2018-05-19 00:16:59 更新

概要

初めてだよな、俺らが離れ離れになるなんて――兄と12時間接触しないと過呼吸を起こすアッキーと、そんな妹を守り続けてきたアッシー。いつも一緒だった兄妹の絆と成長、秋月&明石君の戦後日常編。


前書き

※キャラ崩壊&にわか注意です。
概要は更新時に変更。

・ぷらずまさん 
被験者No.3、深海棲艦の壊-ギミックを強引にねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた電ちゃん。なお、この物語ではほとんどぷらずまさんと電ちゃんを足して割った電さん。

・わるさめちゃん
被験者No.2、深海棲艦の壊-ギミックを強引にねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた春雨ちゃん。

・瑞穂ちゃん
被験者No.1、深海棲艦の壊-ギミックをねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた瑞穂さん。

・神風さん
提督が約束をすっぽかしたために剣鬼と化した神風ちゃん。

・悪い島風ちゃん
島風ちゃんの姿をした戦後復興の役割を持った妖精さん。

・明石君
明石さんのお弟子。

・陽炎ちゃん
今の陽炎の前に陽炎やっていたお人。前世代の陽炎さん。

・元ヴェールヌイさん(北方提督)
今の響の前々世代に響やっていたお人。
北国の鎮守府の提督さん。

・海の傷痕
本編のほうで艦隊これくしょんの運営管理をしていた戦争妖精此方&当局の仮称。

・メインサーバー君
運営管理の補助をしていた想力仕様の自我を持ったサーバー。

※やりたい放題なので海のような心をお持ちの方のみお進みくださいまし。


【1ワ●:最後の決闘、観戦ルームの様子】



北方提督「北方鎮守府に」


北方提督「ろーちゃんの銅像を立てよう!」


ろー「准将さんの気が散るですって!」


提督「本当ですよ!」


提督「あ、ルートそっちじゃない!」


提督「神さんんんん!」


提督「舵執られてることに気付いてええええ!」


三日月「准将は今、あの艦これアーケードの筐体にある舵で神風さんの航行ルートを固定しようと頑張っています!」


電「神風のやつ、司令官さんが舵取ってることに気付いてねーのです! あ、少し逸れた!」


電「燃料は満タンじゃねーんですから変な方向に行ったら途中でまた燃料なくなりかねない距離なのです――――!」


提督「舵に逆らうように好き勝手航行してますね……! く、持って行かれて見当違いの方向に、神さんが進みかけてる……!」


瑞穂「准将あんた力無さすぎなのよ死ね!」


提督「死ね!?」


旗風「司令補佐! ここで神姉の舵執り失敗したらビンタですからね……!」バチッ


提督「旗風さんなんで今ビンタしたんです!?」


春風「何卒お願い申し上げます……!」


大和「青ちゃんさん! 神風ちゃん空を飛んでる鳥の幻影を追いかけようとしてますよ!」


天津風「好奇心旺盛なガキか!」


武蔵「く、私達がそれに触れたら……!」


電「武蔵さん、司令官さんの手の上から力入れるのです! 筐体には触れないからそれならセーフかも!」


武蔵「それだ! おい力貸すぞ!」


提督「ありがたい!」


リシュリュー「神風、嬉しいのは分かるけど砲弾撃つ必要ないわ! 弾薬もったいないわね!」


ガングート「適性が戻って砲撃出来ることは戦後復興妖精へのブラフに使えるのになー」


望月「ハイテンション。今の神風の頭ん中、ハッピーミール状態だよ……!」


提督「そ、そうです! 神さん、前にある島です!」


陽炎ちゃん「このゲームでここまで来るのに投資額は2億だからね! 負けたらなにもかもが水の泡よ!」


北方提督「北方の皆、あれやる!? あれやっちゃう!? あれで神風の応援しちゃうかい!?」


三日月「あれというと……!」


ろー「神風ちゃんの産まれが湘南という事で提督が作った応援ソングだね!」


北方提督「艦これの『戦闘開始』の画面で行こう」


ポーラ「黄金魂の替え歌でした?」


隼鷹「神風魂じゃね。省略したやつ」


提督「や、やった。なんとか辿り着いた!」


ビスマルク「来るわ、息を吸いなさい!」


《戦闘開始!》


北方一同「K・A・M・I・K・A・Z・E!」


北方一同「K・A・M・I・K・A・Z・E!」


北方一同「K・A・M・I・K・A・Z・E!」


北方一同「K・A・M・I・K・A・Z・E!」


天津風「誰よ黄金魂のほうっていったの!? これ完全にショータイムじゃない!」


北方提督「北方のShow Timeだ!」


北方一同「斬れ!斬れ! 斬れ斬れ斬れ!」


大和「でも魂が伝わります! 熱いですよ!」


北方一同「神風吹かす」


北方一同「Wi a blood claat star!」


北方一同「戦闘機は片道燃料」


北方一同「そんなの関係ねえ!」


神風《私だって――――》


神風《勝ちたいよ!》


北方提督「神風のShow Timeだ!」


北方一同「斬れ! 斬れ! 斬れ斬れ斬れ!」


北方一同「イエスッ!!」


北方一同「北方のクララが斬ったアアアッ!」



わるさめ(なにこいつら……)



わるさめ(超好き)キラキラ





提督「……、……!」


提督(さっきの砲撃が此方さんに当たって、気絶した?)


提督(神さん、無意識か? 倒れかけながらも血文字で契約履行装置になにか書き込んでる。契約履行装置は確かリンクのために身体の一部を求める仕様だから、髪じゃなくて血でも機能するはず……)


提督(ヤバいヤバい、此方さんが意識失ってるせいで神さんの願いの内容が後で確認できない!)


提督(内容によっては大惨事になる……!)


【2ワ●:緊急会議】


此方「以上が報告ですね」


元帥「へえー、想力工作補助施設ねえ」


元帥「此方ちゃん達はこの機能、利用しなかったのか? 確か今を生きる人間は探知できねえって話だったが、これ使っとけば」


此方「使えませんよ。なぜなら『今を生きる人間の力』を『想力』に変換するシステムですので、開発と装備は今を生きる人間にしか出来ません。私と当局はそもそも『今を生きる人間』になるために戦争を起こしたんです」


此方「私達はロスト空間で誕生した生命で、人間とは生死観念が大きく違うんです。女神や応急修理要員、私達の死というモノは必ず訪れるものではなく、自害でしかあり得ない生命ですので」


此方「今を生きようとする力がなかったんです」


此方「だから当時の私達には扱うのは無理な代物。想力工作補助施設は海の傷痕に開発装備は無理、今を生きる人間にしか出来ません」


此方「佐久間さん、でしたか。生死を燃料基準にしたのも、海の傷痕にとって効果的……いや、やはり人間という存在は面白いです」


元帥「そこらは専門家に任せるとして、これさえあれば擬似ロスト空間形成も保持も出来て、世界に漂う想力を一まとめにしてわしらの管理下におけるってことか?」


此方「上の判断に任せますが、答えは見え透いていますよね……」


元帥「だな。おい甲ちゃん、どう思う?」


甲大将「私じゃなんとも。これ今を生きる人間で開発可能なら、想力周りの法を整備じゃ対応できねえだろ。武器を持ち歩くの違法にしても、その武器で周り全員黙らせられるなら法だろうとなんだろうと作ったもん勝ちだからな。これ今の社会体制根本から作り変えて想力に適応させてかねえとって話だ」


元帥「開発工程は、初霜ちゃんとか北方ちゃんとかのような素質ありきなんだろ。その手の連中が戦後復興妖精との契約パターンのように外部から想力まとっちまえば開発可能ってわけだし」


元帥「人間の精神性を数値化して法律で裁く時代到来ってか」


此方「戦後復興妖精に聞いてみたらどうです?」


戦後復興妖精「……」


此方「妖精状態ですが、なんとか捕まえては置きましたから」


戦後復興妖精「死んだんだから死なせろよって。もうなんかスッキリして未練もねえ。あれほど死ぬにはいい日はなかったってのによ」


戦後復興妖精「まーた働かされんのかよ」


元帥「どうなんだよ。『戦後復興』のくせに新たな火種ばかり持ち込みやがって」


戦後復興妖精「『妖精:私』と『人間:佐久間』が交わった故の産物だ。だから『想力:死』と『人間:生』を交わらせなきゃいい」


戦後復興妖精「だけどまー、出来るもんならやってみろって話」


戦後復興妖精「想力の旨味知って、今更想力封印とか無理だろ。手に入れりゃ先進国から頭1つ飛び抜ける。それを規制出来ますかね」


元帥「それはこっちで」


戦後復興妖精「ギャハハ、『出来た』として、『出来ない:例外』はどうすんの?」


甲大将「ああ? さっきお前が『妖精:私』と『人間:佐久間』が交わった故の産物だ。だから『想力:死』と『人間:生』を交わらせなきゃいいって解決策の1つ提示しただろうが?」


戦後復興妖精「初霜も北方ちゃんも『外部から想力を得て、それをエネルギーに想力工作補助施設を開発可能』ですが、そうですね」


戦後復興妖精「『超能力』と例えたほうが分かりやすいか」


戦後復興妖精「人間にはいるんですよねー。想力使っちゃえる人間がね。これはまあ、原理的には『周りにある想力を呼応させているために外部から想力を得ている訳』ですけどね」


甲大将「おいおい、准将や乙中将のあれ完全に想力の類なのか……」


戦後復興妖精「なので、想力工作補助施設で完璧にこの地球にある想力を管理することで解決しますよ」


元帥「いや、そういう話は出てるみたいなんだわ」


戦後復興妖精「へえー、想力に触れた対深海棲艦海軍の皆さんを役人にして新たな政府団体がどうのこうのとかいう話だっけ?」


元帥「まあ、そんな感じ。だから准将のやつはすげえ人気あるんだよ。加えて深海妖精論だっけ。想力方面の学会でも名が通ってるからなー。あいつの知らないところで代表格の一人に推薦されそう」


元帥「此方ちゃんもそうだ。海の傷痕っつうことでまだ信用ねえけど、色々と想力周りの話が来なかったか?」


此方「来てた。その仕事とか養子とか見合いとか、落ち着いてからでいいから考えてはもらえないかなって」


元帥「……それによ、わしと同じく最終世代の提督って独り身だろ? 甲ちゃんは見合いの話来てたけど蹴ったんだっけ?」


甲大将「おう。兄貴が自分は不出来過ぎるから、私に家督だけ継いでくれとさ。兄貴は実際、好きなように生きてえだけだよ。兄貴は結婚して子供も三人いるんだが、どいつかは継ぐだろ。私はそれまでの繋ぎかね……もともとそういう期限付きで軍に飛び込んだし……」


此方「それであのー」


此方「願いの件なんですが」


元帥「それな。甲ちゃんいながらやりたい放題させてんなよ」


甲大将「……すまん」


戦後復興妖精「まあ、私が邪魔させないようにしてましたから、仕方ないですね。乙中将も丙少将も准将もそこを反対しなかったように、無理なように操作してましたし。景品ないと盛り上がらないでしょう……っと、話が逸れましたね」


此方「提督勢の願いはあらかじめ聞いていたので、その場で勝者の提督の契約書に効力持たせるだけだったのですが」


此方「神風ちゃん……」


此方「私が気絶している間に、なにか願い事を書き込んだみたいで」


此方「それがこの契約書です」


元帥「血が伸びて文字になってないけど、効果あるの?」


此方「書き込んだ後から伸びたみたいです。効力は発揮されていたので書き込んだ時には文字として認識できたのかと。ですが、私が起きた時には解読不能でしたから」


甲大将「神風が目を覚ました時に聞いたが、土下座して覚えておりませんってさ。『た、ただ……そんな大それたことは書いてなかったはずです。大雑把ですが、確か頭の中にあった司令補佐……准将絡みでなにか書いた、と思います』だってよ」


甲大将「その場では別にそれならそれで大丈夫って答えておいたけど」


元帥「なんで准将あいつあんなに駆逐に好かれんだろうな。一回あいつと角でぶつかって1日くらい中身入れ変われねえかな……」


甲大将「神風が准将にチャームかけた程度なら可愛いもんだ。いずれにしろ准将絡みだろ。身内間の問題だとして准将に妙な変化ありゃ、電わるさめ辺りがすぐ気付く」


戦後復興妖精「ちなみに准将の願いは?」


此方「『適性率100%データ映像の著作権取得』です。これは多分、偶然力で手に入るようになるんじゃないですかね。提督の勉学の材として利用されていたみたいですが、もともと研究部の遊び心の宙ぶらりんですし……」


甲大将「あいつそれ使ってなにする気だよ」


戦後復興妖精「パソコン触ってますよね」


戦後復興妖精「あれでプログラムの勉強してた模様」


戦後復興妖精「聞いた話ですけども、鹿島の家に遊びに行ってた時に柏木とかいうゲーム屋と交遊持って連絡取り合ってるみたいで」


戦後復興妖精「恐らく適性率100%のデータ使って『艦隊これくしょん』のブラウザゲーム作ろうとしてる」


元帥・此方・甲大将「」


元帥「あの野郎、最近将来のビジョンがー、とかいってたが、そんなこと考えていたのか。却下だ却下。あいつはもはや民間に行けるような自由なんざねえんだよ」


甲大将(准将、なんつーか肝心なところでポカしたなー……予想できねえことじゃねえんだからそこらのこと回避する願いでも書いてりゃ良かったのに)


トントン


元帥「ん? 入っていいぞー」


?「失礼するぴょん♪」


【3ワ●:愛の告白】


神風「帰ってきてからみんなに祝福された後ぶっ倒れたのは覚えてます……戻ってきたら」


神風「今度は皆がぶっ倒れるように寝てる……」


天城「緊張の糸が切れたせいもありますが、みんな夜通しでお疲れでしたからね。神風さんが帰ってきて、ぶっ倒れて医務室に運び終えてからはこのありさまです」


天城「駆逐の子達は部屋に運び終えましたね」


天城「ホットミルクですけど、どうぞ」コトン


神風「ありがとうございます。うちのメンバーも地べたで寝てる人多いし、祝勝会って感じじゃなさそうですねえ。まあ、思えば丸1日以上の通しでしたからね……」


神風「私も騒ぐような気分ではないですし……」


神風「なぜでしょうね。夢が叶ったのに」


天城「私達も海の傷痕との戦いを終えてからそんな感じでこの鎮守府でぶっ倒れてましたね。多分それと同じなのではないでしょうか」


神風「そうですかね。不思議な心境です」


天城「あ、そうだ。クリアした後に『E-3突破報酬』が配られまして、参加した皆さんに勲章とMVPの神風さんには特別な勲章が」


神風「ああ、起きた時に気づきました。寝ている間に胸につけられていたようで。その筐体のほうにあるペンダントは?」


天城「それぞれヴェールヌイさんと、デカブリストさんと、中枢棲姫勢力の皆さんの想が入っているそうですね」


神風「なるほどー……」


ゴクゴク


神風「……ところで」


天城「准将なら電さんに拉致されて外ですよ?」


神風「そうですね……気になることもあります。青葉さんとか卯月さんとかわるさめさんとかが寝てる内がいいですかね」


神風「ところで間宮さんは留守なんですよね……」


天城「あー……修行に出かけましたね。お店出したいとかで、私も連絡を取っていますが、順風満帆みたいですよ。間宮さんなら大丈夫でしょう。色々と」


神風「振られたんですよね?」


天城「まあ……でもあの人、この鎮守府(仮)の頃からいたるところから来た勧誘を蹴ってずっと留まっていたように意固地なところあるので」


天城「……」


神風「天城さん、なぜ泣きそうなんです……」


天城「いや、ほんと准将ってなんであんなに誰かと恋愛関係になるの拒むんだろうって思いまして。独りが好きというのは皆さんとのお付き合い方見ていたら嘘でしょうし、女性恐怖症っていうのも違うようですし、戦争中の言い訳ももう通用しないのに」


天城「端から見てたら」


天城「結婚とかお付き合いとか」


天城「異様に嫌ってる感じ、ですよね」


神風「まあ……」


神風「その理由もあらかた分かりました」


神風「戦争終結させても……」


神風「あの人はまだ祝福を受けていないから」


神風「答えも出たし、会おうかな」


天城「……がんばってください」


2


神風「木にロープで縛りつけられてるように見えますが、なにしてるんですか……」


提督「理由は知りませんが、電さんに縛られまして30分だけ大人しく縛られていてくれ、とだけ。嫌な予感はしますが、まあ、あの子のことなので大丈夫だとは思いますけど」


神風「……、……」


提督「最終局面の神さんはきっとあの電さんに負けずとも劣らない兵士だったのはあの場の誰もが認めますし、倒したのは最後の海の傷痕此方&当局レベルの敵です」


提督「あなたは北方鎮守府で良かったですね……というのは失礼ですか。自分にはあなたが仲間とともに正解にしたように見えましたから」


提督「なにはともあれ終結、です」


提督「お疲れ様でした」


神風「確かに私は北方鎮守府で皆と出会えて良かったです。だから司令補佐を司令官とは呼べません」


提督「そうですね。自分のところにいたらきっとあそこまで完成しなかった。鹿島さんがいても精々が戦えるレベルの成長でしょう。あの北方の人達だからこそ、だと思いますし」


提督「神さんが来てもきっと電さんと自分は使い潰すか追い払うかしていました。瑞鶴さんや秋津洲さんは戦力になりますが、あなたのそのスタイルは自分の理解の外にある領域ですので」


神風「そう考えてくれる司令補佐も、約束忘れてたのも、結果的には良かった。結局、私の居場所は北方にしかなかった。こうなるのはきっと、運命だったんです」


神風「丁の鎮守府では……なんで」


神風「興味を持ったのは本のことでしたっけ」


提督「……覚えてません」


神風「その本は主人公が護るほうではなく護られる側のお話でして、艦兵士ゆえ、新鮮だなーって感じで読んでたのをあなたに貸して、そこから私はあなたに心を開いていったのですが」


神風「『自分には最後まで理解不可能だった逆ハーレム系のオタク本で、毎回読むのが苦痛で、私があなたの感想楽しみにしていたので、がんばって読んでた』そうですね」


提督「……(目逸らし」


神風「覚えていますよね……」


神風「別にもう怒ってませんよ。私も逆パターンは好きじゃないので。でも、思えばその言葉には不器用な優しさもありますね。がんばって読んでくれてたみたいですし」


提督「優しさじゃなく打算です。神さんと仲良くなることで指揮周りに利がありましたから。そして打算といっても愛でもないです。嫌だけど、がんばらなきゃならなくて渋々といった感じ」


神風「私、もしかしてあの頃から感知力、高かったんですかね」


神風「分かりますよ。異性を毛嫌いするのは私も同じですから。私もたくさん嫌な男、見て育ちました。父からすればたまたま出来て産まれてしまって、祝福された命ではなかった。だから」


神風「今は幸せですが、親に生んでくれてありがとうだなんて気持ちは微塵もありません。いや、お母さんのほうにはあるかな。僅かながら愛された記憶があります。すぐに無縁になりましたけど」


神風「男と女で逆ですが、よく分かるんですよ。異性と特別な関係になるのを拒むってこと」


提督「周り女性ばっかですし、治したいとは思うんですよね。努力もしています。デカブリストさんにもうちの子達に負けないようにっていわれましたし」


提督「別に周りが思う程っては感じ」


提督「ですが、腹を割ると……」


提督「やっぱり無理なところはありますね……」


提督「友達以上だと重ねてしまうんですよね」


提督「別にそんな人じゃないのに、です。きっとトラウマってのは治そうと思ってすぐに治せるもんでもないです」


神風「それ、違いますよね」


神風「それは戦争終結と同時にほぼ完治してる」


神風「別の理由が大きいんじゃないですか。その理由を隠れ簑にしてまだ誰にも話していない過去がありますよね」


提督「……」


神風「あ、話してくれなくてもいいです。人の過去を根掘り葉掘り聞きたい訳ではありませんし、予想はつきますので」


提督「予想つくんですか……」


神風「雷さんのところにお世話になってからは当たり前のように戦争のことばかり考えていて、日常生活、対人関係もそれに準じていたはずです。多分、私と同じく利用できるか否か――――」


神風「人を騙くらかしていたんだと思います」


提督「仰る通りで……」


神風「分かりますよ。そういうの性根に染み込みますよね。あなたはそれで女性不信に、私は男性のほうです。だから、きっと」


神風「司令補佐と私は相性検査で良判定されたのかも」


神風「私は建造してから夢見や姉妹艦効果等々のお陰でその思考からは脱却できましたけど」


提督「心配ご無用。徐々に治っていってます」


神風「……」


提督「それで結局、なにがいいたいんです?」


神風「その……」




* 物陰から観戦勢


島風・天津風「……」


電「――、――」モガモガ


電(色黒女、離すのです、あのムードは――!)ジタバタ


武蔵「暴れるなって。邪魔は野暮だぞ」


大和「電ちゃん、ごめんなさい。今は、今だけは邪魔しないであげてください……!」


旗風「春姉、感じますか。あそこ辺りの空気、完全に甘酸っぱいメモリーズ、学生の校舎裏とか体育館裏です。大変な現場を目撃してしまいました」


春風「思えば出会いも春、決着の時も桜の季節ですか。出会いと別れの季節……散るのか咲くのか、どちらでしょう」


天津風「ここにいていいのかしら……」ジーッ


島風「ガン見してるじゃん。興味津々」


天津風「う、うるさいわね」


電「分かり、ました。黙って、ここに、るで」


武蔵「約束な。ほらよっと」


電「邪魔はしません。ただあのムードに発狂しかけただけです。というか、恐らく神風さんには気づかれているので」


電「まあ、伝えることに意味があるのでしょうし、大人しくしてはいますが、結果は分かりきっているのです」


大和「そうでしょうかね?」


電「特攻して玉砕以外にあるのです?」


武蔵「ある。神風はお前とも間宮とも違うからな」


電「……、……」


電(そもそもあいつ、司令官に対する感情は)


電(私と同じで関係に縛られない考え方しているはずなのに、なに考えているのです……)





神風「もっと軽い感じでもいいと思うんですけどね」


神風「お付き合いくらいなら……付き合えば結婚まで視野に入れないと不誠実ってのは私的には嫌いな姿勢ではないですけどね?」


提督「あなたも変わりましたね……」


提督「超がつくほど身持ちの固い子がねえ……そこらの考え方自体は自分と近いと思っていたんですが」


神風「私が建造受けたのは16歳だっけ。それから10年だから、生まれはあなたより2つ下になりますね。身体は16で実年齢は26か」


提督「その頃のアカデミーは黄金期でしたね。卯月さんとか陽炎ちゃんとかもか」


神風「これから私は背も伸びますし、髪も黒くなります。夢見もなくなって、艤装も神風刀も持たないそこらの女の子ですよ」


神風「鹿島さんのマンションで雷ちゃんとお風呂入っていましたけど、私の場合はノーでしたっけ。つまるところ、私は子供には見られていないわけだ」


提督「……」


神風「電さんは……歳は関係ないって考えるにはあまりにも覚悟が要りますよね。見た目的には小学生のままですから」


神風「間宮さんは基本受け身タイプです。言葉ではいえても、自分から強引な行動はしない。多分まだあなたがどういう言葉に弱いのか気付いていない風ですね」


提督「……」


神風「ズバン、ロープ斬りましたので立って」


提督「危ないです」


神風「私はあなたと出会えて良かったです。何の偶然か、男の人として初めて自分から歩み寄ろうとした人でしたから」


神風「信じられない話です。私もあなたと同じく異性嫌いだったのに」


神風「乙中将、丙少将、ヤッシー&ヨッシー、柏木さんにユウ君、北方を抜けてこの鎮守府を目指してから様々な男性に触れて、その人達が男でも理解できる存在のように思えます」


神風「あなたもそのはずですが、なぜか分からないけど怖いんですよね。それも分かりますよ。でも、私は」


――――ぎゅっ。


神風「もう乗り越えました! 好きな相手には自分から抱きつけます!」


提督「見習いたいものです……」


神風「間宮さんは受け身で、電さんは意外と恥ずかしがり屋ですから、こういう風に施してはくれなかったんじゃないかな」


提督「……、……」


神風「どう? 嬉しいですか?」


提督「別に……脂汗出てくる……」


神風「私に寄りかからないのは立派です。腕に抱かれて身を預けるのは女のほうだと思うので、後はあなたが私の背中に腕を回すだけでいいのですが」


神風「あなたは臆病過ぎますね」


神風「私、あなたと離れてから成長してけっこう良い女になったと思います」


提督「……、……」


提督「?」


神風「私からは絶対に」


神風「交際してくださいとはいいません」




* 物陰観戦勢


電「甘――――いのですう!」ジタバタ


春風「ああ、わたくしの胸のほうがときめいて」


大和「だ、抱き合って、ます……!」


大和「こ、今後の参考にさせてもらいます……!」


武蔵「抱き合ってはいねえな。神風が抱きついてるだけだ」


旗風「なぜなぜ――――」


旗風「司令補佐いい加減にして……!」


旗風「神姉にここまでさせて恥ずかしくないのですか! 男見せてくださいよ……!」


天津風「背中に手を回せば、回せばあ……!」


島風「キスまである流れ……!」


天津風「心臓がバクバクする……!」






神風「誤解されていますね」


神風「あ、ちょっと待ってください。深呼吸しますので」


神風「オーケーオーケー」


神風「願いごと、思い出したんです。なので」


提督「へえ、なんて書いたんです?」


神風「『今からあなたから』」


神風「『私を求める台詞をいってもらうための告白をします』」




* 物陰観戦勢


電「『今からあなたから私を求める台詞をいってもらうための告白をします』」キリッ


電「はわ……はわわわ……」


電「聞いてるこっちが恥ずかしいのです――!」ジタバタ


武蔵「落ち着け。それと大きい声は自重してくれ」


旗風(く、来る――――!)


大和「み、見てるこっちの胸の鼓動が」


天津風「激しくなるわね……」


島風「成功だよ成功。神風ちゃん最速だし」


天津風「准将もあなたと同じならいいわね(呆れ」


江風「ん、皆なにしてるンだよ?」


江風「物陰からこそこそと、あれは准将と神風……ンあ!?」


一同「お静かに!」


江風「むが」







神風「はい、末永くよろしくお願いします!」


一同「――――!」


電「……、……」


島風「ほらやっぱり!」


天津風「ちょっと江風さんのせいで肝心なところ聞き逃しちゃったじゃない!」


江風「知るかよ! そもそもお前らこういうの盗み聞きとかすンなよ! 趣味悪いぞ!」


旗風「春姉、でもあの台詞は!」キラキラ


春風「間違いありません……!」


大和「実りました――――!」


武蔵「電、お前今の聞こえたか?」


電「なのです……」


武蔵(……願い事周りが邪魔をしてまだ素直に喜べん)


コツコツ


神風「やはり見ていましたか」


旗風「神姉、おめでとう存じます……」


春風「ふふ、全てが報われていきますね?」


神風「ありがとう。本当、皆のお陰……」


神風「でも、盗み見していた皆さん」


神風「この事は絶対に内緒にしておいてね?」


大和「なぜです?」


神風「とにかく、お願いします」


武蔵「了解……」


天津風「すぐバレると思うけど」


江風「間違いねえ。江風達が黙っても二人の態度次第で即バレだぜ。そういうのに敏感なやつ多いンだぜ? 青葉わるさめ乙さん辺り特に」


神風「はあ、まあそれもそうか。司令補佐も周りにいいそうだし。なら前言撤回です。ただ今日はもう疲れたので広めるなら明日以降にしてください……」


大和「そうですね。とにかく、おめでとうございます!」


神風「大和さんが笑うだけで胸に来るものが……」


旗風「あの神姉が殿方と……旗は涙が」ほろり


春風「姉妹として司令補佐ともお話しておきたいことがありますが、明日にしておきましょうか」


武蔵「そーだな……今日は色々と疲れた」


電「とりあえずテメーらは帰るのです! 私は司令官さんとお話があります!」タタタ





電「司令官さん、あなたという人は」


提督「まあ、神さんがあれでいいなら自分としても断る理由なかったですし、こちらこそよろしくお願いしました」


電「想力で無理やり従わされたのでなければ私が口を出すことではないですね。ただあの損得の口説き文句、あれでは恋人というより、契約なのです。しかし、だからこそ司令官の首を縦に振らせた」


電「その方法は確かに効果的なのです……」


提督「ところで電さんは自分をなぜ縛ったんです。一緒にいた雷さんは?」


電「ごめんなさいなのです……話せません」



3


雷「……、……」


雷(これはあっぶない。あの時にみんな液晶画面に夢中で助かったわ)


雷(なるほど、神風さんが契約履行装置に書き込んだ辺りで排出されたから嫌な予感がしたものの、このメモリーは……)


雷(司令官の過去……)


瑞鳳「フムフム」


雷「瑞鳳さんこれ他言無用よ?」


瑞鳳「さすがにこういうことは喋らないですけども、まさか雷ちゃんが妙な挙動しながら手になにか持っていると思えば」


瑞鳳「私達も提督に過去は割れている訳でお互い様ってことで……」


瑞鳳「ほら、私達が知ってた過去。お母さんのこと。お父さんが亡くなって、お母さんとその新しい彼氏さんが葬式に来て、気持ち悪いとかいわれて、迎えに来てもらったのは遺産だけで」


瑞鳳「司令官ぽいっと置いてきぼり」


瑞鳳「勢いで海まで行って身を投げて、そこで仕官妖精と出会って深海妖精可視才能、それから前々から興味持ってた軍にって流れ」


瑞鳳「まあ……実の母にお父さん失ったタイミングでその仕打ちされちゃ提督がネジ飛ぶのも、女性不信になってるのも、人の気持ちを上っ面でしか理解できなくなってたのも、私達を殺すような指揮を取れるようになっても無理ないかなーって思ってたけども」


瑞鳳「きっかけに過ぎず、根本はこれですね」


雷「これは深海妖精可視才を手に入れてから、お婆ちゃん死んで軍に入る前までの出来事ねえ。この部分だけは私達にもひた隠しにしてたわね……」


瑞鳳「雷ちゃんのところの教団に世話になったのは聞いていたのですが……なにか知らないんです? 雷ちゃんのことだから在籍当時のことは調べてはいるんじゃない?」


雷「一応、ね。書類やデータ上では別に普通の子だったわね。1文無しの状態でいたところを教団の人が保護して調べた挙げ句、うちの院に入れた敬意はあるけど、別段問題は起こしたような跡はないし」


瑞鳳「院はまあ良いイメージあんまりないし、周りの男の子がやんちゃが多いのも頷けるけど、その子ともやって行けてますね。司令官もイジメられないよう立ち回ってただけみたいな」


雷「立ち回る……」


バァン!


瑞鳳「どしました……」


雷「おかしいわ」


雷「だって、これ異常よ。自分に非がないよう殺人計画立ててるし」


雷「普通じゃないわ……」


瑞鳳「普通だったら、電ちゃんが出会った時にクーリングオフしてるよ?」


雷「それはそうかもしれないけどそこじゃないわ!」


雷「見てよこれ! 特服来たやんちゃ集団に抗争させてる!」


雷「駅の構内、電車から降りたところで男の子襲撃してやんちゃ集団のせいにして抗争にまで発展させてるんだけど! 司令官をかつあげしてた少年、病院送りになってから少年院だし!」


瑞鳳「凄まじい……大人が金属バット電車に持ち込めばアレですが、ユニフォーム来た野球少年が金属バットを持ち込んでも確かにスルーはされそうですね……そういう社会の盲点をよく分かって利用してる……」


雷「立てた策が成功するかどうか。周りを実験道具、利用できるかできないかでしか測ってない。完全に闇に堕ちてるわ……」


瑞鳳「……まー、落ち着きましょ」


瑞鳳「そういうこと考えるのに躊躇いなければ、死も恐れていないし、なにかあって死んだ時はそれはそれで、か。すごい頭回る。こういう人は陰湿だねえ……自分が敵に回ったってことも気付かせない感じだ」


雷「これは人間不信全開の頃の司令官よ。まだ私達が提督として出会った頃のようにある程度の社交術を身に付けてもいない少年で」


雷「利用するかしないかの判断基準のみ」


雷「とんでもないわね……戦争の作戦を組み立てるように色々な問題に首を突っ込んでる。他人を利用して頭を回して策を立てて、戦争の指揮を執る練習みたいに相手を深海棲艦みたいに見て」


雷「地獄に叩き落としてる……」


雷「戦争終結に魂を捧げただけあるわね……」


雷「……気付かなかった」


瑞鳳「多分これ本人はそのつもりじゃなくても、私達とは上っ面になってる感じじゃないかな……」


瑞鳳「私達の中にも家庭環境が原因でこの道に来たのも多い訳で、みんながんばって乗り越えてきた。そんな自分と似たような境遇の私達だからこそいえないこともあるよねー……」


雷「……、……」



【4ワ●:元帥から】


提督「ところで多くの方が覗き見していたようですが、しっかり聞いたんですよね? しっかり台詞を聞かずに答えだけ聞いたのならば、雰囲気的に誤解されそうなのですが」


電「あ……確かにそうなのです。誤解、してそうですね。多分、皆さん神風さんと司令官さんがお付き合い始めた、と」


提督「」


電「私も一応お聞きしておきたいのですが?」


電「『想力により司令補佐が欠陥を治す機会に恵まれます』までは聞けたのですが」


提督「秘書官やりたいって」


提督「そこで気付きました。もう多分、自分の将来はそうなるんだろうなって。逃げられそうにありません。なので、腹をくくりました」


提督「欠陥を直さなければ……」


電「『その暁には私を司令補佐の――――』」


電「お嫁さんに――――」



電「ではなく」







電「『右腕にしてください』ってことなのです?」



提督「はい。そこはすぐ察したので、こちらからお願いしました。もしもそうなった時には自分とともに来てくれませんか、と」


電「末永くよろしくお願いします! と?」


提督「ええ……」


電「右腕というのは……?」


提督「お仕事のことですね」


コツコツ


元帥「右腕、ねえ。神風ちゃんは軍に留まりたいみたいだな」


提督「ですよね……」


元帥「お前の秘書官やりたいんだろ。お前の就職先についての書類は執務室に置いておいたからそれ読め。ゲーム屋にはさせんが、適性データはその柏木? とかに渡しておけばお前の代わりに実現させてくれんじゃね。どこまで企画進んでるかは知らねえけどさ」


元帥「腹括ろうや」


提督「大体読めましたが、元帥……」


提督「あなたは自分を見誤っております」


元帥「ほう、続けてみ」


提督「自分の性格的に謀略界に向いていると思っておられるようですが、自分はこれを克服することを目標にしております」


提督「もう嫌なんです」


提督「出会った人、駆逐の子達の無垢な笑顔に対しても利用価値を反射的に考えてしまうのは懲り懲りです」


提督「人として情けなく思う……」


元帥「わかってんじゃねえか」


元帥「その考えはこの鎮守府に着任してから芽生えたもんだろ。それでいいんだよ。それとも人の上に立つわしがお前みたいな兵士使い捨ての考えで元帥やってたと思うか?」


提督「いいえ……」


元帥「だろ。わしが合同演習の時からお前に欲しかったもんを、今お前自身が欲しがってるんだよ。とんでもねえ成長だぜ?」


提督「……」


元帥「戦争終結は自分のため、それがいつしか皆のためになった。そうじゃなきゃあの海で全員生還だなんて出来なかった。確かに築いた信頼関係の先に阿武隈ちゃんの旗艦としての折れない心が機能したんだよ」


元帥「終わったさ。そう、終わった」


元帥「戦争終わらせました」


元帥「後は偉いやつに、とか」


元帥「大人になって、もっと責任を見ろ」


元帥「想力周りで混乱してる。あれをどう扱うかで、世界人口恐ろしいくらいに変わる。もちっと想像してみろよ。今、苦しんでる人の大半は想力によって救われる。だからこそ扱いに困ってるの分かるな。どう社会に順応させていくか。いいかよ、お前は軍所属だが」


元帥「お前がやっちまったんだ」


元帥「発足する部門で初めに実際に想力に触れるのはそう多くはねえ。今、選別しているが、上のポストはジジイで埋まるだろ。そのメンバーの中に、と海軍からお前の名があがってる」


元帥「ここはぐうの根も出ない。役所連中は必死だが、お前は深海妖精の発見にて深海妖精論を広めて、ロスト空間で想力を理想の形で行使した。他の奴らも黙らせられる。お前以上の人材いねえし、そこが重要なんだわ」


元帥「繰り返しちゃダメなんだよ」


元帥「民衆や政府というくくりで見ると、過去の歴史からなにかを学ぶということはほとんどねえ」


元帥「他の奴に任せて、その結果どうなるかは知らねえけど、いい方向に動いても本来満足できるパフォーマンスをこなせるとは思えねえ」


元帥「絶対に自分なら、っていつか思う」


元帥「責任取らねえとまた後悔するよ?」


元帥「戦争終結させたのなら傷を癒さねばならん」


元帥「人はより多く社会に貢献できる道を往くべきだ。好きなこととか、やりたいこととか、信じていることは道を模索する手段の一つでしかないんだよ」


元帥「此方ちゃんもそうだ。お前の力で本当にもっとましな暮らしが出来る日が訪れるかもしれん」


元帥「遊び場だろうが現実逃避の先だろうが、散らかしまくりやがったのは間違いなくお前だ。世間みてえに軍の責任とか上層部のー、とか甘えたことをぬかすなって」


元帥「片付けはきちっとやれ」


提督「……」


電「……ジジイの言い分にも理はありますね」


元帥「電ちゃんからもいってやってくれない?」


電「司令官さん」


電「誰かに押し付けるのはダメだと思うのです」


電「阿武隈さんはキスカでそうして後悔した」


電「そんな時の阿武隈さんを司令官さんはスカウトしたのです。だからこそそこから全てを取り戻した全員生還まで導いてくれた司令官さんとの今の信頼関係があるのです」


電「過去から学びましょう。もう終わらないはずの夢は終わり、あなたは弱さと向き合わなければなりません。今のあなたはこの鎮守府の皆のように、手を差し伸べられる立場にあるのです」


提督「ですね……」


提督「元帥、その団体ですが……」


戦後復興妖精「もしかしてそのために私、生かされたんですかねー」


提督・電「……」


戦後復興妖精「おっす!」


電「どっちが本当のお前なのです……?」


戦後復興妖精「んなのどっちもだよ。お前、一人の時でも敬語とか使うの? 誰にでも仮面はあります。どっちが仮面か分からなくなってきたら現代病なので。かつてのトランスタイプのぷらずまさんなんかもそうですねー」


戦後復興妖精「まあ、私も戦後復興として力になりますんで」


戦後復興妖精「私としてはもう残りは何年生きようが、余生だ。もう老人だね」


提督「消えたものかと。詳細は……?」


戦後復興妖精「此方が契約履行装置使って手を打ってたんですー。お陰で私はラチられました。元帥やそこの甲大将にも妖精状態存在は把握されているので。姿的には人型なので幽霊ですけどね」


戦後復興妖精「ちなみに妖精といっても喋るくらいしか出来ませんが。ああ、それとお気遣いなく。どうやら私も此方と同じ運命を辿るようです。想力工作補助施設やらなんやらの事情を聞くためにマーマに捉えられただけですが、元帥さんからマーマのサポート頼まれました」


戦後復興妖精「司令室のほうに複製したメモリー幾つかあるから、よろしく。役立つと思います」


提督「……あなた勝てば何を書き込むつもりだったんです?」


戦後復興妖精「霧島と同じ。海の傷痕を理解する切欠に恵まれますように。最初期メンバーの願い事はこれ。まあ、負けちゃったから、自分の力で叶えれば、みたいなこといわれまして、私だけ残りましたー」


島風「あ! 戦後復興妖精さん!」


島風「も一回かけっこやろ! 体力回復したし!」


戦後復興妖精「やだね。くそだるい」


元帥「よし、わしとやろうか」


島風「速いの?」


元帥「速いよ」


戦後復興妖精「よーいドーン」


タタタ


元帥「あ、ごめ、腰が……」


島風「」


提督「元帥……」


提督「この欠陥、治します」


元帥「おう……まだ休暇はある。それまでは時間やる。提督としての職務は兵士の子達のアフターケアも含めてだしな」


元帥「覚悟決めてきてくれ。なに、心配は要らん。神風ちゃん秘書官にするなり、他の子も声かけてみるといいよ。龍驤辺りなんかは人付き合いとかその他もろもろこなせていいと思うぞ」


島風「大丈夫ー……?」


元帥「おお、ありがと。島風ちゃん」


島風「おう……無理はしないほうがいいよ」


戦後復興妖精「そうそう准将」


戦後復興妖精「これはどうしようもないことなんだが」


戦後復興妖精「トランスタイプになった『神風』、『瑞穂』、『電』、『春雨』の四人、解体してもなお想力がまとわりついてる」


戦後復興妖精「これを超能力と呼ぶか後遺症とするかはご自由に。解体した以上、身体も成長していくけど、人間離れした能力はついて回る。いつか自然になくなるとは思うけどそれまでの我慢」


提督「元帥はご存知なのですか」


元帥「さっき聞いた。まあ、仕方ねえだろ」


電「本当なのです……こんな大きい石が持てたのです。人間離れしたこれは建造パワー……」


電「前向きに考えて、護身用のなにか持たなくても済むと思えば……」


戦後復興妖精「神風の願いはさっきので間違いないのか?」


戦後復興妖精「『想力により司令補佐が欠陥を治す機会に恵まれます』」


提督「本人いわく、らしいです」


戦後復興妖精「治す機会に恵まれます」


戦後復興妖精「気を付けてくださいよ」


戦後復興妖精「なにが起きるかわかんねえ」


提督「ここからの自分は酷く無様ですが」


提督「甘んじる以外なさそうです。どうやら神さんは想力を扱う人材において自分より高いところにいます」


戦後復興妖精「そーですね。あれは仕事の相棒として適任だ。あいつ、想力工作補助施設を開発しても不思議に思わねえし。追い付かれるどころか、追い越されましたねー」


電「私も出来る限り、手伝います」


電「恐らく此方さんの幸せの道はこれ一本なのです。想力周りで貢献してもらえば多少は一緒に町にでも遊びに行けますかね……」


元帥「ああ、それと今すぐ食堂へゴー」


提督「?」


提督「あ、阿武隈さんから電話だ。どうしました?」


阿武隈《提督――――襲来です!》


提督「落ち着いてください」


島風「おっす!」


「おっす! 夜中なのに元気な子が多いですねー!」


提督・電「……」


提督「あ……あなたは確か」


元帥「あ、来たかー」


「はい♪」


電「私は見覚えないですが、どちら様なのです?」


「ぷっぷくぷう、初めまして! うーちゃんの」


「ママだぴょん!」


提督・電「」



【5ワ●:卯月ママがやって来た!】


卯月ママ「夜分に急に押しかけちゃってごめんなさいねえ。こちらに出張がありまして、いつでも来ていいよー、とのことでしたので」


卯月ママ「一応、軍のホームページも見たんですけどね。今の鎮守府は兵士の家族でも立ち入り禁止でしたが……准将さんからは都合が合う日ならいつでも、と連絡頂いておりましたので」


卯月ママ「なぜか携帯繋がらないし!」


提督「すみません……」


提督「そうですね……卯月さんのお母様は多忙で海外にいることも多いですから、都合が合う日なら国内ならばこちらから出向こうと思っていたのですが、鎮守府に来てくれても、と連絡しましたね」


卯月ママ「まあ、タイミング悪かったみたいですが」


提督「ゴタゴタしたのも収まりましたし、ちょうどこちらから連絡を入れるつもりでした。多忙とのことで中々、都合日程が合わなかったので、事前の連絡通りに関係者の鎮守府訪問はこちらから指定している日であれば常にウェルカムです」


卯月ママ「良かった。元帥さんや甲大将さん、乙中将さん丙少将さんにはお会いしたんですけど、皆さんお顔ひきつってらしたので、迷惑だったかなーって」


提督「ハハハ」


提督(良い意味でも悪い意味でも話題になる有名人ですからね……)


電「まさかブリティッシュラフラビッツの総帥が来るとは。あ、お茶なのです」


卯月ママ「ありがとうね。んー、これが最高勲章の電ちゃんか。可愛いけど、なんだか見た目に似合わない雰囲気をまとってるわね。少し雄々しいというか、甲大将さんと同じモノを感じる」


電「恐縮なのです……」


卯月ママ「なんか電ちゃん顔が強ばってない?」


甲大将「あなたこっちでも有名人なので」


卯月ママ「あはは、なんか会社のPRに利用しちゃってごめんなさいね。艦兵士は外内ともに個性的で可愛い子、多いから絵になるんですよね。軍人とか関係なしに目を惹くんですよ」


卯月ママ「あ、闇のオリTを着てくれていた子も多かったですね! ありがとうございますー」


甲大将(あれこの人の差し金かよ……)


