カキツバタの花
『花言葉シリーズ第一弾』
とある事務所で働くプロデューサー。トップアイドルを目指す彼女たちに、最高のプロデュースを行っていく。
そこなかで行うちょっとした事件。解きなおしていこう。
花言葉シリーズ、第一話。登場キャラは書いてますがここに書いてあるメンバーが全員言葉を話すわけではありません。このシリーズにして登場するキャラクターです。ご了承ください。
また、口調に違和感を感じるかもしれませんがその時はブラウザバックをしてくださればと思います。
東京都心。その駅から数分にあるビルの一角の事務所。そこには幾人かのトップアイドルを目指すものたちが。
シンデレラの舞踏会。それに参戦すべく待機している。この部屋に向かう時はいつも胸が高鳴るものがある。
「おはよう」
この事務所でプロデューサーを務める彼はそのシンデレラたちに声をかける。
おはよう、とは言ったが実はもう昼を回っている。もちろん彼が遅刻をしたわけではない。朝から外回りをしており、ようやく昼過ぎに事務所に顔を出すことができた。それに業界人はいつでも挨拶はおはようなのだ。
「おはようございます!プロデューサーさん」
「おはよう、プロデューサー」
「おっはよー、プロデューサー!」
可愛く、クールに、元気よく挨拶を返してくるのは島村卯月、渋谷凛、本田未央の3名。
ニュージェネレーションズとしてユニットも組む彼女たちの仲は良好だ。
「お前たちはこの後……」
「そろそろ、レッスンに行こうとしていたところです」
「そうか。気をつけてな」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。この未央ちゃんがいるんだからね」
「未央が一番心配なんだと思うけど」
「なにをー、しぶりん」
「あ、はは。未央ちゃん、頼りにしてますから。凛ちゃんも。ね?そろそろいこ?」
卯月は苦笑いを浮かべて2人を引き離す。もちろん、ただじゃれているだけなのだが。最後に行ってきますと3人声を揃えてプロデューサーに告げ、彼と入れ替わるように部屋を出た。
ニュージェネを見送ってから視線を事務所に移す。
ソファーには本を読んでいる鷺沢文香、少し汚れた人形の"うさぎ"を枕にして眠っている双葉杏、熊の人形をギュッと抱いて船を漕いでいる小日向美穂がいた。
「おはよう、文香」
本の世界に没頭している文香に声をかける。
「……プロデューサーさん、おはようございます。気づいていませんでした」
そこで初めてプロデューサーに気づいような声をあげる文香。
「いや、別に怒ってなんかないよ。それより、この2人は?」
視線で杏と美穂を指すプロデューサー。
「……杏さんは、疲れたといって事務所に入ってくるなり眠り始めました。その杏さんの隣に美穂さんがやってきて……日光浴をしていたのですがいつの間にか眠っていたみたいです」
「そうか。まあ、今日は簡単な打ち合わせだけだからいいけどな。そういえば文香の予定は……」
「雑誌のインタビューです。それなりに……答えたつもりです」
「ああ、そうだ。たしか児童文学のオススメは〜ってやつだな、うん」
自分で取ってきた仕事を思い出す。
「そういえば、今日は小説じゃないのか?」
ふと、目に映ったのはいつも読んでいる小難しそうな小説ではなく、少女漫画だった。このことに違和感を覚え尋ねる。
「……はい。乃々さんに貸していただきました」
「乃々に?」
プロデューサーの言葉にガタッと机が動く音がする。
プロデューサーは苦笑いを浮かべてまずは自分のデスクに向かう。
「おはようございます、プロデューサーさん」
「ちひろさん、おはようございます。あと、輝子も。おはよう」
隣のアシスタントを務める、緑の服を着た千川ちひろに挨拶をしてから机の下を覗き込む。
「フヒッ……。おはよう、プロデューサー。今日もいい、ジメジメだ」
「キノコの調子はどうだ?」
「絶好調だ。とっても……よく育ってる。フヒッ」
プロデューサーのデスクの下に置いてあるキノコの原木を愛おしそうに眺める星輝子。
「そうか。ところで、お隣さんは?」
「フヒッ。そこにいるぞ。さっきまで、文香さんと話してたみたいだけど、数分前にはそこに戻ってきていた」
「そうか。ありがとう」
「気にするな、親友……フヒッ」
輝子は笑ってまたキノコの世話に取り掛かる。
プロデューサーはキャスター付きの椅子を転がし今はただの物置と化しているその机までいきその下を覗き込む。
「よう、乃々」
「なんですか。森久保はもう引きこもるんですけど」
「いや、さっきまで文香と話してたんだろ?」
「プロデューサーさんには関係ないことなんですけど」
そういって話を変えるために乃々は彼女が持つ少女漫画を別のものに取り換える。
「というか、今日のレッスン、ベテラントレーナーさんとか聞いてないんですけど」
「ベテさんじゃないとも言ってないしな」
「その返しむかつくんですけど」
「わかった。じゃあ明日のレッスンはマスタートレーナーさんだな」
この事務所で雇っているトレーナーは4人。ルーキートレーナーの青木慶、トレーナーの明、ベテトレの聖、マストレの麗だ。
「うぅ……。森久保いぢめなんですけど。もう、アイドルやめていいですか」
「冗談だ。というか、明日は普通にグラビア雑誌の写真撮影だしな。森久保の受けはいいんだから頑張れ」
そういって頭をクシャッと撫でる。森久保は不満そうに漫画で顔を隠す。
とりあえず、今ここにいそうなメンバーには全員声をかけたか。その他は仕事だったりレッスンだったりだ。
「ちひろさん。これ、吟味中の仕事なんですが……」
「はい。ふんふん―――そうですね。この仕事は美味しいですけど、この仕事は別の仕事との兼ね合わせで少し厳しいですね」
ちひろは手帳にも書き溜めている予定スケジュールとを確認してプロデューサーに告げる。
「なるほど。では夕美にこの仕事は確定させて……藍子を入れても面白そうだな」
「このお酒のキャッチコピー広告はあいさんと早苗さんですね。まさかみりあちゃんにさせるわけにはいきませんし」
「そりゃ、そうですよ」
「そういえばこの季節外れの心霊スポット番組は?」
「小梅と幸子です」
「即答ですね……小梅ちゃんはともかく」
「いいんですよ。それにこのアニメについて話すトーク番組には奈緒と菜々……さんが確定させてるし、他の空いてるメンバーと合わせて空いているのは幸子ぐらいですし」
「幸子ちゃんには頑張ってもらわなくちゃね」
ちひろは少し笑って手帳に書き込んでいく。
プロデューサーは一息つくとクゥーと伸びをする。
「あの……お疲れ様です。プロデューサーさん」
「あっ、ほたる帰ってたのか。お疲れ」
「はい、さきほど。ちひろさんと話しているようでしたので」
ペコリと頭を下げる白菊ほたる。黒を基調にした服装を身にまとう彼女。1年と少し前。別のプロダクションから移籍してきた。
「あの……」
「どうした?」
「なにか変なことは起きていませんか?仕事がドタキャンになったり、アイドルの皆さんが病気にかかったり……」
「なんだ、まだそんなことを気にしていたのか。気にしなくていい。そんなことは全く起きていないからな」
細く微笑む。彼女がここまでおびえる理由。それは自他ともに認める不幸体質が原因だ。このプロダクションに移ったその日、その時の言葉はまだ彼の心に残っている。
『は、はじめまして……白菊ほたるです。実は暗い話で申し訳ないのですが以前所属していたプロダクションが倒産してしまって……すみません……その前も……その前も……。あ、でも私、頑張りますので!!』
明確な強い意志を携えて宣言した彼女。その言葉に嘘はない。いや、嘘にはさせないと強く思っている。
「あの、私なにかついてますか?」
「なんでもない。頑張ろうな」
そう言ってポンポンと頭を梳くように撫でる。
「あっ……。ありがとうございます」
少し恥ずかしそうに頬を染めるほたる。
「……プロデューサーさん、あんまり気安くアイドルに触らないでください。下手したらセクハラやパワハラに当たりますよ」
「あっ、べ、別に私はそんな、嫌とかじゃ、ないですし!」
慌ててちひろの言葉を否定するほたる。
「……ほたるちゃんはともかく、ですよ」
その様子に杞憂を抱き苦笑いをする。まさかプロデューサーよりはやくほたるが否定するとは思わなかった。
「まぁ、あんまり気安いことはしないように気を付けますよ」
プロデューサーはほたるの頭から手を離す。ほたるが少し名残惜しそうな顔をしたのを見てやはり杞憂だったかとちひろはため息をつく。
「あ……そ、そういえば新しい仕事とかありますか?」
「あー、さっきとってきた仕事の中にトークショーの仕事があるぞ」
「トークショー……ですか」
少し不安そうな声をあげるほたる。
「どうした?」
「いえ、トークショーっていうことは他にもたくさん出演者がいらっしゃるということですよね」
「まあ、そうだな。詳しい人数は聞いていないがそれなりにいると思うが」
「だとしたら、私のせいで、誰かが不幸にならないかなと」
ほたるの不安の種に苦笑に似た笑いをこぼす。
「気にすることじゃない。幸せになろうと思えば幸せになれるさ」
「そう、でしょうか?」
「少なくとも不幸になるかもと心配して生きるよりは幸せになれる」
ゆっくりと言い聞かすように伝える。
「わかり、ました。ありがとうございました」
まだ少し噛み砕けないところがあるようだがそれでも笑顔を見せてほたるはプロデューサーの前から去る。
「まだ、ほたるちゃんは少し自分の体質を気にするところがあるようですね」
「そうですね……でも、不幸っていうのは悪いことじゃないと思うんですよね」
「えっ?」
首をかしげるちひろ。それには答えず彼は自らの仕事を片付けていく。
私は不幸だ……。
そのことに気が付いたのは4歳の頃だと思う。
皆と鬼ごっこでジャンケンをしてもいつも私が負けていた。それでも、別によかった。私が不幸になるなら、それ以外のところで幸せになるんだと思ってたから。
―――でも、現実は違った。
テレビで踊り、笑顔を振りまき、幸せを与えるアイドルに憧れをもって芸能界へと飛び込んだ。不幸ゆえに人一倍努力はしなければならないだろうという覚悟もあった。
だけど、その結果あったのは。
「プロデューサーさん」
「ごめんな、白菊。お前をトップアイドルにしてやれなくて」
「そんな……」
「でも、大丈夫だ。お前の移籍先はこちらで見つけてある」
「プロデューサーさんは!?」
「まあ、俺もどこか再就職先を見つけるさ。ありがとな、白菊」
薄く微笑んだ前―――いや、もっと前のプロデューサーの言葉を思い出す。彼は今、どこで何をしているのだろうか?それはわからない。
でも、それでわかったことがある。私の近くにいるだけで不幸が移るということだ。
それは確信を持って言える。だって、だって私のせいでいくつものプロダクションがつぶれた。
もしかしたら、そんな私がトップに、シンデレラになろうなんておこがましいのかもしれない。だけど、あきらめたくなんてない。でも、それが人を不幸にするのかもしれない。だけど、でも……。
そんな矛盾のジレンマにとらわれていたとき私はある人にであった。
「白菊ほたるさんを見つけれて、私は“幸運”でした」
今まで不幸しか与えてこなかったと思っていた私にはびっくりする言葉だった。
その人物に誘われるままに私は新たなプロダクションへと移籍した。今のところ、私の不幸で誰かに迷惑をかけたことは“あまり”ない。渋滞にまきこまれたりとか、信号は必ず赤信号だったりとか、その程度だった。
そんな私には誰にも言えないが密かに苦手な人物がこの事務所にいた。彼女は自分の幸運を全てふいにしようとしている。そんな彼女の事が少し苦手だった。
4月20日。今日の仕事はほたると乃々の2人がスタジオでトーク番組の収録だ。プロデューサーはそれの補佐役として現場にやってきた。
「内容はえっと……」
控室で今日の段取りを必死に覚えるほたる。それとは対照的に乃々は部屋の隅で膝を抱えている。
「乃々、どうした?」
「こんなの、聞いてなかったんですけど」
「そうだったか?」
「もっと小さな番組だときいていたんですけど」
「……大丈夫だ、乃々ならできるさ」
「なんの根拠もないんですけど」
乃々は逃げるために持ってきた少女漫画を読み始める。
「あの、プロデューサーさん」
「うん?」
「この漢字は……」
ほたるが示した原稿には『杜若』と書いてあった。恐らくルビを振っていたのだろうがかすれて読めなくなっている。
「あぁ、これはカキツバタって読むんだ」
「カキツバタ、ですか?」
「アヤメ科アヤメ属の花だな。紫というか青というか、そういう色の花を咲かすんだ」
「へー、詳しいですね」
「まあ、夕美や凛に色々教えられてるからな」
ガーデニングが趣味の相葉夕美と花屋の娘である凛。この2人の仲もよいがそれ以上にこの2人の花トークに耳を貸すこともおおかった。それゆえに自然と花の名前や知識は増えていった。
「たしか、これだな。ほらっ」
そういってスマートフォンを操りカキツバタを見せる。
「へー、可愛い花ですね」
「そうだろ?にしても、なんでカキツバタなんて……」
「好きなものとして出演者の方が言ってるみたいです。それでその花が登場するみたいで」
「そうなのか」
なるほど、そういう理由かとなっとくする。
「すみませーん。そろそろスタンバイよろしくお願いしまーす」
トントンと扉がノックされスタッフが声をかける。
「わかりましたー」
そう返事をして彼は何気なくサッと乃々の少女漫画を取り上げる。
「あっ……」
「さっ、スタンバイだ」
「森久保はマンガの中にも逃げることができないんですけど……」
「ほらっ、行くぞ」
乃々の意見を無視して立ち上がらせる。
「ほたるも、行くぞ?」
「……はい」
なにか含みのある視線で乃々を見ていたほたるにも声をかけスタジオへと向かう。ほたると乃々を出演者側において彼はスタッフ側の席に移る。
「もしもし?ちひろさんですか?はい―――、今から収録です。そちらは、問題は?特にはなしと。ではお任せしますね」
ピッと電話を切る。間もなく収録が始まる。
MCは中堅芸人。レギュラーに芸人が何人かいてゲストにアイドルや俳優、女優といったメンバーがいた。
トークは趣味、好きな事。といった当たり障りのないことやオススメの店やちょっとした暴露話などバラエティーらしい番組構成になっていった。途中、ほたるが尋ねてきたカキツバタの花も出てくる。
だが、唐突に変わる。
シューン。
電気がショートするかのような音。照明がつかなくなり音声も拾わなくなり。
「すみませーん、今復旧しまーす」
ADが声をかける。MCにあたる芸人が場に流れた微妙な空気を押し流すようにネタ話を始め、冷めないように空気を回し始める。
「もう少し、復旧に時間がかかりそうなので、いったん控室に戻ってください。すみませーん」
だがまだ時間がかかりそうと判断したスタッフが出演者全員に声をかける。
不味いことになったとプロデューサーはちひろにメールを送信する。
「いやー、どれくらいで戻るのかなー」
控室に戻った彼はほたるらに声をかける。
「私の……不幸のせいで」
「そんなことないって」
やはりかと気にするほたるに明るく声をかける。
「でも……」
「あのな、ほたる。こんなのは偶然が重なっただけなんだ。俺もみんなの付き添いでスタジオをしたことは何度もある。その時にこういうトラブルに当たったことなんていくらでもあるさ」
だからたまたまその番がほたるに回ってきただけだと伝える。
「そう、でしょうか?」
「シンデレラだって、もし普通の仮定に産まれていたら王子に逢えなかったかもしれない。シンデレラはあの家に生まれたからこそ王子と結婚できたんだ。苦難があってこそのシンデレラだ」
「……はい」
プロデューサーの言葉に少し心が揺らされるほたる。
「あの、プロデューサーさん」
「うん?」
乃々は
「もう、森久保いいんじゃないですか?別にいなくてもいても同じなんですから」
「そんなわけないだろ」
「……そうですか。十分喋りましたよ。トラブってるんですしもういいと思うんですけど」
「あのなぁ、乃々にしかできないこともあるんだから」
「そうでもないと思うんですけど。ほたるさんもいるんですしあたしいらないと思うんですけど」
「違うって言って―――」
そう乃々を説得しようとしたとき耐え切れなくなったようにあのほたるが叫ぶ。
「いい加減してください!」
「っ。なんですか」
「お、おい。ほたる……」
「せっかくお仕事もらえて、プロデューサーさんもついてきてもらってるのに。それなのに、あなたは!」
「ほたるさんとは、違うんですけど」
「いつもあたしは、森久保はって……。私はあなたがうらやましいです。受け身でいるだけでお仕事をもらえて。私とは正反対の幸運な貴方が、うらやましいです」
「……森久保だって、ほんのちょっとは頑張ろうと思ってますよ。でも、目立つのは苦手だし……。ほたるさんにはわからないですよ」
「また、そうやって逃げるんですか?」
「ほたるさんはいいですよね。不幸を逃げ場にできるんですから」
「っ。逃げ場になんて!」
「二人とも、ストップだ」
これ以上はいけないと止めに入る。
「……ごめんなさい」
ほたるは頭を下げる。
「いや、ほたるの気持ちもわからなくはない。ほたるが不幸体質なのは俺も認める。そして乃々が幸運なところがあるのも認める」
「森久保は、別に」
「なぁ、乃々。乃々は目立つのが苦手なのはわかる。でも、アイドルにはなりたいんだよな?」
「……別にやめても」
「本心じゃないんだろ?もし、本当に嫌なんだったら事務所にこなくてもいい。なのに事務所にきて、それに文香にマンガも貸してコミュニケーションを取ろうとしている。そうだろ?」
「…………でも、苦手なものは苦手なんですけど」
「なら、それを克服すようにするのが俺の役割だ」
そして次はほたるに目を合わせる。
「ほたるは確かに不幸でプロダクションも潰れたかもしれないな。でも、それが必然だったら、どうだ?」
「えっ?」
「まあ、こっちも芸能事務所だ。ほたるについての情報は色々調べてる。ほたるが最初に入った事務所は元から経営が傾いていた。そこから点々としたんだが、悪いがそういう事務所が紹介できるところも微妙なんだよ。だからほたるがきたから潰れたんじゃなくて、たまたまほたるがいった場所がつぶれただけに過ぎないんだよ」
「……そう、なんでしょうか」
「あぁ。だから気づかなかったのかもしれないけど、ほたるが入った事務所はほんの少しだけ経営が持ち直してたりしたんだ。ただ、立て直すプロデュース力がなかっただけなんだ。そんなほたるが内の事務所に来てくれて俺は幸運だと思ったよ。ほたるならトップを目指せるって思ったから」
「……そう、なんですか」
「あぁ。ほたるなら絶対にな。そうだ」
そういって控室の後ろに飾ってある花瓶を持ってくる。
「スタッフさんが配ってたんだ、よかったらって。カキツバタ―――花言葉は幸せは必ずやってくる」
「幸せは……必ず」
「あぁ。ほたるにぴったりだ」
そういってほたるの髪にカキツバタの茎をきって短くしたものを指す。
「とても、似合ってるぞ」
「ありがとうございます。幸せは、必ず……」
その言葉をかみしめるように呟くほたる。
「乃々さん。ごめんなさい」
「あたしも言いすぎました。ごめんなさい」
二人して謝る。
「ほたるはきっと人に幸運をもたらしてくれる。それは絶対報われるはずだ。乃々も少しずつ前向きになっているんだ。とにかく、頑張ろう。俺も全力でプロデュースする」
「はい、プロデューサーさん」
「お願いします、プロデューサーさん」
「すみませーん。復旧しました。10分後収録始めまーす」
「はい!わかりました。後半戦頑張るぞ」
「はい!」
「はい」
「ねぇ、プロデューサー」
「どうした?杏」
事務所で仕事をしていた彼に杏が声をかける。
「別に大した用事はないんだけどさー。乃々とほたるちゃんになんかいったのー?なんかやけに仲良くなってるみたいだけどー?」
「あぁ。まあ、ちょっとな」
「ふーん。乃々は杏とは同類だと思っていたのに、妙にやる気になったりすることあるし。やれやれ、杏のニート生活はもう少し疲れそうだよ」
杏子はファーとあくびをしてうさぎを引きづってソファーに行く。
「プロデューサーさん」
「うん?」
ついで夕美が話しかけてくる。
「さっきほたるちゃんと話してたんだけどカキツバタについて聞いてきたんだ。何か知ってる?」
「あぁ、少しな。ありがとな、夕美」
「な、なにが」
「いや、ちょっとな」
そう笑うプロデューサー。その視線の先には机の下から出て喋る乃々とほたるが一緒に仲良く話していた。
白菊ほたる編、終。
カキツバタの花言葉は幸運が必ず来る、幸せはあなたのもの、贈り物、音信などです。
次話【http://sstokosokuho.com/ss/read/4887】
乃々とほたる・・・いい組合せですねぇ
シリーズ楽しみにしてます