2016-08-16 01:06:27 更新

概要


前大会
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451576137/

本大会
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1464611575/


※注意事項
・一部に過激な暴力表現、グロテスクな描写を含みます。予めご了承ください。
・特定のキャラクター、及び国家、人種、格闘技を貶める意図がないことをご理解ください。
・あなたの嫁が顔面を割ったり割られたり、あるいはもっと酷いことになる恐れがあります。ご注意ください。
・一部に著しいキャラクター崩壊が見受けられます。ご容赦ください。


※階級について
艦種を実際の格闘技における重量階級に当てはめており、この作品内では艦種ではなく階級と呼称させていただきます。

戦艦級=ヘビー級

正規空母級=ライトヘビー級

重巡級=ミドル級

軽巡級、軽空母級=ウェルター級

駆逐艦級=ライト級


前書き

UKF無差別級トーナメント特別ルール一覧

・今大会は階級制限のない無差別級とする。階級差によるハンデ等は存在しない。
・今大会のルールは限りなく実戦に近く、公正な試合作りを目指すために設けられる。
・ファイトマネーは1試合につき賞金1000万円の勝者総取りとする。
・試合場は一辺が8m、高さ2mの金網で覆われた8角形のリングで行われる。
・試合後に選手は会場に仮設されたドックに入渠し、完全に回復した後に次の試合に臨むものとする。
・五体を使った攻撃をすべて認める。頭突き、噛み付き、引っかき、指関節等も認められる。
・体のどの部位に対しても攻撃することができる。指、眼球、下腹部、後頭部、腎臓などへの攻撃も全て認める。
・相手の衣服を掴む行為、衣服を用いた投げや締め技を認める。
・相手の頭髪を掴む行為は反則とする。
・頭髪を用いる絞め技等は反則とする。
・自分から衣服を脱いだり破く行為は認められない。不可抗力で衣服が脱げたり破れた場合は、そのまま続行する。
・相手を辱める目的で衣服を脱がす、破く行為は即座に失格とする。
・相手に唾を吐きかける、罵倒を浴びせる等、相手を侮辱する行為は認められない。
・武器の使用は一切認められない。脱げたり破れた衣服等を手に持って利用する行為も認められない。
・試合は素手によって行われる。グローブの着用は認められない。
・選手の流血、骨折などが起こっても、選手に続行の意思が認められる場合はレフェリーストップは行われない。
・関節、締め技が完全に極まり、反撃が不可能だと判断される場合、レフェリーは試合を終了させる権限を持つ。
・レフェリーを意図的に攻撃する行為は即座に失格となる。
・試合時間は無制限とし、決着となるまで続行する。判定、ドローは原則としてないものとする。
・両選手が同時にKOした場合、回復後に再試合を行うものとする。
・意図的に試合を膠着させるような行為は認められない。
・試合が長時間膠着し、両者に交戦の意志がないと判断された場合、両者失格とする。
・ギブアップの際は、相手選手だけでなくレフェリーにもそれと分かるようアピールしなければならない。
・レフェリーストップが掛かってから相手を攻撃することは認められない。
・レフェリーストップが掛からない限り、たとえギブアップを受けても攻撃を中止する義務は発生しない。
・試合場の金網を掴む行為は認められるが、金網に登る行為は認められない。
・金網を登って場外へ出た場合、即座に失格となる。
・毒物、および何らかの薬物の使用は如何なる場合においても認められない。
・上記の規定に基づいた反則が試合中に認められた場合、あるいは何らかの不正行為が見受けられた場合、レフェリーは選手に対し警告を行う。
・警告を受けた選手は1回に付き100万円の罰金、3回目で失格となる。
・罰金は勝敗の結果に関わらず支払わなくてはならない。3回の警告により失格となった場合も、300万円の罰金が課せられる。

・選手の服装は以下の服装規定に従うものとする。
①履物を禁止とし、選手はすべて裸足で試合を行う。
②明らかに武器として使用できそうな装飾品等は着用を認められない。
③投げ技の際に掴める襟がない服を着用している場合、運営の用意する袖なしの道着を上から着用しなければならない。
④袖のある服の着用は認められない。
⑤バンデージの装着は認められる。



明石「大変長らくお待たせいたしました! これより第2回UKF無差別級グランプリ、3回戦を開催致します!」


明石「実況は明石、解説兼審査委員長は香取さんをお呼びしています! 毎度のことながら延期に次ぐ延期、申し訳ありませんでした!」


香取「全ては猛暑と、エアコンのない悪環境が原因だそうです。夏なんてなくなればいいのにね」


明石「それは知ったことではありませんが、早速第1試合、Aブロック決勝戦を開始したいと思います!」


明石「まずは赤コーナーより選手入場! 今回の怪物退治役を任されたのは、不可能を可能にする奇跡の戦艦だ!」






試合前インタビュー:扶桑


―――グラーフ・ツェッペリン選手への対策は何かお持ちでしょうか。


扶桑「あります。1回戦における彼女の戦い方を見たとき、すぐに攻略法に気付きました。作戦方針もすでに固めてあります」


扶桑「皆さんはグラーフさんと戦った大淀さん、戦艦棲姫さんに全く勝ち目がなかったと思っていらっしゃるみたいですけど、私はそうは思いません」


扶桑「大淀さん、戦艦棲姫さんはどちらにも勝機がありました。彼女たちは入り口を間違えてしまっただけで、正しく戦えば勝てたはずです」


扶桑「何でしたら、私にとってはその2人に勝ち上がられるほうが厄介でした。どちらも何をしてくるか、予測が付かない選手ですから」


―――今、言われた大淀選手、戦艦棲姫はどのような戦い方を選んでいたらグラーフ選手に勝てたのでしょうか?


扶桑「もう終わった試合ですから、断言はできませんが……最も答えに近い場所にいたのは大淀さんです。でも、彼女はそれを見落としました」


扶桑「気付くことさえできていれば、大淀さんならいくらでもやりようがあったでしょう。戦艦棲姫さんも同じです」


扶桑「彼女は策を講じて戦うタイプではないと思いますが、もし序盤から順当に戦っていさえすれば、戦艦棲姫さんは間違いなく勝っていました」


扶桑「グラーフさんには感謝しなければいけませんね。大淀さん、戦艦棲姫さんと戦わずに済みました。これでAブロックを勝ち抜くのは私です」


―――勝てる自信があるということですか?


扶桑「はい、勝てます。楽に勝てることはないでしょうけど、負ける可能性はありません。確実に勝てると思います」


扶桑「要は登山みたいなものですね。準備を怠らず、道順を間違えなければ頂上にたどり着ける。グラーフさんとの戦いは、ただそれだけのことです」


―――グラーフ・ツェッペリン選手に対する恐怖はありますか?


扶桑「戦うのはいつだって怖いんです。そういう意味での恐怖はありますけど、今まで戦ってきた方々と比べれば大したことはありません」


扶桑「大和さんや、赤城さんのほうがずっと怖かった。私にとって一番恐れるべきことは、負けること。今日はその心配をする必要はないでしょう」


扶桑「グラーフ・ツェッペリンさんは恐れるに値しません。魂のない人形なんかに、私は決して負けはない」




扶桑:入場テーマ「Chthonic/Broken Jade」


https://www.youtube.com/watch?v=heF_NPJbv8Y




明石「快進撃を続ける奇跡の戦艦の前に、大きな壁が立ちはだかりました! 敵は2戦連続で圧倒的勝利を遂げた、ナチス・ドイツの新造艦!」


明石「しかし、ここで終わるわけにはいかない! 無敵の怪物を倒す秘策もある! 今宵、我々は新たなる奇跡を目にすることができるのか!」


明石「UKFの命運は彼女に託された! ”不沈艦”扶桑ォォォ!」


香取「いつもと変わりない様子ね……相手がグラーフさんでも、精神的な揺らぎは全くないみたい」


明石「今のところ、下馬評でもグラーフ選手の優勝を予想する声が大きくなりつつあります。あの戦闘力は桁が違いすぎると……」


香取「無理もないわ。大淀さんに続き、常識外の能力を持った戦艦棲姫までもが為す術もなくグラーフ・ツェッペリンに敗北しているんだから」


香取「赤城さんを正面から倒せるほどに腕を上げた扶桑さんでも、はっきり言って、勝てる見込みはかなり薄いわ」


香取「扶桑さんは強い。技も豊富で練度も高く、鋭い戦術眼も持っている。だけど、グラーフさんとの能力差を覆せるほどとは思えない」


香取「グラーフさんは今までの試合を化け物じみた身体能力だけで勝利している。あれで技術を使われ出すと、もう手の付けようがないわ」


明石「客観的に見ればそうなんですが、扶桑選手は試合前に珍しい発言をしてるんですよね。『グラーフ選手には確実に勝てる』と……」


香取「そう、私もその発言が気になっているの。今まで、扶桑さんは『勝つ』と表現したことはあっても、『勝てる』と表現したことは一度もないわ」


香取「それは扶桑さんの謙虚さと、対戦相手への敬意の表れに加えて、実戦における不確実性を知っているからこその言葉選びだと思うの」


香取「勝負に絶対がないことを扶桑さんは誰よりも知っている。なのに、よりによってグラーフさん相手に『確実に勝てる』だなんて……」


明石「扶桑選手は試合前にそういう大言壮語を吐くタイプではありませんよね。普段は誰が対戦相手でも控えめです」


香取「そのはずよ。吹雪さんに感化されたのでもない限り、扶桑さんは何かの確信があるからこそ『勝てる』と発言したんだわ」


香取「確信の根拠は、おそらく扶桑さんの考えたグラーフ・ツェッペリン対策にある。それが何なのかはまだわからないけど……」


明石「扶桑選手も詳細に関しては言葉を伏せたみたいですが、ヒントになる発言は残されていますね。『敗北した2人は入り口を間違えた』とか」


香取「大淀さんと戦艦棲姫に共通する点……短期決戦を狙ったことかしら。どちらも、相手が何かする前に仕留めようとしていたわ」


香取「あるいは、仕留める技に絞め技を選択したこと? 気道と頸動脈を同時に絞めるような技でも、落とし切るまでに数秒は掛かるから……」


香取「ダメね、わからないわ。本来なら身体能力の勝る相手に、短期決戦と絞め技は順当な対処法よ。相手が化け物過ぎたから決まらなかったけど」


香取「特に短期決戦はグラーフ・ツェッペリン対策には一番有効に思えるわ。長期戦に持ち込まれれば、絶対に不利になるんだから」


香取「相手は痛みも疲れも知らない戦闘マシーン。戦いが長引いてもダメージの蓄積は望めないから、こちら側が先に力尽きてしまうわ」


香取「それら以外となると、残るは骨折や急所破壊を狙って戦闘力を削るやり方くらいだけど……それが簡単に行けば苦労はしないわよね」


明石「あるいは、一撃必殺を狙う作戦はどうでしょうか? 大きな一発を入れて脳震盪を起こせば、グラーフ選手も流石に倒れると思うのですが……」


香取「対戦者が榛名さんだったらそれが有効かもしれないわね。でも、扶桑さんにその作戦は難しいと思うわ」


香取「もし扶桑さんの弱点を1つだけ上げるとするなら、得意技がないこと。バランスがいいだけに、決定力のある技に欠けてしまうのよね」


香取「榛名さんだったら必殺の正拳突きがあるけど、扶桑さんにそういう技はない。一撃を狙えるとすれば、せいぜいカウンターくらいでしょう」


香取「もし一撃必殺を狙うにしても、方法が問題よ。グラーフさんは痛覚がないから当身で崩すこともできないし、もちろん棒立ちでもないわ」


香取「たぶん、扶桑さんは誰にも見つけられなかったグラーフさんの弱点か何かを見つけたんだと思うの。彼女の作戦はそれに付け込むもののはず」


香取「となれば、その弱点がわからない私たちには予測のしようがないわね。全ては試合の中で明らかになる、っていうことかしら」


明石「……ありがとうございます。さて、続いて青コーナーより選手入場! 怪物同士の食い合いを制した、最強の怪物が再びリングの上がります!」





試合前インタビュー:グラーフ・ツェッペリン


―――これよりAブロック勝ち抜きを懸けた重要な試合に挑むわけですが、意気込みをお聞かせ下さい。


グラーフ「質問の意味がわからない。優勝を目的とする私にとって、この試合はいくつかの通過点の1つに過ぎない」


グラーフ「ならば次の試合に特別な感情を抱く理由も必要もないはずだ。ただ、戦って勝利する。今までと同じだ」


グラーフ「無論、敗北は許されない。今までの試合と同様、全力を賭して臨む。もう己の戦力を隠す必要性も薄まってくる頃合いだろう」


グラーフ「これまではなるべく身体能力のみで戦闘を行なってきたが、必要に応じて技術も用いる。その必要があれば、の話だが」


―――扶桑選手についてはどう見られますか?


