マイナスから始まる鎮守府【3】
急死した提督の弟として、とある鎮守府に配属された男の話です。
〜深海棲艦編〜
前回までの経験を糧に、今回は『濃く濃くドロッ』とした内容にしてやろうと思っています。
汚い文章ではありますが、どうか最後まで、よろしくお願いします!
ご要望やご指摘があれば、コメントにてよろしくお願いします。
僕は、急死した兄の後釜として、ある鎮守府の提督となった。
その鎮守府は、かなり荒れていたが、契約補佐官だった【大淀】や、成り行きで協力者となった【霧島】の助力もあり、見事、この惨事を解決していったのだった。
その後、上層部からの命令で、演習を行ったのだが、見事、先方を叩きのめしてしまい、かなりの問題となってしまった。しかし、【隼鷹】の計らいで、事実上の和解に成功するのであった。
だが、喜ぶ暇も与えられず、上層部からの使いである【長門】の口から、【比叡】の脱獄を知らされる。僕は【比叡】の件には、兄である【英治】が関わっていると睨み、無駄な警戒をしなければいけなくなった。
果たして、対深海棲艦作戦を、無事に遂行することができるのだろうか。先が思いやられる。
【英治】の件を上に伝え、私は【比叡】について調べる事にした。
【比叡】の称号を得た艦娘は、全国に百数十人程いるが、一人一人に固有番号が与えられ、そうやって個人を特定する。
ここ、日本対深海棲艦機関愛知支部の管理室には、愛知県各鎮守府の艦娘のデータが保管されている。ここには、必ず、例の【比叡】の情報が保管されている"ハズ"なのだ。
だが、どういったわけか、どれだけ探しても、【比叡】のデータを見つけることができない。
【比叡】本人が消したのか?それは、まず不可能だ。そもそも、この管理室に入れるのは、それなりの階級を持った者のみか。上層部からの許可を得なければいけない。
長門「…まさかッ」
上層部が【英治】に買収されたとでも?
…いや、いくらなんでも、それはないだろう?
あるとするならば、内通者の線が濃い。それは、【英華】の予測が当たったということになる。
内通者は一体…。
…上層部を買収するには、かなりのリスクを背負うこととなる。が、上層部でなければならない【比叡】のデータを抹消することは不可能…だ。と、なると答えは『上層部の中に内通者』がいる。それならば、【英治】が死亡と偽ることも可能ではある。
そうだとして、そこまでして【英治】が【比叡】の脱獄に手を貸す理由が見当たらない。
なぜなら、【比叡】は【英治】を利用し、挙句の果てに毒殺に至った。あくまでも、これは『報告書上の事実』であって、実際には、本当にこの報告書通りなのか疑わしいが。
…。
上層部が信用できない以上、私が、秘密裏に捜査を進めるしかないだろう。
深海棲艦については、未だ謎が多い。
そもそも、皮膚の主成分が鉄である生物など、地球上にいるのだろうか?
地球ではない、どこか別の惑星、宇宙人が放った侵略生物兵器の可能性も否めない。
そうだとしたら、この責任は、ペンタゴンにて、宇宙人とコンタクトをしつつ、その事実についての情報を開示しなかったアメリカの責任だろう。
もしかしたら、この戦争は防げたのかもしれないのだから。
いやいや、地球外生命体かどうかはさておき、実際に、身体の構成に鉄が含まれている生物はいる。
『ウロコフネタマガイ』
2001年に、インド洋から発見された巻き貝である。体表に硫化鉄でできた鱗を持っていることが特徴。
僕は、深海棲艦の構造の仕組みも、『ウロコフネタマガイ』に似たようなものなのでは?と考えている。
もちろんこれだけでは説明できない。
なぜなら、深海棲艦には『大砲』や『艦載機』などの人工物が、身体の一部として取り込んでいるからだ。
だが、果たして知的生命体は『ヒト』のみなのだろうか?
『ウロコフネタマガイ』の様な皮膚を持ち、『ヒト』と同等の知能を持った生物が、現れても不思議ではない。
なぜなら、地球の歴史が46億年であると言われているが、今まで人類が発展していった期間は、せいぜい1万年程だ。
46億年の内の"0.0000021739%"でしかないのだ。
第二の知的生命体が存在していない方が不思議なくらいだ。
あくまでも、これは僕の推測だが…。
僕は、
まだ暗い海を眺め、
まだ明るい月を眺め、
深海棲艦について考えていた。
霧島「司令、おはようございます」
提督「霧島さん、おはようございます。今日も早いですね」
霧島「司令…、忘れていません?今日は南西諸島沖の警戒にあたる日ですよ?」
提督「…(忘れてた)そうであっても、早すぎません?」
霧島「早起きは健康の証ですよ!司令」
提督「…今、2時ですよ?まだ出港まで2時間もあります」
霧島「2時間しかないなら、私はその間ウォーミングアップに努めます」
提督「僕、期待してます」
霧島「ご期待に添えるよう頑張ります!」
うん、やっぱり早くない?
流石、高速戦艦。
ふむ、そうは言っても人の事言えないか…。
かく言う僕は、緊張して眠れなかったのだった。
僕にとって、
初めての、
深海棲艦との、
遭遇、
交戦。
緊張するなという方がナンセンスだ。
それは、きっと彼女たちもそうであろう。
初めての"まとも"な戦術で、初めて深海棲艦と交戦するかもしれないのだ。緊張…不安に思いに決まっている。
霧島もそうだ。
彼女は、旗艦としての責任は、ただ座って見ているだけの僕には、わかるよしもない。なぜなら、彼女は戦いながら、状況を分析し、指揮をとらなかればならく、ひとつ間違えれば、メンバーの命さえも失われるかもしれないからだ。
それほどまでの重大な責任が、彼女の背中に重くのしかかっている。
【03:40】
大淀「そろそろ4時になります」
提督「では、みなさん。無事に戻ってきてくださいね」
時雨「提督。僕が、君を置いて、死ぬわけないじゃないか♡」
愛宕「帰ったらマッサージお願いしますね!」
提督「いいですよ」
時雨「テイトク…」
なんだ、その目は…。
やめてくれないか、時雨。
霧島「…では、司令!行って参ります!」
提督「えぇ、霧島さん、よろしくお願いします」
【霧島】旗艦
【金剛】
【隼鷹】
【愛宕】
【電】
【時雨】
彼女たちは、この鎮守府で、最も生き延びる可能性の高いメンバーだ。
絶対に死ぬことはない。
沈むことはまずない。
赤城「加賀さん、準備は整いましたか?」
加賀「えぇ、いつでも行けるわ」
提督「そうか、では頼むぞ」
赤城「はい」
…。
赤城さんと提督は、『あの日』を境に変わってしまった。
優しい赤城さんは、徹底して相手を潰すようになり、律儀だった提督は、冷徹に、機械的な指揮をするようになった。
…私は、見捨てられたのでしょうか。
…見捨てられた。
いや、それは少し違うかもしれない。
ただ、私は疎外感を感じるようになった。
…。
赤城「加賀さん?どうしたのですか?」
加賀「いえ…」
赤城「そうですか?少し悩んでいるような気がして」
加賀「…そんなことありません」
赤城「加賀さん、気を付けてくださいね」
加賀「…?」
赤城「『戦場で悩み事など考えてはいけません』」
加賀「え?赤城さん?」
赤城「『戦う事にのみ専念してください』」
加賀「赤城さん、やめて」
赤城「『さもなくば、死んでしまいますよ』」
加賀「やめてくださいッ!!」
赤城「え?!加賀さん?」
加賀「…え?あ…」
赤城「本当に大丈夫ですか?今からでも遅くありません、鎮守府に戻りましょう」
加賀「…ッ、大丈夫…よ」
幻聴?
あれ?
なんで?
なんで?
私は…。
私が?
え?
そんなハズは…。
赤城「…」
夕立「そろそろ目撃現場っぽい」
赤城「ありがとうございます。夕立さん」
加賀「…」
目撃現場。
先日、このあたりで【人型空母】と見られる深海棲艦を発見したと報告があり、愛知支部が私たちの鎮守府へ『存在の確認及び偵察』を依頼してきたのだった。
【人型空母】の特徴は、【空母型深海棲艦】を頭上に乗せた様な形状をしているらしい。そんな無駄なフォルムが、果たして、戦闘の邪魔にならないのでは?と疑問に思うところはあるけれど…。
赤城「加賀さん、偵察機を出しましょう」
加賀「えぇ」
敵も、私たちと同じ【空母】…。
例え敵であろうとも、ある種の仲間のように思える。そして、ライバルであるとも言えるでしょう。負けたくない。勝ちたい。
加賀「…気分が高揚してきました」
赤城「…加賀さん?」
加賀「…?いえ、なんでもないわ」
赤城「…」
私たちは偵察機を発艦させた。
空高く舞う偵察機。
どこかにいるソレに、遭うのが待ち遠しいわ…。
そして、早く私に…
霧島「深海棲艦を発見、これより交戦に入ります!」
提督「これが、深海棲艦」
僕は、霧島の艤装に取り付けた小型カメラで、深海棲艦を見た。
フォルムは、例えるのであれば『マッコウクジラ』と『魚雷』を足して、脚を生やしたかのような形状をしており、やはり、皮膚は金属特有の光沢を持っている。
【駆逐艦 イ級】
人型が現れるまでは、深海棲艦はこの【イ級】のみだとされていた。サイズはまばらで、30cm〜300cmほどの差がある。非常に攻撃的で、鎮守府の警戒網であろうと、恐れずに砲撃してくる。そのため、『脳が小さく、ただ本能的に攻撃してきているのだ』という説が有力であったが、人型の存在が明らかとなった今、『深海棲艦のネットワーク上での末端であり、人型の命令によって動いている』という説も上がってきている。
霧島「数は4体」
金剛「問題ないネ!私が片付けてあげマース!!」
やはり、戦艦の火力は桁違いだった。
【イ級】の砲撃可能圏内よりも遥か外側から砲撃するのだ。相手にとってはたまったものではないだろう。
霧島「全艦沈没確認!!流石!金剛お姉様!!」
電「本当にすごいのです!」
金剛「フフッ、もっと褒めるデース!!」
提督『【イ級】の群れがいたという事は、近くに、指令塔である【人型】がいる可能性がります。気を抜かずにお願いします』
隼鷹「艦載機も余分に飛ばしてるし、大丈夫じゃね?」
提督『…だといいのですが』
愛宕「いくらなんでも、心配しすぎじゃない?もしかして、信頼されていないのかしら?」
提督『…いえいえ、そういう訳では(心配ではあるが)ありませんよ』
時雨「愛宕さん。提督を、あまりいじめると…」
提督『…』
頼むから、このタイミングで喧嘩を始めないでくれよ?時雨ちゃん。戦場で仲割れを起こすなど、もう大問題。生命の危機に瀕する。いや、ホントだぞ。
愛宕「あら、虐めてなんかないわよ。ただ提督が可愛かったから」
時雨「可愛い…?」
提督『…(…)』
時雨「…その通りだね」
提督「!(!?)」
大天使時雨様の機嫌が治った?!
奇跡と言っても過言ではないぞ、これ。
大淀「…提督…」
提督「…大淀さん?」
大淀「…」
提督「…」
大淀「提督、愛知県豊橋鎮守府第1艦隊から救難信号です」
提督「近いですか?」
大淀「最大戦速で向かっても3時間かかります」
提督「向かわせましょう。【人型】に遭遇した可能性もあります」
霧島『大淀さん、座標送信してください』
大淀「わかりました」
提督「アレを使い切っても構いません、必ず救出して帰ってきてください」
それにしても、豊橋鎮守府か…。
なんの因果か、
豊橋鎮守府とは、
先日の演習相手だった。
加賀さん、あなたはどうしてしまったというのですか?まるで心を失っているかの様に、冷たく、温かみを感じない。
だけれども、提督を含め、誰も、あなたの変化には気付いていない。私はそれが堪らなく悔しい。
加賀さんは、いつも、誰に対しても素っ気ない態度をとってしまっている。でも、それは、ただただ加賀さんが不器用なだけ…。それが彼女の特徴であり、愛しい点だというのに…。
でも、今の加賀さんは違う。不器用とか、感情の含んだものなんかじゃない。もっと本能的に、攻撃的に、触れるものすべてを切り裂いてしまう、ナイフの様。
赤城「…加賀さん、【人型】は確認できましたか?」
加賀「いえ、"残念"ながら…」
赤城「そうですか…」
夕立「…あっ」
夕立「なんだか雲行きが怪しいっぽい〜」
雷「雨は嫌だなぁ」
夕立「雷ちゃん、帰ったら一緒に"お風呂"に入りましょ!」
雷「っ!?良いわ!次は負けないんだから!」
夕立「楽しみにしてるっぽい!」
赤城「ふふっ、可愛いわね」
なんだか加賀さんとの思い出が蘇っちゃった!
加賀さんも、幼い頃は雷ちゃんの様に、無邪気で、活発で、よく学校の保育所の先生から心配されていた…。
いつからだろう。加賀さんが、今の加賀さんの様になったのは…。確か…、高校時代、当時流行った『モテ女子高生』を読んで、「寡黙でクールな女になるわ!」って言って、それからだったわねw
モテるどころか、逆に寄り付かなくなってしまったけれど…w
ところで、『お風呂』に勝ち負けなどあるのでしょうか???
加賀「?!」
赤城「加賀さん?」
加賀「…通信が途絶えたわ」
赤城「まさか!撃墜されたという事ですか!」
加賀「考えたくはないけど、そうだとして、警戒しておいた方が良いでしょう」
夕立「敵っぽい?」
大井「あらやだ、北上さん敵ですって!」
北上「【波瑠】ちがいるから大丈夫だよ」
大井「北上さん!ここで本名を言わないで!」
北上「そうだった、ごめんごめん、次は気を付けるよ」
大井(謝る北上さんも素敵…♡)
赤城「皆さん!」
赤城「もしかしたら、敵は空母の可能性もあります。なので…」
加賀「…聞こえたでしょ、さっさと対空準備をしておきなさい」
…。
夕立「…分かったっぽい〜」
加賀さん…。
どうしてあなたは…。
ポツ
ポタタ…
夕立「あ…」
赤城「ッ!!」
雨…、そんなッ…。
このままじゃ艦載機が出せない!!
