燃える艦これ 神通編
これはとある鎮守府の神通さんのお話。
みなさん、お待たせしてしました!
恥ずかしながら帰ってきました。
更新には時間がかかってしまいますがよろしくお願いします。
初めてSSに挑戦しました。
慣れてないので分かりずらい部分、ガバガバ設定などもあると思いますが、温かい目で見守って頂けたら幸いです。
よろしくお願いします!
地の文あります。
また、艦娘の撃沈が出て来ますのでそれを留意しつつご覧ください。
コメント1は無事解決しましたのでスルーしてください。
チョット恥ずかしいので…
『撃てっ!神通っ!』
『っ!でもアレは…』
『…違う!あの子は沈んだんだ!あいつはあの子じゃない…!』
『アレは敵だ!撃たなきゃこっちが沈む!』
『っくぅ!』
私は戸惑いながら目の前の黒い少女に照準を合わせる。
『…』
少女は虚ろな蒼い瞳をこちらに向ける。
その瞳からは一筋の涙が流れている。
『ごめんなさい…!ごめんなさい…!』
私は叫びながら引金にかけた指に力を込める。
発射された砲弾が少女へと迫る。
そして少女の胸のあたりに着弾し、肉が飛び散り、骨が砕けてーーー
神通「…っ!」
そこで神通は目を覚ました。
枕の横にある時計は0400を指している。
神通「ハァ…ハァ…」
まるで長距離を走ったかのような汗をかき、寝巻きが肌に張り付いて気持ち悪い。
ああ、またあの時の夢か
神通「…うっ」
いつもの様に胃が縛られているような不快感が襲ってくる。
神通は口を手で抑えながらベッドから飛ぶように降りてトイレへと急ぐ。
神通「っ!」
乱暴に扉を開けたのでバタンと大きな音をたてる。
神通「うぐ…おえぇ…」
そして便座に身を伏せ胃の中のモノを全て吐き出す。
逆流した胃酸が喉を焼くような感覚は何度経験しても慣れるものではなかった。
神通「………ふぅ」
ようやく不快感から解放された神通は洗面所で手洗いうがい、流れ出た汗をタオルで拭う。
鏡をふと見ると顔面蒼白のまるで幽霊のような自分の顔が映る。
神通(こんな酷い顔、提督には絶対見せられないです…)
心の中でため息をつきながら姉が眠るベッドへ静かに戻ろうとすると。
川内「神通…また?」
神通「あっ…姉さん…」
先ほどのトイレの扉の音で目を覚ました川内がベッドから心配そうに声をかける。
自分の所為で毎回起こしてしまっているので神通は良心が痛む。
川内「大丈夫…じゃないよね」
神通「いえ、大丈夫です。心配かけてごめんなさい」
弱々しい声で答える神通に川内は自分の無力さを痛いほど感じてどうしようもなく悔しくなるが、それを顔に出さないように努力する。
この瞬間は自分しか神通を支える者はいないのだ。
川内「…まだ時間あるからベッドに入りな?」
神通「あ、いえ、私はもう起きてようかと…」
川内「ダメダメ!最近全然寝れてないでしょ?少しでも休まなきゃ。お姉ちゃんの命令だよ!」
神通「!…フフ…そうですね、わかりました」
うんうん、と頷きながら川内が手招きする。
神通はそれにつられてベッドに入る。
今、姉妹は“3人用のベッド”を“2人で”使っている。
こうなってから半年経ったが神通は今でもこのベッドが広く感じる。
そして夜が来るたびに思う。
私の隣で可愛い寝息を立てていたあの子はもういないのだと。
川内「おやすみ、神通」
神通「…おやすみなさい姉さん」
そして神通は目を閉じる。
しかし眠ってしまうとまたあの夢を見てしまう気がして、なかなか寝付けなかった。
ピピピッピピピッと目覚まし時計の音が鳴る。
結局神通はあれから一睡も出来ずに起床時間を迎えてしまった。
昨日の疲れが残っている身体を動かし、時計の音を止める。
身体中が痛くて、重くて、辛い。
けれどこんな苦しみはあの子が感じた痛みに比べれば小さいものだ。
それにこれはあの子を沈めた私への罰なのだろう。
朝食を食堂で済ませた神通は川内と別れ、執務室へと向かう。
提督「おはよう」
大淀「おはようございます、神通さん」
執務室では提督と大淀が神通を待っていた。
神通「おはようございます」
神通は2人に向かって頭を下げる。
この鎮守府の秘書艦は大淀と神通の2人が務めている。
大淀は提督が鎮守府に着任した当初から、神通は半年前から行っている。
ただし、神通は駆逐艦の指導も兼任しているので常任というわけではない。
提督「じゃあ2人とも、今日も始めようか」
大淀「はい」
神通「はい…」
3人は挨拶を済ませると席に座って書類作業を開始する。
大本営に提出する書類を処理しなければならないのだが、神通は書類作業が得意な方ではないので机に積まれた書類を見てゲンナリする。
神通「うぅ…」
でも、提督の為に…
今日も書類との戦いが始まる。
開始して3時間ほど経過した。
3人は途中で休憩を挟みながら作業を続けていた。
神通「ふぅ」
ようやく一段落ついて固まった身体を伸ばしながら時計を見るともう1200になっていた。
神通「そろそろお昼にしませんか?」
提督「んー、キリが悪いからこれを片付けたら頂くよ」
大淀「私もです」
提督「神通は1300に駆逐艦の座学が入っているから先に食べてるといい」
神通「…わかりました。お先に失礼します」
神通は少し残念そうな顔をしながら執務室を出て食堂へと向かった。
部屋に残った提督と大淀は再び書類へと視線を戻す。
手を動かしながら提督が話しかける。
提督「…もうすぐ大規模作戦だが、みんなの様子は?」
大淀「みんなの練度も上昇してますし、今回は順調に攻略できると思います」
提督「そうか…。でも油断せずにいこう」
あ、そういえばと大淀が思い出したように提督に1枚の紙と小さな箱を渡した。
大淀「大本営からケッコンカッコカリの指輪が送られてきましたよ」
最近追加された新しいシステムであるケッコンカッコカリは練度が最大となった艦娘に渡せば最大値が引き上げられ、さらなる練度上昇が可能になると言われている。
提督「指輪…か…」
提督の手の動きがピタリと止まる。
指輪を渡す相手はもう心に決まっていた。
先ほどまで目の前で作業をしていたあの人に。
だが、その人の練度は“半年間、最大値の一歩手前で止まったまま”だったのだ。
提督「何時に、なるんだろうな…」
消えそうな声でそう呟く。
提督の表情で大淀は全てを察したらしく、悲しそうな瞳を彼へと向けていた。
食堂に移動した神通はいつも頼んでいる定食を手に、座る席を探していた。
すると先に食事を摂っていた川内と数人の駆逐艦が呼んでいる声が聞こえてきた。
神通「お疲れ様です」
駆逐艦「神通先生お疲れ様でーす」
駆逐艦の指導は川内型の2人が行っている。
川内は海上(砲撃、魚雷等)、神通は陸上(座学、体力強化等)の訓練を担当している。
なので神通は駆逐艦から名前の後ろに先生を付けて呼ばれることが多い。
神通「隣、いいですか」
川内「うんいいよ」
神通は川内の隣へ座り、目の前の定食に手を合わせて箸を持つ。
神通「皆さん、午前中の海上移動訓練はどうでしたか?」
萩風「わ、私はやっとバランスが取れるようになってきました…」
天津風「天津風はもう素早く移動できるわ!」
雪風「でもさっきおもいっきりコケてました!」
天津風「い、言わないでよ!」
神通「フフ…」
神通は駆逐艦たちの話を聞いて順調に育っていることに安堵する。
萩風「そういえばそろそろ大規模作戦が始まりますね」
神通「そうですね」
川内「まだみんなはお留守番だけどね。私は作戦に参加するからその間、神通に面倒見てもらうよ」
嵐「ん?」
川内の話を聞いた嵐はひとつの疑問が浮かんで何気なく質問した。
嵐「でも1番練度が高いのって神通さんだよな?」
最近着任した駆逐艦は神通が1番練度が高いということは知っていたが、艤装を装着している姿すら見たことがなかった。
なのでこの質問をするのもしょうがないことだった。
嵐「何で神通さんは参加しないんだ?」
神通「ぁ…」
しかし神通にとってこれは最も聞かれたくない質問だった。
神通は動揺してしまい、どのように答えれば良いのか必死に考えても答えが出てこない。
川内「えっと、みんな着任してどのくらいになるっけ」
俯いてしまった神通を見かねた川内が横から助け船を出す。
萩風「1ヶ月です」
川内「あー、そっか…」
川内はこうなると予想していたので平静を保ちながら嘘をついた。
川内「神通の艤装は修理中だから今回は出撃できないんだよ」
嵐「そうなのかぁ…残念だな…」
川内「あ、私のプリンあげるよ」
これ以上この話題を続けないようにと話を逸らす。
見事に駆逐艦たちはプリンに夢中となり、誰が食べるかジャンケンを始めてこの話は終わった。
前にもこのようなことがあったがその時も川内が助けてくれた。
神通は川内が姉で本当によかったと思う。
神通「姉さん…ありがとう」
川内「いいってこと」
しかし助けてもらう度に自分を不甲斐なく感じてしまう。
これ以上、姉に心配をかけさせるわけにはいかない。
神通「はぁ…」
誰にも聞こえないようにとても小さくため息をつく。
いつもなら完食できる定食もなぜか今日は食欲がなくて残してしまうのだった。
駆逐艦s「ハァ…ハァ…」
現在の時刻、1600。
座学が終了し、次は体力作りの時間となった。
駆逐艦たちは鎮守府内にあるグラウンドで神通を先頭にして走る。ひたすら走る。
嵐「も、もう無理だ…」
神通「もう少し、もう少し頑張りましょう?