グラーフ「バランスよく体系立てられた格闘術と、優れた観察力を持っている。それ以下ではないし、それ以上でもない」


グラーフ「特出した能力も持たない、凡百のファイターだ。あれが3回戦まで残った事実こそが、この国のファイターの低レベルさを物語っている」


グラーフ「パワー、スピード、テクニック、全てにおいて私が大きく勝っている。負ける要素など、どこにもない」


グラーフ「私にとっては通過点に過ぎない相手だが、油断はない。全身全霊で戦い、完全な勝利を手に入れてみせよう」


―――グラーフ選手にとって「勝利」とはどのような意味を持つのでしょうか。


グラーフ「任務だ。勝利し続けるということが、総統閣下から承った現在の最重要任務。私は命に代えてでもこの任務を成し遂げる。それが全てだ」


グラーフ「この任務が終われば、更に大きな任務を任せていただけるだろう。総統閣下の栄光と、ナチス・ドイツの繁栄のため、私は戦い続ける」


グラーフ「私はそのために存在している。もし敗北するとき、私は己の存在価値を失うだろう。だが、そんな可能性は万が一にもない」


グラーフ「なぜなら、私は世界最高の技術を持つナチス・ドイツによって生み出された、最高傑作だからだ」




グラーフ・ツェッペリン:入場テーマ「DEAD SILENCE/OFFICIAL THEME SONG」


https://www.youtube.com/watch?v=UI2WuKFX7u0




明石「その性能はまさに究極! UKFは最強の外敵を迎え入れてしまいました! ナチス・ドイツの生み出した、最新鋭の戦闘マシーン!」


明石「大淀、戦艦棲姫を相手取り、実力の底を見せずに蹂躙! 桁外れの身体能力を有するこの怪物を倒す術など、果たして存在するのか!」


明石「誰かこいつを止めてくれ! ”キリング・ドール”グラーフ・ツェッペリィィィン!」


香取「出てきたわね。3回戦に残った4人の選手の中で、唯一グラーフさんだけが未だに実力の底どころか、苦戦のそぶりさえ見せていないわ」


香取「戦闘力を完璧に数値で表すことはできないけど、あえて数値化するなら、グラーフさんは4人の中でも最強でしょう」


香取「テクニックが未知数なのを考慮に入れてもね。ナチス・ドイツが最高傑作を謳うだけはあるわ。あの身体能力はそれほどに驚異的よ」


明石「武蔵選手のパワーと、島風選手のスピードを両方併せ持つファイター、とでも言うべきでしょうか。本当にとんでもない……」


香取「下手をすれば、その2人さえ上回っているかもしれないわ。特に単純なパワーに関しては、おそらく武蔵さんをも凌駕しているでしょう」


香取「仮にグラーフさんが大した格闘技術を持っていなくても、あのパワーとスピードさえあればほとんどの選手に勝つことができるはず」


香取「技とは力の差を埋めるために作られたもの。その力が飛び抜けて優れているなら、半端な技はねじ伏せられるしかないのよ」


香取「技術なしでもグラーフさんは強い。それだけなら多少付け入る隙があるけど、残念ながらグラーフさんは一定の技術を持っていると推定される」


香取「パワーとスピードとテクニックを併せ持ち、精神面は更に手の出しようがない。戦闘マシーンに心理戦が通用するはずがないわ」


明石「……扶桑選手が見出した弱点とは、もしかしてその機械的な部分では? 相手の攻撃に対して同じパターンでしか反撃できないとか……」


香取「そうは思えないわね。グラーフさんはまるで戦闘マシーンのようだけど、本当に脳みそが半導体で構成されてるわけじゃないから」


香取「ある攻撃に対して一定の反撃をするのは格闘家なら皆似たようなもの。それに付け込まれるなら、グラーフさんは自在にパターンを変えてくる」


香取「感情がないぶん、動きの癖を消すのはまともな格闘家より上手なはずよ。攻防における精神性のなさは、強みこそあれ弱みにはならないわ」


香取「現時点でグラーフさんを倒す術は見つかっていない。唯一あったとすれば……ルール違反による失格負けだったんだけど」


明石「そういえば、グラーフ選手に対して異例のドーピングチェックを行ったそうですね。UKFでそういうのはあまりやってないのに……」


香取「ええ。異例だけど、試合前に血液採取を含めた身体検査をさせてもらったわ。あの力はあまりにも異常だもの」


香取「結果としては、残念ながらシロ。グラーフさんの体液から異常なものは検出されなかったわ。正真正銘の健康体よ」


香取「ただ1つ異常だったのは、鉄で出来てるんじゃないかと思うほどの筋密度よ。あの体格で、質、量ともに極限まで筋肉が発達していたわ」


香取「どういう鍛え方をすればあんな体を作れるのか……鍛えられるところは余すところなく、限界まで鍛えてある。体幹から指まで、全身くまなく」


香取「薬物反応が出ないのが不思議なくらいよ。たぶん、グラーフさんは発狂するほどの過酷な鍛錬をやり遂げて、あの肉体を得たんだわ」


香取「グラーフさんの凄まじい身体能力の正体は、脳のストッパーがないことによる潜在能力の完全開放だけど、加えて筋肉量自体も多いのよ」


香取「要は地力の身体能力も戦艦級以上に高いの。その上でグラーフさんは潜在能力を開放している。その上昇率は足し算ではなく、掛け算になる」


香取「グラーフさんが並の正規空母級なら3倍だったけど、地の筋力が凄まじく高いことを考えると……5倍近い数値を叩き出すんじゃないかしら」


明石「5倍って……つまり、普通の正規空母級の身体能力を基準とした場合の5倍? 戦艦級に次ぐ体格を持つ正規空母級選手の、5倍ですか?」


香取「あくまで推定よ。本当は4倍くらいかもしれないし……6倍かもしれない。少なくとも、3倍程度では収まらないわ」


香取「素の身体能力だけでも、グラーフさんはパワーとスピード両方で扶桑さんに勝る。その上で潜在能力を開放し、おまけに技まで使ってくる」


香取「どうにか攻撃を当てたとしても、痛覚がないからダメージも与えられない。感情がないから、挑発にも心理戦にも乗せようがない」


香取「どう考えを巡らせても、絶望しか見えないわ。こんなやつに一体、誰が勝てるっていうの?」


明石「……扶桑選手は『勝てる』と断言したんですよね」


香取「ええ……それが最大の謎だわ。頼もしいとは思うし、その言葉に縋りたい気持ちもある。だけど、自信の根拠がわからない」


香取「確かに扶桑さんは卓越した戦術眼を持っているわ。その目がグラーフさんの弱点を映しだしたとしても、それだけで勝てるものかしら?」


香取「結局、ビスマルクさんと同じように、グラーフさんに勝つには真っ向から打ち破るしかないんじゃないかしら……それが何より不可能だけど」


明石「完全にお先真っ暗というわけですが……扶桑選手が見出した弱点が正しいかどうか、それが勝敗を分ける最大の焦点でしょうか」


香取「ええ、それが有効であることを祈っているわ。もし扶桑さんまでが倒されたら、もう永遠にグラーフさんは倒せない……そんな気がするわ」


明石「……不吉なお言葉、ありがとうございます。さて、両選手がリングインしました! グラーフ選手は相変わらず能面のような無表情!」


明石「対する扶桑選手、いつになく感情を消したような顔つきです! 瞳に宿る冷たい光は、まるで氷のような冷徹さを思わせます!」


明石「凍りつくような視線を交わし、両者がコーナーに戻ります! 果たして、扶桑選手の秘策は怪物退治を成し遂げることができるのか!」


明石「それとも、誰も怪物を止めることなどできないのか! UKFの命運を懸けた死闘の火蓋が今、切って落とされます!」


明石「ゴングが鳴りました、試合開始です! 両選手、ゆっくりとリング中央へ進み出ていきます! まずはグラーフ選手が構えた!」


明石「同様に扶桑選手もガードを上げる! 顔面を両腕でがっちりとブロックし、軽快なフットワークを始めます! ここでグラーフ選手は停止!」


明石「グラーフ選手、やはり待ちの体勢に入りました! 相手に攻めさせる気です! 動きを止めたその姿はまさに人形! 扶桑選手、どう出る!」


明石「攻めました! 右のローキックを放ちます! グラーフ選手の膝に命中! 浅めの蹴りでしたがクリーンヒットしました!」


香取「えっ……ローキック?」


明石「しかし、グラーフ選手は微動だにしない! 避けるそぶりも見せず、不動のまま受けました! ダメージがある様子は全くありません!」


明石「再び扶桑選手が攻める! 左ジャブのフェイントから、また右のローキック! 今度はグラーフ選手、脛で受け流しました!」


明石「扶桑選手は追撃せず、わずかに後退! グラーフ選手も追いません! 出方を伺い合うかのように、お互い大きな攻勢には出ようとしない!」


明石「もう1度扶桑選手が踏み込んだ! 今度はローキックをフェイントにレバーブロー! 直撃です! が、ここでグラーフ選手が反撃ぃぃぃ!」


明石「左の肘打ち! 続けて右フック、後ろ回し蹴り! 猛然とラッシュが放たれる! しかし扶桑選手、バックステップで辛うじて回避!」


明石「わずかに躱し損ねたか、額に大きな切り傷があります! 初手の肘打ちによるものでしょう! 浅い傷ではない、かなり出血している!」


明石「これがまともに当たっていれば、どんな結果になっていたか想像に難くない! やはりグラーフ選手の一撃はパワーも、スピードも桁が違う!」


明石「扶桑選手のレバーブローを貰ったグラーフ選手ですが、当然のごとくダメージは無し! 構えを戻し、深追いする様子はありません!」


香取「今の攻防、扶桑さんにとってあまりにもリスキーだわ。大した効果を望めないレバーブローを当てるために、懐へ飛び込むなんて」


香取「骨を折るような威力でもない限り、グラーフさんにダメージが入らないのは承知してるはず。何を狙っているの?」


明石「再び待ちの姿勢に戻ったグラーフ選手! 今度は扶桑選手、どう仕掛け……!? いや、違う! グラーフ選手は待ちに徹してなどいない!」


明石「フットワークを始めました! 軽量級ボクサーを思わせる高速のフットワーク! 冷酷なる戦闘マシーンがフル回転を始めようとしている!」


明石「もう様子見は済んだのか! それとも時間を掛けたくないのか! これより始まる打撃地獄から、無傷で生還した者は皆無!」


明石「大淀、戦艦棲姫もこのラッシュで追い詰められた! まずい展開です! 序盤から扶桑選手に最大のピンチが降りかかります!」


香取「……たぶん、理由なんてないんだわ。待ちに徹するか、速攻で決めるか、どちらでも良かったから後者を取っただけ。そんな感じがするわ」


香取「このラッシュは相手が動かなくなるまで永遠に続く。扶桑さんがそこから抜け出せるか否かで、勝敗は決まる……!」


明石「速攻にギアを入れ替えたグラーフ選手を前にしても、扶桑選手に変化はありません! 頭部のガードを固め、フットワークを踏んでおります!」


明石「表情にも動揺はない! ここから先に扶桑選手の作戦はあるのか! 今、グラーフ選手のラッシュが始まります!」


明石「始まったぁぁぁ! 左ジャブ、ロシアンフック、上段前蹴り! 1つ1つが必殺の高速ラッシュが扶桑選手に襲い掛かる!」


明石「左ロー、後ろ回し蹴り、右ストレート! 技の継ぎ目が全くない! やはり速い、速過ぎる! 息をつく暇もない嵐のような打撃です!」


明石「それを扶桑選手は耐え凌いでいます! ダッキング、バックステップ、パリィ! フットワークと防御術で打撃を的確に捌いている!」


明石「しかし、連打を掻い潜ってはいるものの、動きに余裕がない! グラーフ選手が速過ぎる! 絶え間ない攻撃に防御が追いついていない!」


明石「扶桑選手、防戦一方! ひたすら後退してラッシュを凌ぎます! 息が上がりつつある扶桑選手に対し、グラーフ選手は止まる気配すらない!」


明石「とうとうコーナーに追い詰められた! 左フック、膝蹴り、肘打ち! もう攻撃を躱せない! 扶桑選手、亀になって防御に徹します!」


香取「完全に追い込まれてる……! グラーフさんの打撃は防御し切れるようなものじゃない、扶桑さんは何を考えてこの展開に……!」


明石「右ミドルキック! 肘で受けましたが、威力を殺し切れない! バランスが崩れました! すかさずグラーフ選手のアッパーカット!」


明石「手のひらでブロック! が、ブロックもろとも、あごを打ち抜かれた! スピードに加えてこのパワー! もはや防御すらし切れない!」


明石「トドメとばかりに上段膝回し蹴り! どうにかブロックしましたが、衝撃で横薙ぎに倒されました! 扶桑選手、テイクダウン!」


明石「すかさずグラーフ選手が踏み付けたぁ! 扶桑選手、転がって避ける! それをグラーフ選手が踏み付けで追撃! これが当たれば終わる!」


明石「鼻先でグラーフ選手の足がリングを揺るがす! が、まだ扶桑選手は終わらない! ここは逃げの一手! 更に転がって距離を取ります!」


明石「辛うじてグラーフ選手の射程から逃げ切りました! 素早く立ち上がります! 致命傷は免れましたが、呼吸が荒い! 肩で息をしています!」


明石「対するグラーフ選手は息切れさえしていない! 再び後退しようとする扶桑選手目掛けて、グラーフ選手は休みなく距離を詰める!」


明石「左ジャブ、いやフェイント!? 胴タックルです! グラーフ選手がタックルを仕掛けた! 扶桑選手、的確に腰を引いてタックルを切る!」


明石「これは読まれていたか、胴タックルは失敗! グラーフ選手、上から覆い被られる形になりました! し、しかし……なんだこのパワーは!?」


明石「上半身を抑え込まれた体勢のまま、扶桑選手を力づくで押している! と、止められない! 扶桑選手がフェンス際まで押し込まれた!」


明石「グラーフ選手が腰帯に手を掛けた! 強引にスープレックスぅぅぅ! 扶桑選手が後方に投げ落とされた! 辛うじて受け身を取ります!」


明石「即座に立ち上がる扶桑選手の襟をグラーフ選手が掴む! せ、背負い投げぇぇぇ!? 柔道なら文句なしで一本! 投げが綺麗に決まったぁ!」


香取「まずい、技を使い始めた! ダメージもまったくないし、もう扶桑さんに勝ち目は……!」


明石「万力でマットに叩き付けられました! 受け身は取りましたが、衝撃ですぐには動けない! グラーフ選手がマウントを取りに掛かる!」


明石「どうにかガードポジションが間に合いました! 足を胴の間に挟んでディフェンス! グラーフ選手を近付けさせません!」


明石「状況はグラウンド戦に移行! グラーフ選手、自ら足の間に入っていき……も、持ち上げたぁ!? 扶桑選手が抱え上げられました!」


香取「ダメだわ、パワーが違い過ぎる!」


明石「まるで子供を抱きかかえるかのように、軽々と持ち上げられてしまいました! 扶桑選手が遅れて対応! そのまま三角絞めを試みます!」


明石「が、手を挟み込まれて防御された! やはり、このパワー差を覆せる技など存在しないのか! 扶桑選手が腕一本で高々と持ち上げられる!」


明石「一気に叩き付けたぁ! 寸前で技を解き、扶桑選手は脱出! 致命傷は回避しました……が、足元が覚束ない! 扶桑選手の限界が近い!」


明石「今までのダメージと疲労が足に来ています! もうフットワークもありません! 呼吸も乱れ、どうにか構えを維持している状態です!」


明石「やはり、グラーフ選手のパワーと手数を受け続けるのは無謀だったのか! 対するドイツの怪物は、未だ疲労の色さえ見せていない!」


香取「ラッシュを仕掛けてこない……疲れたから止めたというより、十分にダメージを与えたから中断したと見るべきね」


香取「あとは的確にトドメを刺すだけ……主導権を完全に握られてる。この状況は、扶桑さんの作戦が失敗したからなの? それとも……」


明石「今度はゆっくりとグラーフ選手が近付いてきます! ラッシュは終わったものの、その歩みは開始時点と同様に全く揺るぎがない!」


明石「あれほど動いて、まだ体力の底が見えません! 扶桑選手は明らかにスタミナが切れかかっている! 息切れしながら迎撃の構えを取ります!」


明石「先に扶桑選手が動いた! 太腿へローキック! 当たりましたが、効いた様子はない! グラーフ選手、微動だにしません!」


明石「やや後退しつつ、今度は扶桑選手、ボディへ順突き! 当然ビクともしない! 扶桑選手、もう浅い打撃しか放つ余力がないのか!」


香取「なんで足やボディを狙ってるの!? その程度じゃ効かないって散々わかってるはずなのに……!」


明石「今度はグラーフ選手が仕掛ける! 右のローキック! 脛で受けましたが、脛ごと吹っ飛ばされた! 扶桑選手が大きく傾く!」


明石「更に左のローキック! 太腿へまともに入ったぁ! これは痛い! 悶絶レベルの激痛のはずです! 扶桑選手、機動力を大幅に喪失!」


明石「一方的な展開になってきてしまいました! グラーフ選手が更に蹴り技を繰り出す! こ、今度は右のハイキックだぁぁぁ!」


明石「ブロックは間に合った! し、しかし……赤城選手すら凌駕するこの威力! ガード越しに扶桑選手の頭部を揺らしました!」


明石「扶桑選手が後方に大きくふらついた! フェンス際までよろめき、尻もちを着くようにダウン! このダメージは致命的だぁぁぁ!」


明石「即座にグラーフ選手が距離を詰める! 完全なトドメを刺すために! こ、ここで終わりなのか! 不沈艦がとうとう沈むのか!」


明石「顔面へ跳び足刀蹴りぃぃぃ! か、躱した! すんでのところで転がって躱しました! 扶桑選手がよろめきながら立ち上がる!」


明石「まだ扶桑選手は戦えます! 危うい足取りのまま大きく後退! 今は時間を稼いで回復を図る! 扶桑選手は諦めていません!」


明石「しかし、それを許すグラーフ選手ではない! 扶桑選手目掛けて走り出した! と、跳び膝蹴りぃぃぃ! この威力、ガードし切れない!」


明石「またしても吹き飛ばされるように後方へ倒れ込みました、扶桑選手! が、すぐに立つ! 息は絶え絶えですが、まだ動けている!」


明石「不沈艦は未だ沈まず! だがグラーフ選手の追撃は続く! 再び右のハイキッ……フェイント!? 勢いをそのままに、後ろ回し蹴りぃぃぃ!」


香取「グラーフさんは、ここまでのテクニックを……!」


明石「ハイキックのフェイントで回転力を増した後ろ回し蹴り! どうにか扶桑選手、ガードが間に合いました! 間に合いはしましたが……!」


明石「……様子がおかしい! ガードした左腕がだらりと下がりました! あの前腕の腫れ方、単なる打撲には到底見えません!」


明石「まさか、腕の骨を蹴り砕かれた!? グラーフ選手の恐るべき蹴りを受け止めた左腕は、完全な死に腕と化しました!」


明石「もう左腕は使えない! 片腕一本では、両腕でも受け切れなかったグラーフ選手の攻撃を防ぐことは不可能! 扶桑選手、絶体絶命です!」


香取「完全に追い込まれたわ……もう勝機はないに等しい。なのに……なぜ扶桑さんは表情を変えないの?」


明石「再びグラーフ選手が突っ込んでくる! 今度こそ息の根を止める気だ! 扶桑選手、休む暇もなく右腕だけで構えを取る!」


明石「いきなり右ストレートォ! うなる拳が扶桑選手の頬を掠めた! ギリギリ反応が間に合いました! こんなものをまともに受ければ、死ぬ!」


明石「満身創痍の扶桑選手に対し、グラーフ選手は動きのキレはまるで落ちてしない! 容赦なく前進し、扶桑選手を追い詰めていく!」


明石「扶桑選手はとにかく後退! まだ体力を回復を図っているのでしょうか!? すぐさまグラーフ選手が追いかけ……あれっ?」


香取「えっ、何?」


明石「ぐ……グラーフ選手、転倒! スリップダウンです! 不自然な倒れ方をしました! 転んだというより、自らマットに突っ込んだような!」


明石「扶桑選手は距離を取り、何も仕掛けていません! 足元に滑るようなものはない! しかも……グラーフ選手が、立ち上がらない!?」


明石「立とうとはしています! ですが、立ち上がる動作が異常なほど遅い! わざと隙を作っているのか!? いや、これは違う!」


明石「体を起こそうとする手足が痙攣しています! 呼吸も急に荒くなりました! ほとんど過呼吸に近い息遣いです!」


明石「肌からは大量の汗が滴り落ちている! こ、この変容は一体!? まるで毒でも受けたかのようです! 未だグラーフ選手は立ち上がれない!」


香取「ま……まさか、扶桑さんは最初から、こうなることを狙っていたの!? 考えられない……思い付いたって、普通なら実行できない……!」


明石「グラーフ選手、膝立ちから動けなくなりました! 扶桑選手は呼吸を整えながら、その様子を見守っています! 香取さん、これは一体!?」


香取「……思えば当然の結末なんだわ。グラーフさんは……動き過ぎてスタミナ切れになったのよ」


明石「す、スタミナ切れ!? まさか、さっきまであんなに元気だったのに! こんなに突然!?」


香取「普通の選手のスタミナ切れとは違うのよ。グラーフさんは脳のリミッターがないから、肉体の潜在能力を100%発揮できるでしょ」


香取「脳が潜在能力にリミッターを掛けているのは、過剰運動で体が傷付くのを防ぐためと、いざというときに余力を残しておくという目的があるわ」


香取「普通の選手なら体力の消耗と共に疲労感を覚え、同時に動きが落ちる。でも、リミッターどころか痛覚さえないグラーフさんは違う」


香取「体力の限界まで最高速で突っ走って、唐突に底を着く。余力なんてこれっぽっちも残らない。体力の残りが完全にゼロなのよ」


香取「どんな高性能エンジンを積んだモンスターマシンでも、燃料がなければ走れない。グラーフさんは燃料切れを起こしたんだわ」


明石「そ、それは自明の理ではありますが……こんなにもあっさりと?」


香取「私も驚いてる……身体能力だけに目が行って気付かなかったわ。考えてみれば、あんな動きをしていて燃費がいいわけがない」


香取「グラーフさんは潜在能力の解放により、並の選手と比べて5倍に達する身体能力を得た。それはつまり、スタミナの消費も5倍だということ」


香取「肉体の限界を超えた動きをしていることを考えると、それ以上かもしれないわ。たとえ体力の総量自体が多くても、無尽蔵のはずはない」


香取「あれほどのパワーとスピードを発揮し続ければ、いつか必ず底を着く。だから、扶桑さんは戦いを長引かせることで、自滅を促したのよ」


香取「足とボディを狙っていたのは、自滅までの時間を少しでも短縮するためだったのね。効いてないように見えて、体力は確実に削っていたんだわ」


明石「あっ……扶桑選手が動きます! もう構えはなく、腕を下ろして普通にグラーフ選手へ歩み寄っていきます!」


明石「グラーフ選手は未だに立ち上がるどころか、指一本ろくに動かせない! 接近する扶桑選手に気付いたようですが、反撃できる状態ではない!」


香取「でしょうね。体力は一滴残らず燃やし尽くしてしまったでしょうから。肉体の限界を超えたその先にあったのは、破滅だったわけね」


香取「要は相手が自滅するまで凌げば勝てる戦い。扶桑さんはグラーフさんへの必勝法としてこの作戦を取り、それが成功したんだわ」


明石「扶桑選手が静かにグラーフ選手の背後に回った! 右腕を首に掛けました! バックチョークです! 頸動脈を絞めている!」


明石「ほとんど片腕のみのチョークですが、入っています! グラーフ選手は必死に抵抗しているものの、まるで別人のように動きがか弱い!」


明石「腕力も、握力も人並み以下まで落ちてしまったようです! 不完全なチョークで、ゆっくりとグラーフ選手が絞め落とされていく!」


明石「心なしか、能面のようだった表情にも変化が見て取れます! 恐怖です! 冷酷なる戦闘マシーン、グラーフ・ツェッペリンが恐怖している!」


明石「何の抵抗もできないまま、落とされていく恐怖! ギブアップすることは許されない! 徐々に顔色が鬱血していきます!」


香取「グラーフさんも怖がることがあるのね……落とされるのが怖いの? それとも、敗北への恐れ? あるいは……扶桑さんが怖いのかしら」


香取「私は今、少しだけ……扶桑さんが恐ろしいわ」


明石「おっ……落ちたぁぁぁ! 完全に意識を失いました! 無敵とも思われたあのグラーフ・ツェッペリンが、もうピクリとも動かない!」


明石「試合終了のゴングが鳴りました! 勝ったのは扶桑選手! ドイツの怪物、グラーフ選手の猛攻を耐え抜き、見事勝利!」


明石「体力消費の激しさというグラーフ選手の弱点に着目した、鮮やかな作戦勝ち! 優勝に向けて、大きな壁を乗り越えました!」


香取「作戦勝ちね……この作戦があったから、扶桑さんは『確実に勝てる』と発言したのよね。これ、誰にでもできることじゃないわよ」


香取「グラーフさんが自滅するまで、攻撃を凌げば勝てる。だけど、いつ自滅するかは誰も知らないし、そのとき自分が立っていられる保証もない」


香取「あの化け物みたいな猛攻を耐え抜いて、最後に立つは自分だと確信できる覚悟と自信。それらを得るのに、どれだけのものを費やしたのかしら」


香取「扶桑さんはこの作戦を『登山』に例えていたわね。間違えなければ誰でも辿り着ける? さすがにそれは言い過ぎだわ」


香取「エベレスト山を前にして、『頑張れば必ず頂上を踏破できる』って言うようなものよ。そんなことをやり遂げられるのは、扶桑さんくらいだわ」


明石「過程と結果を鑑みれば、作戦勝ちというより執念の勝利というべきなのでしょうか?」


香取「執念の一言で片付けられるものでもない気がするわね。勝敗を分けたのは、勝利に対する想いの強さなんじゃないかしら」


香取「敗北と勝利を積み重ね、ここまで辿り着いた扶桑さんの想いは誰よりも強い。その想いの強さがグラーフさんの弱点を見出し、勝利まで導いた」


香取「絶望的なまでの能力差をひっくり返し、勝利をもぎ取るその強さ……これほどの境地に辿り着けるファイターはそう多くないわ」


香取「扶桑さんはとうとう、最強の一歩手前まで到達してしまったわね。真の最強の座を得るのに、倒すべき相手はあと2人」


香取「次の相手が誰になるのかはまだわからないけど、扶桑さんは強敵よ。優勝に王手を掛けた今、更に扶桑さんは強くなった」


香取「今の扶桑さんを倒せるファイターはUKFに何人もいないでしょう。本当に、強くなったわね」


明石「ナチス・ドイツが生んだ無敵の怪物、グラーフ・ツェッペリンはここで敗退! 扶桑選手は決勝進出です! 皆様、どうかもう一度拍手を!」




試合後インタビュー:扶桑


―――グラーフ・ツェッペリン選手に勝てると確信されていた理由を改めて教えて下さい。


扶桑「グラーフさんの戦いには意志を感じません。力と技術を闇雲に振るって、結果的に勝っているだけだったんだと思います」


扶桑「本人は勝つつもりで戦っていたようですが、本心ではそうではなかったんじゃないでしょうか。別に、彼女は勝ちたくなんてなかったんです」


扶桑「グラーフさんには何もない。ただ命令されるがままに突っ走っているだけ。なら、走れるだけ走らせてあげればいいと思いました」


扶桑「あんな体の使い方をすれば、すぐに限界が来ることはわかりきった話です。私はそのときまで、倒れないように耐え続ければいいだけです」


扶桑「我慢比べなら誰にも負けない自信があったので、確実に勝てると思いました。結果はご覧のとおりです」


―――グラーフ・ツェッペリン選手のことはどう思っていらっしゃいますか?


