スカシユリ
『花言葉シリーズ第三弾』
とある事務所で働くプロデューサー。トップアイドルを目指す彼女たちに、最高のプロデュースを行っていく。
そこなかで行うちょっとした事件。解きなおしていこう。
花言葉シリーズ、第三話。登場キャラは書いてますがここに書いてあるメンバーが全員言葉を話すわけではありません。このシリーズにして登場するキャラクターです。ご了承ください。
また、口調に違和感を感じるかもしれませんがその時はブラウザバックをしてくださればと思います。
前話【http://sstokosokuho.com/ss/read/4887】
アイドル戦国時代とも言われる今、彼が勤める事務所はなかなかに異端である自覚はある。事務所間でのイザコザはないし、比較的にも仲がいい。それは、プロデューサーとアイドルの関係でもそう。アシスタントであるちひろとしては、その仲の良さがスキャンダルに繋がらないかという心配もあるが。
「えへへー、それでね、文香さんにこの本読んでもらったんだー!」
みりあがギュッと胸に抱いているのは『不思議の国のアリス』。有名な童話だ。主人公の同名のアイドルが別のプロデューサーの元についているが、その子とはもちろん関係がない。
談話室から出てきたみりあは仕事を終え、一息ついているプロデューサーに突撃、そこで何が起こったのかを詳しく説明していた。ゆっくりと現れた文香は恥ずかしそうに頰をかいて向かいのソファーに腰をおろす。
「今更だが、文香は本当に色んな種類の本を読んでいるんだな」
「……そうですね。不思議の国のアリス……執筆をしたのはチャールズ・ラトウィッジ・ドジソンという数学者。一見すると数学と文学。真逆の存在に見えますが彼のような例を考えると、理系、文系など、考えるのはバカバカしく感じるほどです」
「確かにな。そこらへんは曖昧なグラデーションの元にある。クッキリと分ける必要はないかもしれないな」
「みりあもこんなお話もっと知りたいけど、アイドルの仕事ももっと知りたいし、色んなことを知りたい!」
「ふふっ。そうだ、プロデューサーさん。不思議の国のアリス……この続編はご存知ですか?」
「……続編?あー、聞いたことはあるが」
「続編って、続きだよね!次があるの?」
「はい。『鏡の国のアリス』。それかタイトルです。前作同様、異世界に迷い込み冒険をするお話……。楽しめると思いますよ?」
「そっかぁ。じゃあ、楽しみに待っておくね!次の雨の日を」
雨を楽しみに待つ、というのもなかなか変わっている。文香は微笑みだけでそれを返して窓の外を眺める。外は雨が降っていて止む気配は一向にない。
彼女らの所属する事務所ではキッズ、ジュニア、スクール、アダルトの4種類にアイドルを区分している。その区分に深い意味はなく、あくまでも書類上のものでしかないが、それによって契約なども変わってくるので軽視もできない。
キッズから、12歳まで、15歳、18歳、それ以上と分けられる。
彼がプロデュースしているメンバーに限ればキッズアイドルはみりあのみ。このような雨の日には元気を持て余したみりあがよく、文香に本の読み聞かせをしてもらっている。もちろん、文香にも時間的余裕があり、かつ読み聞かせるような本を持っている時だけだ。まさか、『羅生門』を読み聞かせるわけにはいかない。
「にしても、文香はこっちの方面でのプロデュースも考えても良さそうだな」
「あー、いいかも!文香さんが本読んでくれるのすごく聞き応えがあるもん!」
「となると、女優業もいいかもしれないな」
「……私は別に演技ができるわけではないと思うのですが……」
「それでも新しい世界を見ることができるかもしれないだろ?」
「……そう、なのかもしれませんね」
たたみかけられた言葉にくすりと笑ってそれ以上の言葉をつなげない。信頼をしているからなのかそれとも何か理由があるのか。
そんなことを思考の片隅においていると扉が開く音が聞こえて自然とそちらに目をやる。
「おはようございます~」
「おはよ……って藍子!?」
驚いたのはプロデューサーだけでない。文香やみりあ、ちひろも驚いている。ただし、ちひろが驚いたのはプロデューサーの声でなのだが。
「あはは~、ぬれちゃいましたぁ」
「ぬ、ぬれちゃいましたって。そんなことより、みりあ!タオル持ってきてくれ」
「うんっ、わかった」
