「提督と夕立」
夕立の周りで起きる不可解な現象・・・
かすかに聞こえる声を追ってたどり着いた場所は・・・
「提督さん、遠征大成功したっぽい~♪ ほめて~♪」
「お~、よくやったな~。」
と、言って夕立の頭を撫でる。
「♪~」
夕立にとってこれが至福の時。
「提督さ~ん♪」
夕立は抱き着こうとするが・・・
「あれ・・・提督さん?」
辺りを見回すが・・・どこを探しても提督の姿はない・・・
「ぷ~・・・」
最近いつもそう・・・
近づこうとすると、一瞬で消えてしまう・・・提督さんは超能力者っぽい?
それ以外にも気になったことが・・・
ある昼の事・・・
「提督さん、何してるの~?」
そこには、仕入れたばかりの緑茶を煎じている提督が、
「今日届いたばかりの新茶だ、夕立も飲むか?」
「飲むっぽい~♪」
・・・・・・
夕立の前に緑茶とまんじゅうが出され・・・
「いただきます~♪」
と言ってまんじゅうを頬張る・・・が、
「あれ~?」
夕立が首を傾げる。
「このまんじゅう~何かしょっぱい。」
あまりのしょっぱさに隣にあった緑茶を飲み干すが・・・
「!? ぶっ!!」
思わず吐き出す。
「な、何これ~!? とってもしょっぱい~!? まるで海水っぽい~・・・」
そして、お決まりの、
「・・・あれ、提督さん?」
その場に提督の姿は無かった・・・
「・・・・・・」
提督さんだけではなかった。
時雨や霧島さん・・・ほかの皆だって最近見ない・・・
「・・・・・・」
たまの差し入れでおやつとかもらうけど・・・どれも塩分が濃くて、口に合わない。
夕立、味覚障害っぽい~? 皆それで、夕立を避けるっぽい~?
「・・・・・・」
もう、まずいとか吐いたりしないから皆戻って来てよ~・・・
夕立寂しいよ~構ってほしいっぽい~・・・
「・・・・・・」
夕立は一人で廊下を歩いていた。
「・・・・・・」
鎮守府には人の気配がしない・・・むしろ夕立しかいない位に静かである・・・
「・・・?」
耳元で聞こえるかすかな声・・・
・・・ち
・・・・・・だ・・・・・・ち
「・・・・・・」
いつもここで途切れてしまう。
「何だろう・・・・・・だちって・・・友達って言ってるっぽい?」
夕立は考えるが・・・
「わかんない・・・それより皆はどこ行ったっぽい~?」
夕立は鎮守府内を探し回る。
・・・・・・
「皆~どこぉ~?」
夕立が必死に探すが・・・
「・・・・・・」
いくら探しても、見つからなかった。
「皆、もしかして・・・鎮守府から出て行ったっぽい?」
そう思ったら、急に泣き出した。
「やだよ~! 夕立を一人にしないでっぽい! 皆戻って来てほしいっぽい~!!」
しばらく泣き叫び・・・
「・・・あれ?」
廊下の突き当りに明かりが・・・
「確かあそこは食堂だったっぽい・・・」
夕立は歩いていく。
「・・・・・・」
そこには・・・
皆が食堂で楽しく食事している光景が・・・
「やぁ夕立、どうしたのさ? もう皆食べ始めてるよ。」
時雨が言う。
「はい、私の特製卵焼き、出来上がりました。」
給仕の瑞鳳が次々と卵焼きを作っていく。
「夕立ったら・・・いつも寝坊助なんだから・・・」
村雨が呆れる。
「ほらほら、夕立さん。 食べたらすぐに遠征ですよ・・・早く食事を済ませてください。」
霧島が席を空ける。
「・・・・・・」
何だ・・・皆食堂でご飯食べていたんだ・・・夕立ったらとんだ勘違いしてたっぽい~♪
そう言って夕立は席に座る。
「はい、どうぞ。」
瑞鳳の卵焼き、お吸い物・・・炊き込みご飯が出される。
