放課後　生徒会室前

櫻子「やれやれ、ようやく仕事終わった～」ｸﾞﾃﾞｰ

向日葵「あなた、あんまり仕事してないじゃないの」

櫻子「な、やっとるわい！勝手なこと言うなよ、このおっぱい！」ｷﾞｬｰｷﾞｬｰ

向日葵「櫻子が休んでばかりだったのは事実ですわ！」ﾜｰﾜｰ

――

下駄箱

櫻子「あ～あ、せっかく一仕事終えて気分よく帰ろうと思ってたのに…」

向日葵「その言葉、そっくりそのまま返しますわ」

櫻子「なんだとー！ええーい、黙って聞いていればいい気になって…」

向日葵「少しも黙っていませんわ…」

櫻子「そんなおっぱいにはお仕置きだーッ！」ｸﾜｯ

――

櫻子「くらえ！必殺、櫻子様ラリアット！」ｸﾞｵｯ

ドカッ

向日葵「あ…」

櫻子「あれ…？」

あかり「」ｱｯｶﾘｰﾝ

ちなつ「あかりちゃーん！？」

――

櫻子「ご、ごめんあかりちゃん！」ｹﾞｻﾞｧ

あかり「うぅ、櫻子ちゃんと向日葵ちゃんがいたから声をかけようと

　　　　思っただけなのにぃ…」ﾌﾟｸｰ

ちなつ「うわっ、コブがお団子と同じくらい膨らんでややこしいよ」

向日葵「大丈夫ですか、赤座さん？」

あかり「な、なんとか…」ﾌﾗﾌﾗ

櫻子「ごめん！このお詫びはハラを切ってでも…」

あかり「せ、切腹はしなくていいよぉ」ｱｾｱｾ

――

ちなつ「ま、まぁなんとか大丈夫そうだね」

あかり「櫻子ちゃん、今度からラリアットするときは周りをよく確認

　　　　してほしいよぉ」

櫻子「是が非でも！この大室櫻子、こんりんざいラリアット打つときは

　　　周りを確認します！」

向日葵「日本語が滅茶苦茶ですわ」

――

櫻子「と、とりあえずケガしなくてよかったね」

向日葵「それ、あなたが言うセリフじゃないでしょう…」

あかり「あかりなら大丈夫だよぉ。二人とも、今から帰るの？」

櫻子「うん。生徒会の仕事で遅くなってねー」

ちなつ「私たちもちょうど帰るところだったんだ。途中まで一緒に

　　　　帰ろうよ」

向日葵「いいですね。この４人で一緒に帰るのも久しぶりですわね」

――

通学路

櫻子「ねぇねぇ、確かこっちに新しくできたクレープ屋があるんだけど

　　　寄っていかない？」

ちなつ「そういえば、そんな話あったね。カスタードクリーム味が絶品

　　　　なんだっけ」

櫻子「せっかくだし、みんなで行こうよ！あ、あかりちゃんの分は私の

　　　おごりで」

あかり「えぇ、そんなの悪いよぉ～」

櫻子「いいのいいの！さっきのお詫びもかねてね！」

向日葵「殊勝な心がけですけど、お金はちゃんとありますの？」

櫻子「だーいじょうぶ！今月はお小遣いもらったばっかりだし…」ｺﾞｿｺﾞｿ

櫻子「…あれ？」ｺﾞｿｺﾞｿ

櫻子「財布…ない」

――

櫻子「お、おい向日葵！いつ盗ったんだよ！」

向日葵「な…人聞きの悪いことを言わないでほしいですわ！」

櫻子「だってないじゃん、私の財布！」

ちなつ「どこかに落としたんじゃない？」

櫻子「えーでも心当たりが…」

櫻子「あっ…」

櫻子「さっき生徒会室でカバンから出したときだ…」

――

向日葵「まったく人騒がせですわね…」

櫻子「うぅー、ごめん向日葵…」

櫻子「しゃーない、取りに戻るか…」

あかり「今からだと、遅くなるよぉ？」

ちなつ「生徒会室なら、置いたままでも大丈夫だと思うけど…」

櫻子「んー、でもやっぱり手元にないと気になるしなぁ」

向日葵「それなら早く取ってきたほうがいいですわよ。生徒会室の鍵も

　　　　借りないといけませんし」

櫻子「面倒だけど仕方ないなぁー。それじゃ、行くぞ」

向日葵「はい？」

櫻子「えっ、一緒に来てくれるんじゃないの？」

向日葵「それくらい一人で行きなさいよ…」

――

櫻子「ちぇー、薄情おっぱいめ。いいもん、一人で行くから」ｽﾀｽﾀ

あかり「櫻子ちゃん、行っちゃったよぉ」

向日葵「まぁ、元はといえば櫻子が忘れ物をするのがいけないんですからね」

ちなつ「それじゃぁ、今日はここで解散にしよっか」