「私もいきます……」
「俺は暖かい飲み物持ってくるから、ちひろさん!よろしくお願いします」
「はいはい」
やや過保護気味なその言葉に苦笑いをしながらもちひろはすぐにケアへとあたる。高森藍子。主力の一人だ。風邪なんて引いてもらっても困る。言い方は悪いが彼女らも大切な商品なのだ。
彼は炊事場で簡単に蜂蜜入りのホットミルクを作ると藍子の元へと戻ってくる。タオルを持ってきてくれたらしい二人の様子も見られて残るは髪を乾かすかというぐらいだ。
「ほら」
「ありがとうございます」
ズズズッとホットミルクを飲む藍子を見ながらさて、と事情聴取を開始する。
「それで、なんであんなにぬれていたんだ?まさかこんな雨の中散歩をしていたわけでもあるまいし」
「散歩……していたんですよねぇ」
「……えっ?」
まさかの散歩をしていた宣言に思わず声が低くなる。
「あっ!でも傘はちゃんとさしていたんですよ?私だってさすがに傘ぐらいさしますよ?」
そこまで心配はしていない、とはいえないのが彼女特有のゆるふわ空間のせいか。
「ただ、途中で傘が壊れちゃって……。使い物にたならなくなっちゃったんですよね」
「なるほど、それは災難だったな」
「あっ、でもきれいな花とか見れたからそれはそれでよかったんですよ~。ほら」
「藍子さん、そういう問題ではないと思いますが……」
文香は冷静に突っ込みながらもデジタルカメラをのぞき込む。そこには橙色の花が雨に揺られている。
「わぁ、かわいい」
「これは、スカシユリかな?うん、たぶんそうだと思う」
「スカシユリ、確か同種の姫百合は万葉集にて大伴坂上郎女の歌で乗ってましたね。『夏の野の繁みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものそ』と」
「文香は万葉集にも明るいんだな……」
「明るいというほどではありませんが……」
「ねーねー、どういう意味なの?」
「夏の野の茂みに、ひっそりと咲いている姫百合のように、相手に知られてはいけない恋は、苦しく切ないもの、という意味です」
誰にも知られてはいけない恋というワードにどきりとちひろの胸ははねる。アイドルたちはまさにその知られてはいけない恋を強いられる存在かもしれない。しられるということは、それはつまりスキャンダルになるということなのだから。
「んー?あたしはよくわかんないなぁ。好きなら好きって伝えたらいいのに」
「そう簡単な世界じゃなかったという訳ですよ」
無邪気なみりあにはまだ早かったらしい。藍子もにこにことそのゆるふわ空間を広げていっている。
「おはようございまーす。って、みなさん集まってなにをしていらっしゃるんですか?」
元気よく挨拶をしながら中に入ってきたのは自称、永遠の17歳、うさみんこと菜々。首をかしげながら一カ所に集まっている面々のもとにやってくる。
「あ~、そうそう。実は」
とプロデューサーが続ける。
「え~!そんなことが。でも、ダメじゃないですか、藍子ちゃん。たとえ傘を持っていたとしても少しひやっとする気温なんですから、お散歩も控えた方がいいですよ?傘をさしていたとしても風とかで雨が当たる可能性だってあるわけですし。それに、傘が壊れちゃったのは偶然かもしれませんけど、一応折りたたみの傘を持ち歩いていた方がいいんですよ?傘が壊れるというほかに、忘れてしまうとかありますからね」
「は、はい~」
「あはは、俺が言わなきゃいけないことを変わりにいってもらったな」
「なんだか、菜々ちゃんお母さんみたい!」
「ふふっ、そうですね」
「うっ、お姉さんじゃなくて、ですか。というか、文香さんは私より年上ですよね!?」
さすがは幸子と並んでバラエティ班というべきか突っ込みも冴え渡っている。
文香自身も別にそこをいじったつもりもなくただみりあに同意をしただけなのだが。
「って、そうだ。プロデューサーさん、ちひろさんも。これ、トレーナーさんから」
「明さんから?」
と、渡されたものを見てみるとライブイベントに向けたレッスンの予定表とトレーナー四姉妹の休暇日も乗っている。これを元に再調整をしてくれということらしい。
「なるほど、わかりました。ありがとうございます」
「はいっ……というか、なんで私だけ敬語なんですか?」
「……確かこの後は、藍子と文香がレッスン、みりあが雑誌モデルの仕事だったな」
