2017-11-19 07:55:34 更新

【第3話】挨拶回りは計画的に(前編)





秋の風が段々と肌を刺すような冬の風に変わっていく幻想郷。

村を歩く人々達の服装も厚くなり、冬の訪れを益々感じさせる中、紅魔館の主レミリア・スカーレットはある一大決心をし、朝食の時間を借りてその事を使用人や友人を含めた者達に話そうとしていた。


レミリア「星矢の事を他の連中に伝えようと思うわ」


咲夜・パチュリー・小悪魔「はい?」


唐突に新たに紅魔館の使用人として雇った星矢の事を幻想郷に住む者達に紹介すると宣言するレミリア。そして、何の脈絡もなく彼女にそう切り出された他の者達は首を傾げ怪訝そうな表情を浮かべる。


フラン「これ美味しー!」


そんな中で、唯一彼女の妹であるフランドール・スカーレットだけが星矢の作った朝食を摂る事に集中しており、場違いな反応を見せていた。


星矢「あの、お嬢様?紹介とは一体どういう…」


すっかりレミリアの左後ろが立ち位置となった星矢は、身を屈めて彼女の顔に自分の顔を近付けると、先程発した言葉の意味を彼女に問う。


レミリア「こ、ここっ…言葉通りの意味よ…あ、貴方の事を霊夢達に自m……紹介する…それだけよ…」


急に顔を近付けられ、動揺を隠し切れず焦った様子を見せるレミリアは、顔を真っ赤に紅潮させながら何故か一瞬言葉を詰まらせ、視線を逸らした後言い終える。


パチュリー『今、霊夢達に自慢しようとって言いかけたわね…』


小悪魔『星矢さんの事、自慢したかったんですね…お嬢様…』


咲夜『おぜう様可愛い❤︎』


彼女の反応で付き合いの長い者達は大凡の当たりをつけ、自己の中で完結するとパチュリーと小悪魔は溜息を、咲夜は頰を染めたまま鼻血を垂れ流して無駄な指摘はしないよう口を紡ぐ。


レミリア『ふふ…散々私の事を馬鹿にしてきた霊夢達を見返すチャンスよ』


親しい友人や使用人が反応を示す中、レミリアは星矢に見えぬよう細心の注意を払いながら悪魔的な笑みを浮かべ、悔しがる霊夢達の姿が脳裏を過ると無意識の内に笑いが溢れ出る。


星矢『何だかレミリアの様子が…まぁ、可愛いからいっか!』


それを隣で見守る星矢も、彼女の様子がおかしいという事には気付いたものの、結局【可愛い】の一言で全てを片付けてしまい、胸に手を当てて吐息を漏らす。


レミリア『それに、もう直ぐ忘年会も控えてるし、その前に私の将来の旦那様として紹介しておくのが定石よね』


人間達の世界で言う所の元旦。それが幻想郷にも刻々と近付いており、レミリアはその忘年会に彼を参加させる為にも、先ず博麗の巫女である霊夢に紹介をし、認めて貰おうと考えたのだ。

因みに、やはりというか何というか、この理由はあくまで後付けであり、本当の理由はただ単に彼を自慢して彼女達を羨ましがらせようとしているだけなのは言うまでもない。


レミリア「星矢!命令よ!今直ぐ出掛ける支度をして、エントランスまで来なさい!」


逸らしていた視線を星矢の方に向け、右手人差し指で彼を指差しながら命令と称し、レミリアは支度をするよう呼び掛けた。すると…


星矢「御意。お嬢様」


彼は両足の踵を付けて姿勢を正し、右手を自らの胸に当てて主人であるレミリアの意向に従う事を誓い、彼女の命令通り出掛ける支度をする為か踵を返してダイニングルームを後にした。


レミリア「う〜❤︎やっぱり、星矢は素敵だわ❤︎」


右手を頰に当て、トロけた表情を晒して彼の背中を熱い眼差しで見詰めるレミリア。そんな彼女からは、嘗て幻想郷で恐れられていた紅魔スカーレットデビルの姿では無く、異性に恋い焦がれる1人の少女と成り果てていた。


