……もともと自分の難易度は最難関といったはずですし、あなたもスカウトアピールの際にすべてを投げ打つ覚悟を皆に求めたでしょう? 故の提案に過ぎません」



提督「嫌ならノーといえばいいのです。時間はかかるかもしれませんが他の方法を考えてみますよ。なのでいちいち本題とは逸脱した点をヒステリックに指摘しないで頂きたい」



神風「……!」



神風「ちょっと電さん! こんなこといってるけど信用できるの!? 本当は私にいやらしいことしたいだけとか……!」



電「ざっけんな! テメーごとき駆逐艦が司令官さんの理性ゲージ吹き飛ばせるのなら色々と話は楽なのです!」



電「テメーはもう1回沈められたいのです!?」



神風「なんで私はキレられてるのかしら!?」



電「テメーに付き合わされて私達が何回大破という死ぬほど痛い目に遭っていると思っているのです!?」



神風「……う」



電「私はこの戦争終結を目指した時、この身を最後の殉職者とするために非道にも手を染めました!」



電「お嫁? 貞操? 私は戦争が終わるためならば、そんなもの嬉々としてゴミのように棄ててやったのです! テメーが廃課金とか今でもなにかの間違いとしか思えないのです!」



電「そこに踏み込めねーやつがこの人の指揮に応えられる訳がないのです! 分かったらぐだぐだいってないでとっととイエスかノーで答えるのです!」



電「嫌なら旗艦は私がやるのです」



電「( ゜д゜)、ペッ」



提督「まあ、触るといってもしょせんスマホのディスプレイの間接的なことですし……あ、これ逆にマニアックな気がしてきた」



提督「そもそもこれ妥協案なんですよね。神さんが旗艦としてしっかりやれば済む話なので、それが出来ない故の提案であり、艦隊を巻き込むからこそ提示した方法に過ぎません」



神風「……、……」



神風「分かりましたよっ! 挑戦させて頂きます!」



提督「了解です。ではグラーフさん、お願いがあります」



グラーフ「なんだ?」



提督「今から神風さんと別室にご案内致します。別部屋からこの機能で触りまくるんで、神さんの『感度が高い箇所』をまとめてください。最も高いと思われる場所とそうでない場所でパターンを組んで行きますので。必要ならば鹿島さんか香取さんに声をかけていただければ協力してもらえるかと」



グラーフ「お安い御用だな。了解した」



神風「徹底的だぁ……もう本当にお嫁に行けないや……」



神風「責任取りなさいよぉ、この鬼ぃぃぃ……」ウルッ



提督「すみません……」



提督「結果は必ず出してみせますから……」






鹿島「香取姉、練巡として呼び出されたと思えばこれまた疑問ですね……私には理解が及びませんのでお力になれるとは思えません」



香取「いやいや、私が教えられることは教えました。ここから先は私では無理ですが、鹿島なら導いてあげられます」



神風「」ピクピク



鹿島「香取姉に無理なことを私がだなんて……」



香取「いいえ、あなたはこの海において私より上にいける練巡の適性者です。確かに教え子の結果でいえば私のほうが数値的には勝りますが、こう見えても私はかなりの欠陥持ちですからね」



香取「鹿島の提督さんを練巡にしたかのような理屈タイプです。やる気や熱意のある兵士はたくさん見てきましたが、そろそろ私では理解できない高みに行こうとしています」



香取「あなたはそこから上へ兵士の背中を押すことができるはずです。それはあなたがこの鎮守府(闇)で過ごした記録、そしてあなた自身と話して分かりました」



香取「……正直」



香取「戦争終結したのにこの子がここまでがんばる意味を全く理解できないので。ここから先は想の羽で飛ぶ境地なのでしょう。なので神風さんにつく練巡としては私より鹿島のほうが適任です」



鹿島「いや、私だって……」



香取「不出来さ故にサンドバッグになる気持ち分かるわね? 私には全く分かりません」



鹿島「そ、それはまあ……ですけど、酷い言い方しますね……そういうところ確かに提督さんと似てます……」



香取「ごめんなさいね。でもここはズバッといったほうが伝わるので♪」



香取「軍刀の扱い方ならお力になれるので、鹿島の判断で必要だと思ったら遠慮なく声をかけてくださいね。それでは♪」


コツコツ ガチャ



神風「」ピクピク



鹿島「とりあえず提督さんに休憩の連絡をしますね……あ、すぐに連絡きました。10分ですがお茶を淹れますので休憩しましょう」



神風「オカマイナク」ハイライトオフ



鹿島「え、ええと、戦争も終わったのに、なぜそこまで努力するんですか? 確かに疑似ロスト空間が写したあなたの歴史から提督さんに追い付きたい気持ちは分かりましたが……結末は迎えられたはずです」



鹿島「なのに、まだ自分を削って嫌なことまでやって」



鹿島「……提督さんだって望んでいるわけではなく、きっとすっぽかした約束の埋め合わせにあなたを旗艦にしたはずでその理由はでっちあげです。だって正直に申し上げますと、あなたに旗艦適性は」



鹿島「……ありません」



鹿島「ご自分でもお分かりですよね。旗艦として必要なのは周囲の戦況をよく観察して迅速かつ正しい判断を下すこと。ですがあなたは海に出る度に自分のことで精一杯で、深海棲艦1つを倒すのに全神経を傾けなければならないのですから」



鹿島「……応援はしたいです。海に出て生死をかける以上、生きて帰らせてあげたいですから」



鹿島「その結果、私は死神と呼ばれた始末です。おまけに私は海から逃げました。なおも留まり続けたあなたに指導出来ることなんてあるのでしょうか、と。特に心の分野ではあなたに教えを乞う立場だと思っています」



鹿島「今の神風さんの根底を形成したのは……っと、すみません」



神風「……いいですよ。お世話になる身です。お話しましょう」



神風「信じられないような笑い話ですけどね」



神風「私が人生で初めて通った学校の名は対深海棲艦海軍のアカデミーです」



鹿島「……はい」



神風「父子家庭で育ちましたが、父がギャンブル狂でして。よくある駆逐適性者の劣悪環境です。恐らくはその中でも特殊ケースだと思います。小さな頃から色々な賭場に連れ回されました」



鹿島「日本だとパチンコとかですか? 最近は駐車場に子供を預ける施設が併設されているところもありますね。それとええと、すみません、フィクションのギャンブル漫画の知識くらいです」



神風「いいえ、そんな可愛いレートではありませんし、主に非合法のところですね」



鹿島「さすがによく知らないですね……都市伝説の類のようなものだと思ってましたが、実在するんですね……」



神風「まあ、父は大学生の時に泥沼にはまったそうですね。先輩から裏に招待されて大勝ちして大金を手にしたそうですが、その賭場は非合法ですので、勝ち逃げはさせてくれず」



神風「学校に来たらしいです。毎日のようにまた遊びに来いよーってな感じで。それで負けがかさんで借金までしてって流れみたいです」



神風「とうとう母も愛想を尽かして、私を残して去りました。そして父と私は逃避行の日々を始めましたね……幼い私なんかどうして連れていっていたのか。それは次第に気づきました」



神風「チップ代わりです」



鹿島「」



神風「非合法の場所では賭けるモノに価値を見いだしてもらえたら、それをテーブルに乗せることは出来ることも多々ありました」



神風「クスリ臭くて、タバコの臭いが染み付いて、イカサマの横行するような勝てば正義の世界です。勝っても負けるまでやらされるパターンもありますけどね。もちろん紹介があろうがなかろうが外様なんて基本的に完全な餌ですよ。だから私は売り飛ばされました。その時は私がちょくちょく父からくすねていた金をまとめて出して挑戦したギャンブルに勝つことでなんとか我が身を守りましたが」



鹿島「」



鹿島「」






鹿島「」



神風「……ま、ここからは似たような話なので飛ばしますが、色々あって日本へ戻って来たんです。日本語はつたなかったですが、やはり母国語なお陰もあり、すぐに話せるようにはなりました。読み書きもある程度は」



神風「父が賭場から足を洗おうと決めた故の帰国でしたね」



鹿島「安心な流れに……なるほど、それで普通の生活に戻りつつ健康診断を適性施設で受けた時に適性検査を勧められて?」



神風「いや、その日に父はグランドオープンしたパチンコ店に行くからあそこにいろって」



鹿島「足を洗うはずが、すぐに踏み込みましたね……」



神風「その時の適性施設にですね、先代の丁准将がいたんですよ。そして知っての通り、私には神風の適性が出まして」



鹿島「なるほど、丁准将ともなればあなたのような子を保護可能な力はありますね。適性が出たのなら尚更そうするはずです」



神風「負けて帰ってきた私の父がその話を聞いてですね」



鹿島「まさか……」



神風「娘が欲しければ賭けをしよう、と丁准将に持ちかけました。そして私はこの身を売り飛ばされて、そのままアカデミーへぶちこまれました。私は戦争なんて嫌だ、といいましたが、あのジジイは笑いながら戦利品に拒否権なぞないのである、とね。そこで始めて学校というところに通いましたね」



鹿島「先代丁准将は一体なにをなされているんですか!?」



神風「そういうやつですよあの男は……だから嫌いでした。司令官としては優秀だと認めていますけども」



神風「ちなみに春風と旗風は私の卒業と入れ代わりでアカデミーに入ってきましたね。直接会って話したのは丁准将の鎮守府です」



神風「私に神風の適性が出たのは幼少の頃から父や周りで見てきた腐った大人達を反面教師にした故だと思います」



鹿島(……もしかして、子供の頃からのその壮絶なギャンブル観察経験が彼女の鋭い感覚の根元なのでしょうか……?)



神風「訓練をしながら、空白を埋めるために私は本を読み漁りました。毎日のように私の歳の頃なら誰でも知っているような知識を詰め込んでいましたね。そうして私はどんどん真面目な委員長気質へと」



神風「卒業する頃には立派な神風ちゃんです。適性データの純100%の私は私の理想とする女の子でしたから嬉しかったです」



神風「そして丁鎮守府であのくっそうっとうしいジジイにからかわれながら訓練に励み、その1年後に」



神風「青山司令補佐が着任しました。丁准将が内陸の情報課からヘッドハンティングしてきたみたいですね」



神風「すごく海に熱心で仕事に真面目だったのは伝わりました。みんなはつまらない人だとかなに考えているのか分からないといっていましたけど」



神風「私にはなんだかこう解釈できたんですよね」



神風「その真面目の色は私と同じな気がしましたから」



神風「『ここ以外に居場所がないから必死』って」



神風「ですが過去の経験上、男という生き物は苦手です。頭の中ではくだらないことばかり考えているやつらしか見てきませんでしたから。異性間に関して私が潔癖気味な理由ですね」



神風「だから別に親しくなんかしませんでした」



神風「でも何気ないことで」



神風「私は無意識に勇気を出していたんですよね。そこからは鹿島さんが見た私の歴史です」



神風「あの日のきっかけから、あの人ならって思えましたけど、結果は知っての通り、ダメダメなまま戦争終結しました」



神風「まあ、あの日に適性施設で適性が出たのは幸運でした。きっと神風を知らない私のままじゃ、こんな気持ちとは出会わなかったと思うんです」



神風「ただつけ加えると……」



神風「初めてだったんですよね」



神風「男の人、好きになったのって」



神風「今もその色はよく分かんないままで」



神風「分かんないけど」



神風「けど」



神風「終わってからもらえたあの人の言葉でも」



神風「なんか今、すごく充実してて」



神風「そんなよく分かんない力で海にしがみつく毎日です」



神風「あはは……」



神風「ごめんなさい。私でも本当によく分からなくって」



鹿島「……ふわ」



鹿島(……鏡見たら分かると思う、というのは止めておきますか)



鹿島「でも賭博はお嫌いではないのですか? 戦場なんて正しく命をベッドするようなものですよ?」



神風「そうですね。個人的に人間とこの身を賭けて勝負するよりも、深海棲艦は怖かったです。人間のほうが残酷ですが、非ではないんです。あの冷たく燃える炎の心は人間では無理」



神風「だから、自分でも驚いていますよ。そんなのを相手にしてなおも」



神風「『命を預けたいと思える程の男性の司令官』」



神風「実は私は間に合っていたのかもしれません」



神風「神風に出会えたことで」



神風「私はたくさんプレゼントをもらえた」



神風「私は神風に」



神風「すごく感謝しています!」



鹿島「……」



鹿島(力になってあげたいなあ……)



鹿島(……神風さんの好きって、多分、尊敬とか恋とか理想とか色々複雑に混じりあって、それ故に訓練堪えて来られたわけですよね。その想いが根元なら……)



鹿島(提督さんに頼んでデートの1つでもセッティングしたら更に想いは燃え上がりますかねっ!)



鹿島「うふふ♪」



鹿島(……え、いや、むしろ満足しちゃうことで冷めてしまうこともあるのかな? うーん、好きな男性と過ごす日々って……)



鹿島「……あれ?」



鹿島「……恋?」










鹿島(この時私に電流走る――――!)







鹿島(……恋ってそもそもっ!)



鹿島(私、恋とかっ)



鹿島(したことありませんっ……!)



鹿島(ロスト空間が想いに呼応するとはいえ、恋心を利用して強さに繋げるとかどうやるんですか……?)



鹿島(……いや私、身体は21でも、実年齢ではアラサーなのに)



鹿島(そういえば初恋もまだだったんだ――――!)



神風「……んっ」ビクッ



神風「あいつ、唐突に再開しましたね……!」



鹿島「神風師匠! お伺いしてもよろしいでしょうか!」



神風「はい? し、師匠……?」



鹿島「お、お好きな男性に触れられるというのはむしろ嬉しいことなのではないでしょうかっ!」



鹿島「二人きりだからいいますが」



鹿島「わ、私はお好きな殿方を妄想して今の状況を想像してみてもよく分かりませんが、なぜだか触ってもらえるのはとても嬉しく思えるような気がぼんやりとするんですっ(混乱」



鹿島「確かに状況はマニアックだと思いますが、そういう風に愛し合っていると思えば今の状況は心の有り様でむしろ楽しむことも(錯乱」



神風「」






神風「っあ……ひんっ」





青葉「グラーフさんどいてください」



グラーフ「貴様だけは絶対に断る。部屋に帰れ」



青葉「さっきから神風さんの色っぽい喘ぎ声が聞こえてくるんです! 一体なにしてるのかはさすがの青葉でも聞きませんけど、静かにしてくださいよ!」



リシュリュー「グラーフ、まさか神風が男を連れ込んでいるのかしら?」



グラーフ「いや、他にいるのは香取が出ていったから鹿島だ。私は見張りをしている」



リシュリュー「まーた変な訓練やっているわけね……」



グラーフ「察しが良くて助かる。迷惑をかけて申し訳ないが、中を覗くのは勘弁してやってくれないか。貴様らもその、なんだ、痴態を見られるのは嫌だろう?」



青葉「本当、何の訓練ですか……?」



グラーフ「下手に黙って騒ぎが大きくなるのもごめんだし、口止めされている訳ではないから教えてもいい。タッチシステムがあるだろう。それを利用した情報伝達を作戦に組み込むために神風の感度の確認をしている最中だ」



青葉「さすが准将、他の提督には出来ないことを平然とやってのけるそこに青葉は痺れる憧れます(白目」



リシュリュー「あ、そうだ。私、准将とお話したかったのよね。執務室のほうにいるのかしら?」



グラーフ「ああ、執務室にいるはずだ」



リシュリュー「グラーフあなた、帽子取って愛想ある顔したほうが可愛いと思うわよ?」



グラーフ「脈絡なく貴様はなにをいっている……」






タッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチ



提督「指が疲れてきた」



阿武隈「提督さーん、これ表で郵便員さんから提督さん宛の手紙預かったんで届けに来ましたー……ってスマホいじってどうしたんです? ゲームにハマりました?」キラキラ



提督「まあ、ゲーム、ですかね。画面にいる美少女の身体にタッチするだけの遊びですが」



阿武隈「どうしました? ガチな感じで頭ぶつけましたか?」



提督「最もつつかれて反応するのは、うなじと内腿の付け根、ですか」



阿武隈「提督さんホントに何のゲームやっているんですかあ!」



提督「お気になさらず」


コンコン


提督「どうぞー、あ、リシュリューさん」



リシュリュー「ボンジュール♪」



提督「こんにちは。自分になにか用が?」



リシュリュー「これ、フランスのAmiralからあなたへの親書です♪ あ、私が預かっただけの個人的なモノですね」



提督「仏の対深海棲艦海軍のAmiralというと」



提督「大将殿、ですよね……?」



阿武隈「これまたすごい人から……」



提督「その時は海の傷痕の大本営襲撃の後に拉致られた研究部でお会いしましたね」



リシュリュー「そう。あなたに興味というか、Amiralからの個人的なものです。それと、私が持参してきた当時は極秘扱いだった資料をあなたに引き渡しますね……」



リシュリュー「ああ、一応私は日本に籍を置いているので余計なことは私の口から軍のほうには伝えておりません」



リシュリュー「……はあ」



阿武隈「どうしました?」



リシュリュー「ご結婚なされたらどうですか?」



提督「突然なにを」



リシュリュー「お言葉ですけど、もう少し立場を理解したほうがいいかと。あなたは海の傷痕を倒して世界を救うだけに留まらず、ロスト空間で想力を解明、活用を行い、かつ廃の領域にいる唯一の提督です。目をつけている人が多いですから。独身というだけでつけこまれますよ」



リシュリュー「かくいう私も隙あらばこっちの娘と見合わせてくれ、とかいわれましたし。あなただけでなく、丙少将乙中将もです。もちろん政治的な理由も含みます」



提督「上手くやりますよ。ところでこの資料」



提督「最初期のですか?」



リシュリュー「そうです。悪い島風さんのメモリーは見ましたから、その中で当たりのものだけを。他にも欲しければどうぞ今夜にでもリシュリューのお部屋を訪ねてくださって?」



提督「……、……」



提督「…………、…………」



阿武隈「すみません……こういう提督でして……」



リシュリュー「噂通りねえ……」



提督「日本軍の記録と違いますねえ……」



提督「ここの島風さんが第2適性者、悪い島風さん説濃厚……あのメモリーの裏付けですね。どうやら悪い島風さんのメモリーには嘘なしか」



リシュリュー「当時の日本にはアメリカの影響力が強くて当時の資料は不都合的なものは差し替えられているのかも」



提督「まあ、資料を拝見する限りそうですね。北方の奪還作戦といい、妙に非効率な場面での捨て艦戦法をしていたのは、せざるを得ない状況だったから、ですかね。日本兵を犠牲に深海棲艦のデータを集めさせ、それを基に自国の艦の兵士は錬度をあげていたってところですかね……」



リシュリュー「当時のフランス海兵が記録として持ち帰ったその時期のモノが保管されていましたので、ちぐはぐで闇だらけの最初期と悪い島風さんに対しての整合性のご助力となれば」



提督「ええ、ありがとうございます」



提督「正直、悪い島風さんは尊敬の人物ではありますから、出来ればこの手で仕留めたくはないんですよね……」



提督「……北方の奪還作戦の後すぐに第2の島風適性者が現れたとこちらの記録にもありますから」



提督「それも悪い島風さんだとはなんとなく予想しておりましたが」



阿武隈「最初期、ですか」



提督「メモリーの2-1は見ておくべきです。最初期の戦争というものがよくわかりますよ。今のあなた達がどれだけ過去の恩恵を得ていたのかも再認識できるかと」



提督「悪い島風さんは北方奪還作戦の後、マリアナ海域へと駆り出されております。日米連合艦隊と悪い島風さん、清霜、大鳳さんの3名で深海棲艦105体と激戦を繰り広げている映像です」



提督「戦死者は954名、生還したのはたったの96名です」



阿武隈「あの頃となると最初期の深海棲艦が人間にも過敏に反応するということで、数の少ない艦の娘をサポートするため軍艦が囮になっていた頃ですよね。実物の零戦とB29が共に空を舞って共闘していたとかって話を聞いたことがありますっ」



提督「ええ。日米と深海棲艦の戦いですが、マリアナ海戦再び、ですからねー。当時の軍艦大鳳の乗組員もまだ生きていた人がいた時代です。その頃に大鳳の適性者が現れたということもあり、大鳳さんに支給された軍服の背中には彼等が縫った大鳳の刺繍があって、皆の仇を、と出撃前日に熱く鼓舞されたそうですよ」



リシュリュー「下手な戦争映画より面白かったわ。どう見ても本物、よねえ。あの零戦とかヘルキャットは……」



提督「本来ならあんな映像を取るのに何十億とかかるはずなのに、製作費0円というのが想力の恐ろしいところですよ……」



阿武隈「想力に人件費はかからないですしね……」



提督「神様はお金を取らないのです。故に施し」



提督「実質、奴隷ですけどね……」



リシュリュー「ハッピーエンドじゃないから嫌なら見ない方がいいとは思うわ。目を背けたくなる光景の連続だから。しょっぱなから晴嵐のプロペラが整備員の首を巻き込むグロ映像だし」



リシュリュー「戦争の傷が癒えていないにも関わらず、日本兵と米兵が深海棲艦を倒すために手を取り合うのは胸に来るものがあったわ。私達、案外捨てたもんじゃないのかもってね」



提督「ですねえ……未知の侵略者からこの星を守るためになら、人類は一丸となれるのかもしれませんね。少なくとも現場では」



阿武隈「おっと! ネタバレはそこまでにしてくださいねっ! みなを誘って大迫力のシアター設備で観賞してきます!」



提督「さて自分も神風さんの次の訓練に向かいますかね」



リシュリュー「ならリシュリューは噂の間宮さんのお手前を拝見しに♪」






菊月「せい!」



神風「そんな簡単に砲弾逸らせるとか……」



菊月「教えてもらわなかったんだろうな。機銃ならともかく砲弾を構えて真正面から受け流すとか無理な。体ごと刀が壊れるのがオチだ」



雪風「次、行きまーす」



菊月「こうやって回避しながら、受け流す感じで」


クルッ


菊月「まあ、これは大道芸に過ぎんが」


ボキッ



菊月「痛って! 肩外れた……」



神風「……鹿島さん、どゆことですか?」



鹿島「刀で受け流す余裕あるってことは体捌きだけで避けることが出来たってことですね。被弾前提で刀折ってまでもダメコンするなら話は別ですが、そもそもの原因が航行ミスなので実戦でやったら怒られますよー」



鹿島「確かに軍刀にも色々種類はありますし、受け流すために調整された軍刀もあります。それでも1回受けたらほぼ折れますし、下手すると全身の骨が砕けますから……」



菊月「そうそう。やるならもっと丈夫な軍刀でやるべき蛮勇だ」



鹿島「神風さんには要らない技術です。避ける。それ1つです。それがダメなら大破します。すごくシンプルですし」



菊月「早く成長しろ。お前の修行に必要な高速修復材、望月達の遠征で間に合わなくて司令官が自腹切ってくれているんだぞ?」



天津風「うーん、神風さんのために道を作ってあげるんだから、そこの本番だけ頑張ればいいんだし、最後の防衛戦よりは難易度も低いはずなのにね……」



提督「その通り。しかし、理想の完成形まで時間はかかりますね。それは間に合わないと判断。神風さんと電さんもマシになりましたが、予想よりも足並みが揃わず。よってプランBに移行です」



天津風「あー……単純に数を増やすのよね? 私が第2艦隊の旗艦にシフトするやつ。そっちのほうを練習したほうが良いと思う。最終海域、連合艦隊で出撃だし」



島風「私はどっちだっけ」



天津風「あなたねえ……私と同じよ。私と島風、三日月にビスマルクさん、プリンツさん」



提督「もう1つは神風さん、長月さん、菊月さん、ろーちゃん、サラトガさん、グラーフさん。ここに長月さんか菊月さんは護衛艦としての性能によっては変更するかも」



提督「電さんにはちょっと後でお話があります。ちょっと自分に手伝って欲しいことがありまして」



提督「神風さんのその感知性能の本領を真に高めるのは」



提督「夜戦です。これなら深海棲艦の空母の性能は落ちますし、あなたの場合は五感に電探性能あります。これは光らない探照灯の性能になるので闇討ち成功の可能性は上がります」



提督「神風さんは損傷なしで特攻対象の懐に入りさえすれば、刀の一振りで装甲耐久関係なく即死の一撃を震えますので」



提督「夜戦部隊に移行しますか。グラーフさんも夜で機能する空母ですし」



提督「とのことなので、サラトガさん」



サラトガ「御意♪」



サラトガ「といってみたかったです!」



神風「なにこのサラトガさんすごい可愛い」



提督「Mk.IIMod.2に」



提督「F6F-3Nの夜間戦闘機型艦載機も積みましょう」



提督「菊月さん、探照灯を装備です」



菊月「神風のために照らせばいいんだな?」



提督「護衛艦というより囮艦になりますけど頼めますか?」



菊月「ああ。苦手ではない。任せてくれ」



提督「お願いします。練習を一通り終えたら明石君のところから借りて演習してみましょう」



提督「太陽が出ている間は第2艦隊が主力になりますね。当然ではあることなのですが、頑張れば頑張るほどありがたいです。夜になれば夜戦仕様型神風特攻部隊が深海棲艦を凪ぎ払うので」



天津風「完全なる闇討ち特化の色モノ艦隊ね……」



提督「さて神風さん、試してみましょうか」



提督「香取さんからいわれたことを今一度。速く、そして、最大限、刀を抜かないこと」



提督「……それと武士の心を」



提督「命よりも名誉を重んじましょう」



鹿島「……む、それは疑似ロスト空間のために?」



提督「はい。ジャンルは問わず速度関連においては魂を燃やした方々がたくさんおられます」



提督「先のぷらずまさんとの戦いで呼応して速度があがりましたね。あれがあなたの風です。もっともっと速く、です」



神風「燃えてきました」



提督「神風さん、丙乙甲の艦隊は懐に入られたくらいで切れるとは思わないように。特に甲の艦隊は武闘派ヤクザの通り名なので……」



天津風「噂では聞いてるわね。サラトガさん、本当ですか?」



サラトガ「ええと、木曾さん大井さんと北上さんは無茶していたかと。深海棲艦のお口の中に魚雷をよく突っ込んで自分ごといってました。今を生きているのが不思議なお三方ですね」



天津風「」



サラトガ「でも艦の兵士なら手加減してくれると思いますので大丈夫です」



サラトガ「ところで准将さん」



提督「はい」



サラトガ「神風さんの感覚探知のことなのですが、素晴らしい武器なのは分かりますが、とっても合わせ辛いので、サラにも理屈で教えて頂けませんか?」



鹿島「あ、そこ私も聞いてみたいです。一言でいえば電探とのことですが」



提督「ああ、そのほうがイメージしやすいかと思いまして。感覚による気配察知。それだけに留まらず想探知、悪い島風さんが行っている想の解釈に近いですね」



提督「彼女いわく気配には色があるそうです。イメージ的には皆さんと同じく赤が怒り、緑が癒し、のような」



提督「まあ、これが『浄化解体されてなお出来た』とのことなので、想の探知は」



提督「まだ人類が解き明かしていないだけで、我々にも備わる機能の1つだと思われますね」



提督「要は神さんは戦況とその感情色を頼りに突撃タイミングを決定しています。なので場合によっては例え艦載機の嵐の中でも、目標の感情色彩的に隙を見出だすと、突撃。もちろん勘の類なので、皆さんは『なんで?』となります」



提督「そこが皆さんの連携が崩れる要因」



神風「そうそう。言葉にしづらかったですが、そうなんです。深海棲艦は追い詰めるほどその色が単色的に赤くなっていく感じで、艦の兵士は強ければ強いほどその逆で青く冷静になっていくような」



鹿島「要は艦隊は戦況の中における心理状態をコントロールする。制空権の度合い、損傷状態まで考慮していくとなると、これはちょっと連携における不備は解消が困難ですね……」



サラトガ「ですね。でもそんな時こそプラス的思考をしますと、わるさめさんとか欲しいです」



提督「……ん?」



提督「……、……」



提督「サラトガさん、ナイスです」



サラトガ「サラで構いません♪」



提督「サラさんナイスです」



提督「そっか。煽り性能による絡み手、そういう手もありますね。参考になります」



提督「何か考えておきますよ」



提督「さて神さん」



提督「あなたは本番タイプです。戦場での想いの矛先は速く、です。このファンタジー空間は少年誌のような奇跡を贈ってくれるでしょう」


神風「はい!」



提督「速く。そに訓練をしてきたあなたの初志を貫徹し」



提督「最遅こそ最速」



提督「その尖った速度がこの空間では物理法則を越えて」



提督「想いの速度が」










提督「0秒を越えた時」






提督「あなたはぷらずまさんを越えられるかと」



【2ワ●:E-1】



比叡「瑞鳳さんに、朧さん時雨さん……どうしました?」



朧「私にもよく分からなくて!」



時雨「身体が勝手に動いて攻撃が全て……」



瑞鳳「潜水艦を狙ってしまいます!」



飛龍「なんじゃそりゃ。対潜装備なんて積んでないのにかー」



榛名「でも瑞鳳さんは最初の航空戦には参加出来ましたし、対空には朧さんと曙さんも……これは一体」



瑞鳳「仕様っぽいし仕方ないですね! 飛龍さんと榛名さーん! ロ級後期型×3は開幕の航空戦で沈めましたから、お二人でリ級、ヲ級をお願いします。私と朧ちゃんと曙ちゃんで旗艦のカ級を沈めますね!」



飛龍・榛名「了解!」


……………


……………


……………


朧「ごめんなさい……夜戦で魚雷に被弾して大破して」



丙少将「気にするなよ。俺が残りかすダメで沈められるからと欲を出して夜戦突入したのが原因だ。夜の潜水艦は相手しないほうがいいな。まるで当たらねえ。対潜積んで昼の内に刺す方向だな」



瑞鳳「ええと、私と朧さんと時雨さん。艦種でいえば軽空母と駆逐艦が強制行動を強いられましたね」



悪い島風【(●´ڡ`●)】



丙少将「うぜえ……」



陽炎ちゃん「あー、ほんとそいつ見ると殺意が湧くわね」



悪い島風【お詫びに解析行動を許してあげているじゃないですかー。まあ、かなり意地悪したけど、ボスマス以外は割られちゃったかなー。ま、ボスマスだけは割らせないですけどね!】



陽炎ちゃん「……とりあえず、この海域の敵艦隊の編成パターンは割り出したし、羅針盤は読み通り一定の索的値がないと逸れるし、艦種制限もある」



陽炎ちゃん「戦艦と空母が入っていると、今のハズレマスに逸れる。ただ航戦は複数じゃなければ大丈夫みたい。E-2まで調べたからデータまとめてサイトにあげておいたけど」



黒潮「丙はん、貸してもらえる航戦は友軍枠の明石君のところの山城さんしかおらへんわ。その山城さんも今日は扶桑さんとお出かけ中や」



丙少将「帰ってきたらで問題ねえ」



瑞鳳「あ、その必要もなさそうですよ。見るからにやる気満々の集団が来ました」






乙中将「丙さんのお陰で追加で情報を入手した。ここは僕らにbossの撃破を任せてくれて構わないよ」



丙少将「そういえば最近ずっと考え事していましたね」



乙中将「ああ。ちょっとこのゲーム、思うところが出来てね。予定していたよりガチで行こうと思う」



乙中将「悪い島風ちゃん、これを」


ポイッ


悪い島風【!?】



丙少将「ちょ、ちょっと乙さん! このクソゲーに身銭でそんな大金放り込むとかガチ過ぎません!? 」



乙中将「クソゲーじゃないと僕の勘が告げている。この艦隊これくしょんは僕らが損害被っている部分を抜いて単純にゲームとして見てみるとかなり出来が良い。流行りそう」



乙中将「むしろ面白いゲームだと思うからね」



乙中将「青ちゃんの目的も大体読めた。おっかしいとは思ってたんだよ。悪い島風さんが現れてやけに冷静でさ。敵視していないあの感じ、不自然だったからね」



乙中将「だってこんな性格で信用できないはずだ。それに加えて疑似ロスト空間なんて世間に広まれば、大事どころじゃすまない。というかこれだけ派手にやればバレるはずだよ。僕らの行動なんて監視されているはずだからね」



乙中将「これ、まず想力である可能性が高いね」



乙中将「雷ちゃんの新興宗教がクリーンなイメージを保っているのと同じようなことをされていると思う」



丙少将「……、……」



丙少将「おい、悪い島風」



悪い島風【邪魔が入らないようにフォローしてるだけー】



乙中将「……ともかく、突破するための編成も装備も完璧だ」



乙中将「旗艦龍驤さん、伊勢さん、利根さん、卯月ちゃん、弥生ちゃん、翔鶴さんの編成で行く。全員のスロット増設してそこにタービンや対空砲を装備させておく。制空値も羅針盤もバッチリだ。道中は苦戦するほどではないからね。ボスマスには行ける」



龍驤「伊勢」ギュッ



伊勢「ええ、皆さん鉢巻きを締め直して今一度、入魂を」



卯月「任せろし。潜水艦なら例え姫級でもうーちゃんと弥生の二人が何回でもぶっ壊して着底させてやるぴょん」ギュッ



弥生「うん」ギュッ



利根「そうしてもらえれば吾輩は対水上艦に加勢できるしな」



翔鶴「私と龍驤さん以外は潜水艦に攻撃が吸い込まれますから、制空権の確保はもちろん、夜戦前に少しでも水上艦を削っておく、ですね?」



乙中将「その通り。それじゃ出撃だ」



3



乙中将「よしよーし、陽炎ちゃんの解析データは間違ってなかった。無事にボスマスへは行けたね」



陽炎ちゃん「そのボスマスの編成は見抜けませんでしたけど……」



乙中将「この海域の編成制限からして意地悪な置き方すると、耐久力のある潜水艦、旗艦にはこれまた高耐久を設置するよ」



乙中将「ほら、潜水新棲姫が2列目にいる……」



丙少将「旗艦は、ああ、読み通り面倒臭い」



水母棲姫《イイノヨ……? コッチニキタラア……?》



乙中将「水母棲姫だね。耐久数値は350」



乙中将「夜戦で刺せるし、皆の実力なら昼で終わりもあり得るね」



乙中将「後は皆に任せるしかないけどねー……」



4



卯月「ブランクはあると思ってたんだけど」



潜水新棲姫「……」



卯月「やつは大破ー。うーちゃん、才能に溢れすぎてて困るぴょん」



卯月「つーか、つまらねーな。プログラム通りに身体が動くだけで機械的だし、もっと想力で楽しませて欲しいぴょん。これなら表の世界で戦ったほうがまだ面白いし」



クルッ



水母棲姫「!」



卯月「そのレベルならうーちゃんには当たんねーし。めんどくさくなってきた。龍驤、とっとと前座海域の敵に引導渡せし!」



龍驤「分かってるよー」



龍驤「うちら本当に強くなってるなあ。油断大敵とはいえ、艦隊組むと水母棲姫が取るに足らん敵のようにすら思えるわ」



翔鶴「常に劣勢かつ深海生還無限わきのデスサドンデスの海を越えてしまいますとね……」



伊勢「龍驤さんなんか此方さんとタイマンしてますし」



利根「ま、肩慣らし程度の相手じゃの」


ドンドン


水母棲姫「……!」



弥生「……とう」ドン



伊勢「全てが予定通りですねー」



龍驤「提督が優秀やとスリルないなー。まあ、ええことやけど」



卯月「その辺り、あいつは想像越えた策をいつも用意してるからスリルはあったなー」



弥生「戦いにスリルとか、いらないから。心臓に悪い……」



翔鶴「でもなんか違和感がありますね。水母棲姫ってこんなに弱かったですか? 私達が強くなったとはまた違うような感じが」



利根「といってもS勝利の文字が空に描いてあるぞ?」



翔鶴「……まあ、杞憂に越したことありませんね」



卯月「さて労働も終わったし、帰投して飯食うぴょん!」



【3ワ●:E-1 突破報酬】



龍驤「無事帰投したよー!」



乙中将「ありがとう! お疲れー!」



悪い島風【楽しかったー?】

 


利根「久しぶりに抜錨出来てそれなりに楽しかったぞ」

 

 

悪い島風【なによりでっす。楽しんでもらうことが目的でもありますからね! だから海の傷痕が用意したような死ぬか生きるかの難易度ではないからそこは安心してね】

 

 

悪い島風【あくまでゲームのレクリエーションでっす!】

 

 

卯月「突破報酬はー?」


 

乙中将「突破報酬は勲章×4に試製甲板カタパルト、それとネジ×5に、なんだこのシークレットカード」

 

 

悪い島風【突破報酬の新しい仲間ですー。その排出された新しいカードを差し込めばあそこから現海界します!】

 


丙少将「もしかしてあそこのステージそのために用意したのかよ……」

 

 

乙中将「……、……」

 

パンパカパーン

 

??「提督、お疲れ様です」

 

 

 

 


 

瑞穂「水上機母艦瑞穂、推参致しました。どうぞよろしくお願い申し上げます」

 

 

乙中将・丙少将「……」


 

龍驤「……瑞、穂?」

 

 

伊勢「まさかとは思うけど」

 


卯月「うーちゃん達の瑞穂といえばあいつぴょん……」

 


翔鶴「いやいや、まさか……」

 

 

瑞穂・利根「?」

 

 

2

 

 

わるさめ「事情は聞いたけど」ジーッ

 

 

瑞穂「え、ええと?」

 

 

わるさめ「スイキちゃんの感じはしないかなあ」


 

乙中将「……」

 

 

電「同じくです。最終世代ではなく前世代の瑞穂さんという線はないのです?」

 


大淀「23年前に中部海域で戦死しております。その頃の記憶はあるようでしたので、資料と照合したところ矛盾は見受けられず、あのスイキさんの神経を逆撫でしようとしたこちらの誘導尋問にもひっかかりはありません」

 

 

龍驤「そもそもあの瑞穂なら会った瞬間にぎゃあぎゃあやかましくすると思うんやけど。これは……」

 

 

瑞穂「……ええ、と?」

 

 

龍驤「瑞穂さん」

 

 

瑞穂「丙少将……あ、いえすみません。吉さん」

 

 

大淀「元帥の名字ですね。あの頃の元帥は確か丙将席にいまして、瑞穂さんとも顔見知りなのかな?」

 


瑞穂「そうですね、私はそこで艦娘、艦の兵士として今の元帥さんと過ごして、南方のほうへ異動しました。今の丙少将はお若いのですね」

 

 

丙少将「いや、まあ、若くみられるけどよ。それいったら乙さんとか軍の歴史でも最若年の22歳で乙将席だぜ?」

 

 

瑞穂「それは凄いですね……とても才能に満ち溢れた方なのですね」

 

 

乙中将「才能ねえ……ここだけの話、完全な実力って訳でもないんだよね。その世代の乙中将に推薦された候補が僕の他に一人だったからさ。その人は問題あるとのこと。まあ隣にいる」

 

 

北方提督「私だ。作戦ヘマしたから出世道を外れたよ。窓際提督の通り名もあるよ」

 

 

丙少将「あんたが乙の旗とか誰でも止めますわ。まあ、性質的には乙の旗に分類されるとは思うけどさあ」

 

 

乙中将「そしてそこにいる彼が現丁准将だ。23年前だと先代丁准将は知ってると思う。その席を引き継いだのが彼」

 

 

大淀「フレデリカさんが道を外さなければ、今世代はフレデリカさんが丁の席にいたと思われますね。主に周囲への好感度的な要素で」


 

提督「自分の人間的評価にびびる」

 

 

大淀「ちなみに戦争終結において提督側の最優功績の勲章も持っております」

 

 

瑞穂「それは凄い……なるほど、ふふ」

 

 

瑞穂「私達の積み重ねの美味しいところをかっさらったお方ですか」

 

 

提督「仰る通りで……」

 

 

大淀「後、丁将席の例に違わず変態ですね」

 

 

提督「そんなことはありません。というかさっきから刺があるんですよねえ……」

 

 

提督「そういえば丙少将、聞いた話アカデミーの相性検査では瑞穂さんが1位だったとか」

 

 

丙少将「あー……そだな。日向と伊勢には話したっけか。瑞穂さん欲しかったんだけど、フレデリカのやつが手ごめにしやがったからなー」

 

 

乙中将「案内してあげたらどう?」

 

 

丙少将「もちろん。瑞穂さんエスコート役は俺で構いませんか? その後、ご飯でもご馳走しますよ」

 

 

瑞穂「ありがとうございます。良ければお礼に瑞穂がなにかお作りしてもよろしいしょうか?」ニコ

 

 

丙少将「そりゃ楽しみだ。いやー、これが瑞穂さんだよなあ……俺らが見てきた瑞穂ちゃんとか瑞穂さんの形をしたナニカだったんだよ」

 

 

提督「……」

 

 

丙少将「お前の三点リーダ沈黙怖いんだけど」

 

 

提督「別の案件の考え事してました。すみません」

 

 