疲れていても敵は待ってはくれません。勝つよりも…」
天津風「い、生き残る戦い…」
神通「そうです」
勝つよりも生き残る戦い。
いつも神通が駆逐艦に耳にタコができるほど言っている言葉。
これは教訓。
この子たちに自分と同じ思いはしてほしくないから。
神通「ふぅ…ここまでにしましょうお疲れ様でした」
萩風「ハァ、ハァ…えっ、いつもより終わるの早くないですか?」
神通「ごめんなさい、私と姉さんはこの後用事があるので…今日の授業はおしまいです。ゆっくり休んで下さい」
駆逐艦「え?」
神通はそう言うと走り出して何処かへ行ってしまった。
嵐「い、息も切れてないのか…。すごいなあの人…」
天津風「…これからどうする?暇になっちゃったけど」
いつもは早く終われと心の中で願っているがいざこうなるとやる事がない。
萩風「…ねえ、もうちょっと走らない?」
天津風「え⁉︎」
嵐「…そうだな!行こう!」
雪風「はい!頑張ります!」
天津風「しょ、しょうがないわね…!」
4人は再び走り出す。
少しでも神通に追いつけるように。
神通は川内と合流してある場所に向かう。
鎮守府内の隅っこにある海を見渡せる小さな花畑。
そこには石碑が建てられている。
これは彼女の、那珂のお墓。
今日は彼女が沈んでからちょうど半年経つ日だった。
川内「ん?」
花畑に向かう為の最後の曲がり角に差し掛かった時、先客がいることに気付いた。
1人は石碑の前でダンスを披露し、3人がそれを見ていた。
近づいてみると踊っているのは舞風。
見物人は陽炎、不知火、野分であった。
舞風「よっ、ほっ」
舞風のダンスには見覚えがあった。
舞風「あ!川内さん、神通さん!」
2人に気付きダンス止め、全員で挨拶を交わす。
川内「いいダンスだったよ」
舞風「ありがとうございます!着任したばっかりの頃、那珂さんに教えてもらったんです」
川内「そうだったんだ」
どうりで動きが似ていた訳だ。
那珂もよくダンスを踊っていた。
海上でもなりふり構わず踊りだして提督に怒られていたっけ…。
川内と神通石碑に近付き持ってきた花束を添えて手を合わせる。
神通「…皆さん、この日を覚えてたんですね」
陽炎「もちろんです。忘れることなんてできません」
野分「私たちは那珂さんに大切なことを教わりましたから」
川内「…ありがとね、みんな」
4人は今から約7ヶ月前に鎮守府に着任した。
当時の駆逐艦の指導も川内型が行っていたので那珂から教わっていたのだ。
神通「皆さんの最近の活躍をよく耳にしますよ。頑張っているみたいですね」
不知火「いえ、不知火たちはそんな…」
川内「いや、もうみんなこの鎮守府の主力だよ。次の大規模もよろしくね」
不知火「…はい!」
神通「きっと那珂ちゃんも喜んでると思います」
舞風「成長した、私たちの姿を那珂さんに見せたかったな…」
その言葉に野分はまるでダムが決壊したかのように取り乱す。
野分「っ…ご、ごめ…なさい、私がっ…あの時…」
舞風「…!のわっち!」
野分は陽炎姉妹の中で一番那珂のことを尊敬していた。
そして自分の所為で那珂が沈んだと、思い込んでしまっていた。
彼女もまた、過去に囚われていた。
陽炎は不知火と舞風にアイコンタクトを送る。
2人はその意味を理解し野分を抱えて一足先に部屋へと戻る。
陽炎「…すいません、お見苦し所を。本当に泣きたいのは…」
川内「いや、いいんだよ。姉妹みんなで支えてあげてね」
陽炎「…わかりました。失礼します」
陽炎はペコリと頭を下げ、3人の元へ走る。
神通「ぁ…」
その時、神通は川内の言葉に、はっとした。
そうだ。今、川内型は2人しかいない。
加えて、自分はこんな状態。
それならば川内は誰に頼ればいいのだろうか。
神通「姉さん」
川内「ん?」
神通「姉さんは大丈夫、ですか?」
川内「っ…!」
神通は頬を濡らしながら問いかける。
妹に心配をかけられるなんて姉失格だ。
川内はあの時からもう神通の前では泣かないと、気丈に振る舞おうと心に誓っていた。
でも、今日はいいよね。
普段は我慢している涙が溢れ出してきた。
ここは良い場所だ。
多少の泣き声なら波の音がかき消してくれるから。
川内と神通は抱き合い何もかも取り去って子どもみたいに泣いた。
長い間溜め続けた涙はなかなか止まらなかった。
−3日後 グラウンドにて−
駆逐艦「ハァハァ」
神通と4人は今日も体力作りの為に走っていた。
嵐「じ、神通さん…もう無理っ!」
神通「…そうですね。ではあと一周で終わりにしましょう」
さらに神通は付け加えるように言った。
神通「日々の訓練のご褒美として一番早くゴールできた子に間宮券をプレゼントします。頑張ってくださいね」
駆逐艦「!」
駆逐艦全員の顔色が変わる。
間宮さんが作るスイーツは絶品で、艦娘たちに絶大な人気があり、喉から手が出るほど欲しい券だった。
雪風「雪風が頂きます!」
嵐「あ、コラ待て!」
天津風「あ、あたしだって…」
萩風「私も…!」
駆逐艦たちは我先にと全速力で走り出す。
神通はそのあとを追ってゆっくりと進んだ。
なんだかいつもより身体が重く感じるのは気のせいだろう。
雪風「雪風の…ほうが…速かった…ですっ!」
嵐「いや…俺の…ほうがっ!」
雪風と嵐はほぼ同時にゴールしたのでどちらが一番か、膝に手をつき絶え絶えの声で言い争っていた。
めったに貰えない間宮券を決して譲るわけにはいなかい。
萩風「ハァ…ハァ…」
天津風「ふ、2人とも速すぎ…」
一足遅れて萩風と天津風がゴールする。
余りにも疲れ果てていたので先の2人の争いなど聞く耳を持つこともできなかった。
嵐「神通さんは見てたか!一番は俺だったよな!?」
雪風「雪風でしたよね!?」
2人は乱れた息を整えながら言った。
しかし返事が返ってこない。
嵐「…ん?神通さん?」
嵐が振り返って見るとそこに神通の姿はなかった
嵐「あれ?」
いつもなら平然とした顔で今日も頑張りましたねと言ってくれる神通さんはいなかった。
不思議に思い周りを見渡してみると…
自分たちから離れた所に彼女は倒れていた。
は?