提督「その度はありがとうございました」


甲大将「いつの話?」


提督「海の傷痕大本営襲撃から自分が研究部に出張していた間に、届いたようで。龍驤さんと初霜さん、阿武隈さんからもご厚意でもらったモノとお話は聞いております」


提督「ああいう1体感で高揚する兵士も多かったので」


卯月ママ「それは良かった。ええと、そちらは?」


北方提督「お初。北方鎮守府の提督で、先々代の響だよ」


卯月ママ「あ、なるほど。響っていうのも納得。髪を白く染めてるんですよね。クォーター、かな?」


北方提督「祖母がロシアだからね」


北方提督「ところで随分とお若いですね。私も童顔だといわれるけど、私よりも歳が下にしか見えない……」


卯月ママ「36です。月日が流れるのは早いですね」


一同「36……?」


提督「ちょ、ちょっと待ってください。卯月さんの建造年は確か」


電「12+艦兵士歴ですので……」


電「はにゃ――――!」


甲大将「14歳か……!?」


北方提督「14で子供を産んだのかい!?」


卯月ママ「ええ」


北方提督「女傑……! 私はその歳はもう軍にいたか。軍学校で暁と雷と遊んでた頃じゃないか……」


卯月ママ「立派とはまた違いますよ。私、あの子のことで周りにとても迷惑かけてきたので」


卯月ママ「特に親には。いまだに母としては不出来なもので放任的です。まあ、あの子は幸いながら性格のほうは父のほうに似てタフなので、あまり手はかかりませんが」


北方提督「父親は」


卯月ママ「お腹の子残して事故で死んじゃったなー」


北方提督「申し訳ない……」


卯月ママ「お気になさらず。もう大分前に母子共に割りきれていることなので。娘の父の評価は低空飛行ですが」


ガラッ


阿武隈「失礼しまーす。ダメです。卯月ちゃん完全に寝ちゃってます」


卯月ママ「あ、阿武隈ちゃん、おひさー」


阿武隈「はいっ、ご無沙汰です!」


電「卯月さんと仲良いのは知ってましたが、お母さんとも仲良いのです?」


阿武隈「ええ、お世話になりました。家族みたいに接してもらっていましたので」


卯月ママ「むしろ、私の代わりに卯月の面倒見ていてくれていた子というか。ありがとぴょん♪」


提督「ああ、そういえば解体してからの居住地が卯月さんと同じだったかな?」


阿武隈「留守にしている実家を貸して頂いてそこで卯月ちゃんと。かなり癖のある人ですが……良いお母様ですよ!」


阿武隈「ちなみに今なら睦月型の皆と由良さんもいますよ?」


卯月ママ「会ってもふもふしたいけども」


卯月ママ「決して大団円なわけじゃないですが、狙える範囲では最高の結果で戦争終結しましたね。お陰で景気もあがりつつてんやわんや」


卯月ママ「笑っている子も多いそうですし」


提督「ですね。そこはこちらとしても安心している点です」


甲大将「まあ、みんな大丈夫だろ」


北方提督「あ、泊まってく? 色々と聞きたいことがあるよ」


電「あなたはフランクですね……」


卯月ママ「私もそうなので、お構い無くー。今日は提督さんとお話に来ただけですし、明日の朝早くから予定ありまして、これ終われば仕事のほうに向かうので、遠慮させていただきます」


北方提督「そりゃ残念だ。リシュリューとかガングートが興味持ちそうなだけに」


卯月ママ「あ、その二人とも機会があればお話したいですね」


北方提督「私に連絡もらえればいつでも」


卯月ママ「了解です。ところで艦兵士の皆さんってやっぱり配属変わっても軍に残る人が多いんですかね?」


提督「いますけど、進学や民間への就職希望の子のほうが総数的には多いですかね。駆逐の子が多いので、支援施設で認定もらって中、高、大へ進学が多いですね」


卯月ママ「アパレル業界に興味ある子はおりますか? ファッションモデルやりたいって人もいればぜひ紹介してください」ニコ


電「それが本命の用件じゃ……」


甲大将「選択肢が増えるのはありがたいことだし、いいんじゃね」


卯月ママ「阿武隈ちゃんもおいで♪」


卯月ママ「私と一緒に働こ?」


阿武隈「あたしは進学するので……」


卯月ママ「おっけ、会社の皆に阿武隈ちゃんと由良ちゃんは卒業してから一緒に来るって伝えとくね♪ あ、学生やってておこづかい欲しくなった時は声かけてね?」


阿武隈「」


提督「阿武隈さんと由良さんは就職先決まりましたね。こちらからも皆さんに聞いてみます。確かアパレルに興味ある子もいたはずなので」


卯月ママ「よろしく!」


北方提督「ふむ、みんな将来のこと考えて偉いね……」


卯月ママ「来ます? ウェルカムですよ?」


北方提督「私はファッションはいいや」


卯月ママ「実年齢と容姿が食い違っているっていうのは武器だと思うんですけどね」


甲大将「北方はどうなんだ?」


北方提督「駆逐の子達はまだみんな悩んでる。悩むなら学生やっておけばいいよ、といってあるくらいだね」


卯月ママ「そういえば娘とは連絡のやり取りしてましたけど、准将さんは娘からの評判がやたらいいですね。最初はどうなることかと思ってましたが、あの子がなつくなら悪い人ではないはずですね。私より人見る目ありますから」


提督「恐縮です。やっぱりそういうの連絡されるんですね」


卯月ママ「前任者のフレデリカさんのこともありますから」


提督一同「ああ、なるほど……」


卯月ママ「超個性的な人だとは思ってたんですが、見抜けなかったですね。ま、過ぎたことですし、准将がいうには戦争終結においてはフレデリカさんの功績も多大らしいですし……複雑ですが」


提督(瑞穂さんのことも知ってそう……)


ガラッ


乙中将「疲れた……ちょっと北方さん、スヴァボーダさんが僕の頭に降りたんだけどなんとかして」


北方提督「スヴァボーダおいで」


バサバサ


北方提督「よしよし」


乙中将「……あ、卯月ママ」


卯月ママ「はい♪ ところで乙中将って未婚ですよね?」


乙中将「ですけど、それがなにか」


卯月ママ「紹介したい子がいるなって」


乙中将「どうせビジネスのためでしょ……」


卯月ママ「噂の通りに察しの良い方ですね。アイヌの伝統衣装。目をつけている分野でして」


乙中将「無理だって。あれ、地元のアイヌの方の手作り品で想いを込めて作ることに意味のあるものだから。紋様一つにも儀式的な意味が込められたものだよ」


卯月ママ「存じております。1着がものすごい高価な代物で数が少ないんですよ。そういったものは文化価値があるので、大量生産大量消費は難しいのですが、需要がありますよね。欲しがる人たくさんいます」


卯月ママ「一部、商品として流れていますし」


卯月ママ「あなたと籍を入れて一族に嫁げば有力アイヌ民なので、その衣装の手作り品質で、お土産的な立ち位置で有力な販売ルート開通できないかなって♪ 北海道の支店がアイデア持ち込みましたが、中々首を縦に振ってもらえず。私があなたのお家に営業かけたのですが、いや素晴らしい美術品の数々をお母様から拝見させていただきました」


乙中将「うおお――――い!」


卯月ママ「あはは。それと紹介したい子は乙中将に興味持っていて、とても可愛い子ですよ? あなたと歳は同じです」


乙中将「……ぇ」


電・阿武隈(揺れちゃうんだ……)


乙中将「紹介してください」


卯月ママ「ありがとう。喜ぶと思います!」


提督「ご縁に恵まれましたね。卯月さんのお母様は思っていた以上にフレッシュな人です……」


卯月ママ「甲大将……」


甲大将「無理」


卯月ママ「ですかー……准将も未婚ですよね」


提督「未婚ですが、遠慮です……」


卯月ママ「残念。あ、乙中将、連絡先教えておきます」


乙中将「どーも……」チラッ


甲大将「……准将、こっち」


ヒソヒソ


甲大将「神風の願い事周りでなにかあったか?」


北方提督「神風の提督として私にも聞かせてくれ」


提督「……ええ、特定な関係に対してトラウマが起因で立ち直れず。一言でいえば『想力により治る機会に恵まれますが、治ったら右腕にしてください』ですね」


北方提督(……なーんだ、秘書官的なことか。素直に喜べないな)


甲大将「なるほどね……想力周りは伏せておいてくれ」


提督「了解……失礼」


提督「自分にはトラウマがあるのですが、治すの手伝ってくれるといってくれまして」


戦後復興妖精「おはようございます♪」


戦後復興妖精「別に人材不足って訳じゃないのに、そんなに艦兵士は利用価値ありますか。そうですよねえ。あの子らほどの人材はいないでしょう。どの分野でもメンタル的には大丈夫ですよー」


電・提督「……」


戦後復興妖精「昔話で教わった♪」


戦後復興妖精「欲張りは」


戦後復興妖精「後で懲らしめられる♪」


提督「ちょっとすみません」


戦後復興妖精「念のために釘を差しておいたほうがいいかなって」


卯月ママ「……」


戦後復興妖精「気づかないふりしても私には分かるんですよ。卯月のお母様、妖精可視才ありますよね?」


提督一同「マジか……」


戦後復興妖精「知らないんですねえ。この人、妖精を企業運用計画のプロジェクトに携わってたんですよ。人材雇用の面において妖精は無賃ですので。妖精さんって改造した時、服とかも一新させるじゃないですか。なので、アパレル業界はなんとか運用化に割とガチでした」


乙中将「商魂たくましい……」


卯月ママ「さっきのは笑ゥせぇるすマン?」


戦後復興妖精「ああ、ありゃ名作です。個人的にゃあの作者は手塚治より好きでーす」


卯月ママ「私は明日のジョーかな。古いやつなら」


戦後復興妖精「当時は日本で販売されたマイセンとかいう不味いタバコ吸いながら、連載の終わりを嘆いてた人がたくさんいました♪」


乙中将・甲大将「……」


卯月ママ「なんかこの妖精さん、最初期から生きてそうですね。私はなるべくヤバい案件には触れないようにしていますので見なかったことにしておきますー」


戦後復興妖精「賢いですね。あー、道理であの場にいた此方に触れなかったのね。私ももう一回、悪い島風ちゃんやろうかなー……」


阿武隈「妖精さんいるんですか?」


戦後復興妖精「電、可視才ない阿武隈には伝えといてー」


電「戦後復興妖精さんが事情あっているのです」


阿武隈「……え」


戦後復興妖精「あ、自己紹介がまだでしたね。海の傷痕、当局此方から生まれた戦後復興妖精の悪い島風ちゃんと申します。趣味は欲深い人間を騙くらかすことでーす」


卯月ママ「え、私、騙されちゃうのか」


戦後復興妖精「いいです。私は騙す相手を選ぶんで」


卯月ママ「私は無理なの?」


戦後復興妖精「戦後復興装備一式ありゃ誰でも余裕だけど、今の私は丸裸ですのでー。もうわだかまりもなくなりましたし、幸せにもなれたので」


戦後復興妖精「まー、会社がでかくなるとポストには信用できる人材を置きたいですよね。娘さんは継ぐ気はなさそうですし」


卯月ママ「まあねえ……それならそれでいーのよ。あの子には好きなように生きて欲しいしね?」


戦後復興妖精「旦那さん深海棲艦に殺されたんでしたっけ? 娘さんを軍の在籍許したのはそこですかー?」


卯月ママ「だったら私が提督になって娘とともに深海棲艦をぶっ殺してます♪」


電・阿武隈「……」


戦後復興妖精「想力周りは探ろうとしないほうが身のためよ。色々な奴等を敵に回しますからね。と忠告だけ」


卯月ママ「いや、興味あっただけです。ビジネスに携わる人ほとんど興味持っていると思いますよ?」


戦後復興妖精「ふうん、私からは終わり」


卯月ママ「だそうですけど、私、大丈夫ですかね」


甲大将「まあ、想力に関してはこちらでも制御に困るものだから、まだ置いておいたほうがいいぞ」


卯月ママ「でしょうねえ……どこも見の状態でコネ使って研究部からの情報仕入れるに留まっているみたいですし」


卯月ママ「不安の種ではありますが、別にそこ探ろうとした訳じゃないので安心してくださいね♪」


卯月ママ「本題に戻っても?」


戦後復興妖精「どうぞ」


卯月ママ「娘はどうでした?」


提督「日常態度はともかく、仕事に関してはどの面から見ても一流の働きをしてくれました。公開しているデータを見てくだされば。実態は数値にならないところもあるのでそれ以上の働きです」


提督「年数的なものもありますが、それでもこの年数で深海棲艦撃破数に至っては駆逐艦トップクラスですし、自分も含めて鎮守府の全員が頼りにする戦力でした」


電「まあ、一言でいうと、強いのです。うちの方針的に結果出せば日常での振る舞いなど対して問わない方針でしたが、卯月さんは文句なし、なのです」


卯月ママ「そうですか……」


卯月ママ「学校の先生に聞くようなこと聞いて申し訳ないのですが」


卯月ママ「私は良い母親とはいえないので……」


阿武隈「そんなことはないですよ!」


卯月ママ「ありがとー。でも、世間一般からして良い母親じゃないからね。私は14、しかも父親がいない状態、自分の意思を通してあの子を産んだ。私自身がまだ誰かに育ててもらうほうでした。子供の教育だなんて、あの子自身にも、周りにも迷惑かけっぱなしな上」


卯月ママ「18を越えたら私は母にあの子の面倒を任せて、自分の夢を追いかけた始末です。しまいにはあの子に仕事手伝わせる始末ですし、世間一般から見たら最悪な母親の類ですよ」


提督・電「……」


卯月ママ「……」


提督「別に子供を見捨てた訳ではないんでしょう」


電「なのです。私なんか赤ん坊の頃に捨てられましたからね。施設の前に犬みたいに置き去りにされたのです」


卯月ママ「お二人の過去がとても壮絶そう……」


北方提督「子供が幸せならそれでいいだろう」


北方提督「親は子供を幸せにすることが義務ではないと思うよ。子供は自由にやらせると、遅かれ早かれ幸せの尻尾を見つけてくる。その道中、子供が不幸になりかけた時にどう導くかのほうが重要だと思う」


北方提督「私も離婚した母親を頼りに尋ねた時、そうしてくれて今の私を手に入れたから」


提督「そうですねえ。お母様は過去のキスカ事件の後も卯月さんのために戻って滞在していたんですよね」


阿武隈「あたしも大変お世話になりましたしね! ぶっちゃけると家族の食卓に混ぜてもらえていたこと、大変励みになりました。卯月ちゃんとお母様の会話とかにもです、はい」


甲大将「へえ……そんなことあったのか」


乙中将「あのー、なぜ娘さんを軍に入れたんです? 聞いている限り本当に会社の宣伝目当てじゃないですよね?」


卯月ママ「得意の嗅覚で当てをつけてみて♪」


乙中将「……『卯月』の適性だから」


卯月ママ「准将、以上の情報を踏まえて?」


提督「……、……」


提督「兵士として戦争に行く。そのリスクよりも」


提督「駆逐の中には家族に恵まれなかった子が多くいます。それに睦月型は姉妹が多いですから、一緒の時間があまり確保出来なかったあなたは娘が希望した進路を尊重した、わけですかね」


卯月ママ「素晴らしい。当たりです。加えるのなら、あの子もそこら辺りを理解して飛び込んだのだと思います。睦月型の仲間とか、長良型とか、私と一緒にいる時より楽しそうで」


卯月ママ「キスカの時は懸念していた戦争のリスクが裏目に出た、とは思いましたけども」


卯月ママ「戦争終結の放送が大本営から流された時、すぐに兵士の被害状況を確かめました」


卯月ママ「かつての大戦が産み落とした」


卯月ママ「海の傷痕という歴史最悪の怨霊船に加えて深海棲艦3桁の歴史に類を見ない大激戦です。それを相手に死亡撃沈なし、出撃兵士の全員生還の達成」


卯月ママ「加えて、大和、由良、長月、菊月、長月、弥生のメンバーまで帰ってきました」


卯月ママ「想力なんて実際のところ、私にとっては小さな話です。あの子はやり遂げて、これから命を賭けて背中を預けあった仲間の皆と一緒に普通の一般人として同じ時代を生きていける」


卯月ママ「これ以上ない完全勝利報告」


卯月ママ「まるで幸せなお伽噺ですよ」


卯月ママ「ああ、すみませんね……歳を取る度に涙腺がね」


提督「……」


卯月ママ「正直に申し上げますと、世界を、というより」


卯月ママ「過去に戦死者もいる戦争で不謹慎だとは思いますが、娘をここまで導いてくれた対深海棲艦海軍の皆様には感謝してもし足りません。心からお礼申し上げます」


卯月ママ「ありがとうございました。本日は夜分遅くごめんなさいね。ただこれだけお伝えにあがろうと思いまして」


乙中将「そっかあ……」


甲大将「提督としてもこういうのが一番報われるよなあ」


提督「不粋の極みとなるのですが、報告しておきたいことがありまして……」


卯月ママ「なんです?」


提督「自分、卯月さんも阿武隈さんも戦争終結のために利用価値があるからスカウトしただけです。全員、そうですね」


提督「別にその道中、十分な利さえあれば戦死させることも頭に考えておりました。具体的に申し上げますと、深海妖精を発見する行程で戦闘になった時、相手をSSクラスの深海棲艦戦力だと想定し、兵士を使い捨てる気でした」


提督「しかし、その道中になんか人を好きになる気持ち、思い出しました。でも今も無垢な笑顔を向けてくれる子供相手にすら、頭のどこかで必ず相手の利用価値を勘定する毎日です」


提督「なんとかなりませんか……」


提督「無償の愛を身につけたいです」


卯月ママ「なんでそうなったのかの理由は、まあ、娘から聞いていましたが……母親の件で相違ないですかね」


提督「初対面のあなたにお話するのは申し訳ないのですが、母親という存在からどうやら本当に感謝されたようなので」


提督「卯月さんが知っているであろう情報に加えるのなら、あれから姿を見かけたことがあります。団体に世話になるまで、さ迷ってた時です。1ヶ月くらいかな」


卯月ママ「なにしてたの?」


提督「知らない男とパチンコ打ってました」


提督「こっちは腹減らして死にそうなのに。父さんと婆ちゃんが死んだ時、持っていった金で遊び呆けて楽しそうでした」


提督「あんな風になれば天罰が下り、地獄に落ちると思って、ああはならないよう、憎しみでやり返すことはしませんでしたし、将来もしも自分を頼ってきても他人の振りを決め込むつもりでしたが」


提督「団体に世話になって一年後、自分の母の行方が掴めたとのことで、どんな暮らししているかと思えば」


提督「男の人と一子を築いて幸せに暮らしていました」


提督「周りからは愛もあり、裕福であり、羨まれるような家庭を築いておりました。団体の方が自分の話をすると、その夫妻は血相を変えて怒ったそうです」


提督「下品ですが……こほん」


提督「あの女とあの女の子供、殺そうと思いましたが、そこは思い留まりました。しかしその時に神様は悪者に天罰を下さないことを知りました。下すのは人間です。そこから更に拗れたのだと思います」


提督「情けない話です。いつかは時が癒してくれる傷痕だと思っていましたが、一向に癒える気配がありません……」


卯月ママ「……」


提督「……、……」


提督「はは、すみません……」


提督「そろそろ病院、行ってきます……精神的な病だと日本人って相当アレにならないと行かない人が多いですよね……」


卯月ママ「なるほどね……そんなことあれば自分からは女性信用できないのも無理ないわ……友人以上の関係を拒んでしまうのも分かる……」


卯月ママ「私は医者じゃないけど、治る治る」


乙中将「むしろ医者じゃ治せなさそう」


甲大将「お前がいうと絶望なんだよ……」


北方提督「なんで治す必要あるんだい?」


提督「え」


北方提督「艦兵士の皆は私達が思う以上に提督のこと見ているよ。君のそれは周知な以上、そこをくるめてなお好きだと思われていることに気付こうよ。日常生活に支障を来すほどじゃないし」


提督「頭では分かってはいるんです……」


提督「でもどうしてか」


提督「怖いんです……治したいですし」


北方提督「……」


電「ま、治りますよ」


電「司令官さん、神風のこと別に悪い印象ではないんですよね。自分がそう見てしまうだけで」


提督「そうですね……神さんは悪い人ではないし、むしろ似たような境遇の持ち主で自分のこの傷にも理解を示してくれています……」


電「私には出来ないことなのです。間宮さんも難しいですね」


電「要は神風は、司令官さんのそれを治るよう願いごとしてくれました。あいつも私と同じような目線で司令官さんの幸せを考えている輩だというのは先の戦いの最中に分かりましたので」


電「神風の前向きな姿勢は司令官さんも見習って欲しいのです」


北方提督「というか……乙中将や丙少将と女遊びするとかいう話を聞くんだけど」


提督「最初はお酒の勢いを借りましたが、お陰様でもう商売という関係があれば女性の苦手意識はなくなりました。大きな一歩だと思うのですが」


北方提督(あれ……これ神風かなり上手くやったんじゃないか。例えそういう目的の契約でも後はやりようで)


北方提督(准将、落ちるんじゃないかな……あ、これあれだ。北方の皆と緊急会議しなきゃ。作戦名はどうするか……)


卯月ママ「治して、結婚したいの?」


提督「いえ、仕事やら約束やら理由は色々と」


提督「それと、それなくした状態で真剣に答えを思案したい相手がおりまして。恐らくその上での答えじゃないと、いつまでも納得してもらえないと思います。ほんと待つのが好きな人なので……」


電・阿武隈「!?」


卯月ママ「いやー、相当惚れられてますね。十代とか二十代に戻りたくなってくる恋ばなだわ……おばちゃんにとって餌よ餌! はいこれ連絡先、娘から准将さん達のライン教えてもらうねー」


提督「構いませんよ……」


北方提督「電、阿武隈、ちょっと」グイグイ


北方提督「間宮さんだよね?」ヒソヒソ


電「間宮さん以外いないのです」ヒソヒソ


阿武隈「間宮さんの粘りが効いてますね」ヒソヒソ


北方提督「悪いが、私は神風の応援をする」ヒソヒソ


電「だから、私と同じで神風のやつは司令官さんの相棒志望なのです。あいつが秘書官だと答えを出した以上、恋愛関係の優先順位は低いのです。間宮さんとくっついても祝福してくれるはずなのです」ヒソヒソ


北方提督「ええ、そっちのが面白くないかい?」ヒソヒソ


阿武隈「個性自重させてくださいよ」ヒソヒソ


電「まあ、私がガチになって4年待ってもらうルートもなきにしもあらずなのです。私がその気になれば一気に本命なのです」ヒソヒソ


阿武隈「それはないかな……確かに電さんは大人になれば綺麗と可愛いを合わせた美人に成長すると思いますけど……」


卯月ママ「さて、そろそろおいとましますか。その悩みはきっと解決しますよ。このくらいしかいえなくてごめんぴょん♪」


提督「いえ、愚痴に近くなりましたし、こちらこそ申し訳ないです」


提督「では、近くまでお見送り致します」



【6ワ●:准将と神風? 反応に困る】


リシュリュー「リシュリューは関係ないわ。日本ではなんていうんだっけ、あなたがやろうとしていることやると、ええと」


ガングート「人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られてとかなんとか」


リシュリュー「それそれ」


ビスマルク「あれこれ介入したくないわよ」


北方提督「邪魔じゃなくて応援するんだからね?」


北方提督「加えて恋じゃなくてビジネスパートナーか。秘書官みたいなものだね。それでもくっつけたくない?」


隼鷹「あんたがやるとこじれるだろー……」


ポーラ「そこは同感ですねえ」


北方提督「北方大人勢、冷めてる……」


北方提督「そんなんだから全員いまだに彼氏出来ないんだよ!」


リシュリュー・ビスマルク「私に見合う相手と出会わないだけ」


北方提督「出た出たリシュリュービスマルクのお高くとまった発言! そうやって彼氏出来ないまま年金もらう歳まで逝くといい! 建造して見た目若いままだからっていっても心のほうは確実に老けていっているんだよ!」


北方提督「こんなに綺麗で性格も最高の私が彼氏出来ないんだ! 危機感持とう! シャイな男性が増えた以上、もう女が待つ時代は終わったのさ!」


隼鷹「ダメだこの大人」


ビスマルク「隼鷹にいわれるなんて可哀想……」


ガングート「疲れてるってのに夜中に叩き起こされてどんな話かと思えばくだらないにも程があるだろ……」


隼鷹「修学旅行の夜のノリ持ち込まれてもな……足柄のやつ呼んでお二人で盛り上がるか、そういうのに興味津々な駆逐の子達とろーのやつで会議すれば……」


ポーラ「ろーちゃん三日月ちゃん天津風ちゃん辺りは可愛い反応が見れそうですねえ……」


ビスマルク「望月と若葉は私達と似たような反応でしょうね」


ガングート「島風はなんて反応するのか分かんねえ……」


ポーラ「そもそも彼氏いない私達に何のアドバイスが出来るんですかあ? このメンバー、恋したこともなさそうだし、その分野ではもともと神風ちゃんが一番よく分かってるような気がします」


ポーラ「だから、神風ちゃんは准将を口説けたんですよ。下手に私達が水差すのは悪手なので、神風ちゃんから相談持ちかけられた時だけ悩めばいいと思いまーす」


北方提督「酒飲め! アルコール抜けたポーラなんかポーラじゃない!」


北方提督「とにかく神風のことは露・独・伊・仏・日の女性陣の力を合わせて支援するべきだよ!」


隼鷹「そもそも艦兵士で恋愛経験あるやついるのか? なぜかあんまし聞かない不思議だよなあ……」


リシュリュー「確か、誰だっけ……」


リシュリュー「あの二式大艇の子が男の子追いかけて軍に来たって話が有名よね。その子から聞けば?」


隼鷹「あー、秋津洲のやつか。二式大艇が男追いかけて軍に来たって何事だよ……」


ビスマルク「今はもう春風旗風がいるんだから放っておきなさいよ。あの子達、街で学生やってて男からアプローチ受けてるって話だし、准将とも付き合い長いんだからどう考えても丁の鎮守府連中のが適任でしょ」


北方提督「あ、そうだね!」タタタ


一同「ないすビスマルク。寝よ寝よ」



2 翌朝


卯月《ぴょんぴょんぴょ――――ん》


卯月《面白い話を聞いたので、本日のモーニングコールはうーちゃんがするし》


卯月《対深海棲艦海軍にカップル誕生!》


卯月《司令官と神風のやつだぴょん!》




瑞鶴「え、翔鶴姉、今、卯月が放送でなんて?」


翔鶴「神風さんと提督がお付き合いを始めた?」


瑞鶴「なんだやっぱり夢か……おやすみ」


龍驤「邪魔するで!」


瑞鶴「邪魔すんなら帰ってやー」


龍驤「……」


ツンツン


瑞鶴「ドリルすなー」


翔鶴「長くなるのでストップです」


龍驤「この件にどう反応すればいいの?」


瑞鶴「まあ、様子見てればいいんじゃないの。絶対に二人の間には『契約』があるだろうから」


翔鶴「うーん、勝者の特権である願い事の影響ですかね?」


龍驤「やっぱりそれなんかなあ……」


瑞鳳「失礼っ、朝ごはんが出来ましたよ」


翔鶴「あ、瑞鳳さん聞きましたか?」


瑞鳳「はい。おめでとう、は違うか」


瑞鳳「がんばれ、じゃないかな?」


瑞鶴・龍驤「それ」



2


わるさめ「スイキちゃあああああん!?」


瑞穂「うるせえ、刺すぞ。後その呼び方止めてよね」


わるさめ「ああ、瑞穂ちゃん、司令官が落ちたってありえねえよな。神風が想力利用して面白い魔法使ったな!」


わるさめ「あの二人はつまんないだろー。神風のやつも奥手っぽいから一年付き合っても手を繋ぐくらいの進展しかなさそうだし!」


瑞穂「そこ? 面白いか面白くないか……?」


わるさめ「そこ以外なにがある!」


3


響「司令官は駆逐でも良かったのかい……?」


雷「どうせ想力効果でしょ、昨日のMVPなんだから多少は大目に見てあげなきゃね。司令官にしか被害なさそうだし、あれなら私が力になるし!」


暁「司令官がそうかあ……」


暁「そっかあ……」


暁「距離感とか考えなきゃダメかな? あまり司令官にベタベタすると神風さん嫉妬したり、怒ったり」


響「微笑ましいって笑ってくれるんじゃないかな」


暁「はい響ぷんすか! 子供扱いしたでしょ!」


暁「電、神風さんに当たっちゃダメだから……ね……?」


電「分かってるのです……ん、あれ?」


響・雷「……」


暁「ぴ、ぴぎゃあああああ!」



4


初霜「い、今のは卯月さんの嘘ですよね?」


若葉「本人達に聞けば……」


初霜「冷静に考えれば願い事かな? ほとんどの人が願い事関連の影響だと考えそうですね」


若葉「いずれにしろ北方では神風が准将にお熱だったのは周知な訳で」


若葉「偽りなら准将も神風も地獄を見るぞ」


5


ろー「でっち、今の聞きましたか……!」キラキラ


伊58「うん、まあ」


伊19「ゴーヤ……」ヒソヒソ


伊58「提督さんに限ってあり得ないよ」


伊58「ろーのやつが『おめでとう』って満面の笑みでいうかも。それが契約だの想力だのでの一時的なものだとなると……」ヒソヒソ


伊19「ろーが泣いちゃうかもなのね……」ヒソヒソ


伊401「准将がどう思われてるか分かる会話だ……」


伊14・伊26「おめでたいね! テンションあがってきた!」


伊13「え……これはむしろ不吉なのでは」


6


金剛「ノ――――!」


榛名「朝から幸せな報告が聞けましたね!」


金剛「私は納得行かないデース!」


比叡「まあまあ、金剛お姉様、准将もがんばっているんですよ」


霧島「しかし、准将を口説き落とすとは中々やりますね」


霧島「……金剛お姉様、想力絡んでると思うので、長続きするとは思えません。とりあえず様子を見ましょう。願い事は勝者の特権でもありますから」


金剛「ぐ……確かに昨日の神風は文句なしのMVPデース!」


金剛「でも、どういう感じのお付き合いなのか知りたいネ……」


榛名「真剣なお付き合いならバーニングラブも自重しなきゃなりませんね……あれが見れないのは榛名としては残念ですけど」


7


陽炎「はあ、今日はあの二人と会わないほうが良さそうね」


不知火「他の皆さんも絶対に裏のある交際だと思っているかと」


陽炎ちゃん「准将のほう神風に気があるように見えなかったしね……」


黒潮「うちは聞かんかったことにしとこ」


8


ガチャ


明石君「アッキ――――! 聞いたか今の!」


秋月「ちょ、ちょっとアッシー!」


山風「失せろ……ここ女性寮」


照月「危ない……もう少しで着替え見られてた」


明石君「兄さん神風のやつと出来たとか」


明石君「あいつ行けたならアッキーも行けたよなって! 俺もっとアッキー推しとけば良かったわ! だってアッキーのほうが可愛いし納得できねーよ!」


秋月「そういうのいい加減止めてくださいってば!」


秋雲「明石君は出会った時からシスコンよね」


9


天津風「なんで准将、連行されてるの? なにか悪いことでも……」


神風「連行? ただ腕を組んでるんだけど……」


提督「」


天津風「准将の顔みて考えて。それ腕を組んでるっていわない。腕を極めてるっていうの。間接技なの。右肘の間接、完全に軋んでいるの」


神風「マジかー。司令補佐、痛いなら痛いっていってね?」


提督「すごく痛いです」


わるさめ「司令官、説明しろー!」


金剛「モーニングバーニングラーブ!」


天津風「あ、金剛さん! 腕極められているので、背中のほうからはヤバいです!」


ポキッ


提督「……あっ」


神風「あ、間接外れた、かな。世話が焼けますね!」


ボグッ


提督「外れた時よりいってあああああ!」


天津風(はめ直した……うわあ……)


天津風(もはや修行ね……)



【7ワ●:次から次へと】


神風「以上かしら」


ろー「おお、秘書官、一生のパートナー……」


ろー「それはいいですね……!」


神風「分かってくれますかマイベストフレンド!」


瑞鶴「なるほどね。想力で治るよう願って、お互いの異性への苦手意識をなくそうって内容の取引ね。今の提督さんの首を縦に振らせる方法だと思う。やるじゃん」


初霜「う、羨ましいです……」


瑞鶴「はっつんも自分の進路のこと考えるんだぞー」


初霜「そうですね……」


龍驤「分からんわ……神風お前、真剣なお付き合いとかしたくないの?」


神風「なきにしもあらず。闇の人達だって司令補佐の幸福に力を貸すなら本望だと思います。私の中には様々な感情がありますが、自分の欲望よりも優先できる感情です」


神風「私が司令補佐に向ける感情は電さんと同じだと思ってもらえればそれで間違いはないです。付き合うとか付き合わないとか、それはあくまで方法の一環です。そういう好意でしたので……」


神風「まあ、一生のお付き合いはしたいですね。司令補佐に留まらず、です。そういう仲間でしょう。あなた達が思うのと同じですし、なにより……」


神風「きっと司令補佐の場合は私達しかいないんですよ。世の女性がこんな面倒な男の性根を治そうとしてくれるとは思いません。え、なにこの人、で避けられるのがオチでしょう」


神風「そしてなにより今度こそ右腕として活躍したいです! 想力周りのお仕事とかやりがいもありますよ! 司令補佐の力になれると思いますし!」


春風・旗風「なんだ……異性の惚れた腫れたではないんですね」


神風「なにそのつまんね、みたいな顔は! 二人とも変わったわよね!? 旗なんて特に!」


旗風「……多少は変わりますよ」


春風「むしろあなたのほうが変わったような……」


神風「……」


神風「せやな」


瑞鶴「神風の献身力たっかいね。確かにおちびの忠誠心と似たものを感じるなおい。でもそういうことなら」


龍驤「うちらからも協力するか」


神風「む?」


卯月「ぷっぷくぷ。この二人、うーちゃん達の中でも比較的、司令官とやり取りが多いのは有名だぴょん。ラインとか地味によくしてる。龍驤は鎮守府ではっつんとは別に代理提督任されていたから話がしやすいってのと、瑞鶴はよく知らんけど」


卯月「なぜかこいつにはよく愚痴を漏らすらしい。多分、実年齢がタメなのと、司令官とその話の深いところを初めてした仲だからだぴょん」


瑞鶴「まあ、間宮さんがあまりにも不憫だったから、なんとかしないといつまで続くか、と。あんまり長丁場にするのもあれなことだし、私達も提督さんの力になってあげたかったしね」


瑞鶴「提督さんの個人情報たくさん知ってるから、参考になるんじゃないかな。一回、めっちゃ細かく聞いたことあるし」


瑞鶴「好きな動物から知識の類、場所、戦争以外のことね」


龍驤「好きな女性のタイプもうち知ってるで」


神風「この休暇が終わるまでには司令補佐は欠陥を治してあげたいと思っていた矢先、心強い……」


甲大将「水を差すようで悪いが……」


甲大将「准将は元帥の差し金で見合いの話、あるんだわ。多分、休暇の最後のほう。それまでに頼みたい」


神風「それ拒否権なさそうな政略結婚じゃ」


甲大将「内緒にして欲しいんだが、好きなやついれば話は別だ。なんとか婚約とは別の形にして先方さんは納得させられはする。が、そうでもなきゃ元帥のジジイが納得しねえ。ここだけの話、あのジジイあいつも周りのことで相当苦労してるみたいでさ」


甲大将「あいつが合同演習の頃からしでかした事後処理に終われて、終わるまでに世界を揺らすような問題ばかり。挙げ句の果てには海の傷痕、想力の発見だろ。身内間でも、陸軍、海軍、まあ、自衛隊のほうと防衛省とも雪だるま式で相当こじれたみたいで結果で済ませられる次元じゃねえ案件だ。あのジジイ、ハゲてたぞ」


甲大将「加えて戦後復興妖精だ」


甲大将「ここはあいつも承諾してるから、まあ、よろしく。ジジイと此方は大本営に戻って私は大淀と入れ替わりでしばらくここに留まってる。戦後復興妖精も、か。あいつは後に此方のところに回す」


瑞鶴「なんか申し訳ありません(震声」


龍驤「うちらも気を回すべきやったな。目まぐるしい新しい景色に身内死なせんように必死で、外のことまで手は打たんかったわ」


甲大将「気にするな。だからこそ戦争終結した」


甲大将「そうじゃなきゃまだ戦争やってると思う。今の政治は本当に腰が重いんだよ。少なくともチューキ達、海の傷痕がそこらを度外視して行動に出てくれたから皆、同じ点を見上げられただけだ」


甲大将「だから即対応出来たが、そうじゃなきゃまず国外との話し合いが終わるまで守りの一点、そうなると更に入り乱れて上層部がそれぞれの思惑に絡まって膠着してら」


龍驤「あの頃は甲ちゃんも鎮守府開けて内陸仕事に駆り出されていたくらいやしな……ありがとなあ……」


甲大将「礼なら瑞穂にいっとけ。チューキ達が分かりやすい行動取ってくれて、大元のボスがいるから仲間割れしてる場合じゃねー、とメッセージ送ってくれたからだ。深海棲艦側からのそれが一番大きい」


瑞鶴「瑞穂さんその中にチューキさん達もいるんだっけ。ありがとねー!」


瑞穂「届いてないけどね。まあ、リコリスとチューキなら別に礼される筋合いはないっていうわよ」


神風「本当に色々と大変だったんですね」


神風「その頃、私は刀で物斬る練習してたなあ……」


卯月「ぷっぷくぷ。まあ、その頃の神風じゃうちに来ても旗艦どころか戦果も挙げられなかったなー。電のやつにボコられるだけの日々だったと思うぴょん」


提督「それでなにをすれば……」


神風「とにかく、なにかしら治る機会に恵まれるはずです」


戦後復興妖精「おい神風」


神風「……なんですか」


戦後復興妖精「……准将の欠陥が治る機会に恵まれる、だろ。だったらお前が関係していないケースもあるわけだ」


神風「確かに。それならそれで」


瑞鶴「というか周りが思ったより静かよね」


戦後復興妖精「第1世代島風のメモリー観てるからですねー」


卯月「うーちゃん達のほうが浮いてるぴょん……」


龍驤「艦歴と人生が重なった世代やもんなあ。壮絶やわ……」


甲大将「最初期の人間周りの都合で消された情報もあぶり出して、もはやこの海の戦いの歴史は丸裸だからな。戦後処理は終わり。後は上の仕事だからな、これ以上は政治で決めねえと」


甲大将「お前らも身の振り方をそろそろ真剣に考えろよな。提督もそろってんだから相談なら好きなやつにするといい」


瑞鶴「まあ、私は決まってるし」


龍驤「うちもー」


甲大将「じゃ、ちびどもの相談乗ってやれ」




プルプル


提督「……はい、もしもし」


提督「……、……」


提督「了解しました。ええ、こちらから。それでは」


提督「明石さんちょっとすみません」ヒソヒソ


明石さん「ん? どうかしました?」


提督「秋月さんと明石君の親御さんから都合がついた、とのご連絡入りまして、お二人とお話の席を設けてほしいとのことです」


明石さん「来ましたか……」


明石さん「まずは私達で会いましょう。以前のままなら会わせないほうがいいです。本当に変わってなければ会わせません」


提督「ですね……」


プルプル


提督「……はい、もしもし」








《初めまして、いつもあなたの家庭の科学技術に這い寄る混沌、悪の研究者バリメロンちゃんです》


ブチッ、ツーツー


提督「悪戯電話でした」


プルプル


明石さん「あ、この番号……失礼、もしもし明石さんでーす!」


夕張《お久しぶりです! 夕張です!》


提督「最初からそう名乗らなかったのはなぜ……?」


夕張《明石さん、お弟子さんと秋月さんの件ですが》


夕張《面接と筆記試験、通してもらっていいですか?》


明石さん「ええ……? パスでいい人材だと思いますけど」


夕張《パスするのは応募条件だけでじゃないと厳しいです》


夕張《明石さんの推薦ですけど、私はよく知らないので、お願いします。かなり甘めに審査しますので……》


夕張《そのほうがお二人のためだとも思います》


明石さん「分かりました……」


提督「……伊勢さん伊勢さん」


伊勢「へ、どうしました?」


提督「夕張さんの会社って知ってます?」


伊勢「ああ、研究部と直結してるところでしょ?」


提督「大きいのですか?」


伊勢「有名な会社ですよ。確かITか機械かよく知らないけど、最先端技術を扱う会社で業績伸び続けている上に……かなりのホワイトって話もあって倍率かなり高かったかと」


伊勢「企業説明会に行けば分かると思うけども」


提督「へえ……」


伊勢「なに明石君と秋月ちゃん入社するの?」


明石君「あ、何の話すか?」


伊勢「夕張さんと明石さんのところ」


明石君「あー、そんな話ありましたねえ」


秋月「あ、私は行きたいです。ただ事務のほう志望です」


明石君「考えたけど、機械弄れるんだろ? ロボットとか興味あるし、挑戦してみたい分野だなあ。前と同じく解体の道も考えてるけど」


提督「へえ、乗り気ですね。応援します」


提督(……明石さんから口説いて欲しいと頼まれましたが、乗り気なら別にいいか)


秋雲「え、秋雲のアシスタントやってくれないの? せっかく漫画技術身につけたのにー」


明石君「創作も嫌いじゃないけど秋雲先輩の漫画は泥船にも程があんよ」


秋雲「」


明石君「秋雲先輩は芸術方面、画家のほうがいいって」


山風「アッシーとアッキーは一般企業に就職とかまだ無理じゃないかな……」


伊勢「へ? なんで?」











山風「アッキーはアッシーから半日離れると過呼吸になる欠陥が、治ってないから……」


提督・伊勢「」


提督「そうなのですか?」


秋月「ごめんなさい……」


提督「とんでもない。心の傷に理解はあります」


提督「協力は惜しみません」


秋月「うわああん、ありがとうございます!」


明石君「ったく、あのクソ親父のせいで」


明石さん「やばいやばい、提督さん明石さんを助けてええええ――――!」


提督「どうしました……」


明石さん「応募条件はパスですが、筆記試験と面接通してもらうことになりました!」


明石さん「弟子は無理です! 適性検査ならまだしも、論述とかはマジで無理ですって! 提督さん替え玉してえ!」


明石君「なめられたもんだな……」


提督「おお、自信ありそうじゃないですか。明石さん論述って」


明石さん「詳しくは後で調べますが論理的思考の組み立てかと!」


提督「では明石君、口頭でどうぞ」


明石君「『ここがこうなれば、こうなる。ここが壊れたらこうなっちまう。ここがおかしいのは、ここのせい。あんたら、論述って馬鹿じゃねえの。機械なんて習うより慣れろだろうが』」


明石さん「うわあ! 間違ってはないけど無理ィ!」


提督「煽ってますもんね……まあ、面接においてこの二人は分かりやすいですよね。秋月さんはよろしくお願いします、の太陽スマイルでもうどんな人かすぐ分かるレベル」


タタタ


照月「島風ちゃんと走ってたら遅れました!」


秋月「照月……! 内定かと思っていたらそうではありませんでした……世の中甘くありませんでした!」


照月「秋月姉、私と一緒にお馬さんのお世話しない? 主にロデオ、乗馬のお馬さんだけど、可愛いよー? 明石君も!」


明石君「へえ、解体して食べていいのか?」


照月「何いってるの!? 食料じゃないから!」


提督「その前に、こほん」


提督「明石君、秋月さん、お父さんが面会を望んでいます。お二人に会わせる前に自分と明石さんでお話してきますが」


明石君「来たか」


秋月「……」


提督「大丈夫だとは思います。上下関係厳しい陸軍で頑張れているようですし、少しですが調べてもいます。もしかしたら、と希望を持ってくれて構いません。詳しくは会ってから判断しますが」


タタタ


暁「しれいか――――ん!」


提督「どうしました?」


暁「おっきくなっちゃった!」


提督「なにが……?」


響「全部だよ」


雷「まだ整理がつかないわ……」


伊勢「暁、背が伸びたの?」


暁「伸びた」


暁「160センチで!」


山風「え、140センチくらい、だよね……?」


暁「む、胸はおっきくなって!」


提督「ええ……?」


秋月「暁さん、落ち着いてください」


明石君「暁さん寝ぼけてんの? 頭打ったの?」


暁「すごい美人になっちゃったの――――!」


伊勢「暁、どうしたの……?」


響「パニクっているだけさ」


雷「ちょっとサイズが近い白露さんから服を借りたんだけど、もう来るんじゃないかしら」


コツコツ


白露「あ、あのー……提督さーん」


電「司令官さん、寝て起きたら……」


電「電は大人になっていたのです――――!」


提督・伊勢・山風「」


秋月・照月「お、大人の電さん……!」


北方提督「うわ、すごい可愛い人がいる!」


明石君「うわ、ヤベエ、惚れそうだった……」


電「司令官さんならともかく、お前に好かれても嬉しくねーのです!」


明石君「兄さん、間違いねえ。本物だぞこれ……」


明石さん「どうするんです! どれから手をつけたら!」


提督「次から次へと」


提督「問題が」


提督「久しぶりに頭痛来た……!」ズキズキ


タタタ


神風「来ましたか、来ましたね!」


神風「乗り越えましょう。私がついております!」


提督「……よろしくお願いします」





卯月「ぴょんぴょんぴょ――――ん! 瑞鶴、龍驤、あれ大人の電だぴょん! つまり、司令官が過去に恋した電が見た目クリアしてきた!」


卯月「これはこじれる!」


卯月「電をその気にさせてくるぴょん!」


長月・菊月・弥生・阿武隈・由良「させない」ガシッ


わるさめ「面白そ! 後は任せろ!」


春風・旗風・大和・武蔵「地下に連行」ガシッ


わるさめ・卯月「離せコラ――――!」


ズルズル


武蔵「力強え……」


龍驤「頭痛いわ……」


瑞鶴「ああもう! どうなってんのよ! 戦争終わってもゆっくり落ち着く暇がないじゃん!」


戦後復興妖精「ですねー」


龍驤「お前がいうなや……」


戦後復興妖精「人のせいにするのダメだと思います」


龍驤「相当かき乱したやろ! お前が鹵獲されたとかさっき聞いてびっくりしたよ!」


瑞鶴「まあ、性格悪いけど悪人ではないんじゃないの? それより今は色々と出てきた問題に頭抱える……」


瑞鳳「これはハッピーなハプニングでは? 楽しみましょうよう」


龍驤「瑞鳳、常識人枠から外すで!」


瑞鳳「悪い方向に転ぶ話とは思えませんけど」


戦後復興妖精「瑞鳳が一番分かってるー」


瑞鳳「私もなにか協力できることないかなあ……」


【8ワ●:お疲れ様、それぞれの未来へ】


明石君「ええと、山風、ガングート、リシュリュー、長門、陸奥、武蔵、大和、山城、速水、明石さん、秋雲、大淀、阿武隈、由良、天城、陽炎ちゃん、黒潮(陽炎ちゃんサポ)、青葉、隼鷹、ポーラ、香取、鹿島、球磨、多摩、陽炎、不知火、北上、大井、秋津洲」


明石君「まあ、うちは好き勝手どうぞのスタンスだったんだが、お疲れ様ー。速吸さんと執務でお姉様方の今後のスケジュールもやっておいたんで、これだけ見といてな」


明石君「ほとんど速吸さんがやってくれたけど」


速吸「明石君、活字読むと寝ちゃうんですよね」


明石君「すみません……」


鹿島「今後の、というと軍としてなにか行事が?」


速吸「軍、対深海棲艦海軍以外との打ち上げです」


明石君「といっても大きなもんでもないので……」


明石君(お伝えしないでおくけど、なんというか……)


明石君(内容的にそれは建前で、陸軍人さん達の希望による合コンに近いような気がする。出会いは欲しいよなあ。この人ら綺麗だし)


速吸「私も向かうのですが、参加メンバーはよろしくお願いしますね。最後の海で支援してくれたお仲間の方達なので」


明石君「ああ、それとなんだっけ……」


明石君「旅行?」


速吸「それです。北方さんの方達や陽炎ちゃんも増えたので、班決めやり直そうとなりまして。慌ただしかったのでまだ旅行深いところの話も出来てませんし」


明石君「あー、それと青葉さんが旅費のほとんど出してくれるらしいんで、お得で豪勢な旅となってる。ほら青葉チャンネルで儲けた分、ここに還元しようとのことで」


青葉「青葉がくすねるには予想を越えて大きい金額でしたので、提督勢に預けてますー……」


明石君「詳しくは班の人達と決めてな。日にちは3日~1週間、国内だけど、先立つモノは気にせず宿に観光先、お好きなように決めてくれていいとさ。戦争終わっても色々と大変だったけど、これは鎮守府を離れるし、良い休暇になると思う」


明石君「他のところも解散してるし、ここもミーティング終わり解散、お疲れ様っしたー」


一同「お疲れ様ー」


明石君「あ、速吸さん、お手伝いしてもらった礼とねぎらいを込めて後で品を届けます。期待しといてくださいね」


速吸「ほう。楽しみです」



………………


………………


………………


鹿島「?」


明石君「あのー、この後少しいいですかね?」


鹿島「はい、構いませんよ」


香取(……あら?)