咲夜「くっ…お嬢様とお出掛けなんて、何と羨ましいっ…」


彼が出て行く姿を見送るレミリアを見詰め、咲夜は歯軋りをしながら彼女からお出掛けの誘いをされた事を羨ましいと口にし、拳を握り締める。


パチュリー「でも意外ね。まさかレミィからデートの誘いをするなんて」


咲夜の恨めしそうな態度を他所に、パチュリーは朝食を食べ終えたのかティーカップを手に持つと、口元に運んで特に理由もなくデートという単語を言い放つ。


レミリア「で、デートっ!?」


パチュリー『ふふっ…予想通りの反応ね…』


親友の口から唐突に飛び出したデートという単語に過剰な反応を見せ、途端に顔を真っ赤にしながら焦りを見せ始めるレミリア。

それを見て、パチュリーはティーカップの中の紅茶を口内に流し込むと、不敵な笑みを浮かべてコースターの上にティーカップを置いた。


フラン「にぇーにぇーでーとってはに?」


咲夜「あの…妹様?口の中に食べ物を入れながら喋るのはどうかと…」


そして、過剰な反応を見せるレミリアの妹、フランもデートという単語に食い付き、目の前に座る咲夜にその言葉の意味を問う。

しかし、フランが何を言っているのかも分からず、加えて行儀の悪い喋り方をしている彼女を、紅魔館メイド長の十六夜咲夜は優しく窘める。


フラン「んぐっ…デートって何?」


咲夜の優しいお説教を素直に聞き入れ、口の中に溜め込んでいた食べ物を飲み込んだフランは、改めて疑問を解消しようと首を傾げながら咲夜に質問をぶつける。


咲夜「そうですねぇ…簡単に言うと、好きな相手とお出掛けをする事をデートと言うんですよ」


デートの意味を尋ねられ、口元に手を当てて少しばかり考える素振りを見せた咲夜は、特に難しい言い回しをせず目の前のフランに笑顔を見せながら簡単な説明をした。


フラン「ふ〜ん…じゃあ私、星矢とデートしたい!」


レミリア・咲夜・小悪魔「っ!?」


パチュリー「あら」


すると、デートの意味を理解したのか何度も頷き、口の端から八重歯を覗かせるとフランは何故か勢い良く挙手をし、今この場には居ない彼とデートがしたいという意思を口にして周囲の者達に驚きをもたらす。


レミリア「だ、駄目よ!星矢は私とデートを…」


フラン「それはお姉様の言い分でしょ?私には関係無いもーん」


妹の発言に戸惑い、テーブルを叩いて席を立ったレミリアは何かを言おうと口を開いたが、フランがそれを遮るように言葉を紡ぎ、互いに睨み合って火花を散らし始める。


咲夜「お嬢様だけでは飽き足らず妹様まで…許すまじっ…」


先程よりも強い歯軋りで、目を血走らせて星矢に対して結構な憎悪を抱く咲夜は、視線を移して言い争いを繰り広げるスカーレット姉妹を視界に入れるとガクッと項垂れ、ティーカップへと手を伸ばした。


小悪魔「でも、あれだけ高スペックだとしょうがない気もしますよね?パチュリー様?」


パチュリー「こあ…貴女、高スペックなんて言葉何処で覚えてきたのよ…」


一方、此方の2人もスカーレット姉妹の言い争いには介入せず、主人と使い魔の関係とは到底思えないような和気藹々とした空気で会話をし、朝の時間を過ごしていた。






フラン「えへへ〜❤︎星矢とデートだぁ❤︎」


星矢『なん……だと…』


結局、あの言い争いは着替えが終わり様子を見に来た星矢によって止められ、話し合いの結果3人で挨拶回りをするという事で決まった。

勿論、星矢は彼女達の真意には気付いておらず、このフランのデートという発言に大層驚き、心臓の鼓動を必死に抑えている。


レミリア『うー…せっかく星矢とデートをするチャンスだったのに…』


彼の腰に抱き着き、擦り寄る妹に鋭い視線を向けながら軽く頰を膨らませ、不機嫌そうな紅魔館の主、レミリア・スカーレットお嬢様。

本来ならば、私事に関係無く幻想郷でも1.2を争う危険な能力を持つフランを外出させたくないのが本音なのだが、間に入った星矢に執拗に頼み込まれてしまい、渋々意見を飲む形で彼女の同行を許してしまったのだ。


