2016-12-10 22:36:39 更新

概要

【お知らせ】
読み難いとの意見が多くあったため、誠に勝手ながら再執筆し、表現方法の改善を行わせていただきました。ご迷惑をおかけします。
【許して】

独自の設定、解釈、一部にオリジナルの深海棲艦が登場します。
少し読んで合わない場合はブラウザバックを、それでもOKと言う方はよろしくお願いします。


前書き

【中間報告書】
"ナ号‐10‐0型"の初期型13体が出来上がりました。
近年、深海棲艦による漁業、輸送業などの被害は年々増加し、既存の艦娘のみでは対処が難しくなってきていることを受け我々が提案をしたものです。どうぞお役に立ててください。
なお、運用方法についてですが、提督(ここより先は薬品で汚れており、インクが溶けてしまっている。)

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~プロローグ~

ここに1冊のノートがある。

持ち主の名は〈軽巡洋艦 名取〉。表紙には彼女らしい可愛らしいシールや絵が描かれている。

一見交換日記等の類のように見えるが、開けば鎮守府の日常に深海棲艦との闘いや艦娘についてのこと、そしてあの事についての重要な機密が書いてあった。

彼女に聞けば

「どうしても知りたかったんです、こんな事を軍部がしていたと思うと調べざるを得なかったので・・」
「あ、あの・・・。提督さんには黙っていて本当にすみません。もっと早くに言っていれば・・・」

と涙ぐみながら答えるのを見るに今まで相当悩んでいたのには違いない。

まあ、彼女をここまでさせてしまっていたことはアt・・・私の責任であるが、どうしたものか困る。

元々私は前から何をするにも能力は中の下でその上1つも飛びぬけた要素が無かった。また、今まで戦闘一筋であった為、同性に対しての気を利かせた言葉の1つすら掛けられなかったのだからこんなときは何て声をかければいいのやら。

そんなことだから周りの鎮守府からは〈工場で作られたような指揮をするだけの機械〉や〈戦闘特化の量産型提督〉とまで言われる始末。

あぁそうだとも、あたしは量産型の提督さ。周りが何と言おうと知ったものか。

とは言ったものの、結局今出来る事といえば彼女を優しく抱きしめてあげること位しか出来ないんだよねぇ、本当に。


ナトリの着任


あれはいつの事だっただろう。


目を覚ますと私は何か箱のようなものの中にいて、体にくっついた梱包材を払いながら起き上がると、視界いっぱいに鋼材や工作機がいくつか置かれた広い部屋の光景が飛び込んだ。目の前に2人の女性がいた。


1人はいかにも重厚そうな艤装を身に纏い左目を光らせ、セーラー服を着ていることから私と同じ艦娘である事がわかった。「古鷹」という名前らしい。だが、もう1人については彼女から提督だと説明されるまでは全くわからなかった。


というのも、彼女の恰好がどうにもおかしいのである。


黒い長髪に提督用の白い軍帽を被ってはいるものの、着ている服は国防色のシャツに紺の長スカートである。はっきり言って民間人と見間違えてもおかしくない。


提督「君の名前は・・・えっと、な、名取っていうの?」


提督と名乗った女性は錠剤を口に放り込み、咀嚼しつついかにも眠そうな目をこすりながら聞いてくる。


名取「は、はい!長良型3番艦の名取です。モデルは少し古いですが、よろしくおねがいします!」


提督「ん、よろしくー・・えっとー、あー、ごめん古鷹、ちょっと寝る。昨日のあれ、飲みすぎた、ダメだ、やっぱり」


そう言って秘書艦の返事を待たずに提督は部屋から出て行っちゃった、まだ挨拶しかしていないのに。


名取「あのー古鷹・・さん?」


古鷹「はい、何でしょう?」


名取は提督らしき女性が出て行ったドアを指差しながら言った。


名取「え、えっと・・・あれって本当に提督さん?・・なんですか?」


古鷹「うーん、まあ厳密にi・・言えば提督・・かな」


いやいや、なんでそこは自信をもって言えないの?なんだかこっちまで心配になってきちゃうよ。と名取は言おうとしたがさすがにそうは言えず、あははと乾いた声で笑いを漏らした。


その後、古鷹さんにこの鎮守府と呼ばれる場所について色々案内されて、ある程度思い出したり分かってきたことがあった。私達艦娘は深海棲艦と戦うために作られたということ、この鎮守府内には私と古鷹さんの他に5人いて、現在は遠方に遠征中だということ、少数の艦娘を抱えるのがやっとであるほどの小さな島の鎮守府であり、主に自然の洞窟を流用してできたということ―――他にもいろいろあったけれど、古鷹さんはやっとまともな艦隊が作れるってはしゃいでた姿はとてもかわいかったなぁ。



こうして着任1日目はゆっくりと過ごしていった。筈なんだけど、あれ?そもそもどうして私はここにいるんだっけ?


うーん、・・・まぁいいか。


もう夜も遅いし、・・・・眠いし。


明日・・起きてから・・・・考えようかな。




【最終報告書】


【ナ号‐10‐0型の性能試験について】

彼女が製造されてから数日が経ち様々な訓練を行わせてきたが、その結果には上層部からも期待を寄せられていた。一人当たりにかかるコストを従来の想定の半分以下にすることで対空能力や速力等を削り高い量産性を実現することに成功したためだ。だが、定期的な向精神薬の投与等による依存症や精神・生活面での悪影響は今後の課題となる。よって先日の最終協議の結果、10‐0型の製造は現在の初期型のみとし、本機の量産計画を廃止とする。なお、残余の8体については希望している各鎮守府にそれぞれ受け渡す計画だったが、計画変更につき日々戦線が激化している南方のタラワ鎮守府に全て送り付けるものとする。




捨てる者・拾う者


この鎮守府は周辺の鎮守府よりもかなり変わっていると言われ、現にアタシ自身もそう思っている。


まず、この鎮守府は大本営が深海棲艦に奇襲・偵察を行いやすいように第三者が見てもそれがわからないように小さな無人島を改造しようとしたものだった。


なぜ過去形であるのかというと、この鎮守府は半分程作成したところで予算が尽きてしまいそのまま完成を迎えることなくアタシがここに来るまで放置され続けられたからだ。


だが、未完成だからといってこれが全く機能しないわけではない。


艦娘は約10人までしか維持できず、また建造をすることは出来ないが「資源自動生成装置」に〈オンセン〉と呼ばれている「入渠施設」や「改装・整備工房」は小規模ではあるものの利用可能。


そして、現在の戦力である〈量産型〉艦娘は「古鷹」「天龍」「深雪」「秋津洲」「あきつ丸」「長良」の6人のみであるが運営は可能であるからだ。


まあ、みんな個性的な娘達だし、賑やかで楽しくやっている。


いつかは・・楽しい気持ちであれば、本人はどうあってもいつかは嫌な事も忘れることができるのだから。それについてはアタシも例外ではない。・・・・とにかく、この世界は何であれ必要とする人が存在する限り不必要な存在などない、はず・・なのだ。


そして彼女たちも――――

「提督、何を書いているんです?」


提督「ふ、古鷹!?い、一体何時から執務室にいたの?ちゃんとノックをしてから入ってよぉ!」


提督は突然の声に驚き、日記を反射的に閉じ視線を移す。声の主は秘書艦の古鷹であった。


古鷹「? いえ何回もノックをしたのですが反応がなかったので入らせていただきました。そしたらランプも付けずに提督が何か手帳に呟きながら思いつめた顔で書いていたものですから、一言お声がけを、と」


不意に時計を見やる。空が薄い茜色に染まっていた。


提督「あー・・・えっと、なんかごめん。変に心配かけさせちゃったかな、でもみんなには関係無い話だよ」


にこりと笑顔で提督は古鷹へと視線を戻し言った。


古鷹「そうですか、それを聞いて安心しました。あ、そうそう提督この前漂流していた輸送船の積み荷にウイスキーが何本か入っていたんです、一緒に飲みましょうよ!」


手元のバインダーをこちらに見せながら弾んだ声で赤く丸で囲まれた部位を指し示す。漂流・収集物の内容物が書かれた紙には確かにウイスキーの文字がある。


提督「お、いいねぇ。まあ他のみんな今は他所の鎮守府へと演習中でいないし。久しぶりに皆には内緒で飲もうか」


古鷹「じゃ、決まりですね。ふふん、提督と2人で一緒に飲むなんて初めて会った時以来です」


早速2人は動き始めた。かさばる椅子やテーブルは提督が運び出し、グラスや酒瓶を乗せた台車を押す古鷹が後に続く。



提督「あの時は色々あったからなぁ、ホント古鷹には色々助けてもらってるよ」


満月が見下ろす中、見晴らしのいい砂浜の一角で軽く食事を済ませた2人はただ時間が過ぎることを楽しんだ。提督は古鷹が差し出したグラスにまたカチリと合わせ、何杯目かの酒を飲み干す。丁度空になった瓶を下げた。


古鷹「そうですよ、提督ったら着任して私を見た時、初めて重巡を見たみたいで泣きながら喜んでたんですよ」


古鷹が眼を座らせながら言った。


提督「あ、ああ・・そうだっけ?まあ、その、えーっとそ、そうなんだよ。初めての重巡だったからねーってね」


頬が紅い完全に酔った古鷹を正面に見つつ、提督は適当に話を合わせ少し困ったような顔を浮かべた。


提督「古鷹、この鎮守府って楽しい?」


古鷹「??そんなの楽しいに決まってるじゃないですか、確かに生活は少し辛いですが私は楽しく過ごしてますよ。いきなり何を言い出すんですか、もう」


古鷹が3本目の封を切りながら答える。


提督「そうか、それならよかったよ。アタシも・・って何本用意してるの!?」


提督は不意に台車に乗った木箱の中身に目を走らせ驚きの声を上げた。視線の先にはバインダーに書かれていた数と同じ本数のウイスキー瓶が頭を出していた。


古鷹「そりゃあ朝まで飲むからに決まってるじゃないですか!さあさあ、提督、飲んで飲んで飲みましょーよ!!」


提督はあらためて彼女達の強靭さに内心驚きつつ、肩をすくめながらグラスでべっ甲色の液体を受けた。その翌朝、天龍達は演習帰りに海を漂流するコンテナを見つけ鎮守府に持ち帰り、潰れた提督を横目に見ながら報告書を古鷹に渡す。


そのコンテナには、〈ナ号〉〈改善〉〈初期型につき〉と所々掠れた文字で書かれていた。




プロトタイプ賛歌


カーン、カーンとハンマーで金属板を叩く音が響く。


ここ、工廠と呼ばれる工作室で、私は自由な時間には、いつもここでみんなの兵装の整備や艤装の分解点検などを行っている。


それが私の仕事でもあり、趣味でもある・・・かも。


この鎮守府には、他の鎮守府では当たり前のようにいる妖精さん達がいないため、新しい量産型の子の建造が出来ない。


でも、私に備わった力を使えば建造はできなくとも開発のような比較的簡単な作業であれば、通常の倍の時間や資材があればなんとか出来るかも。暇さえあれば、ここでこうして作業をしているものだから私自身もう習慣になってしまっているし、何よりこうして自分の得意な事が何かの役に立てているかもという事がとてもうれしい。


秋津洲「ふむ、完、りょー・・・かも!」


ぐいと伸びをして工具を片付ける。茶を淹れ一息ついていると、新しく着任したばかりの名取ちゃんがおずおずと申し訳なさそうに工房に入ってくるのが見えた。


名取「あ、あの、秋津洲さん。・・休憩中に・・・す、すみません。また単装砲が壊れちゃって・・急にその・・しゅ、修理とかって頼めますか?」


秋津洲「修理?いいよ!昨日もだけどよくここに来るわね」


名取「ふえっ、あの・・すみません!迷惑ばかりかけちゃって」


秋津洲「いいのいいの、こういうのは私の役目だから」


そういうと、秋津洲は名取からライフル型14㎝単装砲を受け取り、慣れた手つきで防水装甲を開けギアを交換し、油を差し、磨き着々と修理を進めていく。数分後、そこには完璧に整備された単装砲ライフルが出来上がった。


秋津洲「はいどうぞ、終わったわよ。熱でギアが溶けてたから交換したわ。こういうのは頑丈そうで意外とヤワだから生き物を扱うように大事に使ってあげて。そうすればもっと壊れにくくなるかも」


秋津洲は測定機に取り付け数発試射した後、儀式的にグリースをクロスでふき取り名取に手渡した。


名取「ありがとう。・・そういえば秋津洲さんって何で飛行艇母艦なのにこういうのが出来るの?確かそういうのってもっとこう、専門の艦の人が担当するものじゃないのかな?」


秋津洲「え~そんなことないかも。名取ちゃんだってちゃんと練習すればもしかしたら自分に合った新しい装備だって作れるようになるかも!」


名取「そ、そうかな・・・よし、じゃあわたしにもできるようにがんばってみよう・・かな」


秋津洲「その調子かも。今度は一緒にやってみようよ。意外と名取ちゃんみたいな子でも出来るようになるかも!」


名取「う、うん?・・あ、えっと今度来た時は・・その時は、よろしくお願いします!」


ブンブンと勢いよく手を振りながら工房を去る彼女を見送り、秋津洲は再び休憩に戻る。そしてため息を一つついた。


秋津洲「・・・・嘘、吐いちゃったなぁ。どう思う?天龍ちゃん、覗きはいけないことかも」


秋津洲は鋼材の陰に隠れる丸見えの天龍へと声をかけた。


天龍「あ、バレたか?・・まぁ別にそれくらい良いんじゃねーの。俺にはチンプンカンプンで訳分かんねぇし」


秋津洲「そう言わずにちゃんと考えてほしいかも。私と同期からの付き合いなんだからそういう経験は豊富かも。そうでしょ?」


天龍「そうだけどよぉ、何でもいいから目標のひとつやふたつ持つくらい良いだろ」


そう言うと天龍は魔法瓶から適当な湯呑に茶を注ぎ、秋津洲の隣に積まれた弾薬箱の上に腰掛けた。


天龍「まあなんだ・・・なぁ思い出してみろ、俺らが作られた時を。目標なんてものはあるようで無いものだったじゃねえか。上から命令が来るとしても『〇〇へ行け』みてぇなのが1度か2度送られて来ただけだったろ?そんなんばっかの毎日だったじゃねえか。嫌でも覚えてるはずだぜ?」


秋津洲「昔のことはもう忘れたかも」


秋津洲はぶっきらぼうに返す。


天龍「そうかい、まあ忘れたにしてもここは良い。自分の長所も欠点もみんなに分かってもらえるンダカラッ・・・・・ウッ!ゲホッゴホッ、ス・・すマん、クスリが・・ちょッと・・待っ、グッ!・・・ゴホッ!確か・・」


突如顔を苦悶の表情に変えた天龍はそう言いながら震える手でポケットからタバコを数本落としつつも1本取り出し、火をつけ、そして吸った。


天龍「ヒュー・・ゴホ、ゴホッ!・・・・アー・・ンンッ!よし、いいぞ」


深々と煙を吸い込む。すると、しばらくして天龍は今までの苦しさはどこ吹く風、ケロリと爽快な表情と顔色に戻った。


秋津洲「大丈夫?今日はもう部屋で休んだほうがいいかも。酷いならもう一度本土に戻って」


天龍「ヘッ、それだけはぜってー御免だ。・・・じゃぁな、寝るぜ」


秋津洲「辛くなったらちゃんと言ってね。鎮咳剤や軽い薬物程度なら作っておくから」


天龍「わかってるって」



―――――

「昔のことはもう忘れたかも」


嘘だ。


本当は天龍が言う〈作られた時〉という言葉が嫌が応にでも強く秋津洲に昔のことを思い出させていた。


私は天龍さんの言うように、〈オリジナル〉の艦娘ではなく作られた・・・つまりは量産化したコピーの艦娘である。人間の頃の名は『島野 あかね』で今程かもかもとは言っていなかったはずかも。


〈オリジナル〉とは、妖精によって造られたワンオフの存在で、その実力は私達〈量産機〉とでは比べ物にならない程に強力らしい。深海棲艦が出現し始めた当時は、対抗する手段として〈オリジナル〉しかおらず、また提督と呼ばれるものは数えるほどしかいなかったと聞くかも。


最初の頃は駆逐艦や巡洋艦クラス程度しかいなかった為簡単に撃退出来たが、奴らを沈めるほどに戦艦、空母、果てには鬼や姫という強力な存在が登場していき休む暇すらなかったかも。そんな中深海棲艦はどんどん数を増やしていくものだから、いくら力のある〈オリジナル〉でも数の暴力の前にどんどん疲弊していき遂には轟沈する者まで出てきてしまう始末。この報告を受け、大本営はその〈オリジナル〉の負担の軽減と戦線の安定化を目標に、妖精の力を使わない〈量産型艦娘〉の作成計画を始め、同時にその艦娘になる少女達を募集したのであったかも。


そして、学校の掲示板に貼られたあの勇ましくも美しい少女の輝く笑顔のポスターに引かれた私は


『成功すれば英雄に!失敗しても低リスクなうえに金が貰えて国に貢献!』


というキャッチコピーと共に軽い気持ちで軍へと応募した。


・・・我ながらあの時は考えが甘かったかな~




希望するとすぐに軍の病院で検査が行われ、結果が出るまで人で賑わう食堂のテラスで1人ぼーっとしていた。すると2人の女の子がこちらの席に近づいてきた。


「なあ、この席良いか?」


島野「別に良いわよ」


声を掛けてきた2人組は髪型こそ違えど、スタイルや雰囲気が似ていたことから姉妹であろうということが目に見えて分かった。他のテーブルにも明るく溌剌とした子が周りに大勢いるのに1人で過ごしている私に声をかけるとはよほどの変わり者か物好きである。そう思いながら私は貴重な純正コーヒーを音を立てながら啜った。


龍越(勝)「サンキュー。っと、あぁすまん自己紹介がまだだったな、俺の名前は『龍越 勝子』、こっちは妹の『美香』だ。よろしくな」


美香と呼ばれた茶封筒を2つ持つ子は勝子の肩越しに申し訳なさそうに礼をする。


島野「どうも、私は『島野 あかね』よ。『タツコシ』って言うの?変わった名字ね、私の地域ではあまり聞かない名前かも」


そう私が言うか早いか待ってましたとばかりに胸を大きく張り勝子は言った。


龍越(勝)「あったりめぇよ!俺と美香は奈良から来たんだ。都会っ子の東京モンと一緒にするんじゃぁねえ!」


龍越(美)「だめよ~勝子お姉ちゃん、人を見下す態度を取っちゃぁ。お母様にも言われたでしょう、親しき中にも礼儀ありって」


龍越(勝)「あーハイハイ、ったく美香は優しすぎるんだよ。こーいうのは、なめられたら終わりだろ?そう思われねぇように初対面はガツーンと言ってやりゃいいんだよ。ガツーンと」


島野「別にそんなこと思ってないわ、それより、あなたたちも結果待ちなの?」


龍越(美)「いいえ~、私たちはもう結果が出てね。これからお姉ちゃんと少し遅めのお昼ご飯をね」


龍越(勝)「聞いて驚くなよ!俺達は2人とも世界水準越えの軽巡になるんだとよ!こりゃあ近い将来〈オリジナル〉の奴らを従える旗艦になること間違いなしだぜ!当たりクジを引いたも同然だな!」


島野「世界水準越えの軽巡!なにそれ、すごいじゃない!」


龍越(美)「もう、勝子お姉ちゃんったら、声が大きいわ。ごめんなさいね、休憩中に迷惑をかけちゃって。お姉ちゃんは〈特別〉とか〈専用〉とかの言葉がとぉっても好きだからつい興奮しちゃってね~・・・ってあら、島野さん?あなた呼ばれているわよ」


島野「ホントだ!」


そう言って私は急いで席を立った。これが後の天龍ちゃんとの出会いだった。ここから彼女と私の奇妙な縁が生まれたと言ってもいいかもしれない。



検査の結果は甲種合格、だが私に与えられた艦種は世界水準越えの軽巡でなければ、戦艦ですらない聞いたことのないものであった。


島野「飛行艇母艦?それって世界水準越えなんですか?」


コルクボードに張り付けられた艤装三面図と、向かいに座る海軍バッジを胸に付けた偉そうな軍医を交互に見ながら疑問を口にする。


軍医「いや、現時点では〈オリジナル〉でも最も・・・戦術的価値の低い艦種だ、最悪量産機にも性能は劣るだろう」


島野「なんでそんなものの量産型を私に?」


軍医「君がその事を心配する必要はない。だが名誉に思え、君には通常の量産型ではなく専用改造機の試作機、つまりプロトタイプになってもらう」


説明の内容はこうだった


大型艦載機『二式大艇』を運用できる水上機母艦を建造に成功したものの、いかんせん「千歳」や「千代田」のような戦術的要素が皆無に近くなっていた。そこで、この飛行艇母艦をコピーし、性能を全体的に下げる代わりに妖精の力が使用可能な工作艦や給糧艦の能力の一端を試験的にインプットしてみようというものであった。


軍医「検t、失礼、プロトタイプに選ばれたんだ。前例の無い事だが、成功すれば必ず〈オリジナル〉以上に必要とされるだろう」


言いたいことを一通り言った軍医は自分の仕事は終わったとばかりに椅子に身を預ける。もちろん私は嫌な予感がしていたことは感じていたが、軍医の口から出た言葉は確実に私の心に魔法をかけていた。


島野「えぇ・・・誰もやってないんですか、それはちょっと・・・(専用改造機!これは龍越さんよりもすごいことじゃない!これほどおいしい話は他にはないはず、断ったら損かも!)」


軍医「嫌なら断ってもいいのだが・・」


島野「やらせて頂きます!」


こうして私は『島野 あかね』の名を捨て飛行艇母艦「秋津洲」となった。



改造手術を終え、艦娘となった私は短期研修を受け、それも何とかこなしていき、いよいよ〈オリジナル〉の方と一緒の鎮守府に配属されるのか胸を躍らせていたのだが・・・事件は研修終了日の翌日に起きた。


秋津洲「どこにも配属されない!?それは本当かも!?」


天龍「本当だってさっきから何度も言ってるだろ、俺たち量産型には司令官様は付かないんだってよ。この事は龍田から聞いたから確かなことだ・・って俺じゃなくて龍田本人に聞きゃあ良いだろ」


私が「秋津洲」になった時、勝子さんは天龍型軽巡の「天龍」に、美香さんは同じく同型の「龍田」になっていた。


秋津洲「と、とにかくこれからどうすればいいかも!?明日で軍の寮は明け渡さないといけないかも!上の人は、長官は何て言っているかも!?」


天龍「あーもう、かもかもかもかもうるせぇ!仕方ないだろ、こちとら今朝になってから聞いたんだ。それに周りを見てみろよ、俺達だけじゃないみたいだぜ、こんな事になってるのは」


天龍は苛立ちを露わにして周囲に聞こえるのもお構いなしに怒った口調で言った。そう言われて周りを見てみると、確かにそうだ。同じようにオロオロしたり涙ぐんでいる駆逐艦の子や、それを慰めている子など、軽いパニック状態になっている。


そうこうしていると長官室に行っていた数人の女子がこちらに戻って来た。その中の1人が大声で集まるよう呼びかけた。何人かのリーダー格の子らが一緒に聞きに行っていたのだろう、その中には龍田さんもいた。


神通「みなさん、聞いてください。明日の朝我々はここを出ていき、それぞれ自由に出撃します。その後、各自で深海棲艦を迎撃するようにとのことです。それから補給に関しては各自通信で要請を行ってくださいとのこと。これは上からの命令です」