「ちょっと!!」
明らかな無視に再び声を上げながらまた一面は笑いへと返った。
正直な話、私はアイドルとして活動をしているということが今でも信じられません。アイドルの世界、芸能界。怖くてドロッとした印象もありました。そんな私を支えてくれたのがプロデューサーさん。だから、勇気を出して伝えたことがあります。
『こんなこと言っちゃアイドル失格かもしれませんけど……私、誰よりもプロデューサーさんの笑顔を見るのが、す、好きなんですよ』
体が軽く熱くなったのを覚えています。勇気を出して伝えたものです。あはっ、なんだか話していて恥ずかしくなってきました。
この気持ちは、たぶん恋とか、そんなものじゃないと思います。だって、私はアイドルです。アイドルは恋されこそしても、恋はしない存在。きっと、私たちは最高の嘘つきだと思います。私はあまり、嘘が得意じゃないです。だから、嘘に固めたあの人はある意味カリスマで、私の憧れなのかもしれません。
プロデュース方針は一人ひとり違う。例えば凛のようなキャラクターならば体を張るような番組は合わないし、みりあにグラビアの仕事は、少なくとも現在はやらせることはない。そんな中、藍子を女優業としてプロデュースするのはいくばくかの不安があった。マイペースというべきか周りをも巻き込む独特な空間に演技がどれほどできるのかは疑問を感じていた。しかしながら結果としては大成功だったように感じる。連続ドラマの主人公のクラスメイト、というメインではないもののほぼ毎週出演できるポジションについた彼女は、高森藍子というキャラクターをもとに、独特の雰囲気を持って周りを巻き込み成功への切符を進んでいた。連続ドラマ自体は大成功とはいえないそこそこの視聴率だったが高森藍子の新しい一面を見せることができただろう。
「うぅ、ナナ、大丈夫でしょうか?」
そんな彼女のバーターといえば聞こえは悪いが、番組プロデューサーからエキストラ役を頼まれちょうど空いていた菜々に頼むこととした。役柄も喫茶店のアルバイトと、メイド喫茶でのアルバイト経験のある彼女ならば素の状態でも魅せることができるだろう。
「大丈夫ですよ。菜々さんは声優アイドルも目指すんでしたらこういう女優業も大切になってくるでしょうし」
「女優業と声優では仕事内容も全然変わってきますよぉ」
「ほら、頑張って」
「うぅ、は、はい。頑張ります」
明らかに自信なさげだがそれでも何とか励まして先に進む。
その緊張は伝わってきたが本番が始まると自身を捨てて演技に移る。素の状態でも十分だろうというキャスティングではあったが、役柄はアルバイトし始めの女子高生。そのキャラクターになり切っている。確かに素の状態でやらせればてきぱきとしすぎてしまうかもしれない。演技から感じられるのは緊張と初々しさ。キャラにあっている。藍子が素をもとにして自分らしさを押し付けた演技ならば、菜々は自分らしさを捨てキャラに憑依をする演技であろう。
「あの子、君のところのアイドルだったよね」
「はい、そうです」
近づいてきた番組プロデューサーに返事を返しながらその目は演技をしているメンバーにくぎ付けにしている。
「なかなかいい子じゃないか。監督も気に入っている様子だよ」
「今回はエキストラみたいな役なんで、精神的に余裕があるからというのもありますね」
「そうかい?しかし、監督も気に入ってるようだからね。また何かあったら前向きに検討をお願いするよ」
ひらひらと手を振って姿を消す番組プロデューサー。彼を見送った直後やってきたのは今回の連ドラの主演を務める女優のプロデューサーだ。
「いやぁ、アイドルと思ってなめてましたがそれなりにキャラを保っているじゃないですかぁ」
本音を話せば彼とは会話をしたくない。所属事務所、エイフィック自体は中の上程度。気に病む必要もないが虫をすることもできないという立ち位置。
「高森も安部も、女優業は初の挑戦ですが、うまくやってくれてますね」
「そうですねぇ。正直な話をすれば、アイドルなんかに女優業の畑を荒らされたくないというものはあるんですよ?いや、もちろん、おたくらを邪険にしたいわけじゃないんです。うちら俳優、女優業も歌を出したりすることもございますから。しかしながら、どうしてもアイドルというだけでキャスティングされる、いわば宣伝役にしかならない人もいるわけじゃないですかぁ。そういうドラマって決まって多少は売れても大ヒットはしないんですよねぇ。もちろん、一部の例外はありますが……いやはや。難しいものですねぇ」
