月桂樹の葉
『花言葉シリーズ第二弾』
とある事務所で働くプロデューサー。トップアイドルを目指す彼女たちに、最高のプロデュースを行っていく。
そこなかで行うちょっとした事件。解きなおしていこう。
花言葉シリーズ、第二話。登場キャラは書いてますがここに書いてあるメンバーが全員言葉を話すわけではありません。このシリーズにして登場するキャラクターです。ご了承ください。
また、口調に違和感を感じるかもしれませんがその時はブラウザバックをしてくださればと思います。
前話【http://sstokosokuho.com/ss/read/4785】
私が人と違うものを見ていることに気がついたのは幼稚園の頃だった。私が"お友達"と会話をしていると、いつも大人は不思議そうな顔をした。
後から調べて分かったけど、大人たちはその友達をイマジナリーフレンドと結論付けたみたい。
それは本当に実在するお友達なのに。
そんな私に一番の友達が小学校3年生の時に出来た。名前は知らないから私はあの子と呼んでいる。あの子は最初に出会った時とても辛そうな顔をしていた。
その頃には自分のこれが霊感があるが故のものと分かっていたし、ホラー映画、スプラッタ映画が好きになっていた。だからこそ、好奇心が大きく湧いた。
よくあるホラー映画とは違う。本当の霊というのは意外にも大人しかったりする。だけど、泣いているのを見るのは初めてだった。
「あ、あの……。どうか、したの?」
それが初めての言葉だった。結局なんで泣いていたのか、私は知らない。でも、言えることがある。それは、プロデューサーにスカウトされて、アイドルになれる勇気をくれたのも実はあの子のおかげなんじゃないかと。
「ですからね、わかってくれたら別にいいんですけど……」
「はい、ごめんなさい」
「いや、俺に謝るんじゃなくて謝るなら」
そういって視線でソファーに深く腰を掛けている東郷あいに視線を向ける。
事務所に来てそうそう、まず始まったのはアイドル、片桐早苗の説教だった。聞くところによると昨夜あいと共に酒屋へ行き(どちらかと言えば拉致に近かったが)かなりの量を飲ませたらしい。その結果が今の二日酔い状態のあいだ。
「ごめんね、あいちゃん」
「いや、早苗さんのせいだけじゃない。自分の体調管理をできていなかった私にも非はある」
頭を押さえながらあいは答える。
「あいさんは、今日レッスンだけですよね」
「ああ、そうだな」
「でしたら今日は休んでください。トレーナーさんがたには俺の方から連絡しますから」
「しかし」
「今のパフォーマンスでいっても大したことはできません。それよりはゆっくり休んで回復したほうがいいですから」
「……すまない」
頭を押さえながら礼をいうあいさん。ひとまずはといったところか。
「おっはよー、プロデューサー」
だが、一度収まった平穏を未央が元気よく扉を開け挨拶をしたことでかき回す。元気なのは大変喜ばしいことだが。
「うっ」
「み、未央。声を落としてあげてくれ」
「えっ?あー、もしかしてあいあい、二日酔い?」
「あぁ、そうなんだ。悪いが静かにしてくれるとありがたい」
「あは、本田未央。りょうーかいです」
ふざけた調子で敬礼をしながら、ちらりと小さくなっている早苗を見る。この事務所においてお酒を呑めるのは早苗、あい、プロデューサー、千川ちひろの4名。未成年最年長である19歳の鷺澤文香には成人したらお酒を呑ませる宣言を、早苗によりされているが、流石に未成年にお酒を呑ませるようなことはしていない。前職である警察官のなごりかもしれないが。
「ふぁ……じゃー、杏も今日はお休みでいいよね?」
いつからこの話を聞いていたのか、あいの隣でうさぎを抱きかかえながら双葉杏が億劫そうに声を上げる。
「そんなわけないだろ?というか、今日はお前仕事だろうが」
「そこは、ほらっ、菜々ちゃんに全部任せればいいかなって」
「わ、私ですか!?一緒にがんばりましょうよ」
急に話を振られ驚いたのは安部菜々。自称、うさみん星人の永遠の17歳。
「いやー、頑張る系のキャラは卯月ちゃんだけで十分でしょ。で、芸人キャラは幸子と菜々ちゃん」
「あ、あのですねぇ」
「じゃあ、お昼寝キャラは美穂でいいな。ということで杏はしっかりと働いてこい」
上げ足をとるようだが、先に言い出したのは杏であると自分に言い訳をしながら杏に言う。
「ぬぇー、どちらかと言えば杏の方が向いているのになぁ……」
「ほれっ、飴やるから」
シュルッといい音を立てて杏の元に放物線を描くように飴が行く。軌道もいい。幾度となく繰り返されていることだ。だが、タイミングが悪かった。
