2018-05-24 00:57:52 更新

概要

「提督女体化日誌」の続編となります。こちらの作品をご覧になる場合、そちらを先にご覧になることをお勧めいたします。

戦闘描写は不得意なため、ご容赦ください。

オリジナルキャラ、戦闘描写及び轟沈表現があるため、そういったものが苦手な方はご注意ください。


前書き

前作では描けなかったシリアスと私が本当に描きたかったものを体現させるべくスタートさせて頂きました。前作で張り巡らされた伏線の大半を回収させて頂きます。
「もしかしたら……」と予想をしながらご覧いただけるとさらに楽しめるかもしれません。

私が実際に見た「夢」を基にしたこの作品。どうか楽しんでいただければ幸いです。






ザザーー ンン…   ザザーー  ンン…



波の音が聴こえる。


静かで 穏やかな海だ。



ゆっくり目を開けると。


今にも消えてしまいそうな、弱々しい光を放つ白い月が、夜空に浮いていた。




暗い海に浮かぶ 今の私のように。





砲塔は無残に砕かれ、元あった巨砲の重厚さと壮麗さを残してはいなかった。


今はもう、黒煙を吐く鉄の塊でしかない。


衣服は無慈悲に破られ、裂かれ、焼け焦げて、白く陶器のようだった肌が露わになっていた。


今では焼かれ、切り裂かれ、打ち付けられ、所々に赤黒い染みをつくっていた。


刀は惨く折られ、かつての美しい刃の曲線は失われていた。


今はただ、月を冷たくその刀身に写している。




私は今日、私の大切なものを護る為に、風を斬り、海を駆け、空を轟かせ、硝煙に身を投じ、弾丸の雨降る中で戦った。


そして私は今、沈みゆこうとしている。


だというのに私は、恐怖や後悔を微塵も感じてはいなかった。


充足感と安堵、それが私を満たしていた。


寒さも、苦痛も、後悔も、恐怖も、孤独さえも、それと比較すれば些細に感じた。



ずっと待ち望んでいた瞬間が今、訪れようとしていた。


——はぁ……。


ちからの無い、魂が抜けてしまうかのような程か弱いため息。


今の私を誰かが見たら、きっとこう言うでしょうね。


なぜ死にそうなのに笑っていられるのだ、と。







風に運ばれてきたのだろうか、桜の花びらがどこからか飛んできた。


感覚を失った右腕と、震えながらかろうじて動く左腕を、緩慢に花びらへと伸ばす。


月の光を受けて蝶の様に舞う花びらは、健気で、か弱くて、美しくて、惨酷で、切なくて、儚くて、本当に、ほんとうに——













「——きれい」










ザザーー  ンン…… ザザーー   ンン……







その瞬間


桜の花びらが、海へと散った。























艦娘  LOST












前章  胡蝶之夢






「なぁ、聞いたか?」


声が聴こえる。


「もちろんだ、予想はしていたが……また戦争とはなぁ……」


二人の、話し声だ。


「確かに、あの国は強大だ。他の国も敵に回すことになるだろうし」


「そうだな……だがこの国も負けちゃいない。なんせ、他国に後れをとらない技術と、世界最強の部隊がこの国にはあるんだからな」


「あぁ……そういや、噂があったな」


「うわさ?」


「なんでも、今までにない新たな軍艦を造る計画があるって話だ」


「今までにない軍艦? あの「長門」よりもでかいのか?」


「かもしれん。この国の技術の粋を結集したものだ。想像もつかん」


「完成すれば、大日本帝国海軍に敵う海軍は無くなるだろうな。はっはっはっ」


何も無い暗闇の中、男たちの笑い声だけが響いていた。






・・・・・・・・・・・・





「んぅ……」


鳥の鳴き声に目を覚ます。


カーテンから春の柔らかな光が零れ、部屋の中を優しく照らしていた。


「…………」


春の陽気のためか、彼女はしばしの間、夢現の状態でいた。


暖かな布団から未練たらし気に起き出し、覚束ない足取りで洗面所へと向かった。


透き通った水をすくい、寝ぼけた顔を洗い流す。


意識が完全に覚醒し、鏡に映った自分と向き合う。


「あれ……?」


そこで気付いた。水ではない雫が頬を伝っていることに。


「どうして? 私……」


指で雫を拭うと、それは確かに熱を持っていた。




「泣いてるの……?」




なんの感情によるものか分からない一粒の涙は、春の光を受け、煌々と輝いていた。








明石「……はい、終わりました」


提督「ありがとう。それで、なにか分かった?」


明石「いいえ、何も。専門家には掛かったんですよね?」


提督「うん……でも、何も異常は無いって」


明石「う~ん……充血しているわけではないですし」


提督「なんだか、瞳の色自体が赤くなってる、って」


明石「瞳が、ですか? 元は黒だったんですよね?」


提督「そう、だからお医者さんも、すごく驚いて……」


ある日の朝、鏡を見ると瞳が真紅に染まっていた。


まるで、血の様にも見え、燃えるようにも見えた。


明石「瞳の色が変わるなんて……夕立ちゃんもですが、あれは改二の改造によるものですし……提督はそんなことしていませんし……」


明石が「う~ん」と頭を抱えていると、部屋の扉がノックされた。


明石「あっ、どうぞ」


「失礼します」


入って来たのは、特型駆逐艦吹雪型一番艦の吹雪だった。


吹雪「おはようございます。眼の方は大丈夫ですか?」


提督「おはよう吹雪。ええ、大丈夫」


明石「あはようございます吹雪ちゃん。特に問題は無いから、安心して」


吹雪「そうですか、よかった。何かあったらすぐ言ってくださいよ?」


明石「そうですよ提督。日常生活に支障が出たりでもしたら大変ですからね。あっ、念のため視力検査もしておきます?」


提督「あぁ、それはもうやったから大丈夫」


明石「そうですか。で、結果は?」


提督「それが……あっ、天龍たち」


明石・吹雪「「えっ?」」


提督が目を向ける先をつられて見る二人だったが、両者ともに、天龍はおろか艦娘の一人さえ認めることは出来なかった。


ただ、碧く広大な海が広がるのみである。


吹雪「あの……天龍さんたちはどこに?」


提督「ほら、あそこ」


あそこ、と言われ海を凝視するも、どこにも天龍らの姿は無い。


提督「よく見てみて」


そう言われながら、二人は必死に目を凝らした。


すると、複数の人影が水平線に浮かんできた。


見回りに出ていた、天龍と龍田、暁、響、雷、電の六人だった。


明石「えっ?! 提督、ずっと見えてたんですか?!」


提督「まぁね。さっ、出迎えに行きましょう」


さも当たり前のように応え、提督は颯爽と部屋を出て行った。