向日葵「えぇ、そうしましょう。櫻子を待っていたら遅くなってしまいますわ」

ちなつ「向日葵ちゃん、クレープ屋さんは今度一緒に行こうよ」

向日葵「お誘いありがとうございます」

あかり「えっと、あかりは…」

ちなつ「もちろん、あかりちゃんも一緒だよ」

――

七森中　下駄箱

櫻子「くっそー、あの薄情おっぱいめ」

櫻子「櫻子様を一人で学校まで戻させやがってー」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

櫻子「なんかもう暗くなってきたなぁ」ｷｮﾛｷｮﾛ

櫻子「外の部活も片付け始めてるし…」

――

廊下

櫻子「けっこう暗いなぁ…」

櫻子「び、びびってなんかないぞ！」

櫻子「いつもどおりに生徒会室に行くだけだもんね」

櫻子「あれ…まだ電気ついてる」

櫻子「誰か先輩が残ってるのかな？」

櫻子「ま、いっか。鍵を借りてくる手間が省けたし」

櫻子「それに、誰もいないところに一人で行くのは、ね…」

櫻子「しっつれいしま～す」ｶﾞﾗｶﾞﾗ

――

生徒会室

シ～ン

櫻子「あれ、誰もいないの？」

櫻子「でも、電気ついてるし鍵も開いてるしなぁ」

櫻子「えぇと、そんなことより財布財布…っと」

櫻子「おぉー、あったあった。櫻子様のなけなしの所持金が！」

櫻子「さてと、それじゃあ帰ろっと」ｸﾙｯ

りせ「…」

櫻子「うひぃっ！？」

――

櫻子「な、な～んだ会長ですか。いるならいるって返事してくださいよ…」ﾊﾞｸﾊﾞｸ

りせ「…」

櫻子「まぁ、会長は返事しても聞こえないか…ん？」

りせ「…」

櫻子「会長、もしかして寝てる…？」

――

櫻子「んー、眼は閉じてるし…」

櫻子「会長ー」ﾊﾟﾀﾊﾟﾀ

りせ「…」

櫻子「反応なし。やっぱり寝てるんだ」

櫻子「…」ｼﾞｰｯ

櫻子「会長の寝顔、かわいいなー」

櫻子「ほんと、人形みたいだなぁ」

櫻子「…って、私はなんで見入ってるんだろ//」

――

りせ「…」

櫻子「会長、全然起きないなー」

櫻子「よっと…」ﾌﾟﾆ

櫻子「ほっぺたやわらかい…」

りせ「…」

櫻子「すごく気持ち良さそうに寝てるなぁ…」

櫻子「椅子に座ったまま眠ってるし、よっぽど疲れてたのかな」

櫻子「生徒会長の仕事って、よくわからないけど大変そうだしなぁ」

――

りせ「…」

櫻子「なんだか起こすのがしのびないけど…」

櫻子「もう日も暮れてるし、このままだと風邪引くかもしれないしね」

櫻子「会長－、起きてくださーい」

りせ「…」

櫻子「もう遅いですよ－。早く帰りましょー」ﾕｻﾕｻ

りせ「…」

櫻子「…あれ？」

櫻子「おかしいな、全然起きる気配がしない…」

櫻子「あの、会長。そろそろ…」ｻﾜｯ

りせ「…」ｶｸﾝ

櫻子「…へ？」

――

櫻子「会長…？」

櫻子「い、いやだなー。いい加減起きてくださいよー」ﾕｻﾕｻ

りせ「…」

櫻子「…」

櫻子「し、死んでる…？」

――

櫻子「う、嘘だ！そんなはず…」

櫻子「でも、全然起きてこないし…」

櫻子「ど、どうすればいいんだろ…人工呼吸！？」

櫻子「あぁっ、でもやり方覚えてないっ！」ﾜﾀﾜﾀ

奈々「おー、大室。まだ残ってたのかー」ｶﾞﾗｯ

櫻子「！？」ﾋﾞｸｯ

――

櫻子「せ、先生ッ！大変です、会長が！」

奈々「んー、松本がどうかしたか」

櫻子「全然動かないんです！息もしてないみたいで！」

奈々「ほぅ、どれどれ」

奈々「あー、なるほどな」ｻﾜｻﾜ

櫻子「き、救急車とか呼ばないとまずくないですか！？」

奈々「いや、その必要はない。どうやらバッテリーが切れたようだな」

櫻子「へ？」

――

奈々「確か予備はカバンに入れておいたはずだが」ｺﾞｿｺﾞｿ

櫻子「あ、あの。先生、こんなときに冗談言ってる場合じゃ…」

奈々「よしよし、あった」ﾋｮｲ

奈々「さてと、取り替えなくては」ｶﾊﾟ

櫻子「うへっ！？」

――

櫻子「な、何ですかこれ！会長の腕に電池ケースみたいな部分が！」

奈々「ふむ、バッテリーが過熱気味だな。クールダウンさせるよう改良