「あっ、あいさん危ない」
「ん?いてっ」
腰をかけなおそうと一瞬背筋を伸ばしたあいに飴がぶつかる。
「これは……飴かい?」
「す、すみません」
「あはは……私が悪いんだ。文句なんて、ないよ。プロデューサーくん」
だが、その眼はどこか寂しげだった。まあ、ゆっくりすればいいと言われた直後にこのような仕打ちを受けたのだから仕方がない。
「ねえ、プロデューサー君」
そんなプロデューサーに話しかけたのは、先ほどまで小さくなっていた早苗だ。
「な、なんですか?」
「今回はあたしも加害者側だから、あいちゃんに飴をぶつけたことに対しては怒れない。でも、いつもいっているよね。うちの事務所は幼い子もいるんだから物を投げるようなことはするなって」
「そ、そうでしったけ」
「君」
「はい?」
「し・め・る」
「ちょっ、ってこら杏!逃げるな」
「先に投げたのはプロデューサーだし。私関係ないもん」
「って、杏ちゃんはナナと一緒にお仕事でしょう」
「イタタタタッ。早苗さん痛いって」
結局いつも通り騒がしい事務所へと変わる。
「なんだ、一番騒いでるのプロデューサーじゃん」
「ははっ、全くだ」
苦笑いをするあいとその様子に頬を膨らませる未央。全ては事故なんだが、仕方がない。
「……お、おはようございます。って、ぷ……プロデューサーさん?」
そんな中に入ってきたのは金髪、耳にピアスを付けている白坂小梅。この事務所では幼い方に入る13歳。今のプロデューサーの状況も教育にはよくなく、早苗の言う幼い子に入るのだが……。彼女のホラーやスプラッタ映画という趣味がそれを心配するなといっているような気もする。
「こ、小梅が来ましたから!早苗さん」
「ふぅ。まあ、今回はあたしもわるかったから、これぐらいにしておいてあげるわ。おはよ、小梅ちゃん」
「あっ……おはよう、ございます」
どこかおどおどとした雰囲気で返すが彼女も立派なアイドルだ。街中を歩いている最中、プロデューサーがスカウトしたのだ。
「ああ、死にかけた」
「えっ?プロデューサーさん……ゾンビ?」
「いや、死んでないから。ゾンビになりかけただけでさ」
と、丁寧に返す。そして小梅との出会いを思い出す。
最初は可愛い感じの子だなと素直に感じた。そして自分の正体といきさつを話す。その答えがこれだった。
『……ほ、ホラー映画を見ているときが、い、一番幸せです………けど、ア、アイドルに……な、なれたら、もっと楽しい……です……か?プ、プロデューサーさん……が、お、教えて……くれるんですか? なら……ア、ア、アイドル……』
正直予想外の言葉だった。偏見かもしれないが金髪に耳ピアス。もっとギャル系等の子かと思っていたが、そうでもなかったらしい。
そして言葉をまじあわせるに従って彼女の特異性がわかってきた。どうやらかなりの霊感を持っているらしい。
それを知った時、彼は面白いと素直に感じ、その方面のプロデュースも考え始めた。その方面に移ったときの小梅はかなり驚いていたが霊感系のアイドルとしての売り出し方を喜ばしく思っていた。そしてレッスンも、小柄のその体に詰め込むように頑張っていた。
「あの、その……プロデューサーさん」
「どうした?」
だからこそ、彼女のお願いは非常に驚くべきものだったのかもしれない。
「あの……少しの、間。お休み……くれますか?」
「えっ?」
突然発したしばらくの休業宣言。驚いたのはプロデューサーだけじゃない。その場にいた全員、早苗、あい、未央。もし、この場にアシスタントのちひろがいれば、さらにうるさいことになっていただろう。そうなれば必然的に二日酔いのあいの頭にダメージを負うことになる。
「……理由を聞かないことにはなんとも、言えないが。どうしたんだ?」
自分を落ち着かせるために一度大きく深呼吸する。彼女がそんなことをいうようなタイプではない。
「えっと……、その」
「ここで言いにくいのであればちょっと移動しようか。早苗さん。電話番よろしくおねがいします」
「えっ、ええ。いいけど」
その眼はなにかあったのならすぐ教えるようにと言っていた。
事務所内に併設されている応接間。そこに小梅を呼んでソファーに座らせる。
「それで、急にどうしたんだ?」
やわらに話しかける。
「えっと……。あの、あの子が」
「あの子?」
小梅のいうあの子というのはどうやら小梅と共にいる謎の女の子……つまるところ幽霊のことらしい。実際にそのあの子が見えるのは小梅だけだ。
だが、なんとなく感じることがなくはない。それに意思疎通もできているらしく、小梅が知らないはずの出来事を、あの子との会話で知り得ていることはすでに実験済みだった。
