不知火「シーマ艦隊?志摩艦隊ではないのですか?」
20XX年、10月17日。駆逐艦「不知火」は、大破擱座した駆逐艦「早霜」救助に向かい、撃沈される。
謎のエラー娘の手により、彼女が飛ばされた地は、宇宙世紀0083年、デラーズ・フリートによる星の屑作戦が今まさに行われている世界だった。
新しい身体を得て。新しい敵を見据えて。それでもなお運命は繰り返す。
そんな事、あまりにも残酷過ぎるじゃないか…
A.D 20XX 10/17
不知火「早霜…今っ!」
早霜「不知火、来ないで…また…!」
深海艦爆「…」
早霜「不知火!」
不知火「…!?」
東の空からやってきた敵の大編隊。
忌々しい急降下の風切り音。鼓膜を突き刺す爆発音。これまで何度も何度も聴いた音たち。
艤装はバラバラに砕け、不知火の華奢な身体は猛烈な炎に包まれた。
早霜妖精「チクショウ…ナンテコトダ…チクショウ!」
早霜「不知火…何で私は…いつも…」
奇しくも彼女は、あの戦いと同じ日に、同じ場所で、「また」その命を終わらせることとなった。
再び目覚めたのは、奈落か煉獄か、はたまた天国か。そんな区別は無く、そこは無の境地だった。
不知火「…ここは何処でしょう。不知火は沈んだ筈ですが…」
見渡す限り、白い世界。遠近感が狂い、気分を悪くし頭を抑えた不知火だったが、その生理現象は、彼女の不安感を吹き飛ばすには十分な物だった。
???「久しぶりのお客さんだね。」
不知火「…誰?」
頭の中に直接語りかけているのか、声の元は掴めなかった。警戒から、無意識に後ずさりした彼女は、いつものように手元の12.7cm連装砲のトリガー型発射管制装置に手を掛けようとしたが、そこにあるべきものは、今は無かった。
???「キミはどうありたい?」
不知火「何の話…?」
いまだ声の主は分からない。だが、こちらに対し何か危害を加えてきそうな気配は感じられなかった。もっとも、不知火は既に沈んだ筈であり、死んでもなお、殺しにかかられるほど、生前に恨まれていた相手が居たような記憶は彼女の中には無かった。
不知火「それよりも、ここは何処?お前は何だ?」
???「ここは、中継地点みたいなモノさ。キミのような艦娘がやってくる。『また』繰り返してしまったキミのような艦娘がね。」
不知火はハッとした。自分がしていたこと、それは彼女が鋼鉄で出来ていた頃と何一つ変わっていなかった。あの時の様に彼女は早霜を救助するために接近し、空襲を受け、沈んだのだ。
エラー娘「それと…私は『エラー娘』と呼ばれているよ。…特に意味は無いけれどね。」
不知火「…『キミはどうありたい』とは…どういうこと?」
エラー娘「そのままさ。これから、どうしたい?キミの願いを聞きたい。なんでも良いよ。」
不知火「…不知火は…」
不知火は思い返していた。自分の居た志摩艦隊の事、救えなかった早霜の事、別れの挨拶も言えなかった提督の事。
不知火「強く・・・ありたい。」
エラー娘「そっか…そうだよね…キミも、変わらないね…」
何故か猫を吊るした、装備妖精にも似た頭身の少女の姿が脳裏に映った気がしたが、直後に襲った強烈な閃光が全てを揉み消していった。
その光景は、不知火の「最初の記憶」にとてもよく似ていた。
不知火「ハッ!?ここは何処でしょうか…」
ズキズキと頭が痛む。両手を握り、しっかりと感覚が残っていることを確認すると、大きく深呼吸をした。
不知火「何かの…操縦室の様ですね。」
不知火の身体には余る大きさの椅子に、左右から突き出た操縦桿。足元にはペダルがあり、モニタか、もしくは風防か、外界を映しているものはあったが、外は真っ暗だった。
不知火「航空機の類では無さそうですね…一体何なのでしょうか。」
外に出てみようと、椅子と身体を固定するシートベルトを外そうとしたが、片方だけ外したところで異変に気付いた。
不知火「何ですか…コレ。浮いてる?」
外したシートベルトが、海藻の様にふわふわと漂っていた。当然水中では無い筈だから、考えられる答えは絞られていった。
不知火「無重力…?」
確かめるべく、手袋を外して放り投げてみた。手袋もまた、シートベルトと同じようにふわふわ漂い、目の前を横切って行った。
直感的に操縦桿を握りペダルに足を掛けた不知火は、誰から教えられたわけでもなく、それらを操ると、彼女の搭乗する「なにか」は180度回転し、モニタには雄大な青い星の姿が映りこんだ。
「何故動かせたのか」そんなことを疑問に思う余裕も、今の彼女が置かれた状況の異常さに押し潰されていた。
不知火「不知火は…なんて所に…」
状況を整理しようとしていた彼女を、今度は突如鳴り響いた警報音が止めさせた。咄嗟にシートベルトを締めなおす。
外の景色を映すモニタとは別の、操縦桿の脇にレイアウトされたディスプレイが、幾つかの熱源が近づいていることを知らせていた。電探の前時代的なオシロスコープに見慣れていた彼女にとっては、それは軽いカルチャーショックを呼び起こす代物だった。ディスプレイを呆然と眺めていると、どうやら大型の反応に交じって、艦載機のような小型の反応のような物も確認できた。まさか、と思った。宇宙に艦隊が?けれどその状況は、彼女の中の闘争本能を反応させるには、十分すぎるものだった。ディスプレイは他にも教えてくれた。彼女の乗っているオモチャが人型のロボット、「モビルスーツ」だという事。「MS-14F」の型式を持つそれは、どうやらゲルググMと言うらしい。冗談かと思った不知火だったが、宇宙空間でさえ戦うこの世界なら、何もおかしなことは無いのだろうと割り切った。
不知火「面白い…!」
不知火は漂っていた手袋を捕まえると、もう一度嵌めなおした。それは彼女の覚悟でもあり、汚れていく手を見せたくないというささやかな願いからでもあった。
不知火「この機体、武装は何を積んでいるのでしょうか?」
反対側のディスプレイを操作し、火器管制の項目を開く。グリーンの文字で表示され、使用可能と思しき武装は手持ち式のマシンガンのようだった。MMP-80の名を冠するそれは、口径90mm、おそらくは中近距離用の武装だろうと判断したが、彼女は駆逐艦娘であり、砲撃戦は有視界下が殆どだった為、むしろ好機だった。熱センサが敵の接近を伝える。彼女は笑っていた。また戦える。まだ戦える。
敵が急速に距離を縮めているのを確認したのを最後に、不知火の見据える先は正面へと移った。機体を熱センサが敵を示す方向に反転させると、思い切りペダルを踏み込んだ。身体が座席に押し付けられ、僅かに声を漏らしたが、それでも踏み込み続けた。
不知火「見えた…落ちろ!」
視界に現れた白と赤のMSに、不知火は弾丸のの雨を浴びせた。不知火の存在に気付いていなかった敵は、成すすべも無く白亜の装甲を破孔で彩らせていった。
咄嗟に火器管制を切り替え、もう一つの使用可能な武装…110mm機関砲を選択する。システムが自動で左腕を敵MSに突き出す。銃弾を放つのは、引き金を引くのは、搭乗者の判断だ。不知火は、それが彼女の仕事であることを示すかのように、無感情に操縦桿のトリガを押し込んだ。弾丸は敵の腹に吸い込まれ、間もなく中のパイロットも事切れた。張りつめた緊張感を少しばかり開放してやりたかったが、センサはそれを許さなかった。一際大きな反応、先刻「敵艦」と判断した奴だった。が、初めての兵器で敵を撃墜した快感からわずかに気を緩めてしまっていた彼女は、反応がワンテンポ遅れてしまう。対空銃座の圏内に飛び込んでしまった不知火のゲルググMは、敵艦の手荒い歓迎を受ける。回避機動を取るも、どんどんと大きくなる敵艦の姿に、自分の甘さを痛感する。その時だった。
シーマ「フフフ…よりどりみどり!」
スラスターを吹かして、対空銃座を恐れることなく敵艦の懐に飛び込んだ紫とカーキの機体は、流れるような機動で機関砲を叩き込むと、瞬く間にブリッジに取り付き、保持していた大型のライフルを一射する。敵艦は見る見るうちに爆発に包まれ、消滅した。
不知火「綺麗…味方でしょうか…?」
呆然と見つめる視線の先には、双胴の艦に向かわんとするその機体の姿があった。
バニング「ウラキ!何をしている!」
コウ「行かせてください!止めても行きますよぉ!(慢心)」
バニング「ウラキ!上だ!」
数ある艦隊から、シーマ艦隊を、選ぶとは………
頑張ってください