2017-11-15 08:20:15 更新

概要

戦艦「日向」を旗艦とした弱小艦隊「雷雲戦隊」、対する相手は【鎮守府最強】!?
各員の意地と誇りを胸に、今最後の決戦に挑む!暗躍する提督、陰謀の果てに至る真実とは?立ち上る雲【最終章】11月14日更新


前書き

上「立ち上る雲―航空戦艦物語―」


中「立ち上る雲-雷雲戦隊奮戦記-」
下「立ち上る雲―海軍演習血戦記―」←イマココ



 エゴ:エゴイズム〈ラテン〉・【ego】〈英〉

 1. 自我

 2. 自己中心的、利己的思想


 自分のエゴが、他者を虐げている事には気付いている。罪悪感なんて物は、こんな体になった時に全て捨てちゃったけど。それでもお姉様は、こんな私の中にも優しくて他人を思いやる心があるんだって言ってくださった。

 とても信じたくはなかった。周りに気を遣い、優しく微笑んで、皆から愛されるようにふるまって。そんな「私」がいるなんて信じたくはなかった。


 反逆せよ。反逆せよ。


 精神の安息はそこにある。友達も仲間もいらない。孤独は困難であり強さの証明。永遠にこの「我」と生きていく。深海の底まで連れて行く。私だけの愛しい欺瞞。


「榛名ったら!どこに行ったのよ…もうっ!」


 名を呼ばれて目を開けた。暗い倉庫に満ちた冷たい影の中で、ゆっくりとまどろみから覚醒する。曖昧な頭で顔を上げると、後頭部に冷たいコンテナの感触が触れた。

 考え事をしていたのか、眠ってしまっていたのか、意識があったような、溶けていたような。虚ろな思考を振り払って声を上げた。


「ここです、霧島」


 迷路のように入り組んだコンテナの隙間から、私の「一日遅れの妹」が顔を出した。大きく肩を上下させて息を荒げている。私を探し回って外まで出ていたのだろうか。


「演習が始まるわよ。もうみんな準備してる」


「わかっています。すぐに行きます」


 寄りかかったコンテナから背を離す。埃だらけのシャッターに手をついて、両足に力を込めた。それでも、全身を包む倦怠感に自然と肩が下がった。

 その後ろ姿を見て、霧島のメガネがきらりと光る。フレームの横を手で押さえて、気怠そうな背中に声を投げかけた。


「本調子じゃないわね。気分が乗らない?」


「…何よ?」


 ため息とともに、不機嫌を言葉に乗せる。

 他人の仕草や些細な行動から、本人すら気づいてない心の揺れを観察するのは霧島の得意技であった。そしてそれを簡単に口にするのは霧島の悪い癖でもあった。


「自覚無いの?日向の事よ。いつものアナタなら目をギラギラさせて「ぶっ殺す」って意気込んでるのに」


 容赦無いつっこみに、小さく口元が緩む。

 なるほど、違いない。榛名も自分で自分が見えていないほど愚かでは無かった。いつもならどうやってあのポンコツを文字通り鉄屑に堕(お)とすかを画策する所であろう。

 しかし今日に限っては、苛立ちを隠す事もせず、適当に答えを濁した。


「「あの日」なのよ」


「あら、お薬飲む?」


「本気にしないで」


 生真面目な妹に大きく肩を落とす。


 わかっている。

 自分らしくない事。その理由だって想像に難くない。

 榛名はコンテナのジャングルを抜け、倉庫の端に吊るされた自分の艤装に背を向けて立った。腕を組み、遅れてやってくる妹を待つ。側に寄ってきた霧島が榛名の腰回りに手を当てて、「ふむ」と首をかしげた。


「少し太ったんじゃないの?」


「五月蠅い。早くやって」


「はいはい」と霧島が吊り下げられた鎖の長さを調整する。ぶら下がった艤装が重力に従ってぶらぶらと激しく揺れた。主砲をちょうど榛名の背中と同じ高さに調整すると、鎖を巻くハンドルの手を止める。榛名に近寄って艤装と背中をぴたりと密着させた。

 榛名の腰を覆う連結器と艤装がぶつかって重い衝撃が広がる。ガコンと重々しい接続音を響かせて、連結器の爪が主砲に噛み付いた。フックを外し艤装と鎖を分離させる。支えを失った艤装は、完全に榛名と同化していた。


「軽い…」


 腰を回してそう一言。霧島は得意顔で鼻の穴を広げてみせた。


「素材を一から見直したの。妖精さんとも話し合った自信作よ」


 普通艦娘の「艤装」は人間の技術者と妖精達が手掛ける物であるが、妖精達と直接意思疎通がとれる艦娘がエンジニアを務めた方が結果的に効率的な事も多い。

 金剛型の艤装は専属の技師を介さず、全てこの4番艦霧島が制作・整備を担当していた。


「霧島の自信作は碌な事がありませんから。せいぜい自壊しないように祈ってます」


「そんな事言うなら「私の部屋」でやらずに、ちゃんと工廠に行って正規に着装すればいいじゃないの」


 埃だらけの倉庫を見回し、漏れそうになった溜め息を口の中で噛み殺す。鉄骨のぶつかる音が反響し、回転ノコギリが火花を上げる。引きずった鎖がじゃらじゃらと耳障りな鳴き声を上げた。

 捨てられた廃倉庫を改造した霧島の私室が、他の艦娘から「四女の工廠」と呼ばれている事を知らないのは、噂話に興味の無い本人だけであろう。


「榛名に口答えできる立場ではないでしょう、キリシ」


「本当に機嫌が悪いわね」


 霧島が椅子の背にかけてあった白衣を手に取って肩から羽織る。キャスター付きの椅子に腰かけてカルテを覗き込む姿は、軍人と言うより医者か何かと言われた方がよほど説得力があるように見える。


「弱い者いじめは気が乗らない?」


 榛名が倉庫の床に唾を吐く。

「わかってるなら聞くな」と目で訴えるが、視線を受けた霧島は言い当てたのが嬉しいのか、にんまりと口の両端を吊り上げた。


「「油断しない方がいい」なんて慰めにもならないわね」


 霧島の手にしたカルテ、留めてある資料は日向率いる雷雲戦隊と、榛名属する横須賀第一大戦隊の比較データであった。


「編成的には、駆逐艦と戦艦のトレード。それだけでもおかしいのに、病み上がりの神通や医療所属の古鷹型二番艦。爪はじき物の江風。姉とは真逆の五十鈴妹。そして可愛いがウリのウエイトレスちゃんときた」


 あまりにも戦力に差がありすぎた。航空戦艦の不確定要素を含めても、まともな戦闘データが取れるとは到底思えない。戦力「差」と言うからにはそう、横須賀第一大戦隊のその名に恥じぬ猛者達が、戦力差をより広げる要因となっていた。


 横須賀のエースオブエース「金剛」。

 金剛型3番艦【狂犬】「榛名」。

 駆逐艦最高火力記録保持艦【撃墜姫】「夕立」。

 秘書艦(さいきょう)の女「古鷹」。

 孤高の天才「五十鈴」。

 元祖・夜戦鬼「川内」。


「ケンカしないようにね。皆我が強いから」


 心配事と言えばそれくらいか。

 一見バランスが取れているように感じる編成だが、横須賀を知る者から言わせれば、目を見張るようなめちゃくちゃな艦隊だ。

 まさに鎮守府の撃墜数ランキングの上から六人を寄せ集めただけのようなこの艦隊は、とてもあの丁嵐が考えた組み合わせとは思えなかった。

 チームワークなどとは無縁な6人だが、敗北とはもっと縁が無い。有名選手だけを寄せ集めたプロ野球チームみたいなものだ。最強と最強の抱き合わせ、故に最強。小学生でもわかる単純な計算だ。大人になれば、それが素直な足し算にならない事もわかってくる。しかし連携不備によるパワーダウンなど、この少女達にとってはまったく視野外の些事であった。

 誰一人としてそこに不安を見出す物などいない、ただ制圧し、殲滅する。破壊し、蹂躙し、侵略を続ける。決してその進行を止めぬ、浮沈の艦隊。

 反響する鉄の音を聞きながら、霧島はほんの少しだけ雷雲戦隊に同情した。






「HEY!ハルナー!遅いヨー」


 長身の影がコンクリートの岸壁に立ち、日光を背にしてこちらに手を振っている。それが自分の姉であるという事は、逆光に晒された輪郭の中でもはっきりとわかった。榛名は小さく手を振りながら影に駆け寄った。


「遅くなって申し訳ございません」


 金剛の大きな手が榛名の髪を撫でる。小柄な榛名と並ぶと、金剛が際立って屈強な体躯である事がよくわかる。180近い長身が愛しき妹を高空より見下ろした。


「キリシマの所から出てこないから心配しました」


 頭を撫でる手が動くたび、榛名の目が気持ちよさそうに細められる。その様子を快く思わないのか、その横顔に鋭い言葉を投げかける者がいた。


「まったく。どっかの馬鹿みたいにへばってるのかと思いましたよ」


 薄く開らかれた片方の目が、声のした方へと動く。


「ここは部外者は立ち入り禁止ですよ」


 榛名は声に出してみて、不機嫌をここまで明確に言葉にできるのかと自分で感心した。それを聞いた「部外者」は、青筋が立ったこめかみをピクピクと痙攣させた。


「部外者。金剛お姉さまの晴れ舞台において、この二番艦「比叡」を部外者!?よくもそんな事を言えましたね妹!聞いてるのかしら、我が妹榛名! 」


「あんまり醜く騒ぎ立てる様なら憲兵を呼ぶわよ、お姉さま」


 姉妹間で鼻先を突き付け合い、火花を散らす。その後ろで、うなだれた軽巡洋艦が面を上げた。


「どっかの馬鹿って…、そりゃあたしの事スか?いや、へばっちゃねーっスよハハハ」


 川内型「川内」が海沿いのビットに腰かけたまま頭を掻く。その顔は見るからに衰弱し、目の下には濃いクマが張り付いていた。

 高速修復剤(バケツ)の使用で外傷は治っても、体中の痛みはどうしても消しきれない。影のように付きまとう激痛に、休む暇もないと言う有り様が今の川内からはありありと見てとれた。


「カワウチお腹痛いっぽい?」


 見かねた夕立が川内の隣に膝を抱えて座り込む。見上げてくる大きな瞳に、声をかけられた主は力なく笑った。


「アハハ。まぁ、寝てる場合でも無さそうだからね」


「これであと一人、本当にみんな自分勝手ね」


 腕を組んで水平線を眺めていた五十鈴が、ため息と共にそう漏らした。「あと一人」、それを聞いた榛名が怪訝そうに目を細める。


「古鷹はどこに?」


 見渡す一同は、皆一様に首を横に振る。何かあったらしい。事態が呑み込めない榛名の背後で、倉庫のシャッターがぐしゃりと耳障りな音を立てた。振り返り目を見張る。


「バケツジャンキーがもう一人…」


 現れた人物を見て、五十鈴が低く呟く。

 倉庫の影から現れた古鷹は、ぐっしょりと汗に濡れ、重そうな頭を抱えて足を引きずっていた。辛そうに肩で息をする様は、今にでもその場に崩れ落ちそうだ。

 夕立が駆けて行きその手を取る。引かれる手に導かれて川内の隣に重い腰を下ろした。

 全員が黙ってそのざまを見守る。真っ赤に変色した左の眼光が忌々しげに一同の顔を照らした。


「あら、イカしてますね「殺し屋」。セーラー服なんかよりよっぽどお似合いですよ」


「イカレてるの間違いでしょ?」


 五十鈴の呟きに川内が苦笑する。

 短時間における修復剤の連続使用。五十鈴の言う通り、今の古鷹の姿はとても正気の沙汰とは思えなかった。


 高速修復剤は艦娘の強化筋肉に作用し、新陳代謝を大幅に促進させる。出血はすぐさま凝固し、増殖した肉がたちまち痕跡を隠す。骨や臓物が修復されるのは、筋肉の増加に推された「副作用」のようなものだ。

 しかしそれだけ肉体に変化があれば、その反動は結果として負傷した時のダメージを大幅に上回ってしまう事も少なくない。

 傷を治すためにバケツを使い、バケツによって発生した拒否反応をさらに濃いバケツで鎮める。しだいに痛覚は限界を超え、そこまで肉体を追い詰めた先にやっと偽りの安息が訪れる。

 しかも古鷹は正確には艦娘では無い。強化骨格を覆う筋肉はそのほとんどが生身の人間のものだ。精神も脆く無茶はきかない。肉体への急激な負担が、後遺症を引き起こす事も少なくないはずだ。


「出撃…は?」


 低い声でそれだけ呟く。古鷹の手を握っていた夕立が、水平線の彼方へ目を向けて立ち上がった。


「ハルナー。鉄屑出るっぽい」


 指さす先に艦隊の影が見える。すぐさま金剛が吠えた。


「出撃しまス!二人とも立って!」


 スッと川内と古鷹が立ち上がる。出撃用の桟橋に目を向ける一同を横切るように、夕立が一足先に海に飛び降りた。


「夕立いっちばーん!」


 岸壁をジャンプし、勢いよく着水する。上体を揺らしてバランスを取ると、そのまま加速をつけて水面で安定した。


「こら!自重で沈没するわよ、バカ!」


 榛名の怒鳴り声も、夕立にはどこ吹く風だ。

 艦娘の足に装備されている「主機」には、高性能スタビライザーが搭載されている。水上における艦娘の激しい動きを常に水平に保つように、体勢維持面を大きくカバーしている。これは水平移動において抜群の安定性を誇るが、一転上下の動きには弱いという欠点があった。

 艦娘が水面に降りる際も、緩やかなレールの上からなるべく高低差をつけないように着水するのが鎮守府での取り決めとなっている。でないと艤装の重みで安定器にひずみが生じ、まっすぐ航行することができなくなり、最悪転覆してしまう。


「五十鈴もいっちばん…と、ほらカワウチも早く来なさい」


 しかし、夕立どころか五十鈴までもがコンクリートギリギリから海に降り立った。さらに、そのまま陸の上の川内に手を伸ばす。


「あたしは病み上がりなんですよっ、と」


 川内も五十鈴の手を取りながら、慎重に水面に足をつける。


「…出撃します」


 そして、あろう事か三人より重量の重い古鷹までもが岸壁の縁に足を乗せていた。

 搭載されたスタビライザーは当然重量のある艦であればあるほどかかる負担が大きい。駆逐艦、軽巡洋艦ならともかく、20.3cm主砲を積んだ重巡洋艦にとっては、違反着水は本当に大事故になりかねかった。

 しかし古鷹は岸から足を上げず、滑るように足を下ろす事で着水の衝撃を最小限に抑えていた。左右で素早く足を降ろし、着水の衝撃は膝で逃がす。何事も無かったかのように海面を滑ると、さっさと集合地点まで航行していった。


「Quickly!ハルナ!」


 いつの間にか戦艦である金剛までも、海上からこちらを見上げている。眩しすぎるその笑顔に、くらりときそうになる。先行きに頭を悩ませるその痛みに、背後に忍び寄る影に気づく事は出来なかった。


「いいいいって来い!榛名ぁ!」


 比叡が勢いよく榛名を海に蹴り落とす。飛び込んだ先に待機していた金剛が、その大きな手で空中の榛名をガッシリと受け止めた。


「YES~」


  金剛の手の中で小さな体がバタバタと暴れまわる。


「比叡!テメーぜってー殺すかんな、オイ!」


 金剛の脇に抱えられまま陸を後にする。じたばたと休みなく身を揺する妹の姿を、残された姉は少しさびしそうに見送った。








 風切り波割り、少女達が駆ける。雲一つない晴天の下で、一本に連なった艦隊が合流地点へと急いでいた。尾を引く航跡が白く泡立ち、背負った機関部が震える。ぼーっと缶が鳴く音が一直線に流れていく。


 航空戦艦日向を先頭とした「雷雲戦隊」は演習の合流地点に到達すると、主機の速度を緩めて丸く陣を組んだ。


 集まった全員を旗艦日向がぐるりと見渡す。口を開けようとした時に、その足元に一機の艦載機が着水した。ゆっくりと水面を滑る瑞雲に手を伸ばし、薄い羽根を拾い上げる。


「そいつの燃料補給はよろしいんで?」


 加古が瑞雲を指さして問う。日向は濡れたフロートを撫でながら、それを甲板の後ろの格納庫に仕舞い込んだ。


「こいつは授業料だな。訓練の代償だ」


 「燃料補給はできない」と暗に示したわけだが、特に気にした様子は無い。訓練前の燃料補給は艦隊運用を全うする上で欠かせない事であるはずだが、今の彼女達の気がかりはもっと別の所にあった。


「『S・Z・S』の調子はどうです?」


 神通が不安そうに問いかける。その言葉を耳にした瞬間に全員が日向の顔を仰ぎ見た。この数週間で隊の全員が幾度となく口にしたその言葉。能力的に相手に大きく不利を背負う雷雲戦隊の勝利の兆し、それが日向の考案した戦闘システム「S・Z・S」だった。

 まさに切り札と呼べる勝利の要。しかし、その構築の為には、不可欠なものがある。


「瑞雲の発艦がつつがなく行われなければ、「S・Z・S」は機能しない」


 低い声で唸る。今回の演習ルールは以前と同じ「砲雷撃戦演習」で行われる。つまり日向が瑞雲を飛ばすのは「演習始め」の合図の後、敵の砲撃の真っ只中でという事になる。


「瑞雲の展開が完了した時点で作戦開始だ。それまでは、皆で日向(わたし)を守ってもらう事になるだろう」


 本来最も装甲の厚いはずの戦艦を巡洋艦や駆逐艦で守る。ちぐはぐでかみ合わない作戦だが致し方ない。今の雷雲戦隊には日向に賭けるしか勝ちの芽は残されていなかった。

「日向を守る」その言葉に小さな駆逐艦はたちまち彩めき立った。


「この初霜にお任せあれ!」


 掛け声と共に初霜が鉢巻を締め直す。腰まで伸びた紺色の鉢巻が、潮風に吹かれてまるで尾のようにはためいた。


「あたしと神通が囮になって砲撃を分散させる。江の字と名取は対空警戒と威嚇射撃」


 名取がうなずき、江風は手のひらに握りこぶしを打ちつける。神通は隣立つ加古に軽く目配せすると、強い意志を宿した瞳で小さくうなずいた。


「5分だ。演習開始から5分間私を守れ。布陣が完成したらあとは作戦通りだ。諸艦の奮戦に期待する。以上だ」


 日向が最後に全員にそう言って場を占めた。どことなく手持無沙汰な沈黙の中で、押し込められた緊張と興奮が一同を昂らせる。そんな中、ただ一人だけ鋭い視線でじっと日向を見つめる者がいた。


(「以上だ」じゃねぇだろ…)


 開戦前の高揚の中で、ただ一人副艦の加古だけが渋く顔をしかめていた。唇を噛み締め思い起こす。まだ誰にも知らせていない、「それ」を聞かされた瞬間の事を…。





「旦那が解体…?」


 その事実を日向の口から直接聞かされたのは、観艦式の前日の事であった。日向は訓練の後に「二人で飲みたい」などと、大して珍しくも無い事を口にした。夜の演習場の脇での開口一番、加古は驚いて塗れたワンカップを土の上に滑り落とした。


「か、解体って…どういう采配だよそりゃあ?」


「負けたら、だよ」


 日向が訂正する。しかし、そんな些細な事は問題じゃない。日向の名前が解体のリストに挙がっているという代わりようの無い事実こそが問題なのだ。

 加古は消灯の近い時間も忘れて、闇夜に抗議の声を響かせた。


「おかしいだろ、解体ってなんだよ!?旦那は航空戦艦になったばかりじゃねぇか、それを易々手放すってのかよ誠一は!?」


「その事については散々奴と揉めたよ。少なくとも誠は航空戦艦(わたし)に未練は無いらしい」


 日向は落ち着いている。努めて冷静に「この戦いに負けたら軍を抜ける」と言っている。いや、本当にそれで済むのか。


「解体されればどうなる?旦那はそこらのペーぺーとは違うだろう。軍に、艦娘技術に精通しすぎてる。航空戦艦っつう最新鋭を積み込まれた挙句、「はい、おしまい」と人間に戻れんのか?軍がそれを許すか?」