2


神風「はーい。ではくじ引きした番号のメンバーで旅行内容の会議してくださいねー」


提督「……ん、あれこの書類」


電「どれどれ? あ、膝上失礼するのです」ストン


提督「」


グラーフ「今の姿で膝の上に座らないほうが」


電「あー……しまった。いつもの癖なのです」


電「……重かったですか?」


提督「軽かったです」


電「ならよし、ともこの見た目では行きませんね」


提督「ええ、前が見えないので……」


サラトガ「これは鎮守府施設の?」


提督「です。ここ役所にしたいみたいで、その検討案ですね。前々から話はあったのですが」


提督「どうするか……」


長月&菊月「え、私達、ここからガッコ通おうかと」


提督「あ、ご心配なさらず」


ビスマルク「ここ国の土地でしょ?」


提督「一部は……」


ビスマルク「どういうこと?」


神風「無駄に広いですがもしや……」


電「正確には海に面した1/3程度が土地、建造物含めて政府の持ち物です。司令室のある棟と支援施設、工廠や入渠ドック」


ビスマルク「グラウンドとか寮とか娯楽施設は?」


電「2/3は私の個人資産なのです。鎮守府狭いので周りの土地買い占めて増設しました。軍資金で映画館とかは作れませんよ」


ビスマルク・神風「」


電「まあ、皆さんが巣立つまでは寮のほうはそのままにして住んでもらっても構わないのです。学生寮等々に移るお友達が全員という訳ではないので……」


菊月「感謝する……」


長月「それな。学校に寮はないし」


電「ま、とにかく心配は要らないのです」


神風「そうですね、司令補佐もこの施設で働くことになると思いますし」


サラトガ「リアリ?」


提督「ええ、新たに発足する際に拠点となるのがここです。場所的には都心が良いみたいなのですが、この鎮守府は特別みたいでして」


電「私はおいとまします。大きくなってしまったせいで、色々と買ってこなくてはならなくなりました……」


提督「ですよねー……」


島風「あ、私も行く! ジャージ破れちゃったから」


電「ふむ、では島風さん行きますか」


提督「何はとも無事に戦後復興妖精周りを解決出来ましたね。皆さん、お疲れ様でした」


提督「艤装はもうありませんし、各々、休暇を楽しんで頂ければと」


提督「そして、それぞれの未来にお向かいください」



【9ワ●:お買い物と、黄昏れる男の子】


島風「お待たせ!」


電「で、なぜ人が増えたのです……」


わるさめ「暇だからー」


白露「そうそう、平和だからだね!」


秋雲「画材買いに、と。その前にここらでデッサン会があってさ。途中までついてく」


秋雲「それより電ちゃん、どんな服買うの?」


電「ファッション詳しくないので適当なのです。というか島風さんジャージ以外の服、持ってたんですね」


島風「そりゃそうだよ。私はジャージでもいいんだけど、天津風ちゃんがそれで街をうろつくのは良くないって。天津風ちゃんに選んでもらった結果、全てズボンだけど」


わるさめ「スカートでも走り回るからよな」


一同「……」


わるさめ「元気一番姉も黙ってる……」


白露「いやー、周りを見てたんだよ。私達、学生やるじゃん? あそこの子達みたいに普通に友達作って部活とか勉強とか帰りに寄り道して家に帰って、きっと軍艦の話なんてしないよね」


白露「本当に終わったんだなって」


わるさめ「エンド&スタートだからね」


わるさめ「ちょっとそれっぽいことしようぜ!」


島風「夕日に向かって走る?」


わるさめ「ぜかまし。夕陽出てないし、暁の水平線という夕日に向かって走り終えたばっかだろ」


わるさめ「ああ、最近ツッコミに回ることも多々あるよ!」


電「まあ、同年代の普通はけっこう麻痺してますよね。でも、服のお買い物とかそれじゃないですか?」ニコ


白露「大きい電ちゃんのこのあふれでる木漏れ日のような優しさオーラ、半端ないね……」


秋雲「すげーモテそうだよねこの電ちゃん」


わるさめ「少し間宮さんと似てんね。間宮さんに似合う服、お前にも似合うんじゃね?」


電「あの人と私には特定の部分に決定的な違いが」


秋雲「そだね。胸なくしてもう少し全体的に細くなった感じよね。落ち着いた服が絵になると思うよー。今の春らしい色合いの服とかいい感じじゃないかな」


島風「おおう、似合う気がする」


2


長月「おう、ありがとうな!」


元帥「いつでも頼ってきていいからね! おじいちゃんいつでもウェルカムだからね!」


菊月「了解した」


青葉「では元帥さん、またー」


元帥「おう。お前は問題起こすんじゃねえぞー」


タタタ


白露「あ、いっちゃった」


わるさめ「携帯に連絡入れりゃ戻ってくんじゃね」


白露「いや、それは悪いから……」


秋雲「長月に菊月、それもらったの?」


長月「そうだな。勉強道具とかランドセルとか買ってもらった。一年も通わないから手提げとかで通うつもりだったんだが」


菊月「好意だしな。ありがたく受けとることにした」


青葉「元帥さん独り身で子供いないので、駆逐艦の世話が超好きなんですよ」


秋雲「あー……」


長月「さて、私達は失礼する」


菊月「じゃあまた鎮守府でな!」タタタ


わるさめ「青葉っち、二人ともどこ行くの?」


青葉「お二人はコブタ君達と遊びに行くみたいです。ドッジボールの大会優勝が今年の目標らしいですよ」


わるさめ「全身に土つけて帰ってきそうだなー」


白露「かわゆい」


青葉「ですねー……あの二人は心も若いです」


青葉「青葉はこれから地元振興会の方の取材に行くので失礼しますね!」


タタタ


青葉「あ、電さん! その姿、後で1枚撮らせてくださいね!」


電「騒がしいやつなのです」


島風「あ、ちょうど百貨店とか色々あるし、ここで買い物すれば」


白露「そうだね!」


3


電「……」バッバッバッ


島風「選ぶの速っ!」


電「このサイズの服選び面倒なのです。ズボンとシャツとカーディガン適当に組み合わせて着ていればいいのです」


わるさめ「値札も見ないとかブルジョワだなー」


わるさめ「わるさめちゃんも海域奪還してりゃ良かったわ」


白露「むふふ、それでいいのですかなー?」


電「なんなのです?」


白露「駆逐もしもシリーズご存知ないですか!」


電「あー……暁お姉ちゃんがよくいってましたね。私達成長止まるからもしも大きくなったらどんな風になるんだろう的な空想話なのです。センチメンタルの元ですね。私達の同級生とか30近いですし」


わるさめ「つーか今のぷらずま、大人の電なんだよー。どーせ元に戻るんだろうから楽しんだほうがいいゾ☆」


電「白露型は駆逐のくせに色々と大きすぎなのです……」


島風「身体の大きさ的に軽巡といわれても違和感ないよねー……」


わるさめ「ということで仕方ねえ、電で遊、こほん、電をコーデしてやろう。時間はたっぷりあるしねー」


白露「そうそう! 後ね、電ちゃんスマイルだよスマイル。しかめっ面したりぷらずまさんの雰囲気出すと怖いから……」


島風「おう! 私も選んでくるー!」


タタタ


白露「30分後に試着室の前で集合ね! 散!」


タタタ


わるさめ(うーん、電の雰囲気がつかみやす過ぎてコーデしやすい分、被りそうなんだよなー。ちょっと変化球にしますか)


タタタ


電「……店員さん、ちょっといいのです?」


店員「はい、何用でございますか?」


電「あそこの白髪のちびと元気で短い茶髪とイカれた白髪の女が私の服を選んでくれるのでそれは全部、買わせていただきたいのと」


店員「あ、島風さんと白露さんと春雨さんですね」


電「……有名ですね。そうなのです。それと」


電「店員さんにも私に似合う服を一式選んでもらいたいのですが……」


店員「はい承りました♪ お任せください!」


電「ありがとうなの、こほん、ございます」


店員「なにか希望はございますか?」


電「詳しくないので似合えばなんでも構いません」


店員「了解です」


電「お願いします」


電(ふう……これで全部ハズレでも安心なのです)



* わるさめコーデ


わるさめ「どう?」


白露「ズボンもシャツもパーカーも全身白づくめじゃん!? なんでこんなにホワイトを推してるの!?」


わるさめ「ぷらずまー、パーカーのフードかぶったら後ろ向いて座ってみて」


電「……」クルッ、ストン


わるさめ「この試着室の壁紙が花柄でした故のアイデアですね。そして大至急買ってきたこのレック激落ちシュシュを添えたらコーデ完成♪」


白露「なんで便器コーデなのかな!?」


電「おい待てテメー! これイナズマックスってことなのです!?」


店員「試着室の壁紙に合わせたコーデ、中々の発想力ですね……」


電「店員さんテメー褒めてんじゃねーのです!」


島風「……」


トゥルトゥル、プ,プ,プ


電「ぜかましテメーも仮装大賞の採点メロディ流してんじゃねーのですよ!?」



* 島風コーデ


島風「みなさん外着選びそうなので、私は部屋着にも出来そうなラフな服にしといたよ!」


白露「なる、スウェット」


わるさめ「そんなー! ぜかましは胸チラ的な服持ってくると期待してたのに! わるさめちゃんが露出高めなの持ってくれば良かった!」


電「もうテメーは黙ってて欲しいのです!」


島風「色が暗めで重そうだけど、黒ゆえ多少の汚れは目立たず、部屋着ゆえ機能性を重視! 薄目の生地にしたのはこれから暑くなる季節のためでーす。そしてスウェットでもジャージみたいなデザインだから、多少動き回っても大丈夫だと思いまっす!」


電「ありがたいのです……! わるさめさん、私はこういう普段着る服を買いに来たのです!」


わるさめ「イナックス馬鹿にしてんのか!」


電「違う、そうじゃないのです!」


店員「実際に着てみるとやはり暗めの色彩も似合いますね。落ち着いた感じに着こなせてます。口さえ開いて喋らなければ」


電「口さえ開いて喋らなければ!?」



* 白露&店員コーデ


白露「店員さんと被っちゃったから合同コーデだねー」


わるさめ・島風「おー……」


島風「雰囲気のドツボをついてきた感じ」


わるさめ「本命だよねー。被ると思って譲ってやったよ」


白露「ありがたいけど、だからといってイナズマックスはないよね!」


電「全くなのです……」


わるさめ「キャミワンピが似合うね。良い味出してる。そのアクセントのピンクのお花とかぷらずまも好きそうじゃん」


電「これは……サザンカのお花かな?」


店員「あら、詳しいですね。そうですよ。今年のオリンピックにちなんで入荷しました」


白露「電ちゃん、お花育てるの趣味みたいだからね! やっぱり好きなお花があったほうが嬉しいかなって!」


電「……なのです」


店員「こっちのキャミワンピは私の選んだものです。亜麻色で黒のボタンついているタイプなのですが、今、中に着ている白色のカットソーとも合いますし、可愛いと思います♪」


店員「服一式とのことでしたのでこのセレクトですが、お客様はシュシュなんかもお似合いになると思いますよ」


わるさめ「確かに。髪は伸ばしてシュシュで束ねて左肩の前に出しな。大人のお前はそのほうが絶対いいと思うぞー」


白露「そうだねー、可愛いと思うよ! 緑道の木漏れ日の下なんか歩くとすごい絵になる印象!」


電「ふむ、大体自分の印象はつかんだのです」


電「店員さんありがとうございました。お会計お願いします」


店員「はい、ただいま♪」


わるさめ「イナズマックスアイテムも個々に分けて他のと着合わせれば可愛いから安心するといいゾ☆」


電「分けて着合わせなきゃ便器だろーが! ああもう変なパワーワードを口走ってしまったのです!」


白露「さ、次は下着かな!」


島風「次は色気基準で選ぶから!」


電「暁お姉ちゃんの教育に悪いのはダメなのです!」


4


わるさめ「終わり終わりー。司令官にライン飛ばして意見聞いてから選ぼうと思ったのに既読つかなかったー……」


電「お前連れてきたのは失敗なのです」


わるさめ「あ、そうだよそうだ! みんな旅行に持ってくもん買ってかなくても大丈夫?」


電「あー、ないのです」


白露「あ、ちょっとあたしそこの家具屋さんでクッション見たい! 鎮守府から持ってくるの忘れて部屋が寂しいんだよね!」


島風「あ、私も小物入れをー」


わるさめ「なんだかんだで楽しめるもんだねえ」


電「そうですね……」


タタタ、ドンッ


鹿島「あ、すみません!」


わるさめ「お、鹿島っち?」


鹿島「!」


鹿島「ご、ごめんなさい。失礼しましゅう!」


タタタ


電「なんか変でしたね……あの顔、うぷぷぷ、とか笑ってた時と同じ欠陥鹿島さんの感じなのです」


わるさめ「あそこの喫茶店から出てきたよね」


コツコツ


電・わるさめ「……」


電「奥の席でテーブルと頬くっつけて死んでるの」


電「明石君なのです」


電「鹿島さんとお話していたのです?」コツコツ


わるさめ「おっとぷらずま、そっとしといてやろ?」


電「……まさか」


わるさめ「まー、鹿島っちのあの感じ、そしてあの明石君の感じ、その可能性あるからね。一人にしといてやろーぜ」


電「ですね……見なかったことに」


コツコツ


若葉・初霜「あ」


わるさめ「若葉君、うちのはっつんとデートか」


初霜「お隣は電さんですよね……?」


電「なのです」


初霜「び、びっくりしました。お綺麗ですね」


若葉「初霜、逃げるぞ」


タタタ


初霜「え、ええ?」


わるさめ「撤退しやがった……」


電「面倒だからですよ。良い判断なのです」



5 その1時間後


若葉「面倒そうなのと関わりたくないし」


初霜「別になにもされないですよ……わるさめさんも電さんも悪い人じゃないんですから」


若葉「いや、かったるい感じで弄られるだろ」


初霜「大体、ちょっと旅行用のカバン買いに来ただけですし、もしかしたら目的は同じかもですよ。そんな風に人と関わりたがらないと、友達出来ませんよ」


若葉「構わん。店で鉢合わせなかったのは幸運だ」


初霜「もう……」


コツコツ


若葉「ん? あれは」


初霜「翔鶴さん?」


若葉「まあ、ここらで目立つ髪色してたら艦兵士を疑うし、あれは私の目から見ても翔鶴だよ」


翔鶴「……」


若葉「難しい顔して考え事している風だ。私達に気づいていないな」


初霜「あ、折れていってしまいました」


コツコツ


若葉(……ん? 喫茶店のあの席にいるのは……)


若葉(明石君か?)


若葉「……、……」


若葉「初霜、行こう」


若葉(そっとしておくか)



6 その更に1時間後


白露「ごめん、ちょっとお手洗い行ってくるね!」


わるさめ「おー、ここにいるからねー」


白露(あー、ちょっとお手洗い遠いなあ)


コツコツ


白露「うん?」


タタタ


榛名「……」


白露「あ! 榛名さん!」


榛名「あ、白露さん……」


榛名「今はごめんなさい!」


白露「あ、行っちゃった……」


白露(悲しそうだったけど、なにが……)


白露「あれ、あそこの席で魂抜けてるの」


白露「明石君かな?」


白露(榛名さん、明石君といたのかな? 明石君のあの落ち込みように、榛名さんのあの申し訳なさそうかつ悲しそうな顔)


白露「……、……」


白露「(*゚パ)ハッ!」


コツコツ


秋雲「お、連絡入れる手間が省けたねえ」


白露「みんな旅行のためにカバンとか見てるよ!」


秋雲「そっかそっか。合流しようかな……ん?」


秋雲「あれ明石君じゃん?」


白露「そっとしといてあげて! さ、行くよ!」


秋雲「う、うーん……そうしますか」


秋雲(なーんかガチへこみっぽいし、鎮守府に帰ったら声かけてみようかね)



7 帰り道


わるさめ「なにもしないってー! 一緒に帰ろうぜ!」


若葉「くそ、捕まった」


初霜「別に大丈夫ですから」


島風「そだよー。わるさめちゃんは愉快な人だよ!」


若葉「知ってる」


秋雲「みんな旅行のもの買いに来てたみたいね」


秋雲「つーか今見ても電ちゃんが美人過ぎてびびるわ……」


電「皆も大人になればきっと綺麗になるのです」


白露「あ、3時のおやつ食べてこー!」


若葉「ここらで美味いどら焼きの出店を見つけたぞ」


わるさめ「おろ?」


初霜「若葉、食べ歩きが趣味みたいですでにこの辺りで美味しいお店にも詳しいみたいです」


電「ふむ、良いご趣味なのです」


島風「そういえば若葉ちゃん日曜日になると町に出かけて食べ物のお店よく行ってたよねー。テートクに連れていってもらったラーメン屋さんも若葉ちゃんから教えてもらったっていってたなー」


若葉「外食は自分へのご褒美だ」


若葉「あ、そこの公園の裏にある店だ」


初霜「あっ、あそこのベンチを見てください!」


初霜「明石君じゃないですか?」


電・白露・若葉・わるさめ「!」


白露・若葉・わるさめ「そっとしといてあげよう」


島風「おう?」


初霜「お三方は声そろえてどうしたんです?」


白露・若葉・わるさめ「へ?」


秋雲「ちょっと声かけてくるねー」



【10ワ●:赤く染まるレモンティー】



秋雲「明石君どしたの?」


明石君「そっとしといてくれ……」


明石君「今なんか頭おかしいんだわ……」


電「テメー明石君、説明するのです!」


タタタ、ドガッ!


明石君「グーパン痛いっすね!?」


電「鹿島さんとなにお話したのです? 吐かないともう一回グーパンなのです……!」


明石君「広めないでもらえますかね?」


電「約束するのです」


明石君「戦争終結してさ、職場恋愛禁止もなくなったし、戦後復興妖精のことも終わったし、俺もそろそろ腹くくるかってさ」


明石君「振られちゃったんだよ……」


電「非常に心苦しいのです……が」


若葉「翔鶴とは何の話を?」


明石君「戦争終結してさ、職場恋愛禁止もなくなったし、戦後復興妖精のことも終わったし、俺もそろそろ腹くくるかってさ」


明石君「振られちゃったんだよ……」


白露「は、榛名さんとは?」


明石君「戦争終結してさ、職場恋愛禁止もなくなったし、戦後復興妖精のことも終わったし、俺もそろそろ腹くくるかってさ」


明石君「振られちゃったんだよ……」


電・白露・若葉・初霜・わるさめ「」


秋雲「ある意味で尊敬するよ秋雲さんはw」





島風「あ、このどら焼きうまーい!」


島風「おっちゃん、これ皆の分、ええと10個!」


おっちゃん「毎度あり!」



2


電「お前、信じられないのです……!」


白露「明石君、それはあまりにもダメだよ!」


秋雲「その日のうちに3人に告白って」


わるさめ(まあ聞いた感じ、誰も泣いてはいないし)


わるさめ(鹿島っちは動揺したのかね。翔鶴さんは多分、告白された理由を考えていて、ハルハルはノーの返事をして申し訳ありませんって感じかな。うーん、これは敵を作ったかなー……)


明石君「鹿島さんに振られた時に翔鶴さんの顔が浮かんで、翔鶴さんに振られた時は榛名さんが愛しく思えたんだ……」


秋雲「やけくそか……」


明石君「今日は帰りが遅くなるって兄さんに伝えておいてくれ。もう無理そうだし潔くあの人達からは撤退するわ……」


若葉「撤退? 事態を把握していないな」














若葉「今すぐ亡命しろ。金剛と瑞鶴に屠られる前にだ」










3 その頃、鎮守府(闇)



金剛「ねえねえ榛名、どうしたノー?」


金剛「そんな悲しい顔してるの強盗さんに拐われて以来ネ。なにかあるなら力になるから教えて欲しいデース!」


榛名「あ、いえ、榛名は、大丈夫デース……」


霧島(これは……落ち込んでいますけど、若干、心ここにあらずですね。放置しておいても大丈夫な類な気がしないでもないですが)


比叡「霧島、これはお出かけしてからなにがありましたね」


霧島「あ、お出かけしてたんですか。ならそこに原因あるはずです」


金剛「……まあ、あまり深く探るのは止めておきましょう。榛名、私達は力になるからいつでも相談してくだサーイ!」


榛名「はい……ありがとうございます……」


金剛「比叡霧島、少し食堂でお茶をしに行きマショー」


4


瑞鶴「翔鶴姉が難しい顔したまま固まってる……あの顔はなにか思い詰めてる風だけど……なにがあったのやら」


卯月「くそ! 誰か助けてぴょん!」


瑞鶴「ん? 執務室から」


ガチャ


瑞鶴「いない……地下のほうからか」


コツコツ


瑞鶴「お前、拷問椅子にくくりつけられてどうしたの?」


卯月「司令官の女周りいじろーとしたら改めるまで軟禁とか姉妹と友にお仕置きされてるぴょん! もう反省したし、こんなおぞましい部屋から出せぴょん!」


瑞鶴「あー、わるさめは?」


卯月「あいつ脱出して遊びに行ったぴょん! うーちゃん助けずに!」


瑞鶴「そこに落ちてるロープ? わるさめのやつ縄脱けしたのか」


卯月「なんか『チューキちゃん達のところでよく監禁されていたから、その時に覚えたんだゾ☆』とかいってたぴょん!」


瑞鶴「悪いね。今、悩み事してたし、暇してるお前出すと、こじれそうな気がしないでもないからしばらくそのままでいて」


卯月「お前の悩みなんて翔鶴か司令官周りだろ! 助けないとうーちゃんが首突っ込むぞ!」


瑞鶴「まあ、翔鶴姉なんだけどさ、明石君のやつと用事が出来たって帰ってきてから深刻な顔をしてるのよね」


卯月「はあ? 翔鶴と明石君……?」


卯月「そんなの一つだぴょん!」


卯月「ぴょんぴょんぴょ――――ん!」


瑞鶴「……、……」


瑞鶴「え、まさか、明石君、勝負に出たの?」


瑞鶴「私は明石君がデリカシーに欠けた発言してそれを翔鶴姉が意味深にキャッチしたのかなって思ったけど」


卯月「む、それもあるな。翔鶴はどのくらいお出かけしてた?」


瑞鶴「出かけて二時間も経ってない内に帰ってきたかな」


瑞鶴「あ、そうか。デートにしては帰りが早いね」


卯月「その線濃厚だぴょん。色々と片付いて、これから時間が経てばそれぞれの道へ行って毎日会うのは難しくなってくるぴょん! だから今の辺りがタイミング的には上等だし!」


瑞鶴「助けてあげてもいいけど、ここ悪戯したらダメだよ」


卯月「うん? お前のことだからキレるかと思ったけど」


瑞鶴「別に。明石君のこと知らない訳じゃないし、欲望に素直だけど信頼できるやつじゃん。翔鶴姉が選んだなら私は心から応援しよう。まあ、ちょっと寂しい気もするけど……」


瑞鶴「でも翔鶴姉にいったのは意外だわ」


卯月「……、……」


卯月(いや、これなんかおかしいぞ……?)


卯月(確かに明石君のやつは翔鶴や榛名にも熱を向けていたけど、一番は鹿島だったように思える……過去に司令官に渡された密会任務で鹿島と出かけてから仲良くなってたし。それとも知らない間に翔鶴と急接近するなにかあったのか?)


卯月(翔鶴キチのこいつが意外といったし、それは知らない?)


瑞鶴「あれ、翔鶴姉と明石君がゴールインしたら」


瑞鶴「アッキーが私の妹になる!?」


卯月「まあ、そうなるな(日向ヴォイス」


瑞鶴「加えて照月ちゃんも! 最高じゃない!」


瑞鶴「ちょっと作戦会議しよう! 私、明石君と翔鶴姉との仲を取り持つよ! 翔鶴姉もあんな風に悩むってことは完全に脈がない訳ではなさそうだしね!」


5


卯月(うん? 食堂に金剛比叡霧島? あの集まりに榛名がいないのは珍しいぴょん)


鹿島「あうあうあ……」


香取「みっともない。いい加減に落ち着きなさい」


卯月(鹿島と香取……?)


翔鶴「……」


瑞鶴「急に呼び出してごめん。話があるんだ!」


翔鶴「え、あ、何でしょう?」


瑞鶴「明石君のこと嫌いかな?」


金剛・比叡・霧島・香取・鹿島「!」


卯月(……ん?)


卯月(あいつら……榛名……鹿島……)


卯月(いや、まさか……)


卯月(明石君まさか――――)


卯月(やべ、仮にだとしたら、これからかったらダメなやつだし。うーちゃんもフォローに回らなきゃ……)


香取・霧島「あー……」


卯月(あの二人はきっと同じ事を考えたぴょん……まー、明石君は同僚で唯一の男でしかも世話になる工作艦だから話題にはよくあがるやつではあるし、女周りわっかりやすいからなー)


翔鶴「いえ、むしろ真っ直ぐで好意的な印象ですよ? 最後の海で海の傷痕を解体した時も凛々しくて格好良かったですし」


霧島「あの、私はこれで……」ガタッ


卯月「テメー霧島待てし! ちょっと予想ついただろ!」


霧島「いやー……これは当人同士、鎮守府(闇)の皆さんが力を合わせて乗り越えるべき案件かと」


卯月「薄情だぴょん! うーちゃんかき回すのは得意だけど、うちでも肉弾派の金剛と瑞鶴をうーちゃん一人で止めるとか無理だし!」


香取「落ち着いてください。まだ予想ですから」


卯月「こういう時の嫌な予感に限って当たる」


ガタッ


金剛「ネー翔鶴、明石君となにかあったノー?」


翔鶴「あ、いえ、別になにもありませんよ」オドオド


霧島「翔鶴さん分かりやす過ぎです……」


比叡「……?」


金剛「まあまあレモンティーでも飲んでくだサーイ」


金剛「鹿島もこっちに来るネー」


瑞鶴「ちょっと金剛さん、今は翔鶴姉と明石君の仲を取り持つことで忙しいんだけども」


金剛「スミマセン。でも私も比叡霧島とその話をしてマシタ」


金剛「明石君が本当にその気なら私達からもフォローして、もう少し」


金剛「明石君を推してあげようってネ?」


金剛「榛名に」


金剛「奇遇ですネ?」


香取(あらあら……)


卯月「……」ガクブル


翔鶴(ああ、そういうことですか……おかしいとは思っていたんですよね。私が呼び出された場所に行った時、明石君は死んだような感じで、そのままお付き合い申し込まれましたし……)


翔鶴(しくじりましたね。あの場で聞いておくべきでしたか)


瑞鶴「……そこの鹿島さん」


鹿島「あうあうあ……」


比叡「あ、金剛お姉様! 思い出しましたよ! 確か帰ってきたのは鹿島さん、翔鶴さん、榛名の順でした!」


卯月「比叡、それは殺人教唆に等しい!」


比叡「?」


霧島「比叡お姉様に悪気はないんです……」


金剛「アッハッハ! 立て続けに3人に告白!」


瑞鶴「明石君面白いじゃん! 涙出てきたよ!」


瑞鶴「翔鶴姉が」


瑞鶴「『2番』ね」ギリッ


金剛「榛名が――――」


金剛「『3番』ですか」ギリッ


霧島(瑞鶴さんと金剛お姉様が噛み切った下唇から滴る血が、カップの中のレモンティーを赤く染めた……)


翔鶴(ああ、これどうしよう。私が止めても止まらないパターンです……! この二人を止められそうな提督さんはお出かけしていますし、電話にも出てくれません!)


翔鶴「あの、これは私達と明石君の問題なので!」


瑞鶴「そこは翔鶴姉達で話し合えば?」


瑞鶴「私が翔鶴姉ならキレるけどね」


金剛「私と瑞鶴は明石君を心配していマース。同じ鎮守府の仲間としてあの明石君の性根を叩き直さなければなりまセーン」


金剛「相手の心をダメに傷つける行為ですカラ」


香取「闇の男性陣はそれぞれが両極端ですね」


霧島「超草食と超肉食ですか……」


卯月「ほんとだぴょん! あいつらトランスタイプとして合体してその中間の心構えになればそれぞれ上手く行くだろうに!」


金剛「瑞鶴」


瑞鶴「はい金剛さん」


瑞鶴「鹵獲、してきますか」



金剛・瑞鶴「地の果てまで追う」



4


プルプル


島風「明石くーん、携帯鳴ってるよ?」


明石君「……」ボー


わるさめ「事態が事態なので失礼……」


電「瑞鶴さんから個人へのラインなのです」


電「画像ですか。明石君、自業自得といえどあなたは運に恵まれませんね。もうバレているのです」


秋雲「瑞鶴さんと金剛さん鉢巻を……」


白露「瑞鶴さんが着ている服、これって」








白露「『決戦ver』」




白露「なんですが……!」




電「滅殺との意思表示なのです」




初霜「明石さん秋月さんの武力介入もあり得るかと」




若葉「くそ、提督がこんな時に限って電話に出ない! うちの提督ならロシアとの橋渡しが可能だっていうのに!」




わるさめ「まさかの『E-4』だゾ☆」









島風「3人にごめんなさいして、1人に絞れば?」


秋雲「もう遅いねえ。この男はやっちまったのさ。あ、このどら焼き美味しいねえ」モグモグ


電「そうそう。翔鶴さんは瑞鶴さんにとって宝物、金剛さんにとっての榛名さんもそう。そして瑞鶴さん金剛さんにとって明石君はお友達なのです。そこの信頼をある意味、最悪な形で裏切ったのです」モグモグ


わるさめ「つっても謝るしかねえだろ。アッシーのそういうとこは周知なんだから、まあ、ずいずいも金剛さんも時間が経てば少し冷静になってくれるはず。ケジメは不可避だけど」 モグモグ


明石君「はあ、彼女欲しかったなー……」 モグモグ


明石君「テンプレ通りにレストラン、あわよくばと思ってホテルも予約しといたんだぜ。別に俺らの仲なら今さらよく知ってからー、とかも必要ないと思ってさあ」


秋雲「ほんと行動力だけはあるよね」


初霜「明石君も変わりましたよね……出会った頃は硬派だとかなんとか。もう跡形もないです」モグモグ


白露「姉妹艦はともかく、鹿島さん翔鶴さん榛名さんは誠意ある対応で謝れば許してくれる人達だと思う!」モグモグ


若葉「ちょっとは考えられるようになったか?」モグモグ


明石君「そうだな……まず瑞鶴さん金剛さんにその旨を説明しよう」


わるさめ「まー、とりあえず電話にしときな」



プルプル


若葉「ちょうど瑞鶴からかかってきたぞ……」


明石君「瑞鶴さんすか。俺も覚悟を決めました……」


瑞鶴《ほう。状況は把握してんのね》


瑞鶴《覚悟は決めたのね?》


明石君「瑞鶴さんが怒るの最もです。俺も暴走しちまった。この件の責任は取ります」


瑞鶴《聞いてやんよ。いってみ》


白露「良かった! 明石君、がんばって!」


明石君《3人とも幸せにしますんで》


わるさめ・秋雲「違うそうじゃないw」


瑞鶴《はあ……秋雲わるさめ、なに笑ってんだ?》


瑞鶴《お前らもターゲットな》


若葉「南無」


秋雲「ちょ、秋雲さんは関係ないよ!」


瑞鶴《その男の親友だろ? 一緒に沈もうや》


秋雲「勘弁してくださいよ!」


瑞鶴《じゃあ責任取って私達の代わりにそいつ○しといてよ》


秋雲「人殺しをしなきゃいけない責任ってなんです!?」


明石君「スミマセン、俺のビームマグナムの加減がきかないばっかりに」


白露・若葉「」


電「テメーもう黙れなのです!」ドガッ


初霜「仕方ないですね。ちょっと私に貸してください」


若葉「火の中に飛び込んで助ける気か」


初霜「瑞鶴さん! この件の解決法を冷静に考えてください! 明石君は今まで明石さんから散々、体罰教育を受けてきてこの様なんですよ! 今さら暴力で変わるとお思いですか!」


瑞鶴《思わん。だから○すっつってんだよ》


初霜「すみませんダメでした」


金剛《瑞鶴! 陽炎ちゃんが位置特定完了デース!》


陽炎ちゃん《金剛さんに脅されたら従うしかない》


島風「鬼ごっこだ!」


わるさめ「……はあ、仕方ないなあ」


わるさめ「みんな駆逐艦だしね! アッシー輸送護衛任務を行う!」


白露「どこに輸送するの?」


わるさめ「司令官のところだよ。司令官がいりゃずいずい金剛も即殺しないだろ。もうそれしかねえだろ」


初霜「あ、提督なら確かに!」


島風「任せろ!」


若葉「はあ、やっぱり面倒に巻き込まれた」


電「その作戦じゃダメなのです。司令官さんは神風さん明石さんとともに夕張さんのところへお仕事の話に行っているので邪魔をするわけには行きませんから」


わるさめ「つってもなー……」


初霜「そういうことなら私に作戦があります!」



【11ワ●:面接官お願いします!】


夕張「お久しぶり、明石さん! ここ数年は軍の現場のことで手一杯で中々お会いできませんでしたね!」


明石さん「お久しぶりです。そうですねえ、まさか明石、私の後継者、しかも男なうえ、中々見込みある子だったので、軍からもそちらを優先して欲しいと頼まれまして……」


夕張「そこから鎮守府(闇)の伝説ですもんね……」


明石さん「びっくりしました。あの研究部の下に作った私と夕張ちゃんの小さな会社がまさかこれほど大きくなるとは……妖精可視スコープも夕張ちゃんが作ったとか」


提督「……」


夕張「あれなんか准将、無愛想ですね……」


神風「そりゃ事前とはいえ不躾なことフランクでしたので。ああ、准将の右腕秘書官こと神風です、以後お見知りおきを」


提督「すみません。理由をお聞きさせて頂いても?」


夕張「応募者の面接官お願いします!」


提督「ですからその理由を……軍という目で見れば遠い親戚でもあると思うのですが」


夕張「あれ? 噂の見当力こと真実探求の力で?」


提督「見当つけても予測に過ぎないでしょ……答えあなたが持ってるんだから、そういう場面じゃないでしょ……」


夕張「知っての通り、研究部の妖精部門は解明されまして想力部門です。私達のところ主にロボティクスで取引先は陸海軍だったんですよ。無人軍隊とか、私の趣味で他にも手は出しましたが」


夕張「神風ちゃん、階段のぼりおり訓練の時に香取さんから時計持たされなかった? あれ私が作りました!」


神風「あ、確かにメロンマーク入ってました! あっぷるのパチもんかと思ってましたが、時間の進みが超正確で本当に助かりました!」


提督「それで話の続きを……」


夕張「まー、新たに発足する政府団体から想力分野に対しての研究、それと運用化を主に任される」


提督「へえ、それは……」


夕張「任されるといいな」


提督「願望かよ……」


夕張「話は進めておりますが、多分なんとかなると思います! 私も研究部に魂捧げて来たので前向きに検討してもらえてます!」


提督「まあ、そういうことなら」


提督「夕張さん、自分その政府の、想力運営機構の団体の重要ポストに推されてまして、元帥いわく通るとのことです。いや、通します。艦兵士のフォローが終わり次第その政府団体に籍を置きますので」


提督「自分から推薦しておきます。明石さんがいるのなら信用できますので。約束は出来ませんが、こちらは想力に関しては最も説得に根拠を持たせることが可能です。いうなれば」


提督「此方さんと同じく『前人未到の分野のアドバイザー』の肩書き。夕張さんも応募者の面接において想力周りの視点で外面接官担当して欲しいとの案件ですよね?」


夕張「おお……! 出来る男だ!」キラキラ


神風「でしょでしょ! 見た目に活力ないのがあれですが、司令補佐はカッコいいんですよ!」


提督「条件とはいいませんが」


夕張「あ、ごめんなさい。明石君と秋月さんの件ですね」


提督「そちらの人事部はあの二人を通さない気でいるのですか?」


夕張「それは選考結果次第ですね。政府の指示のもと業界全体のマニュアル作りから始める分野のため、熱意とヒューマンスキル重視です。色々な守秘義務も課せられるでしょうし」


提督「……口を挟むようで申し訳ないのですが」


夕張「いえいえ、なんでもどうぞ!」


提督「明石君と秋月さんはその分野において一般からは取れない人材ですよ。あの二人は鎮守府(闇)にいて最後の海も経験しており」


提督「なにより明石君」


提督「『工作艦兵士としての経験』は『想力エンジニアとしての実務経験』です。本当にその分野を先導して開拓するのなら、死ぬ気で取るべき人材ではないか、と不躾ながら進言いたしますが、どうお考えで」


夕張「確かにそうですけど」


夕張「妖精可視才スコープ作った今なら、それだけで他の全てをスルーするだけの価値があるかは分からない、です。色々な要素が必要ですから、それらを含めて明石君と秋月さんが他に応募してくれた人達よりも熱意がなければ、例えお二人が他に流れても、うちの不利益に繋がろうが業界としてはプラスに働くと考えておりますので」


夕張「考え方の違いかな。准将さんは保守的ですねー。ま、政府団体ならそれでいいけど、こっちは挑戦的な人材が欲しいんですよね!」


提督「了解しました」


提督「そういうことなら面接官、お受け致します。それと明石君と秋月さんの面接には関わらないようにします」


神風「え? むしろ関わったほうが通りやすくなるんじゃ」


提督「自分としても明石君と秋月さんと仕事のパイプは欲しいです。でも自分の都合に過ぎず、そちらの意図に添わないようなので。面接官担当するのは、面接に関しての情報収集、分析を行い、明石君秋月さんに教えるためです」


夕張「あっりがとう!」


明石さん「熱意、かあ……秋月ちゃんはクリアできそうだけど、弟子は微妙かな。提督さんへの恩を返そうとしている時の熱意は目を見張るもんがありましたけど、今はどうだろ……」


明石さん「あいつフリーターとか前の仕事に戻るとかも考えてるとかっていってやがりましたからね。待遇いいとこ蹴って奇妙なやつです」


提督「ま、本人次第ですね」


夕張「明石さんと神風さんもどうぞ! 面接に来た子、驚かせますよー!」


提督「え、現場に入らなきゃダメ……? 出来ればカメラで別室からー、とか無理ですかね?」


夕張「可能ですよ。では現場ではなくカメラでリラックスしながら見ていてください! 後ほど意見をお伺いに参りますので!」


タタタ


提督「適任そうな悪い島風さん連れて来たら良かった」


神風「あいつが真剣にやるとは思えません!」


提督「それは確かに……」


提督「人の人生左右する決断は気乗りしません」


明石さん「世界救った人がいう台詞ですかね……」


2 面接現場をカメラで見る。


コンコンコン


夕張「どうぞ!」


「失礼します」ペコリ


夕張「はい。席はそこに座って頂ければ」


明石さん「というか提督さん、面接マナーとか」


提督「軍学校の時と希望配属先に面接行った時かな……ビジネスマナーは覚えていますが、細かい面接マナーとかもう覚えてません」


明石さん「ですよねー」


提督「こういうのは神さんが輝きそう……彼はどうです?」


神風「うーん……私は一般企業に面接したことないですが、マナーは一通り覚えております。これからも秘書官としてのために覚えなきゃですね。作法自体は正しいと思うんですけど、動作がいちいち慣れてない感じですかね」


神風「ういういしいです」


提督「というか眠くなってきた……」


明石さん「がんばれー。休暇のはずなのに『E-2』辺りから激務で睡眠も満足に取れていないですもんね。明石さんは慣れっこですが」


神風「寝てくれても、私でもやれますし」


提督「お願いします。今、観察力が落ちてるので……」


明石さん「ところでなにか質問を?」


提督「『戦争終結についてお考えですか』ですねー……別に面接的な意図もなく、ただ世間の人から生の声をお聞きしたいな、とそれだけ。想力の観点からといわれてもね……」


明石さん「まあ、無茶振りでしたもんね……」


提督「後は神さんの感知能力による人物診断」


明石さん「神風ちゃんは神風ちゃんで超才能ありますもんね……」


神風「言葉や仕草、雰囲気をキャッチしてますよ」


神風「うーん、どの人も悪い人ではなさそうですが、夕張さん希望の選考基準に沿って選んでいくとなると……」


神風「つーか年齢幅広いですね。10代から40代まで」


神風「浮気しなさそうな人を選定します!」


明石さん「あ、この人……」


神風「なにか気になることでも?」


明石さん「プロフィール見せてもらっていいですか?」


神風「ええ、資料はこれです」


明石さん「……、……」


提督「どうしました?」


明石さん「いや、なにかの記事で見た顔だな、と思いまして。思い出しました。大学院の研究グループで電気関係の優秀論文賞を受賞した子だ。親御さんが防衛省にいて先日の聴取で会ってお話を聞いたんです」


明石さん「大手電力会社から幹部候補としてスカウトかかっていたとかなんとか自慢気にいわれたので」


提督「博士号持ちと? 要はエリートですね。志望動機は」


神風「長っ、論文みたいですよ! こういうのって要点まとめて五行前後にまとめるものじゃないですか?」


提督「さあ、ビジネス書では面接官はたくさんの人の経歴を見るから、分かりやすくとか出来る限り短く、とか書いてありましたが……」


明石さん「夕張ちゃんは長いのとか関係なく目を通しているようなので、とにかく熱意が感じられるのがいい、とのことですね。目を引けばそれで。採用人数、そんなに多くないようですし」


提督「すごいですね。今はもう4月の下旬ですよ。ということはその大企業の幹部スカウト蹴って面接に望んでるってことでは?」


明石さん「熱意がありそうですねー」


提督「……勉強になりますね。他の応募者より優先する価値があるとは思わない、ですか。確かに夕張さんのいう通りです」


明石さん「でも夕張さんが重視したいといったスキルがない印象ですね。緊張しいなのか噛みまくってますし、言葉の抑揚もところどころ変です。人付き合いが苦手なのでは」


明石さん「明石さんからしたら可愛い印象ですけどね!」


提督「そこは差し置いても話の内容自体は興味深いです」


提督「神さん、この方と前の方はどうです?」


神風「あ、私の感覚基準ならいい感じだと思います!」


提督「了解……夕張さん失礼。聞こえますか」


夕張《文字で失礼。なんでしょう》


提督「面接中に申し訳ありませんが、この方の印象は」


夕張《うーん、ちょっと緊張し過ぎてますね。人と関わることが苦手って感じが拭えません。好印象ではありません、ね》


提督「了解。この後に時間があるか聞いておいてください。後、出来ればこの方の前の面接者もお願いします。自分、その二人と外出たいんですが、構いませんか?」


夕張《構いませんよ!》


神風「ああ、もう。前の方もですか! ちょっと私、出ますね!」


3


提督「上ノ坊さん、古林さん、面接、お疲れ様でした。私、対深海棲艦海軍所属、青山開扉と申します」


上ノ坊「は、初めまして」


古林「お初にお目にかかります」


提督「初めまして。自分の隣にいるのは艦兵士の神風さんです」


神風「紹介に預かりました。対深海棲艦海軍所属の神風型一番艦の神風です。以後よろしくお願いします」


「あ、あなたがあの鎮守府の提督殿ですか……」


提督「ええ、ヤミとかいう変な名称の鎮守府の提督として着任しております。お二人ともこの後のご予定は大丈夫でしょうか?」


「「大丈夫です」」


提督「ありがとうございます。それでは」


神風「あ、この辺りで落ち着けそうな場所は古林さんを追いかけた時についでに見つけてあります!」


提督「どうも。ではそこに向かいますか」



【12ワ●:一般人の方と語る】


提督「すみませんね……自分、愛想がなく、別に堅くなる必要はありません」


古林「そう言われましても合否に関わりそうですし」


提督「ああ、そうか……面接の後に声かけられたらそう思われますよね。すみません、配慮が足りませんでした」


古林「とんでもない。光栄ですし、期待しています。私のような取り柄のない中年にも、希望持てそうです」


提督「申し上げますと別部屋から面接の様子を見ておりました。夕張さんから頼まれまして。なので合否にも影響します、とハッキリ申し上げますが、どうか堅くならずに。マナーとか必要なことは先の面接で審査されたはずで、腹を割った話がしたいのです」


