マイナスから始まる鎮守府【1】
急死した提督の弟として、とある鎮守府に配属された男の話です。
〜鎮守府着任編〜
地獄絵図のような鎮守府を、どのように改善していくのか、そもそも改善可能なのか。
そういう、一種の謎解きも取り入れています。
汚い文章ではありますが、よろしくお願いします!
続編の『マイナスから始まる鎮守府【2】』もよろしくお願いします!
仮に、王が死んだとして、
次に即位するのは誰だろうか。
きっと王の親族、
もっと言えば、その王の兄弟か息子、
そのどちらかであろう。
現代でも、多くの国で、その制度が続けられている。
ただし、もちろん、それは皇族や王族に限った話だ。
さて、ここでひとつ馬鹿な話をしよう。
公務員の男がいた。
その男は『提督』と呼ばれ、
『少将』というランクだった。
ある日、
その男は勤務先で倒れ、
そのまま帰らぬ人となった。
勤務先では、会議が行われた。
『次の司令官を誰にするか』
ここまで来たらわかるだろう。
なにがどうあってか、その男の『弟』であった僕が、次期提督に選ばれたのだった。
「偉大な前提督に、1日でも追いつけるよう、日々精進していくつもりです」
「よろしくお願いします」
拍手拍手拍手拍手
拍手はホール内を駆け巡った。
駆け巡った。
しかし、これで、歓迎されていないことが、確実となった。
心の無い拍手。
殺意の籠もった目。
兄から、マイナス状態の『モノ』を譲渡されることは、いままでも度々あった。
おさがりのジーンズは、いつもダメージが入っていた。
おさがりのシャープペンシルは、いつも消しゴムが無くなっていた。
さて、今回は厄介だ。
おさがりの鎮守府は、
否、おさがりの艦娘たちは、
何故か殺意の籠もった目で僕を見ていた。
比叡「お姉様!今日の晩ご飯は『比叡特製カレー』ですよ!!」
金剛「Oh...それは楽しみ…デース♪」
比叡「今回は、いつもとはレベルが違いますから、期待していてくださいね!…あ」
飯テロ()で噂されている比叡と、その姉である金剛に出会った。
比叡は、兄とケッコンしていたらしい。
ケッコンとは言っても、結婚ではなく、あくまでも役職のようなものだが。
ケッコンにも、信頼関係が重要なのは説明するまでもないと思う。
そういった意味でも、僕は、義理の姉だった比叡に興味を持った。
提督「あなたが比叡さんですね?少しお話したいのですが、よろしいでしょうか?」
1秒…
…沈黙…
…2秒
比叡「…わかりました。お姉様は先に部屋へ戻っていてください…」
金剛「…わかったネ」
提督「ありがとうございます。では、こちらの部屋でお話しましょう。」
ギィ〜...ガチャ
比叡「…提督、なんの用でしょうか?」
提督「あなたが兄とケッコンされてると聞きました」
提督「ここでの兄がどのような人だったのか知りくてですね。」
比叡「提督…いえ、英治さんは私たち艦娘の恩人でした」
比叡「…兵器として見られていた私たちを、人として大事に接してもらえましたから…」
それは、当たり前のことだとは思うが…。
艦娘といえど『兵器』ではなく、『兵士』の類だと、僕は認識している。が…。
提督「比叡さん、実直に答えてください」
『兄、前提督はあなた達に何をしましたか?』
その瞬間、彼女は目を大きく見開いた。
まさか、そんな質問がくるとは、考えてもいなかっただろう。
比叡「っ…え…いえ、あ…先ほどの通り、大切にしてくだだいました…」
わっかりやすぅい
提督「僕は14年間、兄と暮らしてきましたが、あいつがあなた達を『人』として接する訳がない」
比叡「…」
提督「いや、前言撤回、訂正します」
提督「『あなたを除いて』…あいつが艦娘を『人』として見るはずがないんです」
比叡「!」
提督「艦娘に限らず、人を道具として扱うのがアイツの十八番ですから」
比叡「…そんなこと…じゃあなぜ私"は"ケッコンの対象に…」
提督「愛着があったんでしょうね」
提督「…至極、簡単な話です」
沈黙
今日、一番の沈黙
沈黙
比叡「…」
提督「…」
比叡「どこまで知っているんですか」
提督「あなた(方の誰か)が、(紅茶にでも)薬物を入れ、毒殺をした(予想)のところまでですね」
比叡「…私じゃない…」
提督「金剛型の誰かであることは間違いない」
比叡「…」
提督「いや、金剛ですよね」
比叡「何を根拠に…」
提督「日誌を見るに、旗艦の金剛型以外に、兄に近づけるものはいない」
提督「解剖の結果、紅茶の成分が検出されたそうです」
あくまでも推測でしかないが、
カマをかけてみるのも一興。
比叡「…私がやりました」
提督「…庇うんですか?」
比叡「!」
比叡「本当に私なんですッ!」
比叡「お姉様じゃありません!」
比叡「訴えるなら私を訴えてください」
ボイスレコーダー
on→off
提督「訴えるつもりはないですよ」
比叡「!?」
提督「むしろ代わりにやってくれて、ありがとうございます」
比叡「は?」
提督「手間が省けました」
比叡「え?…え?」
兄が殺されたという"証言"は得られた。
もちろん録音済み。
比叡の首を掴むことまでは上手くいった。
僕は、人を道具として扱うことはしない。
が、人を利用するのは得意だったりする。
さて、どうしていこうか…
ここに来て3日が経ち、この鎮守府の現状が見えてきた。
どの職場にも、問題というものは存在するだろう。
逆に、問題の無い職場というものがあるとしたら
『余程、感覚が狂っている』
『ブラック企業で、情報を隠蔽をしている』
そのどちらかだろう。
ただ、ここは自衛隊管轄であろうと、軍である。
そして、今現在、戦争中なのだから、士気というのは何よりも重要だ。
さて、じゃあ何が問題だというのだ。
そう、その通り。
この鎮守府の"士気"は最悪なのだ。
遠征の成績は悪い。
演習の結果なんてもってのほかだ。
原因はなんだ?