明石「……吹雪ちゃん、見えた?」


吹雪「い、いえ……まったく。と、とりあえず、私たちも行きましょうか」


明石「そ、そうね」


視力検査の結果は、聞くまでもなかった。





提督「朝の見回りお疲れさまー」


天龍「おう提督、よく分かったな」


提督「ちょうど姿が見えたから。さぁ、食堂に行きましょう」


天龍「ああ。よしっ! メシ食いに行くぞ!」


龍田「はいはい」


暁「今朝のご飯は何かしら? わくわく♪」


響「ボルシチがいいな」


雷「あ、朝からボルシチはちょっと重くない?」


電「あったかいお味噌汁が飲みたいのです」






提督(なんだか最近、ご飯が前より美味しく感じる気がするわね)モグモグ


モグモグモグモグモグモグモグモグモグ


提督「……ふぅ。鳳翔さん、おかわり頂けますか?」


鳳翔「えっ? あっ、あの……実は、もう無くなってしまって……申し訳ありません」


提督「えっ、もう? あっ、またあの娘たち……食べ過ぎはダメって言ったのに」


鳳翔「た、確かに、皆さんもよく食べてくれるのですが……その……」


提督「?」


吹雪「し、司令官、これ……」


提督「え?」


吹雪の指差すそこには、絶妙なバランスで保たれた食器が山積みとなっていた。


吹雪「これ、全部司令官が……?」


提督「え、嘘……」


綺麗に平らげられた食器の山を、彼女は信じられなかった。


彼女の胃は、まだ五分目も満たされていなかったのだから。





提督「はぁ……もうちょっと食べたかったなぁ」


膨れていない己のお腹をさすり不満げに溜め息をつきながら、鎮守府内にあるジムの更衣室にてトレーニングウェアに着替えていた。


提督「まぁ、腹八分目位が丁度いいって言うし、よしとしましょう」


もっとも、腹八分はおろか五分にも満ていないのだが。


それでも、意気揚々と更衣室を後にした。



提督「おまたせー」


長門「お、来たか」


武蔵「うむ、時間ぴったりだ」


提督「1秒でも遅れたら、スクワット100回3セット追加ですからねぇ。あんなのはもう御免よ……」


長門「安心しろ。さすがにそのようなペナルティを設けるつもりはもう無い」


以前、一度だけ3秒ほど遅れたことがあった。結果、スクワット100回3セット×3。計900回の追加ペナルティを受けることになった。


ご丁寧なことに、ペナルティを終えるまで長良と鬼怒が付き添ってくれる(いわば声援付きの監視)というサービス精神である。


翌日、筋肉痛で一歩も動けなかったのは言うまでもない。


主犯である長門と武蔵はというと、陸奥と大和に「ほどほどにしろ」と叱られた後、提督の代わりに書類整理と艦隊の指揮を執ることになった。


提督「それはどうも……さて、準備運動っと」


トレーニングに入る前にはしっかり準備運動をするように、とトレーナーである長良と鬼怒から再三言われ入念にストレッチをするよう心掛けている。


事実、するとしないでは大きく違った。体は温まるし、怪我をしにくくなるし、準備運動の大切さを身をもって知った。


武蔵「それにしても……ふむ」


ストレッチをしている提督の体を値踏みするように観察し「うんうん」と満足気に頷いた。


武蔵「以前はいかにも女性らしいふくよかな躰だったが、無駄な脂肪も無くなり引き締まった体になったじゃないか」


長門「あぁ、見事な体だ。こうなれば、私たちも指導のし甲斐があったというものだ」


提督「それは…ふっ…どうも…ふんっ…でも…ふぅ…あれだけ絞られたら、いやでもこうなるわよ」


長良と鬼怒の熱血指導のもと、基礎体力づくりに長距離マラソン(たまに島風とかけっこもさせられ当然負けた)、プロテインや筋肉づくりのためのスペシャルトレーニングメニュー、元々体が柔らかったためそこまで苦労しなかった柔軟、その他諸々のトレーニング。


提督「今なら、普通の人相手なら投げ飛ばせそうね」


長門「ははは、それはよかった。じゃあ、一発試してみるか?」


そういって目を向けたのは、懸架台に吊られたサンドバッグだった。


長門「あの時の雪辱、果たしてみてはどうだ?」


まだろくに体が出来上がっていなかった頃、サンドバッグに拳を撃ち込んだ時、ビクともせず、逆に自分の手を痛めるという、二つの意味で痛い目にあっていた。


提督「……いいわね、やってあげようじゃない」


準備運動を終えた体は十分に温まり、いつでもOKだった。


武蔵「また手を痛めぬようにな。ははは」


と、武蔵もまたサンドバッグの前に立ち、


武蔵「はぁぁっ!!!」


渾身の一撃を砂の詰まった袋に叩き込んだ。


空気を震わすような音がジム内に響き、サンドバックが揺れる度に吊るされた鎖が静まり返った空間に「チャリンチャリン」と鈴のような音を鳴らした。


武蔵「ふぅ……まぁこんなものか」


長門「さすがだな。あれほどの威力を出せるのは、同じ戦艦娘の者と、瑞鶴ぐらいか」


提督「え? 瑞鶴も来たの?」


長門「あぁ、たまにここに来ては「一航戦の青い方がぁ!」と叫びながら戦艦娘顔負けのパンチ力を見せるぞ」


提督「あ、そういうことね……」


長門「では、提督のも拝見させてもらおうか」


提督「はいはい」


提督も同じように、因縁の相手を前に腰を低く落とし、拳を構える。


ちらりと見やると、武蔵もまた提督を観察していた。


「ふぅ」と息を吐き、一点を目掛け捻りを加えた一撃を放つ。


「はぁっ!!」


風船が弾けるような音が響いた。


その刹那の直後、サンドバッグが宙を舞った。


数十kgの重さの砂袋が、中身の砂をぶちまけながら飛ぶのは、なんとも衝撃的だった。


やがて床に落ちたサンドバッグは、慣性に従い数メートル滑り、やっと静止した。


長門「 」


武蔵「 」


提督「あっ……え……?」


哀れに破けたサンドバッグは、見るみるうちに萎んでいく。


その場に居た全員が、水のように流れ出る砂をただ呆然と眺めていた。







心・技・体


それは武道のおいて共通のものだ。剣道然り、柔道然り、弓道も然り。


常に冷静であればいいという事ではない。技を極めればいいという事ではない。屈強な体を持てばいいという事ではない。


それら全てが調和し、組み合わさり、初めて形を成すことが出来るのだ。


ある人から教えてもらったその事を胸に、彼女は弓を構えていた。


矢を射る、ということは言うは易いが行うは難い。


神経を研ぎ澄ませ、ただ一点を狙い、矢を放つ。


その一連の動作を戦場で、平静を保ち、波に揺られながら正確に射る赤城らの技量と、それを可能にする彼女らの日々の鍛錬の壮絶さを、彼女は弓を扱うようになって改めて実感した。


「…………」


パシュッ!


