提督、貴方が欲しかったものは何ですか?
深海棲艦の断末魔の血液を全身に浴びた事により、人成らざる力を得た男『神崎洋介』
妻子の命を奪った深海棲艦に対して、孤独に戦い続ける洋介であったが、瀕死の艦娘を救った事をきっかけに、ある鎮守府の提督となる。
この物語は、深海棲艦によって全てを奪われた神崎洋介の心の成長と魂の帰着を描いたものである。
…提督、貴方が欲しかったものは何ですか?
初めての方は、初めまして♪そうでない方は、またお会いしましたね♪ぴぃすうと申します。
今回は別途で執筆中の「こちら呉鎮守府艦娘職業訓練所ですっ!!」とは雰囲気の違う作品となると思います。
例によって、読みにくい点等々あると思いますが、温かくご容赦ください。
宜しかったらコメント等々、おねがいしますねっ、ねっ(笑)
『守水輪』誕生のシーンを理由あって加筆修正しました。 R2.4.6
デビュー作に続いてPVが1000を突破しました!皆さまのご協力に感謝です!! R2.4.8
少しでも読みやすくする為に、全体のバランス等を修正しました。 R2.4.20
あっという間にPVが2000に到達しました!皆さま本当にありがとうございました!! R2.4.21
第三話の神通の治療のくだりを理由あって加筆修正しました。 R2.4.23
第三話の神通の初恋のくだりを加筆訂正しました。 R2.5.15
PVが3000を超えました!非常に嬉しい限りなのですが…この作品は果たして皆さんに少しは楽しんで貰えているのでしょうか?あまりコメントや評価を頂けないので…このまま継続するか、一から練り直すか思案中です。そんな訳で次の更新は暫くお待ち下さい…ごめんなさい。 R2.5.17
先達の皆さんの激励により、このまま執筆続行を決意しました。これからも応援よろしくお願いいたします! R2.5.22
文章と段落のバランスを修正しました。 R2.5.30
洋介が自分自身の超能力のデメリットについて語る部分を加筆訂正しました。 R2.6.9
PVが4000超えてしまいました!もう感謝感激ですっ♪これからも頑張ります!! R2.6.14
洋介のセリフ回し等を少し修正しました。 R2.7.8
PVが5000の大台に乗ってしまいました~♪皆さん本当にありがとうございました!!物語はバックボーンをしっかり書く為に、地味な展開が続いてますが、引き続き応援よろしくお願いします!! R2.7.17
洋介と千景の会話部分を微修正しました。 R2.7.19
PV6000を達成しました!!只今自宅のPCが入渠中で、あまり更新出来ていないにも関わらず…本当にありがとうございました!!これからも応援宜しくお願いしますね~♪ R2,9.2
わーお♡PV7000を超えてしまいました♪これも皆さんのおかげです♪よーし!こうなったら目指せPV10000だっ!!(笑) R2.12.10
現在進行中の第四章が長くなりすぎた為、読みやすくする意味で『第四章 血戦!熊野灘沖!!』と『第五章 新たなる希望、夕立と千景』の二つに分割しました。 R3.2.18
なんとなんと、PV8000を突破してしまいました!!変わらない応援ありがとうございます♪なるはやで更新頑張りますので、長い目で気長にお待ち頂けますと嬉しいです…はい。 R3.2.
瀬戸内海のとある海岸、近くで飲食店を営む神崎洋介は、久々の休みを妻の香織と今春から高校生になる一人娘の詩織と親子三人で海キャンプに興じていた。
今は3月であり、海岸にはサーファーもおらず、たまに地元の人が散歩で通るくらいであり、いわば洋介達の貸切状態であった。
「おーい!テントの設営出来たぞ!そっちはBBQの準備は出来たか?」
「ふふっ、準備出来てるわよ、あなた」
「わーい♪私お腹ペコペコだよ~!早く食べよ~!!」
世界は深海棲艦の出現により甚大な損害に見舞われたが、艦娘の活躍により人々は徐々に穏やかな日常を取り戻しつつあった。
もともと瀬戸内海沿岸は水深が浅い場所が多く、それでいて複雑な地形である為、これまで深海棲艦の被害は極めて少なく、現在の日本において安心して遊べる数少ない海として人々に認知されていた。
「ん~♡お肉美味しー♡」
「本当に美味しいわね♪あっ、あなたにプレゼントしてもらったスカーフ似合ってるかしら?」
「ああ♪良く似合ってるよ、香織♡こらこら、野菜も食べなきゃダメだろ、詩織♪」
高校進学を決め、輝く笑顔でBBQを満喫する愛娘、夫からのプレゼントを身に付けて頬を染める最愛の妻、そしてそれを優しく見守る夫…ささやかな家族の幸せがそこにはあった。
しかし、その幸せは突然、無慈悲に打ち砕かれた!!
ーーーヒュー!
「ん?あれは何の音だ?」
ーーーヒュー!!
更に大きくなる飛翔音。沖から砲弾が洋介達三人に向け発射されたのだ!!
「あ、あなた!」
「お父さん、怖い!怖いよぉ~!!」
「ここにいたら危ない!詩織、香織、逃げ…」
ーーードガーン!!!
砲弾は洋介達の20m前方の海面に着弾し、大爆発を起こした!爆発によって周囲の海水がまるで津波のように三人に襲いかかった!!
「う、うわっ!!香織!!詩織ー!!」
「キャアアアア!あなたー!!!」
「助けて、お父さーん!!!」
爆発によって津波と化した大量の海水は三人を一瞬で運び去り、激しく岸壁に叩きつけた…
「う…うっ…だ、大丈夫か?香織、詩織?」
全身を強く強打されながら、二人の名を呼ぶ洋介…しかし目の当たりにした凄惨な光景に洋介は絶句した!
洋介の目前には、頭からも口からも大量の血を流して息絶えている香織と詩織の死体が横たわっていた……そして香織の足元には自分がプレゼントした青いスカーフが…
「か、香織ー!!詩織ィィィ!!」
ーーーザバッ!!
半狂乱に叫ぶ洋介、その時、海岸に巨大な厄災が上陸した!深海棲艦の中でも上位種の姫級…戦艦棲姫である!!
戦艦棲姫は艤装を半分失い、体のあちこちに深手を負った状態であった。しかし愛する妻子を殺された今の洋介にはそんな姿も目には入らなかった!!
「おのれ!おのれ深海棲艦!!よくも香織と詩織を!!こんな所まで現れやがってー!!!」
洋介は咄嗟に近くに散乱していた瓦礫の中から一本の鉄パイプを握り締めて戦艦棲姫に挑みかかった!!
ーーーパキーン!!
洋介の渾身の一撃は戦艦棲姫には届かず、戦艦棲姫の顔面直前で見えない防御壁に阻まれた!!
当然である!深海棲艦には人間の武器は例えミサイルであろうと通用しない!!ましてや姫級や鬼級ともなれば、戦術核の原子核反応の熱量にも耐えると言われているのだ!!
「ククク…人間ヨ…ソノ程度ノ脆弱ナ怒リデ我々二何ガデキル?」
青白い肌に、見る者を死へ誘うかのように怪しく輝く鋭い眼光!戦艦棲姫は洋介をゴミのように見下して嘲笑った。
「何が可笑しい…嘲笑うなァ!!バケモノがぁ!!」
もう一度鉄パイプを握り締めて戦艦棲姫に挑む洋介!今度は殴り付けるのではなく、前方に鉄パイプを構えて突撃する!突きだ!!
ーーーガッシーン!!!
洋介の渾身の突きは、なんと!!戦艦棲姫の見えない防御壁を突き破り、戦艦棲姫の首に突き刺さった!!
「馬鹿野郎!人間を嘗めるんじゃねえよ!バケモノめ!!」
「オ、オノレ!人間フゼイガッ!!」
あれ程に侮っていた人間の一撃を受けてしまった戦艦棲姫は、怒りに顔を歪ませて洋介の足首を掴んで何度も砂浜に叩きつけた!
「ゲフッ!!」
何度も砂浜に叩きつけられ、放り投げられて悶絶する洋介…止めを刺すべく戦艦棲姫が迫る!!
(く、くそぅ…ここまでか、香織…詩織…俺も今逝くよ…だがっ!!)
自分の死を悟りながらも、決して目を瞑らずに迫り来る戦艦棲姫を睨み付ける洋介!!それは《俺の魂はお前に屈していない!!》という強烈な意思表示であった!!
そんな洋介の眼光に一瞬怯みつつ、砲身を洋介に向け直す戦艦棲姫!
一人の男の最後の意地と、一瞬でも人間の気迫に気圧された深海棲艦…その僅かな時間が洋介と戦艦棲姫の生死を分けた!!!
ーーーードグワッシャアァァ!!
洋介に止めを刺さんと迫る戦艦棲姫の頭が突然ザクロのようにコナゴナに砕け散ったのだ!!
戦艦棲姫の頭を粉砕したのは沖から放たれた一発の砲弾。砲弾は戦艦棲姫を貫通して岸壁まで届き炸裂した!!
コナゴナになった戦艦棲姫の血や体液や脳漿が洋介の身体全体に飛び散り、口にも入って行った。
「ペッペッ!な、なんだ?いったい何が起こったんだ?」
首から下だけの姿となり、ゆっくりと倒れる戦艦棲姫の遥か後方の海上に立つ6つの人影。
「あ、あれは?あれが艦娘…か!?グッ?」
元々、戦艦棲姫が起こした津波で瀕死の重症であった洋介、緊張が解けた事により、今まで気力で捩じ伏せていた痛みが一気に襲って来たのだ!そのまま洋介は意識を失っていった。
ーーー遡る事5分前
洋介が戦艦棲姫に渾身の突きを敢行した頃、大本営の精鋭第一艦隊は瀬戸内海に侵入し、戦艦棲姫まで残り30㎞の位置を航行していた。
大和型戦艦の大和を旗艦とし、正規空母で一航戦の赤城と加賀、重巡洋艦の妙高、軽巡洋艦の神通そして駆逐艦の吹雪で構成される第一艦隊は、正しく現在の日本の最強艦隊である。
しかし、そんな見敵必殺の第一艦隊は数時間前に八丈島沖に出現した深海棲艦と交戦した際、敵旗艦の戦艦棲姫の逃亡を許すという致命的なミスを犯していた。
戦艦棲姫が本来航行しにくい瀬戸内海に出現したのは偶然ではない。第一艦隊に追われて瀬戸内海に逃げ込んできていたのだ。
洋介達を襲ったのも理由あっての事ではなく、一種の意趣返し…八つ当たりであったのだろう。
第一艦隊は加賀が先行させた偵察機《彩雲》からの映像を加賀を通してリンクする事で、全員が浜辺の惨状を目の当たりにしていた。
「あ、ああっ…ごめんなさい!私が旗艦としてしっかりしていたら…あそこでアイツを逃がしさえしなければ…」
大粒の涙をこぼして膝から崩れ落ちる大和。他の5人の目からも止めどなく涙が溢れていた。
栄光の第一艦隊として、これまで数々の戦いを勝利してきた彼女達にとって、自分達の失態で尊い人命が失われたという事実はあり得ない屈辱であり、これまで積み上げた自信が根底から崩れ去る程の衝撃であったのだ!
そんな中、年長者の赤城が激を飛ばした!
「立ちなさい大和!あなたは次世代の艦娘達のリーダーとなるべき艦娘!!そのあなたがこんな時に奮起せずにどうしますか!!」
赤城の言葉を拾って妙高が語る。
「みんな…見なさい、あの光景を!もう亡くなっているであろう二人の女性と、戦艦棲姫と対峙している男性とはおそらく家族でしょう。」
全員無言で海岸を見つめる艦娘達…更に妙高が続ける。
「そして彼等の横で無惨に壊れているテント…多分お休みの日を家族でキャンプして楽しんでいたのでしょうね。私達の慢心と油断が…幸せだった家族を地獄に落としてしまいました!!」
語り続ける妙高、だが涙で声が詰まってしまう。そんな妙高の肩に手を置き、加賀が声を張り上げた!!
「みんな…あの光景を一生忘れてはなりません!!そして…せめてあの男性だけでも救うのです!!」
「ここは私に任せてください!」
「待ってください!私も行きます!!」
メンバーの中でも速力を誇る神通と吹雪が前に出る。しかし赤城がそれを制した!
「ここから海岸まで約30㎞あります。到底間に合いません…私達の艦載機でも同じてす!」
「そんな…」
「…………」
愕然とする神通と吹雪…そして大和。加賀が大和に向き直り毅然として声を上げた。
「大和、あなたがやるのです!!」
「でも加賀さん!戦艦棲姫とあの男性の距離が近すぎて…」
迷いを吐露する大和に加賀が続ける!
「私の《彩雲》からの情報を使って《弾着観測射撃》を行うのです!!」
「弾着観測射撃!!!」
「彼の近くで砲弾を爆発させてはなりません…九一式徹甲弾で戦艦棲姫の頭をピンポイントで撃ち抜いて一撃で沈黙させるしか方法はありません!!」
ゴクリと唾を飲み込む大和…この長距離から戦艦棲姫の頭にピンポイントで超精密射撃を行う…日本最強の戦艦と謳われた大和であっても、迷って当然の難易度であった!
「(…迷ってる時間は無い!!) はい!必ず成功させて見せます!!」
大和はすっくと立ち上がり、海岸に砲を向け照準合わせに入った!固唾を飲んで5人の仲間が見守る!!
「《彩雲》からの情報を全フィードバック!ターゲット・ロックオン!!目標、前方の戦艦棲姫の頭部!距離30,000!!」
海岸では戦艦棲姫が洋介に止めを刺すべく砲を構えて迫っていた!その時何故か戦艦棲姫は一瞬動きを止めて砲を構え直し始めた!!
「今だっ!目標誤差修正! SE,12,05…発射!!!」
ーーードッゴーーーン!!!
轟音と共に発射された九一式徹甲弾は見事に戦艦棲姫の頭部を吹き飛ばした!!!
「や、やった!!」
極度の緊張と集中から解放された大和はヘナヘナとその場に崩れた。そんな大和を温かく見守りながら赤城と加賀が神通と吹雪に指示を出した。
「さあ、二人で海岸に急行してください。」
「倒れている二人の女性の安否確認と、あの男性の保護を最優先!」
「はい!行きますよ、吹雪さん!」
「わかりました!神通さん!」
それから約30分後、海岸に到着した神通と吹雪は香織と詩織の安否確認と洋介の保護の為に行動を開始した。
「吹雪さん、そちらの男性をお願いします」
「はい!」
吹雪に洋介の保護を任せた神通は香織と詩織の元に向かった。
「クッ………ごめんなさい!…ごめんなさいっ!!」
やはり香織と詩織は戦艦棲姫が起こした津波で即死していた。神通は自分達のミスにより二人を死なせてしまった後悔で涙を流した。
その時、吹雪から声がかかった。
「神通さん!来て下さい!」
神通が駆けつけると、洋介は全身から青白い光を発した状態で気を失っていた!!
「神通さん…これは?」
「わかりません…戦艦棲姫の血や体液を浴びたのが原因かも…でもこの方は身内を殺された怒りがあったとはいえ、鉄パイプで深海棲艦に、それも姫級に一撃入れたのですからね!何か特別な能力を持った人間なのかもしれません。」
「そうですね…それにしても骨折に内臓破裂に出血多量…瀕死の重症です!一刻も早く病院に運ばないと!!」
「…香織…詩織…」
その時、意識を失い倒れた洋介はうわごとのように最愛の二人の名前を呟いた。
「…吹雪さん、待ってください」
神通は香織の詩織の遺体の前に戻ると、香織の側に落ちているスカーフと詩織の胸元に飾ってある蝶のブローチをとり、洋介の手に握らせた。
「………ツー(涙)」
洋介の閉じられた目から一筋の涙が零れ落ちた…
ーーー洋介が戦艦棲姫に襲われてから五日後
「……うん?ここは?…病院か?」
洋介が目を覚ましたのは、白い壁で覆われた無機質な部屋の中であった。
ここは洋介達親子が襲われた海岸から遠く離れた場所にある大本営直営の病院である。
洋介が戦艦棲姫の血液や体液を浴びてしまっていた為、民間の病院ではなく海軍病院に運び込まれたのだ。
「あれは夢だったのか?はっ!これは香織と詩織の…それじゃ…」
洋介の手には香織のスカーフと詩織のブローチが握られていた。それにより洋介は愛する二人がもうこの世にはいない事を悟った。
「うっ…ううっ…香織!…詩織!!…うわああぁー!!!」
涙が次から次に溢れて、スカーフとブローチの上に零れ落ちる…洋介はいつまでもいつまでも泣き続けた!!
ーーーコンコン
どれくらいの時間泣いていたのだろうか?洋介はドアがノックされる音で我に帰った。
「……はい、どうぞ」
ドアが開き、白衣を纏った精悍な表情をした医師と若い女性看護師が部屋に入って来た。
「神崎さん、目が覚めたようですね!良かった!」
「…あなた方は?」
「私はあなたの担当医師の森下と申します。横に居りますのは担当看護師の中野です。」
「中野千景(ちかげ)です。神崎さんが入院されている間の看護を担当します、宜しくお願いします」
病院に運び込まれた時の洋介は、全身至るところが骨折しており、胃や腸が破裂している状態であった。森下医師の懸命の手術によって洋介は命を取り止めていたのだ。
本来なら感謝の意を示すべきであったが…洋介の口をついて出た言葉は恨み言であった。
「どうして…どうして私を助けたんですか…香織も詩織も死んだ今…私だけ生きててなんになる…」
ガックリと項垂れながら消え入るような声で呟く洋介、森下と中野は悲しい顔で洋介を見つめるしかなかった。そして静かに森下が口を開いた。
「奥様と娘さん…お気の毒でした。確かにあなたの手術を担当したのは私です。あなたの気持ちが解るとは言いませんが…目の前の命を見過ごす事は医師である私には出来ませんでした」
顔を上げて力無い目で森下の顔を見つめる洋介、森下が続ける。
「それに…仮に私が手術しなかったとしても、あなたは助かった可能性が高いです」
「…えっ?」
「今からあなたに質問をします。あなたの名前と職業と年齢をおっしゃってください」
森下が何を言いたいのか解らなかったが、洋介は素直に返答した。
「私の名前は神崎洋介、職業は飲食店の経営をしてます。年齢は51歳です」
「51歳ですか?中野くん、例の物を…」
「はい、わかりました。神崎さんどうぞ」
森下に促された中野は洋介に手鏡を手渡した。
「??」
「…鏡の中のご自分の顔を見てください。」
「…はぁ…何ですか一体?な、なんだこりゃ!!」
鏡に写った顔は、自分が毎日見ていた51歳の顔ではなく、二十代中頃の若かりし頃の洋介の顔であった!
「こ、この姿は!?」
「見ての通り若返ってます…それだけじゃなく手術した縫合痕も数多くあった裂傷も綺麗に消えてます。たった五日のうちに…」
「…………」
「おそらく…深海棲艦の血や体液を浴びた事が原因でしょう…口とか鼻からあなたの体内にも入った可能性があります。」
「………………」
「あなたの身体に起こった変化は調べておいた方が良いと思います。あなたは若返ってしまいましたが、ずっとその姿のままなのか?超回復能力がどの程度なのか?…これからあなたが生きていく為にね」
矢継ぎ早に信じがたい現実を突き付けられた洋介は困惑し項垂れた。
「すみません…少し一人にさせてもらえますか?頭を整理させたいんです…」
「わかりました。何かあったらいつでも呼んでください。あっ中野くん、あれを」
「はい、神崎さん…これを…」
中野看護師から渡されたのは二つの位牌であった。
「神崎さんが意識を失って五日たっています。奥様と娘さんのお弔いは勝手ながら海軍で行わせていただきました。ご遺骨は神崎さんの地元…あの海岸の近くにある龍水寺というお寺に埋葬しました。」
「龍水寺?そうですか…妻と娘を葬っていただいてありがとうございました…」
「それでは失礼しますね」
森下医師と中野看護師が退室した後、洋介は二人の位牌と遺品を胸に抱いて再び涙を落とした…まだ何も考えられなかった。
洋介の病室から退室した森下医師と中野看護師…医局までの道すがら無言で歩く森下に中野が話しかける。
「先生、神崎さんは大丈夫なんでしょうか…愛する家族を目の前で惨殺されたのみならず、自分一人が助かってしまって…」
「………」
「しかもあの姿に信じられない程の回復力…大本営の軽巡 神通ちゃんによれば、意識を失った神崎さんは全身が青白く光っていたそうですし…」
「中野くん、それ以上は言うな…今の神崎さんの心は嵐の海のように荒れ狂っている!!生き地獄だろうよ…」
「…………!!」
やるせない気持ちで二人は再び無言で歩きだした。
ーーーーーーーーーー
その夜、洋介は病室で自責の念に押し潰されそうになっていた。
(俺が海になど連れ出さなければ、香織と詩織は死なずに済んだ…俺が悪いんだ!!)
(これまで深海棲艦の出現が無かった海岸とはいえ、100%安全だった訳じゃない!危機意識が足りなかったんだ!!)
(香織…幸せにしてやりたかったよ、詩織…お前の進む未来を香織と二人で見ていたかったよ…)
「……………………護ってやりたかったっ!!」
今にも崩壊しそうな洋介の心を支えたのは、愛する家族を護ってやりたかったという悲痛な想いと深海棲艦に対する憤怒の二つであった!!
その時、洋介の魂の叫びに反応するかの如く、洋介の手に握られた香織のスカーフが青白い光を帯び始めた!香織のスカーフは洋介の左腕に巻き付き、眩しい閃光を放った!
「…!!な、なんだ?この光は?」
閃光が収まった時、洋介の左腕には青色と緑色を基調とした、美しい円形の盾が装着されていた!
盾の中心には雄々しい昇龍の姿が浮かび上がっている。
「これは!この盾は一体!?」
唖然とする洋介の心の中に盾の名前が突然響いた!
「『守水輪』?この盾の名前なのか?」
生身の人間でありながら戦艦棲姫に一撃入れた人間・神崎洋介の強靭な意思力と、戦艦棲姫の遺伝子が反応した事により、洋介は若返ったと同時に幾つかの強大な能力を身に付けていた。
強靭な肉体と恐るべき回復力、更には艦娘達と同様に海上歩行する事も出来た。
そして愛する家族を護りたかった!でも護れなかった…そんな洋介の心の中の《護りたい》という意思が形を成して誕生したのが『守水輪』である。
『守水輪』は防御という面において、究極と言って差し支えない程の力を秘めた、正に深海棲艦と戦う為の盾であった。
(これが深海棲艦の血液や体液を浴びた事によって得た体質の変化と能力なのか…如何なる攻撃からも俺自身と俺が護りたいと思う対象を守護する盾…『守水輪』か…)
洋介にも全てを完璧に把握出来た訳では無かったが、『守水輪』自身が洋介に内から語りかけてくる感覚があった。
「直接話しかけてはこないけど…確かに意思を感じる!『守水輪』よ、香織のスカーフが姿を変えたのは…まさか?」
《ブウウウン!!》洋介の問い掛けに呼応するかのように『守水輪』は青緑色に強く発光する。
(ふぅ…これからどうするか?森下さんだったかな?俺の身体の変化について調べた方が良いって話だったが…『守水輪』のおかげか、自分の能力についてはある程度は理解出来たからな…ん?何だ?)
その時、洋介の耳に森下医師が何者かと話している声が聞こえてきた。
ーーーーーーーーーー
その頃、森下は医局にて大本営からの使者として派遣された男と面談していた。
「初めてお目にかかります。私は大本営で深海棲艦の研究をしております佐々木と申します。」
「これはご丁寧に、私は医師の森下と申します。」
森下は佐々木と名乗るこの男を、それとなく観察しながら挨拶を返した。
佐々木という男は長身で痩せた風貌をしており、笑顔を作ってはいるが目は笑っていない…初対面の森下ならずとも、警戒してしまうオーラを醸し出していた。
「単刀直入に言います。あの男性の身柄を直ぐに大本営に引き渡してもらいたいのです!」
「あの男性?神崎洋介さんの事ですか?」
「そうです!彼は生身の人間でありながら戦艦棲姫と単独で交戦したのみならず、戦艦棲姫に傷を負わせた!これまで艦娘でしか倒せないと言われてきた相手にね…」
「しかも戦艦棲姫の血液や体液をその身に浴びた事により、その身に更なる変化を起こしている可能性があります。彼に協力してもらえば対深海棲艦の切り札と成りうるかも知れないのです!」
「なるほど?しかし今すぐとは急な話ですね…彼は最愛の奥様と娘さんを目の前で殺されて、精神的に極めて不安定な状態なのですよ。彼の回復を待って、彼の承諾を得てからというのが道理ではありませんか?」
洋介の今の状態を説明する森下に佐々木は怒りを露にしてまくし立てた!
「それでは遅すぎる!今も世界では深海棲艦により多くの人命が危機に晒されているんだ!」
佐々木の剣幕に森下は内心驚いたが、佐々木という男が深海棲艦に対して激しい憎悪を抱いており、何かの企みがあって洋介の身柄を求めているのではない事を理解した。
「佐々木さんのおっしゃる事は解ります。私とて深海棲艦に対する憎しみは同じです。しかし医師として今の神崎さんを引き渡す事は出来ません!」
「なんだと!?」
更に激昂して森下に掴み掛からんとする佐々木を森下は冷静に制した。
「落ち着きなさい!そもそも佐々木さんは大本営から来たという事ですが…元帥閣下の命令で来た訳ではないですよね?」
「な、なに?」
元帥の名を出されて困惑する佐々木、森下は続けた。
「元帥閣下がそんな強引で非情な命令を出されるとは思えない!あの方は他人の為に涙を流せる優しい方だ!!」
大本営直営の病院に勤務する森下は、そもそもは鎮守府提督の候補生であり、元帥とも面識があった。妖精の視認が出来ず、最終的に提督になれなかった為に医療の分野で大本営を支える道を選んだのだ。
「た、確かにこれは私の独断だ!しかし!」
「彼に一度会って話してみる事です…今の彼を無理やり連行しても反感を買うだけですよ。」
ーーーーーーーーーー
そんな森下と佐々木のやり取りを洋介は病室にいながらにして聞いていた。
(森下さんと佐々木という男…おそらくは医局で話しているはずだ…この異常な聴力も俺の能力か…)
(二人とも深海棲艦に憎しみを持つ…オレと同じ側の人間だというのは解ったが…誰にも干渉されたくない!俺は俺一人の力で深海棲艦と戦う!香織と詩織の仇は俺が取るんだ!!)
ーーーーーーーーーー
それから数時間の後、森下と中野と佐々木は洋介の病室を訪れていた。
「佐々木さん…今日のところは顔見せくらいで留めてくださいよ」
「わかりました。さっきはつい興奮してしまって申し訳ありません。」
「解って貰えて何よりです。それじゃ中野くん」
「はい、解りました。」
ーーーコンコン
病室のドアをノックする中野だが中から返事はない。
「あれ?眠っちゃってるんですかね?」
ーーーコンコン
中野はもう一度ドアをノックするが、やはり返事はない!
その時三人は病室の中からビューっと風の音がするのを聞いた!