急に司令官が変わったことが、影響しているのだろうか。
記録帳の見ると、兄が指揮していた頃は、演習の"結果"はかなり良かった。
あくまでも、記録帳上での話だ。
保管室に保存されている、当時の演習映像のDVDを閲覧したが、まるで人が指揮しているとは思えない。
『人間の盾』作戦。これは、元々は、一般市民を盾に、兵士の安全を第一にした状態で、戦闘を行う戦術だ。
これは一般市民ではないが、それと同じ戦術。
旗艦を守るよう、旗艦以外の艦娘で盾を作り、そして、相手の旗艦を集中的に攻撃する。
勝利率は97.5%とかなり高かったが…。
だが、それでも、これでは、艦娘の士気は上がらなくて当然だ。
…そう思っていたが、実はそうではなかった。
『自分が育った環境』というものは恐ろしい。
着任してから、ずっとこの作戦を遂行してきた彼女たちは、『人間の盾』以外の戦術を知らず、それが普通であると、考えているのだった。
流石にこれは酷いと思った。
振り出しに戻された。
では、一体何が原因か。
はて、なんだろう…
…
とりあえず、腹が減ったので、食堂に行くとしようか。
まだ時間はある。
書類をまとめる。
席を立つ。
ドアを開ける。
廊下に出る。
「…」
ドアを閉める。
食堂へ向かう。
食堂に着く。
「…」
この短期間で、さっきの悩みの雲が、一気に晴れた。
食堂に来るまで、十数人の艦娘とすれ違ったが、誰一人として目を合わせようとしない。
そう、誰一人として目を合わしていなかった。
僕"だけ"に限らず、艦娘"同士"がただすれ違っていたのだ。
簡単に言うと
『仲がくっそ悪い』
僕は、その世界の真実に気づき、ウキウキ気分でカツ丼を注文した。
注文した、と同時に頭は冷静さを取り戻した。
提督「不幸だわ…」
はぁ…と溜息をついた。
今から食おうとしているカツ丼を、美味しく感じられるか、心配だ…。
上層部に、現在の状況を説明し、『補佐艦を送る』と、通知が来てから2日。
黒髪ロングメガネ属性の少女が、訪ねてきた。
大淀「私は大淀と申します。あなたがここの提督ですね?」
提督「えぇ…。すでに報告した通り、ここは、(とても)よろしくない状況です」
大淀「…出来る限り助力させていただきます」
提督「着いて早々、申し訳ないのですが、駆逐艦たちの部屋を回ってきてはもらえませんか?」
大淀「いいですが…なにか策があるんですか?」
提督「いえいえ、策と言える程、立派なものではありませんよ」
大淀「…?」
提督「幼いながら、親元を離れ、戦場で戦っているのです」
提督「頼れる『お姉さん』の存在というものが、彼女らにとって励みになるのでは…、と思いましてね」
大淀「!…なるほど、では早速行くとします」
提督「…では、よろしくお願いします。僕はこれからする事があるので、失礼させていただきます」
駆逐艦に関しては、これがベストアンサーだと思っている。
僕としては、てっきり"男"が来ると思っていたが、良い意味で期待はずれだった。
『黒髪ロングメガネ属性の清楚系お姉さん』なら、幼女たちの事も任せていいだろう。
…扱いやすくて嬉しいよ
「大淀さん」
もしも、神という存在がいるのなら、それはかなりの『ドS』なのだろう。
世界は、何度も"自分の思い通り"にいくようにはなっていない。
結果的に、嬉しい事もあれば、その反対だったりもする。
…今回は、恐らく後者になるだろう。
大淀と分かれて数分、僕は、意図せず、なんの対策も練らないまま、厄介な艦娘に遭遇してしまった…。
「おはよう、提督♡」
ここ数日、様々な提督とコンタクトを取り、情報を収集していた。
その中でも、評価が高かった艦娘の内に、コードネーム【時雨】の名があった。
時雨は『大天使』との異名を付けられていたことが多く、現実には時雨愛好会という、有志提督の界隈まで存在する。
『大天使』ねぇ…
少なくとも、ここでは『大天使』と呼べる様な存在ではない。
優しい殺意、安堵できるような殺気
言うなれば『堕天使』とでも言ったモノか…。
とても歪んでいる。
歪みきっている。
が、ここで足踏みしているわけにもいかないか…。
提督「やぁ、おはよう。時雨さん」
時雨「提督。これから…買い物に行こうと、思うんだけど、よかったら一緒に、どうだい?」
提督「…もちろん、喜んで。ちなみに何を買うつもりなのかな?」
時雨「僕に興味があるの?嬉しいなぁ」
提督「そりゃあ、僕は君たちの上司だからね」
時雨(僕だけを、見ていればいいのに)
提督「…どうかした?」
時雨「なんでもないよ」
明らかに、彼女の殺意が物理化したかのように、膨れ上がっていた。
一体、なんの基準で、彼女の殺意スイッチが、入ったのだろうか…。
…わからない。
思春期の女子の考えていることは、本当にわからない…。
その事もあって、駆逐艦の事は大淀に任せたのに。
対策が、未だに練れていないのも、それが主な原因だ。
時雨「提督。早く行こう?」
提督「よし、じゃあ…どこ行こうか」
時雨「最初はね…」
ふぅ、長くなりそうだ…。
時雨とのショッピングを無事に終え、
僕は自分の部屋部屋に戻った。
そこには、何やら深く考え込んでいる大淀がいた。
提督「大淀さん、どうかしましたか?」
大淀「…どうって、どうもこうも深刻な状態ですよ」
提督「でしょうね、第3者の目として、実直に、現在の状況の感想を言っていただきたい」
