提督は強いから、ひとりでも大丈夫！！

そんな理由で、俺は裏切られた。

確かに結構若い歳で俺はそれなりのポジションに立っている。けど、それは艦娘の力ありきの立場だからだ。

彼女たちが深海棲艦を倒し、海の治安と平和を護り、市民を救う象徴として存在しているのだ。その彼女たちを指揮し、兵器として扱うのが提督だ。だがここの彼女たちは、いつの日か突然その義務をかなぐり捨てて、駄々をこねまくる甘ったれた小娘に成り下がったのだ。

「提督はあたし達を可愛がってくれない」

「普通の女の子として遊びたいのに許してくれない」

「あれ欲しいこれ欲しいすぐ欲しい」

「なんでこんなにお願いしてるのに構ってくれないの？」

口を開けば上記のような言葉の繰り返しだ。お前らはなんの為に艦娘として存在しているのか？と問いただしたい。

そして数ヶ月後ーー大本営の上層部の御息女が教育実習生として俺の鎮守府に訪れ、離反が起きて冒頭に至った。

たしかに御息女様は世間知らず故にか弱くて大人しくて人形の様に愛らしい。二次創作の中の存在が現実に現れ、小娘らの意識は全てそっちに向いて、オレは飽きられて捨てられたのだ。もう呆れるしかない。いや、割り切るしかなかった。俺はまともな艦娘の引きが悪かったのだと。

そんな中でも俺を慕ってくれる艦娘は一定数はいた。武器意識の強い艦娘、俺に信頼を置いてくれる艦娘、裏切り者と反りが合わない艦娘、甘ったれた態度に腹を立てている艦娘、と様々だ。その中でもかなり異質でアクが強かった奴がいた。

「ふん。駄々捏ねて甘ったれるだけ堕ちて、あたらしいモン手に入れたらすぐに捨てるクソガキ共なんぞ、いるだけで不愉快だ」

……こいつの存在が、俺らを巻き込んでハートフルボッコ劇場を繰り広げてくれる事になろうとは。

なあ、お前って毒舌も世界水準越えていたのか？

「俺」が目を覚ました時の格好は、ゲームでも有名なあの「天龍」という軽巡だった。

まさかオレの転生先が二次元の世界だったのかと一瞬驚いたが、直ぐに受け入れられた。

俺の目の前にいた、あどけなさの残る青年がオレを必要としてくれていたから。

史実の「俺」は、時代が時代で実戦運用が絶望的で、しかも秋月型よりも小柄な旧式軽巡だったがかなりの武闘派。曰く旧式とは思えない程働いていたそうだ。その影響なのか俺は好戦的で女らしさもない口調や態度だ。ステータスも旧式相応の低さだが運用次第では戦力にだってなれた。遠征ばかりの「俺」もいたが、それはそれだ。適材適所、それだけ。

「天龍、お前を旗艦の水雷戦隊を編成する。駆逐艦は暁、霞、初霜、潮、夕雲の五隻。霞は対空装備、初霜は五連装酸素魚雷と見張り員を装備しろ。残りはC型とD型、電探を装備。いいな？」

余裕のない表情で、しかし的確で文句の付けようがない采配を振るう青年。まだお屋に甘えて遊んでるいたい年頃だろう、そんな青年でも戦力にさせなければならないとは。時代は変わらないな。

しかし天龍本来の性格も相まって、戦場に立ち獲物を振るうのが気持ちよかった。

何故俺は艦娘になったのか、なんて疑問はすぐに無くなった。今の俺の人生が楽しかったからだ。戦場へ前線へそして死の淵までーーから始まるある曲を思い出す。痛い言い方になるが、今の俺の為にある曲ではないか。