「解体されたらどうなるの?」なんて、新米の駆逐艦の如き素朴な疑問に、自分みたいな老艦が直面するとは思いもしなかった。

 前線を退いた艦は普通武装を解除され裏方に回る事になる。「医療」や主計科に回されたり、中には才能を買われて工作艦になるなんて変り者もいる。しかし、それらは「名誉ある負傷」にて戦えなくなった者の行き着く先だ。敗北によって不要艦とされた者達がどこに行くのかを知る者は誰もいない。


「ばっかげてやがるぜ!」


 黒々とした海面に向かって毒づく。

 加古の怒声は何処にも届かぬまま、夜霧の深みに取り込まれて消えた。後に残った静寂は、夜の肌寒さを一層際立たせる。加古はやけっぱちの如く酒を喉に流し込んだ。


 酒臭い息を吐いてベンチにうなだれる。

隣に座る日向はただまっすぐに闇の中を見続けていた。


「隊の皆には言ったのかよ?」


 ビールの缶を下げて、日向は静かに首を振る。


「マジかよ…」


「皆の重圧になりたくないんだ。命を懸けた決戦に挑むのは私だけでいい」


「なんであたしにだけ言うんだ?」


 信頼。などという生易しい理由ではきっと無い。加古の悪い予感は、暗い闇の中で見事に的を得ていた。


「私が消えたら、初霜を頼む」


「そりゃねぇぜ旦那!」


 ベンチを揺らし立ち上がる。まるで他人事の様にすまし顔を続ける日向の襟元を、これでもかと勢いよく捩じ上げた。


「自分で何も言わねぇくせに、いなくなったら「後は頼む」だぁ!?ザケんのも大概にしろよてめぇ!」


「全ては勝つ為だ!今、皆に私の事情を押し付ける訳にはいかないんだ!」


大口を開けて唾を飛ばす加古に対して、日向も犬歯を剥き出しにして喰らい付いた。

しかし加古は納得がいかない。いく訳がない。


「舐めんのも大概にしろよ!勝ち負けを意識したらあたし等が負けると思ってる訳だ。旦那の足を引っ張って負けるって舐めきってる訳だ!」


「そこまで言ってないだろう!」


「変わらねぇよ!自分の隊を信用してないんだろうが!」


 掴んだ腕で体を押され、ベンチに尻餅をつく。体勢を整える前に、両肩を強くつかまれた。加古の顔が迫る。その瞳は、もどかしさから来る怒りと悲しみに揺れていた。


「言っとくがなぁ、江の字は今でも榛名(さんじょ)に喰らい付くつって言って気かねぇし、神通は毎晩うなされながら夜の海と戦ってんだ。名取は手前の姉貴とのケリだけはつけるって腹ぁ括ってるし、初霜は、初霜はなぁ…」


 言葉を区切り、唾を飲む。


「ぜってぇ「旦那を守る」って、馬鹿の一つ覚えみたいな信念を貫き通してる。もう旦那だけの戦いじゃねぇんだよ!命かけてんのはあんただけじゃねぇ!」


 公開演習は、「負けてもいい闘い」等では決してない。


「それを、テメェばっか「責任」だ「重圧」だって…。あたし等は旦那のお荷物か?旦那の夢に乗っかって、ケツ追っかけてるだけか?違うだろうが!」


 肩をつかむ手に力がこもる。

 加古の溢れ出す感情は、彼女が雷雲戦隊を思う気持ちそのものだった。


「あたし達がついってってるのは、旦那の「責任」じゃねぇんだ!あたし等自身の「意志」と「力」を、旦那が認めてくれたからじゃないのか!そうじゃないのかよ。そう、信じさせてくれよ…」


「加古」


 ハッと気づき手を離す。旧知の仲とはいえ、立場上は上官と部下だ。日向の目は穏やかである。それでも、喉の奥がごくりと音を立てた。

 しばしの沈黙。背後の闇の中で波の音が強く鳴り始めた時、日向の深いため息が無音の殻を破った。


「やっぱり、お前を選んでよかった」


 優しい声色に、がくりと拍子抜ける。肩を落として首を傾けておどけて見せた。


「なんだそりゃ」


「任せたぞ」


 日向はただそれだけ告げて腰を上げた。去り際に一度だけ加古の方を振り返ったが、言葉は発せずに、小さく口元を歪めただけで寮の方へ立ち去っていった。


 取り残された加古はその背中に声をかける事も出来ないまま、ただ茫然と寒空の下に立ちすくんでいた。





(何が「任せたぞ」だよ。結局あたし一人に押しつけやがって…)


 再び単縦陣の最後尾を追いながら、加古は思わず口を滑らせてしまった酒に弱い自分を恥じた。


 艦隊は相手部隊との最後の合流地点へと移動し始めていた。鎮守府が遠くに見える。その岸壁から一直線に白く波を掻き分けて航行(はし)る艦隊の影が見えた。


 鼓動が高まる。幸か不幸か、身を締め付けるような緊張と不安は、長引く事無く次のステージへ移行した。


「こちら一番艦、航空戦艦日向から各員へ」


 その声色に一気に肩に力がこもる。

 後に続く言葉は、隊の誰もが待ち望み、そして心のどこかで恐れていた言葉であった。


「敵艦隊見ゆ。これより砲雷撃戦演習を開始する」







 遠くの海で水柱が上がる。

 破裂する空砲の音と、沸き立つ歓声。窓の外がわっと賑わったのを感じて、丁嵐誠一は執務室の椅子から腰を上げた。

 窓際に立ち水平線の彼方を見やる。大きな水柱が立て続けに水面に立ち上っていた。小さな影が列になって海を切る。

 丁嵐は一度手元の時計を確認すると、すぐに遠くの影に視線を戻した。


 始まった。


 わずかに胸が締め付けられる。不安は無い。日向は負ける。ちゃんと、負けてくれる筈だ。

浮いた汗を握り込む丁嵐の背後で静かに扉が開いた。顔を出した男は後ろ手に扉を閉め、かかとを鳴らしながら丁嵐の隣に立った。


「さて、航空戦艦だ」


 やや小太りな男が芝居がかった動作で口ひげに触れる。男が指を離すと、整った髭がくるんと渦を巻いた。常に微笑んだような薄い瞳はあの松崎を思わせるが、男のそれは松崎とは違う。機嫌の良さから来る素直な笑みだという事は、丁嵐は以前の付き合いから把握していた。


「視察に来たのですか?」


 丁嵐が男の方を見ずにそう告げた。男もじっと窓の外を見ている。


「なにせ君ほどの男が〝絶賛〟した航空戦艦だからね。勝ち負けは別として、僕個人としては大変興味があるよ」


 腰の後ろで手を組んで立つ姿は、どこか大物の風格がある。チビで小太りという風体とのギャップが、より男を高貴に見せていた。


「日向は負けます」


「それはどうだろうか?」


 間髪入れぬ男の返しに丁嵐は眉を潜める。日向の負けを望んでいるのは、この男も一緒だろうに。

 男は丁嵐に見られているのを感じて、初めて視線を上げた。こげ茶色の鮮やかな瞳がゆっくりと丁嵐を視界に収めた。


「久しぶりだね、丁嵐少将」


「ご無沙汰しております。栄吹中将殿」


 小男が帽子を取って胸の前に沿える。丁嵐は小さく頭を下げた。男の名は栄吹信明(えいすいのぶあき)。階級は中将。佐世保の現提督であった。そしてバイオ技術に精通する「大島派」の筆頭将官でもある。


「松崎はご覧になりましたか?」


 栄吹はそれを聞いてわざとらしく驚いて見せた。


「あれは酷いねぇ。ただまぁ、奴はそういう男さ」


 大げさに悲しんでいたかと思えば、すぐに表情を戻しケラケラと笑い始める。コロコロと変わる表情は、松崎以上にその内面の真実をぼやかしていた。


 窓の外でひときわ大きく水柱が上がる。二人は再度広がる海に目を向けた。


「まぁ、あいつは鼻が利くし「不運な事故」だが都合は良い。僕たちの取り引きに横やりは不要さ」


 そう言い終わると、再び二人の間に静寂が広がった。重苦しい空気を紛らわすかのように、窓の外では激しいドンパチが響いてくる。

 栄吹が膨らんだポケットから葉巻を一本抜き取る。ライターを取り出す丁嵐を制して、手元のマッチを一本擦った。吐き出した煙が部屋の中に充満する。煙る視界の中で、丁嵐は不機嫌そうに目を細めた。








 艦娘の足に装着された艤装。水面を滑るがごとく駆け抜ける水上の足。艦娘を艦娘たらしめているその鉄塊を彼女達は「主機」(しゅき)と呼んでいた。

 「缶」と称される背中の出力機から生み出した熱と水蒸気を、高圧の推進力に変換し少女を海神(わだつみ)へと変貌させる。

 主機は艦娘の要であり、心臓だ。任務の為、より良い闘いの為、勝つため、そして生きる為。技師達も主機の調整には余念がない。自分たちの全身全霊をかけて手がけた最高傑作達が艦娘を文字通り支えている。


「主機が…うるせぇ!」


 ぎゅるぎゅると江風の足元が唸る。技師達が耳にしたら卒倒しそうなほどの異音、怪音。無茶な航行を繰り返す江風の主機は、演習始まって早くも限界の悲鳴を上げ始めていた。

 雪山を滑り降りるスキーヤーのように、足をそろえての前後左右、激しい之字運動を繰り返す。カーブのフラッグの代わりに立つのは、氷山の如き水柱の束。自分が一秒前に通過したポイントに、ぼふんと水柱が吹きあがる。足を止めればたちまちお陀仏だ。


「被害報告っ!」


 最も先に水柱を抜けた日向が通信を飛ばす。つながった通信の後ろでは、度重なる砲撃音と阿鼻叫喚の戦慄が終わりないハーモニーを奏でていた。


「加古損害なし!」


「初霜無事です」


 水柱の中から飛び出してきた二人が、日向の後を追う。加古は風を受けながら濡れた髪をぶるぶると振り払った。


「江風損傷なしだ!」


「な、名取、大丈夫です!」


 主機を唸らせて江風、その後から一直線に走り抜ける名取。砲撃の雨の中で崩れた陣形、しかし決して偶然ではないその隊列〝順〟に日向は通信の裏で舌を打った。


「遅れているぞ神通!状況報告!」


 通信の先で再び砲音、耳を突く雑音は水音と衝撃にまみれている。その騒音の合間を縫って悲鳴交じりの報告が電波に乗って聞こえてきた。


「こ、こちら神通!そ、損傷軽、航行、可能です」


 報告を聞き、日向はほんの少し速度を緩める。後続の加古がスピードを上げて隣に並んだ。


「一刻も早く状況を脱したい。お前は名取を連れて前に」


「マジかよ。神通を連れて本隊を守れるか?」


 ちらりと背後を見やる。遅れてついてくる名取の姿が辛うじて見えるが、その後ろに続いているはずの神通の姿は影すら見えない。しかし、悩んでいる暇は無かった。


「距離のせいかもしれんが、相手は割とめくら撃ちだ。お前たちは分隊前進して陽動を。私たちは神通の速度に合わせて目標地点まで移動する」


「了解」


 掛け声とともに加古が大きく速度を落とす。初霜、江風の二人を超えて、最後に名取の肩を叩いて二人して背中を向けた。再び視線を前方に戻した日向の視界に、敵艦隊の影が映る。


「敵艦隊発見。方位280度、距離9000」


 報告と同時に二人分の影が飛び出す。加古とその手をつないだ名取である。一息に加速し、たちまち見えなくなる。

二人が目指すは決戦距離5000。軽巡と重巡二人の長距離射撃のちょうど中間の距離だ。目的は牽制の為無理は禁物。相手の照準を引きつけられれば、後は一気に範囲外まで逃げる算段である。

 距離6000より外に逃げられればとりあえずは安全だ。いくら戦艦の長距離砲の範囲内とはいえ、日向を警戒しつつ動く標的二人をとらえるのは難しいだろう。


 敵艦隊に再度砲煙。火の玉の角度は間違いなく本隊を狙っている。この射程距離なら撃ってきているのは戦艦二人だ。


「各員第四戦速まで加速。之字運動開始!」


 速度を第三から第四へ、連続砲撃でバラついた艦隊のスピードを統一させる。揃った艦隊は神通を最後尾にして、まるで蛇が地面を這うように左右にその隊列を揺らした。

 背後に水柱があがる。艦載機の影もなく夾叉(きょうさ)もしていない、回避運動を続けて入ればそう当たる物では無かった。


 そうこうしているうちに、加古・名取の分隊の決戦距離が近づく。先頭の加古は右手側に近づく敵艦隊を忌々しく睨みつけた。


「こちら加古・名取。距離5500。これより反抗戦を開始する」


「了解。相手を分断して引きつけろ」


 通信を切ると加古は右腕に装着した大口径を、後続の名取は腰に構えた中口径連射砲を高く掲げた。上方右斜め六十度。射程距離ギリギリの砲撃戦だ。


「ってー!」


 轟音と共に主砲から砲煙。続いて連射砲からバラバラと砲弾がばら撒かれた。長良型の主装備である連射砲は、マシンガンの様な高速連射と、水平射撃の反動の少なさがウリの近距離用射撃兵装である。その代り軽巡の単装砲より射程距離に劣り、遠距離の威力減衰率も高い。それでも昨今の戦闘の近接化に伴い、取り回しの良さから愛用する艦娘も多かった。

 敵艦隊の脇に水柱が上がる。相手の反応が鈍いと見るや、加古はすぐに二撃目に取り掛かった。


 遠くで火花が上がるのを日向ははるか後方から視認していた。戦艦二人の雨のような砲撃は治まっている。二人が艦隊を足止めできれば、艦載機発艦の時間稼ぎができる。

 日向は足を止め、左腕に装着した航空甲板を空に掲げた。甲板に日光が反射してまばゆく輝く。重々しく全身の艤装がエレベーターが低く唸り、甲板下に収納された艦載機が姿を現す。第一瑞雲隊。航空を駆ける12の翼。


「全員周囲警戒!これより発艦体制に入る!」


 全員が日向を中心に輪形陣を展開する。日向の左右に神通と江風、正面を守るのは初霜である。

 初霜が両手の装甲版を強くたたきつけた。上って行く金属音を合図に、ジェネレーターに熱が入る。


「回せ、回せ、回せぇ!」


 マーキングに沿って、機体が滑る。先頭の一機がカタパルトに収まると共に、甲高い金属音が連続した。くぐもった駆動音が響く。回るプロペラ。カタパルトの先を再度雲の先へ。


「第一瑞雲隊…」


 大きく息を吸い、細く吐き出す。流れ落ちる汗が顎の線に沿ってはじけた。


「発艦はじめっ!」


 カタパルトが弾け、一枚の翼が飛び上がった。ゆるく上昇し、風に乗って一気に加速する。

 迷彩を着飾った機体が、長い尾を引いて高く高く昇った。日向を軸に、長い一本線が青空を二つに分けた。


 〝立ち上る雲〟


 長く伸びる雲の道。それに沿う様に後続が続いた。青空に広がる艦載機の影。それは航空戦艦として新しい力。雷雲戦隊を率い、戦艦の新時代を紡ぐ光だった。





 発艦の瞬間を、加古は遠く離れた場所で通信の先から感じ取った。「はじめ」の声を皮切りに、連続するカタパルトの射出音だけが耳元で反響している。


「旦那め、浮かれて音を切り忘れてるぜ」


 回線を切り替えて名取に振り替える。彼女は拡散する散弾で敵艦隊への威嚇射撃を繰り返していた。


「展開が始まった。移動するぜ名取。このままここにいたら危険だ」


 敵艦隊に背後を向け急いで速度を上げる。二人の仕事は敵の陽動。日向の邪魔をさせないように敵艦隊を攻撃範囲外に連れ出す必要がある。しかしそれ以前に、自分たちが安全圏を確保できなければ意味がない。


「重巡の長距離外まで退避する。第五戦速、11時方向宜候(ヨーソロー)」


「か、加古さん!い、意見具申です!」


 加速しかけた加古の背中を、名取が呼び止めた。その上ずった声に、加古は足を止めて振り返った。


「どうした?」


「我々の任務は、て、敵艦隊の陽動ではないのですか?」


「そうだ。威嚇射撃は終了だ。これより回避運動を取りつつ、敵の索敵範囲の外側を回って本隊と合流する」


 名取の表情は晴れない。青い顔で、遠くの艦隊を指さした。


「よ、陽動は完了しておりますか?て、敵艦隊は航路を変えていないように見えますが…」


 加古が硬直する。ぐわんと後頭部を殴られたような鈍い衝撃。

 とっさに敵艦隊を見やる。敵艦隊との距離は4000。軽巡洋艦の射程ギリギリだ。観測機も無いこの距離で、航路の変更を確認することはできない。しかし、名取の言う通り接触前と進行方向は変わっていないように見える。せりあがる波の高さにも変化がない。


「こ、こちらに気付いていないんじゃないでしょうか?」


「あんなバカスカ撃って気付かねぇ訳あるか!」


 思わず声が荒れる。

 無視されてる。易々と有利位置にとれる遊撃隊を。本隊と挟み撃ちすることだってたやすいあたし達を。予定外のセオリー無視。集中火力において各個撃破に〝取らない〟。


 やるか、それを!?あの『金剛』が!?となりゃぁ…。


「榛名(さんじょ)おおおおお!」


 不確定要素である航空戦艦(だんな)の即時排除。それだけじゃねぇ、この演習、日向(きかん)を沈めて終わらせる気だ。


「旦那ぁ!発艦中止だ!すぐに逃げろ!」


『ドシュウドシュウドシュウドシュウドシュウ』


「あの馬鹿!」


 どちらにしろ一度始まった発艦は止められない。日向が作業途中の航空甲板を動かせば艦載機の大事故につながる。瑞雲隊が消えればそれは『S・Z・S』、ひいては雷雲戦隊の終わりだ。日向は水上で射出の反動を支えながら、航空甲板の水平を維持しなければならない。

 もう絶対に止まらない。5分間のデッドタイム。


「追うぞ名取!あいつら首根っこ押さえつけてでも止めろ!」


 敵全艦が日向を砲撃範囲におさめるまで、残り『3分』。






『小バエがついて来てるわよ』


 最高速、単縦陣で一直線に進む少女達。その最後尾を守る五十鈴が振り返って、海上に引かれる航跡を眺めた。航路後方方位135度。たった2隻の水雷戦隊。その中に自分の妹の姿を見とめると、五十鈴は小さく眉を寄せた。


『挟まれるわよ』


 こつこつとインカムを叩く。通信機の不調とは聞いていない。しかし、五十鈴の報告に返事を返す者は誰一人いなかった。


 艦隊速度は時速約30ノット。航空戦艦を射程範囲に収めるまで、あと3分とちょっと。このまま振り切るつもりなのか。日向がいつ動き出すかわからない以上、あの分隊と海上で挟み撃ちにされるのは面白くない。 

 それでも金剛の決断は速かった。榛名と一度アイコンタクトを交わした後、全員の顔も見ずに一目散に目標に向かっていた。


「日向を狙いまス。艦隊前進!」


 その声に戸惑いを見せたのはもしかして五十鈴だけかしら?

 古鷹は兎も角、あの川内までもが眉一つ動かさないと言うのは気に入らない。


『カワウチ』


 一言。

 それですぐに個人の回線につながった。


『はいはい?シンガリご苦労様です』


『あんた、このままでいいと思ってる?』


 艦娘に支給されてる通信機は艦隊で独自に回線を割り当てる事ができるようになっている。事前の設定を行えば、わたし(いすず)と川内だけの超個人的なラブコールにも応用できる。多重回線と違い傍受されにくい為、暗号通信にも用いられる事も多い。「通信機を使っている」という事は隊に筒抜けだが、ちょっとした内緒話ならこれで十分だ。


『今のままじゃいずれ挟み撃ちにされる。旗艦を落とすにしても護衛はいるでしょう?手こずってたらすぐに不利を押し付けられるわよ』


 回線の裏側で気取った川内が「えーっとねぇ」とかおどけているのが聞こえる。癪だ。こいつら五十鈴の知らない何かを知ってるのかしら?

 川内は十分に思考に時間を使ってから、もったいぶったように話し始めた。


『五十鈴さんだって航空戦艦の不確定要素が怖いって思ってるのは一緒でしょう。それにこの演習(ゲーム)、相手旗艦を戦闘不能に陥らせれば勝利判定ですから、即効旗艦を轟沈(お)とすと言うのもまぁ、理にはかなっていると思いますがね』


 何か含んだようなその物言いに、五十鈴はますます機嫌を損ねた。


『全て話せ』


『少なくとも私は旗艦の意見に賛成です。もちろん榛名さんも』


 それだけ言って一方的に通信を切られた。ケッ、その分かったような口ぶりが気に入らない。死に損ないの旧型如きが。


 五十鈴が毒づくと、背後がにわかに騒がしくなった。左手の人差し指を立ててこめかみに触れる。この程度の距離なら直接目視しなくても、内蔵された電探で周囲の状況を確認できた。


(分隊がかなり接近してきてる。距離2000。二人で一生懸命喰らい付いて来てるわね…)


 自分の前を進む古鷹の缶を見上げる。距離は100程度、誘導灯に動き無し。このままいけば狙い撃ちされるのは五十鈴(わたし)だ。

 いくら高速戦艦に嚮導されているとはいえ、6隻で陣形を組んで移動すれば最高速度は抑えられてしまう。中型艦二隻の分隊はそんな艦隊を追い立てるように迫ってくる。


『五十鈴。本体が攻撃準備に入ったら、分隊を迎撃なさい』


 思考を巡らせている所に突如横槍が入った。五十鈴は再度インカムを指で押さえる。


『なんですって?』


『日向達に距離5000まで寄ったら、二人を攻撃しろと言ったのです』


 通信の先の古鷹の声は落ち着いている。そもそもこれは個人通信か?回線範囲を表すボックスランプは青。古鷹は個人的に「五十鈴だけ」に話しかけている。

 距離5000といえば重巡長距離射程内、軽巡の主砲は射程外だ。航空戦艦は任せて背中を守れ、か。この作戦に疑問を抱いていたのは自分だけでは無かったという事か。


 五十鈴は他の仲間に気付かれないように素早く通信を切った。即座に艦隊無線に切り替える。


『こちら五十鈴。分隊に背後につかれた。距離2000。編成は重巡1、軽巡1』


『了解』


 真っ先に返事を返したのは古鷹だ。今の報告、シンガリとしての務めでもあるが、古鷹への『了解(ウィルコ)』の意味も兼ねていた。

 五十鈴は手持ちの右手に構えた連射砲を深く握り直した。ほんの少しだけだが、肩が軽くなったように感じていた。




 飛行機がかわるがわるカタパルトへ押し出されていく。順番待ちの機が次々に甲板の上に押し寄せる。休みの無いエレベーターの稼働とカタパルトの射出。この同時駆動を維持しながら甲板を水平に保ち続けるのは、日向の剛腕をもってしても骨の折れる作業であると言えた。

 持ち上げた左腕を支え、歯を食いしばり反動に耐える。その間にも戦況は大きく動こうとしていた。


『旦那ぁ、陽動失敗だ!敵艦隊依然進行中!速度30ノット!いそげぇ!』


 先ほどから通信回線が騒がしい。

 日向は碌に返事もできないまま、視線の動きだけで初霜に指示を飛ばした。振り向いた初霜は大きく頷く。


「各艦砲撃に備えてください。瑞雲隊の展開まで日向様を守ります!」


 僅か四隻となった艦隊に向かって指示を飛ばす。発艦完了まで残り2分弱。迫り来る敵艦隊はもう戦艦の射程内まで迫って来ていた。さっさと砲撃戦に移らないのは、重巡や軽巡の射程内に我々を収める為だ。


「神通さんと江風さんは陽動砲撃を始めてください」


 江風が強く頷く。後ろの神通も真っ青な顔ではあったが、弱音もはかず自分の仕事にかかった。仮にも軽巡洋艦である彼女に、初霜からかける言葉は無い。きっと何を言っても彼女のプレッシャーになってしまうだろう。


「初霜は一人でダイジョブか?相手の目的は旦那だろう?ハチの巣にされるぜ」


 相手が偵察機も飛ばさずに日向に向かってくるのは一刻も早く艦載機の発艦を止めたいからだ。江風と神通の陽動にそう簡単に乗ってくれるとも思えない。不安げに見つめる江風に対し、初霜は自信満々で答えた。


「長距離戦になるので水柱の目隠しが欲しいんです。直撃はいりませんから相手の視界を遮るようにばんばん撃ってください」


 一切不安は見せない。それが一時的とはいえ旗艦を任された者の務めであった。


「それに…」


 小さくつばを飲み込む。


「初霜は日向様の盾です。日向様のお側を離れる訳にはいきません」


 初霜は本来の気丈さを持って、十二分にその役目を果たしていた。

 江風と、不安げに目を伏せていた神通ですらその言葉に肩の力を抜く。「日向を守る」。一度も違えた事の無いその約束が、隊の結束を盤石なものにしていた。


 遠方より砲音。

 すぐさま正面を向き、高空を見上げる。


「敵艦隊より砲撃確認!衝撃に備えて!」


 前方に向かって吠える。それと同時に、初霜は背負っていた装甲版を体の正面に構えた。両腕に装着された鉄板が体の前で組み合わさり、盾のごとく敵の射線をふさぐ。両の盾の接続部が噛みあった瞬間に、装甲は音を立てて上下に展開した。巨大化した鉄の扉が初霜を包み込む。


 初春型改二兵装。展開式対砲撃〝特〟装甲【四号鉄山】。


 数ある駆逐艦の特殊艤装の中で、初霜が選んだのは文字通り盾となり仲間を守る道であった。華奢な体に不釣り合いな巨大な装甲は、彼女の「意志」の現れ。その意思とは言うまでも無く、「日向を守る」という鋼の誓いであった。


 轟音と共に水柱が上がる。砲撃は初霜のすぐ正面に着弾していた。大きく波が上がるが、強固な装甲に阻まれて小さな飛沫となって消えていく。何事もその背後に広がる海を荒らす事はできない。

 不動如山。超重装甲駆逐艦「初霜」。鉄壁の裏に潜む鋼の意志は、日向の姉たるに相応しい強靭さで、荒れ狂う海において静寂の水面を守り続けていた。


「第二射来ます!砲撃開始、てー!」


 初霜の背後で二隻分の砲音が響く。神通と江風の主砲が鉄壁の脇を抜けて高空に弧を描いた。遠方に着弾、立ち上る水柱の裏で再び砲煙が上がる。


「第二射警戒!私に構わず撃ち続けて!」


 防御を初霜に任せ、神通江風が敵艦隊を迎え撃つ。初霜を挟んで、たちまち激しい砲撃戦が始まった。艦隊左舷に着弾。初霜は素早く波を防ぎ、すぐに日向の正面に戻る。強靭な装甲と駆逐艦の機動力を兼ね備えた初霜にしかできない芸当だ。

 こちらの砲煙に紛れ、瑞雲が飛ぶ。発艦完了までおよそ残り一分。その間迫り来る砲撃の雨を初霜一人で受け続けなければならない。

 高空を彩る光景に目をしかめる。立ち上る六本の黒煙。戦艦だけではない。巡洋艦も砲撃に加わり始めた。戦艦の主砲は六本の中でもとりわけ高く長く伸びる。初霜の頭上をゆうに超えて、日向の背後艦隊の真後ろ轟音と共に突き刺さった。荒れた波が艦隊を大きく揺らす。


「日向様!」


「前見ろ初霜ぉ!」


 江風が砲音の後ろから怒鳴りつける。とっさに視線を戻すと、重巡の砲撃がすぐ目の前に迫っていた。正面から装甲で受ける。巨大な鉄球が秒速1000mを超える速度で衝突する。両腕がびりびりと痺れ、装甲の接続部が大きく歪む。衝撃をいなすように斜めに装甲をおろして、砕けた鉄球を海に沈めた。休む間もなく次の砲音が遠くで響いた。

 初霜は上って来る吐き気を、すんでの所でなんとかせき止めていた。一発の砲撃を受けるだけで全身が重く熱を持っている。いくら装甲が強固でも、その衝撃を受けるのは駆逐艦の軟な肉体だ。装甲と密着した腕は感覚を失い、衝撃を受け流した体はミシミシと悲鳴を上げている。初霜は意識を失いそうになる眩暈を振り払って、再び盾を正面に構え直した。


 前方を見据える。立ち上る煙は八本の黒い槍。歯を食いしばりながら身を固めた。先ほどの戦艦の砲撃はこちらを夾叉している。次からは本格的に『当ててくる』。

 再度正面に衝撃。その背後で何本もの水柱が、立ち上がった。


「被害の…報告を…」


 声がかすれる。

 返事は無い、振り返る気力も無い。正面から砲音。初霜は目を疑った。


 青空を染める黒煙の束。その数、十六。その全てが日向を沈めんとする殺意に満ちていた。

 流れる汗を拭う気にもならない。ただ荒い息を吐き、ノイズを垂れ流す通信を脳裏に刻み続けていた。装甲が重い。全身がだるく熱を持つ。それでも、瞳の奥の輝きは消える事は無かった。


「雷雲戦隊!各艦被害報告をっ!」


 ありったけの声でそう叫んだ。

 雑音の中から、かすかに声が聞こえる。


「…しも、…初霜」


 重い体を持ち上げる。迫り来る黒点を見上げ、大きく息を吸う。

 耐えられるのは精々あと二発。浅く早い砲弾と、高く重い弾の波状攻撃。自分の命すら危うい状況下。細く長く、息を吐く。


 この時、初霜はついに「日向を守る」事を【捨てた】。


 鋼の意志は、そのひしゃげた装甲が如く容易く崩れ去った。通信に耳を傾ける。その先の日向はの声は、不気味なほどに落ち着いていた。


「初霜」


「はい」


 笛の音が聞こえる。悪夢の笛が、頭上に降り注ぐ。

 次に発せられる言葉をただ待つ。悔しさに唇を噛みながら。


『雷雲戦隊を守れ』


「りょうっ、かい!」


 返事と同時に初霜が飛び出した。前方に火球が迫っている。巡洋艦の主砲は重さに乏しいため、やや浅い起動で砲口初速に乗せて飛距離を稼ぐ。ただでさえ敵艦隊はかなり近くまで接近していた。砲弾の軌道は初霜の頭二つ上くらいまで低く抑えてある。

 おそらく生半可に装甲は抜けないと察したのであろう。巡洋艦の砲撃で初霜を足止めし、戦艦の長距離砲で仕留めるつもりだ。

 「そうは行くか」と初霜は掲げた装甲を高く持ち上げた。ガツンと装甲の端に砲弾がぶつかる。ぐわんと上半身がのけぞるが、上体は意地で支えた。正確には主機の推進を直前で逆方向に回し、反動を逃がす形で転倒を免れた。砲弾は軌道をそらし、海中に没する。初速が収まり、落下起動に乗る前だからこそなし得た力技である。

 初霜はよろけながらもインカムを押さえて素早く艦隊に指示を飛ばした。


「対空射撃はじめ!」


 遠く、水柱が上がる艦隊の側でいくつものマズルフラッシュが瞬く。初霜は、通信が繋がったのを確認すると一直線に艦隊まで駆け戻る。遠くから黒煙を纏った砲弾が下って行くのが恐ろしいほど鮮明に確認できた。

 

 初霜が駆ける。

 笛の音が聞こえる。

 吠える対空機銃。

 飛び立つ翼。

 跳ねる飛沫。

 艦隊を包む水柱。

 初霜の咆哮。

 立ち上る雲。


 駆ける、駆ける、駆ける。


 風を切る鉄球が艦隊に突き刺さる直前に、初霜と日向の視線が交差した。たちまち轟音に包まれる。


 雷雲戦隊は爆炎に包まれた。


 もうもうとあがる煙。身を焦がす炎。水柱はやみ、代わりに黒い煙があたりを包み込んだ。鉄が焼ける臭い。水面を照らす火柱。海が燃える。その有様は100m先からでも凄惨な死の情景として移った事だろう。


 その中で。炎の鎧をまとう陽炎の内側で。

 内包する「それ」は、静かに目覚めた。


 感度良好。状態確認。


『システム『S・Z・S』。第二段階に移行する(シフトトゥセカンドシークエンス)』








「クソ、クソ、クソクソクソ、クソがっ!」


 海上で燃え上がる艦隊を遠目に、榛名はありったけの悪態をついた。命中弾を出したのは金剛だ、そこに不満は無い。しかし、艦隊上空に広がる光景に、榛名はヒステリックな叫びを続けた。


「やっぱり「コレ」じゃないですか!ふざけやがって、クソ!」


 榛名たちの艦隊を見下ろす、空を埋め尽くす飛行機の群れ。そこらじゅうにプロペラの低い唸り声が反響していた。この光景にはかつて見覚えがあった。

 榛名の「観測陣」。ゼロ戦と瑞雲の差こそあれ、この戦法はかつて榛名自身が、他の誰でもない日向に対して行ったものとまったく同じである。かの演習では軽巡洋艦一隻を置物にしてやっと成し得た戦法だが、航空戦艦を以てすれば、戦艦の僅かなパワーダウンだけでこの状態を維持できる。発艦からの展開も遙かに早く、より実戦的だ。


 この布陣。榛名と川内は演習開始前から読み切っていた行動だった。金剛に進言し、セオリーを無視して日向を狙った。にも関わらずこの状況にとられた事が腹に据えかねるのだ。


「五十鈴!遊んでないでとっとと戻ってきなさい!このスカタン!」


 インカムに向かって怒鳴りつける。現在部隊の中で、唯一五十鈴だけが艦隊を離れて交戦状態に入っていた。タイミングとしては航空戦艦に対する一斉射が始まる直前。全員の足並みがそろったその瞬間に、五十鈴は突如命令に反して艦隊を離れた。そのまま背後から迫る敵分隊と無断で交戦状態に入ったのだ。


「ヒューガはまだ終わってないデス。すぐにイスズを呼び戻してくだサイ」


 遠方では濛々と煙が上がり、海上が禍々しく炎上している。漏れ出したオイルにでも引火したか、海面に炎が照り、立ち上る陽炎が空間を歪めていた。


「さすがにあれは沈んじまったんじゃないですかい?」


 川内が燃え上がる海の一角に親指を立てる。榛名は隊の先頭に立つ夕立に目を向けた。金髪の少女は、燃え盛る海域に向かってしきりに顔を向けて、ひくひくと鼻先を動かしていた。


「肉は燃えてない…ぽい」


「だそうよ」


 何の疑いも無くそう話す榛名に、川内は呆れて肩をすくめた。夕立だって元々はただの人間。いくら艦娘になったって犬猫の様に物の臭いをかぎ分ける訓練など受けているはずがない。しかし、「撃墜姫」の敵を察知する〝嗅覚〟に異を唱えられる者はこの部隊には誰もいなかった。


 【撃墜姫】夕立


 深海棲艦を思わせる「鬼」や「姫」の名を冠する暗号名を持つ艦娘は、各艦種につき1隻。しかも、日本海軍全体で1隻のみと決められている。

 夕立は軍で只一人の「姫」の名を持つ駆逐艦であった。

 撃墜とはすなわち、対空能力。それだけでは無く、自分より大型の艦を「喰らい」「沈没(お)とす」事から「撃墜」の二文字を与えられた。そして彼女はその名に恥じない働きを続けてきた。


(夕立の自分の強さに「酔える」その才能。今更この隊の中で彼女の力に疑問を持つ者はいないでしょう)


 その夕立が唱える「終わっていない」は、隊全員を奮い立たせてるには十分な圧力を備えていた。肩の力を抜くのは、ずっとずっと後の事になるだろうと。まあ、こんな航空機に包囲された状況下でのんびりと武器を降ろす者もいないだろうが…。


 水を切る音が近づく。後方に影。隊の全員がそちらを振り返った。五十鈴が肩を大きく上下させながら、隊の状況を見回して声を荒げる。


「状況はどうなったの?日向は?この有様は何?」


 新緑に染められた空を見上げて叫ぶ。ただ一人事態の深刻さに気付いていない五十鈴を、金剛は厳しく叱咤した。


「なぜ隊を離れましたかイスズ!ワタシのorderは「突撃(アサルト)」!アナタの行動は命令無視デス!」


 雷鳴の如く金切声を散らす金剛に、五十鈴はあからさまに眉を寄せた。戦艦相手に怯む事無く、その鼻先に喰らい付く。


「あの分隊が危険因子なのはあの時点で疑いようが無かったでしょうが!それを無視して日向に突撃する理由を考えたら、説明の無いあんた命令に従う事こそナンセンスよ!」


「だからと言って無断行動は許されません!そんな事で軽巡筆頭が務まりますカ!?」


 金剛も下がらない。旗艦として引く事は許されなかった。

 五十鈴の単独行動が無ければ、この『観測陣』にとらわれず、日向を沈めてゲームが終わっていたかもしれない。だが、考える。もし五十鈴の協力がありながらも、あの初霜を抜けず陣形の展開を許していたら。分隊と挟まれ、終わっていたのはこちらだったかもしれない。いや、いや、いや。

 思考の堂々巡りを無理矢理振り払う。どんな理由があれ、五十鈴の独断での行動は許されるはずもない。


「部隊に無断で行動した時点で、アナタに正当性はありませン!これからは必ず旗艦(ワタシ)の指示に従ってもらいまス!」


「五十鈴には私が指示を出しました。背後の分隊を引きつけるようにと」


 隣立つ古鷹が、五十鈴をかばうように金剛の前に立った。「ですので無断ではありません」とでも言いたげなその瞳に、金剛の怒りは頂点に達した。


「フルタカぁ!突撃途中の個人回線デスね!ワタシが気付かないと思ったのデスか!」


「貴女の指示を読みきれなかった私の責任です。処罰は演習の後にでも。もちろん、勝って帰れたらの話ですが」


「Shit!」


 金剛の顔が怒りで醜く歪む。古鷹に似合わぬ挑発じみた言い回しは、まるで金剛に「こんな事で時間を潰している場合ではない」と諌めているようであった。それが正論であればあるほど、金剛には我慢がならない。


 ここで五十鈴を野放しにすれば、この部隊は永久にバラバラのままだ。金剛が今回の作戦で最も恐れた事、それは航空戦艦などでは全く無く「これ」の存在だった。部隊がまとまらず、各々が個人行動に走る事。観艦式の大舞台で、醜態を晒す事こそ金剛が最も危険視していた事。

 だから五十鈴を許すわけにはいかない。そんな隙を見せれば、誰も彼もが統率を失う。恐らく、金剛に心酔している榛名でさえも。


「今後ワタシに無断で行動した者は容赦無く沈めまス!イレギュラーは認めませン!ワタシ自ら手を下しまス!」


 しん、と水上が静けさを取り戻す。上空は相変わらず耳障りな羽音が響いていたが、その場にいた全員まるでそれらを気にする事無く、ただ金剛がもたらした静寂を噛み締めていた。


 艦娘としての力。金剛が統率の「糧」に選んだのは圧倒的な自分のパワーであった。かつてこれで多くの艦隊を沈めてきた金剛にとって、最も得意とするカード。しかし、この場でその手札をきったのは、完全な悪手であると金剛自身が自覚していた。

 生意気な駆逐艦(こども)達をまとめ上げるならこれでいい。力でわからせてやればいい。しかし、こいつらは別だ。ひとたび隙を見せれば、旗艦の喉元にすら噛み付いてくるような悪鬼ども。こいつらに自ら反感を買うような行いはしたくなかった。


 もっと何か、横須賀第一大艦隊を完全なる「個」とする為に。より強固で深い絆が必要だ。金剛がそう考えていた時、ぞわり、と空気が動いた。


 上空をただ旋回していた瑞雲達が、あわただしく陣形を組む。

 戦争の空気が、今動く。


「『来る』っぽい!」


 夕立が吠える。その瞳は遠く燃える黒煙の中を見つめていた。赤く赫く燃え続ける豪炎の山。その正面が盛り上がったかと思うと、烈火の如き赤き影が猛然と飛び出してきた。猛スピードで突撃してくる。

 一直線に、金剛の首を狙って。


 長い髪を日の丸の鉢巻きで押さえつけた凛々しき巡洋艦。血染めのスカートが裂く様に風を切る。二水戦の一本槍。


 そして、深海棲艦の名を冠する。たった一人の軽巡洋艦。


 「鬼」の神通。





「速えぇ。50ノット(時速90km)は出てますよ」


 川内は手元の速度計を見ながら、目を丸くする。川内型の最高速度は35.5ノット。最大戦速を超えた超加速を前にして、その原理を正確に説明ができる者はこの場には誰もいなかった。

 しかし目の前に実在する以上、深く考える時間は無い。現に相手は矢のような速さで接近してきている。


「12時方向より敵巡洋艦急接近!」


「わかってまス!回避、いや…」


 どういう理屈かはわからないが、あれだけスピードを出している以上衝突を避けるために軌道を逸らすか、直前で減速するはずである。なら下手に回避行動をとって背後に回られるのは面白くない。敵は単艦。スピードは兎も角、火力は所詮巡洋艦の「それ」だ。


「迎え撃ちまス!」


 金剛、榛名を先頭に複縦陣へ。両足を広げ、主砲を正面に、低く構える。敵は高速で接近してきている。中~大型艦にとってはもう水平射撃の距離だ。


「戦艦・重巡の主砲で足を止めまス。接近したら軽巡二人で直接狙ってくださイ!」


「「了解」」


 何人かの返事が重なる。当たればデカい戦艦の主砲だが、水平射撃でしかも足のある相手に当てるのは至難の業だ。ただ相手だって、回避をする為に軌道を逸らしながら速度を落とす必要がある。そうなれば、足の止まった隙に軟な装甲に軽巡の主砲をぶち込む事ができる。水平射撃での制度と威力が軽巡洋艦の強さであった。


「川内。神通は療養中だと聞いていまス。もうあれほどの回復を?」


 標的の出現を待つ僅かな間に金剛が問いかけた。敵を前にして呑気な事だと思うかもしれないが、無駄に緊張を長引かせるより、少しでも相手の正体を知るべきだと考えていた。正体のわからぬ相手と命のやり取りをするのは、想像以上の疲労が伴う。隊の全員を気遣っての事でもあった。


「回復は、考えられないです。今の神通の航行(はしり)には、狂気じみたものを感じます。何かに突き動かされているような、強迫観念じみた、何か…説明はできないですけど」


「OK,OK」


 十分だった。金剛が知りたい事の全ては今の言葉の中にある。おそらく通信を共有していた全員がそれを感じ取ったであろう。

 奴らの行動は「異常」であり、何か裏がある。それがこの瑞雲達に関係しているのか。答えは急がなくていい。今はその実力を確かめるのが先だ。


「敵艦『神通』距離2000!接触まで残り80秒!」


 軽巡洋艦で唯一電探を積んだ川内が報告を飛ばす。それを聞き終わる前に金剛が吠えた。


「第一・第二主砲、Fire!」


 川内のすぐ背後で爆音が響く。艦娘の鼓膜は主砲の連続射撃にも耐えられるように、常人の何倍も頑丈に作られている。それでもびりびりと震える空気に、川内は一瞬肩をすくめた。

 遠くで水柱。その間を縫い、赤い影の姿が見えてくる。戦艦二人は素早く身をかがめ、後続の軽巡洋艦に射線を開けた。


 距離1000。鬼の射るような眼光がその場にいる全員を捉える。迎え撃つ方もそれに答える。五十鈴は連射砲を、川内は主砲の先を神通の進行方向に向けた。


「合わせろカワウチ」


「はいよぉ!」


 五十鈴が弾丸をばら撒きながら銃口を右から左へ。連続した射撃音と共に無数の薬莢が海面に沈んだ。帯状に広がる銃弾の嵐。集弾性に乏しいので威力は低いが、回避不能の攻撃に神通はとっさに腕で顔をかばった。手甲に無数の穴が開く。はじけ飛ぶ血飛沫は絶好の的であった。

 川内の主砲が火を噴く。神通は手で顔をガードしている為、前方警戒がおろそかだ。軽巡二隻の回避不能連携は見事型にはまっていた。事実、神通は視覚での状況確認を行っていない。砲撃音での判断は、もう間に合わない距離であった。


 ではなぜ神通は身をかがめて直撃を回避したのか。何故砲弾はかすりもせず背後の海に沈んだのか。答えを出せる者は誰もいない。今は、まだ。


「距離600!速度落ちません!」


 鬼はもう眼前であった。しかもその速度を落とそうともしない。進路は変わらない。一直線に金剛を狙ってくる。

 「衝突」。ふと恐ろしい言葉が脳裏をよぎった。川内の表情からさっと血の気が引いた。


(止まれ、止まれ神通。私に、「こんな事」を言わせるな)


 容赦なく押し迫る影。この期に及んで、川内はまだ最後の切り札を使いあぐねていた。だってそれは、妹の傷を抉る行為。軟な傷痕に刃物を突き立て、血に濡れた肉を抉り出す行為。愛する妹を、再び深海へ蹴り落とす行為。

 川内の喉が、唾液の塊を飲み込んで大きく上下した。感情を殺し、力に任せて強引に口を開く。


「神通っ!『ぶつかる』ぞっ!」


 禁句、トラウマ。呼び方は何だっていい。妹の治りかけのかさぶたに、タバコの火を押し付けるかの如き所業。「それを言うか」と、五十鈴はちょっとだけ川内を見直した。


 神通の顔が苦悩にゆがむ。泣きそうなほどに目をしかめ、震える唇を噛み締める。向かい合う川内にも、その表情がはっきり見えた。脂汗まで浮かべて苦しむ妹の姿に胸が詰まる。だが、これでいい。止まれ。止まれ神通。

 快速を貫いてきた足が僅かに鈍る。威圧感に彩られていたはずの瞳はすっかりその勢いを失い、やがて悲痛な表情と共に完全に瞼が閉じられた。

 距離400。さらに速度が落ちる。閉じた瞳の上で、顔中の筋肉が恐怖に震えていた。溢れ出た汗が、涙のように頬をつたう。そして。


 その瞳が。

 再び。

 開く。


 そこからの加速は凄まじかった。残りの距離を一瞬で詰め、金剛の眼前に迫る。高速で突撃し、金剛と肩の装甲が激突した。

 後続の川内と、ほんの一瞬だけ目があった気がした。その瞳は仲間の絆を背負った、「けつい」の色に染まっていた。そこには迷いなど、微塵も感じられなかった。


 艦隊の中に風が疾る。わずかな衝撃と、1発の砲音。


 川内が再び目を開けると、そこに妹の姿は無かった。素早くレーダーを確認する。変わらない6人の隊列。その後方に一つの影。素早く背後を確認する。艦隊の後ろに、神通の背中が遠ざかって行くのが見えた。


 艦隊を『通過』した。


 一見敷き詰められたような複縦陣にも、船と船の間に僅かな隙間が存在する。それは艦娘同士が衝突しないように、間隔で空けられているものだ。その間を縫うように、航路として利用した。艦隊の中に、神通と接触したものは金剛を除き存在しない。針の穴を通すような業。荒々しく繊細な、『鬼』の業。


「じんっ…」


 名前を呼ぶ声を遮るように、艦隊の中に水柱が上がった。とっさに身をかばう。水柱はぴったり四本。遠くで神通が艦隊を振り返っているのが見えた。

 なんて奴。すれ違いざまに砲撃(う)たれていた。しかし、砲音は1発分だったはずだ。神通の艤装を見る。軽巡用2連装主砲。両手の主砲が180度回転して、肘の先から延びるように砲身が後ろを向いている。

 進行方向背後に撃ったのだ。目視せず、4発同時に。


「逃がすな!ヤツを追え!殺せ!」


 榛名の怒声に隊の全員が現実に引き戻された。

 最高速度を超える超加速、隊列の合間を抜ける航路選択と精密操作。背面同時射撃の正確性。

 突然に多くの事が起きすぎた。この光景を見せつけられて、すぐに「迎撃」の答えに行き着いた榛名はある意味優秀と言えるのだろう。


 事実川内は遠く離れていく妹の背中を、ただ黙って見送る事しかできなかった。






 むせる。


 こもった熱、煙る空気。息をするだけで、喉が焼けつくほどに熱い。沸騰する闇の内側で、初霜は下敷きになった盾を持ち上げ、両足に力をこめた。黒コゲになった天版が砕け、青空の下に解き放たれる。立ち上る熱気がちりちりと肌を焦がした。

 文字通り鉄クズと化した鉄山が、焼けた表面を急速に冷やしがら海中に没していく。日向と初霜を庇い、ほぼ直上からの砲撃を受けきったのだ。技師の者達にしっかりと報告してやらねばなるまい。


「日向様、お怪我はありませんか。日向様?」


 足元でうずくまっている妹に手を伸ばす。その手を取り、日向は頭を抱えながら立ち上がった。青空の下で新鮮な空気を取り込むと、よけい頭の重さが際立つ。こつこつとこめかみを叩きながら、空を見上げた。元気に飛び回る瑞雲たちを見て、ほんの少しだけ頭が軽くなった気がした。


『こちら神通。申し訳ございません、金剛を捉えきれませんでした』


「了解だ。中飛車はそのまま『居飛車』に構えろ」


『了解。日向さんの号令を待てないのは残念ですが、みなさん一足先に失礼します』


 通信の最後に全員に向けた言葉を残し、それきり通信が途絶えた。範囲外に離脱したのだ。

耳障りな砂嵐を切り、あたりを見回す。海面はまだ少し炎の種がくすぶっている。遠方を臨む。神通のかく乱でかなり敵との距離が離れていた。空を見上げる。青空を覆う飛行機の群れ。美しい陣形に日光を透かして目を細めた。


「感傷に浸ってる場合じゃないぜ、旦那」


 すぐ側で声。頬を焦がした江風が日向の隣で同じく遠方を臨んでいた。肩の高角砲が大きく歪み、外装の先がボロボロに破けている。黒い頬を指で拭い、こびりついたコゲを払った。


「損傷報告」


「ヨユーヨユー」


 顔を上げて尖った犬歯を見せつける。立てた親指は墨がこびりついて黒く汚れていた。


 飛び回る瑞雲より報告あり。外洋を回って2隻の影。その姿は徐々に大きく、艦隊に近づいてくる。


「加古、名取」


 陽動部隊の二人。

 敵の追撃を逃れる為、索敵範囲外からの合流だ。実際には神通の相手で、敵部隊はそれどころじゃなかったようだが。


「悪い旦那。しくった」


 加古が大げさに手を合わせる。隣の名取が大きく頭を下げた。


「も、申し訳ございませんでした」


 二人とも外装がところどころほつれている。

 肩を落とす二人を見て、日向は小さく口元をほころばせた。


「榛名は甘くなかったな」


「いや、油断してたわけじゃないんだって!」


 加古が否定してみせるのに対して、名取は「あはは」と頭を掻いた。

 自らを囮と晒す陽動作戦。しかも「S・Z・S」展開前の任務は、その全てが個人の力用に委ねられていた。あれだけの大艦隊にたった二人で突撃する危険な任務。その二人が無事でいてくれた事が、日向には何よりの朗報であった。


「神通の野郎。先に行っちまったみたいですね。あたし等もそろそろ動かねぇとマズいですかね?」


 神通の奇襲は結果として、大きな損傷を与えられたとは言い難い。体勢を立て直した敵艦隊が、孤立した神通を追撃し始めると厄介だ。こちらも迅速に動き出さなければならない。


 日向は全員を自分の周りの呼び寄せた。5隻の艦隊が輪になって、空を彩る瑞雲の下に集まった。


「これより、旗艦からの最後の命令を伝える」


『最後の命令』。比喩では無い。恐らくこの演習で大っぴらに日向の指示が飛ぶのはこれが本当に最後の事になるだろう。正確には指示など出している暇がないと言うのが正しいだろうが。


「これより、我々雷雲戦隊は…」


 全員の視線が日向に集まる。一度言葉を区切って、大きく息を吸い直した。


「艦隊運動を放棄する」


 告げた。

 誰も、驚きはしない。あらかじめ分かっていた事だ。仲良しこよしでは戦えないし、「勝てない」。勝利の為に。少女達は孤独に身を投げ出す。たった一人の戦い。それでも、私たちは仲間だ。


「戦って、勝て。これが本当の最後だ」


 返事は無かった。必要なかった。覚悟はとっくの昔に決まっていた。

 あの桟橋で、全員が集まった時から。日向は、あの橋の上で初霜と誓いを立ててから。初霜は、きっともっと昔から。

 互いの視線が交差する。ここを離れれば、もう助けは無い。少なくとも、仲間のぬくもりを感じて戦うなんて事は出来ない。


 神通の決断は速かった。

 日向を初霜に任せ、あらゆる未練や不安を断ち切った。己を信じて飛び出した。不安も苦しみも、降り注ぐ試練をも乗り越えて。

 それを「する」。ここにいる全員が。例外は無い。


「なンか、カッコイイ事言おうぜ」


 渦巻く緊張の中で、突如江風が切り出した。加古がガクリと肩を落とした。


「緊張感が無い奴だな」


「いや、ヤる気の問題だって!これから連絡も取りづらくなるし、全員でなんか共有意識もってねぇと咄嗟の時カンが鈍るぜ」


 日向にはその言葉の意味が理解できていた。旗艦からの命令が無いという事は、自由であるという以前に、咄嗟の指示が仰げないという事だ。迷った時は自分の信念と添い遂げなければならない。


「アタシ達はバラバラになっちまうけどさぁ…」


 皆に背を向けた江風が空に向かって告げた。それに、やれやれと口元を緩めた加古が続いた。


「それでも、あたし達は繋がってる」


 初霜が頷く。


「雲…」


「瑞雲?」


 名取の言葉に日向が首を振った。

 私たちは繋がってる。この広い海で、絶対に一人じゃない。


「雲の導きと共に」





「じゃ、アタシは行くぜ」


 遠くに敵艦隊の影が小さく見える。

 江風は雷雲戦隊を振り切り、小さな体で一人その影を追った。未練も不安も、ここに置いていく。体は軽かった。誰の助けも借りない。たった一人の戦い。その火ぶたが切って落とされた。


「だからさ、姉御はついて来なくていいンだぜ」


 どんどん遠くなる江風の背中に、後続の加古がついて波を蹴った。


「お前さん、榛名(さんじょ)にちょっかい出す気だろう?一人じゃ危険さね」


「そンな事言って、アタシを利用するつもりじゃないだろうな?」


「あたしが手駒にとれるほど、大人しいと思っちゃあいないよ」


 軽口を叩き合いながら、並走する二人。遠くから肩を並べる姿を見ると、まるで年の近い姉妹のようにも見えた。




「で、では、私も行って参ります」


 風が強くなってきた。

 なびく髪を手で押さえながら、名取が日向と初霜に向けて鋭く敬礼した。返す二人も、海上でカカトを揃える。


「五十鈴の所に行くのか」


「はい」


 その瞳に迷いは無い。

 戦う為に、自らの姉と。そして勝つ為に。

 迷いは全ての妨げになる。勝利を遠ざけ、身の内の暗部を呼び寄せる。この数週間、日向が名取に授けたのは「決めて」戦うという事だった。状況判断も、選択も必要ない。ただ勝つ為に。目の前の相手を撃つという事。ただそれだけを教えた。名取もわかっている。迷いや躊躇が死に繋がると。自らの足をすくい、鋭い爪を食い込ませると。それでも、なお。


(まだ戦場に「迷い」を持ち込むのか…)


 名取の掲げられた主砲を見る。五十鈴がつけているものと同じ、軽巡洋艦単装砲。もはや何も言うまい。最後の命令は下ってしまったのだから。


「武運を」


 それだけ伝えて、後ろ姿を見送った。潮風を切る姿にも動揺や躊躇は感じられない。「姉を討つ」そう「決めた」のだ。

 徐々に小さくなる背中。それが、ちらと背後を振り返った。遠くで日向と目が合う。瞬間、満面の笑みがその表情(かお)を飾った。


「行ってきます!ひゅ、日向様っ!」


「なっ…」


 ぶんぶんと手を振りながら離れていく名取を、日向は唖然として眺め続けた。正面斜め下、1時方向からの疑惑の視線をひしひしと感じながら。


「ひゅ・う・が・さ・ま」


「ま、まて、初霜。私にだって何がなんだか」


 ぶくっと頬を膨らませて初霜が迫る。うろたえる日向の顔と、遠く離れていく名取の背中を交互に指差した。


「何故名取さんが、日向様の事を『日向様』と呼ぶのですか!つまりあれですか、SEXというやつですか!」


「ば、馬鹿な事を言うんじゃない!」


 激しく狼狽する日向を余所に、よよよと初霜が泣き崩れる。日向の道着を掴んだまま、よろよろと足元にうずくまった。


「日向様ともあろうお方が、よもや志を共にした戦友(おかた)と懇ろになるなんて…」


「滅多な事を言うんじゃない!馬鹿者!」


「怪しい…」


 日向はこめかみを抑えて、大きくため息をついた。


「まったく…で、お前はどうするんだ」


 ちらと指の隙間から、機嫌の直らぬ初霜を臨む。初霜は日向から視線を逸らしてぷーっと頬の空気を抜くと、苛立ったままの視線で日向を見上げた。


「最後まで日向様をお守りします。この志に従います」


 心臓に手を当て、小さな胸を張る。

 絶える事の無い誓い。幼き身に刻んだ、修羅の傷跡。


「初霜は、日向様のお側を離れません。初霜はもう、『捨て』ません」


 その瞳には涙が浮いていた。日向にそれを笑う事などできはしない。


「侘びは無粋だな。私と共にあれ、共に血路を往け」


「当たり前です!初霜は…」


 目を伏せ、涙をぬぐう。


「日向様の、お姉ちゃんなんですから」


 満面の笑み。それは、名取と同じ勇気と歓喜の表情。

 名取が自分の気持ちに正直にあったように、初霜もまた死地へ赴く従者として、無上の喜びを感じていた。








 演習開始から、じきに1時間が経つ。互いに損傷は無し。横須賀第一大戦隊が先手を取ったものの、決定打には至らず。結果として雷雲戦隊の偵察機陣形の展開を許してしまった。

 陸に伝わっている情報は大方その程度であろう。軽巡洋艦神通の安全基準を無視した航行、無反動連続射撃、それに伴う緊急離脱。あの『規格外』に、いったどれだけの者が気が付いているのか。鎮守府の解析班でこの事実を解明しているものはどれだけいるのか。そして提督は。


 金剛は唇を噛む。

 この演習。観艦式での一大行事。まさか仕組まれたものではないのか。あの提督(おとこ)に。航空戦艦の餌になるように、あらかじめ用意されたシナリオなのではないのか。頭の上で奏でられる耳障りな羽音に、苛立ちと焦りが募っていく。


「5時方向、敵艦接近!神通です!」


「またデスか!」


 目障りな羽虫は瑞雲だけでは無い。先ほどから、まるで艦隊を挑発するかのように神通が横槍を入れてくる。攻めれば急旋回で逃げられ、日向を狙おうとすれば、離れた位置からこちらを狙ってくる。


「各艦密集隊形!「通過」を防ぎつつ、減速した所を狙いまス!」


 足を止め、後方を確認する。主砲を操り、角度をやや低めに、手を上げて榛名に合図を送る。


「第一第二主砲、Fire!」


 砲音と伸びる影。水柱が上がる前に、敵艦の影は大きく距離を離していた。着弾地点から遠くに距離を取り、こちらの様子をうかがっている。突撃してくる様子も無く、徐々に反応が遠ざかる。


「反応消失」


「damn!」


 完全におちょくられている。相手は軽巡一匹。しかし、あんな規格外の動きをされては、こちらだって警戒せざるを得ない。日向を狙えば神通に尻をつつかれる。神通を追えば遠くに逃げられ、肝心の日向と離されてしまう。

 思考がまとまらない。考える頭にプロペラの音が割り込んで来る。榛名の舌打ちが聞こえる。ばぎりと口の中の飴玉をかみ砕いたのは、たぶん夕立だ。

 肩にかかる艤装の重みが、普段の何倍も重く感じられた。ワタシだけではないだろう。部隊全体が「揺れて」いる。

 未知の相手への不安。猛者が故抱く動揺、それを否定する事への怒り。込み上げてくる焦り。仲間への不信。


 淀みだ。


 どろどろと重苦しい淀みが、皆の肩にのしかかっている。自分の采配に疑問など持った事の無い奴らだ、その重みに疲弊するのも早い。

 この状況を打開するには。考えを巡らせる。秘策、妙案。ふと頭に浮かんだ答えに、金剛は思わず噴き出した。

 榛名が不審に思い、金剛の顔を覗き見る。それに気づいて小さく顔を逸らした。

 笑える。実に笑える。

 この状況を打開する。艦隊の統率を守り、そして勝つ。その案。その真実。


 チームワーク。


 考えて、再度声をあげて笑った。

 チームワーク。仲良しこよしでガンバリマショウって、酷いジョークだ。泣けてくる。だが、やってやる。それを、このメンバーで。淀みを吹き飛ばす。


「ユーダチ」


 その為には夕立を使う。幼き姫を利用する。

 夕立はこのささくれ立った艦隊で、妙に好かれる傾向にあった。純粋無垢なむき出しの力に、素直に魅了されるものもいる。

 名前を呼ばれた夕立は、隊列の先頭からインカムを抑えて金剛を振り返った。


「ぽーいぽい」


 変な返事。五十鈴が笑う。

 良い調子だ。夕立が口を開くと、全員肩の力が抜ける。


「姫であるアナタに任務を与えまス。神通を「殺し」てくださイ」


 全員がその言葉に反応する。夕立は一人で目を輝かせていた。


「ぶっ殺していいっぽい?ぐちゃぐちゃにしていいっぽい?」


 夕立がぶんぶんと尻尾を振る。そこに川内が割って入った。


「金剛さん、ダメっスよ。夕立はまだ子供なんだから、本気にしちまいますよ」


 艦隊全員の空気が凪ぐ。穏やかな平行線。当然で誠実で、どこまでも正論。そうだ川内。お前がきっと、何もかも正しいのだ。


「ユーダチ」


 金剛は構わず続ける。言葉の間は大事だ。待たせてやる、次の言葉を。お前たちが、澄ました顔で耳をそばだてているその言葉を。


「殺してくださイ」


 空気が、揺れた。

 止めに入る。誰かが。今までだってそうだった。長い海軍生活。深海棲艦相手であれ、過剰な攻撃や規律を逸脱した殺戮は御法度とされていた。自分達のような異端がいる傍ら、軍は、艦娘は、正義の為に戦い続けた。


 誰か、誰か、誰か


「殺セ」


 全員の瞳の色が変わった。

 気付かないと思っていたのか。お前らが誰よりもこの「お許し」を待っていた事。金剛は榛名とは違う。怒りに任せて「殺せ」とわめいたりはしない。金剛のお言葉は「許可命令」に他ならない。

 一体化した意志の下で、隊の全員が悲鳴の如き歓喜に震える。ある者は喉を鳴らし、またある者はギラギラと瞳を輝かせ、ある者は牙を剥き、爪を研ぎ、歪んだ笑みを張り付け、吠える。


「横須賀第一大戦隊」


 横須賀における撃墜数上から6人を寄せ集めただけのデコボコ艦隊。規律も絆も情も無く、力だけを持て余した烏合の衆。彼女たちをそうあざ笑ったのは一体誰だっただろうか。実態は全くの逆であるというのに。

 おそらく艦隊を組んだ丁嵐ですら気づかなかった最悪の偶然。奇跡とすら呼べる悪魔のいたずら。

 彼女たちは一つの意志において完璧に統率された存在であった。


「殺戮」あるいは「殲滅」


 戦争兵器である彼女たちにとってはそれは「悪意」ではなく「責務」であった。しかし、姉妹の中にはそれを拒む者もいた。「戦士の心を失うな」と叱咤する者もいた。血に酔う獣の如き姿に、涙を浮かべて恐怖する姉妹もいた。艦隊運動をする上で、必ず誰かが反発した。


 しかし、ここには誰もいなかった。


 あるのは獣の如き狂乱と、血に飢えた怪物達の群れ。

 その事実に、全員が気が付いた。

「いい仲間達だ」と心の底から思ったのだ。身の内に眠る悪意の根源が、最も深い部分で手を取り合ったのだ。沸き立つ「愛と殺意」が万人に共通のものだと認識したのだ。全身の血を沸騰させ、吠える狂面を笑って見守ってくれる者達がいると感じたのだ。怒りと痛みが混ざり合った極上の愉悦が自分一人のものではないと確信したのだ。心から愛する者達が蹂躙されゆく様を眺める高揚を共有したのだ。血と硝煙と鉄と涙と海と肉の焦げる臭いに恍惚とする情景を分かち合ったのだ。

 小鳥を握りつぶす高揚を、奪い取り眼前で踏みにじる快楽を、愛する者に手をかける愉悦を、悲しみに瞳の色を変える痛みを、身を削り肉を削りそれでも敵の心臓を掴む緊張を、それをきっと「仲間」と共に。


 そこにあるのは間違いなく「幸福」であった。少女たちは初めて「運命の出会い」を知ったのだ。


「あいつは私が殺すわ」


 そう口に出した五十鈴は笑っていた。目も口も、耐えきれぬ歓喜に震えていた。口に出さずにはいられなかった。この感情を、共有せずにはいられなかった。愛しき仲間たちと共に。


「いいえ、私が殺します」


 古鷹が小さく告げた。ぷっと榛名が噴き出した。


「これは夕立の任務っぽい!横取りダメっぽい!」


「いいえ、鬼殺しはこの榛名の役目ですわ」


 競い合うように、奪い合うように。愛の螺旋が巡る。

 その狂演の内側で、川内一人が真っ青な顔をして唇を震わせていた。自分の妹を殺す算段を、嬉々として口にする少女達。狂気の祭宴。そのるつぼ。

 川内は意を決して発言を求めた。震える体を押し込めて、大きく手を挙げた。


「ちょっとまってよ!あ、あの子は私の妹なの。だから…」


 ぐるぐるぐるぐる、思いはめぐり。愛情(おもい)は巡り。殺意(おもい)は廻り。めぐりめぐって、花開く。


「神通は、あたしに殺らせて」


 しんと、場の高揚が凪ぐ。冷めていく空気。

 向けられる、視線と意志。胸が痛む。じぐじぐと、棘が突き立てられる。そして注がれる言葉はきっと、残酷なくらい無慈悲に振りかかるのだ。


「カワウチじゃ無理っぽい」


「ヘマするんじゃないわよ、元鬼っ娘」


「貴女の妹は強いですよ。気を付けてください」


「まったく。貴女には雑魚の掃除がお似合いですのに」


 ああ、こいつら最高!


 艦隊は航路を往く。愛と殺意と仲間を乗せて。討鬼抜錨、血戦の狼煙を上げよ。


 沸き立つ艦隊を、金剛は少し離れた位置から眺めていた。

 唇が歌う。耳障りな羽音を超えて。高らかに空を塗り替える。


「らぁ~ぶ」


「あん」


「ですとろい」


『LOVE & DESTROY』







 認識が甘かった。という言葉は、この場合似つかわしくない。想定外、といった方がより近しいか。やつらが数に物言わせた観測布陣に取ってくる事は想定のうちであった。しかしその先、布陣を布いてからの一手目で我ら横須賀第一大戦隊は遅れを取った。ここからはより慎重に、相手を分析していかなければならない。力で押せるのか、技術で組み伏せるべきか、そこを見極める。


  艦隊は金剛、榛名を先頭とした複縦陣で海上を進んでいた。遠方で陣を組んでいる日向を狙う。視線の端に神通の影、二つの砲口の黒い穴が突きつけられた。


「之字運動開始!」


 榛名の号令にあわせて、艦隊全体が海上を蛇行する。未知の相手にはセオリー通りに正道を行く。それを覆してくるのか、一つずつ手の内を暴いてやる。


「センダイ!神通の正確な速度は測定できましたカ?」


「現在並走中で20ノット!追いかけてきた際の加速は、最大で48ノットまで出してます!」


 規格外加速は嘘じゃない。艦隊と並走する神通の主砲が火を吹いた。高速で進む艦隊の前後に水柱。蛇行して進む艦隊にこうも簡単に夾叉させるとは、艦隊間距離も完璧に把握されている。


「金剛お姉さま、神通を迎撃…」


「まだ、まだでス」


 神通と金剛。並んで睨み合いながら、高速で波を切る。神通はしっかり食いついてきている。射撃にも余裕がある。おそらく離脱も、十分すぎる猶予を隠し持っている。

 逃がしてなるものか。引き付けてやる。お前のスペックを丸裸にしてやる。

 切る風にまぎれて通信。ピーピーとやかましいインカムを髪の上から指で押さえつけた。


「気付いてないの金剛!?神通の頭の上よ!」


 五十鈴の言葉に従い視線を上げる。神通の頭の上、上空に広がる艦載機たち。空高くを並走する緑色の翼。その一機に、妙な違和感があった。風に乗って飛ぶ瑞雲たち。その中に一機、まさかあれは…。


「センダイ!イスズ!Fire!」 


 咄嗟に、構えから撃ち出しの早い二人に指示を飛ばした。五十鈴の連射砲が瞬き、川内の主砲が神通の動きを追う。神通は速度を落とす事によって秒間20発の連射を回避した。影が大きく後方に流れていく。そして、それを追うように上空の瑞雲の一機が大きく旋回して神通の後を追っていった。速度を落とした神通に向かって川内の主砲が炸裂する。引き金が引かれる前に、神通は加速を再開していた。すばやく波の壁を広げて、重心を右に。並走距離を離しながら、余裕を持って砲弾を回避した。水柱が挙がった頃には、標的との間には200m近い距離が開いていた。


「下手糞」


「いいっしょ、別に。当てる気で撃った訳じゃねぇですし」


 五十鈴に睨みを利かされ、川内が肩を縮める。その間も金剛の視線は一機の瑞雲を追い続けていた。神通を追って急旋回した艦載機は、神通が加速するや否や再び進行方向を大きく変え、加速した神通の後を追ってその頭の上にピタリとくっついた。ご丁寧な事に、神通の航行速度にあわせて飛行速度を調整してその動きを追っている。神通が右に舵を切れば右に、左に逸れれば左に、まるで懐いたペットのようにその後に付いて飛んだ。


「『専属』がいるみたいですね」


 古鷹が皮肉って言う。神通の後を追い、観測陣を無視して飛ぶ瑞雲。他の艦載機を差し置いて、奴だけが異質。

 あいつを撃ち落せばどうなるか、神通の動きが止まるのではないか。そう考えた矢先、再び波が大きく揺れた。


「雷雲戦隊が艦隊運動を…は、破棄!各艦単艦で突撃してきます!」


 可能性の糸がまた一つ収束した。

 このタイミングでの艦隊運動放棄。無謀とも思える単艦突撃。理由は一つだ。


「やつらの頭の上に瑞雲は?そいつら全員「神通と同じ」ですカ!?」


 川内が目を凝らす。散開して海を駆け抜ける艦娘達。その頭上、30mほど上空に小さな影。数は三つ。江風、加古、名取。束縛を逃れて飛び出した船と数も合う。


「間違いないです。奴らも「監視付き」です」


 間違いない。あの三人も神通と同じ、規格外のオーバースペックを有している。

 初めは特別なのは神通一人で、その奇襲をもって敵陣を切り開き、残りの本隊で総攻撃を仕掛けるつもりなのかと考えていた。しかし、この状況で単艦運用に切り替えるならば可能性は一つ。神通だけではないのだ。規格外の能力を持つ艦娘達。恐らく「監視付き」全員が、神通と同じく艦娘の限界を超える力を有している。そのスペックを活かすために、足枷を外したのだ。

 いくらあの神通といえども、団体行動を前提とした艦隊運動ではあんなスピードを出す事は出来ない。他の艦を引っ張るにしろ、逆に引っ張られるにしろ、艦隊として陣形を維持しつつ航行すれば、おのずとスピードは抑えられてしまう。そうなればあの規格外のスペックをみすみす持て余す事になる。

 この為の単艦。勝つ為に選んだ選択。神通はその切り込み隊長に過ぎない。


(ワタシが規格外は神通一人ではないかと考えた理由。それは時間。艦娘の性能を底上げさせるほどの大改造。そんなものを艦隊全員に施すには、時間も施設も足りないはずデス)


 だが現実は違う。

 神通、江風、加古、名取。そしておそらく初霜と日向。その全員が艦娘の限界を超えたパワーを持っていると考えられる。ただし、金剛の考えだって全てが外れているとも思えない。少なくとも艦娘の根本を覆すような大改造が、この横須賀で秘密裏に行われていたとは考えずらい。


(その為の瑞雲。なるほど見えてきましたヨ、奴らのカラクリ)


「各員砲撃を絶やさないでくだサイ!進行航路を塞ぐように。好き勝手させないで!」


 鳴り響く砲音。上がる水柱。その隙間を敵はスイスイと踊るように回避する。水柱の後ろから、江風の鋭い眼光が先頭の榛名を射抜いた。獲物を前にした、狩る側の瞳。駆逐艦用の連装砲がギラリときらめいた。


「そんな目をぉ、この榛名に向けるな!駆逐艦風情が!」


 放たれた砲弾を正面から拳で砕く。鉄の砲弾を粉々に打ち砕いた白い握り拳には、かすり傷一つつく事はない。江風は艦隊左舷を通過しつつ「ヒュウ」と唇を尖らせた。続いて砲撃の雨が江風を襲う。風の如く駆ける少女は、視線を正面に戻して雨に追いつかれる事無く艦隊後方に抜けた。

 金剛も視線を正面に、迫ってくる名取と最後尾の加古の影が見えた。


「取り舵一杯!囲まれないデ!」


 艦隊全体が大きく左にそれる。名取と加古に向けて艦隊の側面を晒す。有利な形でのT字戦。複縦陣の右列にあたる榛名・五十鈴・古鷹の三隻が、一斉に砲門を開いた。


「撃て撃て撃てぇ!」


 榛名が唾を飛ばす。

 集中した火力を恐れてか、加古は素早く航路を逸らして範囲外に逃れた。おのずと主砲は残った名取に向けられる。名取は取り舵を切った航路に沿う様に、たった一人で艦隊と並走していた。同行戦だ。

 一瞬だけ、名取と五十鈴の視線が交差した。お互い何の感情も表す事は無かった。少なくとも表向きは。周りの皆も、二人が姉妹艦であるという事すら忘れていた。


「目標!長良型3番艦!撃て!」


 榛名の8門の主砲が火を噴きあげる。名取は咄嗟に減速して集中砲火を回避した。その動きを予測した五十鈴が、連装砲の引き金を引く。鉄弾が装甲を激しく叩く、足の止まった隙を古鷹が見逃さなかった。


 ガォン!


 巨大な火の玉が迫る。

 重巡洋艦の連装主砲。伸びたアームの先に、大口径の連装砲が長くそびえ立っている。巡洋艦の中でも火力はずば抜けて高い。直撃があれば巡洋艦レベルの装甲ではひとたまりもない。重要臓器を吹き飛ばせば、艦娘と言えど一撃で即死させられる。


 水柱が一際高く上がった。

 古鷹の行動は速かった。主砲を撃ち終わると、すぐさま右肩の装甲を水柱の方向に向けていた。すぐに連装砲の激しいノックが始まる。水柱の後ろからマズルフラッシュに照らされる名取の顔を見て、古鷹は眉をしかめた。

 古鷹の攻撃は、後方に回避すれば次弾が突き刺さる完璧なタイミングだった。連装砲から立ち上る煙は一本のみ、名取が回避行動をとればすぐにその足を狙い撃てる準備をしていた。後方に回避すれば、の話だが。

 名取は五十鈴の猛攻を受けながらも、アームの先の主砲の動きを見て、さらにもう一歩「前」に踏み込んできた。

 狙い撃つには距離が近すぎた。味方を巻き込む可能性がある近距離戦。仲間を盾にされ、引き金を引くのを躊躇った。超近距離ですれ違い、連射砲で装甲を削られている。三対一でここまで抵抗されるのか。我々ともあろうものが。


 引き金を引きながら、速度を上げて名取が艦隊とすれ違う。対峙した時間はおよそ6秒ほど。最低限の攻撃で、戦線を離脱した。するはずであった。

 動く影は、守りに徹する古鷹の背後から勢いよく飛び出した。


「ユーダチ!」


 金剛の掛け声よりよほど早く、伸びた手が逃げる襟首を捕まえていた。がぐんと上半身が後ろに引かれ、首を絞められる。小柄な巡洋艦とはいえ、艤装を含め120kgを超える鉄塊を片腕の力だけで止められていた。白い腕に血管が浮かび上がり、しなやかな筋肉がビキビキと音を立てて硬直した。

 艦隊は二人を置いて遠く離れていく。大きく旋回して再びここに戻ってくるつもりだ。その前にこの手を振りほどかなければ、ハチの巣にされて海に捨てられる。


 掴まれているのは制服の襟部分だ。夕立は名取の背後に立っている事になる。名取は右手の連射砲をくるりと手の中で回して、肩越しに見えるわき腹に向かって引き金を引いた。しばらくびちゃびちゃと肉が破ける音が響き、すぐにカチンと引き金が軽くなった。この体制ではマガジンを変える事は出来ない。ぐるりと体をねじって、夕立の方を振り返る。掴まれた指に歯を立てて喰らい付き、無理やり腕を引き抜いた。空のマガジンを抜いて、噛み付いたまま視線を上に。ポロリと手の中のそれを取り落した。


 まんまるの双眸が名取を見下ろしていた。

まるで、じゃれつく子犬を見守る飼い主のような。こちらの次の手は何かと期待の眼差しを向けられている。

 撃墜姫。姫の名を関する駆逐艦。その両手の届く距離は、あらゆる生き物の生息範囲から除外される。艦種など関係ない。宝石のように美しい死の姫は、戦艦ですらやすやすと「破壊」する。


 震えを殺すように、指を噛む顎に力を込める。腰の裏から変えのマガジンを取り出して装填。この間2秒弱。そのどて腹に銃口を突き付ける前に、夕立の自由な親指が名取の顎の下を強く押した。


「ぐ、く…」


 喉が圧迫される。引き金は指にかかっている。照準を定め、引き金を引く。それすら必要ない。敵は目の前にいるのだ。ただ撃つ。引き金を力いっぱい引く。1秒でできる。夕立は手を90度横に捻っただであった。1秒もかからなかった。


 ぼぎ、ごぎ、ばぎ、ぼぎん


「いうぎゅあああああ!」


 悲鳴は言葉にならない。

 名取の下顎が砕け、滝の様な血が口の縁からあふれ出した。顎が90度縦にねじ曲がっている。骨が砕け、肉がちぎれる。筋が破け、鮮血が海を染めた。


 トリガーは、指にかかっている。夕立は目の前にいる。

「撃て」、「撃て」、「撃て」、「痛い」、「撃て」「痛い」、「痛い」「撃て」「痛い」「痛い」、「痛い」「痛い」「痛い」「痛い」「痛い」「痛い」「痛い」「いだいいいいいいいいいいいいいいいいい」


「あああああああああああ!」


 届かぬ叫びは海の黒に溶ける。痛みと恐怖と混乱が、軟な精神を崩壊させた。


「つまんないっぽい」


 夕立の呟きは名取には聞こえていなかった。響き渡る幻聴の絶叫に、全身が震えるのを止められなかった。手足がしびれる。指が動かない。目がかすむ。意識が切れる。海に、溶ける。


『離脱しろ名取っ!』


 名取には誰の声も聞こえていなかった。耳が聞く事を拒絶していた。だから、もし耳がちぎれていても脳に響いてくるその声は、ある意味ではひどく残酷な物であった。目は見えない。耳は聞こえない。しゃべることすらできない。でも、戦う事だけはできた。


 銃声が響く。連射砲は的確に夕立の心臓を貫いていた。目は見えていない。


『後方に逃れろ!』


 通信を頼りに距離を取る。耳は聞こえていない。


『江っちゃん、ごめんね…』


 しゃべる事すらできない。


 だけど、戦う事だけはできるのだ。


「まかせろ」


 江風が名取の前に立つ。

 対峙する、姫と風。


 ずっとアンタを追いかけてた。

 言いたい事も、山ほどある。


 だけど、今は。


「まず殺す」



 ぼんやりとしか思い出せない両親が、頭から食われて海に捨てられた後。アタシは名前も知らない親戚に引き取られた。そこで一年もしないうちに、軍に売られた。

 その頃、海軍は対深海棲艦用の「憑代」となる子供を躍起になって集めていた。当時身寄りのない子供は文字通りの宝であり、あっちこっちで醜い取り合いが繰り広げられていた。一般家庭や病院から乳幼児を奪って売る「連れ去り」も社会問題になった。

 集められた多くの子供たちが生ゴミと一緒に処分される中、アタシはいつしか「艦娘」と呼ばれるようになった。「白露型」という家族もできた。

 だけど、奴だけは違った。


「夕立」


 名前を呼ぶのは、何年振りか。

 向かい合う金髪の少女はずっと江風と目を合わせずに、遠くで波立つ白い泡を見つめている。江風の声も聞こえていない。夕立の中に、江風は「存在しない」のだ。


「・・・」


「てンめぇ!」


 いかン。語るな。言葉はいらねぇ。殺せ。


 ぶんと、風が鳴く。ノーモーションの左フック。放たれた拳は無防備な頬に突き刺さるより先に、割り込まれた手のひらに受け止められた。振りぬけず、肩が止まる。江風は唇を歪めて舌打ちをした。

 二人の間に風が吹く。夕立の瞳が、ゆっくりと江風に向けられた。

 血の色の瞳。深く、開ききった瞳孔に吸い込まれそうになる。

 夕立の中に「江風」はいない。奴の中にいるのは、いつだってただの「敵」だ。


「アナタ、誰?」


「アタシは、あンたの妹さ」


 向けられた瞳が深く沈む。


「違う…。夕立の妹は、もういない」


 握られた拳を、そのまま強引に振りぬいた。拳骨が夕立の頬をかすめる。上体が右に流れ、夕立の無機質な気配が隙だらけの左脇に移動する。あ、ヤベェ、死ンだ。

 右腕が振り上げられる。その拳に、奴の全体重が乗っている。白露型4番艦「夕立」。身長151cm、体重38kg、駆動用缶本式、主機2つ、対空砲、ボックス型後期連装砲二門、魚雷四門、その他合計224kg。全てがあの小さな拳に乗っかっている。

 ボっと火が灯ったような音がした。風を裂いた。ちりちりと空気が焼けた。江風は殴られた頬を真っ赤に膨らして、空中に吹き飛んだ。口の中は砕けた歯と血でぐちゃぐちゃになっている。目の前が閃光でばちばちと弾けた。

 反動で大きく後退する。海上で一回転して、波に揺られたまま、それでも両こぶしを高く構えた。ぼろぼろと抜けた歯を海の上に吐き出す。血に濡れたそれを波に隠すと、再度闘志の籠った瞳で夕立と対峙した。


 夕立は振り下ろした自らの拳を見つめていた。クリーンヒットだった。渾身のパンチだった。首をかしげる。では何故奴の首の骨は繋がってるのか?

 夕立に殴られた奴は、みんな首の骨がぐにゃぐにゃに折れ曲がり、拳圧が口の中で爆発して脳が破裂する。戦艦だって、空母だって、修復剤も使えないくらいぼこぼこにしてきたのだ。

 じゃあなんでこいつは立ってる?なんでこんな、生意気な目ができる?


 暗い海の上で再び対峙する。

 なびく風に従い、燃える薔薇色の髪が流れる。

 金色の双眸が、狼狽える狂犬を照準のど真ん中に捉えた。


「来いよ、『お姉ちゃん』」





 風が出てきた。神通は負傷した名取を回収して、移り変わる潮の流れを追って戦線を離脱している途中だった。

 艦娘の航行速度は波の方向に影響されやすい。波を背負って戦線に飛び込むのは至難の業だが、海の表面の潮を呼んで退路とするのは、艦隊運動を放棄した今の神通には容易な事であった。


「名取さん、お気持ちは察しますが、たぶん吐いてしまった方がいいと思います」


 通信は使わず、背後の名取に語りかける。風の音にまぎれて聞こえているか心配であったが、ぶんぶんと首を振る姿を見るに、自分が風上でこちらの声は思いのほか通っているようであった。


『う、うら若き乙女としてやっていい事と悪い事があると思います…』


 名取の声はインカムから。風の音に混じって鼓膜が震える。直接聞く普段の声に比べると、少し低く太い声だ。


「美女もイケメンも、死んでしまえば紙切れ一枚しか残らないんですから。戦場で性別故のプライドなど気にするものではありませんよ」


 周囲を警戒しながら、脳内で情報を更新していく。

 大きく肩で息をする名取の背中をさすっていると、ピピピと小さな電子音が連続した。すぐ側に加古が合流してきていた。


「こんなに近づくまで気付かないなんて…」


 瑞雲を見上げる。きっと上空は、もっともっと風が強いのだ。


「エイリアンみたいになってるぞ、お前」


 加古のいまいち緊張感の無い呟きに、神通は眉間にしわを寄せて立ち上がった。


「加古さん!名取さんが気になさっているんだから、発言に慎みを持ってください」


「慎みもクソもなかろうが。顎外されたくらいでピーピー泣きやがって」


 ひしゃげた顔を上げさせながら、未だ頬を汚す涙の痕を指でなぞる。名取の開いたままの歯の隙間に無造作に手を入れると、細い肩にぎゅっと力が籠った。


「名取…吐け」


 最低の掛け声とともに、顎を再び元の方向にねじ曲げた。ばぎんと筋肉が悲鳴を上げ、歯が強く噛みあう前に、加古は素早くつかんでいた手を引き抜いた。強く顎を噛み締めながら、再び名取の目じりに水の玉が浮かび上がる。そして、それが零れ落ちるより先に、胸に手を当てて海の上に崩れ落ちた。


「お、げ…」


 どろどろと血と内蔵液の混ざった吐瀉物が吐き出される。ぼだぼだと海水に溶ける白濁した粘液を見て、加古は大きく頷いた。


「治療完了。医療ナめんな」


 げほげほとありったけをぶちまけた名取は、顎をはめ直した直後より何倍も腫れあがった眼で加古を睨みつけた。


「めさいたがったです」


「言うほどじゃないだろ」


「ち、違います、『いつもより痛い』んです!」


 その重大な意味に気付いて、加古と神通は素早く目を合わせた。上空の瑞雲を見上げ、そしてはるか遠くでこの戦場を『観測』している日向がいる方へ首を傾ける。


「ヤベェな旦那気付いてるかな…」


「たぶん気付いてないでしょう。いろいろとガサツな方ですから」


 普通の人間と同じように、兵器である艦娘にも痛覚は存在する。しかし、それはダメージを認識する為の信号としての役割しかなく、人間のように緊急時の生命維持の為に過剰に痛覚を刺激したりはしない。ましてや、先ほどの名取の様に戦意を失いかねないほど激しい痛みが体を襲う事など本来はあり得ないはずだ。


「演習中に敵の大太刀を自分の首に押し込んだ奴すらいるってのに。名取、お前よくショックで気絶しなかったな」


「江っちゃんが頭の中でうるさかったから…」


 遠くの海を見やる。先ほど名取が夕立と交戦した位置からはおよそ4kmほど離れている。


「え、江っちゃんは、ひ、一人で大丈夫かな?」


 名取が心配そうにつぶやいた。ここからでは江風と夕立の姿は見えない。


「神通。二人は今どこに?」


「しっ」


 加古の言葉を、神通は目を瞑ったまま唇の前に指を添えて遮った。静寂の中に風の音だけが充満している。

 ゆっくりと目を開くと、神通は呆れた様子で暗い海を見つめ、柔らかく口元をほころばせた。


「あの二人。まるで、子供のケンカね…」


「ケ、ケンカって、素手格闘?危ないなぁ」


 名取がそう言った時、一陣の風が頬の横を撫でて吹いた。髪を抑え、遠い海を見つめて、今は見えぬ友の無事を祈った。




 海上戦闘における近接攻撃には大別して二種類が存在する。深滅兵装など近接兵器を使った接近戦と、艦娘本来の四肢を使った格闘戦である。

 水上での近接格闘は、「艦娘戦闘法」とも呼ばれる「軍律戦法基準法第二十一条」にて、ある程度の定義付けがされている。それによれば、「海軍式兵娘ノ素手格闘ハ近距離主砲ヲ的中サセル為、大キク艦底ヲ揺ラシ、敵艦ヲ砲撃内ニ誘導スベシ」とある。つまり、近距離での砲撃を当てる為に牽制として格闘を行い、大きく体勢の崩れた所を主砲で仕留めろという意味だ。

 ただしこれは四肢がある以上の最低限の定義であるというだけで、実際に深海棲艦との戦いにおいて有用な戦法であるかと問われれば、長きにわたって議論が繰り広げられ続けている。


 びゅう、と鋭い風が抜ける。夕立の貫き手が風を生み、かすった頬に赤い線を引いた。痛みから逃れるように上体が右にのけ反る。狙い澄ましたように顔面の中心を狙ってくる左の拳を、江風は額の骨に正面衝突させて何とか凌いだ。


 体勢を低く、背を丸める。豪快にアッパーでも決めてやりたいが、かわされれば最後、隙だらけのわき腹に風穴をあけられるのは目に見えていた。眼前のわき腹に拳を突き出す。放たれた拳は軽くかわされ、左手と脇で受け止められて、がっちりと固定された。


 とっさに握り拳をといて、筋肉を収縮させる。固定された腕の中に空間を作り、素早く引き抜いた。冷や汗をぬぐい顔を上げると、向けられた小型連装砲の二つの穴とばっちり目が合った。

「ひゃっ」と悲鳴と共に頭を下げる。ソフトボールサイズの砲弾が後頭部をかすめた。背負った缶の端に当たり、江風の真後ろに水柱が上がった。

 波が揺れる。


 ちゃ~んす到来。


 夕立の右手は取り出した連装砲でふさがっている。浮いた左手を取って、すばやく手首を内側に捻った。夕立の歪んだ顔に、江風の渾身の左が迫る。

 夕立の口が開く。その前歯に狙い澄ましたストレートが突き刺さった。二本の歯が弾け飛び、歯茎からの出血が手の甲を濡らす。夕立の舌が、めり込んだままの指をぬらぬらとくすぐった。


「ふはまへた」


 ニヤリと歪んだ口角が持ち上がる。打ち込んだ拳は固い歯茎に押さえ付けられ、押しても引いてもびくともしない。夕立の右の連装砲がガコンと重い音を上げて装填を終えた。その照準が江風に向けられた時、江風もまた連装砲を抜き放っていた。お互いの脳天めがけ、躊躇いも無く引き金を引く。


 重なる砲音。超近距離での接触射撃。お互い大きくはじけ飛び、巻き上がった血が雨のように降り注いだ。しかし転倒はしない。二人とも辛うじて水面に足を立てている。手の先が痙攣して、砲を取り落しそうになる。それでも、歯を食いしばって前に出た。


「痛ぇじゃねぇか!ドチクショウ!」


 煙の中から飛び出した二人の額が、空中でぶつかる。接触部から流れ出る鮮血が、眼前を通過していった。


「ノライヌが!キャンキャン五月蠅いっぽい!」


「ぽいぽいうるせえんだよ!バカ姉貴!」


 江風が夕立の肩を押してブレイクする。次弾装填はほぼ同時であった。互いの照準器が、互いの血だらけの顔を捉える。引き金が指にかかった瞬間、夕立の背後より異音が響いた。


 ボン!ボン!


 花火のような間の抜けた砲音。夕立の背負った対空砲から、二本の煙が延びている。空中高くに撃ち出された砲撃は、見事に狙った標的を撃ち落としていた。煙を上げながら高度を落とす一機の瑞雲。江風の流れ出す血が、その光景を見て一気に冷え固まった。


「『そいつ』が鍵なのは、金剛さんから聞いてるっぽい!」


 撃ち落とされた瑞雲は、金剛の言う所の『専属』であった。江風の後をついていた「監視役」。飛び交う瑞雲達の中から、それだけを的確に撃ち落された。


「ブヂ殺す……ぽい!」


 狼狽える江風に向け、最後の引き金を引く。砲筒から噴き出す空気が、高速で流れた。砲弾が飛び出す。江風の心臓を丸ごと抉り取る狂弾。江風は、迫り来る恐怖に耐えられず目を瞑っていた。

 コイツは死ぬ。確信した。何千回と見てきた死の形相。それは苦しみや恐怖に慄く表情(かお)ではなく、生を諦め目を瞑る。夕立と対峙する者はみなそうやって死んでいった。


 動揺は激しかったであろう。

 失望は深かったであろう。

 疑問は大きかったであろう。


 それでも夕立は動いた。


「逃げるなぁっ!」


 急発進で砲弾を回避した江風に、夕立の手が伸びる。


『何故』


 その疑問に答えは出ない。自分の中で大きなわだかまりを残している。でも考えるのは後でいい。「逃げた」ら「捕まえる」。体は勝手に動いた。

 伸ばした手が江風の髪をつかむ。ぐっと指先に力を込めると、ぶちぶちと耳障りな音と共に、腕の中の感触が軽くなっていった。抜け残った赤い髪が、血痕のように点々と海面に浮かんでいる。


 離脱する背中を追う影があった。一機の瑞雲。奴の『専属』。間違いなく撃ち落としていたはずだ。つまりあれは別の機。落とされた機に変わって、他の瑞雲が素早く代替えを行ったのだ。

 それだけ『専属』は奴等にとって重要な意味を持つのだ。戦いの中で、真っ白のパズルが組みあがっていく。


『神通の背面への連続射撃』『名取のパニック状態での的確な心臓撃ち』『江風の目を瞑っての緊急回避』


 少しずつ、パズルのピースが空白を埋めていく。


「目を使ってない……ぽい?」


 夕立は手の中のピースを見つめて、それでも小さく首をかしげていた。





 戦線が広がっている。

 二つの艦隊がぶつかり合う場合、普通はお互い戦線が広がりすぎないように調整しつつ戦うのが定石だ。戦闘範囲が広がれば、情報のやり取りが散漫になるし、報告もより回数が要求されるようになる。そうなるとおのずと情報管整理の手が足りなくなるし、正確な攻撃だって難しくなる。レーダーなり偵察機なりを総動員しないと状況が把握し図らくなるうえ、死角も増え警戒範囲が広がってしまう。


 雷雲戦隊加古は、敵艦隊と遠く離れた日向を挟んだ戦域のちょうど真ん中を進んでいた。荒れた波に乗り上げ、後続の名取と神通が余波を受けて大きく傾いた。


 遠くに臨む高い波の先に敵艦隊の影が見える。相手は気付いていない。自分達だって、瑞雲の偵察が無ければ気付けないほどの距離だ。雲の間に敷き詰めた瑞雲の絨毯は、この広い戦闘海域の情報を漏らす事無く隊に伝えてくれる。

 高くせりあがった波の後ろから、血だらけの少女が顔を出すのももちろん伝達済みだ。


「江の字!無理しすぎだ!バカ!」


 ふらふらと、つたない足取りで接近する妹分の腕を強くつかむ。ぐいと引き寄せた瞬間、影になっていた瞳が見開かれ、その中心に加古の顔を写し込んだ。


「うるせぇ!指図は受けねぇ!」


 細い棒きれの様だった腕に力が籠り、加古の腕を振り払う。勢い余って指の先が自分の頬にぶつかり、こびりついた血の赤が指先を汚した。


「負けて泣いて来てよく言うぜ」


「負けてねぇ!」


 その言葉は、暗い海の表面で泡となって消える。加古に向かって吠えたのか、自分自身に牙を突き立てたのか。そのどちらでもあるのか。どちらでもないのか。泡は答えを語らず、波の中に溶けた。


「アタシは生きてる!こうやって、首根っこだって繋がってる。まだ戦える。違うか?」


 額の血を拭い、顔の輪郭に沿って目尻の水滴を隠した。至近弾を許したとはいえ、艦娘の強固な皮膚だ。出血はもう止まっている。

 拭っても拭っても頬を濡らすその雫に、血塗られた手はすっかりその色を無くしていた。


「違わないよ、アンタは立派さ」


 加古の腕がのびる。乱れた赤い髪に触れ、優しく抱き寄せた。細い指が、髪の間をすべる。頬を寄せると、甘い髪と乾いた鉄の匂いがした。


「負けてねぇ」


 加古の肩に顔をうずめたまま、江風の口が動く。


「ああ…」


 髪を撫でる指に力を籠め、小さな頭を強く抱き寄せた。子供をあやすように優しく頬を寄せる。しかし、同時にその瞳は暗い闇の中に怨敵の姿を追い続けていた。深く暗く。腕の中のぬくもりが、胸中で黒い炎へと変わる。

 江風もまた、加古の腕に抱かれ、虚空に浮かび上がる敵の微笑を見据えていた。


(怖い。殺されてた。だけど、まだ何も終わってない。アタシはまた、アレに向かい合わなくちゃいけないンだ)


 ぽんぽんと江風が加古の背中を叩く。加古は何も言わずに江風を解放した。お互い目も合わせず、戦況としての今を確認する。江風は顔を上げて、上空を飛び回る瑞雲を見上げた。


「ありがとな、4号」


 頭上を飛び回る一機の瑞雲が、チカチカとライトを点滅させた。

 第一瑞雲隊、4号偵察機。自分の本来の「基準」であった、6号偵察機とよく暗号通信の練習をしていたのを江風は覚えていた。


「瑞雲を攻撃してきましたね」


 神通が眉間のしわを深める。あれだけ派手に暴れれば警戒されるのも当然だ。敵も、こちらの正体を掴みつつある。


「もう時間がねぇ。あたし達が今まで奴らと互角に戦(ヤ)り合えたのは、ウチらの攻撃が敵の意表を突いた奇襲だったからだ。真正面からの、言わば意識外からの奇襲。だが、それも長くはもたねぇ。このまま無意味な攻撃を続ければ、いずれ化けの皮をめくりあげられて、主砲の先を突っ込まれる」


「ど、どうするの?」


 とん、と名取の胸の真ん中を指で突く。きょとんと上げられた名取の目を、加古はまっすぐに見返した。


「頭使うな、動きが鈍る。突撃だ。敵旗艦(こんごう)を落として終わらせる。江の字、魚雷は?」


「忘れてた。まるっきり残ってるぜ。1本、四万九千八百円」


「魚雷を積んでるのは江風と神通、あたしの三人。名取とあたしは先行して道を開く。だがこれまでの傾向から見て、あいつらもう陽動には乗らんかもしれねぇ。もしそうなら私ら二人で逆に金剛を轟沈とすんだ。あたしは瑞雲爆撃で突っ込む。名取も奥の手隠してる場合じゃねぇぞ」


 名取の肩がぴくりと跳ねる。険しい目を向け、その視線が交わる前に名取はぺろりと舌の腹を見せつけた。小さくため息をつく加古。

 そうだ、誰も彼もが勝つ事だけを考えている。


 「ここで言ってもいいんじゃないか」、そんな気分にさせられる。この戦いに負けたら。日向の旦那は。

 首を振る。

 そんな喝の入れ方があるものか。もし負けたらどうこうなんて、阿呆な陸将校でもあるまいし。それに、最も聞かせるべき相手がここにはいない。


 目を閉じて、敵位置を確認。顔を上げて、両の手を握り締める。重巡洋艦用二連装長距離主砲、二門。その重さをじっくりと確かめた。

 流れる波にカカトをぶつける。締め付けるベルトから伝わる感触と重さ。四連装酸素魚雷、一門。


「奇襲はまだ続いてる。奴らは、何にも気づいてない」


 皆の視線が加古に集まる。加古は自らの手のひらを見つめていた。

 そうさ、奴らは何も見えちゃいない。あたし達が瑞雲に頼って戦ってると言う事『しか』気付いていない。あたし達の本質にまるで気付いちゃいない。


「あたし達はお上品な決闘なんて望んじゃいない。切った張ったの喧嘩に命(タマ)張ってんだ。その為に、ここに立ってる・・・」


 やつらは何も知らない。あたしらがどれだけ軽い命でこの場に立ってるか。勝つ為にどこまでやるのか。


「奇襲は終わらない。目を覚まさせてやる。奴等の眠気まなこをこじ開けて、ありったけの鉛玉をブチこんでやる」







「疲れた…ぽい。逃げられた…ぽい。何で皆すぐに助けに来てくれなかったの…ぽい」


 円形に組んだ艦隊の真ん中で、傷だらけの夕立ががっくりと肩を落とした。眩い金髪は、今やぼろぼろに折れ乱れ、砕けた前歯からは真っ赤な滝が足元の海面を濁らせ続けていた。

 目の前に立つ五十鈴をじろりと睨み付けると、当の五十鈴は目をそらして隣立つ金剛に目を向けた。


「ですってよ、旗艦殿」


 そう振られた金剛は、まるで悪びれた様子もなく満面の笑みで夕立を迎えた。


「ユーダチが可愛いからデース!可愛いユーダチががんばってる所を皆で見たかったからデース!」


 うんうんとわざとらしく頷くその姿を見て、夕立は苛立ちをもってその眉をひそめた。


「可愛い夕立ダシにされたっぽい。あいつ、あの、逃げたっぽい。赤いの。あいつ、なに、何なの、ぽい。くそっ、頭…重」


「ちょっと、夕立?」


 差し出された五十鈴の手を、手の甲をぶつけるようにして振り払う。目を伏せ、苦しそうに心臓を握り締める。動揺を見せる五十鈴とは裏腹に、金剛は息を荒たげる狂犬を静かに見下ろしていた。

 金剛が夕立と江風の殴り合いを黙って眺めていたのは、合流に戸惑ったからでも、夕立の戦いを邪魔したくなかったからでも無い。支援射撃ならいつでもできたし、最悪戦艦の一斉射で夕立ごと江風を海の藻屑と化す事も出来た。

 それをしなかった理由の一つは、二人の戦いから雷雲戦隊の力の謎のヒントが見出せるかもしれないと思ったからである。そして、もう一つの理由はまさに先ほど述べたとおり、夕立の頑張りを「観測」する為であった。


「ハルナ、夕立の「reset」をお願いしマス」


「いらっしゃい、夕立!」


 榛名が金剛の後ろから呼ぶ。夕立はふらふらと海上を漂いながら、金剛の脇を抜け、導かれるままに榛名の腕の中に倒れこんだ。額に触れる掌の冷たさに、少女はやっと荒い呼吸を落ち着かせる。しかし、その後姿に向けられる視線は不安と焦りに満ちていた。


「ほんとに「もつ」のあれ?あの江風って娘、「白露型」でしょ、問題の。誠は何考えてんの?」


 答えの無い質問を重ねる五十鈴に、金剛は小さくため息をつく。

 そんなこと、あの男の思惑など、考えるだけどつぼに嵌るだけだ。


「記憶のresetを繰り返せば、簡単に暴走するような事はありまセン」


「その前に脳味噌爆発するわよ」


 五十鈴の刺すような視線を感じながら、金剛は眉間の皺を一層深く刻み込んだ。

 江風の存在は、夕立のタブーに関わりすぎる。それでも、二人の衝突は避けられないであろう事も十分に理解していた。問題は丁嵐があえてそういう状況に夕立を放り込んだのではないのか、という事だ。

 夕立を試している。親心などでは、きっとない。兵器としての制度がより高度な戦いに耐えられるかのテストである。


「コンゴー…」


 暗雲に広がる頭を、夕立の絞り出すの様な声が現実に引き戻した。

 声のしたほうに視線を向けると、榛名の腕に抱かれて衰弱した夕立が顔を覗かせていた。


「あいつら、自分の「目(レーダー)」を使ってないっぽい。攻撃も回避も、自分の拳ですら目で追えてないっぽい」


「何か別の手段を使って、情報共有しているとみるべきですネ」


 夕立はそれに頷く前に、榛名の腕の中に身を沈めた。

 やっと見えてきた。やつらのSYSTEM。

 彼女達が自らの目を捨てて、それ以上に信頼している物。簡単だ。

 瑞雲はすべて日向とつながっている。やつらは目を使わず、日向が全てを観測(み)ているのだ。


「これはPARADEデス」


「パレード?」


 川内が首をかしげる。

 金剛は指を立てて、周りの視線を自分に集めた。


「今日の観艦式のPARADEを見ましたカ?何人もの艦娘が、SmokeとLightを目印に何十人も集まって海上で交差するのデス。海戦ではとても考えられないような近距離でネ」


 観艦式の前には、必ず盛大なパレードが催される。たくさんの艦娘達が海上を埋め尽くし、次々に複雑な隊列を組み替えながら宴の開始を盛り上げる。

 金剛は両手を交差させて海上を舞う艦娘たちを表現した。右手と左手が交わるが、その手は決して触れ合わない。ぎりぎりの距離でお互いを保ち続けている。


「なぜ彼女達はあんな危険な航行を成し遂げられるのでしょう?」


「そりゃ打ち合わせしてるからでしょ。はじめから航行するルートが決まってればぶつからないわよ」


 当然とでも言わんばかりに五十鈴が答える。

 それが全てであった。金剛が行き着いた、雷雲戦隊の謎の全てであった。


「雷雲戦隊(やつら)も同じなんですヨ。「はじめから航行するルートが決まってる」んデス。「打ち合わせしている」のデスよ。我々が行動に入る前に、フルタカが主砲を打つ前に、ユウダチが拳を振り下ろす前に、ズイウンを通して奴等はこちらの未来を観測(み)ているんデス」


 榛名の観測陣を模した、瑞雲同士の情報ネットワーク。相手の行動をすぐさま計算、共有、迅速にアクションに反映する。

 相手の思考を先読みし、それに合わせた行動で上手を取る。合理的だがそれ故に奇抜さに欠ける作戦。では、何故今までこんな簡単な敵の作戦に気付けなかったのか。

 

 理由は二つ。

 一つは神通の存在だ。

 奴のオーバースペック。それに惑わされた。

 肉体強化、艤装改修、そんな方面に思考を逸らされた。

 そして二つ目の理由。


 ぞくぞくと身が震える。

 

 日向はこの作戦を自分で考えたのか、丁嵐の介入を疑いたくなる。

 この戦法は対深海棲艦において、長らくタブーとされていた「予知戦略」の一つだ。戦闘中にリアルタイムで敵の情報を更新し、対応する。生体の1%の謎も解明していない深海棲艦(やつら)に対して。その思考を読み、随時計算し、迅速に動きに反映する。

 馬鹿が。

 海では敵に依存しない。教本を開けば、そんな事第一行目に書いてある。そんな議論は艦娘が生まれた時既に決着がついているんだ。

 じゃあ何故日向は今更この結論をひっくり返したのか。答えは簡単だ。


 「艦娘」対「艦娘」だからだ。


 「思考が読める相手」だからだ。「我々を殺すための戦略」なのだ。「艦娘が艦娘を倒すための作戦」なのだ。


 それをこの演習で見出したのだ。

 それは、本当に偶然なのか。


 提督か、より上の将官どもか、大本営か、国防省か、はたまた米軍か。


 どこかはわからない。わからないが。奴らはこの事態をどこまで想定していたのか。

 夕立だけではない。


 これは艦娘殺しの実験なんだ。


 この演習自体が巨大なテストなのだ。

 より醜悪な未来へ向けた。より傲慢な悪意に耐えられるかの実験。

 艦娘の未来が、血で血を洗う闘争へと向かう証。

 その先陣に、金剛は立っていた。







 旋風の如く海が裂け、泡立った軌跡が白く波を揺らす。加古、江風、神通、名取の四隻は、まるで競い合う様に主機の唸り声を響かせていた。

 先頭を航行(はし)る神通とその後を追う江風が、肩がぶつかりそうな距離ですれ違う。神通は眉を潜めるが、江風は知らぬ顔で艦隊の先頭へ躍り出た。名取がその後を追い、加古は最後尾で艦隊の動きを目で追いかけていた。

 隊列の意識はあれど、今の彼女達に明確にその決まりは存在しない。四人は黒光りする艤装を背負い、我先にと目標地点を目指した。

 目指すは敵艦隊の鼻の先。先頭をきる敵旗艦への集中攻撃。彼女達は堂々と、真正面から敵の索敵範囲を踏み荒らして行った。


「敵影動きません。完全に海上で停止しています」


 神通が全員に告げる。

 相手方も大方こちらの動きに気付いた頃だ。己が船である身において、海上で「動かない」とは不思議な話だが、加古にはその理由がわかった気がした。


(待ち受けてやがる。こちらの作戦の大よそを把握したうえで、力でねじ伏せるつもりだ)


 加古は他のメンバーに気付かれないように、小さくスピードを落とした。

 こちらのスピードがどれだけ上回っていようと、どれだけ情報量に差があろうと、相手は鎮守府のエース6隻。両者の間には数の有利と、自力のでかすぎる差が立ちはだかっている。それを明確に認識されたから、正面から受けようと考えたのだ。つまりこちらが何をしていて、何を狙っているか、そのほとんどを察知されているという事になる。

 こちらの奇襲。先ほどはそう言ったが、もう意識の中ですらこちらは後手に回っているのかもしれない。だが、読み合いは続いている。裏をかかれるのがわかっているのなら、そのさらに裏をつくだけだ。


 距離4000。重巡洋艦の射程内。ここまで戦艦二人が撃ってこない事を考えると、相手がこちらのスピードにまだ慣れていないのは間違いない。頭で理解していても、実際にそのスピードを相手にするのは別だ。


 距離3000。みるみる艦隊が近づいてくる。

 加古は何とか三人に喰らい付きながら、大きく号令を飛ばした。


「散開しろ!」


『応ッ!』


 敵艦隊、正しくは敵旗艦を照準に捉え、全員が艦隊運動を放棄する。

 先頭を引っ張っていた江風が頭一つ飛び出すが、すぐにその横を体制を低く構えた神通が追い抜かしていった。たちまち小さな影になったかと思うと、立ち上る水柱の中に消えて行った。


「おら、お前らも出遅れてんじゃねぇぞ」


 そう二人の尻を叩き、加古もスピードを上げる。振り返った江風が加古の顔を見て、小さく笑みを作った。


「先に行くぜ姉御」


「あたしの分もとっとけよ」


 江風は返事の代わりに軽く手を上げると、主機の回転数を上げ艦隊の最後尾を目指して舵を切った。

 残った名取はスピードを落として加古と並走し「無理をしないでくださいね」と一声かけると、おもむろに連装砲を持ち上げて敵艦隊の横腹に豆鉄砲をばら撒いた。「では」と頭を下げると、加古の返事も待たずに自ら立てた水柱目指して小さくなっていった。


「名取のやろぉ…、どんどん手が付けられなくなってる気がするぜ」


 加古はそう一人ごち、砲音が響き始めた海域へ向けその重苦しい主砲の先端を高く掲げた。




 ばおっ、と艦隊の上空で二つ目の太陽が咲いた。激しい閃光が金剛たちに降り注ぎ、その影を色濃く海面に縫い付ける。

 金剛はとっさに外装の袖で顔を覆い、熱線に目を焼かれるのを辛うじて防いだ。

 

(カコの照明弾…。いや、これはもう閃光弾と言うべきデスね)


 上空で輝くそれは、一般に艦娘が運用する照明弾の光量を大きく超えていた。過剰な量のマグネシウムが、降り注ぐレーザーとなって艦隊を足止めする。真っ白な視界の中で、金剛は魚雷管が稼働する音を確かに聞いた。


「Shit!」


 舌打ちひとつ。味方にまで被害が及びそうなほどの激しい閃光弾(ハナビ)だが、奴らには奥の手がある。自らの目を必要としない雷雲戦隊は、この閃光の中で目を閉じていても、瑞雲から得られる情報だけで艦隊運動を継続できる。

 

 横須賀第一大戦隊(こんごうたち)は海上で無防備な艦隊の横腹を晒している状態だった。両艦隊の距離は500も無い。艦隊戦とは程遠い、艦娘同士の大乱闘の火ぶたが切って落とされようとしていた。


 噴射音と共に、小さな水音が響く。金剛は咄嗟に身を躱した。わずかに袖から顔を出すが、真っ白に輝く世界では数秒と目を開けてはいられない。仕方なく感知を電探のみに切り替え、狭い円形の中の黒点を目標の中心に据えた。金剛型の標準電探では、海中の魚雷は探知できない。耳の中で鳴り響く警告音の音間を頼りに、金剛は腰より小型の単装銃を抜き取った。


 金剛の手の中で黒光りするそれは、艦娘が運用する砲撃装備としてはかなり異質な形状をしていた。

 短く口径の大きな銃口。銃身には大型連射を可能とする、ゴツいスライドが覗いている。そして何より特徴的なのは、グリップ回りが円形のガードに守られており、逆側に「もうひとつ」銃口がついている事だった。まるで二丁の拳銃を逆さまにくっつけたような、不気味な艤装であった。


 金剛は照準を黒点に合わせ、すぐ海面に降ろす。魚雷が散布されていると思われる位置に銃口を合わせると、手を横に払いながら連続でトリガーを引いた。小さな弾丸の「つぶ」が一定間隔で目の前の海面に投下される。ビー玉大の「つぶ」たちはみるみる海中に没し、金剛の前に水柱のカーテンを巻き上げた。


「全弾命中!」


 江風の歓喜に満ちた声が上がる。超小型機雷が爆発して上がった水柱は、撃った方から見れば魚雷が命中したように見える。事実信管は揺らされた。標的の姿は水柱に隠れ、生存に気付くまで2秒はかかる。金剛は銃身を手の中でくるりと反転させ、肘から延びていた反対側の銃口を声のした方へ向けた。立て続けに三発撃つ。


 バスッ、キン、ジャッ


 当たったのは最初の一発。二発目は装甲に弾かれ、三発目は海に落ちた。とっさに回避したのだ。轟沈としたと思った相手からの奇襲を。水柱の裏からの見えない攻撃を。金剛は水柱から目を離さずに素早く空の弾倉を捨て、機雷のスロットを入れ替えた。奴らに水柱の目隠しは意味をなさない。瑞雲はこの海域全体を隙間なく監視しているのだ。


「全艦通達!」


 周囲をくまなく警戒し、一斉に通信を飛ばす。


「交戦状態に入ったら、一体をmarkにして余計なかく乱を防いでくだサイ!人数はこっちが上デス!二人行動(Two-Man Cell)を意識して!情報共有は密に!」


 金剛の号令をかき消すように、水柱の後ろから身をかがめた神通が飛び出した。金剛の脇をすり抜け、高速でその背後へ抜ける。金剛の後ろに待機していた川内が、素早くその背中を追い交戦状態に入った。


 すぐ前方を駆ける船と交じり合い、互いの艤装が激しく衝突する。照準がめまぐるしく標的を切り替え、敵か味方かもわからない砲音があちこちで鼓膜を震わせる。30M四方ほどの海域内で、10隻の艦娘が交差する。未曽有の大乱戦が始まった。


 円形に広がった艦隊を、四隻の「異物」がかき乱す。その光景を神通は上空の瑞雲を通して俯瞰で確認した。相手の航路、主砲の角度、攻撃範囲をそこに落とし込み、攻撃の来る方向、そのタイミング、そして相手を翻弄し続けられる移動航路を算出する。

 金剛の死角を縫い先陣を切った神通だが、すぐさま捕捉され、しっかりと背後に付かれている。軽巡洋艦「川内」。神通に鬼の名を明け渡した。元「夜戦鬼」。

 両者はつかず離れず、ぐるりと艦隊の周りを一周した。ぴったりと背中を捉えられている。ひとたび速度を落とせな、無防備な背中を狙い撃たれる。


『日向さん、川内(ねえさん)の速度を計測してください』


『2秒待て。川内13.5。江風八時方向より魚雷、回避せよ。名取交戦に入れ、金剛の装填完了各自警戒…』


 流れるような報告を受け、神通が急激に速度を落とす。川内とギリギリ交差するように速度を調整し、自身は反動を受ける体制をあらかじめとっておく。神通は川内に追い抜かれる形で交差し、素早くその背後をとった。川内が振り向くより先に構えた主砲が爆ぜる。


『命中、損傷低』


 次弾装填を後回しにして主砲を180度反転させる。砲身を後ろに向けて両手をフリーに、川内の接近戦へ備えた。立ち上る黒煙の中から川内の貫手が差し込まれると、それを予期していたように左腕の甲で手刀を外側に逸らした。黒煙に紛れ観測が不十分だが、川内の損傷度合から次の手が近接で来るのは簡単に予想できた。手刀の角度、逸らした事による上半身のぶれ、そこから川内の死角を割り出す。

 川内左前方150°。弾かれた手及び神通の視線に目を奪われれば、81%の確率で死角になる。

 主砲の重さを乗せた右フックが風を切る。固い手ごたえがあり、川内の体が大きく左に流れた。死角から三半規管を狙った一撃だったが、咄嗟に肩の装甲で受けられて距離を離された。瑞雲ネットワークによる連携と日向の高速演算。この二つをもってして成功率八割を叩き出した攻撃が、咄嗟の行動力と勘による回避でしのがれた。


「はやいね神通!」


 川内は白い歯を見せて笑っている。神通の視覚情報から得られたのはそれだけだ。


『神通!右30°斉射!』


 緊急の援護要請に残弾の残っている左で撃つ。砲弾は川内から遠く外れ、遠方の榛名の足元に落ちた。再びぐるんと主砲を反転させる。両腕とも同時に装填し、ガゴンと音を立てながら正面の川内を威嚇した。

 川内は動かずに、一連の神通の動きをじっと眺めていた。黒煙の内側の攻防、川内と戦いながら榛名と戦う他艦の援護。主砲の動きとそれに伴う視線の流れ。「ふむ」と川内は顎を捻った。


(「目を使ってない」ってのはそういう事ね…)


 今の神通は限りなく外部情報をシャットダウンしている。視覚情報は瑞雲から受け取り、自分の目では最低限の情報を観測しているだけだ。それだけじゃない。距離の計算、速度の計算、進路、回避方向、全てを瑞雲あるいは司令塔である日向に依存している。


 だから速い。


 あらゆる行動の初速が早く、判断も的確だ。本人は只、導かれるままにアクセルを踏み込む。主機の限界突破改造さえしてしまえば、コイツはあっというまに「艦隊最速」に踊り出る。その為に必要な速度の計算も体軸の角度も風速も航路選択も全て他人に丸投げしているのだ。


 つまるところ日向だ。あいつが「核」だ。

 この限界突破を維持するために、日向は今この瞬間も膨大な計算式とにらめっこしているはずだ。その証拠に日向本人は今まで戦闘に一切参加していない。遠くより戦線を傍観し、安全な場所で指示を飛ばす。

 日向を轟沈(お)とせば、全部終わりだ。


 素早くインカムに手を伸ばし、すぐに通信を切った。

 神通と一定の距離を取り退治する。


 通信内容を傍受されていない保証がない。

 これだけ多くの情報管理を一括して行っているのだ。こちらの行動を把握する為に暗号解読を率先して行っている可能性は大いに考えられる。それを警戒して金剛も詳しい説明を省いたのではないか。疑心暗鬼、否。必要な警戒だった。


 神通から距離を取るべく後退する。ベタ足で戦うのは危険だ。先ほどの神通の動き、川内(わたし)と戦いながら、遠くの榛名を狙っていた。神通と向き合って戦っている私の背中を、誰が照準に捉えているかわからない。

 今やる事は動く事。そう考えて、ある思い付きに自然に口の端が吊りあがった。遠方の日向を「追う必要はない」。「ここ」で奴を仕留めてやる。予測不可能なほど暴れまくって、相手の演算速度を超えてやればいい。日向の頭をパンクさせてやる。そして、その為の通信はたった一言で事足りる。


「暴れな、夕立!」


「ぽーいっ!」


 間髪入れずに愛らしい返事が返る。それに追従するように榛名の怒声がインカムを揺さぶった。


「馬鹿言うんじゃないわよ、カワウチ!指示系統はお姉さまに一貫されてるって言ってんでしょーが、ボォゲ!」


 耳元でつんざく榛名の咆哮を察して、咄嗟に音量のツマミを絞る。アクションの先を読んで即座に行動。なるほどね、これは思った以上に役に立つ。遠方の雑音と化した怒声を聞き流しながら、自分を追う神通へ視線を向ける。向けられた主砲が自分の頭を狙っている事を確認すると、素早く「速度を落として」追ってくる神通に肉薄した。ぎょっと神通の目が見開かれ、すぐ横を通過する川内と目が合う。すれ違う瞬間に川内の唇が愛をさえずる紳士の如く翻った。


「『ぶつかる』わよ。お嬢さん」


 優しく甘い囁き。神通の肩がびぐりと震える。ガクンと上体が揺れ、足元の波が大きく荒れる。川内の持ち上げた「主機」が、すれ違いざまに神通の主機に乱暴に叩きつけられていた。艦娘の第二の心臓である主機を破壊する反則技。川内はこの戦いの異様な雰囲気と、自分の妹の強さの中に「艦娘対艦娘」の真価に至ったのだ。

 バランスを崩す神通の肩を掴み、背中を支えながら強引にその体を持ち上げる。200kgを超える軽巡洋艦を軽々と持ち上げ、下になった背中に主砲の先端を押し付けた。


「聞こえてる日向さぁん?アンタのご自慢の『さんすうゴッコ』でさぁ、このコが何回沈むか数えてみなよっ!!」


 響き渡る砲音、否。川内の主砲が立てたのは爆音と称するべき轟音であった。砲口と密着した状態で放たれた砲弾は、砲身をめちゃくちゃに破壊し、その破片の雨を周囲にばら撒いた。熱された砲身を押し当てられた神通の背中は黒く焼け焦げ、爆発した火薬と鉄片が傷口をえぐる。主砲の破片が外装の上から肉の中に牙を突き立てた。

 神通の体が大きくはじけ飛び、重力に従って海面に向かって落ちる。重さのある主機が先に海水を踏むが、その鉄塊は宇力を発揮する前にぞぶりと海中に沈んだ。大きく水が跳ね、波が広がる。彼女が恐れ続けた深海の闇が再びその手を広げる。神通の全身を包み込み、深い闇の中にその体を取り込もうと腕を伸ばす。神通は絡みつく腕を辛うじて振り払った。

 右足の主機から駆動の限界を伝える低い唸り声が響く。海面に沈む瞬間に右足の筋肉を捻って強引に着水した。左足をだらんと伸ばし、右足一本で海に立つ。焦燥し、全身の出血に身を震わせても。その瞳は死んでいなかった。




『江風!六時方向神通フォローっ!』


「無理っ!」


 江風のつないだマイクに、太い風の音が割り込んだ。江風は返事を返すと同時に、上体を大きく後ろにそらして榛名の主砲の横薙ぎを受け流した。体勢を崩し揺れた頭の真ん中に、主砲の合間から延びる副砲の黒点がぴたりと狙いを定めた。

 炸裂し、頬が焦げる。

 軸足となる左の主機を限界まで回し、片軸航行の要領で体を強引に捻った。前進する勢いに任せて上半身を捻り、榛名に背を向けつつ副砲の外側-榛名の右半身側-に逃れる。手の甲の主砲をくるりと肘の後ろへ回し、狙いもつけず引き金を引いた。

 前後射撃の切り替えに優れる小型艦の兵嬢主砲だが、反動の小さい駆逐艦のそれは江風の強引な体術に実にスムーズに対応していた。

 手の甲に装着した主砲が自分の背後へ放たれる。榛名の舌打ちが砲音の中に消えた。噴出した黒煙が風に乗って、江風の顔に黒い靄をひいた。

 いつもとは逆方向にかかる反動。主砲の反動は砲口とは逆、つまり狙いの後ろ側に推進力が働く。江風はいつも体で受け止めているその反動を、拳を前に突出すようにして空気中に逃がした。


 おや、と首をひねる。


 何か閃きかけた気がしたが、その思考は自分の脇を抜けた稲妻の如き閃光にかき消された。敵味方の区別もつかぬ乱戦の合間を、黒い雷光が駆ける。視界に映る相手にとりあえず主砲を向けるような混沌の内側で、ただ一人明確な殺意をもって水を蹴りあげた。


 軽巡洋艦「五十鈴」は直前まで交戦していた加古を強引に振りきり、それまでの一切合財を切り捨てて攻撃対象を切り替え(スイッチ)た。砲撃の間、航路の間、そして艦隊の間を航行(は)しり、負傷した神通を狙って一直線に航跡を引いた。


 片足で海面に立つ神通のわき腹に向け、走りながら引き金を引く。連射砲から放たれた秒間6発の弾丸が、周囲の水を跳ね上げた。海面が激しく荒れ、だらりと垂れさがった肩に穴が開く。ぎろりと、「四つ」の瞳が迫り来る五十鈴を捉えた。


「「邪魔を…」」


「しないで」

「するなっ!」


 神通と川内が同時に叫んだ。

 川内の主砲が五十鈴の顔面をとらえる。怯んだ五十鈴の腹筋を神通の突き出したカカトが深々と抉った。ぐんと足を持ち上げ、五十鈴の体を宙に浮かせる。川内の照準が、逃げ場のない五十鈴をその十字の中心に収めた。


「カワウチ…!」


「邪魔するんじゃないよ、五十鈴」


 引き金を引く。五十鈴が目を剥き、べえと長い舌を見せつけるように突き出した。


「い・や・よ」


 空中に投げ出された五十鈴が大きく背をのけぞらせ、空中で一回転するように身を逸らした。撃ち出された砲弾が弧を描く背の後ろを抜けていく。そして、ぐるんと身をひるがえして空中で体制を立て直した。左手の連射砲は川内を、右手の主砲は神通に向けられている。何が起こったのか、二人が認識するより引き金が引かれる方が早かった。


「殺(と)った!」


 とっさに身を伏せた川内の頬に穴が開き、回避運動に入ろうとした神通は慣れない片軸航行に大きく上体を崩した。辛うじて初撃を回避するが、空中での不安定な照準が幸しただけであり、着水直後の第二射の回避には間に合わない。

 砲撃は五十鈴から見て下方向への射撃であった為、反動によってその体に僅かな滞空時間が生まれた。それが無ければ恐らく。神通はここで終わっていた。


「おおおおおっらぁぁぁぁ!」


 雄々しい雄叫びと共に、駆け付けた名取が空中の五十鈴の襟首を捕まえた。主砲を肘の裏側へ回し、左手はフリーにしている。バキバキと筋肉が硬直し、弓の様に腕をしならせて五十鈴を投げ飛ばした。小柄な五十鈴の体は再び空中へ投げ出された。

 艦娘は海上戦闘を目的として作られている戦争兵器だ。その重すぎる艤装を背負ったまま海面に叩きつけられれば、激しい損傷は免れない。

 五十鈴は手足を縮こめて空気抵抗を無くすと、空中で体勢を立て直して重さのある主機から豪快に着水した。軽業師の如き身のこなしを兵装を背負ったまま可能とする「天才」の偉業に、名取は改めて身を引き締めた。あれが、自分の姉なのだ。天才五十鈴の姿なのだ。

 決意の籠った瞳を、五十鈴は気に喰わなそうに睨みつけた。


「泣き虫名取!アタシがいないと何にもできないくせに!」


 対峙する。

 愛する姉は、宿敵そのものだ。


「い…五十鈴ちゃん!私、もう、五十鈴ちゃんに甘えるのは、お、お仕舞いにするの!じぶ、じっ、じぶん…で」


 胸が詰まる。

 この吃音はいつも私の言葉(こころ)を押し留める。私を「弱い妹」の枠の中に押し込めようとする。いつも自分の前を歩く彼女に、その後ろを歩くだけの自分に、決着(ケリ)をつけてやるんだ。


「自分で、戦うのっ!」


 力の籠った名取の言葉を、五十鈴は実につまらなそうに聞いていた。その口から帰ってきた言葉は、名取への嘲笑と、身の程知らずの妹への憐みで満ちていた。


「それで?「五十鈴ちゃん」はもう必要ないから倒しちゃおうって訳?随分傲慢で可愛い妹を持った事」


 五十鈴の言葉は名取の中の矛盾を的確に抉っていた。

 何故戦いと言う場に、自分の弱さを持ち出したのか。普通の姉妹であれば、少し話し合えば解決するような問題を、何故戦場に持ち込んだのか。何故力による解決を、不器用で痛ましい決着を望んだのか。


「妹」としての矛盾であり、「名取」としての答えの姿だ。


「そう…だよ」


 私だって、五十鈴ちゃんの妹なんだ。


「五十鈴ちゃんなんか、私がやっつけてやる!」



このSSへの評価

5件評価されています


ニンニク2さんから
2017-10-28 04:37:43

SS好きの名無しさんから
2017-08-22 10:22:07

SS好きの名無しさんから
2017-06-09 21:54:50

SS好きの名無しさんから
2017-04-07 23:38:16

SS好きの名無しさんから
2017-04-06 23:22:26

このSSへの応援

2件応援されています


ニンニク2さんから
2017-10-28 04:37:25

SS好きの名無しさんから
2017-08-22 10:22:08

このSSへのコメント

19件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2017-04-07 23:38:11 ID: vjD7dXYp

新章投稿お疲れ様です!
榛名側のチームはヤバそうなのがチラホラ・・・日向達に倒せるのかしら?これからどうなるか楽しみです!それと、雷雲戦隊奮戦記の海軍演習血戦記へのリンクが違うようなので修正お願いします。

2: しらこ 2017-04-10 14:20:39 ID: oJhrc3Q6

>vjD7dXYpさん
コメントありがとうございます。

申し訳ございません。リンク修正させて頂きました。読んで頂いた方、リンク先の作者様には謹んで謝罪させて頂きます。

最終章始まりました。
榛名や横須賀第一のメンバーは、ただの敵キャラじゃなく雷雲戦雷と対となる「鏡合せの主人公達」でもあります。これからは彼女達がどんな事を思い苦悩し、そのうえでいかに戦うのか。そういう面も重要になってきます。よろしければ、最後までお付き合い頂けますようよろしくお願いします。

3: ニンニク2 2017-04-14 22:24:03 ID: Y2oZyWCN

投稿お疲れ様です。
榛名と比叡のやとりやバケツジャンキーと色々面白いですね、この人達なら連携しなくても勝ちそうですね。
日向達はこの戦力差を埋めれるんでしょうか?続きが楽しみです!

4: しらこ 2017-04-28 20:20:30 ID: DX_gxjEi

>ニンニク2さん

いつもコメントありがとうございます!
金剛型は個人的にかなり気に入っているキャラクターなので、演習が始まる前に全員再登場させられてよかったです。
力の差はあれど、雷雲戦隊には負けられない理由があります。その思いの力がどれだけ実力の差を埋められるのか、彼女たちの奮戦ぶりにご期待ください。

5: ニンニク2 2017-05-06 23:58:42 ID: PESCf8Jq

投稿お疲れ様です!
加古との決戦前夜のやり取り良いですね。
問題を抱えてる彼女たちはどうするのか?日向の切り札など色々気になります。次回が楽しみです!

6: しらこ 2017-05-09 11:18:39 ID: CZb0UYUR

>ニンニク2さん
いつもコメントありがとうございます。

加古は何となく日向を頂点とした雷雲戦隊の中で、唯一日向と肩を並べている存在です。初霜は言わずもがな、名取や神通も日向に対しては敬意を払っていると言えば聞こえはいいですが、要するにちょっと距離を取ってしまっているんですね。(江風は別)
そんなチームの中でやや独断的な日向に対してチームとしての想いを伝えるというシーンはこのSSを書くにあたって絶対に入れ無ければならない部分でした。
思いと想いと重いを背負い戦場へ向かう6人の奮戦記にご期待あれ。

7: ニンニク2 2017-05-16 16:01:01 ID: DMk4wuHe

投稿お疲れ様です!
提督サイドにも動きがありますね、松崎の処遇でしょうか?日向の勝敗にこだわる丁嵐の思惑は・・・立ち上る雲が勝利を導くのか?
色々気になる所が沢山あります。戦闘も盛り上がって来て続きが楽しみです!

8: ニンニク2 2017-05-28 18:26:37 ID: elDdVS_G

投稿お疲れ様です!
初霜が日向を守る事を捨ててから日向の指示ですぐに動き出す所がいいですね。
盾がすぐ壊されるほど相手の攻撃が凄まじくピンチですが日向が何とかしてくれると信じてます。次が楽しみです!

9: しらこ 2017-05-29 13:59:59 ID: XTfZxLlD

>ニンニクさん
返事遅れてすみません。
コメントありがとうございます。

丁嵐は目の前の事しか見えない日向に変わって、環境の均衡を保ち、物事の裏側を照らし出す役として配置しています。全体に掴み所の無い役どころですが、「そもそもなんでこいつら戦ってるんだっけ?」って部分をうまく説明させられるように立ち回らせたいと思っています。

初霜は良くも悪くも「日向一番」で、もちろん雷雲戦隊も大事ですが、最悪日向を守る為に仲間を見捨てるとかしかねない娘なので今回このシーンを入れました。
「日向一番」を捨て、「仲間達」と「勝利」の為に動き出す彼女の次なる活躍をご期待ください。

10: ニンニク2 2017-06-15 10:32:02 ID: ACUJ2o57

投稿お疲れ様です!
金剛側はまとまってないですね、古鷹は何を思って五十鈴に指示をだしたんでしょうか?古鷹ほどの艦なら金剛の意図を理解できると思うし、日向を落とせないと思って五十鈴に指示をだしたんでしょうか?気になります。
神通のスピードは凄い、こんなのが突っ込んできたらたまったもんじゃないですね。さらにそれからの神業の連発「鬼」と言われる事はありますね!神通の活躍良かったです。
これから戦場がどう動くか艦娘の心情がどう変化していくのか続きが楽しみです!

11: しらこ 2017-06-21 19:45:36 ID: qB8iugPt

ニンニクさん
いつもコメントありがとうございます。

古鷹はホントに気付いてなかったんですよね。ゴメン。でも、せっかくなんでなんか考えて後付けします。
スーパーパワーが発揮されここからは雷雲戦隊のターンですが、金剛たちもやられてばっかじゃないと思います(たぶん)。めまぐるしく立場が入れ替わる戦いをお見逃しなく。

12: ニンニク2 2017-07-03 18:41:09 ID: hgHtgNI9

投稿お疲れ様です!
金剛達本性現してきましたね…ラブ・アンド・デストロイいいですね。
お互いの死力を尽くした戦いが見れそうでワクワクしてます。続きが楽しみです!

13: しらこ 2017-07-07 18:59:51 ID: tcINwXT6

>ニンニクさん
いつもコメントありがとうございます。

長い前置きが終わって、やっと決戦の準備が整いました。
これからやっと演習が本格化します。
「S・Z・S」の謎、姉妹間の因縁、日向と榛名の決着など「立ち上る雲」の集大成と言った内容になる予定です。

14: ニンニク2 2017-07-18 16:26:36 ID: pmoeE5bl

投稿お疲れ様です!
血生臭さや戦闘の泥臭さが感じられる戦闘の描写いいですね!夕立は榛名と違ったヤバさがありますね、江風との関係性も気になりますが、何があったらこんなモンスターに、他には身寄りのない子供には厳しそうな世界観も気になりました。
名取は相手が悪かったと思いますが可哀想ですね、顎の関節まで外されたりと何とか逃げ切ってその後の名取と加古のやり取りも良かったです。
名取と江風はよく夕立から逃げれたなと思いましたが謎がだんだん解けてきてこれからどのように展開して決着がついていくか楽しみです。

15: ニンニク2 2017-08-10 21:16:46 ID: 0dYIpgfh

加古の命を賭けた覚悟はかっこいいですね、まだ他にも切り札があるみたいでもうひと波乱ありそうで楽しみです!

16: しらこ 2017-08-17 00:06:09 ID: VfFPOtp3

>ニンニクさん

返事遅れてごめんなさい。
コメントありがとうございます。

夕立は横須賀艦隊でも1~2を争うスーパーモンスターです。本編中ではあまり戦闘中の回想とかはやりたくないのですが、機会があれば夕立の誕生話とかもやりたいですね。
加古っぺは江を殴られてブヂギレてるだけなので、発言は割りと雑です。名取の事とかも言及する必要ないのに言っちゃう所が子供だよね。
でも勢いで皆付いてくるからいいんです。戦争ってそういうものです。

17: ニンニク2 2017-10-01 02:38:39 ID: iOkUOU9P

投稿お疲れ様です!
夕立は不安定な状態だったんですね、感情がある兵器ならトラウマが出来たらリセットすればそれでまた運用できて便利で面白いなと思いましたが夕立のリセットは白露型に関係してるみたいですね。
「艦娘」対「艦娘」不穏な言葉が出てきましたね、艦娘同士が戦う事を想定した演習ならこの先あまりよろしくないことが始まりそう、新しい深海棲艦を想定した訓練であって欲しい。
この先どうなるか楽しみです!

18: しらこ 2017-10-13 17:18:24 ID: hqCnUQn6

>ニンニク2さん
いつもコメントありがとうございます。

夕立は艦娘の一つの完成形です。
彼女は思いの力を戦闘能力に直結できる、古いタイプの艦娘です。
躁鬱の起伏が激しく制御が難しい、日向の一世代前の軍艦になります。
さらに、夕立は感情のスイッチとなる「記憶」を、自由に作り変えたり、邪魔なら消したりできるように作られています。
夕立は感情まで兵器にされた女の子なんです。

そんな艦娘を作った人間が、艦娘への対策を備え無い訳はありません。日本が生き延びる為に絶対に必要なんです。
オモチャに寝首をかかれるなんて、まっぴらごめんですから。

19: ニンニク2 2017-10-28 04:36:42 ID: 0aZ1nLm7

投稿お疲れ様です!
何故か最近は金剛達が瑞雲ネットワークにどう対応してくるか楽しみにしています。日向達を相手にするのは骨が折れそうですね。
名取が頼もしくなってきて照明弾で視界を塞ぐの感心しました。榛名は相変わらずブレなくて安心でした。
川内は勝つためにはどんな手を使ってもいいっていう感じと戦いが好きそうな感じが好きです。逆に神通はトラウマ抱えていて戦うのが辛そうで彼女がどう乗り越えようとするかどう立ち向かうか楽しみです。


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください