幽香「ねぇ」
東方シリーズ第2弾は幽香さん。第1弾同様にイチャイチャさせたいと思って書いた。私の中での幽香さんはこんな感じ。
第1弾http://sstokosokuho.com/ss/read/9638
ミーン、ミーンと蝉の鳴く声が響く。太陽は真上に上がってこの大地を照らしていた。虫たちが日向に出て少しでもすれば命を脅かすことになるぐらいの照り付ける暑さだった。
そして、この太陽畑も例外ではなく向日葵も心なしか萎れているようにも見えた。
「ねぇ」
「んー?」
そして、家の日陰でぼーっとしている旦那に声をかける。相変わらず蝉の声は五月蠅いが手の一個分しか距離がない私たちには十分聞こえる。
「私たちが同棲し始めてどのくらい経ったかしら」
「うーんと......分からん」
また蝉の鳴く声が耳に響く。それでも旦那の声はよく聞こえた。
「幽香がいる事が当たり前過ぎて居なかった時なんて覚えてないな」
「......そんな事よく平然と言えるわね。お陰で私、今スッゴク暑いわ」
旦那はたまに淡々とそんな事を言う。聞いた私も悪いのだけど躊躇なく言われるのは今ですら慣れない。私の中ではまだ初々しいのだ。
この彼との花の蜜ように甘い時間が。
「ねぇ」
「んー?」
また同じように問いかける。
「私のどこが好きになったの?」
「全部だ」
「......ッ~~~」
即答された。カァーっと顔が真っ赤になっていくのが分かる。折角先ほどの暑さが下がったと思いきやスグ暑くなった。
「わ、私もす、す......きよ」
「ああ、知ってる」
「.......」
どうしよう。あの恐れられた風見幽香であろう者が顔を両手で覆い悶えているではないか。たった一人の人間に骨抜きにされている。
いや、すでに骨どころか心まで彼に抜き取られたか。そうでなくては彼は私の旦那になっていまい。
「んんっ」
ふぅー。一度落ち着いて、深呼吸して、息を整えて。よし、いつもの私だ。
「......何よ」
気が付けば彼は私を見ていた。思わず目を逸らしてしまう。やはり私は彼のその瞳に弱い。
「いや、やっぱりキレイだなって思って」
ダメだ。到底敵う気がしない。最初こそ彼をいじめてやろうとしたのだが.......流石、私の旦那だ。私の弱い所を知っている。
「......アナタは私を熱中症にさせる気かしら?」
「妖怪がなるのか? まあ、なったら付きっきりで看病してやるかな」
「そう......少し身体を動かしてーー」
「--おいおい」
おっと。とても魅力的な未来に少し理性を失っていたようだ。まだ、蝉はうるさく鳴いている。私の心情も彼を押し倒したいと言う感情がうるさいぐらい叫んでいる。だが、昼間から盛るのは私のポリシーに反する。と言うか、私のキャラじゃない。
......彼から来るのであれば一向に構わないが。
「しかし......暇ね」
「そうだな」
こうして、ずっと向日葵たちを見続ける。だけど私はこの時間が、この空間が好きだった。
--だって彼との静かな時間だから。
--だって彼と一緒に彼女たちを見れるから。
--だって......。
止む気配の無い蝉の音が今では心地の良い音になっていた。
「ねぇ」
「んー?」
「暇よ」
「さっき聞いた」
会話終了。
「いやいや、それだけで終わらせないでよ」
「そう言われてもだな」
彼は腕を組んでうーんと唸る。今この姿を残したい。あのカラスでも呼んで撮ってももらいましょうか?
「あ、そうだ。折角だし俺と幽香が出会った時の話でもしようか」
「え?」
「そうだな、あの頃の幽香は凄く人間嫌いで…………」
その話は私を沸騰させるには十分であった。夏なのにプシューと頭から湯気が出てもおかしくないぐらい暑い。恥ずかしさと、彼が覚えていてくれた嬉しさが入り混じる。
「なんなら夜の幽香も話そうか?」
「羞恥心って妖怪をも殺すのよ?」
そんな事、聞かせたりしたら恥ずか死ぬ自信がある。二人で一緒に眠ることにすら今でも緊張している私にすれば一番、効果があるだろう。
ズリズリと彼に寄る。そして、彼の肩に頭を置く。
「ねぇ」
「んー?」
恥ずかしいけど、やっぱり。
「愛してるわ」
それを聞いた彼は何も言わなかった。代わりに彼の体温が上がってるのが肩越しから伝わってくる。まさか......。
「フフッ、アナタも恥ずかしがるのね」
「......幽香ほどじゃないがな」
それもそうね、と言う。事実私はこう見えて恥ずかしがりやで人見知りなのだ。
「暑いな」
「ええ、暑いわね」
向日葵たちも暑そうにしている。水を多めに吸わせた方がよさそうだ。
「ねぇ」
「んー?」
私は彼をこちらに向かせると唇を合わせた。チュッと音がする。彼は目を見開き驚いた顔をしていたが、すぐにいつもの顔に戻った。
「......珍しいな、お前からするなんて」
「驚いた? 私って意外と大胆なのよ?」
「へぇー、それはまた幽香の事が一つ分かったな」
「......アナタ、絶対狙ってるわよね?」
ぷいっと顔を逸らし、不貞腐れる。だけど、彼の腕に巻き付いた腕は解けなかった。
「......ねぇ」
「んー?」
「アナタはずっと私の傍に居てくれる?」
「……そうだな、この命尽きるまで離れはしないよ。お前が拒絶してもな。これでも俺はメンドクサイ男なんだぜ?」
「誰がアナタを拒絶するもんですか。アナタが死んだら私は地獄の果てまでも追いかけるわよ。これでも私は執念深い女なのよ?」
二人してクスクスと笑い合う。その時、風が吹き向日葵たちを揺らした。それはまるで向日葵たちも笑っているように感じた。
「彼女たちも笑ってるわ」
「それは、また大勢に笑い者にされたな。いっそのこと二人で旅芸人にでもなるか?」
「冗談言わないでよ」
また、二人してクスクスと笑い合う。今度は蝉が笑っているように、うるさく鳴き出した。
「なあ」
「どうしたの?」
今度は彼からの問いかけだった。彼は真っすぐ私を見た。彼は一人で納得し、うんうんと言いながら頷いた。
「やっぱり、俺はお前のこと大好きだわ」
この先、ずっと私は旦那に勝てる気がしなかった。
出来れば第5弾ぐらいまで出せたらいいな、と思う。
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