はたして、今の状況で、未知なる【人型】と太刀打ちできるだろうか…?いや、絶対にできないと思う。
赤城「皆さん!今すぐに撤退しますよ!」
加賀「ッ?!」
北上「スコールに入ったら艦載機出せないからねぇ」
赤城「それもそうですが、正直、この状況・編成で【人型】に敵う気がしないのです」
加賀「…」
夕立「ん?あれって…」
夕立ちゃんが、スコールに指を指して言った。
赤城「あれは…、艦娘?」
まさかッ!
赤城「早く撤退してください!」
夕立「【人型】ッ!!!!」
形状からして、【人型空母】ではない…。しかし、まさか、【人型】にバリュエーションがあるなんて、考えてみれば可能性もあるけれど、正直思ってもいなかった…。
両腕に盾の様なものを持っている…、いや、繫がっている?どちらにせよ、この【人型】の両腕には盾を有している…。
盾…。
機銃によるダメージは受けないかもしれない。
夕立「?!撃ってきたっぽい〜!!」
大井「あの距離から撃てますの?!」
赤城「まさか、戦艦ッ?!」
あの盾は、盾であり砲台でもあるというの?!
早く撤退しないと!!
【戦艦ル級】
この【人型深海棲艦】の最大の特徴は、圧倒的防御力を誇る砲台である。この砲台は、盾のような形をしており、鋼鉄よりも硬い素材で出来ており、硬さの要因として、深海の水圧や温度が関係していると思われる。そのため、並の砲撃では破壊することなど、到底不可能である。
後の研究で、この【人型深海棲艦】のゲノムは、ヒトゲノムと大差はないらしい。研究者や国連職員などの界隈で『攫われた人間が深海棲艦として改造されたのではないか』と噂されているが、実際のところ、ほんとうにそうなのかは分かっていない。
赤城「直ちに提督に連絡して!」
加賀「…『【人型】出現直ちに戦闘に入る』」
赤城「えッ?」
夕立「加賀さん??」
加賀「やっと見つけたの、【空母】の居所を吐かせてあげるわ」
赤城「ダメよ加賀さん!!」
加賀「なぜそんな顔をするの?」
赤城「あたりまえでしょう?」
加賀「…弱気ね、それじゃあ一航戦の恥だわ」
赤城「!!待って!加賀さん!」
加賀さんは、【人型戦艦】の元へ行ってしまった…。
赤城「ッ…。鎮守府へ連絡『直ちに撤退す』」
夕立「分かったっぽい」
赤城「今より、【大井】さんを旗艦とし、全速力で鎮守府まで撤退してください」
大井「え"?!」
雷「『救難信号』も出しておいたわ」
赤城「ありがとう!雷ちゃん!」
雷「絶対に、帰ってくるのよ!」
赤城「約束します!」
…。
加賀さんのモーションを見て、私は驚愕した。
彼女は、矢を放とうとしていた…。
『艦載機は、雨天時であっても飛ばすことは可能なのか?答えを言うと、飛ばすことはできる。まして、一航戦の艦載機の飛ばし方は、弓で矢(艦載機)を放つ方式なので、離陸の問題も生じない。だが、視界が悪く、目標までたどり着けるか怪しくなり、帰還すらもできない可能性が高い』
加賀さんは、つまり、"特攻"を仕掛けようとしている?!
正気の沙汰じゃないわ!!
止めなばければ…。
提督『うわぁ…、流石にこれは引きます』
予想到着時間よりも40分早く、目標についた私達が見たものは、壮絶な光景だった。
海は深い赤に染まり、海上には金属と肉片と見られる赤い塊が浮かんでいた。
それらの中央に、座り込んでいる2人の女性がいた。一人は赤く染まっており、一人はもう一人を抱いていた。
霧島「見てはいけません!」
電「!?」
私はすぐに電ちゃんの目を塞ぎ、金剛お姉様に2人の救助に向かってもらった。
金剛「Oh...エグいDEATH」
お姉様…不謹慎なダジャレはいらないです…。
金剛「Hey!そこのお二人、大丈夫デスかー?」
赤城「…!金剛さん?」
金剛「もう大丈夫ネ」
赤城「えぇ、助かりました」
金剛「そっちの方は大丈夫デスか?」
赤城「加賀さんは、…眠っているんです」
金剛「…?」
赤城「もう、子供みたいに疲れたらすぐ寝ちゃう」
金剛「まさか?!このHELLを作り上げたのが、そっちの方DEATHか!!!」
お姉様…不謹慎です…。
え?
え??
赤城「…最後は素手で【人型】を」
金剛「スカウトしていくらいネ」
霧島「お姉様ー!早くしてください!!」
金剛「OK!霧島〜、今行くネ!お二人とも動けマスか?」
赤城「…加賀さんは、私が連れて行くので、大丈夫です」
金剛「分かったネ」
隼鷹「ひっでぇ…、これを加賀がやったのか…」
加賀さんが反応した。
金剛お姉様が何かに気付いた。
赤城が振り払われた。
?????!
加賀「【空母】…やっと見つけたわ」
隼鷹「??!」
加賀「私達が一番に決まっているのよ!!」
炎獄のような顔の加賀が…、
加賀は隼鷹さんを襲った。
いや、襲う瞬間、加賀の両足を、一機の艦載機が撃ち抜いた。
加賀「ッ??!!!」
赤城「やめなさい!」
加賀「なんで?!こいつは敵なのよ?!」
赤城「…彼女は、【深海棲艦】かしら?」
加賀「え?…あ?え?」
加賀の表情が凍っていく。
加賀「あっ…あっあ」
愛宕「隼鷹さん、下がって!」
加賀「【隼鷹】???????」
加賀はその場で気を失ってしまった。
…。
愛宕「隼鷹さん、お怪我は?」
隼鷹「ん?大丈夫だけど?」
愛宕「ふふっ、そうですか。なら良かったわ」
隼鷹「…まさか」
まさか、
いや、
待て…。
【愛宕】の部屋はどこだ?!
1階の北側…。
あっ…。
あたしの部屋の真下じゃん…。
愛宕「(懐妊)おめでとうございます!」
隼鷹「…あ、ありがと…。つかこの修羅場で、このタイミングで言うかよ…」
愛宕「ふふっ」
あ、こいつヤバイ奴だ…。
提督『いやぁ、嬉しいですね』
隼鷹「…聞いてたのかい、つか知ってたんかい」
提督『逆に知らない人などいるんでしょうか』
隼鷹「あぁ、そう」
隼鷹「なら、尚更ここで言うなよ!!!」
提督『…愛宕さんはヤバイですからねぇ…』
愛宕「小言が漏れていますよ?」
提督『…』
提督『全員、直ちに帰還してください』
霧島「…やはり他の【人型】が」
提督『否めません』
…
その後、帰投道中で深海棲艦に遭遇することはなかった。が、やはり【加賀】の様子が気になる。
【加賀】は、まるで【空母】に執着していたように思える…。
以前会った時は、暴れはしたが、あそこまでするような人間には見えなかった。
豊橋鎮守府で何かがあったのか?
…探りを入れてみるか。
提督「おはようございます。加賀さん」
加賀「…ここは、どこ」
提督「僕の鎮守府の医務室ですよ」
加賀「…何かしら」
提督「まず、こちらの映像を見てください」
加賀「?…ッ!?」
提督「…」
加賀「あなた…正気の沙汰じゃないわ!!こんなモノを見せるなんてッ」
提督「…」
加賀「何、ニヤついているの」
提督「…これは、これをやったのは、誰であろうアナタなんですよ」
加賀「…は?」
提督「見覚えありませんか?」
加賀「あるわけ無いでしょう?私は赤城さんたちと【人型】の捜索に出ていたのだから」
提督「…そこであなたは、【人型】に遭遇しましたか?」
加賀「それはもちろん…?え?」
提督「あなたは、どうやってここまで来ましたか?」
加賀「…何も、思い出せない…?」
提督「『捜索していた』、その辺りまでは『正気』だったんでしょうね。多分」
加賀「…信じられない。これを…、私が?」
提督「はい、これを、あなたが」
加賀「…まさか、赤城さんは?!」
提督「お隣の部屋にいますよ」
加賀「…良かったわ」
提督「…ここ数日のうちに、一人の男が、豊橋鎮守府を訪ねませんでしたか?」
加賀「…?いえ、誰も…?」
提督「…そうですか」
では、このまま楽な状態でいてください。
コンコン
ガチャ
提督「加賀さんの方は終わりましたので、赤城さん、お願いします」
赤城「…はい」
提督「では、あなたが、加賀さんの異変に気付いたのは、いつでしょうか?」
赤城「海へ出てから20分程経った時でした、急に独り言を語っていて…。それが最初の異変だった…と思います」
提督「独り言?なんと言っていましたか?」
赤城「聞き取れなかったのですが、何かに怯えていたかのような…。私の名前…!確かに私の名前を言っていました」
提督「本名ですか?」
赤城「いえ、【赤城】と、です」
提督「そうですか…」
赤城「はい」
提督「最後に…。ここ数日のうちに、誰か訪ねませんでしたか?」
赤城「?…『提督の友人』を名乗る男性なら来ましたが、確かに、提督の顔見知りだったようで怪しくはないと思います」
提督「そうですか。ありがとうございます」
赤城「?」
提督「では、今日はもう遅いので、泊まっていってください」
赤城「ありがとうございます」
提督「…寝る時は、部屋の鍵をちゃんと閉めてくださいね」
赤城「??わかりました」
提督「ただいまお食事を作っている最中なので、お風呂…大浴場を使って構いません。なんか好きなことでもしていてください」
赤城「(なんか?)ありがとうございます」
提督「では、失礼します」
【加賀】と【赤城】この二人の話から推測するに、おそらく【英治】のやつが関わっていると睨んだ。
大して根拠はない。
ドンッ
「ボヤッとしているんじゃないぞ!」
ガチャガチャッ
「は、はいぃ…」
「しっかりと返事をしろ低能めがッ!」
「すみませんッ!!!」
バンッ
コンコン
カチャ
「提督、お客さまがおこしになられてます」
「客?」
「私にもわかりません」
「それを聞くべきだろう?脳無しが」
「…」
ザッザッザッザッ
トントントン
キィ〜…
「こんばんわ、私に何かようかね?」
カチャ
「見させてもらっちゃいましたよぉ?」
「?」
「艦娘への虐待、交付金の公私混同、過度な資源供給。これらすべて規約違反ですよねー」
「何が言いたい」
「今からアンタを解任すると言っているんですよ。つまり、ク☆ビ」
「そもそも何を証拠にそんなデタラメを言うのかね?」
「監視カメラに盗聴器、気付きませんでした?」
「貴様ッ?!」
バンッ
「はい〜、ク☆ビ」
「ッ…。お、貴様になんの権限がある!!」
「ん〜?俺にはないけど、上かなぁ」
「上?」
「大将〜ッ」
「?!!」
「クッソ!認めんぞ!!」
「認めろよクソジジイ」
「若造がぁッ!!」
ガシャンバラララ
パァァアン…
グシャ
「…黙って辞めりゃあ良かったんだよ。地獄で後悔しろ、低能」
「そこの子〜、いるのはわかってるよ?」
カチャ…
「あ、あッ提督が…死んでる」
「今日からここの提督は僕ですよー」
「いや、来ないで」
「大丈夫大丈夫、怖くないからねぇ」
ドン
「何するの?!やめ…」
ジョジョジョバババ
バチャチャチャチャ…
「…あらら失禁しちゃった。"キャンディー"をあげようとしただけなのに」
「まぁいいか!」
「【由佳理】は【陸奥】として着任させて…と」
「死体どうすっかなぁ」
「あ、電源入れっぱなしじゃん。消しと…」
最初に言っておくが、田原鎮守府から豊橋鎮守府までの道中(1時間)の事しか、書かれていない。『日常コメディ』を求めていない方は、チャプターを飛ばすことを推奨する。
提督「では、隼鷹さん、行ってきますね」
隼鷹「呑んで待ってるからぁ〜」
大淀「隼鷹さん、流石にそれは外道です」
隼鷹「冗談だってぇ〜」
提督「…お願いしますよ」
隼鷹「わかってるってぇ、じゃ、お気をつけて〜」
僕は【赤城】【加賀】を、豊橋鎮守府へ送り届けるために、車を走らせるのだった。
加賀「…なんだか不安だわ」
赤城「この提督さんの運転は、とても安全運転ですよ」
加賀「…そうですか」
提督「ここから豊橋まで1時間くらいですかね、用があれば余裕を持って言ってください」
僕のいる鎮守府は、元々フェリーを運行させている会社だったらしく、深海棲艦が猛威を奮った『あの時』の直後、会社の意向の元に鎮守府が作られるという、一風変わった成り立ちなのだ。そのため、毎年の決算日翌日には、交付金の1割は、その会社に譲渡する契約となっている。
鎮守府から出てすぐ、僕は【国道42号線】に出た。
赤城「【国道42号線】…【国道259号線】…。なぜ繋がっているのに、こんなに差があるのでしょう」
提督「(多分)作られた順序によって異なるんじゃないでしょうか?」
あまり気にしたことはないが…。
赤城「あ…。至極単純でしたね」
提督「確証はありませんよ」
加賀「…【田原街道】」
提督「…加賀さん、なにか言いました?」
加賀「…何も言ってないわ」
提督「あと…7分くらいで、とりあえずコンビニに寄りますね」
加賀「【セブン-イレブン】が良いわ」
提督「残念、違います」
赤城「…加賀さん、落ち込まないで!」
提督「wwwww」
【セブン-イレブン】じゃないと落ち込むってww
いるもんだな、【セブン-イレブン】信者w
提督「円にKとは、これなんて読むのでしょうか」
加賀「【サークルK】だったと思うわ」
提督「あら、加賀さん物知りですね」
加賀「…むしろ知らない人を初めて見ました」
提督「北海道は【セーコマ】帝国ですからねぇ。大手【7−11】【LAWSON】くらいしか進出できていませんでした」
赤城「北海道の方だったんですか」
提督「提督になる1ヶ月前に、愛知まで召集されましたから」
加賀「【セブン-イレブン】を【7−11】という人に初めて会いました」
赤城「もしかして【7−11】というのは、北海道の方言ですか?」
提督「僕の趣味です」
赤城加賀「…」
なにか変なこと言ったか?
提督「とりあえず、着いたので降りましょう」
バタン
バタン
さて、僕は缶コーヒーを買おうかなぁ。
微糖も良いが、今日は無糖だな。ブラックだな。
提督「お二人とも、決まりましたか?」
赤城「一応…?」
加賀「…」
赤城「あ…!ちょっ提督さん!」
提督「いいんですよ」
ピッピッピッピッピッピッ
店員「…合計で1,823円になります」
提督「ッ?!」
赤城「/////」
提督「交通系でお願いします」
ピッピッ
店員「…どうぞ」
ピコッチャリリィン
店員「レシートになります」
店員「ありがとうございました」
提督「はい、どうぞ赤城さん」
赤城「申し訳ありません////」
提督「いえ、いいんですよ」
加賀「遠慮なくいただくわ」
提督「…」
少しは遠慮しよう。
…。
今の彼女たちは、正装が血に染まって着れない状態なってしまているので、仕方なく、隼鷹が要らないと言った服を着てもらうことにしていた。
この二人のスタイルが元々良いからか、隼鷹の服のセンスが良いからか、いや、相乗効果で、すごくかっこよく見える。
加賀「…何見てるのよ」
提督「かっこいいと思いまして」
加賀「…そう」
提督「まぁ…、早く行きますか」
僕は、缶コーヒーのプルを開け、車を走らせた。
やっぱり無糖がいい。
…
赤城「確か…この辺りに鳳翔さんのお店が」
提督「そこを曲がったあたりですかね…あれです」
赤城「夜見るのと朝見るとでは違いますね」
提督「そうですね。正直、道を間違えないか不安です」
赤城「…加賀さん、寝ちゃって…」
提督「あと30分くらいですかね」
赤城「…学生の頃、あるアニメ映画を観て、私も海の上を走りたいと思ったものです」
提督「良かったじゃないですか」
赤城「そうですね。でも現実はそんなに楽観視できるものではなかった」
提督「戦争ですからね」
赤城「…私は、加賀さんと一緒に生き残ると誓ったの…。例えどんな状況に立たされようとも…でもッ」
提督「大丈夫ですよ。僕がちゃんと進言しておきます」
赤城「…」
提督「ただ、辞めさせることは不可能でしょうね」
赤城「…」
提督「【人型】の存在が現れた以上、戦力を減らそうとは思わない」
赤城「…」
提督「…まぁどうにかしますね。辞めさせる他にも手段はあります」
赤城「手段…?」
提督「まぁ、かなりゲスいですけどねぇ」
赤城「…???」
提督「まぁ、それはお楽しみって事で…」
豊橋提督「…赤城、加賀…、無事でよかった」
赤城「…提督」
提督「こんにちは【大雅】さん、お元気そうでなによりです」
豊橋提督(以下大雅)「できれば君には会いたくなかったよ」
提督「積もる話もあるでしょうし、ゆっくりお話しませんか?」
大雅「…分かった。なかへどうぞ」
提督「えぇ、どうも」
カツンカツンカツン…
大雅「…加賀?どうした?」
加賀「…なんだか急に寒く感じて…」
提督「…」
加賀「大丈夫です」
カチャ
大雅「では、英華くんはこの部屋で、待っていてくれ」
提督「わかりました」
カチ
パタン
いい歳して、学習能力の無い奴だなぁ…。どれだけ自信があるのかは知らんが、俺に背を向けるという事は、盗聴器をつけられてもいいということか?
お望み通りつけてやったが…。
僕はポケットからXperiaを取り出し、盗聴器兼発信機である超小型装置と、同期することができるアプリを開いた。ちなみに、このアプリは友人に作ってもらった。
部屋の北側角、プランターの影に、カメラとマイクがあるということはすでに気付いている。
…バレずに奴の行動を把握するには、ダミー音楽を使えばいい。まるで俺が、パズルゲームをやっているかの様に見せればいいだけだ。
ザザァザッ
『赤城、今回の作戦指示、ご苦労だったな』
『いえ、とんでもないです』
『お前も疲れているだろう、入渠して、自室でゆっくりと休むといい』
『わかりました…』
『加賀は私と面談だ』
『…はい』
『加賀さん、また後で』
『ええ…』
カツンカツンカツンカツンカツンカツン
カチャ
バタン
カチン
『ッ!?提督?!!』
『良いだろぅ?私だって我慢していたのだッ』
『いやッやめてッ』
カシャン
『…手錠?』
『良い声で鳴けよ』
ピシィーン
『あぁッ!』
『きゃぁあ』
あれ?あれれ?僕ほったらかしでSMプレイかよ!!!生々しい!!
『はぁはぁ…。少し痛いぞ』
『…提督?!やめて注射は嫌!』
『楽になる薬だ、【人型空母】にも勝てるかもしれんぞ?』
…。
『【空母】…』
『お前は誰だ』
『私は…』
『お前は何者だ』
『私、ワたしハ【空母】』
『倒すべきはものは何だ』
『シンカイセイカン』
『ならば従え、私が勝たせてやるッ』
『アッ、ア…』
…僕の予想はあっていた。
この鎮守府の演習勝利率が高かった理由が、ようやく解った。
ドーピングによる意思統制、身体能力向上…。
僕を抗議してきたくせに、自分はガチの反則かい。
さて、じゃあ、僕はこの部屋に向かいますか…。
僕は、アプリ内のとあるスイッチを押した。
その瞬間、この鎮守府のシステムは全て止まる。
だが、今はまだ午前9時…。
止まったところで、電気をつけているわけでもないだろうし、【大雅】は絶対に気付くことはない。
…
コンコン
大雅「なんだ?夕立か?今私は忙しいんだ」
ガチャ
提督「突撃隣の晩ごはんです」
大雅「ッ!???」
提督「もちろんカメラは4Kフルハイビジョン」
大雅「何故ここが?!」
提督「背中に付けたの気付きませんでしたか?」
大雅「なッ?」
提督「盗聴器兼発信機」
大雅「貴様ッ」
提督「今回の出来事はすべて録音させていただきました。今現在も僕のスマホで撮影させていただいてます」
大雅「…要求はなんだ?」
提督「話が早くて助かりますよ。【空母】を3人を僕の鎮守府へ移籍、今後の不正行為の禁止。この2つだけです」
大雅「【空母】を3隻だと?!飲めるわけがないだろうッ」
提督「飲めなければ、今すぐにこの映像、音声がインターネット上にアップされますよ」
大雅「くっそ!監視カメラはどうなっている?!」
提督「僕が全システムを落としましたからね」
大雅「?!」
提督「…どうします?」
大雅「わかった…」
提督「ありがとうございます」
大雅「この蛇めが」
提督「学生時代よく言われましたよ」
提督「最後に一つ、【英治】がここを訪ねた理由をお聞きしたい」
大雅「!!どこでそれを?!」
提督「確信したのは、その薬ですよ。僕の鎮守府にも多数残っていましたから」
大雅「…大したことではない、『悪い噂を聞いたことのある鎮守府を教えてくれ』と聞かれただけだ」
提督「悪い噂…、あなたはなんと答えましたか?」
大雅「『四国支部宿毛鎮守府』」
提督「ありがとうございます」
提督「…では、赤城さん加賀さんは決定ですので、残りはあなたが決めてください」
大雅「…」
提督「派手にやりましたねぇ…。加賀さん起きてください」
加賀「…起キル?私ハすでに起きてマス」
提督「下見て」
加賀「…」
提督「僕を見て」
加賀「…」
提督「…」
加賀「…///////」
加賀「え?なんで?私?え?」
提督「早く下着を付けてください。行きますよ」
加賀「い、行くってどこ…//」
提督「【大雅】大佐と僕とで話し合い、あなたは今日から、僕の鎮守府に移籍となりました」
加賀「どういうこと??提督…私じゃ不満だというの?!」
大雅「…」
提督「僕のヘッドハンティングですよ」
赤城「行きますよ。加賀さん…」
加賀「赤城さん!?」
赤城「貴女を、こんな酷い目にあわせる上司の下では、働かせられません」
加賀「ッ?!なんでこんなに傷が?嘘でしょう?提督?」
提督「さぁ、行きますよ?加賀さん」
加賀「いやよ!話して!!私は…」
パシィン
加賀「赤城…さん」
赤城「いい加減にしてください。もう彼は私達の提督ではありません」
加賀「なんてこと言うの!!」
大雅「…ッ!」
提督「後で書類を送りますね。では、失礼します」
加賀「いやぁ離してッ!!」
バタンッ
大雅「加賀…」
あの部屋に残ったのは、虚しさと男のみ…。
正直言って、ミュンヘン会談時の、ドイツ第三帝国の様に、強気で臨んだんだが、結果はかなり楽だった。
手応えがない。
呆気ない。
逆に僕が虚しい。
あいつ、無能にも程があるだろう…。
…。
加賀「グスン…」
赤城「…」
提督「…。加賀さん、自分が何者か解ってます?」
加賀「かが…?」
赤城「!」
提督「記憶障害…、あの薬の副作用です。数時間待てば完全に治りますが」
赤城「あの男…、許せない」
提督「赤城さん、冷静になってください。あいつをぶっ殺したところで、何もメリットはありませんよ」
赤城「もしかしたら、また新たな被害者が…」
提督「かも知れませんね、契約が果たされてから、数日後にでも密告してやろうと思います」
赤城「…酷い」
加賀「やめて!【大雅】君はただ寂しいだけなのよ!!」
提督「…では、『その時』になったら、上にそう報告してください。彼にとってプラスになるかもしれませんし」
加賀「…」
赤城「…【智美】さん」
加賀「なぁに?【奏恵】ちゃん?」
赤城「!」
加賀「どうしたの?そんなに驚いて」
赤城「う"…うぅ…、【智美】ち"ゃん…」
加賀「ええ!!【奏恵】ちゃん?!」
今の【加賀】さんを見ていると、【深海棲艦】が存在していない世界を見ているようで、沈んでいった仲間と一緒に買い物行ったり、食事をしたり、そんな情景が目に浮かんできてしまう…。
きっと、そんなことを【赤城】は考えているのだろう。多分それは【加賀】もそうだと思う。そういう世界を望んでいたからこそ、【加賀】が今見ている『世界』が『もしもの世界』なのだろう。
もしも、【深海棲艦】がいなければ…、か。
加賀「ところで運転手さん?あなたのお名前は?」
提督「僕は【英華】ですよ。英国の英に豪華の華で【英華】」
加賀「ふふっ、いい名前ね!かっこいいわ!」
なぁ…。
…ひとついいか?
誰だコイツ…。
赤城「もう!えへへ///【智美】も可愛い名前じゃない!」
加賀「そんなことないわ!ありきたりじゃない…」
提督「僕もいいと思いますよ【ともみ】」
加賀「…そう?嬉しい!!////」
微笑ましく思う、この二人の華。
冷酷非情な【加賀】は、【智美】へと戻り、『もしもの世界』へと閉じこもっている。
温和丁寧な【赤城】は、【奏恵】として【智美】と『もしもの世界』を共有している。
戦時中だと感じさせない、極々普通だった日常の情景。
まぁ、数時間経てば元に戻るが…。
いや、どんな反応を示すか気になるな…。
加賀「【英華】君、ニヤけてるよ?何考えたの!」
赤城「セクハラですよー」
提督「バレました?いやぁ可愛いなぁと思いまして」
大淀『…全部聞こえてますよ』
提督「…」
万が一に備えて、無線を常につけているんでした…。
俺は…軽巡【那珂】に恋をした。
かくいう俺は、田原鎮守府で、艤装の整備士をやっている人間だ。今の世の中じゃ、こう言った末端職が山程ある。その中でも特に給料がいいのが、この『艤装整備士』だった。しかも、毎日3食付き、寮もある、目の保養に困る事はない。これはもう俺の天職だった。
天職だと言っても、就職試験は国家試験で、しかも資格を持っていなければならない。いや…まぁ、幸い、工業高校を卒業する予定の俺にとっては、大した障害ではなかった。むしろライバルが減って有り難いと思うほどだった。
あぁ、紹介が遅れたな!俺は【藤鷹雄輔】19歳。画数が多過ぎて、小中高の先生から『平仮名でも構わないぞ』と言われた男だ。上記を踏まえ、先週!見事、試験に合格し、ここ、田原鎮守府への就職が内定したのだ!
何故、在学中なのに、ここで働いているかって?実は、高校の方針で、内定が決まった人間は、企業側の了承を得て、1ヶ月間のインターンシップが認められている。要は慣れてこいってことだ。
でな?つい先日、鎮守府の中庭で、ある一人の少女が歌を歌っていたんだ。そう、それが【那珂】さん!誰も、まだ彼女に見向きもしないが、それでも、僕は彼女を応援している。I love Naka!!!
