提督「あれからもう五年経つのか・・・」弐 色褪せた情愛編
決して幸せになれない道を歩もうとする暁を止める為、彼女の姿を追い求める提督(元)
方々を探し求め、やがて辿りついたのは暁と同じようにかつて共に戦い死線を潜り抜けた部下である一人の艦娘の営む小さな居酒屋。
人気の無い閉店後の薄暗い店内で、なんかそれっぽい雰囲気でそれっぽい団地妻的な爛れた恋心がああなってしまうみたいな展開が始まる。
でも直接的な描写はアレだったんで無いです。
♪わ~すれられないの~(忘れられないの~)あの人が好きよ~(あの人が好きよ~)
寂れた商店街の一角。
古ぼけたテナントの居酒屋には、人通りと治安の悪さから流行らないながらにも別嬪だと評判の淑やかな若女将がいる。
彼女は、閉店時間を過ぎて暖簾(のれん)をたたんだ店のカウンターで突っ伏している男に声を掛けた。
顔見知りと言うには余りに深く、旧知と呼ぶには余りにも忘れ難い思い出を共有している制服姿の男へ。
鳳翔「・・・提督、御体に障ります。もうそれくらいにしておかれたほうが」
提督「・・・・・・・・・・・・」
提督(俺の家を飛び出した暁を探して、あれから方々を渡り歩いた)
提督(近所の公園、暁のアパート、勤め先の児童園・・・)
提督(あの冷たい雨の降る中、公園に暁の姿はなく)
提督(自宅であるはずのアパートや勤務先の児童園にも、あれから暁は姿を見せていないようだった)
提督(もしや昔の仲間達の元へ身を寄せているのではと考え、こうして訊ねてみたが・・・)
提督(唯一まともに連絡の取れた鳳翔の元に暁は来ておらず、こうして俺は遣る瀬無い気持ちと焦燥感に駆られて飲んだくれている)
提督(・・・こうなると認めたくはないが・・・)
提督(いや、考えたくすらないが・・・暁はやはりあいつの元へいるのだろうか・・・)
頭に浮かんだ情景を打ち消そうとするかのように、男は衝動的に杯を煽った。
なみなみと注がれていた日本酒が、一息で空になる。
鳳翔「・・・提督」
提督(俺を案じてくれている鳳翔の声ですら、今は鋭く胸に刺さる)
提督(くそっ・・・俺は何をやってるんだ・・・)
提督(結局、暁は見つけられず・・・こうして五年ぶりに再会した鳳翔にも無様な姿を晒して・・・)
提督「・・・・・・すまんな、鳳翔。久々に会ったというのに、この体たらくだ」
提督「幻滅させてしまっただろうが、もう一杯だけ飲んだら出て行くよ。見逃してくれるとありがたい」
鳳翔「・・・いいえ、提督。私は見損なったり致しません」
鳳翔「ゆっくりお休みになってください。人は・・・いつも強くいられるわけではありませんから」
提督「・・・・・・すまない。ありがとう」
小さく述べられた謝罪と感謝に、若女将は微笑んだ。
店の戸の脇に仕舞った暖簾を立て掛けると、彼女は男の隣の席へと腰を落ち着けた。
鳳翔「今夜はいつまでもお付き合いさせて頂きます。さ、どうぞ提督」
提督「・・・重ね重ねすまないな。いただくよ」
若女将の笑顔に幾分か心を落ち着けた男は、御酌された酒を口元へ運ぶ。
鳳翔「ふふ・・・こうしていると、懐かしいですね。あれから、どれくらい経ったのでしょう」
提督「五年だな。大分前に手紙で鳳翔が店を構えたことは知っていたが・・・」
言葉を切り、男は照明の大部分が落とされた店内を見渡した。
薄暗いということもあるだろうが・・・決して広くはなく、どこか煤けている。
最寄の駅からここまでの荒れた道中を思い出し、男は口を噤んだ。
鳳翔「いいんですよ。お世辞にも流行っているとは言えませんから」
提督「・・・もっと早くに、それこそ手紙を受け取ってすぐに顔を出すべきだったな」
鳳翔「いいえ・・・鎮守府を解体したすぐあとは、提督も大変でしたから」
提督「・・・・・・本当に大丈夫なのか?このあたりはあまり治安も良くはなさそうだが」
鳳翔「もう、私を誰だと思ってるんですか?数多の深海棲艦を相手に大立回りしてきた歴戦の艦娘なんですよ?」
鳳翔「そんなに心配なさらないでください。もし私を襲ってくるような変態さんがいたら、あっさりと返り討ちにしてあげますから」
提督(普段は控え目な鳳翔の強気な台詞に、思わず頬が緩んだ)
提督「そう、か・・・そうだな。あの頃の戦場に比べたら、そうかもしれないな」
鳳翔「ええ、そうですよ。だから、私は大丈夫です」
提督「はは・・・あの頃も、今も・・・俺は鳳翔に励まされてばかりだな。何か恩返ししないとな」
鳳翔「ふふっ。でしたら、これからは時々こうしてお店に来てください。提督がいらっしゃってくれたら、いつでも貸切にしちゃいますから」
若女将の明るい笑顔に微笑を返し、男は杯を傾けた。
そのまま二人は、昔の思い出に浸るようにしばし沈黙した。
鳳翔「・・・暁ちゃん、心配ですね」
提督「・・・ああ」
提督「けど、俺が絶対になんとかするよ」
提督「なんとかしてみせる。俺達は・・・あの日・・・」
提督「これからの日々を幸せに生きる為に、戦いから降りたんだからな」
鳳翔「・・・・・・」
鳳翔「ええ・・・そうですね」
少し陰のある若女将の様子に、ふと男は既視感を覚えた。
そう、これはあの時・・・。
暁『あの時・・・約束を破った司令官なんかに・・・!』
暁『暁の幸せがなんなのかなんて、絶対にわかんないわよ!!』
提督「・・・・・・」
鳳翔「・・・提督、どうしたんですか?」
提督「・・・なあ、鳳翔・・・おかしな事を、聞いてしまうのかもしれないんだが」
鳳翔「?」
提督「あの時・・・あの日、俺が戦いから降りると言った時・・・なんと言うか・・・」
鳳翔「・・・・・・・」
提督「・・・鳳翔は、後悔していないか?あの時俺が選択した道に、従ったことを・・・その・・・」
鳳翔「いいえ」
鳳翔「提督は、あの苛烈な戦場から私達を生還させてくれました」
鳳翔「それだけで十分です」
提督「・・・・・・」
提督「そうか・・・」
提督「すまない、やはり変な質問をしてしまったな」
鳳翔「いいんです。お気になさらないでください」
鳳翔「・・・・・・」
鳳翔「ただ、私からも一つだけお訊ねしてもよろしいですか?」
提督「あ・・・ああ」
鳳翔「・・・・・・提督は」
鳳翔「提督は今も――――」
己が選択した答え・・・その先に待っていた現実に戸惑う男。
ひとりの女として添い遂げられずとも、生死を共にし戦い抜く決意を秘めていた女。
数奇な運命の末に生き永らえた先の一夜・・・そこで二人は何を想うのか。
ツヅク
(`・ω・´)イイネェ~!!