「?神崎さん!!」
中野が急いでドアを開けて、三人が病室に飛び込んだ時には洋介の姿はなく、窓が開け放たれてレースのカーテンが強風に煽られてバタバタと揺れていた。
「神崎さん…」
中野は病室の中を見渡した。するとベッドの横にある台の上に、洋介と一緒に運び込まれた洋介のセカンドバッグが置かれており、セカンドバッグの下に便箋に書かれた森下宛の手紙があるのを発見した。
「先生!これは先生へのお手紙みたいですね」
中野は便箋を森下に手渡した。森下は便箋を受け取ると静かに手紙を読み上げた。
“拝啓、森下先生
この度は、私の妻と娘の弔いをしていただき、ありがとうございました。
しかし、私の命を救って下さった事に対してお礼は言えません。
何故なら、お礼というのは幸せをもたらしてくれた事に対して使うものだと思うからです。
私の身体に起こった変化については、あの後ちょっとした出来事があり、概ね把握しました。
今のところ解っているのは、高い回復力と強靭な肉体、そして艦娘と同様に海上歩行する能力…そして異常聴覚ですね。
佐々木さんと言われましたか?先ほどの先生と佐々木さんとのやり取りも、私はこの病室から聞いていました。
佐々木さんには申し訳ないですが、私は自分一人で深海棲艦と戦いたい!妻と娘の仇は自分一人で取りたいのです!!
黙ってこの場を去る無礼をお許し下さい。
敬具
追伸。病院代と妻と娘の葬式代につきましては、セカンドバッグの中に通帳と印鑑が入っておりますので、軍の権限で現金を引き出して支払いに当てて下さい。
神崎洋介“
「何が病院代と葬式代だよ…そもそも悲劇の原因は大本営第一艦隊が戦艦棲姫を討ち洩らした事にあるというのに…こちらが費用負担するのが当然だし、賠償金を請求されても文句は言えないってのに!!」
佐々木は悲痛な表情でそう言うとガックリ肩を落とした。
猛威を振るう深海棲艦勢に対抗する手段として洋介を研究すると、半ば暴走気味になっていた佐々木であったが、短い手紙から伝わる洋介の人柄に触れて冷静さを取り戻していた。彼も決して悪人などではない。
「神崎さん…まだ夜は寒いのに…病み上がりなのに…」
すすり泣く中野、そして森下は開け放たれた窓から外を見ながら呟いた…
「神崎さん…」
森下の呟きも中野のすすり泣きも、時ならぬ強風にかき消されていった…
ーーーーーーーーーー
それから数日後、病院から姿を消した洋介は、香織と詩織が葬られた龍水寺にいた。
朝一番にお墓に来て、二人の墓の前で手を合わせて静かに冥福を祈る…そして夕方になったら自宅へ戻る。そんな日々を数日間続けていた。
「洋介、今日も香織さんと詩織ちゃんのお参りか、毎日ご苦労だな。」
声をかけてきたのは龍水寺の住職の「小川」である。小川は洋介の同級生であり、今年になって父親から住職を受け継いだばかりであった。
看護師の中野から香織と詩織を龍水寺に葬ったと聞かされた時、友人が住職を務める寺に妻子が葬られたと知り、洋介は不思議な縁を感じたものだった。
「小川か…この暇人め!」
「暇人は余計だろ!それにしても…香織さんと詩織ちゃんはお気の毒だったが…お前これからどうするんだ?お店も閉めちまってさ…せっかく流行ってたのによ…」
「この顔じゃお馴染みのお客様に会えんよ…いちいち説明するのもなんだしな?」
洋介の顔は戦艦棲姫の血液の影響で若返っており、何事も無かったように商売を継続するのは困難であった。
「まあ俺も若返った洋介の顔を見た時は驚いたがな…」
「もともと香織が、俺とお店をしたいって言い出して開いた店だからな…俺一人になって続けたいとも思わんよ」
本来の洋介は朗らかで優しく、こんな態度をとる男では無かった。香織と詩織を失った悲しみから立ち直っていないのだ。
ぶっきらぼうな態度から滲む洋介の無念さが痛々しかった。
「洋介…俺はお前みたいな目に遭った事はない…お前の気持ちが解るなんて軽々しく言えんが…時間かかってもいいから前を向けよ!亡くなった二人も悲しむぞ…」
「…ああ、解ってるよ、ありがとな小川」
立ち上がり小川に背を向ける洋介。その時、洋介の足元に何か小さな人形のような生き物が現れた。
「洋介帰るのか…ん?お前の足元になんかいるぞ?」
「え?ああ、最近見えるようになったんだが、どうやら『妖精さん』と言うらしい…お前にも見えるんだな、生臭坊主のくせに(笑)」
「誰が生臭坊主だ!ふん、憎まれ口がきけるなら心配は要らねえな!(笑)」
「あはは♪怒るな!それじゃまたな!」
「おう!気をつけて帰れよ!」
そんな二人の様子を『妖精さん』はイタズラな笑顔で見ていた。
ーーーーーーーーーー
洋介は龍水寺からの帰り道、あの海岸に来ていた。
(ここであの深海棲艦に香織と詩織は殺された!それまで幸せだった俺の人生はここで終わってしまった…)
(ここ数日で店や私財の整理も済んだし、後は深海棲艦を根絶やしにする為に行動を起こすだけだ!しかし…)
(闇雲に海に出ても無駄だな…何とか奴等の行動を知る術が欲しいが…はっ!!)
ーーーキイーン!!
その時、洋介の優れた聴覚が艦載機の飛行音をとらえた!!
洋介「奴等だ!!」
急いで戦闘態勢をとる洋介!程なくして敵機が視界に入った。球形の浮遊要塞のような機体や三角の禍々しい機体が急速に接近し洋介を捕捉する!!
洋介『守水輪!!』
洋介が叫ぶと左腕に瞬時に『守水輪』が装着された。『守水輪』が閃光を発すると、洋介の前面に盾と同じ形状の光の幕が出現する!
次の瞬間、敵機から機銃や爆雷による攻撃が洋介に向かって一斉に放たれた!!
洋介「護れ!『守水輪!!』」
《キュイイイイーン!!》敵機の攻撃に反応して光の幕が高速で移動し洋介を護る!
光の幕に触れた爆雷も機銃の弾丸も、弾かれるのではなく触れた瞬間に全て消滅してしまった!!
洋介「こ、これが『守水輪』の力か…」
想像以上の『守水輪』の防御力に驚く洋介。そんな洋介の眼前の海上に強いオーラを纏った深海棲艦が現れた!!
「フッ!戦艦棲姫ガ死ンダ海域カラ我ラト同質ノ気配ヲ感ジテ来テミレバ…人間トワ」
「お前は誰だ?」
「私ハ空母棲姫…人間ヨ、オマエノ身体カラ戦艦棲姫ノ存在ヲ感ジル…マサカ戦艦棲姫ガ人間ゴトキニ敗レルトワナ!!」
「そうか…奴は戦艦棲姫というのか!最終的に倒したのは俺じゃないがな…空母棲姫よ!ここで死んでもらうぞ!!貴様ら深海棲艦は俺が全員討ち滅ぼす!!妻と娘の仇をとってやる!!」
「ヤッテミルガイイ…ヒノ…カタマリトナッテ…シズンデシマエ……!」
「行くぞ!空母棲姫!!」
空母棲姫の挑発を受け、洋介は砂浜を蹴って大きく跳躍し、海面に着地した!!
この瞬間、初めて洋介は深海棲艦と戦うバトルフィールドである海に降り立ったのだ!!
「ククッ…」
薄気味悪い微笑みを浮かべた空母棲姫が手を振ると、上空に待機していた艦載機が一斉に洋介に攻撃を開始した!!
「させるかぁーーーー!!」
上空から降り注ぐ爆雷と機銃掃射を『守水輪』が完璧に防ぎ、艦爆からの魚雷は洋介の速力をもってすり抜ける!!
「ナンダト?艦娘ヲハルカニ凌グ速力ダト?」
驚愕する空母棲姫、洋介との距離はあっという間に詰まり、ついに洋介は空母棲姫の懐に侵入した!!
「喰らえーーーい!!!」
ーーーバッキャーン!!!
洋介の渾身の右拳が空母棲姫の顔面に炸裂した!!
「グハァーーー!!」
後方に吹っ飛ばされ、海に叩きつけられる空母棲姫…しかし顔面にアザができた程度で深刻なダメージは受けていない!!
「フフフ…人間ニシテハ中々ノ攻撃ダガ…効カンナ!」
「おのれっ!!」
海面を蹴って跳躍からの飛び蹴りを繰り出す洋介…しかし有効なダメージを与えられない!!
確かに洋介は戦艦棲姫の血液で強靭な肉体とパワーを手にいれた。しかしそれはまだ発展途上であり、姫級や鬼級を生身で葬れる程のレベルでは無かった!!
「く、くそぅ…」
『守水輪』により完璧な防御力は得たが、深海棲艦を倒す攻撃力が足りない!!洋介の心を焦りが支配していく…その時であった!!
「洋介ーー!!」
陸を見ると小川が海岸に立って洋介を呼んでいる。小川は騒ぎを聞き付けて龍水寺から海岸に出て来てしまったのだ!
「ば、馬鹿野郎!小川下がれーーー!!」
必死に叫ぶ洋介!それを見た空母棲姫が非情な笑みを浮かべた!!
「ハッ?お、小川逃げろぉーーーー!!」
空母棲姫は艦載機の一部を小川に向かわせた!!
「う、うわあああーー!!」
悲鳴をあげる小川!洋介は絶叫する!!
「護るっ!!もう二度と俺の前で誰も死なせはせんっ!!『守水輪』よ小川を護れぇ!!!」
洋介の声に反応して『守水輪』の光の幕は瞬時に小川の元へ移動して小川に向けられた艦載機の攻撃を全て防ぎ切った!!
しかし次の瞬間!!無防備になった洋介の全身に空母棲姫の艦載機からの機銃掃射が降りかかった!!
「ゲフッ!グハァーーーー!!!」
全身を穴だらけにされ、おびただしい血を流しながら洋介は海中に沈んでいった…
「よ…洋介ーーーーーー!!!」
悲痛な叫びをあげる小川…これが『守水輪』の唯一の欠点であった!同時に二ヶ所を防御する事までは出来なかったのだ…
「中々、楽シマセテクレタガ…コンナモノカ」
空母棲姫は洋介の沈んだ場所を見ながら静かに呟くと、小川に向き直った!
「オマエモ、コノ男ノ元ヘ逝カセテヤロウ…」
「うわっ!た、助けてくれーー!!」
ーーーーーーーーーー
その頃、海中に沈んだ洋介は死んではいなかった!
あれだけ蜂の巣にされた全身の傷から、機銃の弾が筋肉の力で体外に押し出され、更に海中にいながら出血も完全に止まっていた!!
これが洋介の得た超回復能力であった!!やがて洋介は水中で意識を取り戻した!
(くっ…『守水輪』が二ヶ所の同時防御が出来ない弱点を突かれたな…それにしても、今の俺には奴を倒す決定力が無い!!)
(どうすればいい?早くしないと小川が危ない!くそっ!力が欲しい!!)
その時!洋介の胸ポケットの中から詩織の形見の蝶のブローチが飛び出し、紅く輝き始めた!!
(これは?詩織のブローチが紅く光っている!!うおっ!!)
輝くブローチは洋介の右手に移動し、激しい閃光を発した!閃光の後には、洋介の右手に黒色と赤色を基調とした長刀が握られていた!!
黒い刀身に赤い柄…柄の先には金色の龍がデザインされている。
(これは…はっ?また聞こえる!…『龍水剣』だと?)
そう、これが防御の『守水輪』に対して、如何なる物も切り裂く神剣『龍水剣』の誕生であった!!
『龍水剣』は洋介の意思で様々な姿に形を変えて敵を討つ最強剣である。同時に蝶のブローチから誕生した故か、洋介に高度な飛行能力を与えた!!
(これならいける!!待ってろ、小川!!)
ーーーーーーーーーー
海岸では空母棲姫が小川を追い詰めていた!艦載機を使えば簡単に終わるものを…なぶり殺しにするつもりだ!!
「ククク…モウ後ガ無イゾ…大人シク死ヌガイイ…」
「うわあああーー!!!」
空母棲姫の非情な一撃が小川に向かって振り下ろされた!だが、その一撃は光の幕に弾かれた!!
「??…洋介?」
「バカナ!術者ガ死ンダノニ何故光ノ幕ガ消エナイ?マサカ!?」
海中に没したはずの洋介の能力が残っている事に動揺する空母棲姫。
「馬鹿野郎!俺が生きてるからに決まってんだろうが!!」
空母棲姫の背後の海上に颯爽と現れた洋介は、不敵な笑みを浮かべて毅然と言い放った!!
右手には『龍水剣』が眩しく輝いている!!
「洋介!生きてやがったか!コノヤロウ!!」
「おう!待たせたな小川!下がってな…一気に終わらせるからよ!!」
洋介と小川の会話に苛立ちを隠さずに空母棲姫が割り込んだ!
「キサマハ死ンダハズダ!何故イキテル?シカモソノ剣ハナンダ?」
「これから死んでいくお前には関係無いと思うがな…」
「オノレッ!!モウ一度穴ダラケニシテクレルワ!!!」
再び艦載機で洋介に攻撃しようとする空母棲姫だが、洋介の行動の方が速かった!!
「行けッ!『龍水剣』よ!!」
洋介が『龍水剣』を頭上に掲げると剣はブーメラン状に形状を変化させた!!
「フンッ!!」
ブーメランと化した『龍水剣』は紅い閃光を放ちながら空母棲姫の艦載機を次々に撃ち落とし洋介の手に戻った。
その間僅か数秒…50機はいた艦載機は全て破壊され、残るは空母棲姫のみとなった!
「クソ!死ナバモロトモーー!!」
最後の特攻を仕掛ける空母棲姫!洋介は正面から受けて立った!!
剣の形状に戻した『龍水剣』を前面に構えて突進する…あの戦艦棲姫を傷つけた技…突きだ!!
ーーードオオオーーン!!!
洋介の一撃は空母棲姫の心臓を寸分の狂いもなく貫いた!!!
「マ…サカ…私マデガ人間ニ敗レルノカ…」
絶望の表情を浮かべながら空母棲姫は黒い粒子となって消滅した!
「ふぅ…終わったな…小川、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ!洋介ありがとな!!お前こそ大丈夫かよ?」
「俺は大丈夫だ!残念ながら…もう普通の身体じゃ無いみたいだしな(笑)」
「……確かに身体は随分と規格外になっちまったみたいだが…洋介は洋介だろう?」
「ありがとな!小川、帰ろうぜ!陽も落ちたし一杯付き合えよ!呑まんと今日は寝れそうもないからな♪」
「おう!」
その夜、洋介は小川と遅くまで酒を酌み交わした。
かけ離れていく自分を、昔と変わらずに接してくれる小川の心が洋介には嬉しかった。
ーーーーーーーーーー
翌日、洋介は朝早くから香織と詩織の墓に手を合わせていた。
「よう、おはよう洋介!今日もご苦労だな!!」
洋介の後ろから声をかけてきたのは小川である。
昨日、空母棲姫によって殺されかけていながら、いつもと変わらない態度で洋介に接する小川…それはこの男の優しさであり強さでもある。
「おう!おはよう小川、…昨日は済まなかったな…」
「別に洋介が悪いんじゃなかろうよ」
「……小川、暫く此処には来れなくなるから…香織と詩織の墓守り頼むな」
「深海棲艦と戦うのか?」
「ああ、香織と詩織の為にも奴等を滅ぼす!!俺達みたいな被害者を出さない為にもな!!」
「そうか…だが死ぬんじゃねえぞ!香織さんと詩織さんの為にもな!」
「解ってるよ!…おっ♪今日も来たのか『妖精さん』」
洋介の足元には、今日は三人の『妖精さん』が元気にはしゃぎ回っていた。
「ふふっ♪ほら飴ちゃん持ってきたから皆でお食べ」
洋介から飴ちゃんを貰った『妖精さん』達はニコニコ笑って可愛い頭をペコリと下げた。
そんな『妖精さん』を見ながら洋介は立ち上がった。
「じゃ、またな!小川」
「おう!またな洋介!」
小川に背を向けてゆっくり歩き出す洋介。それを見送る小川の肩に優しく手が置かれた。
「?なんだ、父さんか…」
小川の横に立ったのは前住職、つまり小川の父親である。
「洋介君…旅立ったようじゃな」
「ああ、でもあいつ一人で大丈夫かな?無理してるのが痛いほど伝わってくるよ…」
「ふふ…彼なら心配要らんよ…大丈夫じゃ…愛されておるし、護られてもおるよ」
「え?何に護られてるって?」
質問してくる息子に、父親はやれやれといった顔をして答えた。
「あの洋介君の姿に何も見えてないとは…お前もまだまだだな…なっ『妖精さん』(笑)」
「ちょ!だから何なんだよ?教えてくれって!!父さん!!」
「フフフ…」
小川の父親と『妖精さん』には、去り行く洋介の左側に香織が…右側に詩織が…しっかりと腕を絡めて笑顔で寄り添う姿がはっきりと見えていた。
ーーー洋介と空母棲姫との激闘から一年後
ズバッ! ズシャッ! ドシュッ!!
夜の海に一振り、また一振りと剣が振り下ろされる度に、深海棲艦が一体づつ黒い粒子をまるで血液のように噴き出しながら黒い水面に没していく…
洋介は現在、小笠原諸島沖120kmの海域にて、戦艦ル級、戦艦タ級、空母ヲ級、重巡リ級二体、潜水カ級の計六体からなる深海棲艦の艦隊と交戦していた。
この一年あまりの間に、洋介の超能力は完全に近い成長を遂げていた!
以前に空母棲姫と戦った時には『龍水剣』の力が無ければ、深海棲艦に致命の一撃を加える事は叶わなかったが、現在では姫級であっても生身で互角以上に戦える実力を身に付けていた!
『守水輪』と『龍水剣』の扱いも熟達し、今夜の戦いも残るは戦艦ル級と潜水カ級を残すのみである。
ーーードオーーン!!
戦艦ル級から砲撃された!だが洋介は顔色一つ変える事もなく、迫り来る砲弾を見据える!
すると超スピードで迫る砲弾がまるでスローモーションのように見えるのだ!
『守水輪』を使うまでもなく、楽々と寸分で砲弾をかわす洋介、その間隙を縫って発射された潜水カ級の魚雷も問題ではなかった。
魚雷をかわすと洋介は自ら潜水し、『守水輪』を発動させた。
「ゆくぞ!『守水輪』水中機動!!」
『守水輪』から出現した光の幕はスクリュー状に変形し、洋介の足元に移動して回転を始め、洋介に水中での高速移動能力を与えた!
ーーーズパッ!
高速で潜水カ級に接近して『龍水剣』の一撃を叩き込む!その勢いで海上に浮上した洋介は最後の一体、戦艦ル級に『龍水剣』を投げつける!!
ーーーキィィィィ…ヴゥン!!
投擲された『龍水剣』はブーメラン形態の『斬光輪』に変形し、戦艦ル級の首を一瞬で切り落とした!!
戦いが始まって僅かに10分で決着はついた。今の洋介は深海棲艦にとっては地獄の使者以外の何者でもなかった。
(ふぅ…今日の戦いも勝利は出来たが…奴等の本拠地が解らないと無駄な戦いが続くだけだな…)
(今の俺は半径300km以内なら深海棲艦が活動すれば感知出来るが…空母棲姫を最後に姫級とは出会っていないし…もどかしいな…うん?)
その時、洋介はこの場所から南東100kmの位置に深海棲艦の気配を感知した。
(フン!ここから100kmか…行き掛けの駄賃だな)
「よし、『龍水剣』空中機動!!」
『龍水剣』の力で宙に舞い上がった洋介は、深海棲艦が感知された海域に急行した!そこでは洋介に思わぬ出会いが待っていた。
ーーーーーーーーーー
洋介が感知した場所、すなわち東京湾から南南東に約1,300km沖の海域では、大本営所属の練習巡洋艦 鹿島を旗艦とし、朝潮型駆逐艦の朝潮、大潮、霰、霞、そして護衛役の軽巡洋艦 神通の計六隻から成る艦隊が深海棲艦と交戦状態にあった。
鹿島が旗艦である事から解る通り、この艦隊は正規の艦隊ではない。新しく着任した朝潮型の四人を鍛える目的の練習艦隊であった。
艦娘達は実地訓練を兼ねた長距離輸送任務の帰りであり、神通以外は輸送用の装備であったのも災いし、一方的に攻め立てる深海棲艦に対して防衛戦を余儀なくされていた。
敵である深海棲艦は空母ヲ級二体に戦艦ル級、重巡リ級、軽巡ト級、駆逐リ級で構成された艦隊であった。
既に夜は明け、艦載機を発艦させた空母ヲ級により制空権を奪われて、神通達は絶体絶命の危機に陥っていた。
夜戦時において朝潮を庇った鹿島は、戦艦ル級の砲撃を受けて大破失神しており、更には朝潮達四人には実戦経験がほとんど無く、目前に迫る死に対する恐怖で動く事もままならない有り様であり、神通が孤軍奮闘していた。
神通はかの大本営第一艦隊の一角であり、かつては華の二水戦旗艦を務めた猛者である。
そんな彼女は、五人を護りながらの戦いでは勝ち目は無いと即座に判断し、四人の駆逐艦に非情な命令を下した…
「朝潮!大潮!霰!霞!あなた達は鹿島を連れて直ちにこの海域を離脱しなさい!」
「………!!」
驚愕する四人。四人は神通が一人で犠牲になる覚悟であると悟った。
朝潮型の長女である朝潮が、恐怖で震える自らの脚を殴り付けて立ち上がり叫んだ!
「い、嫌です!!私達も神通さんと一緒に…」
ーーードオン!!
朝潮が言い終わる前に、神通の主砲が朝潮達の前面の海に撃ち込まれた!!
「ヒッ!」
たじろぐ四人に神通は主砲を向けたまま静かに語って聞かせた。
「このままこの場で交戦していたら、確実に艦隊全員が沈む事になります…あなた達はまだ若い、何としても生き抜きなさい。」
「神通さん!!」
「神通教官!!」
「………教官」
「神通さん…!」
四人の目からは大粒の涙が零れていた…
「皆さん、これまで厳しい訓練に良く着いてきましたね。これが私からの最後の矜持です!今日の無念を決して忘れずに…強くなりなさい!!」
「は、はいっ!!」
四人は直ちに離脱準備を始めた。意識の無い鹿島を朝潮と大潮が両脇から支え、霰と霞が鹿島の背中に手を置いて一丸となる!
それに気づいた空母ヲ級の艦載機が急速に接近してきた!!
だが神通は少しも慌てる事もなく、振り向き様に全砲門を上空に向けて対空防衛射撃を敢行!同時に全ての酸素魚雷を敵艦隊に向けて扇形に発射した!!
ーーードガガガガーー!!
艦載機は隊列を乱され、乾坤一擲の魚雷は軽巡ト級と駆逐リ級を見事に撃破した!!
「さあ!今です!!」
「…すみません…神通さん!!」
朝潮達は神通が作ったチャンスを生かして、全速力で海域を離脱した。神通は離脱中の五人と深海棲艦との中央に立ち、鬼の形相で睨み付けると敢然と言い放った!!
「私は元第二水雷戦隊旗艦、川内型軽巡洋艦二番艦 神通!!深海棲艦ども、この世に別れを告げた者からかかってきなさい!!!」
「ヲ…ヲヲ!」
聞き取れない言葉を発した空母ヲ級が手を振るうと、無数の艦載機が神通に向かって飛来した!!
神通は弾の切れた主砲と魚雷発射菅を投げ捨てると腰に携えた刀を抜き放ち、空母ヲ級に突撃した!!
一瞬、たじろいたかに見えた空母ヲ級であったが、直ちに神通との距離をとり、艦載機による攻撃を再開した!
神通の艤装は容赦ない艦載機の攻撃を受けて黒煙をあげ、身体にも何発も機銃が撃ち込まれた…
「あぐっ…!ま、まだです!」
既に艤装は正常に機動しておらず、頼みの速力も失われていた…
そんな神通に戦艦ル級の主砲と重巡リ級の魚雷が止めとばかりに放たれた!!
「ここまでですか…みんな…無事に逃げるのですよ…」
神通は死を覚悟して、迫る砲弾と魚雷を静かに見つめた。
ーーーパシイィィ!!
神通に向かって放たれた攻撃は、突如出現した光の幕によって完全に無効化された!
「えっ?」
驚いた神通が周りを見渡すと、神通の上空に洋介が浮遊していた!!
「あ、あなたは?」
「艦娘よ……どうやら間に合ったみたいだな。神通と言ったな…?お前の覚悟…確かに見せてもらった!後は俺に任せろ!!」
洋介は静かに神通の前面に降り立つと深海棲艦を睨み付けた!!
「あの顔…どこかで?」
神通は目の前の若い男が、あの戦艦棲姫と戦った洋介とは気づかなかった!
「『守水輪』よ!神通を引き続き守護せよ!絶対に死なせてはならん!!『龍水剣』展開!!」
洋介は『龍水剣』を構えて全速で深海棲艦に突撃した!
「なっ!?は、速いっ!!」
艦娘の中でも一、二を争う速力を誇る神通が驚愕する速さで敵に肉薄した洋介は、そのまますれ違い様に重巡リ級と戦艦ル級を一刀両断!!
さらに間髪入れずに『斬光輪』を空母ヲ級の一体に放った!!
ーーーキィィィィ…シュバッ!!
『斬光輪』は空母ヲ級を真っ二つに両断するも止まらず、そのまま上空の艦載機を全てを殲滅した!
そして最後に残った空母ヲ級に対して、洋介は『龍水剣』を前面に構えて突進した!!
「あっ!!あの構え…あの突きは!!」
あの戦艦棲姫との戦いの後、洋介がここぞという場面で多用する突きの型を見て、神通は目の前の男があの洋介だと理解した!
「うおおおおーー!!」
ーーーズシュッ!!
洋介の突きは、空母ヲ級の眉間を貫き、戦いを終わらせた。
「神通、大丈夫か?」
神通に向かって語りかける洋介。神通は静かに口を開いた。
「あなただったのですね…」
「…??」
神通にとっては二度目の邂逅、しかし当時意識を失っていた洋介には神通の言葉の意味が解らなかった。
「…あの時、私達は…グッ?」
あの日の事を話しかけて、神通は海上に倒れた。何発もの機銃を受けて瀕死の重症である。
「おい!しっかりしろ!」
洋介は神通を抱き起こすと、改めて神通の傷を確認した。
「不味い…出血が多いな…よしっ!」
洋介は自分の下唇を噛み切ると、血が滲む唇を神通の唇に重ねた。
「これで神通の出血は止まる。傷もじきに塞がるだろう…」
これは洋介の超能力の一つ、洋介の血を受けた者は一時的に洋介に近い体質と回復力を得る事が出来るのだ!
(応急措置はしておいたが…ここではこれ以上の手当ては出来ないし、俺の家に連れて帰るか…)
洋介は神通を抱き抱えると、日本へ向かって飛び立った。
ーーーーーーーーーー
二時間後、洋介と神通は山奥にある洋介の家に到着した。
この家は神崎一家が元々住んでいた家ではなく、深海棲艦と戦い続ける洋介が、人目を避けて生活する為に自分で作った山小屋である。
『龍水剣』の飛翔能力により、洋介は苦もなく行き来が出来るが、その他の者が近づくのは極めて困難な、正に隠れ家であった。
洋介は神通を部屋に入れると、念動力(サイコキネシス)で神通の身体を水平に浮かせた。神通は身体の至るところに被弾しており、ベッドに寝かせると負担が大きいと判断したのだ。
本来、艦娘は損傷した場合には、入渠といって風呂に似たドックで、特別な液体の中に浸かって傷を癒すのだ。偶然ではあるが洋介の判断は正しかったと言える。
洋介はまず激しく損傷した神通の艤装の取り外しにかかった。
だが、艤装は神通の身体にぴったり密着して全く外れなかった。艤装からはまだ黒煙が上がっており、爆発の恐れもあるから早くしなくてはならないのだが…
(うーん、『龍水剣』で切り裂けば簡単なんだが…破壊してはいけない気がするし、困ったな…)
その時、途方にくれる洋介の足元に『妖精さん』が現れて、洋介のズボンを引っ張った。
この『妖精さん』は、洋介が前に住んでいた家や龍水寺、そしてこの隠れ家にもひょっこり顔を出すものだから、洋介も慣れてしまっていた。
「なあ『妖精さん』神通の治療するのにコレを外したいんだけど…どうしよう?」
ダメ元で『妖精さん』に声をかける洋介。すると『妖精さん』はにっこり笑って神通の位置まで浮かび上がった。
「任せるですよ~♪」
「なっ?『妖精さん』喋れたのか?」
これまで洋介は『妖精さん』と会話した事はなかったので驚いた。
「えーいっ!」
驚く洋介に構わず『妖精さん』が持っている杖を一振りすると、神通の艤装は自然に外れて、背中の動力部分を中心に小さくまとまった。
「このままでは危ないので修理してあげる」
『妖精さん』は壊れた艤装を不思議な力で浮かせると、艤装の上に乗り、そのまま部屋の外に出ていってしまった。
暫くあっけに取られる洋介であったが、これでやっと神通の治療が出来る。
「ありがとね、『妖精さん』今度飴ちゃん買ってくるよ!」
洋介は改めて神通に向き直り、破れた衣服を丁寧に脱がせていく。胸や尻にも被弾しているので下着も脱がせて全裸にする必要があった。
神通の身体には無数の弾痕が刻まれており、痛々しかったが、美しさは全く損なわれてはいなかった。無駄な脂肪など一切ない身体…それでいて胸や尻には柔らかな膨らみが女性を主張していた。
(なんと綺麗な身体だろう…っといかん!いかん!)