「あの子が……いなく、なった……んです」
「いなく、なった?」
幽霊については彼も詳しくは知らない。だが少なくとも小梅の言うあの子が背後霊や地縛霊といった類ではなく、自分から望んで動ける浮遊霊ということぐらいは知っている。
「いなくなったっていっても、元から別行動はできるんだろ?なら、とある理由で別の場所に行ってるだけとか、そういうことじゃないのか?」
「ち、違います。あの子は……いつも私に話してくれるし。そ、それに……私も、色々考えて、三日待っても、帰ってこないんです」
「三日?」
「うん……」
幽霊だ。すでにこの世から死んだ存在。二度死ぬということはないだろう。だが、小梅の親友ともいえる存在。彼女が心配するのも仕方がないともいえる。
「それで、休みをもらってどうしたいんだ?」
「……あの子を、探したい」
「あては?」
「たぶん、大丈夫」
片目は前髪で隠れて見えないが、もう片方の目でしっかりと彼を見据える小梅。逡巡するプロデューサー。
本音を言うならば休ませる余裕など存在しない。すでに予定は立てられている。それには小梅のレッスンや仕事もある。レッスンは最悪いい。後でトレーナらに自分が怒られればいいだけなのだから。問題は仕事の方だ。
既にとっている仕事で差し替えがつく場合とつかない場合とがある。
「ダメ……ですか?」
そして、一番の問題。それは。
「その、あてというのはどこなんだ?」
「えっ?」
「危ない場所、ではないのか?」
「…………」
その質問には沈黙をもって小梅は答えとした。
幽霊の行く場所の心当たりだ。もしかしたら……そういうことも考えられる。
「なあ、小梅」
「なに?」
「でも、心配なんだよな」
「うん」
真っ向から否定はしない。小梅の気持ちもわからなくはない。死んでいるとはいえ親友をなんの前触れもなく失うなど考えたくもない。
「……わかった。ただし、休みを与えるわけではない」
「?」
「あの子探しには俺も同行する。だから、俺が暇な時間に、そして仕事がないときに探す。これが最低条件だ」
「いいの?」
「あぁ。約束は守れるか?」
「うん」
「なら、いい」
そしてその金髪を撫でる。小梅は気持ちよさそうに目を細めた。
「ふーん……それで、なにか進展はあったの?」
早苗は事務所に来るなりだしぬけに尋ねてみる。あの日から数日が立っていた。現在小梅は星輝子、輿水幸子によるユニット、カワイイボクと142's、としてテレビに出ている。
「いや、まったくないですね」
「幽霊探しかー。お姉さん、警察時代に人探しやらもの探しやらのこと聞かれることはあったけど幽霊探しは知らないな」
「まあ、そうですよね」
ズズっとコーヒーを飲むプロデューサー。彼の仕事はひと段落しているので今響いているタイピングの音はちひろによるものだ。
「なにか、手がかりとかないの?」
「手がかり、ですか」
んーと唸りながら考える。
「これは俺の憶測なんですけどね」
と、枕詞を置く。早苗は興味を示したように眉をひそめる。
「小梅曰く幽霊って全員が全員なるわけじゃないんですよね」
「まあ、もしそうだとしたら大変なことになるもんね」
「ということはだよ。小梅の言うあの子というも何かしら念みたいなのがあるんじゃないのかなって」
「そう考えると確かにそうよね。小梅ちゃんがフレンドリーに話してるから忘れかけてたけど」
「そう、なんです。それでここからが特に憶測になってくる部分なんですけど……。ここ数日、中には少し廃れたような場所もあるんですけども、小梅につれられていった場所のほとんどが意外に開けた場所で、交通量の多いところとかで。もしかしたら交通事故で亡くなった人とかなのかなって」
「交通事故……ねぇ」
なにか思う所があるのが早苗は小さく呟く。
「カワイイボクが帰ってきましたよー」
「ふひっ、仕事、終わったぞ」
「た、ただいま」
そんな話をしていると142'sのメンバーが帰ってくる。
「おかえり。どうだった?」
「ふっふーん。カワイイボクがいたんですから失敗なんてあるはずないですよ」
「幸子ちゃん、何回か噛んでたけどな」
「う、うるさいですねぇ輝子さん」
プイと顔をそむける幸子。色々あったらしいがおおむね収録は上手くいったらしい。
「あっ、ねえ、小梅ちゃん」
「な、なに?」
「あの子、の特徴ってなにかあるの?」
「えっ?……早苗さん、見えるの?」
「ああ、いや。そういうわけじゃないんだけね。ちょ~っと、お姉さん気になって」
「そう……」
少しだけ肩を落とす。仲間が見つかったとでもおもったのだろうか?