とは言ったものの、今は戦争中だ…。兵士に告る高校生とかあってはならないだろう?でも俺は彼女が好きだぁ!!どうしたらいい?!どうしよう。和ぁああああああ。。。。
提督「…なるほど、つまり那珂ちゃんとの仲介人になってほしいと言うわけですね」
雄輔「お願いします!!」
提督「全く構いませんよ」
雄輔「まじっすか?!いいんすか?!相手兵士っすよ?!!」
提督「その兵士を妊娠させた人間が目の前にいますが」
雄輔「まじ神っす」
提督「崇めなさい」
雄輔「ハハ−ッ!」
大淀「…何馬鹿言っているんです!」
提督「駄目ですか?」
大淀「憲兵さん来ますよ」
提督「憲兵如きに怯むような僕ではありません」
大淀「豊橋相手に『強気外交』が通じたからといって、憲兵に通じるとは思わないように!」
提督「…自粛します」
雄輔「…あのぉ」
提督「大丈夫!想いをぶつけてきなさい!!」
雄輔「ハイ!!!」
バタン ダダダダダ…
大淀「良いんですか?提督」
提督「いつ死ぬかわからないんです。好きなことをさせておくべきでしょう」
大淀「ドライですね」
提督「楽観的と言ってほしいものです」
大淀「…」
大淀「その楽観視で、昨日【隼鷹】さんのお父様に殴られたんじゃあありませんか」
提督「『どこの馬の骨か分からん奴に娘はやるもんか!!』ですね…。いやぁ痛かった」
大淀「どうなったんですか?」
提督「…多分、人生で初めて、本気で、相手を説得させましたね。途中何を言っているのか、自分でも不明でした」
大淀「ケッコンするんですか?」
提督「がちの結婚です」
大淀「…おめでとうございます」
提督「ありがとうございます」
…。
隼鷹「えぇ−?あたしが抜けるの??」
大淀「当たり前でしょう」
電「なのです!」
提督「【隼鷹】さんの抜けた穴は、【赤城】さんにお願いしたいですね」
赤城「はい。構いませんよ」
提督「有り難い」
赤城「元々そのつもりで、【大雅】大佐と掛け合ったのでしょう?」
提督「全くその通りです」
加賀「…私はどこに入ればいいのでしょうか」
提督「【加賀】さんは留守番です」
加賀「…は?仰っている意味がわかりません」
提督「まだ薬の効果が残っている可能性もあります」
加賀「もう4日も経ってるのよ」
提督「ここの娘たちに投与されていた薬が、完全に抜けるのに1ヶ月かかっています」
加賀「…そんな、1ヶ月待てというの?」
提督「恨むなら、前提督にお願いします」
加賀「…」
提督「1ヶ月経てばいいだけです。それに、その間にできることもあるでしょう?」
加賀「!」
赤城「加賀さん…」
加賀「…大丈夫よ、海に出れなくたって、確かにできることはあるわ」
提督「その意気です」
大淀「トレーニングメニューは、既にできていますので、こちらの冊子を見ていてください」
加賀「ありがとうござい…ッ?!」
提督「強くなれますよ」
加賀「…」
隼鷹「…うわぁあ、災難だねぇ…」
加賀「…このくらいどうってことないわ」
提督「頑張ってくださいね」
時雨「…僕は、絶対に嫌だな」
愛宕「タンクが破裂しそうだわ」
電「あれは、流石に人がこなせるメニューじゃないのです」
時雨「…ね」
愛宕「…死んじゃうんじゃないかしら」
加賀「…」
提督「ちなみに考えたのは、この鎮守府のブレーンさんです」
霧島「…」
金剛「霧島…加賀が見てるネ」
霧島「…無視に限ります」
金剛「分かったデース」
加賀「…」
霧島「…では、そろそろ行きましょうか」
提督「【人型】の探索及び撃破…、よろしく頼みましたよ」
愛宕「終わったら、提督…、今夜もよろしくお願いしますね」
提督「紛らわしいこと言わないでください。マッサージでしょう?」
時雨「…マッサージ?」
電「いやらしいのです」
時雨「…不純」
電「外道なのです…」
どうしてそうなる。
提督「…あのですねぇ…」
大淀「提督は黙っていてください」
家康公よ。僕はあなたに従います。
霧島「…わかりました。ではいってきます」
提督「お気をつけて」
…
とは言っても、いつも通り、全員の艤装にカメラを搭載させてあるから、安心ではいる…。
霧島「そろそろ鎮守府を出て30分ですが、赤城さん、なにか見えましたか?」
赤城「…いえ、まだ何も」
霧島「そうですか…」
赤城「?!」
霧島「赤城さん?」
赤城「敵影4体…あれは」
金剛「【人型】ですか?」
赤城「【人型空母】と見られる深海棲艦が2体…」
提督「ミーティング通り、赤城さんは2段階爆撃を、金剛さん霧島さんは空母処理後、敵艦載機殲滅をお願いします」
時雨「僕たちは、対潜だね」
提督「はい。愛宕さんは辺りの警戒をお願いします」
愛宕「わかったわ」
金剛「行くヨ?霧島!!Burning Looooove!!!」
いつも通り、あの初見殺しの戦術を、使ってもらった。
この『籠』に囚われたのは、【戦艦ル級】だった。
いつも通りに、
順調に、
順調に、
確実に、
着弾。
金剛「【戦艦】倒したネ!」
霧島「?!お姉様!」
金剛「What?!何故倒れてないデース?」
提督『装甲が硬い?』
金剛「徹甲弾撃ってみマスカ?」
提督「いや、まだですね。なるべく至近距離からお願いします」
霧島「お姉様、あれを使えば…」
金剛「そうネ!ただ、まだもう少しデス」
赤城「提督!制空権を取られそうです」
提督『…金剛型の射程距離まで引き寄せてください』
赤城「…?、なるほど!」
霧島「行きますよ…お姉様」
…。
…。パァアン
…。
【三式弾】
敵航空隊の前で爆発させ、砲弾の進行方向に対し、円錐状に弾子を撒き散らす砲弾だ。だが、この砲弾の効力には、個人的に懐疑的な点が多数ある。そもそも、高速で動く敵航空機に当たるのだろうか?いや、当たらないだろう。それを史実が物語っている。
だから、今回は【三式弾】を使うことはなかった。きっとこの先も無いと思うが…。
そこで、僕は考えた。どうやったら広範囲まで効力を広げられるか、答えは簡単だった。
【花火】
花火とは、火薬と金属の粉末を混ぜ包んだものに、火を付け、燃焼・破裂時の音や火花の色、形状などを鑑賞するものだが、この原理をそのまま使えばいい。史実では【零式通常弾】というものがこれに近いが、残念ながら
現代の世には無かった。いや、艦娘用の【零式通常弾】が無かったのだ。
仕方ないから、一から作ることにした。
そして完成したのが、【全方位裂傷弾】だ。
命名したのは、例のあの高校生だが、なにげにかっこいいので、それを使わせてもらっている。
はたして、効果はいかほどか?
赤城「敵航空機…、7割撃墜に成功しました」
どうやら成功したらしい。
提督「なかなかな成果ですね」
大淀「…量産できるように、上へ進言してみますか?」
提督「…とりあえず、今週の演習後にします」
大淀「…了解しました」
提督は、私と出会った時よりも、人間として丸くとなった気がする。でも、距離としてはかなり差が開いてしまった。それがなんでかはわからない。常に高みを目指しているこの人と比べて、私の器が足りないからだろうか…。
提督「大淀さん?」
大淀「提督…どうしました?」
提督「らしくないですね。心ここにあらず。と言いますか、なんだかほわほわしてます」
大淀「ほわほわってなんですか?!いえ、私は、なんでもないです」
提督「疲れているんですかね?休息をとってください」
大淀「今戦闘中ですよ」
提督「【鬼】【姫】レベルでなければ、今のメンバーなら余裕です」
大淀「油断はいけません」
提督「油断ではないですよ。慢心です」
大淀「尚更ダメでしょう…提督」
提督「慢心というものは、一見すると注意散漫なイメージが強いですが…、実は自信を最大限に引き出すことができるんです。そもそもが同じようなものですから」
大淀「…なるほど?」
提督「体験してみればわかります」
大淀「提督…、はやり、あなたは最近浮かれている」
提督「そう…、思いますか」
大淀「事が上手く行き過ぎている時程警戒すべきです」
提督「!」
大淀「もしかしたら、誰かが作った脚本上に立たされている可能性だってありえます」
提督「…そうですか。ありがとうございます。目が覚めました」
…
赤城「提督!敵航空機の数が多すぎます!!」
金剛「こっちも全然ダメネー!そろそろあれを使ってもいいデスカ?」
提督『構いません。ただし、十分間は連絡が取れなくなりますので、気をつけてください』
金剛「Thank youネ!!」
カチャン
霧島「…お姉様!今です!」
金剛「いくネ!!」
金剛は、砲弾ではない、何かの球を撃ち出した…。
その球は空中で破裂し、中からキラキラ光る何かが、空中に舞った。
その瞬間、深海棲艦が発艦させた航空機が、すべて墜落してしまった。
最後に映像に映ったのはそれだった。
すべての"電子機器"が機能を止めた。
これが一体何を意味するのか…。
【深海棲艦】の行動パターンには、意思というものを感じさせないものが多かった。そう、【人型】といった例外はあったものの、ほとんどは機械的な動きだったのだ。
少なくとも、僕はこう考えた。
【人型】をメインブレーンとして、他の【深海棲艦】は、その命令を常に受けて動いているのではないかと、もっと言えば、【人型】を核としてネットワークが構築されているかもしれない。
つまり、いずれにせよ【人型】の命令がなければ動かないということになる。
ではどうしたら、【人型】とその他の【深海棲艦】とを切り離すことができるのか。
今回、ある種の賭けで、『電波ジャミング』を行っていた。これといった根拠はないが、どんなものであろうと、情報を伝達するときは、電気信号にしなければいけない。
ならば、それを乱してしまえ…というわけだ。
敵航空機が墜落していったのもその影響だろう。
敵航空機自体には、自我がない。
僕の予想があたっているならば、【人型空母】が命令・遠隔操作していた…ということになる。
逆に、【人型空母】さえ倒してしまえば、敵航空機は無力化できるという証明にもなったわけだ。
だが、メリットがあれば、デメリットもあるわけだ。
全ての電子機器の機能が止まるならば、こちら側の通信手段さえも止まってしまうことになる。
提督「…」
大淀「提督。あと10秒です」
9876543210
提督「…聞こえますか?第一部隊応答お願いします」
霧島『.....こ…ちら霧島、任務遂行しました。これより帰還します』
提督「流石です」
霧島『司令…。【人型戦艦】を拿捕したのですが、ただちに処分しますか?』
提督「…ん?もう一度お願いします」
霧島『【人型戦艦】の拿捕に成功しました』
提督「…徹底警戒して、即刻連れて帰ってきてください」
霧島『了解!』
大淀「…【人型】の拿捕…って」
提督「僕もびっくりです」
大淀「…【深海棲艦】とのコミュニケーションは可能でしょうか…」
提督「【人型】である以上、かなり高度な知能を持っていると思います」
大淀「…つまり、可能だと?」
提督「やってみなければ、わからないということです」
それにしても、【人型】を拿捕だなんて、一体どういう状況だったのだろうか…。
第一部隊が帰還してから数時間…。僕は、未だ眠り続けている【人型】が起きるのを、ひたすら待っているのだった。もちろん、起きて早々に暴れられても困るので、艤装を付けた艦娘たちに監視してもらっている。
隼鷹「んん?まだ起きねぇの?」
提督「それ程の、激戦だったのでしょうか」
隼鷹「さぁ?録画してねぇの?」
提督「全電子機器が停止しますからねぇ…」
隼鷹「結構でかいデメリット」
提督「艦載機を、現代戦闘機にでも、変えられれば良いんですがね。それなら電波ジャミングして、相手の艦載機を潰す必要性はない。」
スピードが違う。圧倒的な、機動力。旧式の戦闘機如きじゃあ、墜とすのは難しい。
隼鷹「夢が無いねぇ、夢が。プロペラの羽音が良いんじゃねぇか」
提督「夢じゃ飯は食えませんよ」
隼鷹「…"食えねぇな"」
提督「!…そうきましたか」
隼鷹「お!よく気づいたじゃん」
提督「気づかないほうが、馬鹿です」
隼鷹「意外にやるでしょ〜、私ってさ」
提督「器用ですもんねぇ…。夜も」
隼鷹「なっ!バカッ!」
大淀「…私の存在忘れてませんか?」
隼鷹「そんな事ねぇよ!?なぁ?」
提督「正直言うと、忘れれてました」
大淀「…提督の馬鹿」
隼鷹「だとよ〜、馬鹿」
提督「あらら、お恥ずかしい。それじゃあ、僕はこれで」
大淀「おい馬鹿、仕事はこれからだろ」
…。
提督「はい」
提督「あ、そういえば…」
大淀「ん?サボる口実ですか?」
提督「…最近、僕に対してキツくないですか…?」
大淀「そうですか?変わらないと思います」
提督「そういえば、そうでした」
ただ、清楚感は無くなった気がする。
隼鷹「…それでぇ、どうした?なんかあったわけ?」
提督「今日ですね、【補給艦】の方が着任する予定なんですよ」
隼鷹「お?!ちゅうーことは!!」
提督「食事を、自分で作る必要が、無くなるんです!」
隼鷹「ひゃっはぁーー!!」
提督「確かーーー、名前は【宮田】さんでした…気がします」
隼鷹「【宮田】…?それ本名?」
提督「…なんですかね?」
大淀「補給艦【間宮】さんです」
提督「…と、言うことは、【宮田】は本名ですかね」
大淀「本名は【櫻井舞子】さんです」
提督「…」
隼鷹「ひっでぇ、名前くらい覚えとけよ」
提督「…何時からでしたっけ」
大淀「13時到着予定なので、あと2時間後ですね」
提督「…じゃあ、少し寝ていいですか?一睡もしていないもので」
大淀「まったく…。変なところは、真面目なんですから」
提督「いえいえ」
大淀「…そうですね、隣の部屋のソファーの上にでも、寝ていてください」
提督「ありがとうございます」
隼鷹「久々に、膝枕でもしてやろうかぁ?」
提督「お願いします」
大淀「……………………………………………………………………………………」
提督「…では、失礼します」
ガチャ パタン
提督「なんか怒っていませんでした?大淀さん」
隼鷹「シッ!馬鹿!言うなって!」
提督「はい…」
おかしいな、たしかに僕は、ここの鎮守府のトップのはずだが…。困ったなぁ…。
まぁ良いけれども…。
【11:06】
隼鷹に膝枕をしてもらってから、10分くらいだろうか…。
提督「…隼鷹さん、正直後悔していますか?」
隼鷹「ねぇ〜…、英華さん?」
提督「(???)!優香さん」
隼鷹「よしよし〜、うーん、そうだねぇ、どれに関して?」
「どれに関して」そう、僕は彼女に対して、彼女の運命を、大きく変えてしまったかもしれない。それほどまでに、大きく、多く、彼女に深く関わってしまった。
『傷』
『子』
『契』
『血』
どれも、彼女にとっては大きなものだった。
提督「…(それは…)」
隼鷹「言えない?そうだねぇ、しいて言うなら『禁酒』が一番辛いかなぁ…」
提督「え?」
隼鷹「酒は、私の生き甲斐だったからさぁ〜」
提督「…すみません」
隼鷹「でもさぁ…、私は、楽しみだよ、産まれてくる子が」
提督「…そう言ってもらえれば、助かります」
隼鷹「勝手に助からないで、大変なのはこれかだぜぇ?」
提督「母子ともに、何不自由のない生活を、させてあげられるように、努力します」
隼鷹「…それは楽しみだねぇ。ただ、沢山苦労をかけてあげてほしい。例え私がいなくとも…」
提督「…らしくないですよ」
隼鷹「らしくないのは、英華。君だよ。そんな顔するなよ…。現在進行形で戦争中だぜ?」
提督「…わかっています」
隼鷹「…【英治】の奴は、完全に理解していた気がするぜ?」
提督「たとえ兄弟でも、感じることは、異なります」
隼鷹「さぁて…どうかねぇ」
????