ただそれだけだった。


なんで、どうして、と聞きに行く子もいたが、彼女たちはただただ、それが命令だから仕方ないと言ってそれぞれ元のグループの元へと戻っていくばかり。


天龍「オイ、龍田今のは本当か!?・・・冗談だろ?」


龍田「ううん、本当のことよ天龍ちゃん。長官は私達に「今は提督の数が少ないから増えるまで好きなように深海棲艦を撃破してくれ」とだけ言われたわ」


龍田はそう言いながら口をぎゅっと堅くして俯いた。


秋津洲「そ、それじゃあ私たちに勝手に沈めと言っているようなものかも!実戦も経験してないんだよ、きっと私達は失敗作だったからお払い箱にされたかも!」


天龍「・・・落ち着け。まだそうと決まったわけじゃあるまいし、それに提督が増える『まで』だ、だからそれまで耐えれば大丈夫だろ。なあ、龍田」


龍田「えぇ・・・そうね」



その夜、私はようやく部屋の掃除を終えてヘトヘトの体に鞭を打ちながら共同のシャワー室へと向かっていた。


明日からはもう暖かいシャワーも浴びれなくなることを考えるととても切なくなったが、仕方がない。これから生きるか死ぬかの世界に向かうのだから今はしっかりと体を綺麗にしようと、シャワー室の個室の1つへと入る。サッパリして廊下に出ると、天龍と龍田の2人が私を待っていた。


天龍「なあ、俺たち2人で考えたんだがよぉ、3人で組まないか?」


秋津洲「組む?どういうことかも?」


龍田「天龍ちゃんがね~あなたが放っておけないから、いっしょに行動したいってお願いされたのよ~」


天龍「バ、バカッ俺はそんなこと一度も思ってねぇよ。ただお前、アレだ、友達がいなさそうに見えたからだからな!」アタフタ


秋津洲「ヒドイかも!私そんな風に見られてたかも!?そんな誘いはお断りかも!」


龍田「まあまあ、2人とも。天龍ちゃんも言い方が悪いわ。そもそも私たちは〈オリジナル〉程の力は無いのだからチームを組んだ方がいいのは確かよ」


龍田が間に割って入り手で制しながら提案をする。


秋津洲「まぁ・・・・確かに」


天龍「決まりだな!それじゃあ『最強☆天龍艦隊』の結成だ!!」


秋津洲「ちょ、待つかも!?その艦隊名はおかしいかも!?」


天龍「いいんだよ!こーゆーのは勢いが大事なんだぜ!」


かくして、ここに1つの小さな艦隊が出来上がった。



それから数日後・・・


龍田「みんな~島の人達からまた船の修理の仕事をもらってきたわよ~」


天龍「ったく、次から次へとキリがねぇな。廃材を運んでくるこっちの身にもなれってんだよ、ケッ」


秋津洲「ウルサイかも、というか力仕事は天龍ちゃんの仕事よ。龍田さんが仕事を取りに行って、天龍ちゃんが廃材を運び入れ、私が修理する。っていう役割を決めたのはいったい誰かも?」


天龍のぼやきに私はおどけて返す。


天龍「ハイハイ、俺です俺ですよ。けどよ、俺達は艦娘だぜ?こんなチンケな仕事なんざしなくても良いじゃねえか」


私達は提督が決まるまで島から島へと移り日銭を稼いでは食糧や資材を買う、いわばその日暮らしという生活をしていた。この艦隊では旗艦の天龍ちゃんが戦闘での殴り合いや力仕事、龍田さんが交渉役や戦闘での指揮等を、そして私こと秋津洲は料理に偵察、そして今やっているようなエンジニア、といったように役割が分担されており、互いに支えあって生存していた。


秋津洲「ほら、ぼやいてないで手と足を動かすかも。こっちは〈オリジナル〉と違って後ろ盾が無い根無し草なんだから」


天龍「へいへい、量産型ってのはツライなぁ」



秋津洲(大破)「ヒィ~!天龍ちゃん助けて~!」ボロボロ


またある時は海上で、用心棒まがいの仕事や次の島への移動途中で敵艦隊との遭遇戦を繰り広げることもあった。戦闘能力が皆無に等しい私は悲しいかな、お荷物と化していた。そういう時の2人は言い尽くせない程に、とても頼もしかった。


天龍「オラァ!雑魚共が図に乗るんじゃねぇ!」


龍田「私達の仲間をよくも傷付けてくれたわね~」


流石生粋の姉妹と言うべきか、2人の戦闘スキルは同格、格下相手にとっては数で負けていても見事なツープラトンで砲撃し、追い込み、雷撃を行い、手にした得物で生き残りに白兵戦を仕掛けてみせた。


天龍(中破)「オイ!秋津洲!てめえは早く後ろに下がれ!」


龍田「そうよ~戦闘は私達に任せてくださいね~」


天龍達は後退するように合図を送りながら、撤退し始めた深海棲艦の両側面に回り込み無造作に砲撃をはじめそれらを炎で包んだ。



数週間後、


天龍「クソッ、この島もハズレだ。人っ子1人いねぇ、あるのは苔と屑鉄ぐらいだな」


龍田「もう何日も飲まず食わずだから・・ちょっとヤバイわね・・・」


秋津洲「こんなこともあろうかとここの苔と屑鉄でホワイトシチューと特大発を作っておいたかも!これで食事・睡眠中でも航海が出来るかも!」


天龍「すげェ!さすが秋津洲ァ!!」



更に数か月後、


秋津洲「この赤い線はここに押し込むかも、ちゃんとネジかはんだで止めておいて。で、緑はこっちに」


龍田「ふんふん、それで次はどうすればいいのかしら」


秋津洲「後はメーターを見ながらちょうど良い場所でダクトテープをこう、ぐるぐる・・・と」


何度もはんだで穴を埋められた傷だらけの装甲カバーを閉じ、秋津洲が龍田の艤装の電源スイッチを入れる。すると、艤装のLED部位が赤く点滅する状態から緑へと変わった。


龍田「あら!ありがと~、秋津洲ちゃん♪」


秋津洲「へへ、照れるかも」


天龍「2人共何やってんだ?」


秋津洲「火器管制ボックスの修理かも、良かったら天龍ちゃんのも診るよ?」


天龍の黄色く点滅する艤装を指し示す。天龍は秋津洲の革製の肩掛けカバンを揺すりながら文句を垂れた。


天龍「っていってもアテにならねぇパーツばっかじゃねぇか」


秋津洲「そんなこと言ったらキリがないかも!」



こうしてあまり豊かではなかったがお互いに得意な分野でカバーをし合うことで日々を過ごしていき、私達が出発した日からちょうど半年が経とうとした頃。


私が通信機の掃除をしている時にそれは起こった。


・・・・・ピ・・・ピーピピピ ピピ ピ ピピピー

秋津洲「あれ?スイッチが入ったままにって・・ん?・・・んんん?・・・こ、 これは!」


天龍「どうした?SOS信号か?」


天龍が岩礁に腰かけ、味のない戦闘糧食をもそもそと食べながら言う。


秋津洲「違うかも!この通信は帝国海軍本部から私達量産機に向けてのものかも!」


龍田「それってまさか・・・」


そのまさかであった。


通信内容は体制が整ったため、各自研修所に戻るように、というものである。つまりこれは提督・鎮守府等の数が揃ったため、着任がようやく行えるようになったということであった。私はすぐに返信を行い、『最強☆天龍艦隊』は一目散に帰投した。



帰投した秋津洲達だが、まず目に入ってきた光景に違和感を覚えた。大ホールにはかつての研修を共にした者達はいた。だが、どうにもおかしい。その答えはすぐに理解できた。


少ない・・・あまりにも人数が少なすぎるのだ


出発前夜にはホールが小さく息が苦しく感じる程人がいた、だが現在はどうか?ここに集った人数は数えるほどであり、以前のような騒がしさは微塵も感じられない。


「諸君、よく戻ってきてくれた、礼を言おう。さて、この半年間で当初100人を超える量産機達がいたが、現在確認できるだけで15人しか残っておらず、数人は酷い損傷の為現在手術中だ」


天龍「15人‼マジかよそんだけしか残ってねーのかよ」ヒソヒソ


秋津洲「そりゃ指揮官がいない&戦闘経験が無いんだから当たり前かも」ヒソヒソ


「だが、生き残った君たちは〈オリジナル〉にも比肩する者へと成長してくれた。これから共にする提督達にぜひその力を見せてやってくれ」


龍田「あんなこと言ってるけど結局は前から体制を整えておけば良かったんじゃぁないかしら」ヒソヒソ


天龍「だな、全くだぜ」ヒソヒソ


「さて、君たちには待たせてしまったが配属先を発表しよう」


こうして私達は、今度こそ正式に配属が決定したのである。


私達3人はそれぞれ別々の鎮守府に配属が決定したものの、私と天龍さんは配属先が深海棲艦により壊滅。後に哨戒中であったこの鎮守府の提督の秘書艦である古鷹さんによって当てもなく漂っている所をそれぞれ確保された。



―――――


それから今に至るが、天龍ちゃんはというと、龍田さんとの連絡手段が見つかり、今もたまに暇を見つけては通信室からよく話しているのを見かける。そして私は、今も製造当時から身に着けている能力を使ってある時は工作艦として、またある時は給糧艦として日夜この鎮守府のために頑張っている。


最近は名取ちゃんが入ってから戦場へと赴くことが減ったけどそんなこと別段気にならない。だって、この工廠での生活が自分の趣味になってしまっているものだから毎日が楽しくてしょうがないんだもん。


それに、〈オリジナル〉の私と違ってプロトタイプの私はこの能力があったからこそ今までに何度も助け、助けられ、そしてこれからも誰かのために役立つことが出来る。最大の違いであり長所かも。


これこそが私ことプロトタイプ秋津洲であり、私の最も誇れることである・・・かも!




【ある整備妖精の報告ファイル】


タラワ鎮守府工廠より大本営へ


搬入された8体の量産型の108か所の最終チェックが終了しました。また本日昼、敵深海棲艦の偵察部隊に対してこれらを用いて迎撃すると共に実戦での能力テストを同時に行ったところ、内2体に非常に〈オリジナル〉に近いデータを出すものを確認しましたが、片方は艤装・肉体共に激しい損傷を負ったため、本土の研究機関へと直接送り返しました。


…私事ですが、この計画はあまりいいものとは思えません。


事前の説明には彼女らは〈オリジナル〉のコピーのようなものだと聞いておりましたが、実際は全く異なっていました。艤装部分や装甲は量産化のため〈オリジナル〉のものをダウングレードしたようなもので特に問題はありません。問題なのは彼女たち本体についてです。


重傷を負った彼女達を調べてわかったのですが、彼女らは〈オリジナル〉と異なり少し頑丈なだけの人間・・つまりほとんどが人間のままであるということでした。被弾をすれば尋常ではない痛みを感じ血が流れる・・・なのに血まみれの彼女らに私が「大丈夫か」と聞くと彼女たちは笑顔で「大丈夫、こんなのはかすり傷だ」と言います。


聞けば、量産型の彼女たちは出来るだけ〈オリジナル〉に近づけるように骨や筋肉を手術により強化され、痛みや恐怖心などは向精神薬などを投与し続ける事で初めて戦い続ける事が出来るとのこと。確かに彼女らはこれからの量産機のためにデータを取るとの目的がある以上私にはどうすることも出来ません。ですが、このまま続けていくと、やがて身体が欠損した状態で戦場に送ることになり、鎮守府全体の士気が下がりかねません。


お願いです、是非とも後続の彼女達には〈オリジナル〉に近い身体を持たせてあげて下さい。




台風の中の鎮守府


ピシピシと断続的に激しく雨粒が紙テープで補強をしたガラス戸を叩く音が聞こえる。


提督「うむむむ・・・・」


窓からはるか遠くの水平線を見通そうとして窓枠に体をギリギリまで寄せ、提督は結露を手で拭いながら島を削らんとする程に荒れ狂う海を見た。


季節は夏から秋に変わる頃、この鎮守府の島に大型の台風がやって来た。決して大型建造で大鳳がやって来たのではなく、大型の台風が来たのである。そもそもアタシの所は建造すらできないし。


例年通りなら窓や戸を軽く補強するだけでとくに業務に支障はきたさないはずだったのだが、今年は特に激しいようだ。島の洞窟にこの鎮守府を造ったのが災いして荒れた海の波が常時ドックの内部を引っ掻き回し、出撃も帰投も不可能になってしまったのである。しかもこの鎮守府は未完成ゆえにそれを防ぐ防水シャッターすらない始末だ。更に現在それに追い打ちをかけるように遠征に出した『古鷹』『名取』『長良』『深雪』達との通信が途絶えてしまい行方が分からなくなってしまっていた。


提督「で・・・これからどうしよう天龍?」ギッ


錆びた提督用椅子に座り直し、コタツに入っている天龍へと呼びかける。


天龍「いや、どうしようって。それを考えて俺たちを指揮するのがそっちの仕事だろうが」


天龍はごろりと仰向けに寝転がった。


提督「だって古鷹が行方不明になったんだよ!これじゃぁ鎮守府の機能の60%は失われたも同然だよ!」アタフタ


天龍「落ち着け。っておい、全体の40%しか機能してねぇのかよ!半分もやってねーのか?」


提督「うっ・・・ま、まぁまぁ、その話は置いといてさぁ」


天龍「置いといていいのか?それ」


天龍はこの話を疑問に思ったが、納得いく答えは得られないだろうと思い開いた口を閉じた。提督が頼りないのは今に始まったわけではない。いつも不測の事態になると落ち着きがなくなるのはいつもの事だ。しかし通常であれば横にいる古鷹が何かしら助言や行動を示すのだが今は肝心の彼女がこの場にいなかった。天龍はコタツの上の灰皿を顔の横へもって行き、寝ながらタバコに火をつけた。


提督「畳、また焦がさないでよね」


提督が錠剤を噛みしだきながら釘を刺す。


天龍「へいへい」


天龍は頭をかきながら返事をする。しばし沈黙が流れる。と、突然提督が立ち上がった。


提督「そうだ」


天龍「んあ、何だ?」


提督「時に天龍よ、秋津洲は彼女らとの通信を試み、あきつ丸は艦載機による捜索を現在も行っているな?」


天龍「ん、そうだけど、何だよ急に。キャラ変わってんぞ」


提督「君、今暇だよね?」


天龍「・・仕方ねぇだろ、偵察機積めねーし出撃も出来ねーし」


タバコを灰皿に押し付け、もみ消しながら天龍は答える。


提督「そこでだ、暇で仕方ない天龍君に君専用の特殊作戦を遂行してもらおう」


天龍「おー・・・おぉ!専用!やるよやる、作戦内容は!?」


天龍は起き上がる。


提督「時計を見てくれ、何時を示している?」


天龍「一五〇〇丁度だな!」


提督「そして君は誰よりも早く情報を私に伝えられて、行動も出来るな?」


天龍「あったりめぇよ!何だ?今後の仲間の救出作業か、それともそれを追ってきた深海棲艦共の迎撃戦か?」


提督「君には昼寝のアタシを起こす任務に就いてもらう」


天龍「」


提督は任務を言い渡しながら椅子へと防寒用ジャージをかけた。


提督「これからアタシは昼寝の時間なので寝る!彼女たちが帰ってきたらアタシに知らせ、そして起こすように。いいね?」


天龍「よくねぇよ!今日の執務はどうするんだよ!」


提督「明日やる!それじゃあ健闘を祈る!」


そう言うと提督は目にもとまらぬ速さで提督帽を執務机に投げ、滑り込むようにベッドへ寝てしまう。


天龍「オイ!ちょっと待てよ、もっとまともな仕事を・・・」


提督「Zzz・・」


天龍「マジかよ、もう寝やがった。つーかこいつ本当に仕事してんのかぁ・・・?」


天龍はこんな提督といつも触れ合っている古鷹の身を案じた。しっかり者の彼女の事だ、提督の言う様に本当に執務の大部分は彼女が行っているのだろう。天龍はこの与えられた任務を馬鹿らしく思い放棄しようとしたが、思い止まる。


天龍「まぁ、たまには出撃せずにこういうのも良い・・か」


再び仰向けに寝転ぶ。


天龍「実際ここでギャーギャー言っても何も変わらないし・・かといって何もしないわけにはいかないしよぉ・・」


執務室の周りを見渡す―――整頓されたファイルや本が入った棚、『二周年』とプリントされた掛け軸、季節外れのコタツ、きれいな青畳、ベッドと寝ている提督―――あまり面白い物は無い。ましてやこの鎮守府にテレビなどという高価な物などあるわけが無かった。


天龍「掃除は必要ねえし・・・他の奴らは絶賛仕事中か。いや、今は俺も・・だな」


天龍「暇な事に変わりは無いな」


天龍「棚からテキトーに選んで読んでみるか」



天龍「『重巡のすゝめ』『究極の瑞雲VS至高の瑞雲』『陸軍でもわかる艦娘の艤装』・・・あいつ何でこんなモン読んでんだよ」


しばらくの間、天龍は適当な本を取っては読み、本棚にあるだけを手当たり次第に読み漁っていった。


天龍「雨、止むどころかどんどん酷くなっていくな・・・どれ、次は・・でっけえファイルだなぁ・・ってんん?これは・・・」


読み終えた『帰って来た陸軍でもわかる艦娘の艤装』を傍らの本の塔に新たに積み上げ、次の本へと手を伸ばす。擦り切れた茶色く変色したシミだらけの手書きの表紙に目が留まる。


『量産型艦娘の全艦種カタログ~第零世代から第八世代まで~』


コンコン ガチャ

あきつ丸「失礼します将校殿、あきつ丸航空参謀が報告をするであります」


天龍「お、あきつ丸か。どうした?提督なら昼寝中だが」


あきつ丸「おお、これは天龍教官殿。そうでありますか、では、教官殿に報告をするであります。先程我が鎮守府の遠征艦隊を艦載機が発見、古鷹参謀殿と通信筒の交換を行ったであります」


天龍「おお!あいつ等はなんて?」


あきつ丸「では、読み上げるであります。『我が艦隊は小島にて停泊し、嵐が収まるまで待たれり、明日早朝再び行動を開始す』であります」


天龍「了解、提督に伝えておくぜ」


あきつ丸は敬礼を解き、コタツの急須から自分の茶を淹れた。


あきつ丸「あ、あと教官殿、本日の夕食は秋津洲技術長が漏水等で手が離せないため乾パンと缶詰のみとのこと。それでは、自分はこれで」


ドアが閉じる。再びまた雨粒がガラス窓を叩く音が静かな執務室を満たした。


天龍「・・・マジかよ」


「マジだな」


不意に割り込んだ寝起き声に、天龍は顔を上げた。提督は横になりながらうっすらと目を開き天井を見つめていた。


天龍「!!て、提督!起きてたのかよ」


天龍は咄嗟にコタツ上のファイルを適当な本の山に置き、無意識に提督の死角になるように隠す。提督は起き上がり大きく伸びをして、


提督「ふわぁ~っ、今起きたところだよ、連絡がついたらしいね。・・それより読んだ本を戻さずに床に積むのはやめてくれないかなぁ、なんか本棚が空っぽになっちゃってるんだけど」


と本棚を指さした。


天龍「スマン、すぐ戻す。あ、でも何冊かは読みかけだから持ってくぜ。あ、あと、食事はしっかり摂っとけよ!」


天龍は慌ただしく片付け去る。提督は起き上がり目を擦りながら上下左右に乱雑に入れられた本棚の本を整理し直した。


提督「?・・・何だったの、今の。しかもあの子艦載機の本ばっかり持って行っちゃって・・・積んでみたいのかな?」



遠征艦隊帰還後の夜、自室のベッドで壁にもたれ掛かりながら、秋津洲の手伝いを終えた天龍は置きっぱなしにしていた未読だったあのファイルを開き見ていた。


天龍「つい古そうだったから隠して持ってきちまったが・・・もし高価なもんだったら後で謝りゃぁ大丈夫だろ。それにしても、俺らが一番初めに作られたらしいから世代的には第零世代ってヤツだろうし、後にどう受け継がれていくのかは見る価値はあるだろうな」ワクワク


天龍「えーと、目次目次・・・・」


天龍「ッ!・・・ゴホッゴホッ・・ゲホッ!」


ガサガサ カチッ スーー ハーー


天龍「ンー、よし・・・お!」パラッ


【第一世代】

・睦月型 ・川内型

・天龍型 ・扶桑型

・その他、試験機等


目次を目印にページを読み進めると、そこには製造所や主な基礎データと共にいくつかの白黒写真があり、天龍の欄の隣には「秋津洲」のカラー写真も同じページにデータと共にあった。第二、第三世代とページを飛ばしてみる。中には「長良」「あきつ丸」といったページも見当たった。だが落丁か紛失したのか、なぜか表紙にある第零世代のデータだけが見当たらない。何度か見返してみたがやはり見当たらなかった。


面倒臭くなった天龍はファイルを無造作に放り投げ布団をかぶる。すぐに寝息が静かな室内に聞こえ始めた。









「・・・」


キィー トコトコ ガサッ スッ キィーッ・・・ガチャン




遠く近き戦友


太陽が水平線の向こうに沈もうとするころ、無人島と思しき無個性な島の蔦に覆われた岸壁へと向かって小型の船が進む。船は蔦を掻き分け、隠されていたドック付の工廠へと船体を横へつけ錨を下ろした。装甲板越しのコックピットに一人、人影あり。


汗でぐっしょり汚れた国防色の南方用シャツに紺のスカート、白い軍帽を装着した・・・提督である。


提督「はぁ、やっぱり本土の定例会議は肩身が狭いなぁ。そりゃこんなポンコツ鎮守府だからってのは分かるんだけどさ」


独り言を呟きながら防弾スコープゴーグルを額まで上げる、頬を伝い滴り落ちた汗が胸元のシャツに黒い球模様を描いた。その日は各地の提督を集め深海棲艦の動きについて本土の大本営で報告会が行われていた。もちろん、ここのような戦力の揃っていない者、設備がオンボロ・ポンコツである者であっても『提督』という役職についている限り例外ではない。


「おつかれさまっ、司令官!」


高機動カスタム大発の前面装甲を倒すべくレバー操作をしていると、パネルで仕切られた作業室の一つからひょっこりと顔を出した色あせたセーラー服姿の少女に声を掛けられた。


提督「わっ、なんだ深雪か。アンタはいつも元気だねぇ」


深雪と呼ばれた少女は首に巻いたスポーツタオルで機械油と汗を拭いながら駆け寄る。蔦のカーテンの合間から漏れ出た夕焼けが微かに陽に焼けた健康的な肌を染め上げた。


深雪「ヘヘッ、そーいう司令官は元気が無いじゃないかー、もっと楽しそうな顔しちゃっても良いんじゃないの?」


提督「今のアタシにゃぁ苦笑いみたいな顔になっちまうが良いのかい?」


荷を下ろしつつ提督は空いた手で口角を掴み引き上げる。そこにはお世辞にも笑顔とは言い難い表情が出来上がった。


深雪「うーん・・・ごめん今のやっぱ無しで。もしかしてまーたお偉いさん方にイヤミでも言われたのかよー」


深雪は提督から土産の折り詰めを受け取りつつ肘で小突く。


提督「もしかしなくてもそれだよ。あいつ等、こっちの事なんか知ろうともしないからねー」


深雪「そりゃぁ災難だったなぁ。それより、今日の近海パトロールの報告!駆逐艦が3体を発見後、迎撃!もちろん、MVPはこの深雪様が頂いたんだぜ!スゴイだろ~!」


提督「はは、エライエライ」


提督ははち切れんばかりの笑顔で報告をする深雪の頭を撫でた。



深雪「えへへ、なぁなぁ司令官、これくらい頑張っていればアイツにも負けないかな!」


提督「そうだな、またいつか会えた時は強くなった深雪を見て驚くかもしれないな」


深雪「本当!」


提督「あ、でも、う~んあっちはあっちで頑張っているからこれくらいじゃダメかも」


深雪「ってどっちだよ~」


提督はバックパックと紙束の満載されたトートバッグを、深雪は折り詰めと風呂セットを各々持ちながら執務室方面へと向かう。一挙手一投足無邪気に喜ぶ深雪の姿に提督は自然と顔をほころばせた。