「んっとね、……あの子は私と同じで金髪で、あと10歳の女の子、なんです」
「10歳って、出会った時から変わらず?」
「幽霊は、成長しない……から」
「OKOK。なるほどね」
「それで、イギリスとハーフで……目は大きくて……あと、とっても、可愛いの」
ピクッと外ハネが反応する幸子。それを輝子が簡単になだめる。
「いつから、一緒にいるの?」
「えっと……、4年前、かな」
「4年前……。あの子の名前は?」
「名前は聞いたことがない」
「そっか」
人差し指で頬をポンポンと叩きながら考え込む早苗。
「なにか、思い当たることがあるんですか?」
「ちょっとね……んー、思い過ごしかなぁ」
「何がです?」
「あたしにも霊感があったらなって思っててね。見れたらいいけど」
「わ、私、絵は苦手、だから」
なんとか絵で表現したかったのだろう。しかし、自分の絵の巧拙の為できないらしい。
「おはよー」
「「「「「きたっ!」」」」」
「うわっ。な、なんだよ」
全員の声の唱和に驚く神谷奈緒。
「奈緒、来て早々悪いが絵を描いてもらう」
「はぁ?何言ってんだよ、急に」
「お願い、奈緒さん」
「うっ、小梅まで。いや、状況が飲みこめないんだけど。てか、なんであたしなんだよ」
「奈緒さんはカワイイ絵をいっぱいかきますからね」
「絵は関係ないだろ!」
「まあまあ、頼むよ。奈緒」
「たくもう……プロデューサさんが言うなら仕方がねえけどよ」
と、小さくぶつくさ言う奈緒に紙と鉛筆を渡す。アニメ好きが転じて落書きで絵を描いていたのが幸か不幸か。
「で?なに、書きゃいいんだよ」
「あの、私のいう……特徴の女の子を」
「小梅の?はいはい。じゃっ、色々教えてくれ」
なんだかんだ言いながら小梅の話を聞き、時には質問をしながら絵を完成させていく。
「なにか気になるところがあるんですか?」
「気のせいなら、それはそれでいいし……もしかしたら今回の件に解決の糸口になるかもしれないのよね」
「どういうことですか?」
「ぬか喜びさせてもあれだし、あたしも半信半疑だから後で説明するわ」
早苗答えを明言せずじっと待つ。
「ふぅ……こんなもんか?」
「う、うん……とても、似てる」
「よしっ、こんなもんだってよ、プロデューサーさん」
ほいっと紙を渡す奈緒。
「ありがとな。で、早苗さん、どう―――」
「これって、やっぱり!」
「早苗さん?」
「なんて、偶然かしらね……。プロデューサー君、それに小梅ちゃんも。今から空いてる?」
「今から、ですか?えっと」
「あー、こっちは大丈夫ですよー。行くならいってきていいですよー」
デスクから声だけでちひろが返事を返す。
「ということだが……早苗さん、何か心当たりが?」
「うん。行こう」
「わかった。小梅も」
「う、うん」
三人で連れ添って事務所から出行く。
「んんー?なんだったんだよ、結局」
「あ、あのですね、それは―――」
「フヒッ、なかなかにカオスだな」
「確か、このローリエの先、だったわよね」
早苗は何かの記憶を頼るように歩く。そこは事務所から数キロ離れた繁華街だった。
「ろ、……ローリエ?」
「月桂樹とも言われている植物だな。これのことだ」
小梅の質問に指さしで答える。
「へ、へぇ……」
「あっ、ここよ!」
そしてしばらく行ったところのちょっとした路地の近くで早苗は立ち止まる。
「小梅ちゃん。この近くに“あの子”はいない?」
「えっと……」
キョロキョロと辺りを見渡す小梅。
「あっ、あそこに」
そして何かを見つけたようにトコトコと路地の方へと走り出す。
「小梅!」
その小梅に走り寄っていく。それを慌てて追いかけていく。
「い、いた。……どうして、急に出て行ったの?」
虚空へと向けて話し始める。だが、それは他の人から見た虚空だ。小梅にとっては虚空ではない。
「早苗さん。そろそろ、訳を聞いてもいいですか?」
「……ねえ、プロデューサー君。あたしが警察のどこに所属していたか覚えている?」
「たしか……交通課、ですよね?」
「あのね、あたしが初めて扱った死亡事故の案件でその死者っていうのがハーフの女の子なの。それが4年前」
「まさかっ」
「偶然、ね。そしてここは事故現場よ」