放たれた矢が風を切りながら空を駆ける。


そこから突如、矢は火に包まれその中から鳥のような美しいフォルムが現れる。


艦上戦闘機「烈風」


零戦の後継機として開発された高い性能を持つ最新鋭艦上戦闘機。


始めは九六式艦戦での発艦訓練を行っていたが、経験を積んでいくにつれ零式艦戦二一型、五二型を経て、遂に烈風を扱えるまでになっていた。


ガガガガガガガガガガガッ


プロペラ音を響かせながら飛ぶ鉄の鳥は、機銃を一発も外すことなく的を粉々にし、滑らかな曲線を描いて青空へ舞っていった。


提督「ふぅ……それで、点数の方は?」


一連の動作を観ていた自分の部下であり、先輩であり、教官であり、姉(むこうではそういうことになっているらしい)である二航戦の主力を担う龍に己の評価を聞く。


飛龍「もちろん百点満点! 言うこと無しの合格!」


パチパチパチパチパチパチ


飛龍と同じ様に見守っていた他の空母娘たちから拍手が送られた。


赤城「おめでとうございます! 提督」


加賀「この短期間でよくここまで上達したものね。見事だわ」


瑞鶴「へぇ、あんたが他人を誉めるなんて珍しいじゃない」


加賀「ただ素直に評価した、それだけよ」


蒼龍「提督おめでとう!」


翔鶴「提督、おめでとうございます!」


提督「ありがとう、皆の指導のおかげよ」


飛龍「これで弓による発艦についてはもう教えることは無くなったけど、これからも常に初心を忘れず精進すること!」


提督「分かってるわよ。飛龍も指導ありがとうね」


飛龍「あっ! めっ! ですよ! ここでは私たちは先輩で、提督は「提督」じゃなくて「白龍」なんだから」


白龍「はいはい、存じております。飛龍先輩」


そう、提督が弓を携えている間は「提督」ではなく、白龍型航空母艦一番艦「白龍」なのだ。


飛龍「先輩……いい響きだわぁ。誰かさんは先輩って呼ばれてるのに、その誰かさんは呼んでくれないからなぁ」


瑞鶴「……なに? 「先輩」って呼んで欲しいの?」


飛龍「あ、やっぱいいや」


瑞鶴「ちょっ、それどういう意味よ?!」


飛龍「ところで白龍ちゃん?」


瑞鶴「無視すんなっ!」


飛龍「「先輩」でもいいけど、「お姉ちゃん」って呼んでもいいのよ?」チラッ


蒼龍「調子に乗らないっ!」ビシッ


蒼龍のチョップが飛龍の脳天に直撃した。


赤城「そういえば提と……白龍さん、今日の午前中は長門さんたちとトレーニングだったのでは?」


白龍「あぁ、それなんだけど、暫くの間トレーニングはしないってことになったの……あ、なったんです」


赤城「いつも通りで構いませんよ。どこかお怪我でも?」


白龍「ううん、そういう事じゃなくて、長門と武蔵が——」



長門「し、暫くは鍛えなくても大丈夫だろう……。だが、適度な運動を心掛けるようにな」


武蔵「まさか、この武蔵が力で劣るなど……」


提督「そ、そう? そう言うならそうさせてもらうけど、二人は?」


長門「私たちはさらに鍛えなければならない。自分が指導する相手の方が勝っていては指導の仕様がないからな」


武蔵「ああ、私も越えなければならない相手ができた。逆に燃えてくるというものだ」


提督「そっか……じゃあ、体壊さないようにね?」


・・・・・・・・・・・・


ハアアアアアッ!


セイヤアアアアッ!


提督「だ、大丈夫かしら……?」



白龍「——って」


赤城「そうですか。じゃあそちらの方も一段落着いた、ということですね」


白龍「そうね。執務の合間を縫いながらの筋トレや空母の訓練だから、少しでも余裕ができれば嬉しいわね」


赤城「そうですね。では、次回からは雷撃機と爆撃機について指導させて頂きます。今日もお疲れ様でした」


白龍「ええ、ご指導ご鞭撻よろしくお願いします。……ところで、大鳳も今訓練中かしら?」


赤城「あ、はい。鈴谷さんと熊野さんに指導していると思いますよ」


白龍「分かったわ、ありがとう。じゃあそっちも頑張ってね。赤城先輩♪」


赤城「あっ、はい……」


・・・・・・・・・・・・


赤城「先輩……吹雪さんにも呼ばれましたが、提督に呼ばれるとなんだか嬉しいですね」


翔鶴「私も、先輩って呼んで頂けるでしょうか?」


赤城「きっと呼んでくださいますよ、提督なら」


翔鶴「はい!」


瑞鶴「やってやろうじゃないの! この野郎ぉ!!」


赤城・翔鶴「?!」


瑞鶴「見ときなさいよあんたこのヤロウ!」


蒼龍「いやいやいや、慣れてもないのに左で引けるわけないじゃない」


飛龍「まぁ、私なら左でも余裕で勝てるけどねぇ」


蒼龍「出来ないくせに煽るんじゃない!」


加賀「はぁ……」


赤城「あっ、そういえば……」


鶴と龍の喧騒を眺めていると、赤城はふと思い出した。


赤城(提督の成長は著しいですが、しかし……)


この短期間、赤城たちの指導もあり、提督の弓の腕は目覚ましく上達していった。今ではもう、発艦に関しては指導の必要が無いほどに。その証拠に、発艦訓練の修了テストを見事合格した。


だがそれでも、赤城は確かな違和感を感じていた。


赤城(先ほどの発艦、見事成功してみせはしましたが、弓の構えが微妙に安定していませんでしたね)


傍から見れば、完璧な発艦のように見えただろう。少なくとも、戦闘に支障が出る程のものではない。もしそうだったならば、加賀を始めこの場に居た全員に指摘される。無論、テストに合格することも無かっただろう。


それでも、第一航空戦隊の片翼を担う彼女は、それを見過ごせなかった。


赤城(でも一体何故?)


贔屓目なしで見ても、提督の腕は十分。はっきり言ってこのまま戦場で戦わせれば、すぐに順応し、あっという間に自分たちと同じかそれ以上にさえなるかもしれなかった。


先程の提督の構えた姿と、自分や加賀、飛龍たちの姿とを比較する。そこには必ず相違点があると考えたからだ。


そして見つけた。それは、見れば一目瞭然の大きな違いだった。


赤城「あれでは、安定しないのも当然ですね」


早速、赤城は準備に取り掛かった。


赤城「翔鶴さん。少しよろしいですか?」


翔鶴「あ、はい。どこかへ行かれるのですか?」


赤城「はい。ちょっと工廠の方へ。あっ、念のため弓を持ってきていただけますか?」


翔鶴「分かりました」


赤城、翔鶴は各々の弓を持ち、射場を後にした。


瑞鶴「いいわよ! じゃあ勝った方が提督に教えるってことでいいわね?」


飛龍「おーけーおーけー。まぁ、私が勝つでしょうけどね!」


加賀「いい加減に」


蒼龍「しなさいっ!」


加賀のが瑞鶴に、蒼龍のが飛龍に、それぞれのチョップが脳天に直撃した。


赤城と翔鶴の姿は既に無かった。


・・・・・・・・・・・・


その射場では二人の艦娘がクロスボウを構えていた。


一人は航空巡洋艦から更なる改装を受けて攻撃型軽空母となった最上型三番艦「鈴谷」。


もう一人は、同様に軽空母となった最上型四番艦「熊野」。


そして、その二人を後方から見守っているのは、大鳳型装甲空母「大鳳」。


携えているのは弓ではないが、張り詰めた弦のような雰囲気で的に狙いを定めていた。


いつもはフランクな鈴谷も、その眼は真剣そのものだった。


鈴谷「………」


熊野「………」


バシュッ! バシュッ!


放たれた矢は同時に戦闘機へと姿を変え、息のあった動きで交差し射線上の的を見事に打ち抜いた。


鈴谷「……ふぅ。まっ、こんなもんじゃん?」


戯れるようにして青空へ飛び立っていった二機の鳥を見届けて鈴谷は一息ついた。


その口調にはいつものフランクさが戻っていた。


熊野「そうですわね。今日はこのくらいにしておきましょうか」


クロスボウを下ろし、手入れされ髪をかきあげる熊野の様は、優雅そのものだった。


・・・・・・・・・・・・


大鳳「お二人ともお疲れ様でした」


訓練を終えた二人に大鳳がお茶を差し出してきた。そういう気の利くところが彼女の長所だ。


鈴谷「おっ? 大鳳ちゃんあざーっす」


よほど喉が渇いていたのか、お茶を受け取った鈴谷は一気に容器のの半分まで飲み干してしまった。


熊野「鈴谷、少しは態度を改めたらいかが? 一応、空母としては大鳳さんの方が先輩ですのよ?」


艦娘としては断然鈴谷たちの方が長いが、空母としては熊野の言う通り大鳳の方が長い。


もっとも、大鳳の性格上、先輩風を利かせるということはないが。


案の定、大鳳は首を横に振った。


大鳳「いえいえ! 私のような者が先輩だなんて、弓もまだ扱えない未熟者なのに」


熊野「弓を扱えるかどうかは問題ではなくて、重要なのは経験が——」


鈴谷「まぁまぁいいじゃん。そういうお堅いのはさ」


元はと言えば鈴谷なのだが、そんなこと気にしている風はなく、既にお茶を飲み干そうとしている所だった。


鈴谷「あっ、そういえば——」


カラになったペットボトルのフタを閉めて思い出した様に口を開いた。


鈴谷「提督ってなんでいきなり弓が扱えたのかな。弓道はやってないって言ってたし」


熊野「言われてみれば確かに」


わたくしたちと同じようにクロスボウではないのかしら、と首をかしげる熊野。


熊野「そもそも、元は男性の提督が女性になり、それから艦娘になるという事自体が不思議でなりませんわ」


ある日、急に女性の躰となり、偶然戦闘機を発艦させたことから空母と判明した提督。元から才能があったと言われればそこまでの事だが、どうにも釈然としないものがあった。


鈴谷「……まっ、艦娘がどういうものかなんて私たち自身も分からないんだし、深く考えなくてもいいんじゃない?」


熊野「鈴谷が言い出したことでしょうに」


しかし、まったくその通りなので熊野も深く考えるのは止めた。


自分たちが戦う相手、突然深海から姿を現した謎の艦艇群「深海棲艦」。


目的も、生態も、正体も何もかもが謎に包まれた存在。


それと同様に「艦娘」という存在もどういったものなのか、当事者である彼女たちさえ判っていない。


鈴谷「——にしても、やっぱり大鳳ちゃんはちょっと寂しいんじゃないの?」


大鳳「えっ?」


突如自分に話を振られ、なんのことだか分からずきょとんとしている。


鈴谷「いやさぁ、提督って「白龍」っていう航空母艦でしょ? 白龍型って改大鳳型らしいから姉妹艦みたいなものじゃん? 姉妹なら、やっぱり一緒に訓練したいんじゃないかなって」


大鳳「あぁ、そういうことでしたか。確かにその気持ちはあります。でも……私はまだ弓を扱えないので」


本音を言えば、とてもショックだった。自分にとっては後輩で、しかも妹にあたるのだから。


しかし、提督は弓での発艦を可能としている。それに対し、自分はまだクロスボウによる発艦しかできない。


勿論弓による発艦訓練をしたこともあるが、一度として成功したことは無かった。


大鳳「私なんかが教えられることなんてありませんし、私はまだ未熟者ですから」


「未熟者って誰のこと?」


大鳳「ひゃいっ?!」


急に背後から掛けられた声に驚き、落としかけたクロスボウをすんでのところでキャッチした。


ほっとしたのも束の間、慌てて振り向くとそこに声の主が普段とは違った姿で立っていた。


白龍「三人ともお疲れ様」


大鳳「てっ提督!?」


鈴谷「おっ? 提督じゃんちぃーっす」


熊野「ごきげんよう提督……あら、その服は?」


白龍「あっ、そうそうこれね」


上半身は大鳳と同じ、腹部は装甲に覆われ、胸部はわき部分が開いた薄手の上着。わきからは純白のサラシが覗いている。


大鳳と違っているのは下半身で、ミニスカートではなくスカート仕立ての袴。


着物も着てはいるが今は纏ってはおらず、改になる前の葛城のようになっているが、きちんと着用すれば飛龍たちと同じようになる。


その着物には淡い白と黒のコントラストが美しい意匠が凝らされており、厳かで壮麗な雰囲気を醸し出している。それはまるで、夜空を駆ける白竜のようにも見える。


何故このような服になったかというと、空母娘たちの熱い議論によるものだった。


『戦闘に支障をきたさない私や赤城さんのようなシンプルなものにすべきだわ』


『やっぱり私と蒼龍と同じように着物にするべきよ』


『改大鳳型なんだから、大鳳と同じ服でいいんじゃないの?』


熾烈を極める議論の末に「ならいっそのこと全部取り入れてしまおう」ということになった。


正確にはそうでもしないと収拾がつかにあ恐れがあったからだが。


何はともあれ、無事(?)意見はまとまり、細々とした修正を加えながらついに白龍の服が完成した。


白龍「どう? 似合ってるかしら?」


大鳳「はいっ! とてもよくお似合いです!」


鈴谷「おぉ結構いいじゃん。提督に合ってるし」


熊野「ほんと、よくお似合いですわ。その意匠はどなたが?」


白龍「これね、実は大鳳が考えてくれたのよ。だからそのお礼も兼ねて来たの」


どのような服にするかは歴戦の空母娘たちによって決められたが、デザインに至ってはは大鳳が姉ということもあり皆大鳳に譲った。


白龍「素敵なデザインを考えてくれてありがとう」


大鳳「い、いえっ! 私のような者がこんな大切な役目を任せていただき嬉しいです」


白龍「あっそれと、もう一つお願いがあって来たんだけれど」


大鳳「? はい、なんでしょう?」


白龍「もしよかったら、私にクロスボウの扱い方を教えてほしいの」


大鳳「え、えぇっ?! わた、私が、ですか?!」


大鳳にとってそれは願ったり叶ったりな相談だった。すっかり諦めていたことがこうもあっさりと実現しようとしているのだから。


白龍「ほら、私も一応装甲空母でしょ? 中破した時とかに弓の弦が切れても、クロスボウがあればまだ発艦できるから扱い方を知っておこうと思って……大鳳?」


大鳳「私が……提督を……」


心の中でひっそり思い描いていた光景に笑みを浮かべていた。


白龍「あの……お願いできる?」


大鳳「……え? あっ、はいっ! 色々至らぬ所もあると思いますが、大鳳、精一杯、ご指導させていただきます!」


白龍「そう? よかった。これからよろしくね。あと、わたしがこの服装の時は「提督」じゃなくて「白龍」でいいわよ」


大鳳「わ、分かりました。白龍……さん」


白龍「呼び捨てでいいわよ、大鳳姉さん」


大鳳「呼び捨てなんてそんな……って、姉さん?!」


白龍「それとも、大鳳先輩の方がいいかしら?」


大鳳「あ、できれば姉さんの方で……い、いやっ! 今まで通り大鳳で構いませんから!」


白龍「うふふっ、分かったわ」


鈴谷「いやぁやっぱ姉妹っていいねぇ」


熊野「一応、私と鈴谷も姉妹ですのよ?」


鈴谷「そうだけど、姉妹っていうより親友みたいな感じじゃない?」


熊野「それもそうですわね。……ところで、わたくしそろそろシャワーを浴びに行きたいのだけれど」


鈴谷「おっ? じゃあ鈴谷も行こうかな」


白龍「あら、じゃあ私も行こうかしら」


大鳳「あっ、じゃあ私も」


熊野「それでは、参りましょうか」


それぞれ射場を後にする中、大鳳の足取りは明らかに軽やかなものだった。


・・・・・・・・・・・


いつでも使用可能なシャワールーム。


特に仕切りなどは無く、一人分のスペースがただカーテンで遮られているだけである。


キュッ シャアアアアアアア


白龍「ふぅ……」


程よい水圧と水温のシャワーが汗を洗い流していく。動いて汗を掻いた後にシャワーはやはり心地良い。


白龍「……………」


改めて自分の体を見てみる。黒いストレートの長髪、透き通るような肌、豊かに膨らんだ胸、くびれのついた腰、すらりとした脚。


この体になってからそれなりの時間が経っている。始めは慣れなかったが、今では昔からこうだったように感じるほど慣れた。


女になったことで艦娘の皆とはより親密になり、皆と同じ指輪を薬指にはめている。


それだけではなく、叶うことは無いと思っていた「艦娘となって皆を護る」という悲願も現実的なものになった。


女となったことで自分の運命は大きく変わった。もうこれ以上は無いというほどに。


なのに、時々何か欠けているような、何かを忘れているようなそんな不安に駆られるようになった。


それが何なのかを探ろうとすればするほど、霧が濃くなっていくように不鮮明になっていく。知ろうとするのを拒んでいるように。


白龍(駄目ね……)


一人で考え込んでしまうのは以前からの悪い癖だ。もし本当に深刻なら誰かに相談すればいい。


白龍(皆が居るんだから)


そんな風に考えることで、不安が汗と共に洗い流されるように感じた。


白龍「…………ん?」


視線を感じて隣のスペースを遮るカーテンを見ると、そこから鈴谷が顔だけ出して覗いていた。


白龍「どうしたの?」


鈴谷「いや、覗いてる鈴谷が言う事じゃないけど、提督恥ずかしくないの?」


白龍「全然、女どうしだし」


以前ならまだしも、今は特になんとも思わない。さすがに裸をジロジロ見られるのは恥ずかしいけど。


鈴谷「ふぅん。じゃあちょっと確かめさせてもらおっかなぁ♪」


確かめる? 何を?