咲夜「お嬢様。大丈夫ですか?妹様は…」


レミリア「貴女の言いたい事は分かるわ、咲夜。万が一の時は姉の私が責任を取るから、此処は身を引いてちょうだい」


この予想外の展開に、事実上紅魔館を取り仕切っている咲夜も気が気ではないらしく、レミリア自身もそれを重々承知しているのか最悪の場合を想定している考えを示し、その意思を彼女に伝える。


フラン「ねぇねぇ星矢!その籠の中、何入ってるの?」


そんな大事な会話をしているとはつゆ知らず、危ぶまれているフランは星矢が手に持っている籠の中身に興味を示し、彼にその中身を尋ねた。


星矢「これですか?これは挨拶の際に渡すお菓子ですよ」


彼女に尋ねられるまま、星矢はこれから挨拶に伺った際に手渡すお菓子が入っていると伝え、籠を開けて中身を見せる。


フラン「お、お菓子がいっぱい…美味しそう…」


すると、籠の中には大量のクッキーやパウンドケーキなどが綺麗に並べられており、その光景を目の当たりにしたフランは香ってくる甘い匂いを嗅いで涎を垂らし、人差し指を加えながら真紅の瞳をこれでもかと輝かせた。


星矢「フランお嬢様はついさっきケーキを食べたばかりなのでお預けです」


フラン「ぁ…」


彼女の視線で何を考えているのか一瞬で理解した星矢は、朝食のデザートを食べた事をフランに告げると籠の蓋を閉め、お菓子が並べられた光景と甘い匂いを断って彼女の誘惑を断ち切ろうと試みる。


フラン「う〜…」


星矢「くっ…」


ウルウルと瞳を潤ませ、上目遣いで星矢の事を見詰めるフランの周りからは、目の錯覚なのだろうが煌びやかなオーラが溢れ出ており、彼は堪らずグラついてしまう。


星矢「ぐぐっ……ひ、1つだけなら…」


フラン「っ!わーいっ!星矢大好きー❤︎」


心の中で凄まじい葛藤を繰り広げた末、星矢が下した決断はフランを甘やかしてしまう結果となってしまう。


星矢『嗚呼っ…至福っ……でも、俺って結構甘いよな…』


しかし、彼からすれば彼女に抱き着かれて尚且つ好感度も上がり、結果オーライなのだろう。それでも、自分の甘さには一応思う所はあるらしく、素直に喜べないといった複雑な心境を抱えていた。


レミリア「うーっ…またフランに甘えられて鼻の下伸ばしてっ…」


咲夜との話し合いに区切りを付け、星矢の方に視線を移したレミリアは、自分の妹に擦り寄られて鼻の下を伸ばす彼の姿を目にし、可愛らしく頰を膨らませてヤキモチを焼く。


星矢「それではそろそろ行きましょうか。天気は曇りですが、念の為にと日傘をご用意させて頂きましたので、此方をどうぞ」


フラン「わーい!ありがとーっ!」


餌付け&至福のひと時を終え、今回のお出掛けの為だけに用意したフラン専用の日傘を手渡すと、フランの元気な声と共に扉の方へと歩き出す。


レミリア「それじゃあ行ってくるわ」


咲夜「お気を付けて」


それを受け、レミリアも出掛けの挨拶を咲夜に述べると2人の後を追って歩き出し、フランとは真逆の右側の位置に陣取って歩調を合わせる。


星矢「さて、と…レミリア。先ずは何処に挨拶しに行くんだ?」


扉から出て周囲には自分とレミリア、そしてフランしか居ない事を確認した星矢は、レミリアの言い付け通り素の喋り方に戻り、彼女に行き先を問う。


レミリア「そうね…先ずは博麗神社よりも近い永遠亭に行きましょ」


吸血鬼の弱点である太陽の光を避ける為、入念に天気の確認をしながら彼の問いに答えたレミリアは、どうやら行き先を永遠亭に定めたようだ。


星矢「と、いう事は…魔法の森を抜けるって事か?」


レミリア「そうなるわね。さぁ、行きましょ」


現実の幻想郷の地理に全く詳しくない星矢は、咲夜やパチュリーから聞かされていた地理を元に魔法の森を抜けて行くのかとレミリアに問い、彼女はそれに答えると自然な流れで彼の手を握り、歩き出した。


