雪乃「奉仕部が順調すぎてつらい」
ご都合主義の嵐に晒されるゆきのんです。
1年次
職員室
雪乃「――という訳で奉仕部の顧問になって頂けませんか」
平塚「ふむ、いいだろう。正規の部活ではないし、そこまで負担もないだろうしな」
雪乃「ありがとうございます」
平塚「部室は特別棟の端のを使うといい。それで、私は悩める生徒がいたら奉仕部を勧めれば良いのかな?」
雪乃「重ねて感謝致します。はい、あまり大っぴらにはしないで結構ですが」
平塚「了解した。では、励むように」
雪乃「失礼します」ガララ
雪乃(奉仕部。悩みを抱える生徒へ、解決の手助けをする部活)
雪乃(飢えた者に魚を渡すのではなく、魚の獲り方を教えるように……)
雪乃(人は平等ではない。けれど、上の者が下の者を虐げるのも、下の者が上の者の足を引っ張るのも許せない)
雪乃(そんな世界を変えたくて部活を作ろうとしたけれど、まさか一言の反対もなく事が進むとはね)
雪乃「順調だわ」
* * *
部室
雪乃(今日からここが奉仕部の部室。空き教室と聞いていたけど、意外と綺麗ね)
雪乃(これなら掃除も必要なさそうだし、椅子を出して本でも読んでいようかしらね)
雪乃「よいしょ、と」カタン
雪乃「私か平塚先生が奉仕部を必要とする生徒を見つけるまでの当面は、ひたすら待つしかないし……」ゴソゴソ
雪乃「ふう……」ペラ
男子生徒「失礼します!」ガララッ
雪乃「!?」
男子生徒「平塚先生に、悩みがあるならここへ相談してみろと言われて来てみたのですが……」
雪乃「そ、そう。ここは奉仕部。悩みの解決の手助けをする部活よ」
雪乃(平塚先生、仕事が早いわね……。いえ、それだけ生徒の事を良く見ているのかしら)
男子生徒「それで、相談なんですけど――――」
*
*
*
雪乃「――と、いう風にしてみるのはいかがかしら」
男子生徒「なるほど、盲点でした!」
雪乃「盲点と言うより、正攻法すぎて無意識に選択肢から外していたってところかしらね」
男子生徒「確かに……でも、なんとかなりそうです! 相談してよかった、ありがとうございました!」キラキラ
雪乃「ええ、頑張ってください」
男子生徒「はい! 失礼します!」キラキラ
雪乃「ふう、突然で驚いてしまったけれど、奉仕部の理念に基づいたアドバイスができたわね」
雪乃(この調子で行けば、いつか……世界とは言わずとも、学校内の環境くらいは変えられるかしら)
雪乃「ふふ、順調ね」ペラ
女子生徒「失礼します!」ガララ
雪乃「!?」
*
*
*
雪乃「――というのはどうかしら」
女子生徒「そうですね……そのやり方で頑張ってみます!」キラキラ
女子生徒「ありがとうございました!」キラキラ
雪乃「平塚先生、いったいどうやったらこんなにも早く悩む生徒を見つけられるのかしら……」
雪乃「いっその事その方法を聞いた方が早いのかもしれないわね」
男子生徒2「失礼します!」ガララ
雪乃「……はい」
その後も数人の生徒が現れたが、雪ノ下の助言により皆晴れ晴れとした表情で部室を後にした。
雪乃「今日はこの辺で帰りましょうか……」
雪乃(まさか初日からこんなにも人が来るとは思わなかったわ)
雪乃(平塚先生の観察眼はどうなっているのかしら。というより、この学校は大丈夫なのかしら?)
――――――――――
2年次
奉仕部部室
雪乃(2年生になってしばらく経つけれど、相変わらず依頼人はひっきりなし。今では平塚先生からの紹介ではなく、口コミで広まって連日大盛況)
雪乃(そして世界は変わらなかったけど、私を取り巻く環境は変わった……例えて言えば、高嶺の花からクラスの名誉会長みたいな扱いに……)
雪乃(ものすごく気を使われているのよね。学級委員も最終的な判断を仰ぎに来るし)
雪乃(でも相変わらずともだ――いえ、それは関係ないわね)フゥ
雪乃「順調……よね」
平塚「失礼するよ」ガララ
雪乃「平塚先生、なにか?」
平塚「ああ、コイツをな」クイッ
八幡「……うす」ペコ
雪乃「彼が次の依頼人ですか?」
平塚「ああ、いや、こいつは極度の捻くれ者でな、目と根性が腐っていて、そのせいで孤独体質なんだが、それを解消するまで奉仕部の部員にしようかと思ってな」
八幡「いや、俺は……」
平塚「拒否権はない」ギロ
八幡「……っす」
雪乃「分かりました、そういう事でしたら」
平塚「おお、引き受けてくれるか」
雪乃「ええ、先生がわざわざ連れてくるのでしたら、それなりに時間がかかりそうなのでしょう?」
平塚「ああ、こればかりは雪ノ下でも手こずるかもしれんな。よろしく頼むよ」
雪乃「ええ、承りました」
平塚「では失礼する」ガララ
八幡「……あー、その……」
雪乃「どうぞ、座って?」カタン
八幡「あ、す、すまん」
雪乃「いいのよ。それで、まずは自己紹介から始めましょうか。私は2-Jの雪ノ下雪乃、よろしく」
八幡「2-Fの比企谷八幡だ。よろしくするつもりはなかったんだが……」
雪乃「あら、そうなの?」
八幡「ああ。別に俺はぼっちをやめたいとは思ってない。むしろ望んでぼっちしてるまである」
雪乃「ふうん、それにしては――」ズイ
八幡(!? ちち、近い近いヤバイなんかいい匂いする近い!)
雪乃「目が腐ってるわね」
八幡「よ、よく言われるよ。気持ち悪いとk――」
雪乃「可哀想に……」
八幡「へぁ?」
雪乃「きっと見たくもないものばかりを見せつけられてきたのでしょう……」
八幡(この目を真正面から見て、嫌悪以外の感情を向けられたのは初めてだ……いや、だからどうという訳では)
雪乃「でも大丈夫よ。ここは奉仕部で、貴方はその部員になった。これからは一緒に、この世界を変えていきましょう」ニコ
八幡「」ズギューン
雪乃「ようこそ奉仕部へ。歓迎するわ」スッ
八幡(あ、握手!? そんな爽やかかつ相手が女子な嬉し恥ずかしイベントは俺にはハードルが高い!)
八幡「あぇあ、そそのよよよろすくっす」プルプル
雪乃「……フフフッ」クスクス
八幡(今すぐ帰って布団にもぐりてえええええ!!)
雪乃「比企谷くん、あなた女子と会話するのは何年ぶりかしら?」
八幡「は? ……そういや1年以上くらいかもな……」
雪乃「そう、それなら、久しぶりに話した女子が私みたいに可愛かったら、動揺するのも無理はないわね」フッ
八幡「自分で言うか普通……変な女」
雪乃「!!」
八幡(やべ、なんか地雷だったか?)アセ
八幡「いや、つまりその……」
雪乃「―――いいわ」ボソ
八幡「へ?」
雪乃「あなたすごく良いわ!」キラキラ
八幡「なああ何がでしょうか!?」ビク
雪乃「その捻くれた返答よ! 口答えと言い換えてもいいわ」
八幡「なんでそんなもんで喜ぶんだよ……」
雪乃「私がこの部活を始めてから、いろいろな人の相談に乗って、アドバイスしてきたのだけれど」
雪乃「ただの一人も反論せずに、その通りにして期待通りの成果を得たの」
八幡「いいことじゃねえか」
雪乃「そのせいか、クラスメイトはおろか、多学年、果ては先生方まで私の意見が全て正しいみたいに扱われるのよ」
八幡「あー……」
雪乃「実際に私は間違っていると思ったことは言わないから変な事にはならないのだけど、一つの意見も持たないというのは現状に甘んじる愚かな行為よ」
八幡「別にいいじゃねえか甘んじてたって。変化の全てが良い変化とは限らないだろ」
雪乃「!! ダメよ、変革を恐れては前に進めないもの」キラキラ
八幡「(嬉しそうだな……)それでも、正しいやつ、強いやつに引っ張られるのは楽なんだろうよ」
雪乃「楽ばかりしていたら身体も、精神もだらけてしまうわ」キラキラ
八幡「いいだろ楽をしたって。機械とかコンピュータの進歩だって、人が楽をするためだろ?」
雪乃「なるほどね!そういう考え方もあるのね!流石は比企谷くん、捻くれてるわね!」キラキラ
八幡「褒めてんのか貶してんのかわかんねえよ(やりづらい……)」
雪乃「褒めてはいないけれど、貶してもいないわ」
八幡「さいですか……」
八幡「ところで、奉仕部だとか、依頼人ってキーワードから何をする部活かってのは大体分かったが、一応説明してもらえるか?」
雪乃「あ、そういえばまだ部活動の説明はしてなかったわね」
~~~
説明中
~~~
雪乃「という訳よ」
八幡「……なるほどね。それで、俺は何をすればいいんだ?」
雪乃「そうね、私が依頼人にアドバイスをするから、比企谷くんは比企谷くんの目線から気づいた事を言ってくれればいいわ」
八幡「りょーかい。んで、依頼人が来るまでどうすれば?」
雪乃「……さあ?」
八幡「さあ、って」
雪乃「依頼人が来ない事の方が珍しかったから、時間を潰した事が無いのよ」
八幡(マジかよ……想像以上にハードそうなんだが。働きたくないでござる……)
コンコン
雪乃「噂をすれば……ね」ドウゾ
八幡「本当に来たよ……」ゲンナリ
女子生徒「失礼します……」ガラ
雪乃「ようこそ、奉仕部へ。どうぞ座って」
女子生徒「はい……」スッ
八幡(憂鬱そうな面持ちだ。結構深刻な悩みなのか?)
雪乃「それで、どういった依頼でここへ?」
女子生徒「はい……それなんですけど、他言無用でお願いできますか?」
雪乃「もちろんです。依頼人のプライバシーは守ります。貴方もいいわね?」
八幡「ああ」コクリ
女子生徒「ありがとうございます……」
女子生徒「実はこの前、自転車に乗っているときに、車にぶつかってしまって」
女子生徒「スピードもそんなに出てなかったからケガも、車にもタイヤの跡くらいしか傷がつかなかったんですけど」
女子生徒「入れ墨を入れた怖い人が車から降りて来て……」
雪乃「……」
八幡(マジかコレ)
女子生徒「頭を打ったとか……グス……特注品の車だから直すのにすごいお金がかかるって……」
女子生徒「学生証も取られて、家にも電話がかかってくるようになって……警察に言ったら家族もタダじゃ済まないって……」
女子生徒「私……ヒック……どうすればいいのか……誰にも相談できなくって……」シクシク
雪乃「……なるほどね」
八幡(おっもおおおおおお!! 重すぎでしょ! 事案どころか完全に事件だよ!! 高校生の部活に相談するような事じゃないでしょ!!)
八幡(こんなん一学生にどうしろって言うんだよ!!アドバイスどうこうじゃどうにもならないよ!!)
八幡「お、おい雪ノ下……」
雪乃「分かりました」
八幡「えっ」
女子生徒「本当……ですか?」ウルウル
雪乃「ええ。私の父の会社に、顧問弁護士がいるのだけれど、その人に荒事専門の有能な弁護士を紹介してもらうわ」
女子生徒「で、でも、誰にも言うなって言われてて……」
雪乃「大丈夫よ、専門って言ったでしょう?絶対に悪いようにはならないから」
女子生徒「本当に……本当に大丈夫ですか?」
雪乃「安心して。それと、今日からしばらく登下校は私と一緒に車で行きましょう。もし家に電話や手紙などが来たら、証拠となるから出来るだけ録音、保存しておいて」
女子生徒「うう……ありがとう、ありがとうございます雪ノ下さん……私、怖くって……でもっ誰にも頼れなくって、どうしようって……!」グスッグスッ
雪乃「今まで辛かったわね、もう何も怖がらなくていいわ」ナデナデ
女子生徒「うわあああぁぁぁん!!」ギュー
雪乃「……」ナデナデ
八幡(……)
雪乃「では、ご両親にも連絡しておいて。帰る時間になったら貴女に電話します」
女子生徒「はい! 雪ノ下さん、本当にありがとう! この恩は一生忘れないから!」タタッ
雪乃「ふう……。どうだったかしら、奉仕部の活動は? 今回のは事が事だけにアドバイスではなかったけれど」
八幡「――っげぇ」
雪乃「え?」
八幡「すっげぇよ雪ノ下!」キラキラ
雪乃「」
八幡「俺なんて聞いてる途中からこんなの無理だ、って諦めてたのに、あんなに冷静で的確に答えを出して依頼人の安全と安心を確保するなんて!」キラキラ
雪乃「ひ、比企谷くん、目が、目が輝いているわ!」
八幡「あんなの見せられて腐ってなんかいられないぜ!すげえカッコよかった!俺もお前みたいになりたい!」キラキラ
雪乃「」
平塚「やってるかねー」ガララ
雪乃「ひ、平塚先生」
八幡「先生、俺を奉仕部に入れてくれてありがとうございます!」キラキラ
平塚「おお!? もう更生させたというのか! 流石は雪ノ下だなあ」
雪乃「え、ええ、まあ」
八幡「先生、俺も誰かの為になる事をしたいんですけど、折り入って相談が」キラキラ
平塚「ん? なんだね」
八幡「はい。実はクラスメイトに、こんな俺にも話しかけてくれる奴がいるんですけど、そいつがテニス部で苦労してるみたいなんです」
平塚「ほう、なるほど。それで?」
八幡「テニス部に入って、そいつの力になってやりたいんです! 俺には雪ノ下みたいに誰も彼も救うなんて出来ないけど、まずはアイツから助けてやりたいんです!」キラキラ
平塚「フッ、分かった。もともとお前の捻くれ根性が直るまでって事だったしな。こんなに早く終わるとは思っていなかったが」
八幡「ありがとうございます!」キラキラ
雪乃「あ、あの……」
八幡「雪ノ下、ありがとうな! 俺、雪ノ下を目標に頑張ってみるよ!」キラキラ
雪乃「そ、そう……奉仕部冥利に尽きるわね……頑張ってね」
八幡「ああ! じゃ、さっそく行ってくる!」ダダッ
平塚「比企谷があそこまで改心するとは……本当に流石だな、雪ノ下。これからも頑張ってくれ。ではな」ガラ、パタン
雪乃「……」
雪乃「奉仕部が順調すぎてつらい」
―完―
いや、八幡はチョロすぎる気がするけど、続きとか欲しいくらいには面白かったです
おもしろいです