2017-10-13 21:19:55 更新

【第1話】空白の2週間(後編)





空白の2週間 後編


幻想郷の夜を拗ねた三日月が照らし出す中、新たな住人、岩村星矢を加えた紅魔館は今夜も大いに賑わっていた。

各々の時間や晩餐の際には住人同士の会話が増え、亀裂が入っていたかに見えた吸血鬼姉妹の仲も、彼の存在によって互いの思った事を言い合えるような仲に変わっていった。そんな中…


フラン「ふんふ〜ん♪ふふ〜ん♪」


鼻歌混じりのフランドール・スカーレットが、悠々と紅魔館厨房に向かって歩いていた。

彼女の体からは湯気が立ち昇っており、着ている服は秋にしては少々薄い格好である。どうやら彼女はお風呂上がりのようだ。


フラン「えへへ〜…やっぱり星矢って優しいなぁ…私と遊んでくれるし、デザートとかも沢山作ってくれるし…」


上機嫌な様子で星矢の名前を口にし、お風呂上がりの所為か、将又別の要因があるのかは分からないが、フランの顔は赤くなっていた。


フラン「今度髪、乾かして貰えるか聞いてみよっと♪取り敢えず飲み物飲み物…」


今後の事について独り言を呟いていると、いつの間にか目的地である厨房へと辿り着いたようで、フランは尚も上機嫌な様子で厨房に置いてある大型冷蔵庫とはまた別の冷蔵庫へと足を伸ばす。


フラン「今日はどんな血にしよっかな〜…」


小型の冷蔵庫を開き、中に入っている大量の小瓶を眺めながらどれを手に取るか悩むフラン。

お気付きの方も居るだろうが、この小型冷蔵庫に入っているのはレミリアとフランが口にする為の血液が保管されている専用の冷蔵庫なのだ。開けるのは主に食後やお風呂上がりの時であり、在庫が無くなれば咲夜が補充する手筈になっている。


フラン「あれ?」


どの血液を飲むか未だに悩んでいたフランは、小瓶が並べられている列の1番左端を見て疑問を抱いた。

彼女の目の前にある小瓶。その小瓶には【レミリア専用】と書かれた謎のラベルが貼られており、他の血液とはまた別物である事を暗に意味しているように見える。


フラン「何で彼奴専用…?はっ!まさか!」


実の姉を彼奴呼ばわりし、フランは何かに気付いたのか小瓶を持った手を震わせる。


フラン「これ……星矢の血だっ!やったーっ!遂に見付けたよーっ!」


謎のラベルが貼られた小瓶を見て、フランはそれに入っている血液が星矢の血液であると本能的に察したのだ。

実は以前、彼女がレミリアの部屋に訪れた際、レミリアはワイングラスに注いだ血を飲みながら、顔を紅潮させて何度も星矢の名前を愛おしそうに呟いていた。そして、彼女がそれを訪ねると、レミリアは嬉々として自分が今飲んでいる血が星矢のモノであると告げたのだ。


フラン「むむぅ…私には一口もくれなかった癖に…自分だけこんなに…しかも4本も…」


しかし、レミリアは妹であるフランに一口も分けようとはせず、自分ばかり彼の血液を口にし、彼の血液を飲む悦びを1人で楽しんでいたのだ。その事に納得がいかなかったフランだが、何処を何度探しても彼の血液が入った小瓶を見つける事は叶わず、既に半分諦めかけていた時だった。


フラン「今まで何処に隠してたんだろ……ま、いっか!これでやっと星矢の血が飲めるよぉ❤︎私が頼んだら、星矢に嫌われちゃうだろうし…」


今までの所在に疑問を抱くフランだったが、彼女は自分が手に持つ彼の血液が入った小瓶を見て、アッサリとその疑問を捨て去り、彼の血液が飲める事への喜びを露わにする。それと同時に、フランは自分が彼に頼み込んだ際、彼がどんな反応を示すのかを想像して落ち込んでしまう。


フラン「少なくなったの気付かれても知らないって言えば大丈夫だよね!うん!」


怒られる事を想定しながらも、フランは意気揚々と小瓶の蓋を開け、口を付ける。そして、一気に彼の血液を口内に流し込んだ。


フラン「ぷはぁ!…美味しーーっ!!こんな美味しい血を妹に分けないで独り占めするなんて、やっぱり彼奴は性悪だね!まぁ私も彼奴と同じ悪魔なんだけど!」


実の姉を未だに彼奴呼ばわりするだけでなく、性悪とまで言い放ったフランは、小瓶の底に残っている数滴の血液を飲む為、瓶を逆さにし、独り言を呟きながらそれを飲み干そうとする。


フラン「え…?あ、あれ?」


だが、フランは手に持った小瓶を地面に落としてしまい、自らもその場で力無く崩れてしまう。

自分の身に何が起こったのかが理解出来ないフランは、意識が朦朧とする中、あの日、確かに囁かれた彼の言葉を頭の中で何度も繰り返し思い出していた。


フラン「体、熱いよぉ…星矢…星矢、どこ…?」


声は聞こえるが、肝心の彼の姿は何処にもない。何故なら、現在彼女の耳に木霊する彼の声は、彼女が創り出した幻の声、所謂幻聴だからである。


フラン「はぁ…はぁ…星矢の…血ぃ…」


微かに香る彼の匂いを辿り、フランが掴んだのは、小型冷蔵庫に保管されている彼の血液が入った小瓶だった。

抗い難い衝動に駆られ、フランは躊躇いもなく小瓶の蓋を開けると、先程よりも甘く、激しく、彼の血液を口内に流し込んだ。


レミリア「ふふっ♪今日はいつもより多く星矢と会話が出来たわ♪」


湯気を立ち昇らせた体と、それに見合った真っ赤な顔で廊下を歩くのは、この紅魔館の主であるレミリア・スカーレットであった。

日に日に増していく彼への溢れんばかりの想いを押し殺し、ゆっくりと着実に彼と親密を深めようと試みる彼女は、今夜も妄想冷めやらぬ夜を過ごす。


レミリア「そ、そろそろ…星矢も私の気持ちに気付いたかしら…そしたら、私の暖めたベッドの中で…星矢と2人………うーっ!!」


自らの両手で頰を抑え、頭を何度も横に振るレミリア。

最近の彼女は、彼との甘い妄想に浸る度にこうして謎の奇行に走る事が非常に多くなった。だが、他の者はその光景を見ても何故か和やかな表情を浮かべるばかりで、呆れ果てた表情をする者は誰1人としていない。


レミリア「お、落ち着くのよレミリア・スカーレット…先ずは星矢の血を飲んで心と体に安心を…」


妄想で火照った体を冷まし、安心感を得ようと星矢の血を欲したレミリアは、紅魔館の厨房に置いてある血液保管用の小型冷蔵庫から、自分専用に咲夜に命じて採取させた星矢の血を飲もうと早足で厨房に向かう。


レミリア「な、何よ…これ…」


フラン「ふにゃ〜❤︎」


紅魔館の厨房に入った彼女の目に飛び込んで来た光景は、 口元と地面を血で染め、蕩けた表情を浮かべて地べたに座っている実の妹の姿だった。


フラン「えへへ〜❤︎星矢❤︎好きぃ❤︎」


彼女の妹は幼く儚げな容姿をしながらも、乱れた服装から溢れ出る妖艶さを身に纏い、何度も自分が好意を寄せる彼の名前を甘い声で呼んでいる。それを見て、レミリアは全てを悟り、そして…


レミリア「咲夜ーーーっ!!」


自分が敬愛する従者の名を、館中に響く程の大きな声で叫んだ。


咲夜「お、お嬢様っ!一体何事でs…こ、これはっ!!」


彼女の呼び掛けから僅か3秒足らずでその場に駆けつけ、その惨状を目にしたレミリアの最も敬愛する従者、十六夜咲夜。

咲夜は目の前の光景を目にし、驚いた表情を見せると、自分を呼び付けた主人の元へと歩み寄る。


咲夜「お嬢様…これは、一体…」


レミリア「ふ、フランにっ…フランに星矢を寝取られてしまったわ…私の、私だけの旦那様だったのにっ…」


現状を確認しようと主人であるレミリアに事のあらましを尋ねようとした咲夜だったが、レミリアは途端に彼女の体に縋り付き、彼女のメイド服を濡らす。


咲夜「ね、NTRですって!?そんな、馬鹿なっ…」


そんなレミリアの様相を見た彼女は、寝取られの略語を用いながら本来有り得ない事が起こってしまったという事に驚きを隠せない様子である。


咲夜「あ、有り得ませんっ…星矢が妹様に手を出すなんて事っ…ま、まぁいつ手を出すか分からないのは確かですけど…」


彼がフランに手を出したという仮説を立てたレミリアに、咲夜は否定的な意見を述べたが、実際に彼がいつ何処で手を出すか分からない状態であった事も確かであり、咲夜はその仮説を完全に否定する事が出来なかった。

それでも彼女は、彼が以前自分の前で宣言した言葉を信じ、必死にレミリアに呼び掛ける。


咲夜「お嬢様!気をしっかり!確かに星矢は、美形の癖にロリコンで変態な残念系イケメンですけど!お嬢様の事を強く想っているという事は、この私が保証します!」


レミリア「うー…」


主人であるレミリアを貶す言葉を織り交ぜ、咲夜はレミリアの再起を図る。だが、目の前の光景が余程ショックだったのか、レミリアは顔を俯かせたまま唸り声を漏らし、その顔を上げようとはしない。


フラン「えへへー❤︎お姉様も飲むぅ?星矢の血、すっごく美味しいんだよぉ❤︎まだまだ沢山あるからお姉様も…」


立ち直る事が出来無い自分の姉を尻目に、フランはまるで酔っ払った中年親父のような振る舞いをし、レミリアに星矢の血液を勧めた。


フラン「あれ?もうない…」


しかし、その小さな手に握られた小瓶は既に空になっており、彼の血液は一滴も残っていなかった。


レミリア「あ、あれは…私が大事に取って置いた、星矢の血が入った小瓶…」


目の前に転がる複数の小瓶に漸く気付いたレミリアは、その小さな体を震わせながら真実に辿り着いた。自分の妹が、楽しみに取って置いた彼の血を全て飲み干してしまったという事に…


レミリア「ふ…フ〜ラ〜ン〜っ…!!」


フラン「げっ…これ、ちょっとヤバいかも…」


怒りの臨界点を突破した実の姉を目の前にし、フランは酔いが覚めたかのように焦った表情を浮かべると、額に汗を掻き始めた。そして次の瞬間…


レミリア「スペルカードを宣言!神槍【スピア・ザ・グングニル】」


怒りに身を任せ、彼女の代表的なスペルカードとも言える神槍【スピア・ザ・グングニル】を宣言した紅魔館の主人であり吸血鬼でもある、レミリア・スカーレットと、突然のスペルカード宣言に戸惑うその妹、フランドール・スカーレット。そして…


星矢「やっぱり、レミリアに呼ばれるのは咲夜か…ま、当たり前かぁ…」


月明かりが照らす紅魔館の庭園で庭掃除に精を出す紅魔館唯一の男であり、レミリアの想い人でもある岩村星矢17歳。今宵も彼は、この館に住む2人の吸血鬼を想いながら、自らの職務を全うする。


星矢「はぁ〜っ……スカーレット姉妹とラブラブしたい…ていうか出来る気がしない…」



この物語は、紅魔館と呼ばれる館で執事として働く1人の鈍感男と、その紅魔館で出逢った小さな小さな吸血鬼姉妹とが織り成す、摩訶不思議で奇想天外な物語のほんの1ページである。



紅魔館(レミリアの部屋)



紅魔館と呼ばれる深紅の館、その館の執事として加わった唯一の男性、岩村星矢が働き始めてから、既に1週間ちょっとという時間が経過していた。

紅魔館の主人レミリア・スカーレットと岩村星矢の出逢いは突然であり、彼女はこの出逢いを運命と断定し、行き場の無い彼を執事としてこの館に繋ぎ止めた。そして彼自身もそれを望み、紅魔館のメイド長である十六夜咲夜と共に、お嬢様や館の為に昼夜問わず働き続ける生活を送っていた。


星矢「今日の軽食はアップルパイを、紅茶はTAYLORS of HARROGATEのダージリンをご用意致しました」


レミリア「今日も美味しそうね。頂くわ」


午後の穏やかで優雅な一時を、想いを寄せる男性と共に過ごす事に幸せを感じながら、レミリアは星矢が用意した紅茶のティーカップを手に持ち、口を付ける。

口の中に広がる紅茶特有の味と香りを楽しみ、自分の隣で笑顔を浮かべる彼を横目に、彼女は優越感に浸った。自分だけが彼を傍に置けるのだと…


レミリア「ふぅ…とても美味しいわ。毎日、貴方の紅茶を飲みたい位よ…星矢…」


星矢「ふふ…ご冗談を…私など、咲夜さんの足元にも及びませんよ…」


ティーカップを手元に置き、お湯の温度を計っている星矢を見詰めたレミリアは、頰を軽く染めながら自らの気持ちを偽る事なく彼に伝える。

しかし、肝心の星矢は彼女のこの言葉を冗談だと受け取り、いつも通りこの場には居ないレミリアが最も敬愛する従者である十六夜咲夜の名前を出し、素直にその言葉を受け取ろうとはしなかった。


レミリア「星矢。謙遜ばかりしていては駄目よ?貴方には確かな才能があるのだから…少しは自分に自信を持ちなさい」


星矢「レミリアお嬢様…」


日頃から他人の評価を素直に受け取らない星矢に、レミリアは説教にも似た言い方で彼を窘める。それは自分が彼を認めているからであり、その評価を受け取って欲しいという心の表れでもあった。

そんな彼女を見た星矢は、真っ直ぐ自分の瞳を見詰めるレミリアの名前を口からこぼし、その場に立ち尽くしてしまった。


レミリア『はっ!わ、私は何をっ…こんな事を言ったら星矢に嫌われちゃうかも…そ、それだけは絶対に嫌っ!』


自分が彼に言い放った言葉を思い返したレミリアは、途端に怯えた様子を見せ、彼に嫌われてしまったのではと不安を抱いてしまう。しかし、彼女の想いや言葉は何も間違ってなどなく、至極当然の意見や考え方と言えるだろう。


星矢「確かに、お嬢様の仰る通りですね…自分に自信の無い物を他者に提供するのは、執事失格です…これからは自分でも自信が持てる位の一品を提供出来るよう、日々精進致します」


彼女の述べた言葉の意味を理解した星矢は、右手を胸に当て、綺麗なお辞儀をしながらこれからも精進していく事を彼女に誓う。


レミリア「わ、分かってくれればそれでいいのよっ……お、美味しい…」


一瞬、星矢に嫌われてしまうかもと不安を感じたレミリアだったが、彼がしっかりと自分の言葉の意味を理解してくれたと察し、彼女は先程までのおどおどとした態度を一変させて彼が作ったアップルパイを口に運んだ。


星矢「また食べたくなったら、いつでも私にお申し付け下さい。私は貴女の命令ならば、どんな無理難題であろうと必ずや実現させて見せます…この命に代えても、必ず…」


レミリア「せ、星矢❤︎」


自らの前に跪き、上目遣いで誓いの言葉を述べる星矢に、レミリアは胸を一瞬強く高鳴らせた。その後も胸の鼓動が弱まる事はなく、彼の瞳を見詰めているだけで自然と体が火照り、意識が朦朧としてしまう。


星矢「私は…【あの日】からずっと空っぽだった…そして、この空っぽの器に生きる意味と希望をもう1度与えてくれたのが他でもない…貴女と、貴女の妹様です…だから私は、この命を賭してでも…貴女と妹様を…」


レミリア「星矢…」


急に顔を俯かせ、何かを呟いている星矢を見てレミリアは小さく彼の名前を呼ぶ。

彼の言葉が何を意味しているのか、レミリアには何となくではあるが分かったような気がした。彼女がそう思った理由は、彼と初めて出逢ったあの日の出来事から来るものなのだろう。


レミリア『星矢にも…色々あったのね…でも、今の私がそれを聞いても、貴方はきっと…』


悲しげな表情で言葉を紡ぐ星矢。しかしレミリアは、彼にその理由を聞こうとは決してしなかった。


レミリア『だからいつか、私と貴方が真の意味で理解し合える関係になれたら、私に話してちょうだい…私はもう、身も、心も…全て貴方に捧げたつもりよ?星矢…』


その姿を只黙って見詰め、心の中で自分の気持ちを吐露するレミリア。

胸を締め付けるかのような不快な感覚と共に、押し寄せる彼の確かな想いを抱きながら、彼女は何度も強く祈った。彼と自分が理解し合える時が、一刻も早く来る事を…


レミリア『そういえば…星矢って今まで彼女とか居たのかしら…』


ふと疑問に思った事柄を頭の中で呟き、レミリアは目の前に居る星矢の姿を細かく観察し始める。

長く伸びた手足、少し奇抜髪型、その髪型から僅かに溢れる端正な顔立ち。それを見たレミリアは、再び胸を締め付けるかのような不快感に襲われた。


レミリア『多分、居たわよね…こんなに魅力的な人を、周りが放って置く訳がないもの……うー…』


吐き気を催す程の不快感に襲われながらも、レミリアは必死に自分を納得させようと自らに強く言い聞かせる。しかし、言い聞かせようとすればする程、その不快感も同時に強くなっていった。


星矢「お嬢様?顔色が優れないようですが…如何なさいましたか?」


彼女の異変に逸早く気付き、彼女にゆっくりと近付いた星矢は、彼女の身を案じながら顔を覗き込む。

彼が自分の身を案じる仕草を見て、レミリアはこれが優しさから来るものなのか、好意から来るものなのかという区別がつかず、益々心の整理が付かなくなる。


レミリア「だ、大丈夫よ…心配してくれて、ありがとう…」


未だ取れる様子のない不快感を抱きながら、レミリアは彼の前では元気な姿を見せたいと思い、自分の弱さを見せるような言動は取らなかった。

もしも自分がこの事を話してしまえば、彼が責任を感じて自分の前から消えてしまうのではと思ったからである。


星矢「……いえ…ですが体調が優れないのなら、ご無理だけはなされぬようお願いします…」


レミリア「ええ…分かったわ…」


そんなレミリアの強がりを見て、星矢は彼女を立てようと思ったのか、それともまた別の理由があったのか、それ以上何も聞こうとはしない。だが代わりに、彼は先程よりも思い詰めた表情で目の前にいる彼女の身を案じた。


レミリア『そうよ…私は大丈夫…だって、私はいつかきっと、貴方と結ばれるから…それが、私達の運命だもの……そうよね?星矢…』


心の中でのみ語られる、欠片のように小さく脆い彼女の淡い恋心。その恋心を抱いてしまった事に、彼女はこの先、どのような結末を迎える事になっても決して後悔はしないだろう。



紅魔館(大図書館)



パチュリー「それで?また私に人生……じゃないわね。吸血鬼相談?」


レミリア「そこは普通に人生相談でいいと思うけど…」


自室で星矢の紅茶とアップルパイを堪能したレミリアは、彼と他愛の無い会話を繰り広げた後、仕事に戻った彼を見送り、その足で紅魔館の大図書館へと訪れていた。

最近のレミリアは親友であるパチュリー・ノーレッジへ相談を持ち掛ける事が増え、星矢と接する時以外は大抵大図書館に入り浸るようになっていた。


パチュリー「それに、もう相談事なんて無いでしょ?側から見てても雰囲気はいい感じよ?貴女達2人は」


レミリア「いい感じだけじゃ困るのよ!私は星矢と結婚を前提にしたお付き合いをしたいの!」


日課となりつつある彼女の人生相談にパチュリーは慣れ始めているのか、本を読みながら受け答えをするという話半分に聞いている状態だ。しかし、一刻の猶予もないと焦るレミリアは、親友の態度に語気を荒げて自分の心境を偽る事無く明かす。


パチュリー「それを口にすればあっという間に進展するんじゃないの?上手くいけば、レミィの思惑通り彼と付き合えるかも知れないわよ?」


レミリアの事を渾名で呼び、本のページをめくりその文字に目を走らせながら自分の意見を述べるパチュリー。だが、その表情と態度はとても親友の相談に乗っているとは思えない表情と態度である。

実はこの2人のやり取りは、既に何回も行われているのだ。しかも殆ど毎日と言っても過言ではないレベルで…


レミリア「そ、それは…恥ずかしいし…で、でもっ…星矢とお付き合いが出来たら、きっと毎日が楽しくて…輝いてて…それで…」


パチュリー『これでこの反応何回目かしらね…』


そして、彼女のこの反応もまた、パチュリーにとっては既に何度も見てきた反応であった。

頰を紅く染め、身を捩らせながら甘い妄想の中で、レミリアは想い人である彼の名前を何度も愛おしそうに呼ぶ。そんな彼女を見て、パチュリーは今日も溜息を吐く。


レミリア「それに、モタモタしてるとあの子に星矢を取られてしまうわっ…」


すると突然、レミリアは顔を顰め歯軋りをすると、ある者に自分の想い人が取られてしまうかもという不安を親友であるパチュリーの前で吐露する。


彼女の言う【あの子】とは、恐らく実の妹であるフランドール・スカーレットの事だろう。

フランは姉のレミリアとは対照的な性格をしており、無邪気で自由奔放な明るい性格をしており、彼と接する時も常に笑顔を絶やさず明るく振舞っていた。どうやらレミリアは妹のその反応が彼への好意から来るものだと思っているらしい。


パチュリー「そういえば、あの子も最近彼と一緒に居る事が多くなったわね…」


レミリア「そう!そうなのよ!この前もあの子、私が大切に保管して置いた星矢の血を全部飲んでっ……うーっ…楽しみにしていたのにっ…」


レミリアの言葉に何かを考えるかのような素振りを見せ、言葉をこぼすパチュリー。

それを聞き、レミリアはパチュリーに同調の意を示しながら以前に起こった事柄を思い出し、徐々に苛立ちを募らせていく。


レミリア「も、もしも…もしも星矢が、あの子の無邪気な振る舞いに心乱されたりしたらっ…」


頭の中で最悪の状況が思い浮かんでしまい、それを止める術を知らないレミリアは、親友であるパチュリーの目の前でスカーレット劇場を展開させた。


フラン『ねぇ星矢…星矢は私の事、どう思ってるの?』


ベッドの上で彼に寄り添い、甘い言葉で自分をどう思っているのか尋ねるフラン。その両手は彼の右手に置かれており、身長差からか彼女の見詰める視線は自然と上目遣いになっている。


星矢『それは、どういう意味だ?フラン』


フラン『だから、それは…その…星矢は…私の事、好きなの…?それとも、嫌い…?』


質問の意味が分からず、察しの悪い星矢は、あろう事かその言葉の意味を本人であるフランに尋ね返してしまう。

するとフランは痺れを切らしたのか、途切れ途切れではあるが自分の知りたい事を単刀直入に彼に尋ねた。


フラン『私は、好きだよ…?星矢の事…あの日からずっと…星矢が大好き…』


そしてフランは、自分が抱いている甘く切なく感情を、想い人である彼に伝えた。頰を微かに、紅く染めながら…


フラン『……もう…女の子に言わせないでよ…ばか…』


自分の想いを伝えられた事に安堵したフランは、同時に察しの悪い彼を軽く貶す。しかしその言葉とは裏腹に、彼女の両手は彼の腰へと伸びており、フランは無意識の内に彼を求めてしまう。


星矢『っ!フランっ…』


フラン『ひゃうっ…』


彼女の愛らしい言動を見た星矢は、激情に駆られ、強引に彼女をベッドに押し倒す。

フランをベッドに押し倒した後、星矢は左手で彼女の両手首をしっかり掴み、空いた右手は彼女の腰に優しく添える。フランも彼の行動に抵抗する様子はなく、彼女の瞳は期待と不安で潤んでいた。


フラン『星矢…キス、して…』


星矢『フラン…』


突如としてフランの口から放たれた要望。それを叶える為、星矢は左手で掴んでいた彼女の両手首を離し、腰に添えていた右手も同時に離す。

だが代わりに、その両手をフランの両頬に触れさせると、星矢はゆっくりと自分の顔を彼女に近付けた。


フラン『んっ❤︎…んんぅ❤︎…ん、はっ❤︎ぁ❤︎』


唇と唇が触れ合い、それをお互いに確認し合うと、星矢とフランは箍が外れたかのように互いの唇を貪り合う。


フラン『す、きぃ❤︎…せーやっ❤︎んむぅ❤︎…』


星矢『俺も、同じ…んっ…気持ち、だっ…』


唾液が絡み合い、舌を絡ませ合う感覚に溺れ、2人は抱き合いながら夢中でキスを繰り返す。

そして、暫くの間深いキスを堪能した星矢とフランは、名残惜しそうに唇を離すと、無色透明な糸が2人を繋いでいた。


フラン『えへへ❤︎…星矢とキス、しちゃった❤︎…』


涙で顔を濡らし、蕩けた笑顔で幸せそうにそう呟くフランは、彼の首に自分の両手を回すと、続けてこう言葉にする。


フラン『星矢…もっとしよ…?私のはじめて…全部全部…ぜーんぶあげるから…』


星矢『ぅ…』


尽きる事のない愛情の赴くまま、フランは何も考えずに言葉を紡ぐ。その言葉がこの先、彼にどのような行動を取らせてしまうのかを知りながら…


星矢『……いいんだな?フラン…』


自らの身を包む燕尾服に手を掛け、ベッドの上にそれを脱ぎ捨てると、星矢は彼女の頰に右手を当てながら甘い声色で確認を取る。


フラン『うんっ❤︎…でも…優しく、してね…?激しくするのは、いっぱいしてからだよ…?』


待ち侘びていた言葉を聞き、彼を強く抱き締めるフラン。

そんな彼の耳元で、フランは不安そうに優しくして欲しい事を告げると、段々と力を緩めて再びベッドの上へとその身を落とした。


星矢『フランっ…!』


フラン『だ、だめっ…優しくしてっ…こ、怖いよぉ…んんぅっ❤︎』



部屋に響く甘い声と共に、1人の男性と吸血鬼が、お互いの愛を確かめ合う。この記念すべき夜が明けぬよう、祈りながら…



レミリア「という展開になり兼ねないのよっ!」


突然立ち上がり、机を強く叩きながら大声を上げる吸血鬼、レミリア・スカーレット。

彼女はこの予想が現実で起こり得る可能性があると感じており、今現在も息を切らした状態で親友であるパチュリーに必死で訴えていた。


パチュリー「随分と長い予想だったわね。もしかしてレミィ、今の展開を自分に置き換えて妄想したりとか、してないわよね?」


先程の予想を長いと評し、パチュリーはそれを自分に置き換えて妄想しているのではないかと、疑惑の眼差しをレミリアに向ける。


レミリア「し、ししっ…してにゃいわよっ!変な言いがかりはやめてちょうだいっ!」


パチュリー『してるのね…』


親友に疑惑の眼差しを向けられてしまい、レミリアは途端に顔を真っ赤にすると、ワタワタとかなり動揺した様子を見せ始めた。


パチュリー「まさかレミィがそこまで惚れ込むなんて…余程の人間なのね。彼は」


多種多様な言動を取る目の前の親友を見て、パチュリーは読んでいた本を閉じると、率直な感想を述べる。

そして同時に、以前のレミリアを知るパチュリーは、日を追う毎に笑顔が増えていく彼女を見るのが、自分の事のように嬉しく思えた。


レミリア「ねぇパチェ…私、どうしても星矢と付き合いたいのよ…何かいい案は無いの?」


パチュリー「そんな事言われても…レミィがそれを彼に伝えれば解決する、としか言えないわ」


目尻に少量の涙を溜め、懇願するように案を求めるレミリアだったが、パチュリーの中では既に告白以外の方法は無いと答えが出てしまっている為、困り果てた表情で彼女にそう告げた。


レミリア「最近は漸く、星矢との距離も縮まって来たと思っていたのに…あの夜の事を思い出しただけで、私はこんなに…」


心の奥深くに仕舞い込んでいたあの日、あの夜、あの場所での出来事。それを思い出し、レミリアは彼への愛しさと、自分の願いが叶わない事への切なさを抱き締め、頰を紅く染め息を荒くしながら右手で自分のスカートを強く掴む。


パチュリー「れ、レミィ…?」


レミリア「え…?」


親友の様子がおかしい事に逸早く気付き、首を傾げながら彼女の愛称を呼ぶパチュリー。それが耳に届いたのか、レミリアは小さな声を漏らして潤んだ瞳で彼女の事を見詰める。


レミリア「あ……な、何でもないわっ…わ、私っ…そろそろ部屋に戻るわねっ…」


パチュリー「あ、ちょっと!レミィ!?」


自分がどのような行動に出ていたのか理解したレミリアは、顔を耳まで真っ赤にすると突然椅子から立ち上がり、パチュリーの制止を振り切ってまるで逃げるように彼女の前から姿を消してしまった。


小悪魔「あれ?お嬢様はもうお帰りに?」


レミリアと入れ違いでパチュリーの元へとやって来たのは、彼女の使い魔である小悪魔だった。

小悪魔という愛称に相応しい羽を頭のこめかみと背中に生やし、赤みがかった茶色のロングヘアーを靡かせている。


パチュリー「ええ…」


小悪魔「最近は良く大図書館へ顔を出しに来ますよね。まぁ大体は星矢さんの事に関して話をするだけですけど…」


小悪魔の問いに答え、閉じていた本を再び開き読み始めるパチュリー。そんな彼女を見て、小悪魔は笑顔で最近のレミリアについて語り始める。


パチュリー『あの男…もしもこれ以上レミィを悲しませるようなら、私が魔法の実験台にしてやるわ…』


眉間に皺を寄せ、小悪魔の話を軽く流しながら、パチュリーはレミリアの心を惑わし、悲しませている元凶とも言える星矢に殺意に近い感情を抱いていた。

それは主人を敬愛する咲夜と同じであり、況してや彼女はレミリアの親友と呼べる存在なのだ。今までこの感情を抱かなかったのは、彼が以前に大図書館の掃除を完璧にこなしたからだろう。だが、その恩も最早消え去り、彼女の心に在るのはそれとは全く逆の感情であった。






レミリア「星矢❤︎…星矢っ❤︎…好きっ❤︎…んんぅ❤︎…」


幻想郷に月が昇り、その月から放たれる月明かりが部屋の窓から差し込む頃。この紅魔館の主人であるレミリア・スカーレットは、自分の枕を好意を寄せる彼に見立てて、溢れ出る想いの全てをぶつけている最中だった。


レミリア「はぁ❤︎…はぁ❤︎……切ないわ…貴方に抱き締めて貰いたいのに…キスをして貰いたいのに…それが叶わないなんて…」


息を荒くし、枕を強く抱き締める。そして、彼女はまた目尻に小さな雫を溜め始めてしまう。

今この場に、彼が居ればどれ程幸せだろう…そう感じながら、レミリアは枕に顔を埋める。


「では星矢。貴方はお風呂に入ったら朝まで休憩して下さい。朝になったら起きる事、いいですね?」


「畏まりました。後の事は頼みます…咲夜さん」


レミリア『っ!?星矢っ…』


扉の向こう側から自分の従者と彼の会話が聞こえ、レミリアは瞬時に飛び起ると、物音を立てぬよう細心の注意を払いながらゆっくりと扉に近付き、聞き耳を立てた。


「それでは、私はこれで」


「はい……ふぅ〜…」


咲夜の声が聞こえ、星矢が返事をしたかと思うと、段々と1つの足音が遠ざかり、彼の溜息であろう音が漏れる。


「今日も疲れたな…早く風呂入って寝ないと、寝過ごして叱られる事になりそうだ…」


レミリア『星矢が普通に喋ってるわ…それに、疲れたって……うー❤︎私が癒してあげたいわ❤︎』


彼の独り言を聞きながら、レミリアは体を捩らせ、彼の疲れを癒してあげたいという気持ちが芽生える。だが、今の自分と彼の関係上、それは叶わない事だと知り、レミリアは再び顔を俯かせた。


レミリア『って!落ち込んでる場合じゃないわ!星矢がお風呂に入るって事は、つまり…その…裸になるって訳で…』


想い人の裸に興味津々な彼女は、とある作戦を思い付き、それを実行に移す事を決断した。その作戦とは至って単純(シンプル)で、内容は以下の通りである。

・お風呂場まで彼に気付かれぬよう尾行し、あわよくばお宝をGETだぜ。


レミリア『星矢は警戒心が強いだろうし…尾行は困難を極める…でも、やるしかないわ!』


右手を強く握り締め、決意を固めるレミリア。そんな彼女が持つ真紅の瞳は、彼女の情熱によって更に強く、紅く燃え上がっていた。


レミリア『幸いお風呂場までの道は憶えているし、後は星矢に気付かれさえしなければ…』


音を立てぬようゆっくりドアを開け、周囲に誰も居ない事を確認したレミリアは、自分が通れる程の大きさになるまでドアを開き、部屋の外に出た。


レミリア『まるでスパイみたいね…自分の館なのに…』


自身の行動に疑問を抱きながらも、彼女は目的の為にそれらの疑問を全て捨て去り、星矢が向かったであろう紅魔館の大浴場へと歩みを進める。

そして、大浴場へと向かう彼の背中を確認すると、レミリアは息を潜めて彼の後を追った。


星矢「さて、さっさと体洗って湯船に浸かるか…」


大浴場の脱衣所らしき所に着いた星矢は、給仕品である燕尾服とウィングカラーシャツ、下着類を脱ぐと、それらをロッカーの2段目にある籠の中へ少々乱暴に放り込んだ。


レミリア『い、今この壁の向こう側では星矢が裸の状態で居るのよね…?』


一方、星矢と同じく大浴場へと辿り着いたレミリアは、大浴場の脱衣所入り口の端の方でジッと息を潜め、音や声などを頼りに星矢の様子を伺っている最中だった。


レミリア『うー…見たいわっ…でも、正直裸を見るのは気が引けるし…何より、星矢の裸を見るのは私が初めてを捧げる時に…』


どうやら彼女は、彼の裸を無断で見る事に気が引けるようで、今更ながら躊躇った様相を見せていた。しかしそれは本音ではなく、単に彼女は自分と彼が初めて愛し合う時にまで、その感動をとって置きたいと思う気持ちが勝っていただけにすぎなかった。


星矢『うーん…さっきからおぜうな気配を感じるが…気の所為だよな。レミリアが好き好んで覗きに来る訳ないし…何より覗かれたら色々とマズい…』


纏わりつくような気配を感じ、星矢はそれがレミリアから放たれているものだとピタリと当てて見せる。だが、彼は彼女がそのような行動に出るとは考えられず、尚且つ今の自分の姿を見られたらと思うと途端に顔を青くした。

その理由は、彼の体に刻まれた様々な傷痕が原因だろう。刺し傷や切り傷、火傷の痕や鋭い刃物で抉られたような痕、それらの生々しい傷痕で彼の体は覆われていた。


星矢『……いつかは、話さなきゃな…』


そう決意し、星矢は大浴場の扉を開け、ゆっくりと中へと入って行った。

しかし実は、彼のこの傷痕に覆われた体の事を、レミリアは咲夜から聞かされていた。その事を聞かされたレミリア本人はというと、特に驚いた様子は見せず、より一層彼の事を知りたくなってしまったのだ。勿論、星矢本人には伝えられていない事柄である。


レミリア『そういえば、咲夜が言っていたわね…星矢の体は生々しい傷痕で覆われていたって…まぁ、そんな事は関係ないわっ!私は星矢の全てが好きなのだからっ❤︎』


彼が大浴場の中へと入ったのと粗同時に、レミリアは咲夜から聞かされていた、星矢の体を覆う傷痕の事に関して思い出しているようだった。だが、前述の通りレミリアはその事を一切気にしてはおらず、逆に自分の愛が燃え上がっていくのを肌で感じていた。


レミリア『星矢は大浴場に入って行ったようね…よし、ここは何としてでもお宝をGETするわよ!……魔理沙っていつもこんな気分だったのかしら…』


脱衣所に彼の姿がない事を目視で確認したレミリアは、自分の知人の心境がこのようなものなのかと感じながら、脱衣所内にある籠の中から彼の衣服が放り込まれている籠を探す為、順番に籠の中を確かめていく。


レミリア『っ!!あ、あったわ!』


脱衣所の左端にあるロッカーの2段目。その籠の中に、彼女の求める物があり、レミリアは期待に胸を膨らませながら背伸びをすると、恐る恐る籠の中に手を突っ込んだ。


レミリア『こ、ここっ…これはっ…星矢の下着っ!?』


彼女の手に握られていた物は、彼が履いていた男性用の下着だった。心なしか某緑の伝説なお宝GETの際のBGMが聞こえてくる。


レミリア『な、ななっ…難易度が高過ぎるわ!べ、別の物をっ…』


顔を耳まで紅潮させ、難易度が高過ぎるという決断に至ったレミリアは、下着を籠の中へと戻し、別の物を手に取ろうと再び籠の中へと手を突っ込む。そして、彼女が次に手に入れた物は…


レミリア『星矢のシャツ❤︎これっ!これよっ!』


彼が燕尾服の下に着ていたウィングカラーシャツであった。このシャツは給仕の際、執事が着る正装であり、今や星矢も愛用する十六夜咲夜が選んだ自慢の一品である。

それを手に入れ、浮き足立つレミリアは、周りに他の者が居ない事を再度確認すると、そのシャツを鼻に押し当て、ゆっくりと匂いを嗅いだ。


レミリア「っ❤︎んぁああっ❤︎」


星矢「な、ななっ…何だぁっ!?」


彼の匂いを嗅いだ快感で盛大に声が漏れてしまい、体を洗っていた星矢の耳にまでその声が聞こえてしまった。


レミリア『す、凄いわ❤︎…妄想なんて比較にならない位っ❤︎…それに❤︎…あの時と、同じ匂い❤︎…星矢の、匂いだわ❤︎…』


腰が砕けてしまい、力無くその場に座り込んでしまうレミリア。その手には尚も彼のウィングカラーシャツが握られており、それを決して離そうとはしない。


レミリア『は、早く…部屋に戻らないと…』


残った力を全て振り絞り、レミリアはゆっくりと立ち上がると、ロッカーに掴まりながら大浴場脱衣所の出入り口を目指す。


星矢「ん〜?…気の所為か…まさか幻聴が聞こえてくるまで疲れてるとは…」


大浴場の扉を開け、脱衣所に誰も居ない事を確認した星矢は、先程の声を幻聴だと判断し、自分の疲れが原因なのだと勝手に納得し決め付けた。

斯くして、皮肉にも彼の鈍感さでその身を救ったレミリア・スカーレットは、無事に目的であるお宝をGETするに至ったのである。


レミリア「あ、危なかったわ…」


お宝をGETし自室へと帰還したレミリアは、つい先程自分の身に降り掛かった危機的状況に対して若干の冷や汗を掻いていた。そんな彼女の手には想い人のウィングカラーシャツが握られており、彼女はそれを握り締めたまま徐にベッドの方へと向かう。


レミリア「んぅ❤︎…この匂い、堪らないわ❤︎」


先程と同様シャツを鼻に押し当て、そのシャツに染み込んだ彼の匂いを堪能するレミリア。彼女の瞳は酷く潤んでおり、口の端からは僅かに透明な液体を垂らしている。


レミリア「こ、これを枕に着せて……出来たわ…」


彼女は鼻に押し当てたシャツを離すと、何を思ったのかそのシャツを自分が普段愛用している枕に着せ始めた。

そして、彼のシャツを着た枕が完成すると、レミリアはそれに勢い良く抱き着き、ベッドに寝転がる。


レミリア「ふふっ…私特製の星矢抱き枕の完成よ❤︎」


どうやら彼女は、彼の匂いが染み込んだシャツを枕に着せる事で、オリジナルの抱き枕を作成したようである。

彼女の表情は実に幸せそうで、これを星矢が見たらどう発狂するのかと思う位の表情だ。


レミリア「後は、あの子に飲まれないように超小型冷蔵庫に入れて置いた星矢の血を…」


過去にあった忌まわしい出来事の経験から、レミリアは自室に超小型冷蔵庫なる代物をベッドの下に隠し、そこに咲夜に採血させた星矢の血液を保管していたのだ。


レミリア「本当に…罪な男ね…この私をここまで惚れさせるなんて……んぅ❤︎」


小瓶の蓋を開け、鼻腔を通る彼の血の匂いが彼女の脳内を支配していく。

そしてそれを嗅ぎ終えると、レミリアは小瓶に口を付け、その中身を少量口に含み、蓋を閉めた。


レミリア『これ、凄いっ❤︎…今までで1番、気持ちいいわっ❤︎…せ、星矢っ❤︎…星矢ぁっ❤︎』


彼のシャツを着せた枕に顔を埋め、口内に含んだ彼の血を味わいながら身を捩らせるレミリア。

彼女の瞳からは涙が溢れでており、口の端からは透明の液体ではなく彼女の唾液で薄まった星矢の血液が垂れていた。


フラン『むぅ〜…星矢と遊びたいなぁ…でもお仕事忙しそうだし…無理言って嫌われたくないし…』


同時刻。レミリアの部屋がある2階の廊下では、レミリアの実の妹であるフランドール・スカーレットが口先を尖らせ、歩きながら考え事をしていた。


フラン『それに、あれ以降全然星矢の血ぃ飲んでないよ…また彼奴がどっかに隠したんだ…』


未だに姉を彼奴呼ばわりし、微かに握った拳を震わせるフラン。実は以前、彼女はレミリアが保管して置いた星矢の血液を黙って盗み飲んでしまい、こっ酷く怒られていたのだ。しかし、彼女の辞書に反省という2文字は無いらしく、彼女は性懲りもなく今日も星矢の血液探しを続けていた。


「んぁ❤︎…あっ❤︎…せ、せいやっ❤︎…激しっ❤︎…も、もっと❤︎…優しく、しなさいっ❤︎…」


フラン「?…何、この声…」


突然耳に入った甘く激しい声色に気付き、フランは歩みを止め、耳を澄ませる。


フラン『彼奴の部屋からだ…』


その声が実の姉の部屋から漏れ出ている事を掴んだフランは、物音を立てぬよう部屋のドアに耳を当て、瞼を閉じた。


「け、ケダモノっ❤︎…小さい私に欲情してっ❤︎…こんな、事をっ❤︎…するなんてっ❤︎…んんぅうっ❤︎…」


フラン『何言ってんの…?もういいや…ドア開けちゃお…』


ドアの向こう側から聞こえてくる声の意味が理解出来ず、フランは頭上に?マークを浮かべる。そして、このドアの向こう側で一体何が行われているのかを知る為、フランは姉に気付かれぬよう細心の注意を払ってドアノブに手を掛け、ゆっくりと回し、部屋の中を覗き込んだ。するとそこには…


レミリア「はぁっ❤︎…はぁっ❤︎…す、きぃ❤︎…せいやぁ❤︎…」


フラン「」


ベッドの上で枕を抱き、息を荒立てながら星矢の名前を呼ぶ実の姉の姿が在った。それを目の当たりにしたフランは、大口を開けてその場で放心してしまう。


フラン『はっ!!一瞬意識が……あれ?』


飛んでいた意識を強引に引き戻し、我に返ったフランは、レミリアが抱き締めている枕に違和感を感じる。


フラン『あーーーっ!!あれ、星矢のYシャツじゃん!私もずっと欲しかったのに!何で彼奴だけ!』


枕に着せてあるウィングカラーシャツに瞬時に気付き、それが星矢の物であると一瞬で理解したフランは、心の中で自分もそれを求めていた事を明かす。


フラン『あれれ?でも、何で私…星矢のYシャツが欲しいって思ったんだろ…?』


自分が何故彼のシャツを求めていたのか、その感情がいまいち理解出来ず、フランは口元に手を当てながら首を傾げる。だが、それは然程重要な事ではないと判断し、フランは勢いよくその場で立ち上がった。


フラン「お姉様っ!!」


レミリア「ぎゃぁぁぁあああっ!!?」


するとフランはあろう事か堂々と部屋に侵入し、姉の事を呼びながら彼女の元へと詰め寄る。

突然の妹の登場に驚き、レミリアは大きな悲鳴を上げると、慌てた様子で強引にベッドのシーツを掴むと、瞬時に自らの体に掴んだシーツを巻き付けた。


レミリア「な、何よフランっ…いきなり部屋に入って来るなんてっ…」


シーツを自らの体に巻き付け、茹で蛸のように顔を真っ赤にした状態でレミリアは、突然自分の部屋に入って来たフランに疑問を投げ掛ける。


フラン「お姉様!それ星矢のYシャツでしょ!?何でお姉様が持ってるの!?」


自分の隣に転がる枕を指差し、それが星矢の私物である事を見抜いていたフランは、姉の質問には一切答えず何故レミリアがそれを所持しているのかを問い質す。


レミリア「ぅ…こ、これは…」


妹の的確過ぎる指摘に、流石のレミリアも言葉が出ないのか歯切れの悪い声しか出てこない。

しかし、その反応も頷けるというものだ。何故なら彼女は、大浴場の脱衣所から星矢のウィングカラーシャツを無断で盗み出したのだ。当然、それを盗んだ理由を口にするなど以ての外だろう。


レミリア「べ、別に…?理由なんて無いわよ…」


フランとこれ以上目を合わせないよう視線を逸らし、咄嗟に思い付いた言葉を口にするレミリア。それは最早思い付いたというには余りにも役不足な言葉であったが、今のレミリアはそんな事にすら気付かない程、頭が回らない状態だった。


フラン「嘘だよ…だってお姉様、星矢のシャツの匂い嗅ぎながら何かしてたじゃん…それに…」


レミリアが咄嗟に思い付いた言葉をアッサリ切り捨て、彼女の嘘を難なく看破したフランは、指差す方向を少しズラして地面に転がる小瓶へと向け直した。


フラン「あれ、星矢の血が入った瓶だよね?」


その小瓶に入っている紅い液体。それが星矢の血液である事までを見抜いたフランは、体にシーツを巻き付けた姉に段々と詰め寄り、遂には彼女が寝ているベッドにまで近付いた。


レミリア「ち、違うわ…それは貴女の勘違いよ…フラン…」


フラン「ふーん…あっそ…なら…」


これ程までに多数の証拠を突き付けられ、言い逃れのしようがない状況でも、レミリアはそれらを認めようとはしない。

そんな往生際の悪い姉に軽蔑の視線を向けると共に、フランは地面に転がった彼の血液が入っていると思われる小瓶へと1歩、また1歩近付いて行く。


フラン「お姉様が口付けた後だけど、星矢の血って事には変わりないし…遠慮なくいっただっきまーすっ❤︎」


レミリア『わ、私の唯一の楽しみがっ!!』


そして小瓶の元に辿り着いたフランは、徐にその小瓶を拾い上げると、嬉しそうな表情で蓋を開け、一気に中に入った血液を自らの口内へと流し込んだ。

その光景を傍で眺める事しかできないレミリア。彼女の心の中に響く悲痛な叫びを聞く者は、誰1人として居ない。


フラン「ふにゃ〜❤︎この甘く蕩けるような味わいっ❤︎爽やかな喉越しっ❤︎これはまさしく星矢の血だねっ❤︎」


レミリア「う…うー…」


ソムリエの如き味覚を駆使し、自分の予想した通り小瓶の中に入った血液が星矢のものであるとピタリと当ててしまうフラン。これが決定打となり、レミリアも観念したのかベッドの上で両手両膝を突くようなポーズを取る。


フラン「えっ!?」


レミリア「?…な、何よ…」


自分の取った行動に驚愕の表情を浮かべ、徐々に自分との距離を空けるフランを見てレミリアは疑問抱く。


フラン「お、お姉様…何で、パンツ脱いでるの…?」


レミリア「え…?きゃああああああああっ!!!!」


妹が驚いた顔で自分を指差し、ゆっくりとその指差す方向へと視線を落としたレミリアは、自分の左足首にまでずり落ちてしまっている下着を見て、全てを悟って本日1番の大声を上げる。


咲夜「敵襲ですかっ!?…ぶふっ!!」


レミリア「いやぁっ!!見ないでぇぇっ!!」


主人の叫び声に瞬時に馳せ参じるのが優秀な従者というもの…しかし、今回はそれが裏目に出てしまい、咲夜はその光景を確と両目に焼き付けると、鼻血を吹き出しながらその場で息絶えてしまった。


フラン『うぇ…この星矢のYシャツ、お姉様の匂いが強い……後で私も、こっそり星矢のYシャツを…』


レミリアの叫び声が紅魔館に轟く中、フランは頰を微かに染め、星矢のウィングカラーシャツの匂いを嗅ぎながら、強く何かを決意する。


星矢「Lulala lilulila♪Curled up under my blanket♪Lulala lilulila♪Made out of fluffy omelette♪So many flavours to explore♪I have to eat more♪」


そして全ての元凶とも言える男岩村星矢は、浴槽で歌を歌いながら仕事の疲れを癒していた。因みに、レミリアの悲鳴には一応気付いたが、侵入者の気配が感じられなかった為、咲夜に任せる事にした。



紅魔館(大浴場脱衣所前)



フラン「来ちゃった…」


あの忌まわしき事件の翌日。その事件を起こしたレミリアの妹であるフランドール・スカーレットは、現在紅魔館の脱衣所前にスタンバっていた。

彼女は姉と同じ過ちを犯す事を承知の上でこうして脱衣所を訪れており、当然その目的も姉と似たようなものである。


フラン『ば、バレたら星矢に嫌われちゃうかな…?で、でもYシャツ欲しいし…匂い嗅ぎたいし…』


己の中の理性と必死に葛藤し、実行するか否かを考え直そうとするフラン。

彼女がこうして感情豊かになった事を、実の姉のレミリアや咲夜は星矢のお陰であると語っており、星矢自身も彼女が無邪気に笑う姿が1番可愛く、愛おしいものだと語っていた。


フラン『むむむっ…何だか最近、星矢のこと考えてると胸がきゅっとするんだよね…それに、抱き締められたりとか、ちゅーされたらって思うと…お腹の奥の方が…』


感情豊かに、表情豊かになった所為で、段々とフランは今まで感じた事もないような事を感じるようになり、破壊衝動とはまた別の抗い難い衝動に駆られるようになっていた。


フラン『星矢と出逢ってから、何か変だよ…優しくされる度に、笑ってる顔見る度に…胸の奥も、お腹の奥の方も、きゅっとなって……どうしちゃったんだろ…私…』


考えれば考える程彼女の思考は纏まらず、不安と戸惑いだけが増幅されていく。

結局、彼女は必死に悩み選んだ結末は、大浴場脱衣所にある星矢の衣服が入った籠から、彼のウィングカラーシャツを盗み出してしまうという結末だった。


フラン「ど、どうしよ…ほんとに持って来ちゃった…」


紅魔館の地下にある自室へと戻って来たフランは、自分が持って来た星矢のウィングカラーシャツを両手でしっかりと握り締めながら、僅かに後悔の念を抱いてそう言葉をこぼす。

だが、後悔をしてもそれは既に遅く、自分が彼の私物を盗んでしまったという事実は決して揺るがず変わる事はない。


フラン「ん……ふぁ❤︎…すごく、いい匂いするぅ❤︎…」


徐に彼のシャツを鼻に当て、そのまま鼻で強く息を吸う。すると、先程まで抱いていた後悔の念が簡単に消し飛んでしまう程の刺激が体全体を貫き、抗い難い甘美な衝動が彼女の脳内を支配していく。


フラン『確かこのあと…彼奴は指で…』


その行動に対しての知識も、抗う術も知らないフランは、昨晩姉がしていた事を参考に自らも同じ行動を取る。


フラン「っ❤︎ひゃっ❤︎…んぁ❤︎…んんっ❤︎…なに、これ…」


下腹部に右の手を伸ばし、そのまま指である部分に触れた瞬間、フランの脳内に電流が流れたような強い刺激が与えられた。


フラン「きもちいい❤︎…きもちいいよぉ❤︎…」


指で擦る手を止めず、シャツに押し付けていた鼻で何度も息を吸い込むフラン。

シャツに染み込んだ彼の匂いが鼻を通る度に、最初に感じた抗い難い甘美な衝動が彼女の理性を蝕んでいく。


フラン「せいやぁ❤︎…せいやぁっ❤︎…」


そんな彼女の頭の中には、確かに彼への想いがあった。

しかしこの想いが何なのかを知らず、何故自分がこのような行動に至っているのかも理解出来ないフランにとってはある種の苦痛と成り果てていた。


フラン『なにこれぇ❤︎…星矢の事考えただけで、あそこがっ❤︎…指、止まんないよぉ❤︎…』


自分の意思とは無関係で口から漏れ出る唾液で彼のシャツを濡らし、フランは自分の思うがままに自らの体の疼きを鎮めようとする。


フラン「ッ❤︎き、きちゃうっ❤︎…なんかきちゃうよっ❤︎…」


行為を続ける内に、彼女の体には異変が起こり、徐々にその波が強くなっていくのを彼女は感じていた。それでもフランは行為を止まず、恐怖心を抱きながらも擦る力を強め、速めていく。


フラン「せい、やぁっ❤︎…〜〜〜〜っ❤︎❤︎❤︎」


そしてフランは最後に、自分に向けられた彼の優しい笑顔を思い浮かべ、体を痙攣させながらその場に果てた。


フラン「はぁーっ❤︎…はぁーっ❤︎…ん、ぅ❤︎…」


頭が真っ白になる感覚と、果てた後も止まぬ痙攣に暫く身を置いたフランは、安らぎを求めるように彼のシャツに再び顔を埋め、そっと匂いを嗅ぐ。


フラン「はぁ❤︎…はぁ❤︎…壊し、たい❤︎…せいやのこと、壊したいよぉ❤︎…」


好きという気持ちや愛情表現を知らぬ彼女だからこそ至った結論。それは壊す事…この行為こそ、彼女が成せるたった1つの行為だった。


フラン「ふにゅぅ…眠い……おやすみぃ…星矢ぁ❤︎…」


するとフランは、疲れてしまったのか彼のシャツに顔を埋めたまま眠ってしまう。小さな寝息を立て、可愛らしい寝顔を晒す彼女は、何処からどう見ても普通の少女だった。

そして、彼女は直ぐに知る事となる。自分の抱くこの感情が、どのような感情なのかを…






レミリア「あっ❤︎…アッ❤︎…せ、星矢っ❤︎…き、きちゃうっ❤︎…きちゃうのっ❤︎…」


フランが自室で寝入った頃。姉のレミリアも彼女と同様、抗い難い衝動に駆られ、自分を慰めている最中であった。

左手には昨晩手に入れた彼のシャツが握られており、彼女はそれを鼻に強く押し当てている。そしてもう片方の右手は、自らの下腹部へと伸びていた。


レミリア「んっ❤︎んんぅうっ❤︎…〜〜〜〜ッ❤︎❤︎❤︎」


体を一瞬強く跳ねさせ、声を押し殺して体を痙攣させるレミリア。

その後、レミリアは息を荒くしながら何度か体をビクつかせると、力が抜けてしまったのかそのまま勢い良くベッドの上へと倒れ込んだ。


レミリア『これで、何度目かしら…星矢のシャツの匂いを嗅ぎながら、自分を慰めるのは…』


好意を寄せる彼を想いながら自分の体を慰めた回数、それをレミリアは自分自身に問い掛ける。しかし当然その答えが返ってくる事は無く、彼女は小さな雫を少量漏らし、微かに枕を濡らした。


レミリア『こんな事ばかりするなら、もっと星矢と話せばいいのに…それが出来ないなんて…私って本当に、情け無い女だわ…』


未だ恋人同士という関係には至れず、親しく会話する程度しか出来ていないレミリアは、自分を卑下するかのような思考へと陥ってしまう。


レミリア「でも私は、貴方と2人で……んんっ❤︎」


脳裏に浮かぶ彼の笑顔と、あの夜の思い出。それを思い出した途端、レミリアは無意識の内に自らの右手を再び下腹部へと伸ばし、ある部分に刺激を与えた。


レミリア「んっ❤︎…はぁ❤︎…いつか私のココに、貴方が❤︎…んんぅ〜っ❤︎…ん、やぁ❤︎…きもち、いぃ❤︎…」


溢れ出す彼への想いが止められず、レミリアはまるで今この場に星矢が居るかのような想像をし、自らを慰め始めた。強く、優しくを繰り返し、自らの指を彼のモノに喩えながらある部分に刺激を与えていく。


レミリア「せい、やっ❤︎…や、優しくっ❤︎…してっ❤︎…キスしながら、してっ❤︎…」


刺激を与える度に、彼女の脳には電流が流れるような強い感覚が走る。その悦楽に浸る姿はとても妖艶で、彼女は何度も何度も…何度も彼の名前を呼び続けた。


星矢『レミリアっ…可愛いぞっ…俺に、俺だけに見せてくれっ…その、乱れた姿をっ…』


レミリア「あっ❤︎…んぁあっ❤︎…す、きぃ❤︎…好きぃっ❤︎…星矢ぁ❤︎…」


想いを寄せる彼の幻影に体を預け、涙と唾液を垂らしながら必死に愛を乞うレミリア。

500年余りという永遠にも近い時を生きてきた彼女でも、このように辛く切ない感情を抱き、衝動に駆られるまま自らの体を慰めるという体験をした事は今まで無かった。


星矢『レミリア、俺っ…もうっ…』


レミリア「わ、私もっ❤︎…一緒にっ❤︎…貴方と一緒に、イキたいわっ❤︎…」


正常位で攻める彼の幻影。その彼の腰に自らの両足を絡め、しっかりと固定する。

今の彼女はこの行為全てが現実で起こっている事だと錯覚しており、当然目の前に居る彼も彼女は本物だと思っている。


星矢『レミリアッ…』


レミリア「んむぅっ❤︎…ん、ちゅ❤︎は、ぁ❤︎んんぅ❤︎」


既に限界が近い彼女に追い討ちを掛けるように、彼の幻影は甘く激しいキスをする。

その妄想で一気に快感が押し寄せ、体全体を軽く痙攣させながら、レミリアは口を開けて蕩けた表情を晒す。


レミリア「ぁ❤︎…だ、めっ❤︎…また、イクっ❤︎…イっちゃうっ❤︎…」


指で擦る力を強め、より激しく刺激するレミリア。

入り口から止め処なく溢れる液体に指を濡らし、水と水とがぶつかり合うような奇妙な音が彼女の部屋の中に響き渡る。


レミリア「出してっ❤︎…星矢っ❤︎…全部っ❤︎…貴方の全部っ❤︎私の中にっ❤︎ちょーだいっ❤︎…」


その音に掻き消されぬよう、レミリアは彼の幻影に懇願する。彼の全てが欲しいと願いながら、祈りながら…


レミリア「んぁああっ❤︎…ッ❤︎…〜〜〜〜〜ッ❤︎❤︎❤︎」


そして、彼女は果てた。業火に身を投じ、その炎に焼かれるかのような錯覚を体に刻み込みながら…願いと祈りに、自らの脳と心を焼きながら…


レミリア「はぁーっ❤︎…はぁーっ❤︎…んっ❤︎…」


行為を終えたレミリアは息を荒立て、痙攣を起こしている恥部に触れると、その部分を優しく撫で始める。

徐々に体の熱が引いていくのを感じ、そっとその部分から手を離すと、彼女の中指と薬指には透明の粘液が付いていた。


レミリア「……星矢…私は早く…貴方だけのモノになりたいわ…」


徐に彼が身に付けていたウィングカラーシャツを枕から脱がせ、それを抱き締めながら小さく言葉をこぼすレミリア。

その両目は憂いに満ちており、今にも泣き出してしまいそうな悲しい表情をしている。


レミリア「貴方を、私だけのモノにしたい…貴方の為なら、私はどんな事だってして見せる…それなのに、どうして貴方は…私の傍に居てくれないの…?」


抱き締める力を強め、レミリアは決壊したダムのように両方の目尻から大量の涙を流し始める。

そして遂には感情のコントロールが出来ず、彼女は声を押し殺しながら泣き出してしまった。拭っても拭っても涙は止まらず、彼女の流す涙によって彼のウィングカラーシャツは段々と濡れていった。


「レミリアお嬢様」


レミリア「っ……星、矢…?」


だがその時、彼女の部屋の向こう側から男性の声が聞こえてきた。低くも優しい声色で彼女の名前を呼び、その声が誰のモノなのかをレミリアは一瞬で理解する。

初めて自分が恋慕い、狂ってしまう程に愛してしまった男性。岩村星矢のモノであると…


レミリア「ど、どうしたの?こんな、夜遅くに…」


星矢「いえ…そろそろ私も就寝しようと思いまして…」


レミリア「……そう」


期待に胸を膨らませ、鼓動が速くなるのを感じながら、レミリアは彼に何故自分の部屋を訪れたのかを質問した。

しかし、彼の答えは彼女が望む答えではなく、レミリアは目に見えて落ち込んでしまう。


星矢「ですが就寝する前に…どうしても、お嬢様の声が聞きたくて…」


レミリア「えっ…」


彼女の部屋のドアに手を当て、星矢は勇気を振り絞り、顔を真っ赤にした状態で自らの心の内を曝け出した。

深い暗闇に包まれていたレミリアの心。星矢はそれをいとも簡単に打ち消し、月明かりのような優しい光で彼女の心を照らし出す。


星矢『思った事を素直に口に出せって、咲夜に言われたが…本当に言って良かったのか…?嫌われてないよね?キモいとか思われてないよね?』


彼女の部屋の前で右往左往を繰り返し、先程の自分の発言は言っても良かったものなのかと疑問を抱く星矢。

実は、彼がこうして彼女の部屋に訪れたのは咲夜の入れ知恵であり、自分の思った事を発言するようキツく言い付けられていたのだ。


レミリア『わ、わわっ…私の声が聞きたくってって…それって…つまり、私と2人きりで…そういう事を…』


声が聞きたいという単語1つで、レミリアはかなり深い所まで思考を巡らせ、勘違いを引き起こしてしまう。

それ程までに彼女の心は彼に染められ、彩られてしまっているのだ。


レミリア「わ、私もっ……ずっと…貴方の声が、聞きたくて…その…」


必死に声を出そうとスカートを掴み踏ん張るレミリアだが、恥ずかしさからか上手く声が出ず、彼女の紡ぐ言葉は途切れ途切れになっていた。


星矢「?」


このような途切れ途切れの小さな言葉では部屋の向こう側に居る彼には聞こえる訳も無く、当然星矢には彼女が何かを呟いている程度にしか聞こえない。しかし不思議と、彼女が自分に対して負の感情を抱いていないという事だけは感じられた。


レミリア『星矢に、愛して貰いたいわっ…毎日毎日飽きる程愛して貰って…残りの時間を、星矢と一緒に過ごしたいっ…』


心の底から溢れ出てくる彼への愛情。それを塞き止める事が出来ず、レミリアは口から小さく息を荒立てると、部屋の向こう側に居る彼の声に耳を澄ました。


星矢「お嬢様。 最近は朝早く起きられているのですから、夜更かしは程々になさいませ…お体に障ってしまいます」


レミリア『星矢の声が、頭の中に響くっ❤︎…だめっ❤︎…おかしく、なるっ❤︎…』


彼の言葉1つ1つに体が反応し、レミリアは本能的に好意を寄せる彼を強く求めてしまう。


レミリア『せい、やぁ❤︎…好きっ❤︎…好きなのっ❤︎…どうしようもない位、私は貴方をっ❤︎…愛してしまっているのっ❤︎…だからっ…』


ドアの方へ伸ばした手を引き、自制しようと必死に抗うレミリアだが、空いているもう片方の手は自らの体を慰める為の道具と成り果てていた。

愛する彼が部屋の向こう側に居る。その事実が、より一層彼女の想いを強くする。


星矢「レミリアお嬢様…私は、貴女と出逢えた事をとても嬉しく思います……そして願わくば、永遠を生きる貴女の隣に、いつまでも…」


頭が真っ白になるような奇妙な感覚に囚われながらも、星矢は言葉を紡ぐ。この木の板1枚で隔てた向こう側で、自分の想い人が自らを強く求め、体を慰めている事も知らずに…


レミリア『私も…私も貴方と出逢えて嬉しいっ…永遠に近いこの時間を、貴方と共に過ごしたいっ…』


溢れる想いは伝えられる事は無く、無残にも時の海へと放たれ、底の底に沈んでいく。

浮き上がりは沈み、沈んでは浮かんでを何度も繰り返し、まるで心中を投影するかのように彼女の心の海は次第に荒れていった。


星矢「私は貴女の幸せを、心よりお祈り申し上げます。今迄も、そしてこれからも…私のこの気持ちが変わる事は無いでしょう…」


レミリア『私も、貴方の幸せを願っているわ…そしてもし、貴方と私が愛し愛される、そんな関係になれるのなら…私はっ…』


交差する想いと想い。しかし、それが交わるのはほんの僅かな一瞬だけで、交わり続ける事は決してない。

それは互いが互いを想う気持ちが強過ぎる訳でも、況してや向けた想いが逸れているからでもない。唯、大事な1歩を踏み出す事が出来ていないだけに過ぎないのだ。


星矢「お休みの所、長々と失礼致しました。それでは、私はこれで…」


レミリア「星矢っ…」


部屋の前で一礼をし、長々と自分の想いを告げた事に謝罪の言葉を述べる星矢。するとレミリアは、自分の部屋の前を去ろうとする彼の名前を呼び、その歩みを止めようと試みた。


星矢「…何でしょうか」


主人の声を聞き、歩みを止めた星矢は、踵を返して再び彼女の部屋の前に戻ろうと右足を1歩前に出す。


レミリア「……おやすみなさい❤︎…星矢❤︎…お互い、いい夢を見ましょ❤︎…」


星矢「っ…」


すると、彼が慕う女性の甘く蕩けるような声色が耳に入り、心地の良い言葉が胸を打った。

部屋の向こう側で自分の事を想いながら体を慰めているとも知らない星矢は、何故そのような言葉を自分に掛けるのか理解出来ず、心の中で激しい動揺と混乱を生んだ。


星矢「…今夜は、こんなにも月が綺麗なんです。ですからきっと、楽しい夢が見られますよ…レミリアお嬢様…」


レミリア「っ❤︎…ええ、そうね…きっとそうだわ…」


窓の外で妖しく煌めく月を眺め、彼が最も好きな台詞を自己流にアレンジしながら、優しく言葉を紡ぐ星矢。

甘く優しい声色に再び酔い痴れ、レミリアは脳が蕩けるのを感じる。そして彼女は、彼の言葉を受け止め同意した。


星矢「それでは、おやすみなさい…レミリアお嬢様」


ドアに手を当て、まるで祈るように瞼を閉じながら就寝の挨拶を口にする星矢。彼は先程の言葉通り、心の底から彼女と彼女の妹の幸せを願っていた。

日々移ろいでいく月に願い、祈るのは縁起が悪いとも思ったが、彼はそれでも自分が好きな月に、彼女達の幸せを願い、祈っていた。


レミリア「ええ❤︎…おやすみ❤︎…」


彼の就寝の挨拶に、レミリアは今一度同じ言葉を以って挨拶を返す。

段々と遠ざかる彼の足音を聞き、寂しさを募らせるレミリアだったが、それでも確かに、彼女の心は満たされていた。


レミリア『やっぱり、私と星矢は両想いなのね❤︎そうじゃなければ、あんな言葉を掛ける筈がないもの❤︎』


彼に掛けられた言葉を思い出し、レミリアは陰部に優しく刺激を与えていく。

まるで自分の隣で囁かれているかのような現実味を帯びた強い快感に、彼女は身を委ねる。


レミリア「あ、んぅ❤︎アッ❤︎…お、犯されたいっ❤︎…貴方に、めちゃくちゃに犯されてっ❤︎…子供をっ❤︎…貴方の子供を、身籠りたいわっ❤︎…星矢っ❤︎…」


能動的に彼の子を孕みたいという欲求に駆られ、彼女の望みは今まで以上に強いものとなってしまった。

日に日に増す想いが堪え切れず、こうして体を慰める日々に嫌気が差しても尚、彼女は彼の事だけは諦め切れないのだろう。


レミリア「私の体っ❤︎…こんなにしてっ❤︎…絶対、責任を取って貰わないとっ❤︎…ん、あッ❤︎…い、イクっ❤︎…」


自らの指を星矢のモノに見立て、純潔を散らさぬよう慎重に出し入れを繰り返していたレミリアは、再び快感の波に呑まれようとしていた。


星矢『レミリアッ…出すぞッ…全部、受け止めろッ…』


レミリア「き、きてぇ❤︎…さっきみたいに、出してちょーだいっ❤︎…私を孕ませてっ❤︎…星矢っ❤︎…」


先程の出来事を受けてか、レミリアが見る彼の幻影はより色濃く鮮明な物となっており、彼女は顔を蕩けさせ、涎を垂らしながら全てを受け止めるという意思を露わにする。


レミリア「ぁ❤︎…もぅ、だめぇっ❤︎…い、くぅ❤︎…ん、ぁぁぁぁああっ❤︎…〜〜〜〜ッ❤︎❤︎❤︎…」


彼の幻影に好き放題自分の体を弄ばれながら、レミリアはこれまでで1番強い快感を受けベッドの上で盛大に果てた。


レミリア「せぃ、や❤︎…んっ❤︎…す、き❤︎…愛して、るわ❤︎…ん、ちゅぅ❤︎…」


果てた反動で何度も体を痙攣させ、意識が薄れているのか瞼が半開きの状態になっているレミリア。それでも彼女は彼の名前を呼ぶ事を止まず、未だ自分の傍を離れない彼の幻影に愛おしそうに深いキスをする。


レミリア「もう、少しで❤︎…星矢と、親密な関係に❤︎…早く、その日が来ないかしら❤︎…」


息を切らし、彼のシャツを着せた枕を抱き締めながら、レミリアは彼と2人で過ごす甘い日々を夢見る。

何度夢を見ようと、何度体を慰めようと鎮まる事のない彼への想い。それを胸に抱き、彼女は闇に包まれた部屋で真紅の両目を輝かせる。


レミリア「星矢❤︎…おやすみなさい❤︎…」


彼女は最後に一言、彼の名前を呼んで就寝の挨拶を口にし、ゆっくりと瞼を閉じる。

永遠かと思われた時間があっという間に過ぎていくのを感じ、レミリアはそれが彼との出逢いによって引き起こされた感覚なのだと信じて疑わなかった。



そして、彼女は眠る…彼と過ごす日々が、永遠である事を願いながら…



to be continued…


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