大淀「…」
大淀「先程伝えた通り、私…、いえ、私たちが考えているよりも、かなり深刻な状況でした」
大淀「彼女たちは『遊び』というものを知らないのです。年相応の『遊び』を、です」
大淀「代わりに、彼女たちは『盾』のシュミレーションを『遊び』としていました」
大淀「強力な洗脳下に置かれています…」
大淀「最悪な結論を言うと…」
『1から、鎮守府を作り直したほうが、いいレベルです』
そう、大淀は言った。
近年、様々なテロリストは、
自爆テロというものを、採用しているが、
なぜ、自分も死ぬと分かっていて、
それでも、作戦を遂行するのだろうか…。
以前語った、
日々の生活環境の影響もそうだが、
それだけでは不完全である。
最も、
自爆テロには、
遂行する者の意思などは、
決して尊重されない。
そう、無感情の傀儡を作ればいいのだ。
環境によって、
下地が作られた彼女らは、
ついに調理される。
洗脳、マインドコントロール…。
これらは至極簡単にできる。
1.日常から切り離す。
2.痛めつけ、罵倒し、身体的精神的にダメージを負わせる。
3.自分の意思を刷り込ませる。
4.鬱化してきたところで、甘く優しく接する。
5.開放し、対象が必要な存在であるかのように接する。
たったこれだけ。
時間はかかるものの、確実性があるから、今でも世界中で行われている方法だ。
現に、艦娘の身体には傷跡が生々しく残っており、鎮守府には地下牢がある。
そして、これは兄の常套手段でもあった。
大淀「作り直すとは言っても、あくまでも例えです。洗脳を解いていきましょう。」
提督「えぇ、もちろんです。」
洗脳を解くことが、必ずしも、彼女たちの幸福に繋がるとは思えない
だが、それが、彼女たちの未来に繋がっていると、信じている。
…
…兄が施した洗脳の、本当の真理がなんなのかがわからない以上、放っておくわけにはいかない…。
提督が、時雨とともにショッピングに出かけていた頃、大淀は駆逐艦の部屋を回っていた。
大淀「第一艦隊第一水雷戦隊第六駆逐隊…」
大淀「ここで最後ですか…」
正直、大淀はもう、これ以上驚くことはないと思っていた。
何故なら、駆逐艦の誰しもが、同じこと言い、同じ行動をしていたのだ。
そこには自我なんてものは存在しない。
(どうせ、今までと同じだろう)
彼女がそう思っていてもおかしくはない。
だが、彼女の、その予想は外れた。
コンコン
大淀「失礼します。今朝、ここの鎮守府に配属された大淀です。その挨拶に伺いました」
「助けてッ!!!」
助けて
その言葉を聞き、大淀は思考よりも早く、行動、ドアを開けた。
大淀「!!」
え、一体何なの?これは何?何が起きたというの?
大淀は、目を、いや、五感を疑った。
彼女は見たのだ。
傷だらけの幼女が一人、天井から吊るされていた。
大淀「…ッ、今助けるから!」
すぐさま、
駆け寄り、
縄を引き千切り、
幼女を救出した。
大淀「大丈夫!?あなた、名前は!!?」
幼女「うっうぅう…もうやだぁ」
幼女は泣き出してしまった。
さも、ずっと涙を堪えていたかのように、幼女の涙腺は決壊した。
大淀「大丈夫ですよ…。私がついてますから…」
この時点で、現提督の思惑通りだった。
『黒髪ロングメガネ属性の清楚系お姉さん』の効力は、例え幼女であろうと伝わるものだ。
数分が長く感じる。
聞くに、どうやら幼女のコードネームは【電】
前提督が亡くなる2日前に配属され、そして、前提督が亡くなる当日の朝、この部屋に吊るされたらしい。
大淀(つまり、この子は10日以上も何も食べていないというの?!)
大淀「電ちゃん!他の子たちはどこにいるかわかる?」
電「…後ろ」
空気が裂ける音。
パイプだ。
大淀はそれを躱し、
実行犯を制止した。
普通の人間、普通の艦娘でも、これに反応するのは、かなり難しい。
だが、大淀はそれを成し遂げた。
そう、大淀が補佐艦として選出された理由には、知性の他に護身術の心得があったから、という理由があった。
きっと、こうなるだろうと、上層部が判断したのだ。
目は彷徨っており、涎をたらしている実行犯。
抑えられながらも、ジタバタと暴れる。
大淀「この子は…まさかッ、雷ちゃん???」
雷「電…、どこにいるの?痛いよぉ…」
電「ひッ!!うわぁあああああああああ」
大淀「…っ!!」
だめよ!こんな所に電ちゃんを居させてはいけないッ!!!
大淀「電ちゃん!立って!行くよ!」
大淀は電を引っ張り、部屋を出た。
ここは危ない。
危険だわ。
こんな所が鎮守府なわけ無いでしょう!!!
すぐにでも提督に相談すべきだわ…!
大淀は電と共に自室に入り、鍵をしめた。
大淀「はぁはぁ…」
コォオーーーー…
大淀は、腹圧をかけ、喉を開き、息を吐いた
息吹で無理矢理、呼吸を整えたのだ。
大淀「電ちゃん、これを食べて!」
大淀は、必要最低限の栄養素が含まれた非常食を、電に渡した。
大淀(でも、良かったわ。まだ、"まとも"な子が居たなんて…)
大淀(こんな状況を作り上げた前提督は、一体何なの?まるで人間の業とは思えない…!)
大淀からの報告を受けた後、僕は兄の心理について考えていた。
(旗艦である金剛型を、洗脳するにはどうするべきか…。)
(そもそも洗脳する必要性はあるのだろうか?)