鈴谷「じゃあちょっとしっつれーい」


そう言うと、カーテンを開けてこっちのスペースに入って来た。


一糸纏わぬ姿なのは言うまでもなく、豊満な胸と引き締まった腰のくびれ、美しい曲線の脚はまるでモデルのように感じられる。


意地悪そうな笑みを浮かべながら私の目の前まで近づいてきた。


鈴谷「じゃあちょっと後ろ向いて」


白龍「う、うん?」


背中を流してくれるのかなと思い言われた通りに鈴谷に背を向ける。でも、鈴谷の手には何も握られていない。


鈴谷「次はばんざいして」


白龍「えっ? こ、こう?」


鈴谷に従い両手を上げる。注文が多いレストランよりは少ないけど、そうさせる意図が全く分からない。


私がこうすることによって鈴谷がしやすくなること。


それに気づいた瞬間、私は鈴谷の餌食になった。


いや、正確には私の——


ぐぁし!


効果音を付けるなら多分こんな感じ。


白龍「……ねぇ鈴谷」


鈴谷「なに?」モミモミ


白龍「何してるの?」


鈴谷「ナニしてる?」モミモミ


白龍「いやそうじゃなくて。なんで私の胸を揉みしだいてるのかって聞いてるんだけれど」


鈴谷「いやぁちょっと成長具合を……」モミモミ


白龍「おかげ様でもう十分なまでに育ったわ。だからもうそろそろ離してくれないかしら?」


鈴谷「いいじゃんいいじゃん、スキンシップも大事っしょ?」モミモミ


白龍「セクハラの間違いじゃないの?」


鈴谷「でも提督は拒んだりしないから優しいよねぇ」


白龍「あんまりしつこいとさすがに私も怒るわよ?」


鈴谷「あとちょっと、あとちょっとだけ!」


白龍「はぁ……やれやれ」


皆とお風呂に入っていると隙あらば胸目掛けて突撃してくる艦娘が多くいるため、それらに対する対処法を矢矧から伝授してもらった。


背後から胸を揉んでくる鈴谷に向かい合って、両脇で鈴谷の両手をガッチリ固定する。


鈴谷「へ?」


白龍「私たちは互いに密着していてあなたは両手が使えない。それに対し、私は両手がフリー。後は分かるわね?」


相手がその気なら、こっちもそうするのみ。


私は正面から鈴谷の胸を鷲掴みにして思いっきり揉みしだいた。


鈴谷「ちょまっ?! てっていとくっ!? 急に…んんっ……!」


白龍「あなただって立派な胸部装甲を持ってるじゃない」


鈴谷「いや提督には負けるし……っていつまで触って…ひぃっ……?!」


白龍「ふぅん、鈴谷って胸敏感なのねぇ」


鈴谷「提督が鈍感なだけですぅ!」


白龍「あれだけ揉まれれば慣れるわよ。因果応報、覚悟なさい」


鈴谷「ごめんっ! ごめんって! 謝るからやめっ——んひゃああぁっ!?」


熊野「あの二人は何をやってるんだか……シャワーを静かに浴びることもできませんわ」


大鳳「ははは……はぁ……」


小さなシャワー室でピンク色の悲鳴と灰色の溜め息がこだました。


・・・・・・・・・・・・


彩り豊かな料理の品々が目の前のテーブルに並べられている。


それらは全て私が作ったもの。でも、自分が食べるために作ったのではない。


テーブルを挟んだ席には三人の艦娘が座っている。


毎日のように艦娘たちが足を運ぶ甘味処「間宮」で腕を振るっている給料艦「間宮」と間宮のお手伝いをしている給料艦「伊良湖」。


艦隊のお艦こと、居酒屋「鳳翔」を営んでいる軽空母「鳳翔」さんの三人だ。


三人は私が作った料理の品々を値踏みするように眺めている。


私はそれを固唾を飲んで見守る。私の後ろにいる大和も同じようにしているだろう。


鳳翔「……では、いただきます」


三人は箸を取り、料理の一つひとつの味を確かめるようにゆっくり咀嚼していった。


…………。


………………。


全ての料理に口をつけた三人は箸を置き、お互いの顔を見て頷いた。


鳳翔「それでは、発表させていただきます」


真剣な眼差しで私の目を見つめる鳳翔さん。それに応えるように頷き、判定が言い渡されるのを待った。


そしてついに、鳳翔さんが口を開いた。


鳳翔「おめでとうございます。合格です」


提督「やったー! 大和! 私やったよー!」


大和「おめでとうございます提督! よく頑張りましたね」


間宮「素材の選び方、下準備、調理行程と時間、盛り付け、味付け、全て完璧でした」


伊良湖「あとは、ちょっとしたアレンジなどを加えてみるのもいいかもしれませんね」


提督「ありがとうございます。これも大和や鳳翔さんたちが教えてくれたおかげです。本当にありがとうございました!」


実は、以前から——といっても女になってからだけど——私は大和や鳳翔さんたちから料理を教わっていた。幾度の失敗を重ね、ついに鳳翔さんたちの試験に合格することができた。


大和「いつか、皆さんに提督の手料理を振舞ってあげられるといいですね」


提督「そうね。フランス料理やイタリア料理とかはまだできないけれど、いつかは作れるようになりたいわね」


今までは作ってもらってばかりだったけど、これでやっと、私が皆に作ってあげられるようになった。(ごくまれに私が作ったこともあるけど、味は可もなく不可もなくといった微妙なものだかりだった)


提督「……ところで、それって全部食べますか? ちょっとお腹空いちゃって」


鳳翔「いえ、提督が召しあがるならどうぞ。提督が作ったものですし。もしや、昼食をとられていないのですか?」


提督「あ、いえ、食べてないという訳ではないのですが……。朝は食べ過ぎちゃったかなと思い昼食は少なめにしたのですが、ちょっと足らなかったみたいで……」アハハ


鳳翔「そうでしたか。沢山用意しておきますので、これからは遠慮しないでくださいね?」


提督「あ、ありがとうございます。でも、さすがにこれ全部は無理だから、大和も食べる?」


大和「よろしいんですか? なら、お言葉に甘えて、いただきます」



大和「あ、この肉じゃが美味しいですね」


提督「でしょ? 味が染み込むようにしたから。加賀も喜んでくれるといいんだけど。あ、これも美味しいと思うから食べてたべて」


大和「本当に美味しそう……て、提督っ!?」


提督「どうしたの? ほら、あーんして」


大和「あ、はい……あ、あーん……////」


提督「どう? 美味しい?」


大和「は、はい、とっても美味しいです……////」


提督「でしょでしょ? 後は——」


大和との遅めの昼食はとても楽しい時間で、普段より何倍も美味しく感じた。自分が作ったものだけど。


提督(でもやっぱり、大和や鳳翔さんたちのには敵わないなぁ)