洋介は気を取り直して傷口を観察した。すると弾痕の中から弾が盛り上がって出てきている。
(しめた!これなら弾を摘出して消毒すれば大丈夫だ!)
洋介はサイコキネシスを傷口一つ一つに集中させて、慎重に弾丸を摘出していった。
神通の身体には、なんと全部で三十発の弾丸が撃ち込まれていた!普通の人間ならショックで即死していただろう…洋介は神通の生命力に驚きを禁じ得なかった。
(よし、これでもう大丈夫だ!それにしても心臓や頭部に被弾してなかったのは偶然ではあるまい…これが歴戦の艦娘か。さぁ仕上げだ!)
洋介は神通の傷口を消毒すると、ガーゼと包帯を使って患部を丁寧に保護した。そして再び自分の下唇を噛み切り、神通に僅かな血を分け与えた。
その後、クローゼットから詩織の下着とパジャマを取り出して、神通に着せてベッドに休ませた頃には陽が落ちてすっかり夜になっていた。
(ふぅ…これで終わったな…ん?)
洋介が部屋の隅を見ると、神通の艤装が完璧に直った状態で置かれており、破れてボロボロになっていた衣服も新品同様に修繕されていた。そして衣服の上で『妖精さん』がすやすやと寝息をたてていた。
「ありがとう、『妖精さん』お疲れさま…」
洋介は香織のお気に入りだったハンカチを取り出して『妖精さん』にかけてあげると、自分もその場で眠りについた。
ーーーーーーーーーー
「う…うん?」
神通が目を覚ましたのは、洋介が手当てしてから二日後の朝であった。
(私はあれから一体?ここは何処なんでしょうか…あれっ?)
神通は空母ヲ級の艦載機に何発も機銃で撃たれていながら、身体に全く痛みを感じない事に違和感を感じて、咄嗟に自分の身体を確認した。
(あっ!このガーゼと包帯は!そうか、きっとあの人が助けてくれたのですね…)
神通は恐る恐る、自分の左腕の包帯を外してガーゼの下の傷口を確認してみた。するとそこにあるはずの傷が無かった。
(えっ?傷が無い?入渠もしていないのに?)
神通は驚いてベッドから立ち上がると、パジャマを脱いで包帯を全部取ってみた。神通の身体の傷は全て完全に治癒しており、傷痕一つ残ってはいなかった。
(これは…そういえば、このパジャマ誰のなんでしょう?下着も私のじゃないですし!?しかも私の艤装は何処に…?)
普段は冷静な神通であったが、今回は流石に状況を整理出来ずに混乱してしまっていた。
ーーーコンコン
その時、部屋のドアがノックされた。
「目が覚めたんだね?入っても大丈夫かな?」
「えっ?ち、ちょっと待って下さぁーい!!」
神通は脱いでいたパジャマを慌てて着直すと、ドアに向き直った。
「はい、どうぞ!」
「それじゃ失礼するよ」
神通の声を待って、洋介は静かに部屋に入った。手にはトレーを持っており、簡単な朝食が乗せられていた。
「おっ!だいぶ顔色も良くなったみたいだね♪これならもう大丈夫だな!」
優しく笑う洋介の顔を見て、神通は不思議な感覚に囚われた。この人は奥さんと娘さんを殺されたというのに…どうしてこんな優しい笑顔が出来るのだろう?
「はい、あの時は助けていただいてありがとうございました。私は大本営所属の艦娘で神通と申します。」
「神通さんか、この前の戦いの時に深海棲艦に向けて名乗っていたから知ってはいたけど、綺麗な名前だね♪俺は神崎洋介だよ」
「あ、ありがとうございます」
綺麗だと言われて、思わず赤面する神通であったが、まず一番に、あの日の惨劇について、どうしても謝罪がしたかった。
「あの…神崎さん、私はあなたにお話しなくてはならない事があります!それは…」
神通の様子にただならぬ気配を感じた洋介であったが、洋介は静かに神通の会話を制した。
「おっと、話は後にしよう。君は病み上がりだし、丸二日以上も何も食べていないんだからね!」
「で、でも」
「でもじゃないの!はい、これ食べてね♪トーストにスクランブルエッグにサラダにスープ…まっ簡単なものだけどね!」
「あ、ありがとうございます!」
「ゆっくり食べてね♪食べ終わったら隣の部屋にいるから、お話はそれからね」
「はい、いただきます!」
洋介が部屋を出た後、神通はトレーの上の朝食に手を合わせた。そしてスープを口に運んだ。
(お、美味しい!間宮さんのお店にも負けていないかも?)
神通が食べた朝食は、洋介と香織が経営していたお店でモーニングセットとしてお客様に提供されていた物である。
厳選された野菜に自家製ドレッシング、じっくり丁寧に煮込まれたスープ…一つ一つから洋介のお客様に対する真摯な姿勢が感じられた。
「…グスッ」
神通は朝食を食べながら、いつの間にか涙を溢していた。
優しく温かな食べ物を口にして、ようやく自分が助かった事を、ちゃんと生きてるって事を実感出来たのである。
ーーーーーーーーーー
二十分後に食事を終えた神通は、空になった食器の乗ったトレーを持って、洋介のいる隣の部屋を訪れた。
ーーーコンコン
「はい、どうぞ入って」
「し、失礼します…あの、神崎さん…ご飯ありがとうございました!美味しかったです!!」
神通は洋介のいる隣の部屋に入ると、深々と頭を下げてお辞儀をした。
「あはは♪それは良かった!神通さんは病み上がりだから、軽めの料理にしといたんだけど…丁度良かったみたいだね♪」
「はい!本当に美味しかったです♪失礼ですが神崎さんは本職の方なのですか?」
何気ない神通の問い掛けに、洋介は少し間を置いて静かに返事をした。
「もう店は閉めちゃったけど、死んだ妻と二人で飲食店をしてたんだよ…朝から夕方までは喫茶店で、夜はお酒と食事を提供する…そんなお店をね」
「あっ…ご、ごめんなさい」
神通は少し寂しそうに語る洋介を見て、配慮の足らない質問をしてしまったと後悔した。
「あはは♪もう昔の話さ。それよりも立ったままってのもなんだし、そこの椅子に座ったらどうだい?あっ、トレーはその机に置いといてね」
「いえ!食器くらいは洗わせてください!何もかも面倒をおかけする訳には…」
「いやいや、ここは俺が市政の人々との接触を可能な限り避けるために作った山小屋なんだよ…大型バッテリーを数台持ち込んでるから電気は大丈夫なんだけど、生活用水は山小屋の外の井戸水だけが頼りなんだよ」
「そ、そうなんですか?でも…」
「それなら後で一緒に水を汲みに行こうか?夕食作るのにも水が必要だからね!」
「はい!是非お手伝いさせてください!」
神通は短い洋介との対話から、洋介の暖かさを感じていた。そして、洋介と奥さんが切り盛りしていたお店も、さぞや暖かい雰囲気のお店であっただろうと…
「か、神崎さん、私は…私はあなたにお詫びしなければなりません…」
「…お詫び?」
「はい!あの日…わ、私…私達が……!」
洋介にあの日の事を詫びようとする神通であったが、いざとなると言葉が出てこない…喉はカラカラに渇き、唇はガタガタと震える…神通の美しい顔は可哀想なくらいに真っ青になっていた。
洋介は静かに立ち上がると、立ち尽くす神通の元へ歩み寄り、優しく抱き締めた。
「か、神崎さん…」
「よしよし、余程言いにくい事なんだね…俺の妻と娘に関する事なのかい?」
洋介は神通の頭を優しく撫でながら問い掛けた。
「…グスッ、は、はい」
「そうか…君が許してくれるなら、俺はテレパシー能力で君の心を読み取る事が出来るよ。もしも話しにくいなら…」
「いえ!ちゃんと自分の口からお詫びさせてください!」
「…わかった」
神通は洋介から離れると、洋介の目を正面から見つめて話し始めた。
「あの日…洋介さん一家を襲った戦艦棲姫が瀬戸内海の海岸に現れたのは…私達が八丈島沖での海戦で奴を仕留め切れずに逃がしてしまったのが原因なんです!!」
「………!!」
無言で神通を見つめる洋介、空気が凍りついたかのような静寂の中、神通は更に続けた。
「グスッ、大本営の精鋭第一艦隊と呼ばれる私達があんな失態を犯さなければ…あなたの奥さんと娘さんは死なずに済んだ…あなたがお店を閉めて山奥へ移り住む事もなかった…人智を超えた能力など得なくても良かった!!…ごめんなさい…ごめんなさいぃぃぃ!!!」
神通は一気に言い切ると、洋介に土下座をして謝罪した。その目から涙が止めどなく流れ落ちて床を濡らした。
「………」
洋介は無言で立ち上がると、ゆっくりと神通に歩を進めた。神通は覚悟を決めて目を閉じた。殺されても仕方ないと思った。
だが、洋介は神通を再び強く抱き締めた!その目は慈愛に満ちたものであった…
「えっ?神崎…さん?」
「頑張ったね…よく話してくれたね、神通さん」
呆気に取られる神通。洋介は優しく諭すように神通に語った。
「あの戦艦棲姫を君達が逃したのは真実だろう…でもこれまで深海棲艦の出現例が無かったとは言え、あの海岸に家族を連れ出したのは俺だ…」
「そんな!神崎さん…」
「君達はずっと命懸けで俺達を護ってくれた!そんな君達に俺は文句は言わんよ…俺達一家の事は誰の責任でもない…そういう運命だったんだよ…」
「神崎さん…う、うわあああぁぁん!!」
神通は洋介の胸に顔を埋めて号泣した。洋介は神通を抱き締めたまま、優しく頭を撫で続けた…優しく、そして少しだけ切ない時間が流れていった…
ーーーーーーーーーー
そうして暫くの間、洋介の胸で泣いていた神通であったが、優しく自分の頭を撫で続ける洋介の手の感覚にハッと我に帰った。
「か、神崎さん!すみませんでした…お見苦しい所を…」
「いや、だいぶ落ち着いたみたいで良かったよ」
頬を染めて恥じらう神通の姿に、洋介は若き日の香織の面影を見たような気がした。
そして今度は洋介から神通に語り始めた。
「実はね神通さん…俺からも神通さんに謝らなければならない事があるんだ」
「神通と呼んで下さい。それで謝らなければならない事って?」
「じゃあ神通、あの時、君の身体は敵艦載機から無数の機銃掃射を受けて出血性ショックを起こしかけていたんだが…」
「はい…」
「君の出血を止めるのと、生命力を活性化させる為に、俺の血を君に分け与えたんだ!」
「神崎さんの血を…どうして?」
「俺は戦艦棲姫の血と体液を浴びた事で幾つかの超能力を身に付けた。その超能力の一つなんだが…俺の血を受けた者は、一時的に俺に近い体質と回復力を得る事が出来るんだ」
「そ、そんな事が…でもあの海上でどうやって?」
驚きながらも疑問を口にする神通。洋介は頭をポリポリかきながら答えた。
「う、うーん…こう下唇を噛んで血を滲ませて…後は、その…口移しで…」
「(ボッ!!)そ、それって…キス?」
顔を真っ赤にして下を向いてしまった神通。洋介は慌ててしどろもどろな謝罪を続けた!
「ご、ごめんよ!非常事態だったし、あれしか方法が無くて…」
「い、いえ!私を助ける為にされた事ですから!」
「本当にごめんね!それで…君をここに連れてきてから手当てしたんだけど…全身にダメージを受けている君をベッドに寝かすと負担がかかるから、サイコキネシスで宙に浮かべた状態で治療したんだ…」
「サイコキネシスですか?」
「うん、こんな感じでね!」
洋介が力を集中させると、神通の身体が水平な状態で宙に浮かび上がった!
「ひゃあ!解りましたから!早く降ろしてくださいぃ~!!」
「あっ、今降ろすから!」
洋介は静かにサイコキネシスを解除して、神通を元へ戻した。
「それで…治療するのに邪魔だったから、破れた君の服や下着を全部脱がせて…」
「(ボッ!!)わ、解りましたぁ!もういいですからぁ~!!」
神通は更に真っ赤になって、とうとう壁を向いてうずくまってしまった…
「本当にごめん!!それで治療を済ませて包帯を巻いてから…回復力を与える為にもう一度俺の血を…」
「そ、そうでしたか…お手数をおかけして…」
恥ずかしさで今にも消えてしまいそうな神通の姿に、洋介は申し訳なさそうに頭を下げた。
「あの時は治療の為だから、決してやましい気持ちは無かったんだよ…でも傷ついていながらも神通は綺麗だと思った!…ごめんね」
洋介の謝罪に、壁を向いていた神通はゆっくり立ち上がると洋介に振り返った。そして恥じらいながら微笑んだ。
「治療の為とはいえ、裸を見られて…二回もキスされて…責任取ってくださいねっ!!」
「ええ~っ?」
「…くすっ♡」
それは洋介が初めて見る、神通の心からの笑顔であった。
ーーーーーーーーーー
「それはそうと、私の艤装はどうなったのでしょうか?」
神通は気になっていた自身の艤装について、洋介に尋ねた。
艦娘と艤装とは、単なる装着者と兵装の関係ではなく、苦楽を共にし、お互いに成長していく相棒のような関係なのである。
故に、艤装は装着者の意思に反して外れる事は決して無いのだ。無理に引き剥がそうとすれば、艦娘と艤装は精神的に強いリンクで結ばれている為に、艦娘の精神と身体の双方に重大なダメージを与えてしまう危険性があった。
例外として、深海棲艦との戦いで艦娘がダメージを受けて意識を失っている場合は、『妖精さん』だけが、艦娘と艤装のリンクを強制解除する事が出来るのだ。
「ああ、神通の艤装はそこにあるよ」
洋介は部屋の隅を指差した。そこには大きな布がかけられており、洋介が布を取り払うと、修復を終えた神通の艤装と衣装が現れた。
「こ、これは!私の艤装が完全に修復されている…まあ、衣装まで!これは神崎さんが?」
艤装に駆け寄った神通は驚いて洋介に尋ねた。洋介は笑いながら自分の胸のポケットを指差した。
「??」
「あはは♪神通が不思議がってるよ♪顔を見せてあげなよ」
洋介がそう言うと、ポケットから『妖精さん』がひょっこり顔を出して、にっこり笑いながら神通に手を振った。
「まあ!『統轄妖精さん』じゃないですか!どうして神崎さんの所に?」
「エヘヘ…ないしょ♡」
「ん?『統轄妖精さん』?」
首をかしげる洋介に神通が答えた。
「はい、こちらの『統轄妖精さん』は大本営で艦娘の艤装や兵装を修復したり、メンテナンスしてくれたりする、多くの『妖精さん』を管理する立場の方です」
「へぇ!統轄とは凄いな!『妖精さん』お偉方さんだったんだ~♪」
洋介が驚いて話しかけると、いつの間にか洋介の肩に移動した『統轄妖精さん』は自分の左腕を指差してドヤ顔を決めた♪
洋介が『統轄妖精さん』の左腕を見ると、小さな腕章が付いており、金色の小さな字で統轄と刺繍されていた!
「お、おおっ!これは統轄の腕章!!いや、お見それしたよ!ご褒美に飴ちゃんをあげよう♪」
「わーい♡洋介ちゃんありがとー♡」
『統轄妖精さん』は洋介から飴ちゃんを受け取ると、そのまま洋介の肩に腰掛けて嬉しそうに食べ始めた。
「あらあら♡」
「最初は神通の治療するのに艤装が外せなくてね…『龍水剣』で切り裂くしかないかと思ったんだけど…破壊してはいけない気がしてね」
「そ、それは良かったです!もし無理矢理に艦娘と艤装を切り離したりしたら…私は死んでしまっていたかもしれません!!」
思わず声が大きくなる神通に驚く洋介であったが、自分の勘が正しかったと胸を撫で下ろした。
「ふぅ…やはり『龍水剣』で破壊しなくて良かったんだな!!それで途方に暮れていたら、『統轄妖精さん』が現れて艤装を外してくれたって訳さ」
「そうだったんですね」
「この『統轄妖精さん』は俺が戦艦棲姫と戦った後くらいから姿を見せるようになってね、神通の衣装も『統轄妖精さん』が修復してくれたんだよ」
「何から何まで…神崎さん、『統轄妖精さん』ありがとうございました!!」
「ふふ♪良いんだよ」
洋介は優しく微笑んだ。『統轄妖精さん』も笑顔であった。
「それでは早速…」
神通は自分の艤装を装着しようと艤装に手をかけた。
「あーダメ!!待って、待ってー!!」
慌てて『統轄妖精さん』が神通の肩に移動して制止した!
「えっ!?」
「神通ちゃんの身体は傷は癒えたけど、艤装を扱える体力は戻ってないよ!最低あと一週間は安静にしてないと!!」
「でも!早く大本営に戻らないと!あの子達に無事を知らせてあげないと!!」
焦る神通に『統轄妖精さん』が続けた。
「ここで艤装を装着して起動させたら、大本営のレーダーにこの場所を感知されてしまうよ…洋介ちゃんはこの山小屋を誰にも知られたくないんだよ…」
ハッとして洋介を見る神通、そんな神通を見て洋介が『統轄妖精さん』に声をかけた。
「なあ、『統轄妖精さん』大本営の無線周波数を俺に教えてくれないかな?」
「えっ?無線周波数を?」
「軍事基地の無線周波数なんて秘中の秘だろうけど…俺ならテレパシー能力で大本営の無線回線に直接メッセージを伝える事が出来るよ」
「うーん…でも一般の人に簡単に機密を教えるのはねぇ…」
「神通の命令で撤退していく艦娘達の悲痛な顔を俺は見たよ…早く安心させてあげたい神通の気持ちが良く解るんだ」
「か、神崎さん…グスッ」
「…解ったよ洋介ちゃん♪無線周波数はね…」
『統轄妖精さん』から大本営の無線周波数を知らされた洋介は目を瞑り、両手を握り締め身体の前で交差させた!身体全体から青白いオーラが立ち昇る!!
そのオーラに神通は見覚えがあった。かつて、戦艦棲姫との激闘を終えて意識を失った洋介の身体から立ち昇っていた青白きオーラ…
洋介はカッと目を見開くと、虚空に向けて叫んだ!!
”大本営の司令官並びに、練習巡洋艦 鹿島、駆逐艦 朝潮、大潮、霰、霞よ…神通は無事なり!安心されたし!!神通の体力が戻り次第、そちらに送り届ける…暫く待たれよ!!”
ーーーーーーーーーー
大本営の指令室にて無線の前に座る軽巡洋艦の大淀は、洋介からの無線を傍受した!
「や、山南元帥!正体不明の者から直接無線が!!」
「何だと?大本営の無線回線に直接だと?それで内容は?」
「はい、録音された音声を再生します!」
”大本営の司令官並びに、練習巡洋艦 鹿島、駆逐艦 朝潮、大潮、霰、霞よ…神通は無事なり!安心されたし!!神通の体力が戻り次第、そちらに送り届ける…暫く待たれよ!!”
突然の吉報に喜びに湧く指令室であったが、元帥の山南が口を開いた。
「この連絡が真実なら実に喜ばしい事だ!鹿島や朝潮達もさぞ喜ぶだろうが…信頼しても良いものだろうか?」
「ふふふ…大丈夫ですよ、山南元帥閣下」
「おお、森下先生に中野君ではないか!今日は大本営職員の健康診断だったな」
指令室に入って来たのは、医師の森下と看護師の中野であった。大本営直営の病院に勤務する二人はこの日、大本営職員の定期健康診断に来ていたのだ。
「あはは、先生は止してくださいよ!」
「わはは♪今や立派な先生ではないか!それで森下よ、この無線が真実だという根拠は?」
「この声は忘れませんよ…山南元帥、あの人物の声に間違いありません!!」
「あの人物?まさか戦艦棲姫と生身で戦って生き延びたという…あの?」
「そうです!彼の言葉なら信頼出来ますよ!!」
「もう!神崎さんったら、あれから連絡もしないで…ずっと心配してるのにっ!!…でも元気そうで何よりですわ♪」
森下と中野は一年前の洋介との短い邂逅を思い出していた。山南はそれを見てやっと安堵の表情を浮かべた。
「よし大淀よ、全員に神通の無事を知らせよう!鹿島達は勿論、川内や那珂、第一艦隊の面々も安心させてやらないとな!!」
「はい!ただちに!!」
急ぎ足で指令室を出ていく大淀を見ながら、山南は呟いた…
「神崎洋介か…一度会ってみたいものだな」
そんな山南を見ながら森下と中野はにっこり微笑んだ。
ーーーーーーーーーー
「ふぅ、これで神通が無事だって事が大本営に伝わったろう…グウッ!?」
大本営に神通の無事を知らせた洋介であったが、超能力を解除すると同時に、その場に膝をついて踞ってしまった!
「…ハアハア…ハア……クッ!!」
苦痛に歪む顔面は蒼白となり、額には大粒の汗が浮かんでいる…
「か、神崎さん!」
「よ、洋介ちゃん、大丈夫?」
心配そうに洋介に声をかける神通と『統轄妖精さん』に洋介は右手でサムズアップしてアピールしてみせた。
「大丈夫!超能力を使った後は体力が消耗するんだよ…少し休んだら回復するから…」
「そ、そうですか、それなら良いのですが…」
「………洋介ちゃん」
洋介の言葉に神通は安堵した。だが『統轄妖精さん』は洋介の言葉の奥に、ある危険性を感じていた。
「それじゃ俺は少し休ませてもらうよ。神通も『統轄妖精さん』のOKが出るまでは、休暇だと思って静養してね」
「はい、それではお言葉に甘えさせていただきますね♪」
神通はにっこり微笑むとペコリと頭を下げた。
「あはは♪後で三人で水汲みに行こう。ついでに山菜も採っちゃおうか?」
「はい♪楽しみにしてますね♪」
「………」
洋介が部屋から出ようとすると、『統轄妖精さん』が洋介の肩に飛び乗ってきて、心配そうに洋介の顔を覗きこんだ。
「心配性だね…俺は大丈夫だよ」
洋介は優しく『統轄妖精さん』の頭を撫でながら微笑んだ。
「洋介ちゃん…無理だけはしちゃダメだよ!」
「うん…わかった」
そう言うと洋介は自分の寝室に向かった。
リビングには神通と『統轄妖精さん』だけが残された。神通は『統轄妖精さん』に尋ねた。
「あの、洋介さんはああ言ってましたけど…本当に大丈夫なんでしょうか?」
神通は先程からの洋介の様子と『統轄妖精さん』の態度に不穏な空気を感じていた。ただ洋介本人が大丈夫だと言う以上、踏み込んで質問する事は躊躇われたのだ。
「神通ちゃん、はっきりとは断言出来ないんだけど…洋介ちゃんの超能力は危険かも」
「えっ?危険?」
「あれほどの戦闘をしても平気な洋介ちゃんなのに、少し超能力を発揮しただけで、あんなに消耗するなんて…」
「確かに…海上での洋介さんの無敵ぶりからは信じられませんね」
「とにかく二人で洋介ちゃんを見ていよう!無理に超能力を使おうとしたら、何としても止めないとだよ!!」
「はい、わかりました!『統轄妖精さん』」
そんな神通と『統轄妖精さん』の会話を、洋介は寝室で聞いていた。
「………情けない所を見せてしまったな」
そう呟いた洋介の顔は、皺が刻まれた…本来の年齢である51歳の洋介の顔に戻っていた…
ーーーーーーーーーー
「ふぅ…神崎さんは毎日こうやって井戸からお水を運んでるんですか?」
あれから数時間の後、洋介と神通は山小屋の側にある井戸から水を汲んで、山小屋に運ぶ作業をしていた。一時的に老化した洋介の顔は既に元に戻っていた。
井戸は昔ながらの手動式のポンプであり、中腰での手作業となる為、鍛えた神通をして重労働であった。
「ああ、結構な運動になるだろう?」
「はい、結構腰にきますね…でも新人艦娘のトレーニングには良いかも知れませんね♪」
「あはは♪中腰での作業ってのは地味に辛いからねぇ…神通はまだ病み上がりだからリハビリ程度にしといた方がいいよ」
「はい、それにしても、このお借りしたジャージは、軽くて柔らかくて良いですね!あのパジャマもふわふわで着心地最高でしたし♪」
神通は水汲み作業を手伝う前に、洋介から渡されたジャージに着替えていた。これはパジャマと同じく、娘の詩織が使っていたものである。
「あはは♪それは娘の詩織が使っていたものだよ、パジャマもだけどね♪」
「女物だからひょっとしたらと思いましたが…やっぱりそうなんですね…それじゃ大切な形見の品じゃないですか…どうして私に?」
神通はジャージの生地を優しく撫でながら洋介に尋ねた。そんな神通に洋介は微笑みながら答えた。
「妻の香織と娘の詩織が居なくなって、この山小屋に移り住む時に、遺品を処分するか迷ったんだけど…あの時は捨てられなくてね」
「…………」
「でも捨てなくて良かった…こうして神通に着てもらえてるんだからね♪パジャマやジャージだけじゃなくて神通に似合いそうな洋服や靴もあるから…良かったら貰ってくれないかな?」
「えっ?そんな…悪いですよ!!」
「この一年余りで俺も心の整理がついたからね…やっぱり服は誰かに着てもらった方が幸せだと思うんだ。きっとあの子も喜ぶだろう…」
「…それではありがたく頂きますね♪…嬉しいです、大本営の酒保ではこんなの売ってませんから♪」
「あはは♪妻の服は流石に大人っぽ過ぎるだろうけど、詩織の服とか靴なら私服にバッチリだと思うよ!後で色々と見てみるといいよ♪」
「は、はいっ♪」
「さっ、水汲みはこれくらいにしておこうか」
「えっ?これだけじゃ、お風呂とか足りないんじゃ?」
洋介と神通で運んだ水は30Lのポリタンクに5個分であった。確かにこれではお風呂とトイレの水を賄うには足りない。
「あはは♪井戸水を使うのは料理と飲料水にだけだよ!」
「えっ?それじゃ、お風呂やトイレは?」
「こうするのさ!『龍水剣』飛翔!!」
洋介は『龍水剣』を出現させると、神通を抱き抱えてゆっくりと宙に舞い上がった。
「ひ、ひゃあ!!」
突然の事に混乱する神通。そんな神通に洋介は優しく語りかけた。
「ほら、屋根の上に大きなタンクがあるだろう?あれがお風呂やトイレに使う水のタンクだよ」
「あ、はい」
「それじゃ降りるよ」
洋介と神通は山小屋の屋根に降り立った。洋介は慣れた手つきでタンクの蓋を空けた。中には水が半分くらいになっている。
「さあここからが本番だ!『守水輪』放水!!」
洋介が『守水輪』を装着した左手をかざすと、『守水輪』は青緑色に強く発光し、洋介の左手から勢いよく水が放たれた!!大型のタンクが瞬く間に水で満たされていく!
「まあ…」
「とまあ、こんなもんだよ。ただ『守水輪』も『龍水剣』も大気中から水を出現させる事は出来るんだけど…大地のミネラルが含まれてないから料理にはイマイチなんだよね…」
「なるほど!だから料理と飲料水には井戸水を使うんですね!!」
「そういうこと♪さあお茶にでもしようか?」
「はい♪お手伝いします♪そういえば…『統轄妖精さん』どこ行ったんでしょうね?」
「ここにいるよ~♪」
いつの間にか洋介の右肩に『統轄妖精さん』がちょこんと座っていた。
「まあ、いつの間に?」
「えへへ…ヒミツ♪」
「よしよし、これで全員揃ったな♪」
こうして水汲みを終えた洋介達は家に入った。三人揃ってのお茶会は、柔らかい雰囲気に包まれた暖かいものであった。
ーーーーーーーーーー
その夜は、神通の少し早い快気祝いとして、洋介の手料理が振る舞われた。
「さぁ、今夜は神通の快気祝いだ!!まだ完全復活とは言えないが…お祝いは何回やっても良いもんだし…ねっ?『統轄妖精さん』」
「ね~♪」
優しい微笑みで神通を見つめる洋介と『統轄妖精さん』であった。二人の微笑みに神通は少し頬を染めながらペコリと頭を下げた。
「洋介さん、『統轄妖精さん』本当にありがとうございます。今まで何度も怪我をした事はありますけど…復帰をこんなに盛大に祝って貰ったのは初めてです♪」
大本営も鎮守府も軍事基地である。戦いとなれば傷を負う艦娘も一人ではないのだ。艦娘一人一人に快気祝いなど望むべくも無かったのであろう。
「あはは♪ここは大本営じゃないからね!この山小屋に来たからには、神通は俺の娘みたいなもんだ!遠慮せずに楽しんで♪」
「はい♪頂きます♪うわぁ…このお肉美味しい~♡」
「わぁ♪ホントだ~♪こんなの食べた事無いよ!!」
食卓には分厚いステーキをメインに、綺麗に盛り付けられたサラダ、エビフライやポテトフライ、オニオンスープなどが食べ切れないほど並んていた。
「フフフ…以前にお店をしていた時の仕入れ先から最高の牛肉を分けて貰えたからね♪」
「まあ…いつの間に取りに行かれたんですか?」
「ん?お茶会の後で広島まで『龍水剣』を使って行ってきたけど?」
「えっ!?」
何気なく超能力を使ったという洋介に、神通と『統轄妖精さん』の箸が止まった。
「あの…お祝いしてもらっている席ですが…洋介さんにとって超能力を使う事は危険なのではないですか?大本営に連絡してくれた時もかなり疲労していましたし…」
「そうだよ、洋介ちゃん…」
神通と『統轄妖精さん』は心配そうに洋介の顔を見つめた。洋介は静かに語り始めた。
「さっきも二人で心配してくれてたね…隠しても心配かけちゃうから、俺の超能力について教えるよ」
「はい!」
真面目な顔で返事をする二人に洋介は続けた。
「俺が深海棲艦と戦う時に使う『守水輪』と『龍水剣』は、俺の戦う意思に呼応して香織のスカーフと詩織のブローチが姿を変えた物だ。だから双方にエネルギーが宿っており、使っても俺の身体には影響はないんだ。でも…」
「………」
「超能力を短期間に大量に使えば俺の身体は著しく消耗してしまうんだ…」
「やっぱり…そうだったんですね」
洋介は悲しそうに目を伏せる二人の側に近寄って二人の頭を撫でた。
「俺が得た超能力の正体は…俺は超常の力を得たというよりも、普通の人が何年、何十年という長い年月をかけて使うエネルギーを一度に使えるようになっただけという方が正しい…」
「…そ、それじゃあ!!」
「だから考え無しに超能力を使い続ければ、俺の生命を確実に縮めてしまう…どんなに水量が豊富な井戸でも短期間にポンプで水をガンガン汲み上げれば涸れてしまうようにね…」
「そんな…ごめんなさい…私の為に…」
肩を落として泣き出す神通。洋介は困ったように神通を撫で続けた。
「泣かないで神通…俺の超能力は短期間に一定量を使ってしまうと一気に反動が来るんだよ。さっきテレパシー能力を使って疲弊したのは、海上での戦いに続いて、神通の治療の為に、身体を浮かせるサイコキネシスと弾丸を摘出するサイコキネシスを同時に長時間使ったのを忘れてた俺のミスなんだよ」
「グスッ…でも…」
「大丈夫だよ、本来ならテレパシー能力やサイコキネシスは身体への負担が少ない超能力なんだ。確かに一度に使いすぎれば危険な能力だけど、考えて使うから…約束するよ」
「…本当に、無理しないって約束してくれますか?」
「わかった…約束するよ」
洋介は神通と『統轄妖精さん』に優しく微笑んだ。そんな洋介に安堵したのか、神通の顔にやっと笑顔が戻った。
「そんなに心配かけてたか…ごめんな二人とも」
素直に二人に詫びる洋介。そんな洋介に神通がおずおずと尋ねた。
「洋介さん、もう一つだけいいですか?」
「なんだい?神通」
「私、ここに来た時から不思議に思っていたんです…洋介さんはあんなに悲しい事があったのに、何故優しく微笑む事が出来るのですか?私なら深海棲艦への憎しみで、笑顔になんてとても…」
「そうだね…空母棲姫と戦った頃の洋介ちゃんは、今とは比べ物にならないくらい尖ってて、口調も荒れていたのに…」
神通につられるように『統轄妖精さん』もずっと思っていた疑問を口にした。洋介は静かに自らの心情を語った。
「確かに深海棲艦への復讐が、あの頃の俺の全てだった…二人が言うように、俺も一度は復讐に燃えたんだよ」
「一度は?」
「今はただ…これ以上、俺達家族のような思いをする人が出ないように…俺の力が及ぶ限り…戦い続けるだけさ…さっ♪せっかくの料理が冷めてしまうよ!!真面目な話は終わりね!」
「は、はい!(あれ?何なんでしょうか…この感じは?)」
神通は洋介の表情や言葉に、これまで感じた事のない感情を…胸の奥が締め付けられるような切なさと暖かさを感じていた。
それは深海棲艦と戦う為に生み出された艦娘である神通の初恋であった。
ーーーーーーーーーー
夕食の後、神通は洋介の薦めで先に入浴する事になった。リビングには洋介と『統轄妖精さん』だけが残された。
食器やグラスを手際よく片付ける洋介に『統轄妖精さん』が話しかけた。その表情は真剣であった。
「洋介ちゃん、さっきの話だけどね…『守水輪』と『龍水剣』は洋介ちゃんの戦う意思に呼応して誕生したって言ってたよね?」
「うん、それがどうかしたかい?」
「…その認識は間違いじゃないけど、正確に言えば、あれは洋介ちゃんの最大の能力…想像力を形にする《万物創造の力》なんだよ」
「《万物創造の力》?」
「うーん…物質変換と言えば良いかな?洋介ちゃんは自分が望む武器でも防具でも自在に創造する事が出来るんだよ!今回は香織さんのスカーフと詩織ちゃんのブローチが触媒になったけど、実際は無からでも創造出来る…」
「……そ、そんな事が!!」
驚愕する洋介。自分の望む物を自在に創造する能力…それは正に神の領域を犯す禁断の能力であった!!そして『統轄妖精さん』は話を続けた。
「問題は洋介ちゃんの想像力が凄すぎるせいで、生み出された武器や防具の力が桁違いだって事なんだよ…創造した洋介ちゃんにも制御しきれないくらいにね」
「えっ?確かに最初は『守水輪』と『龍水剣』を自在には扱えなかったけど、今は使いこなせてると思うんだが?」
反論する洋介。そんな洋介に『統轄妖精さん』は首を横に振った。
「違うんだよ…『守水輪』も『龍水剣』も本当なら、今の洋介ちゃんの精神力レベルでは使いこなせないよ…これまで何も感じなかった訳じゃないでしょ?」
「…それじゃあ…やっぱり」
「そう、亡くなった香織さんの魂が『守水輪』に、詩織ちゃんの魂が『龍水剣』に留まって制御してくれてるんだよ…言ってみればパソコンのOSみたいにね」
「そうか…香織と詩織が俺を護ってくれていたんだな…『守水輪』と『龍水剣』を使う時に暖かい何かを感じたのは…そういうことか」
「以前は二人の姿が洋介ちゃんの側にいつも見えてたんだけど…最近は見えなくなってきてるよ…」
「それって…」
「命有る者は死んでも輪廻転生によって次の時代に生まれ変わるよ。いつまでも魂のまま現世には居られないんだよ。」
「…そうか、次は幸せな人生を長く生きてもらいたいな…香織も、詩織も…」
「二人の魂が完全に成仏したら、洋介ちゃんの精神力レベルが今より強くなるまで、『守水輪』と『龍水剣』を使ったらダメだよ…下手をすると暴走させてしまうかもしれないから…」
「………暴走」
「私達妖精は、洋介ちゃんが《万物創造の力》を暴走させないか心配で見ていたんだよ…でもさっきの話で、洋介ちゃんが深海棲艦への憎しみに囚われていないって解ったから安心したよ」
「ありがとう…『統轄妖精さん』」
「いい?洋介ちゃんなら…きっとまた『守水輪』と『龍水剣』を使いこなせるようになれるから…焦って超能力を戦いに使ったらダメだからね!」
「わかったよ、あっ!この事は神通には内緒な…心配かけちゃうからな」
「うん♪ないしょ~♪」
『統轄妖精さん』はいつもの笑顔で洋介を見つめた。洋介も『統轄妖精さん』を撫でながら優しく微笑むのだった。
ーーーーーーーーーー
その夜、洋介は神通と『統轄妖精さん』の目を盗んで山小屋を出て、あの因縁の海岸へ来ていた。
「『守水輪』発動…『龍水剣』…発動」
洋介の呼び掛けにより、出現する『守水輪』と『龍水剣』…洋介は二つの武器に宿る妻と娘に呼び掛けた。
「香織、詩織、…そこにいるのかい?」
すると、『守水輪』と『龍水剣』が強く輝き始め、やがて洋介の前に香織と詩織の像が現れた。
「あなた、やっと呼んでくれたわね…」
以前と変わらない優しい笑顔で話しかけてくる香織。洋介は感極まって涙を流しながらも笑顔を返した。
「うん…遅くなってごめんな…香織」
「そうよ!お父さんったら遅すぎよ!」
頬を膨らませて詩織がわざと拗ねて見せる。懐かしい愛娘の仕草だ…込み上げる愛しさに洋介は言葉に詰まった。
「(グスッ)そ、そうだよね…ごめんよ詩織」
「あらあら♡」
「もう、お父さんったらまた泣く~♪」
香織と詩織は、洋介の左腕と右腕に自分の腕を絡めて悪戯な微笑みを向けた。既に身体を失い魂だけとなっているのに、洋介には二人の温かさと柔らかな感触が確かに感じられた…
暫しの静寂が三人を優しく包み込んだ。
思えばこの海岸で洋介達三人の幸せが無慈悲に壊されたのだ。そして洋介の孤独な戦いが始まったのもこの海岸だ。
だからこそ…洋介は魂となってまで自分を支えてくれた香織と詩織を解放する場所に、この海岸を選んだのだ。
「香織、詩織、魂となってまで俺を護ってくれてありがとう。でももう大丈夫だから…二人ともいつまでも現世にいてはいけない…」
香織と詩織の頬に優しく触れながら、洋介は最愛の妻と娘に別れを告げた…
「うん、あなたならきっと大丈夫ね。でも…私達が離れたら、暫くは『守水輪』と『龍水剣』を戦いに使ったらダメよ!」
「そうよ、お父さんの精神力レベルが上がるまでは我慢だよ!今のお父さんじゃあ『守水輪』と『龍水剣』に振り回されちゃうからね!!まあ水を出したり飛行したりするくらいなら大丈夫だと思うけどね」
香織と詩織は洋介が自分達に別れを告げる為に、この海岸へ来た事を解っていたのだろう…その表情は寂しそうではあったが穏やかであった。
「なあ詩織、精神力レベルって『統轄妖精さん』も言ってたけど…具体的にどのくらいにまで高めたら良いんだ?」
洋介は『統轄妖精さん』と話した時から思っていた疑問を詩織に問い掛けた。
「あのね、『統轄妖精さん』が言うには、精神力レベルを十段階に分けたとしたら、今のお父さんは四から五なんだって。」
「四から五?そんなもんなのか俺は?」
「いやいや、普通の人は一から二くらいだから、五でも相当凄いんだよ!でも『守水輪』と『龍水剣』を自在に扱うなら、精神力レベルが七以上になってないと難しいかなぁ?」
「精神力レベルが七以上?うわぁ…」
やれやれと言った顔で二人を見つめる洋介。そんな洋介に香織が追い討ちをかける。
「あなた、ちなみに精神力レベルが七以上っていうのは歴史上数人しかいないのよ…日本で言うなら《役小角(えんのおづぬ)》クラスよ!!」
「えぇ…《役小角》って一説によれば日本最強の呪術者じゃんか…無理やろ?」
「ふふふ…あなたなら出来るわ!私の愛した旦那様だもの♡」
「そうよ!それに『守水輪』も『龍水剣』も良い子なのよ♪お父さんが自分達を自在に使ってくれるのを待ってるわよ!!」
「そうか…それじゃ父さん頑張らないといけんなっ!!」
「それに、これからのあなたは一人じゃないわよ…神通ちゃん可愛いじゃない♡」
「えっ?神通とは別に!?」
香織の口から神通の名前が飛び出して、狼狽える洋介。そんな洋介に詩織がニマニマと笑いながら止めを刺しにかかる!
「そうね~♪神通ちゃん私の下着とパジャマ似合ってたわぁ♡お父さんは神通ちゃんの裸見ちゃったし、チューもしちゃったし、責任取んなきゃダメよね~♡」
「おいおい…二人とも勘弁してくれよ」
参ったなと頭を抱える洋介。昔から香織と詩織の連携には勝てなかったものだ。
「ねぇあなた、これからも深海棲艦と戦うなら艦娘と力を合わせないと勝てないわよ!」
「そうだよ!お父さんには艦娘のサポートが必要だし、艦娘にはお父さんみたいに一緒に戦える指導者が必要なのよ!!」
「…わかったよ。神通とも話してみるか…でも俺が指導者とかピンとこないけどなぁ」
ーーーブゥン!
その時、香織と詩織の姿がブレ始めた…
「あなた、そろそろお別れの時間ね…ありがとう♪あなたと出会えて私は本当に幸せでした!最後に…超能力を戦いで使い過ぎないように気を付けてね!…さよなら…洋介さん♡」
「お父さん、私もお父さんとお母さんの子供に生まれて幸せだったよ♪これからはお母さんと天国から見守ってるからね!!…バイバイ♡」
「香織…詩織…俺のほうこそ…幸せだったよ!!ありがとうな!!」
洋介も香織も詩織も涙を流しながらも笑顔であった…
やがて、香織と詩織の姿は夜空に完全に消えた。
「香織…詩織…また来世で会おうな!『龍水剣』飛翔!!」
洋介は立ち上がると海岸を背に、神通達の待つ山小屋に向けて飛翔した!!
ーーーーーーーーーー
「う、うおおおっ!?」
海岸から『龍水剣』を使って山小屋に戻った洋介は、いつも通りゆっくり着地しようと『龍水剣』を操作しようとした。
しかし、着地寸前で洋介の身体は再び宙に跳ね上がってしまった!
例えるなら、スポーツカーを初めて運転した者が国産車のつもりでアクセルを踏み込んで制御不能に陥るようなものだ…
洋介はそのまま地面に強く叩きつけられた!!
「い、痛ってぇ…!!」
流石に強靭な身体を持つ洋介だけに、地面に叩きつけられても無事ではあったが、それでも暫くは痛みで身動きも取れなかった。
洋介は地面に倒れたまま夜空を見上げ、『統轄妖精さん』や香織達の言葉を思い返していた。
(これが暴走か…確かに深海棲艦との戦いで『龍水剣』と『守水輪』に力を込めるだけで制御不能になりそうだな…やはり俺の精神力レベルが上がるまでは超能力に頼らざるを得ないか…)
ーーーガチャ
その時、山小屋のドアが開いた。洋介が倒れたまま顔を向けると、そこには神通が心配そうな顔で立っていた。
「よ、洋介さん!一体どうされたのですか!?」
神通は裸足のまま洋介に駆け寄り、洋介を抱き起こした。
「あはは…ちょっと着地に失敗してね」
苦笑いしながら神通に答える洋介。神通は洋介が大丈夫であるのを確認すると、そのまま洋介の頭を自分の膝に乗せた。
「神通?」
「もう!びっくりしましたよ…急に大きな音がしたものですから…」
「…心配かけたね、ごめんよ神通」
神通は返事の代わりに優しく洋介の頭を撫でた…洋介を見つめる神通の瞳は慈愛に満ちていた。
洋介はそんな神通から大いなる安らぎを感じていた。それは妻を失った洋介が、久しく忘れかけていた感情であった…
暫くの静寂の後、神通が静かに口を開いた。
「洋介さん、こんな夜中に一人でどちらに?」
「あ、あぁ、ちょっと野暮用があってね…」
慌てて誤魔化そうとする洋介であったが、神通にはお見通しだったようだ。
「くすっ♪香織さんと詩織さんにお別れする為に、あの海岸に行ってらしたのでしょう?」
「えっ?どうしてそれを?」
驚く洋介に神通は穏やかな微笑みを浮かべながら答えた。
「洋介さんと『統轄妖精さん』の話をお風呂場で聞いてましたから…洋介さん程ではありませんけど、艦娘の聴力だって凄いんですよ♪」
異常聴覚は洋介の得意とする能力である。神通にお株を奪われて唖然とする洋介であった。
「洋介さんなら、残り少ない力で必死に『守水輪』と『龍水剣』に留まってくれている香織さんと詩織さんを放っては置けないだろうと…そしてお二人を解放するのは、あの海岸をおいて他はないだろうと思ったんです」
「そうか…凄いなぁ神通は、そこまでお見通しとは…」
洋介はポリポリと頭をかきながら照れ隠しに
微笑んだ。まるで母親に悪戯がバレた子供のようである。
「それに…さっき香織さんと詩織さんが私の寝ている部屋に来てくれたんですよ!」
「えっ?香織と詩織が?」
「はい♪最初はびっくりしましたけど…香織さんからは《あの人をお願いね♡》って、詩織さんからは《お父さんを守ってね♡》って頼まれちゃいましたっ♪キャー♡」
神通ははにかみながら両手で自分の顔を覆った。
「ふふふ…香織も詩織も最後までお節介なやつらだ…」
「でも…限りなく優しいです」
「ああ…」
洋介はゆっくりと身体を起こして、神通を見つめた。神通も洋介の瞳を見つめる…
「洋介さん、これからは私があなたの側で力になりたいです!洋介さんが『守水輪』と『龍水剣』を再び自在に扱える時まで…いいえ、その後もずっと!!私は…神通は洋介さんが好きです!!」
「神通…ありがとう!」
洋介は神通を優しく抱き締めた。お互いに見つめ合う洋介と神通…二人はどちらからともなく口づけを交わした…
長い口づけの後、神通は頬を染めながら洋介の胸に顔を埋めた…
「初めてのキスですね…治療以外では♡」
「…ああ、そうだな」
「くすっ♡」
深海棲艦により全てを奪われた洋介は、この日再び愛を取り戻した…
夜空に浮かぶ満月の光が、まるで祝福するかのように洋介と神通を明るく照らしていた。
しかし…『守水輪』と『龍水剣』を使えない洋介と神通には更なる試練が待ち構えていた!
ーーー紀伊半島、熊野灘沖、南方350km海上
一人の艦娘が宛もなく海上を航行している…
「…ハァハァ、ここはどこら辺っぽい~?」
彼女は白露型駆逐艦四番艦の夕立である。既に陽は落ち、真っ暗となった海上を夕立は一人でさ迷っていた。
何故、艦娘が一人で近くに鎮守府も泊地もない場所を航行しているのだろうか?
「グスッ…お腹空いたっぽい…暗くて心細いっぽい…」
夕立は探照灯も持っておらず、暗い海上を進んでは止まり…進んでは止まり…正に手探りで航行していた。艤装には電探すら装備されていないようだ…
「グスッ…一人で鎮守府を飛び出して来ちゃったけど…あそこには戻りたくないっぽい!!絶対おかしいっぽい!!みんなして鳴海提督、鳴海提督って居なくなった人の事をいつまでも…」
そう、夕立は所属している鎮守府から逃げてきた脱走艦娘なのだ。
本来の夕立は『ソロモンの悪夢』と謳われた武功艦であるが、ここにいる夕立は半年前に建造されてから一度も任務に就けてもらった事もないルーキーであった。
そんな夕立は、仲間の艦娘の目を盗んで鎮守府から逃げ出して来たのだが…初期状態から改装も強化もしてもらってない自身の艤装を持ち出すのが精一杯だったのだ。
僅かな食糧も無くなり、遂には方角も解らなくなり…三日目の夜を迎えていた。燃料も残り僅かとなっていた…
「私、このままここで死んじゃうの?」
夕立の愛らしい頬を涙がポロポロと零れ落ちていく…
ーーーピカッ!!!
その時、沖の方角から謎の光が夕立を照らし出した!!
「な、なに?」
夕立は光の方角に向き直り、左手で自分の顔に影を作りながら前方を確認する。
「ひょっとして別の鎮守府の艦娘っぽい!?」
もしそうなら助けてもらえるかも?脱走は重罪だけど、脱走したのは自分の鎮守府がおかしくなっていると誰かに知らせたかったからだし、話くらいは聞いてもらえるかも…
「た、助けて欲しいっぽい~!!えっ?あ、ああっ…!!」
そんな夕立の微かな希望は次の瞬間、絶望に変わった!!
眩しい光の先に見えたのは…友軍の艦娘ではなく、軽巡棲姫率いる深海棲艦の艦隊であった!!
ーーーーーーーーーー
その頃、洋介の山小屋では、洋介と神通と『統轄妖精さん』が荷造りをしていた。
完全回復した神通が、いよいよ大本営に帰る事になったからである。
本来、神通は艤装以外の荷物は持っていなかったのだが、洋介から詩織の服とか靴を全部あげると言われたので、気合い入れて荷造りするハメになったという訳である。
「神通がここに来て、まだそんなに日にちは経ってないのに…寂しくなるな」
荷造りしながら呟く洋介。神通はくすっと笑いながら洋介に答える。
「本当にこの山小屋での生活は楽しかったですよ♪次は休暇取って遊びに来ますから♡」
「あはは♪ここは神通の家でもあるからな!いつでも『ただいま』って戻ってくれば良いのさ!!なっ『統轄妖精さん』♪」
「もっちろん~♡だって神通ちゃんは洋介ちゃんのお嫁さんになるんだもんね~♡」
「(ポッ♡)…もうっ!」
「(ポリポリ)…あはははは」
『統轄妖精さん』の言葉に神通は真っ赤になってしまい、洋介は照れ臭そうに頬を掻いた。
「それにしても…洋介さんは深海棲艦と戦える実力がありますし、『妖精さん』と意志疎通も出来るのですから、鎮守府の提督になってくれれば…」
「うんうん♪妖精達もみんな賛成だよ~♡」
神通と『統轄妖精さん』は先日より洋介に提督になるようにと話を持ちかけていたのだ。
だが洋介は、そんな二人に了承出来ずにいた。
「う~ん…鎮守府の提督ともなれば、多くの利権やしがらみが絡んでくるからな…いきなり俺が提督になれば不満に思う者もいるだろう?」
「洋介さんなら絶対大丈夫です♪山南元帥もきっと助力してくれますよ!!」
「そうだよ♪元帥ちゃんは優しい人なんだから心配ないよ~!!」
神通と『統轄妖精さん』は身を乗り出して洋介に決断を迫ってきた。とうとう洋介は二人に押し切られてしまった。
「わ、わかったよ、神通を大本営に送った時に元帥殿と話す機会があれば話をしてみるから」
「やったっ♡洋介さん!神通は嬉しいです!!」
「私も嬉しい~♪良かったね~神通ちゃん♡」
「はいっ!!『統轄妖精さん』」
「あはは…むっ!?」
その時、洋介の顔から一瞬で笑みが消えた!
「洋介さん?どうされたのですか?」
「洋介ちゃん?」
心配そうな視線を向ける神通と『統轄妖精さん』に洋介は静かにするように促した。
(た…す…けて…誰か、助けてっぽい~!!)
洋介のテレパシー能力は、山小屋から約600km離れた海上にいる夕立からの悲痛なSOSを感知した!!
これまでの洋介なら、半径300kmを越えた場所にいる深海棲艦や艦娘を感知する事は出来なかった。
香織や詩織との別れ、そして神通や『統轄妖精さん』の献身が、いつの間にか洋介の超能力を底上げしていた!
「誰かが助けを求めてるのを感じた!!悲痛な声で『助けてっぽい~!!』ってな…」
「『ぽい』って…駆逐艦の夕立ちゃんかも?」
「知っているのか?神通?」
「はい、私の知っている夕立ちゃんかは解りませんが…『ぽい』って言うのは夕立という艦娘に見られる口癖なんです」
「そうか、場所は山小屋から約600km先…紀伊半島 熊野灘沖 南方350kmの海上だな!艦娘が一人に深海棲艦が六隻…しかも厄介なのが二隻いるな!」
「厄介とは一体!?」
「二隻の内の一隻は恐らく姫級!!もう一隻は姫級とは違うようだが、この姫級よりも遥かに…強い!!」
「そ、そんな…」
「洋介ちゃん…」
「神通と『統轄妖精さん』はここにいてくれ、俺は夕立を救出してくる!!」
今の洋介には、もはや深海棲艦と憎しみで戦う意思はなかった!
しかし助けを求める者の声には応えたいと思った!
『守水輪』や『龍水剣』が使えなくとも…洋介には助けを乞うものに背を向けるという選択肢は無かった!!
颯爽と身を翻して山小屋を出る洋介を神通が止めた!
「洋介さん!私も連れていって下さい!!」
「私もついていくよ!!」
「いや、二人はここにいるんだ!!」
厳しい口調で神通と『統轄妖精さん』を突き放す洋介、しかし神通は引かなかった!!その顔は決死の覚悟で若き駆逐艦達を護って戦った時と同じ…決意に満ちた顔であった!!
「夕立ちゃんは私の同胞なんです!それに今の洋介さんは『守水輪』も『龍水剣』も使えません…必ず私がお力になりますっ!!」
神通は洋介の顔を決意の眼差しで見つめている…もう止めても無駄だと悟った洋介は、苦笑いしつつ、神通の肩にポンと手を置いた。
「解った…共に行こう!それじゃ神通は急いで艤装を身に纏ってくれ!!『統轄妖精さん』は神通と一緒に!!」
「はいっ!…でもここで艤装展開すると山小屋の場所が大本営に知られてしまいますけど…」
「緊急事態なんだぞ!そんな事気にするな!!」
「…解りました!艤装展開!!」
神通は山小屋から出ると瞬時に艤装を展開した!『統轄妖精さん』は既に神通の肩に移動を終えている!!
「それじゃ神通、しっかり俺に捕まれ!!『龍水剣』飛翔!!」
洋介と神通と『統轄妖精さん』は一気に夜空に舞い上がり、紀伊半島 熊野灘沖に急行した!!
ーーーーーーーーーー
神通が艤装を展開した事により、大本営のレーダーに神通の反応が捕捉された。
「山南元帥!レーダーに神通さんの反応が!!」
「なに?しかし大淀、神通は明日ここに戻って来ると手紙が来ていたんじゃなかったか?」
神通は洋介に迷惑をかけないように、数日前に大本営に手紙を送っていたのだ。
「ええ、しかし現在、中国山地から南東の方角へ移動しています!速度から判断して、恐らく航空機か何かで移動していると思われます。」
「神通からの手紙によると、神崎洋介という人物は様々な超能力を有しており、信じがたい事だが、単独で飛行することも可能であるらしい…彼と一緒に何処かに向かっていると考えるべきだろうな」
「山南元帥、神通さんに連絡をとってみましょうか?」
「頼む大淀!これまで神通が艤装を起動しなかったのは、大本営のレーダーに神崎氏の居場所を知らせたくないという配慮に違いない…それが明日には大本営に戻るというタイミングで艤装を起動させた…つまりは緊急事態という事だ!!」
「解りました!神通さん、聞こえますか?応答してください!!」
ーーーーーーーーーー
ーーーピピー!ピーピー!!
「洋介さん、大本営から無線が入りました!」
”神通さん、聞こえますか?応答してください!!“
洋介は神通に無線に出るよう促した。
「神通、今回は夕立を救出するのが最優先だ!場合によっては大本営の応援が必要となるかもしれない…無線で現在の状況を詳しく説明しておいた方が良いだろう!」
「解りました洋介さん!“こちら神通です!大淀さんどうぞ!!”」
”あっ、神通さん!良かった、一体何があったのですか?“
「現在、私と洋介さん…いえ神崎さんは紀伊半島 熊野灘沖 南方350kmの海域に急行中です!」
“紀伊半島 熊野灘沖 南方350kmの海域ですか?一体そこに何が?”
「神崎さんの超能力が、その場所から助けを求める艦娘の声を感知したのです!当該海域には所属は不明ですが、白露型駆逐艦の夕立と思われる艦娘と深海棲艦が六隻いる模様!!」
“な、何ですって?こちらのレーダーには深海棲艦の反応は…あっ!?今レーダーに深海棲艦の反応が感知されました!!”
「しかも六隻のうちの二隻が危険な相手のようです…神崎さんによると一隻は恐らく姫級!もう一隻は姫級とは違うようですが、この姫級より遥かに強い個体との事です!!」
”そんな事が…あっ山南元帥!“
絶句する大淀に変わって山南が無線を握り、洋介に語りかけた。
“無線を変わった、神崎さん、私は大本営の山南です。”
神通は無言で無線のマイクを洋介に渡した。その顔は洋介への信頼に満ちていた。
「初めまして、元帥殿…神崎洋介です。」
“神崎さん、大本営の元帥として伺いたい…あなたの目的は夕立の救出と考えても良いのだろうか?”
山南は洋介の真意を知るべく問い掛けた。医師の森下から神崎一家の悲劇を聞いていた山南は、洋介が復讐心に囚われて戦っているのかが気掛かりだったのだ。
「もちろん!悲痛な声で助けを求める者に対して背を向けるなど…日本男子ならあり得ない!!…そうでしょう?」
洋介の返答には何の躊躇も迷いも無かった。気持ちいい程の男っぷりに山南は思わず笑みを溢した。
“ハッハッハ!神崎さん、やはりあなたは森下が言っていた通りの男のようだ!”
「森下?医師の森下先生ですか?」
”ああ、森下は以前は提督候補生で私の教え子なんだよ。森下が言っていたよ…神崎洋介という人は、自分自身が深い悲しみの渦中にいながらも他人を思いやれる男だとね“
「そうですか…私は森下先生には不義理をしてしまったとずっと思っていたのですが…」
洋介は自分を救ってくれた森下に対して、挨拶もせずに病院を抜け出した事をずっと悔いていた。
“森下もあなたに会いたがってたよ…神崎さん、この一件が片付いたら、私もあなたにお会いしたい。これから直ぐに応援を向かわせる!!艦娘達は…みんな私の娘みたいなものだ…夕立と神通の事を頼んだよ!!”
「解りました!これより速度を上げて現場に急行するので無線は使えなくなります。バックアップをよろしくお願いします!!」
”解った!神崎さん…武運を祈る!!“
無線を切った洋介は、神通と『統轄妖精さん』に笑顔を向けた。
「神通と『統轄妖精さん』の言う通りの優しい方だな…山南元帥殿は」
「ええ♪だから言ったでしょう?」
「ね~♡」
神通と『統轄妖精さん』は二人で顔を見合わせて笑った。
洋介には二人の姿が、かつて香織と詩織がタッグを組んで、自分をやり込めていた姿とダブって見えて可笑しかった。
「さあ、速度を上げるぞ!二人とも舌を噛まないようにな!!」
「はいっ!」
「おっけ~♪」
洋介は慎重に『龍水剣』に力を注ぎ、速度を上げた!!
ーーーーーーーーーー
その頃、大本営では山南元帥の元、洋介達への支援艦隊の編成が行われていた。
山南の前には第一艦隊の赤城、加賀、大和、妙高、吹雪が並び、その後ろに大本営の中でも高練度の艦娘達が並んでいた。
「紀伊半島 熊野灘沖 南方350kmの海域にて、所属不明の白露型駆逐艦の夕立及び深海棲艦六隻が確認された。 現在、夕立を救出するべく、ある人物と神通が現場に急行している!よって大本営から支援艦隊を派遣する!!」
「山南元帥、ある人物とは?」
第一艦隊旗艦の大和が質問を口にする。山南はニヤリと笑って答えた。
「大和や第一艦隊の面々は知っているだろう…あの神崎洋介さんだ!」
「あの神崎さんが…」
大和を始めとした第一艦隊の面々はあの日の屈辱と悲しみを思い出していた。
そして、その他の艦娘達もザワザワと動揺を隠せないでいた。人間でありながら戦艦棲姫に一撃入れ、更にその後一人で深海棲艦と戦い続ける洋介の事は、半ば伝説となって艦娘達の間で知れ渡っていたからだ。
「今回はスピード勝負になる!第一艦隊を再編成する!」
「はいっ!」
「決戦の舞台は夜だ、航空戦力は使えない。よって赤城と加賀の代わりに高速戦艦の金剛と比叡を!」
「任せるネ!元帥!!」
「比叡も気合い入れて行きます!!」
「赤城了解しました。金剛さん、比叡さん、お願いします。」
「悔しいですが仕方がありません…皆さんに託します。」
「さっきも言ったがスピード勝負だ、済まないが大和にも外れてもらう、代わりに摩耶…行けるな?」
「おう!摩耶様に任せときな!!」
「残念ですが低速の私では…摩耶さんお願いします!」
「そして、神通の代わりには…川内だ!!」
「やった、夜戦だ!!というか妹のフォローは姉の役目だからね♪任せてよ!!」
「以上、金剛を旗艦として、比叡、妙高、摩耶、川内、吹雪を支援艦隊として派遣する!後、神崎さんの言によると、深海棲艦の中に姫級一隻と姫級より強い個体が一隻いるらしい…締めてかかれ!それでは総員抜錨せよ!!」
「はっ!!」
山南の号令の元、金剛達、支援艦隊は現場海域に向け出撃した。
洋介達と深海棲艦六隻、そして大本営の支援艦隊…熊野灘沖にて壮絶な戦いの火蓋が切って落とされようとしていた!!
ーーーーーーーーーー
「きゃあああーーー!!」
ーーードォォン!!
逃げ惑う夕立の逃げる先を狙って、軽巡棲姫の砲弾が次々と発射されて、夕立の行く手を阻んでいく!
「アハハ、アナタニハ、モウ帰ル場所ハナイノヨゥ…」
「た、助けて…誰か助けてっぽいぃ~!!」
もう艦娘の誇りも何も無かった…涙を流しながら形振り構わず軽巡棲姫に背を向けて、全速力で離脱を試みる夕立…だがそんな夕立に接近する強敵がもう一隻いた!!
「クックックックッ…」
「あ、あ…た、助け…あうっ!!」
敵の尻尾による強烈な一撃が夕立を吹き飛ばす…戦艦レ級だ!!
洋介が感知した姫級以外の強い個体の正体はこの戦艦レ級であった。
夕立は軽巡棲姫と戦艦レ級に挟まれる形で身動きが取れなくなった…
実は先程からこのやり取りが続いているのだ…何度も…何度も…
軽巡棲姫や戦艦レ級が夕立を殺すつもりなら何時でも出来た…夕立を弄んで遊んでいるのだ!!
その証拠に、軽巡棲姫と戦艦レ級以外の四隻…戦艦タ級、空母ヲ級、重巡リ級二隻は一歩もその場から動いてはいなかった。
流石の夕立もそれに気付き始めていた…敵の深海棲艦は自分を弄んでいると!
(く、悔しいっぽい…私を馬鹿にして!!)
夕立は軽巡棲姫と戦艦レ級を睨みながら涙を流した。
それは先程までの恐怖による涙ではなかった…艦娘としての誇りを踏みにじられた屈辱の涙であった!!例えルーキーであっても夕立は艦娘なのだ!!
屈辱の涙は夕立の…いや戦士の魂を高みに跳ね上げた!!
「深海棲艦、私を嘗めるなッ!!」
夕立は軽巡棲姫に12.7cm連装砲を発射!更に振り向き様に魚雷発射菅から魚雷を引き抜いて、戦艦レ級に直接投げつけた!!
ーーードッガーーン!!
「アラアラ、目ノ色ガ変ワッタワネ♪」
「クッ…クックッ♪」
夕立の渾身の攻撃は軽巡棲姫と戦艦レ級の艤装に僅かに傷をつけたに過ぎなかった…しかし軽巡棲姫と戦艦レ級の顔から笑みが消えた!!
「遊ビハ終ワリニシマショ…」
「……………フフ!」
軽巡棲姫と戦艦レ級に続いて、待機していた四隻が動き出して夕立を囲い込んだ!!
「クッ!もうダメっぽい…でももう泣かないっぽい!夕立は艦娘なんだから!!」
夕立の目には闘志が満ち、その身体は淡い光に包まれた。艦娘の戦意高揚状態だ!!
軽巡棲姫は左手を上げ全艦に号令を発した!
ーーードガガガガガーー!!!!
その時!上空から深海棲艦に向けて機銃と20.3cm連装砲の攻撃が降り注いだ!!更に置き土産とばかりに投下された酸素魚雷が、重巡リ級を撃破し、戦艦タ級を中破に追い込んだ!!
「ナ、ナニィ!?」
「グッ!?」
「あ…あれは!?味方っぽい?」
夕立と軽巡棲姫と戦艦レ級が空を見上げると、そこには宙に浮かぶ洋介と神通の姿があった!
「ふぅ…間に合ったようだな、それにしても神通…見事な腕前だ!!」
「神通ちゃんナーイス♡」
「そ、それほどでも…それにしても洋介さんの読み通りでした。あれは軽巡棲姫と戦艦レ級です!軽巡棲姫は洋介さんの敵ではありませんが、戦艦レ級は戦艦でありながら雷撃や航空戦力を有する強敵です!気を付けてください!!」
「よし、まずは夕立の救出だ!夕立、聞こえるか?重巡リ級が沈んで包囲網が緩んだ今がチャンスだ!全速力で包囲網から抜け出せ!!」
「わ、わかったっぽい!!」
洋介の言葉に、全速力で包囲網からの脱出を試みる夕立。そうはさせないと戦艦タ級と重巡リ級が回り込む!!
「邪魔はさせんぞ!!」
洋介は懐からゴルフボール位の大きさの虹色に輝く五つの球体を取り出した!!
「サイコキネシス全開!!…行けっ!!『金剛玉』よ!!」
洋介の掌からサイコキネシスで発射された球体は、夜空を縦横無尽に駆け巡り、前後左右から戦艦タ級と重巡リ級に襲い掛かった!!
ーーーバゴッ!!ドゴッ!!ドガッ!!
月明かりを反射して虹色に輝く球体は、凄まじい速さで戦艦タ級と重巡リ級を何度も貫いていく…一瞬のうちに身体を穴だらけにされた戦艦タ級と重巡リ級は、断末魔の声をあげる間もなく、黒いオーラを吹き出しながら消滅した!!
「今です、夕立さん!」
「はいっぽいぃ~!!」
神通は素早く夕立の元に移動すると、夕立を抱き寄せて保護した。
「よし!戻れ『金剛玉』よ!!」
洋介のサイコキネシスにより操られた五つの球体は、神通と夕立の所へ移動して二人を守護するが如く周回し続ける。
『金剛玉(こんごうぎょく)』…それは『守水輪』と『龍水剣』が使えない洋介が、攻撃及び対空防御の為に生み出した新しい武器である。
直径1m以上ある岩石を空中に浮かべて、サイコキネシスにより360度全方向から極限まで超圧縮をかける事により作り出された『金剛玉』は金剛石以上の硬度と輝きを誇るのだ!
「ナ、ナンダ今ノ武器ハ…人間ノ兵器ガ我々ニ通用スルハズガナイノニ!貴様ハナンダ!?」
怒りを露に洋介を睨み付ける軽巡棲姫。洋介は夕立が神通と合流したのを確認すると、軽巡棲姫達に向き直った!
「深海棲艦共よ…俺は神崎洋介だ!軽巡棲姫に戦艦レ級に空母ヲ級…今夜ここで俺に出会った不運を呪うがいい!!」
「神崎洋介?アノ空母棲姫ヲ倒シタ神崎洋介カ?」
「……クックッ♪」
「…ヲ、ヲッ!!」
驚愕する軽巡棲姫、不適に笑う戦艦レ級、無表情に洋介を見据える空母ヲ級…三隻は洋介一人を前にして動きを止めた。
「行くぞ、深海棲艦共よ!!」
「待ってください、洋介さん!」
軽巡棲姫達に挑みかからんとする洋介を神通が止めた。神通は損傷が酷い夕立を『統轄妖精さん』に託すと、『金剛玉』の防御エリアから出て洋介の横に立った。
「どうした神通?」
「洋介さん、あの軽巡棲姫の姿を見てどう思われますか?」
神通の言葉に改めて軽巡棲姫を見つめる洋介、そこでハッと気付いた!禍々しい仮面を着けて黒い衣装を纏っているせいで今まで解らなかったが、似ているのだ…他ならぬ神通に!!
「神通…これは一体!?」
「洋介さん…深海棲艦が沈んだ場所から時々ですが艦娘が出現する事があるのをご存知ですか?」
「何だって?」
「そして、沈んだ艦娘は深海棲艦として生まれ変わる場合があるとも言われています。こちらは噂に過ぎませんが…」
洋介は神通の想いがすぐに解った。神通はもう一人の自分かもしれない軽巡棲姫を自分で葬ってやりたいのだと…
「神通、軽巡棲姫は任せた。…無理だけはするなよ!」
「はいっ!ありがとうございます!!」
神通は軽巡棲姫に主砲を発射すると、軽巡棲姫が回避する方向に向けて全速で突進した!!
洋介は戦艦レ級と空母ヲ級に神通を攻撃させないように、新しい『金剛玉』を五個、懐から取り出して二隻に向けて発射した!!
だが、その間も夕立に回した五個をコントロールし続けなければならない…洋介の精神力はみるみるうちにすり減っていった!!
ーーーーーーーーーー
洋介が戦艦レ級と空母ヲ級を食い止める間に、神通と軽巡棲姫は洋介達から離れた場所で一騎討ちとなった!!
「神通…気ニイラナイワ!ソノ顔ガ!ソノ声ガ!!」
声を荒げる軽巡棲姫…それは艦娘への憎悪だったのか?それとも近親憎悪であったのか?
「軽巡棲姫よ、あなたの怒りと苦しみをもっと私にぶつけなさい!」
「オノレ!嘗メタマネヲ!!」
神通に向かって主砲を放つ軽巡棲姫。神通は回避しつつ酸素魚雷を発射して応戦する!!
一進一退の攻防であったが、大本営の第一艦隊を任される神通の実力は軽巡棲姫を凌いでいた!!
ーーードン!!
神通の放った主砲が軽巡棲姫の左腕を直撃!!軽巡棲姫はバランスを崩した!!
「勝機っ!!」
神通は抜刀すると全速で軽巡棲姫に接近して、下段から逆風に刀を振り抜いた…軽巡棲姫の身体と共に仮面が真っ二つになり海に落ちた!!
「ア、アリガトウ…神…通」
軽巡棲姫の仮面の下の顔…それは肌の色の違いはあっても神通そのものであった。その顔は先程までの憎しみに歪んだ表情ではなく穏やかなものであった。
「軽巡棲姫…あなたはやっぱり」
「ソンナ顔シナイデ…コレデイイノヨ」
悲痛な顔をする神通に軽巡棲姫は優しく微笑んで見せた。
「ネエ、コレデ私マタ…神通ニ戻レル…カナァ?」
「ええ…必ず!待ってますよ…もう一人の私」
「フフ…マタ会イマショ…モウ一人ノ…私」
軽巡棲姫は神通を笑顔で見つめながら消滅していった。神通はやるせない想いを胸に立ち上がった!
「洋介さん…神通がすぐ参ります!!」
神通は全速力で洋介の元に駆け出した!!
ーーーーーーーーーー
その頃、洋介は戦艦レ級と空母ヲ級を相手に思わぬ苦戦を強いられていた…
「くっ…まだ夜中だと言うのに艦載機を使えるとは…」
空母ヲ級と戦艦レ級が発艦させた艦載機の猛攻に洋介は攻め手を欠いていた。無数の艦載機に対して使える『金剛玉』が五つでは勝負にならない…
洋介は夕立の所に戻り、十個の『金剛玉』を使って防御を固める他無かった。
「ハアハア…流石に堪えるな」
「よ、洋介ちゃん…超能力の使いすぎだよ!」
「だ、大丈夫っぽい?」
「ああ、大丈夫だ…むっ?な、何だと?」
「どうしたの?洋介ちゃん?」
「なんという事だ…この場所に別の敵が近づいている!!」
洋介の超能力は新たに接近する敵の存在を感知した!!
「よ、洋介ちゃん、神通ちゃんと合流して逃げよう!!」
「そうっぽい!増援が来たらひとたまりもないっぽい!!」
真っ青になって撤退を具申する『統轄妖精さん』と夕立であったが、撤退するには眼前の戦艦レ級と空母ヲ級をどうしても倒す必要があった!!
「撤退するにはあいつらを倒して退路を開くしかない!二人とも協力してくれ!!」
「解ったよ!洋介ちゃん!!」
「洋介さん、夕立も頑張るっぽいっ!!」
「今から『金剛玉』を解除して、俺は空母ヲ級を倒す!夕立は戦艦レ級に遠方から攻撃を加えて注意をそらして欲しい!危険だが…頑張れるか?」
「や、やるっぽい!!」
「『統轄妖精さん』は夕立のサポートを頼むよ!」
「ま、任せて!」
「それじゃ二人とも行くぞ!『金剛玉』よ戻れ!!散開っ!!」
洋介は上空からの艦載機の攻撃を速力をもってかわしつつ、空母ヲ級に急接近する。
そうはさせじと洋介に向かおうとする戦艦レ級に対して夕立の攻撃が火を吹いた!!
ーーードン!ドン!!
「あんたの相手は私っぽい!!」
自分よりも格下の駆逐艦に煽られた戦艦レ級は攻撃を夕立に切り替えて襲い掛かる!!
(頼んだぞ夕立!後は…神通まだか?)
そして、ついに洋介は空母ヲ級の懐に侵入する事に成功した!!洋介は空母ヲ級を捕らえると目を瞑った…
洋介の全身から猛烈な炎が吹き上がり空母ヲ級を炎に包み込む!!
「ヲヲヲヲーーー!!」
炎に包まれた空母ヲ級は苦しみの声を上げた!洋介から離れようと艦載機による攻撃を洋介に浴びせかけるが、艦載機の弾は洋介に届く前に全て炎に溶かされていく!
空母ヲ級は苦し紛れに頭部の艦載機発進口を開こうとするが…洋介は発進口をその手で押さえ込んだ!!
「す、凄いっぽい!!」
「ああっ…ダメだよ洋介ちゃん!!」
《超炎》それは洋介の超能力の中でも強力な攻撃力を誇る奥義の一つである!
猛る炎は回復力に優れた深海棲艦をも一瞬で焼き付くす超高温を生み出す反面…一度に膨大なエネルギーを消耗してしまう危険な技であった。
洋介はこの時フルパワーを出していなかった。最後にまだ戦艦レ級が残っているからである!!
(くっ…超能力が続かない…!!まだか?まだなのか?…神通)
その時、軽巡棲姫との戦いを終えた神通が戦線に復帰した!!
「お待たせしました洋介さん!!あっ、ああっ!!」
空母ヲ級を羽交い締めにして炎の塊となっている洋介を見て絶句する神通!!
「神通ちゃん!早く洋介ちゃんを止めないと!!」
「洋介さんが燃え尽きちゃうっぽい!!」
泣き叫ぶ『統轄妖精さん』と夕立!神通は慌てて洋介に駆け寄ろうとしたが、その時洋介のテレパシーが神通達に届いた!!
(戻ったか神通!いいか?艦載機に気を付けながら戦艦レ級を足止めするんだ!そして俺が合図したら空母ヲ級の頭部の艦載機発進口に一発ぶち込め!!)
「よ、洋介さん!?」
(いいか?夕立も俺が合図したら神通に習って空母ヲ級の頭部を狙うんだ…いいな?)
「わ、解ったっぽい!!」
洋介から吹き上げる炎は次第に青みがかって、温度が上昇している事を示している!!
空母ヲ級の身体は生体故に崩壊と再生を繰り返す…しかし艦載機発進口の中の艦載機と艦載機に積まれた爆弾は強烈な炎に熱せられ続けて爆発寸前となっていた!!
「今だ!撃て神通!!夕立!!」
叫ぶが早いか、素早く空母ヲ級から離脱する洋介!!
「はいっ!!」
「喰らえーっ!!」
神通と夕立の一撃は吸い込まれるように空母ヲ級の艦載機発進口に命中!!次の瞬間、爆発寸前まで熱せられた艦載機の爆弾に引火して大爆発を起こした!!
ーーードッガーーン!!!!!!
「洋介さん!やったっぽい~!!」
「凄い…これを狙っていたのですね!!あっ!!」
空母ヲ級を撃破した洋介は、空母ヲ級から離脱した勢いで戦艦レ級に突進していた!!最初から洋介の狙いは空母ヲ級と戦艦レ級を一気に葬る事だった!!
「だ、ダメだよ~!!洋介ちゃん止めて~!!」
「洋介さん!私に任せて下がってくださいぃ~!!」
『統轄妖精さん』と神通の悲痛な叫びは洋介に届いていた。しかし、敵の増援が迫る今…自分が決めるしかない!神通も夕立も満身創痍なのだ!!
「神通…『統轄妖精さん』…夕立…香織…詩織…ごめんな…」
洋介はなおも戦艦レ級に接近!戦艦レ級は身体を捻って尻尾による攻撃を繰り出すが、洋介はそれを読んでいた!尻尾を跳躍でかわすと戦艦レ級の首筋を両手で掴んだ!!
「ハアアアアアーーーーー!!!!!!!」
息を大きく吸い込み力を集中させていく…身体から立ち昇る青白いオーラが黄金色に変わっていく!!
「うおおおおおおおおおーーーーー!!!!!!!」
「グアアアアアアアアアーーーーー!!!!!!!」
《エネルギー龍擊波》とは自分の全エネルギーを衝撃波に変えて、敵に叩き込む神崎洋介の最大の奥義である!
叩き込まれた衝撃波は、敵の身体を内側から細胞レベルで超振動させ、如何なる敵であろうと分子結合を破壊して死に至らしめる恐るべき技である!!
しかし、フルパワーの《超炎》を更に超えるエネルギーを必要とする為、体力が消耗している時には使えず、連発も出来ない…正に奥の手、最後の切り札であった!!
「ア、アアア……」
さしもの戦艦レ級も《エネルギー龍擊波》の前には無力であった…弱々しい悲鳴を残して戦艦レ級は黒いオーラを残して消滅した。
「ハアハアハアハアハアハア……」
その場に踞る洋介!心配して駆け寄る神通と夕立!!
「よ、洋介さん!無茶をしてッ!!」
「洋介さん…だ、大丈夫っぽい!?」
洋介は踞ったまま左手を上げて神通と夕立を制した!!
「じ…神通、ゆ、夕立…上空に残った敵の艦載機を殲滅せよ…敵の増援が来る前にこの海域を離脱する…」
「で、でも…」
躊躇する神通に洋介は顔を上げて一喝した!!
「何をしている!神通!夕立!急ぐんだ!!」
洋介の顔を見た神通と『統轄妖精さん』と夕立は愕然とした!!
洋介の顔は老人のような顔になっていた…髪の毛も白髪混じりとなり、とても洋介とは思えない程の変貌であった…
「あっ…ああっ…グスッ…」
「よ、洋介ちゃん…超能力の反動がこんなに酷いなんて…グスッ」
「洋介さん…私を助けに来てくれたばっかりに…グスッ」
神通達は戦場にもかかわらず涙を流した。そんな三人に洋介は微笑んだ。
「大丈夫だよ…お前達を残して俺は死なん!さあ…突破口を開いてくれ」
「はいっ!行きますよ、夕立さん!!」
「はい!神通さんっ!!」
神通と夕立は上空に向けて全力で対空射撃を敢行した!戦艦レ級と空母ヲ級の残した艦載機はことごとく撃破された!!
「や、やりました!洋介さん!!」
「どうだ!見たかっぽーいっ!!」
二人が洋介を振り替えると、洋介は青白いオーラに包まれて倒れていた…老化した顔や白髪混じりになっていた髪の毛がゆっくりと元の洋介に戻っていく。
「洋介さんが元に戻っていく…良かった…」
泣きながら洋介を抱き起こす神通。やがて洋介は目を覚ました。
「神通…『統轄妖精さん』…夕立…良くやった…」
「洋介ちゃん…心配かけちゃダメじゃない…」
「洋介さん…ありがとうっぽい♪」
「三人とも…心配かけて…ごめんな…さあ…帰ろう…俺達の…山小屋に…」
「はいっ!」
神通はまだ動けない洋介を抱えて立ち上がろうとした。その時夕立が叫んだ!!
「そ、空に…無数の敵の艦載機が…」
洋介と神通と『統轄妖精さん』は愕然とした…
もう洋介には超能力を使う精神力も体力も残されてはいなかった…神通も夕立も全ての武器を使い切っていた…
「神通…『統轄妖精さん』…夕立…最後まで諦めるな!!」
洋介は最後の力を振り絞って立ち上がると『金剛玉』を浮遊させた!
「俺が『金剛玉』を放つと同時に…お前達は全速力で逃げるんだ!!」
残された生命の全てを燃やして、神通達だけでも逃がそうとする洋介。だが、三人は静かに首を横に振った…
「ふふっ…そういうと思いました♡」
「ね~♡」
「洋介さん…カッコつけすぎっぽい♡」
三人は幸せそうな微笑みを浮かべて洋介にしがみついた。それは《死んでも絶対にこの手は離さない》という強烈な意思表示…三人の想いは確かに洋介に届いた…痛いほどに…
「ふふ…お前達…ごめんなぁ…俺にもっと、もっと力があればなぁ…」
「ふふっ…神通はずっとあなたと一緒です♡」
「私もだよ~♡」
「あー♪夕立だけ仲間外れはダメっぽい~♡」
「よしよし♪さて…最後に一花咲かせるかっ!?」
「はいっ♪」
洋介達は四人全員で上空を見上げた!全員晴れやかな笑顔であった…その時である!!
ーーードガーーン!!!!!
上空に迫る敵の艦載機群が大爆発を起こした!!
洋介達の後方から飛んできた三式弾が炸裂したのだ!!
「撃ちます!ファイアー!!」
「比叡も気合い入れて撃ちますっ!!」
大本営からの支援艦隊が到着したのだ!!高速戦艦の金剛と比叡が放つ三式弾がまるで散弾銃のように炸裂して、敵の艦載機群を蹴散らしていく…
更に三式弾の直撃を免れた艦載機を妙高、摩耶、川内、吹雪が対空射撃で次々に撃ち落としていく!!
「神崎さん遅くなりました!後は私達に任せて下さい!!」
「み、妙高さん…皆さんも…」
神通は思わず脱力して膝をついた。そこに川内が近づき神通の肩に手を置いた。
「神通、良く頑張ったね!!」
「姉さん…ありがとうございます」
神通は思わず泣きそうになりながら、微笑んで見せた。
「おいおい…ボロボロじゃねえか!あんたが神崎さんかい?あたしは摩耶ってんだ!後はあたしに任せときな!!」
「ふっ…威勢のいい姉ちゃんだな♪でも助かった…後は頼むぜ」
「よっしゃ任されたァ!喰らいやがれっ!!」
ーーードガガガガガガ!!!!
摩耶は洋介の前に立って猛烈な対空射撃を開始した!!流石に対空番長の異名は伊達ではない、瞬く間に敵の艦載機が数を減らしていく!
「神通さん、そして夕立ちゃん!!高速修復剤です!海上での効果は未知数ですが、少しは傷も治ると思います!」
吹雪は神通と夕立に高速修復剤を渡すと、摩耶達に合流して対空射撃を開始した!!
「吹雪さん…ありがとう」
「吹雪ちゃん…みんな…ありがとうっぽい!!」
洋介は戦況を見つめつつ、神通に声をかけた。
「神通、良い仲間達を持ったな」
「はいっ!自慢の仲間達ですから♪」
そうしているうちに、敵の艦載機群は全機撃破され、敵の増援艦隊は多勢に無勢と判断したのか、第二次攻撃を断念して撤退していった…
「終わったな…神通、『統轄妖精さん』、夕立…お疲れさま」
洋介は三人に労いの言葉をかけた。三人は無言で洋介に微笑んだ。
そこに支援艦隊の六人が近づいてきた。
「みんな…君達が来てくれなかったら、俺達は全員死んでいただろう…ありがとう」
洋介は深々と頭を下げた。そんな洋介に金剛が抱きついた!!
「ユーが神崎さんネー!噂以上のナイスガイデース♡私は金剛、よろしくネー♪」
「おわっ!中々にアグレッシブだな♪俺は神崎洋介だよ。よろしくな金剛さん」
「ちょっと!噂の神崎さんと言えど金剛お姉様に手を出すのは比叡が許しませんよ!!」
「あはは…姉思いなんだな、比叡さんは」
そうして洋介は次々にみんなと挨拶を交わした。そして最後に妙高が口を開いた。
「とりあえず大本営に戻りましょう。夕立さんには何故一人でこの場所にいたのか…詳しい話を聞かせて貰わなければなりませんし…」
「はい、夕立は鎮守府がおかしくなっているのを誰かに知らせたくて鎮守府を抜け出したっぽい!誰かに助けて欲しかったっぽい!!」
夕立の発言を聞いて艦娘達はそれぞれが思案顔を浮かべた。神通はそんな夕立に優しく微笑んだ!!
「全ては大本営に戻ってからの事ですね!さあ皆さん大本営に帰りましょう」
「了解しました!!」
こうして、洋介と神通と『統轄妖精さん』と夕立の長い夜は終わりを告げた。
大本営で洋介達を待つ運命は果たして如何なるものであろうか…
洋介達は支援艦隊の面々に支えられながら、ようやく大本営のドックに到着した。
洋介は金剛に、神通は川内に、夕立は吹雪に、それぞれ肩を貸してもらわないと立つ事も出来ない状態であった為に、思いのほか航行に時間がかかり、時間は既に夕方近くになってしまっていた。
「ふぅ…神通も夕立も『統轄妖精さん』もよく頑張ったな!金剛さんも川内さんも吹雪さんもありがとうな!」
「いえ!洋介さんこそお疲れさまでした!!」
「私のほうこそ助けてくれてありがとうっぽい!!」
「ありがと洋介ちゃん!でも洋介ちゃん無茶しすぎだよ…」
無事を喜び合う四人。そんな四人を金剛達は微笑みながら見ていた。
「皆さん無事で何よりデース♪でも神崎さん、私達にさん付けは要りまセーン!金剛と呼び捨てで呼んでくだサーイ♡OK?」
「わ、私もちゃんと比叡と呼んでくださいね!」
「そうだな♪あたしも摩耶でいいぜ!!」
「それでは私も妙高と♡」
「みんなズルい!私も吹雪と呼び捨てで♡」
「で、出遅れた…私も川内でいいよ~♪」
「ふふっ…わかったよ、金剛、比叡、摩耶、妙高、吹雪…そして川内、みんなありがとうな!」
和やかな雰囲気に湧く洋介達、その時ドックの入り口から凄い勢いで走り込んで来る者があった。
「神通さーん!!」
「神通教官!!」
「神通教官…!」
「神通さんっ!!」
「ち、ちょっとあなた達!!」
走り込んで来たのは、朝潮型駆逐艦の朝潮、大潮、霰、霞の四人と香取型練習巡洋艦の鹿島であった!
朝潮達四人は凄い勢いで神通に抱き着いて号泣した。
「神通さん…うっ、うわぁぁああん!!」
「うっうっ…神通教官…」
「グスッ…ヒック、ヒック…」
「ヒック、ごめんなさい…ごめんなさい神通さん!!」
「あなた達…無事で良かった…ほらほら、もう泣かないの♡」
泣きじゃくる朝潮達の頭を撫でながら、神通は優しく微笑んだ。そんな神通に鹿島が申し訳なさそうに声を掛ける…
「すみません…あの時、私が早々に戦闘不能になったりしなければ…神通さん一人に苦労させてしまって…グスッ」
朝潮達に遅れてドックにやって来た鹿島であったが、その表情は今にも消えてしまいそうな位に意気消沈していた。
「何を言うのですか!鹿島さんが身を呈して朝潮ちゃんを庇ってくれたからこそ、結果として皆無事でいられたのですよ…ありがとう鹿島さん!!」
「グスッ…神通さん…ありがとうございます」
神通の言葉に鹿島もやっと笑顔を取り戻した。そこで妙高が全員に声を掛けた。
「まあまあ、皆さん積もる話は沢山あると思いますが、とりあえずドックを出ましょうね♪山南元帥もお待ちかねですよ♪」
「は、はい♪」
一同はドックから地上への直通エレベーターに乗りこんだ。
エレベーターの扉が開くと、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「ここが大本営…なんとも凄い施設だなぁ!」
「そうだよ♪ここが我が国の本土防衛の中枢だからね~♡」
美しく整備された広大な敷地、見る者を圧倒するかのような威風堂々たる建造物の数々、これには流石の洋介も驚くほかなかった。
説明をする『統轄妖精さん』は何故かこれでもかという程のドヤ顔である。(笑)
「ふふっ、『統轄妖精さん』は本来はここの『妖精さん』達のリーダー的存在なんですよ♪」
川内に肩を借りながら洋介に話す神通。その表情は久しぶりに大本営に戻った安堵からであろうか?少し気が抜けてしまっているようである。それに…
「そういえばそうだったな神通、それにしても神通、顔に疲れが見えるぞ…俺が元帥殿に話しておくから、夕立と一緒に入渠とやらをしてきたらどうだ?」
「い、いえ!大丈夫ですよ!?ちゃんと全員で山南元帥に報告してからですね…」
真面目な顔で洋介に抗議する神通であったが、洋介は顔を背けながら掌を神通に向けて言葉を制した。
「うーん、神通も夕立も入渠したらと言うより…頼むから入渠してくれないかな?何というか目のやり場に困るんだよ…」
「えっ?…ハッ!!」
「…ぽい?」
神通と夕立は熊野灘沖の戦いで、衣装がボロボロに破れていたのだ!!破れ目から素肌や下着が丸見え状態であり、かなり際どく、あられもない姿になっていた!!
戦場という極度の緊張下では、衣装の破れなど気にならないが、戦闘が終わった今となっては、うら若き乙女の半裸は洋介にとっては拷問に近かった!
「(ボッ!!)キ、キャアァァーー!!」
「夕立は気にしないっぽい♪洋介さんも一緒に入るっぽい~♡」
顔を真っ赤にして、両手で衣装の破れ目を隠す神通!!対して夕立はまだ幼いのかよく解っていないようである。
それを見た金剛と摩耶がニヤニヤしながら洋介に声を掛ける。
「オー!神崎さん、真っ赤になっちゃって可愛いネー♡」
「おやおやおや~?噂の神崎さんは意外にウブなこって♡」
「二人とも…大人をからかうんじゃない!…ったく!!」
今度は洋介が顔を真っ赤にして、そっぽを向いてしまった。神通が慌ててフォローに入るが…
「洋介さんは真面目なんですっ!それに私は前に洋介さんに全裸を見られてますし…このくらい平気…あっ!!」
ーーーピシッ!!
金剛と摩耶にからかわれる洋介に助け船を出したハズの神通であったが、思いっきり地雷を踏み抜いてしまったようだ!!(笑)
周りの空気が一瞬で固まり、艦娘達が興味津々な目をして洋介に迫る!
「ちょ!神通、あれは決してやましい…」
「ご、ごめんなさい!つい口が…!」
ーーーポンポン
「えっ!?」
肩をポンポンと叩かれて、洋介が振り返ると、川内が腕組みしてニマニマしながら立っていた。
「神崎さん♡可愛い妹にいったい何をしてくれちゃったのかなぁ?」
「いや、俺はただ神通の治療をしただけで…」
あの時、洋介は本当に神通の治療をしただけである。しかし艦娘達から好奇の視線を浴びせられると、だんだん自分に自信が無くなってくる…つくづく男とは難儀な生き物である(笑)
「へ~♪治療するのに全裸にしたんだぁ♡」
「し、仕方なかったんだよ!あの時の神通はお尻や胸にも被弾してたから…サイコキネシスで神通を宙に浮かべて弾丸を摘出して消毒しただけなんだよぉ~!!」
「えっ?」
必死の弁解をする洋介であったが、ふと周りを見ると、艦娘達は全員顔を赤くして無言状態になっていた。
「あ、あれっ?」
「い、意識の無い神通ちゃんを…」
「ち、宙に浮かべて、下着も脱がせて…」
「360度全方向からバッチリと…」
妙高と吹雪と比叡が真っ赤になりながら勝手な妄想を呟いている…これには洋介も神通も血の気が引いた!
「ち、違ーーう!!」
「み、皆さん!!」
ーーーブバッ!!
その時、突然変な音が響き渡った。洋介が見渡すと金剛と摩耶が鼻血を出して、慌ててティッシュで鼻を押さえている!
「クッ…神崎さん、なかなかやりますネー!!」
「ウグッ…この摩耶様とした事が…抜かったぜ!!」
「あ、あのなぁ…(散々俺をからかっといて、コイツらが一番ウブじゃねえかよ!とりあえずキスもしたのは黙ってよ…)」
「フッ…皆、楽しそうではないか」
突然の男性の声に、全員が声のした方向を見ると、白い軍服を纏い精悍な顔をした男が立っていた。年の頃は本来の洋介と変わらない五十歳前後であろうか?男の後ろには洋介の知らない艦娘が四人立っている。
「や、山南元帥!皆さん敬礼!!」
妙高が慌てて指揮を執る。妙高の号令に合わせて全員が一斉に姿勢を正して敬礼をし、洋介は軍属ではないので静かに頭を下げた。
「ははは♪良い良い♪皆、楽にしてくれ」
山南は優しく微笑むと、洋介の方に向き直り頭を下げた。
「改めまして、私が大本営の元帥をしております山南です。この度は神通と夕立を護って頂き感謝します。後ろにおりますのは、第一艦隊の大和と赤城と加賀…そして通信担当の大淀です」
「神崎さん、第一艦隊所属の大和型戦艦一番艦、大和と申します。」
「赤城型航空母艦一番艦、赤城と申します!」
「加賀型航空母艦一番艦、加賀です。よろしくお願いします!」
「通信担当の大淀型軽巡洋艦一番艦、大淀と申します!よろしくお願いします。神崎さん♪」
「こちらこそよろしく!神崎洋介です」
洋介は大和達に挨拶を返した。そして元帥という地位にありながら、腰の低い誠実な態度を崩さない山南に対して、洋介は素直に好感を持った。
「先程の戦い…あなたが支援艦隊を出してくれたから勝てたようなものです。もう少しで神通と夕立を死なせてしまうところでした。申し訳ありません…」
洋介は山南に対して、神通と夕立を危険に晒した事を謝罪した。
「そんな!洋介さんは何も悪くありません!」
「そうっぽい!洋介さんはみんなを護ってくれたっぽい!!」
必死に洋介を庇う神通と夕立、山南は二人に向けて静かに微笑んだ。
「解っているとも!さあ神通も夕立も金剛達も入渠しておいで。話はその後にしよう、大和、赤城、加賀、皆を入渠ドックまで」
「畏まりました!それじゃ神通さん、夕立さん行きましょうか」
「はい!それでは洋介さん、また後で♡」
「え~!夕立、洋介さんと一緒に入渠したいっぽい~!!」
プクーっと頬っぺたを膨らませて拗ねる夕立。そんな夕立に苦笑いしつつ吹雪が夕立を説得する。
「夕立ちゃん、普通の人は艦娘の入渠ドックに入っても傷は治らないんだよ。さっ私と一緒に入渠しよ?」
「むー仕方ないっぽい!それじゃ洋介さん行ってくるっぽい~♪」
「はいはい♪二人ともしっかり治して来るんだぞ~!」
神通と夕立、そして金剛達を見送った洋介に山南が声を掛けた。
「神崎さん、あなたとはゆっくり話をしたいのだが…とりあえず少し休まれた方が良いようだね」
「そうですね…申し訳ありませんが医務室か仮眠室のベッドを貸してもらえませんか?1日もあれば表面的な傷は治りますし、体力や超能力もある程度までは回復出来ると思いますので…」
「それだけの傷がたった1日で?凄いものだ…ベッドは医務室と言わず客室を使ってもらいたい。だがその前に後ろの二人が神崎さんに用事があるみたいだがね…」
そう言うと山南はニヤリと笑った。洋介が不審に思って振り返る前に、洋介の肩に何者かの手が置かれた。
「えっ?」
「神崎さん…お久しぶりですね!」
慌てて洋介が振り返ってみると、そこには看護師の中野が立っていた。そして中野の後ろには医師の森下が…
「中野さんに森下先生…どうしてここに?」
驚く洋介に森下は笑いながら答えた。
「いや、山南元帥殿から神崎さんが来られると聞きましたのでね。とりあえず休まれる前にちゃちゃっと治療しちゃいましょうか?中野くん!」
「はい♪」
中野は洋介の左腕に自分の腕を絡めて洋介を捕獲した!!
「な、中野さん?」
「神崎さん…今回は絶対に逃がしませんからねっ!!さあ医務室にGOですわ♡」
中野はにっこり笑うと、洋介をずるずる引っ張って医務室に連れていこうとする。
「ちょっ!中野さん、逃げませんから!は、離して!離して~!!」
「ふふふ♡ダメでーす♡」
「あああ…」
超能力を使いすぎて身体に力が入らない洋介は、成す術もなく中野に医務室に連行されてしまった。
「あはは♪それじゃ元帥殿、私も行ってきます」
「ああ、しっかり診てやってくれ!」
「お任せください!」
森下は駆け足で洋介と中野を追いかけて行った。
「やれやれ…おや?大淀どうしたんだ?」
「クスクス…いえ、噂に聞く神崎さんはもっと怖い方だと思っていたものですから」
「本当に普通の青年だな…まあ実際は私より彼の方が歳上なんだがな…これから彼が我々に新しい風を入れてくれると良いのだが」
「そうですね…楽しみですね♪」
山南と大淀は洋介が消えた方向を見ながら嬉しそうに微笑んだ。
ーーーーーーーーーー
「い、痛ってぇぇ~!!な、中野さん!染みる!染みるぅ~!!」
「何甘えてるんですか、勇者『神崎洋介』ともあろう者が!ほら、じっとして!!」
「いや、俺は別に勇者なんかじゃ…いッ、痛てぇ~!!」
洋介は大本営の医務室に連行されると、問答無用で下着だけの姿にされて、中野から全身の傷を消毒されていた。
戦いに身を置く以上、戦場での傷の痛みは、それを超える気力と精神力で耐える事が出来るが、平時においてはそうはいかないものである!
洋介は中野の容赦ない治療に悶絶するしかなかった。そんな洋介を森下がクスクス笑いながら見ている。
「せ、先生!笑ってないで助けて下さいよ!」
「あはは、ゴメンゴメン♪でも流石は凄い超回復だよね!深い傷は既に塞がってたからね!!…本当なら麻酔無しで傷口を縫ってやろうかと思ってたんだけどね♡」
「ええっ!?」
ニコニコ笑いながら話す森下であるが、目は笑っていない。かつて治療放棄して逃げた洋介にお灸を据えてやるくらいの気持ちがあるのだろう。
「はい♪これで消毒は終わりですよ♪後は包帯とガーゼで保護しましょうね~♡」
「あ、あははは…中野さん…優しくお願いしますねぇ~!」
それから数十分後、治療の終わった洋介は医務室のベッドにうつ伏せでグッタリしていた。
「ううっ…戦艦レ級の尻尾攻撃より怖かったし痛かった気がする…」
「何言ってるんですか、こ~んなに優しくて可愛い戦艦レ級がどこにいますか♡」
中野は両手を腰に当てて洋介の顔を覗き込んだ。その顔は悪戯っ子のようであった。洋介の全身を消毒しながら、心配すべき傷が無かった事で安心したのであろう。
そんな洋介に森下が話しかけた。
「それにしても…神崎さん変わられましたね。かつては奥様と娘さんの事で絶望にうちひしがれていたのに…目に光が戻っていますね!!」
「………」
洋介はゆっくりと身体を起こすと、森下と中野に頭を下げた。
「森下先生、中野さん、あの時は病院を抜け出してすみませんでした。大本営の佐々木さんが私を調べたがってましたし…誰にも復讐の邪魔をされたくなかったものですから」
「良いんですよ、仕返しに痛~い治療させてもらいましたからね♪(笑)…それで今もまだ復讐を?」
森下の問いに、洋介は静かに微笑むと口を開いた。
「いえ、復讐など所詮は虚しい自己満足に過ぎません…今は妻や娘のような被害者が出ないように戦うだけです!自分の力が及ぶ限り…ね」
優しい眼差しを森下と中野に向ける洋介。二人はそんな洋介から、暖かく大きなオーラと言うか…風格を感じていた。
「人智を超えた能力を得て、かけ離れていく俺に変わらず接してくれた親友がいます。魂だけとなってまで、俺の側にいてくれた香織と詩織…そして神通や『統轄妖精さん』に夕立…森下先生や中野さんも…多くの方々が俺の心を救ってくれた!そんな大切な人達の想いに報いる為に、俺はこれからも戦い続けます!!」
洋介の言葉に、森下と中野は涙が出そうになった。森下は思った。彼こそは自分がなれなかった提督となるに相応しい男だと!
「神崎さん、あなたは提督になるべきですよ!艦娘達を指揮し支えるだけでなく、自分も一緒に最前線で戦える!…そんな男は他にはいないッ!!」
「そうですよ!もう神崎さんは一人で戦うべき存在じゃないわ!!」
森下と中野の言葉に洋介はクスッと笑った。
「実は、神通や『統轄妖精さん』からも再三言われてましてね。少し休ませてもらったら、山南元帥と話してみますよ。」
「おおっ!それは素晴らしい!!」
「わぁ♪艦娘達も喜びますよ!!神崎さんは大本営の艦娘達から『伝説の男』とまで呼ばれてるんですから♡」
森下と中野の顔には歓喜に満ちていた!
「あはは、しょぼい伝説だったと思われないように頑張らなくちゃ!」
「大丈夫ですよ!神崎さんならね!!あっ神崎さんにお返しする物があったんだ!中野くん?」
「はい♪神崎さん、これを…」
中野から手渡されたのは、以前に洋介が病院を抜け出す時に残したセカンドバッグだった。
「森下先生、これは?」
「山南元帥に話したのですがね、奥様と娘さんの葬儀代は、海軍が支払うのが当然だから受け取れないと言われましてね。でもそれでは神崎さんは納得されないだろうと…あなたの五日間の入院費用と個室差額ベッド代として七万円だけ頂きました。残りはお返しします。」
「…そうですか、それではご厚意に甘えさせて頂きます」
洋介は反論する事なくセカンドバッグを受け取った。せめて入院費用だけでも、預金から引き出して支払いに充当する事で、山南と森下は自分の顔を立ててくれたのだ。これ以上固辞する事は憚られた。
「神崎さん、改めて言いますが…あなたの身体は普通の人間とは違う。何かあったら必ず相談してください。私はあなたの主治医なのですからね」
「そうですよ♪また逃げたら…今度は承知しませんからね♡」
森下と中野の言葉は、以前の洋介には届かなかったが、今度は確かに洋介の心に伝わった。
「解りました。森下先生、中野さん、これからもよろしくお願いします。ふぅ…それでは少し休ませてもらっても良いですか?」
「もちろん、しっかり休んでください。中野くん、神崎さんを客室にご案内してあげて」
「はい先生♪それでは神崎さん♡」
「ありがとう、中野さん。あっ…」
中野に促されて医務室を出ようとした洋介は、ドアの前で立ち止まり、森下の方を振り返った。
「どうされました?」
「森下先生、病院を抜け出す時に、私があなたに書いた手紙…覚えていらっしゃいますか?」
「…ええ、覚えていますよ」
「あの手紙に書いた事は撤回させて下さい。遅くなりましたが、森下先生…あの時、私を救ってくださった事…心から感謝します!ありがとうございました!!」
洋介は森下に深々と一礼すると、医務室を後にした。
「………神崎さん」
医務室に残された森下は、洋介の言葉に一人熱い涙を溢すのだった…
ーーーーーーーーーー
「はい、ここが客室です。ゆっくりと休んで下さいね♪」
「ありがとう、中野さん。しかしこれはまた豪華な…」
洋介は中野に大本営の客室に案内された。流石に山南の客人が宿泊する部屋だけに、広さは勿論だが、ベッドから調度品に至るまで全てが一級品であった。
「俺は山小屋の住人だからな…こんなに豪勢だと落ち着かないと言うか…どうすりゃいいんだ?」
途方に暮れる洋介、中野はクスクス笑いながら洋介の腕をとって室内に誘った。
「神崎さんは並みのVIP以上の超最重要人物ですからね♪これくらいは当たり前です♡」
「並みのVIP以上って…俺は深海棲艦と戦えるだけの一般人だぞ。頭の天辺から足の爪先まで100%庶民なんだよっ!」
なんともいえない居心地の悪さに、洋介はポリポリと頭を掻きながら、中野に苦笑いしてみせた。
「(いやいや…深海棲艦と殺り合える庶民なんていないから!) あはは…慣れですよ、慣れ♡」
「慣れる…のかなぁ?それにこの部屋は…」
「はい?」
洋介は客室を見渡すと、中野に困ったような目を向けた。
「山南元帥や艦娘の皆の歓迎は嬉しいんだけどな、この部屋には防犯カメラすらついていないようだ…軍にしては素性も分からない男に対して無用心過ぎるんじゃないか?」
洋介の言葉は最もである。洋介は大本営のトップである山南と対面する時でさえ、ボディチェックすらされなかったのだ。
「神崎さん、山南元帥と無線で話をされた時の事を覚えてますか?」
「えっ?」
「あの時…神崎さんは山南元帥の問いに、『悲痛な声で助けを求める者に対して背を向けるなど…日本男子ならあり得ない!!』ってキッパリ答えましたよね?あれで山南元帥は神崎さんに惚れ込んじゃったんですよ♪もう信頼度MAXですよぉ♡」
「………うわぁ」
「山南元帥は神崎さんより一つ歳下の五十歳です。あの若さで元帥になった人物ですからね…こうと決めたら絶対に引かない強引な方ですよぉ♪神崎さんが提督になるって承諾するまで帰してもらえないかも…多分(笑)」
中野はニヤニヤしながら洋介の顔を見つめている。洋介はやれやれと肩を竦めた。
「そっかぁ…それじゃ同世代だし、先ずは飲ミュニケーションで腹割って話すのが一番だなっ!」
「いやだ~!オッサン臭いですよ~!(笑)」
「オッサンなんだよ、二人ともな(笑)」
洋介と中野はお互いに顔を見合せて笑った。
「それでは私はこれで失礼しますね。何かあったら医務室にいますから」
「ありがとう、中野さん」
礼を言う洋介だったが、中野は不服そうにプクッと頬を膨らませた。
「千景(ちかげ)です…」
「えっ?」
「最初に会った時に言いましたよね?…私の名前」
「えっえっ!?」
「ですからっ!そろそろ中野じゃなくて、名前で呼んで欲しいなぁって…千景って♡」
千景は顔を真っ赤にしてモジモジしながら、洋介を見つめた。洋介はそんな千景の態度に戸惑いながらも、千景の頭に手を置いて優しく撫でた。
「ご、ごめんよ!それじゃ改めて…ありがとう、千景ちゃん♪」
「もう!子供扱いしてっ!でも…今日の所は許してあげます!……洋介さん♡」
千景は満面の笑みを洋介に向けると、照れ臭そうに客室を出ていった。
(中野さん、いや千景ちゃんのあの態度は…明らかに好意だよな?神通といい…俺みたいなオッサンの何処が良いんだか…)
一人残された洋介は、突然の展開に頭がついていけずに暫く呆然とするしかなかった。
ーーーーーーーーーー
その頃、大本営の会議室には、元帥の山南により、神通を含んだ第一艦隊の面々と、先の支援艦隊に編入された面々、そして夕立が召集されていた。山南の横には大淀が控えており、森下医師と中野看護師が遅れてやってきた。
「よし、全員集まったようだな。それでは全員席について楽にしてくれ」
山南は集まった艦娘と森下達を会議用のテーブルにつかせると、自分も椅子に座った。
「まずは森下先生に中野君、ご苦労だったね。それで彼の様子は?」
「はい、深い傷につきましては、既に彼自身の超回復力で治癒しておりましたので心配ないでしょう。ただ…超能力の多用による内面の疲労については未知数ですが」
「とりあえず全身を消毒して、客室にご案内しましたので、今はぐっすりとお休みになっていると思いますわ」
森下と中野から洋介の容態を聞いた山南は、ホッとした表情を浮かべた。そして夕立に声をかけた。
「夕立、身体の具合はどうだ?」
「もう大丈夫っぽい!入渠させてもらってありがとうっぽい♪早く洋介さんと遊びたいっぽい~♡」
「あはは、彼はまだ回復していないからな。もう少し我慢しような?」
「むー!解ったっぽい~」
「それで山南元帥、今日は一体何の会議を?」
山南が森下や夕立と話し終えるのを待って、大和が山南に質問した。
「うむ、今日集まってもらったのは、神通の艤装に録画された、神崎さんの戦いを皆に観てもらおうと思ってな」
山南の言葉に全員がざわめいた。噂に聞く神崎洋介であるが、実際に彼の戦いを目の当たりにした事があるのは、神通と夕立と『統轄妖精さん』だけだったからだ。
神通は大本営の新人艦娘の教導艦でもある為、彼女の艤装には、妖精さんにより特別な記録装置が搭載されているのだ。
「オーっ♪それは興味あるな!今回あたし達が駆けつけた時には、神崎さんは既に力を使い果たした後だったからな!」
山南の言葉に摩耶が歓声を上げた。比叡や川内も興味津々の様子だ。そんな中で金剛が少し戸惑ったように口を開いた。
「私も神崎さんの戦いには大いに興味ありマース。でも…」
いつも元気な金剛のしおらしい姿に、山南が優しく声をかけた。
「金剛?思う事があったら遠慮なく発言して良いんだぞ」
「はい…やはりこういった事は先に神崎さん本人に許可をとるべきでは?」
金剛の言葉に一同は静かになった。金剛は自由奔放で天真爛漫な艦娘であるが、金剛型四姉妹の長女であり、かつて戦艦としてもかなり初期に建造された艦だけに、見た目とは裏腹に思慮深かった。
山南はそんな金剛に嬉しそうな目を向けると、全員に向き直り口を開いた。
「確かに金剛の言う通りだ、しかし…」
その場にいる全員の視線が山南に注がれる。
「実はな…私は神崎さんを提督としてスカウトするつもりなのだよ!!だから彼の事を少しでも知っておきたい…特に彼の超能力については知っておく必要がある!乱用させない為にもな…」
山南の言葉に、その場の全ての者が嬉しそうな笑顔を浮かべた。そして森下が納得した様子で言った。
「なるほど、神崎さんの性格だと超能力については自分から話そうとはしないでしょうね。ここに居る面々なら、むやみに他言はしないでしょうし…彼にとって自分に理解者がいる事はプラスですよ」
山南は森下のフォローに頷くと金剛に話しかけた。
「そういう事だ、金剛、解ってくれるか?」
「そういう事なら…私も神崎さんの戦いを観たいデース!!元帥早く観まショ~♪」
「あはは♪現金なヤツめ♪それでは神通頼めるか?ってどうした神通?」
「い、いえ…なんでもありません、了解しました…」
椅子から立ち上がった神通は、顔が上気しており、新しく新調された衣装から覗く手足は真っ赤であった!
「神通?さっき入渠したんだよな?その真っ赤になった手足はどうしたんだ?」
「あはは…入渠してたら朝潮さん達がやって来て、背中を流させて下さいって…私はいいって言ったんですけどね…」
苦笑いする神通。川内がニヤニヤしながら山南に入渠場での出来事を詳しく説明した。
「終いには、背中だけじゃなく全身くまなく洗われてたもんね♡ドリフのコント観てるようだったわ♪(笑)」
「ね、姉さんったら!!」
思わず顔を真っ赤にして川内に抗議する神通。華の二水戦旗艦であり、鬼教官とも呼ばれる神通の弱った姿に、一同から笑い声が上がった。
朝潮達は、神通に何かお返しがしたかったのだろう。神通はそんな朝潮達の気持ちが解ったからこそ、無下に断れなかったのだ。
「あー…何と言うか、神通、お疲れだったな」
「はい…なんだか因幡の白兎さんの気持ちが少し解るような気がします」
「ブフッ♪」
「ククッ♪」
非力な駆逐艦とはいえ、四人がかりで身体を全力でゴシゴシ洗われた今の神通は、確かに『因幡の白兎』状態と言えるかもしれなかった。川内と山南が堪えきれずに吹き出した(笑)
「もうっ!元帥までっ!!姉さんも後で覚えてらっしゃい!!」
「済まん済まん!それでは神通、椅子に座ったままでいいから説明を頼むよ」
「はい!それでは始めます。すみません大淀さん、照明とブラインドをお願いします」
「はい、解りました」
大淀が壁のスイッチを押すと、会議室の照明が落とされ、窓にはブラインドが下ろされた。
「これは私が洋介さん、いえ神崎さんに助けられた時の映像です…」
会議室のプロジェクターに写し出されたのは、神通が己の命を懸けて、若き駆逐艦達と鹿島を護った海…そして、洋介と初めて言葉を交わした想い出の海であった。
映像には神通が朝潮達を離脱させた後、空母ヲ級の艦載機によって激しい攻撃に晒されている場面が写し出されている。
カメラには時折、神通の持つ日本刀の白刃が写し出される…それはあの時の神通には弾薬も魚雷も残されていなかった事を示していた。
速力を頼みに空母ヲ級に白兵戦を仕掛ける神通、しかし艤装の動力部を撃ち抜かれて、みるみるうちに速度が低下していく…そして無情にも放たれる戦艦ル級の主砲と重巡リ級の魚雷…
“ここまでですか…みんな…無事に逃げるのですよ…“
神通の自らの死を覚悟した呟きが再生されると、その場に居る者全てが悲痛な表情を浮かべた。
艦娘とは戦士である。大本営のように艦娘の人権を重視している組織であろうとも、戦場では常に死と隣り合わせなのだ!
ーーーパシイィィ!!
その時、神通の目の前に青緑色の光の幕が突如出現して、止めに放たれた深海棲艦の攻撃を完璧に防ぎきった!!
“えっ?”
神通は驚いて周りを見渡したのだろう、映像が前後左右に激しく揺れている。そして上空を見上げた所で神通の動きが止まった。神通の視線の先には洋介が浮遊していた!その左腕の『守水輪』が青緑色に美しく輝いている!!
「うおおー!カッケーじゃんかよっ♪」
「凄い…本当に宙に浮いてる!」
摩耶と大淀が思わず感想を口にした。
”あ、あなたは?“
”艦娘よ……どうやら間に合ったみたいだな。神通と言ったな…?お前の覚悟…確かに見せてもらった!後は俺に任せろ!!“
“あの顔…どこかで?”
神通は自分の呟きに静かに微笑んだ。
(クスッ♪洋介さんが若返っていたから、あの時は目の前の人が、洋介さんとは気付かなかったんでしたね…)
洋介は静かに神通の前面に降り立ち、深海棲艦と対峙した!!
“『守水輪』よ!神通を引き続き守護せよ!絶対に死なせてはならん!!『龍水剣』展開!!”
洋介の言葉が放たれると同時に、神通の目の前の光の幕が輝きを増し、洋介の右手に握られた『龍水剣』の黒い刀身が強く深紅に輝いた!!
『龍水剣』を構えた洋介は、まるで爆発のような水しぶきを残して、戦艦ル級と重巡リ級に突撃した!
”なっ!?は、速いっ!!“
洋介は疾風の如き速さで、重巡リ級と戦艦ル級の間をすり抜ける!!次の瞬間、重巡リ級と戦艦ル級の胴体が真っ二つになり、黒いオーラを噴出しながら消滅した!!
さらに洋介は、残った二隻の空母ヲ級を鋭く見据えた。その手の『龍水剣』がブーメラン状に形態を変えている!
“行けッ!『斬光輪』よ!!”
洋介は神通に近い位置にいた空母ヲ級に『斬光輪』を投擲した!
ーーーキィィィィ…シュバッ!!
『斬光輪』は空母ヲ級を苦もなく真っ二つに両断した後、空中で旋回して、上空に残された空母ヲ級の艦載機を全てを殲滅した!!
洋介は戻ってきた『斬光輪』を『龍水剣』に戻すと前面に構えて最後の空母ヲ級に突進した!!
”あっ!!あの構え…あの突きは!!“
”うおおおおーー!!“
ーーーズシュッ!!
洋介の突きは空母ヲ級の眉間を貫いた!空母ヲ級は反応すら及ばず、驚いたような表情のまま消滅した!
洋介が四隻の深海棲艦を葬るのに要した時間は僅か数分…正に鬼神の如き無双ぶりである!!
”神通、大丈夫か?“
”あなただったのですね…あの時、私達は…グッ?“
その時、映像が激しくぶれた!神通が意識を失って水面に倒れたのだ!!
“おい!しっかりしろ!”
映像は何もない上空を写し出している。洋介が神通を抱き起こしているのだ。
(そうでした…あそこで私は意識を失って…洋介さんが応急措置を…応急措置?あッ!!)
神通は慌てて映像を止めようとしたが、間に合わなかった!
”不味い…出血が多いな…よしっ!“
映像が突然暗くなって、画面に洋介の頭がチラチラと写り混む…近すぎてハッキリ写ってはいないが、洋介が神通に口づけしているのが誰の目にも明らかであった!!
ーーーベキイッ!!
静かな会議室に大きな音が響いた!音のした方向を見ると、千景が顔をピクピクさせている!手には真っ二つにへし折られたボールペンがッ!!
「じ、神通ちゃん!こ、これはどういう事なのかしらぁ!?」
千景の顔は笑顔でありながらも、目が般若のようであった!!
「むー!神通さんずるいっぼいー!!」
夕立も千景に便乗して神通に詰め寄った!
「い、いえ、あれは違うんです~!!」
慌てて説明をしようとする神通であったが、更に場をややこしくする音が響く…
ーーーブハッ!!
「クッ…またしても…神崎さんやりますネ!」
「ウグッ…この摩耶さまを二度までも…」
「ヒッ、ヒェ~!!」
金剛と摩耶がまたもや鼻血を吹いてティッシュで鼻を押さえていた!今回は比叡まで(笑)
「やれやれ…意識のない神通に手を出すとはね…これはお仕置きしなくちゃ…姉として♪」
「ね、姉さんまで!!」
会議室はザワザワと収拾がつかなくなっていった!赤城や加賀は顔を真っ赤にし、大和と妙高と吹雪に至っては恥ずかしさで下を向いてしまっていた!!
「みんな、落ち着かんかッ!!」
痺れを切らした山南が全員を一喝した!流石に元帥の言葉は威厳があり、全員が落ち着きを取り戻した。
「『龍水剣』に『守水輪』か…凄まじい威力だ…!!深海棲艦四隻を数分足らずで殲滅するとは…神通、映像について解る限りでみんなに説明をしてくれるか?」
「はい、まず…神崎さんが私にキ、キスした事ですが、あれは私の出血を止めるのと、生命力を活性化させる為に、自分の血を私に分け与えたと言っておられました」
「神崎さんの血を?どうして?」
森下が神通に質問した。医師として洋介が神通に血を分け与えた行動の意味が解らなかったのだ。
「神崎さんによると、神崎さんの血を得た者は、一時的にですが、神崎さんに近い体質と回復力を得られるとの事です」
「そ、そんな事が可能なのか…!?」
「はい、私が神崎さんの住む山小屋に運び込まれた時には、既に出血は完全に止まっており、身体に撃ち込まれた弾丸も、筋肉の力で半分身体の外に押し出されていたそうです」
「信じがたいが…彼の言う事なら真実なのだろうね。一度詳しく調べてみたいものだ、なっ♪中野君?」
森下は頷くと、千景に視線を向けた。千景は少し罰が悪そうにしている。
「ま、まあ、治療なら仕方ないですね!治療ですもの!」
「あ、あはは…」
神通は苦笑いを浮かべると、説明を続けた。
「次に映像で観てもらった『守水輪』と『龍水剣』についてですが…」
「元帥のお言葉通りですが、本当に凄まじい威力ですね!」
少し興奮ぎみに大和が神通に話しかける。続いて赤城と加賀も感想を述べる。
「特にあの『斬光輪』は凄かったですね。あれだけの艦載機があっという間に…」
「空母としては複雑ですけどね…神崎さんが敵だったらと思うとゾッとします…」
「…あの『守水輪』と『龍水剣』は神崎さんが得た超能力とは別格の能力…『統轄妖精さん』によると《万物創造の力》により産み出された物です」
「神通、《万物創造の力》とは?」
山南が思わず口を開いた。
「はい、神崎さんは自分の心の中で想像した物を自在に創造出来るんです。それこそ武器でも防具でも!」
ーーーザワッ
神通の言葉は、会議室の全員に衝撃を与えた!望む物を自在に創造出来る能力…それは神の力にも等しいからだ。
「あの『守水輪』は神崎さん自身と神崎さんが護りたい対象を護る究極の盾であり、『龍水剣』は如何なる物をも切り裂く最強の剣です。用途に応じて自在に形状を変える事も出来ます!『斬光輪』のように。ですが…」
全員の目が神通に注がれる…神通は少し苦しそうに説明を続けた。
「この《万物創造の力》には問題がありまして…神崎さんの想像力が凄すぎて、産み出された武器や防具の力が桁外れなんです。それこそ創造主の神崎さんにも制御出来ない程の…」
「えっ?でもさっきは『龍水剣』を見事に使いこなしてたネ?」
金剛が首を傾げる。他の者もざわつき始めた。
「………」
「神通?どうしたの?顔色が悪いよ…」
川内が心配そうに神通に声をかけた。神通は迷っていた。香織や詩織の事を話しても良いものかと…
「神通ちゃん、洋介ちゃんはそんな事で怒らないよ~♪」
「えっ?でも…」
「大丈夫よ~♡」
神通の肩にはいつの間にか『統轄妖精さん』が座っていた。その顔はニコニコとしており、神通に安心を与えた。
「『統轄妖精さん』…わかりました」
神通は全員に向き直ると、深呼吸をして話し始めた。
「神崎さんが今の精神力レベルでは使いこなせないはずの『守水輪』と『龍水剣』を自在に扱えたのは…あの日、戦艦棲姫に殺された神崎さんの奥さんの香織さんの魂が『守水輪』に…娘さんの詩織さんの魂が『龍水剣』に…ずっと留まって制御してくれていたからなんです!!」
ーーーシーン…
神通の言葉に山南も森下も千景も艦娘達も絶句するしかなかった。なんという悲しい家族なのか…
「人は死んでも輪廻転生により次の時代に生まれ変わるのだそうです…無理に現世に留まり続けた香織さんと詩織さんの魂は消滅しかかっていました…『統轄妖精さん』から真実を聞かされた神崎さんは…『守水輪』と『龍水剣』が使えなくなるのを承知の上で、お二人の魂を解放したんです!!」
神通の目から涙がポロポロと零れ落ちた…『統轄妖精さん』は神通にハンカチを渡した。前に洋介から貰った香織のハンカチだ…
「泣かないで…神通ちゃん」
「グスッ…ありがとう…『統轄妖精さん』」
「そうか…よく話してくれた…神通」
山南は深く息を吐くと、辛い告白をした神通を労った。千景や艦娘達も啜り泣いていた。
「今の神崎さんは『守水輪』を単なる盾として、『龍水剣』を飛行能力を有する剣としてしか使えません…深海棲艦と戦うには超能力を攻撃に使うしかなくなったのです…危険を覚悟の上で…続きをご覧下さい…」
神通は静かにそう言うと、再び映像を再生した。スクリーンに写し出されたのは熊野灘沖の戦いだ。
場面は夕立を包囲した軽巡棲姫と戦艦レ級率いる六隻の深海棲艦に対して、神通が空中から攻撃を敢行した直後である。
“ふぅ…間に合ったようだな、それにしても神通…見事な腕前だ!!“
“神通ちゃんナーイス♡“
“そ、それほどでも…それにしても洋介さんの読み通りでした。あれは軽巡棲姫と戦艦レ級です!軽巡棲姫は洋介さんの敵ではありませんが、戦艦レ級は戦艦でありながら雷撃や航空戦力を有する強敵です!気を付けてください!!“
“よし、まずは夕立の救出だ!夕立、聞こえるか?重巡リ級が沈んで包囲網が緩んだ今がチャンスだ!全速力で包囲網から抜け出せ!!“
“わ、わかったっぽい!!”
洋介の言葉に、全速力で包囲網からの脱出を試みる夕立。阻止せんと戦艦タ級と重巡リ級が回り込もうとするが、上空にいる洋介達からは見え見えの行動であった。
洋介は安全高度から神通と『統轄妖精さん』を夕立に可能な限り近い海面に着水させると、素早く戦艦タ級と重巡リ級の行く手を遮った!
”邪魔はさせんぞ!!“
洋介は懐からゴルフボール位の大きさの虹色に輝く五つの球体を取り出した!!
”サイコキネシス全開!!…行けっ!!『金剛玉』よ!!“
洋介の掌から勢い良く発射された『金剛玉』は、夜空を縦横無尽に駆け巡り、前後左右から戦艦タ級と重巡リ級に襲い掛かった!!
ーーーバゴッ!!ドゴッ!!ドガッ!!
『金剛』は虹色の光を放ちながら、凄まじい速さで戦艦タ級と重巡リ級を何度も貫いた!!反応する事すら出来ずに、一瞬のうちに身体を穴だらけにされた戦艦タ級と重巡リ級は、断末魔の声をあげる間もなく、黒いオーラを吹き出しながら消滅した!!
”今です、夕立さん!“
”はいっぽいぃ~!!“
神通は素早く夕立の元に移動すると、夕立を抱き寄せて保護した。
“よし!戻れ『金剛玉』よ!!”
洋介に操られた五つの『金剛玉』は、神通と夕立の所へ素早く移動して、まるで二人を守護するが如く周回し続ける。
そこで金剛から歓声が上がった。
「オー!ビューティフルね!!『金剛玉』って名前がまたいいネ~♡」
はしゃぐ金剛の姿に、その場の全員が思わず苦笑いを浮かべた。それを見て比叡が慌てて姉のフォローに回る。
「こ、金剛お姉さま!はしゃぎ過ぎですよ!」
「あっ!つい…皆さんソーリーね…」
シュンと気落ちする金剛に、山南が優しく声をかけた。
「あはは、気にする事はない金剛、それにしても『金剛玉』か…神通よ?これは神崎さんが創造した新しい武器なのかな?」
山南の質問に、神通は映像を一旦停止して答えた。
「はい、あの『金剛玉』は神崎さんが『龍水剣』と『守水輪』の代わりにと、攻防一体の武器として作ったものです。ただし《万物創造の力》により産み出された武器ではないので、『金剛玉』自体に意志や超常の力は無く、神崎さんのサイコキネシスで操らなければなりませんが…」
「でもそれなら、あの『金剛玉』はどうして深海棲艦相手に通用したのでしょう?通常の兵器なんですよね?」
妙高が素朴な疑問を口にした。神通は説明を続けた。
「あの『金剛玉』は神崎さんが、大きな岩石をサイコキネシスで空中に浮かべて、更に別のサイコキネシスで360度全方向から均等に極限まで超圧縮して作ったものです。その名の通りダイヤモンドなのですが…神崎さんによると、限りなく真球に近い球体である為に、自然に産み出されたダイヤモンドより硬度で勝り、高速で撃ち出してもブレる事無く敵に直進するのだそうです」
「でもよぉ?硬いだけじゃ深海棲艦に通用する理由にはならないんじゃないか?」
不思議そうに言う摩耶。他の者も首を傾げている。そんな中で赤城が自分の考えを口にした。
「皆さん、かつて神崎さんが超常の力を得る前でありながら、戦艦棲姫に鉄パイプによる突きで深手を与えたのをお忘れですか?」
全員がハッとなり赤城を見る。赤城はニッコリ笑うと神通に話しかけた。
「そういう事ですよね?神通さん?」
「はい、それは恐らく神崎さん本人にも分からないんじゃないかと思います。それでは続けますね」
神通はそう言うと映像を再生させた。スクリーンには、洋介が軽巡棲姫達と対峙している状況が写し出された。
”ナ、ナンダ今ノ武器ハ…人間ノ兵器ガ我々ニ通用スルハズガナイノニ!貴様ハナンダ!?”
怒りを露に洋介を睨み付ける軽巡棲姫。洋介は軽巡棲姫達に言い放つ!!
”深海棲艦共よ…俺は神崎洋介だ!軽巡棲姫に戦艦レ級に空母ヲ級…今夜ここで俺に出会った不運を呪うがいい!!“
”神崎洋介?アノ空母棲姫ヲ倒シタ神崎洋介カ?“
”……クックッ♪“
”…ヲ、ヲッ!!“
驚愕する軽巡棲姫、不適に笑う戦艦レ級、無表情に洋介を見据える空母ヲ級…三隻から不気味なオーラが立ち登る!!
”行くぞ、深海棲艦共よ!!“
今にも三隻の深海棲艦に挑みかからんとする洋介の勇姿に、皆は身体を乗り出して興奮して画面に釘付けになっていた!だが映像はそこで突然止まってしまった!
「えええー!なんでぇ!?」
「一番いいところなのにィ!!どうしたのさぁ!神通!?」
燃える展開の直前だっただけに、艦娘達からブーイングが上がった!吹雪と川内は特に不満そうである(笑)
「あれ?少し調子が悪いみたいですね…『統轄妖精さん』ちょっと見てもらえますか?」
「はーい♪わかった~♡」
ニコニコしながらプロジェクターに近寄る『統轄妖精さん』に神通はこっそり耳打ちした。
《あの…私と軽巡棲姫の戦いの部分を飛ばしてもらえますか?》
『統轄妖精さん』はそれだけで神通の真意を汲み取りニコッと笑った。
《うん♪解ってるよ、神通ちゃん♡》
実は神通はわざと映像を止めたのだ。何故なら次に写っているのは自分と軽巡棲姫との戦いだったからだ。
敵である深海棲艦の中に艦娘から転生した者がいる。この事実が公になれば、心優しい艦娘の中には深海棲艦と戦えなくなる者が出るかもしれないと神通は危惧したのだ。
神通は『統轄妖精さん』にプロジェクターの調整を任せている間に、この先の展開について説明した。
「この後の展開についてですが、私は敵の数を減らす為に軽巡棲姫を誘い出して個別撃破しました。夜間であり戦艦レ級も空母ヲ級も航空戦力は使えないので、神崎さんの実力なら一人でも問題ないと思ったのです…しかし私の判断は甘かったのです!!」
神通は悔しそうな表情を浮かべ、拳を握りしめている!周りの艦娘達にも緊張が走る!!
「戦艦レ級と空母ヲ級は夜間であるにもかかわらず、無数の艦載機を発艦させて神崎さんと夕立ちゃんに襲いかかったのです!!私が軽巡棲姫を倒して急いで戻った時に見た光景は…地獄のようでした…」
その時、タイミングを見計らって『統轄妖精さん』が神通に声をかけた。
「神通ちゃん、プロジェクター直ったよ!神通ちゃんと軽巡棲姫との戦いは残念ながら消えてたけどね」
「ありがとうございました。私の戦いは今日の主旨とは関係ありませんから大丈夫ですよ。それでは私が神崎さんと合流したところからご覧下さい」
神通は『統轄妖精さん』にアイコンタクトで礼をすると映像を再生させた。
スクリーンには空母ヲ級と共に業火に包まれた洋介の姿が写し出された!!
“お待たせしました洋介さん!!あっ、ああっ!!“
流石の神通も驚愕を隠せないようで、慌てて夕立の元に駆け寄ろうとするも、およそ冷静な航行ではなく、艤装のカメラが激しく上下に揺れている。
“神通ちゃん!早く洋介ちゃんを止めないと!!“
“洋介さんが燃え尽きちゃうっぽい!!”
泣き叫ぶ『統轄妖精さん』と夕立の声を受けて、神通は洋介の元に駆け寄ろうとしたが、驚いたように動きを止めた。
映像を見ていた一同も理解が追い付いていないようである。そこで神通は映像を中断した。
「神通、何故あそこで動きを止めたんだ?それに神崎さんのあの姿は…?」
一同の疑問を代表するように、山南が神通に質問した。
「はい、まずあの炎についてですが、私は軽巡棲姫と戦闘中でしたので…夕立ちゃん、解る限りで良いので説明してもらえますか?」
「ぽいぃっ!?わ、解ったっぽい~!!」
突然に話を振られた夕立は驚いたようであったが、直ぐに気持ちを切り替えて神通の横に立った。
「えーと…神通さんが居なくなってから、洋介さんは《金剛玉》の半分を私と『統轄妖精さん』の防御に振り分けて、残りの半分で戦艦レ級と空母ヲ級を攻撃してたっぽい…でも」
「そ、それで?」
川内が喰い気味に夕立に説明を催促するも、即座に神通に制止されて慌てて口を押さえる。
「空母ヲ級がまだ夜なのに無数の艦載機を発艦させてきたっぽい!!洋介さんは攻撃を断念して、全部の《金剛玉》を使って防御の陣を敷いたんだけど…その時、深海棲艦の増援が迫っているのを感知したらしいっぽい!!」
「………ゴクリ」
全員が固唾を呑んで夕立を見つめる。
「私と『統轄妖精さん』は神通さんと合流して撤退するよう具申したっぽい!洋介さんは撤退するには戦艦レ級と空母ヲ級を倒すしかない。俺が空母ヲ級を倒すから、戦艦レ級を可能な限り遠くから威嚇して足止めして欲しいって…危険だが頑張れるか?って」
「ちょっと待ってくれ?先ず倒すべきは戦艦レ級だろう?神崎さん焦ったのか?」
摩耶が思わず漏らした発言に、加賀が静かに摩耶に反論した。
「いいえ摩耶、映像を観れば解るように、敵艦載機の大半は空母ヲ級から発艦されているわ。確かに火力では戦艦レ級が圧倒的だけど、空母ヲ級を倒せば敵航空戦力の大半が驚異ではなくなる…司令塔を失った艦載機など恐れるに足らずよ!」
「ふっ…流石は加賀さんですね!見事な見解です!」
赤城が同意とばかりにウンウンと頷いた。それを見て摩耶も納得したようであった。
「成る程なぁ…おっと夕立、話の腰を折ってごめんな!続けてくれよ!」
「解ったっぽい!洋介さんは凄い速さで空母ヲ級に接近して一気に組み付くと、目を瞑って叫んだっぽい!!」
部屋の中は静寂に包まれた。洋介が超能力者である事は知れ渡っていたものの、映像と夕立の証言により、改めてそれが真実であると実感させられたのだ。
「空母ヲ級は苦し紛れに残りの艦載機を発艦させようとしたけど、洋介さんは空母ヲ級の艦載機発進口を押さえつけて阻止したっぽい!そこに神通さんが戻って来て…」
「そうでしたか…夕立ちゃんありがとう。解りやすい説明でしたよ」
「えへへ…朝飯前っぽい!!」
神通は一通り話終えた夕立を労った。夕立は照れくさそうに笑顔を浮かべた。
「ふぅ…《超炎》か…何とも恐ろしい技だな!」
額の汗をハンカチで拭いつつ率直な感想を口にする山南。森下と千景も頷いた。
「発火能力(パイロキネシス)は知られてはいますが…桁外れですよ…あれは!」
「それにしても、洋介さん自身の身体は燃えたりしないのかしら?服が燃えてないから大丈夫なんでしょうけど…怖い」
一同は暫くの間、思い思いの感想を言い合っていたが、神通が頃合いを見計らって声を上げた。
「それでは続きを見てもらいますね。あっ、私が神崎さんの所に駆け寄ろうとして立ち止まったのは、神崎さんが私達にテレパシー能力で直接語りかけて来たからなんです」
「テレパシーって?あの映画とかでよく見るやつかな?」
川内の問いに神通は無言で頷いた。
「テレパシーの内容は、自分が合図したら空母ヲ級の頭部の艦載機発進口に主砲をピンポイントで撃ち込めと言うものでした。ここから神崎さんの鬼神の如き戦いが展開されました…それではどうぞ」
神通は中断した所から映像を再生した。
ーーーゴオオオオー!!!
洋介から吹き上げる炎は次第に変化し、赤から青みがかって、温度が一万度近くまで上昇している事を示している!!
空母ヲ級の身体は生体故に崩壊と再生を繰り返すが、艦載機発進口の中の艦載機と艦載機に積まれた爆弾は、空母ヲ級の体内で保護されながらも、強烈な炎に熱せられ続けて爆発寸前となっていた!洋介の狙いはここにあった!!
"今だ!撃て神通!!夕立!!"
叫ぶが早いか、素早く空母ヲ級から離脱する洋介!!
"はいっ!!"
"喰らえーっ!!"
神通と夕立の乾坤一擲の砲撃は空母ヲ級の艦載機発進口に見事命中!!爆発寸前まで熱せられた艦載機の爆弾に引火して空母ヲ級を木っ端微塵に爆散させた!!
ーーードッガーーン!!!!!!
"洋介さん!やったっぽい~!!"
"凄い…これを狙っていたのですね!!あっ!!"
歓喜の表情を洋介に向ける夕立と『統括妖精さん』の様子が神通の艤装のカメラに映る。しかし空母ヲ級を撃破した洋介は、空母ヲ級から離脱した勢いで戦艦レ級に突進していた!!最初から洋介の狙いは空母ヲ級と戦艦レ級を一気に葬る事だった!!
"だ、ダメだよ~!!洋介ちゃん止めて~!!"
"洋介さん!私に任せて下がってくださいぃ~!!"
『統轄妖精さん』と神通の悲痛な叫びが海原に響く…もちろんそれは洋介にも届いていたのだろう…
あの時は爆音と波の音にかき消されて、神通達に届かなかった洋介の呟きが、高性能マイクにしっかり録音されていた…
"神通…『統轄妖精さん』…夕立…香織…詩織…ごめんな…"
「洋介さん…」
「ぽいぃ…洋介さん…」
「ぐすっ…洋介ちゃん…」
洋介の呟きに神通、夕立、『統括妖精さん』の顔が切なそうに歪む…山南や森下、千景や艦娘達の表情も苦しそうである…
洋介は戦艦レ級の艦載機の攻撃を速力で強引に突破して肉薄した!
戦艦レ級は苦し紛れに身体を捻って尻尾による攻撃を繰り出すが、洋介は戦艦レ級の尻尾を跳躍でかわすと戦艦レ級の首筋を両手で掴んだ!!
"ハアアアアアーーーーー!!!!!!!"
洋介は息を大きく吸い込み呼吸を止めた!!その身体から立ち昇る青白いオーラが眩い黄金色に変わっていく!!
"うおおおおおおおおおーーーーー!!!!!!!"
"グアアアアアアアアアーーーーー!!!!!!!"
洋介の《エネルギー龍撃波》による超振動に晒された戦艦レ級の身体が前後左右に激しく揺れる!
戦艦レ級も《エネルギー龍擊波》の前には無力であった…反撃らしい反撃も出来ないまま、弱々しい悲鳴を残して戦艦レ級は黒いオーラを残して消滅した。
深海棲艦の中でも上位種の戦艦レ級があっけなく倒される様子に、その場の全員が戦慄を覚えずにはいられなかった。
"ハアハアハアハアハアハア……"
その場に踞る洋介!そんな洋介に慌てて駆け寄る神通と『統轄妖精さん』そして夕立!
"よ、洋介さん!無茶をしてッ!!"
"洋介さん…だ、大丈夫っぽい!?"
洋介は頭を下げ、踞ったまま左手を上げて駆け寄ってくる神通と夕立を制した!
"じ…神通、ゆ、夕立…上空に残った敵の艦載機を殲滅せよ…敵の増援が来る前にこの海域を離脱する…"
"で、でも…"
躊躇する神通達に洋介は顔を上げて一喝した!!
"何をしている!神通!夕立!急ぐんだ!!"
神通を厳しい視線で見据える洋介の顔は、まるで老人のような顔になっていた…顔中に深い皺が刻まれ、髪の毛も白髪混じりとなり、とても洋介とは思えない程の変貌であった…
これには既に一度見たはずの神通達は勿論、部屋にいる全員が言葉を失った。
"あっ…ああっ…グスッ…"
"よ、洋介ちゃん…超能力の反動がこんなに酷いなんて…グスッ"
"洋介さん…私を助けに来てくれたばっかりに…グスッ"
戦場にもかかわらず涙を流す三人。そんな三人に向けられた洋介の微笑は限りなく優しかった…
"大丈夫だよ…お前達を残して俺は死なん!さあ…突破口を開いてくれ"
"はいっ!行きますよ、夕立さん!!"
"はい!神通さんっ!!"
神通と夕立は洋介に背を向けると上空に向けて全力で対空射撃を敢行した!
満身創痍の二人の何処にこれだけの力が残されていたのか…まるでイージス・トーチカを彷彿とさせる猛烈な対空射撃に、戦艦レ級と空母ヲ級の残した艦載機はあっけなく全てが撃破された!!
"や、やりました!洋介さん!!"
"どうだ!見たかっぽーいっ!!"
神通と夕立が笑顔で洋介を振り返ると、海面に仰向けに横たわる洋介は不思議な青白いオーラに包まれていた。オーラの中で老化した顔や白髪混じりになっていた髪の毛がゆっくりと元の洋介に戻っていく…
"洋介さんが元に戻っていく…良かった…"
神通は泣きながら洋介を抱き起こした。やがて神通の腕の中で洋介は目を覚ました。
"神通…『統轄妖精さん』…夕立…良くやった…"
"洋介ちゃん…心配かけちゃダメじゃない…"
"洋介さん…ありがとうっぽい♪"
"三人とも…心配かけて…ごめんな…さあ…帰ろう…俺達の…山小屋に…"
"はいっ!"
神通はまだ動けない洋介を抱えて立ち上がろうとした。その時夕立の絶望の呟きが響いた…
"そ、空に…無数の敵の艦載機が…"
空を覆い尽くすかのような敵機群に、洋介と神通と『統轄妖精さん』は愕然とした…
洋介には超能力を使う精神力も体力も残されてはおらず…神通も夕立も全ての武器を使い切っていたのだ!
"神通…『統轄妖精さん』…夕立…最後まで諦めるな!!"
洋介は神通達を鼓舞すると、最後の力を振り絞って立ち上がり『金剛玉』を浮遊させた!
"俺が『金剛玉』を放つと同時に…お前達は全速力で逃げるんだ!!"
命を賭けて、残された生命の全てを燃やして、神通達を逃がそうとする洋介。だが、三人は静かに首を横に振った…
"ふふっ…そういうと思いました♡"
"ね~♡"
"洋介さん…カッコつけすぎっぽい♡"
三人は幸せそうな微笑みを浮かべて洋介にしがみついた。それは《死んでも絶対にこの手は離さない》という悲しくも純烈な意思表示に他ならなかった…
"ふふ…お前達…ごめんなぁ…俺にもっと、もっと力があればなぁ…"
"ふふっ…神通はずっとあなたと一緒です♡"
"私もだよ~♡"
"あー♪夕立だけ仲間外れはダメっぽい~♡"
"よしよし♪さて…最後に一花咲かせるかっ!?"
"はいっ♪"
洋介達は四人全員で上空を見上げた!全員晴れやかな笑顔であった…だが、その時は神通も『統轄妖精さん』も夕立も気付かなかったが、静かに神通と夕立の背中に回された洋介の手が鮮やかな緑色に輝き始めていた!
「あっ?あの光の波長は!?」
一緒にモニターを見ていた『統轄妖精さん』が思わず叫んだ。その時モニターでは間一髪で間に合った金剛と比叡の三式弾が敵艦載機を撃破する様子が写し出されていた。
「?…とりあえずここからは皆さんもご存知の通りですので、モニターを止めますが…『統轄妖精さん』どうしました?」
神通は不思議そうな顔で『統轄妖精さん』を見つめた。夕立も山南達も神妙な表情で『統轄妖精さん』の言葉を待った。やがて『統轄妖精さん』は言いにくそうに話し始めた。
「う、うん…あの最後の緑色の光…洋介ちゃんは恐らくは最後の力で、私達を空間転移で別の場所へ飛ばして助けようとしたんだよ…」
「空間転移って…テレポートみたいなものでしょうか?」
「うん…洋介ちゃんは空間転移は転移先の座標がしっかりイメージ出来ないと難しいから、実戦で使った事はないって言ってたんだけど…ね」
『統轄妖精さん』の言葉に、神通と夕立は表情を暗くして項垂れた。自分達は洋介にとって護られるだけの存在なのかと思うと、言い様のない寂しさに襲われたのだ。
あの時、神通と夕立は洋介と共に死ぬ事を自然に受け入れていた。恐怖は全く感じなかった。むしろ、これ程の男と共に死ねるのかと、高揚感すら感じていたのだ…
そんな二人の肩に山南は優しく手を置いた。
「神通、夕立も気を落とすな、神崎さんはお前達を信頼してなかった訳じゃないと思うよ」
「………?」
「二人とも、神崎さんが奥さんと娘さんを目の前で戦艦棲姫に殺されたのを忘れたのか?」
「あっ!!」
ハッとして山南を見る神通と夕立、山南は静かに微笑むと続けた。
「あの最後の瞬間…神崎さんには、お前達と亡くなった奥さんと娘さんとがダブって見えたんじゃないかな?例えそれで恨まれても家族の為に、子供の為に…父親とはそういうものなんだよ…」
山南にも妻と息子がいる。だからこそ洋介の気持ちが解るのだ。そんな彼の言葉は神通と夕立と『統轄妖精さん』の心に素直に響いた。
「そうですね、私達がもっと強くなればきっと…いつまでも娘扱いは不本意ですから♡」
「そうっぽい~♡」
「そうだね♪山南ちゃんの言うとおりだね♪」
山南の言葉に笑顔を取り戻す神通達三人。部屋の空気が和んだところで、艦娘達はそれぞれに感想を言い合っていた。
「それにしても《エネルギー龍撃波》かよ!あの戦艦レ級が粉だぜ!粉!!」
「でも超能力って使いすぎると…ああなるのね…両刃の剣とは良く言ったものね」
「やはり私達がしっかりしないと…神崎さんは私達を護る為なら、無茶をするお人のようですしね…」
「でも行動隊長的な立場で一緒に海に出てもらえるだけでも心強いですよ!」
「ふふふ…私のバーニング・ラブが燃えてきたデース!今は神通ちゃん達に遅れをとってますが…逆襲あるのみデース!!」
「ちょっ!金剛お姉さま~!?」
「うーん…神崎さんは定期的に強制人間ドック確定だな…中野君はどう思う?あれ?中野君どこ行ったんだろ?」
ーーーーーーーーーー
艦娘達が盛り上がる中で、千景はこっそりと部屋を抜け出して洗面所にいた。
「はあぁ…神崎さんに初めて会った時から惹かれてて…やっと少し勇気を出せたと思ったのにぃ…神通ちゃんや夕立ちゃんに完全に遅れをとってるじゃない…もうっ!」
千景はがっくりと鏡の前で項垂れた…その時である!
『やれやれ…それでウジウジと諦めて引いちゃうんですか?』
千景の頭に何者かの声が響いた。
「えっ?えっ?誰っ?」
キョロキョロと辺りを見渡す千景。しかし声の主は何処にもいない…
『はぁ…小さい頃から肝心な時になるといつもこの娘は…全くダメダメですねぇ』
「えっと…もしかして幽霊さん…ですかぁ!?キャー!!と、憑りつかないでぇ~!!」
真っ青な顔をして洗面所を飛び出す千景。勢い余ってベチャっと転倒しながらも、慌てて会議室に逃げ去っていった!
気持ちが動転した千景は、洗面所の鏡に朱色の弓道着姿で弓を持った優しい顔の女性が映っていたのに気付かなかった…
『うふふ…もうすぐ会えますよ♪千景ちゃん…もう一人の私♡』
ーーーーーーーーーー
「ハッ!ハァハァ…!!」
「中野君…一体何処に行ってたんだ?」
「せ、洗面所に幽霊が~!!」
慌てて会議室に入ってきた千景であるが、さっきまでの和やかな雰囲気とは違っていた。
「幽霊?昼間から夢でも見たのかい?とにかく落ち着いて席に戻って」
「ほ、本当なのにぃ…」
森下に窘められて、千景は渋々、罰悪そうに席についた。
会議室では山南が夕立に今回の経緯を質問していたのだ。
「夕立、最初からゆっくり話してくれるかな?君は何処の鎮守府の所属で、どうして一人であの海域にいたのかを」
「は、はいっ!夕立は鳴海慎一提督が指揮する『弥山(みせん)警備府』から来たっぽい!」
「何?『弥山警備府』だと?」
夕立の口から出た『弥山警備府』とは東北の三陸海岸沖150kmの位置にある無人島を改造して作られた前線基地である。提督の鳴海慎一は山南の教え子で森下の先輩にあたり、半年前から着任していた。
「ほぅ!君は鳴海君の所の艦娘だったのか!それで彼は息災かね?」
「へぇ!鳴海先輩の所から…先輩は厳しくも優しい方だから、きっと素晴らしい警備府なのだろうね」
山南と森下は顔を見合わせて微笑んだ。そんな二人に夕立の顔色が変わった!!
「…何が素晴らしいもんかっ!あの人は戦艦や空母しか頭にない人!!軽巡洋艦や駆逐艦なんて弾除け位にしか思ってない人っぽいッ!!」
「ば、バカなっ!?」
「先輩に限ってそんなはずは!?」
「うっ…うわあぁぁーーーーーん!!!」
夕立はこれまで我慢してきたものがプッツリ切れてしまったように号泣した…
山南、森下、そして神通達は、人目も憚らず泣きじゃくる夕立を見ながら、一様に言葉を無くすのだった…
ここまでお付き合いありがとうございました!
私的にはシリアスは日常よりも書きやすいのですが…ラブコメ要素が絡むと照れますね(笑)
少しでも感想を聞かせて頂ければ、励みになりますのでコメントお待ちしておりますねっ、ねっ(笑)
>アルティさん早速の評価と応援ありがとうございました~♪
ちょっとハードな作品になりそうですが頑張りますね!
それにしても…呉鎮守府の小島と比べて神崎が不憫でならない(笑)
こんにちはぴぃすうさん!
洋介…強キャラの予感!
能力については元ネタとかあるのかな?
>アルティさんこんにちは♪
いつも応援ありがとうです♪
洋介の能力は、横山光輝先生の「バビル2世」を参考にしています。いわゆる『サイキック・ソルジャー』ですね。
そして、洋介の防具である『守水輪』と後に登場する武器は、洋介本来の能力ではありません。洋介に近しい人物の化身という設定です。こちらは安西信行先生の「烈火の炎」の紅麗の能力がモチーフです。
強大な能力を身に付けたが、決して無敵ではないし弱点もある…そんな人間臭いダークヒーローを描きたいのですがねぇ(笑)
「最近更新されたSS一覧」に、この作品が表示されてるから喜んで
「再読み込み」しても文章が追加されていないことが多いのですが…
>頭が高いオジギ草さんこんにちは。
私の作品を楽しみにして下さり、ありがとうございます!
更新されているのに文字数が増えない件ですが、時々、少しでも読みやすくする為に、句読点や段落の構成を修正しているからだと思います。
紛らわしくて申し訳ありませんが、お許し下さい。
これからも応援よろしくお願いします。
>ぴぃすう様
ありがとうございます。
了解しました。
時節柄、ご自愛ください。
ぴぃすうさん、お疲れ様です
ある程度シリアスよりなお話はジックリと読ませて貰わないとどうしてもね……逆に批判とか注意が無いから間違ってはいないと思います
じゃないとpv数も伸びませんし……あんまり言うとぴぃすうさんの世界観も壊しそうなので
と言う訳(?)で気長にお待ちしております
ぴぃすうさんが小説を書いてる事にたった今気が付きました!(遅
諸刃の刃の切り札をどう活用していくか、今後の展開に期待ですな……!
更新頑張ってください、応援してます‼︎
>?????さんこんちゃ~♪
そうですね♪批判や注意が無いのを好評価と信じて続行してみますね!!
遅くなりましたが、ありがとーなのです♪(笑)
>りぷりぷさんこんちゃです♪
わぁー♪評価に応援にコメントまで、ありがとうございました~(^o^)/
あはは、自信作なら自分からアピールしたのですが、なにぶん初心者マークですので…後から読み直して要修正が多いこと多いこと(笑)
これからも自分なりに頑張りますのでよろしくなのです~♪
いっぱいちゅき(語彙力)
>ネコさんばんちゃ~♪
あはは♪ありがとーなのです♡(笑)
これからも応援よろしく~(^o^)/
このSSは、戦隊のオープニングを聞きながら読むと結構ぶわぁってボルテージが上がりますねw
>DELTA ONEさんおは~♪
なるほど!戦隊のオープニングは燃えますわなぁ!!
私的には初期の骨太なやつが好きですね♪ジャッカーとかデンジマンとか(笑)
ちょっと古すぎますかね?(笑)
いえ!普通にゴレンジャーから現在まで聞いてるのでジャッカー電撃隊も電子戦隊デンジマンも知ってます(๑•̀ㅂ•́)و✧
ちなみに個人的オススメは超獣戦隊ライブマンのオープニングです。
主人公が助けに到着したり、復活した瞬間にライブマンのオープニングを流すとボルテージ上がりますよww
>DELTA ONEさんこんちゃ~♪
なるほど!「君には聞こえないのか…♪」ってやつですね!確かに胸熱!!(笑)
嶋大輔さんカッコ良かったですもんね~(^o^)/
自分はライブマンまだ1話と2話しか見てないんですが、面白いですよね!
初め3人で途中から2人追加して5人になるというハリケンジャーやゲキレンジャーやゴーオンジャーのスタイルの先駆けで
DELTA ONEさんおはです♪
ライブマンお気に入りなら、OVA「百獣戦隊ガオレンジャーVSスーパー戦隊」をオススメ♪
レッドファルコン活躍しますよ!…ただ他に問答無用のレジェンドが一人出演してますので、嶋大輔さんと言えども次第に空気となっていきますが…(笑)
自分も見ましたよ!!
ジャッカー電撃隊のビッグワンにゴーゴーファイブのゴーイエロー、ギンガマンのギンガブルーそしてメガレンジャーのメガピンク!!
戦士の心を失った4人を助けるために、歴代の先輩達が現れる所や、最後の歴代レッド&ビークルが登場する所は圧巻ですね!
こんにちはぴぃすうさん!
お久しぶりでふ!
洋介がんばれ!
相変わらず文章をつくるのが上手くて恐れ入ります
>DELTA ONEさんばんちゃ♪
やっぱり過去のヒーロー達がゲスト出演するのはたまりませんね!!
ライダーや戦隊はレジェンドにリスペクトが高いので安心して観てられますし♪
昭和ウルトラは好きなんですが、過去のヒーローが出演したらアッサリやられる事が多かったですからね…(特にAやタロウ)
私は昭和ウルトラで死亡フラグってのを学びました(笑)
>アルティさんばんちゃ&おひさっ♪
あはは…まだまだ文章はアルティさんや先達の皆さんには程遠いですよ(^_^;)アセアセ
でも…中盤で洋介と香織&詩織との別れを絶対に入れたかったので、今回少しだけホッとしてます(笑)
これからの洋介にご期待くださいっ!!
ですね!特に東映のヒーロー対戦映画とか嬉しいですよね!!
確かにウルトラマンは、初代、セブン、ジャック、ゾフィーそして平成ウルトラマンですね
>DELTA ONEさんおはよーです♪
あはは…レオは昭和ウルトラとして認めてあげましょう(笑)
あの子は色んな意味で不憫な子なんです~!!
怪獣に負ける→セブンの強烈なダメ出し→理不尽かつ不条理な特訓→リターンマッチで勝つ!!(しかも大抵が特訓意味無し)
…こんなのがテンプレじゃ、子供受け悪くて当然なんですぅ!!(笑)
まぁウルトラマンは、兄弟と言うより親子や師弟の絆の作品ですからね〜
(セブンの弟子にはなりたくない)
>DELTA ONEさんおは~♪
そうですね!セブンの弟子にはなりたくありませんね…レオ時代のモロボシダンは頭のネジがぶっ飛んでますわ!(笑)
まあそんなセブンに鍛えられたレオだけに、彼の弟子であるゼロも中々に不憫でしたね(笑)
まぁお陰でヤンキーながらに小さな命も救う良いヒーローになりましたからね〜
>DELTA ONEさんばんちゃ♪
そうですね♪毎度ピグモンちゃんが良い味出してますねっ(笑)
ゼロといえば…以前にタクシー乗務中に絡んできた酔っぱらいを制圧した際に、「2万年早いぜ!!」って言ってやった事があります!
超気持ちよかったァ~♪(笑)
おはようです!
洋介と神通が引っ付くとは…
予想を超えまくってさらに続きがみたくなっちまったっす!
>アルティさんおはー♪
あはは♪引っ付けちゃいました~♡
元々、洋介と誰かを引っ付ける予定でしたが…神通好きなので(笑)
これからの二人に応援よろです~(^o^)/
セリフの重みが違いますよw
>DELTA ONEさんばんちゃ♪
あっはっは♪ですよね~(笑)
こんばんわんこ!
どうもぴぃすうさん!
洋介の力がどんどん増していく…
そのうち全ての深海棲艦をデコピン一発でぶっ飛ばすぐらい強くなるのでは…
毎度のこと続きが楽しみです!
更新待ってますぜ!
アルティさんおは~♪
いつもコメントありがとーです(^o^)/
あはは、デコピンまではいかなくても…洋介無双カウント5秒前ってとこですかね?(笑)
もう暫くお待ちを~m(^_^)mペコッ
こんにちは、ぴぃすうさん!!
すごく面白いです!!
更新待ってます!!
>ねむさんばんちゃ♪
評価に応援にコメントに…わーお!オススメまで感謝感激ですっ(*>∀<*)キャッホー
次回は洋介が大暴れする予定ですので、更新までお待ちくださいね!
これからも頑張りますので、応援よろでーす(^o^)/
ヒャッハー!こんばんこ!っです!
いよいよ洋介の本気が見れる時が来たのか…
夕立は必ず助け出すように頑張ってもらいたい…!
おー続きが気になルゥ!
>アルティさんばんちゃ♪
本当は今日の更新で決戦突入させるつもりでしたが…バックボーンをきっちり描きたかったので…あはは(汗)
夕立ちゃんの運命も含めて…次回を力んでお待ちあれ~( ̄▽ ̄)ウッシッシ
こんにちは。初めてこの作品を見させていただきました。すごく胸熱な展開でまるでテレビでも見てるかのような感覚を覚えました。自分はアルティさんのファンでもあるのですが、ほかの作品も見てみたところ、ぴぃすうさんのファンにもなりました。ありがとうございます。
更新待ってます
>39さん、こんばんはです。
こちらこそ、私の作品にコメントとオススメを頂きありがとうございました!
私もアルティさんの作品は大好きでファンですよ♪
アルティさんのような壮大な冒険活劇は私にはまだまだ無理ですが…自分なりに頑張りますので、これからも応援よろしくお願いしますね~♪
こんにちは!!
おおおー!!夕立救出!しかも精鋭艦娘達が救援に!
心が燃え上がりますよ!
洋介もモテますねぇ
>アルティさんこんちゃ♪
あはは、洋介は見た目は青年ですが…実年齢は51歳ですからね♪
若い見た目に大人の余裕…そりゃモテるでしょーねぇ💢(笑)
今回はバトルでしたので、書いていて私も燃えました!喜んでもらえたなら幸いです( ̄▽ ̄)キリッ
こんにちは
失礼を承知でどうしても聞きたいことがあるのですが、アルティさんのところのリセイさん、アレクさん、エイジさん、ジンさん、リアさんと
洋介さんとではどちらがお強い感じですか?
もしお答えが難しいなら、このコメントを削除しても全然構いません。
失礼なことを書き込んで申し訳ないです。
どうしても気になってしまい、質問させていただきました。
>43さんこんにちは♪
あはは(^o^)嬉しい質問ですな♪(笑)
まあリセイ達は次元を飛び越える程のチートキャラですからね…勝てるとしたら野菜に似た名前の戦闘民族くらいでしょうね(笑)
ただ、『守水輪』と『龍水剣』が使える状態の洋介なら、超能力を全てサポートに回せるので、勝てないまでも良い勝負にはなるんじゃないかな…?
うーん…考えるとワクワクすっぞ!!(笑)
皆さんこんばんは♪ぴぃすうです(^o^)
>ムーキーさん、評価と応援にオススメまでありがとうございました!!
私の他の作品にも評価と応援を頂き、感謝感激ですっ♪
>ふぐ提督さん、評価ありがとうございました!!
その他にも応援と評価を下さった皆さんありがとうございました!!
これからも頑張りますね~♪
こんにちはー!
金剛と摩耶のウブい一面に吹きましたw
洋介がさまざまな仲間たちに囲まれているところを見るとこちらも微笑ましく思えます!
一つ提案があるのですが、このSSに主題歌とエンディングをつけてみてはいかがでしょうか?
OP:NARUTO「Diver」NICO Touches the Walls
ED:ドラマ怪物くん「Monster」嵐
もしも気に入らなければ遠慮なく蹴ってください!(汗)
更新待ってます!
>アルティさんこんちは~♪
オー♪OPとED頂きました~\(^o^)/
ついでに…洋介が『龍水剣』で一騎討ちで戦うシーンは宇宙刑事シャリバンの《レーザーブレードのテーマ》を是非!!(笑)
あはは♪金剛さんや摩耶さんは多分ウブいんじゃないかとと思いまして~(笑)
金剛の「奔放だけど思慮深い」性格付けイイですねぇ。
ストンと腑に落ちました。
神通、ムいちゃいました!は面白かったw
>頭が高いオジギ草さんこんちゃです♪
暖かいコメントありがとうございました♪
あはは♪神通さんは暫くの間ヒリヒリ生活でしょうね(笑)
金剛さんについては、僕のイメージでは元々こんな感じです。
ただ、私の別作品では榛名共々、完全にアホの子になってしまったので…名誉挽回の意味合いもあったりするのですけどね(笑)
お久しぶりです
ついに洋介が提督になる時が…
艦娘達にとって洋介が指揮する立場に就けば、これほど頼もしい事はないでしょう!
>アルティさんばんちゃ♪
はい、やっと着任が見えてきました(汗)
洋介ですから、提督として鎮守府で指揮するだけでなく、行動隊長的に動き回ると思います。
とりあえず…文字数が足りなくなりそうで…其の弐を思案中です(笑)
お久しぶりです!
僕もようやく更新準備に入れました。
いよいよ物語も終盤?ですね!
燃えてきます!
>アルティさんばんちゃ~♪
あははは…我ながら筆が遅くて参っちゃいますわ(汗)
まだ決めかねている要素が幾つかありまして…盛り込むか否か悩ましい所ですwww
とりあえず可能な限り急ぎ目で頑張りますので、引き続き応援よろしくです~!!
更新ありがとうございます。
やはり「お父さん」なんですねぇ…しんみりしました。
ただの発情ナースと思っていた千景さんの秘密や
夕立の鎮守府の問題が元帥を含めた人間関係も絡んできて
今後の展開が楽しみです。
>頭が高いオジギ草さんこんばんは♪そしてお待たせしました~!!(笑)
今回も暖かいコメントありがとうございました!
そうですね、洋介の本質はやはり父親なんだと思います。
まあ、神通を初めとする周りの艦娘がそれで納得してくれるとは思いませんけど…ね(笑)
あはは♪発情ナースと言うか残念ナースの千景さんは今後のキーパーソンの一人です♪
その正体は…既に御察しだと思いますが、全ての空母の母と呼ばれるあの方です(笑)
これからも頑張りますので応援よろしくお願いしますね~♡
待ってたぜぇー!ぴぃすうさん!
やはり夕立にはブラックなもの達が潜んでいたか!
千景さんに語りかけてたこらいったい何翔さんなんだ…
これからも更新待ってます!
>アルティさんこんちゃ&おまちどーさま!!(笑)
ふふふ…千景さん=○翔さん…キャラ紹介に思い切りヒント上げちゃいましたわーい( ̄▽ ̄)ニヤリ
これで洋介の最強の布陣が完成します!
陸の神通、海の夕立、空の○翔…いわゆる『三つのしもべ』ですな♡
とりあえず次回の夕立の覚醒をお楽しみに~(^o^)/ブイッ!