扶桑「……きっと、グラーフさんは兵器として育てられたんでしょうね。勝つとか負けるとかではなく、ただ敵を滅ぼすための道具として」


扶桑「彼女に備わっている力は強さではなく、兵器としての性能です。そんなものに勝っても、私は嬉しくありません。悲しくなるだけです」


扶桑「グラーフさんはもう、戦うべきではないと思います。あの力はいずれ、彼女自信を破滅させます。私が言っても仕方のないことですが……」


扶桑「責任はグラーフさんを育てた側にあるんでしょう。どうか、彼女がその呪縛から抜け出し、自分の意志を取り戻せるよう願っています」





試合後インタビュー:グラーフ・ツェッペリン


―――今はどのような心境ですか?


グラーフ「質問の意味がわからない。私は負けた。失敗した。まもなく処分が下るだろう。今はただ、そのときを待っている」


グラーフ「……だが、わからない。なぜ私が負けた? 負ける要素はなかった。ミスもしていない。なのに、どうして」


―――扶桑選手のことはどう感じましたか?


グラーフ「わからない。ただ、もう戦いたくない。あれは……嫌だ。おそらく、私には倒せない」


グラーフ「ああ……今、負けた理由がわかった。私は欠陥品だったのだ。出来損ないの私に、あんなものを倒せるわけがなかったのだ」


グラーフ「しかし、私のどこに欠陥があるのだろう。わからない、わからない……」


(グラーフ・ツェッペリン選手の機能不全により、インタビュー中止)





明石「怪物だらけだったAブロックからの決勝進出は扶桑選手に決まりました! 次の試合で、もう1人の決勝進出者が決まります!」


明石「Bブロック決勝戦、いよいよスタートです! まずは赤コーナーより選手入場! 実戦空手の第一人者が、またしても空手の強さを見せつける!」





試合前インタビュー:榛名



―――隼鷹選手との戦いを引きずっている、という関係者からの話ですが、本当でしょうか。


榛名「引きずっているというわけではありませんが、少し考えを改めなくてはならないとは感じています」


榛名「技術において、私は隼鷹さんに圧倒されました。私の思う空手の技術体系は、まだまだ未完成だということを痛感しています」


榛名「フットワークの鍛錬にはかなりの期間を要しましたが、もう使うことはないでしょう。欠点は実戦の中で教えていただきましたから」


榛名「戦い方を変えるつもりはありませんが、技の取捨選択を再検討しています。使えるものと使えないもの、慎重に見分けなければなりません」


―――吹雪選手のことはどう思っていますか?


榛名「Bブロックに吹雪さんの名前を見たときから、3回戦で当たるのは彼女に違いないと密かに思っていました」


榛名「吹雪さんは私と似ています。絶対に妥協せず、弱い自分が許せない。強さと勝利を得るためなら、どんな無理や無茶でも通してみせる」


榛名「今頃、吹雪さんは私に対する罵詈雑言を思い付く限り並べ立てているでしょう。私を侮辱するためではなく、自分を追い詰めるために」


榛名「自ら退路を絶ち、命を懸けて戦う。負けた後のことなんて考えない。そういう彼女の在り方は、個人的には好きです」


榛名「駆逐艦級王者決定戦を観ていたときも、内心では吹雪さんの応援をしていました。私は彼女のファンなのかもしれません」


榛名「そんな彼女の前に立ち塞がることになってしまって、心苦しい想いはあります。だからと言って、手加減することは絶対に有り得ません」


榛名「迷いを持つことすら、吹雪さんに対する最悪の侮辱です。何より、私だって負けたくない。油断できる相手でもありませんから」


榛名「吹雪さんは強いです。技の完成度や練度においては、私さえ及ばないかもしれない。だからと言って、私より強いわけではないでしょう」


榛名「私は誰にも負ける気はありません。吹雪さんには、全力を以って当たらせていただきます」




榛名:入場テーマ「GuiltyGearX/Holy Orders (Be Just or Be Dead)」


https://www.youtube.com/watch?v=FUn8sSi6d0c




明石「最強であることを証明する唯一の方法とは、戦って勝ち続けること! 空手最強説の証明者が今、説立証のために再びリングへ上がる!」


明石「K-1王者を倒し、中国拳法家をも倒したその打撃、まさに一撃必殺! 全身を凶器とするその打撃に、一切の隙はない!」


明石「最強への道も、この打撃で切り開く! ”殺人聖女”榛名ァァァ!」


香取「さて、文句なしの実力者である榛名さんだけど……ここに来て、不安要素が出てきてしまったわね」


明石「隼鷹戦の失敗をきっかけに、フットワークを捨てるという発言ですね。そこまで気にするものなのか、とも思いますが……」


香取「榛名さんにとって、フットワークは切り札の1つだったはずよ。それを完膚なきまでに封殺されれば、ショックを受けるのも無理ないわ」


香取「一度破られてしまった技を、再び自信を持って使うことは難しい。自信がなければ、それは迷いとなって技のキレをなくしてしまうでしょう」


香取「そう考えれば、フットワークの封印は正しい選択かもしれないわね。ただ、次の相手が吹雪さんっていうのが問題よ」


明石「最軽量である駆逐艦級の王者ですからね。スピードでは吹雪選手が上だと考えると、フットワークの封印は痛いのではないでしょうか」


香取「そうね。吹雪さんはおそらくスピードを武器に攻めてくる。それに対抗するなら、榛名さんにとって一番の有効策がフットワークだったわ」


香取「しかし、フットワークは隼鷹さんによって破られた。呼吸のリズムと重心が乱れるわずかな瞬間を突くという、高等テクニックによってね」


香取「原理はわかっても、誰にでもできる芸当じゃないわ。でも、艦娘一のテクニックを持つ吹雪さんならやってのけるかもしれない」


香取「そんな不安要素を抱えてまで、フットワークを使うわけにはいかないわね。榛名さんは別の方法で対処する必要があるわ」


明石「スピードのある吹雪選手に対して、榛名選手は分が悪いと考えられますか?」


香取「そうは言ってないわ。階級の有利は榛名さんにある。強めの一撃さえ入れれば、駆逐艦級の吹雪さんはひとたまりもないでしょう」


香取「ただ、足元を掬われる可能性があるというだけ。榛名さんは戦艦級としてはスピードがあるほうだけど、吹雪さんほどじゃないから」


香取「スピードと関節技、それにカウンター。榛名さんが敗北する可能性があるとすれば、この3点かしら」


明石「一番弱点っぽいのは関節技ですよね。空手一辺倒の榛名選手には、組み技系の技が一切ありませんから」


香取「そうね……でも、駆逐艦級の吹雪さんが関節を極めるのは難しいでしょう。あまりにもパワーに差があり過ぎるわ」


香取「隼鷹さんとの試合でも、榛名さんは一度も関節を極められてないわ。そもそも、隼鷹さんは関節技を仕掛けようともしなかった」


香取「別に打撃勝負に拘ったわけじゃなく、関節技を仕掛ける隙がなかったのよ。隼鷹さんほどの腕でも、関節技は諦めざるを得なかったの」


香取「関節を極めるには、隙を突く、当身で崩す、力ずくのいずれかの手段を取る必要がある。榛名さんにはどの手段も難しいわ」


香取「立ち技最強候補の榛名さんを当身で崩すのはほぼ不可能でしょう。力ずくなんてもっと無理だし、隙を見せるような甘さもないわ」


香取「やっぱりスピードでかき回されるのが、榛名さんにとっては最も嫌なんじゃないかしら。吹雪さんも、それは理解しているところのはずよ」


香取「榛名さんがフットワーク以外でどうスピードに対抗するか、ここがちょっとした見どころになるんじゃないかしらね」


明石「ありがとうございます。それでは、青コーナーより選手入場! 怪物退治を果たした、駆逐艦級王者の登場です!」





試合前インタビュー:吹雪


―――相手は打撃最強候補の空手家、榛名選手です。どう戦いますか?


吹雪「えーっと……空手家? 榛名さんって、空手家だったんですか? あはっ、嘘でしょ! もしかして、あれで空手のつもりなんですか!」


吹雪「あんなスッとろい動きが空手だなんて、笑っちゃいますね。ラジオ体操のほうがもっと俊敏に動いてますよ」


吹雪「空手家を名乗りたいなら、おとなしく瓦やスイカでも割ってればいいんですよ。どうせ空手なんて健康体操なんですから」


吹雪「薬で死にかけの牛をいじめたり、人懐っこい熊と戯れるのが真の空手家です。スッとろい榛名さんは、その空手家以下ってことですね」


吹雪「対策なんて必要ありませんよ。相手はなんちゃって武術家ですから、私にとってはサンドバッグも同然です」


吹雪「健康体操に付き合う気はないので、ちゃっちゃと終わらせます。いやあ、3戦連続で弱い相手と戦わせてもらって、何だか申し訳ないです」


―――負けたらどうしよう、ということは考えますか?