自分の料理を味わいながら、そんなことを考えていた。


・・・・・・・・・・・・


ある人が言った。刀は己を映す鏡だと。


迷いがあれば、斬れるものも断つことはできないと。


己の剣筋が乱れているのは、己の心が揺らいでいるからだと。


最近、刀を振っているとどうもブレてしまう。


筋力はだいぶついてきたし、勘だってすぐに取り戻せた。


なのに、どうしても以前のように振ることができない。


提督「はぁ……」


一度手を止め、自分の手に握られている刀を見やる。


黒い刀身を持ち、桜が刻印されている真剣。妖精さんが私のために造ってくれた二振りのうちの一本だ。


本来なら、白銀の光を放つ、鏡のような刀身のはずだが、その刀は黒く染まり、何も映さない。


どれだけ顔を近づけても、ぼやけた輪郭が映るだけ。そこに写る顔は、私とは違う別の何かのように思える。


「よお、提督じゃねえか」


不意に声を掛けられ、慌てて声のした方向を見ると、そこには二人の黒い龍がいた。


提督「あら、天龍と龍田じゃない。二人も稽古しに来たの?」


天龍「まぁそんなとこだ。提督もか?」


提督「ええ。でも、最近は調子が出なくてちょっぴりスランプ気味なのよね」


天龍「鈍ってんじゃねえのか? 素振りばっかで感覚忘れてるとかよ」


龍田「それなら、天龍ちゃんが提督の相手をしてあげるのはどうかしら?」


提督「えっ……」


天龍「そうだな。俺も龍田や木曾以外ともやってみてえし……って、なに露骨に嫌そうな顔してんだよ」


提督「別に、いやって訳じゃないけど……」


天龍「あん?」


首をかしげる天龍に対し、龍田は「あぁそういうこと」と理解したようで、頭の上の輪っかが電球よろしく光っていた。


龍田「この前、天龍ちゃんにボロ負けしたことがキズになってるのよ」


提督「ぐっ……」


天龍「ああ、あの時か」


あの時、私は天龍からの挑戦を受けて立った。


今ほどではないけれど、武蔵たち(地獄のような)特訓のおかげで筋肉もついていたし、刀もある程度振るえるようになっていた。


なにより、それまで天龍は私に幾度も挑戦してきたけど、一度も私に勝ったことは無かった。


その時も、私が勝つと思っていた。


そう思った私が馬鹿だった。


天龍だって日々訓練しているあけだし、何故あの時私に挑んできたのかを考えればすぐに分かることだった。


なのに私は、自分がどんなに弱くなっていたか知らず軽率に天龍の挑戦を受けた。


結果は私の完全D敗北。


私は圧倒的な天龍の力と俊敏性に翻弄され、手も足も出ずあっけなく負けた。


敗因は明らかに私の油断。もしもこの話をあの四人が聞いたら、きっと口を揃えて言われるだろう。


『慢心ね』と。


提督「天龍に負けたこと自体は大したことじゃないわ。私が慢心しただけなんだから。問題は……」


天龍「あぁ、『あれ』か……」


龍田「『あれ』ね」


苦笑する天龍と満面の笑みの龍田。


提督「『あれ』のせいでどれだけ私が恥を掻いたか……」


天龍は私に挑戦するにあたってあることを決めていた。


『負けた方が勝った方の言うことをきく』


負けた私は当然天龍の言うことをきくことになった。その内容が——


提督「『一日駆逐艦の服を着て過ごす』ってどんな拷問よ……」


なお、考案者は龍田のもよう。


ちなみに、私が勝った時は天龍に「次は私を倒せるようにもっと頑張れ」と激励して終わりだった。


そのためか、天龍も私に対して特に何か求めるようなことは言わなかったが、龍田が「せっかくの権利を捨てちゃうなんて勿体ない」という理由でそうなった。


天龍「ま、まぁ他のやつらや駆逐艦のガキどもには好評だったし、よかったんじゃないか……?」


提督「全然よくないわよ! サイズが合う訳ないからピチピチでお腹丸見えだし、スカートは短くて役割果たしてなかったしで散々よ」


龍田「それで、やるんですか? やらないんですか?」


天使のような悪魔の笑顔を浮かべながら、尋ねてくる龍田。答えは無論——


提督「受けて立つわ。私もこのままじゃ何時まで経っても上達できないしね」


天龍「そう来なくっちゃな! 分かってるじゃねえか」


こうして、私は雪辱を果たすべく、天龍の再び手合わせすることになった。


提督「あっ、でも『負けた方が勝った方の言うことをきく』っていうのはもう無し……ね?」


天龍「お、おう……そうだな……」


龍田「あら、残念ねぇ」


心底残念そうにため息をする龍田。だが、その顔から笑顔は消えてはいなかった。


提督「……じゃあ、いくわよ?」


天龍「ああ、いつでもいいぜ」


互いに木刀を構える。一瞬でその場の空気は張り詰めた。


提督「いざ——参るっ!」


天龍「いくぜおらぁ!」


…………。

………………。 

……………………。


提督「……勝負、あったわね」


天龍「ああ、そうだな」


激闘の末、勝利を収めたのは——


天龍「——参った。おれの負けだ」


私だった。


天龍「なんだよ、前よりも強くなってるじゃねか。ほんとにスランプなのかよ」


提督「その筈だったんだけど、どうしてかしら。天龍と手合わせしてる間、体が自然と動けたっていうかなんというか。そんな感じがしたのよね」


天龍「ほらな、やっぱり実戦に近い形でやらなきゃ鈍っちまうんだよ。素振りばっかやってねえでもっと他人とやったらどうだ? おれがいつでも相手になってやるからよ」


提督「そうね。一人でやってても強くはなれないわよね。ありがとう、天龍」


天龍「おう! 次は負けねえからな!」


提督「ええ、楽しみにしてるわ。それと、あなたのことなんだけれど……」


天龍「ん? なんだ?」


提督「あなた、動きが大雑把過ぎて隙だらけだったわよ」


天龍「あぁ……龍田にも言われたな、それ」


提督「勢いに任せてばかりだと隙も多くなるし、無駄な体力を使ってしまうから、一度素振りして形を確認した方がいいわ」


天龍「うっす」


提督「さて、汗も掻いたし、シャワー浴びに行く?」


天龍「お、そうだな」


木刀を置きに行くため立ち上がった瞬間、声が響いた。


龍田「私のこと、忘れてません?」


見ると、龍田が薙刀(木製)を構えて立っていた。しかも笑顔で。


提督「い、いや、忘れてないわよ? 龍田も一緒に行きましょう? ね?」


龍田「でも私、まだ汗掻いていませんから……」


そう言うと、龍田は薙刀(木製)をバトンを扱うかのようにひゅんひゅんと回した。


龍田「私もお相手、お願いします」


そう言い放つや否や、龍田は真っ直ぐこちらに突っ込んできた。


提督「えっ?! ちょっと待って——ってきゃあ?!」


すんでのところで薙刀を受け止めたが、龍田はさらに素早く追撃を加えてくる。


結局、龍田がそれなりに動いたところで、勝敗はドローで終わった。


龍田は汗を掻いているようには見えなかったけど、私は天龍の倍汗を掻くことになった。


そのためか、本日二回目となるシャワーはより気持ちよく感じた。


・・・・・・・・・・・・


ザブーンン……。


提督「ああ~、いい気持ち……」


書類整理をしていたらすっかり遅くなってしまい、今日は普段より遅めの入浴となった。


いつもは他の艦娘たちと一緒に入っているが、もう遅いため他の艦娘の姿は無かった。


提督(たまには一人でゆっくりするのもいいかも)


