美波・奏「二人だけの、秘密の夜明け」 Pt.1
デア・アウローラ主演。テーマは「救済」。Secret Daybreakが好きすぎて日菜子ばりに妄想が炸裂しました。前編です。
“ほら、夜明けはまだ、二人だけのもの”
出演
新田美波 速水奏
Inspired by “Secret Daybreak” by Dea Aurora
[ Day1 ]
「ねえ、美波ちゃんはこれ、どう思う?」
美波「えっ? 何のこと?」
「これこれ」
【NA○A突然の声明 「巨大隕石の接近により、地球が滅びる可能性ある」】
美波「地球が、滅びる……」
美波「ど、どういうこと?」
「うーん……私も昼休みにSNSで見たばっかりだから、あんまりよくわかってないんだけど」
「地球に、大きな隕石が迫って来てるんだって。本当は地球に当たらない軌道で回っていた星が、道を逸れて向かってきてる……とか」
美波「何だか海外の映画みたいな話だね」
「そうそう。あんまり突拍子すぎるから、まだ信じている人も少ないみたい。私もウソかなあって思うんだけど」
「美波ちゃんはどう?」
美波「……うーん」
美波「私もあんまり信じられないかなあ。ほら、少し前にもあったよね。ノストラダムスの大予言、だっけ」
美波「あんな風に、話を仰々しくしているだけなんじゃないかなあ」
「そうだよねー。まさか滅びるなんて、そんなことにはならないよね。映画じゃあるまいし」
「っていうか今滅びられたら困るよ。私たちまだ就職も結婚もしてないんだよー?」
<お待たせ致しました。季節のフルーツパフェでございます
「あ、きたきた」
美波「わあ、おいしそう! じゃあさっそく……」
「「いただきます!」」
………………………………………………
美波「ただいま」ガチャ
父「……美波、ちょっとこっちに来なさい」
美波「……なに?」
ピラ
美波「これは……新卒募集のお知らせ?」
父「父さんの古い知り合いが働いている会社だ。信頼できる会社だから、ぜひ一度受けてみなさい」
父「福利厚生もしっかりしているし、女性も多く活躍している。離職率も業界内ではトップクラスに低い。選ばない手はないと思うがね」
美波「そうなんだ」
美波(でも……営業職、か)
美波「…………」
父「あまり乗り気じゃなさそうだな」ハァ
父「美波。興味がない、なんて言葉で自分の未来を狭めるのはよしなさい。父さんは美波の将来を思って提案しているんだ」
美波「……うん」
父「ちゃんと受けてくるんだぞ。結果がどうだったか、また伝えてくれ」
父「じゃ、父さん朝早いからもう寝るよ。明日は学校休みなんだろ? なら洗濯とゴミ捨て、よろしくな」スタスタ
美波「……」
自室
生放送主『じゃ、一曲歌いまーす。『アナタのIDOLになりたくて』!』
〜〜〜〜〜♪
美波「……」
美波「いいなあ、サザナミちゃんは。好きな歌を好きなように歌えて、それだけでお金ももらってるなんて」
美波「……好きなこと、かあ」パタリ
美波(いつからだろう。私は人生の目標というものを、持ったことがなかった)
美波(自分の好きなことがわからない。何に興味を惹かれるのかもわからない。だから、本当の意味で満たされる体験をしたことは、ただの一度もなかった)
美波(私の人生は、空っぽだ)
[ Day2 ]
夜
美波(今日は就活のセミナーだった。界隈ではかなり有名らしい講師の人が登壇して、自信満々に就活のいろはを語っていた)
美波(何を話していたかは、覚えていない。耳を傾けてはいたけれど、ほとんどの言葉は泡のようにパチンと弾けて、跡形もなく記憶から抜け落ちてしまっていた)
美波(……私の就活への意識の低さがそうさせたのかもしれないけど)
美波(講義は来週もあるらしい。来週までの宿題として、私は一枚のレジュメを配られていた)
美波「……はあ、疲れた」
ポチッ
サザナミちゃん『みんな、一日お疲れ様ー! こんな時だからこそ、元気になれる曲、歌いまーす! 『You can do it!』』
美波「……」ポケーッ
美波「そうだ、宿題やらなきゃ」ガサゴソ
美波「えっと……何これ。『これまでの人生を振り返って、あなたという人物をあなた自身で解釈してみて下さい』?」
美波「……これまでの人生……」
美波(私は半分思考停止している頭で、自分の過去を顧みてみることにした)
………………………………………………
美波(小学校の時)
美波(勉強もそこそこできて、友達もそれなりにいた。どんな子だったかと聞かれても……どこにでもいる、普通の子どもだった、としか言えない)
美波(転機が訪れたのは、中学校の頃)
美波(興味本位で生徒会に入った。そして、学内で揉め事が起きないよう監査する風紀委員……みたいな役割に就いた。それが裏目に出た)
美波(当時の私は正義感が強かった。だから私の存在は、同年代の生徒からしたら目の上のたんこぶ、自由を侵害する邪魔な鎖でしかなかったんだろう)
美波(小学校の時に仲良くしていた子も次第に離れていき、気づけば私は、周囲から孤立してしまっていた)
美波(私は生徒会の一員として、正しいことをしているはずだった。なのに、どうしてこんなに寂しい思いをしなきゃならないの?)
美波(私は、人に嫌われることの悲しさや辛さを覚えた。そして二度とあんな思いはするまいと、自身に誓った)
美波(だから高校時代はなるべく目立たないよう過ごした。自分を押し殺して、他人の目ばかり気にして、どうにか友達の輪から外されないよう必死だった)
美波(そうして生きていたら、いつの間にか自分を見失って、私は何がしたかったのか、どんどんわからなくなっていった)
美波(……だめだ。順繰りに記憶を辿ってみたけれど、悪い思い出ばかり蘇ってくる……)
美波「……ううーん……これは後回しにしよう」
美波「次は……『今の大学を選んだ理由』と『事務職を選んだ理由』、かあ」
美波(そういえば高校も大学も、パパやママから勧められた進路をそのまま選んできた。何となく、その方が安心感があったから)
美波(事務職を第一志望にして就活していることだって、どうしてと理由を聞かれたら……何となく、としか言えない)
美波(だって、OLといえばデスクワークをしながら会議の資料をまとめたり、お茶を出したり……そういうものだと思う、から)
美波(これも何となく、な想像でしかないけど)
美波(だから営業職には少し抵抗があった。でも昨日パパから受け取ったチラシは、まだ捨てきれずに机の上に寝かされている)
美波(いつからだろう。私は自分を表現することができなくなってしまった。先生や友達、家族にすらも、本心を打ち明けることができなくなった)
美波(私の主張が間違っていると思われるのが、怖いから。それで誰かに嫌われるのは、もっと怖いから)
美波(だから私は、『何となく』という言葉を言い訳に、みんなが選んでいそうな道のりを、『何となく』進んできた)
美波(その方が私に合っている気がしていたから)
美波(……きっと、そんな適当な考えで生きてきたから、今こうして立ち往生しているんだろう)
美波「……どれも、書けない……」
サザナミちゃん『みんなスパチャありがとー! じゃあもう一曲いくねー。『私らしい歩幅で』!』
美波(……私らしい……)
美波(自分らしさ。なんて曖昧な言葉だろうか。みんな、どこでそれを見つけてくるのだろう)
美波「……今日はもう寝よう」パタリ
美波「……」
美波(自分は何がしたいんだろう。自分らしさって何だろう。何が私を満たしてくれるんだろう)
美波(私はこのままずっと、何となく生きていくのかな)
美波(他人の目に怯えながら、自分の人生を、自分で選んでいないような感覚で、生きていくのかな)
[ Day3 ]
美波(……朝か……)
ガラッ
美波「……ん? 置き手紙?」
美波「パパの字だ」
『美波へ。父さんと母さんは会社に向かうことになった。帰りは遅くなるので、昼と夜は適当に何か買って食べてくれ』
『帰ったら家族会議を行うので、起きて待っているように』
美波「休日出勤……それに家族会議?」
美波「何かあったのかな……テレビ、見てみよう」ポチッ
『繰り返します。速報です。先ほど発生した史上最大規模の噴火により、ハワイ全土は大混乱に陥っています』
美波「えっ……?」
『一斉に同じ方角へ駆け出していくサバンナの動物たちを捉えた映像がこちらです』
美波「こっちの番組も……何、これ……!?」
『当局によれば、大規模な隕石の接近により、地球全体の活動が活性化しているとのことです。その影響により、今後数日にかけて世界各地に『天変地異』と呼ぶべき災害が複数発生する恐れがあります』
『普通、地球上に落ちてくる隕石は大気圏で燃え尽きてしまうのですが、今迫っている隕石は……』
『そ、そんな!? じゃあ我々はいったいどうなるんですか!?』
『隕石に向けて爆弾を載せたシャトルを打ち上げれば――』
『あんなもんフィクションだろ! 夢を見るのも大概にしろ!!』
『陰謀論ダ! ○○が古代の魔術で隕石を地球に呼び寄せたんダー!』
美波(……目が覚めたら、世界に異変が起きていた)
美波(火山の噴火や動物たちの大移動。これは地球が滅びる前触れなんじゃないか――どのチャンネルを点けても、どのSNSを開いても、そんな話題ばかりが飛び込んできた)
『ねえ、美波ちゃんはこれ、どう思う?』
美波(……あのニュースを訝しんでいた二日前の夕方が嘘みたい。世界全体が、大騒ぎになっている)
美波「……あのニュース、本当だったのかな。本当に、地球が滅びちゃうのかな」
美波「○○ちゃん、いま何してるんだろう……メッセージ、送った方がいいかな」
美波「……いや、やっぱりいいや」
美波(正直、○○ちゃんともすごく仲が良いわけではない。一昨日カフェに行ったのも、向こうから誘われて、私もたまたま暇だったから)
美波(そう……あれも、何となく。○○ちゃんにメッセージを送らないのも、何となく。仲良くしているのも、何となく)
美波(……世界が大変なことになっているのに、私は結局、いつもと変わらない時間を過ごしている)
美波(……今日、何しようかな)
………………………………………………
アリアトヤシタァー
ウィーン
美波(……お昼ご飯と晩ご飯、一緒に買っておけばよかった。二回もコンビニに行く羽目になっちゃった)
「よお、姉ちゃん」
美波「……?」
美波(派手なアクセサリーを身につけた二人の男性が、ふてぶてしい態度でこちらに向かってきた。そして馴れ馴れしく話しかけてきた)
美波「……どなたでしょうか」
チャラ男A「姉ちゃん、いま一人?」
美波「……はい」
チャラ男A「ふーん。カレシとかいんの?」
美波「いえ、いませんが」
チャラ男A「あっそう」
チャラ男B「いた方がよかっただろ。お前そういうプレイ好きじゃん」
チャラ男A「うるせえ。じゃーさ、ちょっとオレたちと遊ばない?」
美波「……」
美波(こんな柄の悪い人たち、今まで見たことあったかな)
美波(いや、初めて見る。今までここのコンビニ前にはいなかった人たちだ)
チャラ男B「ねーいいんじゃんかよー。どうせもうすぐ姉ちゃんもオレらも死ぬんだしさ」
美波「……死ぬ? それってあのニュースのことですか」
チャラ男A「そーそー。あれマジっぽいし。だから姉ちゃんもしけた面してないでさ、最後くらいパーっと花開いて生きようや」
チャラ男B「何それ、花ってそっちの花のこと?」
ギャハハハハハ
美波(……最後くらい、か)
美波(それもいいのかもしれない。本当に地球が滅亡して、みんないなくなってしまうなら、今さら何をしたって)
美波(きっと彼らもそんな心持ちなんだろう)
美波(……どうせ何をしたって、私は空っぽだ)
美波「……いいでs」
「ちょっと待ってよ」
美波「??」
チャラ男A「……んん? なんだお前」
?「あなたたちの相手なら、私がしてあげるわ」
チャラ男B「はぁ?」
?「そんな化粧っ気のない女より、私の方があなたたちを楽しませられる自信あるわよ?」
チャラ男B「……ほー」
?「それにカレシもいるし。どう、私を選ぶ気になった?」
チャラ男A「ははっ! アンタもヤケになった身か。いいぜ、似たもん同士、今夜は熱くなろうじゃねえか」
美波「ちょ、ちょっと……!?」
キッ
美波「……!」
美波(その時、私は咄嗟に背を向けて駆け出していた)
美波(彼女の鋭い目には、私を軽蔑するような感情は一切なくて、代わりに、)
美波(今のうちに早く逃げなさい、とだけ伝えていたから)
美波(背中から、おい待て、と叫び声が聴こえたけど、私はただ全力で走った)
サザナミ『た、大変なことになっちゃったけど……こんな時だからこそ、歌いますっ! こんな時だからこそ、見てくれてるみんなを元気にしたいから! 聴いてください――』
[ Day4 ]
『現在、○○県では高潮警報が発令されております。海岸線に近づくのは非常に危険です』
『□□大学の教授によれば、現在世界全体において大規模な地殻変動が発生しているとのことです。これにより、間もなく断続的な地震が発生すると懸念されます』
『あの有名女優が突然の告白! 大富豪プロモーターとの蜜月の日々を吐露、ファン阿鼻叫喚』
『大御所俳優△△、実は反社組織の最高幹部だった。週刊誌でも見抜けなかった特大ゴシップがここに』
美波(……不穏なニュースが昨日からずっと続いている。いや、昨日以上にひどくなってきている)
美波(ネットの中も、異常なほどの無法地帯になってしまった。芸能人のスキャンダルニュースとか、政治家の汚職問題とか……本当かウソかわからない情報が無差別に飛び交っている)
美波「……」
美波(私は昨日の少女のことが気がかりだった)
美波(コンビニの前で、私を助けてくれた女の子……どうして私を助けてくれたんだろう)
美波(明らかに私より年下だったし、たった一人で、虚勢とも見て取られそうな態度を貫いていた。あの子は、何者なんだろう)
美波(あの後、どうなったんだろう……)
ピロリンッ
美波(……大学も休講になった。無理もない)
美波(なるべく人に会って、この不安を共有したかったんだけど)
美波(いや、そんなことをしても、結局は満足した気がするだけ。上辺だけで済ませるくらいなら、いっそ止めておいた方がいいのかも)
美波(ということは、今日もまた家に一人、か)
美波(……コンビニ、行かないと。次あの男の人たちに会ったら、全力疾走で逃げられるようにしておこう)
アリアトヤシタァー
ウィーン
美波(……よかった、今日は誰もいないみたい)
美波「……!!」
?「あら、偶然ね」
美波「あなたは……昨日の」
?「ここのコンビニ、よく利用しているのね。何となく、ここに来たらまたあなたに会えるんじゃないかって思っていたの」
?「ね、美波」
美波「えっ……?」
美波「どうして、私の名前を知っているんですか? 私は、あなたとは面識がありませんけど……」
?「……あら、そう」
?「ああそうだ、私の名前を教えていなかったわね。奏よ」
美波「奏さん……」
美波(かなで。聞いたことのない名前だ。どこかで会った覚えもない)
美波「あの、昨日はありがとうございました。でもどうして私を助けてくれたんですか……?」
奏「人を助けるのに理由なんていらないわ。それより美波。突然だけどお願いがあるの」
美波「お願い?」
奏「ええ。あなたも知っているわよね。近々、世界が滅びるかもしれないってニュースが報道されていること」
奏「あれはきっと真実よ」
美波「え……!?」
奏「もう少しでみんなこの世から消える。今さら足掻いても手遅れ。どうせ何も残らない。なら……」
奏「私と一緒に、夜の向こうまで逃げてみない?」
ガタンゴトン ガタンゴトン
美波「……あの、奏さん」
奏「なに?」
美波「この電車に乗って、どこへ向かうんですか?」
奏「空港よ」
美波「……えっ?」
奏「だけどその先はまだ秘密」
奏「ああ、後戻りはなしよ。どうせなら、行けるところまで行ってやりましょう。お互いにもう失うものはないんだし」
美波(……空港だとは思わなかった。ということは今日は家に帰れない。両親にどう説明しよう……)
奏「それに、心配しなくてもお金なら有り余っているわ。ほら」
美波「わっ、すごい数のお札……お金持ちなんですね」
美波「って、もしかして、このお金って……!?」
奏「ふふっ。美波ったら、何を想像したのかしら?」
美波「で、でも、昨日だって……!」
奏「あれはハッタリよ。あの後うまくコンビニに逃げ込んで、脅されたって体で通報してもらったわ。こう、か弱い女の子のふりをしてね」
奏「私はそんなに安い女じゃないもの。残念だったわね、予想が外れて」
美波「ま、まあとにかく、うまく逃げられたんですね……ほっ」
奏「このお金は両親のものよ」
美波「――じゃないです、りょ、両親?」
奏「ええ、財布から有るだけ抜き取ってきたわ。ついでにクレジットカードも」
美波「そ、それじゃあ……」
奏「ふふっ。今頃二人とも、顔を真っ赤にして家出娘を探しているでしょうね」
『まもなく、――駅。――駅』
奏「美波、飛行機は大丈夫よね? 酔い止めとか、買わなくても大丈夫?」
美波「は、はい」
奏「そう、ならここからは空の旅といきましょうか」
『悲報 人気放送主・サザナミちゃん、同棲していた』
『悲報 サザナミさん、ヤケになった彼氏のせいであられもない姿を晒されるwww』
ピロリンッ
(サザナミちゃんさんがツイートしました)
『ごめんなさい、今日の生放送はお休みさせていただきます。』
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読んでいただきありがとうございました。後編もよろしくお願いします。
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