大学でも俺の青春ラブコメは間違っている。
【八幡家】
おっす、おら八幡!
高校卒業して1人暮らししてるだ!
1人暮らしだから気が楽だぜ!
家でもボッチだぜ!
八幡「はぁ……」
心の中でテンションを上げてみたけど、やはり現実は悲しいものである。
家を出るなんて俺から言うと思うか?言うわけないだろ。
養ってもらう気しかなかったんだぞ。
親に追い出されてボロアパートで1人暮らしが始まった。始まってしまった。
それなりに家事は自分で出来るから良いものの、めんどくさい気持ちはどうしようもない。
小町も「少しは顔出すよ!」とは言ってはいたが、少しってどれ位少しなんだろうか。
俺が実家に帰る頻度の方が多いのではないだろうか。
だが始まってしまったものは仕方が無い。
ここで割り切れるところが、高校生と大学生の違いだ。
まぁ、明日が入学式だからまだ大学生ではないんだけどね。
プルルルルル
そんな事を思いながら、明日の入学式の用意をしていた時、俺の携帯に電話がかかってきた。
八幡「もしもし」
小町『あっ、お兄ちゃん!1人暮らしは慣れた?』
八幡「まだ大学生活も始まってないのに慣れるも何もないでしょ」
小町『ふーん。まぁ、いいや!ところで今日はご飯どうするの?』
八幡「まだ考えてない。何にしよ……」
ガチャ
小町「小町はオムライスがいい!」
その声は俺の家の扉が開くと同時に聞こえてきた。
そこには小町がニヤニヤしながら立っていた。
あぁ、家の前まで来てたんですね。
八幡「何しに来たんだ?」
理由なんてなくてもいいけどね。
小町ちゃんが来てくれるのに、理由なんていらない!
小町「小町が来るのに理由がいる?あえて言うならお兄ちゃんに会いにだよ。今の小町的にポイント高い!」
八幡「高い高い。最後の一言が無ければ、八幡的にもポイント高かったんだけどな」
ああ、1人暮らしをしてからか、小町とのこんな些細なやり取りが、懐かしく感じてしまう。
まぁ、なんだ。親が共働きだし俺も1人暮らしを始めたんだ、自然と小町も1人になるのだろう。
今まで飯を食べる時は俺と一緒だったんだから、高2になるとはいえ少し淋しいところがあるのだろう。
仕方ない、早く飯の準備でもしてやろうか。
八幡「今から作るから少し待っとけ」
小町「小町も手伝おうか?」
八幡「大丈夫だ。そこら辺に座っとけ」
小町「ソファも座椅子もないじゃん……」
そんな呆れたような顔で言われても……
仕方ないじゃないですか。
金もそんなに持ってないから、家具とか揃えれないんですよ。
僕もしかして、バイトしないとダメなのかなぁ。
そんな事を考えながら、作り終わったオムライスに、ケチャップで名前を書いてやった。
*****
小町と一緒に晩飯を食べ、食器を洗い終わってのんびりしていたら、時間は午後の8時を過ぎ、外は真っ暗になっていた。
八幡「まだ帰んなくて大丈夫なのか?」
小町「んー、どーしよ」
小町はテレビをぐでーとした体制で見ながら、素っ気ない声で答えた。
いや、答えてないなこれ。
まぁ、帰っても1人だから答えを濁したのだろう。
だが俺も明日は入学式なのだから、きっと高校も同じなのだろう。
小町も生徒会をしているのだから、手伝いなどがあるはずだ。
なら早めに帰してやるのがいいだろう。
八幡「俺も明日が入学式だから早く寝たいんだ。だから帰るぞ」
小町「はーい」
相変わらず素っ気ない態度だ。
……仕方ねぇな。
八幡「まぁ、あれだ。明日は入学式だけだから終わったら実家に帰る。小町の手料理を食わせてくれよ」
小町「……仕方ないなぁ。お兄ちゃんの入学祝いだから盛大にしてあげるよ!」
少しは機嫌も直ったのか、小町は笑顔を見せてくれた。
外も暗いし、送って行ってやるか。
八幡「ほら行くぞ」
小町「うん!」
*****
電車を乗り終え、暗い道を2人で歩いて帰っていた。
外は風が冷たかった。
小町「お兄ちゃんも明日から大学生かー。大学でもどうせ友達とか全然出来ないんだろうな」
小町の方が冷たいんだけど。
何この子?なんでそんな事行言っちゃうの?
お兄ちゃん大学生活始まる前からマイナススタートだよ。
でも小町の言うことは間違っていない。
大学なんて年中酒飲んだり騒いだりしてる奴らなのだろう。
ほら、もう仲良く出来る気しない。
普通の人とも仲良くなれないんだから、更に難易度を上げないでいただきたい。
八幡「まぁな。友達がいるからいいってもんじゃないぞ。いないならそれだけでメリットもある」
小町「例えば?」
小町は首をくてっと曲げながら聞いてきた。
八幡「まず、喧嘩することにならない。そして、意味不明なテンションに無理して合わせなくてもいい」
小町「確かに合わせたりするのは面倒だったりするかも」
小町は頷きながら聞いていた。
八幡「人に合わせるのとか超気を使うじゃねーか。ただでさえ気を使って、話しかけられないオーラ出してんだから察しろよマジで。」
小町「お兄ちゃんは気を使うところがずれてるよ……」
いやだって、高校の時のガハマさんとか見てたら、本当に大変そうだったじゃないですか。
ならいっそ1人の方が楽だろう。
そう考えていたら、小町が俺の顔を覗き込みながら話し始めた。
小町「でも1人だとデメリットもあるのです!」
小町が人差し指を突き出しながら得意気に言い出した。
今まで1人だったのだから、デメリットなんて知り尽くしている。
私はなんでも知っている。
だが小町が語りだした以上、聞かないわけにはいかないだろう。
八幡「例えば?」
小町「お兄ちゃんが大学休んだ時、ノートを移させてくれる人がいない。複数人での行動の時気を使わせてしまう」
ふむ、まぁそんな事は分かりきっていることだ。
そこで終わりだと思っていたら、小町はさらに続けた。
小町「あと目が腐ってるから不審者に見られがち!」
八幡「ちょっと小町ちゃん?ぼっちの話じゃなかったの?いや俺もぼっちだけど。最後の一言はぼっちと言うより八幡効果が入ってるよ?」
この子なんて事言うのかしら。
生徒会なんかしてるから、一色の腹黒が感染して来たのかしら?
一色に小町が感染して来たら、きっと少しはあざとさが無くなるだろうに。
こんな会話をしていたらいつの間にか実家の前まで着いていた。
妹との楽しい時間は過ぎるのが早いな!
八幡「ならまた明日な」
小町「うん。明日ねお兄ちゃん」
小町はそう言うとバイバーイと言いながら手を振って来た。
俺が歩きだして少し離れたところから振り返っても、まだ手を振っている。
明日早く行ってやるか。
*****
MAXコーヒー飲みてぇな。
小町を送り終わってからの帰宅中、ふと思った。
どうしても今MAXコーヒーを飲まなければいけない気がした。
てか、ただ飲みたいだけなんだけどね。
周りに売ってないかキョロキョロしながら帰っていた。
やべぇ、これ完全に不審者に見られるな。
あやしいものじゃありません!少し目が腐ってるだけの普通の人です!
普通の人は目は腐ってないな。うん。
そんな風に周りを見渡しながら帰っていたら、コンビニがあったので入ってみた。
そしたら知った顔が、何やらお菓子コーナーで言い争っているのを見つけた。
由比ヶ浜「絶対たけのこの里がいいって!」
雪乃「いえ、ここはきのこの山一択よ」
な、なんてくだらねぇことで言い争ってんだ……
これはあれだな。見なかったことにして早く出よう。それがいい。
俺はなるべく最短ルートで飲料コーナーのところまで足を運んだ。
たどり着いた瞬間に俺は衝撃を受けた。
八幡「MAXコーヒーがないだと…」
あまりの衝撃に俺は言葉にしていたらしい。
それが聞こえてしまったのか、此方を見る2人組。
由比ヶ浜「あれ?ヒッキー?」
由比ヶ浜は驚いたような顔をしながら言った。
雪乃「お久しぶりね」
八幡「……おう」
由比ヶ浜「卒業式ぶりだー。何してるの?」
相変わらず大きな声で元気な奴だ。
夜だから少しは声のトーン落とそうね。
八幡「小町を送って来たから、今から家に帰るとこだったんだよ」
そう説明すると由比ヶ浜は、口をぽかーと開けたままアホみたいな顔をしていた。
八幡「え?何?どした?」
由比ヶ浜「いやだって小町ちゃんを送って来て、今から家に帰るっておかしくない?兄妹なんだし一緒に住んでるはずじゃん!」
ああ、そういえば1人暮らししたこと言ってなかったな。
俺が説明しようと口を開こうとしたが先に雪ノ下がきりだした。
雪乃「察してあげなさい由比ヶ浜さん。実家から追い出されたのよきっと。家と言うのもきっと橋の下のことよ」
八幡「おい。確かに家を追い出されて橋の下みたいに汚い家に住んでるけどな……あれ?反論のしようがなくね?」
反論しようと思ったけど、正論を言われてることに気づいちゃった。
気づいちゃった気づいちゃったワーイワイ。
由比ヶ浜「へー。1人暮らし始めたんだ」
八幡「まぁな。専業主夫志望として家事は出来るんだけどな。毎日だとさすがにめんどい」
言い終わると、雪ノ下がため息をついていた。
雪乃「あなたまだ専業主夫を目指しているのね」
いや誰でも夢は持っていいじゃないですか……
持っている夢が少しおかしいのだろうけど。
八幡「それで、お前らはこんなところで何してたんだ?たけのこVSきのこでも始める気なの?」
由比ヶ浜「ヒッキー聞いてたの?盗み聞きだ、きもい!」
聞いてたというか聞こえてきたんだよ。
たぶん店員とか、話聞きながら馬鹿にしてたと思うぞ。
俺だったらするからな。
雪乃「さすが比企谷君ね。盗聴盗撮逃亡は得意だものね」
いやそんないい笑顔で言われても……
八幡「盗聴も盗撮もしてねーよ。大体最後逃げちゃってるしね。完全に盗聴も盗撮も失敗してんじゃねーか」
言い終えると雪ノ下と由比ヶ浜が顔を合わせ笑っていた。
え?俺そんなに変な事言ったか?
……変な事は言ってるな。
由比ヶ浜「なんかこんなやり取り見るのも久しぶりだ。えへへ」
雪乃「比企谷君が相変わらず捻くれているからよ」
八幡「俺のひん曲がった性格を直すなど可能性はゼロに近いぞ」
どわっはっはー。
どやっと俺には似合わないドヤ顔で言ったやった。
さて、MAXコーヒーも無かった事だしそろそろ帰るか。
八幡「んじゃ俺はそろそろ帰るわ」
由比ヶ浜「ヒ、ヒッキー!」
コンビニを出ようとしたが由比ヶ浜に止められてしまった。
八幡「どした?」
由比ヶ浜を見たら何やら、モジモジしながら何かを言いたそうにしていた。
お手洗いなら奥の方にあるぞ。
由比ヶ浜「ヒッキーも一緒にゆきのんの家行かない?」
八幡「……は?」
いきなり何を言っているのかなこの子は?
僕帰るって言ったじゃない。
アホの子すぎて日本語も分からなくなっちゃったのかな?
由比ヶ浜「その、明日入学式でしょ?だからゆきのん家でお菓子パーティーするの!よかったら来ない?」
ふむ。入学式の前だから、お菓子パーティーをするのはよく分からんな。
それに前日なら早く寝たいものだ。
雪ノ下もそういうタイプだと思うのだけどな。
雪ノ下を見てみると何とも言えない表情をしていた。
え?何その顔?何を伝えたいの?
雪乃「はぁ。由比ヶ浜さん?そういう事は家の主に確認を取るのが先じゃないかしら?」
由比ヶ浜「そうだった!いいかな?」
雪ノ下「別に構わないわ。比企谷君もそれでいいかしら?
八幡「いや、ちょっと俺は今からアレだから」
由比ヶ浜「ヒッキー今から帰るって言ってたじゃん!暇って事でしょ?」
くっ、確かにそうだ。墓穴を掘っちまったぜ。
けどこんな時間に女性2人と女性の家に行くなんて……
なんかこんな言い方したら変な感じになるな。
仕方ない。由比ヶ浜は言い出したら人の話を聞かない子なのだ。
さらに俺の意見など、誰と話しても通らないのが普通なのだ。
なら諦めるのがいいな。
八幡「わかったよ。ならさっさと行こうぜ。」
由比ヶ浜「うん。なら最後にこのたけのこの里を買って行こう!」
雪乃「きのこの山でしょ由比ヶ浜さん?」
まだそのやり取り続くんですね……
*****
【雪乃家】
結局俺が、たけのこの里もきのこの山も買って雪ノ下の家まで行った。
雪乃「どうぞ」
由比ヶ浜「お邪魔しまーす!」
八幡「お邪魔します」
久しぶりに来たが相変わらず広くて綺麗な家だ。
この家に比べるとおれん家なんて……
考えるのは止めよう。
雪乃「紅茶でいいかしら?」
由比ヶ浜「うん。ありがと!」
由比ヶ浜の返事の後に俺も無言で頷いた。
さて、お菓子パーティーと言ってもよく分からんな。
いつ帰れるのだろう。
このように、すぐ帰る事を考えるのはぼっちの習性だ。
よかった。まだ安定のぼっちだ。
由比ヶ浜「ヒッキーって文系だったよね。どこの大学行くの?」
八幡「俺はA大学だよ」
由比ヶ浜「へー。確かあそこって理系も一緒になったなかったっけ?」
八幡「おっ、よく知ってたな」
由比ヶ浜の言う通り俺の行く大学は、文系理系が同じ敷地内にあるのだ。
理系君とは仲良くできないな。
文系君とも仲良くできないな。
由比ヶ浜「って事は優美子と姫菜と同じだね」
あいつらも同じ大学なのか。
由比ヶ浜は……うん。
八幡「そうなのか。まぁ、同じだろうが別に関わることはないだろ。高校でもそうだったしな。」
由比ヶ浜「あたしも同じとこ行けてたらな……」
ちょっと由比ヶ浜さん?
俺が聞かなかったのに自分から言い出しちゃいますか。
由比ヶ浜はうぅーと悲しそうな顔していた。
自分で墓穴掘るなんて、どこのさっきの俺だよ。
八幡「まぁ、なんだ。大学なんて同じだろうが違うくらいで、三浦と海老名さんとの関係が切れるわけじゃないだろ」
そんな分かりきっているような言葉しか出てこなかった。
由比ヶ浜「……ヒッキーも?」
八幡「あ?」
由比ヶ浜「ヒッキーとも関係が切れたりしないよね?」
八幡「…………」
どうなのだろうか。俺は今までずっと卒業したら同級生に会う事なんてなかった。
そういう関係になれた人が1人もいないからだ。
だからこれまでの経験から導かれる答えはノーだ。
だが、それでも、今回だけは違うのだろう。
由比ヶ浜ただ1人だけだが、関係を切りたくないと、そう思ってくれているのだ。
そんな事を思われるのは初めてだ。
なら俺の答えは1つだろう。
八幡「当たり前だろ」
俺は素っ気なく言ったがそれでも由比ヶ浜には十分だったらしい。
えへへと笑いながらじぶんのお団子をいじっていた。
雪乃「当たり前でしょ」
振り返ると、部屋着に着替えた雪ノ下が紅茶を持って立っていた。
八幡「当たり前なのか?」
雪乃「あなたがそう言ったのでしょう。それに平塚先生の依頼もまだ解決していないのだから」
八幡「それってまさか……」
そう言うと雪ノ下は意地悪そうに微笑んだ。
平塚先生からの雪ノ下への依頼なんて1つしかないのだ。
それは俺が高校時代、奉仕部に入れられた最大の理由だ。
それが分かると俺は、無駄と分かっていながらと、諦めたように反論をする。
八幡「それってもう時効とかにならないのか?」
雪乃「あら?あなたに社会が決めたような事が通用すると思っているのかしら?」
八幡「ですよねー。」
雪乃「それにもう私たちは……」
その言葉に俺と由比ヶ浜が聞き耳をたてると、雪ノ下はそこで言葉を止めた。
雪乃「いえ。なんでもないわ」
俺と由比ヶ浜は、先の言葉が気になりながらも深くは追求はしなかった。
雪乃「ほら。紅茶冷めるわよ」
由比ヶ浜「ありがとゆきのん」
そうして由比ヶ浜は紅茶を飲み始めた。
俺は少し冷めるまで待っていると、雪ノ下はこちらを見るなり口を開く。
雪乃「ほら、あなたも」
八幡「いや、俺は……」
雪乃「猫舌なんだよ。かしら?」
八幡「……分かってんなら聞くんじゃねーよ」
口に運んだ紅茶は熱くはなかったはずなのに、俺の頬は少し赤く染まっていた。
明日から大学生活頑張るか。
とりあえずプロローグって事でここまでです。
一応長編で書いていこうと考えてます。
更新はやる気と気分とかなので不定期になりますが、読んでくれたら嬉しいです。
次回から大学生活書いていきます。
なので大学のイベントなど教えていただけたら作品に入れていこうと思います!
それでは次回もよろしくお願いします。
面白くなりそうですね!(*^。^*)
続き超気になるわ!!
楽しみにしてます!
八幡がグルーブワークをどうやり過ごすのかが見たい