私立グリモワール魔法学園
突然だが、聞きたい事がある。1日の終わりとは、何を定義として終わりを迎えるのだろうか。
1つ、0時を回れば日付的には明日なので、これが1日の終わり。
2つ、寝た時に1日は終わり、起きた瞬間に1日が始まる。
そして最後、3つ、既に終わっている人生なので、1日の終わりも糞も無い。他の人達はおそらく1つ目か2つ目だろう、だが…
俺の答えは3つ目。それが俺、岩村星矢という人間が出した答えである。
「何やねんそれwどんな青春謳歌しとんねん己はw」
星矢「あはははー…」
部屋のTVから流れてくるお笑い芸人達のトークを耳に入れ、乾いた笑いを漏らす1人の少年、岩村星矢《いわむらせいや》17歳。
彼は中学3年生という受験勉強に忙しい時期に、とある理由によって親から勘当同然で一人暮らしをさせられてしまったのだ。
詳しい経緯は後程、嫌でも話す事になるだろう。因みに彼は名家の長男で跡取りの最有力候補であった。 しかし、彼はそれら全てを投げ捨てたのだ。
星矢「あ〜あ…今の俺の人生はバグだらけなのになー…バグズライフだってのになー…」
真っ黒で長い髪を右目部分だけ伸ばす変わったヘアスタイルを持つ彼は、TVを横目に独り言を呟き、天井を見据える。
星矢「まぁ世の中ってのは結局、別に生まれた瞬間に勝ち組とか負け組とか決まってるものじゃないって事か。いやー安心安心…」
生まれた瞬間に地位や名誉、財産を相続する事が決められていた彼の人生。だが、彼はそんな決められた人生に価値など見出せなかった。
だからという訳ではないが、彼は今、こうして安い賃貸物件の一室でのうのうと1日1日を過ごしている。
TV「それが実はs…」
星矢「ふぅ〜…」
点けていたTVの電源を落とし、ベッドによじ登って星矢は溜息を漏らす。
それは自分の今までの人生と、これからの人生とを比較して、何方も碌なものではないという結論に至ったが故の溜息であった。
星矢「はぁ…明日からまたバイトか…あの店長口煩いんだよな。よくもまぁ飽きもせず毎日毎日ギャースカ騒げるねぇ、本当に…」
既に終わっている、岩村星矢という人間の人生。
これ以上生きる事に、何の意味があるのか。何故俺は生きているのか。夜になると、彼は何度も頭の中でこの考えを巡らせていた。
人は最初から、産まれたその瞬間から、自分の為だけに生きている。男は家族を、家庭を持てば、きっとそれは変わるのだろう。妻の為、子の為に、自分を削り頑張って、精一杯生きて行くのだろう。
瞼が重くなっていくのを感じながら、ふと彼はそんな事を思う。そして自分の今の人生が、それとは全くの対極に位置していると自覚すると、堪らなく切なくなった。
星矢「俺は本当に…何の為に生きて…何の為に死んで行くんだろうな…」
瞼を閉じたまま右手を天井に掲げ、意味も無く言葉を呟くと、部屋を照らす明かりが瞼を通り、光を感じる。
考えれば考える程、自分が嫌いになっていく。この歳で総てを失うなんて、考えもしなかった。この歳でこんな事を考える事になるなんて、想像すらしていなかった。
星矢「これも、俺が自ら決めて、その末に背負った業なのか……なーんてっ!アニメの見過ぎだなぁ俺!厨二臭いったらない!こんな所を人に見られたり、況してや聞かれたりしたら死ねるわ!誰も居ないと思ってかめ◯め波の練習してたら、偶然人が通りかかった時並みに死ねるわぁ!いやマジで!」
上半身のみを勢いよく起こし、まるで自分自身に言い聞かせるような口振りで長ったらしい言葉を叫び散らす星矢は、最後に自分の両手で頰を叩くと、再びベッドの上で寝転がった。
星矢「寝よ寝よ…面倒な事考えるのも、明日の事考えるのももう飽きたわ…」
明日もまたバイトがある。そう思い、考える事すら煩わしいと感じるようになった星矢は、掛け布団で頭を隠し、寝る事のみに精を注いだ。
しかし、彼は眠気に負けてしまいそうになったその時、心の中でこう願った。
“こんな意味の無い世界じゃ無くて、もっと意味のある世界で生きて行きたいもんだよ。神様”と…
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朝。目覚まし時計が鳴る前にスズメの鳴き声が耳に飛び込んで来た星矢は、いつものように快適な朝を迎えた。
星矢「ふぁ〜ぁ…おはよーございます…」
スズメの目覚まし時計にコンクリートのベッド、陽光の掛け布団という超自然的な3種の神器で目を覚まし、彼は誰に言うでもなく朝の挨拶を述べる。
星矢「……って、あれ…?俺、確か布団で寝てたよな…?」
自分のベッドがコンクリートに変わっている事に気付き、周囲を見回しながら状況の確認に勤しむ。
すると、周囲を見回していた彼の目に飛び込んできた物は、学校の校門らしき物だった。
星矢「えー…俺って夢遊病患ってたの?夢遊病患者だったの?参ったなぁ…」
彼の年齢ならば本来、高校に通って勉強や恋愛に心血を注ぎ、同級生達と交流を深め合っているだろう。
だが、それが叶わなかった星矢は自分の未練が今の状況を引き起こしたのだと勝手に決め付け、夢遊病患者などを専門に扱う医者に頼るべきか否かについて頭を悩ませていた。
星矢「まぁ取り敢えずだ……ここ何処?いや、まぁ何処かの学校の前だっていう事は分かるけどさ…校門がある訳だしね…」
自分自身が引き起こした事態である事に安心感を覚え、取り敢えず現在地の特定しようと、星矢は校門に彫られた学校名に目を向け、読み間違えないよう注視する。
星矢「私立グリモワール魔法学園…」
TVや雑誌などで見た事も聞いた事もない学校名に、思わず首を傾げて怪訝そうな表情を浮かべる。
星矢「……いやぁ、金かけてるなぁ…ていうか良い仕事してるな、この校門作った人」
暫くの間思考が停止し、視点を変えようと校門の豪華さに目を向けた星矢は、この校門を作ったであろう人物に惜しげもない賞賛の言葉を送った。
星矢「…じゃねぇだろぉっ!!何なんだ此処ぉ!俺知らないっ!俺はこんな高校知らなぃぃいっ!」
校門の先に聳え立つ超弩級の校舎。更には巨大な噴水なども設置されており、これを目の当たりにした星矢は気分を誤魔化す為か激しい動作を加えながら声を荒げる。
星矢「いや確かに?私立高校ならまぁこの校舎の大きさは無きにしも非ずって感じだけどさ…噴水はねぇだろ…」
右手を左右に動かし、いくら私立高校とは言え噴水だけはないと豪語する星矢の額には、何故か脂汗が浮かんでいた。
星矢『……いやちょっと待って…俺、なんか凄く大事な所を見落としている気がする』
そしてふと彼は思った。自分は何か、とても大事な部分を見落としてしまっていると…
その言いようの無い違和感を感じ、もう1度だけ学校名の彫られたプレートに目を向けた星矢は、感じていた違和感の正体である1つの単語を見つけ出した。
星矢『あれ?私立グリモワール魔法学園…え?魔法?魔法って何?魔法ってアレだよね?メ◯ゾーマとかバギ◯ロスとかの事だよね?』
私立グリモワール魔法学園。この聞き慣れない【魔法】という単語に、星矢は某RPGゲームの呪文を例えに持ち出す事で何とか取り乱さずに正気を保つ。
勿論、内心では彼も訳が分からず非常に混乱しており、その様子はさながらメダパ◯ーマにかけられた遊び人のようだった。
星矢「何この学校…もしかして厨二育成専支援学校とか?いやー日本も寛大になったもんだな。我が校は、現実逃避という独自の教育理論を推進しています、ってか?笑えない笑えない…ていうかよく国がそんなの認めたな…」
空中に浮かぶテキスト欄に星矢は混乱していると表示される中、この豪華絢爛と呼ぶに相応しい学校を厨二病患者育成支援学校だと思い込む事に決めた星矢は、国がどのような意図を持ってしてこの学校を作ったのかに意識を向け始める。
星矢「…あ!あーーーっ!そうだ!お嬢様学校だ!それならまぁ納得出来る話だわ。女の子はアレだもんね、いつの時代でもプリキ◯アとかに夢中だもんね」
しかし、急に頭の中で別の可能性が芽生えると、星矢はそっちの可能性に乗っかってこれだと言わんばかりに何度も首を縦に振り、納得したといった表情を浮かべた。因みに、大きいお友達(男性)もプリキュ◯は大好物だと思います。
星矢「ま、まぁ取り敢えず帰るとしますか…いやーしかしほっんと驚いたなぁ…まさか俺の近所に、こんな豪華な学校があったなんて…御見逸れ致しやした!」
紆余曲折を経て、漸く自分の納得出来る結論に達した星矢は、まだいくつかの疑問は残るものの全てを忘れようと心に決め、最後にこの学校に対しての褒め言葉を呟くと踵を返して何処へともなく歩き出した。
「褒めてくれてどうも!学園長もさぞお喜びになるだろうぜ!」
と、その時。彼の残した褒め言葉を聞き付け、学園長の名前を出しながら彼の言葉を受け取る奇怪な生き物が姿を現わした。
星矢「は?」
とても聞き覚えのある声に歩みを止め、その声の持ち主の姿を目に入れようと校門の方へ視線を戻す星矢。そんな彼の目に映った物は、服を着て宙を舞う兎の姿をした謎の物体であった。
「ようこそ!グリモワール魔法学園へ!君は魔法使いに覚醒した!おめでとう!」
星矢「は…?はぁぁぁあああッ!!?」
衝撃的な物を見た。そう思って面食らい、立ち尽くす俺に向かって君は魔法使いに覚醒したなどとトンチキな事を言い出す宙を舞う兎型の物体。
そして俺は、この兎型の物体と出会った事によって、これからこの世界で、この学園で、奇想天外な事を体験しながら生きて行く事になる。何も知らぬ世界で、憂いに満ちた世界で、俺は一体何を見出すのだろうか。そんな事など、今の俺にはまだ知る由も無かった。
to be continued…
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