「おいしそう~♪ いただきま~す♪」
夕立は卵焼きを一口で・・・しかし、
「!? うえっ・・・げぇっ!!?」
思わず吐き出す。
「だ、大丈夫ですか!? 夕立さん!」
側にいた霧島が駆け付ける。
「だ、大丈夫っぽい・・・少し、蒸せたっぽい・・・」
夕立は謝る・・・
でも、実際は違った・・・この卵焼き・・・塩の塊みたくしょっぱくて食べれた物じゃなかった。
それでも、夕立は気を遣ってお吸い物を口に運ぶが・・・
「!? げぇっ・・・うげぇっ!!!」
またしても吐き出す。
周りにいた皆が動揺する。
「・・・濃い・・・塩が濃すぎっぽい!!」
側にあった水を飲むが・・・
「!? ううう・・・うげぇ!!」
水どころか海水に近いしょっぱさでまたも吐き出す。
夕立の態度に周りは、
「何だよ・・・夕立は。」
「今日の夕立、何かおかしい。」
「せっかく瑞鳳さんが作った卵焼きを・・・」
と、皆夕立から離れて行った。
「・・・・・・」
夕立は一人うずくまりながらすすり泣いていた・・・
それからというもの・・・
夕立は食べ物を一切、口にしなかった。
皆は夕立の態度に呆れ、徐々に離れ・・・結局誰一人近づかなくなった。
「・・・・・・」
食べ物はまずいし・・・皆はいなくなるし・・・夕立・・・これからどうしたら・・・
「・・・・・・」
また聞こえる・・・耳元に聞こえるかすかな声・・・
・・・ち
・・・・・・だち・・・
しかし、いつもと違って声が大きいことに気付く。
・・・・・・だち・・・
・・・う・・・だち・・・
夕立はその声を集中して聞いた。
・・・・・・う・・・だ・・・ち・・・・
・・・うだ・・・ち・・・
ゆ・・・・・・う・・だち・・・・・
そして気づいた。
「ゆうだち・・・私の名前!?」
そう、かすかに聞こえた声は「夕立」と言っていたのだ。
「誰かが私を呼んでるっぽい?」
夕立は改めて声を聞く・・・すると・・・夕立から見て正面から聞こえることに気付いた。
「声の場所はまっすぐ・・・まっすぐ行けばわかるっぽい?」
それからは夢中で走った。
「まっすぐ・・・まっすぐ・・・」
そこは鎮守府入り口から出たすぐの道なりだった。
「まっすぐ・・・まっすぐ・・・」
夕立はお構いなしに走り続ける・・・
「まっすぐ・・・まっすぐ・・・まっすぐ・・・」
鎮守府の入り口から出た瞬間、
「!?」
夕立は気を失った。
・・・・・・
「夕立・・・夕立!!」
村雨が必死に叫ぶ。
「・・・・・・」
夕立の目が開く。
「!? 夕立! 気づいた!?」
「・・・あれ・・・村雨・・・?」
夕立が気づいた場所は、海上だった。
「よかった、敵との交戦で被弾して気を失っていたのよ。」
村雨の言葉に・・・
ああ、そうか・・・そうだったんだっぽい・・・
今まで食べ物がしょっぱかったのは海水を飲んでいたから・・・
皆が急にいなくなったりしたのは・・・私が見た幻だったから・・・
「・・・・・・」
「ほら、早く起きて!」
村雨が手を伸ばす。
「・・・・・・」
「帰って提督に褒めてもらうんでしょ?」
「・・・・・・」
「今日のMVPは夕立なんだから。」
「・・・・・・」
夕立は手を伸ばし、起き上がる。
「さぁ、帰りましょ。 皆が待っているわ。」
「・・・うん、夕立、帰還するっぽい~!」
夕立は村雨たちと共に、鎮守府へと帰っていった。
「提督と夕立」 終
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