提督「……といっても気にしてしまいますかね? すみません、自分、一般企業の面接をしたことなくてビジネスマナーは勉強中、知識のみの知ったかです」


古林「わざわざ外に連れ出して話をとのことなので意図を汲みたいのですが、気にしてしまいますね」


提督「そうですか。古林さんは転職とのことですよね」


古林「……勤めていた会社が倒産しましてね。これを好機と捉えて夢を追うことに致しました」


提督「夢、ですか。想力分野に?」


古林「エンジニアです。想力にも興味はもちろんありますが、まだ情報規制されています。本は競うように発行されているのですが、どれも眉唾のように思えます」


提督「そうですね……夕張さんも同じだと思います。研究部でもまだまだ謎が多い分野のはずです。もちろん自分にもです。ピンポイントで聞きたいです」


提督「想力の分野、どう開拓してゆきたいとお考えですか」


古林「なにやら死者の復活という話も聞きますし、個人で開拓というのは無理だと考えていますよ。自分、業界見てこれから先SF映画のような世界に近づくかも、と思ってたいた矢先、想力でしたので、サイエンスフィクションではなくファンタジーに転がり始めました」


古林「求められるのは人々の生活の利便性でしょうが、そういうの無視したプロジェクトに携わり、夢を開拓していきたいですね」


提督「利便性を無視したプロジェクトというと」


古林「実現できそうな具体的なモノはまだ。でも例えば子供達の目を引くような空想の実現です」


提督「あ、ガ◯ダムとか、夜空走る銀河鉄道列車とか?」


古林「ええ、そんなの今まで実現可能かどうかなんてネットでも話題にされますが、実際に作るとか馬鹿みたいじゃなかったですか。大きい人形ならありますけど。でも想力分野の開拓でそういった方面の夢も実現可能なのでは、と思いまして」


提督「なるほどー……」


提督(下手なこといえないけど、現海界システム使えば、量子化のような真似はできそうだし、ビームソードのつばぜり合いすら実現できそ。夜空に線路引くのも可能、かな)


提督(大量生産となると資源的な問題はあるけど、想力は創作短縮だから、コストパフォーマンスは科学路線よりも? ただ兵器だし……まあ、夢ですね)


古林「まあ、あくまでおっちゃんの夢ですが」


提督「そういう社会のこととか度外視した少年の心ってこの分野では大事だと思います。いや、妖精可視スコープは開発されております。妖精可視才はもう必要なくなったので、門戸自体は大きく開かれました。そういう純粋さが想力にとって重要かと」


古林「そうなんですか!」


提督「すみません、詳しいことはいえません」


古林「ですよね……」


神風「……」


上ノ坊「……」ビクビク


神風「なんでさっきから怯えているのです?」


上ノ坊「す、すみません。女性苦手で」


神風「司令補佐より露骨ね……」


提督「上ノ坊さんは興味おありですか?」


上ノ坊「対深海棲艦海軍の研究部に所属したかったのですが、書類選考で落ちました。妖精可視才の応募条件を満たしておらずなので当然なのですが、どうしてもその分野のお仕事したくて」


提督「院まで出て、大手のスカウト蹴ってまでですか」


上ノ坊「はい。親からはせっかく大学まで行かせたのにってすごく怒られましたけど。僕は夢を追うために関わりのあるお仕事ならなんでも」


上ノ坊「はは……この答えダメですよね。この会社じゃなくても良さそうだ……」


提督「腹を割ってくださってありがたい。そういう話をしたかった。なにかあればどうぞ」


上ノ坊「では遠慮なく。面接なんてそんなもんじゃないんですか? この会社の待遇良いし、やりたいこととかも出来そうだし、応募しよ、でしょう? 合格のために建前の理由ひねり出すことが重要なのも分かりますが……僕は本当にこの会社である必要はなくて、ただ想力分野に携わりたいだけなんです」


提督「想力業界に対する熱意だなんて必要ないと思います。そもそも基本的な知識すら確立されていない分野なので、お二人の場合は想力分野に携わりたいという気持ちが強く感じられました。それが素晴らしいと思いました」


提督「お二人は他の人よりも『具体的ではなくてもなにか』強い想いがあるとお見受けしました。自分が面接で見ていたのはそこですが、やはりあの場はかしこまった場ということもあり、お声をかけさせて頂きました」


神風(無、微、中、重、廃の判定か……)


神風(まあ、私も廃認定されたけど、軍のこととか度外視して司令補佐のこと考えていましたし……)


提督「以上です。急なことでお時間取らせて申し訳ありません。本日はありがとうございました」





提督「とのことで想力を扱う観点から自分からは古林さんと上ノ坊さんを推薦します」


夕張「あのー、こちらでも知識としてはあるのですが、お聞きしたいのです。やっぱり想力って誰でも扱えるモノではないんですよね?」


提督「ええ。精神面が大きく関わってきます。適性検査で艤装の適性が誰でも出る訳ではないでしょう? それと同じです。まあ、想力をどのような形にするかで全然違ってきますよ。妖精のようにするのなら、意志疎通力です。ベストな人材は乙中将になってきます」


提督「ヒューマンスキル面重視とのことですので、自分からは想力を扱う技術者として今回の面接者の中からは行けそうだな、と思ったお二人を推しました」


夕張「了解しました。参考にさせて頂きますね。本日は不躾なお願いを聞いてくださってありがとうございました!」


提督「いえ、こちらこそ。有意義な勉強になりました。では本日はこれで失礼致しますね」


夕張「あの、例の団体としての件ですが」


提督「覚えております。保証は出来ませんが」


夕張「なにからなにまで……ぜひお礼をさせて頂きたいのですが、日を改めたほうが良さそうですね。疲れている感じだ」


提督「ええ……明石さんはどうします」


明石さん「夕張ちゃんと話するので会社に留まります!」


提督「了解。それでは自分はホテルへ……」フラフラ


コツコツ


神風「あ、司令補佐、鎮守府の方からお電話です」


提督「……」フラフラ


神風(聞こえてない……私が出ますか)


神風「もしもし、今准将は意志疎通困難なので代わりの神風です」


島風《繋がった! 神風ちゃん! 島風でっす!》


神風「どうしたの。あなたが司令補佐にかけてくるだなんて」


島風《今、瑞鶴さんと金剛さんとリアル鬼ごっこしてる!》


神風「へえ、楽しそうね。それじゃ……」


島風《捕まったらただでは済まないんだよ! 明石君が怒らせちゃって! 闇の皆がいうには過去最高レベルのマジギレらしくて!》


神風「はあ、要は喧嘩の仲裁ですね。明石君なにしたんです?」


島風《鹿島さんに告白して振られて、その後すぐに翔鶴さんに告白して振られて、その後すぐに榛名さんに告白して振られたらしくて!》


神風「……」















神風「去勢でケジメ取らせろや」













島風《し、しまった! 話す相手を間違えた!》


神風「次はリシュリューさんとかサラトガさんに告りかねないわよ! 数打ちゃ当たるかバカヤロー!」


島風《准将に代わってよ! わるさめちゃん達輸送グループが准将のところ向かってるから、匿ってあげて! 翔鶴さん達がこの件の解決方法を話あって丸く収めてくれるからそれまで!》


神風「明石君を? 私がヤっていいの?」


島風《若葉ちゃん、神風ちゃんが瑞鶴さん達の味方するー!》


若葉《おい神風、これはお願いじゃないぞ》


若葉《身内の不祥事が明るみに出たら迷惑かかる》


神風「はあ……分かったわよ」


神風「ギャグで収まるよう切に祈るわ」


若葉《それと島風は作戦聞いてなかったみたいだが、そっちに行くのは金剛と瑞鶴だと思う》



【13ワ●:赤く染まるレモンティー 2】


初霜「きゃあああああ!」


若葉「その決戦のトップクでロードバイクか……」


瑞鶴「はっつんゲット!」


瑞鶴「あのヤローを匿う理由があると思えないけど?」


若葉「ある。鎮守府の奴等は誰も止めなかったのか?」


瑞鶴「卯月と霧島は子守唄歌って寝かしつけてやったわ」


瑞鶴「本当に会わせてよね。まずお話がしたいのよ。これマジだから。この服来たのは殺すためじゃなくて、この問題の根本的な解決への決意を示しているのよ」


瑞鶴「嘘ではないよ。誓ってもいい」


若葉「初霜どうだ? ここの判断は任せる」


初霜「……」ジーッ


瑞鶴「……」ニコ


初霜「瑞鶴さん、ストレートなあなたでしたが」










初霜「知恵をつけましたね……」



瑞鶴「バレちゃったか! 流血は不可避よ!」


若葉(荷物だけ鎮守府に輸送しないとなー……)



2


島風「若葉ちゃんと初霜ちゃんはデッドエンドだ!」


電「私達も危ないのです……」


金剛「どうして逃げるノー?」


金剛「明石君の居場所を知りたいだけネー」


電「英国淑女が裸足で逃げ出す金剛阿修羅のようなオーラまとってるのです。島風さん、逃げますよ!」


島風「おう!」


金剛「もう解体してるし、お二人には後遺症残さないようにしないとネ。面倒デース」



3


わるさめ「アッシー、お前さその3人のこと好きなんだろうけど、惚れてるとはまた違うんだろ? 下半身的な理由が強いんじゃろ?」


明石君「俺的にお綺麗な人達トップ3だな。故にお付き合いしたい。理由なんてこんなもんだろ。お前らはまさかラブコメ的にふっかいドラマないと恋人作れないの?」


わるさめ「問題は一人に絞らなかったこと。ここ日本、日本の常識で考えなよ。OK?」


わるさめ「滑り止めみたいに告白されたら気分悪いだろ。そういうところわかんないのなら司令官越えの欠陥だぞ」


明石君「そこは謝る。頭おかしくなっちまってたんだ」


明石君「それで、どこ向かってる?」


秋雲「初霜ちゃんの話、聞いてなかったのか……」


白露「准将はブラフで鎮守府だよー。瑞鶴さんと金剛さんには遠く行ってもらおう。その間にちゃっちゃと翔鶴さん達に謝って当人同士で解決したら、瑞鶴さん金剛さんも多少怒りは鎮まるはず。後は明石君がしっかりと反省の意を見せること!」


明石君「そっすね。白露さん助かります……」


白露「どういたしまして!」


秋雲「明石君に聞いてみたいことがあったのよね」


明石君「なんすか」


秋雲「あのさ……」





秋雲「白露型はそういう風には見られない?」


白露「」


明石君「なぜ白露型だよ。駆逐をそういう風に見たことはないかな。駆逐ってアッキーと同じく全員妹感が強くてさー」


明石君「まあ、みんな可愛いと思うぞ」


秋雲「お!」


明石君「駆逐だとアッキーが一番可愛いけど」


秋雲(ダメだこのシスコン……)


わるさめ(山風たんか。気づいてる人多いしな)


わるさめ(なるほどね、鹿島っち達がノーの答えした理由もなんかつかめて来た。多分、明石君とお付き合いしても良かったけど、恋してる訳ではないから、恋してる子を応援したいがため身を引いた感じか?)


わるさめ(分かるけど話せる理由ではないなー)


白露「?」


白露(なんか春雨が秋雲ちゃんの発言の意図を読み取った感じだ)


白露「……、……」


白露「(*゚パ)ハッ!」










白露「もしかしてあたしの妹で明石君を好きな人がいるの!?」


秋雲・わるさめ「ちょ」


白露「だれだれ! 夕立それとも時雨!? 山風……はないか。あ、 分かった江風かな! 江風は男勝りだし、明石君みたいな子と楽しそうにお喋りするもんね!」


白露「むふふ、そーですかそーですかー!」


白露「春雨! 帰ったら白露型姉妹会議するよ!」


わるさめ「お、おう……」


わるさめ(元気一番姉がピンポイントでぽんこつかましてら……更にこじれる気がしないでもない)



4 鎮守府(闇)



明石君「申し訳ありません……!」


明石君「この件は海より深く反省しております!」


雷「今回ばかりは反省しなきゃダメよ?」


わるさめ「なんで雷ママがいるんだ……」


雷「さっきまで利根筑摩さんに拉致されてたわ。私は今日は掃除当番だから途中で失礼して食堂に来たら、みなさん葬式みたいな空気だったから放置してはおけなかったのよ!」


わるさめ「なるほどね……」


雷「あーあ、男の人ってー、いーくつもー、愛を持っているのねー」


雷「そこら中にばらまいてー、私をー困らせるわー」


明石君「……なんだっけ。高木ブーでしたっけ」


雷「違うわよ!」


翔鶴「こほん、とにかくいずれにしても返事は変わりません」


榛名「ごめんなさい……お気持ちは本当に嬉しかったです」


明石君「いえ、謝らないでください。当然だと思います……」


香取「……ほら、鹿島」


鹿島「明石君、この事はもうお気になさらないでください。今まで通り、ですから。これから大事なことがありますよね。お父さんのことに夕張さんの会社のこと、今はそちらを優先して欲しいです」


明石君「そうですね……重ねて申し訳ありません。時期が時期でしたね。突っ走り過ぎました」


鹿島「では以上です。私達は金剛さんと瑞鶴さんを追うので」


鹿島「しばし失礼です!」


5


香取「……明石君、掘り返すようで悪いのですが、その好きの中で一人を挙げるなら、鹿島、で合ってますか?」


明石君「付き合いたいのは鹿島さんです……」


明石君「もちろん異性としての特別ですけど」


香取「……けど、鹿島に限定されない、ですね?」


明石君「はい。その結果が今の騒動でございます」


雷「男ってよく分からないわ……」


秋雲「確かに魅力的な人は多いけどねえ。秋雲達も普通に恋すること出てくると思うよ。建造の無機物影響もなくなったからさ」


雷「そうなのかしら……それより今は」


香取「結果はダメでしたが、あなたの好意は浅いと見られても仕方ありませんよ。本当に鹿島のこと考えていたのなら、今の騒動は起こりませんからね。言葉だけでなく態度で示さなきゃダメです」


香取「人に対して誠実に。プライベートだけではありません。生きていく上でその姿勢は必ず役に立つことです」


香取「今一度、考えてみてください」


明石君「……」


明石君「学生みたいに行かないかな……鹿島さん大人の女性で社会人経験あるし、なんというかこっちも準備したほうが」


明石君「喜んでもらえると思う……」


雷・秋雲「!」


香取「では具体的には」


明石君「俺の進路をハッキリさせて、俺の家庭問題で迷惑かけないよう、解決してからのほうが鹿島さんにも余計なこと考えさせなくても済むかな……」


雷「素晴らしいわ」


秋雲(さすが香取さん……明石君の目をこれからのことに向けさせて、ふしだらな性格にもメスを入れた……)


香取「振られた今、時間を置けば好きの度合いも想像出来てきます。その好きを、秋月さん明石さん准将などと比べて、明確な違いを見つけてください」


香取「その上で本当に好きだというのならば」


香取「もう一度だけ告白してみても構わないと思います。その際は私も力を貸しますよ?」


秋雲「まあ鹿島さんだから。明石君が振られても、他の良い男が明石君が出来なかったことやってくれるさ」


明石君「秋雲先輩キツいっす……」


明石君(恋、ねえ……)


明石君(ちょっとまだハッキリわかんねえかな)






山風「……」


江風「待ってるだけじゃ伝わんねえよ」


江風「そろそろ動くべきじゃねーの」


山風「……、……」


山風「あたしには無理、だよ」


江風「なーにいってンの。前にチューキにやられた時は『助けてアッシー』とか叫ンでたくせに。怖いの?」


山風「こわくなんか、ない」


江風「本気出せって。もう建造効果解けてる。山風の姉貴は本気出せばすごいンだからさ」


山風「夜まで待つ……」


江風「そかそか。江風は応援するよ。ま、益になりそうな情報わるさめのやつから聞き出してきてやら」


山風「後、姉貴は止めて……あたし、子供の頃友達いなくて、けっこう上の江風に遊んでもらってたやつだし、解体したら違和感が……」


江風「船じゃなくて人の時代の話か……」


江風「なー、アカデミーで明石君となンかあったの? 昔のお前から考えると提督以外の異性好きになるって信じられねえンだけど」


山風「別に……」


6


江風「あー、いたいた。間宮亭は今、天城さんと瑞鳳さん?」


江風「と瑞穂ちゃん?」


瑞鳳「ですねー。もともと間宮亭は天城さんと間宮さんで回していたらしいです。都合が合わない時は秘書官の瑞穂ちゃんで」


江風「へー、瑞穂ちゃん甘味作れたのか。そーいや、フレデリカの時にここ来たっけ。その時に飯作ってたっけな」


瑞穂「あんたも長いわよねえ……」


江風「別にそンなに長くねえよ。江風は電より少し後だぜ?」


天城「電さん15年ですもんね。江風さんはなにかつまみに?」


江風「そこの姉貴達に話があってさ」


白露「あ、江風! 連絡したけど出てくれなかったよね! 山風も!」


江風「悪ィ。よく携帯を携帯すンの忘れる。あれ、苦手なンだよね。なんか意味不に縛られてるみたいでさ」


時雨「よくふらっと遠く行くんだから持ちなよ」


江風「風来坊だからこそ持たないンだよ」


夕立「みんな心配するっぽい」


江風「ま、大将からもいわれてるし気をつけるよ」


わるさめ「まー、山風たんが付き合い悪いのはいつものことよ。話が話だから、絶対に来ないだろうしねー……」


江風「……それで白露の姉貴、何の話してンのさ」


白露「江風こそ、なにか話すことないかな?」


白露「力になるよ?」


江風「!」


江風「気づいてたか。白露の姉貴、御見逸れしたぜ」


白露「お姉ちゃんをなめてもらっては困るかな!」


わるさめ(絶対にアンジャッシュ展開だゾ☆)


時雨「……うん?(嗅覚作動」


夕立「ぽい!(嗅覚作動」


江風「明石君、告ったんだろ? 動かないとな」


江風「明石君の情報くれ。恋に勝つためだ」


白露「江風は明石君と同じでこの手のことでも真っ直ぐ、話も合いそうだし、仲もいいよね!」


江風「あ? そだなー、明石君とは仲悪くないな。秋月とも。だから、少しくらいなら深いことも聞きやすいかね」


夕立「あ! 夕立も秋月ちゃんから明石君の情報を聞いたことあるっぽい!」


江風「それも書き出そうぜ。ま、明石君分かりやすいからある程度は知ってるよな。時雨の姉貴そのペン貸して。後、そのルーズリーフ一枚くれよ」


時雨「どうぞー」


江風「ありがと」


カキカキカキカキカキ


江風「こンなところだろ」


《れっきょ・あかしくんのすきな女のとくちょう》


1 大と人


2 スタイルがいい(大きいむね)


3 女っぽい


4 いろけある


5 お上ひん


6 とし子


7 あたまいい


江風「こう見るとヤバいね。足りてない」


わるさめ・時雨(一番ヤバくて足りてないのは江風の学力だ……)


わるさめ(ギャグか!? 大と人ってなんだ!? 文学的意味合いがあるのか!? それとも哲学か!? 6のとし子に至っては誰だよ!)


時雨(もしかして三画以上の漢字が書けない……?)


江風「見ろよ、時雨の姉貴とわるさめのやつが難しい顔するほどだぜ」


白露「とし子って誰……?」


江風「あ、悪い。歳上の間違い。書き直す」


わるさめ「大と人はスルーか! というか江風、お前字が汚くて読みづらい!」


時雨「僕が書くよ」


江風「頼むわ」


夕立「夕立が聞いた明石君の趣味とか好きな食べ物とかそういうのも書いたほうがいいよね?」


江風「有益だな! 夕立の姉貴、お願いするぜ!」


夕立「っぽい!」


カキカキカキカキカキカキ


《列挙・明石君の好きなコトやモノ》


1 趣味は機械弄り(組立、解体、艤装の魔改造)


2 好物は中華系(麻婆豆腐、小籠包、餃子)


3 家族や仲間(特に秋月ちゃん、准将、明石さん)


4 座右の銘は万里一空(目標や目指しているものを見失わずに努力をし続けること)












わるさめ「なんか今までぽいぬ姉とかって夕立御姉様のこと馬鹿にしててごめん……」



江風「料理だろーけどさ、読めねえ」


夕立「まーぼーどうふ、しょうろんぽう、ぎょうざ」


江風「なる、知ってる知ってる」


わるさめ「おいコラ飯屋の一人娘! 親父が泣くぞ! 会ったことあるけどさ、良いお父さんなんだから悲しませんなよな!」


江風「そういえばなんかよく知らねえけど前に江風ン家に突撃してたな!」


時雨「江風、これから毎日勉強しよう」


江風「ああ? 江風は学生やらねーよ?」


白露「そういえば江風、進路は?」


江風「大将のところに誘われたからそっち行く。海外とかも希望すれば飛び回れるとかで江風にゃぴったりだ。だから必要ねーよ」


わるさめ「あるわ。このレベルじゃ甲大将が恥かく」


白露「江風は勉強ね! でも今回ばかりは恋のほうの優先をあたしは許そう!」


江風「今は猶予がなさそうなそっちだ」


白露「足りないものがたくさんあるね。頑張っていこう!」


江風「ああ。とりあえずクリア出来ていないのは『1の大人』と『5のお上品』、『6の歳上』と『7の頭良い』だな」


江風「大人じゃねえし、特別上品って訳でもねえし、歳はタメだし、頭は普通くらいだしなー」


白露「え……?」


江風「逆にクリア出来ているのは『2の巨乳』『3の女っぽい』『4の色気』だな」


白露「へ?」


江風「ンだよ、知らねーのか。脱ぐとすげえんだぞ。それになんか見て分かる通り女っぽいだろ。だから色気も自然とクリアだ」


白露「そんなにサイズあるかな……スマートな印象だけど」


白露「??」


江風「白露の姉貴の目は節穴か!」


白露「といわれましても……」


白露「龍驤さんとあまり変わらない……」


江風「はあああ!?」


時雨「……春雨、ちょっと」ヒソヒソ


わるさめ「なに?」


時雨「白露は江風だと思ってるけど、正解は山風?」ヒソヒソ


わるさめ「そうだけど、面白そうだからー」ヒソヒソ


時雨「話が進まないよ……いうからね」


わるさめ「ちぇー……」


時雨「ねえねえ山風のことだよね?」


江風「そうだけど。気づいてたンじゃないの?」


白露「江風が明石君に惚れているんじゃないの?」


江風「はあ!? ンな訳ねーだろ!」


白露「あー道理で……! 江風、色気とか上品とか程遠いし、スタイルは良いけど胸はないし頭は壊滅してるしおかしいと思った!」


江風「」


白露「となるとそうだなあ……うーん」


白露「時雨や夕立ならどうする?」


時雨・夕立「普通に付き合ってっていう」


江風「江風もだ。あいつはそんなこといえる性格じゃねーよ」


白露「あたしもかな……春雨は?」


わるさめ「わるさめちゃん恥ずかしがり屋さんだから、男の子に付き合って、とかそんな恥ずかしい台詞いえないよう……」


わるさめ「故に押し倒す」


白露「いい加減、真面目に話そうよ……」


わるさめ「まー、楽しいのは分かるけど今はまだ放置しとけばー。その勇気が出せない子に協力しても徒労に終わるだけ」


7 裏路地にて


金剛「タクシーに乗られたせいで電ちゃんには逃げられましたが、まあいいデース。それより島風ちゃん、ホント?」


島風「ほ、ほんとだよ! 話した通り!」


金剛「なるほどネー、テートクに匿ってもらおうと」


金剛「島風?」


島風「な、なんですか?」


金剛「ホント?」


バキバキ


島風「解体されてるのにパイプを握力で!?」


金剛「……」ニコ


島風「ほ、ほんとだってば――――!」


金剛「テートクのところに逃げても意味ないデース。テートクが庇おうがそんなの関係ないネー」


島風「お、怒りすぎだって! 明石君だってちょっと頭が変になってただけで今頃は反省してるはずだよ! そんなにキレること!?」


金剛「その辺のホストやらチャラ男が榛名をキープするために愛の告白しようが、ここまでは怒りませんし、対処も変わってきますケド」


金剛「明石君は鎮守府(闇)の」


金剛「仲間だから、ここまでキレてるネー……」


島風(やっばーい……想像以上にガチだこれ……)


金剛「もうすぐ瑞鶴がロードバイクでここに来ますから、それ乗って鎮守府に帰ってくだサーイ。テートクは遠い場所にいるので、私と瑞鶴はここからは車に乗って向かいマース」



【14ワ●:赤く染まるレモンティー 3】



神風「ご足労頂き恐縮ですが、ここは通しません」


瑞鶴「へえ、あんたが明石君を庇うとは意外ね。提督さんにそう指示されたってところだろうけど」


神風「あんな浮気ヤローを私が庇う理由はないわ。聞けば司令補佐は深海妖精発見した辺りから今までろくに休めてないみたいなのよね! 過労で倒れさせないためにも司令補佐の安穏は私が護ります」


神風「故にこの神風は退かぬぞ?」


金剛「相手が相手なので手加減は難しいネ。覚悟してくだサーイ!」



…………………


…………………


…………………


パタリ


瑞鶴「あぶねえ。私一人だったら負けてた……」


神風「」


金剛「疑似ロスト空間ではなく油断&艤装なしの陸上、二人がかりならば」


金剛「ただ神風、力が建造レベルネー……」


瑞鶴「そんなのどうせ提督さんが理由把握してら」


瑞鶴「さて本陣に乗り込み、敵大将を討ちますか」


2


コンコン


提督「ん、神さんは鍵持ってるし、誰……」ムクリ


瑞鶴「提督さーん。いるのは分かってるわよ」


金剛「オープンザドアしてくだサーイ!」


提督「瑞鶴さんと金剛さん?」


提督「……携帯に色んな人からすごい着信入ってる」


提督「なにかトラブルですか……」


ガチャ


提督「なぜ決戦verなんです……」


神風「」


提督(神さんがのされてるし……)


瑞鶴「アッシー? お話しよー?」


金剛「どこデース? テートクのことだから巧妙に隠しているかもしれませんが、その場合は致し方ありまセーン……」


提督「はい? 明石君がどうかしたのですか?」


金剛「白々しいデース……」


提督「いや、冷静に考えてくださいよ。あなた達が会うまで探す気なら捕まるでしょう。怒っているようなので、明石君と話すまで終わらないんでしょう?」


提督「……、……」


提督「翔鶴さんと榛名さんになにかしました?」


瑞鶴「え、マジで知らない?」


提督「マジでアンノウン案件」


神風「鹿島さん翔鶴さん榛名さんの順に告白したらしいです!」


提督「」


3


提督「鹿島さん達とお話して解決しましたか?」


金剛・瑞鶴「……」


提督「あまりにあれなので、矛を仕舞え、とはいいませんが、鹿島さん翔鶴さん榛名さんの意見を尊重して明石君を貫くのはまだ待ってあげてください。明石君も反省して改めた様子。今回の一件で明石君がその女癖の悪さを見直さなかったらヤキ入れる、でお願い出来ませんか」


瑞鶴「あまりにあれだからね……頭おかしくなってても普通しないわよ。あの兄妹はアッキーの過呼吸欠陥だけど、なんかアッシーのほうにも欠陥あると思うレベルよ」


金剛「自覚していないかもしれまセーン……」


提督「あの二人の事情は知ってますよね?」


提督「第1鉢巻き艦隊との演習の後の乙中将との取引で自分はあの場であの二人が軍に入った経緯を話したはずですし」


瑞鶴「DV親父から保護したとかなんとか聞いた」


提督「ここらについては明石さんのほうが深い話が出来ると思いますが……」


提督「明石君、自分を慕ってくれていますが、その理由は細かく分析していくと」


提督「『秋月さんを助けてくれたから』が根本です」


提督「家族、いや家庭ってのをすごい特別視してるんですよ。だから女性に対しては自分と逆パターンだと思って間違いないと思います。家庭、明石君は男です。行動的にも矛盾ないでしょう?」


提督「そして理性がない訳ではないです。彼がある程度の行為に踏み込む時は、ある程度仲が良くなってからでもありますよね?」


瑞鶴・金剛「……、……」


提督「鹿島さんや翔鶴さん榛名さんに恋してる訳ではなくて、家庭を築くことにご執心なんだと思います。そのお三方、うちでも特に優しい母になりそうな女性ですよね。自覚してなさそうですが、まあ、自分は彼のそういうところ、そんな風に解釈しております」


瑞鶴「神風はどう思う?」


神風「明石君も色々あったんだな、と」


神風「でも立て続けに三人に告白はクソ野郎です」


神風「お言葉ですが」















神風「うんこはどんな事情があろうともうんこですよ」




金剛「テートクの秘書として淑女となるべきあなたが下品ネ……」


神風「こほん、この場合は排泄物ですかね」


瑞鶴「そういえば、提督さんはおちびとわるさめの面倒見るっていってたけど、駆逐の進路は固まってるの?」


提督「あれ、そこらの話は皆でしないのですか?」


瑞鶴「うちの駆逐はほとんど、進学でしょ。おちびは6駆の皆と中学で、わるさめは白露型の皆と高校に行くか、就職か迷ってるって話。ただ二人とも実年齢は大人だけど、肉体のほうでリスタートだからさ」


金剛「トランスタイプの後遺症は知っての通り、残ったままで性格は多少は丸くなりましたが、テートクが仕事であちこち飛んで二人と過ごす時間が取れないといざという時、大変デース」


神風「わるさめさん、意外としっかりしてますし、別に司令補佐が1から10まで」


瑞鶴「そりゃそうだし私達もフォローするけど、提督さんが身元引受やるんだから、保護者面談とか行事とかたくさんあるでしょ。学年の間は色々と保護者としての役割があるけど、くそ忙しそうな新団体でそれらもこなせるとは思えないけどそこら辺りどうなのよって」


瑞鶴「提督さんにはお嫁さんいるんじゃないの? そういう理由だとあれだけどさ、やっぱり親は父と母で必要でしょ?」


提督「艦兵士であるゆえ、想力問題への理解は深めておいてくださいね。あなた達は一般人として生きていきますが」


提督「生涯」


提督「『世界を救った経歴』がついてきます」


金剛「……」


瑞鶴「といわれましてもよくわかんね」


提督「詳しく話をしておきます。出来れば駆逐の皆さんにもお伝えください。自分も今後、自分のことで忙しくなりますので」


神風「司令補佐、その説明も今後至るところですることになるかと」


提督「そうですね……」


4


提督「想いの力と書いて想力、つまり精神の力をイメージなされると思います。科学の領域からして精神の正体はいってしまえば脳の電気信号です。この認識がポプュラーですかね」


提督「古くから精神影響はサイエンス的にもオカルト的にも多大な影響がありましたが、自分達の戦争、通称『艦隊これくしょん(海の傷痕命名』でシステム的に精神が現実に及ぼす影響の管理が可能だと判明」


提督「そのために必須なのは海の傷痕の特異能力で『精神を質量化する力』です。これが深海妖精発見とともに明るみになり、海の傷痕当局の大本営襲撃で絵にかいた餅を食べる実演をしたことにより確定事項、世界大激震です」


提督「そして想力は今を生きる人間から搾取可能なエネルギーです。資材は人間、夢を叶えるというように我々の精神を現実に物質として質量化可能であり、絵にかいた餅であるため、人間に必要なモノ全てを人間で賄える可能性が出て来て、日本やアメリカで人気な話題は資源、ヨーロッパでは環境問題が特に活発かな」


提督「分かりやすく例えると、ファンタジー世界の魔力で水や炎、風とかを人間だけで産み出せる、ですね。もちろん魔法使いとしての腕も関わってきます」


提督「さて瑞鶴さん金剛さん、目を世界に向けてください。このようなエレメンタルな力で今後の社会情勢はどうなると思いますか?」


金剛「世界大革命ネー……犯罪規制も大幅に変わるし、今を生きることそのものが社会への恩恵に繋がり、人の命は今まで以上に大事にされて、罪への罰則も変化して、同時に子供の教育、捨て子、そのような問題も急増するカナー?」


神風「でもそれは一部のことで、そんな問題は星の数ほどありそう。様々な業界、潰しちゃいそうだし……そうなると、それこそまた戦争起きそうね」


提督「その通りです。創造はいつも破壊を伴うものです。面倒なのは思想問題、倫理問題が関わってくること。死者との意志疎通が可能ならば、霊能力者の能力すら数値化出来るでしょう。今までのオカルトは明確な用途になります」


提督「例えばイタコの降霊術。うさんくさいと思う人もいるでしょうが、イタコさんは相手を気遣い、その人が前に進むための文化的なカウンセラーとの認識が今まで以上に確立するとか」


提督「瑞鶴さんはなにかありますか?」


瑞鶴「『精神性が固有財産になる』とか。だってさ、おちびも提督さんも神風もか、廃とかの人って、良い人になってるもんね。それだけじゃなくて特定の分野から想力が抽出しやすい、想力が呼応しやすい。その分野に対して様々なことが可能になるじゃん?」


瑞鶴「あ、今を生きる人間がエネルギー源なんだから、提督さんはそのエネルギーを使っておちびを復活させた。重や廃は想力を活用できる技術者って感じになるの?」


提督「ですね……ブレはあるものの、自分の場合は重~廃のようです。此方さんと戦後復興妖精いわく、人間の性格だから、個々の精神性が重要なようですが、精神はぶれるけど、ある程度基盤が出来てからは底は決まるとのこと」


提督「ちなみに……最後の戦いに参加したほぼ全員が中~廃らしいです」


神風「ほぼ? 無課金とかいるんですか?」


提督「……漣さん1名(目そらし」


瑞鶴「本人から聞いたけど、漣は軍に来た動機からして戦争度外視していたし、おかしなやつだったわ」


提督「始まりの艤装の中でも漣適性はそういう人にしか出ないらしいので致し方ありませんよ。漣さんの良さはそういうところにある」


提督「……と思います、うん」


瑞鶴「まあ、あいつけっこう面白いしコミュ力高いし、深刻なこと深く考えないところに良さがあるよね(フォロー」


金剛「そういえば大本営で私達のこと、『人類代表』とかいってたみたいデスネ?」


提督「ですね。『艦隊これくしょん』という運営管理の中で、ただの人間だったあなた達はモデリングされて、その領域まで導かれました」


提督「故に育成可能、と思われるかもしれませんが」


提督「『戦争の体験によって育まれたため、社会的に推進は不可能』です。あなた達が歩んだ人生は唯一無二、『歴史上あなた達が経験した戦争は最初で最後』です。あの記憶を忘れない限り……いえ、一生忘れないし、強く心に刻み込んだはず。故にあなた達は量産は難しい。これからの世界にとって『ブランド素体』です」


提督「これを幸福か不幸とするかの判断は各々で」


提督「想力周りには様々な資格が必要になってくる予定です。知識を試す筆記試験から、適性検査のように適性での合否」


提督「研究部の活躍と政府の会議が此方さんの情報提供から、整合性を調査されており、思ったよりも話が進んでおりました。あなた達、艦兵士の中で想力解明と研究、運用化のため、一部の資格が交付されます。新政府組織に加入する者、ですが、艦兵士としての経歴はそこら有利ですかね。まあ、世界救った肩書きなんてどこでも映えますが」


提督「お二人とも大学生で次は社会に出ますよね。今、特別に無条件で交付されるゆえ、申請して損はありません。年を重ねるほど、倍率は凄まじくなることが予想されます」


提督「それぞれ感謝のお手紙とかも国境を越えてもらっていると思います。胸を張ってお喜びください。世界の人々は国境を越えて、自分達が思う以上に自分達を評価してくれております」


提督「すみません……限界です。ベッドで横になります……」ゴロン


瑞鶴「……でも、事が大きすぎて不安もあるよね」


金剛「イエス……」


提督「ご心配なく、戦後復興……」


提督「皆さんの戦い、勝ち取ったモノ、守り抜いたモノ、最初期から始まり今に繋がったモノ全て、人類の未来にとって」


提督「若輩者ながら良い方向に導いてゆきたいと」


金剛「テ――――トクウウウ!」


神風「ちょ」


神風「金剛さん! 司令補佐は見ての通り疲労困憊なんだから抱きつくの止めてあげてもらえませんか!」


金剛「やっぱりテートクはクールデース……!」


瑞鶴「まー、そこらは提督さん達に任せて私達はそれぞれ私達のことに専念すればいっか」


金剛「テ――――トク――――!」


神風「瑞鶴さん、司令補佐をぬいぐるみみたいにしてる金剛さんを引き剥がすの手伝ってくださいよ!」


提督「」


瑞鶴「なにがどうなって寝技からバックブリーカーとインディアンデスロックの複合立ち技を極められるに至るのか」










【15ワ●:戦後日常編 アッシー&アッキー】



人は豹変する。

俺の親父が変わったのは母さんが死んでからだ。ガードレールに突っ込んできた車と事故って死んだ。俺とアッキーは母親が奪われた時のその光景とそれからのことを一生、忘れない。


親父は俺と似たようなことを後悔していた。

歩くのが早い母さんの前を歩いていれば。俺らが歩くの遅いから、とそんなことを一生後悔することになった。


親父は大層に凹んで、しばらく仕事を休んだ。そして立ち直れずに会社を辞めることになった。お金はもらえたけど、俺とアッキーは通っていた高校を辞めて、家族で助け合うことにした。学生やりながらのバイトじゃ無理だった。この母さんとの思い出が詰まった家は守らなきゃならないから、社会人として働く決意をした。


だけど、親父は変わってしまった。

酒と遊びで貯金を潰してヒステリックを起こして、俺らにもたかるようになった。情けねえ、とは思わなかった。母さんが死んで悲しいけど、アッキーと父さんがいるから、とすぐに立ち直れた俺が薄情なのかもしれないと思っていたからだ。


日々、なにかが崩れていく。

守るべき家までなくなって引っ越した。


親父が帰ってくると、アッキーが押し入れに隠れるようになった。押し入れからは妹のすすり泣く声や苦しそうに途切れる呼吸が聞こえた。

俺はその押し入れを守る番人だ。

アッキーに暴力の矛先が向かないように、給料9割ぶん取られても、暴力を受けても、俺は生きてた。雨の日も風の日もだ。働いては殴られて、倒れては立ち上がり、お腹が鳴るから、物を漁りに出掛けたり。


腹の虫を鳴らしながら、住宅街の夜道を歩いて、一軒家の薄いカーテンの向こうの光を眺める。どこにでもありふれた幸せ、和気あいあいとした家族の団らんがそこにはあった。


昔々、俺ン家にもありました。

俺は幸か不幸か、諦めが悪かった。そして思ったよりも、楽観的だった。親父は今、心がイカれちまってるだけだ。いつの日かまたああいう風な家族の団らんが出来ると信じて、恨めしげに星を眺めてた。


堪えていた日々を過ごしてた頃、

誰かに相談すれば、誰もが逃げろと、助けを求めろ、というだろう。俺が抱えているもんはもう既に壊れちまったガラクタだってな。


そんな話をアカデミーでしたことがある。

きっかけはもう覚えてねえけど、


――――アッキーは、諦めてる。諦めてないのはアッシーだけだよ。でも、それはきっとアッキーも欲しいもの。


アッキーはリアリストなんだよな。見習いたいもんだ。あいつはまず自分のことをって前を見て元気よく歩く。俺は夜空の星に手を伸ばすロマンチストだ。だから周りから馬鹿だとかいわれんのかな。


――――きっと、そのガラクタ。


――――くすんだままでも、輝く、モノだよ。


なにが分かんだ。お前の親父さん立派じゃねえかよ。


って、俺はそういって泣きそうになった。

まさか女の子に泣かされる日が来るとは。


ああ、今まで色々なことがあったなー。

始まりは虐げられる日々から二千円を握り締めてアッキーと電車に乗って軍の適性施設に向かって、そこで兄さんと出会ったことだったか。3年近くも前のことだけど、なんだか不思議だ。ずいぶん昔の出来事のようにも、つい最近の出来事のようにも思える。


俺ら兄妹。


理由を見つけたら逃げ込むようにして、

海に飛び込んだ。


周りの女は俺より強いやつばっかりだけど、

絶対に誰も死なせねえ。


――――お前は世界で唯一、艤装で戦える男だ。その意味は大きすぎる。


そんな想いも男の提督から渡された。

そういう想いでなんとか、生きて帰ってきた。


二人そろって、世話になり過ぎた。

そして、これからもかな?

