【R18】八幡「ぽしょぽしょには勝てなかった」補
八幡「ぽしょぽしょには勝てなかった」のアフター的なものです。
結衣、ゆきのん、いろはす、はるのんの4人それぞれ個別のお話になります。
結局、あの後も ぽしょぽしょちゅっちゅぺろぺろくんくんしていた結果、捻くれていた理性やら何やらは跡形もなくとけてなくなった。
一緒に一般的な倫理やら常識やらもとけて消えて、晴れて俺は四人の彼女もちとなってしまったのだ。リア充王に! 俺はなった! ドン!
……しかしまあそんな事を大っぴらに言えるはずもなく、学校生活もそこまで変化があるわけではない。
ちょっとずつではあるが目の濁りが薄まってきても、いきなりイケメンになるわけでもなし、はたまた友達百人出来るわけでもない。
そこは純粋に経験値が足りてない。あれ、リア充じゃなくね?
だが……性活はガラっと変わってしまった。すまない大岡、俺は、お前の敵だ。元から味方でもねえけど。
彼女たちは二人以上同時に俺と居ると、競うように俺に絡んでくる。このままでは身が持たない。
だからと言って二人っきりになると、他と差をつけたいのかさらにディープに絡んでくる。マジで身が持たない。
他に人の目が合っても隙あらば俺にぽしょぽしょ囁いていく。社会的にも持たない。
はしょって説明すると教室では由比ヶ浜が隙を見てぽしょぽしょしてくるし、廊下で出会った雪ノ下はすれ違いざまにぽしょぽしょしてくるし、ベストプレイスで昼飯を食べていると一色がこっそりぽしょぽしょしていくし、街を歩けばどこからか陽乃さんが来てぽしょる。
俺のあだ名がヒッキーからBOKKYになるのも時間の問題かもしれない。俺の人生ぽしゃりそう。
だいたい、もうぽしょぽしょが弱点なのではない。ぽしょぽしょ”も”弱点なのだ。
俺の精神強度が相変わらず中学生レベルのまま、あの美女美少女軍団に囲まれているのだ。
つまり一挙手一投足がクリティカル判定。たぶん倍率2.5倍。むしろ俺が勝手に自爆するまである。
そんな訳で、彼女たちはいともたやすく俺のボーダーをブレイクできるのが楽しいのかちょこちょこ絡みに来る。マジエアバースト。
まあ、嬉しくない訳じゃないのだが……。ぶっちゃけて言うと超嬉しい。
みんな可愛いし誰かにめっちゃ自慢したい。
という訳で脳内オーディエンスに自慢話でもしようと思う。
経験者は俺。
語りは俺。
観覧も俺。
だって俺、友達いないもん……。
今はそれは置いておくとして。
二人以上同時に相手をした時は、大体俺がとろとろに溶かされて終わる。
なので今回は割愛するとして、二人っきりになった時の彼女たちの様子を思い出してみたいと思う。
「ヒッキー!」
人も疎らな放課後の教室。まだ夕陽とも言えない太陽は2-Fのクラスの2/3ほどを照らしている。カーテンくらい閉めろよ暑い。
そんな中、午後のやる気のない太陽よりもずっと明るい由比ヶ浜の声が俺を呼んだ。
「おう。部活行くか」
「あ、うん、そだけど、ちょっと待って?」
キョロキョロと辺りを見回し、誰も俺たちに注目していない事を確認する由比ヶ浜。
クラスに残っているのはカーストレベルすら知らない、むしろ名前すら知らない奴らのグループと、上位カーストが教室からいなくなって圧政から逃れ自由を得たゲーマーグループだけだ。
どちらもワイワイキャッキャ、楽しそうで結構な事ですな。
それを確認して、由比ヶ浜がこそっと俺に顔を寄せた。
「……あのね、次の土曜、ゆきのんたちは家のパーティーに出るらしくって、いろはちゃんはサッカーの試合についていくんだって」
「……そうか」
ぽそぽそ、精神に影響が出ない程度の距離を保って由比ヶ浜の声を拾う。
教室でいきなり喘いだりでもしたら、俺は多分窓から身を投げるだろう。
「それで……、その、……土曜日は、親が帰ってくるの遅いんだけど……」
「……っそ、そうか」
ぽしょり。危なかった。
声もだが内容も、平静を装うのに支障が出るレベル。
「……うちくる?」
いくいく!
……危うく変な声が出るところだった。
二人きりになろうとする時は、だいたい皆このような誘い方になる。
皆も全員でまったりしたりイチャコラするのも嫌いではないみたいだが、それでも二人の時間は欲しいところ。そう考えた彼女たちはお互いのスケジュールを事細かに教え合っているらしい。
ちなみに俺にはあんまり教えてくれない。俺から誘ってくるのは期待していないらしい。多分だけど偏るのを防いでるんだと思う。
「ああ、その、由比ヶ浜が良ければ……」
「うんっ、絶対来てね!」
故に受け身主体な俺だが、由比ヶ浜は嬉しそうに頷いてくれた。
確かに誰か一人にがっついちゃうと他の三人に不和が生まれるっていうか、いやむしろ責められるのは俺だけでその一人はドヤ顔とかしてたりするんだけど、そうなると後の三人が同じ事を求めてきて大変な事になっちゃうんですよ。なんだこの心配、ヤリチンみたいだな。……げヘっ。
* * *
リンゴーン。
由比ヶ浜家のインターホンを押すと鐘の音が鳴り響いた。インターホンってピンポン一択じゃねえのか……。
そんな無駄な事で世界の広さを知った俺の前で玄関の扉が開かれる。
「ヒッキー、いらっしゃい!」
頭だけにょきっと生やして由比ヶ浜が俺を歓迎してくれた。招く時はやっはろーじゃないんだな。まあ「いらっしゃい」とは組み合わせられそうにないしな。い、いらっしゃろー?
「お邪魔します……」
人の家に上がるというのはやはり緊張する。俺友達いなかったしそこの経験も足りてない。しかも今日は女の子の家だ。
若干挙動不審になりながら玄関へ入り、キョロキョロする間もなく気付く。
「お前それ、……寝間着?」
「あ、うん、これあたしのパジャマ」
ピンク色の、いたって普通のボタンで留めるタイプの上下セットであろう寝間着。え、なに寝起きか何かですか?
そう思って由比ヶ浜をじろじろと眺めてみると、髪は寝ぐせもなくしっかりとセットされているし、薄くではあるが化粧もしている。
……どういう事?
不審な目で見ている事に気付いたのか、由比ヶ浜が照れくさそうにもじもじし始めた。
「ま、まあ色々、ねっ」
「いや、ねって言われても……」
「ほら、部屋に案内するから早く!」
納得はできないがいつまでも玄関に居ても始まらないし、とりあえず靴を脱いで上がらせてもらう。
部屋に行く前に洗面台を借りて手を洗い、リビングを通るとひゃんひゃんと鳴き声が聞こえた。
「お、サブレ。元気かー」
手を洗ったばかりでサブレを撫でまわすのも躊躇われたので、声だけかける事にした。相変わらず懐いてくれていらっしゃる。いらっしゃろー。
ケージの中で腹を見せてぶんぶんと尻尾を振る自分の愛犬に、由比ヶ浜が苦笑する。
「やっぱサブレ、ヒッキーに懐きすぎだし。でもごめんねー、今日はあたしが独り占めしちゃうからね」
照れるわ。
きゅーんと鼻を鳴らしておねだりしているサブレに後ろ髪を引かれながら廊下を進み、ついに由比ヶ浜の部屋に到着した。なんか可愛らしくでこでこデコレーションされた板がぶら下がってる。
「ゆいのへや」
……。
こういうのって女子の特権って感じしない? 俺がやったら「はちまんのへや」になる訳だけど、なんか犬小屋みたいなイメージが湧く気がする。
「なんか緊張するかも」
そう言いながら、部屋の扉を開ける由比ヶ浜。
俺の方が緊張しとるわい。
中に入って行く彼女に続き、俺もしんにゅ……うん、やっぱ侵入って言葉が一番しっくりくるかもしれない。
由比ヶ浜の部屋は、端的に言えばものすごい女の子女の子していた。ぬいぐるみだとか、写真たてとか、……甘い香りだとか。
そんな中に入ったもんだから、自分自身に異物感というか、違和感がはんぱない。なんか俺、ここにいるだけで溶けそう。
「ヒッキーがあたしの部屋にいるの、不思議な感じ」
由比ヶ浜も同意見だったか……。
ちょっと前の俺ならここで「あ、じゃあそろそろ帰っとくか?」くらいのぼっちジョーク(誰も笑ったことは無い)を炸裂させたものだが、俺たちはもう、そんないらん気を使う安い関係ではない。
「……その、あれだ、可愛い部屋だと思うぞ」
「そっか……へへ」
なんか気ぃ使ってるみたいになっちゃった……。
しかしそれでも由比ヶ浜ははにかんで笑ってくれる。なにこれ可愛い抱きしめたい。
そんな心の声がバレてしまったのか、由比ヶ浜は俺に抱き付いてきた。
「ね、ヒッキー……、あたしの匂い、する?」
「ああ……正直、たまらん」
この子は何を聞いてるんですかね。するに決まってるだろ!(逆ギレ)
部屋全体に包まれているような錯覚すらある。実際に今由比ヶ浜に包まれてるけど。
「えへへ、自分じゃあんまり分かんないんだけどね。 だから、一番匂いがついてるのって多分コレ、だと思うから」
そう言って、ぴろぴろと寝間着の襟を引っ張る。
その為に着てるのか、それ。
……俺の、ために。
「ゆ、由比ヶ浜っ」
「ひゃあ♪ あ、ちょ、くすぐったぁ……っ」
たまらず由比ヶ浜を抱きしめる。
細く色っぽい首筋と寝間着の間に顔を押し付けてくんかくんか。はすはす!hshs!
あー……これやばいぃ……。
「ど……どう、かな」
「やばい。あたまとける」
「そっかぁ……」
あの日、由比ヶ浜の匂いが好きだと言ってから、彼女はたびたびそれを武器に攻めてくる。長所を生かす絶妙なプレイ。もちろんクリティカルヒットである。
行為は変態的だが、ドン引きすることなく由比ヶ浜は俺の背中に腕を回して身を預けている。
それに甘えて思う存分由比ヶ浜を堪能していると、耳元で更なる甘い誘惑が発せられた。
「ね、……ベッドいこ?」
ぽしょり。
無論肯定。
既に4/5ほど溶けている頭で、ふらふらと由比ヶ浜のベッドへ向かう。
その様はまるでゾンビのような足取りであった。だが残念! 俺の目はもう腐ってないんだな、そこそこ! 割とゾンビかも。
しかし向かう目的を考えるとゾンビというのも的を得ているのではないかとも思う。だってこれから由比ヶ浜を貪るんごほごほ。
ぽすんとベッドに腰掛けると、間髪入れずに由比ヶ浜に押し倒された。あれ、貪られるの俺かも。
彼女はにへらと笑うと、ベッドにかけられていた犬っぽいキャラクター毛布を俺ごと引っ被った。
「えへへ、ヒッキー……♡」
とろけるような声で覆いかぶさってくる由比ヶ浜。
ベッドから、枕から、毛布から、寝間着から、彼女の甘い匂いが発せられている。もちろん本人からも。
これ以上「由比ヶ浜」に包まれるというシチュエーションは無いと思う。本当に溶けそう……。
馬乗りになりうつ伏せ状態ってな事で余計に強調される胸が、俺の鎖骨当たりに押し当てられた。なんかいつもより柔らかい。
「ゆ、由比ヶ浜……」
「もう、二人の時は……」
どくんばくんと狂喜に跳ねる心臓の音に邪魔されながら、由比ヶ浜に尋ねる。
普段は関係性を隠している事もあり依然と同じ呼び方をしているが、二人きりの時は名前を呼ぶ事になっている。
そのくせこいつは相変わらずヒッキー呼びだが「ヒッキーって呼ぶのあたしだけだから……あたしだけのトクベツなのっ」と言われてしまったら何も言い返せない。
しかし小町以外の女子を名前で呼び捨てというのはどうにも緊張するものがある。普段は名字のままっていうのも慣れない一因だ。
そのせいで余計に心臓に負担がかかるが、それよりも。
「ゆ、結衣。おまえまさか」
「ん……、ノーブラ、だよ」
由比ヶ浜が少し離れてくすくす笑うと、締め付けから解放されている二つの豊かなそれが、ぽよぽよとそれぞれ自己主張している。
最終的に重力に逆らわず大人しくなると、眼前に谷間が広がった。
……い、いただいてもよろしいのでしょうか?
釘付けになってしまった、濁ってはいないけど絶対エロい目をしてた両眼をちらっと上へ向けると、由比ヶ浜も照れてはいるがにこりと笑みを浮かべている。ど、どういう意味だろう。
ハッ、天使と悪魔が耳元でぽしょぽしょと言ってる。こいつらくらいなら勝てるかも。
天使「いただきましょう」
悪魔「いただきましょう」
……いただきます! やっぱりぽしょぽしょには勝てませんでした。
「……ゆいー!」
「ひゃんっ♪」
辛抱できずに飛びつくと、愛犬の鳴き声のような声を上げた。ペットが飼い主に似るのか、飼い主がペットに似るのか、その答えは闇の中。
モロに胸元に飛びつく勇気はなかったので、谷間のちょっと上辺りに顔をすりすりしてみた。ここもめっちゃ気持ちいい、なにこれ幸せ。
背中に手を回してしがみつく様に抱きしめていると、頭を撫でられた。なでらりた。なで……ここが桃源郷か。
「遠慮しなくてもいいのに」
「へ?」
えっ、俺的には全力全開なんだけどな……、由比ヶ浜的にはそうでもないのか。これ以上の事したら、俺はいったいどうなっちゃうのん。
思案していると由比ヶ浜は俺の頭を抱えるようにしてこてんと右側へ転がった。
胸に挟まれた状態で横向きになり、マシュマロみたいなもちもち柔らかいものが右頬に、綿あめみたいにふわふわ軽いのに夢がいっぱい詰まっていそうなものが左頬に。精の力を股間の紳士に! チャーグル!
抱えた俺の頭に顔をぐりぐりしているらしく、左右と上からの攻撃に目を白黒させる。
「ゆい、ちょっと、これ刺激強すぎるから……」
「やーだ♡」
鼻血が噴き出そうな興奮に危険を感じて一旦ストップさせようにも、ご機嫌な由比ヶ浜に可愛く一蹴されてしまった。やだ可愛い。
とろふわの胸の中でとろけていると由比ヶ浜は嬉しそうな声音で続けた。
「だってもう我慢しなくていいんだもん。だから、ヒッキーも」
「――もっと甘えていいんだよ♡」
「うっ……」
油断していたところに熱い吐息をぽしょりと落とされた。危うく無様な姿を晒すところだったがなんとか持ちこたえぜ……ハチマンはちきれそう。
ここまで言ってくれる彼女に対して、遠慮するのは逆に失礼かも。そう考えた俺はまず背中に回した手を可愛らしいパジャマの中に滑り込ませてみた。
「あんっ」
ふえぇ、ドキドキするよぉ……。
なんだよその喘ぎ声は。背中触っただけだろ。とか思いながら俺も興奮しすぎて気絶しそう。
そしてこの背中のエロさたるや。ちっちゃくて、細くて、すべっすべで、少し力を入れると軽く指が沈む柔らかさで。ちょろっと動かしただけで由比ヶ浜が嬌声を上げるのもエロさに拍車をかけている。
背筋に埋もれた背骨のくぼみにつつーと指を沿わせるとひと際艶めかしく反応した。
「ああー……すげぇきもちいい……」
「あっ♡ あたしもぉ……っ」
背中を一撫でするごとに身を捩っては胸がぽふぽふされて、手も顔も幸せすぎてふやけそうなのだが。
目の前の、これ。寝間着特有のゆるいボタンが早々に職務を放棄し、どんどんはだけていっている。かろうじて引っかかって、全てが露わにはなっていないのだが……、そう、「引っかかっている」。
由比ヶ浜も興奮しているのか、寝間着を大きく膨らませている胸の先にさらにぽつんと、固くなったそれが自己主張していた。
どうしよう……。
天使「遠慮するのは失礼ですよ」
悪魔「据え膳! 傷物! 責任! 取りたい!」
おい悪魔本音出過ぎだからぁ!