吹雪「なんで? 負けるわけないんだから、そんなことは考える必要もありません。私は最強の艦娘ですからね」


吹雪「どうしてもっていうなら、考えてみましょうか。あんなスッとろい健康体操家に負けるようなことがあれば、死んだほうがマシですね」


吹雪「ファイターとして終わりですよ。アレに負けたら虫けら以下、生きているのが恥ずかしいです。ま、負けることはありませんけど」


吹雪「そういえば、負けたらリングでストリップするって約束しましたね。あの約束、まだ有効なので。どうぞ私の敗北を期待してください」


吹雪「期待は裏切られると思いますけどね。この世で私に勝てるやつなんて、どこにもいないんですから」




吹雪:入場テーマ「聖剣伝説Legend of Mana/The Darkness Nova」


https://www.youtube.com/watch?v=Elu5LoFiiXE




明石「階級の不利は勝敗を分ける絶対条件か? 否! それが否であると、この最軽量級王者は勝利によって証明し続けた!」


明石「最凶の戦艦さえ退けた今、怖いものなど何一つない! 磨き上げたテクニックとビッグマウスを引っさげ、無差別級王者の座を狙う!」


明石「誰にも文句は言わせない! 駆逐艦王者の私こそ最強だ! ”氷の万華鏡”吹雪ィィィ!」


香取「試合前のインタビューでは冷や冷やさせられたわ。空手家が言われたくないことをバンバン言ってたわね」


明石「吹雪選手に好感を示していた榛名選手も、さすがにキレるんじゃないかというほどの罵詈雑言でしたね」


香取「本当に、よくやるわ。これでもかというくらい自分を追い込まなきゃ、彼女は気が済まないんでしょう。いえ、ある意味では不安なのかしら」


香取「吹雪さんは勝率を上げるためなら、負けた後のリスクはまったく考えないわ。自分を追い込むことが少しでも力になるなら、躊躇なくやる」


香取「ビッグマウスの聞くに堪えなさは、そのまま対戦相手へ抱いている脅威に比例しているんでしょう。榛名さんはそこまでの相手というわけよ」


明石「空手を舐め切っている発言をしていましたが、やはり本心ではないんでしょうね」


香取「たぶん、吹雪さんが心の底から対戦相手を馬鹿にしたことは一度もないわ。根っこのところでは真面目でいい子だから」


香取「試合後にも吹雪さんは相手を侮辱する発言をしてるけど、よく聞けば遠回しに相手を認めていることが多いわ」


香取「無理に無理を積み重ねて、小さい体でよくここまで登ってきたと思うわ。階級差をひっくり返すのは、本来、それほど困難なことよ」


明石「今回は立ち技特化の榛名選手と対戦するわけですが、階級差はどのような形で響くと思われますか?」


香取「駆逐艦と戦艦は四階級も離れているわ。これほどの階級差があると、打撃戦では絶対に勝てないと断言できるわね」


香取「威力の違いもさることながら、リーチと身長差は絶望的ね。完璧なタイミングでカウンターを仕掛けても、拳が届かないんじゃ話にならないわ」


香取「頭部に打撃を当てるには、かなり相手に接近する必要がある。ボディなら多少は当てやすいけど、よっぽど会心の一撃じゃないと効かないわね」


香取「打撃戦を仕掛けるなら、吹雪さんは大きく技を制限される。対して、榛名さんは空手の技を思う存分、あらゆる距離と角度から繰り出せるわ」


香取「あえて懐に誘って膝蹴りを入れるのもいいし、蹴りで遠巻きに削ることもできる。拳の連撃で圧倒するのも意のままよ」


香取「吹雪さんの流儀であるクラヴ・マガには打撃に対する防御、反撃テクニックが数多くあるけど、榛名さんレベルの打撃に通用するかは疑問ね」


香取「打撃で吹雪さんに勝ち目はないわ。やっぱり、まずはスピードでかき回して、隙を作ってから決め技を仕掛けるのが妥当な作戦ね」


明石「トータルで考えると、やはり吹雪選手の圧倒的不利ということになりますか?」


香取「もちろん。極端な話、このグランプリに出場した15名の中で、吹雪さんにとって有利な相手なんて1人もいないわ」


香取「競技化されてる格闘技は、ほぼ例外なく階級制を導入している。普通に考えて、小柄な選手が大柄な選手に勝てるわけはないからよ」


香取「でも、吹雪さんは言うでしょうね。『弱いやつらと一緒にするな、私なら勝てる』ってね」


香取「吹雪さんは自分に妥協を許さないわ。相手の階級が4つも5つも上だろうと、勝つことしか考えていないでしょう」


香取「今回だってそう。戦艦級トップファイターの榛名さんが相手でも、吹雪さんは勝つことを絶対に諦めないわ」


香取「当然ながら、勝ち気だけで倒せるほど、榛名さんは甘くはない。相手が最軽量級だろうと、彼女は本気で打ち込んでくる」


香取「あるいは、榛名さんも意地を張るタイプだから、少し吹雪さんの戦い方に付き合ったりはするかもしれないわね」


明石「なるほど。総括して、試合予想としては打撃戦を仕掛ける榛名選手と、それをスピードで切り抜ける吹雪選手という展開になりそうでしょうか」


香取「そんな感じね。スピードだけじゃ相手を倒せないから、決め技として何を選択するか。それも気になるところだわ」


香取「どちらも生粋の負けず嫌いだから、一歩も譲らない勝負になるでしょうね。片方が完全に動けなくなるまで、決して勝負は終わらないわ」


明石「ありがとうございます。さて、両選手がリングインしました! 榛名選手を傲然と見上げる吹雪選手! この身長差も見慣れてきました!」


明石「闘志満々の吹雪選手に対し、榛名選手も負けず劣らずの闘志で見返した! まったく視線を切らないまま、両者コーナーに戻ります!」


明石「負けることが大嫌いなこの2人、しかし勝つのはどちらか一方! 敗北の味を噛みしめることになるのは、一体どちらになるのか!」


明石「ゴングが鳴りました! 試合開始です! 共に迷いなくリング中央へと突き進んでいきます! 吹雪選手、フットワークを開始!」


明石「榛名選手はフットワークを使いません! 構えも普段とは異なり、拳を中段に置いた攻撃特化の構えを取っております!」


香取「上段にガードを置く必要はないものね。よほど近付かれないと頭に打撃は届かない。なら、攻めの一手で近付かせなければいいわ」


明石「動と静を思わせる構えが対峙します! 共に出方を伺うか? いや、吹雪選手が仕掛けた! サイドに回り込んでローキック!」


明石「榛名選手は脛で受けました! 即座に離れる吹雪選手! スピードを武器に、ヒット&アウェイで末端から切り崩そうという作戦か!」


明石「再び吹雪選手が間合いに踏み込みます! 当然、榛名選手は反撃! 左の順突きを繰り出した! 吹雪選手はこれを……すり抜けた!?」


香取「今のは……!」


明石「躱しざまにローキックを入れ、再び離れます! 間髪入れずに吹雪選手が攻め込む! 榛名選手、今度は同じ下段蹴りで迎え撃つ!」


明石「大きく横っ飛びで躱した! またローキックを太腿に入れ、後退! 浅いながらも確実に足へダメージを入れていきます!」


明石「しかし、打撃を躱しながらカウンター気味のローキックを入れていく、このファイトスタイル! 明らかにどこかで見たことがあります!」


明石「これは駆逐艦級四天王の一角、戦艦キラー島風選手のローキック戦法! 吹雪選手、なんと島風選手の戦法をパクリました!」


香取「戦艦級相手に無類の強さを誇る、島風さんの戦法……! パクろうと思ってパクれるほど、簡単な戦い方じゃないはずよ」


香取「相当に島風さんの動きを分析して、同じ動きができるよう、徹底的に練習したんだわ。それくらいしないと、あの精度は真似できない……!」


明石「また吹雪選手が突っ込んでいく! 榛名選手、中段鉤突き! 脇をすり抜け、サイドキックを膝横に入れて離れる!」


明石「追撃の下段蹴りはバックステップで回避! おまけとばかりに足の甲へ踏み蹴りを入れ、また距離を取ります!」


明石「清々しいまでに島風選手をパクっています! だが、通用している! 榛名選手へ着実にダメージを与えています!」


明石「やられてばかりでなるものかと、榛名選手の逆突きが放たれる! 吹雪選手、初動を見切って脇をすり抜ける! 同時に膝へローキック!」


明石「榛名選手を一切寄せ付けない! これが駆逐艦級王者のテクニックだ! 最強の空手家相手に、ローキックを決め続けています!」


香取「島風さんと比べて、さすがに蹴りの威力は劣るわね。だけど、反射速度は吹雪さんのほうが上かも。もともと反射神経の鋭さが武器だものね」


香取「足りない威力は手数で補える。後は削れるだけ削って、決め技を仕掛ければいいんだけど……榛名さんがこのままやられるとは思えないわ」


明石「吹雪選手、休むことなく攻め続けます! 右のインロー! 回りこんで膝にサイドキック! 榛名選手に脛受けさえ許しません!」


明石「これだけ蹴られると、鍛え上げられた榛名選手の足にもアザが目立ってきます! もらい続ければ、機動力どころか立つことさえ厳しくなる!」


明石「何とか状況を打開したいところですが、榛名選手、自分からは攻めなくなりました! 受けに回って隙を窺う作戦か!」


明石「構わず吹雪選手は攻める! また右のインロー……っと、これは空振り! フェイントでしょうか、少し手前で蹴りを放ちました!」


香取「ん……?」


明石「一旦離れて、もう一度吹雪選手が仕掛ける! 今度は左のローキック! これも空振り!? なんだ、吹雪選手が間合いを取り損ねた!?」


明石「いや……榛名選手の位置が少しズレてします! 後退してローキックを躱した? ですが、榛名選手に動いた様子はなかったはずです!」


明石「やや動きを止めた吹雪選手ですが、やはり攻める! 回り込んでサイドキック! これは……なんだ!? 榛名選手、奇妙な動きで躱した!」


明石「まったく上体を動かさず、滑るように移動しました! 足もほとんど動かさず、立ち位置だけが移動している! 今のは一体!?」


香取「浮身だわ……古武道の運足術。スポーツ格闘技の広まりと共に、失われた技術の1つよ。まさか、榛名さんが使えただなんて……」


香取「体幹で下半身を持ち上げるようにして、重心を崩さず、最小限の足捌きで滑るように移動する。いわば、古武道におけるフットワークね」


香取「通常のフットワークと比べて習得し辛いぶん、呼吸のリズムを悟られにくく、動きも読まれにくい。榛名さんの第二の切り札ってところかしら」


明石「榛名選手、まだ隠し玉を持っていたようです! 今度は吹雪選手の攻撃が当たらなくなりました! ローキックを尽く見切り、躱している!」


明石「今や、立場が逆転してしまいました! まさしく体が浮いているかのような、滑らかな運足に吹雪選手が翻弄されている!」


明石「更に深く踏み込んでのローキック! やはり空振り! するりと後退して躱しました! スピードに勝るはずの吹雪選手がついていけない!」


明石「見慣れない動きが吹雪選手の見切りを妨げているようです! さすがの吹雪選手にも、やや焦りの表情があるか!?」


明石「何よりまずいのは、吹雪選手の息が上がりつつあることです! そもそも、この戦法はずば抜けた俊足を持つ島風選手だからこそ可能なもの!」


明石「全てにおいて高水準の能力を持つ吹雪選手ですが、俊敏性は島風選手には及ばない! ファイトスタイルに体が付いていかないのです!」


明石「だからこそ、余計にスタミナを消耗する! おそらくはその前に決め技に入る作戦だったのでしょうが、完全に計算が狂いました!」


香取「おまけに、榛名さんは最小限の動きで避け続けているから体力の消耗が少ない。消耗戦狙いはこれで破綻してしまったわね」


香取「状況は榛名さんが優勢……でも、この程度で終わる吹雪さんでもないわ」


明石「一度呼吸を整え、吹雪選手が再び向かっていきます! またローキック! やはり当たりません! 打ち続けて数を当てる作戦か!?」


明石「それよりも早く、吹雪選手のスタミナが尽きるのではないか!? 即座に離れ、もう一度ロー、じゃない! 吹雪選手が足で飛びついた!」


明石「蟹挟みです! ローキックをフェイントに、榛名選手の足を挟み込んだ! これでテイクダウンを取れば状況が変わる! 倒せるか!?」


明石「……た、倒れない! ビクともしません! 下半身の安定感が尋常ではない! 吹雪選手が倒し切れない! 榛名選手、全く倒れません!」


香取「さすがね。空手に寝てからの戦い方はない。ならテイクダウンを取ればいいっていうのが空手家の攻略法だけど、そう簡単に倒れはしないわよ」


香取「榛名さんの組み技、関節技対策は万全を期している。タイミングは良かったけど、吹雪さんの体重とパワーじゃ無理ね……」


明石「吹雪選手、素早く離れます! 追撃の動きを見せた榛名選手の膝へ牽制のサイドキックを入れ、後退! 未だ決定打を見い出せません!」


明石「それでも吹雪選手は攻める、攻める! 左右のローキック、サイドキック! どれも躱されます! 既に蹴りの間合いを見切られている!」


明石「もうローキックは通用しないのか! しかし、まだ吹雪選手は諦めない! またローキック……ここで吹雪選手が跳んだ!?」


明石「ど、胴回し回転蹴りぃぃぃ! しかも難易度の高い、横回転の蹴りです! 下段を打ち続けたのは、目を慣れさせてこれを当てるためか!」


明石「しかし……防がれた! 榛名選手の反応が間に合ってしまった! 腕一本のブロックで弾かれます! やはりこの階級差、打撃に重さがない!」


明石「空中でバランスを崩し、吹雪選手がマットに倒れ込んだ! 榛名選手の追撃が来る! すぐに立ち上がり……ここで下段蹴りが入ったぁぁぁ!」


明石「あえて立ち上がらせ、バランスを取り戻す前に下段への回し蹴り! 吹雪選手、両足ごと刈られて大きくバランスを崩した!」


明石「よろめきながら後退し、辛うじて榛名選手の追撃から逃れます! が、太腿が見るも無惨に腫れている! このダメージは深刻です!」


明石「恐るべし榛名選手の蹴りの威力! 吹雪選手、フットワークを失いました! もう先程の戦法は使うことができません!」


香取「胴回し回転蹴りは空手の技。空手家の榛名さんには悪手だったかもしれないわね。あの攻め方しかなかった、と見ることもできるけど」


香取「いずれにしろ、これで吹雪さんはスピードを喪失したわ。ここからは、彼女にとって更に苦しい戦いになるでしょう」


明石「榛名選手が迫ってきます! もうフットワークで攻撃を躱すことはできません! 吹雪選手、足を止めて開手の構えで迎え撃ちます!」


明石「まずは左の順突きが飛んできた! 続いて右の逆突き、左鉤突き! 吹雪選手、クラヴ・マガの360°ディフェンスで対抗!」


明石「手首を払う動きで、空手の打撃を受け流しています! 密着されないよう後退しつつ、どうにか拳を捌いている!」


明石「鎖骨を狙った手刀! これも流した! 右の正拳追い突き! 外側に捌いた! 足元は覚束ないものの、必殺の打撃を捌く、捌く!」


明石「やはり吹雪選手のテクニックは超一流! 榛名選手の打撃といえども、そう簡単には通さな……!? なんだ、手首から血が!」


明石「吹雪選手の手首に切り傷ができています! わずかですが出血している! これはまさか……榛名選手の打撃によるものか!?」


香取「ビスマルクさんの打撃は受け切れても、榛名さんの打撃は無理みたいね。同じ戦艦級トップファイターでも、打撃に関してはレベルが違うわ」


香取「空手の一撃を極限まで磨いた榛名さんの拳は凶器そのもの。速さも、重さも全く別物よ。いくらテクニックがあっても、完全には受け切れない」


香取「あのまま受け続ければ、足に続いて今度は手が使い物にならなくなるわ。そうなったら、もう勝機はない……!」


明石「打撃の威力を殺し切れない! フットワークが使えない今の吹雪選手にとって、絶望を上塗りするような展開です!」


明石「しかし、榛名選手に容赦はない! 頭頂部を狙った鉄槌の振り下ろし! 吹雪選手、腕と体捌きで何とか受け流します!」


明石「が、ガードした左腕に軽い裂傷! ナックルパートで皮膚を切ってしまったか! 徐々に吹雪選手の生傷が増えていきます!」


明石「このままではジリ貧だ! 反撃に出たいところですが、スピードを失った今、リーチ差を埋められない! 反撃手段がありません!」


明石「じわじわと、確実に吹雪選手が追い詰められていきます! ここで再び下段蹴りぃぃぃ! 脛ごと弾き飛ばした! 痛烈な一撃が入りました!」


明石「脛受けも通用しない、傷付いた足への無慈悲な追撃! 殺人聖女の面目躍如といったところか! 吹雪選手が再びぐらつきながら後退します!」


明石「もう立っているだけで足に激痛を感じているはずです! それでも、まだ立っている! この程度では吹雪選手の心は折れません!」


明石「回復の間を与えず、榛名選手が迫る! 左順突き! これは捌き損ねた! 手のひらで受けましたが、勢いを殺せずバランスが崩れる!」


明石「その隙を榛名選手は見逃さない! 右の正拳追い突きを放ったぁぁぁ! なっ……ふ、吹雪選手、これを頭突きで迎撃ぃぃぃ!」


明石「バランスを崩したのは、この一撃を誘うため! 狙いは拳の破壊! し、しかし……吹雪選手が吹き飛ばされました!」


明石「何という一撃の重さ! 頭突きで受けられても打ち負けない、この威力! 拳が砕けた様子はまったくありません!」


明石「対して、頭突きを敢行した吹雪選手のダメージが深刻だ! 額が割れてしまったかのような出血! 明らかに脳震盪を起こしています!」


香取「岩をも砕く一撃、というのは、榛名さんにとっては比喩ではないわ。彼女の拳はコンクリートの壁くらいなら、本当に砕いてしまうから」


香取「そんな拳に頭突きをかます……吹雪さんにもう少し体重があれば、拳を砕けたかもしれない。でも、彼女じゃ軽過ぎる……」


明石「吹雪選手が立ちます! ですが、意識の回復が間に合わない! それより早く、榛名選手が間合いを詰めてしまった!」


明石「中段回し蹴りぃぃぃ! 左脇腹へまともに入りました! あの当たり方、確実に肋骨が折れた! 吹雪選手、再びダウンです!」


明石「ま、まだ立ちます! 脳震盪は多少回復したようですが、それ以前に耐久力の限界だ! 駆逐艦級の吹雪選手に、あの打撃は耐え切れない!」


明石「それでもなお、吹雪選手は立っています! もう動くことすらままならないはずですが、まだ諦めることはしない!」


明石「だからといって、手心を加える榛名選手ではない! 再び中段回し蹴りぃぃぃ! 折れた肋骨を狙われた! しかし、今度は腕で受けました!」


明石「受けはしましたが……受けた右腕が力なく下がった! 腕の耐久力が限界を迎えました! もう、右腕は使えない!」


明石「なおも榛名選手は追撃! 右の鉄槌振り下ろしです! ガードをぶち抜き、左の鎖骨を叩いた! 今度は左腕がだらりと下がる!」


明石「左の鎖骨を折られました! 更に下段蹴りまで入ったぁぁぁ! 太腿へクリーンヒット! 吹雪選手、崩れ落ちるようにダウン!」


明石「立とうとしてます! 四つん這いから立とうとしていますが……手足に力が入らない! もう、吹雪選手の五体に無事な部分はありません!」


明石「榛名選手はこれ以上、追撃はしません! 動けなくなった吹雪選手を見て、その必要なしと判断したか! 構えを取ったまま動かない!」


香取「追撃しないのは、榛名さんが空手家だからよ。空手家として、動けなくなった手負いの相手にトドメを刺すようなことはできないから」


香取「吹雪さんもそれがわかっている。そして、立とうと思えば立つこともできると思うわ。それをしないのは、別の理由によるものよ」


香取「彼女は作戦を立てて戦うタイプ。だからこそ、今の状況を理解してる……ここから、どうあがいても榛名さんには勝てない」


明石「榛名選手はトドメを刺さない! 吹雪選手は四つん這いのまま、立てない! 奇妙な膠着状態が続いています!」


明石「膠着として警告を出すべきか、吹雪選手を戦闘不能と判断すべきか、レフェリーも迷っているようです! 無為に時間だけが過ぎていく!」


明石「吹雪選手のダメージは時間経過で回復できるようなものではありません! 吹雪選手、ここからどうする!」


香取「死んでしまいたいような葛藤でしょうね。負けるとわかっていながら立つ、吹雪さんはそういう負けの美学を絶対に認めないわ」


香取「だからといって、このままでいるわけにもいかない。諦めることもできない。今、吹雪さんは他でもない、自分自身と戦っているのよ」


明石「吹雪選手、動かない! 榛名選手もただ待っています! これはレフェリーが試合終了を判断すべきか……いや、動きがありました!」


明石「た……タップです! 吹雪選手がタップしました! 震える手が、弱々しくマットを3回叩きました! 吹雪選手、屈辱のタップアウト!」


明石「レフェリーがギブアップの意志を確認しました! 試合終了のゴングです! 吹雪選手のギブアップにより、ここで試合終了!」


明石「勝者は榛名選手です! 駆逐艦級王者、吹雪選手は無念の敗退! 吹雪選手、未だ立ち上がれない! 顔を伏せたまま動きません!」


明石「榛名選手が一礼を残して去っていく! 取り残された吹雪選手を、セコンドチームが担ぎあげるようにして運び出します!」


明石「やはり榛名選手、圧倒的に強い! 吹雪選手は敢闘するも、あの領域には届かず! 最軽量級による無差別級制覇の夢は、露と消えました!」


香取「強いわね。吹雪さんでさえ、ここまで寄せ付けないなんて……階級がどうとかじゃなく、榛名さんが強すぎるわ」


香取「打撃の完成度、テイクダウンへの対処、そして浮身による運足……どこを取っても隙がない。付け込める弱点はないわね」


香取「吹雪さんの敗因は作戦ミスではなく、単純に榛名さんが強かった……そうとしか言いようがないわ」


明石「悔しさがここまで伝わってくるようでしたね。あんなに重々しいタップアウトは初めて見ました」


香取「ええ、吹雪さんもタップだけはしたくなかったでしょうね……ひと思いにトドメを刺してくれたほうが、彼女にとっては楽だったでしょう」


香取「榛名さんは空手家としてトドメを刺さなかったけど、それが一番残酷だったのかもしれないわ。精神的には、それこそがトドメに成り得るほど」


香取「『お情けで手加減される』ということほど、ファイターにとって屈辱的なことはないわ。榛名さんにそのつもりはなくてもね」


香取「吹雪さんは今頃、死んだほうがマシなくらいに苦しんでいるでしょう……でも、吹雪さんならきっと立ち上がれるわ」


香取「何だかんだで、今までも吹雪さんはときどき負けてるもの。負けるたびに悶えるほど苦しんで、それでも立ち上がった」


香取「次に吹雪さんが立つとき、更に彼女は強くなっているでしょう。そしていずれ……榛名さんへのリベンジを果たすわ」


香取「それがいつになるかはわからないけど。榛名さんも、そのときは全力で迎え撃つ必要があるでしょうね」


香取「とりあえず、榛名さんは決勝進出。空手最強説立証も目前よ。さて、扶桑さんとどちらが強いのかしらね」


明石「今、吹雪選手がセコンドチームに囲まれてリングを後にします! チラリと見えたその顔には、血と共に涙の筋が見えました!」


明石「よくここまで戦い抜きました、吹雪選手! 榛名選手も空手家としての矜持を守り抜いた! 両選手に向けて、今一度拍手をお願いします!」





試合後インタビュー:榛名


―――なぜ隼鷹選手との戦いでは、浮身を使わなかったのでしょうか。


榛名「使わなかったというより、使う勇気がなかったというのが正しいです。彼女にはフットワークをあっさり破られてしまいましたから」


榛名「もし、浮身まで破られたら、という恐れがあのとき私の中にありました。だから、隼鷹さんの前では使えませんでした」


榛名「できることなら、そのまま決勝まで取っておきたかった技です。吹雪さんを相手に、それは甘い考えでしたね」


榛名「貫手に、フットワークに、浮身。切り札は決勝に至る過程で出し尽くしてしまいました。ここまで苦戦するなんて、私もまだまだ未熟です」


―――最後に吹雪選手へトドメを刺さなかったのはなぜでしょうか。


榛名「私は武術家で、空手家ですから。動かない相手を攻撃するための技は持ちあわせていません」


榛名「吹雪さんの性格を考えれば、トドメを刺すべきだったかもしれません。しかし、私にも譲れないものがあります」


榛名「お互いに譲れないものがあるなら、勝負に敗れたほうが譲るべきでしょう。だから私はトドメを刺さず、吹雪さんがタップするのを待ちました」


榛名「吹雪さんがどれほど屈辱を味わうかは承知の上です。もし立場が逆なら、私も切腹してしまいたい衝動に駆られることでしょう」


榛名「でも、きっと吹雪さんは立ち上がります。彼女が強いことは、よく知っているつもりですから」


榛名「吹雪さんのことは好きなので、全力で打ち倒しました。そう遠くない日に再戦を申し込まれると思いますから、そのときも全力で倒します」


榛名「それまで、私以外の方には誰にも負けないようにしていただきたいです。吹雪さんはもっと強くなれると、私は信じています」






試合後インタビュー:吹雪


―――敗北を認めますか?