結果は完全勝利S、MVPはカットインを決めて敵期間をワンパンで沈めた初霜だ

その後無線から「艦隊、帰投せよ」と指示を受けて全員無事に帰投。執務室に出向いた俺らを出迎えてくれたのは「俺」の妹にあたる龍田と秘書官である大井。

「おかえりなさぁい。今日も派手にやったわねぇ」

「まぁ、旗艦にしてくれたからには派手にやるもんだろ」

「駆逐艦の皆もおかえりなさい、麦茶を淹れたのでどうぞ飲んで」

「ありがとうございます」

「お気遣い、感謝です」

二人が俺らを労ってくれる中、提督は素っ気ない言葉で「おかえり。戦果はどうだ？」と聞かれ、そのまま報告する。

「もう日も暮れるから昼戦はこれで終了だ。今日はもうゆっくり休め」

これまた提督は素っ気なく言い、執務に戻る。

各自解散して、俺は龍田と自室へ戻る。

「妹」……「妹」。前世の俺は一人っ子だったから、これは新鮮だった。お淑やかな佇まいで飄々としてるのも新鮮で、これはこれでいいなと受け入れた。

「ここはいい鎮守府だな。沢山戦わせてくれらぁ。龍田もそう思わねぇか？」

「え？ここ、他の鎮守府に比べて出撃がとても多いのよ？それが嬉しいの？」

「ああ。遠征だって新人の指導だって何でも構わねえ、俺を使わせてくれるんだ。その為に俺らは存る。そうだろ？」

クソッタレな采配でこき使ってねえんだ、何が悪い。そう答えると、龍田は満足そうに微笑んでくれた。ああ、やっぱり妹は可愛くて綺麗だ。

龍田の言う通り、この鎮守府は出撃回数が異様に多い。

だが、采配は相当いい。艦娘のコンディションもしっかり把握して、中破したらすぐにドッグに入れてくれる。遠征だって、効率と適正を考えて編成されている。出れば出る程強くなる瞬間がとても好きだ。俺にも改二の実装が発表されたが、レベルが80を越えていてかなり長引く事が想像出来ていた。それはかなりの好都合だ。低燃費と練度がセールスポイントだった俺は提督に直談判をして、三川艦隊の任務や水雷戦隊の任務、全ての遠征において俺をこき使ってくれと頼み込んだ。初めは面食らった顔をしていたが、頭を下げられたら…と言うことで聞き入れてくれた。

「天龍ちゃん…少しは休んだ方がいいわよ？働きすぎじゃない」

「あ？なんだ、心配してくれてるのか？俺は平気だぜ。改二になれるなら、レベリングがキツくてもどんどんやれる。お前だけに苦労させる訳にはいかねぇからな」

先に改ニになった妹の負担を少しでも減らしたいし、「天龍」としてもっと戦いたい。いつしか俺の戦う理由は半分龍田の為、半分俺の為になっていた。シスコンって訳でもねぇんだけどなあ。

ある日の出撃の途中。

やたらと姉妹が出撃する事に不満がないかとしつこく聞いては、適当な返事をすれば満足そうに笑う艦娘らがいた。

俺より先に着任した艦娘、後に着任した艦娘が殆どで練度もそれなりにあったし改二改装レベルに到達している艦娘もいた。今回の海域で最短ルートを通る編成だからという理由で、俺はこの艦娘らと一緒になった。が…

「本当に不幸だわ……姉様と過ごしていたかったのに、出撃出撃と本当に疲れる。あんたもそう思わない？」

「……はぁ」

「妹達が可哀想だよ。もっと提督と遊びたいって言ってるのに仕事で断るし、暇さえあれば出撃をに遠征にって…マジで信じられない」

「……ああ」

「オマケに特定の艦娘にはかなり贔屓してるって聞くし。どうせセクハラ目当てなんでしょ、あのクソ提督」

「…………」

はっきり言ってうるせぇ。

俺と同じ編成になっている大井と暁も、こいつらの無駄口の煩わしさに腹を立てていて、強く睨みつけている。大井に至ってはもう舌打ちもしていた。暁、爆雷を握り潰そうとするな。

「おい、ご不満があるなら出撃が終わってからにしろ。こっちは集中してるんだ、鬱陶しい。嫌なら今すぐ帰れよ」

確かに俺も不満はあると思うが、満足している事もある。聞いてて不愉快極まりない。嫌なら帰ってすぐ提督ん所行って、直接言えばいいのに。

「ったくよぉ、テメェらの姉妹はちゃんとお務め頑張ってるってのに、本人に直接言えない癖してグチグチ言って恥ずかしくねぇのか？」

これだけはハッキリ言わないと気が済まなかった。特に三人目、お前は駄目だ。あれだけ提督が過ごしやすい環境をつくってやってんのにこの態度だ。提督が何をするにもギャンギャン怒鳴って礼も言わずに噛み付く態度で罵る。こいつは頭がおかしいのか？反抗期のガキの方がまだまだマシだ。

「ウチの提督に不満があるんだったらすぐに異動届出しゃいいだろ」

そう言うと、ふん！とそっぽ向いて拗ねだした。

ほんっっとうに面倒くせぇ。

大井と暁からは「よく言った！」とアイコンタクトと満面の笑みが向けられた。

帰投した後、本日の秘書艦である金剛と大井の仕事の引き継ぎをしていた敷波が出迎えてくれた。

大井がMVPを取ったと報告すれば、「よく頑張ったな」と褒めていた。素っ気ない言い方だが、気持ちは充分伝わっていたのが大井の表情から見て伝わる。とても嬉しそうな顔をしていた。

たが、こいつらとはもう組みたくないという事はしっかり伝えた。

提督はとても働き者だ。遊びたい盛りの年頃なのに身を粉にしてお務めをしている。真面目で責任感もあって、誰かを素直に褒めることが出来る。その姿勢を見れば、親御さんの教育の良さが分かる。

ただし、それは「手伝いをしてくれる艦娘」のみにだ。

「しれぇー、遊ぼーよー！」

「てーとく、早く遊んで！早く早くー！！」

「しれぇー、しれぇー！仕事なんてやめて遊ぼ遊ぼー！！」

……チッ、うるっっっせぇ。

提督は今、高難易度海域の攻略に必要な資料の作成中だぞ。しかも大本営からの依頼であるかなり貴重なもの。集中して作らねぇといけないモンなのに、鬱陶しい。陽炎はこの妹らの躾が出来てねぇのか？……ああ、陽炎も構ってちゃんだからお察しだな。あと島風、てめぇは特にしつけぇしうるっっっせぇ。早く早くと口うるさい。ほら見ろ、提督のこめかみに血管浮き出て舌打ちしてるだろ。

「あんた達！！提督は今大事な仕事をしてるのよ！！そんなに遊んで欲しいのなら、少しは手伝いなさいよ！！島風もよ！！あんたは早く早くしつこいわよ！！早さがモットーならこのしごとを素早く終わらせる事ぐらいしなさいな！！」

「そうよ！！こっちも仕事中なんだから黙ってて！！手伝いもしない癖にうるさいわよ！！邪魔だから出ていってちょうだい！！」

悲しきことかな、この騒音駆逐艦の同僚でもある初風と天津風が怒ってもこいつらはブーたれて文句ばかり吐き出す。こいつら、本当に中身までただのうるさいガキに成り下がってねぇか？

「もー！！しれぇは仕事ばっかでつまんないです！」

「こんなのほっときゃいいじゃん！」

「なんで仕事早く終わらせられないの？ほんっとーにおっそいんだから！！」

ブッッチン

あ、いっけねぇ。切れた。俺も提督も本気で切れた。

提督が席からはずれるより先に、俺の方が早かった。

「てめぇら…さっきからガタガタ騒音鳴らしてんじゃねえよ。業務妨害で解体されてぇのか！！仕事も任務もサボる無駄飯食いのクソガキ風情が黙ってろ！！何様なんだオラ！！しつける奴もいねぇ駄々こねるだけの卑しい畜生なんざお断りだ！！出ていけ！！二度とここに来るんじゃねえ！！」

そのまま三人を捕まえて執務室から放り出して、扉を強く閉めて鍵を施錠した。外からギャーギャー喚く声がしてきたが、一発扉を蹴ると大人しくなった。

後ろを振り向けば、三人とも頬を引き攣らせていた。

「あ、どうしたんだ？」

「あの、天龍姉さん…さっき、なんて言ったの…？」

「なんか、卑しい畜生とか言わなかったかしら…」

「その、天龍……お前、あの…えっ、と…」

俺、なんか言ったっけか。

その後に春雨が持ってきてくれた野菜の春雨スープ、かなり美味かったな。今度レシピ聞いて、龍田にご馳走してぇな。

出撃を繰り返しても、俺の改二改装のレベルはとても高くてまだまだ困難の道ではあったが、ようやく80までに上がった。その頃にはもう、鎮守府は二つに分断された。

ひとつは、俺を含めた出撃組と内勤組。内勤組というのは、経理や会計や事務職を担当している艦娘の事。それは専ら大井と敷波と望月が担当をしている。

もうひとつは、それらに反する艦娘たち。悲しいことに、半数以上が後者だった。提督と遊びたい、もっと構って欲しい、恋人になってくれ、わがままを聞いてくれ、出撃は飽きた。それが理由で出撃や執務を殆どボイコットしているのだ。

そもそも、俺は俺で忙しい事が多い。錆びきった鉄の塊に用はない。

その中でも目立つケンケン喧しい五航戦の妹と口が悪い駆逐艦が俺に突っかかって来たが、レベリングで忙しいんだ、黙れ。俺はスルーして放置した。

なんでこんなに出撃が多いのかーーそれは、提督の家庭事情にあった。提督の母親はASLという難病を患って、身体が思うように動かせず、介護が必要な程大変な状態。父親は激務の支障が祟って利き手にハンデを背負う羽目になった。挙句、小学校に通う妹がいてそちらの方にも費用を捻出しなければならない。芸能関係の仕事をしたかった提督はそれを諦めて「妖精が見える人間」として海軍に入って、提督になったのだ。出撃の多さや任務の多さもそれが由来だ。

俺達が活躍すれば提督は評価が上がる、そして家族も助かるというのなら、俺らは俄然やる気が出た。

口はきついが面倒見も良くて世話焼きな霞は、提督の立場でも利用できる介護関係の手続きやまだ幼い妹の面倒を甲斐甲斐しく見てくれていた。出撃をすればする程、評価もレベルも上がるというのを知って更に張り切ったのは足柄。

北上と大井のハイパーズも、高難易度海域への出撃や期間限定海域でのフィニッシャーとしての活躍を欲しいままにして、評価を上げていった。

大型建造での入手になる艦娘、海外艦、海防艦はまだいなかった。それでもこの鎮守府の評価は大本営からのお墨付きを頂ける程にまで登り詰めた。

最新艤装のテスター、高難易度海域の攻略の参考資料の作成、横須賀や呉といった実力派古参にしか任されない仕事が舞い降りる程の信頼と実力を得ていった。

分断されたこの問題が明るみになって、表面化されたのは、とある人間が現れてからだった。

司令レベルが100を超えて元帥にまで達したその数日後、士官候補生と名乗る少女が鎮守府へ現れた。相当な良いとこのお嬢様と聞いてタカビーな我儘系かと思ったが、実際は清楚でお淑やかで礼儀もしっかりした育ちの良さが見て伝わる、正に絵に書いたようなお嬢様だった。

「これから研修期間までの間、ご指導ご鞭撻宜しくお願いします」

「こちらこそよろしく。早速だが、研修予定表を渡す。あくまで予定だから内容が変更になる事を前提として見てくれ。で、また早速だが荷物を置いて貰う。鎮守府の案内をするからな。五十鈴、頼んだぞ」

「こんにちは、私は軽巡五十鈴よ。鎮守府の案内を一通りするわ。ゲストルームまで案内したら執務室へ戻ればいいのよね？」

「ああ、頼んだ」

「ああそれと五十鈴さん、晩御飯も含めた顔合わせもあるので、ヒトハチマルマルまでには戻ってくださいね」

「あ、え…は、はい！」

俺らを一瞥して何か言いたげだったがそのまま五十鈴と共に執務室を後にした。提督でも家族でもないただの他所の女だ。そんな奴なんざすぐに忘れて俺たちはサーモン海域へ出撃した。

一週間も経たないうちにお嬢様は、鎮守府の面子と打ち解けあっていった。駆逐艦や潜水艦と遊び、巡洋艦らの趣味の手伝いをして、空母や戦艦の集まりにも参加していた。

………こいつは一体何しにここへ来たんだ？遊びたいだけならこんな前線基地みたいな鎮守府じゃなくても良かっただろ？

大井が言うには、研修を終えた後は自由時間を設けて他の艦娘との接触を許しているそうだ。但し、フタマルマルマル以降は提督と秘書艦以外の艦娘とは接触を禁止、艦娘側もお嬢様への接触は禁止されている。尚且つゲストルームから出る事も近寄る事も禁止されている。どうしてもといった事だけは端末を使って連絡すると決まっている。

成程、これは相当狙ったなと関心した。最低限の義務を果たして、そこから先は自分から学ぼうとしない世間知らずに時間は使わないということか。夜戦における駆逐艦やハイパーズの高装甲の艦娘を肉薄するその強さは直接見なければ分からないが、お嬢様はそれを願い出ることは無かった。

そんな事は俺には関係ない、俺は改ニになった敷波と共にピーコックへ出撃だ。

といった感じで、お嬢様とは顔合わせ以外なんの接点も無かった。だがあの時グチグチ文句を言ってた奴らがお嬢様の金魚のフンになって張り付いていた時、なんか知らんが優越に浸った顔で俺を見ていた。一体こいつらに何したのかまったく覚えがねえ。

しかしその一週間後、お嬢様は提督を怒らせた。

Side 大井

「なんで提督さんは、駆逐艦の子達のお誘いを断るんですか！？」

「仕事と家の事があるから無理だ」

「そうやって仕事と家庭の事情を盾にして…！少しは彼女たちへの思いやりはないんですか！？」

「部下よりも家族だろうが」

「それに、ここは出撃や遠征が多すぎます！任務分を終えてもまだ過剰に出撃してますよね！？過労死させる気ですか！？」

「任務分は提督としてやるべき最低限のラインだ。それ以降の出撃や遠征は本人たちの意思や疲労を考慮して汲んでいる。提督は軍人、艦娘も兵器で尚且つ軍人だ。備蓄をこまめに行い、練度をあげてる強化する事のなにがいけない」

「ティーパーティーにも参加してくれなかったと言ってましたよ！？」

「それよりも仕事と家の事だ」

「しごとに家庭の事情を持ち込むなんて非常識じゃないですか！それに…仕事と艦娘さん、どちらが大事なんですか！！」

チッ……鬱陶しい。他所の女が彼女面するんじゃないわよ。

夕雲さんと時雨さんも私同様、顔から苛立ちを浮かべている。彼女たちは普段は温厚で、怒りを表に出すような性格では無い。揉め事が起きたら冷静に言葉で窘めて事を収める子達が怒りを堪えた表情を浮かべ、拳を震えさせるほど堪忍袋の緒を切れさせようとするなんて余程の事だ。二人も霞さんと雷さん同様、提督の助けになる事なら何でもしてくれて、それと同時に提督の邪魔になるものをとことん嫌う子達だ。そこに天龍さんや暁さんがいれば、と思った。彼女はかなり口も気も強いが提督を思いやる子で、他の駆逐艦が遊びに誘って来ても毅然とした言葉で突き放せるほど芯があって頼もしい。しかしその二人は今、別の鎮守府への支援任務でここにはいない。鎮守府での最古参にあたる龍驤さんも別件の任務でここにいない。この直談判も、天龍さんと龍驤さんがいないのを狙って、温厚そうな私たちだけなのを見計らったのだとしたら腹立たしい。その時点で私たちを舐めきっていると捉えてもおかしくない。ああ、舌打ちしそうになった。早くこの小娘を追い出して敷波さんの膝枕でなぐさめて貰いたい…。

それはともかく、こんな支離滅裂な言葉ですべて伝わると思っているのかしら？ましてや道理というものがない。私たちは国防の為に在る兵器というのが前提の存在なのに。

ギロっと鋭い眼光で提督が小娘を睨みつける。

「黙れ！俺は仕事する為にここにいるんだ、何も知らない素人如きが邪魔するな！」

「なっ……！！」

「俺は提督だ！！国防にも関与する存在だ、戦争にも関与する存在だ！！俺のやり方が気に食わねえならここに来るな！！出された課題だけをやってろや！！」

「な、なんですって…！！」

無言で睨みあう。

提督が考案した研修を思い浮かべれば、研修自体は順調に進んでいる。入渠の手順や開発の手順、基礎の範囲内は終わらせている。残りは…戦闘指揮指導と演習指導のみ。本来はこういった前線基地での研修は、指導員である提督やその艦娘から現場を学ぶ筈なのに小娘は遊んでばかり。本来はその時間は自習の為に提督が空けておいたが、その時間をどう使おうかは彼女の勝手。

一つ頷いて提督に声を掛ける。

「提督、彼女に戦闘指揮指導をさせませんか？練度の低い駆逐艦と軽巡で編成して、1-1や1-2の出撃をさせてみませんか？」

「大井？」

「……そうですね。いい提案だと思います。今攻略中の海域は難易度も高く、元帥レベルでも難しいですし。指導するのでしたら比較的戦闘回数が少なく深海棲艦のカズが少ない1-1や1-2の方がオススメです。演習に出たい方で編成して率いらせればいいと思います」

簡素な提案をすれば夕雲さんがサクサク提案して提督に進言する。それを苛立った表情で肯定して、小娘を執務室から追い出す。

簡単そうで実は慣れないうちは大破する事の多い海域がどれだけ基礎勉強になるのかは知ったことではない。

小娘がやっといなくなったので出撃の報告をする。

苛立ちを外に出すように、ミネラルウォーターのボトルを一気に握り潰して深い深呼吸をする提督。物へ八つ当たりをする程苛立ちを覚えても、私たちや家族にぶつけないあたり理性は保っているから好ましい。