いずれにしろ、

礼くらいきちっとカッコよくいわなきゃ。



今までこんな俺を仲間と呼んでくれて、


ありがとうございました。


皆さんと出会えて本当に良かった。


お世話になりました。


俺ら兄妹は――――



たかだかこんな短い言葉でも、詰まっちまう。


なあ、アッキー。


初めてだよな。

俺らが離れ離れになるなんてさ。

どうやら俺らも大人になっちまったみたいだ。

残念ながらな。


これから会う時間も少なくなるだろうし、どんな困難が襲ってくるのか分からねえ。街にいた頃と同じく未来は不安だよ。




でもアッキーはあの押し入れに隠れてた頃と違って、楽しそうに笑ってるからさ、





















兄ちゃん、嬉しいのに涙が止まらねえよ。

















【16ワ●:My life is dead】


空は澄んでいて風がないな。放射冷却中の夜だった。明日はいつもより、気温が下がって寒くなりそうだ。ぼうっと工廠の出入り口の上に座って、満月を見上げながら、通り過ぎた冬の季節を思い起こした。


工廠にはまだ回収されていない廃棄予定の部品が大量にある。もう種自体は割れた艤装の不思議を改めて考えた。建造でリンクし、艤装という妖精と無言で意思疎通を交わして稼働する兵装は、外付けする身体といえる。


その中でも俺の興味を惹いたのは初春型の若葉艤装だった。適性者とリンクしても連結せずに、浮遊するサイコキネシスの身体だ。


思えばマスターハンドとかもそうだったし、想力の仕業なのは間違いないだろうが、なぜそのようなシステムにする必要があったのか。この海の魔法は素人目から見ても、未知の遺産の宝庫であり、知っても尽きない興味の源泉だった。


ガタン、と壁際に不意に乱雑に積んであった部品が崩れる。

そこから顔を出したのは粗末な一体のロボットのメインサーバー君だ。先のE-3の海戦で身体だけ戻ってきたから、工廠に保管しておいたのだった。


漫画に出てきそうな長方形の身体に正方形の鉄に穴が空いた普遍的な形態だ。このロボットはもともと明石の姉さんが家のガレージから暇潰しのために持ってきたロボットらしい。


スマホなんかなくてポケベルが流行っていた頃、SF小説の自立歩行する人間のようなロボットの製作を始めたとかで、その時の夢の残骸だ。姉さんいわく、製作のきっかけは一人っ子だったから弟が欲しかったとのこと。


そういえば大手のメーカーがすでに障害物を感知して歩行するロボットを製作したらしい。そういった技術は例えば自動車なんかにも応用されて、ハンドルを握らずとも法定速度を守り、一定の車間距離を開けて自動走行する車もアメリカが開発している。


こういう風に利便性が増しつつある時代だけど、脱サラして漁師とか陶芸師を目指す人も増えているとか。なんでも便利になって複雑に楽になっていく時代、そういった文化的な職人の技術に憧れる人が増えてもいく。なんだか都会の空で輝く星のようでロマンチックだ。


山風「ねえ、あの花火ってもう作れないの……?」


電気もつけていない工廠の暗闇の中からぬっと出てきた。


明石君「びっくりした! 山風さんいつからそこにいた!」


山風「一時間くらい前かな……」

俺が来る前から、ずっとここにいたようだ。


明石君「花火って特製照明弾か。妖精さんいないと無理だ」


山風「そう、残念……」


お決まりの無言が流れる。この子ってアッキーや姉さん、秋雲先輩がいるとよく喋るんだけど、俺と二人きりの時は口数少なくなるんだよな、でも、入学式の日の粗相を考えると、しゃべってくれるだけ偉大な進歩だと思う。お互いにな。


山風「勉強しなくて、いいの?」


明石君「机の上ってのが苦手でさ……」

面接の勉強だ。夕張だかバリメロンだか知らないが、そこの面接についての対策を兄さんと姉さんが鎮守府に送ってくれた。要点がまとめてあって分かりやすい。


明石君「けど、面接が明日って急過ぎるだろ」


なにか俺とアッキーは特別な形式でしたいとかいって、履歴書とか職務経歴書は持ってこなくていいとのことだった。


あの会社はもともと妖精可視才を利用して、どこの鎮守府にも所属しない独立した工廠のような場所で、研究部と直結していて様々な実験的なことが行われていたらしい。


明石の姉さんの軍刀開発から、艤装に通信設備搭載、現代科学の粋を海の戦争に融合させた実績がある。そのために様々な会社を通すらしいのだが、管理を一括してやっちまおう、とのことで創った自社工場持ちの会社でもある。夕張と明石の姉さんで全額ばばっと出したっていうんだから驚いたわ。まあ、確かに工作艦は手当てがすげえし、クソ忙しい超ブラック艤装だけども、もらえるもんはしっかりもらえていた。明石の姉さんなんか平均睡眠時間4時間で30年だからな。


山風「がんばって……」


明石君「おう。夜中から朝方までは今日より気温下がるだろうから、布団かぶって寝ろよ」


うん、と山風さんがいって小走りで抜けると、どこかから、


「まだなにもしていねえだろ!」


と誰かの声が聞こえてきた。あの声は江風とわるさめさんか。どうせ二人でくだらないケンカでもしているんだろう。


小走りで女性寮のほうへ行く山風さんがなにかスカートのポケットから落としていた。紙切れがアスファルトの上をカサカサと風で運ばれてくる。


俺の名前が書かれていた。戸籍名は久しぶりに文字で見たような気がする。俺宛てなら見てもいいのだろうけども、香取さんから指摘された誠実さを思い出した。一言断ろうと、大きな声を出して聞いてみたら、山風さんがピタっと止まって、ロボットのようにぎこりなく振り返る。


山風「あ、あ……う」


小動物のように震えてあうあうしている。この子見ていると昔のアッキー思い出すんだよなあ。アッキーの場合は状況が状況だったけど、この子の場合はきっともともとの性格なんだろう。山風の適性データ見た時に、山風の適性者が難儀な性格しているのはすぐに分かったからな。


山風「あ、明日!」急に大きな声を出した。「明日、面接が終わってから読んで!」


明石君「そうするわ。それまでやることあるし」


走って去っていく彼女の後ろ姿を見送ると、明日の面接対策で最も重要な『口の利き方』を練習するとした。敬語というよか礼儀自体が不得意だ。もっというと敬意を口の利き方で現すのが苦手だ。昔を思い出した。世話になった第一志望の会社はフランクな社長さんで、覚えて行けばいいよ。小倉君は元気が良くてよろしい! とその場で内定くれたっけか。


社長さんから、うちに戻って来る気はないか、という旨の連絡ももらっていた。


建物をバラしから、機械のバラシ、そこから姉さんや秋雲先輩の創作活動に触れて開発も好きになった。けど、あくまでもたまたま工作艦の適性が出て、幸運なことに俺に向いていて、それが兄さんへの恩返しになっただけなのかも。


俺のやりたいことってなんだよ。

アッキーが笑ってりゃそれで良いんだよな。


3


明石君「姉さん、面接の必勝法教えてくれ」


工廠の片付けをしている明石の姉さんに聞いてみるけど、「ですからマナーですね。夕張ちゃんは何してくるか分かんない」との答えだ。いや、マナーは分かったけど、会社のこととかさ、そういう知識いるだろ。1日じゃ無理だわ。


明石君「わたくし、口の利き方の練習をします」


謙譲語とか丁寧語とか知らねーや。です、ます。これを意識しとけばなんとかなるんじゃねえの、と俺は思う。姉さんに練習相手を頼んだところ、「喋ってるので適当に丁寧な言葉で喋りかけてくださいよ」といわれた。


明石さん「そういえば解体されちゃったせいか、体重が増えたんですよね。脚に肉がついた気がします」


明石君「『お悔やみ申し上げます。ダイエットするのはいかがでしょうか』ってところか。相手を気遣うと同時に解決法まで提示する。完璧じゃね?」


明石の姉さんは足元にいる猫を撫でている。たまーに工廠の周りに猫が来るんだよな。多摩さんから聞いたけどこの辺りに猫の集会所があるらしい。ちょっと太り気味の三毛猫は明石の姉さんの下腿をなめている。


明石さん「ザラザラな舌がくすぐったいですね。私をなにか食べ物だと思っているんでしょうかね?」


明石君「豚足ではないでしょうか」


三毛猫「にゃー……」ペロペロ


明石さん「私の汗、なにか味がするのかなー」


明石君「豚汁でしょう」


明石さん「さっきからケンカ売ってるんですかね!? もうお前は修理じゃなくて思考回路の基盤から作り直すべきです!」


明石君「どうやって作り直すのでしょうか。勉強不足ですね、今後精進致します」


明石さん「ああもう。弟子ならそうですね」


提督さんをイメージして受け答えしてみたらどうでしょう、との提案だった。なるほどね、喋り方を兄さんで例えてみると、イメージしやすくて分かりやすい。


明石さん「では、弟子の自己紹介を」


明石君「対深海棲艦日本海軍鎮守府(闇)所属、最終世代工作艦明石をしておりました小倉嵐士と申します」


明石君「……まではなんとか」


明石さん「やればできそうじゃないですか!? 弟子は提督さんと秋月ちゃんのこととなるとポテンシャル爆発しますね!?」


明石さん「その調子ですよ!」


明石君「そもそも兄さんを真似ても、俺らしさは出ないと思うし、必要あるんですかね」


明石さん「それは確かに。提督さんの悪いところもトレースしかけていてボロが出そう。大きな問題点として明石さんが弟子のアピールポイントだと思う元気さもなくなってますし……」


そりゃ兄さん意識しているからな。


くそ、1日じゃ間に合わねえよ。アッキーはこういうの元気よくスラスラいえるから大丈夫だろうけど、俺は口の利き方からもうダメ。志望動機とか自己PRとか夕張と姉さんの会社の業界の知識も、逆質問とか言うやつも用意出来ねえ。


そういな、俺って新卒じゃねえし、中途になるんだっけ。その場合どう対策しておけばいいんだろうか。


明石さん「私はよく弟子の話をしていましたのでどういう人間かは分かっているとは思いますけど、夕張ちゃんは生の弟子と喋ってらしさを確認したいんだと思いますよ。弟子らしさを出せばいいんです」


明石さん「ま、がんばりなされ。1日だなんて無茶なこと要求してきたの向こうなんですから、出来る限りがんばればいいだけですよ」


姉さんが去った後、珍しいことにガングートと響がやってきた。よく分からん談笑をしながら工廠へ歩いてきた。


響「やあ明石君、少しドライバーを借りたいんだ」


明石君「ああ、そこの机の上にセットで置いてあるから持ってけ。俺は今、忙しいんだ」


響「ああ、明日は会社の面接だったね。秋月さんも照月さんや山風さんとなにか自己紹介の練習をしていたよ」


ガングート「明日に会社の面接? なんだ、それで悩んだような顔をしているのか。礼儀の国だし、肩が懲りそうなこった」


明石君「俺には本当に高い壁だよ。ガングートさんは面接の経験ある?」


ガングート「あるぞ。普通の会社と軍に入る時だな」


明石君「マジですか! それは心強い!」


ガングート「ふむ、私で力になれることなら力になるぞ?」


響「私はないけど、なにか私で力になれることがあるのなら手伝おう」


明石君「助かります!」


望月「お、珍しい集まりだね。明石君、ちょっとパソコン弄るから工具を貸してくれ」


ガングート「相変わらず夜更かしが好きだねえ……ああ、そうだ。明石君が明日の面接で悩んでるんだってよ」


明石君「口の利き方からだな。自己紹介くらいは完璧に出来るように。まず内容から考えねえと……っていうか! かなり特殊な感じっぽくて対策がムズいんだよ!」


望月「明石君の自己紹介?」


望月は深呼吸すると、凛々しく顔を引き締めた。ニート臭いだらしない雰囲気がガラリと変わって、キャリアウーマンのようにビシッとした雰囲気をまとった。眼鏡を持ち上げる仕草には香取さんを感じる程だ。


望月「『対深海棲艦日本海軍鎮守府(闇)所属、最終世代工作艦明石をしておりました小倉嵐士と申します。鎮守府では工作艦として艤装のメンテナンス、装備の開発、廃棄、解体の工廠業務をこなしておりました。過去にオリジナル兵装の『海上艦艇修理施設』、『特製照明弾』、『改造アンカー弾』、『妖精と魔法使いのアトリエ』を製作し、工作艦としての裏方をこなしながら、主に仲間の命を守る技術に心血を注いで参りました。本日は貴重なお時間を割いて頂き、誠にありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します』」


明石君「すげえ! 完璧じゃねえか!」


望月「これコピペすればー……」


すぐにパンクして、気だるげな望月に戻る。


ガングート「意外だ……」


響「イメージが変わるね。深くは聞かないけど……」


望月「そういうのならまあ。でも実際に正社員の面接なんて受けたことないから未知の領域だよ。みんな軍人だけど、艦兵士の時は向こうから来てくれっていわれただろうし」


響「確かに……」


明石君「ああそうだ。俺らしさを出せっていわれているんだよ。姉さんが俺の話を夕張にしていたから、俺がどういう人間かは分かってるから、俺と喋ってらしさを確認したいって」


響「明石君らしさか……らしさ。そういえば、そんなアニメを見たな。弥生さんから勧められて」


望月「あー……多分、あたしが勧めたやつだ。弥生が暇だから面白いアニメ教えてっていってきたから適当に弥生が好きそうなの勧めた」


ガングート「そのアニメを観たらどうだ?」


響「インスピレーションが湧くかもしれない」


明石君「へえ、中々面白い発想だな」


俺らしさか。

俺らしさ、呪文のように唱えてみる。この工廠には俺の工作艦としての全てが詰まっているといってもいいから面接においても俺の武器になるだろう。ならば俺の武器で戦うのが、俺らしさじゃないか?


閃いた!


4


眠い。第一志望の就活面接の対策、1日しか用意する暇がなかったため、徹夜になっちまった。その甲斐あって志望動機とか、自己PRとか、魔改造のこと聞かれた時のためにちょっと資料も持ってきた。王道どころの想定質問は完璧に近い。もちろん口の利き方もな。


秋月「アッシー、参りますよ!」


面接場所は横須賀にある軍の研究施設、戦後復興妖精のメモリーで見たことのある場所だ。ここで戦後復興妖精は佐久間の論文を見て、想力工作補助施設の研究に触れていた。ビルの建物ではなくて、最新設備のそろった研究施設で面接ってのは初経験だ。ビジネススーツ着てネクタイも締めてあんまり中身の入っていないカバンを手に持って受付へと向かう。


秋月「すみません、本日10時30分からの採用面接に伺いました小倉秋乃と申します」


戸籍名を名乗るのも超久しぶりだわ。


明石君「……同じく採用面接に伺いました小倉嵐士と申します」


アッキーはもともと事務系で働いていたし、人間関係も上手いやつだけど、俺は友達いなかったしなあ。丁寧な言葉を使う自分にどうも調子が狂ってしまって仕方なかった。まさかの日時調整もこっちの都合無視されたせいで、一夜漬けの付け焼刃で望むことになっちまった。


でも対策はみんなで考えたから完璧だ。


受付嬢いわく、夕張から伝言を預かっていて俺だけ別の場所まで来てくれとのことだった。裏手の道路の向こうにあるビルのようだった。もっと前に俺に直接伝えろや。アッキーと互いに激を飛ばして別れて、俺は指示されたビルへと向かった。


建物の支柱のステンレスでもう一度、見た目を確認。スーツもシワなく、髪はビジネスカット、タイもばっちり。立派なビジネスマンだ。


横断歩道の人混みの向こうに夕張がいる。そして俺の視界の右側、重い荷物を背負ったおばあちゃんがいる。この場合はどうすればいいんだろう。おばあちゃんの荷物持ってから行ったほうがいいのかな。


俺らしさ、発動!


響《明石君から支援組に通信が入った。見ての通りだ》


ガングート《親切の国の民として荷物を持つのが正解だろう!》


望月《ガングートさん、それをいうなら礼儀の国でもあるから、ここは夕張に一声かけてから荷物を持ちに行くべきじゃないの》


ガングート《そうだな。明石君よく聞け。もう面接という戦いは始まっている。すでに君らしさが試されているんだ。明石君はどんな人物なのか。ありのままの君らしさを派手にアピールすべきだ》


響《明石君は感情的だ。そこは良いところだと思ってる。妹想いで、仲間想いゆえだからね。自分を信じていこう》


明石君「了解」


そう、工廠という俺の武器で通信システムを確立、コードレスイヤホンは右耳の穴の奥で見えないし、声が伝わるようこっそりシャツの襟の裏に特製のコードレスマイクを仕込んでいる。ビジネスバッグの中には端末があり、そこから情報を望月のパソコンへと送り、随時対処していく。細かな合図も決めてある。そんな発明で戦う俺らしさ。


夕張とあいさつをしてから事情を伝えると、一緒に来てくれた。おばあちゃんの荷物を俺が持って、夕張がおばあちゃんが転ばないように手を引いてあげていた。うん、これは中々のスタートではないだろうか。


人助けが終わると、会場のビルへと向かう。


その途中、夕張から2つ質問をされた。1つ目は兄さんと明石の姉さんの要望があり、面接内容を録画してもいいか、とのことだ。構わねえな。別に見られても減るもんじゃないし、映像くれたほうが今後アドバイスをもらいやすくなりそうだしな。


2つ目は最終面接の集団面接でもいいですか、とのことだ。想定内の事態だ。俺は快く承諾しておいた。俺はそういうので緊張しないからな。


一斉一代の面接が始まった。


5


俺以外に面接を受けている人は二人のようだ。一人は少し小太りの若者、もう一人は営業スマイルが綺麗な中年男性だ。


さあ、いよいよだ。


望月《いいか明石君、集団の場合、コミュニケーション力もかなり大事だと思うよ。他の人の話もしっかり聞いておいたほうがいいかも》


ガングート《真のコミュニケーション力とは相手を思いやる気持ちだと私は思う。それと明るく元気よく、を忘れるなよ》


響《ああ、蹴落とすのではなく、全員生還だ。みんなで勝利をつかみに行こう》


望月《あー、まあ、そのほうが支援っぽくて明石君らしいか……》


響《他の人のためにもそのような堅苦しい場を和ましてあげよう。面接官もその気配りを評価するはずだ》


夕張「では明石君から順番に自己紹介をお願いします」


明石君「はい!」


俺の名前を呼ぶと、隣の二人が固まった。まさか艦兵士の俺と一緒に面接を受けるとは思わなかったのだろう。動揺しているよな。響さんのいう通り、元気で明るく、そして場を和ます自己紹介をぶちこむか。

























「空前絶後のォォ!!!!超絶怒涛の!!!工廠を愛しッ!!妖精に愛された男ォオオ!!!開発、廃棄、建造、解体、すべての工作の産みの親ァ!!! そう我こそはアァ!!!工作艦!!明石ッ!!君ッ!!鎮守府(闇)所属ッ!!!イェェェエエエーーーーーイッ!!!アッキー!!ジャスティス!!!!!」
















上ノ坊・古林「」


望月《これ考えたの誰だよ……》


夕張「ふふっ」


夕張「すみません、ふふっ、その自己紹介をしようとした理由をお聞かせ願えます、ふっ、か。あ、上ノ坊さん、古林さん、これ決して私の仕込みとかじゃないので。絶対に笑ってはいけない面接24時ではないです、ふふっ」


明石君「元気で明るく、そして場を和ますためですね」


夕張「な、なるほど、うん」


ガングート《素晴らしい。衝撃的かつ独創的》


響《本番に強いね。明石君の全てが伝わる》


二人はこういってくれているけど、周りの空気的には失敗した感じはするな。


望月《はあ……それいえるとか相当な度胸だよ。もちろん悪い意味で》


望月《しゃあないな。引き受けたことだし………明石君、一か八かだ。です、ます、を意識して後は自分で考えてやればー……》


順番に行われる自己紹介を聞いていた。そういえばこれ最終面接なんだよな。今さら自己紹介って、前の面接は夕張がやらなかったのだろうか。


夕張「お先にいっておきますね。この面談では考えを取り繕わずに応答してください」


夕張「では、弊社における今後の想力分野についてですが、業界の動きとしては設立された新省の管理下のもと、既に想力運用化における企業との提携との規定に沿って動き始めているのですが」


夕張「明石君、将来的には想力のエンジニアとしてのビジョンはおありですか」


明石君「はい」


なんぞ。将来的なエンジニアのビジョンってなにそれ。


明石君「ええと」


想力業界が新省の管理下のもと、提携の規約が出来ているとかなんとか。俺は考える。待て待て。俺には機密で想力周りでも喋れねえことがあるから発言に制限がかかる。それを避けながら答えなきゃ、だ。


望月《こいつ、明石君が機密を漏らすの期待してるんじゃね》


油断できねえなおい。


明石君「今はまだ企業に、利用させたくない力ですので、活用というよりは用途を限定したいと思います」


俺は頭に浮かんだ台詞を、です、ます、を意識していうとした。


夕張「……なぜです? やはり危険な力、だからですか?」


明石君「はい。あれはもともと19世紀の歴史の海の母胎、海の傷痕の発生原因です。あれは恐らく利益団体が手にしたらまた歴史が繰り返されると思います。人々を幸せにする力とはまた違いますから」


夕張「いいたいことは分からないでもないですけどね……」


と、夕張はその俺の意見から、他の面接者に意見を求めた。


上ノ坊「はい、私は危険の度合いについては同意見です。しかし、御社では実際に想力を海の戦いにおいて、通信性能の伝達効率向上化、軍刀と融合させており、その結果、多大な成果の実績が確かにあります。倫理の面でおひとつ意見をいうならば、艤装という前例があるように私は電子と想力は融合可能だと考えておりますので、抑制しかねている電子世界の犯罪抑圧にも応用可能だと思いますね」


望月《すげえ。よく調べてるな。加えて利益に繋がる前向きな意見を述べたおまけつきだ》


夕張「なるほど……」


さては上ノ坊さん、超エリートだな。

この会社、ホットなだけあって集まってくる奴等も半端ないな。


夕張「古林さんはなにか安全管理について意見がありますか」


古林「そうですね……」


古林「上ノ坊さんの意見に同意ですが、付け加えるのなら現場の安全管理ですね。本日付けで対深海棲艦海軍のかの准将が、倫理機構課のポストに就任致しました。このポストは想力省において実質No.2のポストですね。一抹の不安はありますが、准将が提唱した規定を拝見致しましたが、市場には妖精の役割をトレースして配布する想力能力に制限をかけるので、問題点は強いてあげるのなら、まだマニュアルの弱い想力工作現場の安全管理面の徹底だと考えております」


日本語がわからなくなってきた。


夕張「確か予定では准将さんは想力運用課の専属アドバイザーでは……? もしかして先の一次面接の後に准将から聞いたのですか?」


古林「いいえ、前職の関係で個人的な交友をさせて頂いている財務省に勤務している方が想力省への異動希望者でして、今朝に連絡を頂きました。2週間程前にトラブルが発生して必要なポストの多くが空いてしまったそうです。人事のほうで大幅な異動がありまして、准将は倫理機構課のポストにご就任なされたようですね」


なんだよこのオッサン、兄さんの熱烈なファンかよ。この二人、俺すらも知らねえ情報知りすぎてる。民間の就活ヤバすぎだろ。


夕張「少し……失礼しますね!」


パソコンを叩いて数十秒後、夕張が「そのようですね。こちらの確認不足でした。申し訳ありません。古林さん、お詳しいですね。やっぱり前職が営業職だと交友関係広くなるんですかね」


なんだよこのオッサン、兄さんのファンかよ。


この二人は俺も知らねえ情報知りすぎてる。俺はど真ん中にいたし、想力省って鎮守府(闇)の本館に置かれる政府組織で、毎日のように出入りしているのに。民間の就活ヤバすぎだろ。


ダメだわ。もうこの二人に俺の分もがんばってください、と魂を託したくなってきた。この中で俺だけの武器ってなにかあるか。考えてみたところ、工作艦としての想力エンジニアの実務経験だろうけど、あれは適性さえあれば俺じゃなくても出来る。姉さんがいるようにな。


夕張「明石君、上ノ坊さんと古林さんの意見をどう思いますか?」


俺らしさを脳内の検品台にばらまいて、選別を始める。


残ったのはアッキーと親父と兄さんと姉さんだ。泣きそう。


想力ってなんだ。俺の頭の中の情報をかき集める。

願いの短冊による創作短縮の力、人間に可能であることに限定される。想力でやれないことは人間には出来ない逆説。


明石君「安全管理もそうですが、重要なのは道徳倫理です。今はまだ企業に、利用させたくない力だといったのは、利益を産んでなんぼ、といった会社があるからです。利益より優先しなければいけない事項があります」


夕張「それらは想力省から細かな規約がありますが」


明石君「決まり、じゃありません。過去に事例がありまして。お……わたくしは艦兵士の前に土木業をしておりまして、現場にはいくつかの会社が携わります。安全第1で夏場では熱中症に気を配ったのですが、一度、学生の方が熱中症を起こしてしまいまして……」


夕張「……はい」


明石君「安全第1を意識したのは、命が大事だから、という理由は建前でした。その学生は病院に運ばれて事なきを得ましたが」


明石君「安全第1を意識したのは、命が大事だから、という理由ではなく、評価が下がってイメージが悪くなるから、といった雰囲気があからさまでした。このような人達は想力に向かないと思うからでして、安全管理はもちろんですが、扱う人の精神性の補強が大事だと、わたくしは思います」


変わらなければいけない、と思う。先の大戦のように、俺らが歴史の中で繰り返す火花で燃やされた魂の海、ロスト空間の母胎によって海の傷痕は生まれたんだ。2度と産まれないように、想力で、じゃない。俺ら自身が変わらないと。お互いに理解しあい、その先に。その先からはよく分からん。


響《なんだ……私達の力を借りるまでもないじゃないか》


ガングート《うむ、さすがは日の丸男児だな!》


望月《あたしもその感じでいいと思うよー》


夕張「……なるほど、それは確かにそうですね」


夕張は苦笑いしている。なにかおかしなこといっただろうか。


夕張「さて、まだ意見がおありでしたら、挙手をお願いします」


上ノ坊さんから意見があるようだ。


夕張「上ノ坊さん、どうぞ」


上ノ坊「先にお詫び申し上げておきます。詰まるところ、絵に描いたような優しい、ですよね。ならばなぜ准将はそのポストに就任致したのでしょうか。私は准将のことをよく知っているわけではありません。しかし、彼は偉業とは別のところで、悪評をよく聞きます」


上ノ坊「……実際、公表された資料では合同演習時から『容赦と妥協がない』こと、『兵士の命を駒として動かしている』といった印象を受けました。私は准将のことをよく知っているわけではありませんが、明石君のいう精神性を持つ人格者とは違うイメージがありますね。無論、准将に対しては明石君の評価のほうが正確だと思いますが、政治に密に関係する以上、一国民としては強引な就任に不安を感じております」


響《気持ちは分かるよ。堪えてくれ》


ガングート《……そうだな。客観的な視線も必要だ》


そうなのか。世間じゃ兄さんって、そんな風に思われているのか。確かに俺が着任希望出した時も明石の姉さんから、良い噂を聞かないからって猛反対されたっけな。その後に卯月艤装のメンテナンスの予定を繰り上げて、兄さんの視察に赴いた。少し評価があがって帰って来た。


兄さんは確かに万人受けする人じゃないと思う。合う合わないはある。実際に武蔵さんなんかは仲直りしたが、合わねえって普通に本人前にしていってることあるしさ。瑞穂ちゃんなんて悪魔提督っていってるし、露骨だ。憎まれているわけではないけども。


明石君「……確かに、」


そこで俺は言葉に詰まった。

確かに、そうだ。世間からしたらそれが大多数の意見なのかもしれない。だけど、兄さんはアッキーや俺にとって恩人だ。出会ってから今までずっとだ。


俺はあの背中を追いかけてたんだ。


自観的な意見で客観的ではない。


でも俺にとってそんな人を、「確かに性格はあまり良くないとのことですが」などと、認めて言葉に出さなきゃならねえのかよ。大人になるって、社会に出るって、俺にはハードル高すぎる。


今の俺はどんな顔してる。

きっと、困ったように笑ってる。

ふざけんな。口が裂けてもいいたくねえよ。


上ノ坊「あ、明石君、す、すみませ、」


顔に出ていたか。申し訳ない。


古林「はい!」


と古林さんがにこやかに笑って挙手をした。


古林「今のはあくまで客観的な意見です。上ノ坊さんと私は実際にお会いしたんです。資料は客観的であくまで作戦内容や評価といった数字でしかない、と改めて痛感致しましたね」


マジかよ。


古林「真面目な方だと思いましたが、同時に、こちらを気遣う言葉を何度も仰っておりました。ですので、印象はガラリと変わりましたね。准将とのお話を終えた後、そういう話を上ノ坊さんとしていたんですよ」


上ノ坊「……はい、お噂よりも遥かにお優しい方でしたね」


夕張「……了解」夕張はにこやかに笑っていった。「上ノ坊さん、古林さん、他になにもなければ面接は終わりにさせて頂きます。なにか後になって質問等があれば、先日、お渡しした名刺の番号にご連絡ください。それと、受付に書類を用意してもらっておりますので、帰りにはそれをお受け取りくださいね」


夕張「明石君はお残りください」


夕張は合否うんぬんのことをいって、上ノ坊さんと古林さんをエレベーターまで見送りにいった。俺は誰もいないので、背もたれに深く腰を預けて、はあ、と深いため息をついた。


夕張が戻ってくると、俺の隣の席に腰を下ろした。


夕張「バリメロンさん、ちょっと変態でしてね。なにか細工してますよね。そういうの分かりますよ。別にどうでもいいですけど」


明石君「俺らしさ、ということで、通信装置製作して望みました」


夕張「1日という私からの無茶な要求に解決策見つけてきたのは素晴らしいですね。それとまだ面接中なのをお忘れなく、とあえて明石君にはいっておきます」


夕張「あのお二人は最後に弊社の実技試験をしてもらいます。結果は相当あれな内容でなければ、採用するつもりです」


夕張は先ほどまで営業スマイルを浮かべていたらしい。今の笑顔は、姉さんが新手の魔改造でも閃いた時の顔と似ていて、呼吸が荒く欲情してるんじゃないかと思うほど変態的だ。


夕張「明石さんから聞いていた通りです。明石さんと准将はお呼びしていない理由はありまして、この場でちょっとした実験に付き合ってもらいたいんですよ」楽しそうに笑った。「あ、協力してくれたらこの場で内定確定だよ」


俺と同類の臭いを感じた。こいつもけっこう礼儀知らずなんじゃねえの。俺と違って愛嬌あるし、フレンドリーというのかね。


明石君「なんですか?」


夕張「12時間、秋月さんと接触なしで過ごして頂けますか?」


アッキーの欠陥を把握している。


夕張「秋月さんからの了承はもらっております。元気で明るく、そして他人を心から大切に出来る優しい人柄でした。事務スキルもありましたし、適性テストも合格ですが、ただそこ一点のみ、強く配慮していく点がありまして、本人いわく『治します!』とのことで」


アッキーは今頃、冷汗かいているだろうな。


明石君「協力しません」


狂っていやがる。どこの面接官が、パニック障害持ちとのことなので、実際にパニック起こしてもらいます、だなんていうのか。社会人というよか人間としての常識を疑うレベルだ。カチン、と頭に来たので口調を強くする。


明石君「今すぐに止めてもらえます?」


夕張「以前は山風さんとか秋雲さん、明石のお姉さんに協力してもらうことがあったとお聞きしました。ダメなようならばすぐさま直接的、電話を通して間接的にも接触してもらって構いません。医療スタッフも現場に待機させております。海の傷痕から『秋月さんのみ重課金』に指定された理由もここについての背景が大きいんだと思います」


ああ、もう無理だ。こいつ、俺の一番嫌いなタイプの人間だった。


明石君「秋雲先輩も山風さん明石の姉さんは信頼できる人達だから任せることも出来たんだよ。あんたとは初対面で医者でもねえだろうが。研究部だのなんだのといっても、俺の提督は兄さんだぞ。あんたより余程信頼できるし、想力についても詳しく、アッキーへの理解も深い」俺はいう。「ハッキリいう。俺はアッキーが世界で一番、大事だ。仕事だの内定と引き換えにしたり、御社に貢献するために家族をないがしろにすることを仕方ないと割り切れるような大人じゃねえんだよ」


夕張「了解。ではすぐに中断するね」


明石君「……すみません、言葉が荒れました」


夕張「いえ。そして准将についてぜひお話したいです」


明石君「にい……准将ですか。前もって断っておきますが、軍関係者といえど、所属鎮守府にはまだ口外禁止事項もいくつかあります」


夕張「把握してるから大丈夫。准将とは前にお話して、素晴らしい方だと分かったんだけど、彼はあくまで想力周りにおいて私達より情報を持っているという点が大きい。近い内にその情報全てが共有された時、准将の人材的価値は薄まると思うのよね。そして近々、想力の政府組織、まあ対深海棲艦海軍の解体と再構築で独立した新省が設立されてポストに指定されているわけだけど、賛成の声も大きいけど、反対の意見もあるのよね」


明石君「……どういう意見ですか?」


夕張「大卒じゃないから♪」


明石君「冗談ですよね?」


夕張「ふむ、そう思う理由は?」


明石君「そこらの一流大学出身者とか専門家で固まったあなた達研究部の妖精部門なら把握していると思います。兄さんが大学を出たら、その人らは賛成するんですかね。想力問題は早急に対処していかない問題で、適材な人物だと思うからですよ」


明石君「想力の資格周りもまだ細かく決まってないはずですし、必要なら取ればいいだけですよね」


夕張「了解です。では面接終わりです。結果はすぐにご連絡しますので、お気をつけてお帰りくださいね♪」


と夕張さんはにこりと微笑んだ。


夕張「明石君、君は准将について勘違いしていると思うよ。あの人、学力自体は低いです。君と同じようなものだ。特定の分野に関して天才的なだけだと思ってる」


話にならねえな。兄さんなら勉強さえすりゃ、一流大学の試験だって合格するだろうし、面接だって適切な対処ができるはずだ。この夕張とかいうやつマジで馬が合わねえわ。人体実験しようとするし、俺の尊敬する人を小馬鹿にするし、最悪だ。例えそこにどんな意図があったとしてもこういう非常識な面接してくるやつの下で働きたいとは思わなかった。まあ、俺も常識を語れるやつではないけど。


外でアッキーが待っていた。


秋月「ど、どうして実験への協力を断ったんですか!」


明石君「初対面のやつから内定のためにっていう脅しが気に喰わねえから。待遇は最高級だったけども、夕張はダメだ。俺とは馬が合わん」


秋月「違いますよ。なぜ発言の意図を読んで受け答えできないのか!」


明石君「ああ?」


秋月「頭ごなしに否定するのではなく、柔軟に対応するべきでしたよ。私だって嫌なイメージを受けましたけど、お仕事に関わることだから私は、秋雲さん、山風さん、明石のお姉さんの協力の取り付けをお願いしたところ、了解してくれましたし!」


なるほど、こっちから改善案を提示すればよかったのか。思えば俺がアッキー周りのことに敏感なのも、アッキーの過呼吸のことも知っていたから、対応力を試されていたのかもしれない。


合否の連絡は本当にすぐに来た。携帯にな。

アッキーは内定、俺は見送り。


秋月「ごめん……私の問題のせいで」


明石君「心の傷は仕方ねえよ。治そうとも努力しているアッキーを責められるもんか」


秋月「わ、私、アッシーがダメならお断りします!」


アッキーはそんなことをいう。

俺ら兄妹、いつもこんな感じだったな。軍に来た時もどちらかが行けないのなら、二人とも行かないと決めていた。本当に俺らはこんな風でいいのだろうか、と俺は考える。ダメだろ、とすぐに答えは出た。思えば推薦してくれた明石の姉さんや兄さんにも、恥かかせちまった。


明石君「アッキー、先に鎮守府に帰ってくれ。俺は用事が出来た」


秋月「ええ、新幹線のキャンセル料がもったいない!」


明石君「とにかく、先に帰れ。ちょっと一人にしてくれってこった」


秋月「……分かりました」


研究部と直結しているために会社自体はすぐ近くに見える。会社の名前はバリメロン。あの女の頭を疑うよ。


3


響《力及ばず申し訳ない……》


望月《そうだな……あたしもけっこういい感じだとおもったんだけど》


ガングート《まあ、とりあえず美味い飯でも食っとけ》


明石君《あー、お三方ともありがとうございました。別にへこんではいないんで大丈夫ですよ。それじゃ》


さっきのお二人が、なにやら会社の隣のコンビニの表のベンチでバリメロンの話をしていたので、通信を切って、声をかけてみた。上ノ坊さんから先ほどの面接のことを謝られた。多分、相当怒った顔しちゃってたんだろうな。俺も謝っておいた。


お二人は実技試験についての談義を交わしていて、その内容は、


明石君「企画案の提出?」


ジャンルは問わないので、想力をエネルギーとした企画書を一週間で作ってとか。想力を使った商品でも良い訳だ。発想に縛りが薄い分、個性を大きく出せるし、作りやすいんじゃないのか。そう思ったのだが、想力というモノの確定情報が世間にはまだ浸透していない部分も大きく、まず想力って具体的にどんな理屈で、どんなことが出来るのか、と悩んでいたらしい。


上ノ坊「……古林さん、准将と別れた後、あのような話はしておりませんでしたよね。フォローありがとうございました」


古林「お気になさらず。おじさん、ああいうの慣れてるから。結果主義の営業部にいたせいで、身内がギスギスしててさ、敏感なんだよね」


古林「しかし、艦兵士、しかも准将の鎮守府所属の艦兵士と面接するとは驚いたよ……見た時に分かったけど、似ているだけかと」


軍内部で世間と触れる機会もそんなになかったけど、やっぱり俺の存在自体は有名のようだ。上ノ坊さんはまるで救世主を発見したかのように、安心した風だ。現在進行形の悩みごとを解決する当てにされているのだろうが、


古林「不躾ですが」


明石君「喋れないよ」そういうと、二人は落胆するような顔をする。「ところでなぜこの会社を志望したんです。正直明石の姉さんも変態的なところあるけど、あれは好きの延長戦上だからな。夕張のほうは好きになれねえや」


上ノ坊「確かに個性的な人だよ……」


なるほど、二人の表情からしてあまり好む性格ではないのだろう。そういう時は個性的、とでも表現しておけばいいのか。勉強になるわ。


上ノ坊「正直、僕は想力周りの仕事ならなんでも」


古林「俺も。ぶっちゃけ会社なくなってのんびりしていたら、嫁から仕事決まるまで帰ってくるなって締め出されたんだよ。この機会にやりたいこと探したら、想力に興味湧いた。この仕事が将来性抜群で娘にも自慢できそうだってのも大きいわ」


古林さんの理由には笑っちまった。まあ、でも職を失ってこんな風に明るく振る舞えるっていうのも俺からしたら尊敬できる立派な男だ。上ノ坊さんのほうも、まあ、理由なんてこんなもんだよな、と思う。俺自身もここじゃなきゃダメっていう理由は特になかった。


古林「今回の課題は発想が大事だとは思うんだが」


上ノ坊「明石君、でいいのかな。君は色々と装備を開発していたよね。得意なの?」


明石君「創作は好き。得意かといわれると微妙」


発想力、ねえ。

俺の頭で電球がぴかっと光った。


明石君「お二人とも、想力周りの仕事がしたいんだよな?」


古林「俺達二人はそうだな」


明石君「俺らで会社、作っちゃえば良くないですか」


二人はまた間抜けな顔をした。

俺的には超ナイスアイデアだ。


上ノ坊「ちょっと待って。その話、実現の可能性あるね。ただ明石君の協力が必要不可欠だけど」上ノ坊さんはいう。「バリメロンが想力加工の請け負いとして新省から許可が降りるのはほぼ確定事項だし、研究部とも直結しているから、その手の業界の第一人者だけど」


想力周りの知識はかき集められる。兄さんや此方ちゃん、戦後復興妖精、その手の知識は大丈夫だ。なんなら研究部の資料を漁ることも可能だ。俺は工作艦だったから、研究部の専門機械も、工具で艤装を弄るのはもちろん、仕組みは把握しているから想力加工のノウハウ自体も絶対にあの夕張よりもある。優位な根拠は確保できる以上、後はやりようじゃねえかな。


上ノ坊「でも僕等も混ぜる必要あるのかな」


明石君「上ノ坊さん高学歴じゃん。学歴高い人もいるし、古林さん社会人経験あって、想力業界に転職だろ。それに俺は二人のこと気に入ったし、一緒に仕事出来たら面白いかなって思ったよ。この会社で二次まで進むなら俺と違って色々と優秀だろうし」


古林「ありがたいお誘いだけど、ノープラン過ぎて俺は乗れねえや」


上ノ坊「僕も、かな……」


明石君「そりゃ残念だ。じゃあ、お二人ともがんばってくださいね」俺はさっきのメールの文面をそのまま引用して使ってみた。ますますのご活躍をお祈りしています、だ。いってからこれは違うか、と思ったけど、気持ちは伝わったのか、二人は頷いて笑ってくれた。


二人が研究部のほうに向かっていった。なにか用事があるのかな。

俺はコンビニで缶コーヒー買って、外のベンチに座って飲んだ。ちょうどビジネス雑誌で想力の見出しがあったのでそれ買って世間一般の認識の程度を確かめた。


面白そうだし、俺、会社作って本気で挑戦してみようかな。


思い立ったが吉日だ、と思った時だ。

研究部の二階の窓がパリン、と割れた。俺が面接受けたところ。


「バリメロンテメー、電の司令官さんを馬鹿にしましたね!?」


鎮守府では日常茶飯事だった発狂が横須賀で炸裂していた。そういえば電さん、金剛さんからタクシーで逃げてから行方不明だったけど、こんなところにいたのかよ。


明石君「ああ、そういえば」


電さんって確保された時、この研究部から少し離れた急造の施設に閉じ込められていたんだっけか。なんにせよ、あの電さんには関わらないのが正解だ。


ん、待てよ。

兄さんが送ってくれた面接の情報を確認した。

夕張の考え方はこうだ。


『他の応募者に勝る熱意が欲しいとのこと。例えお二人が他に流れても、うちの不利益に繋がろうが業界としてはプラスに働くと考えておられるようです』


そういう割には独占状態にあるよな。そこで美味しい想いをしてきた奴等が今さら出遅れた連中にいう台詞とは思えねえな。そこらがビジネスの戦略があったのだろうとは思う。


鎮守府の仲間は頼りになる。

多分、本気でお願いすれば、鎮守府の人脈からスポンサーも探せるような気がしたし、想力分野において俺の仲間は間違いなく、有力者達だ。もちろん想力加工について夕張さんが様々な貢献をしてきたのも知っている。最近だと妖精可視スコープか。


明石君「だけど、俺もその分野において負ける気がしない」


想力エンジニアとしてどちらがより優秀で先陣を切るのが相応しいのか、競争の地点に立てねえかな。俺と姉さんの工作艦としての実務経験は想力エンジニアとして現場での経験だし、夕張が保持している情報は俺なら閲覧可能だったはずだ。そんな俺が想力分野の会社を設立して、ここと同じように業界の一人者の肩書きの選考を新省から請け負える可能性はあると考えた。


後はその話を煮詰めて明確なプランにしなければならない。

バリメロンについては姉さんいるから情報はほぼ全て抜けるといってもいい。スマホを取り出して、ブクマしておいた情報ページへと移動した。なんとかバリメロンの会社について、外から見ている連中の意見が欲しい。ビジネスの定型文をコピー&ペーストしてメールを送る。


バリメロンの30%もの株持ってる大株主さんだ。


携帯に着信が入る。


登録してねえな。この番号は誰だよ。





《メールを拝見致しまして連絡をおかけました》


なんて早い。これは神様が応援してくれてるとしか。


《時和緋色と申します》


《小倉嵐士様の番号でよろしいでしょうか?》


ときわひいろ?

なんかどっかで聞いたような。思い出せねえ。





《はい、小倉嵐士と申します。突然の連絡大変失礼致しました》


陽炎ちゃん(おぐらあらし……? どっかで……)


陽炎ちゃん(まあ、いいや。こいつ面白そうな内容のメール送ってきたから話してみる価値はありそうだし)



…………………


…………………


…………………



陽炎ちゃん「ねえねえ不知火」


不知火「なんです?」


陽炎ちゃん「この番号に見覚えか、小倉嵐士って名前に聞き覚えある? 私はあるけど思い出せなくて。今からちょっとこの人と会ってお話するんだけどさ」


不知火「小倉というと」


不知火「仕官妖精さんの生前の苗字では?」ヌイッ


陽炎ちゃん「あー、そうだったね。小倉なんて名前その辺にありそうだし、思い違いか」


不知火「ちょっと待ってください。その番号を不知火の携帯に打ち込んでみます。登録してあるのなら名前が表示されるはずですから」


不知火「登録、されてました」


陽炎ちゃん「マジで。私と不知火の共通の知り合いでバリメロンについて聞いてくるようなやついたっけ……」


陽炎ちゃん(想力分野でバリメロン越える利権を狙いに行きたいみたいだったけども、細かく話を聞いて可能性あるなら、マジで利益億越えの話になる。その場合はバリメロンの株、リスク回避するために売るしかねえ。でも誰だろ。明石さんはバリメロン所属してるし、他にそんな商売に手を出せる知り合いといえば……?)


陽炎ちゃん「あ、甲大将の周りかな?」


不知火「明石君です」


陽炎ちゃん「」


戦後復興妖精「面白、いや面倒そうな話を聞いちまった」


4


ホテルの冷蔵庫から茶を取ってソファに座ると、バッグからノーパソと資料を取り出した。ノーパソの電源を入れると、人差し指打法でキーボードを打った。陽炎ちゃんは確かに投資家やってるみたいなこと聞いたことあるけど、時和緋色が陽炎ちゃんの戸籍名だったとは知らなかったぜ。


バリメロンでのことを伝えて会社作りてえとかいったら、「止めとけ。行動力は誉めるけど、会社って発想は赤点だから」とのお答えだ。ですよね、ちょっと俺も思い立ったが吉日過ぎた感はあるよ。


陽炎ちゃんのアドバイスはこう。


フリーランスとして営業かけろ、だ。


陽炎ちゃん《まず自分の価値を把握しなさいよ。明石君って艦兵士の中でも色々と特別なのよ。工作艦なのはもちろん、男というのも然り、そして警察、芸能人、政治家の連中に人気》


明石君「はあ? 聞いたことねえぞ?」


陽炎ちゃん《『深海棲艦を殺した数より遥かに人命を救助した数が多い』からね。自衛隊もそういうこといってるでしょ。今のご時世、クリーンなイメージのほうがいいのよ。後は家柄ね》


明石君「俺の家柄あ?」


陽炎ちゃん《『仕官妖精の子孫』だ。仕官妖精の素性は割れているでしょ。対深海棲艦海軍の初期メンバーで、最後の海でも多大な功績を挙げた。おまけに此方も明石君を気に入ってるみたいだしね。いっちゃえばあんた自身も血筋も、もう一般の域を出てる》


此方とはあまり喋っちゃいねえが、思えば俺はあいつに適性出してもらって海に導かれたんだっけか。大好きな本官さんの家の血は絶やさずにー、とか。ほとんど戦後復興妖精に丸投げだったらしいけどな。


陽炎ちゃん《それで会社云々の具体的に問題いうと、明石君が会社作って名乗りをあげてもバリメロンは研究部での功績もあるし、想力で妖精可視才スコープの実績もあるから、並べないわよ。明石さん引き抜いても、上からしたらひっかき回しただけで印象悪くなるだけ》


明石君「会社は頓挫したな……ところでフリーランスって?」


陽炎ちゃん《とりあえず明石君は『想力 ビジネス 影響』でググれ。それからまた電話してこい。それじゃ》


切られた。

まあ、言われた通りに調べてみるとした。


さっきのビジネス雑誌は誇張表現だろうと思っていたが、本当に全ての業界の注目が集まっている。想力の大きな問題点や注目点として、我々の想像を全て創造可能というのは本当なのか、科学とは融合できるのか、安全性やコスト管理、安定した運用が可能な技術なのか、といった点だ。建造による個人の身体強化だけでも腐る程の懸念項目があった。適性者の身体の不調を治す医療技術、基本的な身体能力の強化によるコストパフォーマンス等々だ。大統領からテロ組織、どんな分野の人間も人間の進化の節目に立っていることを確信しているかのようで、俺がやろうとしていることがどれだけ無謀なのかを思い知った。挑戦だなんて姿勢ではまだ甘い。


世界の命運を左右する。

特にそのポジションにいるのは兄さんか。此方は海の傷痕だから最高責任者は無理みたいだけども。


兄さんとその他数名が実際に想力に触れて、それを研究部が実験と調査して思考錯誤を繰り返して確定事項を抽出してゆく。実際にもう此方からの情報によって研究部が過去の研究資料と照らし合わせて、バリメロンが妖精可視才スコープをすぐ作ったみたいだから、技術的に社会に浸透するのは時間の問題みたいだ。俺がやろうとしているのは、このポジション、始まりに噛むのなら半分政府組織みたいなもんか。バリメロンから垂れてくる甘い汁を啜りたいのが参入の姿勢を示している企業。大手は大体そう。確定情報を心待ちにしてエンジニア技術の融合を目指してるとかなんとか。


結論からいうと、融合可能だ。


艤装がまさに科学と想力の融合だ。機械的なものを意思疎通で稼働させているわけだからな。俺は工作艦だったから分かるけど、科学的に解明不能な部分は想力だ。そしてその仕組みは海の傷痕だった此方が知っているわけだ。此方は質量化の能力を失っちまっているから、じゃあどうやって想力を調整して役割を持たせるのか。


そこで現れたのが、戦後復興妖精。

人間が開発可能な想力工作補助施設。

なるほど、兄さんがこれ欲しがった理由はそういうことか。


頭がオーバーヒートしそうだ。調べたことを陽炎ちゃんに伝える。


陽炎ちゃん《先の告白騒動でただの馬鹿だと思っていたけど、自分の得意領分周りだと頭の回転早いのね。じゃあ、やるべきことは分かる?》


明石君「工作艦艤装だ。要はバリメロンの製品越えるもんを創り出す。艤装の保管庫って、鎮守府の近くなんだろ。あそこに新省出来るからな」


陽炎ちゃん《イエス。名刺作れ。その辺りで即行作ってくれる場所に話を通しておくから》


メモ取るのに忙しい。


陽炎ちゃん《准将、明石さん電さん、元帥さんか大淀さん、甲大将、そこらとこの話をして、許可をもらったら、大手に営業回れ。明石君っていう人材は鎮守府(闇)所属だからね。准将、電、明石さんから様々な人脈と自身の経歴、それ掲げたらバリメロンと一気に横並びの可能性もあるから。優秀なビジネスマンなら、明石君がそのプロジェクトを会社にアポなし訪問して持ちかけても、なんとか応対室に監禁して逃がさないようにして責任者を即行連れてくるはず》


明石君「恐れ多い……」


陽炎ちゃん《ああそうそう、明石君の市場価値を実感したいなら、その辺の就職サイトとかに登録してみれば。電話番号は載せるんじゃないわよ。かなり面白いことになると思われ》


面白い。いちいち企業に営業かけなくて済むし、連絡取りやすくてそのほうが捗るかもしれないな!