一瞬、理解ができなかった。
萩風「っ!神通さん!!」
萩風も神通を見つけ、悲鳴に似た声で叫ぶ。
それで我に返った嵐は急いで神通の元へ走った。
呼びかけにも反応せず意識がない。
あまりの戸惑いに冷静さを失いかける。
どうすればいい。考えろ。
嵐「萩!司令に連絡だ!」
萩風「う、うん!」
嵐「2人は明石さんと川内さんを呼べ!」
雪風「はい!」
天津風「わかったわ」
3人はそれぞれ走り出す。
残った嵐は神通の側で呼びかける。
嵐「どうしたんだよ!神通さん…!」
しかし声が枯れそうになるまで呼んでみても神通が目を開ける事はなかった。
神通が倒れたと聞いた川内は医療室へ走った。
医療室の外で待機していた駆逐艦たちの茫然とした表情を横目で見つつ荒々しく扉を開ける。
川内「神通!」
中にはベットに横たわる神通とそれを看る明石、そして連絡を受けた提督が既に到着していた。
川内「神通の容体は⁉︎」
明石「せ、川内さん静かに!起きちゃいますから…!」
川内「どうなの⁉︎」
川内は我を忘れて明石に詰め寄る。
明石「疲労と軽い栄養失調と思われます。少し休めば良くなりますよ」
川内「そう…。ごめん、ありがとう」
明石の話を聞き、川内はようやく落ち着きを取り戻す。
その様子を見て、先ほどから口を閉じていた提督が話し出す。
提督「…萩風から聞いたんだが、ランニングの途中で突然倒れたそうだ。朝から体調が悪そうな様子はなかったらしいな」
川内「そうなんだ…」
提督「食事はちゃんと食べているみたいだ。それは俺もよく食堂で一緒に食べていたからわかってる」
川内「…うん」
提督「なぁ、川内…」
「何か隠してないか?」
川内「…」
提督の声は優しく、けれど確実に怒りを含んでいた。
川内はもう躱せないと判断し、これまでの事を全て話した。
半年前からろくに眠れていなかった事。
食べ物を吐き出してしまう事。
それを悟られまいと無理をしていた事。
提督「そうか…」
提督はまだ目を覚まさない神通へ視線を移す。
言われてみれば少し頬がこけ、腕も細くなっているかもしれない。
気付けなかった自分に腹が立つ。
提督「どうして言わなかったんだ?」
川内「神通に言うなと…」
それは近くで見てきた神通の性格からして当然と言えた。
そしてきっとこれからも疲れを隠して、影で苦しむのだろう。
しかしそれが提督には耐えられない事だった。
提督「…神通は俺が初めて出会った軽巡で長い間共に戦ってきた」
川内「…うん?」
提督「もう充分なんじゃないかな…」
川内「何を言ってるの…?」
だから口走ってしまった。
提督「解体して新しい…」
人生を過ごした方が幸せなんじゃないか。そう言おうとしていた。
しかし言い切る前に、パァンと静かな部屋に響くほどの大きな音が鳴る。
川内の手のひらが提督の頬を叩いたのだ。
その凄まじい衝撃に提督は意識が飛びそうになる。
提督「ッ…⁉︎」
明石「川内さん!!」
明石が慌てて川内を止めに入る。
何も悪い意味で言った訳ではなかった。
神通を想う故に行った苦渋の選択。
だがそれが逆に川内の逆鱗に触れてしまったのだ。
川内「提督はっ!何も!わかってないから…!」
提督「川内…」
川内は泣いていた。
川内「あの子が今までどんな思いで頑張ってきたか知らないでしょ!出撃出来なくなってから捨てられるんじゃないかって不安になってて!少しでも役に立てるように慣れない秘書艦の仕事にも志願して!提督の為に頑張ってたのに!それを…それを!」
明石「うぅ…」
川内の練度も神通の次に高い。
明石1人では抑えるのが難しくなってきた。
その時、外にいた駆逐艦4人が大声に気付き部屋の中に入る。
雪風「失礼します!川内さん!」
川内「どいてよ!」
天津風「落ち着いて!」
駆逐艦たちも急いで川内を抑え、説得する。
流石に川内もこの人数ではどうする事も出来ないらしく、次第に落ち着きを取り戻した。
しばらく沈黙が続いた後、先に提督が頭を下げた。
提督「…軽率だった。すまなかった。」
川内「あー、こっちもごめんなさい。頭に血が昇っちゃって…」
少し決まり悪そうに川内も応える。
川内「みんなも、ごめんね」
萩風「いえ…」
嵐「それよりも…」
「神通さんに何があったのか教えて下さい」
駆逐艦たちの目がそう語りかけていた。
提督も川内もこの話題にはあまり触れられたくなかったので少し顔の表情が歪む。
しかしこの子たちも鎮守府の立派な一員。
いつかは話すことになるだろう。
川内「…わかったよ。良いよね、提督」
視線を向けられた提督は黙って首を縦にふる。
川内「…面白くない話だよ」
覚悟を決めた川内は頭の中の記憶をこじ開ける。
そしてゆっくりと、話し始めた。
みんなは知らないと思うけど私達川内型は元々3人だったんだ。
神通より下の妹で名前は那珂って言ってね。
明るくて、いつも笑顔で…
艦娘の数がそれほど多くないこの鎮守府で那珂のことを嫌いな子は誰も居なかった。
那珂はみんなから愛されてた。
もちろん私も神通も大好きだった。
でもね。半年前…
ー半年前ー
那珂「みんなー!準備オッケー⁉︎」
駆逐艦s「は、はい!」
この日、陽炎、不知火、野分、舞風の4人は駆逐艦指導が一通り完了したので初めての出撃に向かおうとしていた。
那珂「うーん、みんな堅いなぁー。スマイルスマイル!ほら!ニコー」
野分「ニ、ニコ…」
舞風「ブフッ!のわっちの笑顔引きつってて怖すぎ!」
野分「…」
この鎮守府で駆逐艦が初めての出撃をする場合、必ず那珂が旗艦を務める。
これは指揮能力が高いという事に加え、那珂の人柄が大きな理由だった。
初めて戦場を体験する者が感じる感情。
それは恐怖。
それに打ち勝ち異形な怪物と戦わなければならない。
その時、那珂のような明るい性格の人物の存在は心の拠り所となる。