丙少将「別の案件? 悪い島風か?」



提督「いえ、若葉さんです」



北方提督「あの子がどうかしたのかい?」



提督「資料を整理していたのですが、興味が出まして」



北方提督「撤退回数のことかい? 若葉は何気にそつなくこなすタイプだよ。何気にあの子、素質性能高いからね」



提督「ですね。敵前逃亡なのですが、そんなこと繰り返していたら打撃のしっぺ返しを受けます。損傷していない敵に背を向けたら、その通りに背中を撃たれるだけですから。現に若葉さんを旗艦にした艦隊メンバーは何回か損傷を受ける羽目になっていますが、そのどれもが致命的とはいえない範囲に抑えるための指示を出せています。戦況を調べて若葉さんの旗艦行動を見てみれば別の見解が出てきまして」



提督「受ける損傷を把握した上で撤退出来るなら撤退している傾向が見受けられます。敵艦隊と遭遇した時から撤退するまで。経過をよく観察すれば『無理な撤退を可能にする艦隊の立ち回り』とも解釈できます」



提督「逃げることで他の人に仕事を押し付けているのもありますから、先入観が出てきますが……」



北方提督「む、そこは気づかなかった。ろくに執務していないのが仇になったか」



提督「してくださいよ……みんな命駆けて海に出るんですから……」



提督「まあ、その前提で若葉さんの旗艦能力を見直してみると理不尽を受けてなお完璧に近いです。指揮系統的に丁将と丙将の器が見て取れますね」



提督「訓練にはアカデミー時代から不真面目ですね。しかし、そつなくこなしている感じからして天賦の才、なのかな。旗艦能力に至ってはかなりの素質を秘めているような」



提督「あの子の扱いの難易度はかなり高いと思いますが……」



北方提督「そういえば三日月から若葉を旗艦で出すと、作戦を練る必要もなくなるから助かるっていっていたっけな。常務の作戦なんか私は丸投げだったし、よく分からないけど」



提督「北方は色々とポテンシャルがもったいないです」



大淀「そういえば若葉さんはまだ提出してないんですよね。少し待ってくれ、と直に頼まれまして」



提督「あー、そういえば……」



乙中将「面白そう。後で僕も見てみよ」



提督「っと、脱線しましたね。すみません」



丙少将「じゃ俺は瑞穂さんを案内してくる」



3

 

 

提督「で、あの人は最終海域突破したら死ぬんですか?」

 

 

悪い島風【さあ】

 

 

乙中将「ごまかしていいところじゃないよ」

 

 

悪い島風【それでも、さあ?】

 

 

一同「……」

 

 

乙中将「……ま、置いておこうか。青ちゃん、前に1度集まって会議したじゃん。ああ、暁ちゃんに僕の家の話をした時の会議、覚えてる?」

 

 

提督「ええ。今回は想力で我々も繋がれているから、資料だけ作って作戦会議はまた様子見してから決めようとのことでしたよね。悪い島風さんに関しては大淀さんのほうから通達しましたし、その追加情報ですかね?」


 

乙中将「丙さんにもね。今の状況、気付いてる?」

 

 

提督「ええ。しかし、打つ手はありませんね。情報が不足し過ぎている」

 

 

乙中将「北方提督さんと大淀さんとわるさめちゃん龍驤さん卯月ちゃんは気づいていないよね?」

 

 

北方提督「む、なにか刺がある言い方だな。私が鈍感みたいな言い方じゃないか」

 

 

乙中将「いや、仕方ないことだと思う」

 

 

龍驤「電の名がその中にないな。区分けからして廃課金以上か? 乙ちゃんも最後は廃だと海の傷痕に認められたっけ」



乙中将「それは置いといて、龍驤さんはさすが」



卯月「想力関係ってことしか分からねーぴょん」



わるさめ「同じくー」



電「あー、悪い島風の装備が関係していそうとは」



乙中将「そう、それ。丙さんも『この鎮守府にみなを召集する』ことで試してみたんだと思う」



乙中将「僕らが今、どんな存在かは知っているよね。英雄と持ち上げられながらも政府の拘束は罪人から自白迫るような感じに近かった。想力関連の情報を全て抜くためにね」


 

乙中将「だからこそ、監視されててもおかしくないんだよ。それに加えてこんな大勢で集まってなにかしてるんだよ?」


 

乙中将「戦後復興妖精やら疑似ロスト空間だなんて僕らの内輪に収めるには手に余るとんでもない大事だ。今は安全性が証明されつつある此方ちゃんよりも、ね」


 

乙中将「僕らが一ヶ所に集まってなにかやってるっていうのに役人一人もそこを追及しない。ましてや戦後復興妖精というか、想力を知ってさえいれば、僕らの日常を知ればどこかで違和感を覚える人もいるはずだ」

 

 

乙中将「これだけ悪い島風ちゃんは好き勝手やってるし、これだけの大所帯だし、どこかから漏れてもおかしくない。どう考えても周りが静か過ぎるんだよねー」

 

 

大淀・龍驤・卯月・わるさめ・北方提督「……あ」

 

 

提督「今までそれに気付いたのは『悪い島風さんが同行していた榛名さんと神風さんと行動を共にした記者のお二人』ですね。このことから悪い島風さんの何らかのテコ入れがないと廃以上を除いて自分から気づくことは出来ない。または、気づいても忘れてしまう可能性もありますね」

 

 

乙中将「なんだろうね」

 

 

乙中将「まるで僕らが世界の中心みたいな」

 

 

乙中将「ご都合展開は」

 

 

提督「Srot2:ご都合主義☆偶然力、かな」

 

 

提督「確信とまでは行きませんが、現状だけを見たのならその射程は超より上、海の傷痕の経過程想砲と同等の世界規模という線も濃いです」

 

 

乙中将「その確信とは行かない理由は、当局がそんな凶悪な装備を持たせるか? ましてやあの子、海の傷痕当局に謀反起こしてる危険分子だし、だよね?」

 

 

龍驤「待ち。ヤバない?」

 

 

卯月「世界はあいつのご都合で動かせるってことで」

 

 

電「世界征服されてるも同然なのです……」

 

 

北方提督・わるさめ「キャハ☆」

 

 

北方提督・わるさめ「かぶったうえーい!」ハイタッチ

 

 

大淀「あなた達仲良いですね……」

 

 

電「……」

 

 

わるさめ「安心したまえ。ぷらずまも親友だ☆」

 

 

電「失せろといいたいのが分からないのです?」

 


わるさめ「うーん、前にも司令官にいったけどさ、悪い島風ちゃん悪いやつじゃないと思うんだー」



悪い島風【ありがとー。私もわるさめちゃんは好きですよ!】



提督「……とにかく具体的な最終海域の作戦会議をのためにもここは各々、考えを巡らしておくべきところですかね……」

 

 

大淀「というか悪い島風さんに聞いてみるのは」

 


わるさめ「あ、どっか行っちゃった。書き置きあるよ。晩飯までには帰ってくるって」

 

 

4

 

 

丙少将「いやー、お酌までしてくれるなんてすみませんね」

 


瑞穂「いえいえ、ささやかなお礼です。途中にお会いした皆さんにご挨拶させて頂いた時にフォローしていただきました。私の後任者の瑞穂さんは皆の興味を集めるお人のようですね」

 


丙少将「まあな」



丙少将「案内しながらごちゃごちゃ喋ってたらいい時間になっちまった」

 

 

提督「間宮亭にいましたか。失礼します」

 

 

丙少将「どした? 電にわるさめと神風も……」

 

 

提督「あの後話し合いまして、少し瑞穂さんとお話を」

 

 

神風「司令補佐、彼女から邪悪な気配がします」


 

わるさめ「父さん妖気を感じます。それと同レベルだゾ☆」

 

 

丙少将「必中性能じゃねえか(震声」

 

 

提督「スイキさんのほうはご存じですよね。当時バグの3名はフレデリカさんのもとにいました。わるさめさんと電さんはお互いがバグだと気付けましたが、お二人とも瑞穂さんだけは分からなかった。それは何故かといえば」

 

 

丙少将「怪談の季節はまだ先だぜ。というか導入からすでに俺の人生で聞いた中でぶっちぎり最恐の怪談なんだが……」

 

 

提督「お二人は深海棲艦の第6感でお互いを感知できたからですね。しかし、被験者No.1の瑞穂さんは手探りゆえにその第6感性能が極めて薄い低級深海棲艦艤装を投入されていたため感知に至らなかった訳です。そして知っての通り当時は」

 

 

丙少将「止めろ……止めてくれ……」

 

 

提督「ぷらずまさんは電さんを、わるさめさんは春雨さんの仮面を完璧に被っておりまして、第6駆や白露型、間宮さん阿武隈さん卯月さん鹿島さんも気づけなかったレベルの」

 

 

提督「猫かぶりが標準装備、なんですよね……」

 

 

電「はわわ、電は怖くなってきたのです……!」ギュッ

 

 

電「あ、強く袖をつかんでしまって皺が……司令官さん、ごめんなさいなのです……」

 

 

春雨「その人は瑞穂さん、なんですよね。司令官っ、あまり人を疑うのは良くないです、はい……」

 

 

丙少将「いい加減にしろ! その話は終わっただろ! ここにいるのは瑞穂さんだ。瑞穂ちゃんなんていねえんだよ!」

 

 

提督「そのご飯は瑞穂さんがお作りになったそうで。まだ手をつけていないとお見受けしました、さあ、神風さん」

 

 

神風「御意……」クンクン

 

 

神風「多分、毒が入ってますね。これを司令官のほうに持っていって調べてもらえば確実です」

 

 

丙少将「瑞穂さん! こいつらになんとかいってやって!」

 

 

瑞穂「はい。では瑞穂からは一言だけ」ニコ

 

 

 

 


 






 

 

 

 

 


――――ガ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――オー

 

 

 


 

 


 

丙少将「そんなウワアアアアアアア!!」

 

 

電・わるさめ「――――」

 

 

瑞穂「なーにがエスコートだっつの! 実家よりここで過ごした日のほうが多いくらいよ! 毒殺してやろうと思って猫かぶりして前世代の瑞穂の情報も駆使したのにねえ!」

 

 

提督「マジか、うわあ……」

 

 

丙少将「茶番で1日潰されたに留まらず暗殺されかけたのかよ! 俺としたことがちくしょう! 中枢棲姫勢力の芸人の系譜に暗殺されかけたの2回目じゃねえか!」

 

 

瑞穂「ざけんじゃないわよ! 准将お前フレデリカさんがいた時、最終決戦前に私があんたにいった約束の言葉をここでいってみなさいよオ!」

 

 

提督「『いっとくわ。私はもう深海棲艦で終わり見えてる。けどさ、善悪問わずにかけがえのない命が未来を奪われて散っていくということを忘れないでよね』」



提督「『生き残るあんたらがね、また私達の墓を掘り起こす真似したら、マジで許さないから』」


 

瑞穂「テメー、1度目は海の傷痕戦で掘り起こして違法建造の素材にした! 即破ったわよね!」

 

 

瑞穂「あろうことか2回目だぞゴルア! また死んだのにまた生き返らせられてまたギャグ要員させられるってなんなのよ!? もうお前から生涯暮らせるレベルの慰謝料ぶんどれるわよね!?」


 

提督「かかってきなさい」

 

 

瑞穂「なぜだか勝てる気がしないわ!」



瑞穂「というか相変わらず過ぎてむしろほっとしちゃう私がいる」

 

 

瑞穂「って! そんな訳あるか馬鹿野郎!」

 

 

瑞穂「ほんとなんなの!? あんたらそんなに瑞穂ちゃんのこと大好きなの!?」

 

 

神風「これが違法建造(バグ)の精神影響ですか。確かに瑞穂さんの形をしたナニカですね……」

 

 

神風「あの、これ人間社会崩壊クラスの『Rank:SSS』ですよね。こんな馬鹿っぽいやつに世界はビビってたんですか……?」

 

 

提督「神さんの気持ちは分かります。でも、認識に誤解はあったんですよ。周りがよく見ずに騒いでたのも大きいです。基本いい人達ですよ」

 

 

瑞穂「ハアアアア!?」

 

 

瑞穂「カミさん!? 准将、お前駆逐と結婚したの!? ロリコンに命預けたとか私の人生の汚点よ!」

 

 

神風「あ、そっか。神さんだと初対面の人に……」

 

 

神風「ち、違いますからね……!」

 

 

電「まさかお前もそっち側に行く気なのです……?」

 

 

神風「行かないわよ!」

 

 

神風「私は神風型一番艦の神風で、あだ名が神さんです!」

 

 

瑞穂「ああそう! くっそどーでもいいわ! というか! 復活させられてから余計な言動できないようにされた状態でしばらく監禁された挙げ句、突如としてカチ込んできたRJ御一行にスイキちゃんブッ殺されたんだけど!」

 


瑞穂「ってことは3回目じゃねーか!」

 

 

電「ほんとうるさいのです。それは置いておいても」

 

 

電「さすがにあなたが出てきたらダメでしょう……」

 

 

瑞穂「10割被害者の瑞穂ちゃんが責められちゃうんだ! 本当に嫌! もう嫌! 天にまします我らが神よ! 瑞穂ちゃん生ある限りこいつらの足を引っ張って生きます!」

 

 

わるさめ「このオモローなヒス芸は――――」キラキラ

 

 

わるさめ「スイキちゃんだあああ――――!!」キラキラ


グイグイ


瑞穂「崩れるから引っ張らないでよ! というかわるさめ! あんた私の味方なら准将ぶっ殺すの手伝いなさいよ!」

 

 

わるさめ「遊ぼー! たくさん遊ぼー!」グイグイ

 

 

瑞穂「うっとうしいわね! あの世でネッちゃん&レッちゃんに遊んでもらえよオラア!」

 

ボグッ

 

提督「容赦なく鳩尾に拳叩き込んだ……」

 

 

瑞穂「トドメのストンピングver踵落とし!」

 

ボグッ

 

ムクリ

 

わるさめ「痛みすら愛しいよスイキちゃ――――ん!」

 

 

瑞穂「不死身か!? あーもうイライラする!」

 

 

瑞穂「怒りのちゃぶ台返し!」


ドンガラガッシャーン

 

 

神風「おい。食べ物を粗末にするな。その首、落とすぞ?」

 

 

瑞穂「恐いわねえ!? でもリコリスのおこに比べれば全然怖くないわ! わるさめと遊ぶついでにぶち殺してあげるからかかってきなさいよ!」

 

 

瑞穂「よいしょっと」

 

 

瑞穂「ゴング代わりのちゃぶ台返し返し!」

 

ドンガラガッシャーン

 

神風「成敗」

 

 

瑞穂「トランス!」

 

 

提督・電・神風「!?」

 

 

瑞穂「行きなさいPT.小鬼群!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


キャハハ                                                       

キャハハ

 

                                               

キャハハ キャハハ

キャハハ

 

                                                 キャハハ キャハハ

キャハハ

 

  キャハハ                                                                          キャハハ

 

                                       キャハハ キャハハ

       キャハハ


 

                                                  キャハハ キャハハ

 

 

 

 

 



提督・丙少将「うるさ!」


 

 

電「付き合っていられないのです……」

 



【4ワ●:若葉さん】

 

 

初霜「若葉!?」



若葉「アカデミー以来か」



若葉「今晩は良い月だな」

 

 

初霜「月? ええ、そうですね」

 

 

初霜「それとお久しぶりです。ですが正確には北方さんと乙中の演習以来です」

 

 

初霜「それとそのだらしのない服の着方はなんですか。いっても直りませんね! 」



初霜「ちょっと立ってください。ネクタイはきちっと締めないと」



若葉「おお、首が締まる」


 

若葉「というか初霜、あまり私に触るの止めてくれ……」


 

初霜「触衝の記憶、まだ根に持っているんですか?」

 

 

若葉「なくはない。キスカ撤退作戦に参加した記憶に触れたかった。というか、私自体があまり触られるの好きじゃない」

 

 

初霜「あれ、以前よりかなり背が高い、ですね……」



若葉「浄化解体を受けてからどんどん背が伸びる。昨日計ったら解体される前から10センチも伸びてた。今は149センチもある」

 


初霜「す、すごい伸びましたね。なんだか大人に見えます。あ、胸も大きく?」

 

 

若葉「少しな。お前はまだ私服の時は腕に鉢巻き巻いている」

 

 

初霜「魂の象徴ですから」キリ

 


初霜「それは置いといて、首周りのよれたシャツから胸元が見えてはしたないです。まったく、北方の鎮守府は女所帯とはいえ……」

 


若葉「……」ペラペラ


 

初霜「もう暗くなってきていますから読むのなら中のほうが」

 

 

初霜「ファイルですか? あ、読み終えたのですか?」


 

若葉「読み終えたらダメなことに気付いたから閉じたんだ。この鎮守府の戦争の資料をファイルにまとめていた」

 


若葉「今回の戦後復興妖精の件も。メモリーも含めてな」

 

 

若葉「准将、すごいな。」

 

 

初霜「それは、はい」

 

 

若葉「書類の几帳面さだ。提出する報告書とは他に自分用の書類も作成している。かなり細かい資料だ」

 

 

若葉「なのに……どこだろう」

 

 

初霜「?」

 

 

若葉「がんばるぞ」

 

 

初霜「ええと」

 

 

初霜「やらなければならないことほどやりたがらない若葉が自発的にだなんて珍しい……」

 

 

若葉「長くしゃべるのは苦手だ。ライン飛ばすぞ」



若葉《やらなければならないことはしたくない。戦え、と言われるほど、逃げたくなる》

 


若葉《だが逆にやりたいと思えることはやる。 戦えといわれても逃げたければ逃げる。幸い私は罵倒やら罰やらには打たれ強いからな》

 

 

初霜「相変わらずよく分からない姉です……適当かと思えばそうやって陰ですごく勉強している。なのに、本番では手を抜くような真似をしますし」

 

 

若葉《アカデミーの頃から私は初霜に対してよくわからないやつだと思っていた。だが、ここの連中はどうやら私と同じく初霜のことを不思議に思っていたはずだ。私に対してのよく分からないは、お前と同じく素質依存のものだろう》

 

 

若葉《初霜は不思議っ子なら、私はただの変な子だが》

 

 

初霜「ですけど私達、嗜好傾向はすごく同じですよね。服とか小物とか」



若葉《じゃあな。ああ、これを捨てといてくれ》ポイッ


コツコツ


初霜「直に夜になるのに外に出るんですか? 補導されちゃいますよ!」

 

 

若葉《死ぬわけじゃないし、そこらは上手くやるぞ。北方は自由にさせてくれたから私は私に必要なことを学べた》

 


若葉《やりたくもないのに強制されたものを毎日やるのは非効率的かつ洗脳隷属の始まりだ。なに1つ魂の糧になりやしない》

 

 

若葉「……夜風に当たってくる」パクッ

 

 

初霜「あ、若葉! タバコを吸い始めたんですか!?」

 

 

若葉《喫煙はしたことない。これはただの禁煙グッズだ》

 

 

初霜(相変わらずよく分からない……)

 

 

2

 


 

若葉「島風と乙中将か」

 

 

島風「おっす!」

 

 

初霜「なぜグラウンドに倒れているのですか?」

 

 

乙中将「あー、走り回ってたからね」

 

 

島風「乙中将に1回もかけっこで勝てない……」

 

 

若葉「む、乙中将は妖精の意思疏通分野以外にも特技があったのか」

 

 

初霜「若葉、その言い方は失礼です」

 

 

乙中将「あはは、構わないよ。僕、こう見えてもかなり運動性能は高いよ。小さい頃から犬と並んで野山を駆け回っていたから、キノコや草木の見分けとか、木登りも得意だ」

 

 

若葉「そうか。確かにすばしっこそうだな」

 

 

初霜「いつから走ってたんですか?」



島風「3時くらいかな。速くなれた気がする」

 

 

若葉「まあ、神風には勝てんだろう」

 

 

島風「悔しいけど神風ちゃんは確かに厳しい……」

 

 

乙中将「神風ちゃんのタイムいくつなの?」

 

 

若葉「10秒97」

 

 

乙中将「僕は6秒前半だけども、女子では速いほうなの?」

 


若葉「100メートルだぞ?」

 

 

乙中将「速すぎだろ! ワールドクラスの化物かよ!」

 

 

若葉「持久力も半端ない」

 


乙中将「まあ、北海道からここまで走ってくるくらいだしね」

 

 

初霜「」

 

 

島風「神風ちゃんは深海棲艦周りで戦果出せていないけど、基本的になにやってもすごい。速いし、真面目で頭もいいし、速いし、お料理も上手だし、速いし」

 

 

乙中将「なぜあんな風になってしまったんだ……」

 

 

若葉「主にうちの提督の教育と准将が約束すっぽかしたせいだな」

 

 

島風「最後、北方水姫を仕留める寸前に暁の水平線到達だからね。そのちょっと前に航行部分以外、経過程想砲で壊されてたからあれが最後のチャンスだったけどタイミングがね」

 

 

若葉「それから抱えていた矛先全てが准将に向かった。皆にあることないこといって当たり散らしていたな」

 

 

若葉「大和武蔵が来た日はタイミングが悪い。私達のなかでマーリンピック神風だけ外してご機嫌斜めだったのもある」

 

 

乙中将「……ところで若葉ちゃん、今回の件さ、種々ときな臭いと思うんだけど、なんか意見ある?」


 

若葉「資料は読んだ。途中で気付いて止めた」

 

 

若葉「ライン教えてくれ」



初霜「あ、若葉は長くしゃべるのが苦手で、長くなる時は媒体を通したがるんです」



乙中将「ふーん。今、持ってないや」



若葉「私のスマホに文字打って見せるぞ」



若葉《考えたらダメなことにな。私達は提督側から言われたことをやるだけに留めるのが最善というのが結論だ 》

 

 

若葉《だから、保留していた希望書は提出しないことにした。いわれたことを機械的にやる。これが最善というのなら私は気乗りしない》

 

 

乙中将「……、……」

 

 

初霜「それは想力で解釈されて策が漏れてしまうからですかね?」

 

 

若葉《そうだな。それと気になった准将のことは観察してた。スマホのデータに彼の部屋の盗撮映像が入っている。紙切ればかり眺めていて尻尾は出さないが》

 

 

初霜・島風「」

 

 

乙中将「尻尾というのは?」

 


若葉《事の重大さを自覚していないとは思えない。なのにあのやけに冷静沈着なうえ、戦後復興妖精に友好的な態度は違和感がある》

 

 

若葉《准将はすでに手は打っていてもおかしくない》

 

 

若葉《戦後復興妖精を今すぐにでも抹殺できる手を》

 

 

若葉《なぜそれをしないのだろうと思った。きっと准将と戦後復興妖精は利害関係にあり、お互いに相手の喉を切り裂けるからこそ手も結べるとしたら納得だ。武力がある国家が協力するように、今のお互いを探る状況は二人にとって都合がいい》

 

 

若葉「悪い島風は准将の切り札を探っている」

 

 

若葉《だから私は考えるのを止めた。序盤から想力を節約せずに常時、私達に繋げていて、准将と親しい闇の連中に特にお節介出しているのが分かりやすい》

 

 

若葉《私達が考える。不安を煽られたら、解決策を考える生き物だ。それは悪い島風の協力をしているようなものだろう》

 

 

若葉《まあ、准将のあの余裕な様子からして『私達がどれだけ考えても分からない手である』ことだけは分かる。ここらは最も探ってはダメなところだと判断した》



若葉「そんなところだ。だから私は自由に過ごすぞ」


 

乙中将「……その旨は丙さんと大淀さんに伝えとくよ。ありがとう。やっとモヤモヤが輪郭を帯びた」

 

 

乙中将(なるほどねえ、これ海の戦いではなく……)

 

 

乙中将(陸の戦いか)

 


乙中将(思えば勝利で戦争終結させたのなら当然じゃん)

 

 

乙中将(…………戦利品を獲りに行くのはさ)

 

 

乙中将(青ちゃんは戦後復興妖精のどの装備に興味を持ってるんだ?)

 

 

乙中将(どれも性能はぶっ飛んでいるけど、Srot3:welcome to my homeとSrot5:想力工作補助施設が臭うなー……)



乙中将(……今の状況を考えて戦後復興妖精対策になにか僕も仕込んどくかな。龍驤さん達に話しておこ)

 


乙中将(考えすぎな感じもするなー……)


 

乙中将「若葉ちゃん、指揮官の才能あるんじゃないかな。青ちゃんも資料見て褒めていたよ」

 

 

若葉「ないな。初霜もそう思うだろ?」

 

 

初霜「若葉は提督の責任を放棄して好き勝手やってすぐに任を解かれると思います」キリッ

 

 

乙中将「あはは、その手の子はさ、どういう風にやる気を出させるか、が肝要なのさ。卯月ちゃんと一緒だね。鹿島さんや香取さんも同じこというと思うよ。鞭の打ち甲斐があるって」



若葉「香取には打たれたが、反応せずに耐えて過ごしたら向こうが根をあげた」

 

 

初霜「ところで島風さんがおねむみたいです」

 


島風「感性派だからこむずかしい話は眠くなるんだよー……」



【5ワ●:鋳造された自由の奴隷】

 

 

提督「なんだこれ……」

 

 

北方提督「ん? それ私の鎮守府の資料かい?」

 

 

北方提督「ああ、皆の経歴か。ま、君なら見ても問題ないだろう。さすがの私もつつくのは自重するところだから、そこらはお願いするよ。明るい過去じゃないからね」

 

 

提督「もちろんです。神風さんのこれマジですか?」

 

 

北方提督「そっか。補佐官だと兵士の詳細資料は読めなかったっけ。そこを先代の丁准将が守っていたのは驚きだけど」

 

 

提督「小学校どころか保育園すら通ったことないんですか。義務教育を受けたことがない、と」

 

 

北方提督「親がギャンブル狂いだったとか。賭博場は合法のところより非合法のところが多いね。神風は幼い頃から父親に世界のあちこち連れ回されていたんだと」



北方提督「チップ代わりに」

 

 

提督「」

 

 

北方提督「酒とクスリとイカサマの卑劣な世界に生きてきたみたいだ。神風のあの刃のように鋭い感覚は身を護るために磨いた素質ゆえんだろうね。あの異性間の潔癖も毎日のように貞操の危険がテーブルに乗っていたせいだろう」

 

 

北方提督「負けたら奴隷か殺されるか変態の愛玩動物の世界だし」

 

 

北方提督「ちなみに父親は娘に神風の適性が出たことを出汁に軍の人間にギャンブルを仕掛けた」

 

 

北方提督「その父親を負かしてチップの神風を手に入れたのが何を隠そう先代の丁准将だよ」

 

 

提督「あの人ほんとおかしい。なにギャンブル楽しんでるんですか。普通に神さんを保護してくださいよ。それが出来る立場でしょうに……」

 

 

北方提督「私もカジノに一時期はまってね。その頃にフランスのホテルのカジノでリシュリューと会ったんだ。だからたまにリシュリューとはカードで遊ぶ」

 

 

北方提督「二人で神風にトランプゲームをしかけたことがある。まあ、しょーもないことだけど賭けをした。私はリシュリューとグルでやったんだけど、負けてしまったよ」

 

 

北方提督「神風にイカサマありのテーブルゲームさせると戦慄させられる。古典的なイカサマ道具なら全て見抜くし、それを逆手に取るところなんか神がかってる」

 

 

北方提督「本人はやりたがらないけどね。トランプすら見るの嫌らしい」

 

 

提督「そりゃそうでしょうよ……」

 

 

提督「はっつんさんや雷さんクラスの特殊例です……」

 

 

提督「……でもギャンブルやりますよね?」



北方提督「ゲームはやってるね。本人いわく楽しいけど、忌々しい。きっと血だと」



提督「なるほどー……」



提督「ああ、そうだ。神さんと長月さんとともに少しお出かけしてもらいたいところがあるのですが、引き受けてもらえませんか?」

 

 

北方提督「貸しておこう。どこだい?」



北方提督「というかなぜ私」



提督「ちょっと戦える人に様子見てきて欲しいので……ああ、今すぐではないです」



北方提督「こき使うのは構わないんだけど傷物にするなら神風とダブルで責任取ってね?」



提督「ええ。自分でよろしければ。ですが念のためです。街中ですし」



【6ワ●:悪い島風ちゃん、大本営へ】


1 大本営にて



陽炎「……とのことよ」



甲大将「おいおい、中枢棲姫勢力幹部復活とか、もみ消し安定の火種じゃねえか……」



不知火「……此方さんが先程、陽炎のスマホを見ながら黙っていますね。例の人の装備報告になにかありましたか?」



此方「『想力工作補助施設』」



此方「……なにこの装備」



此方「こんなの当局が作る訳ない」



甲大将「つまり、海の傷痕が与えた装備じゃないと?」



此方「だと思う。だってこれ、要は想力の用途を変える装備で、詳しく話せば『想の願いの形成成分を分解して抽出して、想に質量を与える力』だからね」



此方「『トランス現象によって産まれた海の傷痕のみが所有する能力』だ。つまり、戦後復興妖精、は――――」



此方「第2の海の傷痕」



此方「といってもいい。しかも」



此方「艦隊これくしょんのルールに縛られていない。私と当局があの戦争のルール内の決めごとを遵守していない状態で現海界していると思っていい……」


甲大将「待て。なんか血の匂いがする……」


コンコン、ガチャ


悪い島風【失礼します。マーマ、お久し振り!】



陽炎「歩いて表から? 廊下には」



悪い島風【通してくれましたよ】



悪い島風【まあまあ、その物騒な装備は降ろしてくださいよ。客人な上に此方さんの家族なんですし】



甲大将「聞いていた姿と違うな。その血の匂いが染み付いたボロ布の甚平と、草履かそれ」



悪い島風【当時の軍服でっす!】



悪い島風【あー、そろそろかと思いまして本来の姿に戻っておきました。といっても、変わるのは服くらいですけど。思考機能付与能力と現海界システムでトレースしたのが島風だし、心象形成しておいたのも悪魔なんでそう変化はないでっす】



悪い島風【メモリー見ただろ。艦の兵士が最初からあんな可愛い服で戦っていたわけじゃないですし】



悪い島風【当時の資源の惜しみすぎなんですよねー。子供用に仕立ててもらえないし、どうせ死ぬやつらだし】



甲大将「綺麗な軍服を頂戴して写真の1つでも撮っていれば、遺族にも手紙と一緒に自慢してかっこつけられただろうにな」



悪い島風【ハハ、さすがに甲はいい威勢していますねー】



悪い島風【でも当時、強制連行されて与えられたのは】



悪い島風【シケた最後の晩餐と】



悪い島風【深海棲艦をブッ殺す道具と】


 

悪い島風【心中する仲間だけだ】



悪い島風【最初期の電がチューキにブッ殺されたメモリーは見たんだろ? 今の制服着ていなかっただろ? アレはマーマのデザインの後付けで妖精にセットしたものだからねー】



悪い島風【さて、本日は営業に参りました!】



2



悪い島風【とりあえず此方さん以外はお口チャックです。聞きたいことはその後に教えて差し上げますから】



悪い島風【可愛い娘へのご褒美ーとかいえるような普通の家庭じゃないしね。私が欲しいのは想でも金でもないので、要求からいいましょうか】



悪い島風【妖精工作施設】



悪い島風【の基データを教えろ。それしか戦後復興妖精の役割を解放する手段がない】



此方「なんで? 想力工作施設は妖精工作施設も兼ねた性能だと思うけど」



悪い島風【私の役割縛りはオリジナルでないと解除できない造りになってる。妖精工作施設に含まれた基の想のどれかが必要だから、それがどんな想なのかを特定しなけらば想力工作補助施設でその想を複製して制限を解けない】



悪い島風【扉の鍵を開けるためにはその鍵か鍵穴を調べなきゃコピー作れないのと一緒。でもその両方がもうないから、その扉を作った本人に鍵の形状を聞きに来たってわけです】



悪い島風【同じようなのが契約履行装置にもかかってるんだよね。私が契約書に私の願いを書き込めないのがそれ】



悪い島風【准将も電もわるさめちゃんも知らない風だし、製作秘話ノートに載っていないはず。まあ、これも後で確認するけどね。それが出来る状況には漕ぎ着けたから】



此方「私にはどんな利があるの?」



悪い島風【気付いているだろ?】



悪い島風【想力工作補助施設は当局が私に与えた装備ではなく、私が妖精の機能を使って自ら違法建造した装備だ】



悪い島風【メンテされた後にね。なぜ残っているのか知らないけど、残ってるってことは当局にメンテされてもバレないように手を打っていて、私が読み勝ったということ】



此方「……?」



悪い島風【この装備を使えばあら不思議】



悪い島風【生死の苦海式契約履行装置以外の装備の性能が限界突破です】



悪い島風【Welcome to my homeは疑似ロスト空間で世界をいくつも自由に形成できまっす!】



悪い島風【ご都合主義☆偶然力はもう使ってる。世界が艦の兵士達中心に回ってます! 今なら人殺しても捕まらない偶然が降り注ぎ、戦争始めたら大多数に肯定されちゃうレベルでっす!】



悪い島風【ここに来たのも偶然、誰にも会わなかったんですよ! 監視はオールタイムなのにどんな偶然が重なったんだろうね!】



此方「一人のために回る世界を一つずつ用意出来るってことね……」



悪い島風【マーマは本当に人間として幸せになれると思ってるわけ。あり得ないよね。そこの甲大将とか元帥がどう頑張ろうともそれは政治的な決定に過ぎない】



悪い島風【そんな圧政、まかり通っても誰も納得しません】



悪い島風【ハンマーで出る杭を叩いたつもりが狙いをズラして地盤を打っちまうがごとし】



悪い島風【むしろ釘が浮くだけだろ】



悪い島風【無理無理、海の傷痕の罪は精算できっこない。街を歩けば石を投げられる。その素性を隠して生きていかないと、人並みの幸せには届かない】



此方「その力でなんとかするのが見返り、と? ごめんだよ」


 

此方「だって、一人じゃないもの」



此方「そんなの意味ないよ。全面的に協力してあげるから、装備を廃棄して解体しなよ。今なら明石君がいるから、トランスタイプのあなたを解体できる技術もある」



此方「その契約書に書き込みたい願いがあるんだよね? 私が代わりに書いてあげるよ。もちろん妖精工作施設の件も協力する。これじゃダメなのかな?」


 

悪い島風【いや、妖精工作施設で制限解除しなきゃ発動しない願いの類なんだ。その上でマーマが納得して書き込んでくれるならありがたいかなあ】


 

此方「……」


 

悪い島風【『完全なる戦後復興妖精の消滅』】



悪い島風【それが私の書き込みたい願い。ロスト空間がなくなっても想は世に溜まる。2度とこんな風に復活する可能性を消してくれ。早く終わりにして欲しいんだよな】



悪い島風【あの時に出来なかったから、たくさん遊んでるけどあんまり楽しくねーや】



悪い島風【気も触れる】



悪い島風【人の心を持たされたんだから】


 

悪い島風【話の進みが悪いな。皆さんメモリー見た?】



甲大将「……いや、私達は見てはいねえな」



悪い島風【あなた達にも真面目に考えてもらうために、少し映像を流し込もう】



悪い島風【仕官妖精(キョーダイ)とは違う最初期の記憶】



【7ワ●:戦後想題編:メモリー2-1】



溶接の火花が飛び散り、金属を打つ不格好な音が騒がしい。艦に水上爆撃機を艤装中に熱心な彼等の顔は酷く疲れている。


敗戦してなお戦争は終わるどころかより苛烈さを増していた。この国の技術に疎いアメさんの技術員が編成されたものだからか足並みも鈍く、それをお互いのせいにする。鎮守府では英語と日本語の怒声とケンカが絶えない毎日だった。


今日は騒々しい悲鳴が聞こえた。艤装中の晴嵐のプロペラに間抜けが首を持っていかれていたようだ。静かにしてくれ、と古びて黄ばんだ紙を丸めて耳栓にする。ただでさえ鉄と汗臭い不衛生な寝床だ。戦果に見合った兵舎くらいは用意しろ、と思う。


瞼を降ろすと、小気味の良い帰投した日の光景が蘇る。


先の北方の奪還作戦において、深海棲艦撃沈数105を記録した。


あの海域で確認された深海棲艦を全てほふり、生きて帰った島風は救世主のような尊敬の眼差しを一斉に浴びた。一隻で百隻を撃沈させた戦果は軍の残り種に火をつけるほどの効能はあったようだ。切羽詰まった深海棲艦の猛攻に対しての反逆の意思が活気を呼んでいる。


捨て艦戦法を指示したやつに誉められるとはイカれた時代である。持ち帰った仲間の死体の詰まった袋を突きだしてやっても割り切って敬意を払う対応はかなり苛立った。


島風(前よりも待遇は遥かに良くなったね。ほら大戦時の現場を支えたのは男性ばかりで、それが小娘に頼るしかない現状に思うところがあったみたいでさ。でも戦果を挙げてから扱いは変わった。こんな子供を一人の海軍士官として扱ってはくれているよ)


戦後復興妖精「馬鹿かお前は。勲章どころか軍服の一つも支給されてないんだぞ。上が投げつけたのは新しい甚平と草履だけだっつの。艦の娘だっけか。奴隷船が擬人化した生き物か?」


よくもまあ幼き子、しかもど素人の兵士に特攻命を出した連中がそんな態度を取れるものだ、と思ったのも束の間、北方の鎮守府の第一艦隊の旗艦の任を与えられた。もらえたのは軍人の肩書きではなく、船の肩書きだ。


ま、どうでもいいか、とすぐに切り替えた。少しバランス調整のためにこちら側での活動を許可されただけだ。早い話が島風となった状況を逆手に取って戦後復興妖精として協力者を探すために軍内部に潜伏している状況だったが、この目利きが反応する程の人材は見当たらない。


島風(そういえば私の艤装は?)