星矢「れ、れれ…レミリアっ…」


レミリア「な、何よ…ほら!早く行くわよ!」


選択肢も出現しないいきなりのイベント突入に焦り、額に汗を浮かべながら彼女の名前を呼ぶ星矢。すると、レミリア自身もかなり勇気のいる行動を起こした為か、頰を真っ赤に紅潮させて彼に早く歩くよう促す。


星矢「う、うっす…」


彼女が声を荒げ、星矢は力無く返事を返すと手を引かれるまま歩みを始め、美鈴が守る正門の所まで歩いて行く。

こうして、星矢とスカーレット姉妹の挨拶回りの幕が上がる。だが、この後彼等には数多の試練が待ち受けていたのだ。主に、紅魔館の主であるレミリア・スカーレットに…



幻想郷(魔法の森)



フラン「デート❤︎デート❤︎星矢とデートっ❤︎」


レミリア『う〜❤︎いつか、星矢と2人きりで夜の幻想郷を歩き回りたいわ❤︎…』


幻想郷の憂鬱そうな天気とは裏腹に、いつの間にか彼に肩車をして貰い、適当な音程で今の気持ちを表現するフランと、彼の右手をしっかりと握り、既に今後の妄想で頭がいっぱいなレミリア。

この2人の共通点と言えば、彼を強く想いながら永遠亭を目指しているという事だけだろう。しかし、それは彼女達だけではなく彼も同じようで、星矢はだらしのない表情を浮かべながら存分にスカーレット姉妹とのデートを楽しんでいるようだった。


星矢『ていうか…今思えば1ヶ月以上幻想郷に滞在してはいるが、こうして幻想郷を回るのって初めてだな…』


木々の生い茂った豊かな自然に触れ、改めて自分が幻想郷に来ているのだと実感した星矢は、同時に幻想郷を見て回った事が無かったと思い、物珍しそうに周囲を見回す。


フラン「ねぇ星矢!お外って楽しいね〜?」


星矢「そうだなぁ…まさか空気がこんなに美味しいとは思わなかった…」


彼の頭をポンポンと軽く2回叩き、初めて出た外の世界に大興奮といった様子で問いかけるフランに対し、息を吸って幻想郷の澄んだ空気を肺に取り入れた星矢は彼女の意見に同調する。


フラン「星矢の髪って長いのにサラサラしてるね?お手入れとかしてるの?」


星矢「い、いや…特には…」


次にフランが振った話題は、肩車をして貰った故の必然とも言える髪の毛についての話題であった。

しかし話題を振って貰った上に褒められたにも関わらず、肝心の星矢は何故か頰を染め、素っ気ない答えを返すだけだった。


星矢『フランの胸が後頭部に…』


彼がフランに対して素っ気ない態度を取ってしまった理由。それは、フランが自分の頭を抱き抱える度に訪れる柔らかい感触の所為であり、決して鬱陶しいとか思っての事ではない。


レミリア『う〜っ!またフランにばかり現を抜かしてっ…それ位、私だって…』


再び妹に甘えられて鼻の下を伸ばす最愛の男性に、怒りと嫉妬がぶつかり合い化学反応を起こして狂化してしまいそうになるレミリア。

だがそこは大人の淑女。無闇矢鱈に声を荒げて品格を落とすような真似はせず、彼女は妹であるフランと同じ土俵に立って勝負しようと思い立つ。


レミリア「せ、星矢❤︎…その、もっと私の近くに寄りなさい❤︎…」


星矢「えっ…あ、あぁ…」


自分の胸を押し当て、手を握るのではなく星矢の腕に直接抱き着くという大胆なアピールで、レミリアは彼の心を揺らしに掛かる。


星矢『れ、レミリアの体…何だかプニプニしてて気持ちいいな…いや、別に太ってるとかそういう意味じゃないが…』


レミリア『お、おかしいわ…もっと動揺してくれてもいい筈なのに…』


レミリアの思惑通り見て分かる程の動揺ぶりを発揮する星矢であったが、彼女の期待していたものとは少し違ったらしく、やや不満そうに口を尖らせる。そして、彼女はある1つの仮説に至った。