隼鷹「今は、まだ気づいてねぇだけだろうが、そのうち解るさ」
【12:37】
大淀「起きてください!提督!!」
提督「あれ?!今何時ですか?!」
大淀「12時半ですね」
提督「あー、ありがとうございます。爆睡してました」
大淀「…あれ?隼鷹さんは、どこへ?」
提督「確か…、自室に戻った…はずです」
大淀「…あぁ、なるほど」
提督「律儀な気分屋なんですよ、言っている意味は解らないとおもいますが、それがベストの表現だと思います」
大淀「とりあえず、身だしなみを整えて、玄関に来てくださいね」
提督「すぐに向かいます」
大淀「では、私は先に行って待ってます」
提督「わかりました」
パタン…
大淀「では…」
廊下へ出て、大淀は玄関へ、僕は洗面所へ向かった。
洗面所についた、僕を待っていたものは、とても疲れ切っている人間の顔だった。頬は痩せこけ、目には隈ができている。数秒経って、その人間が誰なのかを認識することができた。
提督「…あぁ、そういうことか」
結局、僕も【英治】と同じく、現実を圧縮せずに受け入れてきた。受け入れようとしてきた。真似ていた。
だが、処理能力が追いつかなかった。この事は、当初から予想はしていた。キャパオーバーすることは明らかだったわけだが…。
今更、僕がここを離れることはできないだろう。
【12:21】
大淀「なかなか来ませんね」
提督「【間宮】さんは東京方面から、新幹線に乗って名古屋に到着、あとは送迎車で来る手はずなんですけどね。渋滞でもあったんでしょうか」
大淀「まさか事故とか?」
提督「そんな情報は入ってきていませんよ」
大淀「ですよね…」
提督「あ、あれですかね」
黒塗りの車(多分150系クラウン)が、この鎮守府に向かっているのが見えた。
大淀「きっと、そうですね。にしても高級そうですね」
提督「隼鷹さんと似たパターンですかね」
大淀「ありえます」
黒塗りは、側面がこちら側に向くように、車を停めた。
補給艦【間宮】と思われる女性が車から降りてきた。
女「ありがとうございました!」
運転手「気をつけるのですよ〜」
女「では、失礼しますね!」
ダム
高級車によくある、扉を閉めた時の音が、「バタン」ではなく「ダム」と鳴る現象。
カスタムしたのかな?
知らんけど。
女「本日より、田原鎮守府に配属となった、補給艦【間宮】です!よろしくお願いします!!」
提督「こちらこそ、よろしくお願いします。あなたの部屋については、こちらの【大淀】にご案内させますので……」
間宮「…あ」
大淀「????」
間宮「英華君じゃない?」
提督「お久しぶりです【柚子妃】さん」
間宮「"さん"って何よ!もう【柚子ちゃん】って呼んでくれないわけ?」
提督「流石に、今はフォーマルな場なので」
間宮「真面目になったねー!」
提督「そうですか?あまり変わらない気がするのですが」
間宮「あれ?少し痩せた?美味しいご飯食べれてないわけ?」
大淀「…提督、お知り合いですか?」
間宮「大淀さん!私達、小中高の同級生なの!」
提督「とんでもない確率ですよね」
大淀「…」
間宮「いやぁ、私に黙ってどっかの大学に行っちゃうんだから!探したんだよ?」
提督「そうなるから、言わなかったんですよ」
大淀「まさか、提督のもとに来る為だけに、艦娘になったのですか?!」
間宮「そうですけど?」
提督「…退職願出したいです」
大淀「我慢してください」
間宮「よし!英華君!結婚しようか!」
大淀「は?」
提督「小学生の頃から、このような調子です」
大淀「は?」
間宮「両親には話はつけてあるわ!」
提督「手がつけられないからでしょうね」
大淀「…とっても言い難いのですが、提督、婚約している人がいますよ」
間宮「あ"?」
大淀「!!???!」
提督「本当ですよ」
間宮「いや、奪い取ればいいだけよ!!」
大淀「…とっても言い難いのですが、提督、相手を妊娠させてしまって」
間宮「あ"?」
大淀「すいません!!」
提督「本当ですよ」
間宮「…大淀さん、案内お願いします。お相手さんまで…」
大淀「…どうして、こうなってしまったのでしょうか」
提督「とりあえず、業務は明日からお願いします」
間宮「…わかったよ!英華君!私!絶対に諦めないから!!」
提督「諦めなくていいんで、事件になるような事はしないでください」
間宮「私、そんな事絶対にしないわ!」
大淀「……」
【2016/06/09】
大淀「…なぜこんな時に、こんな遠くの鎮守府と演習なんでしょうかね」
提督「『四国支部宿毛鎮守府』の提督さんから申し込みがあったそうですよ」
大淀「…お相手さんからですか?てっきり、上層部の方々の意向かと思ってました」
提督「上層部の意向でもあるんですよ」
大淀「え?」
提督「【人型】の出現以降は、全国各地、どこの鎮守府も、好き好んで演習を、行おうとはしなくなりましたから」
大淀「今回は士気向上のためでもある、と」
提督「だと思います」
大淀「…ちなみに、どうやって宿毛まで行くんですか?」
提督「宿毛側が、送迎バスとトラックの用意をしていてくれているんです」
大淀「ありがたいですね。わざわざご親切に」
提督「確かに、丁寧ではありますね」
大淀「?」
提督「とりあえず、メンバーを決めます。それと警備の方も…」
大淀「金剛姉妹は不可欠です」
提督「…【電】さんと【加賀】さんを入れ替えますかね」
大淀「いいと思います」
【霧島】【赤城】【時雨】
【金剛】【加賀】【愛宕】
大淀「…人手不足が目に見えてますね」
提督「どうしてですか?」
大淀「【重巡】を使う鎮守府なんて、そうそうありませんよ」
提督「確かに、【軽巡】と比べ、燃費が悪く、その他は大して変わりませんが、彼女の魅力はそうじゃないんです」
大淀「そうじゃない?」
提督「【愛宕】さんのプロフィールを、拝見させていただいたのですが、18歳の頃に『第33回東日本大口径ライフル射撃競技選手権大会(150m)』で優勝しているのです」
大淀「つまり?」
提督「今までの練習データを見ればわかります」
大淀「!!確かに、命中精度が98%と、かなり高いです!」
提督「【重巡】の特徴としても、射程距離の長いということが魅力的です」
大淀「つまり、【愛宕】さんと【重巡】としての相性は良いということですね」
提督「そうです」
大淀「…記入終わりました。このまま大本営へ報告してきます」
提督「お願いします」
…。
さて、【英治】が一体、何を考えて演習を組ませたのかは知らんが、徹底的に叩き潰してやる。これ以上、邪魔はされたくないからな。
…、そういや、結局『パルティノンショット』を使えずにいるわけだが…。
うーん、この…。
…。
コメディ回です。
僕は…、ふと時計を見た。
【26:12】
提督「2時か…、たまには大浴場にはいるかな」
僕は、着替えを一式持っていき、大浴場へと向かうことにした。
司令室から大浴場までは、150mと、なかなかに道のりが長い。
あれ?なんだか今夜は冷えるな…。
6月と言っても、まだ初夏だからだろうか、今夜は確かに、いつもよりも冷え込んでいた。
提督「さみぃ〜…」
そうボヤきながら、僕は大浴場の前まで来ていた。
ふむ、着いた。
もちろん、深夜2時だ。誰も入っているわけではなく、大浴場はもちろん、着替え室も真っ暗だった。
提督「誰もいなくてよかったわぁ」
颯爽と服を脱ぎ、僕は浴室へと入った。
提督「転んだら嫌だな…」
石鹸を踏んで転んで死亡とか嫌だ。つか裸の死体とか見られたくねぇ…。
僕は浴室の明かりをつけた。
大浴場というくらいだ、高校の教室4つ分くらいの広さである。
それを独占しているのだ。滾るッ。
まずは、シャワーを浴びようか。
頭を洗い、身体を洗い。
さて、入ろう。
その時になって初めて気付いた。
提督「…加賀…さん?」
加賀「…今更ですか」
髪を解いていて、正直誰だか分からなかったが、殺気でなんとなく判断した。
加賀「…その汚らしい物を向けないでください」
提督「失礼ですね、そう言うくらいなら、ガン見するのをやめてはいかがでしょうか」
加賀「ガン見などしていないわ、ただの観察よ」
提督「…何が違うんですか?」
加賀「奥さんに言うわよ」
提督「それは、ご勘弁ください」
加賀「よろしい、今すぐに出て行きなさい」
提督「嫌です。日頃の激務の疲れを癒やすには今しかないので」
加賀「一緒に入れというの?」
提督「あなたが出ていくべきです」
加賀「ここは譲れません。何より、あなたに私の身体を見られたくない」
提督「…今…2時ですよ?」
加賀「はい!?もう2時なの?」
提督「…いつから入ってたんですか…」
加賀「10時よ」
提督「…」
加賀「…では、まず、あなたは一度、廊下へ出ていてください。その間に私が体を洗って外に出ています」
提督「却下します」
加賀「なぜ!?」
提督「寒いです」
加賀「…」
提督「そうですね、では僕が後ろを向きながら湯に浸かりますので、後は上記の通り、あなたは先に上がってください」
加賀「お断りします」
提督「なぜです?」
加賀「あなたは、おそらく、私が身体を洗っている時の音を聴いて、イヤらしいことを想像します。するに決まっています。不吉…」
提督「酷いですねぇ。もはや理論的思考を捨てて偏見のみで物事を見てしまってますねぇ」
加賀「ペラペラ煩いわ。小難しい屁理屈はどうでもいいの」
提督「どうでも良くありません!!あぁ寒い!!」
バシャバシャ
加賀「馬鹿!何入っているんですか!」
提督「ならば、あなたはさっさと出なさい」
加賀「上から目線で偉そうに!!」
提督「あなたの上司で、偉いのです」
加賀「電ちゃんの真似をしないでください。気持ち悪い」
提督「気持ち悪い?次は暴言ですか、少しは頭を使ってくださいよ」
加賀「頭にきました」
大淀「ストーーップッ!!!!!」
大浴場内を反響したその声は僕達2人の耳を貫いた。
大淀「混浴は結構ですけどねぇ!いや、提督はまったくもって大問題ですが、いま何時だと思っているんです?深夜2時ですよ?ここの声反響して、鎮守府中に響き渡ってるんですよ!!うるさい!!さっさとあがりなさい!そして寝ろ!!」
加賀「わかりました…」
提督「…わかりました」
大淀「/////」
加賀「…あなたはまだ入っていなさい」
提督「…おはようございます。えー、再来週に、演習を行う」
霧島「金剛お姉様…、提督、なんだか元気がありませんね」
金剛「霧島…、そういえば、ぐっすり寝ていたネ」
霧島「私が、寝ている間に、何かあったんですか?!」
金剛「気付かなかった方がおかしいくらいデス」
霧島「そんな??!」
…。
提督「…相手は、四国支部宿毛鎮守府です」
電「…なんなのです?すくも?」
赤城「後で見せてあげるね!」
提督「宿毛鎮守府戦には、【霧島】【金剛】【赤城】【加賀】【時雨】【愛宕】6人で挑みたいと思っています」
時雨「提督。よくわかってるね」
電「…」
提督「では、以上です。皆さん、今日も一日がんばってください」
雷「電…」
電「…」
雷「元気出しなさい、電?提督がいないうちに、ウンっと遊んじゃいましょ?」
電「雷ちゃん…、ありがとなのです」
提督「…」
確か、僕が着任したのは、今年の2月頃だったかな…?
あの頃は、人としての意思など無く、プログラムされた通りに動くマシンと化していた艦娘たちも、今では、元通り、人としての意思を持ち、温かみを取り戻してきている。
…【英治】
お前は一体、何故…?