結局何を言いたいのかあやふやなまま彼は去っていく。番組プロデューサーに褒められたことがよっぽど気にかかるらしい。
「ふぅ、プロデューサーさん、終わりました」
「あぁ、お疲れ。菜々、どうだった?」
「緊張こそしましたけど……それ以上に楽しかったです!」
「そうか、藍子もお疲れ様」
「はい。お疲れ様です。この後少しチェックがあるらあしくて休憩らしいです」
「……そうか」
その藍子の顔に少し陰りがあるのが気になったがとりあえず頷く。休憩ということは一度楽屋に戻ってもいいらしい。彼女らを連れて楽屋に戻りながら適当に談笑もする。話はやはり今回のドラマについてだ。
「藍子さんも、このドラマ撮影あともう少しですね!」
「そうですね……」
返事をする藍子。その声には覇気がない。普段の藍子らしくない。
「藍子ちゃん?」
「……プロデューサーさん、先ほど番組プロデューサーと、エイフィックのプロデューサーさんと話してましたよね?何を話してたんですか?」
「ん?2人ともうまく演技してくれているということを伝えてもらっただけだ」
エイフィックの方は嫌味が9割がただが。
「……今までそんなことはありませんでした。ここまでやっておいてなんですが、私、女優業向いてないんじゃないかって」
「ええっ!?そんなことありませんよぅ」
「藍子はどうしてそう思うんだ?」
驚く菜々をいさめつつ、その思考に当たった原因を突き止める。藍子はどちらかといえばポジティブな考えを持っている。あまりこのような思考になることはないのだが。それゆえなら気になる。乃々やほたるならば、いつも通りに励ませばいいのだが、状況が違う。
「私って演技というよりは、台本に感情を乗せているだけな気がするんです。だから、どうしても高森藍子という存在から離れることが出来ない。その点、菜々ちゃんは演技をしていました。なりきってました。多分、そのお話は私のことじゃないんじゃないですか?」
「……話の真意がどこにあったかは俺にはわからない。でも、確かに藍子の言う通り話の中心に菜々さんがあったのは事実だろうな」
エイフィックが慌てて話をふってきたのは威圧をかけるためだろう。俳優というのは限られた世界での戦いだ。毎シーズン放送されるドラマの数には限りがある。映画も同じ。その、少ない役柄を取り合う必要がある。そこに、アイドルという存在は非常に厄介なんだろう。俳優業を主戦としているエイフィックにとっては、特に。
「マルチに演技をすることのできる菜々さんは藍子とは違い役を選ぶことはないな。でも、それは強みでもあり弱みでもある。菜々さんならわかるんじゃないか?」
「……藍子ちゃんはスカウトでこの事務所にやってきたんですよね」
「え?はい……。散歩をしているところをプロデューサーさんに」
「菜々はオーディション組です。といっても、正しくはオーディションに落ちたところを、ということなんですけどね」
「どういうことですか?」
「こことは別のオーディションを受けていたんですけど、そこで落とされて。でも、プロデューサーさんにそのすぐあと声をかけていただいて、まずは研究生からならということでスカウトされたんです。その後、正式にうちの事務所のオーディションをへてという形です。そこで、私がよく言われてきたことをお伝えしますね……『君らしさがほしい』これです」
「菜々ちゃんらしさ?」
「はい。私は、キャラクターを演じているという自覚はあります。それを演じすぎている故に、なんていうか、誰にでもできるキャラクターになってしまってたんです。もちろん、菜々が考えていたアイドル像がそうだったというのもあるんですけども……それを研究生としてスカウトを通して菜々らしさを保ちつつ、キャラクターを作れるようにしてくれたんです」
「……私、アイドルって嘘にまみれた存在だと思うんです。演技をする、というか。だから本当にアイドルに向いているのかなって」
藍子の悩みは、突き止めるとそこにあたるらしい。確かに所属しているアイドルのほとんどは素の状態と、そしてアイドルとして活動している状態とで違った色を見せる。文香にしても、みりあにしてもそうだ。