(兄なら、旗艦である以上、まともな思考力は必要だと考えるだろう。)
(洗脳せずに、自分の手中に駒を置くことができる方法。)
(いくつかあるが、これがベスト)だと思った。
【人質】
最も原始式で、比較的高確率で成功する戦術。
原始的過ぎて、盲点だった。
いままで、ずっと「金剛型」と言ってきたが、それは『金剛型の3人』という意味だ。
実は『金剛型』は4人だったそうじゃないか。
そう、一人足りないのだ。
提督「霧島…か」
ここでようやく、比叡を利用する時が来たようだ。
比叡を呼び出した。
提督「比叡さん、なぜ霧島のことを黙っていたんです?」
比叡「…隠しても意味ないですよね。あなたの事です。すでに大方理解しているのでしょう」
提督「あぁ…」
比叡「英治さんが、最初の『盾』作戦を決行すると伝えられた時のことです。」
『お前たちの働きによっては、霧島の安全は保証できない』
比叡「彼からそう伝えられました」
比叡「英治さん曰く、ここの駆逐艦は、『霧島を見たら襲う』ように仕込まれているのだと」
比叡「霧島を、妹を失いたくなかったんです」
提督「そこまでは推測通りでした。でも、それは僕への報告を怠った理由にはなりません」
比叡「あなたは英治さんの弟ですよ…」
信用できるわけ無いでしょう…。
そう言いたげな目で僕を見ていた。
提督「安心してください。霧島含め、全艦娘の安全は僕が保証しますよ」
比叡は、決して疑いの目を止めなかったが、渋々、霧島を連れてきてくれた。
比叡「霧島…私は外に出るけど、何かあったらすぐに叫ぶの」
霧島「…はい」
提督「比叡さん、すみませんね」
比叡「謝る対象が違います」
随分と口が達者になったものだ。
やっと素の自分を曝け出してきたんじゃないか?
嬉しい限りだ。
提督「霧島さん、わざわざ来ていただきありがとうございます」
霧島「いえ、命令ですから…。では、比叡お姉様、そろそろ…」
比叡「わかったよ」
ガチャ…
比叡「提督…、霧島に何かしたら、絶対に許しませんから」
提督「わかっていますよ」
パタン…
比叡が出てから、少し気まずい空気が流れた。
が、ここから早送りのように会話が進んでいく
提督「…では、はじめまして霧島さん、僕は最近、ここへ着任したばかりの新米です。よろしくお願いします」
霧島「…前司令の弟さんですよね、お姉様方から聞きました」
提督「やけに冷静ですね、怖くないんですか?」
霧島「私は艦隊の頭脳です。仮に私に害を与えるなら、あの人の弟だろう行動をするはずです」
提督「…(堂々と実力行使に出る事はない)なるほど」
霧島「あなたの目的はなんですか?」
提督「(いわずもがな)この鎮守府の正常化ですよ」
霧島「本当にその気があるんですか?」
提督「えぇ、もちろんです」
提督「そのために、あなたのお力をお借りしたいと思いましてですね」
霧島「…わかりました」
提督「ありがとうございます。心強いです。では、今夜、また僕の部屋に来てください」
霧島「…了解しました」
洗脳された艦娘たちから電と大淀を護るには、どうしても戦艦の力が必要だった。
そのために霧島を勧誘したのだ。
…
淡々と流れていった会話を終え、霧島を帰そうとしたその時だった。
霧島「司令は、望んでここに来たんですか?」
提督「望んではいませんが、血縁者として…例外に」
霧島「…そうですか、いや…、その例外が真実だと、本当に思いますか?」
…
……
………
提督「…検討しておきます」
コンコン
霧島「司令、霧島です」
提督「どうぞ」
ガチャ
霧島「失礼します」
提督「いやぁ、霧島さん、よく来てくれました」
霧島「命令ですから」
提督「…、ではこれからあなたには隣の部屋で寝てもらいます」
霧島「目的はなんですか?」
提督「実はですね、先日、まだ正常な艦娘【電】が発見さてまして、あなたには大淀と共にその子を護って欲しいのです」
霧島「!…了解です」
提督「ふむ、そろそろ、電は寝静まった頃ですかね。ではお願いします」
…
霧島が出ていき、僕の部屋は静寂に包まれた。
…
静寂というものは不思議なもので、人を睡眠へ誘う効果があるようだ。
そこから記憶が途切れた。
「提督。起きてよ」
その声によって、僕は目を覚ました。
どうやら、寝落ちてしまっていたらしい。
起き上がろうとした。
その瞬間、僕は、僕の脳は完全に覚醒した。
縄によって、腕が縛られ、胴体と繋がれていた。
「フフ、これで、提督。完全にボクの物になったね…」
犯人は『堕天使』時雨だった。
提督「時雨さん、縄を解いてほしいんだけど、ダメかな?」
時雨「ダメだよ、提督。ボクのことだけを、見てくれるまで、絶対に開放してあげない」
提督「僕はいつからモテ期が来たんでしょうね」
時雨「提督は、前のとは違って優しいからね」
そう言って、彼女は、白く細い手を僕の懐に潜り込ませてきた。
時雨「提督がボクのことだけを見てくれないのなら、ボクとの既成事実をつくるべきだよ」
時雨「そうだよ、それがいいね」
時雨「提督。楽しみだね」
提督「…えぇ、とても楽しみですね」
時雨「いくよ…。んっ…」
彼女は上着の脱ぎ始め、口づけをした。
ガシッ
キスに『ガシッ』という擬音はおかしい。
そう、口づけはしていない。
彼女は自分の頭を掴まれ動かせなかったのだ。
時雨「…え、霧島…。君には失望したよ…。僕達の邪魔をするのかい?」
霧島は時雨の頭を掴んでいる。
霧島「これは提督の意思ですよ」
時雨「嘘!!嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘…!!!!!」
提督「本当です。あなたが最も厄介なのであれば、先に治療してしまえばいい。これが僕達が導き出した答えです」
実は、時雨が、僕の部屋に来るだろうというとは、すでにわかっていた。
僕の部屋の前ずっと往復している、時雨の行動を、霧島は見ていたのだ。
霧島と話し合った結果、これは下見と捉え、恐らく今晩中に決行するだろう。
これらの内容はすべて、文書で行われた。
僕の部屋に盗聴器がある可能性があったからだ。
だからあえて、口では「霧島は別の部屋へ行く」ことを発言して、時雨を油断させたのだ。
捕獲した時雨をどうするか?