　　　しておく必要があるな」

櫻子「あわわ…」

奈々「よっと、これで入れ替え完了」ｶﾁｬ

りせ「…」ﾊﾟﾁﾘ

――

奈々「ようやくお目覚めか、松本」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

りせ「…」

櫻子「夢？これは夢…？」

奈々「おっと、もうこんな時間か。大室、帰るときは気をつけるんだぞ」

櫻子「ちょっと待ったーッ！！」

――

櫻子「どういうことなんです、これは。説明してください！」

奈々「そう言われても、見てのとおりとしか答えようがないが」

櫻子「いやいや、フシギすぎます！私にもわかるように説明して

　　　ください！」

奈々「ふむ、知的好奇心が旺盛なのは感心だ。どれ、一つ松本りせの

　　　秘密を大室にも教えてやるか」

奈々「だが、ここで話しても長くなる。大室を送るついでに話すとしよう。

　　　松本もついて来るように」

りせ「…」ｺｸﾘ

――

通学路

奈々「さて、どこから話せばいいのやら」

櫻子「会長は…ロボットなんですか！？」

奈々「正確には自動思考プログラミング内蔵アンドロイドだが…簡単に言えば

　　　ロボットであることは間違いない」

櫻子「す、すげー！ロケットパンチとかできるんですか！？」

奈々「ロケットパンチ機能はないが…表皮ヒューマンセルの中は強化チタンだ。

　　　圧縮燃料バッテリーで４５０万馬力までは出せるから、この拳で殴れば

　　　並の人間は失神する」

櫻子「か、かっこいい！」ｷﾗｷﾗ

――

櫻子「先生が会長を作ったんですか！？」

奈々「あぁ。今でこそ理科教師をしているが、私の専門はプログラミング工学

　　　だ。要するに、世間一般でイメージされるロボットを作るのが仕事だ」

櫻子「先生もすげー！」

奈々「ははは、もっと褒めてもいいぞ。なんといっても、海外の研究所を

　　　渡り歩いてきたからな」

櫻子「どうして七森中になんかいるんですか？」

奈々「その理由がここにいる」ﾎﾟﾝ

りせ「…」

――

櫻子「会長が理由…？会長を作ったから七森中に来たんですか？」

奈々「そういうわけだ。その前に、私が松本を作ったワケを話したほうがいいな」

奈々「私が七森中の卒業生ということは知っているか？」

櫻子「えっ、そうだったんですか」

奈々「なんだ、大室も知らなかったのか」

櫻子「初耳ですよ」

奈々「生徒会のなかでも誰も聞いてこないからな。聞けば話してやると

　　　いうのに」

――

奈々「話を戻すと…私は地元の小学校からそのまま入学したのだが」

奈々「どうも世間一般でいう友達付き合いが私には不得手でな。小学校の

　　　ときもそうだが、七森中でも友達らしい友達はいなかった」

櫻子「それ、寂しすぎません？」

奈々「まぁ、私は日々科学の探求に明け暮れていたからな。学校の備品を

　　　破壊するのも日常茶飯事だったし、友達付き合いがなくてもなんとも

　　　思わなかったのだが…」

櫻子「さらっと問題発言しましたね」

奈々「そんなときに出会ったのがりせちゃんなんだ」

――

櫻子「えっ、それじゃあ会長と先生はクラスメートだったんですか？あれ、でも

　　　そうなると話が…」

奈々「まぁ、少々複雑な話だからな。順を追って説明せねばなるまい」

櫻子「お願いします」

奈々「私も変わってはいたが、りせちゃんも変わっていた。何しろ、他のクラスメート

　　　と話すことがなかったからな」

奈々「そこで、気になって私の方から話しかけたんだ」

――

奈々「話してみたら、りせちゃんは普通の女の子だったよ。どうも緊張すると声が

　　　小さくなってしまうようでな」

奈々「ただ、不思議と私とは話が合ってな。それからはいつも一緒だった」

奈々「私にとって、初めての友だちだった。りせちゃんといると、毎日が楽しくて

　　　仕方がなかった」

櫻子「（私にとっての向日葵みたいなもんなのかな…）」

奈々「りせちゃんと友だちになってから、私は変わった。りせちゃん以外のクラスメート