提督「まぁどちらにせよあの子のことだから努力は認めてくれるはずさ」


深雪「・・・だよな!じゃあもっと頑張らないと!」


執務室で荷物を下ろし、深雪は入渠へと向かう。提督は古鷹に引き継ぎ事項を確認し、兵装開発の様子を見ようと部屋を出た時であった。


名取「・・・提督」


後ろから声を掛けられ振り向く。ペコリと敬礼と共にお辞儀をした名取の姿が目に入る。


提督「名取か、今日のパトロールごくろうさん。報告は深雪から聞いたから大丈夫だよ」


名取「あ、いえその事では・・なくて」


提督「?どうしたの、なにか他にあったっけ?」


すると、名取がおずおずと申し訳なさそうに


名取「えーと・・・深雪ちゃんの・・その・・いつも言っている・・『あの子』って誰の事なんですか?」


と言った。


一瞬の沈黙、名取はすぐさま自分が何かいけない事を言ってしまったのではないかというような顔を作った。一方、提督は首を傾げた。


提督「?・・・あぁ!そういえば名取はまだここに来たばかりだからまだ知らなかったんだっけ」


名取「はい・・・まだ何か教えていただいていない事があるんですか?」


提督「いや、どうしても教えなきゃいけないってわけじゃあないんだけどさぁ・・・ねぇ・・」


提督は苦笑いを浮かべながら顎を手で擦り答えた。そうすればいつもの彼女であればこれ以上深く聞いてこないと読んでいたのだが・・


名取「あ、あの・・それでもやっぱり・・教えてもらいたい・・です・・」


読みは外れた。


提督「・・・ごめん、もう一度言って」


名取「教えてください!」


提督「即答かぁ・・」


即答である。もう一度聞いても帰ってくるのは同じ答えだった。


提督「なぁ名取、この鎮守府の仲間たちは好きかい?」


天井のランプが廊下を照らす中、提督は壁面の岩肌に寄り掛かる。心なしかその声は重めの雰囲気を醸し出していた。


名取「はい、み、みんな優しくって、とっても頼もしいです!大好きです!」


提督「そうか、それはよかったよ」


ジャラと音を立てて提督はポケットから錠剤を出し口に含む。そして、にわかに声のトーンを落とした。


提督「でも・・まあなんだ、その仲間やアタシ達海軍側の黒い部分が見えてしまうとしても・・・大丈夫かい?」


名取「・・・・・はい」


名取は一瞬の迷いの後、意を決したように口を動かした。


提督「オッケー、だったら分かったよ」


それを聞いて、提督は一瞬にしていつものふわふわした口調へと戻る。


提督「・・でも、今そんな疲れた顔をした戦闘帰りのお嬢さんに話をするような趣味はないなぁ」


名取「趣味?」


提督「入渠してサッパリして、それから話をしても遅くは無いでしょうってことさ。ホラ、早く行ってきなよ」




月が見下ろす中、ジャージ姿の少女が夜の浜辺を走る。


少女は島を何周か走り終わると休まずに木に括りつけられた大きな砂袋に向かい全速力でタックルを繰り出した。これを10セット行い、〈オンセン〉で汗を流す。


それが駆逐艦深雪の寝前日課である。一見、艦娘には無駄な事をしていると思われるが彼女にとってそれは全くの無駄ではない。彼女なりの拘りがそこにあった。


しばらくして自室に戻り、寝間着姿で窓枠に腰掛ける。彼女は懐からセロハンテープで補強され半分焼け焦げた写真を出し月明かりに当て、呟いた。


深雪「そっちは元気にやってるかい、吹雪」


写真にはどこかの工場を背景に、仲良く肩を組む深雪と彼女と同じ服を着た少女が写っていた。



名取は執務室にいるであろう提督のもとへ向かいながら先程の言葉について考えていた。


仲間や海軍の黒い部分・・・・・とは何か。なんだろう。


確かに艦娘について分かっていないことは多いと聞く。おそらくそれを知れば私は仲間や海軍に対して幻滅あるいは猜疑心を持ってしまう・・・かもしれない。だから提督さんは教えることに対してあまり良い顔をしなかったのかな。


「や、そこにおられるのは名取少尉殿でありますか?」


執務室前でドアをノックしようとすると、聞き覚えのある独特の言い方の声が左側からかけられた。


名取「ふぇ?ってあきつ丸ちゃん、どうしたの?もしかして提督さんに何か用?」


あきつ丸「は、自分、あきつ丸航空参謀であります。秋津洲技術長殿より言伝を受けましたので将校殿へその報告に」


あきつ丸は手元の青く光るランプを床に置き、敬礼をしながら名取に言った。


名取「いいよ敬礼なんかしなくて、それにいつも思うけど私達には階級は無いよね?」


名取は実際この接し方の分からない彼女が苦手であった。事実、艦娘には階級は無い。だが、あきつ丸はこの鎮守府にいる人すべてに陸軍のように階級をつけて呼ぶ、という癖?・・のようなものがあるのだ。本人曰く「陸軍ではそうしていた」の一点張り。故に、『提督』を『将校』、『天龍』を『教官』・『曹長』、『秋津洲』を『技術長』などと付けて呼んでいた。


ちなみに、本人は『航空参謀』という階級らしい。どこらへんなんだろう?


あきつ丸「いえ、少尉殿は少尉殿、です。それ以外には無いであります」


名取「・・・はぁ、もういいよそれで」



名取「失礼します、名取です。お話の続きを聞きに来ました」

あきつ丸「失礼します将校殿、秋津洲技術長よりお言伝を受け賜って来たであります」


名取はおどおどとお辞儀をし、あきつ丸は直立姿勢を崩さずに踵を鳴らして敬礼をする。


提督「名取にあきつ丸。うん、先にあきつ丸からお願いね」


執務椅子に座った提督が大型ライフルを油布で磨きながら言う。あきつ丸は右手を下ろした。


あきつ丸「は、報告するであります。「古鷹参謀殿の新型艤装「改」の組立と現在の艤装のスペアのカスタムが終了」とのこと」


提督「うん、わかった。「改」の方は後日執務室に持ってくるように伝えておいて」


あきつ丸「了解したであります。して、少尉殿のお話の続きとは何でありますか?こんな夜に・・・」


あきつ丸は両側の二人に視線を映しながら考える素振りをし、何か合点がいったのか真っ白な顔をみるみる赤く紅潮させた。


あきつ丸「ハッ!?ま、まさか夜に執務室で女性同士で!?・・・いけないであります!少尉殿!合意の上とはいえそんなことは!これだから海軍の風紀は乱れるのでは!?・・・・あ、でもせっかくだから録音と写真を撮る許可が欲しいであります!」


名取「し、しないよそんなこと!?深雪ちゃんの事についての話だよ!」


名取も意味を理解したのか慌てて誤解を解こうとするが


あきつ丸「深雪軍曹殿について!?少尉殿は駆逐艦好きの『ろりこん』だったでありますか!?」


妄想が膨らんだあきつ丸は更に暴走した。


提督「落ち着け、ただ昔の話をするだけだよ。そんなんじゃぁないって」


あきつ丸「ちぇっ、なーんだ。であります。つまらない話でありますなぁ」


当てが外れたあきつ丸はさもつまらなそうに床を蹴る。


提督「そそ、つまらない話さ。興味無いでしょ?」


あきつ丸「・・興味は無いでありますが夜も深まっている故コレ、するのでありましょう?ふふん、是非お供させていただくであります」


あきつ丸は親指と人差し指を輪っかにし口元で傾けるしぐさをして見せた。



しばらくして、3人はコタツを囲み、日本酒やチーズなどといったつまみの類をいくつも置いていった。時刻は12時過ぎ。賑やかしとばかりにあきつ丸が持ってきた音が飛び飛びの数枚のジャズレコードが独特の雰囲気を作り出した。早速あきつ丸は提督の秘蔵の銘酒「脱兎祭」を勝手に開け始める。


提督「突然だけど今の艦娘には〈オリジナル〉と〈量産型〉の大きく分けて2種類があるってことは知っているよね?」


名取「はい、〈量産型〉は第零世代~第八世代までがあるんですよね。それで、〈オリジナル〉は各艦それぞれ1人しかいない、ですよね?」


名取は提督が酒を注ぐのを受けながら答える。すぐさまあきつ丸が横から訂正の声が上がった。


あきつ丸「それは少し違うであります、正確には〈量産型〉は第一世代~でありますよ少尉殿」


名取「え?あれ?そ・・・そうだっけ?」


提督「・・・うん、そうそう」


あきつ丸「そうであります。この『艦娘ノ心得』にもそう書いてあるであります。少尉殿も徴兵される時に頂いておりませんでしたか?」


そう言うと彼女は懐より手帳ほどの大きさの本を取り出して名取に見せた。そこには自分がどの世代なのかを表す文章を筆頭に、艦娘に対する様々な心構えが書かれていただけでなく民間人から果ては深海棲艦に対する注意事項から上官に対するテーブルマナーまでが事細かに書き連ねられていた。


名取「え~と、『一、諸君ラハ第一世代ヨリ始マリシ量産型艦娘ノ第五世代目デアル』・・・ほんとだ、確かにそう書いてあるね。私の勘違い・・だったのかなぁ」


あきつ丸「っぷはぁ!ちなみに栄えある第一世代はなんとあの天龍教官殿と秋津洲技術長殿であります!」


提督の仰天する視線を物ともせずにあきつ丸は気持ちい程に勢いよく喉を鳴らしながら瓶ごと直にラッパ飲みをして言った。


提督「・・まあそうだね、あの2人が第一世代のベテランってところかな。まあ、そういう風に自分の世代を知らせてくれるようになったのは第三世代目からだからあの2人はあんまり知らないと思うよ」


提督はウイスキーグラスを傾け、夕食の残りの冷えた真っ赤な唐揚げをつつく。


提督「だけどね、実は深雪も時期的には第一世代になる予定だったんだ」


名取「深雪ちゃんが!?」


提督「時期的には、ね」


あきつ丸「では将校殿、深雪軍曹殿は第何世代なので?」


提督「いや、どれでもないよ」


名取・あきつ丸「「へ?」」


提督「深雪はどの世代でもないんだ、つまりデータにないのさ。強いて言うなら・・・第0.5世代、かな」


名取「???どういうことですか?」


提督「深雪は第一世代の駆逐艦の量産試験機の1人だったんだ。当時はまだ技術がそこまで発達していなかったんだよ。だから一刻も早く完成させるようにいくつかの勢力に分けて研究者同士で互いに開発を競争させていてね」


あきつ丸「そのうちの1つの勢力が軍曹殿を製造していた、と」


名取「それじゃあ深雪ちゃんの言う『あの子』は他の勢力に作られていたライバルってこと?」


提督「ちょっと違うかな、深雪の所だけはね、彼女ともう1人作られていたんだ」


そう言うと提督はウイスキーを飲み干し、こたつから出、ややふらつく足取りで本棚へと向かい何事かを探す素振りをした。だが目当ての物が見当たらなかったのか、執務机へと向かい引き出しから2つのクリアファイルを持ち出す。


空の酒とつまみを片付け、数枚写真を並べる。そこには『吹雪』と書かれた深雪と似た背格好のこちらへ敬礼をする少女の姿が写されていた。


提督「その吹雪って子がこれ。深雪の言っていた『あの子』さ」


あきつ丸「将校殿。軍曹殿の所「だけ」は、とおっしゃっていたという事は、他は1人ずつ作成していたということになるであります。なぜそこは2人も作成したのでありますか?」


あきつ丸は缶ビールを開けグイと飲みほし言った。確かにそうだ、2人も作るのであれば1人にその分のコストをつぎ込むのが普通だ、それをわざわざ2人作ったのであれば何か理由があるはずである。


提督「確かに、その理由としては昔、〈オリジナル〉の子が艦だった時代の戦績が関係しているといってもいいかな」


あきつ丸「戦績」


提督「そう、吹雪は決して悪くない戦績を残した。そして深雪は・・・戦闘データが全くない為、能力が未知数であると考えられたみたい」


提督が枝豆を中央の皿にあける。


あきつ丸「だから迷った末に2人共製造したというわけでありますか」


それをあきつ丸がごっそりと自分の皿へと持っていく。


提督「そしてそれぞれが完成した後すぐに、海軍のエラ~イ人を集めて能力とかを見る選考テストってのをやったって訳」


提督は肩をすくめ、鋼鉄製のアルコールボトルを取り出し、傾けつつ2人の前へ新しいグラスを置き水を注いだ。


提督「で、当時は今みたいに駆逐艦は人気がなくてね、作られたのは深雪と吹雪、それから睦月型の子が3人しかいなかったんだ」


名取「それで、深雪ちゃん達はどうだったんですか?」


提督「そこさ、そこ。それなんだけど、運の悪いことに艤装のブレーキが故障しちゃって。おまけにスピードが上がりっぱなしになったところを不運にも丁度来ていた元帥殿の秘書官である〈オリジナル〉の『電』と衝突事故を起こしてしまったんだ」



―――――

眠れない。


深雪はベッドから身を起こす。時計を見ると時刻はもうすぐ3時を指している。起床時間は5時だ、まだ2時間早い。あれからすぐにベッドに入ってはいたが、いまだに寝付けずにウダウダしてしまい、結局もうこんな時間になってしまっていた。


深雪「うーん、3時かぁ・・・・仕方ない・・・ちょっと早いけど朝練で射撃訓練でもしよう・・・」


呟きながらパジャマをセーラー服に着替え壁に掛かった訓練用のスペア艤装を装着し、目をこすりながらいつものように備品倉庫を経由し訓練場へと向かった。


的を肩に担ぐ深雪の重い足音がランプが消えた洞窟内の廊下を小さく反響する。岩石質の床が次第に地面へと変わり、やがて葛やススキがあたり一面生い茂る小高い丘の出入り口の一つへ出た。踏み拓かれた天然ススキのトンネルの中を慣れた足取りでペースを緩めることなく海岸を目指す。背の高いススキの穂が揺れ、冷え始めた風が露出した肌に触れた。


しばらく丘を一直線に降りてゆくと開けた訓練場が見渡せる林の一角へと出る。一応こんな鎮守府でも旧式ではあるが訓練場は存在するのだ。


だが、その時訓練場の何もない水面を滑る1人の影が動くのを生い茂る垣根の草葉の陰より深雪は垣間見た。


深雪「(こんな早くに用意もせずにここに来るなんて・・誰かいたっけ?)」


片手を望遠鏡の様に丸めて遠目に見る。


深雪「(名取お姉ちゃん・・は元々朝練なんてしていないし、天龍お姉ちゃん・・は影の形からして違うしなぁ・・・遠くてまだ暗いからここからではちょっと・・・)」


夜道を照らす月はとうに水平線へと沈んでおり、周囲は墨汁を塗りたくったかのように暗い。深雪は足音を出来るだけ消し、草むらに隠れながら低姿勢で近づく。すると、その影の姿が弱い星明りの下うっすらと照らし出すのが見えた。


その影は青白い肌の上下を黒い雨合羽に包み、更に下半身には大口径の砲を持つ尻尾を生やしていた。奇怪な姿だ。それだけでもその影がこの鎮守府の誰でもない事は深雪にも簡単に分かった。ならば導き出される答えは1つ。


深雪「(深海棲艦だ!!)」


深雪は息を潜め、担いだ的を静かに足元に置き、近くの木に身を隠す。そして口に手を当てながら深海棲艦の様子をばれない様に注意深く観察した。


深雪「(何で!?何で深海棲艦がこんなところに?それにあのタイプは今まで見たことが・・無い)」


深雪は頭の中でこれまでに仲間と共に戦った深海棲艦から目の前の者と同じタイプを思い出そうとした。


深雪「(チ級・ツ級、にしては武装がゴツイな・・・かといって写真で見た装甲なんちゃらって奴ほどデカくは・・・無いな、古鷹お姉ちゃんより少し大きい位だ。とすると・・・・まさか戦艦クラス!?)」


この時、彼女の考えは半ば合っていたと言えよう、熟練のエリート艦娘もしくは古参の将官クラス提督であればあれだけの情報でもピンと来た方がいる筈だ。その機体のタイプは航空戦艦、とある海域の奥地で目撃情報が囁かれるそれは、帝国識別名称で「レ級」と呼ばれるあの機体であった。


だが、それを知らぬ彼女にはそれが戦艦タイプの新型に見えていた。


時刻は3時30分。夜空へ目を移す、まだ日は出ていない。十分に夜戦に持ち込める。夜戦でなら戦艦は仕留めたことはある・・・仲間の支援があったからだけど。


打って出てもいい。だが今はたった1人だ。ひとまずここは鎮守府に戻り状況を伝えるのがベストだろう。と深雪は思案した。


深雪「(けど・・・)」


このままあの深海棲艦を放置した場合どうなるだろう。という考えがふと脳裏をかすめる。敵は単艦だが、非道この上ない深海棲艦だ。この島に来たからには何かしらクリアリングの動作を行うはず。もし鎮守府が見つかれば当然無傷では済まないだろう。ドックがやられれば手も足も出せなくなる。


ならどうする、敵は動きの鈍い戦艦だ、戦闘になればおそらくホームの地の利と機動力の強みを生かせば良くてギリギリ戦術的勝利。もしくは最悪相打ちだろう。でもそれは1対1での話だ。そう、ここではそれがいつまでも続く訳じゃぁない。増援を呼んでから戦闘に持ち込むんだ。


深雪「(・・よし、大丈夫。増援が来るまでなら耐えられる。深雪さまなら、大丈夫だ)」


迷いの晴れた深雪は通信機の電源を入れ、最も波長の強い秋津洲へとチューナーを合わせ連絡を試みた。


その時!


レ級「・・・ソコカ!」


突然深海棲艦が深雪の潜伏場所を指差し、上空よりエンジン音が轟き深雪の潜む林の周辺へと爆弾を落とす!


キィ―――――ン ガゴ――ン‼


深雪「なっ、艦載機!?ウソだろっ!?」


巻き上がる土砂と破片の雨の中、深雪は無意識下で艤装を稼働させ訓練場の水上へと辛うじて息を切らし転がりながら飛び出した。通信機は破片の直撃を受けバチバチと火花を散らし小爆発を起こした。


深雪「しまった!通信機が!」


砂まみれの脚部艤装が激しく海水を掻き浮力を生み出す。深雪は右足を軸に半回転。砲を構え、全ての安全装置を外した。温まっていない機関部が深雪の内心を代弁するかのように分解しそうな音で振動する。躊躇なく狙いを定め主砲のトリガーを引いた。


深雪「なっ!」


短距離で放たれた主砲の二条の火線は直撃するかに見えた。だが、敵は見た目にそぐわない軽いサイドステップでそれを躱した。速い!


レ級「・・・・」


着弾の水柱を背に、その深海棲艦は闇夜の如く不気味なほどに不思議な静謐さを醸し出していた。お返しとばかりに緩慢な動作でその尾部が持ち上がり始める。深雪はスロットルを全開で敵の周囲を回る様に大きく旋回し、砲撃に備え防御姿勢を即座に取った。だが深海棲艦は砲撃を加えるどころかだらりと腕を下げ、あろうことか棒立ちになって深雪をジッと見つめている。


深雪「(アイツ・・何で攻撃せずに突っ立っているんだ?)」


油断なく速度に緩急をつけつつ、兵装の残弾を勘定し敵の動向を探る。あの身軽さだ、弾をばら撒くタイミングを見極めないと。


深雪「(でも、動いていない今ならチャンス・・か?なら)」


トリガーにかける指に力がこもった。


深雪「先手必勝!」


深雪はそう呟きながら横滑りに走りながら主砲で弾幕を張り始め、未だ微動だにしない敵機体を撃つ。だが次の瞬間、夜空を支配していた黒塗りの水上機が機銃で深雪の魚雷管を撃った。片側が誘爆し深雪は体勢を崩し倒れた。視界が揺らぐ中慌てて顔を上げるといつの間にか敵は目の前数mまでに近づいていた。


レ級「データ照合、完了・・・服、艤装、容姿ヨリ・・モクテキノ『フブキ』ニ比較的近イト推測、コレヨリ捕獲スル」


深雪(小破)「・・・・へ?」

―――――




あきつ丸「衝突事故、でありますか。しかし、テスト中にマシントラブルとはこれまた不運な・・・」


提督の言葉にあきつ丸が怪訝そうな声で頷きつつ、新たに飲み干した缶をコタツに積み上げる。


名取「その、2人にケガはなかったんでしょうか?」


提督「大したケガは無かったみたい。かな」


名取「よかった・・・」


あきつ丸「しかし将校殿、完成してすぐに訓練も無かったテスト中とはいえ、しかも元帥の関係者との事故となると・・やはりテストを通過することは」


提督「うん、だめだった。結果としては『吹雪』、『深雪』を除く全ての試験機は量産を開始。ってね」


提督はチェイサーを飲みながら陽気な声で答えた。


提督「で、計画が白紙になり行き場所の亡くなった深雪をアタシが見つけてここに着任させたって訳さ」


執務室に持ち寄られた蓄音器がプツプツと音を出し最後の曲の演奏を終える。


提督「さて、少し休憩を挟もう。また飲み物とか新しく追加しなきゃならないな、全く、飲み足りないよ」


名取「提督さん、深雪ちゃんと一緒だった『吹雪』って子はどうなっちゃったの?」


提督「まあまあ、休憩が終わったら話すつもりさ」


提督はこたつの上より空き瓶やゴミを回収し、ゴミ袋に詰める。時刻はもう2時を過ぎていた。


提督「少しゴミを捨ててくるから、ちょっと待ってて!」


上機嫌にそう言いながら提督は脱兎のごとく執務室を飛び出す、執務室には2人が残された。


あきつ丸「しっかしまさか軍曹殿までがそんな古株だったとは驚きでありますなぁ。てっきり天龍教官殿の少し後に着任したものかと」


名取「ほんと、びっくりだよね」


名取はコタツから出、備え付きのポットから急須にお茶を入れた。あきつ丸も手伝おうと腰を上げようとするが名取は座ってて、と手で制す。


名取「それに、こういう話を聞くとやっぱり違うんだなぁって思うかな」


あきつ丸「?何がでありますか?」


名取「私達は・・その・・姿形が同じ者として作られる・・・でしょ?」


あきつ丸「我々は〈量産型〉でありますからな。むん、やはりヨウカンは栗に限るであります」


あきつ丸は栗ヨウカンをつまみながら言い返す。相変わらず自由である。


名取「でも、経験や中身とかまでは全部同じじゃない」


コタツに人数分の急須と湯呑、合成梅干、土産の饅頭の乗った盆を置く。


名取「ほら、あきつ丸ちゃんだってここじゃみんなに階級を付けて名前を呼んでいるけど、遠征中や演習であった『あきつ丸』はそう呼んではいなかったでしょ?」


あきつ丸「ムム、言われてみれば・・・あ、これもおいしいであります」


あきつ丸は話を片手間に机上のつまみをせっせと駆逐し続けた。


あきつ丸「・・・ところで、全国の提督紳士淑女の皆様もいるんでありますか?あ、そこの提督殿!そう、そこの貴方!そちらはどうでありますか?」


名取「え?」


あきつ丸「ふむふむ・・なるほど、確かに十人十色であります。むーん、確かに、どうやら少尉殿の言う通り違いが出るのは当たり前なのでありましょうなァ・・・そういえば」


名取「え、うん?・・・えっと、そういえば、って?」


あきつ丸「自分にもその熱いお茶が欲しいであります!」


名取「・・・・」


あきつ丸「いやぁもうさっきから口が菓子で甘々で、仕方ないであります!」


あきつ丸「少尉殿、ぜひお茶をギブミー!プリーズであります!」


名取は頭に手をつき、ため息をしながらも新しく急須に湯を入れ湯呑に注いでいく。あきつ丸は自分の分を取り息を数度吹きかけ喉を鳴らし呑む。


提督「戻ったよぉ!」


そして時を同じくして戻ってきた酔っ払いの姿に、また名取は頭に手をついた。あきつ丸は茶を吹き出した。


名取「あ、あの・・提督さん・・その格好は何ですか?」


提督「ん?ああこれ?帰りがけに秋津洲のところから持ってきたんだ~。どうどう?いいでしょ~。『重巡古鷹、出撃します!』なんちゃって!ハハッ!」


提督は古鷹のセーラー服の上下を着こんでいた。それはいつもパッとしない地味な服装しかしない提督を見ていた名取にとってはある意味で新鮮であり、なぜか妙に似合っていた。だが提督である。


名取「えっと・・・その」


名取は横目であきつ丸を見る。あきつ丸は笑いをこらえながら新たに日本酒の緑茶割を作っている。なにしろ先の話の間中酒を飲んでいたのはほとんどが提督とあきつ丸であり、名取は薄い梅酒をコップ2~3杯しか飲んでいなかった。だからああ、提督も酔っているな。と先程から名取は思ってはいたが、まさかここまで酷いとは。


あきつ丸「ブハッ!こ、これが、『こすぷれ』というものでありますか!」ヒーヒー


名取「うん、これはそうだと思う・・・」



提督「フー・・・ごめんちょっとフザケ過ぎたね」


提督は水を勢いよく飲み干しコタツに音を立て置いた。


提督「いやーねぇ、秋津洲にもう使わない古鷹の服をアタシにも着れるようにカスタムしてもらったのよ。そしたらまあなんと、似合うじゃぁないの」


名取「で、その興奮と今までの酔いが相まって帰路ついでにであんな感じにはしゃいでいた、と」


名取「古鷹さんが見たら泣いちゃうんじゃないかな・・・」


提督「泣かないよ!古鷹だったら笑って許してくれるって大丈夫だって!」


ワーワー キャーキャー


あきつ丸「・・・いつになったら、モグモグ・・話の続きが、ゴクゴク・・・・始まるのでありますかねぇ」


あきつ丸「さて次は焼き鳥缶に焼酎といくか、それともまたサラミに缶ビールといくか」チラッ


あきつ丸はしばし沈黙し身体を揺らしながら缶ビールとサラミパックを開封し焼き鳥缶に手を伸ばした。話が再開する頃、あきつ丸によってコタツ上の酒とつまみは殲滅され、時計の針は3時を刻んだ。



名取「・・で、深雪ちゃんを引き取ったのは良いけど、吹雪って子はどうなったんですか?」


名取「まさか解体・・ってことは無いです・・よね?もう1人くらい提督さんみたいな変な感性を持った人が引き取っていますよね?」


提督「さらっと酷い事言うね・・・まあ心配しないで、あの子もちゃんとした人、いや、提督が引き取ったから」


2人はそれぞれ湯呑で茶を飲み喉を潤しながら話す。一方あきつ丸は仰向けになり寝ていた。


提督「聞いて驚かないで、引き取ったのはなんと深雪が衝突した電を持つ元帥殿、の息子さんさ!」


名取「ふえぇっ!被害を受けた側が問題を起こした研究勢力の子を引き取ったんですか!?」


提督は頷く。


提督「いくら問題を起こさなかった子だとしても「そこが製造した」というだけで誰も引き取りたくは無くなってしまうはずなのに」


提督「実戦経験はおろか長時間の航行経験は皆無に近い為、周りの足をどうしても引っ張ってしまうはず」


提督「でもその息子さんにはどうしても引き取りたいという確固たる理由があったんだと」


名取「理由?どんなものだったんですか?」


提督「聞きたい?」


名取「も、もちろんです」


提督「・・・名取は今日アタシが大本営への定例会に行ったのは知ってるよね?」


提督「で・・まあその会ったというか話をしたというか・・・ねえ・・・」


あきつ丸「・・・ウジウジ言ってないでさっさと言ったらどうなのでありますか、将校殿」


横を見ると、寝ていたあきつ丸がいつの間にか目を開けていた。


名取「あきつ丸ちゃん、起きてて大丈夫なの?」


あきつ丸「心配ご無用。酒は私が呑まれる前に飲んでやったでやったであります」


と言いながらあきつ丸は起き上がるが、頬は紅潮しいつもは白い顔が桃色に染まっている。


あきつ丸「そんなに言いたくないのなら、自分が代わりに言うであります」


提督「!?」


あきつ丸「いいですか、少尉殿。将校殿は大本営で吹雪を連れたその提督と会ったのであります。確か名前は・・佐野提督、でしたかな」


あきつ丸「そして吹雪が引き取られた理由を聞いた。でしたな、将校殿」


提督「いいよあきつ丸、そこから先は私が言うから」


提督「・・報告会から帰る途中に吹雪と話す佐野提督を偶然会ったんだ」



―――――

吹雪「司令官!報告会、お疲れ様です!」


佐野「はは、これも吹雪のサポートのおかげさ」ナデナデ


吹雪「そ、そんな///し、司令官。当たり前の事をしたまでですよ~///」


提督「どうも、佐野大将殿。御取込み中失礼します」


佐野「ん、君は・・あーあのポンコ、じゃなくて未完成の鎮守府の・・・機械、いや量産型の中佐君だっけ?」


提督「あの士官学校時の呼び名はやめてください、アタシには『衣笠 メイコ』って名前があるんですから」


佐野「アーハイハイ。で、何の用なんだいキャプテンフック君?」


提督「衣笠です。いえ、見かけたものですからつい、コネクト作りも兼ねて是非とも挨拶をしたかっただけです」


佐野「そうかい、よろしく。あ、こっちはウチの秘書官の吹雪だ」


吹雪「吹雪です!よろしくお願いします!」


提督「どうも、衣笠中佐です」


佐野「吹雪はとてもかわいいんだ!」


佐野「昔、ウエディングドレス姿の吹雪と一緒にケッコンをして、一緒の家で暮らす夢を何度も見てね」


佐野「それからはもう彼女のことしか考えられなくてさ、昔親父に連れてもらった艦娘の選考テストで吹雪を見つけたときはそりゃもうこれは運命だと思ってね、引き取ったんだ」


吹雪「もうっ司令官ったら///」


提督「はぁ、・・・・・・へー、・・・・・・・・・・・・・え!それだけ!?それだけの理由で引き取ったんですか!?」


佐野「?それ以下もそれ以上もあるか、吹雪はかわいいんだぞ!何をするにも平均のオマエに何が分かる!階級も戦績もお前と違って上だ!こっちは君の戦果の何倍だ?」


提督「・・・・はい、失礼しました」


佐野「それになー吹雪はほかの艦娘達と違っt」


吹雪「しーれーいーかーんー!この後は私と食事に行くんでしょー!///」


佐野「おおそうだったな、まあ、オマエには吹雪の良さはわからねえよ。じゃあな」


フブキハイツミテモカワイイナァ


ウフフ、シレイカン///

――――――――――



提督「・・・ということがね、あったんだ」


名取「」


あきつ丸「何度聞いても将校殿に同情したくなるでありますな、その会話は」


提督「更に、その後少し調べて分かったんだけどね、吹雪と例の事故を結びつける情報だけを全て揉み消していたことが分かったんだ」


片手の握りこぶしをつくる仕草をしながらケラケラと笑って言った。


名取「それ犯罪ですよね!?」


あきつ丸「偉きゃホントはウソになり、白は黒になる。組織とはそういうものであります」


名取「そんな・・・」


提督「ましてや彼は横須賀鎮守府の提督で、今でも全体の5本の指に入るほどの戦果の持ち主。少しの情報操作などはお手の物さ」


あきつ丸「『一航戦』や『金剛四姉妹』、『ビッグセブン』などの〈オリジナル〉の艦娘を最も多く保有する鎮守府で有名であります」


提督「書類上の引き取る理由としては「〈オリジナル〉の『吹雪』は2か月前のサボ島沖の作戦で轟沈させており変わりは彼女しか務められないためである。また、我が鎮守府の予定している作戦上不可欠なため。」だとさ」


提督「深雪も〈オリジナル〉と〈量産型〉の2人しかいないのにねぇ。ま、当の吹雪本人は何も悪くは無いんだけど。ま、これが深雪のいつも言う『あの子』、吹雪についての話だね」


名取「それで、深雪ちゃんには話をしたんですか?」


提督「ハッ、「深雪と同期の吹雪は、彼女と結婚する夢を見た提督に引き取られたんだ。」って?言えるわけないよ」


名取「確かに・・・そうですが・・」


この時、名取はふと提督の目に一瞬映った表情を捉えた。それはあまりにも一瞬だったがためにうまく表現は出来なかったが、何かないまぜになっている様でもあったように見えた。


提督「それとあきつ丸、何で大本営でのことを知っているのさ?」


あきつ丸「フッフッフ、陸は我々のテリトリーであります。それも本土となれば!市民一人ひとりの情報であっても大量にドカーン集め・・・」


キィ―――――ン ガゴ――ン‼


その時、突然の轟音と衝撃が執務室を揺らした。窓ガラスにヒビが入り天井からパラパラと埃が落ちる。


提督・名取・あきつ丸「!?」


提督「な、何!秋津洲!?また秋津洲が何かしたの!?」


あきつ丸「違うであります!これは・・爆撃の音であります!」


ザッ ガガッ ピー

『ア、アー・・・て、敵襲!!かも!!鎮守府が攻撃を受けているかも!!場所は・・・・えーと、鎮守府裏訓練場!・・駆逐艦深雪と未確認の艦が現在交戦中!!かも!!』


提督「何だって!?」


名取「まさかこの鎮守府が深海棲艦に発見されたんじゃ・・」


あきつ丸「その可能性は低いでしょう!奴らが来るならもっと激しく、それも大部隊で来るはず!」


提督「っ、とにかく!」


提督はコタツから抜け出し通信を試みようと執務室に備え付けてあるマイクを取った。同時に執務室の扉が開いた。


長良「司令官!大丈夫ですか、って何ですかその格好!?」


提督「今はいいから!みんなは!」


提督は古鷹のセーラー服の姿で言った。


長良「い、良いの?」


名取「良いの!」


長良「で、では。報告します!天龍さんは訓練場へ、秋津洲さんは引き続き通信室に、古鷹さんはこちらへ向かっています!」



深雪(中破)「うっ・・くそっ・・・・ゲホッ・・ハァ・・ハァ」


レ級「目標ノ無力化、ヲ確認」


あれからしばらく深雪は抵抗を続けていたが、レ級の力は強大であった。


機動ですら深雪と互角に渡り合い、更に目の前の航空戦艦は特有の大口径主砲は付近を掠めるだけですら深雪を傷付け上空の水上機で深雪を追い詰め損傷を与えていった。決して直撃させないよう巧妙に、撃沈せずにいたぶる様に。


深雪も反撃を試みたが、主砲は弾かれ魚雷は全て回避され意を決したカットインも分厚い装甲を前に傷を付けるにとどまる。中破した艤装から煙が立ち上り、主砲は破壊され残った魚雷管はねじ曲がっていた。


レ級「コレヨリ捕獲ヲ行ウ」


レ級は距離を詰め始めた。深雪はなおも動こうと身を持ち上げる。ひしゃげた機関部から装甲板が剥がれ落ち、鎖で括りつけられた爆雷がぼちゃぼちゃと音を立てて海中へと落ちた。周囲を見渡そうとするがもうもうと立ち込める艤装の黒煙に阻まれて視界が効かない。


深雪(中破)「(クソッ、全く歯が立たねぇ・・・だけど捕まって捕虜になるくらいなら・・・!)」


目の前に迫りくる新型戦艦を見た。主砲は下がり、黙々と水上機を回収していている。


深雪(中破)「(奴は油断している・・・今だ!)」


艤装の機関を最大出力にし、同時に深雪は左肩を前に突き出した姿勢を取った。ショルダータックルの構えだ!


深雪(中破)「(これでもろとも相打ちにしてやる!)」


艤装から吹き上げる火花と黒煙が深雪の身体を覆い隠し加速するには十分すぎる時間が生み出された。黒い煙のカーテンから小さな体が飛び出した。


それは深雪自身にいつかの自分がいつか失敗したあの不慮の事故の瞬間を思い出させた。だが、今は違う。事故ではなくこれは覚悟の攻撃、そして目標は深海棲艦だ。皮肉にもあの事故が原因で今の自分がいる。だからこそ、外しはしない!


深雪(中破)「深雪スペシャルだ!こいつを食らいやがれー!」


レ級「・・・」


両者の距離が30㎝まで縮まり深雪の艤装はトップスピードに達した。眼前にまで迫る中、レ級は軽く腰を落とした。


深雪(中破)「(なんだ、今更攻撃か?砲か、水上機か・・どちらにしろもう止まらねぇぞ!)」


その時、衝突寸前の所で深雪の左足の艤装に突然閃光が走った。衝撃に押し上げられた身体は前傾姿勢のまま浮き上がり、大きく1回転し、


深雪(大破)「なっ!?グアッ!」


背中を勢いよく水面に打ちつけられ肺の空気全てを吐き出した。


深雪(大破)「アグッ!ゲホ、ゴホッ・・クソッいったい何が」


教えるかのようにレ級は水中に手を入れて回収し、見せる。その手には潜水艇らしきものが握られていた。


深雪は敵が砲と水上機を使う航空戦艦ということは戦闘中分かったが、それ以外は何も知らなかった。レ級は艦娘の航空戦艦とイコールではない。潜航艇を用いて雷撃も行うことが出来るのである。それが深雪の左足の艤装めがけ雷撃を行ったのだ。


レ級は起き上がり距離を取ろうともがく仰向けの深雪に跨り首根っこを両手で万力の如き力で絞め、そのまま海中へ勢いよく突っ込んだ。ギチギチと腕を通して伝わる首が締まる独特の感触と、なお抗おうとする生への渇望の温もりが思わず愉悦の笑みをほころばせる。息のかかる距離で死と絶望に歪む顔を一方的に見つめ合わせながら彼女は決して手折り殺さぬように細心の注意を払いこの駆逐艦を海中で絞め続けた。


やがて、大人しくなったところで引き上げ、首に手を掛けながらまじまじと見る。深雪は白い顔で酸素を求め弱々しく咳込んだ。


レ級「・・改メテ目標ノ無力化、ヲ確認。捕獲、ヲ、スル」


深雪「・・い、いやだ・・・やめろ・・やめ・・・グッ!・・ァァ・」


頭部に強打を打ち込みレ級は深雪を肩に担ぐ。ヒョウヒョウと向かい風が吹きフードを飛ばしかけ、反射的に空いた手で押さえた。


レ級「ミッション、コンプリーt」


「オラァッ!」ガキィン!!


刹那、後方より斬撃を受け背部の衝撃から前へ数歩よろけた。振り返るとそこには1隻の鋼鉄刀を構えた軽巡。図鑑に該当あり・・・危険度極低。


天龍「ッ!コイツ・・・身体も鋼鉄製か?」


鋼鉄刀を水平に構えた天龍は急いで付かず離れず間合いを取る。同時に彼女は闇夜の中、敵の戦力と担いだ荷物を瞬時に看破した。・・少しばかり荷が勝つか?


レ級「増援ヲ確認。排除スル」


レ級は深雪を担ぎながら主砲を展開する。


天龍「・・ワリィがそのチビッコはウチのモンでな、返させてもらうぜ!」


天龍は微かに震える脚を気取られぬように刀を構え直した。



提督「秋津洲!」


提督が勢いよく通信室に入る。室内には機材が所狭しと置かれ、それらに囲まれるように座す秋津洲が機器と格闘していた。


秋津洲「提督!?」


提督はセーラー服の袖で額の汗を拭い状況を聞いた。ここへ向かう途中、酔ってぶっ倒れたあきつ丸と歩哨待機役の長良を残し全員を出撃に向かわせてきたのだ。


秋津洲「あ、はい!どうやら敵は単艦のみでの襲撃であることが分かったかも!」


機器に目を通しながら秋津洲は答えた。スピーカーの一つから天龍の怒号、振るう刀の甲高い金属音と砲撃音が響くのが聞こえる。


秋津洲「それと提督、他の鎮守府よりオープン回線による緊急連絡をキャッチしたかも!」


提督「言って!」


秋津洲「はい。先刻より横須賀・呉・ラバウル・ショートランド鎮守府4か所にて異なる規模の、こちらと同様に深海棲艦による襲撃を受けている模様」


あの鎮守府が?提督は思わず耳を疑った。遠洋ではなく鎮守府へ同時に直接襲撃があった事なんて今までにあった例はほとんど無い。そしてこの4か所はどれも高戦果のランカー鎮守府だ。


秋津洲「更に、現在呉では『磯波』、ラバウルで『浜風』、ショートランドで『時雨』の合計3人の〈量産型〉が襲撃者に強奪された通信を傍受したかも!なお、横須賀鎮守府は現在も応戦中!」


プリンターから打ち出されるパンチシートを腕に巻きつけつつ秋津洲は困惑気味に読み上げた。


提督「強奪!?いったい何が・・・」


秋津洲「提督・・・もしかして深雪ちゃんも・・」


提督「・・・」


実際のところ、提督も同感であった。ほぼ同時に起きた襲撃、そして強奪された艦娘はどれも駆逐艦である。そしてここも、今しがた深雪が交戦していた。艤装反応は・・・稼働状況を示すランプが点灯していない。


提督「秋津洲、君も出撃して」


秋津洲「えっ?で、でも、戦闘は・・」


提督「あきつ丸がいない今、少しでも航空戦力は欲しい。大丈夫、ここの機材ならアタシも使える」


弾が着弾したのか方々で剥がれたコンクリート片が落ちる。提督は焦りの混じった表情をしながらも、両手を秋津洲の肩にのせゆっくりといつもの口調で頼み込んだ。


提督「だから、少しでもみんなの力になってあげて」


秋津洲「・・・うん、わかった。やってみるかも!まかせて!」


秋津洲はヘッドホンを投げ出し一礼をし、通信室を飛び出した。


提督「・・・よし。こっちも一仕事っと」


提督はインカムを繋ぎ、コード束を掴み取り通信機と向かい合った。



レ級の大口径主砲が唸り数機の水上機が天龍めがけて撃ちながら爆撃を行う。天龍は上空の機銃掃射を刀でガードし、横へ飛び込み前転。今しがた天龍がいた地点が隆起し水柱を上げる。負けじと天龍が両側面の14cm単装砲と12.7mm機銃を撃つが火力の差は圧倒的であった。


天龍(小破)「クソッ!」


しびれを切らした天龍が代わりに14cm単装砲と四連装魚雷で魚雷を撃つが難なくかわされる。白兵戦しようにも仲間が人質に取られ手が出せない。


天龍(小破)「(マズイ・・主砲の弾薬がもう底をついたか・・・)」


主砲の弾切れを知らせるアラームを聞き、天龍は機銃と魚雷の残弾を横目で確認する。だがそんな一瞬の集中を乱した瞬間をレ級は見逃さなかった。


レ級(小破)「砲雷撃戦ヨーイ・・・撃テー!」


天龍(小破)「ッ!」


咄嗟に回避行動を取るが間に合わない!


天龍(大破)「ガァッ!」


弾切れの左14cm単装砲を盾にして破壊させ、ダメージを最小限にするが訓練場の陸地へと吹き飛ばされる!苦し紛れの機銃掃射をレ級に集中するが、それを嘲笑うかのように跳弾音が響いた。


天龍(大破)「ガッ・・ハッ・・・ハアッ・・・」


敵は背を向け撤退を始めた。手を伸ばせば届きそうな距離、だが、艤装は未だ猛犬の様に唸り立てるにも体が言う事を聞かない。骨か、内臓がやられたか。


レ級(小破)「・・・対象ノ危険度・・ゼロ・・・コレヨリ撤退スル。・・・!!」


だがレ級のレーダーに感あり、それは新たに近づく4つの物体・・つまり増援を示すものだった。


レ級(小破)「キサマ!・・・」


憤怒の形相で天龍を睨む、察した天龍はニヤニヤと笑い返し左手の親指を立て首を掻っ切るジェスチャーを取った。次の瞬間、顔が青ざめ血を吐いた。


天龍(大破)「フフッ・・ゼェ・・・ハァ・・俺様・・の・・・け・・計算・・通りだゼ・・ッ!ゲホッガッゴホッゴボーッ!・・ゲホッ、しまった・・ク、クスリ・・クスリを・・こんな時・・ゼェ・・にっ!」


天龍は吐血と咳が止まらない口を押えながらタバコを探る、だが、目当ての品は既に散らばった薬莢と共に遠く波に揉まれていた。


レ級(小破)「オノレッ!!」


レ級は弱った天龍を引きずり海上へと投げつけ上空の水上機に攻撃命令を飛ばした。だが天龍はせき込み痙攣を起こし瞼一つ動かせない。数十機もの水上機が天龍めがけて爆撃態勢に入る!


その時、幾多もの機銃弾のカーテンが水上機の行く手を遮り機体と爆装が弾けた。


「本日の~ハイライト!かも!」


夜空に気の抜けた声が響き、天龍の目の前を巨大な艦載機の機影が掠めた。深緑色の機体は濃密な機銃弾幕で空とレ級を執拗に撃ち始めている。


天龍(大破)「ゲホッ、ガハッ、二式・・大艇・・?」


古鷹「天龍さん!大丈夫ですか!?」


援護態勢を取った古鷹と名取が闇雲に撃ちながら傍に着き天龍を浜に上げる。その後ろにはやや遅れて秋津洲。


天龍(大破)「ゼェ・・ゲホッ!・・・ああ、この通りピンピnゴホッゴホッ!」


古鷹「秋津洲さんは天龍さんをお願いします!名取さんは私と一緒に!」


名取「はい!」


2人は離れ応戦に向かう、一方上空は二式大艇が所々機銃により煙を吹き穴だらけになりながらも機銃弾と体当たりで辛くも視認できた艦載機をほぼ撃墜し終えていた。


秋津洲「天龍ちゃん大丈夫?」


天龍(大破)「ゲホッ・・うるせぇ、いいから早く・・・クスrゴホッ!・・クスリを・・早く!」


息も絶え絶えに虚ろな目で呻く。


秋津洲「ちょっと待つかも・・・フンッ!」


天龍(大破)「アグァッ!」ビクンッ


秋津洲は急激に冷たくなってゆく天龍の首元を触診しながら蛍光色の液体をアンプル銃で打ちこんだ。天龍は仰け反り、肌は熱を取り戻し、目に輝きを取り戻させみるみるうちに異常なほど急激に状態を回復させた。


天龍(大破)「注射は苦手だっていつも言ってるだろ!」


秋津洲「我が儘言わないで!」


秋津洲がはんだごて片手に言い返す。天龍は艤装を見た、損傷部位は無理やり継ぎ直され仮初の修復を終えている。相変わらずいい仕事をしてくれる、まだ、行ける。行ってやる!



名取(大破)「古鷹さん危ない!グゥッ!」


名取は古鷹の背後に飛び込み雷撃を庇った。背後より特殊潜航艇の雷撃!


古鷹(中破)「名取ちゃん!?」


名取(大破)「だ・・大丈夫です。まだやれます!」


名取は腰の爆雷を水中に投げながら答えた。爆発するが手応えが無い。しかし敵を大破に追い込むことはできた。味方の轟沈の危険性を孕む中、ここで古鷹は決断を迫られた。撤退かそれとも戦闘継続か。考える時間は無い。


古鷹(中破)「(これって確かトロッコの話で1人か5人どちらかは助かるけどどちらかは助からないってやつと一緒じゃ・・・でも・・)」


古鷹は頬を勢い良く張る。決断は一瞬であった。


古鷹(中破)「ごめん・・深雪ちゃん!」


古鷹はレ級頭部めがけて撃てる限りの主砲を全門斉射した。レ級は主砲を盾にしてこれを防ぐ。レ級はすかさず方向転換をして逃げ出した。古鷹はなおも撃つがギリギリのところでかわされてしまう!撃って、撃って、更に撃った!だがもどかしいほどに紙一重で躱されてしまう!


名取(大破)「古鷹さん!右舷!魚雷です!」


古鷹(大破)「え!?グァッッ!」


回避運動間に合わず古鷹は魚雷を右足に受けた。その間にもレ級の距離はどんどん開く!


名取(大破)「よくも古鷹さんをっ!」


爆雷を投げつけようやく潜航艇が沈めるが、時間を稼いだレ級は2人の射程距離の外に出てしまう。しかし2人にそれを追う速力など残されてはいなかった。



―――――

レ級(大破)「ゼェ・・・ガガッ・・ゼェ・・ガッ・・・撤退スル・・撤退・・」


決して軽くない損傷を負った航空戦艦はなおも目的を落とさぬよう注意深くフラフラと航行を続ける。彼方の空が明るむ、その上空、墨染の空を濃緑、黒の流星が駆け抜け、鉄色の閃光が煌めいた。


天龍(大破)「どこへ行くってえェェァァァァ!!」


レ級(大破)「!!ド、ドコダ!?ドk、グワーッ!」


突然レ級の右の肩口に飛来した鋼鉄刀が突き刺さる!?しかし周囲の水上に天龍の姿無し!どこからこの刀は飛んできたのか?それは次第に明るくなってきた空を見上げれば一目瞭然だろう!うん?まだ暗くてよく見えない?それではまだ目が慣れていない人のためにもう少し詳しく説明しよう。


つまりこうだ


『天龍が二式大艇の足に掴まって飛んでいたのである!』


レ級(大破)「ッ、第2、第3、第4主砲・・撃テーッ!」


レ級は負傷した右肩に目もくれず二式大艇へと対空射撃!だが天龍は二式大艇より手を放し機銃を乱射しながら砲弾の隙間をすり抜ける!数発が身体を掠めたが、やる気と秋津洲のクスリによって痛みを感じる暇なし!砲弾は全て二式大艇に直撃し爆発炎上!炎を撒き散らし空中で四散!


天龍(大破)「チェストォーーッ!!」ガガガガガ!


錐揉みの身体からは撃ち出された機銃弾の軌道が遺伝子螺旋の如く捻じれ着弾し弾け続ける!更に降下中に飛び蹴りの体制を取る。狙いはレ級の右肩に突き立てられた自身愛用の刀だ!


レ級(大破)「クッ・・・!」


レ級は尻尾を前に掲げガードを試みるが、向かってくる機銃弾の雨が関節を打ち行動に一瞬のタイムラグが生じる。そこに滑り込むようにして天龍の足が滑り込み刀の柄に乗る!


そして!


硬いレ級の身体に天龍の刀が深々と刺さり・・貫く!


レ級(大破)「ガアアアアアア!ッ!ガ、ガガッ!」


右肩より勢いよく青黒い血が噴き出す!その傷口を広げるように天龍は機銃弾を撃ちながら更に足を捻じる!天龍は返り血を浴びながら不敵に笑った。


レ級(大破)「キ、緊急回避ッ!」


天龍(大破)「オラオラァ!もう声も出ねぇかァ?反撃してみろよ、アァ!?」


急いで距離を取ろうとするレ級に対して天龍はそのままの距離を維持するように追いすがる。機銃弾はすでに空だ!だが天龍はそんなことなどを気にも留めぬ!そしてレ級の肩口へと天龍はストレートを繰り出した!


天龍(大破)「オラァッ!」左!


レ級(大破)「ガガッ!」刀がさらに深く刺さる!


天龍(大破)「オラァッ!」左!


レ級(大破)「ガガガッ!」刀が鍔まで深く刺さる!


天龍(大破)「オラァッ!」右!


レ級(大破)「ギギッ!」左肩がバキバキと音を立てる!同時に深雪を取り落とす!


天龍(大破)「(勝機!)」


咄嗟に天龍はまだ壊れていない14cm単装砲をもぎ取り、そして、まるで職業野球の選手のように腰を限界まで捻り・・・


天龍(大破)「これで・・終わりだアァァーーッ!!!」


レ級(大破)「グ、グワアアアアァァァーーーッッ!!!!」


レ級を・・打った!レ級は彼方へと飛ばされ一際大きな水柱を上げ、一拍遅れ爆発!



天龍(大破)「ハァ、ハァ・・やった・・のか?」


天龍はレ級の飛んでいった方向を眺めた。もう、衝突し泡立つ波以外何も見えない。


『ザリザリザザ・・・て・・ザリ、う・・・天、ザリザー・・天龍!聞こえてる、天龍!・・ザリザザー・・・・』


天龍(大破)「ハァッ・・・提督?提督か?」


通信機を取り耳に当てる。ノイズの酷いハウリングが反響した。


提督『深雪は!ザリピガー天龍はザザッ!大丈夫?』


天龍(大破)『無事だ、心配するな』


天龍は手短に無事を告げる。再び周囲を見渡す。


提督『ザザザー、すぐに鎮守府へ帰還して、2人共艤装がいつ崩壊してもおかしくないザザッ!』


昇り始めた朝日を背に満身創痍の天龍は深雪を抱え、よろけながら立ち上がる。通信機から提督のうるさい指示が間断なく飛び続けた。天龍は電源を切ろうとしたが出来なかった。



先程の天龍の戦い方は本来想定している量産型艦娘の戦い方ではない。そしてこれは〈量産型〉には到底真似できようのないものである。


ではなぜ天龍はこのような戦い方ができたのであろうか?それは彼女の今までの経験にある。あの3人組時代・・つまり天龍・龍田・秋津洲の艦隊『最強☆天龍艦隊』での経験が、だ。当時、彼女たち第一世代は燃料はおろか、弾薬の調達をするにも深海棲艦による危険が伴っていた。ゆえに節約を彼女たちは強いられた。燃料は漁村より修理の仕事の報酬代わりや、得た金でどうにかすることができたのだが、いかんせん弾薬だけはどうにもならなかったのである。


そのため彼女は弾薬を極力使わない様にして戦う方法を考えた。そこで思いついたのが天龍型に標準装備されている刀と薙刀を使う戦闘法である。


〈オリジナル〉と異なり彼女たちの持つソレは形こそは同じであるがただ鋼鉄を打ち出しただけの量産性に長ける頑丈で無骨なものであった。初めは太刀筋も甘く大破・撤退の繰り返しだったが、長い戦いの中で武器の戦術を研鑽していくことで我流ではあるものの砲術と白兵戦闘術を組み合わせた戦闘術をマスターしていった。そう、奇妙にも彼女たちの長く苦しい生活がここまで人間、いや、量産機離れした力を持たせたのである。

―――――



ホーホー ホー ホーホー

天龍「ん・・・んん・・・・」ザバッ


あきつ丸「んお?教官殿、やっとお目覚めになったでありますか」


天龍「・・あきつ丸か。ってことはここは・・・」


あきつ丸「は、野戦病院であります」


天龍「野戦病院・・・あぁ、〈オンセン〉ね・・」


天龍「・・・・オレ、どれ位寝てた・・・?」パシャッ


あきつ丸「丸々1週間であります」


天龍「ゲッ、1週間も・・・・深雪のチビ助は・・どうした?」バシャッ


あきつ丸「深雪軍曹殿でありますか?軍曹殿なら・・・」



深雪「今日も1日お疲れ様っ、司令官!今日は長良お姉ちゃんに強化訓練をしてもらったんだぜ!」


深雪「え?何で最近そんなにいつもより頑張ってるかって?やだなあ、そんなの決まってるだろぉ!」


深雪「吹雪のヤツにも負けてられないから、さっ!」ニコッ



あきつ丸「今日もいつも以上に元気いっぱい頑張っていたでありますよ、教官殿」




【タラワ鎮守府滞在記録~1冊目~】


T督「南原研製量産型艦娘の試作品、ナ号‐10‐0型・・うん、実戦でもなんとか戦えそうだな。しかし南原研究所もすごいものを作ったもんだ」


伊勢改「私としてはあまりいい気持ちはしないけどね・・・」


扶桑改「けれど私たちの負担が格段に減ったのもまた事実よ。それにこれを皮切りにいくつかの研究所の試作品がまだまだ送られてくるわ」


T督と話す2人は数日前にここへ送られてきた量産機のテスト結果を見ながらそれぞれの意見を述べる。はっきり言って悪くは無い。性能は元となった〈オリジナル〉と比較すれば心許ないが、深海への対抗策として全くの期待できない代物ではないだろう。


T督「南原型に杉本型、阿蘇型と・・それから高山型の4種類か・・」



~ナ号型寮~


「稲城ちゃん、何読んでるの?」


パイプベッドの上に寝ころびながら少女は隣に向かって話しかける。稲城と話しかけられた少女が本から顔を上げた。彼女達は大体同じ姿なので通常、それぞれの機体番号や元の名前で呼び交わしている。もっとも、ほとんどは名前で呼んでいるが。


稲城「んあ?何ってこれだけど。今井は読んだことない?」


今井「『帰ってきた軽巡のすゝめ』?あ!これってあの神通さんの新作!?でもこれって表現と写真がエグすぎて発禁をくらったんじゃ・・・」


稲城「初版が一冊、この鎮守府にあったよ。ここずっと戦闘漬けだったからなんだか無性に本が読みたくなってね、読む?」


今井「後でね。それにしても稲城ちゃんは勉強家だね~、じゃあそんなガリベンさんに私からのプレゼントだ~」


そう言うと今井は石灰色のバッグからキャンディーやキャラメルといった嗜好品を取り出しベッドの上に放り投げる。稲城は目を見張った。どれも物流が滞った中では手に入りにくいものばかりである。


稲城「ヨウカンにチョコレートまで・・・こんな貴重なものどこで手に入れたの?」


今井「ふっふっふ~、なんとここに来る前に親戚が送ってくれたのだー。いいでしょ?」


稲城「じゃあ茶でも入れてくるかねぇ」



今井「ねえ稲城ちゃん」ズズッ


稲城「なにさ」パリッパリッ


今井「稲城ちゃんは髪とか染めたりしないの?艤装にペイントとかは?私もだけど他の5人もみんなやってるよ」


そう言いながら今井は豆菓子を口に放り込み、逆の手で茶色に染めた髪をいじった。


稲城「う~ん、したいのは山々なんだけどねぇ、なんというかこう、ね?この身体ってさ、間接的にだけど下賜されたようなものでしょ?」


今井「肉体は私達のだけどね」


稲城「まあね、でもなぁんか手を付けずらくってねぇ」


ポーン

『艦隊が帰投しました。関係者は速やかに補給・整備を行ってください』


稲城「お、みんな帰ってきたかな?」


今井「みたいだね。じゃあ、いつも通り私は手術セットと輸血パックを持っていくから稲城ちゃんは機械類と工具、お願いね」


稲城「へいへい、急ぐよ!白衣も忘れないでね。昨日のアタシみたいにセーラー服に付いた血はなかなか落ちないからさ」ガチャガチャガラガラ


2人は手慣れた様子で準備を整えていく。ここに来てから毎日しているせいもあってか2人の表情に変化は無い。


手術と聞いて疑問に思う方もいるだろう。この〈量産型〉は〈オリジナル〉と違い人間の身体を流用している。そのため損傷を受ければ体から血が流れ、砲撃が直撃すれば骨や内臓も破壊される可能性があるのだ。それ故、彼女たちは今日も帰投した友のために、悲鳴を聞きながら血で手を染めつつ戦っていた。



銀ヤンマのなげきうた


~横須賀鎮守府~


ジリリリリン! ジリリリリン!


「・・こちら横須賀鎮守府執務室、秘書艦の長門だ」


長門「うん?ああ、あの鎮守府の・・・何の用だ?」


長門「・・・昨夜の深海棲艦による襲撃について佐野提督にいくつか聞きたいことがある、と」


長門「すまない、提督は今ここにおられないので私が代わりに伝言を受けよう」


長門「何?「昨夜の被害について?」「吹雪は今どうしているか?」・・・・だと?」


長門「な・・なぜそんなことを聞く?・・・・末端の田舎鎮守府に心配される覚えは無い。我が横須賀鎮守府は奇襲による多少の被害は出れど、一隻の轟沈などなく、他鎮守府のような強奪もされてなどいない。・・・二度とそのような目的で掛けてくるな!」


長門「はぁ・・・」


長門は音を立て受話器を戻し提督用の椅子の背もたれに身を預けた。その時、執務室内に備え付けられた提督用寝室の扉が勢いよく開いた。


長門「提督!」


佐野「長門・・・今の電話は誰からだ?」


佐野提督が寝巻のままヨロヨロと出て来る。その顔は青くなりゲッソリとやつれ、眼だけがギラギラと光っていた。


佐野「まさか・・吹雪が見つかったのか!?そうか、やっと見つかったんだな!場所を早く言え!すぐに全艦隊を向かわせよう!」


長門「い、いえ、ただの間違い電話でした。提督とは・・・関係のない話題で」


佐野「ッ!・・・・そ、そんな訳ないだろっ!俺は聞いたんだっ!オマエの口から吹雪という言葉を発したのを!言え!どこだっ!」


佐野提督は長門に迫り左右の腕で長門の両肩をつかみ口から泡を吹きながら怒鳴る。


佐野「吹雪は深海棲艦にどこへ攫われたんだ!!」


長門「そ、それは現在も捜索中で・・・」



提督「切られた・・・・」ツーツーツー


古鷹「切られましたか・・」


深雪「切られちゃったか~」


コタツで寝ている深雪と横で立つ古鷹が提督に向かって言う。


提督「うん、でも特に何も起きてないって」


深雪「ふ~ん、そうか!じゃあ吹雪は無事なんだな!よかったよかった!」


提督「深雪も教えてくれてありがとう。けど、でも高速修復材を使ったとはいえ、そうそう早く身体の疲労は取れないよ、まだ寝てた方が良いんじゃない?」


深雪「そうだな、じゃ、自室でゆっくりしてようかなー」


深雪はコタツを抜け出し執務室のドアに手をかけようとし、振り返った。


深雪「それと・・・古鷹お姉ちゃん、昨夜は助けてくれてありがとう!」


古鷹「ふふっ、どういたしまして。天龍さんにも後でお礼を言ってね、あの人が深雪ちゃんを1番に助けに行ってたから」


ワカッタヨ! ジャーナー!



提督「・・・・・・・・・」


古鷹「・・・・・・・・・」


提督は密かに唇を強く締める古鷹を見た。ゆうべの戦闘行為に関しては古鷹からの報告で全て聞いた。もちろん、彼女自身が深雪共々沈めようとしたことも。だが提督はそれを聞いても彼女に対して何も言わなかった。軍に身を置く者としては当然の行動でもあるからだ、だが・・・


提督「ムン・・」


提督は少々大げさに瓶を鳴らし錠剤をボリボリと噛みしだく。ケミカルな覚醒成分が無理やり心中のジレンマと倦怠感を吹き飛ばした。しばらくして古鷹は咳払いをし、口を開いた。艤装を装着していない彼女の左目は時折思い出したかのように切れかけの蛍光灯の様に弱く光る。


古鷹「・・・で、本音の方はどうなんです?提督」


提督「・・・・さっきも言ったように、あちらは何もないと言っていたよ。けど・・何かあったね」


提督は椅子から立ち上がり伸びをし、茶を淹れた。合成茶葉の鼻を突く渋い匂いが室内にもうもうと広がる。


提督「まぁ、横須賀の戦力は折り紙付き、佐野提督の戦術指揮は相当なもの。たとえ太陽が西から上っても部隊の壊滅とかは無い」


古鷹「それじゃあもしかして深雪ちゃんの言ってた『吹雪』が・・・?」


提督「そうでないことを祈るしかないね・・・」


提督は神妙な顔で茶を啜り椅子に座り直し台帳をめくる。


古鷹「ところで提督」


提督「ん?どうしたの古鷹?」


古鷹「その服、私のですよね・・・・」


提督「あー、バレた?」



―――また海軍に手柄を取られてしまった。


ガーン! ビシィッ!


大きく旋回し急制動の中トリガーを引く。後方へ飛行甲板をなびかせながら反動を利用し勢いよくターン。


―――これも自分が羽目を外しすぎてしまったからだ。


ガガーン! ビシビシイッ!


右手で飛行甲板を巻き戻し、左手のリボルバーで1発、更に右手から勢いよくホルスターから取り出した同型のリボルバーを抜き撃つ。姿勢がブレ、やや精彩を欠いた。


―――自分はやはり詰めが甘い。もっときつく、気を引き締めねば。


カシャッ キリンキリン チャッチャッチャッ ガシャッ!  クルクルッ ストッ


素早く中口径弾丸を空中へ放り、排莢した2丁の拳銃に込め直しガンスピン、残心。するりと杯の淵を撫でるようにホルスターに納める。


あきつ丸「中尉殿、お先に失礼するであります」


リロードした15.2cm二十六年式拳銃をホルスターに収めつつ、訓練中の長良に断りを入れる。揚陸艇、あきつ丸は堂々とした足取りで訓練場を後にした。10発中7発命中、まずまずの成績だ。



秋津洲「あ!あきつ丸ちゃん!ちょっとちょっと」


あきつ丸「これは技術長殿。何か御用で?」


自室に戻る途中に息を切らしながら鉄屑をリアカーで運ぶ秋津洲技術長に会う。招く手とは反対の手には自分のと同じ色の白手袋が握られていた。


あきつ丸「それは・・手袋でありますか?」


秋津洲「んん、よくぞ気付いたかも!でもこれはただの手袋じゃないかも!触れたものを焼き切る万能手袋・・の試作品!その名も「焼き手袋」かも!」


あきつ丸「焼き芋みたいでありますな」


秋津洲「うっ・・・つ、使い方はそれぞれの手の甲の紐を引き抜くと、テルミット反応により手袋の外側の温度が一気に3000℃程度になって数秒間白熱する。という単純なものかも」


あきつ丸「それを自分に?」


秋津洲「あげるよ!で、後で感想を聞かせてほしいな」


キラキラと目を輝かせる秋津洲に催促されすぐに自身の白手袋から取り換える。何時の間にサイズが図られていたのか寸分違わずフィットした。


あきつ丸「使い心地は・・悪くないかと」キュッキュッ


手甲の部分にはでかでかとデフォルメされたネギを背負った鴨のマークが『秋津洲工房』と共に金で箔押しされている。動かすたび鴨の口から垂れた紐が揺れ、新品特有の鼻を突く心地よい臭いが漂う。思わずあきつ丸はくすりと小さく笑った。


秋津洲「良かった。あ!あと提督がさっき呼んでたよ」


あきつ丸「そうでありましたか。技術長殿、ありがとうございます」


軽く一礼をしカツカツと靴を鳴らしながら再び歩き始める。後方からはリアカーの軋む音とひいひい音を上げる声が再び廊下に反響した。



あきつ丸「失礼します将校殿。あきつ丸航空参謀、入るであります。・・・おろ?」


提督「Zzz・・・」


執務室に入ると提督は昨晩のセーラー服を着たまま書類を床に散らばらせ、腕を投げ出し机に突っ伏していた。あきつ丸はため息を吐きつつ、床の書類を集める。


あきつ丸「ハァ、海軍はなんというか死と隣り合わせだというのに・・・緊張感が足りないであります」ブツブツ


あきつ丸「っと・・・これで・・全部でありましょうか・・?」


そうは言いながら全て集め机の上へと乗せると、提督の背部より細長く伸びる線が視界に入った。


あきつ丸「これは・・・ケーブル?」


それは耳に1本、残りの数本は全て背中に刺さっていた。そしてそれらのもう一方は執務机の中へと伸びていた。耳のケーブルについては知っている。たしか、別段珍しくも無い古い記憶容量増設メモリーの端子だった筈だ。いつだったか、提督が酔ったついでに話していたのを覚えている。


あきつ丸「しかし背部のこれらは・・・・む!」


ガチャ ギィ

古鷹「・・・・・」スタスタ


あきつ丸「(あれは・・古鷹参謀殿でありましたか・・・)」グッ ピンッ!


あきつ丸は部屋に近づく気配に気付き、咄嗟の判断でコタツの中へと身を滑らせていた。古鷹は一直線に提督の下へと向かった。


古鷹「提督、提督!そろそろ皆来ますよ、早く準備をしてください!」


提督「ふあぁあ、まだ眠い~・・・古鷹がやってよぉ~・・・Zzz・・」


古鷹「もぅ・・失礼します・・喝!」ビシィ!


提督「痛ぁ!わかった、わかったって!やるからさ、ホラ!」


あきつ丸「(・・それにしてもあのケーブルは・・・どこかで見たような・・・)」ジュー ボッ


あきつ丸はコタツの中で2人の会話に耳を傾けながら考える


あきつ丸「(艦娘の艤装接続部の端子?・・にしては規模が小さすぎる・・・)」メラ・・・メラ・・・


量産型艦娘は艤装と身体をリンクするために脊髄や頭部等に端子の穴を開ける。これは艦種が駆逐艦から戦艦へと上がるほどに規模と数が大きくなっていき、駆逐艦であれば基本的に開けず、稀に小さな端子を開けるか開けないかで済む。そして軽巡から本格的に穴を開けていき艤装との接合部を作るとされている。だが、あきつ丸が見たものは見た目こそ同じであるが背部のそれはイヤホンジャック程の小さく粗末な物であった。


あきつ丸「(しかしどこかで・・・むぅ、あと少しで出そうでありますが・・・ん?このコタツ少し熱過ぎでは・・・?)」メラメラ


ふと右後ろを見る、布団部分が炎を上げて燃えていた。


あきつ丸「アチッ!アチチチッチ!火事であります!」


あきつ丸は突然の火に驚きコタツをひっくり返しながら這い出た。コタツに滑り込んだ時、何かのはずみで紐が引っ張られた秋津洲の「焼き手袋」が誤作動を起こしたのだ。燃え始めに気付けばよかったのだが、〈量産型〉の身体は不幸にも、十分すぎるほどに頑丈であった。


古鷹「あきつ丸ちゃん!?」


あきつ丸「しょ、消火器!消火器はどこでありますか!?」



タタタタ バタン!

長良「遅れてすみません司令官。何か御用でしょうか」

名取「て、提督さんごめんなさい!遅れました!」


提督「おぉ、みんな集まったかな。それじゃあそろそろ・・・」


古鷹「――全く、あなたたちは!」ガミガミ


秋津洲・あきつ丸「「・・・」」シュン


古鷹「こんな危ない物は没収です!」


秋津洲・あきつ丸「「そんなぁ!」」


提督「古鷹、もうそこらへんにしときなよ。長良達、来たよ」


古鷹「はぁ・・・わかりました。2人とも次は気を付けてくださいね」


長良「司令官、なんですかあれ」


長良は焼け焦げたコタツ達の残骸を指差す。


提督「まあ・・・いろいろあったのさ」


提督は目を逸らした。


名取「そ、それより私たちに用って何なんですか?」


提督「あぁ、ああ!そうだったね。うん、用っていうのは、本土の大本営へと向かうから道中君たちに護衛と少し手伝いをして欲しいんだ」


長良「大本営へ?報告会なら先日行ってきたばかりじゃないの?」


提督「急ぎの用が出来たんだ、悪いけれどこの後夕食を取り次第すぐに出発するよ!」


長良「今日の夜!?」


長良が驚くのも無理はない。艦娘の護衛があるといえど夜に、ましてや艤装を持たぬ者が海に出るなど自殺行為にも等しいからだ。


提督「明日の朝、といきたいけどあの戦闘の後でみんなに使った高速修復材と資材でもうそろそろ備蓄が底をつきかけていてね・・・おまけに、天龍の身体に受けたダメージが大きすぎて修復材では治らないから本土から専用のものを直接受け取りに行く必要があるんだ」


あきつ丸「しかしそれではこの鎮守府の守りは大丈夫でありましょうか?」


提督「それについては近隣の鎮守府に哨戒の範囲をここまで伸ばすよう今朝頼み込んでおいたから大丈夫。いざとなったら古鷹達もいるし、出来るだけ早く帰るからさ、ね。心配しないで」



出発10分前、とうに日は沈み夜の闇が覆い尽くした頃、工廠内桟橋にて4人は準備を進める。名取と長良は兵装の弾数確認をし、各自ドライバーやレンチを使い航行に重要な艤装を装着・調整。あきつ丸は、既に艦載機整備・艤装調整は済み、愛用リボルバーのシリンダーを掃除している。


そして提督は、提督用制帽といつもの地味な上下の服に着替え、防弾ゴーグルを額に上げたまま遠距離輸送の可能な特大発のエンジンにクランクを差し込み回している。


キリィッ キリィッ キリィッ ガルルーン!


提督「よしっ、衣笠中佐、出撃準備ヨシ!・・みんな、大丈夫?」


クランクを抜き取りコックピットへ乗り込みながらゴーグルを下げ、周囲に声をかけた。次々と返事が返って来る。数分後、それぞれ異なる駆動音を響かせながら、一行は蔦のカーテンをくぐり舵を本土へと向けて出航していった。



~東京 青海南埠頭 南原産業総合研究所前~


午前6時00分。本土に着いた時には既に朝日が昇っていた。


あきつ丸「護衛とはいったものの!」


提督「これといった目立った戦闘もなくここまで来れたね!」


数発の新しい弾痕を開けた特大発を囲む一行は見えて来た海岸線にほっと胸をなでおろし、輪形陣から複縦陣へと切り替える。向かって前方、陸の左側には巨大な客船の形をした建造物の壁面に『南原産業総合研究所』と書かれた看板が立て掛けられており、潮風にはためく研旗と桟橋に慌ただしく人員が出入りする旧世代の砕氷船が4人を迎えた。


長良「・・あきつ丸の方向音痴と提督の居眠り運転がなければもう3時間早く着けたけんだどね」


名取「な、長良ちゃん、それは言わないで上げてよぉ。2人共一生懸命案内してくれたんだから」


長良「名取は本土に行くのは初めてだけど、こんなの毎回よ。それにあの2人は何度もここに来てるし。・・まぁ、私としては長距離走のいい練習になるから良いんだけどねっ」


名取「ふぇっ!?」


提督「さあ、みんな!こっちこっち」


提督は建物に向かってサーチライト付き機銃を点滅させながら、3人にダンゴで進むように身振りで指示を出す。


名取「な、長良ちゃん、これからどうするの、ってふわぁっ!」


突然足元から小さなプール型のリフトがせり上がり4人を乗せて船型建造物の内部へと運び上げた。


名取「な、なななな!?提督さん!何なんですかこれは!?」


あきつ丸「あ、中尉殿はここに来られるのは初めてでありましたな」


提督「そうだったね、じゃぁ改めてみんなに紹介しよう。我が無名鎮守府の唯一の支援団体にして唯一の後ろ盾の『南原産業総合研究所』だよ!」


やがて4人を乗せたリフトが止まりドックへの巨大な水路が姿を現した。提督が紹介するこの客船型の施設は外見こそふざけてはいるものの、量産機の製造・開発等を行う研究所であり内部は多数のドックに巨大なクレーン、最新式の工作機、更にはうず高く積まれた資材など見渡す限り秋津洲が見れば狂喜しそうなほどの最新の大規模な工廠設備が揃っており、方々で機械が火花を散らし轟音を立てていた。施設の奥からこちらへ小さな影が駆け寄って来た。


工廠妖精「どうも、衣笠中佐さん。所長よりお話は聞いています、どうぞこちらへ」


一行はドックに案内され艤装や特大発を停止・脱着し、それぞれ担当の妖精達に預ける。


提督「ごめんね、この前来たばっかりだってのに」


工廠妖精「いえ、丁度良かったです。どうやらご注文の品が今日の正午に届くらしいのでこちらから連絡しようとしていたんですよ」


提督「おおっマジ!?そりゃよかった」


工廠妖精「でしたら所長に伝えておきます。物資はそちらに、それとタクシーはあちらに用意いたしました」


提督「よし、それじゃあアタシは行ってくるよ。みんなはこのメモにある物資を特大発に積んどいてね。戻るのは多分遅くなるから終わったら一五〇〇までは自由にしてて!」


すぐ傍に直立するあきつ丸にメモを渡した提督は妖精に連れられていった。


あきつ丸「じゃ、さっさと作業を始めるであります」


あきつ丸「では・・コホン、はじめに『溶接棒(小)200本』に、『はんだロール(大)2箱』、『応急修理女神3つ』にそれから・・・」



ここ帝都、東京にある大本営にはかつて帝国陸軍と帝国海軍があり、互いに鎬を削っていた。だがそれは今は昔、度重なる深海棲艦による襲撃により陸軍よりも海軍を重要視した帝国は陸軍を解体し国防港湾軍へと収縮・降格させた。今では陸軍に当てていた軍事費の9割を海軍へ回され、そのほとんどが現在も量産型の製造に当てられている。そしてこの量産機による計画の発案者にして最高責任者であり、佐野提督の親族である佐野元帥が現在、この大本営の実質的なトップである。


コンコン

「どうぞ」


大淀「失礼します閣下、件の案件の衣笠中佐が今しがた到着しました」


佐野元帥「そうか、通せ」


大淀「はっ」


元帥の秘書艦の大淀が入室を促す。衣笠中佐、もとい提督はヘコヘコと頭を下げつつ揉み手をしながら愛想笑いを浮かべ中腰で入室した。


提督「どーも、元帥閣下殿。本日はお日柄もよく、私めのために時間を・・・」


佐野元帥「御託はいい、本題を話せ」


バッサリと切り捨てられた提督はバツが悪そうに頭を掻き、促されるままソファーに座る。


提督「・・・へいへい、じゃ、まずはこれを聞いてもらいましょうかねぇ」


提督は演技をやめ、唯一彼女が提督と判断できる要素の制帽を脱ぎ、その中から手のひら大のテープレコーダーのようなものを取り出した。


佐野元帥「なんだ・・それは?」


提督「旧式の音声再生媒体ですよ。知りません?まあ、んなことは置いといて・・・・よしっ」カチャカチャッ ガシャッ!


提督は会話をよそにテープをセットする。


提督「では・・・再生っと!」ガチーン!


キュルルとテープが回りざらつくノイズが発せられ、どうにか聞き取れる音声が流れた。


『ザザッ・・・・・・・コチラ・・号機・・・・ウ・・・・・・・・・・サイ・・ウ・・「フブ・・・・ヲ・・・・収・・レヨリ・・・・・・・・ル』ガガッ ピイィー


数秒間流れ、沈黙。


佐野元帥「何だ、これは?ふざけるのも程々に・・・」


提督「静かに!」


語気に押され渋々と元帥は耳を傾ける。数秒後、再び似た、だが別の声が流れ始めた。


『ピーーー・・・ザザッ・・シモシ?コチ・・・・・・・・ル級デ・・・・・・ブキ」ヲ回・・・・・・・・・・フコ・・・・ワ・・・・・・・・・・ス』ガガッ ピイィー


佐野元帥「・・・?」


提督「次です・・・」


『ピ、ピガッ・・ザザッ・・・・・チラ・・・・4・・・・・・・・・級ヤデ・・・・ブ・・・・・・・・・・・・ウチ・・・・・・ヨ・・帰投・・・・・・・・・・・・・・」ガガッ ピイィー


提督「最後です」


『キュイィーッガガガガg・・・・・ザッ・・コチラハ5番機ノ・・・・・・・・・・「フブキ」・・・・・・・・・・・・・・・・帰t・・・・・・・・・・ッテ・・・・・・・・・番h・・・イ・・・・・・・・・・」ガガッ ピイィー


大淀「・・・!」


元帥の後方で控える大淀の表情が微かに曇った。


提督「いかがでしたでしょうか?元帥閣下殿」ガシャッガシャッ ガシーン!


提督はテープを取り出し再生機器を帽子へと仕舞いつつ姿勢をぴんと正した。


提督「1番目と2番目は呉、3番目はラバウルで、4番目がショートランドそれぞれの鎮守府周辺の座標で行われた深海棲艦による通信と見ています」


佐野元帥「これは・・いったい?」


提督「えー、これらの音声は、かつて海軍が失敗作と見て1度捨てかけた第一世代達の内の1人の功績によって偶然もたらされたものです」


元帥の片眉がにわかに釣り上がる。


提督「覚えておられますか?捨てられたと知らず、半年以上もの間希望を持ちながら耐えてきた彼女らを、まともな指揮官を得られぬまま何も出来ずに沈んでいった者達を」


佐野元帥「何だと、貴様」


元帥はザラついた声のトーンを上げ身を僅かに乗り出す。提督は身じろぎ一つせずすました顔でぴたりと視線を元帥へと向ける。


提督「失礼、口が過ぎました・・まあ本人は、これが自分によるものだとは知らないんですがね」


提督は深々と頭を下げ笑い顔を作りながら顔を上げた。


提督「で、これらはその産物の音声断片を繋ぎ合わせたものです。そしたらまぁなんと、「呉」「ラバウル」「ショートランド」、そして横須賀のあの「フブキ」・・・どうやら先日の事件に関係する臭いがしてくるではないですか!」


佐野元帥「・・・ふん、用はそれだけか」


元帥は座り直し眉間に皺を寄せながら葉巻に火をつけ尋ねる。


提督「それだけ?」


提督「まさか、有力な鎮守府が襲撃され、挙句の果てに量産型・・いえ、兵器の強奪をされるという大失態。そんな事件で首の回らない元帥殿へ私めがわざわざ油を売らせに来たわけではありませんよ」


提督はそれに応えるように立ち上がり大げさに身振り手振りを交えて言った。


佐野元帥「だったらなんだ!言いたいことがあるならさっさと言え!」


提督「・・なら言わせていただきます」


突然、ドン!と脇に寄せていた石灰色のリュックサックから取り出した大量の資料の山を応接机に置き、資料上に手を置きながらぐいと顔を近づけた。そして今までの声色からは想像もつかない程に押し殺した声で


提督「アタシと取引をしろ」


と苛立ち睨みながら言う元帥に対して殺気立った目で提督は言い放った。



名取「う~んしょっと」


長良「これで最後・・かな?」


あきつ丸「ハイ!名取中尉殿に長良中尉殿お疲れ様であります!」


3人は特大発とあきつ丸の艤装の積載部に積まれた荷物を眺めた。弾薬に資材、鉄屑等のスクラップ、コメや野菜といったピュアな食品が積み込まれ特大発には注文の品であるコンテナが3つ積まれている。コンテナには、丸に『天』と書かれたもの・鳥の翼が1枚描かれたもの・2枚描かれた物があった。


長良「なんていうか、久しぶりにマトモな食料を見たーって感じ?」


長良は伸脚をしながら言った。天井スピーカーがサイレンを鳴らし正午を告げる。


長良「んー、ちょうどいい時間ね。2人共、少し昼食ついでに外へ行ってきたらどう?」


名取「ほぇ?長良ちゃんはどうするの?」


長良「私はここにいるわ、追加の仕事が来るかもしれないし。それに、提督はああ言ってはいたけどここに誰か1人はいないとダメでしょ」


名取「そ・・それはそうだけど・・それなら・・・わ、私も一緒に・・い、いよう・・・かな・・・」


長良「もー、あきつ丸!」


あきつ丸「はっ!」


長良はいたずらっぽい仕草であきつ丸に命令する。


長良「長良中尉よりあきつ丸航空参謀へ命令よ。名取中尉と一緒に外へ遊びに行ってきなさ~い!」


あきつ丸「了解!さ、行きますよ中尉殿。行きつけの店を紹介するであります!」グイグイ


名取「え、ちょ、ちょっと待ってよあきつ丸ちゃん。そ、そんなに腕を強く引っ張らないでぇ・・」



佐野元帥「・・・・・」


取引、


当初はただ単に騒動を聞きつけ、勝手に作ったガセネタで脅しに来たと思っていたが、目の前の女性佐官が出した情報はいよいよ現実味を帯びてきていた。確かに、先程の音声情報では信憑性に欠けすぎていた。だが、次々叩きつけられていく写真や書類はどう考えても真実であることを否定できなかった。


大淀「・・・間違いありません。情報にかなりの劣化やズレが見られますが・・・どれも一致しています」


隣に控える大淀がノートパソコン等の媒体を用いて解析を行い苦々しく告げた。


提督「だーから言ってるでしょ、全部本物だって」


提督は錠剤をコーヒーで流し込み、机に置いた資料を人差し指で叩いて見せた。書類には襲撃当日のそれぞれの鎮守府の通信記録と会話記録が全て余すことなくリストアップされており、写真にはかなりぼやけてはいるものの敵勢力の姿が艦娘の目線で写されていた。


大淀「ですが・・・これらの情報は通常閲覧出来ないものですよ」


大淀は油断ならぬ鋭い目つきで提督を見る。提督はわざとらしく震え上がり、先程のような殺気立った様子から一変して余裕のある眠そうなふわふわした声で答えた。


提督「知っているさ、この書類の記録は将官クラスでも見れる者は極僅か、おまけにあの写真に関しては艤装のブラックボックスを直接開けないと見ることすら出来ないからね。よく知っているでしょ?って大淀さんそんな怖い顔で見ないでよ~」


佐野元帥「なるほど、 よくわかった。だが先ほどの内容の取引には応じられん」


提督「何で?」


佐野元帥「ここは大本営だ。音声記録には度肝を抜かされたが、情報機関によって今回の事件の全体像については君以上に理解しておる。現に、奪回作戦も現在遂行中だ」


提督「なるほど、では私めの情報は古いと」


佐野元帥「そうだ。まあ、キサマのようなルンペンがここまで知りえていることには多少は驚かせてもらったが、な」


提督「では、この音声媒体や写真についても内容をご存じで?」


佐野元帥「ある程度はな、無論これら全てというわけでは無かったが」


提督「さすが大本営!確かにそうですね、申し訳ありませんでした」


大淀「失礼ですね、そもそも大本営に対して脅迫まがいの取引を持ち掛けるなどとは無礼極まりないですよ」


佐野提督「まあまあ、大淀君。彼女も我が帝国海軍に有力な情報を知らせてくれるために一生懸命彼女なりに情報集めを頑張ったんだ、そこはちゃんと評価してあげよう。次の報告会時には昇進も考えてあげようじゃないか」


提督「なんと!ありがとうございます。へへっどうも、本日は失礼しました元帥殿」


佐野元帥「分かればいいんだ、今後も帝国海軍の為に尽力してくれたまえ」


提督「わかりました、それでは・・・」


提督は立ち上がり扉へ向かう。が、何か思い出したのかくるりとターンをした。


提督「あのー・・・・すみません、最後にもう一ついいでしょうか?」


佐野元帥「何だ」


提督「奪回作戦はもう遂行中と?」


佐野元帥「そうだ」


提督「ではやはりあの北方のベーリング海、セントジョージ島の敵泊地へと向かわれたのですね!」


佐野元帥「大淀君」


元帥は目配せをする。大淀はため息をつき嫌々言った。


大淀「ええ、そうですよ。被害にあった鎮守府による連合艦隊を結成し、現在奪回を試みています」


佐野元帥「とまあ、こんな感じだ!ハハッ、これでもう用は無いだろう?」


提督「なるほど!ありがとうございます!ええ、ええ、もう充分です!」


この瞬間、提督はこの日1番の笑顔を浮かべた。乾いた笑みから次第に、暗く憎々し気な笑みへと変化させながら。


提督「だってさ秋津洲。ちゃんと聞いてた?」


提督は軍帽を強く手で打った。そして再び先程のテープレコーダーを取り出し、着席する2者の周囲を練り歩きながらそれを揺らして見せた。


佐野元帥「!?」


ガガピー

『まったく、失礼しちゃうかも。それよりさっきから鎮守府と大本営で盗聴した内容が全然違ってびっくりしちゃったよ。いくら大本営でも嘘はいけないかも!』


提督「・・すみません、今の今までの全ての会話を録音・盗聴させていただきました。そして先程のは、嘘です。・・・しかし果たしてこちらは戯言でしょうか」


提督はこれ見よがしにポケットへと機器をしまい、更にもう1枚紙を取り出した。それは周波数と日時が描かれた点と円が描かれ、それらが5本、線で結ばれ全てがある1点に集中する海図であった。そしてその1点の座標は少なくとも北方ではなく・・・南方であった。


提督「襲撃から昨晩までの通信地点のある程度の大まかな座標を示すものですが・・仮に、何かしら事情を知っているなら波長から追えばここまで分かるはずなんだけど」


提督「あれれ?ってことは・・・」


佐野元帥「わかった!もういい!・・取引を受けよう」


大淀「閣下!?」


提督「はあ、ここまで情報を出さにゃダメなんですかね。じゃ、この紙にサインとハンコお願いします」


佐野元帥「・・・・」スッ タンタンッ グッ


元帥は無言でサインとハンコをする。その間、提督は元帥の秘書艦である大淀に向き直った。


提督「ところで大淀さん」


大淀「何でしょうか」


提督「聞くところに、大淀さんは〈オリジナル〉の艦娘と?」


大淀「?そうですが」


すると、提督は歩み寄り耳元に低く囁いた。


提督「やっぱりそうでしたか、では改めて自己紹介をしなければなりません。お久しぶりです、こうやって正面切って話すのは8年、いや9年ぶりだったでしょうか、あの時はたしか・・・タラワ鎮守府でしたね?私を覚えていますか?・・」


佐野元帥「ホラ!衣笠中佐、サインもハンコも押したぞ。わかったらさっさと出て行け!」


呼び掛けられた提督はワザとらしくピンと背筋を正しトトトとやや急ぎ気味に受け取った。


提督「あっハイ!・・どうも・・はい・・・はい、確かに。では、今度こそ失礼いたしました」


ガチャッ ギィ コツコツコツ・・・


佐野元帥「ハァ・・なんて女だ。あんなに我々のまだ掴んでいない情報を持ち込んで取引とはな・・・まあいい、大淀君」


大淀「・・・・・」


佐野元帥「大淀君?」


微かに顔を青くした秘書艦を怪訝に思いながら再び声をかける。


大淀「・・・!あ、はい!」


佐野元帥「この情報を全部被害を受けた鎮守府に送ってくれ。何はともあれ敵の所在を掴めたんだ、すぐに奪回作戦に移るぞ!」


大淀「了解しました」


佐野元帥「大淀君、敵の泊地の座標の場所は?」


大淀「はい。北緯1度25分 東経173度02分 、場所は・・」


大淀「・・・タラワ諸島です」



昼過ぎ、南原研より二駅離れた水町マリンパークの大正ロマン味溢れる温泉付き喫茶店『大江戸女神』で、名取はあきつ丸と茶を飲んでいた。和服メイドがあんみつと抹茶を出し、あきつ丸へと微笑みかける。名取はクリームソーダを食べた。ここは天然温泉による足湯を楽しみながら喫茶店要素も楽しめる隠れた名店だ。


名取「ねえ、あきつ丸ちゃん」


あきつ丸「モグモグ・・?何でありますか?」


名取「提督さんって何者なのかなぁ」


あきつ丸「というと?」


名取「ほら、鎮守府ではアレで戦果もほとんどないのにあの研究所みたいに支援してくれる人達がいるでしょ。なんでかなぁって」


あきつ丸「ふむ・・・」


あきつ丸は半分残った温泉まんじゅうを流し込み右手で顎をこすりながらポケットから手帳を取り出す。表紙には金字で「諜報用」の文字。


あきつ丸「これは独り言でありますが・・・将校殿の姓は衣笠、名は名古、25歳、身長170,3cmで体重は55,7kg・・・え~と、確か前の職業は南原研究所の研究員でありましたが肺結核により一時休職」


あきつ丸「名前のつくりからしておそらく偽名でありましょう。となれば・・・・おっと、少し言い過ぎましたな。・・・中尉殿?手を頭に当ててどうかされましたか?」


名取「ウーン、ん?あ、ああ、ごめんね。大丈夫、話はちゃんと聞いてるよ」


あきつ丸「まあそういうわけで何を研究していたかは分かりませぬが、あの研究所と将校殿はしっかりとした「こねくしょん」をお持ちであるためにあのような支援を受けられるのでしょう」


名取「す、すごいね・・・」


あきつ丸「人の頃は陸の諜報部にいましたから、この程度はお手の物であります!」


名取「(それじゃぁそんなペラペラ喋っちゃダメなんじゃないかなぁ・・・・)」


名取「じゃ、じゃあみんなのこと・・・も?」


あきつ丸「もちろん!あ、中尉殿はまだ目下捜査中であります!」


名取「あはは・・・・」


名取「と、ところであきつ丸ちゃんは・・どうしてこの鎮守府に?」


あきつ丸「・・・・ついに自分に回ってきたでありますか」ボソッ


あきつ丸は呟いた。と同時にテーブルに追加で注文したコーヒーと抹茶ロールケーキが2つずつ運ばれてくる。


名取「なぁに?あきつ丸ちゃん。」


あきつ丸にケーキとコーヒーを渡しながら問う。


あきつ丸「いえ、最近中尉殿はよく隊員の方々の昔話をよくお聞きになられているなぁ、と」


名取「う、うん。私はまだここに来てから1年も経ってないでしょ、だからみんなのことをよく知っておきたくて・・・やっぱりダメだったかな?」


あきつ丸「もぐもぐ・・・なるほど分からなくはないであります。人を知りまた己をも知る・・兵法にもそう書いてあるでありますから」


あきつ丸「少なくとも良し悪しどちらかで言うならば良い、でありましょう。・・・あむっ」


あきつ丸は残ったケーキを一口で食べ終える。


あきつ丸「・・・ですが、それが悪手となる場合があるのです」


名取「ほぇ?何で?」


あきつ丸「おそらく中尉殿も何人かからの話よりすでにご存じかと思いますが、我々がいる鎮守府は誰もが何かしらを抱えて生きている。深雪軍曹殿が良い例でしょう」


名取「あー・・・うん」


あきつ丸「故に必ずしも全員が昔のことを話したがる訳ではない。そしてそれが自分と長良中尉のような第五世代であるならなおさらであります」


名取「あきつ丸ちゃんと長良ちゃん?第五世代?」


あきつ丸「ええ、いつぞや中尉殿が言っていたように量産機は多種多様であります。そして、自分の後の世代・・つまり第六世代でありますな、この世代から急激に製造できる艦種が軽空母のみから航空母艦へというように技術の大躍進が見られているであります」


あきつ丸「さて、この第五世代と第六世代の間に何が起きたか、これくらいは中尉殿でも研修で習っているはずなので分かるでありましょう。皮肉にもあの事件が起きたからなのです」


あきつ丸「そして自分と長良中尉はその事件の被害を直に受けていた時代だったので、あまり昔については良い思い出がないのであります」


名取「あ、あの・・・・あきつ丸ちゃん・・?」


名取はおずおずと手を上げた。


あきつ丸「んあ、何でありますか中尉殿」


名取「あの事件って・・・何?」


あきつ丸は信じられないといった様子で名取を見る。


あきつ丸「中尉殿は・・・ご存じないのですか!?」


名取「ふえぇ・・ご、ごめんなさい。で、でも、本当にわからなくて・・・」


あきつ丸「いえ、大丈夫ですよ。中尉殿でも目を背けたがるのも分かります。忘れたがるのも仕方がない」


あきつ丸「あの事件とは、『捨て艦戦法』の事であります」


あきつ丸「つまり・・・私達第五世代は、『捨て艦戦法』全盛期だったのでありますよ」


名取「捨て・・艦?」


あきつ丸「・・・聞いたことはありませぬか?」


あきつ丸「(この反応、とても演技には見えない・・・本当に何も知らないのでありますか)」


あきつ丸「(・・・仕方ない。中尉殿、これは『さーびす』でありますよ)」


あきつ丸は『捨て艦戦法』を自身についての話と絡めて名取に伝えた。そうしないとこのバカげた作戦について理解してもらえないと思ったからである。


『捨て艦戦法』とは強力な〈オリジナル〉を守るために、装備の質・錬度が低い〈量産型〉を大量に出し惜しみなく出撃させ任務を成功させる戦法であること。また、当時はまだ提督・鎮守府の数が急激に増えていたために大本営の監視の目が行き届いていなかったことを良いことに、多くの鎮守府が失われた量産機の存在を隠蔽していたこと、


更には、自身の身体がその壊れた量産機の残骸や肉体を陸軍が買取・回収し使えるパーツを流用して作られたこと。作られてから今までこの鎮守府の長良とともに『捨て艦戦法』の作戦に幾度も出撃し、そして疲弊し何度も友の沈む姿を見ながら死にかけたがそれでも生き残り、そして2人で脱走し飢餓と疲労の果てに天龍と深雪の2人に助けられたこと・・・・・・・


一言一言あきつ丸の口から言葉が紡がれるたび熱が入り、名取に止められるまであきつ丸は我も忘れて話を続けた。落ち着きを取り戻すころには2人のコーヒーはすでに冷たくなっていた。


あきつ丸「それ以降自分、あきつ丸航空参謀は、現在に至るまで力の限り将校殿や上官殿のみなさんに恩を返し続けているであります」


当時、2人の精神は仲間の死や惨状をあまりにも短い期間に数多く経験しすぎたために半ば壊れかけていた。だが幸運なことに天龍達により助け出されたことで辛うじて完全に壊れることはなかった。そんなあきつ丸が鎮守府の仲間を階級付けで呼ぶのは助けてくれたことへの彼女なりの表現なのだが、それを知るのはあきつ丸本人だけなのであった。


あきつ丸「一生懸命何をやっても褒められず、潤沢な資源があれども生きるのに苦しく、いくらでも代わりがいるのだから死んで来いと言われたようなあの頃と比べて、この鎮守府は何をするにも資源はギリギリでありますが楽しく、笑顔が必ずどこかにあり、たとえ失敗しても将校殿や古鷹参謀殿が優しく叱ってくれる・・・・・」


あきつ丸「そんな中で自分は量産型でありますが生きていて良いということ、自分が何者であって何ができるのかが少し分かってきたのであります」


名取「自分は何者で・・・何が出来るか・・・」


あきつ丸「とはいえど、結局自分自身、この身体ではっきりと分かっている事といえば飛行甲板は飛鷹型を流用していることくらいで強化筋肉・皮膚の類は混ざりすぎて誰にもわからないままでありますが」


名取「・・・・・ご、ごめん・・その・・・嫌なことを思い出させちゃって」


あきつ丸「いえ、上官殿の質問には極力答えねばなりませんから」


あきつ丸「しかし中尉殿は本当に知らないのでありますか?」


名取「ふえぇ・・ごめんなさい・・本当に知らなかったんだって・・・そんなに怒らないでよ・・・」


あきつ丸「あ、いえ怒ってはいません、大丈夫であります。ですがおかしいでありますな?たしか長良型はその性能とコストの良さからか第五世代にはそのシリーズのほとんどが大量に生産されていたと聞きましたが・・・」


あきつ丸は首をかしげながら冷めたコーヒーを一気に飲み干す。


あきつ丸「名取中尉殿は長良中尉殿と同じ第五世代の出身ではないのでありますか?」


名取「それが・・・その・・そういうのはちょっと私も分からなくて・・」


あきつ丸「それは困りましたな・・・・!っと中尉殿、時間であります。まだ多少は余裕がありますがそろそろ戻りましょう」



―――――

役目を終え、本土を離れて数時間後、頭上の茜色のキャンバスへと墨が流し込まれたように夜が訪れ始める。しかしそんな美しいグラデーションを見向きもせずに海上を走る一団は水飛沫を激しく跳ね上げ、吹き上がる水柱の付近を蛇行して激しく突き進む。空中へ打ち上げられた水塊が弱い陽光を浴びて橙色に染まり、その間を鉄の箱と少女達がすり抜け、遅れて海を割る歪な鉄塊が飛び込んだ。その後方に追い迫るのは黒塗りの機体を殺意と鉄で練り固めた落雁の如き存在、深海の艦隊。


提督「名取、長良は後方の奴らへ主砲で弾幕を張って!出来るだけ積み荷へ近づけないように!」


提督は血と汗の臭い混じりのコックピットに座し、割れた防弾ゴーグルをかなぐり捨て射撃トリガーを引きながらインカム越しに指揮を執る。機関ペダルを一杯に踏み込むが更に速度が落ち、コンプレッサーの被弾を知らせるアラームが鳴りやまない。


あきつ丸「7時の方向より増援アリ、駆逐2に軽巡1!新たに九六艦戦を向かわせて足止めさせるであります!」


あきつ丸は15,2cm二十六年式拳銃を折り排莢させ、5発の弾薬を空中高く放り投げた。その間に飛行甲板を広げ艦戦の影を投射し10機の艦載機を発艦、落下した弾薬を受けとめリロードし再び銃撃を開始する。


本土からの帰り道、水平線上に鎮守府の島が見えてきたというところで深海棲艦との遭遇戦に会ってしまった一行はすぐさま航路を変え迎撃戦を行っていた。攻撃を仕掛けてくる敵艦の数はそれなりに多いが、艦種は駆逐艦か軽巡のみでありどの艦も初めから損傷を負っている。おそらくはぐれた者同士が群れたものであろう。だが、機関部への損傷を負った特大発を守りながらの戦闘は一層の困難を極めていた。


長良「それっ!」


長良が敵の砲撃のスキを突き魚雷を8本放ち接近する数機の駆逐艦を沈める。予備の魚雷も打ち尽くした長良はライフル型単装砲を振り追いすがる敵へ牽制をし名取との二人一組で各個撃破を狙う。だが長時間の戦闘故か、はたまた練度の違いからか、少しずつ両者のタイミングにズレが見え始めていた。


名取(大破)「きゃあっ!」


長良「名取!?」


そこへ名取が直撃弾を受け吹き飛ばされる。長良は前方に僅かに出、適度にライフルを振りつつ後方の名取を一瞥する。すぐに起き上がってはいるが利き腕の右肩がだらりと下がり指先がピクピクと痙攣していた。


名取(大破)「だ、大丈夫、まだやれるよ。左の軽巡をお願い!」


左右側面の14㎝単装砲を苦痛に顔をしかめながら撃つが態勢の崩れた砲弾が当たろうはずもない。長良は周囲の状況を確認した。護衛対象の提督の特大発は積み荷を満載し、逃走を図るもいくつか被弾の為早期の戦線離脱は困難。名取は大破・疲弊し、残った敵艦は手負いの駆逐4・軽巡3の合計7機。あきつ丸は発艦済みの艦載機を半数撃墜されてしまってはいるが別方向からアタックをかけたハ級2機相手に上手く立ち回っている。


長良「(それなら・・・・)」


長良「名取は下がって提督のところに!あきつ丸、『白兵戦法2号』用意!」


あきつ丸と交戦するハ級の1機の頭部を巧みに吹き飛ばしつつ呼び掛ける。


あきつ丸「おお!久しぶりにアレをやるのでありますな中尉殿、了解であります!」


あきつ丸は眼前のハ級に中口径弾を撃ち込みとどめを刺す。長良は後退する名取への敵の射線上の間に立ち壁となり、あきつ丸と合流を果たした。彼女らは〈量産型〉だ。妖精の力を伴わない艤装で大破すれば何時何が起こるかも定かではない。


あきつ丸「こうして2人で一緒に戦うのは久しぶりでありますな中尉殿。ちょうどこの鎮守府に来る直前もこんな状況でしたかな?」


給弾をし手袋を擦りながら長良に話しかけるあきつ丸。その左右の手甲にはマジックで荒々しく大きく書かれた『改』の文字。


長良(小破)「そうね。でも、全然違うわ」


あきつ丸「と言いますと?」


あきつ丸は軽く鼻で笑い、銃撃しながら再び問う。後方の敵群へと長良が狙い撃ち、あきつ丸が上空の艦載機と中口径拳銃で注意を逸らす、息の合った弾幕が最後の駆逐艦に風穴を開けた。


長良(小破)「なによ、悪い?名取達を守る事はそんなに可笑しいかしら?」


あきつ丸「いえいえ、やはり感情の擦れたあの時よりも今の中尉殿の方が頼りになりますよ、っと」


2対3、そうなるように砲撃で敵の動きを封じ込め、離脱を図る提督と名取のために時間を稼ぐ。やがて敵射程より2人が離脱を果たす信号が送られた。


長良(小破)「言ってくれるじゃないの、来るわよ!」


あきつ丸「噴き出し、流れるように、でありますな!」


あきつ丸は全速で進む長良の肩を掴み後ろに張り付き長良の頭を超えて一直線に飛行甲板を広げる。敵3体は的が1か所に固まったのを見るや単縦陣に陣形を組み、先頭の長良めがけて一斉射撃を行った。


長良(中破)「グッ!」


だが、長良は反撃せずに肩口やライフルのオプショナルシールドで防御に徹しあきつ丸への被弾を防ぐよう期待しつつなおも前進。距離を詰めながら単装砲ライフルと主砲の計5門が粛々と狙いを定めた。


長良(中破)「あきつ丸!」


あきつ丸「言われなくても!」


短距離へと更に距離が縮まる。瞬間、上空へとランプに回転を掛けながら投げた。すると、未発艦であった最後の5機の九六艦戦が飛行甲板から飛び立ち、約300発もの7.7mm弾が一気に敵艦へと叩き込まれた。同時に長良が全門斉射した5本の鋼の矢が先頭の軽巡ヘ級へ吸い込まれる。両者の加速度が乗り、敵損傷部位を狙った長良の精確な一撃はヘ級を貫通し沈め、後方のト級にまで損傷を与える!更に2人の豪雨のような機銃弾弾幕が残りの2機を引き離す!


長良(中破)「今!」


あきつ丸「とおっ!」


あきつ丸は右手の甲の『安全装置』と書かれたビニールテープを引き剥がし、紐を歯で引き抜く。そして反動で姿勢を落とした長良の肩を踏み台にし、飛行甲板を駆け上がり、飛んだ!左手には15.2cm二十六年式拳銃、右手には・・・何もない?いや、見よ!なんとあきつ丸の右手が空気をぶすぶすと焼きながら白熱している!


敵軽巡のト級とホ級は飛びながら迫りくる艦娘に向けて反射的に身体を向け対空姿勢を取った。そこへ無防備に晒した顎と首へと別方向からの膝立ち姿勢の長良のライフル砲弾が着弾し破裂。だが致命傷には至らず!だが、2人にとってはそれで十分!


最も復帰の速いト級が眼前の爆煙越しに予測位置へと全弾を叩き込まんと構える、がそれよりも先に煙を突き破った白熱手刀が頭部から、上から下へ一直線にはんだごてをバターに押し当てるように、ぶすぶすと蛋白質の焼ける嫌な臭いと共に容易く溶断!爆発!


あきつ丸(中破)「これは・・・!」


くるりと海面へ前転し衝撃を逃した彼女は片膝立ちで服が焼け焦げるのにも気付かずに、凄まじい熱気を伴った右手を唖然として見た。出発前の秋津洲とのやり取りを思い出す。


(秋津洲「もう、こうなったらヤケかも!あきつ丸ちゃん、これを持ってっちゃって!!」)


それは自身に渡した物の前身、試作品のプロトタイプであること、そして自身が損傷を起こす程に安全性を度外視した物、と予めレクチャーされてたとはいえ、その実態は明らかに執務室でやらかした時以上であった。


あきつ丸(中破)「(やり過ぎでありますよ技術長殿!)」


背後で砲声が轟く。


はっと我に返り振り返った。爆煙が晴れ始めた海上であきつ丸のすぐそこまでホ級がゆらりと進み出ていた。反射的にトリガーを引く。射撃音の代わりにカチリと雷管を叩く無機質な音が聞こえる。不発弾だ。咄嗟に両腕をクロスし防御姿勢を取る。が、すぐに薄く目を開け、構えを解いた。所々穴だらけになったホ級の機体がゆっくりと沈み始めたからだ。


あきつ丸(中破)「・・・ふぅ」


軽く残心しつつ飛行甲板へと艦載機を着艦させ機体を休ませる。長良が駆け寄って来、別方向からは一機の偵察機が翼を振りながら飛び去った。


長良(中破)「あれは・・・名取の偵察機だね」


あきつ丸(中破)「一時はどうなるかと思いましたが・・・まぁ 作 戦 完 了、でありますな。中尉殿、お疲れ様です」


長良(中破)「うん、お疲れ!」


敬礼と共に頭を下げ、姿勢を直す。黒く酸化した右手袋がボロボロと崩れ落ちた。



名取(中破)『前方5000m先異常なし』ザザッ


提督『了解』


長良(中破)「『後方、肉眼だけど海面上には何も無し、敵はもういないんじゃない?』」


提督『油断しないで、もしかしたら潜水艦がいるかも』


長良(中破)「・・・まあ、確かに、しっかり警戒しなくちゃね」


隊の後方で長良は爆雷を手の上で転がしながら言った。潜水艦、奴らは砲撃の届かない海中に潜み魚雷で攻撃をしてくるやつらだ。長良自身、何度も煮え湯を飲ませられてきた。


あきつ丸(中破)「あ、そういえば中尉殿」


長良(中破)「何?」


あきつ丸(中破)「『長良型』は第五世代に生産された長良型シリーズでありますな?」


長良(中破)「うーん、そうだけど何で?」


あからさまに嫌な顔であきつ丸を見る。


あきつ丸(中破)「あ、いえ、名取中尉殿がここへ来てからまだ数か月、錬度はまだまだ低いでありますが通常と比べて錬度の上がる速度はとても速いかと思いまして」


あきつ丸(中破)「そして量産型艦娘は現在第八世代・・来月で第九世代が製造され始める、と」


長良(中破)「何が言いたいの?」


あきつ丸(中破)「また、中尉殿の箱には『初期型につき』という文字があったそうで・・・つまり」


長良(中破)「あの子が第九世代とでも言いたいの?ハァ・・それは無いわ」


長良(中破)「だって長良型の私と名取は今じゃ設計データが完全に破壊されて製造ラインが完全停止したって話らしいし。それに、今じゃ代わりに私より低コストの球磨型や最新型の阿賀野型の製造が主力よ。わざわざ旧式を製造する所は今じゃほとんど無いわ」


あきつ丸(中破)「むむむ」


名取(中破)『偵察機、鎮守府上空まで到着しました。周辺は依然として敵影なし、です』


提督『了解。みんな、鎮守府内に入るまで気を許さないで、行きはよいよい帰りは恐いってことを忘れないように』


長良(中破)「だって、あきつ丸も考え事をやめてしっかり警戒警戒っ」


あきつ丸(中破)「むぅ・・・」


一団はそれぞれ損傷を負いながらも僅かに予定時刻遅れて鎮守府を目指す。一方、前方では自動操縦に切り替えた特大発の荷台部で提督が肩に刺さった破片を鬱陶し気に取り除きながら木製コンテナの一つをあらため、寄り掛かった。


今日もまた大事な仲間を危険にさらしてしまったが、彼女達のおかげで鎮守府が、天龍が助かるという良い結果を生んだ。だが、提督の心中にはこのような綱渡りをいつまで続けるのか、先の見えない未来をどう進めばいいのか捉えようのない不安や恐怖心が満たされた。


提督「もう少しだけ、あと少しの我慢だ・・・」


胸ポケットから錠剤をいくつも取り出しそれを口に含みアルコールボトルの液体で流し込む。赤い陽は水平線に沈み、寒色に光る月がこちらを見下ろしていた。



鎮守府一週間


【1日目】

天龍「ってわけでオレもまた今日から動けるようになったわけだからな!早く前線に出してくれ!」


執務室、天龍はその場で準備体操をしながら咥えタバコで溌剌と言った。


提督「朝から元気だね・・・」


提督は執務机に突っ伏しながらだるそうに答える、窓から差し込む陽光が提督の着こむ古鷹型セーラー服を柔らかく照らした。


天龍「あん?どうした?・・オイ古鷹、何でコイツこんなに元気ねぇんだよ?っていうかアレお前の服じゃね?」


古鷹「まあ、天龍さんが起きるまでにいろいろありましたから・・・それに天龍さん、提督をコイツ呼ばわりするのはやめてくださいって前から言ってますよね」ニコッ


古鷹の輝く左目が一層強く光った。


天龍「ああ、すまねぇ癖だ癖。次は気をつける。で俺が動けるまでに何があったんだ?コイt、・・・提督もあんな感じだし色々ドタバタしたんだろ?」


古鷹「・・そうですね」


古鷹は天龍にここ一週間の出来事を説明した。襲撃の内容を大本営に急遽報告に行ったこと、警戒線を伸ばしてもらった鎮守府へ菓子折りをそれぞれ持って行ったこと、高速修復材や資源を総力を挙げて出来るだけ集めたこと、などだ。


天龍「なんか、色々すまねぇな。俺が無茶したばっかりに迷惑かけてて・・・」


提督「いーのいーの。それより新調した艤装はどうだった?ここまで運ぶの結構大変だったんだよー」


天龍「悪くねぇ。ただ、刀がなんつうか・・・オモチャみてぇに作りも材質も甘ぇな。いくら量産品といえど、これだったらまだ秋津洲んとこの鉄パイプでも振ってた方がマシだぜ」


天龍は素振りをするジェスチャーを交えて主張する。無理もない、現状最新の艤装を取り寄せたとはいえ天龍型は既に何世代も前から遠征特化型の方式を取り入れている、鬼のようにコストを切り詰められた艤装には兵装などあって無いものであった。


提督「ハハハ・・やっぱり?うん、それは困ったな。これでは白兵戦が十八番の天龍の力が十分に引き出しきれないかぁ・・・いや、待てよ?」


ふと提督はだるそうに立ち上がり、『二周年』と書かれた掛け軸に手を伸ばした。そしてあろうことかそれを分解し始めた。


提督「いやちょっとね・・もう使わないと思ってたんだけどさぁ・・・よし取れた!」


天龍「それは・・白鞘か?」


提督は取り出した白木の軸の一端をガラス細工を扱うかのように慎重に両手に持つ。白鞘とは、日本刀を錆びないよう保存するために作られた鞘のことである。


提督「まあね、でこれをこうしてっと」


さらにそれを分解し、別の白木の箱から取り出した柄、鍔、鞘と新たに部品を加え組み直した。すると、そこには見事な一振りの日本刀が出来上がった。鞘や柄は赤黒く汚れ細かい傷がいくつも付いており、刀身には『伊勢-1/2』と銘の刻みが見える。


天龍「ボロい刀だな、だがこの刃といい輝き・・・名刀だ。初めて見たぜ!なんだこれ!」


刃を様々な角度から光を当てると七色の光沢が様相を変え、ただならぬ雰囲気が感じられた。天龍は目をキラキラさせながら独り言ちた。


提督「使う?要るならあげるよ」


天龍「え・・いいのか!サンキュー!」


提督「元は戦艦用の刀だから使い辛いかもしれないけど、切れ味と耐久性は少なくともアレよりは保証出来るよ」


天龍「戦艦用!マジかぁ・・・」


天龍「・・・・」ウズウズ


天龍はその場で刃の均整を見、うっとりとした眼差しで眺めながら提督へとチラチラと目を移す。


提督「・・試しに振ってきたらどう?」


天龍「そ、そうだな。えへへ、ちょっと試し切りをしてくるぜ!」



古鷹「大事にしてた刀、あげちゃいましたね」


提督「使われずにいるよりマシさ。その方が伊勢さんも喜ぶはずだよ」


提督は執務机の下からケーブルを4本引っ張り出し背中に刺していく。しばらくして身を震わし目に僅かに生気が戻った提督は石灰色のリュックサックよりファイルされた資料を机に滑らせた。


提督「それから、はいこれ」


古鷹「これ、私の改二への改造手術計画の書類じゃないですか!?」


提督「早くなりたいって言ってたしそろそろいいかなと思ってね。必要な備品は全部揃えたし、秋津洲にも話は通してあるから手術はいつでも出来るよ」


古鷹「でも、その間鎮守府の守りが手薄になりますが・・」


提督「それも問題ない。前みたいな事があればアタシが指揮を取るから安心してって」


古鷹「・・・わかりました。では!この古鷹、喜んで改二への改造手術を受けてさせて頂きます!」



【2日目~4日目】

古鷹お姉ちゃんが秋津洲さんの工廠へと入ってから1日が経とうとしている。


改二改造手術。


そう司令官は言っていた。確か『改二』というのは、なれば能力も兵装の質も上がるらしい。あきつ丸お姉ちゃんが似たような経験をしたと言っていたから間違いないはずだ。何故かその後『改二』についての説明を誰もいない場所に向かってしゃべっていたけど・・・


深雪さまももっと頑張ったら『改二』ってヤツになれるかな?