決まっている。
これから治療をするんだ。
といっても、このヤンデレが洗脳に関係しているとは思えんが…。
時雨「霧島ぁ!君だけは絶対に許さない!!!」
霧島「ッ?!なんて力なの!提督、早く鎮静剤を!」
提督「…」
さっきまでの喧騒が嘘のように、あたりは静まり返っていた。
当初から、僕は殺意の目で見られていた。
いままでは、『今は、まだ、殺意だけで済んでいるが、しかし、徐々に、行動に移す艦娘が増えてくるだろう』と考えていたのだが。
現に、時雨が実行したのだ。
推測が現実となった。
そろそろ、こちらも動くべきだろうか
提督「時雨は落ち着きましたか?」
霧島「えぇ…」
霧島「私が部屋に隔離されている間、このような事態になっていたなんて…」
提督「…変な事は考えないでください、僕に限らず、あなたも対象にあるのだから…」
隣の部屋では大淀と電が寝ている。
その警護も含めて、僕たちはここを離れるわけにはいかなかった。
霧島「司令…、あなたはどう思いますか?」
?
提督「…何に対してですか?」
霧島「前司令が、作り上げたこの鎮守府の体制についてです」
提督「兄は、人を道具として扱う事を得意としていました。そんな人間が指揮官になれば、こうなる事は必然でしょう」
霧島「では、何故私たち、金剛型が洗脳下にないのでしょうか」
提督「…それは、旗艦は、思考力が鈍っていたらいけないからでしょう」
提督「そのための脅迫、あなた(霧島)を人質としてきたのでしょう」
霧島「私は、比叡お姉様の計らいで、ずっと部屋で保護されてきました」
霧島「その間、私は、必要最低限の情報しか与えられていませんでした」
提督「....つまり、どういうことですか?」
霧島「この現状を作り上げたのはーーー」
道具を使っているつもりが、
逆に道具に扱われてしまっている。
そんな経験をしたことはないだろうか?
例えば、スマートフォン。
使っていなくとも、通知音が聞こえると、すぐに確認してしまう人がいるだろう。
これが『道具に扱われてしまっているヒト』の特徴だ。
確実性を求めたければ、対象者のLINEと同じ通知音を、自分のスマホで鳴らしてみよう。
すると、通知音を聞いた対象者は、あたかも自分のスマホが鳴ったのだと、錯覚を起こし、何も起きていない自分のスマホを確認するだろう。
また、四六時中スマホを扱っている人間は、道具に扱われた人間の末期だ。
しつこいようだが…。
この様に、道具を使っているつもりで、道具に使われていた。というケースはよくある。
そう。
兄はソレだった。
と、霧島は言うのだ。
では、霧島の推測を、僕なりにまとめてみるとしよう。
兄は着任早々、まずは駆逐艦を洗脳していった。
順に軽巡、重巡、空母、戦艦といった具合にだ。
そうして、兄は順調に事を進めていた。
と、自分では思っていたのだろう。
兄は気づいていなかった、操り人形の様に、逆に、......によって操られていたのだから。
序盤までは、確かに自分の意思で動いていただろう。
だが、途中で、......に線路を強制されていった。
そこには兄の意思など存在しない。
そして、『自分の理想郷』の完成の一歩を踏み出す前に、兄は殺された。
天下統一を目前に殺された織田信長のように。
......という明智光秀によって殺された。
さしずめ、僕は豊臣秀吉といったところか、ならば明智光秀を討たねばならない。
これが、霧島が考える考察。
そして、彼女が望む結末なのだろう。
どうやら、僕も『道具を扱っているつもりで、道具に扱われていた』側の人間なのだろう。
そうか、ならば望み通り、明智光秀を討つとしようか。
あれは…、
夜の11時頃だったしょうか…。
私は、電ちゃんを寝かせた後、鎮守府の、今後について悩んでいた。
残念ながら、もう私には身に余る案件だったのでは、と思い込んでしまっていた。
いっそのこと、この電ちゃんを連れ、元に居た鎮守府に戻ってしまおうか。
そう考えていた。
その時です。
カチャ.......
私たちの部屋のドアが、開く音が聴こえました。
それは、
本当に、
本当に、
微かな音。
自慢ではありませんが、余程、聴力に自信がなければ、聴こえないレベル。
しかし、『ここじゃない…』と呟き、そのまま出ていってしまいました。
....。
残念ながら、顔は見えず、誰なのかということは判別できませんでした。
部屋の灯りは消しており、カーテンを閉じているので、真っ暗闇でしたから…。
声を頼りに思い出そうとしたのですが、やたら声がかすれていて、全くわからない…。
結局、私はこのUnknownの正体が誰なのか知る由もありませんでした。
もしかしたら…、
万が一、
またUnknownが来たら、
襲ってきたら…。
それを警戒し、
私は、電ちゃんと共に脱出できるルートを、模索し、いつでも走り出せるよう、身構えていた。
が、私の予測は外れ、
提督の部屋から叫び声が聞こえた。
壁に耳を当て、会話を盗聴した。
霧島さんと提督の声。
『…時雨…』
どうやら、Unknownの正体は【時雨】だったようです。
この鎮守府に、【時雨】が居たということは、知りません。
まず最初に、名簿をしっかり確認しておくべきでした。
…。
霧島さんは、このことについて、事前に知っていた様ですね…。
何もかも…。
提督にとって、霧島さんがいれば、もう私は、用済みなのでしょうか…。
少し、悲しくなりました。
…!