　　　とも普通に話せるようになった。りせちゃんが後押ししてくれたんだ」

奈々「りせちゃんも変わった。以前は引っ込み思案だったが、もともと明るい性格だから

　　　な。生徒会役員選挙にも出て、３年生のときは会長にもなったんだ」

――

奈々「もうずいぶん前の話だが…今でも当時のことはよく覚えている」

櫻子「先生の友だちが会長のモデルなんですね」

奈々「そのとおりだ」

櫻子「それじゃあ、りせちゃんは今どうしてるんです？」

奈々「…もういないんだ」

櫻子「えっ」

――

奈々「高校受験を控えた冬、突然りせちゃんが学校を休んだ」

奈々「心配してすぐ家に寄ったが、りせちゃんはいなかった」

奈々「りせちゃんが病気で入院していることは、その後わかった」

奈々「当時の医学…いや、今でも治せない病気だった」

奈々「私は毎日お見舞いに行った。りせちゃんは目に見えて弱っていったが、心配を

　　　かけまいと、私の前ではいつもどおりに振る舞っていた」

奈々「りせちゃんが入院したまま、受験期になった。私は第一志望に合格した。りせちゃんと

　　　一緒に行こうと約束していた高校だ」

奈々「…けれども、それを伝えることはできなかった。その日のうちに、りせちゃんが

　　　息を引き取ったという知らせを聞かされたんだ」

櫻子「…」

奈々「ははは、もう10年近くも前の話なのに、いまだに目頭が熱くなる…」

櫻子「ご、ごめんなさい先生！辛いことを思い出させて…」

奈々「いや、気にしないでくれ。りせちゃんが亡くなったことは、動かしようのない

　　　事実なんだ」

――

奈々「その後、私は自分の好きな研究に没頭した。そうすることで、りせちゃんが

　　　亡くなった事実から目を背けたかったんだ」

奈々「だが、それは愚かな行為だった。大切な友だちを忘れようとするなんて、どだい

　　　無理な話だからだ」

奈々「そんな折、海外の研究所に勤めていたときに、自動思考プログラミング作成の

　　　プロジェクトに関わることになった」

奈々「研究を続けていくうちに、この技術を使えば私の願いは叶うのではないかと思った」

奈々「りせちゃんにもう一度会うことだ」

――

奈々「現代機械工学の最先端を駆使することで、私はりせちゃんをロボットとして

　　　甦らせた。それが、今ここにいる松本りせなんだ」

りせ「…」

櫻子「そんな理由があったんですね…」

奈々「松本には、りせちゃんが果たせなかった夢を…中学卒業以降の日々を過ごして

　　　もらいたいんだ」

奈々「だから今は七森中学で学生生活を送っているんだ」

奈々「さて、これで全部話し終えたぞ。おっ、ちょうど大室の家に到着したようだな」

奈々「それでは、また明日生徒会室で会うとしよう」

櫻子「は、はいっ」

奈々「大室、最後に一つ頼まれてくれないか」

櫻子「何ですか？」

奈々「松本と…りせちゃんと仲良くしてやってくれ」

櫻子「わかりました！頑張ります！」

――

奈々自宅

奈々「やれやれ、遅い帰宅になってしまった」

りせ「…」

ｺﾝｺﾝ

奈々「おや、こんな時間に来客か」

奈々「だいたい見当はついているが…」

ｶﾞﾁｬ

奈々「どうした、松本。こんな時間に」

りせ（？）「…」

奈々「なになに、この間の実験で私が書類を忘れていったから届けに来た？それは

　　　助かった」

りせ「…」

りせ（？）「…」

奈々「うむ、よく似ている。我ながら傑作だ」

――

りせ（？）「…」

奈々「なに、紛らわしいだと？しかしなぁ、影武者があったほうが何かと便利だぞ」

りせ（？）「…」

奈々「いや、そう言われてもな…」

奈々「すでに大室にはおまえがロボットだと話してしまったし…」

りせ（？）「…」

奈々「適当なことを言うな、だと？しかし、つい即興で感動的なストーリーも思いついて

　　　しまったし…」

りせ（？）「…」

奈々「私を勝手に殺すな、か。けどなぁ、あの場では勢いで…」

りせ（ホンモノ）「まったく先生は…」ﾊｧ

おわり