どっぷり肩まで浸かり、一人では広すぎる浴槽で体をうんと伸ばす。


「風呂は命の洗濯」とはよく言ったもので、疲労が溜まった体が温かいお湯でほぐされていく。


提督「~♪ ~~♪」


誰もいない浴場に鼻歌響き渡る。


提督「ふぅ……」


あまりの気持ち良さについ眠ってしまいそうになりながら、天井に昇っていく湯気をぼーっと見つめていた。


そんな私に、背後か一つの影が迫っていた。


私はそれに気付いてはいるけど、あえて気付かないふりをする。


その正体は知っているし、変に抵抗すればさらに面倒になると分かっているから。


どこかのサメ映画よろしく、それはゆっくり私の背後に忍び寄って来ていた。


そして、それは大きな水しぶきをあげて私に襲い掛かってきた。


…………。


提督「……今日もお疲れ様、隼鷹」


隼鷹「提督も今日一日、おつかれさんっ!」


楽しそうに笑いながら応えたのは、飛鷹型航空母艦二番艦「隼鷹」だった。


提督「もしかして、お酒入ってる?」


口調は乱れてはいないが、一応念のため聞いてみる。


隼鷹「いんや、まだ飲んでないよ。素面だよしらふ」


提督「そう、ならいいんだけど。それより、いい加減胸を揉むのやめてくれないかしら?」


隼鷹「いいじゃんかよ。別に減るもんじゃないしさ。揉みごたえあるし、へっへっへ」モミモミ


セクハラオヤジか。


提督「どうして皆私の胸なんか触りたがるのかしら……」


隼鷹「そりゃあ提督だからに決まってるじゃんか。結構大きいしねぇ」


提督「そういうなら、隼鷹だって大きいじゃない」


隼鷹「提督には負けるって。あっはっは!」


提督「まったくもう……」


隼鷹「それに、提督ってなんだかんだ言って拒絶しないじゃんよ。だからじゃない?」


提督「それは……まぁ、スキンシップは大事かなぁって思って……」


皆に触られるのは、別に嫌じゃないし。


隼鷹「いやぁ、やっぱり提督は優しいねぇ」


提督「それはどうも。……でも、あまりしつこいとさすがに怒るわよ?」


隼鷹「おっと、それはいけないねぇ」


そう言って、やっと私の胸は隼鷹の手から解放された。


隼鷹「提督、またおっぱい大きくなったんじゃない?」


提督「そうだとしたら、多分皆のおかげね。サラシ巻くの結構大変なんだから」


隼鷹「あれ? 提督ってブラとか持ってないの?」


提督「ええ。サラシで事足りるし、自由に調節できるから都合が良いの」


隼鷹「よかったら私の貸してあげるよ?」


提督「ありがとう。でも気持ちだけ受け取っておくわ。ブラだとどうも付け心地悪くて」


一度、試しに付けてみたことがあるけど、ブラは私に合わないようで結局サラシで落ち着いている。


隼鷹「そっか。まぁ自分にあった方法が一番だしね」


提督「そうね。ところで、さっき「まだ飲んでない」って言ってたけれど、これから飲むの?」


隼鷹「そうそう。この後、私の部屋で千歳たちと一緒に飲み会するんだよね。提督も一緒にどう?」


男の時はあまりお酒は飲まなかったけど、女になってからお酒のおいしさに気付き、今では時々隼鷹たちと一緒に飲むようになっている。


提督「行きたいけど、明日も執務があるし……うーん」


隼鷹「大丈夫だって! ほんの少しだから、な?」


提督「……じゃあ、ちょっとだけご一緒させてもらおうかしら」


少し罪悪感を感じながら、自分の欲望に従い隼鷹のお誘いを承けることにした。


隼鷹「そうこなくっちゃね! じゃあ、私は先にあがって準備しとくから。後でな」


そう言い残して、隼鷹は浴場から出て行った。


再び、浴場に静寂が戻った。


提督「ふぅ……」


私はもう一度肩まで浸かって一息ついた。


提督「…………」


ふと、自分の胸に目を向ける。


女となった時からそれなりにあったが、今では一段と大きくなっているのは明らかだった。


提督「サラシ、多めに補充しなきゃなぁ……」


初めて、胸が大きい事の大変さを実感した気がした。


…………。


提督「……私もそろそろあがりましょうか」


隼鷹たちを待たせてはいけないと思い、出来るだけ早く体を拭き、髪を乾かし、寝間着に着替えて隼鷹の部屋へと向かった。


……本音を言えば、私もお酒を楽しみにしてたんだと思う。



・・・・・・・・・・・・



提督「ごめんなさい。待ったかしら?」


隼鷹「おっそいぞ提督ー。あまりにも遅いからもう飲み始めちゃおうかと思ってたよ」


見ると、各々が持参したお酒とつまみが既に広げられていていつでも飲み始められるようになっていた。


千歳「大丈夫ですよ提督。そんなに待ってませんから」


那智「ああ。というより、こいつらの気が早過ぎるんだ。待ちきれずに酒を注ごうとするのを何度止めたか……」


ポーラ「だいじょうぶですって~。すこ~しだけワインのテイスティングをしようとしただけですから~♪」


那智「グラス一杯でするのはテイスティングとは言わんぞ?」


伊14「まぁいいじゃん。そんなことより乾杯しようよ! か・ん・ぱ・い!」


提督「はいはい」


イヨに急かされながら酒の席に着き、持ってきた日本酒を開けて杯に注いだ。


杯の底には舞う桜が描かれていて、お酒を入注いで覗くと花弁が浮いているように見える。ちなみに私のオリジナルだったりする。


隼鷹「それじゃあ……乾杯っ!」


「「「「かんぱーいっ!!」」」」


こうして、今宵の呑兵衛たちの宴が始まった。


隼鷹「……かぁ~~っ! 五臓六腑に染みるねぇ! これの為に生きてるようなもんだよ!」


肴をつまみ、互いのお酒を飲み交わしたり、他愛の無い話をしたりして笑い合う。


お酒もそうだけど、この時間が堪らなく楽しい。


提督(以前はこんなこと出来なかったからなぁ……)


飲めない、というわけではないが大してお酒に強くなかった私は、誘われこそしたけれど、参加するということは無かった。


でも、この体になってから幾分かお酒に強くなり、今はこうして楽しいひと時を過ごすことができている。


提督「隼鷹には感謝しないとね」


以前から誘っていてくれたのも、飲む楽しさを教えてくれたのも隼鷹だったから。


隼鷹「んっ? どうかした提督?」


——ありがとう、隼鷹。


提督「ううん、なんでもないわ」


隼鷹「ふーん……そういえばさ、空母の訓練の方はどうなってんの?」


隼鷹の顔が少し赤く染まっている。しかし口調は乱れておらず、酔っている様子はない。さすが隼鷹はそう簡単には酔わないらしい。


提督「順調よ。発艦訓練は修了したし、明日からは艦攻や艦爆について教わる予定よ」


隼鷹「へぇー大したもんだねぇ。空母になってからさほど経ってないってのに。大変だったんじゃないの? 先輩方のご指導は」


提督「確かに大変ではあったけれど、赤城たちが熱心に教えてくれたから嬉しかったわ。それに、訓練自体が楽しかったし。でも、もっと頑張らないといけないんだけどね」


そう言い、杯に口付ける。色々なお酒を試してみたけれど、今飲んでいるこの甘めのお酒が今の私のお気に入り。


隼鷹「殊勝な心掛けだねぇ。あーあ、もし提督が弓じゃなくて式神使いだったらこの隼鷹さんが直々に教えてあげられたんだけどねぇ。いやぁ残念残念。」


くいっと杯に入ったお酒を飲み干し、また注いだ。隼鷹が今飲んでいる日本酒もまた隼鷹のお気に入りの一本らしい。


提督「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、私に時間を割かせちゃって皆の迷惑になってないか心配なのよねぇ」