レミリア『……もしかして私…フランよりも胸が…』


自分のすっとんとんでぺったんこな胸を見詰め、普段のフランから体型を予想し始めたレミリアは、自分の胸が妹よりも劣っているのではと急に不安と焦りを募らせた。


レミリア『だ、大丈夫よ…私だってまだまだ成長期だし、これから大きくなる筈だわ…』


吸血鬼の成長期が何百年単位であるかは定かではないが、レミリアは自分に言い聞かせるように心の中で呟き、鼓舞する。

しかし、仮に彼女が成長して夢の豊満ボディを手に入れたとしても、その時には彼が寿命で亡くなっている可能性が高いだろう。


レミリア『でもその前に、私の実力で何とか星矢を私だけのモノに…』


自分の体型云々の前に、先ずは彼を自分だけのモノにしようと画策するレミリアは、永遠亭に到着する前に関係を良好にするべく、新たな作戦を実行に移す。


星矢『さっきから無言で抱き着いてるが…これは一体どう捉えればいいのか…』


身長差が倍以上ある自分の腕に抱き着き、無言を貫くレミリアのこの行動を受け、どう捉えたらいいのかと困り果てている星矢は、楽観的な発想などはせず敢えて慎重になり、思考を巡らせる。


レミリア『ま、先ずは…私の指を星矢の指に絡めて…』


星矢「ッ…」


そんな彼の思考を乱すレミリアの新たな作戦。それは、自分が彼を異性として強く意識している事を知らせる為の作戦であった。

そして彼女のこの作戦を受けた星矢は、一瞬体を跳ねさせると体を強張らせ、途端に動きがぎこちなくなる。


レミリア『次は、このまま星矢の腕に何度か頬擦りを…』


星矢「っ…ッ!」


愛おしそうに何度も柔らかい頰を彼の腕に擦り付け、大胆且つ猛烈なアピールを仕掛けていくレミリア。すると、彼女が頬擦りに星矢は堪らず体を反応させ、彼の肩に乗るフランにも影響が出始めた。


フラン『うぅ…星矢の首がお股に当たって、えっちな気分になっちゃう…』


星矢が体を跳ねさせ、その振動によって段々と頰を赤らめていくフランは、気恥ずかしさと後ろめたさの板挟みに遭い、複雑な心境を抱く。


フラン『それに、星矢って髪の毛もいい匂いだし…こうやって抱き着いてると、抱き締められた時の事思い出しちゃって…』


だが、彼女はこの高揚感が以前自室で星矢に抱き締められた時のものと似ている事に気付き、ふとその思い出に浸りながら彼の頭を抱き抱えて俯いてしまう。


星矢「ふ、フラン?どうかしたのか?」


先程からずっと足をパタパタ、羽をパタパタさせていたフランが急に大人しくなった事で違和感を覚えた星矢は、やや心配そうな表情で上を向きながら質問をぶつけた。


フラン「えっ!?べ、別に何もないよ!?元気いっぱいだよ!?」


突然声を掛けられた事に驚き、両手を勢いよく振って焦りを露わにするフランは、その反応とは真逆に特に何もないと告げて何とか彼を安心させようとする。


星矢「そ、そうか…ならいいんだ…」


妙に挙動不審な動きをしている。そう怪しむ星矢であったが、此処でも彼はフランに対してそれ以上の追求をしようとはせず、グッと言葉を飲み込み自己の中だけで完結を終えた。何故なら、嫌われたくないからである。