川内「ほらほら!そんなに緊張しない!」
神通「そうです。みんなこれまで頑張ってきましたから大丈夫ですよ」
川内と神通は陸からその様子を見守っていた。
目標は鎮守府近海に現れた駆逐艦数隻の排除。
那珂1人でもこなすことが出来る、簡単な任務だった。
大淀『時間になりました。出撃お願いします』
那珂「はーい!みんな、お仕事行くよーー!」
大淀が通信で作戦開始を告げる。
不知火「では、行ってきます」
川内「うんうん。頑張ってね」
川内、神通に敬礼し5人は海を駆けていく。
この時は皆、後に待ち受ける悲劇など想像もしていなかった。
ー鎮守府近海沖ー
30分ほど海を駆けて目的地へと到着した。
那珂が水偵を発進させ、周囲の索敵を開始するとすぐに敵艦を発見した。
事前の情報通り、本隊から逸れたのか駆逐艦5隻のみの編成であった。
那珂「大淀さん、敵艦発見したよー!」
大淀『それが目標の艦隊です。撃破をお願いします』
那珂「りょーかい!みんなー!砲雷撃戦よぉーい!」
陽炎「は、はい!」
那珂「那珂ちゃんが先行するからよーく見ててねー!」
そう言うと那珂はスピードを上げて前に出るとまだこちらに気付いていない敵艦の一隻に狙いを定めて、砲撃を開始した。
那珂「どっかーん!」
爆音と共に放たれた砲弾は真っ直ぐと敵に向かって飛んでいき、着弾、沈んでいく。
攻撃に気付いた残りの4隻が那珂へ砲撃を開始するが
那珂「動きをよく見て、相手の射線上に入らないようにしてねー!」
那珂は独特な動きで全て躱していく。
その動きは多くの経験から生み出された那珂にしかできないダンスのような動きだった。
野分「すごい…」
一連の流れを間近で見ていた4人はそれに魅了されていた。
那珂「ほらほら!みんなも続いてー!」
その一声に鼓舞されて駆逐艦たちも砲撃に参加する。
舞風「よ、よーし!舞風も華麗に踊るよー!」
不知火「沈め…沈め!」
那珂の指示で、ぎこちない動きではあったが敵艦を攻撃していく。
一隻、また一隻と次々に沈めていき、10分後には全艦を殲滅してしまった。
那珂「やったね、みんなー!お疲れ様!」
陽炎「お、終わった…?」
不知火「…生き、てる…」
緊張の糸が切れたのか駆逐艦の4人はへにゃへにゃと崩れてその場に座り込む。
大淀『フフフ、皆さんお疲れ様です。目標の撃破を確認しました。鎮守府に帰投してください』
那珂「大丈夫ー?みんな!帰ろー!帰るまでが任務だからねー」
野分「…うぅ」
舞風「腰抜けちゃったかも…」
那珂「も〜、しょうがないな〜」
そう言って那珂は1人1人に手を差し伸べて起き上がらせる。
どうにか立てた4人は周囲を見渡し勝利したことを改めて実感した。
そして皆、笑いあいながら帰路に着く。
無事に終わって、那珂は顔には出さなかったがホッとしていた。
鎮守府できっと姉の2人と鳳翔さんが美味しいご飯を準備して待っていることだろう。
しかしそこに新たな影が迫っていた。
突然、飛行中だった水偵の妖精から緊急の通信が入った。
妖精『新手の敵一隻が高速で接近中!艦種は不明!』
その通信で先の戦闘の勝利に喜んでいた艦隊は一気に真剣な表情へ切り替わる。
燃料、弾薬の消費は少なく、一隻ならまだ余裕があったため、那珂は応戦することに決め、大淀に通信を入れる。
大淀『了解しました。おそらく先ほどの艦隊の一隻でしょう。ですが気を抜かないようお願いします』
那珂「了解!わかってるよー!」
妖精『敵が艦載機を発進!注意されたし!』
那珂「…!聞いたねみんな!対空戦闘用意!」
駆逐艦s「はい!」
敵は空母か。
那珂の号令で対空戦にて最も有効な輪形陣を組み、空を見上げて敵艦載機の襲来に備える。
間も無く、敵艦載機が襲って来た。
文字通り、空を覆い尽くすほどの大群だった。
目測だが100機以上はいるだろうか。
那珂「落ち着いてちゃんと狙ってねー!全部落とすつもりでいくよ!砲撃開始!」
那珂の合図に駆逐艦たちは砲撃で答える。
この危険な場面で駆逐艦は訓練のことを思い出していた。
毎日毎日、川内型三姉妹にしごかれ続けたあの地獄のような日々を。
陽炎「アレに!」
不知火「比べれば!」
野分「このくらい!」
舞風「どってことないよ!」
皆、鬼気迫る表情で次々と艦載機を落としてゆく。
多少の被弾も気にすることなく黙々と撃つ、撃つ、撃つ。
どのくらい撃ち続けただろうか。
だいぶ敵の艦載機は減り、次第に攻撃の手が緩くなってきた。
野分「よしっ!耐えれた!」
那珂「よく頑張ったね!あとは…」
敵を沈めるだけ。
敵艦載機はほぼ落としたので残りは少ないはずだ。
勝ちが、見えた。
そして敵の空母を視界に捉えた。
が…
不知火「敵、目視で確認しま…した!?」
不知火だけでなく見た者全員が目を疑った。
さっきまでの猛烈な攻撃を行っていた深海棲艦と思われるソレは、フードの様な物で目は隠れているが幼い顔立ちで…
笑っていた。
しかしその笑顔からは恐怖しか感じなかった。
陽炎「子ども…!?」
戸惑っている駆逐艦に那珂は急いで檄を飛ばす。
直感でわかる。こいつは危険だ。
艦載機を飛ばされる前に沈めなければ。
那珂「撃つよ!砲撃準備!」
舞風「で、でも…」
那珂「早くっ!構えて…ッッ!」
こちらのやり取りを他所に敵はゆっくりと動いて砲口がこちらを狙う。
空母が砲撃を?艦載機は?
そんな疑問も至近距離に着弾した砲撃で消し飛ばされた。
那珂「え」
地響きのような音。
天高くまで舞い上がる海の水。
明らかに空母のそれではない。
重巡…いや戦艦レベルの物だった。
那珂(…これは……)
逆に那珂から笑顔が消えていく。
今考えれば罠だったのかもしれない。
さっきの駆逐艦は私たちをおびき寄せるためのエサでこっちが本命だったのか?
そんな幼稚な手にまんまと引っかかるなんて…
那珂「…みんな、逃げるよ」
今の艦隊では勝てないと即座に判断した那珂は撤退を指示する。
しかし駆逐艦たちは返事も動きもしない。
否、出来なかった。
不知火「ぁ……ぅ…」
先ほどの至近弾で皆、完全に戦意を喪失して怯えてしまっていた。
初めて“死”というものを間近に感じとったのだ。
那珂(どうすれば……ん⁉︎)
危機はそれだけでは終わらなかった。
突如、警告音が響く。
これは…
那珂「魚雷⁉︎」
そんなバカな。
雷撃まで出来るなんて。
海中へ目線を下げると魚雷の雷跡がだんだんと迫ってきているのが確認できた。
そしてこれまでの経験から推測できた。
これは、野分に、当たる。
那珂「野分ちゃん!」
那珂は考える前に体が動いていた。
野分「ぁ」
次の瞬間、爆発が起こる。
モクモクと煙が辺りに漂っていく。
あっという間の出来事に野分は思考が追い付いていかなかった。
煙がはれて、ボロボロになった那珂の姿を見て初めて野分は理解した。
那珂は自分を守ってくれたのだと。
野分「那珂さんっ!」
広い広い海に一人の少女の悲痛な叫び声が響き渡った。
野分「な、那珂さん!私の、所為で…!」
自分が一番憧れている人を傷つけてしまった野分はショックを隠しきれない様子だった。
その心配をよそに那珂はゆっくりと立ち上がり、野分に笑顔を向ける。
那珂「このくらい平気、だよ!」
先ほど被弾したにもかかわらず元気な声で返答する。
しかし誰から見てもそれは空元気だった。
艤装は煙を吐き出し、足はふらついて、頭からは血を流していた。
駆逐艦はこのようなボロボロの那珂の姿を想像すらしていなかったので唖然とするばかりだった。
那珂「かげちゃん」
陽炎「…!は、はい」
陽炎に声をかける。
駆逐艦4人の中で陽炎が一番冷静に物事を判断する能力があった。
那珂「3人を連れて、鎮守府へ全速で走って」
このままの状態で勝てるはずがない。
最悪、全滅もあり得る状況だった。
旗艦としてそれだけは避けなければならなかった。
陽炎「…那珂さんは」
那珂「ここでアレの目を引き付けるよ」
陽炎「でもその傷じゃ!」
艤装の損傷具合や那珂の傷からしておそらくあと一発でも被弾すれば沈んでしまうかもしれない。
那珂「那珂ちゃんにはみんなを鎮守府に帰す義務があるの」
陽炎「私も一緒に…!」
那珂「…陽炎型一番艦、陽炎!」
陽炎「っ!はい!」
那珂「……お願い…」
那珂は陽炎をまっすぐと見つめながら弱々しい声で願う。
その瞳に訴えかけられ陽炎は何も言えなくなってしまった。
陽炎は那珂はもう覚悟を決めてしまったのだと悟った。
陽炎「…わかりました…」
と答えるしかなかった。
陽炎は他の3人を説得し鎮守府へ走り出す。
那珂は最後まで泣いていた野分の泣き声が耳から離れなかった。
那珂「ありがとう…そして、ごめんね」
那珂は誰にも聞こえないような声でそう呟いた。
深海棲艦はその様子をずっと不気味に笑って見つめていた。
初めから駆逐艦のことなど興味がなかったかのように。
そして那珂の準備が整うのを待っているようだった。
那珂「はぁはぁ」
偉そうなことを言ったが正直立っていることも精一杯の状態だった。
自分のことは自分でよくわかる。
おそらく自分はここまでなのだろう。
なら最後くらいは華々しく散ってやろう。
那珂は目を瞑り今までの記憶に思いを馳せる。
鎮守府の仲間たちのこと、姉妹で話した何気ない会話。
すると自然と涙が頬につたわってきた。
やっぱり、沈みたくない。
那珂「川内ちゃん、神通ちゃん…」
でもこんなの自分らしくない、と思い急いで腕で涙を拭う。
そう…そうだ
誰も傷つかないように
みんなを笑顔にするために
暁の水平線に勝利を刻むために!
私は!那珂ちゃんは!
踊らなければならないんだ!!
那珂「スーッ」
大きく、大きく息を吸い込み、一気に吐き出す。
遠くの鎮守府にも届くようにと。
那珂「那珂ちゃん、センター!一番の見せ場ですッ!」
誰も聞いてるはずがなかった。
けど、それでもいい。
これは自分を鼓舞するための魔法の言葉だった。
体よ、動け。
那珂「行っくよー!」
力強く一歩を踏み出す。
しかし沈みかけている那珂の動きはやはりいつも通りというわけにはいかずスピードはなかなか出ない。
深海棲艦はようやく動き出し那珂へと標準を合わせる。
そして再び地響きのような音を何回も立てる。
向かってくる砲弾をダンスの動きでギリギリで躱し、砲撃ながら距離を詰めていく。
もう少し…もう少しで沈められる距離に入る。
あと、一歩!
ガチャン
その時、艤装が聞いたことのない嫌な音を立てた。
そして那珂の動きが止まる。
先ほどの魚雷で艤装はほぼ壊れてて、那珂の無理な動きで限界を向かってしまったのだ。
推進力を得られなくなりその場に立ち尽くす形となってしまう。
那珂「ぁ…」
そこへ数発の砲弾が襲いかかる。
あぁ、ここまでか。
先に逝く妹を許してね。
「お姉ちゃ…」
そして今度こそ、砲弾が那珂の体を貫いた。
ー鎮守府 作戦指令室ー
提督と大淀は作戦完了の通信を待っていた。
駆逐艦たちは初陣だが、鎮守府に割と近い海域のためそれほど強力な深海棲艦は出現しないと考えていた。
ましてや旗艦はこの鎮守府で最も信頼できる川内型ということもあり大丈夫だろうと2人は高を括っていた。
が、それは慢心だった。
提督が近々行われる大規模作戦の編成を大淀に相談しようと声をかけようとしたその時ーーー
ピー、ピーと通信が来たことを伝える音が部屋中に響く。
勝利の報告だろう
大淀は緩やかな動きで通信装置に手を伸ばし応答のスイッチを入れた。
大淀「こちら大淀です。お疲れ様でし…た…?」
ん?どうしたんだ?
大淀「ちょっと、落ち着いて!那珂さんに代わってください?」
那珂からの通信じゃないのか。
誰からだ?
大淀「陽炎さん?はい……ぇ…」
大淀の柔かだった表情がみるみるうちに変貌していく。
青ざめて…何かに絶望したような、そんな表情だった。
大淀「て、提督」
提督「…どうした?」
大淀「那珂さんの艦隊が新種の深海棲艦と遭遇して、それで…那珂さんが…」
「4人を逃がす為に大破の状態で戦闘中…だそうです」
ー鎮守府 食堂ー
神通は慣れない手つきで包丁を握り、人参を切っていた。
今日は金曜日。
那珂と駆逐艦のみんなへの作戦成功のご褒美にカレーを手作りしようと川内と2人で食堂の調理場へお邪魔していた。
神通「…」
鳳翔「そうです。右手は猫の手で、力を入れ過ぎないように…だいぶ上手になりましたよ」
食堂の料理をいつも担当している鳳翔さんの丁寧な指導を受けて進めていく。
神通「…よし」
鳳翔「うん、キレイに切れましたね!」
いつも食事は食堂か川内の料理を食べているため神通は調理の経験があまりなかった。
その為、何度か指を切ってしまい手は絆創膏でいっぱいになっていた。
川内「ごっぢも玉ねぎ切れだよ…」
隣で川内が玉ねぎを泣きながら切っていたが終わったようだ。
鳳翔「それではお肉と野菜を炒めていきましょう」
神通「はい」
油をひいた鍋にまずは肉を入れて炒めていく。
鳳翔「料理は腕だけではありません。食べてもらう人への想いはどれにも負けないスパイスになります」
神通「なるほど…」
鳳翔「そろそろ野菜も入れましょう」
続いて野菜を炒めようと自分が切った人参の入ったボウルを手に取った時だった。
バタンッと大きな音がした。
大淀「川内さんッ!神通さんッ!」
走ってきたらしい大淀は扉を開けるやいなや大声で2人の名を呼ぶ。
びっくりして人参を落としそうになる。
川内「どうしたの?そんな慌てて」
大淀「お、落ち着いて聞いてください…」
大淀は2人に先ほどきた通信の内容を事細かに話した。
川内・神通「え?」
2人はまったく想定外の内容に殴られたような衝撃を受ける。
そんな…嘘だ、嘘だと言って
神通の手からボウルがするりと滑り落ちる。
苦労して切った人参は床へとこぼれ、ポトリと小さな音を立てた。
数分後、川内と神通を中心に部隊が編成され鎮守府近海沖へ向かう。
その途中駆逐艦4人と合流するが全員が精神不安定の状態で、ある者は茫然と、またある者は泣き崩れてしまっていた。
駆逐艦は他の艦に任せ、2人が現場へ急行するもそこにあったのは、大量の敵艦載機の破片、鼻に突き刺さるような火薬の臭い。
そして
那珂の物と思われる艤装の欠片と引き裂かれた服。
唯一損傷がないまま残っていたのは那珂が愛着を持って装備していた14cm単装砲だけだった。
ー???ー
ここはどこなんだろう
寒くて真っ暗で…なにも見えないや
そうだ
弾が飛んできて…当たったんだっけ
でもどこも痛くないし、傷も見当たらないなぁ
あれ?
誰に撃たれたんだっけ
…まあいいや
あの子、泣いてた
でもあの子が無事ならそれでいいや
あの子…?名前なんだっけ
ん?
私はダレだっけ?
私の敵はダレだっけ?
私は何の為に戦ってたんだっけ?
あれ?アれ?あレ?
…考えルのが面倒クさいヤ
それにシても寒いヨ
寒くテ寒くて手ガ真っ白になッチゃった
ナんで私はコんな寒イ思いをしナくちゃいケないノ?
ミんナはドコ?
私ヲ置いて帰っタの?
なンで?ナんで?
許さない許サない許さナい許さなイ許サナい許さナイ許サナイユるサナイユルサナイ
許セナイ
寒イのはヤだ
どウすれバいイのかナ
ドうすレば暖かクなるノかな
…ミんナ一緒に居レばあっタまるヨね
ソうダヨね、うン、きットそウ
じゃア
ミンナ、ミンナ沈メナキャネ
戦争と死は密接な関係で結ばれている。
沈めるか沈むか。
この二つの選択肢しか艦娘には与えられていないのだから、いつかは自分か仲間が沈む時が必ずやってくると、そう理解していた。
…頭では。
那珂が消息不明という知らせは瞬く間に鎮守府内を駆け抜けた。
川内型三姉妹はこの鎮守府では大きな柱のような存在だったため、皆、動揺を隠せない様子であった。
特に駆逐艦は指導時の教官として教わっていたのでショックが大きいようだった。
その日から毎日、鎮守府近海沖へ捜索部隊を派遣したのだが、5日が経過した時とうとう打ち切りとなった。
周辺をくまなく捜索したにもかかわらず先に発見された物意外は見つからなかった。
那珂はMIA(作戦行動中行方不明)と正式に大本営から発表された。
ー提督sideー
後日、提督が大本営へ召集された。
大本営が欲していたのは新種の深海棲艦の情報。
今回が初の遭遇となった為、戦闘の内容を事細かにしゃべらされた。
この新種はレ級と名付けられ
艦載機を飛ばし、
戦艦並みの砲撃と装甲に、
雷撃をもこなす、
まさに化け物と呼ぶにふさわしい悪魔として各鎮守府への注意喚起が送られた。
聴取の合間、大本営にいた同じ提督たちや元帥から那珂は無駄死にではなかった、仕方なかった、気にするな等の慰めの言葉を頂いたのだが提督は全て機械のごとく「はい」と答えるのみだった。
長々とした聴取がやっと終わり、2日ぶりに鎮守府へ帰ってきた提督は休むことなく執務室で大淀と共に書類を片付ける。
かつては外から那珂の自作の歌や駆逐艦への指示を出す元気な声が聴こえてきたものだった。
時折、というか毎回、鬱陶しいと思っていたその声が聴こえてこないだけでこんなにも寂しいものなのか。
邪魔が一切入っていないのに書類を片付け終わったのはいつもよりも遅い時間だった。
いつもは目に止まらないはずの軍のお偉いさんに頂いた酒に何故か引き寄せられる。
そしてコップに注ぎ、一気に飲み干す。
飲み会ならヒーローとなっているのだろうその行為は提督にとっては初めての行為だった。
強い酒だが、関係ない。
酔えれば、それでいいんだ。
…何杯のんだか覚えていない。
気付けば、朝になっていた。
部屋に入ってきた大淀が提督の放つ酒の匂いで察したのか、心配して水を差し出してくれた。
大淀は、どこか悲しい表情をしていた。
ー川内sideー
自分の好きな時間になったのにやる気が起きない。
ベットに横になるもなかなか寝付けない。
川内「……くそ…」
仕方なく川内は部屋を出て外へ行き、お気に入りの場所に向かう。
そこは鎮守府の隅にあり、海を見渡せる小さな花畑。
そこに辿り着くと川内は月光に照らされた穏やかな海を見て大きく溜息をついた。
川内は姉妹3人で撮った写真をポケットから取り出して見つめる。
私の隣に写っている彼女は、もう居ない。
ポタッ
突然、写真に水滴が落ちてきた。
おかしい。雨なんて降っていないのに…
艦娘になってふと考えることがある。
なんで、人の姿になったんだろう、と。
前世が鉄の塊である私たちは生まれ変わって人の姿になった。
最初は戸惑った。
動くとすぐ疲れるし、怪我をすると痛い。
人間は本当に不便な生き物だなと思った。
もちろん、悪いことだけじゃなかった。
艦の時には出来なかった会話をすることが出来るし、仲間との楽しい思い出もたくさんできた。
姉妹で仲良く笑える合えたりもした。
…でもさ、何か大切なモノを失ってこんなに悲しいのなら、感情なんていらないのに。
ポタポタッ
…今夜は大雨になりそうだ。
たまには、いいか。とことん降らせよう。
そして雨が止んだら、前を向こう。
だからさ、那珂。ちょっと向こうで待ってて。
この戦いに勝って、みんなが笑顔でになったらそっちに行くからさ。
ね?
いつもなら川内の声で賑やかになるのだが、
鎮守府は朝まで静寂に包まれていた。
ー神通sideー
辺りはもう、暗くなっていた。
空には星が散りばみ、欠けた月がひっそりと浮かんでいる。
神通「ハァ、ハァ…」
もうグラウンドを何周したかわからない。
ひたすら足を動かして一周、また一周と数を重ねていく。
神通は無心だった。
何もしていないと寂しさを直に感じてしまう。
だから走った。がむしゃらに、前へ。
何も考えないで済むように。
神通「ハァ、ハァ………っぁ!」
しかし限界が近づいているのだろう。
自分の思うように体が動かず、足がもつれてその場に転んでしまう。
神通「…くっ…」
自分が許せない。
過去の出来事に“もしも”は通用しないことなんて重々承知している。
でも、もし!
もしもあの時一緒に出撃していたら…
もしももっと早くに救援に向かえていたら…
あの子は私の横で笑っていられたかもしれない。
…あの子が戦っている時、私は何をしていた?
痛みに苦渋の表情を受けべている時に、何をしていた!
神通「…ッ!」
神通は思い切り拳を握って地面へ叩きつけた。
何度も、何度も、何度もーーー
ハッと、自分を取り戻した時には地面は大きく凹んでいて、手からは血が滲み出ていた。
けれど、こんな痛みは些細なものだ。
まだ、いける。
神通は再び立ち上がり何事もなかったかのように走り出す。
自分への怒りを力に変えて。
明らかに鎮守府全体の雰囲気が暗くなっていた。
理由はもちろん、那珂が居なくなったことであった。
彼女はいつも笑っていて…その笑顔には特別な力があったのかもしれない。
不思議とこちらも笑顔になるような、そんな力が。
だが、そんな彼女はもう居ない。
この鎮守府はそれほど大きな規模ではない為、艦娘の数も他と比べると少なかった。
それなので当然、艦娘同士は関わりが増えて仲間意識が強くなっていた。
だから1人でも欠けたらそのショックはとても、とても大きい。
ましてやこの鎮守府では初めてのことであったのだ。
士気が下がるのは当たり前のことであった。
しかしそれを理由に鎮守府の体制を疎かにするわけにはいかない訳である。
近々行われる大規模作戦の準備、遠征、鎮守府近海の哨戒などやる事は山積みだった。
なので川内、神通をはじめ、指示を出す側の者は決して悲しみに嘆く姿を下の者には見せようとはしなかった。
前を向く。それが今、自分にできる最善の行動なのだと理解していた。
それは次第に鎮守府全体に伝わっていき、各自それぞれの方法で悲しみを乗り越えていった。
那珂がMIAになってから早1週間が経った頃のことだった。
駆逐艦、野分は憂鬱な気分で出撃の準備をしていた。
今日の仕事は近海の哨戒。
別に難しい任務ではなく、ただ深海棲艦を鎮守府へ近づかせない為に2人1組、交代交代で見回りをする。
しかし、問題だったのは…
神通「さて、行きましょうか」
今回のペアが神通であったことだった。
野分「…はぃ」
ー鎮守府近海ー
特に会話もなく2人で海を駆ける。
野分はとても気不味かった。
目の前にいるこの人の妹を見捨てて、自分らだけおめおめと鎮守府へ帰ったのだから…。
きっと今、神通は自分に対する怒りを抑えながら共に行動しているのだろう。
野分「…神通さん」
神通「どうしました?」
野分「あの…」
怖くても言わなければならない。
自分は絶対にこの言葉を。
許してもらおうなんて甘い考えは持っていないが、どうしても言わないわけにはいかない。
野分「…ごめん、なさい」
神通「…」
その言葉に神通は足を止める。
野分の言葉に主語はなかったが、何の事への謝罪なのかはすぐにわかった。
神通「那珂ちゃんのことですか?」
野分「……はい…」
神通は振り返り、野分に目を向けてゆっくりと歩み寄る。
その真っ直ぐとした視線に野分は耐えられずに下を向く。
きっと殴られるのだろう。
でも、この人になら何発殴られても文句は言えない。
それほどの事を、自分はしたのだ。
神通「野分ちゃん」
野分「…!はい…」
神通が腕を上げる。
来る!
野分は目を瞑り、歯を食いしばった。
しかし神通の行動は予想を裏切ったものだった。
野分「…え?」
神通はその腕を野分の頭に優しく乗せて撫でたのだ。
野分は理解が出来なかった。
野分「なん、で…ですか…?」
神通「…野分ちゃんの所為じゃ、ないんです」
野分「…でも!那珂さんは私を庇って!」
神通「それでも、私はあなたを恨んだりしません」
野分「嘘です!!……っ!」
野分は顔を上げた時に初めて気付いた。
神通は目に涙を浮かべていた。
神通「…那珂ちゃんは…旗艦として部下を守る為に行動したんです。そんな妹を、私は…誇りに思っています。だから、そんなに自分を追い込まないで?」
野分「ぅ…」
神通「もしも、那珂ちゃんの事を思ってくれているなら…助けられたその命を、大切にして下さい…それで、充分です」
神通は優しく、語りかけるように言った。
しかし野分はそれが逆に耐えられなくなって感情が爆発する。
野分「なんで…なんでそんなにっ!優しいんですかっ!」
神通「…」
野分「どう、してぇ…!」
どうして妹を見捨てた自分にこんなにも優しく接してくれてしまうのか。
いっそ罵ってくれた方が楽なのに…。
野分「ウグッ…ヒグッ…」
神通「…大丈夫です。あなたは、悪くないんです」
野分「…で、でも…」
神通「私はあなたを、許します」
そう言うと神通は野分を抱きしめる。
野分はその言葉で少し、救われた気がした。
その安心からか、我慢していた涙が止まらなかった。
野分「ごめんなざいごめんなざいごめんなざい…」
神通「うん…うん…」
さすがに神通は聖人君子ではないので野分に対しての怒りが全くないといえば嘘になるかもしれない。
でも、この子は自分の妹のことを思ってここまで泣いてくれている。
それだけで神通は充分だった。
自分の胸で泣いている野分を見て神通は自分も泣き出したい衝動に駆られたが、それを悟られないように一生懸命噛み殺した。
………………
野分「す、すいませんでした」
長い長い涙も止まり、ようやく我に返った野分は赤面しながら言った。
神通の服は野分の涙(と、少々の鼻水)でびしょ濡れになっていた。
神通「いえ、大丈夫ですよ。…それより」
野分「…あ、はい!哨戒を完遂させましょう」
そうだった。
今日は哨戒任務で来ていたんだった。
気持ちを切り替えて2人は再び移動を開始する。
野分の気分は憑き物が落ちたかのようにとても晴れやかだった。
しばらくして周辺の哨戒は完了した。
何も異常が見られない、平和な海だった。
この状態がずっと続けばいいのにと思いながら、神通は鎮守府へ通信を送る。
神通「哨戒任務、完了しました。これより鎮守府へ帰還します。」
しかし…
『りょ…しま…た…お気…つけて』
野分「…?」
突然、通信機器にノイズが入る。
艦娘に支給されている機器は現段階で最高峰の性能を誇っており、よほどの事がない限り異常は起きないのだが…。
神通「大淀さん?……応答がないですね」
野分「故障ですか?」
神通「…いえ、明石さんたちの腕は一流ですからそれは考えにくいです」
装備品や艤装の管理は明石と妖精さんが行なっている。
彼女らの手にかかればどんなに壊れていようともたちまち直ってしまう。
何度もお世話になっている神通は彼女らのことを信頼していた。
野分「…とりあえず、帰投しますか?」
神通「そうですね………ん、ちょっと待ってください」
通信機からは何も聴こえてこないと思っていたが耳を澄ましてみると、とても小さな声がしていることに気付いた。
野分もそれに気付き、耳を傾ける。
しかし聴こえてきたそれは、大淀の声ではなかった。
『ラ〜♪ラララ〜♫』
神通「これは…」
野分「…歌?」
こんな何もない海の上でなぜ?
…待てよ、この歌!
2人は聴き覚えがあった。
特に神通は何度も何度も寝る前に側で聴かされていた。
この歌は…この声は…間違いない
神通「那、珂…ちゃん?」
紛れもなく妹の、那珂。
沈んだと思っていた那珂の声に、神通は曇っていた心が一気に晴れていくのを感じる。
会いたい。
会ってまた話をしたい。笑いたい。
その気持ちが溢れてくるが、冷静さを失わないように心がける。
野分「神通さん!!那珂さんですっ!!」
神通「…はい。ここまで姉に心配をかけさせたツケを払ってもらいましょうか…」
嘘だ。
内心嬉しくてたまらない。
しかしその気持ちを遮るように、水偵の妖精から予想外の通信が入る。
『深海棲艦が一隻、接近中』
神通・野分「!?」
しかしそこは流石艦娘と言ったところか、2人は嬉しさの中にいた状態から瞬く間に戦闘可能な体制を整える。
野分「一隻…。はぐれ艦でしょうか」
神通「…ええ。そのようですね」
哨戒していると稀にある事なのだが、艦隊からはぐれてしまい一隻の深海棲艦が鎮守府近海へと迷い込んでくる。
もちろん発見次第排除しなければならない。
早く対応して那珂に会いたい。
が、神通は違和感を“2つ”感じた。
1つは水偵の妖精によるとその一隻は「かなりのスピードで真っ直ぐにこちらへ向かって来ている」のだ。
通常ではありえない状態であった。
真っ直ぐという事は敵は我の位置を把握している。おそらく二隻いることも分かっているだろう。
たった一隻で来るだろうか?
来るとしたらよほど錯乱しているか、もしくは…
そしてもう1つの違和感。
先ほどから聴こえていた歌声。
あの子の声がだんだんと、
大きくなってきていた。
神通(………ぁ)
神通は冷静だった。誰よりも冷静だったのだ。
しかしそれ故に、その考えたくもない可能性にたどり着いてしまった。
野分「凄まじいスピードです!もう目視可能な距離まで来て…………神通さん?」
神通「………」
反応のないことを不思議に思い、野分は神通へと振り返る。
彼女の顔は先ほどまでの凛々しさを失い真っ青になり、まるで何かに絶望する表情をしていた。
野分「どしたんですか!?神通さん!」
神通「…あ、アレは、誰…?」
神通は震えた声で言葉を紡ぎ、ゆっくりと水平線へと指をさす。
弱々しい声に動揺しつつ、釣られるように野分はそちらへ顔を向ける。
すると…
野分「……え?」
示された方向には一隻の深海棲艦がこちらへ向かって来るのが見えた。
敵が接近しているにもかかわらず砲撃準備やその他諸々の動作が出来ずにそれに見入って立ち尽くしてしまっていたのは、
“彼女”に似ていたからだった。
ソレは2人から言葉を交わせる程の距離で前進するのをやめ、立ち止まった。
いや、浮かんでいたと言うべきだろう。
その姿に2人は声が出なくなるほど驚愕した。
彼女にとてもよく似た顔にトレードマークであったお団子ヘア。
彼女そのものといっても差し支えなかった。
真っ白の肌に下半身は艤装のような物で覆われていて脚が見当たらない事以外は。
その時、神通は突拍子もなく何故か忘れかけていた提督との何気ない会話を鮮明に思い出した。
あれはそう、提督が着任して間もない頃の事だった。
出撃が無事に終わり旗艦であった神通は報告をする為、執務室へ向かった。
報告が済み退出しようとした時に背後から提督に話しかけられた。
それはフとした疑問だった。
提督にとってそれは少々聞きにくい質問だったらしく、長い前置きしてからの言葉だった。
「沈んだ艦娘はどうなると思う?」
……どうなるのだろう。
ただがむしゃらに、一途に勝利を目指して突き進んでいた神通は考えたこともなかった。
否、考えることを無意識に避けていたのだと思う。
結局、長考しても答えは出てこなくて逆に提督に謝られたことを思い出した。
その問題は未だ不明確であり、当初から討論されてきたものだ。
海の底へ沈むのか、何事も無かったかのように消えてしまうのか。
それとも…
こんな話を神通は耳にしたことがある。
誰かが言った。
艦娘と深海棲艦は表裏一体なのではないか。
善が艦娘、悪が深海棲艦。
もしそうと仮定し、2つが善と悪、光と闇などと類似した存在であるならば、ふとした出来事で心のバランスが崩れてしまい一歩踏み込んで寝返ってしまう可能性はなかろうか。
「艦娘は沈んだ時に感じる強い負の感情により深海棲艦へと堕ちてしまう」という考え。
その説に確証はなかった。
しかし確実にない、とも言い切れなかった。
考えたくもないその説がどうしても頭を離れない。
神通は頭の中で何かが音を立てて合致すような気がした。
点と点が繋がったような気がした。
それでも。そうだとしても。
神通は那珂以上に心の芯を強く保てる者を知らなかった。
どんな困難にも笑顔を絶やさずに立ち向かっていく強靭な精神力が那珂にはあった。
だから微かな望みに賭けた。
深海棲艦の姿となっていても彼女は彼女なのではないか、と。
神通「貴女は…何者、ですか?……那珂ちゃん、なのですか?」
神通は確かめるように一言一言を噛み締めて問うた。
その答えは…
??「…」
笑顔、であった。
野分「ぅ…」
その笑みを野分は知っていた。
かつての輝かしい笑顔などではない。
あの日出会った化け物、レ級と同じ、狂気を含んだ悪魔の笑みであった。
ゾワッとした感覚が2人の背筋を走った。
神通・野分「ッ!」
物事を冷静に見る2人には珍しく本能的に距離をとる。
それほどの冷たさと攻撃性がその笑顔にはあった。
??「ナンデ、逃ゲルノ?」
神通「くっ…」
声も似ている。
??「イッショニイコウ?」
違う違う違う違う!!!
那珂はもう沈んだんだ。
アレは那珂の姿を真似して、私たちを惑わせようとしているだけ。
野分も同じことを考えているようだった。
野分「神通さんッ!アレは違います!」
神通「…わかっています!!」
叫びに似た返答をしつつ、神通は砲を上げて“敵”に合わせる。
完璧な照準だった。
が、引き金を引くのが一瞬遅れた。
心の中で幾ら否定しようとも、眼の前で起きている現実が神通の心を揺さぶったのだ。
パァン!と乾いた破裂音が響く。
発射された砲弾は、
??「キャハハ」
目標には当たらなかった。あの一瞬の間の所為で避けられた。
神通は驚愕した。
避けられた、ということにではない。
そのひとつの避けるという動作に。
とても独特な動きだった。
まるで、それは
神通「嘘」
ダンスのような。
神通「……那珂、ちゃん…?」
誰にも真似なんて出来っこない、彼女が編み出した彼女だけのモノ。
疑問が確信に変わっていくのを感じる。
彼女は紛れもなく
私の妹だった。
誤字の訂正と段落変更をしました。
気付けばオリンピックも終わり、いよいよ春の到来ですね。
もう花粉が飛び交っていますが皆さんは大丈夫でしょうか?
友達が花粉症で死にかけています。
僕は平気です。
…ごめんよ。
皆さんこんにちは!
このssを書かせてもらってます、黒猫のあくびの申します。コメント欄から失礼します。
只今、原因は不明なのですがss投稿速報さんにログインできない状態になっています。
問い合わせもしたのですが、返答がなくて…どうしようもない状況です。
もう一度問い合わせしてみて解決しなかった場合、新たなアカウントを作り、そちらから投稿しようと考えています。
その場合、このssに贈ってもらえた応援、オススメなどが無駄になってしまうのがとても残念で…
でも中途半端のまま終わらせるつもりはありません。
どんな形になっても最後まで書こうと思ってます。
引き続き優しい目で見守って頂けたら幸いです。
長文失礼しました。
川内型も大好きな私にはどストライクな作品。
那珂ちゃんの出番は過去編だけになるのかな……
続き楽しみに待っております。
名無しカッコカリさん
コメントありがとうございます!
そう言って頂けると頑張れます!
那珂ちゃんは過去編のみの予定ですがスポットを当てていきますのでお楽しみにー!
“tikÄ—tina, kad Å¡ių riebalų ten yra…”Kai labai nori pakritikuoti, tinka ir toks nesąžiningas triukas tekste – nežinau, kaip ten yra, bet yra tikimybÄ—, kad gali bÅ«ti (primena manipuliacijas žodeliu &#i#l0;ga28mai&28221; vieÅ¡uosiuose ryÅ¡iuose ir LT pseudopolitikoje) – ir “todÄ—l” tai yra labai blogai.
こういうお話好きだなあ
やっぱり川内は頼れるお姉ちゃん
神通は戦闘面は良いけど結構ナイーブな印象するのよね
続き待ってます
ドラマ缶さん
コメントありがとうございます!
とても励みになります!
そうなんです!川内は夜は馬鹿になるかもですが普段はちゃんとお姉ちゃんしてると思います
また、神通だけじゃなく、他の艦娘も心に弱い部分を持っていると思うのでその葛藤なんかを描いていきたいです
これからもよろしくお願いしますー!