思考は数瞬、天使も悪魔も脳内八幡による会議も全会一致でいただきます。
左頬ではだけた寝間着の最後の抵抗を押しのけて、ツンと立った突起を目にする。繁殖の、育児のためのモノなのに何故こんなにも興奮するのだろうか。
そんな哲学的な事を考えながら、体だけは正直に、遠慮なく、ピンク色のそれにしゃぶりついた。
「……結衣……ん、むっ」
「え、なっんんんんぅ♡ ひっ、ひっきぃ♡」
声と身じろぎが大きくなり、俺の性欲もさらに掻き立てられる。
無味なはずの突起はどうして甘く感じられ、もっともっとと舌がおねだりをする様にこねくり回し、その度に由比ヶ浜の淡い嬌声が響き渡った。
「んんっ♡ な、なめっ……ふあっ♡」
「ん……結衣、……ゆいぃ……」
「んぅっ♡ ヒッキーの、甘えんぼさん、 っひゃあん!」
甘えていいと言ったのはお前だろうに……。しかし赤子のように胸に吸い付いているのは事実なので何も言わない事にする。ていうか口離したくないのだよ。今忙しいから!
舐めるだけでは飽き足らず、吸い付いたり、優しく噛んでみたり、そのどれもに由比ヶ浜は喘ぎ声で反応した。どうして女の子の喘ぎ声ってこんなに頭を痺れさせるのだろう。
その声に興奮と、征服欲を満たされた俺の口は新たな獲物として鎖骨、首筋、頬と登っていき、激しく息を切らせて酸素を求めている彼女の唇に容赦なく襲い掛かった。
「んっ、……っちゅ、んむぅ♡ はあっ、ひっき、んむっ♡」
口づけをして、離れて、わずかな間に息継ぎをしてまた口を塞ぐ。相手のペースを考えない不躾なまでの乱暴なキス。
口を離すと、待って、と目で訴えてくるものの、顔が迫るときゅっと目を結ぶ。そんな彼女が愛おしくて、キスの嵐はしばらく止むことは無かった。
「はあーっ、はあーっ、……これぇ、すごぉ……♡」
互いに顔を突き合わせて吐息をも奪い合っているため、酸素が足りないのか頭がぼーっとする。由比ヶ浜もとろんと瞳が潤んで、どこか焦点があっていない。くそっ、まだ足りない。
「あっ♡ ん、んぅ……んっ♡」
「んむぅ!?」
キスに没頭していたところに由比ヶ浜の手があるところに伸びて動きを止めてしまう。彼女は俺のパンツ……文面だと紛らわしいな、ズボンの上から股間を優しく撫で上げていた。
優しく、優しく、触れるか触れないかの絶妙加減が逆にフラストレーションを掻き立てて、考えるよりも早く、大きく怒張したソレを押し付けるように差し出した。
「えへ、ヒッキーの、固くなってる……」
「ぅあ……ゆい……」
「きもちいぃ?」
こくりと頷いて肯定。つつ、と指先で撫で上げられ思わず腰が引いてしまうところに、手のひらでこする様に強い刺激が与えられる。なにこの上級テクニック。
由比ヶ浜の強弱の妙技に翻弄されて、俺の限界はあっという間に訪れた。
「あ、あっ、やばい出ちまうって……!」
「え、わっ、とと」
寸でのところで手が離される。パンツ(今度こそ下着の意)の中が不快な事にならなかったのはありがたいが、俺の不出来な息子はそんなのお構いなしに由比ヶ浜を求め続けていた。落ち着けし。
「じゃあ、脱がしちゃうね……」
幾分か緊張をはらんだ声色でもって腰のベルトに手を伸ばす。抵抗もせず、いやむしろ抵抗となったかもしれないが、手持無沙汰になった俺は由比ヶ浜の胸を揉みしだきはじめた。
「ふあっ♡ ……こらぁ、ぬがせられないでしょ♡」
言葉は怒っているがその実、嬉しそうな声音でぽしょぽしょ文句を言っている。無論逆効果である。集中させたら負けとばかりにもみもみ。いつしか目的すら忘れてもみもみ。
しかし由比ヶ浜はそんな猥褻行為の中で、身を捩りながらも目的を着実にこなしていた。
カチャカチャ、ジー、という着替えかトイレでしか聞かなかった音が由比ヶ浜の手によって為されている。ズボンを下ろしたところで一瞬手を止めたが、意を決して下着もまたずり下げられた。
「わっ、わっ、すご……」
外気に晒された俺の肉棒は、呼吸器も付いていないくせに由比ヶ浜の匂いかフェロモンかにあてられて、びくんびくんとさらに膨張をつづけた。
自分でも引くくらいの必死さに対して、由比ヶ浜はそれが嬉しい事のようにつんつんと指でつついてくる。おふぅ、あまり艤装には触れないで欲しいのだがな。ごめんうそ、触ってほしいです。
「じゃ、さ、さわる……ね?」
「ああ……」
ごくりと生唾を飲み込んだのはどちらだったか。由比ヶ浜はそっと、手で包むようにして俺の怒張するソレに触れる。
彼女の手のひらは温かくて少し湿っていて、最も敏感な場所を触っているというのに痛みは一つもなく快感だけが俺を飲み込んだ。それでも刺激は殺人的なまでであって、アレも体も、同じようにびくびく反応してしまう。
「う、あっ」
「ご、ごめん、痛かった……?」
不安げな彼女に、必死に顔を振って否定する。
「いや……気持ち良すぎて、我慢できないんだ……」
「ヒッキー……♡」
「うああっ」
しゅ、しゅ、と扱かれるたびに俺の口から声が漏れ出る。体の反応と同様に抑える事ができない。
由比ヶ浜はさっきよりも必要酸素は少ないはずなのに、同じくらい息を荒くして手にするソレを見つめていた。
「……す、すごい、ね……?」
「な、にがっ……」
「ヒッキーの……」
ここで、由比ヶ浜がこちらに顔を向け直して、そっと耳に口を寄せた。
「……ヒッキーの、おちんちん……かたくて、おっきくて……すごいね♡」
「な、おま――――」
おっふ。おぅふ。
ガハマさんそんなのどこで覚えてきたんだこの純情処女ビッチめが! 百点満点だよ!!
恐らく他にそんなモノを見たことがないであろうに比べる対象もない彼女のその発言に、俺の小さな自尊心は童貞王大岡も真っ青なほど有頂天になった。
限界まで腰を引いて、溢れ出そうな快感を抑え込むべく必死に耐える。耐え、あ、ちょっと漏れたかも……。
「あぶね……出るところだった」
「……ええ? 出していいのに」
きょとん顔でそんな事を言われる。いや、そんな顔されましても……。それに、なんていうの? 普通の人がどうかは知らないけど、「え、はやっ」とか言われたら立ち直れないじゃん。あ、あと――
「その、なに、……気持ち良すぎて、すぐに終わらせたくなかったんだよ……」
恥ずかしい、けど本音。甘美な刺激を与えられるままに享受する、それが気持ち良すぎて続けて欲しいのに終わってしまう。それがもったいなく感じてしまったのだ。
由比ヶ浜は何か思う事があったのか、ゾクゾクと体を震わせ、妖艶な笑みを浮かべた。
「えへ……♡ ヒッキー、だいじょぶだよぉ……」
「……ん」
「……いっぱい、してあげるから」
キスをして、口だけ離して変わらぬ距離で囁く。
「……ヒッキーがしたいときに、してあげるから」
ぽしょぽしょと甘い声。
「……だから、ちょうだい?」
指先がすりすりと弄ぶように動いている。
「……ヒッキーのにおい、あたしにもちょうだい♡」
少し、顔と顔の距離が開いて、由比ヶ浜の潤んだ瞳を見た。
「――――あたしに、マーキング、して?」
「――っ」
息が詰まって、胸の奥のなにかがきゅうっと締め上げられた。
由比ヶ浜に、由比ヶ浜のベッドで、マーキング。それを精液でする動物がいるのかは知らんが。
まぎれもなく彼女のテリトリーである此処でするその行為の要求は、俺の中の征服欲を満たして、雄の本能を呼び覚ました。
もう頭の中に理性はなく、むくりと起き上がった本能が欲求を満たそうと体の支配権を全て奪う。
欲求――しるしをつける。こいつは、おれの、おんなだ、と。
「結衣っ!」
「んんっ♡」
半ば覆いかぶさるように由比ヶ浜を抱きしめる。
今にも爆発しそうな肉棒は、彼女の右手に握られたまま、先がはだけたお腹に押し当てられている。
制御の効かない俺の体は、彼女に挿入したわけでもないのに腰を前後に振り、カウパーでぬめったソレを逃すまいと強めに握られるも、それすら快感にして疑似的なピストン運動を続けた。
「はぁっ、結衣、ゆいっ……!」
「はあぁ、ひっき、ひっきぃ……♡」
名前を呼び合い、唇を貪り合い、互いの匂いを相手に移していくように体をこすりつけ合う。
唾液と匂いと一緒に、まるで気持ちすら伝え合って、いや……「まるで」じゃないんだよな。今の俺は、それを事実として認められる程に、よわく(つよく)なったのだから。
急激に高まる快感。抑える気も、抑える必要もないそれを、言葉と共に吐き出そうとする。
「く、っあ、ゆい、もう……っ」
「うんっ♡ だし、てっ、だしてぇ♡」
びゅるびゅる、とついに決壊したソレは、堰を切るようにとめどなく熱を放出し続けた。
今まで押し付けていた由比ヶ浜の白くて細いお腹に、辛うじて着ていると言える寝間着に、白濁液が飛び散る。
「はああ、あっ……」
「ふあ、……あつ……♡」
驚くほど長い脈動のあと、全身が弛緩して由比ヶ浜にのしかかりそうになる。が、俺は服を着ているのでそれはちょっと……という最後の理性の遺言に従って、彼女の横に倒れこんだ。
肩で息をするようにして必死に酸素を取り込む。こんな時でもいい匂いがするんだから、やっぱりここは由比ヶ浜の独壇場だよな。
「はぁ、ん……すごかったぁ……」
「そ、そう……か」
同じように肩と胸(大)を揺らして息をしている由比ヶ浜が、なんともエロティックな感想なんぞを言っている。なんか恥ずかしい。
曖昧に頷くと、顔だけこちらに向けて挑発的な目を見せた。まだその瞳の奥には、何かがくすぶる様に熱を湛えている。
「ヒッキー……足りた?」
「……え?」
疲れ切った体は起こすこともできない。
腹にぶちまけられたぬるぬるする液体を、指先ですくう。それを、唯一残ったボタンを弾き飛ばそうとしている豊満な胸に垂らす。
「……満足、した?」
「……」
むくむく。
その所作に起き上がれないはずの体に活力が戻り、一部が立ち上がる。親父、母さん、元気な子に産んでくれてありがとう。
しかしエロい。果てしなくエロい。それにしても、
「おまえ……そんなのどこで覚えてきたんだよ……」
「え、雑誌……とか?」
小町が読んでいた偏差値25くらいの雑誌ですらそんなの載ってなかったんだが。
由比ヶ浜の事だから本当なんだろうが、そんな有害図書見てるとアホになるぞ。……それに釣られてびんびんしている俺はもっとアホなのかも。ま、いいや!←アホ
「エロすぎだろ、びっちめ……」
「ビッチ言うなし! ……処女、だし」
からかうように言うと、むきになって言い返してくる由比ヶ浜。そう、ここまでしておいて、彼女はまだ処女なのである。
晴れて四人の彼女もちになった俺は、あっという間に陽乃さんに食われた。もはや瞬殺。そしてそれを知った雪ノ下と一色にも襲われ、世に言うヤリチンの最低男こそが俺なのだが、由比ヶ浜だけはその貞操を守り続けている。
それは、こいつが一番……そうだな、ロマンチックと言うべきか。別に食事のあと夜景を見てとかそういうのではなく、ただ「みんなヤってるから」という理由でしたくないのだそうだ。
野獣となったあいつらにも聞かせてやりたいぜ。俺も野獣と化していたけど。耳が痛いです、ハイ。
まあ詰まるところ、誰かの勢いに乗せられてというのが嫌なわけであって、由比ヶ浜との本番はもうしばらく先になるだろう。
それでも、肉体的な接触と言うのは耽美なものであって、キスから始まった性的な行為はここまで進んでいるのである。
むくり、と今度はちゃんと体を起こす。下はもう臨戦態勢、元気百倍パンパンまん状態。
それを見た由比ヶ浜は妖艶な笑みを浮かべる。処女ビッチとはこいつの為にある言葉かもしれない。
「……えへ♡ まだ、おっきぃね……?」
「……おまえのせいだろ」
「ふふふっ」
悪戯めいた笑い声に、小さな男のプライドが鎌首をもたげる。
「このっ」
「ひゃん♪」
由比ヶ浜のみぞおち辺りに、体重をかけないように気を使いながら馬乗りになり、怒りを孕んで再度復活した一物を差し向けると、彼女は色めき立った目でそれを見つめてきた。
「覚悟はできてんだろうな?」
「えへへ、もっと、くれるの?」
見下ろす俺に、上目づかいで挑発。や、やってやる! おっぱいなんか怖かねぇ!
たわわな二つのメロンをむんずと掴む。由比ヶ浜はぴくりと反応するが、逃げたり拒否する様子は全くない。
ゆっくりと、自分のモノをその間に差し入れる。
「ふあ、ヒッキーの、あついぃ……♡」
「うっお、なんだ、これ……」
マジなんだこれ、気持ち良すぎる。
ふき取る事も忘れた精液が潤滑油となって抵抗なくこすり合わされる。由比ヶ浜の豊満な胸は大きく膨張しきったはずの俺のモノをすっぽりと飲み込んで、ふにふにむにむにと淫らに形を変えていった。
まるで性器に挿入しているかのような水音が、触れる肌から発されている。快感もそれに匹敵か、興奮度合で言えば負けず劣らず、動かす腰を止める事ができない。
「っふ、う……ふうっ……」
「んっ……んっ……♡」
火傷をしてしまいそうな熱は摩擦によるものか。一心不乱にこすり付けている俺に対して、由比ヶ浜の吐息はどんどんと熱を帯びていく。呼応するように俺の昂ぶりも一段飛ばしの勢いで駆け上がっていく。
一突きする度に柔軟な胸が形を変えて俺を受け入れる。その胸に添える程度だった両手も無我夢中で柔らかさを愉しんでいる。遠慮のないその行為に、由比ヶ浜は耐えるように俺の太腿で拳を握りしめているが、その表情はどこか慈愛に満ちていて、この状況と相反しているな、と頭の片隅にそんな事を思わせた。
「……ん、んー、……ちゅ」
「うおっ」
無心、いや性欲の一心のみで動かしていた先端に、首を伸ばした由比ヶ浜の唇が触れた。そのただの一撃、しかし忘れられない甘味のような痺れが、ボルテージを一段階上げさせる。
今までノンストップで繰り返してきた前後運動を止めて、一突きごとにその痺れを求めてしまう。
「……ん、……ちゅ♡ ……れろ」
唇を、舌を伸ばして求めに応じる由比ヶ浜。その淫靡さに、昂ぶりは一段飛ばしから三段飛ばしくらいに勢いを変えて限界までダッシュを始めた。
「……くぁ、やば、もう出るっ……!」
「……うん♡ いいよ……らひて♡」
舌を伸ばしたままがゆえに舌足らずなセリフで答える。
由比ヶ浜の寝間着のボタン、その最後のひとつが弾けるとともに、俺の限界点もぷつりと同じ音を立てて弾け飛んだ。
「うああっ、ああ!」
「ふあ、っひゃあ!」
二回目というのに量も粘度も最大限と言っていいほどのモノがあふれだす。
先端から送られていた甘い痺れが全身に駆け巡って身体はしばらくの間震えが止まらなかった。
「ん……いっぱい出たね……」
今度こそすっからかんと言えるくらいには出しきった俺に、由比ヶ浜がとろんと呟くように語り掛ける。
その顔は、半分以上が俺の精液によって「マーキング」されていた。指を自分の頬に差し向け、つつと掬い取る動作。
白濁液を嫌な顔ひとつせずにぺろりと舐めとると、
「ヒッキーのあじがする……♡」
果てしないエロスを感じさせる表情で、そんな事を呟くのであった。
* * *
由比ヶ浜のエロさにあてられて、最終的にさらに二発ぶっ放してしまいました。
最後にはお互い服を脱ぎ捨てて汗だかなんだか言えないモノとかぬるっちょぬるっちょとこすり付けあっていたのだが。
どうして乾いた例のあの液というのはあそこまで強い匂いを放つのだろうか。ほんとヤバイ。声に出してはいけない。
結局これ以上ないほど「マーキング」にはなったが、ちょっとこれは不味いだろうと言うことでファブられる事になった。さようなら、俺のしるし。
その後二人で風呂に入ったり、いちゃいちゃしたり、サブレと遊んだり、おやつを作ろうとする由比ヶ浜を止めたりして過ごし、帰宅する時間となった。
「じゃ、その、今日はありがとうな」
「……うん」
子犬みたいに寂しげな顔で玄関口に立つ由比ヶ浜を、なだめるように撫でて苦笑する。愛おしくてずっと一緒に居たい気分ではあったが、ご両親がいる女子の家に泊まるなどという最上位クエストは俺には達成できん。G級すぎだろ。
寂しさを紛らわせたくて、思わず抱きしめてキスをすると由比ヶ浜も小さく笑ってくれた。
「ヒッキー、今日は結局ファブっちゃったけど、……次は寂しくないように、ちゃんとヒッキーの匂い残していってね?」
「お、おう、がんばる……」
耳元ではないがぽしょりと呟いたその言葉に、出しつくして気だるいはずの身体は熱を帯びる。男子高校生ってすごい。
「えへ、ヒッキー……だいすき♡」
そんな俺を知ってか知らずか、すりすりーと身体をすりつかせてくる。もう、帰りたくなくなっちゃうでしょ!