レミリア「星矢!貴方の主人は私の筈よ!もっと私に構いなさいっ!」


星矢「そ、そう声を荒げるなよ…」


レミリア「う〜❤︎」


妹に星矢を取られてしまうと焦り、彼の腕に抱き着いていた力を咄嗟に強めたレミリアは、声を荒げてはいるものの無意識の内に自分の気持ちを素直に伝え、見事彼から撫で撫でをして貰う事に成功する。


レミリア『ふふ❤︎…やっぱり星矢の手は暖かいわ❤︎…』


大きな手の平が髪を掻き分け、頭皮で彼の温もりを堪能するレミリアは、頰を染めながら自然と顔を綻ばせ、自分の心が満たされていくのを感じていた。


フラン『ふんっ…いーもんいーもん!私は星矢の頭に抱き着くからっ!羨ましくなんかないもんっ!』


幸せそうな姉の表情を目の当たりにし、頰を膨らませて一気に不機嫌そうな表情に変わったフランは、今の自分の立ち位置が恵まれていると自分に言い聞かせ、先程よりも強く彼の頭を抱き抱える。


星矢『俺、こんなに幸せでいいのだろうか…』


憧れの存在であるレミリアにこれでもかと強く抱き着かれ、それだけではなく自分から頭まで撫でてしまっている現状。

更に、フランには肩車をしている為首には彼女の柔らかい太腿の感触が伝わり、オマケに後頭部には微かではあるがこれまた柔らかいモノが押し当てられている。

そんな満ち足りた状態で、星矢は天にも昇る心地を味わいながら地面に置いた籠を手に取り、再び3人で永遠亭に向かって歩き始めた。


星矢「此処が迷いの竹林か…中々雰囲気がある場所だな…」


あの後実に15分程。彼等3人は更に歩き続け、永遠亭があるとされる迷いの竹林へと到着した星矢とレミリア、そしてフランは、竹が生い茂る道を見詰めながらその場で立ち尽くしていた。


フラン「へぇ〜これがタケノコが成長した姿なんだぁ…凄くおっきいね」


夕食として出されるタケノコは目にしても、成長した姿を生で見るのが初めてなフランは、物珍しそうな表情を浮かべる。


レミリア「道は私が覚えているから安心しなさい。さ、行くわよ」


幻想郷の聖地巡礼の旅をしているかのような錯覚に囚われる星矢と、初の外出で様々な物を見て興奮するフラン。そんな2人を見て、先を急ぐレミリアは彼の手を引っ張ると、そのまま躊躇うことなくズカズカと竹林へと足を踏み入れた。


フラン「ウィーンガシャン!ウィーンガシャーン!」


星矢『なるべく髪の毛は引っ張らないで貰いたいんだが…』


レミリアに手を引かれるまま迷いの竹林を歩いて行く星矢。そして、そんな彼に肩車をして貰っているフランは、遂に変わり映えのしない風景に飽きたのか両手で彼の長い髪を掴み、まるでロボットを操縦するかの如く上下左右に動かす。


レミリア『フッ…やっぱりフランはまだまだお子様ね。そんなんじゃ星矢は落とせないわ』


妹の幼稚な振る舞いに余裕のある笑みを溢し、レミリアはそのような振る舞いをしていては彼を落とさないと心の中で呟く。


星矢「フランは元気だなぁ。やっぱり外に出られたのが嬉しいのか?」


顔を僅かに上へ向け、未だに髪の毛を操縦桿代わりにしている上機嫌なフランに疑問を投げ掛けた星矢は、やはり好意的に見ている女性の機嫌が良いからか口が緩み、自然な笑みを浮かべている。


フラン「うんっ!あ、でも…星矢は五月蝿い女の子とか、その…嫌い?」


彼の質問に右腕を大きく伸ばして元気良く答えるフランだったが、彼女はふとこれまでの自分の行動を振り返り、嫌われてしまったのではと急にしおらしい態度になる。


星矢「まさか。フランみたいに元気一杯な女の子、俺は好きだぞ?」


フラン「っ❤︎…え、えへへ〜❤︎」


しかし、星矢の好きなフランはあくまで無邪気で元気良く振る舞っているフランである為、彼は自分の気持ちを素直に曝け出すと、左手を伸ばして肩に乗る彼女の頭を優しく撫で、同時にフランも幸せそうな表情を浮かべる。