さっそく動いてみよう。


想力問題を良き方向に導くって、艦兵士みんなのためにもなるよな。俺がそういう想力運用を迅速に明確化していけたら、きっと兄さんの負担も減っていくはずだ。正直、社会とか全人類とかいわれてもしっくりこないけど、人の幸せっていうのは俺にも分かる。


陽炎ちゃん《お待たせ。初霜ちゃん経由して戦後復興妖精に聞いてきた。『創作短縮の力、頭に明確なイメージと工具さえありゃモノにも寄るが大抵のモノは一日もかからねえっつの。開発時間よりも人間の都合上の書類申請とかチェックとかで時間かかりそうだけどな。現に私だって疑似ロスト空間ぱぱっと製作してスマホの電子と艦これシステム連動させたし、バリメロンの連中ですら戦争終わってすぐ妖精可視才スコープ作ったろ』だそうよ》


明石君「想力工作補助施設は貸してもらえないよな。明石艤装借りてもあれもう稼働しねえし、そこらはどうするか、だ……」


初霜さんからメールが届いた。珍しい。内容は俺の悩みを解決するもんだ。戦後復興妖精に頼まれて代わりに伝えてくれたそうな。


『電、瑞穂、春雨、神風の4名には想力がまとわりついている。その中で電と神風は准将を上手く出汁に使えば、想力工作補助施設を開発可能』


とのことだ。

ちょうどいい。電さん、研究部にいたよな。


書類のサイン用に持ってきていたボールペンと判子をカバンから取り出した時に、クリアファイルに挟まっている手紙を見つけた。


そういえば、山風さんに手紙を渡されて面接が終わってから読んで欲しいといわれていたっけ。気になったので手紙を開封した。


『あの夜のこと、覚えているよね。責任を取って』


なにこれ。身に覚えないけど、脅迫かな?


5


さて、想力を商品化する構想、残りはややこしい想力省との問題だ。


想力省についても調査した。

すげえ情報量だった。

とりあえず兄さんがどういう立場なのかも把握出来た。


想力倫理課というところは名の通り、想力を運用する際の倫理を規定する課で、つまり想力の性質上、想力省に留まらず想力における全てに影響を持っている。ここが1つでも申請が通らなければアウト。


提唱した想力運用と国家の保守保全において『国民の適性検査の定期的受診』と『想力工作補助施設の利用者の限定』というのも理解した。


理由として想力は人間から抽出されること、想力工作補助施設の開発行程に外部からの想と接触することがある。これからは多くの人々が想力に触れてゆくため、国民の精神性を数値化し管理下に置く。


佐久間さんのことは知ってる。想力工作補助施設を作った。これはその時点で国を転覆させかねない武力を個人で所有していたことと同義なので、徹底的な管理は必要だろう。


そして後者の『想力工作補助施設、想力工作において利用者の限定』。これは一部、俺含め一部の艦兵士に交付される資格らしい。今後、取得が最も難しい最難関の資格となるとネットではもっぱらだった。現在で所有しているのは『丁、丙、乙、甲、北方の提督、電、神風、明石(最終世代2名)、夕張』となっている。取得条件が非常に厳しいが、想力加工において人材を輩出する必要があるため、今後の課題の一つとなっているとか。


また政府が開発した限定的な役割を持つ想力工作施設を開発するとのことだ。これは俺もよく知る妖精と同じだった。資格保有者が特定の範囲において開発を行えるようになる。


例えば、海の建造妖精は、建造といったように、例えば食品製造妖精とか、道路警備妖精とか、事務妖精とか、そのような形での配布となる。

建造妖精は解体も少しは出来るが、少しだけ。そこを利用してある程度の臨機応変さも持たせるとのことだ。此方から情報を抜いているだけあって、あの海のシステムを踏襲した形での国家への技術浸透方向だ。


なので夕張の会社ではこの事業拡張のため、妖精量産の仕事をまず引き受けてもらう予定だとか。今早期の実験段階であるため、非常に危険がつきまとうため、想力省から企業へ警備体制が敷かれる。


いずれにしろ、商品化は初めての試みであるため、上手く事が運ばないのは分かる。


ノウハウのある大企業でも、利益を出すというのは簡単なことではないはずだ。俺だって装備を開発したことあるから分かる。優れた技術を持っていても、なにかを作ることにおいて、必ずなにかしらの問題点が浮き上がり、リコールの連続となるのだ。


スマホがピカピカ光ってる。メールが山のように来ていた。

これ、さっき登録した就活サイトからか。


明石君「マジか……」


すげー数の企業からお声がかかっていた。聞いたことのある大きな企業の人事の採用担当からメール来ているし、目を疑ったわ。艦兵士時代を遥かに越える待遇だった。


その中で1つ、目に止まった。


明石君「陽炎ちゃん陽炎ちゃん!」


陽炎ちゃん《なにー? サイトのやつなら私のほうからも見てるよ。これ多分、とりあえずの面接でメール返せば、更に話が大きくなると思う。明石君、今年の年収2000万目指そう》


明石君《バリメロンで分かったんだ。大手とか、俺、上手くやっていける自信がないよ。精進は続けるけどさ、今はまだ俺に能力がなさすぎる。そもそもバリメロンの応募条件の語学とか大卒とかも満たしてなかったし。自分に合ったところがいいと思う》


明石君《俺は英語できないし、高校中退だ。今まで努力はして生きてきたつもりだけど、大手はちょっと無理だな。ビジネス面で確かなスキルとかビジネスマナー学ぶのが先だと思った》


陽炎ちゃん《はあ……あのね、私も金持ってるせいで色々なやつと交友あるけど、資格とか学歴とかそれって努力の1つなのよ》


陽炎ちゃん《他の人達が学校で死にもの狂いで勉強していた時に明石君だってそれに負けないくらい、努力してきたでしょ。じゃないと世界なんか救えないわ。そこの大手で今からバッテンつけるところ以外の人事はそういうところも評価して、これからの将来性を見込んで書類選考免除してくれてる可能性が高いと私が思うとこ。参考がてらどぞ。フリーランスやるにしてもまずプロジェクトの話するのはそこがいいと思うよ》


明石君《……やけに優しいし、いやに大手を推すよな。もしかして、そこの会社の株持ってる?》


陽炎ちゃん《……》


しばしの沈黙。


陽炎ちゃん《っち、思ったよりも馬鹿じゃない》


陽炎ちゃん《ATMに思考機能は邪魔ね》


怖すぎるんですけど。


6


あれからすぐに行動に出て、各方面にプランを打診したところ、なんと夢の架け橋が半日でかかった。様々な制限を送られたけど、工作艦艤装パーツを使用しての想力研究の許可が特別に降りた。その結果次第でバリメロンと並んで業務を委託するか打診してくれるとのこと。


政府の指定日時までに夕張さんとは別に妖精可視才スコープのような製品開発に従事致しますので工作艦艤装を譲渡してくれたしな。


端的にいや、陽炎ちゃんのマネジメント力が1日で空想を現実に変えた。これこそが人間のエネルギー、想力の源ってやつだ。


夕張「了解致しました」夕張は楽しそうに笑った。「面白そうですね」


明石君「夕張さん」


夕張「さっきは失礼でごめんなさいね。今だからネタ晴らしするけど、あれ明石君の悪いところはこれで分かります、とのことで二人きりの時にした質問自体は准将が提案してくれたんですよ」


明石君「……兄さんが関わってるなら、アッキーと俺のためだと思えるんで構わないです」


夕張「でも、本当に聞いていた通りの子ですね。行動力だけは天元突破しているとは聞きましたが、まさか個人で私の会社の隣に手を伸ばすとは。明石君は会社務めよりもフリーランスのほうが向いているかもしれませんねえ」


明石君「夕張さんの作品は妖精可視才スコープ、ですよね」


夕張「そうですね。指定された期限は今週一杯ですが、かなり前に完成させられました。それも量産体制までね。前に准将さんが貸してといったので、貸して検証も兼ねて貸し出しましたが、動作にも問題なし」


見事なもんだ。妖精可視才という門戸を取っ払って、より多くの人間が想力の分野に飛び込めるようにした。功績といっても差し支えなく、もしも戦争中なのなら、空母だけでなく偵察機を載せられる艦種を大幅強化できる装置だ。阿武隈さんが龍驤さんみたいなことしてくると考えたら寒気がするレベルだ。


夕張「明石君、アイデアはなにかあるんです?」


明石君「これから考えます」


夕張「楽しみにしていますね! 私は艤装弄りの分野では明石さんに劣りますが、私の想力エンジニアとしての技術は明石さんよりオールマイティです! 明石さんのお弟子さんの実力、見せて頂きましょう!」


明石君「受けて立つ」


夕張はこの後、出張とのことでしばらくここからいなくなるようで、こっちの研究に至ってはノータッチとのことだ。


上ノ坊「すみません。それで私と古林さんから質問があるのですが……」


古林「私達も参加して、よろしいのですか?」


明石君「企画発案でしょ? 今から実際に想力を使うんだから、ちょうどいいじゃないですか。企画から商品開発まで一緒にやりましょうよ。夕張さんはそれでもいいんですよね?」


夕張「はい、ですが条件はあります。上ノ坊さんと古林さんさえよろしければ、です。機密のことはご安心してください。書類にサインしてもらってご都合さえ悪くなければ、明石君と一緒に想力の世界を体験してもらって、それが二次試験に提出する研究でも構いませんよ」


古林「分かりました。それではプロジェクトに参加させて頂きます」


上ノ坊「ぜ、ぜひ私も! よろしくお願いします!」


だよな。上ノ坊さんは想力に関わりたい動機で、古林さんは奥さんに締め出されて、そこら転々としてるというのだから、この二人の都合はきっと悪くないとは思ったんだよな。


明石君「夕張さん、ありがとうございました」


夕張「いえいえ。でもまさかうちの株主までお仲間だとは驚きましたよ。噂には聞いてましたが、鎮守府(闇)は怖いです……」


明石君「結果によっちゃ経営が傾きかねませんよね」


夕張「私はもともとこの海の不思議を社会に活かすために、ですので、今回は明石君と緋色ちゃんの行動はうちにとっても美味しいです。転ぶにしてもただでこかされませんよ」


夕張は笑っている。

明らかな含み笑いを浮かべたままいった。


夕張「絶対に出来ませんよ」


明石君「なんだと……」


夕張「明石君、とりあえず応募条件を満たすことから始めるべきかと。英語もある程度出来て欲しいんですけど、全く出来ませんよね。想力事業は日本がイニシアチブ取ってるも同然で、今後は確実に様々な海外との方とのグローバルな仕事になりますからね!」


明石君「マイネームイズアラシオグラ」


夕張「まあ、聞いていた通りですねー……」


昔の俺なら拳を握り締めていたけども、そういう態度は電さんとか高圧的で慣れちまってるからな。それくらいじゃ頭に血が昇りはしないぜ。だけど、馬鹿にされているのはよく伝わる。


夕張「本当の情熱は経歴に刻まれるものです」夕張は口角をつりあげる。「想力情報が出てから本当に腐るほど希望者が増えた。成長が見込める市場で、第一人者の会社だからという本音を隠して、1ヶ月程の時間で綺麗な理由を取り繕ってね。まだ想力情報さえよく知らないのに。つまり一般枠で想力を話に出す人の9割が動機不純」


明石君「……」


夕張「なにか」


明石君「別に」


動機不純っていうほどかなって思った。俺達だって世界を救おうだなんて動機で世界を救ったわけじゃないぞ。


俺は研究部に移動した。

その途中、経過報告をしようと、兄さんに連絡をかけた。


提督《了解です。まあ、構いませんよ。今日の午後には重要なデータは公開されます。想力工作補助施設も、です。自分は忙しいのであまり力になれないのですが、明石君の行動において問題はありません。想力で困ったことあれば戦後復興妖精さんかな。はっつんさん通してもらえれば》


いっちゃえば切り札みたいな存在なんだよな。150年の大ベテラン、それも想力という分野を運営サイドから扱ってきたというこれ以上ない人材だった。今回ばかりは世話になる他ない。


提督《それと秋月さんの伝言ですが、連絡はかけないでください。もちろん、自分や他の方たちが待機しておりますので、万が一の時にはそちらに連絡が行くように手配します》


明石君《了解。そっか。アッキーも頑張ってんだなー》


提督《電さんにもお話は伝えてあって、自分から頼んでおきましたので、必要なところは協力して頂けると思います》


明石君《了解、助かるよ》


提督《こちらにいる秋月さんのこと、自分達にお任せください。なので明石君はそちらに専念してくださいね》


そりゃ安心だ。

鎮守府(闇)で学んだことを生かして、これまでと同じく結果を出すだけだ。俺なら出来るだろ。仲間もたくさんいるしな。


そういう訳で俺はちょっと不安だけどアッキーとの接触を断つ決意をした。俺の1日の予定からアッキーがいなくなったのは何年振りだよ。

全く、鎮守府の皆は相変わらず頼もしいね。


side アッキー


提督「明石君が落ちたから辞退する、ね。一身上の都合で大丈夫だと思いますが……」お兄さんが気遣うようにいう。「その欠陥も中々、厄介ですね。お医者様に通ってみるのも一種の手だと思いますよ。力になりたいのですが、自分は医者ではありませんので」


秋月「はい……一時期、通ったのですが、全く効果がありません……」


提督「秋月さん、命を賭ける覚悟はありますか?」


秋月「物騒ですね……といいますと?」


提督「荒療治ですが、治る方法を自分なりに考えてご提案致します。ただそれはご自分の命を自分の見当に委ねるということです」


秋月「よろしくお願いします!」


即答すると、お兄さんは少し目を丸くした。驚くようなことかな。お兄さんに命を委ねるだなんて、今まで何回もしてきたことで、それは私にとってはお医者さんよりも余程、信用できる。


提督「そうですか。では治るまで明石君と接触を断ちましょう。こちらから万が一に備えますが、仮に過呼吸になっても、厳しめの判定で行きます。文字通り、賭けですが、信用してもらえますか?」


秋月「もちろんですよ!」


それでは失礼します、と執務室を出て廊下を歩いた。


とりあえず12時間、接触を断ってみる挑戦をしてみるべきかも。


階段へと向かう途中、廊下の突き辺りにある甲大将に割り振られた執務室の扉の向こうから、盛大に物が崩れ落ちる音がした。「うわああ!」と江風さんの悲鳴が聞こえたので駆けつける。


秋月「ど、どうかしましたか!」


江風「あ、秋月! な、なンでもねえよ!」


慌てた様子でファイルを後ろに隠したけど、バレバレだ。辺りに散らかった書類を拾いあげながら、一体甲大将の執務室からなにを持ち出したのか聞いてみる。


江風「な、内緒にしてくれよ。後生だ」


秋月「なにを持ち出したのですか。内容によっては内緒には出来ません。想力関係の書類は執務室で持ち出されるような管理はされていないと思いますけども」


江風「江風ンとこの鎮守府の艦兵士の経歴書類だよ……」


秋月「誰のですか?」


江風「山風の経歴をちらっとだよ。ちらっと。実はもう少し見ちまった。江風、昔に風来坊していた時にこの程度の鍵なら針金があれば解錠できるようになったからさ」


時すでに遅しですか。

でも、どうして本人に直接、聞かないのだろう。そんなの調べなくても山風さんは江風さんと軍に来る前の知り合いだ。地元も同じく柴又で子供の頃に遊んでもらっていたと山風さんから聞いたことがある。今更なにをこそこそと調べることがあるのか。


江風「あ、そうだ。秋月にも聞きたいことがあンだ」


秋月「その前に片付けるの手伝ってその書類も戻してください!」


江風「おう。山風が明石君と急接近するイベントってアカデミーであったの?」


ふむ、さては山風さんが本格的に行動に出ましたか。アッシーは最悪なことに三人に告白するというオイタをしてしまったので、そろそろ動くべきだと判断したのでしょう。行動に出れば周りだって気付くはずだし、江風さんの質問的に二人の仲に関して、好意の出どころが気にかかった様子だ。


秋月「ふむ、そういえば私も分かりませんね……」


アッシーが山風さんのトイレを覗いてしまった入学の日からしばらくは仲悪かったはずだけど、いつの間にか山風さんからしゃべりかけるようになりましたね。私の欠陥のせいでアッシーとの橋渡し役をしてくれていたから、話す機会はそれなりにあったけど、山風さんがアッシーに恋するようなイベントに心当たりなかった。むしろそういうのは一緒に馬鹿していた秋雲先輩のほうが、と思う。


秋月「分かりませんけど、きっと何気ないことから始まったんですよ」


江風「本人に聞いても教えてくれなくてさ。野暮ってもンだけど、小さい頃のあいつからは考えらンねえからどうしても気になってさ。江風はやっぱ首を突っ込むべきじゃなかったかね」


秋月「江風さんは山風と柴又で幼い頃からの友達なんですよね?」


江風「つっても山風は親父の転勤で転校してきたンだ。あいつ一人で寂しくしていたから江風的には放っておけなくてしゃべりかけた。それで遊ぶようになった感じだな。そういえばそン時にどこから来たのか聞いたことがあって、そうしたら長野って答えたことは覚えてンだ。江風、前に明石君から聞いたンだが、お前ら兄妹も出身は長野なンだろ?」


通っていた学校の名前は?

と聞かれたので答えました。


江風「同じガッコじゃンか!?」


秋月「山風さんのような性格の子なら印象に残っていそうですけど、私は覚えていないです。でも実年齢的には私と同じですし、ならば同学年だったはずですよね。なにかの間違いでは?」


江風「山風がもともとあンな面倒な性格だったと思ってンのかよ。適性データを見りゃ、普通の女の子に山風の適性が60%も出る訳ねえって分かるだろ。だから江風と会う前になにかあったのかなって思ったンだよね。山風は話してくれないけど、気になって夜も眠れない」


いずれにしろ、あまり触れないほうがよさそうな気もする。

私達が軍に来た理由は聞かないというのが暗黙のマナーでもある。仲良くなって話してくれる人もいるそうだけど、明るい事情でない場合が大多数だ。私もそうだし。


山風「江風、大将の仕事場でなにしている……」


噂をすれば。ああ、そういえばこの部屋って私達の寮の部屋の対面にあるから、丸見えだった。江風さんが執務室に忍び込むのを不審に思って駆けつけてきたらしい。こうなればもう事情を話さない訳には行かない。江風さんも観念したのか、忍びこんで悪さしている理由を自供した。


山風「あたしも、二人と同じ学校だったと気付いたのは、アカデミーの卒業直前……」


江風「へえ、でも奇妙な偶然も会ったもンだよな」


山風「びっくりしたけど、話すのは止めた……二人に昔の嫌なこと、思い出させちゃうって思ったし、どうせあたしのことも覚えていないだろうから……」


秋月「す、すみません……」


山風「謝る必要はない、よ……ただあたしは」


珍しい。山風さんが忌々しそうに舌打ちをした。


山風「アッシーのことは覚えてた……」


ああ、同学年だったのなら、でしょうね。


山風「今とは性格、違ってたはず……」


江風「へえ、明石君どんな性格だったンだよ?」


山風「無口で大人しい子だった」


思えば、そうですね。

その頃の私達は幸せで兄妹として今のような特別な絆はなく、そこら辺にありそうな家で一緒になっても、あいさつする程度の仲で一緒に遊んだりはしていなかった。山風さんのいう通り、アッシーは口数が少なくて、気だるげなオーラを出してた。あの時の私は確か兄と学校で喋りたくないから、距離を置いていた時期ですね。思春期というやつ。


秋月「山風さんのいう通り、無口気味ではあったかな? 大人しいというよりはいつもむすっとしていたような感じのオーラ」


山風「そんな感じかな……」


ああ、そんな小さい頃の話を出来る相手がアッシー以外にいるなんて、新鮮だ。アッシーと話すとどうしても、家族の問題に流れて気不味くなってしまうから。


秋月「あ! その頃の山風さんの話を聞けば、その頃の山風さんを思い出せるかもしれません!」


山風「ありがとう♪ 明日の運動会、みんなでがんばろうね!」


山風さんは愛嬌たっぷりの笑顔を浮かべて、似合わない台詞をいった。


7


江風・秋月「!?」


山風「その頃のあたしは、こんな感じ……」


江風「適性していない40%の部分が凄まじいンだけど!?」


山風「あたしは男女ともに学年で一番、人気があった……」


ああ、当時のことを思い出した。

確かにそんな感じの子がいた。学年の女子の中で最も人気があって生徒会に推薦されそうなほど優秀、そして可愛く明るい女の子がいた。男女問わずに多くの子に囲まれて過ごしていたのを見たし、先生のお手伝いもよくしていた。間違いない。その子は確か転校して学校からいなくなってしまった。まさかその子が山風さんだとは。私がアカデミーで出会った頃の山風さんとは全く違う。


以下、山風さんの衝撃なお話。


――――あたしは可愛かった。周りでは一番、あたしが可愛いと思ってた。容姿に優れていて人気者で真面目で運動はそこそこだけど、頭も学年で一番良かった。周りの人気ある男の子はみんなあたしのこと好意的に思ってたはず。たくさん告白されたし。


――――あたしはそんなあたしが好きで、あたしを嫌いだとか、陰口叩くやつは、工作して報復してやった。アッキーとはあまり接点はなかったけど、アッシーはあたしと同じクラスだった。


――――なに考えているか分からない陰キャ野郎で、正直同じクラスにいるだけで気持ち悪く感じてた。


江風「▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわああ!」


山風「江風うるさい……」


秋月「気持ちは分かります……山風さん、少女漫画でいうと主人公の周りにいる学校1の美人だけど裏があるキャラですし……展開的には主人公に惚れたイケメンを好きになって一悶着起こしそうな!」


江風「山風、お前すげー嫌なやつじゃンか!?」


山風「黙れ……」


江風「漣もお前のことキレたら超怖いっつってたけど、そういう怖いところの理由が分かる話だよ!」


秋月「山風さん、続きどうぞ!」


――――運動会の準備の時、彫刻刀で机を掘ってて、出る種目を決める話し合いも参加せず、黒板に希望の場所に名前も書かないから、私はアッシーのところに行って、こういった。


――――「小倉君はどこやる?」ってスマイルでね。


そしたらあいつは、


う る せ ー 猫 か ぶ り 性 格 ブ ス


と、あたしを可哀想なやつを見るような目でいった。


江風「ざまあ! 江風、明石君のそういうところ好きだな!」


――――あたしはその場で嘘泣きした。クラスであたしに気があるらしい男の子が助けてくれた。正直、男なんてあたしの飾りみたいに思ってたから、アッシーをぼこってもらうよう差し向けるとした。


――――当然、アッシーはクラスから益々孤立した、いやさせたけど、あたしはあたしを維持するためにアッシーに気を回した。それでもアッシーはあたしに冷たくて、クラスの男の子がアッシーを呼び出して、ケンカした。それからアッシーは完全に孤立した。


――――あいつがなぜあたしが猫かぶりしていたことに気づいたのかは気になってた。本当にムカついた。


――――だからあたしはふと『小倉君の悪口』をいってしまうミスを犯してしまった。それが広まり、あたしは猫かぶりしてるんじゃないか、とあたしの完璧な学校生活に亀裂が入った。


それであたしは堪えられなくなって、

親にお願いして転校した。ちょうど転勤の話で悩んでたから良いチャンスだと思った。


――――噂は尾ひれついて、先生からあたしがクラスメイトに嫌なことされているって聞いたらしくて心配して、アッシーと話をしたらしい。それでお父さんが「あの子は悪い子じゃないよ。本当にあの子にいじめられたのか?」と「本当のことを話してもらえないか」と。薄々気付いてはいたらしい。学校と家でのあたしの生活態度が違いすぎたからだと思う。


――――お父さんからすごく怒られた。

あたしは凹んで、人と関わるのが嫌になって、口数も少なくなって、男が苦手になって、「放っておいて」とか「構わないで」とかいうようになったけど、その実一人でいるのも嫌、という面倒なやつになった。


――――柴又では、偽りじゃない友達の作り方が分からなくて、一人でいたところ、江風がしゃべりかけてくれた。


――――あたしよりも10くらいも年上なのに、こいつはろくに足し算も出来ない馬鹿だった。だから、あたしのようなやつに声かけてくるくらいに友達いないんだな、憐れだなって思いながら一緒に遊んでやってた。


――――その半年後くらいに江風は軍に行った。

あたしは喜んで見送った。江風は「きひひ、たまに連絡するよ! ダチだし!」といった。あたしの番号知らないのに、こいつ馬鹿だなって思うと同時に、こんな馬鹿でもやれることがあるんだなって思えて、勇気が出てきた。江風レベルの馬鹿でも人様の役に立てるこの世界はなんて慈悲深いんだろう、と感動した。


柴又編まで終わり。



江風「なあ」
















江風「タイマンしようや」






秋月「落ち着いてください!」


私は飛びかかろうとする江風さんを羽交いどめで押さえ込む。


江風「離せ秋月! 江風の中の綺麗な思い出を跡形もなく消し飛ばしやがった上に、江風のこと5回も馬鹿っていったぞ!」


山風「4回だよ……ほら、足し算も出来ない……」


江風「鎮守府でも猫かぶり続行中だったのか!」


山風「別に鎮守府では猫、かぶってない……面倒になるから、自分の正直な感想をいわないようにしてただけ、だよ……」


秋月「でも江風さん! 山風さんはアカデミーの間で変わったはずです! 私や秋雲さんと楽しく過ごした山風さんの姿は決して偽りだとは思えませんから! そうですよね!」


山風「うん……アッキーがあたしの初めての友達……」


江風「江風じゃねえの!?」


秋月「山風ちゃん、勢いで聞いちゃいますけどアッシーを好きになったきっかけはなんですか?」


――――アカデミーでは過去のことなんて忘れてた。


――――卒業間近の時、明石さんがアッキーとアッシーの過去を聞いた現場にあたしもいたでしょ。その話を聞いた後、二人に同情した。でもアッシーがアッキーを守り続けたのはすごいと、思った。二人の絆やアッキーの欠陥も納得できた。


――――卒業試験が終わって卒業式まで少し時間があったから、家に戻って鎮守府に持っていく荷物をまとめていた時、アルバムを見つけた。あたしが転校する前にくれたみんなの寄せ書き。


――――そこに小倉君からもあった。

あいつは数字の羅列を書いてた。あたしはそれが電話の番号だって気づいて、かけてみたら、アッシーが出た。それであたしは確信した。


――――思えば、小倉嵐士という男の子は、あたしの性格が悪いと見抜いていて、あたしが周りを利用して嫌がらせしているのにも気づいてた。でも、あたしにはなにもやり返さなかった。


あいつが本当に怒るのは、

家族を守ろうとする時だけ。


カッコいいって思った。

きっとアッシーは、あたしも守ってくれそうな気がした。それは明石さんや秋雲先輩もそうだろうけどね。アッシーって、家族想いだから、もし、あたしがそういう存在になれたらって妄想したら、


好きに、なった。


――――卒業式が終わった夜、アッシーが記念にって照明弾を打った。花火のやつ。それを見上げながらアッシーに聞いたんだ。


――――転校していったやつに寄せ書きに電話番号書いた理由はなに?


あいつはなんで知ってるんだよ? っていった。

まあ、アッシーは馬鹿だし、そいつと今のあたしが同一人物とは思わないのも無理ないよね。アッシーの答えはこう。


――――あの子、自分にちょっかいかけてきてたんだ。俺も分かるんだよ。好きな子にちょっかいかけたくなる気持ちって。だから、携番くらい教えてやろうかなって思ったんだ。


あ、やっぱりアッシーは馬鹿だなって思った。


秋月「そうなんですよ……! アッシーは良いやつで仲間想いで見た目も悪くないんですけど、通常時のIQがですねえ!」


江風「半泣きするほどか……」


――――その後にこう聞いた。その女の子が今もアッシーのこと好きだったら、どうする? って。


――――あの子見た目は可愛かったし、今はすげー美人なんだろうなって。あの性格が直っていたらぜひお付き合いしたい。


アカデミー編、終わり。


江風「まあ、純愛に免じて許してやる」


秋月「アッシーの家族想いは妹として保証しますよ!」


山風「うん……」


山風「性格、治ったかはまだ微妙……」


江風「あー……だからあの時『あたしには無理だよ』って答えたのか」


山風「アッシーとはきっともう友達じゃ、一緒の場所にはいられない。あたしも解体されて山風の呪いから解き放たれた今、動かなきゃならない」


山風「のは分かるから、ごめん、アッキー」


山風「その欠陥、治して。今まで以上に協力する」


山風「あたしの障害の一つ、でもあるんだ」


変わったねえ、と江風さんがいいました。



【17ワ●:雨のち、死亡事故現場のち、営業】


上ノ坊「古林さん、それどうです?」


古林「妖精もいないし、分からんな。これ、どうやって想力を維持させてるのか気になるよな。これ想力を産み出したのではなくて、消える前に保存に成功したって感じなのか?」


明石君「違う。電と春雨艤装だよ。あの艤装は想力の溜まり場性質が出来てるから、その破片を部品にして夕張艤装でいじっただけ。だから資源は電艤装と春雨艤装に絞られてる。大量生産で世界に配布は無理、作れて100個前後って聞いたかな」


夕張のやつは情報はあまり持ってないはずだ。『想力省が准将と打診してその方法を模索する会議が明日の午前中に開かれる予定です』っていってた。夕張は多分それを『お偉いさん達が准将や此方から情報とアドバイスをもらいながら方法を模索していく段階』だと思ってる。


今、行われているのは『想力工作における明確な手段提示のプレゼン』だ。兄さんはすでに想力加工の方法を確立してる。でも、官僚達とそんな話するのは俺の領分じゃねえし、兄さんに任せておけばいい。


とりあえず、想力を加工する方法がわかんねえのなら、なにを発明するか、を考えれば良かった。古林さんと上ノ坊さんもパソコン立ち上げて企画書のフォーマット広げてアイデアを書き留めている。


明石君「失礼」


俺は二人のビジネスバッグの中にあるクリアファイルから、経歴を見せてもらった。上ノ坊さんは大学院卒のエリート、古林さんはもともとインテリア業界の営業をしていたようだ。俺はちょっと黒かった解体業と工作艦明石か。三人よれば、もんじゃ焼きみたいな言葉があったな。


電「お待たせしたのです!」


上ノ坊「……だ、誰です?」


古林「上ノ坊さん、綺麗な人だと余計にびくびくするよなあ……」


電「初めまして。軍所属の駆逐艦電なのです」


上ノ坊「か、艦兵士最高勲章、拝受者……」


古林「あれ……俺が知ってる姿と違う」


電「想力周りで訳合って大きくなっているだけです」


上ノ坊・古林「」


電「ああ、明石君、司令官さんから頼まれましたよ。となれば、私は東西奔走をもいとわないのです。事情は聞いておりますから、私の役割は」


電「想力工作補助施設の開発なのです!」


明石君「よしきた! 電さん頼む!」


いわく電さんは解体してなお、想力がまとわりついている。そして電さん自身が特定の領域(兄さんへの忠誠心)において廃の人らしく、開発の見込みはあるとのことだった。


最もそんなに上手く行くかは微妙で、初霜さん経由で戦後復興妖精からアドバイスを聞きながら開発行程に入ると、純白の腕を作り出した。


俺が知ってる想力工作補助施設よりかなり小さくて、暁さんの腕みたいに細くて柔そうだ。頼りないかといわれると、そうでもないけどな。


なぜかってそんなの電さんだからに決まってんだろ。地味に俺が兄さんと姉さんの次に尊敬している人なんだよな。こいつは今、想力工作補助施設を開発したように、本当に兄さんのためになんでも出来るから。


お陰様でいきなり難題が解決しちまったな。

これはマジで行けるんじゃないのか?


電「あー、それと夕張さんですが、出張キャンセルになって落ち込んでいましたよ。取引先の有力会社との契約が取れなかったって」


古林「想力の契約ですよね。先方さんが取れないなら分かりますが、取らない会社ってなんか意外だ……どこも飛びつくような内容だと思うのに。ちなみにどこの会社か分かります?」


電「DSS……あー、鎮守府の近くでテーマパーク作ろうとしているところなのです」


古林「M&Iで業績を伸ばした会社ですね。ここの会社は中々面白いと思う。この会社って学べることが多くて様々な業界で成功者を出していて横の繋がりが大きいんだってさ。最近で成功したのは物流系、今流行りの3PLだ」


上ノ坊「あ、この事業は甲大将の財閥傘下だからスムーズに計画できたんでしたっけ。会長さんが事業を始めた時に、今の甲大将のおじいさんと盃を交わして兄弟になったとか聞いたことありますよ?」


専門用語的はよく分からん。


電「明石君、私達と鎮守府から30キロ離れた地点で大規模な建設計画が行われているのです。その土地にはテーマパークが出来るのですよ。その会社がDSSです」


そういえば鎮守府の周りも都会化していっているんだよな。

電さんいわく、あの辺りは都市開発計画化が進んでいるという。あそこの市長は優秀で戦争終結と同時に鎮守府(闇)が金の成る木だと見越して観光地にしたいらしい。想力省の設立が追い風を吹かし、同時に世間の想力のイメージはファンタジーだ。


電「有名なテーマパークというと関西や関東ですが」


電「この会社はそのどちらでもないです。ジャンル的には千葉のほうと似てファンタジー寄りです。名前もあまり聞きませんが、地味に50年の歴史がありますね。大きいテーマパークをここで作って業界と勝負、という挑戦的な感じなのです」


調べたところ、会社名はDSS。ダストソウルシューターズの略のようだ。会長がその意味として、創始者とその立ち上げに協力したメンバー、全員が叶いそうもないゴミのような夢を持っていたらしい。採用したい人材は、明確なビジョンや社会的に非論理的で貢献できそうもなくとも、大きい夢を持ち続けることが出来る人を採用したいとある。


面白いな。会長いわく「仕事に疲れて現実逃避していたメンバーで新たな世界を創立しようとのことで始めた全く新しいタイプの事業を目指したという。本物のエンターテイメントの真髄は『人を喜ばせることではなく、各々に独自の思考や勇気を持つきっかけを与えることだと考えます。そういう意味では対深海棲艦海軍は世間の活気を見れば分かる通り、最高のエンターテイナーでしょう』とあった。後半は勘違いも甚だしいが、中々面白い視点で俺らを褒める人だな。


古林「……テーマパーク関連に絞るとDSSは国内じゃ最も縛りがなくて取引しやすいのでは。大きいところには色があって想力の売りがかなり限定されると思いますし。この会社の地盤は頑丈ですが、テーマパークのマーケティング力は弱い印象ですねえ。バリメロンとの契約はお互いに大きな利があると思うんですけども……」


上ノ坊「……なにかトラブルがあったんですかね」


電「しっかし、想力ビジネスを蹴るとは中々面白いのです。成功させればライバル企業より頭1つ抜ける取引ですよ。私はなにか大きな信念を感じて嫌いじゃないですけども」


明石君「営業行こうかね」


電「明石君は本当に行動力はありますね。なぜここ?」


明石君「個人的に気に入った。それにバリメロンがダメで俺が行けたら、俺でもやれるんじゃんって思えるだろ?」


明石君「ちゃんと取引内容は考えないとね。まずは商品を作るところからだ」


古林「……え、一から俺らが考えて作るのか?」


明石君「商品なくちゃなにを売り込め、と」


古林「DSSだろ。俺らが一から考える必要はないと思うよ。向こうに『想力でなにか作って欲しいものはありますか?』で、やれるかやれないかをこちらで判断して、パートナーシップ作ったほうが効率的で、ウィンウィンだと思う」


明石君「あー……なるほど、その発想はなかった」


上ノ坊「でもこっち素人ですよ。それ、足元見られません……?」


古林「それで行くなら大丈夫。明石君、おじちゃんもDSSへの営業に連れてってくれねえかな。さっき夕張さんから許可出たし、規定書類はみられる。契約書は俺が作るよ。いくらくらい、欲しい?」


古林「売れる商品を売る場合、腕の見せ所は利益還元率だ。俺の考えだと、仕事量にもよるが量産可な想力商品の場合は」


古林「億超えの契約で取ってくるぜ」


利益億超え、だと。

あまりにぶっ飛んだ金額に鼻水出たわ。


電「想力商品化の場合、細かい規定が既にありますからね。その内容に反しない開発であることが条件なので、よく見るのです」


明石君「分からねえところは兄さんに聞けばいいか」


電「テメーの思い立ったが吉日の無茶行動、司令官さんに陰で支えられていたから通ったのです。明石君のやろうとしていることは工作艦の裁量権限の大きい鎮守府の工廠の仕事ではないのです」


電「今、司令官さん此方さん戦後復興妖精で想力省の官僚どもに想力のなんたるかを改めて叩き込んでおります。なので、お前の世話まで見させていられないのですよ。私に聞くといいのです」


明石君「……でも電さん、分かるの?」


電「当たり前なのです。想力に関しては艦兵士で一番、よく知っておりますとも。想力省の決めごとも頭に叩き込んでいるのです。司令官さんのお役に立つため、また最高艦兵士として恥をかかないために、です」


電「明石君のことだから想力工作補助施設でどうすれば明石艤装を動かせるようになるか分からないと思うのです」


そこからだな。電さんいわく、戦後復興妖精がロスト空間消えてから艤装を用意する手法を利用するという。海の戦争時と同じく想を入魂するらしいが、その構成想は決して故人のものではなく、今の俺だ。つまり『明石艤装を動かした適性者の想』とリンクさせることで可能になるらしい。


要は戦後復興妖精は俺らに想を繋げることで、適性者としての分身体のような想を作り出して艤装に入れていたらしい。


全く、海の傷痕は今を生きる人間からの想を艤装に溜め込むという手段を用いるしかなかったというのに、想力工作補助施設が出てきてからこの利便性。


想力工作補助施設を製作した佐久間ってやつは兄さんと同じく、時代を一代で進化させた発明家だな。


電「それと明石君、今日の夜の予定は覚えてますね?」


明石君「おう」


親父と会う。


2


side アッキ―


目が覚めました。


戦争終結してからですが、別に12時間アッシーとの接触を経っても死にはしないんですよね。ただ気を失ってしまう。なぜ12時間なのかの理由としては昔、朝に仕事に出かけて帰ってくる時間で、それがアッシーとお父さんのケンカが始まる時間だから、だと私は思う。


私は押入れに逃げ込んで耳を塞いで目をつむっても、なにが起きているかの光景が瞼の裏に広がる。


私もなにをすべきかは分かっている。こんな壊れてしまった家庭から逃げて、保護を受けるべきだ、と、でもアッシーは心のどこかでこの家庭を復興させる夢を描いて耐えているのは知っていた。出来ることなら、と私もそう願うけど、アッシーみたいに強くなかった。静かになって押入れを開けて、「大丈夫」とアッシーを気遣う毎日だ。すると、アッシーが声を返してくれる。それがないと、パニックを起こして胸が苦しくなる。要は過去がトリガーだ。


照月「秋月姉、大丈夫……?」


山風「酷い汗、だよ」


秋月「ええ、大丈夫です……しかし、ダメでしたか」


秋雲「無理はしなさんな」


申し訳ない。私にはもう仲間もたくさん出来て、きっと世界には一人でこういった心象と戦っている人も多くいるはずだ。アッシー一人に依存する必要もないはずなのに。


明石さん「さてと秋月ちゃん」明石さんがいう。「お父さんに会いに行きますか?」


山風「ええ……それはまだ無理じゃないかな……」


秋月「行きます。アッシーはどこです?」


明石さん「弟子は今、多忙で後から来ます。まあ、弟子はお父さんと会っても大丈夫でしょう。また日を改めて二人で行くか、弟子と合わせるか、それとも秋月ちゃんと私でまず行くか、です。ちなみに明石さんは私と秋月ちゃんで行くのをお勧めします。先日、提督さんと一緒にお出掛けたした時にお父さんと会ってきましたけど、大丈夫そうでしたからね。それに、秋月ちゃんのその欠陥、きっとこの問題を解決で回復の兆しが見えるかも」


秋雲「准将って、たくさん来ていた官僚連中と会議だっけ。准将はそれ終わってからしか無理だと思うから、今からなら明石さんと秋月ちゃんの二人だけで行くの?」


明石さん「ですね。向こうはお父さんとその上官、大佐さんが一緒で、事情も把握しておられますよ。根性は叩き直したそうですから、過去のようなことは一切起きないと、実際明石さんも会ってみましたけど、あれはもしかしたら昔のお父さんかもしれません」


秋月「参りましょう。怖いですが、少し期待はしているんです」


とうの昔に諦めていたけど、もしも昔のように戻れるのなら、と少しだけ思うから。


アッシーがなにかやっているのなら、邪魔はしたくないし、都合が合わないのなら私、明石のお姉さんがいれば大丈夫なはずだ。会ってなにを話せばいいかも考えていないけど、会うこと自体に意味があるから、深くは考えず、面会に望むことにした。

場所は喫茶店らしい。


2


それで面会、そう面会したんです。


陸軍の大佐さんの隣で身体を小さくしている父と、会ってお話をした。あの頃とは違ってクマのような体型じゃなかった。痩せたというよりは贅肉が削ぎ落ちて引き締まったという風だった。結論からいうと、私は大丈夫だった。実際に会っても、胸が苦しくなることはなかった。


昔の父に戻っていた。

秋、と私を呼んだ声が温かい昔そのものだったから。


事情が事情だけに明るくはなれなかったけども、場を和まそうと明石のお姉さんと大佐さんが他愛ない世間話をしてくれた。お父さんが陸軍でなにをしていたか、とか、まだお母さんが生きていた頃の話とかもした。それで私は気付いた。お母さんが死んでから色々あり過ぎた。例えお父さんが昔に戻ろうとも、それらをなかったことには出来ないから取り戻すことなんて無理なのだ。


また始めから築いていくしかない。

その選択をするかしないかの問題だった。


三十分、経った頃だ。


喫茶店の扉が乱暴に開いて、スーツを着て髪をビシっと決めたアッシーが飛び込んできた、この席まで一直線に走ってきて、私と明石のお姉さんを見てから、お父さんを見る。


明石君「アッキーの元気がねえけど何かいったのか?」


明石さん「大丈夫です。順調な会話が出来ています」


明石君「いっとくぞ、俺は別にもう何も怒ってねえよ。ただ俺からあんたに関しての個人的な感情の話だ。アッキーのパニック障害どうするんだよ。これは俺とあんたの責任だ……って誰です?」


「ああ、ごめん。お父さんの上官ね。事情は把握しているよ。でも明石君に責任があるのか?」


明石君「当たり前でしょ。当時、俺がこの親父をボコボコにする力ありゃアッキーはこうならなかったんだからな。という訳で表に出ろよ。今度は俺がお前をボコボコにしてやる。ちなみに俺の素手喧嘩の強さは甲大将の第一艦隊旗艦の木曾さんと同等だぞ」


大佐さんは目を丸くした。それでお父さんを肘で突いて、


「ンだよ、聞いていたより立派な息子じゃねえか」


とアッシーを褒めた。


そう、アッシーはいつも私よりも勇敢だ。二人で話はついたのか、喫茶店を出て行った。本当にケンカする気らしい。大佐さんがテーブルの上に「これ、お父さんからね。あいつ浪費癖があるから俺が預かっといた」とクリアファイルを差し出した。


秋月「……これ」


手紙があった。どうやら文字のほうが良いだろう、と思っての用意らしかった。


それと、これは通帳かな。ああ、そうか。あの時、私達から巻きあげた分の金銭だろう。三年間でお父さんはそれを貯めていたようだ。それと手紙は謝罪の内容だった。


「あいつは別に君達とまた暮らそうだなんて思っちゃいないよ。まあ、仕事の関係もあるが、望むのなら年末年始や夏季休暇で家族として過ごすことは出来る。今じゃなくてもいい。いつの日かまた家族で、と思える日が来た時でもいい。それが来なくてもいい。ただあの頃のような日は二度とやってこない。それだけは少しずつでもいいから、理解していってもらえたらいいと思う」


明石さん「良い人ですねえ……よくもまあここまで世話してくれますね」


「面倒見はすごくいい、との人気の上官ですよ。ああ、俺は外であの二人をそろそろ止めてきますね。秋月ちゃん、あの二人が喧嘩した後の様子見るのキツイでしょうし、今日はこのまま別れましょうか。ああ、俺が払っときますんで」


明石さん「気も利く……良い上官に恵まれましたね」


「礼をしてもらえるというのなら、ぜひ瑞鳳さんと天城さんを紹介してください。先の場ではお固い准将がいたので言えませんでしたが、あの二人、すごい気になっています」


どうして男の人ってこうなんでしょうね。


明石さん「お納めください。世にも珍しい髪を降ろした瑞鳳さんの写真です」


まじまじとその画像を見つめると、真顔で立派な敬礼をした。


大佐さんが去ってからしばらくした後、アッシーが戻ってきました。


「くそ、やっぱりあいつ強えわ。引き分けだった」と瞼を晴らしている。少し胸が苦しくなったけど、アッシーは清々しい顔をしていました。きっとアッシーは喧嘩してきて、もう解決の兆しが見えている。


秋月「アッシー……」


明石君「おう。これあれか、昔の金、返してくれたってこと?」


明石さん「ですねー、弟子と秋月ちゃん、こんなに貢いでいたんですね」


明石君「アッキー、そうだ。これを頭金にして家を買おうぜ。昔、俺らが母さん達と住んでいた家だ。あの家、手放しちまったけどもう一回買おうぜ。ああ、これじゃ足りねえけど安心してくれ。今、俺はすげえでかい話に噛んでいて上手く行けば超がつくレベルの大金が転がり込んでくるんだ」


