2016-03-12 05:34:57 更新

概要

彼女達は誇らかに呪われた軍旗を仰いだ。鉤十字を掲げるドイツ第三帝国の艦娘達は、誰よりも破滅的戦況を知っていながら、それでもなお、祖国の勝利を信じていた。


前書き

テレビアニメ『シュヴァルツェスマーケン』と、カヤックさん(http://sstokosokuho.com/user/info/924)の作品である『黒の艦隊 帝国海軍特殊連隊第666部隊(http://sstokosokuho.com/ss/read/5470)』を読んでインスピレーションが湧いたので作成しました。

タイトルや概要からもお分かりいただけるように、ナチスドイツのゲルマン艦娘達の物語になります。

吶喊工事のため穴だらけかと思われますが、時間を見つけて少しずつ修正していければと考えております。気になる箇所がありましたら遠慮なくお申し付けください。

※この物語はフィクションであり、実在する人物、国家、組織・団体とは一切関係ありません。また、作者にはナチズム賛美の意図はございません。政治的主張や思想、発言等がありましても、それらを全て含めてフィクション作品としてご覧ください。



Ich schwöre Dir, Adolf Hitler, Treue und Tapferkeit. Ich gelobe Dir Gehorsam bis in den Tod, so wahr mir Gott helfe.

―私は、汝・アドルフ・ヒトラーに対し忠誠と敢闘を誓う。私は、汝に対し死すまで服従することを盟う。神よ、ご照覧あれ。―




忠誠こそ我が名誉




 1944年1月31日、ドイツ第三帝国海軍軽巡洋艦『ライプツィヒ』は、駆逐艦『Z24』、『Z32』らと共に輸送船団を護衛しつつ、ノルウェーのスタバンゲル沖合南方約100キロの海域をドイツ本国へ向けて南下していた。

 見張り員は皆、緊張した面持ちで曇り空に霞む水平線を見つめていた。

 艦橋でも艦長をはじめとする将官が、口を一文字に結んで海図を睨んでいた。

 彼らの脳裏には、不安の二文字だけが巡り回っている。もしも今、敵の攻撃があれば……。考えるだけで鳥肌が立つほどだ。彼らに出来ることは、祈ることのみであった。

 重い空気の中、沈黙を破ったのは航海長だった。

「このまま何事もなければ、あと7時間で主力艦隊との合流予定海域に到達します」

 艦長は一言、うむ、とだけ漏らすと再び黙り込んでしまった。

 航海長の言葉が気休めであることを艦長は知っていたのだ。

 スタバンゲルより南はこれまでと違い大きなフィヨルドがなく、海岸線に隠れて敵をやり過ごすことが出来ない。これから7時間の間にもしも敵に発見されれば、低速の輸送船を抱えたまま逃げ切ることは不可能に近い。

 スカゲラック海峡に待機中の主力艦隊が北上してくれれば合流時間は早くなり、生き延びる可能性は上昇するのだが、彼らが制空権を失った海に出てくることは考えられない。

 ノルウェー領内の空軍が協力してくれれば話は別だが、奴らは決して動かないだろう。なぜなら、北海には敵空母の存在が確実視されているからだ。空母の排除が確認されなければ、戦力の消耗を避けるためと言って戦闘機の一機も寄越さないことは想像に難くない。

 結局のところ、空軍の航空支援が受けられないのであれば、海軍主力の援護も受けられないのであるから、もしも敵に見つかってしまえばそれで彼らの命運はおしまいということになる。