吹雪「いいえ? だって私、まだ戦えましたからね。踏み付けや蹴りを仕掛けてきたら、そのまま足を折ってやろうと思って攻撃を誘ってたんですよ」


吹雪「それなのに、全然攻撃してこないし。何だか私が休んでるみたいに思われるのが嫌で、仕方ないから勝ちを譲ってあげたんですよ」


吹雪「榛名さんには私に感謝してほしいですね。あのまま続けていたら、二度と空手ができないほどボッコボコしてたでしょうから」


吹雪「まあ、ルール上では負けっていうことでね。リング、空いてます? ストリップするって言ったでしょ。約束を守ってきます」


―――いえ、それはちょっと……落ち着いてください。


吹雪「……放してよ! 負け様を晒して、約束まで破って、私にどれだけ恥を掻かせる気!? 邪魔をしないで!」


吹雪「私に指図しないで! 私は負けてなんかない! あんなやつ……また戦えば絶対に勝てるんだから! 次は必ず、必ず……!」


吹雪「うっ……うっ……畜生! また、負けた……島風の技まで借りたのに……! もう負けないって、約束したのに……!」


吹雪「絶対、このままじゃ終わらないから! 今度こそ、誰にも負けない。私が……私が最強になってやるんだから!」






明石「これにて第2回UKF無差別級グランプリ、優勝決定戦のカードが決定しました! EVマッチの前に、それを改めて発表します!」




第2回UKF無差別級グランプリ 優勝決定戦


戦艦級 ”不沈艦” 扶桑 VS 戦艦級 ”殺人聖女” 榛名





香取「この2人で決勝戦を争うわけね……最初はどうなることかと思ったけど、わりと順当な結果になって良かったわ」


明石「ええ、安心しました。運命の歯車が少しでも狂えば、グラーフ・ツェッペリンVS羽黒というカードになっていた可能性すらありましたからね」


香取「羽黒さんの話は禁句だって言わなかったかしら? 色々とややこしくなるから」


明石「あっ、そうでしたね……すみません。えーそれでは、これよりEVマッチに移りますが……観客の皆様、事前にお伝えした通りです!」


明石「未成年者の方はご退場いただきます! また、不慮の事故による負傷を了承できない方もご退場をお願いします!」


明石「これから始まる試合は通常とは異なります! 流れ弾的なもので怪我をする恐れがあります! また、かなり過激な内容が予想されます!」


明石「全てをご了承いただいた上でご観覧ください! 苦情は受け付けますが、払い戻しなどは行いませんので!」


香取「この試合を宣伝しておいたおかげで、チケットが売れに売れたらしいわ。ヤフオクでは正規価格の20倍で取引されたとか」


香取「地上波放送をしないプレミア試合っていうのも売れた要因ね。それほど期待の大きい試合よ」


明石「退場される方は、係員の誘導に従ってください! グロいものを見たり、飛んできた武器に当たって怪我しても文句を言わないでくださいね!」




明石「さて、退場誘導も済んだようですので……これより、EVマッチ最終試合を行いたいと思います!」


明石「ファイトマネーは勝者総取りの5000万円! 今回は事前にお伝えした通り、通常ルールとは異なる、スペシャルマッチとなります!」


明石「まずは赤コーナーより選手入場です! 現代最強の武術家が、再び我々の前に姿を現します!」





試合前インタビュー:鳳翔


―――武器ありの試合を打診されたとき、すぐに承諾されたそうですが、それだけ自信がおありということですか?


鳳翔「いえいえ、そんなことありませんよ。ただ、そのようなルールを掲示されて、今代の剣士として断るわけにはいかなかったというだけでして」


鳳翔「このご時世ですから、私のようなものでさえ、真剣に触れる機会はそう多くありません。刃引きの刀だって久しぶりに握ったくらいです」


鳳翔「ですから、決して私が有利だから武器ありの試合を受けたわけではないんですよ。今だって不安でいっぱいなんですから」


鳳翔「負けたら言い訳が効きませんからね。人前で恥を掻かないよう、精一杯頑張らせていただきます」


―――噂だと鳳翔選手は真剣での野試合を行なった経験が多々あるとのことですが、本当でしょうか?


鳳翔「まさか。そんなのは誇張された噂に過ぎませんよ。私、稽古でしか真剣は握ったことがありませんから。当たり前のことですけれど」


鳳翔「真剣で挑んでくる道場破りの方たちも確かにいらっしゃいましたけど、そういう方々には竹刀で御相手させていただいています」


鳳翔「せっかく私の道場を訪ねて来ていただいた方に、怪我をさせるわけにはいきませんから。それに、結局は真剣も竹刀も同じことです」


鳳翔「当てることができなければ、いくら切れ味の良い刀でも無意味です。何より、真剣で戦いを挑むなら、相応の覚悟を持たなくてはなりません」


鳳翔「甘い覚悟は迷いとなり、切っ先を鈍らせます。それを理解できていない方が何人もいらっしゃいましたので……丁重にお帰りを願いました」


鳳翔「本日お相手させていただく川内さんは、そのような方であってほしくはありませんね。半端な気持ちで挑まれると、私も困ってしまいますから」


―――川内選手は非常に高い意欲を持って試合に臨まれるそうです。どう迎え撃ちますか?


鳳翔「そうですか……それなら、私もそれなりのもてなしをしなければいけませんね。今一度、気を引き締めたいと思います」


鳳翔「こういう勝負は本当に久しぶりです。私もまだ未熟ですね……戦いを前にして、心が沸き立つなんて」




鳳翔:入場テーマ「HALLOWEEN/HALLOWEEN THEME」


https://www.youtube.com/watch?v=tLJr49Ewomk





明石「今世紀最強の剣豪! 実戦において並ぶ者なしと謳われる本物の達人が、前代未聞の武器あり試合のためにリングへ上がります!」


明石「無刀ですらトップファイター級! 今宵のリングで、この達人を縛るルールは一切なし! 剣士としての本領が今、明らかになる!」


明石「香取神道流の免許皆伝にして『一の太刀』の開眼者、その業前は如何なるものか! ”羅刹”鳳翔ォォォ!」


香取「剣士らしく、たすき掛けに大小二本差しでの入場ね。今回は演出としての帯刀じゃなく、試合でもその刀を使っていただくわ」


香取「刃引きの刀だけど、長物の武器があれば、鳳翔さんは100%に近い実力を発揮できる。刀を持った彼女に勝てる者なんて、この世にいないわ」


明石「下馬評だと、鳳翔VS川内の勝敗予想は100:1で鳳翔選手の断然有利が予想されてますね。それほど鳳翔選手の武名は轟いているようで」


香取「UKF本来のルールなら多少は鳳翔さん不利の声もあったでしょうけど、武器ありですもの。武器術の勝負なら、鳳翔さんは最強よ」


香取「香取神道流は総合武術。その免許皆伝となれば、刀だけでなく、あらゆる武器の扱いに通じ、同時に対処法も知り尽くしているの」


香取「しかも、鳳翔さんは香取神道流の歴史の中で無敗を誇る『一の太刀』を開眼した達人。エセ忍者ごときに遅れを取る要素はどこにもないわ」


明石「不安要素ではないんですけど、鳳翔選手は前大会のEVマッチに勝利したことで更に知名度が上がり、逆に疑う声が出てきたようですね」


明石「達人、剣聖とあまりにも持て囃されているが、実は宣伝が上手いだけで実力の伴わない、形だけの武術家なのではないかと……」


香取「ああ、榛名戦も八百長だったんじゃないかというアレね。それを聞いたら、まず榛名さんが発信源の人たちを皆殺しにしかねないわ」


香取「今更、榛名さんの強さを疑う人はいないでしょうし、それ以上に八百長を飲むなんてことは有り得ない。あれは正真正銘の真剣勝負だったわ」


香取「UKFでも5本の指に入る実力者の榛名さんと戦い、鳳翔さんは無傷で完勝した。それがどれほど凄まじいことかは語るべくもないでしょう」


香取「鳳翔さんの実力を疑っている人たちは、彼女のことをよく知らないか……あるいは、鳳翔さんの存在を信じたくないんでしょう」


香取「世が世なら歴史に名を連ねていたかもしれない、剣聖が自分たちと同じ時代に生きている。その事実が眩しすぎて、凡人には耐えられないのよ」


香取「鳳翔さんはすでに、武術家としての到達点に足を踏み入れているわ。まともに戦って、勝てる人はいないでしょうね」


明石「あと、鳳翔選手に対する批判が一点……本当に人を斬ったのか、ということに関してですけど」


香取「……その辺りは鳳翔さんも心得たものでしょう。決闘が禁じられている現代において、真剣勝負で人を斬ったという事実は表沙汰にできない」


香取「戦国時代なら、これまでに何人斬ったって自慢できるのにね。だから、鳳翔さんがそのことに関して明言する日は永遠に来ないでしょう」


香取「私が知っている事実は……鳳翔さんと戦った武術家たちは、敗北後に武から身を引いたか、行方知れずになったかのどちらかということよ」


明石「……行方知れずの武術家たちは、一体どこに?」


香取「さあ? それは鳳翔さんと一部の内弟子以外、誰も知らないし、知ってはいけないんじゃないかしら。私もそれ以上は知りたくないわね」


香取「間違いなく言えるのは……刀を持った鳳翔さんほど、この世で恐ろしい存在はないということよ」


明石「……ありがとうございます。それでは、続いて青コーナーより選手入場! 稀代の剣聖に挑むのは、自称風魔忍術の伝承者だ!」





試合前インタビュー:川内


―――川内選手は毎試合に隠し武器を持ち込もうとされてきましたが、それはなぜですか?


川内「何でって、素手より武器があったほうが有利だからに決まってるじゃない! 忍術は武器術が主体なんだし!」


川内「もちろんルール違反なのは知ってるわ! でも、ルールって破るためにあるんでしょ? 勝つために反則はどんどん使っていかなきゃ!」


川内「勝利のためなら何でもする! それが風魔忍者ってものなのよ! 今日も絶対に勝ってみせるわ!」


―――川内選手は風魔忍術の正統伝承者ということですが、本当ですか?


川内「もちろん! 風魔一族のお墨付きよ! 小田原市の風魔まつりに参加して、正式に風魔小太郎の称号を継承してきたから!」


川内「継承者争いを制したのよ! 決勝に2分間息止めができる水遁使いが出てきたのは驚いたけど、私の3回ひねり宙返りには敵わなかったわね!」


川内「忍術のほうもアメリカの道場でみっちり練習したし、名実ともに私は風魔忍者の頭領! 鳳翔さんにだって負けないよ!」


―――武器ありのルールを申し入れたのは川内選手からだそうですが、理由をお聞かせいただけますか?


川内「ほら、やっぱり私って忍者じゃない? 忍者と言えば忍具でしょ! なら素手より武器ありのほうが有利に決まってるじゃない!」


川内「実戦で武器を使うのって初めてなの! あードキドキするわ! 使ってみたい忍具がいっぱいあるから!」


川内「忍者の本領は実戦よ! 実戦なら武器は必須! 本当の『何でもあり』で私に勝てるやつなんていないわ!」


―――武器術にはどのくらい精通していますか?