あら、やだ////
まだ出会って間もないというのに、こんな感情になるなんて…。
私も、まだまだ未熟である。
ということですかね。
……、だから頼られない。
至極、簡単な話…。
翌日の朝、僕は明智光秀討伐に向かっていた。
因縁の対決…とでも言うのだろうか。
この戦いについては【大淀】には伝えていない。
この関係に、全くと言っていいほど無関係だからだ。
そして、【大淀】と【電】、【時雨】は、【霧島】によって護られている。
護らせている。
僕が霧島にそうさせた。
いや、霧島が僕にそうさせた。
史実に例えるならば、【大淀】には徳川家康でいてもらいたいのだ。
【大淀】程の『黒髪ロングメガネ属性清楚系お姉さん』なら、ここを安寧の地として治められるだろう。
…。
僕は食堂に向かった。
ヤツはいつも、姉妹で食堂にいるからだ。
比叡「お姉様紅茶は世界一です!」
金剛「比叡!Thank youネー♪」
金剛「どうしたデスか?比叡?」
金剛「なんだからしくないデース」
金剛「ッ!…提督!!」
提督「比叡さん、お迎えに参りました」
比叡「お姉様、少し席を外してもらえませんか?」
金剛「なんのことネ!」
比叡「…」
戦慄
比叡は姉を脅した。
言葉でなく、
目で、
空気で、
脅した。
提督「金剛さん、わかっていただけますね?」
金剛「そんな…」
提督「無理にとは言いません。なら、僕たちが席を外せばいい」
提督「…比叡さん、少し散歩しましょう」
比叡「はい、今日はいい天気ですからね」
散歩日和です。気合入れていれていきます。
【食堂】
【廊下】
【玄関】
比叡「あの丘から見る夕焼けは、とっても綺麗なんですよ」
比叡「紅茶の様に深紅で、とても綺麗…」
提督「それはいいですねぇ。深紅だから、不純物(薬)が混ざっても美しさ(色)は変わらない(だから、気付かない)」
比叡「クスッ」
比叡だと思えない程に、
妖艶に、
目を細め、
微笑んだ。
【丘】
比叡「あそこにある、青い屋根の建物、あそこは、とっても面白い劇場なんですよ」
比叡「私、思うんですよ…」
比叡「役者は役を演じているつもりで、役者は役によって演じさせられているんじゃないか?って…」
比叡「…おかしな話ですよね」
提督「いえいえ、(本当に)よくある話ですよ」
提督「ただ、それでは自己の存在意義を見失いかねない」
提督「自分の意思と、世界の意思を区別するには、深く自問自答する事が不可欠です」
【劇場】
比叡「以前、ここへ英治さんと来たんですよ。あの人、チケットの買い方も知らなかったんですよ!」
提督「いつも人を使っていましたからね、当然です」
比叡「そう、自分でやってみないとわからない」
提督「経験して、初めて(意味の)理解に繋がる」
【ホール】
比叡「…今日は、誰もいないみたいですね」
提督「定休日…ではないですよね」
まるで、事前に仕組んでいたかのように
ホールは、僕たちの足音のみを響き渡らせた。
比叡「ここまで辿り着くのに、どれだけかかったんですか?」
提督「…30分」
提督「いえ、冗談ですよ」
提督「僕が…鎮守府に配属して、もう13日が経ちました」
比叡「早過ぎますよ。まるで誰かにヒントを唆されたかのよう…」
提督「…」
比叡「いやはや、あなたって本当に有能ですよ。頭の回転は英治さんを超えているんのでは?」
提督「言い過ぎですよ、いつも一歩先を行くのが、兄ですから」
比叡「…フフッ、逝くのも一歩先でしたね!」
上手いなw
提督「えぇ、えぇ、全くその通りです。少し生き急ぎ過ぎでしたねぇ」
比叡「あなたも、すぐに追いつきますよ」
提督「…その前に、一つ、冥土の土産として聞きたいのですが、何故あなたは、鎮守府をあんな状態に追い込んだんですか?」
比叡「先程のとおりですよ。経験してみて、初めて理解できることもある」
比叡「気持ちよかったんですよ」
比叡「嬲った艦娘が私を守るんですからねw」
比叡「それは、もう、滑稽で滑稽でww」
提督「そうですか、それが聞けて嬉しいです」
…
比叡「名残り惜しいですが、もう逝ってくれません?金剛お姉様とのデートが残ってるんで」
提督「…自殺しろと?」
比叡「嫌なら、直接殺しますよ?」
提督「じゃあ、それで」
比叡は懐から拳銃を取り出し、銃口を僕へ向けた。
比叡「バイバイ」
提督「はい、さようなら」
パァン....
ァン....
乾いた音がホールを巡った。
血は飛び散り、ホールの座席は薔薇を描くかのように、紅く染まった。
硝煙の匂い。
ホール内は、もう『2人』ではなかった。
ホール内には、計『7人』いた。
『コードネーム【比叡】、確保しました!』
一人の艦娘が比叡を取り押さえ、そう言った。
何が起きたというのか?