 しかし、「こんなところで死にたくない」という彼らの思いが通じたのか、出港以来未だに敵に発見されることはなかった。

 「もしかしたら生きて祖国の地を踏めるかもしれない」という期待が密かに高まりつつあった。が、そんな淡い期待は裏切られるために存在しているようなものである。

 同日11時8分、甲板見張り員の泣きそうな叫び声が伝声菅を通じて艦橋へ伝えられた。

「左舷後方距離800に敵潜水級を発見!」

 一瞬にして艦橋が凍りつく。

 だが、恐怖に怯えている暇は彼らにはない。死ぬとわかっていても最後の足掻きをせずにはいられない。座して死を待つことは、人間には難しいのである。

「艦隊司令部に緊急連絡! 平文で構わん、急げ!」

「発光信号で後続艦に伝達! 対潜戦闘用意、駆逐艦は直ちに攻撃に向え!」

「輸送船は増速しろ! 何としても振り切るんだ!」

 それまでの重苦しい空気が一転、火のついた火薬庫のように熱気と命令が艦橋を包み込む。

「艦隊司令部に救援を要請。見つかったのが潜水級だけならまだ間に合うかもしれん! 急げ!」

 腕を組んだ艦長が指示を下していると、新たな、そして悲劇の報告がもたらされた。

「艦長、C船団から入電です!」

「読み上げろ!」

「はッ、『我ガ船団ハ1105ヨリ敵ノ攻撃ヲ受ク。敵戦力ハ戦艦級2、重巡級5、軽巡・駆逐級多数。艦載機ハ認メラレズ。各船団ノ幸運ヲ祈ル』以上です!」

 C船団は『ライプツィヒ』率いるB船団の後方100キロの海域を航行中だった。C船団の護衛艦は軽巡1隻と旧式駆逐艦2隻に過ぎない。戦艦級2隻に重巡級5隻相手では10分も持たないだろう。

 航海長が海図にC船団の座標を書き込む。

「C船団があと数分で壊滅するとして、低速の輸送船が全速で航路を急げば我が船団は……」

 B船団の現在の座標から真っ直ぐ南に直線を書き込んだ。そしてC船団の座標に赤いインクでバツ印をつけ、そこからB船団の進行方向に向かい線を引いた。

「3時間半ほどで、我が船団は後方の敵艦隊に捕捉されます……!」

 悲壮そのものの表情を浮かべる航海長。艦長は硬い表情を崩さずにいたが、まだ一縷の望みを持っていた。艦長は海図上のデンマーク沖を指差しながら航海長に言った。

「敵は強力だが、C船団からの連絡によれば幸いにして空母はいないようだ。それならば主力艦隊が動いてくれるかもしれない」

 その言葉を聞いた艦橋の全員の顔に希望の光が射したようだった。

 この時、この航海における彼らのスローガンが決まった。即ち、「C船団の犠牲を無駄にしないためにも、我々は生き残らねばならない!」である。『ライプツィヒ』の全員がそう思った。B船団の全員も、連絡を受けた艦隊司令部も同じことを思った。

 しかし、“彼女ら”とその上官達は少し違う風に考えていた。つまり、「C船団とB船団の犠牲を無駄にしてはならない」と、である。

「艦長! 特殊水上レーダーに感あり! 方位2-1-5、距離12000、数5!」

「敵の待ち伏せか!?」

「いいえ、待ってください! これは……味方です! 友軍艦隊です!」

 報告を受けた艦橋に歓呼が沸き起こった。涙を流している者もいた。

 そんな彼らを楽観主義者だと、脳天気だと罵ることは許されない。数分前まで頭を悩ませていた不安が、これで解消されたと勘違いしたことを嘲笑ってはならない。死に瀕した人間が、希望をちらつかされた時の反応であり、彼らの反応はごく自然なものなのだから。

 艦長が喜びを隠しきれない声で叫ぶ。

「接近中の味方艦隊に私の名前で電文を送れ。『迅速ナ救援ニ感謝ス』とな」

 歓喜の報告はまたたく間に艦内に、そして船団中に広がった。その中で『ライプツィヒ』艦長の脳裏をとある疑問が横切った。

(なんでこんなところに味方艦隊が……?) 

 先の通信文に対する返事はすぐに来た。それは艦長の疑問への解答を含んだ、彼らを絶望の淵に叩き込む死の返答だった。


『感謝ニハ及バズ。我々ノ任ハ貴船団ノ護衛ニ非ズ。貴官ラノ献身ト勇戦ヲ期待シテヤマナイ。ハイル・ヒトラー!』




『――ビスマルクお姉さま、輸送B船団から救援要請です。これで3度目ですよ』

 金髪のおさげを潮風に靡かせながら、どこかあどけなさの残る青い目をした女性が海面を駆っていた。

 彼女の後ろにはさらに4人の女性達が続いており、菱型の陣形をとっていたが、その中にはまだ少女と呼ぶべき子供の姿も混じっていた。

『――無視しなさい、オイゲン。彼らの生命と安全を保障するものは、彼ら自身の努力のみよ』

 ビスマルクと呼ばれた女性は、5人の集団の最後尾につけていた。この女性も金髪碧眼であり、5人の中でも長身な方で、どこかリーダーのような風格を漂わせていた。

『――本当に良いのかい? 彼らを見捨てたりして……』

 不安げに尋ねたのは、陣形の右端に位置する中性的な顔立ちの幼い少女だった。色素の薄い頭髪をショートカットで揃えており、一見しただけでは性別の判断が難しいかもしれない。