照れ隠しにぽりぽり頬を掻いて、ぽしょっと答えた。
「お、俺も……好きだ、結衣」
「うんっ」
最後ににぱーっと笑って、身体が解放された。離れた瞬間に体温が数℃下がったかのような感覚。これが……寂しいって感情なのね。
「じゃあ、……お邪魔しました」
「気を付けてねー」
ばいばい、と手を振る由比ヶ浜に、掲げる程度にこちらも手を上げる。
ドアの閉まるその瞬間まで、そこから身体は動き出すことはできなかった。
――――――
――――
――
えへへ、ヒッキーとおうちデート、楽しかったなあ。
誘った時からちょっと、がっつきすぎちゃったかもだけど、ヒッキーも喜んでくれてた、よね?
ヒッキーを見送った後、胸にぽかりと穴が開いたような寂しさを感じて、代わりにサブレを抱き上げた。お風呂のあともくっついてたし、ヒッキーの匂いが残ってるのかな? サブレはくんくん鼻を動かしてスウェットの匂いを嗅いでいる。
あたしの鼻には分からないから、少し、いや結構サブレが羨ましくなってしまった。
結局ベッドはファブっちゃったしなあ……。
もったいない事をしちゃったのかもしれないけど、その、……せ、せーえきって乾くとすごい匂いがするんだね……。あたしもヒッキーも、ちょっと不味いかな、と顔を見合わせてた。
だってあんなの放っておいたら、パパとママが帰ってきた時にモロバレだよ! やばいよ!
それに、勘違いされちゃうし。せ、せっくす、してたとか……。うあー恥ずかしい!
なんだか部屋に戻るのも恥ずかしくなってリビングの椅子でばたばたともがく。
しばらく足を振り回しながら悶絶していたけど、ふとぴたりと動きを止めて考えた。
ヒッキーも、したかったのかな、あたしと……。
ヒッキーがあたしたちみんなを受け入れてくれたあとしばらくして、陽乃さんがヒッキーとシちゃったらしい。
それに対して、あたしは羨ましいと思ったし、初めてが取られちゃったのは悔しかった。ゆきのんもいろはちゃんも悔しがってて、二人はすぐにヒッキーに詰め寄って自分もってお願いしてた。
でも、あたしはそうしなかった。
出来なかったっていうのも半分だけど、あたしはヒッキーから言い出すのを待つことにしたんだ。
――待つのはやめて、自分から行くことにしたの。
いつかそんな事も言ったけど、もうヒッキーはあたしたちを受け入れてくれている。もう、どこにも行かないって信じてる。
だから、もう少しだけ歩み寄ってくれるのを待つ余裕が生まれたのかもしれない。
ヒッキーは多分、あたしが「初めて」を大事にしたいと思っているのかもしれないけど、あたしが大事にしたい「初めて」は処女の事じゃないんだよ?
ヒッキーが心からあたしを求めてくれること。
あの日、陽乃さんが言ってた理性をとかして、っていうのを今も実践してる。
きっとヒッキーはまだ怖いんだと思う。求めて、裏切られる事を。
だから、理性を、心を、とかして、とかして……そこに残ったヒッキーの本心で、あたしを求めてくれたら、それを受け入れようと思ってる。
あたしが、ヒッキーの事を受け入れるよ、って彼も分かってくれたなら、きっともっと仲良くなれると思うから。
……本物に、なれると思うから。
それにしても「マーキング」なんてやりすぎたかなあー!?
いまさらになってすごい恥ずかしいし!
そりゃベッドとかからヒッキーの匂いがしたらいい夢とか見られそうだけど! だけど!
あーでも今日のところはファブリーズ(無香料)の匂いで我慢する事になっちゃうけどさ。無香料なのになんで匂いするんだろうね?
ぱたぱた、えへへ、うーん、ひゃああ、ぱたぱた……。
そんな意味不明な行動をとっているうちに、ママが帰ってきたみたい。キモい動きをしていたあたしの腕からサブレがするりと抜けだして玄関に走って行った。
サブレ……サブレの中でママ>ヒッキー>あたし>パパくらいの順位が出来上がっている気がするよ……。でもあたしの方がヒッキー好きだもん!
大事な愛犬にすら嫉妬で燃えていると、ママが買い物袋を置きながらにこにこと問いかけてきた。
「あら~、結衣、何か良い事でもあったの?」
間延びした声で聞いてくるママ。でも、今日会った事をそのまま話すなんて、ぜ、ぜったいに出来ないし……。
うぬぬ、と唸っていると、ママは手を胸の前で合わせて、「あ」と何か見つけたように声を上げた。
「ヒッキーくんの事でしょ~」
「んなぁっ!?」
言い当てられてあたふたしていたら、ママはくすくすと笑っていた。なんで分かっちゃうのかなあ……。
「結衣はヒッキーくんの事大好きだもんね~」
「ううー、うぅ……」
否定したいところだったけど、否定したくない。やっと伝わったこの気持ちを、どんな瞬間にも嘘にしたくない。
だからせめてと唸って見せたが、ママには敵うはずはなかった。
……まあいいや。
きっとママはあたしの味方でいてくれる。パパは……置いておくとして。
今日した事は言わないけれど、ママとはいっぱいお話しよう。
ママだって、きっとパパの事で悩んだりもあったんだろうし。それでも好きで、結婚して、あたしが生まれたんだろうし。
結婚……子供かぁ。
はっ!?
ぶんぶんと頭を振ってその言葉を追い払う。いくらなんでも早すぎるよね? 早すぎる、かな?
悩むにしても、もう少し先でいいかな。あたしは一人じゃないし、ヒッキーだって一人じゃない。
みんながヒッキーを大好きで、ヒッキーが好きなみんながあたしも大好きだから。きっとこれって、普通の事じゃないんだろうなあ。
そんな風に思うと、なんだか笑みがこぼれてしまう。とりあえず、ママの昔の話でも聞かせてもらおうかな。
「ねえママ、あのさ――――」
―了―
目の前には目にも美味しそうな料理が所せましと並べられている。
肉に、魚に、新鮮野菜のサラダ。きっと栄養のバランスも良いんだろう。
今日は部活後に一人暮らしをしている雪ノ下の家に招待され、今まさに夕飯をごちそうになっているところだ。
他の三人の予定は知らんが、これがもし無断お泊まりとかだったら、きっと後で凄い事になるんだろうなあ。(白目)
「さあ、召し上がれ」
「お、おう。いただきます……」
にこやかに食事を勧めるのは家主の雪ノ下雪乃。もごもご食事の挨拶を返しながらテーブルを見渡す。
さーて、どれから頂こうか。
良い焼き加減のしょうが焼きにしようか。それともレバニラ炒めかな。いや、ほかほか湯気といい匂いを立ち昇らせているうな重も捨てがたい。どれか食べたら、ナッツを散らせたオニオンサラダで口をさっぱりさせるのも良い。
いやー、どれもこれも美味しそうで、箸が迷っちゃいますね。ははは。
……どストレートすぎだろっ!! どれもこれも精力増強で調べれば検索ランキング上位に出る食材じゃねーか!
「……お気に召さなかったかしら……」
不安げな表情が視界に入り、こちらを伺う小さな呟きも聞こえた。
いや、そういう訳じゃないんだけどさ……。
「や、めっちゃ美味そうだし、雪乃の料理だから絶対美味いんだろうけどさ。……この献立にした理由を聞いても?」
「…………質問の意味が分からないわ」
ふい、と目を逸らす雪ノ下。あ、これ完璧分かってますよね。
言葉にせずとも、何を求められて、何が期待されているのかが分かってしまう。むしろ期待しているのは俺だろうか。僅かに早くなった心臓の鼓動から意識を逸らそうと、とりあえずうなぎを口にする。ウマイ。
しょうが焼きをひとかじりして、油っぽくなった口に次はサラダを放り込む。めっちゃウマイ。
気付けばテーブルにある料理をがつがつとかき込み、ハムスターのように頬をもごもごさせながら舌鼓を打っていた。
「むぐむぐ……うっめぇな……んぐんぐ、あ、おかわりいいか?」
「……ええ」
くすりと笑みを浮かべて空になったうな重の器に白飯を盛る雪ノ下に、小さく礼を言いながら、それでも箸は止まらずに料理を次々と口に運んでいく。
数十分後には、あれだけあった料理がきれいに消え去り、膨れた腹を撫でながら椅子にもたれる俺がいた。だって美味しかったんだもん……。
「ごちそうさん。すっげぇ美味かった」
「ふふ、よかった。こんなにきれいに食べてくれるなんて、作り甲斐もあるというものね」
「あんな美味い飯、残すわけにはいかねぇだろ」
「そう。おそまつさまでした」
あれほど美味しい料理を残したらもったいないお化けが出てしまう。余さず栄養にして吸収しなきゃ罰が当たっちまうよ。拒食症も治るレベル。
ふいーと長い息をついて幸せを噛みしめていると、雪ノ下が皿を下げて食器を洗い始めたので慌てて立ち上がって手伝おうとそちらへ向かう。
「あら、いいのよ。片づけまでが料理ですもの」
「いやでも、食わせてもらってなんもしないってのもな」
そう言っている間にも雪ノ下は手際よく皿を洗っては乾燥棚に置いていく。
腕を動かしながら可愛らしい笑みを湛えて、手伝おうとする俺をやんわりと拒否した。
「大丈夫よ、食器洗い機もあるし一人の方が早いわ。それと……」
ちら、と壁に埋まっているパネルを見やると、ちょうどピンポロリン♪と軽快なリズムで風呂が沸いたというメッセージが流れた。
それを確認して、こちらに向き直る。
「食べてすぐというのは体に悪いかもしれないけど、お手隙だと言うのなら先に入ってもいいわよ」
至れり尽くせりで少々心苦しいものもあったが、家主の好意には素直に甘えておくかと考えをめぐらせ、制服エプロン(可愛い)の雪ノ下に頷いて見せる。
「そうか、何から何まですまん。先に風呂いただくな」
「ええ、ごゆっくり」
「あ、そういえば着替えとか持ってきてないんだが、どうすれば……」
「下着は前にみんなで泊まりに来た時のがあるから、後で持っていくわ」
「お、おう……」
前に来た時は全員でお邪魔したから、飯も風呂もすごい時間かかったんだよなあ。しかもその後四人からのぽしょぽしょ攻撃(+α)で下着もすごい事になったし……。って、その時の下着!? 洗われちゃったの? しかも収納されちゃってんの? 恥ずか死いいいいいい!!
軽く死にたい気分で脱衣所に向かって歩く。なんだろうこの気分、親に机の上にエロ本を並べられた時みたいな気まずさがある。
もそもそと制服を脱いでカゴに入れ、今度は自分で洗おう、と心に決め下着も脱ぎ去る。
前回の記憶を頼りに脱衣所のタンスからボディタオルとバスタオルを借りて、浴室へと足を踏み入れた。
相変わらず一人暮らしの風呂とは思えん広さだ。
浴槽のふたを外しながら、ふと思い出して扉に近づく。あ、あったあった、浴室のカギ。うちには付いてないけど、最近の風呂にはデフォでついてるもんなのかね。
カチリと音を立てて鍵が身の安全を保障してくれる。四人の特攻は思い出したくない。ていうか覚えてないんだよな、速攻で気絶したから。さすが中学生レベル俺。
しゃわしゃわシャワーを浴びてボディタオルにソープを付けて泡立て。なんてきめ細やかな泡なの。俺んちじゃありえないわ!
なぜか貴婦人気分で鼻歌なんぞを歌いながら身体を洗っていると、脱衣所からごそごそと音が聞こえてきた。
「ひき……八幡? 下着は置いておくから、部屋着はタンスの上から二番目の物を使ってくれるかしら」
「おーう、サンキュなー」
二人の時は名前呼び、と決めたものの、こいつだけは未だ抵抗があるらしい。俺もだけど。
ふんふふーんと洗う手を止めずに返事を返すと、ガチン、と浴室のドアの鍵が仕事をする音にその動きを止めた。
「…………」
「…………」
「……なぜ鍵がかかっているのかしら」
軽い沈黙の後にそんな事を聞いてくる雪ノ下。いや何故ってお前が何故入ろうとしているんだよ。
振り返って様子を探ると、浴室のドアの擦りガラスの向こうに肌色が見える。おい。
「なぜ入ろうとしている」
「由比ヶ浜さんがあなたとお風呂に入ったと自慢してきたからよ」
淡々と返す雪ノ下。
由比ヶ浜ェ……。なんでそんな事を自慢するんですか……。
泡に包まれながら恨み言を呟いていると、諦めきれないのかガチャガチャとドアと格闘している。怖いからやめて。
「あの、雪ノ下さん……?」
「寒いから早く開けて欲しいのだけれど」
「いや、服を着ろ。出るまで待て」
「だって、由比ヶ浜さんが……」
何を拗ねたような声を出しているんだお前は。ていうかなんて言ったんだ由比ヶ浜。
「いや、あれは止むに止まれぬ事情があってだな」
「……私とは入れないの?」
「そういう訳じゃないが、その、危ないから、いろいろと。今日のところは諦めてくれ」
「……そう」
なんとか宥めて諦めてもらう事に成功した。去り際に聞こえた「後で覚えてなさい」って言葉は気のせいだと信じたい。気のせいだよね、うん。
どうにも落ち着かずに、湯船に浸かるのもそこそこに浴室から出る事にした。
身体を拭いて、畳まれた下着を履く。
えーと、部屋着はタンスの上から二番目、と。なんだこれ、バスローブってやつか。なんかすごい金持ちっぽい。なんでかは分からんけど。
着なれないバスローブに身を包んでリビングに戻ってみると、むすっと膨れた雪ノ下が出迎えてくれた。
「お、おう、風呂サンキュな……」
「ええ……。私も入ってくるから、覗きに来るといいわ、覗企谷くん」
「覗かねぇよ……」
なんか久々に聞いたわその名前もじりいじり。いやその前になに覗き推奨してんだ。
雪ノ下はふんっと鼻を鳴らすとそのまま脱衣所へ向かってしまった。
あれは機嫌を直すのに手こずりそうだな、と思案して、念の為に歯を磨いておくことにする。や、その、ね、ごはんいっぱい食べたしね。
身体も口もさっぱりさせて、湯船でゆっくりできなかった分ソファでぐでっていると、雪ノ下が風呂から上がって戻って来たらしい。
ぱたぱたとスリッパの音に振り返ると、俺と同じバスローブに身を包んで何やら小さめのカゴを抱えている。
むすっとした表情を変えずに俺の隣にぽすりと座り、背を向けて体育座りになる。
「ゆ、雪乃……?」
「……かみ」
神? なりたいの?
なんの事か分からずにおろおろしていると、持っていたカゴを後ろ手に押し付けられた。
中にはドライヤーやらブラシやらが入っている。
「髪、乾かしてくれる?」
「そういう事か……。でも俺がやっていいのか?」
髪は女の命。そんな言葉もあるし、雪ノ下の長い黒髪は手入れもきちんとされている事は明らかだ。俺の為に、なんて嬉しい事も言ってくれていたが、俺に手入れの知識なんてないぞ。
なにやら高級そうなブラシをいじりつつ不安げに尋ねると、雪ノ下は不満そうな雰囲気のままこくりと頷いた。
「……あなたにやってほしいのよ」
「……そうか」
……今のはちょっとぐっと来た。体育座というのもなかなかにそれを助長している。
俄然やる気の出た俺の男心と、拗ねた雪ノ下に苦笑しながら、カゴの中を漁る。
「まずどうすればいいんだ?」
「そのボトルの液体を手で伸ばして塗ってくれるかしら」
ふむ、これか。カゴの中の茶色いボトルを取り出し、とぽとぽと手に出してみる。
これもトリートメントってやつなのかな、なんとかオイルって書いてあるが。
手をすり合わせてそれを伸ばして、雪ノ下の髪に触れた。濡れてても綺麗なのが分かる。なんでこんな気持ちいいんだろ。
多分だけど頭皮に触れない方が良さげなので、優しく撫でるように広げて、腰の近くまである髪にすりこんでいく。
触っているのは髪なのにどこか気持ちよさそうに身を捩る雪ノ下に、小さな興奮を覚えた。
「こんな感じか?」
「……ええ。次はコーム、ええと、薄いプラスチックの櫛で梳かしてもらえる?」
「これか、よし」
コームなる見たことはあるが初めて聞くアイテムを髪に通していく。先ほどのオイルと合わさって、全く引っかかる事なくするすると滑らかに通っていった。
「ん……」
「……気持ちいいのか?」
BGMもなく、耳に届くのは髪を梳かす音とドキドキと跳ねる心臓の音だけ。それゆえになんとか拾えた小ささで、雪ノ下が吐息を漏らした。
こくりと頷きだけで返されたが、なぜだか気を良くしてさらさらと櫛を滑らせる。
「こんなもんか」
「ん……、じゃあ、ブラシで梳きながらドライヤーで乾かしてくれる?」
「まかせろ」
髪の手入れってのも大変なもんなんだな。雪ノ下は毎日こんな事をしているのか。
そんな風に思いながら、しかし手伝える事はまったく苦ではなく、カチリとドライヤーのコンセントを差し込んでスイッチを入れた。
勢いよく熱風を吹きだすそれを、近づけすぎないように気を付けながら髪にあてていく。
ブラシで撫でるように梳かし、ドライヤーによって乾かされると、なんとも魅惑的な香りが立ち上ってきた。
「……なんかすげぇいい匂いする」
「トリートメントを変えてみたのだけど、どうかしら」
それってあれか。浴室の棚にあった、チューブの……なんていうんだろう、使い捨ての、口を折って開けるやつか。あんなの美容室でも見た事ないんだけど。
ドライヤーの音に負けないように、少し声を上げて雪ノ下に答える。
「ああ、良いと思うぞ。そのなに、雪乃に、……似合ってる」
「……そう」
最後の一言は聞こえたのだろうか。それきり無言でドライヤーとブラシを動かし続ける。
雪ノ下もそれに身を任せて、体育座のまま終わるのを待っていた。
「……ふう、どうだ?」
「ええ、良い感じね。ありがとう」
肩口からふぁさっと髪の具合を確かめて、雪ノ下は満足そうに笑った。満足して頂けたようで何よりです。軽く広がった髪から、ほわほわ良い匂いがする。
無事終えた事に安心してソファに座り込みながら、こんな大変な事よくできるな、と雪ノ下に話しかけた。
「これを毎日って、けっこうな労力だろ」
「ええ、でもあなたが、褒めてくれたから。……苦ではないわ」
首だけ巡らせて、小さく笑みを見せる。可愛すぎだろ……。
たまらなくなって後ろから抱きしめた。まだ髪が熱を持っていたが、それと同じくらい雪ノ下の身体も熱く、火照っていた。
ぴくりと雪ノ下の身体が跳ねるも、それごと抱え込むように腕も足も絡ませる。
「んっ、急に、どうしたの?」
「雪乃が愛おしくなって、つい」
「ふふ♪」
どうやら不機嫌さはドライヤーが水分ごと吹き飛ばしてくれたらしい。
楽し気に笑って、身を任せてくれる雪ノ下とそのまま会話を続ける。
「その……、髪の手入れ、俺のためにしてくれてるんだろ?」
「そうよ」
「すげぇ嬉しいよ……ありがとな」
「そう思ってくれたら私も嬉しいわ。けど、本当は洗う所から見せたかったのだけれど」
俺の脚の間、腕の中で口を尖らせる雪ノ下に、俺は苦笑を漏らした。
ぴたりと合わさった身体は、体温が同じになって、溶けて一つになったかのような心地を味わわせてくれる。
「悪い悪い。でも風呂場で雪乃と二人なんて、危ないだろ」
「それはどういう意味――」
隣り合った頭を振り向かせ、こちらを向く雪ノ下の唇を奪う。
抱きしめた身体より、ドライヤーで乾かした髪より熱い、溶けるような熱を感じた。
「――こんな風に、我慢できなくなる」
「……ケダモノ」
赤くなった顔を反対側へ向け、ぽそっと呟く。それが可愛すぎて胸がきゅーんとなってしまった。
そっぽを向かれたのを良い事に、先ほど自分で乾かした髪に頬ずりをして感触を愉しんでいると、少しだけトーンの落ちた声が返ってくる。
「でも……由比ヶ浜さんとは入ったんでしょう」
「あれはなあ、なんというか、本当に止むに止まれぬというか……」
こんな所でも負けず嫌いが発動とは、とことんな奴……。しかしその嫉妬の対象が俺であるのも嬉しい事だし、由比ヶ浜と険悪になる事もないだろう。
幾分か焦りを抑えて雪ノ下を宥めると、ふて腐れながらもこちらに向き直ってくれた。
「それで、我慢はできたのかしら?」
「ああ、まあ……」
なんせ出しつくした後だったからな……。
さすがにそこまでは言えずに口ごもってしまったが、雪ノ下は取りあえずは納得したらしく、大人しく俺に抱かれ続けた。
バレないようにでもしているのか、少しずつ身体を捩ってすりついてくる雪ノ下に、俺の嗜虐心がちろちろとくすぶり始める。
「そうだな、この後雪乃がへろへろにならなかったら、一緒に入るか?」
「……へぇ」
言葉に含ませた少量の挑発の声色に、雪ノ下は敏感に反応した。
……まじちょろのん。
「初めての時、へろへろになったのはあなたもだと思うのだけれど?」
「ぐ、それはまあ、俺も成長したわけで……」
綺麗所の選りすぐりと言っていい彼女たちに揉まれていれば、嫌でも経験値は稼げる。あれ、なんか俺最低な事言ってない?
最低男俺はなんとか挑発返しを避けると、雪ノ下の耳元に口を寄せた。
「……勝負してみるか?」
「んんっ、勝負って……?」
ぽしょぽしょ攻撃は雪ノ下にも効果的なようである。
びくんと身体を跳ねさせながらも、彼女はいつも通り、勝負事から逃げたりはしない。
「降参した方が負け、敗者は勝者の言う事を一つだけ聞く」
「そう、負けを認めなければ負けない、と」
「ああ、どうだ?」
あえて何で勝負、とは言わない。というか恥ずかしすぎて言えない。
だが雪ノ下もそれは分かっているようで、少しの逡巡もなく頷いた。
「いいわ、その勝負、乗ってあげひゃう!?」
了承と共に勝負開始、そして先手必勝。
自分の勝利を微塵も疑わない彼女の耳を軽く食むと、可愛らしい嬌声が上がった。
「ちょっ、と! ずるいわよ、こんなっあっ」
「何事も先手必勝、だろ?」
雪ノ下は今、後ろから俺に抱きしめられている。脚の間、腕の中、である。
そんな状況からスタートすれば、どちらが有利か考えなくても分かる。
ベッドへ行ってスタートだと思った? 甘い、甘すぎるぜ。パフェに砂糖をぶっかけたくらいなあ!
さすがの雪ノ下も、こんな状態からでは手も足も出ないらしい。得意の合気道にも、ここから抜け出す技なんてないだろう。……あ、目つぶしとかそういうのはやめてね。
「……どうだ、まいったか?」
「こっの、ひきょうものぉ……っ♡」
俺の卑怯さまいるわー、マイル貯まっちゃうわー。
罵倒も可愛らしい声で言われれば燃料以外の何物でもなく、耳や頬にキスを落としていくと、雪ノ下がもれなく反応してくれてさらに嗜虐心が燃え盛る。
「雪乃……」
「あっやっ、だめ、だめ……っ」
耳元でぽしょりと囁くと、より反応が大きくなる。やべ、くせになりそう。
ちゅっちゅっとわざと音を立てて耳に攻撃を仕掛けていると、やがて雪ノ下の身体から力が抜け始めた。
「はあ、はあ、んっ、く……」
「もう降参か?」
わざとらしい笑みを浮かべて尋ねると鋭い目つきで睨まれる。しかし、その目は潤んでいて逆に何かを期待しているようにも見える。
……ぞくぞくした。
首を伸ばし、雪ノ下の顔を右手を添えるようにしてこちらを向かせて唇を奪う。
左手は肌とバスローブと間を這うようにして胸元へ。
するとキスからは逃げずに、身体だけいやいやと抵抗を示した。
「ぷぁ、はあ、っだめ、胸は……」
「嫌か?」
唇を離して目を見つめると、逃れるようにそっと伏せられる。
「だって……自信ないもの」
ふるふると震えて目線を決して合わせてこない。
いつもの絶対的自信を持つ雪ノ下からは信じられないほど弱々しい仕草。
逆にそれが俺のサディスティックな部分を刺激する。
這わせた左手をそっと伸ばし、風呂上りは着けない派なのかそのままに晒されている胸に触れた。
「ひゃ、ちょっと、だめって、んんぅ♡」
本人は自信がないと言ったが、実際に触れてみるとめちゃくちゃ柔らかい。すべすべのほわほわである。
さすがに揉みしだくという言葉は使えないが、それでも俺の理性を溶かすには充分なエロスを秘めている。
「……えっろいな」
「なに、をぉっ♡ 言ってるの、よ……っ」
思わずぽしょりと呟いてしまったが、もうほんとエロい。一生こうしていたい。
たまに突起をくりんと摘み上げると雪ノ下は、童貞なら見ただけで発射してしまいそうなくらい淫らに喘ぐ。
エロさと胸の大きさって比例しないんだな……。もちろん由比ヶ浜だって陽乃さんだってクッソエロいんだが、雪ノ下も負けずとも劣らない興奮を与えてくれる。
キスをして、胸をまさぐりながら、さらに雪ノ下を求め続ける。
雪ノ下の重心をこちらに寄せてもたれかけさせて、顔に添えていた右手を下へ下へと伸ばす。
白磁のような肌をすべり、形のいいへそを中指で一撫でして、さらに下へ。
「んっ、んちゅ、ぷあ、まって♡ まってんむっ、んん♡」
言葉だけの制止を唇で文字通り黙殺して、目的の場所へ到達。って、おまえこっちも着けてないのか。
布を想像していたのに、手に触れたのはふわりとした毛の感触。少ない面積で薄く茂ったそれを超えると、火傷しそうなほどの熱量で、とろとろとトロけた秘所が指に触れた。
「はあ、ひきがや、くぅん……♡」
甘えた声に潤んだ瞳。もじもじ擦り合わされる太腿。バスローブは完全にはだけて、白磁のようだった肌が熱を持って桃色が差している事を教えてくれた。
身体を捩るたびに、小さいながらも振動を余さず受けて揺れる胸が興奮をさらに高める。
「んんっ、ああ♡ ゆび、ゆび入ってるっ♡」
「名前で呼んでくれるんだろ……?」
「ふあぁ、はちっまんっ、はちまんっ♡」
つぷりと指を侵入させると、それだけで大きく身体が跳ねる。背中をえび反りに浮かせる所作がなんとも色っぽい。
雪ノ下の中を、傷つけないように慎重に、ゆっくりと、優しく撫でる。愛を込めたその動作はまさしく愛撫と言ったところか。日本語の妙だな。
腕の角度的に奥まで進むことはできなかったが、それでも雪ノ下の反応は蕩けていると判断するに充分なものであった。
「はあーっ、あー……っ、ん、……ひうっ!」
ひと際反応の大きい場所を探り当てる。あれか……あの、伝説のGスポットという……。
と言っても俺にはその判断はつかないのだが。そりゃ経験人数で言ったらヤリチンクソ野郎の俺だけれども、実のところ性行為が上手くなったとかは全くない、と思う。
某ゴールドフィンガーにはなれそうもない。でもちょっと言ってみたい! おらおら、ここがええのんか? なんか違う。
「ここ……気持ちいいか?」
耳元でぽしょりと囁くと、顔を真っ赤にしてそっぽを向く。だからどうして、そうもS心をくすぐる事をするのか。
一本だった指をもう一本増やし、中指と薬指ですりすりとお腹側の壁をこすると、雪ノ下は一層激しく身体を震わせた。
「んぅーっ♡ やっ、やあ、だめ……」
細く白い両の腕は俺の腕にしがみついている。脚はきつく閉じられ、侵入を拒むかのように太腿が合わさっているが、付け根には全く効果がないので指は止まらず雪ノ下を責め立てていた。
反応を愉しみながらしばらくいじめ続けていると、甘い吐息が激しさを増して何かを耐えるように大きく呼吸を繰り返し始めた。
「ふうぅ、ふぅーっ、んぅ、っくぅ……」
「雪乃……」
「んっんむ、まって、今は、やっん♡」
熱くなった身体を落ち着かせようとしている雪ノ下を邪魔するように、唇や胸への攻撃を再開する。
効果は抜群だったようだ。抑えきれない声が淫靡に響き渡る。だらしなく口を開いたまま、雪ノ下が懇願するように俺を見上げた。
「ほんとに、だめだから、とめ、とめてぇ……っ♡」
「降参か?」
「っっ……」
そんな可愛らしくいやいやされても止められるわけがないっ!(断言)
好きな子をいじめたくなる気持ちが少し分かってしまったかもしれない。
煽りを込めた声音で投降を確認すると、雪ノ下はいじらしくもぷいと顔を背ける。
そんな予想通りの反応に内心ほくそ笑みながら、次の作戦に移った。
囲むようにしていた両足を、雪ノ下の閉じられた膝に割り込ませていく。
「えっ、え、なにを……きゃああ!?」
何がしたいのか分からなかったのか不思議そうな声を上げていたが、割り込ませた脚で雪ノ下の股を開かせると恥じらいの声音に変わった。
なりそこないのM字開脚のような状態。性的な意味でだらしのないその恰好は、雪ノ下の羞恥心を煽るのに充分すぎるものだった。
にわかに抵抗が大きくなるも、継続する責め立てにどんどん力が抜けていく。
「やだぁ、こんなぁ……っ、あっあっ♡」
「すっげぇエロい……」
「ばかぁ♡ ばかっ、ばか……!」
もはや隠すことも出来ない嬌声があふれ出る。露わになった薄い茂みの向こうも、とろとろと指に絡む熱が増えていった。
首に吸い付き、今までよりも指の動きを激しくさせる。呼応するかの如く、喘ぎ声も激しくなっていく。
「やああっ、もうっだめっ、はちまんっ、はちまんん♡」
俺を求めて呼ぶ声に答えず、二本の指で激しくかき回す。弱いところを重点的に、その周りもなぞるように滑らせていく。
「~っ! も、もうだめ、だめっとめてっ!」
「……だーめ」
「なんで、なんれぇっ♡ いじわるしないでっ」
舌足らずになりはじめた雪ノ下の様子に、背中がぞくぞくと震える。
あの雪ノ下雪乃が。校内随一と謳われる美少女が。誰も手の届かない高嶺の花が。
俺の指先一つによがり狂っている。
その事実がたまらなく俺を興奮させた。
「こうしゃん、こうさんしますっ♡ だから、ゆるしてぇっ」
ついには降参してしまった雪ノ下に、悪魔の笑顔でもって囁きを落とす。
「……だめだ」
「やああ、やああっ♡ あー……っ!」
「ほら、雪乃……イっちゃえ」
「~~っ! あ――……っ♡♡」
抵抗を諦めた雪ノ下の四肢から力が抜け、しかし膣だけはきゅうきゅうと可愛らしく指を締め付けた。えび反りになった背中が大きく跳ねて、腰は俺の手に押し付けられるように動いている。ぴっぴっと小さく噴出した液体が手に当たる。まさか、潮、というやつだろうか。手に掛かった熱になぜか、充足感を覚えた。
絶頂を迎えてしばらく、雪ノ下の痙攣は収まる事がなかった。ぴくりと身じろぎをするたびに、MAXまで張りつめたはずの下半身にさらに血が送られている気がする。エロすぎ……。
「…………」
「…………」
数分は経っただろうか、もたれかかる雪ノ下を胸で抱えるように抱きしめ続けている。
半分仰向けのような彼女だが、表情はうかがい知れない。両手で隠しているからだ。耳が真っ赤なのは分かるけど。
可愛らしいその行動に何も言えず、話し出すのをじっと待つ。
「…………へんたい」
最初に絞り出された言葉はそれだった。
苦笑して、雪ノ下の頭を撫でながら返事をした。
「しってた」
「へんたい、ばか、ぼけなす、はちまん」
「はいはい」
いくらなじられようと、あの雪ノ下の乱れた様を見た後ならお釣りがくる。
しかし、意趣返しにと意地悪な顔で一つの事実を突き付ける。
「……でも負けを認めたからなあ。何を命令しようか」
「……! これ以上私に恥辱を与えようと言うの……?」
隠していた手をどかして、雪ノ下が俺を睨む。
その目は驚いたような、軽蔑するような、……何かを期待するような、そんな色をしていた。
「そういうのが良いのか?」
「っ! ち、違うわ、ただあなたの事だから、そういった命令をすると思っただけよ」
からかうように尋ねると、慌てて目を逸らす。その赤い頬に手を添えてこちらに向け直させる。
「なんでも言う事を聞くんだよな?」
「…………」
こくり、と無言の肯定。
潤んだ瞳に、にやりと意地の悪い笑みを映す。
勢い余って恐ろしい形相になってしまったのか、雪ノ下がずざざ、とソファの端まで逃げて身体を守る様に抱きしめた。ちょっと傷ついたのは内緒だ。
「それで、鬼畜谷くんはいったいどんな命令をするつもりなのかしら?」
甘い雰囲気がいつの間にか失せてしまったのか、いつも部室で見せるようなクールな冷やかさでこちらを見やる。
だが、そうはいかんぞ。
「そうだな……、おねだりでもしてもらおうか」
「…………」
「おねだり……」と独り言ちた雪ノ下がゆるゆると頬を染めていく。目線は俺の下半身、バスローブを押し上げて自己主張する不出来な息子。もう少し落ち着いてくれるといいんですけどねえ。
とまあ、正しく意味が通じているのでそれは良しとする。しかし、まだ先があるのだ。
「さっきの格好で」
「……へ?」
珍しく間抜けな返事で聞き返してくる。ぽかんと口も開いたままだ。
さっきの、とは忘れたくても忘れられない雪ノ下の痴態である。
つまり、脚を開いておねだりをしろ、と。
「……本当に鬼畜だったようね」
「なんとでも言え。それで、してくれるんだよな?」
恥ずかしいのか、怒っているのか、多分半々だろう真っ赤な顔で睨む雪ノ下。
だがその瞳の奥に燻る期待の輝きを見逃さない。
「そ、そんな事できるわけ……」
「そうか、……まあ無理強いはしない。そんじゃあもう寝ようぜ」
実際のところ無理強いはしたくないのも本音である。
早々に話を打ち切り、出しっぱなしにしていたトリートメントグッズをカゴに戻し始める。
するとどこか焦った色を見せて雪ノ下がその手を止めた。
ニヤリ。フィーッシュ。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! あなたは、その、我慢できるの?」
ちら、と下に目を向ける。俺視姦されちゃってる。
しかし努めて冷静に、今すぐ襲い掛かりたいほど興奮している事を気取られないように返答する。
「あー、まあ、一晩くらいならな……」
嘘です! 本当はもう限界です! 予備電源もヤル気マンマンなんです!
叫ぶ息子を無視する。いやでも本当にお流れになったら、どのタイミングかは分からんが間違いなく夜這いするな、コレ。
「そ、そう……。でも、その、そう、いつあなたが暴走して襲われるか分からないから、今のうちに発散しておくのも良いと思うのだけれど?」
爆発しそうなのバレてんのかな……。
しかしそのセリフは、ともすればそのままおねだりになりそうだよな。だがまだ条件は満たされていないぞ。
「へえ……じゃあ、してくれるのか?」
「……くっ」
なにやら悔しそうな表情の女騎士、じゃなかった雪ノ下。
もう一声かな、などと思案しているとソファの端から衣擦れの音が聞こえた。
するすると肩から滑り落ちるバスローブ。露わになった慎ましやかな胸と桜色の突起。切れ長のへそがくびれに挟まれて綺麗に形を整えている。
まるで美術品のような美しさ、気品を感じさせるその姿に思わず生唾を飲み込む。
手を添えて、ゆっくり、ゆっくりと広げられていく傷一つない真っ白な脚。
片足をソファの背もたれに、もう片方は下にだらりと垂れさせ、完全に開かれた脚の付け根に手が這う。
にち、と卑猥な水音を立てて、これまた細く白いたおやかな指が秘所を開く。まるで導くように開かれた桃色の空洞から目が離せない。
「はっ、はちまん……」
「あ、お、おう」
生唾飲み込みすぎて返事がおざなりになってしまった。いやしょうがないよね。これから目を逸らせるのはホモか聖人君子のホモだ。ホモしかいねぇ。
悔しさはもうその顔にはなく、雄を求める雌の貌で雪ノ下が口を開いた。
「……はちまん、の……ぺ、ぺに、す、を……ここに、欲しい、のだけれど……」
「……っ」
頭が熱くなる。ここまで淫らに、雪ノ下に求められて平常でいられるだろうか。否。
考えるよりも先に身体が動いて四つん這いで、獣のように雪ノ下に襲い掛かる。唇を貪りながらバスローブを脱ぎ去り、焦りすぎて手間取りながら下着を放った。
あ、まてまて、いくら我を忘れても避妊だけは忘れてはいけない。
口を離すと雪ノ下も焦ったように先ほどのカゴを指さす。
「ん、ふあっ、は、八幡、まって、あれ……」
「す、すまん……これか」
ヘア用品に紛れて入っている薄い紙の箱。『幸福の0.01ミリ!』
……。言いたい事はいろいろあるんだが。
まずゴムがここにある時点で雪ノ下もそういう思いもあるんだろう。それはまあいいとして、このパッケージってあれですよね。発売当初売り切れて高騰したっていう例の……。
泊まる事になって、俺も期待してコンビニでゴムを購入したのだが、それでも恥ずかしくて、まあ普通の一般的なやつを選んだわけだ。
……つまりこれは雪ノ下が自身で購入したものである。
「あ、あの……」
「それは! その、……あなたとの隔たりはその……薄い、ほうが……いいと、おもって……」
言葉じりになるほど小さく消えてしまいそうな声でぽしょぽしょ呟いている。
何この子可愛すぎるよ……耳元じゃないのにぽしょぽしょで射精しちゃいそう……。
「すまん、もう、我慢できないわ」
手早くコンドームの箱から一つ取り出し、天を向く愚息に被せていく。これ初めて着けようとした時、痛くて萎えそうだったけど慣れればそんな事もないな。慣れって怖い、慣れた自分が一番怖い。
するすると根本まで着け終るや否や、雪ノ下に覆いかぶさる。雪原のように白かった肌はうっすら桃色に染まり、俺を受け入れてくれているようにも思えた。
「……いれる、ぞ」
「ええ、……来て」
最後の了承を得て、あてがった先端をゆっくりと侵入させていく。およそ人の体温とは思えない熱さで、文字通り熱烈な歓迎を受けた。
一番奥まで到達すると、雪ノ下が押し出されたように長く息を吐き出した。
「はあ、ああ……♡」
その声音が、表情が、先ほど宣言した我慢できないという言葉を現実のものにした。
「っく、おお」
「ひゃ、あんっ♡ あっ、あっやっ」
限界がそんなに遠くない所にある事を自覚しながら、欲望のままに腰を動かした。奥まで、隅々まで味わいつくそうと、前後左右、縦横無尽に蹂躙していく。そのどの動きにも、雪ノ下は嬌声でもって答えた。
うねる膣壁が精を絞り出そうと俺を責め立てる。攻めているのは俺だったはずなのに、いつの間にか耐える側へ立場が逆転している気がする。
「雪乃……っ、すげぇ気持ちいい……!」
「私、もっ、きもちいぃ……♡」
もっと、もっと奥まで、そんな野獣のような本能の雄叫びに身を任せて、雪ノ下の細い脚をとる。細すぎると思っていた脚はしかし、触れてみるときめ細かく吸い付くような肌が指の形に沈み込む柔らかさを持っていた。ずっと触れていたいという気持ちを抑え、太腿ごと腰を持ちあげて挿入する角度を変える。
「っやああ! あっ♡ だめっ、それ、ふかいぃ!」
のしかかり押し付けるようなピストンに、雪ノ下の喘ぎ声の色が変わった。最奥にぐりぐりとこすり付けると、髪を振り乱して俺の胸にしがみついてくる。それを抱きしめながらも、腰はずんずん責め続けている。
「ん、く、っあ! あっ! イ、うう♡」
「うあっ!」
容赦なく責めていたところに、強烈な膣圧の締めつけ。一番深いところでそれを受けて、思わず腰が止まる。
しかし動きを止めてもなお、絶頂を迎えた雪ノ下のそれは俺のモノを包み込んで快感に苛ませた。
「雪乃……締めすぎ……っ」
「はああ……♡ だって……、はちまんの、離したく、ないんだもの……♡」
「っ!」
蕩けた顔でそんな事を言われて、限界だったところにトドメを刺された。一瞬の内に訪れた射精感に思わず身を引こうとすると、雪ノ下が腰に脚を回してそれを阻止する。
「お、おいっ」
「ふうぅ、……ダメよ、自分だけ逃げるなんて、……そんなの許さないんだから♡」
「う、ああっ、ああ!」
蠱惑的な声音と表情と押し付ける腰の動きで、致命傷だった俺に更なる追い打ちがかけられた。
もはや抑えの効かない快感の奔流が、雪ノ下の中でびゅくんびゅくんと跳ねながら溢れだしている。
溶けそうなほどの甘い痺れに酔いながら、雪ノ下の柔らかな身体に沈み込むように倒れてしまう。全てを出しつくして動けない俺の頭に、ふわりと優しい感触。どうやら撫でられているようだ。
強い刺激とも言える性的な快感とは真逆の、安心させてくれる慈愛に満ちた愛撫。その緩急に逆らえなくなった俺は甘えるように雪ノ下に縋りついた。
「……気持ちよかった?」
「最高でした……」
「そう。ふふっ♪」
「雪乃は?」
「私も……とても、良かったわ」
「そうか……」
「ええ。ねえ、八幡?」
「なんだ?」
「愛してるわ」
「ぐ……」
「ふふ、八幡は?」
「参りました……、愛してるよ」
「知ってたわ」
「おいっ」
温かい雪ノ下の胸の上で、優しく撫でられながらのピロートーク。
全てを絞り出すような性行為のあとの会話は、何故だろうか全く気恥ずかしさは無く。
愛を語り合うなんて数か月前の俺には考えられない事なのに、今はずっと、この時間が続けばいいのに、なんて甘い事を思いながら撫でられ続けていた。
* * *
ピロートークまでしたというのに、あれからまた盛ったとか口が裂けても言えません。やべ、裂けた。
まって、言い訳させて。雪ノ下が作ってくれた料理がエネルギーになり始めたのか、出し尽くして沈黙したと思った俺の息子が元気ハツラツしちゃったんです。
今度こそ全精力でもって雪ノ下を満足させた後、動けなくなったくせに口はよく回る彼女に言い負かされて結局風呂に入った。
一糸まとわぬ雪ノ下を見たら不覚にもまた大きくなったりもしたんだが、本当に限界を超えて勃起するとめちゃくちゃ痛いのな……。
身体を洗い流す程度ではあったものの、お互いに体力が尽きていたので(物理的に)風呂に沈む前に上がることにした。
今は一人暮らしのものとは思えないサイズのベッドで、いちゃこらしながら寝そべっているところだ。
「……ねえ、八幡」
「どうした?」
腕枕をしながら、擦りついてくる雪ノ下の頭を撫でる。初めて会った時の印象とは真逆の温かさに、愛しさを感じてしまう。
「……幸せね」
「……そうだな」
近くで見ても端正な雪ノ下の顔にどきりとしながら、相槌を打った。打ったはいいけど、なかなか恥ずかしいこと仰りますね。幸せだけど。
頭の中までぽわぽわしていると雪ノ下が小さく笑い声を漏らした。何事かと目線だけで尋ねると、困ったような笑みを浮かべている。
「まさか四人であなたと付き合う事になるとは思っていなかったけれど、今ではそれで良かったと思っているわ」
「そう、なのか」
四人もの彼女もち。それは世間から見たら異端そのものだろう。今でも時たま悩んでしまうその事実に、雪ノ下は良しと思っていてくれているのか。
「……きっと、私とあなたの二人だけでは、ここまで幸せになれないと思うから」
「そんなこと……」
ない、と言えるのだろうか。そもそも俺は、誰の告白であろうと断っていたかもしれない。それを受け入れたのは四人が俺の理性を溶かして、俺を、よわくしてくれたからだ。ならばこの状況は、この幸せは、俺と雪ノ下だけで勝ち取ったものではない、とも言える。
不安の色を見せてしまったか、雪ノ下はそれを振り払うかのように頬に口づけをくれた。彼女の、彼女たちのくれる温かさはいつだって、俺の暗い何かを溶かしてくれる。
「幸せよ。きっと、みんなも」
「そうだといいな……」
「ええ、だから……ずっとそばに居てね」
甘えるように身体を寄せる雪ノ下を受け入れて抱きしめる。
離れる気などない。離れられる気もしない。
俺の青春ラブコメはまちがっているのかもしれないが、それでも、それでも頑なに突き進んで、突き抜けたなら。
「ああ……、約束するよ」
「ええ、約束……。おやすみなさい、八幡」
「おやすみ、雪乃」
温かい身体を抱きしめて、抱きしめられて、俺は微睡みの中に沈んでいった。
――――――
――――
――
会話が終わり、音の無くなった部屋の中で、彼の寝息だけが私の耳に届く。
寝つきが良いのね。けれど、あれだけしたら体力も尽きてしまうか。少し前まで彼のモノが暴れまわっていた下腹部に手をやると、身体の奥がじわりと熱を持った気がした。
その熱にさえ、幸福を感じてしまう自分がどこか可笑しかった。平和ボケならぬ幸せボケというのはこういう事を言うのかしら。
精神的な繋がりだけでなく、肉体的な繋がりがこれほどまでの多幸感をもたらすものだとは思ってもみなかった。
クラスメイトたちが教室の隅で下品な話をしていると思ったことはあれど、それを羨ましいとは思ったことも無かったのに。もう彼女たちを馬鹿に出来ないわね。
だって、私はきっとクセになっちゃうと思うから。
彼が私を求めてくれる事に、私が彼を求めてそれに応えてくれる事に。
きっとこの気持ちに節制をする事は出来ない。
比企谷くんは自分がよわくなったと漏らした事があったけれど、多分私もそうなんだろう。この関係に幸せを感じて、失う事を恐れている。
しかし、恐れる事はないのだ。
私は、独りじゃない。彼ももう独りじゃない。だからといって二人でもない。心強い味方があと三人もいるのだから。
世間体だとか倫理だとか常識だとか、そういったものがふとした瞬間にのしかかってくるような重圧を与えてくる時がある。そんな時に私の支えとなってくれるのは、やはり彼女たちだ。私と、彼女たちの思いは、何人にも負けない強いものだ。
比企谷くんの寝顔を眺めながら、ライバルであり同士でもある彼女たちを思う。
由比ヶ浜さんの笑顔、姉さんの強さ、そして一色さん……。そういえば一色さんとは二人で話した事が無かったわね。
今度じっくり話してみようかしら。甘えるのが上手な、初めての後輩。彼女の事も、彼女視点の比企谷くんの事も知ったら、きっともっと仲良くなれる気がする。
私の話も聞かせたら、一色さんもきっと、比企谷くんの事をもっと好きになるんでしょうね。
「……幸せ者ね」
――――あなたも、私も。
軽く頬に口づけをしたら、背中に回った腕に少しだけ力が入って抱き寄せられた。
起きているのかと思ったけれど、しっかり眠っているみたい。
溢れた思いが微笑となって漏れ出してしまう。
「ふふ、おやすみなさい……」
幸せな温かさの中で、恐らく人生で一番安心して、眠りについた。
―了―
今日も授業が終わり、放課後。
がやがやと各々の目的に合わせて生徒たちが動き出す中、立ち上がりもせずにそれをボーっと眺めていると、由比ヶ浜がてこてこ歩いてくるのに気が付いた。
「おう、部活行くのか?」
「あ、ううん、今日は部活無いんだって。それで、あたしも優美子たちと遊びに行くから言っておこうと思って」
「え、マジでか。……連絡来てないんですけど」
聞きながらスマホを取り出してメールを確認してみても、そのような連絡は来ていなかった。
あれー、おかしいな、雪ノ下とも仲良くなれたと思ったんだけどなー、あれー?