「はい、確かに私たちは嘘つきかもしれません。ですけど、全員がそうでなくてもいい。時には違う存在……飾らない美があってもいいと思います」
「俺もそう思う。藍子は自分らしさを押し出すことができる。それは自然体だから飽きられることもない亜し、自身の方向性で悩むこともないだろうな」
「そうですよぉ。ナナもこのキャラを保つのは何年もたつのか……ナナは17歳ですけどね!」
「誰もいってませんよ。でもキャラを押し続ける強さは難しいんだぞ?菜々さんの書いた履歴書には年齢のところに永遠の17歳とかいてあったんだよ?」
「えっ、えー!履歴書にもですか!?だって、菜々ちゃんは……」
「藍子ちゃん!?プロデューサーも何言ってるんですか!?」
「いや、菜々さんも知っての通りうちのプロダクションは四種類にアイドルを区分してますから」
「ナナもジュニアですよ!!」
「菜々ちゃん、私たちはスクールです」
「あっ……」
あいも変わらずの自爆芸に悩んでいたのがばからしくなるようにフフっと笑いをこぼす。完璧な嘘つきだと思っていたけど素を出すというのもアイドルらしさということかもしれない。
「夏の野の繁みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものそ」
「それ、文香さんが言ってた……」
「あぁ。うちの事務所は恋愛を禁止しているわけではないが、おそらく恋をするとなるとこうなるんだろうな。秘密というか、嘘はあるんだ。その嘘につぶされる必要もないし……だけど同時に姫百合は絶対に咲いている。自分らしさを失わない美しさもある。藍子はその素の美しさを前面に押し出しているだけなんだよ」
「私は、このままでいいんでしょうか?」
「もちろん。成長に合わせて変わることはあってもいいと思うけど、無理に変わることはないんだよ」
「そうですよ!ナナはナナらしく、藍子ちゃんは藍子ちゃんらしくでいいんですよ。ね?プロデューサーさん」
「そうだな。さすがは年の功というところか」
「誰が年の功ですか!!」
菜々が顔を赤くさせてポコポコと殴る。その様子を見てまたしてもお互いに笑い合う二人だった。
「……プロデューサーさんは不思議の国のアリスにて、アリスがどうして不思議の国に迷い込んだのか、そして、この物語の最後をご存知ですか?」
文香はするすると近づいてきてプロデューサーに尋ねる。
「確か、白ウサギを追いかけて、だよな?それで、落ち……落ちは」
「現代で言えば夢落ちというものです。アリスはトランプたちに襲いかかられた後、姉の膝の上で目を覚ますんです」
「現代でそれをやったら叩かれそうだな」
「夢落ちは避けられる傾向にありますからね」
クスクスと笑う文香。そして話を続ける。
「みりあちゃんに鏡の国のアリスを読み聞かせることを約束したのですから、少し調べてみたんです。電子機器というのはそういうときは便利ですね」
「そういうときは、ね」
つまるところ電子系よりもアナログの方が好きらしい。文香も大学生活がある以上完全にデジタルとは切り離すことができないはずだが。
「そこには様々な解釈がありました。心理学者のフロイトはアリスを誕生のトラウマが繰り返されているのではという結論に至ったらしいです。まぁ、フロイトは夢分析などでも性と関連させることが多いので現代の心理学とあうかどうかはわかりませんが……ともかく、アリスは誕生のトラウマを持っているように、私たちは何かしら迷い続けているのかもしれませんね」
「文香らしい分析だ」
文香はちらりとソファーに目をやる。
「文香はどう思う?アリスが白ウサギの膝の上で眠っていたとしたら」
「本当に目が覚めたのかどうか、無限ループにとらわれるのかもしれませんね。私たちが無限の夢を与える存在であるようにある程度の嘘と真実をみせて」
藍子が菜々の膝の上で眠りに落ちている。その菜々もすーすーと寝息を立てていた。新しく始まったドラマの撮影で二人とも疲れているのだろう。先ほどまで台本の読み込みをしていたと思ったらいつのまにかこの状況だった。
高森藍子編、終了。
スカシユリの花言葉飾らない美、注目を浴びる、親思い等です。
次話【http://sstokosokuho.com/ss/read/9222】
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