隼鷹「提督さんよぉ、昨晩の混浴はどうだったぁ?」
提督「優香さん、それは誤解です」
隼鷹「丸聞こえでしたけど」
提督「聞こえたとしても、喧騒だったと思います。お願いします。いじわるしないでください」
隼鷹「たっっく、可哀想だからやめてやるよ」
提督「ありがとうございます。もしよろしければ、この後食事にでも行きません?」
隼鷹「ーー酒は?」
提督「本気で言ってますか?」
隼鷹「冗談だよぉ」
提督「知ってます。むしろそうでなければ困ります」
大淀「提督ー!」
提督「どうしましたか?大淀さん」
大淀「ミーティングは、まだ終わっていませんよ」
提督「…ということなので、優香さん部屋で待っていてください」
隼鷹「おーう」
大淀「まったく…。朝会すぐに、どこかへ行こうとしないでください」
提督「すいません」
大淀「ここです」
ガチャ
霧島「やっときましたね」
提督「すいません。ではミーティングを始めます」
大淀「今回の相手は『宿毛鎮守府』、四国支部では上位の戦績を誇る、大手です。対戦日は6月20日です」
提督「今回はかなり苦戦すると思いますが、つい先日、提督が入れ代わったようなので、恐らく連携などはまだできていないでしょう。そこを突きます」
霧島「逆を返せば、相手がどんな編成陣形でくるのかが、わからないというわけですね」
提督「その通りです。なので、今回は対潜も意識していきたいと思います」
時雨「そのための、僕、なのかい?」
提督「そうです。兵装も対潜に特化させておきます」
時雨「役立つよう、がんばるよ」
提督「…今、断言して言えることは、これくらいしかないので、今日のミーティングはこれで終わりとさせていただきます」
霧島「…」
金剛「わかったデース」
大淀「…」
霧島「…いや、少し待っていただいてもよろしいですか?司令」
提督「…はい?」
金剛「どうしましたデス?霧島?」
霧島「何か隠しているんじゃないんですか?もっと重要な事を」
提督「…重要?そうですね、交通手段は、手配してあるバスに乗って四国まで、宿毛まで行きますので、酔い止め薬を買っておくべきですね」
霧島「いやはや、そうじゃありません、いや、それも大切ですが、もっと重要で、私達に関係のあることです」
提督「それは…、例えばなんだと思いますか?」
霧島「例えば、元々の演習相手は『宿毛鎮守府』ではなく、別の鎮守府だった」
提督「…何故、変える必要性があったのでしょうか」
霧島「それは、司令の意思に関係なく、もっと強大な背景があったのでは」
金剛「霧島…、何を言っているデスカ?」
提督「そうですよ、霧島さん。そもそも、強大な背景ってなんの事ですか?」
霧島「…」
提督「霧島さん?」
霧島「先日、司令室へ伺った時に、とある書類を見てしまいました」
提督「…」
霧島「【英治】」
金剛「!?」
時雨「霧島…さん???」
霧島「【比叡】お姉様の脱走、『宿毛鎮守府』提督死亡、そして、演習」
提督「…」
霧島「普通…、その司令官が死んだ矢先に、演習を組むものなんですかね?」
提督「たまたま、そこの鎮守府は、まぁ、そういうところだったんですよ」
霧島「…では、司令。あなたの机にあった、【英治】と【比叡】お姉様の情報が書かれてある書類は、何なのですか?」
提督「書類整理のためですよ」
金剛「テイトク…、どういう事ネ?」
愛宕「ちょっと、見逃せないわ」
提督「…特に、決定的な証拠もなく、ただの憶測でしかないのですが」
霧島「お願いします。私たちには知る権利があります…」
提督「…」
霧島「…私たちは、被害者、当事者なのですから」
提督「いいですよ、話します」
提督「【英治】が【比叡】を脱獄させた後、『宿毛鎮守府』の提督を殺し、その地位に就いた。これは僕も推測しましたし、確実なものだと思われます」
霧島「問題は、その動機」
提督「はい、その通りです。何故、自身を殺そうとした【比叡】を助けたのか。何故『宿毛鎮守府』の提督を殺したのか。この2つ、最低でもこの2つだけは、どうしても理解できないのです」
霧島「ここを潰しにきているのでは?それなら、演習を申し込んできた理由にはなります」
提督「そうですね。ただ、それでは、遠回りすぎます」
霧島「…」
提督「その問題を含め、確定するまでは、演習が終わるまでは、伏せておこうと思いました」
霧島「…そうじゃありませんね」
提督「??」
霧島「…司令は、なぜ私たちに、この事を話さなかったのでしょう」
提督「さっき言ったとおりですよ。つまり、無駄な混乱を避けるためです。なにせ、ワードがワードですから」
霧島「それだけではありませんね」
提督「…」
霧島「ただ、純粋に、兄に、勝ちたかった。これが真実ですね?」
提督「その通りです」
霧島「伏せていなければ、メンバーが辞退していき、演習どころではなくなる。それだけは避けたかった」
提督「…怖いですね。その通りですよ」
霧島「でも、司令?私達はそんなにヤワじゃないですよ」
金剛「そうネ!私だって【英治】に人泡吹かせてやりたいデース!!」
愛宕「名前を聞いた時は驚いたけれど、怖くなんかないわ!」
時雨「右に同じ。僕は、提督のためなら誰だって殺すよ」
愛宕「ダメよー?時雨ちゃん」
時雨「…」
愛宕「殺したら遊べなくなっちゃうわ」
時雨「!その手があったね…!」
大淀「…皆さん」
提督「すみません…。ありがとうございます」
霧島「ただし、買っても負けても、何かしらの報酬はもらいますからね」
提督「…わかりました。良いですよ、皆さんの好きなものを(経費で)買ってあげます」
霧島「皆さん!聞きました!?」
大淀「録音もしておきました、言い逃れ不可能です」
時雨「僕は…、どうしようかな♡」
加賀「赤城さん…、よくわかりませんが、美味しい話になりましたね」
赤城「何食べようかしら…」
加賀「赤城さん…(今日も美しいわ)」
提督「…ん?」
ワーワー
隼鷹「ほんっと、前じゃ考えられなかったねぇ。この風景」
英治『ちょっとチクっとするよー』
隼鷹『いやっ!やめてっ!!嫌よッいやぁあ』
隼鷹「ッ…。嫌なこと思い出しちまった…」
提督「隼鷹さん?どうしたんですか?隙間から覗いて…」
隼鷹「賑やかだったもんでねぇ、こんなの初めてだよ」
提督「今からでもいいなら、行きますか?」
隼鷹「そうさせてもらうかねぇ〜」
提督「皆さん!では、今日はもう終わりとさせていただきますね!」
隼鷹「!!大きな声出せたんだ…」
提督「ん?」
隼鷹「とりあえず、海に行きたい」
提督「いつも海に囲まれてるじゃないですか」
隼鷹「海水浴場に決まってるだろ!」
提督「冗談です、じゃあ行きますか」
結論を言うと、海水浴場付近まで行ったはいいが、雨が降ってきたので、しかたなく、ショッピングモールへ行って、映画を見ることにしたのだった。
私たち艦娘は、ある種の徴兵制によって、集められている。
時を遡れば、4年前、2012年頃だっただろうか、決して私のものではない、"ナニカ"かの記憶が、私に中に入ってくるのを感じた。
『熱い』『痛い』『憎い』『悔しい』『寒い』『冷たい』
いつからか、その"ナニカ"は私と同化した。私自身となった。
この現象が、政府の言うところの"素質"なのだろう。
先程、私は、『ある種の徴兵制』によって、艦娘たちは集められていると言ったが、つまりはどういうことなのか。
これは至極簡単な話だ。
高い給与をチラつかせればいい。
社会的地位を保証したらいい。
だが、果たして、上記のような条件で、人は集まるにだろうか?
結果は『集る』だった。
現在、全世界の国々は『資本主義』によって、国を運営している。いや、一部語弊があった…。全世界ではなく、圧倒的大多数の国々は『資本主義』国家だ。
『資本主義』の特徴は『自由競争』、つまり、資本を持った民を経済的に競わせ、経済を維持・発展させていく社会システムのことだ。
だが、その反面、民の間に経済格差が発生するものだ。これは絶対に回避できない、経済発展に対する副作用のようなものだ。
ならば、その貧困層をターゲットにしたらいい。もう一度言うが、これによって、かなり多くの人員を集められる。
しかし、集められた、素質を持った女たちは、そのまま【艦娘】へと成るわけではない。
体力試験、教養試験、適性試験、これによって、素質の持った女を、各艦種に振り分けていく、そして、コードネームと番号を与えられる。
【比叡】【愛知20130415003】
私は【比叡】と呼ばれ、『愛知県田原鎮守府』へ配属される事となった。
そこで出会った提督。
かつての教官。
崩れた体制。
再構築された体制。
気づけば、【金剛】の淹れた紅茶に、青酸カリを入れていた。何故そうしたのか、全く理解できていなかった。自分の意志ではなく、絶対的なにかに授けられた使命によって動いたような、そんな感覚だった。
そうして、提督は死んだ。
訓練校時代の教官であり、直属の上司であった人間を毒殺した。
死んでいく彼を、私は見ていた。
確かに見ていたはずだった。
しかし、私を脱獄させ、再度艦娘として鎮守府に配属させたのは、紛れもなく彼だった。
そして、今も、私の前にいる。
英治「さて、えー、我が宿毛に、新しい仲間が着任することになったんで、紹介しますね!!」
…。
英治「あの『世界のビック7』と謳われた、戦艦【陸奥】でーす!」
山城「…新しい戦艦ですって?火力負け…不幸だわ…」
文月「山城姐さん!大丈夫ですって!!宿毛鎮守府ナンバーワン戦艦は姐さんです!!」
英治「では、【陸奥】さーん!入ってくださいねー」
ガチャ
カツ カツ…
陸奥「皆さん、おはようございます。今日より宿毛鎮守府に配属することとなった【陸奥】です。皆さんのお役に立てるよう努力します」
今日より、私は、【比叡】の名を棄て【陸奥】となった。
大淀「元帥、お久しぶりです」
提督「押しかけた形になって、すみませんでした」
元帥「別に構わんよ、ちょいと暇していたところだ」
【元帥】#とは
大将よりも更に上位で軍隊における最上級の階級である。第二次世界大戦時における海軍元帥は片手で数えるほどしかいなかったが、現在では"39"人存在している。
それはなぜか。
現代においては、【元帥】とは支部長のことを指し。北海道4エリアと四国エリア、その他海に面している34都府県に、1人配属されている。
もちろん、この【元帥】の地位に就くには、それ相応の、戦果とスペックが必要だ。
提督「そう言っていただき、有り難いです」
元帥「ん〜、あ、そういや見たぞ?あの演習記録。また、随分と派手やってくれたようじゃないか」
提督「あの後、嫁にこっぴどく叱られましたよ」
元帥「そういや、結婚するそうらしいじゃないか。おめでとう!」
提督「ありがとうございます」
元帥「披露宴は呼んでくれよ?」
提督「それはできませんね、相手方の"しきたり"に従わなければなりませんから」
元帥「…え、なになに、孕ませた相手って貴族なのか?」
提督「かなり、そこそこ大手の家です」
元帥「くぅー、お前ら兄弟は破天荒だな!」
提督「よく言われます」
大淀「提督…、話がズレてます」
提督「…」
元帥「『宿毛鎮守府との演習までの親善試合の申し込み』だったな」
提督「詳しくはお教え出来ませんが、宿毛鎮守府はかなり厳しい戦いとなることが、予想されます」
元帥「へぇ、いや、マジで構わないぞ。暇だから」
提督「ありがとうございます」
元帥「こっちの編成に要望はあるか?」
提督「潜水艦を入れてもらえれば嬉しいです」
元帥「よぉし、おk、わかった。じゃあ、明日の午後1時からにしようか」
提督「了解しました」
元帥「いやぁ、話題の新星は如何ほどか…」
提督「あまりハードルを上げないでください」
元帥「じゃあ、私はそろそろ帰らせてもらうよ」
提督「では、明日の1時、よろしくお願いします」
元帥「じゃあね」
ガチャ パタン
大淀「…まさか元帥が来るとは思ってもいませんでした」
提督「豊橋の提督を弾劾しましたからねぇ。元帥も、本部から指導が入ったんでしょうね」
大淀「見廻りですか」
提督「これで、全国から数か所程、ブラックが消えていくでしょうね」
大淀「できれば根絶したいものです」
提督「面白そうですね。やってみます?」
大淀「恨み買って殺されそうなので、やめておきます」
提督「そんなこと言ったら、僕なんて豊橋に殺されかねない」
大淀「葬式は呼んでくださいね」
提督「死人は発言できません」
大淀「そこですか」
提督「ツッコむくらいなら、ボケないでください」
大淀「すみません」
…!
提督「…ここの鎮守府に、ワゴン車ってありましたっけ?」
大淀「どうでしたっけ?」
提督「車庫見てきます」
大淀「私も行きます」
ガチャ パタン
時雨「提督。おはよう♡」
提督「おはようございます、時雨ちゃん」
大淀「時雨さん、おはようございます」
時雨「…提督。どこ行くんだい?」
大淀を無視したな。
提督「明日の親善試合の会場に向かう車が、あるか見に行くんですよ」
時雨「へぇ」
提督「良かったら、一緒に行きますか?」
時雨「今日は、遠慮しておくよ」
提督「?」
時雨「愛宕お姉ちゃんに、"勉強"教えてもらうの」
提督「勉強ですか」
時雨「そう、"勉強"」
大淀「…」
提督「では"勉強"がんばってくださいね」
大淀「…」
提督「…」
大淀「提督。絶対にヤバイやつですよ」
提督「分かってます分かってます」
大淀「Armen」
提督「死んでませんよ」
大淀「はい」
提督「…ここですね」
ガチャ
大淀「ありましたね。トラックですが」
提督「大型自動車の免許持ってて良かったです」
これなら同時に艤装も運べる。
大淀「提督。この後、ミーティングを入れることもできますが、明日にしますか?」
提督「今日のうちに終わらしましょう」
大淀「では召集しておきます」
提督「お願いします」
【ミーティング】
提督「明日、愛知県元帥との親善試合が決定しました」
愛宕「あら、明日合コン入れてあるのに…」
提督「面白い冗談として受け取ります」
愛宕「嘘よ」
提督「…朝7時にここを出発する予定です」
霧島「提督…」
提督「どうしました?霧島さん」
霧島「拿捕した【戦艦】についてはどうするつもりですか?そう、やすやすと、鎮守府を空けるのは、いささか不用心ではありませんか?」
提督「『対艦娘障壁』で囲まれた独房に、安置させています。艤装も取り除いているので、破壊はまず不可能です」
霧島「外的要因は?」
提督「扉は、僕の『キー』でしか開けることはできず、壁は厚さ5mのコンクリートで覆われているので、重機や爆薬が無ければ破壊できません」
霧島「…なら、いいのですが」
提督「もっとも、情報が漏れていなければ…ですが」
金剛「なんだか意味深デース」
提督「ただの可能性の話ですよ。そもそも、堂々と重機やらダイナマイトやらを、持ってくるわけがないでしょう」
加賀「それに、無力化されている【戦艦】一体に何ができるというの」
提督「加賀さんの言う通りだと思います」
霧島「…」
提督「まぁ、霧島さんの言い分も分かりますが、どうかここは下がっていただきたい」
霧島「…はい」
提督「…明日については、『対潜水』を中心に作戦を進めていきたいと考えていまして、金剛さん霧島さんには、【長門】を抑えていただきたいのです」
【長門】
戦前まで、『日本海軍の象徴』として扱われていた戦艦であるため、【長門】の名を得るには、教養及び体力試験において、訓練校トップの成績でなければならない。また、現在最大口径41センチの主砲を装備しており、【人型】を一撃で沈ませることができる程の、火力がでるというデータが発表された。
その上、愛知県支部に配属されている【長門】は、規格外の強さで有名である。
霧島「『愛知の闘神』ですか…」
提督「ネーミングセンスを疑いたくなります」
霧島「…言ってはいけませんよ」
提督「言うわけ無いでしょう、僕が消し炭にされます」
大淀「提督」
提督「すみません。ということで、金剛型のお二人は【長門】の足止めをしていただき、一航戦の、赤城さん加賀さんには、その他の排除をしていただきたいのです」
赤城「つまり、私たちが攻撃の要である。そういうことですね」
提督「その通りです。注意点としては、艦載機は、必ず艦載機同士を離してください。もしかしたら、三式弾などで一網打尽にされかねません」
赤城「了解しました」
提督「時雨ちゃんには、潜水艦にのみ集中していてください」
時雨「言われなくても、そのつもりだよ」
提督「頼もしいですね」
時雨「提督。君のためならなんだってするよ♡」
提督「…最後に、愛宕さんですが」
愛宕「なにかしら?緊張するわ〜」
提督「金剛型、一航戦の援護射撃をお願いします」
愛宕「射撃…ですか」
提督「おそらく、僕の予想では、最も厳しい役になります。覚悟していてください」
愛宕「ふふ、いいわ。この燃えるような感じ…、いつ以来かしら」
提督「了承していただいた。というふうに受け取ります」
愛宕「頑張るわよ!」
提督「皆さん頼もしいですね。では、解散します」
【2016/06/11】
愛知県支部は、愛知県の県庁所在地である、名古屋市に置かれている。
今回の親善試合は、名古屋市からほど近い【伊勢湾】で行われることとなった。
もちろん、伊勢湾では貨物船などの海上運送船が横行しているため、1日1試合1時間と、長時間の試合はできないこととなっている。
提督「元帥、よろしくお願いします」
元帥「よーしっ、久々に頑張りましょー!」
大淀「相変わらずですね、元帥は」
元帥「当たり前だろ?元帥になってからというもの、なかなか出撃できる機会はないからな」
大淀「ふふ、こちらは負けるつもりなど、ありませんから」
元帥「ほう、それは楽しみだ」
提督「大淀さん…、あまりハードルを上げないでください」
長門「元帥に期待されてるぞ?英華」
提督「ここでは名前で呼ばないでください」
長門「『愛知県支部所属田原鎮守府中佐』でいいか?」
提督「面倒なんで名前でいいです」
長門「省略もできるぞ、『愛原中佐』」
提督「愛原ってだれですか。名前でいいですからね」
長門「ちぇー」
提督「急に口調を変えたところで、ハニートラップにもなににもなりませんからね」
長門「…やはり、そうか」
金剛「…霧島、提督…長門と仲良すぎじゃないデスか?」
霧島「実は、長門さん、鎮守府によく来ているんですよ」
金剛「Really?」
霧島「はい、もちろんです」
金剛「一体どういう関係ネ」
霧島「さぁ?全く検討もつきません」
愛宕「実は、近所のお姉さんだったりして」
金剛「Majide?」
愛宕「あくまで予想よ」
霧島「ですよね」
提督「では10分後開始、ということで」
元帥「だな。じゃあお互い頑張ろう」
霧島「提督、何を話されていたのですか?」
提督「ただの世間話だよ」
金剛「Please tell me!!!長門とはどういう関係ネ!!」
提督「小学時代からの、近所のお姉さんですよ」
霧島「なッ!??」
愛宕「あら、あたっちゃったわ。幸先良いわねぇ」
提督「あのおばさんも、よう頑張るものです」
大淀「後方から殺気を感じます。提督」
提督「…」
長門「英華め…、変わらずババア扱いしやがってッ」
元帥「といっても、お前だってもう30過ぎだろ。オバサンだ」
長門「うわぁ、お前までそういうのか」
元帥「いい歳して、へそ出しミニスカは痛いね」
長門「仕方が無いだろ!兵装がこれなのだから!」
元帥「着物とかいいんじゃないか?正月綺麗だったぞ」
長門「殴りにくいだろ」
元帥「戦闘メスゴリラめ」
長門「後で覚えておけ…」
元帥「この試合に勝てば…な」
長門「おいおい、私があんな小娘どもに、負けるとでも思ったのか?」
元帥「そこまで言うなら…、圧勝…してくれるんだろうな?」
長門「当たり前だ。特にあの澄まし顔メガネはボコしてやる」
元帥「…容姿と美学が反比例してるな、ほんっと」
霧島「…あれ、悪寒が」
一般人A「おい、支部長と田原んとこの提督が親善試合だとよ」
一般人B「命知らずだよなぁ…」
一般人C「田原って…強いのか?」
一般人A「なんでも、豊橋相手に圧勝したらしいぞ?」
一般人C「まじ?豊橋って…弱くはなかったよな…?」
一般人B「噂によると、田原の提督はど素人らしいぞ」
一般人A「運がいいのか、はたまた天才か」
一般人C「…にしても、なんで沖に出ないんだ?伊勢湾じゃ狭くないのか?」
一般人A「伊勢湾つったって、1,738 km²もあるんだぜ?十分広いだろ」
加賀「提督、長門を見つけました」
提督『他には、長門さんの他に誰かいますか?』
加賀「…そこなのよ、長門以外誰も…」
提督『まだこちらは、見つかっていませんね?』
金剛「もちろんネ!」
提督『潜水艦の方はどうですか?』
時雨「まだ、なにも…」
提督『妙ですね…、探索範囲を、前方位ではなく、全方位にしてみましょう』
赤城「…わかりました」
霧島「…まさか、つまり、相手はこちらを囲むように、移動している…ということですか?」
提督『わかりませんが…可能性はあります』
霧島「…そうだとしたら、かなり厄介です」
言わなくともわかると思うが、囲まれるという状況は、絶対に避けたい、避けなければならないのだ。
こちらからしてみては、的が増えるということは、その分人員を割かなければならなくなる。それは、火力の低下、命中率の低下にも繋がる。
逆に、囲んだ側としては、砲撃を避けやすくなり、なおかつ、的が一点にあるのだ、…集中砲火が可能という事になる。
提督『長門さんから距離をとりつつ、その他を一人ずつ撃破していくことにしましょう』
霧島「了解」
長門「…ふむ、私から逃げていくのか…」
「長門から入電、『北へ向かった』とのことです」
元帥「やっぱりそうきたか。でも残念、そうじゃないんだよ」
瑞鶴「長門さん、そろそろですか…」
長門「よォーしッ!空母部隊!第一陣発艦せよ!」
バシュ バシュ
バシュ バシュ バシュ
バシュ
ブロロロロ……
長門「やはり、これだけ飛ぶと、空が黒いな」
瑞鶴「それにしても、元帥ったら悪人よ」
翔鶴「あら、元帥のゲス加減は元からじゃない」
瑞鶴「そうだけどさ!『約束通り潜水艦は入れてやる』って、たった1人だけじゃない!その他は長門さんと空母って…、もう潜水艦いらないじゃない!」
翔鶴「フフフ、わかってないわね」
瑞鶴「え?」
翔鶴「これだけ艦載機が飛べば、相手だって『潜水艦はいないんじゃないか?』って疑い、混乱するわ」
蒼龍「あとは、油断したうちに、下からドガン!」
瑞鶴「それって、元帥を信用している前提ですよね…」
翔鶴「そうね。いや、そうでなくとも、効果はなくはないと思うわ」
瑞鶴「…そうよね!私たちが…負けるはずはない!」
長門「当たり前だ!無敗が我々の誇りだッ!違うか?」
瑞鶴「長門さん!!」
提督「…ここまで探索して、影一つ見つけられないとすると、実は、長門さんの後ろにいたのではないでしょうか」
大淀「まさか、なら、なぜ見つけられなかったのでしょうか」
提督「それこそ、散らばっていたからでしょう。長門さんを見つかりやすい配置において、注意を引き付ける…」
大淀「こうなる事が読まれていた?!」
提督「加賀さん、長門さんの方か何か来ていないか、確認お願いします」
加賀『…黒雲』
提督「?今日は、確か、快晴のはずですが」
加賀『敵艦載機がこちらに向かってくるわ。数は不明』
提督「?!」
大淀「まさかッ!やはり?!」
提督「やられましたねぇ…。おそらくこれでも第一波でしょう。…金剛さん霧島さん、【花火】の準備お願いします」
金剛『もう装填済みネー!』
提督「では、射程圏内に入ったらすぐに撃ってください。愛宕さんも援護射撃お願いします」
元帥「きっと、あいつの顔は、蒼白になってるんだろうなぁ」
「蒼龍よ入電!…ぁ?」
元帥「入電?それでなんだって?」
「…艦載機の5割消失、撃墜されましたッ」
元帥「え、まじか…。あいつも空母重視の編成で…、いやそんな事はないか、一航戦の奴らしか見ていないからな」
「…元帥?」
元帥「各機の距離を離すように伝えてくれ」
蒼龍「…元帥からです。各艦載機のスペースを開けろ。だそうです」
長門「第2発艦用意!」
蒼龍「もう叩くんですか!?」
長門「駆逐艦を徹底して撃沈させる。後はイクに任せればいいだろう」
瑞鶴「なるほど!潜水艦でジワジワ嬲っていくんですね!!」
翔鶴「瑞鶴?言葉が汚いですよ」
長門「よしッ!発艦せよ!」
霧島「司令!敵艦載機の陣形が変わりました」
提督『あー、おそらくバレたんでしょうね』
加賀「そろそろ私たちも動いたほうがいいのでは?」
提督『そうですね。赤城さん加賀さんは、準備が整い次第発艦してください。時雨ちゃんは自分のみを守りつつ探索してください。おそらくターゲットは時雨ちゃんです』
時雨「え、僕かー」
霧島「対潜を排除した後、潜水艦で集中攻撃するつもりということですか。それにしても、何故こちらの詳細がわかったんでしょうか」
提督『既に下にいるんじゃないんですか?潜水艦が』
時雨「え?!反応はないけど…」
提督『潜水艦が動くから、こちらのセンサーが反応するんですよ。ならばずっと静止していればいい』
加賀「赤城さん、私はいつでも射てるわ」
提督『赤城さん加賀さん、艦載機を飛ばした後、相手の艦載機よりも高度を上げてください。そして、奴らを引き付けてほしいのです』
霧島「それを私たちが狙う。そういう事ですね」
提督『えぇ、その通りです。それと、艦爆も飛ばしていただきたい』
赤城「それだと、機動力が低下してしまいます!」
提督『それ承知ですよ。艦爆が投下した爆弾を、愛宕さんが撃ち抜いてくれれば、理想的なのですが』
愛宕「…やってみるわ!」
提督『これからは、時雨ちゃんを護りつつ、敵艦載機を減らしていきます』
元帥「なるほどねぇ…、そう来るか。こちらが相手艦載機を追撃しなければ、上から攻撃される事は目に見えている。だからといって、追撃したならば、あいつのトンデモ兵器の餌食ってわけかー」
一般人A「支部長、お久しぶりっす」
元帥「お?ゲンさんじゃないのー!元気してた?」
一般人A「お陰さまでバリッバリっすよ。にしても、まさか伊勢湾でやるなんてねぇ」
元帥「あぁ、長距離移動するより、近所で試合できたら楽でしょー」
一般人A「あっはっは、相変わらず理由がぶっ飛んでますなっ!ところで、今どんな感じなんすか?」
元帥「もちろんこっちが優勢だわな、今ん所」