レミリア『そ、そんなっ…』


彼の衝撃的なカミングアウトによって、脳天に雷が落ちたかのような錯覚に囚われたレミリアは、歩みを止めてその場で立ち止まると、小さな口を開けたまま放心してしまう。


レミリア「う、う〜…う〜…」


星矢「ど、どうしたレミリア?大丈夫か?」


妹に星矢を取られてしまう。その警報音が頭の中で鳴り響き、唸り声を上げながら力無く左右に揺れ動くレミリア。

そんなレミリアの異変に気付き、自分の発言が元でこうなってしまったと知らない星矢は、自分の手を握る彼女に優しく声を掛ける。


フラン「お姉様がポンコツロボットになっちゃった…」


星矢『実の姉をポンコツ呼ばわりするとはっ…何て恐ろしい妹だっ…』


影で実の姉を彼奴呼ばわりしている妹、フランドール・スカーレットは、レミリアが放心状態なのをいい事に彼女をポンコツと呼び、その言葉を聞いた星矢は一昔前の少女漫画の如き顔でリアクションを取る。


星矢「こうなったら仕方ないな…少し危ないが、レミリアを抱っこしながら行こう…」


レミリア「う〜…」


未だユラユラと小さく体を揺らし、動揺しているレミリアを右腕のみでゆっくりと抱き抱える星矢。

すると、彼の体にはレミリアの幼い体が押し付けられ、一瞬顔を赤らめて心を揺さぶられる錯覚を起こす。


星矢「よ、よしフラン…しっかり掴まってろよ?」


フラン「はーい♪」


右腕でレミリアを抱え、左手にはこれから訪れる先に居るであろう者達の為に用意した差し入れを持ち、星矢は自分にしっかり掴まるようフランに注意を促す。


星矢「せー…のっ!」


フランの元気な返事を聞き、口の端を僅かに吊り上げる星矢。すると、彼は何を思ったのか深く腰を落すと両足に力を込め、そのまま一気に驚異的な跳躍力で上空へと飛び上がった。


フラン「わーい!高い高ぁーいっ!」


澄み渡る青空。では無く、太陽の光など微塵も感じさせない曇り空を舞う星矢と気絶するレミリア。

そして、長年空を飛ぶ感覚を忘れていたフランはとても楽しそうな表情で周囲に目を向け、心ゆくまでその情景を堪能しているようであった。


星矢「おーいフラン。何かソレっぽい建物とか見えないか?」


右腕のみで抱き抱えるという不安定な状態の為か、星矢はレミリアから目を離す事が出来ず、代わりに周囲を見回しているフランに永遠亭捜索の任を預ける。


フラン「う〜〜ん……あっ!あったよ星矢!そのまま真〜っ直ぐ行った所にお化け屋敷みたいなのがあるっ!」


その時、先程まで自分達が歩いていた道の遥か前方に、雰囲気のある純和風な建物が目に入り、フランは彼の頭を両手で叩きながらその事を伝えた。


星矢「よし…このまま真っ直ぐだな…よっ!」


彼女の指示を受け、落下に身を任せていた星矢は迷いの竹林を覆う竹に着地すると、自分達の重さで竹が折れる前に次の竹まで飛び移り、それを何度も繰り返して永遠亭を目指し始める。


フラン「わぁーっ!!星矢すっごい!かっこいー!忍者みたーいっ!」


そんな彼の驚異的な身体能力が織り成す移動方法を目の当たりにし、フランは彼を忍者みたいだと称しながら褒め、体を密着させる抱き着き方をする。


星矢『YESっ!これでフランの好感度も上がったぁ!』


フランに抱き着きながら褒められ、鼻から勢い良く息を吐く星矢は、自分に対する彼女の好感度が上がった事を実感し、満ち足りた気分に浸る。

しかし、彼女の好感度が既にMAXに近いという事に、彼自身はまるで気付いていないのであった。



幻想郷(永遠亭前)



