2017-10-14 00:01:58 更新

概要

 提督の不祥事を撮ってしまった青葉。
 大本営に報告すれば、提督は鎮守府を去らねばならない。
 葛藤する青葉の決断とは・・・!?


前書き

 実はそれほどシリアスでもない展開。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 荒い気を吐きながら、現場から逃走する少女。青葉。

 彼女は何時も使用しているカメラを抱きかかえるように走っていた。

 彼女の顔は真っ青になっており、若干目元も潤んでいた。


「あ、青葉、見ちゃいました……見ちゃいましたよ~……」


 青葉は現場から十分に離れたと判断し、その場にへたり込んでしまった。

 何時もの明るい声は、何処か悲しみが含まれていた。

 目元をこすり、カメラのレンズを見つめる青葉。


「一人の、レポーターとして……青葉、これを、世に……ううっ……」


 思わずカメラから手を離し、地面に落ちる寸前に、首にかかった紐で空中で止まる。

 体操座りで膝に顔を埋めて、込み上げてくる涙を必死に耐えていた。

 それと同時に、彼女達(深海棲艦)と一緒にいた時の提督の顔が思い出される。

 何処か落ち着いたような、安らぎを感じているような表情が目に浮かぶ。


「……青葉、サイテイです」


 複雑そうな表情を浮かべる青葉は、直ぐに自分の寮に戻った。




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衣笠「あれ? 青葉、どうしたの?」


青葉「えっ!? 何の事ですか?」


衣笠「何か雰囲気が青葉らしくないなーって思って」


青葉「な、何でもないですよ。……ただ、少し、凹むことがあって、ですね」


衣笠「ふーん……ま、話したくなったら話してね。どんな相談事も衣笠さんにお任せよ」


青葉「はははっ。ありがとうございます」


(本当に、ありがと。衣笠)


 若干暗い顔は取れずに、衣笠に怪しまれた。

 ――青葉は完全に気が付かれたと思っているが――

 青葉は自分に喝を入れるためか、頬を叩く。

 因みに、衣笠は空気を読んだのか、既に就寝している。

 青葉は自分の作業机に座り、厚紙で何度もカメラを覆う。

 最後、大きな袋に、割れ物注意とシールを張り、大本営宛に宛名を書いた。


「……これで、いいはずです」


 青葉の目の前には、既に何が入っているのか分からないような包み紙があった。

 じっと見つめると、敵である彼女たちと、笑いあっている提督の顔を幻視する。

 青葉は机に突っ伏し、一人静かにすすり泣いた。




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青葉「これ、お願いします」


船員A「はい、分かりました」


 青葉は昨晩包んだ小包を、船員に渡す。

 これが大本営に渡った瞬間、提督は首を切られるだろう。

 下手すると、文字通り。

 少し震える手で、青葉は船員に小包を渡す。

 船員はそのことに疑問を持つこともなく、確かに受け取りました、と言って、すぐさま船に乗り込んだ。


「……」


 青葉の瞳に、涙がたまる。

 昨日、泣き腫らした筈の目から、また、止められないような雫があふれ出る。


「てい、とく……どう、して……?」


 青葉の疑問はそれだけだった。

 提督は、彼女を敵に沈められている。

 恨むことはすれど、匿うなんていうのはおかしいとずっと青葉は考えていたのだ。


「……もう、どうすることも出来ないですよね」


 青葉は自嘲の含まれた苦笑を浮かべ、自分の寮に向かっていった。




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 鎮守府の一室、そこで一人の艦娘がノックをする。


提督「・・・入れ」


 そこは指令室。

 用事が無ければ立ち入りを禁じられていると噂の場所だ。

 噂の理由は提督本人は否定しており、空母の独断行動だと言われているからだ。

 一体、空母がどのような行動を取っているか、提督は知らないでいる。


衣笠「失礼します」


 衣笠は扉に入るや否や、音もたてずに扉を閉める。

 提督の目を見据え、口を開く衣笠。


衣笠「唐突で、不躾とは思いますが、本題に入らせてください」


提督「許可する」


衣笠「提督、最近の青葉の様子、おかしいですよね」


提督「・・・本当に、唐突だな」


 提督は少し目を見開いた後、衣笠を見返す。


提督「・・・青葉の不自然さは、把握している。だが、此方も理由は判明していない。・・・だが」


衣笠「カメラ、ですね」


提督「・・・(コクリ)」


 提督は更に眼を細くする。

 衣笠は直ぐその意味を理解した。


衣笠「提督、青葉は一昨日の夜何か作業をしていました。そしてその翌日、大本営行きの船のクルーに何か小包を渡していたそうです」


提督「・・・そうか、おめでとう」


衣笠「それは百パーセントありませんので」


提督「・・・・・・スマン」


 衣笠は提督を呆れた眼差しで見てくるが、提督は短く謝罪を返しただけだった。

 衣笠がため息を溢し、何処か悲しみを湛えた瞳を提督に向ける。


衣笠「提督、一昨日の青葉。何処か悲し気でした」


提督「・・・・・・そうか。スマンが心当たりが全くと言っていいほどない」


衣笠「・・・分かりました。提督、何か分かり次第、私に教えてくださいよ」


提督「・・・ああ、約束しよう」


衣笠「それでは、失礼しました」


 音もなく閉められた扉を見て、一つため息を吐く。

 提督は真上を見て、目を細める。


提督「・・・盗み聞きは、褒められたマネじゃないぞ?」


???「あらら、バレちゃったか。流石提督って言ったとこだね」


 既にその少女は提督の斜め前に降りており、影が差している。

 艦娘と言うのは分かるが、顔に影が差して表情も顔も見えない。

 呆れたように笑う提督は、何処か真剣身を帯びた瞳で少女を見つめる。


提督「・・・まあ、いい。それで、ここ最近青葉が挙動不審だった理由は?」


???「へえ、分かってるの聞くんだ。まあ、いいよ。提督と深海棲艦たちが一緒にいるところを撮っちゃったみたいだよ?」


提督「・・・やはり、か」


 提督は、本当に平和ボケしたな……、と呟き、少女の方に向き直る。


提督「恐らく、後悔しているはずだ。今夜、決行せよ」


???「えっ!? そんな直ぐでいいの?」


提督「構わん。彼女は貴重な艦娘だ」


???「・・・それって、戦力的に?」


 少女はいやらしい笑みを浮かべながら、提督を見る。

 提督は少し顔を逸らしながら、質問に答える。


提督「彼女と言う、一個人としてだ」


???「ヒュー。提督ホントに平和ボケしてるね。ま、弱ってなけりゃいいけど。じゃあ、行ってくるね」


提督「気をつけろよ?」


???「勿論」


 言葉を交わし終えると、少女はまた屋根裏に消え、何処かに消えた。


提督「俺も、もう一度鍛えなおそうかな」


 一人呟く提督を残して。




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 青葉は、提督が言っていたように心底、後悔していた。


(どうして、渡してしまったのでしょうか? あのままなら、私が心に留めておくだけで誰にも、知られませんでした・・・)


 込み上がる熱いものが、彼女の本心を理性的に教えようとする。


(青葉、嫉妬していたみたいですね・・・他の子なら許せるのに、よりにもよって敵だったから・・・青葉、駄目だったんですかね?)


 青葉のカメラを乗せた船は、とっくに見えなくなっているが青葉は堤防でその方向を静かに眺めて居た。

 不意に、しょっぱい物が口の中に入る。

 他に誰か人がいたのであれば、青葉は海水が口に入ったと、笑ってごまかしていただろう。

 青葉は流れ出る涙をこらえることもせず、声を殺すように泣いた。


???「・・・ホント、提督も甘くなったね」


 青葉は鳴き声を堪えるのに必死で、後ろからかけられた声には気が付かなかった。

 少女は首を捻りながら青葉に近づく。

 やがて、いやらしい笑みを浮かべて青葉の耳元で囁く。


???「そんなに嫌なら、取返しに行こうか」

青葉「っ!?」


 青葉は反射的に後ろを振り返る。

 青葉の後ろには一人の軽巡洋艦が佇んでいた。

 先程のいやらしい笑みは鳴りを潜め、爽やかな笑顔で青葉に水上シューズを投げ渡す。

 青葉は慌てながらも、自分に投げられた水上シューズを受け取る。


???「じゃ、行こうか?」


青葉「行こうか・・・って駄目に決まっているじゃないですか!? 夜間の出撃は軍規違反ですよ!?」


???「ダイジョーブだよ。私が随伴するし」


青葉「へっ?」


 青葉は少女の姿をよく観察すると、魚雷や主砲を載せていた。

 それに目をぱちくりさせる青葉と、既に着水を完了している少女。

 少女は少しだけ沖に向かって進み、堤防に向かって叫ぶ。


???「おーい! 早くしないと置いてくよー?」


青葉「・・・分かりましたー! 直ぐ向かいます!」


 青葉は水上シューズを履き、海面に着水する。

 そして、ふと思った疑問を思考する。


青葉(・・・川内さんって、何者なんでしょうか?)


 軍規違反を軍規違反と捉えず悠々と海面を滑る川内。

 その姿に青葉は船に到着するまでの間、疑問が途切れなかった。




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船員A「俺の春来たんじゃね?」


船員B「寝言は永眠してから言え馬鹿」


船員A「はっ! 俺は知ってるぜ? そういうのが嫉妬って奴なんだろ? 残念だったな! 俺はあの子からこんなの貰ったんだからな!」


 船員A がそうして船員Bに見せたのは、大本営行き、と書かれた小さな小包だった。

 船員Bは呆れ顔で船員Aを見る。


船員B「お前なあ、これ本営行きじゃねーか。特別な意味が込められてるとは思えないが・・・?」


船員A「馬鹿、急に渡してきたんだぞ!? 俺に!」


船員B「いや近くにお前が居たからってだけだろ」


船員A「いや、絶対込められてる! うおー!」(バリバリ

船員B「止めて!」


 船員Bの静止も虚しく、船員Aは小包を開けてしまった。

 中に入っていたのはカメラだった。


船員A「・・・カメラ」


船員B「ほら、やっぱり違うだろ。バレる前にしまえって」


船員A「いや、私と一緒に思い出を残しましょうっていうプロポーズの線が濃厚になって」

船員B「ねーよ!」


 船員Aは船員Bのいう事も無視し、カメラの電源を付ける。

 中に写真が残っているかどうかを確認しようとしたのだ。


船員B「おいおいおいおい。洒落にならないかいい加減しまえって」


船員A「・・・・・・」


船員B「おい? 聞いてんのか?」


船員A「・・・これ、ヤバくね?」


船員B「はっ?」




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川内「青葉ちゃん?」


青葉「ひゃい!?」


川内「・・・青葉ちゃん。確かに私が護衛してるけど、そこまで気を抜くのは艦娘としてちょっとなー」


青葉「あわわ、すみません」


 考え込んでいた青葉は川内に呼ばれても直ぐに反応は出来なかった。

 それに川内は呆れたように肩をすくめ、青葉は恥ずかしそうに俯いた。

 しかし、若干の和やかさは川内の真剣身を帯びた声によって引き締められた。


川内「青葉ちゃん」


青葉「・・・はい」


川内「今からあの船・・・って、見える?」


青葉「・・・まあ、薄っすらとは」


川内「それで十分かな。今から私が船の前に行くから、止まった瞬間乗り込んで」


青葉「・・・川内さん。青葉忍者じゃないんですが」


川内「そこは大丈夫。中にいる協力者がロープを垂らしてくれてるから」


青葉「ああ、それなら・・・ん?」


 それを聞いた青葉は首を傾げながら、川内に問いかけた。


青葉「あの、川内さん。それなら、その協力者にカメラを回収してもらえば」

川内「よし! じゃあ! 私は行くから!」


青葉「あ、ちょっと!? 川内さん!?」


 川内は青葉の問いかけに答えず、急ぎ足でその場を去った。

 青葉は川内の後姿をジト目で見送った。




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船員A「・・・これでよしっと」


 彼はパソコンに差していたSDカードを抜き、青葉のカメラの中に戻した。

 彼はその後も一人で作業し、愚痴を言うようにパソコンのディスプレイを眺めていた。


船員A「全く、アイツは見なかったとかほざきやがるし。・・・せっかく俺が正義を執行しよって言うのにな」


 彼は船員Bのことを臆病者、意気地なし、生え際が死んでるなど、罵声を呟きながら、自分に与えられるであろう報酬に胸躍らせていた。


船員A(提督の不祥事、コイツはぜってー大手柄だ。もしかして、後釜の提督が俺になったりして・・・!)


 彼は船員としてではなく、軍服を着て鎮守府に入り、気持ちが沈んでいる艦娘を慰め、そして自分の優秀さを示しやがて殆どの艦娘達と・・・。


船員A「ぐへへ・・・」


 彼はそんなことを夢想しながら、コピーする作業を続けていた。

 そんな時だった。


船員A「うぉ! 何だ!?」


 突如船が急停止し、ディスプレイが揺れる。

 それを必死に抑えながらも、コピー作業は続いてく。


船員A「でもコピー作業止められないんだけど・・・!」


 彼はコピー率が百パーセントになるのを押さえながらじっと待ち、百パーセントになる頃には既に揺れが収まっていた。


船員A「・・・まさか」


 彼はカメラを持ち、急いでその部屋から退出した。




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青葉「よっと・・・」


 船上に上がった青葉はロープを下ろした船員を探してみたが、既にその影も形も無かった。


青葉「私、これでもいろいろな所に隠れたりして、人の気配とかある程度分かる筈なのですが・・・所詮、井の中の蛙と言った所でしょうかね?」


 若干凹みながら、青葉は船内に侵入した。


青葉「私のカメラ・・・あれ?」


 青葉は移動中に船内の状況と、カメラの大まかな位置は、川内が話を逸らすようにそんなことを呟いていたのを思い出した。

 青葉の持っていたカメラは、値段以上に思い出の品だ。

 当然のようにGPSを付け、電探にその情報が3Dで送られてくるのだが。


青葉「あ、青葉のカメラ、移動中ですか!?」


 送られてくる情報では走る程の速度で船内を移動する、と言う情報だった。

 流石の青葉も疑問が浮かぶ。

 恐らくだが、持っている物は青葉のカメラだけだろう。

 しかし何故、宅配物のカメラを包装から出しているのか。


青葉「・・・嫌な予感がしますね。急ぎますか」


 青葉ははやる気持ちを抑えるように、船内を走る人間を追った。




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???「コピーは・・・あった。これだね」


 黒を基調とした学生服を着た少女は、先程まで男が使っていたパソコンの初期化を行っていた。

 彼女の気持ちは、パソコンを全部破壊した方が早いと思っていたが、提督がそれだけはやめて差し上げろと、お願い――もとい命令が下っていた。


???「まあ、何時までも明石だよりは嫌だし。僕の有用性を示せば・・・」


 ふふふっと笑う彼女に先程までのクールな様相は無く、ニマニマとした笑みを浮かべていた。

 一頻り考えついたのか、少女はため息を一つして、部屋の壁を見つめていた。


???「鬼ごっこは面倒だから、直ぐ捕まえるよ」


 少女は壁の先の男の姿を冷ややかな視線で見つめていた。

 同時に呆れも混ざったように呟いた。


???「お前に提督の代わりが務まる筈が無いのに・・・」


 そう呟くと、少女の姿はその部屋から消えており、少女が弄っていたパソコンの画面にはデフォルトされた女の子たちが、一生懸命にハンマーを振り下ろしている動画のようなものが繰り返し映し出されていた。


『カーンカーンカーン』


 そんな思わず体が反応しそうな音を出し続け、


『カーンカーンカーン』


 そのPCの内臓データを、


『カーンカーンカーン』


 ゆっくりと、


『カーンカーンカーン』


 ゆっくりと、


『カーンカーンカーン』


 消していった。




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「ハァ、ハァ、ハァ・・・!」


 男は焦っていた。

 今自分の手元にあるカメラ。

 それがどれ程の影響力を及ぼすか、男は軽んじていたのだ。


(畜生・・・アイツ、分かってたんなら言いやがれよ・・・!)


 男は内心で秘密を共有した男の悪態をついていた。

 しかし、その男は遠回しに危険性を言っていたのだが、功を焦り過ぎた男の耳には届いていなかった。


「・・・チョーっと深入りし過ぎたようですね」

「!?」


 男はぎょっとして後ろを振り返る。

 しかし、そこには誰もいなかった。


「・・・くっそ、幻聴か?」

「いいえ? 前ですよ」


 男が視線を前に戻す前に、強い衝撃が、男の全身を襲う。


(な、ん・・・いし、きが・・・)


 男の持っていたカメラは前に滑り、男はそのままうつ伏せになるように倒れた。

 相対していた少女は、カメラを拾い上げると、包み込むように、抱きしめた。


「本当、私、馬鹿ですね」


 目の前にいる男の事を忘れたまま、少女は船内を後にする。

 そこに、学生服を着た少女が音もなく、唐突に、姿を現す。


「出来れば、処理して貰いたかったんだけど・・・」


 少女は、船内で倒れ込んでいる男に侮蔑と同情の混ぜ込んだような表情を向ける。


「あっちの彼と一緒に、記憶を消してあげればいいんだけどね・・・」


 そう呟くと、少女は懐に入ってあったUSBの存在を知りながら、破壊もしなかった。

 船内を進み、彼女は帰る場所に向かう。

 その道中、少女は感情を落としたような笑みを浮かべ、小さく呟く。


「僕らの提督を消そうと考えた時点で、結局同じか」


 少女は船内から船外へと続く扉を開けた途端、その姿が見えなくなる。

 しかし、扉を開けた事実は、潮風によって揺られている扉がきぃきぃと小さく、存在感を示していた。




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川内「よっ! そんな顔するってことは、無事、カメラは取り戻せたようだね」


青葉「はい! もう二度と、こんな馬鹿な真似はしないと、誓いますよ!」


川内「そうかそうか。じゃ、私はまだ少しやることがあるから、先に鎮守府に帰っててよ」


 そう言った川内は、青葉の返事も待たず、青葉が潜入していた船に向かって進みだしていた。


青葉「あ、あの! 川内さん。今度、川内さんの独占取材してもよろしいでしょうか!」


 そう叫んだ青葉に反応するように、川内は青葉に背を向けながら右手を振った。

 川内の姿が見えなくなるまで、青葉はその姿を見つめ、ゆったりとした速度で、鎮守府に向かって進みだした。


青葉「・・・ん?」


 遅い速度だったからだろうか、青葉は遥か前方に艦娘らしき周波数を探知した。

 しかし、この海域は基本艦娘の立ち入りは禁止されている。

 青葉はにやーっと笑みを浮かべ、取り返したカメラを早速使ってみることにした。


青葉「一体誰でしょうか? こんな所に居てはいけませんよ~?」


 現在のカメラより古いカメラは、そこまでのズーム機能は無く、表情やくっきりとした装備は分からなかったが青葉は、後で調べれば良いかと思い、一枚写真を撮った。


青葉「提督さんにたっぷり絞られちゃいますよ~」


 鎮守府に帰投した青葉が提督と衣笠にたっぷりと絞られたのは、今から僅か一時間後だった。




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 大本営行きの船が目的地へと到着し、船内が慌しくなる中、一人の男は大急ぎで本部へと向かった。




ーーーーー



「し、失礼します!」


 男は先程の服装のままである一室に通された。


「ふむ・・・君がこの件の報告者かね?」


「! はい! そうであります」


 男は海兵式の敬礼をした後、懐に隠していたUSBを仲介人を通して渡す。


「・・・・・・」


 室内にキーボードの鳴らす音だけ響く。

 言いも知れない緊張感が男を襲う。


「ハァ・・・」


 突如、キーボードを打ち鳴らしていた初老の男性はため息を吐いて、男の目を見やった。


「・・・・・・」


(・・・成る程のう。あやつが嫌いな、欲にがめついタイプじゃのう)


 初老の男性は、男の背後に立っていた艦娘と視線を交わす。

 初老の男性は立ち上がり、男の前に移動する。


「ーー君よ」


「はい!」


「君には消えてもらおうか」


「は・・・い? いっ!?」


 突如、背後に居た艦娘が男の胸を貫く。

 しかし、上手く突き刺せていないのか、男は即死せずその後の追撃によって、絶命した。


 ジリリリリリッ


 初老の男性が艦娘に声をかけようとしたタイミングで、机の上にある黒電話が鳴る。


「・・・やれやれ、龍田。それを片付けておけ」


「分かりました~」


 男の死体を視界外にやった後、黒電話を取る。


「・・・処理は済ませたか?」


 電話の相手は、先程の画像の鎮守府に配属されていた提督だった。




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 時は少し遡る。


 青葉が鎮守府に帰投し、衣笠と提督に絞られている時。

 青葉は話を逸らすように、帰投途中に撮影した艦娘の写真を見せた時だった。


「で、でも。青葉以外にも、こうやって海域に出てる艦娘は居ますよ?」


「・・・? 出撃は確認していないんだが・・・」


「それは青葉の時もでしょう?」


「・・・いや、それは川内から報告を受けている」


「へっ?」


 青葉は思わず呆然とし、衣笠はお構いなしに話を続けていた。


「・・・・・・!?」


 提督は勢いよく立ち上がり、青葉に近づく。

 青葉は提督の唐突な行動に驚き、硬直していた。

 衣笠も、同様に。

 それ程までに、提督は気迫を出していた。

 青葉の前まで行くと、慣れない手つきで頭を撫で始めた。


「えっ? えっ!?」


「・・・衣笠、青葉をもう許してやってくれ。それと青葉、このカメラ、少し借りるぞ」


「・・・」


「・・・あ、あうあうあ~」


 ハッとしたように提督に敬礼を返す衣笠は、呆けている青葉を引きずってその場を後にした。

 提督は、先程より幾分か目に力を入れ、黒電話をかけ始めた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「全く、君は人使いが荒い。少しは此方の立場を考えてほしい物だがね」


「・・・御託は良い。それよりも最悪の情報を伝えに来た」


「ほう・・・君が最悪などと言う言葉を使うとはのう」


 初老の男性は、窓の外から見える海を眺めながらそう呟く。

 提督はそれに気を留めるわけでもなく、たった一言、述べた。


「アイツが出現した」


「・・・何処にじゃ?」


 初老の男性は先程までの雰囲気が消し飛び、剣呑とした眼つきに替わる。

 提督は声色を変えることなく、淡々と続きを話す。


「そちらからこちらの鎮守府の直通。確定位置は調査中だ」


「・・・分かった。儂の方でも通らんよう勧告しようと思う」


「・・・用件は以上だ。失礼した」


 ブツッと音がして切れた黒電話をゆっくりとした動作で、受話器を置く。

 先程より老け込んだような男性は、大きくため息を吐いた。


「まさか、またあの時代が来るかもしれんとはのう・・・」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 真っ赤な顔のまま、青葉は衣笠と共に寮へ向かっていた。


青葉「うう~・・・提督さん、唐突過ぎません?」


衣笠「何? 青葉は不満でもあるの?」


青葉「そうじゃないですよ・・・ただ」


衣笠「ただ?」


 青葉はにやけた表情を浮かべながら、頬を掻いて呟いた。


青葉「もっと、撫でてほしかったなー・・・何て」


衣笠「全く、青葉の欲張りさん」


青葉「む? それはどういうことですか!」


衣笠「そのまんまの意味ですよ!」


 舌を向けて、そのまま走り去っていった衣笠に対し、青葉はふと、窓の外を見た。


「・・・・・・」


 思い出されるのは、過去の記憶。

 海上で深海棲艦に襲われたあの日、助けてくれたあの人。


 青葉は天に向かって微笑み、すぐさま通路の方に向かって走り出した。


青葉「衣笠~! 貴方の本心、教えてくださーい!」


 青葉は無邪気な笑みを浮かべて、衣笠を追い始めた。


青葉(お父さん、お母さん。青葉、頑張ります!)


 今日も、この鎮守府には悲鳴や笑い声が木霊する。

 事態をどんどん大きくさせて。


金剛「青葉!? 提督に撫でられたというのは本当デースか!?」


加賀「頭に来ました」


吹雪「天誅」


青葉「あわわわ、衣笠! 助けてください!」


衣笠「頑張って」


青葉「そ、そんな~!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 はい、まあそんな感じです。

 考えちゃいけません。感じましょう。

 次は摩耶様のです。

 あとがきは何時ものようにありません。

 あ、下はまた前回と同様に、何でも許してくれる人だけ見てください。

 長い駄文、ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。













































「ハァっ・・・ああぁ、ああ!」


”開戦地域は!?”

”二人が耐えて居たら、この先・・・”


「・・・敵、深海棲艦を確認。時雨、残念だが・・・時雨!?」


「まだ、先だよ。司令官」


「敵を殲滅しながら進まねば簡単に轟沈だぞ! 止まれ!」


「・・・・・・放してよ」


「・・・分かった」


「・・・?」


「なら、俺も行こう」


「!? だ、駄目だよ、司令官。ここから先は」

「お前が進む、俺も行く。背後は任せろ、そして任せた!」


「ちょ!? 僕の話は・・・もう。時雨、行くよ!」



ーーーーーーーーーー



「・・・時雨? やけに機嫌がいいね」


「川内さん。ごめんね、少し昔を思い出してたよ」


「へぇ? 何で?」


「提督は、何処まで行っても提督だなって。結局、僕達の身が一番心配なんだろうって思ったんだよ」


「・・・そうだね。ま、そろそろ私達も帰投しますか」


「うん、そうだね。あの人がいる場所へ」


 朝日に照らされた二つの人影は、水飛沫も上げずにゆっくりとした速度で、自分たちの居場所(鎮守府)に戻っていく。

 作られた、日常の下へと。




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2017-10-13 07:51:17

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1: SS好きの名無しさん 2017-10-10 19:51:04 ID: HL_ai1hG

情報をキャッチする為に火中に飛び込んだか?あるいは沈めた娘が敵となってこう囁いたかな。今度は見捨てないよね?
今度こそ助けてくれるよね?と

2: SS好きの名無しさん 2017-10-12 06:13:06 ID: dfFULvM3

長く遊んでいればそんなこともあるさね。経験としてもう沈めなければ良い。
私も初めての大型で出来た可愛いまるゆをながらプレイでね。喪ったよ


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