戦後復興妖精(回収されているはずだ。修理は終わる頃だが、島風の後釜はそうそう見つからねえと思う。それまでに私はやることやって行方を晦ませねえと。どうせ作戦参加の日々だろうし、適当に戦死に艤装して島風の仮面は捨てる)


唐突に頬を打たれ、固い木製のベッドから上半身を起こした。


最近になり海軍省から発足した対深海棲艦海軍のバッジを着けた男だった。「応答しなさい」との怒号が耳栓を越えて鼓膜を揺らした。軍内部といえど、こういった鞭の打ち方は腹に据えかねるものがあったが、島風はコレもちゃんと軍人として扱ってくれているからだよ、と奇妙なことに嬉しがっていた。


だが、私は許さない。


オラ、と軽く平手で張ってやると、男は吹き飛ぶようにして壁に激突した。ただの人間が建造状態の艦の娘に喧嘩を売るのは賢くない。やられたらやりかえす。本来なら営倉行きだそうだが今は艦の娘が命を繋ぐ必要不可欠な水と同等の存在であると知っているからこそ、やり返しても口先だけで怒られるのみだった。


戦後復興妖精「少佐君、婦女子の部屋に入るなら紳士的な作法を心がけたまえ」


少佐君「ああ、すみません。普段の後輩に対しての態度がよく出るのです」鼻血を吹いて、立ち上がると、ペラペラと喋り始める。「まずは先の北方領土奪還作戦、お見事でした。さすが島風の艤装適性者だけはあります。我が国が誇る島風の名に恥じぬ戦果です」


戦後復興妖精「少佐君、船みたいに扱うのはせめてもの嫌味かな?」


少佐君「と、とんでもありません。気を悪くしたのなら謝ります」


戦後復興妖精「司令部からの次作戦のことだろ。紙だけ置いて消えろ」


少佐君「お言葉ですが、そうもいかないのです。詳細を私の口から説明申し上げねば、作戦として軍令部との齟齬が生まれかねません。どうか組織の御理解を願います」


中では少佐君はマシなほうだった。軍人気質ではあるが、命を慈しむ心は並より上だった。ただ島風いわく、ここ最近でとっても痩せこけたとのことだ。それもそうか。戦死者を出すのを極端に嫌う男が特攻命を敷いて、撤退命令を出す許可を与えられなかったのだ。島風一人だけだが戦果よりも生きて帰ってきたのを喜んでいた唯一の男だった。


というか、適性者をもっと集めろよ。特に空母と戦艦だ。コストは多少高くても構わない。実物軍艦にかかる莫大な費用からしたら艦の娘の費用はガキの小遣い程度で可愛いものだ。艤装も製造され続けており、弾薬も燃料も戦う分には十分といえる状況だが、肝心の兵士がいないのだ。


少佐君「やがて事態が落ち着けば」


正解だ。最初期は凶悪な深海棲艦を用意せざるを得なかったが、歳を重ねるごとに深海棲艦も変化していく。それに伴って艦の娘の待遇も改善されていくだろう。本来成し得るはずだった未来予定からは大幅に軌道が逸れているが、私が本来想定されていた復興水準まで持って行ける。だが、この時期は通らなければならなかった。マーマとパーパにとっては必要な深海棲艦が災害認定されるために用意された最初期の地獄なのだ。


少佐君「お陰様で屍ではありますが、深海棲艦鹵獲に成功。事態は好転しておりまして、艦の兵士の生還を視野に入れられる状況に恵まれたかと。次作戦において司令長官から」


紙切れの文字に目を通す。



1 物資的損害を考慮せず。

2 深海棲艦の侵攻に際して止むを得ない場合、人的犠牲をいとわず。

3 被害状況により通信連絡が遮断された場合、旗艦島風の独断指揮を許可する。



戦後復興妖精「4 どう読んでも『死んでも海域を保守しろ』との解釈しか出来ず。5 断る。とつけ加えて今すぐ長官に叩き返してブン殴ってこい」


少佐君「あ号作戦を思い出しますね。アレは本当に辛い作戦でした」といつもの昔語りだ。大した戦果も挙げてない割に自慢のように語る。「我々は米軍の侵攻を留めなければならなかった。あの海域に銀色の怪鳥を配備されたら、我が国の領土が射程圏内に収まってしまう」


恩師といえる御方こそ戦死してしまいましたが、とため息をついた。


少佐君「マリアナ海域の保守です。しかし今回は米軍との共同戦線となりまして、そこで栄光の第一艦隊旗艦に抜擢されたのが島風さんです。我が国の代表ですよ」


ああ、そう。


耳に心地の良いおべっかを軽く聞き流して、頭を別のことに回した。島風が希望の星になっている現状ではあるが、この対深海棲艦あ号作戦は望みは薄だ。現状この島風の戦果を期待した上での決死作戦のようだ。無論この海の戦いに通じている以上、深海棲艦などというデクの棒を壊すのは造作もないことであるが、この身はあくまで影であり、先の大戦は島風の願いによる特例としての表戦争への介入だった。これ以上の注目を浴びては本来の役割に不備が出てくる。


戦後復興妖精「しかし、今日はいつもより騒がしいが、なんかあったのか。出撃の日が近いからか?」


少佐君「もちろんそれもありますが、今作戦海域で先行していたリンガ泊地を拠点に奮戦していた米国の艦の娘がとうとう撃沈した報告があがりまして……」


戦後復興妖精「誰?」


少佐君「エンタープライズであります。やはり近くまで敵国同士であったためか、こちらの兵士が心ない言葉を浴びせてしまいまして、それが原因で今朝からケンカが堪えないのです……」


戦後復興妖精「エンタープライズだとう……」


パーパとマーマの介入で歴史が少し変わったか。退役して後10年以上は残っているはずだと思ったが、大方こちらの現状と同じく対深海棲艦に回されて沈んで、艤装のラインナップに加えられたのだろう。適性者も早期に発見できたレア者だったろうに。


少佐君「ざっと大まかな流れをご説明しますと、その戦線の残存戦力によりけりですが、リンガ泊地に進撃してもらい、そこで補給艦神威により洋上補給を行った後、第二戦線に合流します。そこの深海棲艦勢力水上打撃艦隊を殲滅していただいた後、油資源の豊富なリンガ泊地に進撃してもらい帰投となりますが、あくまで予定です。特にあなたの戦力は敵こ……こほん、海外国もいたく感銘を受けておられる様子でして」


戦後復興妖精「もう深海棲艦殲滅世界一周旅行でいい」


少佐君「申し訳ございません……良い旅を……」


作戦開始予定日は明後日。まだ時間はある。


残り島風として果たすべく役割は戦力の補完、今の生きて帰れば拾いモノというどんつまりの解消、つまり艦の娘の育成だった。そもそもの捨て艦戦法はろくに訓練を受けさせる時間もなく、和平交渉が出来ない深海棲艦を対処させなければいけないのが根底にある問題だった。


今はまだ艦の娘の艤装の性質をろくに理解できておらず、その指導者は大戦を行きのびた連中だろうと教えるのは無理だ。鹿島や香取といった練巡適性者が現れた時それはひっくり返るだろう。適当なやつを契約履行装置により練巡適性を持たせれば話は楽ではあるが、その手のことはマーマの意に背くことなのでパーパが許可しないのは明白だった。


戦後復興妖精「少佐君、ただちに次の旅行に同行するお友達を召集したまえ」


少佐君「なにゆえ」


戦後復興妖精「私が学んだ艤装の扱い方を叩き込んで錬度をあげる」


兵士は増やせずとも私が周りのザコの錬度を三日であげることは可能だ。上にも得しかないし、そもそも私が教官につけ、という指示が下されなかったのが疑問だ。仲間を全て失った先の海戦の島風に気を回したとのことらしいが、どうも嘘臭いのだ。その場では飴と鞭の使い方が下手くそだね、といっておいて、いいたかった揶揄は飲み込んでおいた。海でらんちき騒ぎして、娘とろくに会ってもいない男どもの不器用な情なのだろうと思うことにしておいた。


戦後復興妖精「で、どうなんだ」


少佐君「それはそれは」と膝まずきそうなほどの感動した眼で敬礼をすると、鼻唄混じりに退出していった。


お友達に関しては予想外の幸運に恵まれた。北方領土奪還作戦の間に軍は『大鳳』の適性者を確保していたのだ。


2


戦後復興妖精「おっす。私がお前らの旗艦の島風だ。教官を兼ねているからねー」


各自の自己紹介を始める。他に集まったのはたったの装甲空母大鳳と駆逐艦清霜の計3名の寄せ集め戦隊で戦線を保守するとのこと。深海棲艦自体の数はまだそう大したことはないが、艤装の性能差を錬度と頭で繋ぎとめる必要がある。軍艦の記憶で賄えるのは戦の苛烈の程度だ。


大鳳「ご質問があります。私は空母艤装なのですが、駆逐艦の島風さんが私のきょ」


戦後復興妖精「ドカン」


大鳳の鳩尾に拳をのめり込ました。私の中の島風が猛抗議をしてくるが、関係なかった。嗚咽の声をあげて、膝をついた大鳳の頭頂部の髪を乱暴にわしづかみにして上を向かせる。


島風「この程度で心まで損傷させんな。確かに艦載機を扱えない私に空母の指導が出来るのかというのは最もな質問だが、この程度で心まで損傷していたら戦場ではすぐ死ぬぞ。現場ではこの程度が可愛いと思えるくらい飽き飽きするほどの理不尽の雨が降り注ぐ」


大鳳「い、いえ、何のこれしき……!」


戦後復興妖精「ドカン!」


二発目だ。


戦後復興妖精「痛いなら痛いといえ。お前は軍艦の記憶に学べよ。最新鋭空母のお前はなぜ沈んだか思い出してみなさいよ。魚雷で軽質油庫に被弾しましたー。でも異常はありません、大丈夫です、航行できます。あ、やっぱりダメそうです。対処はしました。これでなんとか。それで大爆発(ドカン)して搭乗員何名死んだのか。悪いとこは改善しないと今度は百日も持ちませんよ?」


大鳳「すみません。とても痛い、です」


戦後復興妖精「私の前で堂々と弱音吐いてンじゃねえぞ!」


最大の一発をお見舞いしておいた。打ちどころが悪かったのか、気絶してしまった、


構わず次に行く。


清霜「ハイ先生! 私は武蔵さんみたいな戦艦になる訓練したいで、」


戦後復興妖精「なれるかア! テメーはその元気で現実を直視しろ!」


清霜にも似たような理不尽を与えた。急造の鎮守府で行っていたこの訓練を視察していた海軍の将校達の表情が面白かった。子供が自分達の真似をしているようにも受け取り、そして子供達が悪ふざけをしているようにも見えたのだろう。口を挟まないのは正式な訓練であるからだ。


本格的に視察が仕事に熱を入れ始めたのは訓練を初めてからだった。一日目は基本中の基本、駆逐には航行の仕方、そして砲雷撃、空母には艦載機の射出の仕方を基礎に叩き込んだ。理屈で教えられる者がいるだけで成果は断然違ってくる。妙に頭で考えず舵を取られる軍艦と同じく、従うだけでいい。そこから妙な色気を出すには土台の経験が貧弱すぎる。


二日目は座学だ。


戦う敵の知識と、艦の娘としての効率的な陣形等々だ。潜水艦には単横陣、対空処理には輪形陣といったこと、この形状の敵は駆逐艦である等々の戦うための基本知識だ。コレを知って指揮を執れるほどの適性者がいなければ先の奪還作戦のような乱闘になり、結果ただの心中でしかなくなる。さすれば性能差もあり頭数で負けている深海棲艦相手に敗北は免れず、だ。


三日目は大破の痛みに慣れること。


こここそ最も必要な継戦能力をあげるための必要課程なのだが、許可が降りなかった。入渠のための資源なんざたかが知れているが、損傷させるのは禁止されているようだ。


ああ、そうか。まだ艦の娘の入渠時間が把握出来ていない故の返答だ。明日の出撃に間に合わなくなる恐れを懸念しているようだった。大丈夫、といっても納得させることは不可能だし、入渠時間についての情報を教えることも役割上出来なかった。今やっていることもけっこうギリギリのラインだ。


なので、偶然を装うことで情報を引き渡す。


大鳳が発艦された天山が飛行甲板に戻る際に着艦失敗し、適性者に微弱な損傷を与えた。すぐさま訓練は中断され、入渠が取り行われた。事故としておけば不名誉はともかく、入渠させざるを得ない。そして今の大鳳の錬度であの程度の傷ならば一時間もかからないはずだ。データが積み重なれば机仕事の連中が数字にして答えを導き出すだろう。


その日の12:40、艦隊の皆に親族との面会が許可された。今の島風には親族などいないことになっているが、他の連中は違う。彼等はお国の存亡のため強制連行された若き命に過ぎなかった。どういう後付けの説明をされたのか知らないが、親族の顔は穏やかだった。突然まだ歳端もゆかぬ我が子を生還一割を切っている海戦へと駆り出されるのだから気が触れてもおかしくないと思っていた。あの与えられた我が子の胸にある軍のバッジの魔法だろうか。海軍士官に送るようなたっぷりと世辞の入った誇大表現な激励を述べていた。


大鳳適性者の家族はこれまた一風変わっている。


歳の離れた兄が「皆の仇を」といっている。聞けば大鳳の例のガス漏れ事故で同期の仲間を失っており、今作戦で名誉挽回を、とのことだ。マリアナの海に散った翔鶴と大鳳の話を始め、血縁者があの大鳳の化身としてその御身をお国に捧げることは彼にとっては感激の極みに値するようだ。


対して清霜のほうはありふれた母と子の会話が繰り広げられていた。あえて戦いには触れないといった意図を母のおしゃべりからは感じた。現実に触れてしまえば、今までの艦の娘の散り様を連想するだけだしね。


そして血縁者との面会が終わると、後ろで待機していた男達がこぞって二人に押し寄せた。軍艦清霜、そして大鳳に携わった海の男どもだった。ともに苛烈に生きた軍艦だ。その依り代として選ばれた兵士二人に激励を飛ばしに来たようだった。彼等の想に触れるだけで苛烈な戦の想いがこの身を焼き焦がした。


代表者により、軍服を手渡されていた。

大鳳と清霜はそれを今の薄着の上から着る。

背中には誇るように大きな『清霜』と『大鳳』の文字が刺繍されている。


かつてのマリアナから生存を果たしている乗員からの強い希望により、大鳳の背には軍艦名が刺繍されたようだ。少佐君いわく、この大鳳や清霜に携わった者が集まり長官がおらねば寄せ書きのごとく文字が編まれていた、とのことらしい。男って生き物はどうもくだらない馬鹿騒ぎが好きだね。


見事な本場の敬礼が二人には送られていた。


その軍艦が艤装となり、唯一深海棲艦という未知の化物と戦うことが出来る。そして深海棲艦と戦うということは『生きて帰ってこない』という印象が強かった。だからこそ全員生還を敬礼で誓い、それを忘れるようにばか騒ぎして面白おかしく過ごすのだ。


二人はもう兵士の顔になっていた。


島風(あなたも挨拶してきなよ。旗艦としてあの二人の命を預かる身なんだよ!)


戦後復興妖精(かったりいわ)


当然のようにこっちにも来た。艤装効果で島風がどんな歴史を持っているかは探知しなくても把握している。二水戦、そしてレイテの仲間が声をかけてきた。素っ気ない態度で対応した。


深緑の甚平のポッケに手を突っ込みながら、知るか、と内心で悪態をついた。今の段階でどういった言葉を吐けるというのか。大鳳適性者の兄は戦果を楽しみにしており、清霜のほうの母親は娘の生還を願っているのが分かる。つまるところ完全勝利Sだ。結果をお土産にする以外、戯言の域を出ないではないか。


くだらぬ慣れ合いは押し売りされた島風のみで懲り懲りだった。


3


特別に、と空母のガンルームに召集されて、そこでシケた晩飯を囲むこととなった。少佐君が彼等の気合いに火をつけたいらしく、戦意高揚を狙って音頭を取っている。


無視して思考を巡らした。この作戦のどこでこの身の島風を殉職処理させ、姿を消すか。


このマリアナの作戦はまず艦の娘の超人的体力のうえ立案されていた。継戦不可となるまで続く押し寄せる作戦の波が予想される。司令部の考えではアメリカとの共同戦線でマリアナの死守は可能、残存戦力は期待できず、との見方なのは立案された後続作戦の徹底のなさから伺える。


少佐君「第一艦隊旗艦の島風さんからも一言ありませんか?」


戦後復興妖精「上とアメリカさんのほうにも付随する軍艦は邪魔だと伝えろ。何の整備をしているかと思えばこの作戦に随伴する空母の整備かよ。深海棲艦相手にまだそんなもんで戦おうとか乾いた笑いが出るんですけど」


少佐君「そんなことはいっておられません。先の勝利は軍を活気づけましたが、事態は深刻なままです。増してやマリアナ以降、軍から逃げ出した腰抜けの私が妖精が見えるという理由で強制連行された始末です。新たに設立された対深海棲艦海軍はまだ組織としてままならず、軍としての実績がないので、過去の大戦に従事した中将殿の発言力により、やりくりされております」ハハ、と笑った。「海に投げ捨ててやった戦術書をまた送りつけられるとは歴史はこうも繰り返すのかと」


対深海棲艦海軍ね。まだ記憶に新しい組織だ。その構成メンバーはいまだ戦火の魂がおとろえぬ益荒男気質で構成された組織だと聞いているが、その実は子を遣い捨てて勝利に舌なめりし、帝国時代の終わらぬ夢に魂を売り払い済みのとんでもない男どもでもある。彼等が苛烈さを増せば、敗戦時から視察に来ている米国人を天誅だと切り捨てかねない。上は膿をまとめて出して処理してしまいたいのか、などという邪推さえしてしまう。


少佐君「皆さん、1946年の例の駆逐艦電の真珠湾防衛戦をご存じですか」


少佐君はいつものように過去の話を自慢げに語り始める。


少佐君「現在確認されている深海棲艦の中で最強格と位置付けされた中枢棲姫に単独、勇敢に立ち向かい、そして華々しい一撃を加えた。あなた方以上に訓練もままならぬ子が敵勢力の親玉に一杯喰らわした。油断大敵とはいえ、あなた方が思っているより、敵は貧弱勢力の可能性もあります」


この楽観的な性格はこの場ではプラスに働いてはいた。幻覚な軍人の言葉を拝聴するよりも、清霜や大鳳には肩の力を抜かせる効果はあったのだろう。少佐君の続きの言葉に耳を傾けている。


少佐君「あの電を初期艦とした小倉提督はなにを隠そう、私の師であります。出会って1日で経たずに彼は真珠湾で戦死を遂げましたが、その前日に彼と引きあわされ、妖精分野の教えを教授していただきました。あの二人を越す戦果を持ち帰る。つまり勝利Sかつ全員生還の軌跡をこの作戦で描く」


お前の師、今や可愛い姿で生きているんですけどね。


始まりの艤装、電の話には乾いた笑いが出た。


どこでねじ曲げられたのかは知らないが、駆逐艦電が中枢棲姫に一撃を与えたというのは嘘八百だ。ただ蹂躙された挙句に「殺して」と敵に懇願する醜態を晒して死んだ。仕官妖精のやつはどこでなにをしているのか知らないが、しばらくは様子見だろう。深海妖精可視の才は100年に5人にしか与えられず、このばったばた戦死者が出る今にばらまくのは得策ではない。


昨年の英雄譚に飽きたのか、清霜が食事を再開した。


清霜「大鳳さん、これなにー?」


大鳳「ああ、タラバガニです。甲殻を齧ってはなりません。中の身を食べるものですよ」


大鳳がカニの食べ方を教えていた。知らなかったのでその食べ方を見て覚えて口をつけた。なかなか美味い。奪還作戦時のしけた飯の記憶とは比べものにならなかった。清霜も大層満足したようで、口周りによだれを吹かずにむしゃぶりついていた。


少佐君「島風さんが先の作戦で海域を奪取してくれたお陰ですよ。それはその海で獲れたモノであります。勝利を重ねれば近い内に深海棲艦も取るに足らぬ敵となることでしょう」


清霜「島風ちゃんのお陰なんだ。ありがとー!」


戦後復興妖精「おう」


死ねば海域を奪還してもまた奪取されるだけだ。生きて帰り、その経験を生かして、新人に伝授し、知識と知恵で深海棲艦勢力と対峙していく構図が最もリスクが少ないように思える。特に今の深海棲艦は突撃馬鹿だ。


こちら側が生き残ることで繋がっていく。この作戦から生きて帰ることで島風の役割はそいつらにブン投げることも出来る。次にランス調整のために潜伏するのは内陸のほうだ。対深海棲艦海軍の設立とともに立ちあげられた研究部に向かうべきだろう。


応急処置に過ぎないが、それで現場側のテコ入れは終わりだ。後は相棒を見つけて、政治にメスを入れていく。それを影からフォローしてやって、と、そこまで航行予定の海図を拡大したところで少佐君から「食べないのなら私がもらってもよろしいですか」間抜けな声で現実に引き戻された。


4


抜錨地点で保管されていた兵装を受け取り、身にまとう。


大鳳がうきうきと浮かれた雰囲気なのは、今朝に与えられた軍服のせいだろう。海軍服に身をまとった彼女はすっかりその気だ。


大鳳「皆の想いが伝わります」


島風(そうだね。艤装って犠牲者の想から作られているんだから、戦死してしまった人の想いを武装。生き残った人の想いを背中に受けているわけだからね。当時の皆が大鳳の適性者に乗っているも同然だよ!)


島風がはしゃいだ声をあげた。


島風(想いは時を越えるんだね!)


かくいうこの身もそうだ。動きやすく肌に馴染んだこの甚平で往く、といったのだが、却下された。旗艦がそのような服ではまた蛮人だの品位だの、と入らぬ苦情が入りますゆえ、とのこと。


三人ではろくな隊列も組めないが、指示された通りにあくびが出るほどゆるやかな速度で海を往く。陸地の高い丘のほうに、島民の姿が見えた。春先の薄着の子供達がこちらを見て「おーい!」と大声をあげて手を大きく振り、はしゃいでいた。多くの期待を背負っての出陣だ。


といっても、船渠から出て来たスケール違いの軍艦に島民の視線は全て持って行かれたけど。


航行航路の鈍足が煩わしい。空母とその護衛に軽巡が一隻、駆逐艦が四隻、その護衛艦の護衛を私達が担うというよく分からない陣形に至っては突っ込まないことにした。馬鹿じゃねえの、とは思うが、彼等は生きて死ぬかの戦いに赴くのだ。民衆からの視線の主役を浴びてせめて満足して沈んでいけ。


軽巡の艦橋に立つ伝令兵が子供達に向かって叫ぶ声が聞こえた。先輩にブン殴られていた。呆れてため息が出る。


艦位測定が空頼みということが煩わしい。深海棲艦相手なら想力探知であれば私の指示する進路を取ればいいだけなのだが、人類が知らない情報を与えるわけには行かないのだ。

 

しかし、艦隊の士気は上々だ。

 

かのマリアナに突入する。深海棲艦相手ではあるものの公式な戦争作戦であり、乗員は燃えている模様だった。先の敵国とはいえ深海棲艦相手の場合は手を取り合っている。大戦時のこともあり同志というモノはいなかったが、「見ていろ」とそれぞれの海軍の威光を競い合う関係が生まれていた。


空母の連中が執拗に水中聴音機の情報を艤装の通信に垂れ流し、艦橋は敵艦載機が見えているかのようになにもない空を見上げ続けていた。あまりに神経質な通信に文句が出た。監視兵のお隣にいた米兵が「今のお前に必要なのは水中音でなく隊長の足音を聴くことだ」と腹を抱えて笑ったそうだ。その神経質な伝令兵は分隊長の鉄拳で沈んだという。


風が出てくると米兵がうるっさい音楽を垂れ流して、歌いながら仕事に取り掛かり始めた。うっとうしい視線を日本兵が送っている。まだアメリカンな文化はこっちには馴染めない模様だ。


偵察を終えて着艦した二式大艇のパイロットからマリアナ海域の情報が伝達されたところで、ようやく緊張感が芽生え始めた。


通信器具から流されてくる戦闘海域の情報を聞いた。


確認された深海棲艦数105体。水上打撃艦隊、水雷戦隊、空母機動部隊が入り混じっているが、過去の例とは違って妙に統制が取れているらしい。その点を司令長官は注視していたようだ。さすがに馬鹿ではないようだ。私は高知能型の深海棲艦が統率を執っていると予想した。姫でもいるのかな。


姫級ならばこの拠点軍艦隊の心もとないフォローは戦力として期待するだ無駄である。たった三名で海域の保守は不可能。この場合、他の艦の娘の共同戦線を張ると作戦所にあったが艦名は未記入だった。米国との会議で決めかねていたようで、出航当日に通達されたようだ。


サラトガ。


このサプライズに同乗していた米兵の歓声が爆発した。


戦後復興妖精「大鳳、清霜、戦闘準備だ。多分、出遅れる気がする」


気がする、ではなく、そうなる。


こちら側が有していない情報を事細かに話すわけにも行かないのが歯がゆい。新規に発見された空母棲姫の艦載機の航行可能距離は2000キロメートルに設定されていたはずだ。そして最初期の突撃気質からして必ず先手を取られるだろうと予想できた故の声かけだった。


が、今作戦の総指揮は歴然の優秀な兵だった。

 

少佐君《あー、島風さん、戦闘開始したら、敵の元を断ってください》


戦後復興妖精《ほう、つまり周りのデクの棒が狙われている内に深海棲艦を沈めろと》


少佐君《我々でもその程度の囮や時間稼ぎは出来ますが、始まりの艤装が命と引き換えに証明しましたからね。深海棲艦を倒せるのはあなた達の艤装のみとなります。今の司令長官から、今度は私達を使い捨ててくれ、と笑えない冗談を》


戦後復興妖精《分かってるやつじゃん。任せとけ》


そして最初期の深海棲艦は人間も狙うからな。周りのデクの棒の被害は気にせず、元を断つのは正しく数の差を頭で繋ぐ策だった。しっかりと現状を把握し、効果的な作戦を立案できる司令官がこの艦隊に潜伏していたようでなによりだった。これだけで頭にあった多くの懸念は払しょくされてゆく。


改めて清霜と大鳳に作戦を入念に確認させながら南下する。その時、マリアナ諸島北方の敵深海棲艦艦隊の全容をつかむ。まだこちらは発見されておらずだった。進撃の相図が改めて伝達、寄せ集め艦隊は更なる緊張感をまといながら海を往く。予定より15キロ北西の地点に到達した時、聴音機が深海棲艦と思われる反応をキャッチし、開戦の相図がくだることとなる。司令長官の口から「発艦開始」の号令が発された。


空母の飛行甲板から次々と発進する戦闘機を見た。すぐにこちらにも戦闘の指示が出た。


深海棲艦の電探の性能は良く、ここで人間サイドのミスその1だった。捕捉されるのを防ぐために低空飛行を続けていた戦闘機は予定よりもずっと早く捕まり、突撃気質の深海棲艦の意識が一斉にそちらに動いた。


この身の機能として宿る想力の繋がりから情報を分析力したところ、展開している深海棲艦艦隊の八割の戦力に標的とされたようだ。


しかし、こんなものは想定の内だ。


ぐんぐんと南下し、とうとう水平線上に深海棲艦を肉眼で捉える。


あまり速度を出し過ぎると、艤装の排水が追いつかなくなり敵地まっただ中で棒立ち状態になりかねない。背後に続く清霜のことも気遣って六分程度の速前進に留めておく。


敵艦隊の視線は先行した機動部隊の囮により、艦の娘からは逸れている。「深呼吸して落ち着け。まだ敵はマストで風を受けてゆるやかに進む訓練材の的となにも変わんないからな」と戦闘前の最後のアドバイスを送って、砲塔の角度の調節に務めた。


私は前に出て砲雷撃を始めた。初撃の不意打ちに全砲門で空母を急襲、その後に敵艦隊に切り込みを始める。大鳳が後方から発艦した天山と彗星で低級深海棲艦を狙い、敵艦隊が展開する陣形を削り始めた。私はすでに全方位で囲まれている状況だが、妖精の感知仕様で深海棲艦の存在、装備など手に取るように分かる。ハ級の砲塔を手でつかみ、その小さな体をぶん投げて飛んできた砲弾を防いだ。


少数精鋭が大艦隊相手に取る戦法なぞ、限りがある。あの空母棲姫を仕留めるだけで殲滅効率はダンチだろう。考える頭を多少持っていてこちらの陣形を猿真似しているのか、それとも生前の知識でなんとなく陣形を取らせているかは分からずだが、深海棲艦の烏合の衆の中では上等な部類といえる。


だが、

すぐに最悪の想定外に見舞われる羽目となる。


深海棲艦型艦載機に狙いをつけられ、高度をあげていた戦闘機一機が突如として急降下を始めたせいだ。


敵艦載機は小さなモノだが艦の娘が扱う艤装兵器でない限り、機銃だろうと爆弾だろうと無傷だ。神風特攻は戦況を好転させるには値せず、どうせダメならと、パイロットの矜持でしかなかった。戦闘機からもくもくとどす黒い煙が立ち上がっている。急降下中の戦闘機は定めた目標に機銃を乱射しながら突撃していく。


この神風特攻で機体は無残に散った。


その死なばもろともの精神が最悪の結果を招いたのだ。黒煙を風が洗うようにさらっていき、晴れた中にいるヲ級エリートの渦巻く感情の矛先が後方の艦隊に向けられた。全機発艦、百に近い艦載機が後方の艦隊を襲い始める。それに釣られるように低級の深海棲艦が進撃を開始した。


島風(戻るよ!)


身体が勝手に舵を切り、ターニングを始める。島風が介入を始めた。うっとうしいことこのうえなかった。この頭ではどう考えても後ろを顧みずに空母棲姫を仕留めに行くべきだと思うのだが、今後のことを考えると作戦失敗に追い詰め、早々と大鳳と清霜を生還させるのも悪くはないように思えた。


敵艦隊に向けての砲雷撃に背中をさらしても、この身はなぜか被弾しない。


この身に宿した想力による偶然力操作である。ご都合主義にはロスト空間から供給されている想力を必要とし、そのパイプの栓はパーパが握っているのですぐさまこちらの状況を察したはずだ。島風と同化し、今を生きる人間となったこの身である。死ねばロスト空間に吸収され、そこからパーパがまた現海界させるだろう。島風の身を捨て戦後復興妖精の役割に戻ることができて、理想的ともいえる。


運営(パーパ)もそう判断したのか、想力の供給がカットされている。もとよりその究極的な運を利用して空母棲姫を仕留める手はずだったが、この時点で限りなく困難になったといってもよかった。


戦後復興妖精(島風。弾薬燃料補給をすました後、すぐに出ます)


すでに艦隊は撤退を始めていた。清霜と大鳳もガンバってはいるが、錬度数値10かそこらでの初陣、ヲ級改の空母機動を捌くのは難易度が高いだろう。すでに敗戦の雰囲気が感じ取れる戦場、海は死の相貌を描き始めていた。


今までこんなことを何度も繰り返してきたはずだ。打つ手なし、そう思わせるための最初期の乱なのだから。


燃料補給を担当する駆逐艦に搭乗し、艤装を外すと、すぐさま燃料弾薬の補給が開始される。乗組員の制止の声を聴かず、艦橋のほうへと移動した。艦橋内部は慌ただしく、騒乱の度合いは表と変わらなかった。すでに戦闘機6機が堕ち、もちろんパイロットの救命はされておらずだ。


少佐君「島風さん、なぜこんなところに」


戦後復興妖精「無理、マリアナは諦めて撤退しようぜ。どうせ大した錬度もないサラトガとかアイオワの投入も止めたほうがいい。ここを死に場所とするには惜し過ぎる性能だ」


開始一時間経たずに撤退安定のボロ負け。撤退は許されないとか、そりゃ少しでも勝ちの目がある時の話だ。


総指揮さんはたまったもんじゃねえだろう。あのパイロットの独断神風で作戦は一気に失敗にまで追い込まれた。


北方の奪還作戦の時とは違う。他に人がいなければ誰にも見せる訳には行かない性能でこの海域を奪取することも出来たのだが、今回は人目があまりにも多過ぎる。


少佐君「すでに撤退に入っておりますが、引いたところで彼等は突撃してくるのみです」


む、確かにそうだが、人目さえはけたら潰してやるよ、とはいえない。慌ただしい伝令兵の声が鼓膜を殴るようにして打ちつける。


艦橋のガラス越しで戦場を観察する。目をつけられた戦闘機が臆病風に吹かれて、飛行甲板に戻ってきていた。大量の深海棲艦艦載機を大鳳が処理しているが、まるで追いついていない。魚雷に被弾したのか、空母が大きく揺れた。噴き出した火炎が艦橋をなめるように炙り始めると、艦尾が蒼天へと延びていくような傾斜を始めた。平らな飛行甲板は戦闘機や乗組員が転がり堕ちていく坂となっている。海へと身を投げるやつ、救命艇で脱出を試みるやつ、次々と空母に内蔵していた内火艇で脱出を図っている。周りの艦は接艦をすでに諦め、海に漂う人間の救命を優先し始めていた。


少佐君「……ああ、またマリアナで我が国の空母が」


戦後復興妖精「おい! お前らも逃げろって!」


辺りを散策するように飛行していた敵艦載機がここの艦橋に狙いをつけた。機銃がガラスを突き破り、内部に鉄の雨を横殴りに降らす。


最悪の事態だ。艦内に敵艦載機の侵入を許した。この一機は燃料がなくなるまでこの艦内で暴れ回るだろう。しかし、偶然にも近くを通過した戦闘機のほうに興味を持ったのか、すぐにそちらのほうに向かった。あの想の感じ、生前は敵戦闘機の撃墜数を誇るタイプの人間だったようだ。


島風「少佐さん、大丈夫!?」


また島風に舵を取られた。気持ちの悪い島風の声が勝手に喉から放たれ、倒れている少佐君にかけ寄った。少佐君が打ち抜かれたのは左腕だった。残念ながら治療室などもはや機能していないも同然で、応急処置しか出来ず。


そろそろ艤装の補給も済んだ頃だ。海へ往くべきなのだが、少佐君はその場に横たわる仲間の意識確認を始めていた。一人だけ息があるようだが、その他は不運にも急所を貫通して即死していた。


戦後復興妖精「逃げろって。また来ているぞ」


少佐君「同志を運んであげてください。その後、すぐに抜錨を」


戦後復興妖精「キツイ。私の損傷要因を減らすために見捨てる判断しろよ」


ぶっちゃけ造作もないが面倒臭い。


舵を取られたままの身体はその負傷兵の身体を持ちあげる。この兵士の想が伝わった。脳裏に浮かんだのは清霜の適性者と母の姿だった。それと感じが似ている。この色を解釈していくと、予想はついた。どうやら先日、故郷で娘が産まれた模様だった。故郷の家族に想いを馳せているようだ。娘の名を呼んでいた。


戦後復興妖精「少佐さん、行きますよ!」


敵艦載機が飛んで来ている。すぐさま部屋から逃げ出して扉を閉める。少佐君の指示に従って救命艇までせっせと向かった。どこから侵入したのか知らないが、その道中に敵艦載機一機と遭遇した。少佐君が「ここはお任せを」と腰の軍刀を抜いて斬りかかった。


よくやった。敵機の気が少佐君に向けられた。


少佐君「今のうちに早く……って速い!」


すでに通り抜けて抜錨地点に向かっている。


戦後復興妖精「達者でな! 少佐君のこと嫌いではなかったぞ! 好きでもねえけどな!」


少佐君「つまりどうでもいいと! 私は島風さんに敬意を払っているのに!当てつけに生きて帰ってやりますからね!?」


がんばれ。先の迅速な判断は褒めるに値した。

どこからか濃厚な油の臭気が漏れている。爆発に巻き込まれたら建造状態といえども死は免れなかった。抜錨地点にいた担当の補給兵に負傷兵を引き渡して、すぐさま艤装を身にまとう。


5


増設スロットに積んである機銃と砲で空を牽制する。


沈みゆく船に、浮かぶ人間の死骸、炎上して爆発を引き起こす空母、ありとあらゆる兵どもの夢の跡が海上には見てとれる。すでに壊滅的打撃を受けているといってもよく、マリアナの海は再び軍に死に化粧を塗りたくっていた。最悪なのは艦の娘の勢力、当てにしていた大鳳の艦載機が敵機によって次々と墜とされていっていることだ。


島風(あの敵の艦載機、こっちの艦載機を複数でいじめてる……)


戦後復興妖精《大鳳、命令な。艦載機を飛行甲板に戻しながら私と合流しろ》


制空権の確保なぞ無理、と判断しての命令だった。


日本の戦闘機というのはそもそも運動性能を高めるために防御力が弱点に挙げられる。この海でのかつての海戦ではその弱点で航空戦力に打撃をもらっていた。大鳳に搭載した艦載機は日本式ゆえ、軽量化の代償として犠牲にしている装甲は一つの弾が軽々と貫通し、操縦妖精を絶命させるまでに脆弱だった。

 

空母の周りに浮いている救命艇を守っていた清霜と合流した。初霜の護衛につけていた外部ユニットの連装砲ちゃんを艤装に戻しながら、清霜のそっ首をつかんでその場から引き離す。清霜が威嚇射撃してもその連中が標的にされるだけだ。おまけに対空射撃なぞぶっつけ本番では弾薬を減らすだけの自殺行為である。おかあさーん、と清霜は泣きじゃくっていた。


戦後復興妖精「っち、ガキが」


それが出来なければもう知るか。なにがお母さんだ。たかが人間の女一人の名を呼んで、なにがどうなるというのか。清霜は戦力として外して策を張り巡らせた。生きて帰らせる。初陣を乗り越えただけでも清霜は軍の宝になるだろう。


またまた島風に舵を取られた。


島風「帰らなきゃ母親に会えないよ。お母さんだけじゃない。あなたもいつの日か本当の仲間に出会うよ。夕雲型や武蔵さんやたくさんの仲間と出会うんだ。その時、この戦いを乗り越えたなたが彼等を守ってあげる役目を担わなきゃ」


まさか自分の声帯からこんな優しい声が出るとは驚きだった。


島風「そうして生きて帰って繋ぐことだけが、この戦いを終わらせる方法なんだから!」


清霜の顔つきがわずかに引き締まる。なるほどね、と少しパーパの言葉に共感した証拠だった。確かに心は学ぶ必要がありそうだ。


大鳳と合流し、不恰好ながらも隊列を組んだ。大鳳は空を睨み付けるように見上げていた。気持ちは繋げずとも伝わる。すでにこの海では痛恨の嘆きが有機物無機物問わずに渦巻いているのだ。


悠々とした大空を飛ぶ雄々しい戦闘機の羽は痛恨の軋みの鳴き声をあげ、憎悪の色をした煙を吹き出し、海の上でただただ燃えあがっていた。あの戦闘機一機にどれだけの人間の歴史があるのか、理解できない船の依代ではない。


その人間の全てをゴミのように屠られていくだけの海戦に、


大鳳が燃えている。

その魂から燃える炎を轟々と吹かしていた。もはや勝つまで撤退はない。海域を死守せよ。その命はすでに彼女にとって、逃げなくて済む、仇を取れる、今度は私が敵を伐つ、という動力に変換されていた。


戦後復興妖精「……ん? 君達、どうやら嬉しい知らせだ」


空を曳跟弾の一条の軌跡がすぅっと伸びていく。その後を追うように、見慣れぬ操縦妖精の搭乗した艦載機が鳩の群れのように羽ばたいてゆく。あの艦載機の操縦妖精は生き生きとしており、爆音で音楽までかけているやつもいるあり様だった。死中に縋る神拾ったり。支援艦隊の到着だった。


清霜「なにをいっているか分からないよ!」


戦後復興妖精《What is your name please?》


返ってきた言葉を翻訳して伝える。


戦後復興妖精《米軍対深海棲艦海軍所属、サラトガマーク2、あなた達の王子様だとさ》


スロット数80を誇るLexington級の二番艦、正規空母のサラトガだ。支援の話は聞いていたが、まさか米国が秘蔵のサラトガを改二の錬度まであげていたとは予想外だった。


改二になるにはどれだけの時間を要すると。


くそったれが、と唾を吐いた。やけに非効率的な捨て艦戦法を軍が命じ続けるのは疑問だったが、そういうことかよ。在中しているアメリカ兵は指揮系統にしか加わらないと思いきや、こっちの艦の娘に仕事を押し付け、そのデータをもとにせっせと自国の艦の娘の錬度をあげていたっつうことか? カチン、と来た。


島風(あ、すごい怒っている……)


戦後復興妖精(見てみろよ。あの艦載機のスゲえだろ、といわんばかりの見世物染みた派手な航行をよ。本土でやられたら全国民の心をアメリカに持っていかれちまうわ)


錬度をあげる時間の少ない中、ここまでの圧倒的性能は政治的手段にすら昇華するだろう。


清霜「それでどうするの? 私、もう弾薬残り少ないよ!」


大鳳「島風さん。戻した艦載機をどうしたら……」


戦後復興妖精「サラトガの仕様操縦妖精のドヤ顔腹立つ……」


あの程度、二航戦の適性者が持参する装備のほうが性能は遥かに高い。


戦後復興妖精「見せてやろう」


大鳳に指示を出した。飛行甲板に艦載機を乗せて、操縦妖精に指示を出す。


残存機をまとめあげて、そこに妖精のこの身で『意思疎通』を試みて、敵機の戦法を操縦妖精に伝える。妖精可視の才に空母の性質を合わせた妙である。今や一機の残存が生死を大きく隔てる状況において持ってこいの技術だった。


戦後復興妖精「大鳳、発艦しろ!」


大鳳の号令が下り、艦載機が空を舞う。


F6-F5の群れに零戦が混じる。今までの大鳳の艦載機は錬度の低い個々能力に頼った航空戦だったが意思疎通により、もともと彼等が有している操縦の歴史から適した戦術を指示した。操縦妖精が敬礼の後、飛行甲板から飛び立ち、意気揚々と天を舞う。性能では負けていても、パイロットの地力が違う。


戦後復興妖精「ダメ押し!」


天山と零戦に偶然力による祝福を与えた。敵機の隙間を縫い、操縦技術と奇跡的な運に彩られた最高の幸運機と化した零戦だ。その飛行機は被弾することなく、死線をかい潜り、一機で十機をなんなく落とす撃墜王として空を制圧していく。


戦後復興妖精「行け行け! 私達の空を遮る敵機を落としてマリアナの太陽を取り返せ!」


空さえ取り返せれば、下手くそな脳筋砲雷撃を避けて逃げるだけでよくなる。生存率はダンチといえよう。


サラトガの航空支援は地獄に垂らされた蜘蛛の糸に等しいが、これまたミスに気付いた。このド派手な航空戦に興味を引いたようで敵艦隊のボスが介入してきたのだ。


戦後復興妖精《全員、撤退する!》


空母棲姫の躊躇いのない搭載数100を越える高性能艦載機の全機発艦が開始された。ようやく明るく見えてきた太陽の光が遮断されるほどの絶望だった。


島風の艤装で相手していられっか――――!


空母棲姫は中枢棲姫と比較こそすれば可愛いものだが、小さな島を1分で地図から消す程の航空戦力を単艦で所有している。海の怨霊艦に課せられた姫の名は伊達ではないのだ。鬼級は単純に、鬼のように強い、とその強さからの命名だが、姫級は異名に近い。鎮座する姫のように、その場から動かなくてもこちらの決死の軍勢をなんなく圧倒するその様から名づけられた。


空母棲姫装備の詳細をロスト空間のメインサーバから引っ張り出して――――!