星矢「到着…っと…」


レミリアとフラン、そしてお土産を抱えたまま迷いの竹林から勢い良く飛び出した星矢は、永遠亭の前に無事着地し、目的地への到着を果たす。

今、彼等の目の前にある建物は先程フランが見付けた純和風の建物があり、近くで見ると中々に不気味な雰囲気を醸し出していた。


フラン「あー面白かったぁ!」


星矢「ふ、ふふ…」


星矢の大胆で軽快な移動方法が余程気に入ったのか、未だに笑顔を見せるフランは満足そうに彼の肩から降り、思い切り背伸びをする。

その姿を横目に、星矢は彼女の太腿の感触を思い出して鼻の下を伸ばすと、気持ちの悪い表情と声を漏らした。


星矢「っ!!?い、痛てててっ!?」


だがその時、突然右の頬に激痛が走り、星矢はお土産の入った籠を離す訳にもいかず声を上げながら体を揺らして痛みを露わにする。


レミリア「う〜っ…何鼻の下伸ばしてるのよっ…」


星矢「れ、れみひあっ…ごはいだっ…」


右の頬に訪れた激痛の正体。それは、気絶した筈のレミリアによるもので、彼女は自分の頰を目一杯膨らませて抱っこをして貰ったまま彼の頰をこれでもかという位の勢いで抓っていたのだ。


「随分と楽しそうね?良かったら私も混ぜて貰える?」


レミリアが星矢の頰を抓り、フランが姉の暴挙(?)を止めるべく奔走する最中、彼等3人の元へと歩み寄ってくる1人の少女の姿が在った。


星矢「おや…頭にウサ耳を付けた女性にお声を掛けて頂けるとは…指名料金と延滞料金はお幾ら程でしょうか?」


2人きりの時、若しくは自分とフランだけの時にはタメ口で会話をする。その条件が無くなり、自分達の方へ歩み寄って来るウサ耳少女に敬語で話し掛ける星矢は、妙に神妙な顔付きをしていた。


「料金?そんなの要らないよ。だって…」


顔を俯かせたまま言葉を紡いでいく少女。足元に届きそうな程長く、美しい薄紫色の髪を風に靡かせ、服装は丁度彼もよく知っている学生服のような格好をしていた。


「私は貴方が狂う姿が見れれば、それだけで満足なんだから!」


俯かせていた顔を上げ、吸い寄せられるかのような真紅の瞳を光らせた彼女は、右手の人差し指を突き出した状態で彼に向け、次の瞬間には指先から弾丸のような物が飛び出す。


星矢「フランお嬢様。申し訳ありませんがレミリアお嬢様を宜しくお願いします」


レミリア「うーっ!?」


しかし、目の前の彼女が顔を上げた時、戦闘の気配を逸早く感じ取った星矢は、フランに向かってそう告げると抱き抱えていたレミリアを優しく放り投げ、左手に持っていたお土産の入った籠も殆ど同時に地面へと置く。


フラン「えっ…ちょ!ふぎゃぅ!?」


宙を舞うレミリア。その姿が自分の方へ向かって来るのを、フランは緩やかな時間の中で眺めていた。

無論、その間は2秒にも満たない僅かな時間であった為、彼女は無残にも姉の体によって地面に押し潰されてしまう。


星矢「幻想郷の挨拶の仕方が、こんなにも物騒だとは知りませんでしたよ…」


以前、紅魔館の地下室の一室で保管され、フランから手渡された紅い刀身をした禍々しく、不気味な刀。

実はあの一件以降、星矢はレミリアに状況報告をし続けており、今もその刀を抜き放った状態で自らの前で構え、少女の指先から放たれた銃弾らしきものを見事に弾き飛ばしていた。


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SS好きの名無しさんから
2017-10-21 23:44:17

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1: SS好きの名無しさん 2017-10-22 22:22:35 ID: uCMLYSFo

息してるかー?

2: SS好きの名無しさん 2017-10-27 22:01:22 ID: hSHgm3lB

続き待ってます。


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