この鎮守府トップクラスの実力を持つ赤城たち「南雲機動部隊」。日々厳しい鍛錬を積んでいる彼女たち、その妨げになっていないか、もちろん彼女たちはそのようなことは言わないけれど、それでも負い目を感じてしまう。


隼鷹「心配しなさんなって。誰も迷惑だなんて思っちゃ——」


那智「そんなことあるわけあるかっ!」


隼鷹「うおっ?!」


提督「ひぃっ?!」


突然の那智の怒号に驚いた拍子に手に持っていた杯が宙を舞った。


那智「誰が貴様を煩わしく思うものか! もし貴様空母ではなく重巡であったならば、私直々に訓練をつけて可愛がってやるというのに……何故貴様は重巡ではなく空母なのだ?!」


呂律は回ってはいるけれど、那智の顔はアルコールか気の昂ぶりの所為か、火のように赤く染まっていて酔っているのは火を見るよりも明らかだった。……火だけに。


那智「今何かくだらないことを考えなかったか?」


提督「いえなにも」


那智「そもそもだ! 足柄はあんなで頼ろうとしてくる気配は無いし、羽黒も以前ほど甘えてこなくなってしまったし……」


隼鷹「那智に甘えようものなら「この軟弱者が!」って怒鳴られそうな気がするんだけど」


那智「何か言ったか?」


隼鷹「いやなにも」


提督「二人とも強くなってるってことよ。姉として喜ばしい事じゃない」


那智「そうなのだが! そうではあるのだが! 私も二人の妹を持つ姉なのだ。もう少し姉らしく甘えられてもいいではないか……」


ヤケ酒だと言わんばかりにグイッとグラスに入ったお酒を飲み干した。


カラン、と小さくなった氷が鳴り、またお酒が注がれて小さくなって融けていく。


那智のお気に入りの達磨も、どうやらそれでカラになったらしい。


最後の一滴のまで注ぎ、飲み干したグラスを荒々しく置くと、まるで乙女のような溜め息をこぼした。


那智「はぁ……私だって、姉なんだぞ……」


意気消沈としてしまった那智の肩を叩き、那智のグラスに自分の日本酒を分け注いだ。


隼鷹「大丈夫だって。心配しなくても心ン中ではちゃんと頼りにされてるって。なっ?」


那智「じゅんよおぉ……」


普段は武人のような那智が、こんな風に本音を吐露し、あの隼鷹になだめられているなんて初めて見た。


提督「那智も素面でもっと本音を言えるようになったらいいわね、って……あれ?」


なかなか見られない光景を肴に一杯飲もうと杯を取ろうとするもその姿が無い。まだお酒も残ってたのに。


「て・い・と・く~?」


あっ、と嫌な予感がして声のした方を向けると、そこには、


千歳「私びちゃびちゃになっちゃったんですけどぉ?」


お酒を被ってビショ濡れになった千歳がジトーっと抗議の視線を送っていた。


提督「あっ……ご、ごめんなさい!」


頭を下げ、謝罪の言葉とハンカチを差し出した。でも元はと云えば那智が急に怒鳴ったせいなんだけど……。


しかし、千歳はそれを受け取らなかった。


千歳「別にいいですよぉ。服も濡れちゃいましたし、丁度良いです」


そう言うと、千歳は着ているシャツのボタンを外し始めた。お酒で濡れた薄手のシャツには、彼女の豊かな胸とそれを包むブラのシルエットがくっきりと浮かんでいた。


提督「丁度良いって……何が?」


私の疑問を他所に千歳はシャツのボタンを手際よく外していき、そして、


千歳「えいっ」


後ろへ放り投げた。そういえば、千代田に聞いたっけ。


千代田『千歳お姉って酔うと脱ぐから気を付けてあげてね』


脱ごうと思っていたところで服が濡れたから丁度良いって言ったわけね。なるほど、納得納得。


提督「——じゃなくてっ! 脱いじゃダメでしょう?!」


千歳「どうしてですかぁ? 見られて困る人なんてここにはいませんよぉ?」


酔っているためか、右に左に頭を揺らしながら恥じる様子も無く聞き返してくる。頭を揺らす度に彼女の豊胸も右に左にたゆんたゆんと揺れる。


提督「そういう問題じゃなくて! 風邪引いちゃうでしょ」


千歳「でもぉ、着たままだったらもっと悪いですし、そもそも提督が私にぶっかけたのがいけないんじゃないんですかぁ」


提督「うぅ……」


言い方はともかく、それは事実なので認めるしかない。那智が急に怒鳴ったりしなければそもそもこんなことには……と言っても結局は言い訳になってしまうのがまた悔しい。


千歳「大丈夫ですよぉ。もっと呑んでもっと熱くなっちゃえばいいんですから。じゃあ、お願いしますね♪」


酔っ払いらしい暴論と自分の杯を突き出してくる千歳に肩を落としながらお酌する。


千歳「溢れるくらい注いでくださいね」


そう要求してくるも、千歳の持っている杯は安定せず、本当に零れてしまいそうで危なっかしい。


千歳要望通り、溢れんばかりにお酒が注がれると慎重に口へと運び一気に飲み干した。


口の端から零れたお酒が千歳の胸へと流れた。それが妙に艶めかしくて変にドキドキしてしまう。


「ふぅ」と熱の込もった息を吐くと満足気に微笑んだ。


千歳「おいしいですねぇ。提督がこのお酒を気に入るのも分かります」


提督「ご満足いただけたようで何より……って、それ私の杯じゃない?!」


千歳「じゃあ、今度は私がお酌しないとですね」


私の言葉には聞く耳を持たず、自分でお酌すると言っておきながら再度杯をこちらに突き出している。


私は諦めて自分が飲むはずのお酒を自分の杯に注ぐという奇行をした。


先程と同様、杯から零れんばかりに注いであげた。


千歳はなみなみと注がれたお酒をすぐには飲もうとせず、ただ眺めているだけだった。


提督「あれ? 飲まないの?」


そう問いかけると、お酒から視線を私に移し、にっこりと微笑み、私も釣られて笑った。そして、


千歳「えいっ」


千歳から思わぬ「ご返杯」をもらった。








後書き

今まで何してたんですかねぇ私は…本当にごめんなさい。

艦これ5周年、新たな改二実装、色々ありましたね。これからも艦これと艦娘が末永くありますように。

イベントの進捗いかがでしょうか。私はレベリング優先でのんびりやっています。できれば完食したいですね。


このSSへの評価

3件評価されています


SS好きの名無しさんから
2018-05-03 16:14:25

SS好きの名無しさんから
2018-03-30 02:35:41

FLANさんから
2018-01-13 20:24:49

このSSへの応援

11件応援されています


SS好きの名無しさんから
2018-04-06 22:21:52

SS好きの名無しさんから
2018-04-01 19:55:55

SS好きの名無しさんから
2018-03-30 00:50:55

SS好きの名無しさんから
2018-03-29 16:57:27

SS好きの名無しさんから
2018-03-29 09:40:10

SS好きの名無しさんから
2018-03-29 07:48:08

SS好きの名無しさんから
2018-03-16 12:10:42

SS好きの名無しさんから
2018-03-14 03:22:16

SS好きの名無しさんから
2018-02-07 22:51:48

FLANさんから
2018-01-13 20:24:53

SS好きの名無しさんから
2018-01-11 13:44:46

このSSへのコメント

2件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2018-05-03 16:15:01 ID: ahXSO1bY

とても面白いです!無理しない程度に更新頑張って下さい!

2: brack 2018-05-24 00:39:47 ID: 5ItVGPoZ

ご覧いただきありがとうございます。
そう仰っていただき恐縮です。素人の書く拙いSSではありますが、何卒宜しくお願い致します。


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください