【艦これ】曙の今と過去
唐突に、記憶を失ってしまった曙。
まるでそれは、昔の彼女のようで・・・。
暗い。
深い、底に。
私の周りでは、私を乏しめるように、貶すようにクソ■■が言葉を吐き散らす。
にくい。
憎い。
ニクイ・・・。
「ハッ・・・!」
曙は、自分が荒い呼吸を繰り返しているのに気づく。
大して暑くも無いのに、体から異常に汗が出ている。
重たい体を起こし、嫌に痛む頭を押さえる。
その間、呼吸はだんだんと荒くなっていく。
「曙ちゃん・・・?」
「!?」
二段ベットの上段から、少女が曙に向かってそう呼びかける。
曙はやけに痛む頭を押さえながら、少女の名を探す。
「・・・潮?」
「えっ、あっ・・・な、なに?」
曙の問いかけの声はやけに堅かった。
それにつられるように、潮の声も固くなる。
曙は、少し頭痛が引いていくのを感じ、ほっとしながら潮に問いかける。
「潮、ここは何処なんだ?」
「・・・えっ?」
曙の記憶は、その日完全にリセットされた。
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翌日、朝一番に潮は提督の下に向かった。
いつもはまだ執務室に居ない筈の提督は、なぜかこの日は執務に取り掛かっていた。
居ないと思い、潮はノックはしなかったが、そのことが提督に緊急性があると思われたようだ。
提督「・・・曙の記憶が消えた? 前の、ようにか?」
潮「はい・・・けど、おかしいんです」
提督「・・・おかしい?」
潮「はい・・・」
提督「・・・分かった。今から曙の所に行こう」
潮「あの、それはっ・・・」
潮は突然大声を出し、提督は少し固まった。
だが、直ぐに潮の顔を伺い、提督はほっとした顔で立ち上がった。
潮「あ、曙ちゃんは」
提督「皆まで言うな、大体、把握した」
潮「えっ?」
呆然としている潮を置き去りに、提督は足早に曙の部屋に向かう。
ハッとした潮は提督を止めようとしたが、提督の後ろをついていく事しかできなかった。
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曙「・・・ほんと、どうなってるの、此処」
曙は頭を抱えていた、目を覚ますと知らない場所、知らない同居人。
自分では無い、自分の記憶。
曙「・・・まるで、SFみたい」
曙としての最後にあったのは、普通の少女としての自分だった。
深海棲艦と、強大な敵を倒す力のない、無力な自分。
曙「・・・何か、やけに平和ね」
この体の曙の記憶は、力を失った少女がここの鎮守府の提督に恋をする、何処かで見たようなちんけなストーリー。
曙「・・・いや、これは主観が入り過ぎてるわね」
今の曙は、提督に恋慕を抱くのは不可能ともいえた。
確かに記憶は在る、けれども、何処まで行ってもこの魂は私のだ。
体が違う弊害は出ているが、魂だけは自分のものだと思っていた。
コンコン
曙「!」
唐突に扉がノックされる。
曙は一瞬驚きと戸惑いが浮かんだ。
ノックに合わせて体が喜びの感情が浮かんでくる。
思わず口角が上がってしまうのも感じた。
「・・・曙、良いか?」
その声に、体が急に反応しそうになる。
それと同時に、自分の体では無いこと強く実感した。
理性で体の動きを止め、感情を落とした表情で扉に言葉を返す。
「どうぞ」
「・・・失礼する」
扉を開け、入ってきたのは軍服を着た男と、同室の潮だった。
潮は顔を俯きながら、提督は逆に毅然とした態度で部屋に入ってくる。
「! アンタッ、潮に何したわけ!」
入室と同時に、曙は提督を掴みにかかる。