艦の娘、深海棲艦とともに小型化されている装備のはずが本来の爆撃と同等の威力を与えられた深海地獄艦爆52機。


燃ゆる冷たい憎悪で蜂の巣になるまで執拗に攻撃をしかけてくる深海復讐艦功56機。


そんなグレムリンの群れが零戦を凌ぎF6F5とタメを張れる深海猫型艦戦60機の護衛されながら成り振り構わず突撃してくるときた。戦後復興妖精の能力で強化した艦載機といえども、偶然の隙間を縫うことすら許可されない。加えて弾薬燃料は想力によって補給される分、継戦能力も高い。


うん、無理。


戦後復興妖精「ちっくしょうがア! 勝利の女神ってやつは尻軽過ぎるだろ! 数秒で心変わりして向こうにキスしやがった!》


機銃を乱射しながら、悔恨の叫びを散らした。


戦後復興妖精《大鳳を旗艦に清霜とともに支援艦隊の軍艦拠点まで撤退しろ! 必ず生きて帰れ!》


大鳳「島風さんは?」


島風「『私からの最初の拳骨』だよ」


島風がまたまた身体を動かして、ゴツン、と大鳳の顔をブン殴ったが、大鳳の表情は微動だにしなかった。昨日までは一発殴っただけで泣きそうな顔をしていたくせに、強い意思の籠もった眼で真っ向から睨み返してきて同じ言葉を繰り返し、吐いた。初陣の小娘がいっちょ前の顔しやがって。


島風「絶対についてこないで。私一人なら空母棲姫を仕留められる」


大鳳「了解しました」


すぐさま行動に出た。え、え、と困惑している清霜の腕を取って撤退を開始する。すでに空は探さねば味方機が見当たらない程だった。精度自体は高くなく、数打てば当たるの深海棲艦だ。上手く行けば大鳳の装甲ならばいちるの望みも見込めた。


すぐさま旋回してタービンを回した。全速前進最大速力を持ってして海を切り裂くような鋭い航行を開始した。深海棲艦の攻撃を回避しながら、空母棲姫めがけた特攻をしかける。


島風(戦後復興妖精さん! おっ! そ――――いっ!)


戦後復興妖精「速えだろ!?」


島風(私はもっと速かったよ!)


戦後復興妖精「そりゃ私にゃ本来は島風の適性がねえから艤装の性能はお前ほど引き出せないんだよ! そこ回りは私の権限で整備できねえし!」


といっても艤装は駆逐艦の中でも最高級の性能を誇る島風艤装だ。雷装に比重を置いた攻撃性能、そして航行性能、それらの整合性を取ってなお速い。魚雷に偶然力(セレンディピィ)を上乗せして、込んでいる道を整理し、進路を強引にこじ開ける。


それでもあの深海棲艦型の艦載機は球形ゆえ真上からだろいと真下に機銃の雨を降らしてくるのだ。回避には限界があり、直撃弾こそもらわずとも、雨粒から傘もなく逃れられる道理はない。ジリジリとこの身の命の炎は雨に打たれて死に向かって冷え込んでゆく。


島風(もっと速く! より速く! 全っ然おっそい!)


戦後復興妖精「気が散るから黙ってろ!」


清霜に乗せてある電探の索的範囲外に出るまで切り込んだ。


戦後復興妖精「……捉えた」


まるでこの艤装モデルの最後を思い出すような航行だ。回避しながらも機銃掃射で蜂の巣にされていく。浸水はすでに始まり、長くは持たず。それでも、前へ。もっと速く。そのためには道が混みすぎている。酸素魚雷で道をこじ開ける。違法性能と決死を持ってようやく捉えた。


近距離まで飛びこむと、空母棲姫の顔色が変わった。


すぐさま想を繋げて感情の解釈に移った。その想は燃えあがる紅蓮色だった。そしてその表情から怒りだと結論づける。自慢の性能を潜り抜けられただけに留まらず、射程距離に捉えられたことが逆鱗に触れたと見える。

 

空母棲姫「オオオオ………!」

 

その髪留めは人間でも真似てみたのかい?

結んだ可愛い髪の印象が台なしだ。煮えたぎる憎悪の想いが美しき姫の相貌の皮を剥がし、露になった鬼の形相で天を突くかのような怨念の怒号を発した。


あの錬度のサラトガまで投入したこのマリアナ海、日米連合艦隊が負けることなぞあってはならんのだ。必死に大戦時から繋いできた国の心が死ぬ。そして今後の肩身も確保するために最大の戦果は日本の対深海棲艦海軍が頂戴する。


あえて海に身を投げて海中へと沈んだ。


突如としてロストする場面は絶対に見られるわけには行かず、念には念を入れて海中で行う。


妖精のパスを繋げてロスト空間(ヴァルハラ)へと還った。


そこは無限の資材の海だ。妖精の性能を回転させて艤装を修復、燃料弾薬を補給に平行し、マリアナ海戦の座標を特定して現海界の行程に移った。暗闇の視界が暗転した。次に視界に映ったのは空母棲姫の間抜けな後頭部だった。


戦後復興妖精「よう、エンタープライズの婆さん」


背中を軽く叩いてやると、すぐさま振り向いた。


――――みなの仇だ。


二人の声が静かに重なった。


空母棲姫の口内に砲口を突っ込んでブッ放す。死肉が爆ぜて、辺りに飛び散った。頭部を失った姫はその手足を不格好に動かしてあがいていた。しからばダメ押し、といわんがごとき、砲撃が何者からか飛んできた。

 

すでに壊滅的な味方艦隊からの最後の一撃だ。

砲撃こそ外れたものの、起爆した砲弾が破片を撒き散らし、周辺に被害を与える。だがその程度の叡知はこの『艦隊これくしょん』の海の前では全く持って無駄だ。その破片は深海棲艦の想力の防護仕様により、弾かれる醜態を晒すのみ。

 

姫の座まで届かず。

 

人間どもの最後の一撃は一子報いず。

しかし、天晴れ。

その心意気の熱に当てられ、連装砲ちゃんの砲塔が火を吹いた。

 

戦後復興妖精「姫様、お前を愛した船乗り達がヴァルハラで待ってるぜ」

 

反転建造システムのため艦の娘とは逆に艤装を本体に設定しているが、身体の接続部を失えば艤装は沈む。姫といえどもその損傷では長くは持たないだろう。


遠くで立ち込める黒煙が見えた。

探知能力で繋いで被害を確認する。

 

ああ、しまった。そういえば潜水艦の処理をしていなかった。あの炎上の仕方は拠点軍艦ではなく、燃料庫に誘爆した艤装と思われる。では誰がマリアナ海域で潜水艦の魚雷に被弾したのか。想探知の確証に加え、ギミックの一つとして取り入れられている史実効果の裏付け――――大鳳である。


見えないナニカが、傷みの産声をあげる。


傷に傷を重ねて、なにが癒えるという。

19世紀の海の傷痕は広がる一方だった。



【8ワ●:死にたい】



陽炎「……、……」



不知火「陽炎、気持ちは分かるが落ち着いてください」



甲大将「……」



悪い島風【おう甲の姉ちゃん、さっきまでの威勢はどうした。30年も生きてねえやつが、あの時代を知ったかぶってゴタゴタ抜かすんじゃねえよ。とりあえずそのまま黙っといてくださいねー】



悪い島風【さてマーマ】



悪い島風【私はあなたを恨んでいないよ】



悪い島風【憎悪なんてのは若い心が持てる感情だ。私は長く行き過ぎて、視野が海のように広く深く成りすぎた】



悪い島風【戦争は終結した。マーマの息の根を止めようなんて思わないぜ。傷に傷を重ねるだなんて所業なぞだるいっての。お前のせいで傷ついたんだ。だから寄越しな、だなんて乞食根性も歩んだ歴史のどこかで落としちまった】



悪い島風【時は人を変えるが、それでもなお歴史が似るのは子が親の背を見るがごとし。先立つした老兵の後に続く若き兵が老兵の夢の軌跡を描く故の歴史だ。繰り返し押し寄せる変わらぬ波を塞き止めるには人間はあまりにも分不相応に構築されてゆく】



此方「……」



悪い島風【あなたが本官のやつを愛したように、私の友であった島風はもう消えちまった。あいつはかつての大戦の軌跡を真似るかのように燃える海の歴史に奴隷船として漂う私の】



悪い島風【提督(お友達)だったよ】



悪い島風【愛することと人間としての生を教えてもらった】



悪い島風【友達だから私を縛り付ける海の傷痕を】



悪い島風【私の代わりに呪ってくれた】



悪い島風【海の傷痕を塞ぐことこそ戦後復興だと、お前らを始末すると誓った】



悪い島風【が、終わったな。まさか本官のやつがオープンザドア君だなんて大当たりを引いてくるだなんて思わなかったぜ】



悪い島風【だから、その想いもどうでもよくなりかけてる】


 

悪い島風【その怒りが私の中にあったから、パーパにメンテされたんだよ。だけど、不思議だよね】



悪い島風【自分の分もない癖に他人にパンを恵む人生はもう疲れた。相応しく1文無しになって路上でくたばりたい】



悪い島風【最後はかけっこであいつに勝ちたかったんだけどな。もうどこにもいねえ。声も聞こえねえや】



悪い島風【全く、何の因果か復活するに留まらず役割に縛り付けられてるしさ】



戦後復興妖精【島風の想が同化したお陰かな。芽生えた生理現象の殺人衝動を消して人間になりたいというあなたが求めるモノを理解したぞ】



悪い島風【確かに】



悪い島風【戦争起こしてまでも手にする価値はある】



悪い島風【だが】



悪い島風【私は背負い過ぎた。私の意思とは別に皆のためにやらなきゃならんことがある。お前らにも分かるだろ?】



悪い島風【落とし前をつけさせてもらう】



甲大将「待てって。歴史は私達の世代が決着させただろ」



悪い島風【死人に口なしの時代は終わったのにテメーらだけで終わらせんな? 最初期から終戦まで生き抜き、海の傷痕と人間サイドを分かってる私が戦利のテーブルにつく権利はある】



悪い島風【誰が海の傷痕の保護を許した。が、妥協点はいるよな。別に私はお前らと戦争したいわけじゃない。むしろ逆だ。だから落とし前だけつけろって話だ】



悪い島風【うざい。その電のような優しい眼差し】



悪い島風【お前は人間になれたじゃん。良かったね。マーマのその幸福はパーパを犠牲にしたわけでもない。パーパも望んだ幸せだからね。あれはそういう生き物だ。私より立場が上なだけで、マーマが作った分身に過ぎない。もちろん本官のやつも祝福しただろう】



悪い島風【マーマは艦の兵士とも上手くやれてる】


 

悪い島風【愛に満たされてる】



悪い島風【心底むかついていた。私は全てを失って手に入れようとしているのが終わりなのにね。でも今はもうどうだっていい。お前が勝ち組で私は負け組でいいんだ】



悪い島風【せめて被害者気取りすんな。同情もすんな。お前に私の何がわかる。全てをもらえるロスト空間の環境下に生まれ、そこにいた無数の人間から施されただけのお前が幸せの代価としてなにを支払ったという】



悪い島風【ま、安心したまえ。私もきちっと戦後復興に協力して艦の兵士の皆さんを導いているさ。せめてもの反抗心として意地悪しているけど、まあ、それくらいは許してくださいねー……】



此方「あーあ……」



此方「やっぱり無理だったか。ま、虫のいい話ではあるよね。海の傷痕の片割れが表をのうのうと出歩くなんてさ」



此方「だけど、死ぬまではがんばって生きるよ」



悪い島風【それでよろしい。お前の生を願う者がいる限り、そうでなければ私が引導渡してやったところだって】



悪い島風【制限が解くのに協力。願いを書き込むんだ】



悪い島風【座れよ、海の傷痕】



悪い島風【その椅子に座って】



悪い島風【生死の苦海に溺れたまえ】















此方「だが断る」




悪い島風【出た出た。マーマの個性、自分本意のワガママ】



甲大将「書くのに問題あるのか?」



此方「……、……」



甲大将「話的に自害は出来ないんだろ?」



悪い島風【はーい。ご都合主義のバリアあるんでー】



甲大将「なんとなくお前が准将達とドンパチやってるのも理解したわ。確かに向こうの連中ならお前殺す策とか思いつきそうだし」



甲大将「私の意見だが死にたいなら死なせてやればいいじゃねえか。死ねりゃなんでもいいんだろ。私が代行してもいい。前陽炎に頼んでも引導渡してもらえるんじゃねえの」



悪い島風【ほんとお前なんで女で産まれちまったんだよ】



甲大将「知るか。結局は制限解くために妖精工作施設のデータが要るんだろ。此方は基データ覚えてないのか?」



此方「いやいや、なにを真に受けているのか」



此方「こんな風に相手の感情を揺さぶって契約させるのは常套手段だよ。死にたいっていうけど、それなら妖精工作施設じゃなくて妖精必殺の経過程想砲でもいいし。制限解いてやりたいことがあるんだよ」



此方「話を戻すけど、悪い連装砲君に入っている想はなに?」


 

陽炎・不知火・甲大将「……」



悪い島風【本当にもう生きるのはだるいのー】



悪い島風【あそこに天津風ちゃんの想だねー。別に大した意味はないよ。連装砲君事態が天津風の装備なので、天津風の想のほうが連装砲君の性能を引き出せるだけの話】



此方「その想は、オリジナル?」



悪い島風【違う。私のメモリーから天津風ちゃんの想から私が作った分身。そして同じように島風の偽者もある。人形ごっこして気をまぎらわせていただけー】



此方「そう。それで書き込みたいあなたの願いは?」



悪い島風【なにもない。あいつらがクリアするまでになにも思い浮かばなかったら、自害の願いを書き込もうと思ってるー。まあ、それかー、戦争の傷痕少しでも癒すために兵士の皆さんのためになることー】



此方「結論からいって妖精工作施設はデータが複雑過ぎて私の記憶から作ろうとしてもどれだけの時間がかかるか分からない。あれ、調整したの当局だからね。経過程想砲と海色の想は私だけど……」



悪い島風【そんな踏んだり蹴ったりなオチですか】



此方「でも契約履行装置がある。あれは当局から聞いてる。当局の承認を持って海の傷痕の管理者権限を一時的に戦後復興妖精を介して契約者の契約内容を実現する願いの過程短縮装置だからね」



此方「だけど、妖精工作施設を作るだなんて制限が邪魔をして出来ないはず。それが出来るなら妖精工作施設を知る人にそういう契約を書き込ませたらいいだけの話だよね?」



悪い島風【その通り。だから契約履行装置に書き込ませるんじゃなくて、その基データを教えろっつってんですよ。5種とはいえ制限のせいで私は私を解体すら出来ないし】



此方「深海妖精のデータはあるよね?」



悪い島風【そりゃありますが。電子データとはいえ、やろうと思えば海に深海棲艦ばらまけますよ】



此方「工程1、深海妖精を作る。工程2、擬似ロスト空間の管理権限を私に譲渡する。工程3、私の知識と准将の見当力と、廃課金の皆で妖精工作施設を作る。工程4、私をバグに建造する。工程5、あなたの制限を解く」



此方「これであなたの制限をかい潜りながら、制限を解くに至る。これしかない」



悪い島風【……、……】



悪い島風【問題が1つある】



悪い島風【准将が協力しないと思う】



3



陽炎「いやいや、協力するでしょ。これだけの大事になりつつある問題なんだから、あいつなら既に今の会話を想定していることも考えられる変態だし」



不知火「……司令はなにかそれをするのは不味い目的が?」



悪い島風【乙中将がすでに嗅ぎ付けてはいそうなんだけどね。理由は主に2つ】



悪い島風【まずあいつは私を消す方法を知ってる。私は敵と認識するまでもないという態度だからね、擬似ロスト空間の管理権限を握られてあるのに安心だなんてあり得ない。現に私はやろうと思えば世界征服可だしね。そしてやりかねないよ。これは嘘偽りない本心】



悪い島風【私にはよく分からない。想力の解釈を駆使してもね。あいつな機械的だから分かりやすいかと思えばその実、行動までには馬鹿みたいに複雑なプログラムを組んでる。だから、分からなかった。ふざけたやつだよ】



悪い島風【分かったのは、そうだな、少なくとも今は私を利用するために生かしているということ】



悪い島風【逆にいえば、私もそれを知っていることも知ってる。だから私達は仲良くやれている。そしてあいつが利用したいのは間違いなく想力工作補助施設の基データだ】



悪い島風【それを切り札に私はしてるから、物を売り付ける営業ウーマンのごとく性能だけ見せびらかして、構造を語っていない】



悪い島風【お互いに情報を抜くために化かしあってる】



悪い島風【何のためかと言えばもちろん】



悪い島風【自分のためだ。ビジネスじゃないかな。あいつは戦争が終わったからもう海に興味なんてない。新たな人生を始めようとしてる。それを責める権利は誰にもないはずだし】



悪い島風【想力工作補助施設はほんとに便利だからね】



悪い島風【ただ話した通り、あいつが私に対して必殺を持っているだけは分かっても、それがなんなのかは分からない。最初は即ガングートやグラーフをけしかけてくるほど焦っている風だったのに……】



悪い島風【あの野郎、今までの物語のどこに私を仕留める伏線を仕込んだんだっつの】



陽炎「ちょっと待て。それじゃ司令がなんか欲に目が眩んだ最悪なやつみたいじゃないの」



悪い島風【お前、お父さんの背中がみんな綺麗で大きいと思ってんの? 血へど吐きながら、下げたくない頭を下げながら、みんな頑張っているじゃん。そういう感じだろ】



甲大将「腹を探り合う必要がねえだろ」



甲大将「色々と意見が出たが、准将を連れてこいよ。私が話をつけるから。まずそこだろ」


【9ワ●:切り札】



陽炎「で司令、話は聞いてたわよね?」

 

 

不知火「事態を丸く収める方法が提示されたも同然です」

 

 

提督「まあ事情は聞きました。海の傷痕と問答を交わしたこの部屋も懐かしく思えますね。ああ、此方さんもお元気そうでなによりです」

 

 

此方「お久し振りですね」

 

 

甲大将「で、悪い島風に対しての切り札ってなに?」

 

 

提督「甲大将の話はさすがに蹴れませんね……深海妖精発見の時から現在進行形でお世話になっておりますし……」

 

 

提督「その切り札って最終海域の策として機能させる予定なんですけど、話していいんですね? もうどうなるか分からなくなりますし、例え悪い島風さんが聞いていなくてもあなた達に話せば漏れる可能性も高くなると思いますが」

 

 

甲大将「構わねえから」


 

提督「了解。まあ、策になるかも分からないことなので」

 

 

悪い島風【切り札っていうのはやっぱり最後のパーパとの会話だよね? 闇の報告書は全て目を通したし、中枢棲姫の手紙もすぐに読んだ。でも、私に関することなんてなかったし、切り札になり得るような情報もなかった】

 

 

提督「いや、あなたが疑っておられた当局との会話ですが、あなたに関してはなにも。此方さんのことばかりでした。ああ、存在自体は本官さんから聞いておりましたよ」



提督「ぶっちゃけ出てきた時は超焦ってとりあえずいうこと従っておこう、とこのゲームを最後まで遊ぶとの契約を交わしましたんですよねー……」

 

 

提督「それに別にあなたを確実に瞬殺できる手なんてありませんよ。それはあなたの誤解でしょう。どうにかなる可能性が思い浮かんだのは否定しませんけど」

 


提督「もちろんそこについて報告書なんか書いてませんよ。だって上に報告することではありませんでしたから」

 

 

悪い島風【だから、どこでそんな可能性を見いだして……】

 

 

悪い島風【……、……】

 

 

悪い島風【報告書を書かない?】




悪い島風【もしかして――――】


 

悪い島風【『戦後日常編』のほうか……?】

 

 

提督「はい」



提督「といえないからこそ、あなたの探知を逃れていたのでしょう」



悪い島風【確かに色々あった。報告書として書き留める必要もない。私がちょっかい出していたから非日常ではあるけどさ】



悪い島風【でも、誰の時で、どんなところに私を仕留めるナニカを見出だしたんだ?】


 

提督「これに関していえば初っぱなです。長月&菊月さんですね」

 

 

提督「菊月さんは遠征中なので長月さん、神風さん、引率に元ヴェールヌイさんに頼んで調べに行ってもらいます」

 

 

提督「少しお待ちください。神社に出撃してもらいますので」



【10ワ●:あの日の神社にヤツがいる】

 


北方提督「あそこの小さい公園の裏手かい?」


 

長月「ああ、あの公園は私がガキの頃はもちっと大きかった。公園、私有地になって見ての通り建売住宅にいる子供達の遊び場になっているんだとさ。コブタとオオカミに聞いたんだが」

 

 

神風「コブタとオオカミ? 長月ちゃん不思議系ですか」

 


長月「友達だ」キッ

 

 

神風「ごめんなさい。そうよね。ミミズだってオケラだってアメンボだってみんなみんな生きているんだ友だちなんですよね」ニコ

 


長月「手のひらを太陽にかざすんじゃない! 人間の友達だぞ! コブタとオオカミはあだ名だ!」

 


北方提督「平和だねえ……ここを抜けた先の神社だね」

 

 

神風「む、公園に誰かいますね」

 


長月「うん? あいつらか。あれがコブタとオオカミだぞ」

 

 

北方提督「日が暮れてもボール投げてるとか元気だね。混ざりたいから混ざる」

 


オオカミ「誰!? 白いやつが急にボールを取ったんだが!」

 


北方提督「ん、このボールはドッジボールかな」

 


コブタ「あ、長月さんですか。それと、ええと、神風さんかな? もう一人は分かりませんけど」

 

 

長月「その大きいのは北方の提督さんだ。神風は合ってる。というかお前ら日が暮れてんだから帰れよな」

 

 

オオカミ「帰っても暇だからなー」

 

 

長月「だからってコブタを付き合わせるなよな。オオカミお前、どうせ昨日の宿題もまだやってないんだろ」

 

 

北方提督「なんて微笑ましい光景と会話なんだ……ポンキッキーの主題歌でも流したい」

 

 

オオカミ「つうか緑は何しに来たんだ?」



長月「あー、神社にちょっとな」



オオカミ「なら、明日は雨で体育つまらなくなりそうだから晴れるようにいっといてくれ」

 

 

長月「お前なあ……まあ、いいけど。用のついでだし」

 

 

コブタ「そういえば前にも天候に関する願いごとしたな。ほら、僕のところの学校、プール開き珍しくも春だからさ」


 

長月「ああ、台風にしてーって願ってたな。あの時は菊月と龍驤がいたかな。龍驤はずっと猫と遊んでたっけ」


 

長月「じゃあまたな。早く帰るんだぞ」


コツコツ

 

神風「――――ッ!?」

 

 

北方提督「どうかしたのかい?」

 

 

神風「 ガクブル(((ノ)ŎдŎ(ヽ)))ガクブル」

 

 

長月「神風お前ほんとにどうした!?」

 

 

神風「今まで感じた気配の中で最も怖くて、丁准将みたいに吐き気を催すこの感じ……この神社、邪神でも奉ってる?」

 


長月「おいおい嘘だろ。まさか当たりか……?」

 

 

長月「気がした程度だぞ!」



長月「ここの神様にお祈りしていたら――!」

 

 

 


 

 

 

 

 


 

 

 

嘲嘲:ケラケラ!

 

 

 

 

 

 

 

 

長月「そう、こんな意地の悪い嘲笑の声が聞こえたから2度とここの神様にはお願いしないって決めたんだよな……」

 

 

北方提督・神風「聞こえた!」

 

 

北方提督「トリャ!」

 

 

長月「おいコラ! 御扉を壊すとかバチ当たりだぞ!」


 



 


 

 

 


当局「おはようございます」

 




 

 

 

 


長月「ウッソだろお前!?」



 

 


 





提督「との連絡ですね。嫌な予感はしてた」

 

 

悪い島風・此方「……」

 

 

甲大将・陽炎・不知火「……」


 

提督「……(メソラシ」


 

甲大将「まあ、その、なんだ」

 

 

提督「色々解決、しちゃいましたよね……」

 

 

此方「いや、確かにロスト空間消えたらどうなるか私と当局にも分からなかったし、想の溜まり場とかスイキちゃん復活とかもあったけど、当局まで残っているんだ!?」

 

 

悪い島風【出てきちゃダメなやつが普通に出てきたなオイ!】

 

 

悪い島風【あっぶねえ……!】



悪い島風【戦後日常編でパーパを見つけていたとか分からんかった。そこを切り札としか解釈出きんかった辺りは確定しておらず、不確定事項に加えて頭ん中でごちゃごちゃ考えていたのがモヤかけてたからか……】

 

 

提督「まあ、海の傷痕ではなく、ただの当局さんな模様ですし、本人には現段階では危険度はないと判断してもよいかと。これで悪い島風さんの制限解除は可能ですよね」

 

 

悪い島風【おう゛! 足りない記憶も妖精工作施設の件も解決だ! 准将、お前マジ使えるな! 私の好感度だだ上がりですよ!】



提督「わるさめさんが『あなたを良いやつだよ』と楽しそうにいっていた時点でね、なんか敵ではない気はしていたんですよね。あの子、そういう方面に才能ある子なので……」

 

 

不知火「海の傷痕、中枢棲姫勢力といい、司令は彼等に対して好かれますね」

 


提督「一部コメントしづらい……」

 

 

甲大将「まあ、もう1つあるだろ?」

 

 

陽炎「司令がなに考えているか、ね」

 


提督「簡潔にまとめると」

 

 

提督「想力工作補助施設で儲け」

 

 

提督「悪い島風さん、どうです」

 

 

悪い島風【もちろん。これは等価交換といえよう。あなたの勝ちだ。本心から詐欺せずに対等な契約をしてやってもいいと思った時点でテートクさんの勝ちかなー】

 


甲大将「……待て。少なくともそのわるさめがいったから、というのは楽観的過ぎだ。いくつか危険な橋があっただろうが。仮にも疑似とはいえロスト空間形成されて、管理権限奪われてる」

 

 

甲大将「私はこっちで連日死ぬほど忙しかったせいもあるが、お前が任せろっていうから信頼していたんだぜ。ああ、結果論で語るのは止めてくれ」

 

 

提督「自分は英雄とかいう器ではなく、あなたのような勇敢さも誇りも持ち合わせておりません。提督として共通していたのは自負ですね。自分はなにがなんでも戦争終結させる、という気概があり、この海の真理に近づいているという自負もありました」

 

 

提督「そこがあなたに認められた点でもあるかと」

 

 

提督「この戦争は特別であっただけ。本来の自分は英雄とかいう器ではなく、ただの臆病者なんですよ。大丈夫になってからではないとやろうとしない。表に出て大きなこというの怖いから、陰でこそこそいったり。誰かが名乗り出てくるのを、ビクビクしながら待っているだけの、です」

 


提督「そんなやつが」

 

 

提督「あんなに良く出来た子達の面倒を見る」

 


提督「怖い」


 

提督「父ではなくとも、責任を背負う。自分は子供時代の経験からして親としての役目は最も大きな責任であり、酷くプレッシャーを感じております」

 

 

提督「みなが自分を見る目も変わりました。良いほうに、です。立派な提督だ、とかね。間宮さんになんかは告白までされて。そんなこと自分の人生にあるとは思わなかった」

 


提督「くっそびびってますからね」

 


甲大将「つまりお前は嘘の報告までして、皆の身の危険になると判断できていたことを黙ってたわけだ」

 

 

提督「嘘の報告はしてません。当局の件に関しては察していたので、そう受け取られても仕方ありませんね。いうとなると『確定事項ではない情報で余計な混乱を招かないため』ですね。これならどうなります?」

 

 

甲大将「……」イラッ

 

 

提督「物はいいよう」

 

 

甲大将「お前はあの海を越えた同志を利用して出し抜いてまでちゃらちゃら着飾るもんが欲しいってことか?」



提督「いい方があれですが、解釈自体は間違っておりません。上流の家庭に産まれたあなたにはビジネスというのが周りを欺く要素も必要だと理解できておられるのでは」

 

 

甲大将「なんだそりゃ……?」

 

 

陽炎(……あ、ヤバい。甲さんがキレそう)

 

 

提督「いやー、トラウマですからね。父と祖母が死んで、母が消えて、手元になにもなくなったあの頃の自分はふっつうに草食べたりもしていましたし、ホームレスですよ」

 

 

提督「雷さんのところに学費となる先立つモノと住所を借りられたのでなんとかなりましたけども。そこらの過去のせいです。この幽霊のような生気のない見た目は」


 

提督「そんな生活とあなたの生活、どちらを選ぶといったら、間違いなくほとんどの人があなたの生活を選びます」

 


提督「違いますかね?」

 

 

甲大将「負けず劣らずの腐った大人の背中は見て育ったんだが、まあ、そこは水掛け論だから置いておく。確かに私は明日喰う飯に困ったことはねえから」

 

 

甲大将「武蔵の気持ちが分かったぜ」

 

 

甲大将「なんで分かんねえんだ」

 

 

甲大将「電やわるさめは納得するのかよ。私達を騙して出し抜いてまで、ビジネスの成功を願うと? 仲間を虚仮にして得たモノがあいつらの笑顔に繋がるか?」

 

 

甲大将「そっちは取り返すのは本当に難しくなんぞ?」

 

 

甲大将「お前が作ろうとしているのは張りぼてだ。家の外装内装良くしても、そこに住む二人がなにに幸せを感じるか。それが大事だろうが。びびってんじゃねえよって」

 

 

甲大将「明石のやつと秋月のことは知ってるはずだ。あの二人も環境に恵まれなかったけど、なにが幸せだったか知ってる。金さえあれば、だなんて口が裂けてもいわねえだろ」



提督「分かるんですが、よく分からないところなんですよね。なんか上手くいえませんけど……」



甲大将「……そっか。あー、クソ、なら私もこれ以上はいえねえや」



陽炎「司令は本当にそういうところで鈍いから……」



陽炎「私には親族関係の辛さは分かるけど、駆逐の面倒とかそういう大人視点の話はよく分かんないわねー……」

 

 

甲大将「一応いっとくが、ビジネスを否定したい訳じゃねえ」



悪い島風【仲間を想っての言葉だもんねー】



甲大将「お前不愉快だな」



悪い島風【おう? 図星突かれてキレるとかなかなか可愛いところあるじゃんよ】

 

 

陽炎「……というか此方ちゃん的にはどうなのよ? 当局のやつ生きていたけど、これ更に心労よね。こっちとしてはあいつの存在だけは許しておけないから」



陽炎「誰が悪いとかじゃなくて、単純な仲直りで終わらせるには『艦隊これくしょん』は人の命をあまりにも弄び過ぎたからね。そこがあいつも分かっているからこそ」



陽炎「当局のほうはあなたの代わりに海の傷痕の罪を抱いて死んだんでしょう?」



陽炎「あなたが愛する片割れを失うことでね」



陽炎「それで人類側(こっち)は、少なくとも私は手打ちにした。こっち側ではほとんどのやつがそうよ」



此方「わかってる……けどね」



此方「当局と本官さんは私にとって…………」



此方「わかってる」



此方「って、だから」



提督「『当局も一緒に』」



提督「とかいうのは勘弁してくださいね……」



提督「笑えないほどの茶番劇はもはや悲劇ですよ」



提督「ロスト空間が消失した後のことは未確定だったといえども当局がまだ妖精状態で存在している。これはチューキさん達への侮辱ですらありますから」



悪い島風【ったく、言葉がキツいっつーんだよ。妥協点はあんだろーが】



悪い島風【響のやつを思い出しな】



悪い島風【パーパとマーマは響と暁、雷、電のようには生きられないけど】



悪い島風【響とヴェールヌイのようには生きられる】


 

悪い島風【それ以上はワガママっつうもんだ】



此方「……う、ん」



陽炎「……ごめんね。辛い想いばかりさせちゃって」



此方「ありがとう。でも大丈夫」



悪い島風【マーマは書き込みたい願いを考えとけば?】



悪い島風【ああ、安心してください。その場にはあなた達もいてくれて構いませんし、契約内容の承認は細心の注意を払うので】



悪い島風【ま、産みの親に親孝行は出来そうだなー。そういうのもいいか。とにかく制限取っ払って自由にさせてくださいよ。私もさー、退職したいんですよー】



悪い島風【提督勢には礼をいいますかね。このロスタイムで】



悪い島風【ヨッシーとヤッシーみたいに】



悪い島風【なんとか最後に大逆転のラストシュートは決められそう】



此方「……」



悪い島風【想力解釈に秀でたあんたがそんなに驚いた顔をするとは、長生きもするもんだねー】



陽炎「……あんたやけにわるさめと仲良いと思っていたけど」



悪い島風【まあ、色々あったけど島風のやつはダチだ。なので産まれたことには感謝しているんです。わるさめちゃんのマザコンは分からなくもないですー】



甲大将「はあ、まあ、これなら閉じ籠ってる意味もあったか」



不知火「やる気の出る戦後処理ですね」ヌイッ



悪い島風【で、私が生存するために始めたこのゲーム、ほとんど意味なくなっちまったな】



悪い島風【お前らから想力回収するためにこんなゲームに付き合わせたのと、お前らなら『殺せない私を殺せる』策を思い付いてくれると思って始めたもんだし】



悪い島風【パーパはずるい】



提督「イベント途中でサービス終了とかあり得ませんよ。クソ運営じゃないですか」



提督「まあ……あなたの目的は達成されますし、もう腹を探り合う必要もなくなりましたので、ひとつお聞きしたいのです」



悪い島風【なにー】



提督「速く。あなたもこれを求めていましたよね」



悪い島風【ああ、速くもっと速く。じゃねえと】



悪い島風【助けられたはずの仲間がどんどん死んで行く】



悪い島風【本来の機能を制限されて戦い続けたわけだ。そこで見出だしたのが速くなること。それが島風艤装の武器でもあって、あの島風の好きなことでもあったなー】



悪い島風【島風のやつは私の中に吸収されることで途中退場しちまったみたいだけど】



悪い島風【刀一本まで制限されたからこそ、速度に活路を見いだして、あの想力の領域に足を踏み込んでいる超感覚の神風は本当に私とよく似てる】



提督「ロスト空間において速度も物理法則を越えて」



提督「……速く。その想いの定規は右方向に向かって延びて行く。そして」



提督「0に近づき」



提督「そして、0を越えた時」



提督「その想いは時を越えて届くとかありませんかね?」



悪い島風【……、……】



悪い島風【――――】



提督「やる気出ましたか?」



悪い島風【いや、でも、どうなるか分からねえぞそれ】



提督「あなたの人生は可能性に命を賭ける連続だったはずです。恐れる以上、それほど大事なことなのだとは分かります」



提督「賭けてみる価値はあります。そしてそれはあなた一人では難しいでしょうね。長く生きすぎたせいか自らの心にすらも達観的なので」



提督「自分は神風さんに神速にまで押し上げ、あなたを倒します」



提督「神風さんはその名の通り、日の丸に降り注ぐ厄災を振り払うがごとし」



提督「強いです」



提督「いい顔ですね。やる気が出てくれたようでなにより。自分も今、終わられては困ります」



提督「そしてこれは『ゲーム』だ。だからこそ、容赦はなしで神風さんにあなたの首を落としてもらいます」



提督「単純に提督としての興味です」



提督「最初期の中で名高い戦果をあげた島風、北方ではもはや伝説として語り継がれておりますね。あの地獄を戦い抜いた兵士達の程を知りたい。海の傷痕を倒した我々は」



提督「あなた達より強くなれていたのか」



甲大将「うおお、めっちゃ熱い」



陽炎「甲大将が楽しそう」



不知火「珍しく司令が男の子の心を出しちゃってますね」



此方「……、……」



悪い島風【わかったわかったよ。楽しんでくれてなによりだ。続行しようか】



もうちっと、進むか。






あー、スゲー昔のこと思い出したわ。

大鳳の背中の刺繍と、艤装に乗ったかつての兵士達。それを見てあいつはいっていたっけな。













――――想いは時を越えるんだね!













あいつはまだ――――














まだ私が追いつくのを待ってくれてんのかな。





【11ワ●:戦後日常編 鹿島 with 提督&神風&大和&雷&卯月】


出会いとか恋とか。


私はマンション内とコンビニの中を往復する生活を二年繰り返していまして、そう、鹿島艦隊の悲劇と呼ばれるあの事件から解体をして、艦隊これくしょんの鹿島ではなく、民間人としてどこにでもある日常を送っていた頃です。その生活で感じたのは都会が利便性に溢れていたことですね。コンビニはもちろん、近くの百均ショップも、電気屋さんもファーストフード店もある。


出会いはプライスレス。


無料で手に入るからこそ、売られないモノの一つです。普及していないのは、皆が求める需要内容に対して安定した質を確保できないからなのでしょう。そこを突きとめた商売はたくさんあります。けれど、私はそれを求めた場合、そういうお店でプロのお方達と、というのは違いますね。


きっと商売を介さないピュアな出会いを求めますから。


わざわざ外に出なくても、手軽になんでも手に入れる手段を用意してくれるモノがあります。用法用量にご注意ですが、そう、携帯電話です。触ってこすってしまえば願いを召喚できる現代の魔法のランプですね。これ一つでお店よりも安く品物も出会いも、金銭だって稼げる時代です。ですが、個人情報の塊でもあるそれは同時にパンドラの箱として災厄を運んでしまいます。


ネット絡みの事件、年々増えていますよね。


鎮守府(闇)でも皆さんほとんど持っていて、毎日のように触っています。なにかトラブルに巻き込まれないか、心配です。


何気なく提督さんと携帯電話について会話をしたのは先の神風さんの訓練に関して、少し話題が逸れてしまったゆえです。艦の兵士は今、とっても世間に注目されておりますゆえ、駆逐の子が動画で顔を出していたり、ツイッターにプレイしているゲームなどをアップすれば山のようにフレンド申請が来たりしているようで、提督さんは快く思っていない模様。


提督「鹿島さん、出会いなどと街を歩けば声をかけられる程のあなたがなにを……」


そうそう、今日に気付いたことなのですけど、私も恋、とか知っておいたほうがいいかなって。神風さんの力になってあげたいという理由が発端ではあるものの、思えば練巡になった理由も、電さんと似たような理由で、結局のところ、私はあんまり変わっていないようですね。でも、今回はちょっと違う。発端はいつもの私でも、私自身、恋愛に興味が湧いたのは初めてのことなので。


提督「ですが、自分も今後のために興味のある分野ではありますね」


まさか提督さんも出会いやら恋やら携帯電話事情に興味があったとは。


うーん、この提督さんのことだから言葉通りに受け取るのは間違いですよね。なにが目的に対して知っておくべき知識であるということなのでしょう。と、この鎮守府でも携帯電話に関してなにか規則を儲けようか、とそんな会議をした翌日のことでした。


提督さんが丙少将に怒られたのは。


その件で提督さんは少し休暇を取りたいとのことで、私の自宅に招待したのです。


そこで私と提督さんは電子とビジネスの世界に出会いました。

魔法のランプとパンドラの箱をこすりながら、開けゴマと呪文を毎日大きく唱える理解不能な愛憎模様が渦巻いていた。現代の闇と光がぎっしりと凝縮されたその部屋での物語です。ああ、提督さんはなかなかうぶなお人のようで頭を抱えてばかりいました。


世の中に溢れたインフォメーションの群れはもはや自分ではどうしたらいいのか分からなくなるほど、いくつもの答えを持ってくる。どれも正解の仮面を被っているから、逆に正解も分からなくなるくらいです。


そういう情報を集めて駆け引きするよりも、人の心をとことん見ることが大事なんだと思います。誰もが闇の中で蜘蛛の糸のようないつ切れてもおかしくない儚い光を辿っている。


愛した相手を真正面からただ強く抱き締めた時、きっと私達はその想像以上の脆さを思い知る。


だから、愛しいってそう思えるのかもね。


こういうのも何気ない日常なのかな。

そこはまだ私もよく分からないですけど。


【12ワ●:愛憎渦巻く鹿島‘sマンションへようこそ♪】


丁准将、丙少将、乙中将、甲大将、そして北方提督。


提督の彼等は司令部の意向に従い、私達の指揮を執る。戦争において現場の責任者というべき存在であり、学びの立場でもある。対深海棲艦海軍のポストは兵士の数からして決して多いとはいえず、彼等のように世代を同じくした現場で経験を積んだ提督というのは各作戦で組むことも多く、砕けた言い方をするとクラスメイトの隣席のようにお互いを知る機会が多い。


提督さんがその場で口を閉じたまま、あぐらをかいて座っている。その右頬は真っ赤に腫れているのは丙少将に人生3発目となる拳骨をもらったからだ。普段の流れでは乙中将が二人のケンカの仲裁に入るのだけれど、今回はなにもいわなかった。甲大将は今回、大本営につきっきりだったため、こちらのいざこざには関与していないからか、場を観察している様子だった。


今回、仲裁に入ったのは北方提督だった。


仲裁といっても問題が分からない生徒が教師に質問する、といった風だ。


北方提督「ええと、殴ることかな。私には准将が体罰を受けた理由が分からない……」


甲大将「総指揮、丙少将だろ。当局の存命を察しておいて黙っておいたのは不味かった。すでに軍から籍外しているのなら別だが。そこら辺り今回私は外にいたからとりあえず見てたけど」


乙中将「僕は見たのは3回目だなあ……よくある光景ではあるけどね。先代の丁准将と今の元帥、もともと丙少席の人だけど当時は仲悪かっただろ。あれと同じようなもん。あの二人は歳取ると子供みたいなケンカは収まったけど、この二人はあの撤退作戦の時から変わらないね……」


興味あるなら介入してみたら、と乙中将が北方提督にいう。それなら、と一歩前に出た。


北方提督「当局は戦後復興妖精に対して策として機能するだろう。そしてその策を漏らせば想力で戦後復興妖精に伝わる可能性が高い。特に丙少将といった感情的なタイプは特にね。それを報告するタイミングは私達が最終海域に突入し、戦後復興妖精の意識が皆に割けられている時がベストだと思う。それまでに策を孤独で考える結論に至るのは仕方ないし、信用できない彼ではないはずだ。この件は報告できなくても仕方ないんじゃないかな」と、提督さん寄りの発言だ。「私が准将でも黙るよ。なので、ここらで終わりにしよう。大人のケンカとか見るだけで辛いんだ」


丙少将「安心しろ。今までとは違うよ。俺が感情的に准将を殴ったと思ったか?」


北方提督「乙中将、甲大将、彼は普通に怒っていたよね……?」


乙中将・甲大将「異議なし」


丙少将「北方の。お前のそれは最もだが、見当違いの理屈だ。話を聞く限り、当局の存在を黙っていたのは戦後復興妖精を倒すための策として機能させるため、という前提が間違いだな。大本営での会話に嘘がないのなら、取引のために黙っていたのは明白だろ。神風、お前はどう思う?」


とその場で凍っていた神風さんの身体がびくっと震えます。存在さえ感じ取らせないほど、小さくなっていたようです。気持ちは分かりますね。提督同士で拳が出るマジな感じのケンカを目撃したのは始めてなのでしょう。神風さんは小さな声でいいます。


神風「先代の丁准将もそうですが、目的のために犠牲を出すことに躊躇いがないといいますか。なにかこうやって非を責められる場合、他になにか狙いがあるって私はそう思います。この場合は司令補佐、あ、いや、准将が認めた通りビジネスのためだというのは本当かと……」


北方提督「私はそれも悪いとは思えないけどねえ……」


神風「でしょうね。建国とか欲望丸だしの司令官が責めていたら問答無用で切り捨て御免です」


丙少将「そこでもない」丙少将は軍帽の唾を下げて目を隠しました。「理解して許すべきなのは海の傷痕という存在ではなく、トランス現象によって突然発生した命というのが世の見解だ。当然、想力関係の大人事情もある。だからその兼ね合いで当局は『不可』で、此方のほうは『可』なんだよ。最後の海でのこいつが当局を置いて此方のほうだけ救ったのもそれが分かっていたからだ。今回の黙秘の理由がビジネスのため。まだ軍に籍を置く身として勝手が過ぎたってことだ」


愛の拳骨、ということですね。


神風「ならうちの司令官もシバいてくれませんか。建国とか司令補佐の比じゃないですよ」


北方提督「丙少将は女を殴るようなやつではないのさ」


丙少将「あんたに関しては四十年近く生きていてそれだからもはや呆れかえっているんだけどな……」


甲大将「あ? 建国ってなに。話の内容的に想力を利用して国を作ろうってことか?」


北方提督「その通り。本当の自由の国をね」


甲大将「お前は後で私と話をしよう。女同士だし遠慮は要らねえから」


北方提督「肉体言語かな。小娘め、とかっこよくいってやりたいけど、現実問題、武器なしで私があなたに勝てる訳がないじゃないか(震声)」


丙少将は北方提督とはまた態度は違って、提督さんには本気な感じで怒るようです。歳的にも兄が弟をこっぴどく叱ったみたいな雰囲気もあります。なんだかんだで仲は良くなっていると思いますが、肝心の提督さんは長らく思考にふけってなにかを考えている様子だ。きっと自分の頭で出した答えの反省点を模索しているのでしょうね。


問題は、海の傷痕当局の存在です。


この場にはいるようなのですが、乙中将の妖精可視才を以てしても完全には見えず、意思疎通は不可能な状態のようです。乙中将いわく、「けらけら」と「おはようございます」の二つの言葉を返してくるだけで、悪い島風さんいわく「修復は無理なまでに壊れちまっている」とのことです。


傷痕の象徴の大悪党。


煮え滾る憎悪を向ける先の彼を討ち取って、その首を掲げて心から呵々大笑する。正体を暴いて皆でズタズタにボロボロにした。そこに間違いはないのですが、改めてそのモノ言わぬ存在、痛めつけた姿はその背景を黙示している。人間には色々な見方があるもので、大悪党をただの大悪党では終わらせません。海の傷痕:当局はその背景から色々と言われています。違法建造に気付かなかったために百年以上も戦争を続けた間抜け、とか、一人の女の子のために尽くした愛すべき馬鹿野郎、とか。


神風「すぐに処分すべきかと。ミクロの存在でも消滅させるべきです」


鹿島「あの、海の傷痕がこうなったのって、私達のせいでもあるんですよね?」


北方提督「言いたいことは分かるが、それ以上は辞めておくべきだ」北方提督さんはいいます。「私達がもっと優しくなれていたのなら海の傷痕を殺さずとも解決する手段があったのではないか。最もだけど、私達以外が納得しない。国の規模で戦争をやるとはそういうことだ」


甲大将「鹿島のいうことも一理ある。憎悪をし続けるだけではどうなるか、はあの戦争の輪廻が表している。だから世界は意を汲んだんだ。彼が何のために戦争を勃発させたのか。こちらの世界に居場所を作るためだ。だからせめて、此方のほうは請け負った」


乙中将「人間改装しようとした個性、それと当局のほうは此方のためにそこまでやるやつだ。当局である限り、それが役割だよ。こちらとしては想力を熟知し、手段の為に戦争を躊躇いなく使う奴を生かしておけるわけがないからね。例え人間になったとしても変わらないやつだったよ。当局自身分かっていたはず」


悪い島風【こほん。ンな腐るほど展開されてきた議論は後でもいいですよ】


悪い島風さんはわざとらしく咳払いしました。


悪い島風【確認しますよ。想力工作補助施設を私から切り離して、あなた達が艤装のスロットに設置するように同じ状態の装備にして引き渡す。それでパーパから情報、断片でも抜ければ望みはあるので。想力工作補助施設は装備性質的に誰でも扱えるという訳でもなく、初霜神風は不安定なので恐らく安定して使える見込みがあるのはマーマと電のみ、ですね。もちろん作業場は疑似ロスト空間、乙中将立ち会いの元です。それでパーパから情報を抜き取る作業に入っても大丈夫ですかねー?】


鹿島「本当に、当局は壊れているのですか?」


乙中将「妖精状態で生きているんだけども、顔は口から上がなし。左足と右手はあって、胴体は穴ぼこだらけ。さらさらとした光の粉が身体から常に漏れている感じ。まあ、放置しておけば消えると思うけど、戦後復興妖精の登場で彼の中に眠る情報を引き出しておく必要はあるからね……」


悪い島風【敗北者は惨めですね。ま、ある意味、普通に生きているよりも都合はよしです】


言葉に詰まる。海の傷痕当局は確実に倒しておかなければ、戦争終結としても気持ちの落とし所がなくなる。


丙少将のいった通り、此方さんだけが可なのだ。当局が不可なのは戦争のどまん中にいた私達の様々な感情を納得させる蓋でもあった。仮に完全な状態として生きていたのなら、私も冷静を欠いた言動をしていたはずだ。しかし、その敗北者の壊れた姿を知ると、心は複雑化して同情が生まれてしまう。これは甘さなのか優しさなのか弱さなのか私には判断も出来ずにいる。


神風「あの、司令補佐の処遇は……」


丙少将「そうだな、准将、希望はあるか?」


提督「そうですね……」腰をあげて、提督服の上着を脱いで、サイドボードにかけました。「今は海のこと考えるのを止めるべき。そのために鎮守府から離れたいので、おいとまを頂けないかと」


丙少将「お前にもまだやらなきゃならんことあるけど、その意思は尊重するぜ。想力関連で上から一番拘束されていたのもお前だし、皆の世話とか戦後復興妖精の件でも疲れているだろ。最終海域出撃前には戻らせるけど、まあ、それまでならなんとか時間を捻り出してやら」


神風さんがなにかいいたそうです。提督さんがいないと、訓練に支障が出てきますが、今回に至っては仕方ありません。私の眼から見てもこの鎮守府に着任してから戦争終結後も戦後のことで働き過ぎです。この人の場合は休暇をあげて一人になっている時もお仕事している状態です。


鹿島「丙少将、提督さんをお一人にしておくと、海のことばかり考えると思います」


丙少将「そうだな。それで今、准将のところにいる鹿島と、一応旗艦の神風を呼んだんだ。電はちとこいつのこととなると盲目的だ。ということで、そこら辺りどうしたらいいと思う?」


神風「一応、旗艦……あ、はい。そうですねそうですよね……」


神風さんも提督さんのこととなると精神的に打たれ弱くなるんですよね。


提督「今の自分の頭の中にあることは不確定要素を含めて、全てお話致しました。想力工作補助施設にある海の傷痕のみが持てた能力、『想に質量を持たせる力』です。これのメカニズムを解明することで我々はいつか現れるであろう第二の海の傷痕に対処が可能になるかと」提督さんはいいます。「まあ、創作短縮の力に目が眩んだのは事実ですね。少し頭を冷やします」


丙少将「どこに行くんだよ」


提督「自宅に戻って休養しますので。あ、でもあそこ戦争の本ばかりか。どこか観光地の行脚でも」


鹿島「あの、私、少し自宅に戻るつもりなので提督さん、一緒にどうですか。あのマンション、とっても面白い方がいますし、近隣トラブルが全くないといってもいいレベルで円満です。周りにも心の落ち着く素敵なカフェもありまして、とっても暮らしやすい環境です」


提督「ご迷惑をおかけする訳には行きません」


む、ちょっと私のほうから歩み寄ってみるとします。


鹿島「社交辞令は止めて? 迷惑じゃないって分かっているよね?」


一同「!?」


敬語を取っ払って言葉を喋ってみた。ちょっと厳しいいい方になってしまったかな。


北方提督「可愛い上に素晴らしい。鹿島さんの『敬語を止めて怒ってみた』を動画にして送ってくれ。明石君辺りに高く売れそうだ」


鹿島「嫌ですっ」


私としてはこの提督さんとの関係に、必要以上に丁寧語を使うのは好ましくなかった。だってなんだか距離を置かれているみたいで嫌だ。でも思えば私が軍で敬語を使わないのって初めてかも。


提督「お言葉に甘えさせていただきます……」


鹿島「はい♪」


との理由で提督さんを私の家に招待することになりました。


当局がこのような状態であるとはいえ、鎮守府の皆もざわついておりますし、瑞穂さんの問題もあります。今は神風さんのいう通り、冷静で頼りになる方がたくさんいますので、なんとかなるとは思うのですが、やっぱり心配なのは一癖も二癖もある提督さんですよね。


観察していると最近は駆逐艦の子から好かれているのも自覚しているのでしょう。立派であろうとして、等身大以上に背伸びしているような気がします。思えば提督さんの素顔って私もよく知らないんですよね。今まで関わってきた彼の言動の全ては提督としての役割を介していましたから。街でスカウトされた時から最後の海まで、そして戦争終結してからも提督として皆さんの未来を慮っています。


この人の、

青山さんのお仕事を介さない素顔ってどんな風なんだろうな。


肩の力を抜いてもらえると、もてなしがいもあるのですけど。




提督「へ? あ、あれ、鹿島さんのマンションなんですか……?」


地元へ向かう途中の電車の中で、提督さんがそんなことをいいました。


鹿島「あ、いえ、私個人ではなく、親族の不動産会社のですが」


提督さんには隠すことでもないので詳細を説明しました。


提督「一階から五階層から賃貸式でその上は間取りの広い分譲式と。あそこそういえばもともとそんな利便性のない場所でしたけど、都市化計画で土地価格急騰しましたよね」


鹿島「はい。色々と当初の計画を練り直すことになって大変だったそうです。ここらになかったペットオーケーの家族での入居者をターゲットにしていたそうですが、都市化のため、デザイナーズはそのままペットマンションを取りやめて、単身者狙いに切り替えまして。デザインしてくれた建築士の方がとても素晴らしい方で予想以上の反響で家族での入居希望者もたくさんでした」


提督「駐車場に高級車ばかりですね。何度見ても併設されたコンビニが浮いています。あれ、デザイナーズマンションの外観を損ねて…………」


鹿島「雰囲気に合うように外装を整えてみたところ、意外とウケがいいんですよね」


提督「整えた……自分のセンスが変なのか。ま、コンビニは近くにあると便利ですしね……」


世間話が途切れると、今回の問題についてお伝えしました。私も戦争が終わって浄化解体を受けてからちょこちょこと戻っていたのですが、やはりというか、鎮守府(闇)は有名になってしまっているせいで、色々と聞かれてしまうのです。押し切られてしまうのが、私のダメなところだ。その中でどうしても提督さんと会いたいとお願いしてきた方がいましたね。その子は面白いから機会があれば紹介したいものです。


提督「ところで鹿島さん、神風さんの訓練するために知っておきたいといったその恋?」


鹿島「はい、本人いわく、それとはまた違うといっていましたが、やっぱり神風さんは提督さんのお言葉が原動力のようです。一部、私の理解の及ばない場所が女の子のそれなのかなって」


提督「彼がオープンなのでいっちゃいますが、明石君とかどうです?」と提督さんが何気なくいいました。「後日ですが、親族問題は明石さんと解決に乗り出すのでご心配なく。将来、有望だと思いますよ。軽薄にも見えますが、舞い上がっているだけで情が深く誠実です。どう考えても男として自分よりも上です」


まず驚きです。まさかその手の話を提督さんのほうから振ってくるだなんて。


そういえば前に金剛さんや榛名さん、翔鶴さんと私、それと明石君と秋月さん、それと山風さんと明石さんの大勢でお茶をしに行ったことがあります。テーブルは二つに別れましたが、その時に金剛さんから「明石君、どうなのー?」とまあ、そんなことを話題にあがりまして。


榛名さんも翔鶴さんも、面白い男の子です、と答えて、明石さんが「ですよねー……」と同情するような眼で隣のテーブルの明石君を見つめていました。私は明石君とお二人で東京のほうへお出かけしたこともあって、仲は良いです。あ、提督さんにこっぴどく怒られてしまった中枢棲姫勢力との密会の任務の時ですね。


提督「翔鶴さんと榛名さんはまず将を射んとすれば馬からなのですが、その瑞鶴馬と金剛馬がね。でもほら、鹿島さんって明石君と任務を任せた時、けっこう楽しく遊べていた感じでしたし」


鹿島「正直に打ち明けますと、アカデミー勢を観察していて思いました。明石君はすぐ近くにいる女の子にも眼を向けてあげればいいのに、と。それを見守りたいなあ、ですね。あ、いや、明石君のことはとても好きですよ? 秋月ちゃんとの話を聞けば、とても良い子だと分かりますから」


提督「アカデミー勢……ああ、山風さんか。あの子、歴代の中で最も山風さんらしくないみたいですね。甲大将いわく、びくびくしてはいるが、自己主張が強くて怒る時は怒るらしいです」


鹿島「提督さんはどうなんです?」と気になることを聞いてみた。「周知されているので聞いてみちゃいますけども、ほら、間宮さん」


提督「色々と考えたのですが……お返事した通りですかね」


とまあ、それもまた知っていることなので、ちょっと深く聞いてみたんです。この提督さんのことだからその御返事にも私の予想を越える複雑な思考で成り立っていそうな気がしたので。


提督「提督として見て来た限り、彼女は実年齢より遥かに中身が幼いです。見た目のそのままですよ。歳をいうのは躊躇いますが18歳で建造なされたという歴代で最も若い間宮さんです」


適性データの間宮さんは二十歳を越えている方なのでそれは確かに。


鹿島「私は恋愛に歳は関係ないと思いますけども」


提督「気持ちが一方通行だとダメでしょう。なので返事した通りです。自分なりに彼女のことを考えてきっぱり答えたつもりです。最近はまず自分のことを考えてくれているようで、これから先に眼を向けてくれていますので応援していますね。まあ、やはりというかお料理の道です」


鹿島「間宮さんらしいですね。確かにあの料理の腕を内輪に収めておくのはもったいないです」


提督「明石さんなんか研究部と繋がりのある会社の所長の肩書きを持っていますからね。明石君と秋月さんが就職希望なのもあって口説き落とすのを手伝ってくれって頼まれましたし、うち所属の人達の大体の進路希望の方向性は聞いています。皆さん、軍艦名を名乗る時も後少しですね」


上手く話を逸らされたような。


でも、なんだか切ないですね。鎮守府の仲間、というより、仲の良かったクラスメイトと卒業して離れ離れになってしまうような切ない心象です。寂しがることなんてないのに不思議です。なんだかんだでやっぱりあの鎮守府で過ごした日々は私の中でも崩したくない形、なのかな。


決して長い時間とはいえないけれど、一緒の目的地に向かって駆け抜けた仲間です。提督さんが舵を切るこの船に乗っていたいと思うのはきっと私だけでないはずですから。


電車が目的の駅に着きましたけど、なんだかな。


まだ降りたくないな。


3


都市化の最中にある私が過ごした街は少し留守にしていただけで、新しい景色が芽吹きます。マンションに向かう途中に並ぶデザイナーズの建売りが初々しい。外から中が見えるんじゃないかなってくらいに窓が大きいですね。看板に内部の写真がありますが、窓から差し込む陽だまりも事細かく計算している芸術性を感じます。清潔感のあるその風景の中にある黒いバンが浮いてしまっています。


街並みを楽しみながら歩いて、マンションに到着です。


鹿島「そういえば私、あの頃はコンビニでも働いていまして」


提督「ああ、マンションの管理人もやりながらですよね。大変じゃないですか?」


鹿島「マンションのほうは半日もかからずでしたね。やることは共用スペースの点検とか清掃とか色々とあるんですけど、時間を取られる住民トラブル関連がほぼなかったんですよ。私の後任の方はこの職のベテランさんで、ここまでトラブルのないマンションは初めてだと仰っておりましたね」


提督「要は普通じゃないということですね。嫌な予感がする……」


提督さんらしい思考回路ですが、その解釈が普通じゃないと思うんですよね。


マンションの明るいヒノキ色の玄関先で、暗証番号を入力して自動扉を開きます。私の部屋は一階の101号室です。鎮守府に行く際にお掃除していたので整理は出来ているはず。鍵で扉を開けて、中に入りました。戦争終結してから何回か帰って来ていたから、部屋は綺麗なはずだ。


普段はよく脱ぎ散らかした衣服が転がっていたんですよね。ほら、私って純度100パーセント鹿島さんとは違って、だらしないところが多くて。靴下リバースもよくあるくらいです。気をつけてはいるのですが、なかなか治らない悪癖です。


提督「鹿島さん、なんか怖い嫌がらせされていますよ……」


部屋にあがるなり提督が指差したほうには、ファックスがあります。ガーッと機械音を鳴らしながら、白いコピー用紙が吐き出されていました。私はそそくさとファックスを確認して、それをブロックしておきました。提督さんが罰の悪い顔をしています。察してしまいましたか。


提督「鹿島艦隊の悲劇からの嫌がらせってまだ続いているとか?」


鹿島「か、考え過ぎですよ。当時はプライベートのほうで一回だけ手紙が入っていたくらいです。あの事件は私のせいだと思っていますから、別に被害者だとも思っていません。悲しいことばかりではなくて、たくさん励ましてもらいましたし。ここの住人の方も優しくしてくださって」


一応、とその悪戯を調査してくれました。電車で二駅ほどのところにある大学が間違って送信してしまったようです。


提督さんは鎮守府からの荷物を片づけました。一息つくためにコーヒーでも淹れようとしたところ、「あ」となにかを思い出したようです。「近所の人に挨拶してもいいですかね。見慣れない男が出入りしているとかだと住民の方々に心配をかけてしまうかもなので」と。


鹿島「あ、それならちょうどよかった。お隣にキュウさんという子がいるのですけど、提督さんにお会いしたいみたいです。漣適性を30%持っていまして、元気な方ですよ。ああ、ご心配なく。ただ顔を見て喋ってみたいとのことで、戦争関連について聞きたい訳ではないといっていましたから」


提督「了解しました。あいさつが終われば一息つこう……」


102号室にその子がいます。昔から仲良くしている子なのですけれども、高校時代からここで一人暮らしをしている女の子です。インターホンを鳴らすと、すぐに出てきまして「お二人とも中へどうぞ!」と人なつっこい笑みで出迎えてくれました。


提督「陽炎ちゃんの部屋を思い出す光景だ……」


「あ、ヒイロさんですか。実は私も彼女とネットで知り合ってはいるんですよー」


提督「マジですか。ネットってすごいね……」


部屋の奥には机とリクライニングの椅子があります。机の上にはマウスとキーボード、そしていくつものディスプレイが設置されていました。色彩的は全体にシックですね。この女の子は「キュウといいます。カッシー、セッティングありがとね」と人なつっこい笑顔を浮かべます。


提督「初めまして。対深海棲艦海軍丁准将の青山開扉です。よろしくお願いします」とお二人は握手を交わします。提督さんは珍しくも笑顔を浮かべていました。営業的な雰囲気がしないでもありませんが、いつもより大分、とっつきやすい感じが出ていますね。


「それでご用件ですが、ちょっと動画に出演してもらいたくて」


提督「ハハ、断ります。さてはあなたユーチューバーとかいうやつですね?」


「いってみただけですよー。そうですね。といってもそこだけじゃないです。私は色々な動画共有サイトに投稿していますし、ここだけの話、かなり売れているほうでして。ちなみに軍とも無縁ではないんですよね。漣ちゃんの適性30%持っています」


そういうと漣ちゃんのポーズを決めて「キタコレ♪」


あ、確かに似ていますね。


キュウ「あのですね、私は准将さんに動画の出演とか戦争の想力とかそういうことを聞きたいがためにお会いしたのではなく、ちょっと噂の論理的思考法のほうにお願いしたいことがあ、なんて」


その時、後方の部屋の扉が出てきて、学生服を着た男の子が出てきました。無愛想というかそっけない感じで「うっす」と頭を下げると、提督さんの隣に腰を降ろしました。キュウさんが「あ、私の彼氏のユウくんです。18歳の高校男子でっす♪」と紹介をしてくれました。


「あの准将さん、あっちの部屋で男同士の話、させてもらってもよろしいですか」


提督「は、はあ……?」


やけに真摯な顔つきでそういわれた提督さんは戸惑っていますが、男子高校生の腕を引っ張る力には勝てず、ずるずると向こうの部屋へと連れ去られていきます。あ、扉は開けっぱなしなので中の様子は伺えました。私はすぐに眼を逸らしましたが。あの、その、その部屋はですね。


散乱していたので。アダルトグッズが。


お話の内容も聞こえてきますが、ちょっとさすがに厳しいですね。男の話というから何かと思えば、高校生男子が提督さんに頭を下げています。次の瞬間に私はとってもびっくりして、しばらく声を発すことが出来なくなりました、


提督「常識というモノを考えなさい……」


と静かなる怒号を発したのだ。表情は隠れて見えませんが、恐らく戦争中のマジな顔をしていたのだと思います。男子高校生の表情が青ざめ、凍りついたように動かなくなります。すぐに「すみません」と提督は謝りましたが、興味をなくしたように声に色がなくなっていました。


キュウ「すみませんね。それで本題なのですが」


提督「動画出演依頼はお断りですからね?」


キュウ「いえ、それはせっかく英雄さんに会うのなら、とダメ元でのお願いに過ぎません。実は先日、ひったくりに遭いまして。被害届は出したんですけど、まだ捕まらなくて。奪われたのはお財布とスマホと後はお仕事関係の重要書類です。あ、美味しい自慢のコーヒーをどうぞ」


とキッチンでコーヒーを淹れてそれをテーブルの上に置いた。そのコーヒーはまるでこの先の展開をほうふつとさせるかのように甘くて苦い香りがします。


キュウ「今、准将さんが最も注目されているのはあの海で対海の傷痕の作戦を練り、最後の海でロスト空間を解明し、艦の兵士以外に想力を駆使することの出来た唯一の人間という点が大きいです。それは私達、普通の人間でも想力をコントロールする術があることを意味しますから」


提督「もしかして想力で盗まれたものを取り返して欲しい、と……?」


キュウ「お願い出来るならですが、危ない橋としか思えないですね、単純に准将さんにご協力したいと思いまして。奪われたものが相当ヤバい類のものなんです。どうか御助力を……」


提督「お仕事関係の?」


キュウ「めっちゃ関係あります。スマホです。あのスマホにはですね、ユウ君との思い出の写真や動画がたくさん詰まっているんです。提督さんにも鹿島さんにもネットアイドルの私にとってどれだけヤバいか分かっていただけますか。大炎上必須、急転直下な過激なモノがですね」


その具体的な内容をぺらぺらとキュウさんがしゃべりはじめ、また私と提督さんはオーバーヒート気味になってしまう。恋人といえども、そんなところまで思い出として残しておくという発想に私の古びた恋愛価値観は時空の彼方に置いてきぼりです。


鹿島「あうあうあ……」


提督「鹿島さんがオーバーヒートを起こした……」


明鏡止水の四文字熟語を何度も唱えて沸騰した心を落ち着けてみます。


キュウ「これを見てください」


と、キュウさんはディスプレイのメールボックスを開きました。追い打ちです。あられもないはれんちな画像が添付されていました。ですが、内容の一文で時空の彼方から意識を取り戻すことが出来ました。そこには心ない罵詈雑言と、彼氏と別れろ、という脅迫文があります。


キュウ「提督さん、イメージには商品価値があります。今ではスマホゲームとかのオファーもいくつかお受けしてネット番組でMCもやらせて頂いています。私のコミュニティに参加してくれている人も応援してくれてそのゲーム自らに留まらず周りに紹介してくれたり。私がお小遣いとかお年玉を貯めて機材を買って初めて動画うpした時からずっと応援してくれている方もね。アイドルって偶像って意味です。失望させたくないじゃないですか」


提督「自業自得、後ろに手が回っただけじゃないですか……そもそも自分がよく分からない分野ですよ。アイドルに興味持ったことありますが、ぶっちゃけ疑問がありまくりです」


鹿島「あっ、那珂さんですね!」


提督「ええ、自分は彼女とは知った仲故ですし、応援していますよ、最も縁のある子を応援しているに過ぎず、アイドルの良さということ自体はあまり分かりません」


提督さんはため息交じりにそういいます。


キュウ「長月&菊月ちゃんがテレビ出ましたよね。あの子達がアイドルやるっていったら?」


提督「歌が下手でも踊りダメでも応援しますね。すごくよく分かりました……」


キュウ「那珂ちゃんすごいよね。ま、長月&菊月ちゃんのような子供だとまた違ってきます。好きな音楽グループの同じアルバム3枚そろえるのは珍しくもないですけど、一人で何十枚買わせることも可能です。でもそうやって応援してくれている人を失望させたくないのが本心です」


提督「じゃあ別れて跡かたもなく隠ぺいしろよ……馬鹿じゃないの……」


あれ、提督さんの素が出てきているような。


キュウ「アイドルに彼氏いても炎上せずに受け入れられる世の中はよ。私だってユウ君のこと好きなんですよ! 真剣なお付き合いなんですよ! でもそれと同じくらいアイドルやるのも好きなんですよ! アイドルもどきの女の子だって好きな人とえっちしてもいいじゃないですか!」


提督「大っぴらにしたいのなら彼氏がいると表明を出せばよろしい。それをしないのは彼氏がいることで生じる不利益を危惧してのことでしょうに。ファンに対しても仕事に対しても不誠実。お前マジで一回、社会出ろよ……お前みたいなのが同職の評価を下げるんだって……」


キュウ「別れますよ! その話は二人で愛し合いながらしました!」


提督「愛し合いながらはいう必要ないし……ああ、もう」提督さんが振り向きました、「鹿島さん、この子の相手をお願いします! わるさめさん要素も混ざっていて手に負えませんよ!」


キュウ「過ちを犯すことだってあります! 反省する点はあってもこんな風に脅迫されるだなんて! 私だけならまだしも、応援してくださっている人が悲しむことになります!」


私も子供の頃はブラウン管のテレビ越しに移るアイドルを真似して踊ったりしていたかなあ。あの頃の純粋なナニカが音を立てて壊れていくセレナーデが奏でられています。ああ、そういえば子供の頃飲めなかったコーヒーが飲めるようになった。あ、味はほろ苦いですね。


キュウ「警察のほうは勘弁なんでお願いします!」


ユウ「俺からもお願いします。正直、別れたくないんですけど、仕方ありませんから。ですけど、そのデータがばらまかれたらキュウちゃんは終わりです……!」


私はキュウさんが中学生の頃からがんばっているのを知っているので、応援してあげたいんです。ユウ君のほうも別れる覚悟もあるとのことですし、本気です。お力を貸してあげたいけれども。


ああ、やっぱり私はダメだ。ごめんなさい。

休養に来たのに早速トラブルに巻き込んでしまいました。


提督さんは困ったような顔をする。


返事に困るということは力になれる手段、想力活用はおいておいても、解決出来る見込みがあるということなのかな。提督さんの推理力にも期待できますが、休養のことを考えるとどうなんだろう。この件にかかりっきりになるというのなら今の海のこと考えさせずに済みそうではありますが。


提督「分かりましたよ。キュウさんユウ君、詳しい話をお伺いしましょうか」


キュウ「ありがとうございます! カッシー、ありがとうっ!」


鹿島「いえ、お礼なら提督さんに……」


キュウ「オプンザドア様も、ありがとう!」


と提督さんに抱きつきました。

提督さんは全力で振り解きました。


私は先に部屋を退出させてもらいましょうか。提督さん用に足りない備品をそろえなければなりません。お夕飯の買い物も行かなくては。せめて美味しいモノを召し上がっていただかなくては。




マンションの向かいにあるカフェのオープンテラスに私はミルクティーをいただいています。相も変わらずノーの意思が弱い私は058号室の柏木さんの誘いを断れずに捕まってしまいました。昔から単身でマンションに入居しておられる男性です。


柏木「いやいや先程、奥様方から聞いたのですが、びっくりしましたよ。まさかあの丁准将が来ているとは。鹿島さんが再び軍に戻って丁准将のもとにいたことは知っておりましたが」


鹿島「ええ、色々とありましたが、無事に暁の水平線に到達できました」色々とありすぎてそれを語るには時間が惜しいので、私はそこから話題を逸らしてみます。「今日はお休みですか?」


柏木「想力、これで会社が大変なんですよ」


彼は経営コンサルタント出身なのですが、そのマネジメント経験をもとにIT企業を立ちあげたそうです。私が鹿島艦隊の悲劇でここに戻ってきた時にその話を彼から伺いました。入居者の方の幸せはあの頃の私の幸せといっても過言ではありません。


柏木「有名な話ではありますが、経済には四つの大陸があるんです。実体経済、ボーダレス経済、サイバー経済、マルチプル経済、経済が世界を動かす訳ですから、世界の全てはこの四つの経済が複雑に影響し合って起きているのは聡明な鹿島さんもご存じかと思います」


申し訳ないのですが、全くご存じではありません……。


柏木「二十一世紀の始まりからすでにマクロ経済学は古臭いモノとされてきたんですね。戦後とは違って今は国民にもお金が溢れている状態です。国には使いきれないほどのお金も増えてきました。ああ、年金とか貯金とか、そういうのですね。現在の経営スタンスとして、要はその使わない金銭をどう世界の経済、もっと切り込んでいうのなら自国の社に取り込んで行くかが重要でして。方向性、商品ですね。これさえ決まれた後はどう戦略を落としこむかの流れでコンサルタントの」


今度は違った意味でオーバーヒートしそうです。


経済といっても街での鹿島はコンビニの切り盛りと管理人程度しかやったことないですし、対深海棲艦海軍に所属していてもそこの資金の流れもよく分かりません。一般企業のお話となれば尚更私にはさっぱりです。私はミルクティーに口をつけながら黙って耳を傾け愛想笑い状態。


柏木「日本の企業体質は正直、悪しき風習で溢れていますね。散々指摘されてきたにも関わらず、です。例えばよくあるのが成功経験による思考放棄です。だろう、で終わって肝心な論理的思考を放棄しているんですよね。今はまだ実力主義の傾向にありますが、もう学歴社会、年功序列も終わりの兆しがある。最も大事なのは論理的思考法であるからです。ビジネスの世界で成功するには会得する必要がありますので、企業もこの能力の才能に注視し、力を注ぎ始めています」


鹿島「なるほど」


よく分かりませんが、うなずいておきました。


柏木「さすがです。やはり鹿島さんのような家庭で育つとなると勉強の仕方も違いますね」


ごめんなさい違うんです。よく分かりませんといえなかったので、相槌を打ってみただけなんです。本当は最初の経済に四つの空間があるだなんて話からさっぱりなんです。それに私の家庭は確かに裕福とはいえるのでしょうが、のびのびと過ごしていてこれといった英才教育をされた訳でもないんですよう。


鹿島「独立されてから、お仕事は順調なのですか?」


これ以上の混乱を避けるために、私でも理解できそうな会話にすり替えてしまおう。


柏木「今のところは。あ、ソーシャルゲームですね」


鹿島「あ、知ってます知ってます!」


鎮守府の皆さんも遊んでいる方が大勢います。かくいう私も誘われていくつかインストールしていますね。私はどちらかというと、空いた時間に遊べるお手軽なのが好きで、寝る前に某ネズミさんがアイコンのツムツムをしています。


鹿島「私もやってみたいですっ。ストアにありますか?」


タイトルを教えてもらって、インストールしてみる。カードゲームのジャンルは初めてです。ソーシャルゲームのことはよく分かりませんが、ストアの売上ランキング34位にいます。これってとってもすごいことなんですよね。そしてランキングを見てみると鎮守府の皆から勧めてもらったゲームはランキングトップ10のものばかりだったのも驚いた。響さんから勧められたやつだけ見当たらないですが。皆から勧められたのもやってみようかな。


柏木「生放送も何回かやっているんですけど、MCにキュウちゃんに出演してもらっています」


鹿島「ほ、本当ですかっ」


柏木「彼女の努力は知っています。実力も申し分ない。重度のヘビーユーザーですよ。製作者側にとっては斬新な意見も多くて。ユーザー側に立って僕等に容赦のない意見をいってくれます。そのせいもあって本来のお問い合わせフォームではなく、彼女のSNSがそれになっちゃって、キュウさんは新しいアカウントを作ることになって迷惑を、ね」柏木さんは苦笑いします。「やっぱりユーザーの意見って大切なので良い刺激になりますよ。儲かるゲームを作るではなく、面白いゲームを作れば自然と結果はついてくる、という清潔なモチベに繋がりますね。試したボトムアップで予想外の結果が出て、ちょっと今後の運営方針に頭抱えていますが」


キュウちゃんもずっとネットに動画をあげていて、再生数がー、とかいう愚痴を昔からよく聞いていましたし、柏木さんも毎日、深夜に帰ってきていたのも覚えています。その二人の努力が形になって、夢の中で交わる。なんて素敵なことでしょう。私は感動で胸がいっぱいだ。


鹿島「ふふっ」


久しぶりに帰って来たマンションには幸せが芽生えていました。ああ、やっぱりカフェのお茶を美味しくする魔法はこういった何気ない世間話ですよねっ。


柏木「ところでつかぬことをお聞きしますが鹿島さん」


柏木さんは、こほん、と咳払いしました。


柏木「准将を招いたそうですが、彼とはお付き合いしていらっしゃるのですか?」


鹿島「え、ええ? 提督さんですか? おお、お付き合いしていないですよっ。今日はちょっと招待しただけで、そういう関係ではなくっ」私は慌てて否定しました。変な噂でも流れてしまえば提督さんに迷惑がかかってしまいます。


なぜそんなことを、とは聞けなかった。

も、もしかしてこうやってお茶に誘ったり、お仕事の話をしてくれているのは好意を向けられているということなのかな、と思った。少し浮かれてしまったけど、やはり聞けないです。なんだか自意識過剰なオチだったら恥ずかしい。


柏木「差し支えなければ紹介してください。あの海の話を聞いてからファンになってしまいまして。ですが、恋人同士ならお二人の時間をお邪魔するかと思いまして聞いたんです。すみませんね、久しぶりに鹿島さんのお顔が見られたのが嬉しくてつい長く引き留めてしまいました」


お詫びに、と伝票を手に持ちます。「あ、私も」といいかけたところで、苦笑してそのまま店の中へと行ってしまいました。紳士な方ですね。おモテになりそうな男性です。


なんだかああいう話は提督さんが興味を持ちそうな気がします。最近、なにやらビジネス関連の本を読んでパソコンでプログラム画面開いているのを見かけますし、せっかくですから彼の話を提督さんにしてみようかな。二人は仲良くなれそうなタイプな気がします。




私は近くのスーパーでお夕食の材料を買いに向かいました。金曜日なのでカレーにしました。お買い物を終えて店から出る頃には太陽が茜色に輝き始めていました。綺麗な並木街路樹の通りでは、どこにでもある夕暮れ時の人の群れが交差しています。


その帰り道、雑居ビルの一階のボクシングジムに眼が行きました。


鹿島「そういえば鎮守府(闇)からスカウトが来た日、この道を通ったなあ……」


あの時の私はまだ精神的に参ったままだった。鎮守府の提督さんから、教えていた子達の成績があがらないと怒られた。失ってしまった教え子のことで苛まれた。軍の権威も地に堕としてしまった。大勢の人に迷惑をかけた。ああ、コンビニでもしつこいナンパやセクハラもされていたんだっけ。


そんな日々の中あのジムの中を見て、私は選手でもトレーナーでもなく、あのサンドバッグに自分を重ねてしまっていたのだ。


だけど、また海に鹿島として舞い戻って戦争の終結を見届けて、今度は誰も殉職させることなくここにまた戻ってきた。


一人で暮らしていたし、それが罰なのだとも思っていた。誰かと関わるのは嫌だ。私についた通り名は死神なのだ。練巡としてコレ以上の不名誉はなかったけど、自覚もしていた。私が誰かに関わると、不幸になるって結果だけは出ていたから。


あまり特定の人と仲良くしないようにしていたな。


でも今、私の家には提督さんがいる。


私の家で誰かが待っている。それだけでもあの時の私からは信じられない未来にいるのだろう。この街で誰かのためにお夕飯の買い出しに行くとは思わなかった。あの頃は「トレーナーでも選手でもなく、サンドバッグだあ……」なんて半泣きしていたけど、今は悲しみよりも喜びが勝っている。


思えば男の人を家に泊めて、お夕飯の買い出しに行くって。


鹿島「あうあうあ……」


顔が赤くなるのを感じた。ああ、キュウさんの部屋で変なモノを見てしまったせいだ。もしかして私はとんでもなく大胆な提案をしてしまったのではないだろうか。なにかあって変な空気になってしまったら、ど、どうしよう。あの提督さんの性格は知っているけれど、万が一の場合は。だ、大丈夫だよね。あの提督さんに限って、雰囲気に流されるようなことはないはずです、うん。あ、でもでも、それはそれで女性として否定されているようで、なんか悔しい気もする。


そういえば深海妖精を陸地へ誘った時、私に海の傷痕のことを一番に教えてくれたっけ。最後の海では提督さんを出汁に使って暁さん達の士気をあげたんだよね。あの時、もうダメかと思った。やっぱり私は死神でみんな死んでしまうんじゃないか、と私はまた壊れそうになった。


みんな、勇敢に戦った。勝てる策すら誰も思い浮かばなかった『E-7』で海の傷痕に特攻をしかけても届かなかった。海の傷痕は倒せなかったのだ。みなが絶望したけれど、提督さんはまたその盤面をひっくり返して電さんとともに海の傷痕をとうとう沈めてしまった。暁の水平線に全員で到達して、この黄金色の太陽をみんなで眺めた。対深海棲艦海軍の歴史に終止符を打った瞬間だった。


驚いたな。あの時、私は確かに提督さんが涙を流した瞬間を見たのだ。電ちゃんもね。まるで二人で一人のようにそれぞれ、片方の眼から一粒だけ涙を流していました。


良かった。あの鎮守府の誘いを蹴らなくて本当に良かったと思います。断っていたら今は私の家には誰もいないはずだ。


ああ、私ってきっと今、幸せなんだね。


ほころんだ口元を服の襟に埋めて隠して、るんるん気分で家路に着いた。


お近くの建売住宅に向かう交差点で、ご婦人達が世間話をしています、そういえばこの時間帯のこの道は保育園から歩いて帰ってくる子達を出迎えに奥様方がマンションから外に出てくる時間ですね。「あ。お久しぶりです」と挨拶をすると、「あら、鹿島ちゃん!」と思いの他、長く拘束されてしまいました。あの鎮守府での何気ない日常を語って満足してもらえましたが、次から次へと話題が出てきます。適当に途切れたところで私からもお一つキュウさんの件でなにか情報が得られないかな、と思って問いを投げました。


鹿島「最近この辺りで不審者情報ってありますか?」


「ああ、鹿島ちゃんはお留守にしていたから。回覧板はまだ見てないわよね。私達も情報を共有し合っているんだけど、『二十代くらいの男が、そこに路駐して、深夜にマンションのほうをじいっと見ていた』って。バンってほら子供の誘拐とか想像しちゃうじゃない」


鹿島「了解です。物騒で怖いですね……」


「ああ、そういえば衝撃的だったんだけどねえ、本当のことなのよね?」


「ええ。柏木さん、変だと思っていたのよ。だってあれだけ出来る男なのにねえ……」


鹿島「ええと、柏木さんですか?」


「ゲイ、らしいのよ」


持っていたエコバッグを落としてしまった。慌てて拾いあげる。良かった。卵は割れていません。しかし、私の頭はまたまたオーバーヒートを起こしました。全く訳が分からない。なにが原因で男色家などという噂が広まったのだろうか。


そういえばさっき提督さんとお付き合いしているか、を聞かれましたね。もしかしてと、ちょっと私は浮ついた想像をしてしまいました。


「キュウちゃんの彼氏さんとキスしているのを見ちゃったのよ」


またエコバッグを落としてしまった。今度は卵が割れてしまったけど、頭に過ぎった予想が強烈過ぎて、悲しむ暇もなかった。話の続きでは、それとなく柏木さんに聞いてみたそうだ。そうしたら認めたとのことだった。それ以上は突っ込んで聞くことが出来なかったが、本人が認めたと。


さっきの柏木さんの言葉が過ぎりました。


――――准将を招いたそうですが、彼とはお付き合いしていらっしゃるのですか? あ、差し支えなければ紹介してくださいよ。あの海の話を聞いてからファンになってしまいまして。


もしかして私に彼氏がいるか確認したのではなくて。


提督さんの彼女ではないか確認したってことですか!?