交通事故での死。それを早苗が担当処理していたのだった。
「ねえ、どうして、いなくなったの?」
小梅は必至に話しかけているが答えは返ってきていないようだ。
「それで、その事故日っていうのが、今日なの。初めて扱ったことだから、今でも覚えているわ」
「えっ?わ、私といたら……辛いから?」
その時、小梅の会話に変化が起きる。
「どうしたんだ、小梅?」
「……私が、楽しそうに、やっているのを見て……寂しくなって……」
徐々に声を枯らしていく。そのあたりでいい加減になにがどうなったのかが分かってくる。
「なあ、小梅。あの子に俺たちの声は聞こえるのか?」
「う、うん」
「なら……」
少し考えるようにしてから小梅の視線を追う。
「いつも、小梅を見守ってくれていてありがとうな。だけど、そっか、君も辛いことがあるんだな。当たり前かもしれないけど」
そうして見えない相手に手を伸ばす。きっと、10歳なんだから暖かさを求めているはずだから。
「でも、できたら小梅に一声かけてほしかったな。それに、俺はよくわからないが、君にとって一番いいのがこの世界にとどまることなのか?」
「えっ?」
それにいち早く反応したのは小梅だった。手は誰かを探すために虚空をさまよい続ける。
「寂しかったんだろ?お母さんたちに逢いにいっても気づかれなくて。だから気づいてくれる小梅になついた」
「だから、初めて会った時、泣いてたんだ……」
「君は、この世でとどまり続けてもいいのか?それに絵で君をみたよ。とても可愛かった。よかったら、生まれ変わったら俺にプロデュースさせてくれないか?」
「あっ、あの子が」
その瞬間、手が暖かさを感じる。なんとなく、直感的に手を撫でるようにしてみる。
「気持ち……よさそう」
小梅がつぶやく。
「そうよね。悲しみを抱えたままこの世に居続けるってとても、かなしいことよね」
「君は、どうしたいんだ?」
恐らくそこにいるであろうあの子に目を合わせる。
「……プロデューサーさん。あの子が……ありがとうって」
「こちらこそだ。今まで小梅を見守ってくれてありがとうな」
「あっ」
小梅が息を漏らす。
「き、消えていく」
「小梅ちゃん。お別れ、しなくていいの?」
「……うん。バイバイ」
小さく手をふる小梅。そして徐々に手のふり幅が小さくなっていく。そしてぱたりと手を落とす。
「消えちゃった……」
「これが正しかったのかな」
「……プロデューサー君」
「なんですか?」
「よかったら、なにか適当に花でも見繕ってきてよ」
「えっ?それなら小梅も一緒―――いや、そうですね。いってきます」
小梅の表情を見て言いかけた言葉を止める。
彼が路地から姿を消したあと早苗は小梅に話しかける。
「偉かったわね」
小梅の震える肩を抱き寄せる。その瞬間我慢していたものが流れ出す。その暖かな双丘に囲まれながら小梅はひとしきり親友との別れを惜しんだ。
「プロデューサーくん」
「あいさん、なんですか?」
「いや、昨日はやけに早苗さんが元気でね。どうしたのかなってね」
あいは事務所でそう尋ねる。その様子から察するに昨夜もそこそこ呑まされたらしい。
「まあ、なんていうか……新しい友達ができたというか、なんというか」
「えー、おともだちって新しい子がくるんですかー!?」
「いや、違うよ」
事務所内にいた赤城みりあが大きな声で反応する。その様子に、今日は二日酔いにならなくてよかったとため息をつくあい。
「まあ、色々あるんだろうね。しいてあげるなら小梅君が新しい友人というところかな?」
「えー、小梅ちゃんはもとから友達だよー?」
みりあの問いには答えず、まるで親子―――いや、年の離れた姉妹のように、新たな親友のように、じゃれあう小梅と早苗を見ながらひとりわらった。
白坂小梅編、終了。
月桂樹(ローリエ)の花言葉は栄光、勝利、栄誉です。また、花は裏切りですがタイトルとなっている葉の花言葉は私は死ぬまで変わりませんとなっております。
次話【http://sstokosokuho.com/ss/read/9133】
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