『――レーベ、私達の任務は何?』

 少々キツい口調で応じたのは、陣形の左端を占める、栗色のショートカットが特徴的な少女だ。

『――私達の任務は空母級吶喊(トレーガー・ヤークト)。第三帝国で私達にしか出来ない重要な任務よ。輸送船団の護衛とは優先順位が違うわ』

『――わかってる、わかってるよ、マックス。けど……』

 マックスの正論に今ひとつ煮え切らない様子のレーベ。何度も口ごもり、やっと言葉を紡ぎ出そうとした矢先、毅然とした一声がレーベを遮った。

『――お喋りはそこまでだ』

 声の主は、陣形の中央を陣取る長身の女性。金髪のツインテールと灰色がかった瞳をした彼女は、まるで貴族が決闘を申し込むかのように悠然と言った。

『――U-511が敵空母級3隻を確認した。座標は司令部と照合中だ』

 敵空母級3隻、その言葉で一同の間に緊張が走った。同時に、戦闘を前にした高揚感に包まれる。それは味方を見殺しにすることに引け目を感じていたレーベですらも同じだった。ただ彼女の場合は、死の恐怖を誤魔化すための自衛手段だったのだが。

『――Achtung(傾注)!』

 冬の空気を切り裂くように、ビスマルクの凛とした声が洋上に響いた。

 その瞬間、5人全員が一斉に航行を止めた。ビスマルクを除く4人は回れ右をして声の主の方へ振り返り、背筋をピンと伸ばして踵を打ち付けた。

『――作戦本部より連絡があった。我が第666大隊はこれより、スカパ・フロー方面から来襲する敵艦隊に対して『空母級吶喊』を敢行する』

 ビスマルクは4人の戦友の顔を見渡した。全員が兵士の顔をしているのを確認すると、小さく頷いて声を張り上げた。

『――陣形はこのまま、グラーフを中心に先頭はオイゲン、右翼をレーベ、左翼をマックス、後衛は私が務める。深海棲艦のクズどもに、ハーケンクロイツの鉄槌を下してやれ!』

 ビスマルクの訓示が終わると、一同は右手を真っ直ぐに挙げ、声を揃えて叫んだ。

『――Heil Hitler!』

 彼女らの左腕の袖にはラテン字体で『Walküre』と書かれたカフタイトルが縫い付けられていた。加えて、服の襟につけられたルーン文字の『SS』が、彼女らの所属する組織をはっきりと示していた。

 彼女達はSS第666海上装甲擲弾兵大隊、通称“ヴァルキューレ”。悪魔の番号と女神の名を冠する武装親衛隊の精鋭部隊、死の戦乙女の大隊だった。




 全員揃っているな。えー、それでは講義を始める。

 我が第三帝国が現在敵対しているのは、ソ連、アメリカ、イギリスを中心とした所謂連合国だ。

 そして、昨年の初夏以降、ここに水底から現れた新たな勢力が追加されたことは海軍大学の生徒諸君なら既に存じているだろう。

 そうだ、奴らは『Abyssal-Flotte』 、同盟国である日本では『シンカイセイカン』と呼ばれている。

 万が一にも勘違いしてはいないだろうが、深海棲艦は人ではない。中には人に近い形をした個体もおり、組織的な行動をしていることから知性はあると思われるが、人類との意思疎通は不可能であると見られている。そもそも、戦場で奴らと会話できるほどの距離まで接近した例が存在しないしな。

 深海棲艦が初めて発見されたのは1872年。イギリスの海洋調査船『Challenger』が、海底探査のために降ろしたドレッジのワイヤーに引っかかって駆逐級の死骸が釣り上げられたのが最初だとされている。

 それ以降、全世界の海で深海棲艦は発見されるようになったが、この頃は我々人類と深海棲艦とは疎遠な隣人程度の関係であり、確認出来る数も少なかったため一部の国を除いて奴らの研究も大して進んでいなかった。研究のためだろうと絶滅の危機に瀕した動植物を軽々しく採取しないのと同じ理屈だ。

 状況が一変したのは昨年6月末、突如として凶暴化した深海棲艦が米軍のハワイ基地を襲撃した。凶暴化した原因は米軍の誤射だとか突然変異だとか諸説あるが、どれも確たる根拠などない。真相は深海棲艦にでも聞くことだ。

 とにもかくにも、ハワイ基地に停泊していた全ての艦艇が撃沈され、1週間にわたり島全体に砲弾の雨が降り注いだ。今やあの島々は、荒れ果てたはげ山と化してしまったという。

 それを契機に、太平洋以外の海洋にいた深海棲艦も人類への無差別攻撃を開始した。深海棲艦の無尽蔵の兵力の前に、人類はあっという間に外海の制海権を失い、残された海は地中海やバルト海のような内海のみになってしまった。

 連中の行動原理や目的は一切判明していない。現在までにわかっていることをまとめると次のようになる。

 奴らは特に、我々人類が造った軍港や港湾都市を中心的に破壊し、『泊地』と呼ばれる独自の根拠地を構築、そこから延々と湧き出てくる。個体数は、発見当時は世界中で合わせても3桁ほどしか確認されていなかったが、現在では算定不能なまでに膨れ上がっている。

 基本的には1隻から6隻ほどの小集団で行動することが多いが、それらはあくまでも梯団の一部分に過ぎず、全体としては数十から数百ほどの数で一個集団を形成している。奴らは人でなければ人工物でもないが、便宜上、6隻未満の小集団を『艦隊』、多数の『艦隊』から成る戦略単位を『梯団』、複数の『梯団』から成る大規模な兵力の集まりを『集団』と呼んでいる。

 奴らは、海上を移動するものを無条件に攻撃し、島や陸地に対して熾烈な砲撃を加え、砲弾が届く限り更地にする。同士討ちをしたという情報は未だに存在しないというのも注目すべき特徴だろう。それと、行動に途中で大幅な変更を加えない点は極めて重要な特性だ。例え沿岸砲撃や機雷封鎖で大打撃を受けても、奴らは前進を辞めない。奴らを止めるには、文字通り息の根を止めるしかない。迷いや躊躇は自分だけでなく戦友や祖国を危険にさらす行為だと胸に刻み込んでおけ。

 一応、現在までに9種類の存在が判明している。小型種の駆逐級、潜水級。中型種の軽巡級、雷巡級、輸送級。大型種の重巡級、戦艦級。そして、艦載機を搭載している空母属種がいる。軽母級と空母級だ。

 軽母級と空母級の持つ艦載機は非常に小型で高性能だ。個体によっては夜間だろうと発艦して来る。だがそれ以上の問題として、奴らの艦載機は、搭載兵器の威力は我々の主力航空機と同程度のくせに1メートル程度の大きさでしかない。故に、サイズ的に現在の人類の航空機ではとても対抗出来ない。結局、空母級の登場で我々は制空権を完全に失ってしまった。

 駆逐級のような小型種であれば通常艦艇でも互角以上に戦えるが、重巡級や戦艦級ともなると航空支援がなければ通常艦艇ではまともな勝負にならん。だが、今言ったように敵の空母級がいれば航空支援は不可能だ。これこそが、我々人類が深海棲艦に敗北を重ねてきた最大の理由である。

 しかし、深海棲艦研究で世界最高峰の知識と技術を持っている我が友邦日本は、この陰惨たる戦況を一変させる新兵器を開発した。その名も『カンムス』、 『Flotte-Mädchen』だ。

 日本はこの艦娘の大量生産に成功し、大規模な艦隊を編成することで近海から深海棲艦を駆逐することに成功、制海権をいち早く取り返した。現在も反攻作戦を実行中であり、間もなく深海棲艦凶暴化前の支配領域を取り戻す勢いだ。

 そして、我がドイツ第三帝国も昨年晩秋、とうとう艦娘の生産に成功した!

 軍機のため詳細は話せないが、我がドイツの艦娘は特に敵集団内の空母級の殲滅である『空母級吶喊』を得意としている。彼女達が真っ先に深海棲艦に斬り込み空母級を叩くことで、我が海軍は空軍の航空支援を受けて深海棲艦への大規模な攻撃が可能になるのだ!

 ……今、15時過ぎか。ちょうど今頃だな。これはまだ一般には公開されていない情報だが、予定ではちょうど今頃、北海において彼女達の『空母級吶喊』が行われているはずだ。

 この作戦が成功すれば、夏に予定されている反攻作戦の弾みになるはずだ。彼女達の成功を期待しようではないか。

 失敗したら? 君、発言には気を付けたまえ。我がドイツ民族に敗北主義者は必要ないことを忘れるな。


後書き

冒頭の忠誠宣誓は、『西洋軍歌蒐集館(http://gunka.sakura.ne.jp/index.html)』の「ハインリヒ・ヒムラー首唱 親衛隊 忠誠宣誓(http://gunka.sakura.ne.jp/voice/treue.htm)」より引用させていただきました。


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SS好きの名無しさんから
2018-01-11 20:26:26

2016-08-20 22:19:31

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2016-02-27 10:23:19

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2016-02-27 10:40:19

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2016-02-27 10:23:20

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1: SS好きの名無しさん 2016-02-27 10:27:11 ID: pRT1sukF

良作

2: 名無しカッコカリ 2016-08-20 22:30:45 ID: j_hgMhC9

鉄と火薬の匂いが漂う作品。
独逸カッコいいよ、独逸。
「BETA」「Dies irae」この辺りの単語にピンと来る方はハマると思います。

Sieg heil viktoria !!


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