深雪「っしゃぁ!今日も頑張るぞー!」


天龍「へいへい・・ふあぁあ、まさか復帰最初にやることがチビッコの付き添いとはなぁ・・」


天龍はタバコを吐き捨て新たに1本咥え、代用マッチで火をつける。暖色のケープのボタンを更にもう一つ締め、乾いた夜風に身を震わせた。午前3時の訓練場は月も沈みまだ薄暗い。深雪はあの事件以来積極的に暇さえあれば訓練場へと足を運んでいた。無論、事前にその旨を伝えておき、付き添いを連れて行くのと、何かあれば深入りせずに戻ってくる。という決まり事を守ってのことだ。


天龍は必要以上に身を屈め、縮こまりながら周りを警戒する深雪を見た。口ではああ言ってはいるが心に負ったダメージは全くもってゼロというわけでもないらしい。それを象徴するかのように首元の青い防寒マフラーやセーラー服の下には未だ奴の付けた手痕やらが随所に生々しく残っている。


天龍「なあ、チビッコの朝はいつもこんなに早いのか?俺はまだ寝ていてぇんだがよぉ・・・」


深雪「だってみんな資源集めで疲れてて頼りになるのが天龍姉ちゃんしかいないんだよー、それにお姉ちゃんと一緒が何より1番安心するんだって!」


天龍「1番ね・・ヘッ、龍田がこんなの見たらどんな反応をするんだろうな」


深雪「・・・?ねえ天龍姉ちゃん、あれ何だろう。訓練場に誰かいるよ!」


やがて開けた丘に出ると、深雪が何かを見つけ指差した。


天龍「あん?・・・まさか・・また深海棲艦のヤローじゃねぇだろうな?」


天龍は深雪が指さす方向を腰の双眼鏡で覗く。確かに真っ暗な訓練場に1つの動く人影が見えた。だが、それは何やら訓練場に設置された的に向けて砲を撃っている。


天龍「あー、ありゃ深海棲艦じゃねぇ。先に誰かが1人で訓練場全体を貸し切ってやがるぜ」


深雪「名取お姉ちゃんかな?最近は毎日いるし」


天龍「かもな、この砲撃音は・・中口径か。まあおそらくそうなんじゃねえか?」


天龍「どうする?半分開けてもらうように言ってくるか?」


深雪「う~ん、名取お姉ちゃんだったらちょっと申し訳ないしなぁ」


天龍「それなら俺の部屋でみんなが起きてくるまで軽く茶でもしてようぜ、菓子の1つや2つくらいあるからよ」


深雪「いいの?朝ごはん食べれなくならないかな?」


天龍「そんなに無ぇから気にすんなって」



長良「みんなおはよ~」


名取「お、おはようございます」


深雪「お姉ちゃん達おはよう!」


天龍「よっ、今朝の成果はどうだった?名取」


天龍は背もたれに肘を乗せながら数時間前の事について話し掛ける。


長良「何々?名取が何かしたの?」


天龍「ああ、朝から訓練場を貸し切っててよ、全く張り切ってやがるぜ」


名取「ふぇ?私、今朝は何もしてないけど・・・」


天龍「?でも訓練場に誰かがいたことは確かだぞ」


長良「そもそも最近の朝練は1人以上の同伴が条件なんだから名取1人だけじゃ駄目じゃない」


天龍「そういや・・そうだな」


深雪「じゃああれは誰だったんだろう?」


名取「あ、あの!そ、それって古鷹さんじゃないですか?」


名取「訓練場全体を使うってことは『改二』の新しい艤装の試射を・・その・・・していたんじゃないかなーって・・」


深雪「あ、そっか!」


天龍「あー」


秋津洲「みんなおはよー!早速朝ごはんにするかも!今日は海藻サラダに、秋津洲特製カレーライスよ!」



深雪「ゲッ、また飲み物は脱脂粉乳かよー。牛乳はないの?」


天龍「贅沢言うな、カレーと一緒に流し込めよ」


深雪「そうは言うけどさー。マズイんだよな、このミルク」


秋津洲「深雪ちゃん、ちゃんと飲まないと強くなれないかも!」


深雪「うーん」


お世辞にも美味しいとは言えない脱脂粉乳を飲みながら野菜がごろごろと入ったカレーを食べる。物資が豊富な時・・つまり現在の秋津洲特製カレーは様々な野菜や貝、魚が入っておりスパイスとよく合いとても美味だ。逆に物資が底をつきかけると代わりに謎の塊が入るので誰でも鎮守府の状況がよく把握できる料理の1つである。


あきつ丸「ところで技術長殿、古鷹参謀殿の手術は終了したので?」


天龍「それ俺も気になる。どうなったんだ?」


秋津洲「成功成功、大成功かも!NEWカーボナイトボーンの置換に高純度強化筋肉の張替、他にも色々あるけどどれも集大成と言えるほどの出来栄えかも。まさに今までの経験と熟練技術の結晶ともいえるわね!」


天龍「そりゃすげえな。で、いつお披露目だ?今日の昼か?」


秋津洲「む、無茶言わないでほしいかも・・今朝手術が終わったばかりだし、傷が治るまであと3日は絶対安静が必要なんだから」


秋津洲はいかにもやつれ気味の顔をして言った。言われてみれば、確かに目には化粧でごまかしてはあるがうっすらとクマが出来ている。


天龍「そうか、すまん」


深雪「お姉ちゃん、おかわり!」


秋津洲「はいはい。たくさん食べてね!」



あきつ丸「ご馳走様であります。技術長殿、朝餉を将校殿の部屋に持って行った方がいいでしょうか?」


秋津洲「!!ちょっと待って、えっと・・あった!あー、提督から今日のみんなの予定を伝えるように言われていたからそれが終わってからでお願い!」


秋津洲は付箋やクリップでゴチャゴチャした手帳をめくりながら言った。


あきつ丸「了解であります」


秋津洲「じゃあ今日のお休みの人は天龍ちゃんと深雪ちゃんと私の3人で、午前の遠征の人は――――」



コンコンッ    ガチャ


あきつ丸「失礼します将校殿、朝餉をお持ちしたであります・・・?」


午後の遠征要員であるあきつ丸は湯気の立ち上るトレーを持ちながら執務室に入る。だが、執務室には肝心の提督が執務机にもベッドにもいない。ただ、執務机に『通信室にいってるよ~』と書置きが残るのみであった。


あきつ丸「ふむ・・・このまま通信室へお持ちした方がいいか・・いや、もしかしたら朝餉の場に出れぬ程の重要なお話をなさっている可能性があるかもしれないでありますな・・・」


その時、あきつ丸の脳内に電流が走った。


あきつ丸「(ん?・・・将校殿は今は通信室→古鷹参謀殿は絶対安静が必要である→そして午前の遠征要員はすでに出発した→この部屋には今自分1人・・・・!!)」


あきつ丸「トレーはここに・・鍵をかけて・・さてっ、自分あきつ丸航空参謀がここに執務室のガサ入れを宣言するであります!」


軍帽より針金の類を取り出し普段厳しく閲覧の限定される棚や執務机の鍵穴へあきつ丸は開錠を試み始める。上官への背信行為、ひいては鎮守府全体への裏切りになるこの行為。だが、自分は欲望と好奇心に関しては人一倍忠実であった。見たいから見るのであります、皆様もそう思う時、あるでしょう?それに、ここにはあの謎の手掛かりがある筈。ワクワクで顔がつい綻んでしまうのであります!


あきつ丸「あ、こちらをご覧になっている提督殿はくれぐれも音を立てぬようにお気を付けを!」



提督「ふるたか~、体大丈夫?」


同時刻、提督は紙束を小脇に抱えて古鷹の寝ている工廠の医療用ベッドへ顔を出していた。体中包帯だらけの古鷹の頭を軽く撫で、額に自身の額を重ねパイプ椅子に腰かけた。


古鷹「あ、提督・・もう少し休む必要があるみたいです。でも、何かあればそこで寝ている秋津洲ちゃんに頼むことも出来ますし・・・すみません」


秋津洲「グォー、スピー・・・」


古鷹は壊れたマッサージチェアにこちらへ背を向ける秋津洲を指差した。


提督「いーのいーの、それより何か食べたいのとかある?」


肩掛け鞄を逆さにし医療机へあけ、缶飲料や果物を出して見せた。


古鷹「・・・ではそこの桃の缶詰が、うん、欲しいな」


提督「了解」


提督は甲斐甲斐しく看病をし、古鷹はなすがままに顔を赤くしながら目を閉じ身を任せる。


秋津洲「(・・・起きるに起きれないかもぉ・・!)」


そしてその後方で寝ていた秋津洲が起き上がるタイミングを逃し、2人だけの空気の中を1人悶えていた。



あきつ丸「ほっ・・ほっ」タッタッタッ


名取「み、みんな待ってよ~」ゼエゼエ


秋津洲「ヒィ・・・ヒイ・・も、もう疲れたかも~」ヨタヨタ


深雪「名取お姉ちゃん頑張れっ」タッタッ


翌日の朝、特に何も無い日。基本的にそんな日の午前中は全員が基礎体力や戦闘技術などを鍛えるのがこの鎮守府の決まり事である。無論、服装はジャージなどの体操服を着こんで行う。


ピッ  ピッ


長良「ん!天龍さんが60分ジャスト、司令官が60分10秒っと・・・新記録です!」


天龍「ゼェ・・ったりめー・・だろ・・・ゼェ・・世界水準・・ヒュー・・・超えてンゴホッ!」


提督「ハァ・・ハァ・・ほれ天龍、ゴクゴク、水飲め水。ゴポッ・・・カハッ」


提督はヤカンを天龍に差し出す。


天龍「ングッ、ップハァッ!・・ハー、フゥ、生き返る・・・しっかしよぉ、20㎞もの間ずっと俺に付いて来れるなんてな、さすが俺が認めた女だぜ」


提督「そりゃどうも・・・ケホッ、まぁ腐っても一応軍属だからね~、とはいえ今回は天龍が競ってきたからあんなタイムが出たんだけど」


天龍「そりゃあ、あんだけずっと寝てたからな!体も動かしたくなるってもんよ!」ケラケラ


提督「しかしウチらが全速力で走っても長良には追いつけないとはねぇ・・」


天龍「俺らみてぇに息上がらねえし、砂浜を滅茶苦茶なスピードで走るし、で、余裕で50分切るんだろ?バケモノかよ・・・」


2人はストップウォッチとボードを持ちながらタイムを数える長良を見る、このマラソンでは最初に走り切った者がタイムキーパー役を請け負う。が、未だに長良以外が請け負っていたことが一度として見たことがない。


長良「ほらほら、2人ともいつまでも休んでないで終わったら次のメニューに進む進む!」


天龍「へいへい」


提督「ふぁ~あ・・・っと、よし行くか」



カンッ!  カッ!  カカンッ!


乾いた木のぶつかる音が砂浜のはずれの一角に響き、木刀を持った2人は互いに打ち合う。切り、払い、受け、流し、バランスを崩させる。巧みに追い詰められよろめいた提督へと天龍が一気に間合いを詰め仕掛けた。


天龍「どりゃぁっ!」


目の覚めるようなキレの籠った突きが提督の喉笛目がけて空気を切り裂き突き進む。絶対の自信を持つ一撃が決まろうかとする時であった。


提督「っ踏み込みが甘い!」


天龍「おわっ!?」


天龍の木刀が手を離れ砂浜に垂直に突き刺さる。次の瞬間肩口へと提督の木刀の刀身が乗せられた。


提督「よし、今日はここまでかな」


提督は木刀を放り、赤くなった手をブラブラと振った。


天龍「クソッ、いつもその技で終わらせやがってよ・・」


天龍は手をさすりながら木刀を拾う。何が起きたのかは見えていた。提督は強引にバランスを取り戻し、あの直撃の一瞬に枝葉に巻き付く蛇の様に刀身を這わせ、こちらの力を利用し手首のスナップだけでいとも容易く刀をもぎ取ったのだ。


提督「しょうがないよ、これしか天龍に勝てる方法がないんだから。そもそもこのくらいしか能がないからねぇ」


提督「さ、時間も時間、一度昼休憩だね」


天龍「・・そういやそろそろ昼飯か」



夜、執務室内で天龍は窓枠に肘をつき外へ向けてタバコを吸いながら物思いにふけていた。提督は古鷹の見舞いに行き、室内には長良と深雪が新設されたコタツに並んで入り仰向けにイビキを立てて酒瓶片手に寝るあきつ丸の胸の上へとみかん塔を建設している。


天龍のタバコを持つ右手とは反対の手には丸まった新聞が握られていた、以前長良が遠征途中で他鎮守府の遠征隊と出会ったときに貰ったもので、日付は最近のものだ。紙面には最新の第九世代目の量産機の宣伝、軍のプロパガンダの類やらと様々である。だが、その中でも一際目を引く記事があった。それはこの前、つまり量産型艦娘強奪事件についてであった。


記事には、被害の報告を受けた大本営はすぐさま情報網を総動員させ敵の本拠地を迅速に発見、これを有力な鎮守府による連合艦隊を編成し、見事拠点を破壊。強奪にあった「第五遊撃隊所属の『吹雪』」を奪回に成功。この戦いにおいて大本営は量産機の配備数の増強並びに汎用装備・艦種の充実、更に実力のない鎮守府を潰し戦力を実績のある鎮守府へと集中させるように主張した・・・というものである。


だが天龍は知っている。強奪されていたものは1人だけではないこと、一部情報を提督が自主的に大本営へと届けたこと・・・僅かではあるがこれらを秋津洲から聞いていた。そして『実力のない鎮守府』というのも引っかかった。それもそのはず、ここは鎮守府正面海域などの近場ならまだしもそれより遠方の・・・例えば「沖ノ島海域」などとなると他鎮守府との共同で作戦を行う必要があるほど戦力に乏しいからだ。


・・・この情報は実際数日前のものだ。その後はどうなったかは分からない。それが天龍を更にもやもやさせた。



提督「おっ天龍じゃん、お疲れ。こんな夜更けにどうしたの」


天龍「ん、提督か・・ちょっといいか?」


天龍はタバコを地面に押し付けもみ消す。深夜、月明かり差し込む工廠で天龍はタバコを吸いつつ桟橋に腰かけていた。おそらくここに来るであろう人物・・・提督を待っていたのである。そして今、はたして工廠に提督がやってきたのであった。


提督「何?早く寝ないと体に毒だよ」


天龍「2つ聞きたい。まず1つ目だ、この鎮守府はこれからどうなるんだ?」


提督「藪から棒に何だい?」


突然の質問に提督は少々困惑気味の顔を浮かべる。


天龍「なぁ、あまり言いたくはねえんだがよぉ、俺たちは・・・弱い、だろ。で戦果も実際良いとはいえねぇ、せいぜい周辺のはぐれ深海棲艦を掃除する位だ。そんなんでこの鎮守府は・・やっていけるのか?上から存在価値が無いと見られて最後は何かの捨て駒にされて終わりは・・・・正直嫌なんだよ」


青白く波打つ光に照らされた中で本心を言い放つ。提督は一瞬はっと息を呑んだ。


提督「・・・それは無いよ。軍の荷物にならずにほとんどを自分たちの力で少しずつ深海棲艦を沈めていく、これだけでも一部から評価はあるし、しっかりとこの国に貢献しているさ。それに・・そんなことは間違っても口にしちゃいけないよ」


工廠の薄闇の中、提督は黒い瞳で天龍を見据えながら静かに、だが重く言う。天龍の足元で波がぶつかり工房内に不定形の青い光のコントラストが桟橋付近の壁面に写しだされる。すっかり冷えた夜風が出入港口の蔦を揺らした。


提督「何があってもね・・・それに、捨て駒には絶対にさせない・・・この身に変えても・・絶対にね」


ぶる、と身を震わし古鷹型セーラー服から出た腕を擦る。心なしかその口調はどこか無機質であった。


天龍「わかった、変な心配してすまなかったな」


提督「・・・ふぁ~あ、それで、2つ目は何なのさ?」


提督は桟橋へと歩みより、眠そうに目を擦りながらいつもの口調で聞き返した。


天龍「おお、そうだったな。次に2つ目だ」


天龍「提督って艦娘なのか?」


新しいタバコに火をつけ、両腕を後頭部に回す。


提督「おもしろいね・・・何でそんなことを?」


提督は天龍の隣へと腰かける。天龍は途切れ途切れに自身の考えを口に出した。


天龍「ふぅ・・・・まぁな、その・・何だ、前の夜に訓練場にいた奴ってのが誰にも当てはまらなくってよぉ・・・で、もしかしたら・・・いや、おそらくそいつは深海棲艦でなく艦娘で・・・あー、んでもっておまけに俺の机にこんな物が置かれててな・・・」


天龍は髪をくしゃくしゃと掻きながら煙を吐き、1冊のスクラップブックを開いて見せる。提督はアルコールボトルを傾けつつ見た。


提督「なるほどね・・・」


無個性な表紙を開くと中には様々な紙が張り付けてあった。文字が擦れ皺だらけの黄ばんだ新聞記事、軍部からの手紙類、血や硝煙で汚れた古いIDカード、どこかの工場で撮られたであろう、似たような服装と髪型の少女たちの古い白黒の焦げた集合写真の数々・・・そして少女達の顔はどれも提督と姉妹の様にそっくりであった。


提督「・・・ってことはアタシの机の中を見たのかい」


提督は黒い瞳に影を落としながら言う。


天龍「あー・・俺じゃねえ、あきつ丸だ。俺が持ってた方がいいって丁寧に謝罪文付きの手紙と一緒に置いてやがったんだ。だから見てねえよ、本当だぜ。まあ、本は見ちまったが・・・」


提督「う~ん・・・」


天龍「すまん、なんか提督を疑うようなことをしちまって。もう言わねぇ」


提督「いいよ、別にいい。で、何だっけ?ああそうだ、アタシが艦娘かどうかだっけね。答えは違う、だ。だけどそうだ、とも言える・・・かな」


天龍「は?」


提督「こーいうのは色々難しいんだ、まあなんと言えばいいのかな・・あれだ、結構複雑なんだよ。だけどまあその本にあることは全て本当だよ」


天龍「つまり、こうか?『提督は艦娘ではないが艦娘である』ってか」


提督「まあね・・・ん~っ」


提督は立ち上がりポキポキと背骨を鳴らしながら、月明かり差す桟橋から暗い工廠へと足を進ませながら答える。


天龍「意味わかんね」


提督「確かに。ところで天龍、アタシ・・・アタシなんだけどさ・・名前、何だっけ?」


提督が工廠の天井に吊るされた鎖を上から下へと動かす音の中呼び掛ける。


天龍「はぁ?・・・ついにボケたか?たしか衣笠・・『衣笠メイコ』だろ?」


提督「当たり。確かにアタシことこの提督・・『衣笠名古』中佐は艦娘ではないね」ガチャッ   ギギギッ


そして提督はひしゃげたロッカーより何かを取り出す。


提督「じゃあさ、天龍。その本の持ち主、もといそこに貼ってあるIDカードの名前は読めるかな?」


天龍「読めるぜ、イネシロ・・・じゃなくて「イナギ キョウコ」、『稲城香子』だ」


提督「そう、でさっきアタシは『艦娘であるが艦娘でない』と言ったんだ。つまり・・・よいしょっ」ガシャン


提督が錆びまみれのバルーンライトのスイッチを入れる。数秒後、ライトが周囲の工廠を・提督を照らした。そこには1台の艤装を装着した提督がいた。


提督「つまりそう言ったのはアタシが『衣笠名古』という提督で『稲城香子』という1人の艦娘だったからなんだ」


天龍「・・・まじかよ」


提督「大マジさ」


天龍は考えが追い付いていなかった。今の天龍の状況を例えるならばいつもの飲み屋で出会う長年の飲み仲間のおっさんに冗談めかして私のお兄さんみたいだ、と言ったら「今まで黙ってたけど実は君の生き別れの兄なんだ」と真顔で言われたようなものでもある。言葉が上手く出ないのも頷けよう。


提督「艦娘といってもみんなと同じ〈量産型〉だけどねー」


天龍「・・・量産型艦娘で提督かぁ、なんかカッコいいな!」


頭の混乱よりも珍しい物好きな心が勝った天龍は些細な疑問すら吹き飛ばして近寄り上から下まで舐めるように眺めた。


天龍「なあ!もっといろいろ聞かせてくれよ、その艤装の事とかさ!」


提督「別にいいよ」


提督は工廠の積み荷の木箱から「侍道」と書かれたビール瓶を取り出し王冠を弾き飛ばす。しばらくしてバルーンライトのまぶしく熱い白い光が暗い工廠を照らし壁面に瓶を交互に傾け合い話す2人の影を映した。



【7日目】

通信室の壁に掛けられたコルクボードに新しくプリントアウトされた紙を留めていく。机には点滅を繰り返すディスプレイに通信機・盗聴器の類が積み上げられ、ヘッドホンやディスプレイには文字や音が休む暇なく満たされていく。その中央に座す提督はノイズまみれの通信音に耳を傾けていた。


『――ここも明日第1艦隊とともに鎮守府から引き上げるつもりさ』


提督「そうかい、お疲れさん。提督をやめた後・・その後はどうするんだい?」


『そんなの決まって無いよ。まあ最悪国防港湾軍でも行くとするかな』


提督「・・今までありがとうな」


『こちらこそ、あの子たちにもいろいろ助けてもらったよ。じゃあな』


ブツッ    ピーー


提督は手元の紙の『湯素島鎮守府』の文字に鉛筆で線を引く。今週で潰れた鎮守府は2つ目である。


提督「ここらで残ったのは・・・橋本提督んとこの『春江鎮守府』だけかぁ・・」


件の強奪事件より大本営による戦力集中作戦が行われ、比較的実績の無い鎮守府から有力な鎮守府へ艦娘の異動がここ1週間で驚くほど迅速に行われている。その際無人の鎮守府、提督に関しては数が飽和し切ってしまっているため解体や退職が余儀なくされていた。


提督「これに関してここは、まだ大丈夫として・・さて、これはいかがなもんかねぇ」


提督はノートパソコンに映る秋津洲から解析され送られてきた数枚の艤装の設計図を見た。


時は少し遡る。


大本営への取引の後、提督は少し引っかかり再度この事件について『吹雪』について調査を独自に開始。大本営のデータバンクへと侵入してみたところ、吹雪の精神プログラム中に追加された不自然なほどにプロテクトの堅いフォルダを発見したのであった。それをコピーして秋津洲に解析を依頼し、つい先日この解析に成功したものであった。


その内容としては大きく分けて2つあった。1つは吹雪の『改二特別改造案』というものであり〈量産型〉の吹雪を極限までオリジナルと変わりない性能へと変える改造設計図というもので、2つ目は用途不明な4種類の新しい戦艦の艤装の設計図であった。おそらく改造設計図をダウンロードするときに一緒にデータとして入れられたものであろう、現物では配達に時間がかかるばかりでなく流出や紛失の為があるためだ。それがあの事件の前日にダウンロードされていたのであった。


提督「新聞は救出成功と書いていたから大丈夫なんだろうけどなぁ・・こっちは無事なのかな」


ポーン

長良『こちらサーモン海域攻略分隊旗艦の長良です。司令官、応答を願えますか?』


提督「『ハイハイいるよーこちら衣笠提督、現在地点を教えてね』」


長良『はい、現在はポイントDから合流予定のポイントHへと単横陣で進軍中です。それと艦隊に問題無し』


提督「『よし、ではポイントHで春江鎮守府の攻略本隊と合流後、旗艦の金剛に指揮権を移しそちらの指揮下に入ってね』」


長良『了解です!』


提督「『最後にいつも言ってるけど、昔みたいに無茶は禁物だよ。君たち1人1人はアタシにとって〈オリジナル〉みたいなもんだからねっ!』」


長良『わ、わかってますよ!もう、毎回昔のことについていうのはやめてくださいよ~』


提督「『よし、じゃあがんばってね』」


長良『はい!では、通信終わります!』ブツッ


提督「・・・・・・ふぅ」ギィギィ


錠剤をかみ砕き、身体を椅子に預け手を後ろへ投げ出す。この日の服装は制帽に地味な上下の服を着ていた。


いつもこの瞬間は何年たっても胃に悪い、それ程に彼女達が信頼における仲間だからともいえるからだ。今回の作戦は南方海域の再解放のために春江鎮守府の艦隊を軸として『長良』『名取』『あきつ丸』『天龍』の4人を鼠輸送等の間接的な支援に充てることで本隊を戦闘に集中させるようにする、というものだ。


コンコン


提督「開いてるよー」


ガチャッ

秋津洲「失礼します、提督お疲れさまかも。みんなはどうだった?」


作業着を着こんだ秋津洲が開発の報告書を持って入ってくる。途端に通信室が機械油のむせる臭いに包まれた。


提督「本隊とそろそろ合流するころだってさ。無事に帰ってくるとは毎回わかっていても結構クるもんだね」


秋津洲「緊張感を持つ事はどこでも大切かも、それがみんなを支える者なら尚更よ。はい、今週の開発の結果」


提督「ありがと、んー・・・なるはど、久しぶりに『烈風』が出来たんだ。正式な設備もないのにこんな物が作れちゃうなんて本当に秋津洲はすごいよ、天才だね」


提督は秋津洲の頭を撫でる。


秋津洲「えへへ、照れるかも///」


提督「ああそうだ、これありがとうね」


ふと、提督は机からテープレコーダーを取り出した。テープには『秋津洲の1度は言ってみたい10のセリフ』と書かれている。


秋津洲「!これどこに置いてあったの!?」


提督「ん?この部屋だけど」ガション


ピガガー!

『・・話は全て聞かせてもらったかも!大艇ちゃんと私がここにいる限り深海棲艦に栄光は訪れない!』


秋津洲「!?」


『まったく、失礼しちゃうかも。それよりさっきから鎮守府と大本営で盗聴した内容が全然違ってびっくりしちゃったよ。いくら大本営でも嘘はいけないかも!』

『天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!悪徳提督を倒せと私を呼ぶ!大空を切り裂く一筋の緑の流星、秋津洲ただいま参上!』


秋津洲「あ、あああああ///////////て、提督。それ止めて!早く止めて!!」


みるみるうちに秋津洲の顔が赤くなっていく。


『アッハッハッハ!やっぱりみんなこの秋津洲ちゃんがいな・・』


ガチャッ


提督「ま、なんだ。色々役に立ったよ、ありがとうね」


秋津洲「~~~~~~~~っ///(黒歴史!黒歴史かもっ!!!)」




秋津洲「ねぇ提督提督」


秋津洲は折り畳み式テーブルでまずい合成コーヒーを啜る。提督は片耳にヘッドホンを当てたまま返事をした。


提督「何?」