秋月「私、アッシーがまた家族でちゃぶ台を囲むことが夢だって知っているけど」


会ってハッキリと分かった。


秋月「ごめん。私は、無理」


そう伝えると、アッシーが冷えた声でいった。


明石君「なんで? もう大丈夫なはずだよ。今すぐは無理でも」


秋月「もう」私は正直に伝える。「親とは思えなかった」


明石君「家族だとは思えなかったのか?」


私は首を縦に振る。


明石君「アッキー、確かに親父は過去に俺らに酷いことしたけどさ、逆に考えてみろよ。鎮守府の皆だったらどうだ。仮にあんな風に酷いことされても、同じように許せないか」アッシーは珍しく神妙な顔でいう。「俺は許せるよ。鎮守府の皆が豹変しても、間違っているのなら止めるし、そうはさせねえ。過去の過ちは消えなくても、家族ってそういうもんだろ?」


秋月「私もそう思う。でも鎮守府の皆と、実父では違う」


アッシーが鹿島さんを好きな理由は分かる。見た目もそうだろうけど、あの人が鹿島艦隊の悲劇から立ち上がったからだろう。チューキさん達に引率の四名を沈められているけど、チューキさん達のことも考えて最後には敬礼を送って見せた。立派だと思う。アッシーの理想はこれに似ていて、軍に来る前から、あの頃のようにお父さんと再びやり直せるように願っていたから、最期には許し合える関係への希望を抱いていたはずだ。今の私の返事はアッシーを深く傷つけると思う。


明石君「俺は親父と絶縁はしねえけど、これどうなるんだよ。俺は親父と会って飯食ったり酒飲んだりして徐々に関係は取り戻すけど、そこにアッキーはいねえ。アッキーだって、俺がいつかまた家族皆でって思っていたことは知っていただろ。家族、バラバラなままじゃねえか」


アッシーはドンっと拳を強くテーブルに叩きおろした。


明石君「俺が今まで何のために……」


明石さん「弟子」


明石君「姉さん、俺はアッキーの答えを尊重するけど、我が侭だと思うぞ。アッキーは欠陥がある以上、一人で生きていけない。その答えに対する責任が取れねえからな。その答えを断言しても実践はできねえ以上、成長だとは思えねえ」


そこはぐうの音も出なかった。


明石君「仕方のないことだとも思う。それに男と女は違え。アッキーはそれでも幸せをつかめると思っていた。アッキーはそれを補って余りある魅力があるからな」


秋月「それ、私は女だから男の人を捕まえて養ってもらうってこと?」


明石君「ああ、そうだよ。これは差別だが、現実そうだろ。女はそういう道がある。男は女をそういう風に見るからな。でも、女は違う。男を専業主夫にして養ってくれるやつ、どれだけいるんだ?」


秋月「馬鹿、専業主夫の人だって年々増えてるよ……」


明石君「馬鹿はお前だ。働きたくても何かの事情で働けないから、専業主夫やってるパターンが多いんだよ」


ああ、そうか、と私は納得する。

アッシーがお兄さんに私を推したのは私にはそういう生き方がしていけると思ったからだ。アッシーは子供の頃から、そう教えられてきたし、丙少将からも「女に守られるような男になるな」といわれたらしいし、私達、兄妹が信頼するお兄さんなら、アッシーは自分がいなくても大丈夫、と思ったからなのだろう。男と女は違うという考えはアッシーに染み付いている。世界で唯一の男の艦兵士になってから、それはますますアッシーに浸透したはずだ。


明石君「俺は親父とのことを乗り越えた先に、アッシーの欠陥が癒えると考えた。だってそれは絶対にあの頃が原因の傷だからな。だから俺は死ぬ気で最後の海まで乗り越えたぜ。兄さんや姉さんや鎮守府の皆にも恩は返すどころか、ますます増えるばかりだ。鎮守府の皆だって、俺らの家庭が丸く収まるのを心のどこかで応援してくれていたはずだぜ。それを不意にして欠陥治るどころか、俺の理想の形を崩した上で、その答えはただのワガママだとしか俺には思えん」


アッシーが伸ばした手を、明石のお姉さんがつかんだ。


明石さん「お前のそういう手の早さは悪い癖ですよ。秋月ちゃんを責めるばかりでなく、お前も治さなきゃならないところたくさんあるっていうのを自覚しなさい」


明石君「……っち」


提督「遅れてすみません。空気が穏やかじゃないですね……」


とそこにお兄さんの登場だ。アッシーと大ケンカは避けられない中、お兄さんの登場に安堵してしまった自分に少しの嫌悪を覚えた。こういうところは確かに私の甘えだと思う。


提督「明石さん、どういう流れになったんです?」


明石さん「しばらく口を出さないでいたのですが、頃合いですかね……」


明石のお姉さんは今までの状況をしゃべり始めた。


提督「なるほど、想像していたよりもずっと希望的な展開で安心しました。意思疎通不足かと」


と、お兄さんは注文したコーヒーをすすりながら、妙なことをいった。


提督「明石君と秋月さんの受け止め方の違いですね。秋月さんは明石君よりもずっと心に傷が出来ているんですよ」アッシーが「そんなことは分かってる」と頬をふくらましていうと、お兄さんは言葉を続けた。「例えば深海棲艦が秋月さんを沈めてしまったらその深海棲艦を許せますか」


明石君「許せる訳ないだろ」


提督「秋月さんだって本当は家族仲良くまた過ごしたいとは少しくらい思っていますよね?」


秋月「それはそうですが……でも」


提督「親とは思えなかったから無理、の答えですが、それはあくまで今のお話であり、今後はどう変化するか分からない。希望はあるといった解釈で間違いはありませんかね。どうなるか分からないでしょうから、下手に希望を明石君にちらつかせたくない、という考えは捨てて答えて欲しい」


秋月「……はい、それは間違いありません」


無理だけど、正確には今は無理、が正しい。でも今、私が出した答えは関係修復が難しいだ。きっかけがあれば、アッシーのように考えることもあるかもしれないし、今よりも悪化することもある。でも、ほら、アッシーは希望を見つけたように笑うから。


提督「明石君、秋月さんはこの通り、明石君と同じ希望を持ってはいるようです」


明石君「一安心したぜ。でも、それなら」


提督「ですが明石君、ダメだった場合の覚悟は必要ですよ。それほどの傷を負ったこと自体に秋月さんに非はありませんし、彼女の答えを尊重するように……まあ、秋月さんが欠陥直したところで、変わらないと思うそのシスコンをどうにかするべきではありませんかね……」


明石君「それは、まあ……」


明石さん「それと私からも。弟子はお父さんと仲直りの答えを出したのですから、その場に秋月ちゃんいなくても、お父さんと秋月ちゃんの話は出来るはずです。それ以上は弟子のワガママです。あなた達はいつも一緒でしたが、今回の答えのようにそろそろ別々の道を往くとです」


明石君「……そうだな」アッシーは席を立った。「今日のところは俺、行くよ。ああ、鎮守府にはまだ帰えねえからよろしく。それと兄さんと姉さん、仕事周りのことと今回の件はありがとよ」


ん、どういうことだろう。仕事周りのことというと、夕張さんの会社のことだろうか。でも、アッシーは不採用になったはず。なにやら忙しいみたいだし、それとはまた別になにかしているんだろうか。想力周りのことといっていたけども、お兄さんのことだから考えがあるんだろう。


明石さん「ああ、そういえば秋月ちゃん、本当にバリメロンお断りでいいんですか?」


秋月「ええ、よくよく考えればアッシーと一緒、という志望理由が強かったので」


提督「あの、秋月さん、ひどく自分勝手なお願いと、愚痴をいってもいいですかね?」


秋月「な、なんでしょう?」


提督「お願いから。進学してから、想力省に来る気はありません?」


まさかの誘いだった。確かに軍のみんなにはそれぞれ新たな配属先の進路があって、その一つにその部門への門戸が開いていたけども、お兄さんから直々にスカウトされるとは思わなかった。


提督「自分が強く推薦された背景ですが……」


まず想力省は様々な省から転属を志願する方が多くて、人材調達には苦労しないと思っていたが、此方さんが「この人達では無理です。チェンジ」といったそうな。当然、それでは納得できない方が多かったそう。「夕張さんが妖精可視才スコープを開発した以上、可視才はフォロー出来るはず」というのが言い分だったそうだ。今日、想力工作補助施設で実際に想力について触れたそうな。


そうしたら想力を運用できる人がほぼいなかったそう。


お兄さんがいうには、想力省は実際に想力に触れる機会も多いため、キャリアの他にも妖精可視才が必要となるポストが多くあったとのことだけど、肝心な『意思疎通が実働可能レベル』に達していない人が大半だったとのことで、ポストががらんがらんになってしまった、と。


提督「『仕方ねえ、高卒の未経験者だけど准将を連れてこいや!』って流れです。おかしいと思ったんですよね。聴取中に聞いた話が想力運営機構の団体だったのに、いざ指定されたのは官僚ポストでしたから。ハハ……」


自嘲気味に笑った。


提督「反感を買っている部分も多くて。熱意とキャリアのあるエリートさん達が、そんな自分を良く思わないのは必然でしょうが、陰でめちゃくちゃいわれていてびびる。自分のところに来ては意思疎通部門に提督勢を置いて、その実、自分達が実権を握りたいそうです。想力周りの役割。ちょっと妖精さん達の気持ちが分かる」


お兄さんはコーヒーをすすって「苦い」と砂糖を入れた。


秋月「お兄さんも大変ですね……」


提督「仕事が落ち着けば、になるかもしれませんが……今、ちょっとキャリアについて相談していて、なんとか時間を作って」


提督「自分、学生やりたいなあって」


明石のお姉さんがコーヒーを吹いた。


明石さん「大学通うんですか!?」


提督「ええ、その辺り相談しています。もしもそのほうになれば、自分は臨時雇用の形態でその椅子を元帥か丙少将が大淀さん秘書にして繋いでくれるという話は提案してくれました」


明石さん「そういえば神風さんは? 秘書をやるんですよね?」


提督「ええ、でもあの子もそのために色々とやらなきゃいけないことが多すぎますね。幸いながら神さん、頭はいいほうなので……ああ、今は官僚の若手に誘われたらしく、お食事に行ってもらっています」


明石さん「あの子、そんな柔軟な対応が出来たんですか!?」


提督「仕事柄、彼等と仲良くなってもらいたいですからね」


秋月「あ、でも神風さんは尊敬できるところたくさんありますし、人気は出そうですね!」


提督「ええ。なぜ神風さん食事に誘ったかは彼女が『想力において重要な素質を持っている廃の人材』だからでしょうね。正確は前向きで努力家、加えて美人です。周りが放っておくような子ではありませんね。今後、求婚もされるでしょう」


ああ、でも神風さんのことだから、頭の中にはお兄さんの為、としか思っていない、とも思う。


そういえば今日は鎮守府に訪れた官僚の人達が艦兵士の皆にしゃべりかけていたところを多々見た。確かに彼等にとっては魅力的なのだろうが、正直、私的には打算で近づくのは頂けないかな。


提督「秋月さん、妖精可視スコープで判明したのですが、艦兵士のほとんどは意思疎通も自分と同等以上に可能という結果が出ました。よろしければ進路の一つとしてご検討ください」お兄さんはコーヒーを飲み干すと席を立つ。「『兄とは別々の道になると思いますが』」


と最後を強調して、伝票を手に取った。


でもその海の戦いの延長線上にある選択肢は私の中で、とても魅力的に映った。


明石さん「そろそろ私達も帰りましょうか」


秋月「明石のお姉さん、私はまだここにいます。少し一人で整理させてはもらえませんか」


了解、と明石のお姉さんは答えた。


3


鎮守府でカメラのフラッシュが大量に焚かれている。マスコミの人達のようだった。北方提督と電さんのコンビと、それとその隣にいるのは官僚の人達だろうか。その中にテレビでも観た人がいる。防衛省の誰だったかな。とにかく偉い人だった。本館のほうで、想力周りで論議が行われている模様。


私は寮舎のほうに向かった。

入り口ではかったるそうな顔の電さんがいた。ちらほら、と知らない顔があるのは官僚の人達だろう。みな、電さんのほうを見ているが、話かけようとはしない。露骨に話しかけるなオーラが出ているからだろう。


秋月「電さん、もしかしてテレビ出たのですか?」


電「ええ、営業スマイルも疲れたので夜風に当たっていたのですが……秋月さん、お父さんと会ったんですよね? 答えたくないのなら構いませんが、私としては気になるのです」


鎮守府の皆に隠したいこと、とは思えなかったので答えた。電さんは難しい顔をしていたが、「間違いではないと思うのです。ただあなた達兄妹はもう今までみたいに一緒にはいられないかもですね」といった。


まさか私と同じ答えを出すとは。どうも鎮守府の仲間は私達のこと、思っていた以上に気に留めていてくれたようだ。


電「みんな気になっているのです。迷惑だから、と接触自体はアカデミーの皆に代表してもらっていますが、もしもあれなのなら娯楽室にでも行って皆にお顔でも見せてあげて欲しいのです」


秋月「……はい」


とのことで娯楽室に向かった時だ。角を曲がろうとした時、廊下の向こうから、声が聞こえた。男の人達の談笑の声だ。電さんが手で制して、口元に人差し指を当てた。話でも盗み聞きするつもりですかね。


何気ない談笑だったけれど、気が抜けているのか、途中に悪口が混じった。世間でも言われていることで、客観的には、その通りだとしても、私達にとっては暴言となるような失言だった。


――――なんで准将をあのポストに就かせるんだ。それも色々な贔屓をされてさ。偉業を成した英雄が政治でなにが出来るとは思えねえから、当初からのアドバイザー的なポジのままで、ゴーサインはこっちで管理すべきだろう。タレント政治家みたいな奴に実権握らせるとかねえよ。


ここまでは電さんも我慢していたが、次がダメだった。


――――人格も悪い噂あるし、しょせん高卒の未経験者だろ。


電「秋月さん、穏便に話し合いで済ませて来るので」


とまあ、いざとなったら私が止めよう。正直、電さんが行かなければ私が行くまである中傷だった。


彼等は電さんと私が角から姿を表すと、ぎょっと固まった。


電「聞こえていましたが、私から一つ……」


静かな声だ。抑えているのだろうけど、普段の電さんはお兄さん周りのことでは発狂するから、私からしたら、このほうが怖かった。


電「政治とは国民の皆様を幸せにする手段なのです。その未経験者が、どれだけの国民に利を送ったとお考えですか。あなたが国民の皆様に何の利益を出したか、具体的な数字を出して答えて欲しいのです。熱意だか経験だかエリートだか知らないですが、世界を救った以上の実績をお持ちになるんですよね。ぜひともお答え欲しいのです」


「申し訳ありませんでした。失言、お詫び申し上げます」


秋月「あの、想力がどのようなモノか知らない訳ではないですよね。確かにおに、准将は軍人ですけど、その扱いのため、あなた達と協力する必要があるはずです。お互いに敬意を持たなければ良い方向に向かうとは思えません」


「おっと失礼」


と、私達の後ろから、知らない男の人がぬっと出てきた。


「ここであなた達の反感を買うくらいですから、程度はたかが知れています。妖精可視才のように頭が悪くても、想力の扱いが可能になるってところは想力の厄介な点ですよね」


そういうと、向かいの男の人が明らかに不愉快そうな顔になった。


「雨村、あまり挑発しないでもらえるか」


「ごめんなさい。挑発したつもりではありません。ああ、あなたの大学、あなたが在籍中にサークルが不祥事犯しましたよね。女の暴行」


挑発にしか思えないんですけども。


「俺には関係ない。ああいう一部の馬鹿のせいで周りが迷惑を被る」


「悲しい答えですね。想力に携わる者として、今後2度と起きないよう解決の手段を模索する人材が望ましいと思います。俺には関係ない、周りが迷惑を被る。そんな自分本意な考えで、役割が務まりますかね、という疑問です」


「……ああ、そう、だな」


そういって、歩き去ってしまった。なんだか、本当に怒っていた様子で、ケンカにならないようにこの場を後にしたといった感じだ。


電さんはぽけっとした顔で、現れた男の人を見ていた。


電「……どなたです?」


「ああ、申し遅れました。雨村レオンです。天気の雨に農村の村、片仮名でレオンですね。父がイギリス人でハーフです。以後、お見知りおきを。そちらは電さんと秋月さんですか?」


電「なのです。こちらも秋月さんで合ってます」


「よろしく」


愛嬌のある顔で、笑いかけてきた。


秋月「はい、よろしくお願いします!」


雨村「論議はどうでした。くだらない会話で疲れたのでは?」


電「くだらないかはさておき、疲れたのです……」


雨村「昔の准将に愛を諭すような感じだったのでは。知識だけは知っていても、心で分かっていないでしょう?」


なんで知っているのか。そういう個人の深いところまで聴取は取ったのだろうか。私の家庭問題も軍に入る時に書面で記録されたけど、それよりもっと深いところだし、上に話すようなことだとは思えない。


電「……あなたは違う、とでも言いたげですね?」


雨村「すみません、でも、想力を駆使して官庁内の人事改革とか、課税対象の話、なんだか小さいですよね。私ならそうですね、税金自体、一部あってないようにします。必要ありませんからね。場所も新たに空間として設置できます。現海界システムはいい変えればテレポートです。面白いですよね」


電「……、……」


雨村「飢えて死ぬなんてことがなくなりますよね。その飢えから食料を求める想が抽出出来るのですから、食料を個人で生産可能だ。ああ、そういえば、前の休みに保険所に行ってきたんですよ」


なんだか、よく喋る人だな。でも、不思議となぜか耳を傾けてしまう。なんだろう。この人、なぜか親近感が湧く?


雨村「チワワが保険所に入れられていました。飼い主が捨てた理由はトイレが出来ないからだそうです。布でお尻を締め付けられていましてね、生殖器が怪我していたそうです。酷い話ですよね」


電「……なのです」


雨村「人間でもあるんですよ。例えば日本人の見た目の子供が嫌いだから、アメリカやヨーロッパのほうの外国人の方と結婚したがる人達。私は恐ろしいと思いました。その人、笑いながらいったんですよ。そうじゃないと愛せないってね。その人達の間に出来た子供は親の理想とかけ離れてしまえば、あのチワワのように捨てられてしまうんじゃないでしょうか。せめて人間と犬は違う、という認識があればいいんですけど、こんな時代だからこそ最低限の価値観って想力で教えるべきですよねー」


雨村「人って怖いですよね。昨日まで優しいお父さんが急に豹変したり、自分に非がないよう策で誰かを殺そうとしたり、チップとして世界を連れ回されたり、誘拐されてそのままぽいっと親から見放されたり、遊園地に置き去りにされたり」


電「あなた」


電さんが声を鋭くしていう。


電「私達の過去を調べたのですか」


雨村「いいえ。ですが、艦兵士の配慮に欠けましたね」


電「白々しい……」


さすがに今のは調べないと出てこないピンポイントな事例でしたけども、なんだか本当にこの人に悪気は感じられない。不思議な雰囲気の人だった。私には、悪い人だとは思えない、かな。


秋月「……あの、話は変わるのですが」


雨村「なんでしょう?」


秋月「中央省庁で働く人材に一番、必要なモノってなんですか?」


そういうと電さんが驚いたような顔をした。


雨村「私、入省したばかりで経験はまだないのですが、面接のコツとか試験の対策とかそういうんじゃないですよね」


秋月「あ、はい。試験と面接があるのは知っていて、学歴が必要なのも分かります」


「そうですか。私に答えられる範囲なら。どこの省です?」


秋月「想力省です」


「私も面接時に似たような質問をしましたね。忍耐力だそうです。理不尽を耐える精神力だって、薄い頭頂部を指差し、自虐的に笑ってました。艦兵士の皆様はそこら辺、修羅場の数的に才能はみんなありそうですよね。秋月さんは耐えるの得意ですか?」


秋月「……耐えるのは好きじゃありません」


「そうですか。でも私は忍耐力はどの仕事も要ると思います」


秋月「そう、ですね。でも仕事だけじゃないと思います。私は仕事以外でも耐えていました」


嫌な思い出しかなかった。あの頃、耐えていただけだ。アッシーに守られていただけだった。助け合っている、とも思うけど、その実、絶対に私のほうがアッシーに寄りかかっていた。私の欠陥がその大きな原因でもあった。それでも、私だって明るい未来を思い描いて耐えていた。

でも、軍に入ってからはどうだろう。


あの日、適性検査施設でお兄さんに私はいった。死ぬかもしれない命を私の力で助けられるのならば、それは素晴らしいことだと思うし、やりたいって私は自発的にやる気を出した。それからアカデミーで皆と出会って、その想いは増すばかりだった。鎮守府にいって、怖い想いもしたけど、戦争終結まで耐え抜いてみせた。いや、想いの花はあの一日の海で咲いた。たった一日のために何年の時間をかけたのだろう。


秋月「でも、私が耐えるのは」


だから今はこう思う。


秋月「時が満ちるのを待っているからだと思います」


雨村「良い言葉ですね。私もそんな風に答えておけば良かったかも」


電「……うん、秋月さんらしく前向きでいい考え方だと思うのです」


その日の夜は調べてみた。

想力周りの情報は更新されていて、細かい規定も数多く制定されていた。時期的にいうと、海の傷痕大本営襲撃の日から政治は動いていたようだ。ちょうと戦争終結の少し後の時期に此方さん鹵獲成功のため、予定よりも大分、迅速な対応が可能になったらしい。


照月「うん? 秋月姉、お勉強しているの?」


秋月「はい! 認定もらって進学しようと思います!」


照月「おお、私と同じだ。私も訳合って高校の途中から軍に入ったんだよ。お馬さんのところで働くつもりだったけど、学校行きながらにしろっていわれたからさ……」


なんと。姉妹とはいえ、そこらの事情は聞かないようにしていたけど、なんかこうそれを話してもらえるのって、距離が縮まったみたいで、嬉しいものですね。今晩は照月と二人で参考書を広げて、勉強した。朝日がのぼったことも気も留めず、限界までペンを持っていた。


照月「もう無理……私は寝るう。あれ、今は何時?」


秋月「0730ですから十時間くらい……」


あ、あれ、ということは――――


照月「明石君と十二時間以上接触しなくても過呼吸を起こしてないよ!」


希望の光が見えたけど、確認したとたんに胸が苦しくなった。

ああ、もう。


side アッシー 喫茶店から去った後


明石君「二人ともなにしてんだよ?」


喫茶店を出て左に折れると、電柱の陰に秋雲先輩と山風さんがいた。俺とアッキーの様子を覗き見でもしていたらしい。山風さん、着こんだ上にカツラかぶってるし。そういえば町に行く時は髪色が目立つからって、そんな風だったな。髪が痛むから染めたくはないとかって聞いた。


秋雲「いやー、ごめんね?」


秋雲先輩が困ったように笑った。まあ、この二人に悪意がないことは分かるし、別に黙っておくことだとも思わなかった。この二人にも世話になったよなあ。俺とアッキーを繋ぐモノは本当にたくさん出来た。


明石君「話そうか? そこに居酒屋あるし、そこで」


秋雲「お、いいねえ。居酒屋まだ入ったことないよ」


山風「あたしも……」


そういえばそうだな。アカデミーでは当然なかったし、外に出たこともあったけど、ファミレスだったか。俺らはアカデミーの頃は全員、未成年だったし、居酒屋に入ったことはない。山風さんはお酒は鎮守府で飲んだらしい。ちなみにゲコだから、酒は控えるとのこと。


明るい檜の内装で、帰りに飲んでるのか、リーマンがたくさんいた。ビールジョッキ持った水着のお姉ちゃんのポスターなんて久々に見たよ。とりあえず生中とかって注文してみたい気になるな。


テーブル席に座って適当に注文すると、喫茶店のことを話した。


秋雲「そっか。まあ、簡単に解決しないよね」


山風「……そうだね」


明石君「上手く行かねえよなあ。海の傷痕倒しても次から次へと壁だ。そういえば秋雲先輩と山風さんってなぜに軍に来たの? マナー違反だけど、俺の事情知ってるんだし、話せるなら聞きたいんだけど」


山風「あたしは、腐った性格を変えるため……詳しくは、いわない」


明石君「別にその山風さんの性格には問題はあるけど、腐ってるっていうほどじゃないと思うんだが……」


山風「……はっ」


山風さんが鼻で嗤った。まさか猫被りでもしてるんだろうか。


山風「秋雲、先輩は……?」


秋雲「秋雲は別に込み入った事情はないかなあ。インスピレーションを求めて。思ったより短い期間だったけど、実に良い経験が出来た」


なんというか、この人らしいな。


明石君「……うん?」


レジで会計をしている客に目が行った。男と女の二人組だ。男は知らねえけど、女のほうは知っている。あれは間違いなく神風だ。あいつが兄さん以外の男と二人でいるのって珍しいな。


和気あいあいと会話しながら店を出て行った。


明石君「ごめん、ちょっと喫茶店に忘れ物した」


気になったので少し後を追いかけてみるとした。


2


おいおいマジかよ。

あいつらビジネスホテルに入っていったぞ。


神風をよく知っているわけじゃないけど、男とホテル入るようなやつではないのはわかる。これは鎮守府のエックスファイルを目撃したに等しいな。そういえばあいつ最近は秘書官だとかなんとかで兄さんにまとわりついていたな。あの場では兄さん一人だったけど、俺らの話し合いには連れてこずに別の場所で待ってもらっていたのかね。


様子を探りに行くとした。


理由としては軍の仲間であることと、今は新たな立場のある兄さんの秘書官を名乗っているからだ。あの目立つ髪色なら周りの記憶に残る。くだらねえ不祥事で迷惑被るのはあいつだけじゃねえんだよな。それを分からないやつでもなさそうだし、そこがひっかかるからだな。


酔っ払っている線もあるし。


自動扉を潜ってロビーに入る。じゅうたんの続く先の受付に神風の姿があったので、「おい」と神風に伸ばした腕は、瞬時に振り向いた神風に取られて、次の瞬間には視界が反転して石の天井が見えていた。


神風「いきなり触ろうなどと不埒者……ん?」


明石君「不埒者じゃねえ。俺だよ。知ってるだろ」


神風「不埒者だろ。先の告白騒動」


明石君「あ、はい」


って今はふざけてる時じゃねえ。


明石君「酔っ払ってんの?」


神風「はあ? 私、お酒なんかに飲まれないわよ」


明石君「へえ、ならごめんな。ただお前が男と二人でホテル入るとか意外だなって思ったんだよ。今の立場、兄さんの秘書官なんだろ。これが記事にでもされたらどうするわけ。酔いを疑うだろ?」


神風「しまった。記事、か。そうね、その通りね。不覚だわ。一緒にいるのは想力省に配属される若い男の人よ。ちょっと詳しい話を静かな場所で聞かせてもらいたかったのよね。なんというか、感覚的に大丈夫そうだったし、脇が甘かったわね」


明石君「すぐ判断できそうだけど。神風も疲れているんじゃないの?」


神風「……そうかも」


俺の勘だけど、なんかひっかかるな。

そいつは優男といった風で、年齢は想力省に来るくらいだから、俺よりも年上だと思う。近くに寄っても、紙切れを眺めて一人、思案に耽っている。


明石君「初めまして。小倉嵐士です。突然で悪いけど、艦兵士を連れ込むの止めてもらえないか。俺らが世間でどんな存在か分かるでしょ。記事にされると迷惑なんですよね」


「ああ、すみません。少し神風さんと込み入った話をしておりまして、配慮に欠けました」そういうと男は立ち上がって、笑った。「明石君ですね。申し遅れました。私、想力省の雨宮レオンと申します。以後、よろしくお願いします……それと不躾ですが、お話する時間を頂けませんか」


レオン? 珍しい名前だな。よくよく見れば書類の束は軍の資料か。将席の過去の海戦の資料と、鎮守府(闇)の資料だ。一体、なにを知りたいんだ。やっぱり想力か?


雨村「想力周りで、准将の足跡から想力情報を自己分析しておりました」


明石君「へえ、仕事熱心ですね。神風、その話をしていたの?」


神風「今の官庁の詳しい話を聞かせてもらっていたのよ。基本的な知識は仕入れたんだけど、司令補佐の秘書な訳だから、細かく把握しておいたほうが助けになるかなって思いまして。それで北方、というか私の特異な戦闘スタイルについて聞きたかったとのことで雑音から離れた場所で……本人を前にして失礼だけど、私も疲れているのかも……」


雨宮「大変失礼致しました。周りが見えなくなるのは悪い癖です。配慮に欠けておりました」


そしてなんか山風さんのセンサーが発動して、俺の後ろに隠れている。雨村とかいうのはそれを意に介した様子もなく、資料を食い入るように見つめている。ああ、なんか神風が油断した理由も分かった気がする。こういうところ、兄さんに似ている。それが理由かも。


明石君「俺は帰る。神風も出ろよな」


神風「すみません、今日のところはこれにて」


雨村「はいはい。私も鎮守府のほうに帰りますー。あ、鎮守府でいいじゃん!」


うわ、こいつちょっと酒臭い。酔ってんのはこいつのほうか。


神風「そうでしたね……私は准将のところに行きます」


俺も今日は色々と疲れた。


体力あるほうだけど、慣れねえことしたせいだな。


ああ、神風がいうには、鎮守府で食事に誘われたとか。兄さんが許可したので社交の一環と受け止めて、居酒屋に行ったとのことだ。ったく、ホテルとか兄さんも予想外だと思うぞ。今は大事な時期なんだから、妙に波風立てることするなってんだ。


雨村「ああ、それと明石君、小耳に挟んだのですが、DSSに持ち込むとかいう企画ですが、無茶しすぎです。まだ会社が想力運用においてこちらから干渉しなくてはならないので」


明石君「准将から許可は取りましたよ?」


雨村「よーいドンの合図は今日に鳴りましたからね。ですが急すぎますよ。准将の管轄下ですが、私は企業との運用管理の部門にいるので、よろしければ円滑に事業の実現できるよう、パイプ役を致しましょうか。准将の負担も減りますし、私としても艦兵士の皆様のお役に立つことは本望です」


明石君「マジですか。じゃあよろしくお願いします」


雨村「承りました。DSSのほうには私から」


とのことで、俺は居酒屋に戻った。山風さんと秋雲先輩がテレビを観ていた。


秋雲「お帰りー」


山風「……むう」


山風さんはなにか思案に耽っている様子だ。


明石君「あ、そうだそうだ。手紙は読んだよ。俺なんか責任取らなきゃいけないようなことした?」


山風さんがびくっと身体を震わせた。


山風「ち、違うよ……あれは……い、いや、構わなくていい……」


明石君「責任取れとかいわれたら構うだろ。気になるんだよ、俺なんかしたか?」


秋雲「ちょっと私はトイレー」


秋雲先輩が肩をすくめて、山風さんの背中を叩いて、席を外した。


明石君「それで……」


しかし、本当にあの夜っていつの夜で、俺が責任追及されるようなことをした覚えはないから気にはなる。アカデミーでも鎮守府でも記憶なくなるくらいに酒を飲んだ記憶もねえし、覚えていないっていうのはあり得ん。


山風「本人から許可取ってあるから、いう。アッシーは、アッキーのこと、あまり見ていないよね」


明石君「ンな訳あるかよ……」


山風「アッキーは、花火が好き」


明石君「初耳だけど、そうなの……?」


山風「高校一年生の時、男の子と夏祭りデートして花火を観てから好きになった、とか……」


マジかよ。いや、待てよ。

確か、前に鹿島さんと密会任務に出かけた時、デパートの下着売り場の近くで、俺はそんな話をみんなにしたな。クラスのやつがアッキーが男と一緒に祭りにいたとか噂していた話だ。聞いてもアッキーは口を閉ざしたから、あんまり深く聞かなかったやつだ。


山風「その子、ずっと入院していて抜け出して行って、もう亡くなってる……」


明石君「そいつ、アッキーの彼氏だったのか?」


山風「違う……友達だって。でも、それがアッキーの辛い思い出の一つ」山風さんはいう。「あの子が死んだ時、葬式に行ったんだって。その時、その子の親から心ない言葉を聞いた、とか」


明石君「なに」


山風「やっと死んでくれたって」


ずいぶんと救われねえ話だ。俺ももうガキじゃねえし、金なんかなかったから、なまじずっと入院している身内がいるって、金銭的には負担も大きいだろうな、とも思う。色々と疲れて、そんな悲しい思考に陥ってしまったのだろう。初めて聞く話だけど、よくありそうな話でもある。


山風「アッキーは、重ねたと思う……自分の境遇と」


明石君「そっか……」


けど、なるほどな。俺も納得した。アッキーは俺と似ているところがあって、前向きだ。元気の良さでは俺以上だと思う。俺とは違ってアッキーはよく笑う。だけど友達も失ってあの家庭の惨状だからな。俺以上に心に傷を負っても仕方ないと思う。なんでいってくれねえんだよ。


山風「アッシーより、アッキーのほうが、繊細だ……けど、アッキーはアッシー以上に、辛い時でも笑ってた。アッシーは露骨にすねたり怒ったり……だから、きっとアッキーのほうが強いんだ。海の傷痕が、アッキーを『重』に挙げた理由も、あたしは分かるよ」


明石君「そこは納得出来ねえところだな」


アカデミーの頃からそうだ。俺はアッキーに比べて不出来だとよく評価される。確かに頭の出来も悪いし、単艦演習しても勝ったことないし、性格面でもアッキーより悪いところたくさんある。


けど、ずっと一緒だから、分かることもある。


明石君「繊細なのが図太いよりもいいことなのかよ。辛い時でも笑ってるやつが、辛い時に泣くやつよりも強いと思うのならば、大間違いだ」


明石君「アッキーは明るくてよく笑うけど、それは決していい理由だけじゃない。そうすることが、あいつなりの処世術なんだろうさ。嘘ついて笑うのは、抱え込むことも多いだろうに」


明石君「俺は俺をアッキーよりも弱いとは思わねえ。押し入れに引きこもってた時から、俺がアッキーを守ってきたんだ。あいつだって、本当は家族で一緒にって願ってたはずなんだ」


明石君「だけど、ダメだった。それを責めるのは違うとは思うけど、アッキーが答えを出した以上、俺とアッキーはもう今までみたいにゃ入られねえだろうさ。その選択を答える前に、欠陥治さなきゃだろ」


明石君「アッキーには俺が必要なんだよ。俺はアッキーのことが世界で一番大事だ。だから、仕事中だろうとなんだろうとアッキーになにかあったら、即行で駆けつける。けどさ」


明石君「俺ら兄妹そのままでいいわけねえだろ。仲間はたくさんいるよ。でも、それを頼りにして生きていくのかよ」


明石君「俺ら兄妹、このままじゃダメなんだ。どっちが強いとか、そういう話じゃないんだよ」


山風「確かに、アッキーは、諦めてる。それはあたしも、分かる。家族の話を聞いた時、二人の、顔を見比べて分かる。諦めてないのはアッシーだけだよ」


山風「でも、それはきっとアッキーも欲しいもの」


山風「お父さんとの関係が壊れても、昔には家族の良い思い出もあったから、そこまで執着するんじゃ、ないの……?」


山風さんは、ぽかんとした顔で首を傾げている。


山風「だったら、いつか、笑い飛ばせる日が、来るよ」


山風「きっと、そのガラクタ」


山風「くすんだままでも、輝く、モノだよ」


山風「絶対に、いつかそう思える日が来る……!」


なぜだかいつになく本気な顔と言葉だった。俺は山風さんがなぜ軍に来たかをさっき知った。腐った性格を治すため。その言葉は俺が思っていたよりも相当に重そうだと感じさせる物言いだった。


明石君「お前に」


明石君「俺らの家庭問題のなにがわかる」


俺は鹿島さん達と柴又にいって、江風の実家の飯屋にいた山風さんの親父さんと話したことがある。その時は酒を飲まされて、話をしたけど、娘思いの良い親父さんだったのを覚えている。そんな恵まれた家に生まれ育ったやつには、親に裏切られてなお、あの頃を思う気持ちは絶対に分からないだろう。


山風「お前の今までの行動力は、勇気じゃない。だって、アッシーは深海棲艦を見て怖がらないし、アッキーがピンチになると、作戦を無視してもそこへ駆けつける。神経が、図太いだけだ」


山風「臆病が伴わない勇気は、強さなんかじゃない」


山風「アッキーの戦い方はアッシーと同じく守ることに特化していた。あの時、守られていたアッキーは、本当はアッシーを守りたかった」


山風「だからアッキーに秋月の適性が出た」


山風「秋月型は皆を脅威から守るために産まれた船だ」


明石君「っ!」


くそが。いい負かされた気分だ。

俺は席を立った。


3


人工の星が照らす繁華街のスターロードをまっすぐに歩いていると、やがて光の数が少なくなって、ありふれた住宅街が見えてきた。二階が生活スペースになっている居酒屋があった。軒先のタヌキと目が合った。店前にある人気が少なくて静かな場所に見えた。暖簾を潜って格子戸を開いた。


夫婦経営なのかな。いらっしゃい、と出迎えてくれた。チェーン店とは違ってアットホームな感じの店で、誰かの家庭にお邪魔したようなそんな雰囲気だった。俺はカウンターに腰かけてスーツの上着を脱いで椅子にかけた。


おっさんのほうがしゃべりかけてきたけど、俺は軽く相槌を打っただけだ。今はあまり喋りたい気分じゃねえ。徳利で日本酒をちびちびと飲んでいた。店の壁には写真が並んでいた。店のオープン時の親子三人の写真だ。


幸せそうだな。

慌ただしく階段を鳴らして、2階から少年が降りてくる。小学生低学年かな。見るからにやんちゃだった。なぜドライバーを持っているのかは知らん。目が合うと、「あー!」と俺を指差して走り寄ってくる。明石、と呼ばれたから、俺のことを知っているんだろう。どうも夫婦のほうにも気付かれていたようで、困ったような顔をして、息子を優しく叱咤していた。


「サインくれよ!」少年は邪気のない顔で白い歯を見せる。「お前かっけえよな! 戦争してたのに殺した数より助けた数のほうが多い兵士なんだろ!」


親父さんがちょっと真面目に怒ってしまったので、俺は「構いませんよ」と仲裁に入る。希望通りにサインを書いてやるとした。少年が持ってきたのはサイン色紙じゃなくて透明な工具箱だった。時間が経つと消えちまいそうだが、俺は油性マジックで名前を書いてやった。


そして1つ質問をした。


明石君「母ちゃんと父ちゃんは好きか?」


「うん」と少年は当たり前のように頷いた。


アルコールで気分が緩んじまったのかな。少し涙腺に来た。「そっか」と俺は簡素に答えた。


「でも父ちゃんよりお前のほうがかっけえぞ」


母親が笑って、親父さんは苦笑いした。俺も苦笑い。


「将来、俺も機械弄って人を助けてえな」


そうか。俺は俺が思うよりもずっとすごいことをやってたんだな、と今更ながら実感した。俺を見て、こんな風に未来に夢を描く子供が出来る。少年は「こんなボロい店は継ぎたくないぞ」と無邪気にいった。


俺は日本酒を飲み干して、お会計をお願いした。


店先を出た。少しだけ雨がぱらついていた。


さきほどの少年のことが頭から離れなかった。俺もあんな風に無邪気で楽観的だった。家族に囲まれて過ごす他愛ない日々に、特に幸せも感じてなかったけど、失ってから気づくことになった。


そのあまりに大きい幸せを、俺は取り戻そうと躍起になっていたんだと思う。だから、アッキーを守ったし、親父をどこかに突き出そうとは思わなかった。そんな日々に突発的に発狂起こして、電車に飛び乗って兵士になった。


親父は今、更生してる。


俺は嬉しかった。


――――あなた達がしたのは偉大なる寄り道です。


絶対にあの海を乗り越えると誓った。


――――ごめん、もう親とは思えなかった。


それがアッキーの答えだった。


分かっているんだ。アッキーはなにも悪くない。親父が悪かった。俺は親父が更生した今なら許せるけど、アッキーはそうじゃない。俺は図太くて、アッキーは繊細だ。馬鹿な俺のほうが人生、気楽に生きていけただけなのかもしれない。


アッキーはあの押し入れに引きこもっていた時も、きっと俺を守りたいと思っていたはずだ。だけど、俺よりも繊細で怖がりだから出来なかった。だからこそ、日に日にその想いが強くなっていったのだろう。


俺らは兄妹だけど、周りからはよく全然似てないっていわれる。アッキーが俺の妹だとは思えない、とよくいわれる。今頃、アッキーはなにをしているんだろう。本当に連絡が来てない。アッキーも俺と同じく頑張ってるんだろう。

俺たち、こういう変なところで似てる。


俺も、そろそろあの日から連結して運んできた夢を切り離して進まなければならない。俺の自分勝手な夢にアッキーを巻き込むのは悪いもんな。


またちゃぶ台を家族で囲める日をさ、何度も夢に見てた。

あのまま、いつの日か俺も家族皆に旅行に行く費用くらい出したかった。初任給で父さんと母さんとアッキーになにか買ってあげたかった。


酔いが回ったのだろうか、不意に足元が覚束なくなった。前のめりに倒れ込んでしまった。土下座のような格好になっている。顔を上げた先にあるのは電柱だった。黒と黄色の危険色で『死亡事故現場』の看板があった。地面には、花束が置いてある。


俺は強く歯を食い縛り、涙を堪えた。


4


気を引き締め直したぞ。

俺の神経が図太くて助かった。


最近、移転したという本社もその建設事業の近くだった。本社はダークな感じの色合いの建造物で、正門の向こうに広がる綺麗に整えられた人口芝生と、入り口までは色とりどりのレンガの道が続いている。暗かったり明るかったり、センスの感じない配色で目がチカチカしそうだ。


ビジネスマナー面には一抹の不安が残ったままだけど、資料と企画書だけは大淀さんや兄さんからも公開していい想力周りの情報の程度を聞いたし、企画自体には自信がある。一日前だけど、アポも取ったし、なにも迷うことはなかった。いざ出陣だ。


回転扉から中に入り、作業着やスーツの人々が行き交うオフィスを直進して、受付に行った。時間も五分と少しと余裕がある。名乗って要件を告げると、受付嬢がコールで繋いだ。指定された10階のオフィスへと向かう。その途中、会議でもしているのか、なんだか明らかにお偉いさんっぽい人達が集合したオフィスが見えた。


あれ、夕張だよな。


バリメロンの取引先なのは知っていたけど、嫌な偶然だった。もしかして俺と同じような企画の話でもしていたりして。


待合室でそのようなことについて考えた。


ほら立って、と古林さんに促されたので立ち上がる。白髪交じりのオッサンが現れた。写真で見たことあるけど、社長さんだった。覚えた定句を駆使して挨拶をする。こちらの身分は知っている風だったけど、せっかくこしらえた名刺を渡した。


古林「ええ、本日はお忙しいところ、時間を割いていただいてありがとうございます。ぜひ御社にアイデアを聞いて頂きたいと思いまして、企画を持ち込みに伺いました」


「ええ、伺っております。心待ちにしておりました」


社長さんは俺のほうに視線を向いて、笑った。名乗ってから握手を求められた。


「お会い出来て光栄です」


握手を交わした。大きくて荒い手の平だった。力仕事を長年してきた男の手のように思える。こういう人は俺の経歴がてら好感が持てる。俺の手はそれに加えて荒れてしまっているけどね。


「想力活用の企画とのことで想力省からも連絡が来ておりますが、本当に弊社で実現可能なのですか?」


明石君「可能です。想力加工の技術の細かい規定はまだ出来ておりませんが、想力省から研究部、そこから指定された会社を通して想力運用の安定化の協力のための実験的な意味合いでの実現となるでしょうが、安定さえ保証出来たのなら、申請はすぐに通ります」この会社に夕張さんの会社を通さず、政府の管理下の元、そのチャンスに恵まれるというこうことだ。ここもバッチリ。「本日付けで新説された想力省の最高責任者に対深海棲艦海軍の准将が就任致しまして」


「准将、お引き受けになられたのですね」


明石君「平行していくつかの会社に想力運用のための安定化の事業に着手してもらいたい、と。そのため、想力関連の規定もいくつか制定されておりまして、企画のご提案に来た次第でございます。本日はよろしくお願いいたします」まあ、こんなもんで上等だろう。


「え、仕事の話なの?」


ボケてんのかこのジジイは。


「私の知識だと想力省って今の各省、行政機関と密接に関わるから、例えば防衛面だと防衛省からの人材がポストに就くし、経済面では経済産業省だ。各分野で活躍したキャリア組が想力省を起点として想力を国に浸透させていこうとして設立される省でしょ。准将さんはその各省の試みに対して最終的に首を縦に振るポストだったはずだ。大臣ではないけど、実質、大臣よりも影響力のあるポジだね。大臣なんてジジイだから今更ファンタジーの世界になんてついていけないから」


古林「失礼。准将に話は通してありますのでご心配はありません」


「ふむ……そうか」


明石君「あの、残念そうにしている理由を伺ってもよろしいですかね……?」


「失礼、想像していた明石君と印象がかなり違うので、少々驚いてしまいました。想力運用の点で企画を持ち込んでいただけた以上、ならば実質、想力省は細部まで決まっているんでしょうが、新規開拓にお越しいただいた営業のお客様には逆質問をさせて頂いております。『明石君は弊社との取引において、どのような夢をお持ちでしょうか?』」


明石君「エンターテイメントの真髄は『人を喜ばせることではなく、各々に独自の思考や勇気を持つきっかけを与えることだと考えます。そういう意味では世間の活気を見れば分かる通り、対深海棲艦海軍は軍といえど、最高のエンターテイナーでしょう』とホームページにありました」