一般人A「田原んとこ強いんすか?」
元帥「強いか弱いかっつたら、そりゃあ素人だ、弱い。だが、いやぁ、発明品がトンデモで面白いんだわw」
一般人A「発明品っすか?」
元帥「噂程度にしか耳にしていないが、自作の兵器を艦娘に搭載しているらしいんだわ。まさか、本当に搭載してるとはね」
一般人A「まさか、核弾頭とか?いやいや、それはないか、例えばどんなんっすか?」
元帥「破片を広範囲にバラ撒く兵器だと思うんだよね、まさか、艦載機の5割が一瞬でお釈迦になるとはねぇ」
一般人A「あらら、大局的にみて、不利じゃないっすか」
元帥「確かに、兵器の質はこっちが劣っている。だが、戦場で真価が発揮されるのは、紛れもなく知識だよ。百戦錬磨の我が艦隊は、これしきの理不尽など朝飯前だ」
一般人A「流石、【無敗の鬼神】の異名は伊達じゃない。言う言葉すべてが格言だね」
元帥「おいおい、そんなに褒めてくれるな!褒めたって何も出ないぞ?」
「元帥!翔鶴の弓の弦が切られたそうです!」
一般人A「お?戦況が動きましたね」
元帥「…翔鶴の状況は?」
「無傷です!」
一般人A「うわぁ、エゲツないっすねぇ」
元帥「これが奴の常套手段だよ。それより、まさか一航戦がやられた事をやり返すとはね。驚きだぁ」
加賀「…噂、されている気がするわ…」
一般人A「例のアレっすな」
元帥「あぁ、豊橋ん時だわ。よく知ってんね」
一般人A「そりゃあ、噂は立ちますわ」
「元帥…?」
元帥「これより、長門に全指揮権を譲渡する。好きにやってくれ。と伝えてくれ」
長門「…ほう、やっと私に、完全なる指揮権が…」
瑞鶴「さっさと一航戦なんて、ぶっ潰しちゃましょう!」
長門「よぉし!翔鶴は各空母に艦載機の補充をしてやってくれ、その他は私の援護を頼む!」
翔鶴「わかりました。お任せください!」
長門「私は単身殴りに行ってくる!イクは隙を見て奇襲をかける準備をしてくれ!」
瑞鶴「イクさんに打電済みよ!」
霧島「ッ!!墜としても墜としても、キリがないわ!」
提督『そうですね、ここは機動力を活かしてみますか』
金剛「What??具体的には何ネ??」
提督『全速力で外を周って、艦載機を引きつけましょう。あとは【花火】で撃墜しつつ、空母を潰しに行きます』
霧島「無茶苦茶な!」
提督『いずれにせよ、残り10分をきりました。勝負をするなら今でしょう』
金剛「フフ!受けて立つネ!」
霧島「お姉様?!」
愛宕「肩凝りが酷くなりそうだわぁ」
霧島「…やる気満々ですね」
加賀「…悠長にそんなこと言ってられなくなったわ」
霧島「どうしました?」
加賀「全速力で、長門がこっちに向かっているそうよ」
提督『ここからは二部に分かれましょう。対長門部隊、金剛さん、愛宕さん、加賀さんお願いします』
金剛「ラスボスネ!Burning!!燃えてきたネーッ!!」
愛宕「あらあら、私が英雄の足止めなのね」
提督『足止めと言わず、殲滅といきましょう』
愛宕「買いかぶりすぎよぉ!」
加賀「貴女が弱音だなんて、珍しいわ」
愛宕「弱音なんて吐いてないわよ?ただ、あまりハードルを上げられすぎると、勝った時の感動がうすくなるじゃない」
提督『よく言いました。加賀さんについては、全艦載機を長門に向けた後、第二部隊を追ってください』
加賀「そして、赤城さんから矢を譲ってもらう…。私達の誇りを一切無視してくれるわね。気に入った。いいわ。やってあげる」
提督『話が早くて助かります。第二部隊については、長門から避けつつ、その他空母を集中攻撃してください』
霧島「わかりました。では、皆さん行きましょう」
時雨「潜水はもういいのかな?」
提督『一応注意していてください。まぁ、こちらの全速力に、潜水艦が追いつけるのか怪しいですが』
長門「ん?ほう、舐められたものだな。この私の相手が、たったの3人だけとはな」
愛宕「聞き捨てならないわね。上から目線でウザいわ」
金剛「No!Ms.愛宕!仮にも相手は、Heroメスゴリラ、ウザいのは当たり前ネ!」
長門「よし決めた。撃沈させてやる」
加賀「馬鹿みたい…。時間がないの。さっさと終わらしてちょうだい」
金剛「よォーし!バーニン…」
ドシャ…
長門「バーニンがなんだって?」
金剛「痛ッ!殴ったネ?!」
長門「砲撃戦など最終手段だろ」
愛宕「…」
あまりにも速すぎて、身体が追いつかなかったわ…。
長門「それにしても、さっきからコバエがうるさいな」
加賀「…頭にきました」
ドンッ
長門「危ないな…、人の会話に邪魔をするとは」
愛宕「加賀さん!早く行って!!」
加賀「…?!わかったわ」
長門「行かせると思ったか?狙いよし…」
金剛「こっち見るネ!長門!!」
パァンッ…
長門「ッ??!!閃光弾?!なんでこんなm」
金剛「よそ見しちゃNoだからネ?」
愛宕「これで終わりよ!!」
長門「見えないが…わかるぞ」
愛宕「え?!」
金剛「愛宕!避けるデス!!」
愛宕「」
大淀「愛宕さんが撃沈判定…」
提督「…」
金剛「まるでMonsterネ…。Blindで動いているなんて…アホみたいネ」
長門「生憎、私には目の代わりになってくれる"仲間"がいるんでね」
金剛「仲間?」
長門「まだ解らないのか?ヒントは上と下だ」
金剛「まさかッ!!」
長門「遅いな」
伊19「潜水艦がいるって知ってたんでしょ?油断しすぎなのね」
金剛「…ッ(直撃…大破してしまったデス)」
長門「あー、やっと目が慣れてきた…。よし、この一発で金剛、お前は撃沈だ」
金剛「ふぅー、私の負けネ…」
提督『愛宕さん、金剛さん…お疲れ様でした。息が整い次第帰投してください』
愛宕「…わかったわ」
…。
大淀「提督。タイムアップです」
提督「皆さんお疲れ様でした。ゆっくりでいいです。帰投してください」
霧島中破、金剛撃沈、愛宕撃沈、加賀撃沈、時雨大破、赤城中破…。
圧倒的な差でこちらが負けた。
敗因は、僕の采配が全て読まれていたという点だろう。元帥側は、潜水艦を使って、随時こちらの動きを把握していた。僕はそれに気付くのが遅かったのだ。
だからといって、気付いていたら何かできたらのかと、問われると困ってしまうだろう。潜水艦がいるとしても、どこに潜伏しているのかわからない以上、叩くことができないからだ。つまり、監視の目から逃れられることは不可…。
序盤から詰んでいたということだ。
あの試合を終えてから6時間後、元帥の勧めで、愛知支部管轄の港で宴会をすることとなった。
長門「にしても英華〜、大口叩いてあの様か?」
提督「もう少し善戦できると思ったんですがね、まさか肉弾戦を持ち込んでくるとは思ってもいませんでした」
長門「フッ、英華も甘いな…。艦娘に対する偏見が拭えていないな」
提督「残念ながら、えぇ、きっとそうです」
長門「ところで、ちょっと一本、相手してくれないか?」
提督「ノーマル人間が、艦娘の相手をしたらどうなるかくらい、あなたはわかるでしょう…。殺す気ですか」
長門「今までだって散々やってきたじゃないか!」
提督「…わかりました。できれば外の草むらでやりましょう。コンクリートだと痛いですから」
霧島「近所のお姉さんだとしても、これは横暴過ぎるのでは…」
金剛「メスゴリラめ、私のテートクをたぶらかしやがって」
霧島「お姉様、言葉が汚いです。というか司令は隼鷹さんと結婚してます」
金剛「…」
瑞鶴「…あんたら、い、一航戦のクセに素直ね」
赤城「そうかしら?加賀さん!こんな可愛い娘に褒められちゃいました」
加賀「当たり前でしょう。例え五航戦であろうと、私の赤城さんの良さに気付かないわけがないわ」
瑞鶴「…あんたは、相変わらずね」
加賀「…あら、確かに美少女じゃない。髪をボブにカットしたら、尚良くなるんじゃないかしら」
瑞鶴「ッ//////?!?」
蒼龍「…瑞鶴さん、ちょろいなぁ」
愛宕『皆さーん。提督と長門のマッチ戦が始まっちゃいますよー』
加賀「…は?」
赤城「……、私達の提督ってドMだったのかしら」
元帥「やれやれ、こっちはようやく酒が回ってきたというのに…」
時雨「…」
金剛「愛宕のバカ!外にGalleryが集まってきたネ!」
霧島「…まさか、内部外部のスピーカーを使うなんて…、愛宕さん酔っ払っているのね…」
提督「愛宕さん…、余計なことを…」
長門「良いではないか!この方が燃えるぞ!」
提督「お姉さんもがんばりますね」
長門「まだ30だからな」
提督「…(うーん、この)」
一般人A「…人間と艦娘の戦いか…。あれは田原んとこの提督?か…。元帥も悪いお方だ、罰ゲームがこれだなんて」
元帥「言っておくが、これはあいつ等の独断だ」
一般人A「うお?!いつの間に!!」
元帥「まぁ見てろ。面白いから」
金剛「テートクッ!!ガンバレデース!」
時雨「……」
霧島「…司令がドMなわけ無いわ…、こっとこれはコントよ」
長門「フッ、そろそろ始めようか」
提督「…わかりました。腹をくくりましょう」
長門「私から行くぞ!!ハッ!!!」
提督「…」
…。
…。
元帥「な、面白いだろ?」
霧島「??!??????」
全体『?????』
提督「英雄長門がこのザマじゃ駄目でしょう」
長門「相変わらず、すごい動体視力だな…」
提督「そうですね、それは自負してます」
長門「これで私は、『2勝12敗』か」
提督「後10回やればゾロ目ですね」
長門「…やるか?」
提督「構わないですよ」
金剛「…提督、Strong過ぎません?」
霧島「…」
翔鶴「流石にヤラセでは…」
瑞鶴「でも、私が見る限り、今までで1番気合が入ってた長門さんだった…?」
元帥「俺が、愛知支部支部長…ここの地位についた頃には、『10対2』で、長門が負けていたよ」
一般人A「ほえー、ところで、さっきのは何が起きたんだ?」
元帥「見ていた通りだな。長門が右ストレートを放ち、英華がそれを掴んで、持ち上げ、放り投げた…。英華って、田原んとこのな」
一般人A「闘神長門が、人間相手に負けるなんて、信じられない」
元帥「同意見。未だに不明だよ」
金剛「…提督が海に出たほうが、早く戦争がFinishするんじゃないカナ?」
霧島「私も、それ思いました」
大淀「…」
金剛「それにしても、提督エロかったネ」
霧島「どういうことです?お姉様」
金剛「提督がメスゴリラを持ち上げるとき、肩とアソコを掴んで持ち上げてたデス」
時雨「…」
金剛「何かの武術デスカネ?」
霧島「わかりません…」
その後、案の定、長門の記録は『2勝22敗』と、ゾロ目になったのだった。
霧島「…やはり、理解できません」
夜も深まり、酔っぱらい共が騒いでいたのが嘘のように、波の音しか聞こえない、静寂に包み込まれた。
元帥「こいつら…、自分たちが女だってこと忘れてるんじゃないか?」
提督「それほど疲れていたんですよ。一部は酔い潰れているだけですけど」
元帥「なぁ、そういえば、お前さんらが使った、あれはなんだ?」
提督「あれ…ですか?」
元帥「こっちの艦載機の過半数を一瞬で撃墜したやつだ」
提督「それですね。そうですね、宿毛鎮守府との演習を終えてから、情報を開示する予定だったのですが…」
元帥「一切他言はしないから、教えてくれまいか?」
提督「嫌です。と言っても聞きませんよね。わかりました」
元帥「やったぜ」
提督「従来の三式弾だと、前方にのみしか効果がないということが、致命的な欠点でした」
元帥「あぁ、なるほどね」
提督「なので、全方向に効果が出るような、新しい砲弾を開発したんです」
元帥「その類の砲弾で、艦娘用はまだ無いからな」
提督「まぁ、兵器だけじゃ勝てないという事も、思い知らされましたね」
元帥「長門が特殊なんだよ」
提督「えぇ、まさか肉弾戦で挑んでくるとは、考えてもいませんでした」
元帥「アイツ気合入ってたからなぁ」
提督「やはり、艦娘にも格闘技を習わせるべきでしょうか」
元帥「さぁて、どうだろうなぁ…。演習のように、対艦娘なら効果はあるかもしれない。だが、対深海棲艦を考えると、自殺行為としか思えないな。長門を除いて」
提督「…そうですよね」
元帥「いや、まぁ、お前んとこの艦娘も、なかなか良い動きをするんじゃないか?洗脳を解いてから、そう時間も経っていないだろうに」
提督「独自のトレーニングが良かったんでしょうね。自慢じゃありませんが」
元帥「独自?それも極秘のやつかい」
提督「そんな大層なものではないのですがね。アイススケートのノウハウを教えたんですよ」
元帥「悪いな、アイススケートを見たことがない」
提督「今度観てみると良いでしょう」
元帥「そうすっかな」
提督「簡単に話しますが、艦娘が教科書通りに水上を移動するとして、旋回しようとすると、どうしても大回りになってしまうんです。その際のラグがとてももったいない。なので、スケートの様に動ければ、小回りが利く」
元帥「へぇ、なるほどねぇ」
RRRRR
提督「ん、少し失礼します」
元帥「おう」
提督「はい、英華です」
隼鷹『おい!早く戻ってこいって!!』
提督「どういう事ですか?」
隼鷹『鎮守府がヤバイんだって!』
ここにきて、僕は最大の穴を、見落としてしまっていたらしい。
奈落へと繋がる穴。
二度と空を見ることができない、深い、深い、穴。
僕はまんまと落ちたのだった。
なんと、今まで書いていた部分を、保存していませんでした。たった今気づいて、更新した次第です。
バグかどうかは知りませんが、これ以上更新しようとすると、ブラウザがフリーズするので、【4】の方に移行しようと思います。
※【4】更新しました。
新スレ立てすぎ
北川って誰だよ
>>2
ご指摘ありがとうございます。
質問に答えさせていただきますと、同級生です。すみません。
赤城「ダメよ赤城さん!!」
自分に言ってるの? それとも加賀さんに言ってるの?
そこらへん わかんないなー
赤城「ダメよ加賀さん!!」じゃね?
何回もコメすいません
>>5
やってしまいました。
ご指摘ありがとうございます。