歴史から消えた英雄Ⅱ(中編)
悟空は医者に連れられて、医者の“研究室”兼
“家”までやって来た。
悟空が着く頃には、太陽は既に、西に傾き始めていた。
医者の家は大通りを抜けた先の、森の中にあった。
「ここです。」スタッ
「へぇー。ここかぁ!オメェ、結構良いとこに住んでんだな。」
悟空の目の前には、木造で建てられた家があった。
それでも、2階まであり、しっかりとした家であった。
「いえ…。それほどでも、ないです。」
ガチャ
「では、どうぞ。入ってください。」
「おぅ。おじゃましまーす。」
中に入ってすぐ目にはいるのは、映画館にあるような巨大なシアターだった。
そして、テーブルの上には4つか5つ程あるパソコン。
棚には、所狭しと薬品や、謎の瓶が並んでいた。
まさに、“研究室”であった。
医者は奴を柱に縛り、睡眠薬を飲ませ、眠らせた。
そして、椅子に座り、悟空に向き直った。
「では、単刀直入に聞きますが…。」
「な…何だ?」
「あなたは、最近、“強い怒り”を露にしましたか?」
「“強い…怒り”…。」
「あっ!」
悟空は自分が超サイヤ人になった時の事を思い出していた。
ーーー…。
『あの地球人のように…?』
『クリリンのことか…。』
『クリリンのことかーーーーッ!!!』
ーーー…。
「あん時…。」
「心当たりがあるみたいですね…。」
「おそらくあなたはこの時の事を考えていると思うのですが…。」ピッ
ブゥウウン…。パッ
巨大なシアターに映ったのは、悟空が超サイヤ人になった直後の映像だった。
「そう!こん時だよ!」
「やはり…そうでしたか…。」
「それと、あなたは幼い頃、頭を打った…そう言ってましたよね?」
「おぅ。」
「…なぁ。それで、どういう意味なんだ?オラ意味が分かんねぇんだけど…。」
「あ…。すいません。勝手に1人で納得してしまって…。」
「では、説明しますね。」
「あなたから出てきたアイツは、あなたの“サイヤ人の本能”の部分なんです。」
「サイヤ人の…本能?」
「はい。アイツはサイヤ人にとって大事な“地上げ”の本能です。」
「ですが、悟空さんは、幼い頃に頭打ち、その“地上げ”の本能を忘れ、しばらくの間それを閉じ込めてしまった。」
「そして、あの時、フリーザによって仲間が殺され、悟空さんが“強い怒り”を出した事で、
きっかけが出来てしまい…。」
「アイツが出て来ちまった…のか。」
最後は悟空が引き取り唖然とした声で言った。
「その通りです。」
「で、アイツをまたオラに閉じ込めておく事は出来ねぇのか?」
「もちろん、出来ます。」
「ですがその前にもう1つだけ、あなたに伝えておきたい事があります。」
「単刀直入に言いますが、あなたの体には、あなた達の言う“気”というものがありません。」
「へ…?そりゃ…どういう…事だ…?」
「今、現在あなたの体は“空っぽ”そういう意味です…。」
「食べる事、寝る事、痛みを感じる事…それに…“死ぬ事”…。」
「それを、感じる事が出来ないのです…。」
「要するに…“生きている”事が実感出来ない…。そういう体になってしまったんです…。」
「は…はははっ…。そんな…まさかな…。
はは…。はははは…。……うっ。ううう…。
ぐすっ…。そんな…。し…死ねねぇなんて…。
い…嫌だ。嫌だ、嫌だ。」
「もう…嫌だ…生きたくねぇ…。死にてぇよ…。誰か。オラを…死なせてくれよ…。
オラを…殺してくれえええぇぇぇ!!」
ドカッ!バキッ!ズンッ!ズンッ!