比叡が撃つ前に、
比叡の腕を撃った。
ただそれだけだ。
比叡「!??!!!」
提督「驚いたでしょう?」
提督「実に滑稽だね、比叡。どうです?」
提督「『他人を操っているつもりで、自分が操られていた』と気づいた時の気分は」
比叡「なんで?なんで??」
提督「一昨日の夜、君がここに連絡をしていた、という事は察知していました」
手段は違法だが。
提督「だから、僕も、昨晩ここに電話(圧力)をかけたんです」
提督「(比叡が)どのような内容を言っていたか?ってね」
提督「それを把握したうえで、近くの鎮守府の力を借りて、君を罠にかけたということですよ」
比叡「非道い人…ですね」
提督「人を道具として扱うのではなく、人を人として利用する才能はあると思います」
提督「ちなみに、比叡さん、あなたは僕は元より、兄すらも超えられていませんでしたね」
比叡「…どういう意味?」
提督「何故、僕が『前提督の弟』だからといって、鎮守府に配属されることに、なったんでしょうか?」
比叡「…ッ!、まさか!」
提督「あなたに、殺されるよりも前に、後釜が僕になるよう仕組んでいたようです」
提督「実に怖い人ですよ。責任逃れもちゃっかりしてるし…」
ギリリリ…
比叡は歯ぎしりをした。
提督「では、長門さん方。後は任せましたよ」
長門「任せてください」
提督「では、さようなら。比叡さん」
比叡「提督…」
提督「なんですか?」
比叡「…金剛型4人、これは知っていますね」
提督「印象が濃いですから」
比叡「提督は、榛名と出会ったことありますか?」
比叡「…榛名は今どこにいると思います?」
…
答え辿り着くまでに要いた時間。
…
その間2秒。
…
提督「ッ!!!!貴様ぁッ!!!」
比叡「やっと乱れてくれましたね。そのほうが可愛いですw」
提督「くっそ、死ね!」
僕は走り出した。
【ホール】 走る
【劇場】 走る
【道路】 走る
【玄関】走る
【廊下】 走る
【階段】 走る
【司令室】 入る
提督「大淀ッ!!きぃりしまァッ!!!!!!」
そこには、血まみれの霧島と、倒れている榛名がいた。
提督「霧島!大淀は?!」
霧島「冷静になってください、司令。彼女たちは無事ですよ」
提督「!!!…そうか」
あぁ、よかった
霧島「比叡お姉様の件は…、無事に終えられたようですね」
提督「…えぇ、あの…、霧島さん、早く入渠してください。見ていて痛々しいです」
霧島「タメ口でいいんですよ?司令」
提督「あー…、慣れませんね」
霧島「タメ口のほうが可愛いですよ!」
提督「…やっぱ、腐っても姉妹ですね」
霧島「あら…!」
提督「…入渠する際は大淀を付けてくださいね」
提督「まだ解決したわけではありませんから」
霧島「了解です!司令!」
霧島を護衛につけたのは正解だった。
戦艦相手には戦艦でぶつけるのが正義だ。
…
何はともあれ、やっと元凶を排除できた。
僕の心中はとってもスッキリしている。
例えるなら、
虫歯を排除できたかのよう…、だ。
あれから数日…。
比叡は榛名に何を唆したのか…。
その事ばかり考えていた。
いや、元々、霧島を除いて3人で結託していた可能性もあるんだが。
どうもそうじゃないように思える。
コンコン
時雨「提督♡晩ご飯持ってきたよ!」
あの、比叡の件のあとのこと。
僕は、時雨にいままでのことを、全てを説明した。
意外にも、時雨は納得してくれた。
彼女が『大天使』と呼ばれる所以がわかった気がする。
時雨「まだ、目を覚ましてないの?榛名さん」
提督「きっと、まだ覚めないよ」
霧島に、当時のことを聞いているが、何も語ろうとはしない。
殻に籠っている。
榛名もそう。
自分の世界(殻)に閉じ籠っているのだ。
時雨「ふーん、ねぇ、提督」
提督「?」
時雨「榛名さんばかりじゃなく、僕も見てよ」
ヤンデレは健在だ。
提督「あぁ、ちゃんと見てるよ。今日はいつもより、深くスカートを履いているね、3センチほど」
時雨「…提督。君には、失望したよ」
提督「冗談だよ」
提督「ところで、時雨。他の駆逐艦たちはどうだい?」
時雨「洗脳?だっけ。あれなら、もう大丈夫」
提督「そっか、それは良かった」
あれ程、深く刻まれた洗脳が、こんなに早く解けるとは思えんが、洗脳のキーに比叡が関係していたのかもしれない。
提督「時雨も、最近忙しいだろうし、もう休んでいいよ」
時雨「僕は、問題ないよ」
提督「…なら、間宮アイスでも食べてきたらどうだ?」
時雨「それは、提督の奢りかい?」
提督「もちろん」
時雨「じゃあ、早く行こうよ」
提督「…悪いね、大淀が帰ってくるまでは、ここから離れるわけにはいかない」
時雨「…」
それにしても、時雨からは、もう殺意を感じられないが、そんな目で見られると、何かを思うものがある。
提督「だから、大淀が戻ってくるまで、待ってくれないかい?」
時雨「まったく…、いいよ、待つ」
提督「さすが『大天使』様だ」
時雨「それ、からかってるの?」
提督「讃えいるんだよ」
時雨「提督も、食えないね」
提督「よく言われるよ。それが僕の代名詞でもある」
時雨「好きだよ。提督」
…
「提督」え…////
提督「え…//」
時雨「もちろん、前の提督と比較して、だけど」
提督「.......あぁね」
時雨「提督。これが君の弱点だよ」
純粋に、
褒められたことが無い。
『無い』というのは誇張しすぎだ。
経験が『少ない』
これが正解だ。
提督「…そうか、ありがとう」
時雨「どういたしまして」
…。
時雨「大淀さん。どこに行ったの?」
提督「電、霧島と共に温泉旅行に行っているよ」
時雨「…いつ、帰ってくるの?」
提督「…明日」
時雨「提督…」
提督「すまん…」
殺意を感じた。
もちろん、
後日、
ちゃんと、
時雨とアイスを食べに行った。
上から通告がきた。
そりゃあ、もう、3ヶ月も鎮守府としての機能を果たしていないのだから。
仮にも、今は、深海棲艦との戦争の真っ最中だ。
なるべく早く、穴を埋めたい。
国は、そう考えているんだろう。
大淀「嫌です」
提督「は?」
大淀「そもそも、私は、艦娘です」
提督「上とは…、既に話はつけています」
大淀「そう言われましてもね…」
提督「お願いしますよ、大淀さん」
大淀「…なぜ、私なんですか?」
提督「それが、(霧島とともに)決めたことですから」
大淀「徳川家康、失礼ですよね」
提督「…(そうですか?)…」
大淀「せめて、女性にしてくださいよ」
提督「…なぜ(知っている?)」
大淀「霧島さんとの関係、私が築いていないとでも?」
築いて・気付いて
上手いこと言うな
提督「あぁ」
大淀「それも踏まえ、お断りします」
提督「…そうですか、勿体無いですね(本当に)」
提督「あなた程の、切れ者を逃すのは痛い」
大淀「提督には足元にも及びませんよ」
提督「ご謙遜を…」
大淀「謙遜ですよ」
提督「」
大淀「いじわるでしたかね」
提督「意地が悪い。せめてもの慈悲がほしいものです」
大淀「ありませんよ」
提督「そうですか…。そういえば、明日でしたね、戻るの」
大淀「えぇ、もう契約期間が切れますからね」
提督「色々ありましたが、あなたを(業務的に)恋しくなりそうです」
大淀「あら、告白ですか?////」
提督「えぇ、ある意味」
そう、ある意味…。
大淀「…そうですか」
提督「名残り惜しいですが、今日の報告…。最後の報告お願いします」
大淀「上層部からの演習日程の通告ほか、1人、ここの鎮守府に配属されることになった艦娘がいます」
提督「…艦娘ですか、コードネームは何でしょう?詳しくお願いします」
大淀「コードネーム【大淀】…、私です」
え?