ちょっと、いや結構凹んでいると由比ヶ浜があわあわと両手を振って、違うよーと話を続けた。
「なんか陽乃さんと一緒に家に急に呼び出されたんだって。急ぐからあたしから伝えて置いてほしいって言ってた」
「……そうか」
雪ノ下姉妹が家に呼び出された、か。
ちょっと前までなら一大事だ、大事件だと右往左往していたのだろうが、今の俺たちには気にならない、とまでは言わないが心配いらない事だと分かっている。
「うん! じゃ、あたしも行くね、ばいばいヒッキー」
「おう、じゃあな」
手を上げて由比ヶ浜を見送ると、合流した三浦がちらりとこちらを一瞥してから、リア充どもを引きつれて大名のように教室を去っていった。
三浦や、その他大勢を見ても、今のところ俺たちの関係性は疑われていないようだ。積極的に隠すのもなかなかに神経を使うものだが、妙な噂が広まっても面倒だと全員で話し合ったので、そこら辺はみんな理解している。
バレたら……まあ俺は刺されると思いますね、はい。
リア充が減って静かになった教室で、やれやれと息をついてからバッグを持ちあげてドアを開くと、同時に中に入ろうとしていたのか、葉山とお見合い状態になった。リア充・即・斬! 同士討ちかな?
「っとと、すまない」
「いや……、あれお前、三浦たちと遊びに行くんじゃねぇのか?」
「ああ、俺は部活が終わったら合流するんだ。その前に忘れ物を取りにね」
道を譲って話しかけると、葉山は自分の机からプリントを取り出していた。
そういやスポーツマン御用達のエナメルバッグ持ってたし、普通に部活出るんだな。真面目なこった。
俺は部活がないので(やろうと思えばできるが)とっとと帰っちゃいますけどね!
「そうか、じゃ――」
「せーんぱーい!」
――あな、と続けるところで、今や聞きなれた後輩の甘えた声が遠くから聞こえた。声の方向を見ると、下級生の階から続く階段から一色がぴょこぴょこ走ってくる。
その走り方やあざとい事この上なし。両手を同時に左右に振って、どうやってバランス取ってるんだと言いたいテンポで跳ねるようにやってきた。
「せんぱーい、やばいですやばいです~」
いつだかも聞いたガチで面倒くさい依頼を持ってきたセリフ。しかしその表情には全くと言っていいほど悲壮感や焦りが感じられない。
一応、何がやばいのか尋ねてみる。
「……何が」
「なんですかそのどうでも良さそうな聞き方……。生徒会の仕事手伝って欲しいんですけどー」
きゃぴるん☆と両こぶしを顎の下にやり、困ってる女の子のポーズ! と言いたげな姿勢でそんな事をのたまっている。
別に、そんなあざとさMAXにしなくたっていつだって手伝ってやるのに……と自分でもデレさMAXきめぇと思うので声には出さないが目だけで訴える。
「いろは、今日は生徒会の方に行くのか?」
「あ、葉山先輩。はいー、ちょっと急ぎの仕事があるので、部活は顔出せないかもですー」
プリントを鞄にしまい込んだ葉山が、肩に背負いなおしながら一色に話しかけた。
一色は顎にやっていた手を後ろに回して、今度は爽やかな女子のポーズ! と言わんばかりのオーラを振りまいている。こいつ、身体の角度まで計算してんのかな……。
「分かった、マネの方には伝えておくから頑張れよ」
「ありがとうございまーす!」
爽やか男子の微笑み! を炸裂させながら葉山も答える。くっ、俺は、俺はどうすれば? 淀んだ男子の目! はいつもの事か……、ちょっとはマシになってきたんだけど……。
間に入れずにうーむと唸っていると、葉山に肩を叩かれた。
「じゃあ比企谷、いろはの事頼んだ」
「……おう」
「頼まれちゃいまーす♪」
言われるまでもねぇよ、と言いたいところでもあるがここは上機嫌な一色に免じて許してやるよ!(上から目線)
「それじゃ、行きましょうか先輩。葉山先輩さようならー」
「ああ。じゃあな葉山」
「また明日な」
爽やか女子と爽やか男子に挟まれ、爽やかに挨拶を交わして歩き出す。爽やかだったかな……濁ってないといいけど。
葉山の姿が階段の下へ消えていくのを確認すると、一色が腕に絡みついてきた。
にへへと笑う後輩は仕草こそあざといが心底楽しそうでなんとも可愛らしい、が。
「おい一色、腕組んでくれるのは嬉しいが目立っちゃうからやめろ」
「えー、いいじゃないですかー、誰も気にしませんって♪」
「お前はもっと自分のネームバリューを自覚しろ」
「そんなのはもうどうでもいいのに……分かりましたよー」
しぶしぶといった表情で腕を離して歩き出す。その後を追って俺も歩を進めた。
実際一色の生徒会長としての評価はかなり高いものだ。
もともと、可愛らしい一年生の生徒会長という売り文句だけでも全校生徒の半分、つまりは男子からの熱い応援を受けていたのだが、最近では体面を取り繕う事がなくなり上級生の多い生徒会役員にもビシバシと指示を送り、無類のリーダーシップを発揮しているらしい。
ついでに校内随一の切れ者としても名高い雪ノ下の唯一の後輩としてのパイプ、どこで知ったか伝説となった陽乃さんとも繋がりがあるという事で、この年下の少女はおいそれと手の出せない存在へとなりあがったのである。
しかし皮肉な事、だろうか。一色自身はもはやそんな事は取るに足らない些末事だと思っている。
生徒会も部活も頑張る健気で可愛いわたし☆を目指していたはずの彼女だったが、俺たちとの今の関係になってからはそんな物に興味がないと言わんばかりに放り出した。
ぶっちゃけ会長としての高評価も雪ノ下たちとの繋がりも、早く奉仕部に遊びに行きたいから生徒会役員共をキリキリ働かせた結果、というだけなのだ。部活はどうしたんだよ。
まあそれも、「先輩に会いたいからですよー♡」なんて言われたら強く言えない男心である。
さっきも葉山に相対した時より俺に対する声の方が高いのがちょっと嬉しかったし。そんな事で喜んじゃう俺って本当に弱くなっちゃってるよな。美人局とかマジで気を付けないと……。
ちらりと可愛い後輩を見やると、先導するように進む歩調は軽く、見ているだけで機嫌がいいと分かる。
「それで、急ぎの仕事ってどんなんだよ」
「それは着いてからのお楽しみでーす」
……あんまり面倒じゃないのだといいな。
ふわふわ跳ねる亜麻色の髪を眺めながら、そんな事を思いつつ後ろをついて歩き続けた。
ドラクエパーティのように後ろを着いて生徒会室方面への階段を上がっていると、急にくるりと振りかえる。翻ったスカートに一瞬目を奪われるも無理やり引きはがして訝しげに見上げると、一色が悪戯っぽく笑っていた。
「先輩、お仕事は嫌ですか?」
「別に……。お前の手伝いならいつでもやってやるよ」
少し照れくさいがそう伝えると、一色は面食らったのか両手をわたわたと動かして、デレすぎだのあざといだの喚いた。お前には言われたくないよ。
「まったく先輩はー。嬉しいですけど、ここは前みたいに仕事したくなーいって言う所ですよ」
「なんでだよ。そう言ってたらどうなってたんだ?」
何か狙っていたのだろうか、悪戯が失敗した子供のような声色でめちゃくちゃな文句をつけてくる。しかし尋ねてみると、またもやキラリと光りそうな目つきに戻った。
「それはもちろん、ご褒美があるってことを教えて、頑張ってもらうんですよー♡」
「おま、ちょ、ばか!」
一色は目だけで辺りを確認すると、スカートの裾を弾くように一瞬だけひらめかせた。
輝く白い太腿に目が釘付けになってしまうが、煩悩を振り払って慌てて周りを見渡す。よかった、誰もいない。
余りにも突飛な行動に、一つ説教でもしてやろうと向き直ると、一色はてててと一気に階段を登り切ってしまった。
「ほらほらせんぱーい、早く行きますよー」
「……ったく」
楽しそうなその声に怒る気もなくなった俺は、ゆっくりと階段を上っていくのだった。
* * *
「――――で、これが急ぎの仕事か?」
「はい♪」
生徒会長席、と言っても長机を三つコの字に並べたところのお誕生日席に積まれた数枚の書類を見やる。
着いて早々、渡された書類はほぼ決裁済みの、後は一色の名前を書き込むだけみたいなものだった。これを仕事と言ったら、俺の両親がしているのはなんなんだろう。拷問だろうか。やっぱり社会は怖い。
「……あのな、急ぎだっつーから来たのになんだこれは。五分もかかるかどうかってレベルだぞ」
「そうですかー? じゃあ、五分で終わらなかったら罰ゲームでもします?」
一色が挑発めいた目線を向けてくる。また何か仕掛けてくるつもりだろうか。
でもこんな書類、正直五分ですらもったいない。〆切数十秒前から始めても間に合いそうなものだ。
いいだろうと頷くと、一色が小さめの棚の上にあった段ボールをごそごそと漁りストップウォッチを取り出した。生徒会室って色んな物置いてあるんだな。
「ではスタートでーす!」
「あ、おい!」
まだ筆記用具すら用意していなかったので慌てて椅子に座り鞄から筆箱を取り出す。まあ慌てなくても時間的な余裕は覆らないのだが、タイムアタック的な空気に流されてしまったのだろうか。
筆箱からボールペンを出してかちりとペン先を送り出す。書類の内容を流し読みで確認して、代理ではあるが一色いろはの名を書き込めば一枚目終了だ。こういう時、名前が簡単な奴ってちょっと羨ましいよな。テストとかでもタイムロス少ないし。
ボールペンを滑らせて、「一」文字を書き込もうとした瞬間、耳に吐息がかかった。
「……がんばってくださーい、せんぱい♡」
「ほああ!?」
滑らせたボールペンの先は滑りすぎてあらぬ方向へ走って行った。
耳にかかったスウィートボイスと、書類をダメにしてしまった罪悪感から心臓が嫌な音を立てて激しく運動している。
なんとも言えない気持ちに目を見開いて一色を振り返ると、してやったりとでも言いたげな表情で俺を見下ろしていた。
「おま、おま……、え、これどうすんだよ」
「あららー、やっちゃいましたねー。こちらがコピーの書類になりまーす♪」
まるでどこぞの三分クッキングの差し替えのように書類を差し出してくる。なんでそんな物が用意されてんだよ。
決まってますね。……最初っからこれするために呼んできたのか。
「あと四分ですよ、先輩♪」
「こんの……!」
ギリリと歯ぎしりしてボールペンを持ちなおす。落ち着け、やられる事が分かっていれば文字を書く事くらいはできるはずだ。
差し出された書類を受け取って、今度は内容も見ずに署名欄に手を向ける。今度こそ「一」の字を――。
「……ふぁいとですよーせんぱーい♡」
「っぐぬ……」
なんとか書ききる。綺麗な直線ではないが似た文字がないので「一」と読めるだろう、そんなレベルだけど。
次は色、色……。
「……大好きです、せんぱい……」
ぽしょぽしょと囁かれる。悪戯っぽい先ほどまでと違って艶めかしさを含ませたその声は、俺の動きを止めるのには充分すぎる効果を持っていた。
ボールペンを持つ手に力が入らなくなってぷるぷると震えている。こんな状態で文字など書けそうにもない。
「う、嬉しいけどな、邪魔するなっての……」
「えー、可愛い後輩に応援されてるんだから張り切って仕事してくださいよー」
くすくすと笑いながら俺を見下ろす一色に、じとりとした目線を送ってみても小悪魔な後輩はどこ吹く風である。
その後も文字を書こうとするたびに「がんばれ♡がんばれ♡」とぽしょぽしょされ、歪ながらも全ての書類を片づけおわるのに三十分を要した。
「おわ、おわった……」
「……おつかれさまです、せんぱい♡」
「ぉふ……、それももういいから……」
「えー、あ、じゃあこれが罰ゲームってことで!」
そういえばそんな賭けもどきもしてましたね……。止めるのを忘れていたストップウォッチは無常にもタイムを刻み続けていた。
一色はそれを止めてリセットさせると、元の段ボールに無造作に放り込み俺の背中にしなだれかかってきた。あすなろ抱きとでも呼ぶのか、おあつらえ向きに耳元に口が寄せられる形だ。
「……えへへ、せんぱい、せんぱーい♡」
「っ、なあ、これ罰ゲームになるのか?」
ぽしょぽしょ甘い声を耳に受けながら問う。こんなのを他の男子にでもしたらご褒美どころか一瞬で溶けるまである。やらせないけど。
んー、と何か考えているような、何も考えていないようなトーンで唸りながら頭をぐりぐり押し付けている一色はまた、挑発めいた声音で続けた。
「……そうですね、後輩にいいようにされちゃうなんて、男のプライドとしては罰ゲームになるんじゃないですか?」
背中に感じる体温と、甘い香りと甘い声を甘んじて受けながら考える。
確かに一人の男としてはこの状況、良い思いをしているのも事実だが見様によっては情けないとも思わなくもない。
「ふふ、どうですかーせんぱい♡ わたしに、メロメロですか?」
調子づいた一色が耳元で囁く。それを受けて溶けてしまえと叫ぶ俺の精神を蹴り飛ばして立ち上がった。
ひゃ、と小さく驚いた一色に向き直り一歩踏み込む。
「せ、せんぱい?」
不安げに見上げてくる顔を真っ直ぐに見つめてまた一歩と踏み込むと、一色も一歩後ずさった。
それを三回もすると、先ほど使ったストップウォッチが入った段ボールが乗せられた低い棚に一色の背中がぶつかる。そこから逃さないように、俺も棚に左手をつく。
反対の右手で一色の頬に触れると、ぴくりと身を震わせる。そんな挙動の一つ一つがあざといほど可愛らしい。
「ご褒美も、くれるんだろ?」
「は、はい……」
頬に触れた右手を顔の輪郭に沿って顎まで滑らせ、人差指と親指で顎先を上げ、小さく形の整った唇を突き出させる。
一色は逆らうことなく、潤んだ瞳を閉じると静かにその時を待った。
「……んっ」
ぷるん、とリップクリームなのか口紅なのか分からないが、見る者全てを魅了しかねない輝きを放つ唇に吸い付く。
見た目に違わず、むしろ想像以上に柔らかく、火傷をしてしまいそうなほどの熱を湛えた唇から離れる事ができない。
鼻を避けるように重なり合う顔、俺の頬にかかる小さな鼻息がくすぐったい。それすらに愛おしさを感じて、より激しく一色の唇を貪った。漏れる吐息に混じって淫靡な水音が響き始める。
「は、っん、ちゅ、せんぱ、んむ♡」
ひとしきり味わい愉しんでから顔を離すと、一色は肩で息をしながらぼやけた目でこちらを見上げていた。
普段の溌剌とした可愛らしさとのギャップにどぎまぎしてしばらく見つめ合うだけの時間がすぎると、落ち着いたのか少し物足りなそうに首を傾げている。
「せんぱい……?」
「お、おう」
「終わりですかー……?」
「え? えっと……」
潤んだ瞳が一度だけぱちりと瞬きをすると、次の瞬間には悪戯めいた色を浮かべた目に変わっていた。女の子って怖い。
にこー、とどこか薄っぺらさを感じる笑顔を張り付けて、先ほどの俺と同じようにずずいと前に出る。それがちょっと怖くて俺も先ほどの一色と同様後ずさる。
「あの、一色さん?」
「なんですかー?」
「ちょ、ちょっとあの」
「どうしたんですかー?」
「おわ、っと」
棚と逆方向、元の生徒会長席まで追いやられて机の上に腰を下ろすようにのけぞった。
一色はまだのっぺりとした笑顔を張り付けている。ふえぇ、怖い……。
「まったく、やっと先輩が肉食系になったと思ったのに……」
「えー……、なんかすいません」
やっと仮面のような表情を外して、呆れた声で膨れる。笑顔って威嚇にも使われるって本当なんだな、こっちの方が可愛いもん。
しかし不機嫌そうなのは事実なので謝っておく。
「やっぱり先輩はいつまでたっても草食動物なんですね」
「おいせめて草食系と言え、俺人間なんだから」
情けなくも追い詰められながら、口だけは達者に文句を言ってみる。
やれやれと肩を竦めてから、一色が舌で唇をなぞった。その様はまさに、捕食者のそれだ。何故か、背中にチリチリとした感覚が走る。
「ふーん、それが捕食者<わたし>を前にした草食系の態度ですかー?」
「は? どういういむぐっ」
まるで鏡写しのように、互いの立ち位置が変わった行動をされた。
ただ少し違ったのは、
「はむ、ん、れろ……っちゅ、んふ♡」
「んむーっ!? んん、んう!」
一色が舌を入れてきた事だった。
ぬるりと侵入してきたそれが、驚いて逃げ回る俺の舌を絡めとってこすり合わされる。
鍛えようのない人体の弱点を思うままに蹂躙され、俺はまさに弱い被食者としてぷるぷる震えるしかない。
「んーっ、ちゅ、ふふ……どうでしたー?」
「……おっ、おま、おまえ……」
最後にぺろりと唇をひと舐めされて解放される。口の中に残った自分の物ではない唾液に、強烈な違和感と同時に興奮を覚えてしまった。
突然の猛攻に腰が抜けたかのように力が入らずに、会長席の机の上に完全に座って息を整えていると、一色がパイプ椅子に座った。視線の先は盛り上がった制服。肉食獣が獲物を狙う目でそれを眺めている。
「ちょ、なにを……」
「えへ、こー見えてわたしは、肉食系、なんですよ?」
小悪魔って肉食べるのか。ちぃ覚えた。じゃなくて。
制服のチャックを下ろそうとする一色の手を慌てて止める。
「ば、ばかこんな所で何考えてんだ!」
「大丈夫ですよ、ちゃんと鍵かけましたし……」
挑発的な上目づかいでもってこちらを見上げる一色に、そうじゃないだろと返す。
「ここ学校で、しかも生徒会室だぞ。そしてお前は学徒の代表たる生徒会長だろ!」
「えー……今更じゃないですかー? 奉仕部であんな事したのに」
ぶーと膨れつつ立ち上がってくる。よかった分かってくれたのか。
しかし、そのままこちらに倒れ込むようにして口を耳に寄せてきた。あ、これ標的変えただけだわ……。
「……せーんぱーい♡」
「っ、それは、ずるいだろ……」
とろけるスウィートボイスを吹き込まれてへにゃりと力が抜ける。
耳は基本的に弱点ではあるが、最も効果的にぽしょぽしょを使いこなせるのはやはり、こいつだと再認識せざるを得ない。
「……ね♡ あの日の続き、しましょ?」
「あ、あの日、って……」
「ふふ、せんぱいが気絶しちゃった日のことですよぉ」
そういえばあの日も仕事だと騙されてここに連れてこられたんだった……。
色んな意味で成長していない俺である。
そう昔でもない記憶の中で、やはり一色には勝てなかった日を思い出す。
『――だいすきぃ♡』
「ッッ!」
「あは、思い出しちゃいましたかー?」
蘇る鮮明な記憶は幻聴となって俺を責め立てた。馬鹿な、時間差ぽしょぽしょ攻撃、だと? 夢のW一色がここに実現した。いや実体は持ってないけど。
「あ、あの時は責任も返事もいらないって……」
「今は、取ってくれるんですよねー?」
「いやまあそれはそうなんだけど」
「だからぁ、取ってくださいね?」
「な、なんの……」
「……わたしを、こんなにえっちな子にした、責任です♡」
「っぐ……」
甘い甘いぽしょぽしょ攻撃は決して慣れることなく、いつまで経っても一撃必殺の弱点として晒されていた。
薄紙一枚みたいな防御に対して、一色のそれは対城宝具もかくやという威力で理性を消し飛ばしていく。多分ランクはA++くらい。
だが理性とはまた別の、一般常識という保身的な意識だけが辛うじて抵抗を示す。すでに関係性が常識外な訳であるが。
「しかしだな……」
「……それに、そそりませんかぁ?」
未だ渋る俺に対して、一色は攻勢を崩すことなくぽしょぽしょと続ける。おい威力高いんだから回数制限つけとけよ、クソゲーになるだろ!
次に落とされた囁きはまさに、小悪魔的なものであった。
「……生徒会室で、年下の生徒会長に、ごほーしされちゃうんですよ?」
「お、う……」
掲げられた提案は健全な男子高校生を誘惑の谷へ突き落すには充分に過ぎるものだった。
背徳的な何かが脳髄を、身体を麻痺させる。
それを知ってか知らずか、つつ、と一色が滑るように降りていく。
椅子の上、脚の間に座り込み再びチャックに触れる手を、止める気は起きなかった。
「えへ、おっきぃです、せんぱいの……」
開かれた制服の窓から、怒張した肉棒が飛び出す。
度重なるなきごえこうげきに攻撃力は下がっているはずなのに、天を衝かんと上を向くそれは暴力的なまでに激しく脈打っていた。
しかし一色は臆することなく、むしろより好色的な肉食系の目でそれを見つめていた。
ちゅ、ちゅ、と音を立てて口づけを受ける。挨拶のようなキスはしかし、それだけで暴発しそうな快感をもたらす。
「うっ、く」
「……かわいいです、せんぱい♡」
何をもってこれを可愛いと表現しているのか甚だ疑問であるが、一色は愛でるような、それでいて獲物をみるような視線を外さない。
上気した頬と相まってなんとも妖艶な表情は、いつものような庇護欲をそそる後輩ではなく、女という捕食者を強くイメージさせた。
「……じゃあ、たべちゃいますね♡」
開かれた小悪魔の口から、熱い吐息が漏れる。
その息だけでも身体は敏感に反応して、逃げるようにびくりと跳ね上がった。
反射的な最後の抵抗も、捕食者一色にとっては子猫がじゃれるようなものなのか、怒りも焦りも見せずに今度はしっかりと指で挟まれた。窮鼠猫を噛めない。
「もう、にげちゃダメ、ですよ?」
「あ、ああ……」
「はぁ、む♡ ん、んぅ、んん……」
先の膨らみ部分を、一口で咥えこまれる。口淫、オーラルセックスと言葉にすれば簡単なものだが、実際にされた俺は未だかつてない快感に声を発することもできずにいた。
普通の、性交とはまた異なる快楽。溶けるという言葉には収まりきらない、本当に融解しているんじゃないかと錯覚するほどの熱量が襲い掛かっている。
「んっじゅ、れる、んん、ぷあ♡ はむ、んっんぅ……」
一色の小さな口には大きすぎるのか、時折息継ぎを繰り返しながらも止める事無く行為を続けていく。その様はすでに臨界点に近い俺に追い打ちをかけるような興奮を与えてくる。
セックスというのは突き詰めて言えば繁殖のための行為である。無論それも物理的な気持ちよさもあるし、雌に受け入れてもらえる、我が物にするという精神的な興奮を覚えるものがある。
対してこれは、生殖的には何の利もない、ただ気持ちよくする、気持ちよくさせる為だけの奉仕的行為。加えて、先ほど一色が言っていた、生徒会室で、生徒会長に、という背徳的なシチュエーションがたまらなく俺を昂ぶらせた。
「んちゅ、ふあ、はあ……、きもちいですか、せんぱい♡」
一旦口を離し、滴る涎を気にも掛けずに問いかけてくる一色。その手は未だ止まらずに、優しく肉棒を扱いている。
慈愛すら感じる手つきと、真逆の表情の妖艶さが彼女が年下である事を忘れさせる。しかし、その事実を思い出すたびにギャップは背徳感となって俺は自爆とも言える興奮に酔いしれていってしまうのであった。
「きもちよすぎて……やばい」
「……あは♡」
至極嬉しそうに笑い声を一つ上げると、また口を開いて、情事に耽る。
竿部分を滑る指が、奥まで咥えこもうとする口腔が、触れるたびに甘い痺れを残す舌が。その一つ一つが俺を絶頂に誘うべく艶めかしく動く。
遠くない限界を感じた俺は一旦制止しようと、一色の亜麻色の髪ごと両手で頭を掴んだ。
「いろは……」
「……ん♡」
名前を呟くと何かを察したように動きを止めて、棒を扱いていた手を放した。
一瞬、止めて欲しいのが通じたのかと思ったが、どうやら違う。一色の目は煽るように俺を見上げ、咥えたままの口の中で舌先は催促するようにちろちろと裏筋を舐め上げていた。
「動かす、ぞ……」
「……んん♡」
その意図を汲み上げた俺は、触れているから分かる程度に頷きを返した一色の、頭に添えた両の手にゆっくりと力を込めていく。
抵抗なく、一色の限界まで口の中を進む。すぐに行き着く喉奥、短い道中にも舌が裏側を撫でるように刺激してくる。
「んふ……♡ っじゅ、ちゅ、んん」
「うあ、いろは……っ」
今度は引き抜こうとする動きに合わせて、唇をすぼませ、舌を絡ませて逃さないとばかりに吸い付いてくる。
そのたまらない快感は、主導権がこちらにあるとは思わせないほどに強烈なモノだった。
気付けば欲望のままに一色の口内を蹂躙していた。だというのに彼女はそれを嬉しそうに、淫靡な水音を立てながら受け入れてくれる。
根元までは入らないが、竿部分まで咥えこまれると高い体温が感じられ、口いっぱいに頬張った一色のいじらしさが情欲をそそり、入口まで引くと早く次をと舐る舌の動きが休ませる隙もなく快感を与えてくる。
「あ、ああ、いろは、やば……」
「ん♡ んっちゅ、じゅ、んぷ……っけほ、こほっ」
高まりすぎた射精感に、思わず力が入りすぎてしまった。奥まで入り込んでしまった異物を、一色の生理的な反応が咳き込んで押し戻す。
むせた彼女の頭を、謝罪の気持ちを込めて優しく撫でる。
「すまん、ちょっと力入っちまったわ……」
「もう、せんぱい激しすぎますー……♡」
一切の怒りの片鱗すら見せずに笑って見せる一色は、宙ぶらりんになっていた手で再び俺のモノに触れた。
申し訳なさに少しだけ硬さを失った愚息だったが、一度限界まで近づいた事は変わりなく、すぐに元の元気さを取り戻した。……ちょっと恥ずかしい。
「せんぱい、もう少しで出そうだったんですよね?」
「……分かるのか?」
愛おしげに先端を撫でながら、そんな事を聞かれる。消えない気恥ずかしさを隠しながら聞き返すと、ふふっと小さく笑った。
「びくびくーってしますし、それに、必死に腰動かしちゃって、かわいかったですよ♡」
「……そ、そう、か」
めちゃくちゃ恥ずかしい。顔から火が出そうだ。
俺はこの可愛い後輩には、一生勝てそうにない。
決まりの悪さに悶えながらも硬度を失わない己の分身を睨みつけていると、撫でるように動かしていた手を、再び指で挟む形に変えて扱き始める。
「ふふ、せんぱいは、どこが一番気持ちいいですか?」
「そ、んなの……自分でも、わからん」
強いて言えば全部気持ちいい。今なら俺、どんな刺激も快感に変えられる気がする。ドMか。
一色は「へー」と気の抜ける声で呟いてから、手の形を変え、握ってみたり、指の先端でなぞってみたり、いろいろなところにキスをしたりと探る様に刺激を与えてきた。
「うっ、お、そこ……」
「あは♡ ここですかー……?」
てろりと舐められたのは棒の先端、鈴口と呼ばれる穴。刺激的にはむしろ弱い部類かもしれないが、そこに舌を滑らせる一色が妙に色っぽくて反応してしまった。
ここぞとばかりに集中的に責められる。口づけをされ、続くようにちろちろと舌の先で刺激を送る。身体の向き的に舐めやすいのか、裏筋もれるれると刺激されて、あっという間に元の限界点まで高められた。
「はぁ♡ んちゅ、れろ、……きもひいれふか?」
「あ、ああっ、出そうだ……」
舌を伸ばしながら喋られて、その吐息がかかる。敏感になった先端には、それも充分に起爆剤足り得た。
我慢しすぎて漏れ出ているような感覚を自らの分身に受けながら、ティッシュか何かないかと辺りを探す。すると一色はくすっと小さく笑い、舌を限界まで伸ばして俺に見せつけた。
「出して、いいですよ、せんぱい。……いろはに、ください♡」
魅惑の笑みと蠱惑の舌が、再び俺の先端を包み込んだ。
包まれながら、にゅるんと舌に裏をひと舐めされると、はち切れかけた快感はついに決壊を始めた。
「う、ああっ、あああ!」
「んぐっ、んっ、んく、んく……」
勢いよく吐き出されていく俺の精を、一色は嫌な顔もせずに喉を鳴らして飲み込んでいく。びくびくと跳ねる愚息に合わせて、舌が促すように動かされる。それが余りにも気持ちよく、長い射精が終わってもしばらく、掴んでいた一色の頭を放す事ができなかった。
「はあっ、はあ、ふう、……うあっ、すまん」
「ん、ぷぁ……。いっぱい、出ましたね♡」
口を離してすぐ、息継ぎもそこそこに再びてろりと先端を舐められる。残った精液も残さず、綺麗に舐めとられていった。
「ん、っちゅ……」
「っ、ふう……、その、サンキュ……。すげぇ、気持ちよかった」
「はい♡」
最後に先っぽにキスをして一色が離れた。
自身の鞄をごそごそと漁ると、中から透明なビニール袋に入ったタオルを取り出す。どうやら濡らして絞ったもののようだ。もともとは部活に用意してあったのだろうか。
それで口と手を拭くと、裏返して俺のモノも綺麗に拭いてくれる。冷たいタオルが興奮しきったモノに心地良い。
「はい、綺麗になりましたよー」
「わり、何から何まで」
「いーえー♪」
濡れタオルを小さくたたむと、またビニール袋にしまう。
そのビニール袋を鞄には戻さずに机の上に置くと、なにやら物欲しげな目で俺を見上げてきた。どこか少しだけ、躊躇の色も混ざっている。
今更何に遠慮することもないのにな。
「いろは」
「……あ♡」
頭を撫でてから、高低差のある分大きく前屈して唇に吸い付く。
自分の精液の味はあまり知りたくはないと思っていたが、予想に反して特に味覚に反応は無かった。
少しだけ安心して、行為の前にしてくれたように、今度は自分から舌を絡めていくと一色もそれに応えてくれた。
「っはぁ、ふあ、えへへ、……欲しいの分かっちゃいました?」
「まあ、なんとなくだけどな……」
「嬉しいです、せんぱい……」
腰に手を回して、腹の辺りに擦りついてくる一色。いくら綺麗にしてもらったとは言え、晒されたままのモノもあるのですが。
一色の胸辺りにあるそれは、制服越しにも柔らかさを感じて再び脈動を強める。我ながら現金なヤツ……。
気付いているのかいないのか、一色はまた物欲しげな目を俺に向けていた。
「次に欲しいの……分かりますかー?」
「……まあ……、なんとなくな」