「ああ、会長ですか。その通りですが、エンターテイナーとは不謹慎な表現です」


なんだか仕事の話をしようとしてから、明らかにテンションを落ちているな。なんだよ、俺の口からどんな話が出るのを期待していたんだ。軍勤めだった二十歳そこらの若造が仕事の話が出来る訳ないとでも思われているのだろうか。確かに急造で俺は事業にも詳しくないけどさ。


明石君「ええ、後半は全く持って不愉快でした」


古林「ちょ……」


古林さんを手で制して続ける。


明石君「私、いや、俺は人々を楽しませるために海の傷痕を倒したんじゃありません。嫌な現実から逃げ込んだ先が対深海棲艦海軍です。もっといえば妹を守るための選択でした。俺が開発した装備全ては深海棲艦を倒すためでなく、仲間を守るための開発ですから」


やべ、少し悪いところ出ちまったな。威圧的な顔になってしまった。社長さんは面食らったような顔をしているが、俺が剥いた牙に対して、同じく牙を向くように笑った。


明石君「俺が知る限り、『世界を救おう』だなんて動機で艦兵士になったやつは聞いたことがありません。だって、認識は『盾:防波堤』だ」


俺は知ってる。あの日まで艦兵士のことなんて、なんか可愛い女達が戦ってる変な戦いくらいの認識しかなかった。大和が死んだ記事を見ても、大和って誰だよって感じだ。


明石君「最後の海は世界を救う余裕なんてなかった。皆、絶対にそんなこと考えていなかったよ。命を捨てる覚悟は決めていても、世界を救う覚悟はなかったはず。戦争終結は『鎮守府(仮)』で『駆逐艦電』と『現准将』が出会ったがゆえの結末です。あの海の傷痕を倒した海は、各々が決着をつけるために仲間とともに乗り越えた海です。世界の人々を楽しませるためだなんてとんでもない。言葉では伝達し切れない想いの海、それを一言でいうならば」


俺は真っ向から目を見つめていう。


明石君「『戦争』です」


「……」


明石君「ですが、前半のエンターテイメントの真髄は『人を喜ばせることではなく、各々に独自の思考や勇気を持つきっかけを与えることだと考えます』とこれは俺個人、同感いたしました。今回の企画はいうなれば、先の海の戦争と同じで、結果的に御社の利益に繋がるという理由で持ち込んだチラシ裏にでも書くようなゴミに等しい妄想となります」


「失礼」社長さんは朗らかに笑った。「ぜひ、あなたの夢の続きを聞かせて頂きたい」


ありがたい。香取さんの教えに感謝だ。出来ることならもう少し言葉を選べるような頭がありゃよかったんだけど、今の俺の飾らない誠心誠意が社長さんのハートに伝わったようだ。


古林さんが、製作した書類を渡した。


まず基本情報から教えなければ話についてこられないはずだ。分かりやすく、海の『艦隊これくしょん』のシステムから想力についての説明をした。なぜ妖精が役割を持って、それをこなすことが出来たのか、艤装はどういう仕組みで動くのか。夕張の妖精可視才スコープの仕組みも。


明石君「この枠組みの中で何でも可能です。御社になにか実現したいビジョンはありますか?」


「新しい世界を創りたい。それは他の企業のように既存事業の開拓や価値観の拡大といった話ではなく、新たな世界を見つけたかのようなそんな世界を作りたいですね」


「例えば、妖精の幽質化と妖精可視才を利用したら、テーマパーク内にドラゴンや巨大ロボットも製作出来るということですよね?」


明石君「可能ですが、すでに事業を開始しておられるので、今さらそのような大きなプロジェクトを始めて差し支えはないのですか?」


「そうですね。今からオープンに間に合わせるのは難しいですが、順次、テーマパーク内に新規オープンさせていくといった方法も模索させて頂きたい。うちはテーマパーク事業にも手を出していますが、広義のエンターテイメントでね。今の甲大将の財閥傘下にありまして、様々な分野に手を伸ばしやすい環境下にありまして」


「最近、新進気鋭の面白い会社と知り合いまして、この地域に大きなゲームセンターを作るプロジェクトが進んでおります。失礼、こちらの希望を聞いてくれるとのことなので、少しその会社の人を呼んでもよろしいでしょうか?」


もちろん、と答えた。ただゲームセンターって、よくわかんねえ話になってきたな。最初の通り、ドラゴンとかユニコーンとか妖精として作るじゃダメなのかね。スクリーンではなく、現実で見える幻想生物。それだけで目玉になるような気がするんだけど。


「失礼致します」


入ってきたのは古林さんよりも若く、上ノ坊さんよりは歳上の男性だ。30歳以上かな。ただなんだろうな。出来る男、といった雰囲気を醸し出している。その人は「初対面、ですが、お噂はかねがね、聞いております」と砕けた顔で笑った。


やべ、名刺を渡された。とりあえず卒業証書をもらう時と同じ作法で受け取っておいた。名刺入れがないが、古林さんが持っていたので、しまってもらった。秘書官みたいに扱ってごめん。続いて俺の名刺を渡した。おっけ、そうやって両手で受け取って、名刺に視線を落とすのな。


明石君「え、ええと、柏木さんですか。どこかで聞いたことあるような……卯月さんからだっけ」


柏木「はい。鹿島さんのマンションに住んでおりまして、休暇に訪れた准将とも交友が持てました。自社で開発したゲームアプリでは卯月さんともお仕事上のお付き合いをさせて頂いております」


鹿島さんの周りに兄さん以外にこんな出来そうな男がいたとは。

そういや兄さん、鹿島さん家に遊びに行ってたな。卯月さんとか大和さんに神風、雷さんもいて、メインサーバーと悶着起こしたとかって聞いてるから俺が想像しているようなバカンスではないんだろうけど。


明石君「もしかして……軍の適性データ……」


柏木「ええ、素晴らしいデータを頂けました。商業に展開可能ということなので、私からは想力を利用したゲームを開発出来ないかな、と。例えばよくアニメや漫画にある『ダイブ型』のような形式で」


「それだよなー。俺もそれすっげえ夢あると思う。個人的にそっち」


明石君「社長さん、めっちゃ砕けましたね!?」


「失礼。お互いに砕けたほうが良いと思ってね。長丁場の話で堅苦しいのは明石君のパフォーマンスが落ちると思って」


上ノ坊「……で、出来ます! 電子と想力は相性は悪くないはずですから! 」上ノ坊さんの鼻息が荒くなる。「想力工作補助施設が出来る前に明石さんと夕張さんが艤装に新通信設備を整えた関係上、機械と想力の相性は悪くありませんよ!」


柏木「実現可能ということですか! いやー、准将が企画書まで作っていたそうなんです。事情があって叶わぬ夢となったので、良ければどうですか、と。『艦隊これくしょん』の世界は軍艦×擬人化×美少女といった要素もあって、ゲームに落とし込みやすいんですよ。もちろん改変は必要ですが、改造、開発、建造といった要素、どれを取ってもゲーム的要素が色濃いですし、話題性も抜群です。この適性データさえあれば手間が色々と省けますし、後はインターフェースとシステム構築……」


上ノ坊「素晴らしいです。私も妖精可視才あれば提督の道も……そのような人がたくさんいるはずです。可愛い女の子に囲まれたいですから」


上ノ坊さんのそれ分かるわ。鹿島さんとか翔鶴さんとか榛名さんとか、あられのない姿、女性を修理する合法セクハラをしてきた俺だからな。あ、もちろん実際の海でそんなやらしいこと考えて仕事してた訳じゃないけどさ。


なんだか盛り上がっちゃってる。さすがは夢のお仕事だ。不安よりも、希望に彩られているけども、兄さんがそんなゲーム作ろうとしていたのは超意外だったな。軍辞めてゲーム屋になるつもりだったのか?


明石君「そういえば、1つ気がかりなんですけど、乗り気なのになぜバリメロンとの取引をしなかったんです?」


「営業に来た人が気に入らなかったから」


明石君「なにか失礼を? 絶対に俺のほうが失礼だと思いますけど」


「昔のあそこは泥臭くて良かったよ。不器用だけど挑戦的な熱意があった。明石さんか。最初はね、明石君のお師匠さんが契約取りに来たんだよ」


明石君「姉さんが……?」


「あの時の俺は男尊女卑してたし、艦兵士やりながらってどうかとも思ったから、あまりにしつこい彼女にこういったんだ。『女で兵士でしょう。いつ結婚して仕事辞めちゃうか、ましてやあなたの仕事上、いつ死ぬか分からん。そんな相手と取引が出来る訳がない』とな」


「そしたら『じゃあ誓約書に書きます! 死にませんし、結婚しません! こっちだってみんなの命を預かる工作艦なんですよ!』ってキレられたよ」


「親父……今の会長に話したら、断るなっていわれたからあの時は断らなかったけど、今はもう俺にも分かったよ。ああいうの好きだ」


明石の姉さん、キレてただろうな。その時の怒った顔も俺には簡単に想像出来た。


「ここ数年で大きくなってから変わっちまった。今時、というのかな。付き合いってのを、ただ仕事で返すようになっちまった。砕けた場でも、弊社のサービスで応えてみせます、とかクソ真面目にいう。要はつまんないんだよな」


「悪いね。俺は昔の人間とよく言われる」


明石君「それじゃあ」


俺は紙を折り曲げる。秋津洲がなぜかは知らないけど、工廠でもよく作っていて、一度、暇潰しに教えてもらったことがあった。その折り方で紙飛行機を作って、軽く飛ばしてみる。ゆっくりとふわふわと飛ぶ紙飛行機を走って追いかけた。


その途中、ソファに足をひっかけて盛大に転んでしまった。


上ノ坊さんと柏木さんからは大丈夫ですか、といわれた。大丈夫だ。俺は上体を起こした。


明石君「自分で飛ばした紙飛行機の口キャッチ」


ぺっと紙飛行機を口から吐き捨てる。


馬鹿じゃねえの、と古林さんと社長さんが大笑いした。


明石君「もっと引き出しありますよ! 取引してくれたら見せますが、如何いたしましょう!」


「ハハ、あの人の弟子だねえ……いや、引き出しは」


「次の打ち上げで見せてくれ」


古林「そ、それって」


「よろしくお願いします」


その様子を夕張に見られていた。ガラス張りだから、廊下からも見えるよな。慌てた様子で部屋に入ってきた。


夕張「ちょ、あなた達、なにしてるの……」


偶然だよな。俺の眼をつけた場所が夕張にも縁がある場所だっただけです。夕張さんにはお礼申し上げたい。あの面接で俺は自分自身のやりたいことを見つけたからな。それは生涯通しての夢でもなくて、まだふわふわとしている。どうも俺はでかい未来を想像できるような人間じゃないみたいだ。


ただ初心を思い出した。

必死であがいていた日々をな。


俺は馬鹿だ。


マナーも悪い。


英語なんてサッパリ。


明石君「バット」


しかし。


頭にある英単語を組みあわせる。


明石君「アイ アム ア マン」


俺は男だ。

まだ違和感のあるネクタイを締め直してそういった。


5


晴れて契約も取れたし、研究部に戻った。

麗らかな春の午後だ。

大まかにいって、俺達に依頼されたのは幻想生物の量産だ。出来るだけ早期にお願いしたい、と、契約書に正式にサインすることになった。俺も昨日に艦兵士における発行された想力運用管理証を正式に紙切れとしてもらったので、本格的に想力エンジニアとして活動可能だ。


雨村「想力省として想力運用における書類は以上です。お互いこれにサインして頂ければ事業として正式に認可が降ります」


ただ俺と夕張との共同事業となる。妖精可視才周りはバリメロンの特許申請が受諾されており、今回の事業では妖精可視才スコープ才を利用しての幻想生物の提供という形にしたいとのことだ。DSSとしてはとにかく速度を重視したいとのことで、素早く広報も行い、プロジェクトを当初の予定よりも増員し、スピードグランドオープンを目指したい、とか。


「なぜお役人の他に陸軍や警察が?」


雨村「まだ運用段階といいましても、実験的な運用ですので、想力運用において事件性を懸念してのことです。マニュアルと訓練こそ実施されておりますが、異常事態への対処および懸念事項への対策です。なお、想力工作補助施設、直接の想力加工において活動を許可されているのは明石および夕張の2名となります」


「了解した。では夕張さん、明石君、上ノ坊さん、古林さん、この契約書にサインをお願いしたい」


といっても、契約書の中が難解で読んでも俺の頭じゃ理解できねえ。夕張が「大丈夫ですよ。後で詳しく教えますからサインしてくれて問題ない内容です」とのことなので、署名欄にサインした。


すぐに仕事にかかった。

人間から抽出した想力を加工して、ニーズに合う形を整えるだけだ。妖精のように役割を設定する必要もなく、人間の頭の中にある幻想生物のイメージをそのまま現実に引っ張ってくるだけ。工程は既に会議して決定してある。『艦隊これくしょんの妖精の姿形を変えた状態』で問題はなにもない。その妖精の基盤の設定だが、心強い味方が力になってくれた。


此方「ただいま到着しました。よろしくお願い致します」


「……よくぞお越しくださいました」


社長さんの声がちょっとぎこちない。一般人からしたら此方のイメージは鹵獲された海の傷痕でしかなかった。あの150年戦争で世界を恐怖のどん底に突き落とした歴史最悪の神様だ。びびるのも仕方ない。


此方「ええ、尽力します」


そうやって笑う顔はそこらの女の子でしかないから、多少はイメージも崩れるというものだ。当局と此方は見た目が同じだが、スマイルに大きな違いがある。当局は人を馬鹿にしたような嘲笑しかしないからな。


此方「楽しみだよ。そろそろ砂遊びより面白いことしたい」


と、よく分からんことをいった。


6


此方「そうそう。艦隊これくしょんの妖精の大半は過去の大戦時の想を利用して、役割を設定した。パイロットは装備妖精にして操縦妖精にしたようにね。艤装も妖精と同じようなものだよ。適性者だけが意志疎通できる妖精だと思ってもらえば」


此方「ドラゴンとかゾンビとか、イメージは出来るよね。だから、それがもう基盤になる。後は私が妖精に『海の戦争の範囲内における活動のみを許可する設定』を利用すれば、特定のエリアのみでの活動に限定できる。一体さえ出来れば後はコピペの要領。個々に個性持たせたいのなら、それぞれに設定する必要があるけど、ドラゴンといっても一人一人イメージの細部は違うでしょ。なので、色々な人から抽出すれば手間は省けるはずだよ。後はそれを配置して、来訪するお客様が妖精可視才スコープを通して触れ合える」


此方「ファンタジーの世界の出来上がり」


俺は話を聞きながら想力加工に従事する。一見、実に忙しいと思われる仕事だが、理屈と要領さえつかめば、もともと創作短縮と呼ばれる力だけあって、注文の品は半日かからずに完成する見込みだった。


保守保全作業で泊まり込みだ。しばらくは研究部から出られそうにないな。


上ノ坊「お手」


妖精可視才スコープつけた上ノ坊さんがドラゴンにお手をさせている。大型犬くらいの小さな竜だ。抽出した本人には賢いというイメージがあったのか、鋭利な前足でお手をしている。


古林「すげえな。マジで。そんな感想しか出てこねえ……俺、こういうのネット世界にダイブ出来るようになったらー、とか考えていたけど、リアルで実現するとは」


3次元体のリアルドラゴンだもんな。映像でもねえし、生々しく動く本物だ。幽質ゆえ、襲いかかってきても実害はなにもない。


夕張「お二人は准将の見当通り、中々の意志疎通力をお持ちですね。規定準拠の行動が出来るかしっかり確認してくださいねー」


夕張「此方さんはこっち手伝ってくれないんです?」


此方「立場的に無理だよ。今回のことだって見張りつけられているわけだし、想力工作補助施設なんかに触れられるわけないじゃん。元海の傷痕ですよ?」


雨村「此方さん、明石君にご執心と話を聞きましたが、今回乗り気だったのはその理由が強いのですかね?」


此方「そりゃ初恋の人の血筋ですからねえ……明石君もば、こほん、おっちょこちょいな行動力が本官さんと似ていますね」


明石君「馬鹿っていおうとしたよね……」


此方「愛嬌の間違いです」


ドラゴン、ゾンビ、フェアリー、ユニコーン、それらの生産を続けて、安定性を確認し、それぞれのエリアに配達して現地での運用調査、こちらとしては1日あれば終わっちまう作業なんだよな。後は実際にどうイベントとして効率的に機能させ、パフォーマンスを最大限まであげるかだ。


運用的には実験も兼ねており、要望の一部にあった『実際に背中に乗れないか、や、質量化させて空を走る列車は実現可能か』といった試みは追々となる。オープンさせちまえば、それらは追々イベントの目玉として実装出来るだろうけど、質量を持たせれば物理的な危険も多く出てくるから、まだ想力省のストップがかかっている。


此方「でも雨村さん、この書類ですが、足元見すぎでは?」


雨村「といいますと」


此方「税金周りだよ。想力の課税で合計報酬の4割持って行かれますが、今回の報酬、幻想生物を『貸し出し』という形の提供ごと、規約では1ヶ月の運用で各一体ずつに100万、それを100体だから、1億の利益のうち、4千万は想力省がぶんどって行くんですよね?」


雨村「元帥様の提案ですよ。打ち明けますと少し過剰ですが、だからこそ政府がこのような速度で物事を進めるよう手筈が整った理由の一つです。税収の大きさ故、政府も企業に向けての想力運用化において傾倒姿勢に落としこめました。今後、調整改善されてゆくかと」


此方「なるほどね、儲けが大きいからですか。種が金の成る木ですもんね。本当は植えた種が貧相でも大きく実るよう育てる技術こそ善き政治手腕というものだと思いますがね……致し方ありませんか」


雨村「耳に痛いですね……」


うわ、俺そこらのところ見てなかったわ。

今、なんつった。1億とかいうあり得ない額が聞こえたんだこども。4割取られても6千万で、それを夕張さんと俺と上ノ坊さんと古林さんで分けるから……


明石君「これ、1人頭1500万の仕事すか!?」


上ノ坊「違うかな。そんなに単純じゃない」


古林「明石君と夕張さんの負担が大きいですし、そこは話し合いですよね。私はプロジェクトには二次試験のために参加させてもらいましたので、取り分のことは考えておりませんが」


夕張「え? 私は平等に山分けで考えてますよ?」


そういうと、上ノ坊さんと古林さんが固まった。

だよな、今夕張がいったのは取り分は平等といった。マジかよ。俺ら1日汗流すだけで、そんなにもらえるのか。正しくファンタジーじゃねえか。でも、そんなにもらうのはなんか気が引けるな。もらうけど。


夕張「それが嫌ならバリメロンに入社します? 歩合制度を使って初任給に上乗せして差し上げられますが、その場合はフリーランスとして受けとる額よりもかなり少なくなりますが、よろしいのです?」


古林「あの、採用と受け取ってもよろしいのですか?」


夕張「もちろんですよ! ここまで大きなこと見せつけられたら私としてもぜひうちで働いてもらいたいです!」


上ノ坊「よ、よろしくお願いします!」


夕張「上ノ坊さんはまだ資格取れるまでは、デスクワークが大きくなりますけど、ゲームのほうの案件、こちらのデータと電子と想力は融合可能なようなので、先方さんからのニーズにアイデア出して形に出来ますか?」


上ノ坊「もちろんです!」


夕張「古林さんは先方さんとのやり取りお願いします。お三方のこととても気に入られたようなので。お二人とも分からないことあれば電話でもなんでもかけていつでも聞いてくださいね」


古林「了解しました」


お二人が手放しで喜んでいた。上ノ坊さんも夢が叶って、古林さんも嫁さんのもとに胸張って帰れるし、娘さんにも自慢できるだろう。これは俺としても嬉しいな。


夕張「ちなみに社長の私は適任者さえいれば、いつでも椅子明け渡すつもりなんで。もともと経営手腕はあまりなくてですね……もともと根っからの技術者ではあるんですよね」


明石君「そういえば夕張さん社長で、明石の姉さんは1技術者なの?」


夕張「一つしかなかったチームの主任です。一応、自社施設の工場長ですよ。私も、本当は1技術者でありたいのですが、私が言い出して、夢を一から始めた会社ですからねえ」


夕張「ああ、明石君もうち来ますか?」


明石君「なんだよ、心変わりか?」


夕張「昨夜、明石さんから『後悔しろバーカ!』とすねられまして。いや、明石君に至っては私の落ち度でした。人を見る目がありませんでしたよ。明石さんや准将のいう通り、死ぬ気で取る人材でしたから」


夕張「それと」


夕張「1技術者として張り合いのある相手がいるの良いですよね!」


俺はダメダメだけどな。周りに迷惑かけてばっかりだ。でも、その技術者としての腕を競いたいから、一緒に仕事したい、といわれるのは悪い気はしなかった。


しかし、世の中は色々と複雑だよな。心の傷とか、契約書の内容とか、細かくて難しいことが一杯だ。どうして俺らはあの空に浮いている雲のようにぷかぷか穏やかに漂っていられねえんだろうな、と思う。


夕張「あ、そうそう。明石さんも参加してくれるそうです!」


明石君「そういや明石艤装2つあったな……」


姉さんが手伝ってくれるのなら仕事も捗るな。

この件は雨村とも話し合って原因究明を行った。確認作業をしたが、やはり想力工作補助施設での幽質配分をミス、と原因は結論づけられた。その後は同じようなトラブルは起きず、順調だ。


明石の姉さんがやってきて、その妖精を構築し直したところ、注文通りになったし、やっぱり俺がなんかポカしたっぽいな。


いずれにしてもそれからは順調だ。


明石さん「秋月ちゃん進学するとさ。想力省に入りたいとかって」


明石君「へえ……」


進路を決めたのか。あいつは進学、か。どこの大学通うことになるか知らないけど、俺とは本格的に道を違える決断をしたようだ。もちろん尊重するし、応援するよ。アッキーは本当に俺に連絡もしてこないし、欠陥のほうも治そうと努力しているのだろう。


明石君「欠陥のほうはどう?」


明石さん「12時間経ってもセーフだったんですが、13時間目に突入したところでアウトでしたねー……」


明石君「ふむ。なんかさ姉さん、俺、山風さんと話をしてさ、アッキーの欠陥を治す方法を閃いたんだよな。ちょっとやってみたいんだけど、想力省とか会社とかに許可が欲しいんだよ」


明石さん「もちろん協力しましょう」


アイデアを姉さんに話すと、やっぱりお前は馬鹿ですね、といった。後で良い意味で、とつけ加えた。そんなに腹抱えて笑うようなことかな。なにがそんなに面白いのか俺には分からない。


明石さん「ふー、こんなに笑うのいつぶりですかねー」


どっこらせっと声に出して、座り込んだ。

初めて会った時はトイレで新聞広げていたっけか。女ってのはオバサンの次はオッサンになっちまうのかなって思ってしまうよ。


ま、姉さんも楽しそうだし、いいか。


side アッキー


また目が覚める。

ああ、十二時間の壁を乗り越えられたのに、それに気付いた途端、ダメだった。連鎖して思い出すのは真っ暗闇の視界の中に向こうから聞こえる兄と父の声と音だ。押し入れを開けて確認していた時のように、どうしてもアッシーの生きている姿を見ないと胸が苦しくなる。


秋月「8時間くらい気を失ってましたか……もう夜だ」


提督「順調ですね。初めて自分がその欠陥を目撃した時、ぶくぶく泡吐いて失神しかけてましたけど、明石君がいないと倒れて気を失ってしまいますけど、明石君がいなくても、1人で乗り越えられています」


秋月「しかし、まだダメです……」


提督「そりゃダメでしょう。秋月さん、自分は医者ではありませんが、あなたの欠陥を直すのに必要なことは予想出来てはいるんですよね」


提督「戦争終結で治らなかったのは意外でしたが……だからこそ、絞り込めました。あなたは兄がいなければダメなのか。いいや、そうではない。そうではないと、今、頑張っておられます」


提督「兄はあなたがいなければダメなのか。いいえ、それも違います。明石君は今、あなたと同じく頑張っておられます」


提督「詰まるところ、あなたの欠陥の根本は心の傷そのものではなく、そこから派生した『ただの不安』だと考えております。これはあなた達がそれぞれの未来へと進む時間が、癒してくれると思います」


提督「必ず治ります。いや、治します。これから」


お兄さんはそういってくれるけど、私も薄々と気付いてはいるのだ。私の中にいる鬼は思っていたよりも、遥かに強かった。


戦争終結で治るって思ってた。

だって私の心にはこの鎮守府の仲間との日々、その先に勝利を刻んだあの日の暁の水平線の景色が強く刻まれたから。それを手に入れた私は、アッシーと離れ離れになったとしても、大丈夫だって確信した。


なのに、完治には至らなかった。

過去の不安は消えても、過去の傷は癒えないままだ。その時は私はもうアッシーと一緒じゃないとダメなんだと諦念が滲んだけれど、そのままじゃ前には進めない。だから今がんばってる。時が満ちるのを待っている。


提督「明石君は大丈夫。彼は大丈夫です」


お兄さんが呪文を唱えるように繰り返した。


提督「明石君はですね、今こんなことをしているんですよ」


まるで母が子にお話を読み聞かせるように、語る。

驚いた。アッシーが面接を終えてから、なにをしていたかと思えば、世間のための想力運用事業を始めたという。大きな会社に営業をかけて、契約が取れて、想力省も動いて、テーマパーク事業のプロジェクトに携わっている。想力を加工して空想の世界に存在する生物を作っている。


壮大なおとぎ話のような内容だ。


秋月「私、少し夜風に当たってきます」


私は起き上がって部屋を出る。少し足元が覚束なくて、お兄さんがついてきてくれた。


戦争中はアッシーがいつもいたし、悩み事があっても、明石のお姉さんに相談すれば終わるし、海の戦争だって、お兄さんがいつだって羅針盤の針を示して航路を教えてくれた。けど、もうこれからは違う。


足が重いな。

艤装はない。意志疎通さえすればオートで船のように進む。けど、これからは海をあんな風に進むことはない。海のように明け透けな場所じゃない。この陸に足をつけて歩くのだ。当たり前のことだよね。


提督「屋上に行きましょう」


階段を降りるのではなく、登った。

扉を開け放して、屋外へと出る。温かくなってきたかと思えば、今日の夜風は冬がこびりついているように冷たくて鋭かった。


ぼうっと、晴れた夜空を見上げていると、


提督「ああ、そろそろですね。失礼」


お兄さんが私の頭になにかを被せた。



大きな音がした。


あれはなんだろうな。ヒュルルル、パアアアン、という音だ。花火をイメージしたけど、海の近くとはいえ、春の季節に打ち上げ花火をやる人でもいるのかな。夜空を探しても大輪の花は見当たらない。


だけど、輝かしい光の粒が舞っていた。


その光の粒は拡散したり凝縮したりして形を作ってゆく。花火ではなく、夜空に浮かぶ光のメッセージだ。多分、私が被らされたのは妖精可視才スコープだろう。メッセージの内容からして、アッシーが職場から打ち上げたものだろう。多分、花火仕様の照明弾の制作過程を応用した技術だと私は思った。


遠くから届く兄の便りを読んだ。



何度も何度も打ち上げられて、長々としたメッセージを送ってくる。ろくに推敲もせずに書き連ねたようなアッシーらしい文章だ。


俺は元気でやってるよ。今の仕事は楽しい。こっちで新しい仲間も出来たし、今の仕事は楽しいよ。俺はこっちでがんばって行くよ。この花火、けっこう遠くにいても見えるんだよ。東京までなら見えると思う。アッキー、花火好きなんだろ。俺は毎年、このテーマパークで打ち上げる想力仕様の花火をあげるから、会えなくても元気でやってることを報告しようと思う。


アッキーも、進路を決めたんだろ。

俺らは別々の道に行くけど、俺はこの通り、アッキーが隣にいなくても大丈夫だよ。それが少し寂しいな。まあ、明石の姉さんもいるし。だから、アッキーはアッキーの未来に進んでくれ。ああ、そうだ。俺は社会人だからな。なんか生活に困ったら頼りにしてくれていいぞ。それと俺は親父と復縁するけど、アッキーが心変わりしたら、いつでも来てくれ。アッキーの場所はなくならないからな。


残念ながらさ、俺達、大人になっちまったな。


俺はもう皆より先に鎮守府から出るけど、後日に改めてお礼に行くよ。

ああ、それと、風邪引くなよ。それじゃ。



とこんな内容だった。

きっとアッシーは馬鹿みたいに笑いながら作ったんだろうな、と思う。私には分かる。アッシーはもう私とは別の道を歩いている。心配する必要もなさそうだった。向こうで楽しくやれているということが嫌というほど伝わってくるから。






不思議だよね。


こんなんで私の欠陥は治った。




【18ワ●:戦後日常編:終結】


荷物をまとめた。

ちょっと横須賀までのバリメロンまで出張、そこで泊まり込みだ。鎮守府とは今日限りだろうな。実家はまだ取り戻してねえけど、アパートは借りる予定だ。ここからはちょっと遠いけど、親父と俺がいる場所の中間地点だ。大きな休暇には親父と飯でも食べに顔を出しに行くつもり。皆ともまた会えるだろうけど、しばしのお別れだ。


政府の土地である鎮守府の一部は改装されて、工廠もなくなっちまう。色々なもんがなくなって新しく生まれ変わる予定だとか。


湿っぽいのは嫌いだからな。皆には職場の寮に泊まるって、ちょっと空ける程度にしか伝えなかった。見送りは提督勢だ。


丙少将「お前は行動力すげえよな。夕張のところに行くんだろ。まあ、元気でやれや。俺からはそうだな」


丙少将「海では助かった。お前の海上修理技能にはみんなの命を助けてもらったことは事実だ。まあ、若いから色々とあるだろうけど、お前ならきっと大丈夫だろうよ」


明石君「既に色々ありますけど、順次対処していきます!」


乙中将「げ、丙さんに言われた。僕からはそうだね、明石君は所属鎮守府に留まらない戦果を挙げてくれていたからね。攻めるよりも守ってた。守る辛さは僕も提督だから分かる。なにかあったら気軽に連絡してよ。何気に僕、明石君より歳が1つ上なだけだしさ」


乙中将「世話になった。男である明石君がいるってだけで、僕らも心強い部分はあったんだ。海に来てくれてありがとうね」


明石君「はい、乙中将や丙少将には鎮守府のもめ事支えてもらってましたからね。これからは俺もそんな風になれるよう賢くなりたいですよ」


甲大将「私からはガンバれよって一言」


甲大将「それと、たまにはうちのメンバーと連絡してやってくれ。木曾や江風もそうだけど、サラや北上なんか特に気に入っていたからさ」


明石君「ええ、たまに連絡のやり取りはしています。ただ木曾さんと江風はちょっともう少しおしとやかにさせてくださいよ。俺らケンカっぱやい性格ですけど、男だから、手は出せないので堪えるだけになる」


甲大将「あー……江風は善処する。木曾はもう無理だわ。漁師以外だと海賊になるっていってるやつだから」


さいですか……それは残念だ。


兄さん達の向こう、本館と寮舎を繋ぐ渡り廊下に見飽きた顔が並んでいた。2階と3階に艦兵士の皆がいる。



「明石君! 工廠で一緒にした仕事、楽しかったよ!」


とか秋津洲がいったり。


「密会任務や海での時もありがとうございました!」


と鹿島さんが笑ってくれたり。


「明石くーん! 私も密会任務の時はお世話になりました! 提督にこってり絞られたのも今では笑い話ですね!」


と鉢巻き腕に巻いた初霜さんがいったり。



くそ。今までの思い出が走馬灯のように過るじゃねえか。


提督「自分とは仕事のこともありますし、別れと改まるほどではありませんが、明石君の記念すべき門出を祝します」


提督「出会った時からストレートに難儀な性格をしておりましたが、それも今見ると愛嬌のレベルまで丸くなっていますね。戦闘面は丙少将と乙中将と同じです。それに加えて自分からは鹿島さんの護衛や工廠での激務、お疲れ様でした、と」


提督「もうこれから明石君は自分の部下ではありませんので、最後に言葉も崩しておこうと思います」


兄さんはそういって口元で笑って、佇まいを崩した。



「鎮守府を支えてくれて、ありがとう」


「女所帯だからこそ」


「小倉君と男同士で酒飲んだり遊んだり」


「楽しかったよ」



兄さんが提督としてではなく、青山開扉として小倉嵐士への言葉だった。今の俺を対等な立場としていってくれた言葉なのだろう。尊敬して憧れた人からの最大限の賛美と受け取った。



――――みんな


今までこんな俺を仲間と呼んでくれて、


ありがとうございました。


皆さんと出会えて本当に良かった。


俺とアッキー、みんなと出会えてなかったら、今みたいな幸せは絶対になかったと思います。


お世話になりました。


俺ら兄妹は――――


別々の道を行きます。



――――マジでお世話になりました。


俺、柄にもなく寂しさ感じてるから、


連絡してくれよな!


特に鹿島さん、翔鶴さん、榛名さん!



3人は「はい」と苦笑いした。


秋月「やっぱり脈はなさそうですね!」


とアッキーが普段と同じくそんなことを大声でいうから、お三方が困った顔をしたじゃねえか。


でも、俺ら別々の道へ行くってのにさ、アッキーは楽しそうに笑ってるんだよな。もう心配なさそうだ。


それがトドメだ。とうとう泣いちまった。


俺はこんな日を夢見てたんだ。

必死に生きて、戦争終わってアッキーがこんな風に笑ってる。


これが俺の一番の戦果だと思えた。


あの日、握り締めたなけなしの二千円が、



最高勲章になって手元に帰ってきたよ。





嬉しい。涙がとまんねえ。



ちくしょう、わるさめさんに指差されて笑われた。














【19ワ●:ヤバいヤバいヤバい!】


電「あーあ、やっぱり……」


雷「こ、これどうしよう!」


神風「雷さんのその反応、当たりですか……とりあえず私が調査を頼んだところはビンゴなのですか?」


雷「当たり! 間違いないわ!」


電「ひっかかってはいたのです。神風さんが油断して初対面の男とホテルに入りかけたって相当ですよ」


わるさめ「マジか神風……」


神風「いや、ね、油断しちゃったんですよ。その時に明石君に呼び止められて引き返しましたが、なんだろうな。あの人のあの感じ、親近感が湧いてガード甘くなったというか」


電「その雨村さんでしたか。私も会ったのですが」


電「その時のあいつからは」


電「フレデリカの狂気を感じた」


電「多分、他の人はわるさめさんや初霜さん、瑞穂さん辺りなら気づくでしょうね。司令官さんとも少し似ていたので、感覚超人神風さんのセーフに滑り込んだのも分かります」


わるさめ「気配が似てるって理由で危険人物として対策会議とかあほらし。フレデリカみたいに瑞穂ちゃん艤装にして合体しようとした変態がこの世に二人いるわけないだろ。それにフレデリカの雰囲気って超独特だし……」


わるさめ「つーか明石君の見送り来ずになにやってんだ」


電「いや、夕張さんが明石さんと明石君は休暇をあげて来させるとのことでしたし……」


神風「来させるってどこに?」













電「どうせすぐ旅行で会えるのです」



わるさめ「そういえばそうか……」


神風「とにかく、今はこっちの案件です」


電「阿武隈さん! ゲームやってねーで会話参加しろなのです!」


阿武隈「ええー……他人の個人情報探るだなんて気が進まないですよ。それに世の中にはたくさんの人がいますし、雨村さんでしたっけ。あたしも会いましたし、確かにフレデリカさんや提督と似たもの感じますけど、それがどうしたのって感じですし」


わるさめ「よそ見しながらも的確にヘッドショットを決めるのはさすが」


阿武隈「今日は中々強い相手とマッチング出来ないですね」


電「阿武隈さん、この住所にある家見えますか」


阿武隈「庭付きの一軒家ですが、それが」


電「司令官さんが卯月さんのお母さんに話した昔話を覚えてますか。それと神風の『司令官の欠陥が治る願い事』です。それとこの雨宮の雰囲気が似てることを考えれば、なにか思うところないですか?」


阿武隈「卯月ちゃんのお母様との話は覚えていますよ……ええと」


雷「阿武隈さんの顔が真っ青になったわね……」


阿武隈「もしかして、こ、この人」


電「司令官さんは海で自殺未遂犯して、教団に保護されました。その後に教団の人が身元を割ってお母さんのもとを尋ねましたよね。その夫妻は周りが羨むような幸せな家庭を築いていて、司令官さんの話をすると血相を変えて怒ったと」


阿武隈「ええ、確かにそう聞きました」


電「この雨村ってやつ、その家庭の子供」


電「つまり」
















電「司令官さんの異父弟なのです」






わるさめ・神風「ハアアアアア!?」


雷「司令官の母親の旧姓が雨村だったし、間違いないわ」


わるさめ「来るんじゃなかった。笑えねえ……」


電「お前話しておかないと気付いた時にトラブル起こしそうなのです。瑞穂さんにもいっとけなのです」


戦後復興妖精「うわ、トラブルの気配ですねー」


電「お前も力貸せなのです!」


戦後復興妖精「といわれましても。そいつやばいやつなの?」


電「まあ、私も昨夜に雷お姉ちゃんを頼って調べたのです……」


わるさめ「……待て待て。司令官はお父さんとおばあちゃん以外の家族には殺意抱いているレベルだよな。これ、司令官が知ったらヤバくない? 司令官の理性吹っ切れたらって思うと……」


神風「怖すぎますね……」


阿武隈「丙少将甲大将なら止められそうですけども、確かに想像したくないですね……」


電「それで雷お姉ちゃん、調査の詳細は」


雷「闇が深すぎるわね……」


雷「更に笑えない話になるけど、聞く?」


わるさめ「ここまで聞いたら聞くだろ……」


阿武隈「同感です」


神風「私の立場的に仕事の一環よ」


戦後復興妖精「面白そうだから聞きまーす」


雷「この家庭、8年前に崩壊しているのよね」


雷「一家心中だって。母親が父と子を刺した後に、自分の首を切り裂いたみたい。今いる通り子供だけは助かったみたいだけどね」


雷「お母様は心の病で通院していた記録もあった。警察は司令官のことも知っていたから、お母様は司令官さんの父親と離婚していない時に、その相手との子供を産んでいたというカオス具合よ……」


戦後復興妖精「うわ、ドロッドロ……」


雷「そしてこれは最後の情報だけど、雨村さんが入省した時の面接を担当した人から話を聞けたんだけど、その内容がね」


雷「逆質問で『深海棲艦との戦争は早くて一年後に終わると見ておりまして』って海の話を議題に挙げたみたいなのよね。この人はなぜか戦争終結を確信しているかのように、戦争終結した後の国の在り方について意見をいったらしいわ」


雷「ちなみに面接官3人のうち、その1人だけが興味深く聞いていたんだって。他の人は『あいつ、なにをいっているんだ』といった感想だったけど、議論自体が面白かったから通したとか」


わるさめ「……、……」


わるさめ「――――!」


阿武隈「どうしました?」


わるさめ「いやいや、フレデリカ司令官チューキちゃんの御三家と似てるもんがあるなって思ったよ。司令官も既に頭の中に戦争終結までの道筋を持ってたけど、深海妖精論は深海妖精発見するまでさ」


わるさめ「『なにいってるんだこいつは』って嘲笑の的だったんだろ。弟だし、司令官の思考回路と似てんじゃね?」


電「私はこいつと話しました。わるさめさんと同意見です。恐らくこいつが提督として鎮守府(仮)に来たのなら、私はクーリングオフしなかったと思うのです」


雷「司令官とは違ってコミュ力で雰囲気自体は隠せる感じよね。初期の司令官さんとは違って間宮さんともケンカせずに上手くやれてたかも」


電「なのです」


電「こいつ、想力省の設立を先読みしていた風です。つまり、戦争終結の後にこいつは何かしら成したい目的を持っていると思うのです」


戦後復興妖精「電はこいつにどんな話されたんです?」


電「一言一句覚えてますよ」


電「『チワワが保険所に入れられていました。飼い主が捨てた理由はトイレが出来ないからだそうです。布でお尻を締め付けられていましてね、生殖器が怪我していたそうです。酷い話ですよね』」


電「『人間でもあるんですよ。例えば日本人の見た目の子供が嫌いだから、アメリカやヨーロッパのほうの外国人の方と結婚したがる人達。私は恐ろしいと思いました。その人、笑いながらいったんですよ。そうじゃないと愛せないってね。その人達の間に出来た子供は親の理想とかけ離れてしまえば、あのチワワのように捨てられてしまうんじゃないでしょうか。せめて人間と犬は違う、という認識があればいいんですけど、こんな時代だからこそ最低限の価値観って想力で教えるべきですよねー』」


電「『人って怖いですよね。昨日まで優しいお父さんが急に豹変したり、自分に非がないよう策で誰かを殺そうとしたり、チップとして世界を連れ回されたり、誘拐されてそのままぽいっと親から見放されたり、遊園地に置き去りにされたり』」


雷「私達の過去を知ってるし……」


わるさめ「……なるほど」


わるさめ「『目的のために必要ならばやる』ってタイプね」


戦後復興妖精「へえ、こいつは最低限の価値観のない親を殺したの?」


阿武隈「それは失礼過ぎますよ……」


雷「そうね。確証もなく本人にいってはならないことよ。なるべく私達の間でも控える邪推」


わるさめ「でもさ、なにか目的があって、その必要があるのならやるかもしれない。まだあくまでその可能性の話なんだろ?」


神風「……嫌な予感はするんですよ。私の願い事の件もありますし、司令補佐に試練として用意されたとしか」


戦後復興妖精「んー、そんなにいうなら私が殺しましょうか? もう未練ないですし、罪かぶって地獄に堕ちても構いませんよ。敵に回った准将なんか、とにかく殺しとけって感じでしょう?」


わるさめ「いやいや、悪い島風ちゃんの力も想力省は当てにしてるからね。それに殺しとか勘弁だよ。戦争終わってから人間殺す、とか笑い話にもならねーだろ」


阿武隈「わるさめさんは瑞穂さんにいっといてくださいね。雰囲気がフレデリカさんと似てるってだけで瑞穂さんなにするか」


わるさめ「だねー……そこらは任せろやい」


戦後復興妖精「歯車が噛み合い始めて廻るディスティニー。皆さん、海に逃げ込んだ時間の分だけ現実がツケを払えと胸ぐらつかみにかかってますねー」


電「雨村は適性検査では『重判定』です。検査ではなかったのですが、もしかしたら、初霜さんのように『一時的に廃判定』に届く可能性は0ではないのです」


神風「想力工作補助施設を開発可能で悪事を働くのは可能ですね……」


わるさめ「陸でもセンソーとかマジ勘弁……」


電「主要メンバーを集めたのです。とりあえず様子を見ますが、臨機応変になにかありそうなら即報告、そして先手を打つのです」


電「お友達の皆さん」


電「こいつは警戒してください」











後書き



お疲れ様です。ここまで読んでくれてありがとう。次回から最終局面突入なのでよろしければもう少しお付き合いください。

↓13編のお話

【1ワ●:アブー&わるさめ+づほの調査探偵団】

【2ワ●:奇々怪々の狂恋事件簿】

【3ワ●:フラワーベッドシー・メロドラマ】

【4ワ●:この瑞鶴50%なら思ったより大丈夫かもしれない説】

【5ワ●:プレゼント・フォー・ユー】

【6ワ●:臭う事件】

【7ワ●:隠し持っていた力】

【8ワ●:フラワーベッドシー・メロドラマ 2】

【10ワ●:子供の世話を手伝うことになった】

【11ワ●:戦後日常編 わるさめちゃん&アブー】

【12ワ●:今宵の騎士様を求めて】

【13ワ●:キマイラ】

【14ワ●:side-阿武隈 あひるのキス】

【15ワ●:名もなき悪に小さな春を】

【16ワ●:side-阿武隈 怪物と怪獣のバラード】

【17ワ●:砕け散った願い】

【18ワ●:side阿武隈-ピッキングフロアサバイバルゲーム】

【19ワ●:騒乱の終わり、公園で家なき子のように】

【20ワ●:そうして光輝く朝が来る】

【21ワ●:戦後日常編 終結】


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1: SS好きの名無しさん 2018-03-19 01:29:07 ID: zq0vJUlj

もうすぐ完結、名残惜しいです
本にまとめたりする予定はあるのでしょうか?ぜひ手元に残しておきたい作品だと感じました

2: 松丈 2018-03-19 12:10:49 ID: kGG8ZqVx

この物語の艦娘達が大好きで最後まで読ませていただきました。
ここまで読む間になんど感情を揺さぶられたことか…名残おしくてたまりませんが最後まで楽しみにしています。

3: 西日 2018-03-21 02:45:28 ID: 57A21yKV

1さんへ

二次小説を本にまとめる、ですか?
そういった方面は勉強不足ゆえ、今はお答え出来かねます。ごめんなさい。ただそういってもらえたことは本当に嬉しいです。ありがとうございます。


2 松丈さんへ

ありがとうございます。もう終わりも見えておりますが、そこまで短いようで長いです。プロットは頭の中で大雑把にしか組み立ててないので、スポットライト当てて欲しい艦娘がいましたら遠慮なくリクエストしてくださいね!

4: 松丈 2018-03-23 16:24:26 ID: wP_pMH0A

リクエスト受け付けて貰えるとのことなので遠慮なく。わるさめさん、アブーのお話を読んでみたいです。

5: 西日 2018-03-23 23:16:16 ID: DkSKLzP6

了解。わるさめちゃんとアブーですね。次章でスポットライト当てときます。

6: 松丈 2018-03-25 23:03:25 ID: JqlsQk4U

こんなの読んだらアッシー好きになるに決まってるじゃないすか…今回も楽しませて貰いました。

7: 西日 2018-03-26 01:36:43 ID: 1E3r5y-6

それは良かったです。

ちなみにもう書くところなさそうなのでネタバレですが、設定上アッシーと一番恋愛的な相性の良い艦娘はわるさめちゃんだったりする。


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