提督「…、(…)ご冗談を」
大淀「これからも、よろしくお願いします」
提督「…本当に、意地の悪いお方だこと」
こうも、淡々と業務をこなしているが、指揮官としては、全くのど素人であり、大淀のサポートがなければ何もできずにいる。
今回、『例の件』以降初めての演習を行うにあたり、なるべく、真面目に取り組みたいと思っているわけだが…。
【霧島】
【金剛】
【時雨】
【隼鷹】
【電】
【響】
いままで、『人間の盾』作戦しか遂行してこなかった鎮守府だ。
今更になって、戦術を変えろというのは、困難な話である。
だが、それでも変えていかなければいけない。
それが、僕に課せられた、使命であると思っている。
提督「大淀さん、今現在、最も正常に動けるメンバーがこの6人であるわけですが、これでいいですかね?」
大淀「実際の艦隊であるなら、この編成は微妙です」
大淀「私達、艦娘の特徴は『艦隊の火力、兵装をした人間』ですので、機動力や瞬発力などは、その艦娘の身体能力に左右されます」
大淀「つまり、実際の艦だとあたってしまう魚雷でも、艦娘の場合は、避けることが可能です。極論、ジャンプしたら躱せますから…」
提督「なるほど、人型だからこその戦術もある、と」
機動力を優先し、『ヒットアンドアウェイ』作戦を採用してみるのもありかもしれないな。
『ヒットアンドアウェイ』作戦とは何か。
元々は、『パルティアンショット』とも呼ばれ、騎馬隊が一旦前線に赴き、後ろ向きで矢を放ち、そのまま後退していく。それの繰り返しのことを言う。
現在では、戦闘機の戦術として認識されている。
これのメリットは『相手の攻撃を受けにくく、かつ、相手を翻弄できる』という点だ。
実際の艦隊ではほぼ無理だろうが、艦娘なら可能である。
だが、本当に可能だろうか…。
理論上では可能でも、実際に行うとなると、そうはいかない。
演習は10日後…。
時間は、あるな。
僕の頭には『北海道』の事でいっぱいだった。
時は、2016年5月20日
僕達は今、北海道にいる。
なぜか?
それはアイススケートのリンクを使う為だ。
しかも1週間貸し切り。
時雨「提督。寒いよ」
提督「動けば温まる、それまでの辛抱だよ」
そうだけどさ…。と、時雨。
大淀「…提督、何をなさるつもりですか?」
提督「今から説明しますよ」
提督「君たち『演習組』を3:3で分け、赤と青に区別します。その赤と青では別々の作戦を遂行してもらうわけですが…」
提督「つまり、今回の結果次第で、次の演習の作戦が決まる。という訳です」
大淀「…」
提督「…、何か、疑問に思う点がある人はいますか?」
隼鷹「それなら、わざわざ北海道に来なくとも、鎮守府近海でも良かったんじゃない?」
提督「その通りですよ。その方が費用はかなり安くすむ。ただ、それでは得られないものがあります」
隼鷹「?」
提督「あなた方、艦娘は、どの様にして海上を移動しますか?」
隼鷹「そりゃあー…、艤装の浮力と推進力を使って進んでるけど…?」
提督「そうです、自分の脚力を使うことは、あまりありません。ただ、せっかく私たちには脚があるのです。勿体無いとは思いませんか?」
隼鷹「!」
霧島「基礎体力の向上ですか」
響「ハラショー」
提督「納得してくれたようで嬉しいです」
電「スケート、滑れるかな…」
提督「あなた方は、水面を立っているわけです。似たような理論のアイススケートのリンクに立てても、何らおかしくはないと思いますよ」
予測通り、難もなく滑ることができた。
では、始めるとしようか。
赤
【霧島】
【金剛】
【響】
青
【時雨】
【電】
【隼鷹】
リンクの広さは『80×100』と、かなり広い。
彼女たちには、水鉄砲と、水に反応して変色するビブスを渡した。
ルールは至極簡単だ、水鉄砲を使い、先に相手のビブスを染めたほうが勝ち。
もちろん、艦種によって、持たせた水鉄砲の種類は違う。
戦艦は、大きく、射程距離が長い。
駆逐艦は、小さいが、小回りが利く。
軽空母の場合、飛行機に水風船を取り付けた。
提督「…では、僕の合図に合わせて始めてください」
ピィーーーッ
ホイッスルを鳴らす。
始まって早々、金剛と霧島の放水が始まる。
正直、物凄く不利な状況ではあるが、『ヒットアンドアウェイ』がどこまで通じるのか、それを確かめるには、いい環境下だ。
戦艦の放水を避け、徐々に距離を詰めていく【青】
【青】の射程距離に入った、そう、タイミングは今。今ここで実行すべきだ。
だがそう簡単にはできず、少し遅れての実行となった。
そんな調子で、何か、これといった進歩は得られずに、1日を終えた。
『マイナスから始まる鎮守府【2】』に続く
やっとの思いで、ドロドロした内容の話から切り抜けることができましたww
今回は自分でも引くような内容でした…。
今後は、
『マイナスから始まる鎮守府【2】』の方で、物語の続きを書いていくので、どうかそちらの応援も、よろしくお願いします。
キャラを増やして欲しいなチラッ
ゆうしぐ出して欲しいなチラッ
無理だったらいいですよ❗
>>1
夕立時雨は必ず登場させます。
この鎮守府では電ちゃんや大天使古鷹も荒れてるのか(;´Д`A
更新楽しみにしてます!
>>3
ありがとうございます。