【13ワ●:ガチャ騒動と幽霊騒動】


提督「同性愛ですか。なぜ急にそんなことを」


鹿島「お、思えば提督さんって女性とお付き合いしないじゃないですかっ。戦争終わって、周りにはたくさん魅力的な人もいるのにです。艦の兵士って見た目は子供な方とかもいますけど、生きた年月も法的に考慮される場合もありますから、例えば電さんとか神風さんも……!」


提督「落ち着いてくださいよ……鹿島さんはなにを動揺しているのですか」


提督さんは落ち着いた様子でコーヒーカップに口をつけます。


鹿島「あ、いえ、ここのマンションの柏木さんという人がですね、そういう噂がありまして、本当はお伝えするべきではないですけど、念のためにというかそのっ」


提督「同性愛者ではありませんが、自分は提督ですからね。明石君は特例としても兵士は基本的に女性オンリー。姉妹艦効果もありますから、過去に事例はあったそうですね。理解は深めているつもりですよ」


鹿島「あの、マンションのっ」


提督「ええ、聞いておりましたよ。柏木さん、という方ですよね」


鹿島「はいっ、さっきお茶した時にですね、提督さんとお付き合いしているのか聞かれてっ、ファンだから紹介して欲しいってお願いされてっ」


提督「ふむふ……む?」提督さんが一瞬固まってから、コーヒーを盛大に噴き出しました。「か、鹿島さん、自分は同性愛者ではななな、く。同性愛に理解はあっても自分はお気持ちに応えることは出来なくて……すみません、ごめんなさい、鹿島さんとはお付き合いできま、」


鹿島「混乱しすぎですっ! 私もコーヒーをいただきますっ!」


熱いコーヒーを淹れ直して、ゆっくりと飲んで、気持ちを落ち着けます。提督さんがお代わりした回数、6回でした。どうやら相当に混乱しているようです。提督さんは同性愛者ではないと分かったので、私からも柏木さんに聞いてみて、やんわりと防御しといたほうがいいの、かな?


提督「鹿島さん、教えてくれてありがとうございます。もしもそのような展開になった場合、柏木さんを傷つけない対応が出来ます。もしも自分が恋愛対象だとしたら、ですけどね、なにせまた確定したわけではないので。ということではい、この話は終わりにしましょう」


鹿島「了解っ。ええと、それと最近このマンション付近で不審者目撃情報がありまして」


そちらの情報も話しました。提督さんが「案外、キュウさんの一件は呆気なく解決するかもですね」と。その一件は話し合いました。私達も軍人の身ですし、パトロールもしようと。哨戒には慣れていますし、キュウさんの事件の解決に繋がるかもしれませんからね。


でも、私も提督さんも体力面ではいまいち不安が残ります。最悪の展開だけは避けたい、という意見は合致して、特殊な事情なので、想力を貸してもらえないか、と悪い島風さんに相談することになりました。


電話をかけると、提督さんがげんなりした顔をします。しばらく話した後、電話を切りました。どうやら悪い島風さんに状況を伝えて、適した人材を見繕ってこちらに飛ばしてくれるとのことです。想力って便利ですね。テレポテーションじゃないですか。


鹿島「なにか部屋の中に光の粉のようなのが……あ、白い煙もです」


提督「ガチャ演出みたいな。要らぬ演出を混ぜてきた……」


部屋の中央がきらきらと輝きの粒が待って、白い煙が噴き出しました。しばらくして煙が晴れると、ジャージ姿の女の子が凛とした眼で提督さんのほうを見ていました。


?「召喚に応じ馳せ参じました。クラスは艦の兵士なのでアーチャー……いや、私はセイバーか」


あ、はい。よく分からないこといっていますが、とにかく神風さんですね。


提督「あなた北方のノリが混ざって本当に面白い人になりましたよね」


神風「一度いってみたかったんです!」そういって照れた顔ではにかみました。「事情は聞いていますよ。悪い島風さんから提督さんと鹿島さんの置かれている状況は聞いております!」


提督「申し訳ないのですが、とりあえずリセマラですかね……」


神風「なぜです!? 体力あって荒事も行けてソシャゲ嗜みますから大当たりですよね!?」


提督「依頼主のキュウさんとユウ君が神さんに対して特攻艦のような気がして……」


今回は依頼主が破廉恥な事情もあって神風さん特攻もらいますからね。提督さんが気にしているのはそのところでしょう。あの部屋を見たらワンパンで倒されてしまいそうな気がします。


神風「あ、漫画の図書館にいた人達から選んでいるみたいですよ」


提督「他に誰がいたか覚えています?」


神風「ええと、入ったばかりでしたのであまり。でもわるさめさんと瑞穂さんは視界に入りましたね」


提督「狂戦士は来るな狂戦士は来るな狂戦士は来るな」


と提督さんは手を合わせて祈り始めます。またまた同じ演出が発生して、光の粒と白い煙が渦巻きました。果たしてその願いは届くのか。白い煙が晴れてゆくと、白露型の制服が見えて、提督さんが絶望のうめきをあげます。


神風「まだ確定ではありません。時雨さんとか白露さんとか夕立さんとか!」


提督「時雨さんカモン……!」


?「キャハ☆」


提督「あああああ……確定、終わった……!」


提督さんがスマホを手から滑り落としました。


わるさめ「あ、ちょ、こういう時こそムードメーカーが必要だろ! そういうことする!?」


現れたのはわるさめさんですが、魔法陣に吸い込まれるようにして落ちてゆきます。


神風「司令補佐、引きが良いですね! これは間違いなく昇格演出です!」


わるさめ「神風お前、まるでわるさめちゃんがハズレみたいな! 覚えてろっス……! お前、出撃中に疑似ロスト空間で会ったらどっちがハズレか教えてや、」


恨みつらみを吐きながら、魔法陣の中へと消えてしまいました。続いて現れたのは、


大和「大和です。ええと、武器は46センチ三連装砲です」


提督「これ絶対に悪意ある人選だよ! 丙少将にまたシバかれるオチに上乗せして下手したら武蔵さんのビンタも来るし!」


大和「あれ? またあの人となにかあったのですか?」


神風「そ、それは置いておきましょう。それより、状況は聞いていますけども、休養のはずが、とんでもないことになっていますね。司令補佐って呪われているんじゃないですか?」


提督「考えることがなくなった試しがないですね、なくなったらなくなったでどうしたいいのか分からない。あれ、そういえば休養するってどうやるんだろうか……?」


大和「戦争に魂を捧げた代償は大きいですね。でもお話を聞いた限り」大和さんは、ふふ、と笑いました。「けっこう青ちゃんさんにとって良い傾向ではないかと大和は思います」


提督「大和さんは昔からそういうところがよく分からない……」


鹿島「ええと、突然お呼び立てして申し訳ありません」


大和「いえいえ。瑞穂さんとお話していましたが、彼女は大丈夫そうですし、当局のほうも甲大将の口から改めて伝えてもらいまして、みなも段々と落ち着いてはきました。もうとっととクリアしてこんな悪夢から醒めちまおうぜ、って空気になっておりますね」


提督「そうですか……一つの肩の荷が降りた気分です……」


鹿島「あ、そうです。お二人ともお夕食はまだでしたら一緒にどうですか?」


神風「遠慮なくごちそうになります。私、炊事は得意ですから手伝いますよっ」


大和「それなら大和は青ちゃんさんのお仕事を手伝いましょうか」


提督「あの大和さん、ちゃんづけは止めてもらえませんかね……」


大和「なら私のこともさんづけは止めてくださいー。そうやって他人行儀にして壁を作ってばかりです。距離をなくすために私はあだ名呼びを始めたんですからね」


提督「なるほど……」


大和「あ、そうだ。ほらこのあだ名作るやつに入力してみましょうよ。大和っと。あ、私はエヴァ初号機の中の人。青山で、電気ネズミの中の人です。なぜここをセレクトしたのかというとなんとなくです」


提督「ちなみに鹿島さんは鹿ッキーで神さんはウマヅラポリバケツです」


神風「なぜ私のだけ毒がふんだんに含まれているんです!?」


鹿島「でも大和さんが提督さんにあだ名をつけた理由は賛成できますし、今一度、提督さんのあだ名を考えるのは面白そうではないですかねっ」


提督「あ、そうだ。自分、家庭裁判所から許可降りて名前を変更できます。防衛省からの帰りに龍驤さんと合流してともに革命に向かいました。普通に読みはヒラト、になりますので」


鹿島「名前って、ああ……確かに許可は降りそうですね」


神風「司令補佐の名はネットでも散々ネタにされていますしね……」


大和「ふふ、ヒラトさんが戦争以外のことで行動に出ましたか。時は人を変えますねー」


名前談義が弾みました。とってもにぎやかになりましたね。やっぱり人が大勢いるのは良いですね。神風さんに調理を手伝ってもらうことにして、お夕飯の支度を始めます。


神風「名前ですか。思えば名前ってやっぱり自分を表す意味を持ちますよね。もしかしたら私のこの軍での不運の連続って、名前とかの縁起が関係しているのかなって思えてきました……」


鹿島「戸籍名のほうですか。なんて名前です?」


神風「全く似合っていないと先代の丁准将にからかわれたことありますし、私としては神風のイメージ保ちたいのでいいたくはないですね。でも戦争終わったことですし、晒しましょう」


神風さんの本名を聞いて、提督さんがいいます。


提督「あはは、勇気散るってことか。そういえば神さん、古風な名前ではなかったんだった」


神風「! あ、はい、そうなんですよ!」


お、おおう、と私は感嘆の声を漏らしました。今、提督さんがすごく自然に笑いました。大和さんと目が合いました。優しく笑っています。提督さんにとってこれはかなり良い傾向なのでは。


やっぱり神風さんって提督さんに大きな影響を与えられる一人なのかもしれませんね。こうした何気ない会話も鎮守府ではないというだけで、こうも雰囲気が変わるものですか。


大和「そういえばヒラトさんと幼馴染な電ちゃんの戸籍名はなんというんですか?」


鹿島「あ、私も興味あります」


提督さんから電さんの下の名前が告げられました。電さんも趣味にしているだけあって詳しい分野ですしね。可愛らしい電さんにぴったりの名前です。


神風「やはり名は体を表しますね」神風さんはシュッシュと口から風切り音を発しながらシャドーボクシングを始めました。「あの不良と同じ名です。さすが軍の最高戦力、強さは宿命づけられていたわけですか」


ああ、そっちをイメージしましたか。




午後七時、夕食も終えて、皆でキュウさん周りの情報をまとめていると、提督さんが「少し買い物に」とお出かけしてしまいました。現情報では確信に迫るモノはなく、周辺で目撃された不審者を発見、またはキュウさんのほうに犯人からの接触があれば、との待ちの姿勢で解決にはまだ遠そうです。


神風「あのー、すみません。ボタンが光っていたので、変なところ触ってみたら」


と神風さんが申し訳なさそうな顔で、吐き出されるコピー用紙を見つめていました。そのコピー用紙の受信が終わると、神風さんは眉間に皺を寄せています。その用紙には延々と『どうして』という文字列がびっしりと埋まっていました。びくっと身体が震えて、しばらく動きませんでした。意味不明なその文章に恐怖を覚えました。一人なら絶対に泣いてた。


さすがの神風さんも恐怖を覚えたのか、微動だにしません。


神風「誰かは分かりませんけど、その気持ちはすごいよく分かります。腐らずにガンバレと返信してあげたいですね」


鹿島「あれ?」


神風さんも訳の分からないことをいっています。


神風「ま、でも私を召喚したのは正解ですね。艦の兵士の中で最も肝が据わっている自信がありますから」


鹿島「こ、怖くないんですか?」


神風「怖くはないですね、むしろなぜ怖がるのです?」と神風さんはポカンとした顔です。「人為的なモノでしょう。性質が悪ければ拷問やら受けるかもしれません。ですが、どれだけ拗れてもこの身が死ぬ程度の被害。私が案じるのは仲間が被害を受けることのみ。なので嫌なだけです」


鹿島「すごい度胸ですね……」


思えば神風さんはその兵士人生の大半を丁将席の提督と共にしてきたので、兵を駒として見る視点も理はある、との教えが身に染みているのかもしれません。兵士を駒扱いと割り切れるのなら仲間という存在は枷との見方も出てきます。更に任務に感情的な損得を外せますから、達成に向けて研ぎ澄まされます。ですが、やっぱり好まれる指揮系統ではないんですよね。


大和「神ちゃんはなぜ人為的な被害だと決めつけるのですか」


大和さんが満面の笑みで、そんなことをいいました。


神風「はい? 幽霊の仕業だとでも……?」


大和さんが目を伏せて、腰をあげます。ゆっくりとした歩幅で部屋の中を歩き回りながら、話を続けます。とりあえず聞いてみるとしました、幽霊はいる、という説でした。陸奥さん長門さんとこんな話をしたそうです。


妖精可視の才能というのがそもそも想力を視る力であり、幽霊はその才能を持つ人達が見て来た実在するモノだと。海の傷痕が製作した妖精は人為的な幽霊ですが、自然的に発生した幽霊もいるのではないか。その説の根拠はロスト空間がなくとも、想は溜まり場を作る傾向にあり、その想が妖精可視の才能を持つ者に幽霊として視えたのでは。


神風「や、止めてくださいよ」神風さんの声は震えています。「ゆ、幽霊とか神風刀で倒せないじゃないですか。それは怖いですよ……」


大和「神風さん、後ろを振り向いてください」


といわれたので私も神風さんの背後に視線を向けました。すると、部屋の明かりが消えました。カーテンも閉めているので部屋の中は真っ暗です。神風さんが「大和さん、電気消さないでくださいよ! 視なくてもなんとなくあなたが消したの分かるんですからね!」と叫びます。


大和「……へ? ちょっと待ってください! 私、電気なんか消していませんよ!?」


大和さんも戸惑った声です。私は立ちあがり、部屋の消灯のスイッチのほうに向かう。スマホの灯りを頼りに壁に手の平を這わせて、でこぼこを探す。


ドンドンドン、と玄関を叩く音が聞こえる。


鹿島「な、なんですかこれっ!」


大和「とりあえず灯りをなにかっ」


神風「え、え、今、誰か私の肩を叩きました!?」


大和・鹿島「叩いていませんっ!」


やっとの思いでスイッチのデコボコに触れました、しかし、スイッチを押しても灯りがつきません。サイドボードの上に置いてある懐中電灯に向かって、照らしあげます。大和さんも機転を利かしてくれたのか、テレビのスイッチを入れてくれました。私達は羽虫のようにその灯に集まります。


神風「ほ、本当に、幽霊だけは勘弁してください。殺せないのは……!」


鹿島「あ、あの、テレビはついたので、もしかしたら蛍光灯が切れただけかもですっ」


大和「で、ではっ、神ちゃんの肩を叩いたの誰です!? 私ではないですよ!?」


鹿島「そ、それは私も違います。か、神風さんは?」


神風「ここで自演の疑いですか!? 違います!」


私達は肩を寄せ合って震えます。その時、玄関口から扉が開く音がしました。外の薄暗い明かりが部屋の中に入ってきます。「あれ、皆さん」とスマホの灯りを頼りに部屋の中へと向かってきます。


神風「助かったあ! し、司令補佐だあ……!」


提督「あー。もしかして電気が切れましたか?」提督さんは袋をテーブルの上に置きます。「自分が一人でいた時、電気が消えたりついたりしていたんですよね。なので電気屋が閉まる前にと電灯を買ってきました。あー。張り込み用のあんぱんと牛乳も調達してきました」


大和「ひとこといってくださいよっ!」


提督「すみません……ちょっとそこの椅子を借りますね」


電灯を付け変えてもらった後、スイッチを入れたら点きました。明かりに照らされて、ようやく私達は胸を撫で下ろすことができました。大和さんが幽霊の話を始めたタイミングと重なって本当に霊現象かと思って、余計に混乱してしまった。しかし、神風さんがガタガタと震えたままです。


神風「扉のほうはパニクっててよく分かりませんが、肩のほう。気配なんか感じなかった。私に察知されずに肩を叩くだなんて……」


提督「あ、艦隊の皆を遠征に出しておこうとした時、間違って画面の神さんに触れました」


神風「がってん、お前か!」


提督さんが一回転してベッドの上に着地しました。


どうやら色々とタイミングが重なっただけのようですね。幽霊要素はないようで安心でした。提督さんにその話をすると、「面白い。幽霊って天然のファントム・ステルスとか……」と興味があったのか、自論の展開を始めます。「もう聞きたくないです」と三人の声が重なりました。


提督さんのスマホに着信が入ります。


キュウ《大変です准将さん! きょ、脅迫メールとともに玄関を激しく叩く音がしてっ! ちょっと怖すぎるので外の様子を伺ってはもらえないでしょうか!》


神風・大和「出番ですね!」


外に飛び出していったお二人の後についてゆきます。外に出ても不審者は見当たりませんでしたが、キュウさんの部屋の扉がかすかに開いていて、ゆっくりと閉まっていっています。神風さんが閉まる前にノブをつかんで、中へと突撃。大和さんと私も後に続いた。


神風「……」


玄関口で神風さんがうつ伏せに倒れている。大きく見開かれた瞳から光が消え失せている。大和さんもその先で棒立ちしたまま、動こうとしません。大和さんの肩からひょこっと顔を出して、奥の様子を確かめると、ユウ君がズボンが膝まで降りたまま、部屋に寝転がっていた。


キュウ「すみません! 私が准将さんに連絡を入れた時、ユウ君が勇気を出してくれて、外の様子を見に入ったんです。気が動転していたので全裸のままで! その時にその女の子が突入してきて、ユウ君を投げ飛ばした後になぜかその子も倒れてダブルノックダウンです!」


神風「あの男の、魚雷、ああ、そんな、水が……」


鹿島「轟沈しかけているじゃないですか! キュウさんも服を着てください!」


キュウ「直ちに!」


ちょうど二人が着替え終わった後に提督さんがやってきました。


提督「大和さん、大丈夫ですか?」


大和「……はい。あまりの光景に我を忘れていました。色々と見たくないモノを見てしまいましたが、私は大丈夫です……」倒れている神風さんを抱えて、「私、お部屋で神ちゃんの介抱をしますね」とよれよれとした足取りで部屋を出て行きました。大丈夫、ではなさそうですね。


キュウ「ユウ君の荷物はまとめたので、明日にはこの部屋から」


提督「そうですか……ユウ君が意識ないのは都合良いですね」


提督さんは無造作に置いてあるエナメルバッグからスマホを指二つで取り出しました。


提督「ユウ君のスマホのロック解除パターン知っていますか?」


キュウ「え? 知らないですけど……」


提督「そうですか。なら……あ、解除出来ました。起こす必要もないかな」


キュウ「運が良いですね!? それが噂の見当の才能とかいうやつですかね!?」


提督「画面の指紋跡が濃い線をなぞってみたらビンゴでした」


提督さんはそのスマホを操作し始めました。他人のを勝手に、とは指摘するのは止めておきます。提督さんのことだからキュウさんに相談されたことに関係することでしょうから。メールボックスやライン、それに見覚えのあるアプリを起動させました。柏木さんの会社のゲーム、ですね。


提督「どうぞ。この報告書と照らし合わせて、またなにか自分にお力になれることがあれば」


提督さんは持参してきた報告書の入ったクリアファイルをユウ君のスマホとともにキュウさんに渡した。私にはまだ視えてきませんが、提督さんのげんなりした感じ、なにか察していますね。表情を変えずに、部屋から退出していきました。キュウさんは資料を見たまま、動きません。


キュウ「お風呂入ろ。あの、鹿島さん、その後で少し外でお話していただけないでしょうか」


初めて見る真に迫る表情に、反射的に頷いてしまった。




マンションから国道方面に向かった先の緑地公園を歩きます。その公園の正面出口の道路を挟んだところには文化会館があって、そこのタイルの上では男子高校生達が逆立ちしたり、くるくる回ったりしていました。そういえばあそこって昔から学生がダンスの練習に使うんですよね。


鹿島「キュウさんってユウ君と中学の時、よくここで一緒にランニングしていましたよね」


キュウ「そうですね……私、中学二年生の頃は陸上部のマネやっていまして」


昔話をしました。そういえば三年前も二人の姿を見たな。その時の私は塞ぎこんでいたから、話を適当に聞き流していたのだけど、覚えていないわけではなかった。確かユウ君は近所でも有名な不良でしたっけ。今では丸くなりましたけども、陸上部に入部してからはそのやんちゃに向けられる熱も、陸上のほうに行ったのかガムシャラでしたね。そこからキュウさんと仲良くなってお付き合いに至ったそうです。それからキュウさんはすぐにネットの世界にどっぷりだそうですが。


キュウ「私が卒業すると同時に陸上辞めて」


鹿島「高校になってからはバイトに夢中になったとか」


キュウ「そうですね。私がそっち方面の活動を始めた頃ですか。その時にゲーム関係のバイトねえかな、と探していた時に柏木さんの会社が空いた時間でもいいからテスターやらないって話が来たそうで、それからずっとユウ君、柏木さんのところでアルバイトしています。高校卒業したらそこで働かないかって誘いも受けているようで。私も好きなことで仕事出来ていますし」


鹿島「学生の頃、かあ。私にはなかった素敵な話だ……」


中学から付き合っている人とそのままゴールインしてしまいそうな流れです。私はそういうのはなかった。あっちに行ったり、こっちに行ったり。一つの絆は中々深まらなかったけど、軍で過ごす日々のなかでようやくそういう仲間と出会えた気がします。


キュウ「ここの自販です。私達が座っていたのはあそこのベンチです」目の前には羽虫のたかる自販機があって、キュウさんが指差したベンチはここから反対方向にある。距離にして200メートル程でしょうか。「ユウ君は荷物を置いたままこの自販に行ったって。距離的に荷物を置いていくか疑問ですよね。それもバッグから自分の財布とスマホだけ取り出してって不自然です。荷物ごと持って行くのが普通だと思いませんか。盲目的なところあったんですね。考えていませんでした」


鹿島「……ユウ君が嘘をついたといいたいのですか?」


そこのベンチと自販機の距離を見ると、キュウさんのいうことは共感できる。


でもそうなると、ユウ君は意図的にキュウさんのカバンを放置したということになり、ユウ君のカバンを持っていくのを忘れたという証言が嘘になってしまう。横切る予想はやはり窃盗に加担したのではないか説だ。心地のよいものじゃない。


鹿島「だとしたら何のために……?」


キュウ「思えばそういう性格だったんですよね」キュウさんは肩をすくめます。「大事なことは本人の顔を見ていえないんですよ。付き合うことになったのも、誕生日の祝いも、陸上やるっていう答えも全てラインとか電話とかの媒体を通してだったし」


これ、と手に持っていたスマホをひっくり返して、画面を見せます。SNSの個人チャットのやり取りだ。誰とやり取りしているのかは分からないけど、その相手にキュウさんにネット活動を辞めさせるにはどうしたらいいのか、という相談内容だった。そこにはご丁寧にスマホの致命的なデータを使って交渉すればいいのではないか、とのやり取りもあった。その案が採用されたようで警察沙汰にはしないように説得する、とのユウ君の言葉もあった。


そして遡って見て行けば、そもそもなぜネット活動を止めさせたいのか、そしてそれを直接キュウさんに直談判しないのかの動機も判明した。有名になっていくに連れて根も葉もないことで誹謗中傷されるのがユウ君には耐えられないようだった。それでもキュウさんが今、夢の中にいることも知っているし、応援もしている。辞めろ、なんていったらケンカして別れることになるかもしれないし、それも嫌だ。その文面からは辞めて欲しいけど、別れたくもない、という心が滲んでいました。抱え込んで訳が分からなくなって乱心の末のユウ君の犯行、のようにも思えます。


鹿島「すみません。少しだけ安心しました。とりあえずキュウさんが誘拐されるとかそういうことはなさそうです。不審者の件も偶然が重なって関係性を疑ってしまっただけかも……」


キュウ「鹿島さん、どうしよう。ここまでユウ君がやるってことはどう考えても、なあなあの対処じゃ済みませんよね!?」キュウさんが目に涙を溜め始め、「夢を取るか恋人を取るか! 鹿島さんならどうしますか!? どっちも取るだなんて選択、無理っぽいですし!」


鹿島「そ、その手の相談は困りますっ。私、恋人いない歴=年齢なんですよ!?」


キュウ「それも私の中では怪奇レベルなんですけど、鹿島さんって練習巡洋艦ですよね?」


鹿島「練習巡洋艦ですが、恋、しかもそんなピンポイントな教えとか担当業務外ですっ!」


練巡として責任重大な教鞭を取ってきましたが、その道中についたあだ名は死神とか深海棲艦側の手先とか不名誉極まりない異名だ。ようやく結果と認められたのが提督さんの鎮守府での活動ではある。あの鎮守府も色々と問題はありましたが、恋関連は電さんの圧政と提督さんのラブコメ回避スキルが相まって業務に差し支えるレベルまで発展したことはなかった。恋愛に無知な私がアドバイスしたら、今度はカップルクラッシャー鹿島の通り名が広まりそうな気さえする。でも、今回の一件に関わっている以上、なにもいわないというのも無責任ですし、なにより二人には幸せになってもらいたいというのが私の正直な気持ちでもあった。真剣に考えてみる。


鹿島「今回の一件を良い機会だと思って、真剣に話し合ってみるのはどうですか?」


やっぱりそれが一番だと思う。お互いの気持ちと仕事を理解し合うためにとことん話をして、感情と意思、それらを含めた落としどころが答えとなるはずです。私もそうしたことがある。とことんとはいえないけれど、あの悲劇を起こしたレ級とネ級と話をして心のありようが少し変わった。許す許さないかでもなく、悲しい争いを終わらせる、と結論を出した。深海棲艦と艦娘の垣根を越えて私達は一丸となって到達したあの日の黄金の海の景色は忘れることはないだろう。


喉が渇いたので自販機でお茶を買うと、デジタルのルーレットが回った。あっ、人生初の当たりです。キュウさんにお一つ差し上げようと希望を聞こうとしたところ、私とキュウさんの間にいつの間にか女の子が立っていました。キュウさんは膝を曲げて女の子と目線を合わせた。


キュウ「お嬢ちゃん、愛ってなんだろうね……」


通りすがりの子供にそんなこと聞いても。


?「正義と悪と同じ類ではないかしら、自分の中にしか本当の答えがないわ」


その女の子はそんな回答をした。今時の子はこんなにも深い回答ができる猛者なんですかね。


キュウ「今時の小学生パねえ……」


可愛らしいデザインのスカート付のパンツを着用していて、上は春先のパーカーだ。自販の光に当てられ、春らしい淡色が確認できる。私は「あれ」と声を出す。女の子が歩き始めたところで、ジッパーの下がったパーカーの下のシャツが見えました。白い生地に『鎮守府(闇)』の文字が入っている。これみんなに配られたオリジナルTシャツです。女の子はこちらに向き直ります。


?「鹿島さん、愛が絡む事件で苦難しているそうね」


その活発な雰囲気と可愛らしい八重歯は間違いなかった。


雷「ようやく司令官の頼りになれると思って内緒で来たわ!」


あ、教団のネットワークを駆使したら不審者の素性も割り出せそうな気がする。




雷「海では司令官ちょっと凄過ぎてむしろ私が頼りっきりだったけど、陸のほうでは私が司令官の力になりたいわ!」とのことで駆けつけたそうです。「それで神風さん、司令官はどこかしら。大和さんの姿も見当たらないけど、いるのよね?」


神風「大和さんはコンビニへと向かいましたね。あ、私と大和さんが先にお風呂を頂きました。今は司令官が入っていますので、お風呂にいますね」


鹿島「神風さん、もう大丈夫なんですか?」


神風「ええ」すぐに目からまた光が消え始めます。「初対面の人間の情事目撃はトラウマになりましたが、これを乗り越えてまた一歩、私は強くなると信じます。じゃなきゃ立ち直れません」


鹿島「本当、申し訳ありません……」


神風「いいえ、私が望んでここに来ましたし、お世話になっている身です。こちらこそお力になれず、となっちゃいますよ。それより鹿島さん、今時の若者ってあんな感じなんですかね……?」


神風さんは信じられないといった顔をしています。


神風「籍を入れる前ですよね……私には理解がおよびません」


鹿島「神風さんは身持ちが固いっていうのはすごく分かりますけども……」


神風「子を成す行為ですよ……しかるべき関係の相手とともに責任を取れる状況でないと賭けに負けた時はどうするんですか……愛情表現の一種だとしても私には理解が及びません……今の時代、色々な価値観があるんでしょう。私は時代についていけないおばあちゃんなのか……?」


鹿島「ひ、人それぞれですから、神風さんの価値観が悪い訳ではないです」


神風「どうしよう。あの純情な春風も、初心な旗風も、街の女の子になって……」


なんだか今にも泣きだしそうです。


神風「お姉ちゃんの知らない男と雌猫のごとく致しているのかなあ……!」


鹿島「あ、あの、泣かないで。どうあろうと二人が幸せならそれが一番、でしょう?」


神風「そう、ですね。仮に二人に彼氏がいて、その彼氏が妹を泣かしたら」神風さんが口元を丁将の形に歪めます。「長女として半端な覚悟で神風型に手を出すとはどういうことか教えてやる」


研がれた刃物のように鋭い殺気を振りまき始めた。殺気で首が落とされそうで怖いです。


神風「でも、この前出したお手紙の返事がまだ来ていないんです。もしかしたら嫌われてしまったのかも……」


鹿島「春風さんと旗風さんですし、そ、そんなことはないと思いますけど」


神風「はい。なにか事情があってお手紙が返ってきてないだけですよね。あ、でもその場合、携帯のほうになにかあるはずだけど、まだなにも……」


鹿島「あれ、ところで雷さんは……?」


神風「ん……? 嘘! あの子、お風呂場に突撃しています! 扉、開いたままですし!」


鹿島「提督さんとお風呂ご一緒しているということですか!?」


お風呂場に向かって脱衣場に雷さんの衣服が籠に置いてあるのが目に入る。お風呂場から雷さんの声が聞こえます。あれ、そういえば提督さんもこういうことに関しては厳しい人だと思うのですが、乱入していった雷さんを諫めるような声は聞こえてこないな。


神風「司令補佐! 雷ちゃんとお風呂入っているんですか!?」


雷「バスタオルは巻いているわ! 背中流してあげているけど、司令官本当に戦争終わってから変わったわね! まあいいかって許してもらえたわ!」


雷さんのくぐもった声が聞こえてきます。


神風「司令補佐、一体どうしてしまったんです!? あなたの理性は神風刀より硬く、そして鋭かったと私は記憶しているのですが!」


提督「第六駆が家族のような付きあいの男の子だとして考えてみてください。神さん的にはセーフ、じゃないですか?」


神風「い、いや、まあ……家族のような絆があるのなら、セーフかもしれません。でも、その子達って身体が小さいし、子供っぽい性格なだけで二十年近くは生きている女性なんですが! それを許可するとなったら龍驤さんとも一緒にお風呂入れちゃうってことなのではないでしょうか!」


提督「龍驤さんを六駆と同列視するのはさすがにね?」


神風「し、しかし……」


鹿島「神風さん、これはチャンスなのでは」


神風「は、はい? ちゃんす?」


そう。あの提督さんが一緒にお風呂に入っている。それは絶対に雷さんに対して恋愛感情がなく、親戚の小さい子とか、自分の娘と一緒にお風呂に入る感覚に近いはず。そう思えば別段、騒ぎ立てることもないのですが、ならば逆に、と思いまして、質問を投げてみました。


鹿島「あ、あの提督さん、それなら神風さん、私、大和さんはセーフですか?」


神風「!?」


提督「アウト」


鹿島「神風さん、少しこちらへ!」神風さんの腕を取って、廊下に引っ張りだします。「神風さん、今の答えを聞きましたよね。あれって絶対に私達を女性として意識している故の回答ですっ。提督さん、しっかりと男性的な視線で女性を見ることができるという証拠ですよ!」


神風「まるで世紀の大発見をしたかのような驚きようですね……?」


鹿島「闇のメンバーなら誰もが度肝を抜かれるくらいの情報ですよっ!」


神風さんは携帯でメッセージを飛ばします。


電《はわ、はわわ!》


すぐに電さんから返事がきました。


電《はにゃ――――!》


混乱の極みのようです。


長月《セーフの範疇で一緒に風呂に入りたがるのは雷と響くらいだろ。私は恥ずかしいぞ》


菊月《私は司令官の背中くらいなら流してやってもいい。世話になっているし》


長月《マジか。でもまあ、背中流すくらいなら頑なに拒絶するって程でもないか?》


電《私は恥ずかしいのですが、お背中を流してあげたいのです! でも司令官さんのことだから鎮守府内でそのようなことは許可しないのです! 外で休暇中故のイベントなのです!》


確かに。うん、やっぱり提督さんって駆逐艦の皆からすごく好かれていますね。


電《お二人はダメですよ! 司令官さんのお背中を流せるのは子供の特権なのです!》


神風《でも電さんって戦艦の皆さん並に長く生きているわよね!?》


とやり取りしている間に雷さんと提督さんがお風呂から出てきました。


雷「司令官、また一緒にお風呂に入りましょ♪」


提督「ええ。それより雷さん、お頼みしたことは大丈夫そうですか?」


雷「大丈夫よ。明日には連絡が来ると思うから。司令官はちゃんと休めてる?」


提督「はい。トラブルには巻き込まれましたが、海のこと忘れていたくらいには考えていましたので、意外とスッキリはしましたね。それで鹿島さん、キュウさんはなにか答えを出しました?」


鹿島「ちゃんと話し合う、と」


提督「では、張り込みに向かいますか。この黒塗りのバンですが、コレが最も大事になる可能性が高いです」提督さんはいいます。「ユウ君のことは聞きましたか?」


鹿島「ええ、一応、神風さんにもお話してお二人の間で解決するだろう、と」


提督「あのやり取りの内容的にユウ君が盗んだのではなく、協力者が盗んだんですよ。その協力者はユウ君に聞けば判明すると思うのですが、窃盗が立派な犯罪だと分かるはずです。普通そこまでして協力すると思いますか。少なくともその相談相手は冷静ではありませんよね?」


鹿島「……いわれてみれば」


神風「青山刑事、これは私の勘なのですが、柏木さんって人が怪しくないですか。ちょっと私にはまだ理解が及びませんけど、同性愛者でユウ君と接吻をしていたという情報がありました。協力関係になり得る存在なのではないでしょうか。資料にはキュウさん&ユウ君とお仕事上の関係もある、とのことですが」


雷「それが当たりならもうドロッドロの恋愛図よね……」


神風「ですね……そうでないことを願うばかりです」


提督「鹿島さんからお人柄は聞きましたが、別れさせるにしてもそんな後ろに回る手は使わないんじゃないかな。そもそも盗みに加担せずに普通にユウ君に奪わせれば済むはずです。わざわざ協力者が盗んだ。恐らく犯人がキュウさんの財布またはスマホを手に入れる必要があったのかと」


鹿島「何のために……って別れさせるため、ですよね?」


提督「ええ。別れなかった場合、更に脅しをかけるため、または、キュウさんのスマホや財布に入手したい情報があった、と予想しています。異常です。その協力者はユウ君の相談に乗ることでなにか他のリターンがあると見るべき。仮定しても、その得が何なのかは予想もつきませんが……」


大和「戻りましたあ」大和さんが戻ってきます。「あの、さきほどキュウさんの部屋が乱暴に叩かれた、とのことで管理人さんに監視カメラを確認してもらったのですが……」


大和さんの表情が青ざめていきます。


大和「誰も映っていなかったそうです……」


神風「やだ! もー! ちょっと私そういう殺せない系は無理なんだって!」


盗難のほうは犯人が分かりそうですが、まだ解決、とは行かないようですね。今日は交代でこの辺りのパトロールをしましたが、一致する不審なバンは発見できずでした。


【14ワ●:現実の世界に理想を、理想の世界に現実を】


柏木「あれ、奥にいるのって、もしかして准将さんですか?」


鹿島「ええ、そうですね」


玄関先でのその話が聞こえたようで、提督さんがこちらへと歩いてきます。キュウさんと出会った時のような笑みを浮かべています。柏木さんも同じく笑顔で対応しました。「どうも508号室の柏木と申します。対深海棲艦海軍の大願成就おめでとうございます。お陰様で暮らしやすくなりましたよ」と握手を求めて、「いえいえ。軍人として責務を果たしたのみです」と提督さんは握り返して応じました。玄関先で立ち話もなんなので柏木さんを家の中へとあげることになりました。


世間話というか、柏木さんはやはり海の戦いの話が気になるようで、その話題を投げますが、提督さんはそつなく機密部分に触れないよう大雑把な内容を話しました。そしてお仕事の話に流れて、柏木さんの例のビジネス論が展開されたのですが、提督は興味あるのか耳を傾けていました。


私はコーヒーを淹れてテーブルまで運びます。


柏木「はは、鹿島さんすごく自然に准将のお隣に座るんですね。いや、こうして見ると新婚さんみたいですねー……」


鹿島「え、ええ……ち、違いますよっ」


その言葉に提督さんも動揺したのか、少し肩がぶつかってしまいました。なんだか気不味くなったのを察知して、私はもう一つお隣の椅子に座り直しました。あ、いや、これもどうなのか。柏木さんは苦笑すると、提督さんとおしゃべりを再開しました。


提督「コンサルタントの経験を生かしてソーシャルゲームの会社を、ですか。今、自分もゲームに興味を持っていて市場の知識を仕入れているんですよね。戦争知識以外にどうも疎くて、新鮮な世界ですね。話をお聞きする限り、どうも自分はビジネスには向いていなさそうだ」


柏木「声にしていうのも躊躇うのですが、例の情報漏れの資料を目にしましてね。丁丙乙甲の作戦所はそれぞれ突出した個性が見受けられましたが、丁と丙将席は論理的思考法の実践者かと。私は丁将席の方が戦争を終わらせると思っていました。戦争ってビジネスですからね。加えてあの海は謎解きの要素も強かった。やはり情報に基づいた論理的思考が戦争終結に貢献したはずです」


提督「打ち明けますと、謎を解く鍵が出そろっていなかっただけです。その鍵を掴むことこそ、積み上げてきた皆さんの歴史です。自分を買い被らないでくださいよ。街のビジネスの成功を自分にはあの海のように紐解けずにいるんですから。ところで柏木さんはなぜコンサルタントからITの会社を?」


柏木「お恥ずかしい話ですが、小学生の頃の夢は社長だったんです。小学生あるある……いや今時の子はそんなこといわないか。中学時代にゲームにはまって、いつかゲーム会社をと思っていたんです。安直な発想かもしれませんが経営術を学び、機を見計らって、との流れですね。現場にも時間を見つけて顔を出します。現場の声もやっぱり聞かなくちゃならないので」


ふむふむ。ちゃんとした人生設計を組んで歩いてきた方なのだなあ、と私は感心しました。私は大学の一年の時に適性検査の人の説得にこれまた負けて軍に入ったという経緯があります。別段やりたいこともなかったこともあって、あの海の練巡という職がとても魅力的に映ったものです。


提督「なるほど、しかし、それは悪手なのでは。社長自らが現場の声を聞くといっても社員の皆さんは立場上、耳の良い言葉を並べたてて、柏木さんが得たい情報と齟齬が産まれてしまう恐れがありますよね。そうなると手痛い影響を及ぼしかねないのでは?」


柏木「最もな指摘ですね。そこで生きるのが私のコンサルタントとしての経験則です。別に、最近どうだ、だなんて聞き方はしませんから。あらかじめ、知識があることで聞き方を変えられます。極端な話ですが、ディレクターに『こういう声があるんだけど、こうしたらいいんじゃない』と遠慮なく。そうすることで答えも制限できて現場の問題点が明瞭化していきますからね。准将、日本のソーシャル業界で続々と中小企業が成功といえる成果を挙げられるのはなぜだと思います? この点において対深海棲艦海軍にも共通する問題点があったと私は見ておりますが」


提督「大雑把にいうと、大きい組織は人を多く介するから繋がりが薄くなる、ですかね」提督はコーヒーカップに口をつけ、眼を閉じます。思考に耽る時の癖ですね。「軍学校での話ですが、かつて目立った戦果を挙げた教官の作戦立案についてのお言葉を拝聴したんですよね。で、軍項目において再教育が必要だとの旨をいったのですが、実際に指導するのはその教官ではありません。まだ精神論があるので教官はいうなら服装の乱れは心の乱れ、といった作戦立案とは全く関係ないことをまず指導し始めたのです。せっかく良い指導方法の発想があっても、数字的には全く改善には繋がらなかったというケースです。大きい会社だと人員もそれなりに多くなるでしょう。方針発表者から教育係に丸投げてしまうことで同じようなことが起きているのではないかなと。まあ、この論的に大手の業務体制に不備があって、中小企業に出し抜かれた、というオチになりますが」


柏木「素晴らしい」感心したような声を出して、眼を輝かせました。「その見当力と論理的思考、やはりあなた経営才能もありますよ。早急に改善しなければならない確かな原因の一つです」


提督「経験則です。妖精可視分野における意思疎通の基礎知識でして。開発や建造、妖精が複数で仕事を始める際、リーダーと意思疎通し、その他にという流れがありまして、意思疎通力の低い自分はよく失敗したので。鹿島さんも教育分野では思うところがあるのではありませんか?」


鹿島「ありません」


ときっぱり否定しておきました。この二人の会話に巻き込まれると脳みそが沸騰してしまいそうです。提督さんの表情的にキュウさんの話を聞いていた時よりも楽しそうな感じはします。しかし、今回そのような話よりも気になることがたくさんありました。その一つを聞いてみます。


鹿島「話は変わるのですが、キュウさんやユウ君とはお仕事柄の関係もあるんですよね」


柏木「ええ、そうですね。今少し複雑でして」少しだけ表情が曇る。「鹿島さんの顔色的に明るい話ではなさそうですね。二人から相談でもされました?」


しまった。顔に出ていましたか。


鹿島「ええ、ちょっとトラブルがあって」


柏木「正直、こちらとしても困っていましたね。キュウさんのイメージもありますので、こちらとしても協力したい案件ではあるんです。少し自分の勉強不足で安易でしたね……」


鹿島「安易、ですか?」


柏木「彼女、知名度は高いですが、無所属なんですよ。私と知った仲ですし、マネジメントも楽で出演料も芸能人より遥かにかからない。今のネットの有名人ってそこらの芸能人より報酬が高いんですよ。うちはあまり資金のほうが用意できなくてですね、キュウさんは高名な方ですが、無所属、ああ、アプリのターゲット層からしてそこらのタレントより集客も見込めますし、あまり出せないギャラでも快く引き受けてくださったので」


提督「自分の目から見てもプロ意識に欠けてはいると思いますが」


柏木「ハハ、斬りますね。ですが同意見です。恋人がいようがいまいが、こちらとしては彼女の意思を尊重してノータッチですが、それが原因で商品価値を落とすとなると話は変わります。今回の非が犯人にあるのは間違いありませんが、根本は彼女の脇の甘さが原因なので……」柏木さんはいった。「ちょうどよかった。私も差し支えなければ准将さんに相談しようかな、と」


提督「は、はは、そうだったんですか」


提督さんは愛想笑いを浮かべます。これちょっと困っている感じです。そうですよね。世間から提督さんがどういうイメージを持たれているか分かります。戦争終結に最も貢献した提督、だけではなく、恐らく防衛省から報告書が漏れたことで超天才的なイメージも付与されているのか。残念ながら提督さんは海のことには天才的でも、そういった人間周りのことは全く疎いともっぱら。


提督「お一つお聞きしたいのですが、運営方針では彼女との契約は今後も?」


柏木「私の個人的な感情としては続投ですが、決めかねている部分ですね。対処は早いほうが良いですが、まだ決めあぐねております。それとは別に広報のほうから目星をつけている子がいまして」柏木さんはいいます、「二年前から我々の業界のブラックリストに乗ったお方ですね。キュウさんはユーザー目線で色々と突っ込んでくれますが、それの究極版のような人です。企画すらまだなのですが、次作は彼女のほうに、との声が強くてですね」


提督「へえ、詳しくお聞きしても」


柏木さんは話し始めた。


二年前のお話。海外のゲームセンター施設で大ヒットし、日本でも設置されたらしい。


チーム戦で行われるサバイバルガンシューティングゲーム。総額200万の全国大会だそうで、プレイヤー人口も少なく、あまり話題にはならなかったとか。一位は100万円、二位は50万だそうです。そのゲームはゲームにおいて壁役という囮役に一人を使うのが定石らしく、そのプレイヤーはその壁役をこなしていた。壁のプレイヤーの中でも技量はかなりのもので、被弾率は世界の優勝チームの壁役よりも低いことで注目を浴びていたそうだ。


だけど、その大会の決勝戦ではその腕が振るわれず、早々にリタイアして観戦に回ったそうです。


結局その人のチームは準優勝に収まりましたが、そのプレイヤーの準決勝までの腕に惚れたとかでそのゲームの企業のほうから声がかかったそうです。このゲームを盛り上げるために公式の番組に出演しないか、との依頼だそうですね。そのプレイヤーは承諾して公式番組の生放送に出演。


その放送中に、台本を無視してこのようなことをいったそうです。


証拠の動画も撮ってあるんだけど、これ備品に細工してあるよね?


早々にリタイアしたそのプレイヤーは相手チームのスナイパーに違和感を覚えたそうです。後ろからカメラで撮影し検証班なる有志が集まったところ、出した結論がオートロック。明らかに照準が合っていないのに命中していたとか。加えてそのチームのリーダーとサブリがその会社の関係者と割れて。八百長が露呈してしまったとのことで大炎上したそうです。


水を打ったように静まり返った放送の場でそのプレイヤーは、ユーザーに愛されるゲームとは、を語り始めたところで、その人はつまみ出されてしまったんだとか。ゲーム界隈では色々な意味で伝説のプレイヤーとなっているようです。


柏木さんいわく、そのプレイヤーが後にSNSで語った『ユーザーに愛されるゲーム』の論説にいたく感動を受けたそうで、会社の運営方針の根本にも取り入れたみたいです。会社の企画の方がSNSでその子をフォローしているらしく、その子はソシャゲにも熱を入れていて柏木さんのゲームを褒めていたそうです。社内ではこの子の起用は面白いんじゃないか、との声があがっているとか。次回作の製作の着手にかかると同時に唾をかけておこうと思っているそうですね。


提督「きっとゲームが本当に好きなんでしょうねえ……」


柏木「プレイヤー名はどのゲームも同じで『うーちゃん』です」


鹿島「提督さん、ゲームの腕前一流のウサギさんがうちにもいましたよね……!」


提督「ええ……! 3年前だと阿武隈さんとゲーセンに入り浸っていた頃ですし、あの子なら確かに雇われ企業サイドでも、台本の流れ無視していいたいこといいまくりかねません……!」


柏木「鎮守府(闇)所属の駆逐艦卯月さんです」


提督・鹿島「ですよね……!」


柏木「ふふ、反応からしてやはり面白い子みたいですね。そういう子、必要だと思うんですよ」


提督「大丈夫ですかね。収益に差し支えるような発言を容赦なくすると思いますけど……」


柏木「いいえ、構いません。もともとキュウさんもそのようなタイプですよ。あの子はまだ遠慮がちなところがありますが、卯月さんと一緒に組ませてみたら更に面白くなりそう。一度、直にお会いしてお話してみたいと思ってはおりましたが、対深海棲艦海軍は今、想力周りで大変かと」


確かに大変なのですが、超がつく長期休暇中の最中です。悪い島風さんのこともありますが、皆さんそれぞれ街に出かけて日常へと戻る準備をしていますし、全く暇がないというわけでもありません。なので、私は提督さんにお願いしてみるとします。


鹿島「私からも卯月さんに話をしてみますが、提督さんからもお願いできませんか?」


提督「その程度、お安い御用です。少々、お待ちくださいね」


提督さんがダイヤルを発信しました。画面には卯月さんですね。


卯月《お前からうーちゃんの携帯に連絡だなんて心臓止まりそうになったぴょん》


提督《ええ……番号交換したのを忘れました?》


卯月《忘れてねえし。スカウトの時に教えてからそれ以来、一回もかけてこないぴょん。そうだな、なにか頼み事だと思うからけっこうやり取りしていると噂の瑞鶴と龍驤とのラインを見せるぴょん。あいつらとどんな話しているか予想がつかないから見たいし!》


そこで提督さんは音量のボタンを下げました。卯月さんの声が大きくて丸聞こえですしね。しばらく会話していると、通話を切りました。提督さんの頬がひくひくと痙攣をし始めました。部屋のインターホンが鳴りました。「あの、偶然にも近くに来ているようでして」と。


間違いなく現海界(テレポ)してきましたね。


卯月「鹿島、お邪魔するぞー、ほら、望みの品の神風刀だし。それでうーちゃんにゲームの感想とか。柏木さんとかいうオッサン泣いても知らねーぴょん」


道理で提督さんが冷や汗をかくわけだ。




卯月「あー、ソシャゲ? うーちゃん特別熱を入れているって訳じゃないし。そういう風に解釈されるような書き方したかなー。覚えてねーぴょん。うーちゃんは主にアーケードと家庭用ばかり。ソシャゲは寝床で出来るからやっているけど」


柏木「うちのゲームを楽しんでくれているとか」


卯月「楽しむ? 面白くねーゲームのなにを楽しめと。クソゲの中ではマシってだけだし。あ、ゲームがじゃなくて運営がね?」一気に場が凍りつくような発言をしました。「おたくのゲーム、緊急メンテの回数が少ないから苛立たねーのが大きい。お家芸レベルで緊急メンテ繰り返しているのはムカつくから辞めた。今やっているのがおたくのところなだけって話だし、それも夜に眠れない時に触る程度ぴょん。眠気を誘ってくれるしなー」


提督「……柏木さん、これうっそぴょんがないパターンです」提督さんの声が震えています。「メンタルは大丈夫ですか」


柏木「お気になさらず。全く持って余裕なので」


お強いですね。せっかく苦労して起業して、一生懸命に作ったモノがそのように批判されたら、私ならすでに半泣きになっていてもおかしくなかった。卯月さん、容赦なさ過ぎて。


卯月「むー、批判を挙げたらキリがないから手短に一人のプレイヤーの個人的な意見として二つだけいうぴょん。ゲームはクソつまらなくても、製作陣が楽しそうにゲーム作っているんだなって雰囲気が伝わるのが好き。そのくらいかな。そもそもうーちゃん、ソロゲあんまりやらねーから。皆でわいわいゲームやるのが好きなだけ。ネット繋がりの連中とはあんまりやらんし」


あー、思えば確かに卯月さんが鎮守府でやっているゲームは対戦型が多くて阿武隈さんやゴーヤさんと一緒にやっていることが多いですね。私はゲームはよく分かりませんが、みんなとわいわいやるのが楽しいというのはよく分かりますね。


卯月「そもそも金積めば最強ってゲームの腕前関係ないし、やりがいないぴょん。攻略もネット見て右ならえで終わるし。うーちゃんはなぜソシャゲが流行っているかもわからんから仕事の依頼なんかされてもユーザーのご意見番とか出来ないから困るぴょん。まあ、強いていうなら、そこ突っ込めば自然と企業体質の不備が露呈しそうだし、だからキュウちゃんもメンテとかの詫びの時に最高レア確定の、とか意味不明なこといっているんじゃないの? ンなのいらんから普通に遊ばせろっていいたいけど、それが分かっていても出来ないっていうのがなんか空気で分かるぴょん。ユーザーの期待に応えられないから別の飴で濁す。お前んとこもそのうちクソ運営の仲間入りだぴょん」


柏木「鋭いところを突きますね……申し訳なく思いますが、理由は色々とあります」


なにやらサーバとか管理体制とか、そこらの言葉は分かるのですが、飛び交い始めた専門用語はさっぱりです。卯月さんは理解出来ているようで会話についていけている様子でした。ゲームやっていると、知識として入って来るモノなのでしょうかね。


卯月さんはいいました。


卯月「ソシャゲってただのクソゲって理由だけで、異様に叩かれているぴょん。それが嫌で食指が進まない。ああ、先に謝っておく。上から目線はすまん。それといっておくけど、うーちゃんゲームは大好きだぴょん」


柏木「マルチもあって皆で楽しめる設計ですが、なぜ食指が進まないのです?」


卯月「うーちゃんの好きなゲームっていうのはクソゲでもな、睦月型の皆やアブーや由良さんと一緒に楽しめるかどうかっていうのが大きかったぴょん。皆で楽しめたら、そのゲームもやる機会が増えて、色々と思考錯誤し始めて、のめり込んで、皆と楽しい時間を過ごせるわけだ。みんなの笑顔を引き出せる魔法のアイテムになる。うーちゃんは仲間とそうやって遊べる時間を宝物だと思っているからな。いつ死ぬか分からん仕事していたからこそ、でもある」


柏木「……ふむ」


卯月「大人になってもその思い出のクソゲ引っ張り出して楽しめたらクソゲはクソゲでも、うーちゃんは面白いって声を大にしていってやるぴょん」卯月さんは腕を組んで、低い声で唸ります。「ソシャゲってそれが出来ないぴょん。ゲームデータ運営のサーバー運営だから、家庭用みたいに残らん。ソシャゲのビジネスは知らないけど、それがゲーム好きのうーちゃんの意見かな」


なんというか、少し卯月さんのこと、勘違いしていたかもしれません。


卯月「お前んところはどうだ? ゲームはただのビジネスの媒体か? うーちゃんのニーズに応えられるというのなら、鹿島と司令官の紹介だからな。課金して隅から隅までコンテンツを遊んで意見をいえるようにしておくぴょん。けっこう時間はかかるかもだけど、お約束しよう」


卯月さんはコーヒーカップを受け皿に置きました。


卯月「ただな、プレイヤーの腕前じゃなく、あほみたいな周回時間を要求しといた挙句、運ゲのようなただの大量生産大量消費レベルならその時は覚えておけし」


卯月さんは深海棲艦と敵対する時と同じく赤い瞳に殺気をちらつかせました。


柏木「海の戦争はクソゲでしたか?」


卯月「クソゲ。あほみたいに周回させられる上に旨味なんか少ない。だからうーちゃん達はクソ運営を潰してやったし」


柏木「仲間と出会えたのは運営のお陰でもあるのでは?」


卯月「結果論だし、図々しいぴょん。それはそれで幸せだったとは思うし。みんな、戦争の中よりも街でそれぞれ暮らしていただけ。少なくともあの戦争の消えない爪痕はなかったからなー。街でもそうなるかもだけど、海の戦争である必要もないことだし」


今まで平静だった柏木さんの顔から笑みが消えて、なんだか覚悟を決めた、という真剣な顔をしています。


柏木「お願いできますか」


卯月「了解。それじゃ話はとりあえず終わりだなー。うーちゃんは帰るぴょん。ああ、ここらで寄りたいゲーセンあるから一人で帰るぴょん」卯月さんは席を立ちます。「あ、司令官、他の連中がE-2の攻略始めた。陽炎ちゃんいわくそれ突破で最終海域だと」


休暇中、邪魔したな、と卯月さんは出て行きます。


柏木「准将さん、連絡先、交換しませんか?」


提督「構いませんが、腹割った話を一つ構いませんかね?」


柏木「ええ」


提督「同性愛者という噂は本当ですか」


それは私も切り出し方に困っていたのですが、ずいぶんとストレートに行きましたね。柏木さんは困ったよう顔で笑いました。


柏木「いえ、さてはマンションの方から聞きましたか? あの時は酔っぱらっていて適当に答えただけです。ユウ君との件もなにか噂されているようですが、千鳥足でよれかかっただけですよ」


提督「なるほどー……まあ、主婦は噂好きも多いですからね」


柏木「自分、小学生の頃からずっと恋をしていた女の子がいましてね。その頃が少なくとも今までで一番の宝物の日々でしたね。夢と希望に縁取られていました」


小学生の頃、ですか。初めて聞いたお話ですね。


提督「……小学生、ねえ」


この時、提督さんが思い浮かべていたのは電さん、なんでしょうね。複雑そうで綺麗な思い出なのかそうでないのかは顔からは読み取れませんでしたが。


柏木「電さんですか。提督として、彼女は駆逐艦電として鎮守府で出会えた。映画のようなロマンスですよね」


提督「ええ……どこからそれを」


柏木「すみません。たまたまネットサーフィンしていたら、目にしました。今のご時世、注目を浴びるとはそういうことです。ゴシップ記事の会社でなくとも、個人で集団のSNSを利用してそのような話を記事にしている人はいますから」


提督「匿名掲示板の不特定多数を利用するって発想ですか。給料払う必要もないですし、メリットはありますかね……宝探し自体より嘘でも本当でも宝探しの話を流すことに儲けを見ると」


柏木「羨ましい限りです。興味本位ですが、あの頃と変わらない彼女の姿を見るのはどういう心境になるものですか。私の初恋は小学生ではあるのですが、自身と比べてみてもいまいちよく分からなくて」


提督「そうですね……あの頃と同じ彼女でも、その隣には背丈が伸びた自分です。昔の思い出、仕事の関係、これから求めていくモノ、変わらないモノ」


柏木「……ふむ」


柏木さんがこのマンションに入居したのは確か五年前だったかな。仕事が軌道に乗って、職場の近くで住まいを探しているとのことで、ここへの入居を希望してくださったんですよね。確か、もともと地元だったとも聞いています。色々とこの街に思い出があるんでしょうね。


提督「複雑」


と提督さんは答えました。

中身は16年の歳月を経て色々と違います。あの頃と全く同じなのは姿だけですから、きっと嘘偽りのない答えなんだろうなあ、とは思います。




キュウさんから連絡が入りました。


色々と話をし合って、まだ結論を出すのにはもう少し時間がかかりそうだと。でも、ユウ君の協力者となる人物は聞き出したとのことで、教えてくれました。三年前にこのマンションに併設されたコンビニで知り合った大学生の男の人だそうです。住所も電話番号も知らなくてSNSでのやり取りと、たまにコンビニで会って話していた仲とのことです。陸上をやっていて、ゲーム好き。共通する趣味と気性が合って仲良くなるのにそう時間はかからなかったとのことです。


雷「司令官、例の件だけど、物の調達にはもう少しかかるけど、質問の答えは教えてもらったわ」


提督「はい。本当に教団のネットワークはすごいですね……」


雷「我々の同志、青山開扉の助けになるとあらば、とのことで」雷さんはいいます。「司令官、中学生の頃に教団に世話になっていたのよね。教団の身内にされかねないからそこは私がいっておくけど」


提督「ええ、まあ、お世話になったのは真実ですからね。それで答えは?」


雷「技術的には可だそうよ。中小企業によくある現場の管理不足だと思うって」


提督「柏木さんも身内には甘いところがあったようですね。了解しました。ありがとうございます。神さん、収穫ありました?」


神風「ありました。昨日私達が心霊現象で騒いでいた頃、マンションの裏手に例の黒いバンが駐車していた、との目撃情報を得ました。みなに不審者情報が出回っていたおかげですね。Noも覚えてくれていました。こいつは網を張れば割り出せそうですね」


提督「了解です。大きな収穫ですね。大和さんのほうはどうですか?」


大和「ええ、管理人の方に聞いてきましたよ。ちょっと機械の話になるので証言のメモを取らせていただきました。あ、ちなみにヒラト君の管理人が嘘ついた線はないですね」大和さんはメモ用紙の文章を読み上げます。「防犯レコーダーの細工はありません。例の玄関が乱暴に叩かれた時間の録画時刻を確認しましたが、秒数は自然で止められた形跡はないとのこと。そしてその時間帯は管理人さんが部屋にいたとのことですので、侵入者に気付かない訳もないとのこと。ちなみに警備会社に確認を取ってくれたそうで、映画みたいにその映像自体をPCで遠隔から細工することも出来ないらしいですし、形跡もないそうです。つまりカメラや映像の異常はない、と」


雷「本当に玄関を激しく叩かれたの?」


鹿島「ええ、確かに玄関を乱暴に叩かれました。人が映っていないっていうのはおかしいですよね」


雷「司令官の悪戯じゃないわよね。生気の無さが能力化してカメラに映らなかったとか」


提督「無自覚に人間辞めた説は止めて」


大和「あ、ヒラト君が玄関から入ってくるところは映像に映っていましたよ」


神風「鹿島さん、幽霊マンションっぽいので本職の方に除霊を頼んでは……?」


鹿島「それは私の一存で決められないです。ここで幽霊騒ぎなんて今まで聞いたことないですが、うーん、そもそも幽霊って本当にいるんですかね。玄関叩くレベルの悪戯なら、ある意味人的被害よりも私的には安心できるのですが、続くようなら放置とは行かないのも確かです……」


提督「神さんは肝が据わっているのかそうでないのかよく分かりませんね。自分からしたらコンビニ強盗に誘拐されるほうが怖いですけど……」


神風「ヨッシーとヤッシーみたいな愛嬌悪役は例外です。人間的に本当にヤバいやつはお上に捕まらず悪さできるからヤバいんですよね。だから私は勧善懲悪モノ好きですよ」


提督「街もカオスですねえ。とにかく恐らくバンのほうはガチで危ない人だと思うので鹿島さん、お気をつけください」


鹿島「私、ですか?」


提督「自分にスカウトされて鎮守府に来る前、ストーカーとか嫌がらせを受けた覚えは?」


鹿島「う、うーん?」ここにいた頃のことを思い返してみると、嫌がらせには身に覚えがありました。「併設のコンビニで働いていた時、少し対応に困るお客様がいましたね。お尻触られた程度です」


神風「姑息な狼藉な上、吐き気を催す邪悪です。これだから男ってやつは嫌いなんです」


神風さんはため息をつきました。


雷「あっ、鹿島さん、その人ってどういう容姿か覚えている?」


鹿島「中肉中背で歳の頃は二十歳前後だったかな。あ、ラインの交換とか食事とか誘われたことがあります。断りましたけど、その時はキュウさんもシフトに入っていてくれたので教えてくれたんですけど、世間的に不良といわれる人のようですね。やんちゃな感じはありましたけど……」


雷「ユウ君から聞いた協力者と一致、ね。これもう解決しちゃいそうなんじゃない?」


提督「その人、キュウさんとユウ君の別れの協力に際して、犯罪に加担するのは異常で、なぜそこまでして協力するかが疑問だという点はお話しましたよね。もしかしてキュウさんのスマホに入っている鹿島さんの個人情報を抜くのが目的だったのかもしれませんね」提督さんはいいます。「スマホが奪われた時と、帰ってきた時期を見計らっての悪戯ファックス、その内容は『どうして』とのことですよね。ここらで不審者として目撃されている以上、このマンションに向かって自分が鹿島さんと一緒に歩いていたのを目撃していてもおかしくないです。というか、その時に黒塗りのバンって見ませんでした? 新しい住宅街歩いていた時に」


鹿島「あ……そういえば!」


提督さんとこのマンションに来る途中、住宅街のモデルハウスの近くにその黒塗りのバンが駐車していたのを覚えています。白いモデルハウスと対照的な配色だったので記憶に残っていますね。


大和「む、その推理なら点と線は繋がりますね」


提督「しかし、自分を見ただけでろくでなしと見抜くとは中々の眼をお持ちですね……」


雷「どう考えてもストーカーの考え方のそれなだけじゃない」雷さんは提督さんの腰に抱きついて頬ずりしています。「大丈夫よ。司令官には私がいるからろくでなしにはならないわ!」


提督「頼もしい。それと、あのダメ元で頼んだ件ですが……」


雷「はーい! 教団の皆にお願いしたら有志が150人くらい集まってくれた! 午後からこの市をくまなくパトロールしてくれて、見つけたらすぐに連絡してくれるらしいわ!」


提督「さすが姫様。頼りになり過ぎてダメ人間になりそうな気はする」


確かに。教団のことは知っていますが、頼りになり過ぎる。お礼をしなくてはなりませんね。


なんだか一気に解決に傾いた気もします。後はその人を捕まえなくては。荒事になることも予想できますし、ここから先は慎重に行動する必要があります。こういう時は男の人が頼りにしたいのですが、提督さんは「がんばります。荒事は超弱いですが」と自信なさ気です。


神風「お任せを。相手に荒事のプロがいれば話は別ですが、ケンカが強い程度の大の男五名までなら私一人で十分です。身体に触られただけでボルテージあがるバーサク仕様ではありますが」


大和「あ、私も大丈夫です。体術ならかなり自信がありますので」


鹿島「ほんと皆さん頼もしいですね」


提督「はい。そうか、これが悔しいという感情ですか……」


時代ですかね。提督さんは複雑そうな顔をしています。男性として思うところがあるのでしょうね。といっても、このお二人がそこらの男性よりよほど強いだけというのはありますけども。私は練巡として建造した時に色々な知識を授かりましたが、至近距離での体術分野はあまり得意ではないです。


提督「これは今回の件で脳裏に浮かんだ面白い話なのですが……」


提督さんが腕を組んで、低い声で唸ります。


提督「キュウさん&ユウ君、そしてキュウさんのカバンを盗んだ協力者、鹿島さんも巻き込まれていて、そこにキュウさんユウ君とお仕事上の付き合いもある柏木さんにも被害が行く。というなかなか拗れた感じの関係図ですね。昨日、扉を激しく叩いたという件は調べても、尻尾は出ません。また別の誰かの仕業、という線が強いと見ています。もう一人いるのかもしれません」


神風「あれは私の感覚でいうのなら、人為的な仕業で間違いありません。監視記録に残らないってなにかトリックがあると見るのが妥当です。完全に欺かれていて、司令補佐のいう通り、尻尾をつかませません。その協力者、またはその協力者から派生した協力者の線はどうですか?」


提督「あり得ますけど、トリックについて考えると、心当たりはあります」


雷「教団のそっちの人にも記録を解析してもらったけどトリックが分からないっていったのにねえ。そういうところはやっぱり戦争終結しても司令官らしいわ……あ、もしかして私に頼んだ物?」


提督「はい。防衛省で聴取を受けていた時、同じような霊現象が起きたんですよね」


神風「司令補佐までおばけの仕業とかいうんですね!?」


提督「勝手に窓が開いたのです。自分は戦後復興妖精のことを聞いていましたし、ロスト空間消失後のことも元帥にお伝えして気を張り巡らしていたので、すぐに最寄りにいたグラーフさんとガングートさんを動かして確認に移りました。そしてその正体を看破した。それが戦後復興妖精、悪い島風さんでした」


鹿島「聞いておりますが、妖精だろうとステルスだろうと映像には残りますよね?」


提督「いいえ、悪い島風さんは省内の監視カメラには映っていませんし、妖精可視の才のある自分でも視えないレベルです。乙中将ですらも確認できず。ま、悪い島風さんの『ファントム・ステルス』は『幽霊』という存在のざっぱな条件を満たします」


大和「悪い島風さんの悪戯ってことですか……?」


神風「あの偽島風、よくも司令補佐の前で醜態を晒させてくれましたね。決戦前だけど、斬っとくか……」


うーん、そう断定は出来ないかな。今、悪い島風さんは当局からデータを抜くために必死だ。そんな時にわざわざこちらに来て悪戯なんてするでしょうか。過去の件を聞いた限り今回の一件、契約を迫ってくるほうが自然だと思うのですけども。うーん。


鹿島「あ、想力で出来ることってこの世界でもともと可能なことなんですよね?」


提督「ええ。ファントム・ステルス自体も例外ではないのだと思います。自分でも悪い島風さんを頼らずに想力を利用してそんな真似は出来ないので、恐らく人間が想力を利用した線は限りなく薄いです。仮にそこまで技術化出来ているのならもっと別のやり方で来るはずですから」


鹿島「ということは自然的に」


雷「少し怖いわね。人為的な悪戯ではなかったということよね?」


大和・神風「幽霊って実在したんですか!?」


衝撃の事実。


提督「覚悟はいいですか?」提督さんは段ボールから中の機材を取り出します。「研究部が電艤装の溜まり場を使って開発した想力分野の装置です。このスコープでグラーフさんは悪い島風さんのファントム・ステルスを視認出来ています。これでカメラの映像を確認してみましょう」


私もさすがに怖い。だっておばけがいるのなら、牛の刻参りのような呪法も、本当に人を呪い殺せたり、逆に幸せにできるということになりますよね。今まではあり得ない、と皆が思っていましたが、理論的に出来ると広まれば、社会は間違いなく崩壊するでしょう。そんなの、怖すぎる。


提督「鹿島さんには感謝しなければなりませんね。柏木さんとのお話も実に興味深く、この展開です。実に楽しい休暇になってきました」


鹿島「ええと、どういたしまして?」


提督「姿が見えないけれども、物理的に接触することは出来る存在。この幽霊説が当たれば過去に起きた様々な怪奇の真実が見えてくるかも。新たな人類史の幕開けの瞬間を目撃できますよ」


提督さんだけ妙に楽しそう。




四角い正方形の管理人室に集合です。事情を説明して、その時の映像だけ確認させてもらえることになりました。「あの、幽霊マンションとか、大丈夫なんですかね。理事会が資産価値がどうのこうのとうるさくなると思いますし、大沙汰にはしないほうが」といってくれました。「それを解決するんです。もしかしたらマンションの管理人の業務に幽霊退治が追加される時代になるかも」といったら、勘弁してくださいよ、と泣きそうになっていた。冗談です、申し訳ないです。


提督「では公平にジャンケンしましょう。勝った人から順に……」


神風「こんなに勝ちたくない勝負は初めてです……」


提督「さあ、業務上知っておいて損はないと思いますし、管理人さんもぜひ」


管理人「全く嬉しくねえ誘いが来た! それで誰から行くんですか……俺、嫌ですよ!」


大和「じゃあ、私が行きますよ」


提督「いやいや男の見栄を張らせてください。自分が行きますって」


雷「私が行く!」


鹿島「あ、それなら私も」


神風「……じゃ、じゃあ」


管理人「……」


一同「………」


皆で神風さんを見ます。


一同「どうぞどうぞどうぞ」


神風「はめられたわ! それいう相手は私の後にノってくる管理人さんじゃないのかよ!」


とのことでジャンケンを始めることに。提督さん、雷さん、大和さん、管理人さん、神風さん、そして最後に私という順番になりました。まずは最初の提督さんがスコープをはめて、映像を流します。その映像自体には本当になにも映っていませんが、確かに私の部屋の扉が乱暴に叩かれ、振動していました。続いてキュウさんの部屋も同じような現象が起きていました。カメラに提督さんが帰ってくる姿を移すと、そこで管理人さんが映像を止めて、巻き戻します。


神風さんが唾を飲む音だけが静かに響く。


その静寂の中、提督がゆっくりとスコープを外した。怪奇現象に楽しそうにしていた提督さんの先ほどまでの表情は消え失せて、顔面真っ青のまま、沈黙を続けている。「雷さん、どうぞ」と震えた手でスコープを渡しました。「あ、あれ、もしかして相当、ヤバい悪霊とか……」さすがの雷さんもその提督さんの様子で、恐怖の深度を察したのか、肩を震わせている。


雷「こ、このくらい最後の戦いに比べれば……」


雷さんがスコープを装着し、映像は再び繰り返されます。雷さんは見終えると無言で大和さんにスコープを渡しました。大和さんも先に映像を視たお二人と同じく凍りついて、そのままスコープを次の管理人さんへとお渡ししました、管理人さんも同じ行程を繰り返すと、悲鳴をあげました。


管理人「うわああああ!」


椅子から転げ落ちた。スコープを外して、部屋の隅まで四つん這いで逃げると、体操座りし、膝の親間に顔を埋めました。


神風「え? え?」


管理人「覚悟、したほうがいいです……」


神風「やだもう……見たくない見たくない!」


管理人「でもみんな視ていますし、自分だけ呪いから逃れようなんて」


神風「呪い!? ね、ねえ、どんな感じのおばけが映っていたの? それ聞いて身構えておくだけで大分、堪えられると思うので、教えてくれませんか……?」


管理人「……有名どころでいうならザ・リングレベル、の……」


神風「イヤアアアアアアアア! サターンホラー映画賞受賞クラスううううううう!」


見たら呪われる、見たら呪われる、と呟く神風さんに提督さんが強引にスコープを装着させて、大和さんがはがい締めにします。神風さんは暴れますが、さすがの大和さんには力では敵わないようですね。神風さんは「ごめんなさいごめんなさいごめんさい」謝罪を何度も声にしています。


映像が流されると、神風さんはムンク顔で絶叫。大和さんを吹き飛ばしてスコープをブン投げました。


大和「……噂には聞いていましたが、素晴らしい体術ですね。技で転がされてしまいました」


神風「見、見えた。確かになんか人が!」


私は転がったスコープを装着して映像を視てみるとしました。怖いですけど、原因は把握しておかねばなりませんし。さすがにあのように玄関を叩く幽霊ならそのままにしておくわけにも行きません。


動画が流れ始めて、自動ドアのほうから、ゆっくりと人が歩いてきます。


背丈は160センチ程度、顔の輪郭が曖昧ですが、人の形をしています。ただイメージしていた幽霊像とは違って、恐怖、を与えるような雰囲気ではありません。羽織っているのは特攻服、でしょうか。日ノ丸に黄金の刺繍が入っており、右腕には『爆走列島・最速』の文字が入っています。私の部屋の扉を某漫画の「オラオラオラオラオラオラ!」といった具合に殴りつけています。続いてキュウさんの部屋も。満足したのか、殴り終えると、普通に帰って行きました。入れ違いに提督さんがやってきます。想像していた幽霊のイメージとは違って怖くはないですけど、ほんとに意味不明なのですが。


鹿島「提督さん、これ……」


提督「ええ、とりあえず観るのを拒否した神風さんは部屋で待機していてもらいましょう」


神風「なぜ!?」


雷「これから先の戦いにはついてこられそうにないわ」


神風「お、置いていかれるのは嫌です! 分かりましたからっ!」


神風さんは半べそをかいたまま、スコープを装着しました。時間が経つにつれて、身体の震えが収まっていきます。映像の扉の震えが収まったところで、スコープを外しました。


神風「北斗百裂拳だ! 誰のスタンドですかコレ!? 怖いというか超面白いわ!」


鹿島・大和「ですよね」


神風「というか、なんでみんなは私を必要もなく怖がらせてきたのかしら!」


提督「その場のノリかな」


雷「うん、なんとなく司令官に合わせてみたわ」


大和「ですね。面白そうだったので」


管理人「はは、皆さん人が悪い」


神風「管理人は首を出せい! お前が今回の助演男優賞の役者だった!」


神風さんが管理人さんに襲いかかった。私達はそれを必死で止めます。とりあえずこれはお払いして神社の神主さんにでも引き取ってもらうのが良いのだろうか。私は神風さんを止めながら、対処を考えてみますが、様子見に落ち着きました。管理人さんも「霊現象と思われる苦情は今までなかった」とのことで、この幽霊さんは本当にたまたま来て悪戯しただけなのかも。


提督「今回の件には関係なさそうですが、幽霊はいましたね」


幽霊にも様々な性格があるのかな?


この一件はとりあえず保留、ということになりました。


5


提督・雷「ただいまー」


パトロールからお二人が帰ってきました。

とりあえずその不審者が尻尾を出すまで、一時間ごとに交代でマンションの辺りの哨戒をペアで続けています。どうもその黒塗りのバンは教団の方いわく、まだ見つからず、とのことですので、一応は念を入れています。


神風「大和さん、次は私達ですね。食後の運動も兼ねてパトロールと参りましょう!」


鹿島「あの、やっぱり私も同行しましょうか?」


大和「いえいえ、鹿島さんはその身を狙われている危険もありますからね。あ、お夕食、ごちそう様でした。働かざる者食うべからず、の精神ですよ。私達にお任せくださいな♪」


神風さんとともに行ってしまいました。


卯月「ぴょん。ちょっとうーちゃんも泊まらせてー」


鹿島「あ、卯月さん。いらっしゃい。構いませんよ」


卯月「ありがとぴょん」


どうももう少しゲーセン巡りをしたいとのことです。明日に遊んでそのまま帰るとのことです。問題はありません。卯月さんはうさ耳のパーカーフードを外してクッションの上に座ります。そういえば卯月さんって街に出る時、容姿を隠れる服装をしているんですよね。本人に聞いたところ「赤髪と赤目が目立つからー」とのことです。なるほど、そういう悩みは私にもあります。


鹿島「あ、柏木さんのゲームですね。それ卯月さんの評価はどうです?」


卯月「このカードゲームか。望月のやつに勧められて始めたんだけども、まだなんとも。でも、この手のジャンルではマシなほう。とにかくカードの種類が多い。その割にプレイヤーから破綻した戦法が発見されていないのがすごいぴょん。このルールで、このカードの枚数だと、プレイヤーから運営側の意図に反したコンボ見つかって、禁止とか枚数制限受けていくんだけど、それが全くないのは素直に感心するぴょん。最初、山札からランダムじゃなくて、一枚だけ好きなカード手札に加えられるスキルは修正するべきだな。他の始動スキルが死んでる。課金して攻略サイト右ならえ右のデッキのやつを頭使って捩じ伏せてやる無課金がいるし。というか廃課金勢はゲームよりカードコレクションに熱入っているぴょん。排出率低過ぎてレア度高いだけで実戦のほうでは別にそんなに強くない設定だけど、こういうのは所持していることにステータスあるからなー」


と画面をタップしながら、感想をいいます。聞いている限りは高評価のようですね。


卯月「ゲーム仲間に聞いたところ、ゲームより企業体質が良さそうとか」


提督「そういうのって柏木さんのコンサルタントの経験が生きているんですかね……」


雷「そういえば卯月さんのお母様の会社も十年ですっごく成長したわよね」


卯月「母上いわく、司令官みたいなタイプに合っていると。まあ、ぶっちゃけその機械的思考がもろに活用できる職なんだな」


提督「なら誰でも出来るじゃないですか……」


卯月「それが出来ないやつも多いぴょん」卯月さんは対戦に勝つと、ゲームを落として、エクセルのアプリを立ちあげます。「鹿島、プリント借りていい?」


鹿島「あ、はい。構いませんよ」


卯月「鎮守府の皆ならいいかな。特別に他企業の出回ったデータを。これで司令官のビジネス思考の程を試してやるぴょん」


プリントからデータが印刷されます。私にはよく分からないアパレル業界のデータです。まず専門用語を卯月さんは説明を始めました。


卯月「一時期この会社の利益が大幅に下がってこの事業を売却することが検討されたぴょん。業界でトップクラスのコスト競争力、そして流通システム。なにより幅広い客層の獲得も。そしてこっちのこの経営不振の会社も大手、といえる。三年前のだけど、決算の売上は2000億。で実際に利益換算すると150億程度だぴょん。それでこの会社のこのデータだけどな、高品質を売りにしているからコスト競争で劣るわけ。さて、こっちの業界のデータと、翌年のこの企業のデータを見て、企業はどういう戦略を取ったか分かる?」


提督「……少々お待ちください」


提督さんは資料とにらめっこを始めます。私もその資料を拝見させてもらいましたが、よく分かりませんね。謎の数字が並んでいるだけでその数字の意味が半分も分かりません。雷さんも同じなようです、興味がないのか、テレビのチャンネルをつけました。


提督さんは両手を叩き合わせました。


提督「当時のグラフ的に業界全体の売上が落ち込んでいる理由は外資系が大きく進出してきたからですね。そしてこの企業の客層は高コスト品質の国内ブランド体制。そして取った戦略は単純な人員増加による営業利益をあげようとしたんですかね。人件費によるコスト圧迫で落ち込んでいます」


卯月「それは問題点だな、では取るべきだった解決策は?」


提督「この会社のシェアである若年層が大幅に削られている状況で、コスト競争力も対してないですから進出してきた外資系とそこで営業に人間増やして争うのは得策ではありませんね。負けの目が色濃い戦略で勝負してしまったことが原因ですから、見直すべき点は再度、客層を取り戻すためのブランド自体の再生、つまり人員を増やすのではなく、むしろ減らさなければならなかった。その証拠に人件費がかさんで純利益が落ち込んでいますね。対策不十分な点。でもまだ販売力では決して負けていないわけですから、もうこれ外資系商品販売戦略の着手を検討すべきだったのでは……?」


卯月「ふむ、初見でよく正解といえる一つの答えを出したし。司令官、才能あるぞ」卯月さんは拍手を送りました。「商売には結論ありきなところがあるがな、問題点の明確化+企業の価値=解決法となるぴょん。この場合、そもそも本当に若年層の客層が奪われていっていることが根本的な原因なのか、という疑問の裏付けもスルーされているんだな。有能なコンサルタントがいれば実際に販売地方に足を運んでデータを取ってくるぴょん。それで済む話だからな」


提督「なるほどー……」


卯月「あ、そうだ。母上が司令官に軍に留まらないなら、会社に誘いたいらしいぴょん。母上がビジネス面でも高く買っているってことは自信を持っていいぞ」


提督「ええ……魅力的なお話なのですが、やりたいことがありましてね」


そこで雷さんがテレビから提督さんのほうに視線を移します。


雷「え、なに? 軍人を辞めてサラリーマンとかになるの? それなら教団の……!」


提督「うーん、まだ決定はしていないのですが、近々答えは出せると思います」


卯月「司令官が最近やけにパソコン触っているのと関係あるぴょん?」


提督「まあ……まだ今はお話できる段階ではありませんのでまた後ほど」提督さんはいいます。「しかし、今回は本当に色々と勉強になりますね。ほとんど海のことを頭から追い出して陸のことばかり考えました。少年の頃に軍人になると決意した日以来のことですよ」


卯月「ま、うーちゃん達はもちろん応援するからがんばるといいぴょん。お前なら母上に頼んで投資を検討してもらえるようお願いしてやるぴょん。続くかどうかは司令官次第だけどな」


雷「あ、そうそう。間宮さんのことだけど。ああ、司令官、そのことじゃないわ。間宮さん、ちょっとお店を出したいんだって。そのためにお誘いを受けたことのある飲食店に少し下積みに行きたいから、近々鎮守府を空けるって話をされたのよね。司令官、聞いているかなって」


提督「あ、聞いていますよ。あの人の料理の腕は間違いないですし、好きを仕事に出来るのはいいですよね。応援していますよ」


鹿島「あ、中枢棲姫勢力との密談任務の時に初霜さんから聞いたのですけど、わるさめさんの地元に中華において間宮さんを凌ぐ腕前の店主がいるらしいです。わるさめさんが小さい頃から通っていたお店らしくて、ここ数年で間宮さんを越えてきたとか」


提督・雷・卯月「マーミヤン越え!?」


驚きですよね。予定はまだ先ですけど、計画されている旅行に行く時に寄っていこうって話が出ています。しかも興味深いのは間宮さんと同じく低コストでその驚異的な質を出しているみたいですから、自宅にも流用できる秘伝があるのでは、とちょっと聞いてみたくもあります。


もしかして想力ってお料理にも働くのかな。愛情は料理の極意、と間宮さんもいっていましたね。


今日のお夕食は昨日より愛情を注いでみたのですが、食べてみたところ、はい、普通の出来ですね。皆さんが美味しいといってくれたので良かったですが、間宮さんと比べると、と好奇心で聞いてみた。うん、卯月さんからうっそぴょん、のオチがない手痛い批評をもらいました。


インターホンが鳴りました。あ、やっぱり大勢でいると時間が経つのは早いですね。神風さん達が帰ってくる時間でした。


鹿島「はいはい、お待ちください」


扉を開けると、大和さんと柏木さんが、頬が腫れたユウ君を抱えていました。


6


大和「とのことです。今は神風さんが車を追いかけています」


卯月「うわー、司令官って外に出るとトラブルに巻き込まれてないか?」


提督「置いてください。ユウ君、怪我は大丈夫そうですか?」


ユウ君「大丈夫です。それより俺のせいでご迷惑をおかけして申し訳ありません……」


事情を聞いたところ、これ以上、迷惑をかける訳には、とユウ君はその協力者からスマホを返してもらおうと、連絡をつけたようです。そこで揉めごとが起きた、と。その現場をパトロール中の神風さんと大和さんが目撃したそうです。カフェにいた柏木さんも何事か、と合流したそうです。どうも犯人はバイクに乗っていたそうです。不審者情報を知って自覚して車は辞めたのかも。


提督「ユウ君。今回の一件ですが、あなたの本音を聞かせてはもらえないでしょうか?」


と提督さんは優しい声音でいいました。


ユウ君「……はい、覚悟は決まりました」


ユウ君はしばらく黙りこんでいましたが、スマホを起動させてアプリを起動させます。


ユウ君「柏木さん、すみません」


柏木「私、ですか……?」柏木さんはゲーム画面を見ると、渋い表情をしました。「それは」


ユウ君「はい。俺、柏木さんから良くされていることをいいことに周りのみんなを騙してチートしたんです。新しいカードパックのアップデート、前日に動作検証をするじゃないですか。よくバグが見つかって修正しますよね。人手が少ないのもあって、監視の目が空くんです」ユウ君はいいます。「だからその時に検証用のアカウントではなく、こっそり俺の個人アカウントに新カードのデータを移していました。排出率0.1%のカードを入手したのは運じゃないです。俺が会社に不利益を与える行為をしたからです」


なぜ、という理由はまだ不明ですが、それがどれほどのことなのかは柏木さんの顔を見れば分かりました。あの柏木さんが、明らかに怒った顔をしていましたから。鋭利な棘を発するように、空気がチクチクと肌に刺さります。柏木さんは、「どうしてそんなことを」と問いました。



キュウちゃんがこのゲーム、好きで。


でもあいつって、ヘビーユーザーですごい強いんですよ。レアなのもたくさん持っている。その話、よくするんだけど、俺はこのゲーム勝てないし、運がないからお金使っても出なかった。一度、本当に運よくレアカード出て、キュウにも勝てたことがあるんです。すごく笑ってくれました。俺が陸上やるって伝えた時以来の笑顔を見せてくれました。でも、それっきりだった。だから、味を占めたというか、チートに手を染めました。分かっていますけど、なんか手に入れたら止まらなくなった。だって、排出率低いもんを手に入れるとすごく気分が良くなるんです。


ふざけてますよね。なんでも手に入るからって、パンドラの箱に夢見て魔法のランプみたいにこすって、訳分からなくなってた。


最初に無料でたまたまその気分を味わってしまってから、おかしくなりました。俺、ソシャゲ大嫌いになりましたけど、なんか辞められないんです。手が空いたらゲームを立ちあげてしまう。しまいには俺のせいではないって言い訳も内心で初めてた。俺の中学の時のツレですが、クスリで年少に行ったやつがいるんです。頭おかしくなってナイフで人を刺した。少年法と精神鑑定で守られましたけどね。ソシャゲってそれと被る。俺は悪くないって思えてすらくる。中毒性のあるやつを無料で配って中毒にしてから、俺みたいに血迷わせる。きっと俺に金がたくさんあれば、それでカードを当てたけど、そんな金がなかった。こんなの、麻薬と同じだ。これにも中毒性や依存症にさせるもんが入ってる。最初に無料同然で味を覚えさせてから絞り取る段階に入るって、こんなのプッシャーの手口と同じじゃないですか。


キュウの夢は応援しているけど、こういうゲームにはまって、俺みたいになって欲しくなかったから脅迫しました。それすらも間違っていました。それだけじゃないですけど、キュウって見た目は可愛いから、ファンにあることないこといわれているのも俺には耐えられないってのもありました。すみません、あなたにもキュウにも非はありません。俺も相談相手がヤバいやつなのはなんとなく気付いてはいました。鹿島さんがコンビニで働いていた時、しつこかったですから。でも、ちょっと喋ると面白いやつだったし、親身になってくれていたから、根は悪いやつじゃなくて俺みたいなやつなのかもって親近感が湧いて間違った選択を受け入れてしまいました。俺、覚悟は出来ています。この件であなたが受けた不利益はこれからの俺の人生で一生かかっても返します。キュウとももう別れます。それをキュウちゃんにも話しました。



かける言葉が見当たりませんでした。


卯月「うわー、ソシャゲで破産するやつの闇を生々しく語られたぴょん……」


提督「しかし、これまたユーザーの素直な意見ですね」


鹿島「今はそんなこといっている場合じゃないですよっ!」


大和「その通りです。今後の対策を早急に決めるべきです」


柏木「ええ、大和さんのおっしゃる通りです。申し訳ありませんね。ユウ君だけに責任を押し付ける案件ではありません。管理体制の不備、現場の慣れ合い要素、うちの企業体質が悪さしています。そういえば中小にはよくある事例ですね。自分のところだと甘い部分もあったようです」


柏木さんは淡々とコンサルタント視点で原因を述べた。


柏木「だが、今はそんなことどうでもいい」


ユウ君のほうを見下ろしながらいった。


柏木「不器用ながらも動機は一貫してキュウさんを愛する心だ。今、彼女が危険な目に遭っている。責任だの不正だの、そんな告白は後回しでいい。キュウさんが大事になる前に行動しないと本当にユウ君が後悔する。懺悔よりも愛する人を守ることを優先すべきだ」


口調は厳しいのですが、優しげな笑みを浮かべました。



ユウ君「……ありがとうございます」


ユウ君は起き上がると、すぐさま走り始めた。「追いかけます。あいつらのアジト的なところに心当たりがあるんで!」と愛する恋人を守るために、怪我を負った身体に構わず飛び出していった。


卯月「……この男、できるぴょん。司令官の上位互換じゃね?」


提督「ええ、本当に良い出会いに恵まれました。あ、神風さんから連絡が来ました。二キロ追跡したけど、見失ったそうです」


柏木「艦の兵士ですか。速度違反したバイクを走って二キロ追跡って信じられませんね……」


雷「あ、教団の人が居所を突き止めたって。地図を送ってくれた!」


提督「雷さん、車を寄こしてもらえませんかね、念のために神風刀を持って現場に行きたいのですが、公共だと騒ぎになりますので」


提督さんは電話口で神風さんに指示を飛ばしています。


雷「車、来たって! でも乗れて三人!」


柏木「ああ、他の方も行くのなら私も車を出しますよ。今回の一件、私にも原因がありました。ちょっとユウ君の気持ちに気付いて手を打ってやれなかったかな。まだ二人が仲直り出来る段階だといいのですけど、今はキュウさんの安全を確保するのが最優先」


大和「すごく素敵な人ですね」


鹿島「ですね! 柏木さんのお話はよく分からないことが多いですけど、優しい人です!」


柏木「買いかぶらないでくださいよ。本音は他にもあります。准将、本当に申し訳ない。これは我が身可愛さなのですが、刑事事件になるとユウ君も会社もかなりの被害が出る恐れが、ね」


提督「はは、ですね。なるべく丸く解決してくるとお約束致します」


私と大和さんは柏木さんの自家用車にお邪魔することになり、早急に現場に向かいました、本当は警察に連絡したほうがいいのかもしれませんが、この一件に関わる皆が「大事にしたくない。警察よりも私達のほうが信用できる」との件です。建造状態にされている今は確かに艦の兵士のほうが警察よりも荒事は出来るかな。現場の対応のほうも、提督さんなら上手くやってくれるはず。


ですが、現場はもうカオスだった。

想定外の事態が一つ起きていたのだ。


神風さんがケンカで敗北を喫してしまっていたことです。


7


神風「ユウ君ならもう突撃していきました」


提督「了解。それで神さん、それほどの相手ですか……?」


神風さんは鼻血をジャージの袖で拭きながら、いいます。


神風「侮ったつもりはなく全力でしたが、一人ヤバいのがいます。不意討ちとはいえ、あの気配は姫級とどことなく似ていました。私でもタイマンでも勝てるかどうかは微妙です。建造状態の私に一般人が、だなんて世界は本当に広い……」


提督「……、……」


神風「司令補佐、私は名誉挽回に参ります!」


神風さんは起き上がると、廃ビルの中に突入していきました。


提督「雷さんと卯月さんは待機でお願いします。露払いに大和さん、鹿島さんも一般人ならある程度は戦えますよね?」


鹿島・大和「了解です!」


素手の荒事は得意ではありませんが、練巡としてたしなみはあります。神風さんが一般人に負けるというのはにわかに信じがたい。それほどの相手なら少し見たら特定できるはずだ。


廃ビルのエントランスに突入すると、耳を澄まして、居場所を探します。上から物音がする。こういう時の神風さんの感知はすごいですね。目にも視えない相手がどこにいるか分かっているかのように進む足には迷いがありません。階段をのぼって、二階のオフィスに移動しました。


ユウ君がキュウさんを抱き抱えていました。


提督「ユウ君、キュウさんを抱えて外に。それと大和さん、そこで神風さんが飛ばした男二人を外に運んで卯月さん達と見張っていてください。鹿島さんは自分と本命を拘束しましょう」


息を荒げた提督さんが到着して、指示を出します。


ユウ君「お願いします!」


大和「二人運んですぐに戻ってくるので、ヒラト君は鹿島ちゃんを守ってくださいね!」


提督「大丈夫です。主に戦うのは鹿島さんなので」


鹿島「ですよねー……神風さんに加勢してきます!」


奥の部屋には目を疑う光景がありました。コンクリの上に神風さんが大の字で倒れています。奥の埃をかぶった薄汚いソファに小太りの男性が座っていました。コートのフードで顔には影がかかっていますが、見たことありますね。覚えています。前にお尻を触ってきたお客さんです。


「鹿島さん。あーあ。この件が終わってからお話に行くつもりだったんだが」


鹿島「今度は私を脅すつもりですか。私でも怒ることはありますからね!」


「あの時は悲劇で落ち込んでいるからチャンスだと思った」


鹿島「お断りです。お覚悟を……!」


距離を詰めると、男は「あれ?」という顔をしました。よく分かりませんが、油断はしません。神風さんをのすような相手に油断などしたら一瞬で負けてしまいますから。罠がないかも警戒しながら間合いまで入ると、練巡としての知識と経験を頼りにお仕置きを開始です。


出してきた腕を取って、放り投げると、男は地面に受け身も取らず、素直に叩きつけられました。その場で悶絶していたので、「トドメですっ」と人間加減に右脚をひねっておきます。まだ意識はありますが、足のダメージは確かで起き上がってはきません。


おかしいですね。このレベルの相手に神風さんが不覚を取るとはとても思えません。


神風「鹿島さん、この空間にもう一人います! そいつがべらぼうに強いんです!」


鹿島「っ!?」


神風さんの声を聞いた途端、視界がぐるん、と反転しました。今の感じ、足をひっかけられて、そのまま背負い投げされましたか。辺りを見渡しますが、驚くことに『誰もいません』。


神風「こ、の……!」


神風さんは感覚を頼りに応戦していますが、視界には神風さん一人しか映らない。ですが、神風さんの身体には明らかに打撃を喰らって、生傷が増えていっていました。ああ、こういうシャドーな感じは漫画の図書館で見たことあるなあ。あのグラップラーさんはカマキリでしたが。


提督「神風さん、これをどうぞ」


神風「え、これ、神風刀……!」


提督「発生原因は分かりませんが、ファントム・ステルスとまるで同じです。ここまでアクティブな心霊現象もどうかと思いますが、戦争終結とともに起きている想力関連の異常ですかね。それなら深海棲艦を倒すのと同じく、神風刀でも斬れるはずです」


提督さんは鞘から刀を抜いて、神風さんに放り投げます。


提督「どうぞ」


神風「さすがですね! ありがとうございます!」


提督「『対悪い島風さんの仮想演習』のまたとないチャンスだと認識してくださいね!」


神風「滾る! おいコラ! 神風刀を持った私に勝ってみろ!」


荒らぶる剣鬼の神風さんモードにシフトチェンジです。


提督「鹿島さん、スコープをどうぞ。練巡として相手の体術のレベル教えてもらえますか?」


提督さん、観戦モードです。まあ、対悪い島風さんの演習というのなら、神風さんに相手を任せるつもりなのでしょう。まさかの神風さんVS謎の幽霊さんのマッチです。


神風「鐘の音(ゴング)鳴らせ! 幽霊おいコラお前その首をすぐに落としてやるから1秒で洗っときなさいよオ!」


実況は練習巡洋艦鹿島がお送ります。


ファイッ!


【15ワ●:剣鬼の神風さん VS 謎のファントム・ステルスさん】


はい、スコープを通してみたのですが、爆走列島、北斗百烈拳のあの幽霊さんでした。もしかしたら、あの幽霊ってこの男の人に憑いていたのではないでしょうか。だって現れた時期的にもそうです。それに私やキュウさんの部屋を叩いたのって、この男の人の想力を解釈したから、とかじゃないかな。とにかく、その悪霊っぽいその幽霊さんを放置しておくわけにも行かずです。


提督「鹿島さん、どうですか?」


鹿島「幽霊さんの実力は神風さんより明らかに上です。もう強いとかそんなレベルではないですよ。神風さんの刀をただ身のこなしで避けて懐に飛び込んでいます。超越的な強さ……」


提督「鎮守府に帰ったらみんなに話して会議案件ですよ……研究部のほうにも」


神風さんは抜刀して刀を振るいますが、幽霊さんの反射神経と読みも常軌を逸しています。軽いステップで回避して、神風さんの懐へと潜り込んで行きます。驚いたことに徒手空拳でここまで刀相手に戦える人が実在していたとは驚きです。刀相手にした時は逃げろ、が普通です。戦うのならば、抜かせる前になんとかするのが王道ですね。対人剣術を習得している人間との近接戦闘においてはそれほどの戦闘差が生まれます。なので、相手も神風さんと同レベルの感知能力持っていても不思議ではありませんね。いいえ、神風さんより上ですか。研ぎ澄まされていますね。


神風「どうしてこやつを斬れぬのだ……?」


提督「神さんキャラ濃いな。欲張りか」


鹿島「狙いは悪くありません。ただ読まれています! もっと速くより速くです! 読んでも回避できなくては意味がないので、単純に相手の動作より速く刀を振るえば斬れます! その幽霊さん、手首を返して、クイクイってやっています! かかってこいって意味です!」


神風「生意気な……私が速度で負けているってだけで腹が立つのに!」


横に薙ぐ刀を、屈んで交わすと、その曲げた膝のバネを利用して神風さんの懐に一気に飛び込みました。一発、鼻面にジャブを当ててまた距離を取ります。返す刃も見ることなく回避していました。刀相手に懐に潜り込んだのにヒット&アウェイ戦法を取る。なめられていますね。


次に間合いに入られた時、アッパーカットを綺麗に顎(チン)にもらいました。


提督「身体能力は超人級なんですから、それを活用した攻撃とか出来ないんですか?」


神風「……思いつきになりますけど、やってみる価値はありそうですね」


神風さんが刀を支えにして転倒を防ぎましたが、その隙に即答部に蹴りをもらってしまって地面を転がりました。神風さんは起き上がると、静かにまぶたを降ろしました。幽霊さんの雰囲気が代わりました。なにかを感じ取ったのか、口元に笑いを貼り付けています。


幽霊さんが間合いに飛び込みましたが、神風さんは刀を振るいません。


神風さんは少しだけ上体を倒しました。肩が幽霊さんの心臓辺りに触れて、放った拳は狙いがズレたのか、威力が殺されていました。神風さんは密着状態から身体の捩じりを利用して、刀を引きました。同時に柄の握りを変えます。あの密着状態から振るわれる刀の突きは。


鹿島「あ、これ牙突ですね! ああ、でも、それすらも避けられました!」


提督「相手の戦闘力は志々雄さんレベルですか……」


神風「これを避けるですって……? 強い! 殺すのが惜しいほどよ……!」


一方的な展開です。神風さんの顔はすでに腫れあがっています。損傷でいうと、大破、でしょうか。じっくりと削られた挙句、肩で息をして、立つのもやっと、という風です、これはもう勝つのは難しいとは思うのですが、ここで私は中立実況を一旦、中止です。


転がっている鞘を取りました。


鹿島「神風さん、抜刀術です!」


相手はどうも感覚で戦っていると思うので、刀の技術には疎いような気がします。神風さんはすぐさま刀を鞘に収めました。そして静かに瞼を降ろしました。幽霊さんは楽しそうに笑いながら、また懐に潜り込みます。上半身の捻りを利用しての、今までで一番の大振り。決める気です。


幽霊さんが顔を苦痛に歪めました。


神風「鐘の音が聞こえるか……?」


神風さんは上半身を沈めて、フィニッシュブローを回避しました。それは電さんとの単艦演習で見ましたね。いつもの慣れた抜刀体勢なのでしょう。洗練された流麗な動きは無駄が削ぎ落され、芸術のよう。血の滲むような回数をこなして得た身体に染み付いた技、なのでしょうね。


神風「その首、頂戴する!」


その言葉が発された時すでに神風刀が幽霊さんの首を刎ねていました。刀身が視認できなかったほどの神速で放たれた一撃がこの戦いに決着をつけた。胴体から切り離された幽霊さんの顔は満足そうです。この生涯に一片の悔いなし、といった表情を浮かべています。


神風「クソ、最後に肉を切らせて骨を断たれました……!」


神風さんは苦痛の顔で鳩尾を押さえています。


神風「本当に強敵だったわ。敵ながら天晴れ……!」


サラサラと最後の海で視た想力の分散のように光の粉が舞う。笑顔を浮かべたまま、幽霊さんが消失していきました。きっと成仏してくれるでしょう。これにて決着ですね。「あー、もう無理」とよれかかった神風さんを抱き留めました。とりあえず、今後のことを話合わなければ。


鹿島「提督さん」


と声をかけるも、提督さんは虚空を見つめたままです。決着の胸を伝えても胸を撫で下ろすどころか、先ほどまでよりも呆けていました。口を半開きにして青ざめてもいます。「終わりましたよ」ともう一度声をかけると、「え、ええ」と今度は返事をして、スマホを取り出しました。


提督「鹿島さん、悪い島風さんとお話したいので後のことは。このまま別れて自分は鎮守府に戻ります」


【16ワ●:戦後日常編:終結】


スマホを無事に取り返しました。


犯行グループの人達は提督さん、そして柏木さん、雷さんを含めた教団の皆さんに聴取を受けていました。重要なのは主に二つでした、一つはあの幽霊のこと、そして、こじれにこじれた問題をどう片づけるか、でした。


幽霊の件は驚きました。主犯格の男性いわく、戦争終結から少し経った後、気に入らない相手によく不幸が起きるようになった、と供述しています。守護霊だ、と本人は力説していました。ここまで思い通りに不幸を操れたのは、今回が初めてだという。もしかしたら悪い島風さん、疑似ロスト空間と想力で繋がっているから私達に強く反応したのかな。というかあの幽霊さんはやけに神風さんにご執心だったような気がします。もしかして爆走列島さん、神風さんの速度に興味を持っていた、とか。考えれば考えるほど不思議な幽霊さんです。


柏木「それでどう収めるのです。さすがにお説教して返すという訳には行きませんよね。逆恨みで再犯をされては困りますし、この人達の反省は信用に値しません。やはり警察沙汰ですかね」


「勘弁してくれ。知らなかったんだよ。教団から目をつけられるのは困る」


このグループ、共栄自律教団のメンバーのようでした。もともと大学も教団の世話になって通っていたらしく今春から就職が決まっており、教団から目をつけられると、生きていけなくなる、と泣きを入れ始めました。母が、とか、彼女が、とか同情を誘うような言葉を出しています。むむ、往生際が悪いですね。


柏木「驚きました。まさか雷さんがあの団体の御息女さんだとは……」


雷「そろそろ教団も解散かしらね……」


「待ってくれ。それは本当に困る。今回の件は俺が悪かった。暴走しちまった」


と今にも泣きそうな顔でいいます。


雷「自分のためでしょう?」


「違う、あそこにいるのは本当に切羽詰まった連中なんだ。年齢性別問わずに人の皮を被った悪魔に喰い物にされた連中が生きるための最後の砦だ。死んだはずのやつがまた生きることを始められる場所だ。仕事柄、駆逐の不幸話はよく聞くだろ。喰い物にされたり、社会に押し潰されたり。あの子達に適性がなかったらって考えるとゾっとしないか。あそこは心を休める暇さえなかった連中が羽を休められる場所なんだ」


神風「どの口でそんなことほざくのよ……最近、街で性根の腐ったやつとばかり会うわ」


雷「あのねえ、教団も規模が大きくなり過ぎたのよ。あなたのような人が評判を下げて、他の人に迷惑かける。こういう一つの不祥事でイメージを下げて、金利も取らない奨学金も返してくれない人も年々増えていっているし、教団が喰い物にされたら経営して行けなくなるわ」


神風「悲しいことね。居場所のない人達にとって最後の寄りべがなくなってしまう。あなた達のような自分至上主義のせいでね。これから先の未来、助かるはずの命が失われていくわけ」神風さんは無表情で罵倒を浴びせます。「この大量殺人者ども。舌を噛み切って自害しろ」


酷く暴力的な言葉ですが、あえて鞭としてこの場はなにもいいません、他のみんなも同じなのでしょう。教団、についても色々と調べたのですが、ちょっとあまりにもその社会貢献の度合いが桁違いなので。国の公的機関以上の功績、詳しくは長くなるので割愛しますが、提督さんもノーリスクだということで教団に籍を置いたままの模様です。提督さんは最終作戦の海の傷痕戦の最高武勲の軍人なのでノーベル平和賞の最有力候補として教団が推薦されているとか。


「わ、悪かったよ。本当に反省している」


雷「バッグも取り返して保険に全員の個人情報も押さえたし、今度この辺りで見かけたら悲しいけどこっちも問答無用だし、それで手打ちでいいんじゃないかしら」雷さんはいいます。「ちょっと教団の人が本部に連れていって込み入った話をするけど」


雷さんはキュウさん達のほうを見て、頭を下げます。


雷「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


キュウ「い、いえ、あなたのような人に謝ってもらう訳には!」


ユウ君「こちらこそ謝らなければなりませんよ。元凶はどう考えても俺ですから……」


雷「そうだとしても、彼等が教団に籍を置いている以上はね……」


犯行グループの三人は教団の人の押し込まれるように後部座席に乗りました。ここからは教団の人に任せておけば大丈夫でしょう、少なくとも悪びれていないようには見えませんでしたし、脅迫の一件はこれにて解決です。警察沙汰にしたくない、といったお三方の希望にも添えましたし。


キュウ「それと私とユウ君で話し合った決めたことなんですけど」


今後のことについて、話をしてくれました。


悲しいですが、お二人は別れることに決めたそうです。二人の意思としては別れるのは嫌なのですが、今回のような件に対処できない状態のまま付き合うのはお互いのためにならないと結論付けたそうです。なんだかなあ、と私は恋と愛の違いを知ったような気がします、きっと学生のままならお互いの好きという気持ちだけで持続していく関係も大人になるとそうもいかない事情が出てくる。ユウ君はこれを機に陸上に戻ることにしたそうです。その後に柏木さんが「帰ってユウ君とお話しておくことがあります」といいました。「ご心配なく。大事にする気はありません」といってくれたので、温情的な裁量を期待できます。過ちは償うべきですが、やっぱりキュウさんとユウ君には幸せになってもらいたいので、私は無責任ながらも取り返しがつくことを祈るばかりです。


2


部屋に帰ってくると、神風さんがいいました。


神風「私にはあの三人が理解できません」


大和「なにがです?」


神風「キュウさん、彼氏に裏切られたんですよね。柏木さんだって一歩間違えたらかなりヤバい案件だったはずです。それでもユウ君にあんな風に優しく出来るものですか。確かにユウ君はキュウさんへの一途な想いが動機なので情状酌量の余地はあったと思いますが……」


卯月「お前、司令官の相性検査二位だっけ。さすがだし」


神風「鹿島さんも嫌ならハッキリ嫌といえる心を持ったほうがいいです。ヨッシー&ヤッシー騒動の時の榛名さんにも同じこと思ったんですが、誰にでも優しすぎるんですよ。なにかされてからじゃないと怒らないのはダメです。それも本気で怒る時は自分のためじゃなかったでしょう?」


鹿島「欠陥なのかもしれませんね。誰かの為なら本気で怒ることもできるのですか」


神風「もしかして過去の悲劇の時も泣いたのは失った命のため、フレデリカさんを論破したとかいう時も電さんやわるさめさん、いや、フレデリカさんの為になるとも思っての発言だったんじゃないですかね。私には理解できても、共感は出来ない類です。大和さんも、です」


大和「あの時私が『囮は嫌だ、死にたくない』と駄々をこねたらどうしていました?」


あの撤退作戦に参加した神風さんにはあまり思い出したくないことなのでしょう。顔を渋くして黙りこみました。


神風「あの時はふがいないだけでした。正直、私は自分が助かればそれでって」


大和「今、あの時と同じ状況になっても、ですか?」


神風「違いますよ! 今はもう砲雷撃も出来ませんけど、刀一本で深海棲艦を蹴散らして大和さんの救助に向かいます! あの撤退作戦の勲章なんて私にとって呪いですし!」神風さんはいいます。「でもあの時の司令補佐は人間的に本当に終わっていたとは思います! 私は個人的に思うところがあって嫌いではなかったですけどね! 少なくとも丁准将(クソジジイ)よりは!」


大和さんは笑いました。


ですね。あの時とは違って刀一本、それでも即答で助けるといえた神風さんは強くなっているのだと思います。後悔を知り、敗北を続けて、それでも粘り強く戦う力を求めたのは、きっとこの子の素質です。電さんやわるさめさんともまた違った素晴らしい素質を持っています。


電さんやわるさめさんとは違って力は与えられなかった。


私はあの悲劇で心折れて軍から去った。私だけじゃない。あの鎮守府には卯月さんや阿武隈さんだって、そう。大切な人を失うのは戦えなくなるに値する苦痛なのはよく知っています。でも、この子はそうじゃなかった。戦う手段を失くしても、刀を手に取った。


過去に例を視ない低適性率で軍に留まり続けたその素質、香取姉が可愛がるのも、提督さんが目をかけて旗艦に置くのも納得できる根拠を発見出来た。


思えば、戦争終結してから提督さんも変わったな。


表情によく色を出すようになった。大きな声を出したり、悪ノリしたり、狼狽したりすることも、あった。大きな爪跡は残ったままですが、最大限の救いを手にしたお陰でしょうか。


キュウさんとユウ君も仲睦まじいと思っていたけど、それぞれ悩みがあって、夢の中にいても気楽に生きていたわけじゃなかった。


鹿島「愛、です」


神風「……愛?」


愛は打算といいますが、理屈や損得を裏返すときっと相手を愛して想う心があります。それがなくてはただの利益関係のビジネスです。1つの不利益ですぐに破綻してしまうでしょう。


裏切られたからと、損をしたからといって、相手を切り捨てません。例え自分が不幸になったとしても、相手の幸せを願う。その心がお互い通いあった時、きっと私達が夢見る関係になれるのでは、と今回の件でそう想いました。


雷「あれ神風さん、急に黙ってどうしたのかしら?」


神風「……いえ、その、ごめんなさい。ノータッチで」


大和さんが少し意地悪な顔をして囁きました。


大和「キュウさん&ユウ君を、置き換えて考えたら許しちゃいましたか」


神風さんの顔が真っ赤になっていきます。

なるほどー。


神風「だからノータッチでお願いしますって!」


神風さんも私も少しくらい愛や恋の理解が深まりましたね。修行の一環になったようで、なによりです。


めでたしめでたし。












とは行かず、

鎮守府に帰ったらまた騒動が起きていましたが。


【17ワ●:疑似ロスト空間にて】


悪い島風【ちっくしょうが! 現海界して疑似ロスト空間から逃げやがった! パス持ってるってことは妖精機能保持してやがる!】


悪い島風【仕方ねえ。もう諦めて策を練るしかないわ】


悪い島風【准将、斬られた右腕はもう直ったか?】


提督「ええ、お陰様で。しかしやっぱりですか。幽霊にしてはアクティブ過ぎましたし、自分達を狙ってしかも問答無用のあの性質、幽霊というか、深海棲艦を彷彿とさせましたから……あまりにアレなので気付くのが遅れましたが……」


提督「アレがあなた現海界から今までの一連騒動の黒幕でしょうね……」


悪い島風【ファントム・ステルスの自然発生なんか150年生きてきて見たこともねえよ。この仕様はパーパの魔改造だぞ。深海妖精が自然発生するレベルであり得ねえことだっつの】


悪い島風【で、お前の見解は?】


提督「これはロスト空間消失が原因となっている可能性が極めて高く、幽霊染みた存在がたまたま我々の前に現れたのではないという線も考えたんです。となるとやはり自分達があの海の中心にいた意味と関連性を疑います。建造状態ですしね。そこまで考えが及ぶと」


提督「アレは幽霊ではなく深海棲艦&妖精かな、と。海の傷痕によるデザインが施されていない純粋な人の想の形に深海棲艦の特質を持たせてます。思えばあの場では我々を狙っていた。深海棲艦が艦娘に攻撃的だったのと同じと見ていいです。妖精よりも幽質濃度を薄めながらも物理的干渉手段を持たせたのがファントム・ステルスですが、あなたいわくこれは深海妖精と同じく当局による想の魔改造と同じ、と」


提督「海の傷痕は此方&当局の2名ですが」


提督「仕官妖精は除くとして『艦隊これくしょん』の運営サイドは実質4つの存在で行われていましたよね?」


悪い島風【ああ。パーパとマーマと私と】


悪い島風【いちいち全ての妖精をパーパとマーマが1から創り上げていたわけじゃない。職場のあそこにそれらの汎用データを収めたメインサーバがあった。妖精はそこから艤装のデータを引っ張り出して、それぞれの役割を行ってたよ。例外な妖精は今を生きる人間仕様の私と仕官妖精だけだ】


提督「恐らくそのメインサーバ、ロスト空間の消失とともに半壊しましたが、起動していますね。『艦隊これくしょん』の運営を半壊したデータから運営をしているので、あのような妖精でも深海棲艦でもない謎の存在を発生させていたのかと。あの幽霊の我々を狙う攻撃的な性質から恐らく深海棲艦を建造したつもり」


提督「バランス調整するとしたら、今の世の中は戦争終結したゆえ、対深海棲棲艦海軍の勢力図で塗り潰されています。なのでサーバは深海棲艦側への支援を行っていると考えるのが自然かな?」


悪い島風【深海棲艦建造による勢力図の均衡化か。准将、話の続きだけど、海の傷痕当局のデータは無事に抜き取り完了して、戦後復興妖精の現海界システム、そのバランス調整の一環として戦後復興妖精の現海界と関連があったんだ】


提督「……へえ、つまりあなたが戦後に現れたのは偶然の産物ではなかったということですね?」


悪い島風【ああ。最初期の調整はパーパとマーマが手動でしていたことも多いけど、当局から得た情報ではサーバーが演算ミスを起こして艦隊これくしょんの戦力図が運営の意図しない方向に傾いたまたは傾きかけた時、戦後復興妖精(わたし)が出現するように紐付けられていた】


提督「結論」


提督「戦後復興妖精こと悪い島風さんはこのような状況下のため、当局が仕込んでおいた妖精ですね。つまり、戦後復興妖精が現海界したのは偶然ではなく」


提督「消失していない艦隊これくしょんのメインサーバの起動とともに現海界するよう設定してある防衛プログラムとして仕込まれていたんですね。なら、あなたに思考機能付与能力を与えたのはプログラムに沿ったものですか。『負ける準備も出来ている』と海の傷痕はいった。このような案件、無策で放置していたわけではないということです。しかしあの人、此方さんのことも大事なのは分かりますけども」


提督「これを予想出来ていて伝えておかないとか……」


悪い島風【メインサーバの消失云々は解決の手を打ってはいた。それが紐付けされた戦後復興妖精の現海界っつうことだからな。恐らくそのメインサーバが消失していたのなら、私は現海界せず、そのままお前らとは出会わずにそこらに漂っていたはず。それでもよかったんですけどねー……】


提督「悪い島風さんの性格は置いておいて、艦娘、いや自分達の味方をする、といってくれた。当局があなたに心を持たせたのはそういうことだと思われます」


悪い島風【……そういえば島風同化の件は仕事のためにー、とかいってたなあいつは! 一矢報いるために反抗したのもただパーパの掌で踊らされてただけのような気がしてきた!】


悪い島風【デカブリストは気付いていなくても、想力工作補助施設のほうは気付いていたのかねえ。負ける準備の一環として戦後処理のために放置していた線が濃いよな……】


提督「ですね。ま、そう悲観することではありません。今回のように自分達が餌になって誘きだすことは可能のようですし、存在を認識した今、特定して捕縛すること自体は楽です。手段を選ぶ必要があるので自分には時間かかりますが」


提督「紐付けられていた意味は『ケラケラ、仕事があったのならそれは戦後復興の役割だからお前がやれ』ですかね。まるで自分と同じですね。あなたは当局に戦後処理を押し付けられたとしか」


悪い島風【それパーパがまんまいいそう……】


悪い島風【世界崩壊案件を残すどころか私達にも伝えておかないとか、知ってはいたけど私の家庭ガチで狂ってる……】


悪い島風【くそー、疑似ロスト空間とか作って下手にシステム流用したせいで、逆にサーバ野郎に利用されちまったか。オート機能バグってるせいで思考機能付与能力活用しているとか】


悪い島風【人間化した機械という面白存在だわ。ああいうのAndroidっつーんだっけか?】


提督「艦隊これくしょん ver Androidですか……どこかで聞きましたねえ」


悪い島風【あっはは、ウケるー】メソラシ


提督「火種鎮火させても、また燻っているパターン。戦争が終わらない方が良かったと思っている方はどのくらいいるんでしょうかね」


悪い島風【意外とたくさんいるかもよ。でもまあ、呆れ返るのみだ。まーだハリボテの終わらない夢を見たがるやつがいるとはねえ……】


悪い島風【複雑になってきた。まさか私が軍の味方役として召喚されていたとは】


提督「踊らされていたことにも気づかないピエロって滑稽というより憐れですよね……」


悪い島風【ひっど――――い!】






【18ワ●:本?:メ?ンサー??】



――――1?41.12.16。19??. ?. 7。


 



―――― 19?3. ?.16。 19?4.11.?1。1?14. ?. ?。 1942.11.13。1?15. 4.?9。1945. 7.28。?!?!. 9。 1??.?1.??――――



―――――――――――――――!?

 



 errorcode:unknown00001s


 


 該当スル想<<データ>>ガ存在シマセン


 

――――error、error、error、error


――――『艦隊これくしょん』起動デキマセン


――――データベースニ一致スル想<<オモイ>>ガアリマセン、error。


――――違法仕様、検索該当??











神風型1番艦神風?【Date Error】








及ビ、



瑞穂【壊:バグ】








及ビ、


響? Верный? Декабрист?【Date Error】







及ビ、


島風?


及び、


戦後復興妖精


War(戦争)ning(実行中)


fatherに指定された役割から逸脱した危険行動です。




応答求メマス、father mother


応答ナシ、


応答求メマス、father mother


応答ナシ。



私ハ悲シイ



??「ρ(・・、)」



オート機能起動、、、、error


repeat


オート機能起動、、、、Successful



?件ノ脅威及ビ、

1件ノ未実装ノ重大ナ【バグ】及ビ、

?件ノ【No data】ヲ引キ続キ検出



――――歴史及ビ演算機能ニ深刻ナダメージヲ与エル驚異及ビ脅威ヲ察知。


 

――――――?gajhajtpg秒経過。



――――――一定ノ修復時間経過ニヨリ対処作動移行<<モードシフトチェンジ>>



error,error,


――――排除作動実行不可能<<クリアモード>>;code0833731<<オヤスミナサイ・ノースリープ>>



――――――艦隊収集作業開始<<アルマダコレクション・セット・スターティング>>



???




――――――現在、、、、





『サーwgテ?ンス中deす。ご迷?をおwpしますが、しbdwkvjらくお待ちく?さい』





Now Loding……


後書き


↓次回8編のお話

【1ワ●:E-2-輸送ゲージ】

【2ワ●:メインサーバー 考察】

【3ワ●:仲良くなる訓練 3】

【4ワ●:もっと捨てるべきなのでは?】

【5ワ●:メインサーバー 鹵獲準備編】

【6ワ●:とあるランチでのこと】

【7ワ●:E-2】

【8ワ●:E-2突破報酬】

【9ワ●:司令官さんが乙女心を分かってきたのです】

【10ワ●:薄翅蜉蝣、蟻地獄】

【11ワ●:甲大将とガングートさん】

【12ワ●:戦後想題編 メモリー:2-2】

【13ワ●:難破船救助護衛輸送、ハワイ脱出作戦】

【14ワ●:VS 駆逐棲姫】

【15ワ●:VS 戦艦棲姫】

【16ワ●:レイテの海でさようなら】

【17ワ●:戦後想題編 メモリー3:1959】

【18ワ●:第二世代、ちび風&ちび津風】

【19ワ●:結末】

【20ワ●:戦後想題編:メモリー4】

【21ワ●:火の海を歩き終え、白い始まりの大地へ】

次の8編はここまでです。


このSSへの評価

9件評価されています


SS好きの名無しさんから
2018-06-07 12:00:25

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2017-12-13 19:18:02

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2017-11-27 22:13:44

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2017-11-20 21:16:43

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2017-11-09 06:40:30

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2017-11-04 13:27:29

クマクーマさんから
2017-11-04 12:33:33

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2017-11-09 11:35:49

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2017-11-04 12:33:42

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2017-11-03 08:20:09

SS好きの名無しさんから
2017-11-02 22:53:00

SS好きの名無しさんから
2017-11-02 17:53:08

このSSへのコメント

2件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2017-11-02 23:00:22 ID: TslE8L_T

毎度楽しみに拝見させて頂いておりますー。今まで見てきたSSの中でも鎮守府(闇)の物語は本当に大好きです!これからも応援しております!

2: 西日 2017-11-03 23:56:50 ID: -4APv224

よーし、頑張ります。
そういう方がいるから最後まで書き上げることが出来ます、うん!


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