曙はそのまま押し倒すつもりだったが、やけに体の力が入らないことと、提督が曙を受け止めってしまったせいか傍から見ると、曙が提督に抱き着いているようにも見えた。
しかし、曙の眼光は誤解の余地はなかった。
敵意や悪意と言った冷たさと刺々しさが混ざった視線は、並の提督ならばたじろいでしまっただろう。
だが、ここの提督は勿論違う。
「・・・誤解だ。俺が彼女に何かした訳ではない。・・・潮、悪いが退出してくれ」
「わ、わかりました」
「・・・・・・」
曙はその光景を提督の胸ぐらを掴んで見ていたが、潮からは提督に対して悪い感情は見えなかった。
曙は提督の胸ぐらを離し、距離を取って敬礼する。
「先程は申し訳ありませんでした」
「・・・やはりか」
曙は提督に対し、頭大丈夫かコイツといった視線を向けた。
提督はそれに対して何か反論するわけでもなく、淡々と話を続けた。
「初めまして、だ。曙」
「・・・! どういう意味かしら?」
ただ、淡々と続けようとした話は、やけに大きな話だった。
「君は恐らく、元の曙だ。しかし、ただ元の、と言う訳ではない」
「・・・どういう意味、かしら」
「君はここの鎮守府に来た頃の君に似ている。あくまで、似ているだが・・・」
そこから語られる話は、曙も流石に顔を顰めた。
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『駆逐艦曙! 先行すんじゃない!』
「うるさい! シネッ! この、クソ提督!」
一人の少女は、指揮官の命令も聞かず、ただ敵陣の真ん中に突っ込んでいた。
一度や二度では無く、見放されてもおかしくないのだが、彼女の傍にはいつも別の少女が居た。
「曙ちゃん! 一人で行ったら危ないのです!」
「なっ!? 電!? どうしてきたのよ!」
鎮守府の中で最古参の艦娘。
彼女はいつも、曙を助けていた。
そしていつも、彼女だけが危険な目に合っていた。
『・・・駆逐艦曙、お前は後で説教だ』
「はっ・・・あの子を沈めたからって臆病になってんの?」
「曙ちゃん!」
「・・・曙、帰投します」
彼女は、嫌な役をいつも振舞っていた。
別に鎮守府の秩序を守りたかったわけではない。
彼女はただ、死にたかったのだ。
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「来たばかりのアイツは、死に場所を求めていた。合法的に死ねる場所を」
「・・・」
「アイツに比べれば、お前は生気に満ちている。生きることに、抵抗が無いと思う」
「・・・?」
曙は、提督の言い回しが気になったが、すぐさま、冷たい視線に戻し提督を睨みつける。
「で? アンタは私をどうするわけ?」
「・・・どう、か」
提督はしばし目を瞑った後、立ち上がった。
「曙、お前の魂と体を乖離させる」
「・・・・・・ハァ?」
訝しんだ視線を提督にぶつけると、真面目腐った視線で曙を見つめ返す。
それに対して少し身じろぎをするが、提督は気にせず、話を続ける。
「お前の新しい体を製造し、そこに魂を漂着させる」
「・・・アンタ、そういう人?」
「・・・・・・違う」
提督は疲れたようにため息を吐き出し、曙に立つように命令する。
それに少しむっと来た曙だったが、何とか堪え、立ち上がる。
「・・・曙」
「・・・何?」
不意に提督剣呑な雰囲気で曙に説いた。
「お前は、お前として生きたいか? 消えたいか?」
「・・・」
その言葉に、曙は直ぐに答えは出せなかった。
それどころか、曙の瞳から光りが消えた。
(私、生きたいの・・・?)
消えぬ疑問、大きな違和感。
それに心が飲み込まれるようになる瞬間、不意な温かさが彼女の思考を止めた。
「・・・スマン」
「・・・・・・いいから、離れて」
目をあけると、提督が曙を抱いていた。
体の反応で、やけに顔が熱くなる。
それと同じように、自分の意識が冷めていくのを感じる。
(私は、コイツの事、好きじゃない・・・)
もの悲しさを覚えながら、提督の体を離す。
先程とは違う、真剣な目を提督に向ける。
「私は、私として生きていきたい・・・と、思う」
「分かった。今はそれだけで十分だ」
提督は踵を返すと、出口に足を運んだ。
それを見た曙の体が、また反応する。
曙は小さくため息を吐くように、呟いた。
「どっちにせよ、この体はごめんだわ」
その声は提督に聞こえなかったのか、提督は振り向くことなく、明石の工廠に向かっていった。
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潮「はぁ・・・」
卯月「潮ちゃーん? 一体どうしたのかぴょん?」
潮「ひゃぁ!? あ、何だ卯月ちゃんですか」
卯月「ぷー? 何とは何だぴょん!」
潮「あはは、ごめんね」
卯月「もう! うーちゃんは優しいから許すけど、潮は言い方を気をつけるんだぴょん」
潮「うん、そうだね。ところで卯月ちゃん、こんな朝早くからどうしたの?」
卯月「うーちゃん今、あしがらちゃんを探しているぴょん。最近朝から居なくなってるから、とても気になってたぴょん」
潮「え? そうなんですか? あしがらちゃん怪我とか、してないですか?」
あしがら「そこらへんはだいじょうぶよー?」
潮「っ!?」
卯月「・・・あしがらちゃーん。唐突に表れるの止めるように言ったぴょん! 何で急に現れるぴょん! うーちゃんちょっと漏れちゃったかもしれないぴょん!」
潮「!?」(バッ
あしがら「きをつけてるつもりよー?」
潮(あ、私は大丈夫だった)
潮「あしがらちゃん、何処に行ってたんですか?」
あしがら「ちょっとさんぽよー?」
卯月「はぁ・・・また今日も弥生の部屋からパンツを取るしかないぴょん」
潮「・・・卯月ちゃんまたって、今・・・」
卯月「おっと! うーちゃんはちょっと用事を思い出したぴょん! あしがらちゃん! 先行ってるぴょーん!」
潮「あ! 卯月ちゃん・・・って、あしがらちゃんも、もういない・・・」
潮「はぁ・・・何か、余計に疲れました」
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提督は迷いない足取りで、一直線に明石の工廠に向かっていった。
「(コンコン)明石さん、緊急です」
「・・・少し待ってて、片付ける物があるから」
「・・・分かりました」
提督の言葉の端々で、曙の体は反応を示す。
(緊急だから自分は大事にされてるって、喜んで、提督が敬語を使っているから、何処となく釈然としない感じ・・・確かに、何で提督は一艦娘にわざわざさん付けで呼んでいるのかしら?)
曙が提督に訝しんだ視線をぶつけて居ると、提督は顔を半分曙に向けて呟いた。
「・・・知りたいか?」
曙は少し目を見開き、直ぐに表情を戻すが、その表情は何処か呆れが含まれていた。
「もしかして、エスパーか何か?」
「・・・いや、そんな顔の奴を見たことあるだけだ」
提督は何処か柔らかい笑みを浮かべて、そう呟いた。
そんな曙の心臓が一瞬跳ねた。
その後は、自分自身に嫉妬するかのような気持ちが心を支配した。
(・・・アンタにとってご褒美でしょうが。何でそんな気持ちになるのよ)
曙は小さくため息を吐き出し、体と心の不一致性に若干の苛立ちを覚えた。
そんな気持ちで一杯になっていた曙は、跳ねた心臓について考えることは無かった。
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「お待たせ今日はどんな用?」
「・・・彼女の事です」
「・・・・・・」
「・・・確かに、中身が違うわね」
提督たちを部屋に招き入れた明石は、曙を見てそう答えた。
提督は真剣な面持ちを保ちながら、明石に言葉を返す。
「・・・そんなに、分かりやすいですか?」
「雰囲気がね、貴方と一緒に居るのにこんなに刺々しい。此処の皆なら普通に分かると思うわよ?」
「私、そんなに違う?」
曙の口から不機嫌そうに漏れる。
事実、彼女は不機嫌だった。
提督と明石の親密さに体は嫉妬を覚えるが、曙の本心が明石に対して駄々っ子のような感情を向けていた。
(・・・何で、私、明石さんに、思い出してほしいって思ってるんだろう?)
曙の眉が少し下がる。
そして、それを見逃す技量を提督は持っていなかった。
「・・・どうした、曙? そんな顔して」
「な、何でもないわよ」
「全く・・・それじゃ、見解を言ってもいい?」
「・・・よろしくお願いします」
曙は顔を背けたまま、提督は明石の顔を伺いながらそう呟いた。
明石は咳ばらいを一つすると、説明を始めた。
「現在の曙ちゃんは二重人格みたいなものね。二重人格」
「・・・二重人格、ですか?」
「そうよ、曙ちゃん。最近まで主人格を持っていた曙ちゃん、便宜上、曙ちゃん改って呼ぶわよ? 曙ちゃん改は、曙ちゃんの時に抑圧された感情を主に作られていると思われるわ。否定していた自分、否定していた感情・・・それが曙ちゃんを抑え込んで、曙ちゃん改として現れた、と思うわよ?」
「・・・・・・」
「・・・私が、否定していた」
提督は帽子を深くかぶりなおし、目元を隠した。
曙は自分の手の平を見つめ、違う自分が憐みの感情を向けているのが分かった。
何故かそれが、曙の背筋を冷やした。
「・・・明石さん」
「ん? 何?」
「今、私が、いや、えっと・・・」
「曙ちゃん改?」
「そうですね・・・改、は私みたいに意識が切れていないのですが・・・」
「・・・・・・それ、本当?」
「え、はい」
明石は唐突に顔を顰め、口を閉ざした。
提督がハッとした表情になり、明石に問いかけた。
「もしかして、このままだと現在の曙が消えるという事ですか?」
「・・・可能性が、高いわね」
「・・・・・・えっ」
動揺した表情を見せた曙に対して、提督が宥める。
明石は真剣な眼差しを曙に向け、説明を始めた。
「いい、曙ちゃん。今回曙ちゃんが出て来たのは、曙ちゃん改が自分の意志を持ち始めたからだと思う。詰まる所、曙ちゃんが要らなくなった」
「・・・・・・」
曙は気が付くと、両腕が震えて俯いていた。
左手の握りこぶしが、そっと握られる。
曙は驚き、隣を見る。
そこには、提督がいつもの目でこちらを見つめていた。
「・・・大丈夫だ、曙。お前たちは、絶対に助けて見せる」
「・・・・・・ま、まあ、アンタの作戦指揮が間違ってたことは無いからね。信じて上げる」
「ああ」
明石は小声で、いちゃつくなよアホども・・・、と一人悪態をついていた。
ふと、明石が顔を上げると提督と目が合った。
「・・・」
「・・・」
鋭い視線で覗き合い、明石は呆れたようにため息を吐いた。
提督は立ち上がり、曙を抱きしめた。
「ひゃ!? て、提督急に何を――」
「・・・曙、俺を信じろ」
「え? そ、それよりこの体制ヲッ!?」
突如、曙の腹部に衝撃が走った。
視界がブラックアウトしていく中、曙は提督の申し訳なさそうな顔だけが見えていた。
(そんな、顔。してんじゃ、無いわよ・・・)
曙は意識を手放し、提督は曙を担ぎ上げた。
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「特型駆逐艦曙です。最前線と聞き、配属希望を出しました」
そう言って、敬礼をする彼女の目は黒く澱みきっていた。
提督は視線を鋭くし、曙を睨みつけながら問いかける。
「演習から実戦が良いか、実戦に身を投じたいか、何方だ?」
「実戦でお願いします」
彼女の答えは、即決だった。
提督の威圧に臆することなく、澱みきった眼差しを細くしながら力強く答えた。
「・・・分かった。現在攻略中の海域、キス島に出撃させよう」
「分かりまし――」
「但し、此方からの命令は無視するな。命令を優先し、今部隊旗艦である電の指示に従え」
「・・・(クソ提督が・・・)」
「・・・・・・」
「・・・分かりました。直ぐに準備いたします」
「ああ、期待している」
彼女は舌打ちをして、司令室を後にした。
すると、提督の背後に控えていた艦娘、電が心配そうな顔をして彼女が出て行った扉を見つめる。
「・・・提督さん、良かったのですか?」
「ああ、新兵には死なれて欲しくはない。それに、艦娘になったのも自棄でなったと思う。・・・不幸には、なってほしくないな」
「提督さんは、優しいのです。もっとその優しさをみんなに見せれば、提督さんは人気者なのです」
そう呟いた電は提督の横を通り、退出する。
去り際に――
「でも、提督さんは臆病なのでそんなことは出来ないと思いますが」
――と、呟き、電は出撃の準備に取り掛かった。
そんな中、提督は小さくため息を吐きながら、臆病者じゃない、ただ、人見知りなだけだ。
と呟き、指令室を後にした。
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私は、深海棲艦が、憎かった。
あの日、船での移動の際襲われなければ、私は戦場に足を運んでいないし、こんな怖い場所に来ることも無かったと思う。
私には、何の因果か、艦娘の素質を持っていた。
駆逐艦とやらになるらしく、私はその時、憎しみ以外の自分を捨てた。
入ってきたのは、別の憎しみだった。
人に対する、私を命令する人間に対する憎しみだった。
私はその時点で、既に壊れかかっていた。
自分と言う存在を消してまで手に入れた力。
待っていたのは理不尽なルールを立てる人たち。
もう、楽になりたかった。
自分と言う兵器に怯えたくなかった。
戦場と言う恐怖のみの場所に行きたくなかった。
もうこれ以上、感情に振り回されたくなかった。
・・・・・・。
どうしてだろう。
どうして目の前の人は、私をこんなに温かくしてくれるんだろう?
久方ぶりの、温かさで、
私の頬に涙が伝った。
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指令室の真ん中。
そこに曙は胡坐をかいて座っていた。
提督はため息を吐き、曙と目線の高さを合わせる。
「・・・曙、お前は命令違反を犯した」
「・・・・・・」
「・・・よって、お前は演習艦隊に配属だ」
「はっ!? ふざけないで! 私はこのままの艦隊で――」
曙が喚くのを提督は冷ややかな目で見つめ、あからさまにため息を吐く。
曙はそんな態度を取る提督を強く睨みつけ、暴言はヒートアップしていく。
「私達みたいな道具、使い捨てればいいでしょ!? 所詮消耗品だと思っているんでしょ!? それなら私もさっさと使い切っちゃてよ!」
曙は既に錯乱していた。
流れ込んできた知識を自分の過去にすり替えてしまい、感情を叩きつけるだけの暴言も自分の意志では無かった。
提督は目を見開き少し驚きを顔に出したが、直ぐに表情は真剣身を帯びた眼差しに隠されてしまう。
「曙」
「所詮使い捨て、所詮模造品。幾らでもいる私何だから」
「・・・曙」
「何体でも戦死させればいいじゃない!」
「・・・ハァ」
「アンタたちが無理矢理艦娘ヲッ!?」
提督は曙の体を持ち上げ、視線を交差させる。
曙の瞳から色が消えうせ、冷めた声を出そうとした瞬間、
曙は提督に抱きしめられた。
「――えっ?」
その自然すぎる動きに体が硬直する前に、提督の体温が、曙の緊張を解していく。
提督の安定した心臓の鼓動が直接聞こえる。
その温かさに何かが零れてしまいそうになるが、曙は寸での所で堪える。
「・・・・・・離れなさいよ」
「断る」
「・・・憲兵を呼ぶわよ?」
「呼びたければ、呼べばいい」
「・・・どうしてよ」
曙は震える声で、提督に問いかける。
「どうして、アンタは、私なんかにそんなことをするのよ・・・?」
曙は提督の服を握りながら問いかけてくる。
曙が提督を見上げると、呆れたような眼差しで曙を見下ろしていた。
「・・・なによ」
「曙、俺にとって曙はお前だけだ。代わりも、替えも存在しない」
「・・・・・・」
「お前に死なれるのは、俺が困る。とても、嫌だ」
そういって、曙に真剣な眼差しを向ける。
その言葉は、以上に優しく、曙の堪えていたものを容易に破壊した。
「――えっ?」
「・・・・・・」
頬に伝った涙が見えた途端、提督は曙を抱きしめた。
曙は今まで我慢していた涙を、提督の胸の中で泣き腫らした。
提督に泣きつく彼女の姿は、年相応の女の子だと、提督は改めて認識した。
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「・・・ここは?」
「気が付いた?」
その言葉に反応し、曙は後ろを振り返る。
その先には、彼女、駆逐艦曙が居た。
「・・・アンタが」
「うん。私が、貴方の感情から生まれた存在、曙。ただの、曙」
曙は彼女の言い回しに首を傾げ、それを視界に入れた彼女は小さく微笑み、指を立てて説明を始めた。
「私が艦娘じゃなくて、提督さんが提督でもなくて。普通に出会っていれば、と言う願望から生まれた存在。だから、戦う力も無いし、提督さんも普通に振舞ってくれる」
「・・・何が言いたいわけ?」
曙がそう聞くと、彼女は口元をにやけさせ、語る。
「要するに、私が提督さんを好きになってしまったから、あり得ない妄想で発散しようとして出来た存在ってこと」
「・・・・・・」
「あれ? どうしちゃったのかな、私?」
「・・・そうね、私。アイツの事大好きだわ」
「・・・・・・へっ?」
曙の答えに、素っ頓狂な声を上げる彼女は目をぱちくりと開いていた。
曙は恥ずかしげもなく、恥じらう様子もなく、真顔で、淡々と答える。
「アイツは真面目で誠実だけど、近くに居てほしい時は本当に近くに居てくれる。そんなアイツの優しさが、私は大好きだ」
「・・・私が恥ずかしくなってくるんだけど」
「う、うっさいわね! 意識させないで! 顔が熱くなってくる!」
先程までの冷静な表情は消え去り、余裕の無くなったように顔を真っ赤にして話す。
曙が手を団扇のようにして風を送っていると、彼女が薄く笑みを浮かべたような気がした。
「・・・如何やら、お別れみたいね」
「うん・・・けど、私はこんな展開を望んでた訳じゃないんだよ?」
「・・・どう言う意味?」
曙が警戒し、彼女に対し目を細くして見やる。
すると彼女は口元を三日月のように歪め、背筋に冷たい物を走らせる。
「本当は、私が恋を認めようとしなかったら、私が、本物になるつもりだったから」
「・・・・・・」
「少し、残念に思うよ?」
「・・・アンタ、私から生まれたのに馬鹿なの?」
「・・・・・・私は、本気で」
曙は本格的にため息を吐き出し、自分の姿と瓜二つな彼女を見つめた。
その瞳の奥は、諦めや悲しみと言った感情が見え隠れする。
その考え方を見て、憐みの意味を込めて、また、ため息を吐き出す。
「・・・何で二回もため息ついたの?」
「アンタね、私から生まれたんなら一度決めたことは貫く意志を持ちなさい。まあ、私も教えられた立場だけど・・・」
曙の後半の呟きは聞こえず、思わず彼女は首を傾げてしまう。
そんな彼女に曙は視線を戻し、悪戯を考えついた子供のように笑いかけた。
「ねえ、私と協力しない?」
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???「潮ちゃん!」
潮「その声・・・曙ちゃん!?」
潮が振り返ると同時に、曙が潮に飛びついてくる。
慌てながらも、潮は優しく曙を支えた。
潮「・・・もぉ~、曙ちゃん。危ないよ」
曙「うん・・・ごめんね」
潮は、何時もの曙に戻り、安堵のため息が漏れる。
落ち着いたおかげか、曙の後ろから来た人物を視界に入れることが出来た。
潮「提督さん・・・」
提督「潮、もう曙は大丈夫だ。安心してくれていい」
潮「そうですか・・・良かったです」
提督の言葉を聞き、潮は涙を浮かべながら本格的に脱力した。
それを少し、曙が支えながら、潮に笑みを浮かべていた。
曙「・・・潮ちゃん」
潮「・・・何?」
曙「心配かけて、ごめんね」
潮「・・・・・・」
その言葉に、潮はボロボロと涙をこぼしながら曙に抱き着く。
それを落ち着いた動作で、曙は支える。
潮「・・・心配したんだから。もう二度と、私の知ってる曙ちゃんに会えないと思ってたんだから!」
曙「・・・うん、って潮ちゃん? 私引きずって何処に行くの?」
潮「私達の部屋です! 私がどれだけ心配したか! お説教です!」
曙「えっ!? え、でも今回の事態は私がどうにか出来るわけじゃ」
潮「問答無用!」
曙「あっ、えっ、ちょ! て、提督さん! そういう事だから、私は部屋に戻るね!」
曙は視界から提督が外れる寸前で、言葉を言い切り、最後の言葉は若干響いていた。
提督「・・・さて」
提督は少し笑みを浮かべ、帽子を深くかぶりなおす。
すぐに、その顔からは温かみが消え冷たい表情に替わり、指令室に足を向けた。
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深夜。
大半の艦娘達が寝静まった頃、提督は港に来ていた。
その場には既に人が集まっており、その中の一人が提督に声をかける。
「提督、執務お疲れさん」
「川内か。すまんな、最近深海棲艦の出没率が上がっていてな・・・如何せん報告書が多くなる」
「ホントそうだよね。私もさっき回航中にそこそこの数に会っちゃってさ」
呆れたように肩を竦める川内だが、先程彼女が一人で撃沈させた艦は、実に五十を超えていた。
「そうか」
とだけ言い、興味を失くしたかのように視線を外す。
川内が今日日五十艦以上沈めるのは珍しいことではなく、提督も川内もただ流すだけの会話だった。
提督はゆっくりと、皆の前に出て、敬礼をする。
それに合わせ、彼女たち全員が敬礼を返す。
「さて、集まって貰ったのは部隊の人数を一人増員することにした」
既に彼女たちは全員、休めの体制になっており、先程まで雑多に並んでいたのだが、全員が綺麗に列を作っていた。
「それが、彼女だ」
提督はそのことを気にする素振りすら見せず、海上に体ごと向くように首を動かす。
全員が向いた先には一人の駆逐艦が居た。
「あれ?」
「戻っちゃったの?」
そう声を上げたのは暁と雷。
その後ろに居たヴェールヌイは肩を竦め、彼女達の物言いに呆れていた。
「正確に言うと、戻ってきてはいない。彼女の肉体は最新のものだ」
「・・・成る程、つまり、中身は昔のまま、という事なんだね?」
「その認識で正しい。だが、夜に彼女は移るが、昼の方でも彼女にそっくりな子がいる。間違えないようにしてくれ」
そう言っている間にも、件の駆逐艦は的に空中で蹴りを入れながら、別の的に射撃を命中させていた。
「・・・及第点、認めてやるよ」
川内は先程までのフレンドリーさは消え失せ、感情の抜けた顔で呟いた。
全体も彼女が良いのであればと言ったような雰囲気を出していた。
「・・・ありがとう」
提督は先程までよりマシな声で呟いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
曙は荒い息を吐き出し続けながら、訓練を続けていた。
自分に足りない実力を補うために、自分の好きな人と並ぶために。
『ねえ、私と協力しない?』
先程言った自分のセリフが脳内で響き渡る。
「・・・私が、本性を晒した、提督を落とす、から」
自分の口から漏れ出ている言葉に、曙は気が付かない。
だが、何故か体が疲労を感じさせない動きを続ける。
むしろ、先程よりも洗練さが増しているようにも思える。
「・・・貴方、は。・・・猫被った、提督を落として、提督を」
体は、既に疲労困憊だ。
何時倒れてもおかしくないような気もするが、何故か体は最高の動きを繰り返し続け、最高の上限を突破していく。
「・・・独占、しない?」
その言葉で曙は口元を三日月のように歪め、笑みを作る。
推進力で目の前の的を蹴り砕き、真後ろにある的を打ち抜き、砕く。
「ハッ・・・ハッ・・・」
曙は荒い息を吐き出し続け、闇に包まれた空を見上げた。
その広大さと、海上のせいか、異様な冷たさがまるでこれから自分が挑む人のようで、思わず体が震える。
「やってやる。あいつを絶対、その気にさせてやる・・・」
粘っこい笑みを浮かべたその少女の笑顔を、今はまだ誰も知ることはない。
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曙「私達の恋愛はこれからだ!」
エンドという事です。
若干の補足です。
最後のシーンに居たキャラクターは、暁、雷、ヴェールヌイ、川内、明石、足柄さん、初雪、時雨、夕立です。
実際他にもいますが、現在他の海域を回航中でございます。
何か、コメディにしたいのにシリアスになってしまいます。
まあ、次はコメディなのですが。
ではでは、今回はこれで終りです。
あとがきは無いよ。
ぼのたんは前世が酷い上官ばかりだったしね。
けど最近はサンマ釣りにガチ装備を持参で持ってる事から。
楽しい第二の人生を楽しんでるようで何よりですw
ぼののSS…だと…!?
これは…続きが早く見たいですねw
面白かったです!
成る程ね。
此が結魂の正体ですか。
そらレベルの上限上がるわw
ペルソナみたいなものですね