「えへ」
ぱっと腰に回した腕を放して立ち上がる。解放された俺も、自分の鞄の中にあるアレ……、常備してるのも恥ずかしいが避妊具を取り出すべく、脇に置かれたままの学生鞄へ向かう。
「せんぱい!」
「ん?」
鞄に伸ばした手を止めて振り返ると、一色が白い紙箱を顔の横に掲げて満面の笑みで立っていた。
何かのCMに使えそうな構図と笑顔に面食らいながら、その箱を確認すると。
『幸福の0.01ミリ!』
……何か見覚えがある気がするなあー。
「雪ノ下先輩が良かったって言ってました!」
「…………そうか」
テテーン! と効果音でも付きそうな笑顔である。
こいつら普段、いったい何の話をしているんだ……。
女子の下ネタはエグイとよく聞くが、実際はどうなんだろうな。あいつらがのほほんとお茶しながら避妊具について話し合っている姿はどうやっても想像できん。
僭越ながらもその箱を受け取り、今回も出番のない自前のゴムさん(税抜き680円)には鞄の中で眠っていてもらう事にした。
「せんぱい、コレどうですか? ……勝負下着ですよ♡」
「ぶっ!?」
受け取った箱の中から一枚取り出していると、一色が後ろ向きに机に片手をついて、空いている方の手でスカートをめくっていた。
ソックスがふくらはぎを細く締め、白く眩しい太腿に繋がり、その上で、肉付きのいい丸い尻がピンク色の布に、「ほぼ」包まれていなかった。
なんだこれ布面積少なすぎだろ。尻がはみ出してるってレベルじゃねーぞ。
ギューン↑↑なんて音が聞こえてきそうな勢いで下腹部に血液が送られていくのが分かる。最近丸くなって一部尖っている素直などうも俺です。
「おま、おまえそんなの穿いて学校来たのか!?」
「そんな訳ないじゃないですかー。先輩の教室に行く前に穿き替えたんです。チャンスがいつ来ても良いように、常備してあるんですよ」
「そ、そうですか……」
「あ、だから代えはあるので、汚しちゃっても大丈夫ですよ♡」
「汚さねぇよ……」
……たぶん。
一色の誘惑を受けて充分な硬さを維持した愚息にゴムを被せていく。待ちきれないのか魅惑の後輩は「はやくはやく♡」と小さなお尻をふりふりと振っていた。なんだその誘いは、エロすぎて余裕で乗っちゃう。
「おまえエロすぎだろ……どこでそういうの覚えてきたんだっつの」
後ろ向きに誘いをかける一色の後方に位置取り、ふわふわの亜麻色の髪を撫でつけながら尋ねた。
「えー、ネットとかにいくらでも転がってるじゃないですか? あとは結衣先輩と一緒に雑誌とか見たり、実際にやってみた感想を聞いたり?」
「えっ、なんなのそれ、俺の反応とか筒抜けなの?」
「そこまでじゃないと思いますけどね。それぞれ、自分だけの思い出として残したい部分もあるでしょうし」
「そういうもんかね……」
どうやら奉仕部の先輩方は生徒会長たる後輩に著しい悪影響を与えているようだ。おそらく文にしたら有害指定まである。陽乃さん含む全員が青少年のはずなんだが。
「しかしネットまで駆使するとはな」
「女の子にだって性欲はあるんですよ、せんぱい♡」
からかうように笑って、腰を擦り付けてくる一色。スカート越しに柔らかい肉感が俺の分身を煽って止まない。
そんな彼女の細い腰に性欲を掻き立てられながら、スカートの中に手を突っ込んだ。
「煽りに煽りやがって……、もう止まんねぇからな」
「えへ、望むところです」
短く改造されたプリーツスカートに隠されて見る事はできないが、面積の小さすぎる下着を手探りで探し当て、ついでにきめの細かい肌の感触も味わいながらゆっくりと下ろしていく。
小さすぎて何を隠す事もできるかと思っていた下着は、下げさせてみるとどこに秘めていたのか解放された熱気が手に触れた。見えない分余計に鋭敏にそれを感じ取り、ゾクゾクと背中が震える。
一色にもそれが伝わってしまったのか、からかうような笑みは消え、とろんとした色っぽい瞳で俺を見上げていた。
「……はぁん、せんぱいぃ……♡ はやく、ほしいです……」
「っ、いくぞ……!」
エロすぎる催促。それも雑誌にでも載っていたのだろうか。多分見出しは男をその気にさせる誘い文句、とかかな。超やる気になっちゃったもん。
右手でくびれを掴み、左手でスカートをめくる。白い尻肉に己の肉棒をあてがい、腰の動きだけで一色の秘所に狙いを定めた。
先端が触れるとぴくっと身体を震わせたが、構う事無く突き入れた。
「ふあっああああ♡」
「ばか、声が大きい……っ!」
突き入れた肉棒に押し出されたかのように吐息のような、それでいて叫びにも似た声が上がった。外に聞こえかねない声量に思わず一色の口を左手で抑え込む。
絞られているような圧迫感を受けながら押し戻され、抜け切る前にまた突き入れる。その度に小柄な後輩の身体はびくびくと跳ねるような反応を見せた。
「んふぅーっ、ふうう♡ んっ♡ ……っ! んっ、くぅぅ♡」
何度目かのピストン運動で、一色が背中を反らせて震える。元から狭い膣がより締まって俺の分身を絞り上げた。イった、のだろうか。いくらなんでも、早い気がするが。
「いろはっ……、感じ、すぎ……だろっ」
「ふあっ、せんぱっ、あっ♡ だってぇ……」
解放した口で嬌声を上げながらも大きく呼吸を繰り返し、なんとか会話が出来る程度に落ち着いた一色は、弱々しくも妖艶な瞳で俺を見る。
「これぇ……、せんぱいに無理やりされてるみたいで……、興奮、しちゃいます……♡」
「ん、なっ……」
またもや俺の性欲を煽るようなセリフ。胸の奥がぎゅっとしまるような感覚を受けた。挿入されたままの肉棒に、さらに血が送られて怒張が進む。
「ひ、あっ、おっき、すぎますぅ……っ♡」
蕩けた声と表情の一色に、どうやって加減ができようものか。ずん、ずん、と小さな身体が浮いてしまいそうなほどの勢いで欲望を突き立て、快感を貪る。傍からみれば本当に犯しているように見えるかもしれない。
「やっあっ、んっにゃっああっ♡」
あざといほど可愛らしい声で鳴く一色の腰を掴んで乱暴に突きまくる。
むしろ俺が避ける事をやめたあざとさは、エロさとか可愛さとかに変換されて全部プラスに働いて好感度がストップ高なんだが。
いつの間にかずり落ちたズボンを無視して腰を打ち据えると、肉と肉がぶつかり合いパンパンと音を立てた。
「ああっ、あっ、はげしっ♡ せんぱっ、せんぱいっ♡」
「この、エロすぎだっつの……!」
「ごめ、なひゃあ……っ♡」
一色は腕に力が入らなくなったか上半身を完全に机に投げ出し、ピストンの度にギシギシと音が鳴るが、健気にも脚を伸ばして腰だけはこちらに突き出していた。
くびれを掴んでいた手を放し、スカートを弾いて露わになった尻を掴む。肉付きのいいそれは腰がぶつかり合うごとに波打って誘惑していたが、掴んでみると想像に違わず柔らかく俺を魅了させる。
「ふああんっ♡ せんぱいっ、わたし、またっ♡」
「くっ、お、俺ももう……っ」
加減もせず止まることなく動かし続けた結果、余りにも早い限界がせまるもそれに抵抗することができない。
射精を促す腰の動きと、種付けを求める雄の本能が、一色の最奥でぐりぐりと頭をこすりつけていた。
「そ、こぉっ♡ そこで♡ だしてっ♡ せんぱいっ、きて、くださいっ♡」
「いろはっ、で、出るっ!」
「ひゃ、あああっ、ふあああ♡」
先ほどよりも強烈な膣の収縮に逆らわず、一番奥に押し付けたまま溜まりきった欲望を吐き出す。
痛いほどの締め付けに一滴残らず搾り取られるような感覚を覚え、一色も強い絶頂感に酔いしれているのか、二人して震えながらしばし動く事ができなかった。
「……激しかったですね、せんぱい♡」
「こっちのセリフでもあるがな……」
どちらからともなく起き上がり、果てたモノを引き抜くと薄いゴムの中には驚くほどの量の精子が収まっていた。
外して口を縛ると、一色が「わー」と歓声のような声を上げた。欲しいの? あげるよ。
冗談ぽく突き出すと、可愛らしかったはずの後輩は容赦なくそれをポケットティッシュに包み、ゴミ用のと思わしきビニール袋に捨てた。ああっ、俺の子がっ!
「あんなに出すなんて、ゴムしてなかったら絶対妊娠しちゃいますよー」
くすくすと笑う一色の頭にぺしりと軽く手を当てる。あんまりそういう事言うなよな、収まりつかなくなるし……。
そう伝えてみても、一層楽しそうに笑うばかり。腕に絡みつくと、そっと耳元に口を寄せてきた。
「……せんぱい、今度からわたし、せんぱいとシちゃった場所でお仕事するんですね♡」
「っ、アホ、生徒会長の発言とは思えんぞ」
「ふふっ、推薦したのは先輩ですよ?」
「まあ、な。こうなるとは思ってなかったけど」
そうですかー、と耳に吹きかけながら晒されたままの愚息をつんつんしてくる。やめろォ! 次弾装填されちゃう!
「それなら、どうしますか?」
「……は?」
耳元に寄ったまま表情の見えない一色が囁く。
十中八九悪戯めいた顔をしているだろう声音だ。
「……ダメダメな生徒会長に、おしおき、しちゃいますかぁ……?」
すう、と息を吸ったタメの後、あざとエロ可愛い後輩は天性のスウィートボイスでもって三度、俺の情欲に火を点けた。
こいつめ、もう許さん。
耳元から離れ、覗き込むように笑いかけてくる一色の腰を抱き寄せて囁き返してやる。
「……足腰立たなくなっても知らないぞ」
「ん、ふぅ……♡ その時は、おうちまで送ってくださいね♡」
俺も、悪い先輩です。
* * *
結局、元々内包数が少ない『幸福の0.01ミリ』さんのほとんどを使い果たし、二人仲良く生まれたての小鹿のようにプルプルと震えるハメになったが、なんとか身体を奮い起こして換気やら後片付けやら、証拠隠滅、やらを終えて帰路についた。
人を乗せて自転車を漕ぐなんてできそうにも無かったので、降りて並んで歩いている。一色は「先輩のせいなんですからね」と人目も憚らず腕を絡めて上機嫌だ。
といってもだいぶ遅くなってしまったので人通りは少ないのだが、良かったと思う反面、どんだけ没頭していたんだと恥ずかしくなる。
「なあ、いろは」
「なんですかー?」
ふと呼びかけると、腰が痛いと言ったくせにスキップしそうな勢いで振り向く。その無邪気な笑顔に、思わずこちらまで笑みが浮かんでしまった。
「いや、……ありがとな、俺の事、好きになってくれて」
照れくさかったが、頬を掻きつつそう言ってみると、一色はしばしぽかんと口を開けて固まってしまった。
数瞬の後再起動すると、顔を赤くしてあわあわと慌てている。こいつも不意打ちには弱いのかな。
「な、なんですかデレですかずるいですせんぱいずるすぎます」
「なんだよ、言いたくなったんだよ。いいだろ別に……」
「そうです、けど……」
「俺も大好きだぞ、いろは」
「にゃあああ!?」
生徒会室であんなことまでしておいて、一色は恋を知らない乙女の様にまっかになってしまった。
腕にしがみついて顔をうずめてくる。歩きにくくはあるが、その体温に幸せな気持ちを感じながら、道を歩き続けた。
……たまには主導権を握るのも悪くないよな。
――――――
――――
――
先輩に家まで送ってもらって、お別れのキスもして、わたしは自分の部屋のベッドに倒れ伏した。
あれだけヤった後に歩くのはけっこう疲れるものがあったけど、先輩と一緒だとその時間もあっと言う間にすぎちゃうな。
えへ、それにしても先輩があんな事言ってくれるなんて。
わたしは近づけている、のかな。
あの空間に。
……奉仕部に。
いつだったっけ、本物が欲しいと咽び泣く先輩を見てしまったのは。
いつからだったっけ、本物を求めてもがくあの人たちに惹かれていったのは。
いつから、だっけ。
わたしの中がせんぱいでいっぱいになってしまったのは。
もうわたしの心のうちは、拭う事ができないほどせんぱい一色だ。一色だけに。
…………。
このネタは封印しよう。
自分のアホらしさを誤魔化すように枕に顔を押し付ける。でも、次の瞬間に浮かんでくるのはやっぱり先輩の顔だった。
最近では何をしていても先輩の事ばかり考えちゃう。
敏腕生徒会長なんて呼ばれるようになっても、未だにわたしを敵視する人がいる。
そのせいで一人でいるような時間にさえ、「なんだか先輩みたい」なんて楽しくなってしまう。なんだコレ、先輩中毒かな。それでももっと先輩分を摂取したいまである。効果はよりぼっちになる代わりに先輩を好きになる。……あは。
当の先輩はぼっちと言うには周りに人が多いけれど。
わたしも負けないようにアピールしていかないとね。でもでも最近は先輩の反応が良すぎてついからかっちゃう部分もある。
素直になった先輩が可愛いのが悪いのです。
そういえば雪ノ下先輩も、だいぶ丸くなったよねー。
この前なんか、こういう言い方はアレかもしれないけど、下世話な話で盛り上がっちゃったし。まさか雪ノ下先輩とコンド……避妊具の使用感を語り合うなんて、ちょっと前までのわたしが聞いたらどう思うんだろう。想像すると笑っちゃうや。
ああでも、今日はちょっと……、盛りすぎたかもしれない。先輩は消極的なきらいがあるし、もっとがつがつしていいんですよー、と煽ってみたはいいけど自分が抑えきれなくなっちゃったしね。
もう! 全部せんぱいが悪いんです! せんぱいとのアレが気持ちよすぎるんです!
今日を思い出すだけで身体が疼く。あんなにシたのに、まだ足りないのかな。
はるさん先輩につられて? そそのかされて? 最初は勢いもあったけど、今では自分から求めてしまうくらいにハマってしまっている。ハメられるのはわたしだけど。ああもう思考まで毒されてるよ!
ほんとにえっちな子になっちゃったなあ……。ちゃんと責任取ってくださいね、せんぱい?
外から見たら異端で歪なわたしたちの関係だけど、歪だから偽物って訳じゃない。きっとわたしたちはこの関係の中から、いつか答えを見つけられる。そんな気がする。
その時が来るまで、今はこの幸せに揺蕩っていよう。どんな答えが見つかっても、せんぱいから離れたりはしないけど、ね。
そんな事を考えているうちにうとうとしていたのか、お母さんが夕飯に呼ぶ声にはっとした。
どんな事をした、とは言えないけど、今日もノロけに付き合ってもらおうっと。
―了―
続きはよ!
めっちゃ面白いわ 乙
いろはす期待
っしゃあ続編やで!!!楽しみやで!!
いろはすはよ!はよいろはす!!
いろはすキタ!!これでかつる!!!
いろはすキターーー(°▽°)
で、はるのんはまだなのかね?
はるのんは?
はるのんは来ないのかな?
はるのん
はるのォォォオ!
はるのんマダァ-?(・∀・ )っ/凵⌒☆
はるのんが待ち遠しいのだけれど。
私の一番ははるのんなのよ。早く
書きなさい作者君。
はるのぉぉぉぉぉん!
はるのん難しいのは分かる、、でも見たいよぉぉぉぉ!