川内「そりゃあもう、ありとあらゆる武器を使いこなせるわよ! 奥義書もたくさん読んだの! Amazonで20冊くらい注文したわ!」


川内「今日持ってきた武器もだいたいは通販ね! いやー良い時代になったわ! ネットで検索したら何だって手に入るんだから!」


川内「練習もバッチリしてきたわ! 武士でも剣豪でも何でも来いって感じ! 負けないよ! なんたって、忍者は最強なんだから!」




川内:入場テーマ「Linkin Park/Bleed It Out」


https://www.youtube.com/watch?v=OnuuYcqhzCE





明石「歴史伝奇小説における、侍の天敵! 神秘と謎と憧憬に彩られた、世界共通語! 戦乱の世に暗躍したその者達の名は、忍者!」


明石「戦乱の終わりと共に、数多くの一族が姿を消し、その技は失われた! しかし、ここに風魔忍術の伝承者を名乗る、現代の忍者が存在する!」


明石「未だ謎に包まれた、その正体が今宵、リングで明らかになる! ”疾風神雷”川内ィィィ!」


香取「さあ、出てきたわねエセ忍者。不本意だけど、この試合に反則負けはないわ。今日という今日はまともに戦ってもらうわよ」


明石「川内選手は今までちゃんと試合をしたことがほぼありませんからね。3戦中2回は試合前に失格、1回は試合中の武器使用で失格負けでした」


香取「ええ、どれも隠し武器による失格よ。仕込み刀から含み針、あらゆる手段で総合格闘のリングに武器を持ち込もうとしてきたわ」


香取「馬鹿なのよ、川内さんは。ルールで武器が禁止されてるなら、武器を使えば相手より有利に立ち回れるっていう考え方をしてるのよ」


香取「結果的に反則負けになるのにね。本人に言わせれば、勝負そのものには負けてないから、実質無敗ということらしいけど」


明石「ちょっとズレた実戦思考というわけですね。忍者らしいといえばそうですが……ぶっちゃけ、川内選手って本当に忍者なんですか?」


香取「私も疑ってたけど、その疑問は3戦目、川内VS大淀の試合で明らかになったわ。序盤、川内さんは間違いなく大淀さんを押していた」


香取「結果としては、防御に回った大淀さんを攻めあぐねた川内さんが含み針を使用したことで失格負けになったけど、序盤の動きで流儀が読めたわ」


香取「川内さんは卓越した運動神経を生かした足技を得意とするファイトスタイル。姉妹艦の那珂ちゃんから影響を受けた空中殺法も使えるみたい」


香取「飛び蹴りや逆立ちからの蹴り技といった、アクロバティックな動きは確かに忍者っぽく見えるわ。でも、あれは忍術では有り得ないのよ」


香取「古流柔術が江戸時代初期に突然現れた、って話は古鷹さんの試合のときにしたわよね。開祖が謎の山伏から技を伝承されたって話」


香取「つまり、古流柔術は歴史の裏で密かに受け継がれていたんだわ。江戸時代以前、混迷を極めた戦乱の世の中で、脈々とね」


香取「槍と弓、鉄砲が主体の戦場で、甲冑組み討ち以外の体術は重視されなかったはず。もし、徒手格闘の技術を必要とする集団がいたとすれば……」


明石「……古流柔術はもともと、忍術の一部?」


香取「説の一つでしかないんだけどね。でも実際、古流柔術の中には、隠し武器の使用法を伝えてる流派が数多く存在しているわ」


香取「忍者っていうのはいわば傭兵稼業、あるいは特殊部隊の前身みたいなもの。戦乱が終われば仕事もなくなり、食べていくのに困るのは必然よ」


香取「彼らの一部が民間に混じり、持っている技術を大衆に教えることで生計を立てようとした……っていうのは、ごく自然な推察じゃないかしら」


香取「忍術とはおそらく古流柔術の原型。古流柔術には現代格闘技のほぼ全ての技が出揃っているけど、唯一ない技の体系がある。それが足技よ」


香取「重心の安定を基礎とする古流柔術において、蹴りは自ら重心を崩し、大きな隙を作りかねない邪道の技。せいぜいあるのは下段蹴りくらい」


香取「それなのに、川内さんは足技を得意としている。それはなぜか……っていうか、アメリカで修行したって発言からして明らかよね」


香取「川内さんの体術はテコンドーやカポエラを土台にした我流格闘術。いわば、外国人が思い描く『ニンジャ』の動きを格闘術に仕立てあげたもの」


香取「彼女は本物の忍者か否か? と問われれば、間違いなく否。本物からは程遠い、正真正銘の紛い物。それが川内さんの正体よ」


明石「あー、言動から薄々感づいてはいましたが、やっぱり本物の忍者ではないんですね。忍者というより、『ニンジャ』と呼ぶべきでしょうか」


香取「そうね。彼女は単に忍者が好きなだけなんでしょう。通販で買った文献や忍具を独自に研究して、勝手に風魔忍者を名乗っているに過ぎないわ」


香取「忍者として川内さんは紛い物。問題なのは……紛い物であるはずの彼女が、間違いなく強いってことなのよ」


香取「彼女が修行していたという、アメリカの忍術道場にまともな師範がいたとは思えない。実用的な技はまったく学べなかったはず」


香取「川内さんは実用的でない技や、文献に載っている技を実戦に使えるよう、ほぼ独学で鍛錬したのよ。普通、そんなやり方じゃ強くなれない」


香取「でも、結果として彼女は大淀さんを追い込むほどの実力を身に付けた。やり方は無茶苦茶なのに、天性のセンスが無茶を可能にしたのよ」


香取「戦闘において、川内さんは天才という他にないわ。ずば抜けた運動神経、相手の意表を突く格闘センスとテクニック、どれをとってもね」


明石「武器術はどうなんでしょう? 今日の試合に関しては、そちらの技術のほうが重要かと思われますが……」


香取「そもそも川内さんは格闘家じゃなく、忍者を目指して修行を始めてるわ。体術と同時に、武器術も独学で練習してると見るべきでしょう」


香取「無茶苦茶な学び方であれほどの格闘術を身に付けた才能よ。そのセンスは武器術においても遺憾なく発揮されるんじゃないかしら」


香取「贋作の芸術品が、本物に匹敵する美しさを帯びるのはそう珍しいことじゃない。彼女はエセ忍者だけど、実力だけは本物の忍者なのよ」


香取「残念なのは、彼女が常識知らずの馬鹿ってこと。良く言えば型破りな強さだけど、ルールのある試合ではやっていけないほど頭が悪いわ」


香取「事実、実力はあるのに3戦とも武器の持ち込みによる失格負け……つまり3試合が無効試合も同然になったわけ」


香取「UKFは川内さんのおかげで多大な損失を被ったわ。責任を取るのは審査委員長である私。彼女は私の顔に3度に渡って泥を塗ったのよ」


香取「そのツケを今日、支払ってもらうことにするわ。取り立て人は現代最強の剣士、鳳翔さん。さて、エセ忍者に勝機はあるのかしら」


明石「えーっと、後半は私情が多分に含まれた発言なのでコメントに困りますが……実際、川内選手に勝ち目はあると思いますか?」


香取「ない、と断言したいところだけど、対戦カードを通した手前、そこまで一方的な意見を言える立場じゃないわね」


香取「まともにやれば、武器のあるなしに関わらず鳳翔さんの勝利は揺るがないわ。だけど、川内さんは戦闘に関してのみ、馬鹿ではないの」


香取「彼女は戦いにおいて異常なほど鼻が利くわ。鳳翔さんが絶対の勝算を持って試合に臨んでいるように、川内さんにも何かしらの勝算がある」


香取「それが鳳翔さんに届くかどうかはわからないけど。まあ、何かを仕出かすのは間違いないと思うわ」


香取「何をしてくるかわからない相手こそ、戦闘では一番の脅威。たとえ鳳翔さんと言えど、油断すれば足元を掬われる可能性はあるわね」


香取「さて、試合を始める前にやることがあるわね。今回は通常のルールが適応されないスペシャルマッチ。特別ルールの説明よ」


明石「はい! 今回のスペシャルマッチに適応される特別ルールは、以下の通りになります! 改めてご確認ください!」





鳳翔 VS 川内

スペシャルマッチ限定ルール


このルールは鳳翔、川内、そして審査委員長である香取の三者によって検討され、全員の賛同を得たものである。

万が一、このルールで行われた試合において重大なトラブルが発生した場合、審査委員長の香取が全責任を負うものとする。



この試合においてのみ、限定的に武器の持ち込み、及び使用を許可する。使用される武器には以下の規定が課せられる。


1.刃物などの鋭利な武器は刃引きし、殺傷能力を抑えたものでないと持ち込みを認められない。

2.飛び道具の持ち込み、使用も自由に認める。持ち込める数も無制限とする。

3.毒物、薬物を何らかの形で持ち込むことは認められない。

4.火薬や電力を使う現代武器を持ち込むことは認められない。

5.持ち込む武器は事前に審査委員会により厳重な検査を受け、検査に合格したものだけをリングに持ち込むことができる。

6.服装、防具の着用は自由とする。

7.打撃による殺傷、または殺傷能力の強化を目的とする武器の持ち込みは認められない。

8.検査を通過して持ち込まれた武器の内容は事前に公開され、対戦者の武器を互いに把握した状態で試合を始めるものとする。


武器を使用する性質上、試合の勝敗判定には一部ポイント制が導入される。その判定基準は以下の通りである。


1.刃引きされた武器が頭、首に接触した場合、強弱に関わらず一本となる。胴に接触した場合、強い当たりなら一本、弱い当たりなら有効となる。

2.頭、首、胴以外の場所に刃引きされた武器が当たった場合は、その強弱に関わらず有効とする。

3.刃引きされた武器が飛び道具の場合、どこに当たっても有効とする。

4.一本を取れば即座に勝利となり、有効は3回取ることで勝利となる。

5.元から刃のない打突武器はポイント制の対象にならない。

6.審査委員会による検査を受けていない武器は、ポイント制の対象にならない。

7.防具の有無はポイント制の判定には考慮されない。

8.原則として、反則負けはない。レフェリーによる試合中断も行われない。


上記のルールと通常のUKFルールに矛盾が生じる箇所は、特別ルールが優先される。矛盾しない場合は、通常のUKFルールも適用される。

よって、KOやギブアップも勝利条件の1つとなる。






明石「以上が特別ルールになります! 通常のUKFルールとは異なり、武器の使用を解禁! それに伴ってポイント制を導入しました!」


明石「一本を取れば即勝利! 有効も3回取れば勝利! 飛び道具さえ使用が許可され、未だかつてないほど実戦的な試合になると思われます!」


明石「ただし、刃物は刃引きしたものに限り、毒、火器、現代兵器等は使用禁止です! これを許可すると本当の殺し合いになってしまいますので!」


香取「どうせ入渠して復活するなら真剣でやれば? って声は多いみたいね。刃引きした刀だって、頭をスイカみたいに割るくらいはできるんだし」


香取「でも、超えてはいけない一線というものがあるわ。これらのルールは、倫理に抵触しないための建前として絶対に必要だったの」


香取「未成年の観客は退場してもらったし、地上波でも放送しない。これだけやっておけば、まあ、ギリギリ言い訳はできる範囲でしょう」


明石「しかし、よく武器ありルールなんて通りましたね。香取さんは絶対に反対すると思っていましたけど……」


香取「……なんかもう面倒くさくて。あれよね、どうせ不法投棄されるなら、その場所をゴミ捨て場にしちゃえばいいって発想よ」


香取「だいたい武器ありで鳳翔さんに勝てるわけないんだから、川内さんはせいぜい力の差を思い知らされた挙句、惨敗して挫折すればいいと思って」


香取「川内さんが犯した反則の責任を取らされて、私は3回も減給させられたのよ。その報いを受けさせるためなら、多少の無茶は通すわよ」


明石「香取さん。今の発言は聞かなかったことにするので、一から言い直していただけませんか。私情は挟まずに」


香取「はいはい。まず投票で鳳翔VS川内のカードが決まった時点で、川内さんが性懲りもなく隠し武器を持ち込もうとするのは目に見えていたわ」


香取「翔鶴VS妙高戦の失態もあるし、EVマッチ最終戦が反則により決着するのは何としても避けなければならない事態だったのよ」


香取「奇しくも2人は本来、本当の実戦において真の実力を発揮する武術家。武器ありルールを掲示すれば、どちらも喜んで飲むと思ったわ」


香取「どうせ持ち込まれるなら、堂々と持ち込んでもらえばいい。後はルールを整えればいいだけ。まあ、それが一番大変だったけど」


明石「三者賛同のルールとのことですが、制定の際はずいぶんと揉めたようですね?」


香取「ええ、揉めに揉めたわ。当然よね。より実戦に近付けたとはいえ、あくまで制約のある勝負。ルールの内容は勝敗を左右しかねないから」


香取「どれほど腕に自信があっても、戦う場は出来る限り自分へ有利にしておくのが真の武術家。おかげでなかなかルールが決まらなかったわ」


香取「特に揉めたのが飛び道具に関する項目ね。どちらも全然譲らないから、最終的にはお互いの意見を汲んだ妥協案になったわ」


明石「飛び道具はどこに当たっても一本にはならず、全て有効という項目ですね。3回当てれば勝てる辺り、川内選手有利にも取れますが」


香取「そうでもないわ。確かに自称忍者の川内さんは、手裏剣を始めとした飛び道具を間違いなく使ってくるでしょう」


香取「だけど、香取神道流は総合武術。その免許皆伝を持つ鳳翔さんは、棒手裏剣の名手でもある。飛び道具で引けは取らないわ」


香取「最初は刃引き武器と同じく、急所に命中で一本、それ以外の箇所に当たれば有効にしようと思っていたの。強硬に反対したのが川内さんよ」


香取「彼女の言い分は、『実戦なら手裏剣に毒を塗るから、皮膚を掠めただけで致命傷を与えられる。だからどこに当たっても一本にすべきだ』」


香取「対する鳳翔さんの意見、『それを言うなら、実戦では鎧や鎖帷子を着込む。ならば飛び道具は顔以外の部位に当たった場合は無効にすべき』」


香取「どちらも無茶な言い分よね。接近戦に持ち込みたい鳳翔さんと、離れて戦いたい川内さんの思惑がありありと見て取れるわ」


香取「しょうがないから妥協案として、どこに当てても有効にしたわ。他はまあ、川内さんが無茶ばかりを言ってただけね。煙幕を許可しろとか」


明石「煙幕は確かに忍者っぽいですけど、煙の中で戦われると外側からは何も見えませんからね……」


香取「まったくよ。観客の入ってる試合だってこと、何も考えてないんだわ。この試合を観るためにチケットを買った人もいるっていうのに」


香取「それ以外のルールは割りとすんなり決まったわ。反則負けがない、試合中断がないってのも両者、即合意だったわね」


明石「中断がないとしても、罰金の支払い義務は発生するんですよね?」


香取「もちろん。だけど、このEVマッチ最終戦のファイトマネーは勝者総取りの5000万円。対して、罰金額は1回につき100万円」


香取「49回反則を犯してもお釣りが来る計算だわ。そこまでの回数の反則を重ねるほうが難しいし、まあ一応の抑制みたいなものね」


香取「鳳翔さんと川内さんは武術家としては似ても似つかないけど、本質は同じ。それは、勝つためなら何でもするということ」


香取「今回のルールは双方の実力を100%引き出してくれるでしょう。過激な内容になるのは免れないけど、滅多にないプレミア物の試合になるわ」


香取「ところで、明石さん。このルールの最も重要な点に気付いているかしら? いわば、裏ルールと呼ぶべきものなんだけど」


明石「……最初にルールが公開された時点で違和感はありました。解釈次第では試合そのものを崩壊させかねないのに、その項目がない」


明石「最初は書き忘れだと思っていたんですが、他の細かいルールは書き足されていくのに、それに関しては一向に書き足されません」


明石「真意に気付いたのはつい最近です。試合中断がない、反則負けがない、全てはこの『裏ルール』のためにあるんだと」


香取「察しがいいわね。これは誰かが言い出したわけじゃないのよ。鳳翔さんと川内さん、そして私が暗黙の了解で決めたことなの」


香取「特別ルールには武器に制限を掛ける項目が多いわ。この項目に引っかかる武器は事前の身体チェックで検査され、試合前に取り上げられるの」


香取「ルールに反した武器の持ち込みは認めない。だけど……『ルールに反した武器の使用を認めない』という項目はどこにも書かれていないわ」


香取「書かれていないということは、ルール上で許可されているということ。つまり、『身体チェックを免れた武器は使用を認められる』」


明石「それって超まずくないですか? 川内さんが刃物や火薬でも持ち込んでたら……!」


香取「まったくその通りね。川内さんは常識が通用しない上に、戦闘には異常に鼻が利く。鳳翔さんの技量がどれほどかも察しているはずよ」


香取「鳳翔さんを倒すために、必ず何か仕掛けてくる。圧倒的な技量の差を埋めるためのそれは、間違いなく反則技になるでしょう」


香取「結局、ここまでルールを譲歩しても、川内さんが反則負けになる危険は拭えなかったのよ。だからリスクを承知でこんな裏ルールを通したの」


明石「鳳翔選手は本当に承知しているんですか? 自分が敗北するかもしれないルールなのに……」


香取「承知の上よ。だって、裏ルールは鳳翔さんにも適応されるんだから。川内さんが何かを仕掛けるなら、鳳翔さんも何かしらの仕込みがあるはず」


香取「このルールは両者が最も公平になるよう作られてるの。罠だろうと忍法だろうと、鳳翔さんは川内さんの全てを凌駕して勝つつもりでいるわ」


香取「せいぜい足掻きなさいエセ忍者。相手は今代最強の剣豪。その実力差を思い知り、今まで散々私の顔に泥を塗ったことを後悔するがいいわ」


明石「最後のセリフは聞かなかったことにします。今、両選手が改めて身体チェックを受けていますが、本命のチェックはもう済んでいるんですよね」


香取「ええ、これは念のための抜き打ちチェック。事前の身体チェックは金属探知機を導入して入念に行ったわ。できればX線検査もしたかったけど」


香取「身体チェックを免れた武器は使用を認められる。だからと言って、そう簡単には持ち込ませない。チェック体制には万全を期してあるわ」


香取「検査を行った妖精さんたちはこう豪語していたわ。『内臓の中身以外は全て調べた。絶対に見落としはない』ってね」


明石「今まで不手際があったぶん、今回は意気込みが違いますね。で、チェックの結果、何か出てきましたか?」


香取「鳳翔さんからは何も出てこなかったわね。逆に、川内さんはこれでもかという量の隠し武器を持ち込もうとしてたわ」


香取「どこにどうやって隠してたのかは聞かないでね。かなりエグくてみんなの夢が壊れるから。それじゃ、押収物の内容を読み上げるわ」


香取「えーっと。含み針18本、千枚通し2本、手裏剣4枚、仕込み刀2本、赤クラゲの粉10g、バタフライナイフ1本、投げ矢3本」


香取「煙幕玉4つ、スタンガン1つ、メリケンサック2つ、トリカブト汁100cc、催涙スプレー1缶……実弾入り二連式デリンジャー1丁。以上よ」


香取「読み上げた中にある刃物や飛び道具は、全て刃引きしてないか、毒が塗ってあったわ。まるで隠し武器の見本市よね」


明石「……思った以上に多いですね」


香取「ええ、多いわ……多すぎる。仮にこれら全てを持ち込んでリングに上がれば、むしろ嵩張って戦いにくかったはず」


香取「明らかにバレることを前提に仕込んでいるわ。たぶん、ほとんどの反則武器はダミー。本命の武器を持ち込むための目眩ましよ」


明石「もし見つかった武器の中に本命が含まれてるとしたら、デリンジャーが怪しいですね。それって、暗殺用の拳銃じゃないですか」


香取「一応、携帯性に優れた護身用拳銃という名目よ。至近距離でしか当たらない反面、超小型で手のひらにも収まる。護身より暗殺に最適よね」


香取「もっとも、その程度の武器で鳳翔さんを倒せたとは思えないけど。デリンジャーは安全装置がない代わりに、トリガーがものすごく重いのよ」


香取「だからいざというときに抜いても、一瞬では引き金を引けない。鳳翔さんならその一瞬があれば相手を仕留められるわ」


香取「戦う場がフェンスで囲われた狭いリングってのも銃を使うには不利ね。銃弾で侍を倒そうだなんて、忍術も何もあったもんじゃないわ」


明石「……別の本命があると思います?」


香取「さあ……あるかもしれないし、ないかもしれない。例えば、入場口から花道を通る間に、観客の1人から本命の武器を受け取ったかもしれない」


香取「可能性は尽きないわ。あっ……ほら、やっぱり何か持ってた。試合直前に抜き打ちの身体チェックをして正解ね」


明石「ああ、本当ですね。あれはナイフですか? 刃引きなしのナイフ程度で鳳翔選手をどうにかできるとは思いませんが……」


香取「やけに柄の太いナイフね。バネで刃を射出するスペツナズナイフか、尖端から圧縮ガスを噴き出すスズメバチナイフのどちらかでしょう」


香取「使いようによっては鳳翔さんに届かなくもない武器。でも、これでもう使えない。そのナイフが本命だったら嬉しいわ」


香取「川内さん。あなたは今まで、ありとあらゆる手で不正な武器を持ち込もうとしてきたわね。この神聖なUKFのリングの中に」


香取「1度は私の手抜かりで許したわ。でも、2度目はない。正々堂々、対等なルールで戦ってもらうわ。本物の達人、鳳翔さんを相手にね」


香取「ここまでやっても、どうせ何か仕掛けてくるんでしょう。それでもあなたは鳳翔さんには届かない。せいぜい無駄な足掻きをするがいいわ」


明石「えーと……試合前の抜き打ちチェックも終わったようですので、ここで両選手の装備を発表いたします!」


明石「鳳翔選手の装備は、太刀1本、小太刀1本、棒手裏剣5本! 防具は鎖帷子! 以上となります!」


明石「対する川内選手の装備は、忍者刀1本、鎖鎌1つ、寸鉄1つ、鎖分銅3本、四方手裏剣20枚! 防具は鎖帷子、額当て、手甲、足甲……?」


明石「えーっと……油粘土100g? 以上となります!」


明石「これら以外の武器が使用された場合、それは即ち反則となります! しかし、反則負けがない以上、課されるのは試合後の罰金のみです!」


明石「と、いうことで両者の装備が明らかになりましたが……油粘土って何に使うんです?」


香取「さあ。動物の形にしてやって、息を吹きかけると動き出して鳳翔さんを襲うんじゃない? そういう忍法を漫画で観たことがある気がするわ」


明石「……たぶん違うと思うんですけど」


香取「もちろん冗談よ。私の予想としては、本命の武器を持ち込むダミーとして持ってきて、そのまま持ち込んじゃったってところじゃないかしら」


香取「それ以外の意図があるなら、ちょっとわからないわね。武器にはなりそうにないし、やっぱり注意を逸らすのが目的なのかも」


明石「まあ粘土のことは置いといて、試合展開はどのようなものになると予想されますか?」


香取「鳳翔さんは、当然ながら白兵戦に持ち込みたいでしょうね。どんなに川内さんのセンスが良くても、剣術勝負では万が一にも勝ち目はないわ」


香取「棒手裏剣は念のために持ってるだけでしょう。対して、川内さんは是が非でも離れて戦うしかないわ。剣の間合いで戦ったら一瞬で終わるもの」


香取「となると、まずメインで使ってくるのは鎖鎌かしら。他の武器は嵩張らない無難なものを持ってきたって感じね」


明石「鎖鎌ですか。某バラエティ番組では、最弱の武器という不名誉な称号を与えられてしまったことで少し話題になりましたが……」


香取「最弱、ね。本来なら、武器の優劣は使い手の腕と運用意図に依るところが大きいんだけど、それで片付けられないのが鎖鎌という武器なのよね」


香取「鎖鎌の実用性は、歴史に登場した時点で疑問視されていたわ。扱いにくさという点では、世界中の武器の中でもトップクラスでしょう」


香取「鎖分銅と鎌、これを1つに合わせたのが鎖鎌。使いこなせば強いと言われるけど、おそらくこの武器を使いこなすことは不可能なの」


香取「だって、くっついてる武器がどちらも癖が強い上に、全く違う性質を持ってるのよ。使い手には超人的な器用さと空間把握力を要求されるわ」


香取「剣の二刀流でさえ習得は困難を極めるのに、鎖鎌はそれに輪をかけた難解さだわ。実戦レベルまで技を高めるのに、何十年も掛かるでしょう」


香取「川内さんは天才だけど、短期間で鎖鎌を完璧に使いこなせる程だとは思えないわ。相手が鳳翔さんなら、なおさらよ」


明石「鎖鎌を主力武器に持ってきたのは悪手だと?」


香取「普通に考えればね。ただ、何度も言うように川内さんは戦闘に関してのみ馬鹿じゃない。何か狙いがあるように思えるわ」


香取「あるいは、鎖鎌を早々に放り出して飛び道具メインで立ち回るのかもね。どう奇襲を掛けるかが川内さんの勝機の分かれ目よ」


明石「もしかしたら、意表を突いて白兵戦を狙ってくるかもしれませんね。太刀の懐に入って、寸鉄を使った至近距離戦を仕掛けるとか」


香取「有り得る話だけど、鳳翔さんには小太刀術もあるわ。太刀の間合いを潰してくるなら、迷わず小太刀を抜いてくるでしょう」


香取「どのみち勝つのは鳳翔さんだと思うから、川内さんが敗北までにどれだけ足掻けるのか、それが最大の見所よ。瞬殺だけ避けてくれればいいわ」


明石「最後に元も子もないコメントをいただきましたが、ようやく両選手、最後の身体チェックを終え、リング中央で対峙しました!」


明石「改めてルール確認が行われていますが、ここまで来れば、この試合は事実上のノールール! あらゆる攻撃が認められてしまいます!」


明石「史上、最も過激で波乱が予想されるこのスペシャルマッチ! 勝つのは現代の剣聖か、それとも大穴のエセ風魔忍者か!」


明石「攻撃に巻き込まれないよう、レフェリーはこの試合に限りリングから降ります! 試合中断はない! 反則負けもこの試合にはないのです!」


明石「間もなく試合開……っと、ここで川内選手が九字を切り始めました! これは終わるまで待ってあげたほうがいいのでしょうか!」


香取「待ちましょう。数少ない見せ場なんだから、これくらいは許してあげないと可哀想よ」


明石「そうですか。では待ちま……おっと、額当てがズレたようです。額当てを付け直していますが……川内選手、時間を稼いでませんか?」


香取「そんな感じがするわね。別に試合開始を数十秒遅らせたところで、何が変わるわけでもないと思うけど」


明石「ですよね……さて、九字切りも終わったようですので、いよいよ武器ありスペシャルマッチ開幕! 前代未聞の試合が今、始まります!」


明石「ゴングが鳴りました、試合開始! 両者、同時に武器を構えました! 鳳翔選手は太刀を抜き、正眼の構えを取ります!」


明石「川内選手はやはり鎖鎌を使用! リング中央付近まで躍り出て、分銅を振り回しております! 鳳翔選手はコーナーから前に出ない!」


明石「ここで川内選手の先制攻撃! 分銅を正面から投げつけました! 鳳翔選手はわずかに首を傾けて回避! 軌道を見切っています!」


香取「鳳翔さんがコーナーから動かないのは、分銅攻撃が横から飛んで来るのを封じているのね。軌道を制限して避け安くしているんだわ」


明石「分銅を引くや否や、今度は縦回転で攻撃を仕掛けた! 狙いは頭頂部! ここで鳳翔選手、逆手抜き! 小太刀を鞘ごと抜いた!」


明石「小太刀の鞘に鎖が巻き付きました! それを鳳翔選手、間髪入れずフェンスの隙間に突き刺す! 鞘を引っ掛けて、小太刀だけを抜いた!」


明石「慌てて川内選手が鎖を引きますが、外れない! 小太刀の鞘によって、鎖が固定されてしまいました! これで鎖鎌は使用不能です!」


香取「ああ、やっぱり。鎖鎌じゃ無理だったみたいね。さて、鎖鎌が使い物にならなくなったここから、川内さんがどうするかだけど……」


明石「太刀と小太刀の二刀流になった鳳翔選手、そのまま川内選手の元へ走り出します! 川内選手は未だ固定された鎖鎌と格闘している!」


明石「あーっと、鎌の柄が抜けてしまった! 鎖鎌はもうダメだ! 川内選手、ヤケクソ気味に外れた鎖鎌の柄を鳳翔選手へ投げつけます!」


香取「えっ? あの柄、何か……」


明石「おっと、ここで鳳翔選手も小太刀を投げた!? 飛んでくる柄と空中でぶつかりました! 何か危険を感じ取ったんで―――――――――!?」


香取「がっ―――――――!」


明石「――――――――あああ痛い痛い痛い! 目が、目がー! 目に何か刺さっ……あれ!? 私、声出てる!? 何にも聞こえないんですけど!」


香取「あっ……あの馬鹿女ァ! やってくれたわね! これで全部、何もかもお終いよ!」


明石「香取さん、何か言いました!? よく聞こえないっていうか、目も耳もおかしくなっちゃったんですけど! 何も見えないし、聞こえません!」


香取「頭おかしいんじゃないの!? 減給どころじゃないわ、私なんてクビよクビ! それどころか、運営の賠償問題にまでなってくるわ!」


明石「あっ、ちょっとだけ治ってきた……香取さん? 聞こえますか、香取さーん!」


香取「やかましいわ淫乱ピンク! 横で喋ってるだけのアンタには何の責任も発生しないでしょうに! バーカ、バーカ!」


明石「今のはバッチリ聞こえましたよ!? ちょ、どうしたんですか香取さん! そんなに取り乱して……っていうか、何が起こったんです!?」


香取「まだわからないの!? あのクソ忍者、鎖鎌の柄をフラッシュバンに改造してたのよ! 鎌が抜けたら点火するようになってたんだわ!」


香取「しまった……油粘土! あれは耳栓のために持ち込んだのね! ズレた額当てを直すときに耳に入れたんだわ……クソッ!」


明石「ふ、フラッシュバンですか!? リングと放送席って割と距離があるんですけど、こんなに届くものでしたっけ!?」


香取「あのね、正規のフラッシュバンは非殺傷兵器として火薬量を調整してるのよ! あの馬鹿が火薬量の調整なんてしてると思うの!?」


香取「柄に詰められるだけパンパンの火薬を詰めたに違いないわ! この距離で私達の網膜と鼓膜をぶっ壊す威力、イカれてるとしか思えない!」


明石「ちょ、ちょっと待って下さい! じゃあ、近距離であの大音響と閃光を浴びた鳳翔選手は!?」


香取「考えたくもないわね! 火薬量で閃光の強さは大きく変わらないけど、音響は間違いなく大きくなる! 確実に鼓膜は破れてるわ!」


香取「失明は免れても、数十秒は暗闇の中! 耳はもう聞こえない! バカ忍者は目を伏せ、耳栓も使って被害を回避! 後はもう分かるわよね!?」


香取「全部台無しだわ! 試合が終わったら、あのバカ忍者に本物の殺し屋を差し向けてやる! こっちには色々とツテがあるのよ!」


明石「えー、ようやく目と耳が回復したので実況に戻ります! 香取さんが発狂するのも無理はありません! 観客席は阿鼻叫喚の地獄絵図です!」


明石「リング上は未だ白煙が立ち込めています! 一体、2人はどうなったのか! やや煙が晴れてきました! かすかに両者の姿が見えます!」


明石「どうやら、どちらかが組み伏せられているようです! まだ勝負は着いていない様子! 上にいるのは……ほ、鳳翔選手!?」


香取「……えっ、どうして!?」


明石「こっ、これはどういうことだ!? フラッシュバンをまともに浴びた鳳翔選手が、川内選手を組み伏せています! つ、鍔迫り合いだ!」


明石「鳳翔選手が太刀を上から押し込んでいます! 対する川内選手、忍者刀で辛うじて太刀を防いでいる! 明らかに圧倒されています!」


明石「今の鳳翔選手には視力も聴力もないはずです! 事実、両目は閉じられている! 川内選手は苦悶の表情ながら、視力は健在です!」


明石「蓋を開けてみれば、状況はまさかの鳳翔選手優勢! 我々が視聴覚を失っていた間に、一体何が!?」


香取「……鳳翔さんは咄嗟の判断で柄を小太刀で弾いたけど、結果は爆風を浴びずに済んだだけ。フラッシュバンの影響はモロに受けたはず」


香取「なのに川内さんを組み伏せているってことは……なるほど。目も耳も使えなくても、川内さんの居場所はわかっていたのね」


明石「それはその、達人だけが感じられる殺気とか気配とか……」


香取「そんな曖昧で不確かなものじゃないわ。川内さんはフラッシュバンを使った後、すぐさま鳳翔さんにトドメを刺しに行くわけよね」


香取「でも、すぐにとはいかない。閃光に目を伏せてたから、一度鳳翔さんの位置を確認する必要があるし、耳栓もできれば外しておきたい」


香取「それから忍者刀を抜いて鳳翔さんに向かっていく……ということは、爆発後のごく一瞬、川内さんはその前と変わらない場所にいる」


香取「その場所は、鳳翔さんの真正面。それらをコンマ0.1秒で判断した鳳翔さんは、フラッシュバンを受けた直後、一気に間合いを詰めたのよ」


香取「川内さんがいると思われる、その場所に向けて太刀を振り下ろした。忍者刀で受け止めた川内さんの技量は褒めてあげるべきでしょうね」


香取「後は甲冑組み討ちの技で川内さんを押し倒せば、相手の動きは鍔迫り合った刀を通してわかる。もう、目と耳を潰した不利は通用しないわ」


明石「つまり、鳳翔選手はフラッシュバンを浴びた直後、間髪入れずに川内選手へ斬りかかったと……そんなことが可能なんですか!?」


香取「それが鳳翔さんよ! 本能を極限まで制御し、戦いの場で常に最善を取る! 本物の達人とはそういうものを言うのよ!」


香取「ここまでくれば、残る作業は川内さんの首を落とすだけ! さあ、あのエセ忍者の素っ首を叩き落として! 報いを受けさせるのよ!」


明石「香取さんは未だ発狂したままですが、リングの状況も変わらず! 鳳翔選手の刃が更に川内選手の首筋に近付いております!」


明石「刀と刀のやり取りなら鳳翔選手の土俵! 鳳翔選手、刀の背に手を押し当て、力ずくで刃を押し付けています! 川内選手、防ぎ切れない!」


明石「自称風魔忍者、万策尽きたか! フラッシュバンを以ってしても、剣聖を討つことは叶わ……あれっ!? な、なんだ! 刃が抜けた!?」


香取「な、なんでよ! 太刀が分解した!?」


明石「太刀の柄から刃が抜けました! 何が起こった!? すかさず川内選手が忍者刀を振る! 鳳翔選手、後ろに飛びのいて回避!」


明石「視力は回復しているようですが、突如として武器を失った鳳翔選手! 川内選手はこの機を……いや、見当違いのほうへ走り出した!?」


香取「しまった、出遅れた!」


明石「あっ! 狙いは、先ほど鳳翔選手が投げた小太刀です! リングに置き去りになっていた小太刀を、先に川内選手が手に入れてしまった!」


明石「そして、躊躇なく場外へ投げ捨てました! 鳳翔選手、刀を2本とも失ってしまった! しかし、なぜ太刀の刃が抜けてしまったのか!」


香取「川内さん、手に寸鉄を嵌めてる……まさか、太刀の目釘を抜いたの!? あの鍔迫り合いの中で、寸鉄の尖端を柄の目釘穴に押し入れて……!」


香取「甘く見ていたわ、ここまで状況を読んで用意していたなんて……! 川内さんは予想以上に準備してきている!」


明石「刀を失った鳳翔選手、腰に差していた鞘を抜いて構えました! 武器にはなりますが、鞘には判定がないため、殴り倒すしかありません!」


明石「対する川内選手、ここでフェンスに手を掛けた! フェンス頂上まで登っていきます! 反則行為ですが、この試合では実質お咎めなし!」


明石「近接武器がまったく当たらない場所に移動してしまいました! 鞘を持ってあそこまでは登れない! 川内選手、飛び道具で仕留める気だ!」


明石「八方手裏剣を投げた! 鳳翔選手、やすやすと鞘で弾きます! この程度の飛び道具、剣聖にとって防ぐことは容易い!」


明石「更に手裏剣です! 立て続けに3枚投げた! 1つは弾かれ、2つは躱されます! やはり簡単には当たりません!」


香取「接近戦を避け、飛び道具で仕留めるってのは安易な発想ね。機関銃でもない限り、鳳翔さんには通らないわよ」


香取「落ち着いて考えれば、まだ鳳翔さんの勝利は揺るがないんだわ。耳は聴こえてなさそうだけど、目は見えるし、刀はなくても鞘がある」


香取「川内さんの手裏剣は残り16枚、鎖分銅が3本だったわね。それらを使い切ったとき、同時に川内さんの命運も尽きるでしょう」


香取「さあ、さっさと飛び道具を使い果たして降りて来なさい! 鳳翔さんに鞘でぶっ叩かれるがいいわ!」


明石「更に川内選手の手裏剣投げ! 両手を使っての連続射撃です! おまけに鎖分銅も投げつけた! 鎖で絡めて動きを封じる気です!」


明石「が、鳳翔選手には通用しない! 手裏剣4枚、全て空を切った! 鎖分銅も素通りしてフェンスへ激突! 鳳翔選手にかすりもしない!」


明石「無駄に飛び道具を消費する結果に終わりました! ここで鳳翔選手の反撃! 飛び道具には飛び道具、棒手裏剣が放たれました!」


明石「川内選手の手裏剣より速い! 躱しはしましたが、フェンス上でのバランスを崩した! 川内選手、リングへ落下します!」


明石「フェンス上から引きずり降ろされる形となりました、川内選手! 綺麗に着地はしましたが、ここからどう討って出る!」


明石「なんと、背に収めていた忍者刀を再び抜きました! まさか、剣術勝負に出る気か!? いくらなんでも無謀だ!」


香取「鳳翔さんは鼓膜が破れてる……軽い見当識障害を起こしてる可能性があるわ。飛び道具は躱せても、剣は躱せないかもしれない」


香取「……と考えるのはこれまた安易ね。鳳翔選手の動きに大きな支障は見られない。さしずめ、剣と見せかけて鎖分銅で攻撃したいんでしょう」


明石「川内選手、重心を低く落として忍者刀を構えた! 鳳翔選手は鞘を高々と掲げた上段の構え! ここからは白兵戦です!」


明石「ともにすり足でジリジリと間合いを詰める! 剣の間合いは鳳翔選手のほうが長い! 先手は鳳翔選手! 唐竹割りです!」


明石「咄嗟に川内選手、後方に飛び退いた! 即座に踏み込んで忍者刀を横振り! 手首を狙ったようですが、呆気無く空振りします!」


明石「踏み込んでくる鳳翔選手へ鎖分銅を投げた! 受けた鞘に絡みついたものの、一振りで外され……あっ!? 鳳翔選手が大きく仰け反った!」


明石「一気に後ろへ飛び退きます! 鳳翔選手が目を庇っている! 目を攻撃されました! 川内選手が持っている、あれは……!」


香取「さ、催涙スプレー!? 何で!?」


明石「川内選手、催涙スプレーで目を潰しました! どこに隠し持っていたんだ!? 間髪入れず忍者刀を構えて踏み込む! ここで仕留める気だ!」


明石「しかし、鳳翔選手が鞘を袈裟斬りに薙いだ! 勘だけで振ったようですが、川内選手の鼻先を掠めました! 川内選手、一時後退!」


明石「視力が本当になくなったのか、警戒しているようです! 鳳翔選手はフェンスに背を預けながら鞘を構えている! 瞼は一向に開きません!」


明石「ここで川内選手が手裏剣を投げた! 肩に当たりました! この試合、初めての有効打です! 川内選手に有効1!」


明石「鳳翔選手はまったく反応できていませんでした! これは、完全に視力を失っている! 加えて、鳳翔選手は耳も聞こえないのです!」


香取「……やられた。川内さんは催涙スプレーを隠し持っていたんじゃない……すでに持ち込んでいたんだわ」


明石「持ち込んでいた? それって……あっ」


香取「フェンスの上よ! 会場が開くよりも前にリングへ忍び込んで、予め催涙スプレーをフェンス上の目立たない場所に隠していたんだわ!」


香取「やたら考えなしに手裏剣を投げてるから、不自然だと思ったのよ! 飛び道具で注意を逸らして、その隙に催涙スプレーを回収していたのね!」


香取「どこまでもやってくれるわ! 耳を潰し、武器を奪い、視力まで奪った! 催涙スプレーの視力障害は、目を水で洗わないと回復しない!」


香取「鳳翔さんはこの試合中、無音の暗闇で戦わなければならない! これが忍術だって言うの!? やりたい放題ね、エセ忍者!」


明石「香取さんが再び発狂しました! 無理もありません、鳳翔選手の戦闘力は、これで絶望的なまでに削がれました!」


明石「フラッシュバンによる鼓膜破り! 太刀の目釘を抜く武器破壊! 催涙スプレーを用いた目潰し! 川内選手がここまで用意していたとは!」


明石「無音の暗闇に立たされた鳳翔選手にとって、もはや相手の動きを察知する術はありません! 状況は川内選手の思うがまま!」


明石「川内選手は焦ることなく、忍者刀を片手に鳳翔選手の様子を伺っています! 急がずとも、すでに鳳翔選手は回復不能の痛手を負っている!」


明石「後はトドメの手段を選ぶだけ! 川内選手、やはり飛び道具を使います! 八方手裏剣を取り出し、2枚連続で投げた!」


明石「躱した!? 鳳翔選手、フェンス際から飛び出すようにして手裏剣を躱しました! これは、見えているのか!?」


香取「見えてるはずがないわ。今のだって、手裏剣を躱すには動きが大き過ぎる……!」


明石「壁際から離れた鳳翔選手、正中線を隠すように平青眼の構えを取りました! 目は閉じていますが、鞘の切っ先は川内選手を捉えている!」


明石「川内選手は再度手裏剣を構えましたが、やや警戒してサイドに回る! それに合わせて鳳翔選手も動いた! 切っ先は川内選手に向いたまま!」


明石「見えてはいないようですが、何らかの方法で川内選手の位置を割り出している! 川内選手、迂闊には近寄れません!」


明石「距離を保ちつつ、手裏剣を投げる! 同時に鳳翔選手、大きく横に飛んだ! どうにか回避しました! しかし、動きが大雑把過ぎる!」


香取「やっぱり目も耳も機能してないわ。おそらく、感じているのは振動。足から伝わるマットのわずかな振動で、川内さんの動きを見ているのよ」


香取「触覚だけでここまで動けるのは驚異的だわ。でも、長くは保たない。正確な挙動や間合いは測れないから、大雑把な回避しかできない」


香取「いずれは攻撃が当たるし、反撃しようにも得物が鞘じゃ一撃で仕留めるのは難しい。このままだと、負ける……!」


明石「再び川内選手の手裏剣投げ! また横飛びで躱しました! 避けると同時に鳳翔選手、棒手裏剣を放った! が、忍者刀で防がれた!」


明石「驚くべき勘の良さで攻撃を避け続けています、鳳翔選手! しかし有効な反撃ができない! 主導権は川内選手が握ったままです!」


明石「川内選手が位置を変えます! 合わせて鳳翔選手も動く! 構えの先に川内選手を……あっ、ズレてる!? 川内選手はそこにはいない!」


明石「構えの角度がズレました! 歩幅にして2歩分、川内選手の立ち位置と違う場所を向いています! 鳳翔選手が位置を測り損ねた!」


香取「感知方法がバレたわ。忍び足で振動を殺して歩いてる……! 馬鹿のくせに、こういうところでは油断しないのね、エセ忍者!」


明石「またもや手裏剣投げです! 今度は続けて2枚! 鳳翔選手、大きく反応が遅れた! 2枚目は躱せたものの、最初の1枚が腰に命中!」


明石「2つ目の有効です! あと一発、体のどこに攻撃が当たっても鳳翔選手は敗北! ここから全ての攻撃を躱さなくてはいけません!」


明石「全ての攻撃を躱す、無音の暗闇に立たされる鳳翔選手にとって絶望的な難題です! むしろ、ここまで凌げたこと自体が奇跡に近い!」


明石「本来ならばフラッシュバンで終わっていた勝負をここまで繋いだ、鳳翔選手恐るべし! だが、勝負とは過程ではなく、結果が全て!」


明石「香取神道流免許皆伝、鳳翔選手にとって敗北は許されない! 果たして、ここから勝利する術など存在するのか!」


香取「鳳翔さんお願い、勝って! ファイトマネーを川内さんに払うなんて、絶対にしたくないわ!」


明石「中立であるはずの解説役が鳳翔選手側に付きましたが、状況は好転しません! 川内選手の手元には、手裏剣があと5枚残されている!」


明石「これを使い切っても1本の鎖分銅、更に忍者刀と寸鉄がある! 鳳翔選手はこれらの攻撃手段から完璧に逃れなくてはなりません!」


明石「すで川内選手は移動を開始しています! 忍び足により、鳳翔選手はその動きを察知できない! 構えの照準から、川内選手が外れていく!」


明石「手には手裏剣が握られています! この一枚で終わらせる気だ! 次の攻撃を躱す手段はない! これまでか、鳳翔選手!」


明石「おっと、ここで鳳翔選手が構えを変えます! 平青眼を止め、ほとんど棒立ちに近い立ち姿です! 鞘の切っ先も下ろされました!」


明石「勝負を諦めたとは思えません、涼やかな表情です! あっ……なんだ? 鞘の先端でマットを叩いています!」


明石「音を出すことが狙いなのでしょうか? 一定のリズムを保ちながら鞘でマットを打ち鳴らしています! 聞き慣れない音が会場に響きます!」


明石「少々川内選手も訝しむ気配を見せましたが、取るに足らないと判断した模様! 即座に手裏剣を投げ……いや、鳳翔選手が向き直った!?」


明石「閉じられた鳳翔選手の目が、確かに川内選手を捉えています! さすがに驚いたか、川内選手も手裏剣を投げる手を止めた!」


明石「危険を感じ取り、再び忍び足で位置を変えます! が、その動きに鳳翔選手はついていく! 動きを感知してます!」


香取「信じられない……エコーロケーションの要領だわ。マットを叩いて振動を起こし、その響きの具合で川内さんの位置を確かめてるのよ」


香取「リングのマットは衝撃を散らすよう設計されてるから、叩けば振動は全体に伝わる。だから理論上は可能だけど……超人的な感覚能力だわ」


香取「何よりも、戦闘不能に近い状態に追い込まれてるのに、まったく精神がブレてない。これが鳳翔さんのレベル……!」


明石「とうとう鳳翔選手、川内選手の方向へ歩き出しました! 近付かれるのを嫌い、川内選手が牽制気味に手裏剣を投げた!」


明石「大きく横に飛んで回避! やはり動きを感じ取っている! 鞘でマットを叩きながら歩くその姿は、得体の知れない不気味さを感じさせます!」


明石「川内選手、今度は両手に1枚ずつ手裏剣を構えた! 同時に投げる! これは、それぞれ狙う場所が違う! 回避運動を読んだ投擲だ!」


明石「狙いは鳳翔選手の両脇! これを回避すれば、逆に命中してしまう! が……鳳翔選手、今度は避けない! 手裏剣は素通りしていきました!」


香取「この辺りで回避を読んだ攻撃をしてくる、と読んでいたのね。読んでいたとしても、あんなに平然とやってのけることは普通できないけど」


明石「これで川内選手の手元にある手裏剣は残り2枚! 20枚あった手裏剣も、ここに来て貴重な飛び道具となってしまいました!」


明石「鳳翔選手が近付いてくる! もう手裏剣の無駄遣いはできない! ここで川内選手、再びフェンス上へ登ります!」


明石「フェンスに上がれば動きを察知されない! 相手の意図に気付いたか、その前に仕留めようと鳳翔選手が走る! いや、途中で止まった!?」


明石「あっ……鳳翔選手が止まった場所に、外れた太刀の刃が落ちています! これを組み直して、武器を取り戻そうというのか!?」


香取「さすがに無理でしょう。目釘を入れるには両手を使わなきゃいけないから、その間に攻撃されてしまうわ」


明石「刃は拾いましたが、目釘や柄は置いてその場を離れてます! 川内選手から距離を取りたいようです! 対角線上まで後退しました!」


明石「リングの対角線距離は約12m! 手裏剣の射程距離外です! 手持ちが少ない川内選手にとって、この距離で仕掛けるのは避けたいところ!」


明石「すぐには仕掛けず、フェンス上を伝って鳳翔選手に接近していきます! その間に鳳翔選手は……何をしているんでしょうか?」


明石「もうマットを打ち鳴らすのはやめたようです。片方の手に刃の茎(なかご)を持って、刃を手首に……えっ? ちょっ……出血!?」


香取「はっ……はあ!? ま、まさか……あの刀、真剣!?」


明石「あの刀、刃引きしてない!? 鳳翔選手が鍔迫り合いに使ったあの太刀は、本物の日本刀です! もし、あれが川内選手に触れていれば……!」


明石「しかし、身体チェックは間違いなく通ってたはずです! すり替えるような隙もなかった! 一体、どうやって刃引きされてない刀を!?」


香取「……身体チェックは完璧だったわ。抜き打ちチェックにも抜かりはない。それらをくぐり抜ける方法があるとすれば、1つだけ……!」


香取「チェックを行った、運営スタッフの買収! なんて単純で確実な方法なの。まさか、鳳翔さんがそれをしてくるとは思わなかった……!」


明石「真剣を持ち込んでいたことにも驚きですが、更に信じられないものが目の前にある! 一体、鳳翔選手は何をしているんだ!?」


明石「刃で自分の手首を切っている! かなり深い切り傷です、リストカット並の出血量! 切った手首を顔の上に! 血を浴びている!?」


香取「血で目を洗おうとしてるの!? あ、あの出血量なら催涙物質は洗い流せるかもしれないけど、今度は血でしばらく目が見えないわよ!」


明石「なんと、自らの血で目の洗浄を試みる鳳翔選手! だが、これは大きな隙になる! 川内選手が動かないわけがない!」


明石「すでにフェンス上での移動も終わり、手裏剣には十分な射程に近付いている! 手裏剣は残り2枚、うち1枚を迷わず投げた!」


明石「……外した!? 鳳翔選手の足元に落ちました! すぐさま次の手裏剣を投げつける! こ、これも外した!」


香取「動揺で狙いが定まってない……! 手裏剣投げは高等技術、心がブレれば狙いがブレるのも必然だわ」


香取「川内さんは気付いてしまったのよ。あの刀は真剣だった、つまり鳳翔さんは、自分を本気で殺そうとしていたんだと……!」


香取「鳳翔さんにとってこれは試合でも勝負でもない、命を懸けた本気の殺し合い。川内さんに、そこまでの覚悟はなかった……!」


明石「とうとう手持ちの手裏剣は尽きてしまいました! 残る武器は鎖分銅、寸鉄、忍者刀! もうフェンス上にいる意味はありません!」


明石「リングに降り立ち、忍者刀を抜いた! 見えていないうちに斬りかかる気だ! 同時に、鳳翔選手が目を洗い終えた!」


明石「まだ視力は回復し切っていません! 血が涙で洗い流されるまで、あと十数秒! この間に仕留めなければ、川内選手に勝機はない!」


明石「川内選手が間合いを詰める! が、足音の振動で鳳翔選手が気付いた! 位置を確認し、そして刃をぶん投げたぁぁぁ! 真剣の刃です!」


明石「咄嗟に身を伏せて躱します! 本物の死が頭上をすり抜けていく! 川内選手も肝を潰したことでしょう!」


明石「再度前進しようとする川内選手目掛け、今度は鞘が飛んできた! 当たっても痛いだけのはずですが、これも川内選手、大きく飛んで躱した!」


香取「最初に真剣の刃を投げて、恐怖を植え付けておいたのね。似たような長物が飛んでくれば、そりゃあ避けずにはいられないわよ」


明石「川内選手、大きなタイムロスを犯してしまいました! 鳳翔選手の視力回復まで、残り10秒を切っている! 一か八か、仕掛けるしかない!」


明石「今や鳳翔選手は鞘も刃も投擲に使い、丸腰も同然! やるなら今しかない! 川内選手が最短距離を走り出します!」


明石「もう忍び足はない、振動でだいたいの位置は気取られている! 鳳翔選手、ここで棒手裏剣を使用! 川内選手目掛けて放った!」


明石「胸に命中! 川内選手に有効1! しかし、意に介さず間合いを詰める! 川内選手はあと一撃入れさえすれば勝てるのです!」


明石「鳳翔選手も棒立ちでは待たない! 目の見えないまま、川内選手に背中を見せて逃走! フェンス伝いに走り出しました!」


明石「剣聖鳳翔、清々しいまでの逃げっぷりです! 川内選手、距離を詰められない! あっと、ここで川内選手が落ちていた手裏剣を拾った!」


明石「背中を見せた相手に手裏剣を当てるなど造作も無いこと! 川内選手、走りながら手裏剣を……転倒!? 何かに足を引っ掛けた!」


明石「放置されていた鎖鎌の鎖です! 鳳翔選手が片側を引っ張っている! まさか、リングに何があるのか、位置を記憶しているのか!」


香取「戦いの中で背中を見せての逃走、相手の武器を利用する戦術、さすが鳳翔さんも手段は選ばないわね……!」


明石「またもやタイムロス! すぐさま立ち上がって追撃を再開する川内選手ですが……足を止めた! 鳳翔選手の、目が開いている!」


明石「己の血に濡れながら微笑む、その瞳ははっきりと川内選手を映している! 鳳翔選手、とうとう視力を回復しました!」


明石「ここから鳳翔選手の反撃! しかし……武器がない! 鞘も刃も手放した今、鳳翔選手の手元にはわずかな棒手裏剣しかありません!」


明石「川内選手には忍者刀と寸鉄、鎖分銅がある! 達人といえど、武器を持つ相手に素手で挑むのは不利! 技量でその差を埋められるか!?」


香取「これが本当の実戦なら素手でも勝てるでしょうけど……ルール上、今の鳳翔さんは相手の武器に触れただけで敗北になるわ」


香取「『剣道三倍段』のことを考えれば、鳳翔さんが3倍以上の技量を持つことは明らかだけど、攻撃を一度も受けず倒せるかどうかになると……」


明石「川内選手、意を決したように間合いを詰めます! 素手の鳳翔選手なら勝機があると踏んだか! 忍者刀を片手に前進!」


明石「鳳翔選手は距離を取るでもなく、自然な歩みでリング中央へ! 特に構えも取らず……なんだ? 片手をまっすぐ上にかざしました!」


明石「何かの構えに見えなくもありませんが……あっ!? て、天井から何か落ちてきた! 白鞘の刀です! 鳳翔選手の元に、刀が降ってきた!」


香取「落ちてきたんじゃない、誰かが観客席からリングへ投げ込んだわ! ルール上、この行為を禁止する項目はない……!」


明石「川内選手にとって最悪の展開! 視力を取り戻した鳳翔選手が、刀まで手にしてしまいました! しかも……あの刀もおそらく、真剣!」


明石「鞘から刀身が抜き放たれ、妖しい刃紋の輝きが露わになります! 血塗れの剣聖が八相の構えを取る! その威容、まさに現代の人斬り!」


香取「あれは鳳翔さん秘蔵の愛刀……最上大業物十四工の一、二代目備前長船”波泳ぎ”兼光! 国宝級の名刀まで持ち出してきたの!?」


明石「放たれる殺気が尋常ではない! 見る者全てに死を覚悟させる、この姿こそが鳳翔選手の真骨頂! もはやこれは試合ではなく『死合』!」


明石「川内選手の額から冷たい汗が滴り落ちます! もう止められない! どちらかの刃が相手を捉えるまで、誰にも止めることはできません!」


明石「鳳翔選手が前に出る! 川内選手は動けない! 瞬く間に剣の間合いに入りました! あと数瞬で勝負は決まる!」


明石「先に川内選手が仕掛けた! 忍者刀をフェイントに、足を狙った鎖分銅! 同時に、鳳翔選手の太刀が目にも留まらぬ速さで翻る!」


明石「く、鎖を切った! これは名刀の切れ味によるものか、鳳翔選手の技前か! 鎖分銅がまったくの役立たずに成り果てました!」


明石「鎖の切れ端を捨て、川内選手が残る武器、忍者刀を構える! そこへ鳳翔選手が踏み込んだ! やや遠巻きからの横一閃!」


明石「に……忍者刀が折れた!? いや、刀を斬ったのか! これほどの技量か、鳳翔選手! もう川内選手の武器は寸鉄のみ!」


明石「しかし、細く短い寸鉄は、刀を携えた鳳翔選手に挑むにはあまりにも頼りない! 何より、あの鳳翔選手の懐に飛び込めるわけがない!」


明石「鳳翔選手が上段に構える! 終わらせる気だ! 川内選手は……動けない! 完全に心が折れている! 萎縮して体が固まっています!」


明石「本来なら勝負ありが掛かるこの状況! しかし、誰にも止められない! 降参しようにも、川内選手は声を出すことすらままならない!」


明石「掲げられた太刀が今、振り下ろされる! 真っ向唐竹割りぃぃぃ! 殺……い、いや! 寸止めです! 直前で刃を止めた!」


明石「刃は触れてはいません! しかし……川内選手が膝から崩れ落ちた! 気絶しています! 川内選手、恐怖のあまり失神!」


明石「ここでゴングが鳴ったぁぁぁ! 前代未聞の武器ありスペシャルマッチ、決まり手はUKF初の寸止めKO! 勝者はやはり、鳳翔選手です!」


明石「もはや忍術の枠すら超えた、川内選手の数々の計略! あわやというところまで追い詰められるも、剣聖を討ち果たすには一歩及ばず!」


明石「技、精神、そして手段を選ばぬ勝利への執念! そのどれもを凌駕して、鳳翔選手の勝利! これこそが本当の達人だ!」


香取「ああ、心臓に悪い試合だった……正直、鳳翔さんにもう勝ち目はないんじゃないかと思ったわ。特に、目を潰されたときにはね」


香取「今だって、何で鳳翔さんが勝てたのか不思議なくらいよ。終わっていてもおかしくない場面はいくらでもあったわ」


香取「鼓膜を破られ、武器を奪われ、視力まで失った。それなのに、最後に立っているのは鳳翔さんのほう。ほんと、信じられないわ」


明石「川内選手がここまでしてくるとは、鳳翔選手も予想外だったんじゃないでしょうか。追い詰められていたのは事実だと思いますし」


香取「まさか、現代兵器を駆使してくるとは思ってなかったでしょうね。いえ、予想はしていても、ここまで徹底的だとは思わなかったはず」


香取「川内さんは120点の戦いぶりだったと評価すべきね。鳳翔さんをあそこまで追い詰めたのは歴代でも片手で数えるほどでしょう」


香取「敗因は2つね。鳳翔さんが命を懸けて殺し合いとして試合に臨んでいたのに対し、川内さんはそこまでの覚悟ができていなかったこと」


香取「もう1つは、相手が鳳翔さんだったこと。命を懸けていなくても、あそこまでやれば普通は誰にだって勝てるものよ」


香取「踏んできた場数と、乗り越えた死線と、積み上げてきた修練の量……現代兵器を以ってしても、その差を埋められはしなかったわけね」


香取「鳳翔さんを実戦で倒すなら、機関銃以上の装備は必須ね。それでも鳳翔さんなら勝ちそうなのが恐ろしいところだけど」


明石「まったくですね……ところで、フラッシュバンで鼓膜が破れた観客が医務室に殺到しているそうですけど」


香取「……この責任って、私が取らなくちゃいけないのよね」


明石「まあ、そういうルールにしちゃったのは香取さんなので……」


香取「考えたくもないわね……あ、そうだ。賠償金も兼ねて治療費用を川内さんに請求しましょう。運営名義で訴訟を起こして……」


香取「そうそう、罰金も取り立てなくちゃ。損害補填の足しにはなるはずよ」


明石「合計いくらぐらいになってます?」


香取「1000万円くらいかしら。請求するのが楽しみだわ」


明石「えー大波乱の試合となってしまいましたが……剣聖VS忍者の勝負は、現代の剣聖、鳳翔選手に軍配が上がりました!」


明石「体調に異常を来した方は無理せず病院へどうぞ! 送迎車を現在手配中です! 無事な方は、両選手に今一度拍手をお願いします!」




試合後インタビュー:鳳翔


―――目や耳が使えなくなっても戦えるような訓練をされていたのですか?


鳳翔「まさか、そこまでのことはしていません。耳が聞こえなくなって、目も見えなくなったときは本当に焦りました」


鳳翔「日頃から、体の中の音を聞くよう心掛けていなければ、敗北していたのは私だったと思います。本当に危うい試合でした」


鳳翔「体の中の音を聞くというのは、風や木々、石や建物、人や動物、そしてその中にいる私自身を、全身を通して感じるということです」


鳳翔「そうすると、色々なものがよく見え、聞こえるようになるんです。鼓膜と目を潰されれた後も、体を通せば多少は見聞きすることができました」


鳳翔「気配や殺気? そういうのはわかりませんね。私、道場ではよくぼんやりしてますから。いつも後ろから、子どもたちに悪戯されています」


―――どうやって真剣を持ち込んだんですか?


鳳翔「ああ、あれですか? 本当にすみません、刃引きした刀と間違えてしまいました。妖精さんもたまたま気付かなかったみたいで」


鳳翔「妖精さんのことを責めてあげないでくださいね。私のことを信用してくれたからこそ、チェックし損ねたんだと思います」


鳳翔「最後にリング外から刀を投げ込んだのは私の弟子です。あれは保険のつもりでした。できれば使いたくない、最終手段だったんです」


鳳翔「とても大事にしてる刀ですから、使うのは忍びなかったんですけど……やはり戦いの中でこそ、刀というのは最も美しいみたいですね」


―――川内選手のことはどう感じましたか?


鳳翔「肝を冷やすような戦いはずいぶんと久しぶりです。あそこまで追い詰められた経験も初めてですね。二度と戦いたくない方です」


鳳翔「ですが、勉強になりました。今の時代には、ああいう戦い方があるんですね。道具にも色々なものがあるんだと知ることができました」


鳳翔「香取神道流は伝統を重んじる流派ですが、こうした現代的な戦い方も取り入れなければならない時期にあるのかもしれません」


鳳翔「とても良い経験でした。川内さんには感謝したいと思います」




試合後インタビュー:川内


―――鳳翔選手のことはどのように感じましたか?


川内「反則でしょ、反則! 何がっていうか……存在自体が! あんなのあり!? 目も耳も使えないのに、私の手裏剣を避けるなんて!」


川内「しかも、あの刀って本物の真剣だったんでしょ!? 殺す気満々じゃない! あー怖かった! 失禁してないのが奇跡よ!」


川内「敗因は私の準備不足ね! 最低でも拳銃は用意するべきだったわ! 次は遠隔起爆式C4爆弾も調達しておかなくちゃ!」


川内「リングごとふっ飛ばせば、さすがの鳳翔さんでも避けられないでしょ? そうそう、VXガスなんかもきっと有効よね!」


川内「それだけ用意すれば次は勝てるでしょ! 早速、調達ルートの確保を……」


―――運営のものですが、今回の試合での反則における罰金、1200万円を徴収に……


川内「忍法、煙玉! ドロン!」


(川内選手の逃亡につき、インタビュー中止)






明石「香取さん。川内さんが罰金を払わず行方をくらましたそうですよ」


香取「どこへ逃げようと、必ず探し出してやるわ。それに、訴訟を起こすにあたっては好都合よ。未出廷だとこっちの不戦勝になるから」


明石「もし見つからなかった場合、香取さんの私財を没収して損害補填費用に充てることになってるみたいなんですけど……」


香取「……妙高さんに連絡して。彼女の身内に凄腕の殺し屋がいるって話だから、依頼するわ」


明石「いや、殺しちゃダメですよ?」


香取「大丈夫よ。半殺しにして連れて来てもらうだけだから……できれば拷問もお願いしたいわ」


明石「ああ、そうですか。ではお好きに……それでは、これで本日の日程は終了となります!」


明石「次回は第2回UKF無差別級グランプリ、優勝決定戦です! どうかお見逃しなく!」


香取「今度こそ早めに放送準備を整えてもらいたいわね」


明石「期待せずにお待ち下さい! それでは、またお会いしましょう!」


―――無差別級王者の座を争うのは、不屈の戦艦扶桑と、最強の空手家榛名。真の最強への挑戦権を手に入れるのはどちらか。


―――次回放送日、現在調整中。



後書き

参考にさせていただくため、良かったらアンケートにご協力ください。

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1: SS好きの名無しさん 2016-08-16 19:03:20 ID: y4fQzRyJ

鳳翔さんかっけぇ…そしてブッキーの試合に思わず涙が(´TωT`)

2: SS好きの名無しさん 2016-08-17 17:43:05 ID: jA1Fb8j5

乙です。川内さんと妙高さんの追いかけっこがルパン三世と銭形のとっつあんみたいに頭に浮かんだ(笑)鳳翔さんマジ侍っすね~~。今後も楽しみにしてます、頑張ってください!

3: SS好きの名無しさん 2017-02-13 11:56:21 ID: sdoYFb2v

フィッシュさん大丈夫っすかね...
( ´•ω•` )
カフェインの過剰摂取で入院中だったりして


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