悟空は自分の体を傷つけ始めた。
腹を殴り、足を折り、腕を切った。
だが…。
「へ…へへへっ…。い…痛くねぇ…のか…。」
バタッ…。
そう言いながら悟空は、後ろにゆっくりと倒れた。
気絶したのである。
「やはり、最強の戦士でも、精神に来るものがありますか…。」
「悟空さん、今日はゆっくり休んだ方が良いでしょう…。」
そう言いながら、医者は悟空をベッドの上に寝かせた。
ーーーー…。
悟空は夢を見ていた。
それは、自分の仲間たちの夢だった。
『悟空、お前は俺にとって一番の親友だ。』
「クリリン…。」
『孫くん、私たち今思えば長い付き合いよね…。でも、私はまだまだ孫くんの知らない所があるから私は孫くんに、着いていくわよ。』
「ブルマ…。オラに着いて来ても、オメェはオラより先に居なくなっちまうんだろ…?」
『孫、お前は俺にとって最大のライバルだ。
また俺と闘ってくれよな…。』
「ピッコロ…。オラには“気”がねぇんだから
ライバルなんて無理なんだよ…。」
「すまねぇな…。」
『カカロット、次、貴様と闘う時はブッ殺してやるからな…!』
『覚悟しろよ!』
「ベジータ…。」
「オメェは本当にオラを殺してくれるんか?
殺してくれるなら、オラが死ぬまで、殺しに来てくれよ…?」
「約束だからな?」
『お父さん…。僕は、お父さんの子供になれて
とても感謝してます…。
僕はとても誇りに思うんです。こんな…優しくて…強いお父さんを…。』
「オメェは、本当にいい子に育ってくれたなぁ…。オラも誇りに思うぞ…。ありがとな…。
悟飯…。」
いつの間にか悟空の周りには、いつかの仲間たちがいた。
「オラは…。世界一の幸せ者…だな…。」
悟空の瞳からは大粒の涙が流れていた。
英雄が見せた、初めての涙である。
もう夢でしか…。
現実では流せない涙がそこにあった…。
ーーーー…。
悟空が涙を流し、幸せに浸っていた頃…。
現実では…。
医者が机の上で悩み続けていた。
悩みの種の原因は、悟空から出てきたアイツの存在だった。
(もしかしたら…悟空さんなら、奇跡が起こるかもしれない…。)
(あの人には、そういう力が溢れている…。)
そして、医者は音さえ聞こえない程、悩んでいたその時ーー…。
「あ…ああああ…!や…やめろ…。やめてくれよおおおぉぉぉ!!」
「こ…殺さないでくれ!オ…オラの…。仲間たちを…。やめろおおおぉぉぉ!!」
「ご…悟空さん!?」
「落ち着いてください!」
医者は悟空にしがみ付き、動きを制した。
それでも、悟空は暴れ続けた。
そして…。
「はっ…!?」
「気付きましたか?悟空さん。」
「あ…あれ?ここ…。」
「私の家です。それより、大丈夫ですか?だいぶ暴れていましたが…。」
「あぁ…。夢の中で…アイツが…アイツが、オラの仲間たちを殺しまくるんだ…。」
「それで、オラ…止めようとしたけど、力が無いから…。」
「なるほど…。それは辛かったですね…。」
「今までは、力があったから皆を守ってこれたけど…。今は…。」
悟空はボロボロになるまで泣きたい気持ちになった。
だが…。泣けなかった…。
「分かります。泣きたいのに、泣けない…。
それは、とても辛いこと…。
私には痛いほどよく分かります…。」
「なぁ…。オメェはあの時、アイツをオラの中に閉じ込めておく事が出来るって言ったよな?」
「はい…。可能です。」
「その方法…。教えてくんねぇか?」
「……。」
「分かりました。」
この時、悟空は何故あそこで頭を打ったのだろうと、後悔した…。
ーto be contenued…。
過去編が長い!
まさかこんなに長くなるとは思いませんでした…。
次で、過去編もクライマックス!
熱くなってきた気がします。
(なってねぇよ!)
ーーー…。
それでは、次の話も楽しみにしていて下さい。
(楽しみにしてないか…。こんな駄文…。)
では、さようなら。
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